番長母「出張から帰ってきたら息子が激変してた」(101)

~遡ること一、二年前~

番長母「ほら番長、明日は学校の行事があるんでしょ!? 早く寝なさい!」

番長「……いいよ……別に……」

番長母「何言ってんの! あんたこういう時はいっつもサボろうとするんだから…!」

番長「……どうせ行っても全然楽しくないし……」

番長母「そういう問題じゃないでしょ! まったく、学校を何だと思ってるの!?」

番長「…………」

番長母「…とにかく、明日は絶対に学校行きなさいよ! 分かったわね!?」

番長母「それじゃお母さん洗い物終わしてくるから、早く寝なさい!」

バタン!

番長母「………フゥ」

番長母「……まったく……なんでかしらね……」

~リビング~

番長父「…どうだった、あいつの様子は」

番長母「全然ダメ。私が言わなきゃ明日もサボるつもりだったみたいね」

番長父「そうか…」

番長父「…なあ、今度の出張キャンセルはキャンセルにしてもいいんだぞ?」

番長父「番長がそんな様子じゃ、遼太郎君のとこに預けても迷惑をかけるだけだ…」

番長母「何言ってるの! あなたの出世がかかった出張なのにキャンセルなんかしたら…!」

番長父「しかしなあ…まずは親として、仕事より息子の心配をしてやらねばならんだろう」

番長母「それはそうだけど…」

番長母「学力は歳相応だし根気も若者級、伝達力も無いし勇気も無い。寛容さも皆無…」

番長母「何かあの子に取り柄でもあればいいんだけどね…」

番長父「学校でもあまり親しい人間はいないようだしな…番長…」

番長母「…でも、ある意味賭けでもあるわ」

番長母「あの子も今までと違う環境でなら、もしかしたら頑張ってくれるかもしれない」

番長母「遼太郎にはしつこく頼んでおくわ。昔から私の頼みは断れない弟だから」

番長父「…遼太郎君も父子家庭なんだ、あまり無理をさせるなよ」

~翌日 学校~

生徒A「おっしゃ、待ちに待ったスポーツフェスティバルが来たぜ!」

生徒B「今日のためにクラスを挙げて特訓したからね…今年はウチのクラスが優勝もらっちゃうよ!」

先生「えー、それではさっそくトーナメントを開始します。指定のクラスはコートに入ってください」



~試合中~

生徒A「おっ、そっち行ったぞ番長! レシーブしろレシーブ!」

番長「………」

ドン! コロコロコロ…

審判「ボールイン!」

生徒A「おい番長! 今レシーブしろっつったのが聞こえなかったのかよ!?」

番長「……いや、めんどくさかったから……」

生徒A「はぁ!? めんどくさいじゃねーだろ、今日の試合は俺ら勝つ気満々で来てんだよ! ふざけんな!」

番長「……どうせ負けるだろ、上級生もいるんだし……」

生徒B「おいテメー今なんつった!? 負けるっつったのか!?」

生徒C「…マジ、『クラス全員が必ず一回は参加しなきゃいけない』とかいうルールなければあんなカス入れないのにさ…」

生徒D「ほんとウザイよね、ああいうの。嫌ならそもそも来るんじゃねーっつーの。そうすりゃ出なくて済むのに」

審判「次のサーブを早くお願いします、時間も押していますから」

生徒A「チッ…もういいよ、お前はコートの端でじっとしてろ!」

~数十分後~

審判「ゲームセット! 勝者、Bチーム!」

生徒A「……おい番長! テメーのせいで負けたも同然だからな!」

生徒B「後ろのくせにボールもろくに取らないでボケッとつっ立ってやがって…!」

番長「………」スタスタ

