早乙女「…皆さん、静かに」(79)

─────教室



 ザワ… …

早乙女「最初に説明した通り…もし、この件について何か知っている人がいたら、すぐに先生に教えてくださいね」

早乙女「最近の学校での様子や、あるいは、…交友関係の変化など。そういった小さな事でも結構です」

早乙女「…では、授業を始めます」

─────放課後・教室



まどか「…ねえ、さやかちゃん。マミさん、」

さやか「どうしたんだろうね…転校生、何か知らない?」

ほむら「……知らないわ」

巴マミが、無断で欠席を続けている。学校からの電話も繋がらない。
欠席が3日間続いた日の夕方に、クラスの担任教員がマミの部屋を訪問するも、在宅の気配無し。
翌日の夜、学校からの連絡を受け、法定代理人たる彼女の叔父が、群馬県警に捜索願を届け出た。


さやか「魔女退治頑張ってるのかな?って、流石に4日音信不通はないかー」

まどか「…きっと何か、あったんだよね」

ほむら「『何か』…」

三人「……」

さやか「よっし。とりあえずマミさんちに行ってみようよ!」

さやか「案外、連絡忘れてうっかり旅行に行っちゃっただけとかかも」

ほむら「酷く楽観的ね」

さやか「…もし『何か』があったのなら、手がかりを見つけるよ」

ほむら「…杏子を探しなさい」フイッ

 カツ カツ… …

さやか「お、おーい…なんだよ、転校生は行かないのかあ…」

まどか「ほむらちゃん…マミさんの事、とっても心配してるみたい」

さやか「え?」

─────裏路地



 カツ カツ… …

あの几帳面な彼女の性格からして、あり得ないはずの事が起きている。
特に、この手の多方を手間どらすような迷惑のかけ方は、彼女が最も嫌う類いのものだろう。
状況は、悪い。


 カツ… …


ほむら「…彼女は、何処?」

QB「やあ、暁美ほむら。彼女、とは誰の事だい?」

ほむら「巴マミの事。しらばっくれるんじゃないわよ」

QB「へえ…君が僕を頼るなんて、めずら」

 カチ ドンッ

QB「ッギュ…」ドサッ

ほむら「…余計な口を利かないでちょうだい」

QB「そう言われても、」ストン

QB「答えないよ。禁じられているからね」

ほむら「誰に」

QB「それも、答えない」
 カチ ドンッ

QB「グッギュ」ドサッ

ほむら「こうしているのは、お前にとって得かしら?」カチャ

QB「損も得も無い、」ストン

QB「僕は嘘を言わないということだ。…尤も、君は時間の無駄遣いをしているけれど」

QB「とはいえ…あまり体を潰されても困るから、禁じられていない範囲でヒントをあげるよ」

ほむら「……」

─────学校・応接室



「…それで、巴さんの………はい、家庭環境が………行動範囲は………」

「……はい…………学校では問題なく………生徒からの情報も全く…」

 … …

警察官「…よく分かりました。新しい情報などあれば、また伺いましょう」

早乙女「よろしくお願いします…」

警察官「一刻も早く、保護できるように努めます。それでは」

 ガチャ バタン…

早乙女「……」

この4日間、自宅付近において、本人、及び不審者の目撃情報無し。
彼女、容姿も地味な方ではないわ。良い意味で、目立つ女の子。
それでいてとても真面目で、悪い遊びなんてするような性格じゃない。先生は、それをよく知っているし、信じています。
何が起こっているというの。あんなに良い子の身に、一体何があったの。

