新城直衛「聖杯『戦争』…?素敵じゃないか」 (102)


凛「それであんた、何者なの?」

直衛「《皇国》陸軍中佐、新城直衛」

凛「クラスは?」

直衛「なんだそれは」

凛「…」

凛(儀式は完璧だったはずなのに…)




少女の目の前に立つのは、軍人らしき服装に身を包んだ凶相の男だった。

少女は万能の願望機「聖杯」を巡る魔術師のバトルロイヤルに参加すべく、サーヴァントを呼び出そうとしたのだが――――

その呼びかけに応えたのは異世界の戦争狂とその愛猫――――剣牙虎。

第五次聖杯戦争、ここに開幕。

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皇国の守護者×Fate/stay night

皇国の守護者は既刊分の後の設定ですので、ネタバレを含みます。

身の回りが忙しく前回落としてしまいましたが、どうぞ引き続きお楽しみください。一応、最初から貼ります

凛「それで、あなたは何もわからないと?」

直衛「気づいたら、君の家にいたというわけだ。内装から察するに、ここは《帝国》かアスローンか。とにかく僕の故国ではないな」

凛「ええっとね…」

直衛「つまり僕はさらわれたということだな。まったく、《帝国》も暇なことだ」

凛「そうじゃなくて…」

直衛「皇室魔導院は給料泥棒だな。ここまで深く間者を侵入させるとは。畜生、羽鳥め…」ブツブツ

凛「聞きなさいよ!!」

千早「っ!」ビクッ

凛「あんたね、ちょっとは立場をわきまえなさいよ!」

直衛「ほう?」

凛「私はマスター、あんたはサーヴァント! あんたにわかりやすく言えば、主従の関係よ」

直衛「なるほど。よくわかった。それで、君は僕と僕の猫を抑える術を持っているのか?」

凛「当たり前よっ。私は魔術…」

千早「グルルルッ」

凛「…」

忘れていた。
彼らは紛いなりにもサーヴァントなのだ。生前がどうであれ、今や聖杯の恩恵を受ける存在。
その力は絶対的である。

直衛「そんな事より、今は情報だ。ここはどこで何が起きている?」

凛「……理解できないからって、いきなり襲ってこないでよね」

凛は直衛に、今起きていることを教える。
聖杯戦争。七人のマスターとサーヴァント。魔術、そして願望機――――。

直衛「にわかには信じられないな」

凛「でしょうね」

直衛「しかし、その聖杯というのは願いを持つ者を呼ぶという話だな。なるほどそれは…」

脳裏に浮かぶのは、憎き男とその男の凶刃に倒れた最愛の義姉。

直衛「僕は存外に夢想家、というわけか」

凛「理解できないならそれでいいわ。街に出れば、無理矢理にでも納得しなきゃいけないもの」

直衛「ここは《大協約》世界とは全く異なる世界、という話か」

凛「そうよ。とりあえず霊体化して、案内してあげる」

直衛「僕は死んだ覚えはない」

凛「――――っえ?」

直衛「死ぬほど怖い目には何度も遭ったけどね」

凛「なんて、イレギュラー……」

凛は保護者にして聖杯戦争の管理者に連絡を取る。

凛「――――というわけなんだけど」

言峰『ふむ。それは確かに例外だな。本来ならば中立であるべきだが、とりあえず教会に来い』

凛「だから、霊体化出来ないんだって」

言峰『夜ならば人目も少ないだろう。なにも街へ繰り出せと言っているわけではない』

凛「うっ…じゃ、じゃあ。せめてこいつの服くらい用意しといて」

言峰『構わんが。一つ疑問がある』

凛「何よ?」

言峰『なぜ師父の服を使わんのだ?』

凛「ああ、それなら考えたんだけどね」

チラリ、と凛は自らのサーヴァントを見て、ささやかな意趣返しをした。

凛「丈が合わないのよ」

少女は小悪魔的に微笑む。

直衛「今のは導術か?」

凛「ああ、さっき聞いた《コウコク》とやらの? うーん、断定はできないけど違うと思うわ」

直衛「魔術か……」

凛「電話使ったほうが早いんだけどね。あんたの世界には電気がまだないんだっけ?」

直衛「残念というべきか、良かったというべきか。まだ実用化には程遠いな」

凛「まぁそれはおいといて。とにかく行くわよ!」

電灯の少ない夜道を、少女と男と猛獣が歩く。

凛「それにしても…慣れないわね」

直衛「剣牙虎は母性の強い動物だ。人間の子を守り育てたという例も――――」

凛「だとしても、ねぇ…」

巨大な牙は、安々と骨を砕くだろう。太い前足に殴られれば上半身は吹き飛んでしまうに違いない。
いくら魔術師といえど、そのような猛獣と一緒に歩くことなど非日常には変わりなかった。

凛「こんなのが戦争に使われていたなんてね……っあ、見えた。あそこが教会よ」

―――教会―――

言峰「私が、言峰綺礼だ。よろしく新城中佐」

直衛「ご厚意感謝します、言峰神父」

直衛は軍服を脱ぎ、修道着に衣替えしていた。言峰のものではなく、教会にあったものだ。

言峰「本当は綺麗なものを用意したかったが、何分と時間がな」

直衛「いえ、汚い服には慣れてますので。なに、これで戦場に出れば将校ですよ」

凛「はいはい、そこまで! とにかく、私はこいつと聖杯戦争に参加すればいいのね?」

言峰「ああそうだ。イレギュラーだったにせよ、新城中佐が聖杯に選ばれた事には違いない」

凛「はぁ…先が思いやられるわ。それで、クラスは?」

言峰「ふむ、安直だがオフィサー(軍人)と言ったところか」

クラス:オフィサー 真名:新城直衛 属性:混沌・中庸
筋力:D 魔力:E 耐久:D 幸運:E 敏捷:D 宝具:?

戦闘続行:B 仕切り直し:B カリスマ:C 騎乗スキル:E 直感:C

千早
筋力:A 魔力:E 耐久:B 幸運:D 敏捷:A

言峰「それでは、幸運を祈ろう」

直衛「ありがとうございます」

凛と直衛は協会を後にした。
その帰り道――――。

直衛「あの言峰という男」

凛「えっ?」

直衛「なんなんだアイツ。何を考えている。わからない、糞っ」

直衛は震えていた。この男は小心者なのだ。
臆病、とさえ言える。

凛「アイツは敵じゃないわ。言峰は教会から派遣されているだけで、実際に殺し合うのは魔術師同士なんだから」

直衛「敵じゃない、敵じゃないか。それは素晴らしいな。それが本当なら」

――――教会 地下

言峰「……新城直衛」

ギルガメッシュ「どうした言峰。明確に行動を起こさんとは」

言峰「あの男の目は、何を見てきたというのだ。この世の混沌という混沌を詰め込んでおきながら、決して濁っていない」

ギルガメッシュ「簡単なことだ、言峰。お前と同じだよ」

言峰「生まれついての異常者であると?」

ギルガメッシュ「そうだ。どうやら芽を出した箇所は違うようだが」

言峰「貴様はどう見た、英雄王」

ギルガメッシュ「気に食わんな。基準を全て己に託しておきながら、決して自分のためには動けないような雑種だ」

言峰「自分の為には、か」

その時、言峰は猛獣使いの傍らを歩く少女を思い出していた。


―――遠坂邸―――

直衛「では、作戦を立案しよう」

遠坂邸に帰ってすぐに、新城は修道着を脱ぎ捨てて軍服姿に戻った。そして座ることなく、殺し合いについて話し始める。

凛「そのやる気はありがたいけど…今はまったく情報がないのよ?」

直衛「馬鹿か君は。情報が無いならそれをどのように得るか、それを考えろ」

凛「それなら、やっぱり静観すべきじゃない?」

直衛「それは素敵だ。もちろん敵が僕たちを見逃してくれるなら、だが」

凛「どういうことよ?」

直衛「まず立地からして駄目だ。遠坂邸という時点で敵の標的になっているだろう」

直衛「第二に、僕は霊体として活動できない。気配遮断もできない。ご覧の通り、千早の体は塹壕にでも隠さなければ用意に見つかる」

直衛「そして、僕は弱い。これでは威力偵察も不可能だ」

直衛「以上のことから、僕は他のマスターと協力するのがいいと思う」

凛「どうしてそうなるのよっ!?」

直衛「同盟だよ、言うなれば。出来ないのなら、出来る奴にやってもらう。簡単な話だ」

凛「む、むう……でも、互いに殺し合うマスター同士がそう安々と信頼関係を築けるかしら?」

直衛「問題ない。所詮は裏切る前提の信頼だ。情報を得られたその時点で同盟は解消すればいい」

凛「罠かもしれないじゃない」

直衛「君の話では、三騎士というクラスは優遇されているらしいな。ならば簡単だ。それ以外の勢力と手を組む」

直衛「利用し合っている間は、少なくとも殺しあわない程度には上手くいく。打倒セイバー、打倒アーチャーだとか言えばいいのだ」

直衛「望ましいのはキャスターかアサシンだな」

凛「……あんたって、マシンガントークよね」

直衛「その形容が僕の世界でも出来ていたら、今頃は光帯だって血に浸かっていたよ」

今回は以上です。
続きは夜にでも投下して、前回分までは今日中に書き込みたいと思います。

おつ

訂正
>>9
×凛と直衛は協会を後にした。→凛と直衛は教会を後にした。

>>11
×直衛「第二に、僕は霊体として活動できない。気配遮断もできない。ご覧の通り、千早の体は塹壕にでも隠さなければ用意に見つかる」→直衛「第二に、僕は霊体として活動できない。気配遮断もできない。ご覧の通り、千早の体は塹壕にでも隠さなければ容易に見つかる」


ヤンウェンリ-とか海江田四郎が出るの誰か作って

どうせ軍人で戦略戦術家を書くんだからライダーイスカルダルがB2ほっしたように現代の戦略戦術を調べたり戦史を見てみるとかやってほしい

りんは科学音痴だからないにしてもネットとかコンビニでうってる軍事教本とか色々あるでしょ
軍事漫画でさえリアルなものなら参考になりうる

どうせなら作者同じオメガ見させるとか

おお!楽しみに待ってます

>>14>>18
ありがとうございます

>>16
私には荷が重いです

>>17
その視点はありませんでした
しかしライダーほど大局を見る人間ではありませんから、今後そういったことがあるのかはまだ分かりません
聖杯戦争だけで忙しいと思います

