芳佳「ロマーニャの彼方へ」 (126)

    1945年 7月1日

 
ロマーニャ地方 第501統合戦闘航空団基地 



美緒「おい!はやくしろ!」


シャーリー「くっそぉ!どうしてこんなことに!」

美緒「早く救護室に!」

芳佳「リーネちゃん…!ごめんねリーネちゃん…!」

リーネ「」

美緒「いそげ!早くしないと死んでしまう!」


――――それは、突然だった。

 あろうことか、ネウロイとの戦闘中にリーネちゃんが負傷してしまった。
戦闘なんて慣れている。ネウロイの襲撃なんて珍しいことじゃない。
そんな一抹の油断が私にあったのがいけなかったのだろう。

リーネちゃんの服が血で服が赤く染まる。骨も数本折れてるんじゃないだろうか。

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芳佳「リーネちゃん!リーネちゃん!」


 私のせいだ。私がリーネちゃんをサポートしなければいけなかったのに。
どうしよう…
私の治癒魔法じゃ限界がある…


リーネ「……ハァ…ハァ…」

シャーリー「しっかりしろ!リーネ!」

芳佳「ううっ…グスッ…」

美緒「宮藤!はやく治癒魔法を!」

芳佳「はいっ…」ポゥ…


 お願い…起きて…
リーネちゃん…!

 
芳佳「リーネちゃん…!」ポォ…

リーネ「はぁ……はぁ……」


美緒「リーネ!しっかりしろ!」

シャーリー「頑張れ宮藤…!」

芳佳「………」ポォ…

リーネ「はぁ…はぁ…うぐっ!」

芳佳「!!!」


リーネ「うぅ…よ、よしか……ちゃん…」

芳佳「リーネちゃん!!」

美緒「宮藤!魔法力を弱めるな!そのままベッドに寝かせろ!」

芳佳「は、はい!」ポォ…




 
  ~第501統合戦闘航空団基地 救護室~


 なんとか一命はとりとめた。
でも、まだ眼は覚まさない。
ごめんねリーネちゃん…本当に………



芳佳「………」

リーネ「」

美緒「………」

芳佳「……ハァ…ハァ」

美緒「大丈夫か?宮藤」

芳佳「私は平気です…」ポゥ…

美緒「…治癒魔法はもういい、後は自然と意識が回復するのを待とう」

 
芳佳「そんなっ…」

美緒「いいと言ってるんだ。今度はお前が倒れてしまう」

芳佳「……」
        

         ガチャ…>


ミーナ「…様態はどう?」

芳佳「あ、中佐…」

美緒「見ての通り、まだ意識は戻らない……一度は宮藤の名前を呼んだんだがな」

ミーナ「……そう…」

芳佳「私の油断が招いたことです。本当に…すみませんでした」

ミーナ「宮藤さんが謝る必要はないわ」

美緒「ああ。悲しいことだが、戦争には必ず犠牲が生まれる…命があっただけマシだ」

 
芳佳「ううっ……グズッ……」

ミーナ「宮藤さんも疲れてるわね」

美緒「今夜は2人だけにしたほうがいいな…」

ミーナ「……そうね」

芳佳「ごめん……リーネちゃん……ごめん……」



美緒「宮藤……」

ミーナ「………」

 

 まだだよ…まだ大丈夫…
私は生きてる…リーネちゃんを助けられる…

 
リーネ「……ハァ…ハァ…」

芳佳「……ううっ…」ポゥ…


美緒「よせ!!!!!!」
      
芳佳「ひい!」


美緒「お前の体力も限界だろう…これ以上魔法力を使ったら…今度は宮藤が危ない!」
 
芳佳「でも…!でも…!」

ミーナ「美緒の言うとおりよ…宮藤さんも休まないとね」

芳佳「………」

   
美緒「……じゃあミーナ、私達は部屋に戻ろうか」

ミーナ「そうね」

 
芳佳「………」

ミーナ「宮藤さん、何かあったらすぐ報告を」

芳佳「……はい」

美緒「しっかり体を休めるんだぞ」

芳佳「はい……」


      ギイイ…バタン…>


 ……………
……………
…………

芳佳「リーネちゃん…」

リーネ「」

芳佳「………」




今はとりあえずここまで
続きは夕方を予定

再開
2週間近く遅れてしまったので一気に投下

 





   1975年 6月某日

 ~扶桑帝国 宮藤診療所~


宮藤「それじゃあお母さん、買い出しに行ってくるからね」

宮藤ママ「ん、行ってらっしゃい」

宮藤「えっと、卵と牛乳と…入浴剤と食器用洗剤でよかったっけ?」

宮藤ママ「あとボンタンアメ忘れるんじゃないよ」

宮藤「はいはい。あ、お客さん来たらちゃんと出て対応してね」

宮藤ママ「わかってるよ」

宮藤「前みたいに乱暴に追い返しちゃだめだよ?」

宮藤ママ「仕方ないじゃないの!あいつは怪しいセールスマンだったから…」

宮藤「ただの営業の人だって…」

宮藤ママ「とにかく、留守番は私に任せな」

 
宮藤「はいはい…」

宮藤ママ「ほら!早く!」

宮藤「行ってきます…」

     
      ガチャ…>


宮藤ママ「……ふう……」


    ?「おお、ここだここ」>


宮藤ママ「…?」

    ?「相変わらず場所がわかりにくい」>

宮藤ママ「!」

    ?「さて、宮藤は元気にしてるかな?」>

宮藤ママ(きっとあのセールスマンに違いない…!)

