あずさ「アイドルがプロデューサーを殺したんだ」(273)

代行

代行ありがとうございます



私は二十歳でアイドルになった

アイドルにしたら遅咲きと言われても仕方がない年齢だが、社長はそんな私を事務所に向かえ入れてくれた

しかし事務所は人手不足でマネージャーやプロデューサーは居なく、私や他の娘達もセルフプロデュースで頑張っていくしかなかった

レッスンに飛び込みのオーディション

レッスンをいくら頑張ろうが私は結果を残せなかった

けどアイドルとしての道に迷いかけていた私の前に…彼が現れた

その男性はプロデューサーと名乗り、私の手を取り『トップアイドルになろう』と言ってくれた

最初はそこまでプロデューサーさんを信用していなかったんです

けれど彼が現れてから私は変わっていった

プロデューサーさんからレッスンのダメ出しをされ、そこを直そうと努力したら見違えるようにダンスも歌も上達した。

それに伴って今まで通らなかったオーディションも合格し、テレビに私が映し出される機会が増えた

初めてテレビに映った私の姿を観たら涙が出たのを今でも覚えています

これで夢へ一歩近付いたんだと…

え? 夢ってなにかって?

私の夢は……ふふっ♪ 運命の人に出会う事です♪

色々なメディアを使えば運命の人に出会える確率が上がるんじゃないかと思ってまして

うふふ…不純な動機ですよね

けれどそのテレビ出演をきっかけに私はどんどん伸びていきました

ドラマのオファーやラジオ出演

CDを出せばトップテン入りは確実になっていきました

えぇ、全てプロデューサーさんのお陰です

この事をプロデューサーさんに言ったら『いえ、これはあずささんの力ですよ』ですって…

…その頃からですかね……私がプロデューサーさんを好きになっていたのは

テレビやラジオ、その他のメディアに取り上げられて嬉しかったんです

その嬉しさが最初とは変わっていました

『夢にまた一歩近付いた』って喜びじゃなく『これでプロデューサーさんの笑顔が見られる』って喜びへ

私何時も迷子になってしまうんです…けどプロデューサーさんは必ず私を迎えに来てくれる

なんか…王子様みたいだなって…

…なんだか話が逸れてしまいましたね

それからは忙しい毎日でした

プロデューサーさんは嬉しい悲鳴と言ってましたけど…私はプロデューサーさんとゆっくりする時間が減ったので少し不満でした

そんな時急なオフが出来たんです

私は久しぶりのオフを満喫しようと友達へ連絡しようとしていました

けれどそんな時社長とプロデューサーさんが話してるのが聞こえたんです


『君も休みたまえ』


社長なりの労いだったんでしょうね

私はすぐさまプロデューサーさんに声をかけました


『一緒にお出かけしましょう』


最初は断られましたよ…今売れてきているアイドルが男とお出かけなんて危ないって

だけど衣装の買い付けっていう大義名分を使いなんとかプロデューサーさんを納得させました

…デートですね

初春「糞スレが伸びてる理由もわかりませんし」

初春「百番煎じのSSは、タ書いてる奴も読んでる奴も何考えてるんですかねぇ」

初春「独自性出せないなら創作やるんじゃないっつーの」

初春「臭過ぎて鼻が曲がるわ」

初春「結果スとして面白くないのは許せます。許せるだけで面白くはないんですが」

初春「パクリ二匹目のドジョウ百番煎じは許ケせませんね。書いてて恥ずかしくないんですか?」

初春「ドヤ顔してる暇があればとっとと首吊って死ねよ」

初春「まあ、一番の害悪はそういったSSを持テち上げてる人たちなんですが」

佐天「初春?」

初春「そうネットに書いてありました」

佐天「なんだネットか」

その日は楽しみ過ぎて寝付けませんでした

けれどいつの間にか眠ってしまったらしく、私は大量の目覚まし時計によって叩き起されました

遅刻しそうだったので急いで準備をし、家から飛び出しました……けれど家の前にはプロデューサーさんの車がありまして…


『迷子にならない様に迎えにきましたよ』


ですって

もう…顔が真っ赤になりましたよ…

そして私達は服を買いに街へ行きました

途中でお茶したりしながらゆっくりとした時間を過ごしてたんです

…手を繋ぎたいって気持ちを我慢しながらね

そして…そんな楽しい時間も終を迎えようとしていました

すっごい悲しくなってくるんです…これでデートも終わりかって思うと

少しでも楽しい時間を伸ばそうと私はプロデューサーさんに公園に行きましょうって誘いました

…夕焼けが綺麗でしたね

人も居なくて凄いロマンチックなムードでした

支援

私…安心しきったんでしょうね…気が付いたらプロデューサーさんの手を握っていました

気が付いた時に慌てて手を離したんですが…ふふっ♪ その時のプロデューサーさんの顔は真っ赤でした♪

そのままムードも相まってか…言っちゃったんです




『好きです』



プロデューサーさんは驚いてましたね

私も言っちゃったものは仕方がないと、誤魔化しの言葉を口に出さない様に俯いていました

そしてプロデューサーさんは俯いた私に言ったんです

...



『あずささんはアイドルで俺はプロデューサーです』



その後に続く言葉は私の告白を断る言葉でした

ショックでしたね

自信……あったんです

きっとプロデューサーさんも私の事が好きなんだって

ドラマや映画みたいに上手くいくんだって

だけど…そんな上手くいかないんですよね

私…気が付いたら泣いちゃってました

もう自分でも何がなんだか分かってなかったんだと思います

…抱き着いちゃったんです…プロデューサーさんに…

けど…それがダメだったんです

今でも後悔しています

抱き着いた瞬間を…写真に収められちゃったんです…

全て後の祭りでした

翌週のワイドショーや週刊誌で飛び出した文字






三浦あずさ熱愛発覚!相手はプロデューサー!?