夜からということでしたが、今からdat落ちしたところまで投下します

翌日。

直衛「学舎には行くな」

凛「わかってるわよ」

直衛「僕が学舎について行くのは無理だからな」

凛「……でも、あんたが昨日言ってた同盟も、やっぱ他のマスターの情報が無きゃ無理な話よね」

直衛「今思えば、無策に等しい机上の空論だった。それは確かだ」

直衛「しかし君が学舎に行くというのとは関係のない話だ」

凛「そうだけど……ちょっと前から、学校で嫌な感じが――――魔力のカスみたいなものを感じるのよ」

その言葉を聞いて、直衛は目の色を変えた。

直衛「それを先に言え。僕を馬鹿にしてるのか」

直衛「令呪とやらを使えば、どこにいようと呼び出せるんだろう。ならば話は違う。例え会敵しても、千早に跨れば窮地から脱する事が出来る」

凛「あんたって、なんでそうも簡単に意見を変えられるのかしらね」

直衛「僕は戦場で皇主陛下のご威光を必要としない。そういう話だ」

凛「本当、臆病なのね」

直衛「僕からすれば、信仰なんてモノに身を捧げられるのは大した勇者だ。そして勇者は、勝手に死ぬ。こちらの迷惑も考えずに」

――――学校・屋上・夜

凛「さて、どうしようかしら」

凛「魔力は感じるけど、それ以上はわからないのよね……家から何か持ってきたほうがいいかも」

?「よお嬢ちゃん。たった一人でお散歩かい? 寂しいねぇ」

凛「!?っ…誰?」

視線が上を向く。空とコンクリートを隔てるフェンスの上に、凛の瞳は固定された。
そこにいたのは、青い男。そう、なんの形容もなく、青い男だった。
その双眸は痛いほど鮮やかな赤色。瞳は抑えきれないほどの獰猛さを備えた、ギラリとした光を放っている。その威容は、まさに――――――――

凛「――――――――サーヴァント」

英雄の、それであった。

圧倒的な塊としての魔力。類まれな素質を持つ凛だからこそ、その絶望は一層深刻なものと理解できた。
……とにかく、私一人では対抗できない。
突然の遭遇であっても、凛は冷静に対処する。魔術師として育てられた彼女は、状況と思考を切り離して行動する術を身につけていた。

?「ご名答だ、メイガスのお嬢ちゃん……ちょっくら、付き合ってもらおうか?」

凛「来なさい! 新城直衛!!!」

令呪が、光り輝く――――。それはまさに、闇夜を照らす光帯の輝き…!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

――――昨夜

凛「じゃあオフィサー。私は寝るわよ」

直衛「待て、遠坂」

凛「何よ?」

直衛「僕のことは新城でいい。なんなら直衛でも。僕も遠坂と呼ぶから」

凛「オフィサーは嫌なわけ?」

直衛「それしかないなら構わないが。生憎、名前以外のもので呼ばれるのも慣れている」

直衛「だが出来ればそれは遠慮したい。《帝国》語で呼ばれているみたいでムズムズするのもあるし、なによりその曖昧さが気に食わない」

凛「あんたって、根っからのリアリストなのね……」

呆れたような目で直衛を見てから、しかし次は笑顔になって凛は答えた。

凛「分かったわ。いきなり直衛も呼びにくいから、しばらくは新城さん…もおかしいわね。とにかく、名前で呼ぶことにする」

直衛「ありがとう、遠坂」

凛「それはそれで余所余所しいわよ。私のことも、凛、でいいわ」

直衛「機会があったら、その名で呼ぼう。おやすみなさい」

凛「ええ、おやすみ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

そして、場面は月夜の屋上に戻る。


凛の前に光の渦が現れると、その奥から猛獣の低い唸り声が木霊する。その声の主は、間違いなく――――

直衛「行け、千早」

魔王の忠実なる下僕、暴虐を体現した魔獣。《皇国》の剣牙虎である!

千早「グアアアア!!!」

光から躍り出たのは3mを超える巨体。猛る凶獣はその巨大さからは考えられないような俊敏さで青い男に迫る。

?「クッ! 魔獣の類いか!?」

青い男――――そのサーヴァントは迫り来る剣牙虎に驚愕しながらも取り乱すことなく武器を手にする。
何もない虚空から取り出されたそれは、大柄なその男自身の背丈よりも長い細身の槍だった。過度な装飾は施されていないが、その真紅の槍が湛える魔力はやはり尋常ではない。

?「畜生如きがあっ!!」

触れただけで人間を砕く千早の前足を、槍で受け止める男。
しかし咄嗟のことで男はバランスを崩し、下へと落下する。それを追うように、千早も素早く外壁を駆け下りていった。

屋上に残されたのは、一人の魔女とその使い魔だけだ。

直衛「さぁ戦争だぞ、凛」


新城は足を階段へと向ける。その歩みは悠然としていて、まるで将軍のような姿だ。

直衛「僕たちも行くぞ。殺し合いだ、きっと酷いことになる。僕は殺し合いの手管に長けているから。まったく最低だ」

凛「急がなくていいの?」

直衛「僕に飛び降りろ、と言っているのか?」

凛「あんたはサーヴァントなんだから、大丈夫でしょ」

直衛「出来るかもしれないし、出来ないかもしれない。可能性はまったく、戦争では害悪でしかないよ、凛」

凛「うーん、そういうものかしら」

直衛「僕がどんなに急ごうと、戦うのはどのみち千早だ。それに相手はランサーだろう。銃も持たない僕じゃあ間合いにすら入れない」

凛「全てはあの猫ちゃん次第、って訳ね」

直衛「ああ。もちろん、千早が殺されれば、僕はどんな手段であろうと奴に後悔させてやるが」

―――校庭―――

そこでは、魔槍を操る英雄と魔爪を振るう獣が、壮絶な戦いを繰り広げていた。
どちらもまだ、致命傷は負っていない。

ランサー「ちょこまかと!!」

千早「ガアアア!!!」

直衛「ふむ。戦況は五分五分、といったところか」

遠くから、とはいっても危険の及ばない範囲でできる限り接近して、新城と凛は観戦している。
ランサーはそれに気づいて、直衛に向かって怒鳴った。

ランサー「自ら戦わずそのようなところで……! 卑怯者め、恥を知れ猛獣使い!!」

直衛「これは手痛いな。さすが英雄だ。正しいことを言う」

直衛「だがやはり馬鹿だ、英雄という人種は。これは殺し合いだぞ? 言うに事欠いて、卑怯者とは……」

ランサー「貴様のようなものが、英霊だと!?」

直衛「それについては僕も遺憾だ。英雄なんてものに祭り上げられて、心底まいってるよ」

ランサー「愚弄するか、猛獣使い!!」

しかし、千早と切り結びながら直衛と会話するランサーの技能は超絶、と評してなお足らないものだ。
武芸を極めた英霊に対し、打撃力を持って脅威となる剣牙虎は、明らかに不利である。
こうしている間にも、千早の体にはカスリ傷が次第に増えてきていた。

その時である。

ランサー「誰だ!?」

人影。
魔術は隠匿されなければならない。ならば、その影はあってはならないものだった。何よりも、その影の抹消が優先される事態に陥ったのだ。

ランサー「ちっ。今日はここま……」

しかし、この男はそうは思わなかった。

直衛「千早!!」

一瞬の隙を突く、直衛の強い声。それと同時に彼は全力で駆け出していた。
走る。走る。
サーヴァントとして強化されていても、千早の疾走に比べると明らかに鈍足の部類に入る速度。しかし、それでも直衛は走る。
すでに鋭剣は引き抜かれ、その鈍い光が揺れている。

たったコンマ何秒しか隙はなかった。しかし、確実に隙はあったのだ。ならば何を躊躇う必要があるのだろうか。新城直衛にとって、好機とは常に活用されなければならない。

直衛「 突 撃 !!」

人獣一体となった刃が躍る。


・・
・・・
鈍足の直衛が、ランサーに飛びかかるまでおよそ一秒。ランサーがそれに対応するには十分すぎる時間だった。
しかし、この時ばかりはそうはいかない。
意識が戦闘から逸れていたところに、不意をうって凶暴な爪を振り下ろしてきた魔獣。その対応に追われ、さしもの英雄にも一瞬の、どうしようもない隙が生まれてしまったのだ。

直衛「っ!」

声を出さず、しかし裂帛の気合を入れ、新城は軍刀をランサーめがけて一閃する!

