男「青信号だな、えっ?」(149)

キキィ! ドン!

男「っ?」ゴロゴロゴロ…

ドタッ

男「…」

男(え、何これ? 俺…轢かれた? 撥ねられた? 嘘だろ?)

男(…あ、マジっぽい。すげぇ力抜けてく…視界が、暗くなって)

男「あっ…がっ…」

男(マジかよ…マジでマジかよ…死ぬの、俺?)

男(こんな事故で死ぬなんて、そんな訳ないだろ、オイ)

男「ッゲハァ!」びしゃぁ

男(あ。血吐いたわ)

男(これ、本当に死ぬのか? 全然実感わかねえ…)

男(意識がなくなりかけるだけだし、血を吐いてるだけだし)

男「……」

男(いや、それが死ぬってことじゃないか?)

男(頭がついていかない。通常通りじゃない、ああ、頭打ったもんな)

男「ぐっ…じぬっ…のが…」

男(…何だか嫌だな。ホント、こんなモンか)

男(もうちょっとマシな死に方すんもんだと思ってたけれど、こんなモンなのか)

「──だ、大丈夫ですかっ!?」

男(なんだ? 声が聞こえる。可愛い声だな…)

「意識はありますか? こ、こんな血が流れて…!」

男(…心配してくれてるのか。ごめんなさい、多分、俺死ぬから心配するだけ無駄だって思う)

男(だけど、こうやって人に心配されるのも悪か無いね…)

「きゅ、救急車を呼ばなくちゃ…! 携帯、携帯!」

男(どれ、それなら最後にこの子の顔でも見てみるか…可愛いことだったらいいな)

男(可愛くて、綺麗ない子だったら良いな。最後の最後に、見れる人間かもしれないし…)チラ

男「ッ……!!」

「はいもしもし! えっと、救急で!」

男(なんだって!? そんな、まさかありえるわけがない! こんな───)

男(──パンツが丸見えなんて!!)

「人が撥ねられてっ…はい、はい! そうなんです!」

男(やべぇ…真っ白だ…パンツとか初めて見た、すげーなコレ)

男(ん? あれ、なんかバクバクと心臓が…ん? なんだ、)

男「ゴボォ!」ぴしゃっ

男(あ、めっちゃ血が出て、コレ、死んだ)

