響「ここがハイ・ラガードかあ」(163)

 

響「でっかい門だなー、伊織の家みたいだぞ」

衛兵「君、入国希望だね? こっちへ」

響「うん? ここに名前書けばいいの?……我那覇ひーびーき、と。はい」

衛兵「うむ、確かに。未来ある冒険者さん、ハイ・ラガードにようこそ」

響「失礼しまーす……は違うか、えへへ。ハイ・ラガード、はいさい!」

衛兵「ハイサイ? 変わった言葉だな、何処の……いや、聞いても仕方ないな。幸運ん祈るよ、世界樹の秘密を解き明かさんことを」

響「ありがと! さー、まずは宿探しだなー」

宿屋「あんた、ちょっとあんた!」

響「んえ、何?」

宿屋「あんた、冒険者だろう? 力自慢ならちょいと手伝ってくれないかい、うちの娘が風邪引いちまって……」

響「ええ!? た、大変じゃないか! すぐにお医者さん呼ばなきゃ!」

宿屋「それなんだよ! 向こうも忙しいみたいだから負ぶって行こうかと思ったんだけど、あたしゃ見ての通りのか弱さ……」

響(何言ってるのか全然分からないぞ)

宿屋「か弱そうだろう!?」

響「は、はい! か弱そうだぞ、です」

宿屋「だから、ね? お医者のとこまで頼むよ、娘を負ぶってやっておくれ。あたしも隣で道案内するから!」

響「分かったぞ! 風邪も甘く見てると危ないもんね、任せて!」

宿屋「ああ、ありがとうよ。くれぐれも気をつけておくれ」

響「んっ、しょっと。このまま、大通りを行けばいいの?」

宿屋「ああ、そうだ。真っ直ぐ行って、向こうの乾物屋の角で……」

女将「いやー助かったよ、あんたがいなきゃどうなってたことか」

響「困った時はお互い様さー。それじゃ自分、もう行くね。宿屋はどこかなーっと……」

女将「宿屋! あんた宿屋探してんの? もしかして新米の冒険者かい!?」

響「うぇ? う、うん、そうだけど」

女将「よし分かった! あんた、ウチに来な! 娘の命の恩人をそのまま放り出したんじゃ【フロースの宿】の名が廃るよ!」

響「うーん、嬉しいけど……値段とか色々調べてから泊まるとこは見つけたいから」

女将「一泊いくらなんてケチ臭いこと言わないよ。自分の家だと思っていつまでいてくれても構わないよ、勿論ただでね」

響「い、いいのか!? でもそんな、悪いぞ……」

女将「いいのいいの、あんた新米さんなんだろ? それがあんた、女の子担いで歩いて息一つ切らせないとなると有望そうじゃないのよ」

響「?」

女将「あんたが世界樹の謎を解き明かすと見込んでの話って訳さ! きっと未来の英雄サマは、ウチの宿をたっぷり宣伝してくれるだろうからね!」

女将「そういうわけで、これからよろしく」

響「良い宿が見つかって良かったさー! まくとぅそーけーなんくるないさー、やっぱり含蓄のある言葉なんだなあ」

女将「まく……? とにかく、宿が決まったなら次は仕事だね」

響「仕事なら決まってるぞ、冒険者として世界樹の」

女将「それは分かってるよ。いいから公宮に行って来な、冒険者するにも手続きやらなんやらややこしいんだから」

響「なんか実家のあんまー思い出して調子狂うなあ……」

女将「うだうだ言ってないでそら、行った行った!」

響「は、はーい!」

響「気付いたら、地図を片手に、森の中……季語なしだぞ」

響「……」

響「思ってたより、怖い感じしないなあ。陽射しもあったかいし、風も爽やかで……」

響「本当に魔物なんて出るのかな?」

響「……」

響「もしかして、このでっかいカタツムリが魔物? こんなにのんびりしてるのに襲われるわけないさー」

森マイマイ「……」

響「痛ぁ!? な、いきなり何するさー!?」

森マイマイ「……」

響「うわ、危な! み、見た目以上に素早いぞ……この、そっちがその気なら!」

森マイマイ「……!」

響「はぁ、はぁ、どうにかやっつけた……けど」

響「こ、この調子じゃ命が幾つあっても足りないぞ。さっさと地図埋めて戻らないと」

響「ええと、さっきまで歩いてた道があそこで、今ここにいるから……」

響「うう、不安だぞ……草が揺れるだけでさっきのが出て来るんじゃって思っちゃう……」

響「と、とにかく落ち着いて、冷静に、急いで、周りを確認!」

響「……あれ? ここさっきも通ったっけ? いや通ってなかった、はずなんだけど通ったような、あれ?」

響「うがー! このままじゃ野垂れ死にしちゃうぞー!」

ガサガサッ!!

