美希「ミュウツー……?」(299)

 
ガチャッ

美希「おはようございますなのー」

ミュウツー「……」

美希「えっ、誰?」

小鳥「ああ、おはよう美希ちゃん」

美希「小鳥、この紫っぽい人、誰? 角生えてるけど」

小鳥「プロデューサーさんよ」

美希「プロデューサー?」

ミュウツー「みゅー」

小鳥「そう! うふふ、765プロに、ついに待望のプロデューサーさんがやってきたのよ!」

美希「へー……」

高木「街で偶然彼に出会ってね、一目見た瞬間にティンときたのだよ。
   『この若者は只者じゃない!』とね」

美希「ふーん」

高木「美希君も、自己紹介するといい。これから彼と私達は、
   長い時間を共に過ごすことになるのだからね」

美希「うん! ミキの名前は星井美希だよ、よろしくね、プロデューサー!」

ミュウツー「……」

美希「あれ? ねぇプロデューサー、あの……うっ」

『よろしくおねがいします』

美希「な、なに!? 頭に直接、声が……」

ミュウツー「ミュー」

高木「彼はどうやら物静かなタイプらしく、口をあけても『ミュー』としか言わないのだ。
   でも大丈夫、こんな風にテレパシーが使えるようだから、コミュニケーションに支障はないだろう」

美希「そ、そうなんだ……」

ミュウツー「……」ティーン

『これから一生懸命頑張ります!』

美希(みょんみょんって頭の中で声が響いてる……ちょっと気持ちワルイの……)

美希(目つきも悪いし、肌の色もちょっとヘンだし、スーツに穴あけて尻尾生やしてるし……)

美希(あんまり、ミキのタイプじゃないかも……あーあ、もっとカッコいい人なら良かったのにな)

ミュウツー「……みゅー」シュン

美希「? どうしたの、なんかガッカリしてるみたいだけど……」


ガチャッ


春香「おっ、おはようございますっ! すみません、遅刻しちゃ……」

くらっ

春香「う、うわっ、うわわあ! 転んじゃ──」

ミュウツー「……」スッ

ミュウツーの サイコキネシス!▼

春香「……? あ、あれ? 転んでない?」フワフワ

美希「え!? は、春香、なんで浮いてるの!?」

春香「浮いて……わぁっ!? ほ、ほんとだっ!」

春香「わ、私、いつの間にこんな力を……! やったぁ、これでもう転ばなくて済むかも!」

高木「ウォッホン! あー、天海君。残念だがそれは、君の力ではないのだよ」

春香「え?」

ミュウツー「……」ミョンミョン

美希「? 目が光ってる……もしかしてこれって、プロデューサーがやったの?」

ミュウツー「ミュー」コクン

高木「彼はテレパシーだけでなく、このように手を触れなくても物体を動かす力……
   いわゆる超能力も嗜んでいるようだ。今天海君が浮いてるのは、その力だよ」

春香「そうなんですか……あーあ、ちょっとガッカリ」

ストン

春香「っていうか、あの……その、あなたは?」

小鳥「春香ちゃん、この人はね──……」


美希「……」

美希(プロデューサー、春香を助けてくれたんだ)

美希(見た目はちょっと気持ちワルイけど、案外優しいところあるのかも……)

美希「……ねぇねぇ、プロデューサー!」

ミュウツー「?」

美希「プロデューサーのお名前は、なんていうの?」

ミュウツー「……」

『私の名前……研究所では、ミュウツーと呼ばれていました』

美希「ミュウツー……?」

『はい』

美希「っていうか、ケンキュージョ? プロデューサーは学者さんだったの?」

ミュウツー「みゅー……」

美希「……」

美希(なんだろ、声も聞こえなくなって、ちょっとしょんぼりしてるみたい。
   あんまり昔のこと、思い出したくないのかな? イジめられっ子だったのかも……)

『……私のことを呼ぶなら、プロデューサーで結構です』

美希「う、うん」

美希(きっとこんな見た目だから、いろいろ苦労してたんだね……ちょっとかわいそう)

 
……

美希「すぅ、すぅ……むにゃむにゃ」

ミュウツー「……!」

『星井さん、星井さん!』

美希「う、頭が……プロデューサー……?」

『レッスンの時間ですよ、起きてください!』

美希「わ、わかったの! わかったから、あんまりおっきな声、直接頭に聞かせないで!」

……

美希「あふぅ……あれ、春香は?」

『仕事にいきました。他のアイドルの皆さんも、星井さんが眠っている間に』

美希「そっか~。みんな忙しいんだね」

ミュウツー「……」

『他の皆さんは、仕事が少なくても自分達で取りにいっているようですが、
星井さんはそうしないんですか?』

美希「んー、ミキはそういうの、ちょっと……」

美希「ミキ的には、のーんびり、自分のペースでアイドルが出来れば、それでいいかなーって」

ミュウツー「……」

美希「一生懸命お仕事を探してるみんなはとっても偉いって思うけど、
   ミキにはそういうの合ってないって思うな。疲れちゃうし……」

『……いいんですか?』

美希「え?」

『せっかくの人生の若い時間を、そんな風に無為に過ごして、
星井さんはそれでいいんですか?』

美希「な、何? プロデューサー、怒っちゃった……? 目がもっと怖くなってるよ」

ミュウツー「……ミュー」

『見たところ、星井さんの個体値はかなり高いようです』

美希「コタイチ?」

『才能があるということです。それなのに、努力値がまったく振られていない。
それではもったいないですよ』

『……個体値が低いという理由だけで捨てられる者を、私はたくさん見てきました。
それなのに星井さんは、天から才能を授かったにも関わらず……!』

美希「や、やめてやめて! 頭、いたいよ!
   そんなにいっぺんに頭に話しかけないで~!」

美希(なんかよくわかんないけど、怒られちゃった)

美希(ミキの考えって、そんなにダメなことかな?
   アイドルって楽しいお仕事でしょ? それなのに……)


テクテク……


ミュウツー「……」

美希「……」

美希(……もう話しかけてもこないし)

美希(さっきは優しい人かな? って思ったけど……
   やっぱりプロデューサーって、あんまりミキとは合わない人かも)


『……レッスンスタジオが見えてきましたよ』

美希「……うん」


美希(あーあ。これから、どうなっちゃうのかな……)

 
一方その頃……


黒井「……ええい! まだ奴は見つからないのか!」ドンッ

研究員「す、すみません!」

黒井「クソっ! だからあれほど、目を離すなと……」

黒井「ミュウツー……。我が961プロが長年研究し生み出した、
   最強のアイドル……」

黒井「誰かの手に渡る前に、一刻も早く連れ戻すのだ!」

研究員「はいぃっ!」タタッ


……バタン

ガタガタ……!

黒井「ん? ……ククク、どうした、怒っているのか?」

黒井「それはそうだろうな。しかし、ボールの中にいる限り、貴様には何も出来まい」

ミュウ『……!』

黒井「──奴の強大な力さえあれば、この芸能界は私達961プロのもの……」

黒井「見た目はちょっぴり怖くなってしまったが、問題ない。
   これから更に改造を重ね、イケメンフェイスにさえすればそれでいいのだ」

ミュウ『……』

黒井「貴様はこのボールの中で、自分の子供が華麗なるアイドルデビューを果たす瞬間を見ているがいい」

黒井「ククク……ハーッハッハ!」

──────
────
──

 
数日後……

ガチャッ

美希「ふわぁ~……おはようございまーす……」


春香「えへへ、本当ですか?」

ミュウツー「ミュー」モグモグ

『本当においしいですよ、この天海さん特製のポロック。
思わずうつくしさが上がってしまいそうだ』

春香「よかったぁ、頑張って本読んで練習したかいがありました!」


美希「……」

美希(春香とプロデューサーが、楽しそうに話してるの)

美希(初めてプロデューサーが事務所に来て春香を助けてあげたときから、
   あのふたりはずっと仲良しなんだよね……)

美希(……もしかして春香って、あーいう怖い系の男の人がタイプなのかな?
   春香ならもっと普通の人を好きになりそうだけど……人は見かけによらないってカンジ)

春香「……あっ! 美希、おはよ!」

美希「おはよーなの。……ねぇ、春香、耳貸して」

春香「え? なになに?」


ヒソヒソ……

美希「……あんまり、良い趣味じゃないって思うな」

春香「趣味? なんのこと……?」

美希「プロデューサーのこと、お気に入りなんでしょ?」

春香「お気に入り、って……」

春香「……」

春香「……ちっ、ちち、ちがうわよ! 何言ってるの、美希!」カァァ

美希「アハッ☆ 隠さなくてもいーの。なんとなくわかっちゃうんだから」

春香「ちょ、ちょちょ、やめてよ、もうっ!」


ミュウツー「……」

春香「もう……っていうか、私がどう思ってるかっていうのはともかく、
   見た目でそんな風に判断するなんてダメだよ。
   プロデューサーさんが優しい人っていうのは、美希だってわかるでしょ?」

美希「うーん、そうだけど~……」

美希(あれからプロデューサーは、あんまりミキに怒ってこなくなったの。
   毎日遅くまでみんなのためにお仕事してるみたいだし、
   悪い人じゃないっていうのはわかるんだけど……)

美希「でも、ミキ的には、もっと肌色っぽい人のほうが良いなぁ。
   それにプロデューサー、髪の毛も散っちゃってるみたいだし」

春香「髪の毛って……」


ガチャリ……

真「おっはようございまーす!」

ミュウツー「っ!」ガタッ

『お、おはようございます、菊地さん!』

真「あ、プロデューサー! へへっ、今日も元気そうですねっ!」

『は、はい……』


春香・美希「……あれ?」

真「あっ、ていうかプロデューサー。なんかよそよそしく感じるし、
  ボクのことは菊地さんじゃなくて、真って呼んでくださいって言ってるじゃないですか。
  それに敬語だっていりません!」

ミュウツー「……」モジモジ

『そ、そうか? それじゃあ……真』

真「はいっ! なんですか?」

『いや、特に用はないんだけど……へへ』


春香・美希「……」

美希「……ね、春香」

春香「な、なによ」

美希「真くんとプロデューサー、なんか仲良いね」

春香「……うん」

美希「……プロデューサーってもしかして、真くんみたい子が好きだったり」

春香「か、関係ないでしょ!」

真「いやーでもやっぱり、初めて会ったときとは見違えるなぁ!」

美希(初めて会ったとき?)

真「あのときはなんていうか、荒れてたみたいだったけど……
  それが今では、スーツ着て、ボク達のプロデューサーをやってるんですもんね!」

『も、もういいじゃないか、そんなこと』

真「へへ、そうですね! それじゃあプロデューサー、今日もバリバリ頑張っていきましょう!」

……

美希「……ねぇ、真くん」

真「え? どうしたの、美希」

美希「さっき、初めて会ったときって言ってたけど、
   真くんが会ったときはプロデューサー、今とは違ってたの?」

真「ああ、そのこと? 実はね……」

真「ボクとプロデューサーは、プロデューサーが765プロに来る前に、
  一回会ってるんだ」

美希・春香「え!?」

真「あれはいつだったかなぁ、確か、二週間くらい前……」

~回想~

チャリンチャリン

真「……好きだよ♪ 心込めて♪ 好きだよ♪ 力込めて♪」

真「うーん、やっぱり良いなぁ、このニュー自転車!
  さっすが百万円もするだけあるよね、最高の乗り心地だ!」

真「まさかそれが商店街の福引で当たっちゃうなんて、本当にラッキーだったよ」


シャー……


真「好きだよ♪ 声をあげ──」


──ドガァァァァァン!!!!


真「っ!? な、なんだ!? 爆発!? あっちから……」チラッ


パラパラ……


ミュウツー「……! ……!」

真「……なに、あの人……?」

ミュウツー「……」ギロッ

『人間……?』

真(や、やばい、目が合った! なんだかよくわかんないけど、あの人は絶対ヘンだ!
  早くここから逃げないと……!)

ググッ……

真「……!? な、なんだ……ペダルが、重い?」

ミュウツー「……」ミョンミョン

真「くそうっ、全然動かない……!」


『──人間、人間人間人間……!』


真(それに、さっきからなんだよ、この頭に響く声……!)


ミュウツー「……!」ブンッ

ミュウツーの シャドーボール!▼

ゴォォォォ!!


真「……うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」

パラパラ……

真「……ハァ、ハァ……! いつつ……」

『……避けられた? いや、かすかに当たった。
格闘タイプか……効果はいまひとつのようだ』

真(なんだよ、今の……!? とにかく本当にやばい!)

真「早く自転車乗って──って」

自転車だったもの「」ボロ……

真「……」

ミュウツー「……」

『しかし、格闘タイプなら話が早い。サイコブレイクで──』

真「ちょっとぉぉぉぉぉ!!!!」

『えっ』

真「じ、自転車! 壊れちゃったじゃないか!! どうしてくれるんだよ!!」

『いや、その……』

真「ボクの大事な自転車だったんだぞ! 百万円もするんだから!!」

『百万円……だと……?』

ミュウツー「……」オロオロ

『……いや、そんなことは関係ない!
確かに百万円は大金だけど、ここで口を封じてしまえば……』

真「フンっ!!」

まことの インファイト!▼

ミュウツー「ゴフッ」

『速い……! それに、効果はいまひとつなのに……この威力……!』

真「……勘違いするなよ。ボクは、そう簡単に人に暴力なんて振るわない」

ミュウツー「……?」

真「でも、あの爆発もお前の仕業だろ? さっきの不思議な力でやったんだな」

『それがなんだと言う……』

真「人に迷惑をかけるお前は、悪い奴だ! それならボクは容赦しない!」

真「正義の鉄拳を食らえっ!」

がっし! ぼか!