男「」ガク

~~~

「おい、聞いてんの!?」

男「………え?」

友「さっきからボーっとしてっけど。聞いてんのかって」

男「お、おう。すまん、なんだって?」

友「なんだっけじゃない…ったく、最近多いなお前」

男「そ、そうか?」

友「大丈夫かよ、事故の後遺症でも残ってんじゃないのか」

男「…よく、わからん」

友「まぁとにかく。明日は用事あっから、遊べなくなった。わかったか?」

男「了解」

友「うむ」

男「…はぁ~」

男(あれから三ヶ月、事故の怪我は全快とも言わないが、通学するぐらいには治って)

男(普段通り過ごせるようにはなったけれど)

男「…どうも最近、調子が悪いんだよな」

男(医者は大丈夫だって言ってたし、むしろ、何故助かったのか不思議だと言ってたけれど)

男(とにかく。なんだろう、調子が悪いと言うよりは…なにか物足りない気がする)

男「わからん…なんだこの中途半端な気分は…」

男「もう少しで分かりそうなんだ。あと少し、ほんの少しアイデアみたいなものが…」すたすた

男「……ん?」

にゃあにゃあ

男「猫? …捨て猫か」

男(まあテンプレみたいなダンボールに入れてからに…)

にゃあにゃあ

男「おーよしよし。まだ子猫かよ、酷いやつがいたもんだな…」

男「餌が欲しいか? やらないでもないぞ、もっと媚びてみろ人間様に」

にゃにゃあ

男(可愛い)

男「…仕方ねえな。ありがたく思え、拾ってやらんでもない」

男「動物ラブな両親で感謝するんだな。どうせなら、拾い手を探してもいいぞっと」ひょい

にゃー!

男「って、オイ! 何処行くんだ!」

すたたーっ!

男「元気良すぎるだろ…待てって、そっちは道路──」

男「──えっ?」

ドン!

男「っ」ゴロゴロゴロ…

べシャァ!

男「……」

男(デジャヴ!)

男(って突っ込んでる場合じゃない! …あれ? 撥ねられた?)

男(いし、きが…遠くっ…おいまたかよ、また撥ねられたのかよ!)

男「やべぇ…運が悪すぎて…」

男(今度こそ死んだか俺…)チラ

女性「きゃー! ひき逃げー!」

男「……ん?」

ドクンッ!

男(え、なにこれ──心臓が急にでかく聞こえて──ちょ、待て。あれってもしかして…!)

男(パンツじゃねえか!)ドクン!

男(あの女性のパンツ! 丸見えだ! そうか、寝転がってるから見るのか…すげー黒だ黒)

ドクンッ! ドクンッ!

男(…なんだろ。ちょっと元気になってきた、いや、元気になったのは意識的なもので)

男(息子的な意味じゃなく、えっと、とにかく…痛みが軽くなったというか)

男「むしろ何もなかったかのような…」

男「……」

男「うんっ?」ひょい

男「あれ? どこも怪我してない…?」

女性「ごぎゃー!? 起き上がったぁあああ!!」だだっ

男「えっ!? いや、待って!」

男「……」

男「…行ってしまった、いや、ビビるのもわるけどさ」

男「……」

男「よいしょっと」

男「うーん、んっんっ」ぐぐっ

男「ふぅー、うん!」コキ!

男「…超元気だ俺、何だこれ」

男(確かに俺、吹っ飛ばされたよな車に…あ、ブレーキ痕)

男(案の定、またひき逃げだけれども。確かに俺は車に撥ねられて…)

にゃー!

男「…おう、無事だったか」

にゃにゃ

男「そうかそうか。良かったな…うん、こねこさんや」

男「…俺ってどうしちまったんだろうな。さっきからさ、びっくりしてるんだけどさ」

男「それよりも、そんなことよりも、上回るぐらいに」

男(──すごい満たされてる感が半端ない)

男(ここ三ヶ月ずっと物足りなかったモノが満たされたような)

男(…うまく言葉に出来ない)

男「俺、どうしちまったんだろう…」


「──それは〝運命〟から脱線したせいなのです」


男「うぇ?」

「人は元より、運命によって生涯のすべてを決定されている」

「神のご意志によって。地球上における生命は始まりから終わりまで──」

「──結局のところ、予定調和というわけですね」

男「……!」くるっ

「しかし、貴方は違う。その運命の輪から外れた存在へと昇華している」

男「…誰?」

「死という概念すら跳ね除け、理に反し、逸脱した人間…」

女「…どうも初めまして」

男「…は、初めまして」

女「突然の登場、気分を害されたのは重々承知してます」

男「えっと、いや、別に…じゃなくて、なんだアンタ?」

女「そうですね。軽く自己紹介と行きましょうか、私は天使です」

男「はい?」

女「だから、天使です」

男「……」

女「無言で去ろうとしないでください」

男「…いや、すみません。ちょっと用事を思い出して」

女「貴方には用事など存在しません。在るとすれば、その小さき命を助けることぐらいでしょうか」

男「えっと…あの~」

女「手間は取らせませんので。数分のお付き合いを願いたいのですか」

男「…嫌なんですけど…」

女「そういうわけには。これは貴方の生き方に関わる重大な件ですので」

男「……」

女「お困りなのではないですか? 今、貴方が感じている全てに」

女「いえ、違いますね。私が言いたいのはただひとつ、不死身のようなことではなく──」

女「──その物足りなさという、感情」

男「…どういうことだよ」

女「貴方は疑問に思っている。ですが、それは己の身体についてではない」

女「物足りなさ、憤り、不満、負の感情」

女「それらによって生まれる──欠けた自意識」

女「むしろ死ねなかったことよりも、満たされた心に驚いてるのではないでしょうか」

男「だから! 何がいいたんだよ!」

女「つまりは、貴方は〝無〟なのです」

女「何もない、居ても無意味な存在。それが貴方なのですよ」

男「…難しくて、わからんッ」

女「運命の理から外れた存在は、この世にいる必要はありません」

女「だからこそ死を持って存在をなくす。それが神のご意志」

女「しかし、貴方は死を乗り越えた。一度の決定的な運命の終焉を、不可思議な力によって」

男「…不可思議な、力?」

女「その通り。ご自覚、あるのではないでしょうか」

男「はぁ? んなもん、別に俺にわかるわけ──」

男「──……」

男「パンツか!!」

女「正解です」

男「えええっ」

女「貴方はその色欲によって延命した。いえ、生まれ変わった」

女「本来の理から抜け出し、命の永続を会得したのです」

男「…パンツで?」

女「その通り」

男「んな馬鹿な…」

女「まかり通るのが貴方です。肉体的死亡、精神的死亡──死という概念は全て、無意味となる」

女「満たされる心。それは、死と生の間に落ちたゆえに、欠損した精神が補うための補助的思考を行なっているため」

女「つまりは、生きようとする前向きな意志という意味ですね」

男「っ…いまさらだけども」

女「なんでしょうか」

男「信じないって、言ったらどうする。俺はまだアンタを危ない人だと思ってるし」

女「それでいいのです。私は、話を聞いてもらえるだけで十分なのです」

男「…なんだよ、それ」

女「天使とはそのような存在なのです。不都合を無駄だと切り捨てない、それが天使」

女「私もまた運命に位置づけられた存在なのですから」

男「……」

女「そして最後に、これが唯一貴方に──むしろ天使として言わなければならない、重要なものなのですが」

男「…あーもう、なんだよ。この際だから最後まで聞くけどさ」

女「神は怒っております」

男「へ?」

女「貴方の存在に、貴方の驚異的な生命に、覆された理に」

女「数千年、数億年、数兆年──変貌することのなかったルールを破り捨てた存在に」


「貴方は喧嘩を売ったのですよ、神に」


男「何を言って、意味のわからないこと──」

男「──うぐぅっ!?」ドクン!

女「ほう、流石は神。時間通りですね」

男「なんだッ…これッ…!?」がく

女「心臓発作です。気の毒に、まもなく数秒後、貴方の心臓は止まります」

男「…えッ…?」

女「新たなる運命ですよ。死の終焉、貴方の次の死因」

女「交通事故によって散るべきだった命を修復する、この世の力」

女「──死ななければならないのです、貴方は」

男「なっ……こと、ふざっ…!」

女「神とは、そのようなものなのですよ」

女「砂一粒にも満たない命に情けなどかけません」

男「あっ………うっ…」

どさぁ

男(いきが出来ない…本当に死ぬ、のか? くそ、意味が分からん!)

男(こんなっ…こんなっ…理不尽なことあっていいのかよ!? 神が怒ってる!? 知るか馬鹿!)

男「うぐっ…」チラ

女「……」

男「おま、え……!」

女「……」

男「……っ……」

女「……」

男「……」

女「……」

男「……パンツ、白なんだな」

女「生き返りましたか」

男「…うん」すっ

男「生き、返りました…はい」

女「恐ろしい力ですね」

男「ち、違うっ」

女「いえいえ、ご謙遜ならずに」

男「ち、違うんだって。俺は別にぱ、パンツを見たからじゃなくてだな」

女「それが貴方の力ですよ」

男「違う!」

女「違いません。まんまその通り、無二の絶対的な力」

男「ぱ、パンツをっ? 見れば死なないとか、どんなやべぇ力だよ!」

女「やべぇのは貴方です」

男「うるさい!」

女「…錯乱されるのは深く同情します」

男「同情するなよ…」

女「では、どんまい」

男「…喧嘩売ってんのか?」

女「まさか」

男「っ…なんだよ、じゃあ俺はパンツみれば死なないってわけか!? そうなのか!?」

女「はい、パンツを見れば死にません。貴方は死を超越したのですから」

男「マジかよ…」

女「そういうことなので、では、私はこれにて去ります」

男「えっ? いやいや、ちょっとまってくれ! もうちょっと色々と…!」

女「…数分は経ちました。貴方を引き留めるのはそれだけと、忠告したはずです」

男「それはもういいっ! まだアンタには聞きたいことが在るんだよ!」

女「運命とは」

男「っ…?」

女「運命とは、絶対なのです。そこに生がある限り、切り離せないモノ」

すぅっ…

女「──その円環から外れた貴方は、先に何を望むのか…楽しみですよ」

男「…消えた…?」

男「すぅって、え、溶けるように…えっ? マジで天使、だったの?」

男「………」

男「…なんだよ、ふざけるなよ、いみわかんねえよ…」

男「……」すっ

男(怪我、ひとつ残ってない。え、これって)ごそごそ

男「前の事故の怪我も治ってる…?」

男「腹のところの手術痕も…無い」

男「………」

にゃー

男「…ああ、猫…お前…うん…」

男「…とりあえず、帰るか…」

次の日

友「よぉ。おはよ、って隈すご!」

男「…よぉ」

友「おお、おはよう…寝てない感じ?」

男「ああ、寝てない感じ…寝れなかった感じ…」

友「…本当に大丈夫か? なにかジュースでも飲む?」

男「いい、喉乾いてないし」

友「おう…」

男「…なぁとも」

友「あんだよ」

男「男勝りで、部活も押し切って野球部ピッチャーで、色気なくてむさ苦しい友さんや」

友「殴るぞ」

男「…俺が死にかけた時、パンツ見せてね」

友「は、ハァ!? なに、いって…!」

男「いいだろパンツぐらい。ちょちょいのちょいだろ」

友「嫌だっ! 変態が! 死ね死ね!」

男「大丈夫。パンツみたら死なないから」

友「意味がわからん!」

男「…そういえば、今日はなんの用事なんだ」

友「心配してやればお前はっ…あん? 言ったじゃん、爺ちゃん家に行くって」

男「ああ、そっか。隣町だっけか、お前も苦労すんな」

友「べっつに。オレ的に苦労してるつもりないし、むしろ両親がしっかりしろって思うところあるし」

男「…色々とあるよな、何処にでも」

友「んだよ。急に」

男「んにゃ。別に、あ! お前猫飼わない?」

友「ねこっ!?」

男「おう。昨日拾ってさ、子猫なんだけども」

友「いるいる! 見せてみせて!」

男「じゃあ明日な。部活終わりに家に来いよ」

友「おうっ!」

~~~

男「さて、帰るか」ぎしっ

男(ん、いや図書室寄るか。昨日事、調べてみたいからな…)

男「なにか分かることも有るかもしれんし」

図書室

男「……」

男(正直、よくわからん。死を超越したとか、そういった話になるとファンタジー系になるし)

男(伝記ものななめ読みしても、該当するようなものは無いし…)パタン

男「…ましてや、パンツ見て生き返る話とか」

男「はぁ~、あるわけないよな」

男(どうすっか。とにかく、今は何が起こるか待ち構えてる…べきなんだろうな)

男(──あの天使が言っていた、神に喧嘩を売った。ということ)

男(だから俺を死なせようとしている。んなこと、信用できねえけど、昨日がアレだったから…)

男「いつ死んでもおかしくねえのか。俺って」

男「ふざけるなよ…」

男「死んでやるもんかよ、俺は絶対に死なないからな」ぎゅっ

男「…絶対に」

女「良きご覚悟ですね」

男「どわぁああっ!?」

女「こんにちわ」

男「ええっ!?あ、アンタ!? ええっ!?」

女「昨日ぶりですね」

男「いやっ! そうだけども、ここ図書室で学校で…あれ? 制服?」

女「気づかれましたか。この高校の制服、つまりは在学生徒ですね」

男「…高校生だったの?」

女「はい。天使で高校生です、素敵ですね」

男「自分で言うなよ…てか、なんだよっ。急に現れて…!」

女「いえ、貴方の姿を見かけたので話しかけたまでです」

男「…」

女「おや、信用されてませんね。ともかく、その通りだと思うべきでしょう」

男「…まだアンタには聞きたいこと、沢山あるんだが」

女「全て話したはずです。今の貴方の現状を、全て」

男「違う、そういったことじゃない。俺が知りたいのは…アンタのことだ」

女「私ですか」

男「…天使、なんだんだろアンタって」

女「その通り。神に仕える天使です」

男「そこだよ、そこ。神に仕える天使様が…どうして俺に色々と忠告してくれんだ」

女「さて」

男「と、惚けるなよ! よくわかんねえけど、そういったのって…いいのか? 良くない気がするんだが」

女「気にする必要はありません。貴方はただ、己の命だけを悩むべきでは?」

男「…そうなんだけど」

男(自分でもよくわからない。ただ、この女の存在がどうも気になって)

男(──何処かで見たことが在るような、いや、聞いたことが在るような…?)

