横島「蜂の妹」(75)

俺には妹が二人いる

彼女達と俺の間には血がつながっていない

それどころか人間ですらない

だけど間違いなく俺にとっては大切な、可愛い妹なのである

横島「チキショー!美神さんのバカヤロー!」

俺は走っている

美神さんは俺の修行のために受けたのだという安い報酬の仕事

普通なら霊波刀一発で終わるようなものだ

しかし相手は普通ではなかった

どう考えても報酬に釣り合うレベルより数段上である

文殊もストックがそこまであるわけでもないので形成を立て直すために逃げることにした

意識のある悪霊や魔族が相手ならハッタリをかますのだが生憎相手は知性の欠片もない

その上パワーだけは人一倍強いもんだから攻撃が空ぶった時の風圧もものすごい

横島「コンチクショー!これでもくらえ!」

風圧でこけそうになる体をなんとかひねってサイキック・ソーサーを投げる

それにひるんだ相手にすかさず文殊を突っ込む

刻まれた文字は≪滅≫

かつては再生怪人とはいえメドーサを一発で葬ったこいつによってめでたく悪霊は消滅した

横島「ハァ…ハァ、全く酷い目にあった」

「相変わらず凄まじい威力だな」

その言葉と共に突然現れた翼の生えたスタイルのいい魔族

それは俺の知り合いの――――――

横島「ワ、ワルキューレ!?」

ワルキューレ「久しぶりだな」

横島「なんだってお前が人間界に?」

ワルキューレ「任務だ」

横島「ま、まさか今の悪霊に関係があったとか言わないよな?」

ワルキューレ「察しがいいじゃないか」

横島「じゃあなんで助けに来んかったんじゃー!」

喚く俺にワルキューレは一言

ワルキューレ「助けに入ろうと思ったら終わっていたんだ」

横島「思う前は楽しんで見てたんじゃなかろうな?」

ワルキューレ「フフ…」

横島「否定せんかー!」

「連絡がなかったけど終わったのかい?」

そこへまた一人の女性が現れた

それはワルキューレに負けず劣らずのグラマラスボディの持ち主な―――

ワルキューレ「ああ、任務は完了だ。こいつがターゲットを倒した」

「ポチ、か…」

横島「ベスパ…」

あいつの妹だった

沈黙が場を支配する

俺とベスパの関係は複雑だ

彼女にしてみれば俺は命の恩人で妹のペットで姉の恋人、姉妹をたぶらかして裏切らせた人間

俺にとって彼女はあいつの妹で短い間とはいえ家族みたいに過ごした魔族

そして、お互いがお互いの想い人を…

横島「久しぶり、だな」

ベスパ「…」

俺の言葉にもなんの反応もしない

いつもの俺なら空気を和ませるようにここで飛びかかったりするのだがそんな気には一切ならなかった

ワルキューレ「ベスパ、帰還するぞ」

静寂を破ったのは傍観者に徹していたワルキューレだった

ベスパはその言葉を聞くと転移してその場を去った

横島「あ、おい」

ワルキューレ「横島、今回の件は少しばかり厄介なものになりそうだからここで私達に会ったことは伏せておいてくれ」

横島「ちょっと待てよ!」

ワルキューレ「いずれ説明する」

そう言うとワルキューレも転移していった

横島「なんなんだよ…」

ちなみに帰ったら雑魚相手にいつまで時間をかけていると美神さんに怒鳴られた

ワルキューレ達のことは伏せておいたが、うっかり文殊を使ったことを喋ってしまい折檻されてしまった

数日後

美神「はあ、なかなか大口の依頼が来ないわねえ」

横島「それだけ危険な目にあわずに済むんだからいいじゃないっすか」

美神「何言ってんのよ!でっかいスリルとお金が手に入るからこの仕事はやりがいがあるんじゃない!」

横島「俺はでっかいスリルは味わってもお金は手に入れてませんよ!?」

美神「悔しかったら早く一人前になることね!」

横島「認める気なんて更々無いでしょーがー!」

美神「いやーねー、そんな訳ないでしょ。おーほほほ」

横島「嘘やー!俺はこの先一生この女に搾取され続けるんやー!」

美神「人聞きの悪いこと言うなー!」

おキヌ「まあまあ…」

シロ「しかしたまには強い敵と戦ってみたいでござるよ」

タマモ「私はパスよ、油揚げさえあれば十分だもの。お金はともかくスリルはごめんだわ」

シロ「ふん、相変わらず怠惰な奴でござるな」

タマモ「私はあんたみたいに単純な犬じゃないもの」

シロ「なにを!」

