二度目の過ち (34)

菫「照ー 起きてるか? 遅刻するぞ」トントン

照「ふぁ~あ あ、おはよー スミレ」ガチャ

菫「なんだ、今日はちゃんと一人で起きたみたいだな」

照「いつも、ご迷惑かけてます」ペコリ

照「外寒いでしょ、私は着替えてくるから、スミレは中で待ってて」

菫「最初からそのつもりだよ、お邪魔します」

照「いらっしゃいませー」ニコニコ

菫「今日はやけに機嫌が良いな、何か嬉しいことでもあったか?」

照「気のせいじゃない?」バタン

菫「絶対おかしい、(照は朝弱いから起きてしばらくは不機嫌なんだがな・・・・・・)」

菫「うーん まあ一年に一度位はそんな朝があっても良いかな。さてと、照が着替えている間に朝ご飯の準備進めておくとするか」


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菫「えーっと、冷蔵庫の残りは・・・・・・生クリームに卵の他には昨日の晩御飯の位しか残ってないな」

菫「照は生クリームなんて何に使うんだろうな」

菫「これなら朝は簡単にパンかな」

照「おまたせー って・・・・・・ス、スミレなにしてんの」

菫「台所貸してもらうよ。朝ごはんパンで良いか?」

照「ご飯の準備は私がやるから、スミレは座ってて」

菫「二人で手分けしたほうが絶対早いだろ」

照「大丈夫、一人でできるから」

菫「照・・・・・・やっぱり今日はちょっと変だぞ」

照「そ、そんなことないよ」

照「と・に・か・く、今日は私ひとりでやるの」

菫「はぁ・・・・・・分かったよ、一度こうと決めたらテコでも動かないからな。TV見ながら大人しく待ってるよ」

照「ふぅ・・・」

菫(絶対おかしい、珍しく機嫌が良いと思ったら、急に慌てだして・・・・・・)

ー照sideー

菫「今日はちゃんと一人で起きたみたいだな」よしよし

照「いつも、ご迷惑かけてます」ぺこり

照「外寒いでしょ、私は制服に着替えてくるから、スミレは中で待ってて」

菫「最初からそのつもりだよ、お邪魔します」


照(今日も、すみれはいつも通りの時間に私の部屋をノックする)

照(私がここに引っ越してきて一ヶ月位経ってからずっと続く習慣)

照(今では、お互いの家を行き来しあって)

照(妹の咲より親密な関係かもしれない)

照(そのおかげで遅刻知らずの皆勤賞、すみれにはホント感謝してる)

照(・・・)

照(でも、そんな楽しい時間も残り一ヶ月)

照(一ヶ月しか残されてない。私たちは卒業したら別々の道を歩むことが決まってる)

照(私は長野に戻って地元の実業団、すみれは東京の大学 距離も進路もまるで別)

照(だから、このチャンスを逃すわけにはいかない!)

照(卒業式の日はきっと私使い物にならなくなっちゃうから)

照(尭深と誠子には後でお礼しなくちゃだよね)

照(今日までいろいろ相談に乗ってもらったり、買い出しにも付いてきてもらったり)

照(うぅ、今から緊張してきたー)

菫「今日はやけに機嫌が良いな、何か嬉しいことでもあったか?」

照「気のせいじゃない? じゃあちょっと失礼して」


照(普段そんなに無愛想なのかな・・・・・・いつも通りお迎えしたつもりだったのに)

照(―ーーとりあえず制服に着替えようかな)

・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・

照(うん、これでよしっと)

照(すみれの所に行く前にちゃんとカバンに入ってるか確認しとかないと)

照(ちゃんと入ってるよね・・・・・・うん入ってる)

照(あ、もうこんな時間 朝ごはんの準備しなきゃ)

照「おまたせー って・・・・・・ス、スミレなにしてんの」

菫「ああ来たか。朝ごはんパンで良いか?」

照(冷蔵庫の前に立ってるってことはバレた? バレたよね)

照(まだ昨日の残りが入ってるから・・・・・・)

照(でも、かすかな望みに掛けて!)

照「準備は私がやるから、スミレは座ってて」

菫「二人で手分けしたほうが早いだろ」

照「ま、間に合ってるから」

菫「照・・・・・・やっぱり今日はちょっと変だぞ」

照「そ、そんなことないよ」

照「と・に・か・く、今日は私ひとりでやるの」

菫「はぁ・・・・・・分かったよ、TV見ながら大人しく待ってるよ」

照「ふぅ・・・」

照(すみれごめんね。後で必ず説明するから もう少しだけ我慢してね)

照(えーっと・・・・・・あれ?)

照(無い? 冷蔵庫に入ってない? もしかして私の思い違い?)

照(生クリームとか卵は有るけど肝心のブツは入ってない? あっ、そっか)

照(昨日のうちに全部ラッピングしてセカンドバッグに入れたんだ)

照(こんなことなら素直に手伝って貰うんだったなー でも、もう遅いよね)チラッ

照(ごめんね)

菫「いつもより早く出たとはいえそんなに時間に余裕があるわけじゃないぞ」

照「スミレこそなんでそんなに急いで歩いてるの?」

菫「風が冷たくて寒いんだよ。よりによって手袋持ってくるの忘れるし散々だよ。早く暖房のきいた教室に入りたい」

照「昨日の天気予報で午後から雪が降るかもしれないって言ってたよ」

菫「そうなのか、どおりで冷えるはずだ、うぅ寒い・・・・・・」ブルブル

照「もー 仕方ないなー スミレ」

照「はい、私カイロ二つ持ってるから、一つ貸してあげるね」

菫「照にしては準備が良いな、ありがたく使わせてもらおう」

照「ぶー 一言余計だよ」

菫「あぁ、あったかいあったかい」ヌクヌク

照(かわいい いつもこのくらい隙を見せてくれても良いのに)

