梅木音葉「バレンタインシンフォニー」 (57)




―2月7 日・都内居酒屋にて―



レナ「そういえば来週バレンタインね。みんなはどうするの?」

真奈美「アメリカにいた時は男性から花を貰っていたが、さてどうしようか」フム

夏美「最近はお酒とかハンカチとか、チョコ以外のものを渡すのも流行ってるらしいわよ。
   プロデューサーもチョコばかり貰っても飽きるだろうし、そっちも考えてみたら?」

早苗「でもそういうのってセンスが求められるわよね。スベったら目も当てられないし、
   やっぱりチョコを渡すのが無難じゃない?」オカワリ~♪







SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1392304819



レナ「チョコのセレクトもセンスが要求されるけどね。ベガスから取り寄せようかしら。
   『エセルM』だったらカッコつくし」

夏美「ああ、ベガスに売っている高級チョコですね。私は京都の老舗の抹茶チョコを
   渡そうと思ってます。緑茶にも合うし変わり種で面白いかなって思って」

真奈美「お前達には手作りという発想はないのか。同じ年長者として情けないぞ」ハア

早苗「まあまあ真奈美ちゃん、餅は餅屋って言うじゃない。それに若い子ならともかく、
   私達が手作りを渡したら、重くなってP君と社長も困っちゃうかもしれないわよ。
   気軽に食べてもらえるように市販品で済ますってのもアリじゃない?」

真奈美「ふむ、それもそうか…… ん?電話?少し失礼する」スクッ








 <ハイ、キバデス…



レナ「礼子さんや志乃さん達も渡すのかしら?礼はああ見えて意外とノリが良いから、
   こういうイベントは喜んで参加しそうだけど」グビッ

夏美「ハロウィンの時は楽しそうでしたね。あの人達はやっぱりウィスキーボンボンを
   渡すのかな。それともストレートにワインボトルとか?」

早苗「留美ちゃんや美優ちゃんは手作りを持って来そうね。さっきは真奈美ちゃんに
   ああ言ったけど大人組全員が市販品だったらそれはそれで寂しいから、手作り
   担当はあの二人に任せましょう。あたしはどうしよっかな」グビッ






真奈美「すまないみんな、急用が出来たので先に帰らせてもらう」スタスタ



レナ「どしたの?仕事?」キョトン

真奈美「いや、そうではないのだが、解決するのに少々骨の折れる問題が発生してな。
    時間もあまり残されていないし、行動するのは出来る限り早い方がいい」イソイソ

夏美「あんたにしては珍しく余裕がないわね。何かトラブルでも起きたの?」

真奈美「トラブルというわけではないが…………」ピタッ





真奈美「…………」ジ―…

夏美「な、なによ、ひとの顔ジロジロと見て……?」ビクッ

真奈美「……夏美、悪いが一緒に来てくれないか?」

夏美「はぁ?」キョトン





***



―真奈美のマンション―



音葉「は、はじめまして… 梅木音葉です……」カチコチ

夏美「いや、知ってるわよ。グループが違うし直接は一緒に仕事したことはないけど、
   真奈美と一緒にいるのを何度か見かけたし。私の事知らない?」

音葉「知ってます…けど…、お話するのは初めてなので…、すみません……」モジモジ

夏美「怖がらなくていいのよ。私は真奈美より優しいと思うんだけどなあ」ポリポリ






真奈美「音葉をいじめてやるなよ。人見知りで繊細な子なんだから」スタスタ



夏美「あんた今のやりとり見てたでしょ。私がいついじめたのよ?」ジロリ

音葉「そ、そうです真奈美さん…、私がご挨拶が遅くなったからで……」アセアセ

真奈美「気にするな音葉。私も早苗さんの紹介で今日初めて『相馬さん』に挨拶をして、
    一緒に飲んでいた所だ。そういえばどうして相馬さんはここに来ているんだ?
    音葉とは約束したが、相馬さんを招いた憶えはないぞ」キョトン

夏美「あんたが現在進行形で私をいじめてるじゃないっ!! 愛海ちゃんをお仕置きしすぎて
   ドS属性でもついたんじゃないの!? 」グワッ!!