タマモ「やる気?」

美神「あんたらもうるさーい!」

事務所に広がるいつもの風景に水を差したのは事務所そのものだった

壱号「美神オーナー、お客様です」

美神「誰かしら?」

壱号「ワルキューレさんです」

美神「ワルキューレが?まあいいわ、通して」

壱号「分かりました」

しばらくすると春桐魔奈美の姿に化けたワルキューレが現れた

シロ「この女性は誰でござるか?」

タマモ「人間じゃないみたいね」

ワルキューレ「ほう、私を初見で見破るか」

美神「紹介するわ。こっちはワルキューレ、魔界正規軍の大尉よ」

シロ「軍人さんでござったか」

タマモ「魔族にも知り合いがいたのね」

美神「まあね」

横島「ちなみに神様にも知り合いはいるぞ」

俺の言葉に絶句するシロタマ。確かにビックリするよな

美神「で、こっちが人狼のシロに妖孤のタマモよ」

ワルキューレ「なるほど、犬神という奴か。しかしこの事務所は相変わらず非常識だな」

美神「まあそれより用件を聞こうかしら。世間話しに来たんじゃないんでしょ」

ワルキューレ「ああ、その様子だと横島は約束を守ってくれたようだな」

横島「おかげで美神さんに折檻されたけどな」

ワルキューレ「いつものことじゃないのか?」

横島「俺は折檻受けんのが好きなんちゃうわー!」

おキヌ「あの、どういうことですか?」

ワルキューレ「なに、先日こいつが除霊した時に私達は出会っているのさ」

美神「それを私達に内緒にしてたってこと?気に入らないわね」ギロ

横島「堪忍やー、仕方なかったんやー!」

ワルキューレ「で、今日はそのことについての説明に来たということだ」

泣いて許しを乞う俺を無視して本題に入るワルキューレ

そして美神さんも仕事モードになる

ワルキューレ「こいつが除霊した霊は魔族の影響をうけて格段にパワーアップしていた」

横島「やっぱりか」

ワルキューレ「ああ、大体下級魔族程度の強さと言っていいだろう」

横島「どおりで無茶苦茶強かったわけだ…」

美神「魔族の影響って言ったわね?どういうことかしら」

ワルキューレ「あの戦いの後、神魔のデタントは一気に進みしばらくはお互いに自分達からの人間界干渉を控えるという風潮になった」

シロ「あの戦いとはなんでござるか?」

シロがおずおずと尋ねるとワルキューレも驚いた顔をして

ワルキューレ「知らないのか?」

タマモ「私も知らないわね」

おキヌ「シロちゃんは当時里にいたしタマモちゃんはまだ生まれてなかったから」

ワルキューレ「なるほどな。後で説明してもらえ」

美神「ええ。とりあえず続けて」

ワルキューレ「分かった。まあそういう風潮になっても反対する過激派というのは存在するものだ」

おキヌ「まさか、またアシュタロスみたいな魔神が攻めてくるってことですか!?」

ワルキューレ「いや違う。中級以上の魔族はむしろデタントに賛成なんだ」

横島「そりゃまたなんで?」

美神「わからない?アシュタロスみたいな最上級の魔族をほぼ人間達だけで倒したのよ?しかもそれは宇宙意思のおかげでもある」

おキヌ「つまり反対して行動を起こしてもどうせ失敗するからってことですか?」

横島「なるほど。そりゃバナナの皮でスベって転んだり頭に一斗缶ぶつけたりで失敗したくないわな」

シロ「バナナの皮…」

タマモ「一斗缶…」

俺のつぶやいた言葉に二人は微妙な顔をする

ワルキューレ「加えてアシュタロスの反乱の原因が神族側にもあるということを神族の最高指導者が認めたということも一役買っている」

美神「そりゃまた随分と思い切ったことしたわね」

ワルキューレ「それだけあの事件が大きいものだったということだ」

おキヌ「じゃあ下級魔族の方たちが反対する理由は?」

ワルキューレ「単純に自分達の本能を満たす闘いができなくなるからといったところだな」

美神「じゃあ悪霊を強化したのは下級魔族ってこと?」

ワルキューレ「そうだ。どうやらあの場所に偶然魔界との小さなチャンネルが開き、そこにいた下級魔族が一緒に流れてきた地脈の力を得てパワーアップしたようだ」

美神「最悪の偶然ね…」

ワルキューレ「そいつは力を得たおかげでそのゲートから人間界に行くことができない。そこで霊や土着の凶悪な妖怪達を強化してアシュタロスを倒したお前達二人を狙っている」

