竹井「え、打ち切り?」(297)

前書きですが、このssは麻雀描写が少し出てきます。不明点ございましたらお願いします。
・登場作品(敬称略)
小林立『咲-Saki-』
押川雲太朗『根こそぎフランケン』『レッツゴーなまけもの』
     『リスキーエッジ』

何分、初投稿なので至らない点が多々あるとは思いますが、その時はコメントや注意を頂けると幸いです。

3月某日東京某所、大の麻雀ルーム

竹井「え、打ち切り?」

茜「そうなのよー、私たちの連載がドタキャンになって出番が無くなるみたいなの」

竹井(そりゃいい、これで面倒事からも解放される)

茜「パパも色々忙しいみたいで、私も暫くは東京で暮らせなくなって大変なの」

竹井「ふーん(ようやく念願の『ぶらり各駅停車の旅』に出られるぞ)」

茜「それでね、パパの知り合いがいる長野に引っ越すことになったの」

竹井「それはまた随分と大変だな。ま、頑張れよ(俺には関係のない事だ)」

茜「うん、だから竹ちゃんも連れてかなきゃいけないし大変なの」

竹井「――――――へ?」

竹井『おい大ちゃん、どういう事だ』

大『いやぁ、私も仕事で手一杯なので竹井さんに娘をお願いしたいのですよ』

竹井『冗談じゃない。第一俺は男だぞ、自分の娘をこんな男に任せていいのか』

大『ええ、私は竹井さんを信用していますから』

竹井『だとしてもだ、俺は面倒事はゴメンだぜ』

大『いえいえ、竹井さんにそんな事はお願いしませんよ。ただ、保護者の代わりになっていただければと』

竹井『だから、それが面倒だと言ってるんだ。俺は家事なんか無縁の男だぞ』

大『その点は問題ありません。私の知り合いが経営している旅館にお二人で暮らしていただく予定なので』

竹井『アイツが卒業するまで保護者になれってのか』

大『ええ、保護者面談などの用事の際だけ私の代わりをして下さると助かるのですよ。何かあったら、この様にケータイで知らせて下さい』

竹井『金の方は大丈夫なのか、二部屋分の料金をかなりの時間使うんだぞ』

大『大丈夫です。彼等には昔大きな貸しを作っているので、格安価格で喜んで受け入れてくれましたよ。むしろタダにさせてくれと言われたくらいです』

竹井(大ちゃんは救いようの無い程のお人好しだ。恐らくだが、よっぽど好かれているのだろうな)

大『確かに竹井さんが普段使っているホテルには劣るかもしれません。でも、長野は良い所ですよ』

竹井『しかしだなぁ』

大『なーに、お金は全部私が負担しますので長期休暇だと思って下さればいいのですよ。東京都は違って、自然豊かな所で暮らすのもいいじゃありませんか』

竹井『まぁ、それは悪くはないが』

大『さて竹井さん、今後の御予定は?』

竹井『……俺には毎日、新聞を読む予定があって忙しい』

大『空いてらっしゃる、それは良かった』

竹井『忙しいと言ってるだろ…………』

大『長野でも読めますよ、決まりですね。では詳しくは後程』ピッ

竹井「おい、俺はまだ了承してないぞー」

竹井「ったく大の奴、すっかり俺を信じてやがる」

茜「ねーねー、パパ何だって?」

竹井「お前と長野の旅館で暮らせだとさ」

茜「へぇー、やったじゃん。ウルサイのも来なくなるね」

竹井(そうだ、こないだの野口の一件もある。あの手の面倒事は最悪だ。東京にいたらまた巻き込まれるだろう)

茜「……もう恐い竹ちゃんは嫌だよ」

竹井「茜、お前はどうなんだ。こんな胡散臭い男と二人で暮らすなんて嫌だろ」

茜「んー、でも竹ちゃんなら安心だよ。ねーお願い、私一人で暮らすなんて嫌だよ」

竹井「大丈夫だ、お前ならできるさ」

茜「思ってもない事言わないでよ。お願い……こんな事頼めるの竹ちゃんしかいないの」

竹井「……」


俺は怠け者で適当な男だ



竹井「―――暇だな、長野のガイドブックでも買うか」



俺にスキがあるとしたら…………この親娘に弱い事だな……



茜「竹ちゃん、ってことは」

竹井「しょうがないな、これっきりだぞ」

竹井(長野か―――悪くないかもな)


時は少し遡り―――

1月某日、東京某所マンション、吉岡の部屋

春香「……できたの」

吉岡(できたって、このタイミングはつまり……)

春香「光正さんと私の赤ちゃんよ」

吉岡「そうか、忙しくなるな」

春香「あんまり驚かないのね」

吉岡「まだ実感がわいていないだけだ」

春香「それでね、当分は寺田さんの麻雀のお手伝いは避けてほしいの」

吉岡「何故だ、寺さんにはお世話になっているんだぞ」

春香「分かってる。寺田さんに支援してもらって私たちは無事に大学も卒業できたわ。でもね、生まれてくるこの子の為にも暫くはまっとうな職に就いてほしいの」

吉岡「なるほどね……確かに父親が麻雀打ちだと嫌がられるだろうな」

春香「ずっととは言わないわ。でも20年、いえ10年はお願い」

吉岡「そうか、だが俺に何になれと言うんだ」

春香「光正さんは大学で高校の教員免許を取ったじゃない」

吉岡「お前に無理矢理付き合わされただけだ」

春香「光正さんなら立派な先生になれるわ。周りの人よりも世間の厳しさを知ってるんだもの」

吉岡「だが……」

春香「光正さん」

吉岡「はるk」

春香「光正さん」

吉岡「ったく、分かったよ」

吉岡(今は降りだ……俺に戦う材料など1つも無い)


東京某所、寺田(旧青柳)麻雀ルーム

吉岡「―――と言う訳だ」

アキラ「ぷっ、吉岡が先生だってよ」

寺田「良いじゃないか、平穏な暮らしの方がいい」

吉岡「だけど、寺さんには迷惑かけることになるぜ」

寺田「俺の事は気にするな。最近は強い奴がこないというのもあるが、お前がいなくてもここは大丈夫だ」

中沢「そうだよ吉岡。俺やアキラがいるし、それに最近は佐野君が成長しているじゃないか」

佐野「俺、吉岡さんの分まで頑張りますよ」

大友「おいおい、俺を忘れるなよ」

吉岡「お前ら……」

寺田「そういうことだ、お前が一人で無理をする必要はない。あと10年位なら俺たちが守ってみせるさ」

ガチャ

敦「ただいまー」

大友「おー、敦君お帰りー。ジュースでも飲むか?」

敦「大友さんありがとう。父さんこれテストの結果」

寺田「おお、これならどんな高校でも問題なさそうだな」

吉岡(高校受験を控えた敦、青柳さんに育てられていたが今は実父の寺さんの元で暮らしている。
   寺さんが親バカで最近は麻雀を打つ時間が勉強に取られているが、要領の良いコイツはすっかり優等生だ)

敦「皆で集まってどうしたのさ」

アキラ「あつしぃー聞けよ。吉岡の野郎、高校の先生になるんだとさ」

敦「え、吉岡が高校の先生?」

吉岡「そうだ」

寺田「もう場所は決まったのか」

吉岡「春香の希望で長野に行くことになった」

大友「それはまた遠い所になったな」

佐野「えー、じゃあ暫くは打てないですね」

中沢「それで、学校のアテはあるのか?」

吉岡「いや、だが来月には決まるだろう」

寺田「―――長野か、ちょっと待ってろ」ピッピッ

寺田『久しぶりだな。急で悪いが一つ頼まれてくれないか』

敦「父さん誰と話しているんだろう」

吉岡「さあな、寺さんは顔が広いみたいだし昔馴染みじゃないのか」

寺田『……そうだ、お前のところ一人空いてないか?俺の知り合いを預かってくれよ。口は悪いが問題は無いはずだ』

大友「どうやら吉岡の職場を手配しているみたいだが」

寺田『……あぁ、確認する』

寺田「おい吉岡、お前の教員免許の学科は何だ?」

吉岡「公民だ」

寺田『公民みたいだ―――空いてる?よし、じゃあよろしく頼む』ピッ

寺田「吉岡、お前の学校が決まったぞ」

吉岡「それで、どこなんだよ」

寺田「『清澄高校』という長野の中でも田舎の高校だ」

吉岡「……寺さん」

寺田「なんだ」

吉岡「ありがとう。アンタにはいつも世話になっている」

寺田「気にするな、俺だってお前と春香ちゃんには敦の世話をしてもらった」

大友「良かったな吉岡」

アキラ「ケッ、どこでも行っちまえよ」

中沢「おいおい、素直になれよアキラ」

佐野「淋しくなりますね」

吉岡「止めろよ、まだ先の話だろ」

大友「いや、場所も決まったんだし引っ越しとかで忙しくなるだろ」

アキラ「ちげえねぇ」

ワイワイ ガヤガヤ

敦「…………」

敦「父さん、僕も清澄高校に行きたい!」

寺田「いや、そんな急に言われてもな……」

大友「おいおい敦君、お父さんを困らせるなよ、な?」

敦「だって、僕は結局吉岡を倒すことができなかった。僕だけじゃない、吉岡に勝てる奴がここにはいないじゃないか」

アキラ「敦、吉岡を倒すのはこの俺だ」

中沢「いつも負けてるじゃないか」

佐野「高校生の一人暮らしだなんて無茶だよ」

敦「何とかするよ、それに吉岡についていけば何か見つけられそうな気がするんだ」

吉岡「…………」

吉岡「いいんじゃないか」

一同「えっ?」

吉岡「ここに残ってダラダラ麻雀を打って刺激を求める方が危ないと思うぞ。それに俺の目も届くだろう」

寺田「そう……だな。敦をバクチ打ちの道に進ませるわけにはいかないな」

アキラ「ったく、俺の弟子にしてやろうかと思ったのによ」

中沢「ネット麻雀だと負けてるじゃないか」

佐野「って事は、吉岡さんと春香さんが面倒見るんですよね」

吉岡「いや、それは違う。こいつは一人で生活をするんだ」

中沢「おいおい、それは厳しいだろ」

吉岡「駄目だ、敦がここを離れるなら一人で生きる力を身に着けることが必要だ」

寺田「……そうだな」

大友「て、寺田さんは心配じゃないんですか、俺なんかもう気が気じゃないですよ」

寺田「10年近くも放っておいた俺には何も言えないさ。敦、本当に行きたいんだな」

敦「うん。父さん僕は行きたいんだ」

寺田「よし、そうと決まれば皆で打つか」

アキラ「そりゃいい。今日こそ吉岡を倒してやる」

中沢「仲間内ならノーレートでいいですよね」

大友「金を賭けるなら俺にこの面子はキツイな」

佐野「どっちでもいいですよ、最高に楽しめそうですね」

敦「じゃあ僕も打ちたい!」

寺田「駄目だ、敦は楽しい受験勉強でもしてるんだな」

吉岡「寺さんの言うとおりだ。あんなこと言って落ちたら笑えないぞ」

敦「うーーー」

タン パシ タン パシ タン パシ

ロン ツモ ロン ロン ツモ ツモ ツモ ロン

生まれた街で俺は孤独だった

周りの人間は全て敵だったからだ

あの街で生きていくためには、敵を叩き潰し勝ち続けるしかなかった

俺は戦うという生き方しか知らなかった

―――だが、今は……最高の仲間たちがいる



吉岡「ロン、12000」

アキラ「ぐっ……」

吉岡「舐められたものだな、そんな打ち方で俺を倒せるとでも思っていたのか」

アキラ「チクショウ、また勝てなかったぁぁあああ!!!」

4月某日午後12時30分、長野県JR七久保駅

茜「何てゆーか、ド田舎」

竹井「そうだな」

茜「パパの言ってた旅館ってどこだろ」

竹井「住所は聞いたけど地図がないからな。しょうがない、これで調べれるんだろ」

茜「あれ、竹ちゃんスマホ買ったんだ」

竹井「あぁ、前の奴壊れてな」

ポチ……ポチッ……

茜「っぷ、あははははーーー竹ちゃんったら不器用」

竹井「しかたないだろ、慣れてないんだ」

ポチ……ポチッ……

茜「もういいよ竹ちゃん、私ので調べるから」クスクス


同日午後13時30分、とある民宿竹井の部屋

竹井「ようやく休めるな」

茜「パパの友達も良い人そうだったね」

竹井「あぁ、それより学校の準備は良いのか」

茜「制服や教科書は私の部屋にあったし、私物は夕方に届くみたい」

竹井「そうか」

茜「あー竹ちゃん、もしかして私の制服姿見たかったの?嫌だなぁ、変態だよ」

竹井「そんなわけないだろ」

茜「むっ」

竹井「そんなことより学校の下見はしなくていいのか」

茜「あー、お昼食べたら行くよ。そんな事より長野と言えばお蕎麦だよ竹ちゃん」

竹井「そうだな」

茜「さっきオバチャンがお昼の準備してたから食べに行こうよ」

竹井「そうするか、終わったらお前は一人で学校に行ってくるんだな」

茜「えー、竹ちゃんは一緒に行ってくれないのー」

竹井「俺には時間が沢山あるから後で行くさ」

茜「むー、そうやってメンドくさがる」

竹井「スマホの使い方を覚えるのに忙しいんだ」

茜「そんなの私が教えてあげるわよ。いいから竹ちゃんもついてくるの、これはご主人様の命令よ」

竹井「ファッ!?」


4月某日、清澄高校職員室

教頭「おお、貴方が寺田さんの言ってた吉岡先生ですか。どうぞよろしくお願いします」

吉岡「よろしく頼む。アンタも寺さんを知っているんだな」

教頭「それはもう当然ですよ、若かった頃私たちは寺田さんに随分とお世話になりましたよ」

吉岡「……そうか。アンタも教頭にしては若いと思ったよ」

教頭「ハハハ、まぁそういう事もありますよ」

吉岡「そういうものなのか」

教頭「吉岡先生は今年はクラスを担当する必要はありませんので、自分の教科に専念してください」

吉岡「分かった」

教頭「ところで……寺田さんのお知り合いという事は当然麻雀の方も得意でしょうか」

吉岡「……まぁ、それなりに」

教頭「おぉ、それは頼もしい。では吉岡先生には麻雀部の顧問をやってもらいましょう」

吉岡「おい、ちょっと待て」

吉岡「麻雀部とはなんだ、この学校では賭博が認められているのか」

教頭「とんでもない、お金を賭けない純粋な麻雀のクラブですよ」

吉岡「そんな部活があるのか」

教頭「今は人数も2人しかいませんが、全国大会を目指して我が校の学生議会長も所属しています」

吉岡「大会なんて聞いたことないぞ」

教頭「……失礼ですが、吉岡先生は競技麻雀はあまり詳しくないと」

吉岡「俺の周りにやってるやつもいるが、俺はそんなものに興味は無い」

教頭「うーん、まぁ大丈夫でしょう。形だけでもいいのでよろしくお願いしますよ」

吉岡「……仕事なら断れないな」


同日、吉岡のマンション

吉岡「帰ったぞ」

春香「お帰りなさい、光正さん」

吉岡「身体の方は良いのか、無理はしない方がいいぞ」

春香「ありがとう、それより学校の方はどうだったの?」

吉岡「担任をする必要は無いみたいだ。だが麻雀部の顧問になった」

春香「クスッ、光正さんは麻雀とは離れられないみたいね」

吉岡「ガキ相手の麻雀だなんて冗談じゃない」

春香「顧問だからって無理をする必要は無いわ。大学の頃みたいに部室にいるだけでいいのよ」

吉岡「まぁ、そうなんだが。よく分からんが大会もあるみたいだから鎌田に確認する」

trrrrr

吉岡『吉岡だ、聞きたいことがある』

春香(嫌なフリしてやる気あるじゃない。麻雀と離れられないんじゃなくて、離れたくないのね)

鎌田『お久しぶりですね、確か長野で教鞭をとっていると聞きましたが』

吉岡『知ってるなら話は早い。麻雀部の顧問になった』

鎌田『ほぅ……それはまた。その類の麻雀は興味ないように思ってましたが』

吉岡『当然だ。だが、高校生の麻雀大会とかもあるみたいじゃないか。お前なら詳しく知ってるんだろ』

鎌田『えぇ、私も何度か観戦してますからね。大会のルールや関連資料は私の方から送りましょう』

吉岡『助かる。学校に送ってくれ、清澄高校だ』

鎌田(この数年でこの人も随分と丸くなったな。吉岡さんなら、私たちとは違った視点で学生たちに教えられるでしょうね)

鎌田『なるほど、では私の知り合いのプロにも伝えておきますよ』

吉岡『おいおい、プロだからと言って強い奴を俺は知らないぞ』

鎌田『彼女なら大丈夫でしょう。吉岡さんならともかく、学生相手には負けずに厳しく指導してくれますよ』

吉岡『そうか、ならよろしく頼む』

鎌田『えぇ、では明日にでも送ります。吉岡さんもご指導頑張ってください』ピッ

鎌田(今年の大会は面白くなりそうですね。吉岡さん、期待してますよ)

