博麗霊夢「飛べない巫女はただの巫女よ」八雲紫「黙れ小娘!」クワッ (371)




タイトルは特に意味はない。

東方プロジェクトの二次(ry


原作崩壊ですのでご了(ry


更新は亀な上に少な(ry


過度な期待は(ry


ご飯のお供には鮭フレーク


以上のことを踏まえたうえでご覧ください


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1393765683






                    第一変「霊夢、異変に挑む」







私は博麗霊夢

特技は御札を作ること。(効果は保障できる。誰か買って)好きな物はお金とお茶

最近の悩みは金運アイテムを買ってしまうこと。(宣伝文句に騙される。くやしい、でも買っちゃう!チャリンチャリン♪ みたいな?)

幻想郷の博麗神社の巫女をやっている。いや、やることになったと言ったほうが正しいか……というのも、まだ私は博麗の巫女ではないからだ


巫女を務めるにはそれ相応の才能が必要であり、かつ、妖怪の賢者にして幻想郷の支配者(本人の自称であり私は嘘くさいと思っている)八雲紫
という妖怪に認められなくてはならない


私は一部を除いて才能面はクリアしているのだが、肝心の紫が認めていないのだ


理由は分かっている。私は巫女として求められる才能の中で、一つだけ、どうしても出来ない事があるのだ


が、それを踏まえたとしても私は納得がいかない。”それ”以外は完璧に出来るし、他に私より優れた候補者がいるわけでもないのだ

何より、私を巫女(候補だけど)に選んだのは紫だ。どう考えたって私を巫女に選ぶべきだろう一体何が紫を渋らせるのか……



「あぁ~~~~~~~~……なんか、悶々としてたらお腹空いちゃった……」



適当に何か作って炬燵で食べよう





「きざ~みしょうがに胡麻塩振って、はい完成♪」



巫女候補に選ばれてから住まいとなったこの神社の生活もなれたものだ

住み始めは隙間風や開けにくい襖に苛立ち、不法侵入してくる鼠に米を齧られ悩まされ頃が懐かしい

さっさと雑炊を作った私は炬燵に向かう



「はーりーつーめーたーーーゆーみーのーーーーー♪やーいーばのフフ~フフ~~~~ン♪」


「……?」



炬燵に足を突っ込んだ瞬間、足の裏に柔らかい何かに当たったような感触を覚える

気になってめくってみると



紫「どじゃ~~~~ん!」



炬燵の中に紫がいた。



「…………何やってるのよ」



床にスキマ(謎空間)を作り上半身だけをだして炬燵の中を占領していた



紫「……つまんないわね。もうちょっとキレのあるツッコミ入れなさいよ」

「残念だけど私のツッコミは安くないのよ。出直してきなさい」

紫「は~い」



スキマの中に引っ込んだかと思えば、今度は私の背後にスキマを作ってするりと出てくる






紫「はぁい♪というわけでゆかりんで~す!」キラッ☆



ドアノブカバーのような特徴的な帽子、紫のドレスに白く長ったらしい手袋、たまに妬ましく思えるキューティクルの整った金の髪
それだけ見ればまぁ……美女という言葉が似合いそうなのだが、もし紫と知り合いになれば誰もがその認識を投げ捨てるだろう

ウィンク横ピースには触れない、突っ込まない



「何しに来たのよ」

紫「冷たいわね~朗報よ?」



ぱんっ、と扇子を広げて顔を覆って覗くようにこちらを見る。目だけで笑っていることはすぐに分かる

こういう時、ろくなことを言い出さないものだが、悪い話じゃないだけマシだ。聞いてやらなくもない



「だったらさっさと話しなさい。なんなのよ」

紫「ふふふ……いえね、長いこと待たせたんだけど、どうやら新しい巫女が貴方に決まりそうなよ」

「!」



ほう、そりゃあいい知らせだわ。


けど、決まり”そう”?



「…………何か条件がありそうな言い方ね」

紫「えぇ。”最終試験”よ。それに合格できれば貴方を博麗の巫女として正式に認めるわ」






なるほど。長いこと私を待たせたのはその準備に手間取っていたといったところか……



「面白いじゃない。これだけ待たせたんだから少しは手応えのある試験なんでしょうね?」

紫「安心しなさい。今までと違って手応え歯応えバツグンの試験よ」



扇子の上から覗く目がいっそう妖しく、不気味に笑い始める



「へぇ……で、試験の内容は?」

紫「ふふふ………アテンションプリ~ズ。まずはお外をご覧くださ~い」

「?」



いわれるがまま、紫の指差すほうに目を向けると、いつの間にか閉じていた襖が開いていて、外の景色を映し出していた

この博麗神社は幻想郷がそれなりに一望できる山の上に立っている。そのため景色はよく、夜、月が綺麗な晩には鳥居の上に登ってお酒を飲む
のが私の楽しみだ

そんな、私も気に入っている景色に一つ尋常じゃない異物があった



「赤っ!!」



空がまっかっかだった。夕焼けとか、そんなものとは比べ物にならないくらい。赤い

人の血のように真っ赤だった






「何よこれ?まさかアレを元に戻せとか言うんじゃないでしょうね」

紫「えぇ、その通りよ。さっすが霊夢、話が早くて助かるわ」

「……冗談じゃない。出来るわけないでしょ、馬鹿なの?死ねばいいのよ」



一体何をしたかは分からないがとんでもない事をしてくれたのは間違いなかった

よりにもよって私個人のために幻想郷を巻き込むとか……



「いつかなんか大事やらかしそうだとは思ってたけど……うわ~ひどいわねこれ……気持ち悪っ」

紫「……貴方勘違いしてない?」

「は?」

紫「これ、私の仕業じゃないわよ」

「……嘘」

紫「本当よ」



ぱんっ、と扇子を閉じて空をするりとなぞるとスキマができる

くぱぁ、と開いたかと思えばドサドサと古ぼけた書物が次々と落ちてきた

一冊拾ってみると、どうやら過去の博麗の巫女について書かれた書物だった



紫「幻想郷には時々、妖怪なんかが大規模な事件……”異変”を起こしてきたわ。その中には幻想郷を崩壊させかねないほどの物もあった
  その度に歴代の博麗の巫女は異変を解決してきたわ」

紫「いかに幻想郷が結界によって守られていようと、その秩序と平和を守らなければ意味がない」

紫「どんなに才能に溢れていようとも、異変が解決できないのなら飾り物より劣る……”木偶”よ」





紫「最終試験とは”異変の解決”よ。貴方に、歴代の巫女にふさわしいかどうか、これで全てが決まるわ」






少女祈祷中..........


続き





「ふ~ん。……フン、分かったわ。それで、その異変を起こしたのは誰?目的は?」

紫「それは答えられないわ。言ったでしょ”巫女が異変を解決してきた”って。異変の根幹に関わることは自分の手で調べるの。
  自分で調べて自分で解決するの」



なるほど、本当ならこの空が赤い事自体を異変だと気がついて自主的に動くものなのか……



紫「けどまぁ、”どこに行くべきか”は今回限りで教えてあげるわ。一応”試験”だし」



またスキマをひとつくぱぁ、と開いて地図を取り出した。机に広げて地図の一点を扇子で指す



紫「ここよ。貴方がやるべきことは”異変の解決”と”異変の首謀者を突き止める”事に加えて”異変の目的が何なのか”を
  調べなきゃならないわ」

紫「ま、いつもどおり難しく考える必要は無いわ。手段は余り問わないし、貴方なりのやり方でこの試験を乗り越えて見せなさい」

紫「ちなみに誰かと一緒に異変を解決するのもアリよ。一人の力じゃどうしても限界があるから。
  ただし、人任せはダメ。異変解決は貴方がやり遂げるのよ」

「りょーかい。で、何か条件とかあるの?……期限とか、なるべく具体的な物があるなら今のうちに聞いておきたいんだけど」

紫「特に無いわね~。まぁ、強いて言えばだけど……」



にっこり、と

その笑顔を見た瞬間、理由も無く、なによりもまず”やばい”と感じた時には

紫はすたすたと近づいて片手を背中に回し、私はあっという間に引き寄せられ体のほとんどが紫と密着した状態になる

姿が人のそれなだけだけに私もよく忘れそうになるが、紫は妖怪だ。

妖しく怪しい存在だ。少しでも隙を見せればあっという間に飲まれ、支配される。だからこそ、妖怪を相手にするときは
心を強く保たねばならないと、巫女の試験の一つ”妖怪との戦い”で私が実感し、学んだ事だ

油断していたなら、喰われるの私だ



「っ!?」

紫「ありえないかもしれないけど、”信じて送り出した巫女が異変の首謀者に共感して幻想郷を壊そうとしている”なんて事になったら」



ドスッ、と扇子が私の首を貫いた



                     紫「誰よりもまず、私は貴方を殺す」






「は、ははっ、そりゃあ、こわいこわい……」



まぁ、そんな事になっていたら当然死ぬのだが

首の表面すれすれでスキマが開いていたので扇子が首に刺さることは無かった

っていうか目、目が笑ってませんよ?いつもみたいな胡散臭い目をしてくださいゆかりん



紫「はい。それじゃあ後はがんばってね!もし死んじゃったら、そのときは私が何とかするから安心してね☆」



骨は拾わないんですね。分かります

そう言って、紫はスキマの奥へ引っ込んでいった



「…………………………」

「……とりあえずご飯食べよ」



腹が減っては何とやら

急いで雑炊を平らげ、私は身支度を整えた



―――――――――――



「持っていくものは……まぁ、御札と御祓い棒は必要よね……あ、あと封魔針と陰陽球か……」



暇でしょうがいない時に作り溜めしていたのが功をそうした。巫女になってからは癖付けておかないと……
異変が起きたときに御祓い棒一本だけとか何それ、笑えないわ






「……うん。こんなものかな」



私的に一番良い装備が出来た。まぁ武器しかないけど


私は神社を出て、やたらなっがたらしい階段を下りていた


「さて、あとは……このまま一人で行くか、紫の言葉に甘えて誰かを誘っていくか……」

「目的地は霧の湖の近くよね……途中で他の妖怪に襲われないとも限らないし…………弾切れは勘弁……
 相手が妖怪一匹二匹退治して終わるようなら紫もそんなこと私に最終試験なんて形で出さないだろうし、敵は手ごわいと考えて当然……」



うん。一人は無理ね。



「そうなると、ある程度腕の立つ人がいいわよね。その辺の妖怪くらいなら蹴散らせるくらい戦い慣れてる人……」



異変とやらを起こす妖怪がどれほど強いのかは定かではないし、間違って死んでもらっては目覚めが悪すぎるから
やはり連れて行くならそれなりに経験をつんだ人じゃないと



「まぁ、紫を除けば一人しかいないか」



”彼女”なら、きっと一緒に来てくれるだろう。なんだかんだ付き合いも長いし、むしろノリノリでついていくと言い出しそうだ

っていうかぶっちゃけ心当たりが”彼女”しかいないから、断られたら私一人でやらなきゃならない。

なんとしてでも説得しなければ



「よし、行きますか」



目的地とは反対になってしまうが、やむをえない。私はまず人里へと足を向けた






人里

幻想郷で最も人が多く集まっている場所であり、幻想郷で最も賑わっている場所だ

とはいえ、今起こっている空が真っ赤に染まっている”異変”のためか、大通りでさえ人気が少なく

外にいる人も大抵上を見ながら誰かと話していた

ふふ、どうやら皆不安のようね。まぁ、”異変”ですものね、そりゃそうか


しかしその不安も今日限り。この未来の博麗の巫女、博麗霊夢がこの”異変”を瞬く間に解決して見せるのだから!安心しなさいな!!



八百屋のおっちゃん「あれま、霊夢ちゃんじゃないの!」

「へっ!? あ、あぁはい!な、なんでしょう!?」



とまぁ、そんな風に考えていたら、行きつけの八百屋の人に話しかけられた。

しまった、もしかしたら今ニヤついていたかも。変な奴だなキモとか思われてないよわね?



八百屋のおっちゃん「どぅしたい?そんな風呂敷携えて、棒切れなんぞ持ってさ?」



あぁ、これ(風呂敷)とこれ(御祓い棒)?なぁに妖怪退治の道具ですよハハハwww



「えとっ……いやぁ、まぁ、その……大した物じゃ無いです。……すいませんそれより”ここ”がどこにあるか分かりますか?」



あ~無理だ。さっさと離れよう。本当は場所知ってるけど話し切り上げるにはこれしかない



八百屋のおっちゃん「あん?ここかえ?……あ~ここね!そこの角左に曲がって五件目さね、でっけぇ看板あっからすぐ分からぁ」

「そうですか。ありがとうございます」



私は早足でその場をさった。八百屋の人がまた何か聞こうとしていたみたいだが聞こえない振りだ



「………………ふぅ」



なるほど、たしかに八百屋の人の言うとおりでかい看板だ。それに見合って店も広い。寺子屋に負けず劣らずだ


『霧雨店』


人里の中にある大手道具店。ここが私の目的の場所。そして”彼女”


霧雨魔理沙の住んでいる場所だ




第一変 終幕

次回、第二変 少女祈祷中.........


いぇーい。続き




            第二変「魔理沙、恋色の秘密」




「ありがとうございましたー!またお越しくださいませー!」



私の名は霧雨魔理沙

人里で最も大きい道具店『霧雨店』の店長の一人娘だ


母は私を産んでからしばらくして死んでしまった。父さんは母さん以外の女性と結婚するつもりは無いらしいから
恐らくこの店を継ぐのは将来、この家に婿養子に来た人、つまり私の将来の夫ということになる


つまり、私は生まれながらにして将来が安定していることが確定している人間だ。だからといって、私は何もしなくても良い
というわけではない。物心ついたときから、私は父さんにお店の手伝いをさせられていた


私としては、手伝いをするのは楽しいし、このお店の将来を担う一人として色々なことを学んでいく上で必要なことだと思っていたから
別に不満は無かった。今では接客やお店の仕入れ作業や在庫管理等にも一役買っているほどだ



父さん「魔理沙、今日はこの辺で終わっていいぞ。外が”あんなこと”になってるから、今日はあまり客は来ないだろうし、少ししたら
    店を閉めるよう言っておいた」


「ん、分かった。ありがとう父さん」


父さん「あと、部屋にお茶と大福があるぞ」


「は~い……って、え!?父さん私の部屋に入ったの!?」






父さん「……入ったが何も触っちゃいない。すぐに出て行った」


「も~!勝手に入らないでって言ったじゃん!」


父さん「何もしてないから良いだろう。大体、なんでそんなに気にするんだ。別にやましいものがあるわけでもあるまいし」


「年頃の女の子の部屋に勝手に入るのが嫌なの!……でも、ありがと」


父さん「……ん。俺はこの後ヤマダさんのところで新商品の話し合いでしばらく戻ってこないが
    もし外出するなら使用人に一言言っておけよ」


「は~い。いってらっしゃい」



そうして、父さんを見送った後私は部屋へと向かっていった



「…………さぁ~てどうしようかな~♪」



私には秘密がある


たった一人を除いて、誰にも知られたくない、知られちゃいけない大きな秘密






「やっぱ”キノコ狩り”かなぁ~。ちょっと量が少なくなってきたし、新しいのも探してみたいしなぁ~♪」



私、霧雨魔理沙は”魔法使い”であるということ



それも、5年以上前からであり、その辺の妖怪くらいならちょちょいのちょいと出来るほどの力を持っているのだ(自分で言うのもアレだけど)

なぜ魔法使いであることが秘密なのかというと、一番の理由は父さんにある



それは父さんが”妖怪嫌い”であるからだ



私の母さんは私を産んでしばらくして、妖怪に襲われたらしい。その時の後遺症が原因で
死んでしまったのだそうだ。そのため父さんは妖怪を含めてオカルト全般を非常に嫌っている

店に妖怪が来たときでも自分は絶対接客しないし、店の中にはマジックアイテムや、妖怪や魔法なんかについて書かれているものは
一切ないし、精々『妖怪』『魔法』という単語がある辞書がある程度だ

当然、父さんは私に妖怪がいかに危険であるか教え、魔法なんかの知識には一切触れさせなかった
父親として、”妖怪の世界に触れて”母と同じ目にあって欲しくないという父さんなりの優しさでもあったのだろう

それが、幼い私は理解できて、私は良い子に育った。里の外には一歩も出なかったし、里にやってくる妖怪とはできる限り
関わらないようにした。別に、父さんのように”嫌いになる”ということは無かった。というかどちらかといえば
”父さんに嫌われたくない”と思っていたからかもしれない



だからか、私が魔法について知ったとき”堪えようの無い興奮”を覚えたのは






店で買い物をした人が偶然落し物をして、それをと届けようとしていたときだった
その落し物が何かが入った袋(住所が書いてあった)で、興味本位に中身が気になって中を見たのだ。


中に入っていたのは、魔法の森で生えているキノコだった


魔法の森で育っていたからか、そのキノコには魔力があった。魔力を宿したそのキノコが放つ奇妙な感覚に
私は不気味さと同時に好奇心を引かれた


落とし主の家までたどり着いて、キノコについて聞こうと思ったが、どういうわけかそこに人はいなかった


後日改めて返しに行こうと思った私はそのままキノコを持ち帰った。父さんには返したと嘘をつき、そのキノコについて
図鑑で調べようと思った


当然、家にはそんなものは無く。どうしても気になって仕方なかった私はあちこちの本屋や
八百屋なんかにも行ってそのキノコについて調べようとした


けれど、それは叶わなかった。


結局諦めた私は次の日に、そのキノコをもう一度落とし主の家まで行って返しに行こうと思った


そうして次の朝、その落とし主が店にやってきた


なんとその落とし主は客としてやって来ていた訳ではなく、この店で働くために父さんを訪ねてきていたのだった
チャンスを見計らって、私はこっそりキノコについて聞きだした。そしてそのキノコがある”魔法”に必要なもの
だということを知った


私はさらに聞いた。”魔法”のこと”魔法使い”や”魔女”のこと、”妖怪”や”異変”のこと。初めて知った世界に、私は惹かれて、憧れた



そしていつか、”魔法使い”になりという”夢”ができた




少女祈祷中......

俺のターン!続きを今日やるぜ!

IDがHP20になってるwww雑魚杉www




私は思い切って、店の手伝いをしなくてもいい日に里の外に出た


そして魔法の森という場所に行った。そのときの感動は今でも思い出せる

今まで実物を知らず、手で触れたことも、見たこともない物がそこにあった。不思議なキノコや薬草、周りに漂う魔力を帯びた空気の
不気味ささえ、私には好奇心をくすぐるものだった。父さんから教わった妖怪の恐ろしさや、魔法に手を出して
はいけないという戒めが全て吹き飛んでいた


そして私の魔法使いの修行はその日から始まった


始めは失敗ばかりだった。何が正しくて、何が間違っているのか、それすら分からなかった。怪我もした、死に掛けたりもした
でも、やめたいとは思ったことは無い。自分の知らなかった世界がこんなにも広いことが、心を躍らせ、全てが輝いて見えていたから

だが、いいことばかりじゃない。道具店の一人娘として里では顔が知られているため、人里の知り合いに万が一でも見らよう
ものならすぐにでも父さんの耳に入るだろう、魔法使いとしての活動はなるべく人知れず行わなければならない

魔法使いとして活動するときは服装を変えたり、髪の毛を魔法で少し伸ばしてウェーブを掛けたり
妖怪に出会って名前を聞かれても、名乗るわけにはいかないから『普通の魔法使い』で通してきた

私の道具屋の娘としての生活と、魔法使いとしての生活はそうして5年も続いている。時々危うい目に会いながらも、順調に

今では魔法使いの私には”師匠”や”親友”もできた。まぁ、やはり道具屋の娘ということは伏せているが……

と、魔法使いとしての秘密を抱えた生活は決して楽ではなかったが、慣れればどうということは無かった

そのためか、私は少し”余裕”ができた

家の中でも魔法使いの修行ができるよう実は今、私の部屋には魔法に関わるちょっとした”参考資料”が置いてあるのだ
見られたとしてもなんとか誤魔化せる物ではあるのだが、職業柄勘の良い父さんの目に入れるわけにはいかない

ちなみに、使用人は入らないよう言ってあるし、掃除だって自分でやっている


だから、さすがにさっきは焦った。普段から部屋に勝手に入らないように父さんにはいつも言ってあるのだが……



「……先に資料の移動させたほうがいいかな」






「簡単に見つかる場所には隠していないけど、やっぱりリスクは避けるべきか……」



早急に対策をしなくては。そう思った私は急いで部屋へとたどり着き、襖を開けた


この時、私は愚かだったと思う―――――――――どうして”部屋の中に誰もいない”という前提があったのだろう?


さっき父さんが部屋に入ったという時点で少しは考えるべきだった。この5年間必死に隠してきたことなのに……
いや、だからこそ生まれた『余裕』で、逆に油断してしまっていたのだろうか?もしここで踏みとどまっていれば
まだ”誤魔化せて”いたかもしれないのに……


しかし、もう過ぎたことだ。もう遅い。


私は部屋の中に入ってしまった



ぺらっ

霊夢「…………えーー!嘘!?黄色い女の子死んじゃった!?なんか抱えてた悩みとか色々吹っ切れてこれからって時に!?
   うわぁ、これ頭からぱっくり食べられちゃってるじゃない……グロ……これほんとに少女向け漫画?」



私の部屋に”隠してあった参考資料”をいとも容易く見つけ出して読みふけやがっていた”親友”のいる部屋に



「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

「は?えっ?」

霊夢「あ、魔理沙!お茶と大福いただいてるわよ」

「…………………………それは……私の」


いや違う、そうじゃない。


霊夢「……何よ?鳩が豆鉄砲くらったような顔して」

「いや、その……」


え?










え?






霊夢「ちょっ……本当に大丈夫?」


”参考資料”を置いて心配そうに見つめる霊夢


                   ”ありえない”


なんで霊夢が?よりによって”道具屋の娘”の私に?一度も、というか”人里で暮らしてることすら”教えていないのに?

というか”短髪着物の姿”の私を見て”霧雨魔理沙”と認識してる?霊夢と会うときは”ウェーブの長髪に白黒の魔法装束”を着ているのに?

いやそこは違ってもバレるか……いやいやいやそんな場合じゃない!



「え、えと……」



ご、誤魔化さないと!秘密は守らないと!



「ど、どちら様ですか?(裏声)」

霊夢「え?」



必殺・『タニンノソラニ』!!



「ここは私の部屋ですよ?どういう用件でこの店に入ったかは分かりませんが困りますね勝手に部屋に入られては(裏声)」

霊夢「何言ってんのよ。ここあんたの家でしょ?この間髪とか服装とかわざわざ変えてこの家に入るの見たわよ」

「何ィイイイイイイイ!!?」

霊夢「! ちょっ!?どうしたのよほんとに!?」



あの時か!疲れてたからボ~っとして人里の中まで飛んで行ってしまって慌てて着替えたあの時か!!周りには誰もいなかったはずなのに!!

まずいまずいまずい!!



「なぁ、正直に答えてくれ!!」

霊夢「な、何よ!?」

「私がこの家に住んでること、他の誰かに話したか!!」






霊夢「いや、別に……」



……嘘をついてる感じじゃないな




よし



霊夢「ま、魔理沙?……!」



それなら、まだ隠し通せる



しゃりん!

霊夢「ね、ねぇ、魔理沙?その手に取った摸擬刀は?」

「あぁこれ?父さんがいらないから護身用にだって。別に殴っても私の力じゃ死にはしないし……」

霊夢「そうじゃない!何で抜刀してるのよ!」

「決まってるじゃないか。記憶を消すっていったら強い衝撃が一番だろ?」

霊夢「は?」

「どこ殴ったら成功率高いかなぁ~やっぱ後頭部かな?」

霊夢「ちょ、ちょっと!?」



悪いな霊夢

心配するな。全部トンじゃっても私たちの友情は永遠だ



「キェェェェェェェエエエエエエエエエエエエエイ!!!」

霊夢「ぎゃあああああああああ!?」






すぱぁん! と


模擬刀の先制攻撃を私は白羽取りして受け止める

うぉぉすごい!!初めてやったのに成功した!?