 
?「ごめんくださーい!」

宮藤ママ「誰だぁ!」

?「ひっ!」

宮藤ママ「あいにく娘は留守だよ!帰りな!」バシッバシッ

?「ま、待ってくれ!怪しい者じゃ……ひぃ!」

宮藤ママ「ここは診療所だよ!あなたのような人が来る場所じゃないの!えい!」バシッ

?「い、痛い!違うんだ!話を聞いてくれ!箒をおろせ!うぁっ!」

宮藤ママ「帰れ!!」





      ガチャ… >


宮藤「ただいま~お母さ~ん」

坂本「お、おう…宮藤…」

宮藤「さ、坂本さん!?」

 
坂本「久しぶりだな宮藤……いてて」

宮藤「どうしたんですか急に!?」

坂本「ちょっと近くを通ったんで様子を見に来たが…相変わらず元気な母親だ…」

宮藤「ああっ……すみません…」

坂本「いいんだ……いてて…」

宮藤「最近ちょっとボケが激しくなってるんです…」

坂本「無理もない…もう70歳近いんじゃないのか?…なのにあのタフさ…」

宮藤「ええ…年々おばあちゃんに似てきました」

坂本「女性は年をとるごとに気が強くなるってのは本当だったようだ」

宮藤「そのうち私もああなりそうで…」

坂本「ううん…さすが、宮藤を産んだだけのことはある…いてて」

 
宮藤「………今塗り薬持ってきますね…」


 何年ぶりだろう、坂本さんと会ったのは
扶桑に戻り、軍を抜けてからは元501のメンバーとは連絡すら取っていない
坂本さんだけが、唯一の付き合いだ


坂本「連絡も無しに、急におじゃましてすまない」

宮藤「気にしないでください、今の時代、田舎の診療所なんて来る人いませんから」

坂本「それでも、地元のウィッチにとって宮藤は憧れの存在なんだろう?」

宮藤「ええ、武勇伝は数知れず!」

坂本「はっはっは!さすが私が見出しただけのことはある!」

宮藤「もう…!」





 
坂本「……ずっとこの診療所を?」

宮藤「ええ、先代が残した大きな財産ですから……あ、お茶どうぞ」

坂本「おお、すまない」ズズッ…

宮藤「……ここだけは何があっても見捨てちゃいけないと思って」

坂本「そうか……偉いな」

宮藤「…坂本さんは何を?」

坂本「相変わらず、扶桑各地を転々と…な」

宮藤「……」

坂本「あてもなく生きてるさ」

宮藤「結婚は?」

坂本「してない」

宮藤「そうですか…」

坂本「ああいうのは性に合わん」

宮藤「………」

 
坂本「………どうした?」


宮藤「他の501のメンバーはどうしてるんでしょうか…」

坂本「なんだ急に」

宮藤「いえ……すみません」

坂本「………元気にやってるだろう」

宮藤「そうですよね…」

坂本「醇子なら、たまに連絡もとってるんだがな…他の国の連中は…」

宮藤「……」

坂本「……すまない…もう一杯お茶をもらおう……」

 
宮藤「あ、はい、どうぞ」

坂本「………」ズズッ

宮藤「坂本さん」

坂本「なんだ?」

宮藤「もし良かったら…ここで暮らしませんか?」

坂本「ぶふう!」


宮藤ママ「んあ?」

坂本「あ、すみません…」


宮藤「ここなら自然も豊かだし…!交通の便も悪くはないし…!坂本さんなら気に入ってくれると思うんです!」

坂本「う、ううん……」

宮藤「どうですか!?」

 
坂本「気持ちは嬉しんだが…」

宮藤「?」

坂本「私は死ぬまで旅したいんだ。ウィッチとして輝いていたあの時と同様、いろいろな体験をして、様々な人と出会い、私は成長するんだ」

宮藤「………」

坂本「すまない、宮藤…」

宮藤「いえ…」

坂本「………」

宮藤「…………」


 
坂本「じゃあ…今日一晩だけ留めってもらってもいいか?」

宮藤「…! は、はい!」

坂本「明日の朝ここを出発しようと思う」

宮藤「わかりました!今お部屋を用意しますから…!」

坂本「ああ、頼む」





 その夜、501のメンバーだった頃の夢を見ました
バルクホルンさんに叱られたこと…ミーナ中佐に表彰されたこと…
シャーリーさんのバイクに乗せてもらったこと…エイラさんに占ってもらったこと…

そして…リーネちゃんを助けたあの日のこと…

まるで本当に時が戻ったように、鮮明に、美しく…

………

 
    ~朝~

 

坂本「おい!宮藤!起きろ!」

宮藤「うう……うう………」

坂本「おい!宮藤!」


宮藤「ううっ……は!」ガバッ!

坂本「うおあっ!びっくりした!」

宮藤「はぁ……はぁ……」

坂本「大丈夫か?うなされていたぞ…」

 
宮藤「……」

坂本「………ずっと寝言で言っていたんだ…」

宮藤「?」

坂本「『リーネちゃんごめん…』『リーネちゃんごめん…』って」

宮藤「え…//」

坂本「いや、すまない。盗み聞くつもりはなかったんだが」

宮藤「………は、恥ずかしい」

坂本「宮藤、ずっと罪悪感を感じていたのか?」

宮藤「さぁ……どうでしょうか…」

坂本「……」

宮藤「もう30年も前のことなのに…」

坂本「………」

宮藤「………」

坂本「………よし」

 
宮藤「?」


坂本「宮藤、しばらく……えっと、1週間ほど診療所を閉めることになるが大丈夫か?」

宮藤「え?」

坂本「いや、無理ならいいんだ、ただちょっと…な」

宮藤「………どういうつもりかは知りませんが…母親一人残しても十分ですよ」

坂本「本当か!?」

宮藤「ええ、一人もお客さんがこない日だってありますから。来たとしても、私か母のどちらかが診るだけです」

坂本「そうか……!」

 
宮藤「……?」

坂本「……よし、今から空港へ行くぞ」

宮藤「え?……え!?」

坂本「早く荷物をまとめろ!数日分の着替えと化粧品!そしてパスポートとお金だけは絶対忘れるな!」

宮藤「ちょ…ちょっと待って下さい!どこに行くんですか!?」



坂本「決まってるだろ! ロマーニャだ!」


 こうして…半ば無理やりだったけど、坂本さんに連れられロマーニャへと旅立ちました
どういうつもりか知りません。後から思えば、断ることも出来たはず

なのに、ただ私は付いて行くことしか出来なかった…

―――遥か彼方、ロマーニャの地へ――――





 
宮藤「……?」

坂本「……よし、今から空港へ行くぞ」

宮藤「え?……え!?」

坂本「早く荷物をまとめろ!数日分の着替えと化粧品!そしてパスポートとお金だけは絶対忘れるな!」

宮藤「ちょ…ちょっと待って下さい!どこに行くんですか!?」



坂本「決まってるだろ! ロマーニャだ!」


 こうして…半ば無理やりだったけど、坂本さんに連れられロマーニャへと旅立ちました
どういうつもりか知りません。後から思えば、断ることも出来たはず

なのに、ただ私は付いて行くことしか出来なかった…

―――遥か彼方、ロマーニャの地へ――――





 
   1945年 7月1日 深夜

ロマーニャ地方 第501統合戦闘航空団基地 救護室


リーネ「………うっ…うう」

芳佳「……zzz」

リーネ「芳佳ちゃん…!」

芳佳「…う~ん……zzzz」

リーネ「ずっと診てくれてたんだ…」

芳佳「zzzzz」

リーネ「ありがとう芳佳ちゃ…………痛っ!」ズキ

芳佳「………う~ん……zzz」

リーネ「まだ完全には治ってないんだ…」ズキズキ

 
芳佳「………zzzz」

リーネ「………」


芳佳「………zzzzz」


           キイイィ… >

ミーナ「あら?」

リーネ「ミーナ中佐…!」

ミーナ「よかった……意識が戻ったのね」

リーネ「はい……でも、芳佳ちゃんが…」

ミーナ「心配いらないわ。宮藤さんはね、ずっと看病してくれてたのよ」

リーネ「………」

ミーナ「………2人共、無理は禁物よ」

 
リーネ「はい…」

ミーナ「今日はゆっくり休むこと。いいわね?」

リーネ「………あの…」

ミーナ「何かしら」

リーネ「ネウロイは…?」

ミーナ「ちゃんと破壊できたわ。トゥルーデとエイラさんが特に頑張ってくれたのよ」

リーネ「………」

ミーナ「………何かあったら、また」

リーネ「はい…」

ミーナ「あ、そうそう。良い忘れてた」

 
リーネ「?」

ミーナ「基地に保管してある無線機なんだけど…リーネさん最近使ったかしら?」

リーネ「いえ……一度もありません」

ミーナ「……そうよね。ごめんなさい、変なコトきいて」

リーネ「いえ、大丈夫です」

ミーナ「じゃ、またね」

 
       キイィ…バタン >


リーネ「………無線機?」


リーネ「………」



芳佳「zzzz……」





 
   1975年6月

ロマーニャ地方 ロマーニャ空港


宮藤「待ってください!坂本さん!」

坂本「はっはっは!長旅ご苦労!」

宮藤「はぁ…はあ……ちょっと腰が痛くて……あと息切れが……」

坂本「たるんでいる証拠だ!」

宮藤「ううう……」

坂本「えっと……バス停はどこかな……」

宮藤「坂本さん!いい加減教えて下さい!一体私達はどこに向かってるんですか!」

坂本「基地に決まってるだろう」

 
宮藤「…………え?」

坂本「501のロマーニャ基地だ」

宮藤「いやっ……その…」

坂本「あの基地に戻るのは30年ぶりだ。今はただの観光地になってしまっているが………あの頃にもう一度戻りたいんだろう?」

宮藤「あの…」

坂本「どうした?」

宮藤「何が目的で…」

坂本「宮藤、ずっと寝言で言ってたじゃないか。『ロマーニャに戻りたい』『基地に帰らなくちゃ』って」

宮藤「えっ……」

坂本「だから無理やり連れてきたってわけだ!はっはっは!」

 
宮藤「そんなぁ……」

坂本「ん?イヤなのか?」

宮藤「いえ……そういうわけじゃ…ただ」

坂本「ただ?」



宮藤「基地に行っても何をすればいいのか…」

坂本「何をしてもいいさ」

宮藤「……………はぁ」

坂本「私は、忘れ物をとりにいく」

宮藤「忘れ物…ですか?」

坂本「ああ、大事な大事な、忘れ物だ」

宮藤「………」

 
坂本「……………おっ、あのバスだ」


 === [ 第501統合戦闘航空団本部 跡地 行 ] ===


 
宮藤「……本当に行くんですか」

坂本「ああ」


 私はまた、坂本さんに付いて行くことしか出来なかった。
もちろん、不安もある。
でもそれ以上に、30年の間に失ってしまった"何か"を取り戻せそうな気がして…
私はバスに乗り込んだ。