早乙女「…巴さん…。」

─────



マミ『一応、志望は御滝原高校です』

早乙女『そう。うん、あなたの学力だとまず問題無いと思いますよ』

マミ『えへ…気を抜かずに頑張ります』

早乙女『良い心懸けですね。…ところで、もう少し先の進路のお話。巴さんには、何か目指しているものがありますか?』

マミ『うーん…。先の事はよく分からないんですけど、』

マミ『私、自分にできる事をして、それで多くの人を救えたら』

マミ『自分の正義で人を喜ばせられたら、それは素敵な事だって思うんです』

─────マミの通学路



 カツ カツ… …

早乙女「見通しよく、交通も少なくないこの大通り沿いに10分程…更に、密集した住宅地を数分」カツカツ

早乙女「少なくとも、通学時間に『何か』があったなら、ほぼ間違いなく人目に付く状況ですね…」カツカツ

早乙女「…やっぱり巴さんは、自発的に何処かへ出掛けたのでしょうか…」カツカツ…

早乙女「……あら?」

杏子「……」

早乙女「あなた…体調が悪いのですか?こんな所へ座り込んで」スッ

 パシン

早乙女「…っ、」

杏子「触るな。殺すぞ」

─────巴部屋前



ピンポーン ピンポーン

まどか「…やっぱり留守だね…」

さやか「おーい、マミさーん!」ドンドンドン

まどか「ちょっとさやかちゃん…!それ、ご近所迷惑…」オロオロ

さやか「だって何も手がかり無いしさ…くっそー、なんかないかー」ガバッ

まどか「あああ、制服汚れちゃうってば」

さやか「…お?雨水溝に何か…よいしょ、っ」ゴソゴソ ピラッ

まどか「えー?」

さやか「う、うわ!!1万円札!ラッキーー!!」

まどか「……??」

─────大通り



早乙女「……」

早乙女「改めなさい」

杏子「ああ…?」

早乙女「さっきの言葉を、改めなさい」

杏子「…バッカじゃねーの」フイ

早乙女「そんな汚い言葉を誰に教わりましたか」カツカツ

杏子「…何だよお前?チッ」

早乙女「…舌打ちも許しません」スッ

 パァン

杏子「!!っ…てーな、オイ!!」バッ

早乙女「あなたが分かるまで叩きます」スッ

 パァン

杏子「っふぐ!!くっそ…」ガバッ

早乙女「……」スッ

 パァン

杏子「って…何だよてめえは!!補導員か、ただのおせっかいババアかよ!?」

早乙女「どっちでもよろしい。これは、私ではなくてあなたの問題です」スッ

 パァーン!

杏子「うぇ!」ドサッ

杏子「うう、腹が…減って……力が…」ガクン

早乙女「!しまった…やりすぎました…」

─────巴部屋前



さやか「ウッヒョー!これでCD買ってお菓子買ってぬいぐるみ買ってアレもコレも」クルクルクルクル

まどか「…あれ?これ、なんだろ」ジー

さやか「クルクルクルクルマを売るなら、」

まどさや「ユーポス!!!」ドォオーン

まどか「さやかちゃん、いいからこれ見て」グイ

さやか「ん、なんか引き擦った跡かな?まあ興味ないけど」

まどか「さやかちゃんひどい…ほら、壁にも同じような跡があるよ」

さやか「…どっちもマミさんの部屋の前で止まってるね」

まどか「まるで、大きい物を無造作に運び込んだみたいな…」

ほむら「開けるわ」スッ

 カチッ ガチャン

まどか「!ほむらちゃん!」

さやか「うお、いきなり現れんな…しかも、開けるってドアノブ破壊しただけかよ」

ほむら「……」ガチャ



─────巴部屋



まどか「荒らされた形跡は無いよね」

さやか「こら転校生ー、そもそも捜索願が出る前に保護者の方がいっぺん入って確認してるでしょうが」

さやか「今さら何も見つからないんじゃないの?」

ほむら「…それは、マミが居るか居ないか、という点だけね」

ほむら「主不在4日間の段階では、家宅捜索のように色々と嗅ぎ回る事はないわ。例えばこのように」スッ

ほむら「クローゼットを開けたりはしない」ガチャ

まどか「!!」

─────風見野・結界内



 ズドォーン ゴォオオ…

マミ『……』ストッ

杏子『…久しぶりに会ったと思ったら、』

杏子『結局欲を出して縄張り荒しかよ?あれだけ正義の味方ぶってて、さ』

 カツーン…

杏子『メッキをかけても、ハイエナはハイエナだ』

マミ『…正義のために必要なものよ』スッ

 シュウウウ…

マミ『半分は、あなたのもの』

杏子『…自分のグリーフシードは自分で狩る。そのための縄張りだ』

マミ『そうかしら?あなた、かなり濁っているようだけど』

杏子『ッチ、早く消えろよ、うざってえ…!』

 コトン

マミ『なら、これはここに置いていくわ』

杏子『施しは受けない』

マミ『…捨てたのよ。ごきげんよう』スッ

 カツーン カツーン…

杏子『……』ガンッ

今噛みついて敵う相手じゃない。クソが…魔力が全開なら間違いなく凹ませてやったのに。
出直して、もう一体魔女を探すか…。とにかく、ソウルジェムを浄化してから御礼参りだ、クソデブ。