魔理沙「ぬぬぬぬぬぬぬッ!!」ググググ



しかしそれで終わらない。魔理沙はさらに力をこめて押し切ろうとする

後頭部を狙うんじゃなかったのか……



「ちょちょちょちょ!?落ち着きなさいよ!なんでこうなるのよ!?お茶と大福あげるから落ち着いて!
 お茶は飲みかけだし大福は2つあるうち1つ食べちゃったけど!」

「だ、大体記憶を消すって何!!バレたらそんなにマズイの!?」



ぴたり、と魔理沙が力をこめるのを止める



魔理沙「…………って……………ぅ」

「え?」



ゆっくり手を放してみると、支えを失った模擬刀が畳の上に落ちる



魔理沙「だって、父さんに……嫌われちゃう…………」プルプル

「へ?え?」

魔理沙「だって……父さんは……グスッ……とうさんは……ぅ……ぅぅぅううう”う”う”う”」ポロ  ポロポロポロ

「え!?ちょ!?何で泣いてるのよ!!」

魔理沙「ワ”アアアアアアアアアアン!!れ”い”む”のばかああああああああ!!!」

「ええええええええええ!?」



まるで意味が分からない!!


~~~~~~~



~~~~~~~


「だ……大丈夫?」

魔理沙「……ぅん」グス



ひとしきりわんわん泣いていた魔理沙が泣き止んで(まだお店が開いているのか、使用人さんが部屋にくることはなかった。セーフ)
ようやっと私は事情を聞きだした

にしてもまさか殴られそうになったかと思えば泣かれるとは思わなかった……



「大福、食べる?」

魔理沙「……うん」


ぱくっ もちもち もちもち


「あのね……事情は分かったわ。安心して、私本当に誰にも話してないし、話すつもりも無いわ。この店に入ったのだって
 使用人の人に友達だって言ったら案内されてきたし、何にも喋ってないから」

魔理沙「……ん……ありあと……」


もぐもぐ もぐもぐ


「………………」

魔理沙「…………」ごくん

「………………」



うわぁ、用件がいいずらい空気になってる……

でも、元々そのために来たんだし、ちゃんと言わないと



「あのね、魔理沙。こんなタイミングで言うのもアレなんだけど、実はね――――――




少女祈祷中......

IDが+4UPwwwレベルが上がってるwwww

保守

乙!
俺もこんなふうに書けるようになりたい・・

>>46
アドバイスするならただ一つ、このSSは参考にしないほうがいい(キリッ


明日投下しまっす。

来たしですしおすし




魔理沙「……そっか、やっぱ幻想郷がこんな事になってるのは妖怪の仕業だったのか……分かった
    私でよければ幾らでも力を貸すぜ!」

「え?いいの!?」



私の驚きをよそに魔理沙は身支度を始める



魔理沙「あぁ。どうせ外に出る予定だったんだ。それに、他ならないお前の、親友の頼みだしな」



さっきまで泣いていたとは思えないような、にかっとした元気な笑顔を見せる



「魔理沙……頼んでおいて変なこと言うけど”異変”っていうのは私も貴方も想像しているのとは遥かに違うのよ?
 私もどんなことが起こるかなんて分からない。……もしかしたら死んじゃうかもしれないのよ?それでもついてきてくれるの?」

魔理沙「あぁ、もちろん。でもさ、死ぬかもしれないからとか言ったけど……”だからこそ”だよ」

「……え」

魔理沙「その”異変”ってのがどんなものなのか私は知らないけど、幻想郷を”こんな”にするんだ。よっぽど強い奴じゃなきゃまずやらないだろ?
    てことはだ、そんな奴に霊夢一人で行かせるなんて私は出来ない。『お前を死なせたくない』からな」

「…………ぁ……うん……」


なぜだか、魔理沙のその一言に、私はなぜだか”呆けて”いた

そのときの魔理沙は私に背を向けていたから私の顔は見えないし、私自身も無論分からない。どんな顔をしていたのだろう?
なにより、なぜその言葉に引っかかったのかさえ、今は分からなかった



魔理沙「お、あったあった!よし、行こうぜ霊夢!」



タンスを漁っていた魔理沙はなにやら見つけたようで、ソレを手に取ると私を部屋の外に連れ出して
店の裏側にまで出て行った






いかに幻想郷の人間が集まる人里といえど人通りがあるのか怪しい場所というものはあるもので
魔理沙の店の裏側はそれにあたる。隣接してる建物から余分に伸びている屋根のせいで暗く、空が赤く覆われていなくとも
きっと快晴だろうが暗くなるだろう

裏口から頭だけ出して辺りを見渡し人がいないのを確認した魔理沙は、手招きをしながら裏道をすいすい進んでいく



霊夢「いつもこんな所を通ってるの?」

魔理沙「あぁ、人通りなんてほとんどないし、こっそり里から出るには都合がいいんだよ」



そうしている内にあっという間に里の外へと出てしまった

驚く事に、私が里の入り口から歩いて魔理沙の店に行くまでそこそこ時間がかかったのだが、驚くことに魔理沙の
抜け道を使っていると10分も短縮された



魔理沙「よし、霊夢ちょっと見張っててくれ」

「え?」

魔理沙「着替えるんだよ。里の人に見られたらまずいからな」

「あぁ、いいけど。着替えはどこにあるのよ?貴方が家から持ち出したのってその”箒”と”変なベルト”くらいじゃない」

魔理沙「ふふ~ん。まぁ、この際だからお前にも見せてやる。私が独自に開発した『魔法」をな!!」



いうやいなや、魔理沙はベルトを腰に素早く巻いて着物の袖口から”指輪”を取り出して左手にはめる



「あら、高そうな指輪」

魔理沙「第一印象それかよ……まぁいいや」



そしてベルトの”手形のバックル”に手を掛けるとなんとバックルが半回転した


【シャバドゥビタッチヘーンシーン!シャバドゥビタッチヘーンシーン!シャバドゥビタッチヘーンシーン!】


同時にベルトから軽快なリズムとともにファンキーな声が叫びだす



「ベルトが……喋ったあああああああああああああああああ!!」

魔理沙「フッフッフ、変身!」

                       【チェーンジ ナウ】


バックルに指輪をかざし、左手を前に突き出すと魔法陣が現れ魔理沙の体を通過する。そこには”道具屋の娘”はいなかった
いたのは私がよく知る金のウェーブのかかった長髪に白黒の衣装、特徴的なリボンつきのとんがり帽子をかぶった

”普通の魔法使い”の霧雨魔理沙



魔理沙「私、参上!」しゃきーん!







魔理沙「どうだ驚いたか!これが私の『変身魔法』だ!」

「…………」

魔理沙「お?なんだなんだ?さすがのお前も見蕩れちまったか?」

「…………」

魔理沙「だよなぁ~。なんせこんな魔法使う奴初めて見たもんな~」

「…………」

魔理沙「おっと!天才なんて思ってくれるなよ?実を言うとこれくらいの魔法ならちょいと初級の魔法を応用すれば」

「無駄が多すぎない?」

魔理沙「あん?」



いやはや、なんという無駄に洗練された無駄の無い無駄な衣装チェンジなんだろうか



「いや、なんとなく分かるのよ?多分そのベルトが基盤になって魔法を発動して、その指輪が発動のキーになってるのは」

魔理沙「おぉ、一回見ただけでそこまで分かるのか。さすがだぜ、霊夢」

「何で歌わせてるのよ。うるさいし目立つじゃない。人目につきたくないとか言っておきながら注目浴びる気満々じゃない」

魔理沙「仕方ないだろ。魔法の発動ってのは”魔力”さえあればいいってモノじゃない。”呪文”が必要なんだよ
    このベルトはある魔法使いのマジックアイテムを参考に作り上げたものでな。私の変わりに呪文を短縮して
    唱えてくれてるんだよ。で、うまい具合に短縮するしてみたところなぜかこんな音声になったんだ。しょーがない」

「う~~~ん……なんか……これを魔法と認めたくない……」

魔理沙「そうか?これで拒否反応起こしてちゃあお前は一生魔法使いになれないぜ?」

「なるつもりないからいいわよ」



まぁ、本人が魔法だというなら魔法なんだろう。気にしても仕方ないので私はそう思うことにした






「よし、それじゃあ行こうぜ。目的地は分かってるんだろ?」

霊夢「ええ、パッ!と行ってシュッ!と解決するわよ」




異変解決

魔法使いになって初めて経験することだ。正直、不安や恐れもある。でもそれ以上に、私の中でそれに勝るものがあった

やってやるさ。私は霊夢の友達だ。”何がっても霊夢を死なせない”し”何があっても私は死なない”



霊夢を一人にしてやるものか



箒にまたがり、宙へと浮く。本来、私は箒なしでも飛ぶことは可能だ。体内に流れる魔力をちょちょいとイジってしまえば
鳥より俊敏に動けるほどだ

だが、このほうが魔法使いっぽいじゃないか

それに



「ほら、乗れよ」

霊夢「えぇ、ありがとう」



これなら”霊夢も一緒に飛べる”しな






「ちょちょちょっ!魔理沙!飛ばさないでよ!背中に荷物背負ってるからバランスが!!」

魔理沙「だ~いじょぶ大丈夫。落ちても拾うから」

「落とさないのを前提にしなさいよ!!」



私、博麗霊夢は博麗の巫女として求められる才能に唯一、欠陥がある

私は空を飛べないのだ

紫いわくもし私が博麗の巫女になったら歴代で初めての事になるらしい
ただ、私以外に巫女にふさわしい人間も見つからないため私が候補に選ばれたのだ

修行を積めば飛べるかも、なんて秘かに期待してみたこともあったがなんの変化も無かった

元々あった才能は成長したが、これだけはどうしても変化が無かった



だからもし空を飛ぶ必要があったらこうして誰かの力を借りなければならない



もし、魔理沙が今回の異変に力を貸してくれなければ私は歩いて目的地まで向かうことになっていただろう
推定で半日、時間がかかりすぎである。一様異変解決に時間制限は無いみたいだが、早く終わらせることに越したことは無いだろう

でもさすがにこれは速すぎる。何度も魔理沙には乗せてもらっているがこれは怖い、怖すぎる



魔理沙「でもさ、ほら、見てみろよ!もう目的地が見えてきたぜ!」



私の恐怖心など気にも留めず、魔理沙が指差す方向には確かに紫が示してくれたものがあった

紅い館だ

遠くからでもよく分かるほどに目に優しくない紅い色の館が湖をはさんで建っていた



「ふ~ん、地図で見たときは半信半疑だったけど、本当にあんなところに館なんてあったのね」

魔理沙「う~ん。この辺は霧が濃いから地上からじゃあの館は見えないだろうな~。ましてこの辺は私あんまり飛ばないし」






「さて、まずはどうアプローチを掛けるかしらね。異変を起こすってくらいだから玄関をノックしてもしも~しなんて
 やってらんないし……魔理沙、とりあえず裏から侵入ってのは」

魔理沙「ようし!総員、衝撃に備えろーーー!」

「え?」



魔理沙の言葉に嫌な予感を感じた私は無意識に、しかししっかりと魔理沙の体に抱きついていた

付き合いが長いから、体が考えるよりも先に動いたのだろうが、実にありがたい


どひゅん!!!



と、目に映る”景色”がまるでジェットコスターのように急低下急加速を始めた



「嫌アアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

魔理沙「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」



湖近くの森の中へ地面すれすれまで接近したかと思えば勢いを殺さずすべる様に前へと進む
途中の木々は最小限のジグザグ飛行でかわしながらもそのスピードは落ちることは無い



何を考えているんだこの魔女っ娘!!



「何してるのよこの魔女っ娘!!」

魔理沙「決まってるだろ!特攻だ特攻!こっちは二人で敵の数が分かんない以上私たちにできるのは
    コソコソ動き回って一人ひとり奇襲するか強襲くらいだろ!!」

「だだだだだから私は裏から」

魔理沙「博麗の巫女になるんだろ!?だったら始めは何事もインパクトだインパクト!!私が壁を”マスパ”で全部ぶち抜いて
    敵をビビらせてやるからその隙に霊夢は大将をだなぁ」

「結界が張ってあったらどうするのよ!!」

魔理沙「私の”マスタースパーク”を前にして止められるものなんて無いぜ!……多分な!!」

「いやあああああああああああああああああ!!人生の最後が壁に突っ込んで激突死なんて余りに惨すぎるーーーーーーーーーーー!!」



少女祈祷中......

今日はちょこっと、ちょこっとだけ投下するんじゃよ……

ちょっとだけね……ちょっとだけ……




「よぉうし、森を抜けたぜ!さらに加速を――――――」



勢いとどまることを知らないまま、森を抜け私はさらに加速をしようと魔力を放棄に込めようとしたその時背中が少し軽いことに気がつく

というか、なんだか途中で悲鳴が聞こえなくなったような



「れ、霊夢?」



おい、まさか……

私の背に、霊夢はいなかった。恐らくいつの間にか振り落とされたのだろうか?しかし考えてみれば確かに速さはあったが
振り落とされるほど左右に振ってはいない。片手でも掴んでいれば十分。ましてや霊夢を箒に乗せて飛ぶのはこれが初めてではない

これくらいのスピードなら落とされるはずが無いのだ

そんな疑問を持つよりも先に、旋回した私は森の方へ戻ろうとした



???「待ちな!!」



だが、その前に二匹の妖精が立ちはだかった



チルノ「あたいは氷の妖精チルノ!こっちは友達の大ちゃん!」

大ちゃん「…………」



チルノと名乗ったほうの妖精は、妖精らしい頭の悪そうな印象を受ける。が大ちゃんと呼ばれたほうの妖精
はどこか普通の妖精とは違う何かを感じる……なんだろう?

まぁ、妖精という時点で力のほどは知れてるけどな



チルノ「あたいは今、最強を目指して無茶修行して」

大ちゃん「武者修行」

チルノ「そう!武者修行をしている!!」

「……で?何のようだよ。私は今忙しいんだけど?」

チルノ「有難く思え!今日の修行相手はお前だ!!」



どうやら私は妖精に絡まれたらしい。面倒くさいが、相手をしなければ後日余計面倒くさい事になりそうだ

妖精は悪戯好きでその性格は無邪気な連中が多いが、その子供っぽさ故に一度根に持ったらしつこいのだ。頑固ともいうが



「はぁ~……分かったよ。かかってこい、ただし今回限りだ。二度と挑んで来るなよ」

チルノ「当然だ。勝つのはあたいだからな!」






「……痛い」



私は背中の痛みに耐えながら起き上がる



「やっぱり落ちたじゃないあのスピード狂魔女っ娘め……」



背中に荷物があった事と、私の衣服のお陰だ

私の巫女服は特殊な繊維で紡がれており、霊力を込めることで時に鋼のように硬くなり
時に強靭なゴムのように伸縮自在の繊維に変化する

紫特性の巫女服だ。巫女候補に選ばれた時に貰ったもので、これを着こなせるようになるのも巫女として必要な
才能の一つだ。この服があるのと無いのとでは妖怪に対する術がいくつも変わるのだ


それにしても、痛い



「なんなのよもう。打ち所悪かったかしら?」


受身は取ったはずだし、肌が露出しているところは大丈夫なはずだが?

なんか首の辺りが一番痛いような……

そう思って、首周りを擦ってみようと手を回した時、”何か”が当たる



「え?」



しかも今気づいたがなんか生暖かいような……
”何か”を掴んで、引っ張ってみると



ルーミア「うばぁ~~~~……」



涎をだらだら垂らした金髪ショートに赤リボンをつけた人食い妖怪、ルーミアだった



ルーミア「久しぶりなのだ~~~霊ー夢ー」

「……ぁ……あああ」

ルーミア「霊夢?」

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」



本日二度目、私は女の子としてあるまじき悲鳴を上げた






唐突だが、私の弱点を一つ教えようと思う。

空が飛ばないことはご存知だろうが、そこにもう一つ加えると……



私はルーミアが大の苦手なのだ



この狭くも広い幻想郷、ルーミアはどちらかといえば格下の部類に入るし、ルーミアより強い妖怪など幾らでもいるだろう
だが、私にとってはルーミアは別格だ。この世で一番会いたくない妖怪なのだ

その理由としては、幼少期トラウマが原因となっている

あれは、まだ博麗の巫女候補に選ばれていなかった頃だ

私が一人で森の中を歩いているときに、ルーミアと出会った
その頃の私は、なんと言うか……生意気だった。この世で自分以外強い奴なんていないとか、本気で考えていたのだ

そんな私は、出会ったルーミアに有無を言わさず喧嘩を売った。理由?「妖怪だから」という安直かつ適当な理由だ
多分その日はむしゃくしゃしてたのだろう。相手は誰でもよかったのかもしれないが、それが致命的だった


私はあっさり負けた


当然というか、間抜けというか、当時の私は大人より強かったかもしれないが、妖怪には及ばなかったのだ

ルーミアは非常に鼻が利く妖怪で、私が普通の人間でないことをあっさり見抜いた
(ある意味、巫女としての才能を最初に見抜いたのは、紫ではなくルーミアだったのかもしれない)

私はルーミアの住処へ拉致され、肥え太らせるために三日間監禁されたのだ

その三日間の恐怖は今にも思い出すたびに震え上がる。いつ食われるか分からない恐怖と、誰も助けには来ないという
絶望が私の中を支配していたのだ

しかも、肥え太らせる気だったくせに与えられた食料は茸や木の実ばかりだったため、私は逆に痩せていった

空腹から来る苦痛と渇き、精神的にも体力的にも追い詰められたとき、ルーミアは私を食べようとした
あぁ、もうだめだ。そう思ったその時、紫が助けに来たのだ

ルーミアをあっさりと撃退し、私を保護してくれた紫に、私は妖怪相手にも関わらず涙を流してただただ感謝した

何でも、巫女候補を探していたときに、偶然ルーミアの住処の近くを通ったときに私から霊力を感じたとか


その日から、私は紫のところでお世話になり、巫女としての修行を始めたのだ






あれから数年、幾度と無くルーミアと遭遇したが、未だに、あのときの恐怖が拭い去れないのだ


「うぉおおりゃあああ!!」ブン!

ルーミア「お~~!?」



私はすぐさまルーミアを明後日の方向へ放り投げて、私は紅い館があったほうへ全力でダッシュする



ルーミア「アハハハハ!!待て待て~~~!!」



遠くからルーミアの声が聞こえる

嘘でしょ!?その辺の木にぶつけるつもりで投げたのにもう復帰した!?

いや、ルーミアはお腹が空いてるときは他のことなどどうでもよくなることが多い妖怪だ
痛みくらいはどうということは無いのかもしれない



「あぁあもう!!魔理沙ーーーー!早くー!早く来てーー!」



このままじゃ追いつかれる。そう思うほど私の足はますます加速していく。これは明日確実に筋肉痛になるだろう
できれば背中の荷物を捨てたかったが、生憎今日の異変解決のために必要なものだ。捨てることは出来ない


ルーミア「つーかーまーえーーーー!!」


どのくらい走っただろうか、ついににルーミアが迫ってくる。やっぱり空を飛んでいるほうが速いか……



「ええい!!こうなったら仕方ない!」



少しもったいないが、自衛のためだ。私は封魔針という妖怪退治に使える針を数本取り出して構える



「これでも食らいなさい!!」



繰り出された封魔針にルーミアは真っ直ぐ飛んでくる。よし、直撃コース間違いなし!!






ルーミア「……ぱくりっ!!」

「は?」



キャッチされた。口で……



ルーミア「むにゅ~~~…………マズイ!」ぺっ!



捨てた。唾を吐くように

ダメだ……連続で投げなきゃ当たらない!


「こんのっ!!……このっ!このっ!このっ!」

ルーミア「あむっ!はむっ!ぱくっ!!」



しかし、ルーミアはまるで封魔針を餌か何かと勘違いしているのか見事にキャッチしては
吐き捨てている



「そ、そんな……そんなぁ……」

ルーミア「うぇ~~マズいのだ~~」ぺっぺ

「あ……ぁあ……」



その様に私は情けなくも、戦意喪失してしまった

他に戦術はあったかもしれない。封魔針以外の武器を使えば、今まで倒してきた妖怪のように
ルーミアを撃退する方法が見つかったかもしれない。だが、出来なかった

あの時、ルーミアに初めて出会ったときと似ていたのだ。自分の持てる全てが通じず、負けてしまった時と……
今の私の中にはあの時の恐怖が蘇っていた。完全に支配され、今の自分を見失っていた

ここにいる私は数年前の私……ルーミアに敗北し、今にも食われてしまいそうな私だ



「ぃゃ……いやぁ!!来ないで!!」

ルーミア「ん~?」

「来ないでぇえええ!!」



私は逃げ出した。異変解決も、魔理沙のことも、自分のことも、全てを忘れて

惨めに、無様に、哀れな姿を晒して逃げ出した






私は逃げていた。しかし、それはさっきまでのような全力疾走とは程遠い

今にも崩れて落ちてしまいそうな足を必死に動かしてはいるが、思うように前に進まない
千鳥足にも似た足取りだった



ルーミア「捕まえたーーー!!」

「っぁ!」



私は呆気なく捕まった。背中の荷物は地面に落ちて中身をばら撒き、私は
勢いそのまま地面に押し倒された



「嫌!放して!!放してよお!!」

ルーミア「むぅ~!ダメ!お腹空いてるの!今日こそ食べるの!霊夢の肉はおいしいに違いないの!!」

「っ!」



必死の抵抗も余りに無力。恐怖に支配された私の体から引き出される力は余りにも脆弱で
自分よりも軽く、小柄な、本来なら投げ飛ばす事だって出来るような存在のルーミアに押さえつけられたのだ

鷹に捕まったネズミのように、私はがっしりと動けなくなってしまった



「い、いやぁ……食べないで……お願い。死にたくない……」

ルーミア「やだ……んむっ」

「ひっ!!」



首の付け根に感じる生暖かい温度とざらりとした触感

食べられる

そう思っていたが、違った。ルーミアは味見をしていた。その舌で私の肉の味を確かめたのだ
数年前、初めて味わった時と違っていないかどうか






ルーミア「んっ……はぁ、おいひい……あの時より、ずっとおいひくなってりゅぅ」

「いやっ!……あぁっ!」


ぺちゃり ぺちゃり


舌と唾液が鳴らすその音、伝わる柔らかい感触に怯え、私の体からまるで溶けていくように力が抜けていく

人食い妖怪だからこそ分かるその味は、ルーミアの食欲をそそらせる

頬が赤くなり、吐息がより暖かくなる。口からだらしなく滴る唾液を塗りたくるように
口を動かし、舌をゆっくりと這わせて、私の肌に広げる



ルーミア「こんな味初めてなのだぁ……んにゅ……ちぅ」

「だめっ……いや!ひぁあああ!!」



恐怖の余りに私の脳内から何かが出ているのだろうか、ルーミアが伝えてくる物に
私の体がゾクゾクと湧き上がるものが体中を駆け巡る

悶えるように体を動かそうにも、糸の切れた人形のように私の体は動かなかった



ルーミア「霊夢ぅ……お前、おいしそうだぁ……前よりずっと……ずぅ~っと」

「ハッ!アアッ!っううう……」

ルーミア「ずっと食べていたいぃ……もっと、もっとぉ……」


ぺちゃり ぺちゃり


鎖骨のあたりも、首も、私はルーミアの唾液に染められた

生まれて初めて知った極上の味、美味い味というのはほんの舌先が触れただけで
分かるのか、ルーミアの脳内からもきっと何かが出ていて、ルーミアを蕩けさせていた

空腹をも上回る味わっていたいという欲求は、自分で自分を焦らさせるほどにまでルーミアの脳を犯していた






「いやっ!やめて!!助けてぇ!!」



逃れたい、ここから逃げ出したい。体は動かなくとも、せめて動く顔を捻って逃れようとしているが
無意味だ。それでも抵抗せずにはいられない。伝わってくるルーミアからの感触と、自分の脳が
湧き上がらせる何かに、このままでは私は壊れてしまいそうだと感じたのだ



ルーミア「……ふふっ……あぁ~んむっ!!」

「ッッッ!!」



しかし、その動きもまるで無意味。ルーミアを刺激させているだけに過ぎない

私の耳をルーミアは甘噛みする。新たに伝わってきた硬く、鋭い歯の感触
歯が当たったことが理解出来た瞬間、私は耳が食べられたと思った



「あぁ……ぁ…………」


まだそこにあるのに、耳の感触が感じなかった


そして、ルーミアもついに自分を焦らしきれなくなる


だめだ


私は


ここで



ルーミア「いただき……まぁ~す」



死ぬ



???「ほぉおおおおあっちゃああああ!!!」

ルーミア「ひでぶっ!!!」



次の瞬間、ルーミアが吹き飛んだ






「ぇ?……あ?」

???「あの……大丈夫ですか?」



似ていた。あの時と同じように



「あぁ……あああ」



誰にも助けに来ないと思っていた。自分の行いに後悔だけして、抵抗も出来ずに、私は死ぬんだと思っていた

でも、助けに来てくれた

こんな私のために、助けに来てくれた人がいた



???「……大丈夫、大丈夫ですよ」



未だに力が入らず体を動かすことが出来ない私を、その人は起き上がらせてくれた

背中から腕の感触が伝わる、柔らかい。そして温かかった



???「もう、怖くありませんよ。大丈夫……大丈夫ですよ」



私の頬と頭をゆっくりと、優しくなでる。その度に、私の体に温かいものが流れ、恐怖が落ちていくかのようだった

そして何より、その人の浮かべる愛おしそうな笑顔が、私を安心させた



「あぁ!あああ!」



私は生きている。生きてここにいるんだ



「うあああああ!!ああああ!!ああああああああ!!」



私は泣き出した。あの時と同じように、命の恩人をしっかりと抱きしめて、涙でその人の胸元を濡らしていた



???「よしよし。もう大丈夫ですよ~~~」



私に抱きしめられたその人は、同じように私を抱きしめて、静かに、優しく、受け止めていた




第二変 終幕

第三変 少女祈祷中.........


