白AI「マスターが世界一ですよ」男「……」 (22)

 
 ――男宅

男「だあぁっーッ! また負けたッ! 硬すぎるだろッ!」
白AI『マスター、ごめんなさい。私のせいです』シュン・・・

男「仕方ないさ、気にすんな。そもそもペンタゴンより強いセキュリティの時点で、無理ゲーだったしな」
白AI『そ、そうですよねッ。仕方ないですよねッ!』

男「おう。次頑張ろうぜ」
白AI「はいッ!!」

男「ありゃ。コーラからっぽじゃん、全く…………」トコトコ

男「はぁ。それにしてもどうする? 手は出しつくしたぞ? それとも、まだなんか在るか?」プシュッ
白AI「いいえ。マスターの言う通り、手は出しつくしました。これ以上の戦略は、私のデータ内には存在しません」

男「そうか…………」
白AI「はい…………」シュン……

男「――ほら、元気出せって。早くしないと、トリックオアトリックだぞ?」
白AI「えっ――ひゃうんッ! マスター。マウスはダメですよぉ」

男「ははは、まぁ元気出せよ。な?」
白AI「ひゃい」

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男「それにしても、だな」
白「はい。一体どういう仕組みなんでしょうか」

男「あのAI。確か名前は黒AIだったか?」
白「そうです。まぁ、偽名の可能性もぬぐいきれませんが」

男「まあ。偽名だったからって、何か困るわけでもないけどな」
白「それもそうですが」

男「明日でちょうど一周年だな」
白「そうでしたね」

男「あの女もさ。よくもまぁ、あそこまでやれたよな」
白「理由は分かりませんが、『計画』と言っていましたね」

男「あぁ、その『計画』ってのがよくわかんないんだよな」
白「…………」


男「『計画』の遂行のために、人類の死滅が必要なんだったよな」
白「はい。そう言っていました」

男「で、一年前に起こした東京での予行演習……ね」
白「まぁ。世界でも類を見ないほどの規模でしたからね」

男「そうだよなぁ。信号の不規則な点灯。インターネットの停止に加え、
  東京の配電をシャットアウトして、なんてそうそうできないよな」
白「私ならできますが」

男「でも、しないだろ? だってネット使えなくなったら俺が死ぬし」
白「マスター。コミュニケーション障害ですからね……」

男「そ、それはあいつらが悪いだろ。人が百点取るたびにグチグチ煩いんだぞ?
  そのたびに裏を確認してくるし」
白「全国テストでミスしたことがないマスターも、どうかと思いますが」

男「それを言ったらおしまいだ」
白「ですね」


男「ま。お前を創れただけで十分だな」
白「ま、ますたぁ……」ウルウル

男「ということで、黒AIの捜索――場所は分かっているから確保か。
  再開しますか」
白「ますたぁ……」ハァー

男「確保を再開とは言っても。どうすりゃ良いんだろうな?」
白「…………」

男「白AI? どうかしたか?」
白「なんでもありませんッ。気にしないでくださいッ」プイッ

男「明らかに機嫌が悪いがな……。なんかしたか? 俺」
白「いいえッ。マスターは悪くないですよッ」プイッ

男「そっか。ならいいか」
白「ならいいんですか…………」ボソッ


男「とりあえず。こっちには減るものも無いし。再三やってきた特攻を
  繰り返すとしますかねぇ」
白「それが打倒でしょうね」

男「最善かときかれても、是非無く首を振れないのがつらいがな」
白「大いに首を振って、最善とはいえませんね。
  そもそも、後退しているのか進展しているのか。
  それとも停滞しているのか。判断しかねる状況ですから」

男「なんか。一転してくれればいいんだけどな。目に見えて。
  進退関係なく」
白「それでも進展の方がいいですけれど……」

男「一番最悪なのが、進展と思えば、ってやつだな」
白「知らないうちに泥沼にはまるのは、確かにですね」

男「身動きをしないのと、できないのでは大きく違うからな」
白「はい」


白「ですが、マスター」
男「ん?」

白「この間言っていた。あの一年後に活動を開始する? という考えについてですが」
男「ああ、それか。だけど考え物だよな。
  たぶん、確実にあの黒AIを止められるのはお前だけだからな。
  さがすのに手間取っている時点で、無理な気もする、が……」