杏子『……』

杏子『…なんだ?封筒が』

 ガサ

杏子『…金……?』

杏子『100万…ぐらいか…』

杏子『……なめた事してくれてんじゃねえぞ…!!』

─────早乙女車中



 ブロロロ…

杏子「…ん…」

早乙女「あ、起きましたね。さっきはやりすぎたわ、ごめんなさい」

杏子「……」

早乙女「あなた、随分とお腹が空いているんでしょう?」

杏子「…なんで分かる」

早乙女「寝ている時も、お腹が鳴っていました」

早乙女「もう少ししたらご飯を食べられます。それまで我慢しなさい」

杏子「未成年者略取だ」

早乙女「…大人は、子どもの健やかな成長を助けなければなりませんので、そういう時もあります」

杏子「…け、どいつもこいつも独善的な正義の味方か。学校の先生でもやってれば?」

早乙女「当たりです。目玉焼きは半熟が好きですか?」

杏子「…どっちでもいい」

結局あれから魔女は見つからず、腹わたが煮えるけどマミのグリーフシードを使った。
でも金だけは、そっくりそのまま、あのクソデブの顔面に叩き付けてやらなきゃならない。だから相変わらず腹は減ってる。
非力なお節介メガネ教師にも捕まるくらい、減ってる。

杏子「…何やってんだ、あたしは…」

 ブロロロ…

─────巴部屋



さやか「ひゃー!でっかい段ボール箱だあ」

まどか「これを運び込んだのかな…?」

ほむら「……」ザクッ

さやか「あ、あ、こら!勝手に開けていいの!?」

新しいソファ、お洒落なグラステーブル。そんな物であって欲しいけれど。
きっと、違う物なんでしょうね、巴マミ。

まどか「……」

ほむら「金庫よ」

さやか「え、これ、『御滝原ファイナンス』って」

ほむら「…おそらくは、マミが盗んだものね」

まどか「嘘……マミ、さん……」

─────御滝原郊外・レストラン



杏子「んぐ、んもぐもぐ」モグモグモグ

早乙女「佐倉さん、ね。あそこで何をしていたのですか?」モグモグ

杏子「腹減って動けなくなった」パクパク ゴクン

早乙女「そうではなくて…何か予定があったのでしょう?寝言を言っていたようですけれど」モグモグ

杏子「…なんて?」

早乙女「…札束ビンタ、とか…あとは、金髪デブ、など」モグモグ

杏子「…へ、」バクバクモグモグモグ

何故かメガネは、あたしの家とか保護者がどうとかを一切訊かない。
学区外の生徒の事なら、まず保護者や警察に連絡するのが教師じゃないのか。
あるいは、あたしの身なりや空腹なさまを見て何か悟るところがあるのかも知れない。

