モバP「一度きりの人生だから」 (69)

モバマスSSです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1393763565

SS速報復帰してましたね。

古典シリーズです。

事務所

周子「これとか可愛いよね」

凛「そうだね。悪くないと思う」

周子「またまたー、クールぶっちゃって」

凛「別にぶってる訳じゃないけど…」

泰葉「おはようございまーす」

泰葉(二人で何か見てるのかな…?)

凛「おはよ」

周子「おー、岡崎先輩どうもー」

泰葉「いきなりなんですか…」

周子「いや、何となくね」

泰葉「なんか背中辺りがむず痒くなるんで止めて下さいよ」

凛「でも、菜々さんとかはたまに呼んでるよね」

泰葉「どうも治らないらしいですよ」

周子「上下関係とか凄いしっかりしてそうだもんねぇ…」

泰葉「でも、最近は普通に泰葉ちゃんって呼んでくれてますよ」

凛「そうなんだ」

周子「慣れって奴かね」

泰葉「どうなんでしょうね」

凛「でも、やっぱり違うなって思うことはあるよ」

泰葉「なんの話ですか?」

凛「対応の仕方かな」

泰葉「どういうことですか?」

凛「なんて言うか難しいんだけど、テレビ局や、雑誌の撮影とかでPさん一人で気が回らない時にさり気なく色々やってるなって」

泰葉「そ、そうですかね?」

凛「うん。あと、挨拶の仕方とかタイミングとかもね」

周子「お、流石です。岡崎先輩」ペコリ

泰葉「だ、だから止めて下さいって…。私は私の思った風にやってるだけですけど…」

周子「習慣として体に染みついてるんだろうね」

泰葉「…そうかもしれませんね」

周子「ん?どうかしたの?」

泰葉「いえ…何もないですよ」

凛「何か嫌な思い出でもあったりするの?」

泰葉「い、いえ、そういう訳じゃないんですけどね」

周子「どういうわけ?」

泰葉「勿論辛い訳じゃなかったですけど、私より親が熱心で…」

周子「あー、それ以上は聞かない。ごめんね」

泰葉「いえ、別にそんなに大したことじゃないと思うんですけどね」

泰葉「そう言えば、二人してなに見てたんですか?」

周子「うん?」

泰葉「さっき事務所入って来た時二人して何か見てませんでしたっけ?」

凛「あぁ、これのことかな?」

泰葉「あ、写真か何かですか?」

凛「うん。見る?」

泰葉「なんの写真ですか…って、えぇ!?」

周子「まぁまぁ落ち着いて落ち着いて」

泰葉「い、いや、なんでこんなものが…」

凛「Pさんが持ってたんだよ」

泰葉「は、はい…?」

周子「理由は知らないけどね」

凛「多分理由なんかなくてたまたま見つけたからだと思うんだけど」

泰葉「な、なんで私の昔の写真があるんですかもう…!」カァァ

P「お、三人ともどうした?」

泰葉「あ、こ、これ…!」パクパク

P「あぁ、この写真な。この間偶然見つけてさ」

泰葉「だからってなんで…事務所に」

P「いや、可愛かったからかな」

泰葉「え、あ…ず、ズルいです…!そういうの…」

P「子供っぽいあどけなさがあってな」

泰葉「そ、そうですかね…」ポリポリ

凛「私の子供の時の写真も今度持ってこよっか?」

P「ん?どうした急に」

凛「…なんでもない。忘れて」

周子「今の録音しとけばよかったなぁ…」

周子「そういや、Pさんは何か用なの?」

P「いや仕事しようとな…」

周子「そりゃそうだ」

P「全くだよ。あ、そうだ泰葉」

泰葉「は、はいなんですか?」

P「この後ちょっと付き合って貰っていいか?」

泰葉「はい。お仕事の打ち合わせですか?」

P「あぁ、そういうことだ」

泰葉「別に構いませんけど何時ごろですかね?」

P「三十分後くらいかな」

泰葉「分かりましたー」

事務所

幸子「確かに以前のロケでお世話になりましたね」

菜々「ナナもです」

周子「だよねー」