響「うわ!? ……な、なんだ、風で揺れただけか。落ち着け、落ち着け自分~!」





ハリネズミ「……」

ひっかきモグラ「……」

針ネズミ「キュイッ!」

ひっかきモグラ「キシャー!」

響「え? うわ、うわあ!?」

針ネズミ「キ、チチ……」

ひっかきモグラ「フー、フー!」

響「あ、あ……あ、たす、け」

針ネズミ「キュイイ!!」

ひっかきモグラ「シャアッ!!」

???「危ない!」

響「ひっ……え? あれ?」

???「怪我はないかい? さ、早く立ち上がって君も戦うんだ!」

響「……よ、よし! 任せろ!」

???「大丈夫そうだな。行くぞ、クロガネ!」

???「ガウッ」

響「あのっ、助けてくれてありがと! 危ない所だったさー」

???「新米かい? それにしたって一人で迷宮に挑もうなんて無謀すぎる。なあ、クロガネ?」

クロガネ「ウォフ」

響「君クロガネって言うのか? 賢そうな顔してるなー!」

フロースガル「おい、まだお説教は……はあ。僕はパラディンのフロースガル、こっちはペットのクロガネ。ベオウルフ所属だ」

響「そっか、よろしく! フ、フ……フロールガスとクロガネ!」

フ??「……僕の名前は、まあいい。でも普通名乗られたら名乗り返すだろう?」

響「あ、そうだな、ごめんごめん。自分は」



響「自分は我那覇響、ビーストキングさー!」

響「あの後ソロパーティはあり得ないってすごい怒られたぞ……もぐもぐ」

女将「良かったじゃないか、お陰でちゃんと帰って来られたんだろう? ちゃんとお礼言ったかい」

響「言ったさー、あむ……フ、ファ、フー、フロイト? の言う通り、メンバー探さなくちゃダメかな」

女将「迷宮の奥の方まで探索してる二人組の噂は聞いたことがあるけど、さすがに一人っていうのは聞かないねえ」

響「そっかー。それじゃちょっと探してみようかな」

女将「なら【鋼の棘魚亭】に顔出してきな、あそこは人が多いからね」

響「うん、ありがとおばちゃん!」

響「はいさーい!」

親父「ん? お前、見ない顔だな。ははーん、さては一人で迷宮に突っ込んで死にかけたバカってのはお前か!」

響「な、なんでそれを!? っていうか違う! あれはちょっと油断しただけさー!」

親父「ガッハッハ! ションベンちびりかけたその日にそれだけ大口叩けるなら結構! お前、大物になるぜ!」

響「ちびってなんてないぞ!! ……もういい、自分、むさいおっさんと話しに来たんじゃないもんね」

親父「おう、じゃ何しに来たんだ。言っとくがガキに酒は十年早いぞう?」

響「自分ガキじゃないぞ! 仲間になってくれそうな人を探しに来たの! いるんでしょ、そういう人!」

親父「おうよ。あぶれて燻ってる奴、人とつるめない奴、死に損なった奴、色んな奴がいる」

響「ふ、ふーん……」

親父「それでも冒険者をやめないってんだから、世界樹の迷宮ってのは不思議だよなあ。あそこにゃ、人を魅力してやまない何かがある」

響「……」

親父「ビビったか新米? そら、向こうのテーブルの奴らなんかどうだ? 丁度新しいギルド作る所なんだとよ」

響「う、うん!」

そこに座っていたのは……>>22-25

※職業名とアイドル名、765or876の人間や動物のみ、なし入力で空席も可

貴音

貴音「どくとるまぐす、四条貴音」

美希「ダークハンター、美希なの☆」

真「パラディン、菊地真っ」

やよい「めりっく! 高槻やよいでーっす!」

響「ビーストキング、我那覇響だぞ!」

真「……なんか、キャラの濃い五人って感じだね。あはは」

貴音「そう、でしょうか。わたくしとしては、浅からぬ縁に導かれたような、収まるべき所に収まったような、そんな具合です」

やよい「へー、それロマンチックかも! あ、ギルド名とかどうするんですか?」

美希「リーダーも決めなきゃだよね……あふぅ」

真「それより皆は、この五人でパーティを組むことに異論とかないの? 出入り自由にはするつもりだけど、そう簡単には」

響「ダメだったらダメだった時に考えるさー。それに自分、皆とは仲良くやっていけそうな気がしてるし!」

やよい「うっうー! 私も同じ意見かも。あのあの、みなさんさえよろしければ、これからよろしくお願いしまーっす!」

貴音「よしなに……」

真「なんだかあっさり決まったなあ。へへっ、まあいいや! それじゃあこれからよろしく、皆!」

響「……なんでリーダー決めるのがじゃんけんなんだよう」

美希「おめでと、響。これからリーダーさん頑張ってねー」

響「うがー! 他人事だと思ってー!」

真「抑えて抑えて、ね?」

響「全くもう。確かに自分、ビーストキングやるぐらいだしリーダーシップはあるけど、それとこれとは……」

やよい「あのー、ビーストキングってどんな職業なんですか? あんまり聞いたことない名前です」

貴音「確かに、こちらではあまり馴染みのない職業ですね。えとりあの方から?」

響「ううん、アモロ。アーモロードの方から来たぞ。ビーストキングっていうのは、こう、ワーッて呼ぶとガーッと来る感じ」

真「へえ、魔物が友だちかあ。何だかかっこいいなあ」

貴音「なんと、面妖な……」

美希「ね、ギルド名決めなくていいの?」

響「あ、すっかり忘れてた! えーと、じゃあ……」

響「さ、サンズフェアリー……なんてどう?」

真「太陽の妖精……明るくて、女の子っぽくていいと思う! 女の子っぽいし! きゅわ~って感じだね!」

美希「そうかな? ミキ的には長すぎって感じ、フェアリーだけでいいの」

響「うぐ。た、貴音はどう思う?」

貴音「三途、屁有り……死せる運命に一矢報いるような意思の強さが見えて、良いやも知れません」

響「お、おう。やよいは?」

やよい「大丈夫です! ちょっと変わった名前でも使ってる内に愛着が湧くものですから!」

響「自分、君たちをまとめていく自信がなくなったぞ……」

美希「頑張って、リーダーさん。その内良いことあるの」

真「そうそう、ファイトだよ! 響!」

貴音「ふふ、今日初めて会ったとは思えない打ち解けぶりですね。わたくしもこれからが楽しみですよ、リーダー殿」

やよい「響さん、元気出して行きましょーう!」

響「……はぁ。じゃあギルド名は【サンズフェアリー】に決定! メンバーはこの五人! これで公宮に提出するからね!」

響「地図よーし、水よーし、食糧よーし。ええと、あとはー」

女将「冒険日和の良い朝だねえ、もう出るのかい?」

響「準備が終わったらすぐ。ね、宿代なんだけど……」

女将「あんたの分は免除するけど、他の四人の分はちゃんと支払ってもらうよ」

