木村夏樹「だりー、ライブどうだった?」(41)

李衣菜「ライブ?すっごく楽しかったよ!」

夏樹「そうかー、お前も気付けばどんどん先に行っちまうよなあ」

李衣菜「んーん、私の憧れは今でもやっぱりなつきちだもん」

夏樹「へへっ、嬉しい事言ってくれるじゃねーか」

李衣菜「えへへ!」

夏樹「今回は765さんの所が主体だっけ?」

李衣菜「そうそう!たくさん有名な先輩がいてすっごく緊張したけど、みんな優しくしてくれたよ!」

夏樹「まっ、そこはお前の人懐っこさのお陰でもあるな」

李衣菜「あ、それでね?先輩だけじゃなくてデビュー時期では私達より少し遅いくらいの人もあっちにいたんだけど」

夏樹「ああ、あのシアターの」

李衣菜「そう、それで、その人たちとも仲良くなったんだ!」

夏樹(こいつホント友達作るの上手いなあ)

李衣菜「見てほら!メアドとか交換してさあ!」

夏樹(きっとこいつは、アタシがいなくてもどこにでも行けるんだろうなあ)

李衣菜「今度ね、一緒にご飯行こうって!ね、なつきちも一緒に行くでしょ?」

夏樹(あーなんかちょっと涙出てきた、これが子離れできない親の気持ちか)

李衣菜「なつきち聞いてる?」

夏樹「あ、ああ、何だっけ、御飯を守るピッコロの姿がロック?」

李衣菜「誰も漫画の話はしてないよ!」

夏樹「そうか、ごめんな」

李衣菜「もー、シアターの友達とご飯行くから、なつきちも一緒に行こうって話!」

夏樹「あー、でもそれアタシ行っても大丈夫か?みんなアタシの事知らないんじゃ」

李衣菜「全員になつきちのCDと顔写真渡したから大丈夫だよ」

夏樹「何やってんだ!!」

李衣菜「それに結構なつきちの事知ってる人いたし」

夏樹「それはありがたいけど……」

李衣菜「そもそもなつきちそういうの遠慮する人じゃなくない?」

夏樹「そうか?」

李衣菜「ライブハウス連れてってもらった時とかなつきちの方がグイグイ行ってたし」

夏樹「まあなんつーかなぁ、バンドマンとアイドルじゃ何とも勝手が」

李衣菜「ふふっ、じゃあ今度は私がなつきちの手を引っ張る番だね!」

夏樹「……ふっ」

李衣菜「ああ!なんで今笑ったの!?」

夏樹「いやあ、相変わらずだりーはバカだなぁって」

李衣菜「もー!バカって何さ!!」

夏樹(バカだよなあ、こいつ)

夏樹(手を引っ張ってくれるのは、いつもお前だってのに)

夏樹(お前は気付いてないんだろうなあ)

李衣菜「あ、あとね!」

夏樹「なんだ?」

李衣菜「すっごくロックな人がいたの!」

夏樹「え?」

李衣菜「あのね?ギター抱えてステージに出てきてね?アイドルのライブなのにだよ?それでギター持ってきて」

李衣菜「もしかして……って思ったら、本当に弾き語りで歌を歌ったの!」

李衣菜「でね!喋ったらすごい優しい子でね?ギターにもちょっと触らせてくれて!!」

李衣菜「ストラトなのは一緒だったけど、指板がメイプルだって言ってた!」

李衣菜「あと、みんなで食事行こうって誘ってくれたのもその子で!!」

李衣菜「それでね、すっごい堂々としてるなーって思ってたらさ、なんと年下で――」

夏樹「名前は」

李衣菜「流星群って曲!曲もすごくカッコよくて、私もうメチャクチャ興奮しちゃったんだ!」

夏樹「違う、歌った方」

李衣菜「え?ジュリアだよ、ジュリリン」

夏樹(あだ名まで……!)