生徒C「…終わったらさっさと帰る、ってわけね。いいじゃん、さっさと消えてほしかったとこだし」


~自宅~

番長「……ただいま」

番長母「あら番長、ずいぶん早いわね…まだ一時も回ってないけど…」

~番長の部屋~

番長「……疲れた……」

番長「……はぁ」

番長「……来月から居候なんだよな……嫌だな……」

番長「……寝よ……」

そして…時は流れ…



~2012年 4月~

番長「ただいま、母さん!」

番長母「あら、お帰り番長」

番長「叔父さん家の居候、すごく楽しかったよ。また行かせてもらっていいかな?」

番長母「え、ええ…大丈夫だと思うけど…」

pipipi pipipi

番長「ああ、ちょっとごめん母さん」ピッ

番長「…もしもし、陽介か? 大丈夫だ、今家に着いたよ」

陽介【おう、何時間か前に感動の別れしたばっかだけどな…へへ】

陽介【んじゃまあとりあえず、次の連休までの辛抱ってことでな】

番長「ああ。そっちも頑張れよ、相棒」

陽介【お前もな、相棒!】

番長母「あ…相棒…?」

ピッ

番長「さて、それじゃ今日は疲れたから…風呂入ったら寝るよ」

番長母「え…ええ…」




番長母「………」

ピッポッパッ

番長母「……もしもし、遼太郎? アンタに聞きたいことがあるんだけど」

堂島『い、いきなりなんだ姉貴…番長なら無事にそっちに着いたと思うが』

番長母「その番長のことよ! なんか…漂ってるオーラが明らかに一年前と違うんだけど、どうなってんの!?」
 

堂島『はぁ? そ、そんなこと言われてもな…』

番長母「アレよ、いわゆる“リア充”の匂いがプンプンするんだけど」

堂島『リア充? なんだそりゃ…ともかく、番長の友達なら何度か話す機会くらいはあったが…』

番長母「その友達とどういう雰囲気だったの! 詳しく教えなさい!」

堂島『どうと言われても……』

堂島『……その、あれだな。学生生活は充実しているように見えたが』

堂島『……あまり口外すべきではないと思うが……よく女の子を部屋に上げていたりもしてたようだ』

番長母「あ、あの子が……女の子を部屋にですって……!?」

堂島『友達ともよくウチで集まったりしてたな。夏休みは菜々子もその友達とのスイカ割りに混ぜてもらったりして…』

番長母「…とりあえず、それくらいでいいわ」

堂島『え? おいちょっ、姉』ピッ

番長母「……番長……一体何が……」

番長父「おい、どうしたんだ」

番長母「なんというか……あの子の様子が変なのよ」

番長父「様子が変?」

番長母「急に雰囲気が変わっちゃって…」

~翌日 学校~

先生「えー、昨年からご両親の仕事の関係で地方へ行っていた番長君が戻ってきました」

番長「今年からまたこの学校にお世話になります。改めてよろしく!」

先生「それじゃ、席に座って。授業始まるから」

番長「はい!」


ヒソヒソ…

生徒A(おい、なんかアイツ…変わってねーか…?)

生徒B(だよな…前はいっつも下向いてボソボソ喋ってたのに、なんか急に凛々しく…)

生徒C(なんか……番長って、ちゃんと胸張って顔上げてると男前なんだね……)

生徒D(あんたも思った? 昔はただの根暗だと思ってたんだけど……印象変わったよね……)


先生「番長君の席は…そこのCさんの隣が空いてるね、そこでいいよ」

スタスタ

番長「また戻ってきたから、仲良くしてくれると嬉しいな」

生徒C「え……うん、まあ……よろしく……」

生徒C(……///)

生徒D(ちょっと、何見とれんのよ!?)

生徒C(えっ…ごめんごめん)