ランサー「うおおおおお!!!!」

ランサーはこのような絶対の窮地に追い込まれながらも、培われた実力と経験から咄嗟に上体をそらし直撃を避ける。

二人の間には赤い軌跡が描かれた――――。

一瞬の静寂はすぐさま消え去り、硬直していたランサーは残る力を振り絞って地面を蹴り、一気に距離を取る。
彼の胴には、致命傷とまではいかないが、横に深く刻まれた刀傷があった。片膝をつき、赤い魔槍を杖がわりにして荒い息をつくランサー。直衛との距離はおよそ30mほどか。
これは絶好の機会である。

直衛「千早!!」

しかし、この男はそうは思わなかった。
従える魔獣に跨ると、彼は一目散にマスターの下に駆け寄る。

直衛「乗るんだ、凛。この状況から離脱する」

凛「な、何言ってるのよ!? あとひと押しじゃない!」

直衛「相手は歴戦の勇士だぞ? 一太刀浴びせられただけでも十分だ。僕は死にたくない」

凛「さっきは嬉々として突撃してたわよね!?」

直衛「可能性は害悪だと言ったはずだ。僕は確実に一撃を加えると判断できたからこそ危険を冒した。しかし今は、『倒せるかもしれない』というあやふやな判断しかできない」

直衛「戦争はそういうものではない。確実性の上に成り立つ。それでも、予測不可能なことが起きてしまう。ならば僕は、せめて確実な方を取ろうと思うのだが」

凛「ぐっ……」

戦争のプロである直衛の言葉は、それを全く知らない凛に反論できる余地すらない。
いや、現実にはその考え方は間違っているのかもしれない。だが、だからといって経験則を蔑ろにできるほど、凛は勇者ではなかった。

直衛「さぁ乗れ、凛。奴の息がもどる前に」

ランサー「待ちやがれ!!」

凛「!!」

いまだ腰を落としたまま、ランサーは猛獣のような瞳をギラつかせて叫ぶ。
それを見て直衛は、自分の判断が間違っていなかったことを確信した。仮にあのまま戦闘を続行していたら、あの男の逆襲に遭っていただろう。

ランサー「貴様、ライダーか。英霊の面汚しめ」

直衛「なんと言われようと、僕は構わない」

ランサー「なぜ、この機に攻撃してこない? 勇猛は欠片もないのか!」

直衛「僕は弱い。これは分かりきっていることだ。勇猛が白痴と変わらないのならば、僕は遠慮する。勝手に戦い死んでくれたまえ、英雄」

ランサー「最後まで卑しい男よ! ふん、次にあった時はその心臓、もらいうける!!」

そう言い残し、ランサーはそのまま風のように消え去った。恐ろしいほどの瞬足である。

直衛「大した生命力だな、あの男」

《帝国》の、尊敬すべきあの騎兵将校でもこうはいくまい、と直衛は遠い目をした。千早はそんな飼い主を見て、何を考えてるの?と言いたげにグルル、と喉を鳴らした。

凛「いけない!」

直衛「いきなりどうした、凛」

凛「あのサーヴァント――――恐らくはランサー――――奴はさっきの人影を追ったのよ!」

直衛「ああ、魔術は秘匿されなければならない、だったか」

凛「殺されるわ!」

息巻く凛をよそ目に、直衛は冷たい口調で切り替えした。

新城「それが?」

凛「それが、って……アンタ!!」

直衛「もう一度、あの男と戦うのは御免だ。そうまでして助ける必要はないよ、凛」

凛「ああ、もう!! 確かにそうね、そうだわ。でも、それとこれとは違うのよ!!」

新城「……凛、君は」

直衛はその時、誰を思い浮かべたのか。
虜にしたあの勝気な姫君か、凛とした個人副官か。それとも、北嶺の戦場でこそばゆい抵抗をしてくれたあの少尉か――――。
とにかく直衛はこの時、判断を間違った。

直衛「マスターの命令なら仕方ない。そういう風に出来ている。僕は軍人《オフィサー》だから」

―――校舎内・廊下―――

しかし、駆けつけたところで既に事は起きてしまっていた。
制服を着た青年が、その心臓を抉られていたのだ。もう助かりようはないないだろう。
なんてことはない、よくあることだ。五体満足で死ねただけ幸運ではないか。
直衛は率直にそう思った。
しかし、その主人である少女にはそう思えなかった。

凛「なんでコイツが……!!」

新城「恋仲か?」

凛「違うわよ!! ――――ああ、知ってる。これが最悪ってヤツね」

随分可愛い「最悪」じゃないか、とは思わなかった。直衛は、そういう男だ。自らの価値観を他人に押し付けない。しかし、何者にも強制されない。ひとつの例外を除いて。

直衛「それで、どうする?」

凛「どうも何も、助けるわよ」

凛は赤いペンダントを取り出す。魔の眷属となった直衛には、それがどれほどの魔力を湛えているのかはすぐに分かった。

なにやら魔術が発動したのは理解できる。何が起きるのかも想像できる。しかしその理屈を直衛は予想できない。しかし、魔術とは決して理不尽なものではないと直感した。
あのペンダントの魔力を引き換えに、彼は助かるのだ。凛が何年間もかけて魔力を貯めたその時間ごと、引換にして。

儀式自体は短時間で終わった。
さきほどまで虫の息だった青年は、いまだ脆弱であるが確かな息をしている。

凛「終わったわ。帰るわよ」

直衛「了解」


魔獣が、清廉とした少女と卑小な男を乗せて烈風のごとくその場を去った。

・・・
・・


・・
・・・

凛がそれを思ったのは、遠坂邸についてすぐのことだった。
助けた少年の安否である。息を吹き返したのは直衛もともに確認したし、魔術も完璧に成功した手応えがある。さして、気にかかるような問題点もない。
だからこそ、凛は気になった。
なにせ彼女の横には、完璧に完璧を期した上で発生したイレギュラーがいるからだ。

凛「ねぇ、直衛」

少女から出た言葉を、従者である軍人はすぐに了承した。いやに素直である。
凛も少し不気味に思ったが、変にこじれるのも面倒だと思うと、すぐさま直衛とともに千早に飛び乗った。

それが、数分前のことである。

いま、二人と一匹は少年の家を目指し猛スピードで進んでいた。


凛「嫌な予感がするわ」

直衛「予感だと?」

凛「笑う?」

地面を黒い砲弾のように疾駆する千早に跨りながら、二人は普通に会話していた。
どうやら千早はなんらかの恩恵を聖杯から受けているようで、その詳細まではわからなかったが、彼女に跨るものには風よけに近い保護を受けるという効果があるらしい。

直衛「あいにく、僕は笑うのが苦手なんだ。それにそういった不確定なものこそ、戦場では思わぬ逆襲をしてくることもある」

凛「そういうもの、なのかしらね?――――それにしても千早は疾いわ、もうこんなところまで」

直衛「元々は野生動物で、竹林を縫うように走る肉食獣が剣牙虎だからな。行軍の際は猫の消耗を避けるため、滅多に使えないが」

凛「サーヴァントさまさま、ってところかしら」

直衛「今の千早にとって、人間二人分の荷物など薄い羽織みたいなものだからね」

直衛は気づく。自分の口調が定まっていないことに。
確かにそれはそうだ。凛とは主従の関係ではあるが、しかし上官と部下という関係でもない。軍隊言葉でも話し言葉でもない相手。
直衛は無性に、いらついていた。彼女を自分の友人の範疇に含めるのかどうか、そのような思案をしている自分自身にである。

凛「どうしたのよ、直衛」

直衛「いや、なんでもない」

直衛はその思考を封印する。機械的に答えた。

直衛「あとどのくらいだ?」

凛「ええっと、あんたの知ってる目盛りに合わせると……!!!」

突如として、凛の背筋が粟立つ!
これは規格外の魔力の奔流。間違いなくサーヴァントのものである。

凛「これ、バリバリに戦闘してるじゃない……!」

直衛「なるほど、凛は千早の鼻より索敵に優れているようだ」

凛「喜んでいいのかしら」

直衛「当然だ。まるで人間らしくない」

凛「……とにかく、アンタと漫才してる暇はないわ。急いで」

直衛「なぜ急ぐ必要が?」

凛「魔力は、彼の家の方から発生してるのよ!」

―――衛宮邸―――

白銀の甲冑と青い肉体が対峙している。
互いに互いを認め合うほど、両者の戦闘技術は高い次元で拮抗していた。

ランサー「貴様、剣士だな?」

???「さぁな。槍かもしれんし、斧かもしれんぞ?」

ランサー「ぬかせ、セイバー」

セイバー、と呼ばれたサーヴァントの声はどこまでも澄んでいて、ガラスの月のように青い瞳は確かな闘志を秘めている。
まるで、伝説に謳われる女神のようだ。

二人の緊張が次第に高まっていく。
特にランサーの方には、今までの戦闘をかき消すような魔力が禍々しい槍へと洪水のように流れ込んでいる。
言わずともわかる。これこそ、サーヴァント最大の絶技にして切り札、「宝具」。その解放の前触れだ。

誰ひとり、一言足りとも発せない。緊張感が現実に対して重さすら持ち始めたその時である。
月を背にした小柄な男が、塀の上に立っていた。

?「それが君のワイルドカード、というわけだ」

ランサー「っっっ!? 何やつだ!!!」

直衛「そっちもサーヴァント、あちらもサーヴァント。そして僕も。まったく胸糞が悪い」

ランサー「貴様は……!?」

直衛「まったくもって分が悪いよ、凛」

誰もが注意を上に向けているその時、虚を突いて正面の門から魔獣は躍り出た。

時刻は遡る。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

少年の家に着いたとき、自体は既に切迫していた。
サーヴァントは互いに距離をとっており、必殺の範囲ではなかった。しかし、ランサーの構えと尋常ではない魔力がその距離を埋めようとしている、まさにその瞬間である。

凛「まずいわ……!」

凛はまだ事態を把握できていない。ランサーと対峙するサーヴァントが何者なのか、なぜ彼の家にいるのか。少ない事実から自体を憶測する。
蘇った彼を再殺すべくランサーがやってきたことはわかる。
ではあのサーヴァントはそれを狙って待ち構えていたのか。いやそれは考えにくい。
ここに偶然居合わせたのか? それこそ都合が良すぎる。
何故、もう一体のサーヴァントがいるのかはこの際関係ない。問題は、何故戦闘に突入したのかだ。理由は限られている。
おそらく、あの少年を助けるべく戦っているのだ――――!
ならば、ここであのサーヴァントがランサーに倒されるのは不利っ!!