4月某日、清澄高校麻雀部、部室

吉岡「ここが麻雀部か」

吉岡(旧校舎の最上階にあり、全自動雀卓がある。おいおい、学生身分でベッドまであるのかよ)

久「ふー、新入部員は来るのかしらね」

まこ「そりゃ、来なきゃ困るのはアンタじゃろー」ガチャ

吉岡「麻雀部の部員か」

まこ「新しい先生ですか?」

久「確か、吉岡先生ですよね」

吉岡「そうだ、麻雀部の顧問になった」

久「ってことは麻雀打てるんですか?」

吉岡「打てるが、学生の麻雀なんて俺には興味ない」

久(あらら、お金賭けてないのは嫌な人か)

まこ「じゃけん、私らに負けるのが恐いだけでしょ」

吉岡「教頭に言われたから顧問をやるだけだ。俺の事は気にするな」

久「分かりました。よろしくお願いします」

吉岡「一つ聞きたい。パソコンは何に使うんだ」

久「部員がいた頃は戦績を記録してますが、この人数なので今はネット麻雀をやるくらいです」

吉岡「ネット麻雀だと、そんなものが役に立つのか」

久「あら、知らないんですか。ランキング1位の新入生がここに入るみたいですよ」

吉岡「ふーん、ネット麻雀ねぇ」

まこ「じゃあ、私らは新入部員を待ってますか」

久「そうね、私はネットで一局やってるわ」

吉岡「なら俺は鎌田から来た大会の資料でも眺めてるか」

久「うっわー、どうするかな」

東4局 ドラ③
久(西家)31200点 手牌
三四赤五③③④123678南南

久(問題は親でラスの対面。下家のトップとは微差で2位の私がテンパイ、ここで親のリーチが来たけど攻めるべきか)

対面 捨て牌
西①北一②④
19四(リーチ宣言牌)

久(1,9の捨て方から恐らくタンピン系ね。ドラの③は打ちづらい……)

久、打④

久(シャボでのテンパイとって南を対子落としで回ればいいでしょ。後手になった以上、無理に攻める必要のない場面だわ)

下家、打一
対面、打⑤
ロン

久「あーあ、下家がダマの安手で流したか」

吉岡「…………」

久「あー、結局トップに逃げ切られたか」

まこ「おしかったのぉー」

久「ダメダメ、どんなに浮いてもここぞで勝てないと意味ないわ」

吉岡「……その通りだな。今の打ち方では勝てない」

久「あら、先生も見てたんですか?」

吉岡「問題は東ラスのテンパイした時だ。あれは?を切ってリーチだ」

久「そんなこと言っても、あの捨て牌じゃ切りにくいでしょう」

吉岡「対面が何故1,9をあそこまで残したか分かるか?」

久「タンピン系を目指したからです」

吉岡「イッツーを外し、678の三色を狙ったからだ。つまりデンパイ時でこうなる」

四六八⑥⑦234678??(雀頭)ツモ七or⑤or⑧

吉岡「ヒッカケの可能性もあるが、それ以外は気にする必要のない場面だったはずだ」

まこ「イッツー外しならどうして234の方は無いんですかい?」

吉岡「②④の捨て方だ、あれで無いと判断した。まぁ俺の言ってることが違う可能性もあるから気にする必要は無い」

カタカタ

久「……本当だ」

吉岡「終わった対極の牌譜も見れるのか、便利だな」

久「先生の言ってた通りでした」

久(あの場面をあそこまで瞬時に読めるなんて、この人相当強いんじゃないの)

ガチャッ

優希「どもー、麻雀部に入りにきたじぇ!」

和「よろしくお願いします」

京太郎「よろしくっス」

まこ「おおー、エライ数が来たわー」

久「分かったわよろしく、私が部長の竹井久よ」

まこ「2年の染谷まこじゃ」

久「顧問がここにいる吉岡先生よ」

吉岡「吉岡だ、俺の事は気にせずやってくれ」

京太郎(うわー、やる気ねー)


ガチャッ

茜「ここが麻雀部ね。私が入ってあげるわ」

久「……あなたは?」

まこ「編入してきた子じゃね」

久「よし、まずはあなたたちで打ってみなさい」



タン パシ タン パシ タン パシ タン パシ

和「ロン、5200で私がトップですね」

ガチャッ

敦「麻雀部に入りたいのですが」

茜「誰よあんた」

吉岡「駄目だ、お前の来る場所じゃない」

久「あら、二人は知り合い?」

吉岡「知り合いの子供だ」

敦「もう吉岡には負けたくないんだ」

吉岡「ちょうどいい、ネット麻雀が強い奴がいると言ってたな。こいつも上の方らしいぞ」

敦「青柳敦です。“キングあつし”でやってます」

久「“キングあつし”っていったら、確か2位のプレイヤーよね」

優希「なんのこっちは1位の“のどっち”がいるじぇ」

敦「”のどっち”ってあの超デジタルな人か。本当に存在してるとは思わなかったよ」

和「“キングあつし”といえば、ネットの大会に出ていつも優勝している。相当強いじゃないですか」

京太郎「俺と同い年のやつでそんなに強いのかよ」

まこ「これは相当有望株じゃのー」

吉岡「何故来た、お前は勉強するよう寺さんに言われてるぞ」

敦「勉強なんていつでも出来る。でも、調べたら大会もあるし優勝したいんだ」

茜「入ったらいいんじゃない?ま、勝つのは私だけどね」

優希「さっきからラス争いしてるクセに何言ってるんだじぇ」

吉岡「勝手にしろ。だが、成績が悪いようだと寺さんじゃなくても俺が退部させるぞ」

敦「分かってるよ、さあ吉岡勝負だ!」

吉岡「俺は打たない」

敦「何でだよ!逃げるのか」

吉岡「ここでは俺はただの顧問だ。こいつらと打てばいいだろ」

久「そうね。悪いけど後輩に負けるわけにはいかないの」

まこ「そんなに打ちたいなら、ウチの雀荘紹介するわー」

吉岡「大体、何でそこまで打ちたがる。寺さんのところは駄目なのか」

敦「僕はプロになりたいんだ。有名になって父さんに知ってもらいたいんだ」

吉岡(寺さんではなく……青柳さんのことか)

吉岡「一つだけ言っておく。プロだろうがアマだろうが、麻雀で食っていくのは厳しい世界だ」

敦「分かってるよ、だから強くなりたいんだ」

優希「話は良いから早く打つじぇ!」


回想、十数年前、東京某所

竹井「勝つ事が正しいとはかぎらない」

竹井(連戦連勝だったあの頃、どんな相手に対しても負けることを許さなかった。
   だが、気付いた時に俺の味方はいなくなった。
   俺がその時知ったことは、生きるためのバランスだった。
   そして、その日から俺は勝つ事をやめた)

竹井「オリることも覚えろ。
   突っ込むだけじゃ、いつか討ち死にする」

――――――――――――

竹井「俺はな、負けでいいんだ。
   勝つのはもういいんだ。
   勝てる奴から小遣いをもらってりゃ満足なケチな野郎なんだよ!」

○○「だげぢゃんはぐやじくないですか」

竹井「悔しいに決まってるだろ
   俺様があんな奴らに負けるとでも思ってんのか」

竹井(分かったよ○○……もう逃げない
   死ぬまで戦ってやる)

××「そろそろ降参した方がいいんじゃねぇのか竹井」

竹井「このぐらいの劣勢を跳ね返せないようじゃ……今までは生きてはこれなかったろうよ」

――――――――――――

竹井「はっきり言って、この勝負9割9分俺たちの負けだ。
   バクチ打ちは本来、こうなる状態になる前に逃げるべきなんだ。
   だが俺たちは逃げなかった、何故だ……
   どうしてもこの勝負に勝ちたかったからだ。
   だから今更、俺は奴らに降参するつもりはない。
   一億の借りができても最後まであきらめたりしない」

――――――――――――

竹井「飽きたんだよ、手加減して打つのに。
   だからこの街に帰ってきた」

竹井「こんな格下相手にコンビで打つ必要ねぇだろ。
   ここからは、ただアガるだけのゲームだ」

竹井(勝ちまくる人生には……犠牲が多い。時には……破滅を招く事すらある。
   無理をしない事、全体のバランスを考える事、バクチでメシを喰うという事はそういう事だ)

竹井(俺たちは棋子やプロゴルファーじゃない。
   なにが“真剣勝負”だ。バクチは弱い奴からどうやって搾取するかというゲームだ)

竹井(―――全体のバランスだ目立つな、勝ち過ぎるな。
   やり過ぎれば破滅を招く。死んでもいいのか)

竹井「俺はもう手を抜いて麻雀をするのをやめたんだ。
   俺たちは勝った……俺たちは勝ったんだ」

35.

竹井(俺の予想が外れたのは二度目だ。
   一度目は2年前……勝てると思った勝負に負けた。
   そして今日、死ぬつもりだったのに俺はまだ生きている)

竹井「礼を言うよ○○。
   お前と出会わなければ、俺は敗北者のままで人生を終えるところだった
   思い残す事はもう無い、俺は今日で引退だ」

竹井(許してくれ、俺はもう燃えかすだ)
  
竹井「長生きしろよ○○」
  
竹井(そして永遠に勝ち続けろ)


四月某日、旅館、竹井の部屋

竹井(……あれからもう十年以上か)

竹井「あいつら何やってるのかね」

ガラッ

茜「竹ちゃーん、ただいまー」

竹井「おい、勝手に入るなと言っただろ」

茜「いいじゃん、そんなことより麻雀部入ったよ」


竹井「おいおい、こんな田舎で麻雀やってるのかよ」

茜「それがねー、大会もあるみたいだから優勝しちゃうよ」

竹井(良い事だ。麻雀とは離れられないかもしれないが、こいつは普通の高校生活を送る方がずっと良い)

茜「竹ちゃんも打ちに来なよ」

竹井「嫌だな、学生相手なんて何も面白くない。第一賭けてないんだろ」

茜「プライドよ、プ・ラ・イ・ド!勝つ事に意味があるのよ」

竹井「部外者の俺が行くわけにもいかないだろ」

茜「そーだけどさー」

茜「だって竹ちゃん暇じゃない」

竹井「そんなことはない、俺は毎日忙しいんだ」

茜「スマホの使い方だって覚えたでしょ、何やってるの」

竹井「新聞と本を読むこと。これだけで十分俺は忙しい」

茜「何よ、竹ちゃんなんて知らない。蕎麦でも打ってればいいじゃない!」ガラッ!

竹井「……そうするか」

―――――――――――――

竹井「……マズイ。俺って蕎麦打ちの才能ねぇな……」


同日、まこの雀荘『roof-top』

チリリン

まこ「ホントに来たとね、あんまり遅くにならんようにするんじゃぞー」

敦「はい」

――――――――――――

敦「ロン、8000」

オッサン「かぁー、強いねボウズ」

まこ(入って5半荘全トップ。完全にデジタルではないものの、一方で無駄がない)

まこ「こりゃ相当の有望株じゃのー」

敦「じゃあ、僕はこれで」

オッサン「おいボウズ」

敦「はい?」

オッサン「明日も来いよ。明日こそは勝ってやる」

敦「分かりました。でも明日も勝ちますよ」ガラッ

オッサン「まこちゃん、あの子も清澄の学生かい?」

まこ「ええ、うちの麻雀部に入った相当の腕前ですわー」

オッサン「団体戦の人数も揃ったんだろ?よかったじゃねーか」

まこ「ま、全国行きますから」


6月某日、旅館、竹井の部屋

竹井「三者面談?」

茜「そーなの。パパは来れないだろうから竹ちゃんが代わりに来てね」

竹井「……分かったよ」

茜「まぁ、問題ないだろうけどね」

竹井「で、いつになるんだ?」

茜「明日」

竹井「何でもっと早く言わなかったんだ」

茜「いーじゃん別に、竹ちゃん暇でしょ」

竹井「俺にも予定がある」

茜「新聞や本読むだけじゃない」

竹井「今は『ぶらり各駅停車』の予定を立てているところだ」

茜「……何それ」


翌日、清澄高校

ガラッ

茜「あれ、何で吉岡先生が?」

吉岡「俺が代わりにやることになった。座ってくれ」

茜「じゃあ早く部活に行きたいし、始めようよ」

吉岡「分かった、隣の方が親父さんだな」

竹井「悪いが俺は代理人だ。こいつの父親が仕事で忙しいんで代わりに来た」

吉岡「じゃあ、あんたは誰だ」

竹井「竹井だ、今はこいつの親父の知り合いの旅館に泊まっている。今はまぁ……その……無職なのかな」

茜「先生、竹ちゃんをイジメちゃ駄目だよ。竹ちゃんは麻雀は強いけど可哀想な人だから」

吉岡(大方、麻雀の借金を埋める代わりに雑用をやらされているところか)

竹井「俺の事はいいだろ、コイツの親父に伝えておくから始めてくれ」

吉岡「分かった」

吉岡「―――という訳だ。特に素行に問題もなく、学力も申し分ない」

竹井「茜、お前優秀だったんだな」

茜「何よ、こんな田舎の学校じゃ当然でしょ」

竹井「……なぁ先生、あんた麻雀部の顧問らしいな」

吉岡「形だけだがな」

竹井「その……こいつは部員としてどうだ、迷惑かけているのか」

吉岡「あー……恐れを知らない若者らしい素直な麻雀だ。まぁ、元気があるし良いんじゃないか」

竹井(やはり打ち筋は変わってないか)

茜「何よ先生ったら、いつも本ばかり読んでるくせにー」

吉岡「部員がやる気あるんだから、俺が教える必要ないだろ」

茜「そう言って、面倒なだけでしょー」

竹井「よせ、先生の言ってることは正しい」

茜「そうやって竹ちゃんも悪い大人の仲間入りするんだ」

茜「先生。私の竹ちゃんはね、お金はたくさん持っているけど、行くところが無くて可哀想な人なの」

竹井「おい、よせよ」

吉岡「『私の』だと?まさかお前たちは―――」

竹井「誤解だ、俺はただコイツの親父から頼まれただけだ」

茜「そーそー、確かに同じ旅館に住んでいるけど、竹ちゃんはね私のペットなのよ」

吉岡(何なんだこいつらは?)

竹井「誤解されないように言っておくが、俺は生きるのに金が不自由していないから仕事をしていないだけだ」

吉岡「じゃあ、本当に善意で保護者代わりをしていると?」

竹井「まぁ……そんなところかな」

茜「竹ちゃんは麻雀打ちだけど、お金を失いたくないからなまけているんだって」

竹井「俺の話はいいだろ、茜の方も問題なさそうだし帰るぞ」

吉岡「分かった、ところで竹井さんはいつまで旅館にいるんだ?」

竹井「多分だが、コイツが卒業するまでだろうな」

吉岡「そうか。じゃあこれで終わりだな」

同日、清澄高校廊下

竹井「おい、俺の事はあまりしゃべるなよ」

茜「いーじゃん別に、こんな田舎じゃ竹ちゃんの事分かる人なんていないでしょ」

竹井「それはそうだが、人の噂ってのはどこから広がるか分からないものだぞ」

茜「はいはい、それより私は部活に行くけど竹ちゃんも来ない?」

竹井「嫌だよ、俺は帰るぜ」

茜「ダメ、ダメったら絶対ダメ!」

竹井「おいおい……」

茜「いいから竹ちゃんもついてきなさい」

竹井「大ちゃんに電話しなきゃいけないんだ」

茜「そんなの夜でもいいでしょ、いいからついてきなさい!」

竹井「……ついていくだけだぞ」


同日、清澄高校麻雀部、部室

ガチャッ

茜「遅くなってごめんねー」

優希「カモが来たじぇ」

和「茜さんのお父さんも見学ですか?」

竹井「そんなところだ。あと俺はコイツの父親じゃない」

久「ちょうど良かったわ。私これから学生議会の方で行かなきゃいけないの」

優希「まこ先輩はバイトで、京太郎と敦くんは遅くなるみたいだから打ち手が足りなかったじぇ」

茜「なら、私と竹ちゃんが入れば4人打ちができるじゃない」

和「あら、そちらの方も打てるのですか」

竹井「竹井でいい。一応……打つことはできるが」

茜「いいから席に着きなさい。皆もいいよね」

和「えぇ、まぁ」

優希「打てるなら別に誰でも構わないじぇ」

竹井「……分かったよ」

竹井(面倒だな。適当に打って帰るか)

東一局 親:竹井

竹井「チー」

竹井(攻めるフリくらいはしとくか)

優希「リーチだじぇ」

茜「ちょっとー、いつも東場のリーチが早すぎんのよ」

和(イヤな感じがしますね……)

竹井(それでいい、お前らで全局アガれ)