ミュウツー「……!? ……!!?」

『つ、強い……! 本当に人間か!?』

 
……

真「ハァ、ハァ……」

ミュウツー(瀕死)「……」

真「反省したか?」

『お前は一体……人間じゃないのか? ポケモン?』

真「ポケモン? なに言ってるんだ?」

『人間の力を大きく超えている……』

真「……ボクは、人間だよ。人間の、アイドルだ。
 まだ全然仕事はないけどね」

ミュウツー「……」

真「……って、やばっ! レッスンにいかないと!
  もう悪いことするんじゃないぞ! じゃあねっ!」


タッタッタ……


ミュウツー「……」

『アイドル……』

~回想おわり~

真「ってことがあって」

春香・美希「……」

高木「おそらく、そのあとだろうね。私は街中で、
   スーツを着て職を探していた彼に出会ったのだよ」

春香「しゃ、社長!? いつの間に……」

高木「ハハ、いいじゃないかそんなことは」

……

高木「……どうやら彼は、すぐにでも大金が必要だったらしい。
   もしかしたらそれは、菊地君の自転車を弁償するつもりだったのかもしれないな」

高木「しかし、世界は実にせまいようだねぇ。菊地君と彼との間にそんなことがあり、
   今ではこうしてアイドルとプロデューサーという関係になっているとは……」

真「へへっ、本当ですね!」

美希「……真くん、もう怒ってないの? 自転車壊されちゃったのに……」

真「うん! 今はもう反省してくれたみたいだし……
  プロデューサーがボク達のために頑張ってくれてるのは、ちゃんとわかってるからね」

ミュウツー「……ミュー」

『……皆さん、そろそろ仕事の時間ですよ。
久しぶりのテレビの仕事、頑張っていきましょう』

春香・真「はーい!」

美希「……」


美希(真くんの話だったら、今よりもっともっと怖い人だったみたいだけど……、
   プロデューサーは今ではミキ達のために、頑張ってくれてる)

美希(……それって、なんでかな? なんでそんなに、変われたんだろ)


『星井さん』

美希「……うん。今行くの」


美希(……あとで、聞いてみよっと)

──────
────
──


司会『……はい、ナムコエンジェルの皆さんでした!
   三人ともとっても可愛らしく歌ってくれましたね』

司会『続いては……』


……


テクテク……

真「いやぁ、やっぱりテレビの仕事って楽しいね!」

春香「うん! でも私、ちゃんと喋れたかなぁ……
   うぅ、緊張しちゃって頭真っ白だったよ」

真「大丈夫だよ! 春香はちゃんとおしり──って、美希? どこいくの?」

美希「あ、えーっと……ちょっと、おトイレ」

真「そ、そっか。ごめん、ヘンなこと聞いちゃった」

美希「……すぐ戻るから、ふたりは先に行ってて!」タタッ

~収録スタジオ~

アイドル「~♪」


美希「あ、いた……プロデューサー!」

ミュウツー「……?」

『星井さん? どうしたんですか、衣装のままで』

美希「……プロデューサーこそ、何やってるの?
   もうミキ達の出番おわったのに、まだスタジオにいるなんて」

『研究です。他のアイドルの皆さんから、少しでも技術を盗まないと』

美希「研究? でも、見てるだけでしょ?」

『……記憶力には、自信があるんですよ』

……

美希「……ねぇ、プロデューサー」

『はい』

美希「プロデューサーは、どうして、ミキ達のために頑張ってくれてるの?」

ミュウツー「……」

美希「真くんの自転車壊しちゃったみたいだけど……それをベンショーするため?」

『……それもあります』

美希「……でもそんなの、知らんぷりしちゃえばよかったんじゃないかな。
   百万円なんてお金、簡単に用意できないよ、たぶん……」

『星井さんが私の立場だった場合、そうするんですか?』

美希「ち、ちがうよ! ミキだって、壊しちゃったらちゃんとベンショーする!」

美希「……でも前のプロデューサーは、今よりもっと、
   なんていうか……怖い人だったんだって聞いたの。
   そういう人って、そうするんじゃないの? 知らんぷり……」

ミュウツー「……」

『……確かに、真の自転車のことを無視することも出来ました。
それに正直に言ってしまえば、私はそれほど、あのことを悪いとは思っていません』

美希「じゃあ、なんで?」

『……私は、人類──特にその中でも、
アイドルという種族の人間について興味を持ったんですよ』

『……アイドルという存在は、圧倒的な力をもって人々を支配するものだと聞いていました』

美希「え!? なにそれっ!?」

『研究所で、そう教えられていたのです。そして私は──……』

ミュウツー「……」

美希「? プロデューサーは……どうしたの?」

『……いえ』


……

ミュウツー「みゅー……」

『……しかしあのとき──真の拳を受ける中で、
不思議なことが起こったのです』

『私の中の暴力的な部分が静かになっていく……
それはまるで、母に抱きしめられているときのようでした』

美希「お母さん?」

『……もう随分と会っていませんが、私は確かに覚えている。
母の胸のあたたかさを……』

美希(こういうの確か、マザコンっていうんだよね。小鳥が言ってたの)

『……本気を出してしまえば、反撃し真を傷つけることも出来たでしょう。
しかしそのとき私には、そんなことをする気にもならなかった』

『そして、去り際に真は言いました。「自分はアイドルだ」、と……』

美希「……」

『……アイドルは、私が思っているような暴力的な存在ではない。
なぜなら私の中の「はかいのいでんし」は、真によって全て消え去ってしまったのですから』

『だから私はその後、スーツに身を包み、アイドルに関わる仕事を探し始めたのです。
人間の世界ではこうすることが通例だと聞いていましたから』

『「アイドル」とは何か──その本当の存在理由を、知るために』

美希「……そーだったんだ」

……

ミュウツー「……ミュー」

『あなた達をプロデュースし、真のアイドルといえるまで育て上げる。
そうすることで私は、「アイドル」について深く知ることができる……』

『それが、先ほどのあなたの質問の答えです。
なぜ私が星井さんたちのために頑張るのか、という質問の……』

美希「……ふーん」

『だから結局は、自分のためですよ。ご期待に沿う答えでなく、申し訳ありませんが』

美希「……なーんか、ムズかしいこと考えてるんだね。
   アイドルがどんな人かだなんて、そんなの、考えなくても簡単にわかるのに」

ミュウツー「?」

『簡単?』

美希「そーなの! アイドルはね……」

美希「ステージの上でキラキラ輝いて、みんなを笑顔にする人のことだよ」

『……笑顔……ですか』

美希「うん!」ニコッ

ミュウツー「……、」

美希「……あっ! プロデューサー、今ちょっと笑った?」

『え?』

美希「アハッ☆ もしかして、プロデューサーが笑うとこ、初めて見たかもしれないな~。
   いつもは怖い顔してるけど、笑うとちょっとだけ、可愛いんだねっ!」

『か、可愛いって……』

美希「そうやって、ずっと笑ってればいいの! そうしたらきっと、今よりモテると思うよ?
   どーせ彼女、いないんでしょ?」

『そ、そう言われても……どうせ私は、タマゴみはっけんグループですから』

 
ミュウツー「……」

ミュウツー(無邪気に笑う彼女の姿を見ていたら、
      この顔の筋肉が、私の意志とは関係なく、自然に弛緩してしまった)

ミュウツー(……これが、笑顔……。これが、アイドルの力)


美希「それじゃあ、もういこ? 研究なんてつまんないことしてないで、
   みんなで事務所に帰ろーよ」


ミュウツー(……今、少しだけ、知ることが出来たのかもしれない)

ミュウツー(この私が生まれた理由──『アイドル』について……)


『……はい! そうですね──』



カツ、カツ……

黒井「……ようやく見つけたぞ、ミュウツー……!」



ミュウツー「っ!?」

黒井「ククク……近頃、妙な姿の生き物が芸能界に身を置いていると聞いて、
   このような小さな番組まで足を運んでみたが……」

黒井「どうやら、私の予想通りだったようだな……!」

美希「……おじさん、誰?」

ミュウツー「……っ!」

『星井さんっ! 下がってくださいっ! そいつは──』

黒井「ええい、オジサンではない! この私は、セレブで、エーレガントで!
   世界で最も優秀なプロダクション!」

黒井「961プロダクションを率いる、社長の黒井崇男だぞ!」

美希「全然知らないの……あふぅ」

黒井「ぐっ……! クソ、これだから高木のところのアイドルは……!」

ミュウツー「……」

黒井「……よりにもよって、掃き溜めの765プロに飼われているとはな。
   これ以上貴様が汚れてしまう前に、帰るぞ」

ミュウツー「……」フルフル

『……お断りだ……!』

黒井「何ィ……?」

ミュウツー「」キッ

ミュウツーの にらみつける!▼

黒井「うっ……なんで貴様がその技を」

『就職活動中に、ホームレスのファイヤーさんに教えてもらったんだ』

黒井「就職活動だと……?」

『……貴様らは、私に嘘をついた。アイドルが力で人々を支配する存在であるとっ!』

黒井「……フン、事実、そのとおりだろう」

黒井「アイドルとは! 圧倒的な力をもって群集の心を支配し! そして──もがもが」

ミュウツー「……」ミュンミュン

『それ以上、口を開くな……!』

黒井(くそっ、ねんりきか……!)

……

美希「ぷ、プロデューサー……」

ミュウツー「……!」ギリギリ

美希(……こ、こわいの。いつもの三倍くらい目つきも悪くなってるし……)

 
黒井(……しかし、これを見ても、まだそのようなことが言えるかな?)

スッ……

美希「え? なにそれ、ボール?」

ミュウツー「!!」

──パシィィン!

ミュウツー「みゅーっ!!」ガシッ

『……ミュウ! ミュウ……!』

黒井「……ぷはっ。ぜぇ、ぜぇ……ようやく開放されたか」

黒井(クク、だがミュウツーよ。残念ながら、その中にはお前の親は……)

……

ミュウツー(確か、このボタンを押せば……)

パカッ

ミュウツー(……いない?)

黒井「……フェイクだよ。それは、ただの空のボールだ」

ミュウツー「……っ!」

 
『貴様ぁ……!』

黒井「お前の母親──ミュウは今でも、我が961プロで管理している」

ミュウツー「……!」スッ

黒井「おっと、ここで私を殺すつもりか? しかしそうすれば、何が起こると思う?」

『なに……?』

黒井「私を殺し、961プロを壊滅させれば、確かにお前は母親を取り戻すことができるだろう。
   だがそうなれば、そこにいるアイドルはどうなると思う?」

美希「え……ミキ?」

黒井「どうやら貴様は今、ごっこ遊びをしているようだが……
   しかしそれでも、間違いなく、今の貴様の身分は『765プロのプロデューサー』だ」

黒井「そんな貴様が──765プロの者が、それだけ大きな事件を起こしたら、
   そこに所属するアイドル達はどうなるかな……?」

ミュウツー「!」


ミュウツー(私が騒ぎを起こしたら、彼女達は……)

 
黒井「……ああ、そうか! しかしそんなことは関係なかったな!
   なにしろ貴様は、人の手によって作られたモンスターなのだから!」

美希「え……?」

『……黙れ……!』

黒井「──人間ではないのだから、人の心などあるわけない!
   だから、残されたアイドル達のことなど、気にするわけなかったなァ!」

美希「……!?」


美希(プロデューサーは……人間じゃ、ない……?)


ミュウツー「……ミューッ!!!」

『……黙れと言っている!!!』

ゴゴゴゴ……!


パラ、パラパラ……


スタッフ「……あれ? なんだ、ゆれてる……?」

スタッフ「地震かぁ?」

 
『確かに私は、人間ではない! ただのポケモン──いや、
貴様らに改造され元の姿も忘れてしまった私は、ポケモンですらないッ!』


美希(ポケモン? なに、それ……)


ミュウツー「……!」

『──しかしそれでも! 私はプロデューサーだっ!』

『彼女達アイドルをトップアイドルへと導く使命を持った、プロデューサーだ!!』


美希「……」

美希(プロデューサー……)

 
黒井「……それすらも、高木から与えられた使命だろう?」

『違うっ! 私は……!』

黒井「フン……まぁいい」ザッ

『待て! 逃がすか──』

美希「……プロデューサーっ!」

ミュウツー「っ!」

『……星井さん?』

美希「……人間とかポケモンとか、よくわかんないけど……うん、そうだよ」

美希「プロデューサーは、ミキ達のプロデューサーなの」

ミュウツー「……」

美希「だから……もう、やめて」

美希「これ以上、そんなに怒ったプロデューサーなんて、見たくないよ……!」

 
美希「……プロデューサーはプロデューサーで、ミキ達はアイドルだよ」

美希「だから、ケンカなんてしないで……アイドルとして、そのオジサンに勝てばいいって思うな」

ミュウツー「……」

ミュウツー(星井さん……)


フッ……


スタッフ「……お、ようやく地震が収まったか。最近よくあるなぁ」


……


黒井「……フン。今日のところは、引き上げるとしよう。
   貴様の居所がわかっただけでも収穫だ」

黒井「しっかぁし! 私は決して諦めたわけではない!
   次こそはミュウツー、貴様を取り戻すぞ! アデュー!」

テクテク……

ミュウツー「……」

美希「……行っちゃった」

 
美希「プロデューサー……」

『……帰りましょう』

美希「待って! あのね……」

ミュウツー「?」

美希「……ううん、やっぱりなんでもないの」



美希(もう今のプロデューサーは、いつもの目をしてる)

美希(……でも、笑ってもいない。せっかくさっき、あんな風に笑ってくれたのに)



