上条「恋人って具体的に何すんだ?」 五和「さ、さぁ...」(614)

深夜のテンションと勢いと五和愛でたてた
反省はしていないが後悔は後々するだろう
書き溜めもあまりしてない・落ちも未定の状態ですが見てくださると嬉しいです

~学校~

上条「なぁ、土御門」

土御門「うん?」

上条「俺、彼女がほしいんだけど」

土御門「ほぉ~」

上条「でも俺って全然女の子と接点ないっていうkゴハッ!!」

土御門「ふぅ....そいつは本気で言ってるのかにゃ~?」

上条「あ、あぁ」

土御門「とりあえず、もう一発殴るぜい?」

上条「えぇ!? 理不尽すぎrボファッ!!」

土御門「カミやんの周りにはむしろ女の子がたくさんいるにゃー」

上条「う~ん...そうか?」ヒリヒリ

土御門「例えば常盤台の超電磁砲とか」

上条「ビリビリは......友達っていうか...そもそも中学生ってのは…」

土御門「実際歳なんてそんな離れてないけどにゃー」

土御門「カミやん的にはどんな子がタイプなんだにゃー?」

上条「まぁ、家庭的というか」

土御門「ふむ」

上条「あと優しい人で甘えさせてくれたり」

上条「あと料理上手とか...」



土御門「舞夏は渡さんぞ!!」

上条「いきなりどうしたんだ!?」

土御門「条件にあまりにも当てはまりすぎてるからついにゃー」

上条「あ、あぁ...」

土御門「な、何満更でもなさそうな顔してるにゃー! 舞夏は絶対渡さんぞ!!!」

上条「わかったって!俺もお前と兄弟になるのはゴメンだ!」

土御門「でもその条件に当てはまる子なら一人知ってるぜい」

上条「本当か!?」

土御門「あぁ、それは....」

ガラッ

小萌「はいはい今日も楽しく勉強しましょうね~」

上条「で、誰なんだ!?」

小萌「か、上条ちゃん!? 無視してお話するなんて...先生は悲しいのですよ....」グスッ

上条「あ!いや、その、今ちょっと話をしてる最中で...」オロオロ

小萌「上条ちゃんは先生が嫌いなのですか?」ウルウル

青ピ「......上条君、ちょっと校庭へ」

上条「何故「君」付け!? そして目が据わってるぞおい!」

青ピ「小萌先生を傷つけるやつぁ....許さへん!!」

上条「ま、待っぎゃあああああああ」

小萌「ふ、二人とも~」オロオロ

吹寄「貴様らぁぁぁぁぁぁ!!」

土御門「にゃー。カミやんも大変だぜい....」

---

放課後

上条「うぅ......不幸だ...」ボロボロ

上条「こういう日は誰かに甘えたいというか......」ボソ

御坂「あ、あんた!」

上条「...」ジー

御坂「な、なにジロジロ見て「....ハァ」ってため息つくなぁーー!!」ビリビリ

上条「うわっ」

御坂「しょ、勝負よ!」

上条「上条さんはかなり疲れてるからとっとと帰りたいんですけど」

御坂「無理」

上条「ですよねー」ダッ

御坂「ま、待ちなさい!」ダッ

---

上条宅

上条「た、ただいま~」ソー

インデックス「」

上条「お、おいインデックス!」

インデックス「とう...ま......」

上条「いったいどうしたんだ!?」

インデックス「おなか空いたんだよ......」

上条「なんだそんなことか...」

インデックス「む、そんなこととは何かな!!私はもう限界なんだよ!」ガブッ

上条「うぎゃああああああ」

---

上条「っと、飯の前にトイレいってくるか」

インデックス「デリカシーがないんだよ」ムシャムシャ

インデックス「......」モグモグ

インデックス「......」スッ

インデックス「......」ムグムグ

上条「さ~て飯め....し...?」

上条「あれれ~?上条さんのご飯が1/3くらいになってるぞ~?」

インデックス「も、もともとそのくらいだったんだよ!」

上条「嘘おっしゃいこの卑しんぼシスターが!」

インデックス「ムキーーー!!」ガブッ

上条「うぎゃああああああ!!!逆切れぇぇぇ!!!」

---
                   ベッド
上条「うぅ....そして今夜も寒くて硬い風呂場で眠ります......」

インデックス「...」スヤスヤ


上条「....ふわぁあ...うん?」

時計『8:30』

上条「うわあああ!遅刻だぁぁぁ!!」

インデックス「うるさいんだよ!!」ゲシッ

上条「痛っ!蹴らないで!暴力反対!!」

---

~学校~

上条「......」シーン

土御門「カ、カミやん...」

上条「土御門ぉ......」

土御門「おぉ?」

上条「少し、少しでいいから......女の子とイチャイチャしたりしてみtゲハッ!!」

土御門「やっぱりカミやんは殴らないと駄目ぜよ」

上条「......」グスッ

土御門「ど、どうした?そんなに痛かったにゃー?」

上条「学校では殴られ街ではビリビリされ追い掛け回され、家では噛み付かれ飯を食われ蹴られ.....」グスッ

上条「もぉ上条さんも限界です...」ポロポロ

土御門「と、とりあえず殴ったことは謝るぜい」

土御門「そ、そうだにゃー!」

上条「?」

土御門「ちょっと電話」ガタッ


土御門「そう...大至急頼むぜい」

???『あぁ了解したのよな。すぐ五和を送るのよ』

土御門「精神的に危ないからにゃー...あ、あとゴニョゴニョ」

???「おぉ!それは良い考えなのよ!」

土御門「じゃあ頼んだぜい」ピッ

土御門「さて、もう一つ...」prrr



土御門「ふぅ」

上条「お、誰に電話してたんだ?」

土御門「ちょっとにゃー」

上条「まさか彼女とか...?...うぅ、もう上条さんはボロボロです」

土御門「ふっ、家に帰ればそんなカミやんも元気ハツラツだぜい」ボソッ

上条「?」

---

~上条宅~

上条「うん?(ドアの前に誰か…)」

上条「五和!?」

五和「あ、上条さん!」



上条「五和がどうしてここに?」

五和「それなんですけど…私にもよくわからなくて……」

上条「? 護衛とかじゃないのか??」

土御門「よ~カミやん」

上条「土御門?」

五和「ツチミカドさん?」

土御門「さて、カミやん」

上条「ん?」

土御門「これから1週間、2人には恋人になってもらうにゃー!!」

上条・五和「「え、えぇっ!!?」」

文才の無さに泣いた

寝ます

五和は俺の嫁
マジでこんな嫁欲しいです(´;ω;`)

インデックス酷すぎるww

レスありがとうございます!

>>19おっと五和は俺の嫁だ
>>20インターネッツさんには早々にお引取りしていただきました
再開は午後からになります

再開

上条「ちょっと待て土御門」

土御門「ん?カミやん、夫婦の方がよかったかにゃー?」

五和「ふ、夫婦//」

上条「そうじゃなくてだな!」

土御門「家庭的で優しくて料理上手で甘えさせてくれる、胸が大きな娘っていったら五和じゃないかにゃー」

上条「一個増えてる!!」

土御門「好みのタイプの娘が恋人になってくれるんだぜい?」

五和「こ、好みのタイプって//」

上条「いや、でも五和にも仕事とかあるだろうし......」

土御門「なんだにゃー。わざわざ来てもらったのに不服なのかにゃー?」

五和「や、やっぱり私なんかじゃ上条さんは嫌なんでしょうか...」シュン

上条「だからそうじゃなくて!」

土御門「まぁカミやん」ドンッ

五和「キャッ」

上条「おっと」ガシッ

土御門「カミやんが可哀そう過ぎるから癒しゲストだぜい」

土御門「存分に楽しんでくれにゃー!!」ガチャッ

土御門「じゃーにゃー」バタン


上条「はぁ......」

五和「あ、あの...」

上条「ん?」

五和「そろそろ手離しても…//」

上条「お?おぉ!悪い!!」バッ

五和「い、いえいえ//」

上条「まぁ、その...家に入るか」

五和「はい!」

上条「ただいま~っと」

五和「失礼します」

上条「ん?」

手紙『なんだか事情がありそうだからむこうに帰るんだよ。
   決してステイルが持ってきたお菓子につられた訳じゃないからね!』

上条「これはまぁなんというか...」

上条「なんだか疲れた...」

五和「あの…やっぱりお邪魔ですか?」

上条「いやいや、むしろ上条さん的には嬉しい場面ですが」

上条「あぁそういや」

五和「?」

上条「恋人って具体的に何するんだ?」

五和「さ、さぁ…」

五和「私は上条さんの疲れを癒すために来たので」

五和「何かあったら何でも言って下さいね」

上条「あ~どうやらそういう事らしいな」

五和「とりあえず、お夕飯作りますね」スッ

上条「......(立ち上がる時に見えた胸...)」ジッ

五和「?」

上条「(前から思ってたがやっぱり五和って巨n)」

五和「どうかしました?」

上条「い、いや何でもないぞ!」

五和「? はぁ...」スタスタ

上条「(上条さんは紳士なのです)」

上条「(でも...)」

五和「♪♪」

上条「(1週間も理性、持つのだろうか......)」

---

五和「はい、できました!」トン

上条「おぉ!これはなんとも豪華な...」

五和「ふふ、そんなことないですよ」

上条「家にこんなに材料あったっけ?」

五和「あらかじめ持ってきたのもいくつかありますけど、だいたいはここにあったものを使わせていただきました」

上条「へ~こんな豪華にできるもんなのか」

五和「じゃあ食べましょうか」

上条・五和「「いただきます」」

---

上条「ごちそうさまでした」

五和「おそまつさまでした」

上条「あ~うまかった。久々に良いもん食べた気がする」

五和「ありがとうございます!」

五和「さて...」スッ

上条「洗い物くらい手伝うよ」スッ

五和「い、いえ上条さんは楽にしててください」

上条「でも...」

五和「私は上条さんを癒すために来ましたから。家事とかはまかせてください」

上条「じゃあお言葉にあまえさせていただきます」


五和「♪♪」カチャカチャ

上条「(もしかして上条さん、今すごい幸せじゃない?)」

上条「その、五和」

五和「はい?」カチャカチャ

上条「本当ありがとうな」

五和「は、はい//」

---

五和「お風呂沸くのはもう少しかかりそうですね」

上条「そうだな」

五和「.....」

上条「.....」

上条・五和「「(ど、どうしよう...話題がない)」」

五和「(せっかくこんな近くで、しかも2人きりですから...)」

五和「そ、その、マッサージしましょうか?」

上条「え、えぇ?」

五和「上条さん疲れてるらしいので」

上条「う~ん...まぁたしかに」

五和「ではうつ伏せになってください」

上条「うっ痛っ」

五和「痛かったですか?でもここにはツボがあるので」グッ

上条「あぁ~気持ちよくなってきたかも」

五和「ふふふそれはよかったです」グッ

上条「あふぅ...」

五和「(上条さんの声...ちょっとドキドキしちゃいます//)」

上条「ん~なんか心なしか体が軽くなったような。ありがとうな」

五和「いえいえ」

上条「じゃあ今度は俺がやるよ」

五和「え?」

上条「お礼お礼」スッ

五和「じゃあお願いします」

上条「五和もけっこう凝ってるな~」

五和「そうですか?」

上条「やっぱり胸が」

五和「はい?」

上条「いやなんでもない!」ググッ

五和「うひゃっ!?」

上条「あ、すまん」

五和「い、いえ」

上条「加減とかよくわからないから...痛かったらいってくれ」グッ

五和「は、はひ...」

五和「うっ んっ あっ..」

上条「(い、五和!?そういう声出されると上条さんが色々マズい)」

五和「ひゃっ 気持ちいいれすぅ」

上条「(ああああああああ)」

五和「どうかしました?」

上条「いやいやなんでもないぞ(キリッ」

五和「ふぅ...私もなんだか軽くなってきたような」

上条「お、それはよかった」

五和「肩、お願いできますか?」

上条「あぁ」スッ

上条「あっ」ドスッ

五和「きゃっ」

上条「わ、悪い! 滑って...」

五和「は、はひ//(耳のそばで声が//)」

五和「だ、大丈夫です」クルッ

上条・五和「「(顔が近い!!!)」」

上条「そ、その...//」

五和「う、はい...//」

上条「(五和の唇...//)」

五和「(こ、この流れでキ、キスとかされちゃうのでしょうか//)」

上条「(耐えろ紳士・上条!!)」

上条「あ、あぁ~えっと、もう風呂沸いちゃったかな~」

五和「そ、そうですね」

上条「じゃあ先、入ってきていいぞ?」

五和「いえいえ、上条さんお先にどうぞ」

上条「じ、じゃあ入ってくるな~」タタタッ


五和「(う、うわぁぁ////)」プシューー

五和「(どどど、どうしましょう//あ、あんなに近くに///)」

五和「(お、落ち着いて私)」

五和「(上条さんがお風呂に入っている間に少しお掃除でもしましょう)」

五和「(といっても元々結構綺麗なお部屋なんですよね)」

五和「(あ、じゃあベッドのシーツを少し整えて...)」スッ

五和「(ん?ベッド...ということは下にもしかして//)」

五和「つつっ(なんか本らしきものが...!)」

五和「う、うわぁ//(やっぱり男の子はこ、こういう//)」

五和「(ん?もう一冊?)」


五和「」

五和「(こ、これって...SとかMとかの//)」

五和「(女の人、痛そう...でもなんだか気持ちよさそうな...)」

五和「(上条さんはこういう趣味なんどしょうか//)」

五和「(じ、じゃあもしかしたら私もこの女の人のように...//)」


~~~~~~~~~
※ちょいエロまでにする予定なのでこのような展開はありません

上条「(......ふぅ)」

上条「(五和も遠くから来てかなり疲れてるだろうからとっととあがるか)」

ガラッ

上条「(ん?あれ?)」

上条「」

上条「(着替え、忘れたぁぁぁ!!)」

上条「ととタオル巻いて...」

上条「い、五和~」

五和「は、はい!?」

上条「着替え忘れて...だからその、少しトイレとかに入っててもらえると...」

五和「そ、それだったら私が適当に持って行きましょうか?」

上条「ん、あぁ、それでもいいか。じゃあ頼む!」

上条「棚から適当に」

五和「はい!」

五和「(えっと...)」ガラッ

五和「(これと、これと...)」

五和「(あ、パンツ..//)」

五和「いま行きます~」ダダッ

ガラッ

上条「お、さんきゅ~いつ」バサッ

上条・五和「」

上条「ぎゃ、ぎゃああああああああ!!!」ガラッ ゴッ←湯船に勢いよく入りあたまぶつけた

五和「うきゃああああああ//」

五和「着替え置いときまふぅ/////」プシューー

上条「(見られた見られた見られた五和に見られたぁぁぁぁ!!!)」

上条「(もうお嫁、じゃないお婿に行けない...)」

上条「(ん?じゃあ五和のところへお婿へ行けばいいんじゃ....?)」

上条「(って違う! 普通五和をお嫁さんにもらうんだろ!)」

上条「(ってこれも違うぅぅぅぅぅ!!!!)」ブクブクブク


五和「(顔が火照って熱が出てるみたいです//)」

五和「(どういう顔で上条さんと会えばいいのか...//)」


その頃隣の部屋には

土御門「にゃー。五和も大きな一歩を踏み出したとこかにゃー」

建宮「うむ。これで五和も少し大胆になってくれればいいのよ」

土御門「そういえば浴室にもカメラはあるのかにゃー?」

建宮「うん? 残念ながら紳士的に五和のことを考慮してつけてないのよな」

土御門「それは残念だぜい」

上条「.....(こんな時、どういう顔すれば...)」ホカホカ

五和「っ」ソワソワ

上条「あ、えっと....上がったからどうぞ」

五和「は、はひ」ダッ

上条「(うわぁぁ!! 明らかによそよそしい!!!)」

上条「(いっそのこと殴られたりされた方が楽だ...)」


五和「(うわあぁぁん...せっかくいい感じになったのに...)」

五和「(なんだか妙に距離が出来てしまったような......)」

五和「(どうしよう...)」ブクブク

---

五和「あ、あがりました」ホカホカ

上条「あ、あぁ」

上条・五和「(.......)」

上条・五和「あ、あのっ」

五和「さ、先にどうぞっ」

上条「さっきはその...すまん!」ジャンピング土下座っ

五和「い、いえいえ!私もその、気にしてませんから!」

---

上条「う~ん...風呂入っちゃうとやることなくなるなぁ」

五和「そうですねぇ」

五和「あ、じゃあ明日なにかボードゲームでも買いますか?」

上条「そうだな。オセロとかいいかもな」

五和「上条さん将棋はできますか?」

上条「うんまぁ...ルールと並べ方くらいであんまり強くないけどな」

上条「じゃあここら辺案内するついでに買ってみるか」

五和「はい!」

上条「明日は休みだし、一日どっかいってみるか」

五和「明日が楽しみです」

上条「その、よろしくな」

五和「?」

上条「だって俺ら...恋人、なんだろ?」

五和「//はい」ニコッ

上条「っ//」ドキッ

上条「ん~と、じゃあ五和はベッドで俺はいつも通り風呂場で...」

五和「だ、駄目ですよっ!」

上条「でも男女が二人一緒のベッドっていうのは....」

五和「だって」

上条「?」

五和「私達、恋人同士なんですから!」

上条「そ、そうか//」

五和「はい//」

---

上条「じゃあその...おやすみ」

五和「はい、おやすみなさい」

上条「(くぅっ...!五和の体温とか、そういうのを隣から感じる!)」

五和「(上条さん、暖かい//)」


~土御門宅~

建宮「五和も大胆になったみたいなのよな」

土御門「もともと行動力はあるからにゃー」

土御門・建宮「1週間楽しみだにゃー!(なのよ!)」



ちょいと休憩
書き溜めとかしてきます

土御門が学校来て、今日は舞夏が来るんだにゃーとか惚気てる……その頃舞夏と五和がバッタリ遭遇!あの時の女!から因縁のお料理対決!まで妄想した。

>>51お、それいいかも

「(う~ん)」

「(このやわらかいもの、なんだろう)」

「(なんかいいにおいもするような)」

「(2...つ?)」

上条「ん?」

五和「う、んん//」

上条「」

上条「う、うわっ!」ムギュッ

五和「痛っ! あれ?かみ...じょう...さん?///」

上条「わ、悪い!すぐ、すぐ出てくからっ!!」

五和「うひゃぁ///」プシューー

---

上条「えっと、五和」

五和「はい?」

上条「とりあえず朝のことを謝ります」土下座っ

五和「いえいえ//(むしろ嬉しかった//)」

上条「そしてあと6日、嫌かもしれないけどよろしくな!」

五和「いえ!全然嫌なんかじゃ(むしろ嬉しい//)」

上条「じゃあ今日は一日、デートってやつか」

五和「そうですね//」

上条「(くぅっ! 仮でも彼女とデート!)」

五和「じゃあ朝ご飯を...」

上条「せっかくだから外で食べるか? ついでに案内にもなるし」

五和「あ、はい!」

~とあるファミレス~

上条「こんなとこでごめんな。俺あんまり詳しくないしお金の問題で....」

五和「いえいえ! 上条さんと一緒ならどこでも....なんちゃって//」

上条「お! ちょっと恋人っぽい!」

五和「ふふふ//」



一方通行「」

打ち止め「? どうしたのってミサカはミサカは突然フリーズしたあなたに尋ねてみたり」

一方通行「なァ、ここはやめねェか?」

打ち止め「それはできない!何故ならミサカはここのハンバーグがお気に入りだから!ってミサカはミサカは却下してみる!」

一方通行「じゃァ俺は帰っからオマエ一人で...」

打ち止め「それも無理!ってミサカはミサカは却下してみる!」

一方通行「チッ」

ガランガラン

店員「いらっしゃいませ~」

打ち止め「いらっしゃいました~ってミサカはミサカは元気よく挨拶してみる!」

一方通行「おィクソガキィ!!静かにしやがれ!」

打ち止め「あなたの声の方が大きいよってミサカはミサカは指摘s...あ!」

一方通行「あァ?」

打ち止め「そのツンツン頭!もしかしてあなたはいつかのヒーローさん?ってミサカはミサカは確認に走ってみる!」ダッ

上条「ん?」

打ち止め「わっ!やっぱりあなただったんだね!ってミサカはミサカは奇跡の再開をはたしてみる!」

上条「あ、打ち止め....だっけ?久しぶりだな」

五和「?」

上条「あ~なんていうか、知り合い?の打ち止めっていうんだ」

五和「あ、はじめまして」

打ち止め「んん?あなた達はデート中だったの?ってミサカはミサカはミサカがいわゆるKYなのかと心配してみたり」

上条「あ、あぁそう...だな!」

五和「//」

打ち止め「そっか~実はミサカ達もデート中!ってミサカはミサカは対抗してみる!」

上条「例の〝あの人〟ときてるのか?」

打ち止め「そう!ミサカはミサカは答えてみたり」

上条「へぇ~じゃあちょっと挨拶でも「おィ」...やっぱりやめとこうかなぁ」ダラダラ

一方通行「久しぶりだなァ三下ァ」

上条「ア、一方通行さんどうしてこ、ここへ?」

打ち止め「もしかしてあなた達ってお知り合い?ってミサカはミサカは質問してみる」

一方通行「あァ。ブッ殺してェくれェ仲いいよなァ!」カチッ

上条「ちょ、ちょちょっ!」

五和「......」ガタッ

一方通行「あァ?」

上条「五和!?」

五和「......」キッ

一方通行「なんだなんだなんですかァ!?邪魔するってェのくぁw背drftgyふじこlp;@:」

上条「あ、あれ?」

打ち止め「も~こんなとこで戦いとかしちゃだめってミサカはミサカは能力を盾に交渉してみる」

一方通行「っっ」コクコク

打ち止め「よしっってミサカはミサカは能力制限解除~」

---

一方通行「......」ムスッ

上条・五和「......」

打ち止め「う~んハンバーグがお気に入りだけどお子様ランチも捨てがたいってミサカはミサカは悩んで...う~ん」

五和「あ、じゃあ私がハンバーグ頼んで少しあげましょうか?」

打ち止め「それはグッドなアイデア!ってミサカはミサカは賞賛してみる!」

上条「えっと...一方通行?」

一方通行「あァ?」

上条「なんていうか...お前ロリコn「カチッ」あ、あ、待って!今の無し!」


店員「ご注文はお決まりですか?」

一方通行「......ステーキセット」

打ち止め「ミサカはお子様ランチ!」

上条「ん~じゃあこのスパゲッティを」

五和「ハンバーグセット、お願いします」

---

打ち止め「あなた達の馴れ初めを聞きたいかもってミサカはミサカは大人の質問をぶつけてみる!」

上条「あぁ、なんていうか俺達本物の恋人同士じゃないんだ。1週間だけのお試し期間っていうか」

五和「...です」

一方通行「...大方土御門のやろォがなンかしたンだろ?」

上条「なんでわかるんだ!?」

一方通行「訳あってアイツとは知り合いだからなァ」

上条「でもぶっちゃけ恋人って何すりゃいいのかわからなくてな」

打ち止め「こうやって愛を伝えればいいんだよ!ってミサカはミサカは説明してみる」ギュッ

一方通行「暑苦しいからやめろォ」

打ち止め「えへへってミサカはミサカはかわいらしく微笑んでみたり」

一方通行「自分から可愛ィとか頭沸いてンじゃねェか?」

五和「っ//」スッ

店員「お待たせしました」

上条「お、来たな」サッ

五和「....」シュン

打ち止め「残念だったねっってミサカはミサカは慰めてみる」

上条「?」

---

上条「う~食ったぁ」

打ち止め「やっぱりお子様ランチもハンバーグもおいしい!ってミサカはミサカは悩みの種が一つ増えてしまったり」

一方通行「あァ、オマエ」

五和「はい?」

一方通行「......コイツは鈍感の中の鈍感だからなァ せいぜい頑張れよォ」スッ

打ち止め「あなたが他人の応援なんて珍しい!ってミサカはミサカ天変地異を心配してみたり」ガタッ

打ち止め「じゃ~ね~ってミサカはミサカは手を振りつつ別れの挨拶!」フリフリ


上条「? じゃあな」

五和「さようなら」フリフリ

---

五和「これからどうしましょう?」

上条「じゃあ適当にフラフラしてみるか」

五和「はい」

上条「なんていうか、彼女とかって初めてだからさ。よくわからなくて...面白くないかもしれないけど」

五和「いえいえそんなことはありません。もっと自信をもってください」

上条「五和...」

五和「上条さん...」

白井「まぁまぁ、お暑いですこと」

上条・五和「「っっ!!?」」

白井「久しぶりですわ類人猿」

上条「えっと、黒井だっけ?」

白井「白井ですの!」

御坂「黒子~?」

上条「げっビリビリ!?」

御坂「あ、アンタなんでこんなとこに...っていうかあなたは!!」

五和「えっと、お久しぶりです」

上条「あれ? お前らって知り合い?」

五和「ええ少し」

御坂「で、あ、あんたらどうしてこんなとこに?」

五和「えっと、それは...//」

上条「実は上条さん達、恋人になったのです!」

御坂「」

五和「//」

御坂「どっどういう、こここ事ぉ!!?」ビリビリ

上条「お、おいビリビr」

五和「......」キッ

上条「い、五和さん! こいつ敵じゃないから!」ギュッ

五和「離してくださいぃ! ある意味敵なんです!」

御坂「」←抱きついてるように見える

---

上条「と、いうことで1週間だけ、擬似恋人なんです」

御坂「そ、それはその...悪かったわ」ホッ

なんでバラすんだよぉぉぉぉ

なんかもうどこに行くのかわからない

~~~~~~~~~~
御坂「じ、じゃあアンタ達は別に付き合ってるって訳じゃないのね?」

上条「あぁ」

五和「...です」

上条「じゃ、そういうことで」

御坂「あっ」

五和「失礼します」

御坂「......」

白井「お姉さま?」

御坂「まだチャンスが...うふふふふ」

白井「お、お姉さまぁぁ!」

>>65五和だったらバラさず恋人ってのに罪悪感的なのを感じる気がする。というかそんなSSがあった

~とあるデパート~

上条「ここは特売があまりないから俺あまりこないんだけどな」

上条「っととボードゲームだから、4階だな」

五和「はい」

上条「オセロと、あと将棋も買ってくか」

五和「あの...失礼ですけどお金大丈夫ですか?」

上条「ん? あぁこのくらいならな」

上条「それに一緒に遊べるものがあったほうがいいだろ?」

五和「そうですね」

上条「じゃあちょっと会計してくるから待っててくれ」

五和「じゃあここで待ってますね」

五和「(さっきの白井さん達...でしたっけ。上条さんといったいどんな関係なんでしょう)」

五和「(ずいぶんと親しそうでしたし....)」

五和「(やっぱり上条さんの周りには女の子、しかも可愛い子がたくさん...)」シュン

五和「(上条さんは、私のことどう思ってるんだろう)」

五和「(邪魔じゃないって言ってくれたけど...結局そういうことで)」

五和「(異性としてはどうなんでしょう)」

上条「すまんちょっとレジ混んでてな」

五和「いえいえ」

上条「それじゃ、行くか」

上条「そういえば服って結構持ってきてるのか?」

五和「実はあんまり...こういうことだとは知らされてなかったので」

上条「じゃあ五和の服買いにいくか」

五和「いいんですか?」

上条「あぁ。必要だろうしな」



~セブンスミスト~
五和「せっかくなので上条さん選んでください」

上条「お、俺? 俺はそういう服とかよくわからないし...」

五和「う~ん...じゃあこれなんてどうでしょう?」

上条「五和の服だから五和が着たいのでいいんだけどな。試着してみたらどうだ?」

五和「はい。少し待っててください」

上条「......」

上条「(五和は迷惑じゃないのかな)

上条「(いきなり好きでもないやつの彼女になれとか...)」

上条「(今までのところ特に嫌がってるそぶりは見えないけど、それも俺を傷つけない為だとか...)」


五和「ど、どうですか?」

上条「っ」ドキッ

五和「似合ってます?」

上条「あ、あぁ! すっげぇ似合ってる!それに」

五和「それに?」

上条「すっげぇ可愛い//」

五和「あ、ありがとうございます//」

五和「じゃあこれ着ていきます」

上条「ん~と、じゃあこれ会計するか」

上条「そろそろ昼飯にしようか?」

五和「そうですね」

---

~とあるお店~

(食事シーンカット)
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上条「う~ん...」

五和「どうしました?」

上条「やっぱり五和の作る飯の方がうまいなぁ」

五和「そうですか?」

上条「うん。今からお嫁に行っても恥かしくないくらいだぞ」

五和「お、およ//」

上条「この後ってどうする? どこか行きたいところとかあるか?」

五和「特には...でも」

上条「?」

五和「上条さんの家がいいです」

上条「え?」

五和「あそこが一番落ち着くんです」

上条「そっか。じゃあ帰るか」

五和「はい!」

上条「...」スタスタ

五和「...」スタスタ

上条「なぁ五和」

五和「はい?」

上条「こうしてわざわざ五和が来てくれたんだけどさ」

五和「はい」

上条「俺、やっぱり女の子と話したり、遊んだりするのって得意じゃなくてさ...」

五和「そんなことありませんよ? 私はとても楽しいです」

上条「ありがとう。でも、ずっと気になってることがあるんだ」

五和「なんですか?」

上条「俺、ちゃんと五和の彼氏になれてるかな」

五和「えっ?」

上条「仮でもさやっぱり恋人になるんだったら俺の方がしっかりしないといけないと思ってさ」

上条「でも自信なくて、だから疑っちゃうんだ。五和が実は嫌々恋人やってるんじゃないかって」

上条「だから、本当のこと聞かせてくれないか? 俺と一緒で楽しいか?」

五和「....上条さんはどうですか?」

上条「えっ?」

五和「上条さんは私と一緒で楽しいですか?」

五和「さっきの白井さん達とか、一方通行さん達といるときの上条さんとっても楽しそうで、嬉しそうでした」

五和「私といるときの上条さんは、どうですか?」

上条「俺は...」

五和「っごめんなさい、困らせるようなことして。私は上条さんといるのはとっても楽しいです!」

五和「さ、早く帰りまし」

上条「五和!」

五和「はい?」

上条「俺は五和といる時間がとっても楽しいし、幸せだ」

五和「あ、ありがとうございます//」

上条「でな、五和。今の五和の質問でようやくわかった」

五和「なんですか?」

上条「お、俺は..」

ドォォォン!!

「きゃあ!」「銀行が爆発したぞ!」

スキルアウト「うし、とっとと逃げっぞ!」

五和「いったいなにが...!?」

白井「風紀委員ですの!」

スキルアウト「チッ予想以上に早ぇな」

スキルアウト2「どけっ!」ドン

上条「うわっ」

五和「あ、上条さっっ!!?」

スキルアウト2「お前にはちょっと人質になってもらうぞ」

上条「い、五和っ!」

スキルアウト2「動くなよ?」チャキッ

上条「拳銃!?」

白井「くっ!」

スキルアウト「ま、とりあえず逃走用の車なんかを用意してもらおうか?」

スキルアウト2「俺はそんなに気が長い方じゃないからな~もしかしたら退屈しのぎにちょっと撃っちゃうかもなぁ」ニヤニヤ

五和「うぅ...」

上条「くそっ!」

上条「白井、なんとかできないのか!?」

白井「考えてはいますが無理ですの...私のテレポートは触れていないとできませんし」

上条「どうしたら...」

五和「...」キッ

スキルアウト2「お?そんなに睨むなよ美人顔が台無しだぜ?」

五和「......!」ガッ

スキルアウト2「痛っ!?」ガクッ

スキルアウト2「んのやろ...!」スッ

上条「い、五和!!」ダッ


バァァァァン!!

