QB「僕と契約して、魔法少女になってよ」金木(亜紀ちゃんはかわいいなあ) (30)

 夜見北中学校~昼休み~

QB(この夜見山という町にも魔法少女の素質のある少女がいそうだから来てみたはいいけれど)

金木(亜紀ちゃんはお弁当食べてる時も可愛いなあ)

OB(さっきから話しかけてるのに一向に返事がない。僕の姿は見えてるはずなんだけど)

QB(どうやら隣の女の子のことが気になって仕方がないみたいだ)

QB(仕方ない……彼女が一人の時を見計らって出直そう)

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死にたい……ミスったから再投下する

QB「僕と契約して、魔法少女になってよ」金木(亜紀は可愛いなあ)ジー

 夜見山北中学校 ~昼休み~

QB(この夜見北にも素質のある少女がいそうだから来てみたはいいけれど)

金木(亜紀は弁当を食べてる姿も可愛いなあ)ジー

QB(さっきから声をかけてるのに一向に返事がない。僕の姿は見えてるはずなんだけれど)

金木(どうしてこんなに亜紀は可愛いんだろう)ジー

QB(どうやら隣の子に夢中で僕には気づいていないようだ)

金木(本当は天使だって言われても驚かないかも)ジー

QB(……仕方がない、一人の時を見計らって声をかけよう)

 ~放課後~

金木(今日は亜紀と一緒に図書館でお勉強)ジー

QB(昼休みからこっち、休み時間も放課後も一人になる様子が全くない)

金木(亜紀が分からないところを聞いてくるときの、ちょっと頼ってくる顔がたまらなく好きだなあ)ジー

QB(もしこの子が何か願い事をするなら、隣のこの女の子のためにしそうだなあ)

金木(そのときに完璧に答えられるために、テスト前は毎日徹夜で勉強してるのは誰にも言えない秘密)ジー

QB(まあそのためには、まず話を聞いてもらわないといけないんだけどね……)

 ~下校時間~

金木(そしていつものように亜紀とくっつくように一緒に下校)テクテク

QB(君たちはいったいどれだけ仲が良ければ気が済むんだい)トコトコ

金木(ああ、今日も亜紀に触れられる時間が終わろうしている)

QB(おかげでいつまでたっても話しかけられないじゃないか)

金木(本当は家まで一緒に入っていきたいけど、残念ながらそれはまだ無理……)

QB(お、やっと家の前で止まったね。どうやらここは素質の無い方の家みたいだ)

金木「じゃあ、またあしたね。亜紀」

松井「うん。またね」ガチャ

QB(ふう、やっと一人になった。さて、家で一人になったら話しかることとにしよう)

 ~金木の部屋~

QB「……だから僕と契約して、魔法少女になってよ」

金木「ふうん」

QB「どうやら、あまり興味が無さそうだね」

金木「だってその魔法少女てのになったら、亜紀といられる時間が減っちゃいそうだから」

QB「確かに自由な時間は減るだろうね。ところで、亜紀というのは学校でずっと一緒にいた子のことかい」

金木「見てたんだ」ジトー

QB「そんなストーカーを見るような目はよしてほしいな。何度も声をかけたのに気付かなかったのは君のほうじゃないか」

金木「え、全然気づかなった」

QB(やっぱりそうだったのか)

これ……マイナーすぎて需要無いか?

QB「君はどうやらあの子と相当仲が良いみたいだね」

金木「何か問題でもあるの」

QB「そういう訳じゃないけれど、僕という地球人にとって異質な存在を目の前にしながら、気づきもしなかったのは君が初めてだ」

金木「私が学校にいる時の視界は常に亜紀で独占されてるから、それ以外なんて気づくわけないじゃない」

QB「そ、そうかい」

金木「それで何だっけ、魔法少女になれば何でも願いが叶うって言ってたけれど」

QB「うん。代わりに魔女と戦う使命をおびることになるけどね」

金木「そこまでして叶えたいことは今は無いかな。亜紀といられるだけで十分だし」

QB(つまりその前提が崩れれば、契約も不可能ではないみたいだね)