理屈をこね回した凛が出した結論は、なんてことはない、あの少年を助けたいという純粋な思いだった。

凛「くっ」

間に合うかどうか。凛は子供が銃を真似るように手を突き出して、人差し指をランサーに向ける。ガンド、と呼ばれる初歩の魔術であった。

直衛「待て、凛。何をする気だ?」

凛「どうもこうも、止めるのよ!!」

直衛「宝具の開放をか? それは得策じゃない」

凛「どういうこと!?」

直衛「興奮するな。ここでアイツの宝具を見ておけば、僕たちはあれだけ欲しかった情報を手に入れられるんだ」

凛「……!」

直衛「あのサーヴァントには、人柱になってもらう。ああ、まさに英雄じゃないか」

凛「それでいいの?」

直衛「もちろん僕は……」

新城は凛の瞳を見る。それは懇願の光ではない。強い眼差しだ。
あの少年を助けるには、ランサーを止めるしかない。
だから助けて、という願いではなく。
だから助けましょう、という思い。
このように空想的な善は、新城にとって黄金にまみれた吐瀉物に過ぎない。しかし――――。

直衛(くそったれ。なんでこうなるんだ。僕は。僕の小ささがよくわかってしまう。くそ、手が震えてきやがる。噛み殺せ)

何度目のため息だろうか。直衛は意を決した。
所詮、ここでの戦いは《皇国》も《帝国》もない、新城直衛という個人にとっては死すらないような幻想に過ぎないのだ、と言い聞かす。

直衛「凛はここにいろ。僕と千早で何とかする」

凛「え……でも」

直衛「マスターに死なれては僕も消えしまう」

直衛「そして、これは僕の戦争だ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

それまでの空気を破壊し、進撃する魔獣・千早。咆哮と共に駆け出した巨体にはどれだけの破壊力があるのか、見当もつかない。

ランサー「忌々しい魔描め!!」

それまでの構えを解くと、千早の突進を軽やかな跳躍で躱す。そのまま屋敷の屋根に飛び乗ると、憎悪と侮蔑のこもった目を直衛に向けた。

ランサー「一度ならず二度までも……。――――はぁ、興が削がれたぜ」

槍を肩に回し、先ほどとは全く違った、緊張感のない声が漏れる。

ランサー「セイバー! この戦いは預けたぞ! そして猛獣使い、いやライダー。貴様は我が魔槍によって必ず滅ぼす」

直衛「オフィサーだ」

ランサー「なに?」

直衛「オフィサーのサーヴァント、新城直衛」

ランサー「……ふん」

ランサーは音もなく夜へ消える。千早はただ闇を睨んで唸っていた。

???「なっ…まてランサー! 騎士の戦いに背を向けるのか!!」

吠えたのはサーヴァントだった。そして答えたのも、またサーヴァントであった。

直衛「手負いの相手に正々堂々と殺し合いを求めるのが騎士か。さすが英雄だ」

???「き、貴様!」

凛「やめなさいよ直衛!!」

直衛「これは失敬。ただ素敵な戦争の手並みだと思ってね」

???「貴様、殺人狂のたぐいか」

直衛「うん。そうだろうな。人殺しは大好きだ。戦争の次に」

弛緩した空気が再び緊張していく。まさか、助けに入るつもりが一触即発の事態に陥るとは、凛も予想できるはずがなかった。

凛「直衛、やめて。そっちも剣を収めなさいよ、マスターはどうしたの?」

???「……確かに、さきほど助けられたのは事実だ。そちらにその気がないのなら、この場はひこう」

凛「ええ、全くないわよそんなの。そうよね、直衛?」

直衛「僕自身が何かを決めることはないよ、凛」

凛「……」

凛(なんとか、丸く収まった……)

安堵して胸をなでおろす。恐らくは最優のサーヴァントであるセイバーと事を構えるのは絶対に避けたかった。

凛「で、あなたはセイバー?」

???「名乗られたのであっては、応えなければ騎士の沽券に関わる。その通りだメイガス。私はセイバーのサーヴァントだ」

凛「そ。じゃあセイバー、あなたのマスターは?」

セイバー「それは……」

???「おおーい」

凛「……まさか」

セイバー「彼が私のマスターだが、どうした?」

直衛「……可能性とは、本当に害悪だな」

衛宮士郎「なにが、どうなってるんだ?」

今回の投下は以上です。
隔週くらいを投下の目安に、分量はだいぶ減りますが定期的にやっていきたいと思います。

乙。前スレも見てたよ、期待してる。

>>25ここで突撃するシーンが『らしくて』やっぱり素敵だわwww

小説版の新城さんってどこがチビなんだよってくらいにガッシリしたおっさんだよな
別に小説と漫画どっちも好きだけどね

超期待してる

ヤクザからかったり、自衛隊から盗んでじゅうもたせたらどう

遅くなりました。投下します

衛宮士郎に事の顛末を説明するのは、容易であった。
彼もまた、はしくれではあるものの「魔術師」だったのだ。土壌があれば、吸収することは容易い。

凛「ま、話はこんなところよ」

士郎「聖杯戦争…そんなものがこの街で」

凛「事実よ。そして、私もあなたも聖杯に選ばれたマスター、つまり殺し合う敵同士ってこと」

士郎「俺と遠坂が?」

そんなやりとりを見て、直衛はイラつきを上手く隠しながらも、鬱憤を募らせる。
凛は言う、「敵だ」と。
なら今この瞬間はなんだ?
我々は捕虜になったわけでも捕虜にしたわけでもない。「敵と戦わないでいる」という奇妙な状況。
直衛にはそれが許せない。セイバーとかいうサーヴァントが目を光らせている限り、あの男を不意打ちで無力化することはできないだろう。
しかし、それならば一刻も早くここを離脱するべきだ。

直衛「凛、もういいだろう。早くこの場を去るんだ」

凛「直衛?」

直衛が凛の耳元で囁く。

直衛「僕ではあの剣士に勝てない。ならば、見逃してくれているうちに去るしかないだろう」

凛「それはそうだけど……」

チラリ、と凛は士郎を見る。そして頭を抱えて悩み、その答えを言い放った。

凛「でも、あんまりにもフェアじゃないんですもの」

凛「衛宮君、教会に行くわよ。イレギュラーであるあなたが、この聖杯戦争に正式に参戦しているのかも怪しいしね」

直衛「凛!!」

凛「ちょっと、耳元で叫ばないでよ! ……うん、分かってるわよ。でも、もしかしたら衛宮君は不幸にも巻き込まれた一般人、かもしれないじゃない」

直衛「一般人は魔術なんて使えないよ。それに一般人なら尚更、奇跡の秘匿のために抹殺すべきだ」

セイバーが、腰に下げる剣に手を掛け睨む。

セイバー「貴様、今何をするといった?」

直衛「君は少し黙っていてくれ。これは一般論の話であって、今ここで起きているものとは違う。そのくらいは理解して欲しい」

セイバー「私を馬鹿にしているのか……?」

場は、一気に一触即発の雰囲気と逆戻りする。
千早が唸りは、セイバーの眉間を嫌でも険しくさせた。

直衛「……凛、この状況がわかるか? 今まさに僕らは殺し合いをしようとしている。こんなものなんだよ、残念ながらね」

直衛「これをどうにかすることはできないし、もし諍いがなくなるとしたら、それはどちらかが声を上げなくする時だ」

直衛「僕もまったく、悲しいものだとは思うけどね。世の中とはこんなものだ。争わずに終わる対立などない」

セイバー「……心にもないことを言うのだな」

直衛「ほう。しかし後半は本心だよ。まったくの摂理で、悲しいなどと思う暇はないほど、それは自明だ」

ふたりのマスターを飛び越えて、サーヴァントの会話は進む。
それも悪い方向にだ。
刃こそいまだ鞘に収められたままだが、両者の間には剣戟に匹敵する攻撃的な殺気が渦巻いている。

そんな流れを破ったのが、凛だった。

凛「あーもう、煩いわね!! 直衛、もういいわ。あんたは黙ってなさい!」

直衛「しかし凛…」

凛「黙ってろっていってるでしょうが! いい? マスターは私! 私の決定はあなたの決定なのよ!」

直衛「そんな理屈は通じないぞ。僕は断固として譲らない」

凛「ああそう。分かりました。言って聞かないなら実力で服従させてあげるわ!」

凛「―――令呪を以て命ずる。サーヴァント・オフィサー」

渦巻く魔力。発動した魔術。あたりを明るくする赤き光芒。
直衛はそれの、話だけは聞いていた。マスターに許された三つの魔術式、令呪。
破格の魔術を提供する聖杯の恩恵であり、聖杯戦争を有利に進めるために、よく考えて使わなければならないもの。
直衛は確かに、そう聞いていた。

直衛「ちょっと待つんだ凛! 短慮が過ぎるぞ!」

凛「煩いっ!」

直衛「それはそんな簡単に―――」

凛「《上官の命令は、絶対》!!!」

…………
……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

およそ、三十分後。

直衛「落ち着かれましたか?」

凛「やってしまったわ……貴重な令呪をあんなことに」

令呪は、その内容が明確であればあるほど高い効果を発揮する。例えば、「今すぐA地点に来い」と言ったような指示だ。
しかし逆に言えば、その内容が曖昧であればその効果も薄くなる。
結果、さきほどの令呪はほとんど意味のない物となってしまったのだ。

凛「それと直衛…それやめてよ。絶対楽しんでるでしょ」

直衛「何のことでしょうか? 遠坂殿は《上官》なので当然でしょう」

凛「ああもう謝るわよ。ごめんなさい、私が考えなしでした」

直衛「……ふん、君の愚行については後々考えるとしてだ。今は君に従おう」

凛「え?」

直衛「どうやら僅かであっても令呪の効果はあるらしい。残念ながら、君を殺してまで命令に背く気はない」

凛「……ってことは、アンタ―――」

直衛「誤解しないでくれ、直接手を下したことはない。僕は軍人だからね」

凛「今、はじめてゾッとしたわ……」

士郎「ええっと…話は収まったかな、遠坂」

呑気な声が聞こえてくる。直衛はそれを聞いた瞬間、合わないな、と直感した。

凛「ええ、お待たせしたわね……って、アンタの事で揉めてたんでしょーが!」

士郎「うお!?」

凛「こっちは話を着けたんだがら、衛宮君はそっちのセイバーを何とかしなさい!」

凛の凄まじい剣幕に押されて、士郎の額には理由もなく汗が流れた。

士郎「お、おう……。ってワケで、セイバー……さん?」

セイバー「シロウ。あなたは私のマスターだ。セイバーと呼んでください」

シロウ「じゃあセイバー。その隠す気のない殺気を引っ込めてくれ。遠坂たちに戦う気はないらしい」

セイバー「しかし……」

セイバーの鋭い視線は、直衛を捉えて話さない。
それを馬鹿馬鹿しいとは思いながらも、直衛は釈明する。

直衛「心配しなくても、こちらからは何もしない。《上官の命令は絶対》だからな」

セイバー「その言葉に偽りはないのか」

直衛「生憎、僕は軍人だ。命令に背けるほどの権利もなければ、行いを正すだけの義務もない」

やれやれ、と直衛はため息をついて首を振る。
なぜ自分がこのような講釈を行わなければならないのか……。
直江の頭にはその不満しかなかった。
が、とりあえずはこれで丸く収まるだろう。実際に、セイバーからの殺気は減衰し、千早も臨戦態勢を解いた。