優希「ドーン!リーチ一発ツモ裏3、3000、6000だじぇ!」

茜「ちょっとー、裏は余計よ」

東二局 親:茜

和「ロン、8000です」

優希「ちょっ!今、茜ちゃんが捨てたのじゃん」

和「直撃狙いです」

竹井(それでいい)

東三局 親:和

茜「チー」

竹井(この局は茜にアガらせるか)パシッ

茜「ポン」

優希「むー、とおるかな」

茜「ローン、タンヤオドラ2赤2は8000」

東四局 親:優希

優希「リーチだじぇ!」

和「ツモです、500、1000」

竹井(あと半分だ)

南四局(オーラス) 親:優希 ドラ4
竹井:15200
茜:28000
和:35800
優希:21000

竹井(やれやれ、ようやく終わりか)

ガチャッ

京太郎「おつかれーッス」

敦「遅くなりました」

久「戻ったわよー、そこで彼らと吉岡先生と合流したわ」

竹井(さっきの先生か)

吉岡「……」

茜「よーしテンパったぞ、リーチだー!」

竹井手牌
七八九7899①②③⑦⑧⑨ ツモ①

パシッ
打8

茜「ローン!竹ちゃん甘いよー8000で逆転ね」

吉岡(中抜きだと……何だ今のは)

竹井「いらない牌を切ったら当たってしまったか」

茜「よーし、このまま勝ちまくるぞ」

竹井「俺は帰らせてもらう、邪魔したな」ガラッ


優希「よく分からないオッサンだったじぇ」

和(何か引っかかりますね……)

吉岡「あの男……麻雀打ちだな」

茜「そうなのよね、竹ちゃんも昔は有名だったみたいよ」

久「あら、そんな人だったんだ」

茜「でもいいの、私は竹ちゃんの過去なんて気にしないんだから」

優希「アツアツだじぇ」

吉岡(……竹井か、寺さんなら何か知ってるかもな)

同日、吉岡のマンション

寺田『おお、吉岡か。今日はどうしたんだ』

吉岡『三者面談があるが、敦は俺が寺さんに口頭で伝えるだけでいいか?』

寺田『あぁ……別に構わないが』

吉岡『学力や学校での態度に問題は無い。ただ、アイツは麻雀部に入った。競技麻雀のプロになりたいそうだ』

寺田『そうか、最近は競技の方の人口が増えているみたいだからな』

吉岡『だが、その分そっちも客には困らないんだろ』

寺田『あぁ、半端なやつがカモとして来るのは今も昔も同じだ』

吉岡『そんな訳で敦に目立った問題は無い。それより聞きたいことがある』

寺田『何だ、言ってみろ』

吉岡『竹井という男を知ってるか。恐らく昔東京辺りで有名だった打ち手だと思う』

寺田『……竹井だと?』

吉岡『知ってるのか』

寺田『あぁ、昔の話だ。俺がまだ若かった頃“コンピュータの竹井”と呼ばれていた男がいた』

吉岡『やはり有名だったか。で、強かったのか』

寺田『あぁ、一流の読みで相手を倒す凄腕だったよ。一度は引退の噂が出たが、ある時大金の賭かった大会で優勝したはずだ』

吉岡『寺さんは打ったことがあるのか?』

寺田『よせよ、俺は強い奴とは戦いたくないんだ』

吉岡『今はある学生の保護者の代理をしている。なまけていると言ってたが』

寺田『賢い選択だな。金のある人間はバクチから離れるべきなんだ』

吉岡『助かった、これで分かった』

寺田『どういうことだ』

吉岡『あの男は強い奴との戦いを求めている。本人は気付いてないだろうが、本能が求めているはずだ』

寺田『……お前のようにか』


回想、十数年前、某所

―――今度は何を始めたんだい竹ちゃん

竹井「きれいな石を捜してる」

―――珍しい事に、お客さんが見えてますよ

竹井「俺を尋ねて来る奴なんか、ろくな奴じゃない」

竹井(バクチは死ぬことの疑似体験だと言った奴がいた……。
   勝つと負けるの狭間から生還した者にとって………………全ての日常は退屈でしかないというのか)

――――――――――――

竹井「お前も病気だな……。
   寝ていた俺を起こさなければ楽にしのげたろうに」

タン パシッ

竹井(バカな奴だ、自分の勢いにブレーキをかけやがった……。
   勝負事とは決断の連続だ。「無難な一手」というものは命取りになる。
   そんなものは自分の与えられた時間を無駄に使っているだけだ。
   相手の手牌と場況が読めている事……その読みを信じてベストな打牌ができる事。
   このくらいのレートの麻雀ならそのくらいは基本中の基本だ。
   それがこいつらは意味のない打牌を繰り返し、勢いを失う……そんなレベルだ。
   もし、あいつらなら……こんなブラフはすぐに潰されてたろうな……)

――――――――――――

竹井「伝えとけ、俺にふさわしいメンバーはまだかってな…………」

竹井(こいつ今、三、六ではったな、手牌を見てみるか)

―――ローン!ピンフドラ1、2000点

竹井(雀頭は9だったのか、てっきり雀頭が2のタンピンだと思ってたぜ。
   まだまだ集中できてない、こんな甘い読みでは奴等とは戦えない)

竹井(俺の言っている「読み」というのは他家の手牌を読む事だけを言っているのではない。
   一局の全てを読み切る事、それが本当の「読み」だ。
   手牌を読む事はその第一段階でしかない。
   例えばこういう下級者の場合、表情や動きにスキがある。
   あからさまに理牌する奴、配牌を取る時やツモる時の視線、モウ牌をする時や切る時のクセ……。
   上級者の場合、一定のリズムで打つからそういうスキは無い。
   ただし、上級者になればなるほど捨て牌が正直になる。
   上級者は間違った打牌をしない、間違った打牌は負けにつながるからだ。
   しかしその分、捨て牌が手牌をよく映す。
   これらの要素にその打ち手の精神状態、考えている事、運気などを計算に入れて手牌を割り出す。
   そして3人の手牌が分かれば、それに捨て牌と自分の手牌とドラ表示牌を合わせて、それ以外のものがツモ牌という事になる。
   自分の状態を把握していれば、そのツモ山の中の何を引いてくるかだいたい分かる。
   ここまで読め、初めて「読んだ」と言える。
   ただし、こういう事を頭の中で考えて打っているわけではない。
   集中していれば全体として分かるのだ。
   卓に座って考えているなどというのは、レベルの低い打ち手の話だ。
   何も考えていなくてもどんな牌があるのか、その一局がどうなるのか分かっている事……。
   少なくとも、その状態でなければ奴らには勝てない)


竹井「ツモ、2000、4000だな」

竹井(次の局はおそらく誰でもアガれる簡単な手が来るな……。
   しょうがないな、また牌勢を下げるような打ち方をするか)

―――ロ……ロン、リーチ一発タンピン三色
   甘いねあんたも一発でド高めだよ

カチャッ

―――いらっしゃいませ
   すぐ打てますよ。今、終わった所ですから

△△「いつまで道草してんだよ。
   あんまり遅いからこっちから来てやったぜ」

竹井「こんな安い店でどうするつもりだ、サシ馬でも行くのか」

△△「賭けるとしたら、それはプライドだろ」

竹井「ふっ……相変わらずだな。
   プライドなんてものは俺には無い」

△△「じゃあなんでここに来た?今さら金なんて必要ないはずだぜ。
   負けたら自分が弱いことを認める……その方が大金を賭けるより面白いんじゃないのか」

カチャカチャ タンッ パシッ

△△「あんた、いつからそんなぬるい麻雀をするようになったんだ」

△△「ツモ、2000、4000、逆転だな。
   今度あんたに会ったら絶対に勝ちたい……そう思って自分を鍛えてきたつもりだ。
   しかしあんたは、こんな鈍い麻雀しか打てなくなっていた。
   ――――――残念だ」

――――――――――――

竹井(戦いとは最終的には気力だ……昔のようにスキのない麻雀を打つ気力が今の俺にあるだろうか。
   考えてみれば、今の俺には欲しいものなどもう無い。やはり奴らとは気力の差で勝てないのか)

竹井「俺は何をしにここまで来たのだ……」

―――竹ちゃん!

○○「会いたかったです竹ちゃん、何してたですか。
   また昔のようにコンビで打つです」

竹井「麻雀をするために戻ってきた。ただし……お前と戦うためにな……」

竹井(俺にはたった一つだけやり残した事がある、それはお前だ……。
   どんな事をしても、お前に勝つ……)

チャッ

―――しかしあんたも好きだな、さっき出て行ったばっかりじゃない
   まだ1時間もたってないよ

竹井「ちょっと面白いことを思いついてね。
   俺は全ての局をアガり続ける。もし俺以外の人間がアガったら、賞金を10万出すぜ。
   さ……始めようか」

―――そ……そんな事できるわけないだろ

竹井「できるさ、このぐらいのレベルならできて当たり前だ。
   集中できていればな……そういう気持ちになる事が今の俺には必要なんだ」

――――――――――――

―――ずいぶん捜したぜ

竹井「大男が麻雀ルームに現れた、そしてそいつが勝ちまくっている。そうだろ」

―――ど、どうしてそれを……

―――またムダヅモ~~っ!

竹井「ロン、1000点。10万は取られずにすんだな……。
   行こうか、その男の連勝を止められるのは俺だけだ」

○○「ロ……ロンです。
   リーチ一発メンホン……」

竹井「18000だ」

竹井(いい感じだ、まっすぐ打ててる…………。
   こいつと戦う時は精神的な揺さぶりなど通用しない。
   アガりに向かわない食いずらしも無駄だ……あるのは正攻法だけだ。
   アガれる最高の形をつくり……きっちりアガリきって流れを持ってくる。
   こいつと同じ卓上でこいつと対等に勝負するにはそれしかない)

○○「今日の竹ちゃんは気合が違うです」

竹井(最初に会ったあの時からだ……)



俺、竹ちゃんを見習って立派なプロになるです
だって竹ちゃんは世界一の……

言っとくけどな○○……俺は世界で二番目に強い麻雀打ちだ

竹井(俺はいつもこいつを越えるという思いを心のどこかに持っていた。
   ○○、お前に勝つ!)

竹井「ツモ、1000,2000」

○○「あなたは本当に竹ちゃんです。
   強い竹ちゃんが俺の前に戻ってきたです」

竹井「お前を負かすためにな」

―――――――――――――

竹井「奴はこの俺を甘く見過ぎた。
   俺を本気にさせたらどうなるのか……今度こそ、それを味わってもらう」

同日、旅館、竹井の部屋

竹井「吉岡という男……気になるな」

――――――――――――

竹井『竹井だ』

岡田『久しぶりだな、お前からかけてくるなんて珍しい』

竹井『吉岡という打ち手を知っているか。3月まで現役で、まだ20代の男だ』

岡田『吉岡……あぁ、東京のカジノで麻雀のメンバーをやっていた男だ。田村と似たような経歴だな』

竹井『そうか』

岡田『そいつ、今は引退しているのか』

竹井『学校の教師をやってるぞ』

岡田『最近は競技の方が人気だからな』

竹井『だが、その分カモも多いだろ』

岡田『よせよ、今日も面子が足りないんだ。来るのか』

竹井『知ってるだろ、俺はもう引退したんだ』

岡田『聞いてるぜ、最近打っていることもな』

竹井『人違いだろ、切るぞ』ピッ

竹井(あの男、やはり麻雀打ちだったか)

竹井「……面倒だな」

同日、まこの雀荘「roof-top」

オッサン「また、ボウズの勝ちか。本当に強いなぁ」

敦「そんな、毎回ヒヤヒヤしてますよ」

オッサン「じゃ、俺は帰るぜ」

敦「はい、また今度」

チリリン

まこ「お疲れ様でしたー」

まこ「ほとんど毎日来るとは、精が出るのう」

敦「えぇ、でも強くなりたいんです」

まこ「おいおい、部では一番の勝率じゃろ。ここでも一番の打ち手じゃ」

敦「ですが、藤田さんには簡単に勝てません」

まこ「あの人はプロじゃけん、そう簡単に勝てる相手じゃないんよ」

敦「ですが……」

まこ「部活が終わればここでお客がいなくなるまで打って、帰ったらネット麻雀。いくら何でも打ち過ぎじゃろ」

敦「僕はプロになりたいんです。その為にももっと強くならないと」

まこ「なしてそこまでプロにこだわるんじゃ」

敦「……僕には麻雀打ちの父親が二人います。一人は血の繋がった現在の父親『寺田』、もう一人はある時まで保護者として育ててくれた父親『青柳』」

まこ「……」

敦「僕は生まれた時、当時の日本では治療の困難な病気でした。『寺田』の父は何とかアメリカでの手術費を工面しましたが、しばらく姿を消すことになりました」

まこ「じゃが、今は東京に住んどるんじゃろ」

敦「えぇ、ある時まで『青柳』の父が僕を育ててくれました。まさか二人とも麻雀打ちだなんて当時は思ってませんでしたよ」

まこ「なら、その『青柳』の方の親父さんは?」

敦「ある時、吉岡……先生と大金を賭けて戦うことになりました。『青柳』の父は勝ちましたが、僕を『寺田』の父に返して今はどこにいるのか分からないんです」

まこ「それで二人の親父さんか」

敦「今は競技麻雀が主流になっています。しかし一方でレベルの方は昔と大して違いは無い、むしろ容姿で選ばれた女流プロや芸人プロなど半端な人が多すぎる」

まこ(藤田さんはこれを聞いたら怒るんか?)

敦「でも、強いプロになって有名になったらきっと……きっと二人とも喜んでくれると信じてるんです。僕も麻雀打ちの息子だから、麻雀が好きだから強くなりたいんです!」

まこ「そうか……」

敦「すいません、話しているうちに遅くなりましたね。僕はそろそろ帰りますよ」



まこ「ちょっと待ちんさい」

敦「何か?」

まこ「どうせ帰ってもロクに食事しないじゃろ、ウチで食べてきんさい」

敦「そんな、悪いですよ」

まこ「一人分が増えるくらい大したことないんよ」

敦「ですが……」

まこ「あーもう面倒じゃ!わりゃ、かばちぃたれよったらしごしちゃるでぇ!」

敦「」

まこ「いいから黙ってウチで食べてきんさい」

敦「は、はい。ではお言葉に甘えて」

まこ「敦は後輩でうちの常連なんだから、夕食ぐらい遠慮する必要ないんじゃ。これからも来たら食べてから帰りんさい」

敦「染谷先輩……ありがとうございます」

まこ「その代わり、もっともっと強くなるんじゃ。誰にも負けないくらい」

敦「はい!もちろんです」

翌日、麻雀部部室

まこ「―――まぁ、そんな感じじゃ」

久「ふーん、アツアツじゃない」

まこ「何バカなことゆっとるんじゃ」

久「でも、やっぱり敦くんと吉岡先生には深い縁があったのね」

まこ「ネットじゃどうか知らんが、部室で敦は和に勝ち越してるしな。腕は相当なもんじゃ」

久(やはり、私たちの知らない麻雀を打てる吉岡先生の力を借りたい……)

まこ「何じゃ、顧問のことか」

久「あの先生はかなりの腕前よ」

まこ「最初に来た時の解説は驚いたのー」

久(私たち全員に足りないもの、きっと勝ちに対する執念ね)


同日放課後、同所

ガチャッ

吉岡「竹井、まだ帰ってなかったのか」

久「えぇ、先生に相談があって残ってました」

吉岡「何だ」

久「私たちに麻雀を教えてください」

吉岡「お前たちだけで十分できているじゃないか」

久「先生も見てて分かるはずです。このままでは全国大会に行けない」

吉岡「結果が出なくてもいいじゃないか、お前たちは毎日楽しそうだ」

久「先生……本気で言っているんですか?」

吉岡「……」

久「お願いします、私にとっては最後の年なんです。全国に行く夢を見たいんです」

吉岡「全国……か、その先に何がある」

久「分かりません、今を精一杯楽しみたいんです。皆と過ごせる最後の時間を大切にしたいんです」



あの頃俺は……話相手すらいなかった……



久「プロだとか先の事はまだ分かりません。でも、私にとって最後の高校生活なんです」

吉岡「―――分かった。だが、泣いても俺は知らないぞ」

久「はい!お願いします」

回想、十数年前、某所

タン パシッ

竹井(大丈夫だ、今日は集中できてる)

△△「ロン、12000」

竹井(運がなかったでは、すまされない…………このツキの差こそ、俺と△△の現時点での実力の差だ。
   この前の対戦での一敗が俺と△△の立場を逆転させたのだ)

竹井(俺は平穏に生きる選択を捨ててきた。
   しかし、ここでは勝たなければ生きていけない。負けるために、ここに戻ってきたわけじゃない。
   バクチ打ちの最後は、いつも悲惨だ。誰もがその事を知りつつも、ここから離れられない。
   俺もまた、ここであがき続ける事を選んだ一人だ)

竹井「これがバクチだ。心配するな、俺はこれでも相当にあきらめの悪い人間だ。最後の最後まで勝負を投げたりしない。
   ただし、あんたも覚悟を決めて欲しい。どんなに金が出ていっても最後まであきらめるな。
   俺が言いたいのはそれだけだ」