QB「分かった。僕の方からも無理強いは出来ないからね。でも、折角のチャンスなんだから考えてみてくれると嬉しいな」

金木「うーん……」

QB「まあ、暫く僕はこの町にいるつもりだ。叶えたい願い事が決まったら、いつでも僕を呼んでよ」

金木「分かった。あ、一つ質問してもいい」

QB「何だい?」

金木「亜紀は……松井亜紀には私と同じ素質はあるの?」

QB「いや、残念ながら彼女に素質は無い。さらに付け加えると、この町には君しかいない」

金木「じゃあ、他の魔法少女もいないんだ」

QB「そうだね。それにここは田舎で人も少ないから、他の魔女が来る様子もないよ」

金木「そうなんだ」

QB「じゃあ、僕はそろそろ行くね」

金木「うん。もし万が一願い事が決まったら呼ぶから」

QB「……いい返事を期待しているよ」ッタ


~金木の部屋~

金木「…亜紀……可愛いよ……ムニャムニャ」

QB(夢の中でも一緒か。これは一種の恋愛感情を抱いているのかもしれないね)

金木「ハッ……なんだ、夢か」

QB「おはよう、金木」

金木「あれ、昨日の夜出ていったんじゃないの」

QB「この町にいるとは言っても、他に素質のある子がいないんじゃね」

QB(一応夜中中探したけれど、素質がある子も新しい魔法少女が来る様子もなかったよ)

金木「結局、私以外に話しかける用事が無いってこと?」

QB「平たく言ってしまえば、そうなるね」

金木「ふうん」

金木(まあ家族には見えてないみたいだし。ほっといて早く亜紀に会いに行こうっと)

QB(本当に僕への関心が薄いみたいだな。これは契約を結ぶのは難しそうだ)

~登校時間~

金木「何でついてくるの」

QB「昨日も言ったように、素質があるのは君と同じ年頃の少女達だからね」

金木「学校で良さそうな子がいないか見に行こうってこと?」

QB「それに、君が願い事を決めたときに近くにいた方が便利だろう」

金木「ついてくるのはいいけど、亜紀と一緒にいる時は話しかけないでね」

QB「分かった」

QB(つまり学校から帰るまで話しかけれないということか……)


 ~金木の部屋~

QB「ちょっと聞きたいことがあるんだど、いいかな」

金木「なに。明日テストだから忙しいんだけど」

QB「君たちのクラスで異常なほど周りから無視されていた2人がいたけれど、あれは何か理由があるのかい」

金木(面倒なことに気づかれた……でもこいつに呪いとか言って通じるのかな)

QB「最初はいじめかと思ったけれど、授業中に自由に歩き回って教師から何も言われないことの理由にならない」

金木(そもそも絶対こいつ地球の生物じゃないだろうし。話しても大丈夫……なのかな。でももしそれで始まったら亜紀にも危険が及ぶし……)

金木「さあ、何のこと」

QB「?」

金木「私学校にいる時は亜紀以外のこと気にしてないから」

QB「分かった。君が知らないならいいんだ」

QB(彼女は明らかに2人について知っている。どうやらこれは調査が必要みたいだね)

 ~数日後~

QB(調査しようにも、僕の姿が見える彼女が完全に話す気がない以上、分からないことだらけだ)

QB(今まで沢山の中学校を見てきたけれど、こんな事は初めてだしね)

QB(ただ彼女がわざわざ隠したということは、それは巡り巡って亜紀にも関係のあることなんだろう)

QB(だとすれば、その答えが分かれば彼女のことをもう少し知れるんじゃ……ん?)

久保寺「ぐぎゃあああああああああああああああ」グチュグチャ

書いてるうちに俺のソウルジェムが濁りそう……


 ~金木の部屋~

QB「今日はあんな光景を見てしまって災難だったね」

金木「……」

QB「あの後から例の2人が一部の生徒と会話していたけれど、何か教師の自殺と関係があるのかい」

金木「……」

金木(まあ、あれで「いないもの対策」が無意味てことになったんだろうし、話してもいいか)

金木(それにこいつ、話さないと何回でも自殺のことを話題にしそうだし)

金木「分かった。そんなに気になるなら話してあげる」

QB「ぜひお願いするよ」

金木「いい、まずうちの中学にはとある呪いがあって……」

 ~数分後~

QB「それはとても興味深い現象だね」

QB(あの学校に魔女の気配は無かった。魔女以外にも超常的現象が存在するなんて、やはり地球はまだまだ調査が必要みたいだ)

