劉備「思えば凄いところまで来たもんだなぁ」 (21)

劉備「琢県の田舎で蓆売りしてた人間が今や漢中王だぜ?」

劉備「へっへっへ…現実味が無さ過ぎて夢かと思えてくるわ」

劉備「この酒を飲み干して目が覚めたら母ちゃんとの貧乏生活に逆戻りなんてさ」

劉備「そんなこともあるのかもしんねぇなぁ…あー酒が美味ぇ」

劉備「こんな陽気の中、昼から庭で酒を飲む。最高の贅沢だわ」

劉備「とても今が乱世だなんて思えねぇな……へっへこんなこと聴かれたら雲長にドヤされるな」

劉備「雲長かー…最近会ってないけど元気にしてっかなー」

劉備「翼徳も最近じゃあすっかり真面目になっちまったもんなぁ、立場ってもんを人を変えるんかね」

劉備「それだと俺が一番変わってないとおかしくないか?………まぁいいや酒美味いし」

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法正「こんなとこにおられましたか、劉備様」

劉備「うん?おう、孝直か。お前もサボリか?」

法正「違いますよ、仕事の途中に抜け出した我々の主君を探していたのです」

劉備「あー…そりゃあけしからんな…うん、本当にけしからん」

法正「えぇ全く。その御方は漢中王になられたというのに自らの立場というものを分かっておりません」

劉備「………へっへっへ、いやいやなんて奴だろね。顔が見てみたいわ」

法正「孔明殿も趙雲殿も探し回っておりましたよ」

劉備「子龍もかよ…あーあのな孝直、俺は最近とても忙しくてろくに酒を飲む暇も無かったんだ」

劉備「俺が今後も漢中王としての仕事をこなしていく上でこれは必要な休息なわけよ」

劉備「そういうわけだから見逃し…いやこれもある意味では仕事の内だから俺は休むぜ」

法正「先ほどご自分でお前もサボリかと言いませんでしたか?」

劉備「さっきまでは酒を飲んでサボってた、でも今は仕事だと意識して酒を飲んでる。この差はデカイぞ」

法正「ふっー…では私は酒のお供をさせてもらいましょうか」

劉備「俺が言うのもアレだけど孔明たちに言わなくていいのかよ、ぶっちゃけサボってるだけだぞ」

法正「最近の激務には私達も少し参ってましたし。孔明殿ですらお疲れのようでしたから殿は余計にお疲れでしょう」

劉備「うんうん、ここらでみんな休息が必要な時期だと思ってたんよ俺は」

法性「まぁ公明殿は劉備殿の百倍はお仕事してますけどね」

劉備「100倍は言いすぎだろ!せいぜい…98倍くらいじゃねーかな?」

法正「ふふっすいません、少々おふざけが過ぎましたね。劉備殿の前だとついつい饒舌になってしまう」

劉備「ほら、孝直。お前も飲め飲め」

法正「器も二つ用意していたのですね」

劉備「誰か暇してる奴を飲もうと思ってたからな、渡りの船とはこのことだ」

法正「それでは失礼して…うん、いい酒ですね。芳醇で甘い香りがする蜀の酒です」

劉備「へっへっへ…ここに住んでる人たちの酒らしい味だよな、味まで平和ボケしてらぁ」

劉備「でも俺はどこの酒よりもこの蜀の酒が一番好きだ」

法正「ええ私もです。たとえ甘ったるい味だと言われようとも、この酒だから私は好きなのです」

法正「たとえ裏切り者と謗られようとも…私はこの味を守りたい」

劉備「酒のためにそこまでするなんて相当な飲兵衛だなぁお前も」

劉備「まぁそいつにそそのかされて同族の土地を奪う不義不忠をしちまった俺のほうが何倍も悪党だけどな」

劉備「まぁそういうことだからあんま気にすんなよ。お前は策を練っただけ、実行に移したのは俺だ」

