縁「唯ちゃんを監禁しちゃった」(147)

まかせた

-放課後-

縁「唯ちゃん、かえろーかえろー」

唯「あれ、ゆずこは?」

縁「ゆずちゃんは、なんか新しい本の発売日ーとかでチャイム鳴ってすぐ出て行ったよ」

唯「あいつはほんと、そういう熱意を別に向けたら、もっとマシな人間になるのにな」

縁「でも、ゆずちゃんらしいよー」

唯「急ぎすぎて事故にあわなきゃいいけど……心配だな」

縁「……」

唯「ああ、じゃあ二人で帰ろうか」

縁「うんっ!」



あとはまかせた

縁「ねーねー、唯ちゃん」

唯「ん?」

縁「こうやって、二人だけで帰るの久しぶりだね!」

唯「んー、言われてみれば確かに。最近は三人で帰ることが多かったからなあ」

縁「うんうん」

唯「まあ、ゆずこがいないと静かでいいな」

縁「んー、わたしとだけじゃ、つまらないかな?」

唯「そんなことないよ。騒がさ二分の一になって、ちょうどいいかなって」

縁「えへへー、ほめられたー」

唯「念のために言っとくけど

縁「んー?」

唯「褒めてないから」

縁「えへへ」

縁「たーんたーんたぬきのキンチョールー」

唯「なにその歌」

縁「えー、なんだろうね」

唯「また思いつきか……そんなふらふらしてるとまた転ぶぞ」

縁「だーいじょーぶだよー」

ぶろろろろろっ

唯「……って! ゆかり、危ない!」

縁「えっ」

「あぶねーぞ、気をつけろ!!」

ぶろろろろろっ

唯「……」

縁「……」

唯「なんだよ、あの運転! こんな道幅の狭いところで……」

縁「……」

唯「ゆかり、大丈夫? 怪我してない?」

縁「……えっ、あ……うん、だいじょうぶ……だよ」

唯「ほんとに?」

縁「うん」

唯「私が途中で気づいたから良かったけど……一歩間違えたらどうなってたか」

縁「……」

唯「気をつけないと駄目だぞ、ゆかり」

縁「うん、ごめんね、唯ちゃん。それにありがとうね」

唯「まあ、今後こういうことがないようにしてくれるなら、許すかな」

縁「うん、気をつけるね……」

唯「……」

縁「……」

唯「ん? ああ、ごめんな。いつまでも抱きついてて」

縁「あっ……」

唯「歩けそう?」

縁「うん……」

唯「……」

縁「……」

唯(なんか、ゆかり元気ないな……さっきのが堪えてるんだろうか)

唯「ねぇ、ゆか……」

縁「唯ちゃん」

唯「ん?」

縁「今日、このあと暇?」

唯「これといって用はないけど……」

縁「じゃあ、うちに来ない?」

唯「ゆかりんち? 別に良いけど、何かあった?」

縁「ううん、特にこれといってないんだけど……」

唯(……ああ、なるほど、そういうことか)

唯「いいよ、ちゃんと家まで送っていくから」

縁「ほ、ほんとに?」

唯「ほんとほんと」

縁「ありがとうね、唯ちゃん」ニコッ

唯「……ッ」

縁「……唯ちゃん?」

唯「なんでもない、なんでもないから」

縁「……?」

唯(うぅ……その笑顔は反則だろ……)

唯「じゃあ、久しぶりにゆかりんちにお邪魔しようかな」

縁「やったぁ」

-縁の家-

唯「はぁ……」

縁「どうしたの、唯ちゃん」

唯「いや、あらためて、ゆかりがお嬢様なんだなって思って」

縁「そんなんじゃないよぉ」

唯「まあ、お邪魔します」

縁「えへへ、いらっしゃいませー」


縁「じゃあ、わたしの部屋で待っててね、飲み物用意してくるから」

唯「ゆかりの部屋ね、わかった」


縁「……」

-縁の部屋-


唯「何度見ても……広い」

唯「……」

唯「ゆかりにあんな事があったばっかりだし、なんかゆずこが心配になってきた」

唯「電話してみるか」

プルルルル

唯「……」

プルルルル

唯(……あれ)