音葉「ひっ… 」ビクッ!!





真奈美「冗談だから騒ぐな。音葉が怖がるだろう?この子は音にとても敏感なんだから。
    ココアでも飲んで落ち着け」コトン、コトン、コトン

夏美「あ、ごめんね音葉ちゃん、別に怒ってるわけじゃないのよ?今のは関西人特有の
   ツッコミというか、真奈美がふってきたから乗っただけで……」アセアセ

音葉「い、いえ、大丈夫です。ちょっとびっくりしただけで…夏美さんも真奈美さんも
   明るく楽しい旋律ですし、とても仲が良いんですね…」ニコ

夏美「え?せんりつ……?」キョトン





真奈美「ふむ。音葉には今のやり取りがそう聴こえたのか。いや、『視えた』のかな。
    相変わらずお前の特殊能力は厄介だな」フッ



音葉「あ…すみません、心を読むような失礼な事をしてしまって……」シュン



真奈美「気にするな。私が怒ってない事くらいわかるだろう?」ナデナデ



夏美「ちょ、ちょっとついていけないんだけど、何のハナシ?」キョトン





真奈美「さっきも言ったが音葉は音に敏感な子でな。絶対音感はもちろん、あらゆる音に
    対する感覚が鋭くて、音の流れが『視える』らしい。音葉の世界は全てが旋律で
    出来ていて、人間の声から感情の流れさえも視えるらしいぞ」

夏美「な、何だかよくわからないけどスゴいのねこの子…… それでどうして私はここに
   呼ばれたの?一応アイドルになってから音楽の勉強もしてるけど、私はまだ楽譜も
   まともに読めないド素人よ?」

真奈美「いや、今日は音楽の相談ではない。そうだよな音葉?」


兵藤レナ(27)
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木場真奈美(25)
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相馬夏美(25)
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片桐早苗(28)
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梅木音葉(19)
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音葉「は、はい…。バレンタインに、Pさんに何を渡していいのか…分からなくて……
   チョコを渡せばいいのはわかっているんですけど、『バレンタインに合う旋律』が
   見つからないんです……」モジモジ



夏美「バレンタインに合う旋律?」






―――



音葉「私は幼い頃から今まで…音楽一筋の生活をしてきたので…、このようなイベントに
   参加した事がなくて…。でもアイドルになってPさんにはお世話になりましたから、
   今年は私もやってみようと思ったんですけど…旋律がイメージ出来なくて……」

真奈美「音葉は物事を決定する時に『リズム・メロディー・ハーモニー』で考えるから、
    それに合致したものをP君にプレゼントしたいと考えてる。だがバレンタイン
    初経験の音葉にはそれが何かわからないという事だ。理解したか?」ジロ

夏美「通訳ありがと。要するに、音葉ちゃんがピンとくるバレンタインのプレゼントを
   一緒に考えればいいのね。でもそれが音楽縛りだと難しいわね……」ムムム…





音葉「私が考えている旋律…イメージは、他の皆さんのプレゼントとハーモニーを奏で、
   調和しながら甘いメロディーで…、私もイベントを一緒に盛り立てたいと…」

夏美「うん、よくわからないわ。あんたホントにどうして私を呼んだの?」ジロ

音葉「レナや早苗さんだとこういう話し合いには向いてないと思ってな。レナはカッコ
   つけようとして変に凝りすぎそうだし、早苗さんは面倒になって途中で切り上げ
   そうだし。これは繊細な問題だから繊細さと聡明さを兼ね備え、若い子の流行や
   イベントにも明るいお前の知恵を貸してほしい」ペコリ

夏美「そ、そこまで頼まれたら仕方ないわね!まぁ確かにレナさんや早苗さんには無理
   そうだし、あんたはココア味のプロテインとか勧めそうだしね!」フフ―ン!!



