雪ノ下雪乃「神話大系」 (116)

第一話

義務教育課程終了までの九年間、私が得られた友好の輪は一つ足りとも存在しなかったことを断言しておきます。私欲にまみれた異性の好意を袖に降り、嫉妬に狂った同姓の僻みに目もくれず、社会的有為の人材となるための自己研鑽に明け暮れた結果として、私が孤立の立場に追い込まれたのは、なにゆえであるか。
責任者を問いただす必要がある。責任者はどこか。
私は誕生以来真っ直ぐに生きてきた。生後間もない頃の私は純粋無垢の権化であり、姉共々その邪念の欠片もない微笑で親類を愛の光で満たしたと言われる。それが今ではどうだろう。
集団から弾かれている己を自覚するたびに怒りに駆られる。なにゆえ私はこうなってしまったのか。これが現時点における私の総決算だというのか。周囲のねじまがった価値観と同調意識が私を異端であると弾劾するならば、私にだって考えがある。世界を変えるのだ。まだ若いのだからと言う人もあろう。人間いくらでも変わることができると。
そんな馬鹿なことがありえない。
三つ子の魂百までと言うのに、当年とって十と五つ、やがてこの世からは成人として扱われようとする立派な淑女が、いまさら己の人格を変貌させようとむくつけき努力を重ねたところで何となろう。第一それは私にとって敗北を意味する。どんな抵抗にも耐え抜き虚空に屹立していた私の人格が報われない。
よって今ここにある己を引きずって、生涯をまっとうせしなければ、私の過去から目をつぶってはならないのだ。
私は断固として目をつぶらぬ所存である。
でも、いささか、見るに堪えない。

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