李衣菜「なつきちどーしたの?」

夏樹「うん、ちょっと出かけてくる」

李衣菜「急に!?ていうか何それ!!何持ってるの!?」

夏樹「バール」

李衣菜「何しに行くの!!」

夏樹「あー……あれだよ、あの、バッティングセンター」

李衣菜「バールは要らないでしょ!!!」

夏樹「人の友達誑かす泥棒猫がぁぁぁ……!」

李衣菜「取り繕う気すら無くなっちゃった!!!誰か―!!誰か止めてーー!!」

ガチャ

涼「おはよ、夏樹と李衣菜にお客さんだ――って何してんだお前ら!!痴情のもつれか!?」

李衣菜「涼さん助けて!!なつきちが殺人犯になっちゃうよぉ!!」

涼「落ち着け夏樹!!何があったんだ!!」

夏樹「止めんじゃねえ……!今のアタシは阿修羅をも凌駕する存在だ……!!」

李衣菜「もうやめて!そんななつきち嫌いになっちゃうよ!!」

夏樹「ごめん」

涼「速っ!!切り替え速っ!!」

???「え、もう入っていいのかこれ」

涼「ああ、ごめんちょっと他所様には見せられない醜態がね。もう入って大丈夫だよ」

李衣菜「え、何?お客さん?」

涼「2人に会いたいだと」

夏樹「誰だ?」

李衣菜「あっ!!」

ジュリア「あー、えっと、初めまして、ジュリアです」

涼「そんなかしこまらなくていいよ」

ジュリア「そ、そうか、自分でもなんか変な感じするしな」

李衣菜「ジュリアーノ!!なんでここに!?」

ジュリア「ジュ・リ・ア!!翼の野郎!変なあだ名浸透させやがって!!」

夏樹「で?何の用だよ」

涼「その喧嘩腰やめな」

ジュリア「いや、その、夏樹さんのCDを貰ったお礼もしたかったし、その、できたらこのCDにサインなんか貰えないかって……」

李衣菜「お礼なんていいのにー」

ジュリア「や、そういう訳にもいかないさ」

夏樹「ま、サインくらいいくらでもしてやるよ」キュキュキュー

ジュリア「ありがとう!!!」

李衣菜「ジュリーってなつきちのファンだったりするの?」

ジュリア「まあな、手違いでアイドル事務所に入ってどうしたもんかと思ったら、夏樹さんのパフォーマンスを見てさ」

ジュリア「アイドルの中で燦然と輝くロックというか、そういうのがあたしの今を作ってくれたと思う」

李衣菜「すごいねなつきち!べた褒めされてるよ!!」

夏樹「あ、おう……」

涼(こいつこういうストレートな称賛に弱いよな)

李衣菜「でもジュリ吉のステージもとってもロックだったよ!」

ジュリア「よせよ……照れるじゃねえか」

ジュリア「あ、そうそう、これみんなで食べてくれ」

李衣菜「何その岡持ち」

ジュリア「佐竹食堂……もとい同僚が腕に依りをかけて作った料理だ。あとあたしが買ったケーキ」

李衣菜「わー美味しそう!!食べよ食べよ!!ジュリっちも一緒に!!」

夏樹「そういや昼まだだったな」

涼「食器持ってくるから待ってな」

ジュリア「あたしも一緒でいいのか?」

李衣菜「当たり前じゃんっ!!」

・・・・


李衣菜「美味しー!!」

夏樹「料理上手いな、木場さん以上かも」

涼「でも量多くない?」

ジュリア「いや、一応二人前って言ったけど……」

李衣菜「食べ盛りだし平気平気!!」

夏樹「太んなよ~?」

李衣菜「うっ」

涼「……ん、ジュリアって左利きなんだね」

ジュリア「ああ、そうだぜ」

李衣菜「あれ?でもギターは普通のだったよね?」

ジュリア「まあな、憧れのギタリストと同じモデルにしたくて」

夏樹「そうか……レフティ仲間ができると思ったんだけどなあ」

ジュリア「夏樹さんはギターには凝ってるのか?」

夏樹「そうだな、でも最近はベースもやってる」

ジュリア「ベースを?」

夏樹「こいつのギターが追いついてくれたら、セッションしたいからな」

李衣菜「なつきち……」

ジュリア「はー……リーナと夏樹さんって仲良いんだな」

夏樹「ま、こいつがアタシに追いつくなんて何年先か分からないけどな」

李衣菜「あーひどい!!」

ジュリア「ははっ」

涼「楽しいよなこいつら」

夏樹「っていうかだりー、なんでお前は弾き語りしなかったんだよ」

李衣菜「えぇー……それは、その……まだなつきちが傍にいないと不安で……」

夏樹「お前もまだまだだなぁ!」

李衣菜「分かってるよ~~」

ジュリア「でも、リーナもカッコよかったぜ」

李衣菜「え?」

ジュリア「あのエアギター」

李衣菜「あ、ああ!」

ジュリア「リーナがにわかとか呼ばれてるのは知ってた、でも」

ジュリア「あの場でエアギターを掻き鳴らすなんて普通できる事じゃない」

ジュリア「もし立場が逆だったらあたしにはできなかったぜ」

ジュリア「会場では笑いを誘ったりもしてたけど、やっぱりリーナはロックだよ」

夏樹「……っ……っ」

涼(夏樹の顔がキモチワルイ)

涼(顔の右半分が『自分以外が李衣菜についてこんなに語るのが悔しい』で左半分が『だりーが褒められて嬉しい』だな)

李衣菜「なつきち聞いた~?ジュリリンガルはこんなに私の事褒めてくらたよ~?もう大好きー」

夏樹「ジュリア、お前……結構、分かってんじゃねえか」キッ

ジュリア(褒められたけど睨まれてる……)

李衣菜「じゃあ私ちょっとトイレ行ってくるね~!」

・・・・


李衣菜「……」

李衣菜「……ぷくくく」

李衣菜「なつきちったら焼き餅妬き屋さんだよね~」

李衣菜「バールは隠したし、あとはもっともっと妬かせてあげよ~っと」

李衣菜「なつきちどんな顔するかな~」

李衣菜「プフッ」

李衣菜「想像しただけで笑いが」

・・・・


李衣菜「ただいま~~、ねえジュリちゃ~ん」


ジュリア「どうだろうね、反商業性とは言うけど、聴く側の事を無視するならそれはもうただの独りよがりだ」

夏樹「確かにな、どんなに伝えたい事があろうが聞かれなきゃ意味はない」

涼「そういうんじゃやっぱりサウンドこそが大切だって話に」

夏樹「んー、たださ、やっぱりアタシは歌詞、言葉の持つ力は軽視できないと思う」

涼「そうは言うけどさ、歌詞のナンセンスさを歌うロックがあるのもまた事実で……」


李衣菜(えっ?えっ?)

涼「そもそも、今の状態じゃあもうロックは歌えない、なんて意見もあるよね」

夏樹「アタシはそれは言い訳だと思うぜ」

ジュリア「夏樹さんと同じだな。『ロックが歌えないのは社会のせい』なんて情けない話だぜ」

涼「そうだね、それをぶち壊してこそがロックってやつだ」

ジュリア「ロックは死んだ、なんてあくまで1人の意見」

夏樹「ここに生きてるぜ!って見せつけられるプレーヤーが必要な訳だな」

李衣菜(トイレから帰ってきたらすごい真面目な話してた……)

李衣菜(いいな、ジュリアンったらあんな楽しそうになつきちとお喋りして)

李衣菜(なにさ、なつきちも私の方を見もしないで……)

李衣菜(涼さんもそうだよ)

李衣菜(クスン……)

李衣菜(話に入れないのが悔しいな……)

夏樹「訴え方にしてもやっぱダブルミーニングだったりストレートだったり――あれ、だりーは?」

涼「そういえば」

ジュリア「あ、あそこで丸くなってる」

夏樹「おいおい、そんな所で何やってんだよだりー」

李衣菜「ふん、3人で仲良くお喋りしてればいいじゃん」プイッ

涼「あちゃー、拗ねてるね」

夏樹「だりー、そんな事言わずにさ?なあ」

李衣菜「……」

夏樹「なあだりー、こっち向いてくれよ」

李衣菜「ふん……」

ジュリア(こんな感じの人達だったんだなぁ)

涼「はー……もう埒が明かないね」

ジュリア「涼さん?」

涼「天岩戸を開くのはやっぱりロックさ」

涼「夏樹!ベース持ってきな」

夏樹「何すんだ?」

涼「楽器持ってきてする事なんて演奏するかぶん殴るかしかないだろ」

涼「ジュリアもギター出して、アタシはドラムセット持ってくる」

ジュリア「あるのか、ドラム」

涼「何でもあるのがこの事務所のいいとこだよ」

ジュリア「3人でいいのか?」

涼「そうだね、ジャズができるのが1人欲しいかな」

ジュリア「そんなら……麗花って奴がいるな、今呼んで――」

麗花「呼んだ~?」

ジュリア「うわああああ!!!」

麗花「今呼んだ?呼んだでしょ~?」

ジュリア「いや呼ぼうとしたけどまだ呼んで……ってかなんでレイがこんな所に!?」

麗花「お散歩してたらちひろさんって人に会って、それでお喋りしてたらここにね」

ジュリア「もう意味が……あ、そうだった、レイはサックス吹いてくれるか?」

涼「ああ、この子がジャズができるって」

麗花「はーい、北上麗花20歳、肺活量には自信がありまーす♪」

涼「よろし――20歳!?」

ジュリア「見えねえよなあ……」

麗花「でもまだ何の曲か聞いてないけど……」

涼「そうだったね、演るのは――」

・・・・


涼「夏樹も準備できた?」

夏樹「ああ」

ジュリア「涼さんドラムもできんのか」

涼「齧った程度だけどね、一応全楽器できた方がバンド組みやすいし」

麗花「ぷっぷかぷ~っていきますよ~」

涼「それじゃあセッションいくよ」

夏樹「だりー、ボーカルの位置開けとくぞ」

李衣菜「……」

夏樹「お前にこの前貸した曲だからな、入りたくなったらいつでもいいぜ」

涼「さあだりー、イェーイ!って言いな」

涼「『雨あがりの夜空に』」

~~~~~~~~♪

~~~~~~~~♪


李衣菜「……」

李衣菜「……どーしたんだい、ヘヘイベイベー……」


~~~~~~~~♪

~~~~~~~~♪


夏樹「機嫌治してくれよ、だりー」

夏樹「カーッって、歌おうぜ」

~~~~~~~~♪

~~~~~~~~♪


李衣菜「……」スクッ

李衣菜「イ、イェーーイ!!」


夏樹「!」

涼「!」

ジュリア「!」

麗花「♪」



李衣菜「こんな夜に!お前に乗れないなんて~~♪」

夏樹「こんな夜に!発車できないなんて~~♪」

・・・・


ジュリア「……ふぅ」

麗花「楽しかった♪」

涼「いい歌だったよ」

李衣菜「愛してまーーーす!!!」ギュッ

夏樹「アタシもだーーーーー!!!!」ギュッ

ジュリア「……ハハッ」

麗花「仲がいいのね~」

涼「妙な心配かけるんじゃないっての」

ジュリア「それじゃあ、あたし達はここらでお暇するぜ」

麗花「もう帰っちゃうの~?」

ジュリア「もういい時間だからな」

李衣菜「来てくれてありがとう!また遊ぼうね~」

夏樹「楽しかったぜ」

涼「またセッションしよう」

ジュリア「……それについてだけど」

ジュリア「対バン、しようぜ」

夏樹「!」

麗花「レッスンサボるのは駄目よ~」

ジュリア「怠慢じゃねえ!対バンだ!!」

涼「いいね、去り際の宣戦布告、ちゃんと受け取ったよ」

夏樹「だりーにしっかりギター練習させとかなきゃなあ」

李衣菜「えっ?」

ジュリア「セッションして強く思ったんだ、リーナはにわかでもなんでもない」

ジュリア「……1人のロックンローラーだって」

ジュリア「勝ちたい。リーナに、夏樹さんに、涼さんに」

ジュリア「あたしの持てる全部で勝ちたいんだ」

夏樹「……ふっ」

夏樹「アタシは負けねえ、涼もだ」

夏樹「何よりこいつは、だりーはすげえぞ」

夏樹「本気出せば、きっとこの中で一番になれる」

李衣菜「……」

夏樹「ほらだりー、こっちからも言ってやりな」

李衣菜「え、えーっと」

李衣菜「ジュリアナが私に頑張れ、って言うなら」

李衣菜「私は頑張る」

李衣菜「絶対なつきちを嘘つきにはしないよ!!」

ジュリア「よし!そうとなったらあたしは早速特訓に行かせてもらう!!邪魔したな!!」

麗花「あ、待って~♪」

・・・・


夏樹「……ライバル誕生だな」

李衣菜「……うん」

夏樹「どうする?」

李衣菜「ギター、弾きたい」

李衣菜「次は私が、ジュリアをビックリさせるんだ!!」

夏樹「そうこなくっちゃな!!」

涼「単純な奴だね……まっ、そこがいい所だけど」

李衣菜「今日はなつきちの家に泊まり込みで特訓だー!!」

夏樹「覚悟しとけよ!!」



おわり

終わりでーす

過去作は

西園寺琴歌「激論!朝までそれ正解」
とか
姫川友紀「冬の朝にキャッチボールを」
とか

http://www.youtube.com/watch?v=AW4MiYudAJI

雨あがりの夜空に、まあ聴いたことない人は少ないでしょうけど

ぷっぷかさんはノリに合わせていい具合に吹いてた感じです

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