P「律子と同級生」 律子「いえーい」 (152)


「あぁ、三年にもなると補習のプリントの量も多いな……」

ガラガラ

律子「あ……」

「あれ、秋月……何してんの」

律子「いや、別に……」ササッ

「忘れ物?」

律子「違うわよ」

「何だっていいけど、暗くならないうち帰った方が良いぞ」

律子「…………」

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「…………」カリカリ

律子「…………」

「……帰らないの?」

律子「…………補習だから」

「嘘? お前が?」

律子「はぁ……そういう言い方やめてよ」

「悪い。でも、まさか……いや、何も言わない」

律子「はぁ……」

「…………」カリカリ

律子「…………」カリカリ

「……やっぱり、アイドルって大変なのか?」

律子「何よ急に……」

「いや、秋月が補習受けるくらいだし、相当なのかなって」

律子「まぁ、それなりかな。今回のテストはちょっとぬかっただけ」

「ふーん……」

律子「あなたは?」

「俺?が、何?」

律子「えーと、何で補習に?」

「ああ、地頭が悪いからかな。今のところ補習皆勤」

律子「勉強してる?」

「呆れたような顔するなよ。一応してる」

律子「一応ねぇ……」

「秋月はどのくらい勉強してる?」

律子「……最近はあんまり」

「あんまりね……」

律子「中々忙しいのよ」

「だろうな。そういえば一昨日、テレビ出てるの見た」

律子「……そう」

「…………」カリカリ

律子「それで……?」

「それで?」

律子「どうだった」

「どうって……別に。あ、秋月発見、ってそれくらい」

律子「発見……あっそ」

「…………」カリカリ

律子「…………」カリカリ

「…………」カリカリ

律子「…………」カリカリ

「おし、とりあえず古典は終わり」トントン

律子「いちいち言わなくってもいいじゃない」

「わっ、いたのか」

律子「さっきまで話してたでしょうが」

「補習はいつも一人だったから、習慣的に」

律子「いっつも独り言言ってたの?」

「どうかな。半ば無意識だから」

律子「……ちゃんと将来のこと考えてる?」

「一応」

律子「一応ねぇ……」

「秋月は?」

律子「考えてるわよ。あなたと違って」

「明確なビジョンを持ってるやつの方が少ないと思うけど」

律子「大まかな進路くらい決めたほうがいいんじゃないの」

「心配してくれてるのか?」

律子「ええ、まぁ」

「……そうか」

律子「将来、自棄になって犯罪とか犯さなきゃいいな、と」

「そういう心配かい」

律子「ふふっ」

「…………」カリカリ

律子「…………」カリカリ

「……あれ、もう外暗いな」

律子「本当」

「そろそろ帰るか」

律子「うん」

————

「まだ少し肌寒いな」

律子「うん」

「補習、何教科引っかかったんだ?」

律子「一教科だけ」

「勝った。俺は四教科だ」

律子「……卒業できるの?」

「不真面目なのは成績だけ」

律子「正直笑えないわ」

「同感」

律子「今週いっぱいは補習出なきゃならないんだっけ」

「金曜日は課題の提出日だから、実質木曜日まで」

律子「さすが補習マスター」

「褒めても何も出ないぞ」

律子「嫌味言ったんだっつーの」

「……仕事は大丈夫なのか?」

律子「今日はもともと何も無かったから」

「明日からは?」

律子「レッスンだけど、休もうかなと」

「事情話せばどうとでもしてくれるんじゃないか」

律子「特別扱いって嫌いなの」

「そう……」

律子「…………あ、私ここ左に」

「そうか、俺は右。じゃ」

律子「家まで送るよ、とか言ってくれないの?」

「言っても断るだろ?」

律子「まぁ」

「また明日」

律子「うん、明日」

————

律子「ふー……」

「あれ、もう終わったのか」

律子「うん。あんまり量も多くなかったし、昨日家でちょっと片付けたから」

「そうか。俺はまだまだかかるな」

律子「うわ、そのプリントの山……全部やるの?」

「四教科ともなると中々量がすごいんだ」

律子「手伝おっか?」

「いや、いいよ。自分の力でやる」

律子「あっそー」

「…………」カリカリ

律子「…………」

「ふぅー……」

律子「……分からないの?」

「ああ、うん」

律子「どれ……これはね、代入を……」

「ああ、なるほど。ありがとう」

律子「いえいえ」

「…………」カリカリ

律子「…………」ジーッ

「……あれ?」

律子「どうしたの」

「いや、ちょっと……」

律子「ここは(1)で出た値を使えば……ほら」

「本当だ。ありがとう」

律子「いえいえ」

「…………うーん」カリカリ

律子「今度は何よ、どれ」

「……なぁ、暇なのか?」

律子「……ここはね、公式使わないと出ないから」

「おいっ、無視するな」

律子「……何よ」

「暇ならもうさっさと課題出してレッスンとやらに行ったら?」

律子「それ、ありなの?」

「さぁ。期日前に終わったことないから分からないけど」

律子「あっそ……」

「秋月相手なら、先生も計らってくれると思うけど」

律子「……特別扱いって嫌いなの」

「そうだったな」

律子「……いいじゃない別に」

「いいのかな別に」

律子「いいのよ。ほら、手を止めない」

「先生、ここ解りません」

律子「さっきと同じように解けばいいのです」

「同じようにってのが分からないんだなぁ」

律子「数学なんてコツ掴めばちょちょいのパーよ。ほれ、もう一息」

「……こう?」

律子「そうそう。なんだ、案外やればできるんじゃない」

「やればできるは魔法のことば……」

律子「はいはい、ネガティブ発言禁止ー」

「後ろ向きだった?」

律子「違ったの?」

「いや、確かに後ろ向きだったかも。改める」

律子「ポジティブな人は素敵よ」

「なーやんでもしーかたない」

律子「……双海姉妹のファン?」

「いや……別に」

律子「そう……よかった」

「何がよかった?」

律子「いや、ロリコンじゃなくてよかった」

「なるほど」

————

「さて次は……あれ」

律子「あ、数学終わったね」

「意外と早く終わった」

律子「私の協力あってこそ!」フフン

「うん、そうだな。ありがとう」

律子「もっと褒めてくれていいのよ」

「何て褒めればいい」

律子「えっ、とぉ……、例えば眼鏡が素敵、とか」

「そんなこと言ってほしい?」

律子「いや、ごめん、別にそうでもないや」

「眼鏡が素敵」

律子「もー……ばか」

「帰るか」

律子「うん」

————

律子「それでね、美希がおにぎりを……」ペチャクチャ

「うん、うん」

律子「雪歩は最近男の人に慣れてきて……」ペチャクチャ

「へぇ……」

律子「いとこの涼ってのがいるんだけど……」ペチャクチャ

「はは……。あ、ここ左だろ?」

律子「あれ、あ、うん。そうそう」

「じゃあ、また明日」

律子「うん。また明日……」

————


「……じゃあ、ここは?」

律子「ここは第四文型だから……」

「なるほど、あ、辞書持ってないか?」

律子「何、持ってきてないの? しょうがないなぁ、はい」

「ありがとう。よいしょ」ペラ

律子「……プリントの山もだいぶ減ったわね」

「そうだなぁ、今回ばかりは期日過ぎるかも、って思ってたけど」

律子「金曜日までに終わりそうね」

「うん。本当にありがとう」

律子「うむ。しかし、まだ礼を言うには早いぞよ」

「明日までよろしく頼みます」フカブカ

律子「うん、頼まれました」

「……後は大物が控えてるんだよな」

律子「ま、一段落ついたし、今日のところは帰らない?」

「そうするか」

————

テクテク


律子「あなたって何か趣味あるの?」

「また急な……」

律子「いいでしょ別に」

「これといって趣味は……。強いて言えば音楽かなぁ」

律子「へぇ、どんなの聴いてるの?」

「〜〜とか、==とか」

律子「あ、知ってる知ってる。この間CMで流れてた」

「うん。声が好きでさ……」

律子「あ、わかるわかる。あの声はそうそういないよね」

「曲もメロディが良くてつい何回も……」

律子「CDとか持ってるの?今度貸してよ」

「いいけど、汚すなよ?」

律子「あれぇ? 信用無い?」

「いや、そういうわけじゃ」

ペチャクチャ

「あ、ここ……」

律子「……右だっけ?」

「うん、また明日」

律子「また明日」

「…………」

律子「どうしたの?」

「いや……送っていこうか?」

律子「……いいの?」

「断らないの?」

律子「夜道をか弱い女の子一人、歩かせるつもり?」

「それもそうかな」

律子「じゃあ、よろしくね」

「うん」

————

「…………」カリカリ

律子「……枝毛発見」チョイチョイ

「…………ここは」

律子「どれどれ。ここはさっきと一緒の公式」

「嘘? すごく面倒臭い計算になるけど」

律子「楽なことばかりじゃないのよ」

「そう……」

律子「答えが綺麗に終わらないのもあるから……」

「よし……」カリカリ

律子「その調子その調子」

「…………うーん」

律子「……どう?出来そう?」

「あらかた終わったんだけど、この最後の問題だけ分からない」

律子「どれ、私が……」ペラッ

「…………」

律子「…………」カリカリ

「…………」

律子「…………うーん」

「どうですか」

律子「いや、ちょっと待って……」

「…………」

律子「教科書持ってる?」

「あるよ。はい」

律子「…………」パラパラ

「……解けそう?」

律子「待って、今話しかけないで……うーん」

「…………ふぁ」

律子「あくび禁止!」

————

律子「……ぐぬぬ」

「どうでした」

律子「難しくて解けない……」グッタリ

「そろそろ帰るか?」

律子「うーん、いや、後十分だけやってみる」

「そうか」

————

律子「はぁ……あーあー」

「そんなに落ち込むことかな」

律子「一応得意教科だから、できるつもりだったんだけど」

「まぁ、そういう時もあるよ」

律子「うーん、悔しいなぁ」

(明日まで出来るかな……)