金木「信じるの?」

QB「信じるも信じないも、僕はあの後その一部の生徒たちの会話も聞いていたしね」

QB「さらに君の今の話と合わせて、あの不可解なクラスの行動がようやく理解できた」

金木「そう。キュゥべえにはあれを止める方法とか分からないの」

QB「それは分からないけれど、君が願えば止まるかもしれないよ」

金木「……そう来たか」

QB「君が願ってくれれば、僕はいつでも契約出来るからね」

金木「契約して魔法少女になって、本当に止まるの」

QB「多分止まるだろうけど、保証は出来ない。何せこんな現象は僕にも理解出来ないからね」

QB(普通なら一気に契約を迫るところだけど、あの現象と契約が衝突した時の副作用があるかもしれない。ここは慎重にいこう)

金木「じゃあ例えばさ、誰か死んだ人を生き返らせることも出来るの」

QB「現象を止めるより簡単なんじゃないかな。前例も多いし」

金木「ふうん」

金木(なら亜紀に万が一のことがあったとしても、現象が止まった後に生き返らせれるんじゃ)

金木(ああ駄目。私の目の前で亜紀が死ぬところを黙ってみてることなんて出来ないだろうし)

金木(だとすれば、やっぱりこの時点で現象を止めておくべきかな)

金木(でも契約したらもう自由の身じゃない。亜紀とも一緒にいられる時間が無くなっちゃう)

金木(それで亜紀と疎遠になったりしたら本末転倒じゃない)

金木(何より何でも叶うとか豪語しておいたこいつですら、絶対に止まるとは言えないみたいだし)

金木(暫く様子を見るしかないか……)

 ~数日後~ ~金木の部屋~

QB「合宿をすることが発表されていたけれど、君はどうするんだい」

金木「どうしようかな。そもそも合宿に行く意味が分からないし」

QB「確かに、あの現象があるのにわざわざ行く場所ではないかもしれないね」

金木「噂では千曳先生が三神先生に入れ知恵したみたいだけど」

QB「千曳先生というのは誰だい?」

金木「今は図書館の司書をしている男の先生。色々と現象について知ってるらしいよ。呪いが始まった時の3組の担任だったて話もあるし」

QB「なら、その合宿にも何か意味があるのかもしれないね」

金木「今までどんなことをしても止められなかったて話しか聞いたことないけど」

QB「……でももし現象を終わらせる手がかりがあるなら、君にも意味があるんじゃないかい」

金木「どういうこと」

QB「だってそうだろう。このまま現象が続けば君と仲の良い彼女だって被害を受けかねない」

金木「それはどうだけど」

QB「まあ合宿にはまだ時間がある。それまでに答えを出せばいいさ」

金木「やっぱり私は家でじっとしてるか、いっそのこと夜見山から出ちゃえばいいと思うけど」

QB「確かに、現象の効果範囲は夜見山市内に限られるみたいだからね」

金木「うん。だから逃げちゃえば……あれ、キュゥべえに効果範囲の話したっけ」

QB「たまたま生徒たちが話してたのを聞いただけだよ」

QB(君の契約に利用出来そうなのに、調査しない訳ないだろう)

QB(もしこの現象で亜紀に被害が及べば、確実に彼女は契約するだろうしね)

QB(大勢の生徒が山奥にこもって合宿だなんてことになれば、確実にこの現象は効果を発揮するだろう)

QB(そして彼女が合宿に参加するなら、あの亜紀だって一緒に行くはず)

QB(もし契約を迫るなら、その時が絶好の機会だ。彼女の秘める魔翌力は平均的だけど、死者蘇生くらいなら十分だしね)

QB(でも、やはり現象そのものと契約を衝突させるのはリスクが大きすぎる)

QB(彼女の魔翌力はあらゆるリスクを排除出来るほど大きいものではないしね)

QB(それに亜紀の前に彼女自身が現象の被害に会う可能性も十分にある。即死されたら契約出来ないじゃないか)

QB(……ここは合宿参加を促しつつ、現象の動きに注意するしかないかな)