事務所の電話は鳴りっぱなし

社長も小鳥さんも頭を抱えていました




『もっと早く手を打てればよかった』




社長が鳴りっぱなしの電話を目の前にしてよく言っていた言葉です

私はメディアへの露出を避け、家で一人寂しく引き篭る毎日

けれど…後悔はしていなかったんです

時間が全てを解決してくれる

解決されなくても私はアイドルを辞める覚悟を決めていましたし








…けど私は甘かったんです

売れ出し中のアイドルの熱愛報道はどんどんと増幅していき、報道の矛先はプロデューサーさんへと向けられていました

後から聞いたんですが、事務所に脅迫電話やプロデューサーさんの家が放火されかけた事もあったそうです

犯人は…私のファンの方々でした

けど謹慎中の私はそんな事は知らずに過ごしていました

プロデューサーさんにメールしたり

プロデューサーさんに電話したり

お気楽なものです

返ってくる返信は普段通りの優しい文面

電話越しのプロデューサーさんの声も普段通りの優しい声

このままでいればどんな事があっても私とプロデューサーさんは結ばれる運命だと思ってました

本当に馬鹿です……大馬鹿です

自意識過剰になっていたんでしょう

プロデューサーさんもきっと私を好きなんだ

私がアイドルって鎖で縛り付けられていて手出しが出来ないからそう言い訳したんだと…

勘違いしてました

一本の電話でそれを痛感しました

社長からでした

聞こえてくる話はしっかりと聞いていたんです

けど信じられませんでしたよ

信じられなかったですが…涙が止まらないんです…

だって…













プロデューサーさんが事務所を辞めただなんて

責任を全て被って辞めたそうです

社長も小鳥さんも必死に引き止めたそうですがプロデューサーさんの意思は強かったらしく、辞表を提出した翌日にはもう事務所に来なかったらしいです

電話も繋がりませんでした

メールも送った矢先に戻ってきました

私は事務所に向かおうと家を飛び出しました

ここでプロデューサーさんの車があれば綺麗な話でまとまったんですが…私を出迎えたのは大量のフラッシュと質問の嵐でした

あっけに取られた私は涙を流しながらそのフラッシュを浴び続けました



『プロデューサーさんとはどこまでいったんですか!!?』

『ファンの方々へ何か一言!!!』

『今後の活動はどうするおつもりですか!!!?』



確かこんな事を言われ続けた気がします

よく…覚えてないんです…

今思えば…それだけ注目される…それだけ私の人気が出てきていたって事なんですね

プロデューサーさんが最初に言った通り二人で出かけるのを止めておけば

あの時公園に行かなければ

私がアイドルにならなければ

後悔ばかりが私の頭を占領していました

そして恨んでいました

アイドルというものを

だって……アイドルがプロデューサーを殺したのだから

――――――――――――
―――――――
――――
――




高木「一応余熱は収まった…」

あずさ「…」

高木「…これからが大変だろうが…気を強く持ちたまえ…」

あずさ「…プロデューサーさんは…?」

高木「…電話で話した通りだよ」

あずさ「そう…ですか…」

高木「気持ちは分かるが耐えてくれたまえ…」

あずさ「……少し…少しでいいんです…時間をください…」

高木「…あぁ、分かった。 何かあったら連絡をくれたまえ」



私は何も言わずに一礼し、社長室を出た

黙ってデスクに座る小鳥さんは私の視線に気が付くと静かに頭を下げ、横に座る律子さんもつられて頭を下げてきた

落ち着き払った笑顔の小鳥さんの目の下には隈が出来ていた

律子さんにはその笑顔さえ無かったが、小鳥さんと同じく目の下に隈を作っていた



あずさ「ご迷惑を…お掛けしました…」



申し訳なさから私は頭を下げた



小鳥「そんな…気にしないでくださいあずささん」

律子「そうですよ、あずささんが気に病む事はありません」



頭を下げていて二人の表情は伺えなかったが、きっと無理をして笑顔を作ってくれていただろう

私は何も言わずに頭を上げ事務所から早足で逃げ出した

事務所の扉を開けるとそこには…美希ちゃんが立っていた



美希「…あんたのせいだ」



こんな表情の美希ちゃんは初めて見た

涙を流しながら私を睨み付けている



あずさ「…ごめんなさい…」



その言葉しか私の口からは出てこなかった



バシン



事務所前の踊り場に鈍い破裂音が響いた

その音を聞き付けてか、事務所から小鳥さんと律子さんが飛び出してきた

小鳥さんと律子さんは状況を把握していたかの様に、直様美希ちゃんを羽交い絞めにした



美希「離すの! そいつがハニーを辞めさせた! 皆が許せてもミキは絶対に許せないの!!」

律子「落ち着きなさい美希!」

小鳥「美希ちゃん!」

あずさ「…」



右頬がジンジンと痛む

私は涙を流す事なくその場から立ち去った

後ろからは美希ちゃんの怒号が聞こえてきたが私は脚を止める事は無かった

街を煌びやかに照らすネオンの明かりが私をここへ誘い出したのかもしれない

裏路地を頬を抑えながら歩く

プロデューサーさんなら『危ないから俺が付き合いますよ』と言って私の隣を歩いてくれたんだろうな…

ネオンの明かりが狭い裏路地の中に届かなくなった頃、私は寂しく光る看板の前まで来ていた

初めて訪れるお店

私はその淋しい光に引き寄せられていった

まるで一人ぼっちになってしまった自分と重ね合わせるかの様に



「いらっしゃいませ~」


落ち着いた店内にはJAZZが申し訳程度に流れていた

少し暗めで、大人の雰囲気に私は少し圧倒されていた

「こちらへどうぞ…って…あずささん…?」



薄暗くて私の名前を呼んだ男性の顔は見えなかったが、その声には聞き覚えがあった



あずさ「プ…プロデューサーさん…?」



ライトから照らされていない場所から現れたのは、アイドルの私が殺してしまったプロデューサーという男の人だった



P「なんでこんな所に…」

あずさ「あ…っ!」



反射的に抱き着きそうになった自分の身体を必死に押さえ付けた

感情的に動いてしまったあの事件以来トラウマとなってしまっているのだろう

あずさ「あ、あの…私…」



謝罪の言葉をプロデューサーさんに届けたい

その気持ちが先走ってか、それが私の喉に蓋をしてしまったかの様に声が出せなかった



P「…立ち話もなんですからどうぞお掛けになってください」



プロデューサーさんはそう言うとバーカウンターの中に入っていった

私は促されるまま椅子に腰掛けた



あずさ「…」



バーカウンターを挟んでプロデューサーさんが立っている。

今の状況を掴みきれていない私は俯いたまま彼の顔を見る事が出来なかった。

P「何か飲まれますか?」

あずさ「あ……何かオススメで…」



話し出す切っ掛けをくれたのは彼の好意だったのかもしれない

だが、私は当たり障りの無い返答しか出来なくてその好意を不意にした



P「…ではカシスオレンジで」



俯いてて彼の顔は見えないが、抑揚の無い声からきっと無表情だという事が感じ取れた

それに他人行儀な言葉遣いから私の心は締め付けられていた

苦しんでいる私を知ってか知らずか、プロデューサーさんは私の前にコースターを置き、その上に淡い紫色の液体で満たされたグラスを置いた

P「どうぞ…」

あずさ「…」



声を掛けるタイミングが掴めない

グラスより上へ視線を移動出来ない

気が付いたら私は涙を流していた



あずさ「…うぅ…」

P「…」



そんな私にプロデューサーさんは黙ってハンカチを差し出してくれた

それをゆっくり受け取り、私はそのハンカチを顔に押し付けた

ハンカチからは懐かしい匂いがし、その匂いが私の涙腺を更に刺激した

P「…マスター。 少し店の看板下げていいですか?」



プロデューサーさんがそう誰かに話しかけた

すると、お店の奥から女性の声が聞こえた



マスター「どうも君からマスターと呼ばれるのは居心地が悪いな……あぁ、少しならいいよ」



マスターと呼ばれた女性は私の姿を見て悟ったのか、看板を下げる事を許可した

目の前にあったはずの気配が消え、扉の方から何かを移動する音が聞こえた



マスター「……私は少し買い出しに行ってくるよ」



マスターと名乗る女性はそう言うと足早に店を出て行った

そして…店内には私とプロデューサーさんだけが残された

あずさ「…」

P「…」



私達の沈黙をカバーするかの様に静かなBGMが店内を満たしていた



P「…お久しぶりですね…あずささん…」



プロデューサーさんの優しい声が聞こえた

その声に釣られるかの様に私は顔を上げた



あずさ「プ、プロデューサーさん…私…」

P「いいんですよ…あずささんが全て抱え込む必要は無いんです…」

そこには私が大好きな優しい笑顔のプロデューサーさんが居た

その瞬間に私の口から次々と言葉が溢れてきた

プロデューサーさんにしてしまった事への謝罪

自分の立場を理解せずに行動してしまった事への謝罪

涙を流しながら『ごめんなさい』を連呼した

そんな情けない私をプロデューサーさんは、黙って優しい笑顔で受け入れてくれていた

…一頻り言葉を吐き終わった私はプロデューサーさんから渡してもらったハンカチで改めて涙を拭った



P「…それじゃあ俺からも謝らせてもらいますね」

あずさ「…プロデューサーさんは悪くありません…私が悪いんです…」

P「いいえ、俺にだって謝りたい事はあります…だから聞いてください」

その真剣な表情のプロデューサーさんを見たら私はそれ以上何も言えなくなった

口を噤んだ私を確認したプロデューサーさんは少し笑って頭を下げた

そして…謝罪の言葉を吐き出した



P「軽率な判断でアイドルとしての三浦あずさを潰してしまい申し訳ありませんでした。 それに…貴女の気持ちに気が付きながらも何も出来なかった…本当に申し訳ない…」

あずさ「…」

P「それと…勝手に事務所を辞めてしまって…」

あずさ「…もういいですよ…プロデューサーさん…」

P「け、けど…」

あずさ「それに…プロデューサーとしての貴方を殺してしまった私もいるわけです…お互い認めたくないでしょうが…これでおあいこって事にしませんか?」

世間的にも客観的に見ても私が悪いのは一目瞭然なはず

けど…それは分かっていたが…これ以上苦しそうなプロデューサーさんを見るのは辛かった



P「…はい…分かりました…」

あずさ「はい♪」



これは強がりだ

だがこの現状を打破するためには仕方がなかった…逃げかもしれないけど



P「…はは…あずささんには敵わないや…」



プロデューサーさんの目は潤んでいた

今直ぐにでもプロデューサーさんを抱き締めて頭を撫でたかった

けれどそんな自分勝手な欲は心の中で握り潰した

あずさ「ところで…何故ここで働いてるんですか?」



話題を変えるのに必死だった。

その気持ちから、ここに来てからの一番の疑問をプロデューサーさんにぶつけた



P「あぁ、さっき俺がマスターって言ってた人いたじゃないですか。 あの人と昔からの付き合いで…雇ってもらってるんです」

あずさ「そうだったんですか…彼女さん…ですか?」



心がズキンと痛むのが分かった

その痛みから聞かないでおこうと思った事を反射的に聞いてしまった

後悔が…後から押し寄せてきた

P「ははっ、そんなんじゃないですよ。 幼馴染ってやつです」

あずさ「そうだったんですね、仲が良さそうだったもので…」



安心からか心の痛みは治まっていた



P「まぁ、子供の頃からの付き合いですしね。 それより…アイドル活動の方はどうなってますか…?」



プロデューサーさんは少し悲しそうな顔をしながら私にそう聞いた



あずさ「…」

私はまだ悩んでいた

アイドルを辞めるか辞めないか

私のファンの人は…私の大事な人を殺そうとした

アイドルとしての私がプロデューサーさんを殺した

私にはもうアイドルとしての将来が見えなくなっていた



P「…アイドルを辞めるんですか?」



…この人はやっぱり私をちゃんと見ている

私がこの状況になってしまったらどういった行動をとるか分かっていたのだろう



あずさ「…はい…」

アイドル三浦あずさではなく一人の女である三浦あずさとして見てくれているプロデューサーさん

私の事を分かってくれているプロデューサーさん

だからこの気持ちを分かってくれるはず…そう思っていた



P「……これ以上…俺を苦しめないでください…」

あずさ「え…」



プロデューサーさんの口から出てきた言葉は予想とは違う言葉でした

怒っている様な悲しんでいる様な顔



あずさ「な…なんで…」



私の戸惑いは表情だけに飽き足らず、口からも出てきてしまっていた

P「俺は…プロデューサーを辞めました…だけどあずささんがそれに着いてくる必要は無いんです…」

あずさ「だ、だけど…」

P「…ステージの上で輝いているあずささんが好きです…皆と一緒に笑っているあずささんが好きです…俺は“アイドル三浦あずさ”が好きなんです…」



今にも泣きそうな顔をしたプロデューサーさん



あずさ「…ステージの上で輝けたのはプロデューサーさんが居たからです…みんなと一緒に笑えていたのはプロデューサーさんがその輪の中に居たからです…私がアイドルでいられたのもプロデューサーさんが居たからです…」