そう言って俺と美神さんを指差す

横島「俺まで!?」

ワルキューレ「当たり前だ。お前は知らないだろうが今神魔で一番有名な人間はお前なんだぞ」

横島「だからなんでだよ!?俺は美神さんというカレーライスの福神漬けという添え物だぞ!」

ワルキューレ「謙遜するな。アシュタロスの企てた数々の作戦を壊したのはお前だろうが」

おキヌ「そうですよ!横島さんは頑張ったじゃないですか!」

シロ「さすが先生でござる!」

タマモ「なんか信じられないわ」

横島「皆して俺を過大評価しすぎだっつーの!」

美神「まあ、確かにそこは認めてあげてもいいわよね」

横島「美神さんまで…。俺は、あいつになんにもできなかったのに」

後半はつぶやくように言ったのだが、この場には感覚が鋭いのが二人もいた

ワルキューレ「話を続けるぞ」

横島「ああ、すまん」

ワルキューレ「というわけで私達の任務はお前達二人の護衛と影響を受けた連中の始末だ」

美神「実際襲ってくるのは悪霊や妖怪でしょ?護衛の意味はあるのかしら?」

横島「なに言ってるんすか!俺だって散々粘ってようやく文殊で倒したんですよ!?」

ワルキューレ「しかも、もしかするとそういった手合いが連続で現れるかもしれん」

美神「なるほどね。まあ一円にもならない敵にそんな苦労する方がおかしいか」

そこにおずおずとおキヌちゃんが手を挙げる

おキヌ「あの、私”達”って他にも誰かいるんですか?」

ワルキューレ「ああ。二人を一人が護衛するより一人が一人を護衛する方が確実だからな」

タマモ「確かにね」

シロ「一理あるでござる」

横島「そんなこと言わずにずっと一緒にいればいいじゃないですか!もう風呂もベッドも」

美神「おどれは他に考えつかんのか!」

ワルキューレ「安心しろ横島、お前の護衛はグラマラスな女だ。お前のタイプだろう?」

横島「なに!?もしかしてお前か?」

ワルキューレ「いや、私は美神令子の方だ。そいつはすでにお前の家の周辺を張っている」

横島「ってことはもしかして、もしかして…」

彼女は俺の考えを的確に読み取ってくれたようだ。ニヒルに笑ってこう言った

ワルキューレ「ちゃんと常に一緒にいるようにな」

横島「おっしゃー!待っててね美人の姉ちゃーん」

おキヌ「あ、ちょっと横島さん!」

美神「あいつ、まだ話は終わってないっつーのに」

タマモ「逃げたわね」

おキヌ「え?」

タマモ「横島はさっき『あいつになにもできなかった』って言ってたわ」

シロ「言ってたでござるな」

それを聞いて美神・おキヌ・ワルキューレの表情が曇る

タマモ「なにか訳ありってことかしら?」

シロ「先生になにがあったのでござるか?」

二人の追及に三人は事件についてを話し出すのであった

ちなみに、スキップしながら家に帰る横島の脳内は

「あ~ん、横島さんって護衛も必要ないくらい強いのね」

「ハッハッハ、あんな奴ちょちょいのちょいですよ」

「私、あなたに惚れちゃいそう…」

「お嬢さん、うかつに俺に近づくと火傷するぜ」

「それでもかまわない、あなたを私に刻んで!」

なんて現実味のまったくない妄想で占められていた

横島「わ~はっはっは~!ついに、ついにわが世の春が来たでー!」

なんて叫び出すので、警察に職務質問されたのは当たり前であった

横島「フッフッフ、ようやく帰って来たぜ」

家に着いた俺は思わず顔がニヤけてしまう

横島「さあ、あなたの護衛対象横島忠夫が帰ってきましたよ~!」

そう言って勢いよくドアを開けた俺の目の前にいたのは…

ベスパ「あ、ああ。おかえり」

ポカンとしてつい普通に応対してしまったベスパだった

横島「どうせこんなこったろーと思ったよドチクショー!」

衝撃の再会から一時間、俺達は会話もなく気まずい雰囲気を作り出していた

横島「あ、あのさ」

ベスパ「なんだい?」

横島「俺と一緒にいるのはいいんだけど、こんな狭い家で戦闘ってなったら…」

ベスパ「その辺は大丈夫さ、この辺りを眷属達に張らせているからね」

横島「な、なるほど」

そしてまた会話が止まる

が、この気まずい雰囲気を壊してくれたのはなんとベスパだった

ベスパ「あんたさ」

横島「お、おう」

ベスパ「なんであんなこと言いながら帰って来たんだい?」

横島「え!?いや、それはその、ワルキューレの奴が俺の護衛は俺のタイプのグラマラスボディな女だって言うから…」

ベスパ「まったく、大尉め」

横島「それが帰ってきたらお前だしよ、嘘は言ってねえけど手ぇ出せねえじゃねえかってな」

ベスパ「なんで私だと手を出せないのさ?」

意地悪な質問だと思う。なんかこいつの顔ニヤニヤしだしたし

