怜「ワ○ミに就職することになったでー」(199)

竜華「すごいやん怜!」

竜華「ホンマおめでとー」

セーラ「うちらで就職決まってなかったの、怜だけやったからなー」

セーラ「けどオレは、怜はやれば出来る子やってわかってたでー」

泉「凄いやないですか園城寺先輩!」

泉「ワ○ミってゆうたら超有名企業じゃないですか!」

泉「将来あんたいですなー」

怜「なんかテレるわー」

舟久保「…………」

セーラ「まあ、なにはともあれ、めでたいなー」

竜華「怜ぃー、怜ぃー!」

竜華「ほんまがんばったなー」

出勤初日

久保「いいかぁ、お前らぁああ」

久保「365日24時間死ぬまで働け」

久保「出来ない、などと弱音を吐くなあ!」

久保「会社に命を捧げろ」

久保「これがうちの会社の理念だ」

久保「守れないやつは」

久保「この会社から出ていけよ」

怜(なんや、えらい怖そうな人やなあー)

赤土「私は赤土晴絵、ワ○ミのレジェンド」

赤土「みんな、何かわからないことがあったら、気軽に聞いてね!」

怜(この人はええ人そうや)

怜(でもこの人……どっかで……)

怜(まあええか)

久保「おい、園城寺」

怜「はい」

久保「お前、このイーピンを、指で削って白にしろ」

怜「え?」

久保「ああああああ?」

久保「てめえ、『え?』じゃねえよ……舐めてんのか?! 返事は『はい』か『Yes』で答えろっ!」

怜「は、はい!」

久保「ったく! やる気がないならやめろよクソがっ!」

怜「す、すみません」

怜(……イーピンを、指で削って白にするなんて、なんの意味があるんや)

怜(わからへん……けどやらんと怒られてしまう……)

怜「…………」ごしごし

怜「…………」ごしごし

怜「…………」ごしごし

怜「…………」ごしごし

怜(全然削れへんなあ)ごしごし

怜「…………」ごしごし

怜(終わりが見えんわー)ごしごし

怜「…………」ごしごし

怜「…………」ごしごし

怜「…………はあ」ごしごし

怜「なにやってんやろ……」ごしごし

怜「こんなことするためにこの会社に入ったんやないのに」ごしごし

怜「…………」ごしごし

怜「……終わらへんなあ」ごしごし

怜「…………」ごしごし

怜「……初日から心折れそうやわ」ごしごし

怜「……ああ、竜華の太ももが恋しいなあ」ごしごし


…………

……

怜(結局、終業時間までに終わらんかった)

怜(明日もこの作業は、きついなあ)

久保「おいお前、何やってる?」

怜「え?」

久保「だから『え?』じゃねえよ、クソが。なんで帰る準備してんだって聞いてんだよ」

久保「仕事を成し遂げるものと思うならなあ、勤務時間にとらわれることなく働くんだよ」

久保「ノルマ終わるまで帰るんじゃねえよ」

怜「わ、わかりました」

久保「ああ、念のため言っとくが、これは残業じゃねーからな」

久保「タイムカードは今押せ」

久保「お前が勝手に会社に残るだけだから」

久保「労働時間には含まねえ、わかるよな?」

怜「は、はい」

久保「よし、わかったならさっさとやれ」

午前0時

怜「…………」ごしごし

怜「しんどいなー」ごしごし

怜「さすがに指いたなってきたわ」

怜「…………」ごしごし


午前1時

怜「…………」ごしごし

怜「指ひりひりする」ごしごし

怜「…………」ごしごし

午前2時

怜「…………」ごしごし

怜「…………」ごしごし

怜「アカン……指の感覚、なくなってきたわ……」ごしごし

怜「…………」ごしごし


午前4時

怜「…………」ごしごし

怜「指の皮、破れてもうた」

怜「空気がしみるわー」

怜「…………」

午前5時

怜「…………」ごしごし

怜「外が明るくなってきたなあ」

怜「…………」


怜「…………」

怜「…………」

怜(あ、赤土さん)

赤土「あら、園城寺さんおはようっ」

赤土「随分早いじゃない、感心感心」

怜「……おはようございます」

赤土「ん? 眠そうね?」

怜(この先輩は、いい人そうやし、相談してみよう……かな)

怜(牌を指で削る仕事なんて、絶対おかしいやん)

怜「実は」

怜「――――」

――

赤土「なるほどなるほど」

赤土「久保さんは厳しいからねー」

怜(良かった。わかってくれそうや)

赤土「確かに大変そうね」

赤土「けどね」

赤土「私たちが若い頃は、毎日二十七時間ほど働いたものよ」

赤土「あなたも若いんだから頑張りなさい」バシバシ

怜(痛い痛い、そんなつよう肩叩かんといて)