P「……あずささんにとってアイドルってなんですか?」

あずさ「…」

P「なんなんですか!?」



プロデューサーさんの怒鳴り声が店内のBGMをかき消した

あずさ「…ファ…ファンの皆さんに笑顔を届ける…存在です…」

P「…そうです…そんなあずささんを待ってるファンの人達が居るんです…だから…」

あずさ「だけどそのファンの人がプロデューサーさんを殺そうとした!」



私は涙を流しながらプロデューサーさんの言葉を遮った

我慢しきれなかった本音が飛び出した



あずさ「そんなファンの方達を…もうファンとして見れません…」



涙が止まらない

だけどそんな涙を流しながらプロデューサーさんを睨み付ける私を見詰めながらも、プロデューサーさんは臆する事なく私に優しい声をぶつけてきた



P「…憎まれ役なら俺が幾らでも買います、ファンの敵意を俺は全て受け入れます。 だから…あずささんはそんな事を言わないでください」

私の自分勝手な我が儘から始まったこの騒動

全て私が悪いのに

なんで…そんな優しい言葉を言うんですか…



P「デビューからあずささんを支えてきたのは他成らぬファンの皆さんです。 俺や事務所の皆も支えにはなったでしょうが、そんなものと比べ物にならない位支えてくれたのがファンの皆さんです、違いますか?」

あずさ「…」

P「…俺の事は気にしないでください。 だからあずささん…そんなファンの皆さんのためにもアイドルを続けてください」



デビューの初期はファンレターが一通届くだけで嬉しかった

握手会やサイン会に人が並んでくれた時は涙が出る程嬉しかった

ライブ会場が満員になった時は飛び跳ねながら喜んだ

アイドルとしての過去が走馬灯の様に脳内を駆け巡った

P「俺に…輝いている三浦あずさを見せてください…」



そんな中…そんな顔されたら…



あずさ「…ずるいですよ…」



惚れた弱みもあるんでしょうが



あずさ「…もう何も言えないじゃないですか…」



その優しい言葉が…私に勇気をくれましたよ



あずさ「…また…アイドルに戻ります」



だって…貴方がくれたチャンスですもの…

P「…有難うございます…」

あずさ「ふふ…なんでプロデューサーさんが泣いてるんですか…」

P「だって…」

あずさ「泣き虫さんですね~プロデューサーさんは♪」



私は椅子から立ち上がり、プロデューサーさんの頭を撫でた

初めて触る彼の髪は柔らかくとても暖かかった



マスター「…いいものを見た!」



入口から拍手をしながら登場した女性はニヤニヤしながら近付いてきた



P「マ、マスター!!? いつからそこに!!!?」

マスター「君が怒鳴った時からだよ。 いや~甘酸っぱいね~」

あずさ「あらあら~」

顔を真っ赤にしながら女性を問い質すプロデューサーさん

それをニヤニヤしながら腕組をして受け流す女性

何故かそんな光景を懐かしく感じてしまいました



あずさ「ふふっ…」

P「なんであずささんまで笑うんですか!?」

あずさ「いえ~微笑ましいな~と思いまして♪」

P「もう…」

あずさ「ところで…これからもこのお店に寄らせて頂いてもよかったでしょうか?」

マスター「勿論だとも。 なんだい? 愛しのプロデューサーの顔を見に来るのかい?」

P「マスター!」

あずさ「それもありますが…プロデューサーさんに今後の活動についてのアドバイスを貰いに来たかったんです」

マスター「ほぉ…」

あずさ「今後…アイドルを続けるに当たって色々と聞きたいですし…いいでしょうかプロデューサーさん?」

P「え…俺はいいんですが…その…俺もうプロデューサーじゃないんです…がいいんですか?」

あずさ「はい♪ 事務所を辞めようがプロデューサーさんはプロデューサーさんですから♪」

P「…分かりました…その大役…引き受けましょう!」

あずさ「ふふ…♪」

マスター「あ~…私はもう少し席を外そうか? なんか胸焼けしそうなくらい甘酸っぱい雰囲気なんだが…」

P「あ、ごめん…」

あずさ「すみません…」

マスター「…まぁ、今後来る時になったら連絡をくれ。 これ私の番号だから。 そうしたら席は用意しておくよ」

あずさ「いえ、そんな悪いですよ」

マスター「君はアイドルなんだろう? それにここにはPも居る。 変なのに見つかりたくないだろうしな」

あずさ「…お気遣い感謝します…」

マスター「…それにPに悪い虫が付かない様に監視しておくから安心しな」

あずさ「ふふ…お願いしますね♪」

P「なんかおかしくね?」

あずさ「いえいえ~♪ あ、それじゃあ私はそろそろお暇しますね」

P「え? もうちょっとゆっくりしていけば…」

あずさ「明日朝一に社長と話をしなきゃなりませんし」

P「あ…そうですか…」

マスター「残念そうな顔するなP。 女々しいぞ」

P「う、うっせ!」

あずさ「うふふ♪ それじゃまた…」

マスター「あ、ちょっと待った」

あずさ「へ?」

マスター「ここら辺は物騒だからな。 おいP、ちょっと送ってやれ」

P「え? 問題の二人が一緒に居るのバレたらまずくない?」

マスター「そう言うと思ってさっきマスクと帽子を買ってきておいた」

P「準備いいなおい」

マスター「ふふ…やっぱりさっきみたいな敬語より、今みたいな感じの方がしっくりくるな」

P「あ…」

あずさ「そ…それじゃあ…お願いします…プロデューサーさん…」

P「あ、いえ…こちらこそ…」

マスター「いいね~青春だね~」

あずさ「あらあらうふふ…♪」

先程ここを歩く時はくすんで見えたネオンの光が今は輝いて見えていた

隣にプロデューサーさんが居るからかもしれない…そう私の胸の高鳴りが教えてくれた



あずさ「…あの…プロデューサーさん…」

P「ん? なんですか?」

あずさ「手を…繋いじゃダメでしょうか…?」

P「…変装してるからって気を抜いちゃダメですよ」

あずさ「むっ…」

P「あずささんはアイドルでしょう?」

あずさ「う……はい…」

私の感情が暴走せずに済んだ

本心から言うと…プロデューサーさんに抱き着きたい

手を繋ぎながら歩きたい

今すぐここでキスをしたい

だけど…私はアイドル

ファンをこれ以上裏切ってはならない

……そう教えてくれた人が隣に居るんだもの

もっと強くならなくちゃ…

P「……これ以上先に二人で近付いたら危険ですね」



気が付くとそこは私の家の近所だった

プロデューサーさんは私に合わせてくれていた歩幅を縮め、そして歩みを止めた



あずさ「……嫌です」

P「…あずささん…貴女はアイドルなんです…それにまだ記者が張ってないとも…」

あずさ「ふふ…分かってますよ♪ ちょっとからかっただけです♪」



私が笑うとプロデューサーさんが困った顔をしながら頭を掻いた



P「まったく…敵わないな…」



けど本心じゃありませんよ?

本当はもっと一緒に居たいんです

あずさ「それじゃあ…またお店で♪」

P「はい…応援していますよ」



胸が苦しい…



P「じゃあ…」



あ…待って…行かないで…





しかしその喉から出かけた言葉は押し潰され、私は笑顔で手を振っていた

……強くなったって事かしら?

あずさ「これからも…宜しくお願い致します…!」



翌日私は社長室で社長に頭を下げていた

社長は驚いた顔をしていたが、すぐに何時もの笑顔に戻っていた



高木「こちらこそよろしく頼むよ」



社長の言葉を皮切りに改めて私のアイドル活動が始まった

まずは記者の方々を集めての復帰会見

飛んでくる質問は予想通りのものばかりだったが、私は笑顔でその質問をかわし続けた

そして一言だけ…

...


『あれはプロデューサーさんが、私の肩に虫が付いてると教えてくれたのにビックリして飛びついてしまいました♪』



苦し紛れの発言だ

だがその言い訳としても苦しい内容を笑い話として会場内は受け止めてくれた

…しかし一部のファンは今だに納得しておらず、事務所に脅迫とも取れる手紙が多々届いた

しかし応援してくれているファンがいるのも事実で、その励ましの言葉に私は背中を押してくれた

私が恨んでいた外の世界は視野を広めると素晴らしいものでした

けれど……事務所の中では辛いものがあります

美希ちゃんはアイドル活動を続けていますが、やる気は前程感じられません

事務所にいる時間も短くなりました

私と目を合わせてくれません

他の皆は私と笑顔で話してくれますが…なんだか……よそよそしいんです…

律子さんや小鳥さんは自然に接してくれていますが…同じくよそよそしさが隠せれてません

腫れ物を触るかの様な扱いに耐え切れなくなった日は必ずと言っていい程プロデューサーさんが居るお店へ行きました

そこで働くプロデューサーさんの笑顔を見れる…それだけで頑張れる気がしました

ファンの方々からの励ましの言葉

プロデューサーさんの笑顔

この二つが私の支えになっていました

…勿論愚痴だってこぼしましたよ?