響「ですよねー……あの銀髪、何人前食べた?」

女将「冒険者ってのは人一倍食うものだけど、あの娘はその三倍は食べてたね。しっかり稼がないとあんた、借金塗れだよ?」

響「……はい」

女将「なんて顔してるんだき、ちょいと迷宮の一番奥まで行けば良いだけじゃないか。期待してるよ!」

響「ま、任せるさー! 自分、カンペキだからな!」

女将「頼もしいねえ、頼んだよ」

やよい「何度見てもキレイな森ですねー」

真「油断は禁物だよ、やよい。一階で倒れた冒険者だって少なくないんだから」

貴音「そうですね、気を引き締めて参りましょう」

美希「響ー、地図作るの遅いの。置いてくよ?」

響「ま、待ってよー! そんなすぐなんて、ええと、ここが丁字路で、直線で、ああもう、どの位歩いたっけ……」

美希「貸して……はい、これで今いる辺りはばっちりなの」

響「……美希がマッパーやった方がいいんじゃないのか?」

やよい「響さん、入り口の所の横道、書き漏らしてますよー」

響「……やよいがやった方が」

やよい「私やりませんよ、響さんやってくーださい!」

響「うう、よく分からないけど凄い圧力を感じるぞ……」

響「うう、マップ作るの難しいぞ……」

貴音「空間把握能力等、独特の技能を求められる作業ですから」

響「そういえば確認し忘れてたけど、皆の技能はどんな」

真「響、敵襲だ!」

響「うわあ!? せ、戦闘態勢ー! 点呼!」

真「一!」

貴音「二!」

美希「三!」

やよい「四!」

響「五! 【サンズフェアリー】、行くぞ!!」

針ネズミ「キィ、キィ……」

ひっかきモグラ「チチ、チチチチ……」

真「どうする!?」

響「ど、どうするって……とにかく得意なことやってみて! 敵は二体だけだから何やっても多分大丈夫、でも油断は!」

真「オッケー、じゃあまずはボクから行こうかな! 皆、一撃食らわせる時以外はボクより前に出ないで!」

美希「はいなのー!」

やよい「分かりましたー!」

針ネズミ「キュイイ!」

響「貴音! そっち行ったぞ!」

貴音「くっ!」



真「フロント、ガードォ!!」

針ネズミ「キキッ!?」

貴音「……なんと」

真「貴音、怪我はない?」

貴音「はい、大事ありません」

真「これがボクの【フロントガード】、前衛を敵の攻撃から守る技だよ」

やよい「ふわー、私の回復いらない感じですかー?」

響「それは早まりすぎだぞ、やよい」

美希「真クンかっこいいの! ふふん、ミキも負けてられないって感じ」

真「へえ、ボクも美希のかっこいい所、見てみたいな」



美希「任せてなの! せーの、アナコンダ!!」

ひっかきモグラ「キシィ……!」

響「! 敵の動きが鈍くなったぞ!」

美希「当然なの。【アナコンダ】の毒牙にかかったんだもん、あはっ☆」

やよい「皆さんすごいですぅー!」

美希「やよいにもすっごいの期待してるの、頑張ってね?」

やよい「はわっ!? ががが、頑張ります!」

貴音「毒、ですか。ではわたくしが追撃を」

真「お、今度は貴音さんの番? どんなのが出て来るんだろ」



貴音「……巫剣:毒封脚斬」

ひっかきモグラ「カ、カカキ、キシ……!」

真「こ、これは……」

貴音「脚を封じました。動けない今の内に叩き潰すもよし、後に回してもう片方を討つも良し、です」

やよい「これ、全然動けないんですかー?」

貴音「ええ、今ならばどんなに遅い一撃も
当たるでしょうね」

やよい「へー……」

響「涼しい顔してエゲツないぞ……よ、よし! 次は自分の番だぞ!」

真「リーダー、ガツーンとやっちゃってよ!」



響「大鳥招来! オウ助、針のない頭のとこを突っついちゃえ!」

オウ助「クェー! ケエェー!!」

針ネズミ「キュイィ!?」

響「いけー! やれー! 頑張れオウ助ー! あとちょっとだー! そこだー!」

真「なんだろう、少し虚しい」

美希「分からんでもないの」

やよい「……うんしょ、っと」

貴音「やよい? 貴方はめでぃっく、得意技は回復でしょう。モグラの止めは美希かわたくしに」

やよい「えっへへー! 実は私、治療よりこっちの方が得意かなーって!」

貴音「は?」

真「ん?」

響「え?」

美希「の?」



やよい「行きますよー! お終いの、ハイ、ターッチ!!」

女将「おかえり、随分と早かったねえ。誰か怪我でもしたかい?」

響「ううん、怪我はない、けど……」

女将「なんだい、はっきりしないねえ。あんたたちも酷い顔じゃないか、どうしたんだい」

真「……いえ、ただ少し」

美希「うえー、しんどいの」

女将「はあ、ったくしょうがないねえ。お昼ご飯食べて元気出しな、今日はあたしの特製サラミ山盛りピッツァだよ!」

やよい「うっうー! とーっても美味しそうですー!」

女将「そうだろう、そうだろう? 貴音ちゃん、あんたも沢山食べるだろ?」

貴音「……ぃぇ、ゎたくιはぇんりょιてぉきます。ううっ」



やよい「今日の【ヘヴィストライク】、ちょっとうまく行かなかったので、また今度お見せしますね!」

響「やめてくださいしんでしまいます」

朝ごはん休憩だぞ

響「出来たー! これで一階の地図はバッチリさー!」

貴音「最初の内はどうなることかと思っていましたが、コツさえ掴めば迷宮探索もそう難しいものではありませんね」

真「皆が恐れてた『手負いの襲撃者』、ボクらが倒したって聞いた時の棘魚亭の親父さんの顔ったらなかったよね!」

美希「ギルド長は油断するなって言ってたけど、これは油断じゃなくて適度なリラックスだよね」

やよい「うっうー! 早速二階に進んじゃいましょーう!」

真「そういえば、やよいが鈍器振り回すのを見るのも何時の間にか慣れちゃったなあ」

美希「真クン、最初はあんなエグい真似、よく平気な顔で出来るなって怖がってたもんね」

真「怖がってなんか! ……そりゃ、ちょっとは」

響「吐きそうな顔してた貴音も、今じゃ潰れたのを見て食べられそうな所を探す位になったしなー」

貴音「相対したとは言え同じ生き物。わたくしはただ、その供養になればと。それはそうと響、モグラの塩漬けを分けて下さい」

響「もう食べたのか!? さっきから食べ過ぎだぞ……それじゃ、この調子で迷宮の
一番奥までダダッと探索終わらせるぞー!」

やよい「おー!」

響「二階もあんまり代わり映えしないなー。お、鹿がいるぞ。お煎餅食べるかな」

貴音「響、わたくしも鹿かも知れません」

美希「貴音は何を言っているの?」

真「あ、こっち来た! 触らせてくれるかなー、もふもふしてそう」

やよい(鹿肉って美味しいのかなー)