赤土「ほら、若いときの苦労は買ってでもしろって言うでしょ」

赤土「頑張れ、若者! 根性だ! なんてね、あははは」

怜「…………」

赤土「じゃあ一緒に気合いを入れましょうか」

怜「え?」

赤土「ワ○ミ! ファイト! おー!」

赤土「はい、園城寺さんも一緒に」

赤土「腹の底から声だしてっ!」

怜「……ワ○ミ……ファイト……おー」

赤土「ワ○ミ! ファイト! おおおおおおおおおおおおおー!」

二週間後

怜(はあ……この二週間で、二日くらいしか、家に帰れてへん)

怜(残業は一切ついてへんのに……)

怜(アカン……頭痛いし気分悪いし、なんかお腹も痛いわ)

怜(ふらふらするし体もごっつダルいわ……)

久保「園城寺ぃい! まだ仕事終わってねえのかよ!」ばしんっ!

怜「いたっ!!」

怜(うう、また頬はたかれた……)

久保「どんだけトロいんだクズ」

久保「ホント使えねえな、お前」

怜「すみません……」

久保「口動かす前に手、動かせよ!」

久保「これも追加な」じゃらら

久保「この牌全部、白にしとけ」

怜「はい」

怜(多いなあこれ……今までの倍くらいや。これ、三週間くらいかかるんちゃう?)

怜(はあ……またこの作業嫌やなあ)

怜(竜華に会いたい……)

怜(…………)

怜(そうや! 次の休憩時間電話しよ)

休憩時間

怜「…………」ぷるるるるるる

怜(出ないなあ……)ぷるるるるる

怜(やっぱ、竜華も、忙しいんやろか?)ぷるるるるる

怜(しゃーない。セーラに電話しよ)

怜「…………」ぷるるるる

怜「…………」ぷるるるる

怜(セーラも忙しいんやろか)ぷるるるる

セーラ『モシモシー』

怜「もしもし」

セーラ『おっ、トキ、久しぶりやなー』

セーラ『トキからオレに電話やなんて、なんや珍しいなあ』

セーラ『なんか用事かぁ?』

怜「用事ってほどやないけど……」

セーラ『あー、わかったでえー。仕事が辛くて弱音を吐きたくなったんやろ?』

怜(う……セーラのくせに鋭い……)

セーラ『あ、でもそれやったら、竜華に電話するか。まあ愚痴でもなんでも聞くでー。今日は休みやし暇やからな』

怜(そういえば、今日は祝日やったな……)

怜(ほならお言葉に甘えて)

怜「実はな」

怜「――――」

セーラ『なんや、トキんとこはえらい大変そうやなー』

怜「せやろー?」

怜「病弱なのに、こないなしんどい仕事、つろうてつろうてしゃーないわー」

セーラ『…………』

セーラ『せやな、確かにトキの仕事は大変やと思うでー』

セーラ『けどな、ウチらもう学生やないんや』

セーラ『仕事っつーのは辛くて当たり前やで』

怜「…………うん」

セーラ『それにな、その久保さんって上司はトキのこと思って厳しくしてると思うわ』

怜「…………」

セーラ『わかるかー、厳しさってのはやさしさと表裏一体なんや』

セーラ『久保さんがトキに厳しくするのはトキに早く一人前になって欲しいからや』

セーラ『せやから、久保さんの期待に答えるために、辛いかもしれんけど、もうちょっと頑張ってみい?』

怜「…………うん」

セーラ『本当につろうなったら、オレか竜華に愚痴ればええやん、な?』

怜「…………うん」

セーラ『トキはやれば出来る子なんやから』

セーラ『ウチらのエースやしな』

怜「…………」

セーラ『ガンバルンヤデー』

セーラ『ほなまたなー』

怜「…………うん」

怜「…………」プープー

怜「はあ…………」

怜(セーラに説教されてしもた……)

怜(私が甘いんやろか……)

怜「…………」

久保「おい……園城寺……」

怜「はいっ!」びくっ

久保「お前、今何してた……?」

怜「ちょっと、友達に電話を……」

久保「ああああ!?」

久保「お前仕事舐めてんだろおおおおおお!?」

怜「けど、きゅ、休憩じか」びくっ

久保「さっき任せた仕事、終わったのかよ?」

怜「…………いえ、まだです……」

久保「だったら昼休みも休憩時間もクソもないだろおおおがあああ!」

久保「与えられたノルマが終わってないなら飯食う時間も、寝る時間も削って働け」

久保「それが仕事ってもんだろおおおお!!!」

久保「お前社会人の自覚ないだろ」

久保「ちょっとこっちこい」

怜「…………」びくっ

怜「あの……もう、殴らんといてください……」

怜「私、体弱いんで……」

久保「ああ、いいぜ」

久保「お前は殴ったくらいじゃ、理解できんみたいだからな」

久保「思いっきり蹴っ飛ばしてやるよ」

怜「そんな……」

久保「オラアアアアアアァァァァァ!」ドゴッ!