 ~2週間後~ ~金木の部屋~

QB「いつもより暗い顔をしているね。何かあったのかい」

金木「また生徒とその家族に死者が出たから。合宿も近いし」

QB「どうやらこの現象は自然に止まってくれる類のものではないようだね」

金木「しかも死んだのは夜見山を出ようとしてた生徒と、部屋に引きこもってた生徒の家族だったらしいよ」

QB「なるほど。この前君が言っていた二つの対処法も確実ではないようだね」

金木「そういうこと。それと、これは噂だけど……例の合宿には意味があるみたい」

QB「へえ、どんな意味があるんだい」

金木「今まで一度だけ現象が途中で止まった年があって、その年は夏休みに皆で合宿をしたんだって」

QB「そうなんだ。例の千曳先生が入れ知恵したってのはそういうことだったんだね」

金木「うん。亜紀はあまり信じてないみたいだったけど」

QB「君はどうするんだい?」

金木「私は……少しでも現象が止まる可能性があるなら、行く意味はあると思う」

金木「あんたと契約して止めるって手段は最後まで取っておきたいし」

QB「僕としても急かすようなことはしたくないからね」

金木「それにこのままだと、いつ私達に被害が出てもおかしくないし」

QB「そうだね。もはや誰がどんな被害にあっても驚くには値しない」

QB(どうやら僕の望む方向に事態は推移しているようだね)

QB(後は亜紀が一緒に行くかどうかが問題なんだけど)

金木「でも、私が行くって言ったら亜紀はついてきちゃうからな……それは避けないと」

QB「どうしてだい」

金木「3組だけで合宿に行くなんてやっぱり危険じゃない」

QB「でも何をしていても現象からは逃れられないんだろう。なら一緒じゃないか」

金木「まあそんな気はしないでもないけどさ……ううん、やっぱり3組だけで行動するのは危険だと思う」

QB「そうかい」

QB(亜紀が一緒に行かないなら、彼女が危険な合宿に行く意味がない)

QB(あくまで亜紀を合宿に行かせて、被害にあう可能性を最大限に高めないと)

QB「でも、そうとも言い切れないんじゃないかな」

金木「どうして。この現象は3組を中心に発生してるのは知ってるでしょ」

QB「さっきも言ったように、何をしていても現象の被害にあうのは既に証明されている」

QB「もちろん、彼女も例外ではないだろう」

金木「……」

QB「そしてこの現象に対抗できる可能性が最も高いのは君だ。君はそれを理解しているのかい」

金木「契約の奇跡でってこと?」

QB「そうさ。現象そのものを止められる保証は出来ないけど、致命傷を負った人間を助けることくらいは出来る」

QB「つまり彼女に万が一のことがあったとしても、合宿で一緒にいる間は彼女を助けられるということさ」

QB「そんな状況の中で、君は彼女と2日間も距離を置こうとしている。この意味が分かるかい」

金木「ちょっと待ってよ。この前は死者の蘇生くらいなら出来るって言ってたじゃない」

金木「私が合宿に行ってる間に亜紀にもしものことがあっても、後から助けることも……」

QB「そのことだけど、この現象は僕が思っていた以上に強力なものだ」

QB「もしかしたら、一度死が確定した人物を生き返らせることは難しいかもしれない」

金木「そんな……」

金木(ならこいつの言う通り、合宿で2日間んでもいいから近くにいるべきかな)

金木(それにもしかしたら、現象が止まるかもしれないんだし)

金木「なら、一緒に合宿に行った方がいいのかな……」

QB「僕としてはそれをお勧めするよ。2人が生き残るためにもね」

QB(まあ、死者の蘇生が出来ないってのは、あくまで『もしかしたら』の話だけどね……)

 ~合宿数日前~ ~金木の部屋~

松井「ねえ、杏子はどうするの……合宿」

金木「私は行くつもりだよ。現象が止まるかもしれないって話だし」

QB(金木の下の名前は杏子なのか。今まで知らなかったな)

