モバP「バレンタインデー」 (20)

ふと、今日が何の日か思い出しただけ

たまには真面目な話を書いたっていいじゃない。そんなコンセプト。地の文苦手な人はごめんね。

短いけど許してね

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学生の頃、この日は落ち着かなかった。朝、学校に来れば人の視線を気にしながら靴箱を開ける。

教室に入って席に付けば素知らぬ顔をしながら机の中を漁る。

放課後になれば期待を込めて靴箱の中を開けた。

けれど、十八年間。俺の元にバレンタインチョコ。なるものは届かなかった。

それから何年しても俺にチョコが届くことはなかった。

そう。俺は世に言うモテない男子というやつだろう。

今日も俺はチョコを渡されることないの帰路を歩いていた。

辺はすっかり夜の帳がおりている。

アスファルトを踏み鳴らす靴の音が虚しく俺の耳に入ってくる。

俺を照らしてくれている街灯も弱々しい。

一陣の風が吹く。顔に冷気が襲いかかった。俺は寒さから逃れるように顔を手袋で覆った。

夜の底は冷えていた。

早く帰ろう。耳がしもやけになってしまいそうだ。

大人になれば周りに女性が少ないのを言い訳にできると思った。

だが、俺の今の職業はアイドル事務所のプロデューサー。

言い訳なんてできるはずがなかった。

自分はどうしてこんなにもモテないのか。

そう考えることもしばしばだ。しかし答えは出てこない。

答えが出ないからこそ、俺はモテない男なのかもしれない。

最近ではなにもかもどうでもよくなっていた。

独身で一生生活をして、仕事と結婚をするのも悪くないと思ってきた。

独身だからといって差別されることはない。

大体、結婚をしたらデメリットの方が多い。メリットのほうが少ない。

だったら、独身のまま生きてしまってもいいじゃないか。

だから、俺は一生バレンタインチョコをもらわなくても構わない。

それにだ。バレンタインなんてものは企業の戦略であって本来の意味は……

いま、なんとなく俺がなぜもてないのか気づいてしまったような気がする。

こんなひねくれた考えばかりしている男がモテるはずなどなかった。

そんなことに気づいてしまうと余計に気落ちしてきた。

俺はふと、立ち止まった。空を見上げる。

お世辞にも綺麗とは言えない星たちが見える。

いや、今はそんなことを確認したんじゃない。

雪だ。雪が降っている。

白い粒が空からゆっくりと落下していた。

俺の鼻頭に小さな雪の結晶が触れて溶けた。

バレンタインデーに雪が降ったんだから、ホワイトバレンタイン。とでも言うのだろうか。言わないか。

しかし、俺にとっては大した出来事ではない。

雪が降って大喜びをするのは子供くらいだと相場が決まっている。

それにこれ以上雪が強まるのであればますます家に早く帰らなくてはならない。

歩幅を大きくして自宅を目指した。

しばらくすると、俺は家の目の前にたどり着いた。

その時くらいだろうか、雪が勢いを増し始めた。

俺はなんの躊躇いもなく鍵穴に鍵を差し込んだ。

シリンダーを回すと金属音が鳴った。

ドアを開け家の中に入る。

家の中は風がないから幾分かましに思えた。

しかし、凍えるような寒さに違いはない。

俺は早く玄関を上がりリビングを目指す。

暖房をつけて温まることにしよう。

バレンタインデーだということも忘れて一人でゲームでもして過ごせばいいさ。

俺はリビングへと繋がるドアを開いた。

部屋に入った瞬間。違和感を覚えた。

なにか大きな物体と、小さな物体がたくさん置かれている。

しかし、暗くてはっきりとしない。

俺はその正体を露にするために慌てて電気をつけた。

部屋を優しく明るい電球が照らし出す。

リビングに置かれていたのは人間が入れそうな大きな四角い箱一つ。

それから可愛くラッピングされた小包が置かれていた。

俺は中々目の前の光景を飲み込むことが出来なかった。

この小包の山は一体何だ? なにか商品を大量購入したっけ?

思考を巡らせるが答えは出なかった。

俺は恐る恐る手短にあった小包を手に取ってみた。

少し乱暴にラッピングを解く。

すると、中から一つの手紙が落ちた。

俺はそれを広い手紙の内容を確認してみる。

『プロデューサーへ。いつもありがとうね。凛』

内容を確認した俺はやっと気づいた。

ここにある小包全てが、俺に宛てられたチョコレートだということに。


俺は無意識のうちに笑みをこぼした。

人生初。義理かもしれないがこんなにももらえるなんて。

俺はただただ嬉しかった。

何十年、一度ももらえなかったんだ。それはそれは喜ぶさ。

そして、俺はまずどれから手をつけていいのやら迷った。

そこで、一番大きな四角い箱を開封することにした。

目に付くし場所をとっているのでこれから開封するのがいいだろう。

一体、これにはなにが入っているんだろうか。

俺は大きな赤いリボンを解いて箱の中身を開けた。

すると、中から何かが飛び出してきた。

「まゆのバレンタインチョコはまゆですぅ」

飛び出してきたのはうちのアイドル。佐久間まゆだった。

全身赤いリボンを纏っていて体中チョコレートだらけだった。

そして、開いた口が塞がらない状況を味わったのも人生初だった。

end

まぁ、たまにはこういうのもいいよね?

おやすみなさい

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