幼馴染「鶴の恩返しって、誰が悪かったんだと思う?」(187)

男「あぁ、何か面白いこと起きねーかなぁ」

友「例えば?」

男「えーっと、八万円ぐらい拾うとか?」

友「この大俗物が」

男「で、交番に届けて美人の婦警さんに誉められたい。あわよくば頭撫でられたい」

友「お、おう」

男「そんで持って元の持ち主のボインな姉ちゃんにメッチャ感謝されたい」

友「まだ続くのかよ……」

男「『ありがとうございます! これ、御礼ですっ』と、言う彼女。『ふっ。キミの笑顔が見られたらそれで良いさ』と言って立ち去る俺、そして始まるラブストーリー」

ザワザワ

友「おい、周りの目が痛いんだが」

男「物語は最初からクライマックスだぜ!」

友「計画倒れだよっ! クライマックスどころか永遠に始まらないっつーのバカ」

男「だが、運命は残酷にも二人の間に恋の障害として立ちはばかる……」

友「お前の妄想はもう良いから」

?「……」

友「ん、誰だ?」

?「……」サッ

男「どうした友、まだ物語は冒頭部分だぞ」

友「お前のくっそくだらないラブストーリーは野良猫にでも聞かせてろ」
「……さっき教室の扉の所から誰かが見てたんだよ」

男「おいおい、お前そんなくだらないことで俺の話を中断したのかよ」ハァ

友「無駄に長いんだよお前の話。30字以内に纏めたら聞いてやらんこともない」

男「わかった。お前の意を汲んで結果だけ言うと彼女が欲しい」

友「ラブストーリー何処行った!?」

?「……」ニカッ

友(……なんだ、今の悪寒)ゾクッ

…………

男「よっ、幼馴染」

幼馴染「あ、男だ」

男「一緒に帰ろうと思ってわざわざお前の教室の前まで来てやった俺の健気さを評価してさ、チューの御褒美とかない?」

幼馴染「チョップならいくらでもお見舞いしてやるんだけど、チューはないかな」
「っていうかクラス変わったばっかりのこの時期にそういうジョークは止めてくれない? 私まで変態だと思われそうじゃない」

男「まるで俺が変態であることが前提であるかのような言い回しだな。まぁ当然だけど」

?「……」ジー

幼馴染「……」
「あ、でも今日私用事あるから先帰ってて」

男「なんだ、手伝うぞ?」

幼馴染「ヤボだねぇ男は……邪魔だから捌けてくれって言ってるの。普通の雑用なら最初から骨と皮だけのスネ夫になるまでこき使ってるわよ」

男「えっ……それって」

幼馴染「まぁ私普通にモテるしね。両の手でギリギリ数えられるぐらい彼氏いるし」
「わかったらささっと家に帰るんだな。お前にも家族がいるのだろう?」

男「……ぅ」

幼馴染「ん?」

男「オロロロロ」ゲボォ

幼馴染「いや、ショックなのはわかるけど吐かなくてもっ!」

幼馴染「もう帰れっ! さっさと帰れっ!」
「吐瀉物は私が何とかしておくからっ!!」

男「あぁ……すまん……」フラァ

幼馴染「いや、こちらこそ何かゴメン……」

男「じゃあ、また明日……」フラフラ

幼馴染「う、うん。体には気を付けてね、ご飯はよく噛んで食べるんだよ」

…………

男「ちくしょう……全国全世界のビッチ死んじまえ。言い寄られてすぐその気になる馬鹿な男も死んでしまえ……」ブツブツ

男「あ、でも幼馴染が死ぬとやっぱり寂しいから幼馴染以外のビッチ全員死んでしまえ……」ブツブツ

友「本来の目的見失ってるだろうがそれ」スッ

男「あぁ、友いたんだ。幼馴染とかいうビッチに振られたから一緒に帰ろうぜ」

友「いや、俺部活あるし」

男「俺と部活どっちが大事なんだ!!」

友「部活」

?「……」ソワソワ

幼馴染「ようやく尻尾出したわね、ストーカー野郎」ガシッ

女「きゃっ!」

友「あれ? あっちから幼馴染の声が」

男「ねーよ。アイツは今スーパービッチタイムなんだから」グスッ

友「……」
(今気付いたけどこいつゲロ臭いな、早めに別れるか)