 
  ~第501統合戦闘航空団基地(跡地)~


坂本「着いたぞ」

宮藤「はい」

坂本「おお!あの頃と全く変わってないじゃないか!」

宮藤「そうですね」

坂本「……ほら見ろ!ルッキーニがいつも寝床に使ってた木だ!」

宮藤「……ほんとだ」

坂本「30年経っても、まだまだ現役だな」

宮藤「ルッキーニちゃんが使ってた布切れまでそのままですね」

坂本「おお見ろ!シャーリーが残していった魔導エンジン式オートバイもあるじゃないか!」

 
宮藤「うわあ…懐かしい」

坂本「ずっとエンジンをいじっていたなアイツは」

宮藤「はい…私達のユニットも、調子が悪い時はいつもシャーリーさんに直してもらいました」

坂本「……中に入ろう」

宮藤「はい」






宮藤「これ…見てください!」

坂本「ん?」

宮藤「タロットカード…ということは」

坂本「…間違いなくエイラだな」

宮藤「エイラさん、これもここに残して行ったんですね」

坂本「いくつか持っていたからな」

 
宮藤「サーニャちゃんが使ってたクッションは…」

坂本「エイラがプレゼントした黒いやつか、あれはサーニャが持って帰ったんじゃなかったか?」

宮藤「ホントだ…探してもありません

坂本「ああ」

宮藤「懐かしいな~」


坂本「と、いうことはもしかして……」

宮藤「…?」

坂本「……ちょっとついて来い」

宮藤「は、はい」


   タッタッタ…

 
坂本「この部屋を覚えてるか?」

宮藤「えっと………確かバルクホルンさんと…ハルトマンさんの部屋?」

坂本「そうだ。あの日のまま残っていたとすれば…」


   ガチャ…


宮藤「うわああ!」

坂本「ほら見ろ!衣類の山だ!」

宮藤「ハルトマンさん……やっぱり片付けないまま去ってしまったんですね」

坂本「きっと『あれもない!』『これもない!』って大騒ぎしてたに違いない」

宮藤「それに対してバルクホルンさんが、『ハルトマン!お前もしかして…全部基地に置きっぱなしってことはないだろうなぁ!』とか何とか言って…」

坂本「『あ~そうだった~全然片付けてなかったよー』とか言ったんだろうきっと」

宮藤「……想像できますね」

坂本「はっはっは!」




 
 不思議な体験でした。
まるで、本当にあの日にタイムスリップしたような…不思議な感覚。
見るもの感じるもの全て、当時のまま。
肌に触れる空気も、30年前と同じでした…



坂本「どうだ?やっぱり来てよかっただろう」

宮藤「はい…」


 この浜辺から見る夕焼けは、いつも私の疲れた心と体を癒してくれた。
坂本さんやバルクホルンさんから叱られ、落ち込んでいた私を励ましてくれたのはシャーリーさんやハルトマンさん。
その後はリーネちゃんと他愛もない話をしながら晩飯を作って…
ペリーヌさんの淹れるお茶はほんとうに美味しい。今でも思い出す。



坂本「……もう日が暮れる。どこか適当に宿でも探そう」

宮藤「そうですね……」

坂本「明日もまたココに来て…そして、時間が余ればどこか観光でもしよう」

宮藤「はい…」

坂本「………」

宮藤「坂本さん、探しものは見つかりましたか?」

 
坂本「ああ」

宮藤「何だっ…………いえ、すみません」

坂本「ん?」

宮藤「あえて聞きません」

坂本「そうか、よし行こう。早くしないと宿が埋まってしまう」

宮藤「はい……って!坂本さん!予約してなかったんですか!?」

坂本「急だったからな…まあいいじゃないか!はっはっは!」

宮藤「まったく…」




 

  ~夜 ホテルにて~


坂本「おお、いい部屋じゃないか」

宮藤「なんとか一部屋だけ空いててよかったですね」

坂本「どうだ宮藤、行きたい場所とかあるだろう」

宮藤「……行きたい場所…?」

坂本「ああ、せっかくロマーニャに来たんだ」

宮藤「そうですね………」

坂本「………」

宮藤「……坂本さんについていきます」

坂本「なんだそれ」

宮藤「………すみません…まだちょっと気持ちの整理ができてなくて」

坂本「そうか、まあ無理もない」

宮藤「……」

 
坂本「………そうだ、ちょっと出かけてくる」

宮藤「どこにですか?」

坂本「今は内緒だ」


 そう言って、坂本さんは部屋を去って行きました。
ちょっと急いでいるようにも見えたけど…何だったんだろう。

1時間ほどして、息を切らしながら帰ってきました。
分厚い本を持って…



坂本「すまない宮藤、遅くなった…ハァ…ハァ…」



宮藤「いえ……で、なんですかその本」

坂本「これはだな…501の活動記録をまとめた伝記書だ!」

宮藤「伝記…?」

坂本「わざわざ本屋を探しまわったんだぞ」

宮藤「へぇ…」

 
坂本「ほら見ろ、『1945年。ロマーニャは、たった11人の幼き女性によって救われた!』って」

宮藤「うわあ」

坂本「ここに私達の当時のプロフィールが載ってるんだ。ほら、『宮藤芳佳、扶桑皇国出身、15才』って」

宮藤「こんな本が発売されてたんですね…マニア向けというかなんというか…」

坂本「なになに…メッセージ、『守りたいから、私は飛ぶ!』」

宮藤「うひゃあ!そんなこと言ってません!」

坂本「でも実際書いてある」

宮藤「は、恥ずかしい//」

坂本「どうだ?気持ちの整理は着いたか?」

 
宮藤「いえ、全然…!」

坂本「はっはっは!そうか…残念だ」

宮藤「ていうかこれ嫌がらせでしょう!」

坂本「ち、違う!」

宮藤「じゃあどうしてこんなもの買ってきたんですか!」

坂本「えっと……このページを見てくれ」

宮藤「?」


坂本「『リネット・ビショップ』」

宮藤「リーネちゃんの紹介ページですけど…これが何か?」

坂本「リーネのメッセージを見ろ」

宮藤「?」


   "大事な親友との約束、いつまでも忘れません。絶対に。"

 
宮藤「大事な親友?」

坂本「ああ、これがちょっと気になってな…」



宮藤「…私のことじゃないですよきっと。だって、リーネちゃんと交わした大事な約束って…」

坂本「心当りがないってか?」

宮藤「…はい」

坂本「本当か?」



宮藤「……」





 
   ~朝~


坂本「起きろ、宮藤!」

宮藤「zzzzzz」

坂本「おい!起きろ!もう朝だぞ!」

宮藤「………うはあ!」ガバッ

坂本「びっくりした!」

宮藤「す、すみません」

坂本「また寝言で言ってたぞ…『リーネちゃん…』『リーネちゃん会いたいよ』って」

宮藤「ええ!?」

坂本「嘘だ」


 でも、ずっとリーネちゃんが気になっていたのは確かです
リーネちゃんは今どこで、何をして暮らしているのか

また会える日は来るのか

過去を引きずって生きるのは良くないってわかってる
でも、もう一度会いたい、もう一度話したい
そんな想いは、ロマーニャに来てしまったことによってますます強くなるばかりでした

 
 

坂本「なんだ。元気がないな」

宮藤「はい…」

坂本「……もう一度、基地に行ってみるか?」

宮藤「いえ、もう見るものなんてありません」

坂本「そうか」

宮藤「…やっぱり、変な期待はしないほうがいいですね」

坂本「ん?」

宮藤「ここに来たら、"何か"が得られるんじゃないかって思ったんです」

坂本「…」

宮藤「501の皆はその後どこへ行ったのか…どこにいけば会えるのか」

坂本「私達と同じく、祖国に帰ったんだろう。元気にやってるさ」

宮藤「でも…」

坂本「何が言いたい」

宮藤「………すみません、やっぱり帰りましょう」

 
坂本「扶桑にか?」

宮藤「はい」


 ロマーニャに来たことが無意味だったとは思いません
でも、何も変わらなかったのは事実です
結局私は、夢の様な期待を持ってしまっていただけでした


坂本「なぁ宮藤」

宮藤「何ですか?」

坂本「……もう一度だけ」

宮藤「?」

坂本「もう一度だけ、探してみよう」

宮藤「…」

坂本「…お前の忘れ物をな」

宮藤「…………はい」

坂本「そして、それでもダメだったら…扶桑に帰ろう、な?」

宮藤「……わかりました」

坂本「諦めるのはまだ早いさ」

宮藤「……」





一旦中断

 
   1945年7月1日

 ロマーニャ地方 第501統合戦闘航空団基地


ミーナ「う~ん…やっぱりおかしいわ」

美緒「ん?どうしたミーナ」

ミーナ「ああ、美緒」

美緒「ずっと無線機なんか睨んで…」

ミーナ「いやちょっと…ね」

美緒「?」

ミーナ「…………さっき一瞬だけ、何処からかわからないけど電波を受信したのよ」

美緒「……」

ミーナ「……」

 
美緒「…え?受信?」

ミーナ「ええ、本当に一瞬だったから…応答は間に合わなかったんだけど」

美緒「最近誰かがこっそり使ったんじゃないのか?それで他の基地の連中と交信してるとか…」

ミーナ「そう思って全員に聞いて回ったけど、ここ暫く誰も使ってないわ」

美緒「うーん…不思議だ…」

ミーナ「故障かしら」

美緒「かなり古くから使ってるし、そろそろ寿命なのかもしれんな」

ミーナ「とにかく、無線機については私が対処するわ」

美緒「頼んだ。じゃ、私はそろそろ寝るとしよう」

ミーナ「こんな状況でも、相変わらず規則正しいのね」

 
美緒「こんな状況だからこそだ!私がヘタってちゃ皆に示しがつかん!」

ミーナ「うふふ、美緒らしいわね」

美緒「ミーナ、おやすみ」

ミーナ「ええ、おやすみなさい」




タッタッタ‥>

ミーナ「あら?トゥルーデ?」

バルクホルン「おいミーナ!リーネと宮藤は無事なのか!?」

ミーナ「ええ」

バルクホルン「そうか。それはよかった」

ミーナ「一時はどうなるかと思ったけど、宮藤さんの魔翌力はこういう時に助かるわね」

バルクホルン「ああ、無事ならいいんだ。すまない、話を割ってしまって」

ミーナ「気にしな…」


       ピーーーーーーーーー>

 
ミーナ「!!」

バルクホルン「!!」

ミーナ「また!どうして今日に限って…!」

バルクホルン「外部のいたずらか?」

ミーナ「かもしれないわね」

バルクホルン「じゃあそのまま無視しよう。私達はヒマじゃないんだ」

ミーナ「………いえ、応答しましょう」


 
  ~ 救護室 ~


芳佳「うっ…ううん…zzz」

リーネ「芳佳ちゃん…」

芳佳「…zzzzzz……うはぁ!」ガバッ!

リーネ「ひい!」

芳佳「はあ…はあ…」

リーネ「お、おはよう…芳佳ちゃん」

芳佳「……リーネちゃん…!」

リーネ「ごめんね芳佳ちゃん、心配かけちゃって」

芳佳「……うっ……ううっ」

リーネ「芳佳ちゃん?」

 
芳佳「うわあぁぁぁ…グズッ……グズッ……りーねちゃあん…りーねちゃぁん……うわあああああん!!!」

リーネ「な、泣かないで芳佳ちゃん…!」

芳佳「よかったよぉ……本当にっ……ひっく……よかったよおお!」

リーネ「ごめんね…ごめんね…」


      ガチャ…>



シャーリー「おお、やっとふたりとも目を覚ましたか」

リーネ「シャーリーさん…」

シャーリー「もうあんな無茶するんじゃないぞー二人共」

リーネ「はい……あの、ありがとうございます」

 
シャーリー「ん?」

リーネ「ミーナ中佐から聞きました…負傷した私を背負って基地まで運んでくれたって」

シャーリー「良いってことさ」

芳佳「すみませんシャーリーさん。皆にはなんて謝ったらいいか…」

シャーリー「気しなくていいぞ。誰も防げなかったことなんだ…皆に責任はある」

芳佳「………」

シャーリー「ほら、晩飯だ」ガラガラ…

芳佳「…!」

リーネ「…!」

シャーリー「2人がずっと寝たきりだったから、少佐と中佐が作ってくれたんだ」

芳佳「わぁ…」

シャーリー「ジャガイモのスープと、味噌汁と、体にやさしい雑炊だ。まぁ…味は保証しないけど…」

リーネ「ちょっと被ってますね…」

シャーリー「仕方ない…」




 
 リーネちゃんともっと話したい。リーネちゃんを励ましたい。
ふたりきりで居るとそんなことばかり思ってしまう。
リーネちゃんが動けない今、私に何ができるだろう…


芳佳「ねえ…リーネちゃん」

リーネ「?」

芳佳「窓開けていいかな…」

リーネ「うん、いいよ」

   < ガラガラ…


芳佳「……うわぁ…」

リーネ「どうしたの?」

芳佳「……すごいよ…見てよこれ」

リーネ「……無理だよ」

芳佳「え?」

リーネ「ベッドから動いちゃいけないって…中佐に言われたから…」

芳佳「…じゃあベッドごと動かしてあげる」

リーネ「……えっ?」


 
芳佳「よい…しょ!!」ギィ!

リーネ「きゃあ!」


    ギイ…  ギギイ…

芳佳「うんしょ……よいしょ…」


    ギギギ… ギイイ…

リーネ「だ、大丈夫!?」

芳佳「全然…へい…き!!!」


   ギイイイ!!

芳佳「はあ…はあ…」

リーネ「あ、ありがとう」

芳佳「ほら…空を見てよ。この絶景を」



リーネ「…うわあ!凄い!」

芳佳「こんなにきれいな星空初めて…!」

 
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      。                 ゚   .           。


リーネ「素敵…」

芳佳「美しい…」


 501の空には、きらびやかな星がいつまでも輝いていました
大きくて不条理なこの世界を、大切に包み込むように、優しく…
そんな温かい光の集まり

この星空は、私達をどこか遠くへ連れて行ってくれそうな…
そんな気がしました


 
リーネ「こんなの初めて…」

芳佳「気付いてなかっただけかな…?」

リーネ「ん?」

芳佳「もしかしたら、毎晩これくらい輝いていたのかもしれないよ」

リーネ「そんな…!」

芳佳「…わけないよねっ」

リーネ「………ふふふっ」

芳佳「えへへ…」





 
 
 
    1975年6月某日


 ロマーニャ地方 第501統合戦闘航空団基地(跡地)



宮藤「また来ちゃいましたね」

坂本「ああ」

宮藤「……」

坂本「昨日は時間の都合で、隅々までは見られなかったからな」

宮藤「はい…」

坂本「……もっと細かく探してみるべきだ。私はそう思う」

宮藤「……」


 30年という時は実に残酷だ。
目に見えるものはそのまま残せても、見えないものは変わってしまう。
私には、当時のまま残されたこの基地の風景も、ただの色あせた絵のようにしか感じられません。



 
宮藤「見てください」

坂本「…お風呂か」

宮藤「シダだらけです」

坂本「仕方ない」

宮藤「ルッキーニちゃんやハルトマンさん達とはしゃぎ回り…バルクホルンさんにいつも叱られていたあの頃の面影はありません」

坂本「ああ、そうだな」

宮藤「ここから眺めるロマーニャの海は絶景だったんですよ。一日の疲れがすべて吹き飛ぶ、あの湯加減と絶景」

坂本「知ってるさ…」

宮藤「……」

坂本「……」

 




宮藤「……はあ」

坂本「…見つかったか?」


 そんなこんなで基地を見て回ること数時間…
結局、昨日と同じ結果

忘れ物のない忘れ物探しは終わるはずもなく、ただ意味もなく基地を散策していただけでした


宮藤「何も」

坂本「そうか」

宮藤「………それはそうと坂本さん」

坂本「ん?何だ?」

宮藤「どうして私にこんなことさせたんですか?」

坂本「……」

 
宮藤「別に、余計なお世話ではないんですけど…501に未練があるわけでもないし、今は扶桑での暮らしに満足しているつもりです」

坂本「わかってる……」

宮藤「確かに、私は過去を引きずっているのかもしれません…でも、その過去の思い出に囚われて生きていくのは嫌なんです!」

坂本「…」

宮藤「本当にすみません…ここまでしてもらってるのに…何も結果を出せなくて」

坂本「いいんだ。無理やり私情に付きあわせて済まなかった」

宮藤「ロマーニャに来てわかりました………501の思い出は、すべて私の過去の一部分に過ぎなかったって…」

坂本「そうか……………さ、あと行ってない部屋は一つだけだ。そこを見たらもう帰ろう」

宮藤「扶桑にですか?」

坂本「ああ」




 
宮藤「って、ここなんの部屋でしたっけ?」

坂本「ええと…そうだ、思い出した」

宮藤「?」




坂本「無線機の保管部屋だ」




宮藤「なんだ、じゃあ私は全く入ったことがない部屋ですよ」

坂本「ミーナくらいしか無線機を使ってなかったからなあ」

    < ガチャ…

宮藤「…」

坂本「さ、入れ」

 
宮藤「ありがとうございます…」




坂本「……これだな、懐かしい」

宮藤「私はあまり使い方がわかりませんでした。結局、中佐が外部と連絡する際にしか使用してなかったですよね」

坂本「たまに調子がおかしくなるんだ。その都度シャーリーが直していたけど…」

宮藤「さすがにもう壊れてますよね」


坂本「うん……………よし、ちょっとイジってみるか」

宮藤「ええっ!」

坂本「扶桑に戻ってから機械について少し勉強したからな、もしかしたら直るかもしれん」

宮藤「そんな…勝手に」

坂本「元々は私達のものだ。問題ない」

 
宮藤「……」

 
 そう言って坂本さんは無線機のカバーをおもむろに外しました
直ったからと言って誰に送信するわけでもなく、この無線機がどこかから電波を受信するわけもない

坂本さんの忘れ物って、なんだったんだろう
基地の壊れたものを直していくことだったのかな


坂本「ここを…こうやって……」バチュッ!バチィ!


宮藤「…」


坂本「……こうして…こうして……」バチッ!バチイ!

宮藤「……」


坂本「…駄目だ!」ガンッ!

宮藤「はや!」


坂本「もういい、諦めた」

 
宮藤「…帰るんですか?」

坂本「ああ、私はもうここに居る理由はない。変なことに付きあわせてしまって、申し訳なかった」

宮藤「いえ。久々に基地を見ることが出来て楽しかったです」

坂本「そうか」


      バチッ! バチッ!>


坂本「ええっと…今からだと飛行機は間に合いそうもないな」

宮藤「…」

      ピーッ! ガガッ バチイ! >
        ザッザー… ガガガ… >

坂本「今日も一晩ロマーニャに泊まるか」

宮藤「…」

 
       ガガ……ザー… >
          ピーピー…バチッ… 『コチ…ゴ…』 バチッ!>


宮藤「!!!!」

坂本「また宿を探さないと」


      ザザッザアアアア… 『クウダン……』ザ、ザ… 『ミ、…ンデ』 ザザァア… >
     ピー… バチッ!  >

宮藤「坂本さん!!! 待って下さい!!!!」

坂本「どうした」


      『オカシイ…ワネ…』 ザザアァァ… バチッ! >
          バチッ! バチィ! ザザッザァァ >

宮藤「……直ってます…」

坂本「!」

宮藤「しかも……この無線機の電波を、別の無線機が受信してます!!!!」


 

 
坂本「そんな馬鹿な!」


宮藤「……お…応答して下さい!そちらはどなたですか!」


      バチッ…ザザッ『ノイズガ…ヒド』バチッ……ザアアア >
            ザザアア…バチイ!… >

坂本「…!」

宮藤「!!」

           ブツン! >

坂本「……」

宮藤「……」

       シーン…

宮藤「…坂本さん、聞きましたか?」

坂本「ああ、聞こえた…はっきりと」

 
宮藤「………応答した人って…もしかして」

坂本「間違いない」




宮藤「……ミーナ中佐でした!」

坂本「ああ………ああ!」

宮藤「どうして…!」

坂本「……宮藤!もう一度繋げるぞ!」

宮藤「はい!」




     カチッ…カチッ…

        ガガ、ガー…ピー… >

坂本「……」

宮藤「……」

坂本「駄目だ、繋がらなくなった」

宮藤「………………」




 
 それから何度も試しました
でも、無線機は一切反応ありません。また元の壊れた無線機に戻ってしまいました
あれは何だったんでしょう。確かに応答したのはミーナ中佐でした

どうしてミーナ中佐と…?

………もしかして

いや、そんなはずはない。ありえない



坂本「さっきのはなんだったんだろうな」

宮藤「……」

坂本「どうしてミーナの声が聞こえたんだ」

宮藤「………」

坂本「おい、聞いてるのか」

宮藤「……坂本さん、空を見て下さい」

坂本「?」

 

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      。                 ゚   .           。


坂本「おお!素晴らしい星空じゃないか!」

宮藤「…」

坂本「空気が澄んでいる山奥や、人里離れた地域じゃないと見られないものだと思っていたが…」

宮藤「……」

 
坂本「ん?元気が無いな宮藤。無線機が直らなくて機嫌を悪くしたか」

宮藤「いえ、そういうわけじゃ。ちょっと考え事を…」

坂本「?」

宮藤「………ふと、こんなこと思ったんですけど」

坂本「どうした」

宮藤「この地域でここまで星が綺麗に見える日って、滅多にないんですよ」

坂本「そうなのか」

宮藤「それも、今日みたいに6、7等星までハッキリ見える空って」

坂本「…そういや、当時もここまで綺麗に星が見える日は無かった」

宮藤「………要するに、ありえないほどに今日は空気が澄んでいるんですよ。ロマーニャの空は」

坂本「そういうことになるな」

 
宮藤「よく、サーニャちゃんが夜間紹介中に他国の電波を受信していたの知っていますか?」

坂本「ああ、夜中は電波が遠くまで届くらしい。夜中にラジオをつけると他の国のラジオ番組が聞ける」

宮藤「…で、さっきの無線機の話なんですけど」

坂本「ああ」



宮藤「………30年前の501基地と繋がったってことは考えられないですか?」

坂本「!?」




宮藤「……あ、すみません変なコト言って」

坂本「……………ちょっと待て、要するに……電波が時空を飛び越えたということか」

オーロラの彼方へか
いい映画だよな

 
宮藤「はい。そういえば当時も一度、今日のように星が綺麗に見えた日があったはずです」

坂本「……」


 馬鹿なこと言ってるのはわかってる
でも、やっぱりそうじゃないとオカシイ
このポンコツ電波を受信する無線機なんて、今の時代あるはずがない
そもそもこの無線機が電波を送信できるはずもない

…確かにあの時、私達は無線機からミーナ中佐の声を聞いたんだ



坂本「ふふっ」

宮藤「?」

坂本「はっはっはっは!」

宮藤「!?」

坂本「ただのノイズだったんじゃないのか。誰かに電波が届いてほしいと思うあまり、つい私達は無線機のノイズをミーナの声と勘違いしてしまったんだ」

宮藤「そんな…!」

坂本「じゃあもう一回試してみるか?」

宮藤「……はい」




 
坂本「……いくぞ」

宮藤「はい」


      ガ、ガー…ブツッ… >
     ガーガ、ザー…ブツッ… >

坂本「………」

宮藤「………」


      ガ、ガー…ブツッ… >
     ガーガ、ザー…『マタ…』ブツッ…『イタ…カシラ』ザ、ザー >

坂本「………!」

宮藤「………!」


?『…第…イチ…ごウ戦闘航空団ロマーニャ基地』

 
坂本「!!!」

宮藤「!!!」

?『あなた、さっきも送信したわね?私達に何か用かしら』

坂本「つ、繋がった…!」

宮藤「やった…!」

坂本「み、ミーナか?」


ミーナ『ええ、そうよ……あの、どちら様で…』

?『ほらみろミーナ、やっぱりただのイタズラだった』

宮藤「!!!」

坂本「その声は…バルクホルンか…?」

 
バルクホルン『なっ…貴様!何故私の名前を知っている!!』


宮藤「ええっと…なんて言えばいいか…」

坂本「まだ名乗ってなかったな……………私は坂本だ」

バルクホルン『坂本…?』

坂本「坂本美緒だ。知ってるだろう?」




バルクホルン『……………………ふざけるな!!!!!』

宮藤「ひい!」


バルクホルン『はは!生憎だな!少佐は今、自室にいるんだ!嘘をつくなら、もう少し信憑性のある嘘をつけ!!』

ミーナ『ちょ、ちょっとトゥルーデ…』

 
坂本「本当だ!信じてくれ!」

宮藤「………待って下さい」

バルクホルン『何だ』

宮藤「………"自室にいる"って…どういうことですか」

バルクホルン『どういうことも何も…少佐は朝早いからな。もうこの時間には寝てるんだ。私達になりすますんだったら、もう少し詳しく調べてこい』


宮藤「…………ひとつ質問しても…」

バルクホルン『もういい!回線を切る!』

ミーナ『ま、待ってトゥルーデ!』

宮藤「ミーナ中佐……あの…」

ミーナ『何かしら』



宮藤「………今、そちらは西暦何年ですか?」

 
 

 
今日は一旦中断
明日方再開します

また落ちなければね

再開しまーす

 

ミーナ『……』

坂本「……」


宮藤「……」





ミーナ「……あなた、おかしな質問をするのね。今は1945年の7月1日に決まってるじゃない」


宮藤「!!!!」

坂本「!!!!」

宮藤「ほ…ほらあ!」

坂本「なっ……」

 
バルクホルン『なんだ、勝手に盛り上がって』

坂本「信じられん…宮藤の言ったとおりになるとはな」

 私だって信じられません
本当に無線機が30年前と繋がってしまったなんて…
でも、確かにこの声はバルクホルンさんとミーナ中佐です




坂本「お、おい……ミーナ、それは本当か?」

ミーナ『私は事実を言っただけよ?』

バルクホルン『頭がオカシイんじゃないのかお前たち。じゃあ回線を切るぞ。私達もそろそろ寝ないといけないんだ』




宮藤「ちょ…ちょっと待って下さい!」

バルクホルン『何だ!!』

宮藤「信じてもらえないだろうけど…バルクホルンさん…私は…」

バルクホルン『見知らぬ人から、当たり前のように名前を呼ばれるのは気持ちが悪い』

 
宮藤「私は……宮藤芳佳です!!!!」

バルクホルン『ああ!?』

宮藤「"元"501統合戦闘航空団の宮藤芳佳です!!」

バルクホルン『何を言って…』

宮藤「あなたはゲルトルート・バルクホルン大尉ですよね! 覚えてますか!?私は…わたしは宮藤芳佳です!!!!!」

バルクホルン『確かに声は似ているが……今、宮藤はリーネを看病しているはずだ』

坂本「宮藤…泣いてるのか?」




宮藤「ずっと…ずっと会いたかったんです…!ヒグッ……話がしたかったんです…ッ…!501の皆と…! 私は…っ! 1975年の宮藤芳佳です!!!!!!!」


 
バルクホルン『もういい、疲れた。たくさんだ』

坂本「ま、待て!」

バルクホルン『ミーナ、今日の一件を上層部に報告しよう。然るべき処置を取らなくては』

ミーナ『…………』

バルクホルン『ミーナ?』






ミーナ『…素敵じゃない』

バルクホルン『はああ!?』

ミーナ『なんということなの…30年後の世界と、無線機で繋がったというのね………奇跡よ!』


宮藤「ミーナ中佐…!」

バルクホルン『ちょっと待てミーナ』

 
坂本「はっはっは!さすがミーナ!話が早い!」

ミーナ『ふふふ……美緒…30年経っても元気は衰えないわね』

坂本「ああ!今でも訓練は怠っていないからな!」

バルクホルン『おい!そんな筈ないだろう!! 無線機が時空を超えて繋がったぁ!? そんな話信じられん!』

ミーナ『でも実際繋がってるじゃない』

バルクホルン『じゃあ…30年後の宮藤と少佐とやら、501のメンバーしか知らない情報を言ってみろ』

坂本「はっはっは!お安いご用だ!なぁ宮藤!」

宮藤「はい!」


 
坂本「バルクホルン、お前の実力は501の中でもピカいち。だけど自分にも他人にも厳しく当たる癖がある」

宮藤「クリスという闘病中の妹がいます。可愛らしい服をプレゼントしたこともありましたよね……バルクホルンさんはどんな時でも妹想いの、心優しい人です」

バルクホルン『な…』

坂本「あと、シャーリーのことは名前で呼ばす、ずっと"リベリアン"と呼んでいた。でも、シャーリーの実力は一目置いていた。違うか?」

バルクホルン『な!だっ誰が奴のことなんか!』

宮藤「シャーリーさんは、バルクホルンさんにとって良きライバルであり、ベストパートナーです」

バルクホルン『……くっ!』

坂本「ミーナ、お前は個性豊かな501の面子をまとめ上げる素晴らしい隊長だ。ネウロイだけでなく、いつも口うるさく命令する上層部とも戦っていたのを知っているぞ」

宮藤「怒ったらちょっと怖いけど……でもいつも仲間を大切にする、皆の憧れです」

ミーナ『ふふふっ』

坂本「と、いうわけだ。何なら全員分のエピソードを話してやろうか」

宮藤「さすがに信じていただけますよね!?」

 
バルクホルン『いや……まだだ…!まだ私は認めない!』

宮藤「えー…」

バルクホルン『わかったぞ!誰かが情報を外部に漏らしたな!?ルッキーニか!ハルトマンか!いや、それともサーニャが夜間紹介中に…』

ミーナ『まったく…』


 相変わらずバルクホルンさんは堅物だなぁ。どうしたら信じてもらえるだろう…

 
――――あ、そうだ    いいこと考えた…



宮藤「じゃあ…バルクホルンさん、お願いがあります」

バルクホルン『何だ!』

宮藤「なんでもいいです。何か文字を無線機の近くの壁に刻んで下さい」

バルクホルン『ああ!?』

 
宮藤「その文字を私達が答えたら……信じてもらえますか?」

坂本「そうか、なるほど!ミーナたちがこの部屋に何かしらの変化を与えると、必然的に私達のいる部屋も変化するということか!」

バルクホルン『いいだろう……ミーナ、ナイフを持ってるか?』

ミーナ『ちょっと待って……』タッタッタ…


 伝えたいことは山ほどある
この30年の間に、世界はどう変化したのか
私達は何をして暮らしてきたのか

そして…一番伝えたいことは…


ミーナ『おまたせ。トゥルーデ、お願いね』

バルクホルン『あ、ああ……』

宮藤「できるだけ深くお願いします」

 
バルクホルン『……』



    ガリ……ガリ…… >
     ガリ…ガリ…  >


坂本「!!」

宮藤「文字が…浮かんでる」


バルクホルン『書き終わったぞ。さっさと当ててみろ』

坂本「……なるほど」


  ”STRIKE WITCHES hier am Leben bleiben ”(ストライクウィッチーズはここに生き続ける)

 
 

 
宮藤「バルクホルンさん…"ストライクウィッチーズはここに生き続ける"…そう書きましたよね」

バルクホルン『何っ!』

ミーナ『あらあら、30年間も恥ずかしい台詞が刻まれてしまったのね』

坂本「どうだ!これで信じるしか無いだろう!」

バルクホルン『本当に……未来の少佐と宮藤……なのか』

坂本「はっはっは!さっきからそう言っているだろう!年上への訊き方がなってないぞバルクホルン!」

宮藤「わかってくれて何よりです」

バルクホルン『そんな馬鹿な……』




ミーナ『ねえ、美緒…』

坂本「何だミーナ」

ミーナ『聞きたいことはたくさんあるわ…でもね』

坂本「?」

 
ミーナ『……ふふっ…出来るだけ、未来の楽しみはとっておきたいの』

坂本「だろうな」

ミーナ『……ありがとう美緒』

坂本「ん?」

ミーナ『30年経っても、私のことは忘れないでいてくれたのね………』

坂本「ああ!一時も忘れたことはないぞ!ずっと……ずっとミーナと話がしたかったんだ……私は………ッ…」

ミーナ『不思議ね……私達の世界にも美緒はいるのに、いつでも会えるはずなのに…何故か涙が出てくるの…』

坂本「………私もだ」


   ガガガッ!! ピーガガガ! >

宮藤「!!」

坂本「!!」

 
    ブツッ……ブツッ……ピー! >
    ガガ、ガガガ…ブツッ! >

 
 大変だ…回線が切れちゃう…
もっと話したいことがあるのに…
今しかないのに…!



宮藤「すみませんバルクホルンさん!ちょっとお願いが!」

バルクホルン『何だ』

宮藤「そっちの世界のリーネちゃんを呼んで下さい!今すぐに!!」

 
 言わなきゃ、リーネちゃんに…
これを逃したら次はない
何が何でも、伝えるんだ

やっと気付いたんだ

――――それが私の、忘れ物だって


バルクホルン『駄目だ、リーネは今負傷していて、ここまで動けるような状態じゃない』

宮藤「じゃあ私を呼んで下さい!!!!」

バルクホルン『……待ってろ、急いで連れてきてやる』





 
     1945年7月1日

 ロマーニャ地方 第501統合戦闘航空団基地



芳佳「リーネちゃん、何か飲みたいものとかある?」

リーネ「ええと……冷たいお茶がほしいな」

芳佳「じゃあペリーヌさんにお願いしてもらってくるね!」

リーネ「うん!ありがとう!」


   ガチャ… バタン >




芳佳「……ふうぅ、夏とはいえ、夜は冷えるなあ」

芳佳「それにしても、何で今日に限ってあんなに空が透き通って見えるんだろう」



芳佳「不思議だなあ」

 
 
 
   ダダダダダダダダダ…! >


芳佳「ん?バルクホルンさん?」

バルクホルン「んはあ!!!! みやふじいいいいい!!!!!!!」

芳佳「うわ!びっくりした!」

バルクホルン「緊急事態だ!聞いてくれ!」

芳佳「ど、どうしたんですかそんなに慌てて!」

バルクホルン「ええと……なんて話したらいいか…」

芳佳「?」

バルクホルン「と、とにかく!宮藤が宮藤を呼んでるんだ!」

芳佳「はぃ?」

 
バルクホルン「だからその……未来の宮藤がだな…過去の宮藤に言いたいことがあって…」

芳佳「???」

バルクホルン「その……えっと…ムセン………ええい、もういい!! 走れ!!!」

芳佳「ええ?えっ!? うわっ!うわわわわ!!」

     < ダダダダダダダ…




バルクホルン「ミーナ!宮藤を連れてきた!」

ミーナ「ありがとうトゥルーデ!でももう回線が途切れそうなの!」

バルクホルン「なにっ!宮藤!早くこっちへ!」

芳佳「ちょ、ちょっと待って下さ~い!」タッタッタ…


 
    1975年 6月30日

 ロマーニャ地方 第501統合戦闘航空団基地(跡地)


 

宮藤「!!」

バルクホルン『よし宮藤!準備はいいぞ!』

芳佳『ちょっと一体何の騒ぎで…』

宮藤「ありがとうございますバルクホルンさん」

バルクホルン『構わん!』


 早く話さなきゃ。
30年間ずっと言いそびれてたことを。
電波が切れる前に。

早く――――


宮藤「こ、こんにちは」

 
芳佳『あれ~?何か私と声が似てるー』

宮藤「びっくりしたよね。ごめんねいきなり連れて来ちゃって」

芳佳『いえ、全然………えっと、誰ですか?』

宮藤「君だよ。未来の君」


芳佳『えっ…………』

宮藤「えへへ」



芳佳『ええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!』


ミーナ『ふふふっ』

坂本「はっはっは!」

芳佳『ちょっと待って下さい…意味が…』

宮藤「ごめんね。ちゃんと詳しく説明したいんだけど……もう時間がないんだ」

 
芳佳『そんな…』

宮藤「君の親友……リーネちゃんにね、こう伝えて欲しいんだ」

芳佳『う……うん』



 ありのまま、浮かんだ言葉を全て伝えました

ちゃんと言えたのかわかりません
支離滅裂だったかも…ノイズが混じって聞き取れなかったかも…

でも、私は全て伝えた
その瞬間、30年ずっと抱えていた胸のわだかまりが、まるで雪のように溶けました

少女の私は元気よくその場を走り去り、そして――――


     回線が途絶えました。

 
 
 
 

 
        ボォン!!!!!! >

宮藤「うわあ!」

坂本「おお!」


 黒煙を上げ、大きな音をたて爆発し、そして無線機は2度と動かなくなりました
役目を終えて、永遠の眠りにつくのだろう
30年間放置されていたこの無線機もまた、忘れ物を回収できたのかもしれません



坂本「…完全に壊れたな」

宮藤「………」

坂本「見てみろ、電極が腐ってる……動線も全て錆びている」

宮藤「………」

坂本「………」

宮藤「…………」



宮藤「………………」






 
    1945年 7月1日

 ロマーニャ地方 第501統合戦闘航空団基地 救護室

 
     ガチャ… >


芳佳「……ただいまリーネちゃん」

リーネ「おかえり……遅かったね」

芳佳「うん、ちょっとね」

リーネ「あれ?芳佳ちゃん、お茶は?」

芳佳「へ?……あ!!」

リーネ「忘れちゃったの…?」

芳佳「え…えへへ…」

リーネ「全く…芳佳ちゃんったらぁ……ふふふ」

芳佳「えへへへ~」

 
リーネ「………………ほんとうに綺麗だね」

芳佳「…ん?」

リーネ「空のこと」

芳佳「あっ…あ~、そうだね…」

リーネ「…………どうしたの?元気ないよ?」

芳佳「…リーネちゃん、ちょっと今話いいかな?」

リーネ「え?いいけど…」

芳佳「海岸に行こうよ」

リーネ「…ええ!?」

芳佳「ほら、おんぶしてあげる。………今度は絶対ケガさせないから」グイ

リーネ「ちょ…ちょっと待って芳佳ちゃ………きゃあ!」

 
芳佳「よっと!」グイッ!

リーネ「痛い…!」

芳佳「あっ…ごめん…!うわわ!」フラフラ

リーネ「芳佳ちゃんも休んだほうがいいよ~!」フラフラ

芳佳「ダメ……なんだよ……休んでちゃあ……」フラフラ


リーネ「えっ?」


芳佳「…行くよ」ダッ!

リーネ「きゃあ!」





 
  501統合戦闘航空団基地 海岸沿い



芳佳「はぁ……はぁ……」

リーネ「芳佳ちゃん!無理しちゃダメ…!」

芳佳「大丈夫っ………うわああ!」フラッ

リーネ「きゃあああ!」

芳佳「ああああ!」


    < ドサッ!!


リーネ「痛い…」

芳佳「うう……ごめんリーネちゃん」

リーネ「大丈夫……………」

 
芳佳「ケガさせないって言っちゃったのにね…ごめん」

リーネ「………………………」

芳佳「リーネちゃん?」

リーネ「………………見て」

芳佳「………うわあ…………」


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リーネ「………」

芳佳「…………」

 
リーネ「………ふふっ……言葉が出ないね」

芳佳「うん……」

リーネ「………ずっと………こうしていたい」

芳佳「………ミーナ中佐に怒られちゃう」

リーネ「大丈夫………こんなに綺麗なものが見られたんだよ?」

芳佳「…………ねえ」

リーネ「なあに?」

芳佳「さっきの話のことなんだけど…」

リーネ「?」




芳佳「あのね、30年後の今日、この海岸で会おうよ」

 
 

 
リーネ「……………うん!」


芳佳「絶対だよ?」

リーネ「絶対、忘れない」

芳佳「………絶対私はここに帰ってくるから。リーネちゃんをずっと待っとくからね」

リーネ「じゃあ私は芳佳ちゃんより先に着いておくね」


芳佳「えへへ//」

リーネ「ふふっ//」




 







   1975年 7月1日

 ロマーニャ地方 第501統合戦闘航空団基地(跡地) 海岸沿い



 私の心に新しく刻まれた、古い記憶

――――"今日、この場所で待つ"ということ

リーネちゃんは来るのかな? なんて声かけようかなぁ
何の話をしようか…

そんなことを考えていると、会いたい気持ちを抑えられない


坂本「私は先に空港で待ってるぞ」

宮藤「はい……」

坂本「……じゃあな。宮藤の忘れ物、見つかってよかったな」

 
宮藤「はい…」

坂本「あ、そうだ。ちょっとこれを見てくれ」

宮藤「へ?」

坂本「私が買った例の伝記書なんだが…リーネのページをみてくれ」



   "芳佳ちゃんとの約束、いつまでも忘れません。絶対に。"



宮藤「!!!!」

坂本「……はっはっは。じゃ、空港で先に待ってるぞ。二人の仲を邪魔する気は毛頭ないならな」


 そう言い残し、坂本さんは基地を去って行きました
坂本さんの後ろ姿が、少しさみしく見えたのは気のせいでしょうか




宮藤「…………あ!ちょっと待って下さい!」

坂本「何だ?」

 
宮藤「坂本さんの忘れ物ってなんだったんですかぁ!?」



坂本「………烈風斬だよ!私の宝物だあ!」

宮藤「烈風斬……」

坂本「言わすなよぉ!恥ずかしいじゃないかぁ!!」

宮藤「………えへへ」



 そう言って坂本さんと別れ、私は海岸に一人残されました


どのくらい時間が流れただろう
まだかな……リーネちゃん…
もしかして忘れちゃったのかな…?


   ザザアァァ… >
     ザザアァァ… >

 
宮藤「…………」

   ザザアァァ… >
     ザザアァァ… >


 
 気が付くと正午を過ぎていた
波の音だけが虚しく響く



宮藤「…………」

   ザザアァァ… >
     ザザアァァ… >


 

 今更、諦めたくない。
やっと見つかった忘れ物なんだ。
それを回収しないと、扶桑に帰れない…

お願い…お願い……

 
宮藤「………」

   ザザアァァ… >
     ザザアァァ… >

?「あの……」

宮藤「!!!」


   ザザアァァ… >
     ザザアァァ… >


?「宮藤芳佳さん…でしょうか」

宮藤「はい…………はいっ……!」



?「…………ごめんね遅くなって」

 
宮藤「…うん…いいよ……別……にっ………ううっ………グズッ」


リーネ「…………久しぶりだね」

宮藤「リーネちゃん……!久しぶり……!」


リーネ「……芳佳ちゃん…!」

芳佳「リーネちゃん…!」

リーネ「芳佳ちゃん!!!!」

芳佳「リーネちゃん!!!!」

リーネ「芳佳ちゃあん!!!!」ギュ!
芳佳「リーネちゃあん!!!!」ギュ!


 30年の時を越え、私達は再会しました。
お互いのぬくもりを確かめるように、いつまでも抱き合って…



リーネ「ごめんね…ごめんね……私のほうが遅かったね…」

 
芳佳「大丈夫だよ……全然……グスッ……待ってないから………!」

リーネ「……覚えていてくれたんだね…!」

芳佳「リーネちゃんこそ……!」

リーネ「当たり前だよ…!親友との約束だもん…!」


芳佳「リーネちゃああんっ!」ギュウ!
リーネ「芳佳ちゃああんっ!」ギュウ!



 
 さっきまで虚しく感じた波の音も、今は2人を祝福するファンファーレに聞こえる
私達は時間を忘れいつまでも、砂浜の上で泣いて、抱き合いました


これが私の、ちょっぴり不思議な物語

――――科学では説明できない、素敵な体験です。



  ~おしまい~

 
      epilogue

   ~ロマーニャ空港にて~


空港警備員「困るんだよね、こんな危ないもの機内に持ち込もうとしちゃ」

坂本「すみません…」

空港警備員「ちょっと詳しく話聞くから。これどこで手に入れたの?」

坂本「えっと……基地で」

空港警備員「はあ?」

坂本「………すみません」

空港警備員「……まぁいいや、名前は?」

坂本「烈風斬」

空港警備員「いや、君の」




宮藤「早く扶桑に帰りたい……」


  ~完~

>>76で指摘されたとおり、参考にした映画はこれ↓
http://www.youtube.com/watch?v=trIMt9mZIdU

見てる人いたのかわかんないけど、読んでくれた人はありがとう
また機会あればSS書きたい

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年03月07日 (金) 16:13:39   ID: DdPla_17

感動した

2 :  SS好きの774さん   2014年09月27日 (土) 11:10:19   ID: gL1b7dcs

すげーいいよこれ
笑顔の魔法 もおすすめ

3 :  SS好きの774さん   2014年11月11日 (火) 20:20:32   ID: 1irZkqiy

全俺が泣いた

4 :  SS好きの774さん   2015年07月14日 (火) 12:21:11   ID: 6Plwol15

こういう独特の切なさが残る作品は大好き。
今までのssで一番感動した。
みんなにも読んでほしい。

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