竹井「地獄か……」



―――田舎で余生なんて、あなたには似合いません。
   あなたは結局バクチ場という地獄で、炎に焼かれて死ぬのを望んでいるのですよ



竹井「確かに地獄だ」


竹井(勝って何があるわけでもない、負ければ大きな痛みがある。俺たちは確かに異常だ。
   だが俺も△△も、もはやここでしか生きられない。俺はあの海辺の街で、その事をいやという程思い知った。
   この場所はゆずれない。
   ここで今、俺が△△と戦う理由があるとしたら、たったそれだけだ)

竹井(ここからは何も生まれない。消去される者だけを選ぶ場所。
   しかし、こここそが俺たちの住む場所だ)

打、二

竹井「リーチ
   △△……俺のマチがわかるか」

△△「二、五、八だろ」

竹井「その通りだ」パタ

△△「あんたもすごいことを考えるよ竹井さん……。
   リーチ、一発、ツモ、ハイテイ、タンピンでハネツモか……」

竹井「どうしても勝ちたいんだよ。
   △△……俺はブランクの間におまえより麻雀が鈍ったかもしれない。
   だがな……勝ちたいと言う気持ちだけは、未だに誰にも負けないつもりだ」

△△「気持ちで、二,五,八を引けるとでも言いたいのか」

竹井「二は枯れている、山に五は1枚、八は2枚ある、14分の3だ。
   14分の3が引けないくらいなら……俺も本当に引退だな」


ダン

竹井「ツモ……3000、6000」

竹井「どんな手段にうったえても勝つ……それが今の俺だ」

竹井(勝つという事はこういう事だ。
   ○○……お前に生まれて初めての黒星を付けるのは、この俺だ)


6月某日、旅館、竹井の部屋

竹井「おいおい、何でこんなに競技麻雀が流行ってるんだよ。田中の奴も頑張っているじゃないか」

コンコン

―――竹井様、お客様がお見えになっております

竹井「俺を尋ねて来る奴なんかろくな奴じゃない」

竹井(はぁ……今日のしし座の運勢は最悪なんだよな)

―――清澄高校の吉岡様という方ですが

竹井(やはりアイツか、面倒だな)

竹井「こっちから行く、外の喫煙所を使うぞ」

―――かしこまりました


同日、旅館外、喫煙所

吉岡「遅い時間に悪いことをした」

竹井「で、俺に何の用だ」

吉岡「“コンピュータの竹井”に用があると言えばいいのか」

竹井「……やっぱりお前も麻雀打ちか」

吉岡「アンタが引退しているのは知ってる。そして、そんなアンタに麻雀の話をするのは迷惑だって事もだ」

竹井「俺に打てと言うのか」

吉岡「そうだ、だが相手はウチの学生だ。そしてノーレートだ」

竹井「冗談じゃない、俺に何の得がある」

吉岡「金なら少しは出そう。だが、今のアンタに金など興味ないはずだ」

竹井「ほぅ……」

吉岡「アンタは強い奴と打つ刺激を求めているんじゃないのか」

竹井「バカバカしい」

吉岡「本当にそう思っているのか、今の生活が退屈すぎるとは思わないのか」

竹井「なら、そういうお前はどうなんだ。なぜ麻雀打ちを辞めた」

吉岡「……子供ができたからだ」

竹井「そうか、その時点で俺とお前とでは土俵が違う」

吉岡「だが、アンタもあいつらの打ち方を見れば分かるはずだ。あいつらはまだまだ強くなる」

竹井「悪いが、サークル活動の麻雀は嫌いなんだ。金のかかっている麻雀でどんな汚い手を使っても納得できる。
   皆、命の次に大切な金のために戦っているんだからな。だがサークルの麻雀だと負けても金を払う必要が無いから、ムチャクチャする奴がいる……。
   結局、勝負に対する真剣さが違うんだよ、賭けているのと賭けていないのとでは……。
   そしてそういうクズが勝負をつまらなくするんだ」

吉岡「……俺もそう思っていたよ」

吉岡「今のあいつらは金の重みより夢や青春を追いかけている。そしてそれが学生の限られた時間だと知っているから真剣なんだ」

竹井「……」

吉岡「あいつらは真剣だ、スジが良い。だが、麻雀における思考と打牌が追いついていない。」

竹井「だからと言って俺に打てというのか」

吉岡「ずっととは言わない。実は近いうちに東京で合宿をやることにした。そこでアンタも指導者の一人として打って欲しい」

竹井「……面倒だな」

吉岡「俺の連絡先を渡しておく。気が向いたら連絡してくれ」

竹井「かけることは無いと思うぞ」

吉岡「構わない、だが期限は一週間以内だ。じゃあな、邪魔した」ザッ

竹井「どいつもこいつも好き勝手言いやがる」

ピリリリリリリリ

竹井『竹井だ』

―――ごぶさたしております

竹井『江藤か、生きていたのか』

江藤『私、新しい事業を始めました』

竹井『俺は引退した。話す事など何もないぜ』

江藤『そうおっしゃらずに。竹井さんは現在競技麻雀がブームになっているのをご存知ですか』

竹井『……雑誌で見た』

江藤『世の中には様々な投資家の方々がおります。そこで私は、高校生の全国大会の結果に投資する……いわゆる外ウマを管理しています』

竹井『そうか』

江藤『竹井さんにも馴染みのある方が投資されていますよ』


―――時は遡り4月

奈良県、阿知賀女子学院

ワニ蔵「ロン、もう2巡目だぜ。俺様相手にその二は暴牌だな。32000」



東東京、臨海女子高校

田村「ツモ、4000、8000。逆転でまた俺のトップだな」



西東京、白糸台高校

フランケン「かーーーーー、アガっとらんですーーーーー。
      ちぇーーダブリー。
      はーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
      一発まで消されちゃったです、もうどうでもいいです。
      あーあ、一発なしのツモです。
      ダブリーツモ、チンイツ、イッツー、赤、裏。
      はーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
      役満のチップ7枚オールだけです。
      チップが無い?はーーーーー。
      損したです、一応連チャンですか」


江藤『ワニ蔵さんや田村さん、そしてフランケンさんが各校の指導にあたり、それぞれ一億円の投資をされています』

竹井『ああそう』

江藤『竹井さん、貴方も今の退屈を紛らわす事が必要なのではないですか』

竹井『どうせまた何か企んでるんだろ』

江藤『勿論です。ですが、投資された分はしっかり配当しますよ』

竹井『お前の考えてる事なんか俺には分からないさ』

江藤『退屈だったのですよ。戦いの場を作るのが私の仕事ですから』

―――竹ちゃん一体何者なの……

―――何者でもない……
   つまらない事にしかやる気を出さない、日本一のなまけ者だよ

竹井『……清澄高校に一億の投資だ』

江藤『清澄高校?失礼ですが初耳の学校ですね』

竹井『気にする必要は無い』

江藤『そんな、竹井さんが投資するからには何かあるんでしょうな』

竹井『今度こそ逃げるなよ、きっちり往生させてやる』

江藤『ハハハ、恐い事を言いますね。貴方の恐ろしさは身をもって知っていますよ』

竹井『じゃあ切るぞ』ピッ



昔……麻雀中毒だった。大金をつかんでなんとかやめることができた
しかし中毒にはフラッシュバックがある

竹井(それにしても……今日のしし座は最悪だ)


竹井『竹井だ』

吉岡『アンタか、随分早い反応じゃないか』

竹井『東京での合宿、つきあってやるよ』

吉岡『そうか、じゃあ詳しい日時を後で連絡する』ピッ

竹井(今の俺に必要なことは……カンを取り戻すことだ)


そして時は進み、初夏へ

咲(ぅわ、キレイな子)

京太郎「咲ーーー!
    よっ、学食行こうぜ」

――――――――――――

京太郎「ついでにもひとつつきあってよ。メンツが足りないんだ」

咲「え……」

京太郎「麻雀部」


久「今回の宮永さんのスコアは!?」

優希「プラマイゼロっぽー」

――――――――――――

京太郎「んなバカな、たまたまっしょ」

久「でも、圧倒的な力量差だったら?」

――――――――――――

和「もう1回……もう一局打ってくれませんか……」

咲「ごめんなさい、私は麻雀それほど好きじゃないんです」

咲「嶺上開花自摸、70符2翻は1200、2300」

――――――――――――

和「私は……悔しいです。あなたに負けたのがとても悔しい。
  麻雀を好きでもないあなたに……」

――――――――――――

咲「麻雀部に入れてもらえませんか」

――――――――――――

和「今の打ち方を続けるというのなら、退部してもらえませんか」

――――――――――――

咲「一緒に全国に行こう!!」


一方、竹井

まこの雀荘「roof-top」

チリリン

竹井「打てるかい?」

まこ「ウチはノーレートですがよろしいですか」

竹井「何だっていいさ、真剣に打ってくれるんならな」

ドサッ

オッサン「おいおい、何のマネだよ!」

竹井「アガった奴には10万やる」

オッサン「ここはノーレートだと聞いてないのか」

竹井「俺が払うだけさ、問題ないだろ」

オッサン「あんた、何も得しないじゃないか」

竹井「この先何十局もアガれないんだ。このくらいの賞金がなきゃ、つきあってもらえないだろ」

まこ(何者じゃあの人)

オッサン「くっそー全然アガれないぞ」

チリリン

藤田「あら、今日は面白そうなお客がいるのね」

まこ「いらっしゃい」

藤田「いつもの出前、特盛でお願い」

まこ「カツ丼ですね」

藤田「よろしく、その物騒なモノをしまってちょうだい」

まこ「お客さん、この方プロなんでお願いします」

竹井「……分かった」

ガラガラ タン パシッ

竹井「こんなもんだな、終わりにさせてもらうぜ」

まこ(藤田プロですら5連敗じゃと……)

藤田「随分と強いじゃないか」

竹井「たまたまだ、アンタが強いことはよく分かった。次は負けるかもしれない」

藤田(無駄の無い打牌と鋭い読み……我々プロでも滅多に見ない強さだ)

竹井「不愉快な思いにさせたのならすまない、帰らせてもらおう」

藤田「……最近、競技麻雀に賭博の要素を持ち込む奴らがいるらしい、貴方もその一人なのかい」

竹井「さぁな。だが結局、人は刺激無しには生きていけないのさ」

チリリン

敦「こんにちはー」

藤田「また来たのかい学生」

敦「ラッキー、今日は藤田さんがいるんだ」

まこ「この前の借りを返しんさい」

竹井「……清澄の学生か」

敦「こないだ部室に来ていた人ですよね」

竹井「竹井だ、茜の保護者をしている」

まこ「この子は強いですよ。ウチの有望株です」

竹井「そうか、なら見させてもらおうか」

藤田「なんだ打たないのかい。面白い勝負になるかもしれないのに」

敦「竹井さん、そんなに強いの?」

まこ「藤田さん相手に5連勝じゃ」

敦「えー、打ちたいな」

竹井「悪いが、お前とは打たない」

敦「何でだよー、僕に負けるのが恐いの」

竹井「いずれ分かるさ。だが、若いなら麻雀なんて止めておけ」

敦「嫌です、僕はプロになるんです」

竹井「言っとくがな、この世界は競技プロでも雀ゴロでも麻雀を打つだけで大金持ちになった奴などいない」

藤田「……」

竹井「どんな天才でもメシを食ってくのが精一杯なのが現実だ。やめるならやり直しのできる若いうちだな」

藤田「……竹井さんは麻雀打ちになって後悔しているのかい」

竹井「ああ、後悔してるね。俺の場合他にやる事がなかった」

敦「……」


敦「僕も同じです。父も麻雀打ちで僕も一緒なんです」

竹井「……」

敦「ですが……僕はここで一度も負けて帰ったことはありません」



なつかしいにおいがした……
昔、戦った奴らと同じことを言う……



竹井「とにかく今日はもう打たない。見学しているさ」

敦「分かりました、じゃあ僕が勝つのを見ててください」

ガラガラ タン パシッ

敦「ツモ、リーチ一発タンピン三色ドラ1、4000、8000です」

竹井「若者らしい素直な麻雀だ。いい素地を持っている」

敦「ありがとうございます」

竹井(コイツ……まだまだ強くなるな。最初からひねた麻雀をする奴はもうそれ以上伸びないものだ)

――――――――――――

敦「ツモ、500,1000」

オッサン「見逃しとは、いい度胸じゃねぇか」

敦「ごめんなさい、トップで終わるためですよ」

藤田「えらく気合入ってるじゃないか」

竹井(しっかりと場況を見る才能がある。コイツは伸びるぞ)

竹井「口だけでなく、しっかり打てるもんだな」

敦「だって、プロっていうのはそうじゃなくちゃ」

竹井(問題があるとすれば若さだ。修羅場の数が少なすぎる)

竹井「だが、今のままでは窮屈なんじゃないか」

敦「窮屈ですか?」

竹井「はっきり言ってお前は強い。それゆえにピンチを乗り越えた回数が少ないって事さ」

敦「……分かってます」

竹井「そこまでして、お前を支えるモノは何だ」

敦「目標です。僕は、いつか顧問の吉岡を倒したいんです」

竹井「あいつか」

敦「あの人は勝たなければいけない状況で必ず勝ちます」

竹井「それが一流の麻雀打ちだ」

敦「何度も勝てそうだったのに、笑って最後には逆転されるんです」

竹井「……お前は麻雀の強さを何だと思っている」

敦「ええと、正確なアガりと状況の把握ですか」

竹井「そんな事は当然だ。一番大事なのは、相手の心を潰すことだ」

藤田「……」

敦「心……ですか」

竹井「人間一度負けを味わうと、その時から『ひより』との戦いになる」

敦「……ひより」

竹井「諦めたら終わりだ。最後まで目を背けるなよ」

敦「は、はい!ありがとうございます」

竹井「礼なんかいらない、俺は帰る」

敦「竹井さん!」

竹井「何だ」

敦「最近茜さんが不機嫌なので、帰ったらちゃんと向き合ってくださいね」

竹井「余計なお世話だ」チリリン

藤田「それじゃあ、私もそろそろ帰ろうかね」

オッサン「俺もそうするかな、今日は散々な成績だったからな」

――――――――――――

まこ「エラく竹井さんと話してたのう」

敦「やっぱり、強い人は皆諦めないんですね」

まこ「敦だってそうじゃろ」

敦「いえ、僕は心のどこかで驕っていました」

まこ「……」

敦「絶対に諦めない、必ず勝機を見つけてみせる」

まこ「……そんじゃ、片付け手伝いんさい。終わったらご飯じゃ」

敦「はい!」

大体半分終了。見てる人いるのか知らないけど、一旦寝ます。
8時くらいにはかけるようにしたい。

同日、旅館、竹井の部屋

茜「あ、帰ってきたんだ」

竹井「帰らなかった方が良かったか」

茜「そんなわけないでしょ」

竹井「……茜、お前は最近麻雀の調子はどうなんだ?」

茜「えー、面白いけどつまんない」

竹井「何だよそれ」

茜「勝てないけど、皆と過ごすのは楽しいよ」

竹井「そうか、良かったな」

茜「ねぇ、竹ちゃん。私って麻雀の才能無いのかなぁ……」

竹井(はっきり言って無いな、だが口に出していいのだろうか)

茜「前にノグちゃんと打ってた竹ちゃんは、恐かったけど強かったの」

竹井「……」

茜「でも、今の私は部室でさえ全然勝てないなって思うようになったの」

竹井(誰も手加減してやってないんだろうな)

竹井「気にする必要は無いんじゃないか。今は調子が悪いだけで、勝つときが来るさ」

茜「竹ちゃん……」

竹井「それにな、たまにはワザと鳴きを入れるとか、普段やらない打ち方をするのもいいんじゃないか」

茜「そっか、そうだよね。気にし過ぎてたのかも」

竹井「しっかりしろよ、元気が取り柄のお前らしくない」

茜「うん!竹ちゃんありがと」

某日、清澄高校、進路相談室

吉岡「話とは何だ」

久「先生も気付いていますよね、宮永さんの事」

吉岡「あぁ、だがアイツの強さは未知数だ」

久「彼女や和にはまだ、負ける恐さを知らないのだと思います」

吉岡「アイツらは敗北の恐ろしさを体感しないと伸びないだろう」

久「ええ、ですが彼女たちには団体戦で活躍してもらわなきゃいけませんから」

吉岡「……全国のためか」

久「そうです。結局、私は個人戦より団体戦で全国に行きたいんだなって気付いたんです」

吉岡「そうか。それで、残り少ない期間でどうする」

久「知り合いに藤田というプロ雀士がいます。彼女たちと戦わせてヘコませます」

吉岡「藤田か、俺の知り合いもそいつを薦めてたな」

久「あら、じゃあうまくいきそうですね」

吉岡「そういうお前はどうなんだ」

久「私ですか……そんなの必死に決まってるじゃないですか」

吉岡「負けたら、そこで終わりだからな」

久「ええ、今の私は夢を叶えるためなら何でもしますよ」

放課後、麻雀部部室

久「はい、ちゅーもーく。というわけでっ、来月頭に県予選があります」

京太郎「染谷先輩は今日は来ないんですか?」

久「今日はバイトが病欠らしくて人手が足りないらしいのよ。というわけで、和と宮永さんで行ってきて?」

咲・和「!?」

茜「えー、私行きたいんだけどー」

久「茜はバイトじゃなくてお客の方が向いてるんじゃない」

茜「そっかー、私じゃ勝ち過ぎて問題になるか」

京太郎「部長は行かないんですか?」

久「ほら、私18歳になってないから。学際の準備もあるし」

咲「私……15歳ですけど……」

まこの雀荘「roof-top」

咲「ロン、7700です」

まこ「ここでは8000じゃ」

咲「そうだった……」

――――――――――――

オッサン「いやー、強いねじょーちゃん達」

チリリン

まこ「いらっしゃい」

藤田「あら……今日のバイトはかわいらしいのね」

オッサン「リーチ」

和(?の対子落としで一旦まわる……!)