松井「そう……私は何だか怖いな」

金木「そっか。でも、逃げようとした人も部屋にいた人も死んじゃったしさ」

松井「うん。頭では分かってるんだけど……やっぱり怖くて。現象が始まってから学校に通ってるのも、杏子がいるからみたいなものだし……」

金木「……」

松井「杏子は強いね。私は家を出るたびに足が竦んじゃうんだよ」

金木「そんなの、私だって一緒だよ。杏子がいるから体面を保っていられるだけ」

金木「だから亜紀。今度の合宿、一緒に来てくれないかな」

松井「……」

金木「私……亜紀がいれば頑張れるから」

松井「頑張るっていっても……相手は現象だよ……どうにもならないよ」

金木「でも、何もしなかったら私達だって死んじゃうかもしれないし」

松井「……それはそうだけど」

金木「少しでも希望があるなら、私は諦めたくない」

松井「希望……あるのかな」

金木「あるよ、絶対。私と亜紀になら、あるよ」

松井「……」

金木「ごめん。もちろん嫌なら来る必要なんてない……よ」

松井「……ううん。私もちょっと希望湧いてきた。ありがとう、杏子」ニコ

金木「う……お礼なんて言われても……テレル」

松井「何か言った?」

金木「何でもない」

松井「ん?」

金木「……」

松井「それにしても、やっぱり杏子は強いね」

金木「そんなことないって」

松井「強いよ。だって、杏子と一緒なら私も頑張れるって思えるんだから」

金木「……ありがとう」

松井「それはこっちの台詞だよ。杏子、ありがとう」

金木「……」

松井「私も合宿……行くことにするね」

金木「……うん」

 ~合宿前日~ ~金木の部屋~

QB「うまく彼女を丸め込んだね」

金木「あれは私の本心。嘘をついた訳じゃない」

QB「ふうん。まあ僕としては、2人が生き残れる可能性が高くなったんだから何も問題は無いよ」

金木「そう。キュゥべえは明日ついてくるんだよね」

QB「もちろん。そうじゃないと意味がないからね」

金木「もしものときは、直ぐに契約できるようにしといてよ」

QB「心配しなくても、常に準備してるから安心してもらって大丈夫だよ」

金木「じゃあ私は明日に備えて早く寝るから」

QB「おやすみ、金木」

QB(いよいよ合宿が始まる)

QB(当初の予定通り2人を合宿に参加させることに成功した)

QB(後は都合よく2人に危険が迫ればいいんだけど)

QB(そこは現象という理解不能なもの期待するしかないかな)

 ~合宿所~ ~金木と松井の部屋~

QB「いよいよ合宿が始まった訳だけど」

金木「何か言いたいことでもあるの」

QB「いや、僕は現象による被害を幾つか知っているだけだけど、そのどれも被害者は即死だった」

QB「もし彼女ではなく君自身が被害にあった場合、契約が間に合わなくなるかもしれない」

QB「だからくれぐれも慎重に行動してくれ」

金木「分かった」

QB「先に契約してしまって魔法少女の力で被害を切り抜けるという方法も無くはないけれどね」

金木「……悪いけど、いきなりその魔法の力を使いこなせるか分からないし、魔女と戦う使命をおびることになる契約は出来るだけしたくないの」

QB「そういうと思ったよ。まあ君がそう言うなら、僕はいつでも契約できるようにしておくだけだね」

金木「うん。それと今はいいけれど、合宿中は亜紀の身の安全に集中したいから出来るだけ……」

QB「それも分かってるよ。契約に関わること以外は話しかけないさ」

金木「……我がままだなあって思ってる?」

QB「僕はそういう感情は持ち合わせていないんだ」

QB「契約するまで時間がかかることなんて当たり前だし、結局契約しない少女も沢山いるからね」

QB「それに前も言ったけれど、この町には君以外に素質のある少女も、既に契約した魔法少女もいないから」

QB「だから君が気にすることは無いんじゃないかな」

金木「……ありがと」

QB「どういたしまて。金木」

 ~合宿所~ ~女子トイレ~

杉浦『ですから…………殺せぇぇぇ!』

金木「死者を死に、か」

松井「ね、ねえ。本当に見崎さんが死者なのかな」

金木「分からない……取り敢えず、皆のいる所に移動しよう」

松井「うん、そうだね」

QB(やあ、状況が動いたみたいだね)

金木(キュゥべえは見崎さんを殺せば現象が止まると思う)

QB(それは分からない。もしその方法が正解だとしても、君の言う通り彼女が死者なのかも分からないしね)

金木(そうね。今はとにかく亜紀を安全なところに移動させないと)

QB(人がいる場所が安全だとは限らないよ)

金木(でも焦って外に出ようとしたところで被害にあうかもしれないし)

QB(まあ結局は運頼みということか)

 ~合宿所~ ~廊下~

松井「あ、渡辺さんだ」ッタ

金木「待って、亜紀」ッタ

小椋「兄貴の仇ぃぃぃ!」

榊原「違う!」

小椋「ころ―「ごめん!」」ドン!

金木(何が起きてるのってうわ!)ドン!

QB(金木、大丈夫かい!)