女「三秒前ですね」

男「…はい?」

女「貴方が死ぬのは」

男「……。な、なんだって?」

女「死因は──頭部を強打でしょうか」

ゴトリ!

男「え」

ガツン!

男「ぐっ!?」

女「──ほう、分厚い辞典がずれ落ちるとは。不運ですね」

男「っ……っ……!?」

女「では、ここは巻で行きましょう。行って、生きましょうか」すっ

男「なっ…!」

女「どうぞ」

男(シマシマのパンツ!!)

ぺかー!

男「……」むくり

女「おはよう御座います。どうです、新しい命の気分は」

男「…死にたい」

女「哲学的ですね。死に絶え、生き返り、そして死を望むとは」

男「ちょっと黙っててくれ…俺、切り返せる状況じゃないから…」

女「そうですか」

男(お手軽気分だな、俺の命って本当に…)

男「…とにかく、わかったよ。アンタが何も言いたくないってのは」

女「言いたくないのではなく、言えないのです。それが運命なのですから」

男「はいはい、わかったよ…それでいい、俺も理解したから」

女「有難うございます」ぺこり

男「…結局、俺は神とやらに殺され続けるわけだな」

女「事実は、そう変わりないでしょうね」

男「めっちゃ怒ってって、俺のこと死なせたくて堪らない。それが神様なんだな」

女「はい」

男「…よく分かったよ」

女「……」

男「分かったからこそ、言ってやるよ。俺は…」

男「俺は、絶対に死なん。絶対にだ」

女「ほう」

男「神様とやらに言っておけ。俺は寿命が尽きるまで、死なねーぞってな」

女「大した度胸です。相手は神というのに」

男「顔を見たこと無いのに、ビビることもないだろ」

女「なるほど」

男「…殺されるってのはすごく怖いけどな、まぁ」

女「それでも生きるのですか」

男「ああ、生きてやるよ。ふざけるなって、喧嘩でも売ってやる」

女「………」

男「…とにかく、そういうことだから」

女「了解しました」

女「ともあれ、それが貴方の選択であるというのなら──」

女「──次に行われる死因をも超越出来るのですね、きっと」

男「…どういうことだ?」

女「今から二時間後。貴方の友人である彼女は、とある事故にて亡くなります」

男「え?」

女「死因は出血によるショック死。原因はビルの窓が割れ、落下した破片に巻き込まれるものです」

男「なにを、言って…」

女「被害は彼女だけではなく、周辺の歩行者に及びます。正確な人数は未定、しかし」

女「貴方のご友人は確実に死亡します」

男「何を言ってんだよッ!」がっ

女「運命ですけれども」

男「う、運命っ!? 神が決めたってことか!?」

女「その通り。彼女の運命、死の終焉、予定調和という世の理」

女「──それが運命なのです」

男「んなっ…馬鹿なことありえるわけがねえ!」

女「ありえます。人とは、そうやって命をなくすことも可能性としてあるでしょうし」

女「そもそも、貴方と彼女は違う。もとより、貴方は違った存在なのですから」

男「ッ…!! クソッ!」だだッ

女「…何処に行くのですか」

男「…探すんだよ、あいつを! 用事は知ってから場所はなんとなく分かる!」

女「それが神の狙いだとしても、ですか」

男「ああ?」

女「神のご意志。運命から外れた命を──なくす手段というわけです」

男「おい…それって…俺を殺すために、友を巻き込んだってことか…?」

女「……」

女「そう、判断はできません。私は神を信じています」

女「確かに人間の命とは、散っていくものは散るべきものであり」

女「…憐れむべきものではないでしょう」

女「しかし、貴方のご友人を、貴方の命を取る為に散るのは。命を司る神のご意志とは──」

女「──異なるものでしょう」

男「ッ…だけど、あいつは死ぬんだろ!?」

女「それは、運命だからです」

男「どっちにしろ神は友を殺そうとしてんじゃねえか! んなの見過ごせるかよ!」

女「違います。問題を混濁するべきではないでしょう。
  貴方の問題は彼女の死と該当するとは、言い切れません」

男「うるせぇ!」

女「ともかく。落ち着くべきです」

男「っ…! 俺は落ちつてる、びっくりすぐらいに、すっげー落ち着いてる!」

女「……」

男「ああっ…確かに、関係はないのかもなッ!
  俺を殺したい理由に、あいつが使われてるのは…関係ないのかもなッ!」

男「けど、それがどうした。なら、俺はあいつの死もおっかぶってやるよッ」だだっ

女「………」

~~~

男「何処だ…? くそ、もう学校には残ってないと思うしな…」

男(野球部も一応見て回るか? いや、二時間後といってた。ならもう居ないだろ)

男「…絶対に死なせないからな、友!」

~~~

男「っ…!」だだっ

男(となり町についた…あれから一時間半たってる。くそ、案外見つからねえ!)

男「ビルの窓が割れて、と言ってたな…何処だ…ビルの窓なんて…」

男「……おい、どこのビルだよ」

男(パッと見でも…数十件とあるぞ…ビルなんて…)

男「友を探したほうがいいかっ…」だだ

~~~

男「はぁ…はぁ…」

男「駄目だ…見つからん、何処に居るんだよあの馬鹿…!」

男(時間は、五分前!? もうそんな時間がたってんのかよ!)キョロキョロ

男「何処だよ! あいつは何処に…!」

友「あれ? なにやってんの?」

男「っ…!!?」くるっ

友「お、おお。お前汗だくになって…」

男「と、友!!」

友「な、なんだよ」

男「ぶ、無事か!? なんにもないか!? 怪我してない!? 死んでない!」

友「ちょ、おい、待てって、落ち着けって、何いってんだよお前…」

男「っ…いいからこっちこい! もう帰るぞ家に!」

友「ハァ?」

男「ここは、そのっ…危ないんだよ! お前が死んじゃうかもしれなくて…!」

友「…頭大丈夫かお前」

男「い、いいから来い! 引っ張ってでも連れてく!」ぐいっ

友「なっ!? きゅ、急に手を触るなよ…!」

男「……っ…」ずんずん

友「…い、いつになく強引だな。その、手とか荒れてるしオレ…えっと…」

男(時間は、二分? 間に合ったのか、これで? 死なずにすんだのか…?)

友「っ…やっぱだめだ! 耐え切れん!」ぱっ

男「え、オイっ」

友「急に握るなよ! こっちだって、色々とあるんだぞ…」もじもじ

男「待て、何を言ってるんだ──な、なんだっ? どいてくれ! 急に人混みが…!」

友「ったく、やっぱもう一回病院で──」

男(友…! いいからこっちに! くそっ近づけない!)

ボーン…ボーン…

男「…鐘の、音?」


パッシャーンッ!

友「え?」すっ


『──貴方のご友人は死亡します』


男「………」

男「友ッ!!」

ダダッ

男(死なせるかよッ!!)

友「あ──」


ガッシャアアアアアアアアアン!!!!!!


「きゃああああああ!?」

「なんだ!? ガラスがっ…!?」

「お、おい! 救急車! 誰か呼べ!」

友「………」

友「……なにこれ、えっ…オレ…」

友「う、嘘だろ…オイ!」

男「…」

友「お前っ…なんで、男ぉ! 大丈夫か!? 血がいっぱい出て…男…」

男「…ああ、うん…お前、平気…?」

友「しゃべるなよ! 血が…血が…こんなのっ…どうしてっ…!」

男「さぁ…とにかく、お前のこと助けられて…よかった…」

友「っ…!」

男(めっちゃ痛い…だけど全然現実感がねえ…)

男(何度も何度も経験したけど、やっぱ慣れねえなこれ…)

男「…このまま死ぬってのも悪くねえか…」

友「男ぉ…! 男男!!」ぎゅぅっ

男(あはは。んな顔で泣くなよな、一応、可愛い顔してんだから…)

男(不細工に歪めちまってからに…こいつは、夢見が悪い……)

男(こと、に……)


男「──んむぅッ!?」ドックン!


男(こ、このっ…あふれんばかりの! パワーはなんだっ!? えっ!?)


ドックン! ドックン!


友「うわぁああああっ…!」ぎゅううっ

男(これはもしや…柔らかき、柔軟性…男には決して成り得ないだろう…2つの、膨らみ!!!)


男(まさかお前!! 隠れ巨乳だったの!?)


ペカー!! ごろごろごろ!! ピッシャー!!


男(うっひゃああああ!! サイコー!!)

ドクン!!

───ドクン…