セイバー「その魔獣、利口なようだな」

直衛「千早だ」

セイバー「……チハヤ、覚えておこう」

直衛「いやその必要はない。使うこともないだろうから」

セイバー「やはり、貴様は油断ならないな」

直衛「英雄殿には申し訳ないが、僕は伝記に残るような戦争をしていない。いつでも周りは、味方か味方以外か、それしかいなかった」

セイバー「胸を張って言えることか」

直衛「大いにね。少なくとも僕は、敵と如何に戦うかだけを考えられたのだから」

三度、セイバーの瞳が厳しくなる。
そんな事はどこ吹く風とセイバーを相手にしていない直衛の表情は、セイバーの敵愾心に油を注ぐようなものだった。

凛「はいはいそこまで! あんたら水と油ねホント…」

士郎「セイバー、抑えてくれ。遠坂とは事を荒げたくない」

セイバー「シロウ……分かりました」

場が静まったところで、直衛が切り出す。

直衛「さて、では教会に向かうとしよう。千早が前方の索敵を行う。凛は僕と千早の間だ。衛宮君は僕の後ろに。セイバー、君は殿で後方を警戒しろ。左右は各自、常に見張っておけ」

凛「なんであんたが仕切ってんのよ」

直衛「君に出来るのなら喜んで譲ろう、凛。それで死ぬ羽目にはなりたくないが」

凛「いやまぁ……っていうか、なんでそんな臨戦態勢なのよ」

直衛「サーヴァントはどこに潜んでいるのか分からない。闇夜の雪原で浸透作戦を行う気分だよ、これは」

凛「…よく分からないけど、そんな怖さは分かりたくないわね。オッケー、いいでしょ。衛宮君は大丈夫?」

士郎「いいよ、分かった。セイバーもそれでいいだろ?」

セイバー「あの男に指図されるのは気に入りませんが、シロウが良いというのならば、従います。作戦として間違ってはいませんし」

直衛「よし。これより教会を目指す」

虎。軍人。少女に少年。そして英雄。
まったく節操のない分隊が、完成した。
彼らは一路、この戦争を取り仕切る教会へと向かう。その最中で、何が起きるのかも知らぬままに――――。



隊列

千早 凛 直衛 士郎 セイバー

短いですが、ここで一区切り。
次はほんのりバトルパート?です。

>>40>>41>>44
ありがとうございます。頑張ります。

>>42
そこが書きたいがために始めたSSです。

>>43
風貌は漫画版を想像してもらえるとありがたいです。

>>45
現代兵器はサーヴァントに効きませんから、難しいですね…。


俺ホモじゃないけど漫画版の直衛はちょっと可愛いよね


俺ホモじゃないけど漫画版の直衛はちょっと可愛いよね

うっせえホモは黙ってろ

乙!マジで再開は嬉しいです!完結させて

サ-ヴァントが使ったら銃も効くよ

完結頑張ってください

お待たせしました。続きです。

既に夜も更けている。
衛宮邸のある和風な住宅街を抜けると、今度は遠坂邸のある洋風な町並みへと入る。そこの坂を登ったところにあるのが、教会だった。
まだ教会は見えていない。

士郎「そういえば、サーヴァントってのはみんな有名な英雄なんだろ? セイバーは一体、どんな英雄だったんだ?」

凛「みんな有名、ってのは分からないわよ、直衛みたいのもいるし」

セイバー「それは……」

凛「ああ、別に無理して言わなくてもいいわよ。どうせ明日には敵同士になるんだから」

セイバー「……士郎、申し訳ありません」

士郎「いや、別に構わない。ごめんな遠坂」

凛「なんで衛宮君が謝るのよ」

士郎「なんか遠坂を信じてないみたいな感じになってさ」

凛「べ、別にっ……」

凛はハッとして振り返る。直衛の表情が気になったのだ。
一見して和やかに見える会話を、彼が敵と断ずる相手としていたのだ。直衛は不機嫌になっているに違いない。
しかし、そこにあったのは別段何も気にしていない、いつも通りの仏頂面だった。
その視線に、直衛が気づく。

直衛「どうした、凛」

凛「いや、そのお……」

まるで「親に怒られるのが嫌な」顔をした凛を見て、直衛はふうと一息漏らし、答える。

直衛「明日には敵同士。そういう関係は悪くない。僕にもそういう友がいる」

僕は何を言っているんだ、と内心思いつつも、心にもないことを言った気はしなかった。
直衛にも敵として信頼する男がいる。

凛「…驚いた。直衛にもそんなことが言えるのね」

直衛「……僕をなんだと思ってるんだ」

凛「なんというか、悪鬼羅刹?」

直衛「僕は怖いものが嫌いなんだ。鬼だのなんだの、苦手な部類さ」

凛「同族嫌悪ってやつよ、それ」

直衛「手厳しいことを……千早?」

千早の異変に気づく。何かを察知しているようだ。しかし、それがいつもの様子ではない。
もしここが戦場ならば、千早は昂ぶりを感じさせる低い唸り声を上げているだろう。
だが今の千早は、明らかに怯えていた。
数千の敵を前にして、脳天気に直衛とじゃれつこうとする猫が、だ。
いつだったか、直衛はこんな千早を見たことがある。

直衛「……龍、か?」

龍族。大協約世界で人間と双肩をなす知的生物。超常的な導力を持つ生態系の頂点――――。
今では友人であるあの龍と出会った時、千早は一瞬ではあるが怯えていた。
その時の姿が重なる。

ドッ、と直江の顔に汗が滴る。
あの時でさえ、千早は龍を直で見てはじめて怯えた。しかし今はどうだ。
まだ視界にすら入っていない敵に、千早は怯えている。それだけの脅威が、近くにあるのだ。

――――とてもではないが、対処できない。

いや、そんな問題ではない。そんな脅威があるとすれば、間違いなく遭遇した瞬間に死ぬ。
死ぬのはゴメンだ。
だがどうする。
敵は近い。千早は怯える。おそらくは師団に匹敵するだろう敵。何ができる。何もできないのではないか。

凛「……直衛? どうしたの?」

直衛「凛……逃げろ、早く」

直衛は未だ恐怖と狼狽に苛まれる思考で、この状況を打破する術を考える。
要領は悪くない方だが、かといって特別頭が切れるというわけではない。ただ、彼には戦争に鼻がきく。

直衛「作戦を伝えるぞ、凛」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

直衛「と、いうわけだ。分かったか?」

凛「分からないわよ!!」

一瞬の反応である。

直衛「……」

凛「千早が、敵のサーヴァントを感知したってことは認めるとして、なんで私とアンタが別行動なの!」

直衛「それが最善だ、今できることの」

凛「それに散々言い放題言っといて、衛宮君達を頼ろうっての?」

直衛「敵であっても信頼できる友がいると、言っただろう」

これは嘘だ。直衛は士郎を薬にも毒にもならない人種だと断じているし、騎士などという物の誇りを信じるほど耄碌していない。
しかし、騎士に限らず宗教人の愚直さ、その愚かしさは分かる。それを信じているのだ。
彼らのように誇り高い人間は、簡単に落ちる。

直衛「セイバー殿。数々の非礼を詫びる。私はここで九死に一生にもならない、決死の策を行おうと思う」

これまでの野性的なギラつきは鳴りを潜め、今そこにいる直衛は礼節と忠節を体現したかのような武人であった。

直衛「しかし我がマスターを守るために、マスターを危険に晒すのは全く道理に合わない」

直衛「そこでだ。先程まであれほど敵対した貴殿に頼るという、恥知らずを許して欲しい。私は守りたいのだ、凛を」

本心なのか、欺く嘘なのか。
それは直衛にすら分からない。
しかし、少なくともその振る舞いと言葉選びに打算があったのは事実だ。

セイバー「……貴様を信用したわけではない。しかしオフィサー、貴様の気概は買おう。我が剣に懸けて、遠坂凛を守る」

直衛「痛み入る。もし再び生きて会えた時は、存分に私と戦って欲しい」

セイバー「オフィサー……」

馬鹿め。
しかしこれで武器が手に入った。直衛の算段は整う。

凛「直衛、あんた……!」

直衛「心配はいらない。策は万全だ」

そんなわけ無い。急ごしらえの欠陥品に過ぎない。北領の撤退戦の方が、まだ幾分か考える余地はあったように思える。
しかし、飲み込まなくてはならない。自分を疑いたくなる衝動を抑え、震えを[ピーーー]。

直衛「それに君たちに危険がないとも言えないのだ。これは共に危ない橋を渡る、そういう作戦だ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~

暗い街道。その脇に身を伏せ、直衛と千早は脅威を待った。
奇襲、圧倒的脅威に対してそれが最善の策である。ましてや相手は大軍ではなく、マスターとサーヴァントという限定された数だ。
ゆえにマスターのみを狙えば、簡単に終わる戦。考え様によっては、司令官を殺せば終わる戦闘など簡単な部類に属する。
もちろん相手に単独行動のスキルがあれば意味を成さない作戦だが、そこまで思考を巡らす余裕は直衛になかった。

……ズシン。……ズシン。
何かが。圧倒的な何かが近づいてくる。
焦燥。恐怖。色々な感情のこもった汗が、滝のように流れた。
いま、直衛の手には小銃が握られている。ランサー戦ではなかった装備だ。
彼がサーヴァントとして与えられた能力が「装備の選択」である。あまりに英霊としての基礎性能の低い直衛に与えられた例外的能力。
ナイフや軍刀、拳銃、小銃……その時に最適と考えられる装備を、彼は手にすることができる。
個人で扱える装備で、かつ同時に二つは扱えないという制約があるが、これでも他のサーヴァントから見れば破格の能力だろう。
その能力で「最適」と断じた小銃を握る手が、震える。
カタカタと音を立てて、顎が揺れる。
怖い。
くそ。堪えろ。
千早を見る。
万の軍勢を見ても呑気にあくびをする猫すら、今は怯えていた。それだけ、やって来るものが生物的に高位の存在なのだ。
常識的に考えて、不可能だ。そんな敵に攻撃を加え、あまつさえ勝利しようなどとは。
判断を間違えた。あの騎士様を捨て駒にして、教会に逃げ込むべきだった。
しかしそんな判断を、凛は許さないだろう。ならば凛だけでもこの場から逃げられた時点で、作戦は完了しているのではないだろうか――――。