律子「……ね、時間ある?」

「ん、何で?」

律子「ちょっとファミレスでも寄らない?」

「ああ、いいよ。せっかくだから夕飯食べてくかな」

律子「さっきの問題、もう一回チャレンジしてみる」

「なるほど」

————

「ふぅー食べた……」

律子「…………」カリカリ

「……飲み物持ってこようか」

律子「ん、ありがとう」

「…………」スタスタ

「…………」ジャー


「…………」コト

律子「…………」ゴク

「解けそう?」

律子「…………うーん」

「…………」

————

律子「……だめだぁー。お手上げ!」

「お疲れさま。よくここまで頑張ったな」

律子「悔しい〜!」

「俺も帰ってからやってみる」

律子「言い方悪いけど、私ができなかったのにあなたにできるかな?」

「挑戦する姿勢は大事」

律子「……そうね」

「そろそろ出るか」

律子「うん……って、あれ会計は」

「済ませた」

律子「ええー、そんな……悪いよ」

「今週、補修手伝ってくれたから、お礼に」

律子「暇つぶしに手伝っただけよ」

「何だっていいじゃない」

律子「そうかな」

「そうだよ」

————

「くぁ……」

律子「おはよう。眠そうね」

「うん……昨日は遅くまでやったからな」

律子「出来たの?」

「いや……駄目だった」

律子「あらら。でも、ちょっと安心したわ」

「何で」

律子「解かれたら、あなたに教えてた私の立場が無いもの」

「そう……」

律子「今日、提出でしょう? 放課後、一緒に行きましょう」

「分かった。くぁ……ごめん、始業まで寝るよ」

律子「ん。おやすみー」

「zzz……」

————

律子「ごめんごめん。待った?」

「いや、さほど。課題は持った?」

律子「うん、ばっちし」

「じゃ、行くか」

律子「うん」


テクテク


「この時間ならほとんどの先生は職員室に居るはず」

律子「いなかったら?」

「探します」

律子「補習も中々大変なのね」

「慣れればそうでもない」

律子「慣れたらだめでしょ」

「……よし、職員室だ」

律子「もう……」

「まず、俺が手本見せるから、一息おいてから入って」

律子「手本って……」

ガラガラ

「失礼します。3年○組の××です。補修の課題を提出しに来ました」

「あ、@@先生。課題終わりました。はい、すみません。ありがとうございました」


律子「よし……」

律子「失礼します。3年○組の秋月です。補習の課題を提出しに来ました」

律子「先生、補習の課題です」

先生「お、はいはい。と……」

律子「どうもありがとうございました」

先生「うん。次はこいつみたく補習受けなくて済むようにちゃんと勉強してくれよー」

「はは……」

律子「はい、頑張ります」

「あ、先生。ここの問題だけ、解けなかったんですけど」

先生「ん、ああ、これは解けなくて当たり前だ。超難関大の入試問題を混ぜといたんだよ」

律子「え、そうだったんですか?」

先生「うん。いじわるしてやろうと思ってな」

先生「でも、このプリントの書き込みを見ると、相当頑張ったみたいだな」

「……はい」

先生「どうせ解けない、って最初から諦めなかったお前は偉いよ」

「ありがとうございます」

先生「よしっ、じゃあ、後帰ってもいいぞ。課題に不備はないみたいだしな」

「はい、ありがとうございます。失礼します」

律子「失礼します」

ガラガラ


「ふぅ……」

律子「……と、これで補習は完遂?」

「うん。晴れて自由の身だ」

律子「久々のシャバの空気ね」

「今日は仕事は?」

律子「今週いっぱいは補習だからって、休みにしてもらったの」

「へぇ。……じゃ、帰るか」

律子「うん」

————


テクテク

「……改めてありがとう。秋月が手伝ってくれなかったら間に合ってなかった」

律子「何よ急に。べ、別にお礼なんか……」テレテレ

「あ、そうだ。はい、CD」

律子「え? ああ、昨日だか一昨日だか貸してって頼んだっけ」

「このアルバムのラストは絶対聴くべき」

律子「はいはい。言われなくてもちゃんと全部聴くわよ」

「秋月って音楽好きなの?」

律子「人並みかな」

「ふーん」

律子「こっちのアルバムは何がおすすめ?」

「あ、そっちは5曲目と10曲目が……」

律子「へぇ……あ、この曲知ってるかも……」


ペチャクチャ





————


「もう、紅葉の季節か……早いなー」

ガラガラ

律子「あ」

「よ。忘れ物か?」

律子「いや……先生があなたのこと探してたわよ」

「あー、進路調査のプリントか。今日中だっけ?」

律子「まだ出してなかったの? もー、だらしのない。今日中よ」

「ささっと書くか……」ガタッ

律子「…………」

「…………」カリカリ

律子「……」ヒョコッ

「……見るなよ」

律子「言いつつも隠さないのね」

「まぁ……」

律子「進学するんだ?」

「親がどうしてもって……」

律子「まぁ、ある程度はしょうがないと諦めなきゃ」

「秋月はどこの大学受けるんだ?」

律子「あ、私、大学受けないの」

「え、どういうこと?」

律子「就職! 今の事務所で働くことに専念することにしたの」

「おー、おめでとう。でいいのか」

律子「うん。この1年で勉強と仕事と両立が難しいって、改めて思い知らされてね」

「しかし、もったいない気もするな。いい大学目指せたろうに」

律子「二者択一。どっちかっていうと、社会に出て早く自立したいって思ってたし」

「そうか。頑張れよ」

律子「むしろ卒業後の方が負担は無いんだけどね」

「そうかな」

律子「頑張るのはあなたの方じゃない? 受験生」

「受験って響きがもう嫌だなぁ」

律子「そういえば、この間のテスト、中々よかったんでしょう?」

「ああ、そうそう。補習受けずに済む程度には」

律子「大成長! その調子で受験まで行けば大丈夫よ」

「そうかな」

律子「そうよ」





————



「うえー寒い……」ガタ

律子「……こんな遅くまで何してたの?」

「あれ、秋月……お前こそ」

律子「私はちょっと野暮用が……」

「そう。俺はちょっと先生に教えてもらって……」

律子「受験生だもんね」

「周りの人よりだいぶ出遅れたけど、漸く本腰いれて勉強してるんだ」

律子「ふーん。じゃ、頑張ってるあなたに、はい」

「なにこれ」

律子「パパパーン、ちよこれーとー(だみ声)頭使ってるんだから、糖分補給しなきゃね」

「ありがとう……でも、なんでまた急に」

律子「今日は何の日でしょーか?」

「あ、バレンタインか」

律子「そそ」

「仕事でバレンタインイベントとか無かったのか?」

律子「それは一昨日だったから」

「へー。そうか、当日は混みそうだしな」

律子「会場が抑えられなくてね」

「ふーん」

律子「イベント中、ハプニングあって大変だったんだから」

「どんな?」

律子「春香がね…………」

「それはひどい」

律子「でしょー? 他にもね……」





————


「…………」

律子「何してるの?」ポン

「わっ、と……おどかすない」

律子「おどかしたつもりないけど」

「急に声かけられると驚いちゃうんだよ」

律子「徐々に声かけたほうが良かった?」

「……それはそれで嫌だな」

律子「なーにーしーてーるーのー?」

「なーにーもー」

律子「もう卒業だもんね。早い早い」

「本当。思い返すと、何もしてなかった気がする」

律子「そう? 結構色々してなかった?」

「補習とか?」

律子「ふふっ、笑えないわ」

「笑ってんじゃーん」

律子「ま、受験の年だったからね。これから色々すればいいのよ」