ちひろ「何を話してるんですか?」

周子「いや、泰葉ちゃんって凄いなぁって話を」

ちひろ「さっきもしてませんでしたっけ」

周子「細かいことは気にしない気にしない」

ガチャ

泰葉「プロデューサーさんどこにいるか知りませんか?」

周子「んー?知らない」

菜々「あ、可愛いですねその髪型。イメチェンですか?」

泰葉「あ、はい。ちょっとだけ。それじゃちょっと探してきますね」

屋上

泰葉「こ、ここにいたんですか…」

P「あぁ、ごめんごめん。まだ時間あったからさ」

泰葉「確かにそうですけど」

P「ん?髪型変えたのか?」

泰葉「へ?あぁ、はい。そうです。どうですか?」

P「ちょっと幼い雰囲気になったな」

泰葉「…戻しましょうか?」

P「それもそれで悪くないからいいんじゃないか」

泰葉「ならいいですけど…」

P「それじゃ行くか」

泰葉「はい」

泰葉(やっぱり、昔の髪型は流石に変だったかなぁ…そこまで変えてる訳じゃないけど)

車内

泰葉「そう言えば私一人のお仕事なんですか?」

P「ウチの事務所からはな」

泰葉「あの人は今。みたいな番組ですかね」

P「それはないな」

泰葉「冗談ですってば」

P「ならいいけどな」

泰葉「まだそんな年齢じゃないですし」

P「いや、年齢を重ねても一線で働いていると思うけどな」

泰葉「その時もお願いしますね」

P「まぁ、何もなければ」

泰葉「何も。って何かあるんですか?」

P「さぁな」

泰葉「意地悪は嫌いですよ?」

P「いや、そういう意味で言った訳じゃないんだけどな」

テレビ局

P「おはようございます」

泰葉「失礼します」

ディレクター「あぁ、どうもわざわざすみません」

P「いえ、こちらこそ。それでは早速」

ディレクター「えぇ、そうですね。無闇に拘束してしまってはいけませんし」

ディレクター「――とまぁ、こんな感じでどうでしょうか」

P「分かりました」

泰葉(ドラマのお話だったんだ…)

ディレクター「それじゃ、また今度は脚本家を交えて」

P「はい。それでは失礼します」

泰葉「失礼します」

車内

泰葉「私、必要でしたか?」

P「一緒に話を聞いてイメージを共有して欲しくてな」

泰葉「なるほど」

P「まぁ、細かい話はまた今度だったから意味なかったかもしれないな。悪い」

泰葉「いえ、平気ですよ」

P「そうか助かる」

P「しかしな…」

泰葉「どうかしましたか?」

P「主役級の役じゃなくてごめんな」

泰葉「いきなり、主役級をやろうものなら角が立ちますし全然問題ありませんよ」

P「ならいいけど」

泰葉「お仕事が頂けるってだけで素晴らしいですからね」

ピリリリリ

P「お、電話だ。誰からか見てくれるか?」

泰葉「はーい。えーっとちひろさんからです」

P「うーん…ちひろさんか。ちょっと出るから脇に車停めるな」

泰葉「あ、はい」

P「はいもしもし」

ちひろ『あ、今どちらにいらっしゃいますか?』

P「今帰る所ですけど…」

ちひろ『泰葉ちゃんも一緒ですか?』

P「えぇそうですよ」

ちひろ『分かりました。それじゃ事務所で待ってますね』

P「はい。分かりました」

泰葉「どうかしたんですか?」

P「よく分からないんだけど早く帰ってこいって」

泰葉「何か問題があったんですかね…?」

P「でも、何も言ってなかったからそこまで緊急の用事ではないのかもな」

泰葉「だといいですけどね…」

事務所

P「ただいま帰りました」

泰葉「帰りました」

ちひろ「あ、ちょっと来てください」

P「は、はい…?」

泰葉母「こんにちは」

P「あ、はい。こんに――」

泰葉「お、お母さんどうして…」

泰葉母「お話があるからに決まってるでしょ」

泰葉「あ、う、うん…」

杏(…ん?なんか変な空気だからもうちょっと寝てよっと…レッスンサボれてラッキー♪)

ちひろ「と、とりあえずお茶持ってきますね」

ちひろ(い、一体なんなんでしょう…)

P「改めて私、岡崎泰葉さんをプロデュースさせて頂いている者です」

泰葉母「こんにちは」

P「本日はどういったご用件で」

泰葉母「はい。移籍の件についてです」

泰葉「い、移籍!?」

泰葉母「泰葉ははしたない声を出さない」

泰葉「あ、うん…」

P「移籍と申しますと…?」

泰葉母「ウチの泰葉をですね、ここじゃなくて別の事務所に移そうというお話です」

P「どうしてでしょうか…?」

泰葉母「そうですね。泰葉が子役をやっていたことをご存じですよね?」

P「もちろん」

泰葉母「その後はモデルなど順調にキャリアを積んで現在に至ります」

P「はい」

泰葉母「となれば、モデルのままトップモデルになるか、ドラマや映画などの女優になるべきです」

P「はい」

泰葉母「幼い頃から、私のおかげでこの業界にいたおかげで経験は十分だと感じています」

P「はい」

泰葉母「ですが…最近、泰葉がアイドルになったと聞きまして」

P「そうですね」

泰葉母「誤解のないように言っておきますが、別にアイドルという職業を貶しているわけではありません」

泰葉母「ですが…アイドルとなりますとやはり他の芸能人と比べて寿命が短い可能性があるため、泰葉の夢を叶えられないのではと危惧しております」

P「夢ですか…?」

泰葉母「はい。女優になると言う夢が」

P「そうですか」

泰葉母「ですからこの時期から積極的にドラマや舞台に出演させたいと思ったんですよ」

P「なるほど」

泰葉母「しかし、コネクションが大きい業界ですので少しでもそういうのが強い事務所に行かせたいと考えた結果です」

泰葉「あ、あの…でも、さっきドラマのお仕事貰った…よ?」

泰葉母「連ドラ? 主役か何か?」

泰葉「えっと…二時間ものかな」

泰葉母「そうですか…。でも、この事務所じゃなければもっと大役を頂けたり、CMにもドンドン出演出来るのよ」

泰葉「そ、そうなんだ…」

泰葉母「もし、違約金が発生するのでしたらお支払します」

泰葉母「私は、泰葉の夢を叶えてやりたいと思います。それはきっとあなたも同じはずです」

泰葉母「どうか懸命なご判断をお願い致します」

泰葉母「つきましては、暫く泰葉の部屋におりますので契約破棄の書類が完成次第、お電話下さい。こちらにうかがいます」

泰葉母「それでは失礼いたします。あ、ちなみに泰葉の今日のスケジュールはどうなっていますか?」

P「…これからレッスンだけですかね」

泰葉母「分かりました。それが終わり次第、泰葉は直帰と言うことで。行きますよ泰葉」

泰葉「え、あ……うん」チラ

P「……」

泰葉「行って…きます」

P「行ってらっしゃい」

事務所

ちひろ「ど、どうしましょう」

P「落ち着いて下さいよちひろさん」

ちひろ「これが落ち着いてなんて要られますか」

P「落ち着きましょう…」

ちひろ「え、で、でも…」

P「落ち着いて下さい!」

ちひろ「ひゃ!」ビクッ

P「…すみません。ちょっと屋上で頭冷やしてきます」

ちひろ「あ、え、プロデューサーさん!」

ガチャ

杏「ねぇ。なんかあったの?」

ちひろ「あれ、杏ちゃんレッスンは?」

杏「そ、そんなことよりさー、なんかおばさんが捲し立ててような気がしたんだけど…」

ちひろ「え、えっとね、その泰葉ちゃんのお母様がいらして…」

杏「事務所変えろって言ったんだね」

ちひろ「よく分かりましたね」

杏「そこは聞こえてたから」

ちひろ「そうなんですね」

杏「それで、どうしてPさんは出てったの?」

ちひろ「それはえっと私が取り乱しちゃって…」

杏「なるほどねー」

ちひろ「あ、どこに行くんですか?」

杏「ちょっとねー。迷子にはならないから安心して」

ちひろ「ならいいですけど…」

屋上

P「はぁ…」

杏「溜息してると幸せが逃げるって言うけどさ」

P「杏か…?」

杏「その理論だと杏のこれからの人生全部不幸なんだけどどうよそれ」

P「流石にそれはないと思うがな」

杏「でしょ。それで、なんの話だっけ」

P「いや、まだ、何も話してない」

杏「そかそか」

P「どうしたんだ?」

杏「んー、空を観に来た」

P「曇りなのに?」

杏「晴れだとほら暑いし、空だって杏みたいにダラダラすることを確認しに来たって感じ」

P「そうなのか」

杏「Pさんは珍しいね。こんなトコで溜息なんて」

P「まぁ、そうかもな」

杏「移籍の話でしょ」

P「聞いてたのか」

杏「まぁ、仮眠室で寝てたし」

P「そう言えばレッスンはどうした?」

杏「そんなのあとでいいから。それよりどうなのさ」

P「どうって?」

杏「うーんと、このまま移籍させちゃうのって話」

P「どうだかな」

杏「あら。『てっきり、俺は絶対そんなことはさせない!』とか言うのかと思ったのに」

P「いや、流石に親御さんの意見にそんな風には言えないよ」

P「まるっきり筋違いの意見を言ってる訳じゃないし」

杏「まるっきりねぇ…」

P「泰葉次第と言えば泰葉次第だが、まだ保護者が必要な年齢だし、夢があるならそっちの方が――」

杏「ふーん」

P「どうかしたのか?」

杏「なんだか色々あるんだなぁって」

P「色々?」

杏「親が望んでたら大変だよねって話」

P「望まれるのは嬉しいことだけどな」

杏「かもね」

杏「それじゃ、杏は行くね」

P「…杏」

杏「何さ?」

P「ありがとな」

杏「……ん」

P「俺も頑張らないとなぁ」

P(何をするにしても泰葉の本心を聞き出さないと…)