プルルルル

唯(出ないな)

がちゃ

唯(あ、やっと出た)

『はいはーい! ゆずこちゃんでーす!』

唯「あ、もしもし、ゆず……」

『ただいま、ゆずこちゃんは電話に出ることができません!』

唯「……」

『御用な唯ちゃんは、ぴーっという発信音の後にメッセージをどうぞ!』

唯「……」

『ぴゅっぴゅー!!』

唯(うぜぇ……)

唯「……メールで良いか」

がちゃ

縁「おまたせー」

唯「ああ、ありがとね」

縁「ゆずちゃん?」

唯「うん、ゆかりにあんな事があったばっかりだし、ゆずこ大丈夫かなと思って」

縁「……そうだね」

唯(ん?)

唯「ああ、ごめんごめん。思い出させちゃった?」

縁「ううん、だいじょうぶだよ、だいじょぶ!」

縁「あの……唯ちゃん?」

唯「ん?」

縁「と、となり……座ってもいいかな」

唯「隣? いいけど、こんなに広い部屋なのにどうして?」

縁「だ、だめかな」

唯「別にいいけど……」

唯(どうしたんだろ、ゆかり。なんかいつもと雰囲気が……)

縁「お、お邪魔します」

縁「あ、いつもの紅茶。ミルクティにしてみたの」

唯「……え? あ、ああ、そうなんだ。いただくよ」

縁「……」

唯「……ゆかり」

縁「えっ……な、なにかな」

唯「本当にさっきの大丈夫? やっぱり怪我とかしてるんじゃ」

縁「も、もう、唯ちゃんは心配性だなー、ほんとに大丈夫だってばー」

唯「そ、そう」

縁「……」

唯「……」


唯(なにこの間)

縁「あ、あの、唯ちゃん?」

唯「な、なに?」

縁「その……もしよかったらなんだけど……ね」

縁「唯ちゃんに……その……く、くっついてもいい……かな?」

唯「く、くっつく?」

縁「う、うん……」

唯(く、くっつくって何!? あ、もしかして寒いのかなー……なんて)

縁「だ、だめ?」

唯(……うっ、かわいい)

唯「か、構わないけど……もしかして寒かったりする?」

縁「う、ううん、寒いとかじゃない……けど」

唯「まあ、いいよ」

縁「うん。そ、それじゃあ……失礼します」

ぴたっ

縁「……」

唯「……」

唯(なんだろう)

唯(いつもこのくらいのスキンシップなんて、してるはずなのに……)

縁「……えへへ」

唯(すごく恥ずかしい)

唯(でも……嫌じゃないかも)

縁「……」

唯「……」

唯(そっか……やっぱりさっきの出来事が怖くて内心、怯えてるのかも)

唯「ゆかり」

縁「なぁに?」

唯「もう大丈夫だから」

縁「……」

唯「今いるのはゆかりの家だよ。だからもう、怖くないんだ」

縁「……」

唯「私がついてるから、ね」

縁「……ッ」

縁「……唯ちゃん」

唯「なに、ゆかり」

縁「……あのね……その……手」

唯「手?」

縁「うん……手、繋いでもいいかな?」

唯「えっと、こう?」

縁「あ、えと……指も……」

唯「こう……かな」

縁「うん、嬉しい……」

唯(なんだろう……)

縁「えへへ……」

唯(こういうのも、たまには良いかもしれないな)