金木(大丈夫、小椋さんとぶつかっただけだから)

松井「杏子! 起きれる?」

金木「うん、大丈夫ッ!」

金木(やばい、さっきので足を挫いた……)

松井「杏子、足が!」

金木「大丈夫だって。それよりここはやばいから、外に出よう」

松井「う、うん。杏子も一緒に」

金木「ッ……ちょっと足休めたら行くから、松井は先に……」

松井「ダメだよそんなの!」

金木「……亜紀」

松井「私が肩貸すから、2人で逃げようよ、ね!」

金木「……分かった」

QB(金木、気を付けて。現象はもう君たちに狙いを定めてるかもしれない)

金木(分かってる……ねえ、もうそろそろ潮時かな)

QB(じゃあ、いよいよ契約でこの現象を切り抜けるかい)

金木(でも……まだ亜紀自身に直接脅威が向かった訳じゃないし……)

QB(現象はその時に考える余裕をくれないかもしれないよ)

金木(それは……ん、何か焦げくさ)

 ―ドン!

金木松井「「うわぁ!」」

金木「爆発!?」

松井「き、杏子、ひ、火だよ、火事だよ、な、何で!」ワナワナ

金木「亜紀、落ち着いて! とにかく逃げることに集中するの!」

松井「わ、分かった!」

QB(火の回りが以上に早い。多分これは現象の影響だろうね)

金木(私たちを焼き殺そうとしてるってこと)

QB(そうとしか考えられないね)

金木(もうダメかな……)

QB(このペースで逃げていては、君も亜紀も巻き込まれてしまうよ)

金木(………………亜紀)

金木(………………………………出来れば使いたくなかったけど)

金木(………………………………………………………………………………仕方ないか)

金木(キュゥべえ、契約を―)

QB(金木!! 後ろだ!!)

 ―グチャ

金木(……え?)

金木(背中……痛い……な、ん……)バタッ

 グチャグチョ

松井「いやぁぁぁぁぁあ!」タッタ

金木(あ、キ……)

QB「金木! 願い事を決めるんだ! 早く!」

金木「亜季……ヲ…マ…モリ……タイ…」

QB「君の願いはエントロピーを凌駕した。さあ、受けるといい!」

金木「……」

QB「……金木?」

QB(何だ、間に合わなかったか。ソウルジェムは完成したと思ったんだけど)

QB(こうなる可能性があるから早く契約しておけば良かったのに。人間てやっぱり理解できないな)

QB(さ、この町に留まる理由も無くなった。次の町へ移動しよう)タッタ

金木「……」

 ~合宿所~ ~女子トイレ~

杉浦『ですから…………殺せぇぇぇ!』

金木(ハッ!!)

金木(わ、私、どうしてここに!?)

金木(そうだ、背中刺され…………な、何ともないみたいね)

金木(それに聞き覚えのある杉浦さんの放送。どういうこと!?)

松井「杏子……杏子!」

金木「あ、うん。ど、どうしたの?」

松井「何度も話しかけたのに全然反応しなかったから。杏子、大丈夫?」

金木「大丈夫大丈夫。全然平気」

松井「ならいいんだけれど。ところで今の放送……どう思う。見崎さんが死者なのかな」

金木「わ、分からない」

金木(それよりも何で私がここにいるのかが分からないよ)

金木(ま、まさかキュゥべえの言ってた奇跡ってこれのことなの)

金木(そうなると……確か私はュゥべえに、亜紀を守りたいって言ったから)

金木(じゃあこの場面からやり直せば私は刺されずに亜紀を守れるってことかな)

金木(いやいやちょっと待って。なら今の私は魔法少女ってことになるけど)

金木(魔法が使えそうな気配は……無いわね)

金木(って、そんなことより)

金木「亜紀、逃げるよ!」ガシッ

松井「え、ちょっと杏子。逃げるってどこに!?」

金木「とにかくこの建物から出るの。早くしないと火事に巻き込まれる」

松井「か、火事って何のこと杏子!?」

金木「いいからついてきて!」

 ~合宿所~ ~廊下~

QB(やあ、状況が動いたみたいだね)

金木(それよりキュゥべえ。今の私は魔法少女に見える?)