怜「ゴッ……ガあああ…………」

久保「おいおい、腹蹴られたくらいで、吐くんじゃねーぞオラっ」ゲシゲシ!

怜「グエッ! かはっ!」

久保「ははっ、なんて声出してんだ」げらげら

久保「これでちったあ、社会人の自覚でてくるといいけどなあ」

久保「お前、しばらくそこで正座して反省しろ」

久保「ワタシがいいっていうまで正座しとけよ!」

怜「……はい」

怜「…………」

怜「…………」

社員A「…………」

社員B「…………」

怜(みんなめっちゃみとるわ)

社員A「」ひそひそ

社員B「」ひそひそ

怜(みじめやなあ……)

怜(ぅ……泣きそうや)

…………

……

怜(今日は朝から体調が最悪や……)

怜(まずいなあ……なんか視界もぼやけとる……)

怜(頭痛もいつもより酷いし……)

怜(冗談ぬきで倒れそうや……)

怜(これはさすがに早退させてもらお)

怜(せやけど、久保さんにゆうても、聞いてくれなさそうやから、赤土さんに報告するわ)

怜「赤土さん、ちょっといいですか?」

赤土「ん? どした?」

怜「あの、私、体調悪いんで早退しますわ」

赤土「確かに顔色悪いわねえ」

久保「おい、園城寺ぃ! お前仕事しないで何やってんだ?」

怜(アカン、久保さんに気付かれてしもうた)

怜(なんとかごまかさな!)

赤土「ああ、園城寺さんは体調が優れないから早退するらしいわよ」

怜「えっ?」

久保「早退……だと……?」

久保「お前やっぱり仕事舐めてんだろおおおお?!」ガシっ

怜「いたっ、痛いです! 髪ひっぱらんといて!」

久保「体調が悪いくらいで仕事サボるとかお前、頭沸いてんだろ」

久保「『死ぬ』とか『もうダメだ』とか言うやつに限って大したことないんだよ」

久保「死ぬ気でやって、ホントに死んだら褒めてやるからよ」

怜「わかりました……」

久保「わかったんならさっさと仕事に戻れ!」

久保「ちっ」

久保「これだからゆとりは……」

怜(退路が断たれてしもた)

怜(私、ほんまに死んでしまうかもな……)

赤土「園城寺さん、残念だったわね……」

怜「はい……」

赤土「でもね、私たちの時代と比べると全然甘いのよ」

赤土「私たちが若い頃は」

赤土「熱が40度でても、手足がもげても、心肺停止しても会社に行って働いたものよ」

赤土「あの頃はほんと大変だったわ」

怜「…………」

赤土「だから、ファイト!よ」

怜「はい……」

怜(今日もまた怒鳴られたり殴られたりするんやろか)

怜(もう嫌や)

怜(最近、赤土さん以外の同僚の目が冷たいし……)

怜(なぜかロッカーで物がよくなくなるし……)

怜(会社行きとうない)

怜(…………)

怜(そやけどサボったりしたら、余計に叱られるし……)

怜(はあ……生きるって辛いなあ…………)

怜(もういっそ、死んでしまおか)

怜(はあ…………)

怜(…………ええ加減仕事行く準備しよ)

久保「園城寺ぃいいいいいいてめええええ」ばちーん

怜「ぅぅぅぅ………」

久保「泣いてんじゃねーよ、本気でつかえねーなお前」

久保「仕事はできないくせに、人をイライラさせるのだけは上手いな」

社員A「(園城寺さんまた叱られてる)」くすくす

社員B「(ほんとに無能なのね)」くすくす

社員SA「(病弱のフリしてはるちゃんの気をひこうとして許せない)」

久保「ああ」

久保「そういや、お前、高校の頃、インターハイに出場したらしいな」

久保「決勝に行けなかったんだろ? まあ打倒だよな」

久保「お前みたいな半端者が、何かを成し遂げられるわけないよな」

久保「むしろ準決勝まで行けたことが驚きだわ。まっ、どうせマグレだろうけど」

怜「ぅぅぅ、ぁぁあぁぁぁ」

屋上

怜(もう、なんやの! アイツ!?)

怜(なんであそまで言われなきゃあかんの?!)

怜(なんも知らんくせに!)

怜(竜華やセーラ達が、どんな気持ちであの舞台に辿り着いたか)

怜(どんだけ頑張ってきたのか)

怜(これっぽっちも知らんくせに!)