響「あはは、お煎餅もらったのが嬉しかったみたいだ。ほら、あんなに踊って喜んでる」

真「あはは、可愛いなー。あはは、あはははは」

美希「……真、クン? ちょっと笑いすぎじゃない?」

真「あはは、あはは、あはは、あははははははは」

貴音「っ、響!!」

響「れでぃとらいあーだん♪ れでぃとらいあーだん♪ ふふふふーんふふーん♪」

狂乱の角鹿「……バルルッ」

貴音「ひっ……!」

美希「真クン! しっかりしてよ、真クン!!」

真「あははは、あれえ? 足曲がってるよボクー、あははは」

響「うぐ……げほっ、けほ。撤退、撤退だー!!」

貴音「響、喋ると脇腹から血が……!」

やよい「うう、治療が間に合いませんー! とにかく安全な所、せめて一階まで戻らないと!」

狂乱の角鹿「……バルルルル」

真「あははは、鹿ー、鹿が一匹ー、二匹ー、えーとー? あ、いっぱいー」

響「くそ、こいつら何処から出て……貴音、やよい! 向こうの岩陰に隠れるぞ!」

やよい「でも、真さんが!」

響「大丈夫だ! ごほっ……美希が気を失わせてた、ちゃんと向こうもやり過ごすはずだ! 早く!」

やよい「う、うう……ううう……!」

貴音「ああ、響っ、響、血が、こんなに」

響「はぁ、はぁ……大丈夫だ、静かに……」

狂乱の角鹿「バルルッ……」

美希「響……? 良かった、合流出来たね」

響「うん、帰ろう……」

やよい「美希さん、真さんは」

美希「大丈夫、気絶してるだけだよ。あのまま騒いでたら隠れようがなかったの」

貴音「……早く戻って二人の治療を」

響「そう、だな。はぁ、はぁ……貴音、アリアドネの糸」

貴音「は? 糸は、響が持っているのでは?」

響「え……? 自分持って来てないぞ?」

やよい「私も……美希さんは」

美希「ないの、合流したらすぐ帰ろうって思って真クンの荷物も見たけど」

響「ウソでしょ……こんなの、ウソ、でしょぉ……!」

やよい「……応急処置ですけど出来る限り治療します。それから街を目指しましょう。真さんをそこに、響さんも」

響「ダメだよ、ダメなんだ。もう一歩も歩けない、自分、自分ここで」

やよい「早く!! このままじゃ皆、本当に死んじゃいますよ!?」

治療士「しばらくは安静にしていてください。今は何よりも休養が必要です」

貴音「あの、二人はいつ頃」

治療士「これは、単純な体の傷だけの話ではありません。外側が回復した所で、また冒険者として暮らせるかは……」

美希「……」

やよい「……」

治療士「傷を負ったのは彼女たちだけではない、貴方たちの内側もちゃんと気にかけてあげて下さいね。では」

貴音「……ありがとう、ございました」

美希「やよい?」

やよい「はい?」

美希「どうする?」

やよい「どうしましょう……」

美希「どうしよっか……」

貴音「美希、やよい。宿に戻りますよ」

美希「はいなの」

やよい「分かりましたー。」

治療士「おや、今日もお見舞いですか?」

やよい「いえー、今日はちょっとお願いがあって」

治療士「お願い、ですか?」

――――

看板娘「あの、本当にお給金なしでいいんですか? こんなに働いてもらってるのに……」

貴音「良いのです。【シトト交易所】のような商店ならば、わたくしのようなズボラにも物の管理という物が身に付きましょう」

看板娘「は、はぁ……?」

――――

親父「たまげたな、本当に一人で獲ってきたのかい?」

美希「次の依頼は? あるんでしょ、早く出して欲しいの」

親父「あ、ああ。あるにゃあるが……少し休め、身が保たねえぞ」

美希「ミキは少しでも強くならないと、少しでも多くお金を稼がなきゃダメなの。じゃないと、真クンを守ってあげられない」

親父「……迷宮から溢れ出た針ネズミ共の討伐だ、行って来い」

美希「響、真クン、退院おめでとうなの!」

響「いやー、心配かけたさー」

真「入院生活は退屈で退屈で、もう体動かしたくてウズウズしてるよ。今日からまたジャンジャンバリバリ! 迷宮探索だね!」

やよい「あ、えっと……」

貴音「それはそうと、まずは快気祝いを致しましょう。【鋼の棘魚亭】の予約は入れてあります、さあ! いざ!」

響「あはは、貴音は相変わらずだなー。食べ過ぎて宿代がすごいことになってなきゃいいけど」

真「腹が減っては何とやら、って言うし、ここは大人しく快気を祝われようか、響?」

響「だな。よーし、今日は食べるぞー!」



やよい「あ、あぅ~……」

美希「大丈夫だよ、やよい。きっと大丈夫」

やよい「……美希さん」

響「食べたなー、もう流石にお腹いっぱいだぞ」

真「ボクも限界。後は帰って寝るだけかー」

美希「真クン、響。帰る前にミキたちから話があるの」

真「……なんだかドキドキするなあ」

響「……へえ? なになに?」

やよい「あの、その! ふ、二人が大怪我して、それで私たちの迷宮探索は中止になってましたよね?」

響「……」

貴音「わたくしたちは、悔いています。大事な仲間を守れなかったこと、仲間を傷つけた敵に一矢報いることすら出来なかったこと」

真「……」

美希「何より、そんな状況を作り出したミキたち自信の油断。後悔しても後悔しても、全然足りないの」

やよい「だから私たち、私たちを変えようっていっぱい頑張りました。頑張って、少しは、変わったと思い、ます」

貴音「今ならば、かつてのような苦痛や屈辱を味わうこともないでしょう。恐らく、この先も二度と」

美希「ミキたちは迷宮探索を続ける気満々って感じ。だけど……」

やよい「あの、これはああ言えっていうんじゃなくて。お二人がもし、もう嫌だって言うなら、私たちは【サンズフェアリー】から」

真「……ぷっ」

貴音「菊地真、何がおかしいのですか」

真「くく、だって響、ねえ?」

響「ぷぷぷ、うん、笑わずにはいられないぞ」

美希「なっ、それ! どういう意味なの!? ミキたち、一生懸命考えて……!」

真「『あんな苦痛も屈辱も味わうことはない。この先も二度と』だっけ? 何も分かってないよ」

響「うん、どんなに覚悟と準備を固めても痛い物は痛いし辛い時は辛いぞ。まして、誰も辿りついたことない迷宮の奥だもん」

真「きっとこの先に進めば、今回みたいなことはもっと沢山起こるようになる。悔しい思いだって沢山」

やよい「じゃあ、やっぱりお二人は……」

響「でもさ、この間ので目が覚めたのは自分たちも同じ。後悔して、あれから変わりたいって思って、色んなことを勉強して」

真「だってさ、悔しいじゃん。何も出来ないままやりたい放題やられっ放しなんて。きっちり利子付けて返さないと気が済まないよ」

貴音「……では」

響「自分、【サンズフェアリー】のリーダーだからな。正直鹿を思い出すだけでも怖いけど、【フロースの宿】の宿代払えないともっと怖いもん」

真「あんなに悔しい思いしたんだ、ここで引き返すくらいなら最後まで突き進んで、そこに何があるか確かめなきゃ損だ」

美希「じゃあ、じゃあ……!」

――――うん、世界樹の迷宮、リベンジだ!