事務所

P「ただいま戻りました」

ちひろ「あ、大丈夫ですか?」

P「えぇ、お騒がせしました」

ちひろ「ならいいんですけど」

周子「Pさん、ちょっといい?」

凛「うん、私達ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

P「どうかしたか?」

周子「いや、泰葉ちゃんが移籍するってホント?」

凛「冗談にしては面白くないんだけど」

P「冗談じゃないな…」

凛「何か問題があったの?」

P「いや、そういうわけじゃなくて」

周子「一緒に来てた教育ママっぽいお母さんが関係してるの?」

P「話を持ってきたのはそうだな」

凛「どうするの?」

P「泰葉次第だよな」

周子「こういう時は引き止めるのがプロデューサーの役目なんじゃないの?」

文香「それは…少し違うのではないでしょうか」

周子「どう違うのさ」

文香「恐らくプロデューサーさんは岡崎さんの意志もさることながら、どちらが良いのか計りかねているのではないでしょうか」

周子「……?」

文香「えっと…ですね、その…将来を考えた時に自分の望むことが出来るのかなどそういうことです」

周子「なるほどね」

文香「はい…。きっとだから悩まれているんだと思います。勿論、皆の意見もあるし、自身も残って欲しいと思ってる」

文香「けれど…それは自らのエゴで才能の芽を潰しているのではないかと」

P「流石だな」

文香「…いえ、大したことは」

凛「別にただ黙認してる訳じゃないんだ」

P「それは流石にな」

ちひろ「私からしたら、お母様は自分の理想を――」

P「ちひろさん、それは思っていても口にしてはいけないと思いますよ。俺達は」

ちひろ「…はい。すみません。私も冷静でいられなくて」

ちひろ「それじゃ、失礼します」

P「お疲れ様でした」

凛「さっきはごめん」

周子「ごめんね」

P「別に気にしてないって。心配で俺に詰め寄ったんだろ? 寧ろ仲が良くて良かったよ」

P「さてと…資料作るか」

P「『契約破棄について』でいいかな…」

P「流石にこういうのを作るのは手が重いなぁ」

P「まぁ、作らないといけないんだけどさ」

P「えーと、こういう場合の計算式はっと…」

P「――粗方終わりかな」

ピリリリ

P「はい、もしもし」

泰葉『あ、あの…プロデューサーさんですか?』

P「泰葉か?」

泰葉『は、はい。その今って大丈夫ですか?』

P「平気だけど、どうした?」

泰葉「昼間はすみません…私の母が…」

P「別に気にしてはないけど…」

泰葉『でも、母が勝手に移籍なんてことを…』

P「泰葉はどうなんだ?」

泰葉『私は…残りたいです』

泰葉『お母さんには感謝してます…。子役をやらせてもらったことも何もかも』

泰葉『だけど、私はもう自分の意志で動いてみたいと思ったんです』

泰葉『お母さんの願いは女優だとしても、私は今みたいにアイドルをやっていたいんです』

P「それをお母さんに言ってみるといい」

P(よかった…)