俺ら「まぁ、分からんでもない」

?→?
ピンズの2だけど、化ける?


咲(次のツモの南をカン……。
  嶺上牌の八で和了って原村さんをまくる……!!)

俺ら「ファッ!?」

ニヤッ

藤田「カン」

和(親リー相手にカンなんて……!!)

咲(そっ……その嶺上牌は私の……とらないで……!)

俺ら「は?……えっ?」

和(宮永さん……?)タン

藤田「ロン、タンヤオ・ドラ1、60符……3900。まくった」

和(①④⑦待ちを捨てて、私の②対子落としを狙い撃ち―――!?)

藤田「さぁ……もう1回行こうか」

その頃、麻雀部部室

京太郎「和のコスプレ見たかったなァ……」

優希「そんなコトもあろうかと!!服を借りてきてあるじぇ!!」

京太郎「なんのためだ?」

優希「最下位の罰ゲームで貴様に着せるためさ。パンチラ!ほれ!」

京太郎「い・ら・ねー」

優希「……まあ心配無用だじぇ!あの二人のことだから雀荘でも勝ちまくってるじょ」

京太郎「だな」

ククッ

久「それじゃ特訓にならないでしょう」

京太郎・優希「?」

久「知り合いのプロがあの雀荘の常連でね、『二人をヘコましてね』ってお願いしてあるの」

まこの雀荘「roof-top」

ズーン

藤田「結局私が5連続トップね」

まこ「藤田さんはプロなんじゃよ」

和「え」

まこ「実業団時代から『まくりの女王』と呼ばれとったくらいじゃ」

咲「ふあ……なんだァ、プロなんだ……じゃあ仕方ないよね……。
  高校生の私がプロに負けるのは当たり前……だよね……」

バンッ

ゴメン、打ち切ります。いつか書き直す

夜に残ってたら続き書きます。まだいけるはずだと信じる。

和「当たり前じゃないですよっ!!」

藤田「そうそう、去年―――プロアマの親善試合があってねぇ」

咲・和「……」

藤田「優勝したのは当時15歳の高校生―――龍門渕高校の天江衣―――!!」

和「龍門渕って……県予選に出てくる相手じゃないですか……」

藤田「あら、あなた達も県予選に出るの?」



藤田「残念ね、わかってると思うけど」



藤田「絶対勝てないわあなた達」

同日、午後8時、帰り道

咲「龍門渕高校って……あの人より強い子が県予選に出てくるって……」

和「……」

咲「ダメだよ……このままじゃ全国に行けないよ……!!」

和「何言ってるんですか……全国に行かなきゃダメって言ってたのはあなたでしょう!
  1回負けたくらいでメソメソしないでください!」

ザザ

和「私達は行くんです……全国に!」



和「まだ県予選まで17日あります……この17日で誰よりも強くなればいいんです!」

咲「原村さん……」

同日、午後8時20分、麻雀部部室

ガチャ

久「おっ、雀荘から直帰しなかったの?」

吉岡「お前たち何をしている、他の奴らは帰ったぞ」

和「部長、吉岡先生……強化合宿をやりましょう!」

久(そうくると思っていたよ)ニヤッ

久「合宿ねぇ、そんなこともあろうかと……」

クルッ

久「合宿棟を押さえといたわ!!」バン

吉岡(うまくやってくれたみたいだな)

翌日放課後、麻雀部部室

吉岡「話がある、聞け」

優希「先生が話すなんて珍しいじぇ」

吉岡「宮永や原村は聞いているが、大会へ向けて合宿をすることにした」

京太郎「合宿ですか?」

吉岡「2回ある。次の週末に東京、翌週末に合宿棟でだ。不参加の奴は俺に言ってくれ」

久「原則的には全員参加だけど、東京での合宿は厳しくなるわよ」

吉岡「東京の合宿は制服禁止だ、私服で来い。面倒事があったら困る」

敦「それって……まさか」

茜「東京か、パパに会えるかな」

吉岡「あと、合宿中にかかる費用は俺が出すから気にするな」

翌日、麻雀部部室

吉岡「どちらも全員参加か。細かい予定はこの紙に書いてる。竹井、あとは任せた」

久「はい、合宿に入るまでに各個の問題点を明確にしておきたい。まず和」

和「……」

久「和はネット麻雀では長期スパンを見た時に、高いトップ率を取るような理詰めの打ち方ができてる。
  だけどリアルではその場の勢いに流されたり、ミスが目立つように見えるわ」

――――――――――――

久「リアルにしかない動作や情報に耐性をつけるのはどう?例えばツモ切り動作」

和「…………」

久「宮永さんは逆にリアルの牌を使わないネット麻雀で、色んな人と打ってみたら?」

吉岡「じゃ、鍵閉めて帰れよ」ガチャ

まこ「はい」

―――

まこ「よかったのう」

久「何が」

まこ「有望な1年が入ってくれて」

久「ここらへんで麻雀をやる子は風越か龍門渕に行くからねえ。今年も期待してなかったんだけど、6人も入ってくれた」

まこ「県ベスト8くらいは行けるとええの」

久「何言ってんの。私は今年が最後―――負けたら終わり」スッ



久「全国優勝の夢くらい見させてよ」

同日、旅館、竹井の部屋

茜「竹ちゃーん、今度の土日に東京行くの」

竹井「そうか」

茜「何言ってんの、竹ちゃんもついて来るのよ」

竹井「はいはい」

茜「久しぶりにパパに会えるんだ」

竹井「そうか……良かったじゃないか」

茜「うんっ!」

竹井「麻雀部の合宿なんだろ」

茜「あれー、よく知ってるね」

竹井「俺も打つのに呼ばれたからな」

茜「えっ……?」

竹井「悪いが、俺は真剣に打たせてもらうからな」

茜「……また、恐い竹ちゃんになるの?」

竹井「ああ」

茜「そっか。でも大丈夫、私は竹ちゃんを信じているから」

そして―――強化合宿の幕が開ける―――

一回目の合宿、某日土曜日、午前7時20分、JR七久保駅前

茜「ほらっ、竹ちゃん急いでー。遅れちゃうよ」ダッダッダッ

竹井「お前の準備が手間取ったからだろ」スタスタスタ

吉岡「全員揃った様だな。行くぞ」

JR飯田線・松本行、電車内

久「竹井さんも来たんですね」

竹井「ああ、お前たちの顧問に呼ばれて仕方なくだ」

久「私たち、苗字同じなので何か呼びにくいですね」

竹井「俺のことは竹井でいい。お前は久でいいだろ」

久「ええ、それで結構です」

茜「ちょっとー、何話してんの。久は竹ちゃんから離れなさい」

JR特急あずさ8号、電車内

京太郎(女子は固まって話して、敦は読書、吉岡先生と竹井さんは大人の会話。俺はどうしろと……)

優希「貴様も特別に混ぜてやるじぇ」

――――――――――――

吉岡「来てくれて本当に助かる」

竹井「礼などいらない、気が向いただけだ」

吉岡「どうせ誰かが企んでるんだろ」

竹井「……気づいたか」

吉岡「当然だ。最近は競技麻雀が一種の文化のようにもてはやされているが、どの道バクチとは縁を切れない」

竹井「そうだ。ちょっと腕に自身を覚えたら、スリルを求めて賭ける奴は後を絶たない」

吉岡「結局表に立つ奴はキレイでも、裏で金を動かす奴がいるんだろ。俺でも想像つく」

竹井「そこまで気づいて何故俺を呼んだ」

吉岡「俺には関係ないからだ。そして、アイツらの顧問として最善を尽くすためだ」

竹井「……」

吉岡「アンタがいくらの金を賭けているのか知らないが、アンタ自身も金よりスリルを求めているんだろ」

竹井「さあね」

同日12時、東京、寺田麻雀ルーム、ビル前

和「このビルですか」

吉岡「そうだ」

咲「何か、ちょっと恐い」

敦「早く行きましょう」

まこ「敦はここを知っろうのか?」

吉岡「こいつにとっては家みたいなもんだからな」

寺田麻雀ルーム

寺田「おお、無事に着いたか」

吉岡「悪いな寺さん、今日明日と厄介になる」

久「先生、この方たちは?」

アキラ「おいおい、本当に教師やってんのかよ」

吉岡「俺の知り合いだ。昼食後、お前たちはこいつらと打ってもらう」

敦「父さん、久しぶり」

部員一同「えっ?」

寺田「お帰り敦、少しはたくましくなったか」

大友「背も少し伸びたんじゃないか」

中沢「吉岡も大人になったんじゃないか」

佐野「前より大人の風格がありますよね」

京太郎「……何つーか、イメージと違うな」

優希「普段とのギャップにビックリだじぇ」

咲「あの……先生、ここは?」

吉岡「ここは何でも好きなものを飲み食いできる所だ」

アキラ「ま、雀荘だと思えばいいんじゃないか。お嬢ちゃんたち」

吉岡「そんなことより昼飯だ。寺さん、2階のカフェは借りれるかい」

寺田「ああ、今は閉まっているから出前になるがいいか?」

吉岡「構わない。お前たちは食べたいものを言え」

優希「タコスだじぇ!!」

2Fスポーツカフェ

竹井「お前は食べなくていいのか」

吉岡「構わない、勝負の前後は食欲など不要だ」

竹井「そうかい」

ザッ

寺田「竹井さんか?」

竹井「アンタは?」

寺田「寺田だ。アンタを昔見たことがあってな」

竹井「……」

寺田「まあ気にしないでくれ。アンタから金を取ろうなんてしないさ」

竹井「そうかい」

寺田「俺は強い奴とは戦いたくないからな」

竹井「ホントに賢い奴だな」

寺田「今日はあの子たちの指導で来たんだろ、なら厳しさを教えてやらなきゃな」

竹井「……ああ。俺は真剣に打たせてもらうぜ」

寺田麻雀ルーム

吉岡「集まったな。今日は7時位まで打てばいいだろ」

久「メンツはどうするんですか」

吉岡「俺が決めた。最初の半荘は、寺さんと竹井さん、お前と宮永で打ってもらう」

咲「わ、私……?」

吉岡「ルールは25000点持ちの30000点返し、あとは大会同様だ」

寺田「赤が4枚と頭ハネ、責任払いだったか」

竹井「簡易満貫が7700か11600だったな」

吉岡「そうだ。他の奴らは、別室のモニターで対局を観戦してもらう」

優希「えー、それって暇だじぇ」

吉岡「最初の半荘、全員で3回だけだ。以降は3卓で同時にやる」

久「分かりました」

吉岡「最初にはっきり言っておく、お前たちでは俺たちに勝てないだろう」

京太郎「はァ?何で打つ前からそんなこと」

吉岡「俺たちはお前たちの思っている麻雀とは違う世界で打っている。打てば分かるはずだ」

敦「……」

吉岡「では4人は打ってくれ、他の奴らは見てろ」

回想、十数年前、某所

フランケン「さすが竹ちゃんです。
      俺はこんな強い人たちと麻雀ができてうれしいです、やっと竹ちゃんと麻雀ができてうれしいです。
      だからこそ今日は勝つです。勝って今日こそ師匠である竹ちゃんをこえてみせるです」

竹井「昔からそうだ……。昔から気にいらないんだよ……お前がな……。
   強い奴と打つのがうれしいだと……笑わせるな……。
   俺たちのやっている事は金の奪い合い……ただそれだけだ。
   バクチは地獄だ、楽しい事など何も無い」

竹井(いつも勝負の世界に甘っちょろい感情を持ち込んで俺を揺さぶろうとする。
   愛情とか、友情とか、楽しいとか、くやしいとか……そんなものは他でやってくれ。
   その事を、今日こそお前に教えてやるよ)

フランケン「竹ちゃん、本当に俺の事嫌いだったですか」

竹井「嫌いだ、正確に言うとじゃまだ。俺がこの世界で生きていくためにな……。
   だから今日こそお前を叩き潰す」

竹井「勝負の場に立てばどんな手段を使っても勝った方が正しい、それが俺の信念だ」

竹井「いいかげんにあきらめたらどうだ……フランケン。何をやっても無駄だぞ。
   言っとくが、俺はお前がまいったと言うまで絶対に手をゆるめるつもりはないぜ」

フランケン「俺は嫌です、こんな麻雀やらんです。
      あんたらおかしいです、人の命を賭けるなんて!!」

竹井「人の命じゃない、賭けているのは金だ…………」

竹井「人の事を心配している余裕は俺には無いな。特にレートの高いバクチは、みんな切羽詰まった金でやってるんだ。
   気付いてないのかもしれないがな……フランケン、お前だって今までに何人もの人間を死に追いやっているはずだぜ。
   俺たちはな、そうやって生きて来たんだよ。負ける者は全てをむしられる……それがこの世界だ」

竹井(ただ、退屈だっただけかもしれない……だが俺は、あの海辺の街でお前を負かすと決めた。
   金を巻き上げるって事じゃない……お前の麻雀を負かすって事だ。
   フランケン……俺から言わせればお前こそ麻雀の神様そのものだよ……麻雀打ちとして完璧だ……
   ただ、退屈だったのかもしれない。
   俺はあの日あの浜で、お前という神様にケンカを売りたくなった…………ただそれだけだ)

竹井「世の中にはな、理不尽な事の方が正しい事もある。
   勝つ事がいつも正しいとは限らないんだ」

竹井「ツモれよフランケン、もしその牌が東なら俺の負けだ」

竹井「いつもそうだな。
   俺たちのやる事はいつも……適当に平和が保たれていた場所をひっくり返してぶっこわすだけだ」

ワニ蔵「ふっ、俺たちが何かを生み出してどうする。
    バクチ打ちってのは人の物を奪うのが仕事なんだぜ」

対局所

竹井「最初に言っておく。俺はサークル活動の麻雀が嫌いだ」

寺田「おいおい、厳しい事言うなよ」

久「……」

竹井「それは金を賭けていないからじゃない。真剣さが足りないからだ」

咲「真剣さ、ですか」

竹井「そうだ。ここで適当な打ち方をするようじゃ、全国はおろか予選も大敗だろうな」

久「待ってください」

竹井「何だ」

久「確かに私たちはお金を賭けない部活の麻雀です。でも適当に打つ事は無いし、真剣に取り組んでいるつもりです」

咲「そ、そうです。だって全国に行かなきゃいけないんです」

竹井「そうか、なら見せてもらおうか。俺は手を緩めないぜ」

寺田「俺は気楽に打たせてもらうがな」

次から麻雀描写中心になりますので基本age進行で書きます。
不快な方がいれば、コメで書いてもらえればsage進行にします。

東1局 親:竹井 南家:咲 西家:寺田 北家:久

ドラ九

竹井「それじゃ真剣に打ってもらおうか、リーチ」シュボッ

打、發

久「なっ」

咲「ダブリー!?」

寺田「……」

モニタールーム

和「そんな、あれって」

竹井手牌
一五八②②③④112西北白

優希「ノーテンリーチだじぇ!」

茜「竹ちゃん……」

京太郎「無茶苦茶じゃないスか」

吉岡「どうかな、当事者で気づいているのは寺さんくらいだろ」

咲(え、本当にテンパイなの?)

久(判断がつかないわね、取り敢えず様子見かな)

タン パシッ タン パシッ

竹井「ずいぶんおとなしいな、ダブリーだからってあがれるとは限らねぇぜ」スパー

久「そんな気味の悪いリーチに、攻めれる訳ないでしょう。安牌ですよ」タッ

寺田「ロン、タンピンの2000点だな」

久「嘘……」

竹井「おいおい、まさか俺が本当にテンパってるとでも思ってたのか」

タン……

竹井「真剣に打つんじゃないのかい?ひよってるぜ」

咲(ノーテンリーチだった……)

久(焦って自爆か、らしくないわね)

寺田「落ち込むなよ、こんな事で弱気になったらダメだぞ」

東2局
竹井:-1 久(親):-2 寺田:+3 咲:0
ドラ③

久(あんなのに惑わされちゃダメだわ、自分らしくいきましょう―――!!)