菫「やっと着いた。やっぱり屋内はあったかいな」

照「このくらいの寒さで参ってたら雪国で生活なんてできないよ」

菫「そういえば、照は長野出身だったな」

菫「運動神経はイマイチなのに不思議と滑って転んだところは見たことないからな。
  まあ何もないところに躓くことはあるけど」

照「素直に褒めてくれれば良いのに。まあ東京の人とは年季が違うからしょうがないよね」

照「ところでスミレそろそろ本題に入っても良い?」

菫「やっぱり触れないとダメか?」

照「コレどうにかしないと上履き取り出せないし避けて通れないよ
  もしかしなくてもスミレも私と同じ状況?」

菫「そのようだ。そうか、今日は2月14日だったか」

照「うん、今年は一段と・・・・・・まあすごいことになってるね」

菫「そういう、照も似たような状況だな」

照「あはは・・・・・・」


 そう、今日は二月十四日 バレンタインデー
 お菓子メーカーの陰謀によって一年で一番大量のチョコレートが消費される日
 本命 友チョコ 自分へのご褒美などなどTVや雑誌で特集を組まれる程重要イベント

 私や菫にとっては既に2回通った道だけれど何度経験しても決してなれないものだったりするの
 贈ってくれた人の気持ちはどうあれやっぱり無下にはできないけど流石に量が多すぎて甘いものが得意な私でも友達とシェアして食べる程
 気持ちを汲んで、別なモノにしてくれる人もいるけど、これは流石に・・・・・・

菫「何とか、カバンに入った・・・・・・これ持って帰れるかな」

照「お疲れさま これで終わってくれるなら助かるけどそうはいかないよね」

菫「多分、これで全部じゃないだろうな」

菫「照はこれを見越してサブバッグ持ってきていたんだな」

照「一応ね、それでもちょっと不安かも」

「あ、おはよー 二人とも大人気みたいだね」

「私も一度で良いからそんなにもらってみたいよー」

照「そんなこと言って、貰う方も気を使うんだよ」

「はいはい そんな二人に私たちから はい、どうぞ」デデーン

菫「ありがとう」

照「気を使わせちゃってごめんね」

「良いよ、良いよ。二人にはいつも沢山楽しませてもらってるし こうなるだろうと思ってグループでひとつにしたんだもん」

「その代わり味の方は期待してね、ちょっと奮発したんだよー」

照「休み時間に二人で食べるね」

「じゃあねー 今日一日大変だろうけど頑張ってね」

菫「しばらくお菓子買わなくても良さそうだ・・・はぁ」


 教室に着いた時点でこの量だと昼までには冗談ではすまない量になりそう
 これは、みんなに手伝ってもらって消化しないとダメっぽいや

 悪い予感は見事に当たり、休み時間ごとにカバンの重量は増すばかり 普段から、部室でおやつ食べてるのもあるのかな?

菫「今日は一日がすごく長かった・・・・・・こんなにもらってどうしよう」

照「今年は一段と多かったね。これだけ多いと一人じゃちょっと消費しきれないし、誠子達に手伝ってもらう?」

菫「そうだな私も最近ご無沙汰だったしそうするとするか。部室に顔を出したら、いくつか追加されたりしてな」

照「それ、冗談でも笑えないよ・・・・・・二年生は去年の惨状しってるし大丈夫だよ」

菫「あれは酷かったな。おかげで一週間で3キロも太って元に戻すの大変だったよ」

照「何てったって、調理室開放して講習会開いたり、情報交換したりちょっとしたお祭りだったもんね」

菫「あれは会長のフットワークが軽すぎたというか、それを許した教師陣の度量が大きいというか」

照「でも、楽しかったでしょ」

菫「まあな、照はどれだけ食べても太らないから羨ましいよ」

照「逆に沢山食べないと今の体形維持できない辛いんだよ」

菫「それは照が休みの日ご飯食べずにひたすら本読んでるからじゃないのか」

菫「何度、携帯で『お腹がへって動けないよー 助けてすみれえもん』ってメールが届いたことか・・・・・・」

菫「その度、ご飯作りに行ってやってる私の身にもなってくれよ」

照「だって、自分で作るよりスミレが作ったほうがおいしいんだもん」

菫「だからといって限度というものがだな―――」

「今日もアツアツだね、また夫婦喧嘩してるの?」

菫「どこをどう見れば夫婦なんだ」

「奥さんに怒られたー」

照「私が旦那ですみれが嫁って設定なんだね」

「だって・・・・・・ねぇ?」

菫「前々から気になってるんだが、傍目にはそんな風に見えるのか」

「それはヒミツだよ、さぁさぁ教室掃除始めるから用のない人は帰ってねー」

菫「まだ話は終わってないぞ」

菫「まったく何でもかんでもそっちの方向へ・・・・・・」ブツブツ

照「悪気があって言ってるんじゃないんだから」

菫「だから、余計にタチが悪いんだよなー」

照「気にしちゃダメだよ。それよりこれからどうする? 部室に顔出してく?」

菫「まあ、そのつもりなんだが・・・・・・」

菫(照は、あんな事言われて何とも思わないのか?)チラッ

照「どうしたの? 私の顔なんて見て」

照「はっ、もしかして顔にチョコが付いてるとか? どこどこ? 早く言ってよね」ゴシゴシ

菫「心配しなくても付いてないよ。ちょっと別のこと考えてた」

照「ふーん(何を考えてたのか気になるなー)」

菫(照にそっちの気があったら、こんな風に付き合ってないし心配しすぎかな)

菫(・・・・・・嫌なこと思い出した。あのことはもう忘れようと思ってるのに)

菫(うん、そうだな。打ってれば気分転換にもなるし大星のことも気になるし行くか)

菫「しっかり練習してるかチェックしないといけないな」

照「スミレはいつまで経っても抜けないよね。もう部長の役職は二年生に引き継ぎしたんだからさ」

菫「悪かったな・・・・・・でも別に良いだろ。私たちが卒業したから白糸台は弱くなったなんて言われるの照も嫌だろ」

照「それはそうだけど、IHメンバー三人に新メンバーを加えた今のチームだってなかなかのものだよ」

「先輩にそう言ってもらえるとすごく救われます」


菫「久しぶりだな。元気だったか」

照「尭深も今から?」

尭深「はい、先生に用事を頼まれてちょっと遅れちゃいました。宮永先輩、弘世部長・・・じゃなかった先輩 今日はどうしたんですか?」

菫「久しぶりに部室に顔を出そうと思ってな」

尭深「先輩が来たらみんな喜びます、部室までご一緒させてもらいますね」

少し時は遡って照side


照(ホントにこんなに貰っちゃっても良いのかな
  来月になったら私は白糸台を卒業してもう学校には居ないからお返しできないのに)