響「魔物を倒したから勝ち、とか、お宝手に入れたから勝ち、とかじゃないんだよね」

真「そういうこと、死んだら負けなんだ。ボクらの勝ちは世界樹の迷宮の、一番奥を確かめることなんだから」

やよい「あの、怪我したらすぐに言って下さいね! 私、医術もちゃんと勉強しましたから!」

美希「……も?」

貴音「【ヘヴィストライク】にも磨きがかかったと昨晩話していました。かくいうわたくしも色々と技能の幅を広げて見ました」

響「へえ、それは見てのお楽しみ……って言いたいけど、教えてくれる? ちゃんと皆の出来ることを把握しておきたいんだ」

貴音「わたくしは身体強化術、医術、逃走術を新たに学びました」

美希「ミキは縄抜けと拘束、それと一発でイっちゃうような必殺技だよ、あはっ☆」

真「なんかえっちいな……ボクはまだ実戦で使えるか分からないけど挑発と防御の構えを学んだよ。あと逃げ出し方」

響「皆、新しいこといっぱい覚えたんだな。自分は音と声での威嚇と、あと呼び出せる家族が増えたぞ」

真「へへっ、ようやく半人前くらいにはなれたかな?」

響「まだまだ。迷宮を一番進んでる奴に追いついてようやく半人前さー」

貴音「気を引き締め、初心を忘れず、焦らずに行きましょう」

美希「だねー……あふぅ」

やよい「もう、言ってるそばから欠伸しないでくださいー」

響「……居た。この前の鹿だ」

やよい「どうですかー?」

響「同じ道をずっと歩いてるだけだな。多分あれ……邪魔になるものがあったらぶっ飛ばす、くらいしか考えてないんじゃないか?」

貴音「あの凶暴な鹿が?」

真「凶暴なんじゃなくて散歩の邪魔されて怒ってただけ、ってこと?」

響「この前も案外簡単に逃げられただろう? 深追いもしてこなかったし、そういうことなんだと思う」

美希「ってことは、タイミングを合わせれば戦わずに進めるね」

響「うん。余計な体力は使いたくないし、勝てるかどうかも分からない。避けて行くのが正解だと思うぞ」

貴音「では合図はリーダーに任せましょう。頼みましたよ、響」

やよい「マップ作りは任せてください! 鹿さんのこともメモしておきましたよ!」

響「うん、ありがと。一二の三で行くぞ……一……二の……三! 走れ!」

美希「響の読み通りだったの、あっという間にあっさり抜けられたね」

響「なんたって自分、カンペキなビーストキングだからな! 動物が何考えてるかぐらいすぐに分かるぞ」

やよい「うう、次から次にサボテンが出てきます~」

貴音「蝶もサボテンも、数が少なければどうということはありませんが、こう際限なく出てこられると」

真「まだまだ体力には余裕もあるし、避けられそうな戦いは避けつつ、まずは地図を埋めて行こう」

貴音「やはりそうなりますか。我慢、我慢……」

響「貴音、お腹減ってるならちょっとぐらい食べてもいいぞ。っていうかお腹減って動けない方が困るから」

美希「うーん、ついでだしそろそろお昼にしたいな。リーダー、2交代で良いかな」

響「……そうだな、じゃあ貴音と美希、真は先に食べて。やよい、自分と見張りだぞ」

やよい「はい、了解でーっす!」

真「もうすぐ夜か……まだ5割くらい余力あるけどどうする?」

響「採集作業を優先しよう。新しい装備があれば楽になるし、暗くなってからじゃ何時の間にか囲まれてる、とかありそうだし」

やよい「了解ですー。余力三割くらいで帰還しますか?」

響「糸はあるけど万が一も怖いし、様子見ながらかな。ないとは思うけど鹿の行動パターンの変化も警戒、だぞ」

美希「……」

響「どうしたの、美希。ぼーっとしてたら危ないさー」

美希「ううん、なんだか響のくせに頼もしいなって思っただけ」

響「うがー! くせにってなんだよー!」

美希「うんうん、こっちの方は実に響らしいの、あはっ☆」

貴音「二人とも、騒いでる暇はありませんよ」

やよい「そうですよー、早くしないと真っ暗になっちゃいます」

美希「はいなのー」

響「美希ー! まだ話は終わってないぞー!」

やよい「あ、リスですよ」

美希「やよい、鹿の件で懲りてないの?」

貴音「そうですよやよい、不用意に近付いてはなりません」

真「こんなに可愛くても、この過酷な世界樹の一員なんだもんなあ。でも可愛いなあ」

響「この大きさなら大丈夫、って言いたいけど、親リスが熊みたいに大きいなんて話もここならあり得そうだし……」

やよい「餌欲しがってるみたいですけど……やっぱり駄目ですか?」

響「うう、そんな目で見るなよやよい……」

>>79、君は
1.やよいの可愛さに免じてリスとの触れ合いを許してもいいし
2.絶対に駄目だ、危険だから近寄るなと厳命してもいい

1

響「……やよいには敵わないな。ほら、オヤツのクッキーあげてみるといいさー」

やよい「えへへ、ありがとうございますー! ちちち、ちちち、クッキーだよー」

リス「……キキッ」

やよい「ひゃあ!? え? え!?」

貴音「鞄、鞄に入りました!」

真「この、こいつ! あ、うわあ!? 背中ぁ!?」

美希「あん、いやんなのっ」

貴音「きゃ!? そ、そんなところは……!」

響「てやー! 次から次へうろちょろうろちょろ、出て来ーい!」

リス「キキキッ」

やよい「あ、あれ? あー! 糸、糸です! アリアドネの糸、盗られちゃいましたー!」

響「くっ……!」

真「諦めよう、もう追いつけないよ」

響「うう、ごめん皆。自分の判断が悪かったさー……」

やよい「ううん、元はと言えば私が……」

貴音「こんなこともあろうかと、糸を三つ用意しておいて正解でしたね」

響「た、貴音ぇ……!」

やよい「貴音さん……ありがとうございます!!」

貴音「礼を言われる程のことではありませんよ、習慣のようなものです」

美希「習慣?」

貴音「ええ、例の期間に少し修行を……」

真「あ、そういえば【シトト交易所】に働きに出てたって言ってたっけ」

貴音「はい、そこでは在庫を切らしたり注文を間違えたりする度に、ひ、向日葵のお姉様に……!」

響「貴音!? 顔が真っ青だぞ!?」

美希「あそこの看板娘ちゃん、貴音よりずっと年下だよね?」

貴音「い、いや! 許して下さいましお姉様! もう二度と、二度と商品のつまみ食いは!!」

やよい「糸を使ってすぐ街に戻りましょう、早急な治療が必要かなーって」

真「医術レベルが格段に上がったのは本当なんだね、的確で冷静な判断力だ」

貴音「奥へ進むにつれ、生き物の種類も増えてきましたね」

真「三階でこれなら最後の方はきっと動物園だね!」

やよい「うっうー! 楽しそうですー!」

美希「響、この階はなんだか羽音がすごいね」

響「うん、虫が多いみたい。あんまり長居はしたくないし、急ぐぞ」

真「っ、敵襲!」

響「陣形整え! 敵、テントウムシ二体ととアルマジロ、行くぞ!」

やよい「とりゃー! 【ヘヴィストライク】!」

ボールアニマル「グギッ」

やよい「一匹やりましたー!」

オオテントウ「キチチッ!」

真「くぅ、【フロントガード】!」

貴音「【巫術:鬼力化】!」

美希「むぅ、すばしっこいの……! 【レッグボンテージ】! なの!」

オオテントウ「ギィッ!?」

予定はキマイラ戦辺りまで
2も随分前にやったきりでうろ覚えだしね
誰かセーブデータ引き継いでくれていいのよ

響「【大蛇招来】! やれーヘビ香! 締め付けちゃえー!」

貴音「あれはみかたあれはみかたあれはあれはあれはみかたみかたみかたかたかたかた」

美希(あかんの)

響「片方は死に体、このまま総攻撃で一気に終わらせるぞ!」

やよい「はい、てやー!」

オオテントウ「ギッ……」

美希「ふふん、これで決めさせてもらうの! 【アナコン」

オオテントウ「キチチチチッ! キチチチチッ! キチチチチッ! キチチチチッ!」

美希「な、なに?」

真「皆、ボクの後ろに!」

響「なんだ、何が……」

貴音「ひっ!? な、何か来ます!」

美希「……何、あれ」

オオテントウ「キチチチチッ! キチチチチッ! キチチチチッ!」

美希「腕……ううん、脚? ねえリーダー、どこ縛ればあいつは止まるの? ねえ、リーダー」

ズル、ズルルゥ、ズルル

響(逃げる? いや、今後の為に一撃離脱で弱点を探った方が……? )

ボタ、ポタタ、ボタボタ

貴音「……面妖な」

シュルシュルシュル……

やよい「あぅ……」

真「大丈夫、ボクから離れないで」

ギョロ、ギョロロ



ラフレシア「ウバシャアアアア!!」

響「ッ! 美希、頭狙い! やよいはあいつの目をぶっ叩いて! 貴音と真は二人の援護! 行くぞ、【ビーストロア】!」

真「美希、防御は任せていいから思いっきりやっちゃえ! 【チョイスガード】!」

美希「えい、【ヘッドボンテージ】ッ」

貴音「……【巫術:硬皮化】やよいっ」

やよい「はい! せーの、【ヘヴィストライク】!!」

ラフレシア「ガフッ、ガフ……ガフ、フシュルルル」

オオテントウ「キチチチチッ!」

響(まずい、先にこいつを潰さないとまた……!)

ラフレシア「ッシャア!」

響「しまっ……ぐぅう!」

貴音「響!」

響「ぁ、し……さ……む、し」

やよい「無理に喋ろうとしないでください! 呼吸が出来るようになるまで後ろの方に!」

響(くそっ、伝えなきゃ! 伝えなきゃ! どうすれば……!?)