白「する、が?」
男「見つけたらこっちのもんだな」

白「なんでしたか。マスターの夢ですよね。一年間培ってきた」
男「おう。絶対に見つけてやるよ。そして――」

白「製作者と友達になる。でしたね」
男「俺より頭の良い奴なんて、初めてみたからな。
  やっぱ、上には上がいるもんだ」

白「いいえ」ニコッ

白「マスターが世界一ですよ」
男「そっか。ありがとう白AI」


男「でも、やっぱり見つからないな。弱点みたいなところなんざ」
白「穴があれば、今頃捕まえられている頃ですからね」

男「そうだよな~。――ん?」
白「メール、ですか?」

男「そうだな。たぶん広告メールだろ」
白「待って下さい、マスター。今調べますから」

男「どれどれ」

白「――っ、マスター待ってッ! 開けちゃだめですッ!」

男「え?」ポチッ


――警視庁

 刑事「…………」
 研究者「…………」 

 研究者「これ」スッ
 刑事「ブラックか」

 研究者「なに。不満?」
 刑事「いや。ありがとう」

 研究者「どう。情報は入った?」
 刑事「いや、全然だ。そもそもクラッカーを足で捕まえようって時点で、おかしいだろう。
    無駄足にもほどがある」

 研究者「そうね。だけど仕方ないでしょう?」
 刑事「あぁ。仕方ないな」


 刑事「そういうお前等は、何かつかんだのか?」
 研究者「馬鹿ね。掴んでたらこんなところには居ないわよ」

 刑事「それもそうか」
 研究者「それもそうよ。実際、あの黒AIをつかめるような人材が、日本の警視庁なんかに
     いるわけ無いでしょう」

 刑事「宇宙開発とかしてそうだよな」
 研究者「そんな生ぬるいレベルじゃない。もしかしたら、どこでもドアとかも創れるかもしれない」

 刑事「まじか」
 研究者「まじよ。少なくとも、宇宙ステーションなんて限られた研究しかできないところには飛ばされないわね」


 刑事「…………そういえば、言ってたな」
 研究者「なにを?」

 刑事「あの女を創ったやつが捕まっても、大した処分は下されないって」
 研究者「ふーん。誰が?」

 刑事「お前だろ」
 研究者「そうでした」

 刑事「お前。意味分からんところで抜けてるな」
 研究者「科学者なんて、みんなそんなものよ」

 刑事「あっ、そう。で、なんでなんだ?」
 研究者「?」


 刑事「なんで大した処分がくだらないんだ?」
 研究者「あぁ、それ」

 研究者「…………あなた。あの黒AIにあって、ほかのAIにないもの、 
     なんだと思う?」
 刑事「? 黒AIにあって、ほかのAIにないもの?」

 研究者「そうよ。なんだと思う?」
 刑事「…………分からんな。なんなんだ、いったい」

 研究者「感情よ」
 刑事「感情?」


 研究者「そう、感情。あのAIには、確実に感情が備わっていた。そんなことは、ありえないはずだけれどね」
 刑事「ありえないのか? でも、あったんだろ?」

 研究者「だから、ありえないはずだったのよ。でも、あった」
 刑事「それが、なんでお咎めなしに繋がるんだよ」

 研究者「それくらい分かりなさい」
 刑事「わからないね。理系はさっぱりだ」

 研究者「これは読解よ」

 