照(さてと、すみれが居ないうちに渡しておこうかな)

照「はいこれ、さっき渡せば良かったんだけど持ってきてるの忘れてて」

照「来月になったらお互い忙しいと思うけど、あと一ヶ月よろしくね」

「ありがと、開けても良い?」

照「どうぞどうぞ」

「わー おいしそう」

照「みんなの分もあるからねー 後で味の感想聞かせてもらえると嬉しいかも」

「いろんな種類あるね、これ一人で全部作ったの?」

照「何人か手伝ってもらったの。いつも貰ってばっかりだから心を込めたもの作ろうと思って」

「私たちは幸せそうな顔を浮かべてる二人の顔を見てるだけで十分なのに ねえ~」

「うんうん」

照「そんな・・・・・・」ポッ

「だったら菫さんには特別なもの渡さないとね。あ、もう渡したのかな?」

照「ふにゃ、何でそうなるのさ」アワアワ

「ふーん まだ渡してないんだ」ニヤニヤ

「照さんと一番仲が良くて理解してるの菫さんだもん。当然渡すんだよね」

「それとも、二人っきりの時に渡すつもりなのかな」

照「うぅ~」

「ありゃりゃ、カマを掛けたつもりだったのに当たっちゃった」

「ちゃんと渡すんだよ」

照「渡すなんて一言も言ってないし・・・・・・」

「分かってるって」ポンポン

照(ひとごとだと思って・・・・・・これでも喜んでくれるかドキドキしてるんだよ)

照(なのにすみれってば あんなにもらっちゃってさー 私より沢山もらってるんじゃないの)プンプン

照(私は受験勉強する必要なかったから尭深と誠子に意見を聞いてたくさん練習して
  一番美味しく出来たものをすみれに渡すことにしたんだもん)

照(味の方は二人が保証してくれたんだし大丈夫だよね)

照(喜んでくれると嬉しいな)

照(そういえば、さっきもらったのってどんなのだろ)

照(えっ、これってもしかして・・・・・・)

菫「どうした? 今日はやけに小食だな」

照「後で、沢山食べなきゃいけないから抑え目にしようと思って」

照(ホントはいつ渡そうか迷ってる内に、いつもの癖で食堂まできちゃったから落ち込んでるだけなんだけどね)

照(今手元にないから渡せないし ああ もう私のバカ)

菫「てっきり、それはそれ別腹だーなんていうかと思ったよ」

照「いくら私でもそれはナイよ」

「宮永先輩 今良いですか?」

「あの、先輩方コレ受け取ってください」

「宮永先輩 卒業しても応援してますから」キャー


照「またもらっちゃったね」

菫「今年は大会の結果という形で返すことができなくて少し寂しいよ」

照「私達少しでも恩返しできたのかな」

菫「それは、これまでの事を思えば分かるだろ」

照「私達、三年間頑張った甲斐が有ったね」

菫「照がエースとして活躍したおかげだよ、私はそのリードを減らさないように気を配っただけ」

照「それがどれだけ大変なことか十分理解してるよ」

照(あれ? 今すごく良い雰囲気だよね。このタイミングなら素直に渡せたのに)

照「私何してんだろ」

 授業も終わって、麻雀部に顔を出すことになった私達
 
 久しぶりに虎姫が全員揃ったけど、誠子と尭深はそれぞれ部長・副部長として忙しい日々を過ごしているので今は淡の相手をしてるんだけど

淡「どうしたのテルー このままだと私が一位だよ」

照(部活に顔出したら、すごく歓迎されて気づいたら席に着いてた)

照(それから、代わる代わる一軍の人たちの打ってたらあっという間に一時間も経ってる!?)

照(それだけ目の前の事に集中してる証拠なんだけど)

照「まだ、淡には負けないよ」ゴッ

淡「そうこなくっちゃね」ゴゴゴ

淡「リーチ」ダブル

照「その手には乗らないもん」ギギギ

菫「相変わらず二人とも負けず嫌いだな」

照「早いね、もう終わったの? 少し手加減してあげなきゃ」

菫「真剣勝負は正々堂々戦わないとな」

照「大人気ない」

菫「何とでも言え」

淡「そこで見てて、もうすぐテルーに勝つから」

菫「それは楽しみだな」

菫「結局照の勝ちか。淡が高校生一万人の頂点にあがるにはまだまだ練習が必要だな」

淡「また負けた・・・・・・今日こそテルーに勝てると思ったのにー」

照「そんなこと言って・・・・・・淡のライバルは咲や阿知賀の大将さんでしょ。今度こそ勝たないとね」

淡「咲には個人戦で勝ったもん」

照「ごめんごめん、でも能力に頼りきりじゃなくなったのは良い傾向だよ」

淡「だって、もう負けたくないもん。なんたって私は白糸台のエースだもん」

菫「現時点で一番近いのは淡だが、決定権は監督にあるんだからしっかりアピールしないとな」

淡「ほらね」フフン

照「じゃあ、私は一旦抜けるね」

淡「次は絶対テルーに勝つんだからね」

照「楽しみにしてるよ」

照(淡はIHを経て一回りもふた回りも強くなって、充分白糸台のエースとしてやっていけるはずだよ)

照(でも、本人にはあえて伝えない方が良いんだろうなー 自分で言うのもなんだけど淡は目標を設定してあげたほうが伸びるタイプだもん)

照(春季大会はもちろんIHが今から楽しみ。来年は流石に無理かもしれないけど、再来年 淡が最上級生の年には実況席に座っていたいな)

菫「今度は私が相手だ」

淡「菫先輩か・・・あれからかなり成長したから驚いても知らないよー」

照「ちょっと行ってくるね」

 そう言って、部室を出る私 目的地は最初から決まってる

 それは、私がずっと練習をしていた部屋虎姫のメンバーが主に使ってて少し私物も残ってる

照(この鍵もそろそろ返却しなきゃいけないのかな・・・・・・)ガチャ

照(ここは全然変わらないなー この雀卓で何回練習したんだろ)ポチッ

照(洗牌される音、配牌を確認してサイコロを回して始まる対局)