友「じゃあ俺、部室行ってくるわ」ダダダッ

男「どうしたんだアイツ急に? いつもは遅刻がデフォな時間にルーズな男なのに」

男「まぁ、俺も靴取ってさっさと帰るか……あれ、何か入ってるぞ?」ガサゴソ

【放課後屋上で待っています】

男「こ、これって噂のラブレターじゃね?」

男「この丸文字は女だ、間違いない。中学の頃悪質な嫌がらせとして届いたラブレターは、今思えば完全に男の字だったからな」

男「……紙もノートの切れ端だったな。あんなので有頂天になっていた当時の俺は何を考えていたのやら」

男「まぁ何はともあれ、早く行かなくっちゃな」

男「やっべ超緊張する。やっべ」

幼馴染「なんで男を付き纏ってたのか、洗いざらい吐いてもらうわよ」

女「離せっ! 離せっ!」バタバタ

幼馴染「にしても見ない顔ね、まずはそのマスク外しなさ……」

女「……」シュンッ

ガツッ

幼馴染「いったぁ~」
「人の顔殴る時、ここまで躊躇わない奴初めて見たわ。歯茎切れたっぽい」ツー

女「……」ダダダッ

幼馴染「まっ、待ちなさい!」

幼馴染「私としたことが見失うとは一生の不覚」ゼェゼェ

幼馴染「にしてもマスク越しとは言え、全く顔に見覚えがない。同学年じゃあないのかな?」

幼馴染「何で男はあんなのに追い掛けられてるんだか」

幼馴染「それに私みたいに可憐な乙女の顔を殴るのに全く躊躇いがないとは。ありゃあ相当の悪か、或るいは……」

幼馴染「とにかく、男の後を追ってさっさと帰りますか。ここまで情報が集まれば、アイツも少しは心当たりがあるでしょう」

幼馴染「明日までには正体を暴いてやるっ……あの暴力女めっ!」

男「なかなか来ないな。ひょっとして俺はまた同じ徹を踏んだのか? またしばらく渾名が俗物君になってしまうのか?」

男「いや、このラブレターにおかしいところはない」
「でもそう言えばこんな感じの色が出るペン、友の奴が持ってたな」


男『お前、女みたいな字してるよな』

友『そうかな』

男「野郎、ぶっ殺してやる!」

男「いくら何でもこれは許されないだろうがっ! だからアイツ、逃げるように部活に行ったんだな!」

男「クソッ。アイツの顧問に泣き付いて変な練習を強要してもらおう」タッタッタッ

ガラッ

女「……」

男「え?」

男「キミは何の用事でここに来たんだい。ひょ……ひょっとして俺を手紙で呼んだ子?」

女「……」コクッ

男(ヤベェ、超可愛いじゃん。あの茶髪触りたい、巻き付きたい)

