泣くは人狼、嗤うは神狼[ゴッドイーター](38)

         今から数十年前もの話

   人類は突如として滅亡の危機を迎える事になった

アラガミ―捕食する単細胞生物の集合体を、人はこう呼んだ

 人を食い殺す存在を神と呼ぶのは、皮肉としか言えない

   すがる神無き時代に、人々は何を祈るのか―

        そんなの、決まってる

     誰もが笑って暮らせる、平和な明日―

      GOD EATER
     泣くは人狼、嗤うは神狼

初めての癖に急に思い立って立てたので全然書き溜めてません。
中二全開でのんびり投下しようと思います。
当然ですがゴッドイーターシリーズのネタバレ注意!

アラガミ達が居座る地表の上を過ぎ去っていく、回転音のうるさいヘリ。
僕はその中でこのヘリの目的地の事を考えていた。

?(極東支部、か…)

窓の外を眺めて、平和にも思える青い空に想いを馳せる。
極東、僕の生まれた故郷。
そう考えていると、不思議と嬉しさがこみ上げる。

そうこう考えている内に、ヘリは極東支部に着陸した。
僕はヘリの操縦者に礼を言うと、中に置いていた荷物と、大きな剣を抱えてヘリを降りた。

?(さて、と)

僕が今やるべき事はここの支部長に挨拶しにいく事だ。
ただ、いつもなら緊張だけなんだけど、今回に限っては少し憂鬱だった。

?(あの人の兄、かぁ···)

その話は僕を不安にさせるには十分すぎた。

「ようこそ、フェンリル極東支部へ。私がここの支部長を務めるヨハネス・フォン・シックザールだ」

目の前に座っている、知性を感じさせる男性ーシックザール支部長は、丁寧に挨拶をしてくれた。
少なくとも、あの人よりはましそうだ。

支部長「弟から話は聞いているよ、神月(かみつき)トウジ君」

トウジ「そうですか···なら、話は早いですね」

僕は深く息を吐く。説明すると非常に話が長くなるから、正直助かった。

支部長「しかし、特殊な力を持った新たなアラガミか···」

トウジ「それもこの企業と同名の奴ですからね···。皮肉にしては酷いものです」

一部の人間は喜ぶだろうな、と鼻で笑う支部長。
聞いている身からすれば、笑えないジョークだ。

トウジ(笑う···か)

ふと思い出す。耳をつんざくあの笑い声を。忘れられない高笑いを。
奴はただのアラガミじゃない。奴は···。

同時刻 とある場所ー

『アハハハハハハ!』

小型のアラガミに囲まれて、死を覚悟していた一人の男に、奇妙な声が響く。
気付けば男の周りに小型のアラガミは居なかった。代わりに···。

『ドコカラ喰ワレタイ···?キハハハハハハ!』

男が叫ぼうとした時には、男は影も形も無くなっていた。
残ったのは、巨大な漆黒の狼の笑い声だけだった···。

コミックスにフェンリルってアラガミいたよな

フェンリルーアラガミ発生後に大きく発展、成長した大企業。
国家という枠が非常に薄くなった今、世界を牛耳っているのはフェンリルだ。
ここがオラクル細胞の研究を進めた事で、人類は今も何とか生き永らえている。
各地に支部があって、そこら一帯の生活を支えている···と言えば聞こえは良いが、
実質ただの避難所だ。アラガミから完全に身を守れる場所じゃない。
そもそも、そんな所どこにも無い。

でも、そんな場所を生み出そうという計画が、この極東支部で進行している。
エイジス計画ーアラガミに喰われない、天を突くほどの大きな装甲によって、
アラガミとは無縁の楽園を創る···シックザール支部長はこの計画を手伝う事を条件に、
僕の活動を援助する事を約束しよう、そう持ち掛けてきた。

トウジ「勿論です。人類の未来の為なら、いくらでもやりますよ」

支部長「ありがとう。君のお陰で人類はまた一歩、平和な未来へ踏み出せるだろう···」

シックザール支部長は僕の快諾を、笑顔で喜んでくれたようだった。
アラガミの居ない世界···誰もが望んだ夢···必ず実現しなければ。

>>10
思い付いた時にたまたま調べてみたら既に居たと分かって愕然としてました。
折角オリジナルを考えたと思ったのに(-_-)

支部長は僕の為にすぐ部屋を用意するとの事だった。
用意する間に極東支部内を見て回ると良い、そう提案してくれた支部長の意見を聞いて、
まずは僕が配属される予定の技術班を見る事にした。

「···ん?お前さん、新人か?」

行こうとしていた時、背後から声をかけられる。

トウジ「え、はい。そうですが···貴方は?」

振り向くとそこにはいかにも適当そうな雰囲気を醸し出す男性が立っていた。

「俺か?俺は雨宮リンドウ、よろしくな」

男性が名乗った名前に、僕は心当たりがあった。て言うかありすぎた。

トウジ「雨宮リンドウって···あの伝説の!?」

リンドウ「伝説ぅ?俺、そんな大層な事してたっけ?」

トウジ「してますよ!色んな支部でも噂が流れるくらいですよ!極東支部のトップエースだって!」

リンドウ「ん~、ただ単にアラガミをぶっ殺しまくってただけなんだがなぁ」

困ったように頭を掻いて謙遜するリンドウさん。
こういう事をさらっと言えるから、エースと呼ばれているのかもしれない。

トウジ「あぁ!僕、神月トウジと言います!あの、これ、貴方と出会えたら渡そうと思っていた奴です」

名前を言ってなかった事を思い出して、慌てて自己紹介をしてしまった。
詫びの意味も含めて、リンドウさんにある物を荷物から取り出して渡す。

リンドウ「うぉっ、ビールが、え~1、2、3···たくさんあるな!これ、くれんのか」

トウジ「ええ!ビールが好きだと聞いていたので、持ってきたんです」

箱の中に横倒しになって入っている十個の缶ビールを、リンドウさんは指を差して三個まで数える。
その目は、まるでオモチャで遊ぶ子供のように無邪気だった。

リンドウ「サンキュー!部屋でありがたく飲ませてもらうわ」

頑張れよ、と手を振りながらビールの箱を抱えて、リンドウさんは自室へと向かったようだ。
僕も技術班へと足早に向かう。

ここ極東支部は何故かアラガミの数も種類も、他の支部と比べて圧倒的だ。
まさに最前線とも言えるこの場所に、人も技術も詰め込むのは当然の事だろう。
僕は様々な支部を渡り歩いてきたけど、ここまで設備が充実しているのはここぐらいだ。
日夜新しい技術がここで研究されていると思うと、居ても立ってもいられなくなってくる。

トウジ(これの強化も、きっと捗るな…!)

荷物の中に仕舞っておいた、小さくコンパクトに変形している大剣を取り出す。
銀の刀身、柄に埋め込まれている黄色い核、これはそう―。

「君!」

突然後ろから大きな声で呼び止められたと思ったら、腕を思いっきり引っ張られる。

「勝手に神機を持ち出したら…!…って、あれ?」

顔に機械油を拭ったような跡が付いた女性が、僕が手に持っている大剣を見ている。
怒った表情していたのに、すぐにきょとんとした表情になった。

「神、機…だよね?見た事ない形だけど…」

女性は興味深そうに大剣を見ている。
何だか今にも分解させられそうだ…。

トウジ「えっと、貴方は技術班の人ですか?」

「そうだけど…君は?」

トウジ「あの、今日から技術班に配属する事になりました、神月トウジです」

名前を名乗ると、女性は大層驚いていた。
そしてニッコリと笑って、顔の油汚れを拭う。が、消えてない。

「君がトウジ君かぁ。なるほどね」

何故か女性は僕の事を知っているようで、腕を組んで何かに納得している様子。

「あ、ゴメン、自己紹介がまだだったね。私は楠リッカ。これからよろしくね」

リッカさんと名乗った女性は、笑顔と手を僕に向ける。
握手を求められているようだったので、僕はその手を握った。
その手は思ったより固く、長年の経験を感じさせた。

トウジ「あの、何だか僕の事を知ってるようだったけど…」

リッカ「ナツちゃんが教えてくれたからね」

リッカさんの口から出た名前が、僕を驚かせる。
あのナツが?ありえない、と何度も頭の中で反復した。

リッカ「会いに行くといっつも君の話をするんだ。お兄ちゃんは凄いんだよ、ってね」

聞いている内にだんだんと恥ずかしくなってくる。
家族が僕の話をしていた、という事を聞かされるのは嬉しくもあったのだが。

ナツは僕の妹。恥ずかしがり屋で人見知りが激しい子だ。
家族以外と会話をする所は(僕があまり家に居ないのもあるが)見た事が無い。
そんな妹が、赤の他人と話して仲良くなっているのだ。
ナツが変わったのか、リッカさんが何とかしてくれたのか…多分後者だ。

トウジ「あ、リッカさん。その、父さんと母さんは?」

リッカ「元気だよ。神機開発に手伝ってくらいにね。まぁ、時々変な物作ってたりしてるけど…」

やっぱり、と僕は溜め息を吐く。
あの二人は自重っていうのを時々忘れる。
アラガミにでも喰われたのかってくらいに。

リッカ「ところでさ、君が持ってるのって、“誰でも持てる神機”って奴?」

リッカさんは僕がさっきから握り続けていた神機を撫でるように触る。
僕はそうだよ、と返事してリッカさんに神機を渡す。

神機ーそれはアラガミを殺す為に生み出された武器。
アラガミの体を構成している、何でも捕食して進化する、オラクル細胞。
それを制御して武器にした物、それが神機だ。要は武器型のアラガミ、と言える。
制御する為にはコアと偏食因子と、その神機と適合した人間が必要だ。

コアー神機が神機たる為には必ず必要な物で、壊れたら神機が使えなくなる。
元はアラガミの物で、それを人為的に調整した物が神機に使われている。

偏食因子ーこれは簡単に言うと、アラガミに喰われなくなる物。
アラガミにも偏食···つまり喰わない物があって、それを引き起こさせるのがこれだ。
これが少ない、もしくはない人が神機を使用しようとすると、神機に捕食されてしまう。

神機使いーまたの名をゴッドイーターと呼ばれる彼らは、神機に適合した人間だ。
アラガミに唯一対抗出来る、人類の剣であり、銃であり、盾であり、希望である。

リッカ「聞いてた通り、既存の形と違うね、これ」

トウジ「刀身の中に直接コアを埋め込まないと、機能しなかったんだよね」

黄色く燦然と輝くコアが、刀身の下からおおよそ120mm離れた所に埋め込まれている。
本来コアは、持ち手が付いた、神機のパーツを装備する為の部位に埋まっている。
だからこういった埋め方は、本当はすごくおかしい事なんだけどね。

その後も僕はリッカさんと楽しく話をしていた。
僕も一技術者だから、彼女の話はとても興味深かった。
リッカさんはかれこれ五年はこの仕事に関わっているそうで、
神機に対する造詣がとても深い。
その考え方もまた、僕が会ってきた技術者とは違っていた。

リッカ「こうやって神機の仕事に携わってると思うんだ。神機は仲間なんだ、って」

リッカさんは僕の神機を一通り確認し終えると、僕に返してくれた。
神機に対する真摯な姿勢に、僕は感銘を受ける。
ここまで神機の事を考えている人を、僕は知らない。

リッカ「そうだ、極東支部の技術の事がもっと知りたいなら、榊博士に聞くといいよ」

トウジ「さかきはかせ?···あの、偏食因子を発見した?」

僕の問いにリッカさんは知ってるんだ、と珍しがっていた。
僕は有名な事だと思っていたけど、案外皆知らないのだろうか。

リッカ「まぁ、凄い人なんだけど、ちょっと変わってるから···」

リッカさんは困り顔で頬を掻いている。
何かしらの被害に巻き込まれでもしたんだろうな···。

トウジ「ご忠告ありがとう。会ってみるよ」

僕は荷物を背負ったまま、榊博士に会いに行く事にした。
リッカさんの気を付けてね、という台詞は聞かなかった事にする···。

リンドウの自室ー

リンドウ「ん~、中々癖になるな、この味」

リンドウは一人、自室のソファーでトウジから貰ったビールを冷やし、何本も開けて呑んでいた。

リンドウ(しっかし、俺がビール好きだって噂まで流れるもんかねぇ···ん?)

リンドウは気付く。ビールの箱の底に何らかのメモが挟まっていた事に。

リンドウ「何だ、あいつの忘れもんか?···!···なるほど、な。そういう訳か」

リンドウはメモを見て少し微笑んだ後、ビールを十本全て呑みきり、懐から煙草を取り出す。
そして火を付けると、煙草を吸って煙を天井に向かって吐いた。

リンドウ「モテる男は忙しいなぁ···」

リンドウは半ば自虐的に呟くと、ビールの空き缶の一つに吸い殻を落とした。

僕は榊博士に会う為、研究室を訪れようとした。
その時、研究室から青いフードが目立つ、白い髪の青年が出てくる。
無愛想な視線が、僕を貫く。
そして僕に向かって歩いてくると、彼は僕の胸ぐらを掴んで壁に叩き付ける。

「何者だ、テメェ···」

トウジ「いっ、いや僕は···!」

ドスの効いた重い声は、まるで心臓を掴んでくるような錯覚を感じさせた。

僕は榊博士に会う為、研究室を訪れようとした。
その時、研究室から青いフードが目立つ、白い髪の青年が出てくる。
無愛想な視線が、僕を貫く。
そして僕に向かって歩いてくると、彼は僕の胸ぐらを掴んで壁に叩き付ける。

「何者だ、テメェ···」

トウジ「いっ、いや僕は···!」

ドスの効いた重い声は、まるで心臓を掴んでくるような錯覚を感じさせた。

被った···

「ソーマ!止め給え!」

ソーマ「···チッ」

研究室の反対の方向から、声が響く。
ソーマと呼ばれた青年は、僕から手を離すと、そのまま声の主を無視し、
エレベーターへ乗ろうとする。

「ソーマ!まだ話はー!」

ソーマ「説教なら御免だ···」

声の主の話を聞こうともせず、ソーマはそのままエレベーターに乗ってしまった。

エリック「華麗に話をしたい所ではあるが、ソーマに用があるのでね。失礼するよ」

エリックさんは僕に手を振ると、エレベーターに乗って華麗に去っていった。
変わった人のようだが、悪い人ではなさそうだ。
とりあえず、榊博士に会う事に。

榊「ふむ、実に興味深い!」

榊博士は僕の神機、そしてその説明を受けると大変嬉しそうだった。
細い目に大量のメガネ···いかにも胡散臭そうだが、この人が居ないと人類はアラガミと戦えなかった。

榊「中々に面白い発想だね。“捕食しない神機”とは」

トウジ「南極に行った時に発見したんです。捕食しなくなったオラクル細胞を」

榊「その代わり捕食に強い抵抗を持ち、細胞同士の列へ割り込む事が出来る、と」

僕は強く頷く。榊博士ほどの人に褒められるというのは、一技術者としては相当嬉しいものだ。

トウジ「まぁ、まだ実用的な技術では無いので···」

榊「神機としては殆ど機能しない、と言う事だね?」

僕は頭を抱えつつ、曖昧に返事をした。
神機がアラガミに通用する理由は、オラクル細胞が“捕食”しながら攻撃するからだ。
捕食をしない僕の神機では、確かに細胞の列に割り込んだとしても、それは細胞同士の結合が崩れる訳じゃない。
つまり今のままでは、この神機ではアラガミに傷一つ付けられないのだ。
たった一つの例外を除いて···。

榊「ふむ、君の神機はいわば1.5世代神機、と言った所かな」

トウジ「1.5世代?」

何々世代というのは、僕にはあまり聞き覚えが無かった。
素直に榊博士に聞くと、旧型神機を第壱世代、新型神機を第弐世代とすれば、その間に位置するから。
そう表情を崩さず説明してくれた。
旧型神機と新型神機の違いを簡単に説明すると、剣と盾がくっついた、もしくは銃だけあるのが旧型。
それら全てが一つに纏まったのが新型。
僕の神機にも剣の機能はある。銃も盾も勿論の事だ。
だが捕食出来ない、銃と盾が使いづらい、つまりは劣化新型なのだ。この点は旧型にも劣る。

トウジ「でも、いずれは新型をも超えてみせます」

榊「ふむ···ここだけの話、その新型なんだけどね、極東支部へ来る予定なんだ」

榊博士は僕の耳元でコッソリと話す。
新型神機は最近開発された物で、数少ない。
僕も一回ロシア支部で見た事はあるけど、触った事はない。
解析出来れば、僕の神機の強化に繋がるはずだ。しかし···。

トウジ「どうして僕にその事を?」

榊「何、良い話を聞かせてくれた礼だよ」

まぁ、すぐに皆知る事になる話なんだけどね。
榊博士は終始笑顔を崩さず、そう言ってみせた。

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