~昼休み~

番長「ねえCさん、よかったら一緒にお昼食べない?」

生徒C「えっ…その…」

番長「実は俺、料理も得意だからさ。お近づきの印に…どうかな?」

生徒C「……べ、別にいいけど……」

番長「よかった。それじゃ見晴らしのいい屋上でも行こうか」



生徒D「……ちょっと、Cったら一緒に屋上行っちゃったわよ……」

生徒A「息を吐くように異性を誘い込みやがった…あの手慣れた感じはもはや只者じゃねえぞ」

生徒B「前は女となんか全然話してなかったのに…」

~屋上~

生徒C「……うん、おいしい! 番長ってこんなおいしいの作れたんだね~」

番長「去年の一年間でだいぶ上達したからね。まだまだレパートリーはあるから、希望があれば明日も作ってこようか?」

生徒C「え、いいの!? やったー! それじゃあどうしよっかなぁ……」

生徒C「…………」

生徒C「……ねえ、番長」

番長「ん? どうしたの」

生徒C「私……他の何人かの奴らと一緒になって、前までアンタのこと苛めてた女だよ?」

番長「……分かってるよ。それがどうかした?」

生徒C「どうか、って……だって苛めてたんだよ……? 根暗とかキモイとか言っちゃってたし……」

生徒C「それなのに、なんで……こんな急にお弁当誘ってくれたりなんて……」

番長「……仲良くなりたいから。それ以外に、理由は必要かい?」

番長「……悪かったのは俺の方だよ。あれじゃ苛められても仕方がない」

番長「だからまだまだ、みんなの印象はぬぐえないかもしれないけど……」

番長「……だからこそ、こうしてきっかけを作っていきたいんだ」

生徒C「……番長……」

生徒C「……ふふっ。変わったね、昔は全然喋らない奴だったのに……こんなセリフがペラペラ出てくるなんてさ」

生徒C「いいよ、よく見たら番長もイケメンだし。まずは私が早い段階で立候補しとこっかな~?」

番長「……“まずは”なんて言わないで、今じゃダメかな……?」

ギュッ

生徒C「……え……っ……」

生徒C「……ちょ、ちょっと……何してんのよ……///」

番長「……今までのことは水に流して、改めて……」

番長「……俺と、付き合ってほしい……」

番長「……ダメかい……?」

生徒C「……そ……それは……」

生徒C(……なんだろう……不思議と…心地いいな……)

生徒C(……うーん……ボーっとしてきた……)

生徒C「……なによ……番長のくせに、カッコいいこと言って……///」

生徒C「……こっちこそ……昔のことは忘れて……」

生徒C「……よろしく……ね……」

番長「ああ……」

番長「……今日、俺の部屋に来ない……?」

番長「夕飯、俺が作ってあげるよ……きっと喜んでもらえると思うから……」

生徒C「ちょっと、いきなり部屋に誘っちゃう……? ほんっと……大胆になったじゃない……」

生徒C「……いいよ。それじゃ夕食……お願いしちゃおっか……」

>………。

>……その日は、Cと長い夜を過ごした……。



~当夜 リビング~

番長母「……あなた、一大事よ」

番長父「……ああ、一大事だな」

番長母「まさか…あの子が…」

番長父「…女の子を、部屋に連れ込むとは…」

番長母「それに……」

番長母「……下まで響いてるの、あの子気づいてないのかしら……!!」

アッ アッ アン モット…! モット…!

番長父「……金の無い学生だ、ホテルを借りられんのは致し方ない……」

番長母「そういう問題じゃないでしょ!」

番長母「これ、お隣さんまで聞こえそうな勢いじゃない…! 町内会に顔出せないわよこれじゃ…!」

番長父「さすがに…最中じゃ部屋に入れんよな…」

番長母「それならそれで、伝えてくれればホテル代くらい出すわよ…ウチでやられたら声響くのくらい分からないのかしら…」

番長母「………」

番長母「……決めたわ。今度弟のところに私が行ってくる」

番長父「何? しかし…お前が行ったところで何も変わらんだろう」

番長母「こうなったからには仕方ないわ。でも、どういう経緯でああなったのかは調べないと」

番長母「遼太郎も、首根っこ抑えて根掘り葉掘り聞きだしてやるわ」

~数日後 八十稲羽~

番長母「……と、いうことで。調査のために連休は世話になるから頼むわよ」

堂島「お、おう…しかしまあ何だってわざわざこっちまで来て…」

番長母「まずは番長の交友関係を徹底的に洗うわ。さっさと教えなさい」

堂島「番長の友達か…」

堂島「…そうだな、まずは花村辺りか…」

番長母「花村? その子はどこの子?」

堂島「稲羽市にもジュネスが建ってるんだが、そこの雇われ店長の息子だ」

番長母「分かったわ、まずはジュネス……と」

堂島「その他にも…ええと、誰がいたかな…」

堂島「…警官志望で俺も面倒見てやってる娘と、天城屋旅館の娘、染物屋の息子…」

堂島「……そうだ、アイドルの『久慈川りせ』いるだろ。あれもだな」

番長母「え……『久慈川りせ』って、あの『久慈川りせ』!?」

堂島「そうだ。なんか久慈川の親族がたまたま稲羽にいたとかで、こっちに来たんだが…そのときに知り合ったらしいな」

堂島「…そうだ、あとは『白鐘直斗』もいるぞ。テレビでよく見るだろ」

番長母「それ……あの探偵の、白鐘……!?」

堂島「ああ。そいつは実家が稲羽で、色々あって戻ってきたらしい」

番長母「……分かった。明日から聞き込みしてくるから、今日は泊めてちょうだい」



~翌日 ジュネス入口~

陽介「さーて、今日は暇だし誰か誘って映画でも…」

番長母「ちょっと失礼、あなた花村陽介くん?」

陽介「へ? はい、そうですけど」

番長「…私、番長の母です。去年は息子がお世話になったようで」

陽介「え……ええええええぇぇぇぇぇぇぇェぇっ!?」

陽介「あ、あなたが…番長のお母様!?」

番長母「あの子はここへ居候する前、あんなリア充じみた子じゃなかった…」

番長母「…聞かせてもらえますか。あの子がこの町に来て、何があったのか…」

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