「そうだなぁ」

律子「志望してた私大受かったんだっけ」

「一応」

律子「一応ね……」

「ちょっと不安だ。仲良い人と離れるし」

律子「気の持ちようでどうとでもなるわよ」

「……秋月はもう就職だものな。何か、遠い存在みたいに思えるよ」

律子「そう? この年で就職ってのは案外珍しくないんじゃない?」

「そうかな……」

律子「…………」

「…………」

律子「ね、卒アル、持ってるよね?」

「あるけど」

律子「メッセージ書こうよ」

「ああ、青春ぽいな」

律子「もう、茶化さない! ほら出して」

「はい」ゴソゴソ

律子「あれ、メッセージ書いてある」

「白紙かと思った?」

律子「正直ね。あなた、こういうの苦手そうだから」

「苦手だからってむげに断ったりはできないものな」

律子「なるほど。さて、じゃあ、ここに……」キュッキュッ


  愛はコンビニでも買えるけれどもう少し探そうよ
  秋月律子


律子「はいっ」

「……何が言いたいんだ」

律子「あんまり妥協しすぎちゃ駄目よ、と」

「根性見せろ、と」

律子「そうかもねー」

「努力します」

律子「あるいはこのフレーズ気に入ってるから、
   どこか書けるところないかなって……それだけかも」

「何だっていい。ありがとう」

律子「じゃあ、はい」スッ

「ああ、俺も書くのね……」

律子「あったりまえ!」

「どれ……ほとんど埋まってて書く場所無いぞ」

律子「あ、本当……どっか空いてない?」

「さすがアイドルともなると人気が……」

律子「ちょっと引いちゃうよね」

「そういう言い方よせよ」

律子「だって……」

「うんざりするのはわからないでもないけどさ」

律子「……うん、ごめん」

「……表紙か裏表紙に書いても?」

律子「うん。大丈夫。あ……できたら表紙に書いてほしいな」

「はい。……よし、決めた」


  君は今誰よりも尖っている
  ○○××


「はい」

律子「ありがとう。書いてから言うのなんだけど、
  すっごい恥ずかしいっていうか痛々しいこと書いたかも、っていうか」

「こういうことできるの、本当に今日までだし。
 むしろ良いことじゃないかな」

律子「それもそうかな? まぁ、いい思い出になるといいけど」

「…………」

律子「…………」

「……帰るか」

律子「……うん」

今日はここまで

あ、一応トリップ

続き投下します。

————









律子「ふぅ、荷解き完了!」

律子「あー疲れたー」ゴロン

律子「ふぅ…………」ゴロゴロ

律子「あ……」

律子「卒アル……懐かしいな」ヒョイ

律子「もう1年以上経ったのねー」


  君は今誰よりも尖っている
  ○○××


律子「あ、これ……うわー」

律子「ふふ……」

律子「すっごい痛々しい!」ケタケタ

律子「あははは」

律子「……今何してるのかな」

律子「ちゃんと大学通ってるのかな?」

律子「…………」ゴロゴロ

——765プロ事務所

律子「あいたたた……」

小鳥「どうしました律子さん」

律子「いや、ちょっと筋肉痛が……」

小鳥「あ、引っ越し終わったんでしたっけ。一人じゃ大変だったでしょう?」

律子「いえ、いとこと父が頑張ってくれたのでそこまでは」

小鳥「むふ……じゃあ、年ですかね」

律子「そんな。まだガラスの十代ですよ」

小鳥「うふふふふ」

律子「……話変わりますけど、社長は?」

小鳥「あ、有望そうな若者を見つけた!とかってはしゃいでたので」

律子「社長室で面接ですか?」

小鳥「はい。お茶でも持っていこうかしら」

高木「やぁ、諸君。……君ら二人だけか」

小鳥「あれ、面接終わったんですか?」

高木「うむ。ここ最近人手不足だったし、
  やる気もあるようだったから採用した」

律子「スカウトしたのって、アイドル候補の子じゃないんですか?」

高木「ああ、律子君、プロデューサーをもう一人欲しがっていただろう」

律子「はい。ということは……」

高木「うむ。入ってきてくれ」

ガチャ

高木「これからプロデューサーとして働く××くんだ」

P「よろしくお願いします」ペコリ

律子「あ」

P「あ」

小鳥「……どうしました、律子さん」コソ

律子「あ、いえ、なんでも……」

高木「P君はプロデュース業は未経験なので、
  暫くは律子君の傍で仕事を見て覚えてもらう」

P「……はい」

高木「律子君、彼の面倒をよろしく頼むよ」

律子「わ、分かりました」

小鳥「はいはーい! 質問です! 年はいくつですか」

P「えっと、19です」

小鳥「わ、律子さんと同い年じゃないですか」

律子「え、ええ、本当ですね」

高木「急にティンと来たので……声をかけたら快く承諾してくれた。期待してるよ」

P「……はい」

高木「私は午後から出かける。留守番と戸締り、よろしく頼むよ」

律子「はい、わかりました」

ガチャ バタン


律子「…………」

P「……えーっと」

小鳥「はいはい! 質問! 彼女いますか!」

律子「ちょっと小鳥さん! 何を……」

P「いません」

小鳥「いえいっ! 分からないことだらけで不安でしょうけど、
  頑張っていきましょうね!」

P「はい。よろしくお願いします」ペコ

律子「はぁ、もう……よろしくね」カタカタ

小鳥「そうだ律子さん、今日、たるき亭行きません?」

律子「どうしてです?」

小鳥「ささやかな歓迎会を」

律子「そんなこと言って、飲みたいだけなんじゃないですか?」

小鳥「うっ、そそそんなんじゃないですよぅ」

律子「大体、私も彼も未成年ですから、行ってお酒飲むの小鳥さんだけですよ」

小鳥「まぁまぁ、それはそうですけど、一緒に食事して親睦を深めましょうよぅ」

律子「なるほど、親睦……そうですね」

小鳥「というわけで、プロデューサーさん、この後下の居酒屋で飲み食いしましょうよ!」

P「……あ、はい。いいですね、ぜひ」

律子「プロデューサーって呼ばれるの、慣れないですか?」

P「……そうですね、ちょっとくすぐったいっていうか」

小鳥「すぐに良くなりますよぐへへ……」

律子「小鳥さーん、笑い方が女性のそれでないですよ」

小鳥「おっと失敬」

律子「少し待っててください。すぐに書類片付けるので」カタカタ

P「はい」

小鳥「彼女、格好良いでしょう? 765プロ一の有能事務員なんですよ」

P「へぇ……」

律子「事務員じゃないです。プロデューサーです」カタカタ

小鳥「何でもできちゃうんですよねー」

P「…………」

——たるき亭

小鳥「じゃあ、乾杯しましょうか!」

律子「はい。かんぱーい!」カシッ

P「かんぱーい」カシッ

ゴクゴク

小鳥「ぷはぁー! いやぁ、久しぶりに飲みました」

律子「家じゃ飲まないんですか?」

小鳥「独りで飲んでも楽しくないので」

律子「小鳥さん、お酒飲むとうるさいですからね」

小鳥「そっ、そんなことは! 真に受けないでくださいね!」

P「あはは、皆で盛り上がった方が楽しいですよね」

小鳥「おっ、こっちのプロデューサーさんは優しい方ですねー!」ゴクゴク

律子「私は優しくないんですか?」

小鳥「そうは言ってないですー」グビグビ

律子「あー、もう、そんなハイペースで飲んで、潰れないでくださいよ?」

小鳥「潰れても、明日はお休みだから問題なし!」

P「……本当に大丈夫なんですか?」

小鳥「二日酔いのバッドトリップには慣れてますから!」

P「慣れちゃ駄目でしょう、ははは」

律子「私達も飲めたら付き合うんですけど、あいにく未成年なので」

小鳥「結構結構、傍に居てくれるだけで」ゴクゴク

————