その度にプロデューサーさんは親身に聞いてくれました

涙を流す私の頭を撫でてくれもしました

その度に強くなるプロデューサーさんへの気持ち

辛いです…自分でも分かってるんです…どんどん深みへはまっていってるのを

そんな気持ちが爆発しかけた場所がよりにもよって事務所の中でした

誰にも気付かれない様にソファに座りながら床を見つめ続ける私…しかし嗚咽は漏れていたのでしょう。

気が付いたら私の目の前には伊織ちゃんが座っていました



『…辛い事があったら相談しなさいよ…私達仲間…でしょ?』

仲間

久しぶりに聞いた気がしました

その言葉が哀れみなのか優しさなのか分からない私がいた

自分の中で答えが出ないまま…気が付いたら外に居ました

逃げ出したのでしょうね

私は混乱した状態で家に向かって歩いていました

帰る途中に何人かに声を掛けられて笑顔で受け答えする私

アイドル三浦あずさ

もう自分が分からなくなっていました

気が付いたら私はあの店のマスターさんに電話を掛けていました

今直ぐにでもプロデューサーさんの顔を見なければ壊れてしまいそうだったから

長い呼び出し音の後に聞こえてきた声は何時ものマスターさんの明るい声ではなく、暗く落ち込んだ様な声でした



『あずささん…暫く来ない方がいい…最近店に変な奴が入り浸ってるんだ…何かを知ってる様な口ぶりだったから心配でな…』


その瞬間私は電話を力強くベッドへ叩き付けていた

なんで? 私は毎回変装をしていたはず

なんで? もう私を狙う記者はいないはず

なんで? また私はやってしまったの? また誰かを苦しめてしまったの?




またプロデューサーさんを殺してしまうところだったの?

蛍光灯がチカチカ点滅している

もうそろそろ替え時だと私に警告している

だが私の身体は動かない

もう何もする気が起きない

けれど私は社長にメールを打っていた



『また少しお休みをください』



また逃げだ

分かっているが抑える事が出来なかった

またプロデューサーさんを裏切ってしまった

アイドル三浦あずさ

私はもう壊れそうです

カーテンの向こうの明るさの変化が時間の変化も共に伝えてくれていた

またそれと共に固まりだす私の気持ち

アイドル三浦あずさの引退

鳴りっぱなしの電話の音も気にならなくなっていました

いつかは幸せを運んでくれる窓口だと思っていた携帯は、今は五月蠅いただの機械

警告を告げていた蛍光灯はいつの間にか点滅を止め、部屋を照らす光源はカーテンの隙間から差し込む光だけになっていた

しかし…その光も部屋を照らすのを止め、部屋の中は真っ暗になっていました

そして自然と動く私の足

向かう先は決まっていた

プロデューサーさんが働くお店

どうせ目を付けられているんだ

今更ばれたところで何も怖くない

私は自暴自棄になっていました

この前まで輝いて見えていたネオンは、再びくすんで見えていた

そのくすんだ光に誘われる蛾の様に彷徨う私

しかしその歩みが進む先は寂しい光が灯る看板

私は看板の横にある扉に手をかけた

プロデューサーさんの笑顔がこの先にある

私の一番大事な支えがそこにある

そして…ゆっくり扉を開いた

マスター「いらっしゃいませ…って…あんた…何で…」



突然の訪問に驚いたマスターさんは目を丸くして私を見つめている

その奥で作業をするプロデューサーさんも言葉を発さずとも驚きを隠せない表情だ



あずさ「来ちゃい…ました…♪」



精一杯の作り笑顔

その表情を見てか、プロデューサーさんは私に近付こうとした…しかしそのプロデューサーさんの動きはカウンターに座る女性によって遮られてしまった

初めて見る女性

サングラスに帽子を深めに被った女性

あぁ…この人が記者さんか…

その女性が私にゆっくり近付いてくる

けど…もう怖くないんです

だけど…足が竦んで動けません

ツカツカとヒールを踏み鳴らし近付いてくる女性

声にならない悲鳴を上げた私

どんな言葉の暴力をぶつけてくるんだろうと思って俯き目を瞑った私を…優しい匂いが包み込んだ



あずさ「……え?」

「ごめんなさい…こんなになるまで放っておいてごめんなさいあずささん…」



記者かと思って身構えていた私に泣きながら謝り続ける女性

その声には聞き覚えがあった

事務所でぎこちないながらも私に優しい言葉をかけ続けてくれた女性



あずさ「り…律子…さん…?」

私の胸に顔を埋め、しっかりと抱きつく律子さん

顔が埋められた部分が生暖かくなるのを感じた…どうやら律子さんは泣いているらしい



律子「ご…ごめん…ぐすっ…ごめんなさい…」



何度も謝り続ける律子さんの肩は震えていた

私はその震える肩を抱き締めた

その瞬間、自然と私の目から涙が流れ落ちた

泣きながら抱き締め合っていた私達を包み込むかの様に店内のBGMは優しい曲調へと変わっていた

P「…二人友落ち着きましたか?」

律子「はい…お騒がせしました…」

あずさ「すみません…」



私達は泣き止むと椅子へ座るよう促され、目の前に出されたオレンジジュースを見つめる形で俯いていた



あずさ「…あの…何故律子さんがここに…?」

P「あぁ、それは」

律子「いいですプロデューサー…私が話します」



律子さんはプロデューサーさんが言いかけた言葉を遮り、カウンターへ向けた身体を私の方へ向けた

私の目を見る前に律子さんは目を瞑り、深呼吸をした後ゆっくりと目を開き私の目を見詰めてきた



律子「…実は…プロデューサーに相談を受けてまして……あずささんが悩んでいると…」

あずさ「…そう…だったんですか…」

ここに来る度に吐き出していた愚痴はいつの間にか他の人まで苦しめていたらしい

私はただプロデューサーさんに甘えていただけ

そんな軽い気持ちで愚痴を彼にぶつけていた

重荷だったのかな…



あずさ「……ごめんなさい…」



止まったはずの涙がまた流れ始めた

プロデューサーさんにだけではなく律子さんまで迷惑を掛けていた自分が許せなかった

もうどうしたらいいのか分からなくなっていた



P「…謝らないでくださいあずささん。 俺は自分で決めてあずささんの傍にいるだけですから…だから…そんなに自分を責めないでください…」

…この人はなんでもお見通しなんだ

私がやってしまった行為を自体を謝っているのではなく、自分自身が許せなくて…人様に迷惑を掛けた自分自身を責めるために謝っていると見抜かれていた



律子「いきなり今まで連絡がつかなかったプロデューサーから電話が入った時はビックリしましたよ。 何かしらの謝罪をしてくるのかと思ったらいきなり『あずささんは事務所でどうしてる!?』ですもん…昔と変わらずこの人は前しか見えてないんですね」

P「め…面目ない…」

律子「いいえ…私もあずささんの事が気になってましたし…空元気で無理矢理笑顔を作っているのバレバレでしたし…」

あずさ「…」

P「このお店に来る時は毎回笑顔でしたけど…付き合い長いんです。 変化に気が付かないはずがありません…それに愚痴を吐いても仕事の事だったりレッスンだったりで…全く事務所での事話してくれないんですもん」

律子「それで私をここに呼び出して話をしたと…そんな感じです」

マスター「…おいP…私は聞いてないぞ?」

P「だって言ったらお前簡単にあずささんに言いそうなんだもん」

マスター「…けっ、私は邪魔者か」

P「今はそんな事よりあずささんです…隠し事をするみたいになって申し訳ありませんでした…」

あずさ「…謝らないでください……それに私が迷惑を掛けたのは事実です…」

律子「あ、あずささん!」

あずさ「私がプロデューサーさんを辞めさせて、私が事務所の雰囲気を悪くして、私が事務所を辞めてからもプロデューサーさんを傷付けて、私が律子さんに涙を流させた…私が悪いんです…」






「…そうね、あんたが悪いわ」

入口付近から聞こえた声

私を仲間と呼んでくれたあの声



律子「い、伊織…なんであんたここに!」



お店の雰囲気にそぐわないウサちゃんを抱いた伊織ちゃん

照明の暗さで表情がよく分からなかったが、伊織ちゃんが私に近付くにつれ照明に顔が照らされていった

私の目の前に立つ伊織ちゃん…その表情は明かりで照らされよく見えた

…怒っている


バシンッ



あずさ「っ…!!」



右頬に鋭い痛みがあった

どうやら私は伊織ちゃんにビンタされたらしい

律子「伊織!!」

伊織「あんたバカじゃないの! あんたは取り返しのつかないミスをしたわ…だけど反省して戻ってきたじゃない! 理由はどうであれ戻ってアイドルやってたじゃない!」

あずさ「…」

伊織「昔からそうだったわ…目的地には迷子になりながらも必ず来る! 事務所に帰る時も迷子になりながらも必ず戻ってくる! だけどなんで…なんで今は迷子のままなのよ…」