怜(ぅぅ…………)

怜(うちらの大切な思い出を)

怜(あんな風にバカにするなんて)

怜「ぅぅぅぅぁああああああああああ」

怜(自分がどうして悔しいのか)

怜(どうして悲しいのかわからへん)

怜(もうわけわからんわ)

怜(ただ、どうしようもなく悔しいわ)

怜(どうしようもなく悲しいわ)

怜「ああああああああああああああ」

怜「りゅうかー、りゅうかー」

怜「会いたい、竜華に会いたいわ……」

怜「ぅぅうううあうあああああああああ!」

怜「…………ぅ……ぅ」

怜(ああ……)

怜(こっから飛び下りたら楽になれるやろか)

怜(…………)

怜(…………)

怜(あかん……)

怜(あかんなあ、思考がネガティブになってきてるわ)

怜(こんなんやと竜華に叱られてしまうわ)

グラっ

怜「え?」

怜(手すりが! 外れっ)

ふわっ

怜(あれ?)

怜(私死ぬん?)

怜「」

……

「ときぃーときぃー」

怜(幻聴やろか?)

怜(竜華の声が聞こえるわ)

怜(幻聴でも嬉しいなあ)

竜華「ときぃーときぃー」わんわん

竜華「よかった! ホンマに良かった!」ぐすっ

怜「竜華……本物や」

竜華「なにゆうてんの」

怜「えっとー、ここは……」

怜「なんや病院臭いとこやなー」

竜華「その病院や」

竜華「怜もしかして何も覚えてないん?」

怜「あんま覚えてんなあ……」

竜華「怜は屋上から落っこちたんや」

竜華「ほんとやったら死んでもおかしくなかったんやで」

怜「けど私、あまり怪我してないみたいや」

竜華「たまたま怜が落ちたところに『すばらっ』と謎の単語を呟く不審者がいたらしくてな、その変質者がクッションになって助かったんらしいで」

怜「私、運がええなあ」

怜「それでその変態さんはどうなったん?」

竜華「『こういうことには慣れてますから、すばらっ』と、気味の悪い捨て台詞を残して去っていったらしいで」

怜「頑丈な人やったんやなー」

怜「かっこええわー」

竜華「かっこ……ええかなあ……?」

竜華「それより怜!」

怜「急にそんな大声だしてどうしたん?」

竜華「…………」

竜華「…………」

竜華「怜が悩んでる時に力になれんくて、ほんまごめんな……」

怜「竜華……」

怜(やっぱ竜華はやさしいなあ)

竜華「けどな怜! いくら仕事で失敗したからって、自殺はあかんで!」がしっ

怜「え?」

竜華「会社に迷惑かけてみんなにあわせる顔がないんのはわかるけど、自殺はあかん!」

怜「竜華……一体なにをゆってるん?」

怜(…………)

怜(ようわからんけど、私が会社でミスをやらかして、それが原因で自殺したと思ってるみたいや)

竜華「死んだら、あかん! 死んだらあかんよ!」

竜華「ウチ怜が死んだら……と思ってすごい怖かったんやで!」

竜華「怜ぃー! お願いやから死ないといて!」ぎゅっ

怜「ごめんなあ……心配かけて……」

怜(なんや勘違いしてるみたいやけど、とりあえず謝っとこ)

怜(それにしても竜華の体、あったかいなあ)

竜華「ときー、ときー!」ぎゅぎゅっ

…………

……

竜華「あかんなあ、怜を元気づけにきたのにうちが泣いてしもた」ぐすっ

怜「別にええで」

怜(それより早く誤解をとかな、いけんなあ)

怜(けど今の竜華は動転してて話、聞いてくれそうにないし)