小鳥「何で……何で……どうして……」グデー

律子「あーあー……やっぱり」

P「…………」

律子「帰すの大変だなぁ……さて、プロデューサー殿」

P「はい」

律子「久しぶり。元気してた?」

P「ん、それなり……かな?」

律子「えーと、聴きたいことは山ほどあるんだけど……」

P「…………」

律子「まず、大学は?」

P「ああ、えーと……うん……」

律子「その反応で大体察しはつくけど……」

P「……中退したんだ」

律子「やっぱり……いつ頃?」

P「去年の9月くらいに」

律子「休みの期間とか除いたら三か月足らずで辞めてるんじゃない」

P「ああ、そうだなぁ……」

律子「何で辞めたの?」

P「勉強についていけなくなったのと、親への負担が大きくて」

律子「ダメ人間」

P「分かってるよ」

律子「はぁ……それで、それからどうしてた?」

P「バイトを転々としてて……」

律子「そう……それでふらふらしてるところをウチの社長が気に入っちゃったわけね」

P「なるたけ頑張るつもり」

律子「……明日、暇?」

P「うん。暇だけど」

律子「ある程度仕事の内容の予習しておいた方がいいでしょう」

P「そうだな。ありがとう」

律子「あなた、全然変わってないわね」

P「身長はちょっと伸びた」

律子「そういうことじゃなくて」

P「秋月は垢抜けたな」

律子「そうかな?」

P「ああ、何か、あれだな、その、大人……っぽくなったかもしれない」

律子「すっと言いなさいよ、お世辞の一つくらい」

P「ごめん」

律子「本当変わらないわね。……でもちょっと安心した」

P「……そういえば秋月はアイドル辞めちゃったのか?」

律子「うん。裏方の方が性に合ってるから」

P「もったいない」

律子「二者択一。私がより活躍できる場を選んだだけよ」

P「お前も根っこは変わってないんだな」

律子「そう? 安心した?」

P「別に」

律子「あっそ……」

小鳥「…………うぐぐ」

P「この人、どうするんだ」

律子「私が連れてくわ」

P「悪いな」

律子「あなたに任せるわけにもいかないでしょ」

P「それはそうだ」

律子「さ、そろそろ出ましょうか」

P「うん。そうだな」

————

P「春っても夜はまだ寒いな」

律子「んしょ、そうね。ほら、小鳥さん、自分で歩いて……」

小鳥「うーん」ズルズル

P「手伝おうか?」

律子「いや、大丈夫」

P「じゃ、せめて荷物を」ヒョイ

律子「ありがとう」

P「……明日仕事教えてくれるんだよな」

律子「うん。主に簡単な事務等」

P「いつどこで?」

律子「うーん、ま、やっぱり事務所かな。後でメールしとくから……。
  あ、そういえばあなたの携帯のアドレス知らないわね」

P「赤外線で登録しとくから、ちょっち携帯貸せよ」

律子「ああ、うん。……はい」

P「…………」ピピッ

律子「…………」

P「……はい」

律子「ん、ありがとう」

P「あ、俺、ここ右だ」

律子「私達は左だけど」

P「送っていくよ」

律子「うん。お願いします」







————




律子「看板見えた? 真っ直ぐ行って……うん、そのコンビニを右に……」

P『あ、見えた見えた』

律子「あ、おっはー」

P「ふるぅー。悪いな、道分からなくなっちゃって……」

律子「慣れないうちはしょうがないわよ。さ、入って」ガチャ

P「靴は?」

律子「履いたままで大丈夫」

P「よし……」

律子「さて、これから仕事の予習に取り掛かります」

P「よろしくお願いします」フカブカ

律子「何からが良いかな……」

P「今更だけど、俺のする具体的な仕事って?」

律子「あれ、社長から多少説明はあったでしょ?」

P「ここがアイドル事務所ってことは話されたけど、
 プロデューサーとして何するか、具体的には何も」

律子「もー、ろくに説明もせず人を連れてくるんだから……」ブツブツ

P「……俺、こんな簡単に入社しちゃってよかったかな」

律子「まぁ、人が足りないのは事実だし、男手も必要だから、
  未経験ってことに目をつむればあなたが入ってくれてよかったわ」

P「この業界で未経験って致命的じゃないかな」

律子「誰だって最初は未経験なんだから気にしない気にしない」

P「そうかな」

律子「そうよ。さて、まず簡単なことから覚えていきましょうか」

P「うん」

律子「プロデューサーとしての仕事はアイドルの体調管理とかレッスンとか……」

律子「あと、マネージャーみたいなこともしてもらうと思う。
  あ、免許持ってる?」

P「ああ、うん。一応」

律子「一応ね……じゃあ、送り迎えなんかは私と兼任ということで」

P「うん、わかった」

律子「書類の作成は私が、整理は小鳥さんがしてるんだけど……」

P「簡単なやつなら教えてくれれば……」

律子「そうね。じゃあ、パソコンを……あ、使えるよね?」

P「一応」

律子「また一応……」







————

律子「……と、事務仕事は粗方説明し終わったかな?」

P「うん。分かりやすかった。ありがとう」

律子「あなたのするメインの仕事は口で説明しても伝わらないし、
  来週から見て覚えて」

P「習うより慣れろだな」

律子「そそ。きりもいいところで、お昼食べに行く?」

P「ん。そうしようか」

律子「またたるき亭っていうのもなんだし……」

P「どこかしゃれおつなところ知らないの?」

律子「しゃれおつ……まぁ、無いことないけど」

P「案内してくれよ」

律子「一人じゃ入りにくかったし、ちょうどいいかな」

P「遠い?」

律子「少し歩くけど」

P「その方がお腹も減るし、いいよ。行こう」

律子「うん」








————

チリーンチリーン イラッシャイマセー

P「少しって言ったけど、だいぶ歩いた気がする」

律子「そう? 単に運動不足なんじゃないの?」

P「いや、そんなことは……あるかも」

律子「ふふ。仕事で結構歩き回るから、体力ないときついわよ」

P「秋月は平気なのか?」

律子「平気ってわけじゃないけど、多少は慣れたから」

P「……しかもヒールだし」

律子「慣れたから」

P「すごーい」

律子「もっと褒めてくれていいのよ」

P「眼鏡が素敵」

律子「ありがと」

店員「いらっしゃいませ……ご注文は」

律子「たらこスパとエスプレッソ」

P「同じので」

店員「かしこまりました……」

律子「何で同じの頼むのよ」

P「たらこスパ食べたい」

律子「違うのを食べ比べてみたかったのに……」ブツブツ

P「俺は自分で注文しようと思ったら十五分くらいかかるんだ」

律子「そんな優柔不断だったっけ?」

P「それなりに」

律子「ふーん」

————


P「なかなか美味しかったな」

律子「うん。今度事務所の誰か、連れて行ってみようかな」

P「何人くらい働いてるんだっけ?」

律子「えーと、私と小鳥さんと社長と……アイドルの子が12人」

P「12人……多い方か?」

律子「いやいや、全然」

P「……そうだよなぁ」

律子「でも量より質って言うでしょう。
  個性派揃いでなかなか他にはいないタイプばかりだから、
  他の事務所とは一味違うのよ」

P「へぇ……会うのが楽しみだ」

律子「あら、意外。人付き合い苦手だと思ってたのに」

P「別に嫌って訳じゃない。言葉通り苦手なだけ」

律子「そう。ま、苦手なぐらいがちょうどいいわよ。
  嫌ってくらい対人関係に揉まれなきゃならないんだもん」

P「得意じゃないとまずいんじゃないの?」

律子「うーん。説明しづらいな……」

P「甘いもの好きな知り合いがケーキ屋に就職したら、
 甘いものが嫌いになった……とかそういう類?」

律子「あ、そうそう。似てるかも」

P「……出来るだけ頑張ってみるよ」

律子「うん。私もいるし、」

P「改めてよろしくな」

律子「うん」







————

P「…………」ソワソワ

律子「落ち着かない?」

P「う、うん……男女比がちょっと」

律子「すぐに慣れるわよ」

亜美「ねー、あのおっちゃん誰?」コソコソ

真美「さー? トイレ掃除のバイトかな?」コソコソ

P「……おっちゃんって年かな、俺」

律子「ぶふっ。後でちゃんと叱っとくから」

P「今笑ったろ」

律子「や、笑ってない笑ってない」

P「……とやかく言うつもりはないけど」

ガチャ

高木「やあ、おはよう。みんな集まっているみたいだね」

オハヨウゴザイマース

律子「おはようございます」

P「おはようございます」

高木「……さて、みんなにお知らせがある」

律子「はい、こちらにちゅうもーく」

小鳥「何が始まるんです?」

高木「第三次……ごほん。やめてくれたまえ」

小鳥「失礼しました」

高木「気を取り直して……新任のプロデューサーが入社することになった」

律子「いえーい」パチパチ

高木「さ、挨拶と自己紹介を頼む」

P「はい。××と申します。この度はこのような会社に、
 知識など無いに等しい自分の様な若造を入社させていただき誠に……」

律子「プロデューサー、そんなに固くならないでください。
  ……もっと自分の言葉でお願いします」

真美「ミキミキが寝ちゃったよー!」

亜美「おっちゃーん! 話が長くてつまらないよー!」

小鳥「そうだそうだー!」

高木「……見ての通り、アットホームな職場だ。
  これから一緒に頑張っていこう」

P「……ええ。みなさんどうか、よろしくお願いします」

春香「こちらこそよろしくお願いします!」

P「うん。えっと……君は」

春香「天海春香です! 春香って呼んでください!」

亜美「はるるん必死だね……」

真美「審査員に没個性って言われたの引きずってるのかな……」

P「よろしく、春香……えーと、
  他の子も自己紹介とかしてもらっても大丈夫?」

春香「はいはい! じゃあ順番に……」


ワイノワイノ

————

春香「感じ良さそうな人だったね」

千早「ええ、物腰が柔らかくて……話し易い人ね」

伊織「…………」

春香「どうしたの伊織。難しい顔して」

伊織「……そんなに気に入るような奴かしら?」

春香「気に入らなかった?」

伊織「……少しね。何か、ずるそうな感じがして」

亜美「ハムカツな人ってこと?」

伊織「狡猾ね。でも、そういうずるさじゃなくてもっと違う……」

春香「考え過ぎじゃないかなぁ?」

伊織「そうだといいけど……」

律子「はーい、じゃあ、みんなレッスンに行ってー」

春香「あっ、急がなきゃ!」タッ

伊織「あ、春香、走ると……」

ドンガラガッシャーン

伊織「転んだわね」

————

P「ふぅー」

律子「お疲れさま。どう? 感想は」

P「いや、みんな元気があって、何て言うか……わくわくした」

律子「わくわく?」

P「うん。いきいきとした職場で色んな人と一緒に働けると思うと」

律子「あなた、そんなキャラだっけ?」クス

P「仕事熱心は似合わないかな?」

律子「ううん。ただ、そうやって嬉しそうにしてるの、
  何気に初めて見たかも」

P「学生の頃は色々といっぱいいっぱいだったから」

律子「そういっぱい、いっぱい」

P「あ・な・た・の声をー」

律子「ふふ、私の曲、覚えてるんだ?」

P「……ところで、これからの俺の仕事は?」

律子「うーんと、私が面倒見るってことになってるけど」

P「最初のうちは秋月の横で仕事を見てればいいのか?」

律子「見るだけじゃ駄目。
  覚えて、理解して、自分でもできるようにならないと」

P「うん。分かってる」

律子「じゃあ、えっと、私がいつもやっている通り動くから。
  ついでに施設の説明も……」

P「分かった……あれ、事務所の外出るのか?」

律子「こんなちっぽけな建物にレッスンルームなんかあるわけないでしょう」

P「なるほど」

律子「さぁ、歩くわよー!」

P「車は?」

律子「駐車スペース」

P「……なるほど」

律子「ま、そう遠くないし、気張って行きましょう」

————


ガチャ

律子「どう? 調子は?」

春香「あ、律子さん。と、プロデューサーさん」

真「お疲れ様です!」

P「……ダンスのレッスン?」

春香「はい! 真が一緒だと中々ハードで……」

真「春香はスタミナがないからなぁ」

春香「真の体力がありすぎるの!」

律子「はいはい。で、どこまで進んだ?」

春香「えーと、一応、通して踊れるくらいには」

律子「本当? どれ、ちょっと見せて」

春香「よーし、真、頑張ろうね!」

真「じゃあ、かけるよ」

   〜♪ 〜♪

  スタッ タタッ モタッ

春香「……はぁ……はぁ」

真「ふぅ〜っ……どうでした?」

律子「まぁ、先週よりはよくなってると思うわ」

真「うんうん。形に近づいてきてるよね!」

律子「何とか見えてきた感じね」

真「特にまずかったところは?」

律子「真は少し曲よりテンポが前のめりかな。
  春香はところどころもたってるから……春香、大丈夫?」

春香「はぁ……はぁ……だ、大丈夫です」

律子「本番じゃ歌いながらダンスこなさなきゃならないのに……。
  先が思いやられるわね」

春香「ご、ごめんなさい……」

律子「春香は普段の練習の他に体力をつけるトレーニングをした方が良いわね」

春香「はい……」

真「プロデューサーは何かありますか?」

P「俺? えーと、何か……というと」

律子「二人のダンスを見て何か感じたことは?」

P「ああ、うん……えーと、二人ともレベルが高いな、と思った」

春香「レベルが?」

真「高い?」

律子「……他には?」

P「えーと……ごめん、よく分からないや」

律子「はぁ……しょうがないわね」

真「……もうちょっとリズム意識したほうが良いのかな?」

春香「ね、今日、筋トレか何かにしない?」

真「筋トレ〜? まぁ、いいけど」

律子「私らはボーカル陣の様子見に行ってくるわ」

真「はい。行ってらっしゃい」

P「ごめんな、上手くアドバイスできなくて」

春香「いえいえ、はじめのうちは誰だって上手くいきませんよ」

律子「さ、行きましょう」

P「う、うん……」

————

律子「プロデューサー、もうああいうこと言うの止めてね」

P「ああ、二人のダンスを見て……か。うん、反省してる」

律子「そっちじゃなくて、出がけに言ったこと」

P「出がけに? 何て言ったっけ」

律子「『上手くアドバイスできなくてごめん』って」

P「ああ、分かった。けど、どうして?」

律子「そんなこと言われてもアイドルたちは困るだけだし、
  仮にも指導者の立場に居る人が見るからに自信無い素振り見せてたら不安でしょう」

P「ああ、確かに……そうだな」

律子「気を付けてね」

P「うん。……メモしておく」カリカリ

律子「良い心がけね」

————


ガチャ

P「こんにちはー」

伊織「わっ、と……誰かと思えば」

千早「あ、こんにちは……」

律子「やっほー。どう? 調子は」

伊織「まあまあ」

千早「私はあんまり……」

伊織「最近調子悪いわよね……原因は探ってるんだけど」

律子「具体的にどういった不調なの?」

千早「高音と低音がかすれちゃって、上手く発音できないの」

律子「どれ、ちょっと声出して見せて」

千早「分かったわ。う、うん、あー」

  ら〜……♪

P(すごい声量だな……)

千早「けほっけほっ……」

律子「うーん、水分補給は?」

伊織「してるわ」

律子「うがい」

伊織「それはさっき……」

律子「声変わり?」

伊織「まさか」

律子「うーん。プロデューサー、何か無い?」

P「えーと、いや……ごめん、分からない」

伊織「……分からないなりに何かしら言ったらどう?」

律子「伊織、トゲのある言い方しないでちょうだい」

伊織「別にそんな言い方……」

千早「水瀬さん。最高音のところは抜きにしてもう一度最初からやりましょう」

伊織「う、うん……」








————

P「…………」カタカタ

律子「…………」カチカチ

小鳥「…………」カタカタ

真「じゃあ、また明日ー! お疲れ様でしたー!」

律子「はーい。お疲れ様……」カタカタ

P「秋月、こういう感じでいいのか」カチ

律子「どれ……うーん、もうちょっとスリムにできない?」

P「わかった……」カタカタ

小鳥「……HPのレイアウトですけど、
  派手なのとシンプルなのと、どっちが良いでしょうか」

律子「うちのファン層はネット慣れしてる人が多いはずですから、
  シンプルな洗練されたレイアウトが喜ばれるかと」

小鳥「分かりました。ありがとうございます……」カタカタ

P「…………」チラッ

時計「19時半」

律子「…………」カチカチ

小鳥「…………」カタカタ

P「ふぅー……」カタカタ

————

小鳥「お先に失礼します。戸締りよろしくお願いしますね」

律子「はーい」

P「はい。お気をつけて」

バタン

律子「…………」カタカタ

P「…………これでどうだろう」

律子「文章の幅を揃えて……」カチカチ

P「はい……」カタカタ

律子「…………」カタカタ

P「…………」カチカチ







————

律子「……窓の鍵は閉めた、元栓も大丈夫……よし、と」カチャ

P「戸締り完了?」

律子「うん。事務所を閉めるまでが仕事です」

P「じゃ、帰るか」

律子「あ、ふふ。うん」

P「……どうした?」

律子「いやぁ、学生時代が懐かしいな、って」

P「ああ、そうだなぁ……」

律子「……結構、寒いね」

P「うん……」

律子「……相変わらず音楽は好きなの?」

P「それなり。馬鹿みたいに買うことは少なくなったけど」

律子「馬鹿みたいに買ってたの?」

P「力の限り」

律子「力の限り?」

P「金尽きるまで」

律子「ああ、そういう……」

————

P「あっちの駅だっけ?」

律子「うん。逆方向だね」

P「送ろうか?」

律子「……明日もお互い早いし、遠慮しとくわ」

P「うん。助かる」

律子「そういうのは思っても言わないものでしょうが」

P「思ったことを言い合える仲は素晴らしい」

律子「もう……じゃあね。また明日」

P「ん。明日……」

今日はここまで。思ったより長くなりそうです。

今日中に投下できるかどうか、少し微妙なラインです
遅くとも明日までには投下するつもりです

後、レスありがとうございます。何度も読み返して励みにしてます

続き投下します

P「竜宮小町?」

律子「うん。大分前から構想自体はあったんだけど……」

P「……誰を使うんだ?」

律子「伊織と亜美と、あずささんの三人」

高木「他の子と比べると幾分か人気、知名度の高い三人だ。
  765プロはこのユニットに勝負をかけるつもりだ」

律子「プロデュースは二人で兼任してたけど、
  この先私は竜宮小町に専念しなきゃならないと思う……」

P「そうか……ということは、俺は残りの9人を纏めて面倒見るのか?」

律子「うん……大変だろうけど、任せると思う」

P「……分かった」

高木「不安かい?」

P「…………そうですね、正直不安です」

高木「すぐにというわけじゃない。
  それに彼女たちも自分たちでできることは自分でするさ」

律子「私も手伝えることは手伝うつもりだから……」

P「ありがとう」

高木「私もアドバイスくらいはしてやれるから、
  分からないことがあったら遠慮なく訊いてくれたまえ!」

P「ありがとうございます。
  それで、竜宮小町はいつから始動するんです?」

高木「二か月後に少し大きめのライブがあったろう。
  そこでユニットの発表と新曲の披露の予定だ」

P「二か月後……間に合いますかね」

律子「間に合わせるのよ」

P「秋月の腕の見せ所ってやつか」

律子「無論。三人にはもう話してあるけど、
  他の子にはメンバーが誰かは教えてないから、今日話しておかないと……」

P「打ち合わせとか、レッスンのあれこれとか色々あるしな」

律子「そそ。さー! 頑張ろう!」

高木「私はあまり口を出すつもりはないから、
  二人が中心になって好きにやってくれ」

P「分かりました」

律子「任せてください!」









————

春香「はぁ……はぁ……プロデューサーさん、どうでした?」

真「今のは割と良い感じでしたね!」

P「うん、そうだな。もう、完成でいいくらいじゃないか?」

真「そうですか? ……まだ完成までには遠くないですか?」

P「俺から見たら完璧に見えるけど……」

真「そりゃプロデューサーから見ればそうでしょうが……」

春香「はぁ……ふぅ……」

真「春香は相変わらずだね」

春香「や、やっぱり走り込みとか始めたほうがいいかな……」

P「あんまり無理するなよ?
  真も、自主トレはほどほどにした方が」

真「僕は別に無理なんかしてませんし、
  ずっと続けてることをやめるのは嫌なので」ムスッ

P「そうか……でも、重ねて言うけど無理はするなよ」

真「……はーい」

P「帰りは秋月に頼んである。俺は別の用事済ませてから事務所に戻るよ……」

春香「あ、はい。分かりました。ありがとうございました」ペコッ

真「ありがとうございましたー」

————


ブロロロロー

真「……ねぇ、律子ー」

律子「んー?」

真「空いた時間で良いから、レッスン見に来てくれないかな」

律子「えー、どうして? プロデューサーが行ってるでしょう」

真「そうなんだけど、あんまり実にならないっていうか……」

律子「……まだ新人だし、容赦してあげてよ。
  私も暇じゃないし」

真「でもさー……」

春香「まぁまぁ。これからプロデューサーさんだって経験積んでいくんだし、
  暫くの間はトレーナーさんと私達で何とかしていこうよ」

真「むー、分かったよ……」ムスッ

律子「そんなに言うなら、一応、私からプロデューサーに言っとくわ」

真「そりゃどうも……」

春香「言い過ぎないであげてくださいね!」

律子「分かってるわよ」

————

P「すみません、印刷お願いしても……」

小鳥「はいはい、大丈夫ですよ」

P「ふぅー……」カタカタ

律子「やっほー。お疲れさま。仕事にはもう慣れた?」

P「帰ってたのか、秋月。まぁ、ぼちぼち……事務はだいぶこなれた感じ」

律子「そうね。レッスンとかはどう? 上手くやれてる?」

P「レッスンは……その、あんまり」

律子「分からないこととかあったらすぐに訊いてね?
  おすすめの本、メモに書いておくから、時間あったら読んでみて……」サラサラ

P「ああ、ありがとう。ダンスとか歌とかそういう?」

律子「うん。基本的なことはこれらを読めば大丈夫だから。
  ま、暇なときにでも買って読んでみて」

P「ありがとう……」

律子「どういたしまして」

ガチャ


伊織「ふぅー……くたびれた」

律子「あ、おかえりー」

伊織「ただいま。……あ、あんた帰ってたのね。ちょうどよかった」

P「おかえり。何か用か?」

伊織「今度のライブの企画案、あんたが作ってよ」

P「二か月後のか? いや、俺は……」

律子「あ、そうそう。あなたに企画任せようって私達で話してたの」

P「でも企画案なんて作ったことないし、ライブのことだって知らないし……」

伊織「ああもう、うじうじしないで!」

律子「まぁまぁ。ね、いい機会だし、お願いできない?」

P「…………」

伊織「何よ。その顔。不満なの?」

P「い、いや……」

伊織「はぁ……いいけど。一週間くらいしたら、
  試案でいいから見せられるようにしておいてちょうだい」

P「わかった。秋月、今日大丈夫か?」

律子「ああ、うん、大丈夫だけど……」

伊織「ちょっと! 律子を付き合わせる気?」

P「えっ、いや、そういうつもりじゃなくて……」

伊織「じゃあどういうつもりよ」

律子「やめなさい伊織」

伊織「だいたいねぇ、律子はこいつに甘いのよ!
  765に入ってもう一か月も経つのにずっと律子に頼りっぱなしじゃない」

律子「私は甘やかしてるつもりは……」

P「…………」

伊織「……あんたも何か言ったら?」

P「……そうだな、うん。頼りっぱなしだったよ。反省する」

伊織「自分でできるところは自分でやりなさい。
  分からないことがあったらその都度訊いて」

P「……分かった」

律子「で、でも企画書の書き方とか大丈夫かしら……」

伊織「今まで書類の作成はさせてたんでしょう?
  なら大丈夫よ」

律子「でも……」

伊織「子供じゃないんだから、最初から最後までおんぶにだっこじゃ駄目」

P「そうだな……伊織の言うように、一人でやってみるよ」

律子「…………」

伊織「律子も、分かってるわね?」

律子「わ、分かってるわよ……」

伊織「じゃあ、よろしく。くれぐれも期限は守りなさいよ。
  来週までって確かに言ったからね!」

P「分かった。気を付けて帰れよ」

伊織「ふん」


バタム








————

響「はいさーい。あれ、みんな集まって何してるんだ?」

律子「あ、おはよう響。これでみんな揃ったかな?」

春香「集まってますよー!」

美希「ZZZ……」グーグー

響「……何が始まるんだ?」

亜美「第三次大戦っしょー」

響「何それ」

千早「早く練習に行きたいんだけど……」

律子「すぐ済ますから。さて、集まってもらったのは他でもない、
  前々から計画してた竜宮小町のことよ」

美希「竜宮小町っ!?」ガバッ

真「美希、よだれ」

美希「ん……」ゴシゴシ

律子「この度、プロデューサーが増えて、負担も大分減り、
  少しばかり余裕ができました」

伊織「私はむしろ増えた様に思うけど」ボソ

P「…………」ムッ

律子「えー、765プロも以前と比べると徐々に知名度は上がっていますが、
  まだまだ弱小事務所と言わざるを得ないのが現状です」

真美「寂聴? 寂聴事務所?」

伊織「それは尼さん」

亜美「ジャクソン? ジャクソン事務所?」

伊織「それはミュージシャン……いいから黙って話聞きなさいよ」

律子「そこでこの依然くすぶったままの現状を打破するトリオユニット、
  竜宮小町を私、秋月律子がプロデュースすることにしました」

美希「メンバーは誰なの!」

律子「そう焦らないで。
  メンバーは伊織、亜美、あずささんの三人です。三人に既に話はしてあります」

美希「えっ! み、ミキは……?」

律子「……リーダーは伊織が務めます。
  二か月後のライブでユニットの発表と新曲の披露をする予定です。
  そのライブは彼が中心になってプランニングします。何か質問は」

美希「何でミキはメンバーじゃないの!」

律子「ミキはグループよりソロで活動した方が
  良い結果が出ると思ったからよ。……他には」

美希「…………」ションボリ

真「美希……」

律子「……他に質問がないなら、これにて解散。
  各自仕事、レッスンに行って」

春香「はーい」


ゾロゾロ








————

ブロロロロー


P「えーと、今日はダンスレッスンか。
  先週とは別のトレーナーさんだから、どの程度までできたか説明をしておかないとな」

春香「はーい」

真「結構、厳しめの人だったよね……気合入れないと」

美希「……ねぇ、プロデューサー、さん。
  ミキ、具合悪いから、今日のレッスンおやすみがいいの」

P「……どうしたんだよ急に」

美希「美希、女の子の日なの」

P「えー、ちょっと……待ってくれ」


キッ ガチャ バタン


RRRRRRR


律子『もしもし』

P「美希がレッスン休みたいって言ってるんだけど」

律子『あー、そう……やる気ゼロ?』

P「うん。かけらも見られない」

律子『何とか盛り立てられない?』

P「それがその……生理だって言ってるんだけど」

律子『うーん。十中八九嘘だとは思うけど……』

P「急に落ち込んじゃって。先週は結構やる気あったのに……」

律子『竜宮小町のメンバーに選ばれなかったのがショックだったんでしょうね。
  あんまり甘やかしたくないけど、あの子、やる気ない時はとことん駄目だし、
  とりあえず今日のところは休ませて……』