横島「んなもん、お前が俺の妹だからに決まってんだろ」

ベスパ「は?」

でもこんな答えは予想してなかったのか、こいつの顔が帰って来た時みたいにポカンとする

横島「お前だけじゃねえ、パピリオだってそうさ。血は繋がってねえし種族も違うけど」

ベスパ「ポチ…」

ちょっとくさかったか?なんて考えていたら

ベスパ「そんな血の涙流しながら言われたらせっかくのいいセリフが台無しだよ?」

呆れ顔でつっこまれた

横島「しょうがないやんけー!お前いい女なんだからよー!」

ベスパ「ああ、はいはいわかったよ」

横島「そういやベスパ」

ベスパ「なんだい?」

横島「お前晩飯どうするんだ?」

ベスパ「たんぱく質ならなんでもいい」

横島「え!?俺からたかるのか!?」

ベスパ「冗談だよ、ちゃんと軍の携帯食料を持ってきてる」

横島「そうか、そりゃよかった。いや本当に」

ベスパ「こんな本とか買わなきゃもちっとマシな生活できるんじゃないのかい?」

そう言って取り出したるは俺のお宝…って

横島「こらー!人のお宝勝手に漁ってんじゃねえ!」

ベスパ「漁るまでもなく普通に置いてあったんだけど」

横島「うぐ」

ベスパ「それになんだいこの部屋の汚さは?逆天号にいたときのお前の掃除の出来は本当によかったのに」

横島「それはそのぉ、私の丁稚根性がなせる技と申しますか…」

ここまで言われるともう俺はへりくだるしかない。そもそもベスパみたいなタイプの女にはそこまで強く出られないのだから

ベスパ「まったく、しっかりしてくれよ。…お前は、アシュ様を倒したんだから」

アシュ様と言うその言葉に俺の心臓は跳ね上がるように感じた

アシュタロス―――

自分が悪であることに耐えられなかった魔神でこいつらの父親

そして、ベスパの想い人…

横島「神魔の間ではどうだか知らないけど、人間の間じゃあいつはオカルトGメン主導で腕利きのGS達が倒したことになってるんだ」

ベスパ「…」

横島「世間一般じゃ俺なんて『名もない見習いGS』か『人類の敵にみせかけたスパイ』でしかないんだよ」

ベスパ「だから、変わらないってのかい?」

横島「それだけじゃねえさ。俺はどこまでいっても煩悩まみれの男でしかない。シリアス気どったって役に立たないレベルにまで霊力が落ちるんだ。そんな俺のことを愛してくれたあいつの為にも、俺は俺らしくなきゃって教えてくれたのはお前だろ?」

ベスパ「!…そう、だったね」

横島「ということでその本返して」

ベスパ「って、今までのシリアスブチ壊しじゃないかー!」

スパーンとハリセンでしばかれたがこればっかりはなぁ?

横島「今言ったじゃねえかー!俺にシリアスは似合わんのやー!!」

ベスパ「それでももうちょっと雰囲気ってもんが」

横島「おあずけくらっとる男がそんなもん読めるかー!」

ベスパ「は?おあずけ?」

横島「い、いやなんでもないぞ!」

ベスパ「あんた、まさか姉さんの次は私を狙って!?」

横島「違うんやー!義妹とのめくるめく情事なんてってちょっとドキッとしたこともあったけど期待はしてないんやー!!」

ベスパ「なに寝ぼけたこと言ってんだ!」

こうして俺とベスパの漫才は様子を見に来た小鳩ちゃんがやってくるまで続いたのだった

横島「まったく、昨日は小鳩ちゃんに危うく変な誤解させるとこだったじゃねえか」

ベスパ「あんたが義妹に欲情とか言うからだろうが!」

横島「俺はそんなストレートに言ってねえ!ところでお前俺が学校の間はどうするんだ?」

ベスパ「お前のそばにいるに決まってるじゃないか」

横島「どうやって?」

ベスパ「こうやってさ」

そう言うとベスパは蜂の姿になった。そういやそんなことできたっけな

横島「しかし俺のそばにずっと蜂がいたら騒ぎになるんじゃないか?」

それを聞いたベスパ蜂はカバンの中に入って行った。うむ、なかなか利口な奴め

愛子「横島君ここのところよく学校に来るわね~」

横島「まあ俺もいい加減真面目に学校に行かなきゃヤバくなってきたからな」

愛子「分からないところがあったら遠慮なく聞いてね。勉強の分からない友達に教える、これもまた青春だわ」

横島「お前はそれ以外に言うことないんかい」

ピート「おはようございます」

愛子「あ、ピート君おはよー」

横島「お前も相変わらずイケメンだなー、おい」

ピート「リアクションに困る絡み方は止めてください、って横島さん?」

横島「なんだ?」

ピート(横島さんのカバンから魔の気配を感じるんですが…)

横島(ああ、今ちょっと護衛がついてんだよ)

ピート(護衛!?いったいなにがあったんですか!?)