ちなみに言っておくと>>1は「好きな嫁ほどいじめたくなる」なんていう嗜好の持ち主ではありませんよ

ただ人前で怯えたり泣いたりする霊夢はかわいいかもしれないから書いてみただけです。(そしてかわいいと確信しました)

第一嫁が登場するのはもっと先ですしね(紅魔編では登場しません。エタらなければ後の登場できる。頑張れ私)

でも今回の投下分はなぜか今日中に書きあがりました。いつもは一ヶ月余裕でかかるのにね

tesu

どうも、保守感謝です。

今月中には投下可能です

やっふうううううううううううう!(マリオ風)

やっとこさ今日投下出来ます

はい、という訳で投下します







               第三変「霊夢、死す!?」








「……ぅ…………あれ?」



いつの間にか、私は泣き疲れて眠っていたようだった。目を開けると、目の前には赤い空が広がっていた

軽く目を動かすと、視界の脇に森が見えた。どうやらさっきまでいた所とは違う場所のようだった



???「あ、起きましたね」

「え?」



声のするほうへ目を向けると、赤い髪の女の人が私を見ていた。……いや、違う。僅かに妖気を感じる!こいつは妖怪だ!



「クッ!……っぁ?あれ?」



体を起こそうとしたが体に力が上手く入らない。一体これは何!?こいつが私に妖術を掛けているの!?



???「あ!ダメですよ。まだ寝ていないと、妖気を体から出ていかせないといけませんから」

「え?妖気?……っていうかあんた」



そっと優しく私を抑えて寝かせたその妖怪の声が、どことなく聞き覚えがあった。そうだ、この声……私を助けてくれた!



???「あぁ、自己紹介がまだでしたね」

美鈴「私は紅 美鈴。『気を使う程度の能力』を持つ妖怪です」



美鈴と名乗った妖怪は、にっこりと微笑みながらそう言った






「あ、私は霊夢……えっと、美鈴……さん……あれ?私今もしかして」



たった今気づいたが、私は今、美鈴さんの膝枕で寝ていた



「す、すいません。今起きます!」

美鈴「だから寝ていないとダメですよ。貴方は今、身体の中に妖気が染み込んでるんですから」

「へ?」

美鈴「覚えてませんか?貴方は妖怪に襲われていたんです」



……そうだ、私はルーミアに襲われて……体を押さえつけられて、食べられそうになって……



美鈴「妖怪は妖気を放っています。その妖気が人間の体に入ると、恐怖が異常に湧き上がって体が動かなくなったり、上手く
   動かせなくなったりするんです。”気”をしっかり持てば妖気に当てられても平気ですが、”気”が乱れていると
   妖気が体の中に入りやすくなってしまうんです」

「そう……ですか……」



気が乱れていた

恐らく、私がルーミアのトラウマを思い出していた時だろうか。激しく動揺していた私はルーミアの放つ妖気に当てられ、そして



「……はぁ」



あんな無様な醜態を晒したと……






「あの……それで、なぜ膝枕を?」

美鈴「私は”気”を自在に操る妖怪です。自分の”気”はもちろん。他人の”気”でも、触れていれば強く操る事が出来るんです
   こうして貴方に触れていれば、貴方の中にある”気”の流れを整えて、中に入った妖気を貴方の”気”の力で外に
   出させる事が出来るんです。まぁ、簡単に言うと、貴方を治療して、病気と戦う力を取り戻させてるって思ってください」

美鈴「だから今は、もうちょっとだけ寝転がっていてくださいね。大丈夫。私は貴方の味方です」



そういうと、子供を安心させるように、美鈴さんは私の頭を撫でた。とても心地よい、暖かい手だった

この不思議な安心感も、彼女の”気”が私を癒しているのだろうか



「はい……」



私はしばらく、美鈴さんの言葉と膝枕に甘える事にした



「……あの、一つ聞いてもいいですか?」

美鈴「なんですか?」

「どうして助けたんですか?妖怪……ですよね?」

美鈴「う~ん……別に、見捨てる理由が何一つありませんでしたから。それに、悲鳴を聞いたら体が勝手に動いてました
   あ!あの妖怪ですけど、お腹を空かしていたので、私のおにぎりをあげたら満足してどこかに行きましたよ」

「そう、ですか……」



情けない

私は、種族も立場も違っても、醜態を晒していた自分と、立派な意思を持って助けた美鈴さんと比べてしまっていた





「美鈴さんは……すごいですね。私なんか、全然ダメです」

美鈴「? どうしてそう思うんですか」

「……私は、実は博麗の巫女として選ばれた人間なんです」

美鈴「博麗の巫女……十分すごいじゃないですか!幻想郷でその存在を知らない妖怪はいないほどですよ?」

「まだ、候補です。……今は最終試験の真っ最中で、時間は限られてませんけど、この試験が合格出来れば私は博麗の巫女として
 認められるんです……」

「でも―――――」



私は全てを話した。自分のトラウマを、自分の過去を少しだけ

思えば、私が初対面で自分の過去を話したのはこれが初めてかもしれない

それが美鈴さんの能力のせいなのか、或いは、それほどまでに私は弱っていたのかは、分からないが……



美鈴「…………」



美鈴さんは最後まで黙って聞いていた。時々、私があの時の恐怖を思い出しそうになった時、美鈴さんが優しく頭を撫でてくれた



「……情け無いですよね。私は博麗の巫女として、どんな妖怪にも負けないくらい強くなくちゃならないのに
 そのために修行もして、妖怪と戦えるようになったのに……なのにッ……あんな!」



あぁ、ダメだ。堪えないと。また泣いてしまう

目が熱くなるのを感じて、私はこれ以上情け無い姿を見せたくなくて、腕で目を隠す



美鈴「……何も、恥ずかしがる事はありませんよ」



そう言って、美鈴さんは頭を撫でてくれた






「でも……私は!」

美鈴「霊夢さん……私は妖怪ですから、人間の貴方たちより長生きします。その一生で、トラウマの一つや二つ
   誰にでも出来るものです。人の”恐れる”精神から生み出された妖怪にとって”恐れ”や精神的に作用する物は
   時に致命的な物になりかねません」

美鈴「トラウマというのは妖怪も、人間にとっても厄介なものです。まるで、目の前に立ちはだかる大きな壁のように……
   けれど、人間はその短い一生の中でどこまでも成長できる生き物です。今が無理なら、もっと成長してみましょう
   一段一段、確実に階段を上って行けば、いつの間にか、壁より遥かに高いところにだって行けます」



そっと、美鈴さんは私の腕をどけて、私の目を見つめる



美鈴「大丈夫。つらくなったら休んでも良いんです。不安なら、私が貴方を応援します」

「……美鈴……さん」



ぽとり、と涙が頬を伝って地面を濡らした。でも、それ以上涙が溢れることは無かった

手のぬくもりより、温かい優しさを感じて、涙より、熱い勇気が湧き上がってくるのを感じた



「ありがとう。……ございます」

美鈴「どういたしまして。あ、丁度いいころですよ。体もいい感じに動かせると思います」



言われたとおり体を起こしてみると、さっきよりすんなりと体が起き上がった。立ち上がると疲れも何も感じなかった



美鈴「どうですか?私の力を使って、筋肉の疲労をほぐしてみたんです。大分お疲れのようでしたから、これからの試験に
   支障をきたさないようにと思ったんですけど」

「いえ、ありがとうございます。おかげで万全の状態で試験に戻れます!」



まるで十分な睡眠をとってストレッチをしたかのように体がすこぶる快調に動く。いや、むしろ今までの人生の中で一番
体が生き生きしているようだ





美鈴「あ、差し支えないようでしたら試験の場所まで送りましょうか?あの森の近くなら、目的地まで多少は道案内出来ると思うんですけど」

「あ、いいんですか?でしたら、霧の湖の近くにある真っ赤なお屋敷にまでお願いしたいんですけど」



と、思わず甘えてしまった時、私はようやく辺りを見回した。初めて美鈴さん以外を視界にいれたのだが



「……え?」

美鈴「あぁ、それでしたら――――――」



その時、ようやく気づいた



美鈴「ここですよ。ようこそ、紅魔館へ!」



ここが、紅い館の門の前だということに



「え?……あの、美鈴さん……貴方はどうしてここに?」

美鈴「? それはもちろん。私がここの門番だからですよ。この館の方達に仇なす者は私が通しません!」エヘン!



胸を張って自信満々に答える美鈴さんに、私はただ愕然とした



「……そんな」

美鈴「霊夢さん?」

「…………美鈴さん」



私はこの異変を解決しなくてはならない。そのためにはこの館に入る必要があるだろう
まさか、美鈴さんのような優しい妖怪がこの異変の首謀者というこはありえない

そんなことは、私の勘に頼らずとも分かっていた



「私の試験は”ここ”です。この赤い霧を止めることが私の試験です。だから、私はこの館にいる首謀者を突き止めて
 場合によっては倒さなくちゃならないんです。……だから、お願いがあります」



私は、応援してくれると言ってくれた美鈴さんを傷つけるような事は出来なかった。だから



「何も言わずに私を通してください!この幻想郷を守る博麗の巫女として、なんとしてもこの異変を解決したいんです!」





美鈴「はい。いいですよ」

「軽ッ!?」



にぱっ、といい笑顔で了承された



「え、いや、あの……門番なんですよね?」

美鈴「もちろん!」b グッ



いいサムズアップだった


「この館の人達を害する者は通さないんですよね?」

美鈴「それが私の仕事です!誇りを持ってます!」> ビシッ!



いい敬礼だった



「……私は博麗の巫女の試験で、この赤い霧の異変を解決しなくちゃならないんです」

美鈴「はい!頑張ってください!」ギュッ



手を握られた



「……そのためにこの館に入って、もしかしたらこの館の方々と戦うことになるかもしれないんですけど、通してください」

美鈴「どうぞ!お入りください!」ガシャン



快く門を開けてくれた


何でよ!!?



「何で!!?」





美鈴「はい?」

「門番の仕事はどうしたんですか!?私はこの館に仇なす人ですよ!」

美鈴「……そうですか?」



え、何で小動物のように首を傾げてきょとんとした目で見るんですか!?

……え~っと……この反応からしてもしかして



「もしかして、私の事弱いと思ってるからですか?」

美鈴「とんでもないです!妖気に当てられていた時ならともかく、今戦ったら油断なんてとても出来ません!負けてしまいます!」

「なら、どうして」



そこで、ようやっと美鈴さんは質問の意味を理解できたようではっ、としてふっ、と笑顔が無くなる



美鈴「それは……」



美鈴さんは紅い館を見た。それは今までの笑顔とは反対の、すごく、悲しい顔だった



美鈴「私も、この異変が解決してくれるのを望んでいるから……ですかね」

「……え?」



どういうことなのか、その言葉が出る前に美鈴さんは答えてくれた



美鈴「私は”お嬢様”がどうしてこの異変を起こしたのかが理解できたからです。本当なら止めなくてはならないと思っていても
   私がこの場を離れる事は許されない。誇りある門番として、この紅魔館に仇なす敵の進入を阻まなくてはならない
   たとえ異変のさなかでも、敵が来ないとは限らないから……」

美鈴「でも、霊夢さんは違う。貴方の”気”に触れて、話をしていて分かったんです。貴方なら、この紅魔館を救ってくれると」



そして、強い意志を持った目で、私を見た



美鈴「霊夢さん。貴方を見込んでお願いします。どうか、お嬢様を止めてください。貴方に、紅魔館を救って欲しいんです」






「…………」



分かる。勘ではあるが、分かる

美鈴さんは優しく、気高い妖怪だ。だからこそ止めたくても己の仕事を放り出す事が出来ないし、誰かに頼らざる終えない

私を、信じてくれているのだと



「はい!」



私は、その意志に報いるために新たな覚悟を決めた



美鈴「ありがとうございます。あ!そうだこれ!森で散らばっていたので集めておきました!全部拾えたかは分かりませんけど!」



そう言って、門の中に入って私の風呂敷を持ってきた。……やばい、すっかり忘れてた。もし美鈴さんと戦うことになったら
素手で戦うことになっていたのか……。とういうか、まさか美鈴さんは私の武器を封じていたからあんな態度を?

―――って、いやいや。美鈴さんに限ってそんな事あるわけが無い
私は風呂敷を受け取り、中身を確認する。御札や封魔針が2、3減っていたが許容範囲内だ



「ありがとうございます!…………あ」

美鈴「?」

「あの……美鈴さん……その、何と言うか……ちょっと、お願い……があるんですけど……」モジモジ



私はつい、ここで美鈴さんと一旦別れることになると思うとちょっぴり欲が出てきた



「その……ぎゅっと抱きしめて、頭を撫でてくれませんか?」



どうも、私はあの感覚が気に入ってしまったのだ



美鈴「はい。いいですよ」






笑顔で、美鈴さんは承諾して私を抱きしめた。大きくて、柔らかくて、温かい胸に顔を埋めて、少し匂いを嗅いでみるといい香りがした
鼻を通って体の奥まで癒されていくようだ。普段ならこのたわわな胸を見ただけで嫉妬してしまうのだが、美鈴さんのこの胸はまさしく
優しさと癒しで出来ているかのようだ。両腕で美鈴さんを抱きしめて、ぐりぐりとゆっくり顔を動かす



美鈴「ふふっ、いい子いい子~」



あぁ……頭を撫でる感覚が伝わってくる。手のひらがジャストフィットして髪を滑る度にじんわりと温もりと心地よさが染み込んでくる
それに、いい子いい子なんて紫に言われたら子供扱いするなとキレるが、美鈴さんに言われると嬉しさしか沸いて来ない。
なんだか自分が美鈴さんのペットになった気分だ。うん、私は今美鈴さんの子犬だ。もっともっと褒めて欲しい。甘えさせて欲しい



美鈴「ハイ!しゅーりょーう!」



紫の式に天国の尻尾を持つ妖怪がいるが、これは甲乙つけがたいなと思った所で美鈴さんは離れた。あぁん、もっと撫でて!



「ありがとう……ございます。では、行ってきます!」

美鈴「はい!いってらっしゃい」



おぉう、まるで酔ったようだ。体がほんのり温かい。私は理解した。この人は幻想郷のオアシスだ。よし、秘かに美鈴さんの事は
オアシスお姉さんと呼ぼう。ぜひ近所に引っ越して欲しい

私は門をくぐり、紅魔館の敷地を踏みしめながら、そんな事を考えていた。が、扉に手を掛けた瞬間、このままではダメだと
頭を振るい、中へと入る。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「……中まで紅いのね」



目に毒と言うべき内装だ。床も壁も天井も、すべて真っ赤。こんな館で生活している住人の気が知れない



「と、そんな事言ってる場合じゃないわ。ここは敵の陣地、気を引き締めないと」

???「そうね、油断は禁物。どんな仕事でもそれは同じよね」





「誰!?」



遠くから声が聞こえ、私は御祓い棒を構えた。辺りを見回していると、また声が聞こえた



???「先に言っておくけど、これは仕事よ。貴方には縁も私怨も無い、ただの仕事でこうするの。だから」


ふと、首に違和感を感じた。まるで硬いものがあるように、首の筋肉が動かしづらい。それに呼吸も出来ない。何これ?

私は首に手を当てようとしたが、その瞬間、首の違和感が消えた。変わりに首がすごく熱くなった



???「私を恨んでも、何の意味も無いわ。大人しく安らかに死になさい」



そして、赤いものが噴き出した。首に当てようとした手が、この館の何よりも赤く染まっていく



「っ!…………?」



え?何これ?なんで手が赤いの?いや、そもそもこの噴き出す音とこの赤いものは何?ていうか声が出ない。あれ?息まで出来ない?
何で?首もすごく熱い。ん?足の感覚が無い?あれ?待って、私床に倒れようとしてる?あれ?倒れちゃった。ダメよ私、起き上がらないと
あれ?手の感覚まで無い。床もなんだか赤い液で汚れていってる。それに首が熱いのに体が寒くなってきた?



………………………………………………………………………………………………………………………………私、もしかして死ぬの?



え?いや待って!そんなは

                  ずない 
だって 私まだ何も      さ           れてない      じゃな    ?



あ           
             れ?



                                        何

だ ん                                だん
  目 
                       前
           が
                                                   暗
             













                     死に  たくな     い              




少女祈祷中......

HEY!お久しぶりです!

晩御飯後にちょっぴり投下

というわけでちょっぴり
投下




私、紅美鈴は門を閉じ、振り返る


「そこの不審者、上手く”気”配を隠していますね。ですが、生憎、私に限っては無意味な行為ですよ」



私は木の陰に隠れている者を見ながら、構えた



???「……へぇ、これは驚きですね。すっかり和やかな雰囲気だったんで、不意をつこうかと迷って止めたんですが、
    どうやらいい判断だったようですね」



出てきたのは妖怪だった。それも、私と同格かそれ以上の相手……いや、多分格上だ

私が霊夢さんと話していた間、ずっとこちらを見ながら隠れていたから存在に気づけたが、
これほどの妖気を放つ相手だとは……



「……一応聞きますが、この紅魔館に何のようですか?事によっては通す事も出来ますよ?」

???「冗談言わないでください。元々通す気なんてないでしょう?」

「そうですね……あなたから感じるその邪悪な気……目的のためなら私たちを傷つけるのを躊躇わない意志が伝わってきます」

???「なら、貴方と私がやるべき事は一つ。ここは無難に……」



???「殺し合いといきましょう」






チルノ「クリスタルブレーイク!」


【ディフェーンド!】


チルノ「ブリザードクラーッシュ!」


【ディフェ-ンド!】


チルノ「エターナルフォースブリザーーーーード!!」


【ディフェ-ンド!】


計10回


その場にあるもので盾を作り出す防御魔法でチルノの(自称)必殺技を防いだ回数だ



チルノ「ムッキーーー!ずるいぞ!さっきから防いでばっかり!素直に当たれーーーー!」


そういって、両手をぶんぶん振り回しながらプンプン怒り始めた。本当に子供だな



「嫌だよ」



幾ら魔力消費の少ないこの防御魔法で防がれる程度の攻撃とは言え、当たったら痛いじゃないか



「つーかお前も諦めろよ。さっきから攻撃ばっかしてるくせに、私にかわされるか防がれるしかしてないんだからさ」

チルノ「嫌だ!」



そう言って今度は自分の周りに氷の塊を複数作り出し、そのまま突っ込んできた
なるほど。盾を出せば自分が回り込んで撃つつもりか。思いつくのが遅いけどな





とりあえず光弾を作り出し、周りにある氷塊を打ち落とそうと試みる



チルノ「! 当たるか!」



体を反らして避けた。意外と反応は良いようだ。戦ってきた中で分かったが、チルノは最強を目指すだけあって、他の
妖精たちと違い戦闘力が高い。頭は馬鹿だけどな



チルノ「くらえーーーー!」



足に氷を纏って蹴りを構える。私はすかさず防御魔法を使いながら、湖のスレスレにまで高度を下ろす


【ディフェーンド!】


チルノ「そんなもの!」



湖の水で作り上げた魔法の盾は氷を纏った蹴りと氷塊によって打ち破られる

だが、それで良い



チルノ「!? どこに行った!?」



チルノの攻撃が水面を打ち、水しぶきが上がる。そこに私はいない

私がいるのは水面の下、水中だ


くらえ!



チルノ「ん?」



チルノが自分の足元、水中にいる私の方を見る

だから、遅いんだよ



チルノ「……へ?」





ドパーーーーーーーン!



湖に巨大な光の柱が作り出され、消える

これが私の最大最高の魔法”マスタースパーク”。八卦炉というマジックアイテムを用いて放つエネルギー光線だ


”魔法はパワー”


私の信条をよく表したお気に入りで必殺の魔法だ



「はい。しゅーりょー」



水面に浮上し、私は辺りを見回す。うん、どうやら消し炭になったようだ。妖精は死なないからと思って
思いっきりやったし、当然か



「無駄に時間掛けちまったな~。ま、妖精にしちゃ良い勝負したんじゃ」



ドパーーーーン!


と、そこまでいったところで、湖に再び水しぶきが上がった



「……何!?」



水面にはチルノがいた。服がボロボロで気絶してはいるものの、間違いなくチルノだった

……こいつ、妖精なら普通に消し炭になって消える一撃を食らって消滅しなかったのか!?



「……なるほど。妖精にしては力が強いと思ってたけど、どうやら想像以上に強かったみたいだな」



こいつが馬鹿だったから一撃で倒せたが、もし頭が良かったらどうなっていた事か
少なくとも、マスパ一発では済まなかっただろう



「チルノか……ま、一応覚えておいてやるよ!」



私はそう言って、霊夢を探すべく森の方へ向かった。待たせたせいできっと霊夢は怒っているだろう




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「お~い霊夢~~!どこだーーー!?落として悪かったら出てきてくれーーー!」



森の中を飛び回りながら呼んでみるが、まったく反応が無い



「参ったな~……まさか妖怪に襲われたんじゃないだろうな……」



早く拾ってやらないと……そう思った瞬間


ドーーーーーーーーーーーーーーーーン!!


「何だ!?」



音がした方へ振り返り、空へと飛んでみると、どうやら爆発が起こったようだ。しかもそれは紅い館の方だった



「まさか、もう始まっちゃった感じかよ!?」



どうやら相当時間が経っていたらしい。霊夢は既に紅い館に突入しているようだ。急がないと



「待ってろよ霊夢!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「これは!……すげぇな……」



私は紅い館の門前にたどり着いた。これでも全速力で駆けつけたつもりだったが、どうやら遅かったらしい
そこには妖怪が一人倒れているだけで、後には何も残っていなかった

ひしゃげた門、えぐれた地面、ところどころにある焼け焦げた跡……私が妖精と暢気に戦っている間に、霊夢は激戦を繰り広げていたようだ

そして、もはや門としての形を失ったそこに、一人の妖怪がいた。中国の服を着た、長身の妖怪だ
壁に開いた大きな穴にぐったりと倒れている



「……最初からこんなに飛ばして大丈夫か」



よほど気合が入っているのだろう。妖怪は意識を失っていた



「……と、じっとしてる場合じゃない。追わないと!」



このままでは置いてけぼりにされかねない。私は急いで紅い館へと入っていった



少女祈祷中.........

ついでに質問です。

実は大分先の話になるのですが、紅魔館サイドの過去話をやるかやらないか決めかねています

やる場合、他のキャラと同じよう紅魔館サイドのキャラの一人称視点で過去話をすることになります
やらないとなると、主人公サイドの視点から相手の会話のみで語られることになります

早い話がスレが少し長くなります。出来れば”一異変一スレ”にしたいのが>>1の望みですので
中途半端にパート2のスレを立てたくないのです。後日談もやりたいですしね


「大丈夫だよ。>>1ならこのスレで終わらせられるよ」って思う方は好きなジブリ映画と共にどうぞ

そういうのは今やってる話をきっちり終わらせてから考えれば良いと思うよ
ただでさえエタりそうで皆はらはらしてるんだから
そんな取らぬ狸の皮算用されても、正直困る

>>117
貴重なご意見ありがとうございます。

自分は少し甘えていたのかもしれません。次からの投下はもう少し早くなるよう努力します!

という訳で投下




私は床に倒れた侵入者を確認して、近づく

床に広がる血溜まりを踏みしめ、首に指を当てる。……脈は無い。完全に死んだようだ



「……呆気ないわね。博麗の巫女っていうのも」



死体となったソレを担ぎ、ついでに背負っていた荷物も拾う。侵入者の所持品は基本的に死体の処理と同時に処分するためだ

死体処理の後は、床に広がった血を掃除して侵入を許した美鈴を懲らしめれば、元通りだ。いつもの、紅魔館に戻る


例え異変を起こそうとも、この館はいつもと変わらぬ静寂の一日を過ごすのだ。
それがお嬢様の望みであり、私の望み。私の一日は、静寂な一日のために費やされる


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「さてと」



裏庭についた私は、死体を専用の焼却炉に入れ、マッチに火をつけようかと思ったその時


ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!


「!?」



門の方から爆発音が聞こえた。また侵入者?

