パワポケ「私立NIP高校?」(お試し版) (207)

須田「このスレを担当及び、今回相棒役の須田でやんす。
   以下にこのスレの説明を書いていくでやんす」

・このスレはパワポケオリジナルSSでやんす

・設定年代はパワポケ14の終了から二年後、主人公は高校三年生でやんす

・このSSの話を理解するにはパワポケをやったことあるだけじゃなくて、
 正史考察WIKIで正史をある程度把握する必要があるのと、このSSのみのぼくの考えた正史があるので注意でやんす

・今回はお試しなので一人分彼女攻略するだけでやんす。

・主人公のポジションは捕手固定でやんす

・基本書き溜めを投下するだけだから、選択肢を間違えるとバッド直行するでやんす

・10週目までに好感度が15いかなかったら13週目で強制バッドでやんす

・やり直しは三回まででやんす

・四回彼女攻略失敗したらまた後日でやんす

・メタ発言自重しないでやんす

・パワポケは面白いでやんす

須田「それじゃあ、はりきっていくでやんすー!」

主人公の名前(デフォルトはパワポケ)
>>3

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1393796730

小波とかでええんちゃう

>>2
小波でいかせていただきます

 主人公は小さいころから野球を頑張ってきた。
 そのおかげで中学生の頃にそこそこの成績をあげ、
さらにその活躍が認められ、高校は地元の野球強豪校に進学。

「ここが天下の名門、私立NIP高校か……」

「あんたも、もしかして野球部でやんすか?」

「そうだけど……どうしてわかったんだ?」

「野球のユニフォームを着てサッカーをする人はいないでやんす」

「……それもそうか。それよりあんたもって」

「そうでやんす! オイラも野球部でやんす。ちなみにポジションはピッチャーでやんす」

「そうなんだ。俺はキャッチャーなんだ。
 もしかしたら俺たちバッテリーを組むことになるかもね」

「そのときはよろしくでやんす」

「うん。一緒に甲子園目指して頑張ろう!」

 この時彼の道は光り輝いていた。少なくともこの時は……

8月4週目、NIP高校は甲子園の決勝まで駒を進めていた。

「それにしても先輩たちすごいね。甲子園に行ったと思ったら、あっという間に決勝だよ」

「今年は歴代最強とまで言われているでやんす。今まで苦戦はほとんどなしでやんす。
 まあその分おいらたちはベンチだし、来年も熾烈な争いになりそうでやんすが」

「なんの、来年こそは俺たちがあそこにいるさ」

「パワポケ君はポジディブでやんすね。
 ……それにしても先輩たち遅いでやんすね」

「たしかにそうだね。敵のチームはもういるのに」

『皆様にお知らせがあります』

「なんか放送が始まったぞ」

『今日の甲子園決勝、NIP高校対花丸高校の試合ですがNIP高校の棄権により、花丸高校が第XXの甲子園優勝校に決まりました』

「な、なんだってー!?」

 突然のNIP高校の棄権。
 それはエースの持ち物からアルコール飲料が見つかったことによるものだと後から聞かされた。

「まさか甲子園への挑戦があんな結末で終わるなんて……」

いろいろと不良消化で終わった夏休みが終わって新学期。
 パワポケは憂鬱な気分で登校していた。

「た、大変なことになったでやんす!」

 学校に来るとバッテリーの相方が血相を変えて近寄ってきた。
 そして彼に促されるように学校の掲示板を見ると。

「なになに、『野球部今後一年間公式非公式に問わず試合の禁止 by校長』……って、なんだよこれ!」

「しかも今後一年ってどうやら九月からまるまる一年らしいんでやんす」

「ちょっと待てよ。まるまる一年って……」

「そうでんす。来年の夏の予選も出れないでやんす……」

「そんな馬鹿な」

「さすがに二年生が可愛そうだって監督と顧問がかけあっているそうでやんすけど、望みは薄いでやんす。
 それにおいらたち一年でもどうせ一年間棒に振るんだったら何もできないここよりも練習試合はできる他の高校に行く人もいるでやんす」

「そんな……」

 ガクリと肩をおとす主人公。

「……パワポケ君、ショックなのはわかr」

「うがーっ!」

「うわっ!? ど、どうしたでやんすか?」

「絶対に諦めない。俺は甲子園に行くぞ!」

 こうして主人公の挑戦が始まった。

小波「今日は身体測定の日だ」

 身体測定のため授業は自習になっている中、呼び出しを受けた俺が保健室に向かうと
保健室前には多少の行列があり、その中に須田君がいた。

須田「小波君、知っているでやんすか?」

小波「何を?」

須田「今まで担当していた保健の先生は去年いっぱいで退職して
   今年から新しい先生が入ったそうでやんす」

小波「そうだったのか。……少しさみしいね」

須田「小波君は優しいでやんすね。
   おいらはあのおばちゃんは保健室でのずる休みをさせてくれなかったから、嬉しいでやんす」

小波「あはは。それで新しい先生ってどんな人なんだい?」

須田「それはおいらも知らないでやんす。
   どうやら新学期が始まってから着任したみたいでやんす」

小波「新学期が始まってからって、辞めてからそれまで保健の先生はいなかったのか?」

須田「そうみたいでやんす」

小波「大丈夫かこの学校……」

須田「そういうわけで、詳しいことは誰も知らないみたいでやんすが、
   毒島って名前だけは聞いたでやんす」

小波「毒島か……珍しい苗字だね。どんな先生なんだろう」

須田「名は体を表すっていうし、期待しない方がいいでやんす」

「おーい、須田。次はお前の番だぞ」

小波「須田君、呼ばれているぞ」

須田「じゃあ小波君、また後ででやんす」

小波「そろそろ俺の番かな」

 小波が行列の先頭にきたころ、須田が出てきた。

小波「あ、須田君、どうだった?」

須田「……綺麗なお姉さんだったでやんす」

小波「はあ?」

 小波としてはまっとうに身体測定の結果を聞いたのだが、須田はどこか上の空だった。

須田「決めたでやんす! おいらはこれから保健室に通いまくるでやんす」ダダダッ

小波「あ、行っちゃった。なんだったんだ? いったい……」

・・・・・・・・・・

「……次の人、入って」

小波「あ、はい」

 ようやく出番が来たと思って中に入るとそこにはたしかに美人といえる人物がいた。

毒島「まずは身長。ここに来て」

 だけど保健室の先生である彼女のその口元には煙草が咥えられていた。

毒島「……どうかした?」

 先生は立ち止まっていた俺の様子を不審がってきた。

小波「あ、えっと……」

A.どうして煙草をすっているんですか?
B.毒島先生ですか?
C.先生に見惚れていました。
D.すみません。なんでもないです。

>>12

人がいないので>>11

D

小波「すみません。なんでもないです」

毒島「そう。ならこっちに来て」

小波「はい」

 毒島の好感度が1上がった。
 毒島に会えるようになった。

小波「今日は保健室に行ってみるか」

タッタッタ

小波「すみませーん」

毒島「……どうかした?」

 保健室に行くと毒島が出迎えた。もちろんその口には煙草(火はついていないが)が咥えられている。

小波「実は……」

A.ちょっと気分がすぐれなくて
B.怪我をしてしまって
C.先生に会いたくて

>>13

間違えすまん

小波「先生に会いたくて」

毒島「……十人目」

小波「えっ?」

毒島「なんでもない……不純な動機でここにこないで」

小波「は、はい……」

 毒島の好感度が1上がった。

小波「須田君、部活の時間だよ」

須田「頑張るでやんす!」

 ピンポンパンポーン

小波「あっ、校内放送だ」

毒島『……2年のモブA』

須田「毒島先生の声でやんす!」

毒島『至急保健室に来るように。以上』

 パンポンピンポーン

小波「毒島先生のしゃべり方ってちょっとそっけないよね」

須田「そこがいいでやんす!」

別の日

 ピンポンパンポーン

パワポケ「あっ、また校内放送だ」

毒島『……1年のモブ子C、至急保健室に来るように。以上』

 パンポンピンポーン

須田「また呼び出しでやんす」

パワポケ「なんかちょくちょく呼び出すよね。どうしてだろう?」

須田「呼び出された人に何をしたのか聞いても特に何もなかったそうでやんす」

パワポケ「不思議だなあ」

 毒島の好感度が1上がった。

小波「今日も練習頑張るぞ!」

 カキーン!

須田「小波君、キャッチャーフライでやんす」

小波「任せろ」

 ダッダッダッ

小波(よし! 捕れる)

須田「小波君、危ないでやんす!」

小波「あっ、目の前に人が!」

A.避けろと叫ぶ
B.全力でかわす

小波(向こうは俺に気付いていない。全力で避けなければ!)

 シュタタタタ、グキッ

小波「グッ……だ、大丈夫か?」

一年部員「は、はい。大丈夫です」

須田「小波君は大丈夫でやんすか?」

小波「うん、なんとかね……」
  (ちょっと痛いけど、まだ練習はできるかな?)

 ピンポンパンポーン

毒島「……小波、至急保健室に来るように。以上」

 パンポンピンポーン

須田「小波君、呼ばれているでやんす」

小波「なんだろう。ちょっと行ってくるよ」タッタッタ

 保健室

小波「すいませーん。呼ばれたので来たんですけど」

毒島「……待ってた」

小波「それで俺に何か用ですか?」

毒島「……うん、脱いで」

小波「……えっ?」

毒島「早く」

小波(まさか、たびたび皆を呼び出していたのはそういうわけだったのか?)

毒島「……」

小波(だけどこんなに綺麗な先生ならかまわないけどなあ)デレデレ

毒島「?」

小波「わ、わかりました。すぐに脱ぎます」ヌギヌギ

毒島「何をしているの?」

小波「へ?」

毒島「怪我をしているのは足でしょ? 靴下、早く脱いで」

小波「は、はい」ヌギヌギ
  (勘違いだったのか……なんで怪我しているの知っているんだろう。見てたのかな?)

毒島「……痛くない?」ソッ

小波「は、はい。特に痛みは……」
  (医療行為とはいえ、先生の触れ方はなんか変な気分になりそう)

毒島「うん、やっぱり。ちょっと腫れてる」

小波「大丈夫ですよ。これくらい」

毒島「無理は禁物。下手したら長引く」

小波「だからって練習を休むわけには」

毒島「心配いらない。これなら30分で治る」

小波「30分? それはさすがに……」

毒島「ちょっと待ってて」ゴソゴソ

小波(本気なのか……)

 数分後

小波(沈黙に耐えられん……!)

小波「あ、あの先生」

毒島「何?」

小波「先生が日ごろ放送で呼び出している人ってもしかして怪我をしている人ですか」

毒島「そう」

小波「それなら」

A.「先生はどうしてわかったんですか?」
B.「どうしてそのことが広まらないんだろう」


小波「先生はどうしてわかったんですか?」

毒島「…………見てた」

小波「え? で、でもそんな都合よく……」

毒島「見てた」

小波「そ、そうですか……」

 毒島の好感度が1上がった。

 その後

須田「小波君、小波君」

小波「ん? どうしたんだい須田君」

須田「どうしたはこっちのセリフでやんす。呼び出しから帰ってきたらと思ったらぼうっとしているし、
   何か保健室で何かあったでやんすか?」

小波「いや、特に何もなかったよ?」

須田「ところで、小波君さっきの怪我は?」

小波「怪我? 何の話だい?」

須田「え?」

小波「あ、もう休憩終わりだよ。行こう須田君」

須田「……どうなっているでやんすか?」

小波「今日は調子が悪いな。保健室に行こう」

 保健室

小波「すみませーん……あれ? 先生がいないぞ」

 決してしゃべるような人ではないが、毒島先生がいない保健室はいつもよりどこか寂しさを漂わせていた。

小波「ベッド勝手に借りても大丈夫かな……ってなんだこれ!」

 中に入るとの目に入ったのは机の上に書類や保健室の器具の数々が散乱していた。

小波「こ、これは……どうしよう?」

A.見て見ぬふりはできない。片付けるか。
B.休みに来たんだから寝よう
C.ここにいたら俺が荒らしたと思われるんじゃ……逃げよう

小波「見て見ぬふりはできないな。片付けよう」

 器具は取扱いがわからないので書類から片付け始めることにする。

小波「ん? これは……」

 ある程度書類が片付くと注射器を発見した。
 ここは保健室であるのだから注射器があること自体はそこまでおかしいと思わないけど、

小波(注射器内部と針に水滴がついてる……)

毒島「……何をしているの?」

 保健室の入り口に部屋の主が立っていた。

小波「わっ、毒島先生。こ、これは違うんです俺がやったんじゃなくて」

毒島「知ってる」

小波「し、信じてください!……って、え?」

毒島「それ、私がやったから」

小波「そ、そうなんですか……」

毒島「どうして君はここに?」

小波「ちょっと気分が優れなくて」

毒島「……そう」

 先生はいつものように火のついていない煙草をくわえて歩いていた。
 しかし、

毒島「!」バッ

 部屋の中のあるものを見た瞬間、珍しく焦った顔でそれを隠す。

小波「あの……先生?」

毒島「……見た?」

小波「え?」

A.何をですか?
B.それはもう、ばっちりと

小波「何をですか?」

毒島「……見ていないのならいい。気分が悪いなら奥のベッド使って」

小波「はい」

 その後

小波「ふわあ……よく寝たぞ。そろそろ部活の時間だな、行こう」

毒島「……小波君」

小波「なんですか?」

毒島「机片付けてくれてありがとう」

小波「いえ、途中まででしたし……あ、先生」

毒島「ん?」

小波「初めて名前で呼んでくれましたね」

毒島「! …………バカ、早く行け」

 毒島の好感度が3上がった。

小波「保健室に行こう」

 保健室

小波「すみませーん……って、あれ? また先生いないのかな?」

 ゴトン

小波「ん? 誰か倒れているぞ!」

毒島「……だ、れ?」

小波「せ、先生!? 大丈夫ですか?」

毒島「……小波……?」

小波(すごい汗だ。これはただごとじゃないぞ)

毒島「……カバン」

小波「え?」

毒島「机にある、私のカバン……とって」

小波「先生、そんなこと言っている場合じゃ」

毒島「……はや、く」

小波(ど、どうする?)