竜華「そや、なんか久保さんっつう怜の上司が話があるってゆうてたわ」

怜「うっ」

竜華「ちょっとウチ席外すわ」

怜「ちょっ! 竜華行かんといて」

竜華「もうー、怜はおおげさやなー。今久保さんよんで来るからなー。話し合い終わったらまた戻ってくるよー」

怜「ちょっ」

怜「…………」

がらっ

久保「よおー、園城寺ぃー、元気そうだなー」

怜「あ…………」

久保「なあ」

久保「お前さあ、本気で殺されたいのかよおおおおおお!」ばちんっ

怜「あうっ!」

久保「ワ○ミの看板に傷つけてんじゃねーよ! ワ○ミの社員がみんなお前みたいな自殺する根性無しのキ○ガイだと思われるだろおおおおお!」ばしーん

怜「うっ!」

久保「ったく! 死ぬんなら会社辞めてワ○ミと縁切ってから死ねよ」

久保「仕事できないくせに迷惑だけかけてんじゃねーよ!」

久保「お前のせいで会社の評判落ちたらどう責任とんだよ? お前の安い命と会社の評判、どっちが大事かはいくらお前の足りないおつむでもわかるだろおおおーがっ!」

怜「す、すみませんっ!」

久保「ああ、それと」

久保「お前、クビだから」

久保「だから死にたいならもう死んでもいいぜ」

久保「お前とうちの会社はもうなんの関係もないから」

久保「じゃーな、クズ」

怜「…………」

怜「…………ぅ」

怜「……ぅぅ、あああああああああ!」

一年後

竜華「ただいま」

竜華「……………」

怜「……おかえり」

竜華「怜、今日も一日ずっと家にいたん?」

怜「今日はちょっと体調悪くてな……」

竜華「今日『も』、やろ」

怜「そうはゆっても、私が病弱なの竜華も知ってるやろ?」

竜華「だから病弱アピールやめっ」

竜華「そんなに体調悪いんやったら、やっぱり病院で一度見てもらったほうがええんちゃう?」

怜「病院はだめや!!!」

竜華「っ!」びくっ

竜華「そんな大声ださんでも……」

怜「医者っつーのは、金のことしか考えとらん!」

怜「特に精神科医はタチが悪い! 患者のこと弄んで楽しんどるんや」

竜華「そんなことないと思うけどなー」

竜華「けどな怜、もう三週間外にでてないんちゃう?」

竜華「やっぱまだ人が怖いん?」

怜「ちゃうねん、ちゃう、さ、最近は特に体調がよくないんや……」

竜華「…………」

竜華「でも一日中パソコンは健康に悪いと思うで」

竜華「クマも酷いし……せっかく怜可愛いのにもったえないでー」

竜華「今日はみんな集まってくれてありがとなー」

セーラ「オレは久しぶりにみんなにあいたかったから別にええでー」

泉「相談ってやっぱり園城寺先輩のことですか?」

舟久保「つっーことは、園城寺先輩は清水谷先輩のアパートに引き蘢ったままですか?」

竜華「うん……」

セーラ「オレが前に会いに行ったときも部屋にこもって会ってくれんかった」

セーラ「ドア越しに少しだけ話はできたんやけど……」

セーラ「アレはけっこーショックやったわー」

竜華「あのなセーラ、勘違いしないで欲しいんやけど、怜は別にセーラのことが嫌いになったわけやないんやで」

竜華「ただ……人と会うのが怖いだけや」

セーラ「ワカッテルデー」

泉「清水谷先輩のことは大丈夫なんですか?」

竜華「うん、うちのことだけは平気みたい」

舟久保「愛の力ですねー」

泉「っすねー」

竜華「もうー、からかわんといてー」

……

竜華「ただいまー」

怜「おかえり……」

竜華「今日はセーラ達と会ってきたでー」

怜「それはよかったなあ」

竜華「みんな怜に会いたがってたでー」

怜「…………」

怜「…………」

怜「あのなー私もみんなと会いたいんやけど、ほらっ、最近体調が悪いからなあ……」

竜華「じゃあ今度、体調が良い時にみんなで麻雀しよーや」

怜「……体調がようなったらな」

竜華「約束やでー」

怜「…………」

竜華「…………」

竜華「今日も一日中パソコンしてたん?」

怜「ちゃっ、ちゃうでー、ネットでバイト探しとったんや!」

怜「それでなー」

怜「今度面接することになったわー」

竜華「…………」

竜華「じゃあ久しぶりに外出るん?」

怜「そっ、その日に体調よかったらな」

怜「ほらっ、私病弱やし」

竜華「そう言って今まで何本バイトの面接すっぽかしてきたん?」

怜「なっ、なんでそんなことゆうん!?」

怜「好きで体が弱いわけやないんで!!!」

怜「面接の日にたまたま調子悪くなるのって、私のせいなん?」

怜「しゃーないやん!!!!」

怜「私だって健康な体に生まれたかったわ!」