横島(まあ後で話してやるからさ)

愛子「ちょっと二人とも、いきなりヒソヒソ話しだしてどうしたのよ?」

横島「あ、ああいやなんでもねえよ」

ピート「少し気になったことがあるだけですから」

愛子「ふぅ~ん」

昼休みになるといつものようにピートから弁当を強奪した俺達は屋上にいた

ピート「なるほど、そういうことだったんですか」

タイガー「横島さんも大変じゃノー」

横島「まったくだぜ。そういう手合いは雪之丞の方に行けっての…」

ピート「で、その護衛の方は今どこに?」

横島「なんか眷属達から報告を聞くって行っちまったぞ。しばらくしたら戻ってくるだろうけど」

ピート「眷属がいるってことはかなり高位の魔族じゃないですか!?」

横島「そりゃ力は強いが、お前らも知ってる奴だしなぁ」

ピート「知ってるって…」

タイガー「い、いったい誰なんジャー?」

横島「ベスパ」

ピ・タ「「」」

そこにベスパが戻ってきた

横島「おお、帰ってきたか。なんなら元に戻ってもいいぞ、主に俺の目の保養のために」

ベスパ蜂「…」

横島「うわ、ちょ、刺すな刺すな!」

タイガー「なんか、普通に馴染んどりますノー」

ピート「まあ、横島さんですし」

横島「おいコラ!二人とも助けやがれ!!」

放課後になると俺は事務所へと向かった。ピートとタイガーはなにかあったら協力すると言っていたが正直あいつらじゃなあ…

横島「ちわーす、横島忠夫やってきましたー!」

いつものように部屋に入るとなんだか空気が重いような気がする

美神「ああ、やっと来たのね」

横島「美神さんが俺が来るのを待っていた!?これは俺に愛を伝えようとしていたからなんですね!美っ神すわ~ん!」

とりあえずお約束のルパンダイブ。当然その返事は

美神「おどれはそれ以外やることないんかー!」

おキヌ「まあまあ美神さん、その辺で」

ワルキューレ「お前は変わらんな、せっかくお前好みの護衛を付けてやったというのに」

横島「そうだ、てめえワルキューレ!よくも騙しやがったな!!」

ワルキューレ「なにを人聞きの悪いことを」

横島「見た目はタイプでも手は出せねえだろうが!」

ワルキューレ「そうか、お前にそんな常識があったとはな」

おキヌ「あ、あの結局横島さんの護衛の方って誰なんですか?」

横島「え?聞いてないの?」

美神「ワルキューレが『いずれわかるさ、いずれな』とか言うもんだからこっちも気になってたのよね」

横島「まあ、別にいいですけどシロタマはどうしたんです?」

おキヌ「シロちゃんがタマモちゃんをつれてお散歩に行っちゃったんですよ」

横島「じゃ、別にいいか。おい、出てきていいってさ」

するとカバンからベスパ蜂が出てきてベスパの姿に戻る

美神「な!あんたは…」

ベスパ「久しぶりだね、美神令子」

おキヌ「ベスパさんが横島さんの護衛だったんですか!?」

横島「まあね」

ワルキューレ「ベスパ、経過報告を聞こうか」

ベスパ「は、私の眷属達が数回にわたりターゲットとなった霊や妖怪を捕捉。すべて撃破しています」

ワルキューレ「やはり横島の方に比重が置かれている可能性が高いな。引き続き警戒を怠らないように」

ベスパ「イエス・マム!」

横島「いつのまにそんなことやってたんだ?」

ベスパ「言ったろ?やったのは眷属達さ。お前が寝ている間や学校にいる間に来てたらしい」

美神「そういえばあんたの眷属って妙神山の時に神魔をメタメタにしてたわね」

ベスパ「私の寿命制限解除による弱体化に合わせて眷属達も弱くなったとはいえ、そんな簡単にやられるほどヤワじゃないのさ」

横島「それにしてもその黒幕の魔族ってのはどうしたんだ?そいつを倒せば護衛なんていらないだろ」

ワルキューレ「もちろん探してはいるがなにせ魔界も広い。一時的に開いたチャンネルなど手掛かりにもならんほどにな」

美神「今はまだ大口の依頼が来てないからいいけどいつまでも休業状態じゃいられないわよ?」

おキヌ「美神さん!命を狙われてるんですよ!?」