縁「どうしたの、唯ちゃん」

唯「ん? ああ、なんかこういう、しおらしいゆかりは珍しくて、かわいいなと思って」

縁「な、なななな何言ってるの唯ちゃん!」

唯「本当だよ?」

縁「そ、そんなかわいいなんて、唯ちゃんの方がかわいいよ……」

唯「ふふっ、ありがと」

縁「唯ちゃ……」

ぎゅっ

縁「あっ……」

唯「違った?」

縁「……ううん、あ、合ってる……」

唯「そう」

縁「……」

唯「……体温低いね」

縁「そうかな」

唯「うん、でもあったかい」

縁「なんで……してほしいことわかったの?」

唯「んー? して欲しいというより、したかったからかな」

縁「そ、そうなんだ」

唯「うん」

縁「……じゃ、じゃあね、笑わないで聞いてね」

唯「なぁに?」

縁「……あ、頭なでてほしい」

唯「……」

縁「……」

唯「ふふっ、あはは!」

縁「うぅ……やっぱり笑ったー」

唯「ごめんごめん」

縁「い、いけない……かな?」

なでなで

縁「ん……」

唯「これでどう? いいこいいこ」

なでなで

縁「うん……幸せ……」

縁「唯ちゃん」

唯「んー?」

縁「今日は本当にありがとうね」

唯「いいよ、過ぎたことだし」

縁「だって……もし唯ちゃんがいなかったらわたし……今ここにいなかったもん」

唯「じゃあ、ありがたく撫でなきゃね」

なでなで

縁「も、もう真面目な話なんだよぉ」

唯「ごめんごめん」

縁「もう……」

ぐすっ

縁「えっ」

唯「……何事もなくてよかった」

縁「ゆ、唯ちゃん?」

唯「ゆかりが無事で、ほんとによかった……」

縁「唯ちゃん、泣いて……?」

唯「な、泣いてなんかない」

縁「ううん、泣いてるよ、唯ちゃん」

唯「ぐすっ……ごめん、なんか……ゆかりがいなくなったこと想像しちゃって」

縁「……」

唯「今こうやって感じてる体温も、全部無くなっちゃうと思ったらさ。なんか急に、ね」

縁「唯ちゃん……」

唯「一人だけでどこか行ったら許さないから」

縁「……」

なでなで

唯「……」

縁「唯ちゃん、あの……」

唯「なぁに?」

縁「唯ちゃん、わ、わたしね! 唯ちゃんのこと!」


ピリリリリリ

唯「あ、ゆずこからメールだ」

縁「あっ……」

唯「ちょっと待ってね」

縁「……うん」

唯「あはは。ゆずこのやつ、新しい本を家で読もうとしたら一個前の巻、間違えて買っちゃったんだって」

縁「そうなんだ」

唯「それでダッシュで本屋を往復してたらしい」

縁「へぇ」

唯「ばかだなあ、あはは」

縁「……」

唯「でも、ゆずこも無事でほんとによかったよ」

縁「……ッ」

唯「ゆかり、そういえば何か言いかけてなかった?」

縁「あ、ううん、なんでもないよ」

唯「そう?」

縁「うん」

唯「ああ、せっかくミルクティ入れてくれたのに冷めちゃったかな」

縁「あ、わたし、いれ直してくるね」

唯「いいよ、そんなわざわざ」

縁「せっかく、唯ちゃんのためにいれたんだもん。一番おいしいのを飲んで欲しいから」

唯「そう? じゃあお願いするかな」

縁「ちょっと待っててね」

唯「ありがと、ゆかり」


がちゃ ばたん


縁「……」

唯(もしかして……もしかしなくても)

唯(私、結構すごいことやってたんじゃないだろうか)

唯(でも……ゆかりだって、嫌がってはいなかったよね?)

唯(最後、何言いかけてたんだろう)

( 縁「唯ちゃん、わ、わたしね! 唯ちゃんのこと!」 )

唯(……!?)

唯(ま、まさかね……)

がちゃ

縁「おまたせー、唯ちゃん」

唯「……ッ」

縁「どうしたの、唯ちゃん」

唯「ううん、なんでもない、なんでもないよ」

縁「そう? えへへ、ミルクティと一緒にクッキーも持ってきちゃった」

唯「あはは、ありがと、ゆかり」

縁「どういたしましてー」

唯(か、顔に出てないよね)