伊織ちゃんは力が抜けたかのようにその場にしゃがみ込み、涙を流しながらウサちゃんを抱き締めていた



伊織「…頼りなさいよ…仲間じゃない…」



小さい身体は小刻みに震え、伊織ちゃんの何時もの勇ましい姿ではなくなっていた

P「伊織…」

律子「……あずささん…皆迷惑だなんて思ってないんですよ。 私も伊織もプロデューサーも…皆あずささんが心配なだけなんです」

あずさ「…」

律子「どんな事があっても仲間なんです…分かってください…」

あずさ「…」



ギュッ


伊織「え…」



驚いた顔をした伊織ちゃん

それはそうだろう…さっきビンタした相手がいきなり抱き締めてきたんだもの

伊織「あ…あずさ…」

あずさ「…ごめんね伊織ちゃん…私バカだったわ…」

伊織「…やっと気付いたのねバカ…」

あずさ「うん…ありがとう…」



私は本当に馬鹿だ

支えてくれている人はもっと居たんだ

私が怖くて拒絶していただけ

歩み寄ってくれていたのに突っぱねていただけ

逃げていただけ

…それを伊織ちゃんが気付かせてくれた

ファンの方々の有り難さをプロデューサーに気付かせてもらい、仲間の有り難さを伊織ちゃんが気付かせてくれた

…私はなんて幸せ者なんだろう

なのに私は…その幸せを目を瞑り投げ捨てようとしていた

伊織ちゃん…律子さん…プロデューサーさん…目を開かせてくれてありがとう…

律子「それで、なんで伊織がこんな時間にここに居るの?」

伊織「新堂に送って貰ったわ。 一応仕事だって言って家から出てきたから安心しなさい」

P「お前…無茶すんなよ…」

伊織「あら、相も変わらずバカ面ねプロデューサー。 久しぶり」

P「…変わんねぇなお前…」

律子「そんな事よりなんでこの場所を知ってるのよ?」

伊織「…あんたの様子がおかしかったから勝手に調べさせてもらったわ。 そしたらここでプロデューサーと話してるって情報が入ってね。 どうせあずさ関連の事だろうと思って踏み込んだら案の定よ…」

あずさ「…」

伊織「そんな事より問題はあんたよ! ここで働いてるなら教えなさいよ! 皆心配してたのよ!」

P「い、いや…皆にバレたら問題になりそうだから…」

伊織「ふんっ! ……それよりあずさ。 ちゃんと…事務所の皆と向き合いなさいよ」

あずさ「…分かったわ…もう逃げない」

伊織「にししっ♪ それでこそあずさよ♪」

律子「…これで一件落着…かしら?」

伊織「なんで疑問形なのよ」

律子「いえ…美希の問題なんだけど…」

伊織「あ…」

あずさ「…」

P「…律子。 今度昼間でいいから美希をここに連れてきてくれないか?」

伊織「あ、あんた! そんな事したら火に油注ぐだけよ!?」

P「大丈夫だ…きちんと話をしたら美希は分かってくれる…あいつを信用してやってくれ。 今はちょっとパニックになってるだけなんだ」

律子「…本当に大丈夫なんですよね?」

P「あぁ、俺を信じてくれ」

あずさ「…」

P「あずささん安心してください…俺を…もっと頼ってください…」

あずさ「…ごめんな……いえ…ありがとうございます…プロデューサーさん…」

P「うん、任せてください!」

伊織「…なんか甘酸っぱいわね」

マスター「だろう? 私もそう思ってる」

律子「確かにね…」

P「え? え?」

あずさ「…」

律子「あずささん顔真っ赤だし…」

伊織「…口直しにオレンジジュース頂戴」

マスター「…喜んで」

律子「――で美希にちょっと来てもらいたいのよ」

美希「…ハニーに会えるなら行くけど…」

律子「じゃあレッスン終わったら行くわよ」

美希「うん…分かったの…」



カランカラン



P「…いらっしゃいませ美希」

美希「…」

律子「美希?」

美希「…」

P「…律子、ちょっと席を外してもらえないか?」

律子「はい…そうした方が良さそうですね」

P「あぁ、話が終わったら電話するよ」

律子「はい、分かりました」

カランカラン



P「…急にいなくなったりしてゴメンな」

美希「…ミキ…怒ってるの…」

P「あぁ、分かってる…」

美希「ハニーにもあずさにも怒ってるの」

P「…」

美希「何でミキに何も言わずに事務所を辞めたの!!! ミキをキラキラさせてくれるんじゃなかったの!!!!!?」

P「…本当にすまなかった…」

美希「謝っても何も解決しないの!」

P「…そうだな…けど仕方が無かったんだ」

美希「…あずさが原因だよね?」

P「…原因ってのは違う」

美希「違うくない! あずさがハニーに抱き着いたからこんな事になったの! あずさが全部悪いの!」

P「…違う!」

美希「ひっ…!」

P「あぁ…すまん大きな声出して…けど…俺の話を聞いてくれ」

美希「……うん」

P「ありがとう……俺はな…どの道事務所を辞める運命だったんだよ」

美希「な…なんで!?」

P「…人間誰しもが人を好きになる…俺もそんな人間の中の一人だったんだ」

美希「わけが分からないの!」

P「…美希は人を好きになった事があるか?」

美希「ミキはハニー以外好きになった事ないの!」

P「そうだな…美希の気持ちは分かってたよ。 だけど俺はプロデューサーで、美希はアイドルだろ?」

美希「そ、そうだけど…」

P「その繋がりの中では恋愛ってのは御法度なんだ。もしそれで俺が一般人で
 あっても同じ事で、アイドルってブランドには恋愛は御法度…俺がアイドル
 を殺す事になってしまう」

美希「…けどそれとこれとは話が別なの!」

P「…同じなんだ。 だって俺は……あずささんが好きだから」

美希「…」

P「俺はプロデューサーで、あずささんの一番近い場所に居る存在。 そんなプ
 ロデューサーの俺は長い事この業界に居たんだ…恋愛がタブーだという事は
 よく分かってる。 だからこの気持ちを殺さなければならなかった……だけ
 ど…気付いちゃったんだよ…あずささんも俺の事を好きだって」

美希「…」

P「それに気付いてから俺は必死に自分を抑えたよ。 『これは勘違いなんだ』
 『プロデューサーなんだからしっかりしろ』って自己暗示をかけながら。
 だけどな…抑えられなくなっていた」

P「だから俺は逃げた。 逃げて逃げて逃げて…あずささんから離れようとして
 た…だけど結局アイドルとプロデューサー。 逃げられるわけがないんだよ」

P「俺は何時しかプロデューサーを辞めようとまで考えていた。 近くに居たら
 アイドルを殺してしまう…だから接点を無くして一般人になろうと」

美希「…」

P「悩んでた矢先にあのスキャンダルだ。 俺は自分が許せなくてな…もっと早
 く動いていたらこんな事にはならなかった、自分が優柔不断だったからこん
 な事になってしまった…苦しくて辛くて…だからスキャンダルの責任を負う
 って最低な理由で、逃げるっていう選択肢をとった」

P「けど…それがあずささんを苦しめてしまった…事務所の皆を苦しませてし
 まった…美希に…こんな辛い思いをさせてしまった…」

美希「…ハニー…」

P「俺は最低なクソ野郎だよ本当…」

美希「…」

P「だからな…あずささんを恨まないでやってくれ。 全て俺が悪いんだ…恨む
 なら俺を…」

美希「バカ!!!!!!!!!」

凄い 確認のために書き込んだら文字化けしまくってキモいことになった

P「悩んでた矢先にあのスキャンダルだ。 俺は自分が許せなくてな…もっと早く動いていたらこんな事にはならなかった、自分が優柔不断だったからこんな事になってしまった…苦しくて辛くて…だからスキャンダルの責任を負うって最低な理由で、逃げるっていう選択肢をとった」

P「けど…それがあずささんを苦しめてしまった…事務所の皆を苦しませてしまった…美希に…こんな辛い思いをさせてしまった…」

美希「…ハニー…」

P「俺は最低なクソ野郎だよ本当…」

美希「…」

P「だからな…あずささんを恨まないでやってくれ。 全て俺が悪いんだ…恨むなら俺を…」

美希「バカ!!!!!!!!!」

P「…」

美希「ハニーはバカなの! なんで…なんでそこまで自分を酷く言うの!!!!!」

P「え…」

美希「ミキ難しい事はよく分からないけど…ハニーのそんな辛そうな顔見たくないの…!」

P「…ごめん…」

美希「…ミキね…ハニーがあずさを好きなのも、あずさがハニーを好きなのも知ってたよ」

P「…え?」

美希「分かり易いもんハニーとあずさ…ハニーがあずさと話してる時の顔とミキと話してる時の顔…全然違うんだもん」

P「…」

美希「だからミキ悔しかったの。 負けるもんか! って頑張ってたの。 だけどね……少し認めてたんだよ」

美希「ミキと一緒にいる時よりハニーはあずさといる時の方が楽しそうだったの…そんなハニーの顔が好きだったの…すっごい悔しかったし苦しかったけど…苦しんでるハニーの顔を見てるより全然楽だった」

P「美希…」

美希「ミキね…諦めようとしてたの。 頑張って諦めようとしてたの。 だけど…あずさはそれを全て壊したの」

P「…」

美希「スキャンダルって怖いんだね。 簡単に人を壊しちゃうんだもん。 でね、ミキずっと考えたんだ…誰が悪いのかって。 けどミキ難しい事考えるの苦手だから…あずさにビンタしちゃったの…」