美神「おキヌちゃんの言いたいことも分かるけど、私だっていつまでも守ってもらうようなのは御免なのよ」

ワルキューレ「安心しろ、もう残りはそういないはずだ」

横島「そうなのか?」

ベスパ「まあ、影響を受けたとは言っても短い時間な訳だしあの場所も霊や妖怪の溜まり場って言うほどでもないからね」

横島「じゃあ後ちょっとってことか、頑張ってくれよ俺の為に」

ベスパ「間違っちゃいないんだがなんかムカツク言い方だね」

ワルキューレ「なんだ、随分仲良くなったじゃないか」

横島「まあな、手は出せないが美人だし」

ベスパ「私もさ、話してたらなんか馬鹿らしくなっちゃって」

美神「まああんたらがいいんならこっちも文句はないけど」

その時、窓からコツコツと音が聞こえた

おキヌ「あら?」

そう言っておキヌちゃんが窓を開けると小鳥が飛び込んできて瞬時に姿を変える

美・横・キ「「「タマモ(ちゃん)!?」」」

タマモ「はあ…、はあ…、シロが、シロがぁ…」

美神「どうしたの!いったいなにがあったの!?」

タマモ「シロが、あの話を聞いた後ものすごく考え込んでて、気分転換に散歩に行ったの」

おキヌ「それで!?」

タマモ「そしたら突然すごく強そうな奴が出てきて『横島忠夫を出せ!』って」

横島「おい、そのすごく強そうな奴ってまさか」

ワルキューレ「黒幕の魔族だろうな。どうやったか知らんが人間界に現れたか」

タマモ「シロがそれを聞いていきなり切りかかって行って、あっさり捕まって、急いで皆を呼びに…」

おキヌ「じゃあ助けに行かなくちゃ!」

ベスパ「待ちな、奴がどれくらいの強さかも分かんないんだ。下手に動くのは人質を増やすだけだ」

横島「でもよ!」

ワルキューレ「落ち着け!今から私達が現場へ行き目標と応戦する。その隙に人質を取り返せ」

美神「それしかない、か…。横島クンはすぐに装備をまとめて!おキヌちゃんはネクロマンサーの笛の準備を!」

横島「ウス!」

おキヌ「はい!」

ワルキューレ「我らもいくぞ、ベスパは眷属を先行させろ!」

ベスパ「イエス・マム!」

タマモ「私は…」

美神「怪我人は休んどきなさい、足手まといなだけよ」

横島「あいつのことは俺たちに任せとけって!な?」

タマモ「うん…」

そして、俺らの戦いが始まった

美神「ってなにかっこつけてんのよ!」

横島「これぐらいええやないですかー!」

美神さんのコブラに乗り込んで現場へ向かう途中、俺はふと思いついた疑問をぶつけてみた

横島「ところで、さっきタマモが言ってた『あの話』ってなんなんですか?」

美神「あの戦いのことよ…」

横島「ああ、あいつらはなんて?」

美神「けっこうショックだったみたい。何も言わずに屋根裏に引っ込んじゃったもの」

横島「そっすか…」

おキヌ「やっぱり、シロちゃんはあれを聞いたから…」

美神「無鉄砲なシロらしいわ、こりゃ当分肉抜きね」

横島「ハハハ…」

ようやく現場、つまり数日前俺が除霊した場所に着いた

美神「そこらじゅうを邪気が覆ってるわ」

おキヌ「お二人はどこへ行ったんでしょうか?」

横島「あっちの方っす!」

美神「あ、ちょっと!」

なんとなく俺には分かる気がした。きっとあっちにベスパがいると

俺の予想通り、そこではベスパとワルキューレが魔族らしき奴と戦っていた

魔族「貴様が横島忠夫だな?」

ワルキューレ「余所見とは余裕だな!」

しかしワルキューレの銃弾は大したダメージがなかったらしい。気にもせずに話を続ける

魔族「貴様を倒せば俺も名をあげることができ、デタントなどというふざけたものもなくなる」

ベスパ「こいつはどうだ!」

ベスパも霊波砲を放つが全く効いてない…って!?

横島「おい!テメエさっきからどうなってんだ!?あんだけ攻撃受けてダメージなしかよ!」

魔族「俺はこの地に流れる地脈の力で強化されている。この地においては俺が絶対なんだよ」

しかし俺はこの状況に違和感を覚えた。もしかして?