……もう、逃げてもいいんじゃないだろうか。
そんな思考が直衛を支配する。
だがその考えはすぐに捨てた。迫り来る異形をその視界に捉えた瞬間に、そんなことはできないと悟ったのだ。

目の前の道を往くのは、文字通り巨人だった。
猛獣である千早と同等か、それ以上の体躯。地響きと共に歩みを進めるそれは、現実主義者の直衛にすら神話的な存在を感じさせる。

(こんなものに対抗するなんて出来るわけがない……そんなものは自殺志願だ)

震える歯がカチカチと音を立てる。うるさい。気付かれたらどうしてくれる。
引き金にかけた指を離せない。拍子で撃ってしまったら危険だ、すぐに離せ。

どれも、頭ではわかっていた。しかし、直衛にそれはできない。
自ら臆病者と評する彼は真実、肝が小さいのだ。普段は豪胆に振舞っていても、ここぞというとき、彼は震え上がる。
そして、今この状況は、彼を震え上がらせるのに十分だった。

(くそ、サーヴァントとは勝手が悪い。相手の大きさが透けて見えてしまう。これがいつもの、あの、戦争ならば)

恐怖におののく彼の目が捉えたのは、巨人の肩に腰掛けた少女だった。
(あの少女がマスターか?)
そうとしか考えられない。
すでに巨人は直衛たちが伏せる地点を通り過ぎており、照準はその背中に向けられていた。

その射線を、すこしずらす。
直衛は思い出した。そもそも敵のマスターを倒すのが作戦だったのだ。サーヴァントに圧倒され、根幹を見失っていた。
あの少女を殺せばいいのだ。それならばいつもと変わらない、後味の悪さだけが残る勝利に他ならない。

「フーッ、フーッ…」

息が漏れる。一撃必殺であの少女を殺さなければ、死ぬのはこっちなのだから緊張もする。
直衛は思考をやめた。ただ教練の日々を思い出し、最適の射撃をしようとする。大丈夫だ、人殺しの手管には長けているのだから。

撃つ!

そう思って指先に力を込めようとした、矢先だった。
少女がポツリと、呟く。

?「……私、鬼ごっこは嫌いじゃないよ」

直衛の血が一気に冷える。少女は振り向かずに続けた。

?「でも、かくれんぼは好きじゃないの」

直衛「千早!!」

少女の声が早かったか、直衛の声が早かったか。呟きに瞬時に反応して、直衛は千早にまたがった。

直衛(くそ、気付かれていた! いつからだ? ああそんなことはどうでもいい。とにかく見つかった!)

千早が龍もかくやという速度で飛び出す。直衛に振り向くほどの余裕はなかったが、一瞬にして距離が詰められることはないだろう。
サーヴァントとして強化された千早に追いつける存在は、直衛の中に現時点で存在しない。

直衛(ここでマスターを殺せなかった……だが次の作戦がある。セイバーをぶつけるんだ。奴が思い通り動いてくれさえすれば……)

思い描いた作戦。
それは第一に、直衛自身が敵を倒すこと。
第二は、第一の策が失敗した時の保険だ。敵を誘導しセイバーと会敵させる。そして凛を乗せ離脱、中立地帯に逃げ込む。
あのセイバーのことだ。もし敵を見つければ、尻尾を巻いて逃げるなど出来はしないだろう。

疾風となって進む千早は、すぐに凛たちに追いつく。

凛「え、千早!?」

直衛「凛、敵が来るぞ」

それだけ言って、直衛はようやく振り返ることができた。

?「逃げ足の速い猫ね」

驚いたことに、その巨人は直衛が思うよりずっと敏捷だった。現に千早の最高速でも振り切れず、奴は15mほど後方にいた。

?「こんばんわ。私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。この子がバーサーカーよ」

その巨体、荒々しさ、瞳……確かにそのサーヴァントは、狂戦士と言って違和感がなかった。

セイバー「くっ…シロウ、下がってください!」

羽織っていたカッパを脱ぎ捨てて、セイバーは剣を構える。

イリヤ「今日はそっちの猫さんに免じて帰ってあげようと思ったけど…。そっちがその気なら、…いいわ。やっちゃえバーサーカー!」

バーサーカー「■■■■■■ーー!!」

咆哮。生物のものとは思えない、衝撃すら伴った声だった。その音とともに、大地を割りながらバーサーカーが突進する!

セイバー「ハアアアアアア!!」

その突撃と真っ向から対峙し、巨大な石斧を受け止めるセイバー。彼女の細腕に、そのような力が詰まっている……ここにきて直衛は、神秘というものを直に目撃した気がした。
しかしいかに最優のサーヴァントといえども、相手は千早すら凌ぐ巨体だ。パワーの差が現れた。
何合か打ち合った末に、セイバーはバーサーカーに弾き飛ばされる。相手の力を利用し後ろに飛んだ、という形だが、それはがっぷりと組んで切り結ぶことに若干の不安を抱いたことにほかならない。

間違いない。ほどなく圧倒される。直衛はそう判断した。
だからここからの判断は、既に下されている。

直衛「凛、千早に乗るんだ」

凛「ちょっといきなり何よ!?」

混乱する凛を、直衛は強引に引っ張って傍らに寄せる。

直衛「決まっているだろう、僕たちはこの場から離脱するんだ。セイバーなら少しの間、時間を稼いでくれるだろう。その間に中立地帯まで千早を走らせる」

早口に凛に告げる。しばしの間、直衛が何を言っているのか理解できなかった凛だが、それを飲み込むと彼女の感情は爆発する。

凛「アンタ、衛宮君を見捨てる気なの!?」

直衛「だったら衛宮君も乗せていこう。しかし後詰が必要だ。その為にセイバーを……」

少し直衛は言葉を濁す。自分の部下たち…北領のとある要所に立てこもり時間を稼いでくれた兵たち。その姿にこの英雄が重なってしまうことを、どことなく許せなかった。

直衛「とにかく、ここを離脱するんだ凛」

凛「で、でも……」

直衛「ここでセイバーが倒れれば、彼もこの戦争に関わらないで済む。僕たちにとっては、敵が一人消える。策としては上々だ」

凛「……」

直衛「……ならば、僕も残ろう。それなら共同戦線の面目は立つ。それでも駄目か」

凛「直衛!?」

血迷っているな、と思う。だが、これも経験したことだ。本丸を逃がすために捨て駒に使われる。なるほど、これは慣れたことだ。

直衛「千早!」

呼びかけに応える魔獣。直衛はその愛猫に、凛を跨らせる。凛は不服そうだが、しかし反抗もしない。いや出来ない。
直衛の論は正しいし、本来ならマスターである自分が言い出してもおかしくないような事なのだ。

さて、次は……

直衛「衛宮君!君も乗るんだ!」

振り返ったとき、そこに衛宮士郎はいなかった。さすがの直衛でも、これは驚愕せざるを得ない。
見回す。逃げた?しかし見当たらない。もしや……。
嫌な予感は的中した。あろうことかあの馬鹿は、死地へ――――セイバーとバーサーカーの間合いに――――飛び込もうとしている!

何故だ。正義感か。皆目見当がつかない。
しかし知っている。この行為の行く末は知っている。彼は死ぬ。それは予想だ。しかしその後は、こちらの計画が崩されることになる。これは経験だ。
あの馬鹿野郎、死にたいのか。死ぬのなら勝手に死ね。だが今死なれては、こっちの作戦すら瓦解させる――――!

直衛「千早!!アイツを行かせるな!」

本来なら、単純なgo&stopしか命令できない剣牙虎に対してこのようなことを言う直衛ではない。
しかし今ならば、この身ならば出来ると思った。直感がある。今や千早と直衛は、どの戦場にあるよりも一心同体になっている。

猛烈な勢いで飛び出した千早はすぐさま士郎に追いつき、彼を押し倒す。とはいっても、優しくだ。千早の強靭な足では、簡単に人間を殺してしまう。

士郎「!? くそ、なんだよ離せ!」

凛「ちょ、ちょっと落ち着いて衛宮君!」

千早の上にしがみついていた凛が声をかける。そこに駆けつけた直衛も士郎に声をかけるが、それは怒号だった。

直衛「何やってる! お前は死ぬ気なのか!?」

士郎「セイバーを助けないと!」

駄目だ。支離滅裂だ。

直衛「……なんだこの大馬鹿は。目眩がする。衛宮士郎、自死するのならば戦闘が終わってからにしろ」

士郎「だけど……女の子が戦うなんて駄目だ、駄目なんだ!」

直衛「それが馬鹿にしているのだと言っている。ひとたび剣を握り銃を執れば、それは一個の戦闘単位になるだけだ。男も女も、この世界ではただ殺すべき対象だ」

自分の側に使える秘書や、《帝国》の姫君を思い出す。
流麗な剣捌き。貧弱な体躯を使いこなす技術。その全てをこの男は馬鹿にしたのだ。
怒りはない。ただ、衛宮士郎をもはや個人と認識する気はなくなった。

直衛「千早……そのどうしようもないのを咥えて、走り抜け。教会はあっちだ。くそ、いまセイバーに消えてもらっては困るからな……」

坂の上を指差す。千早は首をかしげ、「本当にいいの?」と聞き返しているようだった。

直衛「いけ!! 腕の一本なくなっても構わん!」

士郎の服を甘噛みし、まるで子猫を運ぶ猫のように千早は走り出した。そのスピードは、全力の6割ほどであろうか。
あの少年は乱暴に扱われ、路面に体を打ち付けて打撲や骨折をするだろう。知ったことか。
あれはもはや、セイバーを現界させておくだけの機能に過ぎない。

セイバー「シロウ!?」

こちらの異変に騎士が気付く。しかし、時は既に遅かった。
後ろに気を取られた一瞬の隙を付き、セイバーをバーサーカーの一撃が襲う!

セイバー「しまった!!」

.
.
.
.
バアアン!
.
.
.

しかし響いた音は、斬撃の音でも、破砕の音でもない。
まごう事なき、銃声。

直衛が撃った。もちろん、イリヤスフィールを。
それにいち早く反応したバーサーカーが、少女の盾となる。弾丸は黒い肌に激突したが、なんら傷ついてはいない。

直衛「嫌だ嫌だ、本当に嫌だ。英雄なんてものは絶対に嫌だったのに」

《皇国》陸軍中佐、新城直衛。
その顔は決して、死にゆく者のものではなかった。




今回は以上です。ご都合主義に性格崩壊、まったく申し訳ないと思っていますが、引き続きお楽しみいただければ幸いです。

>>55
確かに漫画版の直衛は可愛げがあると思いますw

>>58>>60
ありがとうございます。ご期待に添えるよう頑張ります。

>>59
そうでしたっけ?
サーヴァントが元々銃を持っている(Extraライダー)、もしくは宝具化する(zeroバーサーカー)くらいしか、印象に残っていないので……申し訳ありませんがご都合主義で解決させていただきました。


サーヴァントは神秘の宿っていない攻撃にはダメージがないですが、神秘が宿れば石でもダメージが通ります(例として、Apのダビデなど)
例え、サーヴァントが使っても神秘が宿らずでは意味がないですが、サーヴァントの身体能力と現代兵器の長所を知れば、マスター殺しで新城は使いそうだな、っても思います。もしくは爆弾特攻もしそうですね

苦虫噛み潰した様な顔でヤダヤダ言ってる直衛が見える

続き来てたー!ヤッター!

>>77
そのわりには、何の変哲もないコンクリート塀にぶつかっただけでダメージ受けてたりするけどな

大変遅くなって申し訳ありません。少々リアルが忙しかったので、あまり書けませんでした。
年内に終わるかなぁ……

それでは投下します

バーサーカーがイリヤを守るために硬直した僅かな時間。
一秒にも満たぬ刹那に、直衛は次の行動に移っていた。

直衛「セイバー! こちらに来い、衛宮君を守るんだ!」

でまかせ、ブラフ、嘘八百。新城直衛にそんなものは何の価値もなく、ただ使われるべき手段に過ぎない。

セイバー「っく!」

直衛の言葉に従って、苦虫を噛み潰したような顔をしながらだが、セイバーは後退する。いや、前進する。
僅かな時間、一秒に満たぬ刹那。その間に、イリヤの前から女騎士の姿は完全に消え去った。

イリヤ「……面白いじゃない」

少女の顔が美しく歪む。狂気のゲームに身を委ねた彼女の瞳が、毒々しいほどに赤く輝いた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

バーサーカーから上手く逃げ、暗い路地に入ったセイバーと直衛。
そこで直衛は、作戦を告げた。

直衛「いいな。目標は奴の撃破でなく、教会までの進軍だ」

撤退なのに進軍。前進なのに後退。追われながらにして拠点に戻らず、なお目標地点に進まなければならないという奇妙な状況であった。
しかし直衛は、あくまで冷静に作戦を立案する。

直衛「以上が作戦だ。異議は認めない。疑問だけ言え」

セイバー「そのような無様な真似を……!」

直衛「聞いた僕が馬鹿だった。いいか、我々は言うなれば殿だ。君も戦争をしたことがあるなら、分かるだろう。殿の目的はなんだ?」

セイバーの答えを待たずして、直衛が続ける。

直衛「無論、追っ手の撃破ではなく本丸の脱出だ。そしてその本丸が脱出した以上、殿が戦闘を続ける意味はない」

直衛「我々は既に任務を達成している。あとは必死になって、逃げるだけだ」

セイバー「敵を前にしておめおめと逃げるのか、オフィサー」

直衛「この場合敵がいるのは我々の後ろだが」

セイバー「言葉遊びをっ……!」

直衛「いいか。君の誇りや信念など戦場では何の意味も作れない想念に過ぎない。我々に必要なのはなんだ? それは聖杯だ」

直衛「誇りが欲しければ決闘でもやって勝手に死ね。しかし君が死ねば僕も死ぬ。それは嫌だ。だから逃げるのだ」

セイバー「戦士にも関わらず、死を恐るというのか。そのような者が戦おうなどとは、お前の時代は度し難い」

直衛「理解してもらおうなどとは思わない。だから僕はこの話に時間を割かない。いいか、君が死ねば衛宮君も死ぬ。これだけは理解しろ」

セイバー「…………」

直衛「君にも叶えたい願いがあるはずだ。その為に、呼びかけに応えた。ならば、その目的を果たせ!」

セイバー「……分かった。この場は従おう」

剣を握り直すセイバー。それを見て直衛は少し驚いた。

(この騎士を説き伏せるには時間がかかると思ったが……願いとやらが大分、重いようだな)

直衛「ではセイバー。作戦は今伝えた通りだ。頼んだぞ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

イリヤ「見つけたわよ」

巨大なバーサーカーを前にして、セイバーはあまりにも小さかった。しかし、その矮躯から滲み出る覇気というものは、なるほど、英雄のそれである。

イリヤ「あなた一人だけ? 兵隊さんは逃げっちゃったんだ……つまんないの」

セイバーはただ沈黙して、刃を構えるだけだ。

イリヤ「……まぁいいわ。まずはあなたから殺してあげる!」

少女の無邪気な叫びとともに、バーサーカーが前へと飛び出す!
振り上げられる石斧。それに応えたセイバーの不可視の剣は、轟音とともに巨大な石塊を受け止めた。
一合、二合……剣戟が続く。
その内容はほぼ互角だが、パワーの差が若干のアドバンテージとなり、バーサーカーは常に優勢である。
このままでは、ほどなく押し切られる……!

その時である。再び銃声が響いた。しかし、今度は直衛の姿が見えない。
バーサーカーはマスターであるイリヤを守るため、ほんのわずかの間、硬直することを免れない。
そのほんの僅かな隙をついて、セイバーが後退(実際には前進)する。バーサーカーとの距離は見る間に開いた。

イリヤ「~~~~~っ!!」

少女の顔が苛立ちで歪む。それを見ていたかのように、暗がりから直衛の声だけが聞こえてきた。

直衛「鬼ごっこ、とやらが好きなんだろう?」

それだけの呟き。一瞬にして虚空に吸い込まれた呟き。しかし、少女の闘争心に火を点け冷静さを失わせるには、十分だった。

イリヤ「面白いじゃない!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

作戦はいたって簡単だった。
セイバーが足止めをする。直衛は十分に距離をとって、イリヤを狙撃する。
それで少女を殺せれば、御の字だ。しかし十中八九、バーサーカーによって防がれてしまう。
しかしその一瞬の硬直時間に、セイバーは教会に歩を進める。
直衛も同じように走るが、セイバーよりは遅いので少し進んだ所でセイバーに追いつかれる。
その地点で再びセイバーがバーサーカーを足止めする。その間に、直衛は距離を稼いでまた狙撃を行う……

単調なストップ&ゴーを繰り返す、遅滞作戦であった。撤退戦の王道のような戦い方である。
二度か三度か繰り返し、もはや教会は目と鼻の先になった。
しかし、ここで予想外の出来事が起きる。起きてしまった。

バーサーカーが、跳んだのだ。
その強靭な脚力を持ってすれば、数十メートルのジャンプなど出来ないはずはない。
結果としてバーサーカーは、直衛たちの頭上を通り過ぎて、より教会に近い地点へと着地した。
直衛の戦ってきた世界にはなかった、三次元的な戦法。もはや教会へは目と鼻の先、一本道を駆け上がるだけだった。
一本道。だがそこに容易には排除できない障害が、立ち塞がっている。

イリヤ「もう終わりかしら、兵隊さん?」

直衛「前方に何か着弾したかと思ったら、まさかな……」

直衛は唖然としている。しかし冷静さは保っているようで、傍らのセイバーが安易に戦闘へ突入しないよう牽制していた。

イリヤ「中々面白かったわ。でももう飽きちゃった」

直衛の表情は暗い。目的地を前にして、強大な敵が目の前に現れた。絶望する他ないこんな状況だが、直衛は必死に考えを巡らせ、何か策を講じようとしている。

.
.
.
.

―――――――――――――――――――――いや。

.
.
.
.

正確には違う。

正確に言うなればそれは『必死に考えを巡らせ、何か策を講じようとしている表情を作っている』だった。

三次元的な戦法。戦場を盤面ではなく空間として活用する戦術は、確かに直衛の時代にはない。
しかし直衛は、その片鱗を知っていた。
堅牢な要塞に立てこもった直衛たち皇国軍を、一撃で粉砕した姫君の戦術だ。
龍に爆弾を運ばせ、敵の頭上に落とす。それだけのことだが、その発想は型破りで、直衛ですら狼狽せざるを得なかった経験。

それが活きた。
戦術として確立されたものではなかったが、その発想を頭の片隅に留めておけたおかげで、現在の状況にすら彼は既に対応している。

直衛「セイバー!」

直衛が叫ぶ。それに呼応して、セイバーが駆け出す!

イリヤ「何も考えつかなかったの? ……がっかり」

バーサーカーの眼前に迫るセイバー。それを気だるそうに見て、イリヤはバーサーカーに命じた。

イリヤ「もういいやバーサーカー。殺しちゃって」

バーサーカー「■■■■■■■■!!」

狂人の咆哮が響き、それと同時に薙ぎ払われる巨大な石斧。ただ直進するセイバーにとってそれは、命を刈り取る死神の鎌だ。
そう、直進すれば。

セイバー「ハアアアア!!!」

進むでも、切り結ぶでもない選択肢。セイバーもまたバーサーカーと同じく、跳躍したのだ。

イリヤ「っ!?」

バーサーカーの一撃が空を斬る。
直進するセイバーがいたであろう空間は、突風のような一撃によって薙ぎ払われたが、そこにセイバーはいない。
規格外の脚力、そして魔力のブースター。彼女は今、遥か頭上を飛んでいる。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

直衛「いいか、セイバー。もしバーサーカーが僕たちを追い越し待ち受けていたら、君はあらん限りの力で跳躍するんだ」

セイバー「跳躍……だと?」

直衛「そうだ。バーサーカーをやり過ごし、その頭上を行け。奴と十二分に戦える君が逃げることに徹すれば、可能なはずだ」

セイバーは考え込み、そして結論を出す。

セイバー「可能だ。武具を編む魔力を開放すれば、出来なくもない」

直衛「よし、では作戦を伝える」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

こんなやりとりが、実は事前になされていたのだ。
敵がまさか上から降ってくるとは直衛も思っていなかったが、しかしこちらが上を行く作戦は考えていた。
この男の恐ろしいところは、戦争の勘でも非情さでもなく、敵の戦術をすぐさま利用できるような適応力にあるのかもしれない。

イリヤ「可哀想。兵隊さんは見捨てられちゃったみたいね」

直衛「心配ない。僕も続く」

そして先ほどのセイバーと同じように、直衛も全速力でバーサーカーに向かっていく。
違う点はひとつ。彼の手には銃剣が握られ、戦う意志を持っている点だ。

イリヤ(同じ手を二度とは喰わない……っていうのを見越してる。このサーヴァント……!)