劉備「普段から何もしてねぇからな、せめて泥くらい被っておかないとみんなに示しもつかねぇし」

法正「実はそんなに劉璋殿を裏切ったことは気にしてませんけどね、民も望んでいたことですから」

劉備「お前なぁ…せっかく良いこと言った俺の立場ってもんを考えろよ」

法正「ただ一つだけいえることは貴方を私の主君として選んだのは間違いではなかった」

法正「それだけは確かですよ、劉備殿」

劉備「そんなら普段からもう少し俺に優しくしてくれもよくないかね」

法正「それはそれ、これはこれです。劉備殿、器が空になってますよ」

劉備「おっとっと…ありがとな。ふっ~しかし今日は最高の酒日和だなぁ」

法正「これだけ穏やかな陽気ですからね、劉備殿がサボりたくなる気持ちも分かります」

劉備「だろ?こんな日に部屋にこもって仕事なんてもったいねーよ」

法正「サボりたくなっても普通の人はサボりませんけどね」

劉備「そこで敢えてサボるのが劉玄徳という人間の凄さなんよ、へっへっへ」

法正「笑って誤魔化そうとしても無駄ですよ、この酒が空になったらまたお仕事に戻ってもらいますからね」

劉備「うぁっ!?おいおい休みも必要だって言ってたじゃねーか!?」

法正「もう充分にお休みになられたでしょう、せめて今日中に終わらせて欲しい仕事だけでも終わらせてもらわないと」

劉備「はぁ~あ…分かったよ。これを飲み終わったら仕事に戻る、それでいいな」

法正「えぇ、わざとゆっくり飲んだりしないでくださいね?」

劉備「………へっへっへ、そんな子供みたいな真似するわけねーだろ」

法正「すいません、言葉が過ぎました」

劉備「こうやって外で酒飲んでるとあの日を思い出すなぁ」

法正「あの日、とは?」

劉備「俺ら三人が義兄弟になった日のことさ。あの日も確かこんくらい温かい天気だった」

法正「桃の林で義兄弟の杯を交わしたと聞きましたが」

劉備「酒の味は今飲んでる酒とは比べもんにもならねぇが…あんなに楽しく酒を飲めたのは人生でもあれっきりだ」

法正「劉備殿が昔のことを語るのは珍しいですね」

劉備「そうか?…うーん言われてみるとそうかもしれん」

法正「えぇ。いつも宴会で話すのは蜀に入ってからのことばかりで昔のことを聞いた覚えはありません」

劉備「苦労話になっちまうからなぁ…俺自身あんまいい思い出も無いから無意識に避けてたのかもしれねぇ」

法正「もしお聞きしてもよろしいのならば、昔の話をお聞かせ願えますか?」

劉備「そりゃ話してもいいけど楽しいことなんて無いからな」

法正「劉備殿がいいと思うなら、お聞かせください」

劉備「長い話になるぞ?」

法正「話を聴くのは好きですから」

劉備「そんじゃあ少しだけ昔話でもしようかね…うーんどっから話せばいいのやら」

~幽州・琢県~

劉備「あーもう疲れた!もう今日は歩けない!ここで寝る!」

劉備「くっそ!これで3日連続の野宿だ!あぁ~早く家に帰りてー!」

劉備「母ちゃんにお茶買おうなんて思わなければよかったな、そしたらこんな思いしなくてすんだのに」

劉備「…でも一生に一度くらいは親孝行しておかないとな

劉備「これで母ちゃんに恩を売ってまたとうぶんダラケ生活に逆戻りだ!帰ったらすぐ飲み屋いこ!」

劉備「はあ~眠い…藁でも被って寝るとするか、おっと火は消さないと

劉備「黄巾の連中に見つかったらたまったもんじゃねぇ、あいつらのせいで街に入るのも一苦労で最悪だぜ」

劉備「(官軍も頼りにならないみたいだし…この先世の中はどうなんのかねぇ)」

劉備「(ま、俺みたいな貧乏人は関係ねぇか…そんなことより……帰ったら……母ちゃんに……お茶……)」