照(この部屋にはすべてが詰まってる)

菫「急に出て行ったと思ったらこんなところにいたのか、もう打たなくても良いのか?」

照「うん、誠子も尭深の力を借りて立派に部長としてやってるみたいだし淡も練習に参加してるみたいだから私の役目は終わったのかなって」

菫「淡は一時期部活に顔を出さない時期が続いてたからな」

照「これは私の勝手な想像だけど私が引退するのと、団体戦準決勝・決勝のダメージが大きかったと思う」

照「個人戦では一矢報いたけど、出入りの激しい麻雀だったからね」

照「きっと悔しかったんだよ」

菫「それでも立ち直ったんだ、それに亦野や渋谷だって残ってる」

照(身近に自分の味方が居るだけで助かる事って沢山あるんだよ)

菫「あいつらなら照が抜けても充分やっていけると今日確信したよ」

照「私もそう思う。私たちができることはもう殆どないんだなって」

照「菫 覚えてる? 初めてこの部屋に入ることを許されたときの事」

菫「もちろん覚えてるよ。私たちが初めて大会のメンバーに選ばれてその日からIHが終わるまでこの部屋で過ごしたんだ」

照「教室よりここで過ごした時間の方が長いかもね」

菫「そういえば、そうかもな」

菫「あの頃はまだ私はベンチ入りしただけで試合には出られなかったけどここにいられるだけで幸せだった」

菫「次の年、レギュラーになって照と一緒に試合に出たときは後ろに照がいるってだけで不思議と緊張しなかった」

菫「そして今年ぶじ三連覇を達成して現役生活を終えることができた」

菫「すべてが良い思い出だよ」

照「じゃあ、ちょうど一年前に起こった事も覚えてる」

菫「何をいうかと思えば・・・・・・それは、お互い忘れようと言ったはずだぞ」

照「確かにあれはいくつか偶然が重なって起こった事故かも知れないね」

照「でも、忘れたくない思い出ってあるよね」

菫「やめよう、今更掘り返してどうする」

照「ここに、朝もらったチョコレートがあります」

照「これを私が食べたらどうなると思う」

照「ホントはこんなことするつもりなかったけどもらったものはしょうがないよね」

菫「おい、まて まさかそれは」

照「そんなに怖がらなくても・・・・・・小腹がすいたから目に付いたチョコレートを食べるだけなのになんで止めるの」

菫「それを食べたらどうなるか分かってるんだよな」

照「どうなると思う?」

菫「それは・・・・・・」

照「先に謝っておくね。こんな事になってごめん」

照「でも菫が想像してることが起こるよ、今すごくお腹が減ってるの」ゴックン

照「・・・・・・」

 一年前、私は菫の唇を強引に奪った

 ウイスキーボンボンを食べて気を失った私を介抱してくれたすみれに対してそんなことをしてしまった

 目を覚ました私の目に飛び込んできたのは菫の顔 普段はそんなこと全然思わないのにその時はとても魅力的に感じたから
 ただそれだけの理由で突き飛ばされるまで何度も何度も唇や頬に……

 次に私が意識を取り戻すまで約30分、長いようで短い冷却期間

 その時間がなければ私たちの関係は完全に崩れちゃってたかもしれない

 幸か不幸か、私が目覚めた時にはある程度整理を付けてくれてて一通り経緯を説明してくれた後

 『事故みたいなものだと思って諦めるから、二度とこんなことするんじゃないぞ』と叱られただけで済んだ。

 それ以来、私はその約束を守ってたとえお菓子でもアルコールの入っているものは口にしてない

 でも、今日はその約束を破ることにした

 偶然手に入れたチャンス

 ここまでしなくちゃいけないのかと少し悩んだけど実行することにした。

 やっぱり、けじめをつけなきゃいけないと思ったから

 暫くこの部屋には誰も近づかない そう尭深と誠子に伝えたから
 
 再び罪を犯す私をお許しください

菫「おい、大丈夫か 照」ユサユサ

菫(あまりの剣幕に止められなかった・・・・・・)

菫(何を考えてるんだ照のヤツ)

菫(まさか、もう一度あんなことをするためなのか? 前は不意を突かれたが今回はそうはいかないぞ)

照「うーん」

菫(無茶ばかりしてどれだけ迷惑をかけるつもりだ)゙

照「すみれ? どこ?」

菫「私はここにいるよ」

照「もっと近くに来て・・・大丈夫今日は襲ったりしないから」

菫(本当に近づいても大丈夫だろうか)

照「ごめんなさい どれだけ謝っても許してもらえるものじゃないけどごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい」

照「こんな形でしか、謝れない私を許して」

照「できればもっと早く謝りたかったんだけど、なかなか機会が無くて・・・・・・
  それにすみれは二度と思い出したくない過去だろうから」

菫(少し様子が変だな)

照「お酒の力を借りるなんて最低だよね、軽蔑するよね。
  でも、卒業する前にちゃんと私の思いを伝えて置かなくちゃいけないと思ったからこんな形を取ったの」

照「私は菫が好き、人としてチームメイトとして大切な隣人として」

照「でも、恋愛対象として一度だってみたことはないの」

照「あんなことしちゃった後じゃ信じてくれないかもしれないけどね」

照「でも、あんなことをしたら普通私を避けるようになると思うのに今までどおり接してくれるそんな優しいところも好き」

照「料理が上手で、頭が良くて人一倍努力家でどんな時も真っ直ぐ前だけ見てるところも」

菫(何を言って・・・・・・聞いてるこっちが恥ずかしくなってくる。確かにこれは酒の力でも借りなきゃ言えないな)

照「本当なら私が皆を引っ張っていかなきゃダメなのに、代わりにその仕事をしてくれて」

照「OGが選考に口を出して来た時もみんなの盾になってくれたこともあったね」

照「そんな菫と離れ離れになるなんて嫌だよ!」

照「ずっと、一緒にいたい もっと同じチームで麻雀がしたい もっといろんなことしたいのにタイムリミットはすぐそこまで来てる」

照「嫌だよぉ 菫ー」ガバッ

菫(照・・・・・・)