縁「えへへ、ささ、どうぞどうぞ」

唯「じゃあ、遠慮なく、いただきます」

縁「どう?」

唯「ん? おいしいよ」

縁「そっか」

縁「ねえ、唯ちゃん」

唯「んー?」

縁「ゆずこちゃんのこと、どう想ってる?」

唯「……ッ、ごほっ……ごほっ、ど、どうって?」

縁「そのままだよ」

唯「……と、友達だと思ってるよ」

縁「そう……じゃ、じゃあ」

唯「……」

縁「わたしのこと……は?」

唯「えっ……」

縁「わたしのこと、どう想ってる?」

唯「どう……って」

縁「……」

唯「ゆかりは……幼馴染で……それで……」

縁「……」


唯「……友達だよ」


縁「そっか……」

唯「ゆかり?」

縁「そっか、そうだよね、ごめんねー、変なこと聞いて」

唯「ううん、大丈夫だけど」

唯(まさか……やっぱり……)

縁「あ、このクッキーおすすめだよ、食べて食べて」

唯「あ、ああ……うん」

縁「どう?」

唯「うん、クッキーもおいしい」

縁「よかった」ニコニコ

唯「ん……なんか眠たくなってきた」

縁「唯ちゃん、大丈夫?」

唯「ごめん、ちょっとだけ一眠りさせてもらっていいかな」

縁「いいけど……じゃあ、わたしのベッド使って!」

唯「そんな、床で良いよ」

縁「いいからいいから、立てる?」

唯「じゃあお言葉に甘えようかな」

縁「えへへ」

唯「じゃあ、1時間くらいしたら起こしてもらっていい?」

縁「うん、わかったよー」

唯「ん……おやすみ」

縁「……」

唯「すぅ……すぅ……」

縁「……」



縁「ごめんね」

すまん、ちょっ風呂

唯(ん……)

唯(あ、これ、夢だ)

唯(夢ってわかる夢ってあるよね)

唯(ん、あれは……)

唯(ちっちゃいゆかり?)

唯(なんかうずくまって……泣いてる?)

唯(歳は……はじめて会った頃くらいかな)

唯(……かわいいな)

唯(あれ、こっちに歩いて……)

『ゆいちゃん、ぐすっ……あのね……』

唯(ん? 私が見えてる!?)

『わたし、ゆいちゃんのこと、大好き!』

唯(……ッ)

『ゆいちゃんは、わたしのこと好き?』

唯(……それは)

『えへへ、ありがとう』

唯(ん? 私はなにも……)

『ゆいちゃん、これからもずっと』

唯(……えっ)


からんからん


ワタシダケ ヲ ミテイテネ

唯「……ッ」

唯(なに今の!)

唯(夢? あれ、何の夢だったっけ……それよりも!)

唯(何これ! 目が見えない!?)

唯(それに手と足も……ぜんぜん動かない!)

唯「ゆかり! なんなのこれ! 何かの冗談!?」

ぎしっぎしっ

唯「新しい遊びか何かなの!? ちょっと冗談きつすぎるよ!」

縁「んっ! 唯ちゃん!? 唯ちゃんそこにいるの!!」

唯「ゆかり!?」

縁「目が見えなくて、手足が縛られてるの! 唯ちゃん! 助けて!!」

唯「ゆ、ゆかりもなの! よ、よく聞いて。私も同じ状態なの」

縁「そ、そんな……どうして」

唯「ゆかり、私が寝た後、何が起こったの」

縁「何がって……ぐっすり眠ってる唯ちゃん見てたら、わたしも眠くなってきて」

縁「それで、一緒に寝ようとして、横になったら……」

唯「こうなってたと」

縁「うん……」

唯(もしかして……日向家を狙った身代金目当ての強盗か何か?)

縁「唯ちゃん、こわいよ……」

唯「大丈夫、大丈夫だから、私がそばにいるからね」

縁「う、うん」

唯「だれか! 誰かいるんでしょ!」

縁「……」

唯「出てきなさいよ!」

『騒がしいですね』

縁「ひっ……」

唯(何この声、変声機?)