P「…」

美希「一回怒鳴っちゃったらもう引き返せなくて…ずっとあずさを無視してたの…本当は謝りたかったのに…応援したかったのに…」

P「美希…」

美希「ミキもサイテーなの…」

P「…ありがとな…」

美希「…ミキ感謝される様な事言ってないと思うな」

P「いや…正直に話してくれて嬉しかったよ」

美希「…」

P「…なぁ美希。 あずささんと仲直りしてやってくれ…あずささんもそれを望んでる」

美希「…分かったの…」

P「よかった…」

美希「けど!」

P「え?」

美希「まだミキハニーの事完璧に諦めたわけじゃないの!」

P「ちょ、お前!」

美希「…冗談なの…冗談だけど冗談じゃないの…」

P「美希…」

美希「お…応援するの…グスッ…諦めるの…そう…決めたの…」

P「…」

美希「…ねぇハニー…一回だけ…一回だけでいいの…ギュってしてほしいの…」

P「…けど…」

美希「そうしたら…すっぱり諦めれる様な気がするの…」

P「…」


ギュッ


美希「…へへ…あったかいの…」

P「…ありがとうな…美希…」

美希「うん…こっちこそありがとうなの……プロデューサー…」

律子「美希…大丈夫?」

美希「バッチリなの!」

律子「…目が赤いわよ?」

美希「か、花粉症なの!」

律子「…まぁいいわ…それじゃあ私達はそろそろ行きますねプロデューサー」

P「あぁ、それじゃあ頼むぞ美希」

美希「任せるの!」

律子「はぁ…プロデューサーを信用して良かったわ…」

美希「ん? どうしたの律子? ため息ついたら幸せ逃げるんだよ?」

律子「律子“さん”ね」

美希「は、はい…律子、さん…」

P「はは、それじゃあまた近況報告頼むよ律子」

律子「はいはい…じゃあ早速重大発表を一つ」

P「え?」

律子「あずささんを含めたトリオユニットが決まりました」

P「え!?」

律子「秘密にしてましたからね、勿論社長やユニットの皆には了承済みですんで安心を」

P「…けどめでたいな!」

律子「えぇ、因みにユニット名も決まってます」

P「なんて名前だ?」

律子「水瀬伊織に双海亜美、三浦あずさ。 三人共海に関する文字を苗字に持っているので…竜宮小町と名付けました」

P「竜宮小町…いいなそのユニット!」

美希「ねぇ、ミキは?」

律子「あんたはまた今度の機会にね」

美希「む~…」

P「これで…これでアイドル三浦あずさが完璧に復帰できるわけだな!」

律子「はい! …と言いたいところですが…」

P「自信がないのか?」

律子「…はい、あずささん本人には言えませんでしたが…やっぱりまだ叩く人が多々いるので…そこがネックになりそうで…」

P「その不安を拭えないと」

律子「はい…」

P「…人間不安になると嫌な部分が大きく見えるもんだ。 だからあずさささんを叩いてる人が多い様に思える」

律子「そう…かもしれません」

P「まぁ、実際に多いかもしれないからなんも言えないが…支持してくれている人も多く居るのも事実だろ?」

律子「そ、それは勿論!」

P「ならそこを頼れ。 やましい事しない限りは問題なく進むだろ。 それに下手に慎重に動いていたら、叩き達がそこに漬け込みネガキャンをしてくるだろう。
 そうすると厄介だ。 メディアを通じてそれが広まり、浅いファン層やファンで無い層も一斉に叩き側に回る危険性がある」

律子「…」

P「最初に問題があるにしろ無きにしろ失敗と成功は表裏一体だ。 これはどこまでも付き纏うだろう。
 …だからプロデューサーである律子が弱気になっちゃダメなんだ。 強く攻めてみろ」

律子「…精神論ですね」

P「まぁそうだな。 だけど正直この世界は賭けだろ?」

律子「…ふふっ、そうですね」

P「確定的な勝ちが最初から見えるはずがないんだ…精一杯やれるだけやってみろ律子」

律子「はい。 …まったく…やっぱりプロデューサーには敵いませんね…」

P「そうか? 一線から逃げ出した人間だけどな」

律子「ですね」

P「…人から言われるとなんか傷付くもんだな」

律子「ふふっ。 …けど…今後も相談に来ていいでしょうか?」

P「あぁ、俺が出来る事ならいくらでも協力しよう」

律子「ありがとうございます」

美希「…やっぱりバーテンやってるハ…プロデューサーもかっこいいけど、プロデュースしてるプロデューサーが一番かっこいいな♪」

P「…そうか?」

律子「まぁ、生き生きして見えるのは事実ですね」

P「ん~…確かに楽しいしな~…けど……戻れないしな…」

律子「けど今日から裏方の裏方として協力してもらいますから…給料は出ませんがね♪」

P「…まだ未練がましく片足突っ込んでる状態って事か…まぁいいか」

律子「どんな状態になっても…貴方はまだ765プロの仲間ですからね」

P「あぁ…ありがとうな律子」

律子「…それじゃあ…また改めて宜しくお願いしますね、プロデューサー」

P「おう!」

美希「なの!」

突然発表された竜宮小町のデビュー

スキャンダルを受けてすぐのユニット発表に世間は戸惑った

…それと共に出てくる不平不満

しかしその声がより一層私達の知名度を上げた

そして売り上げランキングの上位に名前を掲げた竜宮小町

勿論ライブも満員御礼

気が付けばアンチの方々の声は見えなくなっていた

事実上の勝利である

P「けど、いくら変装して万全を期してるとは言っても…危険じゃないか?」

律子「それは私も思ったんですけど…」

伊織「大丈夫よ。 ここら辺は水瀬の人間が監視してるから」

律子「…だそうで」

P「水瀬ってすげぇな」

あずさ「取り敢えず飲みましょう♪ 律子さんもほらほら~♪」

律子「あの…私も一応未成年なんですが…」

P「代わりに俺が飲みますよあずささん」

あずさ「あら~じゃあテキーラを…せーの…ジュシポリイェ~イ♪」

P「イェーイ!」

亜美「イェーイ!」

マスター「はぁ…こりゃもたんな」

すまない >>160 の前にこれが入るはずだったんだ


律子「かんぱーい!」

伊織「ねぇ見てた! 伊織ちゃん大活躍よ! やっと私の魅力に皆が気が付いたって事ね! にししっ♪」

亜美「もー! 私“達”でしょいおりん! 亜美だって活躍してたの見てたでしょ!」

あずさ「あらあらうふふ♪ あ、プロデューサーさんお酒おかわりで♪」

P「あ、あずささんペース早いですよ…」

亜美「亜美ももう一杯! いや~このために生きてますな~」

P「お前らはオレンジジュースだろ」

伊織「このオレンジジュース本当に100%? なんか美味しくないわ」

マスター「すまんかったね…」



今日は竜宮小町ライブ打ち上げでプロデューサーさんのお店へお邪魔している

店内には私達以外にお客さんは居らず、マスターさんのご好意で貸切にさせてもらっている

…まぁ、どの道伊織ちゃん家の人達のお陰で誰もこの路地に入ってこれないんですけどね

私はそのままお酒を飲み続け、時間は夜の十二時を迎えようとしていた



あずさ「―――…だから私はプロデューサーさんがしゅきなんでしゅよ~」

律子「はいはい…もうそれ十回以上聞きましたからね…」



亜美ちゃんと伊織ちゃんは学生という事もあって先に帰ってしまったが、店内にはまだ私と律子さん、プロデューサーさんとマスターさんが残されていた

P「絡み酒ですな」

マスター「あぁ、見事なもんだ」

あずさ「へへ~…プロデューサーしゃん…ムニャムニャ…」

律子「…愛されてますね」

P「…だな」

マスター「…」

律子「じゃあ、あずささんもこんな状態なんて私達そろそろ帰りますね」

マスター「あぁ、そろそろ天辺跨ぎそうだからね。 気を付けて帰るんだよ」

P「また来てくれよ」

マスター「何を言ってるんだP。 お前が送ってやれ」

P「え、まずくない?」

律子「…じゃあ私は水瀬の人に送ってもらいますね。 まだ表にいるみたいなんで」

マスター「分かった。 こっちは任せてくれ」

P「いやいや、まずいって」

律子「大丈夫ですよ。 車の運転も護衛も水瀬の人がやってくれますから。 プロデューサーは付き添うだけです」

P「え~…」

マスター「…送り狼にはなるなよ?」

P「ならねーよ! まったく…何のために俺がプロデューサーを辞めたと…」

律子「じゃあ任せましたからねプロデューサー」

P「…分かったよ」

マスター「ありがとうございました~」

...