美神「コラ横島ぁ!いきなり走っていくんじゃないわよ!」

横島「いやー!おたすけー!」

おキヌ「それどころじゃありませんよ!」

ようやく追い付いたらしい美神さんにしばかれつつ文殊を発動する

刻まれた文字は≪探≫

これにより、俺の勘は的中したことが分かった

横島「二人とも!そいつはダミーだ!本体は土ん中にいる!」

ワルキューレ「了解!」

俺の呼びかけに素早く反応したワルキューレは地面を無茶苦茶に撃っていく

魔族「や、止めろ!」

初めて動揺の色が浮かんだ魔族の姿が掻き消えて、替わりに地中から巨大なモグラが現れた

美神「こいつが正体ね!」

おキヌ「すごいです横島さん!」

魔族「おのれぇ、なぜ分かった!?」

横島「キサマの使った手はパイパーと一緒だし俺もアシュタロスに使った手なんだよ!」

ベスパ「くらいやがれ!」

ワルキューレ「散々我々をコケにした借り、百倍にして返してやる!」

二人の攻撃に魔族は大きくのけぞる

おキヌ「援護します!」

おキヌちゃんのネクロマンサーの笛により魔族の動きが鈍くなる

美神「さあ、ウチの事務所に喧嘩を売ったことを後悔させてあげる!」

美神さんがその隙に神通鞭で魔族をえげつないくらいなぶりまくる

横島「極楽へ、逝かせてやるぜー!」

とどめは俺の≪滅≫の文殊

魔族「グオーーーー!」

そんな大声をあげながら奴は消えていった

おキヌ「やりましたね!美神さん、横島さん!」

美神「ま、この美神令子にかかれば当然ね!」

横島「俺がとどめ刺したんスけど…」

美神「なにか言ったかしら?」

横島「い、いえ!なんでもありませんお姉さま!」

美神「よろしい」

ワルキューレ「む?奴が消えたところを見ろ!」

そこには傷だらけのシロが横たわっていた

横島「シロ!」

美神「けっこうダメージもらってるみたいね。おキヌちゃん、ヒーリングの用意を」

おキヌ「は、はい!」

シロのところへベスパが向うがどうにもおかしい。なにかが引っかかる

それはベスパも感じているようで若干警戒しているようだ

恐る恐るという風にベスパがシロに手を伸ばした瞬間

ベスパ「!」

すぐに後ずさったベスパの前を霊波刀がかすめていく

シロ「グルル…」

おキヌ「シ、シロちゃん!?」

美神「チッ、あの魔族は悪霊や妖怪を操っていた。シロになにもしないでいるわけがなかったってことね!」

ワルキューレ「どうするんだ?あいつを処分するか?」

横島「そんなことはさせん!あいつは俺んだ!!」

美・キ・ワ「「「俺んだ?」」」

横島「い、いや俺の弟子って意味っすよ?やだなぁ…」

美神「横島クン、そのネタ二度目よ?」

横島「はい、すみませんでした」

ベスパ「なんかやるなら早くしてくれよ!」

俺たちに突っ込みながらもシロの攻撃をかわしているベスパ

その足が―――

ベスパ「え?」

ふらついた

シロ「グルォォォ!」

当然その隙を見逃すはずもなく、シロが霊波刀をふりかぶった

美神「シロ!肉抜きにするわよ!」

シロ「!?」

しかし美神さんの声に気を取られて動きが止まる。声の大きさか中身か知らんがシロも美神さんに対する恐怖心が刷り込まれているのだろう

だが、これはチャンスだ

横島「シロ!」

急いで霊波刀を出して二人の間に入り込む

そしてシロを助けるために本日三個目の文殊を出したのだが

横島「!そうか、そうなんだな」

俺は文殊に文字を刻みシロに思いっきりブン投げ、それを受けたシロは

シロ「あ…れ…?せっしゃは……?」

正気に戻りそのまま倒れた。すぐにおキヌちゃんがヒーリングを施す

横島「そうだベスパ!大丈夫か!?」

ベスパ「あ、ああ…なんとかね」

ワルキューレ「だらしないなベスパ。あれしきのことで足にふらつきが出るとは」

ベスパ「すまない」

ワルキューレ「帰ったら訓練だ。みっちりしごいてやるから覚悟しろよ」

ベスパ「いえす、まむ」

ワルキューレ「声が足りんぞ!」

ベスパ「イエス・マム!」

ワルキューレ「よろしい、では我々は休養を取ったのち魔界へ帰還する」

美神「わかったわ」

おキヌ「美神さん、お礼言わないんですか?」

美神「だってこいつらがもってきた厄介事だし、私も仕事休まなきゃいけなくなったのよ?むしろ休業手当と迷惑料払ってほしいくらいだわ」

ワルキューレ「あいかわらずあくどいな…」