杏子「食っちまって悪いけど、あたし、金はないよ」ハムハムホム

早乙女「……」モグ…

早乙女「子どもが糧を得るのに、誰に気を遣う必要がありますか」モムモム

杏子「……」

杏子「…そうかな」ゴクン

お金が無い、と。
…さっき、私があなたを打ち倒したあの時、周囲に撒き散らしたもの。
つまり、その封筒の中身は、あなたのものではないのですね。

早乙女「それが、私の正義ですよ」

 ガタン…

杏子「……」

早乙女「佐倉さん…?」

杏子「…どいつもこいつも正義、正義と五月蝿いな」

早乙女「何か?…さあ、席へ着きなさいな」

杏子「ちょうど、その胸糞悪いもんを、今から叩き返してやりに行くところだ!」

早乙女「……」

早乙女「…急ぎなら、送りましょう」

杏子「……」

杏子「恩は、後で必ず返す。それで終わりだ」

─────巴部屋



ほむら「『御滝原ファイナンス』は、駅前の貸金業者ね。それも巷では有名な、いわゆる闇金」

ほむら「暴力団の事務所に入った時に、従業員をたまに見かけるわ」

まどか「ほむらちゃんも危ない武器調達はやめてね…」

さやか「中身は…なんだか難しい書類が少しで、あとは空だね。やっぱりお金が入ってたのかな」

まどか「あ、さやかちゃん!さっき拾ったお札って、もしかして」

さやか「うっ」ギク

ほむら「まったくあなたは…。出しなさい」

さやか「い、いやー…はは」ピラッ

まどか「…でも。もし、もしマミさんが金庫を持って来ちゃったんだとしても…マミさんが行方不明なのは、なんでなのかな」

さやか「…盗んだお金で豪遊してるとか?」

まどか「とりあえず、これって…警察、呼ばないと…いけない事だし…」

ほむら「…無駄だと思うわ。闇金業者が警察に被害届を出すなんて考えられない」

ほむら「ましてや盗難だなんて、うちの事業所のセキュリティは脆弱だ、と喧伝するようなものよ。…歪んではいるけれど、ヤクザは信用商売なの」

まどか「よ、よかった…良くはないけど…マミさん逮捕されちゃわないよね?」

さやか「…じゃあ、どうすんのよ」

ほむら「……」スッ

…段ボール箱に、リボンの巻きついた跡がついている。
マンションの監視カメラを確認するまでもないわ。
マミは、自分の意思で部屋に金庫を運び込んだ。

ほむら「……」カチ…

…金庫の錠は、ダイヤル、ディンプル、八万ロックの三重。
生身の人間なら、どうやって開ける?錠には取り合わずに、扉の隅を焼き破って、梃子を入れる、か。

ほむら「……」

……内部の摩耗跡を見るに、実際は…。
ダイヤルを引き剥がし、ディスクの隙間から鋼の弦に辿り着き、捻折ったみたい。

ほむら「……」スッ

性格が出たわね。
…こんな、無駄のない力技。
意のままに動く、強靭な…そう、魔法のリボンのようなものが無ければ。

ほむら「…マミ…」

まどか「……」

さやか「……」

─────早乙女車中



 ブロロロ…

早乙女「教員として、訊きたい事が」

杏子「…なに」

早乙女「……」

早乙女「佐倉さんは、巴マミさんとお知り合いですか?」

杏子「!」

早乙女「盗み聞くつもりは無かったのですが…寝言で、『マミさん』と、言っていました」

杏子「…くそ、」

杏子「ああ、そうだ。大っ嫌いなんで、名前も聞きたかねえ奴だよ!」

早乙女「…巴さんは、私の生徒です」

杏子「へ、まさにこれから会いに行ってやろうってとこだ。止めるか?」

形はどうあれ…この子だって、こうしてしっかり自分の本筋に従っています。
御行儀にはあまり感心しませんが、巴さんとはまたひと味違う、良い子ね。

早乙女「……そうでしたか…」

早乙女「彼女は今、行方が知れません」

杏子「…ああ?」

早乙女「今週の授業には全て無断欠席をして、お宅を何度か訪問しても留守です」

早乙女「既に捜索願が届け出られていますが…今のところは、まだ…」

杏子「…なんだよ、それは!!おい!!」

魔法少女が、行方不明。
それはおおかた、魔女の結界内での死だろ。死体はこっちに戻っては来られねえ。
…でも、マミが死のうが生きようが、そんなものはどうだっていい。

杏子「…なあ、さっさと見つけろよ…あんた教師だろ?」

早乙女「……」

冗談かよ。
おい、この金をどうするんだ?ポストに投げ込んで返すくらいじゃあ、とても寝つけやしねえ。
にやけた顔面に札束往復ビンタで四角い跡をくっきり付けてやったあとで、それをあのイラつく乳の谷間にねじ込んでやるんだ。
それから、ケツの穴に差し込んだ白旗を振らせて、こうも言わせる。

マミ『ふげ、参りました、佐倉様には敵いませんのでもうゆるじでええべぶ』

杏子「……」

早乙女「…教師失格かも、知れません…」

早乙女「……」グス

早乙女「いま私は、どんなものにも、頼りたい」ポロポロ

今日の小テストの採点をして、警察の方とお話をして、佐倉さんと一緒にご飯を食べて…
こうして泣いている時間、それらは、彼女を最悪から助けられる数十分間なのかも知れません。
なんて情けない教師。
力が、及びません。