……私は眠っていたらしい

目が覚めるとそこは走行中と思われる車内だった

運転席と私が居る空間の間には仕切があり、車内の内装からただの車でない事が分かった

…どうやら私は横になっているらしい

そして私の頭が置かれた場所から伝わる人の温もり

それに誰かに頭を撫でられている感触

恐る恐る視線を上へ向けると…そこにはプロデューサーさんが居た

…どうやら私はプロデューサーさんに膝枕してもらっているらしい

おまけに頭まで撫でてくれている

そんな私の視線に気が付いたのか、プロデューサーさんは慌てて私の頭を撫でる手を引っ込めた



P「あ、すみません! …これ伊織家の車なんで安心してくださいね…ははっ…」

慌てているプロデューサーさん

暗がりで顔の色がよく見えなかったが、多分真っ赤なんだろう



あずさ「…もうちょっと…このままでいいですか…?」

P「え…は、はい…」

あずさ「ありがとうございます…それと…また撫でてください…」

P「…はい…」



優しく撫でてくれるプロデューサーさんの手は暖かく、過去にあった不安を全てかき消してくれるものだった

体感的にゆっくり進む車

この幸せな時間がもっと長く続いて欲しかった

あずさ「…好きですよ…プロデューサーさん…」

P「…知ってます…」

あずさ「…プロデューサーさんは私の事どう思ってますか…?」



聞いてそうで聞いていなかった事

私が気になっていた事



P「…あずささんはアイドルです…」

あずさ「…はい、知ってます」

P「…恋愛はタブーですね」

あずさ「知ってます…だけど私も人間です…私は人を好きになってはいけないんでしょうか…」

P「……もし…もしですよ…あずささんがこの先アイドルを引退する事になったら…その時に…返事をしてもいいでしょうか?」

あずさ「…え?…それって…」

P「…そろそろ家に着きますよ」

あずさ「あ…はい…」

P「…俺は…もう逃げませんから…待ってます…だから……思いっきりアイドルを楽しんでください」

あずさ「……はい…ふふっ…」

それからの竜宮小町の快進撃は留まる事を知らなかった

テレビを点ければ必ずと言っていい程竜宮小町の名前が見られた

有線から流れるSMOKY THRILLと七彩ボタン

街灯ポスターや雑誌を飾る竜宮小町の三人

ここ一年で竜宮小町の名前を知らない人はいないだろうと言える程知名度は上がった

765プロの看板アイドルとしての活動は絶頂期を迎えていた

そんな忙しい毎日の中、私達はプロデューサーさんが働くお店に集まった

春香「プロデューサーさん! 主演ですよ! 主演!」

千早「わ、私だって今度海外でのレコーディングがあるんですよ!」

雪歩「わ、わ私もレポーターとしてのお仕事貰えました!」

真「僕と響は今度来日する海外アーティストのバックダンサーに選ばれましたよ!」

響「自分達完璧だからな! ほ、褒めてくれていいんだぞ!」

貴音「私もらーめんれぽーと等、食に関するお仕事を頂いております。 …それでこのお店にはらーめんは無いのでしょうか?」

真美「マミも亜美に負けない位活躍してっかんね! だきょう竜宮小町!」

亜美「アミも負けてらんないYO!」

美希「それ打倒だよね? ミキでも分かるな~。 …あ、ミキの写真集観てくれたプロデューサー!?」

やよい「うっうー! お料理番組のレギュラーもらっちゃいましたー!」

P「はは、皆凄いな」

マスター「…すっかりたまり場になっちゃったな」

小鳥「あの~…お酒って大丈夫でしょうか?」

あずさ「あらあら~」

律子「すみません…こんな昼間からお店開けてもらっちゃって…」

伊織「あ、オレンジジュースちょうだい。 美味しいのね」

マスター「はいはい…ちゃんとPに聞いて仕入れておいたから」

P「けど…皆の仕事増えて良かったよ」

律子「えぇ、新しく入ってくれたプロデューサーがいい仕事してくれてましてね」

P「そりゃ安心だ」

律子「それに…プロデューサーの助言も助かりましたしね」

P「あんま実感ないが…それならよかったよ」

律子「さっすが“元”敏腕プロデューサーですね」

P「元を強調されると複雑なものがあるな…」

律子「ふふ、ちょっといじめたくなりましてね♪」

あずさ「プロデューサーさんをいじめちゃダメですよ~」

律子「はいはい」

P「…それにしても皆が一挙に集まるのなんて珍しいな」

律子「えぇ、ちょっと発表がありましてね」

P「発表?」

すんませんそろそろ仕事へ行ってきます
今日の夕方には帰りますんで

律子「はい…嬉しい様な嬉しくない様なニュースですが…」

P「気になるな…」

律子「…はい! 皆静かにー!」



律子さんのよく通る声で先程まで騒がしかった店内が水を打ったかの様に静かになった

そして律子さんは一回咳払いをして話を始めた

竜宮小町にとっても重大なニュースだ

そして…私個人にとっても

律子「…実はですね。 この度秋月律子! ハリウッドにてプロデュースの勉強のために…留学する事になりました!」



一気にどよめく店内

それを掻き分ける様に話を続ける律子さん



律子「それに伴って…竜宮小町を解散します!」



更にどよめく店内

亜美ちゃんと伊織ちゃんは黙って律子さんの顔を見詰めている

私達は予め知らされていたのでこの様に落ち着き払っているが…皆の顔からは驚きの表情が隠しきれていない様だった

律子「亜美と伊織は今後ソロでの活動をしてもらいます」

春香「……あれ? あずささんは?」



トリオであるはずの竜宮小町

そんな中の二人だけ名前が呼ばれて私の名前が呼ばれない

そんな皆が抱く疑問を代表したかの様な春香ちゃんの声

律子さんは質問してきた春香ちゃんの顔ではなくプロデューサーさんの顔をチラッと見ると、少しニヤっとして話を続けた



律子「え~…あずささんは本来の夢を叶えるべく…765プロを辞めます」

どよめきではなく悲鳴とも取れる声が店内に響き渡った

そして一番驚いた顔をしているのがプロデューサーさん



律子「けーどー! …最後に竜宮小町解散ライブをやります! 皆のスケジュールは追々調整してくから…協力お願いね!」



強制的に話を締めた律子さん

しかしそんなものでは満足出来なかったであろう皆は、律子さんへ集団で質問をぶつけ続けた

そして質問の矛先は私にも



春香「辞めちゃうんですあずささん!!?」

千早「何でですか? 夢ってなんですか?」

雪歩「あずさささんが居なくなったら…寂しいですぅ…」

私は『あらあら~』と曖昧な言葉で質問を流し続けた

その内皆諦めてくれたのか、皆はスケジュールに書き込まれた仕事へと向かっていった

そして残された私とプロデューサーさんとマスターさん



P「あずささんはお仕事大丈夫なんですか?」

あずさ「今回は伊織ちゃんも亜美ちゃんも別々のお仕事なので大丈夫ですよ。 そして私はオフです♪」

マスター「…なんか嫌な予感がしてきたからちょっと買い出し行ってくる」



マスターさんはそう言うと慌ただしく店を出て行ってしまった

そして残された私とプロデューサーさん

P「……アイドル…辞めるんですか?」

あずさ「はい♪」

P「もう後悔は無いんですか?」

あずさ「無いですね~…律子さんも海外へ行くので…丁度いいタイミングでした♪」

P「…」

あずさ「辞め時…だったんです」

P「…」

あずさ「私はプロデューサーさんに言われた通り思いっきりアイドルを楽しみましたよ? だけど…若い娘達には敵いそうもありませんでした」

P「そ、そんな…」

あずさ「決して自分を卑下しているわけではないんですよ? この業界ではどんどん新しいアイドルの娘達が生まれてます。 だから…未練がましく私がここに居ちゃダメなんです」

P「…」

あずさ「トップアイドルは何時までもトップに居ちゃいけないんです…世代交代っていうのは必要な事なんです♪」

P「…」

あずさ「…っていう私の持論ですがね…ふふっ♪」

P「…あずささんが決めた事なら俺は何も言えませんね。 辞める理由が俺関係だったら反対してましたが…」

あずさ「あら? もしかしたらそうかもしれませんよ?」

P「え?」

あずさ「ふふっ…冗談です♪ 今まで我慢していた事でのお返しです♪」

P「まったく…敵いませんね」

あずさ「……この前の返事は…解散ライブ後に聞きにきますんで…待っててくださいね♪」

P「はい…それまではしっかりアイドルやっててくださいよ?」

あずさ「はーい♪」

最後のライブだからというわけではないが、私達は一生懸命練習をした

皆も忙しい中時間を割いてレッスンに付き合ってくれた

そんな中発表された新曲

私の未来を暗示するかの様な曲調と歌詞

CDの売上はライブが始まるまで徐々に伸び始め、ライブ開催の一週間前には見事一位に座に席を置いていた

そして迎えた解散ライブ当日

開演前にズラッと並ぶ長蛇の列

物販は開演前にも関わらず売り切れ

そして…竜宮小町最後のライブが始まった

伊織「にししっ♪ 今日は私達竜宮小町の解散ライブに集まってくれてありがとうね♪」

亜美「兄ちゃん姉ちゃん爺ちゃん婆ちゃん! 今日は燃えに燃えていくよー!」

あずさ「私はアイドル最後のライブになりますが…皆さん! 最後までアイドル三浦あずさを宜しくお願いします!」

伊織「それじゃあ行くわよ…最初の曲はSMOKY THRILL!」

スピーカーから発せられる拡大された私達の声をかき消す程の大歓声に包まれながら竜宮小町最後のライブは始まった

最初は竜宮小町のデビュー曲SMOKY THRILL

続いて伊織ちゃんの持ち歌Here we go

続いて真美ちゃんをゲストに迎えたスタ→トスタ→

そして私のラブリ

アップテンポな曲からのスタートに会場内は空気は暖まっていた

ピンクにイエロー、パープルのサイリウムが会場内を埋め尽くす

その後も勢いは落ちないまま765プロ全員でのメドレー

皆の息はぴったりで、ステージ上ではレッスンの成果が見事に現れていた

そしてライブ終盤

解散と同時にアイドルを引退する私のためにソロパートが用意されていた

Mythmakerから始まり、続いて隣に…

9:02pmで…晴れ色

プロデューサーさんが事務所から居なくなった時から今までの私を辿る様なセットリスト

ファンの皆さんが知らない三浦あずさ

そんな私情を混ぜ込みながらのラストライブ

罪悪感を感じながらも私は歌い続けた

…それに合わせて左右に揺れる紫色のサイリウム

私はこんなにも沢山の人達に応援されていた

本当に幸せ者だ…

罪悪感など…心の奥で消してしまえばいい

だって今はアイドル三浦あずさなのだから

偶像である私を見せるだけ

中身を見せてはいけない

これ以上人を傷付けてはいけない

私は…成長出来ましたでしょうか…プロデューサーさん…

伊織「―――…それじゃあ最後の曲いくわよ!」

亜美「最近出たばっかの曲だけど皆覚えてきたかなー!!」

あずさ「覚えている方は一緒に歌ってくださいね~!」

伊織「それじゃあ用意はいいかしら?」

亜美「…せーの!」

伊織・亜美・あずさ「ハニカミ!ファーストバイト!!!」

...