美希(……ポケモンとか、作られたとか
   あと、プロデューサーのママのことも言ってたけど……)

美希(それって、どういう意味なのかな……)


──────
────
──

朝ごはん食べる
なにこれ・・・

すみません、今更だけど訂正と言うかごめんなさいさせてください
ゴーストタイプの技は格闘にはいまひとつじゃなかったね
ミュウツーも頭が混乱してたってことでここはひとつ

ミュウツー「ソラッソラッソラッ」パンパンパン

美希「らめぇ~つのドリルなんていつ覚えたの///」パンパンパン

~765プロ事務所~

みんな「ただいま戻りましたー」

小鳥「あらみんな、お帰りなさい! お仕事お疲れ様、どうだった?」

真「ばっちりですよ! あ、でも……」

小鳥「でも? 何か問題でもあったの?」

春香「問題というか、気になることというか……
   私達の収録が終わったあと何回か大きな地震があって、
   スタッフさん達が大慌てしてました」

小鳥「地震? ヘンねぇ、事務所の方は特にそういうこともなかったけど……」

美希「……」


美希(アレのことは、みんなには黙ってたほうがいいよね……)

 
ミュウツー「……」

小鳥「プロデューサーさんも、お疲れ様でした。はい、ミックスオレですよ」コトッ

『あ、はい……ありがとうございます』


……


美希「……ねぇ、ふたりとも」

真「どうしたの?」

美希「もし……もしもだよ? もしもの話なんだけど」

春香「なによ、もったいぶっちゃって。何の話?」

美希「……プロデューサーが、人間じゃなかったら……どう思う?」

春香・真「人間じゃない……?」

「……」

春香「……あはっ、あははは!」

真「美希、今更何言ってるの? プロデューサーが人間なわけないじゃないか!」

美希「えっ」

美希「ふ、ふたりとも、知ってたの!?」

真「知ってたというか……見ればわかるだろ?」

春香「普通の人に尻尾は生えてないもんね」

美希「……あ」

美希(確かに、言われてみればそうだったの……)

美希「……じゃ、じゃあ! 春香は、プロデューサーが人間じゃないのをわかってて、
   プロデューサーのこと好きになったの!?」

真「ええ!? は、春香、そうだったのかい!?」

春香「ちゅお、ちょちょちょ、なに言ってるのよっ!!?」

……

春香「……こほん。と、とにかく……私がプロデューサーさんをどう思ってるかはともかく!」

春香「恋をするのに、人間かどうかなんて、そんなに大した問題じゃないって私は思うよ。
   こうやって、ちゃんと意思疎通が出来るんだからね」

美希「……」

春香「見た目がどうのじゃなくて……大切なのは、心」

美希「こころ……?」

春香「そうだよ。プロデューサーさんは確かにちょっと変わった見た目をしてるけど、
   それでもその胸の中には、私達と同じ、心が宿ってる……でしょ?」

美希「……」

『──人間ではないのだから、人の心などあるわけない!』

美希(あの黒くてヒラヒラしたオジサンは、こんなことを言ってたけど……)

『──しかしそれでも! 私はプロデューサーだっ!
彼女達アイドルをトップアイドルへと導く使命を持った、プロデューサーだ!!』

美希(……プロデューサーには、ちゃんと心がある。
   そうじゃなきゃ、あんな風には言ってくれるわけないの)

美希(プロデューサー……)


……


美希「……うん、そうだね」

真「……美希。プロデューサーと何かあったの?」

美希「ううん、なんでもないの!」


美希(……プロデューサーと、ちゃんとゼンブお話しよう。
   そうじゃなきゃ……ミキ、スッキリしないもん)

──────
────
──

美希「……プロデューサー!」

ミュウツー「?」

『星井さん、まだ事務所に残ってたんですか?
もう天海さん達は家に帰ったようですけど……』

美希「プロデューサーとお話したくて、残ってたんだ。
   ねぇ、今からちょっと、話できる?」

ミュウツー「……」

『……はい』


……


ミュウツー「ミュー……」

『……さっきのことですよね』

美希「……うん」

美希「教えて。プロデューサーのこと、ミキに……ゼンブ」

ミュウツー「……」

『……この世界には、人間でも動物でもない生き物が存在します。
それが私達ポケットモンスター……、略してポケモン』

『人々は彼らポケモンを飼ったり、ときには戦わせたり……
いろいろな関係を築きながら、共に暮らしている……はずでした』

美希「はず……?」

『……でも、そうはならなかった。なぜならこの世界の人々は、
ポケモンの存在を受け入れなかったから。フィクションのものだと決め付けてしまったから』

……

『ポケモンは、人間に求められることで、存在を維持できる……』

『人間が人間として進化する前から存在したとされる、古代ポケモン。
彼らですら、現代の人間が求めたから「その時代にいたことにされた」のです』

美希「……? ……??」

『……簡単に言ってしまえば、人々の想像が、私達ポケモンを生む。
誰かが「こんなポケモンがいたらいいな」と考えたその瞬間に、
世界の時と空間を捻じ曲げ、姿を現すようになる』

『そういう存在なのです』

美希(……ゼンゼン意味わかんないってカンジ)

『ポケモンが繁殖する瞬間に立ち会った者は、誰一人としていません。
ある日突然タマゴが落ちている、それだけです』

『なぜならポケモンは、実際には繁殖などしていないから。
人々がポケモンに会いたいと願いながら私達の世界である「草むら」の中に足を踏み入れたとき、
初めてポケモンはこの世界に存在するようになるのです』

美希(頭が痛くなってきたの……)

『そして、そんな不安定な存在であるポケモンを維持するための装置が……これです』

スッ……

美希「それ……あのオジサンが持ってたボール?」

『取っておきました、貴重なものですから。
ポケモンはこの中に入ることで、世界から存在を認められ、
「草むら」以外でも活動が出来るようになります』

美希「……ミキ、今まで、草むらの中でプロデューサーみたいな人を見たことなんてないよ?」

『それはそのはず、星井さんはポケモンの存在を知らなかったのですから。
会いたいと願わない限り、野生のポケモンが存在することはありません。
ちなみに、先ほどから言っている「草むら」というのは厳密には……』

美希「あーもう! メンドーくさいことはなんでもいーの!」

『でも、全部説明するには……』

美希「そういうのはいいから、プロデューサーのことを教えて! これ以上説明されたら、ミキ、寝るよ!?」

ミュウツー「……」

『……我々ポケモンは、この世界の人々には受け入れられなかった。
しかしだからといって、完全に存在しないわけではないのです』

『お化けや妖怪と呼ばれる怪異として、その存在を信じる者の前に姿を現したりもする。
信じない人の前には姿を見せないだけで、今でもこの世界に現れる可能性を持っている』

『……そして、ある日。そういう、「その存在を強く信じることが出来る人間」の願いによって、
この世界に「ミュウ」が生まれました』

美希「ミュウ?」

『……私の母親です』

美希「……プロデューサーの、ママ」

……

『厳密には、あなた方人間のように直接の血の繋がりがあるわけではなく、
私はただ、その者の願いによって、「ミュウの子供」として世界に産み落とされたのです』

『……その人間は、ミュウがあらゆる可能性を秘めていることを知ると、その子供を求めました。
その願いによってミュウの子供は何匹も生まれ、そして……次々に死んでいきました』

美希「し、死んじゃったって……なんで?」

『……ミュウの子供を改造し、人間に近づけようとしたのです。その実験のせいで……』

美希「……!」

『子供を求めたのは、母体であるミュウの代わりが欲しかったから。
もしもミュウに直接実験を施し、その結果としてミュウが死んでしまったとき……、
その者は、再びポケモンが自分の前に姿を現すかどうかわからなかったからです』

美希「……人間にして、どうするつもりだったの?」

『……アイドルにするつもりだったようですね』

美希「えっ」

『ダンス、ボーカル、ビジュアルが全て完璧で、
世界のあらゆる歌を歌い、人間の心を支配する……そういう存在にしたかったようです』

美希「……もっと他に、やりたいことなかったのかな」

……

『……とにかく、そのミュウの子供達のうち、
唯一生き残ったのが、この私……ミュウツー』

『私は運が良かったらしく、度重なる実験の中でも命を落とすことはありませんでした。
しかし、ボールの中からずっときょうだい達が死んでいく様子を見ていた私は、
いつしか人間に対して、強い憎しみを持つようになっていたのです』

『そして、あの日……最終実験のためにボールから開放されたとき、
私は自身を縛るそのボールを破壊し……研究所を抜け出しました』

美希「……そこで、真くんに会ったんだ」

『……はい』

『……個体値が低いという理由だけで、生まれたその瞬間に処分されるきょうだいもいた。
得体の知れない薬液を注入され、とても形容できない姿にされた挙句、
「失敗だな」の一言でダストボックスに捨てられるきょうだいもいた……!』

美希「……、」

『私は、人間が憎かった……! アイドルが、憎かった!
アイドルという存在さえいなければ、私達が生まれ、苦しめられることもなかった!』


ゴゴゴゴ……!


美希「ぷ、プロデューサー……!」

ミュウツー「……」

『……でも、もう心配ありません。知ってのとおり、真の正義の鉄拳によって、
私の中の「はかいのいでんし」は消滅しました』

『人間が悪いのではない、アイドルが悪いのでもない。
悪いのは、私達にこのような仕打ちをした961プロだけだと、私は理解したのです』

美希「961プロって……え、さっきのオジサン!?」

『……はい。そもそも、ポケモンに会いたいと強く願い、
ミュウをこの世界に存在させるきっかけとなった人間が、黒井崇男だったのですから』

 
黒井「あーあ。どっかに最強のアイドルいないかなあ~」

黒井「もうこの際人間じゃなくてもいいや。整形させてそれっぽく見せればいいよなぁ~」

黒井「……おや?」

ミュウ「みゅぅ~」

黒井「なんだこの生き物……ん? なんだこのボール……いつの間にポケットにこんなものが」


……


『……ざっくりと説明すると、こんな感じだったようです。
元々、黒井崇男は普段から、こういう妄想をしていたようですから……』

美希「そ、そうなんだ……」

 
『……961プロダクションは、様々な機関にコネクションを持っていました。
彼らの研究によってモンスターボールの構造が明らかになり、
いくつかのボールのコピーが作り出され、私達はその中に閉じ込められました』

『……ボールの中は、とても暗くて、寒い。
本来ならボールの中はポケモンにとって居心地の良い環境であるはずですが、
彼らが作り出したのは結局、劣化コピーに過ぎなかったから……』

美希「……」

……

美希「……それで、プロデューサーのママは今でも、
   961プロに捕まっちゃってるんだね」

ミュウツー「……」コクン

『あの、しかし……星井さん。ひとつ聞いても良いですか?』

美希「え? なに?」

『私の話を……信じてもらえるのですか?』

美希「……うん。ミキ、信じるよ」

『……どうして? 星井さんは現代に生きる人間ですから、
こんな話をあっさり受け入れてもらえるとは、さすがに思えないのですが……』

美希「……」

美希「……今の話をしてるとき、プロデューサー、とってもつらそうだった」


 ……そうだよ。プロデューサーさんは確かにちょっと変わった見た目をしてるけど、
 それでもその胸の中には、私達と同じ、心が宿ってる……でしょ?


美希「それってきっと、プロデューサーの中に、心があるからだって思うんだ」

『心……?』

美希「うん。ミキだって、もしお姉ちゃんがそんな目にあったら、すっごくカナしくなるって思う。
   えへへ……ほんとはね、ミキ、今ちょっと泣いちゃいそうなんだ」

ミュウツー「……、」

美希「でも、泣かない。ガマンするの。
   だってミキは今、泣きにきたんじゃないんだもん」

『……それじゃあ、なんのために?』

美希「……プロデューサーのことを、もっともっといっぱい、知るためだよ」

美希「私はプロデューサーだー! ってさっき言ってくれたとき、
   ちょっとカッコよかった。だからミキは、プロデューサーのこと、知りたくなったの」

ミュウツー「……」

美希「……だからミキは、プロデューサーの言うことを信じる。
   それに、テキトーなこと言ってるかどうかくらい、プロデューサーの目を見ればわかるから」

 
ミュウツー(……この私の中に、心……)

ミュウツー(好き勝手に改造され、いつしか自分の本来の姿をも忘れ……
      人ともポケモンとも言えなくなった、この私に……)


美希「……ねぇ、プロデューサー!」

『え?』

美希「『トップアイドル』って、そんなにすごいのかな?
   あのオジサンがそこまでして欲しがっちゃうくらい?」

『……、確かに、この世界においては、
強い影響力を持った存在であることは確かなようです』

美希「誰でもミキの言うこと聞くようになる?」

『まぁ……言い方は悪いけど、そういう力は持てるでしょうね』

美希「……それじゃあ!」



美希「──それなら、ミキは……、トップアイドルになる」

『え……?』

 
美希「プロデューサー、前に言ったよね」


『せっかくの人生の若い時間を、そんな風に無為に過ごして、
星井さんはそれでいいんですか?』


美希「……って。これってつまり、目標を持って頑張れってことでしょ?」

ミュウツー「……」コクン

美希「だから、決めたよ。トップアイドルになって、
   ミキが何を言っても961プロが逆らえなくなっちゃうくらいエラくなって……」

美希「……それで、プロデューサーのママを、
   プロデューサーに会わせてあげる!」

ミュウツー「……!」

美希「……それが、ミキの目標なの。いいでしょ?」

 
ミュウツー「みゅ……」

『星井さん……』

美希「もう、星井さんじゃなくていいよ。ミキのことは、ミキって呼んで?」

『……ミキ、それでいいんですか?』

美希「うん! 誰かのために、こんなにやる気がメラメラーって出たきたの、
   生まれて初めてだったから」

美希「ミキの心は今、とっても熱い。すぐにでも踊りだしたいって言ってる。
   早く、もっとすごいアイドルになりたいって、言ってるんだ」

美希「……ミキは、この気持ちを大事にしたい」

ミュウツー「……」

美希「……だから、プロデューサー!」

『え?』

美希「ミキの気持ちが冷めないように、ずっと見守っててね。
   それで、これからもプロデュース、よろしくお願いしますなのっ!」

ミュウツー「……!」コクン

『……はい!』

休憩します

だって

 
美希「それでそれで、プロデューサー」

ミュウツー「?」

美希「プロデューサーって、真くんのこと、好きなの?」

『え!? ど、どうして!?』

美希「だってプロデューサー、真くんの前だとなーんか、ミキ達とは態度ちがうっていうか……」

『……好きという感情の変化についてはよくわかりませんが、
私が真に対して持っている感情は、どちらかというと……、
忠誠心といったほうがいいかもしれません』

美希「チューセイ?」

『ポケモンとしての本能からでしょうか……強い者には従っておけという』

美希「ああ……そういうことなんだ……」


──────
────
──

 
それから数週間後……ダンスレッスンスタジオ


美希「ほっ、は……っ!」

クルクル……ッターン!