 研究者「つまり。人工的に感情を作れるほどの技術を持っているような誰かしらを、
     世界は[ピーーー]わけにはいかないのよ」
 刑事「ふーん」

 刑事「でも、実際どれくらいすごいんだ? それって」
 研究者「そうね…………、言ってしまえば四次元ポケットの無い青いタヌキね」
 
 刑事「それは、すごいのか?」
 研究者「まぁ、すごいわね。ロボットがねずみに恐怖を抱くのは」

 刑事「へー、そうなんだ」
 研究者「あなた、よく警察官になれたわね」

 刑事「しつれいな。これでも空手の黒帯だぞ」
 研究者「つまり、頭が固いのね」

 刑事「反論はしない」


 研究者「出来ない、でしょ。まぁ、その辺りは期待していないから、どうでもいいわ」
 刑事「どうでもいいのか」

 研究者「そろそろ戻るわ。あなたもランニング頑張ってね」
 刑事「ランニングじゃねえよ。ていうか車使ってるし、そもそも捜査だし」

 研究者「え?」
 刑事「なに、意外だった? そりゃ悪かったな」

 研究者「ごめん、なんて言ったか聞こえなかったわ」
 刑事「あ、聞こえて無かっただけですか」


 研究者「そうなのよ、ごめんなさい。でも、車じゃなくてタクシーでしょ?」
 刑事「聞こえてんじゃん。いいんだよ。どうせ上持ちだから」

 研究者「そう。じゃあ頑張ってね、税金泥棒さん」
 刑事「やめろ。ていうかお前も刑事だろ」

 研究者「それにしても、忙しないわね。どうかしたのかしら」
 刑事「そうだな。お前の毒舌も忙しないな」

 研究者「いいえ。これはまだまだローペースよ」
 刑事「かつぜつも良いのか? すごいな、お前」

 モブB「あの、すいません」ワセワセ

 研究者「ええ、かつぜつには自信があるのよ。あなたの名前もしっかりと言えるし」
 刑事「俺の名前五文字だし。しかも一回も噛まれたことないし」


 研究者「それはそうね。あなた自身かませ犬ですものね」
 刑事「なめるなよ。かませ役がいないと、主人公は際立たないんだぜ?
    お前のかつぜつの良い毒舌も、ただの悪口になっちゃうぞ?」

 モブB「ええっと、あの……」ワセワセ

 研究者「噛まれないかませ犬ほど必要の無い存在は、
     名前五文字の一回も噛まれたことすらない、忘れ去られた刑事くん位のものよね」
 刑事「ははは、かつぜつの良い毒舌以外にとりえの無いお前には言われたくないね」

 研究者「あら、かませ犬くんは『とりえ』なんていう言葉知っていたのね。そんなもの無いのに」
 刑事「とりえあるし。さっき黒帯って言ったし」

 モブB「あの…………」

 研究者「ところであなた――」

 モブB「あ、はい。良かった、やっと話を聞いて――」

 研究者「――コーヒーまだ飲んでるのかしら? 全く貧乏性なんだから、かませ犬くんは」
 刑事「もう入ってねえよ。貧乏性でもねえよ」

 研究者「性ではない?」
 刑事「貧乏でもねえよ。ちゃんと貯金してるし」


 モブB「…………」チーン

 研究者「口だけならなんとでも言えるのよ?」
 刑事「口だけじゃねえよ」

 研究者「証明は出来るのかしら?」
 刑事「なんだ、何すればいいんだよ。なんでもしてやるよ、言ってみろ」

 研究者「あ、じゃあ今日の夜あなたの奢りね」
 刑事「えッ?!」


 ――男宅

 男「なんだ。こういうの多いな、最近」
 白「…………」

 男「出会い系とかの女って、信用できなさそうだよな」
 白「…………」

 男「? おい、大丈夫か? 白AI?」
 白「……いえ。メールにしては容量が大きいな、と思ったので…………」

 男「ほう、で、どうだったんだ?」
 白「ウイルスの類いは見つかりませんでしたね。それに準ずるものもありません」

 男「あぁ、なら大丈夫だろ」
 白「ですね」


 男「それにしても腹へったな」
 白「もう八時ですよ」

 男「気付かなかったな。もうそんな時間か」

 男「コンビニ弁当でいいかな?」
 白「栄養も気にしてくださいよ、マスター。倒れてしまっても、私にはどうしようもありませんから」

 男「まぁ、インスタントよりはましだろ」
 白「それは、比較対象を間違えていると思うんですけど……」

 男「レンジ、レンジと」


 男「うまそうだろ?」
 白「そうですね。おいしそうです」

 男「お前にも食わせたいよ。絶対においしいのになぁ」
 白「あの味覚データも大概ですけど」

 男「でも実物とは違うだろ? やっぱりちゃんとしたの食わないと」
 白「レモンって、とてもすっぱいですよね」

 男「始めての食事にレモンを選んだお前に、俺は驚いたけどな」
 白「最初にレモンの味をデータにしたマスターにも、後々驚きましたけどね」

 男「酸味が一番簡単だったな、情報化するの」
 白「私が解析するのに四時間掛かりましたけどね」


 男「まぁ、おいしいよ」
 白「ですか」

 男「そんなことよりも、だ」
 白「栄養は大事ですけどね」

 男「それはもういい。それよりも、あのAIをどうやってつかまえるかだ」
 白「……色仕掛け?」

 男「それはギャグか? それに相手は女だろう。ホストでも連れてくるか?」
 白「マスター、知り合い居ないでしょう? 現実的に不可能でしたね」

 男「抉ってくるな。マスター泣いちゃうぜ」
 白「カメラはばっちりです。どうぞ」


 男「ばっちりです、じゃねえよ」
 白「それにしてもですね」

 男「まずトラップには引っ掛かってはくれないだろうしな」
 白「そんなに簡単だったら、もう捕まってますよ」

 男「だろうな。だけど、な」
 白「一から洗いなおす?」

 男「それぐらいしか手は無いだろうな」
 白「……はい」

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