早乙女「素敵な、未来のはず、が」

早乙女「悪い結果、ばかり、頭を離れて、くれません」ボロボロ

杏子「……おい、わかった、とりあえず涙を拭きなよ」

早乙女「でも、ハンドル、が」ポロポロ グス

杏子「…しょうがねえ教師だな…メガネ外すぞ」カチャ

杏子「…左目」ゴシゴシ

早乙女「うう、ひっく」ズビビ

杏子「…次、右目」ゴシゴシ

早乙女「うっぐ、ふ、う」グスグス

杏子「…鼻水」ゴシゴシ

早乙女「ふぐ、っぐ」ズビー

 ブロロロ…

─────



QB『禁じられていない範囲でヒントをあげるよ』

QB『彼女は依然として、正義の魔法少女らしい。それだけだ』

ほむら『…らしい、とはどういう意味?』

QB『だってそうだろう?所詮、信義なんて各々の主観にのみ基づくものだ』

QB『…マミの魔女化も近い』

ほむら『……』スッ

 カチ ドンッ

─────大通り



 カツ カツ… …

さやか「日も暮れてきちゃったね。目星ついてんの?」

ほむら「…多分、だけれど」

まどか「ほむらちゃん、…駅に向かってるんだね」

 ピタ…

ほむら「そうよ。でも、あなた達はここまで」

まどか「え?」

ほむら「夕方に言ったでしょう?杏子を探してちょうだい」

さやか「なんだよ、まさか…」

ほむら「…マミと、少し争うことになるかも知れないわ。私だけでは、太刀打ちできない可能性がある」

まどか「そんな…」

さやか「…気をつけろよな。絶対両方無傷で帰れよ!」

ほむら「…どうかしらね…」スッ

『杏子、聞こえる?ほむらよ』

ほむら「……反応は無し、」

ほむら「駅前に居る、と伝えて」タッ

さやか「あっ、消えた!」

まどか「ほむらちゃん…」

─────大通り



杏子「…今日は、世話になった」

早乙女「こちらこそ、みっともないところを見せてすみません」ペコ

杏子「ほんとにな。泣き虫メガネ」

早乙女「うう」カァー

杏子「…マミは死なないよ。強いから、あいつ」

早乙女「…はい」

杏子「だから、今日の恩は、あいつを連れ帰す事で返す」

杏子「いいよな?」ニカッ

早乙女「……」

まるで根拠の無い…依り処のない言葉なのに、どうしてここまで、私を安心させてくれるのでしょうか。
出会った時に見た小さな体が、今は何て逞しいの。
あなたの御両親は、さぞ、幸せな事でしょう。



早乙女「あなたの正義を、貫いてください」

杏子「……」タッ

─────大通り



杏子「……」タッタッタッタッ

きっと、既にほむら達が動いてる。奴らにとっては大事だろう。
魔力の反応を探して最低でも合流だ。

杏子「んっ…?」タッ…

『……聞こえ…?……よ』

杏子「ほむらか…やっぱりな!」ダッ

声が遠くてよく聞こえなかったが、こっちの方だ!

杏子「ハッ…ハッ…」タッタッタッタッ

さやか「きょうこー!!きょうこ!!」ブンブン

まどか「杏子ちゃーん!!」フリフリ

 ブロロロ…

杏子「あ、お前ら…くそ、車が…ほむらはどこだー!!」

さやか「『駅前に!!居るわ!!』」ファッサァ!

杏子「わかった!似てねえぞ!!」ダッ

さやか「ケガすんなよー!」

まどか「あ、行っちゃった…大丈夫かな?」

さやか「私たちもほら、行くよ!」グイッ

まどか「うわわっ」

─────駅前



…金庫の中の、『御滝原ファイナンス』顧客リスト。
地場の最大手だけあって、顧客の数は数万人に及んでいる。
それ自体には問題が無い。

…違和感は、顧客の名前と住所が、収入の低い順に、マーカーで色分けがされている事にある。
最も低収入の層に近付くにつれて、『住所不定』の記載が多くなる。
金の無いところから更に搾り取る術を、『御滝原ファイナンス』は、よく心得ているのでしょうね。

ほむら「……」

ほむら「…マミ」



マミ「あら、お久しぶりね。暁美さん」ニコ

ほむら「…無事でよかったわ。みんな、心配しているわよ?」

マミのあの目。
いつも通り、爛々と輝いている。

マミ「ああ…少し忙しくなっちゃったの。なんたって、正義の魔法少女よ!」

マミ「ところで、暁美さんはこれから何か予定がある?」

ちょうどよかったわ…もう少し人手が欲しかったところ。
是非、暁美さんにも手伝ってもらおう!
リストのコピーを渡して、一緒にお金を分配するだけ。
それだけで、より多くの人が救われるわ。なんて素敵なの!