照「あと一ヶ月しかないなんて嫌だよ」

菫(そこまで、思い悩んでいたのか。それなら・・・)

菫「まだ一ヶ月あるだろ、それまでたくさん思い出を作れば良いじゃないか」

菫「それに、離れ離れになっても会えなくなるわけじゃない」

照「ホントに? 急に手の届かない所に行ったりしない?」

菫「ああ、約束する。照は実業団で私は大学で麻雀を続ける」

菫「そして、いつか照に肩を並べる所まで駆け上がってみせる」

照「その、言葉が聞けただけでこんな無茶した甲斐があったよ」

照「私の事見捨てないでくれてありがとね・・・・・・」

照「・・・・・・」

菫(この寝顔見たら誰だってこうなるよ。すごく幸せそうな表情)

菫(漠然と上のレベルで戦いたいと考えていたが、今日明確な目標が決まったな)

菫(死に物狂いで練習して、どんな形でも良い 結果を出してみせる)

菫(私の方こそ 感謝するよ)


淡「テルー すみれ 何して る の 」

菫「あ」

淡「ごめんなさーい」

菫「絶対勘違いされたな。二次被害を防ぐためにもとりあえず鍵は閉めておくか、また誰か来ても困るし」ポチッ

菫「照のカバンもパンパンだな。入りきらなくて一つ外に出てるし・・・・・・」

菫「ん? なんだコレ 私の名前が書いてある」

菫「もしかして、私に渡すつもりだったのか?」

菫(ラッピングも自分でしてるみたいだし、もしかして手作りなのか?)

照「・・・」スヤスヤ

菫「だから、朝から様子がおかしかったのか 早く渡してくれれば良いのに」ツン

照「・・・」ニコニコ

菫「ありがたくいただくよ。今日沢山貰ったが誰からもらうより一番嬉しいよ」

菫「ふむ、メッセージカードも付いてるな なになに」


菫「なっ」

菫「むぅ」


菫「ふふっ、照らしいといえば照らしいな」

菫「そんなに気にしてたのか・・・・・・良い経験だと思って大切にさせてもらうからな」

菫「私を傷モノにしたんだから、覚悟してろよ」

 私が目を覚ますと、菫は一瞬私の事を見てすぐ目線を外しました。その顔は少し赤くなっていた気がするのは気のせいじゃないよね

 どうやら、思いは伝えられたみたい

 まだ頭がガンガンするけどそろそろ完全下校の時間、まだ酔いが冷め切っていない私は菫の助けを借りて下駄箱まで移動しました

照「もう大丈夫、歩いてる間に大分酔いが冷めたから」

菫「どうせ帰り道は同じだ。スーパーに寄らなくても大丈夫か?」

照「今日は真っ直ぐ家に帰るよ・・・・・・こんな天気だし」

菫「雪か・・・・・天気予報で言ってた通りになったな」

照「この降り方は積もりそう。明日休みで良かったね」

照「明日は雪だるま作れるかなー」

菫「子供じゃないんだから・・・・・・」

照「東京じゃ滅多に雪降らないんだもん。楽しまなきゃ損だよ」

菫「冷蔵庫に食料有ったかな、積もると買い物行くの面倒なんだよな」

照「その時は、私が代わりに行ってあげるよ 任せなさい」エッヘン

菫「じゃあお願いしようかな」

菫「うぅ寒いー」ゴシゴシ

  最初は細かな粒だった雪が段々大きくなって道路もほんのり白くなった頃
  私たちは学校と寮ちょうど中間地点にある信号につかまって信号が変わるのを待っていました。
  
  そんな時しびれを切らしたように手を擦り合わせて少しでも手を温めようとしています
  その手は雪と風によって急激に熱を奪われ、それに比例するように赤みを帯びていきます

照(これだけ寒いと朝あげたカイロも使い物にならないし、何か手はないかな)

菫「はぁー はぁー」

照(手っ取り早く、あっためる方法)

菫「誰も歩いてないな・・・・・・これだけ寒いと外に出たくないよなー」

照(あったかいもの あったかいもの そっか直接温めれば! そうと決まれば右手の手袋を外して・・・・・・)

照「菫、これ使って」

菫「それが無いと照だって寒いだろ」

照「こうすれば、解決でしょ」

 私は素早く菫の右手に手袋を握らせて、空いている左手を両手で包みそれからしばらく温めてあげた。
 十分温まったのを確認すると左手だけ戻し、右手はそのまま菫の左手を握り続ける


照「これで寒くないよねっ」


 道路に残る二つの足跡、その足跡は同じ歩幅で仲良く寄り添っている
 翌日には綺麗さっぱり消えてしまう儚いもの
 それでも、私は天が与えた贈り物に感謝したいな


菫「恥ずかしいから、あまりコッチに寄るな」

照「わわっ、ダメだよ。密着しないと隙間から風が入るんだから」

菫「最初からそれ狙いってただろ」

照「私は事実を言ってるだけだよ。ほらほら、歩幅も合わせてよ」

菫(仕方ないなぁ、今日のところは大人しく照の言うことを聞くことにするか)