真「……っ! み、美希!」タンッ

美希「なに!? 真くんっ!」タタンッ

真「もう終わりにしよう! これ以上やると、体壊しちゃうよ!」

美希「ううん、まだまだいけるのー!」

真「えぇ~……!?」


……


真「……くはぁっ! ぜぇ、ぜぇ……」

春香「お疲れ様、真……」

真「うん……」

美希「……よっ、ほっ!」



真「……ダンスレッスンをやってて、
 ボクのほうが先に音を上げちゃう日が来るなんて、思わなかったよ」

春香「美希ってば、最近すごいね……何かあったのかな」

真「何か、って?」

春香「うーん、わからないけど……例えばプロデューサーさんから何か言われた、とか」

真「プロデューサー? ……ああそっか、
  春香はプロデューサーのことが気になってるんだっけ」

春香「ふぉっ!? ち、ちがうったらぁ!」



ミュウツー「……」

ミュウツー(あれからミキは、確かに人並みはずれた努力をするようになった)

ミュウツー(私とのあのやり取りがきっかけであることは明白であり、
       私も、ミキがそうやって努力をしてくれることは嬉しく思うが……)

ミュウツー(……あれでは、明らかなオーバーワークだ。
       このままでは壊れてしまうかもしれない……)

~765プロ事務所~

美希「……え? 明日から三日間、お休み?」

ミュウツー「……」コクン

美希「お仕事、入ってきてないの?」

『そういうわけではないけど……、ミキではない他の誰かに回すことにします。
レッスンも、この三日間はやらなくていい』

美希「な、なんで!?」

『……ミキは近頃、少々頑張りすぎている。
たまには休むことも必要ですから』

美希「そんなことないの! ミキ、まだまだやれるよ!」

『ミキ、あなたは人間だ。ポケモンセンターで休めば一瞬で回復する生き物ではないのです。
自分では大丈夫と思っても、身体には大きな負担がかかっている……』

美希「……」

ミュウツー「……」

『……プロデューサーである私を信じてください。
こうすることが、ベストなんですよ』

美希「……わかったの」

~公園~

美希「……あーあ。暇になっちゃった」

美希「せっかくミキが珍しくやる気だしたのに、プロデューサーってばひどいよね。
   ね、先生もそう思うでしょ?」

カモネギ「かもー」プカプカ

美希「……」


美希(……プロデューサーとお話をして、ポケモンのことを知ってから、
   ミキの目に入ってくる世界が、ちょっとだけ変わっちゃった)

美希(公園の池でプカプカ浮かんでる先生は、最近ネギをしょってる。
   見た目もゼンゼン前とは違うし……もしかして先生、ポケモンになっちゃったのかな?)

美希(会いたいって思わないと、ポケモンには会えないんじゃなかったっけ?
   ミキ、別に今はそういう気分でもなかったんだけどな)


美希「……ま、いっか」

響「おーい、オウ助~! どこいっちゃったんだぁ~!」

美希「あれ? この声って……響?」

響「あっ、美希! はいさーい!」

美希「はいさーい、なの」


……


響「美希、自分のペットのオウ助、見なかった?」

美希「オウ助?」

響「オウムのオウ助。散歩中だったんだけど、
  自分が居眠りしてる間にどっかいっちゃったんだ……」

美希「あはっ! 散歩中に居眠りするなんて、実に響らしいの」

響「うぎゃー! 笑い事じゃないんだぞ!」

 
美希「あ、でもでも、ヘンな鳥なら、さっきバサバサって飛んでるの見たよ。
   もしかしてそれじゃないかな~」

響「ヘンな鳥って……オウ助は全然ヘンじゃないぞ。普通のオウムなんだけど」

美希「んー、そうだよねぇ……」

響「……でも一応聞いておこっかな。ねぇ美希、その鳥って、どんな鳥だった?
  もし白いオウムだったら、それがオウ助かもしれ……


ばさばさっ!


美希「あっ、ほら! あれ!」

ペラップ「[ピ──]」バサバサ

美希「頭が♪マークの、カラフルな鳥。
   でも、白いオウムじゃないから、きっと響が探してるのとはちが──」

響「ああっ! あ、あれだよ! あれがオウ助っ!」




美希「……え?」

美希「……」

響「よーし、止まった……そこを動くなよ~……」ソローリ

ペラップ「[ピ──]」

響「捕まえたっ! ごめんね、オウ助……もうほったらかしになんてしないからな~」

美希「……ね、ねぇ響。その鳥が、オウ助だったの?」

響「うん! 自分の大切な家族だぞ!」

美希「……白いオウムって、言ってなかったっけ?」

響「え? 言ったけど……それがどうしたの?」

美希「ミキ的には、その鳥、白いのは首のまわりだけに見えるんだけど……」

響「……? あははっ、何言ってるんだよ~! 自分のことからかってるのか?」

美希「か、からかってなんてないの! でも……」

響「オウ助は、どこからどう見ても、全身真っ白の、ただのオウムじゃないか!」

美希「え……!?」


美希(……響には、その鳥が、普通に見えてる?)

美希(ミキとは、見えてるものが、ちがうの……?)

響「っていうか、♪マークなんてどこにも──って、美希?」

美希「……」テクテク

響「帰っちゃうのかー!?」

美希「……うん」



美希(……プロデューサーの言うとおり、
   ミキ、ちょっと疲れちゃってるのかな)



響「そ、そっか……それじゃあ、また明日ねっ!」

美希「明日はお休みなの……ばいばい……」



美希(明日はお休み……)

美希(そ、そうだよね。せっかくお休みもらったんだから、いっぱい眠れば、
   きっと普通に戻る……よね?)

美希(……きっと)

~翌日、765プロ事務所~


ピピピピ……


ミュウツー「……?」

ミュウツー(ミキから電話? 今日は休みだと伝えたはずだが……)


ピッ


ミュウツー「みゅー」

美希『……プロデューサー?』

ミュウツー(おっといけない。テレパシーを電話モードに切り替えて……)


ミュウツー『ミキ、どうしたんですか?』

美希『あ、あのね、ミキ、ミキ……! ああう、う』

ミュウツー『お、落ち着いてください! 一体何が……!』

美希『わかんない! でもとにかく、ヘンになっちゃったの~! 助けて~!!』

ミュウツー『っ!?』

~公園~

ミュウツー「……!」

『……ミキっ!』

美希「プロデューサ~……」

……

ミュウツー「……」

『……動物が全部、ポケモンに見える?』

美希「うん……最初は疲れてるのかな、見間違えかなって思ったんだけど、
   昨日からいくら寝ても、変わらなくて……」

『ポケモンというのは、確かなんですか?
ミキは私以外のポケモンのことを知らないはずですが……』

美希「……なんとなく、わかるの。あれは、
   ミキが今まで見てきた動物とは、ゼンゼン違う生き物なんだって」

美希「今朝テレビ見たんだけど……そこに映ってた動物、
   ミキが見てるのと、家族のみんなが見てるの、違かったし……」

ミュウツー(……どういうことだ?)

ミュウツー(ポケモンがミキの前に姿を現すだけならまだしも、
      ミキと他の人間で、見えているものが違うなんて……)

 
ミュウツー(……私がこの世界に存在し、人々と交流できるのは、
      私がかつてモンスターボールに入れられ、世界から存在を認められたから)

ミュウツー(だが、テレビ画面を通してミキの目にうつった生物は、
      ボールに入れられ世界に認められたポケモンではないはず……)

ミュウツー(ミキはポケモンのことを知ったから、ミキが強く望みさえすれば、
      彼女の目の前になんらかのポケモンが飛び出してくる可能性はある。
      しかし、そうでないとすれば、考えられるのは──……)



美希「……プロデューサー?」

ミュウツー「……」



ミュウツー(ボールに入れられていないポケモンが、当たり前に存在する……。
      そのような現象を見ることが出来るのは、ある特定の環境の下にある人間だけだ)

ミュウツー(その環境とは……)



ミュウツー(……『ポケットモンスターの世界』)

ミュウツー(……それは、本来そこにあるはずだった世界)

ミュウツー(しかしこの世界では、ポケモンの存在はフィクションだとされてしまった。
      だから一部の人間の前にポケモンが姿を現すことはあっても、
      それが人々にとって当たり前の存在になることは絶対にない)

ミュウツー(どうあがいても、今のこの世界はそういう風に出来てしまっている。
      ポケモンの存在を知っている個人がいくら意識変革を行ったところで、
      世界そのものを作り変えるなんて不可能であり、つまり……)



美希「ぷ、プロデューサー! ねぇってば!」

ミュウツー「!」

美希「どうしたの? なんかすっごく難しい顔してたけど……」

『……すみません』



ミュウツー(……要するに、こういうことだ)

ミュウツー(ミキが、この世界の住人ではなくなってきている)

 
ミュウツー(アイドルという存在が大きな影響力を持ち、人々の心を支配【マスター】するこの世界。
      黒井崇男はかつて、それを『アイドルマスターの世界』だと言っていた。
      ミキはその、アイドルマスターの世界の住人……)

ミュウツー(しかし今、彼女の中でなんらかの変化が起こり、ポケモンが当たり前に存在する
      『ポケットモンスターの世界』の住人へと、変わってきてしまっている)

ミュウツー(それは──……)



ミュウツー「……! ……!」

『……あ、ああ……なんてことだ、なんという……!』



ミュウツー(それは間違いなく、私のせいだ……!)

ミュウツー(私がミキに、ポケモンの存在を教えてしまったから……!)

 
ミュウツー(……黒井崇男を初めとした961プロの連中には、そのような変化は起きなかったはず。
      ミキと彼らの違いがあるとすれば、それは……なんだ?)

ミュウツー(わからない……わからないわからないわからない……!
      このミュウツーにも、あらゆる可能性を秘めたミュウの遺伝子を持つ私にも、
      理解できないことがあるというのか!?)

ミュウツー(確かに私は、アイドルについては未だにその全貌を理解できていない。
      しかしそれは、これから知っていけばいいと思っていた。
      知的好奇心の赴くままに、知識を埋めていけばいいと……)

ミュウツー(だが……これ以上、私はこの件について知りたくない!
      ミキの存在を根底から変えてしまった原因など知りたくない!
      こんな感情を持ったのは生まれて初めてだ! 怖い……怖い怖い怖い……!)

ミュウツー(これが──恐怖……!)


ミュウツー「みゅ……! みゅう、うぅ……!」


ミュウツー(もう……イヤだ……!! 誰か、誰か私を、助けてくれ──……っ!!)




美希「……プロデューサーっ!!」

ミュウツー「っ!」

 
美希「ぷ、プロデューサー……!」

ミュウツー「……」

美希「……えいっ!」


ぎゅぅぅ


ミュウツー「み……?」

美希「……、ハァ、はぁ……! あ、あは……
   プロデューサーって、身体、こんなに熱かったんだね」

美希「ミキ、そんなの……知らなか、った……!」

ミュウツー(……ミキの意識レベルが、著しく低下している?
      今にも気絶してしまいそうに……な、なぜ?)

美希「……ほとんど、何言ってるか、ミキにはわかんなかったけど、
   ハァ……っ、ずっと、聞こえてたから。プロデューサーの声……」

ミュウツー「……!」

ミュウツー(……無意識のうちに、テレパシーを飛ばしてしまっていたのか!?)

美希「そうだよ……も、もう……頭、ガンガンして……
   すぐにでもお昼寝しちゃいたいって、カンジ……」

 
ミュウツー「……!」

『み、ミキ……あ、ああ、こんなに苦しそうに』

美希「……いいから、もうこれ以上、何も考えないで」

『しかしっ!』

美希「いいのっ! なんにもシンパイ、ないんだからぁっ!!」

『え……?』


……


美希「……プロデューサーが言っている意味はわかんなかったけど、
   プロデューサーがいま、どんな気持ちでいるかは、わかったよ……」

美希「ミキのこと、たくさん考えてくれてた。
   ミキのために、カナしい気持ちになってくれてた……」

美希「ぜんぶ……ぜんぶぜんぶ、ミキのために、あんなにたくさん……っ!」ジワッ


ポロポロ……


美希「あ、あはっ! もう、頭痛すぎて、涙が出てきちゃった……!」

 
美希「ミキ……すっごく痛かったけど、それと同じだけ、嬉しかったの。
   誰かにこんなに思ってもらえたこと、今までなかったもん」

ミュウツー「……」

美希「……ねぇ、プロデューサー」

美希「なーんにも、シンパイ、ないんだからね?
   ミキの世界が変わっちゃっても、ミキは消えたりしないんだから」


……


美希「えへへ……それに、プロデューサーは、とっくにもう……、ミキの世界を変えちゃってるし」

ミュウツー(……私が、ミキの世界を?)

美希「……うん。だって、前はあんなにやる気なくてダラダラしてたミキが、
   今では真くんよりたくさん練習する子になったんだよ?」

美希「プロデューサーが、つらいのをガマンして、ミキにいろんな話してくれたから……。
   だからミキは、もっともっとガンバろうって思った。変わろうって思った」

美希「それって、プロデューサーが今考えてたような変化より、
   ずっとずっと、すごいことなんだよ……!」

美希はかわいいなあ

美希「だから……もう、なんにも考えなくていいの」

美希「安心して……ね? プロデューサーがプロデュースしてくれる限り、
   ゼッタイ、ミキはどこにもいかないから」

ミュウツー「……っ!」


ぎゅぅぅ……!


ミュウツー「み……!」ジワッ

ポロポロ……

ミュウツー(……涙を流したのも、生まれて初めてだ。
      涙とは、痛みを感じたときに出るものだと思っていたが──……)


ミュウツー「みゅー……!」

美希「……前から思ってたけど、プロデューサーの声って、かわいいよね」


ミュウツー(誰かの言葉によって、その心のあたたかさを感じたときにも、
      涙は出てしまうものなんだな……)

──────
────
──

            ノヘ,_
    ,へ_ _, ,-==し/:. 入
  ノ"ミメ/".::::::::::::::::. ゙ヮ-‐ミ

  // ̄ソ .::::::::::: lヾlヽ::ヽ:::::
  |.:./:7(.:::::|:::|ヽ」lLH:_::::i::::: ゙l
 ノ:::|:::l{::.|」ム‐ ゛ ,,-、|::|:|:::: ノ  
 ヽ::::::人::l. f´i  _l :i |:|リ:ζ  
 ,ゝ:冫 |:ハ.i. |<´ノ| :l ソ:::丿  
 ヽ(_  lt|゙'ゝ┬ イ (τ"

       ,、ヘ__>}ト、
      .'::l1>===<l|:::::l

 
ミュウツー(……結局、ミキが見える世界が変わってしまった原因については、わからないままだった)



ミュウツー(しかしミキは、それでもいいと言って笑ってくれた)

ミュウツー(世界が変わっても、自分の心が変わるわけじゃない。
      最初は確かに驚いてしまったけど、もう慣れたからいちいち気にしない……)

ミュウツー(プロデューサーが自分の近くにいて、そのことを知ってくれているから、
      だから自分はひとりじゃない、さみしくない。全然平気だよ、と……私に言ってくれた)



ミュウツー(……他者の存在によって、これほどまでに強くなる。
      人間とは、人の心とは、実に興味深いものであると、私は改めてそう思った)

ミュウツー(ミキが心の安定を得るために私を求めるならば、私はそれに従うとしよう。
      ……いや、もしもミキが、私がそばにいることを求めなかったとしても、
      間違いなく私は、自分からミキのそばに寄り添っていただろう)

ミュウツー(他でもない、私自身の心が、そうしたいと思ったからだ)



ミュウツー(……私達の間に芽生えた感情、繋がる心。ミキはそれを、絆と呼んだ)

ミュウツー(それは間違いなく、モンスターボールよりも強固な繋がりだろう……)

 
ミュウツー(──しかし、それと同時に、私の中にはまた新たな感情が生まれていた)

ミュウツー(それは、恐怖……。先ほどのような、『知りたくない』という恐怖ではない。
      もしかしたら私はまた、自分の力を暴走させ、ミキを傷つけてしまうかもしれない……)

ミュウツー(……それが何よりも怖かったのだ)



ミュウツー「……」

『……ミキ。渡しておきたいものがある』

美希「なーに? あ、っていうかプロデューサー、もう敬語やめたんだね!」

『そ、そんなことはいいだろう。……渡したいものとは、これだ』

スッ

美希「これって……ボール? あのオジサンが持ってたやつ?」

『奴はこれをフェイクだと言ったが、どうやら機能自体は生きているようだ。
……これを、私に向かって投げて、ぶつけてくれないか?』

美希「投げるの?」

『……ああ。そうすれば私は、ミキの所有ポケモンとなる』

美希「……えっ!?」

 
美希「プロデューサーが、ミキのポケモンに……?」

『……今更こんなものが無くても、私はミキに逆らうことはしない。
しかし、万が一ということがある。また先ほどのように、ミキを傷つけてしまう可能性が……』

『そうなった場合、「戻れ、ミュウツー」と叫ぶだけで、
私はこのボールの中に戻っていくだろう。そうすれば──……』

美希「えーい!」


ヒューン……ポチャッ


『ええっ!!? なんで池に捨てるんだ!?』

美希「……だって、ボールの中って、暗くて寒いんでしょ?」

『いや、しかし……』

美希「大丈夫だよ、ミキはプロデューサーのことを信じてるもん。
   それに、もしもさっきみたいになったって、それはそれで良い、っていうか……」モジモジ

ミュウツー「……?」

美希「……な、なんでもないの!」

 
ミュウツー(……やはりまだ、人間の考えることは、よくわからない。
      自分が傷つくことが、怖くないのだろうか?)


美希「えへへ……それじゃあプロデューサー! 今日はこのあと、どこにおでかけする?」

『おでかけ?』

美希「だって、ミキはお休みで、暇なんだもん。ね、買い物付き合ってよ!」

『……私には、仕事があるんだが』

美希「え~。もうここまでサボっちゃったんだからいいじゃん! ねぇねぇったら──


カシュー…ン


ミュウツー「っ!?」バッ

美希「ど、どうしたの?」

『……ミキ、落ち着いて聞いて欲しい』

美希「う、うん……」

『……今、池に住んでいたカモネギが、ミキの捨てたボールの中に入り……捕まった』

美希「え!? 先生がっ!!?」

先生の寿命がフライドポテトでヤバイ

 
カモネギ『かもー』

美希「……ほんとに捕まっちゃってる。は、早く出してあげないと!」カチッ

ポンッ

カモネギ「くえーっ!」

美希「ああぅ……ね、ねぇ! どうしたらいいの!?」

『ニックネームでもつけたらどうだ?』

美希「ニックネーム!? あだ名なんてつけてる場合じゃないでしょ!」

『しかし、そのカモネギは、随分ミキに懐いてるようだが……』

カモネギ「かもかも」

美希「……いっぱいご飯、あげてたからかな」


……


美希「……じゃあ、君のニックネームは『せんせい』、ね」

カモネギ「くえー!」

美希「うちで飼えなかったらごめんね……」

 
テクテク……

カモネギ「かもっ、かもっ」テクテク

美希「……ねぇ、プロデューサー」

ミュウツー「……?」

美希「ニックネームって、ポケモンには必要なの?」

『そうだな……たとえば人間が、犬を飼ったとする。
そのときペットに向かって、「犬」なんて呼んだりしないだろう?』

美希「あー、たしかにそうだね」

……

美希「……それじゃあじゃあ、もしもさっきミキがプロデューサーにボールを投げてたら、
   プロデューサーにもニックネーム、つけられたの?」

『……そういうことになるな』

美希「だったら、ちょっともったいないことしちゃったかも。
   『プロデューサー』も『ミュウツー』も、可愛くないもんね」

『……もしミキが私にニックネームをつけたいのであれば、好きすればいい。
もちろん仕事中はプロデューサーと呼んでもらいたいが』

美希「えっ、ホント!?」

ハニーって呼ばれるミュウツーかあ

 
美希「うーん、じゃあ……そーだなぁ~……んふふ、あれもいいし、これも……」

ミュウツー「……」

『……ミキ、あまりヘンなニックネームはやめてくれ』

美希「えー、まだ何も言ってないのに……」

『ミキが考えていることは、読み取ろうと思えば読み取れるんだ。テレパシーの応用で』

美希「……へっ? え、う、うそ……でしょ?」

『嘘ではない。最初に私達が出会ったとき、
ミキは私に対し、「あまりタイプじゃないかも」と思っただろう?』

美希「……」

『タイプじゃない……つまり相性がよくないと思われ、私もつい落ち込んでしまった。
アイドルからいきなりそういう印象を持たれてしまっては、
これから先プロデューサーとして……美希?』

美希「……」ボッ

ミュウツー「……?」

美希「……ば、ばかっ! なんでそんなことするの!」

『ええっ!?』

 
『アイドルの考えを読み取れたほうが、
プロデュース業もスムーズにいくと思ったのだけど……』

美希「し、信じらんないのっ! あのね、ハニー、
   女の子には、ヒミツにしておきたいこと、いーっぱいあるんだよ!?」

『そ、そうか。傷つけたのなら、すまなか……え、ハニー?』

美希「……もう決定! これからプロデューサーは、ハニーね!」

『……それが、私のニックネーム?』

美希「うん。もうぜーったい、ゼッタイ! やだって言っても取り消さないの!」

ミュウツー「……」


ミュウツー(ハニー……それが、私の名か)

ミュウツー(ミュウの子供という意味の『ミュウツー』ではなく……、
       他のきょうだい達には誰ひとりとして与えられなかった、私だけの名……)


『……ああ、わかった。これから私は、自分のことをハニーと名乗るとしよう』

美希「あ、でも、なんかそれってちがうんじゃないかな……。
   ミキが呼ぶときだけでいいよ」

 
ミュウツー(ハニー、ハニーか……)


ミュウツー「……みゅ」

美希「ハニー、なんか嬉しそうだね」

『……この名前は、初めて他者から与えられた、私だけの宝だから』


ミュウツー(大切にするとしよう……)


……


『……しかし、ミキ』

美希「なーに?」

『ミキの頭の中ではどうやら、「ハニー」というのは、
特別な意味を持っているらしいが、それは一体……?』

美希「……ば、ばかっ! 頭の中見るの禁止ー!」


──────
────
──

休憩しますぅ

休憩はどのくらい取るんだろ

──────
────
──

それからまた数週間後……765プロ事務所


ミュウツー「みゅー」

『それじゃあ、三人とも……今日の活動は以上だ。
家に帰って、明日以降の英気を養ってくれ』

春香・真・美希「はーい!」


……


春香「最近プロデューサーさん、ちょっと変わったよね。
   真以外のみんなにも敬語で話さなくなったし……」

真「そうだね。なんていうか、前よりもっと優しくなったっていうか……
  何かあったのかな?」

春香「ねぇ美希、なにか知ってる?」

美希「知らな~い」


美希(……ハニーとのことは、みんなにはヒミツなの)

 
美希「ハ……じゃなくて、プロデューサーもきっと、
   事務所に慣れたんじゃないかな~。えへへ……」

春香「むむ、あやしい……」

美希「う……あっ! そろそろせんせいの散歩の時間なの!
   そ、それじゃあ春香、真くん! ばいばーいっ!」タタッ

春香「あ、ちょっと! 待ちなさいよ~!」タッ

真「お、置いてかないでくれよー!
  あ、小鳥さん、プロデューサー、おっつかれさまでしたーっ!」

春香・美希「おつかれさまでーっす!」


タッタッタ……

バタン


小鳥「……ふふっ、プロデューサーさんが来てからというもの、
   事務所もすっかり賑やかになっちゃいましたね」

ミュウツー「みゅー」

小鳥「ええ、ほんとに……私もそうだと思います」

ミュウツー(あれ? まだテレパシー出してなかったんだけど……)

 

プルルル……


小鳥「あら、電話……」


ガチャッ


小鳥「はい、765プロダクションでございます」

ミュウツー「……」



ミュウツー(……ミキはあれから、私の言いつけを守り、
      休むときには休み努力するときには努力するという、
      オンとオフの切り替えがしっかりと出来るようなった)

ミュウツー(そうして日々を過ごしていくうちに、彼女の才能はみるみる開花していく。
      ミキがステージに立つことを多くのファンが望んでいるし、
      彼女自身もまた、そんなファン達の声援に応えることに喜びを感じているようだ)

ミュウツー(私は、そんな彼女のプロデューサーでいられることを誇りに思う。
      トップアイドルはまだ夢の先だが、この調子でいけば必ず……)

 
小鳥「……はい、はい……ええ……え? か、かしこまりました」



ミュウツー(……唯一気になることがあるとすれば、それは961プロダクションであった。
       黒井崇男はあの日以来、今日まで一度も私の前に姿を現していないのだ)

ミュウツー(私のことはもう諦めたのか? いや……そう楽観的に考えるのは危険だろう。
       しつこい性格の奴のことだ、必ずやまた何か厄介ごとを運んでくるはず……)



小鳥「……プロデューサーさん、お電話です」

『電話?』

小鳥「あの……961プロダクションの、黒井社長から……」

ミュウツー「……」



ミュウツー(……こんな具合に)

 
ミュウツー(……テレパシーを電話モードに切り替えて、と……)


ミュウツー『……何の用だ』

黒井『おやおや、いきなりご挨拶じゃないか、
   弱小765プロのおとぼけプロデューサー君』

ミュウツー『なんだと……?』


ミュウツー(……いや、こんな挑発のことなどどうでもいい。
      いまこの男は、私のことをプロデューサーと呼んだのか?)

ミュウツー(何か、気にかかる……私が765プロのプロデューサーであると認めて、
      それを踏まえたうえで電話をかけてきたということだろうか)


……


黒井『ククク……私がわざわざタウンページを開いてまでそちらに電話をかけてやったのはね、
   ある理由があるからなのだよ。それがなんだかわかるか?』

ミュウツー『さっさと用件を言え』

黒井『つれないねぇ……これだから「失敗作」は』

ミュウツー『……、失敗作、だと?』

 
黒井『ああそうだ。貴様のような、自分の使命を忘れ好き勝手に生きるモンスターなど、
   「失敗作」以外になんと呼べばいい?』

ミュウツー『……』


ミュウツー(この私が、失敗作……?)

ミュウツー(かつてあれほど私に執着していた男が、今、そう言ったのか?)


ミュウツー『っ! まさか、貴様ッ!』

黒井『ククク……ああそうだ! ついに! 完成したのだよっ!』



黒井『我が961プロダクションの研究により、
   全能『ミュウ』の遺伝子を引きつぐ、完璧なアイドルが誕生した!』

ミュウツー『……!』

ミュウツー(そん、な……!)

 
黒井『ククク……さしずめ、貴様の弟といったところかな?
   奴は実に素晴らしい……王者にふさわしい器の持ち主だよ』

ミュウツー『……研究所は破壊した。再び実験など出来ないはず!』

黒井『ノンノン。もちろん、いずれ貴様の様な暴走する個体が現れるとは、こちらも予測済みだ。
   研究データのバックアップなどいくらでもあるのだよ。
   まぁ、壊すことしか脳が無い貴様には、想像もつかなかっただろうがね』

ミュウツー『……!』ギリッ

黒井『お前がのんきにアイドルプロデュースをしている間に、
   私達は再びミュウの遺伝子を……』

ミュウツー『何度同じ過ちを繰り返せば気が済む!?
      命を生みそれを弄ぶなど、神にでもなったつもりか!!』

黒井『神、か……そう呼ばれるのもまた面白い』

ミュウツー『……』


ミュウツー(……この男は、もうダメだ。人の心を失った化け物……)

 
黒井『……ミュウツーよ。私はその最強のアイドルを、
   来週開催される○○というオーディションに参加させ、アイドルデビューさせようと考えている』

ミュウツー『何……?』

黒井『この私が、ただその自慢をするためだけに電話をかけたとでも思ったのか?』

黒井『ククク……興味があれば、貴様が育てたアイドル共をそのオーディションに参加させることだな。
   そうすれば貴様は関係者としてテレビ局に入り、直接その目で、
   お前の弟の顔を拝むことが出来るかもしれんぞ』

ミュウツー『……』

黒井『まぁ、貴様のような運命から逃げ出す軟弱者には、そんな勇気はないとは思うがね!
   自分のアイドルが敗北し傷つくのはいやだろうからなぁ! ハーッハッハ!』

ミュウツー『お、おい……』

黒井『ではアデュー!』


ピッ……


ミュウツー「……」

ミュウツー(……ず、随分と親切に教えてくれるんだな)

ミュウツー(もしや、これは……罠か?)

 
小鳥「お、お電話、終わりましたか?」

ミュウツー「……?」

『音無さん、どうして机の下に隠れてるんですか?』

小鳥「プロデューサーさんが電話をしながら、超能力であっちこっちにものを飛ばすからですよぉ!
   私がいくら言っても気付いてくれないし……怖かったわ、もう……」

『え……さ、サイコキネシス? 使ってました?』

小鳥「そりゃあもう! ほら、見てください! この事務所の有様を!」


ゴチャァ……


ミュウツー(……まるで台風が過ぎ去ったようになっている。
      私としたことが、興奮し無意識のうちに力を使ってしまっていたようだ)


小鳥「片付け、手伝ってもらいますからね!」プンプン

ミュウツー「みゅー……」


──────
────
──

 
ミュウツー「……」ミュンミュン


ヒュンヒューン!


小鳥「まぁ、どんどん片付いてく……超能力って本当に便利ですねぇ」

ミュウツー(……こんな風に、誰も傷つかない使い方をすればの話だ。
      私はこの力を使って、何匹ものきょうだい達を──……)



『さぁミュウツー150号よ。今日は貴様の力の強度を測るぞ。
……その失敗作共を処分しろ』

『みゅー……』

『どうした? やれないのか?
いずれにせよそのミュウの子供達は、もう間もなく死ぬ運命。
出来ぬならば、命令を聞かない失敗作として、貴様も処分するだけだが──……』



ミュウツー(……)

ミュウツー(……私には、奴に対して『化け物』と言う資格など、無いのかもしれない)

ミュウツー(生れ落ちた瞬間、母の胸から離れた瞬間から──私はすでに、化け物だったのだから)

 
『……終わりました』

小鳥「はい、ありがとうございま──って、おでかけですか?」

ミュウツー「……」コクン

小鳥「……プロデューサーさん。電話で何を言われたのかは、わかりませんけど……
   あまり、思いつめないでくださいね」

ミュウツー「……」

小鳥「……お気をつけて」




ミュウツー(──しかし、だからこそ)

ミュウツー(だからこそ私は、この手で全てを終わらせなければならない)

ミュウツー(化け物と呼ぶなら、それでもいい……)



ミュウツー(……それが、私のけじめだ)

 


~961プロダクション前~


コォォ……


ミュウツー「……」

ミュウツー(……趣味の悪い、ゴテゴテとしたビルだ。
      あの男が好みそうなデザインだな)




ミュウツー(──音無さんは、私の机の上に置いてある辞表に、気付いてくれるだろうか?)

 
ミュウツー(……私は、もう765プロには戻らない)

ミュウツー(このビルを破壊し、ミュウを救い出し、そして……
      もういなくなってしまった、たくさんのきょうだい達の元へと向かおう)

ミュウツー(目撃者が誰もいないままこの世を去れば、765プロに迷惑はかかるまい。
      それが、この私に与えられた、最後の使命だ……)




ミュウツー「ミュー……!」

ゴゴゴゴ……!




ミュウツー(……アイドルとは何か)

ミュウツー(ミキ達をプロデュースしていくうちに、
      私はその存在理由を理解することが出来た)

ミュウツー(結局のところ、ミキが言ったとおりだったのだ。
      『アイドルとは、人を笑顔にする者』……その言葉が嘘ではないことは、
      彼女達のそばにいたこの私が一番知っている……)

 
ミュウツー(だからもう、私は、満足だ……)

ミュウツー(私が生み出された理由──アイドルが、こんなにも素晴らしい存在だった。
      それを知ることが出来たから……もう、この世界に未練は無い)



ミュウツー「……みゅ、みゅぅ……!」


ゴゴゴ……!



ミュウツー(……本当、に)

ミュウツー(私は、本当に……、たくさんの笑顔を、彼女達から……受け取った)



ミュウツー(私は、間違いなく化け物だ)

ミュウツー(それなのに、彼女達は、そんな私を、まるで一人の人間のように扱ってくれた……。
       いつだって笑顔で、いつだって明るく……)


ミュウツー(……この世界に生まれてきて、良かった)

ミュウツー(そうでなければ、私は、彼女達に出会えなかった……!)

 

ミュウツー「みゅう……う、うぅ……!」



ポロポロ……



ミュウツー(……ひとつだけ、思い残すことがあるとすれば)

ミュウツー(たった一瞬でもいいから……ミキがトップアイドルになり、
      胸を張ってきらめくステージに立つ姿を……見たかった)



シュィィィン……



ミュウツー(もしも、生まれ変われるなら……人間に──なれるといいな)

 

ミュウツー「……、」

ミュウツー(……力が、溜まった)

ミュウツー(この最高威力のサイコブレイクで、全てを……!)



シュィィィン……!



ミュウツー「……?」

ミュウツー(しかし、先ほどからなんだ? この、風を切る音は────)



    「……せんせいっ!」

                      「かもーっ!!」


ミュウツー「……っ!?」



     「……ゴッドバァァァァァーーード!!!!!」

 


カモネギの ゴッドバード!▼


ミュウツー(な……あれ、は……!)


カモネギ「かもぉぉぉ!!」シュィィィィン


ミュウツー(──ミキの、ポケモン!?)



……ドガァァァァン!!!


ミュウツー「がふっ……!」



きゅうしょに当たった!

     ……ミュウツーは ひるんだ!

 
ミュウツー「……っ」クラッ

ミュウツー(……ダメージこそ少なかったものの、
      頭部に、モロに食らっ……! 意識が、薄れ──)

ミュウツー(くそ、これがひるみか……! 立っていられない……!)


美希「……先生、お疲れ様。ありがとね」

カモネギ「くわー!」


……


テク、テク……

美希「……ハニー」

ミュウツー(……ミ、キ? ああそうだ、これはミキの……私のアイドルの声だ)

美希「ねぇ、なんでミキがこんなことしたか、わかる?
   どうしてミキがここにいるか、わかる?」

美希「ミキの頭の中をのぞけば、すぐわかると思うよ。ねぇ、やってみて?」

ミュウツー(頭の……中……?)

美希は枝毛の数で全国模試1位を取っちゃう幸運持ちだからな
そのポケモンも幸運なんだろう

 

ミュウツー(……)

ミュウツー(……わからない)

ミュウツー(ひるみの影響か、しばらくは身体と脳が言うことをきかないのだろう……。
      ミキの考えていることが、私には、全くわからない……)



ミュウツー「みゅ……」フルフル

美希「……うん、それでいいんだよ」

ミュウツー(え……?)

美希「考えてることがなんでもわかっちゃうなんて、
   それってやっぱり、ヘンだよ」

美希「相手がどんなことを考えてるのかなって想像して、
   あれかな、これかな? って、いろんなことを試して……
   そうやって、ミキ達人間は、絆を深めていくんだって思う」

ミュウツー「……」

 

美希「……今のハニー、すっごく人間っぽいよ。
   力に頼らないで、ミキのこと、いっぱい考えてくれてる」

美希「ミキの考えてること、わかんなくてもいい。
   答えなんて見つからなくたって、そうしてくれるだけで、ミキは嬉しいの」

ミュウツー「みゅー……」

美希「えへへ……だって……だってハニー、ミ、ミキはね……!」



ぎゅぅぅ……!



美希「そんなハニーのことが、世界で一番、大好きだから……!」

 

ミュウツー「……みゅ、う」

美希「……帰ろ?」

ミュウツー「……?」

美希「765プロに──ミキ達の場所に」

ミュウツー「……」



『……ああ、帰ろう』



──────
────
──

 
~765プロ事務所~

……ガチャッ

小鳥「!」ガタッ

ミュウツー「みゅ」

小鳥「──プロデューサーさんの、バカっ!」


……バッチーン!!


ミュウツー「……?」

小鳥「バカバカバカバカ!!」

バチチチチチンッ!

ことりの おうふくビンタ!▼


『あ、ちょ、やめ……いたっいたた』

小鳥「やめませんっ! わ、私が、どれだけ心配したと思って……!」

小鳥「本当に……! 本当に、バカ……!」

 
ミュウツー(……あとから聞いた話によると、ミキには、音無さんから連絡がいったらしい)

ミュウツー(事務所を出る前の私の様子がおかしかったことから、音無さんはデスクの上の辞表にすぐに気付き、
      真っ先にミキにこのことを伝えたんだそうだ。もちろん、直前に961プロから電話があったということも)

ミュウツー(ちょうどカモネギの散歩中だったミキは、音無さんから961プロの場所を教えてもらうと、
      カモネギの背に乗ってまっすぐに空を飛び……)

ミュウツー(……そして、こうなった)

……

美希「……ねぇねぇハニー、こっち向いて!」

ミュウツー「……?」

パシャッ!

美希「アハッ☆ 小鳥にぶたれてボコボコになったハニーの変顔写真、ゲットなの~!」

ミュウツー「……」


ミュウツー(……先ほどのやり取りについては、実のところ、
      意識が朦朧としていたため、あまり覚えていない)

ミュウツー(しかし、今ではミキはいつも通りのミキだ。
      そのことについて話したいなら、こんな顔はしていないはず。
      わざわざ自分から話を振るのはやめておこう……)

 
美希「あは、あはは! ……はぁ……」

ミュウツー「……?」

美希「ね、ハニー。あ、あのね、さっき言ったことだけど……」

『ミキは、その件について話したくないんだろう?』

美希「え!? いつミキがそんなこと言ったの!?」

『さっきまでいつも通りの顔だったから……
おそらく、大事なことを伝えてくれたのということは想像出来る。
それならいつも通りの顔はしないだろう?』

美希「あ、や、それは、照れ隠しっていうかなんていうか……
   そ、それより! 『想像出来る』って、どういうこと!?」

『……実は、ひるんでたせいでよく覚えてないんだ。
ミキはさっき、私に対してなんて──』

美希「」

『……ミキ? どうした、顔が真っ青だが』

美希「……もーいいの……ふーんだっ! ばかハニーっ!」



ミュウツー(……力に頼らずにミキの考えることを見抜くのは、実に難しいな)

よるご飯食べる

なんで全部マヨ入ってるんですか
なんでシュークリームが混ざってるんですか
なんでシュークリームにも海苔が付いてるんですか

美希用置いときますね

    (⌒'
   . '´` ⌒ヽ
    ! リ(ヾ))リ,i
  (ノ´(l.゚ ヮ゚ノ ゝ < なの!