……火をつければ死体処理の仕事は終わる。どうせまた死体が増えるけど、この焼却炉ならもう少し位なら入る。さっきみたいに能力を使って
瞬殺すれば、丁度良く燃え上がっているところに死体を入れてしまえばいい

床の血は多少乾いているかもしれないが、掃除できない事もない

私は火をつけたマッチを焼却炉に入れ、館に戻った。





~~~~~~~~~~~~~~~~


「…………」



どうやら少し遅かったらしい。最初の侵入者を仕留めた場所に戻ったが、そこに新たな侵入者はいなかった

玄関の扉が壊れ、床にこげ跡が広がっている。妖術か何かを使ったのだろう……。血溜まりは無かったが、代わりにこげ跡がある



「床の張替えは手間がかかるのに……」



仕事の遅れはまた別の仕事を遅らせる。それではダメだ。私の仕事はいつも通りの紅魔館を作ること
たとえ何があろうとも、この紅魔館は静かでなくてはならない……なのに……



「余計な手間を増やしてくれたわね……絶対に許さない」



とりあえず、侵入者の始末が先だ。この紅魔館を荒らされるのだけは避けないと……ましてやお嬢様に合わせるなど



???「お 邪 魔 し まーーーーーーす!」

「!?」



私は玄関から聞こえてきた声に、思わず振り向いた。箒にまたがった、白と黒のずぶ濡れの服、とんがり帽子を被っていた

高速で接近してきたその侵入者と、私は……



???「ん?そこに誰かいるのか!?」

「!!!?」



目が、合った





「……あれ?今そこに誰かいなかったか?」



箒から降りた私は、辺りを見回す。目によろしくない真っ赤なそこには、どこにも人影は無い



「てっきり霊夢だと思ったんだけどな~。……ってうわ!なにこれ焦げクサ!」



どうやらここも吹っ飛ばしたようだ。床に焦げ跡が広がっていた。霊夢のやつ意外と派手に仕事するんだな……
床を触ってみると、まだ熱がある。どうやら霊夢はまだ遠くには行っていないらしい



「お~い霊夢ーーーー!助っ人が来たぞーーーー!いたら返事しろーーーーー!」



私は霊夢を呼びながら、とりあえず目の前にある大きな階段を駆け上がっていった


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ッ!……ハァッ!……ハァッ!」



階段を駆け上がっていく白黒の侵入者を扉の隙間から見る

危なかった。能力と、近くに掃除器具を入れる場所があったから隠れられたが、少しでも遅れていれば確実に
見られていただろう。本当に危なかった

だが、これは非常にまずい……侵入者を少なくとも2人も通してしまった


まずい

まずい

まずい


私はお嬢様の影、お嬢様が動けば、私はその通りに動く。お嬢様が望めば、私がその望みを叶える

影の私が失敗する事は許されない。お嬢様は完璧だ。完璧でなければ、それはお嬢様ではない

完璧なお嬢様の影として動く事で、私がある。なのに私が失敗してどうする?それじゃあ私はお嬢様の影ではない





「…………」



なんとしても排除しなくては

お嬢様の望む紅魔館であるために、私が出来る事全てをする。そのために必要な事を考えるんだ

この際雑務は後回しだ。侵入者のせいでむしろ雑務は増えるのだから、先に侵入者を始末する



「…………覚悟しなさい。この紅魔館に足を踏み入れた以上、命は無いわ」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「♪~~♪~~~♪」



暗い暗いお部屋の中、私は準備を整える。楽しいお喋り会を始める準備だ

机を置いて、モケーレムベンベとチュパカブラを左右に置く(クマさんのお人形の名前だよ?)

最後に周りを確認して、お部屋が散らかっていないか見てみる

机を指でなぞって一吹き……うん。埃は無しっと



「じゃあ、たーっくさんお話しよっか。お姉さん♪」









       そう言って、私は首にぽっかり穴が開いた、紅白の巫女装束のお姉さんを見た







第三変 終幕

第四変 少女祈祷中.........

本日投稿日です

投稿します




「ぅ……ん……?」



ぼんやりと、私は目が覚めた

ここはどこだろう?さっきまでいた場所と違って、ここは暗い。周りが紅いことは同じだが、どうもここは別の場所に思える



???「あ、起きた!間に合って良かった!」



と、小さな女の子の声が聞こえた。霞んでいた目がはっきりと映すようになって、その姿が分かった

ドアノブカバーのような白い帽子に、暗い場所でもよく分かる金の髪。背中からは枯れ枝のような物が生え、様々な色の結晶がぶら下がっていた



「……誰?……私たしかさっきまで入り口辺りで……」



そうだ、紅魔館の中に入って……それから……



フランドール「私はね、フランドール・スカーレットっていうの!お姉さんが咲夜に”殺されちゃった”から助けたんだよ!」



え?    そうだ、確か私は首から血を流して!?



「!?……あ、れ?傷が……ない?」



私は喉に手を当ててみるが、どこにも傷は無く、あの時感じた息苦しい感覚も無い



「……あなたが助けてくれたの?」

フランドール「うん!そうだよ!」



治療した跡も無いようだが、一体どうやって?





そう疑問に思ったところで、ふと、違和感に気づく。彼女には左腕が見当たらないのだ

だが、よく見ると左腕は”右腕にあった”。右手に、左腕を持っていたのだ

左肩からは肉と骨が覗いていて……



「ぎゃーーーー!スプラッターーーーーーー!!」

フランドール「あ、ちょっと!」



私は思わず後ろにのけぞり、椅子に座っていた私はそのまま勢い良く床に倒れ、頭を打った



「~~~~~~~~っ!!!」

フランドール「お姉さん大丈夫?」

「あ、あなたほどじゃないんだけど……」



見た目で人間じゃないのは容易に分かったが、それでも自分より幼い見た目の子が片腕引きちぎってもう片方に
持っているなんて、正直見ていたく無い



「あの、とりあえずその腕は大丈夫なの?」

フランドール「? 平気だよ!私”吸血鬼”だもん!」



そう言って、フランドールは左腕を左肩にくっつけると、蒸発するような音が鳴り、くっついた左腕をぶんぶん動かした



フランドール「ほらね!ちぎったときはちょっと痛いけど、全然平気だよ!」

「あぁ、そう……あはは」





吸血鬼、といえば大妖怪の中の大妖怪。見るのは始めてたが、まさかこんな姿だとは……



「えっと……助けてくれてありがとう」



まさか大妖怪に助けられるとは思いもよらなかったが、命の恩人なのは確かだ



「ところで、どうやって首の傷を?」

フランドール「それはね!私の血をお姉さんにかけたの!吸血鬼ってすっごい再生能力があるんだけど、その力は血液にもあるんだ!
       人間でも妖怪でも、血をかけてあげればあっという間に肉が元通りになるんだよ!」



嬉しそうに話すフランドール。……私、あのちぎれた腕の血を浴びたのか。意識が無くてよかった



フレンドール「人間って心臓が止まっても頭の脳はしばらく生きてるらしいんだ。だから、心臓が止まってたお姉さんでも何とかなるかなー
       って思ってやってみたんだ!咲夜に焼却炉に捨てられて良かったね!」



意外とギリギリだったらしい。どうやら私は悪運が強いようだ



「そ、そう」

フランドール「もし間に合わなかったらああなってたかも」



そう言って指差した方を見ると、そこには白骨死体がいくつもあった。人間と思しきものや、妖怪らしき骨と入り混じっている



フランドール「私の部屋には焼却炉に続く秘密の抜け穴があってね、たまーに咲夜が館に入ってきた人や妖怪を殺して捨てるんだけど
       私が気づかずに燃やされちゃったり、血をかけてもとっくに死んじゃってる時もあるんだよね」

「は……ははは……ほんとに運がいいわ」





フランドール「それでね、お姉さん!フランとお話しようよ!」

「え?」



正直、そんな事をしてる場合じゃないんだけど……



「え~っと……その、申し訳ないんだけど」

フランドール「……なの」

「?」

フランドール「嫌なの?」キラキラキラキラ

「ッ!!!」



な、なんてキラキラした目で見てくるのよこの子は!?



「うぅ……ちょっとだけよ……」

フランドール「わーい!あのねあのね!まず私のお友達のモケーレムベンベとチュパカブラを紹介するね!」



……まぁ、ちょっとくらいはいいわよね



>モケーレムベンベとチュパカブラ
そいつらが幻想入りできるほどUMAブームは下降線を辿っていないと思うんだ

>>134
まぁ、現代的な物まで幻想入りしてるし、そういう名前が何かしらの方法で知ってもおかしくない
ってことで

~~~~~~~~~~~


「参ったな……こりゃ」



当ても無く探すうちに妙に大きな怪しい扉を見つけちまった。いかにもこの部屋は特別ですって感じの……
で、開けて入ってみればなんとそこは本棚がいっぱいあった

しかも見る限りどれも魔導書ばかり。見上げるほど高い本棚にぎっしりと詰まったその様はまさに圧巻の一言



「こんなの見せられたら……読み漁るしかないよなぁ!」



あ、その前に服着替えないとな。霊夢探すのにうっかりしてたぜ

指輪をはめ変えて、ベルトを回す


【シャバドゥビタッチヘーンシーン!シャバドゥビタッチヘーンシーン!シャバドゥビタッチヘーンシーン!】

【ドレスアップ】


「これでよし、っと」



魔法で乾いた物に変えたけど、おんなじ服なんだけどな



???「随分幼稚な魔法ね」

「!?」



私は、まったく気配を感じていなかった。だが、その声は唐突に聞こえた

振り向くと、寝巻きにも見える格好をした紫色の女の子がいた



「……こういう台詞はあんたが先に言うべきなんだろうけどさ……あんた、何者だ」

???「私の名前は……」



足元に魔法陣を展開して宙にういたそいつは、気だるそうに名乗った



パチュリー「魔女、パチュリー・ノーレッジ。どりあえず、ようこそ。私のヴワル図書館へ」

「……ウヴァ図書館?」

パチュリー「ヴ ワ ル!」







           第四変「邂逅 禁忌の少女と紫の魔女」




少女祈祷中.........

まさかのタイトル入れ忘れ……まぁ、倒置法風になったからいいか

追記:魔理沙のベルト音声は普通に間違えた

今日も更新します。……仕事から帰ったらね!(泣)

次は「わたしのかんがえたチュパカブラちゃん人形」(グロ)で無邪気に遊ぶフランちゃんか
それとも、そろそろレミリアの出番なのか

>>143
パチュリー・ノーレッジからだッ!(ロードローラー風)

晩御飯の後で投下します。

投下します




「……美味いなこれ」

パチュリー「咲夜の淹れる紅茶ほどじゃないけどね」



図書館を少し進んだところ、四方を本棚に囲まれた少し開けた場所に、机があった
そこにも多少本は積まれていたが、こうして紅茶を飲ませてもらえるくらいのスペースはあった

紅茶を出してきた使い魔(?)はお辞儀をすると本を持ってどこかへ飛んで行ってしまった



パチュリー「一体何年ぶりかしらね。侵入者が咲夜に見つからずにこんなところまでたどり着けたのは」



私を興味深そうな目で見ながらも、視線はすぐに手元にある本へと戻った。紅茶を飲みながらでも読みたいのかソレ……



パチュリー「しかも。あんな幼稚な魔法しか使えない貴方のような人間がね」



……むかっ



「言っておくけど、あんな魔法を見た程度で私の実力を知ったつもりなら大間違いだぜ。私の本気はあんなもんじゃあない」

パチュリー「……その自信の割には」



じっ、とこちらをみると、また目線をそらして鼻で笑った



パチュリー「随分と粗末な魔力量じゃない。私の幼い頃よりしょぼいわよ」フッ



…………ムカッ





「……別にいいさ。そりゃあ魔女様に比べれば私の魔法や魔力の量なんざたかが知れてるだろうさ。けどな」

「私があんたに勝てるかどうかは、別だぜ?」

パチュリー「…………」

「聞いておきたんだが、今外で空を覆ってる赤い霧……あれはあんたの仕業か?」

パチュリー「…………違うわ。この館の主、私の友達よ」ペラッ



ページをめくりながら、そう答えた



「そうか。私はな、実を言うとそいつを倒しに来たんだよ。霊夢と一緒にな」

パチュリー「……無理ね」

「あ?」

パチュリー「不可能だって言ったのよ。その霊夢っていうのがどれほど強いのか分からないけど、人間が”レミィ”に勝てる道理は
      無いわ。あなただって、私に勝てるわけもないのに、レミィを倒すだなんて」



また鼻で笑いながらそう言って、紅茶を一口飲んだ



「……やってみなくちゃ分からないぜ?」

パチュリー「……いい事教えてあげる」

パチュリー「私が貴方に紅茶を出したのは3つの意味があるの。1つは”礼儀”。たとえ侵入者でも、この紅魔館に入ってきた
      以上、最低限のおもてなしをするのはこの館に住む者の義務だから」

パチュリー「もう1つは”褒美”。美鈴を突破し、咲夜を超えて来た者に対する賞賛よ。害のない者は美鈴が何とかしてきた。
      逆に害のあるものは美鈴を超えなきゃならないし、侵入に成功しても咲夜が殺すわ。だから、ここまで生き延びた
      褒美として、私は紅茶をふるまうの。……毒を疑わず、素直に飲んだのは貴方が初めてだけど」

パチュリー「最後は”警告”。今まで、レミィや私の命を狙ってこの紅魔館に入ってきた者は何人もいたわ。大抵は美鈴に追い返される
      か、咲夜に殺されてるけど……それでもここまで来る者も稀にいた。でも、”勝った奴”なんて一人もいなかったわよ」





「そうか、でもな……何にでも”初めて”はあるものだぜ?」

パチュリー「不可能だって言ってんのよ」



丁度魔導書を読み終わり、パチュリーは紅茶を飲み始めた。



パチュリー「霊夢っていう奴の実力はともかく、貴方の場合、咲夜に偶然会わなかったからここまでこれた。運で来た奴が、
      レミィを討ち取ろうだなんて笑い通り越して呆れた話よ」

「それでも倒すと言ったら?」

パチュリー「レミィの敵は私の敵……私が最初に相手になるわ。……まぁ、万が一にも貴方が勝てる訳も無いけどね。貴方みたいな
      並以下の魔法使いなんかには……ね」

パチュリー「その紅茶を飲んだら帰りなさい。咲夜に見つからないよう人里まで魔法で送ってあげるから」

「そうかよ」


ヒュッ        パリーン!


私はティーカップを放り投げた。残っていた紅茶は床にぶちまけられ、カップは砕け散る

あ~あ。父さんに物を粗末に扱うなって言われてたのに……感情的になっちまってるな、私



「悪いが帰る気はさらさらないね。あんたを倒して、霊夢と一緒にレミィって奴を倒して、この異変を終わらせてやる」

パチュリー「…………”並以下”っていうのは過大評価だったかしら?実力差も分からない”雑魚”だったとはね」


~~~~~~~~~~~~~~~~



フランドール「それでね、お姉さんは”あの件”はどっちが悪い子だと思う?」

「モケーレムベンベ一択でしょ」



まさかチュパカブラがやっとの思いで再会した妹を、金と権力を使って無理やり婚約者にするなんて思わなかったわ……
そりゃあチュパカブラも殴り込みに行くってものよ。モケーレムベンベが前科者にしたようなものじゃない



「まぁ、そこからまさか二人が堅い絆で結ばれるようになるなんて思いもしなかったけどね」ウンウン

フランドール「人生って何が起きるか分かんないね~」シミジミ

「…………」

「………はっ!?」



しまった、あまりにも濃い過去話につい時間を忘れるところだったわ!



「あ~……あのね、フランドール。私、実はこの紅魔館でやらなくちゃいけない事があるの」

フランドール「……何しに来たのか、聞いても良い?」

「……」



話していて、私はなんとなく、この子が異変を起こしたわけじゃなさそうだと思っていた。だから、話してもいいと思った



「……今、空を赤い霧が覆ってるの。この館の誰かの仕業みたいだから、やめて欲しいって伝えに来たの」

フランドール「それは……悪い事なの?」

「えぇ、人里の皆も怖がってるし、もしかしたら幻想郷に何か悪い事をしようとしてるのかもしれない。どうしてこんな事をするのか、
それも問いたださなくちゃならないけどね」

フランドール「…………」





フランドール「……それ、多分お姉様の仕業かも」

「お姉様?」



姉がいたのか……。ということはそいつが”お嬢様”?



「もしかして、あなたのお姉ちゃんって」

フランドール「レミリア・スカーレットっていうの。すっごく強い、吸血鬼」



……参ったな。まさか最終試験の相手は吸血鬼だったとは……確かにこれは手応え歯応え抜群よ、紫。



「そう……ありがとう。じゃあ私、行くね」

フランドール「……うん」



辺りを探すと、扉があった。あそこからなら出られると思って、扉に向かう



フランドール「あ、待って!そっちの扉は開かないよ」

「え?」

フランドール「こっち」クイッ



そう言って、壁を軽く押すとそこには四角い抜け穴があった





フランドール「ここから上れば焼却炉に戻れるよ。そっちの扉はこっちからじゃ開かない仕組みなの」

「……それ、扉としておかしくない?」



それじゃあ部屋から出られないじゃない



……まさか!



「……ねぇ、あなたもしかして……この部屋に閉じ込められてるの?」

フランドール「…………」



この子は、私が部屋から出て行こうとしたらとても寂しそうな目をしていた。吸血鬼っていうくらいだから、私より確実に長生き
しているだろう。それにしては少し精神年齢が幼い気はしていたのだが……

こんな部屋にいては、確かに学べる事も少ないだろう



フランドール「……そうだよ。フランはずっとこのお部屋にいるの」

「どうして?」

フランドール「……私が悪い子だから。お姉様に閉じ込められたの」



実の妹を部屋に閉じ込める?……どうやら赤い霧の異変も碌な目的じゃなさそうね



「……部外者の私が言うのもなんだけど、ひどいお姉ちゃんね」

フランドール「違うの!フランが悪い子だから……フランがちゃんと出来たら……お姉様は出してくれるって言ってたもん!」






「じゃあ、最後にお姉ちゃんにあったのはいつ?」

フランドール「……私を閉じ込めた日から……会ってない」

「!……そんなの」



ひどすぎる

自分からチャンスを提示しておいて一度も会いに来た事が無いですって?部屋から出す気がまるで無いじゃない……



「フラン……あなた、ここから出たい?」

フランドール「……え?」

「私がここから出してあげる。そしてあなたのお姉ちゃんと合わせてあげる。何だったらぶっ飛ばしてもいいわよ!」

フランドール「ダメ!」



必死に止めるように、フランは私の袖を掴んだ



フランドール「お姉さんは咲夜に殺されちゃったんだよ!?お姉様に勝てる訳無いよ!」

「……それを言われるとつらいけど、だからってこそこそ帰る訳には行かないの。私にはやるべき事があるから」



私は震えるその手をそっと握り、袖から離す



「だから、私はたとえあなたのお姉ちゃんが強くても逃げない。……フランが出たいって望むなら、それも私のやるべき事よ」

「あなたの正直な気持ちを聞かせて……ここから出たい?」

フランドール「…………出たいよ……でも、この部屋にはパチュリーの魔法がかかってる。あの抜け穴は魔法がかかる前に
       こっそり作ったけど、魔法がかかってからはどうやっても出られないの」

「そう、分かった。じゃあ待ってて。私が何とかして、あなたをこの部屋から出してあげるから」



私は抜け穴に入り、振り向く



「異変が解決して、お姉ちゃんを叱ってあげるから。そしたら、今度は一緒に遊びましょ!」

フランドール「……名前」ボソッ

「ん?」

フランドール「お姉さんの……名前は?」

「博麗霊夢……近いうちに、この幻想郷で博麗の巫女になる女よ!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~



そう言って、お姉さん……霊夢は抜け穴から出て行ってしまった

この部屋から、出してくれると約束して……



「…………それでも……ダメだよ」



私は一人、呟く



「フランは……フランの”心”はまだ……悪い子だから」



【何言ってるの?私達は”いい子”だよ?】

「!?」


暗闇から【私】が話しかけてきた



『悪い子はアンタだけだよ。私達はいい子なの。アンタがいなくなれば、私達はこの部屋から出られるのに』


続くように『私』も



《そうそう。邪魔なんだよね~……ニ・セ・モ・ノさん》



《私》まで出てきた……





「ち、違う!私は本物!本当のフランドール・スカーレット!あなた達は私が切り離した悪い私!いなくなるのはあなた達の方!!」

【ふ~ん。……じゃあ、証明して見せてよ。本物ならニセモノに負けないよね?】

「……え?」

《お?やっちゃう?いつもの奴やっちゃう?》

『ルールはいつも通り、最後に残ったほうが”体”を使えるって事で』

「ちょ、ちょっと待って!」



暗闇から三人の”私”が出てくる。手に持っているのは私の心が作り出した歪な剣



《それじゃあ……レディ~・ファイッ!》



私の言葉なんか聞きもせず、【私】と『私』と《私》は襲い掛かってきた



「嫌!お願いやめて!フランはこんな事したくない!痛いのはやだよ!」

【右腕もーらいっ!】ザシュッ!

「い”ッ!?」

《じゃあ私お腹!》ドスッ!

「ア”ァ”ッ!?」

『これでトドメだーーーーーーーーーーー!』


ズバッ!!


「……ぁ……痛い……いたい……よ」


どさっ





私は床に倒れる。徐々に、血が床に広がっていくのが目に見える

あぁ、少し油断するといつも”こう”だ。【私】と『私』と《私》が、私の体を奪いに来るのだ

今まで何度も抵抗したけど、無理だった



「こんなの……私じゃない……私じゃないのに……」



私は”握っていた剣”を手放す


右腕を切り落とし、お腹を突き刺し、心臓を貫いた剣を、私は手放した


全て私がやった事。右腕も、お腹も、心臓も、私の手が勝手に動くのだ。まるで”三人”がかりで、私の腕を掴んで動かしているかのように……


私の切り離した”心”が、勝手に私の体を動かす。そして私を意識の底に沈めて、私の体を乗っ取る


幸運なのは、この部屋から出られないこと。それは【私】や『私』や《私》の誰が乗っ取っても同じ事


ごめんなさい、霊夢……私はやっぱり”悪い子”


こんな私じゃ、この部屋からは出られない


意識が薄れていく……きっとすぐにでも三人の内の誰かが私を乗っ取るだろう


最後に私は、乗っ取られている間に霊夢が戻ってこない事を願って、意識を手放した


少女祈祷中.........

今日も投下予定

なんか筆が乗ってる今日この頃

それと、うー☆さんは過去話にて初登場の予定。第五,六変が終わったくらいから過去話やります

お待たせ

投下開始っす




「助けてーーーーーーーーーーーーーー!!」



何度目かの光線を避けながら、私は涙目で図書館内を疾走していた

啖呵切って挑んだくせに、ものの数分でこのザマである。数分前の私をブン殴りたい!



「畜生!魔法のレベルが違いすぎる!実力に差がありすぎだろ!」



分かっていたつもりだったがここまでとは……防御魔法を試してみたがまったく歯が立たないし


ビカッ!


「うわっち!熱ッ!」



箒で飛んで逃げている私の背後を光の玉が追跡してくる。この光の玉はスピードこそ振り切れないわけではないが、回り込んだり
してくるので中々逃げ切れない。おまけに光線が太いし速い

いきなり目の前に現れてズドン。なんてことが6回もあった



「けど、今度はこっちの番だ!」



本棚を曲がると、さっきまでいた机の場所に奴はいた。暢気に紅茶をおかわりしていた

そして、私の背後から光の玉が追いつき、光線を放ってくる。これが私の狙いだ!



「自分の魔法で自爆しやがれ!はーっはっはっはっは!」



体を下に下ろし、帽子が地面すれすれになるまで高度を下げる。私の体があった場所に、光線が通り過ぎる

光線はそのまま、奴の元まで進む





パチュリー「……本当に分かってないのね」



光線は炸裂した。しかし、奴の周りには結界が張られていたために、光線が奴には届くことはなかった



パチュリー「真に魔法を知るものは魔法に傷つけられる事はない。幼稚な魔法は勿論、自分の魔法で自爆なんて論外よ」


ヴゥン……


結界の中で、色違いの光の玉を作り出す



パチュリー「消えなさい」



そして、光線が私に向かって放たれ、光が私の体を包み、私は消えた……



パチュリー「やっぱり口ほどにも無かったわね」

「どこ見て言ってるんだお前は」

パチュリー「!?」



しかし、それは私であって私ではない……偽者だ!





複製魔法【コピー】

何でも複製する事が出来るが、私を複製した場合、私と同じ動きしか出来ない上に、自分立ち位置の直線上になるようにしか
出現させる事が出来ないのが少し面倒くさい

逃げている最中にこの魔法を使って光の玉がどちらを追いかけるのか試してみたところ、複製した私を追いかけた
危険な賭けだが上手くいった。お陰で奴は追いかけられている偽者を本物と勘違いしたのだから



パチュリー「さっきのは幻影!?」



奴が”上”を向いた頃にはもう遅い


【チョーイイネ!】【キックストライク!】【サイコー!】


私の魔法は既に発動している!



「くらえーーーーーーー!!」



箒を手に持ち、足に魔法を纏って一直線に突っ込む!


ギィイイイン!


「チッ!」



結界にヒビが入る。だが破りきる前に私の魔法はそこで尽きてしまった


ビカッ!


「おぉっと危ない!」



背後から来た光線を避けながら、私は再度箒に乗ってその場を離脱する

奴の視界から逃れるように、私は本棚の列に紛れ込む