A.安全第一、救急車を呼ぼう
B.俺だけじゃどうしたらいいかわからない。助けを呼ぼう
C.カバンをとる

小波「先生、これでいいんですか?」

毒島「あり……うっ」

 バックを受け取った先生は震える手でカバンの中に手を入れた。

毒島「あっ……た……」

小波(あれは注射器!? しかも前に先生の机を片付けた時にあったのと同じやつだ)

毒島「はぁ……はぁ……」

 ぷすっ

毒島「んっ……ふぅ……」

 先生の呼吸がゆっくり落ち着いていく。


小波「せ、先生……」

毒島「あっ……」

 苦しげな表情がなくなり、いつものようにほぼ無表情になった先生だったけど、状況を認識すると困ったような顔をした(気がする)。

毒島「…………おもちゃ」

小波「はっ!?」

毒島「これ、おもちゃだから……」

小波「え、えっと……」

A.そ、そうですか……
B.そんなの信じられるわけありませんよ!

小波「そんなの信じられるわけありませんよ!」

毒島「やっぱり……だめ?」

小波「駄目です」

毒島「じゃあ、どうすればいい?」

小波「ちゃんとした説明がほしいです」

毒島「えっ?」

小波「理由はわからないですけど、悪いことしているわけではないぐらいわかりますから」

毒島「……」


 先生は少し考えると立ち上がり、置いてあった記録用の紙に何かを書き始めた。

毒島「ん」

 それをこっちに渡す。中には住所が書かれていた。

毒島「……私の住所」

小波「えっ?」

毒島「ここでは話せない。だから日曜日に来て」

小波「いや、別に先生の家じゃなくても……」

毒島「来なくてもかまわない。だけど、このことは話さないで……お願い」

小波「……わかりました」

毒島の好感度が3上がった。

パワポケ「日曜日になった。どうしよう」

A.約束通りに先生の家に行く
B.……怖いからいかない
C.……練習しよう


小波「約束は果たさないとな……行こう」

 その後

小波「ここが先生の住所だよな。よし、インターホンをお……」

 ガチャ

毒島「……待ってた」

小波「へっ?」

毒島「……入って」

小波「は、はい……」
  (インターホンを鳴らしてないのに……足音が聞こえたのかな?)


 スタスタスタ

 初めて入る女性の部屋に俺はドキドキしていたけど、先生は相変わらず無表情で煙草を咥えていた。

毒島「この部屋」

小波「うわっ、すごい数の機械がある」

 招かれた部屋にある所狭しとある機械の数々は俺が予想していた先生のイメージとは少しかけ離れていた。

毒島「……で、何を聞く?」

小波「え?」

毒島「? ……聞くんじゃないの?」

小波(質問しろというわけかな? 向こうから話してくれるんじゃないのか)
  「えっとじゃあ……」

A.この部屋ってなんなんですか?
B.ずばり先生の正体を教えてください
C.あの注射器はなんだったんですか?
D.先生っていつも煙草咥えていますよね

小波「先生っていつも火のついていない煙草を咥えていますよね」

毒島「煙草じゃない、ナノマシン増幅器」

小波「へ?」

毒島「日々失われていく体内のナノマシンを増やす機械。
   他にも体内のナノマシンをコントロールしてる」



小波「え、えっと……」

 とても信じられないことを真顔で言われ、返答に詰まった。

毒島「……冗談」

小波「そ、そうですよね、はは……」
  (真顔で言われたから焦ったぞ)


毒島「私は生まれつき体が弱い。体が弱いからこれで補う必要があった」パサッ

小波「! 先生これって……」

毒島「しあわせ草」

小波「先生、これって違法薬物じゃ……!」

毒島「一般的にはそう。でも医療方面に関しては使用が認められてる」

小波「そ、そうなんですか?」

毒島「ただ、危険なものだから医療関係でも使う人はほとんどいない……でも私はこれがないと生活できない」

小波「じゃあ、あの注射器って」

毒島「しあわせ草から抽出したもの……ちなみに自作」

小波「そうだったんですか……」


毒島「……信じてくれるの?」

小波「はい」

毒島「どうして?」

小波「たしかに話の内容はちょっと信じられないことですけど、先生の言葉ですし。
   知りあいの言葉なら疑うより信じたいんです」

毒島「! ……ありがとう…………ごめん」

小波「? 最後何か言いました?」

毒島「ううん、なんでも……そろそろここを出た方がいい。今日もこの後練習があるはず」

小波「そうだった! って、あれ? どうして先生が知っているんですか?」

毒島「……内緒」ニコッ

小波「! じゃ、じゃあ俺行ってきますね」
  (先生の笑った顔初めて見た)


毒島「あ、ちょっと待って……これ、あげる」

 ヒョイ、パシッ

小波「これなんですか?」

毒島「しあわせ草のドリンク」

小波「えっ?」

毒島「……大丈夫、副作用はない…………はず」

小波「……ありがとうございます」

 毒島の好感度が1上がった。
 しあわせ草ドリンクを手に入れた。(ただしまだ野球部分はつくってないので今回は使えません)


小波「ふう、今日も練習頑張ったなあ」

須田「今日も疲れたでやんす……ん?」

小波「どうかしたの須田君?」

須田「何か地面に落ちてるでやんす」ヒョイ

小波「あ、本当だ……ってあれは!」

須田「注射器でやんすね」

小波(まずいぞ、あれは先生が以前使ってたやつだ)

須田「どうしてこんなところに落ちてるでやんす?
   拾っておいてなんでやんすが、先生に届けるのはめんどくさいでやんすね」

小波「お、俺が先生に届けてくるよ」

須田「え? いいでやんすか? 悪いでやんすね小波君」

小波「う、ううん。気にしないでいいよ」
  (あの先生は何をやっているんだ?)


 その後、毒島宅前。

小波「保健室に先生がいなかったからここまで来てしまった」

毒島『……入って』

小波「あいかわらず、なんで俺が来た瞬間がわかるんだ?」

・・・・・・・・

小波「失礼します」

毒島「……待ってた」

小波「待ってた……?」

毒島「! 間違えた……失言、待たなかった」

小波(……つっこんだほうがいいのか?)
  「先生、グラウンドのほうに注射器落としてましたよ」

毒島「……知ってる。わざとだから」

小波「まったく、俺いないところで拾われていたらどうなって……わざと!?」ガーン

 俺としたらけっこう危ないところだと思ったから注意しようとしたのだが、わざとと言われて一気に勢いをなくす。


小波「ど、どうしてそんなことを?」

毒島「私のかっこう、どう……?」

小波「どうって……動きやすそうな服ですね」

毒島「山登りするから……高さ的には丘」

小波「……もしかして今からですか?」

毒島「うん」

小波「どうしていきなりそんなアクティブになったんですか?」

毒島「いきなりじゃない……しあわせ草」

小波「え?」

毒島「……私の薬、自作だから材料も自分でそろえないといけない。
   だいたいは市販や通販で買えるけどしあわせ草はそう簡単に購入できない
   だけど私はたくさん必要だから、自分で栽培してる」


小波「じゃあ、山登りってしあわせ草を取りに行くんですか?」

毒島「そう」

小波「事情はわかりました。でもどうして俺を?」

毒島「行こう」

小波「へ?」

毒島「一緒だと助かる……だから行こう」

小波「そ、そんな急に言われても……」

毒島「いや?」

A.いいですよ行きましょう
B.無理です
C.ただではちょっと……


小波「いいですよ。行きましょう」

毒島「ありがとう……先に下にある車に行ってて」

小波「はい」

 毒島の好感度が1上がった

 その後

小波「ここがしあわせ草畑か。よし、先生のために頑張るろう!」

・・・・・・・・・・

毒島「……もう大丈夫」

小波「え? でもまだあまり取ってませんよ?」

毒島「取りすぎはよくない。使う分だけとる」

小波「たしかにそうですね」

毒島(……それにまたここに来る口実ができやすい)

小波「先生?」

毒島「かえろう」

小波「はい」


 山からの帰り道

小波「それにしても地元の近くにあんなところがあるなんて初めて知りましたよ。
     先生はどうやって見つけたんですか?」

毒島「見つけてない。つくった」

小波「へ? ど、どうやって……」

毒島「……きく?」

小波「……やっぱりいいです」

毒島「……けんめい」


毒島「……今日もしあわせ草とりに行こう」

小波「わかりました」

・・・・・・・

小波「今日もとりましたね」

毒島「……豊作」

小波「それにしても…………」

毒島「どうかした……?」

小波「いえ、最初は見つかったときがちょっと怖かったんですけど、この道なら見つかりそうにないですね」

毒島「……見つかったことならある」

小波「へ?」

毒島「……正確にはしあわせ草をとって帰るところを捕まった」

小波「それってどうなったんで……」

「見つけたぞ!」

 俺の言葉を遮るようにして何かいや、誰かが草むらの陰から現れた。


レッド「広い銀河の地球の星にピンチになったら現れる!
    タフでクールなナイスガイ! レッド参上!!」

小波「な、なんだこいつは!?」

 そいつはテレビで見るようなヒーロー衣装を着ていた。

毒島「……出たな、悪党」

レッド「それはこっちのセリフだ。今度は仲間まで連れて来やがって。
    しかし今回こそ逃がさないから覚悟しろ!」

小波「せ、先生。話についていけないんですが……」コソコソ

毒島「……以前、山登りの帰りに襲われた。
   突然だったからしあわせ草を捨てて逃げるしかなかった」コソコソ

小波「……先生が言ってた『一緒だと助かる』ってもしかして……」コソコソ

毒島「うん、この状況のため。助けて」コソコソ

小波「やっぱりそうですか……」トホホ


レッド「こら、目の前に人がいるのにコソコソ話をするな!」

毒島「……作戦会議中。もう少し時間がいるから待って」

レッド「そう言われて待つとでも思うか?」

毒島「悪党じゃないなら待てるはず」

レッド「む……早くしろよ」

毒島「……時間稼ぎ成功」コソコソ

小波「……先生、あの人とは話し合いでなんとかなりそうな気がします」コソコソ

毒島「見た目に惑わされちゃだめ」コソコソ

小波「いや、見た目というか行動でも……」コソコソ

毒島「戦場では最悪の状況を想定することが大事……」コソコソ

小波「たしかにそうかもしれませんけど……
   俺、たしかに鍛えてますけど喧嘩はほとんどしたことありませんよ?
   というより、喧嘩自体まずいです」コソコソ

毒島「大丈夫。今回は秘策がある」コソコソ

小波「秘策?」コソコソ

毒島「これ」パサ

小波「え?」

レッド「なっ!?」

 先生が出したのは悪党(先生曰く)と同じヒーローの衣装、と思ったけどよく見ると色が違う。
 微妙に意匠も違うような……

レッド「オレンジ……いや、『特性スーツ』か……お前たち何者だ?」

小波「先生、なんか空気変わりましたよ。これ出さない方が良かったんじゃ」コソコソ

毒島「どうせ生身じゃ逃げられない。……これを着て」

A.着る
B.着ない
C.先生に着さす


小波「もう話し合いできる空気じゃなさそうですね……わかりました。
   どうすればいいんですか? 上下あるからすぐに着替えるってことはできなさそうですけど」

 毒島の好感度が3上がった

毒島「……これを押して」

小波「こうですか?」ポチ

 カッ

オレンジ「う、うわあ!? スーツがいきなり俺についた!?」

毒島「……変身完了」

オレンジ(変身したのは俺なんですけどね……)