9順目
久手牌
七八③③④④④赤⑤11789 ツモ六

久(張った……)

スッ ④

久(いやいや……そうじゃないでしょ……私なら)

カッ 赤⑤

久「リーチ……!!」

モニタールーム

和「そんな……平和と一盃口、赤⑤をまとめて捨てるなんてありえません……っ!!」

吉岡「だが、④は既に1枚切れてる。ドラを使うのは①②③の面子か対子にするしかない」

アキラ「結局、脅しのリーチに過ぎねえじゃねーか」

まこ「脅しじゃ?あの人はアガるためにリーチかけますよ」


2順後

パシィ
1ツモ

久「ツモ!2000、4000」

竹井(ふーん、悪待ちを選んだか)

寺田(②⑤待ちは死にメンツだった。結果的に正解のアガりだな)

久「さ、次行きましょう」

咲「部長……」

咲(私も頑張らなきゃ!)


東3局
竹井:-3 咲:-4 寺田(親):+1 久:+6
ドラ2

9順目
咲「カン」

⑦パタッ

ガッ

咲「ツモ、嶺上開花タンヤオドラドラ、3000、6000です」

寺田「ほぉ」

竹井(茜から聞いていたが、カンを好むのか……それなら)


東4局
竹井:-6 咲:+8 寺田:-5 久(親):+3
ドラ三

6順目

久手牌
三五六七七七②③④赤⑤⑥⑦赤5

久(あら……)

ツモ6

久(流石にこれはドラを離すか。リーチも要らない手ね)

打、三

竹井「……」

咲「ポン」


咲(2順後にドラをツモってカン……そして嶺上牌でアガる!)

竹井手牌

二四六六七八①②③45北北

竹井、ツモ3

竹井(試してみるか)

竹井「リーチ」

寺田(これは……)


2順後

咲「カン」

久(これはやられたかな)

ガッ

竹井「おっと、嶺上は取る必要は無いぞ」

咲「えっ」

パタ

竹井「リーチ、槍槓、おっと裏が2つか。8000だな」

咲「そ、そんな……」

久(咲のカンを読んだ!?)

竹井「さ、南場だな」

寺田(やはり狙っていたか)


南1局
竹井(親) 咲:0 寺田:-5 久:+5

ドラ一

咲「うぅ……」タン

咲、打、三

寺田「チー」
一二三(チー牌)

タン

寺田「それもチーだな」
四(チー牌)五六


12順目

久(鳴き一通か)

久手牌

一一一四五六七九九⑦⑦334

久(七も九も打ちづらいわね)タン

打、3

寺田「ロン」

久「えっ?」

パタ

①②③12西西

寺田「2000だ」


南2局

竹井:+2 咲(親):0 寺田:-3 久:+1

ドラ9

10順目

咲手牌
二二六七七七234赤5白白白

咲、ツモ白

咲(カンすればテンパイでリーチ……だけど)チラッ

竹井捨て牌
六八46①赤⑤
四⑧2東


咲(竹井さんの捨て牌が国士無双狙いだよ……)

竹井「……」スパー

咲(あの東でテンパイかも……でも大丈夫かもしれないし……)

咲「うぅっ……」タン

打、六

寺田「―――ほぉ、そいつが出たか」

咲「えっ」


パタ

四五④⑤⑥⑦⑧⑨4赤5699

寺田「12000だな」

咲「あ……」

竹井「場をよく見るんだな、寺田は2順前からテンパイだぞ」

寺田「よく見てるじゃないか」

久(この人たちはどうやって判断してるのよ)


南三局

竹井:+2 咲:-12 寺田:+9 久:+1

ドラ?

6順目

久手牌
三三三四赤五六七?1112南
ツモ、?

久捨て牌
東9??一

久(ドラそばの?切っちゃってるし……これでドラを引いたら泣くわね)

打、南

また化けやがった
>>165
ドラの?⇒キューピン(筒子の9)
手牌の?⇒ウーピン(筒子の5)
ツモの?⇒チーピン(筒子の7)
捨て牌の??⇒左から順にイーピン、パーピン(筒子の1、8)


次順

カチャッ

久(完全に裏目った―――!!)ツモ⑨

久(いや―――このツモに意味があると考えましょう―――)

打、2


10順目

久(来た!!)ツモ⑥

久「リーチ!!」

寺田(2順ツモ切りの後でリーチか)

竹井(来たな)

竹井手牌
四五六②③④赤⑤⑥赤57白白中

ツモ、⑨

竹井「……」


竹井(ドラを引いたか、だが場に2枚切られている)

チラッ
久捨て牌
東9①⑧一南
2七(リーチ宣言)7中

竹井(あるとすれば単機待ちだが、さっきのアガりを見ても可能性はあるな)タン

打、中

次順

打、7


咲(こんな手じゃ攻めれないよ……)

咲、打、①

竹井「チー」トン

打、赤5

久「……強いですね、赤ですよ」

竹井「どうした、赤は切っちゃいけないというルールでもあるのか」

久(まさか、バレてるのかしら)


流局

久「テンパイ」バタッ

寺田・咲「ノーテン」

竹井「テンパイだ」パタッ

四五六④赤⑤⑥白白⑧⑨ ①(チー牌)②③

久(やっぱり……止められてた)


南4局、一本場(リーチ棒1)

竹井:+3.5 咲:-13.5 寺田:+7.5 久(親):+1.5

ドラ④

1順目

竹井(ん?)

竹井「リーチ」トン

打、6

咲「ま、また?」

竹井「同じ手を2度も使うと思うかい」

久「そんなの分かるわけないでしょ。真っ直ぐ打たせてもらうわよ」ダン

打、3


竹井「真っ直ぐなら無スジで来いよ。ビビりまくりじゃねぇか」パタ

一一一二二②③④24567

竹井「ダブリー一発ドラ1、8300」

久「そんな……」

竹井「終わりだな、戻るぞ」

寺田「まぁ、これが厳しさってやつだな。いい勉強になったじゃないか」


モニタールーム

吉岡「ご苦労だった、やはりアンタに頼んで正解だった」

竹井「明日もこのザマなら困るぞ」

久「……ありがとうございました」

咲「うぅっ……」

まこ「災難じゃったの」

吉岡「これが真剣に打つということだ。分かったか」

和「そ、そんなワケありません。非論理的な打ち方も多かったはずです」

竹井「……論理か」

吉岡「なぁ原村、負けたら生きて行けないという状況で麻雀を打った事はあるか?」

和「はい?」


吉岡「勝負の最中には楽観も悲観もする必要はない。ただ、勝つことだけを考えればいい」

和「……」

吉岡「そんな中で、一回しかない勝ち負けを全て運やタイミングのせいにするのか」

久「……確かに今回のルールは偶然の要素が多すぎる。でも、条件に文句は言えないわね」

竹井「お前らの大会だってギリギリの戦いだ。負けたら終わりなんだろ」

吉岡「問題は効率じゃない。勝つか負けるか、それだけだ」

咲「勝つか……負けるか」

吉岡「効率を批判するつもりはない。だが、お前ら8人での夏は今年しかないんだ。大事にしろよ」

和(今年だけ……)


和、回想、某日放課後

和「わざわざ悪い待ちにするなんて理解できません……」

久「私もホントは理論通りに打ちたいんだけど、あなたほど頭も良くないし『ここ一番』って試合では悪い待ちにしてしまうの」

和「大事な試合だからこそ、その1回の勝率を上げるための理論的な打ち方をするべきなのでは……」

久「じゃああなたは……たった1回の人生も論理と計算ずくで生きていくの?」

和「そっ……それとこれとは話が違いますし……麻雀は1回きりじゃないですよ」

久「そうね……でも私にとって……」

―――インターハイは今年の夏1回きりなのよ

和「……」


モニタールーム

吉岡「次だな、俺と片岡、原村に……アキラだ」

優希「じぇじぇじぇ?」

和「はい」

アキラ「やってくれるじゃねぇか。今日こそ倒してやるぜ」

寺田「おいおい、学生に指導だぞ。忘れるなよ」

吉岡「構わないさ、その方がいいんじゃないか」

アキラ(吉岡……絶対にお前を超えてみせる)

という訳で、今日はここで打ち切り。今日の夜に次の一対局分は書く予定です。
麻雀描写の書き方は見やすくしてるつもりだけど、分かりにくいでしょうか。
分かんなかったら質問あれば可能な限り答えます。AAで書く人もいるのかもしれないけど俺には無理なのでゴメンなさい。


対局所

吉岡「俺から何も言うことは無い。自分の麻雀を全力で打つんだな」

優希「モチロン!」

和「はい」

アキラ「けっ、偉そうにしやがって」

吉岡「良かったなアキラ、原村はネット麻雀で有名な“のどっち”らしいぞ」

アキラ「お、おいおい。ホントかよ!?」

原村「ええ……」

アキラ「マジかよ!あの“のどっち”とかテンション上がってキターーー!」

吉岡「真面目に打て。始めるぞ」

ガラガラガラ

吉岡(神経が卓に集中してゆく。ここでは勝つ事だけを考えればいい。
   ただ―――勝つ事だけを)


東1局

親:吉岡 南家:優希 西家:アキラ 北家:和

ドラ8

4順目

優希「リーチ!」

吉岡(やはり東場との相性が良いな)

アキラ「クソッ、早すぎるぜ」

和(嫌な予感がしますね……)

次順

優希「ドーン!リーチ一発ツモドラ3、3000、6000だじぇ!」


東2局
吉岡:-6 優希(親):+12 アキラ:-3 和:-3

ドラ三

4順目

タッ 白

優希「ポン」

次順

優希「ツモ、ドラ1で1000オールだじぇ」


東2局、一本場

吉岡:-7 優希(親):+15 アキラ:-4 和:-4

ドラ②

6順目
吉岡手牌

二二五六③④赤⑤赤⑤⑥⑦67西

ツモ、赤5

吉岡(この手をダマっているようじゃ、勝てるわけ無いな)

吉岡「リーチだ」ダンッ

優希「そーゆーの、うちのお株なんですケド!」

アキラ「クッ……」

和「……」


同順、和手牌
三四六七②②③④⑤567南

ツモ、五

和「リーチ」トン

吉岡(来たか、勝算ありのリーチだろうな)

優希「のどちゃんも!?」

アキラ「ケッ、俺の手が悪い時に好き勝手打ちやがって」


次順

吉岡(ツモればいいんだろ、一発で七を)グッ

ツモ、赤五

吉岡(駄目か……)

タンッ

和「ロン、裏はありませんが12000です」

吉岡「そうか」チャラッ

和「トビも見えるのに余裕ですね」

吉岡「言ったろ、悲観する必要など無いと。逆転の方法を考えるだけだ」

和「……」


東3局

吉岡:-20.3 優希:+15 アキラ(親):-4 和:+9.3

ドラ4

9順目

優希「来たじぇ!リーチ!」ダンッ

打、西

優希手牌

①②③⑦⑧⑨東東東北北白白

アキラ「チッ」


和手牌
赤五五六?????444赤56

ツモ、七

和(ゆーきは筒子の染めでしょう、この手はダマの12000で十分です)トン五

吉岡「……チー」パタッ 四五(チー牌)六

打、西

優希「うー、ツモならず」パシッ

アキラ「……」

>>190
文字化けの5文字??は筒子の34567です。
何故化けるのか


アキラ(どうする、俺はどうすれば勝てる)

タッ

打、8

吉岡「ポン」ダッ5

優希「またムダヅモだじぇー」パシッ

アキラ「……」

打、7

吉岡「ロン、1000だ」


吉岡「アキラ、お前がケチな差し込みが上手いことは知ってるがこれは何のマネだ」

アキラ「勘違いするなよ吉岡、リーチの片岡は北と白待ちの染め手だ。一方、原村もドラをガメて②⑤⑧でダマってただろ」

和「……」

アキラ「ツモで親被りするくらいなら、お前の安手に振ることが最低限の失点ですむ。そんな事も分からないのか」

吉岡「……」

アキラ「それに1位を狙うんだろ、今日こそお前を倒してやるから覚悟するんだな」

吉岡「勝手にしろ」


東4局

吉岡:-18.3 優希:+14 アキラ:-5 和(親):+9.3

ドラ白

6順目

和手牌
一二三四⑥⑦⑧223457

ツモ、8

和(ドラはありませんが、親リーで牽制)

和「リーチ」トン


アキラ「あ?」

和「リーチですが、いけませんか?」

アキラ「そんなドラも無いピンフリーチを“のどっち”はしなかったぜ」

ダンッ
赤5

和「……強いですね」スッ

アキラ「6、9以外は何でも通るんだろ」

和「……」

ツモ、白

和(ドラ!)トン

アキラ「それだ、8000」


アキラ「ネットだともっと周りを見ているはずなのに、リアルだとがっかりだな」

和「それは……偶然です」

アキラ「おいおい無自覚かよ。これじゃあ吉岡の言うとおり『指導』が必要だな」

優希「のどちゃん……」

吉岡「南場だな」ガラッ


南1局

吉岡(親):-18.3 優希:+14 アキラ:+4 和:+0.3

ドラ?

7順目

優希手牌
二二三????2345689

優希(もう逃げ切るじぇ)ダッ?

吉岡「ロン、七対子2400」パタ

アキラ「やるな、1枚もかぶらずか」

>>197
優希手牌の4つの?は筒子の3457です


南1局 一本場

吉岡(親):-15.9 優希:+11.6 アキラ:+4 和:+0.3

ドラ南

8順目

和手牌
赤五六⑦⑧⑨⑨12356南南

ツモ、4

和(役無しテンパイですがリーチで満貫確定)

和「リーチ」トン⑨


9順目、吉岡

手牌
三四四③③③⑤345789

ツモ五

吉岡(この四は確実に当たる……)

和捨て牌
西9八三②東
⑤⑨(リーチ宣言牌)

吉岡(原村の手は萬子と筒子が1面子、策子が2面子の手だ。⑨を残したのは⑦⑧⑨⑨の形からだろう)

チラッ

ドラ、南


吉岡(恐らく、ドラの役牌である南が対子だったから引っ張った。なら、危険なのは場に見えない策子とそれ以上に……)

バシッ

打、⑤

吉岡(それ以上に危険なのは四、七待ちだ。3、4順目の八と三は五六の形を確定させ不要になったと考えられる)

アキラ「ケッ、オリやがって」

和「……」トン3

吉岡(やはり……四の周りを引いたら③切りでリーチだ)

スッ

吉岡(!)

吉岡「とんでもない牌を引いたよ」

和「……」

吉岡「今日の俺はツイてるのかもな」パタッ


吉岡「600オール」

和(四を止められた……)

アキラ「クッ、そんな苦し紛れがいつまで続くかね」

吉岡「そうだな、だがこのチャンスを手放すほど俺は甘くないぞ」

優希「さっさと続けるじぇ」


南1局 二本場

吉岡(親):-13.1 優希:+11 アキラ:+3.4 和:-1.3

ドラ東

4順目

吉岡「リーチ」タン

アキラ(はぇえよ、こりゃダメだな)

3順後

吉岡「ツモ、メンタンピン赤、4200オール」


南1局 三本場

吉岡(親):-0.5 優希:+6.8 アキラ:-0.8 和:-5.5

ドラ②

6順目

タッ6

アキラ「チー」4赤56(チー牌)

打、④


吉岡(テンパイ、③④④からの切り出しか?)