「おい!おい!起きろ!この野郎!」

劉備「(んーなんだよもう朝かぁ?うるせぇなぁまだ寝たいんだよ俺は!)」

「こいつふてぇ野郎だ!おいこら!起きろってのが聞こえねぇのかよ!」

劉備「I(聞こえてるっての!でも起きたくねーんだよ!眠いんだよ!)」

「しゃーねぇなぁ!ぶん殴ってでも起こすか!いくぞ!?」

劉備「あーもー!うるせぇ!聞こえてるっての!だから耳元でギャンギャン騒ぐな!」

「お!?目を覚ましたか!兄ちゃん!こんなとこで寝てると危ねぇぞ!黄巾の連中がこの辺に来てやがる!」

劉備「黄巾どもが!?それを先に言えよこの髭面大男!やべぇ!早く逃げないと!」

「ひ、髭面大男…!こいつ…!人が気にしてることを!」

劉備「どっちから黄巾は来てるんだよ!おい!髭面!起こしてくれたのは感謝してるから早く逃げるぞ!」

「髭面髭面言うな!俺には張翼徳というちゃんと名前があるんだぞ!こら!」

劉備「あぁん!?分かった!翼徳だな!俺は劉玄徳だ!これでいいか!?だからどっちに逃げればいいか早く教えろ!」

張飛「こいつ!本当に分かってんのか!?ったく!東の村にほうに奴らは来ている

張飛「おそらく略奪でもする気なんだろうよ、だから東以外の方向に逃げろ!」

劉備「東だな!?あんがとよ!翼徳!そんなら早いところ逃げるぞ!」

張飛「兄ちゃん一人で行きな、俺は黄巾の連中をぶっ潰してくる」

劉備「へっへっへ…何言ってんだよ翼徳。見たところお前は体もデカいし武芸も出来るんだろうさ」

劉備「でもお前一人が行ったところでどうにかなるもんでもあんめぇ!いいから翼徳も逃げるぞ!」

張飛「ここで逃げるのは侠に反する、そしたら俺は死ぬしかねぇ」

張飛「黄巾どもに殺されるか、侠に反して死ぬか。結果は同じだ」

劉備「いいから兄ちゃんは逃げな、俺のことなんか気にする必要はねぇ」

劉備「へーかっこいいー!そんなことで命捨てれるなんてやっすい命だなぁ!」

劉備「それじゃあ俺は気にせず逃げさせてもらうからな!母ちゃんも待ってることだしよ!」

張飛「おうおう早く逃げろ、母ちゃんを大切にするんだぞ」

劉備「言われなくてもするっての!本当に逃げるからな!?恨んで俺のところに化けて出るんじゃねぇぞ!」

張飛「だーれが幽霊になるか!俺が死んだら地獄の鬼ども相手に大喧嘩よ!」

劉備「…翼徳!生き残れよ!俺はあんたが好きだ!だから死ぬなよな!」

張飛「行っちまったか。へっ!俺の顔と図体を見て驚かなかったのは今まで二人だけだぜ」

張飛「さぁて!そんじゃあ黄巾の屑どもを懲らしめに行くとしますか!久々の大喧嘩だ!腕が鳴るぜ!」

劉備「ちっくしょお!なんで俺がこんな気持ちにならなきゃいけねぇんだ!」

劉備「死にたくねぇんだよ!俺は!母ちゃんもいるし!まだ酒も飲み足りねぇ!女も抱き足りねぇ!」

劉備「それもこれも翼徳の馬鹿野郎のせいだ!」

劉備「あいつがかっこつけて村を助けに行くなんて…馬鹿なことするのがいけねぇ!」

劉備「これだと俺がめちゃくちゃかっこ悪いじゃねぇかよ!あーくっそ!苛々する!」

<ウォオオオオオオオ!

劉備「(東から雄叫び…どうやら略奪が始まったみたいだな)」

劉備「(いつ黄巾どもがここまで来るかなんて分からねぇ…あいつらは馬に乗ってる、こっちは徒歩だ)」

劉備「だから早く逃げないといけないんだよー!ちっくしょおおおおおおお!翼徳の…俺の馬鹿やろおおおおおおお!」

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