泰葉『そ、それが、出来ないからこうしてお話してるんですよ…!』

P「そうなのか。しかし、それは泰葉が言うことなんだ。泰葉じゃないとダメなんだ」

泰葉『そ、それじゃ…勇気を下さい』

P「勇気…?」

泰葉『明日、母に話す前にどこかに連れていって下さい』

P「どこかってどこに…?」

泰葉『ちょっとドライブでも連れてってください…ダメですか?』

P「早朝からならいいけど…」

泰葉『それじゃ、お願いします。おやすみなさい』

P「勇気か…何をあげればいいんだろ」

ピリリリ

P「はい、もしもし」

美嘉『あ、ねぇねぇ!』

P「その声は美嘉か?」

美嘉『え?うん。あれ、名前表示されてないの?』

P「いや、咄嗟に取ったから見てなかった」

美嘉『そうなんだ。ってそうじゃなくて、泰葉ちゃん辞めちゃうの?』

P「…さぁな」

美嘉『さぁなって…あ、そっか。実は答えが出てるんだけど言えないって感じなんだ』

P「どうだろうな」

美嘉『…やめてよ。不安になるから』

P「美嘉はさ、優しいな」

美嘉『なっ、何言ってんの。そ、それじゃアタシは寝るからね。おやすみ!』

P「おやすみ」

ヴーヴー

P「今度はメールか…」

P「――皆に愛されてるな泰葉は」

マンション

P「ここでいいのかな」

泰葉「あ、ありがとうございます。わざわざすみません」

P「お母さんとはどうだ?」

泰葉「別に。ただ最近どうなのかという話をしてました」

P「そうか」

泰葉「はい。あとは家の方がどうなっているのか程度ですね」

P「世間話みたいな感じか」

泰葉「そうですね。あと、蘭子ちゃんとも仲良くしてましたよ」

P「それは凄いな…」

泰葉「はい。びっくりしました」

P「それで、今日はどうしたんだ?」

泰葉「どこかに連れて行ってください」

P「…逃げるのか?」

泰葉「ち、違いますよ。ちょっとドライブに連れて行って欲しくなっただけです」

P「そうか」

泰葉「あ、あれです。ちゃんとレッスンって言って出てきてますから」

P「お、そうなのか」

泰葉「何だか悪いことをしてるみたいでちょっとドキドキしてますよ」

P「バレないようにしないとな」

泰葉「そうですね」

泰葉「こういう時はあれですかね。やっぱり海でしょうか」

P「まぁそうかもな」

泰葉「それじゃレッツゴー♪」

P「……」

泰葉「あ、あれ、ダメですか?」

P「いや、ちょっと意外で」

泰葉「そ、そうですかね?」ポリポリ

車内

P「海とか久々に行くなぁ」

泰葉「私もあんまり記憶にないですね」

P「やっぱり仕事で行けないか?」

泰葉「まぁ、それもあります」

P「遊びに行くと一日使ったりするからな」

泰葉「そうなんですか?」

P「例えば海が目の前だったら違うけど大抵の人は電車で移動してくるから」

泰葉「なるほど」

P「朝七時とかに駅に集合したりな」