ほむら「ええ、予定があるわ」ファサ

マミ「…あら、そうなの…。でもね、例えば。人の命に換えられるような…そんな予定かしら?」スッ

ほむら「…マミ。」

ほむら「そのバッグの中身を、見せてもらえるかしら?」

マミ「あら。どうして?」キョトン

…おおよそ、勘づいているみたいね。
まあ、どうしようもない悪人達が、人を踏みにじって手に入れたお金だもの。
このように再分配されるのが正しい在り方だわ。暁美さんだって、きっと賛同してくれる。

ほむら「あなたが心配だからよ」

マミ「お話が、うまく飲み込めないわ?」クスッ

ほむら「…それがあなたの正義なの?」

マミ「……」

マミ「当たり前じゃない。変な暁美さん!」クスクス

ほむら「…っ」

憧れた先輩。
別人に変わってしまった。

マミ「あ、田中さん!」

田中「んあ…?」

マミ「もー!昨日、ちゃんとお風呂に入りなさいって言ったじゃない!」ゴソゴソ

…田中裕一。52歳無職、住所不定。借入れ金額10万円。
『御滝原ファイナンス』の斡旋により、半年間の土木作業に従事。

田中「んん…ん」

マミ「はいこれ。元はあなたのお金なんだから、大切に使ってね!」ピラッ

田中「んぐ…」

作業中に膝を痛めて、従事不能になる。
200万円に膨れ上がった元金及び利息は、最終的には『田中裕一という身分』を売る事で返済を完了した。

田中「んん~」フラフラ…

マミ「身体に気を付けてねー!」フリフリ

法制度上、存在しない人。

ほむら「……」

マミ「…私にも、できる事があるの。失われた時間や、家族、色々な大切なものは取り返せないけれど」

マミ「せめて人並みには、ね?お金が必要なの」ニコッ

なんて悲しい、歪な正義。あなたの弱さは、人の邪を知らない事よ。

ほむら「…見なさい」スッ

マミ「ん?なにかしら」クル

ほら。
今まさに、田中さんがゆっくりとパチンコ店へ入って行くわ。
あなたから受け取ったばかりの3万円を握りしめて。

ほむら「あるいは、お酒を食らって、昼まで寝て…それでおしまい」

マミ「……」

ほむら「…彼はもう駄目よ。お金があっても、生きる気力がないの」

マミ「……」

ほむら「帰りましょう、マミ」

マミ「…何?だから何だって言うの」

マミ「少しの娯楽くらいあったって…良いじゃない?」

マミ「このお金を…輝かしい未来への踏み台にして、もう一度頑張ろうって」

マミ「そう思っている人達ばかりなのよ」

ほむら「…そんな事をしていたら、あなたの人生まで駄目になる」

マミ「ええ、そう。これは他人の人生を食い物にして、のうのうと贅沢をして暮らす犯罪者のお金」

マミ「こうして使われる方が、よほど有意義なお金になるわ。このお金が皆を救うの」

ほむら「…帰りましょう。あなたが心配なの…」

マミ「なのに、あなたは?邪魔するような事ばかりして…!」ブルブル

マミ「そんなに羨ましいのなら、こんなもの!あなたにもあげるわよ!!」バサバサッ

ほむら「分かって、マミ…!!」

マミ「うるさい!!!!!」ドシュゥウン

こんな街中で…!
最悪だわ。

ほむら「…っっ!!」ドシュゥウ

 カチッ

マミ「逃げた…!!」

マミ「邪魔するだけ邪魔しておいて…!!」ブルブルブル



─────裏路地



ほむら「はーっ、はーっ、は…」ゼエゼエ

結局、逃げた。
今のマミは、まともじゃない。
でも、やっぱり、倒せない…大好きなマミさん…。

『オイ!!何やってる!!』

ほむら「!杏子!?」

『こんな所で変身して…アホか、お前は?』

見ていたらしいわね。
いや…マミが変身したから、見つけられたのか。

『…あら、あなたもいたのね?お久しぶり、佐倉さん』

『少しお邪魔が入ったのよ』

『…金を返しに来た。ついでに、お前も連れ帰すからな』

…杏子にも、お金を渡していたのね。
マミさん、らしいわ。

『…あなたも暁美さんと手を組んでるのかしら?』

『はあ…?まあいいや、お前いい歳こいて家出なんか似合わねえよ?』

『あいにく、私にはやるべき事があるのよ。』

『…子どもみたいな駄々こねてねえでさっさとおとなしく帰れ』

駄目よ、杏子…今怒ったら駄目…

『…私を心配する人なんて、居ないわ』

『帰れっっ!!っつってんだろーがああ!!!!』

ドシュゥウン…

ああ、杏子まで変身して。
でも、えらくムキになっているのは…何故?

ほむら「…あそこね!」

杏子「けっ!いわしてやんよ、クソデブ!!」シュバァアア

マミ「っっ!!?」バッ

 ドガァアアアン ズドン…
 パラパラパラ…

杏子「…へ、今日は全快だぜ?」ストッ

ほむら「杏子!」タッタッタッ

杏子「よお。…安心しろ、廃ビルだ」

 … …

杏子「…?なんだ、あんな程度でくたばっちまったのかい?」

ほむら「マミ…!!」バッ

 ガラガラガラ…

マミ「…うう…」グッタリ

ほむら「…ソウルジェムが、濁り切りそうなくらい…」

杏子「カッコつけて人の事ばっか気にしてるからだ」カツ カツ…スッ

 コツン シュゥウウ

マミ「…く…」

杏子「…借りは返した。ほら、行くぞ」グイッ

ほむら「……」

魔法少女は、魔女の災厄から人を救う事ができる。でも、それは、ほんの一部でしかない。
たいていは、同じ人間の悪意に晒されて潰れてしまうもの。
優しいあなたは、何処かで気付いてしまったのね。

マミ「…ううう…」ボロボロ

杏子「…泣いてんじゃねえよ、ボケ。子どもか」

マミ「うぅ、ううう!だっで…どうしたら、いいか、うう!分からない、」グスグスグス

杏子「…ああ?…」キョトン

杏子「メガネの教師がお前を待ってる。立て」

ほむら(…メガネの教師…?)