P「あずささん…お疲れ様でした」



BGMすら鳴っていない静かな店内にプロデューサーさんの声が響いた

二人だけの空間

マスターさんも皆も居ない不思議な空間

初めてこのお店に来た時を思い出しますね…



P「…これで…アイドルとしてのあずささんは居なくなりましたね…」



少し寂しそうな顔をしたプロデューサーさん

けれど…私は何故こんなにニコニコしているのだろう



P「……それで…お返事ですね」

そうね…そのお返事を聞けるから私はニコニコしている

答えは分かっている

彼の口から直接聞いていなかった言葉

私が待ち望んでいた言葉



P「……好きです…貴女が大好きです…俺と付き合ってくださいあずささん」

あずさ「ふふっ…やっと聞けた…途中で何回も迷いながらもやっと…ここまで来れた…」

P「…お待たせしました…」

あずさ「…昔もそうでしたね…迷った私を皆で探してくれた…だけど、最終的に見つけ出してくれるのはプロデューサーさん…貴方でした…」

P「…そうでしたね…懐かしいな…」

あずさ「…もう…手を離さないでくださいね…」

P「えぇ、勿論です…一生離しませんよ」

バーカウンター越しに見つめ合う私達

次第に縮まる二人の距離

ほら…障害なんて頑張って手を伸ばしたら簡単に通り抜けられる

そう今の状況が教えてくれている

元プロデューサーと元アイドル

アイドルが殺してしまったプロデューサー

そんなプロデューサーの跡を追う様に自らも殺してしまったアイドル

ふふっ…これだけ聞いたら物凄く不幸な物語ですね

…だけど幸せです

だって…





殺してしまったプロデューサーさんの唇はこんなに暖かいんだもの

――――――
―――



伊織「ちょっとあずさ! 今何処にいるのよ!」

あずさ『あらあら~ここは何処かしら~?』



電話を片手に怒鳴り声を発する伊織

その横で笑っている亜美と、頭を抱えてため息を吐いている律子



伊織「もうっ! なんでウエディングドレスを着たままどっか行っちゃうのよ!」



今日は俺とあずささんの結婚式

しかし…新婦であるあずささんが行方不明

由々しき事態だ

伊織「あんたも何ボーッとしてんのよ! 何時もの超能力みたいなサーチ機能使ってあずさを探し出しなさいよ!」

P「んな無茶な…」

あずさ『ごめんなさいねプロデューサーさん。 ちょっとワンちゃん追いかけてたらこんな事に…』



響「イヌ美ー! 何処行ったんだー!」



遠くから響がイヌ美を探す声が聞こえる

あいつ…結婚式にペットを連れてくるなって散々言ったのに…



亜美「あずさお姉ちゃんイヌ美を追いかけて行っちゃったんだね~…」

律子「…後で響を叱っておきます」



呆れた表情の亜美は、やれやれといったオーバーアクションでため息をついていた

律子は鬼の顔をしている…やっぱり怖いな

伊織「…んで、今そこから何か見える?」

あずさ『ん~…何も見えないけど…あ、公園だわ! ベンチが見えるもの!』

伊織「んがあああああああ!! ベンチがある公園なんていっぱいあるわよ!」


ん…公園…もしかして…


P「分かったかもしれん…」

伊織「え!? 本当!?」

P「…多分…いや…なんかそこだってティンときた」

伊織「あんた…やっぱりエスパー的な何か持ってるわよ」

P「あずささん限定だがな!」

伊織「惚気はいいからさっさと迎えに行きなさい!」


俺は会場に停めておいた自分の車に乗り込み、頭に浮かんだ公園にあずささんが居ると信じてアクセルを踏み込んだ

燃料が残りわずかである事を伝えるエンプティランプが真っ赤に光っている

燃料入れなきゃな…

あずさ「結婚式場は何処かしら~…取り敢えず公園を出なきゃ…」

P「…やっぱりここでしたかあずささん」



まるで何かの撮影かと思わせる様な純白のウエディングドレスに身を包んだあずささんはやはりこの公園に居た

…イヌ美を連れて



あずさ「…やっぱり来てくれましたね…プロデューサーさん」

P「えぇ、あずささんを見つけ出すのは俺の仕事ですからね」

あずさ「ふふ…そうでしたね」

P「…懐かしいですね…この公園…」

あずさ「えぇ…全ての切っ掛けを作り出してくれた場所ですね…」

P「…感謝しなきゃダメですね」

あずさ「…ですね♪ 偶然でもまたここでプロデューサーさんと一緒…運命ですね♪」

P「……あずささん…」

あずさ「あ…」



俺はあずささんを抱き締めた

あの頃は出来なかった自分から抱き締める行為



あずさ「もう…強引なんですから…」



戸惑った声を上げたあずささんは俺の腰に手を回してきた

そして強く抱き締め合う二人

「バウッ!」


イヌ美…もうちょっと空気読んでくれ…


「バウバウ!」


イヌ美が公園に設けられた時計に向かって吠えている

あ…まずい…


P「い、急ぎますよあずささん!」

あずさ「え? きゃあ!」


俺はあずささんの手を取り走り出した

このままじゃ遅刻だ…皆から怒られるどころの騒ぎじゃなくなる

俺は路肩に停めていた車の助手席にあずささんを乗せ、式場へ向かって車を走らせた

相変わらずエンプティランプは真っ赤なまま

もってくれよガソリン…

春香「―――…あ! プロデューサーさんとあずささん来ましたよ! 」

真「あ! ホントだ! …ってなんでプロデューサーはあずささんをお姫様抱っこしてるのかな?」

真美「おー見せつけてくれますな~」

雪歩「な、なんだかロマンティックですぅ」

伊織「…あいつの顔が必死な事以外はね」

美希「プロデューサーもっと速く走るの!」

律子「もうっ! 皆さんお待ちかねですよ!」

千早「わ、私が歌う出番は何時かしら…」

貴音「千早…貴女がうろたえてどうするのですか」

響「イヌ美ー! 何処行ってたさー!」

亜美「イヌ美は大変なものを盗んで行きました…そう! 時間です!」

小鳥「カリオストロ…いい作品だったわね…」

亜美「カリオストロってなに?」

小鳥「ピヨッ!?」

やよい「うっうー! 入場曲が流れ始めましたよー!」

高木「二人共早くしたまえ!」


俺達を結婚式場の前で迎えてくれたのは765プロの皆

事務所を辞めてからも俺らを支えてくれた大切な仲間


あずさ「…プロデューサーさん」

P「ハァハァ…な、なんですかあずささん…ハァハァ…」

あずさ「…仲間っていいものですね…」

P「ハァハァ…はい…俺も…そ、そう思ってました…」


切っても切れないこの繋がり

今後二人で歩いていく人生の中でもきっと重要になってくる人達

感謝してもしきれない人達

あずさ「本当に…幸せです…」

P「お、俺もですよ…本当に…幸せ者です…」



式場の扉から漏れ聴こえてくる音楽

アイドル三浦あずさとして最後の曲となった曲

竜宮小町が歌ったハニカミ!ファーストバイト

今の俺達にぴったりな曲



P「…あ、あずささん…」

あずさ「…はい」

P「し、幸せに…ゼェゼェ…なりましょうね…」

あずさ「…勿論です♪」

息を切らしながらバージンロードの上に立つ俺

これから歩き始める二人の始まりの道

…色々な問題が起こるかもしれない

だけど……お義父さんと一緒に歩いてくるあずささんを見るとその不安感は何処かへ行ってしまった

そんな姿に見惚れる俺の元へやってきたあずささん

並んで立つ二人を包み込むステンドグラスから差し込む日の光

周りを見渡すと、笑顔で俺らへ拍手を送ってくれる皆

…さっきまで不安感を抱いていた俺を殴りたい

ずさ「…プロデューサーさん…」

P「は、はい!」

あずさ「…緊張してますか?」

P「…少し」

あずさ「不安ですか…?」

P「……す、少し…」

あずさ「……ふふっ♪ 大丈夫ですよ♪」

P「…え?」

あずさ「だって…ほら、そろそろその部分が流れますよ♪」

honey honey honeyなdish! suger suger sugerなkiss

めくるめくの愛の味

comin' comin' comin'なwish! suger suger sugerなkiss




















あずさ「…甘い未来あげましょう…貴方だけに♪



おわり

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