泰葉「私には経験ないですけどそれも楽しそうですね」

P「そうか、仕事があったのか」

泰葉「はい。たまに思うんですよね。もし、私がこういうことをしていなくて普通に生活していたらって」

泰葉「朝起きて、皆と学校に行って笑ったりしてたんですかね」

P「そうだろうな」

泰葉「ちょっと、羨ましいかもです。ない物ねだりなんですけどね」

P「…仕事は嫌いなのか?」

泰葉「そんなことはないですよ。好きで始めたことですから」

泰葉「でも…嫌いに、嫌になっちゃったことは勿論ありますけどね」

P「そりゃ誰にでもそういう時はあるだろうな」

泰葉「プロデューサーさんもあるんですか?」

P「まぁ、スカウトが上手くいかない時とかはやっぱり辛いよな」

泰葉「そうなんですね」

P「だからって辞めようとは思わないけどな」

泰葉「なんでですか?」

P「自分で決めたことだし、俺を必要としてくれる人がいるからな」

泰葉「必要としてくれる…」

泰葉「わ、私は――」

P「ほぼ全員からメールが来たぞ」

泰葉「え?」

P「電話とメールで昨日の晩大変だったんだからな」

泰葉「なんのですか?」

P「泰葉が辞めるのか?って言う内容の連絡がな」

泰葉「そ、そうなんですね…」

P「必要とされてるよ泰葉は」

泰葉「みたいですね…」ジワ

泰葉「きょ、今日はいい天気ですね…陽の光が目に染みます」

P「そうか」

泰葉「は、はい…私、Pさんに、皆に会えて良かったです」



P「さぁ、着いたぞ」

泰葉「一時間くらいですかね」

P「そのくらいかな」

泰葉「意外と近いですね」

P「時期が時期だから入れないけどな」

泰葉「寒いですもんね」

P「入ったら風邪引くな」

泰葉「そうですね。あ、目赤くないですか?」

P「平気だぞ」

泰葉「良かった…お仕事に穴は開けたくないですからね」

P「そうだな」

泰葉「綺麗ですね…」

P「そうだな」

泰葉「夏にはここも海水浴に来る人達で一杯なんでしょうかね」

P「かもな」

泰葉「そういう時期はいつもお仕事ですからイマイチ想像付かないんですけど楽しそうですね」

P「今度そういう仕事も入れてみるか」

泰葉「今度があればですけどね」

P「泰葉…?」

泰葉「あ、ごめんなさい。その…ちょっと弱気になってしまって」

泰葉「もしかして、海がこんなに綺麗に見えるのは、私がPさんと一緒に観れる最後の、景色…かもしれないって考えると…」グス

P「大丈夫か?」

泰葉「へ、平気です…ただ、ちょっと肩を貸して欲しい下さい…」

P「この風景が美しく見えるのは――」

P(泰葉と見る最後の景色の可能性があるからか…)

泰葉「…はい?」

P「いや、何でもないよ」ナデナデ

泰葉「あっ…落ち着きますそれ」

P「なら良かった」

P(考えてみればまだ14歳なんだもんなぁ)

P(泰葉の目に写る景色はどういう意味を持つんだろうか…)