~~~

男「死にたい…」

女「哲学的ですね」シャリシャリ…

男「いやほんっと、なにこれってレベルで死にたい…」

女「でも生きてるではないですか」シャリシャリ…

男「ほんっと俺って最悪だ…なんだよ、あの死に際のテンション…」

女「ははは」コトリ

男「…無表情に笑うなよ」

女「今は感謝しましょう。己の力に」

男「……」

女「はい、リンゴですよ」

男「…ありがとう」シャク

女「どうやら、パンツを見るだけでなく。胸の接触でも生き返るようですね」

男「…みたいですね」

女「更にチカラの幅が見えてきたようです。臨機応変に行動することを心がけるべきでしょうね」

男「どう動くんだよ、死に際に」

女「さて、それは貴方が考えるべきことでしょう」

男「…なんかはぐらかしただろ」

女「退院はいつになるのですか」

男「……。明日には出来るってさ、出血は酷かったけど大したことは無いみたいだってよ」

女「流石ですね」

男「…これも俺のチカラのお陰か?」

女「無論です。死に該当するものは、免除される」

女「その場合によって免除の仕様も変わるようですが。前の事故は完治でしたけれども」

男「変に都合のいい展開になるんだな。不都合無いようにっていうか」

女「さあて。何故でしょうかね」

男「……」

女「それと、もう一つ。彼女の運命の方なのですが」

男「…どうなるんだ、アイツの死は免れたぞ」

女「どうやら運命は変わったようです。死の終焉は先延ばされ、延命の余地を残したと思われます」

男「じゃ、じゃあ! アイツは…神に殺される、ことは無いんだな?」

女「新たな運命だけが知る、とだけ言っておきましょう」

男「それで十分だ。俺と一緒の存在にならないだけでも、救われた気分だよ」

女「…気にならないのですか? どうして、彼女は違ったのかと」

男「自分と同じく、死ななかったのにかって?」

女「はい」

男「…さあ、なぜか気にならないんだよ。いや、わかっているんだが、それでも」

男「俺の本当の──神の怒らせた原因ってのは、そこじゃないって思うんだよ」

女「……」

男「死ななかったことじゃなくってさ。こう、言葉に出来ないけど…違った意味だと俺は思ってる」

男「…そこで思ったんだが、神様ってパンツみたいの?」

女「は?」

男「いや、思うにパンツ見てばっか居る俺のことを嫌ってるのかと」

女「…」

男「そういう気持ちはわからないでもないし、いや、そう下卑た考え持ってんなら引くけども…」

女「神を愚弄する気ですか」

男「待て、包丁を降ろせ。…違うって、俺でも色々と考えてるんだよ」

女「まともな判断を下してください」

男「しっかり考えてるよ。まぁ、それが何か変わるきっかけになるとは思えないけどな」

女「変わる?」

男「ん、そうそう。変わるってこと、俺は変わりたいって思う」

女「この状況下で、なにを望むというのですか」

男「たいしたことじゃねえよ。結局のところ、なんにも考えちゃいねーし」

男「…俺がただ思うことは、この感情のこと」

男「普段から物足りなさを感じてる意味、それが生き返るたびに満たされる意味──」

男「──アンタはそれを、生きようとする意思だと言ったが」

女「はい」

男「どうも、違う気がするって思う」

男「俺は何か忘れてる気がする。一番大切なことを、忘れちゃいけないことを…」

女「……」

男「よく、わかんねえけどな」

女「貴方が望むのであれば、何が起ころうと、この先見つけることは叶うかもしれません」

男「死なないしな…」

女「そうであって、貴方には──そのチカラがある」

男「…死なない以外にもあんのか?」

女「ええ、きっとあるでしょう」

男「適当に言ってない?」

女「本意を持って言ってます」

男「…ここで新設定とかビビるんですけども」

女「自覚するべきです。貴方は、己の死を軽く見てますか?」

男「あん? みてね~けど」

女「でしょうね。けれども、貴方はご友人を助けるときに躊躇しなかった」

男「……」

女「不死身のチカラ。それとは違った大きなチカラは──」

女「──貴方の中にきっと存在する」

男「……」

女「さて、これで私は去ります」すっ

男「謎という謎を残して去っていくな、アンタ」

女「天使故に、都合はつけないのですよ」

男「意味がわからん」

女「そうですか。それでは」

すぅ…

男「っはぁ~」ボスン

男(あの事故で死者は出なかった。ビルの設計ミスによる歪み、老朽化によって起こった事故)

男(奇跡的に多くの命が助かった。と、言われてる)

男「ま、俺死んでるんだけどな」

男(死なない身体。神の怒り、そして天使)

男(そして、この物足りなさ──)

男「運命ね…」

~~~~

友「お前って不死身だよな」

男「な、なんだよ」

友「…なんとなくそう思った」

男「ん、まーな。交通事故でも死ななかったし、ビルの件も…」

友「……」

男「まだきにしてんのか。おいおい、お前らしくもない」

友「…だって」

男「良いんだよ。誰も死なかった、それで十分だろ?」

友「……」

男「ったく、んじゃ今度また俺が死にかけた時」

友「そんなのやだ!!」

男「…喩え話だって」

友「例えでも、そんなのは…いやだ…」

男「……」

友「お前は…お前は分からないかもだけど、オレ、すっげー怖かったんだぞ」

友「血がいっぱい出て、顔が真っ青になって、オレの手なんて…真っ赤になってて…」

友「だからっ…オレは絶対に…!」ぎゅっ

男「……」

男「…ごめんさっきから、おっぱいが当たってる」

友「ふぇ?」

男「うん」

友「っ…おま、おままま!」

男「待つんだ。俺、けが人。明日退院、パンチはダメ──うげがっ!?」

次の日

男(案外退院できるもんだな…顔めっちゃ腫れてるんだけど)

男「ていうかこの病院にはお世話になってばっかりだな」

男「前の事故の時も…確かこの病院だったわ」

男「………」

男(あれ? 今、一瞬…何か思い出しそうに…)

男「──駄目だ、思い出せない」

男「……?」

~~~

男「……」

にゃにゃー

男「ほれ、餌だぞ」

にゃー

男「おーそうかそうか。美味しいか、猫畜生め、タダ飯ぐらいは美味しいか」

にゃん!