真奈美(本当は夏美だけ明日オフだったから誘ったのだが。音葉のイメージする旋律を
    見つけるのは容易な事ではない。一晩で見つかれば早い方で、長い時は何日も
    かかる時もある。音葉の相談は大歓迎だが、私もこの手のイベントは不慣れだ。
    お前には悪いが、音葉の為にとことん付き合ってもらうぞ)ニヤリ

音葉(真奈美さんよくない事を考えているわ…… すみません夏美さん……)ペコリ





夏美「安心して音葉ちゃん!私が音葉ちゃんのバレンタインをしっかりプロデュースして
   あげる!こればっかりはプロデューサーに相談できないからね!」ガシッ!!

真奈美「いやあ~夏美も協力してくれて助かるなあ~。今回は早く見つかり…おっと、
    良い旋律が見つかりそうだ。音葉も遠慮なく夏美を頼ればいいぞ」ニッコリ

音葉「は、はい……(本当にすみません夏美さん……)」





***



真奈美「私達以外には相談したのか?イベントがイベントなだけに、事務所の仲間でも
    そう簡単に教えてくれるものではないと思うが」

夏美「プレゼントがカブっちゃったら嫌だもんね。それに年頃の女の子にとっては年に
   一度のビッグイベントだし、この時ばかりは全員ライバルよ」

音葉「は、はい…、毎回真奈美さんに頼るのも申し訳ないので…、自分で解決しようと
   普段から仲良くさせてもらっている人達にも聞いたのですが……」






~相談相手① 同郷のお姉さん達~



千秋「バレンタイン?適当に買えばいいじゃない。貴女のご両親だったらあちこちの国に
   演奏に行ってるし、美味しいチョコの1つや2つくらい知ってるでしょ。それとも
   ウチが懇意にしているショコラティエを紹介しましょうか?」

千夏「そういう問題じゃないのよ千秋。これだから世間知らずのお嬢様は困るわ」フウ

千秋「じゃあ貴女には何か良い案があるのかしら?私の案を即座に却下するという事は、
   さぞかし素晴らしい考えがあるのでしょうね?」イラッ

千夏「フッ、私は唯ちゃんと一緒にチョコクッキーを作る予定よ。ショコラティエの作る
   チョコには敵わないけど、こういうのは気持ちが大事ですからね」ニヤリ

千秋「くっ、その手があったわね……」ギリッ





千夏「私は別に市販のチョコレートを否定してるわけじゃないわよ。自分の好きな物を
   Pさんにも食べて欲しいって思うならそれを渡せばいいし。こればかりは他人が
   どうこう言えるものじゃないから、ゆっくり考えなさい」ニコ

千秋「貴女は人見知りだし、今から誰かと約束をして一緒に作るのは難しいんじゃない?
   それに料理もそんなに得意じゃないでしょ。無理して作って指を怪我でもしたら
   ピアノが弾けなくなるかもしれないし、買った方がいいわよ」

千夏「今のセリフまんまあんたの事じゃない。よくもまあ偉そうに……」メガネクイッ

千秋「う、うるさいわね!ええそうよ!どうせ私は料理が得意じゃないし、貴女みたいに
   一緒に作ってくれる子もいないわよ!何か文句あるかしら!? 」グワッ!!

千夏「あんたの事だしどうせ『一緒に作って』って自分から言い出せないだけでしょ?
   真尋でも翠でも誘えばいいじゃない。本当に意地っ張りなんだから」フフッ





―――



音葉「その後は千秋さんをなだめるのに必死で……」ハア…

真奈美「千夏も悪ノリが過ぎるな。千秋をからかうと可愛いくて面白いのはわかるが、
    私の方からも一度注意しておこう」ヤレヤレ

夏美「どうしてあんた達はそんなにひねくれているのよ。音葉ちゃんは真奈美や千夏を
   お手本にしちゃダメだからね」





音葉「それで…、千夏さん達のアドバイスに従って、両親から聞いた世界各地の美味しい
   チョコを送ってもらったんですけど……」ガラガラ

夏美「こ、このでっかいスーツケースの中身全部チョコなの!? 」ギョッ!!