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五和「か、上条...さん?」

上条「い....つ..わ...無事か?」

五和「私は...無事...です」

上条「そうか...よかった」ニコッ

五和「う、うわあぁぁぁぁ!!!」


「あれ? 今度こそ俺死んだのかな」

「異能の力ならなんとかできてもやっぱり拳銃じゃなぁ...」

「そういえば五和に伝えられなかったな......」

「.....さん!」

「.....じょうさん!」

「ん?何だ?この声...五和?」

「上条さん!」

上条「いつ...わ?」

五和「!」

五和「ヒッグ 上条さぁん!」ギュッ

上条「うわっ!?」

五和「私のせいで、ごめんな ヒッグ さいぃ!」

上条「五和...」

医者「まったく、君は何度ここにくるつもりだい? しかも今度は彼女連れで...」

上条「あ....そうか、ここ病院か」

医者「まぁ、傷の方は治してあるし明日にでも退院できるけど...」

五和「えぇっ!? 拳銃で撃たれたんですよ!?」

上条「あ~この医者の腕はもはやチートなんで...」

医者「君の方が辛いんならもう少し入院してもらっても構わないがね?」

上条「いえ、明日退院しますよ」

医者「そうか。じゃあ僕は他の患者のところへ行かないといけないんで失礼するよ」


五和「痛いところとかないですか?」

上条「ん~痛いっていうより体がダルいな...」

五和「まぁ2日間眠ってましたから....」

上条「えっ!? そんなに?」

五和「えぇ...もしかしたらもう目を覚ましてくれないかもって ヒッグ 思ったら ングッ」

上条「心配掛けて悪かった」

五和「まったくです」

上条「あれ? 五和もしかして怒ってる?」

五和「怒ってなんかいませんよ」フイッ

上条「じゃあなんで顔を背けてるのでせうか?」

五和「目とか...」

上条「ん?」

五和「たくさん泣いちゃって赤く腫れてるだろうし...あまり寝てなくて目の下に...」

上条「もしかしてずっとここに?」

五和「はい」

上条「それはなんというか...上条さんは幸せ者です」

五和「幸せなら撃たれたりしませんよ」クスッ

上条「それもそうか」

......落ちがベタで下手で色々ヤバい
~~~~~~~~~~~~~~

五和「そういえば」

上条「ん?」

五和「あの時何か言いかけてませんでした?」

上条「っっ!」

五和「もう全然言葉とか覚えてないんですけど...」

上条「い、五和」

五和「はい?」

上条「じゃあ俺からお話があります」

五和「?」

上条「五和」







上条「もしよかったら俺と、本当の恋人になってください!」


五和「!!.....はい、喜んで」ニコッ

ドアの外
「何よ。良い雰囲気どころか告白までしちゃって」

「これじゃ、お見舞いなんてできないじゃない...」

「ったく....」

「五和さん泣かしたら、許さないわよ...グスッ」

「お姉さま......」

「さ、黒子。パーっと遊びにいきましょ!」

「ぐへへへ、お姉さま。黒子が慰めてあげますの~~!」

「やめなさい!」ビリビリ

「あぁん!黒子は、黒子はみだれてしまいますの~~!!!」

「ふぅ...」

「お二人とも、お幸せに」

隣の部屋
「ふふっ」

「あァ?なに壁に耳当てて笑ってンだ?」

「なんでもないよ!ってミサカはミサカは誤魔化してみる」

「チッ」

「ねぇ。もしミサカが危なかったりしたら、助けてくれる?ってミサカはミサカは割と本気で尋ねてみたり」

「決まってンだろ」



「上条さん」

「ん?」

「もし、今回みたいなことがあったら、また守ってくれますか?」

「あぁ」








「「いつでも、いつまでも守ってやるよ!!」」

うわあああああ普通に五和とイチャイチャするの書きたかったのにどうしてこうなった

後日談というか、残ってる4日分は書きたいと思ってます


色々ごめんなさい 初SSなので許してください

書き溜めたとこまで投下。期待しないで下さい
~~~~~~~~~~~~~

上条「お世話になりました」

医者「もう来ないのがいいんだけど、そうもいかないだろうからまたね」

上条「ハハ...」

五和「じゃあ行きましょうか」

上条「あぁ」

五和「よいしょ、と」

上条「五和さん?」

五和「はい?」

上条「なんでバイクなんですか?」

五和「?」

上条「俺一応病みあがりだからタクシーとかで安全に行きたいんですけど...」

五和「それはその...」

上条「まぁいいか。よいしょっと」

五和「(上条さんと距離が近くなるし...)」

上条「安全運転でお願いしますよっと」ギュ

五和「(こ、これが///)」

上条「ただいま~」

五和「失礼します」

上条「〝失礼します〟じゃなくて〝ただいま〟でいいんじゃないか?」

五和「えっと、ただいまです」

上条「おかえり」

五和「ふふふ」

上条「ん?」

五和「何だか嬉しくて。上条さんと本物の恋人同士なんだって実感して」

上条「そうだな~」

五和「お昼ご飯作りますね」

上条「じゃあ頼むな」


土御門「撃たれたときはヒヤっとしたけど無事でなによりだぜい」

建宮「でもあと3日しかないのよ」

土御門「明日あたりにアレが届くぜい」

建宮・土御門「「フフフフフフフフフフ」」

上条・五和「「いただきます」」

上条「さて、今日はあとどうする?」

五和「上条さんは病み上がりですし家でおとなしくしていてください」

上条「まぁ五和が言うならそうしとくか」

上条・五和「(醤油醤油...)」スッ

上条・五和「(っっ!?)」

上条「あ、すまん//」

五和「い、いえどうぞ//」


建宮「初々しいのよな」

土御門「にゃー」

ガチャ

舞夏「ん?兄貴誰か連れ込んでるのか~?」

土御門「ま、舞夏!?」

舞夏「......兄貴、そんな趣味が...」

上条「あ、そういえば明日から俺は学校行くけど」

五和「じゃあ私は家で留守番ですね」

上条「その、なるべく早く帰るから」

五和「はい待ってます」ニコッ


土御門「これは違うぜい舞夏!」

舞夏「兄貴、他人の部屋を覗くなんて...ん?」

土御門「?」

舞夏「こ、この女ーーー!!」

土御門「お、落ち着くにゃー!」

建宮「...」

土御門「お前も手伝うにゃー」

建宮「......」

土御門「?」

上条「ごちそうさまでした」

五和「おそまつさまです」

上条「(つい数日前まで不幸の連続だったけど、たった数日で彼女もできるし飯はうまいし、幸せだー)」

五和「洗っちゃいますね」

上条「それくらい手伝うよ」

五和「じゃあお願いします」


建宮「あ、俺建宮っていいます//」

舞夏「うちの兄がお世話になってます」営業スマイル

土御門「(なんだかんだでメイドだにゃー)」



建宮「おい土御門、俺に舞夏さんを紹介してくれなのよ!」コソコソ

土御門「」

五和「こうして二人でキッチンに立ってると」

上条「ん?」

五和「ふ、夫婦みたいですね//」

上条「そ、そうかな//」

---

上条「じゃあオセロでもやるか」

五和「そうですね」

上条「(ほのぼのしてていいなぁ)」

五和「白と黒どっちにします?」

上条「じゃあ白で」

上条「五和強いな~」パチッパチッパチッ

五和「そうですか?」パチッパチッパチッパチッ

上条「お、角」パチッパチッ

五和「ふふ」パチッパチッパチッパチッ

上条「うぉ...」パチッパチッ

五和「角ばっかり狙ってても勝てませんよ」パチッパチッパチッ

---

上条「負けた~」

五和「じゃあ罰ゲームですね」ニコッ

上条「えぇっ!?」

五和「罰ゲームは>>110です」

レスなかったら適当に考えます。夜か明日の昼頃きます

>>108

気づいたら昼過ぎてた!
>>110ホッとした。本当にありがとう

書き溜めしたら再開します

お前は>>107をやるんだろ?

五和「背中に文字書くので、それを当ててください。3つ当てられたら許してあげます」

上条「当てられなかったら...?」

五和「ひ、酷いことします」

上条「はぁ」

五和「じゃあ後ろ向いて下さい」

上条「ん」スッ

五和「じゃあ簡単なのから(背中、大きいです//)」カキカキ

上条「(くすぐったいな...|-_...?)」

上条「あ『上』か」

五和「正解です!」

五和「次は二文字です」

上条「(斜め線とかも入ってるし...)

上条「(わからん! ここは適当に)」」

上条「『五和』...?」

五和「うぅ正解です...」

上条「よっしゃ!」

五和「じゃあ...」カキカキ

上条「(簡単だなぁ五和、なんだかんだで優しいんだな)」

上条「『る』!」

五和「ふふっ引っかかりました!」

上条「うぇっ!?」

五和「『ゑ』です」

上条「それは反則じゃ...」

>>116マジ勘弁 ここは中の人が...
~~~~~~~~~~~~~~~

五和「そうですか? じゃあもう1問。今度は四文字です」

上条「(....す......き......で......!?)」

五和「上条さん」



上条「な、なんだ?」クルッ

五和「好きです、上条さん」スッ

上条「いつムグッ!!?」





「「......///」」



上条「五和」

五和「はい?」

上条「俺も、五和が大好きだ」ギュゥ

五和「は、はひ///」

上条「俺にもやらせてくれ」

五和「はい」クルッ

上条「えっと(背中小さいなぁ)」スッ

五和「きゃっ!?」

上条「どうした?」

五和「すいません。くすぐったくて」

上条「......」カキカキカキ

五和「お、多すぎません?」

上条「はっ、何も考えずに適当に書いてしまった」

五和「え? なんて書いたんです?」

上条「えっとたしか...こうしてこうだかr....」

五和「?」

上条「うわああああ!! 仕切直し! 今のなし!」

五和「えぇっ!?」

上条「(言えない...言えない...)」

五和「教えてくださいよ!」ズイ

上条「む、無理です!(近っ近い近い!)」

五和「隠し事ですか...?」シュン

上条「いや、そんなんじゃ...」

五和「じゃあ教えてください」

上条「...笑わない?」

五和「はい」

上条「....つわ」

五和「?」

上条「上条...五和って」

五和「っ!」

上条「わ、忘れてく!!?」

五和「っっ」ギュウ

上条「いつ、五和さん!?」

五和「ひぁ// 上条さんの顔見れません///」ギュウウ

上条「......五和」ギュウ

---

五和「さっきはすいません上条さん...//」

上条「五和、そろそろ〝上条さん〟ってのはやめないか?」

五和「じ、じゃあ...名前で」

上条「ん」


五和「と、当麻さん!」

上条「五和!」


上条・五和「はは(ふふっ)//」



土御門「舞夏っ!」

舞夏「兄貴!」

土御門・舞夏「....」ニヤニヤ

建宮「ちくしょぉぉぉおおおおおお!!!」



~~~~~
この後どうしよう......五和大好きなのにうまく書けない
>>1の練習として色々やってみたいのでこの後はいろんなキャラを登場させようと思います
あとネタを提供してくれると嬉しい

今日誰も書かなかったらこのスレ無くなっちゃうのかな?

だったら>1じゃないけどここ再利用してもいいなら俺が書きます。


―――――



少女は扉の前で静謐な朝の冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
今より少女の一世一代の、戦いが始まるのだ。


(大丈夫。策は練りました。みんなも後押ししてくれます。だから…)


ドアノブに手をかけて、肩に下げた大きな旅行鞄の重みを確かめる。
武器良し、服良し、下着良し、化粧品良し、生活用品良し、食材良し

心の準備、良し。

自分は忘れ物を取りに来た。
そして、決着を着けに来た。
次にここを出るときは、一つの恋の結末が見えた時。。
覚悟を決めて少女はドアノブを恐る恐ると回すのだった。


大きな、とても大きな

たった一人きりの戦いが始まる



―――――



黒髪のツンツン頭が特徴的なごく普通の高校生、上条当麻は気だるいまどろみの中で朝の訪れを感じていた。
体のそこかしこがキシキシと悲鳴をあげているのは何も運動不足だからとか、虚弱体質だからとかそういうわけではない。
連日のように訪れるトラブルによってダメージが体に蓄積しているのだ。
ここ1ヶ月かそこらでの上条の戦いはそれはそれは凄まじいものだった。
事の発端は九月三十日。
ローマ正教の暗部『神の右席』より『前方のヴェント』が上条を殺すべくここ学園都市に襲来した。
それを紆余曲折ありながらも退けたが、その戦いの舌の根も乾かぬうちに今度は突然超音速旅客機に乗せられ、
フランスの上空でポイ捨てされて同じく『神の右席』、『左方のテッラ』との戦いに突入したのだ。
こちらもまた色々と大変な目に合いながらどうにか生き長らえ、ようやく愛しい我が家に帰ってこれたと思ったら今度は
『後方のアックア』が単身乗り込んできた。
これを乗り越えたのがほんの1週間ほど前のことだ。
他にも大覇星祭で巨乳の刺客と戦ったり、イタリアで氷の船に乗り込んだりもした。
先ほど事の発端と申し上げたが、元を正せばそもそもどこが始まりだったのかは今はもう分からない。

おまけに日常生活においてはビリビリ中学生に追い回され、居候には噛み付かれるという隙の無い毎日。
人間が一生のうちに出会うトラブルの数を遥かに超えるスリリング過ぎる日々に、上条の体はいよいよ限界を迎えようとしていた。
まあそれほど深刻なことでも無いのだが、少なくとも筋肉痛と生傷の数は日に日に増え続け、こうして朝の時間くらいは
ゆっくりしないと本当に過労で倒れてしまうのではないかというくらいには疲労を感じていたのだった。


「うーん…清々しい朝だ」


そんな気持ちを吹き飛ばすように、上条は無理に呟き眩しい朝の日差しと共に今日も爽やかな目覚めを堪能するはずだった。
いつもの狭っ苦しいユニットバスのバスタブ内に敷かれた布団では、朝の日差しどころか爽やかさすら感じることは微塵も無いのだが、
せめて気分だけでも盛り上げなくてはとまどろむ意識を半ば無理矢理に覚醒させるように両手を勢いよく天井に向けて突き出す。
指を開き、掌を天井の向こう側にあるお天道様に向けて伸ばして「さあ、今日も俺は不幸でも頑張るんだぜ」と空元気を振り絞るかの如く空を切るはずだった。
なのに、


もにゅっ


「ひゃっ!」


そう。そのはずだった。
妙に柔らかい感触が左の掌に伝わる。同時に聴こえる少女の黄色いさえずる様な声。
一羽のスズメが朝をお知らせに迷い込んできてしまったのかなウフフと現実から逃げたくなってしまったが、
時既に遅いことは今までの経験上からよーく分かっている。
つまるところどういうことかと言うと。
朝一発。
トラブルがやってきたのである。
だがしかしまだ目蓋を開くわけにはいかない。
今なら寝ぼけたことにしてしまえるからだ。
自分が何者かの胸を、乳房を、おっぱいを、掌で押し上げてしまったことは明白。
おまけにその感触は未だ左掌に健在、というより胸に密着したまま離すことができない。


「あ…あの…」


なかなかのボリューム感。
毎日目にしている居候やビリビリ中学生には逆立ちしても届くことはないその戦闘力は一体誰のものだろうか。
繰り返し言うが当然我が家の居候がこんな兵器を持っているわけがない。
まず頭に思い浮かんだのはクラスメイトの吹寄制理だ。
デコを出した髪形が特徴的な、規格統制されたかのようにビッチリと制服を着こなす鉄の女だが、
彼女の胸は統率された肉体に反するわがままさを以って迫り上がっている。その肉感的な肢体を思い出して上条はゴクリと唾を飲み込んだ。
だが彼女がこんなところにいるはずはない。
となれば次に思い浮かぶのはイギリス清教第零聖堂区『必要悪の教会(ネセサリウス)』に所属し、
同時に『天草式十字凄教』の『女教皇(プリエステス)』でもある魔術師、神裂火織ではないか。
長い黒髪が美しい、それでいてへそ出しにジーンズの片側をぶった切ったエキセントリックな服装の女性で、その胸は先述の吹寄に勝る破壊力を有していた。
だがそのセンも薄い。
何故ならば、もし彼女が神裂だったのなら未だ左手の掌で胸の感触を堪能していられるはずがないからである。
仮に彼女の胸に触れようものなら、今頃腕は七本のワイヤーによって細切れに切断されて風呂場が一瞬でスプラッタ映画の
ワンシーンのような有様になり、自分はその光景を見ることすらなく血の海で溺死していることだろうことは想像に難くない。


「んっ…さ、さすがにそろそろ離してもらえたら…なんて…」


となれば、元ローマ正教のシスターで、現在はイギリス清教に身をおくオルソラ=アクィナスかもしれない。
いやいや、意外なセンで言えば風斬氷華。超大穴でオリアナ=トムソンや御坂美鈴という可能性も無きにしも非ず。
世界は巨乳に溢れている。
上条はたっぷり1分以上はその感触を楽しんで、寝ぼけたフリをしたままそろそろと左掌を相手の胸部から離して下ろしていく。


「えっと…朝、ですけど。そろそろ起きませんか?学校に遅刻しちゃいますよー…」


恐る恐ると言った様子で声をかけてくる。
どうやらバスタブの横に膝立ちになってこちらを覗き込んでいるようだ。
彼女が身を乗り出したところを丁度掌で突き上げてしまったのだろう。
と、そこで上条は「ん?」と思わず呟いてしまった。
この清涼感溢れる透き通るような声に、聞き覚えがあったのだ。


「……え?」


ゆっくりと、まるで「今起きましたよー」と相手に伝えようとするかのように。
上条は薄く目蓋を開いてその向こうにいる人物の姿を確認した。


「お、おはようございます」


頬を赤らめ、少し恥ずかしそうにそう告げた少女。
年の頃は上条と同年代くらい。
肩口まである黒髪と、パッチリクッキリの二重まぶたが特徴的な彼女。
何よりも意外と大きなその胸が完全に上条の記憶から抜け落ちていたことを気付かされた。


「お、おはようござ…え?いや…なんでお前が…え?」

「お、落ち着いてください」

「だってお前、五和…だよな?」


そう。
『天草式十字凄教』の少女、五和がそこにいた。
掛け布団を跳ね除けてガバリと起き上がる上条。
体を起こすとすぐ目の前に彼女の顔があり、仄かに漂う女の子のいい匂いに反射的にぷいっと顔を背けてしまう。
向こうも気恥ずかしいのか、こちらと同じように口元を結んで胸元に手を当てて俯いていた。


「あの…お久しぶりです」


上目遣いでペコリを頭を下げる五和。
お久しぶりと言っても、実は最後に会ってからそんなに経っていなかったりもする。
アビニョンで『左方のテッラ』と戦う際や、先日『後方のアックア』と学園都市内で死闘を繰り広げた時に
協力して戦ったことはまだ記憶に新しい。
上条もつられるように頭を下げたところで、「いやそうじゃなくて」と慌てて首を振る。


「ってか、なんでここにいるの?」


当然の疑問である。
しかしその問いに五和は少し困ったような表情になった。
もしかしてまた魔術師が攻めてくるとかそういったことなのだろうか。


「えっと、実はまたあなたの命を狙う『神の右席』がいてですね…」


やはりそうかと上条は険しい表情になる。
しかし五和の表情はどこかふわふわと宙を漂っているというか、いまいち要領を得ない。
明後日の方向をキョロキョロしながら、まるで思い出しつつ喋っているように見えた。


「今度はどんな相手なんだ!っと、狙いが俺なら今回もインデックスに聞かれないほうがいいよな。
 で、どうなんだ五和?」

「わひゃっ!」


声を潜め、口元に手をあてリビングで朝のお祈りでもしているであろうインデックスを思い浮かべる。
顔を近づけると妙な声をあげて五和はあわあわと顔を真っ赤にさせているが、何かあったのだろうか。


「あの…か、下方の…」

「下方?そうか、前、左、後と来たら次は右かと思ってたけど、下なんだな。ってことは上もいるよな」

「その…『下方のヤミテタ』という」


口に出すのも恐ろしい相手なのだろうか、ボソボソと何故か恥ずかしそうに話す五和をなだめるように、
上条は真っ直ぐに彼女を見つめながら頷いた。


「『下方のヤミテタ』…初めて出てくる名前だけど、悪そうな奴だな。
 名前からいくと闇属性って感じだ…。で、そいつはまた俺を狙うって言ってきたのか?」


息を呑む上条。
『神の右席』はどいつもこいつも強力な能力を持つ魔術師だ。
その新しい刺客が来るとなれば、寝ぼけている暇もない。
久しぶりの強敵の出現に、今から緊張してくる上条だった。


「いやその…いえ、そういう情報があったりなかったりで…あの、来るか分からないんですけど、念のため私が護衛ということで来たんです」


つまり『後方のアックア』の時と同じという訳だ。もっとも、今回は相手が来るのか来ないのか分からないということらしい。
恐らくなんとか掴んだ極秘情報に保険をかけて彼女が派遣されてきたといったところだろう。
これは長期戦になるかもしれないなと上条は意気込む。
ところで先ほどからやけに言い淀む五和だが、胸を揉んでしまったことを気にしているのだろうか。
しかし今更ぶり返すのも恥ずかしいので、「申し訳ございません五和さん。いいおっぱいでした」と心の中で謝り倒しておくことにしておく。


「悪いな五和、手間かけちまって。今度こそお前に心配かけるようなことは無いようにするからな!」

「い、いえいえ! 私が来たからにはもう大丈夫です! 私こそあなたを守ります!
 そんなことより朝ごはんができてますから食べませんか? 今日学校ですよね?」

「なん…だと…?」


今度は元気一杯でそう言う五和。
だが上条が驚いたのはそんなことではない。
素晴らしきは起きたときに朝ごはんが出来ているというこの一点に尽きる。
こんなこと、今まであったろうか。



前回の時もそうだが、五和がいてくれると家事の分担ができるので物凄く助かる。
感涙で前が見えない上条は、五和が持ってきてくれた制服(なんとシャツにアイロンがあててあり、埃も取ってある)
に着替え、ワックスで髪を整えて風呂場から出る。
そこではピンクのふわふわのトレーナーとジーンズ姿の上にエプロンを着けた五和が、
お盆に三人分の朝食を乗せていそいそとキッチンとテーブルを往復していているところだった。


「あ、おはよーとうま。起きるのが遅いんだよ」


そう言って元気よく声をあげたのは我が家の居候。
真っ白い修道服に身を包んだ銀髪のシスター、インデックスだ。
中学生くらいの小柄な体に愛猫スフィンクスを抱きしめて、朝の少女向け魔女っ娘アニメを眺めているようだった。


「インデックスお前なー。ちょっとは五和を手伝うとか出来ないんですか?」


そうぼやきながら、五和が持ってきた味噌汁のお椀をテーブルの上に並べていく上条。
言われたインデックスは頬を膨らませてジロリと上条に抗議の視線を送る。


「今は忙しいから無理かも!この秋からの新番組、『閃光少女マジカルムギノン』を見る時間なんだから。
 バイオレンスな魅力が新しい新世紀やんでれ?すとーりーなんだよ!」


決め台詞は「アンタの未来はブチコロシかくていね」だそうだ。
全国の子供たちの将来が少し心配になった。


「ったく、ごめんな五和。全部一人でやらせちまって。晩御飯は上条さんが作りますから、五和もテレビでも見ててくれよ」

「いえいえいいんですよそんなの!これは私の仕事なんですから!むしろやらせてください!」


ぶるんぶるんと首を振る五和。なかなかリアクションの大きい子だと思いながら、食卓に座る。
スフィンクスも何やら高そうな猫缶が盛られた皿を差し出され、インデックスの胸からヌルリと抜け出て涎を垂らしていた。
ご飯が揃ったことを確認したのか、インデックスは少しバツが悪そうな表情でテレビの前から食卓に戻ってくる。
さすがに彼女もプライドを刺激されたのだろう、今日は少しお手伝いに協力的になってくれるかもしれない。
今朝のメニューは焼き魚、卵焼き、味噌汁に漬物、海苔。そして炊きたてのご飯。
絵に描いたような理想的な朝食だった。
上条は再び涙を滲ませながら手を合わせ、三人は「いただきます」と同時に告げて食事を始めた。


「今朝お邪魔したので、あまり大したものは出来なかったんですけど…。今晩は期待してくださいね!」

「大したものって…こんな美味いもんが大してなかったら俺が毎日食ってるもんは何だというんだ。
 上条さんは充分満足ですことよ。うん美味い、美味すぎるぞ五和」

「そうですか?それならよかったです」


嬉しそうに微笑む五和を見てドキリとなる上条。
こうして可愛い女の子と食卓を囲めるなんて、実は結構幸せ者なんじゃないだろうかと味噌汁を啜りながら思う。
五和は和食が特に得意らしく、今朝も時間が無かったという割にはしっかりとダシから取った味噌汁を出してきているし、
卵焼きも自分好みの絶妙な味付けだった。
五和が起こしてくれたおかげか二度寝するようなこともなく、おまけに食事まで用意してくれていたものだから時間的にも結構な余裕がある。
こんなゆっくりとした朝の時間を過ごせるなんてと上条はしみじみその些細な幸せを噛み締めていた。


「そういえばもぐもぐ。いつわがどうしてここにいるのかなむぐむぐ」


あまりの美味しさに無言で貪っていたインデックスが思い出したようにそう言った。
前回は食べ物で丸め込めたが今回は少し五和の料理に耐性が出来たのか、
咀嚼しながらそう問いかけてくる。


「食いながら喋るんじゃありません」

「とうまもぐもぐ。もしかしてあむあむ。また『神の右席』みたいなもぐもぐ強力ながぶがぶ魔術師がむぐむぐ来るんじゃないの?」

「いや、それはだな」

「ち、違います!」


アックアとの戦いが終わった後、インデックスにどうして自分に相談しないんだと怒られたことを思い出して、
今回はどうしようかと少し迷った。
だから横からすかさず五和がそんな風に言ったのを聴いて上条は驚いていた。
前回の教訓を生かすなら、インデックスに協力してもらうのも一つの手だとは思うのだが、やはり巻き込むのは気がひけるのだろう。
上条も五和の気遣いに乗っかることにした。


「本当に?」


怪訝そうに上目遣いになるインデックス。
こういう仕草は素直に可愛いと思える。


「えと、実は私学園都市の見学に来ていて。家事をお手伝いする代わりに宿を彼に提供してもらってるんです。
 だ、だからいっぱいお代わりしてくださいね!」

「そうなのとうま?」

「ああ、そうだ。心配してくれてありがとな、インデックス」

「ふぅん…それならいいけど。何かあったらすぐ私を頼るんだよ!」


少し訝しげだったインデックスの視線も、次の瞬間にはふっと綻んだ。
どんと小さな胸を叩く姿は愛らしく、上条の胸が少しだけチクリと痛んだのだった。
『下方のヤミテタ』。
どんな恐ろしい奴かは知らないが、インデックスに危害を加えられることだけは避けたい。
上条はそう固く決意し、うまうまと食事を再開しているインデックスに心の中で謝罪した。


やがて食事を終了し、五和と一緒に後片付けをして玄関先でバスケットシューズを穿く。
片付けも自分にやらせてくれと五和は言ったが、そこは断固として断った。
食材まで用意してもらっておいて片付けから何まで任せるというのは少々申し訳ない。
上条は楽しく談笑しながら食器を洗っていると、気がつけば登校時間ギリギリだった。


「じゃあ行ってくる、五和」


玄関先で五和に見送ってもらう。
インデックスは部屋でスフィンクスをごろごろとあやしているようだ。


「はい。気をつけてくださいね。
 本当は学校までお送りしたいんですけど…ゴニョゴニョ」


頬を赤くして何か言っている五和。
さすがに登校を一緒にしていると変なところで鼻が利くインデックスに勘付かれるかもしれない。
上条は手をひらひらと振って心配するなと笑いかけてやった。


「大丈夫だよ。これでも『神の右席』とは3人戦ってる。
 そうそう殺されたりなんかしねえよ」

「そう…ですよね。あの、行ってらっしゃい」


体の前で手を組んで、もじもじと上目遣いでそう言ってくれる。


「あ、ああ。五和もインデックスを頼むな」


あまりに可愛らしい仕草だったのでドキリとなり、照れ隠しに頭をかいて上条は勢いよく部屋を飛び出たのだった。
敵が来るかもしれないということを除けばなかなかに素敵な朝。
まるで新妻のような五和の姿に、やけに胸が高鳴る上条なのであった。

イツワ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!


―――――


今日も代わり映えのしない学校。本来ならば学生達は皆各々の学び舎で眠気と戦いつつ授業を聞いているはずである。
黒い詰襟に同色のスラックスという制服の下にはラフなスポーツTシャツを着た上条当麻も本来ならばそのはずであった。
だが今日は一味違う。
朝から五和のおっぱいと可愛い顔で目覚め、栄養バランスの整った食事を堪能して登校しているのだ。
これで元気が出ないというのはバチがあたる。
彼は4限目、昼前の最後の授業を自分でも驚く程の活力で乗り切ったところだった。
昼休みに入り、がやがやと騒がしい教室内。
食堂に向ったり、仲の良い者同士で机をくっつけたりと、各々のお昼の時間を楽しもうと皆行動を開始していた。
上条もまた、今日も平和な学校で自分の席にて級友の土御門、青髪ピアスと共に駄弁りながら昼食をどうするかと考えていた。


「カミやん昼メシはどうしたんだにゃー?」

「上条さんは金欠なので今日はお昼抜きですよっと」


今日も学ランの下にはアロハシャツ。
薄い色のサングラスと金髪がとんでもなくド派手な土御門が購買で買ってきたやきそばパンをかじって尋ねてくる。


「にゃー。カミやんの金欠もそこまで行くと哀れぜよ」

「けっ!どうせ外でも家でもフラグ立てまくって女の子に追っかけまわされとるんやろ!飯なんか食わんでええ!忌々しい」


同じく菓子パンを食べながら訳の分からないことを言っているのは青い髪にピアスがトレードマークの大男。その名も青髪ピアス。
本名は…なんだっけ?と思いながら彼の言葉を聞き流す上条。
追っかけまわされているという表現は絶妙な言い回しだ。
確かに命の危機に瀕するような追っかけまわされ方を毎日のようにされているなと深くため息をついた。


「あのなぁ。上条さんだって好きであのビリビリに追いかけられてんじゃないんですよ?
 頼むから誰か代わって欲しいくらいだ」

「なんやと!ほんまええ加減にせえよボケェッ!
 カミやんは分かってへん!自分がどれだけ恵まれとると思ってんねん!
 カミやん殺してカミジョー属性を手に入れられるならボクは今すぐにでも殺れるで」


血涙を流しながら力説する1青髪ピアス。
立ち上がって大きな声でそんなことを言うものだからクラス中からの注目を浴びているが、
方々から「いつものことだな」「はいはいデルタフォースデルタフォース」「3馬鹿テラワロス」と苦笑と呆れ交じりの声が聴こえてくるだけで
特に誰も何も言ってこない。


「意味わかんねえ。上条さんはこの平穏な毎日を愛しく…って、なんだ?」


その時、ガラガラと教室の扉が開かれる。
ざわついていた教室が一瞬だけ静寂に覆われた。
無理もない。そこに立っていた人物は校内だと言うのに何故か私服で、加えてなかなかの美少女だったのだから。


「ほれ見たことか! ほれ見たことか!カミやんがあんなこと言うから美少女を召還してもたやないか!」

「「五和?」」


青髪を無視して上条と土御門の声が重なる。
そこに立っていたのは、どういうわけか五和だったのだ。


「あ、よかった上条さん!お昼まだだったんですね!」

オルソラの名前が出てた
それだけで幸せなのに五和スレ復活とか
(・∀・)イツワ!!


こちらの姿を確認して、花が咲くように表情を綻ばせた五和がぱたぱたと近寄ってくる。
学校名が箔押しされたスリッパを履き、来客用ネームプレートが胸についているためわざわざ学校に許可をもらって入ってきたらしい。
その手にはいつも上条が使っているお弁当箱の入った巾着が握られていた。


「むむっ、これは出番の予感」


誰かがそんなことを呟いた。
彼女の動きに教室中が注目している。
当然のように傍らの青髪は血涙を流して拳を握っているし、土御門は何がそんなに面白いのか、
にやにやと笑みを浮かべてにゃーにゃー言っている。
どことなく教室内からの視線も冷たいような気がした。


「あの…はい上条さん。あの子に、お昼食べてないときも多いって聴いて。
 購買とかで買ってたらどうしようって思ったんですけど、間に合ったみたいですね。
 これ、お弁当作ったのでよかったら食べてください」

「な…なんでや…なんでやねん…。カミやんばっかり…ボクは、ボクはどないしたらええんやぁぁぁぁあぁああああッッッ!!
 死にさらせぇぇぇぇええええええっ!!!」

「まぁ待て待て。今から面白いところだにゃー」


土御門に取り押さえられて白い灰になっていく青髪はもう放っておくことにした上条。
少し恥ずかしそうに五和が巾着袋を手渡してきた。


「わざわざ作って持ってきてくれたのか?」


驚き尋ねると、五和は頬を紅潮させてコクリと頷いた。


「上条さんお腹空いてるかと思ったので。それにお昼ご飯を詰めただけですから気にしないで下さい。
 あ、だ、大丈夫ですよ!あの子にはちゃんとご飯用意してから来ましたから心配無いです!」

「あいつは一食くらい抜いた方が健康のためだと思うけどな…。
 とにかくありがとな。面倒かけて悪いな」

「面倒だなんて…私が好きでやってることですし…」

「上条くん、知り合い?」


動きの無くなった教室内の静寂を唐突に破ったのは、日本人形のような長い黒髪を持つ姫神秋沙。
彼女はいつの間にか上条たちの傍らまで来ており、ぼんやりとした瞳で五和を見つめている。


「ああ、五和だよ。まあ知り合い…友達、だな」


平坦な口調の姫神の問いに、上条は曖昧に頷いた。
知り合いと言えば知り合いだ。
どういう種類の知り合いなのかはイマイチ分からない。
戦友?仲間?同盟相手?
どれもしっくりこないので、一先ず無難に友達ということにしておく。
五和は姫神にペコリと頭を下げた。


「ど、どうも始めまして」

「はじめまして。私。姫神秋沙。こんなところにも罠があったとは」

「あん?姫神どした?」


読めない表情と淡々とした口調で何事かを呟いている。


「なんでもない」

「じゃあ私は帰りますね。お昼休み終わっちゃうといけないですし。
 お弁当箱忘れてきたら駄目ですよ?」

「え、もう?せっかくだから一緒に…って言っても五和の方が気まずいよな」

「い、いえお気遣い無く。洗濯物を取り込まなくちゃいけないので私はこれで!」


慌てふためいた様子でそう言い残し、ダッと五和は去っていった。
手に残されたお弁当箱の入った巾着はまだ少し温かい。
昼食を作ってそれをそのまま詰めてきてくれたのだろう。


「健気だにゃー。にしてもククッ、カミやん今日は帰り道背中に気を付けたほうがいいかも知れないぜい」

「あ?何言ってんだか。けどありがたい。ではさっそく頂くとしますかね」


教室中の冷徹な視線を全く意に介さず、上条はお弁当箱を取り出して蓋を開けた。
小さなハンバーグに、ほうれん草のおひたし、ひじきの煮物など、栄養価と男の胃袋を考えたパーフェクトなお弁当。
ふりかけで彩られた温もりの残る白米がツヤツヤと輝きを放っていた。
隣で灰になっている青髪をそのままに、土御門と姫神が弁当の中身を見て感嘆の声をあげた。


「美味しそう。手間もかかってる。お弁当用にわざわざ作ったって感じだね」

「すげえぜよ。なあカミやん、一口くれないかにゃー」

「駄目。五和がせっかく作ってくれたんだ。俺が全部食わなきゃ申し訳ねえだろ」

「ま、それもそうだにゃー。…ねーちん、早く手を打たないと手遅れになるぜい…」


くつくつと笑っている土御門を無視して箸をつける。
もう分かりきっていたことだが当然の如く美味いわけで。
真心いっぱいの弁当がそもそも不味いわけが無いわけで。
お昼ごはんを詰めただけだなんて言うが、絶対嘘だ。
明らかに冷凍でないハンバーグはお弁当用サイズに小さく作っているところからも確定的に明らか。
そんな五和の気遣いに、涙が溢れてくる上条だった。


「にゃー。おいおい、何泣いてるんだカミやん」

「くぅっ!やけにしょっぱいぞ!こんな…こんな不幸な俺にも生きてりゃいいことあるんだなぁっ!」

「同情するぜよ…」

「なるほど。逆に考えれば日常のどこにでもチャンスはあるということ。
 勉強になった。家庭的少女枠は取られたけれど。まだいくらでも新ジャンルはある」


それから何かに納得したように頷き、姫神は席に戻っていった。
本当に何て家庭的でよくできた人なんだと感動が止まらない上条。
窓の外を眺めて涙をこらえ、今日も平和なお昼の学園都市を満喫するのであった。
その後一日、やけにクラスメイトからの風当たりが強かったのは言うまでもない。

本日はこのくらいで。
文字数10万字程度を予定しています。
書き溜めはそこそこありますが、一気に投下するとあっという間に尽きて首を絞められそうなので
何日かに分けて投下させてください。

神の右席については言いたいことはとってもよく分かりますが、今は何も言いませんw
ご覧の通りシビアな内容には成り得ませんので、気楽にお付き合い頂ければと思います。

>193
フレンダ「麦野は今、恋をしているんだね」のことでしたら、その>1は自分です。
お久しぶりでございます。
方々でお褒めの言葉を頂く度にハードルが上がっていくのを実感してびくびくしてます。
どうかお手柔らかにw

それではまた近いうちに

>>196
そのスレみてたあああ
五和ああああああああ
コレで生きていける(`・ω・´) シャキーン

ちゃんと帰ってきてくれてうれしい

>>201
>>169

いつも感想ありがとうございます。
魔術サイドはまだまだ供給が少ない感じがありますね。
基本的に学園都市外の連中だからやっぱり書きにくいんですよね…。
ところで明日って鯖落ちしたりするんですかね。

あ、今日も投下させてください


―――――


「上条さん、朝ですよ。起きてください、学校に遅刻しちゃいますよ?」


五和から年上のお姉さんのような優しい声で理想的な台詞が投げかけられ、上条の意識は現実へと回帰した。
今が朝で、起きなければならない時間だということはかろうじて分かる。
だが寝不足と疲れで痛む頭のせいでうまく体が動かず、「うーん…」と唸ってゴロリと声とは逆の方向に体を向けた。
もう少しだけ、あと五分でいいから寝たい。
そう伝えるのも億劫な程の眠気を感じながら、背中越しにまだ起きたくないのだと態度で表してみる。
すると


「起きてくれないと…――しちゃいますよ…」


最後の方はあまりにも小さな声だったのでよく聞こえなかったが、それはとても恥ずかしそうな声だった。
一体何をされてしまうんだろうと少しだけ眠気が消えていく。
五和は常識人だからそんな酷いことはされないだろう。きっと可愛らしくデコピンでもしてくれるんじゃないだろうかと
淡い期待をしつつ、上条は布団をかぶりなおして起床を拒否する。


「ほ、ほんとに…するんですからね…」


五和の細くしなやかな指先が優しく布団の裾を掴んでゆっくりとめくり上げた。
ギュッと目を閉じて眠ったフリをする。
心臓が内側から誰かにノックされるように脈打っている。
五和が両手を伸ばし、浴槽内に手突いて顔を近づけてきた。


(こ…これはもしかして…!)


アレですか?アレなのですか!?
五和の呼吸は少し荒い。彼女も緊張しているのだろう。
だがその音が聴こえないくらい、自分の拍動がやかましく音を鳴らしていた。
数瞬。
ドサリと顔の上にもっさりとした感触。


「きゃっ!」


五和の小さな悲鳴。
意外と毛深い。そっと毛玉に手を添える上条。
温かな体温。ざらつく毛髪。
そこはかとなく漂う獣臭は二人の理性が飛んだ証だろうか。


「ってんなわけあるかぁあああああっっ!!」


そう叫んだ瞬間だった。
バリバリッという効果音が頭の中に鳴り響いた。
体を起こすと膝の上に「ニャッ!」っと転がり落ちた猫。我が家の愛猫スフィンクスである。
遅れてやってくる激痛。どうやら叫んだときに思い切りひっかかれたようだ。
加害者たる彼は上条に興味を無くしたのか、こちらをチラッと一瞥して再び主であるインデックスが待つリビングへと戻っていった。
残された五和は目を丸くしていたが、すぐにその綺麗な肌が青ざめていった。


「た、大変!すぐ消毒しないと!」


遅れて数秒、五和もバタバタとリビングに戻って救急箱を持ってすぐ帰ってきた。
ひりひりとするその傷を抑えながら、上条は思いがけぬ制裁を加えてくれた五和を恨めしげに見つめる。


「いてぇ…。まさか五和にこんな残酷極まりない起こされ方をされるとは夢にも思ってませんでしたよ?」


消毒薬をガーゼに染み込ませてペタペタしてくれている彼女に拗ねたようにそう告げる。
すると、五和は手を顔の前で横に振って全力でそれを否定した。


「ち、違いますっ!猫ちゃんが突然入ってきて…私は…その、もっと別の起こし方をしようと…」


涙目になる五和。
どうやらスフィンクスが勝手に入ってきて勝手に顔の上に乗って勝手に引っかいてくれたらしい。
沸々とやり場のない怒りが湧いてくるも、五和に濡れ衣を着せてしまったことが後ろめたい。


「そうだったのか。ま、もともと最初に起きなかった俺が悪いし、疑ってごめんな」

「いえ、分かってもらえたならいいんです」

「…で、どんな起こし方する予定だったの?」

「っ! そ、それは…」


視線をあちこちに彷徨わせながら言葉に詰まっている五和。
その様子を見ていて、上条の中にあるわずかな嗜虐心に火が点いた。


「それは?上条さんに正直に話してごらんなさい」

「え、えと…言わなくちゃ駄目なんですか…?」

「駄目ですとも。ええ駄目ですとも。五和さんがどんな悪いことをしようとしていたのか話してくれなきゃ許してあげません」

「わ、悪いことなんてそんな…。上条さんいじわるです…」


(うぉぉおおおおおおッ!五和、お前には悪いが最高に可愛いぞその視線ッ!)


涙目に上目遣い、恨めしげな視線と少し拗ねたような言葉が加わり、その余りの破壊力に上条は心の中で小躍りしていた。
そんな可愛い表情が見れただけでスフィンクスに引っかかれた甲斐があったとすら言える。
すっかりご機嫌に戻った上条は、五和の頭にポンポンと掌を乗せて笑顔を浮かべた。


「悪い悪い、冗談だよ。今日も起こしてくれてありがとな五和」

「あ…はい、そんなことくらい…いくらでも…」


なんだか朝から良い雰囲気だ。
狭苦しいユニットバスの中だというのに、二人きりの空間だと思えばその息苦しさがむしろ心地よい。
無言で消毒を終えて、少しだけ照れくさい雰囲気の中二人は見つめあって薄く微笑みあった。


「消毒ありがとな。じゃあ目も覚めたところで着替えるとしますかね」


そう呟きながら立ち上がる。
そのとき、「あっ」という五和の言葉を上条は聞き逃していた。
彼女が何を見てしまったのか、それに気付くのはたっぷり10秒もの時間が経ってからのことである。
五和はババッと勢いよく俯き、チラチラと上条のその部分に視線を送りながら顔を赤らめていた。


「ん?どした五和?」

「ひゃぁっ!な、なんでも…!」


その視線の先を追って辿り着いた先は脚の付け根付近。
男の朝である。
つまりは、生理現象によってそそり立つジュニアがそこにいるわけで。
柔らかいジャージ生地を押し上げる愚息が、五和の眼前に突き出されてしまったわけで。


「ぎゃぁぁあああああっっ! ち、違うんです! わたくし上条当麻は紳士であって女性の目の前にこんなものを
 突きつける趣味があるわけじゃないんですのことよっ!」

「わ、分かってますから! 男の人がそういう風になってしまうっていうのは分かってますからっ!
 これ制服です!シャツはアイロンかけてありますからねっ! そ、それではまたあとでっ!」


二人して朝からバタバタと大声をあげて、五和はハンガーにかけられた上条の制服をバスタブ内に放り込んで
顔を両手で覆ったまま出て行った。
昨日に引き続き恥ずかしいところを見られてしまったと、上条は残されたバスルーム内で大きなため息をついて
身支度に取り掛かることにした。


―――――


「とうまっ!いつまで寝てるの?!もう朝ごはんはとっくに出来てるんだよ!」


開口一番。インデックスのぷりぷりと怒った声がワンルームに響き渡る。
いつもの制服姿に着替え、髪を整え浴室から出ると、インデックスが五和のピンクのエプロンを着けて腰に手を当て仁王立ちしていた。
手にはおたまなんぞを持って、まるで自分が朝ごはんを作ったとでも言わんばかりのドヤ顔だ。


「今日のおみそしるはインデックス特製なんだから、心して食べるといいんだよっ!」


満面の笑顔で、天変地異の前触れのような言葉を口にした。
その後ろでは白いニットにスカート姿の五和が微笑ましい笑顔でインデックスを見ている。
上条は思わずこんな言葉を零した。


「誰だお前は」

「まだ寝ぼけてるのとうま?インデックスはインデックスなんだよ」


いつもなら朝のこの時間はお祈りかテレビかスフィンクスじゃないかと付け加える。


「ふふん、とうまにはそろそろ私の本気を見せてあげなくちゃいけないと思っただけ。
 少しは私のこと見直したかな?」

「この子朝五時に起きて作り始めたんですよ?一生懸命作ってたんだから、残しちゃ駄目ですからね」


くすくすと笑みを零す五和。


「よ、余計なことは言わなくていいかもっ!ちょっと早く目が覚めちゃっただけなんだもん!」


昨日のお掃除お手伝い事件から一夜明けて、今度はお味噌汁事件が発生していた。
何だというのだこのお手伝いレベルの上がり方は。
呆然と立ち尽くす上条に呆れたようにため息をついて、彼女はあろうことか五和と共に朝食をテーブルに配膳し始めたではないか。
ゴシゴシと目蓋をこする上条。
先ほどスフィンクスにひっかかれた傷に学ランの袖口が当たって痛い。
腕をどけても眼前の光景には変わりなく、3人分の豪華な朝食が並んでいた。


「生きててよかった…」


席について天井を仰いでほろりと涙を零す。
こんな感動を味わうことができるなんてと上条はしみじみ思った。
全員席についたところで手を合わせ「いただきます」をして食事を開始する。
本日のメニューは卵焼き、納豆、海苔とほうれんそうのおひたし、そしてインデックス手製の味噌汁だ。
卵焼きとおひたしは五和作らしく、見た目、味共に申し分無い完璧な出来栄え。
やがて上条は本日の主役である味噌汁のお椀を手に取り、一口啜ってみる。


「ど、どうかな?」


自分の食事の手も止めて、インデックスが不安げに尋ねてくる。
上条は笑顔を浮かべ、迷わず答えた。


「うまいよ。よく頑張ったな」


正直塩辛いし、具材の豆腐の大きさもバラバラだ。
だがそんなことは些細なことであり、そもそもはじめから上手くいくはずなんてないのだ。
インデックスが早朝に起きて食事の支度をしようなどと思いついてくれたことが嬉しかった。


「えへへ…」

「よかったですね。朝から頑張った甲斐がありましたね」

「う、うん。明日も、がんばろうかな…」


彼女の頭を撫でてやりながら、五和と笑みを交し合う。
昨日からやけに幸せに見舞われているなと上条は思った。
それがまるで何かの前触れであるかのように思えて、素直に喜べない自分の不幸体質が恨めしい。
そもそも現在は敵に命を狙われている最中であり、そんな状況下でこのような微笑ましい光景を目の当たりに出来たこと自体が奇跡なのだ。
24時間気を張っているわけにもいかないので、こうした何気ない日常が無駄な緊張を取り払ってくれることには感謝しなければいけないだろう。


「ごちそうさま。よし、んじゃ片付けて学校行くか」

「とうま、片付けは私たちがやっておくから、たまには早く学校に行くといいんだよ」

「え?いや何から何までお前らに任せちまうわけにはいかねえだろ」

「とうま、あの小さなキッチンで三人で片づけをするなんてできっこないんだよ」

「そりゃまあそうだけど…」


やけに張り切っているインデックス。褒められて伸びるタイプの子だったようだ。
インデックスにいつも口うるさく手伝えと言っている手前、今度は自分が何もしない側なのが後ろめたい。


「この子の言うとおりです。ここは私たちに任せてください」

「そうか?そこまで言うなら…」


たまにはいいかとお言葉に甘えることにした。
いそいそと食器を流しに運んでいくインデックスを横目に、歯磨きをして鞄を携え、玄関口で靴を穿いていると
背中に五和の声が掛けられた。


「今日はお昼で終わりですよね?お昼ごはん何か食べたいものありますか?」


本日は土曜日。授業は午前で終わりということで、昼食は家で摂ることになる。


「うーん、別にこれといってリクエストは無いけど…。
 あ、そういや夏終わりに安くなってて大量買いしたそうめんがまだ残ってたはずだから消費しちまうか」

「分かりました。ではいってらっしゃい」

「ん、いってきます」


笑顔で挨拶を交わして家を出る。
まるで新婚夫婦のような会話だなと思い、となるとインデックスは二人の子供かというところまで考えたところで、
自分は何を想像してるんだと慌てて首を振ってその妄想を吹き飛ばした。
不幸な少年、上条当麻に似つかわしくない日常風景に、普段意識しないようなことまで考えてしまう。
そんな平和な朝だった。


―――――


少女、五和は洗濯機の前で戸惑っていた。
その手に握られているのは昨日彼が半日着ていたTシャツ。
先ほどからそれを両手で広げて見つめたままかれこれ10分は微動だにできずにいた。
彼が登校しに部屋を出てからすぐ、洗濯をしようと洗濯籠に手を突っ込んだところ、何故かそれがやけに目に付いたのだ。
赤いスポーティなデザインのTシャツを眺める五和の顔は仄かに紅潮している。
現在お手伝いに目覚めた愛らしいシスターは部屋の隅っこの埃取りに夢中でこちらの様子に気付く様子は無い。


(…上条さんのTシャツ…だ、だめですっ! 何考えてるの私っ! …そんな変態みたいなこと…でも…)


ゴクリと唾を飲み込む。
昨日一日で彼と結構距離が縮まった気がして、五和は悶々としていた。
昨夜は彼の勘違いで一緒の布団で寝るように誘ったと思われてしまい、恥ずかしい思いをした。
人のことは全く言えない奥手な五和としては、かなり積極的にアピールしないと何も気付いてくれないことはよく分かっていた。 
自分で慣れないことをしているものだから段々と妙な気分になってきている。
それが今朝の行動にも顕著に現れていた。


(あのとき、起きてたのかな…?)


今朝、彼の寝顔を見ていて感極まって零れてしまった言葉が思い起こされる。


『起きてくれないと…キスしちゃいますよ…』


カァッと顔が熱くなっていく。
無防備な彼の寝顔が悪いのだと自分を納得させようと試みるが、上手くいかなかった。
もしかしたら彼は、あのとき起きていたのではないだろうかと不安がこみ上げてくる。
変な子だと思われていないだろうか。
軽い女だと思われていたら死にたくなる。
彼の部屋での生活に、自分はどうやらひどく舞い上がっているようだった。
彼の過ごす空間に入り込み、彼が入るお風呂に入って、彼が眠るベッド(実際はインデックス用だが)で眠った。
そう考えるだけで、体が熱を帯びて耐え難いほどに鼓動は加速する。
だから、目の前にあるTシャツに欲望を向けてしまう。
震える唇。力の篭る指先。五和は目蓋をギュッと閉じてそれにゆっくりと鼻先を近づけていった。


(ちょ、ちょっとだけ…。ほんのちょっとだけなら…いいですよね)


誰にともなく言い訳をして鼻から息を吸い込む。
彼の良い匂いがした。洗剤と、石鹸と、そしてわずかな汗の香り。
背徳感で背中がゾクゾクと震え、足はガクガクと小刻みに揺れる。
そして同時に自己嫌悪。
こんなことをしにここまで来たんじゃないのに、自分は一体何をやっているんだろうと涙が溢れそうになった。
もう一度Tシャツを顔に押し付けたまま深呼吸をする。
肺一杯に溢れる彼の匂いに、心地よさで頭がクラクラとする。
彼に抱きしめられたら、きっとこんな感じなのだろうなと妄想が頭の中を幾度と無く駆け巡った。


「いつわー。拭き掃除は終わったんだよー」

「うひゃぁぁあっ!」


その声と共にこちらに近づいてくる足音に、すぐさまTシャツから顔を離して勢いよく洗濯機に放り込む。
次の瞬間、インデックスが無垢な笑顔でこちらにぴょこりと顔を出した。
チクリと胸が痛む。そんな純真そうな顔を見せられたら、まるで自分がとても汚い人間であるように思えてならなかった。
冷や汗を流し、顔が真っ赤なまま、五和は薄く笑顔を浮かべて彼女を褒めてやる。


「どうしたのいつわ?」

「な、なんでもありませんよ。ご苦労様です。洗濯機が終わるまで特にすることは無いので少しゆっくりしましょうか」

「わかった。たまにはスフィンクスを洗ってあげようかな」


パタパタと去っていく背中が可愛らしい。
ふと部屋の時計を見ると時刻はまだ朝の九時前。彼が帰ってくるまでまだ四時間近くもある。
しかし五和は昨日もそうだが、こうして彼の帰りを待つ時間は嫌いではなかった。
心地の良い心臓のドキドキを抱えて、部屋の扉を開けて彼が帰ってきてくれたとき、
その嬉しさは待った時間に比例して跳ね上がるものだと思うから。
無論、予定していた時間から大幅に遅れたりすると心配で取り乱したりもしそうになるが、
約束の時刻を決めて待ち人を焦がれるのは、そんなに悪いものではない。


(…旦那さんの帰りを待つお嫁さんの気分みたい…なんて)


彼が夫で自分が妻。インデックスが娘。
そんな風に昨日の夕食あたりから妄想を働かせていたことは誰にも内緒だ。
今日もあと約四時間。
トクトクと優しい鼓動を刻む心臓を抱えて、五和は想い人の帰りを粛々と待ち焦がれるのだった。


―――――


そんなこんなで本日の授業は終了。
どことなく級友達の視線は冷たかったが、これといって特に語るべきこともなく、平和な日常を謳歌するようにいつも通りの学校生活を終え、
上条は同じ寮のしかも隣の部屋に住む土御門と共に家路を歩いていた。
本来ならば急いで家に帰って昼食を作り、ごろごろするインデックスを尻目に片付けや洗濯、掃除をしなくてはいけないのだが、
五和とお手伝いレベル絶賛上昇中のインデックスがほとんど終わらせてくれているので、自分の仕事はあまり残ってはいないだろう。
そう思うと自然に足取りも軽やかになり、普段通り過ぎるだけの通学路の景色も華やいで見えてくる。
本当に五和さまさまだなと思いながら、のんびりと秋の風を感じる余裕すら心に生まれてきていた。


「で、カミやん五和とはどうなんだにゃー?」

「あ?どうって何が?」

「にゃー。とぼけるんじゃねえぜい。年頃の男女が一つ屋根の下にいて何も無かったなんてことないだろうよ。
 着替え見ちゃったり手握っちゃったりの嬉し恥ずかしイベントがあったはずだにゃー」

「んなことあるわけねえだろ」


ニヤニヤと口元に笑みを滲ませながら、土御門のサングラスがキラリと秋の日差しに反射する。
五和のおっぱいに掌を押し付けてしまうハプニングはあったが、それは不可抗力だし話すようなことでもない。
まあ良い感じの雰囲気になることは何度かあったし、五和がいてくれると気分が落ち着くし良いことが起こるような気もしているが、
話してしまうとなんとなく効果が薄れそうだったので胸のうちに留めておくことにした。


「え、ないの?」

「ないって。大体五和は俺の護衛で来てくれてるんだぞ?
 そんなもんを期待するのは五和に悪いだろ」


そうだ。
いくら五和が家庭的で優しくて気が利く癒し系常識人の美少女だからといって、それに甘えてしまうのはよくない。
すっかり五和の好意にもたれかかってしまったが、やはり自分のことは自分でしっかりやらなくてはと上条はぐっと拳を握って改めて決意した。


「は、護衛?」


どういうわけか土御門が訊き返してくる。アックアという前例があるのだから、そんなに驚くようなことでもないだろうに。


「なんだ、お前知らなかったのか?また『神の右席』の連中が来るかもしれねえらしいぞ」

「な、なんだと!?」


土御門は驚き、眉間に皴を寄せる。
『必要悪の教会』から学園都市暗部までを行き来するエージェントたる土御門が知らないということは、
余程の極秘情報だったのだろうか。
しかし、現在『天草式十字凄教』は『イギリス清教』の傘下にいる組織のはずだ。
一応上層組織である『イギリス清教』の土御門が知らないということは、これは天草式による独自行動ということになるが。
そんなことあるのか?と疑問が浮かぶが、敵の情報の真偽が定かでないから天草式に仕事が回ってきたと考えれば
まあ納得できないこともない。
上条はそんな風に考えながら、一応彼に説明をしてやることにした。


「えーと、なんつったっけ。下方の…ヤミテタ?そんな名前の奴らしいぞ。
 次から次へとご苦労なこった。こんないたいけな高校生の命を狙わなきゃいけないくらい連中は暇なんですかねぇ」

「ヤミ…テタ?……あー、なるほどにゃー」


何かに納得したように掌をポンと打つ土御門。
すぐにその口元には再び笑みが滲んだ。


「そうかそういうことなんだにゃー。くくっ、カミやんも大変だにゃー」


ぽんぽんと肩を叩き、人事のような笑顔でそう言う。
一応命を狙われてるんだからもう少し深刻な顔しろよとツッコミながらも、
来るかどうか分からないのに肩肘張っても仕方ねえかと自己完結した。


「まったくだ。上条さんの平穏な日常はいつになったら戻ってくるんだかね」

「いやー、そいつは恐ろしい奴ですたい。カミやんの命だけじゃなく色々と狙ってくるからにゃー」

「色々?なんだよ」

「そうだにゃー。例えば下半身とか?」


土御門が上条の股間を指差してとんでもないことを言ってのけた。


「なにぃっ!?敵は男じゃねえのか!?もしかして綺麗な巨乳の管理人さん系年上美人が次の刺客なのか!?
 うむぅ、確かにヴェントは年上だし姉属性だったがエロスが足りなかった。
 となると今度はどんな組織にも一人はいらっしゃるはずのお色気お姉様だというわけかぁぁああっ!」


余計な妄想が膨らむ膨らむ。
テッラは論外として、アックアのような屈強な男は敵ながらに男としてカッコイイとは思うが華は無い。
ついでにあれに襲われるシーンが未だに夢に出てくるのも勘弁願いたかった。
どうせ襲われるならオリアナやヴェントのような相手の方が後々思い返したときに精神的ダメージは少ないというものだ。
巨乳のお姉様魔術師にいやらしく攻め立てられるのはなかなか悪くないかもしれない。
だが土御門は、そんな上条の幻想をあっさりとブチ殺してくれた。


「いいや、ヤミテタは男だぜい」

「くそっ!な、なんでわかるんだよ」

「勘」

「勘で俺の幻想をブチ壊すんじゃねえっ!っつかじゃあなんで俺の下半身が狙われるんだ!
 アレか!?アレなのか!?上条さんは敵がいくらいい男でもホイホイ着いてったりはしないんですよ!?」


学生寮の入り口で自分の想像上の敵を相手にのた打ち回る上条。
アックアのような頑強で筋骨隆々とした大男にサバ折りされる図が思い浮かんだ。


「にゃー。まあそのうち分かるぜよ。しかし、ねーちんがどうでるのか楽しみだにゃー」

「何で神裂?まさか敵はまた聖人なのか?」


まるで聖人のバーゲンセールだぜと呟いてみる。
だが相変わらず土御門の様子にはシリアスさの欠片も無く、むしろこの状況を楽しんでいるようにさえ見えた。
エレベータに乗り込み、首を傾げると、彼はひらひらと手を振ってくつくつと笑った。


「いやいやこっちの話。とにかく五和とは仲良くやるんだにゃー。CG回収イベントが発生したらオレも呼んでくれい。
 ベランダからでもすぐ覗きに行くからにゃー」


自室のある7階にたどり着き、廊下を歩きながら軽口を叩く土御門。
人事だと思って呑気なものだ。
そんなサービスイベントが発生してしまったらインデックスに噛みつかれる身にもなってほしいと言うのに。


「んなもんあるわけねえっつの」


部屋の前に辿り着き、土御門は隣で自室の扉のノブを握っている。
上条もそれにならって自分の部屋のノブを回して扉を開けた。


「いくら上条さんでも毎度毎度そんな目には……」


扉を開ければ、当然そこに広がるのは部屋の景色である。


「目には…」

「カミやん?どうした?」


なんということのない1Kの室内。だが今日は、いつもと違う箇所が一点だけあった。
どういうわけか。



―――裸の五和がそこにいた。


「い…つわさん…?」

「か、上条さんっ…!?」


シャワーでも浴びたのか、仄かに上気した肌から湯気が立ち上り、体に巻いてたバスタオルがふぁさりとフローリングの床に落とされる。
こちらの視線に気付くと、見る見るうちに全身が真っ赤になり、あわあわと口元を震わせてぶわっと涙目になっていく。


「きっ…!」

「ま、待てこれは決してわざとなんかじゃない! むしろ鍵開けっ放しでそんな格好しちゃ駄目でしょう!」

「どしたのいつわー」


さらに話をややこしくする存在投入。
同じく一糸纏わぬ姿のインデックスが現れた。
いつわの視線に気付き、インデックスがこちらを向いた瞬間、絹を裂くような五和の悲鳴が学生寮に木霊した。


「きゃぁぁぁぁぁぁああああああああああぁあああぁああああッッッッッッ!!!!!!!!」

「とうまぁあああああああぁぁぁああああッッッッ!!!!」


バタンッ!と勢いよく扉を閉める。数瞬後にインデックスだろうか、扉に巨大な鉄球でもぶつけるような轟音が鳴り響いた。
あとワンアクション行動が遅れていたら、その鋼鉄の歯で体ごと噛み千切られていたかもしれない。
巨大ホオジロザメのテーマを頭の中で流しながら、上条は学生寮の通路の壁にもたれかかってぜぇぜぇと息を荒げて呼吸を整えた。


「すげぇぜカミやん。まさかここまでの会話全てが死亡フラグだったとはな。
 生きてたらまた会おうぜい」


吹っ飛ばされるように壁に後ずさった上条を見て、土御門が感心したように言う。


そう言い残し、自室に入り、ガチャリと鍵までかける土御門。
片手を伸ばしてそれを呆然と見送った上条の傍で、今度は自分の部屋のドアがカチャッと小さな音を立てて回される音が聴こえた。
ロボットのようなぎこちない動きでそちらを見ると、扉の隙間からどんよりとしたオーラを放つ五和がこちらに視線を送っていた。


「……どうぞ、入ってください」

「ひっ!」


背中から立ち上るドス黒いオーラ。
じめっとしたその雰囲気は怒っているというよりは落ち込んでいるといった方が正しい。
彼女を刺激しないように、上条は愛想笑いを浮かべながら室内に入り込んだ。
部屋では今にも飛び掛ってきそうなインデックスと俯いて唇を引き結んでいる五和が待っている。
当然のことだが二人は既に服を着ていた。
上条は二人の前に座ると、すぐに五和が切り出した。


「あの…さっきのは、忘れてください」


半泣きで五和がチラリとこちらを一瞥する。
上条は引きつった笑顔を浮かべて頭をかいた。


「い、いや…一瞬だったから何が何だか分からなかったし…」

「それならいいんですけど…」


嘘だ。
頭の天辺からつま先まで、生まれたままの姿の五和を余すことなく拝んで脳裏に刻み付けてしまった。
それはもうスベスベのツヤツヤで、白かったりピンクだったりむちむちだったりふわふわだったりと思い出すだけで鼻血でも出てきそうだ。
だがそれを告げたらインデックスがギラつく牙をむき出して全身を食いちぎろうとしてくることだろう。
よもや身内に殺されたくなどない上条は死んでもそのことは言うまいと堅く誓いを立てるのだった。


「とにかくすまなかった!悪気があったんじゃないんですこのとーり!」


深々と頭を下げる。二人の全裸を見てしまったことは事実なので素直に謝っておく。


「鍵をかけなかった私たちが悪いですから、気にしないで下さいね。お見苦しいものをお見せして…その…」


いえ最高でしたと心の中で合掌する。


「とうま、次は無いんだよ!今度やったら大変な目にあうんだからっ!」


もう一度五和の悩ましい肢体を拝めるならもう一回くらいいいかもと少し思ってしまう悲しい男の性。
しかし五和は俯き、本当に落ち込んでいるようなので、反省しなければいけない。


(彼氏でもない男に裸見られるなんて嫌だよな…悪いことしちまった…)

「ところで二人は何してたの?」


と、上条はピリピリしている場の空気に耐え切れず、ふと湧いた疑問を投げかけてみる。
顔をあげた五和が口を開く前に、インデックスがぶすっくれたまま答えた。


「スフィンクスを洗ってあげてたらびしょぬれになっちゃったからついでにシャワーを浴びたんだよ」

「二人で?」

「何か問題あるの?」

「あ…本当にびちゃびちゃだったから二人で入るしかなかったんです。外に出ると部屋が水浸しになってしまうので」


と付け足す五和。
あの狭いユニットバスで女の子が二人密着してシャワーを浴びていたわけか。
上条は美麗な楽園を想像して思わず唸った。
女の子二人のやわらかい手でもみくちゃにされた幸せもののスフィンクスはというと、
今は部屋の隅っこで毛づくろいに夢中なようだ。


「はぁなるほどな」

「と、とにかく。この件はもう無かったことにしましょうっ!そうしましょう!
 気を取り直してお昼ご飯にしませんか?」

「そ、そうだなそうしよう! あー!腹減ったなー」


わざとらしく五和の言葉に乗っかる。
何はともあれこの話題を早々に切り上げて終わらせてしまいたい。
このとき、上条の心中は五和のものと完全に一致したようだった。
二人はぎこちない様子で立ち上がると、妙な雰囲気を漂わせながら食事の準備に取り掛かった。
と言っても、今朝二人で話していた通り昼食はそうめんであり、五和が上条が帰宅する少し前に
既に茹でて調理してくれていたので器の準備をするだけであった。
そのころインデックスはまだしばらく頬を膨らませて拗ねているようだったが、
大きな透明の器の中で氷水に晒されたそうめんがテーブルの上に並んだのを確認すると腹の虫でも疼いたのか
ケロリと機嫌を良くしてちょこんと自分のいつもの席に座っていた。


「あっ、いけない!猫ちゃんの餌がこれで最後です」


昼食の準備を滞りなく終え、上条が座ったところでスフィンクスの餌を用意してやっていた五和が
キッチンのほうから顔を出して苦笑した。
手に持った買い置きの猫缶を一つだけ持っているが、それで彼の食料の備蓄は尽きてしまうらしい。


「スフィンクスのご飯が!?それは一大事なんだよ!とうま!スフィンクスが死んでしまうかもしれない!」


既にそうめんをずるずると啜っているインデックスがカッと目を見開き、この世の終わりのような顔をして叫んだ。
深刻そうな表情ではあるが、口からそうめんが伸びているので上条は思わず噴出しそうになってインデックスに睨まれる。


「大げさだな。飯食ったら買いに行ってくるよ」

「あ、いいですよ。私行きますから」


皿に乗せられた餌にがぶがぶとかぶりつくスフィンクスをキッチンに残し、五和も座る。
いつものように「いただきます」をして二人も昼食を開始する。


「じゃあ一緒に行くか。今日は卵お一人様一パックの特売日だし」


そうめんを食べながら上条。
季節外れながら久しぶりに食べると喉越しも爽やかで美味い。


「分かりました。他に何か買うものありましたっけ?」

「どうだったかな。昨日結構たくさん買ったから大丈夫だと思うけど」


二人でビニール袋を両手に抱えるほどの買い物をしても、食欲旺盛なインデックスの前では一週間も持たない。
上条家の冷蔵庫は一人暮らし用でさほど大きなサイズでもないため、こまめに買出しに行かないと
あっという間に中身が空になってしまうのだった。
チラリとそうめんを全身で楽しんでいるインデックスを一瞥すると、彼女はジトッとした目つきでこちらの様子を伺っていた。


「な、なんだよ」

「随分と仲がいいんだね。さっきあんなことがあったのに」


ムスッと頬を膨らませる。だがそれでも食事の手が止まらないあたりが彼女らしい。
しかし先ほどの一件に関してはもう機嫌も直ったと思っていたが、そうでもなかったのだろうか?
五和と仲良く話していることの何が気に障ったのかは分からず、女の子って難しいなとため息をつく上条。


「それはもう謝っただろ」

「ふんだ、いいもん。私はスフィンクスと楽しくお留守番してるんだから」

「何怒ってんだ?そろそろ機嫌直せよ。プリンでも買ってきてやるからさ」


ぷいっとそうめんを啜ったままそっぽを向いていたインデックスがその誘惑にピクリと反応した。
いつも安い駄菓子やアイスしか食べさせてもらえない身としては、プリンなどという至宝とめぐり合う機会は早々無い。
案の定、ぶすっくれていたインデックスはチラッとこちらに視線を向けてもごもごと唇を動かす。


「…ジャンボプリンなら考えてあげてもいいんだよ」

「はいはい。わかったよ。今日は夕方から雨らしいし、さっさと行ってくるか」


窓の外を見ると、先ほどまで快晴だった空には雲がかかっている。
一雨来る前に買出しを終わらせなくてはと、上条はインデックスによって食い尽くされようとしている
そうめんをかきこむ作業に戻った。

本日はこの辺で。

ところで俺がヴェントに弟として無条件に甘やかされまくって溺愛されて
俺は姉に恋をする状態のSSを誰か書いてくれないかな。
ヴェントのキスは舌ピがジャラジャラ絡み付いてちょっと鉄の味がして、
硬い鎖に反して唇は冗談みたいに柔らかくて、攻撃的な見た目と裏腹に優しいキスをしてくれる
大人のお姉さんヴェントは男臭い神の右席の一服の清涼剤かつアイドルかわいい。

ではまた近いうちに

>295
はい、ねーちん出ますよ

こんばんは。昨日落ちなかったみたいですね。今月は大丈夫なのかな?
じゃあ今日も投下します。

ヴェント?ああ、うちの姉ですね。姉なら今台所で俺のためにホットケーキ焼いてくれてますよ。


五和は上条を伴い、曇天の商店街を歩いていた。
彼がよく買い物をするというスーパーにはペットの餌も置いてあるので、
そちらでセールの卵と一緒に買おうということになった。
お金の無い学生に優しい低価格スーパーの中は自分たちと同世代のお客が大半で、
皆特売の一パック78円の格安卵を狙って来ていたようだが、充分な数が用意してあったらしく、
何とか二人も買うことに成功した。
もちろんインデックスのためにおやつのジャンボプリンも忘れてはいない。
週末限定セールということで、ペットの餌も通常の1割引で買うことが出来、ご機嫌な上条の隣で五和は家路を急ぐ。


「さすがにちょっと買いすぎか?でもお得だったしなあ」

「必要なものだから大丈夫ですよ。すぐ腐るようなものでも無いですし。
 それよりも重くないですか?やっぱり一つ私が持ちます」

「上条さんはこれでもインデックスの胃袋に対応する食材を毎日のように買い出してるんですよ。
 たかだか猫缶数十個なんて楽勝楽勝」


歯を見せて笑顔を向けてくる上条。
向こう一ヶ月分くらいの餌をここぞとばかりに買い溜めたため、彼の両手に握られているビニール袋は
結構な大きさに膨らんでいた。
重そうではあるが特に辛そうな顔をしない彼に五和は「男の子なんだな」と感心する。
中肉中背の標準的な体型だが、日々の戦いとトラブルを呼び込む体質によって一般人に比べればそこそこに
鍛え上げられている彼の体が今日はやけにたくましく見えた。
自分の裸を見られたものだから、彼のそれも想像してしまっている自分がいる。
学園都市に来てからは本当にドキドキさせられっぱなしだなと五和は顔がまたも熱くなっていくのを感じた。
そして五和は、先ほどのインデックスの言動を思い返していた。
五和には彼女の言動が嫉妬によるものだということを薄々勘付いていた。
それが恋愛感情から来るものなのか、保護者とも盟友とも運命共同体とも言える彼の好意が自分に向くことに胸が痛んでいるのかは分からない。
どちらかと言えば後者だと見えるし、嫉妬と呼ぶと少々大げさではあるものの、彼女が焼きもちを妬いていたことは事実だろう。


(あの子も上条さんのことが好きなのかな…)


それはきっと色々な意味が含まれていた。
だとするなら、寝ても覚めても彼のことばかり考えている自分の行動は、上条当麻とインデックスの間に亀裂を
入れる行為ではないのかという不安感が胸を掠める。
今までも考えなかったわけではない。
上条に想いを寄せることは、彼に対して全幅の信頼を置く彼女から彼を奪い取っていくような行動ではないのか。
五和は今日まであまりにも辛いその事実から目を背けてきた。
だが自分がここにいる目的を考えれば、そういったことにも目を向けていかなければならないと気付かされて、
今現在自問自答の真っ最中である。


(だからって上条さんを諦めることなんて出来るわけないし…嫌な子だな私…)


自己嫌悪にも程近いそれは五和を攻めたてる。
インデックスのことが嫌いなわけではない。
無邪気な顔で話しかけてくる彼女は素直に可愛いと思うし、庇護欲をかきたてられる。
だが、彼女がこちらに向けてくる無償の好意と笑顔を先述の理由から五和は素直に受け取ることができなかった
彼への気持ちを捨て去ることなんて出来るわけもない。
そんな後ろめたさがいつまでも胸の中から消えなかった。


「どした五和?熱でもあるのか?顔色悪いぞ」


突如視界に飛び込む彼の心配そうな顔。
五和はハッとなって飛びのくように一歩後ずさると、ドキドキと胸が高鳴るのを感じた。


「な、なんでもないんですよ!ちょっと考え事してて、ごめんなさい、心配かけちゃいましたね」

「んー?そうか。今って『神の右席』の連中が攻めてくるかもって時だもんな…。
 ほんとは俺が危機感持たなくちゃいけねえのに、不安にさせちまって悪い」

「いえ…そうじゃなくて…」


幸か不幸か、少々勘違いをしてくれているようだった。
慌てて笑顔を浮かべる五和。
これは自分の問題だ。彼に心配をかけるようなことはよそう。
とにかくここで考えていても仕方ない。そもそも彼にこの気持ちが伝わっている可能性は非常に低いわけで。
そちらが上手くいかなければ考えたことの全てが水泡に帰するのだ。
日に日に大きくなるこの気持ちをいつどうやって彼に伝えるかを、五和はまず考えなくてはならないと思った。


「なあ、ちょっとどっかで遊んでいくか?」

「え?」


突然の申し出。
頬をポリポリとかき、ぶっきらぼうにそう告げた彼の顔をまじまじと見つめる。


「いやほら、考えてみりゃ五和とはアビニョンとかキオッジアでもそうだけど、戦ってる時くらいしか
 一緒にいたことないなって思ってさ。
 アックアの時だってバイクで風呂に行ってすぐ戦いが始まったし、俺なんかその後病院だったろ?
 たまには普通に遊んだりしてもいいんじゃないかって思ったんだ」


「上条さん…」


嬉しい。
言われてみれば確かに彼とはいつも戦いの中で行動を共にして、言葉をかわしてきた。
普通の同世代の男女がするように、二人並んで街中を歩くなんて初めてのことだった。
日々彼とのデート風景や共同生活を妄想して楽しんでいたが、五和もその事実に気付いたのは今が初めてだ。
どうしようと顎に手をあて首をかしげる五和。


「でも、あの子がお家で待ってますし。雨も降りそうだから…」


インデックスを家に残して二人で遊び呆けるのは、彼女への後ろめたさを除いても気が引ける。
曇天の空は今にも雨を降らせてきそうで、家でまだ干したままの洗濯物も気にかかった。


「いやちょっと寄り道くらいのつもりだったけど、確かに雨に降られるのは困るな。
 まあ俺明日休みだから、3人でどこか行くか」

「そうですね、私ももう少し学園都市を見て回りたいですし」

「決まりだな。じゃあインデックスがまた怒り出さないうちに帰りますか…ん、五和どした?」


五和はふと、視界の端に映ったレンガ作りのファンシーショップが目に付いた。
丸っこい字でカップル、友達同士にオススメと書いてあるのぼりに気をとられて見つめてしまっていた。
店先には携帯電話のペアストラップに文字を彫ってくれるサービスを行っているという旨の
木製看板が立てかけられている。


「なんだ?あれが欲しいのか?」


上条が両手に荷物を抱えたままスタスタとそちらの方に近づき看板を覗き込む。


「い、いえいえ!ペ、ペアストラップなんてそんな…!」


彼とおそろいということなら是非身に付けたい代物だが、さすがにそんなことを申し出る勇気は出ない五和。
すると上条は何を思ったか、軽い足取りでファンシーショップの中に入っていってしまったではないか。
五和は慌ててその後を追うと、彼は先ほどのペアストラップが多数置いてあるコーナーに立っている。


「五和、どれがいい?」

「え、ええー?そ、それって…」

「五和には世話になりっぱなしだからな。食費も出してもらってるし、浮いた分でプレゼントさせてくれよ」


屈託の無い笑顔を浮かべている上条のその気持ちがとても嬉しい五和。
恐らく上条は、そのペアストラップを二つとも自分に渡すつもりだろう。
仲の良い友達と着けたりでもするようにとでも思ってくれているはず。
けれど五和は、自分がこの後にとるべき行動はもう決まっていた。
彼のちょっとずれた気遣いにくすりと笑みを零し、少し迷って一つのストラップを指差す。


「じゃあ、これがいいです」


胸の鼓動が止まらない。
五和が選んだのは、鉄色のハートを二つに分けたデザインの、どう見てもカップルがおそろいで着けるようなそれだ。
彼があくまでそうした鈍感な姿勢を続けるというなら、自分がそれをぶち壊してやればいい。
もともと自分は、そのためにここに来たのだから。
五和が選んだものを、上条は特に大きなリアクションを示すことなくレジへと持っていった。


「五和、文字どうする?後から入れることもできるらしいからまた今度でも…」

「名前を入れてください。私とあなたの名前を」

「……はい?」


レジからこちらを振り向いて呆けた顔をしている彼からボールペンを奪い、用紙に五和はすらすらと文字を記入していった。
それっきり何も言わなくなった上条。そわそわと店内を見回して落ち着きを失っている。
五和はその様子を可愛いなと思っていた。
いつも彼の一挙一動に心を乱されている自分が、今間違いなく彼を翻弄できた。
やきもきする気持ちの揺れを、彼にも少しだけ味わってもらえただろうか。
彼を見つめながらくすくすと笑う五和。
これはとても大きな一歩だった。
背中を押してくれたのはやはり彼。今まで一番積極的なアピールができたかもしれない。
内心無理矢理すぎたかなと不安を覚えるも、これくらいやらないと気付いてもらえないんだなと呆れたりもしていた。
やがて5分程待って店員のお姉さんからストラップの入った袋を渡され、二人で店を出る。
耳が少し赤くなっている上条を横目に見ながら、五和はすぐにストラップを袋から取り出して一つを彼に差し出した。


「はい、上条さん。買ってくれたのはあなたなんですから、受け取ってくれますよね?」


五和は掌に乗ったハートの半分を彼に突きつけた。
ゴクリと生唾を飲み込んだ彼は、おずおずとそれを手にとって見据えている。


「なあ、これ俺が受け取っちまってもいいのか?」


訝しげにそう問いかけてくる彼に、五和は少しだけ非難の色を込めた視線を送る。
この後に及んでまだ言わせるつもりだろうか。
あなたとおそろいを持ちたいという気持ちを、一から十まで言わなければ分からないとでものたまう気か。
まあ彼のことだから分からないのだろうが、それを言わせるのはあまりにもデリカシーがないと言わざるを得ない。


「上条さんとおそろいがいいんですよ。駄目…ですか?」


上目遣いで彼を見つめてみる。
彼は頬を紅潮させてストラップを握り締めて「わかった」と一言発した。
五和はすぐに自分の携帯電話にそれを着け、裏側を見る。
そこに彫ってあるのは今日の日付と、『Touma to Itsuwa』という文字。
彼からの初めての贈り物に、五和はそれを胸に抱いて優しく微笑んだ


―――――


上条は五和に突如渡されたハート型のペアストラップに非常に戸惑っていた。
これを渡してくるということは、もしかするとそういうことなのだろうかと。
気が気で無いまま家路を急いでいると、予報どおりポツリポツリと雨が降ってきたため二人は小走りで
学生寮まで戻って無言で7階廊下を歩いていた。


(うう…気まずい、気まずいぞ)


自慢ではないが、上条は女の子から暴力以外のプレゼントなどもらったことはない。
もっとも、去年以前の記憶が無いので本当にもらったことがないのかどうかは分からないが。
五和がいそいそと嬉しそうにストラップの片割れを携帯に着けていたのを思い出すと顔が熱くなってきた。
こんなことをされると急に五和を意識してしまう。
そして同時に、もしかしておしぼりをはじめとする今までの五和の行為自体が、自分に特別な好意を以ってなされたことなのでは
ないかと勘繰ってしまい、それが恥ずかしさをより助長する。


(まさかなぁ…まさか…)


そうやって自分に言い聞かせるも、納得のいく答えが見つからない。
五和は仕事で来てくれているはずなのに、自分に向けられる輝くような笑顔に自惚れが混じる。
後ろを歩く五和はえらくご機嫌で、先ほどから何度も携帯を取り出してはストラップを眺めてニコニコしていた。
それがさらに上条の妄想に拍車をかける。


(これから何を話しゃいいんだ…。ま、まあインデックスもいるし大丈夫だよな!)


ぶるぶると首を振って頭に浮かんだ五和との色々な雑念を振り払って家で待つ居候の姿を思い浮かべた。
邪気無く人懐っこいインデックスを間に挟めば日常会話くらい緊張せずにできるだろうと期待する。
特に明日は一日一緒にいることになっているのだから、インデックスの存在は重要だ。


「あ、雨強まってきたな」

「そうですね。でも明日はいいお天気だってお昼の予報で言ってましたよ?
 洗濯物濡れてないといいんですけど…」

「曇ってたから取り込んでから家出りゃよかったな」


上条は妙にドキドキするのを隠しつつ答える。
やがて自分の部屋に辿り着き、鍵を開けて二人で中に入る。
肩や頭が少し濡れてしまったので早々に風呂でも沸かしたほうがいいかもしれない。


「ただいま。ってインデックス、これお前がやったのか…?」


上条は室内でスフィンクスと戯れているインデックスを見て驚きの声をあげた。
五和も同じように思ったか、パチパチと大きな目を何度も瞬きさせている。


「おかえりとうま、いつわ。うん、雨が降ってきたから取り込んでおいたよ」


前代未聞の事件が起こったことをここに報告せねばなるまい。
インデックスが、あのインデックスが。
もういい加減しつこくなってきたこの言い回しを使わざるを得ない事態をまたも彼女は引き起こしてくれたのだ。
なんと、洗濯物が取り込んである。
もちろん何の指示も前もってしていないし、五和に目配せすると彼女も首を横に振っている。
そう。
インデックスは自発的に洗濯物を取り込むという判断を下して実行に移したのだった。
上条は感動のあまり力が抜け、ドサリと猫缶の大量に入ったビニール袋を床に落とした。
それが餌の入った缶だと知っているスフィンクスがサッとそちらに近づいてくるも、匂いがあるはずもなく不思議そうにかりかりと
缶を転がし始めた。


「お前…自分から…」

「何だかすごく失礼な驚き方なんだよ!私だって洗濯物が濡れてしまうのはよくないことだってことくらい分かるんだから!」

「ああ悪い悪い。ありがとうな。約束通りお土産にプリンがあるからあとで食っていいぞ」

「ほんと?!わぁい、じゃあさっそく食べるんだよ」

「駄目ですよ。今から夕食の準備ですから、おやつを食べたらご飯が食べられなくなっちゃいます」


買い物袋に走ろうとするインデックスを諭す五和。
五和がご飯を提供してくれる人だとちゃんと分かっているインデックスは「はーい」と大人しくそれに従う。


「あ、そだインデックス。明日三人でどっか遊びに行こうと思うんだけど、どっか行きたいとこあるか?」

「ふぇ?明日は駄目だよ。私予定があるんだから」

「おおう、まさかの返答だな」


これは珍しい。
確かに時折姫神やら上条のクラス担任の小萌等とどこかに出かけていることもあるにはあるが、
それは本当にごくたまにのことだ。
まさかこんなタイミングで重なるとは思ってもみなかった。


「明日は こもえ と あいさ と こもえの知り合い の4人で『しんぼくかい?』なんだよ」

「そんなの初耳だぞ」

「ふふん、女の子には女の子の『つきあい?』っていうのがあるんだよ。私も色々と忙しいんだからね」


いつも嬉々として着いてくるくせに得意げな笑顔でちっちっちと上条の顔の前で指を振ってくるインデックス。


「どうしよう、インデックスが眩しい」

「お友達と出かけるということなら仕方ないんじゃないでしょうか…」


五和も困ったような顔で苦笑している。


「まあそれもそうか…。小萌先生に迷惑かけるんじゃねえぞ?」

「聞き捨てならないんだよ!私がいつこもえに迷惑かけたのかな!?
 それにこもえはいつも言ってるんだよ。『上条ちゃんはいつまで経っても手のかかる生徒さんなのです』って!
 とうまは自分を少しは省みた方がいいかも!」

「くっ…!いやまったくおっしゃる通りです。返す言葉もねえよ」


インデックスの言葉に五和も吹き出して笑い声をあげた。
くそうと忌々しげにインデックスを見やるが、彼女が彼女なりのコミュニティを築こうとしているのは良い事だ。
いつも自分が家にいるというわけではないし、インデックスだって友達が欲しいと思う時もあるはずなのだ。
ここは快く送り出してやるのが正しい。


「二人とも私がいなくて寂しいと思うけど、わがまま言わずに二人で楽しんでくるといいんだよ」


嬉しいやら少し寂しいやらの想いを感じていた上条に、インデックスが腰に手をあてドヤ顔でそう言った。


「くそ、すげぇ上から目線だ」

「まあまあ。いいことじゃないですか。明日は私たちで楽しみましょう」

「ああ、そうだな…って、え?」


とここで上条は「待てよ?」と眉を顰める。
二人ということは当たり前だがつまるところ二人きりというわけだ。
今はインデックスが場を和ませてくれたおかげでなんともないが、明日一日二人で行動するとなると意識しまくって
大変なことになるかもしれない。
上条は不思議そうにこちらを見ている五和をチラリと横目で見やる。
今まで以上に彼女が可愛く見えてきた。
明日一日自分の心臓はこんな風にバクバクしっぱなしなのかと思うと、今から緊張してくる上条なのだった。

本日は短いですが以上です。
次回はインデックスがリア充になります。
ではまた近いうちに

>340
いえいえ。あくまでメインは五和です。次回ももちろん出ます。
ただ五和は最初から上条さんにベクトルが向いてるので五和だけで書くとすぐ終わっちゃうんですよね。
上条さんも出会いが欲しいとかのたまってるくらいなので、押すとすぐくっつきそうな気配がしますし。
というわけで上条さんと付き合うともれなくついてくるインデックスとの関係に焦点を当てるのも
面白いかなと思って書いてます。

今帰宅だと……。
あと4時間後には起きているわけだが。

関係ねぇよ!カァンケイねェェんだよォォォ!
投下します


―――――


「じゃあ二人とも、私は出かけてくるから、ちゃんと戸締りをしっかりして家を出るんだよ!」

「は、はい」

「『がすのもとせん?』って言うやつは閉め忘れちゃ駄目らしいんだからね!夜は遅くならないから心配しなくても大丈夫。
 とうまたちこそ遅くまで遊んでちゃいけないんだよ!」

「はい気をつけます…」

「うん、じゃあいってくるね」

「い、いってらっしゃいませ…」


朝の九時。そうやって意気揚々とインデックスは出かけていった。
それを見送るまだパジャマ姿の上条はポカンと口を開けてただ頷くことしか出来ない。
朝起きるなり朝食の配膳を手伝い、洗濯物を五和と一緒に干し、あげくこんな保護者みたいな注意を上条に投げつけてくれた。
悠々と歩き、自信にみなぎるその背中は今までの小学生みたいな面をした手のかかる少女のものではない。
立派な一人の女の子の意志を持つ力強い姿だった。


「あいつは誰だ……。1ヵ月後にはどんな奴になってんだかな」

「上条さん、そろそろ上条さんも着替えてください。私たちも出かけましょう」


冷や汗を流しながらインデックスの背中を見つめていた上条に、部屋の中から五和が声をかけた。


「はいよ。あれ、五和何やってんの?」


ふと見ると、エプロン姿の五和が片付けの終わったはずのキッチンに立って鼻歌混じりでおにぎりを握っている。
傍らには家族向けらしい大きめの二段重ねの弁当箱が一つ置いてあった。


「見ての通り、お弁当を作ってるんですよ。せっかくいいお天気ですから、外で食べるのもいいかと思って。
 外食はお金もかかっちゃいますし、栄養も偏りますから。上条さんおにぎり四つくらい食べられますよね?」

「あ? ああ、多分いけるけど」


こちらはこちらですっかり台所の実権を握られてしまった。
よく見ると、弁当箱の下段側にはいつの間に作ったのか、卵焼きやらから揚げやらブロッコリーやら色とりどりのおかずが
詰められている。


「五和いつの間にこんな…」

「こっちのから揚げとかぼちゃの煮物は昨日のお夕飯の残りですし、ハンバーグは一昨日上条さんのお弁当を作ったときに
 纏めて冷凍しておいたんです。
 他はさっき朝ごはんと一緒に作りました。あとはプチトマトとフルーツを入れて完成ですね」


凄すぎる。彼女に言わせればまとめて作って冷凍しておくのは基本的なことだそうだが
上条からすればそのあまりの家事レベルの高さに絶句するより他無い。
一昨日の買出しに出かけたときから、お弁当に入れるメニューまで考慮した上で食材を選んでいたのだろう。
その手際のよさに寒気すら覚える上条だった。


「五和はいつでも嫁に行けるな」

「言うと思いました……。ずるいです上条さん」

「何が?」

「こっちの話ですっ! ほらほら、着替えてください」



ちょっとだけ拗ねたようにそう言って、五和は上条を浴室に押し込んだ。
やれやれと着替え始める上条。
本日は休日なので当然私服だ。
やや細めのパンツにTシャツを着て、ワックスで軽く髪を整える。
鏡を見ながら、これはもしかしてデートなのかと上条は一人呟いた。
昨日に比べれば緊張するということは無いが、それでも女の子と二人で休日にお弁当を持って出かけることには
どうしても期待をしてしまう。
インデックスも彼女なりに休日を満喫していることだし、上条は自分たちも思い切り楽しもうと鏡に向って頷いた。


―――――


「はぁ、私はなんでこんなとこにいるのかしら」


長い髪を後ろで二つくくりにした女子高生、結標淡希は盛大にため息をついた。
ここは第六学区内にあるボーリング場。
本日は休日ということもあり、様々な年齢の人々が軽快な音を響かせながらボーリングを楽しんでいる。
そのうちの一つレーン。椅子に脚を組んで座りながらぼんやりと辺りを見回す。
彼女は居候先である月詠小萌に半ば無理矢理引き連れられてここに来ていた。


「ボーリングて……何年ぶりよ」


そもそも何故彼女がこんなところにいるのか。
昨晩小萌の晩酌にジュースで付き合わされ、明け方になって開放されようやく眠りにつけたと思ったら
その3時間後には叩き起こされて車に放り込まれていたため理由は未だによく分からないのが現状だ。
服装はいつもの超絶ミニ丈のスカートとピンクの布を胸元に巻いた、肌が8割見えているような格好ではなく、
車の後部座席にいつの間にか小萌が用意したカーキ色のパンツに白いキャミソールと紺色のジャケットを引っ掛けたカジュアルな
スタイルで、大きな胸の谷間が惜しげもなく披露されているものの、いつものような扇情的な様相はそこには無い。
小萌曰く「ボーリングでいつもの結標ちゃんの格好だとパンツが丸見えになっちゃってとってもはしたないのですー!」
とのことだが、結標本人にしてみれば別に下着が見えようが見えまいがどうでもいい。
それで相手が勝手に欲情したからといって自分の人生に一片たりとも関係が無いことだし、
仮に興奮して遅いかかってこようものなら壁の一部として前衛芸術に変えてやればいいだけのことだ。
口に出すとまた長い時間説教を食らいそうだし、お洒落をすること自体は自分も女の子と端くれとして嫌いなわけではないので
何も言わずにおいたが。


「あう、ぼーりんぐ?って難しいんだよ…」

「まあまあシスターちゃん。初めては誰でも上手くいかないものなのです」


結標はゴロゴロとガーター一直線にボールを転がした白い銀髪シスターのうなだれる姿を眺めて、もう一度ため息をつく。


「ほらほら、次は結標ちゃんの番なのですよ!」


第二次性徴期前の幼女のような甘ったるい声で太陽のような笑顔を向けてくるピンク色の髪の少女。
この中でダントツに年下に見える彼女こそが、結標の居候先の家主である月詠小萌である。
こんなナリでも高校教師だと言うのだから、この街の最大の不思議は超能力者や虚数学区がどうのではなく
彼女の実年齢と身体年齢のギャップだろう。


「えー? マジで私もやるの?」

「もう名前を登録してしまっているので今さらゴチャゴチャ言いっこナシです。
 とっとと投げやがれなのですぅ」


屈託なく笑顔を向けてくる小萌の後ろでは、結標と同年代くらいの姫神秋沙というぼんやりとした目つきの黒髪和風美少女と、
先ほどガーターにボールを送り込んだ銀髪の、小萌の見た目と同世代に見えなくも無い童顔シスター、インデックス。
結標は面倒くさそうに顔をしかめると、レーンに向けて右手を伸ばした。
次の瞬間、ボーリング球が突如10本のピンの真正面に現れる。
ゴロゴロとレーンの傾斜でガーター方向へ転がっていくも、ピンの真正面に現れたので5本ほど倒すことができた。


「な、何が起こったのかな!?」

「よし。っていうか、ピンを持ち上げて叩き落したらストライクにも出来るわね」


ふふんと薄く笑う結標。
それ見て、小萌が悲鳴のような叫び声をあげる。


「あー! 結標ちゃんっ! ずるはよくないのですー!」

「何よ、学園都市じゃ野球だろうとサッカーだろうと能力使ってやってんでしょうが。
 大覇星祭なんてその典型じゃないの。ボーリングで同じことして何が悪いっての?」


自身の能力である『座標移動(ムーブポイント)』を利用し、ボーリング球をピンの方まで転移してやったのだ。
脚を組んだままつまらなそうにそう言う結標に小萌は引き下がらない。
まるで心を開かない生徒に懸命に語りかける熱血教師のように。
それは例えでもなんでもなく、ほぼその言葉通りではあるのだが。


「そういう問題じゃないのですっ! 
 今はみんなで遊びに来ているのですから、そんな方法で勝って結標ちゃんは楽しいのですか?!」

「そりゃ勝ったら楽し……うっ」


キーキーと子供の声で叱ってくる小萌の言葉を、小指で片耳を塞いで聴いていた結標だったが、
チラリと彼女の顔を見るとうるうると涙目になっていた。
見た目通りの子供のようなその仕草に、結標のふっくらとした胸が罪悪感でちくちく痛む。


「こんな小さな子を泣かすなんて。なかなかの外道っぷり」


ぼんやりとした瞳のままそう告げてくる森ガール風の私服に身を包んだ姫神。


「姫神ちゃん! 先生を子供扱いしては駄目なのですー! 
 先生は立派な大人であって、泣いてなんかないのですから!」

「ほら。駄々をこねてしまった。これは責任をとって普通にプレイをしたほうがいいと思うけど」

「わ、わかったわよ……。ちゃんとやればいいんでしょやれば。ったく何でこの私がせっかくの休日に……」

「うー、それで納得されても先生はなんだか釈然としないのです……」


拗ねた幼女のようになっている小萌を放って立ち上がり、結標はボールを手に取り綺麗なフォームでレーンに放つ。
理想的なカーブを描いたそれは、左端に固まった五本のピンに吸い込まれるように叩き付けられ吹き飛ばした。
文句の付け所の無いスペア。
まあこんなものかと頷き、席に戻ろうと振り返ると、三人はポカンと口を開けたまま狐に化かされたような顔でこちらを見ている。


「なに? まだなんか文句あるの?」


ため息をついて面倒くさそうに首を傾げる結標。
最初に動いたのはインデックスだった。


「あわきすごいんだよ! ボールがギュイーンと曲がってたね!」

「まあ、スピンかけたからそりゃね……」

「どうやってやるのか教えてほしいかも!」


立ち上がり、キラキラと目を輝かせて駆け寄ってくる。
人から褒められることに慣れていない結標は、明後日の方向を見ながら「えっと……」と照れくさそうに頬をかいた。


「能力を使わない方が上手いってどういうこと」

「結標ちゃん実はボーリングすっごく得意だったんですか!? もしかしてさっきのはハンデだったのですか!?」


姫神は無表情だが小萌は驚きで目がぐるぐるなっている。
すごいすごいとまとわり付くインデックスを伴って、結標は席に腰掛けて照れを隠すようにペットボトルのお茶を口に含んだ。


「別に。昔ちょっと流行ってただけよ。そ、そんなことどうだっていいでしょ。次は小萌よ、さっさと投げなさいよ」

「ようし、先生も学生時代はお友達の間で一番上手だったんですからねー。負けないのですっ!」


むんっと愛らしく両手の拳を握って気合を入れた後、小萌はボールを構えてぺたぺたとレーン目掛けて走る。
子供用のめちゃくちゃ軽いボールを一生懸命に投げる姿は微笑ましく、周りのお客たちからも
小さな声援が聞こえてきていた。
しかし結果はなかなかに渋いものだった。
スピードは遅いがそこそこスピンがかかっているのか、まず一投目で7本を倒すと、次は難なくスペアを取ってしまった。
インデックスと姫神の口から感心したような声が漏れる。


「すごい! こもえも上手なんだよ!」

「うん。私たちも負けていられない」

「ふん、なかなかやるじゃない。年の功ってやつ?」


ちなみに1番目に投げた姫神は二投でピンを5本倒す程度の腕前だ。
まだ1フレーム目なので何とも言えないが、結標にとって目下のライバルは小萌となりそうだが。
とそこまで考えた結標はハッとなる。何を熱くなってるんだ。
こんなどこの馬の骨とも知れない年下の女達となんで楽しくボーリングなんてしなくちゃいけないんだかと息をついた。


「ふふん、お子様の結標ちゃんにはまだまだ負けないのですよー。
 どうです? 私と結標ちゃん、買ったほうがみんなにジュースを奢るというのは!」

「教師が賭け事を学生に提案するんじゃないわよ!」

「賭け事じゃないのです。これは私と結標ちゃんのボーリングへの情熱を試す試験なのですよっ!」

「じょっ、情熱ですって?」


ぱっちりとした瞳の奥が燃えている小萌教諭。
どうやら先ほどの結標の行動が、彼女のプライドに火をつけてしまったらしい。


「そうなのです! それとも結標ちゃんは尻尾を巻いて逃げるのですか?
 なら先生は優しいので負け犬ちゃんを慰めてあげるのですよー」

「上っ等じゃないっ! 能力なんか使わなくたって私こそがボーリングで最強だってことをここに証明してあげるわよっ!」

「受けてたつのです! 吠え面かかせてあげますからね!」

「そっちこそあとでビービー泣いてもしらないんだから!」


結標は小萌がニヤリと口元に笑みを浮かべたことに気付かない。
完全に口車に乗せられ、ボーリングを楽しむ一女子高生と化してしまっている。


「あいさ、これって私たちは二人のどっちが買ってもジュースが飲めるっていうことなのかな?」

「そうみたい。実に美味しいポジション。上手く説得すればアイスの自動販売機も可かも」

「今から何するか考えておくんだよ」


お茶を飲みながらその様子を眺める二人。
燃え滾るボーリングへの熱意には付き合いきれないと言いたげに、二人はまるで仲の良い姉妹のように
言い合いをする結標と小萌の姿をあくびをしながら眺め続けていた。


―――――


「上条さん、この辺でどうですか?」

「お、いい感じだな。じゃあシート敷くか」


上条は五和と共に近くの河川敷までやってきていた。
かつて御坂に勝負を申し込まれ、砂鉄の剣や電撃で殺されかけた苦い思い出のある場所だが、
別に人間を屠るための物騒な場所というわけではもちろんなく、休日には学生のグループや学園都市内ではやや珍しい家族連れなどが
バーベキューをしたりアウトドアスポーツを楽しんだりする広い河川敷だ。
昨日雨が降った後であるため少々地面は湿っているが、本日は快晴ということもありしばらくすれば完全に乾いてくれるだろう。
二人は適当に水気の少ない場所を選び、草の上に3メートル四方のビニールシートを敷いて荷物を置いた。


「それにしてもよかったのかこんなとこで?さすがに学園都市にはもうちょっと面白い場所だってあると思うけど」


色々と見て回りたいと五和は言っていたものの、彼女が指定してきたのはただ『ゆっくりとお弁当を食べられる場所』という条件だけだった。
金銭的余裕のあまりない上条としては、お金のかかるレジャー施設よりも助かることは助かるが、
五和を退屈させるのはしのび無い。心配げにそう尋ねると、五和は優しく微笑んで首肯した。


「私はデートではのんびりするほうが好きなんです。お日様が昇りきるころに出かけて、お日様が沈むまでお話をして、
 暗くなったら帰る。そういうのが私の理想ですね」


珍しくデニムのスカートなどを穿いているのは、やはり男女二人ということで休日の学生のデートという具合に回りに溶け込むための
天草式のセンスなのだろうか。
短めの丈から伸びる引き締まりつつもムッチリとした白い太ももにはどうしても目がいってしまう。
上条は五和に悪いなとできるだけそちらを見ないようにしながら、ふと今の五和の発言を頭の中で反芻する。


「五和、今デートって…」

「はうっ! そ、それは言葉のアヤと言いますか、ドサクサ紛れに言ってやったと言いますか!
 や、やややっぱり違いますよね! ししし失礼しましたっ!」

「い、いや、これデートってことでいいんだったら上条さん的にはかなり嬉しいのですが……」

「へ?」


五和の動揺に満ちた慌ただしい挙動がピタリと止まる。
靴を脱いでシートに上がり、腰掛けながら上条は突っ立ったまま身動きを取らない五和を見上げた。
真正面から見据えるのは恥ずかしいが、それが上条の正直な気持ちだった。


「じゃ、じゃあ……デートってことでも……いいですよ?」


五和は羽織っていた薄手のチェックのシャツの裾をキュッと掴んで恐る恐るそう言う。


「そか。じゃそれで頼む……」

「は、はい……」


ぎこちなく言葉を交わした二人。
自分たちよりもう少し川沿いにいる男女グループや、陸橋の下で犬と戯れる人の声が聴こえてくる。
そうした雑音も含めた、のどかな静寂が二人の間に広がっていった。


「五和も座れよ。弁当にはまだちょっと早いし、のんびりしようぜ」


未だに荷物を持って立ったままの五和を手招きすると、彼女はハッとなってレザーのショートブーツを脱ぎ
上条の隣に腰を下ろした。
対岸に見える風力発電のプロペラを眺めながら、五和がポツポツと話し始めた。


「学園都市もこうやって見ると『外』と大きく変わりはしないんですね。
 厳密には建物の素材は全然違うんでしょうし、ここの草だって綺麗に管理されて刈り取られてますけど、
 結局違うのってお掃除ロボットがうろうろしていて、研究所や学校の数が多いことぐらいなんですよね。
 超能力者だって見た目はもちろんただの人間ですし、今から魔術と科学の戦いが始まるかもしれないなんて
 ちょっと信じられないです」


ローマ正教と学園都市の関係は未だ険悪な状態を保ち、いつ大きな戦争が始まるともしれない状況にあった。
だがそれで自分たちの生活が何か変わったかというとそんなことはなく、こうしてのんびりと河原に座って過ごす程度の
余裕はまだあるのだ。
これからどうなるか分からないと言っても、やはりごく一般的な高校生を自称する上条からすれば実感はさほど湧いてこない。
天草式として戦いにかり出される可能性のある五和ですらそうなのだから、それは仕方の無いことだったのかもしれなかった。


「やめようぜ。ここで俺たちがそんなこと話したって、何も変わりゃしない。
 せっかくの休みだ、気を張るのはいつだって出来るからさ、俺はもっと五和のことが知りたいな」


世界の全部を変える力なんて自分たちにあるわけもなくて、結局のところ目の前の問題を一つ一つ順番に解決していくしかないのだから。
さしあたって現状の問題となるのは『下方のヤミテタ』とやらの襲撃であるが、そもそも本人が来るのか来ないのかが不明だというのでは
行動の取りようもない。
ということで、上条は鬱々と考え込むのは精神衛生上よくないので、この機会に五和と仲良くなれたらいいなと考えていた。


「私のこと…ですか」

「ああ、五和って天草式の連中と普段から一緒に行動してるんだよな?
 休みとか無いのか?」

「ええ、今は日本人街で共同生活みたいなものですから、毎日顔を合わせますね。
 休みはお仕事が無いときはいつも休みという感じですし、普通に働いている人もいますから、
 生活リズムが皆同じというわけではないですよ?」

「そうなのか。五和って普段何してるのかなってちょっと気になってたんだ」


普段は市井に溶け込んでいる天草式の生活スタイルは、魔術的意味を持つ行動をごく自然に取り込みながら
一般人と同じような生活を送っているようだ。
一応建前上日本人街の管理を任されているとは言え、本職がシスターであるアニェーゼ達やギリギリ神父であるステイルとは違い、
50人もの無職の集団が固まっていればどこから妙な噂が立つか分かったものではない。
謎に包まれた天草式の連中はそう言った意味でも社会の中に溶け込んでいるらしかった。


「私ですか? 普通に遊びに行ったりもしますよ。同年代の子も何人かいるので、その子達と。
 他にも年上ですけど、対馬さんとお茶したり、たまに女教皇様(プリエステス)も交えてイギリス清教の女子寮の方々と食事とかも」

「なんか楽しそうだな。そういや五和ってさ……」

「はい?」


上条は、五和に昨日からどうしても訊きたいことがあった。
いきなりこんなことを訊いて変に思われないかが不安ではあったが、いい加減確認しておかなければならない。
一呼吸置き、上条は意を決したように五和を真っ直ぐ見つめて口を開く。


「……付き合ってるやつとかいるのか?」

「っ……!」

五和のパッチリとした二重目蓋が驚いたように見開かれる。
そういう反応をされると聞いたこちらまで恥ずかしいわけだが、すぐに五和は「えーっと」と前置きして話し始めた。


「……いないです」

「へぇ、そうか」


彼氏がいるのに自分の家に泊まっているのは問題だろうから、予想通りの答えではあったものの何故か安心してしまう自分に気付く。
ほっと胸を撫で下ろした上条だったが、五和はまだチラチラとこちらを見ている。何か言いたいことがあるようだ。


「……だ、だからですね……私もちょっと寂しいかなぁ、なんて……」

「そ、それを言うなら俺も出会いが無いから寂しいというか虚しいというか……」

「そ、そうなんですかー。彼女……欲しいですか……?」


ぎこちない二人は妙な緊張感を漂わせながら会話を進める。
探り探り、おっかなびっくり、薄氷の上を歩くような受け答えだった。
五和が上目遣いにこちらを見つめて答えを待っている。
少し向こうで同世代くらいの若者の集団がバーベキューの準備をしながらギャーギャーと騒ぎ始めたのが鮮明に聴こえた。
上条は唾を飲み込み、その問いに小さく頷いた。


「ま、まあ上条さんも男の子なので……欲しくないと言えば嘘になるわけですよ」

「そうですか……じゃ、じゃあ……」


五和が膝の上で拳を握って何かを言いかけたそのときだった。
川沿いの若者の集団の方から、青白い閃光が迸った。
宙空に一筋の線を描くような軌道で、それは一直線に上条の顔面目掛けて奔る。


「上条さん……っ!」

「うぉっ!!」


五和が叫び終わるよりも早く、上条は咄嗟に右手の『幻想殺し』を翳してその閃光を打ち消す。
御坂の電撃よりも鋭いその一撃は、当たれば間違いなく上条の頭部を弾き飛ばしていたことだろう。
敵襲かと慌てて立ち上がりそちらを見ると、5人組の男女が驚いたような顔でこちらを見ていた。
五和も隣で海軍用船上槍(フリウリスピア)をいつの間にか構えている。
向こうでふわふわの栗色の髪の年上っぽい女性が「ヤベッ」と口にしたのが聴こえてきた。


ピリピリとした空気が場に流れる。
向こうから栗色の髪の女と、ベレー帽をかぶった金髪の外人の少女がこちらに駆け足で近づいてきた。


「来ますっ! 上条さんは下がってください!」

「そうはいかねえだろ! 相手は二人だ、俺もやる!」


まさかこんな真昼の河川敷で戦いを始めるつもりだろうか。
辺りを確認すると、小さな子供もまばらながら見受けられるし、何も知らない学生もそこそこいる。
なんとか戦いの場所を移さなければならないとあたりを見渡しながら構えをとると、
二人の女は険しい表情で上条の前に立った。
年上風の女性は女子大生くらいだろうか、神裂クラスの巨乳でとんでもなく美人だった。
上条好みの年上巨乳美人だが、目つきは少々悪く、こちらを何も言わずに見つめている。
もう一人の金髪の少女は自分たちと同年代くらい。小柄で細身の、白い肌の美少女だ。
貫禄から言えば前者が『下方のヤミテタ』か。
しかし上条の臨戦態勢に反して、女の口から出た言葉は予想を裏切るものだった。


「怪我、ないの……?」

「は?」

「いや、だから……アンタに今電子線ブチ込んじゃったでしょ?
 正直ブチ殺しちゃったかと思ったんだけど、無事みたいね?」


怪訝そうな女の表情。
右手の『幻想殺し』がなかったら今頃死んでいたのは間違いないが、意外や悪びれた様子で近づいてきたので
敵ではないのかもしれない。


「違うでしょ麦野っ! ごめんなさい! 
 大丈夫ですか?! ほんとに怪我とかない?!」


麦野と呼ばれた女の手を取り、帽子を外してペコリと頭を下げる金髪の少女。
完全に呆気にとられる上条だった。


「俺を殺そうとしたんじゃ……」

「ふぇ、どうして? 結局、今のはうちの麦野がうっかり当たったら即死の電子線をぶっ放しちゃっただけだよ?」


きょとんとしてとんでもないことを言ってのける金髪。
俺はうっかりで頭部を失いかけたのかと背筋が凍る上条。
しかし日ごろ御坂にやられてることも似たようなものかと思えば怒りは別に湧いてこなかった。


「わ、悪かったね。えっと、どうしよ。何かお詫びをしたいけど」

「いいですよ別に。慣れてるし」


所在無さげにしている麦野を上条がなだめる。
ひやっとはさせられたが怪我は無かったので、これ以上彼女たちを攻めても仕方ないだろう。


「いやそういうわけにもねぇ……」

「うんうん。結局、ご飯でも奢らせてもらえたら……ハッ、麦野麦野……」

「何よ……ああ、悪い。私ら随分邪魔したみたいね」

「は? 何がです?」


呆れたように薄い微笑を浮かべた麦野に眉を顰める上条。
彼女らの視線を追うと、先ほどから一言も喋らなかった五和の方へと辿り着いた。
未だに海軍用船上槍を構え、二人に対して敵意をむき出しにするように鋭い視線を浴びせかけている。
殺意すら宿すギラギラとした視線を向けられてたじろがない二人も凄いが、こんな形相になっている五和はもっと凄い。


「五和、もういいよ。俺も無事だったわけだし」

「そ、そういう問題じゃありません……!あなたは殺されるところだったんですよ……!」

「まあそうだけどそれはある意味日常茶飯事というか……」


自分のことを心配してくれているんだなと上条は苦笑を浮かべて五和をなだめる。


「じゃあどうすりゃいい? 悪いのは確かに私らだし、謝るよ。
 それでも気がすまないなら、慰謝料でも何でも払ってやるけど」


余裕の笑顔を浮かべて麦野。
その物腰は優雅でかつ隙が無い。だが上条は彼女に妙な違和感を感じていた。
まるでヴェントやアックア、果ては一方通行などの強敵達と初めて対峙したときのような底知れなさが見え隠れしている。
あの威力の電子線だ。もしかするとそこそこの能力者なのかもしれない。


「『私ら』じゃなくて『私』な訳よ麦野」

「っせぇな。アンタらがふざけるからでしょうが」

「お金で解決しようっていうんですか? 死にかけたこの人の気持ちはどうなるんですか!?」

「五和さーん? 上条さんはほんとに無傷なので大丈夫なのですよー?」


どうにも雲行きが怪しい。金髪の方はともかく、麦野という女のこめかみ付近がピクピクしているのを上条は見逃さなかった。
自分に非があることを認めてかなり下手に出てくれているようだが、恐らくこの貫禄と物言いからかなり高飛車でプライドの高い人物であることは容易に想像がつく。


「だからどうすりゃいいんだっつの! 
 テメェの男に能力ブチかまされそうになってくたばり損ねたのが気に食わねえのは分かってるよ!
 けどその本人はもういいっつってんだろうがよ! それともテメェがキレてんのは大事なデェトを邪魔されたからかにゃーん?
 そんなに二人きりがいいなら家に引きこもって×××でも咥えてろよクソ×××がぁッ!」

「なっ!お、男って……!それになんて下品な人なんですか……!」


180度表情を変えた美女の罵声にうろたえる五和。
ブチキレたらしい麦野は顔を歪めて五和を挑発するような言葉を口汚く浴びせかけている。
五和は顔を真っ赤にさせて唇をぷるぷると震わせていた。


「こら麦野! なんてこと言うの! ほ、ほんとごめんね? あははー、喧嘩になっちゃうのよくない訳よ。
 もう戻るね? ほ、ほら麦野行こう!」


焦って麦野にしがみつく金髪を見て上条が何だか似た匂いを嗅ぎ取る。
彼女も振り回されて苦労しているのだろうなとしみじみ思い、上条は槍を握る五和の手に触れて切っ先を下ろさせた。
一瞬肩をピクリを跳ね上げる五和だったが、視線は未だにキッと麦野を睨みつけている。


「チッ……ごめん。これは借りにしとくわ。いつか返す」


だがその視線を受けた麦野は怒り狂うようなことは無く、バツが悪そうに視線を逸らして舌打ちをしてそう言った。
そのいつかが来るのか?と思う上条だったが、素直になれない彼女なりの誠意だということにして、その場を切り上げる方向にもって行くことに決めた。


「気にしないでくれ。五和もいいよな?」

「……はい。あなたがそういうなら、もういいです」


「ふぅん」

「な、なんですか?」


五和が顔をしかめて問いかける。


「いい彼女じゃん。大事にしろよ、彼氏」

「「なっ……!」」


人をいじめ抜くことが心底大好きと言うような顔つきで上条の肩をポンと叩いて麦野と金髪は仲間の元へと戻っていった。
呆然とその背中を見送る二人。
麦野の言葉が何度も心の中で反復され、身動きをとれずにいた。
『いい彼女』
なるほどと上条は思った。五和はいつだって自分のために感情を動かしてくれていた。
家事をして負担を軽減してくれたり、インデックスにお手伝いを教えてささやかな心の安寧をくれたり、今みたいに自分のために怒ってくれたり。
五和は彼女自身のためではなく、上条当麻のために行動をしてくれる人だった。
自分に害を成す者には迷い無く刃を向け、自分の家族とも言えるインデックスには慈愛を注ぐ。
それを危ういととるのか、情が深いと取るかで判断は分かれるところだろう。
だがあえて上条は五和のそれを「優しい」と称することにした。
上条当麻を軸としているかのような彼女の行動指針に、暴走の歯止めをかけるのが自分の役目ではないかと思うのだ。
故に上条は。
五和の傍に自分がいつもいて、彼女ために行動してやりたいと思った。


「あの……上条さん……」

「あ、ああ……」


ストンと腰が抜けたようにビニールシートの上に座り込んだ五和が、どこか晴れやかな顔で上条を見上げる。
その大輪の花のような笑顔に、上条はドキリとする。


「……今度は上条さんのことを教えてくれませんか?」

「俺のことなんか聞いてもつまんねえと思うけどな」

「そんなことないですよ」


笑みを滲ませる五和の隣に腰掛けながら、苦笑する上条。
優しく首を横に振り、空を見上げて五和は笑う。


「もっともっと、たくさんたくさん。
 あなたのことが知りたいんです」


青い空に貼り付けられた太陽が天辺に来るまでまだしばらくある。
今日は彼女とたくさん話をしよう。
まだまだ知らない五和が知りたい。
彼女の知らない上条当麻を伝えたい
上条は五和と同じように天を仰いで精悍に笑った。

さて、何から話そうか。


―――――


「馬鹿な…この私が負けるなんて…」


結標淡希は小萌の小汚い自宅の中心にあるちゃぶ台に突っ伏して、信じられないものを見たような顔をしていた。
先ほどのボーリングでの小萌との対決はスコアの30ほどの差をつけられ結標の敗北だった。
それも2ゲームともである。
異様に遅い球なのに何故かことごとくストライクを出しまくって少しずつ差をつけられたのだ。
インデックスは結局2ゲームとも10前後のスコアで、姫神は100にぎりぎり届かないくらいとまあ普通だった。
そんな二人にアイスとジュースをそれぞれ奢らされたことだけでも屈辱なのに、
あげく小萌に
「まだまだ修行が足りないですねー結標ちゃん。先生のように大人の色気が出るとボーリングも上手くなりますよー」
と寝言まで叩きつけられた。
その悔しさで、帰ってくるなりずっとちゃぶ台に頭をこすり付けている。


(どのナリで大人の色気とかぬかしてんのよ…頭脳は大人見た目は子供のコナ○くんのくせに)


「あわき、元気出すんだよ? あわきが買ってくれたアイスもジュースもとっても美味しかったんだから」

「あーそう、そりゃよかったわねー」


慰めてくれるインデックスだが、自動販売機から出てくるもんはどれでも一緒だよと律儀に突っ込む気も起きず、結標は動かない。


「もう結標ちゃーん? 終わったことをいつまでも悔やんでないで手伝ってくださいなのですー」

「まるでナメクジのようになってる」


部屋と隣接するキッチンで、台に乗って野菜を切っている小萌がこちらに顔を向ける。
ところで彼女たちは今何をしているところなのか。
時刻は昼の1時半。ボーリングを楽しんだ一同は小萌宅で昼食の鍋パーティを楽しもうと準備をしている最中である。
「同じお鍋をつついて美味しく楽しく食事をすればみんな仲良しになれるのです」という小萌の一言で決まったメニュー。
姫神と小萌が食材の準備をし、インデックスは全員分のお皿やコップをちゃぶ台の上に並べている。
結標は、さすがにここにいると邪魔かと思い顔をあげるが、なかなか先ほどのショックから立ち直れずにいた。


「ってあんた何してんの?」


ふと見ると、器の配膳を終えたインデックスが小萌から包丁とまな板を借りてきて白菜を刻もうとしていた。
だがその手が妙に危なっかしく、初めて包丁を握ったかのような不器用な様子だった。
手の指は伸ばしているし、包丁を引いて使うわけでもなく細腕で無理に押し付けているという感じだ。


「おかしいな。昨日お豆腐を切ったときは簡単だったんだよ」

「豆腐と白菜一緒にしてんじゃないの。ちょっと貸しなさい」


あまりにも危険だったので慌てて結標がその手を制して一度包丁を取り上げる。
こんな危険なことをさせて何のつもりだと小萌のほうを見ると、彼女はニコニコとこちらを見て笑っていた。
今日の朝からその行動の意味が分からない。


「あわき、教えてくれるの?」

「はっ!?」


インデックスはパァッと輝くように笑顔を浮かべた。
なるほどそういうことかと小萌にジトッとした視線を送る。


「…ったく。いい?手は猫の手。包丁は力任せに押し付けるんじゃなくて、引いて使うの。
 こういう堅い物を切る時はこう手を上に乗せて体重をかけて、とにかく自分の手を傷つけないようにね」

「おお、いつわがそんなこと言ってたんだよ!」


大事なことは覚えているのにそれを何に使うのかが分かっていなかったようだ。
まあ怪我をしながら覚えていくのもいいだろうとは思うが、見ていてハラハラするのは精神的によくない。
結標は「やってみて」とインデックスに包丁を渡し、手を添えて白菜を切らせる。


「結標ちゃんがお姉さんみたいなのです」

「淡希は料理ができないんじゃなかったの?」

「結標ちゃんはやれば出来る子なのです。むしろやって出来ない子なんてどこにもいないのです。
 シスターちゃんに教えてあげられるようなレベルではもちろん無いのですけど、
 これを機会に料理に興味を持ってくれたり、教えることに興味を持ってくれたりしたら、
 先生は嬉しいのですから」

「確かに指導をしている割に淡希の手も結構危なっかしい」

「聴こえてんのよ外野は黙ってなさい!」


なんとなく良い話に纏めようとしている二人を結標が睨みつける。
だが何だかんだで自分が教えることになっていることに疑問を持たなかった。
その辺りも含めて、まだまだ小萌の掌から出ることは出来ない結標である。


「いたっ!」


ちょっと目を離した隙にインデックスが小さく声をあげた。
見ると、案の定指先を切ってしまっている。
すぐに包丁を取り上げ、救急箱は無かったかと小萌に目配せする。


「大丈夫? ああ、ちょっと切っただけね」


小萌が持ってきてくれた救急箱から消毒薬を取り出して指先に着けて絆創膏を巻く。
再挑戦しようと包丁を握ったインデックスが苦い顔をした。


「うーん。なかなかうまくいかないんだよ」

「やってればそのうち出来るようになるから大丈夫よ。
 っていうか私も別に上手じゃないし」

「そうなの? じゃああわきとどっちが先に出来るようになるか競争なんだよ!」


屈託無い笑顔を向けてくるインデックスにたじろぐ結標。
よくもまあそこまで素直に何でも受け止められるものだと感心する。
むしろ呆れる。
しかし、


(ま、小萌にも得意料理くらい持てってうるさく言われてるし…)


そういう姿勢を見ているのは悪い気はしなかった。
これ以上ロリ教師にやいやい言われるのも癪なので、結標はこれもいい機会かと思い、「はいはい」と頷く。


「ま、さすがにあなたみたいな小萌級のチビッコに負けてるようじゃ私のプライドが許さないわよね」

「む!あわき、今の言葉は許せないんだよ! さすがの私だってこもえよりは胸も身長もあるんだよ!
 絶対あわきより上手くなってみせるんだから!」

「そうですっ、先生をチビッコ呼ばわりなんてしてはいけないのです! シスターちゃんも地味にグサッときたのですっ!」


憤る二人をけらけらと笑いとばす結標。
気がつくと先ほどまでの憂鬱な気持ちは消えて、少しだけ楽しい気分になってきていた。
そろそろ昼食の準備を手伝ってやるかと、結標は鍋とコンロを設置する作業に移る。
その背中を見ながら、小萌が優しい微笑を浮かべていたことに、彼女はまだ気がつかなかった。

今日はこの辺で切っときます。
今日で折り返し地点は過ぎているので、あと何回かお付き合いください。

ってかこの時間人いるんだろうかw
ではまた近々

>386
ねーちんは最後の方ですのでもう少しお待ちをw

>390
なんで分かるんだよw
と思ったらIDか。掛け持ちすると呼吸ができなくなりそうなのでどちらにせよこれ終わってからで。
言ってもあと3回くらいで終わります。

今から飯食いに行ってくるので帰ったら投下します。

ところでこの話終わったらこのスレはどうすればいいんだろう?
短編なので間違いなくこの話で完走はできないのです……。
スレを立てた>1はいらっしゃらないようですし、また別の誰かが五和書いてもらえると嬉しいのですが。
書き手がいないまま放置するのも良くないでしょうし……。

何か意見があれば教えてください。

こんばんは。今から投下します。

>393
またまたご冗談をw
さすがに二本連続はネタ無いです。
五和スレが無くなってしまうのは寂しいので是非誰かにやってほしいけど……


―――――


「うー食った食ったー……! もう食えねえ……」


上条はポッコリと膨らんだお腹を押さえてビニールシートに仰向けに倒れこんだ。
隣では五和がくすりと笑って水筒から暖かいお茶を入れてくれている。


「そんなに無理して食べなくてもよかったんですよ?」

「五和の弁当が美味すぎたんだよ。げぷっ」

「ありがとうございます。がんばった甲斐がありました」


時刻は午後2時。二人でゆっくりと昼食を摂った後、お茶で一服しているところだった。
今朝チラリと見たが五和手製の弁当は先日学校で食べたものよりもさらに豪華絢爛。
決して高級な食材を使ったわけではないのに栄養バランスまで考えられた色とりどりのおかずと綺麗な形のおにぎりで構成された
美しい弁当だった。
筋の無いアスパラベーコン、よく味の染み込んだ里芋や蓮根の煮物、出汁が絶妙に利いた出汁巻き卵に、
何度食べても飽きの来ないから揚げ、ハンバーグ、かぼちゃの煮付けetcetc。
綺麗に剥かれたグレープフルーツまで入ったボリュームたっぷりの数々の品々を上条は夢中で食べきった。
おまけに先ほどの金髪の少女がお詫びにとバーベキューコンロで焼いた肉や野菜をたくさん持ってきてくれたのだ。
せっかくだからと頂いた二人だったが、そちらもかなりの美味さで驚いた。
五和曰くかなり高い肉や野菜のようだが、確かに言われても納得の味だった。
もっとも、上条にとっては五和の弁当のほうが兆倍にも価値のあるものであったが。
その彼女らは現在コンロの片付けの真っ最中のようで(と言っても彼女らのグループにただ一人いた少年が全て片付けているようだが)
間も無く帰ることだろう。


「番茶ですけど、飲みますか?」

「お、悪い、サンキュー」


五和が水筒の蓋に湯気の立ち上る番茶を注ぎ、上条に差し出した。
体を起こしてそれを受け取り、ズズッと啜ると、温かいお茶が体に浸透するように飲み込まれて
ほっこりとした気分になってきた。


「お茶まで美味い」

「やだな、大げさですよ。それは特に何も考えずにお湯で淹れただけです」

「気持ちの問題だろ? 五和が淹れてくれたと思うから美味いのかな」

「またそういうことを……。上条さんほんとずるいです」

「ん? 何が?」

「知りません。……ふう、温まりますね」


五和も同じようにお茶を啜ってオルソラのような和やかな表情を浮かべている。
遠くを流れていく雲を眺めながら、とても穏やかな時間を五和と共有できることが嬉しく思えた。
こんなにのんびりとした休日は久しぶりだ。
彼女と一緒にいると心まで安らいでいく。
上条は食後の満腹感とお茶で体が温まったためか、眠気が来るのを感じてあくびを噛み殺した。


「眠いですか?」

「ああ、飯食ったら眠くなるよな……。午後の授業はこれのせいでいつも怒られる」

「ふふっ、じゃあ……寝ます? ここで」


五和はくすっと微笑を零して、ほんの一瞬迷ったような表情を見せた後、頬を赤らめて一点を指差しそう言った。


「ここって……」

「だから……私の膝枕……なんてどうでしょうか……?」


それはとても魅力的な提案だった。
お茶の効果以上に体が熱くなる上条。五和が指差した先は彼女の白い太もも。
デニムのスカートから伸びる生足にゴクリと唾を飲み込む上条。


「い、いいのか?」

「はい……私も膝が温かくなりますし……上条さんさえよかったら……」

「い、いいに決まってるだろ……!じゃ、じゃあちょっとだけ……」

「はい、どうぞ……」


ドキドキと鼓動を刻む心臓の音を聞きながら、上条は後頭部を五和の太ももにあてがい、その重さを預ける。
張りのある肌はほどよい弾力性を持ち、女の子の柔らかさと温かさが頭から全身に広がっていき、
一瞬にして眠気が吹き飛んだ気がした。
仰いだ視線の先にはスカイブルーの背景と、紅潮し、不思議な色気を醸す五和の微笑む顔。
こんなに近くに彼女がいるのだと思うと、上条はせっかくの膝枕なのに眠気なんてちっとも湧いてこなくなった。


「重くないか?」

「全然へっちゃらです。上条さんがここにいるんだなぁって思ったら、心地良いです」

「ぅっ……恥ずかしいこと言わないでくれ……顔近いんだから上条さん照れちゃいますよ」


慈しむように告げた五和の言葉に、真っ直ぐ彼女を見上げることができない上条。


「えへへ、さっきのおかえしですよ。上条さんこそ、私の太もも堅くないですか……?」


核兵器並みの破壊力を秘めた五和の全開スマイルに思わず横を向いてしまう。
奇しくも、頬に当たる五和の太ももが彼女の絶妙な肉付きによる柔らかさを余計に強調して、
上条は顔の熱さが彼女に伝わってしまうのではないかと不安になった。


「柔らかくて、いい匂いです、はい……」

「よかった……あれ、上条さんそれ……」


五和が上条のポケットからはみ出ている携帯ストラップを指差した。
それはもちろん、昨日買った二人のペアストラップ。
五和に渡された後、結局すぐに着けることはしなかった上条。
記念にとっておこうと思っていたが、昨夜寝る時になって、これを買ったときの五和の嬉しそうな顔が鮮明に思い出されたのだった。
インデックスに気付かれたら何を言われるか分からないが、五和とペアという点に、確かに上条も魅力を感じており、
せっかくだから着けようと思い立って今に至る。
五和もスカートのポケットから携帯を取り出してハートの片割れを上条の眼前に翳して笑みを滲ませた。


「嬉しい……着けてくれたんですね。本当は昨日すぐ着けてくれなくて寂しかったんです……」

「ちょっと照れくさくてさ。でもせっかく買ったんだから着けなきゃ意味ないよな。
 五和とお揃いってのは、俺も嬉しいし……」

「上条さん……」


瞳を潤ませ、こちらを見下ろす五和。
ピンク色の唇の奥で切なげに蠢動するぬめった舌先が妙に扇情的に見えた。
五和が女の子であることをこらえようもなく意識してしまう。
彼女の体や髪から香る甘い匂いが、上条の脳の奥までを刺激し、彼女にもっと触れたいという欲望を誘う。
安らぐ心が再び上条に眠気を突きつけてきた。
まどろむ意識の中、上条は自らが割りとそういったことに無頓着であることをなんとなく自覚しつつも、
今回のコレが何であるのかをもはや確信に近い形で捉えていた。


「寝てもいいですよ……私はあなたの寝顔を見てみたいです」

「……ああ、わかった。おやすみ、五和……」

「おやすみなさい、上条さん……」


気付いたのはいつだ。
意識し始めたのはいつだ。
それは今だったのかもしれないし、もしかしたら彼女と出会ったその瞬間だったのかもしれない。
そんなこと、どうだっていい。
大事なことなんてただ一つしかないのだから。
自分の目の前にいる、この海の如く深い愛を抱く少女。


五和が好きだというその事実だけが、今の上条にとっては大切なことなのだから。


意識が彼女の海に溶けていく。
触れた彼女の鼓動の音に耳を澄ませるように。
瞳を閉じて、ただ彼女の体温を感じることに没頭するかの如く上条の意識はそこで途絶えた。
次に目を開けた時、またその笑顔を見たいという希望だけを頭に残して。


―――――


「それじゃあシスターちゃん、姫神ちゃん、気をつけて帰るのですよ」


夕刻、結標淡希は小萌と共に、姫神秋沙とインデックスが部屋を出るところを見送っていた。
結標とインデックスによる微笑ましい包丁の練習の後、女四人によるキムチ鍋パーティは特に何事もなく平和に終わった。
インデックスの食べる量と勢いが凄まじかったことなど見所はそこそこにあったが。
かくいう結標は何をしているのかというと、玄関先で見送ってくれる小萌の後ろで腕を組み、所在無さげに立ち尽くしていた。
何だかんだ文句を言いつつ自分も今日のこの謎の集まりを楽しんでしまったことに我ながら呆れる。
完全に小萌に踊らされたなとため息をついた。


「こもえ、お鍋美味しかったんだよ!また食べさせてね!」

「お安い御用なのです! 次はシスターちゃんの包丁捌きがもっともっと上手になっているように、先生は応援しているのですよ」

「うん! とうまやいつわに教えてもらっておくんだよ!」


穢れの無い笑顔を浮かべるインデックスに、やれやれと息をつく。
何がそんなに楽しいのだろうか。
無垢で純粋そう。毎日が幸せなんだろうなと結標は少しだけうらやましく思った。


「じゃあ小萌先生。また明日」

「はーい。宿題を忘れちゃ駄目なのですよー」

「そんなものは知らない」


結標は本当に久方ぶりに太陽の下で生きる人間との出会いを終えた。
結標は学園都市暗部『グループ』に属する女だった。
日陰者である自分には、姫神やインデックスの存在はとても眩しく映る。
だが、小萌も含めて彼女達のような人たちと交わることは結標にとってはギリギリ表舞台との接点を保っていられることの
唯一の証だった。
自分に未だそんな未練があったのかと呆れて自嘲する。
すると、小萌に別れを告げて帰ろうとしていたインデックスがこちらにひょこっと顔を出して輝く笑顔を向けてきた。


「あわき、 またね!」

「……」


また。
どうやら自分は、もうしばらくこの陽だまりの中に留まっていられるようだった。
目的のためにそんなもの必要ないと断じて、自ら飛び込んだ闇の中であるはずなのに、
彼女たちがまだ私にそんな風に言ってくれるのなら。


「ええ、またね」


ヒラヒラと手を振って返してやる。
意外と悪くない。
もう一度笑みを零して去っていく背中を見て、結標はポツリと呟いた。


「明日の朝は……私が作ろうかな」


その言葉に驚いたように小萌が振り返る。
どんぐりのようなまん丸の眼が嬉しそうに細められた。


「はいっ、先生は楽しみにしているのですよ!
 明日の朝はクラブハウスサンドが食べたいのです」

「んなもん作れるわけないでしょ。不味くても文句言わないでよね」


髪をわしゃわしゃとかきながら部屋に戻る。
ふぅとため息をついて部屋の隅の雑多に本が詰め込まれた棚に視線を送る。
さあ、味噌汁の作り方はどうだったっけ?


―――――


外はもうすっかり暗がりに包まれていた。
腕時計を見ると、時刻は夜6時。この季節なら既に夜の帳を下ろしている時間帯だ。
五和は自らの膝の上でかれこれ3時間以上眠っている彼の寝顔を見ていたら、いつの間にかこんな時間になってしまった。
河川敷には自分たち以外もう誰もいないし、バーベキューをしていた女子達はこちらをクスクス笑いながら帰っていった。
遠くに見える明かりだけが、すぐそばにある彼の顔を仄かに照らしている。
規則正しい寝息と、ときおり動く頭が太ももをくすぐってくる。
膝から下の感覚はもうとっくの昔になくなっていた。
だが脚の痛みなんて、今の五和には気にもならなかった。
彼の顔がこんなにもすぐ傍にある。
この表情を見れるのは、今この瞬間世界で自分だけ。
その事実だけで、五和の五体は幸福感に充たされ、肉体的な疲労や痛みなどまるで感じなかった。
たまらず五和は上条の頬にそっと触れる。先ほどから幾度と無く彼の頬や唇に指先を触れさせて、
その感触で悦に入っている。


(上条さん…かわいいな…)


静寂がトクトクという鼓動の速さを鮮明にする。
綺麗な肌。
しかし服の裾や袖から生傷が覗いている。男性的なその肉体。服の下にある彼の肢体を想像して、五和は顔を真っ赤にさせて俯いた。
五和は唇を噛んで自分の中から溢れてくる衝動をこらえている。
彼への想いがどんどんと膨らんで、今にも決壊しそうだった。


(彼氏か……)


昼間、麦野という女に去り際に言われた言葉が何度も頭の中を行き来していた。
他の人から見れば、自分たちは恋人同士に見えるらしい。
正直嬉しかった。
彼と恋人同士になって、寄り添い街を歩けたらという妄想が嫌が応にも頭の中に広がっていく。
遠距離恋愛だけど、たまに会えたときには思い切り彼に甘えて、抱きしめられたい。
時には彼がロンドン日本人街にある自分の部屋に来たりして。
天草式のみんなに冷やかされながら、思い出を築いていく。
涙が出そうな程。
哀しい程。
彼のことが好きだ。


「ん……んー……」


ずっと頬を撫でてそんなことを考えていたからだろうか。
彼がわずかに唸ってうっすらと眼を開けた。


「い……つわ……」

「あ……お、おはようございます……」


心の中を覗かれたような気がして、五和の声は羞恥に震えていた。
こちらの姿を確認した彼は、眼を大きく見開いてガバッと勢いよく起き上がった。
この恋人同士のような戯れももうお仕舞い。五和は寂しい想いに駆られて自嘲するように息を吐いた。


「悪い! 寝すぎちまった! ごめんな五和、せっかく来たのに…」


申し訳なさそうに謝ってくる彼。
五和は薄く微笑んでそれに応えた。何を謝る必要があるというのか。
彼とこうした穏やかな時間を過ごすことが、自分にとっての最上の望みだったというのに。
彼とたくさん話をして。一緒にお弁当を食べて。彼とお昼寝をして。日が暮れたら家に帰る。
五和にとって本当に夢のような一日だった。


「気にしないで下さい。私もうとうとしてちょっと寝ちゃいましたから」


それは嘘だった。
3時間以上、ずっと彼を見ていた。
彼の顔だけを見つめていた。
彼の寝顔に、心はたゆたう波のように優しく揺れている。


「時間は……もう六時回ってるな……」


上条はポケットから携帯電話を取り出して時間を確認する。
しかし、五和の視界にはただ一つの物しか映らなかった。
携帯の本体から短く伸びる、半分に別れた鉄色のハートのストラップ。


「あ……上条さんこれ……」


思わず五和は彼のストラップを掴んでいた。
彼は五和の手からそっとそれを取って少し照れくさそうに笑う。


「せっかく買ったもんだからな。おそろいだな、五和」

「っ!」


歯を見せて爽やかな笑顔を向けてくる彼に、息を呑む五和。


「おそろい……ですね。嬉しいです」


自然と笑顔が零れる。
まるで願ったことが現実になるかのような、優しい時間だった。

>405失敗した!おそろいのくだり移動したのに残ったままだった。修正版こっちで


申し訳なさそうに謝ってくる彼。
五和は薄く微笑んでそれに応えた。何を謝る必要があるというのか。
彼とこうした穏やかな時間を過ごすことが、自分にとっての最上の望みだったというのに。
彼とたくさん話をして。一緒にお弁当を食べて。彼とお昼寝をして。日が暮れたら家に帰る。
五和にとって本当に夢のような一日だった。


「気にしないで下さい。私もうとうとしてちょっと寝ちゃいましたから」


それは嘘だった。
3時間以上、ずっと彼を見ていた。
彼の顔だけを見つめていた。
彼の寝顔に、心はたゆたう波のように優しく揺れていた。


「時間は……もう六時回ってるな……」


上条はポケットから携帯電話を取り出して時間を確認する。


「さてと。そろそろ帰らないとインデックスも戻ってるかもな」


彼は立ち上がり、まだ眠気を訴えているであろう体で伸びをする。
男性的なラインの体にドキリとなりながら、五和は寂しげに頷いた。
楽しい夢もこれで幕引き。
本当はもう少しだけ、彼と一緒にいたかった。


「帰るか。五和」


けれど、彼がそんな風に笑って手を差し伸べてくれたから。
儚い夢の残響を心に聴きながら、五和は微笑みその手をとるのだった。


「そうですね。今日はとても楽しかったです」


集約されるただその一言。
付け加えるなら。
幸せだった


「俺もだ。何もしてないけど、充実した……おっと!」


このとき、五和は一つの事を失念していた。
いや、本当は分かっていたのかもしれない。
彼をこの場にあと少しだけ繋ぎ止めていたいという気持ちが、頭の中からその事柄を完全に隠してしまっていたのだろうか。
彼の手を取り、立ち上がろうとするも、脚が痺れて力が入らなかった。
小さな悲鳴と、驚く彼の声が聴こえた。
星の少ない夜空がくるりと回る。
ドサリ。
二人の体は重なり合うようにしてビニールシートの上に倒れこんだ。
痛み無く、寒さも無く。
温もりの上に自らの体を捧げるように投げ出してしまった。
五和は、上条の胸の上で抱き止められていたのだった。


「ごめん……なさい……」


言葉と裏腹に、五和は彼の胸に頬を押し当てるようにしてすがりついた。
ずっと抱きしめてくれることを望んでいたその体との距離はゼロ。
彼の左胸の奥にある心臓の鼓動は、自分の速度とまるきり同じだった。


「五和、脚痺れてるなら言ってくれよ」


呆れて笑う彼の声。それは、自分と同じにように、ほんのわずかに震えていた。
くすりと笑みをこぼし、彼を見つめる。


「実は分かっていてやりました」

「っ……」


驚いたように彼が目を丸くする。
自分の言葉に自分で恥ずかしくなってしまった。
本当はわざとじゃないけど、そう言ったら彼はもっとドキドキしてくれるから。
自分よりも、もっとドキドキして欲しいから。
五和は彼のTシャツをギュッと掴んで胸板に顔を押し付けた。
彼の匂いがする。彼の温度を感じる。
彼もまた、五和の頭にそっと手を添え、もう片方の腕でぎゅっと抱きしめてきた。
チラリと一瞥すると、唇を引き結んで照れているようだが、宵闇の所為で見えなかったことにした。


「本当に、素敵な一日でした。ありがとうございます」

「何一つとしてお礼を言われるようなことをしてやれてない気がするんだけど……」

「そんなことないです。こんなに楽しい日は、きっと生まれて初めてです」


心からそう思えた。
だって自分は今彼に抱きしめられているのだから。


「そう言ってもらえたら俺も嬉しいよ。
 なぁ五和……」


突如彼の声色が変わった。真剣な声。
何を言おうとしているのか、雰囲気で分かる。五和はギュッと瞳を閉じて、彼の服を掴む力を強めた。


「はい……」


聴きたかった言葉を聞かせてくれるのだろうか。
自分が望んでいた事を、現実にしてくれるのだろうか。
五和の鼓動は本日最大の速度を記録した。


「俺お前に……」

「……っ」


呼吸が止まる。
彼の抱きしめる力が強くなる。

私は、幸せだ


「少年、こんなとこで何やってんじゃん?」


女の声が聴こえた。
桃色の柔らかい空気が一瞬にして消え去り、元の河川敷の風景を映し出す。
慌てて体を起こしてそちらを見ると、長い黒髪を後ろで束ね、ジャージに身を包んだ美人の女性が腰に手を当て立っていた。
年は二十代後半くらいだろうか。
お洒落や化粧に無頓着という様相なのに、そこに立っているだけで大人の色香と美しさが見て取れた。


「よ、黄泉川先生……?」


彼の通う高校の教師のようだ。
苦笑する彼女の様子から、今の会話を聞かれていたのかも知れないと思い、五和は顔を真っ赤にして俯いた。


「道路からゴソゴソやってるのが見えたから何やってるのか思えば。
 ったく、恋愛はいいけど、不純異性交遊を見逃すわけにはいかないじゃん」

「ちっ! 違いますって! そんなんじゃなくて……!」

「そう、まあ何でもいいけどもう暗いからそろそろ帰るじゃんよ。この辺は不良少年達がよく溜まってる場所だしね」


口元に笑みを浮かべて、諭すように上条の肩をぽんぽんと叩く女教師。
恥ずかしいところ見られてしまったどころか、暗がりで卑猥なことをしていると誤解されているらしい。
五和はあまりの恥ずかしさに頭を抱えた。


「じゃ、私は行くけど、ちゃんと帰るじゃんよー?
 彼女をしっかり送り届けてからね、少年」


ウィンクを残して去っていくジャージの女教師。
呆然とその後姿を見送る五和。
妙に気まずい空気が二人の間に流れた。


「か、片付けるか!」

「そ、そうですね! そうしましょう!」


ぎこちない会話の後、五和は彼と共に無言でビニールシートを畳み、河川敷を後にしようと石作りの階段を上る。
五和はショックを受けていた。
もう少しで彼の口から素敵な言葉が聴けたかもしれないのに。
前を歩く彼の背中を切なげに見つめる。
先ほどまでの幸せな気分が一転。一気に暗く陰鬱な気持ちになってきた。
深いため息をついて階段を上りきると、上条は急に立ち止まる。


「上条さん?」


五和が不思議に思って声をかけると、彼は急にこちらを向いて五和の左手をとった。


「かっ、上条さんっ!? ななななんですか?! ててて手なんか握って…!」

「帰るぞ、五和!」


頬を赤くさせて、叫ぶように告げられる。
こちらの返事も待たず、彼はスタスタと歩き出した。
五和は再び呼吸が止まるのを感じた。
彼の右手から、この左手を通って全身に彼の温かさが伝わってくる。
少し早歩きで前を行く彼の背中を驚き見つめながら、五和はやはり自分が単純で分かりやすい人間なんだと思い、
表情を綻ばせるのだった。


―――――


時間は少しだけ巻き戻る。
五和が上条に膝枕を始めて2時間半ほど経過したころだ。
辺りは夕焼けに染まり、まもなく世界は闇に包まれた。
河川敷傍の道の上から、二人を見つめる人影があった。


「どうしてよ……」


零れ落ちる言葉。
彼女の名は御坂美琴。今日まで上条当麻に思いを寄せ続けてきた少女である。
この道を通ったのは、本当に偶然だった。
かつて彼に勝負を挑んで喧嘩をしたこの河川敷。
なんとなくこの辺りを散策して彼に会えたらなと思い、来てみれば、信じがたいものを目の当たりにしてしまった。


(あの女……やっぱアイツのこと好きだったの……?)


先日彼の通学路で、彼と共に歩いていた黒髪の少女が見える。
彼の頭を太ももに乗せて穏やかな空気を放っていた。
それを見ていると、哀しい気持ちがどんどん溢れてくる。
確かに可愛いし、胸も大きいし、性格も良さそうだった。彼の家事を手伝っているようなこともチラリと言っていた気がする。


(……これって、失恋ってこと……?)


現実感がまだ湧いてこない。
本当はあの位置に居るのは自分なんじゃないのかとすら思えてきた。
だけど、それはただ脳がこの事実を受け入れるのをただ拒絶しているだけで。
しっかりと御坂の体は反応を示していた。


「ちょっ…や、やだ何泣いてんのよ私っ!…ばかっ!」


頬を一筋流れ落ちる涙。
誰にとも無くそう言い、あわてて袖口で拭い取る。
突如目の前に突きつけられた現実を理解し始めたのだ。
ずっと好きだった。
いつも自分と対等に接してくれた彼。
ぼやきながらも自分に付き合ってくれた彼。
自分のために、危険を冒して戦ってくれた彼。
そんな彼が、ずっとずっと好きだった。


「……アホらし……グスッ……」


絶望的なその光景に別れを告げるように踵を返し、歩きながらポツリと一言呟いた。
何がなんて、言えるわけもなく。
誰にも想いを告げることはなく。


少女の初恋は今終わった。


それを見つめる影がさらに一つ。


「お姉様…」


秋の夜風に揺れるツインテール。常盤台中学の制服を着た小柄な女生徒が電柱の影から、
お姉様と慕う御坂の背中に哀しげな視線を送っている。


(嗚呼…お姉様お姉様…。なんという寂しげな背中なのでしょう…。殿方への恋に敗れた女の切なさに満ち満ちていますの…。
 抱きしめて差し上げたい。慰めて差し上げたい…)


ギリギリと奥歯を噛み、ツインテールをうねうねと動かしてほろりと涙を零す。
その熱い視線に悪寒を感じたのか、御坂は立ち止まって一度こちらを振り向いた。
慌てて身を隠すツインテール。
赤く腫れた目を不思議そうに細め、首を傾げて彼女は再び夕焼けの向こうに歩いていった。


(っぶないところでしたわ…。
 さぁ、お姉様。お部屋で黒子が笑顔でお待ちしておりますの。どうぞ黒子の胸で存分にお泣きになってっ!
 お姉様の恋を応援するのも後輩であるわたくしの務めなら、恋に敗れたお姉様をお慰めするのもわたくしの役目ですのよ。
 冷たい夜風に冷え切ったお姉様の身も心も、黒子が温めて差し上げますわぁあああ、グヘヘヘヘ)


夕暮れの空の下。
常盤台のツインテールが零す怪しい笑い声が不気味に街に木霊する。
余談だが、夕暮れ時に河川敷近くの電柱を通ると、ケタケタと笑うツインテールの少女が追いかけてくるという都市伝説が本日新たに生まれたという。


―――――


「なんか最後恥ずかしい目にあっちまったな」


五和は上条に手を引かれ、彼の学生寮へと戻ってきていた。
エレベータに乗り込み、ポツリポツリと言葉を落としていく彼に、曖昧に頷く。


「ま、まあでもほら、あとあと思い返すとそれもいい思い出になるんじゃないでしょうか」


ショックを受けている様子の彼を励ますように言葉をかける五和。
だが、気が気でないのは自分も同じだった。
ふざけているのかと思うタイミングでやってきた女教師のおかげで、彼が話そうとしていた言葉の内容が最後まで聞けなかった。
一体何を言おうとしていたのか、思い出すだけでやきもきする。
正直あの瞬間はアックアと戦った時と同じくらい殺意が湧いた。
何もあのタイミングで来なくたっていいじゃないか。
チラリと彼の横顔を見つめると、今は何を考えているのか、特に表情に険しさはなくぼんやりとエレベータ内の階数表示盤を見上げている。
彼の部屋がある七階に辿り着き、二人はエレベータを降りて廊下に出た。


「七時か。インデックスさすがにもう帰ってるよな。
 腹空かして怒ってんじゃねえかな。俺は正直全然腹減ってないけど」

「私もです。お弁当食べてからほとんど動いてないですもんね。夜は私たちはお茶漬けとか簡単なものにしましょうか」

「だな。インデックス最近頑張ってるみたいだし、二人がかりですげえもん食わせてやりたいな」

「わぁ、楽しそうです。食べたいモノをあの子に聴いてみなきゃですね」


いつも通り他愛の無い会話をしながら部屋の扉の前に立つ。
ここまでずっと手を繋いでいたが、鍵を取り出すためそこでようやく二人の手は離れた。
名残惜しく思いながらも、今日繋げたのだから明日だって繋いでいいはずだ。
五和はよしっと心の中でガッツポーズをしながら鍵を開ける彼の背中に視線を送った。


「ただいまー。インデックスいるかー?」


扉を開けると、部屋は出た時のまま明かりはついていないし、人の気配も無かった。
まだ帰っていないようだ。
五和は不思議そうにする彼と目配せして部屋の中へと足を踏み入れる。
明かりをつけても、やはりどこにも彼女はいなかった。


「おかしいな、遅くならないって言ってたのに」


学園都市で七時、それも明日も学校があると考えればそこそこに遅い時間だ。
まあ空いている店はまだまだいくらでもあるし、繁華街なら人は大勢いるが、インデックスが行くとは考えにくい。
お腹を空かせているらしいスフィンクスがにゃーにゃー擦り寄ってきたので、五和は餌を用意してやりながら
そんなことを考えていた。


「上条さんの担任の先生とご一緒なんですよね? 電話してみてはどうですか?」

「そうだな。小萌先生の番号は……」


皿に盛られた猫缶をもりもり食べ始めたスフィンクスを撫でてやりそう告げると、上条は頷いて携帯電話を操作し始めた。
耳に当て、コール音が小さくこちらにも聴こえてくる。


「あ、もしもし先生。上条ですけど、こんばんは。あの、インデックスそっちにいますか?」


彼が電話している声を聞きながら、室内を見て回る。
驚かせようと隠れている気配は無い。ユニットバスやベランダなども見てみるが、やはり姿は見当たらない。


「え?帰った?…えっと…いや。あー…大丈夫です!とりあえず姫神に電話してみますね、それじゃ」


少し焦ったような表情で電話を切っている。
五和の胸中も彼と同じだった。嫌な予感が胸を掠める。


「どうでした?」

「もうとっくに帰ったって。もしかしたら姫神と一緒かも。電話してみる」


そう言って再度携帯を操作して耳に当てている。
数度のコールの後、彼は先ほどより少し口速く言葉を放った。


「姫神か? なあ、今インデックスと一緒にいるか?」


五和も眉をひそめて彼の反応を見る。
だが、事態は芳しくは無いようで、彼の表情から最後の余裕が消えていた。


「……そうか。ん?ああ、何でもないんだ。……ほんとだって。また明日な」


電話を切る。わずかに彼の顔色が悪くなっていた。
五和は彼に一歩近寄り、顔を覗き込んで問いかける。


「あの子……一緒じゃないんですか?」

「……らしい」


どうするか髪をくしゃくしゃかきまわしながら考えている様子の彼。


「インデックス……どこにいっちまったんだ?」


ベッドの上に崩れるように座り込む上条。
五和は慌ててそれを支える。
書置きもなく、連絡もない。
どういうことだ、何が起こっている?
五和の背中に緊張が走る。
五和には、インデックスがいない理由が分からなかった。

今日はここまでになります。
あと1回2回で終わりになると思います。

>388
ボーリングとボウリングの違いなんて考えたこともなかったですw
普通に勉強になりました。

こんばんは。
今日も投下したいと思います。

>425
>426
美琴と黒子はもう一悶着あるのでしばしお待ちを。


―――――


数日前、五和はロンドンで腐っていた。
『後方のアックア』との死闘の後、想いを寄せる上条当麻と特に何の進展もないまま帰国するハメになってしまったことに原因がある。
当時は天草式の面々も負傷して病院で治療を受けていたのでそれどころでは無かったということもあるが、
今になって思えばもう少し積極的に行動していればほんの短時間でも彼と病院で甘い時間を過ごせたのではないかと後悔していた。


「そもそもあれは反則ですよ……女教皇様(プリエステス)…」


アックア戦後、上条の病室で五和は彼と共に天使を目撃した。
それもただの天使ではない。
彼女が敬愛する天草式の女教皇、神裂火織が堕天使エロメイドとか言うコスチュームで現れたのだ。
彼女の超攻撃的な肉体がそこかしこで露出された、神への冒涜甚だしいどころか新たな神として信者を生み出してしまいそうな
恐ろしい姿だった。
あまりに扇情的なその姿に、上条は全身の傷が開いて入院期間が一日延びたとか。
とにもかくにも、神裂が凄まじいインパクトでオチを着けてくれたおかげで、五和の精一杯のアピールやら何やらが
全て水泡に帰してぶっ飛んでしまったわけである。
そんなことがあり、ロンドンの日本人街、天草式がいつも溜まっているとある一室で、五和は芋焼酎片手に今日もやけ酒を煽っていた。


「…ひっく……結局私なんて、女教皇様のかませ犬でしか無かったわけですよね……ひくっ…」


帰ってきてから一度も化粧はしていないし、着ているものも常にジャージ。
身の回りの掃除から美容ケアまで、何一つとして行っていない五和。
朝からずっと丸い卓袱台に突っ伏して酒の瓶と会話をしている。
そんな彼女を見守る姿があった。

イツワ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!


「うむぅ、これはそろそろまずいのよな…」


クワガタのような真っ黒い髪に十字架を模した数個の小型扇風機を首からぶら下げ、ダボダボの服に身を包んだ
天草式十字凄教元教皇代理、建宮斎字は、朝からいもっぽいジャージ姿で焼酎を煽る女の成れの果てを隣の部屋から見守っていた。
周りには天草式のメンバーも数人いる。


「かれこれ2日もあの調子だ。いい加減止めたほうがよさそうだな…」


初老の諫早が重々しい口調で賛同する。


「どうします?女としてどうとか言う前に五和の体が心配ですよ。そしてアレ、俺の最後のとっておきだったんです…」


そう言ったの大柄な男、牛深。
五和に秘蔵の酒を散々飲み尽くされ、失うものの無くなった彼は半泣きで建宮にすがり付く。


「どうするってお前さん…誰があれを止めるのよ?」


建宮が指差すと、今度は五和が一升瓶と喧嘩を始めていた。


「ねえ聴いてますー?透明感のある顔してぇ……どうせ私はご飯炊くくらいしか能の無い地味ーな子ですよー…うぇっぷ…」


無色透明な日本酒に透明感とか言われてもと、誰かが突っ込んだ。


「さすがにヤバイす。でも近づいたら絶対絡まれるっすよ?」


小柄な香焼がビクビクしながら口元を引きつらせている。
五和に近づけないでいる一同の横から、一人の影が躍り出た。


「ったく情けないわねアンタらは……。いいわよ、私がいくから」


ふわふわ金髪の女性、対馬が五和の方へと近づいていく。


「さっすが対馬先輩、頼りになるっす!」

「対馬、頼んだぞー」


荒ぶる獅子の待つ地へ向う対馬を送り出す男衆。
対馬はため息をつきながら五和の隣に座って一升瓶とグラスを取り上げた。


「五和、そのへんにしときなさい。お肌にも悪いし、お酒臭い女は嫌われるわよ?」

「返してください対馬さん……! どうせあの人には当分会えないんですから…」


くっちゃくっちゃとスルメを噛みながら、対馬に覆いかぶさるように体重を預けて五和が涙を浮かべている。
スルメのパックも彼女から取り上げ、対馬は諭すような口調で語りかけた。


「そうとは限らないわよ? 『左方のテッラ』から『後方のアックア』まで、10日も空いてないんだから。
 案外すぐにこっちに来る用事でもできるかも。
 そんな時、あなたはそのお酒臭い口と酔っ払って真っ赤になった顔で彼に会うつもり?」

「それは……」


対馬から一升瓶を奪い返そうと体重をかけていた五和だが、その言葉にペタリと座りこんだ。


「見ろ、五和が大人しくなっていくぞ!」

「おー! 説得に成功したみたいですよ!」

「……」

「あれ、どうしたんすか建宮さん?」


対馬との会話でしおらしくなっていった五和を見て歓声をあげる男衆。
あんな朝から酒かっ食らっている五和など誰も見たくなどないのだ。
しかし、その様子を顎に手を当て考え込むような仕草で見据えている建宮。


「対馬さん、どうすればあの人ともっと距離を縮められるんでしょうか……」


酒の匂いのするため息をついて、五和が哀しげに問いかける。
彼女にしては珍しい言葉だ。いつもは照れたりあたふたして遠慮がちな話しかしないが、
アックア戦で彼に対する想いがさらに募ったか、酒の力を借りての真っ直ぐな恋愛相談だった。
対馬はくすりと笑い、五和の隣に寄って頭を撫でてやる。


「そうね……例えば、手紙を送ってみるとかどう?」

「手紙……ですか?」

「ええ。距離も離れてるし、どうせ連絡をとるなら電話やメールじゃ味気ない。
 手紙だったら書いてるときも、返事を待っているときもドキドキできて楽しいんじゃないかしら?」


年上の対馬だが、彼女は皆の想像以上にピュアなようだった。


「それ……いいですね。遠く離れたあの人とお手紙の交換って、何だか素敵ですっ!」


さっきまでのオヤジのような態度はどこへやら。
乙女の顔をして五和が対馬に食いつく。
「えー!」と離れたところでざわつく男衆


「対馬先輩、文通とか言っちゃってるすよ……何の解決にもなってないっすけど」

「だな。それは余計時間がかかるんじゃなかろうか……」

「けど五和もなんだか乗り気だしなぁ」

「建宮さん、あの二人このままだとまだしばらく動きそうに……って、建宮さんどうしたんすか?」


突如神妙な面持ちで五和達の方へ歩いていく建宮。
五和と対馬も彼が近づいてくるのに気付いて、不思議そうに首を傾げた。


「五和お前、もう一回学園都市に行くか?」

「え?」


建宮は真剣な顔つきのまま低い声でそう問いかけた。
彼以外の全員の表情が固まる。


「もう一回あいつのところに行きたいかって聴いてるのよ」

「え、いや、だって。私たち魔術師は学園都市にそうそう簡単には入れないんじゃ……」


彼の言うとおり、学園都市内での魔術師の集団行動は本来なら禁止されているものだ。
前回のように強大な敵が攻めてくるということなら特例も認められるが、五和の恋路のために天草式が学園都市に潜入することなど
できるのだろうか?
首を傾げる五和に、建宮もどっかりと腰を下ろして真っ直ぐに五和を見据える。

(;´Д`)イツハァイツハァ


「まあそのへんは何とかしてやるのよ。アックアを倒したことで学園都市にも恩を売ったし、
 魔術の使用は禁じられるかもしれねえけど、たぶんどうにかなるのよな」

「ほ……ほんとに……あの人に会えるんですか?」

飲みすぎでいまいち焦点の合わなかった五和の目がしっかりと建宮を捉える。
希望を与えられて、キラキラと輝く眼差しを向けていた。

「見ちゃいらんねえのよ。お前さん帰国してから寝ても覚めてもずっとその調子だ。
 そんなんで肝心な時にぶっ倒れられて戦えねえってのも困るのよ」 

「建宮さん……」


もう上条との生活を想像しているのか、五和の表情が綻んでいく。


「か、かっこいいす建宮さん!」

「我々も五和をサポートしてやらねばな」

「五和もう妄想モード入ってるな。たぶんあれ聴こえてないぞ」


がやがやとテンションを上げている男衆の声が向こうから聴こえてくる。


「それにな五和」


黒いツンツン頭をくしゃくしゃとかきながら、建宮は言葉を続ける。


「科学サイドと魔術サイドの関係は、世界情勢を見りゃ分かると思うが今非常に危ういのよ。
 今は『イギリス清教』と学園都市は共同歩調を取っちゃいるが、それもいつ変わっちまうか分からねえのよな。
 そうなりゃ当然あいつに会うことも難しくなるかもしれん。
 勝負に出るならもう今しかねえのよ」


そっか。
そう五和は呟く。今は世界が魔術と科学に分かれての戦争が始まろうとしている状況下だ。
イギリス清教にコネクションを持つ彼も、所属しているのはあくまで学園都市。
戦争が始まれば、魔術側の人間である五和と袂を分かつときが来てしまうかもしれない。


「まあでも……もし上手くいってもあいつとそうやって会い辛い状況が来ちまうかもしれねえのよな。
 それでもお前さんが構わないって言うんなら、俺も全力で協力するのよ」


言い難そうに建宮がそう付け加えた。
確かに、学園都市とイギリス清教の関係が崩れた時、仮にこの恋が上手くいっても彼と離れ離れになる可能性はある。
だが、五和は迷い無く頷く。


「いえ、行きます。行かせてください」

「想いも伝えずに長い戦いに臨むことなんてできない。そういうことよね、五和」


対馬の微笑みに、五和が深く首肯する。


「そうか。そういうことなら……」


建宮はフッと笑みを零す。
そして次の瞬間、彼はどこからともなくクイズ番組で使うようなフリップボードを取り出してちゃぶ台の上にドンッと立てた。


「じゃーん! 既に策は用意してあるのよ!
 この建宮斎字が昨日寝ずに考えた最高に面白……素晴らしい五和の恋成就作戦なのよな!」

「なっ!」


口をあんぐりと開けて言葉を失った五和と対馬。
背の男連中が盛大な叫び声をあげて、そのフリップボードの前にすべりこんだ。
こんな面白そうなことを見逃してなるものかと。
どうやら建宮は五和の恋を成就させる作戦をあらかじめ考えていて、それをいつ実行に移すかを考えていただけだったようだ。



「ちょっとは見直した私が馬鹿だったわ……」

「建宮さん!作戦て何すか!」

「そいつはすげぇ! 早く聞かせてください!」

「落ち着くんだ牛深。ようし、順を追って説明してみろ」

「ふふーん、そうかそうかお前さん達も乗り気よな」


目を丸くして呆気にとらえている五和を他所に、男連中は異様な盛り上がりを見せている。
フリップボードにつらつらと書いてある文字を指差しながら、建宮は説明を始めた。


「まずは今回も敵の襲撃ということにして五和をあいつのところに護衛に派遣するのよな」

「確かに、それならアックアの時と同じで細かい説明は不要ですもんね!」


「そういうことよな。敵の名前は……まあ適当に『下方のヤミテタ』とでもしておくといいのよ」
 
ヤミテタ。右から読むとまんま『タテミヤ』だ。いくらなんでもすぐバレるんじゃないだろうか。
五和の隣では対馬がもう何も言えないという感じでため息をついて首を横に振っている。


「こいつがアックアの時みたく襲撃してくるってことにして、あいつの家に数日住み込んで既成事実を作っちまうのよ」

「き、既成事実っ!?」


五和が仰け反る。そもそもそんな大胆な行動が出来ていれば今頃こんなに悩まなくて済むはずなのだが、
彼女にはそれ以上に納得いかないことがあった。


「ちょ、ちょっと待ってください! いくらなんでもあの人を騙すような真似はっ!」

「なんだ、気に入らないか?」

「き、気に入らないという問題ではなくて、あの人に心配かけるようなことは駄目です!」


上条には嘘をつきたくない五和としては、その作戦はそもそも前提から賛同するわけにはいかなかった。
大体命を狙われているなんて嘘、冗談にしては少々タチが悪い。
同じように思ったか、隣で対馬も頷いている。
だが建宮は、五和に人差し指をビシッと突きつけて返答する。


「甘いのよ五和。お前さんそんなこと言ってられる状況か? 世界はお前さんの良心になんてお構いなく動いてる。
 嫌ならこの話は無かったことにするのよ」

「ま、待ってください! 嫌なんて……言ってないじゃないですか……」


五和は懇願するようにそう言った。
方法はどうあれ、彼に会いたいという気持ちを抑え切れなかったのだ。
その様子に建宮は口元に笑みを滲ませる。


「仕方ない。じゃあ来るかどうかも分からねえ極秘情報を頼りに念のために来たってことにするのよな。
 それなら後々やっぱ勘違いでそんな奴はいなかったってことにもできるのよ」

「な、なるほど……」

「ちょっと待ちなさい。彼の家には例のシスターの子もいるのよ。
 既成事実はともかく、それじゃあ前回と同じで大して進展なんてないんじゃない?」

「対馬、お前さんはそんなだから恋人がいつまで経ってもできんのよ」

「んなっ! かかか関係ないでしょ!」


深々とため息をつかれて対馬が憤る。
思わぬところで自分に矛先が向いて、顔を真っ赤にして怒っているが、建宮はチッチッチと指を振って余裕の対応をして見せた。


「これはもう周知の事実だと思うが、あの嬢ちゃんはとにかくよく食う。
 五和の特技は何だ? 牛深、言ってみるのよ」

「はあ、えっと。運転と家事全般……ハッ!そうか!」


何かに納得したように手を叩く牛深。諫早や香焼もなるほどと唸っている。
五和は対馬と視線を合わせて首を傾げるも、言わんとしていることが分からなかった。


「将を射んとするならまず馬を射るのよ。いいかよく聴け。つまりは―――」


そう言ってキュッキュッとフリップボードの裏にマジックで微妙なイラストを書きなぐっていく建宮。
こちらに向けたそれには、こんなことが書いてあった。


 インデックス「わーお腹減ったんだよとうまー」

 上条「すまねえなインデックス。上条さんお金がなくてご飯が買えないんだ」

 インデックス「うわーん! ひもじいんだよー!」

 五和「私に任せてくださいっ!」

 上条「その声は、五和っ!」

 五和「食材ならここにっ! 私が料理をしてお腹いっぱい食べさせてあげます!」

 インデックス「五和すごいんだよー! とうまのお嫁さんになってくれればいいのに!」

 五和「そ、そんな恥ずかしいっ!」

 上条「いや、インデックスも気に入ってることだ。結婚しよう五和っ!」

 五和「はいっ! 抱いてくださいっ!」


「―――と、こうなるわけよな」


ぱちぱちぱちと男性陣の中で拍手が巻き起こる。
五和が開いた口が塞がらなかった。


「ふざけんのも大概にしなさいよアンタらねえ! 五和は真剣なんだから、遊びでやってるんならやめてっ!」


とうとう対馬が怒って立ち上がる。
悪ノリが過ぎる男衆を睨みつけて本気で憤っているようだった。
だが建宮はまたしても真剣な表情になり、がなっている対馬を見上げて低い声で告げた。


「座れ対馬……俺はいつだってマジなのよ」

「何言ってるの!? そんな方法で上手くいくわけないでしょ!? 前回だって同じようにして……」

「分かってないのはお前さんだ対馬」


建宮は視線を逸らさない。フリップボードを床に立て、元教皇代理としてのカリスマ性を如何なく発揮して対馬を説き伏せる。


「あの嬢ちゃんを邪魔者扱いして、それであいつと五和の関係が上手くいくとでも思ってるのか?」

「じゃ、邪魔者扱いなんて……」

「上条当麻と禁書目録は切っても切れねえ関係よな。五和はそこに割って入ろうってのよ。
 あいつとの良好な関係を築くには嬢ちゃんとも上手くやってかなきゃならねえ。
 分かるな、五和?」

「はっ、はい!」


突如話をふられたので驚いて頷く五和。
確かに建宮の言っていることはその通りだった。
五和が学園都市の学校に通うただの学生だったのなら、インデックスのことは気にしなくたってよかったのかもしれない。
彼とは時間を決めて外で会うことなどいくらでも出来るし、いつだって会える。
だが、現実はそうではないのだ。
五和は魔術サイド、それもインデックスと近い組織に属している。


「あいつを手に入れて、あの嬢ちゃんを切り捨てるような結末は駄目だ。
 それじゃ結局誰も幸せにはなれねえのよ」


それは上条にだって言えることだ。
彼もまたただの学生ではなく、インデックスとは運命共同体。
彼女の存在を受け止め、また彼女にもこちらの存在を理解してもらわなければ、上条と本当に深く付き合っていくことは出来ないだろう。
もちろん五和には始めからインデックスをどうこうするつもりなど無い。
だが改めて言われると確かにあの子のことを何も知らないのだなと思うのだった。


「それに前回と今回は違う。今回は別に敵が攻めてくるわけじゃねえからな。
 そんなに長期間の潜入は無理だろうが、もう下地は充分に整ってる。
 お前さんがあと少しだけ勇気を出してあいつに気持ちを伝えれば、短期決戦でも勝算はあるのよ」


不敵に笑う建宮。
正直ここまで真剣に考えてくれているとは五和も思っていなかった。
いつも応援してくれてはいるが、それは話のネタ半分で、自分の胸の痛みなど分かってないだろうなと思っていた。
しかしそうではなかったようだ。
建宮はインデックスのことまでしっかりと考えて、五和に決断を迫っている。
あの二人の間に割って入る覚悟はあるのかと。
五和はゴクリと唾を飲み込んだ。
酔いは急激に冷めていった。
あの二人の絆は生半可なものではないことは、五和にもよく分かっている。


それでも


「……分かりました」


五和は頷いた。
彼に対する想いが何よりも勝ったのだ。座して大人しく彼を待つ女ではなく、彼に挑んで飛び込んでいく女でいたいと思ったから。


「五和、いいの?」

「はい。皆さんにもご迷惑をお掛けしましたし、ここでスッパリと決着を着けたほうがいいと思うんです」

「五和、一応言っておくが、当たって砕けるなんて考えは捨てるのよな。
 相手がアックアだろうと、上条当麻だろうと変わらねえ。
 俺たちが戦場に向う時はいつだって全員で、勝って帰還しなくちゃならねえのよ」


建宮につられるように、周りの男連中も笑みを浮かべて頷く。
対馬も、一つため息をついて五和の肩に手を添えた。


「焦らずにね。ちゃんと伝えれば大丈夫よ。あなたは本当に素敵な子だもの。
 あなたが選んだ男に、それが伝わらないはずが無いわ」

「対馬さん……」


最後には対馬も笑顔を向けてくれた。
五和は彼女の視線に力をもらい、もう一度建宮を真っ直ぐに見つめ返し、唇を動かす。


「建宮さん、みんな。私に力を貸してください!」


その言葉に、建宮はニヤリと雄々しく笑みを滲ませる。


「当然よな。お前さんのような奴に手を差し伸べることが、我らが女教皇の教えよ」


五和は久方ぶりに、彼の教皇代理としての表情を見た気がした。
それからほんの二日後、五和は建宮を始めとする数人と共に日本へと飛び立ったのだった。


―――――


事の顛末は以上だ。
五和がこの学園都市にやって来た理由としてはそれが全てだった。
つまり『下方のヤミテタ』などというものは存在せず、護衛というのも嘘っぱちで、彼に想いを告げるためだけにこの街に
再び足を踏み入れた。
建宮達とは学園都市に到着したときに別れ、どこかにしばらく留まる部屋を用意したらしい。
五和が困った時には助け舟を出してくれるようだった。
だからこそ五和には、インデックスがいない理由が分からない。
こんな作戦内容など聞かされていないから。
もしかして何者かに攫われたのではないだろうか。
不安が胸を掠め、きっと同じように思っているだろう上条もベッドに力なく座り込み、頭を抱えている。


「くそっ、どうしちまったんだインデックス」

「上条さん。辺りを探しに行きましょう」

「五和……」


五和が傍に寄り声をかける。


「目撃した人がいるかもしれませんし、どこかに寄り道をしている可能性だってまだあります」


五和がそう言うと、上条はハッとなって頷いた。


「そ……そうだな! 何を迷ってんだよ俺は。どうせその辺で道草食ってんだろ。行こう五和!」

「はい!」


彼は再び力強い視線で立ち上がる。
急いで玄関に戻って靴を穿いていると、先に外に出た上条がこちらを振り返って言った。

理論はあっている・・・
はずなのに解説者が解説シャナだけに素直にノれないwwwwww


「ありがとな五和」

「え?」


急にそんなことを言う彼に、五和は驚いた。
お礼を言われることなんて何もしていないのに。


「最近戦いばっかでちょっとまいってたんだ。インデックスが危険な目に、と思ったら目の前が真っ暗になってさ。 
 でもお前がいてくれてよかったよ。五和のおかげで、すぐに立ち上がれた」

「そんな……私は」


彼を騙しているという罪悪感で胸がチクリと痛む。
自分は彼に近づくためにここにやってきた、ずるいことばかり考えている女なのに。


「あの、上条さん実は……!」

「よし行くぞ! あいつ見つけたらお説教だ」


そう言って五和の手を引き、駆け足で飛び出す。
本当のことを言いたいのに、言えない。
言ってしまったら、もう彼が笑ってくれないんじゃないかという気がして。
こんなずるくて卑怯な女なんか嫌いになってしまうんじゃないと思えて。
五和は泣きそうになるのをこらえながら再び夜の学園都市に出た。
彼と手分けをして街を探す。
人気は少ないが、インデックスのような目立つ容姿なら目撃者の記憶にも残りやすいだろう。
あちらこちらを駆け回りながら、なかなか出てこない情報にやきもきし始めたとき、
五和のポケットで携帯がブルブルと振動していた。
ディスプレイに表示されているのは同僚の対馬の名前だった。
何事かと通話ボタンを押して携帯を耳に当てる。


「対馬さん?」

『ようやく繋がった。もう、何度も電話しているのに出てくれないんだから』

「す、すみません。立て込んでいたもので……で、何です?」


受話器の向こう側は妙にがやがやとうるさい。
大慌てする牛深や香焼の声がこちらにまで聴こえてきていた。


『例のシスターの子。今こっちで預かってるのよ、それを連絡したかったの』

「えぇっ!? ど、どういうことですか!? そ、そんな話聞いてないです!」

五和の顔から血の気が引いていく。
そもそもそんな作戦は聴いていないし、彼女を無理に遠ざけたりするのは無しだという方向性だったはずだ。
それなのに何で、と五和は荒ぶる呼吸を整えて慎重に話を推し進める。


『それが実はね……』
『代われ対馬』


建宮の声が聴こえた。


『俺だ。どう説明したらいいのかね……。連絡が遅れてまずはすまなかったのよ。
 あの嬢ちゃんこっちの食料全部食いつくす勢いで食ってるもんだからその暇もなくてな。
 とにかく順を追って説明するのよな』

「建宮さん……今どこですか……?」

『五和……?』


五和は低く平坦な声で問いかけた。
電話の向こうで建宮が息を呑んでいる。
彼らがインデックスを攫ったというなら、その理由を聴かなくてはならない。
詳しく。詳しく。
インデックスとも仲良くなれた。
上条とも上手くやれていた。
なのにどうしてそんなことをしたのか、問いたださなくては。
そう、詳しく。詳しく。


『……まあいい、そっちの方が都合がいいのよ。
 あいつの寮の前の道を東に800メートル程行ったとこにあるボロアパートだ。
 そこの201号室に全員いる』


都合がいいだと?
彼が今どんな想いでインデックスを探して回っていると思っているんだ。
彼女がいなくなったことで、疲弊していた精神にさらに負担をかけたというのに。
五和はギリリと奥歯を噛んで携帯に力がこもる。
ミシミシと音を立てて携帯が軋んだ。


『い、五和さーん……?』

「すぐ行きます。今すぐ行きます。 


 待  っ  て  て  く  だ  さ  い  ね  ?」
 


『ひぃっ! ま、待てお前さん何か勘違……ピッ』


建宮の言葉を待たず五和は駆け出す。
彼に一刻も早く伝えて安心させてあげたいが、まだ伝えるわけにはいかない。
きっちりしっかりたっぷりと事情を聞いて、彼に心の底から謝らなくてはならないから。
こんなのはもうたくさん。
彼を騙すことはやっぱり耐えられない。
五和は彼を可能な限り待たすまいと、
『あの子は大丈夫でした、ちょっと帰りが遅れるので先に家に帰っていてください』
とだけメールを送り、携帯の電源を切った。
時刻は七時半。こうなった五和を止めることは、もう誰にも出来ない。

これも恋は盲目・・・なのかなぁww


―――――


長い刀剣を携え、サラリと流れる黒髪を頭の高い位置で束ねた巨乳の美女が、足早にウェスタンブーツの底をアスファルトに打ち付ける。
天草式十字凄教女教皇、神裂火織は、ブツブツと何事かを言いながら学園都市を歩いていた。
ジーンズの片方と、十字架のステッチが入ったデニムジャケットの逆片側の袖をバッサリと切り捨て、
10月に入って未だヘソ出しの不可思議な格好の彼女だが、これは別に彼女のファッションセンスが残念であるとか、
露出の気があるとかそういうことではなく、ちゃんと魔術的な意味合いがあるらしい。


(久しぶりの学園都市です……。せっかくですから寮に日本のお土産を買っていかなくてはいけませんね)


何故彼女がこんなところにいるのか。
一昨日同じ『必要悪の教会(ネセサリウス)』に所属する土御門から突如連絡が入り、
「五和が学園都市に来て上条当麻とねんごろの関係になろうとしているにゃー」と言われた。
母性溢れる神裂火織18歳としては、「まさかうちの子に限ってそんなことは……」と言いつつも心配になり、
色々な権力を利用してこうして学園都市内に潜入してきたのである。
あわよくば彼に会えたら等という考えが頭にチラつくが、あくまでこれは五和の様子を見に来ただけであって他意は無いのだ
と先ほどから何度も自分に言い聞かせていた。
着替えや日用品の入ったズタ袋の中には、税関をよく通ったものだと感心する『例のアイテム』が入っているあたり、
神崎も必死だった。


「ま、全く土御門は私にあんなことを連絡してきて何のつもりなのでしょう。
 天草式の皆も皆です。私に内緒で何をする気なのやら……。
 これは五和が心配だから来たのであって、本当にそれだけであって、それ以上の意味なんてあるはずもないのですからね」



誰に言い訳をしているのか、口の中でもごもごと言っている神裂は、上条の学生寮の前へと辿り着いた。
ここの七階に彼の部屋があるのは知っている。
パンデモニウムのようにすら映る彼の学生寮を見上げ、神裂は携えた『七天七刀』を握りなおして生唾を飲み込んだ。
まさかこんなに早く彼に再会することになろうとは。
先日のアックア戦後、彼の病室で思い出したくも無い恥ずかしい経験をした彼女は、上条を思い出すと嫌でも頭にチラつく
あの一件をぶるぶると髪を振り乱して払った。


「よし、いざ参りますっ」


内心、部屋の前で五和の生々しい声とかが聴こえてきたらどうしようとビクビクしながら、神裂は学生寮の敷地内に一歩足を踏み入れた。
そのとき、


(はっ! 殺気ッ!?)


背筋にゾワリとした悪寒が走り、神裂は自分が来た方とは逆方向の道に視線を移した。
遠くから、揺らめく陽炎のようなおぞましい気配を放ってこちらに走ってくる者の姿が見える。


(敵っ!? いえ、違いますこれは……)


宵闇の向こうから、景色が歪むほどの黒いオーラを放ち現れた人物。
それは


「って五和っ!? な、何故あなたが……」

「えっ、プ、女教皇様(プリエステス)!?」


どういうわけか様子を見に来た対象(という建前)である五和がこちらに走ってきた。
彼女は彼女で驚いているようだ。
女の子にこんな時間に暗い夜道を歩かせるなんて、と神裂はキッと寮の七階付近を鋭く睨み付ける。
敵だと思ってしまったことは内緒にして神裂は首を傾げて尋ねた。


「こんなところで何を?」

「女教皇様こそどうしたんですか?」

「私はその……あなたと彼がねんg……いかがわしいことになっていないか様子をゴニョゴニョ。
 そ、そんなことはどうでもいいんです! それよりあなたや建宮達まで、突然学園都市に来てどういうつもりですか?
 何か私に言えないような事件でも起きたというのですか?」


最後は少しだけ寂しげに神裂は問いかけた。
先日新生天草式として、皆と心を通わせられたと思っていたため、内緒にされていたことが何だか悲しい神裂。
それを察したのか、五和も申し訳なさそうな顔をして「それは……」と俯くと、
次の瞬間にはその頬に一筋涙が伝っていった。


「ちょっ! わ、私ですか!? 私が泣かせてしまったのですか!?
 わわわ。五和、ごめんなさい! あなたを責めているのではないのですよ?!
 えとえと、と、とにかく涙を拭いてですね……!」


ハンカチを取り出して五和に渡してやると、彼女はそれを受け取りぐしぐしと涙をふき取りながら言葉を発した。


「グスッ……ちが、違うんです女教皇様……。エグッ……そうじゃなくて……」

「では何だというんですか? 見たところ彼と一緒というわけでもないようですし……まさか彼に何かされたのでは……!」


彼に限ってそんなこと、と思いつつも五和の尋常では無い様子から嫌な想像を働かせてしまう。
しかし、その言葉に五和は強く首を横に振って否定した。


「ち、違いますっ! 悪いのは……悪いのは私なんです……」


ハンカチを口元でぎゅっと握り、五和が咽び泣く。
神裂はその頭をそっと撫でながら、怪訝な眼差しで語りかけた。


「全て話しなさい、五和」

「……はい」


その言葉と共に、五和は今日まで何があったのかを話した。

上条がどうしようもなく好きなこと。
天草式の皆が協力して自分の恋路を応援してくれること。
彼やインデックスと3日間仲良く過ごすことができたこと。
今日、彼とデートをしたこと。
そして、インデックスが消えて、何故か天草式の隠れ家にいること。

神裂はそれを聞いて、少し落ち着いたらしい五和に内心少しホッとしていた。
上条と五和が神裂ですら経験したことのない大人の階段を上ってしまったり、
爛れた生活を送っているわけではなかったことで安心したのだ。
だが同時に疑問が浮かんだ。
インデックスと良好な関係を築いていたのに、どうして建宮達がそのような行動に出たのかが謎だった。


「仕方ありませんね……。彼らのいるところに案内しなさい」

「え……で、でも」

「構いません。私も建宮達が何故あの子を攫っていったのかが気にかかります。
 それに、あまりここでじっとしていると彼が戻ってきてしまいますし」


彼とハチ合わせになるのはまずいと踏んだのか、五和は小さく頷いた。
先導してくれる五和の後ろで、やれやれと神裂はため息をついた。
泣くほど彼のことを想っている少女に、申し訳ない気持ちが湧いてくる。
あわよくば、会えたらなんて。
彼のためだけにここまで来た彼女を前に、神裂の心は敗北を認めた。
ここでまた一つ、恋慕の情を含む少女の淡い想いは終わりを告げる。
だが、彼への感謝の念は消えることはない。
まだ何も知らされていない彼のため、そして空回りする五和のために行動しようと、神裂は今決めた。
そうした者に手を差し伸べることこそが、己の行動指針であり、この愛しい仲間達との絆なのだから。

今日は以上になります。
たぶん次回で終了です。
ではまた近々。

乙っしたぁ!
終わるのは寂しいが楽しみなのゼっ!!

こんばんは。
本日最終回になります。
予定していた10万字ほぼジャストでしたw

では投下しますね


―――――


ボロアパートに一室で、建宮斎字は非常に困っていた。
理由は二つある。


「うーん、なかなか美味しいんだよ。いつわほどじゃないけど、二人とも上手だね!」

「建宮さん助けてください!もう死ぬっす、フライパンが上がらないっす!」

「がんばれ香焼!俺だってもう包丁は握りたくないんだ!」


まず一つ目は、目の前にいる白いシスターが想像を絶するほど食うことだった。
今晩の夕食にと買い込んだ五人分の食材を一人で食べつくそうとしている。
この部屋に来てから2時間程だが、既に食材の残りは危うい。
ガツガツもりもりと美味しそうに食べるその姿に困惑するしかなかった。
料理をずっと作らされている牛深と香焼は泣いている。


「五和ここに向ってるんでしょ? 大丈夫なの?」

「何がよ?」

「だから、五和って一回ネジが飛ぶと……アレでしょ」


そして二つ目は、ここに五和が向っているということだった。
電話口の向こうで異様に平坦な口調で今すぐ行くと告げた彼女。
ちょっとしたホラー体験をした建宮は未だにあの声を思い出すとブルッと背中が震えた。
スイッチの入った五和の恐ろしさを知っている者にとって、彼女がこちらに向っているということ自体がもう恐怖だった。


「ま、まあ死ぬことはないのよ、たぶん……」


インデックスが来てからというもの、地獄絵図と化している室内。
建宮は顔を引きつらせてその様子を見守っていた。
とそこへ


「建宮さんっ! これはどういうことですか!?」

「おお、五和か。ん、女教皇様が何故ここに?」


玄関の方から扉を蹴破るような勢いで、五和と神裂が突入してきた。


「私のことはお気になさらず。それよりこれは一体……」


五和の方は非常に険しい表情で、神裂がそれをなだめすかしながらここまで来たと言った様子だ。
騒がしかった室内に緊張が走る。


「あ、いつわー。どうしたの? とうまは?」


ピリピリした室内の空気に気付いていないのか、インデックスが手をあげて五和ににこやかに微笑む。


「帰りましょう」


五和はインデックスにすたすたと歩み寄ると、その手を取った。
インデックスは引っ張られるように立ち上がる。


「い、いつわ?」

「五和、落ち着きなさい。話を聴いてからでも遅くはないでしょう?」


有無を言わさず立ち去ろうとする五和の前に神裂が立ちはだかる。


「女教皇様……でも、上条さんが心配していますし……」

「待て待て五和、お前さん何か勘違いしてるのよ」

「か、勘違いなんてしてませんっ! 建宮さんがこの子を連れてきたんでしょう?!」

「やっぱりな。だからそれはだな……」

「五和! インデックス!」


五和の二重目蓋が、驚愕に見開かれる。
建宮はまずいことになったと額を押さえて歯噛みする。
こいつに気付かれることを怖れて今まで五和に連絡するのを躊躇っていたのに。
この最悪のタイミングに現れるとは間の悪い。
彼、上条当麻もまた、驚きを顔一杯に表現して部屋の入り口に立ち尽くしていた。


「か、上条さん……」

「とうま……」


ほぼ同時に呟く五和とインデックス。
五和は唇をガクガクと震わせ、今に倒れそうな足取りでそちらを振り返り、一歩後ずさった。
対するインデックスもまた、上条の姿を見ると少しだけ表情を曇らせ、そこで初めて箸を置いたのだった。


「建宮に神裂まで……お前ら何やってんだ?」

「よし、まずはみんな落ち着くのよ。この俺が一つ一つ分かりやすく説明を……」

「嫌……」


収集がつかなくなるとまずいので、建宮が一歩前に躍り出てて冷静な口調で告げるも、
それは五和の震えた声によってかき消された。


「五和、どうしました?」

「嫌……ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさい……」


ブツブツと頭を抱えて呟き続ける五和。
状況が理解できなさすぎてパニックに陥っているようだ。
おまけに最悪の場面を想い人である上条に見られてしまったとあっては無理もない。
心配そうに神裂が彼女の肩に手を伸ばすと、五和はその手を振り切るようにして玄関に向けて駆け出した。


「ごめんなさいっ……!」

「お、おい五和っ!」


上条の横をすり抜けて、叫ぶようにそう告げた五和は暗闇の中に消えていった。
舌打ちをする建宮。状況が全て悪い方に転がっていっている。
このままではここまでの五和の努力と皆の協力が全て水の泡と化してしまう。
それだけは、なんとしても避けなければならなかった。


「上条! まずは謝らせてくれ、すまんかったのよ!」

「建宮……?」


怪訝そうな眼差しを送ってくる上条。
今日まで健気に頑張ってきた五和だけでも守らなくてはならない。
建宮は深々と頭を下げて謝罪の言葉を放った。


「これは茶番なのよ! 『神の右席』が来るってのも嘘だ。お前さんと五和の距離を縮めようと俺が指示して五和を送り込んだ」


一度顔を上げ、真っ直ぐ上条を見据える。
彼は口をポカンと開けてこちらの言葉に聞き入っているようだが、建宮は構わず続ける。


「建宮、お前何言って……」

「『下方のヤミテタ』なんていねえってことよ。
 この嬢ちゃんがここにいることの連絡が遅れたことも謝るのよ。本当にすまなかった。
 俺を殴らなきゃ気が済まないならもちろん殴ってくれてかまわんのよ。
 だが頼む、五和を嫌わないでやってくれ!」

「わ、私からもお願いします!」


建宮の隣に、神裂が立つ。
しかもあろうことか、天草式のトップたる彼女までもが同じように頭を下げた。


「プ、女教皇様! 何をしていますのよな!?」


これにはさすがに驚く建宮とその他一同。
上条はまだ呆然として状況が飲み込めていないようだった。


「事情を与り知らぬ私が言っても誠意が伝わるかどうかは分かりませんが……しかし私は天草式の女教皇として、
 あなたに謝罪しなくてはなりません!
 少なくとも、この子を無断でさらってきたのは明らかにやりすぎだったと思います。
 怒りはごもっともでしょう。しかし、五和の気持ちには一切の嘘偽りが無かったと私が保証します。
 だからどうか、彼女を悪く思わないでやってくれませんか?!」


神裂のその姿を見て、他の天草式の面々も次々と頭を下げる。
ようやく我に返った上条が、ハッとなって口を開いた。


「ちょっと待ってくれ! 上条さんには何を言ってるんだかさっぱり分からねえ!
 お前らがインデックスを連れてきたのか?」

「それは違うよ、とうま、かおり」


今まで黙っていたインデックスが立ち上がり、上条の眼前まで歩いてきて彼の頬を引っ叩いた。
神裂も含めて全員が息を呑んだ。


「とうま、何してるの?」

「え?」

「今とうまがしなくちゃいけないことは何?」


険しい表情のインデックスと見詰め合ったまま微動だにしない上条。
二人の間に、建宮も神裂も、誰も割って入ることができなかった。
彼だけの、彼女らだけの会話。
ここまで共に戦い、日々を過ごしてきた二人にとって、もはや言葉はそれだけで充分なのだろう。
やがて上条は、拳をぐっと握って頷いた。


「悪いインデックス。ありがとな。そうだよ、何やってんだ俺は」


上条はインデックスの頭を一撫ですると、建宮達の方を向いて白い歯を見せて笑った。


「なんだかよく分からないけど、誰も傷ついてないんだからいいじゃねえか。
 だったら五和だけが辛い思いをするなんて間違ってるよな」

「上条お前何言ってんのよ……」

「建宮、お前らっていい奴だよな」


最後にそう言い残して、上条も部屋の外へ飛び出していった。
残された部屋で、誰も何も言えずにその背中を見送った。
しばらく静寂が室内を支配したが、それを破ったのは、妙に大人びた横顔の暴食シスターだった。


「かおり……」

「は、はいっ!」


見た目中学生程度にしか見えないインデックスの口調はどこか重々しく神秘的で、
声を掛けられた神裂はビクリと肩を奮わせた。


「私はね、自分でここに来たんだよ?」

「……え?では建宮、あなた方がこの子をここにさらってきたのでは……?」

「違いますのよ。夕方買出しに出かけたらあいつの寮の前でたまたまこの嬢ちゃんに捕まりましたのよな。
 だーれも聞く耳持たねえんだから」


肩をすくめてため息をつく。
神裂はその言葉に、インデックスのどこか遠くを見るような横顔を見つめた。
こんなに大人びた表情をする子だっただろうかと、神裂は切なげに目を細める。


「ではどうしてあなたはここに? 五和とは仲良くやれていたのでしょう?」

「うん。いつわは好きだよ。ご飯は美味しいし、私にもすごく優しくしてくれる。
 でもね……」


一度だけインデックスは言葉を区切った。
喉の奥にある感情を、吐き出すべきか迷っているかのような間。
神裂は彼女の前に立ち、膝を曲げて同じ目線で視線を合わせた。
同僚として、守るべきものとして、彼女という人間の感情を受け止めてやるために。


「……いつわはとうまが好きなんだよ。とうまもいつわが好きなんだよ。
 私は……そんなに空気の読めない子じゃないんだよ……!」


インデックスは泣いていた。
そして建宮も神裂も、そのとき悟ったのだった。
彼女もまた、上条当麻のことが好きだった。
それは恋愛感情などではなく、もっと根源的な感情。
ただ彼のことが好きだったのだ
しかし彼女は女として、上条と五和の仲睦まじい姿を見ることが辛かったのだろう。
互いを思いあっているのがバレバレなのに、それが自分がいることによってお互いの気持ちを伝え合えないのではないだろうかと、
インデックスは勘繰ってしまったのだ。
神裂は、何も言わずインデックスを抱きしめた。
小さな体が、寂しさと行き場の無い想いで震えている。
強く強く、神裂は抱きしめる。
建宮は少女の慟哭を前に言葉を放つことができなかった。
どうやらここにも、救われぬものがいたらしい。


―――――


五和は天草式の隠れ家を飛び出して、昼間上条とデートをした河川敷まで走ってきていた。
肩で息をし、疲れた体を投げ出すように土手に腰を下ろす。
逃げてきてしまった。
上条の怪訝な眼差しと、場の空気に耐えられなかったのだ。


(……どうしよう、もう戻れないな……)


彼との仲ももう終わりかと思うと涙が溢れてくる。
彼におしぼりを渡して会話のきっかけを掴もうとした日々も。
彼の好きそうなものを調べて料理の練習に気合を入れたあの日々も。
もう今日でお終い。
土手の上で膝を抱えて俯く。
涙が大地に零れ落ちていく。
顔をくしゃくしゃにして、五和は声をあげて泣いた。


(……とにかく謝らないと……)


止め処ない涙を零しながら、五和は逃げてきてしまったことを後悔した。
何にせよこのままロンドンに戻るわけには行かない。
自分が学園都市にいることの全てが嘘によるものだということはバレてしまっただろうが、
それに対してきっちりケジメをつけなければならない。
泣いて少しだけ落ち着いた五和は、また心配をかけてしまったなと鼻をすすって顔をあげる。
ふと、背後でカサリと草が揺れる音と共に人の気配を感じた。
まさか彼が追いかけてくれたのかと淡い期待を胸に振り返る五和。


「お姉さん、こんなとこで何してるのー?」

「泣いてるんだったら俺たちが慰めてやるよ」


そこに立っていたのは彼などではなかった。
いかにもガラの悪そうな男たちが4人、五和を取り囲むように、ニタニタと笑みを浮かべて距離を詰めてくる。
だが特に危険だとは思わなかった。
五和はこれでも一応アックアと真正面から一戦交えて生き残っている女だ。
仮に相手が能力者だろうと、戦って引けをとることはない。
五和は頭を切り替え、立ち上がって戦闘体制をとろうとしたところで、気がついた。


(武器が無い……)


愛用の海軍用船上槍は上条の部屋に置いてきてしまった。
普段は忘れることなど絶対に無いのに、こんなときに限って。
歯噛みする五和。
下卑た笑みを浮かべる金髪の男が五和の手首を掴んだ。


「離してください!」

「こんな時間にゃ誰も来ねぇから声出しても無駄だぜ?」

「おー、結構可愛いじゃん。大人しくしてりゃ痛くはしねえから大丈夫だよ」

「誰かッ!」

「うるせぇ!静かにしろ!」


男たちに取り囲まれて声をあげる五和。
嘘なんてついたから罰が当たったのかもしれないと、五和が唇を強く噛んで上条を心の中に思い浮かべたそのときだった。
土手の上に、白いワンボックスカーが止まった。
フルスモークのガラスにやけに煤けた車体。
仲間が来たのだろうか。今からあそこに連れ込まれて何をされるのかと、五和の顔から血の気が引いた。
ゆっくりと開いていくパワーウィンドウ。
そこからぬっと伸びて来た腕は、か細い女のものであるように見えた。
男たちが振り返る。
次の瞬間、辺りを眩い閃光が襲ったのだった。


―――――


御坂美琴は、結局また河川敷に戻ってきていた。
上条との思い出があるこの場所に、もう少しだけ留まっていたかったのだ。
暗闇に包まれた人気の無い川沿いに座り、水面を見つめながら何度もため息をつく。


(はぁ……帰りたくないなぁ……)


部屋に戻ったら、ルームメイトの白井黒子に赤く腫れ上がった目蓋について何と言われるだろう。
もうとっくに寮の門限は過ぎているし、寮監に怒られて泣いてしまったことにでもしようか。
御坂がどうせ遅くなっているのだから、気の済むまでここに居ようと夜空に輝く三日月を見上げた時だ。
背後に人の気配がした。


「お姉様、ここに戻っておられましたのね」

「黒子……」


音も無く、白井黒子が背後に立っていた。
口元に笑みを浮かべて、ゆっくりと歩いてきて御坂の隣に腰を下ろす。


「どうなさいまして? もうとっくに門限は過ぎていましてよ?」

「……あんたこそ帰らないと、寮監に首折られるわよ。つっても、もう遅いか」


顔を見られないように、御坂は彼女とは逆方向に視線をやりながら力なく笑った。


「お姉様と一緒に叱られるのも悪くないと思いましたの。
 んもっともぉ、お姉様がここで黒子に非情なる折檻をしてくださっても構いませんのよぉん、あはぁ」


うにうにとツインテールを蠢かせながら、白井が擦り寄っておどけてくる。
いつも通りのふざけたスキンシップ。
だが御坂はフッと力を抜くように微笑むと、ようやく彼女に真っ直ぐな視線を向けることができた。


「ありがと、黒子」

「お姉様……?」


頭を優しく撫でてやり、表情を綻ばせる御坂。
彼女が何故ここにいるのか、御坂にはもう分かりきっていた。


「あんた、私を元気付けに来てくれたんでしょ?」

「何のことか分かりませんわね」

「夕方、あんた私を後ろから見てたじゃない」

「ぎくっ。さ、さぁ何のことかしら」

「知ってるでしょ。私の体からは常に微弱な電磁波が出てるの、電柱程度の遮蔽物に隠れたって、私には全部見えてるんだから」


御坂は分かっていた。
白井が自分を見ていることなんて、最初からずっと知っていた。
だけど、泣いている顔を後輩に見られたくなんてなかった。
あのまま気付かぬフリをしておけば、寮に帰っていつも通りの笑顔で自分を迎え入れてくれると分かっていたから。
だが御坂には、そんな白井の優しさが痛かった。
慰めは、自分が失恋したことを突きつけられることに他ならない。
部屋に戻らなかったのはそういった理由もあった。


「それにあんた今『戻っておられましたの』って言ったよ。どうして私がここに来てたこと知ってるのかな」

「うう……認めますの」


降参と言った様子で諸手を挙げ、白井がため息をつく。


「けどお姉様、このままでよろしいんですの?」

「は?」

「このままではあの女性に上条さんを持っていかれてしまいますの」

「駄目よ……あいつはもう、あの子のこと好きなんだもん……あんなに幸せそうにしてたんだもん……」

イツワ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!


油断をすると、また涙が零れそうだった。
不良に絡まれている自分を助けようとしてくれたあの日から、
罰ゲームと称して行ったほんの短い時間のデートも、
自販機を壊して逃げ回ったあの時も、
そしてこの河川敷で喧嘩をしたあの日も。
ずっとずっと、心の宝箱の中に大事に閉まってきた思い出だ。
たかだか数時間で、そんなこの半年間の全てを忘れ去ることなんて出来るわけがない。
彼と過ごしたかけがえの無い時間を、割り切ることなんて出来ない。


「戦わずして逃げるなんて、お姉様らしくもない」

「逃げるって……別にそんなんじゃ……」


呆れたようにため息をつく白井に、口の中で小さくぼやく御坂。
白井は構わず続ける。


「お姉様はまだ上条さんに想いを伝えてらっしゃらないのでしょう?
 何もしないうちから諦めるなんて、とんだ臆病者ですわね。毛虫、いえナメクジですわ。
 ジメっとした軒下でキノコでも育てていればよろしいのに」


口調こそ丁寧だが、白井の言葉にはこちらへの挑発の意思が見て取れる。
こういう売り言葉に割と弱い人種である御坂は、カッとなって反論を口にした。


「なっ……! 何であんたにそこまで言われなくちゃいけないのよ!
 私だって必死に考えて結論出したのよ! 今になって思えば、あいつに全然優しく接してないもん……。
 そんな私なんかより、ああいう控えめで大人しい子を誰だって好きになるわよ!」

「だからどうしましたの?」

「……え?」


鋭い視線を浴びせかけてくる白井。
御坂は思わずたじろいだ。あのいつもお姉様お姉様と猫撫で声でじゃれてきた白井が、こちらに明確な敵意を向けている。
彼女の目を、御坂は真っ直ぐに見ることができなかった。


「何をおっしゃってますの? 確かに上条さんの好意は今、あの女性へ向いているのかも知れません。
 ですが、どうしてそこで諦めるという考えに至るのかが、わたくしには分かりかねます」

「い、いやだって普通両思いの二人がいたらそこに割って入ろうなんて思わないでしょ」


うろたえる御坂の言葉に、白井は不敵な笑みを浮かべて御坂の唇に人差し指を押し当てた。


「略奪愛こそ、女の華ですの。殿方に従順な女性など面白みに欠けていましてよ。
 仮に今、上条さんと例の女性が恋人関係になったとしても、後でそれを奪って差し上げればよろしいではありませんか」

「なっなななな!」


妖艶な笑みを浮かべる白井に、御坂は言葉が出なかった。


「お姉様、諦めたらそこで試合は終了でしてよ?
 恋は戦争。幸い、お姉様はこれからお胸ももっと大きくなって、お顔も今以上にお美しくなることは、
 お母様が証明してくださってますの。
 いいですこと? お姉様が後々勝機を得るために、ここで上条さんのお心に楔を打ち込んでおく必要がありますの」

「く、くさび……?」

「はい。お姉様が上条さんに一度気持ちを伝えておくべきですの。
 そうすると、例の女性との関係がマンネリ化してきたときに、ふと思い出すはず。
 『あれ?そういや御坂の奴、俺のこと好きとか言ってたよな。一回連絡とってみっか』
 とこうなります」

「……そんな男もどうなのよ」


口元を引きつらせる御坂を制し、白井はなおも言葉を続ける。


「まあお聞きになって。
 そのとき上条さんの前に現れるのは、控えめなお胸の電撃中学生ではなく、
 お美しく成長し、スタイルも抜群になられたお姉様。
 上条さんは一瞬にして、それこそ雷に打たれたような恋に落ちるはずですの」

「黒子……」

「そこで慎ましくおしとやかに、お姉様はおっしゃいます。
 『私は今も上条さんのことをお慕い申し上げております』と」

「……」

「これでもう上条さんはお姉様の虜。あとは煮るなり焼くなりご自由にという感じですわ。
 もちろんあの女性との修羅場は訪れるやもしれませんが、既に上条さんを手に入れたお姉様にとって、
 まぁそこはどうにでもなりますの」

「……」

「いかが? 非の打ち所の無いこの長期に渡る略奪計画。ぜひお試しあそばせ」


得意げに語っている白井。
御坂はいつしか俯き、拳を握って体全体をプルプルと震わせていた。


「……くっ」


やがて口からこぼれ出る言葉。それを聞き逃さなかった白井が、怪訝な顔で御坂の顔を覗きこむ。


「く? お姉様?」

「くっくくくっ……ぷはっああははははははははははははははははははははっっ!
 もう駄目! もう駄目! ひー、おかしっ!お慕い申し上げ! あはははははははは!
 誰それ! 私! 私がっ! あははははははははは!! ひぃいい! お腹痛いっ!」


ダムが決壊するように笑い転げる御坂。
先ほどまでの陰鬱な表情はどこへやら。御坂はお腹を抱えて大口を開けて笑い声をあげた。
目を真っ白にして恐る恐るそれに触れる白井。しかし、御坂の笑いは止まらない。

綺麗な黒子だww


「お、お姉様、壊れてしまいましたの? 気をしっかり持ってくださいまし!」

「違うっつの! あんたがっ! あんたがあんまり面白いこと言うもんだからっ! あっはははは!」

「ギャグではありませんの! 黒子は大真面目ですの!」

「真面目でそれって! そんなやついないわよっ! ひぃい! あはははははっ!苦しい!お腹苦しいっ!」


頬を膨らませて腕をぶるんぶるん振るう白井と、ツボに入ったままの御坂。
その笑い声は、しばしの間河川敷に木霊した。


「あーっ、笑った笑った。おっかしーのもう」

「ふんっ、お姉様なんてもう知りませんの!」

「拗ねない拗ねない。ありがと黒子、元気出たよ」

「ですからお姉様、わたくしは大真面目にっ……!」


こちらを向いた白井の言葉が詰まる。
彼女を見つめる御坂の瞳は、先ほどまでとは違い、前に進もうとする意思に満ち溢れていたから。
心の中で鬱屈していた感情を笑い声に乗せて吹き飛ばし、御坂は一つのことを決意した。
白井の頭を撫でながら、御坂は微笑み告げる。


「あんたの言うとおりね、黒子」

「お姉様……?」

「勝負しないうちから負けてるようじゃ駄目よ。
 私、ちゃんとあいつに告白するっ!」


力強い言葉だった。
白井の頬が赤く染まり、瞳は大きく見開かれる。


「正直ちょっと勝率は低いけどさ……でも、戦わなきゃ。
 私はあいつから、それを教わったんだから」


御坂の初恋は終わったかに見えた。
だが、彼女は這い上がる。
学園都市の第三位は、努力の人だから。
諦めず、諦めず。血を吐き、涙を流しながら上り詰めた、諦めを拒絶する人だから。
だから彼女は、上条当麻にもう一度だけ挑む。
例え勝機が1パーセントに満たなくとも。
彼女は、挑まなかったことを悔やみたくは無かったのだ。


「それでこそ、わたくしのお姉様ですわ」

「よし、早速あいつのとこに行くわよ!」

「い、今からですの? 別に明日でも……」

「駄目駄目! こういうのは勢いが肝心なんだから! さあ出発!」

「いえ、ですから時間も時間ですし……あら?」


勢いが付きすぎた御坂を引き気味にたしなめる白井が、ふと何かに気がついたように70mほど離れた道路沿いの土手に視線を送った。
御坂もつられてそちらを見る。
暗くてよく見えなかったが、何やら人影がもめているように見える。


「黒子、あれって……」

「ええ、どうやらそのようですわね。あのテの輩はどこへ行っても湧いてきますの」


一人の女性が、四人の男に絡まれているようだった。
そしてその女性は、上条と一緒にいたはずの彼女だ。
顔を見合わせ、頷く御坂と白井。
そちらに向って白井が転移能力を使おうとしたそのとき、道路を走ってきたワンボックスカーが急ブレーキをかけて止まる。
まずい、拉致されると追跡が困難だと御坂が歯噛みする。
超電磁砲を撃ちたいが、もみ合いになっているためあの女に当たってしまうかもしれない。
車の後部座席の窓から、何者かが手を伸ばす。
御坂の背中を、ゾワリとした悪寒が走った次の瞬間。
夜空を青く照らす無数の閃光が土手に降り注いだ。
まるで打ち上げ花火を空から地面に向けて放つように、何発も何発も。
土を抉り、土手の地形が変わるのではというほどの閃光の雨は、絶妙に人間をかわして降り注ぐ。
ギャーギャーと悲鳴をあげる男たちの声が聴こえる。
五和という少女は、呆然としてその光景に見入っているようだった。


(あれ……どっかで見たような……)


御坂には、その光にどこかで見た覚えがあった。
全てを貫く荷電粒子の槍。
青白いその輝きは、かつて自分を追い詰めたものではないだろうか。


「わたくしたちの出る幕は無さそうですわね……」


男たちはなりふり構わず逃げていったようだった。
肩をすくめる白井。
何事も無かったかのように去っていくワンボックスカーの姿を見て、御坂も首を傾げるのだった。


―――――


五和はボロボロになった大地の上に立ち尽くしていた。
空中高くから、青白い閃光の爆撃を受けたことは覚えている。
しかし、それが一体誰の手によるものなのかは分からない。


(もしかして……昼の……)


ワンボックスカーから手を伸ばした女。
昼の麦野という人物だったのかもしれない。借りは必ず返すと言っていたし。
しかし、それを確かめる手段はもうない。ワンボックスカーはいつの間にかどこかへ走り去ってしまっていたし、
超能力に関して五和は大した知識も持たないからだ。


(お礼、言いたかったな……)


顔くらい見せてくれればよかったのにと思いつつも、その潔さがかっこいいなと思うのだった。
空を見上げると、輝く三日月が仄かに大地を照らしている。
夜の少し冷たい風と、静謐な空気を感じて、五和は深呼吸をした。
なんとか落ち着いてきた。
彼の元に戻ろうと、五和が踵を返そうとしたそのとき。


「五和っ! 大丈夫か!」


彼、上条当麻の声が聴こえた。
振り返ると、肩で息をした彼が立っている。
よくここにいると分かったものだ。五和は土手の上に立つ彼を真っ直ぐに見上げた。

キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!


「上条さん……どうして私がここにいるって分かったんですか?」

「いや、ここで花火みたいな光が見えたからもしかしてって。。
 それに五和は何となくここが気に入ってたみたいだしな」


麦野という女性は図らずも彼に居場所まで知らせてくれたようだ。


「上条さん……ごめんなさい、私、上条さんのこと騙してたんです」


哀しげに笑う五和。
だが、上条はそれがどうしたとでも言いたげにこちらの傍まで降りてくると、五和の肩や腕についた土を払ってくれた。


「ああ、聞いたよ。別に怒ってない。むしろ五和に会うきっかけになったんだから感謝してるくらいだ」

「え……?」


優しく微笑む彼に、五和の鼓動はまたも速度をあげていく。
彼が傍にいるだけで、どうしようもないほどに胸が苦しみを訴える。


「五和がここに来てくれなきゃ、今日みたいに……あー……デートも出来なかったしな」

「上条さん……」


瞳が潤む。彼の優しい言葉に、心も体も全て明け渡したい。
二人の言葉は途切れ、呼吸の音さえ聴こえる静寂の中で見つめあった。


「さっき、言おうとした言葉なんだけどさ……」

「は、はい……」


先ほどと同じ場所でもう一度仕切りなおす。
だが五和の心に、何かが引っかかっていた。
このまま彼の言葉を待っているだけでいいのだろうか。
自分がここに来た目的は、本当に彼からその言葉を引き出すことだったんだろうか。
五和も疑問は、彼の真っ直ぐな瞳を前に消えていくかに見えた。
しかし


「ちょっと待ったぁっ!」


もう幾度目か分からないほどの、邪魔が入る。
これが彼という人間の天命なのだろう。
振り返った先には、腕を組み、仁王立ちする一人の少女の姿があった。
一昨日、下校途中の彼の前に現れた少女。アックア戦の前、入浴施設で出会った少女。
御坂美琴が鋭い眼差しで立っていた。


「御坂、何やってんだ?」

「……上条当麻ぁっ! あんたに言いたいことがあって来たの!」

「な、なんだよ。勝負は今日はしないぞ」


そのあまりの勢いに気圧される上条。
五和は嫌な予感がした。
嫌な予感?違う。
自分は怖れているだけなんだ。
彼女がこれから何をしようとしているか分かっているから、その結末を見るのが怖い。
爪が食い込むほど拳を握り、五和は俯く。


「そんなもん、どうだっていい!」

「は?」


頬が赤いのがこちらからでも分かる。
五和は唇をギュッと噛む。すぐに血の味が口内に広がった。
やがて御坂は大きく息を吸い込み、河川敷一体全てに聴こえるんじゃないかというほどの大声で、宣言した。


「当麻ぁっ! あんたが好き! 死ぬほど好きなのっ!」


唇の皮が破れる。爪が掌に突き刺さる。醜い嫉妬が湧いてくる。
彼に、そんなことを言わないでほしい。
彼を、どうか迷わせないでほしい。
五和は、そして何より己が憎かった。
素直な気持ちを高らかに告げる彼女をこうして見ていることしかできない。
彼からの言葉を、待つことしかできない。
控えめでおしとやかを言い訳に、自分の言葉が拒絶されることを怖れて彼に最後の一歩を踏み込めない。
そんな自分を殺したい。


「……御坂……」

「これが私の気持ちよっ! 上条当麻っ! 
 あんたはいつだって私を受け止めてくれたじゃない! 嫌な顔せず私に付き合ってくれたじゃない!
 これからは受け止めなくたっていい! 嫌なら嫌って言っていい! 私はあんたの嫌がることはもうしないっ!
 だからっ!」


魂で語りかけるような咆哮。
およそ女の告白とは思えない絶叫。なのに五和は、その声に心が震えた。
上条は呆気にとられている。否、聞き入っている。
そして御坂はもう一度息を吸い込み、彼に願う。
ただ、その一言を。


「だから私と、私と付き合いなさいっ! 私の彼氏になりなさい! これが最後でいいから、私を受け止めてよ!」


心をぶちまけるような激しい叫び。
上条の手もまた震えていた。
心を揺らがされる。彼女の幼くも全力の告白に、上条は返す言葉を失っているようだった。
五和の背中を押したのは、上条の息を呑む横顔を、御坂の悲鳴にも似たその言葉だった。


「上条さんっ!」


ビクリと肩を震わせてこちらを見る上条。
彼の目は驚きに見開かれている。
五和は心臓が弾け飛びそうな脈動を、血管が破れるような圧力を全身で感じながら、彼の瞳を真っ直ぐに捉えた。
覚悟は今、決まった。
奇しくも御坂の言葉によって。
そうだ。彼はいつだって私を思いやってくれた。
私に素敵な笑顔を向けてくれた。
そんな彼が、好きなんだ。
言葉に出さずには、もういられない。
想いを伝えずには、帰れない。
恐ろしかったはずのその最後の一歩は、いとも簡単に踏み出すことができた。


「五和?」

「私だって! 私だって上条さんが好きですっ!」

「!」


言った。とうとう言った。
体が熱い。顔が熱い。その熱さに比例するように、言葉が次々と溢れてくる。


「もっともっと上条さんに愛されたい! 上条さんに好きだって言ってもらいたい!
 初めてあなたにあったあの日から……言葉を交わしたあの日から……。
 あなたの気持ちを自分だけのものにしたいってずっと思ってたんですっ!
 他の誰にだって渡したくない! あの子にも、女教皇様にも、そして御坂さんにも!
 いけない子だって、ずるい子だって、思われたって構わないっ!
 だからお願いです! 上条さんっ!」


彼に求められるのを待つのではなく。
彼を求めて、その手を掴み取りたい。
彼の心を、この手で奪い上げる。
初めてお絞りを渡したあの時からそのために、私は彼に戦いを挑んでいたのだから。
故に、腹の底から、心の底から。
五和もまた彼に願うのだ。


「私とお付き合いしてくださいッ! 私を彼女にしてくださいっ!」


彼から視線は決して逸らさない。
真っ直ぐに彼を見据える。
上条は呆然となっていた。
一度に二人の女の子から吼えるような告白を受ければそうなるのも無理は無い。
だがこの告白のどちらかをとるか、あるいはどちらもとらないかを選ばなくてはならない。
拳を握って考えている様子の彼。

そして数瞬。
彼はこちらに背を向け、御坂へと言葉を投げかける。


「御坂……俺、お前がそんな風に思ってくれてるなんて気付けなかった。
 正直お前は俺のこと嫌ってんじゃねえのかって思ってたし、もちろん最近はそんなことは無かったけど、
 気の合う友達だと思ってくれてんだと思ってた」


真剣な口調で語る上条。
五和はその言葉をただ何も言えずに聞いていた。
御坂もそのようだ。
彼女の手は震えている。五和の手も震えている。
今二人の気持ちはまるで同じ。
この恋の決着を聞くのが、ただただ恐ろしくて、途方も無く長い時間のように思えた。


「だから、お前の気持ちすげえ嬉しいよ、ありがとうな。御坂……」

「……うん」


微笑んで、御坂に礼を言う上条。
気恥ずかしそうに頷く御坂との二人の間に、信頼関係が見て取れる。
五和の胸が強く締め付けられた。
こうしても見ていても、二人はお似合いだ。自分なんかよりもよっぽど。
だが、五和はもう、そんな風に自分に言い訳をして逃げるのを辞めた。
怖気づく心を必死で鼓舞して、彼の告げる結末を待つ。


「でも、ごめん……」

「……」


五和は俯く。
御坂はその答えに、あまり驚いてはいないようだった。
覚悟を決めてここにやってきたのだろう。
彼の出した答えを、受け入れることを拒まなかった。
強い人だなと、五和は自分より年下の御坂の毅然とした姿に尊敬の念すら覚えた。
自分とはあまりに違う、眩しいほどの強さ。
だから五和は、


「……ごめん、御坂。俺……五和が好きなんだ」


彼が発したその言葉を聞き逃す。
ハッとなって顔をあげる五和。
今彼は、何と言ったのだろうか。
ふと見ると、目の前で彼はこちらに向って笑っていた。
ドクドクと、血流が速度を上げて全身を駆け巡る。


「五和。俺もお前が好きだ。俺と、付き合ってくれないか?」


目を大きく見開いて、五和は呼吸を止めた。
息を吐いたら、体の奥深くまで浸透してきたその言葉も一緒に吐き出されそうで。
五和はずっと望んでいたはずの言葉にまるで現実感を感じなかった。


「……はい……」


囁くように、小さく頷く。
同時に胸の奥底から、喜びと輝きが溢れてくる。


「はいっ! はいっ! わ、私でいいなら! お願いします!」


そして五和はもう一度、何度も確認するように頷いた。
ポリポリと頬をかきながら、上条は照れくさそうに笑った。


「ははは……こちらこそ。本当は俺から言おうと思ってたんだけどな、先に言われちまった」


彼が、自分を、好きだと言ってくれた。
彼と、自分が、恋人同士になれた。
嬉しい。嬉しい。
五和は知らず知らずのうちに両目から涙を零していた。
溢れ出てくる感情を止められない。彼が好きだという気持ちが止まらない。

イツワヤッタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!


「……嬉しい……嬉しいですっ!上条さん……大好きです!」


顔を手で覆い、五和は膝から崩れ落ちた。
もう涙は止めない。止める必要は無い。


「あーあっ!もう、見せ付けてくれるわねぇ」


御坂の声に、五和は顔をあげて彼女を見上げる。
快活な少女の顔がそこにあった。
口元には不敵な笑みを滲ませて、五和と上条を真っ直ぐに見据えて腕を組んでいる。


「……御坂、ごめんな……」

「何謝ってんのよ。一人の男に恋をした女が二人いたの。
 そしてどちらか一人を男が選んだ。それだけのことでしょ。……それだけのことよ」


こちらに背を向け、御坂は言った。
最後にその声は、ほんの少しだけ震えていたように聴こえた。


「私を選ばなかったんだから、その子のこと、大切にしなさいよ!」

「……ああ、約束する!」

「ふんっ。……黒子、帰るわよ」

「はいですの。お姉様」


御坂が呼びかけると、どこからともなくツインテールの少女が御坂の傍らに現れた。


「また勝負するわよ、当麻!」

「え?」

「あんたに電撃ぶちかますのは私の趣味なの! 悪い!?」

「……ああ、いつでも来いよ!」

「覚悟しときなさい、んじゃまたね!」


もう一度こちらを振り返り、御坂は少女と共にいずこかへと姿を消した。
二人残された河川敷。
再び静寂が訪れる。
秋の夜風は冷たいはずなのに、五和の体は火照り、暑くて仕方がなかった。


「五和。これからよろしくな」


膝から崩れていた五和に手を差し伸べる上条。
五和はその手を取って立ち上がった。


「あの……本当に、私でいいんですよね……?」

「何言ってんだよ。当たり前だろ」

「で、でも私は上条さんに嘘を……!」

「それはもう良いって」


苦笑して、上条は五和の頭を撫でる。
いっぱい色々なことを話したいのに、混乱して何を話せばいいのかが分からない。


「で、では私っ! がんばりますからっ! 上条さんのために、いっぱいいっぱい色んな事しますからっ!」

「いいんだよ、五和。そんなにがんばらなくたって」

「え……でも」

「俺と五和は恋人同士なんだからさ。そのままの五和でいいんだよ」


その言葉に、五和は彼から目を離すことが出来なくなった。
恋人同士。
いつから毎夜思い描いていた関係。今自分はその関係になれたんだ。
五和は胸元に手を当て、微笑む。彼のくれた言葉を、大事に大事に抱えるように。


「ところで五和。上条さん初彼女なので…こういうときってさ。恋人って具体的に何すんだ?」


困ったように彼が問いかけてくる。


「さ、さぁ…」


恋人というものに漠然としたイメージを抱いてはいたものの、実際今まで恋人がいたことのない五和は
いざ今から恋人関係スタートと言われても何をすればいいか分からない。
それはきっと彼もそうなのだろう。
二人して頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。


「ぷっ……くくく!」

「ふ……ふふふふ」


見つめあい、妙な沈黙に二人ほぼ同時に吹き出した。


「「くっ!あはははははははは!」」


そして二人でお腹を抱えて笑う。
あんなに彼と恋人になりたかったのに、次の瞬間何をすればいいかが思いつかない。
それがたまらなく可笑しかった。
だが、それもいいなと五和は思う。
こうして二人で笑顔を向けあうことができただけで、今は充分だ。
これから先、いつまでも彼と恋人でいられるのだから。


「あ、上条さん」


そのとき、五和は一つだけ彼にどうしてもしたいことを思いついてしまった。
恋人であることを具体的に証明する上で、もっとも手っ取り早く、そしてもっとも基本的なその方法。


「ん?……え?」


上条の顔に、自らの顔を近づける。


「恋人なんだから……いいですよね」


瞳を閉じて、唇を彼のそれに重ねる。
五和はようやく、己が彼の恋人であることを理解したのだった。

(・∀・)イツワ!!


―――――


三十分後、上条は河川敷で五和に濃厚なキスを迫られそれをたっぷりと堪能した後、
自分の学生寮に戻ってきた。
手を繋ぎ、幸せそうな表情で五和が隣を歩いている。
天草式の連中には既に連絡を入れておいた。
聞けば、インデックスは神裂がわざわざ学生寮まで送っていってくれたようなので、今頃部屋にいるはずだ。


「なんかすげぇ一日だった……」

「そうですね。あの子にも謝らないと……」


エレベータを降りた上条は廊下を五和と寄り添い歩く。
部屋の前まで辿り着くと、何やら室内が騒がしいようだ。
ドアノブと握ると鍵も開いている。
上条は五和と顔を見合わせ、部屋の中に入った。


「で、ですから……あなたが何も出て行くことはないと……!」

「いいんだよかおり。そうしたほうがいいんだから」


リビングでは、インデックスと神裂が揉めているようだった。
慌てて傍に駆け寄る上条。


「どうしたんだ、神裂?」

「ああ、二人ともお帰りなさい……。それがこの子が出て行くと言い出して……」

「はぁ? 何言ってんだ?」


インデックスはスフィンクスを胸に抱いてベッドの上に座っていた。
傍らには下着や日用品を詰め込んであるらしいスーパーのビニール袋が置いてあった。


「そのまんまの意味なんだよ。
 いつわとせっかく付き合うことができたのに、私がいると邪魔になるから出て行くんだよ」

「インデックスお前な。出て行ってどこ行くんだよ……」


呆れてため息をつく。
猫とスーパーの袋を抱えて家出とは。
もはや微笑ましくすらある家出スタイルだが、インデックスの顔は真剣そのもの。
いや、どちらかと言えば拗ねているように見えた。


「こもえやあいさにしばらく泊めてもらうもん……」


頬を膨らませて顔を逸らすインデックス。
どう説得しようかと上条が迷っていると、隣に五和が立って膝を曲げ、インデックスに語りかけた。


「そんな悲しいこと言わないでください。上条さんにはあなたが必要です。
 私は学園都市に住むということは出来ないですし、彼の傍にいてあげてくれませんか?」


諭すような笑顔でそう告げる。
ぷいっと横を向いていた彼女はチラリと五和に視線を返した。


「……だって、私がいると二人はいちゃいちゃできないんだよ」

「イ、インデックスっ! お前らしくない気遣いするんじゃねえ!」

「私らしくないとはご挨拶かも! 私だって女の子なんだから、いつわの気持ちだって分かるんだよ!」


上条は恥ずかしくなって顔を赤くしてインデックスに詰め寄る。
慌てて二人の間に割って入る神裂。


「お、落ち着きなさい。あなたはここにいることが嫌になったというわけじゃないのでしょう?」

「……嫌じゃないけど……」


インデックスが言いにくそうにぼやいた。
五和はくすりと笑みをこぼす。


「だったら、ここに居て良いんですよ。私に気兼ねなんかするほうがおかしいです。
 せっかくお掃除もお洗濯も出来るようになったんですから、彼を支えてあげてください」

「私が……とうまを?」


インデックスの表情に少しの変化があった。
五和を見上げてパチパチと瞬きをする。


「はい。あなたが、上条さんをです。ね、上条さん?」


微笑む五和がウィンクをしてこちらに話を振る。
今まで黙って聞いていた上条は、彼女の言葉にコクコクと頷いた。


「そうだぞインデックス。お前が居てくれないと俺は寂しくて死んじまうってもんだ。
 お前はうちの居候って決まってんだから、堂々と居候してりゃいいんだよ」

「と、とうま……ほんとに? ほんとにいいの?」


恐る恐る尋ねてくるインデックス。
上条は笑顔を浮かべてもう一度大きく頷き、彼女の頭を撫でてやった。


「当たり前だろ。今更何言ってんだかな。
 だいたい何が私がいると二人はいちゃいちゃ出来ないだよ。いちゃいちゃの意味分かってんのか?
 ははっ、まあインデックスはまだまだお子様だからな、気遣いはありがたいけど説得力はないなー。
 まあ上条さんくらい大人になればそんなインデックスの余計な気遣いも微笑ましく……」

「……」

アチャー


「上条さん上条さん、そ、そのくらいで……」

「え、何が……お、おいインデックス。何で獲物を狙うライオンのような姿勢になってらっしゃるんですか……?」


五和にぽんぽんと肩を叩かれインデックスを見ると、彼女は牙をむいて前傾姿勢になり、今にも飛び掛ってこんばかりの
ギラついた殺気をこちらに向けて放っていた。


「ま、待てインデックス! 落ち着け! か、神裂、インデックスを止めてくれ!」

「申し訳ありませんが、私はこの子の側に付きます。今のはどう考えてもあなたが悪いですし」

「なにぃ! じゃあ五和!」

「えっと……その……」

「まさかの裏切り! イ、インデックス! やめろっ!」

「問答無用なんだよっ!」

「ギャァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアッッッ!!不幸だぁぁぁ―――――ッ!!!」


上条が最後に見たのは、大きく口を開けたインデックスが軽やかに宙を舞い喉笛を噛み千切ろうと
突進してくる姿だった。


―――――


30分後、上条が意識を取り戻したため、神裂は今日のところは退散することにした。
これから五和達は汗や泥で体が汚れてしまったので皆で入浴施設に向うらしい。
神裂もどうかと誘われたが、遊びに来たわけではないし、3人の仲直りも兼ねたイベントでもあるので
今回は辞退した。


「それでは、私は天草式の隠れ家の方に泊めてもらいますので、ここで。
 五和、また明日空港で会いましょう」

「はい女教皇様(プリエステス)。今回は色々とご迷惑をおかけして……」


寮の前、道が逆方向ということで3人とはここで別れることとなった。
五和も含めた天草式は、明日にはロンドンに帰国することになっている。
学園都市内に魔術師の集団が長期間滞在するのはよろしくないし、一先ずの目的を彼女は果たしたためだ。
申し訳なさそうに謝ってくる五和を慌てて神裂は制する。
自分だって野次馬に来たようなものなので、人のことを責めることなどできない。


「確かに神裂には迷惑かけたよな、ごめんな」

「気にしないでください。それより五和、実はあなたに渡すものがあるのです」

「え?」


背負ったズタ袋の中から、神裂は厳重に布やお札で覆われ封をされた紙の箱を取り出した。
大きさは30センチ四方程度。
五和はそれを受け取ると、意外と軽かったことに首を傾げてこちらを見上げた。


「これは何ですか? 随分と厳重な封印が……ま、まさか何か重要な霊装が!?」


ギクリと神裂は肩を跳ね上げた。
五和と上条が二人で帰ってきたとき、神裂はすぐに一つのことを思いついていた。
苦い思い出の有る『例のアイテム』。平たく言うと堕天使エロメイド。
これを餞別と祝いの品ということで彼女に押し付けようという作戦だった。
もう自分には必要の無いものだし、はっきり言って身の回りに置いておきたくない。
部屋に帰ればまだ堕天使メイドもあるが、一先ずはこいつの処分が先だ。
私にそんな貴重なものをと感動している五和の様子に、チクチク胸が痛む神裂。


「ま、まあそんなところです。来るべき時が来たら開けるとよいでしょう……」

「ありがとうございます! これでまた敵が攻めてきても戦えますっ!」

「い、いえ戦いに使うものではないのですよ……」

「え? ではこれは一体……。ということは何か補助的な効果のあるアイテムなんですねっ!?
 すごい……どんな効果があるんでしょう……」


無駄に期待を膨らませてくれている五和に、神裂は一刻も早くここから立ち去りたかった。


「かおり、これ本当に何かの霊装なの? なんだか魔術的な気配が全ぜ……むぐっ!もがもが!」

「あ、あははは。魔術的な気配を絶つ特殊な封印を施しているだけです!
 そうと言ったらそうなんです!」


インデックスが怪訝そうな眼差しで、余計なことを言ってくれそうだったので慌ててその口を塞いだ。
神裂は愛想笑いを五和に向ける。


「は、はぁ。でも本当に何に使うものなんですか?」

「そ、それはですね……」


正直それは自分が聞きたいくらいだ。
着て終わりだと言えばそれまでだが、それは使い道というか、服なのだから当然なわけで。
不思議そうな五和に何か言わねばと、神裂は咄嗟に土御門が言っていた言葉を思い出す。


「挟んで擦るために使うものです」

「なっ!」
「にっ!」
「?」


三者三様の反応を見せる。
何のことかはよく分からないが、確かに彼はそう言っていた。
慌てふためいている二人の様子を見るに、どうやら意味が伝わっているらしい


「では私はこれで! 夜も遅いので気をつけて! それでは!」

「お、おう、じゃあな神裂」

「またねかおりー」

「挟んで……擦るって何をですか女教皇様ぅぅぅううう!!」


ダッと、聖人の脚力をフルに発揮してその場を立ち去る神裂。
しばらく走ったところで、神裂は口元が緩むのをどうしても止められなかった。


(くっ! くくくっ! とうとうやりました! とうとうアレを捨て去ることができました!
 それだけでも学園都市に来た甲斐があったというものっ!)


闇夜を駆け抜け、神裂は意気揚々と天草式の部屋の前まで一瞬にして辿り着いた。
緩みきった表情のままドアを開け、中に入ると、そこでは不敵な笑みを称えた建宮が立っていた。


「おかえりなさいませなのよ、女教皇様」

「ええ、これにて一件落着と言ったところでしょう。
 汗をかいてしまったのでシャワーを浴びてもよろしいですか?」

「ちょっとお待ちを、女教皇様。その前に渡すものがありますのよ」


嫌な予感がした。
うやうやしく牛深が先ほど五和に渡した箱と同じくらいの大きさの紙箱を建宮に手渡した。
頬を汗が一筋流れる。


「いけませんよな、女教皇様。大事な嫁入り衣装を五和にあげてしまうなんて。
 ですが、女教皇様の優しさはきっと五和に伝わりましたのよな。
 というわけで我々が天草式を代表して、女教皇様に新たな衣装をプレゼントいたしますのよ!」

「いりませんっ!」

おい女教皇wwwwww


中身を見ていないが絶対ロクなものじゃない。
神裂は間髪いれずにそう叫んだ。


「ご心配には及びませんのよ。もう堕天使シリーズみたいなものは女教皇様のお気に召さないと
 我々も判断し、ちゃんと純国産の上質な着物を用意させて頂きましたのよな」

「……む、それは本当ですか?」


そういうことなら話は別だ。
彼らが自分のためを思って用意してくれたのなら受け取らなければ悪い。
神裂は少しだけ期待を胸に、建宮が箱を開けるのを見守っていた。
やがて取り出されたそれを見て、神裂の顔が固まる。


「じゃーん! 此度の新作、その名も雪女ロリメイド!
 本場秋葉原で職人が一着一着手作業で織った和風メイドシリーズですのよな。
 今までの堕天使シリーズとは一線を隠す上質な生地と美しい縫製が魅力の
 ミニスカ雪ん娘メイドなのよ!」


期待のこもった視線を向けてくる男連中と、首を振って何も言えない様子の対馬。
ぴらーんと建宮によって広げられた極端に丈の短い浴衣を基調とした怪しいデザインのメイド服を見て、
神裂の中で何かがキレた。


「余計なことすんなこのド素人がぁぁぁぁぁあああああああッッッ!!!!」


狭い室内で唯閃を放つ神裂。
だが天草式男衆はその絶妙なコンビネーションで衣装を守りきり、
見事神裂の衣装箪笥に新たな一着が眠ることになったのだった。

>雪女ロリメイド!
なんという神々しい衣装だ!


―――――


五和は上条らと共にサイドカー付きのレンタバイクをかっ飛ばし、先日も来た二十二学区にある入浴施設へとやってきていた。
インデックスと共に女湯へ入り、体を洗って湯船へ浸かろうと片足を着けたときのこと。
目の前に、何故か御坂美琴がいた。


「……えと……こんばんは」

「……ん」


気まずい空気を流しながら体をお湯に沈める。
すぐに同じく体を洗い終えたインデックスが隣にやってきた。


「あれ、短髪がいるんだよ。何してるの?」

「何って見りゃ分かんでしょうが。お風呂入りに来たのよ」


実は彼女、湯上がりゲコ太ストラップを手に入れるため、スタンプを求めて毎日のようにここに通っていた。
あと2ポイントでいよいよストラップをゲットできるということもあり、御坂はうきうきとした気分でお風呂を
楽しんでいたのだが、突然恋のライバルであった五和が現れ困惑しているようだった。


「……あの、ありがとうございます」

「……何が?」


広いお風呂でうとうとしているインデックスを横目に、五和は無言の空気を打ち払うように御坂に声をかけた。
突然のお礼に、御坂がコテンと首を傾げる。


「御坂さんのおかげで……私、彼に気持ちを伝えることができましたから……」

「……私の傷口に塩塗ろうってこと? ったく、大人しそうな顔してえげつないわねー」

「ち、違いますっ! 御坂さんが必死に彼に想いを伝えようとしているのを見て、
 私もそうしなきゃって思ったんです。
 だから私が最後の最後で勇気を出せたのは、御坂さんのおかげなんですよ……」


御坂の瞳を真っ直ぐに見つめて五和。
何を言っても嫌味に聞こえてしまうだろうか?
不安げに俯いた五和に、御坂は突如片手でお湯をぶっ掛けてきた。


「ぶへっ! な、何するんですかー」

「……私があんたに勇気をあげたとか、そんなことどうでもいいのよ。
 あんたがあいつのことを好きだったって気持ちは、元からあんたの中にあったもんなんだから」

「御坂さん……」


御坂はこちらに笑顔を向けていた。


「ったく、あんたはこの美琴さんから男を勝ち取ったんだから、もっと堂々としてくれないと私が困るっつの」

「……わ、わかりました! がんばります!」


両手を握り、思い切り胸を張ってみる五和。
すると、御坂は再びお湯をぶっ掛けてきた。


「うひゃっ! な、なんでですか!」

「そのでかい胸がなんか腹立って」

「こ、これは私の所為じゃないです!」

「ごめんごめんついつい正直な気持ちが出ちゃったわ。
 ……あ、ところでさ、五和さん……だっけ?」

「あ、はい。なんでしょう?」


けらけらと悪気無く笑う御坂が、言葉を切って何事かを言おうとしている。
少し気恥ずかしそうに、そしてどこか期待のこもった眼差しで彼女は言った。


「湯上りゲコ太キャンペーンのスタンプって集めてる……?」

美琴がブれないwwww


―――――


「おー、風呂上りは夜風が心地いいな」


五和はお風呂から上がり、帰り道に再びバイクを走らせていた。
御坂に入浴施設のキャンペーンスタンプをあげた後、彼女はご機嫌でストラップをもらって帰っていった。
興味なさげだったインデックスも御坂にあげていたので、彼女はどうやら二つ目を手に入れようと
計画していたようだ。
二十二学区を出て、今は車通りの少ない真っ直ぐな道を思い切りかっ飛ばしている。
スピードに慣れたらしい上条も、五和の腰に手を回して機嫌よさそうに声をかけてきた。


「そうですね。でもやっぱりちょっと寒いですから、早く帰らないと湯冷めしちゃいます」


サイドカーでインデックスは眠りこけている。
今日は朝から出かけていたので疲れたのだろう。
横目で無防備な寝顔をチラリと覗き見て五和はクスリと笑みを零した。
今日の朝まで、まさか後ろに乗っている彼と恋人関係になれるなんて想像もしていなかった。
彼が自分を選んでくれた。
自分のことを好きだって言ってくれた。
思い出すとまた顔が熱くなってくる。
同時に、腰に回された腕と、背中に密着する彼の体温を強く意識してしまう。


「五和、もう明日には帰っちまうんだよな……」


風の中に消えていくような声で、上条が低いトーンでそう言った。
彼も寂しく思ってくれているのだろうと思うと、嬉しい反面、別れが名残惜しくなる。


「ええ……今回は特例で入れたようなものですし……もともとあまり長居はできなかったんです」


自分たちは住む場所があまりに違いすぎて、普通のカップルのように会いたいときに会えるような関係ではない。
もっとも、それは覚悟の上でここに来たし、彼と付き合うということはそういうことなのだと始めから分かっていた。
分かっていたが、やはり寂しさは拭いきれない。


「……ま、仕方ないな。また近いうちに来いよ」

「もちろんです! どんな手段を使ってでも会いに来ちゃいますからね!」

「危険なことは無しだぞ。俺もバイトでもしてロンドンまで会いに行くよ」


嬉しい言葉だった。
会って何をしよう。次は何を話そう。
五和は、彼と会える日までの時間もまた、そうしたことを考えることで楽しみを見出せそうだなと思った。
まだまだ彼の言葉を聞いていたい。
彼にもっともっと抱きしめてもらいたい。
名残惜しむ気持ちを無視して、学生寮は間も無く見えてくる。


「上条さん。もう一回だけ、好きだって言ってくれませんか?」


彼との数少ない二人きりの時間。
それは儚く消える夢のように短い。
だから五和は、彼に望んだ。
ただ一言を。
わずかな時間に、全てを感じられる彼の言葉を。
背中で上条の笑い声が聞こえる。
そしてそれは、五和の耳へと確かに届けられた。


「好きだぞ、五和」

「はい、私も大好きです!」


轟々と流れていく空気の音が聴こえる。
だから優しく包み込むような彼の一言は、その音の中で五和だけのものとなった。



アマ━━━━(゚∀゚)━━━━イ !!


これで本作は終了となります。
ぬう。はっきり言って今回は我ながら失敗した感が拭えないな……。
単調な展開と、五和のキャラを確実に掴みきれなかったせいでグダグダ感が否めない。
詰めが甘すぎて構成的にもかなりイマイチでしたね。
一度そう思いだすと文章もノッてこないし、中途半端なものが出来上がってしまった印象です。
まだまだ愛が足りないのと、己の力不足を思い知らされました。
ねーちんは書いてて滅茶苦茶楽しかったですけどw
次はもっと頑張ります!
読んでいただいた皆さんには申し訳ないと思いつつ、ここまで読んでくださって
本当にありがとうございました。
よろしければ感想などお聞かせ頂ければと思います。

次は前作の続きか電磁崩しを書いてみようかと思ってます。
ただ地の文書くのに少し疲れたところもあるので、セリフ形式のものを練習してみたいとも思いますが。

ところで、このスレどうしたらいいですか?
html依頼を出すのか、それとも誰かが書いてくれるまでしばらく置いておくのか。
自分は一先ずここでSS書くのは最後になります。
それではまたどこかで。

>>525
楽しかった
五和スレで一番好きな作品になったよ。
本当にありがとう!!

スレは残しておいていいと思う。

 *     +    巛 ヽ
            〒 !   +    。     +    。     *     。
      +    。  |  |

   *     +   / /   イヤッッホォォォオオォオウ!
       ∧_∧ / /
      (´∀` / / +    。     +    。   *     。
      ,-     f

      / ュヘ    | *     +    。     +   。 +        このスレッドは◆S83tyvVumIに救われました。
     〈_} )   |                                次作も…麦恋クオリティ!!
        /    ! +    。     +    +     *         五和は俺の嫁!

       ./  ,ヘ  |
 ガタン ||| j  / |  | |||
――――――――――――  

まさかこのスレにこんなに人がいたとは。
みなさんありがとうございます。
スレはしばらく置いておくという意見が多いようなので、一先ずしばらくはこのスレ置いておくということで。
五和SSかなり少ないので誰かほんとお願いしますw

せっかくなので最後くらいいくつかレス返しでも。いつも愛想なくて申し訳ない。


>535
匂いに興奮する女の子って可愛いと思いません?w
五和ってなんとなくそこはかとないムッツリ臭がするので匂い嗅がせてみました


>536
手乗りサイズのマスコット的存在、ちょっと無口で毒舌妖精リコりん(滝壺)が悪の軍団KIHARAから
妖精の国を守るためにごく普通の短気な少女麦野沈利に変身アイテムである
白い粉(体晶)を渡して全裸変身シーンの挙句「あなたの未来はブチコロシかくていね!」キリッ
と宣言するところまで妄想した。
でもむぎのんの魔女っ娘姿は想像すると結構キツいのでやめておきますw
あとは任せます。


>539
後日談やデート編的なものは今回はやめておきます。
前作の時はスレの残りがに程よい量だったので書かせて頂きましたが。
ここで後日談を投下すると微妙にスレが残ってしまい、他に書いてくださる方が
投下できる充分なレス数が残らないのかもしれないので、期待してくださったのに申し訳ないです。
>539氏がいちゃいちゃ甘甘の上五SSを投下してくださることを期待してますw
もちろん後日談としてそのまま続けてもらっても構いませんのでw


>545
いえ、続編はフレンダ編ですごめんなさいw

五和「・・・大丈夫ですか?」

当麻「あぁ、ありがとな」

五和「い、いえ上条さんのためなら」ゴニョゴニョ

当麻「なんか言ったか?」

五和「あ、リンゴ剥きますね。ちょっと待っててください」アタフタ

シャリシャリ

五和「はい、どうぞ」

当麻「おお、かわいいウサギさんだ」

五和「上条さんのために一手間加えてみました」クスッ

当麻「そ、そんなコト言うと上条さん勘違いしてしまいますのことよ!?」

五和「・・・勘違いしてもいいんですよ?」

当麻「」

五和「喉渇きませんか?飲み物持ってきますね」フフッ


こんな感じで

上条「・・・・・・恋人って具体的に何をするのでせうか?」

五和「えっと・・・・・・何をするんでしょうか?」

上条「・・・・・・。」

五和「・・・・・・。」

上条「あー、とりあえず・・・・・・さぁ。」

五和「とりあえず?」



上条「手でも繋いでみるか。///」

五和「! はい!」


ムツカシイネ

上条「ただいまー…ってうわあっっ!!」

五和「きゃあっ!!」

上条「ごめん五和!!着替え中だったのか…あれ?…五和サン…その服の裾を掴む手は…(汗」

五和「…いいんです。その…新しい水着を買ってみたので、試着してみてたんですけど……上条さん、どうですか…?」

上条「へっ!?ど、どうですかって…(あ、かわいい…)」

五和「(変な子だと思われちゃったかな…)」

上条「す、すごく似合ってるぞ!いやー上条さんドキドキしちゃうな~」

五和「(むぅっ…)」

五和「上条さん、キョロキョロしないでちゃんと私を見てください!」

上条「ご、ごめん。その…ちょっと五和サンが可愛すぎて直視できないというか…」

五和「(えっ…///)」

五和「…ありがとうございます…///」





やめときゃよかた

五和「あっあの…!もし良かったら、今度のお休みに一緒に第六学区のプールへ一緒に行きませんか?」

上条「あぁっプールかぁ!ど、どうしようかなぁ?」

上条(こんなかわいい格好の五和と一緒じゃ…げっ!!もう股間にテントが…)パンパン

五和「!?どうしました?お腹の具合でも…?」

上条「なななんでもありません!全っ然平気ですよ!(ああ五和でいやらしいことなんて…ゴメンなさいゴメンなさい…)」

五和「だいじょうぶじゃありません!!顔真っ赤ですよ?少し横になった方が…」タユン

上条「い、いやホント大丈夫ですから!(ち…近い…そんな前かがみになっちゃ…五和サンのむ、胸が…)」







禁書「とーうーまー!!顔がデレデレなんだよ!!」



ひどい

おい






















インデックスはいらない

>>582
てへ

上条「うがーー!!もう我慢できねぇおいインデックス!!上条さんの束の間の幸せを奪うんじゃありません!!ちょっと小萌センセんとこで遊んできなさい!!」

禁書「へっ…そんな…わ、わたしだってとうまと一緒にプールに行きたいんだよ!!それなのにとうまってばいつわにばっかりデレデレしてぇ…」グスッ

五和「…そんな…インデックスさん、私そんなつもりじゃ」

バリバリバリバリガッシャーン!!!!

捨犬「上条当麻…君というやつはよくも…よくもインデックスを邪険に扱ってくれたね!彼女の保護者という立場にありながら!」

上条「ちょ!ステイルお前人ん家のドア吹き飛ばしてくれやがって!どういうつもりだ!」

捨犬「うるさい!この後に及んでドアの心配かい?君にインデックスを託したのは間違いだったようだ…インデックスは僕が引き取ることにする!!」

上条「」

五和(いや、流石にドアを焼ききって入ってきてそれはちょっと)

禁書「ちょっとすている!わたしを無視して勝手に話を進めないでほしいんだよ!わたしはイギリスには戻らないんだよ!」

捨犬「大丈夫だインデックス!君は僕が必ず幸せにしてみせるとも!さぁ行こう!」ニカッ

ガッシャーン!!!

禁書「とうまー!!たーすーけーてー!!」

上条(わざわざ窓ぶち破っていきやがった…)

五和(まるで人さらいですね…)

上条「…まぁこれで邪魔者はいなくなったし、気兼ねなくプールに行けるってもんですよ」

禁書「見捨てるなんてひどいんだよとーま!」

上条「インデックス!?どうしてここに!?」

上条「確かにさっきステイルが…」

禁書「あれはここなんだよ!」

禁書目録は小さなお腹を指差した。

上条「?…お前、何を言って「言い訳は聞きたく無いんだよ!!」」

その瞬間、禁書目録の歯が上条の頭に食い込んだ。
しかし、彼女の歯に留まる気配は全く無い。
気付くと、上条当麻の頭は半分なくなっていた。

頭を半分無くした上条当麻の体は、まだ生きいるのだろうか、首もとを禁書目録に噛みつかれながらも、ビクンビクンと手足を地面に激しく叩きつけ、のたうち回っている。

五和「あ…え?」

五和は何も出来ないまま、愛しの人が小さなシスターの、小さなお腹に収まっていくのを、ただ呆然と眺めていた。

そしてものの数秒で、上条当麻は肉片の一塊さえも残さずにこの世から存在を消してしまった。

禁書「おなかが、満たされ無いんだよ…」

五和「ヒッ…」

そして血にまみれた小さな悪魔の矛先は、かろうじて意識を保っていた無力な少女へと、むかった。

――――――――――――

禁書(また、やっちゃったんだよ…)

誰もいなくなった寮の一室で、禁書目録は呟いていた。

禁書「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

数分、数十分、数時間。
彼女はずっと懺悔の言葉を漏らし続ける。

そして、何度その言葉を繰り返したろうか、突然彼女は目の色を変え、立ち上がり、言った。




おなかが、すいたんだよ

ごめんスルーして

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