怜「竜華は……竜華だけはわかってくれる思っとったのに……」ぅぅ

竜華「ごめんな、ごめんな怜。今のはうちが悪かったわ」

竜華「体調悪かったら、面接行けなくても、しかたないよな」ぎゅっ

怜「…………うん」

竜華「ごめんな怜、うち変なこと言って」ぎゅっ

怜「もっとぎゅっとしてくれたら、許したる……」

竜華「ごめんな怜、これでええか」ぎゅぎゅっ

怜「竜華はあったかいなあ」すりすり

竜華「ときぃ……」なでなで

…………

泉「相変わらず園城寺先輩は引き蘢ったままですか?」

竜華「うん……」

セーラ「オレはこの前電話で話したわ」

セーラ「面と向かってでなければ、少しは話せるみたいやんな」

泉「つまりメンゼンはあかんと」

竜華「え?」

セーラ「え?」

舟久保「え?」

泉「……なんでもないです///」

セーラ「しかし怜はなんであんなんなってしまったんやろな」

舟久保「ワ○ミでの仕事がよっぽど辛かったんとちゃいます?」

セーラ「それで人間不信かあ…………」

泉「園城寺先輩に一流企業は役不足だったっつーことなんすかねえ」

竜華「え?」

セーラ「え??」

舟久保「え???」

……

竜華「ただいまー」

竜華「怜ぃー、お寿司買ってきたでー」

竜華「ほらっ、一緒に食べよやっ」

竜華「…………」

竜華「……怜?」

竜華「…………」

怜「……ぅぅ」

竜華「怜ぃ! あんたまた手首切って!」

竜華「なにやってんねん!」

竜華「とにかく傷口を洗って止血せんと」

怜「…………」

怜「……竜華ぁ……」

竜華「なんや」

怜「生きるって辛いなあ……」

竜華「アホぉ、なにゆうてんねん!」

…………

竜華「ただいま」

怜「……おかえり」

竜華「怜、今日も面接すっぽかしたん?」

怜「っつ!」

怜「だってしゃーないやん! 体調悪いんやし!」

竜華「…………」

竜華「ん?」

竜華「怜、これはなにー?」

竜華「えっと『ドキドキ麻雀パニック』と『ま、麻雀のことなんて好きじゃないんだからねっ!』」

怜「ああ、それか」

怜「ア○ゾンで注文したやつや」

竜華「…………」

竜華「怜ぃー、今月家計厳しいんやで……」

竜華「無駄なもの買うのやめてーや」

怜「…………」

竜華「ちょっと怜! 聞いてるん?」

怜「…………」

竜華「そうやって都合悪くなると聞こえないフリするのやめー」

怜「…………」

竜華「はあ……」

…………

竜華「怜……ちょっと大事な話あるねん」

怜「んー、なんや?」

竜華「…………」

怜「なんや、話あるんとちゃうの?」

怜「私忙しいんやけど」

竜華「…………」

竜華「なあ………うちら別れよう」

怜「……え?」

怜「なにゆうてんの?」

怜「全然おもしろくない冗談やなー、あはは……」

怜「ジョークにしても、きっついわ」

竜華「冗談やない」

怜「…………」

竜華「冗談やない」

竜華「うちもう疲れたんや」

竜華「だから」

怜「うわああああああああああ!」

怜「嫌や!」

怜「嫌や嫌や!」

怜「私、竜華がいないと生きていけへん!」

怜「絶対に別れへん!」

怜「絶対に別れへんで!!」がしっ

怜「別れる言うんなら、死んでやるわ!!!」

怜「ああああああああああ!!!」ばたばた

竜華「ええかげんにせえよっ!!!!!!!!!!!!」

怜「っ!」びくっ

竜華「だからそういうのが嫌やってゆうてんのが、わからへんの?」

竜華「もうええわ」

怜「…………」

怜「ぅぅぅ……」

怜「うあああ、ううううわあああああ」

怜「お願いっ! お願いや! 捨てんどいて!」

怜「私竜華がいないとダメなんや!」

怜「なんでも……なんでもするから捨てんどいて!」

怜「ちゃんとバイトも探すし、無駄遣いもせえへん!」

怜「リスカも、もうせんから!」

怜「なっ、お願いや!」ぽろぽろ

怜「お願いやから捨てんどいて……」ぼろぼろ

竜華「…………」

竜華「…………」

竜華「はあ、わかった、わかったわ」

竜華「怜がそこまでゆうんなら一度だけ許したるわ」

怜「竜華ぁー竜華ぁー」がしっ

怜「竜華ぁー、ほんまありがとーな!」うるうる

竜華「うん…………」

怜「竜華ぁー竜華ぁー」

竜華「…………」

怜「竜華ぁー竜華ぁああああ」

竜華「ごめんなー、うちも別に怜が嫌いになったわけやないよ」

竜華「このままやと怜がダメになるんやないかと思ってな……」

竜華「けどいきなり別れようは急やったな」

怜「ううん、私が悪いんや」

怜「いつも竜華に甘えてばかりいて」