男「…甘い声を出しおって」

男「たんと食えよ。そしてでっかくなって、子孫を残すんだ」

男「……」

男(あれから数日と立ったが。ああ、ホントに神さん切れてるんだな)

男(軽く見積もっても、十回以上は死んでるぞ俺)

男(まあその度に、都合よく展開よく、天使さんがパンツ見せてくれるんだけども)

男「昨日はくまさんパンツだったな…色々と頑張ってくれてんのかね、見せ方にも」

男(しかし、アイツは神様に逆らってるようなことして大丈夫なのか? わからんけども…)

男(物足りなさも、いつになく強まってる気がしないでもないし…)

男「俺は結局、何をしたらいいんだろうな」

にゃー

男「…生きたいって思うのは、正しいことだろ。なぁ?」なでなで

にゃにゃん

男「お前だって、生きたんもんな」

男「…俺だって生きていたい」

女「おはよう御座います」

男「ぶはぁ!?」

女「おや、前衛的な挨拶ですね。こうですか、ぶはぁ」

男「きゅ、急に現れるなよ! ほんっと天使ってのは都合がつかねえな!」

女「すみません。これが、天使が故に」

男「ったく、今日はどのようなご用件だよ」

女「唐突ですが、お別れを告げに来ました」

男「…はい?」

女「神に私の行動がバレてしまったようです。残念ですが、ここまでです」

男「…いや、待て待て。もう少し説明しろ」

女「これだけですが?」

男「破綻してるにもホドがあるだろ。じゃあ逐一、突っ込んでみるか? おっ?」

女「いいでしょう」

男「何時になく乗り気じゃねえか。おう、じゃあはじめに」

男「…神様にバレたって言ったが、今まで誤魔化せてたのかよ」

女「ノーコメントで」

男「オイ!」

女「続けてください」

男「んだよっ…んじゃ、お別れってなんだ。つまり、アンタはどうなるってことだ?」

女「ノーコメントで」

男「……」

女「……」

男「…それじゃあ最後に聞くけども」

女「なんでしょうか」

男「アンタ、俺と前に会ったことが在るだろ」

女「……」

男「……」

女「…ノーコメントで」

男「はぁ~そうかい。そうくるかい、そうだよな。別に答えるとは言ってないもんな」

女「はい、言ってません」

男「ん、わかった。神様にバレて消されちゃう、それでオッケイ?」

女「そのような捉え方でよろしいかと」

男「そっか。それじゃあアンタともお別れか、寂しくなるな」

女「そうでしょうか。貴方は己の命の心配をすべきでは」

男「確かにな。アンタがいなくちゃ、ここぞって時に死んじゃうな俺」

女「そうでしょうね。けれども、天使である私も無事を祈ってます」

男「…ふーん、アンタでも心配してくれるんだな」

女「天使は人間にとって、愛のある存在であるべきですから」

男「そっか」

女「そのような姿を外界で最後に見せられただけでも、十分です」

男「……」

女「では、これで」

男「おう。なんか色々とありがとな、俺も頑張って生きるからさ」

女「ええ、頑張ってください」

男「ん。じゃあ、えっと、またな。でいっか」

女「…そうですね、それでは、また」

男「俺が死んだ時にでも、冥界? な所を案内してくれ」

女「そうですね。では、お先に失礼します」

男「………」

すぅう…

男「…いつもの様に消えやがったけど、本当に」

男(なんで馬鹿なことをしたんだろうな。アイツ、俺に手助けしなきゃよかったものの)

男(神に怒られた存在に、いちいち助けて、見逃して)

男(一体何を考えてるんだか。本当にさ)

すっ…パンパン

男「──知りたくなるだろ、どうしても」

男「ちょっくら、天使さんとやらに本気になってみるか」

図書室

男「調べるには調べきれてなかった気がする、この分野」

超能力名称図鑑

男「…所謂俺の力ってのも、超能力になるんじゃないか?」

男(なんか、このでっかい本見覚えがあるな…あ! これ俺を殺した本じゃねえか!)

男「頭に打つかって死なせた原因…くそう、変なめぐり合わせだなオイ」

男「……とにかく読んでみるか」

~~

男「不死の力、生き返る力、吸血鬼、その他もろもろ…」

男「うん、わからん!」

男「やっぱ違うのかもな…超能力とか、意味不明だし。現実的じゃないし」

男「俺が言うのもアレだな…」

男「ん? これは…」


『サタノファニー』


男「さたの…?」

男「…他人の自意識を乗っ取り、別人格に成り代わる悪魔の類」

男「日本では『憑依』と呼ばれる類似たものが存在し──」

男「──それを受け入れる場合もあれば、行うことも同時に憑依と呼ばれる」

男「………」

男「なんだこれ、えっ? こんなの別に気にならないモンなのに…」

男(だけど、気になっちまう。どうしてだ)

男「憑依…」

男「…そういえば、あの天使。俺が図書室に来た途端に現れたよな」

男「まさか、この本を読まれたくなかった…とかか?」

男「………」

~~~

男(たしかこのへんだよな。俺が撥ねられたのって)

男「……まあ何にも残ってないよな、うん」

男「だけど…なにか思い出せそうなんだよ、あとちょっとで」

男(俺って、ここで単純に車に撥ねられただけだったか? なにか、それだけじゃなかったような)

男「確か…そう、確か。撥ねられてからパンツを見て、あれ? パンツ…」

男「ああ、そうだ!! パンツだよパンツ!!」

男「女の人? だよな、その人のパンツを見たからこそ俺、生き返ったんじゃん!」

男(その人のことすっかり忘れてたわ…何やってんだ俺、覚えてる限りだと…助けてもらったような)

男「可愛い声だった気がする。それから、電話するような声が聞こえて…」

男「…駄目だ、コレ以上思い出せない」

男(もう少し、あと少しだけ…何かアレば…)

~~~

男「すみません」

看護婦「あっらー? 男くんじゃない、また入院?」

男「ち、違います。少し聞きたいことが有りまして」

看護婦「どしたの?」

男「俺って交通事故の時、救急車で運ばれたんですよね」

看護婦「そうよー、あれはほんっと良く助かったわねぇ」

男「…その時、誰が救急車を読んだかわかりますか?」

看護婦「えっ…?」

男「…?」

看護婦「……。どうしてそんなこと訊くのかしら」

男「い、いや。ちょっと気になって」

看護婦「それだけ?」

男「それだけですけど…?」

看護婦「……」

男(なんだこの空気…なんか駄目なこと聞いたか俺…?)

看護婦「…そうね、貴方はきっと知っておくべきかもね」

男「えっ?」

看護婦「貴方の命の恩人をよ」

~~~

看護婦「いいかしら。これは医師の判断で、貴方に負担をかけない為だったの」

看護婦「…だから貴方がきにすることはない。それだけは分かってね」

男「は、はい」

看護婦「ここよ。じゃあ、開けるわね」がら…

男「……」

ピー…ピー…

男「……」

看護婦「どれくらいかしら。人が貴女にお見舞いに来てくれるのは」

男「…これ、って」

看護婦「見覚えはあるかしら? 事故のあと、すぐに貴方に駆け寄ったは…彼女」

男「……」

看護婦「あの時はね、それはもう病院中大騒ぎでね」

看護婦「どう考えても歩き回れる体力なんてなかったはずなのに。
     彼女は自分の足だけで、この病室を出て行った」

看護婦「以前から言ってたのよ。外を歩いてみたいと、もっと楽しく生きてみたいと」

看護婦「それで思い切って抜けだしたんでしょうね。大変だったでしょうに…」

男「……」

看護婦「それで、彼女は君と出会った。ちょうど交通事故で、そうね、死にかけていた貴方を見つけた」

看護婦「抜けだした時に持っていた携帯を使って、彼女は救急車を呼んだの」

看護婦「元々、何かあった時のために持っていたのでしょうけど。
     まさか、人助けのために使うとは思ってなかったでしょうね、彼女も」

男「……」すっ

看護婦「…それから、彼女は意識が途絶えたの」

男「……」

看護婦「彼女は生まれつき身体が弱くて、
     男クンが交通事故の際のショックが大きかったみたいでね」

ピー…ピー…

看護婦「…寝たきりっていうのかな。医師が言うには、生きてることが不思議なほどらしいのよ」

男「……」

看護婦「これが事実。辛いかもしれないけれど、今の貴方には知っておくべきことだって、私は思うわ」

男「……」


女『シュコー…シュコー…』