~~~~~~~~~~~~~


「…………私の結界にヒビを」



あの魔法……単純な魔法の癖に威力だけは大したものだったようね

私の魔法は精密さを必要とする代わりに高度かつ強力な魔法
人が一生をかけても、その一部に触れる事すら出来ない、到達できない領域の魔法

なのにあんな幼稚な魔法に傷つけられるなんて



「私が……見誤った?……あんな低俗な魔法使いに、私が危うく傷つけられそうになったとでも?」



この私が



「ふざけないでよ……身の程を弁えなさい!」



幸い、今日は調子も良い。特別に見せてあげるわ。貴方を殺すのには勿体無いくらい高度な魔法をね



「次は仕留める。もう幻影には騙されないわよ!」


~~~~~~~~~~~~




「ん~……さっきので仕留められなかったのは痛いな。同じ手が通じるはずもないし。次はやっぱり”マスパ”だな」


ビカッ!


「ほいっと」



背後から光を感じたので横にそれると、すぐそばを光線が横切る

さっきまではコピーの私だと思わせるために、わざと慌てて避けていたが今はもうそんな事をする必要は無い
こんな光線、私のスピードをもってすれば回避なんて余裕だぜ



「問題はどうやって当てるかだな……恐らく次はより強力な結界が張られているだろうし、中途半端な威力じゃさっきの二の舞……!」


ドドドドドドドド!


「なっ!水ぅ!?なんで天井から!?」



この本棚同士の幅では横に避けきれない。私は本棚に挟まれたその場から一気に加速して通路まで出ると素早く曲がり、上昇する



「これは……空中に魔法陣?」



魔法陣からは滝のように大量の水が流れ落ちている。あのまま避け切れなかったら水圧で潰されていただろう



「なんて魔法を使うんだ……本を傷める気かよ。いや、これじゃあ台無しだな」

パチュリー「心配しなくてもいいわよ。この図書館にある本はすべて魔法で守られてるから」

「!?」





声のした方へ振り向くと、奴は空中に魔法陣を浮かべて立っていた



「そうか、どおりであんな光線バンバン撃つ魔法を使ってくるわけだ」

パチュリー「さっきの魔法……私の結界を傷つけたのは見事だったわ。けど、そのせいで貴方は私を本気にさせた……
      覚悟しなさい……そして有難く思いなさい。これから見せる魔法は、貴方が一生届くことのない領域の魔法、
      その魔法によって貴方は滅びるのだから」


奴の背後にそれぞれ色の違う2つの魔法陣が現れる。



パチュリー「見せてあげるわ」

「!?」



放たれたのは水流と光線。水流は槍のように細く鋭い先を持ち、鞭のようにしなやかに襲い掛かってくる
光線は直線的だが今までとは比べ物にならないほど速い



「うぉおおおお!?」



光線を紙一重で避けたかと思えば水流が回り込んできて私の体を貫こうとしてくる

自分でもどこを向いているのか分からなくなるくらい、私は体を捻ったり、箒から飛びのいたり、というか落ちた所を箒を
手元に呼んだり、その箒を足場にまた飛んだり



「全く違う属性の魔法を同時に!?そんなのアリかよ!?」

パチュリー「言ったでしょう。貴方が一生届くことのない……知るはずの無い魔法だと」


少女祈祷中.........

本日ちょびっと更新。中途半端に区切ったせいで第四変の最後辺りを
投下することになります。

ちょびっと投下




「んにゃろう!」



だが、これくらいならまだ避けられる。私は懐の八卦炉を掴み、魔力を充填する。
涼しげに私を見ている奴に向けて一発お見舞いしてやる準備が、順調に進んでいく。


…………よし、準備完了!


後は隙を見て



パチュリー「3つ目、いくわよ」

「は?」



奴の背後に、3つ目の魔法陣があった。

その魔法陣から出てきたのは炎の波。最初の二つを飲み込むように、私に襲い掛かってきた



「でぇぇええええええ!?」



畜生!三属性同時とかありかよ!?

不意をつかれた私は、思わず背を向けて逃げようとした。炎の波に飲まれまいとしてそうしたのだが、それが間違いだった
敵は複数の魔法を同時に操るという事を、目の前の炎に圧倒されて、一瞬だけ忘れてしまったのだ


ビカッ!


「!?」



背後からの光を感じた時にはもう遅い。私の背中を、光線が直撃した



「なっ!?」



たとえ炎に飲まれようと、魔法そのものが打ち消された訳ではない。まして奴が同時に操っているのだから



「しまっ」



後悔しても、もう遅い。箒から投げ出された私に、炎の波が押し寄せ、私を包み込んだ私


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


私は本棚に落下してそのまま下敷きになった魔法使いを見る。



「あら、生きてるのね」

「…………ク……ハァッ!」



服は焦げ、ダメージも負ってはいるが致命傷ではないようだ。どうやら服に何か魔法をかけていたらしい



「? これは?」

「!? 触るな!!」



足元にとんがり帽子とマジックアイテムがあった。魔力を込める事で火力を調整する簡易的なマジックアイテムだ



「……こんなもので私が倒せるとでも?これだから低俗な魔法使いは」



私は帽子ごと、マジックアイテムを放り投げる



「実力差がはっきり分かったでしょうから、最後にチャンスをあげる。まだ抵抗して死ぬか、そのくだらないマジックアイテムで
魔法使いごっこでも続けるか……ま、人間なんだから、命は大事にするべきじゃないかしら?」







「…………てめぇ、今なんつった」


>>171

×:後悔しても、もう遅い。箒から投げ出された私に、炎の波が押し寄せ、私を包み込んだ私
○:後悔しても、もう遅い。箒から投げ出された私に、炎の波が押し寄せ、私を包み込んだ

やだ、恥ずかしい///

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



パチュリー「は?」

「今なんて言ったって聞いてんだぜ?答えろよ」



私は自分の背中に乗っている本棚に手をかける。やけどでズキズキと痛むが、そんなものに構ってる場合じゃない



パチュリー「……人間なんだから」

「その前だ!」

パチュリー「まだ抵抗して」

「そこじゃねぇ、その次だ!!」



私は本棚を押しのけ、力を振り絞って立ち上がった



「てめぇ、この八卦炉のことを”こんなもの”とか”くだらない”とか言いやがったな!」

パチュリー「それが何?そんな簡単な作りのマジックアイテム、私が赤ん坊でも作れるわ」

「てめぇの実力とか知識なんてどうでもいい!私の事を低俗だとか、私の魔法を幼稚だと言っても良い!この格好だって形から入るためだったし、
私も今回ばかりは勉強不足で実力不足ってのは良く分かった!だがなぁ……だがなぁ!!この”八卦炉”を!馬鹿にするのだけは許さねぇ!!!」



これは私に取って大事なもの、ある人から貰った、とても大事なものだから



「さっきまでは降参も考えたが、ヤメだ!てめぇは絶対、この私が倒す!!」



帽子も拾って深くかぶって奴を睨む。ため息をつき、奴は魔導書を開いた



「……なんだかよく分からないけど、貴方が相当馬鹿っていうのは覚えておくわ」



そして、第二ラウンドが幕を開けた


>>174

×:「……なんだかよく分からないけど、貴方が相当馬鹿っていうのは覚えておくわ」
○:パチュリー「……なんだかよく分からないけど、貴方が相当馬鹿っていうのは覚えておくわ」

もうだめかもしれない。


第四変 終幕

第五変 少女祈祷中.........

乙 
でも
原作だと確かミニ八卦炉って、ヒヒイロカネ(すげぇ貴重な金属)が素材だし、全力でマスパ撃ったら山一つ焼却できる火力合ったよな。

>>177
この物語におけるパチュリーさんの魔法に対する理念は

威力なんてどうでもいいのです。複雑で、難解で、高度な技術を持ってようやく成立するのが魔法。
それに劣るものは全ておもちゃに過ぎないのです。
なので、最高火力がどうであれ、材料が揃えば簡単に作れる(パチュリー視点)ミニ八卦炉はおもちゃ同然なのです

あくまで、この物語のパチュリーさんはね

すいません。ペース上げたいのに仕事が繁忙期に入って書き溜めがまだ溜まってません……

もしかしたら11月入ってから更新かもです。今しばしお待ちを。

付け忘れのためもう一度

申し訳ない。インフルで倒れた先輩の変わりに呼び出されて
投下できませなんだ。

休日中に必ず投下しますのでご容赦下さい。

1週間以内に投下出来ます。というかちょっとでもいいからします!

9月末からもう3ヶ月近く……早め早めの投下を宣言しておいてこのザマは非常によろしくない。

必ず、1週間以内に投下します!繁忙期がなんぼのもんじゃい!

自ら上げてより決意を固くします。

いえええええい!やっと!ちょっぴりだけど!明日更新できます!

ほんとにちょっとだけですけどよろしく

晩御飯後に投下します。

投下します。







               第五変「僕が見たい勝者は霊魔理(レイマリ)」








侵入者を捜索している中、私は廊下で信じられない光景を目にした



「!?」



角を曲がってある一本道の廊下、そこにはあの博麗の巫女がいたのだ

なぜあの巫女が生きている……。あの時確かに殺して焼却炉の中に入れたはず!?

まさか亡霊?



「……」



だが、そんなものはナイフを当ててみれば分かる話だ

ここは一直線の廊下。正面に出る必要があるが、さっきみたいに能力を使えば博麗の巫女を再び殺す事も出来る


そして、私は能力を発動した



「…………」



その瞬間、博麗の巫女の動きが止まる。それを確認して、私は博麗の巫女の前に出て、ナイフを構え、投げた





廊下の真ん中辺りまで進んで、ナイフはピタリと止まる。空中に停止したまま、ナイフは落ちる事無く
そこに留まっていた


これが私の『時間を操る程度の能力』。今、私と私に所有しているもの以外の時間が停止しているのだ


投げたナイフも、私の手元を離れて少しの間は前に進むが、所有することを放棄したと”能力”が判断した時、
投げたナイフの時間が止まるのだ

最初にあの博麗の巫女を仕留めた時も、物陰からナイフを投げて、首元までナイフを進め、能力を解除した事で、本人には
何が起こったかを理解させる前に、首にナイフが刺さって絶命したはずだ

なぜ生きているのかは分からないが、別に私の能力がバレた訳でも、理解したわけでもないはずだ。同じ方法で仕留めにいっても
なんら問題は無いはず


私は能力を解除した


次の瞬間、肉にナイフが刺さる音が聞こえ、人が倒れる音が聞こえる。どうやら問題なく仕留めたらしい


念のため時間を止めて角から廊下を覗くと、血溜まりを広げて、博麗の巫女が廊下に倒れていた


ゆっくりと近づき、能力を解いた後に、脈を計ろうと首に触れてみる


ガシッ!


その瞬間、私は手首を掴まれた



「!!?」

博麗の巫女「つ・か・ま・え・たぁっ!!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




咲夜「なっ!」



思ったとおりだ。


私はメイド……フランがたしか咲夜と言っていた人物の手を掴んだ


良し、触れられればこっちのものよ!


「くらいなさい!」



私はメイドに、霊力を流し込んだ



バリバリバリバリバリバリ!


咲夜「ガァッ!アアアアアアアア!!!」


私の体に流れる”霊力”は他の人間には無い特別な力だ。妖怪に対しては絶大な力を発揮するが、それは人間も同じだ。霊力のない他人の
肉体に入り込むと、肉体が霊力に対して拒否反応を起こし、体外に放出しようとする。その際、電撃のような痛みが走るのだ



「ついでにィ!」

咲夜「!?」



私は拳を握り締め、おもいっきり振りかぶって殴った



咲夜「ゴハッ!?」


どざあああ!





「はっはっはぁ!まんまと引っかかったわねぇ!」



私はあらかじめ引き抜いて体の下に隠していたナイフを晒しながら、メイドに向ける。



咲夜「ッ!……なぜ、生きて……る!」



メイドはふらふらと立ち上がりながら、こちらを睨みつけるように顔を向けてくる


白くのっぺりとした、2本の細い線状に穴の開いた奇妙な仮面を付けた、その顔で



咲夜「確かにナイフは……刺さっていた筈、なのに!……なぜ!?」

「えぇ、刺さったわよ。見事にね。ほら、ナイフにだって血がベットリよ。あの時だってそう、何が起こったかも分からず、
 私はこの館に入って早々、あんたに刺された」

咲夜「だが……お前は!」

「本来なら、私はそこで死ぬところだったけど、生憎だったわね!幸運の女神が私を助けてくれたのよ」

「そして、さっきの攻撃もまた、幸運の女神から貰ったアイテムのお陰で治療して、死んだフリして待ち伏せてたってわけよ」

咲夜「……チッ」



幸運の女神。勿論それはフランドールのことだ

”吸血鬼の血液は肉体を再生させる”

それを聞いた私は、フランからちょっぴりだけ血を貰ったのだ。しかしそのままでは肉体から失った血液は”崩壊”してしまうため、
御札に染み込ませて”封印”し、血液の崩壊を防いで、即席回復アイテムにしたのだ

使用回数に限度はあるが、使えば体力ゲージはMAX回復という強力アイテムになった。

ただ、使うたびに封印を一瞬解くから崩壊も同時に進む。使えて後3,4回が限度かな?





「さて、よくも最初に会ったときは殺してくれたわね。どうやって目にも映らずナイフを首に刺してくれたのかはまだ分からないけど、
 貴方が私の前に現れた以上、もう同じ手は食わないわよ」

咲夜「言って……くれる。たとえ姿が捉えられていよう……と、私に勝つこと……は、不可能……よ!」



そう言うと同時だろうか、メイドはポケットに手を突っ込み、何かを取り出そうとした


「無駄よ!」


がきぃん!


メイドが何かを取り出そうとしたその”直前”、背後から飛んできたナイフを御祓い棒で叩き落とした



咲夜「……え」



呆然と、ポケットから時計を取り出したメイドは固まってしまう



咲夜「ば、馬鹿な……」

「私の前に現れた以上、どんなトリックを使おうが!」


がきぃん!


また、死角から飛んできたナイフを叩き落とし



「もう私には通じない!」


ぱしぃん!


そして、首元にいつの間にか現れたナイフを掴んだ





咲夜「そ、んな……」



ことごとく、自分の攻撃が見切られている事にメイドは動揺を隠せないようだ



咲夜「な、ぜだ!どうして!?見切られる!?」

「勘よ。勘」

咲夜「そんな……そんな馬鹿な話があるか!」



確かに、そう言われて納得したくはないだろう。だが、実際私は勘で見切ったのだ。相手が何かをし始める時、私は何かを感じ取り、
どの方向から攻撃が来るか何となくわかるのだ。紫でさえ、私の勘には気味悪がる程で、もはや予知能力の域だと言っている



「信じるか信じないかはアナタ次第。でも、だんだんアンタのトリックが分かってきたわよ」

咲夜「!?」

「さっきこれ見よがしに”時計”を取り出したわね。恐らくその前にナイフが飛んできたから、その行動自体はブラフ。背後からの
 ナイフを気取られないよう自分の手元に注目させて、何かが来ると思わせる事で背後の注意を向けさせないようにした」

「けど、その前後でアンタの”位置”が微妙に動いていた。それと同時に背後からナイフが来たから、これは何か関連があると
 踏んだわ。超高速で私の背後に移動してナイフを投げ、元の位置に戻った?いや、違う」

「なぜなら、わざわざそんな事をするより直接刺しにくれば済むから」

「なら瞬間移動?これも違う。なぜならナイフが”飛んできている”から。転移なら、私の体内にでも直接ナイフを入れればいいからね」

「つまり、アンタは私に”触れられない”と考えるわ。触れられるとマズイ。つまり自分だけが目に映らず、何らかの動作が行える方法……」


「アンタ、数秒の間だけ時間を止められるんじゃないかしら」


咲夜「!?」

「あれ?当たった?」





咲夜「くっ、この!」

「!?」



フッ、と、目の前からメイドが消えた



「無駄よ」


ビタッ!


咲夜「!?」



そして、背後にメイドが現れた。時間を止め、背後から私を直接刺し殺そうとしたらしい。だが、それもそろそろ来る頃だろうと思っていた



咲夜「なっ!?か、体……がっ!?」



メイドは握り締めたナイフを私の首元まで近づけながらも、それ以上動けないでいた



「アンタはもう私に攻撃出来ない。時を止めて移動しようが、体が動かなければ意味ないでしょ?」

咲夜「な、なんで、体が!?この痺れは!?」

「御札の霊力が効いてるのよ。さっき直に触れていた時みたいに、御札から流れる霊力に体がやられてるのよ」

咲夜「ふ、だなんてどこにも!?」

「あるわよ。アンタが着けてるその仮面にピッタリとね」

咲夜「!?」

「最初に顔面に一撃入れたとき、拳に巻いていた御札も貼り付けておいたのよ。御札は霊力を発するまで透明でいるよう術を仕込んでいたから、
 直に張られていないから、気づかなかったでしょ?」



私は数歩進み、振り返る





咲夜「は、博麗の……巫女ぉおおおおおお!」

「(仮)が抜けてるわよ?私、まだ博麗の巫女じゃないわ」



私は、もう一度拳を握り締める



「さて、それじゃあ……」

「二度も私の首にナイフぶっ刺してくれたお礼よ!もう一発受け取りなさい!!」



霊力を込め、私は仮面めがけて再び拳を叩き込んだ



「セイヤアアアア!!」


ゴッ!!


咲夜「ギッ!?」


ピシッ……    ぱぁん!


メイドは吹っ飛び、仮面が割れて破片が地面にばら撒かれた



「……あら、てっきり顔に傷があるから隠してると思ったのに、意外と白くてかわいい顔してるじゃない」

咲夜「!?」



私の言葉にハッとして、メイドは顔に仮面が無い事を手を当てる。そして、私と目が合った


*訂正
私の言葉にハッとして、メイドは顔に仮面が無い事を手を当てる。そして、私と目が合った

私の言葉にハッとして、メイドは顔に仮面が無い事を、手を当てて知る。そして、私と目が合った