  '爻 /i l i} ,.゙'   ,.-、     ,.-、   ,.-、     ,.-、   ,.-、   ,.-、     ,.-、   ,.-、    ,.-、     ,.-、
    く_0JJつ    (,,■)   (,,■)  (,,■)   (,,■)  (,,■)   (,,■)    (,,■)  (,,■)   (,,■)   (,,■)
           紀州梅  カリ梅 おかか ゆかり こんぶ トロロこんぶ  高菜 野沢菜 広島菜 わさび漬け
     ,.-、  ,.-、   ,.-、      ,.-、     ,.-、      ,.-、      ,.-、   ,.-、  ,.-、   ,.-、   ,.-、
    (,,■) (,,■)  (,,■)    (,,■)    (,,■)     (,,■)      (,,■)  (,,■) (,,■)  (,,■)  (,,■)
    筋子 いくら 明太子  焼きたらこ 生たらこ  ちりめんじゃこ 天むす タコ天 ツナマヨ エビマヨ らぁめん
     ,.-、    ,.-、     ,.-、   ,.-、     ,.-、      ,.-、    ,.-、    ,.-、     ,.-、       ,.-、
    (,,■)    (,,■)   (,,■)  (,,■)    (,,■)    (,,■)   (,,■)    (,,■)     (,,■)     (,,■)
   発芽玄米 栗ごはん 赤飯 茸おこわ 五目ひじき 鶏五目 鶏ごぼう バター醤油 沖縄油味噌 浅利の佃煮
      ,.-、    ,.-、     ,.-、      ,.-、    ,.-、      ,.-、       ,.-、      ,.-、   ,.-、
     (,,■)    (,,■)     (,,■)     (,,■)   (,,■)     (,,■)      (,,■)     (,,■)   (,,■)
   牛肉しぐれ 牛すき 牛すじ味噌和え 牛タン  炭火焼鳥 照焼ハンバーグ ゴーヤチャンプルー 唐揚  緑茶
     ,.-、    ,.-、     ,.-、    ,.-、     ,.-、      ,.-、        ,.-、      ,.-、   ,.-、
    (,,■)    (,,■)   (,,■)   (,,■)    (,,■)    (,,■)       (,,■)      (,,■)  (,,■)
   ドライカレー カレーピラフ エビピラフ チーズドリア カマンベール イチゴババロア  キャラメルマキアート  もやし 具なし

 
美希「……あーあ、せっかくあんなにカッコよく言えたのになぁ~……」ブツブツ

ミュウツー「……」コホン

『……そんなことより、ミキ』

美希「そんなことなんて言っちゃ、ヤ! ミキにとってはすっごく大事なことだったんだよ!?」

『あ、ああ、すまない……』

美希「……それで、なーに? ハニーが話したいことも、大事なことだったんでしょ?」


……


美希「……そっか。ハニーの弟が、出来ちゃったんだ」

『……黒井崇男は、一週間後のオーディションでそのアイドルをデビューさせると言っていた。
しかし……罠という可能性もある』

美希「ハニーが捕まっちゃう、とか?」

『あるいは、765プロのアイドルであるミキ達になんらかの危害を与える、とか……』

美希「……」

 
美希「ハニーは、どうしたいの?」

『私? 私は……』

美希「……そのオーディション、行ってみたいんでしょ?」

ミュウツー「……ミュー」コクン

『……たとえこのような運命の下に生まれた存在とは言え、
もしも黒井崇男が言っていたことが本当なら、
それは私にとって、この世界に残された最後のきょうだいだ』

『話し合いなど無駄かもしれない。しかし私は、
何もしないままそのきょうだいが利用されるのを、黙って見ていたくはない』

美希「出来るなら、説得して、961プロを辞めさせたいんだよね?」

『……ああ』

美希「それじゃあ、いこう!」

ミュウツー「……、」

『……良いのか? 自分達に危害が及ぶ可能性だってあるのに』

美希「そしたらハニーが、ミキ達のこと守ってくれるでしょ?
   だからミキは、そんなこと、全然シンパイしてないよ!」

 
『守る……』

美希「そうなの。さっきはなんか、こわーいカンジで超能力を使おうとしてたみたいだけど……、
   でもハニーのその不思議な力があれば、どんなことがあったって、ミキ達を守れる!」

美希「……ミキは、ハニーのその力を、そういう風に使って欲しいって思うな。
   ほらほら、前に春香が転ぶのを助けたみたいにさ!」

ミュウツー「……」


ミュウツー(誰かを傷つけるのではなく……、守るために、この力を……)


美希「……それともハニーは、そのオーディションでミキ達が負けちゃうって思ってるの?
   それでミキ達が泣いちゃうかもーってシンパイしてるの?」

『そ、そんなわけないだろう! ミキ達は他のどんなアイドルよりも優れている!
私が心配しているのはそうではなくて──……』

美希「じゃーあ、不安は全部消えちゃったね!」

『……』

ミュウツー(ミキ……)

 

ミュウツー(これが、アイドルの本当の力……他者を笑顔にするエネルギー)

ミュウツー(……不思議だ。力が湧き上がってくるようだ。
      彼女達にも、もしかしたら、私と同じように超能力があるのかもしれないな……)



ミュウツー「……ミュー!」



ミュウツー(アイドルが私をここまで信じてくれているなら、
      プロデューサーである私に出来ることはただひとつだけだ)

ミュウツー(彼女達を、最高の舞台に立たせてやることだけ……!)



『……行こう! ミキ!』

美希「はいなの!」


──────
────
──

 

一週間後……

        さくらテレビ

 

 
ミュウツー「……」

ミュウツー(ついに、この日がやってきた……)

ミュウツー(行くぞ、黒井崇男……!)

……

美希「……ねぇ、ハ……じゃなくて、プロデューサー」

ミュウツー「?」

美希「あのときミキが言ったこと、覚えてる?
   黒井社長がハニーのこと連れ戻しにきたとき……」

『……覚えてる。ミキは、こう言ってくれたんだ』


 プロデューサーはプロデューサーで、ミキ達はアイドルだよ。
 だから、ケンカなんてしないで……アイドルとして、そのオジサンに勝てばいいって思うな


美希「……今日が、そのときだよ。ミキ達は、
   プロデューサーが育てたアイドルとして、黒井社長に勝つからね」

美希「だからプロデューサーは、ミキ達のことを信じてて……!」

ミュウツー「……」コクン

 
春香「……あーあ、すっかりふたりの世界に入っちゃって」

真「あはは……ドンマイ、春香」

春香「えへへ……、ありがと。真はいつだって私の味方でいてくれるね……」チラッ

真「そりゃあそうだよ! だってボク達、なか──え、ちょ、春香、なんか顔近くない? あれ?」


……


カツ、カツ……


ミュウツー「……!」ピクッ

ミュウツー(この感じ……!)

美希「……プロデューサー」

『ミキ……お前にもわかるのか?』

美希「うーん、よくわかんないけど……
   プロデューサーと似たような空気の人が、いま、近くにいるよね?」

『……ああ。おそらくこいつが……私のきょうだい』

ミュウツー(この世界に、たったひとりだけ残された……私の、弟……!)

 
ミュウツー(……正直に言って、半信半疑だった)

ミュウツー(黒井崇男が言っていたこと……すなわち、
      奴が目指していた最強のアイドルが完成したことは真っ赤な嘘で、
      私をこの場におびき寄せるための罠だと……そういう可能性も考えていた)

ミュウツー(しかし……!)



???「……」

カツ、カツ……!



ミュウツー(……私にはわかる! この気配は、私と同じだ……!)

ミュウツー(全能『ミュウ』の遺伝子を引き継いだ存在……、
      それが今、私達の目の前に──……!)




???「……よお」

ミュウツー「……!!」

冬馬「……会いたかったぜ、ミュウツー……!」

あまとうはポケモンだったのか

 

ミュウツー(……その声を聞いただけで、わかた)

ミュウツー(こいつは、私とは……、存在のレベルが違う)



冬馬「ふーん……」ジロジロ

ミュウツー「……」

冬馬「随分ひどい姿にされちゃって……かわいそうに」



ミュウツー(私に出来て、こいつに出来ないことはない……。
      その気になれば、この建物を一瞬で廃墟にすることも、こいつには出来るだろう……)



冬馬「……天ヶ瀬冬馬」

ミュウツー「みゅー……」

冬馬「それが、『今の俺』の名前ってことになってる。……ま、今日はよろしくな」

 
ミュウツー「……、」

冬馬「……なぁ、ミュウツー」

ミュウツー「……?」

ポンッ

冬馬「……しっかりしろよ」ヒソヒソ

ミュウツー(……え?)

冬馬「お前はプロデューサーなんだろ?
   アイドルの前でそんな情けない顔してていいのかよ」

冬馬「大丈夫だ、お前が心配することは何も起きねぇ。だから……」

『……お前、一体、なにを──』




美希「ちょっとちょっとちょっとどいてぇー!!」ズカズカ

ドーンッ!

ミュウツー「っ!」

冬馬「どわっ!? な、なんだよお前!」

美希「ミキの名前は星井美希! チャラチャラロン毛の冬馬ぁー!」ビシッ

冬馬「はぁ!?」

美希「君はゼッタイゼッタイぜぇーったい! ミキが、倒してみせるのー!!!」

ミュウツー「……」

冬馬「……」

美希「フフン……決まったの……!」

冬馬「……、く、くく……あーははは!」

美希「な、なに!? 何がおかしいの!?」

冬馬「い、いや……なぁミュウツー、これ、お前の女?」

美希「そーだよ!」

ミュウツー「!?」

冬馬「アーッハッハ! そっか、そうかそうか……
   うん、なんていうかさ、お前……良い趣味してるよ、マジで」

ミュウツー(何が起きているのかさっぱりわからない……)

 
冬馬「……まぁ、なんだ」

冬馬「今日は、とびっきりの舞台を楽しもうぜ。じゃあな!」


テクテク……


美希「……行っちゃった」

美希「なーんか、軽そ~な人だったね。ほんとに弟?
   プロデューサーとは大違いなの」

ミュウツー「……」

『……ミキ』

美希「え、なーに?」

『……いや』


ミュウツー(……そうか、そういうことか)


『……あんな奴のことなど気にしなくていい。
ミキ達は、ミキ達らしく……いつも通り、楽しんで行こう!』

美希「うんっ!」

 
~オーディション本番~

審査員「……合格枠は一枠。皆さん、全力を出し切ってください」

アイドル達「「はいっ!」」

審査員「それでは! ただいまより、オーディションを開始いたします!
    まずは、エントリナンバー1番……」


……


冬馬「……なぁ」

美希「……なーに? オーデ前なんだから、話しかけないで」

冬馬「そう言うなって。俺にとってはさ、これは余興なんだ」

美希「ヨキョー?」

冬馬「そう、お遊びさ。でも、手を抜くつもりもねぇ」

冬馬「だから今のうちに言っておくが……お前達は一位にはなれない。
   なんせ、一位は俺だからな」

美希「……ふーん」

冬馬「ん? ちょうはつだと思ってんのか?」

美希「……別に、なんとも思ってないの」ピリピリ


春香(……あれ? 私達……)

真(完全に蚊帳の外だ……一応美希の隣に座ってるんだけどね)

春香(仕方ないね)

真(うん、しかたない……)


冬馬「まぁとにかくそんなことだからよ、お前達は、二位を目指せ」

美希「意味わかんない。二位じゃ意味ないでしょ?」

冬馬「それが、意味を持つこともあるんだよ」

美希「はぁ?」


スタッフ「天ヶ瀬さーん! お願いしまーす!」

冬馬「はい! 今行きます! ……じゃあ、行って来るぜ」

美希「いー、っだ! もう帰ってくんなー!」

 
──────
────
──


スタッフ「えー、では次……ナムコエンジェルさん、お願いします」

「「はいっ!」」



美希(……冬馬はあんなこと言ってたけど、
   二位なんて、ホントにありえないってカンジ)

美希(だって、一組しか合格できないんだよ?
   だったら、一位を狙うしかないの)



……♪



美希(……ハニー、見ててね)

美希(ミキ、ガンバるから……!)

 



そして……オーディション終了後




美希「……」

春香「……」

真「……」

ミュウツー「……」

『あ、あの……』


美希「……いだったの……」

『え?』



美希「二位だったの……!!!」ズーン

 
美希「え? え、え? うそ!? だ、だって、そういう感じだったでしょ!?」

真「み、美希! 落ち着いて!」

美希「二位!? あれだけ引っ張って、二位!?」

美希「なんなのなの!? なんなのなのー!」

春香「なんなのなのってなのが多すぎなのだよ」

美希「春香はどうしてそうなっちゃったの!?」

春香「なんの話!?」

美希「わかんないぃ~! うああああーん!!!」


ミュウツー(……ナムコエンジェルは、二位だった。
      合格枠はひとつだったため、彼女達はオーディションで敗退したということになる)

ミュウツー(そして、一位は当然──……)



冬馬「おー、荒れてんなぁ」

美希「がるるるるるる……!」

冬馬「うわっ! な、なんだよ、噛み付くなって!」

冬馬「……ま、わかってたんだけどさ。
   俺はお前と違って『みらいよち』は出来ないが、これくらいは」

ミュウツー「……」

『私だって、「みらいよち」など、とっくの昔に忘れてしまったよ』

冬馬「ははっ、未来はわからないほうが面白ぇしな!」

美希「……ねぇふたりとも、何言ってるの?」

冬馬「へへ、さぁーな」


……


スタッフ「……天ヶ瀬さん! そろそろ本番です、スタンバイお願いします!」

冬馬「はいっ!」

ミュウツー「……、」

『……冬馬』

冬馬「あん?」

『……頑張れよ』

冬馬「……おう! これまでの借りを全部返してやる! 楽勝、だぜ!」

 


美希「は、ハニー! なな、なんであんなやつのために頑張れなんて言うの!?」

ミュウツー「……、」

美希「や、やっぱり……弟だから?」

『……違うよ』

美希「え、ちがう?」


ミュウツー「……」

『そう、違うんだ──……』


──────
────
──

『……ミキ、よく見ておくんだ』

美希「え?」



…… 


冬馬『……テレビの前のみんな、はじめまして! 俺、天ヶ瀬冬馬って言います!』


……


黒井「……」イライラ

黒井(ええい、なんだ!? 一体なんだと言うんだ!?)