END

淡「菫がテルーと部屋でいちゃいちゃしてた」

尭深「知ってる」

誠子「淡は知らなかったのか」

淡「えっ、何で普通に受け入れてるの? それに私だけ知らなかったの?」

誠子「昨日、宮永先輩が一時間だけ使わせて欲しいって言ってたから多分そういうことだと・・・・・・」

淡「そんな大事なこと先に言ってよ」

誠子「あの部屋に行く人なんて私達以外に居ないから言わなくても良いかなって、どうせ練習してるし」

淡「後で二人に謝ろうかな・・・・・・」

尭深「大丈夫、大丈夫きっと気にしてないから」

淡「それはそれで問題だよ。むぐっ」

尭深「どう? それ新作なんだけど」

淡「はむはむ はむはむ」

淡「ごっくん・・・ちょっと抹茶の味が強いかな?」

淡「でも、悪くないよ」

淡「話を逸らさないでよ。いつから? ねえ いつからなの?」

尭深「そっか~ もう少し量を減らしたほうがおいしいんだ~」

誠子「私は結構好きな味だけどな」ハムッ

尭深「そう言ってくれるのはありがたいけど誠子の好みに合わせるとあんまり評判良くないんだよね」

誠子「そうなの? こんなにおいしいのに」

淡「もういい 後で直接聞くもん」

 テルと菫先輩もだけど、尭深と亦野先輩も仲良いよね

 全然羨ましくなんてないもん。私は一人でやっていけるもん

淡「そういえば、尭深は誰かにチョコあげたの?」

尭深「チョコは作ってないよ。本当に好きな人が出来た時に渡すって決めてるの」

尭深「だから、義理としてさっきのカップケーキを作ったんだけどね~」

誠子「余ったら、私と尭深で責任もって食べることにしてる」

淡「じゃあ、私も混ぜて混ぜて。今日は沢山食べたい気分」


淡「それで残ったのがこれだけ?」

尭深「今日はいつもより少なめだったから五つだけだよ。一人一個食べて後は食べられる人って事で」

誠子「いただきまーす」

尭深「飲み物は牛乳で良い?」

淡「あ、私にもください」

尭深「淡ちゃんは、誰かにあげたりしないの」

淡「私はもらう専門かな」

誠子「そうなのか。てっきり持ってきてるものとばかり思ってたよ」

淡「渡す人居ないんだから、持ってきてもしょうがないじゃん」

尭深「宮永先輩とか?」

淡「テルは確かに私を拾ってくれたからあげても良いかなって思ったけど、他の人から沢山もらってそうだし菫先輩も似たようなもんでしょ」

淡「だから、今年もなし」

尭深「そんなものかな~」

淡「見て見て、雪だよ雪」

尭深「今日降るかもしれないっていってたもんね~」

誠子「淡は寒いの平気なんだ」

淡「私に苦手なものなんてないよ。高校100年生だからね」

尭深「勉強はもう少し頑張ろうね。いくら麻雀が強くても担任の先生に怒られてるようじゃダメだから」

淡「私が本気になったら、勉強くらいちょちょいのちょいだよ」

誠子「テスト前に泣きついてきても知らないぞ」

淡「そんなことを言う人にはこうだ~ えいっ」

誠子「うわっ」ボフッ

尭深「私も混ぜて混ぜて」

淡「そんなスピードじゃ私には当たらないよ~ それそれ」


 それから、私たちは童心にかえったように雪で兎や雪だるまを作って遊び、気づいたときにはすっかり暗くなっていました。
 
 大きくなってから子供の頃の遊びをすると皆熱中して遊ぶから時間ってあっという間に過ぎちゃうよね


淡「もう、ダメ~」

尭深「すっかり暗くなっちゃったね」

誠子「でも、すごく楽しかった」 

尭深「淡ちゃん、これから時間ある? このまま寮に戻るのも良いけど その前にあったかい飲み物でもどうかな?」

淡「行きます 誠子先輩がおごってくれるんですよね」

誠子「なんで私が淡の分まで払うの」

淡「誠子先輩が私の雪だるまより大きいの作ったから」

誠子「そんな理由で・・・・・・」

淡「お願いしますね じゃあ、尭深いこー」

尭深「こっちだよ~ 付いてきて」

誠子「今月は厳しいのに・・・・・・」


 後日、テルーに聞いたら菫先輩とは将来を誓い合った仲だって言われた。
 そこまで二人の仲が進行してるなんて全然知らなかった
 後で、菫先輩にも聞いてみよーっと

END

私が通っている劔谷高校は県内有数の麻雀強豪校で私も子供の頃から劔谷に入学することを目標にしてきました。

今日は入学式当日、さきほどまでは同じ中学の友達とおしゃべりしてたけど今は式の最中

でも、今の私の関心事は目の前で行われている校長の挨拶ではなく・・・・・・

莉子(早く終わらないかな)ガクガク

もちろん季節は春、数日前から列島に居座っていた寒気も離れむしろ暖かい日だというのに一人震えている理由は別にあります

莉子(おトイレに行きたいけど、そんなこと言えないよう)ガクブル

そう、私は今トイレを必死に我慢しています

ただでさえ人前に立つのが苦手なのに、入学早々目立つようなことはしたくありません

莉子(こんなことなら、式が始まる前に行っておけばよかったよう)グスン

膝を擦り合わせたり、体を前かがみにしたりして少しでも楽な体勢をみつけようと努力してここまで
騙しだましやってきましたがそろそろ我慢の限界です。こうなっては仕方ありませんここは恥ずかしいのを我慢して勇気を出して近くにいる先生に――――

友香「さっきから、震えてるけど大丈夫なんでー」

莉子「はぅ」ビクン

そう心に決めて動こうとした瞬間となりから声をかけられました。

どうやら私の挙動がおかしい事に気づいて声を掛けてくれたみたいです。

莉子「だ・・・大丈夫・・・ありがとね」

つい、そう答えてしまいました。

友香「・・・・・・」ジー

莉子「・・・・・・」プルプル モジモジ

それでも、彼女は私の言葉に納得していないのか視線を外すことなく私の目をじっと見つめて来ました。

友香「なるほどねっ」

友香「すいませーん 私達トイレ行ってきます」

彼女は近くを通った先輩にそう伝えるとすぐさま私の手を引っ張るようにしてどんどん出口の方へ向かいました。

これが、森垣友香ちゃんと私の出会いでした。

友香「ここまで来たらもう大丈夫なんでー」

彼女が手を離してくれたのは、校舎に入ってすぐ 時間にすれば2~3分程彼女に連れられていました。

莉子「あの・・・ありがと」もじもじ

まずは彼女にお礼を言いました。

友香「どういたしまして、じゃあここで待ってるね」

その言葉を聞いて私は急に我に返ってできる限り急いで済ませることにしました。
どうやら、彼女は純粋に私に付いて来てくれただけみたいです。


莉子「ちょっと強引で少し驚いたけど良い人だぁ」

莉子(入学早々お友達ができちゃった♪)

後から考えるとこの時点ではまだお互いの名前も知らず、助けてもらっただけなのですが
喜びのあまり何度も鏡の前でくるくると回ってしまいました。

莉子(そういえばまだ名前聞いてない・・・後で名前教えてもらわなきゃ)

莉子「ふぅ・・・」ふきふき

いけないいけない少しやりすぎちゃいました。

トイレから戻ると、先ほどと同じ場所で私の事を待っててくれました。


莉子「あのね・・・どうして私がトイレ我慢してるって分かったのかなって」

友香「なんとなく顔色が悪そうだったから、声を掛けたらピンとね」

莉子「そっか、ありがと助かっちゃった。えっと・・・・・・」

友香「あ、まだ名前教えてなかったっけ 私の名前は森垣友香だよ」

莉子「私は安福莉子です」

莉子(森垣さん 友香さん 友香ちゃん なんて呼べば良いのかな とりあえず苗字が無難だよね)

友香「莉子か~ かわいい名前なんでー」

莉子(いきなり下の名前で呼ばれちゃった)

どうやら、森垣さんは私と違ってフレンドリーな性格みたい
せっかくお知り合いになったんだし、ここは私も森垣さん うぅん友香さんのことを名前で呼ばなきゃダメ!なんだよね
うんうん ここは相手に合わせて

莉子「友香――ちゃんはどうして助けてくれたの」

友香「困ってる人を助けるのは当たり前なんでー」

何のためらいもなくその言葉が出てくる事にちょっと驚いたけど今はそんなことはどうでも良くて・・・

莉子「そろそろ戻らないと式終わっちゃうかな」

友香「どうせならこのままサボるんでー」

莉子「え、聞き間違いじゃないよね」

友香「このまま一緒に入学式サボるんで―」

どうやら私の聞き間違いじゃなかったみたい。いえ、いくら私でもそんな聞き間違いはしないと思いますけどね

 何か考えがあってのことかな それとも友香は自分の体調が悪いのに微塵もそんな雰囲気を出していないとか? 
 だったら保健室に連れて行かなきゃ

莉子「もしかして、どこか調子が悪かったりするのかな? だったら保健室まで一緒に行こっ」

友香「私はどこも悪くないんでー」

 あっけなく否定されちゃいました。
 うーん、もしかして抜け出す口実が欲しかったなんてことはないよね? いくらなんでもそんなことは……

友香「莉子は真面目だね」

莉子「そんなことないよ」

莉子「それに友香ちゃん。式が終わったら教室に移動して明日以降の予定を聞いたりいろいろ受け取るものもあると思うからサボるのはダメだと思う」

友香「分かった。莉子の言うとおりにする」

 何とか式に戻る事ができる、そう胸をなで下した時私は次の言葉で再び戦慄することになりました。

友香「でも、その前に寄りたいところがあるんでー」

莉子「えっ」

 そう言うと友香は式典の行われている建物とは別の方向に歩きだし、私はただそれについていくしかありませんでした。
 よっぽど大事な用事があるのなら仕方ない。二人で謝れば許してくれるよね

莉子(この道は確か部活棟に続いてる道だよね、本当にこんなことしてて大丈夫かな)

 莉子の心配をよそに友香はどんどん進んでいきある建物の前で止まりました。

友香「到着―」

莉子(ここって確か・・・・・・)

 そこは、周りよりひときわ広い建物で表には―――麻雀部―――そう書かれてありました。
 HR終了後ここに来るつもりでした。でも、これで友香との共通点がひとつ生まれて少し嬉しくもあり・・・・・・

友香「こんにちはー」

友香ちゃんには驚かされてばっかりです。勝手に寄るだけだと思ってたけど中に入っちゃうの?

 私も慌てて友香ちゃんの後に続いて部屋に入り挨拶をしました。

澄子「部長なら席を外してますよ」

友香「違うんでー 見学に来ましたー」

澄子「えっと・・・どうすれば?」

美幸「ふんふふ~ん」

澄子「あ、美幸 見学に来た人が居るんだけどどうしよう」

莉子「わ、私は」

美幸「梢ちゃんが戻って来るまでは良いんじゃないの?」

澄子「美幸がそういうなら」

友香「お邪魔するんでー」

莉子(この分だとなかなか離してくれないんだよね、うっ・・・・・・)

 友香ちゃんと一緒に部室に通されて見学することになった私達
 夏休みに来た時は、沢山人がいてあんまりゆっくりできなかったけど今部室にいるのは出てきてくれた二人だけ
 こんな時期なんだもん仕方ないです。

莉子(友香ちゃんもう椿野先輩と仲良くなってる・・・波長が合うのかな?)

澄子「安福さん、ちょっといい?」

 今、私を呼んだのは一つ先輩の依藤澄子先輩
 友香ちゃんと話してる椿野先輩とは違って、とても落ち着いた印象のある先輩です。

澄子「ごめんね、こんなに早く見学に来る子が来るなんて思わなくて」

澄子「二人は麻雀部に入るつもりなの?」

莉子「私は入ります。友香ちゃんもそのつもりで私を連れて来たのかな」

澄子「良かった。後輩ができるのすごく嬉しい」

莉子「私も剱谷麻雀部に入るのが子供の頃から夢だったので嬉しいです」

 イレギュラーな出会いとなってしまいましたが、何はともあれ挨拶が終わり
 せっかくなのでお茶を淹れていただくことになりました。
 
 そうそう、何故か剱谷の部室には茶室が併設されていています。
 このあたりはお嬢様学校ならではの特徴といっても差し支えないのかな 

 本音を言えば、今すぐ戻らないと本格的にマズイと思ってたけど友香ちゃんが先に座っちゃったので仕方なく横に座りました。

美幸「梢ちゃんが一番上手だけど、澄子ちゃんも上手なんだよもー」

澄子「褒めても、何も出せませんよ」

美幸「本当にそう思ってるのに」

澄子「まったく・・・はい、お二人ともどうぞ」

梢「あら? お客様ですか」

美幸「おかえりー」

澄子「古塚先輩、お仕事お疲れ様でした」

莉子「あ・・・」

梢「いつまでたっても戻ってこないから心配していたんですよ。こんなところに居たんですね」

莉子「あの、その」

 これは非常にまずいことになりました。先輩は私たちが入学式を抜け出してきたことを知っています。
 それも、先輩が戻ってきたということは・・・その先はあまり考えたくありません

 しかし、先輩は私たちを責めるわけでもなく

梢「ふぅ・・・まあ良いでしょう。この事は黙っておいてあげます」

 と、許していただきました。

莉子「友香ちゃん、私ドキドキが止まらなかったんだからね」

友香「ごめん、ごめん」

友香「でも莉子後半は結構リラックスしてたように見えたんでー」

莉子「そんなことないもん」

 あの後古塚先輩が私たちの担任に連絡してくれて、私が体調を崩して保健室で休んでいること
 友香ちゃんはその付き添いをしていたため戻ることができなかったということにしてくれました。
 
莉子「古塚先輩は大丈夫って言ってくれたけど、今度会ったらお礼言わなくっちゃ」

友香「私の勘違いじゃなくてよかったんでー」

莉子「何の話?」

友香「何でもないよ 忘れて忘れて」

友香「それより、莉子は病人なんだから気を付けないと」

莉子(ホントに演技しなきゃダメなのかな)

 気持ち下の方に視線を落としつつ教室に入る私と友香ちゃん
 一瞬教室内がざわつきましたが、先生がそれをすぐに鎮め、空いている席を示すと何事もなかったように説明を再開します。

莉子「私の前は友香ちゃんなんだ、嬉しいなー」

友香「私も嬉しい 一年間よろしくなんでー」

「二人とも積もる話があるのは先生分かるけど少し我慢してね」

莉子「怒られちゃった」

 さっそく怒られちゃいました。
 でも、これまで経験したことのない新生活の幕開けのオチとしてはそんなに悪くありませんよね

友香「zzz」スヤスヤ


 ー出会い編完ー

友香「今日もたくさん打ったんでー」

莉子「友香ちゃんは部活の時間になると元気になるね」

友香「授業もちゃんと受けてるよ」

莉子「そんなこと言って・・・いつもノート貸してあげてるの誰だっけなー♪」

友香「成績は私のほうが上だよ?」

莉子「そんなこと言う娘にはもう貸してあげないもん」

友香「ごめんごめん、もうイジワルなこと言わないんでー」

莉子「ホントに?」

友香「もー、莉子はかわいいなー うりうり」

莉子「また、そうやってごまかそうとするんだから///」

 彼女は安福莉子さん、私は莉子って呼ぶことが多いかな?
 ちょっとした縁で入学式の日に仲良くなった友達です。

 少しおっちょこちょいな所があるけどすごく優しくて、チャームポイントは花飾りのあしらわれたついたカチューシャ
 あとは、部活も私と同じ麻雀部に所属してる事かな

 
 性格も麻雀のスタイルもまるで正反対だけど不思議と気が合って大体いつも一緒に行動してます
 もちろん今日も莉子と二人で帰り道を歩いているところなんだけど、

友香「へえー 莉子の方が誕生日一週間早いんだ」

莉子「私がお姉さんかぁ」

友香「全然そんな気がしないんでー」ジー

莉子「絶対ココ見たよね!?」

莉子「うー どうせ、私はちんちくりんだよ」

友香「そんなに落ち込まないで、まだまだ成長途中なんでー」

莉子「友香ちゃんみたいになれるかな」ショボン

友香「莉子は食が細いから、もっとご飯食べなきゃ」

莉子「うん、明日からお弁当の量増やすね!」

友香「莉子は料理上手だから、余ったら分けてほしいな」

莉子「ふふっ、時々で良かったら作ってくるね」

友香「やった」

莉子「友香ちゃんは確か嫌いなものとか特にないよね」

友香「全然、なんでも食べるんでー」

莉子「でも、抹茶はあんまり好きじゃないよね」

友香「飲むのはちょっとだけど、食べる分にはそこまでなんで・・・・・・って莉子の癖にー」


 とまあこんな感じで、少し私がリードしながら仲良くやってます

 でも私は莉子に内緒にしていることがあります
 それは・・・・・・

莉子「友香ちゃん、一緒に帰ろ」

友香「今日は用事があるから一緒に帰れないんでー」

莉子「そうなんだ、残念。私の家で一緒に宿題やろうと思ったのに」

友香「いつもお邪魔させてもらってちょっぴり悪いんでー」

莉子「むしろもう一人娘が出来たみたいだってお母さん達喜んでるよ」

莉子「それに、友香ちゃんのおウチが共働きだって聞いたら心配しちゃって」

友香「じゃあ、今度の休み私の家に莉子を招待するね」

莉子「え、ホントにいいの? やった。一度行ってみたかったの」

友香「その代わり、明日宿題見せて」

莉子「もぅ、すぐこれなんだから。それとこれとは別の話だよ」

友香「冗談冗談、また明日ー」

莉子「バイバーイ」

 
 校門の前で莉子と別れて、いつもの道とは反対の道を少し早足で歩く私


友香(早足で行けばギリギリ間に合いそうなんでー)テクテク

友香(当日いきなりメールで呼び出すのやめてほしいな。家で着替える時間ないし)

友香(もしかして、それが狙いだったり? ああ、もうこんな時に信号が赤なんでー)

友香「ギリギリセーフ!」バン!

美幸「はい、一分遅刻 でもおまけで許してあげる」

美幸「学校の制服も良いけどやっぱり友香はメイド服の方がかわいい」ギュ

美幸「むふー この肉付きの良さもその魅力を引き立ててるんだよもー」

友香「先輩苦しいんでー」

美幸「先輩じゃないでしょ。今は私専属のメイドなんだから 分かってるよね♪」

友香「美幸・・・おじょうさま」

美幸「昔みたいに美幸で良いんだよもー」

友香「美幸さま」

美幸「もう一回お願い」

友香「私はお茶の用意してくるんでー」

美幸「相変わらず友香ちゃんの態度つれないな」


 さてさて、私こと森垣友香が何故椿野先輩のメイドをしているかと言えば、アルバイトです。
 といっても、先輩に呼び出されたときだけ働くゆるい雇用関係を結んでいるだけなので週に1、2回家を訪ねるだけです

 元々、親同士が知り合いで子供の頃に何度か遊んだ記憶がある程度だったけど、それはそれ
 私が剱谷に入学することを聞きつけた先輩はいつの間にか私の親を説得して気づいたときにはこの状態
 どうやらいたく私の事を気に入っていたみたいなんでー

 でも、ほかのメイドさんたちが優しく教えてくれるのでそんなにきつくないんでー

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