スッ

吉岡(だが、こちらもリーチで18000の手。降りるわけにはいかないな)ダンッ

吉岡「リーチだ」

打、3

和「また……」

優希「じょ!」

アキラ「リー棒は要らない。8600だ」パタッ

三四赤五②③④4566 4赤56(チー牌)


吉岡(①④待ちから、チーで待ちを変えたか)

アキラ「吉岡、アンタの麻雀は強いかもしれないがその分捨て牌で手牌が分かりやすい。狙っただけさ」

吉岡「勝手にしろ。まだ3局も残っている、逆転すればいいんだろ」

アキラ「だが、最後の親を終わらせてもらったぜ」

吉岡「そんな事で勝った気になるとは、めでたい奴だ」

アキラ(アンタが強いのはよく分かっている。これ以上勢いづけるわけにはいかない)


南2局

吉岡:-9.1 優希(親):+6.8 アキラ:+7.8 和:-5.5

ドラ中

9順目

アキラ(7700のテンパイ、もうドラはいらないな)バシッ

吉岡(アキラの奴テンパイか、ダマということは役ありで満貫近くはあるぞ)

和(手が全く進みませんね)タンッ北

吉岡「……」バシッ


優希、手牌

二二二六七③④赤⑤3456中

ツモ、赤五

優希(南場で珍しくテンパイしたじぇ……しかもドラには全員無反応)

アキラ「……」

優希(策子は出やすい場だし、鳴いても二は下家のメガネの現物)ダッ

打、中

吉岡「ロン、8000」


パタッ

七八九???234北北中中

アキラ「ハッ、ダマなんてらしくないぜ」

吉岡「この手を鳴いたりダマにしては出ないだろ。十分だ」

アキラ(しぶとい奴だ、普通ならドラや役牌でテンパイを取るところだ)

和「……」

優希「うぅうっ」

アキラ(だが、全員字牌の絞りがキツかった。山には無いと読んでのダマだったか)

吉岡「このまま逆転させてもらうぞ」

アキラ「やってみろよ」

アキラ(吉岡……何という粘りと精神力の持ち主だ。ホントにアンタは凄いよ)

>>209
吉岡のアガり手牌、3つの?は筒子の678です


南3局

吉岡:-1.1 優希:-1.2 アキラ(親):+7.8 和:-5.5

ドラ5

4順目

優希(ううっ、ムダヅモばっかだじぇ)

打、2

アキラ「その2はチーだな」

12(チー牌)3

6順目

優希、打、一

アキラ「チー」カシャッ

一(チー牌)二三

打、①


和(三色、チャンタ……役牌バックもあるかもしれませんね)トン

吉岡(この捨て方、見覚えがあるな)スッ

―――とんでもない牌を引いたよ

吉岡(掴まされたか、片岡や原村は気づいてるのだろうか)ダッ

アキラ(やはり、吉岡からは出ないか。だが他の二人はどうかな)

優希(三元牌が出てないのに一枚ずつ掴まされたじょ。この辺なら安全そうかも)タッ

打、4

アキラ「ロンだ、5800」


②②赤56789 12(チー牌)3 一(チー牌)二三

優希「一通……」

和(三色と一通の両天秤だったのですね)

アキラ「やっぱアンタは止めたんだな」

吉岡「当然だろ、三色にしては①をあそこまで残すのはおかしい。普通は形を決めるために、もっと早くに打ってるはずだ」

和(落ち着いて考えれば普通のことなのに……何で思考が追いつけないのでしょう……)


南3局 一本場

吉岡:-1.1 優希:-7.0 アキラ(親):13.6 和:-5.5

ドラ二

7順目

アキラ手牌

二二二赤五六七④④赤⑤赤⑤⑥67

ツモ、7

アキラ「……」タン6

吉岡(アキラの奴、テンパイだ。しかも高いぞ)

スッ

吉岡「テンパイしたよ、めくり勝負だな。リーチ!」ダンッ

アキラ(引けっ、ここで決めないと追いつかれるぞ)

ツモ、⑦

アキラ(クソッ)ダンッ


吉岡「ツモ、リーチ一発三色赤、3100、6100」

和(くっ、厳しい)

優希(もう駄目だじぇ)

吉岡「逆転だな」

アキラ「もう勝ったつもりか、オーラスで3900でいいんだろ」


南4局

吉岡:+11.2 優希:-10.1 アキラ+7.5 和(親):-8.6

ドラ3

8順目

和(逆転トップは跳満ツモ、親ならアガり優先でいいはずなのに……)

優希(全然、手が進まないじぇ)

アキラ「テンパイだ、リーチ!」ダンッ

吉岡「ポン!」カシャッ


アキラ「ケッ、これでお前もテンパイかよ」

吉岡「そういう質問には答えられないな」

和(追いつけない……)



タン パシッ タン パシッ



アキラ(逆転手も作った、打ち方も悪くない。なのに、この言いようの無いプレッシャーは何だ?


俺は絶対にあきらめない

敗者とは勝つ事をあきらめた人間の姿だ



吉岡「アキラ、お前は確かに強い。だが、俺もそう簡単に負けられないんだ」

スッ

吉岡「ツモ、500、1000、終わりだな」

アキラ(また、勝てなかった)

吉岡「こんなもんだな」

和・優希「……」

吉岡「お前らも、分かってきたんじゃないか。勝つという重さを」



敗北をどこまでも拒否し続ける者には……

……勝利しかおとずれない

という訳で今日はここで打ち切り。メインの麻雀描写も終わったし、あと一日で終わらせたいな。
麻雀描写は原作を参考にして自分なりに考えてるが、つまらんな方には本当にゴメン。打つのと考えるのは別物だと実感した。

>>197
南1局のドラは③です。見落としてた
>>217
最後のアキラのに ) カッコをつけるの忘れてました。ゴメンなさい、次レスの文字にはつながりません。


モニタールーム

竹井「予想以上に強いじゃないか」

吉岡「アンタもな」

寺田「次はどうするんだ」

吉岡「残った4人で打ってもらう。染谷、須賀、茜、敦だ」

寺田「敦の麻雀か、久々に見せてもらおうか」

吉岡「さっきの対局で色々思うところはあるだろうが、今日はひたすら詰め込め」

竹井「確かに考えるのは寝る前で十分だろう。こればかりは、慣れるしかないだろうな」

久「えぇ、凄く勉強になります」

吉岡「無理に俺たちの真似をする必要は無い。自分の強さを伸ばし、弱さを克服するんだな」


対局所

茜「あーあ、この面子じゃ私の勝ちは決まったようなものね」

まこ「ワレはなにゆうとんじゃ」

京太郎「敦か染谷先輩のどっちかじゃないスか」

敦「半荘一回じゃ分かりませんよ」

ガラガラガラ

208.

モニタールーム

久「うーん、まこの調子が良いみたいね」

竹井「茜の方は予想通りとして、アンタの息子は苦戦しているようだな」

寺田「そういう時もあるさ」

吉岡「これを乗り越えられるかどうかで、アイツの底力が試されるな」

和(本当に逆転できるのでしょうか……)

―――ツモ、1000、2000、これでオーラス満貫で逆転ですね


対局所

オーラス

茜:-6.5 まこ:+11.3 敦:+3.9 京太郎(親):-8.7

ドラ白

京太郎手牌
13334666東東中中中

京太郎(俺だって、跳満ツモでトップだ。敦ばかりに勝たせるわけにはいかない!)

12順目

ツモ、6

京太郎「カンだ」パタッ

新ドラ、一

ツモ、1

京太郎「リーチ」


茜、手牌

一一一二三四22579白白

ツモ、一

茜「カーン」バラッ

新ドラ一

まこ・敦(ドラ8!?)

ツモ、3

茜「しーらないっと」打、5

まこ(東も1、4もきれんの。クソッ、オリじゃ)タンッ

敦「……」


京太郎「おいおい、こんなの引くなよ」打、白

茜「ポーン」バラッ打、3

まこ・敦(白、ドラ11!?)

敦(染谷先輩はオリてる。なら、これは二人の現物)タシッ

打、二


京太郎「引かねえな、こんなの要らないぜ」バシッ

打、8

茜「ローン、白ドラ11で……ちぇっ、たったの三倍満か」

京太郎「うわぁぁぁあああああ、ウソだろー!」

まこ「逆転されたか」



敦「……大会では、頭ハネでしたよね」


バタッ

敦手牌

三四赤五六七八⑤赤⑤赤⑤⑥⑦⑧8

敦「8000で逆転トップですね」

まこ(二五八待ちから、8待ちに変えたんか)

茜「ちょっとー、何で私の邪魔するのよ!」

モニタールーム

吉岡「何とか勝ったみたいだな」

寺田「おいおい、ヒヤヒヤしたよ」

竹井(逆境の中でも打てるじゃないか……少し鍛えてやるかな)

久「彼なら、個人戦も期待できそうですね」

吉岡「あぁ……」

吉岡「よし、今から4卓で打ち始める。さっきのメンバーに佐野ともう一人加える」

久「もう一人とは?」

吉岡「そろそろ来るはずだ。さっきメールが来た」



ガチャッ

鎌田「遅くなりました」

優希「誰だじぇ?」

和「鎌田プロ……ですか?」

鎌田「おや、ご存じでしたか。あなたは中学生大会で優勝した原村さんでしたね」

久「鎌田プロと言えば、競技プロの中でも相当の実績を持つ方じゃないですか」

吉岡「そうみたいだな、俺は詳しくは知らんが」

鎌田「ははは、吉岡さんには負けましたからね」

まこ(この先生バケモノじゃ)


吉岡「この機会に団体戦メンバーを発表する。竹井、染谷、原村、片岡、宮永だ」

茜「え……私は」

吉岡「部での成績や打ち方を見る限り、お前は団体戦向きじゃないことが分かった」

茜「どういうことよ!」

敦(吉岡、ハッキリ言わなくても)

竹井「あー、お前は点数管理みたいな繊細な事苦手だろ。自分のことだけ考える個人戦が向いてるんじゃいか」

京太郎(ナイスフォロー)

久「そうね、茜が頑張って稼いでも私たちが負けたら申し訳ないわ」

茜「わ、分かってるじゃない。いいわ、個人戦だけで妥協してあげようじゃないの」


吉岡「団体戦メンバーと敦、俺と寺さん、アキラ、竹井さん、佐野、鎌田の12人で3卓で打つ」

京太郎「お、俺と茜さんは?」

吉岡「あー、実践経験のために大友と中沢、須賀と茜の4人だ」

大友「仲良く打とうじゃないか」

中沢「俺たちは吉岡よりは弱いけど、それでも良い練習相手になるさ」

茜「いいわ、覚悟しなさい」


対局所

タン パシ タン パシ タン パシ

佐野「東場に強いなら、もっと緩急のある攻めで相手を翻弄するんだ」

優希「ズバリ、タコスパワーを上げる必要があるじぇ!」



鎌田「カンは嶺上開花のためだけではありません。バリエーションを増やしましょう」

咲「は、はい」



アキラ「どうした、“のどっち”と同じように画面に向かって打つ感覚で打てよ」

和「もっと……いつも通りに」

吉岡「データが不足しているなら補え。新たな打ち手を対策しろ」

まこ「はい」



竹井「相手の心を潰す、的確な待ちと打ち方を身につけろ」

久(私らしさの打ち方、相手を読む力を身に着ける!)



寺田「甘いな。それじゃ吉岡どころか俺にも勝てないぞ」

敦「クッ……まだだよ父さん」

茜「あーあ、あっちは勝手に盛り上がっちゃって」

大友「おいおい、俺たちだってそう簡単に負けないぞ」

京太郎「チー、あ……ミスった」

中沢「大丈夫、君はまだ1年生だし時間があるじゃないか」

そして19時

優希「もう集中できないじぇ」

久「いつもより濃密な対局でしたね」

咲「ねむ……」

吉岡「よし、今日はここまでにする。ホテルへ行くぞ」

鎌田「では、私は先に帰ります。明日は9時に集合でしたよね」

茜「あ、私はパパの所に帰るから。竹ちゃんもついて来なさい」

竹井「……分かったよ」



大友「寺田さん、松永さんから電話がきてます」

寺田「松永……分かった」


茜「じゃあパパの所に帰るから、皆も明日会おうねー」

久「はいはい」

竹井「行くか」

吉岡「俺たちもホテルへ向かうぞ」

敦「僕はここに残ります」

寺田「ちょっと待ってくれ吉岡」

吉岡「何だ」

寺田「急で悪いが、30分後に打つことになった。お前も頼む」

吉岡「何だよ、アキラや佐野がいるじゃないか」

寺田「相手は四人で二卓でやる事になった」


吉岡「珍しいじゃないか、そんな人数で来るなんて」

寺田「覚えているか、松永と伊藤が来る」

吉岡「松永だと……確か楊夫人のところで代打ちをしている奴だったな」

寺田「あぁ、伊藤はお前が初めて代打ちで来た時にいた奴だ」

吉岡「そういやいたな」

寺田「残りの二人も実力は同様だろう。なら、俺と佐野君、アキラと吉岡で打つのがいい」

アキラ「ちょっと待ってください!何で俺が吉岡と組まなきゃいけないんですか」

寺田「佐野君と吉岡はハードパンチ型だ。俺とお前でサポートするのがいいだろ」

アキラ「だからって、寺田さんと吉岡で組めばいいじゃないですか」


吉岡「俺と寺さんの実力は知れている。このペアを拒否する可能性があるわけか」

寺田「それもあるが、バランスの問題だな。佐野君のサポートは俺の方がいいだろ」

アキラ「ったく、分かりましたよ。吉岡、足引っ張んなよ」

吉岡「お前が邪魔しても俺が負けるわけがないだろ」

寺田「おいおい……ルールは楊夫人の所と一緒だから、なるべくワンツーを狙えよ」

吉岡「分かった」

吉岡「悪いが、ホテルに行くのは遅れる。敦も先に帰れ」

大友「じゃあ、俺が送っていくよ。近かったよな」

吉岡「悪いな大友」

中沢「松永様がお見えになりました」

寺田「来たか、早いじゃないか」


モニタールーム

寺田「松永たちは、対局所にいる」

吉岡「そうか、レートはどうするんだ」

寺田「それも同じだ。ワンスリーの1000、3000万だな」

吉岡「先に行ってる。大友、こいつらを帰しとけ」ザッ

大友「お、おい吉岡」

寺田「……学生さんたち、少しだけ見てみるか」

大友「ちょっと、この子たちには刺激が強すぎますよ」

寺田「どうせ結果は見えている。破滅の恐ろしさを目の当たりにすると肝が据わるぞ」

大友「だからって」

寺田「さて、俺も行くかな。さっさと終わらせるか」


久「……見ていきましょう。ここからなら先生にもバレません」

和「そんな……」

優希「物騒だじぇ」

敦「僕は部長に賛成です。僕もお父さんたちの“仕事”は見た事が無い」

京太郎「おいおい、ヤバそうじゃねーか」

まこ「少しなら大丈夫じゃろ」

咲「ぅう……」

大友「ったく、吉岡にバレたら俺が怒られるんだから、少しだけだぞ」


対局所

吉岡「松永、アンタ楊夫人の代打ちもクビになったのかい」

松永「君には関係ないだろ」

アキラ「しかし、あんたもツレもこの様子じゃすぐに終わりそうだな」

伊藤「何だと!?」

吉岡「アキラの言うとおりだな。持ってきた金だってどうせ2億ぐらいだろ」

松永「どこまでも人をコケにするね、前のようにはいかないよ」

吉岡「だから甘いと言ってるんだ。ロン、12000」

松永「は?」


モニタールーム

―――ロン、ツモ、ツモ、ロン、ロン、ロン、ツモ

京太郎「何だよ……これ?」

久「うわ、容赦ないわね」

和「サインが無いとは言え、露骨なコンビ打ちじゃないですか」

敦「これが父さんや吉岡の実力……」

大友「ほら、もう2半荘も見ただろ。明日もあるんだから帰って寝るんだぞ」

久「そうね、これ以上見ても結果は見えているでしょう。皆、帰るわよ」


翌日、午前9時、麻雀ルーム

部員「おはようございます」

寺田「おお、若いのは元気じゃないか」

吉岡「悪いな大友、迎えに行かせてしまって」

大友「構わんさ、初めての東京じゃ迷っちゃうだろ」

竹井「で、今日も打つんだろ」

久「始める前に少しいいでしょうか?」

吉岡「何だ」


久「昨日皆さんと打って色々皆で考えましたけど、やっぱり強くなって全国に行きたいです」

竹井「……」

久「周りはとんでもなく強い選手もいるかもしれません。でも、悔いの無いように一生懸命頑張ります」

吉岡「そうか」

久「だから、やっぱり皆で言わなくちゃね」

―――せーのっ

部員「今日も指導よろしくお願いします!」



寺田「若いっていいなぁ」

とりあえず打ち切り、夜に続き書きます。
今日で終わらせる


対局所

吉岡「組み分けは昨日と同じだ。団体メンバーと敦の3卓と茜と須賀、大友、中沢の卓だ」

久「はい」

竹井(昨日の今日で目つきが変わった。若さ所以の向上心だな)

吉岡「さて、始めるか」



タン パシ タン パシ タン パシ


優希「ツモ!2900オール、まだまだ止まらないじぇ!」

佐野「おおー、良いじゃないか」



まこ「ロン、タンピン三色8000。私だって染め手だけじゃないんです」

吉岡「そうだ、手数を増やせ」



久「ツモ4000オール。やっぱりこのツモには意味があると思ったのよね」

竹井「昨日よりも状況判断が出来ているようだな」


和「ロン、7700」

アキラ「そうだ、デジタルならデジタルらしく淡々と打てばいい」



咲「リーヅモ三暗子赤ドラ3、8000オールです」

鎌田「ほぅ、カンからのリーチですか」



敦「ロン、頭ハネの3900で逆転だね」

寺田「よく見えているじゃないか」


タン パシ タン パシ タン パシ

茜「はぁー、また同じ顔ぶれかぁ」

京太郎(そういうセリフは一位取ってから言えよ)

茜「あ、ツモったー。リーチ一発ツモドラ4……わあ、裏も4枚乗って12000オールね」

京太郎(納得がいかん)


同日、14時

吉岡「終わりだ、15時の電車で帰るぞ」

優希「もうタコスパワーが尽きたじぇ」

和(5時間弱でこの濃密な対局は疲れますね)