QB(何を言っているんだい。君はまだ僕と契約してないじゃないか)

金木(そう。ならいい)

QB(それより、君はそんなに急いでどこに行くんだい)

金木(とにかく建物の外に出る。そうしないと亜紀が危ない)

QB(やけに断定的な口調だね。何か考えがあるのかな)

金木(色々あるけど、今は説明してる余裕がない)

QB(……そうかい)

金木(確か爆発までには放送から少しだけ時間があった。その間に―)

 ―ドン!

金木松井「「うわぁ!」」

金木(何でこうなるのよ! さっきより早いじゃない! これも現象のせいだって言うの!?)

金木「亜紀。大丈夫?」

松井「う、うん……ってそれより杏子! あれ火だよ! か、火事だよ!」

金木「亜紀、私がいるから落ちついて。体に怪我はない?」

亜紀「大丈夫。ちょっと転がっただけッ!」

金木「ちょっと、まさか足を挫いたの?」

松井「あはは、よく分かったね。大丈夫だよこれくらい……イタ!」

金木「やっぱり痛むんじゃない。どう、歩けそう?」

松井「うん……少し休めば大丈夫。だ、だから、きょ、杏子は、さ、先に……」

金木「バカ、声震えてるじゃない。私が肩借すから、2人で逃げるよ」

松井「う……ありがとう」

金木(といっても、このスピードじゃあさっきと同じじゃない)

金木(それに私を後ろから襲ったやつにもまだ会ってないし)

QB(金木、火の回りが思っていたより早い。これは現象の影響だろうね)

金木(キュゥべえ、それより後ろに注意して。もし変なのが近づいてたら直ぐに教えてよ)

QB(わ、分かった)

金木(これで取り敢えず後ろのやつはいいとして、問題は亜紀の足ね)

金木(このスピードじゃあ刺されなくても、焼かれるか煙を吸いすぎるかのどっちかで死んじゃう)

金木(煙を避けようにも亜紀の足じゃあ体を低くして移動することも出来ないし)

QB(金木!! 後ろから包丁を持った男子生徒が近づいてるよ!!)

金木(クソ! やっぱり気たか!)

金木(キュゥべえ、後どれくらいで追いつかれそう)

QB(足音を殺して近づいてるから早くはない。でも20秒くらいしか猶予はないよ!)

金木(こうなったら……)

金木「亜紀、今から私の言うとおりにして」ボソ

松井「う、うん」ボソ

金木「――てこと。じゃあ行くよ」ボソ

金木(……5歩、4歩、3歩、2歩、1歩)

金木松井「今だ!!」ドン! ガシャン!

風見「あれ、火災で足音は聞こえないと思ったんだけどな。避けられちゃったや」

金木(良し! 合図で隣の部屋の扉に飛び込む作戦成功! これで包丁は避けれた!)

松井「え、どいいうこと杏子? 何で風見君が包丁持ってるの?」

風見「放送で言っただろう。死者を死にって。だったら手当たり次第に殺すしかないじゃないか」

金木(ああもう! こんなキチガイに構ってる暇はないのに。でも放っておいたら背中から殺られるし)

金木(これじゃあ包丁避けてからのプランが何も無いじゃない私のバカ!!)

風見「まあ部屋に逃げても同じこと。むしろ逃げ場が無くなっただけだと思うよ」

金木「そ、それ以上近づいたらぶっ殺すぞ!」

風見「ガタガタ煩いなあ。やれるものなら……おや、あれは本命の榊原君じゃないか。最優先で殺さないと!」タッタ

金木(え……何で榊原君が……取り敢えず、助かった……のかな)

金木「と、とにかく亜紀! 今のうちに逃げるよ!」

松井「で、でも杏子、廊下には風見君がいるし。ここ2階だし……ど、どうしよう」

金木「逃げ場なしか……」

QB(金木! もういつ死んでもおかしくない! 早く願い事を決めるんだ!)

金木(多分。もう契約は出来ないんじゃないかな。試しに亜紀を守りたいって願い事を叶えてみてよ)

QB(君はさっきから何を言って…………あれ、ソウルジェムが作れない)

金木(やっぱり、上手くいかないみたいね)

QB(こんな異常なことが起きるなんて……理解できない)

金木(まあこいつはほっといても死なないだろう。それよりも……)

金木「ねえ、2階なら頭から落ちない限り死なないよね」

松井「た、多分」

金木「なら、飛び降りよ」

松井「そんな。危ないよ!」

金木「殺人鬼のいる廊下に戻る方がもっと危ない。私がついてるから……一緒に行こ」

松井「うう……分かった」

金木「あの植え込みの上なら衝撃が少ないはず」

松井「怖い……けど、杏子となら、が、頑張る」

金木「大丈夫。2人なら大丈夫だから」

松井「……うん」

金木「じゃあ……3,2、1」

金木松井「それ!!」ドサ!