マミ「うぐ…っふぅう…」グスグス

─────



マミ「…暁美さんの言いたいこと、よく分かるわ」

杏子「うん?なんだそりゃ」

ほむら「もう少し…他にやりようがあるわよ、マミ」

マミ「…ごめんなさい…」

マミ「先週…デパートの屋上で、3人の男達に囲まれている女の人を助けたの」

マミ「女の人…佐々木さんっていうんだけど、借金があって…」

ほむら「…その男達が、『御滝原ファイナンス』の従業員だったという事?」

マミ「ええ。佐々木さんに、風俗店に勤める事を強要したみたい」

マミ「泣きながら話す佐々木さんの顔に、痣が沢山あるのを見てて…私、頭が真っ白になって、」

マミ「…気付いたら、『御滝原ファイナンス』の金庫が、部屋にあったわ」

杏子「マジか…あんた、アホだろ」

マミ「本当に、どうかしてた…」ウルル

杏子「おいもう泣くのやめろよ」

マミ「ふぐっ…」ゴシゴシ

ほむら「…それで?」

マミ「お金を、渡しに行ったの」

マミ「でも、佐々木さん…さっき言った、デパートの屋上から飛び降りて…」

杏子「……」

マミ「私、どうにか受け止めたけれど、佐々木さん、もう、精神が…話せる状態じゃなくて」

マミ「今はもう、どこへ行ったのかすら分からない…」

マミ「そんな人達を、二度とこういう風にしちゃ駄目だって、私は思ったわ」

ほむら「それで、過去の『御滝原ファイナンス』の顧客にお金を分配していた、という事ね」

マミ「……」

マミ「…満たされない人を、助けたかったの」

杏子「偉そうに良いこと言っても、所詮盗んだ金じゃん」

マミ「…そうね…」

ほむら「さて」

ほむら「この後は、どうするのかしら。お金は返す?」

マミ「……」

ほむら「言っておくけれど…闇金は違法よ。何処からも信用を失ってお金を借りられなくなった人の、最後の砦」

ほむら「そんな所へ借りに来る人達だって、はっきり言って…まともじゃない」

マミ「どんな人も…正しい方向へ、導くわ」

ほむら「……」

やはり、頑固者ね。
…好きにすればいい。

ほむら「金庫だけは、後から追われないように捨てておく事ね」

杏子「ああ…?ほむらまで頭おかしくなっちまったのか」

ほむら「応援はする。…マミの事だもの」

マミ「暁美さん…!」

杏子「はあ…まあ、いいけどさ。あたしの用事は、終わってねえぞ?」

マミ「佐倉さんも、心配かけてごめんなさい…え、用事?」

杏子「ケツ出せ」グイッ

 ドサッ

マミ「わっ、え?なに、」
杏子「ほむら、押さえろ!これ挿すから」サッ

マミ「キャ、つめたい!なによそれは!」ジタバタ

ほむら「…白旗…?」

さやか「あっ、いた!マミさーん!!」タッタッタッ

まどか「はあっ、はあっ、な、何やってるのかな…」

杏子「ほーれズブリといくぜ!!」グイグイ

マミ「きゃああああ!やめて!!見ないで!!暁美さああん!!」バタバタバタ

ほむら「…はあ…」

─────翌日・生徒指導室



早乙女「心配しましたよ、巴さん…無事でよかったわ…!」