レッド「……それを着れば俺に勝てるとでも?」

毒島「……勝てないのはわかってる。ブルーのスーツを着たジオットでも勝てなかった」

レッド「!! そっちのやつはともかく、お前は本格的に捕まえる必要がありそうだな」

毒島「……無理」

 ガシッ

オレンジ「せ、先生なんで俺に抱き着いているんですか?」

毒島「プットオン」

 シュー

オレンジ「へ? って、わあ! なんだこれ!?」

 俺の体、というより衣装がどんどん膨らんでいく。


レッド「な、何を?」

毒島「……近づかない方がいい。これは爆弾。下手に刺激すると爆発する」

レッド「なんだと!?」

オレンジ「へっ? せ、先生……冗談ですよね?」

 シュー

毒島「…………」

オレンジ「先生なんとか言ってくださいよ!」

 衣装はどんどん膨らんでいき、直径五メートルほどの球体ができる。
 俺と先生はその上部にいるのでもはや足はついていない。
 やけに冷静なのはもう生きている心地がしなかったからなのだが、

毒島「……冗談」

 この時だけは心底ホッとした。


小波「心臓に悪い冗談はやめ……」

 ゲシッ

小波「え? 何を……」

 先生は木の幹を蹴る。
 もともと体が弱い先生だから木は枝葉が少し揺れただけだったがこちらはそうはいかない。
 蹴った反動で体が傾いていく。

毒島「……ばいばい」

 山の斜面で球体が傾いていくとどうなるかなんて言うまでもない。
 辞世の句は何がいいかなあ。

小波「うわああああああ!!」

レッド「ま、待て!」

 ゴロゴロゴロゴロ


・・・・・・・・・

 ゴロゴロゴロゴロ

 山を走る球体はまさに下る勢いで転がる。

小波「目が回る―――!! って、あれ? 回ってない……ここどこだ?」

毒島「……球体内部」

小波「先生!」
  (そういえば転がり始めに中に引っ張られたような)

毒島「……これでもう大丈夫」

 ゴロゴロゴロゴロ

小波「……俺たちというか、この球体って回っているんですよね?」

毒島「……うん」

小波「どうして俺たちって回ってないんですか?」

毒島「……きく?」

*この選択肢はストーリー上聞かないを選んでも問題ありません*
A.聞く
B.聞かない


小波「ちょっと気になるので、教えてくれるならぜひ」

毒島「……球体は外側の球体と内側の球体の二段構造。
   外側の球体と内側の球体は直接は繋がってなくて二つの間には濃度の高い液体が入っている。
   だから外側の球体の運動は内側の球体の運動に伝わらない」

小波「え、えっと……」

毒島「……簡単に言うと車のタイヤとボディ。
   タイヤがいくら回転しても車のボディ自体が回ることはない。
   だけど車の移動はタイヤの回転で行われている。
   それと似たようなもの」

小波「……その例えだけはわかりました」

毒島「……よかった」


小波「ところで今の状況って本当に大丈夫なんですか?」

毒島「……どうして?」

小波「なんかあの人転がり始めても追いかけてきてましたし。
   転がり落ちるだけじゃ振りきれないかもしれませんよ?」

毒島「……平気。近づけないよう外側の球体は途中から煙を噴出してる」

小波「でもそしたら今度はその煙を追ってくるんじゃ」

毒島「煙は途中で止まって、代わりの煙玉を別方向に送ってる」

小波「あの人から逃げられてもこれがどこにつくかわかりませんよ?」

毒島「これは車と通信して車のあるほうに曲がるよう設定した」

小波「そ、そうですか……」
  (ただのびっくり衣装かと思ったけど、想像以上にハイスペックそうだぞ)


・・・・・・・・・

ピピーピピー!

小波「な、何の音だ?」

毒島「ついた……キャストオフ」

 シュン

小波「あ、スーツが脱げた」

毒島「帰ろう……車に乗って」

小波「はい……先生はあの男の人と知り合いだったんですか?
   このスーツもあの人のかっこうによく似ているし……」

毒島「……彼とは知り合いじゃない……正確には彼らを私が知っているだけ」

小波(彼ら? 複数いるのか?)
  「それってどういう……」

毒島「……ごめん。それ以上は言えない。
   もう終わったことだけど、言ったら巻き込まれるかもしれない」

小波「…………」


毒島「我慢できないのならもう付き合わなくていい……今までありがとう。ただ……」

小波「……わかりました」

毒島「……え?」

小波「事情はわかりません。けど先生が俺のことを危険に巻き込ませたくないことはわかりました。
   それと、それでも俺に助けを求めるないといけないほど先生の事情がひっ迫していることも。
   ……ただこれだけは約束してください」

毒島「……約束?」

小波「今日のことで下手に責任感じて俺から距離をとろうとしないこと。
   ……次も一緒にしあわせ草を取りにいきましょう!」

毒島「! ……わかった約束する」


小波「今日はしあわせ草を取りに行く日だ」

・・・・・・・・

ブロロロロ、キキーッ!

小波「ふう、今日も頑張りましょうって先生!? 大丈夫ですか?」

毒島「……大丈夫……心配ない…………」

 先生はそう言うが顔色は明らかに悪いし、まだ登ってもいないのに汗をかきはじめている。

小波(体が弱いとは言ってたけど、最近よく体調を崩しているな)
  「……先生、今日は俺一人で行きます」

毒島「それは……危険」

小波「大丈夫ですよ。前回は先週のやつも来なかったですし」

毒島「でも……」

小波「それに今回はオレンジの衣装を着ていきますから。もし見つかったとしても逃げられます」ポチ

 カッ

オレンジ「それじゃあ、行ってきますね」

 シュタタタタ

毒島「あっ……せっかくのデートなのに」


・・・・・・・・

 一方

レッド「……ピンクどうだ?」

桃井「ええ、来たわ……たしかにオレンジのスーツね…………」

レッド「どうしたピンク? 元気がないな……そういえばオレンジとお前は一緒に暮らしていたんだったな」

桃井「っ!」

レッド「たしかにやり辛いのはわかるが……」

「な、なあレッド」

レッド「ん? どうした新人?」

「どうして今日はブラックが来てないんだ?」
(レッドも悪気はないんだろうな。真実を知らないだけで)


レッド「ああ、ブラックはあいつが今日はオフらしいからな。休むらしい。
    シーズン中でなかなか休みが取れないとはいえ、ヒーローが仕事をほっぽり出すのはよくないが、これは別に急ぐ案件でもないしな。
    まあ、ジオットを止めてからそれなりに平和だし許可した」

桃井「……どうせブラックに脅されただけでしょ」

(ピンク!?)

桃井「姿だけならともかく、気配まで完全に消せるあいつにはさすがのあんたも隠し事は無理よ。あたしも知ってるんだから」

レッド「な、何をだ?」

桃井「あんたが前、そして現在進行形でヒモだってこと」

「ええっ!? そうなのか?」


レッド「そ、そんなわけないだろ! 馬鹿なこと言うな!
    たしかに昔は旅をしていたが、今はちゃんと警備員として働いているぞ。
    なんなら証拠を見せてもいい」

桃井「警備員ってたしか、NOZAKIグループの前社長よね?
   どうしてただの警備員がそんなお偉い人の警備を専属でしているのかしら?」

レッド「さ、さあ……? 詳しい人事の話は俺にはわからないな……
    やっぱり俺たちヒーローの実力が買われたんじゃないか?」

桃井「似たような境遇のブルーは会社の一警備員だったのに?」

レッド「うっ……ざ、雑談はこれくらいでやめよう。
    ヒーローに遊んでいる暇はないんだ」

(逃げたな)
桃井(逃げたわね)


・・・・・・・・・

オレンジ「ふう、これくらいとれば十分かな?」

 前回、前々回と手伝っていたのでしあわせ草の収穫に関してはだいたいの要領をつかめていた。

オレンジ(初めて着たときは動かなかったからわからなかったけど、この服かなり身体機能を上げているよな。どういうつくりなんだ?)

 スタスタスタスタ

オレンジ「それに作業が簡単になるのはいいけど、この服を着ても勝てないってあいつどれだけ強いんだ……?」


・・・・・・・・・


「……どうしてまだ手を出さないんだ?」

レッド「菜園の位置を把握する必要があるからな。
    それに向こうだって荷物があるほうが動きづらいだろ」

「だからって、もし今回も逃したら被害が増えるんじゃないか?」

レッド「……おそらくそれはない。調べてもらったが、現実でもネットでも最近しあわせ草の取引を匂わせるようなことは起こってないようだ。
    まあ、まだ新薬の実験段階という可能性もあるが」

桃井「あんたがそんなまどろっこしいことをするなんて意外ね」

レッド「無知の正義がどれほどの悲劇を生むか習ったからな。
    まあ、調べてもらうのにあの悪魔に頼んで心がかなりえぐられもしたが……
    ……そろそろだ。作戦通りにいくぞ」ダダダダ


「俺たちも行くか」

桃井「……」

「ピンク?」

桃井「……大丈夫だから」

「え?」

桃井「いくら相手がオレンジのかっこうしてたって……いや、たとえオレンジ自身だって、私は迷わないわ。今の私にはあなたがいるもの」

「ああ……じゃあ、いこうか」

「「変・身!」」

 カッ!


・・・・・・・・・・・・

オレンジ「今日も会わなくてすみそうだな」

レッド「それはフラグというやつだ」

オレンジ「お前は!?」

レッド「悪いが今度こそ逃がすわけにはいかない。三度目の正直だ」

オレンジ(やばいな、今日は最初から本気っぽいぞ)

レッド「ところでもう一人はどうした? どこに隠れている?」

オレンジ「聞かれてからって答えるとでも?」


レッド「聞いてみただけだ。しかしやはり中身はお前のほうか。
    そのスーツ相手じゃ苦戦はさけられないし、先にあちらのほうをあたるか」

オレンジ「! やめろ! 先生には手を出すな!!」

レッド「先生? 前見たときもしやと思ったが、お前本当に高校生なのか?」

オレンジ(あ! しまった!!)

レッド「……一つ聞きたい。お前たちはなんのためにそのしあわせ草を栽培している?」

オレンジ(やけに話すな。そういえば前あった時からなかなか話がわかりそうなやつだったよな。ここは話してみるか?)

A.事情を話す
B.話さない
C.逃げる


オレンジ「言うわけにはいかない」

レッド「そうか。ならお前を洗脳してでも聞き出そう」

オレンジ「ええー!?」
    (しまった間違えたか? 逃げないと!)

 ガシッ

オレンジ(後ろから色違いのやつがもう一人!? やばい、羽交い絞めにされた!)

ピンク「ピンク! いまだ!」

桃井「オッケー。脳に情報フル送信~♪」

オレンジ「え? その声どこかで……ぎゃああああ!!」

 バタリ

>>90訂正

オレンジ「言うわけにはいかない」

レッド「そうか。ならお前を洗脳してでも聞き出そう」

オレンジ「ええー!?」
    (しまった間違えたか? 逃げないと!)

レッド「新人! ピンク! やれ!」

 ガシッ

オレンジ(後ろから色違いのやつがもう一人!? やばい、羽交い絞めにされた!)