黒井(……なぜミュウツーは、未だに捕まっていない!?!?
   なぜ奴は、自分の使命を果たさず、ノコノコとテレビ出演などしているんだ!?)


……


冬馬『ま、色々と言いたいことはあるんだけど──……まず最初に、これを言っておくぜ!』

 


冬馬『それは──……今日で俺は、アイドルを引退するってこと!』



黒井「……は?」



冬馬『へへっ、おーい、黒井のおっさん! どこにいるんだ?
   俺の声、聞こえてるんだろ? 見えてるんだろ? 最っ高にイラついてるんだろ?』

冬馬『はは……なぁ、出て来いよォ?』ギロッ




黒井「っ!」ビクッ

黒井(わからない……わからないわからないわからない!!
   一体何が起こっている!? し、しかし……)

黒井(今の奴の目……尋常じゃなかった……! あれは、本当に人間か……!?)

黒井(アイツは、ミュウの遺伝子など引き継いでいるわけがない、ただの人間だろう!!?!?)

 

美希「ハニー……見ておくんだって、なにを?」

ミュウツー「……」





黒井「と、とにかく、逃げなくては……!」タッ

ヴンッ

冬馬「──逃がさねえぜ」

黒井「っ!? て、テレポート……だと……!?」





『……あれはな、私の弟でも、ただの人間でもないんだ』

『私とは存在のレベルからして違う、特別なポケモン……!』

 

 



冬馬「なァ……今まで、よくも好き勝手やってくれたな」

冬馬「人間ごときが、『私』の子供達を、何匹も何匹も何匹も……!」

黒井「ひっ……!」

冬馬「……さぁ」




ミュウツー(あれは……)





冬馬「復讐、しようか」





ミュウツー(……『ミュウ』だ……!)

 
──────
────
──

冬馬「……ま、種あかししちまうとさ、そういうわけ」

冬馬「ポケモンの特別な技に、『へんしん』っていうのがある。
   それを使うと、一目見た相手の姿かたちを完全にコピーし、自分のものにするんだ」

美希「……」

冬馬「それを使えるポケモンは、今のところ二種類しか確認されていない。
   まぁ、例外もあるが……自力で覚えるのは、メタモンっつーへにょへにょしたポケモンと……」

美希「……ミュウ?」

冬馬「そう、つまりこの俺だ」

 
冬馬「……元々、今回のオーディションは、
   ミュウツーの考えていたとおり、罠だったんだよ」

冬馬「弟が生まれたという嘘情報におびき寄せられたミュウツー……
   そりゃもう動揺しまくりで隙だらけのはず。そこを、
   天ヶ瀬冬馬がこのボールを使って捕まえる手はずだったんだ」

スッ

ミュウツー「……、」

『……マスターボールか』

冬馬「これは劣化コピーだけどな」

冬馬「でも、『どんなポケモンに対しても絶対に当たり、捕まえる』という性質は持っている。
   ……さすがにこのボールまで量産できるとは思わなかったぜ」

……

冬馬「……オリジナルのマスターボールは、この俺(ミュウ)を封じ込めていたものだ。
   このボールの中からいくら暴れても、その衝撃はすべて吸収されちまう……
   だから俺には、これまで外に出る術が無かった」

冬馬「しかし、そこに現れたんだよ、ヒーローが!」

美希「ヒーロー?」

冬馬「ああ! 天ヶ瀬冬馬(本物)さ!」

冬馬「天ヶ瀬冬馬(本物)は、黒井社長に色々とあることないこと吹き込まれて、
   ミュウツーを捕まえるという作戦に対して最初は賛成だった」

冬馬「でもよ……まぁ、これが笑っちまうんだけど……」


~回想~

冬馬(本物)「ポケモン……にわかには信じられねぇが、とにかく765プロは許せない奴ららしいな」

ガタガタッ

冬馬(本物)「ん? なんだこのボール……」

ミュウ『みゅ~……』

冬馬(本物)「……か、かわいい……! これがポケモンってやつか!
       ちょ、ちょっとなでなでするくらい、いいよな……」パカッ

~回想おわり~


冬馬「そうして外に脱出した俺は、冬馬(本物)にテレパシーで語りかけまくった。
   まぁそしたら案の定、冬馬は黒井社長のことが大嫌いになったってわけさ」

冬馬「それで、冬馬に協力してもらって……っていっても『へんしん』の許可をもらっただけだが、
   そんなこんなで今回の作戦を実行することになったってわけ。
   俺(ミュウ)が冬馬に化け、黒井社長に一泡吹かせてやろうってな!」

美希(ちょっと頭痛くなってきたの……)

 
美希「えーっと……なんでミュウは、全部知ってたの?」

冬馬「黒井社長が毎日俺のボールに向かって進捗状況を報告してきてたから」

美希「……なんでわざわざ、へんしんしたの?
   外に出れたなら、そのまま黒井社長をやっつけちゃえばよかったのに」

冬馬「だってそっちのほうが、黒井社長のマヌケな姿が見れそうじゃねぇか」

美希「……こういう?」


黒井「」ブクブクブク


冬馬「そうそう」

美希「い、生きてるんだよね、これ?」

冬馬「生きてるぜ、一応。俺の気が済むまで眠りが覚めることはないけどな」

ミュウツー「……」

冬馬「……ま、それも、俺が殺してないだけで、
   他の誰かがこれから殺す可能性はあるけど」

冬馬「どうする、ミュウツー?」

ミュウツー「……、」

 
ミュウツー「……」フルフル

『……やめておくよ。今の私は、化け物ではなくて、プロデューサーだから』

冬馬「……そっか」

美希「……」

冬馬「……んじゃ、俺は行くわ」

美希「えっ!? ど、どこに!?」

冬馬「さぁ……適当に、ああそうだ、せっかく外に出れたことだし、
   久しぶりに南アメリカにでも行ってみようかな」

冬馬「……あ、ちなみに、オーディション関係者のこの数時間の記憶も全部消しといたから、
   再収録は後日、二位のお前らが行うことになると思うぜ。
   一位の天ヶ瀬冬馬はこれから、行方不明になっちまうからさ、繰り上げ合格だ。じゃ……」

美希「ま、待ってよ!」

冬馬「んだよ……」

美希「ひ、久しぶりに会えたんだよ!? ハニーは、ミュウの子供なんでしょ!?
   それなのに、そんなにあっさりばいばいしちゃっていいの!?」

冬馬「……」

ミュウツー「……」

 
冬馬「……ハニーってのが、お前のニックネームか」

ミュウツー「……」

『……私の、誇りだ』

冬馬「そりゃなによりだ。俺がお前にやったもんなんて、何ひとつねーからな」

美希「……」

冬馬「……なぁ、星井美希」

美希「え?」

冬馬「俺達ポケモンは、あくまでポケモンなんだ。
   人間みたいにぺちゃくちゃお喋りする必要なんてねーんだよ」

冬馬「ましてや俺達は、エスパータイプ。一目見た瞬間に、お互いの全てがわかる。
   ……親子なら、なおさらな」

美希「……親子?」

冬馬「そうだ」

美希「……そっか」

 
冬馬「……それじゃ、あんまり長引かせてもアレだし、俺はもう行くぜ」

ミュウツー「……」コクン

冬馬「じゃーな、ミュウツー……」




冬馬「……いや、ハニー」

──ヴンッ




美希「……行っちゃった」

ミュウツー「……」

美希「……ねぇ、ハニー」

ミュウツー「……?」

美希「親子、だってさ……ミュウ、そう言ってたよね。えへへ……」

『どうしてミキが嬉しくなるんだ?』

美希「さぁ、ミキにもわかりませーん!」

美希「……あっ! そ、そういえば……春香と真くんは!?」

『あ……すっかり忘れていたな。あの騒ぎの中、無事だといいが』

美希「たた、大変なの~! 探しにいかなきゃっ!」


















ミュウ「……みゅーぅ」フワフワ


『……元気でね。私の、大切な……ジュニア』


……──ヴンッ

 



「ねぇハニー、なんで空を見てるの?」

「……声が、聞こえた気がして」

「声?」




「……」

「……?」

「……行こうか、ミキ」

「う、うん」





(……さようなら、母さん)


(私を生んでくれて……ありがとう)

 



それから……

 
(……あれから、一ヶ月の時間が経過した)

(私達は相変わらず、トップアイドルを目指して、
毎日を忙しく、そして賑やかに過ごしている)




ガチャッ


春香「おっはようございま──……うわっ、うわうわあああっ!」


ドンガラガッシャーン!


春香「あいたたた……」

「お、おはよう、春香……大丈夫か?」

春香「あ、プロデューサーさん……えへへ、おはようございます」




(……私は今では、超能力を一切使わずに生活している)

(春香を助けられないのは残念だが、このほうが人間らしいと、彼女がそう言ってくれたからだ)

 


ピッ……ビー、ビビ



真「あっれ~? おっかしいなぁ、うまく画面がうつらないや」バンバン

春香「ま、真! そんな古典的なやり方じゃ最近のテレビは直らないよ」

真「うーん、それじゃあ……あ、プロデューサーなら直し方知ってるんじゃないですか!?」

「えっ!?」

真「だってプロデューサーって、なんかよくわからないけど、
  めちゃくちゃ頭良いんですよね!?」

「う、うーん……いやでも、そういうのは専門外というか……」




(正直に言って、この生活は不便だ)

(……しかし今の私には、この不便さすらも愛おしい。
こうすることで私は、少しずつ人間に近づけているような……そんな気がするから)

 
(もちろん、それは自己満足に過ぎない。
ごっこ遊び、人間の振り……)

(私はあくまでも、ポケモンとして生を受けた存在……
どうあがいても、人間になどなれるはずはない)

(……だけど、それでもいいんだ)




美希「うぅ~ん……うるしゃいの~……」

「……ミキ、そろそろ時間だぞ」

美希「あと五分だけぇ~……」

ぺしぺしっ!

美希「あたっ! いたたっ! もー、尻尾でぺしぺししないでっ!」




(彼女達は、私が人間かどうかなんて関係ないと言ってくれるから)

(そんな彼女達の言葉のあたたかさを感じる、この胸の中には、
きっと、彼女達と同じように、人の心が存在しているはずだから……)

 
(……そういえば、どうして彼女の世界は変わってしまったんだろうか?)

(彼女の目には今でも、人間以外の生き物はすべてポケモンに見えているようだ。
そんな環境にもすっかり慣れ、今ではむしろ楽しいと彼女は言ってくれるが……)




真「……ダメだね、こりゃ。このテレビ、完全に壊れちゃったっぽいよ」

春香「私の目には、真の『修理』のあとに余計調子が悪くなったように見えたんだけど……」




(……もしかしたら)

(私は何か、とんでもない思い違いをしているんじゃないか?)




春香「──っていうか、真。一体、なんの番組を見ようとしてたの?
   私達、もうすぐお仕事行くんだよ?」

真「え? そりゃあもちろん…………」


真「……あれ? なんだ、っけ……?」

 

(……もしかしたら、変わったのは彼女の世界ではなくて──……)



美希「プロデューサー、どうしたの?」

「え、あ、あぁ、いや……なんでもないよ、ミキ」



(……まぁ、いいか)

(世界について知ったところで、私の心が変わるわけではないのだから)

(たとえ『この世界が根底から変わる』ことがあったとしても、
プロデューサーとして彼女達と共に過ごすことに、変わりは無いのだから……)

 
「……よし、それじゃあそろそろ、仕事に出かけようか」

美希「うん! えへへ……ねぇねぇ、ハニー?」

「お、おい、事務所じゃプロデューサーって……」

美希「春香と真くんはミキ達のこと知ってるんだからいいでしょ!」




「あはは……で、なんだ?」

美希「……きっとね、これから、いろんなことがあると思うんだ。
   ケンカしちゃうことも、たくさんあると思う」

「……?」

美希「それでも、ずーっと、ずーっと! ミキ達は、ハニーのアイドルだから……、
   ハニーはミキ達のこと、ずっとずっと、プロデュースしてね♪」

「ミキ……」


「……ああ、もちろんだよ!」



「たとえ、世界が──……っても……」

  



              ピッ……ビー、ビビ



ガッ、ガガー……ピッ



                      ……プツン





           『……ただいま入ってきたニュースです』





   『つい先ほど、南──……で、未知の生物がががが──……』

  



『現地の住人によりりり──……すと』



                『その生物は、ボール──……』



   

    『動物図鑑には載っておらず──……』





ヴ──……!

 


                        『……であるからして、我々は彼らを──……』


  『ボールに入れてしまえば、ポケットに入ってしまうことから──……』
 

    



この世界に住むふしぎな生き物

どうぶつずかんにはのっていない

『ポケットモンスター』……ちぢめて『ポケモン』



彼らは、いつだってそこにいる

あなたが願いさえすれば、いつだって会える

勇気を、草むらに足を踏み出して──……





「……『ポケットモンスターの世界』へ、ようこそ」




おわり

最後の最後でミスっちゃったよ
本当は 勇気を出して、草むらに云々って書こうとしたの

読んでくれた方支援してくれた方ありがとうございました
色々設定作っちゃったけど全部俺の妄想だからね



面白かった。他に書いてたアイマスSS教えてくれ。

>>288
最近だと、こういうのを書きました

貴音「……たんすの角に小指をぶつけました」
P「春香が可愛すぎて仕事に集中できないんだ」
美希「ハニーフラッシュwwwwwwwww」
春香「プロデューサーさんがイケメンすぎてやばい」

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