男「一体何の用事で……」

女「あっ、あなたに一目惚れしましたっ! 付き合ってください!」

男「え、マジで?」

女「……」ジー

男(いっ、いざ本当に告白されたらどうすれば良いかわからないっ!)アタフタ

女「……」ジー

男「こここ……こちらこそヨロシクお願いしますっ!」

……次の日……

男「……」ポケー

友「どうしたんだ。頭空っぽって感じの顔しちゃっさ」
「……いや、よく考えたらお前はいつもそんな顔してたな。悪い、忘れてくれ」

男「実は俺、昨日告白されたんだ。しかもメッチャ可愛い子に」

友「やっと幼馴染さんとくっ付いたのか、良かった良かった。お前の行動に一喜一憂する姿は見ていて可哀想だったからな」ウンウン

男「何言ってんだお前? 俺が告白されたのは全然知らない人だぞ」

友「え?」

男「新一年生らしい。たまたま見かけた俺に一目惚れしたんだとよ」

友「……マジでか」

友「っていうか一年生ってまだ高校入って一週間も経ってないだろ!?」
「そいつ絶対おかしいって、多分その内お前壺買わさせられるぞ。それもたくさん」

男「あの時は深く考えなかったけど、やっぱりおかしいよな。一つならまだしも何個も部屋に壺置くのは嫌だなぁ」

友「別れとけって、絶対の絶対にヤバい奴だから」

ガラッ

幼馴染「男いる?」

友「いらない」

幼馴染「いやそういう意味じゃなくて、ここに存在するか否か的なニュアンスで」

男「お前から来るとは珍しい。何の用だ?」

幼馴染「茶髪で猫目でマスクしてて小柄でちょっと危なそうな女の子知らない?」

男「あぁ、知ってる知ってる」

幼馴染「やっぱりね、どういう関係?」

男「一応恋仲かな」

幼馴染「ど、ど田舎?」

男「違う違う。恋仲だって」

幼馴染「小田舎?」

男「若干近くはなったかな」

友「認めたくないのは分かるけど、事実みたいだよ」

幼馴染「……で、その茶髪とはいつから付き合ってたの?」

男「昨日からだ。昨日告白されるまでは、話したことも見たこともなかった」

幼馴染「……」
(一目惚れってだけで、普通あそこまで付け回すかな?)

幼馴染(男かあの茶髪のどっちかが、何かを隠してるのかしら?)

……昼休み……

幼馴染「……」

友「どうしたんだい、カーテン何かにくるまって?」

幼馴染「例の茶髪は男を誘うため必ずこの教室にやってくる。だからカーテンに隠れて奴の思惑を私が破る」

友「余計目立つと思うよ……。いつもの冷酷で冷静な幼馴染さんは何処へ行ったんだい?」

幼馴染「そう? 教卓下の方が良いかな?」

友「……一回落ち着いた方が良いんじゃないかな?」

幼馴染「正直、一限の休み時間から動悸機と嗚咽感が止まらない。駄目なんだ、私は肝心なところで何処までも駄目な奴なんだ」ギュッ

友「……今更だけどカーテン皺くちゃたら後で怒られるよ」ハァ

ブチッ

友「げっ、カーテンが」

幼馴染「あ……」

幼馴染「なんで私、こんなに駄目なんだろう」ポロポロ

友「な、泣くなって」

幼馴染「うぅっ……」ゴシゴシ

友「カーテンで涙拭くのは止めろ」

女「おっ……男さんいますかっ!」ガラッ

男「あ、ああ! よく来たね女ちゃん」

女「メール通りお弁当持って来ましたよ! 自信作で……す」

男「ん、どうした女ちゃん?」

女「げっ、幼馴染先輩」ボソッ

友「そりゃ座り込んでカーテンで目拭いてる女子高生がいたら嫌でも目に付くよね、うん」

幼馴染「……」

女「……早く屋上へ行きましょうか」ガシッ

男「え? あぁ、うん」

ダダダッ

幼馴染「……」

友「追わなくて良いの……って追っても意味ないか」

幼馴染「他に調べるべきことができた。友、手伝って」

友「俺、そろそろ飯食べたいんだけど」

幼馴染「五限目にでも食べなさい」

友(幼馴染の目に力が戻ってる)

友「わかったよ。手伝えば良いんだろ手伝えば」ハァ

友「で、何をするんだ?」

幼馴染「一年生の教室を回って確かめるのよ。本当に女っていう名前の子がいるかどうかね」

友「どういうことだよ?」

幼馴染「アイツ……私の名前を知ってた」

友「名前?」

女『げっ、幼馴染先輩』ボソッ

幼馴染「でも私は女なんて名前は絶対に知らない。だから、あの名前はきっと偽名」

友「偽名使う意味なんかあるのかよ?」

幼馴染「わからないけどさ……。友、鶴の恩返しって話知ってる?」

友「知ってることは知ってるけど」

幼馴染「急に主人公の家に美人な女の人がやって来るんだよね、あれ」

友「……急に可愛良い女の子に告白された男の状況と似てなくもないな」

幼馴染「なんで鶴は恩返しするために、正体を隠して人間に化けたんだろうね?」
「最初から布だけ持って行けば、あんなことにはならなかったのに」

友「!」

幼馴染「まぁ、単なる思い過ごしって可能性も充分有り得るけどね。私昨日彼女と一悶着あったから、男経由か何かで私の名前を調べたのかも知れない」

友「……早く、一年生の教室に行くか」

幼馴染「ありがとう」

友「俺も気になってきたからな、あのマスク美人が何者なのか」

…………

女「男さん、ほらあ~んっ」

男「あ、あぁ」
(ヤ……ヤバい、会って2日の女子とこんなに接近して良い物なのか?)

女「フフフ」

男「ご、ごちそうさまでした」カクカク

女「そんなに固くならなくて良いに、男さんったら」クスクス

男「……」

女「どうしました?」

男「いや、何処かで女の顔を見たような気がしてさ。ちょっとそのマスク取ってみてくれよ」
「一回口元も見てみたいなぁって、それがあると声も籠もっちゃうし」

女「……」

女「駄目ですっ。実は一昨日からニキビが出来ちゃって、それを隠すために付けてるんですよ」

男「そ、そっか」

女「特に好きな人には絶対に見て欲しくないかなぁって」チラッ

男「好きな人、か。へへへ」

女「じゃあそろそろ戻りましょうか」

…………

男「やっほー。ただいま、モテない友君」

友「……」

幼馴染「……」

男「ど、どうしたんだよお前ら。いつになく真剣な顔しちゃってさぁ」

幼馴染「取り乱すのはわかるけど、良く聞いてね」
「一年生の中に女って名前の子はただの一人もいないの」

男「え、つまりは……」

友「お前、騙されてるのさ」

男「……目眩がしてきた」クラッ

友「お前メンタル弱いな」

男「え、なんで? なんで騙されてたの俺?」
「ひょっとして壺とかいっぱい買わさせられるのか?」

友「お気の毒様です」プッ

男「お前ちょっと楽しんでないか?」

幼馴染「正直狙いは全くわからないわ。でも、早い内に聞いておいた方が傷が浅いでしょう? 気になるなら本人に尋ねるべきね」

男「……わかった。放課後一緒に帰る予定だから、その時訊いてみるよ」

幼馴染「それが良いでしょうね」

男「あぁ……」

友「おい男、元気出せよ」ニヤニヤ

男「お前は元気出し過ぎだろ……もうちょっと元気ならボコボコにしてたわ」

男「つっても俺を騙すようなメリットって何だ?」

友「愉快犯か詐欺か復讐か……」

男「ロクなのねぇ」

……放課後……

女「じゃあ一緒に帰りましょうか」

男「ああ」

幼馴染「……」ジトー

友(あの顔はまたダメな子モードに入ってるな……)

友「なぁ、もう尾行の意味ないんじゃないかな?」

幼馴染「何言ってるの。万が一普通に良い感じになってしまったらどうするのよ」

友「それが最善のパターンだと思うけど、どうするの?」

幼馴染「全力で空気をぶち壊してやる」ググッ

友「お、おう」

女「それで、その時に後ろの席の○○さんがですねぇ」ペラペラ

男「そ、そっかぁ」キョドキョド

幼馴染「いつあの話切り出す気よあのバカ」イライラ

友(……いざとなったらこのアホ引っ張って帰るか)

女「もうその時の顔が面白くって」

男「うんうん」チラッチラッ

友「にしてもアイツ、多少人見知りの気があるのは知ってたけど様子がおかしいな」
「キョロキョロしちゃって何処見てるんだろ、位置的に太股かな?」

幼馴染「流石の男だってそこまで情けない真似はしないでしょ……見てるのは茶髪の手、かな」

友「手? そりゃまた何でさ?」

幼馴染「まさかアイツ、手を繋ぐ気じゃあ……」

友「ほうほう、男もなかなかやるなぁ」

幼馴染「全力で阻止してくる」ボソッ

友「止めとけ、てか止めてくれ」ガシッ

幼馴染「はーなーしーてー!!」ジタバタ

友「何のために尾行してるのか思い出せって」

幼馴染「邪魔するために決まってんでしょーが!!」

女「何だか後ろの方が騒がしいですね」

男「ペットショップからオウムが大量に逃げ出しでもしたんだろうか?」

女「動物園から大量に猿が降りて来たんじゃないでしょうか? 最近運営が上手く行っていないという噂を聞きましたから、ひょっとしたら餌不足が原因で集団脱走したのかもしれませんね」

幼馴染「腕噛み千切るわよバカー」ジタバタ

友「バカはお前だバカ!!」

男「……」ゴクッ

友(おっ、遂に手を繋ぐか?)

幼馴染「早く何処のクラス名簿にも名前がなかった話しなさいよバカー!」ジタバタ

男「……」

女「えっと、急に黙ってどうしましたか?」

ギュッ

友(おっ! ようやく手を繋いっ……)

女「ひっ!」パシンッ

男「!」

女「ご……、ごめんなさい。ちょっとびっくりしただけです、本当です。もう大丈夫です。手、繋ぎたかったんですよね? ほら、早く手を繋ぎましょうよ」

男「え……あぁ、うん。ごめん、俺そういえば本屋寄りたかったんだわ。今日はじゃあこの辺りで」

女「違うんです、本当に大丈夫です。本当の本当に大丈夫なんですよ。ね、ほら」ガシッ

女「ほらほら、手を繋いだって私大丈夫じゃないですか? 見てくださいよ、ねぇ?」

男「……」バッ

女「あっ……」

男「……」
「じゃ、じゃあまた明日」ダダダッ

女「待ってくださいよ、ねぇ。本屋でも何処にでも付いて行きますから、私はもう大丈夫ですからっ!」

幼馴染「……よく分からないけど、上手くは行かなかったみたいね」ホッ

友「お前の頭の中には滅茶苦茶にすることしかないのか」

友「にしても、本当に何があったんだろうな」

幼馴染「……一人だけ、心辺りが出てきた」

友「心辺り?」

幼馴染「今から四年前、私が中学二年生だった時の部活の後輩かもしれない」

友「おいおい、もしそうだとしたら何で今まで全く気が付かなかったんだよ」

幼馴染「私の所属していた女子テニス部は特別強くもないのに変に人数が多くてね、サボリ組と真面目ちゃんグループに別れてたのよ」
「私はサボリ組だったし、彼女はすぐ転校したから結局名前も覚えていないわ」

幼馴染「ただ、彼女を中心に起こった事件の内容に関しては忘れたくても忘れられることじゃあない」ギリッ

友「……何があったんだよ」

幼馴染「部外者に気軽に話して良いことじゃあない」

友「……じゃあ言うなよ」

幼馴染「ごめん、迂闊だった」

友「男も、同じ中学校だったんだよな?」

幼馴染「うん」

友「……」

幼馴染「裏を取りに行ってくる」タッタッタッ

友「おっ、おい! 何処に行くんだよ」

幼馴染「学校に戻るのよ。アンタも来る?」


友「……わかった、俺も行く」

友「で、学校に何を調べに行くんだよ」

幼馴染「いくら名前を忘れたとは言え、一つにまで絞れればそれが本人か否かを判断することはできそうでしょう?」

友「どうやって絞るんだよ、茶髪の女の子をリストアップしてもらうのか?」
「なーんか現実的ではないと言うか」

幼馴染「さっきの会話を思い出しなさいよ」

友「会話?」

女『それで、その時に後ろの席の○○さんがですねぇ』ペラペラ

友「あ……」

幼馴染「アイツもすっかり油断していたみたいね。○○さんのクラスを調べて、前の席のバカを調べりゃ一撃ってワケ」

幼馴染「男が下手に揺さぶり掛けて警戒させてたら逃してる情報だったわね」ニヤッ

……次の日……

男「昨日は思わず怖くなって逃げちまったな」

男「いったいあの子、どうしちまったろう?」
「やっぱり急に手を握るのはまずかったのかな、うん」

男「いゃあ最近の女の子は皆純粋なんだな。急に手を握られただけで錯乱するなんて」ヤレヤレ

男「……って、絶対それだけじゃないよなあの反応」

幼馴染「やっほー男。女さんと良い感じでやってる?」

男「いや……それがちょっと上手く行ってないと言うか何と言うか」

幼馴染「あー。やっぱりか」
「何か手を握ろうとしたら修羅場になっちまったどうしよう、みたいな顔してたからさ」

男「何で知ってんだよ」

幼馴染「ぶっちゃけ後ろから見てたから」

幼馴染「で、次はいつあの子と会う予定なの?」

男「昼間に屋上で待ち合わせしてる」
「正直めっちゃ怖い」

幼馴染「良いじゃん。男、この前ヤンデレ派だって豪語してたぐらいだし」

男「まぁそうだけどさぁ///」

幼馴染「え、そこ喜ぶ所なの?」

男「当たり前だろ」

幼馴染「まぁそんなことはどうでも良いんだけどさ……」

幼馴染「正直私、これ以上引っ掻き回すべきかどうか悩んでるんだよね」

男「引っ掻き回すって?」

幼馴染「アンタと女さんの仲を、さ」

男「そんなことやってたのかお前……」

幼馴染「でも思ったより繊細な問題だったみたいだから、今はあんまりいじくりたくないかな」

男「?」

男「あ、でも今日の昼付いてきてくれない?」

幼馴染「えっ、私が? 何故?」

男「昨日割とガチで怖かったからさ、一度冷静になれる状況で話し合うべきだと思うんだよ」

幼馴染「それ、余計相手を刺激しそうなんだけど……。せめて男に頼みなよ、友とか」

男「あいつ肝心な時に役に立たなさそうなイメージあるからなぁ……」
「俺は幼馴染を頼りにしてるんだよ」

幼馴染「まっ、まぁそこまで信頼されてるなら仕方ないわね。うん、私が上手く話を進めてあげるわよ」

ーー昼休みーー

幼馴染「あの子、来るの遅いわね。30分前には来てそうなイメージあったんだけど」

男「30分前は授業中だろうが。数学が変に長引いたせいでちょっとだけ遅れるってさ」

幼馴染「そっか」

男「……」

幼馴染「ここ、ロマンチックで良いところね。確かに好きな人と2人で来るには適してそう」

男「そうだろ?」

幼馴染「……もっとさ、他に何か言うことないの?」

男「えっ?」

幼馴染「……」
「冗談だよ、バーカ」

幼馴染「そう言えば、女さんに私が来ることちゃんと話してあるよね?」

男「えっ、話した方が良かったか?」

幼馴染「それ、本気で言ってる?」
「好きな人と2人っきりでご飯食べる予定だったのに、相手が異性の付き人連れてきてたら普通怒るでしょ

男「……ごめん」

幼馴染「私、教室に戻るね」

男「おいおい、今更見捨てないでくれって!」

幼馴染「冗談よ冗談。元から針の筵へ殴り込みに行くぐらいの気持ちだったんだから」

男「スマンな」

幼馴染「……今度何か奢ってもらうからね」

男「そういやさ、前に言ってた女って名前の一年はいないってどういうことだったんだよ」

幼馴染「……その辺りに付いては、もう男には言わない方が良いかなぁ~と」

男「な、なんでだよ」

幼馴染「聞いても誰も得しない気がしてさ」

男「……」

幼馴染「まぁでも、損とか得とか関係なしにアンタは知っとく義務があるかもしれないわね」

幼馴染「私達の中学校、荒れ放題で酷いところだったわよね。アレが嫌で無理矢理私立の中学に行ったって人もいたらしいし」