金木「う……痛い。亜紀、ちゃんと生きてる?」

松井「……何とか」

金木「ふう……やっと外ね」

松井「そうだね……」

金木「……ありがとう。亜紀」

松井「だからそれはこっちの台詞だよ。杏子、ありがとう」

金木「でも……亜紀がいるから頑張れた。じゃなきゃとっくに死んでた」

松井「私の方こそ杏子がいなかったら絶対生き残れなかったよ……」

千曳「き、君たち! 怪我はないかい?」

金木「ああ……先生。亜季は足を挫いてるから、運んであげてください」

千曳「よし、分かった。金木さんも私の車までついてきなさい」

金木「はい……」

 ~数日後~ 

金木(それから私たちは千曳先生に言われるまま山を下りて、何とか死なずにすんだ)

金木(これは後から分かったことだけど、あの火事の中で何人ものの生徒が死んでいて、その中にはあの風見の名前もあった)

金木(あの惨劇の中で死者だった人が死んだのか、それとも別の理由かは分からないけれど、あれから現象はピタリと止まった)

金木(全てが落ち着いてから、私は契約のことをキュゥべえに聞いてみることにした)

 
 ~金木の部屋~ 

QB「もしあの放送まで時間を遡ったのが確かなら、それは契約による奇跡で間違いないだろうね」

QB「ただ君の体は既に致命傷を負ってしまっていた。だから意識だけを遡らせたんじゃないかな」

金木「ちょっと待って……なら、私の刺された体はまだどこかにあるってこと?」

QB「それは分からないな。もしかしたら君の意識は平行世界を渡ってしまったのかもしれないしね」

金木「よく分からないけれど……もう一つ質問してもいい」

QB「一つと言わず何個でも答えるよ。この件は僕にとっても興味深いことだしね」

金木「じゃあ、どうして契約した私は魔法少女にもならないし、そのソウルジェムってのも作られないの」

QB「問題はそこなんだよ。そればっかりはいくら考察を重ねても解明できない」

QB「ただ仮説を立てるとしたら、こういうのはどうだろう。あの現象にとって君にあの場で魔法少女になられるのはやっかいだったんじゃないかな」

QB「魔法少女の力は強大だ。あの惨劇の中から亜紀だけでなく大勢の人を救い出せたかもしれない。だから現象によって君は魔法少女になるのを妨害されてしまった」

QB「そもそも魔法少女の体を手に入れれば、背中を何度刺されようが大したことないんだ。だから体を放棄して意識だけを別の時間に飛ばす必要もない」

QB「でも実際には違った。つまり、何らかの妨害によって魔法少女の体を手に入れられなかったんだよ。だから奇跡は中途半端に意識だけを助けるこ結果となった」

金木「まあ……辻褄はあうような……あわないような」

QB「あくまで仮説だからね。確実は言えない。どこかに矛盾点があっても不思議ではないさ」

QB「でも、この仮説が僕の中では一番有力だけどね」

金木「ふうん。なら、私が魔法少女になることはないの?」

QB「それも残念ながら分からない。既に現象は止まっていているから、君の体もいつか突然魔法少女のものになるかもしれない」

金木「時限爆弾みたいで嫌だな……」

QB「そこまで悲観的になることもないさ。少なくとも、魔法少女になる可能性があるのは中学生のうちだけだから」

金木「どうして?」

QB「……そういうものだからね」

金木「そう……」


金木(結局私が魔法少女になることもなく、キュゥべえは簡単な挨拶を済ませると別の町へと行ってしまった)

金木(最後は何かを隠していたような気もするけれど、追求はしなかった)

金木(亜紀とはあれからも仲の良い友達を続けている。吊り橋効果というものがあったのか、前より少しだけ距離が近づいた気がする)

金木(だけどあの惨劇では本当に人が死んだのだから、あまり素直に喜べない)

金木(だから私はそれを利用して一気に仲を縮めることも出来ずに、今もこうして……)

金木(亜紀は可愛いなあ……と見つめているだけなのである)

以上です。

金木松井は私の生きがいです。

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