唯「あなた誰なの!」

『そんなに大声出さなくても聞こえていますよ』

唯「いいから答えて!」

『ご想像のとおりだと思います』

唯「くっ、やっぱり身代金目当ての誘拐ね」

縁「唯ちゃん、こわいよ……」

唯「大丈夫よ、ゆかり。こんなヤツ、すぐに警察に捕まっちゃうんだから」

ぱちぱちぱち

『すばらしい友情ですね、惚れ惚れしてしまいます』

唯「ふざけないで!」

『ふざけてはいないのですが、そうですね。少し余興を楽しみましょうか』

唯「余興ってなんのこと! そんなくだらないこと誰が……」

『まあまあ、落ち着いて聞いてください』

唯「どうして縛られて目隠しされて落ち着いていられると思ってるの!」

『もっともです、ただ……』

チャキ

縁「ひっ……」

『正直ですね、人質は二人も要らないんですよ』

唯「なっ! ゆかりに何してるの!」

『少しは自分たちの状況がわかりましたか?』

唯「くっ……」

縁「唯ちゃん……」

唯「言うこときくから、ゆかりには手を出さないで……」

『素直でよろしい』

唯「……」

『と言っても、簡単なことですよ。あなたは私の質問に答えさえすればいい』

『それにしても、あなたの友達想いの心に深く感動しました』

唯「な、なにを……」

『この感動のお礼に、もう一人の目隠しを取ってあげましょう』

しゅるしゅる

縁「んっ……」

唯「ゆかり!? 目隠しが取れたの? ここはどこ!」

縁「ちょっと待ってね……目が光に慣れなくて……」

唯「……」

縁「ここは……どこ?」

唯「……はぁ、だよね。知ってるところなはずないよね」

縁「どこかの地下室みたいだけど……窓もないし」

唯「そっか……じゃあ、犯人は! 犯人はいるの!」

縁「う、うん……目の前に……って、女の人?」

唯「えっ」

縁「髪が……長い」

唯「女の誘拐犯……」

『そんなことはどうでもよいのです、さぁ質問を始めましょうか』

唯「ゆかり、私たちはどうなってるの」

縁「椅子にしばられてるかな……」

唯「……だよね」

『あなたたち二人は幼馴染なの?』

唯「ああ、そうだよ」

『親友?』

唯「うん、私はそう思ってる」

縁「わたしもだよ!」

『そう、じゃあ、相手のどんなところが好き?』

唯「えっ」

縁「……」

『早くしてもらえませんか』

唯「え、えっと、ゆかりは……いつもポヤポヤしてて危なっかしいけど……」

縁「……」

唯「そんなところが可愛いと思うし……それに」

縁「……」

唯「私が落ち込んでるときとか、すぐに気づいて励ましてくれたりして」

縁「……」

唯「優しいところ……かな」

縁「唯ちゃん……ありがとうね」

唯「ほ、ほんとのことだし!」

縁「えへへ」

『そうですか、わかりました。じゃああなたは?』

縁「わたしは……」

縁「唯ちゃんはね、かっこいいの!」

唯「な! ゆかり、何言って……」

縁「いつもわたしを守ってくれて、今日だってわたしの命を救ってくれた」

唯「……大げさだよ」

縁「唯ちゃんはね、わたしの命の恩人なの」

唯「ゆかり……」

縁「ううん、恩人としてじゃなくてもね……」

唯「……」

縁「それを抜きにしても……わたしのこと、とても大事にしてくれてるのがわかるの」

唯「……」

縁「そんな唯ちゃんと、これからもずっと一緒にいたい、一緒に笑っていたい」

唯「ゆかり……」

縁「だからわたしは……」


縁「唯ちゃんが大好き」

『そうですか、わかりました』

唯「ゆかり、今の……って……」

縁「……ッ」

『では、次の質問です』

唯「……」

『そのお互いへの気持ちは友情ですか? それとも違う感情ですか?』

唯「……へっ」

縁「……」

唯「な、何言ってんだ!」

『あなたからですよ、唯さん? 早くしてください』

唯「わ、私は……」

縁「……」

唯「私は……ゆかりのこと好きだけど……でも……」

縁「……」

唯「この感情が友情ではないと言われると……わからない」

『わからないという回答は受け付けません。どちらなのですか』

唯「私は……ゆかりのこと、かわいいと思った。今日だって、そう」

縁「……」

唯「落ち込んでるゆかりが甘えてくるのが、かわいくてドキドキして……」

唯「でも、わからないよ、そんなの……」

縁「唯ちゃん……」

『でも、縁さんは、そうではないみたいですよ』

唯「……ッ」

縁「……」

『それにしても、面白い話が聞けました。お礼に縁さんの手足を自由にしてあげましょう』

唯「……!?」

縁「んっ……」

しゅるしゅる

唯「ゆかり! 自由になったの! 逃げられる!?」

『変な気を起こさないでくださいね』

チャキ

縁「ピ、ピストル!?」

唯「ピストル!? ど、どうせ、ニセモノ……」

パァン! ガシャーン!