怜「これからは心入れ替えるわ」

竜華「怜はやっぱええ子やなー」なでなで

怜「竜華ぁ……」すりすり

竜華「こんなええ子と別れようなんて、やっぱうちどうかしてたわ」

怜「竜華ぁ……今までごめんな……」

竜華「ええんよ……」

…………

竜華「――――」

竜華「ってことがあったんや」

泉「別れ話を切り出すなんて清水谷先輩やりますねえ……」

舟久保「しかし園城寺先輩の反応、完全メンヘラですやん」

セーラ「舟Qそのメンヘラってなんや?」

泉「知ってますよ! おとぎ話的なとか、ファンタジー的な意味ですよね」

竜華「…………」

セーラ「…………」

舟久保「…………」

セーラ「舟Qそのメンヘラってなんや?」

舟久保「えっと……その……」

舟久保「ちょっと病気っぽい人のことです」

セーラ「なるほどー。確かに怜は病弱やからなー」

セーラ「で、それから怜は心入れ替えたん?」

竜華「それがなー」

竜華「最初は殊勝にしとったんやけど」

竜華「三日もたたんうちに元に戻りよったわ」

セーラ「ダメやん!」

舟久保「ちょっと清水谷先輩、園城寺先輩に甘過ぎるんとちゃいます?」

竜華「そうはゆうてもなあ……」

泉「園城寺先輩ってもう、真性のダメ人間やないですか」

竜華「あー」

舟久保「あー」

セーラ「あー」

舟久保「誰もが思うてたけど、あえて口には出さなかったことをこの子は……」

…………


竜華(はあ……なんか家帰りとうないわ)

竜華(お酒はあんま好きやないんやけどなあ……)

竜華「マスターッ! マスターッ!」

竜華「もう一杯や」

三尋木「はいよー、おっけー、おっけー」

竜華(はあ……)

竜華(なにやってんやろ、うち)

竜華(ん? あそこに座ってる子)

竜華(あれは!)

竜華「クロちゃんやないか!」

玄「はい? えーっと……」

玄「あ! 千里山の、清水谷さんですね!」

竜華「竜華でええよ」

玄「お久しぶりです!」

竜華「久しぶりやなー」

竜華「しっかしこんなとこで会うなんて偶然やねー」

玄「竜華さんはここによく来るんですか?」

竜華「うーん、最近はそうやねー」

竜華「クロちゃんは?」

玄「私は今日が初めてかなー」

玄「でも竜華さんに会えるなんてラッキーだよー」

竜華「うちもクロちゃんに会えて嬉しいでー」

……

怜(竜華遅いなあ……)

怜(仕事忙しいんかなあ)

怜(早く帰ってきてえや……)

怜(竜華ぁ……)

……

竜華「えー! クロちゃんガ○ホーに勤めとんの!?」

竜華「勝ち組やん! すごいやん!」

玄「えへへ……そうかなあ……//」

竜華「ガ○ホーゆうたらあの大ヒットゲーム『マツミ&ドラゴン』を作った会社やろ?」

玄「うん//」

竜華「じゃあがっぽり稼いでるんやない? ええなあ」

玄「まあそれなりに……//」

玄「ちなみにガ○ホーに来る前はアニメ『ドラララ!!』や映画『もしドラ!』の作成にかかわっていたのです、えっへん!」

竜華「なんやなんや、自慢かー? このこのぉー」ぐりぐり

玄「あううう」

竜華「けどホンマにすごいなー」

竜華「ちなみに月いくらくらい貰ってるん?」

玄「えええ、それはぁ……」

竜華「ええやんええやん、教えてえなあ」

玄「あはは、竜華さん、酔ってますねえ」

竜華「酔ってへん酔ってへん!」

玄「えっと」

玄「」ごにょごにょ

竜華「ええええ! そんなに貰ってるん!?」

玄(旅館より全然儲かるからねー)

竜華「うちの四倍近く貰ってるやん!」

玄「えへへ……」

竜華「えへへ、やないで! このー! このお!」ぐりぐり

玄「あうううう……」

…………

怜(竜華ホントに遅いなあ……)

怜(仕事そんなに大変なんやろか……)

怜(……仕事かあ…………)

怜(………………………)ぶるぶる

…………

玄「今度、食事でも行きましょう!」

竜華「もちろんクロちゃんのおごりやろー?」

玄「おまかせあれーです!」

竜華「冗談で言ったのに、こいつめー! 勝ち組の余裕かあ」ふにふに

玄「あっ、ちょっとどこ触って!」

玄「もうっ、竜華さん、完全に酔っぱらったオッサンなのです!」

竜華「あはは、じゃあ、また今度なあ」

玄「はい、また今度」

…………

……

竜華(クロちゃんかあ……やっぱええ子やなー)

竜華(うちは誰とでもある程度は話せるほうやけど、あそこまで話が弾んだのは久々やー)

竜華(しかも久しぶりに会ってあそこまで打ち解けるんは、中々ないわー)

竜華(うちとクロちゃん、相性ええのかもなあ)