音葉「はい…それでこちらが北海道で私が好きだったお菓子で……」ドサッ

真奈美「見慣れない旅行鞄が部屋あると思ってたら、お前が持って来た物だったのか。
    よく1人でこれだけ運んできたな」マジマジ




夏美「(音葉ちゃんって実はお金持ちのお嬢なの?)」ヒソヒソ

真奈美「(梅木夫妻といえばクラッシックの世界では有名だからな。私は前の仕事の関係で
     夫妻と親交があって何度か北海道の屋敷に招かれた事があるが、グランドピアノ
     が1部屋に1台づつ設置してあったぞ)」ヒソヒソ

音葉「それほどでもありません…。千秋さんの方がお金持ちです……」モジモジ

夏美「全部聞こえちゃってるじゃない!内緒話なんて感じ悪い事しないでよ!」バシバシ!!

真奈美「お前が先にしたんだろうが。音葉はどんな小さな声でも決して聞き逃さないぞ。
    最初にそう説明したはずだが」イタイナ…




夏美「こ、こほん…… それで音葉ちゃんは、これ全部味見をしたの?チョコとお菓子を
   合計して100個近くあるけど……」マジマジ

音葉「食べてみたのもありますけど…、パッケージを見て合わないと感じたのもあります。
   奏でる旋律がイメージ出来なくて……」

真奈美「これだけ沢山のお菓子を目にすると逆に混乱してしまうだろう。どのお菓子も
    プレゼントするには十分すぎるくらいのクオリティだと思うが、しかし音葉の
    イメージには合わないんだな」





夏美「じゃあ『音葉ちゃんらしさ』って所から考えてみるのはどう?レナさんはベガスの
   チョコを渡すらしいし、音葉ちゃんを連想させるようなものとかないの?」



音葉「そちらについてもアドバイスを戴いたのですが……」



黒川千秋(20)
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相川千夏(23)
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~相談相手②同じ寮に住む同じ歳の友人~



アヤ「あん?チョコレート?そんなのテキトーでいいんだよテキトーで。どうせ義理だし
   そんな事でいちいち悩む方がバカバカしいぜ」フン

千奈美「あら、昨日あんたの部屋でとても可愛いラッピングのチョコレートらしき箱を
    見かけた気がするのだけど、私の見間違いだったのかしら?」サラリ

アヤ「ちょっ!? おま、あ、あれは自分用に買ったやつで自分で食べるんだよ!なのに
   店員が勘違いしてバレンタイン用の包装で包んだだけだっての!」アタフタ

千奈美「ふ~ん。でもまぁ、チョコ味のプロテインとかカロリーメイトを渡さないだけ
    まだマシかしら。あんたも一応女なのね」フフッ





アヤ「そ、そういうお前はどうするんだよ!? アタイのを勝手にバラしたんだから、お前も
   ここでちゃんと言えよなっ!! 」

千奈美「私はとっくにバラしてるじゃない。『甘さ控えめ、大人の男性の貴方に贈る特製の
    ビターチョコ。○○製菓より期間限定で発売』ってね」フフン♪

アヤ「ちっ、CMのイメージキャラになった板チョコかよ。この時期にドンピシャの仕事を
   ゲットしやがって、ずりーよな……」ブツブツ

千奈美「これも実力のうちよ。音葉、大事な事は何を渡すかではなくて、自分らしさを
    どう表現するかよ。私は自分がCMのイメージキャラになった板チョコを渡して
    Pさんに私というアイドルの仕事の成果を伝えるわ。『プロデュースしてくれて
    感謝するわ。これからもよろしく』ってね」ニコッ




アヤ「自分らしさだったら手作りだろうが。あ!そういえばお前、この前試作品だとか
   言って、アタイに手作りのマズい味噌入りのチョコを食わせたよな?もしCMの
   イメージキャラに選ばれてなかったらあれを渡すつもりだったんじゃ……」

千奈美「い、今言わなくてもいいでしょそんな事!確かにあの味噌入りチョコはこの世の
    ものとは思えないくらい不味かったけど、改良を加えれば美味しくなってたかも
    しれないじゃない!ちょっと時代を先取りしすぎたのよ!」アタフタ

アヤ「あんなチョコが流行る時代なんて来るわけねえだろバーカ!アタイあれから3日
   くらい気分悪かったんだからな!あんなの二度と作るんじゃねえぞ!」グワッ!!