~~~

男「…お前、天使じゃなかったんだな」

女『シュコー…』

男「俺、マジでびっくりしたよ。生の人間じゃん、アンタ」

男「…色々と破綻してる物言いだったけど、あれ、やっぱ嘘だったのかよ」

男「笑えるな…」

女『シュコー…シュコー…』

男「……」

男「アンタが話しくれた、天使とか神様とか、俺の力とかは…全てデタラメだったのか?」

男「…なんかそればっかりは、どうもしっくりこない」

男「確かにアンタは天使じゃないよ。むしろ、悪魔的なもんなのかもな」

男「…よくわからねえけどさ」

男「だけど何度も…何度も、助けてくれてたんだな。俺のこと、最初から今まで」

男「ずっとずっと…すごいよ、アンタは」

男「俺…アンタのこと忘れてた」

男「助けてくれたのに。俺のことを、助けてくれてたのに」

男「…おかしいやつだとか、最後の最後までアンタのこと蔑ろにしてた」

男「……馬鹿だな、俺」

男「本当に馬鹿なやつだな…」

~~~~

友「…元気ないな、男」

男「ないっす、はい」

友「一時期やばいぐらい元気だったじゃん」

男「…うん」

友「なんかあった感じ? だれか、死んじゃったとかさ」

男「いや、別に。誰も死んじゃいないけど」

友「…」

男「ただ心配性になってるだけだ」

友「心配性? なにか悩み事でもあんのか?」

男「…まあな」

友「オレにできることが在るなら、やるけど…」

男「ありがとな。だけど、大丈夫だって」

男「俺は待つだけだし、返事が帰って来んのさ」

友「誰かの?」

男「ははっ、天使からのだよ」

~~~

男「……」がらり

男「さて、花を変えてっと…」

男「よし。今日もがんばりますか!」がばぁ!

女「やめないさい」

男「うわぁ!!?」

女「……」

男「び、びっくりした! 本当に今度こそ死ぬかと思った…」

女「一体全体、貴方は何をしているのですか」

男「え? パンツ見てるんだけど?」

女「…なぜ?」

男「そうやって毎日毎日パンツを拝んどけば。また俺の前に現れると思って」

女「破廉恥な人間ですね」

男「お前も人間だろ?」

女「……」

男「はは、やっぱ消えてねーじゃん。嘘つき」

女「それで、なに用ですか」

男「相変わらずだな。もうちょっと話そうぜ」

女「時間の浪費は好みません。本題から入ってどうぞ」

男「…仕方ねえな、それじゃあいうけど」

男「アンタ、俺に憑依的なことしてる?」

女「…」

男「おっと、ノーコメントは駄目だぞ。嫌ならパンツ見るからな、あの色気のないパンツをな!」

女「脅し方が変態なのですが」

男「あはは」

女「はぁ~、はい。その通り、私は貴方に憑依しています」

女「ですが正しい言い方ではありません。取り憑く、憑かれている、共依存、があっていると思われますね」

男「…共依存?」

女「貴方の命に擦り寄ってる、というコトです」

男「……」

女「もう少し説明しましょうか。つまりは、貴方は生命を奪われつつ在るということ」

女「その原因は私にあります」

男「アンタが原因ってのは…」

女「貴方の普段から感じる──物足りなさ、それが証拠ですね」

女「それは前向きな意思などではなく、常に消耗する生命の焦り」

女「私が奪う力に反発し、貴方を駆り立てる意思だと思われます」

男「…じゃあなんだ、俺がパンツ見て満たされるのは」

女「消耗した生命が満たされ、通常通りに戻るからではないでしょうか」

男「…なるほどな、よくわからんけども」

女「わかりやすく言えば、私が常に貴方という飲み物を飲み続けている」

女「しかし、貴方がパンツを見る度に、その飲み物の残量が増える。というわけです」

男「おお。わかりやすいな、ありがと」

女「それで、それだけですか、聞きたいのは」

男「あともうちょっとある。どうして、俺の前から消えたんだ、アンタ」

女「天使だからですよ」

男「嘘つけ妖怪。勝手に俺の命を奪っておいて」

女「……」

男「と、まあ。これが原因だと思ってるけどな、そうなんだろ?」

女「なんのことでしょうか」

男「俺から養分を奪い続けるのに、後悔し始めた。
  きっかけはわからんけども、とにかくそう思っちまったんじゃねえの?」

女「違います。私にはそのような都合はありえません」

男「違わないね。だったらどうして、俺のことを助けてくれたんだ?」

女「…自分が寄生する人間に死なれては困るからです」

男「違う。それは憑依してからだろ?」

女「……」

男「確かに俺に取り付いてからは、そんな事実があったかもな」

男「だけど、はじめに助けてくれたのは。きっと、アンタの好意だったはずだ」

男「アンタはきっと、本意に取り付いたわけじゃないと思っている。
  何かしらの理由があって、アンタは俺に撮りつくしかなかった」

女「勝手な推測など、私が認めるとでも?」

男「いいよ別に、認めなくても。ただ俺が納得したいだけだし」

女「……」

男「…うん、これぐらいか。聞きたいことってのは」

女「聞かないのですか」

男「なにが?」

女「何故、取り憑いたのか。それと、貴方がどうして不死身なのか」

女「それに貴方と死因を言い当てた事実、ご友人の死亡を告げたこと」

男「そりゃまあ気になるけど。んな焦ることないだろ?」

女「……?」

男「こうやっておしゃべりできるんだし。これからまた色々と、話していこうぜ」

女「なに、を」

男「それぐらなら俺にだって出来るんだよ。パンツ見て生き返るような人間でも」

女「…キレイ事ですよ。そんなものは」

男「綺麗事で結構じゃん。嘘をつくぐらいなら、俺はそんな未来を選ぶね」

起きた書く保守どうも

男「…アンタはお喋りしたくないのか?」

女「したくありません」

男「それも嘘だろ、じゃあなんで俺の前に現れたんだって」

男「取り憑いて、申し訳なくて、だけどそれでも俺の前に現れた理由」

男「──結局のところ、俺と絵話をしたかっただけ何じゃないのか?」

女「……」

女「違い、ます」

男「はは、はいはい。じゃあそう思っておくけども」がた…

女「……」

男「最大の嫌味一つ言っておいてやる。俺は何処にでもいける、だがアンタはここから出られない」

男「…俺はいつだって、アンタの元へ来れるんだぜ」すたすた

男「じゃあまた、明日な」がらら

パタン

女「……」

~~~

男「よっす」

女「また来たのですか」すぅ…

男「おーよ。当たり前だろ、何度でも来るわ」

女「……」

男「着すぎて看護婦さんとも仲良くなったわ。あいつら俺にタメ口だぞ、タメ口」

女「他人に気に入られる素質が在るのですね」

男「そうかもな。アンタに取り憑かれるぐらいだし」

女「…それで? なに用ですか」

男「うん。ちょっと助けてくれ」

女「は?」

男「多分俺、死にかけてるからさ」くる

女「どういう意味で──」

女(背中に鉄骨が刺さってる)

男「いやーマジでバレるんじゃないかって怖かった…
  小さなやつでよかったわ。もっとでかいやつだったら、完全にバレてた…」

女「これはまたぐっさりと…」

男「うむ。だから俺がいきなり倒れたら、パンツ見せてくれ…」パタリ

女「もう倒れましたが」

男「た、助けてくれ…! パンツを! パンツを…!」

女「…了解しました」すっ