ピンク「ピンク! いまだ!」

桃井「オッケー。脳に情報フル送信~♪」

オレンジ「え? その声どこかで……ぎゃああああ!!」

 バタリ


桃井「……案外あっけなかったわね」

「下手に強いよりかは良かったんじゃないか?」

レッド「ご苦労だ。ピンク、新人。
    しかしその能力、触れた相手の頭に情報を送り込んで気絶させるらしいが、便利な能力だな」

桃井「まあね。私たちにかかればこんなものよ」

「それよりレッド、さっきお前物騒なこと言ってなかったか?」

レッド「あれはただの脅しだ。それにさっき確信した。
    こいつは悪い奴ではない。利用されている可能性はあるけどな。
    それよりもう一人のほうは?」

「ああ、見つけた。ふもとのちょっと離れたところにいたよ。一人みたいだったな」


桃井「それにしてもおかしなやつらよね。待ち伏せも罠も一つもない。
   こいつら本当にジャジメントの残党?」

レッド「少なくともあの女の方はそうだった。お前らも確認したなら、見ただろ?」

「ジャジメントの元研究員にしてスーツ開発主任。そしておそらく第二世代サイボーグ……だよな?」

桃井「カズもあいつにスーツつくってもらったって言ってたわね」

「そんなやつがしあわせ草を使っていったい何を?」

レッド「それは今からだな」

「こいつはどうする?」

レッド「もちろん連れて行く。念のためスーツは脱がすけどな。
    よし、行くぞ……」


 ピピピピピピピ

桃井「……リーダー、電話なってるよ?」

レッド「む、無視だ。無視!」

 ヒモ男、ダメ男、無職、旅ガラス

桃井「……リーダー、携帯が悪口言ってるよ?」

レッド「……お前たちは先に行け。すぐに追いつく」ダダダダ

『ジュン、人の携帯の着信音を勝手に悪意のある着信にするな!
 え? 維織さんが? いやいや、こっちにも事情が……はい、そうです。
 この携帯もあなた様の温情でいただいたものです……』


桃井「……ブラックも言ってたけど、あいつ本当に変わったのね」

「いい方向に変わったみたいだからいいんじゃないか? それにピンクも変わったんだろ?」

桃井「……それもそうね。
   で、スーツのやつはどうする? 私が運ぼうか?」
   
「いや、ピンクはスーツを頼む。中身は俺が運ぶ」
   
桃井「わかったわ」
   
(それにしても中身は誰だ? さっき羽交い絞めした感触からそれなりに鍛えているのはわかったけど……)
「な、こいつは!?」
   
桃井「え? どうかした?」


・・・・・・・・・・
   
毒島「……遅い。やっぱり無理してでも一緒に行くべきだった」
   
レッド「待たせたようだな」
   
毒島「! ……お前を待ってなんかいない」
   
レッド「知ってる。お前が待っていたのはこいつだろ?」
   
 ドサッ
   
小波「うぅ……」グテ
   
毒島「!! 小波……!」
   
レッド「どうする? 頼みの綱のスーツもこっちにあるぞ?」
   (さあ、どうでる?)
   
毒島「……」


レッド「誤解しているようだが、俺はお前らがジャジメントだからって問答無用で邪魔しようというわけではない。
    ……ただこれだけは教えろ。しあわせ草を使って何をしようとしている?」
   
毒島「……」
   
レッド(無言を貫くか。それなら……)
   
毒島「……それを言えば彼は助けてくれる?」
   
レッド「!?」
   
毒島「私の目的を話す。しあわせ草も全部渡す。私はどうなってもかまわない……だけど彼には手を出さないで。
   彼は超能力者でもなければ、サイボーグでもアンドロイドでもない。普通の人間だから」
   
レッド「……いいだろう約束しよう。こいつには手を出さない」
   (まあ、こいつに関しては安全が確認済みだけどな)
   
レッド「その代わりこちらからも条件がある…………」


・・・・・・・・・・
   
 とある木の上
   
ピンク『なーんだ。本当にあっさり終わっちゃいそうね。つまんない』
   
ピンク「平和なのはいいことだろ。それよりお前、あいつのこと覚えておいてやれよ」

ピンク『はあ? そんなの無理に決まってるじゃない! 毎年何人いると思ってるのよ。だいたい私は直接的にはつながりないんだし』
   
ピンク「お前なあ……」

   
   
   
杏香(きょうか)「! ……『幽霊の正体見たり枯れ尾花』とは言うが、まさか桃の木の精の正体がこんなのだったとは……合点はいくが、誰にも言わないほうがいいな。

         しかし、街で見かけられるピンクのヒーローの中身が男だというのは本当のことだったのか……」


・・・・・・・・・・
   
「……君、小波君」
   
小波「ん? 須田君? どうして?」
   
須田「それはこっちのセリフでやんす。
   どうしてこんなところで立ち尽くしているでやんすか?」
   
小波「こんなところって……あれ? ここって俺たちの寮の前?
   どうしてこんなところに……たしか今日夕方に練習が終わって、終わって……あれ? 俺それから何をしていたんだ?」
   
須田「知らないでやんす」


小波「はあ……」

須田「小波君このごろ元気がないでやんすね。どうかしたでやんすか?」

小波「そ、そうかな? いつもどおりだよ?」
  (最近、毒島先生に避けられている気がする。しあわせ草を取りに行こうと誘ってもまだ大丈夫って言うし……俺なんかしたかな)

須田「それならいいでやんすけど……あっ、小波君携帯が光ってるでやんすよ」

小波「え、本当? ……あっ、監督からだ」


須田「監督って、あの監督でやんすか?」

小波「うん。俺たちが中学のころ、お世話になったあの監督。懐かしいなあ……」

須田「なんてきてるでやんすか?」

小波「ええっと、なになに……『今日の十時に速報公園に集合』…………なんだこれ?」

須田「……何か約束したでやんすか?」

小波「い、いや……そんな覚えはないけど……」

須田「どうするでやんすか?」

A.行く
B.行かない
C.何の用か聞く

小波「監督からの呼び出しだし、とりあえず行ってみようかな」

須田「チャレンジャーでやんすね。頑張るでやんす」


・・・・・・・・・・

 速報公園

小波「言われた通りにきたぞ。監督はどこだ……あっ、いた。姐さんもか……か、監督ー!」

監督「お、来たか。久しぶりだな」

小波「お久しぶりです、監督。それと姐さんも」

桃井「あっ……う、うん。久しぶり」

監督「『姐さん』……? ちょっと待て、ピンク。お前こいつに姐さんって呼ばせているのか?」

小波「いや、俺だけじゃなくて監督に教わった野球部は皆、姐さんって呼んでいますよ?」
  (ピンク? 監督は姐さんのことを桃井って呼んでいたような)


監督「……どうしてだ?」

小波「それは……」

桃井「わ、私は止めたのよ? でもこいつらがどうしても私をそう呼びたいって……」

小波「いや、これは姐さんが……」

桃井「そうよね?」ゴゴゴ

小波「は、はい」

桃井「そういうわけだから。
   まあいいじゃない、あんたが監督って呼ばれているんだから相棒の私は姐さんって呼ばれるのが妥当でしょ?」

小波(それは違うと思うけど……言わないでおこう)
  「それより監督、急にこんなところに呼び出してどうしたんですか?」


レッド「……それは俺が話そう」

小波「お、お前は!?」

監督「お、おいレッド。お前がいきなり出てきたら……」

小波(えっ? 監督はこいつのことを知っているのか?)

レッド「いや、こっちのほうがおそらく手っ取り早い。
    おい、お前。俺とは何回会ったことがある?」

小波「えっと……まだ一回しか会ってないだろ? それがどうかしたのか?」

レッド「……やはりそうか」

桃井「どういうこと?」

レッド「おそらくあの日の記憶を消されたんだろう。
    これで昨日こいつが来なかったのに納得がいく」

小波「何の話だ?」

レッド「俺が話してもいいが、張本人から話させた方がいいだろう」

小波「張本人?」


 キキ―! バタン

毒島「……」

小波「先生!?」

毒島「! どうして……?」

レッド「待っていたぞ」

毒島「……約束が違う。彼には手を出さないはず」

レッド「約束を違えてなんていないさ。こっちにいる新人はこいつと知り合いでな。今日はそのツテで呼び出してもらった。
    それに約束を破ったのはそっちだ。ふられたと嘘までつきやがって。
    こいつの記憶を消したんだろ? いや、薄めたというべきか」

毒島「……」

レッド「こいつの記憶を戻せ。話はそれからだ」

小波「えっと、話がまったくわからないんですが……」

毒島「……ごめん」

 ミョミョミョミョーン

小波「う、うわああああああ!!」


・・・・・・・・・・・・・

回想

レッド『その代わりこちらからも条件がある』

毒島『条件……?』

レッド『おい、起きろ』ユサユサ

小波『ううん……ここは……? あっ、先生! それとお前は!』

レッド『……レッドだ』

小波『へ?』

レッド『俺とお前はたしかに知り合いではないが、お前呼ばわりされるのは好きじゃない。
    だから俺のことはレッドと呼べ』

小波『……わかったよレッド。俺は小波、こっちの人は毒島だ』

レッド『小波か。いい名だな。
    ……そして毒島。こちらからの条件だが、俺と小波の前で全部話せ』

毒島『!』


レッド『ことらとしてはしあわせ草を没収するつもりも、お前をどうこうするつもりもない。
    だがお前のやろうとしていること、お前の正体。その二つについては話させてもらうぞ』

毒島『……話すのはかまわない。でも彼を巻き込むのは』

レッド『ここまでさせといて、今さらそれはないだろう。
    それに小波、お前も聞きたいだろ?』

小波『え? そりゃあまあ、聞けるなら聞きたいけど……』チラッ

毒島『……』

レッド『何もここで話せというわけではない。俺のほうもこの後に他の用事がつっかえている。緊急のな。
    だから今週末、速報公園に十時に来い……二人でな』

小波『……レッド、お前ってもしかしていいやつ?』

レッド『ふっ……俺はいいやつでも正義でもない。ただ一人のヒーローだ。
    今週末、待っているぞ』ダダダダダ

 そう言い残してレッドは去った。
 なぜか去り際の走りがポーズではなく余裕のない全力疾走に見えたのは気のせいだろうか。


小波『な、なんかいろいろとすごいやつでしたね』

毒島『……小波』

小波『先生、すみません……けどやっぱり知りたいんです。
   だって俺先生のことが……』

毒島『……ごめん』

 ミョミョミョミョーン

小波『へ? う、うわああああああ!!』

 回想終了。


・・・・・・・・・

小波「ぜ、全部思い出したぞ。たしかあの後ぼうっとした状態で寮に帰ったんだった。
   レッド、先生。約束の今週末って昨日だったんじゃ……」

レッド「どうやら本当に思い出したようだな。昨日はお前がいなかったから今日に延期した。
    毒島はお前が逃げたみたいに言ってたけどな」

毒島「……」

小波「先生……」

毒島「……邪魔。どっか行って」

小波「!!」

毒島「……あなたに会ったのは失敗だった。
   あなたのせいで私はヒーローに捕まったし、オレンジのスーツもとられた」


桃井「ちょっとあんた、それはあんまりじゃ……」

 ガシッ

監督「ピンク、落ち着け」

桃井「でも……」

監督「大丈夫だよ。あいつは」



毒島「……記憶を消せば大丈夫だと思った。けどまたこうして迷惑している。
   だから記憶を戻した。これ以上面倒かけさせないで」

小波「……」

毒島「……どうして……どうして、何も言わないの?」

小波「……そんな泣きそうな顔で言われたって信じられませんよ」

毒島「!」


桃井「泣きそうな顔って全然そうは見えないけど……」

レッド「……顔で見える表情が全てじゃない。
    特に彼女たちの世代のサイボーグの過去は悲惨だし、これまでずっとオオガミやジャジメントに振り回されっぱなしだったのなら感情を面に出す経験なんてないだろうさ。
    だが、彼女たちは泣けないことはあっても、泣かないわけではない」

桃井「……リーダー、やけに同情的ね。 何かあったの?」

レッド「……昔のちょっとしたロマンを思い出しただけだ」

小波「……先生はどう思っているかは知らないですけど、
   俺、初めて先生の部屋に行ってしあわせ草を見たときすごく迷ったんですよ?
   いくら体の事情があるとはいっても薬を自作するなんて怪しすぎますし、オレンジのスーツなんてあきらかに普通の人が持っているようなものじゃありません。
   それでも俺は不思議と通報したり、他の人に相談したりする気になりませんでした。だって……」

 ここでいったん言葉を区切る。
 次の言葉を言うのはすごく緊張するし、とても怖い。
 しかしここでこれを言えなければ男ではない。

小波「だって……俺、先生のことが好きだから!
   好きだから先生と一緒にいたかったし、先生に他の誰かを頼って欲しくなかったんです。
   ……先生は俺の気持ち迷惑ですか」


毒島「そんなわけない……でも、私は普通の人間じゃない」

小波「そんなことぐらいとっくに気付いてますし、気にしませんよ」

毒島「……アンドロイドだし」

小波「えっと、たしか前によくテレビのニュースで流れてたやつですよね。
   たしかに天然と養殖で価値の違いを言う人はいるかもしれないですけど、俺はどっちでもその命に違いはないと思います」

毒島「……元悪の組織の研究員だったし」

小波「で、でも今はもう違うんですよね?」

毒島「うん」

小波「だったら大丈夫です。それとも先生は俺のこと嫌いですか?」

毒島「…………」

 チュッ

小波「・・・・」

毒島「……これが返事」


桃井「うわっ人前であんなことする?
   ……また恋愛映画が苦手になりそうな気がするわ」

監督「おそらく二人の世界に入っているんだろうな。まあ、かくいう俺もさすがのあれは……
   あれ? レッドは平気そうだな?」

レッド「ん? まあ、これくらいはな」

桃井・監督「「『これくらいは』……!?」」

レッド(えっ? 維織さん相手だとこれぐらいしょっちゅうなんだが、もしかして普通じゃないのか?)


監督「……なあピンク、俺たちももう少し……」

桃井「馬鹿なこと言ってるんじゃないわよ!
   そんなことしてらブラックにどれだけいじられるか……って、あれ?
   そういえば昨日もだったけど今日もブラック来てないわね」

監督「そういえばそうだな」

桃井「さすがにプロのあいつがそう何日もオフのわけないし……ねえ、リーダーは何か聞いてる?」

レッド「い、いや。俺は何もしらないぞ」

桃井「聞いてるって言ったのにそれじゃあ知ってますって言ってるようなものじゃない。
   まったく、ブラックからレッドがリーダーになってようやくなれてきたと思ったら最近ブラックの集まりが悪い……最近?」

監督「ん?」


桃井「……え? いや、それは……嘘でしょ? でも……第一、私たちの体って……」

監督「おい、ピンク?」トン

桃井「ひゃ、ひゃあああああ!!」ビクッ

監督「うおっ!? ど、どうかしたのか?」

桃井「ど、どどど、どうもしてないわよ!」

監督「いや、でも顔が赤いし」

桃井「な、何を言っているのよ! 私はピンクよ! レッドなんかじゃないわ!」

監督「お前こそ何を言っているんだ? とりあえず落ち着け!」

レッド「……お前たちは何をやっているんだ?」


小波「あ、あの……」

レッド「そっちはすんだのか?」

小波「はい。それでこれからのことなんですけど……」

レッド「ああ。さすがに時間は遅いが次に持ち越すのは……」

 無銭飲食者、甲斐性ナシ、浮気モノ、カブトムシ臭

レッド「……次に持ち越しだ」


小波「え? でも……」

レッド「うるさい! お前に何がわかる! 彼女が急に社長が辞めたという愚痴を延々と聞かされたことはあるのか!
    しかも、前はメイド一人だけだったのに新社長が加わって二倍になったんだぞ!」

小波「いや、たしかにそれはわかりませんけど……」
  (なんか性格変わってないか?)

レッド「というわけで俺は帰る。次の日の日程は新人に聞け。
    あいつが一番時間とれないからな。じゃあな」ダダダダダ

クッソー! なんでジュンのやつ微妙にレパートリー増やしてんだよー!! …………

毒島「……ヒーローの仕事も大変」

小波「いや、あれはヒーローの仕事じゃないと思います……」


監督「……まあ今日は途中から聞く雰囲気じゃなかったからしょうがないかもな」

小波「監督」

監督「じゃあ次もこっちから連絡するから。
   しかし良かったよ。今日の連絡がちゃんと出来てて。
   実はちょっと携帯置き忘れてメールを他の人に頼んでたんだよ」

小波「やっぱりあれは監督じゃなかったんですね……」

監督「なんかあったのか?」

小波「いえ、あはは……
   そういえば、ずっと聞きそびれてましたけど、どうして監督がレッドと知り合いなんですか」

監督「ああ、それは……ピンク来てくれ」

桃井「はいはい」

小波(どうして姐さんを呼ぶんだ?)

監督「よし、やるぞ!」

監督・桃井「「変・身!」」

 カッ!

ピンク「こういうことだ」

小波「……ウソ―――!!」

 閃光の後に現れたのはレッドそしてオレンジスーツの色違い……いや、やっぱり微妙に意匠も違うピンクのスーツ。
 あの日、俺を羽交い絞めにしてなんかすごい頭痛をおこさせたやつだった。


小波「今日は監督に呼び出された日だ」

・・・・・・・・・

 風来坊カシミール(個室)

 どうやら今回は外ではなく店の個室を借りているらしく、
店の従業員に案内されるとすでに四人はそろっているようだった。

小波「すみません、遅れました……練習が長引いて」

監督「……来たか」

桃井「ちょっと、中学校の恩師を待たせるってどういうつもりよ」

毒島「……大丈夫。待ってない」

レッド「お、おお……久しぶりだな」

 部屋に入ると四者四通りの反応を受ける。
 あまり心配はしていなかったものの、険悪の雰囲気はなかったので少し安心した。


小波(どこに座ろうかな)

毒島「! ……ここ」

 机の四辺に一人づつ座っていたので席を探していた俺に先生は少しずれて横にくるように促す。
 ちょっと恥ずかしいが行為に甘えることにした。

毒島「……練習、お疲れ様。はい、おしぼり」

小波「ありがとうございます」

毒島「はい、お冷」

小波「あ、ありがとうございます」

毒島「はい、メニュー」

小波「……ありがとうございます」

毒島「はい……」

小波「だ、大丈夫です。自分でできます!」

 先生の献身してくれるのはありがたいが、さすがに次々こられると困るので止めに入った。

毒島「……迷惑だった?」シュン

小波「いや、そういうわけではないですけど……」


桃井「はあ、あの二人相変わらず甘々ねえ。砂糖はきそう」

監督「俺的には恋人の甘々というより、一生懸命雛鳥に餌をやっている親鳥って感じだな。
   ……レッド、どうしたんだ? ここに来てからなんかそわそわしてないか?」

レッド「そ、そうか? 気のせいだろ……?」

桃井「ていうか、リーダーは店にいるときくらい擬態しなさいよ。
   個室だからまだいいけど、明らかに浮いてるじゃない」

レッド「……俺の勝手だろ…………なあ、どうしてこの店にしたんだ?」

監督「いや、ピンクがカレー食べたいって」

桃井「ここの店、ちょっと前にできて美味しいし安いから通ってたんだけどね、一昨年の夏あたりからなんか急に人が増えてきて来れなくなっててね、
   最近ようやく落ち着いてきたからこの機会にってことで来たんだけど……リーダーってカレー嫌いだった?」

レッド「そういうわけじゃないが……人気があるってことは従業員が複数いるってことだよな?」

桃井「当たり前じゃない」

レッド「そうか……それなら良かった」

 バッ

風来坊「……ふう」


 ガラッ

奈津姫「失礼します。注文を伺いに参りました。当店副店長の奈津姫といいま……!」

風来坊「なっ……」

桃井「あー! 奈津姫さん。私が来るといつも注文を聞きに来てくれてありがとう」

奈津姫(はっ……!)
   「……桃井さんはここができたときから通ってくれたお客様ですから当然ですよ」

桃井「さすが奈津姫さん。今までちょっとこれなかったけど、またここに通うからよろしくね」

奈津姫「ありがとうございます。注文はなんになさいます?」

桃井「ビクトリーズカレー五つで!」


監督「なんで五つも頼んでいるんだよ」

桃井「どうせここの店初めてのあんたたちじゃ何がいいかわからないでしょ?
   だから常連客の私があんたたちの分も頼んでいるのよ」

監督「でもビクトリーズカレーってなんか……」

奈津姫「変わった名前でしょう?」

監督「い、いえ。そんな……」

奈津姫「大丈夫ですよ。こちらもわかっていますから。
    ……息子が名づけたんです。
    たとえ今はもうなくても、思い入れのある名前はなにかに残したいって……」

風来坊「……」


奈津姫「すみません。わけわからないこと言っちゃいましたね。
    ビクトリーズカレー五つですね。すぐに準備してきます」

風来坊「……カレーを」

奈津姫「……え?」

風来坊「カレーをください……つけるものはなしで」

奈津姫「……わかりました」

 スッ

監督「……レッド、この店に来たことがあるのか?」

風来坊「いや、この店にはない……この店、には……」


・・・・・・・・

 その後、運ばれてきたカレーに俺たちは舌鼓をうった。
 姐さんが勧めるだけあってカレーはたしかに美味しかったが、なぜかレッドのカレーだけはいくら他とは種類が違うとはいってもあきらかに具材が少なく、
姐さんがそのことを言おうとしたがレッドはこれでいいと言ったので結局言うことはなかった。

風来坊「……さて、そろそろいいだろう。
    毒島、話してもらうぞ。お前について」

毒島「……わかった……とは言っても、だいたいはあなたたちが調べている通り。
   私は第二世代型アンドロイドでオオガミ、ジャジメントに所属している間研究をしていた。
   主な専攻は防護面。オオガミでは装甲を、ジャジメントではスーツの防御機能を開発していた」

風来坊「どうしてお前がオレンジのスーツを持っていた?
    あれはお前らにとってはそれなりに価値があるものだと思うが持っていて大丈夫なのか?」

毒島「あれは試作品の一つ。ジャジメント解散のごたごたに紛れて一つもらっていった。
   他のはおそらくオリジナルを含めて燃えたし、念のため今も身の回りには気を付けている」

桃井「なんでオリジナルじゃなくて試作品を持って行ったの?」

毒島「オリジナルがあるとまた複製品が生まれる。
   私のあれは改造しているし、そもそも素材が別なものだから防御面にしか特化できないつくりになってる」


小波「……監督、話についていけないんですけど」ヒソヒソ

監督「安心しろ。俺もだよ」ヒソヒソ

毒島「……簡単に言うと人気ブランドの服は人気があって皆がほしがるから、
  その服を真似ただけの劣化品なら価値なんてたいしたことはないから誰も欲しがらないって話」

小波「あ、ありがとうございます……」

 それからも主にレッドと姐さんが中心になって先生に質問を続けた。
 その中には知らない名前や聞いたことのある名前、大企業などいくつもでてきて、とうてい俺が理解するのは無理だった。
 ただその中で先生はたしかに悪い組織にいたけれど直接的に誰かを傷つけたことがないということに安心してしまのは勝手だろうか。

風来坊「……なるほど、お前のだいたいの事情はつかんだ。
    で、本命の話に入らせてもらうが、お前の目的はなんだ? なぜしあわせ草を栽培している?」

毒島「……」

 これまでの話は終わり、これからの話になった。
 今までもわりと真剣な雰囲気になったがここにきてより空気が張りつめたきがする。



 ここからは話がさらに長いうえにわかりにくく本編にはあまり関係のない話になります。
 とばしますか?

A.はい
B.いいえ



毒島「……私たち第二世代型サイボーグは本来なら死んでないとおかしい」

小波「!」

毒島「これは処分とか、処理とかそういう問題じゃなくて寿命の問題。
   ……基本誰かの細胞からつくられている私たちは細胞をそのまま受け継いでいるからテロメアが短い」

監督「テロメア?」

桃井「細胞にある染色体のことね。細胞が分裂するたびに短くなるけど、
   これがあるから細胞は分裂をさせられる。ある意味これの長さは寿命の長さに直結するわ。
   そしてよくあるクローンの寿命が短いってのはこれが理由よ。
   100歳まで生きられる細胞の人が20歳のときの細胞でクローンをつくったら、そのクローンは80歳以上生き続けることはないわ」

監督(そういえば、ピンクは情報戦が主だったな)

小波「え? じゃ、じゃあそんな感じで先生の寿命も普通の人より少ないってことですか……?」


風来坊「……少ないですめばいいがな。
   『第二世代サイボーグは本来死んでないとおかしい』と言ったな? それはどういう意味だ?」

毒島「テロメアがもともと短いのに加えて、私たちはさらにテロメアが短くなるように処置されている。
   上司たちは早くに能力を上げるためと言ってたけど、おそらく私たちアンドロイドを押さえつけるため。
   私たちは使い捨ての道具であり、人を支配することはあってはならないと考えていたからだと思う」

風来坊「短い……とは具体的にはどれぐらいだ?」

毒島「だいたい普通の人の五分の一。16歳から20歳の間にだいたい死ぬ」

小波「そ、そんな……」

風来坊「ならどうしてお前は生きている? まだ寿命がきていないのか?」

毒島「……その理由がこれ」スッ

小波(あっ! 先生が前に保健室で使っていたやつだ!)


風来坊「その注射器の液体はなんだ?」

毒島「しあわせ草から抽出した液体……ハピネスY・改」

監督「ハピネスって、あの超能力者を生み出すという薬だったけ?」

桃井「それはハピネスXね。あんたちゃんと覚えておきなさいよね。
   ……でも、X、ZならまだしもYって聞いたことないわね。どんな薬なの? っていうか、改って?」

毒島「ハピネスYはハピネスXの後追いで開発された薬。
   ハピネスXが超能力に目覚めさせる薬ならハピネスYは超能力を眠らせる薬。
   もしハピネスYを超能力者が摂取すればその超能力者は超能力をなくす」

風来坊「それは便利そうな薬だな。しかしどうしてピンクでさえも知らなかったんだ?」

毒島「ハピネスYは結局完成しなかったから。
   ハピネスYが完成する前にハピネスXが生産中止になったこともあるけど、一番の理由はESPジャマーが先に完成したから。
   効率を考えるとハピネスYをつかうより、ESPジャマーをつかって殺したほうが早いって結論が出た」

小波(なんか物騒な単語が聞こえたような……)


毒島「そして未完成のハピネスYをジャジメントにいる間に私用に完成させたのがこのハピネスY・改。
   本来、超能力を眠らせるようにはたらく成分を細胞分裂を抑制させるようにはたらかせる。
   その結果、残りの寿命を延ばすことができる。おそらく二倍ぐらい」

桃井「寿命を二倍に延ばすって、すごい発明じゃない!」

風来坊「……だが、それを個人でつくっているってことはノーリスクってわけではないんだろ?
    もしそれがただの夢のような薬だったら喉から手を出すほど欲しがる企業なんていくらでもいる。
    自身でも使うなら尚更生産ラインを確立させたほうがいい……しかし、それができない理由があるはずだ」

毒島「……材料がしあわせ草であること。細胞の活動を遅らせるから怪我が治りにくい体質になってしまうこと。
   そもそもこれはナノマシンでコントロールしないと体の全ての細胞が動かなくなって死んでしまうから普通の人間には使えない。
   私自身、この煙草型ナノマシン制御装置で細胞を日常生活をおくれる最低レベルには活動するようにしている」

小波(あの火のついていない煙草にそんな機能があったなんて。
   ……というか、先生が常に煙草を咥えていることをすっかり忘れていたような気がする)


毒島「だけどその辺はあくまで理由のうちの一つ……本当の問題は中毒性。
   ハピネスYもXと同様、一回使用すると定期的に摂取し続けなければ一年以内に確実に死ぬ。
   そしてその中毒性はこのハピネスY・改でも改善されていない」

小波「!?」

毒島「それでもおそらくこの薬を欲しがる人はたくさんいる。
   ナノマシンがないと使えないといってもサイボーグ手術すればいい話だし、
   中毒性があるといっても、逆にいえば定期的に摂取すれば二倍生きられると考えてしまうから」

風来坊「お前のようにか……?」

毒島「……」コクリ

小波「せ、先生じゃあ保健室のあれは……」

毒島「……中毒症状。
   薬の効力がきれて活発な細胞とまだ効力がきれてない細胞とで体がバランスをとれなくなって苦しみ始める」

小波「そ、そんな……」

毒島「この薬が市場に出まわれば確実に買い占めが行われる……」

桃井「そしてこの薬を手に入れた国、企業、団体が第二のジャジメントになってしまうってわけね」


監督「ええと、まとめると……?」

桃井「短い寿命だからそれを延ばす薬をつくったけど、中毒性があって危険なの。
   下手に世に出すと買い占めた誰かが力を持つことになるから個人で栽培しているって話。
   ……はあ、あんたってこんなに頭悪かったっけ?」

監督「いや、たぶん誰かが自分でもわからなくなった話を整理するための犠牲というか……」

桃井「はあ? 何を言っているのよ?」

監督「いや、気にしないでくれ……」


桃井「……でも、意外ね。あんたみたいなのが世の中のことを気にかけているなんて。
   元悪の組織なんだし、そういうの気にしないと思ってた」

毒島「……私だって好きでいたわけじゃない。ハピネスY・改を開発するにはあそこしか……」

桃井「けど結局は悪事に加担していたわけでしょ?」

監督「お、おいピンク……?
   ! 小波、メニューを渡してくれ!」

小波「は、はい」ヒョイ

桃井「あんたたちの作った兵器であたしたちは何回も死にかけたのよ?
   オレンジやブルーなんて解剖されたじゃない!
   そんなあんたがいましゃらいい人づらしようたって……」


風来坊「ピンク!」

桃井「……なによ?」

風来坊「『誰もがアンタみたいに強いわけじゃない・・・ずっと正しくなんて生きられない人の方が多いんだ』
    昔、俺にそう言った人がいたよ」

桃井「……それがなに? だからみのがせってぇいうの? うらみやもんくをいうにゃっていうの?
   そうするのが正しいから? せいぎの味方だから? 私たちがつよいから?」

風来坊「……そうじゃない。俺たちは正義の味方なんかじゃないし、強くなんてない。
    しかし俺たちはヒーローだ。ヒーローの役割はそんな正しく歩けない弱者を守ることだ! そうだろ?
    少なくとも、これから正しくあろうとする者に八つ当たりをすることじゃないはずだ」

毒島「……」

桃井「……わたしだって、自分のしていることがやつあたりだっていりゅわよ。
   でもしょうがないじゃない……私、ブルーはともかく、オレンジにはあやまろうと思ってた。
   それが自分のうしろめたさを消したいだけのさいていなこういだとしても。
   だってそうじゃにゃいと、わたし……わたし…………」


監督「……ろくにメニューを見せなかったと思ったら、そういうわけかよ。
   ビクトリーカレー、ラッキョウが使われているじゃねえか」

レッド(何!? ラッキョウだと……?)

桃井「ちょっと、いいところなのにじゃましにゃいでよ」

監督「一人酔っぱらって何がいいところだよ。
   付け合せには気を付けていたが、まさかきざまれてつかわれているとは」

桃井「ふん。じだいはじょうほうせぇんよ」

監督「偉そうに言うところじゃないと思うぞ。はあ……レッド」

レッド「やはりビクトリーカレーのほうを頼めば……な、なんだ!?」

監督(お前もかよ!)
  「ピンクがこんな状態だし、俺たちもう帰ってもいいか?
   彼女がこれから悪さするつもりも悪い奴らに狙われているわけではない以上、能力的には一般人の俺にできることはなさそうだし」

レッド「ああ、俺のほうも話すことは少ないし、そろそろお開きにしようと思ってたところだ……ただし、メシ代は置いておけよ?」


監督「……ヒーローのくせにお前ってケチだよな」

レッド「うるさい! お前に何がわかる!
    人のことをヒモだと言う癖に一切財布のヒモを握らせないメイド見たことあるのか?
    ていうか維織さん! なんであなたまで素直に財布渡してんだよ!
    『お金の管理がめんどくさい』って元社長のあなたが言ったら駄目でしょー!!」

小波(やっぱり性格変わってる……)

監督「しまったな。地雷だったか」

毒島「……やっぱりヒーローって大変」

小波「だからこれはヒーローの仕事じゃありませんってば……」


小波「今日はしあわせ草を取りに行く日だ」

・・・・・・・・・・

小波「先生の家の前まで来たぞ……あれ? おかしいな。
     いつもは声が聞こえるかドアを開けてくれるのに」

 ピンポーン

小波「…………返事がない。どこかにでかけているのか?」

 ガチャ

小波「あ、鍵は開いてる……先生、いますか?」

 シーン……カタ

小波(! 物音がしたぞ入ってみようかな?)

A.入る
B.入らない

小波(気になる入ろう)
  「失礼します……せ、先生!?」

毒島「はあ……はあ…………」

 部屋に入ると先生はあの日のように床に倒れ、息を荒くしていた。

小波(これはきっと中毒症状だ! 注射器は……あった!)

小波「せ、先生!」

A.注射器をうつ
B.注射器を渡す


小波「……注射器持てますか?」

毒島「……だいじょう…ぶ、ありがとう…………」

 毒島の好感度が3上がった

 プスッ

毒島「…………はぁはぁ……ふぅ」

小波「大丈夫ですか?」

毒島「……大丈夫。いつものことだから……心配いらない」

小波「……」


毒島「……? どうかした?」

小波「すみません。けど俺、そんな状態で心配いらないと言われても信じることができません。
   だって最近ずっと体調が悪いみたいですし。今だって俺が来てなかったら……!
   ……先生、俺にまだ隠していることありますよね? 教えてください」

毒島「……聞いてもどうしようもないこと。だったら聞かない方が君には…………」

小波「俺のためと言うのなら……言ってください!」

毒島「……わかった」

 俺と先生は目を合わした。
 真夏の屋根の下、一つの部屋に男女二人という状況だが、今はやましい気持ちなんて全くわいてこない。


毒島「……今までより薬が効かなくなってきた。おそらく体が耐性をつけてきている」

小波「!」

毒島「今はこの薬をとり始めたころより二倍摂取しないといけないし、それでも二倍の早さで効果がきれる」

小波「じゃあ、先生はそれで……」

毒島「……けどそれは他の薬を併用したりすればどうにかなる問題。
   本当のどうにもならない問題は他にある」

小波「えっ……?」

 背筋がゾクリと悪寒がはしった。
 その言葉の続きを聞きたくない。そう心がさけんでいるものの、自ら聞くことを選んだ手前、従うことはできない。
 そして、

毒島「……細胞そのものが死に始めている。おそらく寿命……私の命はそう長くない」

 ある意味予想通り、しかしとても耐えられない衝撃が俺を襲った。


毒島「体調を崩しているのもそのせい。
   前は起きた細胞と眠っている細胞の二つだったけど、今は起きた細胞と眠っている細胞、死にかけの細胞でバランスがとれなくなってきている」

 先生は俺の要望通りに教えてくれる。いつも通りに、無表情で、包み隠さず。

小波「…………本当にどうにもならないんですか?」

 その淡々とした説明に腸が煮えくり返りそうなほどむかついたのと、

毒島「どうにもならない……むしろどうにかしてきたほう」

 本当に俺にはどうすることもできない事実に悲しくなった。


小波「後どれくらい一緒にいられるんですか?」

毒島「私の寿命は長くて一年……おそらく後半年だけど、学校のほうは二学期前に辞めることになる」

小波「っ……」

毒島「だから君には選んでほしい……私との記憶をどうするかを」

小波「……えっ?」

毒島「君と出会えて私は幸せだった……
   けれど、それが君の未来に陰をおとすのなら、幸せを阻もうとするのなら、君から私との記憶を消さなければいけない」

小波「そ、そんな!?」

毒島「……だから選んでほしい。私との記憶を消すか、私との記憶を思い出にして次の幸せを探すか」

小波「……次の幸せを探します」

毒島「言葉だけじゃだめ……次に私に会うときは彼女を連れてくること」

小波「む、無理ですよ!」

毒島「大丈夫……甲子園にいけば皆のヒーロー、よりどりみどり…………約束できる?」

A.約束しない
B.約束する


小波「……そんなの約束できるはずありません!」

 ガチャ ダダダダダッ!

毒島「…………ばか」

 毒島の好感度が3上がった


パワポケ「先週は勢いで先生の部屋を飛び出していっちゃったけど、これでいいわけないよな。
     どうしよう……」

A.自分でなんとかする
B.レッドに相談する
C.監督に相談する
D.須田君に相談する


小波「レッドに相談しよう……と思ったけど、そういえば俺レッドとの連絡方法知らないな。
   しかたない、自分で考えるか……」

 しかし、その後もいい案が浮かぶことはなく月日は流れていった。



 攻略失敗(一回目)

A.バッドアルバムを見る
B.やり直す(安価指定)

小波「先週は勢いで先生の部屋を飛び出していっちゃったけど、これでいいわけないよな。
  どうしよう……」

A.自分でなんとかする
B.レッドに相談する
C.監督に相談する
D.須田君に相談する


小波「……監督に相談しよう」

・・・・・・・・・・・

 速報公園

小波「監督、こっちです」

監督「おお。待たせたな」

小波「いえ……姐さんは?」

監督「来てねえよ。言われたとおり、教えてもない。どうかしたのか?」

小波「実は……」

 毒島先生の事情を話しました。


監督「そうか……ピンクに教えないように頼んだのもそういうわけか?」

小波「はい」

監督(酔った勢いみたいなものだから心配する必要もないと思うけどな……まあ、しかたないか)

小波「……監督、俺どうしたらいいんでしょう?
   本当にどうすることもできないでしょうか?」

監督「……はっきり言うと、おそらく彼女の寿命に関してお前にできることはほぼない。
   せめてしてやれるのは最後まで彼女と一緒にいてやることぐらいだ」

小波「そう、ですよね……でも今先生に会いに行っても、記憶を消されるだけだろうし……
   はは……本当に、俺は……無力なんですね…………」 

監督「……だが、彼女の寿命のほうは何もできないわけではない」

小波「えっ……?」


監督「二、三年前、魔の三時間という事件があったのを覚えているか?」

小波「はい、たしか全世界に架空の怪獣や妖怪が表れたんですよね?
   俺はそのとき入試を受けてたから詳しくはしらないですけど……」

監督「その事件、俺たちはカタストロフと呼んでいたが、原因は『具現化』って力の暴走なんだ」

小波「ぐ、具現化……?」

監督「詳しくは俺も知らないが、簡単に言うと想像したことが現実になる能力らしい。
   つまり、あの怪獣たちの正体は誰かの想像ってわけだ」

小波「そんな……まさか」

監督「信じられないか?」

小波「……いいえ、ちょっと驚いただけです」


監督「そうか。それで、その具現化には怪獣たちをおびき寄せるだけでなく、死にかけの負傷者を一瞬で治すこともできたらしい」

小波「! じゃあ、具現化を利用すれば先生も!」

監督「ああ……だが、カタストロフの一件で具現化に必要なエネルギー、
  これはマナと呼ばれているらしいが、それが地球にあるぶんは一気に消費されたらしい」

小波「で、でもそのマナってやつが回復すれば」

監督「再び具現化を可能にするまでマナを溜めるにはだいぶかかる。
   少なくともここ数年でどうにかなるレベルじゃない。
   まあこれも全て受け売りだけどな」

小波「……それじゃあ、何の意味も……!」

監督「まあ落ち着け。地球にある分って言っただろ?」

小波「えっ?」


監督「話は変わるが、一番最初に魔球を投げた少年って知っているか?」

小波「は、はい。テレビにも取り上げられてたし、世界大会とかにも出てましたよね?」

監督「あの子が今どこにいるか知っているか?」

小波「たしか火星でしたよね? ……まさか!」

監督「ああ、地球のマナがないなら火星のマナを頼ればいい」

小波「で、でも魔球はなくなったって……」

監督「一般的にはそうなっているが、どうやらあの子だけは投げられるらしいぞ。
   ちなみに俺はその子とは一度話したぐらいだが、その子との知り合いとは知り合いだ」

小波「そ、そんな都合のいい話があるんですか?」

監督「まあ、ご都合主義だけど、そんなことは問題じゃないだろ?
   俺は可能性を教えただけだ。さあ、お前はどうする?」

小波「お、俺は……」

レッド「……俺は反対だな」


小波「れ、レッド!?」

監督「どうしてここに……?」

レッド「たしかに具現化を利用すれば小波、お前の彼女を救うことができるかもしれない。
    だが勘違いしているのかもしれないが具現化は想像を現実にする力であって、決して願いを叶える力ではない」

 レッドは最初に会った時の威圧感を発しながら俺に近づいてくる。

レッド「・・・人間の創造するものなんて良いものばかりじゃない。
    いいや、不安や恐怖こそ形になりやすいものなんだ。
    あの日世界中で起こったことを思い出してみろ! 世界中が大混乱におちいったんだぞ!」

 カレー屋や公園であったときの親しみやすさはなかった、
 そこにいたのは俺の知らないヒーローであり、敵だった。

レッド「たしかに彼女には同情できるし、お前の気持ちも痛いほどわかる。
    だが、思い病を患わっているのは彼女だけじゃないし、お前より辛い境遇の人なんて星の数ほどいる。
    そんな中、自分たちだけが奇跡の恩恵を受けていいと思っているのか?
    ……第一、彼女は受け入れているだろう。自分の死を、運命を。その彼女の決意をお前のエゴで捻じ曲げていいのか?」

A.その通りだな
B.それでも


小波「……それでも、それでも! 俺は先生を助けたい!
   たとえそれは正しいことじゃないかもしれないし、自然に背いていることしれない。
   でも、だからって助かる可能性があるのに先生を見殺しにすることなんてできない!」

レッド「彼女の意思はどうなる?」

小波「そんなの知ったことか! 先生はいつも俺を勝手に振り回してきたんだ!
   たまには俺のほうから振り回してやる!」

レッド「……そうか、それがお前の答えか。……ならば私と戦う覚悟があるというわけだな?」

 レッドから威圧感が増す。
 喧嘩の経験なんてないし、そもそも山での体験から生身でレッドに挑むなんて無理なことはわかっていた。
 けど、ここで引くわけにはいかない。

小波「それが先生を助けるために避けられないなら、当然だろ!」

レッド「ならば、私も弱い者を守ろう。
    お前のエゴのせいで世界中で危険にさらされかもしれない弱い者を守るためここでお前を倒す!」

 夜の公園を静寂が包んだ。
 ただの人間とヒーロー、勝敗などわかりきっているが対峙している互いに一切のふざけはなかった。

ミニゲーム レッドを倒せ!

ルール

↓の4つそれぞれにキックまたはパンチとレス。
そのコンマが00~49までならパンチ、50~99までがキックとなり、レスの判定とコンマが当たっていたら成功。
四回のうち、二回当てれば勝利

それじゃあ、頑張るでやんす!

ごめん、こっちのミスだわ


小波「はあはあ……」

レッド「どうした? その程度か?」

小波「まだまだ……」

 余裕なレッドに対し、俺はすでに満身創痍だった。
 だけど諦めるわけにはいかない、先生を救うためなら俺は!

監督「……試すのはもういいだろレッド。認めてやれよ」

小波「……え?」

監督「小波の覚悟を試すために聞いたんだよな?」

小波「……そうなのか?」

レッド「お、おい! 新人、勝手なことを……」

監督「半端な覚悟じゃさっきこいつが警告したように世界がまた危機になりかねない。
   だからお前の気持ちを確認したかったんだよ」

小波「じゃあ……!」

監督「ああ、合格だ。後で魔球を投げた少年の知り合いの番号送ってやるからお前はもう帰れ。
   今週末には甲子園をかけた試合があるんだろ? こんなところで無駄な時間使っている暇はないはずだ」

小波「あ、ありがとうございます監督! お言葉に甘えて失礼します」

 ダダダダダダ

レッド「……おい、どういうつもりだ?」

監督「それはこっちのセリフだろ。
   お前はたしかに真剣だったけど、小波に敵意や殺意は向けてなかった。
   ……いや、むしろお前はそれらを自分に向けてなかったか?」

レッド「……なぜそう思う?」

監督「多少なりとも今まで数年間ヒーローをしていたからそれくらいはな」

レッド「戦闘のほうはピンクがいないとからっきしだがな」

監督「俺はピンクのパートナーだからそれでいいんだよ。
   ……ピンクが一時期オレンジのことを探していたとき、女の子と二人旅をしている風来坊の情報を手に入れたことがある」

レッド「!」


監督「結局オレンジとは関係なかったから最近までずっと忘れていたけど、カレー屋行った後で思い出したよ。
   その風来坊ってお前のことだろ?」

レッド「……ずいぶんと都合よく思い出したものだな」

監督「そう言われればたしかにそうだけどさ、引っかかりはあった。
   お前毒島を初めて見つけたとき俺たちにパトロール中に偶然って説明してたけど、
  どうしてそこまで高くないとはいえ、山をパトロールをしてたんだって疑問に思ってたんだ」

レッド「たいした記憶力だよ」

監督「ああ、ダークスピアとの戦いも無駄なことを覚えておいたおかげで助かったよ。
   ……なあ、もしかしてあの山には…………」

レッド「……ああ、彼女が眠っている。そして彼女もアンドロイドだった」

監督「……そうか」

レッド「もし彼女が生きている間に具現化のことを知っていたら、カタストロフが起こっていたら……
    俺はきっと小波と同じ選択をしていただろうな。そして他の誰かに今俺が言ったことを言われているはずだ」

監督「ヒーローらしくない発言だな。弱い者を守るんじゃないのかよ?」

レッド「守るためにだ。小さくて弱いロマンを、な……」


監督「……ところでレッド、どうして今日のことがわかったんだ?」

風来坊「え、えっと、それは……」

「……ところで私から質問なんだけど、どうして魔球少年がまた魔球を投げたことをあんたが知っているのかしら?
 あの子ずっと火星にいるはずよね?」

監督「ああ、それは火星ロケットに搭載されたレンちゃんが教えてくれたって漣が……へ?」クル

桃井「へー、漣ってたしかクリスマスにあんたと一緒に歩いていた子よね?」ピキピキ

監督「ぴ、ピンク!? どうしてここに……?」


風来坊「お前が開田に呼び出されたって言ってたのに開田がうちに来たから、
   聞いてみればそんな覚えないって言われて心配したピンクが俺に連絡して
   一緒に探してまわっていたらお前とパワポケを発見して……な?」

監督(な? じゃねえよ!)
  「ぴ、ピンク、誤解するなよ? 漣と会ったのは別に浮気とかそういうわけじゃないぞ……?
   あくまで世間話として聞いたわけであって……」

桃井「……どうせ」

監督「え、え?」

桃井「どうせ私の顔はそばかすだらけで汚いわよー!
   いいわよ! ヒーローなんて一人でやってやるんだからー!!」ダダダダダダ

監督「ちょっと待てよ! ピンクー!!」

 このあと滅茶苦茶ラッキョウをくわせた。


・・・・・・・・・・・

小波「監督からもらった番号。さっそくかけてみよう」

 プルルルルル

「はい、もしもし? 知らない番号だけどどなたかしら?」

小波(女? いや、声は男だけど……どっちだ?)
  「もしもし、初めまして。俺は小波っていいます。
   監督にこの番号を教えてもらったんですけど、ホンフーさんであってますか?」

ホンフー「監督? ……ああ、あの人のことね。
     ええあっているわ、私がホンフーよ。何か用かしら?」

小波「はい、じつは……」

 毒島の件を話しました。


小波「……というわけなんです。
   お願いします! 力を貸してください!
   かわりに俺ができることだったらなんでもしますから!」

ホンフー「そうね……いいわよ。力になってあげる。
     あの少年を紹介するだけじゃなくて火星に行く方法もこちらでなんとかするわ」

小波「本当ですか!?」

ホンフー「……ただし、条件があるわ」

小波「……なんでしょうか?」

ホンフー「あなた、明日甲子園をかけた試合があるでしょう?」

小波「は、はい」
  (どうして知っているんだ? 野球のことは話してないのに)

ホンフー「そこでわざと負けなさい」

小波「え……」

ホンフー「別に他のチームメンバーには話さないでいいわ。
     チームの支柱であるあなた一人が手を抜けば負けるのは十分」

小波「ど、どうしてそんな条件を……?」

ホンフー「そうねえ。私のコードネームがバッドエンドだったからかしら」

小波「?」

ホンフー「わからなくていいわ。それでどうするのかしら?
     まあ、もちろん答えは決まっていると思うけど」

A.……わかりました。言うとおりにします
B.……すみません。それだけはできません


小波「……すみません。それだけはできません」

ホンフー「……どうしてかしら? あなたにとって野球はあくまで手段。目的は別にあるはずでしょ?」

小波「たしかにそうかもしれません。でも、それだけはできないんです」

ホンフー「それはチームメイトへの義理? それとも彼女の命自体、あなたにとってはそれほど価値がないのかしら?」

小波「どちらでもありません。たぶん、意地だと思います。
   だって俺、目的はどうあれ野球が好きでやってますから」

ホンフー「……それはいいけど、じゃあ彼女のほうどうするのかしら?」

小波「大会後にあなたを探します」


ホンフー「今ここでそれを言ってしまったら警戒されると思わないのかしら?」

小波「そっちの条件を蹴ったのはこっちですから。でも、絶対に見つけ出してみせます」

ホンフー「……そう、わかったわ。条件を変えてあげる。
     わざと負けなくていいわ。その代わり、甲子園を優勝しなさい」

小波「え? それでいいんですか?」

ホンフー「嬉しそうね。明らかに前の条件のほうが楽だと思うのだけど?」

小波「俺は負けるとわかっていても負ける気でするつもりはありません。
   それにいくら楽でも好きじゃないことをするよりかは、たとえ困難でも好きなことをしたいです」

ホンフー「……それもそうね。ではまた後日こちらから連絡します」

 プッ、ツーツー

ホンフー(一流の気を持たず、手段が目的と化している者。
     人はそれを愚者と呼ぶけれど……ふふ、結果が楽しみだわ)

・・・・・・・・・・・・

小波(明日の試合頑張ろう。先生のために……何より、自分のために!)


小波「やった! 勝ったぞ! これで甲子園だ!」

 その後も俺たちは破竹の勢いで勝ち進めた。
 そして、

小波「……やった。やったぞ! 甲子園優勝だー!!」

須田「ぐすっ、おいら野球やってきて良かったでやんす」

小波「俺もだよ須田君」

 こうして俺の最後の夏は最高の結果で終わった。


・・・・・・・・・・・

 甲子園優勝の翌日

小波「約束は果たした。さっそく、ホンフーさんに連絡しよう」

ホンフー「その必要はありませんよ」

小波「えっ? あなたは……?」

ホンフー「はじめまして。私がホンフーです」

小波「あなたが……あの、俺、甲子園優勝しました!」

ホンフー「ええ、昨日の試合見させていただきましたよ。おめでとうございます」

小波「じゃあ……!」

ホンフー「はい、約束を果たしましょう。というか、もう果たしました。彼女を火星まで送りましたよ」

小波「え?」


ホンフー「信じられませんか?」

小波「いや、そういうわけじゃないんですけど……火星にそう簡単に行けるなんて」

ホンフー「まあ、普通なら冷凍装置で眠らせて宇宙船で行くのが正しいのでしょうけどね。
     そんな私利に宇宙船を使うわけにはいかないのでちょっと裏ワザ使わせていただきました」

小波「そうですか、ありがとうございます……でも見送りぐらいしたかったなあ。
   あ、そうだ。何年後に帰ってくるかわかりますか? せめてむかえぐらいしたいので」

ホンフー「その必要はありません。もう帰ってきていますよ」

小波「……え、いくらなんでもそれはさすがに……」

ホンフー「まあ、私としても火星まではちょっと遠かったのでちゃんと運べるか心配でしたけど、うまくいって助かりました」

小波「ちょっとというレベルじゃないと思いますけど……」


ホンフー「あなたには何も言わずに進めたのは悪かったですけど、なるべく早いほうがいいと思ったので事後報告という形にしました。
     ちなみにあなたの彼女もここに来ていますよ。出てきたらどうです?」

 ガサガサ

毒島「……」

小波「せ、先生!」

 物陰から先生が表れた。
 再会するのはいついらいだろうか。相変わらず無表情で、澄ました顔。

ホンフー「さて、邪魔者はさりましょうかね。それではまた、機会があったら」

 スタスタスタ

毒島「……久しぶり」

 しかしそこには一つだけ変化があった。


小波「先生、煙草が……」

 先生はいつも咥えていた火のついていない煙草を咥えていなかった。

毒島「必要なくなった。薬はもういらないから」

小波「じゃ、じゃあ……!」

毒島「うん。治った……正確には意図的に縮められてたテロメア細胞の長さを取り戻しただけだけど」

小波「……良かった…………本当に良かった」ポロポロ

毒島「……」

小波「はは、やっぱり先生は相変わらずですね」


毒島「……ありがとう。君にもらったこの恩はきっと何をしても返せない」

小波「恩なんてありませんよ。
   先生がいつも俺を振り回しているように、俺も先生を振り回しただけです。
   それより先生、これで俺の記憶を消す必要はないですよね?」

毒島「それはそうだけど……本当に私でいいの?」

小波「今さら何を言っているんですか?」

毒島「……君は甲子園優勝チームのキャプテン。プロ入りも確定している。
   これから君にふさわしい女の子がいくらでもよってくる。それなのに……」

小波「俺は自分にふさわしい女の子なんてわかりません。
   だけど、先生にふさわしい男は俺ぐらいしかいませんよ。
   先生に振り回されることが嬉しく思えるなんて俺ぐらいでしょうし」

毒島「……わかった。じゃあこれから君を振り回す」

小波「えっ?」

 タッタッタッタッ、ドシーン

小波「ちょっと、先生ここでは……!」

毒島「…………いや?」

小波「………………白衣汚れちゃいますよ?」

毒島「……かまわない。明日も休みだから…………………………」

 弾道が上がった


毒島「……ハンカチ持った?」

パワポケ「持った」

毒島「……ティッシュ持った?」

パワポケ「持った」

毒島「……財布もt…」

パワポケ「持った」

毒島「……」

パワポケ「無理に考えなくていいから……」

 高校卒業後、プロ入りした俺は先生と一緒に暮らし始めている。
 先生と俺の様子を知っている人たちは恋人関係というより子離れできない親とその子供みたいと言うが、
母親との思い出があまりないせいか俺には実感がわかない。


毒島「……しあわせ草のドリンクいる?」

パワポケ「……んー、いいや」

 薬はもういらなくなったものの、しあわせ草をそう簡単にいかず、なるべく平和な活用で残りを減らし続けている。

パワポケ「あ、そういえば今日レッドたちが来るって言ってたんだけど……」

毒島「……そう。わかった、準備しておく」

 ちなみに先生がレッドを嫌っていたのは残り少ない寿命をジャジメントで過ごすつもりだったのに放りだされたことが主な理由だったらしく、
じゃあ今はどうなのかと聞くと感謝していると言っていた。

パワポケ「それじゃあ、いってきます」

 寿命が延びたけど、先生は相変わらず基本無表情だし、泣くことはできないらしい。
 でもそれでいいのだ。先生に泣き顔なんてさせたくないし、

毒島「いってらっしゃい」ニコッ

 無表情なのは彼女の笑顔を独占できるのが俺だけという証明なのだから。

 毒島編、完!

最後にアルバム投下するでやんす
やり直しが二回残っているので、二つ選ぶでやんす

A.バッドエンドその後
B.ラッキョウその後
C.カレー屋その後

↓、↓↓


監督「ありがとうな。こっちの勝手なお願いを聞いてくれて」

ホンフー「いいえ。こっちも興味深いものを見れたからよかったですよ
     それにあなたの彼女の件に対する罪滅ぼしもありますし」

監督「言っとくが、ピンクの件に関してはまだ許してないからな。
   カタストロフが終わった後、さっさといなくなりやがって」

ホンフー「私は悪人ですからね。
     ヒーローに協力することはあっても馴れ合うとまずいんですよ。それくらいはわかるでしょう?
     それとも今ここで殴りますか?」

監督「……やめとくよ。今お前を殴ったら俺のほうが悪者だ」

ホンフー「賢明です。
     ……しかし、直接会って確認してみましたが、やはり彼は一流じゃないですね」

監督「おいおい、まだ一流二流って言っているのかよ」

ホンフー「当然です、私のアイデンティティですから。
     しかし彼は見事に私の予想を覆した。
     地区大会の決勝は相手のほうが一流の気を感じていたのですが……」


監督「はあ、お前あの日に学んだだろ?
   ジオットを止めたのはレッドだったけど、カタストロフをなくしたのはどこの誰でもない。そこら辺の誰かだ。
   理想の一流より、現実の二流が勝ったからこそカタストロフは失敗したんじゃねえか」

ホンフー「! ……そういえばそうでしたね。忘れていました。
     あなたには貸しをつくったつもりでしたけど、これで返されてしまいましたね。
     いつかまた貸しをつくりましょう」

 スタスタスタ

監督「……行くのか?」

ホンフー「ええ、私は悪人ですから。また誰かをバッドエンドにさせないといけません」

監督「そのときは俺たちが止めてやるよ」

ホンフー「ふふ、期待していますよ……ではまた」

 そう言い残して男は消えた。
 これからも彼は悪の道を突き進み、血に染まり続け、彼自身の最後もおそらくバッドエンドになるだろう。

 しかし彼はそれで後悔はしないはずだ。
 なぜならそれが彼自身が納得できるバッドエンドなのだから。

風来坊「……ごちそうさま」

 その男は今日も一人カレーのみを食べて帰る。
 一番安いカレーだけを頼むのはべつにお金がないわけではない。
 ただの未練である。

奈津姫「今日も来ていらっしゃたんですね」

風来坊「……今日もおいしかったですよ」

 店の暖簾をくぐると一人の女性が立っていた。
 だが待ち合わせしたわけではない。彼女と彼はただの店の副店長兼料理人とその客である。

風来坊「しかし、カレー屋なのに暖簾とは珍しいですね」

奈津姫「おかしいですよね。でもあの子がどうしてもって。この店の名前も。
    ……苗字が変わってもあなたがすぐわかるようにって」

風来坊「そうでしたか……ご結婚おめでとうございます。いい旦那さんそうですね」

奈津姫「旦那を見たんですか?」

風来坊「いいえ。でもあなたの様子からなんとなく……」

奈津姫「……そうですね。旦那は本当にいい人です……私にもったいないくらい。
    彼のおかげでカレー屋も前みたいなことをしなくても経営できるようになりました……」


 世間話を続ける二人であるが、それはあくまで見せかけであって本意ではない。腹のさぐりあいである。

奈津姫「カンタとは会われないんですか?」

 そしてしかけてきたのは女性のほうだった。

風来坊「……カンタ君が自分から俺を探しに来るって言いましたからね。
    俺から会いにいっちゃったら台無しでしょう」

 おそらくこれは釣り玉だ。この次にくる渾身のストレートのための。
 男はそう予想する。
 そしてその予想はみごとに当たった。

奈津姫「……風来坊さんは今までずっと一人で旅をなされていたんですか?」

風来坊「…………いいえ、今は旅をしていませんし、ちょっと前までは一人でした。
    ……だけど、その前は二人で旅をしていました。ケラケラとよく笑う女の子と一緒に」

奈津姫「……やはり、そうでしたか」

 彼女は俺をどういうふうに思っているだろうか。
 普段は他人からの評価なんて気にしない男であったが、そのときばかりはそう思った。

 突如現れては街をかき乱し、挙句のはてには去り際に親友をさらった男。
 彼女にとって自分はそういうやつだろうと男は評価していた。
 だから彼女から責められるのは当然だし、今一緒にいないことを咎められるのは当たり前だと男は思った。


 しかし、

奈津姫「……あの子の最後は笑っていましたか?」

風来坊「!?」

 男は驚く。なぜなら彼女は親友の秘密を知らないはずなのだから。

奈津姫「……知っていましたよ。あの子が普通じゃないことぐらい。
    だって昔からの親友なのに、ある年以前の写真がまったくないんですもの」

 彼女は笑っていた。風来坊の反応から自分の予想が当たった悲しみを隠すように。

風来坊「…………泣かせてしまいました。最後の最後に、悔しいなあって言い残して……」

 おそらく男が隠していることなんて全てお見通しなのだろう。
 男は素直に真実を伝えることにした。

奈津姫「そうですか……よかった。あの子強がりですから。
    最後にその言葉を聞けたってことは、あの子もきっと幸せだったんですよね」

風来坊「……もう少し長く生きられれば、もっと長生きできる方法があったとしてもですか?」

奈津姫「ふふ、それこそあの子はロマンがないって言いますよ」

風来坊「……そうですね。ではまた」

 全て話し終わり男は去った。
 これからもこのカレー屋は末永く受け継がれていくだろう。
 月日が流れ、人々の記憶が薄れればこのカレー屋の名前の意味もまた、すべて忘却の彼方へと去っていく。

 一人の風来坊と母子の物語も失われる物語のエピソードのうちのほんの一部にすぎない。

これでこのスレは終わりでやんす
またいつか、別彼女を書き溜めたら投下するでやんす

パワポケの復活を記念して終わるでやんす

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