縁「きゃぁぁぁ!!」

唯「じゅ、銃声!? ほ、ほんもの!?」

『縁さん、あなたが変な真似をしたら、あなたの大好きな人がどうなるか……』

縁「う、うぅ……」

唯「ゆかり、大丈夫、大丈夫だから」

『わかりますね?』

縁「何をすれば……」

『そうですね……』

唯「……」

『唯さんのことが大好きと言っていましたが、言葉だけではよく伝わりませんでした』

縁「えっ……」

『どれくらい大好きなのか、行動で示してください』

唯「な、何言って……」

『縛られてはいますが、あなたの大好きな人が目の前にいるのです。自由にできるのですよ』

縁「……ッ」

『さぁ、早く』

縁「唯ちゃん……」

唯「ゆかり、私は大丈夫。ゆかりになら何されても平気だから」

『そうですね、じゃあまずはキスでもしてもらいましょうか』

唯「き、キス!?」

縁「……ッ」

『どうしたのです、大好きな人とキスできるのですよ』

縁「こんな形でキスするなんて……」

『そんなことを気にしている場合ですか?』

縁「えっ?」

『あなたがキスをしないと、唯さんは私に撃たれて死んでしまうのですよ』

縁「……」

『じゃあ仕方ないじゃないですか、あなたの意思は関係ない』

『唯さんを救うため、あなたはキスをするしかないのです』

縁「……」ゴクッ

唯「ゆかり」

縁「えっ……」

唯「私は構わないから」

縁「唯ちゃん……」

唯「ゆかりなら、私、キスされても構わないから」

縁「じゃあ……いくね」

唯「……」コクッ

唯(ゆかりの吐息が……近くに……)


縁「……んっ」

唯「……」


唯(キス……されちゃった)

唯(ゆかりのくちびる……柔らかかったな、それに……)

縁「……はぁ、はぁ」

唯(全然嫌じゃなかった、それどころか……)

『縁さん、それだけでいいのですか?』

縁「えっ……」

『一回だけで満足なのですか、と聞いているのです』

縁「そんな……わたしは……」

『じゃあ、こうしましょう』

縁「……」

『私が良いと言うまでずっとキスをしなさい』

唯「なっ!?」

『もし勝手にやめたら、その時は……わかりますね』

唯「そんな……卑劣な」

縁「……」

唯「ゆかり! そんなヤツのいうことなんてもう聞かなくていい!」

縁「でも……」

唯「私はどうなってもいいから……」

パァン!

縁「ひっ……」

『唯さん、まだ自分の立場がわかっていないようですね』

『あなたが自分のことを無下にするのは勝手ですが……』

唯「……くっ」


『ものわかりが良くて助かりますよ』

縁「唯ちゃん、ごめんね……ぐすっ……ごめんね……」

唯「ゆかり、泣いてるの? 大丈夫だから」

縁「ほんと?」

唯「うん、それにね。さっきキスされたとき」

縁「……」

唯「全然嫌じゃなかったと言うか……その嬉しかったかな」

縁「唯ちゃん……」

唯「だからね、ゆかりは気にしなくていいんだよ」

『さぁ、早く』

縁「唯ちゃん……するね」

唯「うん」


縁「んっ……」

唯「……っ」


唯(さっきよりも、すごい優しい……)

唯(ゆかりの気持ちが伝わってくるみたい)

縁「はぁ……はぁ……唯ちゃん」

唯「ゆかり……」


『続けなさい』

縁「んっ……んちゅ……ふぅ……」

唯「……ん……んっ」


唯(何これ……すごい……目隠ししてるから?)

