亜美「一緒に寝よ?」 (8)

降り続ける雨の勢いは、止まることはない。
「......雨すごいなあ」
深夜の暗い部屋の中で、亜美はそう呟いた。
眠れないのは、この雨の音のせいなのか。
次に、目に光が飛び込む。さらに大きな爆発音。
「ひゃあ!......雷?」
落雷に怯えながら、布団の中にさらにくるまる。
この震えは、雷とかの前からあるものだ。亜美はそれに気づいていた。

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数時間前の事務所。帰り際に、雨が降ってる話をすると、「雨といえばね」と、伊織の怖い話が始まった。
「それでね......その女は言ったのよ」
伊織はこの手の話が好きである。それを展開にドキドキしながら、亜美とあずさは聞いていた。
「アンタが死んでしまえば、良かったのにってね」
話の内容より何より、伊織のしゃべり方が苦手だった。ストーリーテラーさながらのその話し方は、どのようにして会得した知識なのだろうか。
亜美は正直、それが怖くていま眠れていないのだ。
おまけに雷まで落ちてきた。雷の音の境目から、女の声が聞こえる気がして、恐ろしかった。
自分でも、こんなにこういう事に怯えるのは珍しいほうな気がする。
また、雷の音。
「うぅ......真美は、寝ちゃってる、よね?」

閉め切ったふすまの向こうには、真美が眠っているはずだ。この雷の音は夜深くなってから聞こえてきたものだし、真美は寝ると深い。この程度の音じゃ起きないだろう。体を揺すったりしたら話は別だが。
「............ね、寝よう」
起きていても怖い話のことばかり考えてしまう。そこに、自分が脚色してさらに恐怖心に輪をかけさせた。
震える手を隠すように袖をギュッと握り、できるだけ小さくなって布団に潜る。朝になれば、恐怖もなくなる......はずだ。
時計はまだ、あれから5分と経っていない。
「......」

もう一度、視線をふすまに。
「............」
亜美と真美は、別々でこれからやっていこうね。過去にした会話が、何故か今横切った。
雷の音。感じる恐怖。
「うぅ......うぐっ」
思わず、涙が目に溜まる。

次になった雷の音で、たまらず布団から飛び出した。飛び出す速度は、朝寝坊をしてしまった日よりも速かった気がする。
ふすまの前に立ち、手を掛ける、前に一度止まる。
「......真美、起きてる?」
返事はない。まあ、眠っているだろう。なんとなくわかった。どうしてわかったのかは、双子だからかなのだろうか。それはよくわからない。
「えっと............」
ふすまに、ゆっくりと手をかけた。後はそのかけた右手を、右に動かしてやればいいだけだ。
「......でも、さ」
いいのだろうか。真美に頼ることは、勝負としては負けているのではないだろうか。
しばらく悩んだところに、もう一度雷の音が響いた。驚きが背中を押して、ふすまが開く。
「まーみー!」

ドタドタと彼女の、亜美と同じように散らかった部屋を歩き回るが、反応はない。動いていた足をぴたりと止める。
「............」
「すー......すー......」
真美の寝息がなんとも心地よかった。ずっと聴いていると、雨の音も忘れ去ってしまうくらいに。
「ま、み......」
ボソボソとした小声では、真美を起こすことはできない。真美はそれをまるで鬱陶しいかのように、「うん」と言いながら寝返りを打つだけだった。
「あ......」

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