美神「当然でしょ!私は美神令子よ?」

おキヌ「まったく、美神さんったら…ってあれ?横島さんは?」

美神「どうせトイレにでも行ったんじゃない?」

ワルキューレ「ふむ、ベスパもいないな」

おキヌ「ま、まさか…」

美神「や、や~ね~。横島クンもベスパには手を出せないって言ってたじゃない」アセアセ

おキヌ「で、ですよね」アセアセ

ワルキューレ「そういえば、彼女が横島に惚れたのは命の危機を救われたかららしいな」

美神「そ、それがどうしたのよ」

ワルキューレ「いや、ただ思い出しただけさ」

おキヌ「美神さん、やっぱり私…」

美神「し、仕方ないわね~。丁稚が道を外れないようにするのも雇用主の義務だし」

美神さん達がこんな会話をしているころ、俺とベスパは少し離れたところにいた

横島「で、話ってなんだよ?」

ベスパ「…なんで助けたんだい?」

横島「シロのことか?」

ベスパ「私のことに決まってるだろ!」

横島「なんでったって、言ったじゃねえか。俺はお前を妹だと思ってるって」

ベスパ「ふざけんな!わたs」

横島「ふざけてねえよ!俺はお前を恨んでない、ルシオラだってそうさ」

ベスパ「なにを世迷い事を」

横島「俺がここに来た時、俺はお前の気配がなんとなく分かった」

ベスパ「!」

横島「パピリオが言ってたんだけど、お前達三人はなんとなく姉妹の気配みたいなのが分かるんだろ?」

ベスパ「そんなの、ただの偶然かもしれないじゃないか!」

横島「極めつけはこれだ」

俺が取りだしたのはさっきシロを正気に戻した文殊

ベスパ「文殊、にしちゃちょっとおかしいね」

横島「これはな、ルシオラが俺に霊基構造を分けてくれたあとに一時的に作れた文殊なんだよ」

ベスパ「姉さんの!?」

横島「シロを元に戻してお前を助けたいって思ったらこいつが出てきてな。これが証拠なんじゃないか?」

ベスパ「姉さんが…私を……」

横島「こいつはお前にやるよ、不甲斐ない兄貴からのプレゼントだ」

ベスパは壊れないようにゆっくりとその文殊を受け取ると少し気まずそうに言いだした

ベスパ「本当はさ、護衛のどさくさまぎれでお前を殺そうとしてたんだ」

横島「え゛!?」

ベスパ「アシュ様の悲願を叶えてくれたったって割り切れるもんじゃない。姉さんやパピリオ、そもそもメフィストが裏切ったのも全部お前のせいだしね」

横島「ま、待て!メフィストはアシュタロスの野郎が勝手に」

ベスパ「でもさ」

横島「聞く気なしかよ…」

ベスパ「なんか、そういうのが全部馬鹿らしくなっちゃった」

横島「ほ、ホントか!?今ここで闇討ちしたりしないんだな!?」

ベスパ「ほんっとに、さっきまでのかっこいいお前が台無しじゃないか!」

横島「お前もいい加減慣れろ!」

ベスパ「慣れるか!」

美神「よーこーしーまー!」

おキヌ「横島さーん!どこですかー!」

横島「やべ、美神さん達が呼んでる!急いで戻るぞ」

ベスパ「あ、おい!」

合流したら勝手にどっか行くなと美神さんにどつかれ、おキヌちゃんも不機嫌そうだった

シロはこっちの事情も知らずスヤスヤと寝てやがる、覚えとけよ…

ワルキューレ「これで任務終了とし、魔界へ帰還する!」

ベスパ「イエス・マム!」

横島「じゃあな、ベスパ。いつでも遊びに来いよ、美女は大歓迎だ」

ベスパ「ああ、最高のプレゼントをありがとう。“義兄さん”」

そして二人は帰って行った

横島「義兄さん、か」

美神「なんかいい雰囲気だったじゃないの?横島クン」

おキヌ「最高のプレゼントってなにをあげたんですか?」

横島「ちょ、ちょっと美神さんなんでそんな怖いんすか!?おキヌちゃんもなんか黒いよ!?」

その問いに二人はニッコリと笑ったまま無言で近付いて

なんかこんな状況前にもあったぞ!?

横島「いやー!お助けー!」

とりあえず事務所に帰る頃には再生できたよ

終わり

こんだけ書くのに二週間近くとかマジ遅筆www
需要があればそのうちパピリオ・妙神山編とか書きたい

まだ残ってたか
パピリオ編in妙神山
ベスパ&パピリオ編
ルシオラとのイチャイチャ(こまけえこたぁ(ry )
を書くとする
全部終わるのにどんぐらいかかるか分からんが

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