唯(くちびるが……すごく敏感に……)

唯(何よりも……)

唯(ゆかりのキスが優しすぎるよぅ……)

縁「はぁ……はっ……」

唯(ゆかりの吐息……なんなの、なんでこんなに甘いの……)

縁「んっ」

唯(!? ゆかりの舌が……入って……)

縁「ん……ちゅっ……」

唯「んん……」

縁「んちゅ……好き……ゆいちゃん……すきぃ」

唯(でも……やっぱりすごく優しい……)

『……』

唯(こんな……こんなの……)

縁「ゆいちゃ……ゆいちゃぁん……」

唯(すごく切ない……不自由な手足がもどかしい)

縁「はぁっ……はぁっ……」

唯(今すぐゆかりを抱きしめてあげたい……)

ぎゅっ

唯「えっ……ゆかり?」

縁「……ごめんね……はぁ……ゆいちゃん」

縁「もっと、ゆいちゃんとキスしたい……」

縁「もっともっと、ゆいちゃんを感じたいから……」

むぎゅ

唯(これ、ゆかりが私の上に……?)

縁「はぁ……ゆいちゃん、あったかい……すき……」

唯「ゆかり……んっ……」

縁「……んっ……ちゅる……」

唯(だめ……気持ちよすぎるよ……)

縁「すき……んっ……だいすきぃ……」

唯「ん……ゆかり、私も好き……」

縁「えへっ……うれしい」

唯「ゆかり……んっ……ゆかり……」

唯(あっ……だめ、なんか……頭が……)

縁「……んっ……ゆいちゃ……ちゅ……ゆいちゃぁん」

唯(だめ……だめっ……真っ白に……)

唯「……ぁ……んんっ!」

唯(ん……)

唯(あ、これ、夢だ)

唯(夢ってわかる夢ってあるよね)

唯(でもなんだろう……前にもこんなことあったような)

唯(ん、あれは……)

唯(ちっちゃいゆかり?)

唯(なんかうずくまって……泣いてる?)

唯(歳は……はじめて会った頃くらいかな)

唯(……かわいいな)

唯(あれ、こっちに歩いて……)

『ゆいちゃん、ぐすっ……あのね……』

唯(ん? 私が見えてる!?)

『わたし、ゆいちゃんのこと、大好き!』

唯(こ、声が出ない!)

『ゆいちゃんは、わたしのこと好き?』

唯(……それは)

唯(……私は!)

唯「私は!」

『……』

唯「いつもポヤポヤしてて危なっかしいけど、そこがかわいくて」

『……』

唯「私が落ち込んでるときとか、すぐに気づいて励ましてくれたりして」

『……』

唯「優しくて、本当に優しいゆかりのこと、大好きだから!」

『……』

唯「これからもずっとずっと一緒にいて欲しい」

『……』

唯「友達としてじゃなくて……私の大事な人として」

『……』

唯「だめかな」

『えへへ、わたしも。わたしも唯ちゃんのこと、大好き』

唯「ゆかり……」

『ゆいちゃん、これからもずっとずっと』

唯(……あれ、視界が白けて)


からんからん


いっしょにいようね

縁「……ちゃん! 唯ちゃん!」

唯「ん……ゆか……り……?」

縁「良かった……目が覚めて」

唯「あれ……ここは、ゆかりの部屋?」

縁「そうだよ、唯ちゃんすごくうなされてたんだよー」

唯(全部……夢だったのか……)

縁「大丈夫? 気分悪くない?」

唯「ああ、大丈夫だよ」

唯(それにしてもすごい夢だったな……)

縁「よかった……ぐすっ……よかったぁ」

唯「おいおい、泣くことはないだろ」

縁「だってぇ……だってぇ……」

唯「まったく、ゆかりはほんと」

なでなで

縁「……ッ」

唯「優しいんだから」

縁「……唯ちゃん?」

唯「ゆかり、ちょいちょい」

縁「なにかな?」

ぎゅっ

縁「えっ……えっ……」

唯「ゆかり……さっきゆかりが言いかけてたこと、返事するね」

縁「……そ、それって」

唯「うん」

唯「私ね、ゆかりのことが好きみたいだ」

縁「……」

唯「友達としてじゃなくて……その、一番大事な人として」

縁「唯ちゃん……それ、本当?」

唯「本当だよ」

縁「ほんとうにほんとう?」

唯「本当だってば」

縁「ほんとうにほんとうにほんとう?」

唯「もう、本当に本当!」

唯「いい、よく聞いて!」

縁「うん」

唯「私、櫟井唯は、日向縁のことが……好きです」

縁「ぐすっ」

唯「ゆ、ゆかり?」

縁「わたしも……日向縁は櫟井唯のことが、大好きです!」ニコッ

唯「ゆかり……」

縁「唯ちゃぁん!」

ぎゅぅぅ

唯「いたた、ゆかり、苦しい。苦しいってば」

縁「嬉しい……ぐすっ……ほんとにうれしいよぉ」

唯「もう……ゆかりったら」

なでなで

縁「これ夢じゃないよね」

唯「頬を引っ張ってみたら?」

縁「うん!」

みょんみょん

唯「おい」

縁「なぁに」

唯「私の頬を引っ張ってどうする」

縁「夢じゃない?」

唯「うん、ほら」

みょんみょんみょん

縁「ふう、ゆいひゃん、ひたひよほぉ」

唯「夢じゃないでしょ?」

縁「う、うん……」

唯「ふふっ……ゆかり、こっちむいて?」

縁「えっ……あ……んっ……」

唯「……」

縁「……」カァァ

唯「好きだよ、ゆかり」

縁「……えへへ、わたしも大好き、唯ちゃん」

唯「ゆかり、もし良かったらなんだけど」

縁「いいよぉ」

唯「まだ何も言ってないんだけど……」

縁「だいたいわかっちゃった、明日お休みだし」

唯「じゃあ、お言葉に甘えて」

縁「やったぁ」

唯(その後、私が見た夢の内容をゆかりに話した)

唯(そしたら、ゆかりは)

縁「怖いねぇ」

縁「でも、一応セキュリティは万全なはずだから大丈夫だよぉ」

唯(って小さな胸を張ってた)

唯(それを口に出したらぷんぷん怒りだしたけど)

唯(でも、そんなゆかりも……かわいかった、かな)

-夜 縁の部屋-


唯「ゆかり」

縁「なぁに」

唯「……次はどうしてほしい?」

縁「……うぅ」カァァ

唯「どうしてほしいの?」

縁「わ、わたしは……もうたくさんしてもらったから……その……」

縁「唯ちゃんの好きなこと……してほしい」

唯「そっか」

なでなで

縁「んっ……」

縁「わたし、唯ちゃんに撫でられ中毒になっちゃったかも」

唯「あはは、なにそれ」

縁「唯ちゃんに頭撫でられないと死んでしまいます」

唯「じゃあ、ずっと、ずっとずっと撫でてないとね」

縁「えへへ」

唯「撫でてるときのゆかりはかわいいから、ずっと飽きないし」

縁「もう、唯ちゃんったら……」

唯「ゆかり、聞いて」

縁「なぁに?」

唯「私にとって、ゆかりに代わる人はいないってこと、覚えておいて欲しい」

縁「うん……わたしも同じだよ」

唯「だから、学校のみんな、ゆずことも今までとおり友達、わかった?」

縁「唯ちゃん……」

唯「……」

縁「……気づいてたの?」

唯「うん」

縁「ごめんなさい、本当にごめんね……でも、もう大丈夫」

唯「……」

縁「唯ちゃんの気持ち、わたしに伝わったから。もうわたし迷わないから」

唯「そっか……じゃあ、こっち向いて?」

縁「唯ちゃ……んっ……」

唯「……」

縁「……」

唯「……これが誓いのキスだから」

縁「えへへ、はぁい」

縁「唯ちゃん……」

ぎゅぅ

縁「これからもずっと、ずーっと一緒にいてね」

唯「うん、もう絶対、離さないから」

縁「えへへ」


唯「ゆかり」

縁「……はいっ」


「大好きだよ」



おわり

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