マミ「すみません…」

早乙女「この5日間は、どうでしたか?」

いつもそう。
早乙女先生は、どうしたか、とは問わないわ。
どうあろうとしたか、と問うの。

マミ「……」

マミ「正義の人になるのは、とても…難しいです」

早乙女「…自律変化、ね?先生が、最も大切だと思う事です」

誰が間違っているという事は、ありません。
彼女達は、日に日に成長してきて、私は驚いてばかりです。

早乙女「先生は昨日、あなたのお友達に助けられました」

マミ「え?」

早乙女「赤いお友達。あなた達、素敵ね」ニコ

マミ「…はい!」

─────HR



早乙女「皆さんおはようございます!では、出席をとります」

さやか「…今度は転校生が居なくなった…」

まどか「ほむらちゃん、急いで武器集めてる、って言ってたよ?」

さやか「はあ?」

まどか「マミさんと一緒に、『御滝原ファイナンス』のテナントを乗っ取って、職業訓練所を作るんだって」

まどか「仲良くしててよかったね!ウェヒ」

さやか「ヤクザかよあの2人…。『巴組』とか作っちゃったりして!」プークスクス

まどか「それ、なんだか杏子ちゃんが一番似合ってるみたいだけど…」

さやか「あー…あいつも、もうすぐうちに編入してくるってさ」

まどか「えっ!」

さやか「早乙女先生のマンションに居候して、みっちり予備教育されてるみたい…」コソコソ

さやか「昨日ゲッソリした顔で言ってたわ」

まどか「大変そう…」

早乙女「おやつはロッキーですか?フラソですか?はい、中沢くん!!」

中沢「え…どっちでもいいです」

早乙女「その通り、どっちでもよろしい!」

早乙女「おやつはロッキーでないとどうとかいう子はあーだこーだ」

さやか「…仲、良いみたいだね」

まどか「ティヒヒ」

─────



 ウィーン…

マミ「お疲れ様。交渉は?」

ほむら「終わったわ。もともと提示された価格の倍額を乗せているのだから、鵜呑みにさせて、登記を書き換えて」

ほむら「それで終わりよ」ファサ

マミ「そう。…お金の出どころは彼ら自身なのだけど」

ほむら「あなた、魔法少女より…金庫破りの方が向いているんじゃない?」ジッ

マミ「あなたこそ、検事や弁護士がいいんじゃなくって?意外ね」クス

ほむら「ふん…元々、ドンパチやるのはあまり好きじゃないの」

マミ「ともかく、これが私達の正義の第一歩…」

 カツ カツ… …

マミ「お茶でも飲みにいく?」

ほむら「コーヒーがある所なら」

 カツ カツ… …

終わりです。
以下将棋スレ

早乙女先生ペロペロしたいです
7六歩

>>72
おまえ変態だけどおもしろいな。

>>76
ありがとう
ラスト、マミさんを脱糞させるかさせないかで本気で悩みました

>>77
いやそっちの方のSSは好きじゃないんだが
まあ本人が好きなら仕方が無い読まないけど。

>>78
マミウンチ大好物なので残念です…

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