―――



音葉「その後は2人のケンカを止めるのに必死で……」ハア…

夏美「だからどうしてクールのアイドルはすぐにケンカするのよ。大人組としてしっかり
   注意しときなさいよ真奈美」ジロリ

真奈美「あいつらも仲は悪くないんだが。それで二人のアドバイスは参考になったのか?」





音葉「私らしさはやはり音楽ではないかと思い…、音楽関係で考えました。でも…どうも
   音楽を連想するお菓子がイメージ出来なくて、ならばお菓子ではなくて…物ならば
   どうだろうと考えてみたのですが……」

夏美「楽器とか?音葉ちゃんってピアノ弾くんだっけ?」

音葉「はい。私は専門がピアノなので、グランドピアノを贈ろうと思ったのですが…、
   バレンタインのプレゼントにピアノは大きすぎる気がして……」

真奈美「ああ、大きさとか関係なくプレゼントには不向きだな。お前が早まらなくて
    良かったよ。あのご両親なら本当に送りかねないからな……」ホッ


桐野アヤ(19)
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小室千奈美(19)
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夏美「もっとハーモニカとかオカリナとか、小さい楽器ならどうかしら?音葉ちゃんって
   オカリナとか似合いそうだけど……」

音葉「そちらの楽器はゆかりちゃんが専門ですので……」

真奈美「色々テリトリーがあるんだな。バイオリンは星花で、ギターは夏樹か涼か」フム

夏美「まぁ食べ物以外の形が残る物を贈るのは、バレンタイン初心者にはハードルが
   高いから止めた方がいいわよ。音符の形や模様が入ったチョコはどう?」

音葉「それならこのあたりなのですが……」ガサゴソ

夏美「わあ!五線譜模様のチョコなんてお洒落じゃない!これにしたら?」




音葉「見た目は私も好きなのですが、味がイメージしている旋律と合わなくて……」

真奈美「少し戴くぞ。……ふむ、甘すぎず苦すぎず悪くないと思うが。これが駄目だと
    なると、かなり探すのが困難となるな」ポリポリ

夏美「美味しければいいってものでもないんでしょ。音葉ちゃんのイメージに合う味じゃ
   ないと。『甘い』とか『苦い』じゃないのかな……」ポリポリ

真奈美「となると、残りは『辛味』『酸味』『うま味』になるな。うま味は他の味覚とは
    性質が違うので除外するとして、辛味と酸味か……」ウ~ム




夏美「そういえばチョコでコーティングされてるポテトチップスって、北海道のお菓子
   じゃなかったかしら。あれならどう?」

音葉「北海道の人間が全員、あの不協和音を好きだと思わないで下さい……」ギロリ

夏美「ご、ごめん、音葉ちゃんは嫌いなのね……(私は美味しいと思ったけどなあ)」




真奈美「では唐辛子チョコはどうだ?一応大昔からあるらしいし、現在も販売していると
    いう事はそれなりに支持されていると思うが」

夏美「あんたその言い方だと食べた事ないでしょ。そんなマニアックなチョコなんて、
   よほど好きな人じゃないと喜ばないわよ」ジロリ

音葉「チョコレートと唐辛子…… ひどい不協和音を感じます……」クラクラ

真奈美「美味いかもしれないがイメージが駄目か。となると酸味だな。酸っぱいチョコも
    あるにはあるが、あまり一般受けはしなさそうだな」フム…

夏美「辛いとか酸っぱいのを探すなら、チョコ以外の選択肢を考えた方がいいかもね。
   チョコよりハードルは高くなるけど、音葉ちゃんのイメージに合うお菓子の為に
   思い切ってみるのもいいかも……」ウ~ン




音葉「あの…すみません…… 雲をつかむような話ばかりで……」モジモジ

真奈美「気にするな。私はお前のご両親に、お前の事をくれぐれも頼むと言われている。
    それに北海道にいた時は私と目も合わせてくれなかったお前が、今はこうして
    私を頼ってくれるのは嬉しいしな」ニコッ

音葉「あ、あの頃は…すみませんでした……」カアア

夏美「あんたが怖かったんでしょ。真奈美って背が高いし雰囲気がカタギじゃないもん。
   今だから言えるけど、初めて会った時は私もちょっとビビってたし」ニヤニヤ

真奈美「ほう、ならば現在進行形でビビらせてやろうか?ん?」ギロリ

夏美「ちょ、冗談よ冗談!そんな目をするから音葉ちゃんに怖がられるのよ!」アタフタ




音葉「私も真奈美さんと同じ身長ですが…怖いでしょうか……?」オズオズ

夏美「いやいや全然!最初はハーフかモデルさんかなって思ったけど、音葉ちゃんは全然
   怖くないわよ!第一印象は………… 」ハッ!!