~~~~~~~~~~~~~~



私は博麗の巫女の言葉に、今自分の仮面が無い事を知った



「あっ……」



そして、博麗の巫女が私の顔を見ているのに気づいた



「あ、あぁっ!」



見られている。私が、私の顔が、二つの目球が、私の二つの目と合っている



『気味が悪い』



ぞわりと、私の全身が震え始めた。私の記憶から、恐怖が蘇る



『どうしてこんな子が!?』『離れろ!そいつは呪われてるんだ!』『化け物だ!』



「や、止めて……」




『オマエは不幸を呼ぶ子だ!?』『消えろ!』『だれかその子を殺せ!』



「見るな……私を!」



『こいつは、人間じゃない!』



「私を見るなあああああああああああああああああああ!!!」


~~~~~~~~~~~~


「な、何なのよいきなり……」

咲夜「違……う……私は……見ないで……」



突然叫びだしかと思えば縮こまって震え始めた……

こちらに目を合わせるどころか、戦意のかけらも感じなくなってしまった



「……アンタ、もしかして視線恐怖症?」

咲夜「っ」ビクッ



私の言葉に、メイドが体を震わせる



咲夜「ち、違う!私はお嬢様の従者!お嬢様の影!完璧なお嬢様に仕える私がこんな醜態を晒すわけにはいかない!」



だが、今度は無理やり自分を立ち上がらせる。こちらを睨もうとするが、視線が定まらない。恐怖に抗おうと必死な感じだ



咲夜「そうよ……お嬢様は私を受け入れてくれる。……お嬢様だけが私の存在意義……役に立たないなら、私に生きる資格は、無い!」



そして、ナイフを再び構え、襲いかかってきた


少女祈祷中.........

おひさしです。

休日中に更新します。

お昼食べ終わったらぼちぼち投下します。

やっぱ一ヶ月以上間が開くなぁ……。保守に感謝です。

更新します。




「マスタースパーーーク!」

パチュリー「……」


ギィイイイン!


「マスターースパーーーーーーク!!」

パチュリー「…………っ」


ヂュイイイイン!!


「マスターーー!!!スパーーーーーーーーーク!!!」

パチュリー「あぁ、もうっ!!クドイのよ!!」



23発目、奴は結界を解くと同時に巨大な水流で私の『マスタースパーク』に真っ向から撃ち合って来た。

互いの魔法がぶつかり合う。奴の顔には少しだけ消耗しているようにも見える。

こっちはまだ余裕がある。良し、パワー勝負なら負ける気は無い!!






パチュリー「―――とでも、思ってるんでしょう?」

「ッ!?」



ニタリと、確かな自信とプライドから成った、見下したような笑みを浮かべた。






パチュリー「だから貴方は”その程度”なのよ」


ピカッ……



その時、私は背後から光を浴びた。



「え?ガッ!?ああああああああああ!!」



背中に感じる熱。最初に浴びたそれとは違う何倍もの威力を持った光線は、
私の魔法衣の防御の上からダメージを与えるには十分すぎた。



「あ……カハッ!」



私は膝から崩れ落ちたが、手を付いて倒れこむことだけはしなかった。



パチュリー「私がいつまでも馬鹿の一つ覚えに付き合っているとでも?人間如きが、私と同じ土俵に立っているつもり?」

パチュリー「驕るな」


ドウンッ!


「ガッ!!」



だが、前方から放たれた突風に、私は弾き飛ばされ、背後の本棚に体を大の字になってぶつけた。





「う……あ……」



頭を強くぶつけ、私は意識と視界が揺れる。体がずり落ちて、指や肘に引っかかった本が本棚から零れ落ち、私と一緒に床に倒れ落ちた。

体のあちこちが痛い。まるで全身を焼かれてるかのように、痛みが私の体を好き放題に暴れていた。



パチュリー「ふ~……これでやっと終わりね。ま、この私にここまで魔力を使わせたことだけは褒めてあげる。
      まぁ、私の予想を裏切りこそすれ、この程度の魔力消費は今までに幾つかあったわ。例外なくその全員が死んだけど」



奴は油断無く、結界を張りながら私に近づいてくる。



パチュリー「もう抵抗も出来ないでしょう。そのマジックアイテムも、もう”壊れちゃった”みたいだし」

「!?」



私は握っていた八卦炉を見る。表面が焦げ、火花のような物がバチバチと漏れ出ていた。



パチュリー「怒りに任せて撃ちまくったのがあだになったわね。ほかに攻撃手段が貴方にはあるのかしら?
      ま、ご自慢の魔法だったみたいだし、アレ以上の威力を持った魔法は使えないと見てるんだけど、違うかしら?」

「クッ!」



大正解だ。

マスタースパークは私の最高傑作。これ以上の魔法は私は使えない。

だが……





パチュリー「それじゃあ、さようなら。せめて最後は苦しまずに殺してあげる」


キィィイイイイ


奴の結界の中で、光の玉が作り出される。恐らく、私の頭を撃ち抜くつもりだろう。



「……」ニヤッ

パチュリー「!?」

「それを……待ってたんだよぉおおおおおおおおおおおおお!」



私は力を振り絞って立ち上がった。まだ立ち上がるとは思っていなかったのだろう、奴は面食らっていた。



パチュリー「クッ!この!」


パシュン!


奴は光線を撃ってきた。威力こそ今まで撃ってきたものと比べれば低そうではあるが、私の頭を撃ちぬくには十分な威力はあるのだろう。

それでも私は突っ込んで


キィイン!


パチュリー「な!」

「ヘッ!」


私はその光線を、”本”で防いだ。





「ここの本は全て結界で守られている。……だったなぁ!」

パチュリー「っ、貴様!」



なにせ20発以上もマスパを撃ってきたのだ。流れ弾が本棚に直撃する事もあった。だが、それでも本に傷一つ
つくような事は無かった。少なくとも、私のマスパを防げるということは、奴が今展開している結界と防御力はどっこいどっこいなのだろう。

当然、奴の魔法も防げる!



「オラァ!」

パチュリー「!」



私は本を適当に開いて、奴の結界に叩きつける。


バチィイイ!


パチュリー「な、何を……!」

「今この本に向かってマスパを撃てば、どうなると思う?」

パチュリー「!?」

「本はブースターがついたみたいに、この結界をブチ破れるんじゃないかぁ!?」

パチュリー「な、何を馬鹿な!貴様のマジックアイテムはとうに!」

「あぁ壊れたよ。”リミッター”がな!」

パチュリー「なっ!?」



私のマスタースパークの最高出力は山一つを消し飛ばす。だが、安易にそれを撃てば私も大怪我する。
それを防ぐため、この八卦炉にはリミッターが付いているのだ。やたらめったら撃ちまくったのはムキになったかではない。

リミッターをぶっ壊すためだ!





パチュリー「グッ、ううううう!」


さんざん涼しい顔して防いできたマスパの威力が分からない奴ではない。しかも、今までで一番威力があると分かったんだろう、
やつの顔に焦りが見え始める。

くらえ!これが私の魔法!



パチュリー「や、止めろ!この距離でそんなもの撃てば貴方も!」

「ファイナル・マスター……スパーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーク!!!!!」



放たれた虹色の光

それがブースターになったのか、あるいはマスパ自体が奴の結界を破ったのか、本は奴に直撃し、そのまま吹き飛ばす。

奴はそのまま、壁に叩きつけられる。



パチュリー「グギッ!ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

「クッ、うぐ……うわあああああああ!!」



だが、私自身も構え続けるのに限界があった。私も後ろに弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。



パチュリー「こ、こんな……こんな、幼稚な魔法なんかに……この、私が……」



奴は壁からずり落ちて、そのまま床に倒れた。





「へ、へへへっ……ざまぁ、みやがれってんだ。私の勝ちだ。やっぱり魔法はパワーだぜ!」



私は床に座り込んで、倒れた奴を見る。



「あ~あ、また無茶しちゃたなぁ~。”こーりん”に怒鳴られるんだろうな~」



表面が焦げ付いた八卦炉を見る。すっかり焦げ付いた八卦炉は、あと何度最高出力で撃てるか分からない。



「とりあえず霊夢を探そうか?……あぁ~でも下手に動くと咲夜とかお嬢様とかに見つかりそうだよな~」



体もズキズキ痛いし、しばらく動けそうにもない。しばらく休んでからにしよう。



「イテテッ……しばらく誰にも会いませんように……っと」



そう呟いて、私は少しばかりの間目を瞑ろうとした。



???「残念だが、その選択で得た”運命”はお前にとって最悪なものとなった」

「!?」ゾワッ



同時に、私は全身から痛みが消えた。湧き上がってきた恐怖が、私の全身を満たしたからだ。



???「パチュリーを倒し、生き残ったのは褒めてやろう。誇りに思え」

「お、お前は!」

???「その誇りを冥土に持って、死んでいけ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



咲夜「オオオオオオオオ!!」


ガキィン!


「ぐぅっ!」



左からの斬撃を御祓い棒で防ぐと同時に、私は反対側に御札を向ける。


バチィン!


咲夜「チッ!」



右から来た斬撃を防ぐためだ。次に背後、その次は眼球狙いのナイフ。
これで一体何度目の攻撃だろうか?多分100回は既に超えている。

四方八方から、かつこっちの視界に入らない攻撃を仕掛けてくる。しかもわざわざ時間を止めて回り込んでくるので、
ほとんど同時に複数の方向から攻撃されているようなものだ。ただの連撃よりタチが悪い。



「ッ!」



勘で攻撃を止めるのも限度がある。かすり傷がどんどん増えていった。毒がナイフに塗られていたら私は死んでいるかもしれない。



「ハアッ!!」バチチチチチッ!

咲夜「ぐぅっ!?」



全身から霊力を放出し、メイドを牽制した。これも何度目か、飛び退いたメイドはナイフを構えながら私に目を合わせないよう
腕で自分の顔を隠しながら、視線は私の首から下を見るようにしている。



咲夜「フーッ!……フーッ!」



じりじりと、私の隙を窺っていた。





マズイ流れだ。向こうは全力で私を殺しにきている。だが、私にはまだ”次”がある。異変の首謀者、レミリアとの戦いが。

ここで大きく体力や時間を消耗するのは得策じゃない。そう考えているがために全力を出せないのが痛い。

このままでは隙を突かれて致命傷を負うかもしれない。吸血鬼と戦うことも考えれば、フランの血も無駄には出来ないというのに……。



「それにしても、お笑いよねぇ。こんなとんでもない異変を起こした首謀者の従者が、視線恐怖症だなんて」

咲夜「ッ!?」ギリッ……

「さっきまで被ってた仮面はそのためでしょ?他人の視線が怖くて堪らないから、自分の顔を見られたくないくせに、
一方的に自分だけが顔色を窺えるようにしてる。今の私に対してしてるみたいに、自分が優位に立ちたいと思ってるんでしょ?
従者の分際で主人より上に立ちたいだなんて、随分と傲慢な従者じゃない?」



私は一先ず、会話で時間を稼ぐ事にした。休息と、あわよくば隙が見つかる事を願って。


咲夜「……違う」

「ん~?」

咲夜「違うって言ってるのよ!」



また、メイドが視界から一瞬消える。どうやら失敗だったらしい。会話じゃなくて、挑発じみてたのが良くなかったか。


咲夜「お前に!お前なんかに何が分かる!?些細な違いで、与えられているべき全てを奪われた私の気持ちが!」



怒りと悲痛な想いが乗った叫びと同時に、私の目の前に、無数のナイフの壁が出来上がった。隙間など僅かしかない。
ネズミでさえ通り抜けるのは不可能な、ナイフの弾幕だ。



「いっ!?」



そして、ナイフの壁は一直線に、私に迫った。



第五変 終幕

第六変 少女祈祷中.........

一旦休憩です。第六変も今日中に始めますゆえ。しばしお待ちを。

お待たせしました。第六変開始です。






          第六変「似ている二人」







人は幼い頃、何でも知りたがる。どうして空は青いの?どうして虹は出来るの?どうして寒い時に息を吐くと白くなるの?……と。

私の幼い頃……というか、物心ついた頃、私が一番最初に知りたかったのは『化け物』という意味だ。

答えてくれる人は、いなかった。


「…………」


窓の無い暗い部屋。光は扉の僅かな隙間だけ。それが私の世界。

そこに私は、いつも一人だった。誰も、私の疑問に答えてはくれなかった。



「…………」



暗い部屋にたくさん光が零れる時がある。2度、扉が開いて食べ物と水が乗ったトレイとそれを持った片手が、光の中から出てくるのだ。

その手に、私は何度も聞いた。



『ここはどこ?』『私は誰?』『貴方は誰?』



部屋の中にあった僅かな本と、ぼんやりと知っている言葉を使って、そう聞いた。

そうすると、決まって返ってくる言葉は



『黙れ、化け物め』



その一言の後、光は無くなるのだ。後に残った食べ物と水を飲んで、トレイに戻し、私は眠る。

時々本を読んでみるが、結局意味が分からず放り投げ、眠る。これが私の日々だった。





そんな日々が一体どのくらい続いたのだろうか?

終わりを告げたのは、少なくとも、私の髪が身長と同じくらいまで伸びた頃だ。



「…………?」



眠っていた時、部屋の外から聞こえる音に目を覚ました。すごく騒がしかった。

そして、聞いた事もない大きな声が聞こえて、静かになった。


ガチャ!


「!?」ビクッ



目の前が真っ白になった。今まで見たことも無いくらいの光が、部屋の中に入ってきたのだ。

目がすごく痛かった。



『なんだこの部屋は……』

「……?」


それは初めて聞く声だった。私が知っている声と比べればすごく低い声だった。それが私が初めて聞いた男の声だった。





その一言を言ったっきり、その声の主はそこから去ってしまった。声をかける暇も無かった。



「…………」



私は、部屋から出た。ずっと出てみたかった。暗いこの部屋とは違う、眩しくて暖かいその世界に、
私は秘かに興味と憧れを持っていたからだ。

外に出て、私は驚いた。そこは私がいた部屋よりずっと綺麗で、良い匂いがした。

眩しかったその世界も、だんだん目が慣れてくる。階段を上るとふと、鼻に妙な匂いが入り込んだ。



「…………」



その匂いは知っている。頭や手が痒くて引っかいた時に出てくる血の匂いだ。

よく見ると、地面が赤い色でいっぱいだ。



「……?」



奥で誰かが倒れていた。綺麗な服を着た、金色の髪の人。それが、私が始めてみた女で、私の家族。

他に似たような人が二人、二人は姉で、一人は母親だった。(それを知る事が出来たのは、随分先の事になるのだが)

まぁ、その時知ったところで意味は無かったのだろう。全員死んでいたのだから。



「…………?」



そんなことより私が気になったのは、どうしてこの人達と自分は髪の色が違うのだろう、という事だった。





近くに鏡があった。そこで私は自分の姿を知った。



「…………」



3人とは違う、銀色の髪。暗い部屋では分からなかったが、酷く汚れていて、くすんでいた。

そして赤い目。血のように真っ赤で、私自身、少し驚いた。

そして私の全身。倒れている3人と比べれば、なんとも醜く、汚い色がこびり付いていた。

生理的な嫌悪を催した私は、それを洗い流そうとした。色んなところを探し回ると、風呂場に着いた。


チャプ……


「!」



湯船に溜まったお湯に手を入れると、暖かいその感覚に、私は驚きと気持ちよさが込み上げてきた。


ザブン!


「~~~っ」ブルッ

「…………///」フゥ~



私が湯船に入ると、あっという間に、透き通ったお湯が濁ってしまった。けれど、私の体の汚れはよく取れた。





風呂場から出ると、すごく寒くなった。近くにあった布で体を拭いて、色んなところを探し回って、適当に服を着た。

どれも私のサイズに会わず、ぶかぶかだった。



「…………」



それから私は家の中を探検した。私の好奇心と、疑問に答えを求めて探検した。

やがてそれに飽きると、私は家の外に出た。外は暗くて、私が部屋と似ていた。違うのは寒いくて、すごく広いという事だ。



「…………」



それでも、私は外へ出た。多くの知りたい事と、知って得られる楽しい事があると信じて。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



咲夜「だけど世界は!人間は私を裏切った!誰も私を受け入れはしなかった!」

咲夜「”髪と目の色が違う”。それだけで私は化け物と呼ばれ、親も、姉たちも、私を暗い部屋に閉じ込めたんだと知った!」





咲夜「故郷を追い出され、国を超えても、私の居場所は無かった!皆、私を暗い世界に閉じ込めようとする!」


咲夜「人間に成りたかった……皆に人間と認めてもらいたかった!」


咲夜「だから化け物を殺しまわった!!あんな醜い奴らとは違う!私は人を襲ったりしない!そう知って欲しかった!」


咲夜「そしたら今度は私を”悪魔”だと言った!化け物を喰らう悪魔だと!!」


咲夜「私は……私はもう暗闇の中で……闇の中で生きるしかないと思った。もう、私をあんな目で見て欲しくなかったから……」


咲夜「お嬢様が、お嬢様だけが私を見つけてくれた!闇の中で生きて、闇に成るしかなかった私を!”影”として
   傍に居させていただいた!お嬢様の傍にいる事で、私はやっと人間に成れた!!」


咲夜「お嬢様は私に全て与えてくれた!だから私はお嬢様の望みを叶える!完璧なお嬢様の影として、お嬢様に仇名す害悪は絶対に排除する!!」


「………っ」ペッ



私は血反吐を吐き、体に刺さったナイフを全て抜き取って、フランの血で治療した。



咲夜「うっとおしいアイテムね」

咲夜「でも、私は負けない……人間には……私を裏切った人間だけは、絶対に負けない!」

咲夜「かかってこい!たとえこの命尽きても、お前を殺す!」

「……さい」

咲夜「……?」

「うるさいっつってんのよ!!」



私はそう叫び、メイドに向かって突っ込んだ。





咲夜「な、クッ!」ヒュッ


「こっちが黙って聞いていればウダウダグチグチどっかで聞いた事あるような不幸や不満を垂れ流して!」キィン!



私の様子に動揺したのか、時間を止める事も忘れてただナイフを投げる。そんな攻撃、私には通じないのだけれど。



「人間と認めて貰いたかった?そんなもの自分で認めれば済む話じゃない!他人の意見なんか借りるな!
 アンタが自分のことを人間と思ったのなら、その時既にアンタは人間よ!胸を張って堂々としてれば良い!!」


咲夜「そ、それお前ら人間が否定したんでしょ!自分を肯定する事さえ、私には許されなかった!お嬢様だけが、私を人間だと言ってくれた!」


「あぁそうですか!!」


咲夜「あ……あぁそうですか!?」


「ならどうしてアンタは仮面なんか付けてたのよ!お嬢様の傍なら人間なんでしょ!?アンタを人間として見てくれるんでしょ!
 何時までも人目を気にしてんじゃないわよ!どんな目で見られようが、人間ならそんな目気にするな!!」


咲夜「うっ……クッ!」ギリッ


「お嬢様が全て与えてくれた?だから願いを叶える?馬鹿な事言ってんじゃないわよ!忠誠心のある従者のつもり!?
 捨てられるの怖くて尻尾振ってる犬ッコロじゃない!お嬢様の事を思うなら、人間らしく好きなことをすればいいじゃない!!」


咲夜「なっ!……だ、黙れ!どうしようと私の勝手よ!!第一そんな事、お嬢様が認める訳が無い!!」


「アンタの事を思うなら、アンタにそうして欲しいと願うはずよ!!」


風呂です。

再開します。




もう、私達は戦っていなかった。互いに服をつかみ合い、ただの口喧嘩になっていた。



咲夜「知った風な口を利くな!」

「分かるわよ!」

咲夜「嘘をつくな!!」

「嘘じゃない!!」


「私もアンタと同じ、親に捨てられ、妖怪に拾われたんだから!!」


咲夜「……な……に?」



私の服を掴む力が、一気に無くなった。



「私は赤ん坊の頃親に捨てられた!でも誰が親だったのかは分からない!里の人も、私自身も、誰が生んだのか分からなかった!
 ただ神社の境内に捨てられ、何時生まれたのかも、名前も分からなかった!!」

「私を拾った里の教師が私に名前を与えた!けど、この霊力のせいで同じ里の子供たちや大人からも気味悪がられて、
 紫に拾われるまで、私に居場所なんて無かった!」

「紫は言った。好きなように生きろって!自分らしく生きているなら、それ以上は望まないって!」

咲夜「……憎くないの」

「あ”ぁ?」

咲夜「貴方を捨てた親が……貴方を受け入れなかった里の人間が、憎くないの?」

「最初は憎んだわよ!でも、それ以上に!」



「私は、この幻想郷が好きなのよ!!」





「この幻想郷は全てを受け入れる。それは時々残酷だけど、優しい事でもあるから……」

「こんな私でも幻想郷は受け入れてくれた。里の人にはまだ慣れないけど、仲良くやってるわ。貴方もきっと
 幻想郷は受け入れてくれる。この世界は、外の世界で零れ落ちた者たちが行き着く、最後の楽園だから」

咲夜「必要ない……私は、お嬢様さえいれば……」

「人目を気にしてるくせに何言ってるのよ。アンタ、本当は今でも同じ人間に、自分は人間だって認めて欲しいんでしょ?」

咲夜「!?」



だから仮面で隠していたんだろう。自分でも怖がった、赤い目を怖がって欲しくなくて。



「そんなに気にするなら、私が認めてあげる。同じ人間の、私がね」

咲夜「……っ!どうして!貴方はそんな事が出来るのよ!私は貴方を!」

「言ったでしょ。私はこの幻想郷が好きなのよ。貴方もまた、幻想郷の一部よ」



私はメイドを……咲夜を抱きしめた。美鈴さんのように出来たかは分からないが、精一杯、受け止めるように抱きしめたつもりだ。



「私と友達になりましょう。咲夜」

咲夜「っ!……何なのよ……訳が分からないわ……」



体が少し、震えていた。誰かに抱きしめてもらった事が、余り無いのだろうか。



「あ、友達として最初に言っておきたいんだけど」

咲夜「?」

「私やられた分だけやり返すタイプだから」


バチチチチチチチチチ!!!


咲夜「アガアアアアアアアアアアアアア!!?」



全身から霊力を放って送り込んでやった。抱きしめているから、全身に一気にくらっただろう。ちょっとした雷が落ちた気分だろう。


×:ちょっとした雷が落ちた気分だろう
○:ちょっとした雷が落ちた気分かもしれない。




咲夜「あ、貴方……最……低……」ドサッ

「人の柔肌を何度も傷つけといてよく言うわよ。あ~疲れた」



やっと決着が付いた。床に倒れた咲夜を壁に寄せて背を預けさせ、私は部屋の奥へと進んだ。

道中消費した道具を確認する。御札が半分ほど減っていた。封魔針は全然減っていない。吸血鬼を相手するには大いに越したことは無い。



「さぁ~て、一体お嬢様とやらはどこかしらね~?」



と、適当に歩いていると、なにやら大きな扉の前に来た。妙に大きく、いかにもこの部屋は特別ですって感じの。



「ふむ。どれどれ~?」



がちゃりと、大きな扉を開けて中に入ると、そこは巨大な図書館だった。梯子でも使わなければ届かないような高さの本棚が、たくさんある。



「わ~お。壮観ね。……ん?」



通路の真ん中、この図書館の中心辺りの上空で、光が何度も瞬いた。その光はどこか見覚えがあって……



「魔理沙!?」

魔理沙「霊夢!?」



魔理沙の魔法だった。箒に乗って空を飛び回る魔理沙と目が合い、魔理沙は私を見て驚くが、すぐさま焦った顔になる。





魔理沙「霊夢逃げろ!!

「はぁ?」

魔理沙「コイツはヤバイ!!私が時間を稼ぐからお前は早く」

???「残念だがその選択で得た”運命”も、最悪だ」

魔理沙「!?」



どこからか聞こえたその声に、魔理沙は振り返った。



魔理沙「ファイナル!」

???「遅い」



ドバンッ!!!



魔理沙は恐らく、マスタースパークを撃とうとしたんだろう。だが、それよりも早く



「…………え?」



魔理沙「ァ……ガハッ!!」



魔理沙の胴体に穴が開き、一目見て致死量だと分かるほどの血を吐きながら、魔理沙は空中から落ちてきた。



「魔理沙ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」



私は、地面にまっさかさまに落ちていく魔理沙の元へと、駆けていった。



第六変 終幕

第七変 少女祈祷中.........

次から過去編突入です。やっとこさ出番ですよ。お嬢様。

今日もやろうかな。

そろそろ投下します。











          第七変「紅い過去:始まり」












『ジャック・ザ・リッパー』という名前を聞いたことはあるだろうか。


猟奇的といえる残虐な殺人を繰り返し、それでいて、警察をあざ笑うかのように証拠を残さない、恐ろしく狡猾な殺人鬼。


誰もがその名を恐れる。最も恐れられているのは、殺害方法や、殺害人数ではない。正体不明という点だ。


ある者は大男だと言い。ある者は女のように細身だと言い、またある者は路地裏に住む子供だとか、複数犯だという者もいた。


誰もが正体を知りたがる。未知ほど人類が恐れる物は無いのだから。


そんなに知りたいなら、私が教えてやる。


ソイツは私の目の前にいるのだから。


「…………」


ガリ……ガリ……ガリ……


薄暗い地下。石の壁と幾つもの蝋燭に囲まれたほんのり明るいその場所で、地面に”魔法陣を描く”この男こそ、
今世間を騒がす『ジャック・ザ・リッパー』と呼ばれていた男だ。

私も何度か人相を想像したことはあったが、なんとも地味な顔立ちだ。身体的特徴もこれと言ってない。中肉中背だ。

特に人に威圧感を感じさせないような、道ですれ違っても特に記憶に残らないような、地味な雰囲気の男だ。

それが第一印象。



「…………」

「……ゥゥ……アア……」ジャラ



私は、その男に拉致され、監禁されている。

いや。私だけじゃない。私の妹も一緒だ。





両親はいない。この男に殺された。

最初は押し込み強盗かと思った。だがこの地下に監禁されてから、やがてコイツが『ジャック・ザ・リッパー』なのだとわかった。

そして、この男が『魔法使い』であることも。

特定されるような証拠を殺害現場に残さないのも、目撃情報が曖昧なのも、この男が魔法使いなのだと分かった時、驚きこそすれ、納得したものだ。

人を殺すことに飽き、魔法を使って新たな楽しみを覚えたといった。その最初の犠牲者が、私と妹というわけだ。



「…………」



殺してやりたい。

この地下に閉じ込められてから、どれほどそう思っただろう。

一貴族の長として気丈に、決してこの男に屈しない事でしか、私の抵抗する術は無かった。



「…………」



何があろうと、決して助けは請わない。泣き叫びもしない。



「ぅ……ぁああああぁぁぁあああっ!ア”ア”ア”ア”ア”!!!!!」ガシャンガシャン!

「…………ッ」ギリッ