P「分かった。ありがとう」ピッ

P「……はぁー」

ガチャ バタン

春香「美希、本当元気ないよ? 心なしか顔色も悪いし……」

美希「もう、家帰って寝たいの」

真「ねぇ、美希。ショックなのは分かるけど、
  あくまで仕事なんだから私情を持ち込むのはどうかと思うよ?」

美希「別にショックなんか! ミキはほんとに具合悪いの!」

真「美希!」

P「止めないか二人とも。……美希、今日はもう無理か?」

美希「…………」

P「……今日はもう休んでもいい。
  秋月にもそう言っておいた。今日は春香と真でレッスンを受けてこい」

春香「わ、分かりました……」

真「プロデューサー! 何でそう甘やかすんですか!」

P「……二人をスタジオまで送ってから美希の家まで車を回す。
  美希、いいな?」

美希「……はいなの」

真「……はぁー」

P「…………」








————

ガチャ

P「……おはよう」

律子「おはようっても、もう十一時だけどね。
  昨日は美希どうだった?」

P「ずっと元気なかったよ。
  家まで送る間話しかけても、上の空って感じで」

律子「そう……早く持ち直してくれるといいんだけど」

P「今日、あいつ午後から仕事入ってたよな?
  いつもだったら事務所来て、時間まで寝てるのに……」

律子「一応、連絡しておいた方がいいかしら?」

P「……俺がするよ」

律子「うん。お願い」

P「美希の電話番号は……と」カコカコカコ

P「……もしもし、美希。
  今起きたのか? ……そうか、うん」

P「え、いや、午後から仕事が……おい、ちょっと」

P「……おい、理由は? 気分? 馬鹿言うな……おい」

ツー ツー

P「はぁ……」

律子「大体察しはついたけど」

P「今日は仕事の気分じゃないって……」

律子「ちょっと、美希の家まで行って連れてきてくれない?」

P「え、でも本人は嫌がって……」

律子「気分が乗らなくたって、仕事はこなさなくっちゃ。
  些細なきっかけで仕事が来なくなることだってあるんだから」

P「…………」

律子「いざって時のために代わりの子は呼んでおくし、
  向こう様に連絡もする。でも、これは美希に来た仕事なんだから」

P「分かった。行ってくる」

律子「ついでにトイレの電球も買ってきて」

P「……はい」

————


伊織「何で私が美希の代わりを……」ブツブツ

律子「もう少しでプロデューサーが帰ってくるはずだから」

伊織「賭けてもいいわ。あいつ、絶対美希を連れてこない」

律子「そんなこと……」


ガチャ

P「ただいま……」

律子「あ、おかえり。……美希は?」

P「……外に出たくないって、話も聞いてくれなくて」

伊織「……ね。言った通り」

律子「伊織。……じゃあ、向こうに電話を入れておかないと……」

伊織「こんな直前に、大丈夫なのかしら?」

律子「……そこまで大きい仕事ではないから、
  取り計らってくれると思うけど……」

伊織「はぁー。あんたのミスだからね!」

P「……俺? 俺のミス?」

伊織「何よ、自分の所為じゃないです、みたいな顔して。
  そうよあんたのミス! 引っ張ってでも連れてきなさいよ!」

P「でも美希は……」

伊織「美希じゃない。今はあんたの話。
  確かに美希は気が乗らないって甘ったれた理由で出社拒否した」

P「…………」

伊織「でもそれ以上に甘えてるのはあんたよ」

P「…………」

伊織「納得できない? なら一生そのままでいたら」

律子「……電話しておいたわ。快く対応してくれた。
  プロデューサー。伊織を送ってもらえる?」

P「……ああ。行こう」

伊織「……ふん」スタスタ








————

伊織「ねぇ……ちょっと」

P「なんだ? 説教の続きか?」

伊織「違うわよ。さっきのはもう終わり。言うだけ言ったし。
  ライブの企画はどう? 思うように進んでる?」

P「まぁ、そうだな。ぼちぼち」

伊織「……どのくらい考えたの?」

P「セットリストとユニット発表のタイミングは決めた」

伊織「ふーん。今日、見せられる?」

P「まだ全然途中だけど」

伊織「いいわ、別に……」

P「…………」

伊織「ふぁ……後どれくらいかかるの?」

P「四十分から一時間」

伊織「はぁ……遠いわね」

P「県外だからな……ま、余裕で間に合う」

伊織「……なら良いけど」

P「…………退屈か?」

伊織「うん。……ラジオつけてもいい?」

P「どうぞ」


プチッ ザー
『この季節はお茶が美味しいね』って言ったら、
『ゆきぴょん、それ一年中言ってるよねー』って言われちゃって——

P「あ、雪歩だ……」

伊織「ローカル番組でもレギュラーなんだから、すごいわよね」

P「人前じゃ恥ずかしくって喋れないって言ってたけど、
  すごくいきいきと喋ってるな……」

伊織「ラジオは色んな人が聞いてるけど、目の前にはいないからね。
  雪歩、意外とラジオが向いてるのかも……」

P「そうだな……」

続いて曲のリクエストです
今回の募集テーマは『春』。たくさんの人からリクエストいただきました
ありがとうございます
一曲目はペンネーム『甘ヶ島マサチューセッツ』さんのリクエストで——








————

伊織「ふー、無事終わった」

P「お疲れさま」

伊織「あら、あんた来てたの」

P「場所が場所だからな。事務所戻るわけにいかないし。
  近くのカフェで事務やってた」

伊織「そ。じゃ、帰りましょう」

P「ああ。伊織の家ってどこらへんだっけな……」

伊織「何言ってんの、事務所に帰るのよ」

P「え……大丈夫か? 疲れてるだろ?」

伊織「あんたの企画、今日見るって言ったでしょう」

P「でもまだ途中だし」

伊織「それでいいって言ったでしょう」

P「そうだった……分かった。行こう」








————

P「企画書ってこんな感じで良いのかな」

伊織「どれどれ。……ちょっと見づらいけど、うん、大丈夫」

律子「あら、企画もう出来たの?」

P「あ、いや、まだ途中。伊織に添削を……」

伊織「ねぇ、セットリストだけど、そこそこ売れた曲ばっかりね」

律子「どれ、あ、本当……」

P「駄目なのか?」

伊織「うーん、ファン感謝祭的な側面もあるライブだし、
  有名どころだけだと、面白みがないんじゃないかしら」

P「そうか……」

律子「後、テンポの速い曲ばっかりで、体力もたないんじゃない?」

伊織「そうそう。この曲目じゃ、終盤になったらこっちもお客さんもへとへとよ」

P「緩急つけないとだめってことか」

律子「そうそう」

伊織「少しマイナーなのを入れたりとか……あんただったら何選ぶ?」

P「マイナー? 例えば……」

伊織「例えば……ちょっと待って。
  あんた、これ以外の曲で知ってるのある?」

P「…………えーと」

伊織「呆れた……うちの事務所から出した曲くらい全部把握しておいてよ」

律子「ま、まぁまぁ、仕事覚えるので手いっぱいでそんな暇無かっただろうし……」

伊織「……そうなの?」

P「……そうかな」

伊織「あっそ。後でアルバム全部渡しておくわ。
  ちゃんと聴いておいてね」

P「ありがとう」

伊織「曲目考えるのはそれからでいいわ。
  ……ラストに『いっぱいいっぱい』を持ってきたのは
  良い案だと思うから、変えなくていい」

P「分かった」

律子「え、あれ入れたの?」

伊織「素っ頓狂な声上げないで。
  素直に良いと思う。楽しみね」

律子「そ、そうね……」

ガチャ

春香「ただーいまー」

律子「あら、春香。忘れ物?」

春香「いえ……美希来てないですか?」

律子「……来てないわ」

春香「そっかぁ……ご飯でも誘おうかと思ったんだけど……」

伊織「春香、ちょうどよかった。ちょっとこれ見てくれる」

春香「んー? なにこれ」

伊織「ライブのセットリスト。プロデューサーの考えた」

春香「へー……うわ、キツそうな……これやるの?」

律子「安心して、書き直させる予定だから」

春香「ああ、良かった〜……この曲目じゃ私倒れちゃうよ」

P「はは……そんなにあれなのか」

伊織「やる側からしたらね」

春香「あ、ラストはいっぱいいっぱい? いいね!」

伊織「でしょう? こいつにしてはいいアイデア出したと思うわ」

律子「…………」

P「どうした、秋月」

律子「あ、いや、別に……何でも」

春香「そういえばプロデューサーさんって、
  みんなのこと名前で呼ぶのに、律子さんだけは名字で呼びますよね?」

P「ああ、そうだなぁ」

春香「ひょっとして律子さんのこと、怖いとか? うふふ。
  でも同い年だし、仲悪そうには見えないけど……」

P「学生の頃からずっと秋月、って呼んでたから癖になってんだろうな」

律子「そういえば、一度も名前で呼ばれたことない気がするわ」

伊織「二人は同級生だったの?」

律子「高校の頃ね」

春香「わぁ、すごい偶然ですね! 同じ職場って……」

P「そうだな……」

春香「それくらい長い付き合いなら名前で呼んだらいいのにー」

伊織「同感。正直、律子を秋月って呼んでるの耳慣れないから、
  できることなら変えてくれない?」

P「でもなぁ」

律子「わ、私も変えてほしいかなー……」

P「秋月まで……」

春香「プロデューサーさんっ!律子ですよ、り・つ・こ!」

伊織「にひひっ、ほら、早く呼んであげなさいよ」

P「…………り、律子」

春香「きゃー!」

律子「あ……これ慣れるまで恥ずかしいかも」

春香「恥ずかしがっちゃってぇ、このこのー」

律子「もー。はいはい、やめやめー!」

春香「り、律子(低音)」

伊織「ぶふっ! やめて春香……くくっ」

P「やめてくれって…………と、もうこんな時間だ」

春香「あ、本当ですね。そろそろ帰らなきゃ」

律子「今日はもうこの辺で切り上げちゃおっか」

P「そうだな、じゃあ、戸締りして……二人とも少し待てるか?
  途中まで車で送るよ」

春香「良いんですか? じゃあ、お言葉に甘えて……」

伊織「そうね。送ってもらおうかしら」

律子「私も乗せてもらってもいい?」

P「どうぞどうぞ」







————

律子「今日はありがとうね! また明日」

P「うん。また明日」

伊織「じゃあね」

P「……伊織の家ってどこらへんだっけ。
  ナビしてくれよ」

伊織「そこ直進して三つ目の信号を左に……」

P「はいはい」ブイーン

伊織「…………」

P「…………」

伊織「あ、この辺で良いわ。降ろしてちょうだい」

P「え、良いのか? ここからだと駅も歩くとなると結構遠いぞ?」

伊織「良いの。ちょっと用事を思い出したから、済ませてから帰るわ。
  ありがとね」

P「あ、ああ、くれぐれも気を付けて帰るんだぞ」

伊織「分かってるわよ。さっき渡したアルバム、ちゃんと今週中に全部聴くのよ!」

P「はいはい。じゃあな。また明日」

伊織「うん。じゃあね」

今回はここまで
読んでの通り、仕事の内容はだいぶぼかしてあります
自分は仕事の描写を上手いこと書けないので

後、何か意見とか批評とか質問とかあったら、
短くても良いので書いてもらえると嬉しいです

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