泰葉「だ、大分落ち着いてきました…」

P「もう平気か」

泰葉「も、もうちょっといいですか…?」

P「いいよ」

泰葉「あ、ありがとうございます…」ギュウ

P「いい風が吹いてるなぁ…」

P「風立ちぬ、いざ生きめやも。ってか」

泰葉「そ、そろそろ帰らないといけませんね」

P「そうだな。悪い」

泰葉「いえ、全然。寧ろ楽しかったです」

P「…泰葉」スッ

泰葉「はい?どうかしましたか?」ギュ

P「これからのこと、不安かもしれないが頑張るしかないな」

泰葉「…はい。私、改めてこの事務所にいたくなっちゃいました…えへへ」ニコ

事務所

P「おはようございます」

泰葉「おはようございまーす」

ちひろ「あ、プロデューサーさん資料出来ましたか?」

P「えぇ、そこにパソコンに入ってるんでどうぞ」

ちひろ「それじゃ、失礼しますね」

ちひろ「私も帰って色々調べたんですけど、ここは法外ギリギリの違約金を…」

P「いえ、ここは話し合うことにしました」

ちひろ「え、でも…」

泰葉「私が頑張りますから」

ちひろ「…分かりました」

P「それじゃ連絡しますね」

事務所

泰葉母「失礼します」

P「わざわざ、ご足労頂きありがとうございます」

泰葉母「いえ、こちらこそ。昨日の今日でお呼び頂けるとは思っておりませんでした」

泰葉「あの、お母さんちょっといい?」

泰葉母「大丈夫よ泰葉。お母さんが全部やってあげるからね」

泰葉「ううん。違うの。私ここでやってく。アイドルやりたい」

泰葉母「…どういうこと?」

泰葉「そのままの意味。今まで子役をやらせてくれたことも何かあった時に守ってくれたことも感謝してる。けど――」

泰葉母「誰かに唆されたんですか?」チラ

泰葉「これは、私の気持ち。初めてお母さんに意見したいと思ったの」

泰葉「確かにお母さんの言ってることも理解出来るの。女優もやってみたいと思うし」

泰葉「だけど、私は煌びやかなステージに立って歌ったりするアイドルに憧れてこの世界に入ったんだって思い出したの」

葉母「……」

泰葉「勿論、この先ドラマとかも出てお母さんの夢も叶えたいと…思う」

泰葉母「や――」

泰葉「も、もし人生が二回あるならお母さんに従うけど…、一回だけの人生だからこれだけは自分で決めたいって思ったの」

泰葉「この事務所にいる皆もちょっとずつ有名になって来てるし…えーっと…」

泰葉母「泰葉」

泰葉「あ、えっと…その…だから、ここでなら、私は輝け――」

泰葉母「ちょっと落ち着きなさい」

泰葉「え、あ、うん…」

泰葉母「あなたの仕業ですか?」

P「私は特に。ただ、必死に仕事を取ってきているだけです」

泰葉母「そうですか…」

泰葉「お、お母さん?」

泰葉母「変わったわね。成長したって言うのかもしれないけど」

泰葉「成長したかな…?」

泰葉母「それは、あなたを見ている人決めること。けど…私の目からは変わってると思ったわ」

泰葉「それは、きっとお母さんがこの業界に入れてくれて、嫌になった時も助けてくれたからだと…思う」

泰葉母「そ。ならいいわ。プロデューサーさんこれもう、使いませんよね?」

P「私には必要ありません」

泰葉母「そうですか」ビリ

泰葉「あ…」

泰葉母「これからもよろしくお願い致します。他人からの意見に頑固な所もあるかもしれないですが、根は良い子ですので…」

泰葉「お、お母さん…」カァァ

P「こちらこそお願いします」

泰葉母「それでは、失礼します」

P「あ、駅までお送りしますよ」

泰葉母「そうですか?それではお言葉に甘えて」

ちひろ「……ふぅ」

泰葉「…あ、あれ」ガクン

ちひろ「だ、大丈夫?」

泰葉「あはは、あ、安心したら、こ、腰が……」

ちひろ「本当に…お疲れ様」