直衛がバーサーカーの戦闘領域に侵入する。
その瞬間、直衛の握る小銃は石斧によって粉々に砕かれた。

しかしそんなことは意に介さない。すべきことは一つだ。
跳躍。それしかない。
直衛は力の限り大地を蹴り飛ばした。

悲しいことだが、直衛の身体能力は強化されているとはいえ、生身であったときは少々戦闘慣れしている程度に過ぎない。
自然、彼の脚力がバーサーカーやセイバーに及ぶことはなかった。ゆえに、その跳躍は跳躍と言えず、ただバーサーカーの目線より高く飛んだだけであった――――。

イリヤ(銃剣にこちらの意識を向けさせて、その隙にバーサーカーを飛び越え、あとは全力疾走……ってとこかしら。残念)

バーサーカーはいち早く反応する。

左手で石斧を持ち、銃剣を薙いだ。なので左手は今、振り切った状態にあり石斧は使えない。
しかし右手が空いていた。
その握り拳は、同質量の鋼すら及ばないほど硬質であり、同体積の爆薬より破壊力を秘めている。
そんな右手が直衛を襲った。

バーサーカー、その頭の上に滞空していた直衛に、凶悪な右拳が迫る。
どうする。避けるか、受け流すか。直衛はどうする。

直衛は何もしなかった。ただその拳を受けてしまった。

.
.
.

響いたのは、甲高い音だった。決して、鈍くなどはなかった。

.
.
.

ここで話を変えよう。
インヴィジブル・エアとは、セイバーの剣を不可視にしている魔術である。
風を操り光を屈折させることで、剣をみることは叶わない。また、その風の檻を解放することで、爆発的な推進力になったり、空気そのもので攻撃することもできる。
まさに第二の宝具とさえ言える能力だ。

バーサーカーの右手は、直衛に直撃してはいなかった。
まるで見えない何かに阻まれるように――――――――。

直衛「……ッ」

懐に抱えていたのは、まさに不可視の剣。セイバーのそれであった!
全ての衝撃を吸収する事まではできなかったが、接触面積が増えることにより圧力は軽減され、インヴィジブル・エアによってもある程度威力は減殺されている。
それでも直衛は宙高く舞った。
バーサーカーの拳によって吹き飛ばされる直衛。教会までの中間地点ほどにまで到達したか。

セイバーが跳躍してから、この間僅かに5秒。セイバーは跳躍中にもつぶさに直衛を確認しており、今まさにその時が来た。
インヴィジブル・エアを開放したのだ。
これにより中間地点までだった飛距離が、一気に増幅される!

加速をつけた直衛を、セイバーは空中でキャッチする。
そしてそのまま、教会へと突っ込んでいった……。

―――――――――――教会―――――――――――――

綺礼「つまるところ、お前たちのサーヴァントは外で戦闘中ということか」

凛「この子を除いてね……」

千早がグルルと唸る。その傍らには、ボロボロになった士郎が床にヘタリこんでいた。

士郎「し、死ぬかと思った……」

しかし放心も束の間、士郎はすぐにその瞳に光を取り戻した。

士郎「セイバー! セイバーはどうなったんだ!?」

凛「落ち着いて衛宮君! 私たちが戻ってもどうすることもできないじゃない!」

士郎「だけど!」

凛「大丈夫よ、あんなんでも私のサーヴァントは、まぁ頭は切れるから」

士郎「オフィサーが……?」

凛「そうなのよ。だから案外、うまく切り抜けてひょっこりと教会に顔を――――――――」

出すわよ、とまでは言い切れなかった。轟音と衝撃が、教会内を満たしたからだ。

凛「何よ!?」

壁をぶち破り、何かが教会内に飛び込んだ。それは粉塵を巻き上げて、凛たちの視界には上手く写らない。

綺礼「何だというのだ、これは……」

やがてモヤが晴れる。そこにあったのは、セイバーに抱き抱えられた直衛という何とも奇妙な光景だった―――――――。

直衛「やれやれ……どうも格好がつかないな」

凛「直衛!? それにセイバー、あんたたちどうしたの!?」

士郎「セイバー、無事か!?」

お互いのマスターが錯乱しながらもそれぞれのサーヴァントに声をかける。

セイバー「私は大丈夫です。それよりオフィサーが……」

直衛「確かにこれは痛い。死ぬほど痛い。だが死んではいない。くそ、こんな目に遭ってまで逃げてやったんだ、もう僕は嫌だぞ」

凛「どうやら、大丈夫そうね……」

千早が直江の元に駆け寄る。主を心配しているようだ。

直衛「大丈夫だ千早。離れてくれ傷が痛む」

いつもならどうということもない千早のじゃれつきが、いまの直衛には堪えた。いかに直撃を避けても、あの一撃は彼の肉体を痛めつけている。

綺礼「……凛。それに新城中佐。これは後で説明してもらおうと思うが、とりあえずは生還を祝福しよう」

綺礼「よくアインツベルンのサーヴァントから逃げ延びた。ここなら安心だ、と胸を張って言えないがね」

その一言で、直衛の表情が変わる。
冗談じゃない。確かにここが絶対の安全領域だとは思ってもいないし、あの言峰という男も得体が知れない。
しかし、ここまでを目標に撤退戦を行ったのだ。少しは監督者としての責務を果たせ、このエセ坊主――――――。

再び轟音が響く。
飾りはないが重厚な正面扉が破壊された音だ。
そこにいたのは、予想通りバーサーカーとイリヤである。

イリヤ「もーー! 許さない! ここで絶対に殺すわ、軍人!」

可愛げのある言い方だが、まったく可愛げのない内容である。

綺礼「待てアインツベルン。ここは聖堂教会の領域だ。聖杯戦争は冬木の地の、この教会以外で行わねばならない」

イリヤ「だまりなさい、神父風情が。あなたから殺すわよ」

セイバーが直衛から剣を取り構える。士郎や凛も一応は身構えた。千早は生物としての本能から後ずさるが、決して直衛から離れようとしない。
まさに一触即発である。
そんな中で、直衛がスっと、何のダメージも感じさせずに立ち上がった。

直衛「イリヤスフィール殿、まだ続けますか」

今までの直衛からは、想像もつかいなほど温和で礼儀正しい物言いであった。

イリヤ「……あなたが一々小賢しい真似をしてくれた、そのお礼をするだけよ」

直衛「私は弱いですから。策を講じ無ければ、この遊びに勝てません」

イリヤ「遊び?」

直衛「『鬼ごっこ』でしょう?」

直衛「確かに私たちは、鬼から逃げ切ってみせた。確かに戦争ならあなたの勝ちでしょうが、この遊びは僕の勝ちだ」

イリヤ「……」

直衛「イリヤスフィール殿。この場は遊戯の勝者として、僕に報奨の一つでも下さって当然ではないでしょうか」

一同は、直衛が何を言っているのか分からなかった。
ただ、イリヤと直衛だけに通じる何かが、そこにはあった。

.
.
.

イリヤ「フフッ……」

直衛「……ハッ」

イリヤ「フフフフ」

直衛「ククククッ」

イリヤ・直衛「「ハハハハハハハハハハハハ!!」」

穴だらけの協会に響くふたり分の笑い声。片方は底抜けに無邪気に、片方は底なしに邪悪に。
二人は笑った。

イリヤ「……今日はここまでね。久しぶりに、楽しかったわ軍人さん」

直衛「それは何よりです、イリヤスフィール殿。出来れば、もうしたくはありませんが」

イリヤ「そんなこと言わないで、また遊んでよ……えーっと」

直衛「《皇国》陸軍中佐、新城直衛。この猫は千早です」

イリヤ「ナオエ! 今度はその猫さんとも遊ばせてね……私のヘラクレスが最高のおもてなしをするわ」

直衛「でしたら、聖杯を譲ってくれればいくらでも」

イリヤ「アハハハ!! バイバイ、ナオエ! それにお兄ちゃんも!」

そして少女は、バーサーカーを引き連れて夜の闇へと消えていった。

凛「…………何が何だか全ッッ然わからないんだけど」

静まり返った教会の中で、凛だけが何かを口に出せた。マスターとしての威厳か、なんとか場を整理したいだけなのかは、わからない。

凛「助かったわ……」

その言葉を聞いて、緊張の糸の切れた直衛は意識を失った。

今回はここまでです。

独自解釈として
①宝具は基本的にサーヴァントに帰属し、物理的に奪うことはできない→よって直衛にエクスカリバーを渡しても問題はない
②インヴィジブル・エアの特性
などをさせてもらいました。申し訳ありません。ランサーは何もない空中からゲイボルグを出していたので、出し入れ自由なら人に貸しても大丈夫じゃないかな?と思いました。

>>77
現代兵器はいつか、直衛に使ってもらいたいと思ってます。問題は調達ですね

>>78
きせずして英雄に「なってしまった」直衛にとって、こういう英雄地味た局面を任されるのは苦痛でしょうね

>>79
ありがとうございます

>>80
それはお約束ということで……


それでは、ありがとうございました。

乙です。続きを楽しみに待っていました!

乙!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年03月27日 (木) 23:18:09   ID: YqspFRRC

面白かった! 続きが楽しみです。

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