夏美「そうだ!こんなのはどう?」ポンッ!!






***



―2月14日・バレンタイン当日の事務所にて―



P「ええと、これは日持ちしそうだから後にして、これは手作りだから今日食べて……
  おっと、明日は智絵里の送迎だから智絵里のチョコも食べないと」メモメモ

ちひろ「食べる順番までスケジュールに落とし込むなんて、毎年大変ですね」

P「これくらいどうって事ありませんよ。アイドル達も自分が渡したチョコの感想はすぐに
  聞きたいでしょうし、それに俺もチョコ好きですから。うん、うまい」ポリポリ





ちひろ「そんなプロデューサーさんに私からもバレンタインです。はい、毎年恒例の
    エナドリのチョコ味です。これを飲んでお仕事頑張って下さいね♪」サッ

P「マズいんだよなこれ。そもそもエナドリ自体あんまり美味しくないのに……」ボソッ

ちひろ「何か言いましたか?」ニッコリ

P「いえ、何でもありません。ありがたく戴きます」サワヤカスマイル




ちひろ「でもいくらチョコが好きでも、こんなに沢山もらうと飽きてきませんか?私も
    義理チョコとか友チョコとかでアイドルの子達からいっぱいもらいましたけど、
    全部食べ切るのはいつになる事やら……」ポリポリ

P「一度に食べるから飽きるんですよ。でも皆もその辺りも考えてくれてるのか、最近は
  チョコレート以外のプレゼントも増えてきました。しかし礼さんと紗理奈はどうして
  ボクサーパンツをくれたんだ?下着は消耗品だから助かるけど……」ハテナ?

ちひろ(ド直球すぎますよ二人とも。プロデューサーさんは気付いてませんけど……)





音葉「おはようございます…」ガチャ



P「おう、音葉おはよう」

ちひろ「おはようございます音葉ちゃん。おや、その手に持ってる袋はもしかして……」

音葉「はい…、バレンタインのプレゼントです。ちひろさんもどうぞ……」サッ

P「音葉に貰えるなんて嬉しいなあ。開けてもいいか?」ゴソゴソ

音葉「どうぞ… 喜んで戴けるといいのですが……」モジモジ






P「どれどれ…… おおっ!これはすごい!」カパッ



ちひろ「綺麗…… まるで宝石箱みたいです……」キラキラキラ



音葉「レモンのドライフルーツです…。それだけだと飽きてしまうかもしれないので…、 
   ブルーベリーやラズベリーのドライフルーツも混ぜてみました……」







***



P「なるほど。俺がチョコレートを食べるという前提で、チョコに合うドライフルーツを
  プレゼントするとは面白い発想だな」マジマジ

ちひろ「柑橘類やベリー類はチョコに合いますからね。甘いチョコと酸っぱいレモンの
    対比が楽しめていつまでも食べられますね」ポリポリモグモグ

音葉「チョコと一緒に食べると、旋律が楽しめると思います…。チョコの甘さに合わせて
   ドライフルーツを変えてみると、リズムやハーモニーも変化します……」





P「まるでチョコとドライフルーツで演奏してるみたいだな。これだけで食べても疲れが
  取れそうな気がするよ。うん、甘酸っぱくてうまい」モグモグ

音葉「だ、ダメです…、チョコと一緒に少しづつ食べて下さい。このドライフルーツは
   チョコがあって、はじめて素敵な旋律を奏でるものですから……」アセアセ

P「お、おう、そうなのか。音葉にも色々こだわりがあるんだな……」

ちひろ「ハーモニーや旋律を重視する音葉ちゃんらしいですね。他の子達のチョコとも
    ケンカしないで調和を作り出すなんて流石です」クスクス

音葉「それだけではありませんけど…」ボソッ

ちひろ(ん?この反応は……)ピクッ




P「イベントがイベントなだけに俺はアドバイス出来なかったけど、素晴らしい旋律を
  見つけたみたいだな。俺達もすっかり音葉の奏でるチョコとレモンの旋律に夢中に
  なったよ。本当にありがとう」ニコッ

音葉「私だけではこの旋律に辿り着けませんでした…。これも真奈美さんと、それから
   夏美さんのお陰です。まさかレモンを思いつくなんて……ふふっ」クスクス

P・ちひろ「「 ? 」」





***



―後日・都内居酒屋にて―


早苗「あっはっはっ!音葉ちゃんの第一印象が『レモンみたい』って、どこをどう見たら
   そんな発想に行きつくのよ!」ゲラゲラ

夏美「だ、だってあの子レモンみたいな髪の色していますし、髪の毛も横にはねてるから
   レモンの形に見えたっていうか……」アセアセ

早苗「だったらオムライスやカレーパンも一緒じゃない!いや、カレーパンナちゃん?
   そんなパンの国のヒロインなんていないわよ!」ゲラゲラ

夏美「もう!笑いすぎですよ早苗さん!いいじゃないですか音葉ちゃんのバレンタインも
   うまくいったんですから!結果オーライですよ結果オーライ!」カアア





レナ「やっぱり夏美ちゃんはパッションなのね。元スッチーって聞いてそんなイメージは
   想像出来ないけど、発想がユニークで面白いわ」クスクス

真奈美「そうだな。バレンタインにも関わらず、レモンと決めたらチョコという選択肢を
    あっさりと捨ててレモンに全力で方針転換する思い切りの良さも夏美らしいよ。
    まさかこんなに早く解決するとは思わなかった」グビッ

レナ「レモンのドライフルーツも綺麗に出来てるじゃない。あんたが隣についていたなら
   失敗はまずないと思ってたけど、手作りとは思えない出来ね。ベリーが良い感じに
   アクセントになっていて、まるで『森の贈り物』って雰囲気ね」モグモグ

真奈美「音葉も『イメージ以上の旋律を奏でる事が出来ました』と喜んでいたよ。普段は
    感情をあまり見せない音葉が、あんなにはしゃぐのも珍しい。ドライフルーツが
    上手く出来たのがよほど嬉しかったらしいな」フッ





夏美「違うわよ。音葉ちゃんは自分もバレンタインの舞台に立つ事が出来たから喜んで
   いたのよ。あの子は最初から他の子達に遠慮して脇役になろうとしていたから、
   私が『もっと素直になりなさいよ』ってレモンを使って背中を押してあげたの。
   音葉ちゃんには伝わったけど、あんたは気付いてなかったの?」



真奈美「む?そうだったのか?」ピクッ

レナ「どういうこと夏美ちゃん?」





夏美「簡単な話ですよ。あの子はバレンタインの旋律とか、他の子達のチョコとの調和
   とか難しい事を言ってましたけど、本音は自分が渡すプレゼントがPさんに一番
   気に入られたかったんですよ。普段は仲の良いアイドルも、バレンタインの時は
   ライバルです。だから音葉ちゃんのプライドをくすぐってみました」グビッ

真奈美「そうなのか?音葉は争いを好むような子ではないのだが……」

夏美「あの子は大人しそうに見えて、かなり独占欲が強くて負けず嫌いよ。私とあんたが
   じゃれ合ってた時もすぐ反応したし、あんたが私にとられると思ったんじゃない?
   自分の意見はしっかりと言うし、音楽エリートだからプライドも高いわ。千奈美や
   千秋とは違って、あの子はそういう面を表に出さないみたいだけどね」

早苗「ナイスプロファイリング夏美ちゃん!FBIになれるわよ!……って言いたいところ
   だけど、お姉さんは夏美ちゃんがそう推理した根拠が知りたいなあ」ジロリ




夏美「根拠というかCA時代の経験ですね。飛行機を利用するお客さんって上流階級や
   エリートが多いですから、接客してるうちに感覚で分かるようになるんですよ。
   その手の客は怒らせると面倒ですから、CAはみんな気を遣ってましたよ」アハハ

早苗「わかるわ~!私も昔プライベートの政治家先生の車を駐禁切って、すごく怒られた
   事があるわ。その時はうやむやにされて結局逃げられちゃったから、別の日に同じ
   場所に同じ車が違反駐車しているのを見かけて、悪質とみなしてレッカー移動して
   やったわ!」ワッハッハッ!!