泰葉「は、はい…」

車内

P「本当にありがとうございました」

泰葉母「私的には納得いってませんけども」

P「あはは…」

泰葉母「でも…いずれこうなることは分かっていましたから」

P「そうですか…」

泰葉母「あの子が言った言葉を嘘にさせないで下さいね」

P「えぇ、勿論です。後悔させません」

泰葉母「ふふ…活躍がこちらまで聞こえることを期待していますね」

泰葉母「あの子がこっちに帰って来た時にアイドルで良かった。あの時の自分は間違ってなかったって胸を張れることを」

P「勿論です」

事務所

P「お疲れ様です」

杏「お、お帰り」

P「なんだ、来てたのか」

杏「そんなこと言ってると帰るよ?」

P「悪い悪い」

杏「…結局は何とかなったんだね」

P「一応な」

杏「ふぅん」

P「選んでくれたことに対して後悔はさせないさ。落ちた水でも甕に戻してみせる」

杏「まず、そんな状況にしないのが大事だと思うんだけど」

楓「おはようございます…」

P「あ、どうもおはようございます」

楓「これ…どう思いますか?」

P「…ん?あ、学生時代の楓さんですね。可愛いです」

楓「っ…!ま、間違えました。こっちです」

P「…ん?菜々さんですね。今のですか?」

楓「えっと、これは学生のと――」

菜々「な、ナナは今でもリアルJKですよ」ゼェゼェ

P「あ、おはようございます」

菜々「おはようござい…ます」

菜々(まさか、楓さんが昔の写真見たいって言ってたけどこういうことが…もっと子供の時の写真を貸せばよかった)

杏「全然変わってないね。流石」

菜々「え、ホントですか?」

P「だって、この間の写真だもんな」

菜々「えぇ、そうですよ」

P(気のせいか背景が若干懐かしい気もするけど…)

菜々「そんなことより、泰葉ちゃんはどう…あ、平気だったんですね」ホッ

泰葉「……」スー

P「てっきり、菜々さんは、移籍とかそういうことは自分で決めること。とか考えてると思ったんですけどね」

菜々「まぁ、間違ってないですよ? 自分の人生ですから」

P「そうですか」

菜々「えぇ。でもそれとこれとは話が違います……ん?」クンクン

P「どうかしましたか?」

菜々「いえ…海とか行きましたか?」

P「あ、やっぱり匂いが付いてますか?」

楓「漁にでも出てたんですか?」

P「いえ、ちょっとドライブを」

菜々「いいなー、今度連れてって下さいね」

P「時間があれば…」

菜々「約束ですよー」

周子「よく寝てるね」

凛「うん」

周子「てや」カシャ

凛「上手く撮れた?」

周子「うん。ばっちり。いやー、今も可愛いねぇ」

凛「そうだね」

周子「もしさー、凛にもそういう移籍話が来たらどうする?」

凛「行かないよ絶対」

周子「お、即答」

凛「だって、私は一番私らしくいられるのはここだから」

凛「皆そうでしょ?」

終わりです。
見て下さった方ありがとうございました。

今回はほとんど解説するものがありませんでした。

ネタが思いつきませんですみません。

敢えて言うのであれば、堀辰雄の小説『風立ちぬ』の要素を、死を別れという風に入れ替えて、ほんの少し参考にしています。

風立ちぬ、いざ生きめやも。の意味は最近有名になので割愛させて頂きました。

それでは失礼します。

先輩は16じゃなかった?

>>59
確かに…そうですね。すみません。14歳は16歳の間違いですねすみません。
ありがとうございます。

>>43

誤 P(考えてみればまだ14歳なんだもんなぁ)

正 P(考えてみればまだ16歳なんだもんなぁ)

ですね。指摘ありがとうございました。

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