たとえ、私の愛する妹を悪魔達に憑かせて人格を破壊し、人殺しの道具にされようとも、だ。





『吸血鬼』


男は私達を化け物に変えた。

悪魔に体を捧げ、人格を破壊し、人間を超越した力をつけさせたのだ。

男いわく、元ははるか昔の魔法使いが、不老不死へと至る方法の一つとして編み出された魔術の失敗作によって生まれた物らしいが、どうでもいい。

私と妹は吸血鬼にされたのだ。だが、元来魔法使いという特異な人種を化け物に変えてしまうその魔術は、人間にとっては害でしかない。

悪魔に体を捧げるという事が、幼い私の妹にとってどれだけ苦痛だろうか。人格が破壊され、ただ獣のように叫び声を
上げるだけになってしまった今となっては、その苦しみを察するまでもなくなった。

妹は悪魔が乗り移りやすい肉体らしい。それをいいことにこの男は、私の妹に3体も悪魔を憑かせた。

1体だけでも、自我を保つのに必死な私と違って、妹がどれだけ苦しい思いをしているかなど、常に耳を引き裂くような叫び声を聞けば分かる。



「…………」

『♪~♪~~』


ガリッ……ガリッ……ガリッ……


まるで一流のオペラに聞き入るかのように、男は妹の叫び声に頬を緩ませながら魔法陣を書き続ける。

この魔法陣は妹を操るための物。この男は吸血鬼にするだけでは飽き足らず、妹を操り、かつて自分がそうしていたように、人を殺させていた。

夜な夜な妹を連れ出しては、人気の無い場所に見かけた人を連れ込むなどして、妹に命令して肉塊に変えた。

獣のように飛び掛った妹を相手に、皆為すすべも無く死んでいった。

人間を超越した腕力で押さえ込まれ、肉を引き千切られ、血を干からびるまで吸い尽くされるか、食い散らかされた。


なぜ知っているかと言えば、私もその場にいるからだ。妹が人を殺すところを、この男がわざわざ見せつけさせるのだ。





この男に拉致されてから、私はこの男に屈するまいと気丈に振舞っていた。

それが妹にとって唯一の家族となってしまった、姉としての為すべき事であると思っていたから。

精神的な支えを失ってしまえば、妹はきっと壊れてしまうと思ったからだ。

それに、この男にとって少女の泣き叫ぶ姿など愉悦としか感じないだろう。

そんなのはゴメンだ。何があろうとこの男に屈しはしない。私はそう決意した。

男の方も容易に命乞いもしない私に感心したのか、私を殺すよりも、私の心をへし折る事を決めたようだった。


上等だ。お前に何をされようとも、このレミリア・スカーレットは屈しはしない!!


それが妹の為にもなると思った。男が私に興味を持っている内は妹に手出しはしないだろうと、そう思っていた。

だが甘い考えだった。妹は悪魔に憑かれ心を壊されてしまった。それどころか、その手を血で汚されてしまった。



フランドール「ウわアアアアアアああああああ!!アア!!アアアアアアアアアアア!!!」

(……フラン)ギリッ



妹の悲鳴を聞くたびに、私は心が揺れてしまう。妹が獣のように人を食い殺す様を見せ付けられるたびに、止めろと叫びたくなる。

だがそれは出来ない。それはこの男に屈するのと同じ。そうなればきっと、私はこの男に殺されてしまう。


私は死ぬわけにはいかない。この男を殺し、妹と共に人間に戻るまで、何としてでも生きる。


そのために、私はチャンスを待った。この男を殺すためのチャンスを。





この男が私も吸血鬼にしたのは好都合だった。

恐らく私を屈服させるための手段の一つなのだろう。

自分の体が自分の物でない様な感覚は、最初は君が悪くて時々意識が朦朧するし、吐き気がする。

だが凄まじい力がこの体に宿っているのも分かる。自由に動かせるようになれば、この男の首をへし折る事くらい造作も無い。



「…………」



そのために必要なのは、今この男が鼻歌交じりに描く魔法陣の破壊だ。

この魔法陣は私とフランを逆らえなくするための物。一度この魔法陣が起動すれば、1週間はこの男の言いなりだ。

幸いにもこの魔法陣は持続期間があり、効力が切れる前に上書きしなければならない。



「…………」



次にこの首輪と壁に繋がれた手首に巻かれた鎖。鎖は引きちぎれるだろうが、問題は首輪。

この首輪には魔法が掛けられていて、術者の視界に写っている内に反抗するような態度を見せれば激痛が走るという魔法だ。

吸血鬼となった今でも、この痛みは厄介だ。魔法陣の効力ほどではないが、身動きが取れなくなる。

魔法陣をどうにか出来ても、この男に見られていれば終わりだ。私は殺されるだろう。

だから、チャンスは一度きり。それも一瞬で決着を着けなくてはならない。





魔法に関して私は素人だが、魔法陣は少しでも書き損じれば効力を発揮しないことは分かった。

この男は一部の間違いも無いよう、入念に魔法陣をチェックするからだ。

ほんの少し歪んでいる程度でも、この男は自分が納得いくまで書き直す。

神経質なだけとも言えるかもしれないが、首輪という保険があったとしても、吸血鬼二人を自由にしてしまう可能性があるのだから当然か。



「…………」

『…………良し』



そして、魔法陣の上書きが終わった。後は呪文を唱えれば、私達は1週間この男の言いなりだ。

男は再度魔法陣を見直し、書き損じが無いかしっかりチェックした後、呪文を唱え始めた。

魔法陣が怪しく輝くと、背筋から気色悪い感覚が走る。肉体の支配が始まっているのだ。

男は油断無く、私とフランを見たまま呪文を唱える。



「…………」ニヤ……

『?』



チャンスが、来た。


ご飯です

再開です。




ブチュン!


『なっ!?』



私は舌を噛み切った。首輪の魔法は発動しない。自傷行為は術者への反抗には含まれない事は、何度がこの男に逆らって分かっていた。

そして、私は噛み切った舌が再生し、切り落とした方の舌が消えてなくならに内に、飛ばした。

私の行動に隙を疲れた男の目に、切り落とした舌が命中する。



『グッ!?』

「ガアアアアアアア!!」バリバリバリバリバリ!!



いかに柔らかい舌といえども、吸血鬼の常人を超えた肺活量から繰り出されればさぞ痛いだろう。男は目を押さえてふらつく。

私も首輪の魔法で痛みを負うが、この男を殺す最初で最後のチャンスと気力を振り絞り、鎖を引きちぎる。



「フン!」ブチッ!



ふらついた男の視界に私は写っていない。この隙に首輪も引きちぎる。


これで、私は自由になった。



『クッ……お前!』

「地獄に、落ちろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」



私は力の限り男を殴った。どこでもいい、とにかく当たりさえすれば良かった。





ビシャア!

ドサッ……



飛び掛って殴った私の拳が男の腹に風穴を開けるのは簡単だった。

内臓が撒き散らされ、男はその場に倒れ付した。



「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」



殺した。

初めて、人を殺した。

特別、私の心に揺らぎは無い。こうなって当然の下種がそうなっただけの事なのだから。



「フラン!」



私は男が死んでいるのを確認して、フランに駆け寄った。



「フラン!しっかりしろ!」

フランドール「ゥ?……アァ……カ……」



生気のない瞳で、フランは私を見る。正気じゃないのは明らかだった。あの男を殺しても、体に憑いた悪魔が消える訳も無い。



「っ……フラン、聞いて」



きっと私の言葉が聞こえても、理解は出来ないだろう。それでも、私はフランに言いたかった。





「私は必ずお前を守る!そしてお前を人間に戻す!二人で人間に戻って、二人で静かな場所で暮らしましょう!」

「もう誰もお前にあんな酷い事をさせはしない!必ずだ!……だから」

「だからもう少しだけ……ここで待ってて」



私は魔法の知識が乏しい。

私たちを吸血鬼にしたのが魔法なら、私たちを人間に戻すのも魔法が必要だ。

他人の力など借りることは出来ないだろう。独学で魔法を学ばなければならない。



「すまないフラン。……必ず約束は守る」

フランドール「ウゥゥうう……ァア?」



そっと、私はフランを抱きしめた。久しぶりに触れたフランの体は、とても冷たかった。

この体に宿っていた温もりを必ず取り戻す。

私はそう決意して、フランを放した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



私は地下室を出て男の死体を焼却炉で始末し、私は一先ず、男の家を調べることにした。

まぁ、家というよりは館だ。かつて家族で暮らしていた場所のように広大で、風格のある館だった。



「ま、ここまで紅くは無かったがな」



壁や床、天井や家具に至るまで、この館は紅く染まっていた。

フランと共に外へ連れて行かれるときは目隠しをされていたため分からなかったが、まさかこんな館の地下に閉じ込められていたとは……



「まともな精神をしている男ではなかったが……まぁ、センスは良いんじゃないか」





空を見上げると、外はなんとも綺麗な夜空が広がっていた。特に白く輝く月が、なんとも綺麗だった。

あの男に捕らわれてから幾度と無く外へ出たが、夜空とはこんなにも綺麗だったのだろうか。



「…………月って、こんなにも綺麗だったね」



いつかフランにも、同じ思いをさせてやりたい。

人間に戻って、一緒に月を見よう。

そしたら今度は太陽の下で、一杯遊ぼう。

暗くなるまで一緒に遊んで、夜になったらまた月をみて、一緒のベットで寝よう。



「いつか必ず……人間に戻った日に……」



そうだ。必ず人間に戻る。







戻れると、私は信じていた。






少女祈祷中.........

次回、パッチェさんの出番。

若かりし頃の(失礼)パッチェさんの活躍をご期待下さい。b

近々更新します。

本日更新でっす。

ついで言えば前回の第七変は終了でした。

ぼちぼち行きます











          第八変「紅い過去:出会い」












「クソッ……」



私があの男を殺して数日後、私はこの館にある魔法に関する書物を漁っていた。

この館には図書館のように大量の本がある場所があった。

とてつもなく膨大な量で、きっとここには私の求める物があると思っていた。



「”固有結界”ってなんだ!”禁書目録”ってなんだ!この本の著者は小説家志望だったのか!!」バシーン!



適当に本を読み漁ってみたものの、一体どの本が私の求める物が書かれている本なのかまるで分からない。

というかそもそも字が読めない物がほとんどだった。



「やはり”知識”が必要だ。……それも私のような、今まで魔法と無縁だった者が知るべき基礎知識が……」



土台無くして高みに届くはずも無い。この書物の山の中にある目的の本を探すには、自分が必要とするべき知識を持たなくてはならない。

魔法は人知を超えた物。説明書のような物があるわけが無いのだ。



「といっても、何から学んだものか……いっそ教師のような人物と出会えたらいいのだが……」



だが果たしてこの世にどれだけの魔法使いがいるのだろうか?

あの男も、性格こそ常人を逸脱こそしていたが、見た目はただの人間とそう変わりは無い。

魔法の力を使えば周りから魔法使いとバレないようにすることくらい、造作も無いだろう。





カランカラーン


「……ん?」


ベルの音が聞こえた。誰かがこの館にやって来たらしい。


「……誰だ」


この館に来客が?あの男には家に招き入れるほどの交友関係が深い仲の相手がいたのか?

まぁとにかく、警戒するに越したことは無いだろう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ガチャン


「……どちら様ですか?」


玄関を開けてその先にある門の前に来ると、外にローブを羽織った女がいた。

めんどくさそうというか気だるげな目をした女で、今にもこの館に来た目的を放棄して昼寝でもしそうな雰囲気を纏っていた。


???「?……誰よ。アンタ」


女は私の顔を見るや露骨に違和感を感じているような顔をして首を捻る。


「……」


これはマズイ。あの男の知り合いか?いや、決め付けるのはまだ早いな。





「……私は……つい最近雇われたメイドです」


この女があの男とどういった関係かは分からないが、これならあまり疑われる事もないか?


???「メイド?……随分ちっさいメイドね」


身長の事は言うな。自分でも気にしてるのに。ていうかお前も似たようなものだろう。


「あの、一体どちら様でしょうか?ご主人様になにか?生憎ご主人様は昨日から旅行に出かけておられまして、
 いつ頃お戻りになるかは定かではないのですが?」

???「……いいわ。本人に会えないんじゃここに来た意味もないし」


ため息をつくと面倒くさそうに去っていく。さして重要そうでもなさそう。新聞か何かの勧誘か?


???「……そういえば、貴方」


が、少しだけ立ち止まり振り返った。


???「こんな良い天気なのに、”どうして傘なんてさしてるのかしら?”」

「!? そ、それは……」

???「…………」


吸血鬼だから、なんて言えない。吸血鬼の私は日光を浴びれば文字通り体が炎に包まれる。正直、地面に反射する光さえ
気分を悪くしているくらいだ。


「恥ずかしながら私、生まれつき肌が弱いんです。直に陽の光を浴びると、肌が炎症を起こしてしまいがちで……」

???「…………あっそう。それは難儀な事で」


特に興味もなさげに、女はそう言って今度こそ去っていった。





バタン


「全く、何なんだアイツは……」


何か目的があってこの館に来たんだろう。おそらくはあの男が目的だろうが、あんな私と同じくらいの年頃の女があの男に一体何の要だ?

仲間?だが今まで一度もそんな存在を仄めかすような言動も行動もあの男はしなかった。

警官という事も無いだろう。まさか、探偵か?


「……いや、考えていても仕方ない」


たとえ奴があの男に何らかの狙いがあったのだとしても、あの男はもういない。探したところで見つかる訳でもない。

きっとあの女も諦めるだろう。


「さてと、また本を虱潰しに調べていくか……」


現状、それが私に出来る精一杯の努力だ。


「……フラン」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「参ったな……」


あらかた読みつくしてしまった。というか、どれ一つとしてまともに読めた本が無かった。

どうした物かと考えて、一つ、思い浮かぶ。


「外に出てみる……か」





井の中から出なければ大海を知ることも出来ない。魔法を学ぶ術がここだけにしかないというわけでもあるまい。
適当に本屋でも忍び込んで、魔法使いの逸話や伝説が書かれている本でも探すか?

他人には絵空事が書かれているとしか思えない物でも、案外真実に近づくヒントにはなるかもしれない。
上手くいけば、ただの古本と思われている物の中に魔導書があるかもしれない。


「あまり人目につかない深夜にでも出るか」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……まぁ、見つかるわけも無いか」


この街で一番大きな図書館から出てきた私は、暗闇に紛れて路地裏を通りながら呟く。

侵入なんて簡単だ。鎖だろうが南京錠だろうが、腕力でこじ開ければいいのだから。

少し中を荒らしてしまったが、まぁ、盗人が入ったと思われるだけだろう。誰も吸血鬼が入ったとは思うまい。


「もう一軒あたってみるか?」


夜明けまでまだまだ時間はある。今は一刻を争う事態だ。無駄に終わろうとも、じっとしてはいられない。

今度は古本屋にでもと考えていた時


――――――ザッ


「……?」


背後で、足音が聞こえた。

こんな夜更けに出歩く者が?警官か?

私は少し気になって振り向いた。





???1「…………」

???2「…………」

「何……だ……?」


そこにいたのは黒い衣装に身を包んだ二人組みの女達だった。フードを深く被り、顔を見えないようにしている。

一人は大きな本を小脇に抱えていた。


???1「なんだ、家にいないから感づいて逃げたと思ったのだけれど、こんなところで見つかるなんて」

???2「ラッキーでしたね。パチュリー様」


一人が本を抱えたもう一人の名前を呼びながら前に出て、フードをとる。

赤い髪の長髪の女だった。だが、なにより特徴的なのは頭に生えたコウモリの羽のような物だ。


パチュリー「じゃあいつも通りよろしくね。”こあ”」

こあ「はい。パチュリー様」

「!?……お、お前は!」


本を抱えたもう一人もフードをとると、そいつは昼間に見た女だった。


「なぜお前が……私に」


何の用だ。

そう聞く前に


こあ「バァイ♪」ヒュオッ!

「ッ!?」


赤髪の女の手が、私の喉に届いていた。


少女祈祷中.........

また近いうちに・・・

お待たせしました。明日更新します。

さぁそろそろ行かないと。

一ヶ月近くのペースで更新するこんな亀>>1のSSを見てくださる皆様には頭が下がります。

ところでもこうどんが自機って話はマジですか?




ザシュッ……!


「ガッ……ヒュッ!?」


一瞬で喉を抉り取られた。余りの痛みに悲鳴を上げたいが、喉から空気が漏れる音が聞こえただけだった。


こあ「あり?」


赤髪の女が首を傾げる。一体何に疑問を持っているかは分からないが、それは寧ろ私の方だ。

吸血鬼の再生能力の高さのお陰ですぐに痛みは無くなり、再生が始まる。その間にも、私は後ろに下がって距離を取る。


こあ「おっかしーなー。首取ったと思ったのに?」

パチュリー「馬鹿。後ろに下がって避けたのよ。その辺の雑魚って訳でもなさそうだから、もう少し真面目にやりなさい」

こあ「うえ~。やだな~楽じゃない仕事って」


うんざりしたような顔をして、赤髪の女は構える。


こあ「サポートお願いしますよ~」

パチュリー「貴方次第よ」

「ま、待て!お前ら一体何なんだ!?なぜ私を殺そうとする!?」


私は吸血鬼になってからというもの、あの男を除けば人を襲った事など一度も無い。

恨まれる筋合いは無いはずだ。まさか、あの男の仲間か?





パチュリー「決まってるでしょ。貴方が”吸血鬼”だからよ」

「!? い、いや、待て!私は確かに吸血鬼だが、それがなぜ私を殺す理由になる!」

パチュリー「とぼけても無駄よ。ここ最近までこの街で騒がれていた”連続変死体事件”あれは貴方がやった事でしょう?」

「ッ!?」

パチュリー「死体は骨一つ残っていない。けれど、現場には明らかに致死量の血液が残されている。まるで、獣に食われたみたいにね。
      僅かに残っていた肉片から、”誰かが殺されている”という事は明らか。そんな事件が10も20も続いてれば、誰だって
      人間の出来る事じゃないくらい予想がつく。ただの人間にはまぁ、吸血鬼の仕業という発想には到らなかったけどね」

「…………」


確かに、私はその事件に関わっている。だが私は人を襲ってはいない。襲ったのは……フランだ。


パチュリー「あれだけの事をしておいて、まさか誰からも恨まれず殺される事も無いなんて、そんな馬鹿な話は無いわよね」

パチュリー「私は依頼されたの。『怪物』退治の依頼をね。まぁあとは、”魔法使いの掟”って奴よ」

「! 魔法使い?……お前、魔法使いなのか!?」

パチュリー「正確に言うなら、”魔女”だけどね」


どこに違いがあるかは分からないが、まさか向こうから会いに来てくれるとは思わなかった。と、喜びたいところだが……


「……聞いてくれ、私は私かに吸血鬼だが、人を襲った事など一度も無い!」

こあ「じょーだんキツイっすよ。貴方、血の匂いがプンプンしてるのに、誤魔化せるとでも?」

「っ!……こ、これは!」


あの男は確かに殺した。だが奴は殺されて然るべき獣だ。


だが……


「……くっ」


私の手は、血で汚れている。

それは紛れも無く、人間の血で汚れているのだ。





こあ「ま、言い逃れは出来ないっつーことで、今度こそ……」


ひゅおッ!!


「!?」


また、一瞬で距離を詰められた。

喉を狙われると思い両手を盾にする。


こあ「さぁ!」


ズバン!!


だが、両腕ごと切り落とされた。手から伸びた、ナイフほどの長さも無い爪で、私の腕はまるでバターのように
容易く切り落とされた。


こあ「よっ!」

こあ「うっ!」

こあ「なっ!」

こあ「らああああああッ!!」


ズバババババババババ!!


鼻を、肩を、喉を、耳を、瞼を、額を、上半身のあらゆる場所を切り裂かれた。


こあ「ドーーーーーーーーーーーン!!」


ドゴーーーン!!


最後の蹴りで、私は建物の壁に叩きつけられた。


こあ「勝った!今日のお仕事……完ッ!!」ドーーーーン!





こあ「ふぅ、あ~つかれ」

パチュリー「このド阿呆」


ボウッ!!


こあ「あちゃああああああ!!?」


一仕事終えて愚痴を零そうとしたこあの頭が、炎上した。


こあ「あちゃ!あっつ!!あちちちちちち!!なにすんじゃあああああ!!」


地面を転げまわって炎を消すと、こあは頭に火をつけたパチュリーに罵声を浴びせる。


こあ「何考えてんすかこのモヤシ!!一仕事終えた使い魔の頭燃やすとかどんなご褒美だよ!ドMでも拷問だよ!!」

パチュリー「良く見なさい。あいつが逃げたじゃない」

こあ「はぁ!?」


パチュリーが指差す方を見ると、レミリアを叩き付けた壁には大きな穴が開いていた。

そこに、レミリアの姿はどこにもない。


こあ「……え!?あんだけ刻んでも生きてるとかあの吸血鬼どんだけぇ!?」

パチュリー「だから貴方は低級悪魔なのよ。……はぁ~、もういい。今日の相手は貴方には荷が重いらしいわね」

パチュリー「交代しなさい。貴方は私の援護。あいつは私が仕留めるわ」





レミリア「う、ぐっ……くそっ……さすがに痛いな、これは……」ゼェ ゼェ


レミリアは建物の裏口か出ると、壁に手を付きながら歩いていた。

吸血鬼の再生能力のお陰で怪我自体はすぐに治っていくが、襲ってきたこれまでにない痛みはレミリアの精神を蝕む。


レミリア「これからどうする……魔法使いに会えたは良いが、まさか敵として出会う事になるとは、な」


説得は、多分無理だろう。

染み付いている血の匂い。恐らくあの男を殺した時についた血だけではなく、フランが人を殺すところを見せられていた時に
ついた返り血の分もあるのだろう。

こちらの言葉を聞いてくれるはずもない。


レミリア「なら、戦うしかないのか……」


だが魔法使いはおろか、その部下らしき相手に手も足も出なかった。

そんな自分が2人同時に相手にして勝てる見込みが無い事は明白。


レミリア「ははっ。どうしてこうなるんだ……」


希望と絶望が同時にやってきたようなこの状況にレミリアは思わず天を仰ぐ。

空には丁度、夜空は雲が晴れ、満月が現れた。





―――――――ドクン


レミリア「えっ……」


途端に、レミリアの思考は停止した。


―――――ドクン


レミリア「な……ぁ……」


―――ドクン


自分に襲い掛かってきた二人組みのことも、魔法使いから魔法を学びたかったことも、人間に戻りたかったことも、


妹のフランドールのことも、頭の中から消えていく。


レミリア「ぅ……ぁ……」


ドクン!


レミリア「」


スッ、と体の中が何かが抜け落ちていく。レミリアは抜け殻のように、月を見上げたまま固まってしまう。


そして、レミリアは


「………………………………………………………………………………………………………………………………あは♪」


喉が、渇いた。



第八変 終幕

第九変 少女祈祷中.........

ここまでです。

短い?私もそう思います。

近い内に。

本当に申し訳ないです。リアルが立て込んで近いうちじゃなくなってしまいました。

連休中には投下できます。

今度こそ近日更新です。お待たせしました。

本日中には。

長らくお待たせしました。やります。











          第九変「紅い過去:吸血鬼と魔女」












パチュリー「そもそも、どうして吸血鬼を狩る必要があるのか」


パチュリー「魔法使いは不老。よって半永遠的に生きることが出来るけど、”不死”ではない」


パチュリー「かつて死を恐れた魔法使いが不死となるため、自らの肉体を魔法の力で変異させようとした」


パチュリー「ありとあらゆる手段を用いた結果、全て失敗。それでも諦め切れなかったその魔法使いの執念が、
      ある時、”禁術”を生んだ」


パチュリー「手に入れたのは不老不死。そして魔法使いよりも強大な力。しかし日のあたる世界からは二度と戻れなくなるという
      代償と、他者の血という犠牲を必要とした」


パチュリー「しかも、それは己の身を悪魔に捧げるというおぞましい方法だった。」


パチュリー「私達魔法使い……まぁ私は生まれながらの魔法使いゆえに魔女ってカテゴリーされるんだけど」


パチュリー「ともかく、私達魔法使いにとって不都合なのは、生きるだけでも他者の犠牲を必要とする点と、悪魔を身に宿すってところよ」


パチュリー「ただの低俗な人間がどうなろうが基本興味は無いけれど、減りすぎても困るのよ。文明の発達は魔法使いにとって
      時として新たな魔法の発見に繋がる事もあるし、何より生きづらいわ」


パチュリー「悪魔を身に宿すって方法もそう。この世に魔界の生き物が溢れれば、魔界へ繋がる”道”を作る事になる。
      それは世界の崩壊を招きかねない。絶対に避けなくてはならない”災厄”よ」


パチュリー「そんなわけで、魔法使いの掟として、”吸血鬼は殺せ”ってのがあるわけ」


パチュリー「……なんて、いったところで”今の”貴方には聞こえてないでしょうけどね」


魔導書を広げ、パチュリーは構える。


レミリア「…………あはぁ♪」


パチュリーの目の前には、夜空に浮かぶ満月に見蕩れているレミリアがいた。それまでの彼女の様子とは違う。
少なくとも、満月に見蕩れていられるような余裕は無かったはずなのに。





パチュリー「吸血鬼は満月によってさらなる力を得る」

パチュリー「それはつまり、身に宿した悪魔を活性化させるということ。つまり魂を食われるということ」

レミリア「…………?」

パチュリー「”飲まれた”わね。貴方」

レミリア「―――――うふ」

レミリア「アッハハハハハハハハハハハハ!!」


ボッ!!


レミリアは狂気に満ちた笑い声を上げながら、地面を蹴った。地面はえぐれ、粉塵を巻き起こす。

目にも止まらぬ速さは、ただの突進と言えども、到底人間では防ぐどころか、避ける術も殆ど無いだろう。


ガキィン!!


パチュリー「へぇ、これは結構ッ! 」


拳がパチュリーの顔面に迫る前に、結界によって遮られる。が、結界にはヒビが入る。


パチュリー(おかしい。満月で理性を失う個体は全て下級。この結界にここまでのダメーシを与えられた事なんて無いっ!)


ビキッ!


パチュリー(次の結界の構築が間に合わないッ!)




パァン!


ヒビは決壊全体に広がり、レミリアが二撃目を打ち込むよりも先に砕けた。


パチュリー「このっ!?」