寺田「来た時よりは大分良くなったんじゃないか」

アキラ「あぁ、自分の打ち方が固まってきてるな」

咲「自分の打ち方……」

吉岡「そうだ、俺たちのような打ち方を無理して真似する必要は無い」

竹井「人にはそれぞれ、自分のスタイルがある。デジタルだろうが流れを信じるオカルトだろうが、スタイルがあるはずだ」

寺田「それを崩されるのは、自分を見失うのと同じだからな」

和「自分を見失う……普段の打ち方が出来なくなる」


吉岡「もう一つ注意しておく」

まこ「何ですかい?」

吉岡「俺たちのようなバクチ打ちの道に進むなという事だ」

京太郎「えっ、でも」

竹井「この先生の言う通りだな。俺たちみたいになってはお終いだ」

寺田「そうだな。今は競技麻雀が主流だし、そっちの方が良いんじゃないか」

鎌田「競技は競技で厳しい世界ですけどね」

久「……」

竹井「お前たちはまだ若い。今の高校生活を普通に楽しめよ」

吉岡「だから、その、何だ……楽しく麻雀を打てればいいんじゃないか」

アキラ「プッ、吉岡がそんなこと言うのかよ」

寺田「だが、その通りだ」


同日14時50分、新宿駅

吉岡「駅まで見送りなんて悪いな」

大友「気にするなよ、久しぶりに会ったんだ」

中沢「吉岡も教師頑張れよ」

佐野「俺も吉岡さんの分まで頑張りますよ」

和「アキラさん、ありがとうございました」

アキラ「止めてくれよ、恥ずかしいじゃねーか」

茜「こらー、皆遅れるわよ!」

竹井「俺たちはさっさと行くかな」サッ

敦「父さん、僕強くなって全国大会出るからさ」

寺田「おお、その時は応援に行くからな」


久「皆さん、今回はありがとうございました。必ず全国に出場して見せます」

鎌田「ええ、私も楽しみにしていますよ」

アキラ「だからさ、オッサン達が学生に礼を言われるなんて恥ずかしいぜ」

中沢「基本的に日中は暇だからね、東京なら皆で応援に行くよ」

優希「帰るじぇー!」

寺田「気を付けてな。それと春香ちゃんにもよろしく伝えておいてくれ」

吉岡「分かった。あいつは元気だよ」

和「それでは」

咲「あ、ありがとうございました」


車内

zzzzzzzzzzzzzzz

吉岡「こいつらも疲れただろうな」

竹井「これでいい。俺たちのような人間にしちゃ可哀想だろ」

吉岡「そうだな。それにアンタには世話になった」

竹井「気にするな、俺も気晴らしになった」

吉岡「……そうか」

竹井「来週もあるんだろ、手伝ってやるよ」

吉岡「助かる」

竹井「暇だからな、時間つぶしにはなるだろ」


同日19時35分、JR七久保駅

久「流石に疲れたわねー」

和「ええ」

まこ「真っ直ぐ帰るかの」

咲「ふぁ……」

優希「もう帰るじぇー。下僕、私の荷物を運べ!」

京太郎「誰が下僕だ」

吉岡「今日はもう遅い。各自、家に帰れ」

茜「竹ちゃん、私たちも帰ろっか」

竹井「そうだな」


そして―――2回目の強化合宿の幕が開ける―――

吉岡「今回の合宿の内容は、全て部長に任せる」

久「はい」

吉岡「最後の調整ではあるが、俺たちはこの前みたいに厳しくする気は無い」

竹井「俺はどうすればいいんだ?」

吉岡「保護者だな。何かあったら指導すればいいんじゃないか」

竹井「そうかい」

吉岡「後は部長に任せる。好きにやってくれ」

久「分かりました」


タン パシ タン パシ タン パシ


校内合宿所は校内と言いつつ結構離れていて、温泉つきだった―――

かすかな硫黄の匂い―――風で湯気が湯面を渡る

何かを見失っていた私の目に映るもの

咲「あ……」

――――――――――――

和「流れ星―――?」

咲「うん!綺麗だったよっ」

和「わっ……私も見たいです」

優希「お風呂に戻ろうじぇー」


50分後

和「のぼせました……」

久「長風呂しすぎよ」

咲「……」

優希「……この天井の上には……さっきの星空があるのかな」



彼女の言うとおり、見えなくともそこに星はあるのだ



優希「タコス座とか!」

咲「それは……ないから……」


厳しかった合宿も―――

最初は恐かったけれど、振り返れば楽しかった思い出ばかり―――



咲「またやりたいな、合宿!」

和「県予選に勝てば、全国大会前にもう一度合宿があるそうです……」

咲「じゃあ、また来られるんだ」

和「……そうですね。ぜひまたここに……!」



そして―――


県予選初日、旅館、竹井の部屋

茜「こらー!集合時間に遅れるから、竹ちゃん置いてくよー」

竹井「あぁ……先に行っててくれ」

ピリリリリ

竹井『竹井だ』

江藤『外ウマはただいまで締め切りですが、竹井さんは清澄高校の女子団体優勝に1億円でよろしいでしょうか』

竹井『あぁ、そうだ。……今からでも追加は間に合うか』

江藤『ええ。変更は可能ですが、追加とは?』

竹井『清澄高校の青柳敦、男子個人戦の優勝に1億追加だ』

江藤『ほう……分かりました』


同日、大会会場前

吉岡「後はお前たち次第だ、悔いの内容にしろ」

久「合宿から6日―――やれるだけの事はやった!さァ、行こうか!」

部員「はい!!」


麻雀で食えるのが羨ましい?

勝負の世界に永遠の勝利などというものは無い。

勝負師の体力と反射神経はスポーツ選手のそれと同じだ、歳と共に衰える。


勝負事にたった一つの必勝法などない



優希「よろしく!」



ここにいる全ての者が自らの編み出した戦法を持っており

もちろん、自分の方法こそ最強と信じる



まこ「お疲れ!」チャッ



だからこそ我々は戦うのか


それは恨みや利害などではない…………



久「ただいまー」



我々に戦う理由があるとすれば……それは……



和「ありがとうございました」ドン



ただ『勝ちたい』という勝利への純粋な欲求だろうか



―――おーっと東福寺高校、トビで終了だぁ!

咲「もっと―――もっと強い人たちと打ちたい!!」



これは競技麻雀ではない、負けたらそこで終わりである


ここにあるのは、生き残る者と敗れ去る者だけだ



敦「ツモ、3000、6000で終了ですね」



必要なのは生き残る事だ、最終決着―――全国大会のその日まで


―――竹井さんにも馴染みのある方が投資されていますよ
   ワニ蔵さんや田村さん、そしてフランケンさんが各校の指導にあたり、それぞれ一億円の投資をされています

竹井「また、あいつらと会うのか」

竹井(俺は負けない―――必ずこいつらを全国で優勝させてやる)

竹井「田村、ワニ蔵、そして……フランケン。待っていろ、必ず倒しに行ってやるよ!」


俺「はい、竹井さんお疲れ様でしたー。このssはここで終了にさせて頂きます」

竹井「え、打ち切り?」

終わったー、ようやく完結です。本当に打ち切りエンド達成しましたー。
思った以上に時間かかって、大変だけど楽しかったですわー

後書き(主に反省点)
・キャラの口調(主に咲-Saki-の方)
 これは、まことか優希など多くのキャラ

・丁寧さ
 原作あるとは言え、オリジナル設定が多分にありました。主に時間軸の問題ですが『リスキーエッジ』の数年後なので、知ってる方に「は?」と思われたらキツい
 他にも、終盤はサクッと書いたので薄いと思われても仕方ない

・麻雀描写
 算用数字、漢数字、環境依存文字の3種類で書くのは文字化けが何度かおきた
 自分が鳴き麻雀中心なので(本当はリーチって言いたいのですが)胡散臭く思いつつも、これならいいだろと妥協した点

チラシの裏

二次創作は難しいと改めて思った。たまに他の方のssを見る度に「何か違和感ある」と感じるのは、その作品への自分の感覚と書き手の感覚に差異が出ていると言うこと。
自分はそうしたくないと原作を読み込んでるつもりだけど、読み手に「は?」ってなられたら恐いわな。
あとオリジナル設定は嫌いだった。今回挑戦したけど、上記の様に読み手に違和感を持たせないように努力しないと……。
半端にオリジナル設定を加えるくらいなら、自分で作ったほうが安定だと思う。
それ故に二次創作は気軽な反面、凄く難しいと改めて実感できた。

今回のssは、幾つか原作から引用させてもらったが、手抜きではない……と信じたい。
どうせ、みんな咲しか知らねーだろと思いつつも書いていたが、押川さんの方のも興味を持っていただけたら幸い。
今なら打ち切りされてない『麻雀小僧』がオススメかな。
『根こそぎフランケン』のレネゲ編の竹井は本当にカッコいいんだよ。

と色々書いたが、本編はここで終わりです。
あと、オマケを載せさせて下さい。
読んでる方がいましたら、もう少しだけお付き合いお願いします。

オマケ

まこ「ようやく全国じゃのお」

久「ええ、ここからね」

吉岡(何とか、全国への切符を手に入れたか)



京太郎「うわぁー、ダメだったー!」

敦「よし、全国でも頑張るぞ!」

竹井(ここまでは予想通りだが……)


茜「私も咲マネしよっと、カーン!あ、テンパイだ。リーチ」

バシュン

茜「ツモったー、リーチ一発ドラ3で親っぱねと……あ、裏が8枚のってる!えーっと―――」

竹井(何だこれは!?)

茜「竹ちゃーん、よく分からないけど全国出場になったよー」

京太郎(納得がいかん)

もう一個、別のss。短いから許して。
『咲-saki』の鶴賀学園の短いやつになります。形式が違うけどごめん。

「君に届けるこの夕暮れ」



 外を見ていた。

 真っ赤な夕日が、下校する生徒たちを照らしている。

 教室の中も例外なく、紅い光が差し込んでいた。

 そんな空間で、私は一人ぼっち。

 文字通り一人であり、例え人がいたとしても独りであっただろう。

 そんな頃合を言うのかもしれない―――『黄昏』という言葉は。

「……って、私に時間帯は関係ないか」

 なんて、一人で皮肉を呟いてみる。

 そんな放課後の教室が、私は好きだった。


 普通は友達と遊びに行ったり、部活動に精を出しているのだろう。

 コミュニケーションを取る事で、学生にしかできない青春を楽しむのかもしれない。

 でも、私には必要の無いものだ。

 コミュニケーションを放棄し、一人でいることを選び固執する。

 誰かに求められることも無く、自分から求めることも無い。

 それが私の「日常」であるのだから、そのことに問題などあるわけがない。

 そんな日常が今日も過ぎ去っていく、ただそれだけだ――――――。


「何っすかこれ?」

 とある日の放課後、教室での出来事だった。

 パソコンで高校のホームページを見ていると、部活紹介があった。

 それは普通かもしれないが、そこにあったのが―――『麻雀部』である。

『麻雀部 部員募集中!近い大会まで人数不足のため、緊急事態!!

 遠慮無用!!! まずは一緒に打ってみよう!!!!(部長・蒲原)』

「ふーん」

 麻雀部に入る気は無かったが、暇つぶしに打ってみるのは悪くない。

 元々、麻雀の知識はある。

 腕試しくらいに思えば大丈夫だろう。


 部室でやろうと言われたが、私の個人的な理由で、ネット麻雀にした。

 ネット麻雀が始まり4半荘目、既に数局が過ぎていた。

「この『カマボコ』って人、リーチが実らないっすねー」

 細かいルールはチャットで、決めていた。

 この半荘で最後にしようと言われ、オーラスの親を迎える。

 私は余裕のトップで、2位とは1万9千2百点も差があった。

 そんな最中、私には二つの不安がある。

 一つ目は、現在2位の『かじゅ』が常に1位を狙っており、実際に打つことができることだ。

 既に前回の半荘でも、3万点差の状況から役満を聴牌して流局した程である。


「って、言っても今のリーチは無謀すぎるっすよー」

 前局、残り一枚の牌を待ってリーチしたのだ……当然流局である。

「あんな安いリーチで、何がしたかったんすかね?」

(まぁ、いいっす)

 手配を見たら惨いものだったので、降り打ちにすることを決めた。

 二つ目は、麻雀を打っているうちに、このメンバーたちが面白いと感じ始めていることだ。

 とは言え、別にどうと言う訳ではない。

 この人たちが面白くても、入部する気は無い。

 独りでいる方が楽なのだから。


『リーチ』

 対面の『かじゅ』からリーチが来た。

「さーて、今度はどんな逆転手を作ったんすか?」

 1万9千2百点もの差を逆転するには、私からの跳満を直撃するか、倍満をツモるしかない。

 ドラは全部抱えているし、赤ドラは両脇の二人が捨てていた。

 染め手やチャンタ系を狙っている捨て牌でも無いので、一発や裏ドラ期待のリーチだろう。

「多分、3,6索っすよね……まぁ降りるけど」

 当然私は、ベタ降りをする。

 周りの二人も差込を疑われないために降りてくれる―――好都合だ。

 2順が過ぎ、『かじゅ』が3索を捨てた。

「あれー、違ったっすか?」

 これでも人並み以上に麻雀は打てる自身はある。

 間違ったのは予想外だった。


 次順、『かじゅ』が6索でツモあがった。

「えー、まさかカンチャン待ち?」

 ――――――違った。

 カンチャンでも無ければ、単機でもない。

 3,6索の両面待ちだった。

『リーチ、ツモ、ピンフ、タンヤオ、三色同順……跳満』

 無機質な機会音声が聞こえた。

 成るほど、3索では三色にならないから、6索を待ったのか。

『私の勝ちだな』

 チャットの文字が打ち込まれていた。

「でも、これじゃあ2位確定じゃないっすか」

 そう、『かじゅ』は勘違いをしている。

『え、二確じゃないんですか?』

『違う、見てみたまえ画面を』

 ――――――そうか!


 忘れていた。

 何で前局、あんな無謀なリーチをしたのか。

 流局を狙っていたのだ。

 無暗にあがられるより、リーチで脅して他家を降りさせたのだ。

 そして、流局すれば……本場が付く。

『そう、100点差で、私の勝ちだ』

 勘違いをしていたのは、私だったのだ――――――。

『麻雀部に入りませんか?』

『あまり興味ないです』

『まあ、そんなこと言わないで』

『いえ、部活動はやる気が無いので』

『君の打ち方は面白い、ぜひとも来て欲しい』

『いえ、遠慮します』

『そうか……わかった』


 翌日、私は無機質な『日常』に戻り、昼休みを過ごしていた。

「ガラッ―――」

 教室に見慣れない女の人が入ってきた。

 違うクラスの人だろうか。

 その人物は誰かを探しているようで、ウロウロしていた。

 やがて、諦めて帰るかと思いきや教室の真ん中に立ち、叫んだ。

「麻雀部3年の加治木ゆみだ。

 1年A組、東横桃子はいないか!」

 何だ、私を探していたのか。

 ……無駄なこと。

 そんなところで叫んでも、私は見つけられない。


 おかしな人だ。

 ――――――だが

 この胸の奥から込み上げる気持ちは一体……?

 クラスの人たちが不思議な目で、加治木先輩を見ていた。

「いないのか、東横桃子。

 いるなら返事をしてくれ!

 私は――――――」

「私は……」

 ココニイル

 喉から声が漏れてしまうのを必死で防ぐ。

 私は独り。

 過去も、今も、未来も。

「私は君が欲しい!!」


 その一言が、決め手だった。

 決め手でもあり、始まりでもある。

 もう、私は自分の気持ちを抑えられない。

 先輩の後ろから手を取った。

「おもしろい人っすね。

 こんな―――私でよければ!!」


 外を見ていた。

 真っ赤な夕日が、下校する生徒たちを照らしている。

 教室の中も例外なく、紅い光が差し込んでいた。

 そんな空間で、私は一人でいた。

 誰ともコミュニケーションを取ることも無く一人で、ただ独りで過ごす私の『日常』。

 そんな私を―――誰からも見つからない、そこにいないはずの私を大勢の人の前で叫んで求めてくれた人がいた。

 私はもう独りじゃない。

 私には、部活が―――先輩がいる。

「……だからがんばるっす。私、がんばるっすよ!」


 コミュニケーションのための時間も悪くない。

 その時間が楽しいこともある。

「モモ―――」

「あ、先輩」

「何だ、教室にいたのか。

 明日は大会だ、早く帰ろう」

「はい、一緒に帰るっす!」

 それを教えてくれたのは、先輩なんすからね。

「さーて、明日はステルスモモの独壇場っすよー!!」

おしまいです。

こっちは地の分があるのと、昔に書いたのとで恥ずかしいな。
という訳で、ダラダラ二週間近く続けさせて頂きましたが、これにて終了でございます。
朝になったら、まとめ依頼?出してみようかと思います。
コメくれた方々や、読んで下さった方々に感謝です。ありがとうございました。
いつか、どこかで、また何か書かせて頂きます。今度はオリジナルの方が書きたいな。

ではでは

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom