友「ボクたち、ずっと友達だよね?」 (10)

似ているようで似ていない。
似ていないようで似ている。
そんなよくわからない関係だった。

だからこそ、お互いのことをなにも知らなかったんだと思う。
そして、分かり合えたんだと思う。

――惹かれあったんだと、思う。

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梅雨の始まりは、夏の到来をいよいよもって感じさせる。
それは、6月のある日のことだった。
太陽はかんかん照りで、昼休み前の汗の匂いと熱気のこもった体育館。
バスケットボールがフローリングに跳ねる、重みのある音があたりに反響して、体育館全体が揺れているように感じる。

2年A組とB組は、男子女子合同で体育の授業を行っていた。
内容はバスケットボールだった。

体育館にはバスケットコートが二つ設けられており、ステージ側のコートを男子、入り口側のコートを女子が使っている。

おれたちA組のチームと、隣のB組のチームはここまで接戦を繰り広げ、どちらが勝ってもおかしくないという状況のまま、試合はついに白熱の最終ラウンドにもつれこんでいた。
現在の得点は、20対22ということで、A組が僅差で負けている。
残り時間は、あとわずか。
シュートをあと1本決められるか決められないか、の瀬戸際といったところだ。

普通のシュートでは2点しか加算されないから、よくて引き分けだ。
B組に勝つためには、3ポイントシュートを決める必要がある。

ちなみにおれは引き分けでは到底満足できない。
必ず勝ちにいくつもりだ。

おれの名前は男。
熱血バカ、やられたら3倍にしてやりかえす、口よりも先に手が出る、そんな性格……らしい。
“らしい“という言い方になったのは、幼馴染から聞いたおれに対する周りの印象を、そのまま伝えているからだ。
この人物批評について、文句を言いたいことが山ほどあるが、とりあえずいまは黙っておくことにする。

そんなこともあって、おれは周りの連中から問題児扱いされて、若干恐れられている。
それはもちろん、おれの望んだことじゃない。
その理由は、おれは目立つこと自体は好きだが、目立ちすぎることは好きじゃないからだ。

だが、そんな不当な扱いも、最近になってだいぶマシになってきた。
少なくとも、半年前のように、話しかけようとしたらダッシュで逃げられる、なんていうことは一切なくなった。

まあ、そんな話はいったん置いておくことにしよう。
目の前の試合が先だ。
とりあえず、いまのおれの手元にはボールがあった。
目指すは、ただ一直線。
相手チームのゴールだ。

――キュッ、キュキュッ!

靴が床にこすれる甲高い音。
何人かの生徒が、すぐ後ろを駆けてくるのが聞こえる。
おれは内心焦っていた。

男「はあ、はあ、はあ……!」

いまのおれは自分の体力の限界を感じていた。
吐き出した息も荒く、手足が怖いぐらいにがたがたと震えている。
今までは気力でなんとか持ちこたえていたが、これ以上は耐えられるかどうかわからない。
それに、いま立っている位置からゴール周辺までは、結構な距離がある。
その上、パスを回そうにも、前方には味方がだれひとりいない。

――このままでは、まずい。
そう直感した。

向こうにたどり着く前に追いつかれる。
それから、あっという間に周りを取り囲まれ、相手チームの手にボールが渡ってしまう。

試合終了まで、残りあとわずか。
せっかくの逆転のチャンスなのに、もはやどうすることもできない。
打つ手が見つからない。
そんな悔しさともどかしさを痛いぐらいに感じたが、おれはただ奥歯を噛みしめることしかできなかった。

そんなときだった。

「おとこーっ!」

男「……ん?」

そんな声とともに、黒い影がおれの横をまるで光のように、一瞬にして通り過ぎた。
それから少し遅れて、相手チームのゼッケンが肩で息をしながら、のろのろとやってきた。

この俊足には見覚えがあった。
まちがいない。
これは、まちがいなくあいつだ。

男「友っ!」

友「はやく!こっちにまわせっ!」

おれの視線の先、ゴールからやや手前の位置に、友の姿を認めた。
こちらに向かって、大きく手を振っている。
相手チームは、ボールを持っているおれを追いかけるのに必死になっている。
幸いいまの友には、ついさっき振り切ったやつ以外にはマークがついていない。

それなら――

男「友」

おれはその場で足をとめ、胸の前にボールをかまえる。
真正面には、4番のゼッケンを着ているあいつの姿がある。
チャンスはたったの一度きり。
この一球に、持てる力の全てをぶつけるという思いで、慎重に狙いを定めた。
そして――

男「――受け取れえっ!」

思いっきり腕を伸ばした。
できるだけ速く、なおかつできるだけ正確に。

投げ出されたボールは、そこまで大きくぶれることもなく、安定した直線を描いていった。

友「……っ!」

――パスッ!
そして、そんな小気味のいい音とともに、友の胸の中央にボールはおさまった。
すると、後ろの方から「あっ!」という、相手チームの呆気にとられた声が聞こえた。
同時に、味方チームの「たのんだぞー!」という声も聞こえた。
それに続いて、外野の女子連中から黄色い歓声がいくつもあがった。
なんとかうまくいったようだ、ということを肌に感じ取ったおれは、思わず脱力してしまい、その場にゆっくりと崩れ落ちた。

おれの思いはあいつに届いたんだ。
だから、今度はあいつがおれに思いを届ける番だ。

そんな達成感と期待感で拳を握りしめたおれは、友の顔をまっすぐに見上げた。

友「――まかせろ」

音としては聞こえなかった。
だけど、あいつの薄く整った唇が、そんなふうに動いたような気がした。

そのあとは流れるような動作だった。
友はゴールに向かって素早く踵を返し、足を少しだけ折り曲げた。
それで、足を元の状態に伸ばしきるその反動を利用して、地面を蹴った。
こうして、友のからだは宙に浮きあがった。

例えるなら、スローモーション、といえばいいんだろうか。
その刹那、時間の流れがゆっくりになるような、不思議な錯覚をおぼえた。

友「……ふっ!」

透き通った黒髪ストレートが大きく揺れると同時に、飛び散った汗の粒。
それが天井の照明を受けて、きらきらと輝いている。
その真剣な眼差しは、まさに喰らいつくように、ゴールの中央をとらえていた。
燃え上がるような闘志を放ちつつも、内側には氷のような冷静さを備えている。
そこには、一点の乱れも存在しなかった。

綺麗だった。
男子に対してこんなことを思うのは、ちょっと変かもしれない。
だけど、本当のことなんだからしかたがない。
それに、おれだけじゃない、すべての生徒がその姿に魅了されていた。
まさに、芸術作品のような神秘的な美しさが、そこにはあった。

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