…………

玄「あ、竜華さん!」

竜華「クロちゃん、会いたかったでー!」

玄「あはは、大げさなのです」

竜華「で、今日はどこに連れてってくれるん?」

玄「ふっふっふー、この松実玄に、おまかせあれー」

……

竜華「うわっ、こんな高そうなお店、初めてやわ!」

竜華「うちあんまお金持ってないやけど……」

玄「なにいってるんですかー」

玄「お会計も、全部おまかせあれーです!」

竜華「ほんま悪いなあ……」

竜華「まあちょっとは期待してたんやけど」

玄「あはは……」

竜華「しかし、ほんまに高そうな店やなあ」

玄「このお店はお水だけで800円なのだ!」ドラ顔

竜華「え!?」

竜華「うそ……やろ……?」

竜華「お冷やで金とるんかい……」

竜華「しかも800円も……」

竜華「これがジェネレーションギャップってやつかい」

玄「いえ、それは関係と……」

玄「しかもお水、頼んでないのに勝手に出てくるんです」

竜華「クロちゃん! あんた騙されとるよ!」がしっ

竜華「お冷やで金とるって絶対おかしいやん!」

竜華「警察に連絡しよーや!」

玄「あははは……」

…………

……

竜華「なんか緊張して、料理の味わからんかったわ」

玄「竜華さん、この後予定あるですか?」

竜華「…………」

竜華「あのな、クロちゃん、うち一応恋人おるねん」

玄「知ってますよ。園城寺さんですよね」

竜華「なんや、知っとたんか」

竜華「その上で誘うなんて、あんたも案外黒いなあ」

玄「クロちゃん、だけにですか?」

竜華「…………」

玄「…………」

竜華「…………」

玄「い、今のナシでっ!お願いしますっ!」

竜華「ぷぷっ、ごっつ寒いなあ……」

竜華「しかもこの年で自分でクロちゃんって……」

玄「違います違います! その言い方は竜華さんの真似をしただけであって……」

竜華「あはは、クロちゃんはほんまかわええなあ」

竜華「ほんと癒されるわ」

玄「もうっ!」ぷんぷん

竜華「あはは、ごめんごめん、ゆるしてーな」

…………

……

怜(最近竜華、帰り遅いなあ)

怜(仕事が大変な時期なんやろか)

怜(朝早くに出て、深夜に帰ってくるから、竜華とあまりお話できてん)

怜(けどあんま無理言うと、竜華を困らせてしまうわ)

怜(…………)

怜(竜華ぁ……はよ、帰ってきて……)

…………

……



竜華「ただいまあ」

怜「竜華ぁ……ん? 随分機嫌良さそうやなあ」

竜華「まあ、ちょっとな」

怜「最近帰り遅いなあ」

竜華「仕事が忙しいんよー」

竜華「同僚との付き合いもあるしなー」

……

竜華(クロちゃん……ほんまにええ子やなあ……それにかわいい)

竜華(でもあかんで! うちには怜がいるんやから)

竜華(けどなあ、怜と比べてもクロちゃんええ子なんよなあ)

竜華(顔は………)

竜華(怜のほうが好みかなあ)

竜華(スタイルは……)

竜華(クロちゃんの圧勝やな)

竜華(性格は……)

竜華(クロちゃんは、気遣いができて優しい子や)

竜華(怜は……かまってちゃんで、油断するとすぐに手首切ろうとするし)

竜華(性格もクロちゃんの勝ちや)

竜華(収入は……)

竜華(クロちゃんはうちの約4倍)

竜華(怜は食って寝て通販で無駄遣いを繰り返すからマイナスや……)

竜華(収入もクロちゃんの完全勝利や)

竜華(怜が勝ってるのって顔だけやん)

竜華(その顔も、うちの好みってだけで実際は五分五分やろうし)

竜華(怜とクロちゃんを比べるの、なんかクロちゃんに失礼な気ぃしてきたわ……)

……

竜華「ただいまー」

怜「おかえりー」

怜「今日も遅かったなあ」

竜華「会社の飲み会があってな」

怜「今日は久しぶりに一緒に寝ようやー」

竜華「なんや、あまえんぼうさんやなー」



怜「やっぱ竜華の体、ぬくぬくやわー」

竜華「そう言ってどこ触ってん?」

竜華「ひゃっ!」

竜華「そこダメやって」

怜「うりーうりー」

竜華「だからやめーって」

竜華「うひゃっ! ちょっと」

竜華「あはは、ホンマにくすぐったいってクロちゃん」

怜「え?」

竜華「あ……」

怜「…………」

竜華「…………」


カン!


注#作中に登場する企業や団体は、実在する企業や団体と一切関係ありません


つづくかも……

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