夏美「音葉ちゃんはそんな人にはならないと思いますけどね。特にピアニストは神経質で
   繊細な人が多いから要注意でした。音葉ちゃんもそういう所あるでしょ?」ジロリ

真奈美「確かに言われてみればそうかもしれないな。音葉の性格はピアニストの気質も
    含まれていたのか。ご両親は音葉と真逆の大らかな人なのだが……」ウ~ム…

レナ「歳を重ねて丸くなったんじゃない?ギャンブラーも若い子達は血の気が多いわよ。
   それで夏美ちゃんはレモンでどんな旋律を作ったの?」




夏美「レモンをチョコの添え物にするんじゃなくて、チョコの方を添え物にしたんです。
   Pさんはアイドル達のチョコを食べた後に、必ず音葉ちゃんのレモンを少しづつ
   食べます。するとPさんの印象に残るのはどっちが強いと思いますか?」ニヤリ

レナ「へえ、やるわね夏美ちゃん。レモンをチョコの脇役じゃなくて、Pさんの味覚を
   確実にとらえる主役にするなんて。じゃあPさんは無意識のうちに音葉ちゃんの
   レモンで旋律を奏でているのね」

夏美「レモンだけだと酸っぱいですから、甘いチョコも食べないと成立しない旋律です
   けどね。ですが音葉ちゃんのレモンの味を超えるのは、普通のチョコだと難しい
   ですよ。正直、他人に教えるのはもったいないアイデアでした」グビッ

真奈美「自分はちゃっかり抹茶チョコという変り種を渡して音葉の旋律から逃れるとは、
    お前もなかなかの策士ぶりじゃないか」フッ





夏美「それはたまたまよ。大体あんたが私を誘う前に、私はとっくに抹茶チョコに決めて
   いたんだから。それよりあんたもうかうかしてると、音葉ちゃんにチョコだけじゃ
   なくてアイドル勝負も負けちゃうわよ?やっぱりあの子もクールのアイドルね」クス



真奈美「望む所だ。弟子はいつか師匠を越えなければならない。音葉もアイドルになって
    日々成長しているし、同じステージで戦う日が来るのが待ち遠しいよ」ニヤリ





レナ「親の知り合いってだけで勝手に弟子にされたら音葉ちゃんも迷惑でしょ。それに
   音葉ちゃんがロックオンしてるのは、真奈美じゃなくて夏美ちゃんじゃないの?
   今回の件で少なくとも一目置かれたでしょ」ニヤリ

夏美「うげ、そう言われてみるとヤバい事したかも。音葉ちゃんみたいなタイプとは
   出来れば戦いたくないなあ……」ハア

早苗「だ~いじょうぶよ!夏美ちゃんは我がパッションアイドルのインテリなんだから!
   それじゃあレモンをおつまみにしてもう一度乾杯しましょうか!」ス…



4人「「「「 カンパ~イ! 」」」」



おわり





 季節ものSSです。音葉さんって「……」が多いけど、結構自信家みたいなセリフが
多いのでこんな感じにしてみました。自分でエリートって言ってるし。
 ついでに音葉さんの「音が視える」はどれくらいのレベルなのか。ウチの音葉さんは
直○の魔眼レベルで視えてますが(笑)エルフっぽいからいいよね!
 最後にバレンタインSSなのにいちゃラブが少なくて(というかゼロ)すみません。
いつかは甘いSSを書いてみたいなあ。では。


レモンのドライフルーツのイメージ(もうちょっと色は薄めです)
http://i.imgur.com/zB9KgzW.jpg



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