ヘビ香「しるるる……」

真「次は!? さっきと同じように動いて先にあいつを倒せばいいの!?」

美希「分かんない、分かんないよ!」

やよい「響さんは今指示が出せません、私たちで推測するしか!」

貴音「響……! とにかく、後退しながら態勢を立て直しつつ響の回復を……っ!?」

ヘビ香「しゃあっ!!」

オオテントウ「キキッ!? キチチ、キチ、キチチッ」

貴音「ヘビ、香……何故、何故今テントウムシを」

美希「貴音、何ボーッとしてるの!」

貴音「倒せる敵から? いいえ、定石ではあるけれどこの状況では」

真「貴音さん!」

貴音「響が戻るまでの時間稼ぎ? でも何故テントウムシに」

やよい「貴音さん!!」

貴音「……!! 美希、美希は
テントウムシを! やよいは響の治療へ! 真、申し訳ありませんが耐え忍んで下さい!」

真「ええ!? わ、分からないけど分かった! やるぞぉ……【挑発】!!」

貴音「……【巫術:硬皮化】!」

やよい「響さん、動けますか!?」

響「にふぇーでーびるーやよい……はぁ、はぁ、良かった、ちゃんと通じたんだな」

やよい「え? あの」

響「ヘビ香、よくやったぞ、偉いさー! 美希、やるぞー! 【ドラミング】!!」

美希「えーい!」

オオテントウ「ヂ、ヂッ……!」

響「よしっ! やよいは真の治療、美希はあいつの頭を縛って! 貴音、真! 大丈夫かー!?」

貴音「はぁ、はぁ……ふふ、もう少し休んでいても良かったのですよ?」

真「くぅ……まだまだぁ!!」

響「貴音、通じて良かった! あのままだとあいつ」

貴音「ええ、またこの面妖なる生き物を呼び出していたでしょう。ヘビ香が教えてくれました」

響「えへへ! 自分の家族はカンペキだからな! さぁ、今度こそ一気に終わらせるぞ!」

貴音「っこの!」

響「とりゃあ!」

真「はぁ、はぁ……! この、しぶとい!」

やよい「てやーあ、ぁ、はわっ!?」

真「やよい!?」

ラフレシア「ウバッシャア!!」

美希「真クン、危ない!」

真「うわっ!?」

響「っ、【大鳥招来】! オウ助、やよいを!」

オウ助「クェー! ケケ、コノヤロ! コノヤロ!」

響「蔦が激しすぎて近付けないのか……! く、やよいー!」

貴音「何か、何か策は!?」

美希「退いて退いてー! こうなったら必殺技、決まるか分からないけどやってみるの! イっくよー、ミキの【ジエンド】!!」

ラフレシア「キシャア!!」

美希「当ったれー!!」

ラフレシア「キギギギィッ!? バシャアア、アァ、ア……」

響「え……花も蔦も、枯れていってる……?」

やよい「お、落ちちゃいます! 死んじゃいます~!!」

真「やよいっ! ……ふぅ、間一髪かな」

やよい「あ、ありがと、ありがとございます、ばごどざん~」

真「あはは、大丈夫そうだね」

貴音「……美希、今のは一体」

美希「はぁ、ああん……熱いの、ミキの中に入ってくるのぉ♡ んん、すーっごく、良かったの♡ チュッ!」

ラフレシア「ァ……」

貴音「なんと」

響「……貴音ー? 消耗し過ぎたから帰るぞー」

貴音「は、はい」

響「ただいまー」

女将「あらま、また随分汚れて帰って来たねえ、さっさとお風呂入っちゃいな」

やよい「はーい」

女将「真ちゃん! あんた折角の綺麗な顔が傷だらけじゃないの、顔は大事になさいよ?」

真「えへへ、ありがとうございます」

女将「貴音ちゃんも美希ちゃんも髪の毛にそーんなに砂付けて……お風呂場行く前に軽く流しなさいね、髪は女の命なんだから」

貴音「は、はあ」

美希「はいなのー」

女将「お風呂出たらすぐご飯でいいわねー?」

響「お願いしまーすだぞー」

女将「ほんとにもう、手がかかるったらないねえ……ふふふ」

真「いいよねーお風呂。んー、今日も頑張ったー!」

響「ちょ、美希ィ! どこ触ってるさー!?」

美希「ただの洗いっこなの~、ほらほら」

響「ゃ、ん……だめ……! この、駄目って言ってるでしょ! がるる!」

美希「痛いの。ちょっと火照ってるからふざけただけなのにひどいの」

響「ひどくない!」

やよい「ふわー、きもちいいですー」

貴音「高槻やよい、痒い所はございませんか? ふふ、流しますよ」

真「……うん、今日もちゃんと守れたんだ」

美希「真クン? 何呟いてるの?」

真「ん? ちょっとね……勝利を噛み締めてたとこ」

美希「ふーん?」

女将「あんたら、三階まで行ったんだって? さっき衛兵さんが来て教えてくれたよ」

響「三階に着いたって言っても、入ってすぐひどい目に遭ったけどね、あはは」

女将「無事に帰って来ただけでも大した成長だよ、これからも頑張るんだよ?」

美希「はいなのー! ところで今日のご飯はなぁに?」

女将「お待ちかねだね。挽肉と香草のパイに、トマトとバルサミコ酢のサラダだよ。赤と黒のコントラストが綺麗だろう?」

真「あ、あはは……くぅ」

貴音「では早速頂きましょうか」

やよい「ですね!」

女将「そうそう、ジャンジャン食べないと強くなれないわよー!」

響「……二人とも元気だな」

親父「三階か、いよいよ冒険の辛さが分かってくる頃だな。辞めたくなったか?」

真「まさか! 最奥に最初に到達するのはボクらですからね」

親父「でけぇこと言うようになったな小僧! ガッハッハッハッハ!」

真「だから、ボクは女ですってば!!」

親父「はいはい。それで? また明日すぐに潜るのか?」

真「ええ、そのついでに片付きそうな依頼があればと思って」

親父「んー、今のお前らならこれ任せても大丈夫そうだな。ほれ」

真「へへっ、やーりぃ! ん、これは」

親父「一階のあいつの討伐だ。前にお前らが倒したと浮かれてたが、案の定逃げられただけだったみたいだぜ?」

真「『手負いの襲撃者』……今度こそ、こいつを倒せばいいんですね」

親父「おう、しっかりやれよ」

真「はい!」

やよい「美希さん、この鈴なんですかー?」

美希「うーん、前に迷宮で一緒にお仕事した人がくれたけど、ミキもよく分かんないの。この先役に立つんだってさ、本当かな?」

やよい「へー。よく分かんないですけどすごそうです!」

美希「じゃあそれはやよいが持ってていいよ。迷宮に入る時はあんまり鳴らさないようにね」

やよい「そうですね、魔物が寄って来ちゃうかもですし……でも綺麗な音ですよね」

美希「そだね。なんだか眠くなって来るの……あふぅ」

やよい「み、美希さーん、ちゃんとベッドで寝ましょうよー」

美希「やよいが運んでー」

やよい「無理ですようー!」

響「良い天気だなー、絶好の探索日和。今日こそちゃんと三階の地図作るぞー!」

やよい「おー!」

真「美希、分かってる?」

美希「テントウムシは最後に残さない、だよね」

貴音「さもなくば、またアレが来るやも知れませんからね」

響「さ、行くぞー……ってなんだこれ!?」

貴音「これは……磁場、でしょうか?」

美希「あ、ミキこれ知ってるよ。町とチョクツーなんだって」

真「直通? 磁場が? どういうこと?」

美希「ミキもよく知らないけど便利なんだって」

やよい「へー。でも私たちじゃ使い方分かりませんよ?」

フ??「そこの君、久しぶり。それと他の君たちは初めまして」

響「あー! 君は、フ、フロ……フロロ、フロンガス! それにクロガネ!」

クロガネ「ワフッ」

フ??「……とにかく久しぶり」

美希「知り合い?」

響「命の恩人さー」

貴音「ほう……」

フ??「君たちの目の前にあるそれは【樹海磁軸】と呼ばれるものだ。金髪の君が言った通り、町と直通になっている」

やよい「それって、つまりどういうことですか?」

フ??「一階、二階を通らずにここまで来られるってことさ。帰りも同様にね。ああ、仕組みは聞かないでくれ。誰も知らないんだ」

貴音「なんと……不可思議な」

フ??「これだけ不可思議な迷宮があるんだから、こんなものがあってもいいと思うけどね。使い方は衛兵にでも聞くと良い、じゃ」

響「あれ、これから帰る所なのか?」

フ??「そういうこと。君たちも探索、頑張りたまえ。行くぞ、クロガネ」

クロガネ「ウォフ」

美希「あ、消えたの……貴音?」

貴音「おばけこわいおばけこわいおばけこわい」

美希(あかんの)

響「近道も見つかったし、改めて三階探索始めるぞー」

真「おー」

貴音「真? 何やら元気がないようですが」

真「じつはこういう依頼受けちゃって……一階通らないとなると、どうしようかと」

貴音「ふむ、『手負いの襲撃者』ですか。響、響、帰り道の相談なのですが」

響「帰りは徒歩? 別にいいけど……ちょっと磁軸使ってみたいと思わない? あ、思わないか。分かった、分かったから泣くな」

やよい「うう~、なんかこの扉の先から嫌な感じが……」

響「あ、こらやよい! 勝手に進んじゃ駄目だろー、ってうわ! すごい血生臭い風が」

美希「……ミキ的には、帰り道の心配してる余裕ないかもって感じなの」

響「ね、念の為に各自装備点検っ! いいか? 開けるぞ? せ、せーの……」

響「うわ……」

貴音「広い、ですね」

美希「! 戻って! 早く!」

やよい「え? え? え?」

真「ちょ、美希!?」

美希「はぁ、はぁ、はぁ……扉閉めておけば大丈夫だよね」

響「ど、どうしたんだ美希? 何をそんなに」

やよい「……あ、思い出しました」

貴音「え?」

やよい「あの部屋の臭い、公国薬泉院の手術室にちょっと似てるんです」

真「それって……」

美希「みんな、見てなかったの? でっかいカマキリが凄い勢いでこっちに飛んで来てたんだよ?」

貴音「ひっ」

真「こっちを狙って来る強敵、か……」

美希「もしあんなのと戦ったら、ううん、何があっても戦っちゃ駄目。リーダー、ここからどうやって進む?」

響「誰か、あの部屋の扉を確認した人は?」

貴音「見た、というわけではありませんが、斜向かいにある気がします」

美希「気がするとかそんなのんびりしたこと言ってられないの」

貴音「そう、ですよね……」

真「ボクが見た限りでは北には扉っぽいのはなかったよ。やよいは?」

やよい「すみません、そこまで気が回らなくて……ただあの、結構沢山、多分、確実かは分からないんですけどその」

美希「……言ってみて、やよい」

やよい「は、はい。あの、骨……だったと思うんです。人か動物かは、遠くて分からなかったんです、けど。その、多分の話です!」

響「……恐らく、冒険者の物だぞ。さっき、真っ二つになった剣が自分の足元にあったから」

真「真っ二つって……」

響「切られたみたいにキレイに半分になってたさー。ここ抜けるのには時間がかかりそうだぞ」

美希「だね」

やよい「ど、どうですか?」

美希「置物みたいにじっとしてる……もう四時間は経つよね?」

やよい「はい、合計で十五時間です。虫は動かずにじっとしてる方が得意ですから、まだまだそのままだと思います……」

美希「ふーん……っ、気付かれた!」

やよい「! 皆さん起きて下さい! 逃げますよ!」

響「!」

貴音「!」

真「!」

美希「……来ないの」

響「ふあぁ……やっぱり虫らしく、テリトリーに入った敵を狩るタイプなのかな。扉を越えては来ない」

美希「どうなんだろ。丁度そろそろ交代の時間だね、監視よろしく」

響「自分で言い出しておいてアレだけど、虫って本当に寝るのか? もうすぐ夜が明けるぞ……」

真「とにかく、隙が出来る時間をどうにか見つけないと……本当にあるのか疑わしいけど」

貴音「立ちながら浅く眠り、気配を感じ取ったらば目を覚まし襲いかかって来るのかも知れませんね」

響「えーと、皆起きた? 情報を整理するぞ。まず、この扉の先は大部屋で、すごく危険なカマキリがいる」

美希「次に、扉は斜め向かいの角にあって、カマキリはほぼ部屋の真ん中で構えてる」

響「そうだな。交代で監視をした二日間、隙らしい隙も見つけられなかったこのままでは進めない……さて、どうする?」

真「別のルートを探す!」

響「あったら良かったんだけどな……この辺を調べた結果は」

真「だよね。なら囮で隙を作るとか」

美希「木偶人形に服着せても見向きもされなかったの」

貴音「……強行突破、などは」

響「死んじゃうよ」

やよい「うーん、虫、虫なら殺虫剤じゃ駄目ですか?」

美希「人間も死ぬレベルのが必要って思うな」

真「煙で目眩ましとか」

響「こっちもどこから襲われるか分からないのはヤバ過ぎるぞ」

真「じゃあどうするのさ!?」

響「それを今考えてるんでしょ!?」

美希「二人ともちょっと静かにして欲しいの、ミキも真剣に考えてるんだから……」

やよい「うう、虫さんと持久力で争うのは無茶な気がします~、やっぱり別の道を探した方が」

貴音「道がないのならば作るという手段もあるのでは?」

美希「!! ちょ、ちょっと今の会話やり直して!」

真「え? やり直してって……」

美希「いいから!!」

真「う、うん。えーと……じゃあどうするんだよ?」

響「それをー、それを皆で考えてるんだ?」

美希「ここでミキが静かにしてって怒って、それで……やよいだったよね? 何て言った?」

やよい「う? あの、うう、すみません。覚えてないです~……」

貴音「道を探した方がと言っていたように思いますが」

美希「うーん、あれ? うーん、うーん、さっきは何か引っかかったのになー……」

美希「静かにしてって怒って、やよいが、えーと、道? それで貴音が道を作るとかわけの分からないこと言い出して……」

貴音「わ、わけの分からない……!」

響「悪気はないんだ、多分」

真「うん、多分」

やよい「ごめんなさい美希さん……」

美希「ちょっと静かにして欲しいの、ミキも真剣に考えてるんだから……」

やよい「ご、ごめんなさい~!」

真「悪気ないんだろうな、多分」

響「記憶を真似してるだけだしな、多分」

貴音「最後に多分を付ければ許されるというのは無茶な気がします……」

美希「無茶? 無茶、無茶、無茶な気がします~……あ、あー、あ、争う?」

やよい「あ、なんかそんな感じのこと言った気がします」

美希「無茶な気がします、争う、争うのは無茶な気がします、虫さんと! じ……持久力! これなの!」

響「思い出したみたいだ、多分」

真「これは多分いらないでしょ、多分」

美希「やよい! 虫の話聞かせて!」

やよい「虫さんの話ですか? じゃあ、アリさんとキリギリスさんのお話をしますね」

貴音「……なんだったのでしょうか」

響「寝る前に本読んでもらいたかったのかな」

真「そうなの?」

美希「全然違うの! やよい、カマキリは持久力があるんだよね! 瞬発力もある! じゃあ……じゃあ何秒ぐらい全力で動ける!?」

やよい「あぅ、あの、揺らさないで下さいぃ、カマキリさんは基本的に待つ生き物だから、あまり長くはないかなーって」

美希「ということなの!」

響「どういうことだぞ」

美希「鈍いの、実に響らしいの。つまりあのカマキリ、無茶苦茶すごいスピードだったけど、ずっとはそんな風に動けないの!


真「そうか、疲れてる時なら横を通り抜けられるかもしれない!」

美希「そういうこと! 真クンは察しがよくて助かるの」

貴音「しかし……部屋の中央からこちらへ着くまでに体力切れを起こすでしょうか?」

美希「ふふん、抜かりはないって感じ!」

美希「べろべろば~! ばいばーい」

響「扉から美希が顔出す度に、律儀に全力で飛んで来ては帰って行くカマキリがかわいそうになってきたさー……」

真「これも生きる為だ、割り切ろう」

やよい「大分速度が遅くなって来ましたね」

貴音「そろそろでしょうか?」

美希「そうだね。打ち合わせ通り、二組に別れていくの。リーダー!」

響「行くぞ、一……二の……三!」

真「うおー!」

やよい「たあー!」

刈り尽くす者「キ、キィ……! キシ……キィ……!」

響「楽勝さー!」

美希「なのー!」

貴音「ふふ、ふふふふ、ふふふ!」

美希「貴音が怖いの!?」

美希「なんでもう一匹いるの」

響「しかも通路だし、これ目付けられたら逃げきれないぞ」

貴音「いえ、そうとも言い切れないようです……あのカマキリをよく見て下さい」

真「……いますね。幻とかじゃなく普通にいます」

貴音「そうではありません。やよい、気付きませんか?」

やよい「んー……もしかして、あのカマキリさんは結構お年寄りさんですか?」

貴音「恐らく。で、あるならばあるいは横を通り抜けられるやも、というのがわたくしの案です」

響「そんなに上手くいくかー?」

貴音「年を取れば視界は狭まり色は濁り、耳は遠く鼻も詰まると聞きます。試してみる価値は、十二分に」

真「ど、どうする?」

響「……分かった。もしかしたら動きも鈍くなってるかもしれない。通り抜けられなくても逃げられる可能性は高い」

美希「響の指示に従うね」

やよい「響さん、お願いします!」

響「行くぞ、一、二の……三!」

真「なんか、監視してたのが馬鹿みたいだね」

響「こんなに上手く行っていいのか? 何かの罠じゃ……」

やよい「あ、またカマキリさん」

美希「宝箱も一緒に置いてあるなんて怪し過ぎなの」

響「あの部屋はスルーな、あからさまだぞ」

貴音「ですね。あふぅ」

やよい「貴音さんがあくびなんて珍しいですね」

貴音「少々、緊張の糸が緩んだようで……あふ」

響「難所も通り抜けたみたいだし休憩挟むか。貴音、寝てていいぞ。やよいと美希もな」

貴音「申し訳ありません。では、お言葉に甘えて……すぅ、すぅ」

やよい「それじゃ、お休みなさいー……ぐう」

美希「むにゃむにゃ」

響「今までのパターンだと、この先も何かあるよね」

真「だろうね。皆大分疲れてるし、ここからは気を引き締めないと」

やよい「うう、また嫌な感じが……」

真「またカマキリ部屋? 胸くそ悪いな……」

フ??「いいや、この先にいるのは『刈り尽くす者』よりよっぽど危険だ」

響「フローラル! クロガネも元気にしてたかー?」

クロガネ「ウォッフ」

フ??「……まあ、いい。公宮のお触れは見たかい?」

響「いや、ここ数日は町に戻ってないから知らないぞ」

貴音「風呂吹き大根殿、公宮に何事かあったのですか?」

フ??「……」

貴音「あの、風呂釜殿?」

フ??「もう知らない! 勝手にしろ! 行こうクロガネ、信じられるのはお前だけだ!」

貴音「はて?」

やよい「どっちにしてもそろそろ一度街に戻りましょう。今の状態じゃこれ以上進めません」

美希「あれ? ねえ響、もしかしてここって抜け道になってる?」

響「お、すごいぞ美希、大発見だぞ! うわ、磁軸の真ん前だ! 糸代浮いたー!」

ご飯休憩ですよ、ご飯休憩!

大臣「おお、お触書を見て来た者か」

響「あのー、衛兵行方不明って何なんですか?」

大臣「うむ、世界樹の迷宮の構造は知っておるな?」

真「奥に行くほど強い敵が出る、ですよね」

貴音「加えて、一定間隔毎に風土がガラリと変わる……五階で一階層でしたか」

大臣「うむ、とはいえ確認出来ておるのが二階層までじゃ、推測の域は出ん。で、その第一階層の探索に出した兵士が戻らん」

やよい「あう……あの、カマキリさんですか?」

大臣「あの大部屋についても調査しておるが、それらしい物が出て来ん。報告によるとその更に先、四階への階段近くが臭くてな」

美希「兵士がこれ以上死ぬのはマズイから、死んでもいい冒険者に調査させることにしたの?」

大臣「……辛辣だな。その通りだ、命の代わりに我々は報酬を用意する。迷宮踏破のお触とその実は変わらんよ」

響「でも、このままだと他の冒険者も危ないんだよね? やるぞ、ます! 皆もいいよね?」

真「もちろん」

美希「しゃーないの」

大臣「そう言ってくれるか、ではこれを……」

響「これは……鈴?」

大臣「引き寄せの鈴という。魔物が好む音を出し、誘導するのに使えるはずだ。報告ではあの周辺には凶悪な鹿がおるでな」

響「うう、また鹿……トラウマだぞ」

真「逆に考えればリベンジのチャンスだよ、響。上手く出し抜いてやろう」

美希「鈴……やよい、今あの鈴持ってる?」

やよい「はい、これですよね」

美希「お爺ちゃん、この鈴って何か分かる?」

大臣「おじっ!? ご、ごほん! これは、眠りの鈴じゃな、強大な魔物をも眠らせる音色を奏でるそうじゃ」

美希「ふーん、そうなんだ……ありがと」

貴音「大臣殿、わたくしたちは行方不明になった衛兵を探せば良いのでしたね。既に骸となっていた場合は、如何ように」

大臣「……その時は衣類の一部と、見つけた場所を報告してくれい。くれぐれも、よろしく頼む」

響「じゃ、じゃあ行ってきますです……美希、貴音。二人ともあのお爺さん嫌いなのか?」

貴音「人を導く姿にあるまじきと、そう感じただけです。好くも嫌うもありません」

やよい「なんだか難しいですねー」

美希「ミキはきらーい。鹿がどんなに危ない生き物か知らないくせに、あんなに簡単に頼むのはおかしいの」

真「まあまあ、そう言わずに。ボクだってそう何度もやられたりしないよ、ね?」

女将「それでなんだかギスギスしてたのかい? チーズケーキ焼いてあげたんだから、そんなこと忘れちまいなよ」

美希「だって」

女将「だっても明後日もないよ、向こうだって王様に言われてそうしてるんだから仕方ないよ」

美希「むぅ……」

貴音「王の命ならば尚更悪い。他国の者を蔑ろにする者はいずれ自国の民をも蔑ろにします!」

女将「そうは言うけどねえ、冒険者が来るようになってこの街はやっと人並になったんだ。あんたらが迷宮に入れるのも王様のお陰だよ?」

貴音「それは、そうですが……」

響「もうこんな時間か。明日の探索に備えて、今日は皆ゆっくり休むんだぞ? じゃ、お休みなさーい」

美希「お休みー……あふぅ」

真「お休みなさい」

やよい「お休みなさいですー」

貴音「お休みなさいまし……」

女将「はいお休み、明日は元気な顔見せたくれよ」

響「もう一回各自装備点検……問題なさそうだな、行くぞ」

やよい「あれ? 響さん、これ」

美希「あ、フロントシールドの書き置きなの」

響「えーと何々……」

フ??『怒レル獣ノ奥、人ノ気配アリ』

真「鹿を退かせってことかな」

やよい「人の気配ってことは、生きてる人がいるんですね!?」

美希「それはまだ分からないけど……フロワロはなんで自分で助けなかったんだろ」

真「うーん、よっぽどのっぴきならない事情があったんだろうね」

貴音「とにかく、中の様子を見てみないことには」

響「だな、準備オッケー? ……よし、ゴッ」

貴音「な……くっ!」

やよい「う、うぷええ……」

美希「鹿は……いた。全部で三匹? ううん、茂みの奥にもっと?」

真「こんな、ひどい……ひどすぎるよ!」

響「皆、落ち着いてなんていられないだろうけどごめん。落ち着いて、冷静になって」

貴音「……響」

響「多分、あの右奥のでかいのが親玉さー。あれを退かして奥へ行けば、まだ助かる人がいるかもしれない。だから落ち着いて、耐えて」

やよい「んぐ……はい。私は大丈夫、です」

真「大丈夫、大丈夫だ。一人で突っ込んだりしない、ボクが皆を守らなきゃ駄目なんだから」

美希「真クン! ……無理、しないで?」

貴音「……行きましょう、微かではありますが確かに人の気配もあります」

響「皆、こんな仕事受けちゃってごめんなさい。もうちょっとだけ付き合ってもらうね……美希、鈴」

美希「はいなの。鹿の他に目立った敵はなし、多分行けるよ」

響「うん、じゃあ作戦を話すぞ」

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