~~~

男「食べ物食べなくていいって。ちょっと便利だな」

女「便利ではありますが、それは有意義ではありません」

女「…味を忘れてしまうから」

男「そうか。なら、いつか食べれてたらいいな。連れってやるよ、俺がさ」

女「……」

~~~

女「………」

がらり

女「!」くるっ

男「うっす。お、なんだ待っててくれたのか」

女「べ、別にそんなわけではありません」

男「嘘下手糞すぎだろ」

女「失礼な」

男「…前から思ってたけど、天使ってやつもそんなに信じてなかったです」

女「羽を生やすべきだったでしょうか」

男「ん、それなら信じたかもな…え? 生やせれるの?」

女「どうぞ」バサァ…

男「すげぇ! 天使、じゃない悪魔だ! 真っ黒じゃねえか!」

女「かっこいいでしょう、ふふ」

~~~

女「……」

女「今日もまた、夜になる。そして明日も夜になって、そして明後日も夜になる…」

女「繰り返される日常、普遍的な時の流れ、ゆっくりと消耗する命」

女「…いつまで続けるべきなのか、わからなかった」

女「……」

女「望んでも良いのでしょうか。私も、人と同様に…」

女「…貴方と、同じように」

女「………」

女(生きたいと思うなんて、貴方の思う壺ですね)

女「くすっ」

キィイイイン…

女「ん」

女「おや、お久しぶりですね」

女「──神様」

~~~

男「ちっす。お見舞いにきたぞー」

男「……?」

男(ここ最近はベッドに腰掛けて、足ぶらぶらさせながら待ってたのに)

男(…今日は居ないのか)

男「おーい、来たぞ~?」

男「…返事がない」

男「おいおい、どうした? 寝てんのか? つか、そういった状況でも寝れるのか?」

男「……」

男(あ、あれ? なんだこの違和感…)

男「この部屋に俺しか居ないような…そんな…感じが…」

女「居ますけれども」

男「おいっ!!」くるっ

女「どうも」

男「どうもじゃないわ、びっくりだよ、お別れかと思ってたわ!」

女「まさか。貴方に別れを告げずに、消えるはずがないでしょう」

男「…お、おう」

女「今日もお見舞いですか」すぃー

男「まあな。それ以外に理由なんてないだろ」

女「まあ、その通りですね」

男「…? 今日はちょっとテンション低いな、何かあったのか?」

女「神と会いました」

男「か、神?」

女「ええ」

男「…いや、神って。それはどうなんだ、お手軽気分で逢えるもんなのかよ」

女「そんなことありません。神は神のご意志によって現れる」

女「それが昨日のよりだったというだけです」

男「ふーん、それで? その神様とやらは何の用だったんだ」

女「……」

男「…どうした?」

女「もうすぐだそうです」

女「私の運命が尽きるのは」

男「……」

女「運命に終焉を望まれたそうです。しかし、仕方ないことなんでしょうね」

男「…なんていうか、その」

女「いえ、これは予定調和ですから。貴方がきに悩む必要はありません」

男「……」

女「それよりも、神の言葉を信じるのですか?」

男「…信じたくないのが、本音だな。だけど、アンタが言ってるのは…多分、本当だと思う」

男「なんか、そんな気がするんだ」

女「…話を続けましょうか」

女「私はですね、貴方と同じく力を持っている。それは、他人に憑依する力」

女「それによって寿命を永らえる事ができるのです。
  長年そうやって他人から生命を奪い続け、やっと歩けるほどに力を蓄えて」

女「…そして、この病院から逃げ出しました」

女「それから貴方の事故に遭遇し、私は──貴方に憑依しました」

男「……」

女「既に蓄えた生命は底をつきかけており、そもそも、
  歩くという行動だけで空っぽになりかけていたので」

女「…死にたくはなかった私は、死にかけの貴方に憑依するしかなかった」

男「そっか」

女「それから貴方は──未知なる力に目覚めた」

女「どのような理由で、かは。貴方に憑依している時に気づきました」

女「予想ですが、それはきっと私のせいでしょう」

男「アンタの?」

女「ええ、未知なる力は──さらなる未知なる力を引き出す要因となる」

女「運命の円環。運命の終焉。死の概念」

女「二人の人間の生死が、重なった時。それが全ての理に反し、融合した」

女「…死を超越したのです。二人の命によって」

男「……」

女「貴方は不死身となり、そして私も更に恩恵と呼ばれる力を手に入れました」

女「…運命共同体故に、貴方の未来を視る事ができる」

男「未来が見えるのかよっ?」

女「はい。しかしですが、それは貴方の死が関連するだけのようです」

女「もともと私には、私の死が視えてました。いつ死ぬか、いつ終わるか、最初から知ってたのです」

女「ですが、貴方と融合して。それから貴方の死が視えるようになり」

女「貴方がどうして死ぬのか、わかる原因はそこにあります」

男「…なるほどな」

女「……」

男「それが理由なのか。俺が不死身なのも、そしてアンタが俺の死を予兆できたのも」

女「はい」

男「それで、随分と語ってくれたけれども。アンタがもう死んじゃうからってことか?」

女「そうですね。最後に貴方には言っておきたかったものですから」

男「…随分とあまちゃんだな」

女「甘えたくなったのです。貴方に」

男「正直者は好かれるぞ」

女「ええ、好いてください」

男「お、おお?」

女「…いいじゃないですか、私も望んでいるのですから」

女「生きたいと想いました。未来を乗り越えたいと想いました」

女「信じたいと。貴方の力に、私の力に、共に歩める運命を──望んでしまいました」

女「…責任とって、欲しかったです」

男「……」

女「ですが、これまでですね」すぅ

男「っ!」

女「本当に時間通りです。流石は神」

男「き、消えるのか…」

女「今度は本当に消えますよ。姿を消すのではなく、終焉を迎えます」

男「…」

女「私が死ぬことによって、貴方にどのような影響をおよぼすのか分かりません」

女「ですが私は望んでいます。貴方はこれからも、生きて欲しいと」

男「馬鹿…生きてやるよ、ふざけるなって」

女「そうですか…」

女「…それと、最後に」

男「ん、どうした」

女「貴方に、一言伝えたくて」

女「──ありがとう、私に生きる希望をくれて」ニコ

男「……!」

すぅ…

男「………」

男「消えちまった…本当に、アンタは…」

男(ありがとうなんて言うなよ、俺だって。アンタには感謝してもしきれないんだぞ)

男(何度も命を救ってもらって…何度も助けられて)

男(こうやって、生きる希望をくれたんだ)ぐっ

男(…俺はなによりも、誰よりも、むしろお前よりも)

男「アンタに感謝してる、つもりだよ」

男「…………」


「──だから…」

「その〝生きる希望〟ってやつも」

「俺はアンタに分けてやりたいんだよ」


男「なんなら、俺の命を分けてやってもいい」

男「望めば生き返るんだぜ。人ってのはパンツ一枚で、死なないようにできてるみたいだしな」

男「だから、だから」


男「アンタは死なせない」

──ドクン…


男「おい神様とやら…」

男「見てるんだろ? 俺らのこと、俺とこいつのことを見てるんだろ?」

男「俺ら人間の生き様を楽しくのんびり見てやがんだろ?」

男「…舐めるなよ、人間様を」

男「神だからってなんだ、命を司るからってなんだ」

男「こっちはパンツでアンタに勝っちまった人間だぜ!?」


──ドクン…!


男「いっちょ派手に喧嘩しよぜ!! なぁ神様!?」


──ドクンッ! ドクンッ!


男「うぐっ!? かはぁ!?」びしゃぁ!

男(いきなり血を吐いた…はは、なんだこれ)

男「死なねーぞ馬鹿!!」がばぁ!

男「ふふふ…」ずりずり

ぐい! ばさぁ!

男「…すまねぇ…ちょっと…視るぞ…」

男(パンツ!!)ぺかー

男「……ふぅ、くく、どうだ? 死ななかったぞ神?」

男「まだ抵抗するぞ、アンタには抵抗し続ける!」

男「だから──」

きぃ…ドス!

男「ぐげぇ!?」

男(なんだ!? 急に背中に…パイプ!? 背中に刺さって…)

男「パンツ!!」

ぺかー

男「はぁ…はぁ…ははっ! やっぱダメだな! 死なねーなぁ?」

男「絶対にアンタの力では死なねえよ! 俺は、絶対にしなねえ!!」

男「喧嘩だってなんだって、俺は何時までもアンタに抗ってみせる!!」

男「憎いだろ? 殺したいだろ? だろうなぁ、アンタが作ったシステムがお釈迦になる原因だもんな?」

男「だけどな、そうじゃねえだろ神様ッ」

男「アンタがすべきことってのは、こんなことじゃねえだろッ!!」

男「人を殺すことがアンタの存在意義なのかよ!? じゃねえだろ、アンタは救うべきだ!!」


男「ちっせえ命を救えねえ神様が粋がってんじゃねえよ!!」


男「いぎっ!?」びくん!

男(全身が痺れてッ…うごけな、い!)

男(パンツは…ぎりぎり見えない…くそ、考えやがったな…!)

男「だげどッ…」ギリ

男「ふんっ!」

ぽいん

男「おっぱいだ!」

男「…くく、復活だぜ。ちょうど倒れた瞬間、目の前にあったからな」

男「まだ殺せねえのか? ほら、どうした」

男「何度も挑戦してみろよ。死なせてみろ、こっちは等に覚悟してるぜ」

男「神様はちっぽけな存───」

男「──……」

キィイイイン

男「なんだコレ」

男「なにか、来るような…そんな…」

ガタガタガタ…

男「っ!? なんだ、いきなり揺れて…」

男「まさか…嘘だろ…?」

ガタガタッ…ギシギシッ…!

男「これって…そうだよ、な」

男「地震…?」

男(お、おい。それは流石にまずいんじゃないのか…?)

男(んなの俺だけじゃない、この病院にいる…いやこの街にいる全員が…)

男「…それでもいいと、思ってんのか?」

男「おい! 神様!? お前はっ…俺を殺すだけに…!」

男「周りの命も犠牲にするってのか……!?」

ガタッ! ガタタタタ!!! ギギギギギギ!!!

男「そんな馬鹿げたこと……だって、それは……」

男「…っ…」ちら

女『シュコー…シュコー…』

男「神様…お前、裏切ったな」

男「俺もさ、めっちゃアンタには…ふざけるなって言いたかったし」

男「何度も何度も殺しにかかるってのは、正直苛ついてた…」

男「…だけど、それでも」

男「俺以外は裏切らないって思ってたんだよ…ッ」

男「…こいつは、この女はっ…アンタのこと信じてた!」

男「絶対に神様は! 人の命を蔑ろにしないと! だから、コイツはこうやって…笑って死んでいけたハズなんだぞ!?」

男「それなのにっ…! お前は! お前はッ! コイツを裏切るってのかよっ!?」

男「ふざッ…ふざけるなよッ…」

男「ふざけるなよ神ッ!」


パリン! ゴゴゴゴゴ!!


男「ぐっ…」

男「駄目だもう…逃げ出せないよな、これじゃあ」

男「……なあアンタ、俺はどうすればいい」

女『シュコー…』

男「俺はアンタに同情するよ。こんな馬鹿な神様を信じきるなんて、俺には無理だ」

男「…だから、さ」

男「一緒に裏切らねえか。神様のこと、俺と一緒に頑張ろうぜ」

男「…俺もアンタのためにだったら、頑張れる気がするんだ」

男「だから、俺に。力をくれ」

男「俺のためだけじゃない。アンタのために、俺は力を欲しい」

男「運命の終焉? んなの全部、ぶっ壊してやるよ」

男「ひっくり返して、全部全部なかったことにしてやる」

男「──だから、俺が謝るのは…」すっ

男「…アンタが元気に起き上がった後にでもするよ」ぐいっ


──ちゅっ…


ゴゴゴゴ!! ギギ!!


ピシ! キィイイイン!!!

男「………」

女「……ん」


ギギギッギギギギギギ!!!


キィイイイイイイイイン!!!


~~~~

男「…お、おお」

男(やべぇ…窓から見る景色がすごいことになってやがる…)

男「一見すると建物が全て崩壊だぞオイ…」

男「……」

男(これ、大丈夫かよ…なんか心配になってきた)

男「だけど──確信はあるんだよな」

男「そうだろ? これがアンタの力ってやつなのか?」

「──わかりません。ですが、他人の命の終わりを視ることが出来るようですね」

男「…みたいだな。やべぇ、死神の力かよ」

「寿命は分割されないようですが」

男「むしろ死なないし。ていうか、進化してない俺?」

「してますね。むしろ最強に近づいてますけれども」

男「怖…俺の上限の無さ怖…」

「笑ってるようですが」

男「笑うに決まってるだろ」

「…ふふ、そうですね」

男「くっく」

女「それで、どうしてくれるんですか。ファーストキスでしたけれども」

男「いいじゃん。助かったし、命伸びたし」

女「ふざけないでください」

男「ふざけてませんが」

女「女の子のキスは大事なものなのですよ」

男「男だって最初のキスは大切だ。だから、ちゃんと人は選ぶね」

女「……」

男「照れてる?」

女「はい」

男「う、うむ。そうかそうか」

女「…それでどうしましょうか」

男「ああ、どうしよっか。完全に閉じ込められてるよな、俺達」

女「それに、私体力なくて歩けませんけど」

男「みたいだな、よし。ちょっとパンツ見せてくれ」

女「は?」

男「いいからいいから」ぺらっ

女「ちょっと…」

男「……」

キィイイイイン!!

男「──邪魔だ、退け」


ガラガラガラッ…!


女「……」

男「うっし、行くか」ぐいっ

女「ちょと今のは何ですか」

男「えっ? うーん、わかりません」

女「明らかに人為的に、作為的に、瓦礫の山が退きましたけど」

男「だって閉じ込められてる。つまりは命が危ない、助かるってことじゃないのかっと」

男「…軽いな。もっとこれからご飯食べないとな」

女「……」

男「さて、これからはアンタには色々と体験してもらわなくちゃいけないからな」

女「…体験ですか?」

男「ああ、いっぱいいっぱい楽しい思いをさせてやるよ」

女「それと同時に苦労も多そうですが」

男「それは覚悟しとけ。なにせ神様に怒らせて、それに神様の都合を跳ね除けた」

男「──んな人間のそばに、ずっと居るわけだしな」

すたすた…

女「…そうですね」

男「おう」

女「望んでも、良いのでしょうか」

男「当たり前だろ」

女「…生きても良いのでしょうか」

男「どんどん生きろ」

すたすた

女「…ひっぐ…うぐっ…私はっ…私はっ…!」ぎゅっ

男「……」

女「生きて…いいんですね…ぐすっ…」

男「…ああ、生きろ」

女「はい…っ」

男「死なせねーよ。どんなに運命とやらが、お前を死なせようとしても」

男「アンタが満足する終わり方以外は、全部。俺が跳ね除けてやる」


男「──信じろ。アンタを背負った奴は、神に勝ったぞ」


女「……」ぎゅっ

男「ふぅ、はてさて。酷いありさまだな」キィイン!

男「…見た感じ死亡者はゼロ。だけど、もしかしたら二次被害ってものがあるかもしれないし」

男「すまんが助けて回るぞ。手助け頼むからな」

女「…ええ、もちろんです」

女「私は貴方に、どこまでもついていきます」

女「──取り憑いたからには、離れません」

男「くっく、いい覚悟だ。んじゃいっちょ」

男「──神様に喧嘩売りに行くかっ」

終わりです
ご支援ご保守ありがとうでした


パンツは縞パンが大好物です


質問あればどうぞ
なければ落としてください それではではノシ

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