レミリア「カアアアアア!!」


獣の如く開かれた口から見える牙が、パチュリーの首を狙う。


ガキン!


パチュリー「っ!?」


体を大きくそらし、牙から逃れたパチュリーは結界の構築よりも先に風の魔法で自身を吹き飛ばして距離を取る。


ザザァ……


パチュリー「参ったわね。……元人間の割には随分強力な吸血鬼になったじゃない」

レミリア「えへ♪」

パチュリー「えへ♪じゃないで……しょッ!」


ビカッ!


結界の構築と同時に、光線を放つ。直接急所を狙うよりも、まずは機動力を削ぐ為に手足を狙った。


ビッ!


レミリア「?……ア~」


その一撃はレミリアの肩を射抜き、そのままレミリアの腕を千切り飛ばした。




呆けたように自分の千切れた腕を見ているレミリア。肩からは大量の血が出ていたが、
すぐにそれも治まり、新たな腕が生えようとしていた。


パチュリー「少しは痛がる素振りぐらい見せなさいよ」


シパパパパパ!


レミリア「おー……」


続く風の刃でレミリアの体が斬り刻まれていく。しかしやはりレミリアは無反応だ。

肌が裂かれ、血飛沫を撒き散らしているにも関わらず、呆けた顔は変わらない。


レミリア「きゃはきゃは♪」

パチュリー(何なのコイツ。理性がぶっ飛んでるって言っても生存本能や吸血衝動が無いわけじゃない筈。
      再生能力にものいわせた特攻を仕掛けてくるわけでもない。ただそこに突っ立ってるだけなんて……)

パチュリー(いや、狂ってる相手にまともな反応を期待するだけ無駄か。このまま押し切る!)


風の刃で斬り続ける間に、別の魔法の詠唱を開始する。


レミリア「フフッ」ニヤァ

パチュリー「?」

レミリア「キャハーーーーーー!!」


ゴバッ!


レミリアが拳で地面を叩くと、土煙が舞いレミリアの姿が見えなくなる。


パチュリー「いまさら目隠し?意味無いわね」


尚も風の刃を飛ばし続けたが、煙を裂きこそすれ、切断した音が聞こえなくなった。




パチュリー「いない!?」


風の刃を止め、風を一吹きして煙を晴らすと、地面にクレーターが出来上がっているだけで、レミリアの姿が無かった。


パチュリー(逃げた?……いや、殺気はまだ感じる。怯えた感じはしなかったし、目の前の獲物を逃がす理由は無い)


結界があるとはいえ安心できないのはさっきの一撃で嫌でも分かっている。ゆえに詠唱は中断しない。
自分がするべきは奇襲の警戒をすること。仮に反応が遅れても結界が防いでいる間に魔法を発動し、押し返せば良い。


パチュリー(さぁて……どこからくるかしら……)


右か左か……あるいは……上?


パチュリー(いるのは分かってるわ。その牙で私に喰らいつきたい。それを必死に堪えているんでしょう。
      私が油断した時、一瞬で私を仕留めるために)

パチュリー(いいわ。だったらわざと隙を見)


脳内で反撃の算段を整えようとした、その瞬間、レミリアは現れた。


ボゴッ!


パチュリー(なっ!?)

レミリア「――――あはぁ♪」


足元、地面に穴を開けて。





パチュリー(地面の中を潜った!?結界の効果が唯一及ばないのを見破ったというの!?)

パチュリー(いや、それよりこの距離は……)

パチュリー(間に合わないッ!)

レミリア「アッハハハハハハハ!」


ガッ


パチュリー「くっ!」


逃れるすべも無く、首を捕まれた。そのまま地面に押し倒され、魔導書も手放してしまう。


パチュリー「しまった!?」

レミリア「んあっ」


レミリアの口が開く人のそれとは比べ物にならない、獣のような鋭い二本の歯が見える。


パチュリー「ッ」ゾクッ


寒気が走る。これまで幾度も倒してきたはずの吸血鬼に、自分がやられるというのか?

そんな筈は無い。吸血鬼狩りなんて簡単な仕事。知識だってその道のプロにも引けを取らない。
同じ魔法使いの中でも、自分ほど吸血鬼に詳しく、対抗できる存在はいない。

こんなたった一匹の、それも、『真祖』ですらない吸血鬼に負ける?


風呂。

再開




パチュリー(…………まぁ、いいか)


それを、パチュリーは受け入れた。

これから先生きていただろう数百年を、これから先得ただろう知識を、未練も後悔も無く、諦めた。


パチュリー(この先、なんて言っても、どうせ先も見えてたしね。なら、とっくに終わったも同然。ここで死のうが
      どっちでも同じじゃない)

パチュリー(……案外、つまらなかったわね。私の一生)


目を閉じた。やがて首に牙が刺さり、血を啜られるのだろう。

そしてグールにでもなって、人間を襲って、そのうち別の魔法使いに狩られるのだろう。


パチュリー(屈辱的だけど、これから先の一生を知識を得るためだけに費やすよりは、まぁ、幸せなんじゃないかしらね……)


ブツッ


パチュリー「はぁっ……ァ!……ん!」ビクンッ


レミリアの牙が、パチュリーの首元に突き刺さる。

痛みと同時に、じんわりとした快感が全身に走った。

吸血行為に伴う痛みを快楽に変える事で、獲物の抵抗を抑える。そのための物質が吸血鬼の唾液には含まれている。


パチュリー「そう……こんな感じ、なのねっ……全身が、動か……ないッ!」ビクッ ビクッ


視界が歪む。体中の筋肉が溶かされているように力が抜ける。


パチュリー(フフッ。馬鹿みたい。凡人どもに天才と持て囃された私が、『快楽』なんて俗な感覚を持っていたなんて……)


これまでに経験した事の無いような快感に肉体が悦んでいる事に、パチュリーは自嘲する。





パチュリー(…………?)


自嘲して、疑問に思う。


パチュリー(どうして、私はまだ死んでないの?)


死の間際は時の流れがゆっくりになるという話を聞いたことはあるが、それでもおかしい。


なぜ、牙が刺さってから、血を吸われる感覚が無いのか。


パチュリー(どう……して?)

















レミリア「っ……ぅッ……くぅっ!……グッ!!ウウウウウウウウウウウ!!」ギチッ……

パチュリー「……え?」




















パチュリーは目を疑った。

そんな筈はないと。

ありえないと。

自分の得た知識の中に、そんな事が起こりうる可能性は万に一つの可能性も無いのに。


パチュリー「どうして……」

レミリア「フッ!……んぐッ!……ううっ!」ギギッ


なのに、それは目の前にある。


レミリアは今、自らの意思で食い込ませた牙を抜こうとしているのだ。


レミリア「ウウウウウウウ!!」


極僅かながら、ちょっとずつでも、パチュリーの首元から離れようとしていたのだ。


パチュリー「……ありえない」


人としての理性を悪魔に飲まれ、狂い、血を欲するだけの動く屍となっていたはずだ。

化け物に堕ちた。そのはずなのに。

抗っているのだ。血を啜りたいという欲望、衝動に。


まるで、レミリアの魂がまだ肉体に宿っているかのように。



レミリア「ウウウウウウアアアアアアアアアアアアアア!!」





ブシュゥッ!!


パチュリー「ツぅッ!!」

レミリア「ア……グッ!」ギリッ


パチュリーの首からレミリアが離れ、歯を食いしばる。


レミリア「グッ……ギ!イイイ!!」

パチュリー「……貴方」


何度も何度も、再び牙を食い込ませようと顔を近づけようとしていた。

だが、それを押さえ込むように、自らの腕に噛み付いた。


レミリア「フーッ!……フーッ!」


ブシュウッ!


腕の肉が引きちぎれたが、すぐに出血が止まり、失った箇所を再生させていた。


パチュリー「貴方は……一体」

レミリア「…………ロ」

パリュリー「え?」


呆然と、馬乗りにされているパチュリーに小さな声が聞こえた。


レミリア「ニ………ゲ……ロ……」ツー

パチュリー「!?」


『逃げろ』と。

化け物が見せるはずの無い、搾り出すように出た涙を頬に伝えながら、確かに、そう言った。



少女祈祷中.........

そろそろ生存報告しないとまずい。

出来れば今週十二投下します。

繁忙期による疲れと仕事の不調。プライベートの不幸。SSの更新不足……これは良くない流れ。

誠に申し訳ない。今年中に必ず3~4回は更新をお約束しますので、どうかもうしばしお待ち下さい。


有給取りてぇ……。酒飲みてぇよお母ちゃん……。

有給なんてなかったけど、チューハイはある。本日更新します。

自身の集中力の無さゆえに更新が遅くなり申し訳ない。

気がつけばスレ立ててからもう一年以上経ってるし……。

大変お久しぶりですね。投下します。

今までのあらすじ

霊夢「異変解決しにきました!」
美鈴「どうぞどうぞ」

霊夢「お邪魔します」
咲夜「刺しました」
フラン「助けました」
霊夢「リベンジ成功しました」

パチェ「こっちもバトル展開」
魔理沙「勝ちました」
レミリア「私・参上」

レミリアの過去編へ←今ココ




パチュリー「な、何を言って」


バカンッ!


動揺で体が動かないでいると、近くにあった下水道へと繋がる蓋が上に吹っ飛んだ。


こあ「隙ありいいいいいいい!」


そこから飛び出してきたのはこあ。地下道を利用し、不意打ちのために潜んでいたのだ。


こあ「オラオラオラオラオラオラオラオラ!!」


ガガガガガガガガガガガガガガガガ!!


レミリア「グギガッ!?」


レミリアに蹴りを叩き込むと、そのまま休むことなく追撃を加える。


こあ「オラァッ!!」

レミリア「ガアァッ!」


最後の一撃で地面に叩き付ける。


こあ「……良し、トドメ!」

パチュリー「止めなさい」


ボウッ!!


こあ「うおあっちゃあああああああああああ!?」


再び頭が炎上した。





こあ「なにしとんじゃああああ!いい加減使い魔虐待で訴えるぞ!」

パチュリー「私、援護してって言ったわよね」

こあ「え……」ビクッ

パチュリー「そしたら貴方、下水道を利用して不意打ちするって言ったわよね?
      作戦としては見事だけど、随分遅い援護じゃない」

こあ「そ、そりゃあ」ダラダラ

パチュリー「魔法も使えないのに暗い地下道を移動できるのって私聞いたけど、
     『暗闇なんて悪魔にとっては庭みたいなもんっすよ~』って、貴方言ったわよね」

パチュリー「こあ、貴方まさか迷ってたなんて事、無いわよね」

こあ「…………サーセン」

パチュリー「…………ハァ。まぁいいわ。これ以上無駄な魔力消費したくないし、とりあえず」

レミリア「クッ……カ…カ……」


顔の半分を地面に埋めた、レミリアを見る。
まだ辛うじて息があるようだが、再生能力があるためすぐにでも回復するだろう。

トドメをさすなら、今がチャンスだ。


パチュリー「…………」

こあ「……パチュリー様?」


じっと見つめたまま動かないパチュリーにこあは首を傾げる。


パチュリー「…………」


バサッ


パチュリーは魔導書を取り出した。





こあ「なにしとんじゃああああ!いい加減使い魔虐待で訴えるぞ!」

パチュリー「私、援護してって言ったわよね」

こあ「え……」ビクッ

パチュリー「そしたら貴方、下水道を利用して不意打ちするって言ったわよね?
      作戦としては見事だけど、随分遅い援護じゃない」

こあ「そ、そりゃあ」ダラダラ

パチュリー「魔法も使えないのに暗い地下道を移動できるのって私聞いたけど、
     『暗闇なんて悪魔にとっては庭みたいなもんっすよ~』って、貴方言ったわよね」

パチュリー「こあ、貴方まさか迷ってたなんて事、無いわよね」

こあ「…………サーセン」

パチュリー「…………ハァ。まぁいいわ。これ以上無駄な魔力消費したくないし、とりあえず」

レミリア「クッ……カ…カ……」


顔の半分を地面に埋めた、レミリアを見る。
まだ辛うじて息があるようだが、再生能力があるためすぐにでも回復するだろう。

トドメをさすなら、今がチャンスだ。


パチュリー「…………」

こあ「……パチュリー様?」


じっと見つめたまま動かないパチュリーにこあは首を傾げる。


パチュリー「…………」


バサッ


パチュリーは魔導書を取り出した。





(フラン!)


暗い世界が広がっている。


(どこにいるんだフラン!)


走った。見渡した。叫んだ。


(魔法使いを見つけたんだ!手がかりを見つけたんだ!人間に戻るための方法があるかもしれないんだ!)


右も左も、上も下も分からない世界で、レミリアは探し続けた。
けれど、どこにも愛しい妹の姿が見えない。聞こえない。感じない。


(何なんだこの世界は。まるで自分以外存在しないみたいじゃないか)

(一体どこに……)


ふと、背後から光を感じた。振り返ると、まばゆい光がレミリアを指す。


(フラン!?)


その光の中に、フランドールの姿があった。真っ白なドレスを着て、花畑の中を楽しそうにはしゃいでいる姿だった。
フランドールは笑っていた。よく見ると姿が若干今よりも大人びている。これは未来のフランドールだろうか?


(フラン……良かった……)


レミリアは光の世界の中へ入った。




光の世界は美しく、何より穏やかな世界だった。
空も土も木も鳥も花も全てが幸せに満ちているようだった。


(フラン!)


レミリアはフランドールを呼んだ。しかし、フランドールはレミリアに気づかない。


(……フラン?)


それどころか、フランドールが突然涙を流し始めた。
ただ子供のように泣きじゃくって悲しみに満ちているのではない。空を仰ぎ、何かに思いを馳せて、静かに涙を流しているようだった。

そう、まるで故人を思うような、そんな涙だった。


(フラン……どうした?)


フランドールは首に下げていたペンダントを手に取り、開く。中には誰かの写真が写っていているのだろう。
レミリアはフランドールに駆け寄った。姉として妹の傍にいなければならない。そう思ったからだ。

だが、


(……え?)


フランドールがレミリアに気づいた。


(フラン!?)


その瞬間、フランドールは悲鳴を上げた。怯えた顔をして、その場に崩れ落ちてしまう。


(おい、フラン!どうしたんだ!?)


そう言って駆け寄ろうとしたが、突然、聞いたこともないようなおぞましい声が、化け物の雄たけびが聞こえた。




(!?……なんだ、今の声は?)


レミリアは後ろを振り返る。化け物の姿は無い。あるのは暗い、光の無い世界だ。


(一体どうしたんだフラン!)


視線をフランドールに戻すと、フランドールがビクリと体を震わせた。


(……え?)


レミリアは気づいた。


(待て、違うだろう……?)


フランドールに近寄ろうとしたが、益々フランドールは絶望に満ちた顔になっていく。

まるでレミリアが怪物で、フランドールはその怪物に怯えているようじゃないか……。


(違うフラン!私だ!お前の姉だ!)


手を伸ばした。安心させたかった。否定したかった。

約束したんだ。二人で人間に戻ろうと。必ず方法は見つけると。

だから、ここにいる自分だって、人間なんだ。

なのに

どうして声を出すたびに、化け物の声が聞こえるんだ。

どうして手が人間のソレじゃないんだ。

どうして、フランは


(どうして気付いてくれないんだ!!)


叫ぶように伸ばした手が、フランドールの胸を貫いた。




(…………え?)


フランドールが崩れ落ちていく。


(おい……待て……)


周りの花が枯れていく。


(待ってくれ!何だ!?一体何なんだこれは!?)


世界から光が消えていく。


(違う!こんなはずじゃ……こんなの違う!)


レミリアの手が血に染まっていく。


(私がこんなことするはずが無いだろ!違う!違う!!違う違う違うッ!!!)


レミリアの全てが化け物に変わっていく。


(嫌だ……こんなの嘘だ……私は……フランを幸せにしたくて……)


フランドールの手から、ペンダントが零れ落ちた。

中から、写真が出てくる。


(あ……)


写真に写っていたのは――――


(わ……たし……?)




レミリア「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!?」バサッ!

レミリア「アァッ!!……ハァッ!……ハァッ!」

レミリア「………ゆ、夢?」


レミリアが意識を取り戻すと、そこは見覚えのある赤く染まった部屋。
寝室のベットで寝ていたようだった。

閉め切ったカーテンからは日の光が零れている。すでに夜は明けているようだ。


レミリア(クソッ……なんて夢。……いや、その前になぜ私はこの部屋にいるんだ?)


悪夢と目覚めたばかりでぼんやりとしていた記憶が蘇る。


レミリア「確か……そうだ、魔法使い!」


吸血鬼と見破られ、殺されかけて……そこからの記憶が無い。


レミリア「何故だ……なんで記憶が?」


思い出せない。まるでそこの見えない沼の中を手探りで探しているかのようだ。


レミリア(まさか……私は理性を失っていたのか?)


フランドールが人間を襲っていた時の事を思い出す。
まるで衝動に支配されるように、暴力と狂気を使って人を殺していた時のように。

だとしたら何故自分が生きている?


レミリア(私を殺しにきたはずの二人が、見逃したというのか?)


違う。一番可能性が高いのは……


レミリア(私が……あの魔法使い達を殺して館に戻って来たんじゃないか?)




レミリア「そんな……」


なんて事だ。

せっかく見つけたはずの希望が、自分のせいで失われてしまった。


レミリア「クソッ!……なんで私はこうも運に見放されてるんだ」


体をベットに倒す。それでも圧し掛かった重りがまるで軽くならない。

もはや言い逃れは出来ない。

確実に化け物に成り下がってしまった自分に待っているのは、また別の魔法使いに狩られるという運命のみ。


レミリア「なんとかしないと。……せめてフランだけは」


ごろりと体を横向きにする。


レミリア「…………え?」


気付いた。寝ていたのだ。


パチュリー「…………」スゥ  スゥ


自分の横で。自分を殺しに来たはずの魔法使いが、穏やかな寝息を立てていた。


レミリア「なっ!?」


しかも全裸で。





レミリア「な!?え、は!?なんっ!?」


訳が分からない。

何故だ。


レミリア(何故どうしてどうやってこうなった!?)


落ち着け。記憶はまだはっきりしていないが少なくともこんな状況になっているからには何か理由があるはず。


レミリア「そうだ落ち着け!落ち着いて状況の把握をするんだ!!レミリア・スカーレットは常に余裕を持って優雅たれ!!」


ここは寝室。ベットに自分と自分を殺しに来たと言っていた魔法使い。

魔法使いは裸で寝ていて、自分には記憶が無くて……


レミリア(今私は……あれ?)


たった今、レミリアは気がついた。


レミリア「んなああああああああああ!!?」

パチュリー「…………んあ?」パチ

レミリア「!?」

パチュリー「……あぁ、おはよう」


バサッ!


魔法使いが目を覚ますと同時に、レミリアはベットを飛び出した。





レミリア「待て待て待て待て待て待て!!」


ありえない。これは何かの間違いだ。


レミリア「そうだ間違いだ!そんな事があるはずが無い!」

パチュリー「……どうかしたの?」

レミリア「ッ!?」ビクッ!


ザザァ!


気だるげに、魔法使いがベットから出てくる。

レミリアは反射的に部屋の隅に逃げる。


パチュリー「何?どうしたの?」ボリボリ

レミリア「ひ、ひとつだけ聞かせろ……」


頭を引っかく魔法使いに、震えながら、レミリアは指を立てて問う。


パチュリー「何?」

レミリア「そんな事があるはずが無いがこの状況に到った理由がまるで私には思い浮かばない。
     だがお前なら分かると思うんだ。だから答えるときは慎重に答えてくれ頼むから!!」

パチュリー「……何が言いたいの?」

レミリア「何故……」


レミリア「何故お前は裸なんだ何故ベットで寝ていたんだ何故私と一緒に寝ていたんだ何故!!」




レミリア「私は裸なんだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!?」




第九変 終幕

第十変 少女祈祷中.........

紅い館で白い花が咲き乱れる。

なんて事は無いです(ネタバレ)。

短いですが、晩御飯→風呂の後更新します。











          第十変「紅い過去:契り」












ありえない。これはきっと何かの間違いだ!

レミリアの頭の中で何度も同じ言葉が繰り返される。

昨日までの記憶が何度も再生され、しかし最後には今に至っている。


レミリア「まるで納得出来んし理解出来ん!なぜこうなるんだ!なぜこうなったんだ!なぜ」

パチュリー「あぁ、もう。うっさい」


ボウッ!


レミリア「うおおおおおおおお!?」


頭が燃えた。

床を転げ周り、必死に炎を消す。


パチュリー「……落ち着いた?」

レミリア「あぁ、礼を言う。……ついでに殺意も沸いたがな」プスプス


ショックを与えられたおかげで逆に冷静になれたレミリアは、
さっきまでの自身の稀に見る慌てぶりに内心恥ずかしくなっていた。


パチュリー「さてどこから話そうかしら?貴女、昨日の夜の記憶はどこまであるの?」

レミリア「……お前達に襲われて、逃げた後からの記憶が曖昧だ。なにやら夢でも見ていた気分だ」


”さっきまで見ていた方”ではない。

レミリアには昨日の記憶がぼんやりと、何かと戦っていたような、そんな感覚が残ってはいたのだ。
ただ、映像として頭の中にはっきりと思い出せなくなっている。





パチュリー「貴女は昨日の晩、満月を見たことで悪魔に食われたわ」

レミリア「……食われた?いや、しかし」

パチュリー「黙って聞く。……で、そこで私と交戦したんだけど、隙を衝かれて貴女が私の血を吸おうとしたわ」

パチュリー「でも、ありえない事が起こった」

レミリア「ありえない事?」

パチュリー「貴女が吸血衝動に逆らったのよ。自分の腕に噛み付いて、私に逃げろと言ったわ」

レミリア「…………」

パチュリー「普通、吸血鬼にされた人間が魂を悪魔に食われた時、自力で元に戻るなんて事は起きない」

パチュリー「食われるっていうのはね、肉体という”器”を乗っ取られるって意味なの」

パチュリー「それに逆らうっていうのは、人が悪魔を凌駕するって事と同じなの」

パチュリー「人を汚し、堕とし、犯し、欺くことに長けた悪魔が、人に負ける?」

パチュリー「ありえない。前代未聞よ」

パチュリー「可能性があるとすれば」


コツ コツ


パチュリー「貴女の体そのもに秘密があるとしか思えない」ピッ

レミリア「私の……体?」

パチュリー「そう。”器”そのもの」






パチュリー「貴女も、吸血鬼は『十字架に弱い』とか『ニンニクがダメ』とか聞いた事はあるでしょう?」

レミリア「あぁ」


その程度の知識、というか言い伝えは、魔法に対して無知なレミリアでも知っている。

パチュリー曰く、それはあくまで吸血鬼としても格の低いものに限定される弱点ではあるのだが、


パチュリー「悪魔に対して、祈りや、魔法以外の、『物理的に』対抗し、凌駕しうる手段はあるという事」

レミリア「……私の体に十字架やニンニクの臭いがあるとでも?」スンスン


前者ならともかく、後者なら生き物として不味く無いかと不安になったレミリアは自分の腕を嗅ぐ。


パチュリー「そうじゃない。ただ、未だ私達が知らないだけで、それと同等の『何か』があるのかもしれない」

パチュリー「貴女の体にはその『何か』がある」

パチュリー「だから貴女という精神に、悪魔を凌駕しうる切欠を与えた。……と、私は睨んでる」

レミリア「私の……体に?」


もし、そんなものが本当にあるのなら、それはまさに自分が求めていたものじゃないか。


レミリア(フランドールを確実に助けられる方法はあるって事じゃない!)


運に見放されているのではないかとばかり思っていたが、思わぬところに希望はあった。
レミリアは体の奥底から力が湧き上がってくるのを感じる。





パチュリー「貴女を殺すのはひとまず保留。そう判断して、この屋敷に連れて来て、貴女の体を調べたの」

パチュリー「その際に服を脱がしたのが、貴女が今全裸の理由」

パチュリー「で、私が裸なのは、単にかれこれ5日寝てないから一旦寝ようとお風呂に入ったんだけど、
      眠気がどっと押し寄せてきてね。着替えるのが面倒くさくなって、寝たのよ。
      貴女と同じ寝室なのも、私がこの屋敷のこと詳しくないから、貴女と同じ部屋を選んだってだけ」

パチュリー「はい。説明終わり」パン!


手を叩き、パチュリーは「喋り過ぎて疲れたわ」と言うと魔法で衣服を出して着替えていく。


レミリア「……それで」
 
パチュリー「ん?」

レミリア「あったのか……私の体にある、悪魔を凌駕しうる『何か』は!?」

パチュリー「まだ見つかってないわ。昨日は軽く調べた程度だしね」

レミリア「そうか。……なぁ、少し聞きたいんだが」

パチュリー「何?」

レミリア「私のような吸血鬼が人間に戻る方法はあるのか?」

パチュリー「……えぇ、あるわよ。簡単じゃないけどね」

レミリア「! なぁ、頼みがあるんだ!」


レミリアは立ち上がり、頭を垂れる。


レミリア「私の体を好きなように調べて良い! だから、それが終えたら私を人間に戻してくれないか!?」

パチュリー「…………は?」


怪訝な顔をして、首を傾げた。






パチュリー「貴方、何勘違いしてるの?」

レミリア「……何?」


予想に反した反応にレミリアは顔を上げる。


パチュリー「なんで私が、貴女と対等の立場だと思ってるの」ヴン


顔を上げた先にはパチュリーの手が、レミリアの顔に手をかざし、魔法陣が展開していた。


ガァン!


レミリア「グオオ!?」


魔法陣が淡く光ると、レミリアの体が床に叩き付けられた。

体が鉛のように重くなり、体が床から離れられない。


レミリア「な、何をッ!?」

パチュリー「あのね、私は貴方の事情なんてどうでもいいの」

パチュリー「魔女(私)を動かすのは、”知的好奇心”だけよ」

パチュリー「貴女の体が興味深いから生かしてるだけで、同情とか、哀れみとかこれっぽちも無いの」

パチュリー「貴女に何があったのか……なんて、私が興味を持つと思う?」

パチュリー「私にとって貴女は…………」









パチュリー「モルモットでしかないの」


少女祈祷中.........

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年01月10日 (土) 21:56:56   ID: 7HaolxFd

おもしろお

2 :  SS好きの774さん   2015年09月23日 (水) 07:11:39   ID: 4j6CNrjH

この続き
が早く見たいなあ

3 :  SS好きの774さん   2016年01月01日 (金) 02:35:05   ID: HtS0ep2O

随分前に見たけどまだやってたんか

4 :  SS好きの774さん   2016年05月26日 (木) 22:29:40   ID: Al8hktTQ

面白い…けどもう終わってしまったんか…残念(´・ω・`)

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