男「お、俺達の中学時代が関係あるのか?」

幼馴染「男はあの不良擬きみたいな環境に適応できなくてクラスでいつも浮いてたわよね。まぁ、私もそんなもんだったけど」

男「……」

幼馴染「で、男は不良に虐められてる奴を助けて、そういう奴らと交友関係築こうとしてたわね」

男「……まぁ、そんな時もあったな」

幼馴染「いやー懐かしいわね。周りからもてはやされて、先生からも英雄だとか言われちゃってさ」

幼馴染「幼馴染の私としても鼻が高かったわよ。とばっちり喰らって骨折させられたこともあったけどね」

男「……」

幼馴染「そんなに辛気臭くならなくても良いわよ。別にアンタを責めたくてこんな話してるんじゃないんだから」

幼馴染「結局あのヒーローごっこは、助けられなかった子が出るまで続けたんだっけ?」

男「……」

幼馴染「ま、思い出したくもないわよね」
「だから必死に勉強して、中学一緒だった不良共が絶対に来れないような高校に入ったんだから」

男「彼女は、一体誰なんだ?」

幼馴染「わかってる癖にぃ……それとも、もう名前何か忘れちゃったのかな?」

幼馴染「私と同じ元テニス部の、後輩ちゃんですよ」

男「……!!」

幼馴染「そこまで驚かなくても……。まぁ噂では後輩ちゃん、例の事件の後転校先で自殺したってことになってたからね」

男「ドアの後ろに……誰か立ってる」

幼馴染「え……あ、そう言えば待ち合わせしてたんだっけ」
「女さん……いや、後輩ちゃんと」

ガラッ

後輩「そいつ、嘘言ってますよ。私の名前は後輩じゃありませんし、そんな人知りません」

男(化粧と髪型とマスクですっかり騙されてたけど、確かに見覚えがある……)

後輩「そんな哀れむような目で見ないでください。そんな汚らしい物を見るような目で見ないでください」
「ただの誤解ですから、人違いですから」

男「……」

幼馴染「……」

後輩「ねぇ、何か言ってくださいよ?」

男「……」

幼馴染(今、男に何か気の利いたことが言えるはずがない)
(だって彼女こそが、英雄と呼ばれた男が唯一助けられなかった張本人なんだから)

男「……ごめん」

後輩「違う、私じゃない。私じゃない……」
「私じゃない私じゃない私じゃない私じゃない」ブツブツ

ダダダッ

男「……」

男「あいつ、後輩なんだよなぁ……?」

幼馴染「まさか、あの子に話聞かれちゃうとはね……迂闊だったわ」ハァ

男「なんで、ずっと隠してたんだよ……」

幼馴染「……そりゃあ、鶴と一緒でしょうね」

男「鶴?」

幼馴染「鶴の恩返しの鶴よ。何でわざわざ、人間に化けて布を織ったんだと思う?」

男「さぁ」

幼馴染「鶴のままだと、相手にされないと思ってたからよ」

男「それと何が一緒なんだよ?」

幼馴染「……きっと後輩ちゃんは、あの強姦事件のせいで自分はもう汚れきってしまったんだって思っていたのよ」

幼馴染「だから後輩ちゃんは汚れていると思われたくなくて、本名を隠してアンタのいるここに入学することにした……そう考えると辻褄が合うでしょ?」

幼馴染「早く追い掛けないとね」
「鶴は正体がバレたら、飛んで逃げちゃうんだから」

男「飛ぶってまさか……!」
「でも、俺が何と声を掛ければ良いのか」オロオロ

幼馴染「……思ってることを言えば良いのよ」
「アンタはあの子が後輩ちゃんだとわかったら汚いって思うの? 違うでしょ?」

男「でも、ごちゃごちゃし過ぎて上手くまとまらないって言うか……」

幼馴染「仕方ないなぁ、男は私がいないと本当に駄目なんだから」ハァ

幼馴染「もう一つの鶴の恩返し、ハッピーエンドバージョン、聞きたい?」

…………

男「ここにいたか、早くこっちへ降りてくれ」

後輩「……どうせなら、屋上から飛び降りたかったなぁ。四階の窓からなんて格好悪い」ハハッ

後輩「……」
「サヨウナラ」スッ

ガシッ

後輩「……離してよ」

男「お前がどんな過去を背負っていようと、俺はお前を愛してる」

後輩「本当に……?」

男「……あぁ」

後輩「……」ジワッ

男「マスク、取ってくれよ」

後輩「うん」スッ

男「好きだ」チュッ

幼馴染「めでたしめでたし……お幸せにね」タッタッタッ

そんなにこの終わり方駄目なのか
これ以上どうすれば良いのさ

幼馴染はあんだけ主人公に執着してたのに、最後なんであんな爽やかに引き下がったの?

>>180基本的にはただの良い子だから
男にくっついてたのは友達としての意味あったし、
女の素性が怪しかったから男の身を案じて敵対していた節もあるから
後輩が心の支えがないと生きていけないような脆い人だって分かったから身を引いた

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom