【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!」 (957)

・咲SSです。

・SS速報VIPへの書き込みは初めてです。至らぬ点がありましたらすいません。

・大量のオリジナル要素があります。大量のキャラ崩壊があります。

・百合描写があります。不快感を持たれる方がいたらすいません。どぎついのはありません。

・闘牌描写があります。ミスや矛盾があったらすいません。雰囲気を楽しんでください。

・更新は不定期ですが、二週間以上空けないよう自助努力します。

・冒頭に、オーキド博士が最初にしてくれるアレみたいなものがあります。スキップしていただいても一向に構いません。

・しばらくは『淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!」(淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!」 - SSまとめ速報
(http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1391480211/))』とほぼ同じです。既にそちらをご覧の方は、スキップしていただいて結構です。

・長々とすいません。始めます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1392028470

淡「はるばる海を超えてやってきました白糸台!」

淡「さーて、まずはどこに行けばいいんだっけ? なんか手続きがどうのこうのって……」ウロウロ

淡「んー? こっちかな? 『関係者以外立ち入り禁止』……?」

淡「いやっ、私は関係者だから、こんなの関係ないよねっ!」

淡「押しとお――!!」

 ドンッ

淡「って痛ーっ!? ちょっと!! どこの誰だか知らないけど、いきなりぶつかってくるとか何してくれてるわけー!?」

 ――――――

 ――――

 ――

 白糸台研究学園都市。

 人口23万人。

 首都西部白糸台を中心とした円形の都市型独立研究機関。

 研究概要:特定空間内におけるヒトの意識的確率干渉及びその相互作用について。

 研究素材:麻雀。

 研究対象:高校生雀士。

 白糸台研究学園都市に住む高校生は全員が研究対象、つまり雀士であり、ごく一部の選ばれた雀士はインターハイを始めとした一般の麻雀大会にも出場する。

 現在、白糸台研究学園都市に在籍する高校生は約一万人。

 書類上、その全員が、同じ高校の、同じ部活に所属している。

 白糸台高校麻雀部。

 これは、

 その頂点を目指す、

 少女達の軌跡――!!

 ――理事長室

健夜「要するに、大規模な高校生雀士の養成所だって思ってくれればいいの。
 ちょっとだけデータを研究に使わせてもらったり、たまにちょっとした実験に付き合ってくれればそれで大丈夫。あとは普通の高校生とそんなに変わらない。まあ……部活動は麻雀部一択なんだけどね。
 けど、その分、衣食住といった生活面で手厚い保障が受けられる。さらに、研究に貢献してくれた生徒には、当然それなりの見返りもある」

?「はい」

健夜「あと、学園都市ならではなのが、普通のカリキュラムの中に麻雀の授業が組み込まれていることかな。
 うちの売りである《能力開発》も、ここに含まれる。もちろん、攻め、守り、読み――といった専門分野の授業も充実しているよ。
 三年生になったらデジタル・オカルト分けっていうのがあるから、それまでに自分の進むべき道を決めないとね。
 卒業後の進路としては、デジタル系なら研究職か経営職、オカルト系なら現場職か教育職に就くことが多いかな。もちろん、あくまで目安だけど」

?「はい」

健夜「それから、うちの白糸台高校麻雀部――つまりこの学園都市にいる約一万人の高校生全員のことだけど――は、実力に応じて軍《クラス》を一から九まで分けていてね。生徒は自分のクラスに応じた校舎や寮に入ることになる。
 人数比でいうと、九軍の生徒は全体の四分の一で、四から九軍の生徒が全体の九割。残りの一割が、二、三軍の生徒ね。
 一軍ともなると、全体の0.05%以下しかいない――って、個人名を出したほうが早いか。今の白糸台高校麻雀部の一軍は、宮永照、弘世菫、渋谷尭深、亦野誠子。
 彼女たちは三月にあった春季大会《スプリング》のレギュラーメンバー。大会のときはもう一人いたのだけれど、彼女はもう卒業して、今は四人だけになってる」

?「はい」

健夜「一軍の四人――チーム《虎姫》っていうんだけど――を例に挙げるまでもなく、白糸台高校麻雀部がチーム制を採用しているのは有名だよね?
 うちは、基本的に五人一組のチームを最小単位として、レギュラー争いやクラス分けを行っているの。
 チームは学年やクラスに関係なく組むことができる。ただし、クラスの違う人同士が組んだ場合、そのチームのメンバー全員が、その中で一番下位の人のクラスに移ることになる。四軍以下では、まま、よくあること。
 ただ、二、三軍ともなると、基本的に同じクラス同士でしかチームを組まないかな。それくらい、上位にいくに従って、クラスごとの実力差が大きくなるの」

?「はい」

健夜「で、今は学園都市のあちこちで、夏のインターハイに向けてのチーム編成が行われてる。メンバーを五人集めて、チーム登録をするのね。
 それが終われば、今度はチーム単位でクラス選別戦を行う。この選別戦の結果で、今年一年間のヒエラルキーがほぼ決定することになるの。
 そして、クラス選別戦の結果を元に、全チームを52のブロックに分けて、《予選》と呼ばれるトーナメント戦を行う。
 で、その予選を勝ち抜いた52チームで《本選》……一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》をして、優勝したところが一軍《レギュラー》――夏のインターハイに白糸台高校麻雀部として出場する、と」

?「はい」

健夜「他にも、同時進行で個人戦の代表者も決めるのだけれどね。こちらは、軍《クラス》とは別に校内順位《ナンバー》という制度があって、純粋な個人成績を競うの。
 この《ナンバー》は、ある種の救済措置でもある。特定のチームに所属していない人でも、個人戦の成績がよければ、相応の軍《クラス》に振り分けられる。例えば、二軍だと、三割くらいがこの個人戦のみの人たちになるかな」

?「はい」

健夜「ちなみに、現在のところ、ナンバー1は宮永照ってことになってる。掛け値なしの、一万人の《頂点》。次いでナンバー2が荒川憩、ナンバー3が辻垣内智葉。この《三人》の順位は、そのまま去年のインターハイの個人戦結果に繋がっているよね。
 このあたりが、白糸台を制する者はインターハイを制する――と言われる由縁。団体戦も個人戦も、白糸台高校麻雀部が公式戦でトップを逃したことはない。
 ま、当然だよね。この学園都市の麻雀は、外の世界より数十年は先に進んでいるから」

?「はい」

健夜「あと、この軍《クラス》や校内順位《ナンバー》の他に、《支配力》とも言われる《意識的確率干渉力》の強さによって、階級《ランク》をSからFまで設定している。
 このランクSっていうのは、いわゆる《牌に愛された子》と呼ばれる特別な生徒たちのこと。
 年によってはランクSが不在のときもあるのだけれど、今年は既に五人ほどランクS指定を受けている。一人は、知っての通り、宮永照よ」

?「はい」

健夜「それから、能力開発の成績――つまりは能力の強度によっても、能力値《レベル》と呼ばれるものを設定してる。超能力相当のレベル5から、無能力のレベル0まで。
 今のところ、この超能力者《レベル5》は、学園都市に七人しかいない」

?「はい」

健夜「あなたの場合、校内順位《ナンバー》は、悪いけれど、最下位の一万位代からスタートすることになる。まあ、転校生は校内での戦績がないから、こればかりは仕方がないと諦めて」

?「……はい」

健夜「そして、あなたの階級《ランク》――これも、残念なんだけど、Fランクという結果が出ている。ただ、これは生まれつきというか、先天性が強く出るものだから、あまり気に病まないでね。もちろん、後天的要因で変動することも稀にあるし」

?「…………はい」

健夜「なんというか……こんな中途半端な時期に、半ば無理矢理学園都市に連れてきておいて、最下位ナンバーや最下位ランクっていうのは、こちらとしても本当に申し訳ない気持ちでいっぱいなんだけど……。でも、事実だから受け止めて」

?「……………………はい」

健夜「というわけで、早速今日から、あなたには《白糸台校舎》に通ってもらうことになる。
 この学園都市でも最高の学び舎――白糸台高校麻雀部に所属する約一万人の、実質最上位に君臨する二軍《セカンドクラス》の生徒たちが通う、超がつくほどの高級施設。
 当然だけど、そこに通うあなたは、既に二軍確定だから」

?「はい……はいいいいい!!??」

健夜「何をそんなに驚いてるの? まさか、もっと下位のクラスに配属されると思ってた?
 とんでもない。こんな中途半端な時期に、半ば無理矢理学園都市にあなたを連れてきたのは、一体全体なんのためだと思ってるの? それだけの《価値》が、あなたにあるからなんだよ」

?「い、いや、しかし……私は麻雀は人並み――否、人並み以下にしか打てません!? それに、ランクだってF指定の一般人なわけで……!!」

健夜「それは確かにそう。ちなみに、本当なら今ここであなたと一緒に学園都市の説明を受けるはずだった《もう一人の転校生》の場合だと、
 一年生ながらに階級《ランク》は最高にして五人目のランクS、能力値《レベル》は大能力相当のレベル4にして多才能力者《マルチスキル》、校内順位《ナンバー》も遠からず20位以内には入ると目されるほどの逸材だよ」

?「そんなとんでもない人が本当ならここにいるはずだったんですか!?」

健夜「そうなの。ただ、どこかで何かのトラブルに巻き込まれたのか……待てど暮らせど来ないみたい。困ったことに、連絡もないときてる」

?「それは心配ですね……じゃなくて!! そんなランクS指定でレベル4の超人ならいざ知らず、なんで私のような、この間まで公立高校のレギュラーにもなれなかったような凡人がっ!
 いきなり天下の白糸台高校麻雀部の二軍《セカンドクラス》だなんて……分不相応もいいところ……!!」

健夜「だから、それはさっきも言ったでしょ。分不相応なんかじゃない。あなたにはそれだけの価値がある。
 あのね、あなた、私と打ったときのこと覚えてる?」

?「もちろん覚えてます。点棒ゼロの断ラス。完膚なきまでの敗北でした。こんな結果のどこに価値を見出せばいいのでしょうか……?」

健夜「ちなみにだけど、私がもう一人の転校生と打ったときは、南場に行くことなく片が付いた。東場で大体わかったから、そこで打ち切りにしたの」

?「それが何か……?」

健夜「わからない? 方や南場に入る前に終了して、方やオーラスまできっちり打ち切った」

?「そんなの、理事長のお心一つでどうとでもなるのでは?」

健夜「じゃあ聞くけど、あの日、私があなたの学校の麻雀部の子たちと打った対局で、一局でも、南入した対局があった?」

?「それは……なかったですけど」

健夜「つまり、そういうこと」

?「意味がわかりません」

健夜「わからないかな……。あなたは、この学園都市の理事長――小鍛治健夜と打って、半荘一回を最後まで打ち切った」

?「そ、それくらいは他の方だって」

健夜「できない。可能性があるとすれば、宮永照だけだと思う」

?「じゃ、じゃあ、あのときは理事長が手加減を」

健夜「してない。私、無駄に対局を引き伸ばすほど暇じゃないから」

?「では、あのときの対局は、一体何が原因で……?」

健夜「もちろん、あなたの《能力》が原因よ」

?「……えっ?」

健夜「私の支配すら受け付けない――恐らくは歴史的、世界的に見ても類を見ない強度を誇る――あなただけの《超能力》」

?「ちょ……?」

健夜「さっき説明したように、白糸台には雀力を示すいくつかの指標がある。チームの総合力を示す《クラス》、個人の技量を示す《ナンバー》、支配力の強さを示す《ランク》――そして、能力の強度を示す《レベル》。
 レベルの最高がいくつだったか、思い出して」

?「レベル5……」

健夜「そう。でもね、研究者の間では、このレベル5のもう一つ上があるんじゃないかという仮説が、神話や伝説と同じくらいの神秘性と信憑性でもって信じられていてね。
 というか、言っちゃえば学園都市の存在意義が、この《人としての限界を超えた存在》――《神の領域の能力者》を生み出すことなの。
 私たちはそれを……超能力者《レベル5》の上――絶対能力者《レベル6》と呼ぶ」

?「それで……その幻のレベル6と、私になんの関係が?」

健夜「まだわからない? あなたは、そのレベル6に届く、唯一無二の存在かもしれないの」

?「えええええ!?」

健夜「ところで、私は学園都市のレベル5は七人いると言ったけれど、あなたがここで白糸台への転校を拒否すれば、これが六人に戻ることになる」

?「そうなんですか……」

健夜「そう。あなたは学園都市に七人しかいないレベル5の超能力者。あなた以外のレベル5は全員二軍《セカンドクラス》に所属している。有名どころで言えば、チーム《虎姫》の渋谷尭深が、レベル5の一人」

?「まさか! 全国優勝するようなチームの一員と、私が同格だなんて!?」

健夜「それは違う。同格だなんて、とんでもない」

?「そ、そうですよね、私なんか……」

健夜「あなたはレベル6になれるかもしれない唯一無二の存在――超能力者を超える絶対能力者の資質を持つ者。渋谷尭深よりも、或いは宮永照と比較しても、能力者としてのあなたは……間違いなく格上よ」

?「か、格上っ!? 私が!? あの《虎姫》のメンバーよりもですか!!?」

健夜「《虎姫》だけじゃないよ。現在の白糸台高校麻雀部――ひいては過去の白糸台……ううん、人類の歴史を見ても、あなた以上の能力者は存在しない」

?「う……嘘です……」

健夜「嘘だと思うなら、説明の前にあなたに渡した電子学生手帳――そこの所属を見てみなさい。クラスもナンバーもランクもレベルも明記されているから」

?「えっと、あ、ここですか……って、うわああああ!?」

健夜「わかった? それがあなたの《価値》」

?「そんな……私が……? 私なんかがっ!?」

健夜「というわけで、白糸台校舎と白糸台寮の場所は、その学生手帳にデータを送っておいたから、今日中に手続きを済ませること。じゃあ、私はもう一人の転校生を探さないといけないから、これで失礼するね」

?「ま、待ってください! 本当にいいんですか!? 何かの間違いじゃないんですか!? 私が……レベル5なんて……!! それも――」

健夜「私だって、あなたと初めて対局したときは、何かの間違いだと思った。けれど、その後の検査と検証で、あなたの能力は《本物》だと確定した。
 それはもう間違いないし、揺らぐこともない。あなたが自分のことをどう思っていようと、覆すことのできない、厳然たる事実」

?「私が……」

健夜「誰がなんと言おうと、あなたはこの学園都市に七人しかいないレベル5――その最高位の、第一位」

?「…………はい」

健夜「ま、そう気負わずに、学園都市での生活を楽しんで。ここは雀士なら誰もが憧れる理想郷。あなたは、その中でも選ばれた人しか入れない白糸台校舎で、世界最高水準の麻雀の勉強ができる。
 最初は戸惑うことも多いと思うけれど、あなたならすぐ馴染めると思う。これから二年ほど、よろしくね――花田煌さん」

煌「はい…………」

 ――白糸台寮へと続く道――

煌(学園都市最高のレベル5って……どうしてこんなことになったんでしょう……)

煌(まあ、しかし、なってしまったものは仕方ありません。栄誉あることですし、私にはそれだけの価値があると、あの小鍛治理事長がおっしゃってくださった。それだけでもうすばらなこと。期待には応えないといけません)

煌(そして何より、少々突然ではありましたが、憧れの白糸台高校麻雀部の一員となれた! ヘタだヘタだと嘆いている暇があるくらいなら、その名に恥じない雀士になるために精進すべきでしょう)

煌(やってやりましょう、花田煌! こんなことは、一生に一度あるかないかの幸運です。この学園都市で、これから二年間続く生活を、有意義なものにするのです!)

煌(いずれにせよ、これまで以上に麻雀の勉強に励まねばなりませんね……! なんだか燃えてきましたよー!! すばらああああ!!)

 ザワザワ

煌(ん……? あちらのほうがなにやら騒がしいですね……)

「先輩、こいつです! こいつがさっき私にぶつかってきて……!」

「それで、謝りもせずに立ち去ろうとしたってか」

「完全にうちらをナメてますよ、先輩。やっちゃってください!」

「フン……見かけねえ面だが……雰囲気からして一年か。ったく、躾がなってねえな」

?「はあ? ぶつかってきたのはそっちでしょ? っていうか邪魔なんだけど。私、行くとこあるんだから」

「っせえんだよ、ガキが!」

?「危なっ! なにすんの!?」

「その綺麗な顔に傷をつけられたくなかったら、大人しくしてろ」

?「むうううううう……!!」

煌(あれは……一人が三人に囲まれているようです。雰囲気からして一年生と上級生ですかね。恐喝……か何かでしょうか。なんにせよ、すばらくありません!
 しかし、どうしたものでしょう。急いで誰か大人を呼びに行きたいところですが、ここには今私しかいません。あの方々から目を離すわけには……)

煌(あれは……一人が三人に囲まれているようです。雰囲気からして一年生と上級生ですかね。恐喝……か何かでしょうか。なんにせよ、すばらくありません!
 しかし、どうしたものでしょう。急いで誰か大人を呼びに行きたいところですが、ここには今私しかいません。あの方々から目を離すわけには……)

「おいガキ。ちょっと面貸せよ。雀荘行こうぜ。そのスッカラカンの脳みそに、アタシらが先輩後輩の上下関係って言葉の意味を叩き込んでやるからよ」

?「雀荘……? なに、私と麻雀で勝負しようっていうの?」

「そうだよ。テメェが勝ったら今日は見逃してやる。負けたらそのときは……わかってるよな?」

?「ふふっ……いいじゃん。ちょうど私も、この間大負けして、むしゃくしゃしてたんだよねー!!」

「じゃあ、決まりだな……」ニヤッ

煌(ああっ!? まずいです! 移動してしまいます……!! ええい、こうなったらやるべきことは一つ! ここは覚悟を決めるのです!! 困っている人を見過ごすわけにはいきません!!)ダッ

煌「ちょ、ちょっとお待ちください! あなた方!!」

「ああ?」「なに?」「誰?」

煌「あ、う……! えっと、とにかくです! 女の子一人を上級生が三人がかりで脅かすなんて、恥ずかしくないのですか!? 詳しい事情はわかりませんが、そんなすばらくないことは即刻やめにして、今日のところは――」

?(……?)キョトン

煌(こ……この子………………すばらっ!!)

?(……?)ジー

煌(こんな綺麗な人が地球上に存在していいんですか!? 鮮やかな金髪、陶器のような透き通る白い肌、芯の強い真っ直ぐな瞳……! なんでしょう、見つめられるだけで、胸が高鳴って……!?)

「おい、なんだよテメェは。こいつの仲間か?」

煌「そ、そうです! この人は……その、私の大切な人です!!」

?(っ!?)

煌「この人に手を出すというのなら、いくら私だって黙っていませんよ!!」

「黙ってないって……じゃあどうするってんだよ」

煌「そ、その、えっと、先生に言いつけます!!」

「先生って……ぎゃっはっはっは!! バカかテメェ!? 今時そんな脅し文句でビビる高校生がどこにいるってんだよ!! 引っ込め、この鍬形頭がっ!!」ガシッ

煌「ああ……痛っ!?」

?(――!?)

煌「やめ……離してください……!!」ジタバタ

「誰が離すかよ。こんないかにも掴んでくださいって髪型しやがって!!」グッ

?「…………!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

「!!!?」ゾゾッ

煌(あれ……手が緩んだ……? 一体何が……)チラッ

?「あんたたち……用があるのは私じゃなかったの?」

「(な、なんだ今……こいつからとんでもない気配がしたような……)だ、だからなんだってんだよ」

?「別に粋がって私に絡んでくるのはいいんだけどさ、この私に絡んでおいて、他の人にも手を出すってのはちょっとカチーンってくるかも。
 あんたらの相手はこの私でしょ? 余所見しないで。麻雀……やるならさっさとやろうよ。
 その腐った脳みそに、私が力の上下関係って言葉の意味を叩き込んでやるから」

「い――いい度胸じゃねえか……! おい、オマエらも、行くぞ!!」

「「はいっ!!」」

煌「あ、あの……っ!」

?「私のことは心配しないでダイジョーブ。巻き込んでごめんね」コソッ

煌(こ……この子……! 私を助けるために、わざと彼女たちを挑発して……!)

?「助けてくれて、どうもありがとう。最初はびっくりしたけど、すっごく嬉しかった!」ニパッ

煌(なんて純真な笑み……! まるで天使のような!!)

?「じゃ、またどっかで会えたらいいね……名無しのヒーローさん」

煌「は――花田煌ですっ!!」

?「えっ……?」ピタッ

煌「私も、お供いたします……!! よろしいでしょうか?」

?「い、いいの? だって、あなたはただの通りすがりで、それに、私のこともよく知らないでしょ?」

煌「人を見る目はあるつもりです。それに、一度首を突っ込んだ以上、私も既に関係者の一人。ご迷惑じゃなければ、最後まで付き添わせてください」

?「……わかった。ただし、これは私が売られた喧嘩。あなたは見てるだけでいいし、危なくなったらいつでも逃げてね」

煌「わ、わかりました。あ、あの、それであなたは……」

?「大星淡。学年は一年生だけど、実力は高校百年生だよっ!!」ニパー

煌(大星淡さん……! なんて眩しい笑顔ですか!! すばらっ!!)

淡「じゃあ、ハナダ。一緒に雑魚退治に行こっか!」

煌「ど、どこへなりとも付いて行きますっ!!」

 ――雀荘

「じゃ、始めるぜ。ルールはうちの標準ルール。東南戦の一回勝負だ」

淡「望むところー!!」

煌(変な疑いをかけられないように、こうして大星さんの後ろについてみましたが……それにしても、この髪の毛……見るからにサラサラで、まるでシルクのような光沢。しかも、ふわふわといい匂いまで漂ってきて……)ポワー

淡「じゃ、ハナダ! すぐ終わらせるから、ちょちょーっと見ててねっ!」

煌「は、はいっ!」

(フン……ガキがノコノコ誘いに乗りやがって。テメェがどんなに強かろうと、アタシら三人を相手に回した時点で、テメェの負けは確定なんだよ! アタシらのナンバー上げついでに、思いっきり恥かかせてやる……!!)

淡「親は私だねっ! サイコロ回れー」コロコロ

(オマエら、わかってるな。最初から行くぜ!)

((はいっ!))

    西:うち後輩

 北:私後輩 ■ 南:アタシ先輩

     東:淡

 ――――

 東一局・親:淡

淡「さーて、と。第一打は何切ろうかなー」ルンルン

煌(学園都市での麻雀は奇妙奇天烈摩訶不思議との噂でしたが、今のところ特に変わったところのない普通の麻雀に見えます……。否、なにやら、相手方の顔色が悪いですね)

(チッ、配牌クソ悪いな。面倒臭ェ)

(せ、先輩!)

(あんだよ)

(どうやら……私たち三人とも五~六向聴っぽいです。この金髪だけ普通の二~三向聴。これは何かの能力ですよ!)

(レベル2の感知系能力――《他家の配牌の向聴数がなんとなくわかる》……これが偶々じゃねえってわかったのは収穫だ。助かったぜ)

(光栄です!)

(ひとまず、アタシは普通に聴牌を目指す。配牌干渉系の能力ならツモ牌まで干渉してくることはねえだろうし、なんとかやってみるさ)

(わ、わかりました。私たちは先輩の聴牌を待ちます!)

淡「(なーんかコソコソしてやな感じ。さっさと和了って終わりにしよう)決めた! 第一打はこれー!!」タンッ

 ――数巡後

淡「ロンッ!! 7700いただき!!」パラララッ

(くっ……こいつ!)

煌(無駄のない打牌ですね。私のいた地区の上位レベルと比べても、なんら遜色がない。軽く流しているように見えますが、小手調べの闘牌がこれとは。さすが学園都市です。麻雀の平均水準が高い)

淡「一本場~!!」コロコロ

(連荘なんてさせるかよ……!!)

 東一局一本場・親:淡

淡(むー。《絶対安全圏》はちゃんと機能してるし、大した支配力も感じない。適当に打ってれば負けないかな。つまんないの。次もこんな感じなら、さっさとアレやって三人同時にやっつけよー)タンッ

(このガキ……あからさまにやる気をなくしてやがる。今回もクソ配牌だしな。チンタラやってるとさっきみたいに先を越される。
 が、とにかく聴牌しねえことには始まらねえ!)タンッ

 ――数巡後

(よし……! 絶好の一向聴!! この局は行けるかもしれねえなッ!!)タンッ

淡(おっ? 何かやるっぽいな。いいじゃん、ちょっと見てみよう)タンッ

煌(大星さん!? なぜに和了り拒否ですかー!?)

「(張った……!! やっと来たぜ! 見てろよガキ、これがアタシの《能力》だッ!!)リーチ!!」チャ

「(先輩のリーチが来た!! よ、よし、追いつけた。これで、うちも……!)リーチです!」チャ

「(よし、これで先輩の勝ちだ!!)私もリーチします!」チャ

淡(むむ、雑魚Aと雑魚Bもリーチ? 先輩さん以外に聴牌気配はなかった気がしたんだけどな……ま、いっか)ツモッ

煌(ツモを見て、大星さんの手が止まった?)

淡(はっはーん。なるほど……そういうことかっ! ふむふむっ! 使い勝手は悪そうだけど、その分強度が高いんだね。まさかこの私が一発を掴まされるなんて!!)ニコニコ

(なに笑ってやがる……生意気なガキめ。切るならさっさと切りやがれってんだ!)

淡(とりあえず、振り込むのはヤダからこれは残しで、現物現物っと)タンッ

煌(大星さんが聴牌を崩した? もしかして、これがあの人の和了り牌ということなんでしょうか)

「(チッ……カンのいいやつだ。だが、甘ェ)ツモ。2000・4000は2100・4100だ」

煌(本当に和了り牌でした!! すごいっ、なんでわかったんでしょう!?
 いや、それよりもこの方……ツモ牌を見もせずにツモ宣言をしたような感じでしたが、まさか一発が来るとわかっていた?)

淡「あっちゃー親っ被りかー。ま、全然くれてやるけどっ!」チャ

「口の減らねえガキだな」

淡「それほどでも。で、これで終わり? 確かに、言うだけのことはあると思うよ。けどさ、フツーこんな隠し芸みたいな能力を持ってるだけで、そんなデカい態度取る? 恥ずかしいっていうか、ちょっと痛いよね~」

「テメェ――!? この一回でアタシの能力を見破ったのか? だとしたら……そっちもデカい口を叩くだけのことはあるな」

淡「私は高校百年生だからねっ!!」ドーン

煌(大星さん、百とかそういう数字で威張る高校生なんて、あなた以外にいませんよ……)

淡「次はそっちの親だよね。珍しいものを見せてもらったお礼に、私もちょっと張り切っちゃうよー!!」

(言ってろ、ガキが……ッ!)

 東二局・親:アタシ先輩

(またこのクソ配牌か、鬱陶しいな!)タンッ

(せ、先輩、うち、なんか背筋が寒いような……)タンッ

(私もです、先輩……)タンッ

(ガキ、何かやってんのか……?)

煌(大星さんの配牌が……!!?)

淡「ほいっと、ダブリー!!」ギャギャギャ

(((ツモ切りのダブリー!?)))ゾワッ

淡「むっふふーん。どうしたのー? ダブリーくらい珍しくもないでしょー?」

「ま、まあな……」

煌(いや、珍しいですよ! あわや地和でしたよ!! この方、なんだかんだで動揺しているのでは? それとも、本当に珍しくないと思っている……とか?)

(驚いたぜ……! いや、ダブリーに、ではなく、こいつが多才能力者《マルチスキル》だってことにな。能力者の集う学園都市とは言え、複数の能力を持った雀士はそう多くない)

(この一年、白糸台に来る前は一般人と打ってたんだろうな。そりゃ、他家をクソ配牌にする能力と、自由にダブリーをする能力があるなら、一般人相手に負けることはねえだろう)

(だが……わかってんのか? ここは天下の学園都市だぜ。アタシの能力が通用したってことは、テメェの能力値は、高くてもアタシと同格のレベル4)

(その程度の能力者なら、ここの上にはゴロゴロいる。レベル4のマルチスキルは確かに脅威だが、必要以上にビビることはねえ。ここは外の世界とは違う。科学《デジタル》と能力《オカルト》が共存する世界最高峰の雀士養成都市――)

(テメェ程度の、一般人相手に勝ちまくって、自分を無敵だと勘違いした能力者が……雑魚専門などと揶揄されて地に落ちる街だッ!!)

淡(む……動揺ゼロ? へえ、まだ何かあるんだ。いいじゃんいいじゃん。そうこなくっちゃ!!)

煌(大星さん! 大丈夫なんですか? あちらの先輩さんは全然戦意を失ってませんけど)

淡(大丈夫じゃないかもねー。私のダブリーとは若干相性が悪い気がするし)

煌(というと?)

淡(あっちの先輩さん、たぶん、《三家立直になると一巡以内に和了れる能力》を持ってるんだと思う。しかも、ロンする相手を選んだり、誰も振り込まなければツモを《上書き》したりっていうのも、ある程度自由に決められるみたい)

煌(そ、そんなオカルト!?)

淡(ありえないって? ここは学園都市――科学《デジタル》と能力《オカルト》が共存する街だよ。ハナダは私より先輩っぽいのに、そんなことも知らないなんて、今までここで何をやってきたの?)

煌(わ、私は今日転校してきたばっかりなんですよ!)

淡(……へえ? まあ、いいや。とにかく、私は負けないから、心配無用だよー)

煌(いや、しかし、その、大星さんの能力(?)は《自在にダブリーができる》なんですよね? なら、確かに三家立直になりやすい。
 しかも、相手の方が出和了りする相手を選べるなら、リーチしている大星さんは、さっきみたいに掴まされたら、振り込むしかない。本当に勝てるんですか?)

淡(見かけによらず慧眼だね、ハナダ。でも、そんなの関係ない。最後には私が勝つ。というか、ハナダ、私の能力の本領は《自在にダブリーができる》じゃないよ。いや、実際、自在にダブリーできるんだけどさ)

煌(できるんじゃないですか!?)

淡(でも、私の支配領域《テリトリー》は、そこだけじゃない)

煌(それは、どういう……)

淡(もうちょっと待っててね。次の角が来たら見せるから)

煌(なにがなんだか――って! また見逃しですか!? いま先輩さんから和了り牌出たじゃないですか!?)

淡(わかってないなー、ハナダ。いま和了ったらダブリーのみで2600じゃん。そんなもったいない和了りはしたくない。親っ被りには親っ被りをお返ししてやるんだよん!)

煌(凡人には理解できない思考です……! これが学園都市の能力者ですか)

淡(さーて、そろそろ角が見えてきた。いやー今回は深いところにあったなー)

「リーチ……!」チャ

淡(あっ、ヤバ)

煌(見逃しなんてして悠長に待ってるからです!)

「……私もリーチです」チャ

淡(ありゃりゃー)

煌(どーするんですかー!?)

淡(慌てない慌てない)ツモッ

煌(大星さん……?)

淡「……やるじゃん、先輩さん?」ニパ

「るせぇ、和了らねえなら切れよ」

淡「うんうん。雑魚でこのレベルなら、この先もなかなか楽しめそうだよ、学園都市――白糸台高校麻雀部!!」タァンッ

煌(大星さあああん!!?)

「それ、ロンだ。18000ッ!」パラララ

淡「ひゅーっ! ハネ満じゃん!? いいね、面白いっ!! 好きなだけくれてやるぅー!!」ジャラジャラ

「(こいつ……どこから来るってんだその余裕は!)……一本場だ!」

煌(大星さああああん!)

淡(なに、ハナダ?)

煌(なに、じゃないですよ! 負けちゃいますよ!?)

淡(負けちゃうかもねー)

煌(なんでそんなに軽いんですかー!?)ガビーン

淡(ま、でも、負けても失うものがあるわけじゃないから。というか、むしろ、私が負けたほうが、向こうをがっかりさせられるかも)

煌(どういうことですか?)

淡(たぶんだけどね、この人たち、色んな人に突っかかっては、こうやって三対一の対局を仕掛けてるんだと思う。あの先輩がアタッカーで、他の二人はサポート。
 仲間が三人いれば、三家立直に持ち込みやすくなる。あの先輩に優位な場を作れるってわけ。連携も慣れてる風だったしね)

煌(確かに、やけにリーチのタイミングがいいとは思っていましたが。しかし、目的は?)

淡(ナンバーだよ。学園都市では、個人の総合成績で校内順位《ナンバー》を決める。そして、相手のナンバーが自分のナンバーより上であればあるほど、勝ったときのナンバー上昇率が大きくなる)

煌(じゃあ、この人たちは、自分たちより強い相手に、三対一の勝負を仕掛けて、勝ちを重ねていると? それで、自分たちのナンバーを効率よく上げている、と)

淡(そゆこと。取り巻きの二人も、二位か三位にはしてもらえるわけだから、それなりに恩恵がある。かつ、もし負けることがあっても、相手はそもそも格上だから、ナンバーの下降は最小限に抑えられる。
 能力値《レベル》や支配力《ランク》は生まれつきによるところが大きいけど、校内順位《ナンバー》や軍《クラス》はそうじゃない。下位クラスの人の中には、こういうやり方で上を目指す人もいるってことだね)

煌(厳しい世界なんですね……。ですが、大星さんが負けてもいいというのは? 大星さんなら当然、上位のナンバーをお持ちなんですよね? ここで負けたら、それこそあの方たちの思う壷では?)

淡(私が上位ナンバー? はっはっはー、そいつはどーかなー。下手すると最下位かもしれないよ)

煌(それは……ないです)

淡(断言したね。ま、私の実力からすれば、確かにありえないんだけど。でも、これにはちょっと事情があるんだ)

煌(まあ、とにかく、大星さんの言いたいことはわかりました。つまり、この人たちは、今ここで大星さんに勝っても、旨味がほとんどない、だから負けても失うものはない、ってことですね。けれど……)

淡(ん?)

煌(大星さんは、それでいいんですか?)

淡(まあ、ぼちぼち楽しめたし、色々見せてもらったし、得るものはあったかな)

煌(そうではなく、プライドというか、面子というか)

淡(あははっ、そーゆーこと? だーかーらー、わからないかな。さっき言ったじゃん!)

煌(え――?)

淡(最後には、私が勝つって……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌(よ、よくわかりませんが、すごい気迫ですっ!!)

 東二局一本場・親:アタシ先輩

淡「まったまた行っくよー、ダブリー!!」ギャギャギャ

(こいつ……慎重になると思いきやまたダブリーかよ。動揺が一切ないってのはムカつくっつーか、いっそ清々しいな)

(にしても、この溢れ出るバカげたプレッシャー。覚えがあるぜ。高ランクの化け物から感じるそれと同種のもんだ。それもとびきりヤバいやつ。ってことは、こいつ、まさかランクS……?)

(いや、それはねえか。白糸台のランクSは四人だけ。こんなところでふらっと出会うようなやつらじゃねえ)

(……にしても、だとすると、こいつ何者だ? 後輩どもからカモがいるって聞いてきて、確かに只者じゃねえ――上位ナンバーの風格があったんだが、アタシは見たことねえんだよな。後輩どもも、どこの誰だか、名前すら知らないって言ってたが……)

(レベル4は確かに珍しくねえが、ありふれているわけでもねえ。特にこいつみたいな単純でわかりやすい能力な上に強えとくれば、この容姿でこの性格……新入生とはいえ噂くらいは入ってくるはずなんだが)

(ま、今は対局に集中するか。恐らく、こいつは根拠もなく余裕を見せるなんて真似をするやつじゃねえ。となると……まだあるんだ。上が)

(他家の配牌を悪くする。ダブリーを自在に放つ。一つ目の能力からして、三つ目の能力ってのは、発動するのが終盤なのかもな。それも……派手でデカいやつだ。いかにもこいつが好きそうな、それこそ、天地が二百七十度くらいひっくり返るような、とんでもねえ能力――)

(まあ、推測でしかねえがな。ただ、常にダブリーでツモ切りしかできないこいつが、何かしら能動的に仕掛けてくるとしたら、おのずと手段は限られてくる)

(いや、まさかとは思うが……暗槓じゃねえだろうな? で、カンドラモロノリとか? それなら、仮に配牌でダブリーのみだったとしても、ドラ4で最低でもハネ満確定……)ゾワッ

(い、いやいや……! さすがにそんなふざけた能力じゃねえか。そんな化け物がいたら間違いなく名が通ってるはずだしな!)

(何にせよ、仕掛けるなら序盤だ。ヘタに引き伸ばしてこいつに奥の手を出されちゃ敵わねえ。今ここで片をつける!! おい、オマエ!!)

(は、はい! 先輩!!)

(オマエの能力の使い時だ。ここで決めるぞ!!)

(わかりました! ここはうちに任せてください!!)タンッ

「ポンだッ!」タンッ

淡(鳴いた……? 何する気?)

煌(どういうことでしょうか? 鳴いたらリーチができないのに……)

(お次は……これですかねっ!)タンッ

「それもポン……!」タンッ

(最後は……これっ!!)タンッ

「(レベル3の感知系能力――《自分の手牌の中から、場の誰かが二枚以上抱えている牌を見分けることができる》――まさか、こんな早々にこいつを働かせることになるとはな!)ポン!!」ニヤッ

「(これでこの局もうちらの勝ちですね、先輩!)リーチ!!」チャッ

淡「ふぁあ!?」

「わ……私もリーチです!」チャッ

淡「ふぇえええ!!?」タンッ

「ロンッ!! 7700は8000!!」パラララ

淡「ふぉおおおおおお!!?」

「目を白黒させてどうした、ガキ。ようやくテメェの置かれた状況を理解したか? ああ?」

淡「す……い……!!」

煌(大星さん……!?)

「どうした、あまりの点差にネジが――」

淡「すっごいいいじゃん! すっごいいいよ!! そっか!! 《三家立直になったら和了れる》能力――自分以外の三人がリーチしたときにも有効なんだねっ!? まさかそういう使い方があるなんて……!
 だって、それ、普通なら自分がリーチして使おうとするじゃん!! そしたら裏ドラも期待できるし一発だってつくんだからっ!! そこを逆手に取ってくるとはなぁ……! 自分の能力をよく研究してないとできないことだよね!
 しかも! それを私が《絶対安全圏》に胡坐をかいてるこの序盤に仕掛けてくる!! タイミングも最高だよっ!!」

「…………この、ガキ……!」ギリッ

淡「すごいー! すごいー!!」キラキラ

煌(大星さん! 大星さん!! はしゃいでる場合じゃありませんよっ! 点数をよく見てください……!!)

淡「へ?」

淡:600 ア先:58600 う後:20900 私後:19900

淡(んー? 目の錯覚かなー?)ゴシゴシ

煌(現実逃避しないでください!! 何度数えても残り600点です! これでは大星さんの得意とするダブリーができません!? どうするんですか!?)

淡(…………………………どうしよう……)サー

煌(あれだけ大見得を切っておいてまさかの手詰まりですかー!?)

淡(これはあれだね、うん。とりあえず、《絶対安全圏》で嫌がらせをしつつ、その間に気合でツモるしかないね。うん。そうしよう。うん)

煌(あの、さっきから《絶対安全圏》《絶対安全圏》って、なんのことですか?)

淡(私は《他家の配牌を五~六向聴にする》ことができるんだ。最初からずっとやってるよ)

煌(…………えっ? それ、本当ですか?)

淡(ふふーん、驚いた? 《絶対安全圏》、《ダブリー》、それからフィニッシュにもう一つ。私には全部で三つの能力があるんだ。多才能力者《マルチスキル》って珍しいみたいなんだよねー)

煌(いえ、そうではなく……)

淡(ん? ……ハナダ?)

「おい、ガキ。いつまでヘラヘラしてるつもりだよ。わかってんだろうな。テメェはもうダブリーをかけることができねえ」

淡「なーにー? そんなに私の本気が見たいの? いいよ、なら……今すぐに見せてやるから――!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

(こ、こいつ……本当に何者だっ!?)ゾワッ

淡「じゃ……対局を再開しよ――」

煌「…………大星さん」

淡「なに、ハナダ? 急に真面目な顔して。いま面白くなってきたところなの。邪魔しないで。というか、近いと危ないから、少し下がってたほうが――」

煌「大星さん。大星さんは、この方々に勝つつもりなんですよね?」

淡「そうだよ?」

煌「なら……この場はどうか、私に任せていただけませんか?」

淡「は? どういうこと?」

煌「次の東二局二本場――私に代打ちさせていただけませんか?」

淡「…………本気で言ってるの?」

煌「はい」

淡「それは……私じゃ万が一で負けるかもしれないけど、ハナダなら万に一つもこいつらには負けない――ってこと?」

煌「少し……違います。大星さんの力は、ほんの片鱗だけですが、先ほどから痛いほど感じています。この『対局に』勝利するだけなら、間違いなく、大星さんが続きを打ったほうがいいでしょう」

淡「むう……?」

煌「もう一度言います。この『方々に』勝つつもりなら、私に任せてください」

淡「ふーん……。わかった。いや、わかってないけど。とにかく、いいよ。代打ちを認める。ただし、絶対に勝ってよね」

煌「はい……《絶対》に勝ちます」

「お、おい……ちょっと待て! 代打ちは正直勝手にしろって感じだが――なあ、金髪のガキ。本当に代わっちまっていいのかよ。
 もし、そこの鍬形が負けたら、変動するのはテメェのナンバーだぜ? 大体、テメェらさっき会ったばかりの他人同士だろ。そんなやつに、大事な自分のナンバーを預けるなんて――」

淡「うるさいな、先輩さん。あなたには関係ないでしょ。私はハナダを信じてる。だって、ハナダはいいやつだもん! 見ず知らずの私を助けようとするような、いいやつだもんっ!」

煌「大星さん……」

「チッ……! わあーったよッ! フン……やるならやろうぜ。さっさと座れ。ソッコーで終わらせてやる!」

煌「よろしくお願いします……」

淡(さて……ハナダが何を考えてるのかはさっぱりだけど、っていうかどうやって逆転するつもりなのかもわからないけど、最後まで楽しく見させてもらうよっ!)

 東二局二本場・親:アタシ先輩

 ――十一巡目

淡(ってぇー!! ハナダってば!! もう中盤も過ぎたってのにまだ三向聴っ!? なんか打ち方もへたっぴーだし!! どどどどどどど、どーすんのこれ!?)

煌「…………」タンッ

(この鍬形……何かとんでもねえ力でも使うのかと思ったが、拍子抜けだな。どっからどう見てもただの一般人。気配からしてランクも下位っぽいし、技術もあるようには見えねえ。ナンバーだって下から数えたほうが速えだろう。
 ま、何もするつもりがねえのか、できねえのかは知らねえが、この局で終わりにしてやるよ。
 行くぜ……オマエら、準備できてんだろうな!?)

((はい、先輩!!))

「リーチだッ!!」ゴッ

淡(あわわわわわ!!)

「うちもリーチです」チャ

「私もリーチです!」チャ

淡(は、ハナダー!!)

煌「………………」ツモッ

淡(………………えっ?)

煌(ふむ、これは要りませんね)タンッ

(は――? ツモ切りなのに、アタシの和了り牌じゃねえ……だと……?)ゾワッ

(せ、先輩……? どうして掴ませなかったんですか?)

(ツモだと、私たちのポイントが若干下がってしまうのですが……)

(う、うるせえ! アタシだって掴ませるつもりだったんだよ!! だが……どういうわけか能力がうまく発動しなかったみてえだ。悪いな、この分はどこかで埋め合わせするからよ……)

((わかりました))

(じゃあ、ま、軽く一発をツモって終わりに――)ピタッ

((せ、先輩……?))

(バ、バカな……ッ!! こんな……ありえねえ……!!?)ゾゾゾッ

((先輩!? どうしたんですか!?))

(ど、どうしたもこうしたも――)ガタガタ

煌「どうかされました? 顔色が悪いですけれども」

「テ――テメェ!! 一体何をしやがった!?」

煌「……仮に私が何かをしていたとして、それをあなたに言う義理はありませんね。さあ、ツモでないなら早く牌を切ってください」

「ク……クソがっ!!」タァンッ

淡(これは……どういうこと? あの先輩さんの能力は、《発動条件》を満たせばほぼ確実に効果を発揮するような、かなり強度の高いものだった。それこそ、私の支配下にある牌を《上書き》して、私に和了り牌を掴ませるくらいに。
 けど、ハナダが私以上の《支配力》を持っているとは思えない。というか、ハナダからは何も特別な気配を感じない。でも……じゃなければどうして……?)

((三家立直状態で先輩が和了れなかった!? こんなこと今までに一度もなかった……!!))アタフタ

(アタシだってこんな異常事態、過去に一度しかねえよ!! 和了り牌をあらかじめ握りつぶされるとか、《発動条件》をクリアする前に潰されたりとか、そういうのはいくらでも体験したことはあるが……こいつのはそれとは違う!
 和了り牌はまだ何枚も残っている! 《発動条件》も満たしている! なのに……どういうわけか牌の《上書き》ができねえ!!
 おかしい……何もかもがおかしい……!! アタシの能力は――使い勝手が悪い分、他のレベル4に比べても強度は上のほう。それが……なぜ機能しない……!!?)

((せ、先輩!? 大丈夫なんですか……!?))

(ま……まあ、そう慌てんな。リーチをかけてる以上、こっちが優位なことに変わりはねえんだ。
 仮に、こいつが何らかの方法でアタシの和了りを《無効化》しているんだとしようじゃねえか。だが、それはつまり、言い換えれば場がデジタルになってるかもしれねえってこと――《古典確率論》に従って場が動いてる可能性があるってことだ。
 とくりゃ、オマエらが偶然ツモったりすることも、十分ありえるわけだぜ。そのときは遠慮は要らねえ。その瞬間に手牌を倒せ!)

((わ、わかりました……!))

(それに、だ! アタシの能力には、誰にも教えたことのねえ『裏』があるのさ……!! たとえアタシらの誰も和了れなくても、この状況――最後に笑うのはアタシら以外にありえねえんだよ!)

((はい、先輩!!))

淡(ハナダ……もしかして、ハナダは――)

煌「あの……すいません」

「ああ?」

煌「ちょっと、一つ確認をしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

「なんだよ」

煌「申し訳ありません。私、ここの標準ルールというものを、まだきちんと把握していなくて……」

「だからなんなんだよ。勿体つけてねえで話せ!」

煌「チョンボは満貫払い、ということでよろしいんですよね?」

「そうだよ」

煌「なるほど。では、例えば、聴牌していないにも関わらずリーチをかけて、流局時にそれが発覚した場合なども、満貫払いということになるのですね?」

「「「――!!!!?」」」ゾワッ

煌「ちなみになのですが、同じチョンボを同時に二人がしてしまった場合、チョンボした人同士で点棒の移動は起こるんですか? それだと、実質の罰符が満貫分より少ないことになってしまうと思うのですが――」

「そ、そんな細かいことどうでもいいだろ!! 大体、なにがどうなりゃそんなアホみたいな偶然が起きるってんだよ!? ああ!?」

煌「わかりませんよ? ありえない、なんてことはありえません。それに、起こるか起こらないかは、今問題にしていません。私はただ、確認したいだけなのです」

「……っ!!」ギリッ

煌「三家立直から誰も和了らず流局となり、蓋を開けてみたら、リーチした三人のうち二人が聴牌の形になっていなかった。
 この場合、チョンボの満貫払いというのは、この二人の間でも行われるものなのでしょうか。それとも、二人聴牌・二人ノーテン時のように、チョンボした人からチョンボしてない人へのみ、点棒が移動するのでしょうか。
 勉強不足の私に、どうかご教授願います」

「…………前者だよ。チョンボは常に場に対して――つまり全員に罰符を払う。タイミングは問題じゃねえんだ。同時だろうが多発だろうが、一つ一つのチョンボは、それぞれ独立のものとして扱う」

煌「ありがとうございます。これで、心残りなく流局を迎えることができます……」

(……この鍬形……!!)ギリッ

 ――流局

「聴牌です」パラララ

「聴牌……」パラララ

「(ふう……ひやひやさせやがって)アタシも聴牌だ」パラララ

煌「おお……!」

「どうした? あとはテメェだけだぜ。もっとも、どうせノーテンだろうがな!!」

煌「えっ、なんで断言できるんですか?」

「アタシの能力にはな、裏の面があるんだよ。
 《三家立直になったらアタシが和了る》能力――これは、裏を返せば、《アタシが和了らない限り三家立直が継続する》ってことになるんだ。つまり、アタシの能力が発動したら最後、《四家立直では流せない》んだよッ!!」

煌「そ、そんな側面があったなんて……はっ!? だから、ご自分でリーチをかけないときには、鳴いて和了っていたのですね!? 速攻で仕掛け、なおかつ、ご自分の能力の縛りを抜け出すために!!」

「ご明察だ!! さらに言うと、アタシのこの裏能力は――《点棒状況には左右されない》。テメェの点数が600点しかねえ――聴牌してもリーチを掛けられねえ状況――ってのは関係ねえんだ!!
 あくまで特定の条件下で《門前聴牌を封じる》能力なんだよ。《リーチを封じる》能力とは似て非なるもの! だから……そもそも四家立直にならねえ状況でも、アタシの裏能力はテメェの門前聴牌を封じるってわけだ!!」

煌「なんて詳細な能力把握……すばらです!」

「で、だ! テメェはさっき、アタシらの三家立直が成立したとき、まだ聴牌してなかったよな?」

煌「ええっ!? な、なんでそれを!?」

「いや、十中八九そうだろうって思ってカマかけただけだ。だが、当たりみてえだな。で、テメェは愚かにも、三家立直成立から今の今まで、門前を通して流局を迎えちまったってわけだ……!!」ニヤッ

煌「その……通りです……」

「テメェがどういう能力を使ってアタシの和了りを《無効化》したのかは知らねえよ。ま、一万人も雀士がいりゃ、あの《塞王》以外にもう一人くらい、アタシの和了りを防ぐ封殺系能力者がいてもおかしくはねえ……だが!!」

煌「あの……」

「アタシの和了りを封じても、アタシの裏能力まで封じることはできねえはずだぜ!? そもそもアタシの裏能力が封殺系だからな! 封殺系を封殺系で《無効化》するなんて、アタシは寡聞にして聞いたことがねえ!!」

煌「あのー……」

「とは言え、私の和了りを真正面から潰したのは、学園都市でテメェが二人目だ。その点は評価するぜ。が、まだまだ詰めが甘かったな。ノーテン罰符で終了ってのも盛り上がらねえが、それでも勝負は勝負……テメェら二人揃って、尻尾巻いて逃げるんだな!!」

煌「私、聴牌してますけど」パラララ

「」

煌「なんか、ごめんなさい。ちょっと、その、言い出しにくくて……」

「あぁ、あぁあああ、あぁあぁぁぁああああ!!!?」ガタガタ

「「せ、先輩ッ!?」」

「ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ!
 ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ!
 ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ!
 ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ!」

煌「いや、でも現に」

「じゃあ何か!? テメェは私の能力を表も裏も《無効化》したってことか!?
 ありえねえだろ!? 《発動条件》や細かい《制約》によって能力同士が衝突して、片方が潰されることはあるが……否! それだってありえねえんだよ!!
 アタシの能力値はレベル4!! しかもレベル4でも強度はかなり上のほうだ!! そのアタシの能力と正面から衝突して、表裏全てを上回るなんて、それこそ――」

煌「それこそ?」

「それこそ…………レベル5の超能力者でもねえ限り――」ゾワッ

煌「なるほど、レベル5ですか」

「だが……!! 学園都市にレベル5は六人しかいねえはずだ!! そのほとんどをアタシは知ってる!! テメェみたいな鍬形は見たことも聞いたこともねえ!!」

煌「ん……六人と言いましたか? はて、おかしいですね。私は、学園都市のレベル5は、七人いると聞きましたが」

「はあ!? 何を言って――」ハッ

煌「」ゴ

(いや、待てよ。確か、この間こんな噂を耳にした……! 曰く、理事長と対局して、きっちり半荘一回を打ち切って生き残った――とんでもねえ《怪物》がいるって……!!)

煌「」ゴゴ

(それに、これもつい最近聞いた……転校生が来るらしいって話。もしかして、その転校生ってのと……理事長と対局して生き残ったっつー《怪物》は……同一人物……!?)

煌「」ゴゴゴゴ

(というか、こいつ、さっき言ってなかったか……!? 『ここの標準ルールを把握してない』とかなんとか。けど、そんなことがありうるのか!?
 見た感じは二年っぽいが、一年だとしても、もう五月になってる! しかも、ここの学生は全員が選りすぐりの雀士だ。チーム編成も始まっている。この時期にルールを把握してないなんて、訝しいにもほどがあるッ!!)

煌「」ゴゴゴゴゴゴ

(だ、だが……それも、つい最近転校してきたばかりってんなら……つじつまが合うんじゃ――)ゾッ

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡「ねえ……ハナダ。ハナダって、さっき、自分は転校して来たばかりって言ってたよね」

(――ッ!!?)

煌「はい。先ほどまで、理事長室で諸々の手続きをしていました」

やっぱ速報にしたのかー
クッソ長いみたいだし正解だね
SS速報は規制とかVIPみたいにないから書き溜めだったら時間置かなくても大丈夫(だったはず)
前のが面白かったからちょー期待してるよー

淡「もう一人が……あの理事長を相手に半荘一回を最後まで打ち切ったっていう、人類史上最高強度の能力者で――能力値は当然のレベル5。
 これまで六人しかいなかった学園都市のレベル5を七人に増やし、その上、序列もぶっちぎりの第一位に君臨するような……とんでもない《怪物》だって聞いたんだけど」

煌「《怪物》だなんてそんな。実物は、ただの臆病でひ弱な小市民に過ぎません」

「じゃ、じゃあ……本当にテメェが――!!?」ガタンッ

煌「いかにも。私が学園都市に七人しかいないレベル5の、第一位――花田煌です」コノデンシガクセイテチョウガメニハイラヌカー

「なああああ!!? か、《怪物》ああああ……ッ!!!」ガタガタッ

煌「そ、その反応はさすがに少々傷つきますね……」シュン

(こ、こいつ……マジでレベル5――!! しかも第一位だと……!!? バカなッ!! いや、しかし、アタシの能力がまるで通用しなかったのは事実!! 信じられねえが……けど、電子学生手帳のデータは弄れない! 間違いなく本物……ッ!!)

(じゃ、じゃあ……何か!? こいつはあの《ハーベストタイム》より! 《ドラゴンロード》より化け物だってのか……!? そ、そんなの……逆立ちしたって勝てる相手じゃねえだろ!!)

煌「さて、どうしますか? 対局を続けますか? しかし、何度やっても結果は同じですよ。三家立直で和了れる能力も、四家立直にさせない裏能力も、今の私にとっては意味を持ちません」

「そ、そんなバカなことが――」

煌「ありえるのです。今の私からは、たとえ小鍛治理事長でも直撃を取ることはできません。逆に、私は自由に和了りたい放題です」

「ふ……ふざけんなッ!! テメェから和了ることはできねえのに、テメェだけは好きなように和了れるだぁ!? そんな――あまりに一方的過ぎるじゃねえか……ッ!!」

煌「一方的……そうですね、あなた方は進むべき方向を間違えました。即刻回れ右をして、正しい道にお帰りください」

煌「ここから先は――《通行止め》ですッ!!」

「《通行止め》だと――!? くっ……ク、クソがああああ――!!」バァン

「「先輩……!?」」

「オマエら! この対局はもう終わりだ!! レベル5の《怪物》なんか相手にしてられるか!! 取り返しがつかなくなってからじゃ遅え……棄権するぞ!!」

「「わ、わかりました……」」

煌「お待ちください」

「ああ……!? なんだよ!! こっちは負けを認めてんだ!! まだ何かあるのかよ!!」

煌「言ったはずですよ。あなた方は進むべき道を間違えた、と」

「ど、どういうことだよ!?」

煌「あなた……ご自分の能力を発動させるために――三家立直を成立させるために――後輩のお二人にノーテンリーチをかけさせていますね……?」

「は――はあ!? どこに証拠があるんだよ!! 大体、さっき流局で手牌を見せたときは、アタシら全員――」

煌「大星さんの能力――《絶対安全圏》と言いましたか。それは、《他家の配牌を五~六向聴にする》ものだとお聞きしました。その能力の影響を、あなた方は、この対局が始まったときから、ずっと受け続けていた……」

「だからどうした!? そうだよ!! あのウザったい能力……!! だが、あれこそ逆にそのガキの弱点だと思ったから、アタシは鳴きを入れて序盤に――」ハッ

煌「そうですね。鳴きを駆使すれば、たとえ大星さんの能力下においても、五巡以内に聴牌することが可能でしょう。
 しかし、私が数えていた限り、あのとき、あなたと……それにあなたの鳴きをアシストをしていた下家のあなた――」

「う、うちがなんですか……!?」

煌「お二人は、確かに五回以上、新しい牌を手に組み込んでいました。しかし、鳴きによって手番を飛ばされた大星さんと、対面のあなた――」

「私……っ!?」ビクッ

煌「あなた、あのとき、まだ四回しかツモっていませんでしたよね? なのに、リーチをかけましたよね? 先輩さんのアシストをするために、聴牌してないにもかかわらず、故意にノーテンリーチをかけた――違いますか?」

「わ、私は……」

煌「毎回そうだとは言いません。が、恐らく、何度か同じようなことをしてきたのではないですか?
 なぜなら、ノーテンリーチであれ空テンリーチであれ、三家立直の状況さえ作ってしまえば、アタッカーである先輩が和了って場が終わる。
 つまり、あなた方お二人の手牌を他家が見る機会はない――不正が発覚することはない、ということになります」

「そ……そんなのただの憶測じゃねえか!? 現場を押さえたわけでもねえのに、あることないことウダウダ言ってんじゃねえぞ!?」

煌「それはそうです。しかし、現場を押さえたら、あなた方が困るでしょう?」

「…………は、はあ……!?」

煌「戦術と言えば聞こえはいいですが、あなた方の渡っている橋は、非常に危ない橋です。その道の先には、破滅しかありません。
 先ほど、道すがら電子学生手帳に載っている《校則》の大半に目を通しました。学園都市――白糸台高校麻雀部では、麻雀における不正を厳しく禁止しています。
 あなた方のそれが露見したら……最悪退学処分になる可能性もありますよ。それは、とても困るのではないですか?」

「だ、だからどうした!? アタシらが退学処分になったとして、それがテメェとなんの関係があるんだよ!!」

煌「ありますよ。同じ白糸台高校麻雀部の仲間じゃないですか」

「な……かま……だと?」

煌「対局を見ていればわかります。道端でお会いしたときは、恐喝まがいのことをする不貞の輩だと思いましたが……麻雀に取り組む姿は真剣そのもの。
 三人で一人を狙い打つ緻密な連携プレー、大星さんの能力を的確に見抜いて即座に対応する技量、自分の能力を熟知した多彩な打ち回し――すばらとしか言いようがありません。
 さぞかし名のある方とお見受けします。あなたのような強者が、なぜ不正スレスレの行為に手を染めるのですか? それほどまでに校内順位《ナンバー》が大切なのですか?
 真の実力ではない、その場凌ぎの打ち方で勝利を得て……それであなたの心は満たされるのですか?」

「だ、黙って聞いてりゃ……!! 学園都市に来たばかりの、才能に溢れたレベル5様が……!! アタシらその他大勢の何がわかるってんだよ!!」

煌「わかりません。しかし、あなた方の進むべき道がそちらでないことだけは、わかります」

「ア、アタシ……! アタシは――」

 ――――

『おとーさん! おかーさん! おばーちゃん、みてみて、りーちするよ!!』

『よくできたね。じゃあ、お父さんもリーチだ』

『あら、それじゃお母さんもリーチしちゃおうかしら』

『おやおや、また親子三人で競争かい? いったい誰が一番になるかな?』

 ――――

『うわー! まーた捲り合いで負けたわー!!』

『すげーな、三家で打ち合いになったら絶対アンタが勝つのな!』

『ねえねえ、もしかして、これが噂の《超能力》なんじゃない? いいなー。ゆくゆくは白糸台高校麻雀部のエースになったり?』

『そ、そうか……? あ、あはは……』

 ――――

『リーチやッ!』

『ほな、こっちもリーチ!!』

『(よ、よし……狙い通り!!)リーチだッ!!』

『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

『(バカな……こんなこと――)』ゾワッ

 ――――

「…………小さい頃、よく家族麻雀をやったんだ。麻雀はばーちゃんに習って覚えた。覚えてからは、オヤジとオフクロとばーちゃんとアタシで打つようになった」

「うちの連中は、みんな打ち合いが好きでな。ばーちゃんの影響で全員がテンパイ即リー派だった。それで……よくオヤジとオフクロとアタシで捲り合いをしたんだ」

「アタシらん中で一番強かったばーちゃんは……アタシたちの三家立直になると、オリるようになった」

「四家立直で場を流してしまわないように、アタシたちが捲り合いを楽しめるように……現物だけを切って……笑って見ていてくれたんだ……」

「中学に上がるとき、ばーちゃんが死んだ」

「そのときだ――アタシの能力が目覚めたのは。それから、地元の中学の麻雀部に入って、必死で麻雀の勉強をして……アタシが三年のときには、地区の大会で優勝した」

「優勝を決めたのはアタシだ。三家立直から……トップをまくったんだ」

「それから、アタシは白糸台に一般受験で入学した。もちろん、麻雀をやるために。で、そこから一年は――散々だったぜ」

「なまじレベルが高いから、一年の最初は二軍に配属されたんだ。入学してすぐに、化け物じみた実力者や能力者と打つハメになった。結果は散々。そのあとも、元々使い勝手の悪い能力だったから、簡単に潰されて、負けが重なった。クラスもナンバーも落ちる一方だったぜ」

「二年になってから……アタシは、アタシ一人の力で勝つことは諦めたね。その頃からだ、自分の能力を、今みたいに使うようになったのは」

「アシスト役をはべらせて、上位ランカー狩りをする。アタシ一人では勝てなかったやつも、アタシに優位な場を作れば……勝つことができた」

「そりゃ、嬉しかったさ。久しぶりに三家立直で和了ったときは……死んじまったばーちゃんが、傍で応援してくれているように感じたぜ」

「アタシはひたすら上を目指した。せめてナンバーが300……いや、500でもいい。白糸台高校麻雀部一万人の中の、一握りの人間と呼ばれる存在に――アタシもなりたかった! なって、ばーちゃんに伝えたかったんだ……!!」

「アタシは……アタシは今もリーチしてるって! 捲り合いを楽しんでるって!! ばーちゃんに教えてもらった麻雀が大好きだってよ……!!」

「クソっ……なんで今更、こんなことを……!!」

煌「大変な苦労を……されてきたんですね……」

「……ま、最近じゃ、そんなことすっかり忘れてたけどな。ナンバー上げに躍起になって、捲り合いがただの出来レースになって、いつの間にか、アタシは勝つこと以外に興味がなくなってた。麻雀が楽しいと思えなくなっていた……」

煌「もう二度と、故意のノーテンリーチを戦略に組み込むことはしないと、誓ってくれますか?」

「そう……だな。何か、また別の方法を考えるさ。今度はもう少しクリーンなやつをよ。それで、最後の夏まで……全力を尽くして上を目指す。卒業したら、どこまで行けたか……真っ先にばーちゃんに報告しにいくさ」

煌「お祖母様思いなのですね……! すばらですっ!!」

「とりあえず……アタシは自分を見つめ直すところから始めるとするぜ。ちっとばかし道を間違え過ぎた。確かに、これ以上先に行ってたら、危ないところだったかもな。
 ま、振り返って来た道を戻っていけば、いつかは進むべきだった道を見つけられるだろうよ。悪かったな。それから……ありがとよ、《通行止め》」

煌「いえ、私は何もしていません。ただ単に、危険な道を《通行止め》にしただけです」

「それと……オマエら! なんつーか、アタシの勝手につき合わせて悪かったな。アタシはもう……オマエらの面倒は見てやれねえ。明日からどうすればいいのか、自分のことで手一杯だ……!!
 だから、もうアタシみたいなポンコツじゃなくて、もっといい能力者を見つけて――」

「私は……! これからも先輩についていきます! 今まで先輩にお世話になった分を、返したいんです!!」

「うちもですっ!! 先輩のこと、支えますから!! お傍においてください!!」

「お、オマエら……!?」

「「「うわああああああん!!」」」

煌「…………すばらです」

淡「めでたしめでたし、って感じ?」

煌「わかりません。あの方々の行く先は、あの方々だけのものですから。部外者の私が、これでよかったんだ、などと言うのは筋違いでしょう」

淡「ってゆーか、ハナダ、レベル5だったんだね。そっかー……ハナダだったんだ。私じゃない《もう一人の転校生》って!」

煌「ええっ!? では、もしかしてとは思っていましたが、やはり大星さんが――!!」

淡「そう! スーパー天才美少女雀士、大星淡とは私のことだよっ!!」

煌「そ、そうだったんですか……って!! なら、こんなところで油を売っていてはいけません、今すぐ理事長のところに――」

健夜「あー!! やっと見つけた!!」タッタッタッ

淡「あっ、あらふぉー!!」

健夜「アラサーだよ!!」ゴッ

淡「あはっ、相変わらずすっげー殺気。ねえ、今から一局打たない?」ウネウネ

健夜「私はそんなに暇じゃありません。ハイ、これ、あなたの電子生徒手帳。失くさないでね」

淡「ありがとー」

健夜「……あれ? 大星さん、どうして花田さんと?」チラッ

煌「あ、これはその――」

淡「まっ、色々あって!」

健夜「へえ……それは、好都合。じゃあ、花田さん、私が花田さんにした説明を、大星さんにしてくれるかな? 任せていい?」

煌「任されました――と言いたいところですが、私はこれから寮へ行って手続きを済ませなければなりませんし、できれば明日へ備えて部屋で一休みしたいのですが……」

健夜「うん、その寮の部屋のことなんだけどね。あなたたち、相部屋だから」

煌「……は?」

健夜「急な転校だったから、二人部屋しか用意できなかったの。ごめんね。でも、仲良くなってるみたいだし、いいよね?」

煌「ふええええええ!!?(大星さんと相部屋……!? な、なんでしょう、血が騒ぎます!!)」テテーン

淡「私はいいよー。ハナダなら信頼できるもん。ねー、ハナダ?」ニパー

煌(無垢な笑顔!? 心が痛いです!!)

健夜「じゃあ、決まり。とりあえず、寮の前までは、私の部下に車で送らせるから。あとは寮監の久保さんの言うことをよく聞いて、今日中に手続きを済ませてね」

淡「はーいっ! じゃ、行こ、ハナダっ!!」ギュッ

煌「(手……手がっ!!)ひゃ、ひゃいいっ!!」

 ――白糸台寮・二人部屋――

淡「えー!? じゃあ、ハナダの能力って《絶対にトばない》なの? もっとこう、《条件を満たせば絶対に役満が和了れる》ぅ! とか、《点棒の流れのベクトルを操作する》ぅ! とか、《実在する全ての能力を使える》ぅ! とかじゃなくて!?」

煌「ご期待に添えなくて申し訳ないですが、本当にトばないだけです。他には何もできません(大星さん……! ネグリジェ姿でベッドにうつ伏せになり、頬杖をついて足をぶらぶら! すばらですが、目のやり場に困りますっ!!)」

淡「じゃあ、さっきの対局、ハナダはハッタリをかましてたってこと? 『ここから先は《通行止め》だー!!』とか言っちゃって」

煌「決して嘘は言ってませんよ。点棒が600点の状況なら、相手は私から直撃を取れませんし、詰み棒があったのでツモでもゴミ手一回が限度、ノーテン罰符も当然回避できます。
 ま、私が和了りたい放題というのは、私とあの方々の実力差を考えればかなり誇張した言い回しでしたが、可能性はゼロではありません。
 向こうのお三方で点棒を回されると負けてしまうので、私なりに強者を演出してみせたんです」

淡「ひゅぅー! やるじゃん、ハナダ! いいねー、そういうのっ!! 私もすっかり騙されてたよ!!」

煌「お褒めに預かり光栄です。ま、今回はレベル5の第一位という肩書きに助けられましたね。その実体は、ただただ《トばない》という、本当に地味でしょっぱい能力者でしかありません」

淡「んー、ま、確かに言葉にすると地味でしょっぱい力だけど、実際のところ、私はハナダの能力が羨ましいな。どんな状況になってもトばないとか、最高にカッコいいと思うよ!」

煌「カッコいい……? トばないだけの臆病な能力がですか?」

淡「臆病なんかじゃないよ。むしろ逆かも。本当にちょーステキ。私のと交換してほしいくらいっ!」

煌「ええっ!? 《絶対安全圏》と、《ダブリー》と、それからなんでしたっけ、《カン裏モロ》の三つと……ですか?」

淡「全部あげてもお釣りが来るくらいだよ!」

煌「私の能力は……そんなにすばらなのですか?」

淡「うん、すばらだよ! ってか、さっきからちょいちょい聞くんだけど、『すばら』ってなに?」

煌「(わからないで使ったんですか今!?)すばらしい、の略です」

淡「ほー! すばら!!」

煌「はい、すばらです」

淡「すばら、すばらー!!」ルンルン

煌(大星さん……あんなにご機嫌に私の口癖を連呼して……なんだか、赤ん坊に自分の名前を教えたみたいです。なんなのでしょう、この子の、底抜けの人懐っこさは。あまりに無防備なので、いつか変な気を起こしてしまいそうです……)

淡「決めた! 私、ハナダのこと『スバラ』って呼ぶ!!」

煌「えっ?」

淡「だって、ハナダはいい人で、能力も最高だもん! まさにすばらじゃん。だからスバラ!!」

煌「えーっと……」

淡「スバラー♪ スバラー♪」

煌(ま、まあいいでしょう。悪い気はしませんし)

淡「あ、そうだ。スバラもさ、いつまでも大星さんじゃなくて、『淡』って呼んでよ」

煌「そそそそそそそんなこと!!?」

淡「ルームメイトなんだし、そもそも私のほうが年下なんだし、名字にさん付けはちょっと他人行儀過ぎると思うよー?」

煌「……わかりました。やってみます。あ、あわ、あわわわわわわ」アワアワ

淡「もうちょっと!!」

煌「あわあわわわわ――淡さん!!」

淡「ずこー!!」

煌「すいません、これが精一杯です」

淡「ふふっ。ま、それがスバラらしいのかな。その気になったら、いつでも呼び捨てでいいからねっ!!」

煌「はい……(呼び捨てでなんて、とても呼べませんよ。大星さんは私には眩し過ぎます。そして……あまりにも遠い……)」

淡「さて、っと。まだ寝るには早いかなー」

煌「つい先ほど夕食を摂ったばかりですしね」

淡「むうー! 身体がうずくよー!!」ゴロゴロクネクネ

煌(にゃ、にゃんこー!! 淡さんにゃんこですっ!!)スバラッ

淡「もー、スバラ! 私をこんな身体にした責任取ってよ!?」

煌「はっ!? え!? 私、何かしましたか!?」

淡「スバラが途中交代したから、身体が麻雀足りないって叫んでるの!! むー! 麻雀したーいっ! 親になってダブリーでカンしてインパチの流れを無限に続けたいー!!」

煌「……それが本当にできてしまう能力者だから恐ろしいです」

淡「決めた! 麻雀するっ!!」ガバッ

煌「今からですか!? しかし、もう門限を過ぎていますし、外に出ることはできませんよ?」

淡「ちっちっちー。スバラったら遅れてるよ。学園都市では、部屋にいながらにして麻雀が打てるんだよん!!」ジャーン

煌「それは……電子生徒手帳!!」

淡「これがタブレットになってるんだね。それで、ネットにも接続できる」

煌「タブレットというのは?」

淡「パソコンの薄いのって感じ。私も一台持ってる。ってか、向こうの学生はみんな持ってたよ。あ、向こうって海外のことね」

煌「淡さんは帰国子女でしたか」

淡「学園都市の内情も、ここに来る途中で調べてきたんだー」

煌「淡さん、今日転校してきたばかりなのに、理事長から説明を受けた私より麻雀部の制度に詳しかったですもんね……」

淡「天才は予習復習を欠かさないものだよ、スバラくん!!」

煌「おっしゃる通りでございます、淡先生」

淡「スバラも自分の電子学生手帳でやってみたら? ネット麻雀のほうが、スバラ向きだと思うよ。普通の麻雀と違って、電脳世界じゃみんな能力を使えないから」

煌「ちょっと『普通』という言葉の意味が行方不明です」

淡「さて、ふむふむ……ここから白糸台高校麻雀部専用サーバーにアクセスするのね……。おっ、学籍番号がアカウントになってるんだ! あとはハンドルネームを決めてっと……」シャッシャッ

煌「あ、あの、すいません。私、紙媒体には強いんですが、この手の電子機器はあまり馴染みがないもので。これ、どうやって進めばいいんですかね……?」コンコンバシッピコピコ

淡「スバラってば機械音痴!! もー私がやったげる、こっち来て!」バシンッ

煌(あ――淡さんの寝転がるベッドに!? しかも淡さんの隣に来いと!?)

淡「はやくー!」

煌「は、はいはい只今!!」ドキドキ

淡「はーい、ここ座って」

煌「ひゃ、ひゃい……!」

淡「こーね、指でシャーっと画面を切り替えて、カーソルを合わせて、後はタップして……ハンドルネームは『すばら』っと」

煌(ベッドの端に座った私に……淡さんが後ろから覆いかぶさるような格好で私の電子手帳を操作して……背中から淡さんの体温がじかに……!!)

淡「ハイ、これで登録完了っ!! スバラ、試しにこのまま一局打ってみてよ。操作方法を教えるついでに、スバラの雀力を確認しておきたいし」

煌「こ、このままですか!?(後ろから抱きつかれたままですか!?)」

淡「これが見やすいし教えやすいの。さ、やってやって!!」ムギュー

煌(淡さん……見た目以上にあるんですね……感触がすばらヤバいです!!)

 ――数時間後

淡「スバラ……」

煌「はい……」

淡「激弱だよー!! 普通じゃない麻雀なのに全然勝てないじゃーん!! R1300なんて見たことないよー!!」

煌「面目ない……」ズーン

淡「そりゃ、白糸台専用サーバーだから、平均水準が高いのは仕方ないとしてもさ。
 それにしたって、せめてその平均と同じくらいにはならないと! いくら強力な能力があっても、地力が平均以下じゃ二軍《セカンドクラス》で生き残るなんて夢のまた夢だよっ!!」

煌「ど、どうすればいいのでしょうか……」

淡「とりあえず、これ!」ドン

煌「『小学生でもわかるデジタル麻雀論――著:熊倉トシ』?」

淡「これ、私が十年前に読破したやつ。スバラにあげる。古臭くて骨董品みたいな本だけど、内容はけっこう充実してるから。これを一週間以内にマスターすること!! おっけー!?」

煌「わ、わかりました……!!」

淡「あとは……ま、そのとき考えるっ!!」

煌「合点です!!」

淡「じゃ、スバラ! 今日はもうおやすみねっ、グッナイ!!」

煌「わ、私は少しこれを読んでから……」ペラペラ

淡(と言っても……実はデジタル論の本はあれしか持ってないんだよねー。私は天才だから、あれを読んだあとは一人で応用理論まで構築できたし。
 スバラにはもっと強くなってもらわないと困るんだよっ! けど、スバラはどーみてもコツコツ努力型でしかも大器晩成タイプ! 私じゃうまく教えられる自信ないよー)

淡(誰か……デジタルに強くて、普通の能力ありの麻雀も強い人。うん。明日、クラスに入ったら探してみようっ!!)

煌(わああああ!! 穴があったら入りたいっ!! 淡さんに恥ずかしいところをいっぱい見られてしまいました……!!
 これはどうしたものでしょう。とりあえず、淡さんからお借りしたデジタル論の本は熟読するとして……時間があるときはこの電子手帳で麻雀をするのがいいのでしょうか)

煌(しかし、これまで外の世界の麻雀にしか触れてこなかった私が……独学で学ぶのはさすがに限界があります。淡さんには迷惑をかけたくありませんし……どなたか、私に合った打ち方をされる人を探してみるとしましょうか)

煌(この電子学生手帳――ネット麻雀内では、他人の個人成績や牌譜も見れるようになっているようです。学園都市には一万人もの雀士がいて、しかも全員が私より強い方なのですから、探せば、きっと一人くらいは私の理想に近い人がいるはずです。
 これは……いよいよもって眠れぬ日々が続きそうですね……!)

 ――翌日・白糸台校舎・二年教室棟

晴絵「このように、微分するとその関数の増減を調べることができるんだな」アレコレ

煌(ね……眠い……!!)ウトウト

晴絵「特に、一階微分した関数f'(x)が0になるところを極点という」

煌(おかげさまで、淡さんの本はひとまず読みきることができましたが)

晴絵「当然、極点において、元の関数f(x)のグラフの接線の傾きは0になるというわけだな」

煌(それにしてもこれは……うーん……この間まで私が通っていた学校は進学校でしたからね。五教科に関しては既に大学入試の演習をやっていたほどです。
 麻雀の授業が取り入れられているという点を除けば、白糸台の授業は内容も進度も一般高校レベル。なまじ知っている内容だけに、睡魔の攻撃が猛ラッシュ……! で、ですが! さすがに転校初日で居眠りをするわけには……!!)

晴絵「さて、p31の例題1をやってみようか。このように、三次関数のグラフを書け、と言われたら、何はともあれまずは増減表を書くんだ。じゃあ、この問題を――せっかくだから、転校生の花田!」

煌「」

晴絵「おい、花田? 花田煌ー?」

煌「」

?「センセー、なんや花田さん失神してますぅー」

晴絵「ええっ!? し、失神!? そんないい笑顔で……!? 黒目だってちゃんとこっちを向いているのに……意識がないなんて……」

煌「」

?「ほな、ウチが花田さんを保健室に連れていきますわー」

晴絵「ああ、悪いな。頼んだぞ、保健委員」

?「まっかせてーぇ!」

 ――保健室――

煌「ジャッジメントですの!!」ガバッ

煌「………………夢……?」

煌「と、というか、ここは一体……」

 シャー

?「おっ、起きたんやね。ここは保健室やで」

煌「あなたは……! 隣の席の荒川憩さん!! 白糸台のナンバー2――《白衣の悪魔》の荒川憩さん!!」

憩「正解っ。ウチがその荒川憩さんや。そーゆーあなたは隣の席の花田煌さんやな?」

煌「いかにも、花田煌です」

憩「レベル5の第一位――《通行止め》の花田煌さんや!」

煌「…………っ!!?」

憩「なんで知っとん、って顔やな。こんなん、もう学園都市で知らんやつなんておらんでー。常識や。理事長相手に半荘一回をきっちり打ち切って、五体満足で生きて帰ってきたっちゅー《怪物》転校生が来るってなー」

煌「そ、そんな私は……」

憩「おっ、そんな構えんでええよ。なんや、昨日はちょっと面倒事に巻き込まれたそうやけど、学園都市のみんながみんながハンターってわけやない。特にここ――二軍《セカンドクラス》はレベル5があっちこっちにおるしな。
 そん中でも、ウチら二年生はすごいでー? なんとレベル5の旧第一位から第三位がおるんやもん。あ、いや、渋谷さんは正確には一軍《ファーストクラス》やけどな。ま、同じ教室で勉強しとるし、似たようなもんやろー」

煌「なるほど」

憩「花田さん、放課後になったら、きっともみくちゃにされるんちゃうかなー? 今はまだ普通の授業しかやってへんから遠慮しとるけど……これがひとたび部活やーってなったら、みんな我先にレベル5と打ちたがると思うでー。
 ちなみに、ウチもその一人」ニコニコ

煌「わ、私なんて、そんな大層な打ち手ではありません。きっと……がっかりさせてしまうでしょう」

憩「そーなん? ま、能力いうても系統もバラバラ、効果もピンキリ、発動条件もイロイロやもんなー。
 けど、レベル5ゆーたら反則級の和了りかましてくるイメージやったけどなー。特に二年のレベル5トリオなんかすごいでー? そらもー白糸台の《生ける伝説》とか言われるくらいにとんでもないことしてんねんから」

煌「なんかすいません……」

憩「気にせんでー。どういうタイプの能力にしろ、ウチは花田さんと対局するんを楽しみにしとるから。と、それはさておき、今日はどーしたん? 体調悪いん?」

煌「寝不足だったんです。転校初日だというのに、ご迷惑をおかけしまして申し訳ありません」

憩「いやいや。ウチ、数学は得意やから。ちょうど退屈してたとこを、合法的にエスケープできて、むしろラッキーやったで?」

煌「そう言っていただけると……」

憩「で、なんで寝不足なん? 例のルームメイトの美少女一年生と、夜通しいちゃついてたん?」

煌「あ、淡さんとはそういう仲では……!? ええええっ!? というか、そんなことまでご存知なんですか!!?」

憩「やから常識やってー。理事長が《宮永照の後継者》として海外からスカウトしてきた、ランクSにしてレベル4のマルチスキル――《超新星》こと、大星淡。
 そのランクSの化け物・大星淡と、レベル5の怪物・花田煌が転校初日からコンビを組んだーいうてな。
 この二人……間違いなく、約二ヵ月後のインターハイ――その白糸台高校麻雀部代表枠を巡る一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》の台風の目になるゆーて、もー昨日の夜は寮中がどえらい騒ぎやったでー」

煌「そ、そんな話になっていたなんて……」

憩「で、どーなん? 実際のところ、花田さんは大星さんとチーム組むん?」

煌「私は……まだ学園都市に来たばかりで、トーナメントのこともよくわかっていないというか、考えてもいなかったというか。いずれにせよ、淡さんに私は釣り合いませんよ」

憩「んー? けど、自分、大星さんのこと『淡さん』ゆーてるやん」

煌「そ……それは、淡さんがそう呼べって言うから////」カー

憩「…………なるほど。花田さんのほうは、完全にゾッコンなんやね?」キュピーン

煌「滅多なこと言わないでくださいっ!!」アタフタ

憩「となると……あとは大星さんの気持ち次第ってことやな。せやけど、ウチの読みが正しければ、むしろ大星さんのほうが花田さんにベッタリや。ちゃう?」

煌「知りませんっ!」プイッ

憩「ぷぷぷっ……からかうのオモロいな、花田さん」

煌「ひどいです、荒川さん……」

憩「ごめんて。機嫌直してーな? ま、とまれ、チームのことは早めに決めたほうがええと思うで?
 五人目のランクSと七人目のレベル5――超大型転校生のお二人は、みんなの注目の的、ひっぱりダコや。あんまりふらふらしとると、あらぬ方向へ行ってまうかもしれへんよー」

煌「……ご忠告痛み入ります」

憩「ほな、ウチはそろそろ戻るわ。花田さんは、しばらく寝とき。体力蓄えとかんと放課後がキツいで。ほななー」シャー

煌(荒川憩さん……ナンバー2というからもっと恐い方を想像していましたが、予想外に気さくというか、はっちゃけたというか、ぶっちゃけた方ですね)ゴロン

煌(チーム、ですか。五人一組――白糸台高校麻雀部の最小単位。その総数は単純計算で最大2000チームほど。その中でも選りすぐりの、予選を勝ち抜いた52チームが、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》で激突する)

煌(淡さんほどの力があれば……例えば、チーム《虎姫》の抜けた穴に入っても、なんら問題ないでしょう。そうやって、新生チーム《虎姫》の一員として、かの宮永照さんと一緒にインターハイへ。すばらな未来です……)

煌(それに、荒川さんの話が本当なら、淡さんは《宮永照の後継者》として学園都市にやってきた。なら、宮永照さんの傍で麻雀をするのが……最もすばらな選択なのかもしれません)

煌(けど、どうしてでしょう。胸が苦しい……寝不足の影響でしょうか)

煌(淡さん……本当に、星のような人です。私には、遠過ぎて、眩し過ぎて、手を伸ばすことすら憚られます)

煌(淡さんなら、きっと、《虎姫》でもうまくやっていけるでしょう。目に浮かぶようです。《虎姫》のみなさんに、可愛がられて、愛されて、伸び伸びと麻雀を打つ淡さんが……)ウル

煌(な、なんで涙が――!? や、やめましょう!! 淡さんは……淡さんは強い人です。大丈夫。どこへ行こうと淡さんは淡さんのままでいるはず。
 というか……そうです! 私は、人のことをあれこれ考えていいような立場の人間ではないんです!)

煌(私は……弱い。淡さんの足元にも及ばないくらい。今のままではレベル5の鍍金も三日ともたずにはがれてしまうでしょう。
 淡さんのことを思うなら……淡さんのことをこれからも応援したいと思うなら、私自身がもっと上のステージに行かなければなりません)

煌(居眠りで授業を抜けてこんなことをするのは……少々気が咎めますが、いたし方ありません。今は一分一秒も無駄にできない。やりましょう……ネット麻雀!!)

煌(えっと……電子手帳を、こうして、ああして……っと)ピコン

煌(はて……新しい部屋? ふむ、これは二軍《セカンドクラス》専用の対局室ですか。校舎内にいるから入れたんですかね……? ま、それはさておき、ログインして――)

煌(あれ……? 人が少ないですね。おかしいです、昨晩はあんなに人で溢れかえっていたのに。いくら二軍専用とは言え、二軍の方々は400人くらいいるはず――って!! 全員が今は授業中じゃないですかー!!)

煌(えっと、控え室にいるのは――『あこちゃー』さんという方と……『あわあわ』さん………………)

煌「授業中に何やってるんですか淡さん!!」ズコー

煌(……仕方ありません。実戦は諦めて、過去の牌譜の研究をしましょう。白糸台高校麻雀部の二軍《セカンドクラス》――国内最高峰の方々の麻雀というやつを、有難く拝見させてもらいます!!)

 ――数十分後――

煌(この『のどっち』さんという方……まるで機械のような人ですね。この方も能力者なのでしょうか。デジタルでこれだけ打てて、なおかつ能力を武器にしているとしたら……リアルでは一体どれほどの打ち手になるのか想像もできません)

煌(『とーか』さんという方も華麗な打ち回しです。『かじゅ』さんの冷静な対応力もすばら……!)

煌(しかしながら……少しだけ、私の求めているものとは違います。この方々の麻雀は、私にはきっと真似できない。ふむむ……デジタルにも個性が出るものなのですね。もっと……私の理想に近い方が――)

 ガラガラ シャー ギシギシッ

煌(はて? お隣にどなたかいらっしゃいましたか? どこの学校でも保健室は人気スポットなのですね)

 ピコン

煌(あっ、控え室に人が増えました! 『あこちゃー』さんと『あわあわ』さん、それに……もう一人――!! これで面子が揃いました!!)

 タイキョクヲモウシコミマスカ?

煌(申し込みますとも……! 淡さんは私に気付いているのでしょうが、まあ、いいでしょう!! 一夜漬けのデジタル論……存分に試させてもらいますよっ!!)

 ――数十分後――

煌(こ……この人……!!)プルプル

煌(すばらですっ!! なんというか、とても……とても私好みの闘牌!!
 『あこちゃー』さんの鳴きも上手いと思いましたし、『あわあわ』――もとい淡さんの力強い打ち筋も羨ましくはありますが……この人は別格です!
 淡さんではないですが、いいです! すごいいいです!! この方みたいに打てるようになりたい……!! 私も――)ハッ

煌(そう言えば、この方が控え室に来たタイミング……誰かが保健室に入ってきたすぐ後でしたね。いや、まさか……でも、間違っていたら迷惑をかけてしまうかもしれませんが……けど!)

煌(この……カーテン。この向こうに――私の理想の打ち手がいる……!! これを逃したら、またいつ出会えるかわかりません。もちろん、データとしての牌譜を眺めるだけでも勉強になりますが……直に会って、お話をしてみたい!!
 どうしてこんな打ち方をするようになったのか! リアルではどんな風に打つのか!! 会って確かめたい……!!)

煌「(花田煌……行きます――!!)あの!!!」シャー

?「っ!?」

煌「と……突然申し訳ありません!! 失礼ですが、今ネット麻雀をしていた方ではないですか!? 私は『すばら』です!! あなたは――」

?(…………!?)ドキドキ

煌「あれ……? そんな……誰もいない? ど、どこかに隠れているんでしょうか?」キョロキョロ

 ピルルルル

煌「(っと、電話? 淡さんから?)あ、はい。私です。あの、淡さん、今は授業中では……? えっ? いや、私はちょっと、体調不良で保健室に――」

煌「え……それは、本当ですか!? しかし、どうやって調べ――ハッキング? ええい、この際、方法はなんでもいいです! それは確かなんですね?」

煌「わかりました。では、放課後、全速力でそちらに向かいます!! では――あっ、授業はちゃんと受けてください! いくら学園都市と言っても、高校生の本分は学業で――切られました……」ツーツーツー

煌(淡さん……淡さんも、私と同じことを考えていたんですね。私が強くなるためにはどうしたらいいか。なんて! なんてすばらなことでしょう!! 淡さんのためにも、必ずこの方を見つけて……今より強くならねば……!!)

煌(ふう……それにしても、なんだかどっと疲れが出てきました。この方の他の牌譜を見たいのは山々ですが、限界のようです……むにゃむにゃ……)バタンキュー

?「………………」ソロソロ

煌「ZZZZ」

?「………………」ジー

 ――放課後・二年教室棟

?「じゃじゃーん!! 満を持して、私、登場なのですっ!!」バーン

憩「おー、やっぱり一番乗りは玄ちゃんやったかー」ヤッホー

玄「憩さんっ! こんにちは」

憩「残念やけど、玄ちゃんのお目当てはもうどっか行ってもうたでー」

玄「そうなんですか……って、あ、バレてましたか///」

憩「玄ちゃんは泣く子も黙るレベル5の旧第一位やからな。真っ先に来ると思ってたで。ほんで、旧第一位の玄ちゃんは、新第一位さんをどないするつもりだったん? いてまうつもりだったん?」

玄「そ、そんな物騒なことしないですよっ! ちょっとお手合わせしたかっただけです」

憩「玄ちゃんが本気で打ったら、いてまうんと一緒やろー。新第一位さんは心優しい人やから、きっと玄ちゃんと打ったら泣いてまうで。玄ちゃんは恐ーい恐ーいドラゴンさんやもんなー」

玄「また! 人をそうやって猛獣扱いして!! というか、打って相手を泣かせるのは、どっちかっていうと憩さんのほうじゃないですか!? あんなに私を弄んでおいてよく言いますっ!!」

憩「いやー、だって玄ちゃんの涙目、めっちゃ可愛えんやもん」

玄「もうっ、憩さんはひどいです!」

憩「ははっ、それ花田さんにも言われたわー」

玄「花田――花田煌さん。お友達になれる予感があったんですけど……不在なら仕方ないです」

憩「おろ? 今日もあれか、例のお仕事なん?」

玄「…………憩さんに隠し事はできないですね、困ったものです。ま、そんな感じですよ。ちょっと急な任務でして、可及的速やかに行かなくてはならないのです。
 せめて一目だけでも新しい第一位さん――花田さんに会って、ご挨拶したかったんですが」

憩「思惑が外れたってわけやね。ほな、お仕事頑張ってー」

玄「はい。花田さんに、松実玄が会いたがってましたと、よろしくお伝えください」

憩「まっかせてーぇ!」

玄「では、失礼しましたっ!!」ダッダッダッ

憩(あーあー、あんなに走って転ばへんとええけど。なんや、どうにも大変みたいやね……《アイテム》っちゅーんも――)

 ――放課後・一年教室棟――

 ザワザワ

煌「あっ、淡さん!!」ダッシュ

淡「スバラー、こっちー!!」ブンブン

煌「こ……この教室に例の方が!?」

淡「うん、たぶん。もう帰っちゃったかもしれないけど……帰ってないかもしれない。でも、大丈夫なの、スバラ?」

煌「何がですか?」

淡「その人ね、噂だと、誰にも見つけられないって話だよ」

煌「心配は要りません。昔から、ウォーリーを探せは得意でした!」

淡「そのたまに発揮される無駄な自信を麻雀にも活かしてほしいよ……」

煌「と、とにかくです! 行くしかないのですから、行くのです!! ここまで来て、あとには引けません」

淡「ま、私もできる限り協力するよ。二人いれば、見つかる確率も上がるかもだしっ!」

煌「心強いです……!! では、行きますよっ!!」

 バアアアアン

煌「たのもおおおおおおお!!!」

淡「ひゃほーい!! 殴り込みに来たよー!!」

 ザワザワザワ

煌「あの……! どこか――この教室のどこかにいらっしゃるんですよね? 聞こえていますよね!?」

煌「私は……花田煌と申しますっ!! 午前中――『名無し』さん……あなたとネット麻雀で対局したものです!! 保健室で、たぶん、私はあなたの隣にいました!!」

煌「『名無し』さん、私はあなたの打ち方に心惹かれました!! どうか、一度でもいい――リアルで一緒に打ってください!! 私はあなたと打ちたいんです……!!」

煌「『名無し』さん……!! お願いです、どうか、お姿を見せてくださいっ!!」

煌「わ、私は……あなたの力がほしいっ!! あなたの打ち筋に……惚れてしまったんです!!」

淡「え、ちょ、スバラ……?」

 キャーキャーキャー

煌「『名無し』さん!! 私はあなたがほしいっ!! あなたが好みですっ!! 大好きですっ!! だからどうか――」

淡「ス、スバラ! 熱が上がり過ぎて告白みたいになってるけど!?」アワワ

煌「告白も告白ですよっ!! 私にもう退路はないのです……なら――前に突き進むしかないんですっ!!」

淡(明らかにオーバーランだよっ!! これ、聞いてたら絶対引いちゃうよっ!!)

煌「『名無し』さん……私はあなたが好きで――ちょっと、淡さん、邪魔をしないでください!」

淡「いや、私は何もしてないけど?」

煌「じゃ、じゃあ私の手を掴んでいるのは誰な――」

 ユラッ

?「………………本当に……(頭の)おかしな人っす……」フー

煌「えっ……?」

?「すいません、ちょっと、お二人の存在が強過ぎて、認識に割り込むまでに時間がかかったっす。本当なら、『リアルで一緒に』くらいで登場するつもりだったっすけど……」

煌「で、では、あなたが……?」

?「はいっす。私が『名無し』――東横桃子、一年っす」

煌「東横……桃子さん。それが、あなたのお名前なんですね」

桃子「学園都市では《ステルスモモ》のほうが通りがいいっすけどね」

煌「ステルスモモ……では、やはり何らかの能力をお持ちで?」

桃子「そういうことっす」

淡「ちょっと! モモコとかいった? いつまでスバラと手を繋いでるの!?」ムー

桃子「おっと、これは失礼っす」サッ

煌「いえいえ、こちらこそ」ペコ

桃子「えっと……それで、私の打ち方に、なんだか甚く――というか、痛々しく興味を持っていただいたみたいで。
 でも、私、二軍《セカンドクラス》の中では、レベルもナンバーもさほど高いほうではないっすよ?」

煌「レベルやナンバーなど、関係ありません。私は『あなた』がいいのです、東横さん」

桃子「桃子でいいっす」

煌「桃子さん……」

淡(わっ! スバラったらあっさり名前呼びしてっ!! 私のときはあんなに抵抗あったのにー!!)ムムム

煌「桃子さん、あなたの打ち方は、私の理想にとても近いものでした。私は桃子さんのような麻雀が打ちたいんです。どうか、桃子さんの傍で勉強させてください。……ダメでしょうか?」

桃子「なかなかストレートにものを言う人っす。面白い、こんな私でよければ――と、言いたいところっすけど……」

煌「なにか?」

桃子「実は、私、別の先輩からも声を掛けられてるっす。その先輩は、とってもカッコよくて、強くて、頼りになる人っす。
 一方で……私はまだ、すばら先輩のことをよく知らない。もちろん、すばら先輩が私のことを気に入ってくれたのは、心から嬉しいっすけど。
 ただ、ネット麻雀の『すばら』先輩には、正直、あまり魅力を感じなかったっす。でも、リアルとネットは違うもの――打ってみなければわからないことは、たくさんあるはずっす」

煌「それは、つまり……」

桃子「今から、私と一局打ってください。私はリアルのすばら先輩を知りたい。すばら先輩もリアルの私を知りたいっすよね? これから一緒にやっていくかどうかを決めるのは、そのあとでも遅くはないと思うっす」

煌「よ……喜んで!!」

桃子「じゃあ、決まりっすね。あとは他の面子っすけど――」

淡「もちろん私が入るよ! っていうか、スバラはもうその気でいるみたいだけど、私はあなたをこれっぽっちも認めてないんだからね……モモコッ!!」

桃子「噂の《超新星》さん……あなたが入るとゲームバランスが崩れそうっすけど、まあ、混ぜないわけにはいかないっすよね。なんたって……」チラッ

煌「?」

桃子「ま、いいっす。問題はあと一人っすか」キョロキョロ

?「もしかして、面子足りてない感じでー?」

桃子「あなたは……えっと、同じクラスの――森垣友香さんっすね?」

友香「東横さん、まともに喋るのはこれが初めてだよね? よろっ」

桃子「森垣さんなら、言うことはないっす。レベルもナンバーも私より上っすし」

友香「またまたー。ぶっちゃけ、私はこの教室の中では、一番東横さんとやりたくないなって思ってたんでー」

桃子「なら、どうして名乗り出てくれたっすか? 森垣さんなら、あちこちから誘いが来てるっすよね? そっちはいいっすか?」

友香「ま、ちょっと、借りのある相手がいるんでー」チラッ

淡「?」

友香「《超新星》――大星淡……どうせ覚えてないと思うけど、私は向こうであなたと一回打ってる」

淡「ごめん、負けたやつの顔なんて覚えてないや」

煌「淡さん、失礼ですよ!?」

淡「だってー」ウネウネ

友香「いいんです、レベル5の第一位――《通行止め》さん。むしろ、私は忘れてもらって有難いなって思ってるくらいでー。だって――」

煌「森垣……さん?」

友香「どうせ記憶されるなら、負かした相手ではなく、負かされた相手として覚えられたいですからっ!!」

淡「へへっ――誰だか知らないけど、上等じゃん!!」

友香「《超新星》……あなたの能力は、ぶっちゃけ私の天敵でー。けど……今日こそそれを正面から叩き潰す。覚悟はいいんでー……!?」ゴゴゴゴゴゴ

淡「それはそれは! 楽しみだなーっ!!」ゴゴゴゴゴゴ

煌「ちょ、ちょっと、淡さん!? あんまり異次元バトルにされると困るんですが……!?」

淡「ノンノン! スバラ、私だって何も読めるのは捨て牌だけではないんだよー? 今回は空気を読んで、空気になるっ!!」

煌「は?」

淡「今日の私は支配力も能力も使わない。完全デジタルで打つよ。たぶん、そっちのほうが、モモコもスバラも本来の力を出しやすいでしょ。それに――」

友香「……なんでー?」

淡「能力を持っているから私は強いんじゃなく、能力を持っているのが私だから強いんだってことを……どーにもわかってない勘違いさんが――たぶん他にもいっぱいいるだろうからね。
 この機会にきっちり見せ付けてやるんだよ。私自身の強さをねッ!!」

友香「こ、の……!!」

淡「あなたがどんな能力を持ってて、どんな麻雀を打つのかは知らない。けど、たかが高校一年生のあなたが、高校百年生の私に勝とうなんて百年早いんだよっ!!」ゴッ

煌(な……なんだか、始まる前から荒れ模様ですね!! しかし……淡さんが妙な《支配力》とやらを使わない以上――この対局は純然たる能力と実力の麻雀対決になります。
 ここで桃子さんに認められなければ……私に明日はないっ!! やってやります! やってやりますともっ!!)

桃子「じゃあ、場所はここから一番近い対局室でいいっすか? みなさん着いてきてください。案内するっす」ユラッ

煌・淡・友(ちょ、み――見失う……!!?)アワワ

 ――対局室――

煌「ここが対局室ですか。個室なんですね。もっと、広いスペースにいくつも雀卓が置いてあるのをイメージしていましたが……」

桃子「下位クラスの校舎では、そういうとこもあるみたいっすよ。けど、ここは学園都市でも最高水準の高級施設――《白糸台校舎》っすから。たとえ練習でも、不正の余地がないよう不特定多数の外野はご法度っす」

煌(そう言えば……初日に打った雀荘も、ここほど完全ではありませんが、雀卓はパーテーションで区切られていましたっけ)

友香「しかも部屋ごとに複数のカメラが設置されていて、対局後に録画データを見ることもできるんでー」

淡「誰にも邪魔されずに対局に集中できるのはいいことだね!」

桃子「それに、個室なら情報の漏洩も最小限に防げるっす」

煌「なるほど。よく考えられているのですね」

友香「ま、説明はこれくらいでー」

淡「さっさと場決めしよっか!!」

 ――――
           南家:友香「よろっ」

西家:桃子「よろしくっす」  ■  東家:淡「起親だー!!」

           北家:煌「よろしくお願いします!!」

 東一局・親:淡

淡(さてさて。今日は《支配力》も《能力》も使わないって言っちゃったからなー。せっかくの起親なのにダブリーで連荘ができないなんてがっかりだよ。
 ま、言うほど配牌も悪くないし、ひとまず様子を見ながら和了りを目指そう。このユーカってのとモモコの二人は、どんな能力を持ってるのか知らないわけだし……)タンッ

友香(大星淡……あなたの能力――《絶対安全圏》。《他家の配牌を五~六向聴にする》レベル4の配牌干渉系能力。対して、私のはレベル3強の自牌干渉系能力――《リーチした巡目が速ければ速いほど和了りやすく且つ高打点になる》能力……)タンッ

友香(向こうで戦ったときは、速攻&高打点っていう私の持ち味がごっそり削られてしまった。もちろん、それに頼らずこいつに勝てるよう努力はしてきたつもりでー……)タンッ

友香(何にせよ、デジタルで打ってる今日の大星に負けるわけにはいかない……! ここで勝って、私のことを認めさせて――もう一回、今度はガチで勝負する!!)タンッ

友香(出し惜しみはしない……最初っから、飛ばすんでー――!!)

友香「リーチでー!!」クルッ

煌(速い……!!)

桃子(だけじゃないはずっす! 森垣さんのスタイルは速攻&高打点――序盤から畳み掛けてくる……!! ステルスが機能していない前半は、耐えるしかないっすね)タンッ

煌(い、一発に振り込みませんよーに!!)タンッ

淡(いい感じに気合の入ったリーチだね? ゾクゾクするっ! ってゆーか、四巡目のリーチなんて久しぶりの体験かも。なるほどなるほど。私が天敵っていうのはそういうことなのかなー)ゲンブツ

友香(なかなか堅い面子でー。けど、自牌を《上書き》できる私には、そんなもの関係ない……!!)ツモッ

友香「ツモッ!! 4000・8000でー!!」パラララ

煌(この巡目で倍満ですかー!?)スバラッ

桃子(しっかり高めを引いてきて、その上一発と裏ドラまで。一年生で上級生と渡り合える人はそう多くないっすけど、森垣さんはその『そう多くない』の中の一人っす)

桃子(どちらかと言えば変化球――もしくは隠し球みたいな私とは、一線を画す本格派。直球勝負で十分勝てる力を持っている。チームの誘いがあちこちから来るのも納得っす)

淡(ふーん。最安だったらリーチ平和なのに、一発ツモ断ヤオ三色裏々ってボーナスつき過ぎでしょ。私のダブリーだってボーナスはカン裏で四飜だけなのに)

淡(ま、偶然の一言で片付けるのは簡単だけど、一応、そーゆー感じの能力ってことで、デジタルなりに対策考えてみよっか)

淡(えーっと、速攻と高打点を両立する感じの力なのかな? 裏を乗せてきたところを見ると、リーチが《発動条件》に含まれているっぽい。《制約》は……これといってなさげ)

淡(リーチ条件で、高い手を和了りやすくなる、ってとこかな。コスパと汎用性から言えば、かなり扱いやすい力かも。デメリットも今のところなさそう。私の能力と違って自分の裁量でできる範囲が広いから、柔軟性にも優れている)

淡(私の《絶対安全圏》が天敵っていうことは、リーチ巡目が遅くなるほど、能力の強度が落ちちゃうんだ。この能力が巡目の影響を受けないってなったら、ちょっと手が付けられないことになるかもだよ)フンフム

友香「どうでー、大星淡。別に能力を使いたかったら使ってもいいんだけど、どうする?」

淡「あはっ! 天才に二言はないんだよっ!! まだまだ対局は始まったばかり。勝った気になるのは早過ぎるんじゃないかな、ユーカ!!」

友香「む……! けど、次は私の親っ! 止められるもんなら止めてみろでー!!」

淡「言われなくても……!!」ゴッ

淡:17000 友:41000 モ:21000 煌:21000

 東二局・親:友香

友香(今回も配牌良好! これなら押せる。多少悪形になっても、序盤にリーチをかけられれば、私の力なら強引に和了りをもぎ取れる。目指すのは最速! 打点は後からついてくる……!!)タンッ

淡(おっとっとー。一打目から中張牌って。また速そう。それに引き換え私の手は……一部を除いてすっげー微妙。仕方ないな、急がば回れってやつだよねー)タンッ

桃子(森垣さんが強いのは当然としても、この超新星さん、まったくと言っていいほど焦りが見られないっすね。ランクSにしてレベル4のマルチスキル――その力を今は全て放棄してるのに、それでもなお、勝つ気満々。
 これが《宮永照の後継者》と言われる一年生っすか。でも、私だってデジタルならそれなりに打てると自負してるっす。大能力者のデジタルがどのくらいのものか……見させてもらおうじゃないっすか!)タンッ

煌(早くも蚊帳の外感がすごいです! すばらくない……!!)タンッ

 ――六巡目

友香「リーチでー……!!」クルッ

桃子(来た来た……ここは、ひとまずオリつつ、できれば手を高めたいところ)タンッ

煌(合わせ打ちーっ!!)タンッ

淡(スバラは自風だからいいとして、モモコの手からも西……? 字牌整理は終わったと思ってたけど。いや、そっか。はっはーん! さてはモモコ……! おっけー。じゃ、こいつでどーかなっ!?)タンッ

桃子「(む……ステルスの発動が遅くなるから目立つ行為はさけたいっすけど、ここは仕方ないっす)ポンっす」タンッ

友香(飛ばされた……!?)

淡(そーれーっ! もう一つっ!!)タンッ

桃子「それもポンっす」タンッ

友香(またっ!? いや、でもこれで私の本来のツモが戻ってくる……!! ばっちり支配領域《テリトリー》の範囲内っ!!)

煌(ひとまず端っこから……)タンッ

淡「チー!!」タンッ

友香(ズ……ラし……!? くっ――!!)ツモッ

淡(その顔は和了れなかったんだね……? よしっ、揺さぶり作戦大成功ー!!)

友香(大星……! まさか、もう私の能力を見抜いたの!? それで捨て身の鳴かせと鳴き!? 信じられない……!!)タンッ

桃子(私の染め手に気付いて、森垣さんのツモを飛ばすためにパスを出してくるなんて……なんて柔軟で素早い対応。能力ナシでここまでの打ち手だとは、正直、思ってなかったっす。
 超新星さん、しかし、そんな端っこをチーしてしまったら、和了れる役が限られてしまうっすよね。そこまでしなければ、森垣さんに和了られていたってことっすか……?)タンッ

煌(な、何を切っても当たる気しかしません!!)タンッ

淡「またまたチーッ!!」タンッ

友香(こ……んな!! 私の支配領域《テリトリー》が……揺さぶられるっ!!)タンッ

桃子(超新星さんは鳴き三色っすかね。一応オリてはいない、と。しかし、それくらいなら和了られたところで痛くもかゆくもないっす。
 こちらは發混一赤一……やりようによっては対々も見えてくる。森垣さんを抑えてくれた上に有効牌を鳴かせてくれたことには感謝するっすけど、残念ならがら、この恩は仇で返すことになりそうっす)タンッ

煌(親リーに二副露が二人……どうなってるんですか!!)タンッ

こっちで始まったか
待ってたよー

淡(ユーカは私が無理矢理場を引っ掻き回したと思ってる。モモコも自分が和了る気満々――けど、二人とも、私の性格を全然わかってない。
 ってゆーか、ま、親リーと副露が目立って気付いてないだけかもしれないけど。わかってるかな? この場……実はまだドラが一枚も出てないんだよねー……!!)タンッ

友香(しまった……! もたもたしてると終盤に入ってしまう。まあ、たとえ終盤でも和了れるときは和了れるけど……それは限りなくデジタルに近い和了率。
 こうなってくると、悪形でリーチしたことが悔やまれる。というか、もしかして大星はそこまで見抜いて……?)タンッ

淡「…………カンッ!」パラララ

友香(は……? 親リー相手に大明槓……!?)

桃子(っていうか超新星さん、それは――!!)

煌(役牌の……ドラ4!!?)

淡「ねー、私も混ぜてよ。捲り合いっ!!」ゴゴゴゴゴゴッ

友香(こ、こいつ、何がデジタルでー!? こんな滅茶苦茶で無茶苦茶なデジタル見たことないから!!)タンッ

桃子(ドラなんて隠し持ってたっすか……『一応オリてない』とか『有効牌を鳴かせてくれた』とか、とんでもなかったっす。この人は、最初から自分が勝つためだけに動いていた……!!)タンッ

煌(み、みなさん明らかに高い手……!! 振り込むわけには……)タンッ

淡(んー、いつもなら、ここでツモれた気がするんだけどなー。一応三面で受けてるから、遠からず出て来ると思うんだけど……)タンッ

友香(てっきり鳴き三色かチャンタだと思っていたら、ドラ4の役牌を隠し持っていたとか。役があるから待ちなんて選びたい放題でー。
 こんなの読めるわけがない――というか、今の私は和了る以外はツモ切りしかできないんだけど……!!)タンッ

淡「あ、それだーっ!! ロンッ! 12000ッ!!」ゴッ

友香「っ~~~~~~~!!?」

桃子(ちゃー、赤まで隠してたっすか……それでカンしたわけっすね。見事にハネた)

友香「こんな……こんなことが……!!」

淡「ふふふ、これが私の実力だよん!!(うわー危なかったー! 出てきたからよかったけど、ホント、デジタルって心臓に悪いっ! いつ和了り牌が出てくるかわからないなんて、麻雀じゃないよねっ!?)」

桃子(驚いたっす……。いや、まあ、親リーが鳴きのドラ爆に潰されるなんて、よくある光景と言えばよくある光景っすけど)

煌(淡さん、すばらです! 本当に、淡さんは能力がなくても強いんですね。能力があっても弱い私とは雲泥の差です……)

淡:30000 友:28000 モ:21000 煌:21000

 東三局・親:桃子

煌(淡さん……淡さんはどうして、そんなに強いのに、私みたいなトばないだけの能力者に協力してくれるのでしょう)タンッ

煌(桃子さんのいる教室に乗り込めたのだって、淡さんのおかげでした。というか、淡さん、私のために、授業をサボってまで……ネットの中から私に合ったデジタル派の雀士を探してくれていた)タンッ

煌(そして、あの『名無し』さんとの対局。淡さんは『名無し』さんが私にぴったりだと見抜いた。そこから、ハッキングやらなんやらをして、『名無し』さんがあの教室にいる生徒だと突き止めた)タンッ

煌(そこからは地道な作業。あの教室にいる生徒のリアルの牌譜を片っ端から集めて、『名無し』さんと思われる人――桃子さんを見つけた。淡さん、どうしてあなたはそこまで……?)タンッ

煌(わかりません……何度考えてみても、淡さんが私に目をかけてくれる理由が想像できません)タンッ

煌(しかし、理由はどうあれ、淡さんのおかげでこうして桃子さんと出会えた。それに、桃子さんだって、他の方からチームのお誘いがある中で、貴重な放課後の時間を私との一局のために割いてくれた)タンッ

煌(必ずや……必ずや桃子さんに私を認めさせてみせますっ!)タンッ

桃子「ロンっす。5800」パララ

煌「えっ……? あれ……?」

桃子(すばら先輩、早くも私を見失ってるっす。大丈夫っすかね? 打ち方も、今のところはネット麻雀とさほど変わらない。お世辞にも上手いとはいえないっす。しかも、こんなにあっさり《ステルス》の餌食になって……。
 まあ、ここから違和感を覚えて、何か対策をしてくるかもしれないっすよね。実際、加治木先輩は、初めてステスルを体験したときも、すぐに私をまくってみせた。すばら先輩――先輩は、どんな麻雀を私に見せてくれるっすか……?)

煌(ど、どーしましょーコレ!?)

淡(スバラ、無警戒過ぎだよっ! 本来のスバラはもうちょっとだけできる子のはずなのにっ!! 学園都市での初めてのまともな対局――浮き足立ってるのかな? 私とユーカが暴れ過ぎた? それとも……モモコが何かしたのかな?)

桃子「一本場っす」ユラッ

淡:30000 友:28000 モ:26800 煌:15200

 東三局一本場・親:桃子

桃子(すばら先輩はともかくとして、森垣さんと超新星さんは、能力的にも実力的にも私より格上。レベル3の感応系能力――《私が触れた牌を他家から見えなくする力》……まだ発動までに時間がかかりそうっす。それに、デジタル的にもここは連荘したいところ……)

友香(配牌微妙でー。けど、たとえ良くても、東一局みたいにあっさり和了れるとは限らないって、さっきの大星の闘牌でわかった。悔しいけど、こいつは素で強い。出し抜くには……私も頭を使わないと)

淡「ローン!! 12000の一本付けっ!!」パラララ

桃子(なっ!?)

友香(ちょ!?)

煌「…………あ、あわわわ、あわ……!!」サー

淡「ごっめーん、スバラ! 出てきたからつい!! でも、私、別にスバラから和了らないなんて一言も言ってないよー?」テヘッ

煌「い、いえ、これは真剣勝負です。どうぞ、存分に和了ってください……(て、点棒がヤバいです……!!)」

桃子(二人はコンビ……じゃなかったっすか? いや、まあ、確かにすばら先輩の言う通り、たとえ仲間でも、真剣勝負で気を使ったり遠慮したりはしないのが礼儀っすけど)

友香(にしても躊躇いゼロでぶち当てるってのはどうなんでー? って、いやいや!! それよりも点数状況!! 大星が独走状態に入った。このままじゃ花田先輩のトビ終了もありうる……!)

淡(概ね計画通り。別に特別な力を使ったわけじゃないけど、素の実力を考えれば、他の二人よりスバラから出てくる確率が高いとは思ってた。だからこその、ダマッパネ)

淡(これで、スバラも頭が冷えたでしょ? スバラ、何を考えてるかまではわからないけど、今のスバラじゃ、ユーカやモモコに勝つのは無理だよ。
 二人は、この白糸台高校麻雀部一万人の中で、その実力と能力を評価されて二軍《セカンドクラス》に籍を置く雀士。外の世界なら、いわゆる全国区の超大型新人。外の世界で地区大会敗退レベルの高校の、レギュラーですらなかったスバラには、荷が重い相手)

淡(でもさ、スバラの麻雀の『価値』は――スバラにとっての『勝ち』は、点数で相手を上回ることなの?
 スバラ、落ち着いて考えて。これは、この場で一位になることがゴールのゲームじゃないんだよ。いかにモモコにスバラの良さをアピールするかの勝負なんだ。
 スバラなら……きっとできる。昨日だって、普通に打ったら勝てないことをわかっていながら、たった一局で、相手を棄権させて、しかも雀士として正しい方向に導いた)

淡(私は、スバラの能力もそうだけど、それ以上に、スバラなりに全力で頑張るところを、買ってるんだからね。いつまでもふわふわしてないで……がつーんと一発決めちゃって!!)

煌(淡さん……今の直撃で、私の勝ち目はほぼゼロになりました。この方々を相手に、ここからトップを取れるなど……奇跡でも起きない限り不可能でしょう。
 覆しがたい実力の差があるのは、初めからわかっていたこと。しかし、淡さんのせいというか、おかげというか、ここからは私らしい麻雀ができそうです)

煌(点棒は随分と減ってしまいましたが……むしろ、私の真価はここからじゃないですか! 一位を取るとか、高望みは捨てましょう。私は、私にできることをやります……!!)

桃子(すばら先輩の雰囲気が……変わった? 親になったからっすか? それとも、超新星さんの一撃で目が覚めた? わからないっすけど……ついに見れるってことでいいっすかね。
 学園都市に七人しかいないレベル5の第一位――その超能力を……!)

淡:42300 友:28000 モ:26800 煌:2900

 東四局・親:煌

淡(これは……配牌五向聴。ちょっとちょっと、こんなの本当に和了れるの? 聴牌できるかどーかも怪しいっての!!)タンッ

友香(んー、配牌もツモも微妙……というか、明確に悪いんでー。鳴いて仕掛けてみる? でも、私はどちらかといわずとも門前派だし、ヘタに鳴くとボロが出そうで恐い……)タンッ

桃子(重たいっすねー。確か、ランクSの一人がこういう場を得意にしているって聞いたことがあるような。
 いや、まあ、これくらい手が進まないのは偶然の範囲内っすけど。ただ、どうやら他のみなさんも、顔色からして手が悪いみたいなんっすよね。仮に、これが偶然じゃないとすれば……その原因は恐らく――)

煌(聴牌が遠いです……)タンッ

 ――流局

友香「ノーテンでー」

桃子「ノーテンっす」

淡「ノーテンだよー」

煌「私も……ノーテンです」

友香(なんだったんでー、この場は? これだけの面子が揃っていて、全員がノーテンなんて静かな局になることがあるの……?)

桃子(すばら先輩が何かしてるのかとも思ったっすけど……普通にノーテン? じゃあ、今の重たい場はただの偶然……? わけがわからないっす)

淡(ふむ……なるほどね。スバラの手が悪いから、連動して私たちの手まで悪くなったんだ。それなりに効率よく手を進めたつもりだったけど、時々、不自然な裏目り方をするときがあった。
 スバラの点数は2900。スバラ以外の全員がテンパイすると、ノーテン罰符でトビ終了。もちろん、私たちの間で点数移動が起こるパターンの場になる可能性もあったとは思う。でも、今回はこういう重たい場でトビを回避した。
 《絶対にトばない》――か。七文字で説明できる単純な能力なのに、なかなかどーして、奥が深いよね……)

淡:42300 友:28000 モ:26800 煌:2900

 南一局流れ一本場・親:淡

淡(さってー、今回は比較的サクサク手が進む。ただ、困ったことに、ドラはいっぱいあるのに役ナシ。
 ツモるとダマでも満貫。けど、それだとスバラをトばしちゃう。ゆえに、ツモるのは《絶対》に不可能。出和了りに期待するしかないけど、そのためにはリーチをかけないといけない……)

淡(ユーカとモモコはどうかな。二人ともあんまり鳴かないタイプっぽいから、捨て牌しか情報がなくてイマイチ手牌が見えてこない……)

淡(けど、ユーカの能力……速攻&高打点――なら、当然、仕掛けてくるのはこの序盤。なのに、音沙汰なし。リーチが《発動条件》っぽいから、張ってるならリーチしてこないとおかしい……よね?)

淡(どーする? やる? やっちゃう? 形勢不明の序盤、しかも親。ここはデジタル的には押し――リーチ一択。今日は和了りたいときに和了れる普通の麻雀じゃないから、和了れそうなときにはツッパらないとね。よし、決めた……!!)タンッ

淡「リー」

友香「ロンでー……5200は5500」パラララ

淡「ふみゅっ!?」

友香(どうでー、大星淡! 私だって、別に能力に頼り切った打ち方をしてるわけじゃない。あんまり見限らないでくれるかな!?)

淡(へー、やるじゃん。能力を崩せばどうにかなると思ってたけど……さすが二軍《セカンドクラス》。一筋縄じゃない。これは最後まで楽しめそうだよっ!!)

桃子(二人とも大分勝負に熱が入ってきた。私への意識が薄れてくれるのは有難い。さて……そろそろっすかね……)ユラッ

淡:36800 友:33500 モ:26800 煌:2900

 南二局・親:友香

桃子(と……やっと《ステルスモード》に入れたってのに、どーにも手が進まないっす。さっきの東四局と同じ感じ。偶然のような気もするし、能力のような気もする。けど、何かの能力だとしても、どういう能力のせいでこうなるのか……皆目見当がつかないっすね)タンッ

煌(手が進まない……)ズーン

淡(ユーカ……張ってる?)タンッ

友香(大星……張ってるんでー?)タンッ

桃子(っと、二人ともダマで読み合いっすか? ま、そういうところに水を差して直撃を奪い取るのが私のスタイル。どうせもう振り込まないのだから、ガンガン押していくっすよ……とは言え、聴牌しないことには始まらないっすけど)

 ――流局

淡「テンパイ(ちぇー、ユーカから和了る分にはスバラの能力は関係ないと思ったけど、さすがにこれだけ警戒されたら出てこない、か。にしても、気のせいかな。さっきからちょいちょいモモコの存在を忘れそうになるんだけど……?)」

友香「テンパイ(潰し合いになっちゃったか。……って、何も考えずにテンパイとか言っちゃったけど、これ、東横さんがテンパイで花田先輩がノーテンだったらここで対局が終わっちゃうんでー!?)」

桃子「……ノーテンっす(最後まで辿り着けなかったっすか。もちろん、今トばれると困るっすから、テンパイだったとしても様子を見てから手牌を倒す予定でしたけど)」

煌「ノーテンです」

友香・桃子(先輩……首の皮一枚……!!)

淡(さっすがスバラ。私とユーカのツモを殺して、更にはモモコのテンパイも封じた。さらに、その薄氷の点棒……次からはもっと場の縛りがきつくなりそうだよ)

淡(ま、でも、それはそれとして、なんだかモモコが大人しいのが気になる。東三局のスバラの不用意な振り込みも引っかかるし。
 うーん、『誰にも見つけられない幽霊っ子』。それに、チラっと見た牌譜。なんとなくだけど、わかってきたかも。もし、もう能力が発動してるんだとしたら……私もそろそろヤバいかな……)

淡:38300 友:35000 モ:25300 煌:1400

 南二局一本場・親:友香

淡(うわー、やっぱりだ。いつの間にか、モモコの姿も捨て牌も見えなくなってる。さては感応系かー。発動されたらもうどうしようもないじゃん。参ったなー)

淡(私自身の手は、悪くない。ツモはできないにしても、出和了りなら可能。ただ、私がこうだってことは、ユーカやモモコも和了れる感じになってるんだよね。
 そして、私たち三人で打ち合いになる、と。私たちの間で点数移動が起こる分は、スバラもトばない)

淡(なーんか振りそうな予感がするなーこれ。いや、その手の感覚は今封印中だから、本当に、それこそ、根拠のないオカルトだけど。あんまり気にし過ぎても、偶然の偏りと能力の区別がついてなかった大昔に逆戻りするだけ)

淡(でも、一応試してみよっかな。モモコの能力値《レベル》は、ユーカよりも低いって話だった。なら、こんなことでも、意味があるかもしれない……)パチリ

友香(えっ、大星、どういうつもりでー?)

桃子「(超新星さんが……目を閉じた? 出和了りと鳴きの放棄っすか? よくわからないっすけど、私はいつも通り打たせてもらうっすよ……)リー……」

淡「…………」ピクッ

桃子「(え? ちょ、嘘っすよね? も、もう一回……)リー……」コソッ

淡「…………」ピクピクッ

桃子(えええええ!? もしかして、超新星さん、五感の全てを聴覚に集中させて……私のリーチ宣言に耳を澄ませてる!? というか、私のステルスに気付いてるってことっすか!?)

桃子(私の能力自体は……確かに効いてるはずっす。けど、むしろ効いてるからこそ、捨て牌が見えなくなったからこそ、目ではなく音を頼りにして……!?
 カンが良いどころじゃないっすよ。こんなわけのわからない対応を――しかも初見でしてくる人がいるなんて……世の中は広いっすね)

桃子(どうしたもんっすか。もし、リーチ宣言の声に気付かれたら、超新星さんはすばら先輩に合わせてオリるかもっすね。できれば、トップを引き摺りおろしておきたい。なら、裏をかかせてもらうっす)タンッ

淡(んー、特に変わった音はしないなー。リーチの発声はルールだから、リーチするなら絶対に声が聞こえるはずなんだけど……。もしかして、モモコ、まだリーチしてない? なら、押せ押せってことかな。よしっ!!)タンッ

桃子「ロン。3900は4200っす」パラララ

淡「なんとっ!!?」

桃子(安い和了り。けど、積み重ねていけば、逆転も可能なはずっす。超新星さん……その対応力と打牌センスだけでも、十分上位ナンバー級の実力がある。ステルスモードだからって油断は禁物っすね)

淡(あちゃー、バレたか。いや、まあ、対局中に目を瞑ったら誰だって不自然に思うよね。けど、ザンク程度で済んだのは僥倖。何もしなかったら、リーチ一発で満貫だったかもしれないし)

友香(これは……ついに《ステルスモモ》のお出ましでー? クラスでも一際異彩を放つ感応系能力者――授業で手合わせすることはあっても、ガチで対局するのはこれが初めて。その本領、いかほどのものでー!!)

煌(ふう……何もしていませんね。お三方は、何やら異次元レベルの駆け引きをしているように見えます。はてさて、どうしたものでしょう。どうしたら……桃子さんのお心に響くような闘牌ができるでしょうか……)

淡:34100 友:35000 モ:29500 煌:1400


 南三局・親:桃子

友香(大星は想像以上に強い。東横さんは能力を発動してきた。花田先輩は……ちょっとよくわからないけど)

友香(この局は、かなりテンポよく手が進んでる。これは、もう――やっちゃうしかないんでー!!)

友香「リーチでー!!」クルッ

友香(もちろん東横さんは恐いけれど、こんな序盤に張ってるとは思えない。どうせ振り込むかもしれないなら、リーチをかけているかいないかは問題にならない。
 私の能力は、打点だけじゃなく和了率まで引き上げる。この巡目のリーチ……誰の邪魔も入らないなら、高確率でツモれる!! 花田先輩のトビ終了――これで私の勝ちだッ!!)

桃子(マズいっす……こっちはまだ二向聴! しかも、《ステルスモード》の私は能力的な《制約》で鳴けないから、チーでズラすこともできない! 森垣さんの能力を考えれば……万事休すっす……!!)

淡(わお、来た来た四巡目リーチ……! これは、軽く一発で親倍くらいは和了ってきそうな感じ! そう――本来なら、ねっ!!)

淡(ユーカ……ユーカの能力なら、トップだろうとなんだろうと、リーチするのが正解なんだよね。捨て牌の見えないモモコがいるこの場は、常にフリテンの危険が付き纏う。和了るなら、ツモ一択。
 リーチ条件で和了率を引き上げる――《上書き》で和了り牌を引いてこれるユーカなら、わざわざダマにしておく必要はない)

淡(でも、残念だったね、ユーカ。そのツモ……《絶対》に和了れないよッ!!)

友香(来い……一発――!!)ツモッ

友香「なっ――!? え、そんな……!?」ゾワッ

桃子(南無三――と思ったら、えっ? 一発じゃないっすか? この巡目で!? ズラされてもいないのに!? あの森垣さんが……!?)タンッ

友香(お、おかしい……!! いつもなら、もっと、牌をツモる瞬間に力が漲るのに……!? どうして!? 大星は何もしていない。東横さんは能力値《レベル》が私より下だから、相性はともかく、私の能力に干渉する力はないはずなのに……!!)

桃子(これは、何がどうなってるっすか……?)

友香(くっ……またツモれなかった!! どうして!? まだまだ序盤! 支配領域《テリトリー》だってちゃんと展開できてる!! なのに……なぜ――)ハッ

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香(まさか……!! これはあなたなんですか――レベル5……!!?)

 ――流局

友香「テンパイ(最後まで和了れなかった……)」

煌「テンパイ(なんとか海底で辿り着きました……!!)」

桃子「……テンパイっす(危ない危ない。すばら先輩、今度はテンパイしてたっすね)」

淡「………………ノーテンッ!!」モッテケドロボー

淡(もおおおおおおおお!! スバラったら、テンパイするの遅過ぎっ!! ユーカとモモコが張ってて、そのくせスバラがいつまで経ってもテンパイしないから、スバラがノーテン罰符でトばないようにずーっと私は二向聴! 完全に手が止まっちゃってたよっ!!
 しかも、スバラが海底でテンパイしても、そのあと私はツモれない。結果見事にノーテン!! 参っちゃうなー、デジタル打ちの今は、ノーテン罰符の3000点でも十分痛いのに……!!)

淡:31100 友:35000 モ:30500 煌:2400 供託:1000

 南三局一本場・親:桃子

友香(張った……! でも、これ、どうしよう。リーチを掛けたいけど、さっきのこともある。大星との点差は広がったし、あまり無茶をしてもメリットが少ないかな。じゃ、ここは大人しくしているのが吉ってことでー……)タンッ

桃子「ロンっす、5800は6100」パラララ

友香「(しまっ……!)……はい」チャ

桃子(ふぅ……なんとかこれでトップ。このまま最後まで逃げ切るっす!!)

淡(いやー全っ然見えないねっ! まったくもって変な能力!!)

友香(ぐぬぬ……)

淡:31100 友:28900 モ:37600 煌:2400

 南三局二本場・親:桃子

友香(大星に気をとられ過ぎてたかもな。東横さんだって、私と同じクラスで、同じように麻雀の腕を磨いてきた人。侮っていたわけじゃないけど、どこかで大星ほどじゃないって思ってた。
 でも、この状況……ステルス発動で振り込みゼロの東横さんをまくるのは簡単なことじゃない)

桃子(いよいよ森垣さんに火をつけてしまったっすか? 恐いっすけど、ステルスモードに入ってから逆転を許すほど甘くはないっすよ、私は!)

淡(んー、これはまた我慢の局かなー。三つ巴で盛り上がってきたから、ダブリーぶちかましたい気持ちでいっぱいなんだけど……)

淡(っていうか、スバラ……まだ動かないの!? もうオーラスになっちゃうよ……? こんなに我慢してるんだから……あんまり私をがっかりさせないでよねっ!)

煌(前々局のテンパイ。少しは桃子さんに近づけたでしょうか。人の打ち筋の模倣など、慣れないことをしたから回り道になりましたが……本物を見れて、予感が確信に変わりました)

煌(桃子さん……やはり私はあなたがほしいっ! そのために、最後まで、食らいつきます……!!)

 ――十巡目

友香(中盤でー。ようやく張れたけど、東横さんも張ってるかも……)

友香(いやいや! ここで弱気になってもズルズル落ちていくだけだ。バカの一つ覚えかもしれないけど、東横さんとは一万点近く差がある、しかも直撃が取れないんだから……私にはリーチを掛けてツモるしか道がないんだっ!!)

友香「リーチでー!!」クルッ

桃子(来た……! けど、こっちも既にリーチかけてるっすよ!!)タンッ

煌(む……できればオーラス前に試してみたかったですが、この感じだと無理かもしれませんね)タンッ

淡「チー!!」タンッ

友香(大星……!!)

淡(させないよー?)

友香(大星……東横さん……強敵でー! 学園都市に来てよかった! こんなに強い人たちが、同じ学年にいるなんて! それも二人もっ……!!)

友香(くっ……またこの感じ! 力が拡散していく……!? 高めは無理かも!! けどっ……それがどうしたんでー!!)ツモッ

友香「ツモッ! 裏は――なし!! 1000・2000は1200・2200でーっ!!」

桃子(安め……! けど、リー棒分まくられた!?)

淡(面白い……! 面白いよ、ユーカ!! たぶん、私が一発を消したことが、かえってサポートになったのかな? その和了り、一発と裏で打点が上がったらスバラの能力に引っ掛かってたもんね!!)

友香(いっしっ! もしかして、と思ったらやっぱりリー棒のオマケ付きっ!! 高めを狙わず、ツモることだけに集中したのがプラスに働いたのかな? なんにせよこれで逆転でー!!)

淡:29900 友:34500 モ:34400 煌:1200

 南四局・親:煌

淡(いよいよもって、スバラの能力が枷になってきたかなー。直撃なら5200以上じゃないとトップには立てない。だけど、この状況……スバラの能力的にはたかが3900の手でもツモが封じられる。
 見えないモモコとトップでバリ三警戒してるユーカから、5200以上の直撃が勝利条件か……厳しいな。けど、わくわくするよっ!!)

友香(このままトップを守り抜く……幸い、私は東横さんの上家、大星と花田先輩に合わせていれば振り込みは防げる。けど、東横さんは誰からでも和了れる上に、どんな和了りでもトップ確定。守るだけで乗りきれるか……!?)

桃子(さて、いよいよオーラス。和了れば勝ち。森垣さんが守りに入ってくれれば、ステルスモードの今なら、分の悪い勝負じゃないはずっす……)

桃子(ところで、ラス親っすけど、このまま終わり――なんてことはないっすよね、すばら先輩……?)

煌(オーラスですか。ここで桃子さんにいいところを見せなければ……!!)

友香(来た……!! こんなときに最高倍満の大物手、最低でも3900。ダマ……? いや、けど、さっきは和了れたんだ。私は……私の力を信じる!!)

友香「これでダメ押し……リーチでーっ!!」クルッ

桃子(森垣さん……トップなのに攻めてきた! さすがっす!!)

淡(…………リーチ……かけたね……?)ニヤッ

煌(森垣さん……!! 先程からのリーチと力強いツモ。恐らくは何かの能力なのでしょう……しかし!!)

煌(高打点の能力なのか、ツモりやすくなる能力なのかわかりませんが……あなたのそれが3900以上の和了りなら、そこから先は《通行止め》ですッ!!)

煌(森垣さん、ここは一つ、大人しくしていてください。私が桃子さんにぶちかます……最後のチャンスなんです!!)

友香(あ……これは……マズい――!?)ゾッ

桃子(一発ならず、っすか。これは偶然じゃないっすね。超新星さんでも私でもないなら――すばら先輩が何かやってるっす!!)

桃子(しかし、依然、どんな能力でそうなっているのかはわからないっす。さっきみたいに、ふとした弾みに森垣さんが和了るかもしれない。私も攻めないとっすね……)

 ――十一巡目

桃子(森垣さんには遅れを取ったっすけど、これで私もテンパイ。役ナシのゴミ手っすけど、受けは広い。私が先に和了るっす――!!)

桃子「リーチ……」ユラッ

桃子(さて、もう待ったなし。あとがないっすよ、すばら先――)

煌「…………」

桃子(すばら先輩、なぜ目を閉じて……まさかっ!?)

煌(淡さんが目を閉じているのを見たときは何事かと思いましたが……なるほど、確かに、見えない桃子さんが相手なら、こうやって音を頼りにしてみるのも一つの手。
 どうせ今の私はテンパイもしていないし、鳴く気もない。これくらいで桃子さんの気配がちょっとでも感じられるなら、安い代償です)

煌(さて、桃子さんの声らしきものが……ほんのちょっとですが、聞こえたような気がしました。河を見る限り鳴いたわけではない。なら発声する理由は――リーチしかありませんよね?)

煌(この状況でリーチをかけてきたということは、役ナシ――安手である可能性が高い。リーチツモのみだと、私の能力を掻い潜ってツモられるかもしれません。ならば……安手を化かしてやりましょうっ!!)

煌「カン――!!」

桃子(はあ……!? 私のリーチに気づいた直後に、オタ風を大明槓!? あまりの点差でヤケになったっすか!?)

友香(ドラを期待するにしては雑過ぎる!! かといって、カンして手がよくなった風でもない。私から鳴いたってことは、ツモを食い取りたかったとか? いや、それなら普通もっと早くに鳴くはず……まったく意味がわからないんでー)

淡(……なるほど、考えたね、スバラ。自分の能力の網に引っかかるように……わざわざ他家の手を高くするなんて!!)

煌(どうでしょう、これで少しは牽制できたでしょうか。桃子さんの手が何点かはわかりませんが、裏も含めて三つもドラを増やせば……一つくらい乗るんじゃないですか?
 もし私の狙いが成功したなら、桃子さんのツモは封じました。もっとも、私以外の三人で点棒をやり取りされたらアウトですけど……できる限り、和了りへの道は止めさせてもらいます!!)

桃子(ツモ……れず。嫌な感じがするっすね。すばら先輩のカン――あれでカンドラが二つも乗ったっすけど、それがかえって重荷になった……? すばら先輩の能力、封殺系とかそのあたりが本命っすかね……?)

煌(さて、細工は流々――と言いたいところですが、そうそううまく行くとは思えません。しかし……もし、私の作戦通りにいけば、きっと桃子さんもびっくりしてくれるはずです……!!)

淡(スバラ……なに企んでるんだろ? ぼやぼやしてると私、和了っちゃうよ……!?)

 ――十五巡目(山牌残り11)

煌(さて……こんな終盤なのにボロボロの三向聴……)

煌(残りのツモがこれを含めて三回……森垣さんと桃子さんからはリーチがかかっている現状、このまま流局になるとしたら……)ツモッ

煌(やはり来ましたか、有効牌。これで二向聴。ここから立て続けに穴が埋まって、海底直前にテンパイ。ノーテン罰符でトぶことはなくなる……)

煌(この対局、何度か体験しました。我ながら呆れた超能力です。本当に、トビを回避するだけの、攻撃にはまったく不向きな力)

煌(この反則級の絶対防御を持ちながら、私は断ラスに甘んじている。淡さんのように、能力がなくても強い方が持っていれば、それこそ最強なのでしょう。しかし、私はあまりにも弱い……)

煌(ええ……弱いですとも! そんなことは、百も承知。ただし、今は――ですが!!)

煌(弱くても私らしさを出せば、桃子さんに気に入ってもらえるかもしれない。そして、教えを乞う! ゆくゆくは、私なりの力の使い方を覚え、この方々に一歩でも近付く!!
 今はこれが精一杯ですが……いつか、せめて、淡さんの御傍にいるのが恥ずかしくないくらいには、強くなりたい……!!)

煌(そのために、ここは無茶をしますよ。私の力が本当に学園都市で最高のそれなら、きっと成功するはず。私は――《絶対にトばない》っ!!)タンッ

淡(ふおっ!? スバラがツモ切り……? 待って、たぶんだけど、いま三向聴くらいなんじゃないの? あと二回しかツモれないのに、自ら有効牌を捨てた……?
 いや、違うっ! 残りツモが二回しかない状況の三向聴でも、やり方次第でノーテン罰符を回避できる!! つまり、スバラは――!!)

煌(さすが淡さんです。私の浅知恵を看過しましたね? どうでしょう、これが、勝てないなりに考え出した……私の答えですっ!!)

淡(オーケー!! ばっちり見させてもらうよ、スバラ!!)タンッ

煌(はいっ……!)

友香(この重い感じ……また流局でー? くっ、当たりませんよーにっ!!)タンッ

桃子(すばら先輩、今、何かしたっすか? わからない……けど、この状況からどうやって逆転を――)タンッ

煌(っ――!!?)

桃子(すばら先輩……? なぜ、ツモらないっすか? なぜ――そんな満面の笑みで、私のことを見てるっすか……!?)

煌「やっと……!! やっと掴まえましたよ、桃子さんっ!!」

桃子(はあっ!?)

煌「それ、チーですッ!!」タンッ

桃子(わ、私のステルスが――破られた!? なぜ!!?)

煌「偶然じゃありませんよ、私はあなたを掴まえました。桃子さん……最後まで離しませんからねっ!!」

桃子(こんな……あの加治木先輩だって、ステルスモードの私は見つけられなかったのに……!!)

淡(そう……ツモが残り二回でも、鳴きを重ねれば三回以上有効牌を引き込める! しかも、ピンポイントで上家のモモコだけから鳴けるよう、恐らくはターツばかりの手にしてるに違いない!!)タンッ

友香(私には見えないままだけど……花田先輩は東横さんの捨て牌を拾ってみせた? なにがどうなってるんでー!?)タンッ

桃子(み、見えたからなんっすか!! 和了って振りきる――くっ、ツモれないっ!!)タンッ

煌「またまたチーッ!! まるっとお見通しですよっ、桃子さん!!」タンッ

桃子(な、なぜ……!? すばら先輩の能力は封殺系じゃないっすか!? けど、封殺系で感応系を《無効化》って――!? 一体なにをどうすれば……!? 意味がわからないっす!!)

淡(モモコの能力は珍しいけど、強度はレベル3相当。対してスバラはレベル5の第一位。条件さえ整えれば、スバラの能力がモモコの能力を一時的に《無効化》するのは当然の結果。となれば、次も……!)タンッ

友香(最後のツモ……! ダメだ、掠りもしないっ! いくら海底間際でも、普段ならもっと手応えがあるのに。
 花田先輩……私の能力と東横さんの能力――系統もバラバラなのに、このオーラスで、二つまとめて《無効化》している!? 能力の正体がまったくわからないんでー!!)タンッ

桃子(ラスヅモっすけど……やっぱり和了れない。ってことは、また――)タンッ

煌「チーですっ!!」タンッ

桃子「~~~~~~~~っ!!?」

淡(まったく……スバラったら最後にかましてくれたよねー。まさか感応系のモモコの能力まで《無効化》するなんて。デジタル的に見れば、やってることは、ただ鳴いて形式テンパイに持ってってるだけなんだけど、たぶん……モモコの中では、ありえないことのはずだよね)

淡(ま、スバラはよくやったんじゃないかな! 格上の実力者を相手に一矢報いた。合格点を上げちゃうよんっ!!)

淡(ただし……勝負とは非情なものなのだよ、スバラくん! まだまだ、私の相手としては、百年早いっ!!)ツモッ

煌(わかっていますよ、淡さん。今の私には……これが限界です)パタンッ

淡「ツモ――!! 海底ツモのみ、500・1000……!!」ゴッ

友香(なあっ……!? ってか、なんなんでーそれ!? 序盤から三色を捨てて、直前に断ヤオも捨てて海底のみ!? なんでわざわざ点数を下げるようなことを――!?)

桃子(超新星さん……私のことは見えてないはずなのに、すばら先輩の動きから私がリーチをかけてることに気づいたっすね。でなきゃ、その点数で手牌を倒すことはしなかったはずっす……)

淡「さて……誰が一番か、言わなくてもわかるよねっ!?」

 一位:大星淡・33900点(+8900点)

友香「完敗でー。言葉もない」

 二位:森垣友香・33000点(+8000点)

桃子「同じくっす。噂以上の化け物っすね、超新星さん」

 三位:東横桃子・32900点(+7900点)

煌「皆さんすばらでしたよ。大変……勉強になりました」

 四位:花田煌・200点(-24800点)

 ――――――

 ――――

 ――

煌「さて、対局は終わったのですが……桃子さん」

桃子「はいっす」

煌「率直に、いかがでしたか、私は」

桃子「激弱っす。これでもかっていうくらい、激弱っす。なんで二軍《セカンドクラス》に配属になったのか、理事長の正気を疑うっす」

煌「(想像以上に辛口!?)……はい、おっしゃる通りです」

桃子「でも、オーラスの鳴き。あれにはびっくりしたっす。リアルの麻雀で、私のことを見つけたのは、すばら先輩、あなたが人生で初っすよ」

煌「それは……頑張った甲斐がありました」

桃子「……一つだけ、聞いてもいいっすか?」

煌「なんなりと」

桃子「すばら先輩の能力……もしよかったら、教えてほしいっす。森垣さんの和了りを封じて、私のステルスをも粉砕した力――その正体が知りたいっす。なんとなく、ツモを封じられていた感覚はあったっすけど、それ以上のことはわからなくて……」

煌「いいでしょう。私の能力――それは、お察しの通り、ある条件下で、相手のツモ和了りを封じます。かつ、私への直撃も封じます。場合によっては、ノーテン罰符も確実に回避できます」

桃子「それ……つまり、どうやってもすばら先輩から点棒を奪うことができなくなる、ってことっすね? それをレベル5の強度でやられたら……確かにこっちは手も足も出ない。それこそ、一方的な戦いになるっす」

煌「いやいや、一方的だなんてとんでもない。私の能力はただの《通行止め》。私に向いた攻撃のベクトルを《無効化》するだけなんです。
 というか、私の能力が最大限発揮される条件下では、実際、私は、奪われるほどたくさん点棒を持っているわけではないのですよ」

桃子「点棒がない……って――!? え、じゃあ、まさか!?」

煌「はい。私はトびません。《絶対》にです」

桃子「ト――トばない……!? それだけっすか!?」

煌「はい。トばないだけです」

桃子「じゃあ、理事長と半荘一回を打ち切ったっていうのは!?」

煌「私がゼロ点になってからは、ひたすらに膠着状態でしたね」

桃子「そんな、トばない……! トばないって!? ええっ!? じゃあ、森垣さんのツモを封じたのは説明がつくとして、私のステルスはどうやって――?」

煌「ああ、それはですね。かくかくしかじか――というわけです」

桃子「そ、それ……私や森垣さんや超新星さんの間で点数移動があったらおしまいじゃないっすか!?」

煌「そうですね。あまり上等な作戦ではなかったと思います。それでも、私は対局の中で、あなたを見つけたかった」

桃子「すばら先輩……」

煌「実力勝負ではなく、こんな奇策でしか気持ちを伝えることができなかったのが悔しいですが……しかし、これが今の、ありのままの私です」

桃子「…………」

煌「桃子さん、今一度、お願い申し上げます。これからも、私と一緒に打っていただけませんか? リアルで打って、やはり、私には桃子さんしかいないと思ったんです」

桃子「…………」

煌「桃子さん……」

桃子「…………もう一人、私に声を掛けてくれた先輩は、本当にカッコよくて、頼りがいがあって、たまに可愛いところもあったりして、なんていうか、私にないものをたくさん持ってる人っす。私は……あの先輩のことが、好きっす」

煌「そうですか……」

桃子「すばら先輩は……カッコいいタイプでもないし、後輩にも腰が低いし、麻雀は素人みたいに弱いし、唯一の取り柄の能力も地味でしょっぱいし、本当に……全然私の好みじゃないっす」

煌「そう……ですか……」

桃子「けど、すばら先輩は、私の人生で初めて、対局中に私のことを見つけた人っす。すばら先輩は私の初めてを奪った――その責任は取ってほしいっす!」

煌「そうで……えええええ!?」

桃子「ほら、そうやって簡単にアタフタする! なんなんっすか!? 私はもっと、冷静沈着で、切れ者で、クールビューティーな人が好きなのにっ! どうしてすばら先輩みたいなちんちくりんに……!!」

煌(ちんちくりんって、そんなばっさり……!?)

桃子「まあ、でも、二人ともずるいところは似てるっす! 私を――私の心を、こんなに弄んで……!!」

煌「わ、私はそんなつもりじゃ――!?」

桃子「とにかく、一緒にやるからには、強くなってくださいっすよ!! すばら先輩は、確かに私に似たところがあるっす。能力を聞いて納得したっす。私たちは、特定の条件が揃えば、《他家に振り込まない》。振り込みの危険を無視して手作りができるってことっす。
 すばら先輩は、まだ自分の能力に対する理解が不十分っす。振り込みがないなら、牌効率も期待値も普通のデジタルとは違ってくる。私たちには、私たちにしかできない打ち方があるっす。それを……私が手取り足取りレクチャーしてあげるっすよ!」

煌「も、桃子さん……!!」キラキラ

桃子(ま、またそんな子犬のような笑顔で……っ!! 加治木先輩とは真逆……今まで一度も押されたことのないツボを連打されて……なんだか変な気持ちになってくるっす!!)

桃子「と、まあ。そんなわけで今後ともよろしくっす、すばら先輩!」

煌「こちらこそ、よろしくお願いいたします、桃子さんっ!!」

 ――――

友香「あーあー。完敗過ぎて悔しさも湧いてこない。大星淡――本当に大した雀士でー。向こうでボロ負けしたときよりも、さらに差が開いた感じがする」

淡「私は天才な上に、成長速度も半端ないからねっ!!」

友香「それがほぼ真実なんだから、参っちゃうんでー。ま、言われなくてもそうするんだろうけど、私のことなんかさっさと忘れて、とっとと上に行って、ちゃっちゃっと《頂点》獲ってきなよ。
 大星なら……たぶんいけると思う。たとえあの宮永照が相手だったとしても、私はあなたにBetするね」

淡「ユーカ、なにズレたこと言ってんの?」

友香「は? いや、それなりに的を得たことを言ったつもりだけど。あなたなら、宮永照や、他のどの化け物とも五分で渡り合えると思う。私の感想、何か間違ってる?」

淡「いやいや、そっちじゃないよ。そんなこと私だってわかってるよ。だって、私、最強だもん」

友香「ハイハイ大星さんは最強でー」

淡「話を逸らさないでよっ! ユーカ、私はユーカのこと、きちんと覚えたよ。二度と忘れたりしないよ。というか、なんか他人事風に言ってるけど、ユーカは負けたんだから、もう、勝った私のモノだからね?」

友香「モ――はあああ!?」

淡「やー、でもラッキーだった!! まさか、スバラの師匠探しをして、ユーカみたいな掘り出し物をゲットできるなんて!! 今回はたまたま勝てたけど、次に同じ条件でやったらたぶん、私はユーカに勝てない。偶然この一回で勝てて本当によかったよー!!」

友香「ちょ、ちょいちょい!! タンマタンマ待ったでー!! 私があなたよりも強い? そんなわけないっしょ!?」

淡「もちろん、ユーカは私よりは弱いよ。それはしょうがない。だって私は天才で無敵最強なんだもん。けど……ユーカは、能力を使わない私よりは、間違いなく強いよ。私だってバカじゃない。それくらい、この一回の対局でわかる」

友香「の、能力を使わない能力者より強いって――それがなんだって言うんでー!? 当たり前とまでは言わないけど、能力ナシのハンデ背負ってる相手より強いのは、わりと妥当なことでー!?」

淡「あのね、ユーカ。対局前に私が言ったことをもう一回言うね。私は能力を持っているから強いんじゃない。能力を持っているのが私だから強いって。
 要するに、私は能力ナシでも強いの。能力アリだと最強になるってだけで、能力ナシでも上の上。大半のやつはぶっ倒せる。校内順位《ナンバー》で言えば、50位より下は敵じゃない」

友香「け、けど、私は今の対局……能力ナシのあなたに負けたんでー。今の話で言うなら、私は、あなたが能力ナシでぶっ倒せる大半のやつの一人でしかない。ナンバーだって、実際に50位より下だし……」

淡「わっからないかなもー! 私が強いって言ってんだから、ユーカは能力ナシの私より強いのっ!!
 今回私が勝てたのは、スバラの能力を私だけが知ってたから。ユーカがスバラの能力を知ってたら、今回、私はユーカに勝ててなかったよ。具体的には、リー棒の分だけ、届かなかったと思う」

友香「リー棒……?」

淡「スバラの能力を知ってたら、ユーカはあそこでリーチしなかったと思う。あのリー棒がなかったら、私は詰んでた。ユーカは私に勝ってたよ。ガチで。マジで」

友香「そんな気休めを言われたって……私の気持ちは晴れないんでー」

淡「むううううう!!」

友香「だって……私は、向こうでボロ負けしてから、ずっとあなたに勝ちたいと思って麻雀を続けてきたんでー。正直、能力の相性は最悪だけど、それでも、私自身の力を底上げすれば、なんとかいい勝負に持ち込めると思ってた……。
 なのに、実際は、能力の相性どころか、能力ナシのハンデ戦で負けた。事前情報なんて些細な問題でしかない。私があなたより強いなんて、とてもじゃないけど思えない……思えるわけがないんでー……」

淡「なんなの……!? なんなの、その弱気な態度っ!! らしくない、らしくないじゃん、ユーカ!! さっき教室で私に勝負を吹っかけてきたあのユーカはどこに行ったの!?
 最後の最後まで諦めることなく喰らいついてきた――あの流星群《メテオストリーム》のユーカ=モリガキはどこへ行っちゃったのさっ!!」

友香「えっ……? 大星、なんで、当時の私のニックネームを――?」

淡「忘れるわけがないじゃん。《超新星》と《流星群》――私たち、二人合わせて《二大巨星》って呼ばれてたじゃん。直接対決は一回きりだったけどさ」

友香「ちょ、そんな、だって……えっ……?」

淡「私は、ユーカが学園都市にいるってわかったときから、あなたを仲間にしようって思ってたよ」

友香「だって、そんな……そういうのは……反則でー……!!」ウルウル

淡「ユーカ、私と一緒に来てくれないかな? ユーカの言う通り、私の《絶対安全圏》はユーカの《流星群》にとって天敵みたいな能力。けどさ、知ってる? 天敵って、敵だから天敵なんだよ。味方にしちゃえば……むしろ無敵だよっ!!」

友香「あははっ……それ別に上手いこと言えてないからね、大星……!」

淡「そこはファーストネームで呼んでよ、野暮ったいなー」

友香「……あ、淡っ!!」

淡「ふふーん! 頼りにしてるからねっ、ユーカ!!」

友香「まっかせろでー!!」

淡(よ、よし……作戦通りっ!!)ニヤッ

友香「………………」ジー

淡「む? なな、なにかな、ユーカ……?」

友香「いや、ちょっと、頭が冷えてきたんでー」

淡「それはよかったねー」アハハ

友香「なんか、つい流れに飲まれてホロリと来ちゃったけど、淡はさっき、私のこと『掘り出し物』って言ってたような気がするんでー」

淡「き、気のせいじゃないかなー……? 言葉のあわあわ、みたいな?」

友香「白状するでー……淡。私のこと思い出したの、つい、ほんの数秒前くらいでー?」

淡「ななななななななな、なんのことかな!?」

友香「うわっ!? やっぱりそうなんでー!? もー!! 今すぐ私の感動を返すんでー!!」

淡「結局思い出したんだから細かいこと言わないー!!」

 ――――

 ――数分後――

淡「で、スバラー。そっちは話まとまったー?」

煌「色々ありましたが、有難いことに、桃子さんの協力を得ることができました」

淡「やったねっ!!」

煌「はい。これから少しでも淡さんに近づけるよう、頑張っていく所存です」

淡「私くらい最強になるには百年かかるけどねっ!」

煌「百年で淡さんに並べるなら、早いものですよ。千里の道も一歩から――百年後まで待っていてください」

淡「えっ!? そ、それは、向こう百年間一緒にいよう、ってこと……?」

煌「ええ、百年でも千年でも」

淡(あわわわわわ!?)

桃子「すばら先輩、なら、私も百年間ご一緒していいっすか?」

煌「もちろんですとも! みんなでずっと楽しみましょう、麻雀を!!」

桃子(ぷぷっ……よかったっすね、超新星さん。これで百年先まで面子には困らないっすよ)ヒソッ

淡(モーモーコー!!)ゴッ

煌「それで、淡さんのほうはいかがでした? 森垣さんと仲直りできましたか?」

淡「そりゃもうっ! ユーカが仲良くしてくださいって泣きつくもんだから、参っちゃったよー」

友香「大嘘つくのはこの口でー?」ムニュ

淡「はひふふほー!?」

煌「おやおや、仲直りした途端にじゃれあって……お似合いのお二人ですね」

淡・友香「誰がこんなやつと(でー)!?」

煌「そうなのですか? 私には、眩い星が二つ並んでいるように見えますのに。熱く燃え上がる真っ赤な巨星――森垣さんは、さながら空に浮かぶルビーの如しです」

友香「ちょ、ルビーだなんて……!! わ、私なんか、向こうじゃジャパニーズ・オテンバ・ガールとか言われて! 全然、全然そんな上等なもんじゃないんでーっ!!」

煌「謙遜することはありません。照れ隠しをしてみせても、森垣さんの持つ淑やかさや品の良さは隠せませんよ。森垣さんはオテンバ・ガールなどではありません。言わば、ニュータイプ・ヤマトナデシコ!」

友香「(品が良いなんて初めて言われた……! それに大和撫子って!?)はははは花田先輩ったらお上手でー!!」

煌「私は見たままの事実を言っただけです。森垣さんは、美しく強い――とても魅力的な方です」キリッ

友香(でー……////////)

淡「スバラ! スバラ!! 私は!?」

煌「淡さんは言わずもがな。森垣さんが真っ赤なルビーなら、淡さんは透き通るように青白い乙女星。暗闇に光るパールです。優しくて純真な――とても魅力的な方です」キリッ

桃子「すばら先輩、私はどうっすか?」

煌「桃子さんはさながら孤高な朔の月。誰も目にすることができない新月です。しかし、その本来の姿が満月のように美しいことを、私はもう知っています。桃子さんはしたたかで誇り高い――とても魅力的な方です」キリッ

淡(優しくて純真だって!! つまり私が一番ってことだよねっ!!)

友香(私なんか美しくて強いんでー! つまり最高ってことでー!!)

桃子(私はしたたかで誇り高いっすから、二人みたいに低俗な争いはしないっすー!)

煌「三人とも、こそこそと何を話しているんですか?」

淡・友香・桃子「なんでもない(でー)(っす)!!」

煌「?」

淡「ま、なにはともあれ、これであと一人ってわけだねっ!」

煌「あと一人……? なんのことです? 面子なら四人で十分ではないですか?」

淡「なにを寝ぼけたこと言ってるの、スバラ? 白糸台高校麻雀部の最小単位は五人一組! あと一人いないとチームにならないでしょ!?」

煌「はて?」

桃子「超新星さん、これは本気でわかってないっすよ」

友香「えーっと、花田先輩。つまり淡はこう言いたいんです。私と花田先輩と淡と東横さんと、あと一人誰かを仲間に誘って、チームを組んで、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》に出る」

煌「」

淡「スバラー? スバラー?」

桃子「あまりの衝撃に意識が飛んでるっす」

友香「というか、淡、チームのことは話してなかったんでー?」

淡「だって、わかりきったことだと思ってたから」

桃子「ま、私は薄々気づいてたっすけどね。すばら先輩、本当に、私にコーチをしてもらうだけのつもりで話してたっすから」

淡「ま、いっか。それよりも今は五人目っ! ユーカとモモコは、誰か味方にしたい人いる?」

友香「引き込めるかどうかを度外視するなら、宮永照一択でー」

桃子「無難なとこなら、うちのクラスのポニ子さんとかどうっすかね」

友香「ああ、南浦さんのこと?」

淡「誰?」

桃子「南場に強いレベル3強。地力もかなり高い」

淡「んー、パンチ力に欠けるなぁ。どうせならレベル5かランクSがいいっ!」

桃子「レベル5もランクSも既にいるじゃないっすか……」

友香「欲張りでー」

淡「一緒にインターハイに出る仲間だもん。ここで妥協はしたくないっ!」

桃子「具体的には、どんなレベル5かランクSがほしいっすか?」

淡「私が攻撃特化で、スバラは絶対防御だからなー。間を取って、超バランス型っていないの?」

友香「んー、レベル5は基本、旧第一位の《ドラゴンロード》を筆頭に攻撃型ばっかって話でー。特に二年生のトリオは、白糸台の《生ける伝説》になってるとかなんとか。あ、第七位の《原石》だけは、ちょっと異色って噂だけど」

桃子「ランクSもみんな攻撃型っすかね。宮永照は言わずもがな。去年の一軍選抜戦《ファーストクラス・トーナメント》最多得点記録保持者も、ランクSの魔物だったみたいっす」

淡「ダメダメ。そんなのとチームなんか組みたくない」

桃子「どうしてっすか?」

友香「どうせあれでー。自分より点を取れるやつが同じチームにいると目立てないとか、そういうくだらない理由でー」

桃子「なるほどっす」

淡「うーん、こうなったら足で探すしかないか。学園都市には一万人も高校生がいるんだし、適当に歩いてればセンサーがビビビッと反応するよね!」

桃子「日曜でよければ、案内できるっすよ」

友香「同じくでー」

淡「よし……そうと決まれば!」

煌「」

淡「スバラ、スバラ!! 起きてっ!!」

煌「はっ!? すいません、なんかとんでもない事実が聞こえた気がして、意識を失っていました。で、なんの話でしたっけ?」

淡「スバラ、日曜日にデートするよっ!!」

煌「」

桃子「また気を失ったっす……」

友香「デートとか言うからでー」

淡「ま、しばらくすれば目を覚ますでしょ! スバラが起きるまで、暇だし三麻でもしてよっか。今度は私も能力全開でいくよっ!!」

桃子「面白いっす。そう簡単には負けないっすよ!!」

友香「返り討ちにしてやるんでー!!」

 ワイワイ ワイワイ

 ――――――

 ――――

 ――

 ――日曜・白糸台寮エントランスホール

煌(淡さんに追い出されるように部屋を出て、ここで待っているように言われましたが……)

淡「スバラ、お待たせっ!」キラーン

煌「あ、淡さんっ!?(私服!? まさに至福の光景ですっ!!)」

淡「一昨日言った通り、今日は私とデートだからね!」

煌「えっ? 私が聞いた限りでは、桃子さんと友香さんが学園都市を案内してくれるという話ではなかったでしたっけ?」

淡「まーそーなんだけど! でも、二人は遅刻みたいだから、二人で一緒に遊びに行こうよ!!」

煌「いや、でも……」

桃子「抜け駆けは許さないっすよー」ユラッ

煌「わっ、桃子さん!? いつの間に私の背後に!?」

桃子「すばら先輩がここに来た直後からっす」

煌(全く気付かなかった!!)

淡「こら、モモコ! スバラが迷惑してるでしょ、離れて!!」ガバッ

桃子「そう言いながら、なぜ前から抱きつくっすか、超新星さん」

淡「私はいいの!」ギュー

煌(あ、当たってますー!?)

友香「おっは、お待たせ……って、淡と桃子が花田先輩をサンドイッチ? 何やってるんでー?」

煌「友香さん! 助けてくださいっ!!」

友香「いっし、決めた。私も混ざるんでー!」ダキッ

煌(さ、三人とも……私より年下なのに、なんとすばらなボリューム感!!)

 ――デート中・ショッピングモール

桃子「ここが私のオススメの服屋さんっすー」

友香「ここが私御用達の紅茶屋さんでー」

桃子「ここが私がよく行く靴屋さんっすー」

友香「ここが私の好きな雑貨屋さんでー」

煌(なんともきらびやかな世界……! 目が回りそうですっ!!)

淡「さっすが高校生雀士のための街! ぶらぶらしてるだけで一日中楽しめる!」

桃子「次はどこ行きたいっすか? 遊ぶならゲーセンとか?」

友香「屋上はちょっとした遊園地みたいになってて、ジェットコースターもあるんでー」

淡「どっちも行きたーい!!」

煌「わ、私は少し休憩を……」

桃子「そっすね。朝から歩きっぱなしでしたし」

友香「なら、そこのクレープ屋さんはどうでー?」

淡「わおっ!? クレープ!!」ダッシュ

煌「あ、私、その前にちょっとお手洗いに……」

 ――――

煌「さて、戻りましょうか……と、あれは本屋さん」

煌「……ちょ、ちょっとだけ……」

 ――本屋――

煌(一般書の品揃えもさることなら、専門書や麻雀の指南書の多さも学園都市ならではという気がしますね。おっ、例の熊倉トシさんの著作もあちらこちらに。淡さんからいただいた本をマスターしたあとは、ここで新しいものを探しますか……)

煌(と! あれは……私の好きな小説の最新刊!! 転校のごたごたですっかり忘れていました。これは買わねばなりますまい……!!)スッ

?「あっ」ピト

煌「えっ」ピト

?「あ、どうぞどうぞ!」アセアセ

煌「いえいえ、どうぞどうぞ!」アセアセ

?「いやいや、どうぞどうぞ!!」アセアセ

煌「そんなそんな、どうぞどうぞ!!」アセアセ

?「……って、よく見たらまだいっぱいありましたね」

煌「そうでした……なんとなく、残り一冊のような感じがして」

?「気が合いますね、私もです……」

煌「本、お好きなんですか?」

?「はい。そういうあなたもですか?」

煌「ええ、本は人を豊かにしてくれます」

「おい、そこの二人」

煌・?「…………えっ……?」

 ――――

淡「スバラ遅いなー! もうクレープ二つも食べちゃったよ! っていうか三つ目に突入だよー!!」モグモグ

桃子「そこは、一つも食べずに帰りを待っているのが正解なのでは?」

友香「淡、ほっぺたにクリームついてるんでー」

淡「むぐっ!?」

桃子「にしても……すばら先輩、何かのトラブルに巻き込まれていなければいいっすけど」

友香「ああ、たまに絡まれるよね。ここは下位クラスの雀士もよく遊びに来る。絶好の狩場でー」

淡「なんのこと?」

桃子「学園都市では、基本買い物は電子マネーっす。私たち、さっきから学生手帳で支払いしてるじゃないっすか」

友香「この学生手帳に、月ごとに定額が振り込まれるんでー」

淡「それくらい、スバラじゃないんだから知ってるよ。で、固定の生活費とは別に、成績に応じてボーナスも振り込まれるんでしょ?」

桃子「そうそう。で、そのボーナスっていうのは、対局で賭けることもできるっす」

友香「そういう『遊び』もあるってことでー」

桃子「もちろん、生活費とボーナスは、データ的に別物になっていて、どんなに遊んだって生活費がゼロになることはないっす」

友香「レートもさして高くない上に学園都市側で管理してるから、一局二局じゃ小遣い稼ぎにしかならないんでー」

淡「けど……その遊びを遊びと思わずに、組織的に行っている雑魚の集団もある――ってことか」

桃子「さすが。カンがいいっすね。で、そういう輩が、こういう人の集まるところに紛れてることがあるっす」

友香「対局は原則、互いの意思がないとできないけど、中には脅して対局を強いるやつらもいるんでー」

淡「…………スバラ、大丈夫かな?」

桃子「大丈夫じゃない気がしてきたっす」

友香「クレープ食べてる場合じゃないかもでー」

 ――――

煌(ショッピングモールの中にも雀荘があるんですね! さすが学園都市!!)

?(あ、あの、ごめんなさい。私のせいで……)

煌(なんのことですか?)

?(私、なんていうか、おどおどしてるから、マネー狩りに遭いやすいんです)

煌(マネー狩り、とは?)

?(かくかくしかじか――ってことです)

煌(なんと……!? そういったことに麻雀を利用するとは……すばらくない!!)

?(まあ、でも、そういう刺激がないと……って、理事長の秘書さんが提案したシステムらしいですよ、これ)

煌(そうなんですか……? いや、それにしても、大人数で囲んで、そのまま対局室に閉じ込めるというのは感心できませんね)

?(こっちが負けるまで帰さないつもりなんです。対局で不正はできませんから、数で圧力をかけて相手を精神的に追い詰める。あの人たちの常套手段なんです)

煌(どうしましょう……)

?(安心してください。私、こういうのは慣れっこなので、切り抜け方も心得ています。流れのままに打ってください。四、五局くらいで、この人たちを追い返してみせます)

煌(頼もしいお言葉……! あ、あの、もしかして強い方なんですか?)

?(全然強くないですよ。いくら打っても、勝てないんです)

煌(勝てない……? それで、どうやってこの場を凌ぐおつもりなんですか?)

?(私は確かに勝てません。けれど……負けることもないんです)

煌(え? それは……どういう……?)

?(打てばわかりますよ)ニコッ

「よし、東風戦でいいな。おら、さっさと始めるぞ!」

 ――捜索中――

桃子「そう言えば、マネー狩りで思い出したっすけど」

友香「あっ、それ私も言おうとしたところでー」

淡「なに?」

桃子「私たち新入生の中に、『マネー狩りの組織をいくつも――それもたった一人で潰した《魔王》がいる』って都市伝説っす」

淡「は?」

友香「まだ学園都市に慣れてない新入生を狙ったマネー狩りの洗礼――毎年の恒例行事みたいなものらしいんだけど、それが……今年はちょっと様子が違ったらしいんでー」

桃子「なんでも、最初はちょっとしたことから始まるらしいっす。その《魔王》は、いかにも気弱そうで、どこにでもいるような平凡な容姿で、雀力も大したことなさそうに見える。
 『ああこいつはいいカモだ』と思って対局をふっかけるわけっすね。けど、どういうわけか、何十局と打っても、その《魔王》からは、一銭たりともマネーを巻き上げることができない」

友香「打ってるうちにだんだん焦れてきて、下っ端の連中もムキになってくる。で、なんとかして、その《魔王》からマネーを巻き上げようと、自分たちの組織の中枢まで、そいつを連れて行く。
 そして、組織のトップに立つような、麻雀の腕もそれなりに立つ連中が、寄ってたかってそいつを潰そうとするんだけど……やっぱり、どんな風に打っても、どんな能力を使っても、その《魔王》からマネーを奪うことはできない」

桃子「そのくらいになって、やっとみんな気付くらしいっす。その《魔王》が――《魔王》と呼ばれる由縁に……」

友香「気付いてしまった人は……みんな例外なく精神をやられて病院行き。未だに牌を握れずにいる人もたくさんいるとか。辛うじて回復した人もいるらしいけど、誰一人《魔王》について語ろうとしないから、その《魔王》がどこの誰で、どんな麻雀を打つのか、全然わからないままなんでー」

桃子「四月中に同じことが何度も起こったから、たぶん新入生の誰かだってことになってるっすけど」

淡「…………えーっと、その《魔王》は、一体何をしたわけ……?」

桃子「にわかには信じられないっすけど、都市伝説曰く」

友香「そいつが打つと、必ずポイントが――」

 ――雀荘――

(チッ、また大して稼げなかった。どうにも、この鍬形からはそこそこ点が取れるんだが……もう一人のほうが崩れないな)

(どうしますか? このままだと、ノルマを達成できませんが……)

(わかってる。次は狙いを鍬形一人に定めていくぞ)

「おい、もう一局だ。嫌とは言わせねえからな」

煌「またですか……」

?(安心してください。次の一局で、終わりにします)

煌(ど、どういうことですか?)

?(大丈夫……全て私に任せてください)ニコッ

 ――――

 オーラス・親:煌

煌(……今のところは、先ほどまでと特に変わらなく見えますが。というか、先ほどまでよりも、私の点棒がピンチです。
 暫定一位が下家の方。58200点でのトップ。次いで例の方が、29700点。上家の方は10200点と多少凹んでいますが、お仲間の方が大トップなので関係はないでしょうね)

煌(うう……それにしても、オーラスで親だというのに役ナシテンパイとは。仕方がありません、リーチしてみましょうか)

煌「リーチです!」

「(ふん、安そうだな。ここでこいつをトばせば、それなりに稼げるだろう。今の私はノってる。潰してやるぜ……!)リーチ!」

煌(大トップに追っかけられましたー!?)

?「カン」ゴッ

煌「えっ?」

?「もいっこカン、もいっこカン……!」ゴゴッ

(なに……!?)

煌(わ、私の手が……!?)

(な、何がどうなって)タンッ

煌「あ……それロンです。リーチ、ドラ6――裏9!? か、数え役満……48000です……」

「はああああああああああああああ!?」

煌「えっと、私がトップになったので、これで和了り止めにしますね……」

?「私は……またプラスマイナスゼロですね」

「ま、待て!! 勝ち逃げなんて許さねえぞッ!! もう一回、もう一回だ!!」

(ちょ、ちょっと!! おい、落ち着けって……ヤベエ!! 成績よく見てみろって……こいつ、例の《魔王》かもしれねえぞ!?)

(は、はあ!? このいかにも弱そうなのが!? んなバカな、お前だってこいつの打ち筋は見たろ!? まるで素人みたいな……!!)

(じゃ、じゃあ……この結果はどう説明するんだよ……)ガタガタ

(な、なんだこれ!? 四連続――プラマイゼロだと……!?)ゾワ

(本当に弱いやつにこんな離れ業ができるか!? こいつが本気になったら……私らなんか一瞬で灰にされる……!!)ガタガタ

?「もう一回やりますか? 私はいいですよ。何度やっても結果は変わりませんから……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「「ひ、ひいいあああああ《魔王》おおおおお!? 許してくださあああい!!!」」ダッダッダッ

煌「…………行ってしまわれました」

?「ふう、よかったです。あ、最後で負け分は取り返せましたよね?」ニコッ

煌「えっ? ああ、言われてみれば……!? というか、ちょうどトータルがプラマイゼロになってます……!!」

?「私の能力なんです。私が打つと、いつもこんな風になってしまって」

煌「《プラマイゼロ》にする能力……ですか?」

?「はい。私、プラマイゼロ以外になったことがありません」

煌「それは……すばらですね! 《プラマイゼロ》ということは、相手がどんなに強くても、必ず5000点前後稼げるということですよね!? とても羨ましい……!!」

?「ま、まあ、お正月にやる家族麻雀で、お年玉を巻き上げられないようにしてたら、こうなっちゃったんですけど……くだらない、ですかね……」

煌「とんでもない! こんなすばらな能力はなかなかないですよ!!」

?「そ、そう……ですか? でも、私と打つ人はみんな、手加減しているとか、本気じゃないとか、勝てるのに勝とうとしないのはよくないとか……」

煌「私はそうは思いません。今のお話では、これは、あなたが自分のお年玉を守るために手に入れた能力なんですよね? 自分のお年玉を守り、しかも、相手のお年玉も奪わない。こんな思いやりのある能力を、私は他に知りません」

?「思いやり……ですか? そんなこと、考えたこともなかったです。みんな、私は自分のことだけを考えてるとか、人の気持ちを踏みにじっているとか……」

煌「その人たちは、あなたの力に嫉妬しているのですよ。必ず《プラマイゼロ》にできる力を持ちながら、なぜ、一位を目指さないのかと。
 しかし、そんなのは結果でしかありません。この能力は、あなたが家族麻雀という戦いの中で、必死になって手に入れた力。その努力は、他の方々がトップを取るために積み重ねている努力と比べても、なんら遜色ありません」

?「そ、そうなんでしょうか……」

煌「ええ。あなたには、あなたなりの考えがあって、あなたなりに最大限の努力をしてきた。その結果が、《プラマイゼロ》。場合によっては、勝つことよりも難しいことを、あなたはやってのけているのです。
 それのどこが手加減でしょう。あなたは、他の方と目標は違えど、本気で麻雀に取り組んでいるはずです」

?「私の能力を――《プラマイゼロ》を……そんな風に肯定されたのは、初めてです」

煌「《プラマイゼロ》。私は、すばらだと思いますよ。もちろん、それほどの力を持つあなたが、勝ちに拘ったときにどれだけの麻雀を打つのか、見てみたい気もします。が、それはそれです」

?「お、怒らないんですか? バカにされているとか思わないんですか? さっきの対局だって、私はなんだかんだで、点数調整のためにわざと点数を下げたり、わざとあなたに振り込んだり……」

煌「勝つための麻雀ならば、確かに最善ではない打牌だったかもしれません。しかし、結果的に、あなたはご自分のポイントばかりか、私のトータルポイントも《プラマイゼロ》にしてくれました。
 それは翻って、絡んできた向こうの方々の総ポイントも、《プラマイゼロ》にしたということ。あなたは、誰も傷つくことのない結果を残したのです。すばらとしか言いようがありません!」

?「すばら……?」

煌「すばらしい、の略です」

?「なるほど……。あはは……すばらっ!」

煌「はい。すばらです」

?「ありがとうございます。私、お姉ちゃんに会いたくて、この学園都市に来たんですけど……私の麻雀は、ここで真剣に勝ちを目指している人たちには、あまり受け入れられないみたいで、ずっと悩んでいたんです。
 誰も私とはチームを組もうとしないし、どうせ《プラマイゼロ》にするからっていって、対局も避けられるようになって……。それで、一人でぶらぶらしていると、さっきみたいに絡まれたりとか。
 正直、学園都市から出て行こうかなって思ってました。お姉ちゃんとは、学園都市じゃなくても、外の世界の大会で勝ち進んでいけば、会えなくもないし」

煌「ほう……?」

?「けど、今日、初めて私の能力を肯定してもらえる人に出会えました。もし、その、すばらさんさえよければなんですけど……私を、すばらさんのチームに入れてもらえませんか?」

煌「えっ?」

?「すばらさんも言ってくれた通り、どんな人が相手でも、私は一局につき必ず5000点は稼げます。ナンバーは高いほうじゃないけれど……チーム戦なら、私の能力、多少は役には立つんじゃないかと思うんです」

煌「そ、それは……」

?「ダメ、ですか……?」シュン

煌(か、可愛いっ!!? この小動物のような愛らしさ!! 淡さんの猛禽のような気高さとはまた別の魅力……! すばら!!)

?「え、えっと、その、そうだ! 私の能力、ものすごく珍しいタイプの能力みたいなんですよ? 理事長曰く、学園都市に四人しかいない点棒操作系の能力って! しかも、そのうち一人は、ついこないだ転校してきたばかりのレベル5の第一位なんだとか……!!」

煌「すば……!?」

?「あ、あと、私、ナンバーはあまり高くないんですが、こう見えて、実はランクもクラスも高かったりするんです。一緒にいれば、今日のように露払いもできますし、何かと便利だと思うんですが……どうでしょう?」

煌「あ、あの」

?「あ、ごめんなさい。ちょっと嬉しくて、焦ってしまって。そういえば、まだ名乗ってもいなかったですよね。私は一年の、宮永咲です」

煌「えっ、宮永……?」

咲「はい。私は、宮永照の妹です」

煌「じゃあ、家族麻雀っていうのは……」

咲「もちろん、お姉ちゃんと、父と母と打っていました」

煌(なんとおおおおおおおおおお!?)

咲「それで、すばらさんのほうは、お名前、なんと言うんですか?」

煌「わ、私は二年で……名は――」

 バーン

淡「いたいたー!! やっと見つけたよ、スバラ!! なんか、さっき悪そうなやつらが顔を真っ青にして通り過ぎていったけど、大丈――」ビリッ

咲「!?」ビクッ

淡「!?」ピクッ

煌「……あ、淡さん? どうかされました……?」

淡「あなた――誰?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲「あなたこそ……誰ですか?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡「私は……大星淡。二軍《セカンドクラス》のレベル4でマルチスキル……ランクはS」

咲「私は……宮永咲。二軍《セカンドクラス》のレベル4でマルチスキル……ランクはS」

煌(ええええ!? 宮永さんってば、あの淡さんと同じスペック!? やっぱりお姉さんがお姉さんだけに、ものすごい打ち手だったんですね!?)

咲「す、すばらさん……。この金髪の人はお知り合いですか? なんだか、ちょっと恐いです……」ピタッ

淡「ちょっとおおお!! なに慣れ慣れしくスバラにくっついてんのー!?」ゴッ

咲「ひいっ!?」ギュウウウ

煌「淡さん、宮永さんは、マネー狩りに遭っていた私を助けてくださったんです。ですから、そんなにがならずに、ひとまず落ち着いて」

淡「そ、そんなこと言われても……」チラッ

咲「…………」ベー

淡「こ……の……!? スバラ、そいつ悪いやつだよ!? マジで仲良くならないほうがいいよ!?」

煌「宮永さんは私の恩人です。いくら淡さんの言うことでも、そんな失礼な真似をするわけにはいきません」

咲(すばらさん……私を庇って……/////)

淡(こいつ……ギタギタにぶっ潰す!!)ゴッ

桃子「あー、いたいた。急に走り出すからびっくり――え?」

友香「あっ、先輩。見つかってよかった――え?」

咲・淡「……!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子・友香(なんか増えてる!?)ゾゾゾゾ

煌「おお、皆さんも。ちょうどよかった。こちらの宮永咲さんが、私たちのチームに入りたいとおっしゃっているんです。とても頼りになる方だと思うのですが、みなさんはどう思われますか?」

淡「さあ……どうだろうね。一局打ってみないとわからないかな。私たちの目標は一軍《ファーストクラス》だから、こんなどこの馬の骨ともわからないようなのを、ほいほい入れたくはないんだよねー」

咲「一軍《ファーストクラス》? お姉ちゃんみたいな選ばれた人だけがなれる白糸台のレギュラーに……すばらさんのような人格者ならともかく、あなたみたいないかにも頭の弱そうな人が? 身の程を教えてあげようか?」

淡「むーっ! ユーカ、モモコ!! 入って!! 打つよっ!!」

咲「へえ? 三人がかりってこと? 無駄に派手な外見のわりに、中身は臆病なんだね」

淡「そっちこそ、いかにも根暗ですって顔して、どーせ一緒に打ってくれる友達いないんでしょ!?」

煌(な、なんでしょう……喧嘩を止めたい気持ちでいっぱいなのですが、謎の圧力のようなもののせいで、身体が動きません)

淡「大体、スバラは誰にでも優しいんだからね! だから、あなたみたいなぼっちにも親しくしてくれるの。それを、何か特別だって勘違いしてるんじゃない!?」

咲「その台詞、そっくりそのまま返すんだけど。すばらさんの心が広いのは私だってわかってるよ。あなたみたいな我儘で自己中な人と付き合えるなんて、さすがすばらさんだよね。私は無理かなっ!」

桃子(正直……超新星さんレベルの化け物がもう一人とか、そんな卓に入るのはゴメンっす)

友香(私もでー……)

淡「まっ、今のうちに好きなだけ吼えてなよ。すぐに泣かせてやるからさ!!」

咲「そっちこそ、さっきから強気なことばかり言って。あとで恥かくことになるよ!!」

淡「さあ、座って! 打つよ!!」

咲「ふん、言われなくても……!!」

桃子・友香(ま、仕方ないっすね(んでー))ハァ

煌(み、見守ることしかできません……!!)

淡「さー、私の親番だ! 東一局で終わらせて、スバラとのデートの続きしよーっ!!」

咲「ラス親かー。オーラスで役満でも和了って、すばらさんに褒めてもらおうっと!!」

淡「一人で言ってれば、妄想女!?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲「一人で喚いてなよ、暴走女!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌(大変なことになってしまいした……)

 ――十時間後

淡・咲(こいつ(この人)……強い!! 私と同じくらいにっ!!)ハァハァ

桃子・友香「」チーン

煌「淡さん、宮永さん、それくらいでいいのではないでしょうか? もうそろそろショッピングモールも閉まる時間ですし……」

淡・咲「まだまだっ!!」ゴッ

煌「しかし、門限もありますから……」

淡・咲「関係ないっ!!」

煌「どうしてもというのなら、また明日にでも……」

淡・咲「今ここで決着《ケリ》つける!!」

煌「…………………………わかりました」ゴゴゴゴゴゴゴ

淡・咲(えっ……なに? スバラ(すばらさん)の雰囲気が――)ゾワッ

煌「お二人とも、ご自分のほうが強いと思っているのですね? どちらが上なのか、はっきりさせたいと。ならば、お二人のどちらが強いか……年長の私が責任を持って判断いたしましょう」

淡「ど、どうやって決めるの……?」

煌「簡単です。二人とも、今から私と対局してください。桃子さんと友香さんはお疲れのようなので、三麻で」

咲「すばらさんが直接打って、私と淡ちゃんの力を見定めるっていうんですか?」

煌「いえいえ。そのようなジャッジを下すには、私では役者が不足しています。そうではなく、いたってシンプルなルールで、お二人の優劣を決めようというのです」

淡「スバラ……それってまさか――」

煌「ええ。ルールは単純。お二人で、お好きなように、お好きなだけ私の点棒を削ってください。そして、最初に私をトばしたほうを、強いほうだと認めましょう」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲(ト、トばす? いいのかな、なんか申し訳ないけど……)

煌「ただし、もしお二人とも私をトばせなかった場合は、きちんと仲直りしていただきますから、そのつもりで」

咲「な、なんだかよくわからないけど……わかりました! やるからには、遠慮はしませんからね。さっ、淡ちゃん、勝負だよ!!」

淡「私、パス」

咲「ええええっ!? なに、じゃあ、負けを認めるの? いいの? 私のほうが強いってことで?」

淡「勘違いしてもらっちゃ困るよ、サッキー。どう考えたって、私のほうが強いに決まってるんだから。ただ、スバラとの勝負には《絶対》に勝てない」

咲「どういうこと……?」

淡「私たちには、もう、仲直りする以外に進める道がないってこと」

咲「え……?」

淡「はいっ、スバラ! この世間知らずに言ってやって! スバラがどこの誰で、学園都市で何と呼ばれているかをさ!!」

咲「す、すばらさん?」

煌「宮永さん……咲さん。遅ればせながら、自己紹介させていただきます。私の名は――花田煌」

咲「花田……さんって――ああああああっ!?」

煌「学園都市に七人しかいないレベル5の第一位……《通行止め》です」コノデンシガクセイテチョウガメニハイラヌカー

咲「レベル5の第一位……!! じゃあ、花田さんは私と同じ点棒操作系能力者!? えっ? ってことは……さっきのルール――花田さんをトばしたほうが勝ちって……まさか!!」

煌「はい。私の能力――それは《点棒がゼロ未満にならないこと》。私はトびません。《絶対》にです」

咲「そんな……!?」

煌「試してみたいというのなら、いくらでもお相手いたしますよ。その代わり、トばせなかったら、淡さんと仲直りですからね。さあ……どうしますか、咲さん?」

咲「あ……淡ちゃんと、仲直りします……」

煌「よろしいでしょう。ハイ、では、咲さん。あなたの話すべき相手はこちらにはいません。きちんと淡さんのほうに向き直って、仲直りの握手を交わしてください」

咲「うう……あ、淡ちゃん……」アクシュ

淡「だから言ったじゃん、サッキー。スバラには敵わないって」ニギニギ

咲「うん……。あっ、でもさ、淡ちゃん」

淡「なに?」

咲「レベル5の第一位なんて一人じゃどうしようもないけどさ、ランクSの私と淡ちゃんが二人がかりで支配力を使えば、もしかすると、もしかするんじゃない?」

淡「そ、それは……考えてなかった!!」

咲「試してみる価値はっ!」

淡「あるねっ!!」

煌「す、すば……?」

淡「スバラ、ちょっと、一局だけ打とうよっ!!」

咲「花田さん、お願いです、一回だけでいいですからっ!!」

煌「い、いや、私は帰って小説の最新刊を……」ソソクサ

淡・咲「スバラ(花田さん)……そこから先は《通行止め》だよ(ですよ)!!」ガシッ

煌「すばあああああああああ!?」

淡・咲「一緒に麻雀楽しもうよっ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――――――

 ――――

 ――

淡「と、ゆーわけで! 五人揃ったわけだけど!! どう、スバラ? この面子で要らない子とかいない?」

煌「要らないといえば……むしろ私が抜けて、もっと普通に強い方を入れたほうがいいのでは、と思ってしまいますが」

咲「花田さん、遠慮しなくていいですよ。淡ちゃんみたいな目立ちたがり屋のおバカさんはチームの恥だって、この際はっきり言ってやってください」

淡「ねえ、スバラ。私、聞きたいことがあるんだけど、そこのサッキーとかいう腹黒い子って本当に必要かな? なんか、いるだけで空気が悪くなるんだけど」

煌「淡さんも咲さんも、喧嘩はそれくらいにしてください。仲良くするって約束ですよ?」

咲・淡「はーい」

桃子「で、実際どうっすか、すばら先輩。先輩は、私たちと一緒のチームでいいっすか?」

友香「申請をしたら、少なくともインターハイが終わるまでは、今のチームを解散できない。よーく考えたほうがいいんでー」

煌「私は、これ以上ないメンバーだと思っていますよ。それぞれにそれぞれの強さがあり、魅力がある。まさにすばらなチームです。
 それより、何度も言いますが、本当に私なんかが皆さんの仲間に加わっていていいのですか?」

淡・咲・桃子・友香「もちろん!!」

煌「ならば……不肖・花田。持てる力の限り、皆さんについていきます」

淡「じゃあ、メンバーはこの五人ってことで! あと決めなきゃいけないのは、チーム名だよねっ!!」

桃子「あ、それなら私、考えてきたっす。チーム《桃花》なんてどうっすかね、すばら先輩」

煌「芳しく瑞々しい名ですね、すばらっ!」

友香「あ、私のも聞いてほしいんでー! その……チーム《友花》なんていかがでー?」

煌「愛らしく暖かな名ですね、すばらっ!」

咲「え、えっと……私も考えてきました。シンプルに、チーム《咲花》なんてどうですか……?」

煌「春めいて華やかな名ですね、すばらっ!」

桃子・友香・咲「えへへ……////」

煌「ところで、なぜ皆さんは《花》の一字を入れたがるのですか? あっ……! そういうことですか!!」

桃子・友香・咲「!?」ビクッ

煌「花の一年生が四人もいるからですね!!」スバラッ

桃子・友香・咲「…………」ホー

煌「はて、皆さん? どうかしました?」

淡「スバラ! 私も考えてきたよ、チーム名!! きっとスバラも気に入ると思うんだっ!!」

煌「ほう、それは楽しみですね。聞かせてください」

淡「うん、私たちのチーム名……それは――!!」

 ――理事長室――

健夜「こーこちゃん、チーム申請の書類、ちゃんと判子押してくれたー?」

恒子「現在進行形で押してるって。あー、腕がつるー」ポンポン

健夜「あっ、この子たち……」ペラッ

恒子「んー?」

健夜「例の、転校生二人組。転校してから一週間も経ってないっていうのに……もうチームを作ったんだ」

恒子「ああ、例の、すこやんが手も足も出なかったっていう」

健夜「別に負けたわけじゃないんだけどね」

恒子「それと、海外で見つけてきた子だっけ。よく見てなかったや、ちょっと貸して」

健夜「どうぞ」ペラッ

恒子「一年生四人と、二年生一人か。若いチームだなー。みんなすこやんより二十も下だ」

健夜「十コ下だよ!? あと、学園都市にいる子ってみんな大体それくらいだよっ!!」

恒子「それに、チーム名もなかなか凝ってるねー。言いえて妙というか……なるほど。チーム《煌星》か」

健夜「スルーなの……? うん、まあ、ランクS二人に、レベル5の第一位。あとの二人もレベル3でそこそこ実力もある。綺羅を纏うに相応しい子たちばっかりだよね」

恒子「どう、すこやん。この子たち、どこまで行くと思う?」

健夜「うーん、例のアレのことがあるから、ぜひとも決勝まで行ってほしいんだけど、学園都市は広いからね。特に今年はすごいよ。この間の日曜日に、あちこちで色々なことがあって、もうお祭り騒ぎ」

恒子「そっかっ! じゃあ今年も大いに盛り上がってきたってわけだ!」

健夜「うん。ごく一部の例外を除いて、ほぼ私の思惑通りに!!」

恒子「夏のインターハイに白糸台高校麻雀部として出場する一軍《レギュラー》――そのたった一枠を巡って、一万人の美少女たちがしのぎを削る……! いいねぇ、今から夏が楽しみだーっ!」

健夜「今年も、決勝の実況は任せたよ、ふくよかじゃない、こーこちゃん」

恒子「もちろん、解説はすこやかじゃないすこやんだよね?」

健夜・恒子「ふふふっ……」

恒子「いやー、待ち遠しい。あと二ヶ月もあるのかぁー」

健夜「あっという間だよ。時が経つのは」

恒子「そうだね。いつの間にか、すこやんもアラフォーになっちゃって」

健夜「アラサーだよっ!!」

恒子「ははっ、お後がよろしいようでー」

     [一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》まで、あと二ヶ月]

>>23さん >>46さん

ありがとうございます。こちらのほうがいいというご指摘が多かったので、移した次第です。

ここまではほぼコピペなのでどっさりいきましたが、今後は書き溜めを増やしつつの投下になるので、かなりペースダウンします。すいません。生暖かい目で見ていただけると幸いです。

というわけで、以下より、ちょこっとだけ続きを投下します。

 ――日曜日

?「お疲れ様。みんな集まってるか?」

?「……」ズズ

?「……」モグモグ

?「えー、渋谷尭深、宮永先輩、そして亦野誠子もいますよ、弘世先輩」

菫「ま、見ればわかることだけどな」

誠子「ですよねー」

尭深「……」ズズ

照「……」モグモグ

菫「さて、知っての通り、明日から正式にチーム申請が始まるわけだが」

誠子「はい」

菫「私たち一軍《ファーストクラス》――チーム《虎姫》も、それに伴って、解散する。このレギュラー専用の部室も、今日限りで出ていかねばならん」

誠子「寂しいですね……」

尭深「……」ズズ

照「……」モグモグ

菫「最後に、全員に聞いておきたいことがある。チーム《虎姫》の、今後のことだ」

誠子「はい」

尭深「……」ズズ

照「……」モグモグ

菫「新チーム編成を機に、旧チームは手続き上、解散しなければならない。しかし、引き続き同じメンバーでチームを作ることが禁止されているわけではない。
 全員が望むなら、新しいメンバーを引き入れて、新生《虎姫》としてスタートしていくこともできる。本人に確認は取っていないが、皆も知っての通り、理事長推薦の五人目候補というのもいる。何か、意見のある者はいるか?」

誠子「私は……先輩たちの意見に従いますよ。たぶん、尭深もそうです」

尭深「……」ズズ

菫「だ、そうだ。お前はどうだ、照?」

照「菫の判断に任せる」モグモグ

菫「そうか……じゃあ、遠慮なく言わせてもらおう。チーム《虎姫》は、現時点をもって解散する。再結成は――しない」

誠子・尭深「!?」ガタッ

照「菫……?」

菫「チーム解散後のことは、各自で決めること。以上だ」

誠子「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!?」

菫「どうした、亦野。私の意見に従うのではなかったのか? いや、もちろん、強制ではないから、思っていることがあるなら、自由に発言してもらって構わないが」

誠子「わっ、私は、この《虎姫》が好きでした! それは、皆さんも同じだと思っていて……! それが、ちょっと、今の話は急で……その、驚いてしまって……すいません……」

菫「私だって、お前たちとの関係を蔑ろにするつもりはない。今後も仲良くやっていこう。ただ、私にはチーム《虎姫》を再結成するつもりはない、というだけのことだ」

誠子「ちなみに……どうしてですか?」

菫「どうして、か。ま、簡単に言えば、この最後の夏に、どうしても倒したいやつがいる――それだけだ」

誠子「そ、それって……」チラッ

照「…………」

菫「二年間――仲間ごっこも今日で終わりだ。長い付き合いだったな、照」

照「……私は、菫のこと、友達だと思ってたよ。仲間だと思ってた」

菫「そうか。私もお前のことは、得がたき友人だと思っているよ。しかし……仲間だと思ったことは、一度もない」

照「菫……」

菫「二年間、私はずっと、お前の傍で、お前だけを見てきた……」

照「…………」

菫「全ては、お前を倒すためだ、照。私はお前の仲間になったつもりはない。味方でもない。初めて卓を囲んだときから、私にとって、お前は打ち倒すべき敵だった」

照「そ……っか」

菫「照、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》、必ず決勝まで上がってこい。私はそこで、お前を討つ」

照「わ、私は……」

菫「遠慮は要らん。全力で来いよ。私は、私の思う最高のメンバーを集めるつもりだ。お前もそうしろ。できることなら、最高状態のお前に、私は勝ちたい」

照「…………わかったよ、菫」

菫「ふん……やっと、正面から私を見てくれたな、照」

照「そうだね。菫はいつも横にいてくれたから。対局以外で、こうやって面と向かって睨み合うことは、今まで一度もなかった……」

菫「お別れだ、照。二年間、それなりに楽しかったよ」

照「私も楽しかった。ありがとう、菫。そして――」

菫・照「さようなら」

 ――――

菫(さあ……これで、後には退けなくなったな。元より退くつもりなどなかったが……)

菫(照……表情からはわからなかったが、たぶん、驚いていただろう。傷ついて……いただろう……)

菫(二年か。長かったような短かったような……入学式が終わってすぐ、教室に照を見つけて、そのまま勢いに任せて、『ずっと一緒に打たないか』と――)

菫(嘘を……ついたことになるのか。私は、照を倒すために、あいつに近付いた。近くにいれば、あいつの弱点が掴めるかもしれないと思った)

菫(けれど、近くにいればいるほど、あいつの強さを肌で感じた。宮永照――あいつは全てにおいて最高の雀士だ)

菫(照……お前は本当に、いいやつだった。太陽のように高く、強く、そして、暖かい……!)

菫(いかんいかん! 思い出に浸ってどうする!! あいつに憧れていたのは過去の話――! 私はもう、あいつに宣戦布告をした! 決別したのだッ!)

菫(次にあいつと会うときは……友達としてでも、チームメイトとしてでもない。明確な、敵として、あいつの前に立つ……!!)

菫(照、私はお前に勝ってみせる!! そのためだけに、私は今まで打ってきたのだ――ッ!!)

?「……菫?」

菫「おっと、来たか……」

?「来たか、じゃない。お前、休日に人を呼び出しておいて……呼び出した本人が、なんだ、そのザマは?」

菫「ぴったり時間通りだな。こんなときくらい、多少遅れて来てくれてもよかったのに……」

?「おい、大丈夫か? 本当にひどい顔をしているが……」

菫「ああ、すまない。ちょっと花粉症が……その、とにかく忘れてくれ……」ゴシゴシ

?「バカが……ハンカチくらい使え」

菫「悪いな……」

?「……その顔を見て、大方、事情は把握した。菫、前々から思っていたが、お前は迂遠過ぎる。麻雀も、プライベートも」

菫「遠回りもするさ。けれど、どんなに遠回りをしても、最後には必ず、狙った的を射貫いてみせる。今回も必要な回り道だったんだ。が……もう、これ以上引き延ばしはしない。ここからは、どんな障害があろうと、真っ直ぐ進む」

?「とことん不器用なやつだな……」

菫「ついては、お前にお願いがある。お前を白糸台のナンバー3と見込んでのお願いだ。《懐刀》――辻垣内智葉」

智葉「なんだよ、《シャープシューター》――弘世菫」

菫「私に、力を貸してくれないか。あの《頂点》を倒すには、私一人の力では足りない。照に匹敵する力を持った最高のメンバーが必要なんだ」

智葉「そんなところだろうと思った……あのな、私は――」

菫「この通りだッ!!」バッ

智葉「っ!? や、やめろ、菫!! 何もそこまで……!!」

菫「どんなことだってしてやる!! 私はそのために二年間……二年間一緒に打ってきた仲間を――照を裏切った!! あいつに勝つためならどんな恥を晒したって構うものか!!」

智葉「あのな、菫! 私は――」

菫「頼む、智葉……!!」

智葉「私は……他ならぬお前のためなら、喜んで協力すると言おうとしていたのに……」

菫「さ、智葉……?」

智葉「地べたに這いつくなど、お前には似合わん。気取って踏ん反り返っていろ。露払いなら、私がする。汚れ役なら、私が引き受ける。菫……私は初めて会ったときから、お前の味方だ」

菫「智葉……!!」

智葉「三年前を思い出すな。あのときも、お前はこうやって、顔をくしゃくしゃにして、私に迫ってきた。宮永相手にプラスで終わった私に、どうやったらそんなに強くなれるのか――とな」

菫「あったな。そんなことも……」

智葉「立て、菫。しゃんとしろ。これからあと三人――あの宮永照を打破する手駒を揃えねばならん。大将のお前がそれでは、他に示しがつかんぞ」

菫「何から何まですまない……智葉」

智葉「気にするな」

菫「本当に、お前がいると心強いよ。チーム申請は明日。それまでに、残りのメンバーを集めようと思う」

智葉「アテはあるのか?」

菫「無論だ。照に勝つためなら、私はなんだってする。《悪魔》に魂を売り、《天使》に媚を売り、果ては《魔物》に喧嘩を売ってやるさ」

智葉「お前……! まさか、そんな凶悪な面子を揃えて――国を一つ滅ぼすつもりか?」

菫「照を倒すことは、しかし、国を打倒するより難しい。世界の全てを敵に回すつもりで挑まないとな。さて……そろそろか」

智葉「何がだ?」

菫「智葉、私が今まで何もしてこなかったと思うなよ。既に、彼女たちとの交渉は済んでいる」

智葉「どうして私は後回しだったんだよ……」

菫「お前なら、いつでも、さっきのやり方で落とせると思っていた」

智葉「こ、の……!? ははっ、一杯食わされたぞ。私の友愛の情を弄ぶとは、偉くなったな、菫!!」

菫「それだけ信頼していたのだ、お前のことは」

智葉「物は言いようだな。やはり、お前に涙は似合わん。大胆不敵でこその、弘世菫だ」

菫「っと――来たみたいだぞ。こちらも時間通りだな」ゾクッ

智葉「ふん、これはこれは……壮観だな。《天使》と《悪魔》が並んで歩いているところなど、滅多に見れる光景ではない」

?「へー!? おおっ、めっちゃ似とりますやん。え、これ、もらってええんですか?」

?「オチカヅキノ、シルシ!!」

菫「二人とも、よく来てくれた。私の誘いに……乗ってくれるということで、よいのだな?」

?「モチのロンです。菫さんにあそこまでさせて断るようなんは、《悪魔》とちゃいます。ただの腐れ外道ですわ」

?「スミレ、ガクエントシニキテ、ハジメテノ、ヒト! キョウリョクスル、アタリキ!!」

菫「これから長い間……私の我儘に付き合わせることになる。それでもいいのか? 《白衣の悪魔》――荒川憩、《夢描く天使》――エイスリン=ウィッシュアート」

憩「世界の果てまで付き合うたりますよ、菫さん!!」

エイスリン「ツキアウ! マカセロ!!」

菫「ありがとう。私たちの目標は、この白糸台高校麻雀部の一軍《レギュラー》になること。それは同時に、あの《頂点》――宮永照を打倒するということだ」

憩「まっかせてーぇ、とはさすがに言えませんけど、できる限りのことはしますわ」

エイスリン「チョーテン! タオス!!」

智葉「さて、菫。これで四人。残る最後の一人だが……落とせる算段はあるのか?」

菫「あの魔物ばかりは……ぶっつけ本番でなんとかするしかない。今夜――既に果たし状は送った。みんな、ついてきてくれるか?」

憩「もちろん。今日は病院の仕事があったんですけど、途中で抜けます。最近めっきりあの子と遊んでへんかったからなー。久しぶりに本気で楽しめそうですわー」

エイスリン「マモノ、タノシミ!」

智葉「私も、あの《修羅》とは一度手合わせしたいと思っていたから、ちょうどいい」

菫「有難い。では、今夜十時、あの魔物の住処――第19学区の《荒城》に集合だ。長い夜になる。休みたい者は休んでおいたほうがいいだろう。では、私はこれで……」ザッ

憩「あっ、菫さ――」

智葉「そっとしておけ、荒川」グッ

憩「むっ、なんですか、ナンバー3」

智葉「そんな安い挑発で心を乱すような私ではない。とにかく、今は菫を一人にしてやれ。菫のことを思うなら、なおさらな」

憩「…………わかってますよ……」

エイスリン「?」

智葉「さて、ちょっと時間が空いたが――」

 ピピピピピ

智葉「っと、失礼。……ああ、私だ。いきなりだ――は? おい、冗談は……いや、そうか……なるほど。それで? ふん、へえ……ああ、それはお前――くっ、ははははっ!!」

憩・エイスリン「!?」ビクッ

智葉「ああ……すまんすまん。こんなに声を上げて笑ったのは久しぶりだ。いや、そりゃ、間違いない。お前ら全員、担がれたんだよ。揃いも揃って間抜けどもが。また私が鍛え直してやろうか? ああ?」

憩・エイスリン「……?」

智葉「……そうだな。ちょうどいいのが二人ほどいる。せっかくだ、少し打とう。ん……? ああ、それなら大丈夫、心配するな。幸いそいつの部屋は私の隣。それとなく見張っておくさ。なに、いざとなれば私が……。ああ、じゃあ、またすぐに」ピッ

憩・エイスリン「…………」

智葉「なんだ。私の顔に何かついているか?」

憩「い、いえ、なんでもありません!」

智葉「それはそうと、荒川、ウィッシュアート。お前ら、このあと時間あるか? お互い個人戦ばかりで、団体戦の経験は少ない。せっかくだから、親睦会ではないが、一局どうだ。今なら、もれなく愉快な打ち手が三人もついてくるぞ」

憩「ウチは……まあ、お仕事行くまでなら、ええですよ。エイさんはどないします?」

エイ「ウチタイ!!」

智葉「決まりだな。じゃあ、行くか――」

 ――――――

 ――――

 ――

ご覧いただきありがとうございました。

今日はここまでです。

次回は、渋谷さんの大収穫祭を予定しております。

では、また近いうちに。

 ――温室

尭深「失礼……します」ガチャッ

?「あっ……尭深ちゃん? どうしたの?」

尭深「これ……差し入れに」スッ

?「わあぁ……お茶だぁ。ありがと……あったかぁい……」ズズ

尭深「宥さんの……お口に合えばいいんですが……」

宥「とってもおいしいよ。ありがとう」

尭深「…………///」

宥「えっと、それはそうと、どうしたの? 尭深ちゃんって温室当番やってたっけ? というか、今日は学校、お休みだよね?」

尭深「《虎姫》のミーティングがあったんです。明日からチーム申請で、今日で正式に解散ですから……」

宥「そうだったんだ。それで、《虎姫》は、誰を五人目にするつもりなの? 噂の転校生?」

尭深「いえ……《虎姫》は解散しました。再結成はしません……」

宥「えっ……? わっ、熱っ!? あはは……ごめん、びっくりして少し零しちゃった……」

尭深「あっ、手が、大丈夫ですか……?」ギュ

宥「あっ……///」

尭深「あ……手袋……///」

宥「心配してくれて、ありがと。たぶん、火傷とかはしてないから、大丈夫。それより、《虎姫》のこと、残念だったね」

尭深「はい……」

宥「そっかぁ……再結成しないのかぁ」

尭深「はい…………」

宥「じゃあ、尭深ちゃんも、フリーになるんだね……」

尭深「そうです……それで、あの――」

宥「なら……私が尭深ちゃんを誘っても、いい、ってことだよね……?」

尭深「ゆ、宥……さん?」

宥「尭深ちゃん。お願いが、あります。こんな私でよかったら、私のチームに、入ってくれませんか……?」

尭深「宥さん……!?」

宥「あぁ……っ! やっと言えた……!! ふわぁ、もう、あったかいどころじゃないよ、暑いよ……とっても……!!」

尭深「ふふっ……あの宥さんが暑がることなんて、あるんですね」

宥「それは、あるよ。身体はちょっと特殊でも、心は普通の女の子だもん……」

尭深「お誘い、喜んでお受けします。私でよければ、宥さんと一緒に戦わせてください」

宥「た、尭深ちゃん……!? いいの? 本当に? 嘘じゃない?」

尭深「嘘じゃありません。というか、宥さんが何も言わなくても、私から同じことを言おうと思ってました」

宥「わ、わああああ……!!」

尭深「宥さん……私はてっきり、宥さんは、その、弘世先輩が好きなんだって思ってました……」

宥「わ、私も……尭深ちゃんは、弘世さんのことが好きなんだって……思ってたよ」

尭深「弘世先輩は……憧れの人です。《虎姫》に入ったときからずっと……今もそうです。ただ、好きとは少し違うというか」

宥「うん……私もね、弘世さんは、一年生の頃から憧れの人だった。好きなのかな……って思ったときもあった。けどね、あるとき、気付いちゃったんだ。弘世さんへの気持ちは、あくまで憧れで、好きとは違うんだって」

尭深「私たち、似たもの同士ですね」

宥「そうだね。いいなって思うものが似てるのかも。私はお花が好きだし、尭深ちゃんも、ほら、ハーベストするから」

尭深「そうですね……今日、たった今、やっと、実を結びました」

宥「た、尭深ちゃん……?」

尭深「宥さん……その、宥さんさえよければ、私と――」

?「おーいっ、宥ぅー! やっぱりここにおったんかー。聞いたか、チーム《虎姫》がついさっき――って、渋谷尭深!?」

?「あらあら。まあまあ。さすがね。私は、宥ちゃんは、やるときはやる人だって思ってたわよ」

?「どうやら話は既についているみたいですね。というか、もしかしてお邪魔してしまった……?」

尭深「清水谷先輩……石戸先輩、それに、福路先輩まで……? 上位ナンバーの三年生方が、どうしてここに……?」

宥「尭深ちゃん……私は、私のチームに入って、って言ったよね。紹介するよ、こちらのみんなが、私のチームメイトっ!」

竜華「っちゅーわけや。よろしくな、渋谷尭深。期待しとるで、レベル5!!」

霞「よろしくね。お互い、ベストを尽くしましょう」

美穂子「私たち、《虎姫》の話を聞いて、渋谷さんを誘うなら今しかない――って、宥さんを焚き付けにきたんですよ。でも、必要なかったみたいですね」

尭深「みなさん……よろしくお願いします」ペコッ

宥「ねえ、尭深ちゃん……」

尭深「は、はい……宥さん」

宥「さっきの話の続き……あれは、トーナメントで優勝してから、聞かせて?」

尭深「はい。今は……麻雀に、集中しなければ、ですもんね」

竜華「なーにー? 二人はなにコソコソしとんー?」

霞(竜華ちゃん、ちょっと黙ってて!)コソッ

美穂子(今すっごくいいところなんですから!)コソッ

宥「よろしくね、渋谷尭深ちゃん」

尭深「こちらこそ、よろしくお願いします。松実宥さん」

 ――――――

 ――――

 ――

ご覧いただきありがとうございました。

短くてすいません。書き溜め作業に戻ります。溜めた分だけ出します。

では、また来週くらいに。

 ――屋上――

照「………………」

?「あ、こんなところにいた……。何やってるの、宮永」

照「《虎姫》が……解散した」

?「ああ……明日からチーム申請だもんね。それで、再結成は? どうせするんでしょ?」

照「しない。菫が、私のこと、倒すって」

?「へ、へえ……? それは意外。なるほど、それでご傷心なわけか。だから、こんなところで黄昏て……」

照「菫……私、菫がいないと、何もできないよ……どうしたらいいの……」ウルウル

?「あぅ……そっか。あっ、でも、あの弘世が、宮永のこと倒すって言ったんだよね? なのに、宮永は、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》、出ないつもり?」

照「わからない……私、どうしたら……」ウルウル

?「…………なんていうか、宮永って、そういうとこ、あるよね。強いのに、弱い。そして、全然、わかってない」

照「なに、が――?」

?「私がいるじゃん! ……ってコト」ギュ

照「う、臼沢さん……?」

塞「な、なーんて!! 冗談っ!! うそうそ! びっくりした!?」パッ

照「…………」

塞「らしくないよ、宮永! あんたはもっと、ふてぶてしく、ポーカーフェイスで、学園都市一万人の《頂点》らしく、どーんと構えてればいいの! そしたら、チームメンバーなんて勝手に集まってくる。弘世とも仲直りできるよ、きっと」

照「……ありがと、臼沢さん」

塞「元気、出た?」

照「うん、大分……あっ」

塞「なに?」

照「あそこ――」

塞「ちょ……なに、あれ。死ぬほど恐いんだけど……。ナンバー2の《悪魔》と辻垣内、それにエイスリンまで……? どこかの国でも滅ぼしにいくのかしら……」

照(菫……菫は、本気――なんだね……!!)

塞「ねえ、宮永。私たちも、どっか行く? ここ、風が強くて、少し寒いよ。お茶でもさ、一緒に。どう?」

照「うん……でも、お茶は、また今度」

塞「ああ、そ……っか。そうだよね……あはは」

照「その前に、チームメンバーを、あと三人……集める」

塞「え? チームメンバーって……っていうか、あと三人って?」

照「臼沢さん……私と一緒に、ついてきてくれる?」

塞「み、宮永……!? え、それ」

照「《塞王》――臼沢塞さん。あなたの力が、必要」

塞「こ、この……いつも通りの澄まし顔で……! う、嬉しいこと、言ってくれるわね!!」

照「これから数ヶ月……私の傍に、いてくれる?」

塞「い、いるわよ――! 数ヶ月といわず、いくらでもねっ!!」

照「ありがとう……」

照(臼沢さん……ごめん。あなたの気持ち、利用するようなことして。でも、菫が本気だって、私もわかったから。なら、私はそれに応えたい。宮永照としても……学園都市の《頂点》としても――)

塞「それはそうと、宮永、誰か、アテはあるの?」

照「ある。けど、もう他から声が掛かってるかも。とにかく、私が個人的に気になっている人を、順番に当たっていく」

塞「ま、たとえ他から声が掛かってても、宮永に誘われたら、みんなついてくると思うわよ」

照「……そう、かな?」

塞「そうだよ。宮永は――宮永はもっと、自分の魅力を、その……自覚したほうがいいと思うなっ!」

照「ありがと、臼沢さん」ニコッ

塞(だ、だからその笑顔がずるいんだってばー!! もー、宮永のやつ!! 無意識でこういうことするんだから……!!)

照「じゃあ、時間がない。行こうか」

塞「そ、そうね、善は急げってことでっ!」

 ――――

 ――廃工場――

塞「あのー……宮永さん? これ大丈夫なの? 危なくない? ってかさ、この廃工場ってマジヤバいのよ?
 『ここに踏み込んで生きて帰った者はいない』って都市伝説もあるくらいよ? 誰も寄り付かないから、スキルアウトの溜まり場になってるって噂も聞くし、もし過激派のやつらに見つかったら……」

照「仕方ないよ。あの人は、この学園都市で最大派閥のスキルアウトのリーダー。会うとなったら、それなりの危険を覚悟しないと」

塞「宮永……私はあんたのその意外な行動力にびっくりだよ」

照「こんなの火事場の馬鹿力――って、いた。見つけた」

塞「えっ? どこ?」

照「あの、屋根のとこ」

塞「うわっ、あんな不安定なところに……? ってか、落ちたらどうすんのよ……。けど、へえ、あの人が……スキルアウトのリーダー……」

照「そーめーやーさーん!!」

まこ「む……? え? は……?」

照「こんにちはー!!」ブンブン

まこ(ありゃあ……宮永照――と、《塞王》じゃと……?)

塞「あ、あのー! 私は宮永と同じクラスの、臼沢塞!! 今日はあなたにお願いがあって来たの!!」

まこ「な、なんじゃ、わしゃあ能力者にお願いされるほど偉くなった覚えはないわ。ようわからんが、しばらく一人でいたいんじゃ。帰った帰った」

照「何か、あったの……?」

まこ「……昨日のことじゃ。わしがこの間までいたスキルアウトの組織が、どっかの能力者に潰された」

照「え……」

まこ「ええ一年がおったけえ、わしゃあ引退しようと思って組織を任せたんじゃけどな……その結果が、これじゃ。
 メンバーは大半が病院送り。リーダーを任せた一年にいたっては行方不明。なんかやるせのうての……とにかく、今は人と話す気分じゃないんじゃ」

照「…………それ、もしかすると、《アイテム》って人たちの仕業かも」

塞「えっ? 宮永!?」

まこ「《アイテム》……? なんじゃそれ……どういうことじゃ!?」

照「えっと……前に、理事長から、ちらっと話を聞いたことがある。学園都市には、そういう集まりがあるって。理事長の指示で、問題を起こした生徒を、秘密裏に粛清する暗部組織。《アイテム》は、その一つ」

まこ「な……なんでそんなもんに!? わしらのスキルアウトが!? ありゃあ理不尽な能力者から身を守るために作った組織じゃ!! そこらへんの不良の集まりとは違う……!! それを、なんで……よりによって理事長の指示じゃと!?」

照「目的はわからない。けれど、時期を考えれば……ひょっとするとだけど、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》と何か関係があるのかも」

まこ「一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》……」

照「《拒魔の狛犬》――染谷まこさん。あなたの力が必要」

まこ「は……? またそんな古い通り名――いや、っちゅうか、ちょい待たんかい! 宮永照……わりゃあ、わしにトーナメントに出ろっちゅうんか? 一緒に? というか、わりゃあ《虎姫》はどうしたんじゃ? 弘世菫はなぜ一緒におらん?」

照「チーム《虎姫》は、ついさっき、解散した。再結成は……しない。今日、私は、あなたを私のチームに誘いに来た。トーナメントに出れば、普段は表舞台に出てこない《アイテム》と、戦う機会もあるかもしれない。たぶんだけど、理事長の目的も、そこにある」

まこ「そうじゃ! 宮永照……!! わりゃあ、その《アイテム》っちゅーんを知っとるんじゃな!? どこの誰じゃ!!」

照「私のチームに入るなら……教えてあげる」

塞(み、宮永……!? 本当に、その行動力の源はどこにあるわけ!?)

照「さあ……どうする、染谷さん?」

まこ「わ、わしは……じゃが、もう団体戦は――」

照「染谷さん。そんなところに上ったって、あなたの見たい景色は見れないよ」

まこ「――ッ!!?」

塞「み、宮永……?」

照「私と一緒に来るなら、本物の《頂点》に立てる。あなたの見たい景色も、あなたが望めば、きっと見れる」

まこ「……どうしてわしなんじゃ。わら他にいくらでも強い雀士を誘えるはずじゃろ」

照「私は染谷さんの力が必要と言ったはず」

まこ「じゃが、わしの力なんて……」

照「別に強制はしていない。私には染谷さんを誘う理由がある。けれど、染谷さんが私の誘いに乗る理由は、染谷さんにしかわからない。その『どうして』には、残念だけど、答えられないな」

まこ「答えは……わし自身で見つけろっちゅうことか」

照「そうだよ、染谷さん。あなたの居場所は、あなたにしか決められない」

まこ「……ええじゃろ。能力者にここまで言われて黙っちょるようじゃ、スキルアウトの名が廃るけえ。腹くくっちゃる」

照「ありがとう」

まこ「当然、やるからには、われのことじゃ、優勝するつもりなんじゃろ?」

照「うん、そのつもり。ついては――」

まこ「?」

照「あなたと対をなすもう一人の《番犬》――彼女に連絡を取ってほしい。宮永照が、あなたの力を必要としている、と」

まこ「じゃから、わりゃあさっきからいつの話をしとるんじゃ。わしらが《拒魔の狛犬》――《双頭の番犬》なんて呼ばれてたんは、もう一年も前の話。今のあいつは、わしなんかとはなんの関係もない、気儘な野良犬じゃて」

照「なら、個人名で言ったほうがいいかな。《破顔》の染谷まこさん。それに、レベル3の感知系能力者……《卓の流れを操る者》――井上純さん、って」

まこ「そんなんわしに聞かれても……。まあ、呼び名のことはあとでええわ。ほいで、われと、わしと、純と、あとそこの臼沢さんか……これで四人じゃな。最後の一人は、誰ぞ、決めとるもんがおるんか?」

照「決めてる。会えるかどうかは、自信ないけど」

まこ「ちなみに、どこのどいつじゃ? われが選ぶくらいじゃ、半端モンじゃないんじゃろ?」

照「彼女は……学園都市に七人しかいないレベル5、その第七位。学園都市最高の――《原石》」

塞「ええっ!? 学園都市の科学力でも、あれが能力なのか支配力なのかわからないっていう……あの《原石》を五人目に!? でも、大丈夫なの!? 都市伝説曰く、ジョーカー殺しのスペードの3みたいなやつらしいけど……」

照「だからこそ、欲しいカード。学園都市の中でたった一人、一対一で私を殺せるかもしれない可能性を、仲間に引き込む」

まこ「無二のジョーカーと唯一のジョーカー殺しのコンビ――とはのう。ふん……色々考えとるんじゃな。てっきり、弘世菫のお守りがないと、何もできんやつじゃと思っとったわ」

塞「あ、あのね、さっきから聞いてれば! 宮永はこう見えてすっごいんだから!! よく知りもしないで適当なこと言わないで!!」

まこ「すまんすまん……。ま、とにかく話はわかった。宮永照、わりゃあ《原石》のところに行ったらええ。チーム申請は明日。今は、一分一秒が惜しいじゃろ?」

照「ありがとう。じゃあ、井上さんのことは、任せていいのかな?」

まこ「任せろ……なんて口が裂けても言えんがの。まあ、これはわしのケジメじゃけえ、一人でやらせてくれ」

照「わかった」

まこ「せっかく誘ってくれたのに、何から何まで不甲斐のうてすまんの。純のこともそうじゃし、《原石》のことも。スキルアウトさえ潰されとらんかったら、いくらでも足や人手を貸せたんじゃが……」

照「ううん。無理を押し付けてるのはこっちだから。気にしないで大丈夫。それに、《原石》さんのほうも、数で探せば見つかるってタイプの人じゃないし」

まこ「ああ……ほう言えばほうじゃったのう……」

照「彼女を見つけるには、私自身が、深いところまで踏み入らないといけない――」

塞「わ、私は宮永についていくわよ。当然だけどっ!」

まこ「ほうかい。じゃ、宮永照、それに臼沢塞。なにはともあれ、今後ともよろしゅう頼む。ほいじゃ、わしゃあこれで」ザッ

照(よ、よかった……なんとかなった……)フゥ

塞「宮永、あんた、すごいわね。本当にびっくりしたわよ」

照「臼沢さんが一緒にいてくれるから、無茶できる。一人じゃ無理」

塞「み、宮永……///」

照「さて……じゃあ、私たちも行こうか。レベル5の第七位、《深山幽谷の化身》――高鴨穏乃さんのところへ」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――理事長室

恒子「チーム《虎姫》……再結成せず。こうして新チームが上がってくると、改めて、弘世さんは思い切ったことしたと思うわー」

健夜「それだけ、彼女は宮永さんに思うところがあるってこと。にしても、弘世さんは大人げないよ。チーム《劫初》――こんなとんでもないメンバーを揃えてくるなんて」

恒子「弘世さん自身が上位ナンバーの実力者なのにね。そこに辻垣内さん、荒川さん、エイスリンさんと、なりふり構わず弘世さんより上――《一桁ナンバー》の精鋭を集めた。極めつけは――」

健夜「《修羅》――天江衣。あの魔物が、一年ぶりに表舞台に帰ってくるんだね。ランクSは、宮永照以外、みんな裏か闇か日陰か――転校生の大星さんは例外として――日の当たらないところにいたから……」

恒子「ま、それはそれとして、私は他の《虎姫》のメンバーが、それぞれ新しいチームを見つけられたことが嬉しいかなー」

健夜「宮永さんのチームは、弘世さんのチームを意識したメンバー構成だと思う。チーム《劫初》――天地開闢をなそうという弘世さんに対して、こちらはその名もチーム《永代》。《頂点》こと宮永さんの時代を終わらせる気はないってことだね」

恒子「《塞王》――臼沢さんは有名どころだけど、染谷さんや高鴨さんは、公式戦にほとんど出てない。井上さんもこの一年ずっと音沙汰なしだった。もちろん、みんな実力があるのはわかってるけど、実績でいうと《劫初》のほうが圧倒的。宮永さんは一体なにを企んでいるんだか」

健夜「《魔物殺し》とでも言えばいいのかな。地力があるのは認めるけど、タイプとしては一点特化――相性の影響を受けやすい極端なメンバーが多い。けど、その弱点は、きっと宮永さんが一人でどうにかするつもりなんだと思う。それから、渋谷さんのチームは……」

恒子「渋谷さん、松実宥さん、福路さん、石戸さん、清水谷さん。なんていうか……全員、ふくよかだよね」

健夜「その名もずばりチーム《豊穣》。みんな実り過ぎだよ」

恒子「あとは亦野さんだけだけど……亦野さん、ちょっと大変なことになってるもんね。申請は大分先になるかな」

健夜「亦野さん、ね。私も話にしか聞いてないんだけど、亦野さんが入ることになりそうなチームが、もしかすると一番大問題かもしれないんだよなぁ……」

恒子「ああ、例の」

健夜「そう、例の」

恒子「ま、長く生きていれば悩み事なんていくらでも出てくるよ。四十近いとなればなおさらね!」

健夜「アラサーだよっ!?」

恒子「はい、お後がよろしいようでー」

     [一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》まで、あと二ヶ月]

ご覧いただきありがとうございました。

チーム《豊穣》は言いたかっただけです。

次からは少し長い話になります。

なるべくキリのいいところで区切る予定です。

では、また近いうちに。

 ――日曜・夕方

 ピコピコ チー チー ツモ

?「よしっ、これで十連勝!」

?「ちょっと、ゲーム遊びなら余所でやってくれる? こっちは忙しいの」

?「いいでしょ。いつでもここに来ていいって約束で、鍵もらったんだから」

?「今日は日曜だからいいけど……。一昨日なんか、あなた、授業をサボって来てたでしょ。で、何をするのかと思ったら、電子学生手帳で麻雀。なんのつもりなんだか」

?「そういう久だって、一昨日ここにいたじゃん」

久「私は先生の許可をもらって、仕事のために休んでいるの。あなたとは違うのよ」

?「ふーん。学生議会長のお仕事って、部外者の女子を密室に連れ込んで、あれこれいちゃつくことなんだー。へー。知らなかったなー」

久「盗み見はよくないわよ、憧」

憧「見てないわよ。いつだったか、来たら中から知らない女の声がしたから、帰ったの」

久「あら、いっそ入ってくればよかったじゃない。そっちのほうが盛り上がったわよ、きっと」

憧「あ、あたしは別に……久とそういうことがしたいわけじゃないし……////」

久「素直じゃないのね」

憧「うっさい、バカ」

久「……あのね、憧。私が、なんであなたに手を出さないか、わかる?」

憧「そんなの……わからないわよ」

久「私、誰彼構わず口説いているように見えるけれど、二種類の女の子とだけは、なるべく関わらないようにしてるの。
 一つ、経験のない女子。二つ、私のことを本気で好きな女子。理由は簡単。面倒だから。そして、あなたはその条件に、ダブルで当てはまってるのよ」

憧「あ、あたしだって経験くらい――っ!」

久「そう? なら、今ここで私とキスしてみる?」

憧「……久の意地悪」

久「そうね、私は意地も待ちも悪いのよ」

憧「何言ってんのよ……」

久「ふぅ……。さて、と。これが最後の書類っと」

憧「お疲れ。大変そうだね、学生議会の仕事」

久「ちょっと先取りでやってたからね。ま、でも、これでしばらくは……私がいなくても大丈夫でしょ」

憧「……どういうこと?」

久「さて、どういうことでしょう?」

憧「からかってるの?」

久「いたって大真面目よ。……っと、憧、これ見て、面白い記事がたくさん載ってるわ」

憧「なにそれ、ネット? なになに……? 『チーム《虎姫》、再結成せず』……へえ。それから『ショッピングモールで集団昏倒、《魔王》再来か』……『ご乱心、《レベル5》!』……?
 よくわからないけど、今日は随分と荒れ模様なんだね、学園都市」

久「別に、荒れてるのは今日に限ったことじゃないけどね。今も昔も……学園都市は問題だらけ。ただ、今日は、明日が特別な日だから。それだけ表面化しやすいのよ、学園都市の闇ってやつが……」

憧「学園都市の、闇……?」

久「さて、そろそろ日が落ちるわね。夜の帳が下りてくる。というわけで、私たちも……二人で闇に堕ちましょうか――?」

憧「久……? ちょ、何する気……っ!?」

久「引き返すなら……今しかないわよ、憧」スッ

憧「あ、待っ、バカ、やめ――」グラッ

 ドサッ

久「言っておくけど、抵抗しても無駄よ」

憧「い、いや、久……やめて……」

久「憧……本当に、本気で私についてくるというのなら、その覚悟を見せなさい。いくらあなたでも……キスの仕方くらいは、知っているでしょう?」

憧「……本当……久は最悪だよね……」

久「そうよ、私は《最悪》なの」

 プルルル プルルル プルルル

憧「ひ、久……電話、鳴ってるよ?」

久「この間の悪さ……さては風紀委員ね。本当にあの《最凶》はこんなときまで――いや、けど、予想より少し早い。んー……ああ、そっか。うちの副会長――」

憧「ちょ、ちょっと久! 一人でブツブツ言ってないでちゃんと説明してっ! っていうか、電話出なくていいわけ!?」

久「いいの。そんなことより、今は憧、あなたの返事のほうが大事」

憧「あ、あたしは……ひ、久のこと――」

 ピピピピ

久「ったく、さっきから勘弁して欲しいわ――って、これは出ないわけにはいかない、か。……はい、もしもし。直通なんて久しぶりね、ヤスコ。何かあったの?」

憧(誰……?)

久「……はあ? いや、私たちはとっくに……ああ、そう、そういうこと。仕方ないわね……。でも、何か起きない限りは動かないわよ。もちろん待機はしておくけど。それじゃ――えっ? なによ、まだ何かあるわけ?」

憧(な……なんの話をしてるの?)

久「…………ふーん。それは……どうかしら。成り行き次第ね。ま、一応、頭には入れておくわ。思い通りに動くのは癪だけど、確かに、そっちのほうが面白そうではあるものね。
 いいわ、そこまでは、協力してあげる。けど、あとは勝手にやらせてもらうわ。あなたたちの目的なんて知ったことじゃない。こっちはこっちで後がないのよ。ええ……はいはい、じゃあね」ピッ

憧「ね、ねえ、久……今のって――」

久「知りたい? なら、早く私にキスすることね。できないのなら、あなたとはここでさよならよ、憧」

憧「さよならって……そんな、ここまでしといて……?」

久「ここまで? 何もしてないじゃない。押し倒しただけ」

憧「十分してるし……ってか、マジで、久は最悪だよね」

久「だから、私は《最悪》だって言ってるじゃない」

憧「出会ったときからずっと思ってた……本当に、出会ったときからずっと――」チュ

久「ほっぺ、ね。いいわ。今日のところは許してあげる」

憧「……久、これからどこかに行くの?」

久「言ったでしょ、闇に堕ちるって」

憧「闇……」

久「あなたに、学園都市の裏の顔を見せてあげる。少し急ぐわ。遅れずについてきなさい」

憧「ちょ――ま、待って! 待ちなさいよ、久……!」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――土曜日・路地裏

?(やばい……!! やばいやばいやばいっ!!)

?(なんやねんあいつらっ!? ちゅーか……なんでうちがこんな目に!?
 学園都市に来て、能力の壁にぶち当たって……そんなとき、無能力者ながらに能力者と渡り合っとった染谷先輩に憧れて《スキルアウト》入りしたのに……染谷先輩は、うちが入ってすぐ、組織をうちに任せて……。
 で、トップを任されたと思ったら、今度は謎の集団に仲間が尽く再起不能にされて……意味がわからん!)

?(う、うちがそんな悪いことしたか? スキルアウト言うたかて……別に不良みたいなことはやってへん。むしろ、うちら無能力者が能力者から身を守るには必要な組織やった。
 染谷先輩ほどやなくとも、うまくまとめてたと思っとったのに。それが……なんでこないなことに!?)

?「あー、いたいた。やっと見つけたー。もー、ちょー疲れたよー」

?(ひぃっ!?)

?「散々逃げ回ってくださいまして……わたくしたちの休日を返せ、ですわ!」

?(こっちも!?)

?「みんな、あんまり脅かしちゃ可哀想だよ。ほら、目のハイライトが消えちゃった」

?(な……なんやねん、こいつら!?)

?「あっ、みなさんここにいましたかっ! しかもターゲットを確保。これで任務完了ですねっ」

?「くっ――なんなんや!? うちが自分らに何かしたか!? なんの恨みがあってこんなこと……!!」

?「なーんかこの子、ちょー勘違いしてない?」

?「へ?」

?「わたくしたちは、あなたに何も思うところはありませんのよ」

?「な、なんやそれ……どういう……」

?「ごめんね。でも、これも理事長の意思だから。学園都市の治安維持のためだと思って、諦めて」

?「は、はい……?」

?「では、すいません。あなたで最後なんです。私たちと対局をしてください。この学園都市で最大派閥のスキルアウトの現リーダー……《高一最強》――二条泉さん」ゴッ

泉(あかん……これあかんやつや……!!)ガタガタガタ

 ――――――

 ――――

 ――

 ――翌日・日曜・ファミレス

泉「ええー!? そんなはずないですよっ! やって、豊音さん、カルピスってゆーたやないですかー!?」

豊音「これ、カルピスじゃない! カルピスソーダ!! ちょー違うよー!!」

泉「えええー……ま、待ってください。じゃあ、透華さんは? コーヒーゆーてましたよね?」

透華「わたくしがこんな安いコーヒーに口をつける安い女に見えまして? シェフを呼びなさい、ですわ!!」

泉「それファミレスやないとこ行ってくださいよー。えっ、ほな、玄さんは? アイスティーで間違いありませんよね?」

玄「私はガムシロがないと紅茶が飲めないのです!!」

泉「なら最初にゆーてくださいよー。もー、なんなんすかー、みんなしてー!」

?「私はそんなあなたを応援してますよ、泉さんっ!」

泉「ああ……小蒔さん、小蒔さんだけですわ、我儘も言わんと優しゅうしてくれて……。みなさんも、ちょっとは小蒔さんを見習ってください!!」

小蒔「あ、それはそれとしてですね、泉さん。私、メロンソーダにアイスクリームを乗っけたいんです! どうにかできませんか!?」

泉「むきゃあああああああああ!!?」

豊音「あ、イズミが壊れたー」

透華「これしきの注文で発狂するとは、下僕失格ですわ」

玄「まあ、昨日リーダーを務めていたスキルアウトが壊滅したばっかりだからね。気が立ってるんだよ、きっと」

泉「誰に壊滅させられたと思ってるんですか!?」

小蒔「い、泉さん……」

泉「こ、小蒔さん……すいません、大きな声を出したりして」

小蒔「泉さん……アイスクリーム……」キュピーン

泉「も、もうううううう////// わかりました! すぐ持ってきます!! あと、カルピス、ガムシロ、シェフですね!? ちょっと待っとってください、ほなっ!!」ダッダッダッ

豊音「あはは。あの子、ちょー面白い」

透華「わたくしはもっと有能な下僕を所望しますわ」

玄「私たちが言えることじゃないけど、悪い子ではないよね」

小蒔「さてさて、泉さんが離れた隙に、次のお仕事のお話でもしましょうか」

玄「えーまたー? 小蒔ちゃん、たまには断ってもいいと思うんだ」

小蒔「す、すいません。けど、今回は、急を要するお仕事なんです。内容も、見捨てるわけにはいかないものです」

透華「なんですの?」

小蒔「つい今しがた……チーム《虎姫》が解散しました。再結成は、しません」

豊音「へえー……それは、ちょー意外。どうして?」

小蒔「そこまではわかりません。わかる必要もありません。今回の私たちのお仕事は、《虎姫》メンバー四人の警護です」

透華「なるほど……チーム解散ということは、自然、メンバーがそれぞれ、新しいチームを作るために一人歩きをする。
 それを狙って、ここぞとばかりに強襲しようと虫どもが湧く、ということですわね。まったく……叩いても叩いても湧いてきますのねっ! あーイライラしますわ!!」

玄「本当に困ったもんだよね。で、小蒔ちゃん、プランは?」

小蒔「はい。幸い、私たち《アイテム》は四人。《虎姫》も四人です。一人一人担当を決めて警護しましょう。もし、相手の方が乱暴してきた場合は、こちらもそれ相応の反撃をしてよい、とのことです」

豊音「わお、ちょー過激。腕が鳴るねー」

小蒔「それで、担当なのですが……」

泉「………………」

小蒔「え? あ、あれっ!? 泉さん、随分と早かったですね? 私のアイスクリームは?」

泉「アイスクリームはありません。やって、うち、店員さんとこいかんと、さっきからずっとそこにおりましたもん」

小蒔「」

玄「ああー!? 小蒔ちゃんが石化してるー!?」

透華「小蒔、アイスクリームなら、わたくしがいくらでも最上級のものを用意して差し上げますわ。だからしっかりなさい」

小蒔「はっ!? ア、アイスぅ……」ウルウル

豊音「おーよしよしー」ナデナデ

泉「小蒔さん、話は聞かせてもらいましたよ。麻雀ならともかく、暴力沙汰になるかもしれない依頼なんて、危な過ぎます。
 合気道使いの玄さん、空手使いの豊音さん、銃器使いの透華さんならともかく……小蒔さんみたいなぽあぽあのお姫様が、そないな前線に出たらあきません!!」

玄(小蒔ちゃんも古武術と長刀術と憑依術が使えるからかなり強いんだけどね……)

泉「とにかく、小蒔さんにやらせるくらいなら、うちがやります! こう見えても、体力と腕っ節の強さには自信があります。それに、うちなら、たとえ傷が一つや二つついても、ツバつけときゃ直りますから!!」

豊音「だってさ。ねーどうするー? イズミってば、言い出したらちょー聞かないよー?」

透華「……本当、泉の思い込みの激しさだけは、レベル5級でしたものね」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――昨夜・雀荘

泉(な、なんやこれ……!! こんなんが……こんなんが麻雀やと!?)ガタガタ

豊音「」ゴゴゴゴゴゴ

泉(リーチは……できひん)

玄「」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(ドラは……あらへん)

小蒔「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(ほんでもって……対面は一色独占と来た。なんやこれ、なんの罰ゲームなん? こんなふざけた面子相手に、どうしろっちゅーねん!!)

小蒔「ツモ。8000・16000」パラララ

泉(じゅ――純正九蓮宝燈やと……!?)サー

玄「はい、これで泉ちゃんがラスだね。東風戦とは言え、私たち相手によく最後まで持ちこたえたと思うよ。さすが《高一最強》」

豊音「イズミ、悪いことは言わない。スキルアウトなんて危ないことやめてさ、フツーに学校通って、フツーに麻雀打って、フツーに卒業しなって。
 大丈夫、イズミなら、きっと三年生になる頃には、上位ナンバーの仲間入りができるって」

泉「………………」ブツブツブツ

透華「あらあら……壊れてしまったようですわね、この子も」

玄「まあ、この状態の小蒔ちゃんと打って、正気を保っていられる人なんてそういないからね……」

豊音「いや、クロとトーカと打つのもちょーしんどいと思うよー」

玄「いやいや、それを言うなら豊音さんだって」

泉「……かい……や……」ブツブツブツ

透華「は? 何かおっしゃいまして?」

泉「もう一回やッ!!」ドン

玄・豊音・透華「」

泉「ランクSかレベル5かマルチスキルか冷やし中華か知らんけど……誰が一回負けたくらいで心折れるか!!! うちを誰やと思ってんねん……! 《高一最強》の二条泉様やっ!! 次こそ、うちが勝つ!! やからもう一回や!!」

小蒔「……っ!?」パチッ

玄(あ、マズいのです……!)

豊音(こんなときにコマキが目覚めちゃった!?)

透華「小蒔、どきなさい、ですわ。わたくしが代わりますの」

泉「ちょ、ちょー待てや! うちはもう一回っちゅーたんや!! 麻雀でもう一回言うたら、面子は同じやないとあかんやろ!! 次こそそのわけのわからんオカルトを攻略してみせるから、覚悟しとれよ自分!!」

小蒔「」ポカーン

泉「なんや、何見てんねん、シバいたろかっ!?」ギロッ

小蒔「」ビクッ

泉「な、なんや、急に涙目になりよって……泣きたいのはこっちやっちゅーねん。おうおう、勝ち逃げは許さへんで!? うちが自分に勝つまでは終わらへんからなっ!!」

小蒔「」ポケー

泉「大体ランクSがなんやっちゅーねん!! ちょっと妙な和了りを見せてくるだけで、打ち筋なんてド素人もいーとこ!! オカルトオカルト言うたかて、所詮は同じ人間やん!! 常識的に考えて、自分みたいな下っ手くそにうちが負けるわけがあらへん!!」

小蒔「////」ポー

泉「や、やから……なんやねん! なんで顔赤らめて……ちょ、そんな……見つめるのはあかんやろ……。ちょ、ちょー待って……そんな仔犬みたいな……しかも巫女服やん、なんや……なんやねん、自分!?」

小蒔「すいません。とても、強い心を持った方だな、と思って」ニコッ

泉「ッ!!?」ズギューン

小蒔「私……私が麻雀を打つと、みんな青い顔をして去っていきます。私に宿る神に、誰もが血の気を失い、ひれ伏すのです。しかし……あなたは違うのですね、二条さん。真っ赤になって、血を滾らせて、再戦を望むとは……!」

泉「あ、当たり前や!! うちは《高一最強》――ゆくゆくは学園都市最強になんねん!! 誰が自分みたいなランクS……!! あっという間に攻略したんで!?」

小蒔「その心意気や、よし、です。二条さん」

泉「な、なんやねん……」

小蒔「玄さん、豊音さん。二条さんと、もう一度打ちましょう。席順だけを変えて、同じ面子で、もう一局。よろしいですか?」

透華(ちょ、ちょっと小蒔!? それでは目的がズレてしまいますわよ?)

豊音(クロ的にはどうなのー?)

玄(まあ……小蒔ちゃんには小蒔ちゃんの考えがあるんだよね。いいよ。この場は任せる)

小蒔(ありがとうございます!)

泉「こ、コソコソせんと、やるなら、ちゃっちゃとやろうや!! ほな、場決めするで!!」

小蒔「はいっ、二条さん!!」

 ――――

泉「楽勝や、ランクS!!」

玄(小蒔ちゃんがラスー!!)

透華(きー!? わたくしがあれだけデジタルの稽古をつけたというのに、ですわ!!)

豊音(まあ、コマキは、起きてるときはフツーの頑張り屋さんだから……)

泉「はっはー!! 次にうちにノされたいのは誰やー!? 自分か、冷やし中華!? それともマルチスキルの巨人か!? はたまた《ドラゴンロード》のレベル5か!? 全員まとめて楽勝したるわー!!」

小蒔「いえ、今日はこれで終わりにしましょう、二条さん」

泉「な、なんでやねん……!?」

小蒔「二条さんもお疲れでしょう。今日は帰ってゆっくり休んでください。私たち、明日は午前中からファミレスに集まる予定なんです。二条さんも、よかったら、いらっしゃってください」

泉「は、はあ!? なんでうちが、自分ら――うちの組織を潰した人間と仲良くせなあかんねん!? 意味わからんわ!!」

小蒔「私は別に、必ず来い、とは言っていません。よろしければどうぞ、と言ったのです」

泉「は……?」

小蒔「二条さん、勝負はあなたの勝ちです。あなたは、三人掛かりの私たちを相手にして、私をラスに追いやった。燃えるような闘牌――お見事でしたよ」

泉「あ、あれくらい、別にどーってこと、普通のデジタル打ちやん……ってか、うちはなんの能力も使えへんし……」

小蒔「いいえ。二条さんは、能力や技術ではなく、もっと大切なものを持っています。最後まで諦めない心、畏れに立ち向かう心――即ち、戦う意思。それは、能力や技術では補えない才。強者に不可欠な資質です」

小蒔「二条さん、あなたは確かに、強い雀士です。私たちは、学園都市の闇ですから……表舞台に立つことはできません。しかし、二条さんは違う。
 スキルアウトは、申し訳ないことに……もう壊滅しました。ですが、二条さんは、これから一軍《レギュラー》を目指して頑張ることだって、ナンバー1を目指すことだって、できるんです」

小蒔「私はそんな二条さんを……陰ながら応援しています」

小蒔「どうか、ご武運を。そして、これは、どの口が言うんだという話ですが、もし二条さんさえよければ、時々でも、私たちと遊んでください。ファミレスに誘ったのは、そのためです」

小蒔「では、二条さん。ご達者で。表の世界で、伸び伸びと麻雀を打ってください。二条さんならきっと、学園都市最強の雀士になることも、夢ではないと思います。さ、行きましょう、みなさ――」

泉「ちょっと待ったああああああああ!!!」カベドン

小蒔「ふああああっ!?」

泉「陰やか闇やか知らんけど、こんだけの麻雀打っておいて……それでハイサヨナラって、そんなカッコつけは許さへんで!?」

玄「ちょ、ちょっと二条さん!」

泉「自分もや、レベル5の旧第一位ッ!!」

玄「へっ?」

泉「それからマルチスキルと、冷やし中華ッ!!」

豊音・透華「……?」

泉「自分ら、このうちを――この二条泉をこんだけフルボッコにしといて、それで表舞台には立たへん!? 闇やから光の下には出られへん!? そんなふざけた話があるかっ!?」

泉「ええか、化け物ども!? 自分らは強い……とんでもなく強い!! それがなんで……闇ん中でコソコソ生きてんねん!! なんや事情があるんかしらんけど、そんなん知るか!
 強いやつはみんな大会に出てこいやっ!! 私は実は強いけど大会には出てませんでしたーみたいな、ムカつくんや、そういうの!!」

泉「うちはな……うちは、ホンマに去年のインターミドルでは最強――いや、まあ、一人だけ個人で稼ぎ負けたやつおるけど――実質うちが最強やった!
 せやのに! 学園都市に来たら、成績は二軍《セカンドクラス》で中の上!! うちより強い打ち手、強い能力者、ぎょーさんおる!! じゃあなんで自分らインターミドルに出てこーへんかったんや!! ふざけんな!!」

泉「うちは《高一最強》やけど、強いやつがおらん大会で最強になったって嬉しないねん。強いやつを倒してこそ楽しいねん。
 それを、なんや……自分らみたいなごっつい化け物がおるって知って、それで学園都市の最強を目指せやと……!?
 そんなん全然最強やないやろ! 自分らがおらん白糸台高校麻雀部でいくらナンバーが上がったって、そんなん本当の最強ちゃうやろ!!」

泉「なあ……神代さんとか言うたな」

小蒔「は、はい……っ!」

泉「自分、うちに白糸台の一軍《レギュラー》を目指せ、言うたな」

小蒔「はい、言いました!!」

泉「ええよ、うち、元から目指してたけど、本気の本気で、一軍《レギュラー》目指すわ。ただし……それは、自分らと一緒に、や!!」

小蒔「えっ……?」

泉「自分ら――《アイテム》やっけ? 全員、うちと一緒のチームで大会に出たらええやん!! 表舞台で思いっきり暴れたろーや!! 《虎姫》もその他もぶっ飛ばして、うちらが一軍《レギュラー》になんねん!!」

玄「そ、そんないきなり……」

豊音「私たちは今に満足してるしー……」

透華「…………わたくしは、泉の言うことも一理あると思いますわ」

泉「!?」

玄「透華ちゃん!?」

透華「一軍《レギュラー》……最強……いい響きですわっ!!」ブンブン

豊音(アホ毛が回転してるー!!)

玄(たぶん目立つことしか考えてないー!!)

泉「ふん。意外と話がわかるやないか、冷やし中華」

透華「何を今更。わたくしは《アイテム》で唯一の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》経験者でしてよっ!!」

泉「なんでもええわ。ほな、これで賛成一やな。で、自分はどうなんや、神代さん!」

小蒔「…………こ、小蒔、です/////」カー

泉「」ドギャーン

小蒔「わ、私も……その、ちょっとだけ、興味あります。にじょ――泉さんと、大会に出ること……////」

泉「」ピシャーン

玄「そ、そんないきなり……」

豊音「私たちは今に満足してるしー……」

透華「…………わたくしは、泉の言うことも一理あると思いますわ」

泉「!?」

玄「透華ちゃん!?」

透華「一軍《レギュラー》……最強……いい響きですわっ!!」ブンブン

豊音(アホ毛が回転してるー!!)

玄(たぶん目立つことしか考えてないー!!)

泉「ふん。意外と話がわかるやないか、冷やし中華」

透華「何を今更。わたくしは《アイテム》で唯一の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》経験者でしてよっ!!」

泉「なんでもええわ。ほな、これで賛成一やな。で、自分はどうなんや、神代さん!」

小蒔「…………こ、小蒔、です/////」カー

泉「」ドギャーン

小蒔「わ、私も……その、ちょっとだけ、興味あります。にじょ――泉さんと、大会に出ること……////」

泉「」ピシャーン

小蒔「あ、あれ……? 泉さん?」

玄「あーあ、小蒔ちゃんは、罪な女だねー」

豊音「イズミ、完全に落ちたよー」

小蒔「わっ、私は別に、そんなつもりじゃ……!!」

玄「で、どうしよっか。というか、もしかして、理事長の本当の目的ってこれだったのかな。最初からなんかおかしいとは思ってたけど」

小蒔「ですよね。いくら代替わりしたとは言え、あのまこさんがお作りになった組織を潰せなどと……」

豊音「えーっと、つまり、理事長が言いたいのは、イズミを仲間にして、団体戦に出ろってことー……?」

透華「わたくしたち、《アイテム》としては、団体戦の経験はありませんのよね」

玄「白糸台高校麻雀部は、五人一組が最小単位だからね。どうしても、あと一人が見つからなかった。私たちと打っても……心が折れない人」

小蒔「泉さん……」

泉「」プシュゥゥゥ

玄「えー……まとめると、小蒔ちゃんと透華ちゃんが泉ちゃんの意見に賛成、私と豊音さんが保留で二対二。意見が割れたときは話し合い――ってことで、ひとまず今日のところは持ち帰って、それぞれ考えをまとめてくることにしよっか」

透華「問題ナッシングですわ。よい返事を期待していますわよ!」

小蒔「私も大丈夫です。玄さん、豊音さん、どうか、前向きにご検討願います」

豊音「ちょー考えてくるよー」

玄「うーん、そうだねー……」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――現在・ファミレス

泉「ちゅー感じで、どや!?」

小蒔「……わかりました。では、私がみなさんを統括します。全員、何かあれば私に連絡を。全ての指示は私が出します。それでいいですかね、玄さん?」

玄「まあ仕方ないか。うん、オッケー」

小蒔「ハイ、では、今から作戦に移りますっ!」

豊音「やっほーい、私は宮永さんだー!」

透華「なぜわたくしがよりにもよって弘世菫なんかを……」ブツブツ

玄「私は尭深ちゃんだね」

泉「ほんで、うちが亦野先輩やんな!」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――夜・街角

泉(はぁはぁ……撒かれた……!?)ダッダッダッ

小蒔『泉さん、落ち着いてください。そう遠くへは行っていないはずです。そこの近くに、大きい通りですが、街灯が工事中で、夜になると人気の少なくなる通りがあります。そちらに回ってください』

泉「ほ、他のメンバーは……!?」

小蒔『宮永さんに付いていた豊音さんは――山遊び中』

泉「はああ!?」

小蒔『透華さんは、弘世さんの自宅前で、弘世さんファンクラブと宮永さんファンクラブの抗争を鎮圧中』

泉「はあああああ!?」

小蒔『それから、渋谷さんについていた玄さんとは……なぜか先ほどから連絡が取れません。どこか、圏外に入ってしまったのでしょうか……』

泉「ってことは、つまり――」

小蒔『泉さんが、亦野さんを助けるしかありません。どうしましょう……私もそちらに向かいますか?』

泉「いや、それはあかんと思います。えっと、お姫様がお姫様やっちゅーこととは関係なく、今は……全員が渦中におる。
 そんな状態でまとめ役の小蒔さんが動いたら、大混乱が起きますよ。うちなら大丈夫、その大通りにも……今着いて――」

?「おい!! そこで何をやっているんだ!!」

「うわ、ヤベ」「見つかった」「逃げろ……!!」

泉(あっ……っと。あれ誰や……?)

「おい、どけよ」「何だお前」「邪魔だっ!!」ドンッ

泉「うわっ、っつー……あいつら、人のこと派手に突き飛ばしやがってからに……!!」

小蒔『大丈夫ですか、泉さん!?』

泉「うちは大丈夫です。亦野先輩も……なんか、偶然通りかかった一般の人に助けられたっぽいです。あ、タクシーでどっか行きました……」

小蒔『一応、車両ナンバーを確認してください。上に報告します』

泉「はい。ナンバーはこれこれ――っと。あ、あと、亦野先輩を襲ってた連中――さっきぶつかったんですけど、一人がよほど焦ってたのか、電子学生手帳を落としていきました。これで、犯人も特定できるかと思います」

小蒔『お手柄ですね、泉さん!』

泉「いや……うちはなんも。亦野先輩のことも、助けられへんかったし……」

小蒔『泉さんのせいではないですよ。私が力不足でした……。と、車両が特定できたようです。病院のほうに向かっていますね。ふむ、あそこなら信頼できますし、セキュリティも万全。ひとまず心配は要らないでしょう』

泉「そうですか……ホンマ、よかった」

小蒔『では、泉さんは、これから、居場所の特定できている透華さんのところへ応援に行ってください。タクシーを拾って早急に。地図のデータは泉さんの電子学生手帳に送りました。それと、拾い物の電子学生手帳は、失くさずに持っていてくださいね』

泉「わかりました……!!」

小蒔『では、私は透華さんの指示に回ります。何かあればコールしてください』

泉「了解しました!!」

 ――――

泉(学園都市が……こんな危険な街やったなんて。一軍《レギュラー》が一人で歩いてたら襲われるとか……そういう危険を、小蒔さんたちは、ずっと潰して回っとったんやろな……)

泉(うちがリーダーをしとったスキルアウトも、いつか、何かの事件に巻き込まれてたかもしれへん。そういう意味では……みんなバラバラになった今のほうが、よかった……んかな? どうやろ。わからへん……)

泉(能力者も、無能力者も、強いやつも弱いやつも、安心して暮らせる街――いつか、学園都市がそうなったらええな……)

泉(そしたら、小蒔さんたちかて、こんな汚れ仕事しないで済む。フツーに麻雀打って、フツーに大会出て……小蒔さんと、いつまでも一緒に……)

泉(あかんあかん! 何を想像してんねん、うちは!! 大体……まだ一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》にエントリーするどころか、チームを組むことすら決まってへんのに……!!)

泉(とにかく、今は目の前のことに集中! 麻雀も、暗部のお仕事も、全力で前傾やっ!!)

 ――――――

 ――――

 ――

ご覧いただきありがとうございました。

今日はここまでです。明日も更新できるかと思います。

では、失礼をば。

おつー
>>1はageても良いのよ
あえてsage進行にしたいなら尊重するけど

>>144さん

ありがとうございます。そういえばsageたままでした。

今日はageてみます。今後も様子を見ながら使い分けます。

 ――とある地下雀荘前

玄(にしても……あれはびっくりしたなぁ。まさか、尭深ちゃんとお姉ちゃんがそういう関係だったなんて……!)

玄(あと、小蒔ちゃんと親戚だっていう、あの超おもちの人……!!)キラキラ

 ――回想――

霞『あらあら、あなたは……。小蒔ちゃんがいつもお世話になってるわ。私は三年の石戸霞』

玄『こ、こちらこそ、お姉ちゃんがいつもお世話になってます。二年の松実玄です。え、えっと、石戸さんは……その、おもちきれないくらいのおもちをおもちのようでおもち……』ジュルリ

霞『おもち?』ドーン

玄『い、いえ、なんでもないですっ!!』

霞『ふふ、ご姉妹揃って面白いのね。で、それはそれとして、こそこそ私たちのほうを覗いて、何をやっていたの?』

玄『(完全に死角からだったのになぜ気付かれたんだろう……)それは、えっとですね』

霞『あっ。そっか……私ったらうっかりしてたわ。そうね、確かに、今、渋谷さんを一人きりにするわけにはいかないものね』

玄『(この人……!?)ま、まあ、そういうことです……』

霞『渋谷さんのことは、私たちに任せておいて。しばらくは五人で行動するし、それに、いざとなったら私が攻撃モードに入るから……』ゴッ

玄『(ひいいいいいいいいい!?)』ゾワッ

霞『知ってるかもしれないけど、私、小蒔ちゃんとは血が繋がってるの。それだけで、大体の意味は通じるわよね?』

玄『は、はいぃ……!!』

霞『そちらも人手が足りないでしょうから、あなたは小蒔ちゃんや、他のお仲間さんのサポートに回ってちょうだい。こちらは、私がなんとかするわ』

玄『かたじけないです。お姉ちゃんのことも、よろしくお願いします』

霞『お任せあれ。……あ、そうだわ』

玄『なにか?』

霞『小蒔ちゃんたち――あなたたちは、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》には出てこないの? 私やあなたのお姉さんもそうだけれど、三年生は進路のことがあるから、この大会が終わったら、一軍《レギュラー》以外はみんな引退してしまう。
 最後の夏、せっかくだから、小蒔ちゃんやあなたと団体戦で打ってみたかったんだけど……その感じだと、厳しいのかしら』

玄『なにかと忙しいですからね……。それに、私たち、四人しかいないですし』

霞『あと一人くらい、見つからない? なんなら、小蒔ちゃんに近しい私の仲間を紹介することもできるけれど?』

玄『いえ、あっ、すいません。実は、五人目がいないことも……ないんです』

霞『なら……』

玄『でも、まだ迷っていて。あ、小蒔ちゃんは出たいって言ってるんですけど……私がその、少し不安で……』

霞『不安、っていうのは?』

玄『個人戦なら、いいんです。勝っても負けても、それは自分一人の問題ですから。でも、団体戦は……みんなの勝ち負けまで背負うのは、ちょっとだけ不安なんです。私は私のことで手一杯なのに、あと四人分も抱えられるのかなって……』

霞『そんなに一人でたくさん背負い込むことはないわよ。みんなで分け合えばいいじゃない』

玄『あはは……それ、昔、尭深ちゃんにも言われました……』

霞『宥ちゃんと同じで、頑張り屋さんなのね。ただ、宥ちゃんより、人に甘えるのがヘタみたいだけれど』

玄『まあ、お姉ちゃんよりは、しっかり者だって自負してますから。あと……ちょっと、甘えなんて言葉とは無縁の――情け容赦のない人たちと一時にいっぱい打ち過ぎたのかもしれません』

霞『ああ、そう言えばそうだったわね……』

玄『なんか、すいません』

霞『いえいえ。こちらこそ、長々と引き止めてしまったわね。忙しいところごめんなさい』

玄『とんでもないです』

霞『まあ……けど、できれば、団体戦のこと、考えておいて。私にできることなら協力するから』

玄『ありがとうございます』

霞『じゃ、私はみんなのところに戻るわね』

玄『あ……おもち……』

 ――とある地下雀荘前

玄(ととと……今はおもちどころじゃなかったんだっけ。尭深ちゃん――ひいてはお姉ちゃんのチーム。石戸さんはああ言ってたし、というかあの人なら大丈夫だと思うけど……それでも万が一がある。一応、それっぽい連中を見つけたからつけては来たものの――)

玄(どうしよっかな。ここ、さっきから電波届かないんだよね。うーん……とりあえず様子だけ見てくるか。それから一度上に戻って、小蒔ちゃんに連絡して、乗り込むかどうかはそのとき判断ってことで)

玄(では、松実玄――行ってまいりますっ!!)

 ヌキアシサシアシシノビアシ

玄(さーて、一体どんな悪巧みをしているのかなー……?)チラッ

 ドヨーン

玄(あれ、なにこれ……? 悪そうな人はいっぱいいるけど、みんな憔悴してる? これは、あれだ、私たちと打った人がよくなるアレだ。で、でも……どうして?)

 バターン ウワーン タスケテー モウマージャンヤメルー

玄(あの奥の部屋……誰か、いるの?)

 キィィィィィ

玄(え――!? あの人は……!!?)ガタッ

?「んー? まーだ子羊ちゃんが一匹隠れていたのかしらー?」

玄(しまっ……!?)

?「こそこそしてないで出てきなさいよ。せっかくのパーティなんだから、あなたも私と夜を楽しみましょう? ねえ、シャイな子羊ちゃん――」

玄(ここは……下手に逃げると色々こじれちゃうかな。後ろ暗いところはないんだし、それに、できれば事情を探りたい……)

 ガチャ キィィィィィィ

?「……あらあら、驚いたわ。子羊ちゃんというには凶暴過ぎる子が出てきたわね」

玄「ど、どうも……」

?「で、今更一体なんの用かしら? 《ドラゴンロード》――否、《アイテム》の松実玄さん?」

玄「ほえっ!!?」

?「ん? 私なにか、間違ったこと言った?」

玄「いや、それは――っていうか! あなたはどうしてここに? これはあなたがやったんですか……? だとしたら、どうしてあなたがこんなことを……だって、あなたは表の――」

?「表とか裏とか、ドラじゃあるまいし、どっちだっていいじゃない」

玄「で、でも」

?「やめときなよ、《ドラゴンロード》さん。この人と何か言い合いしても無駄。ああ言えばこう言うし、そう言えばどう言う? みたいな人なんだから」

?「何よ、それ。ホント失礼しちゃうわね、憧ったら」

憧「実際そうでしょ。久は口八丁手八丁。その悪どい手口で、一体どれだけの女子を引っ掛けてきたことやら」

久「あなたの中の私のイメージってそこまで酷いの……?」

玄「あ、あの! 質問に答えてくださいっ! これはどういうことなんですか!? どうして白糸台校舎の生徒会長が――こんな暗部みたいな真似……!!」

久「生徒会長じゃなくて、学生議会長。それと、暗部? ま、それは仕方ないかな。だって、私、元暗部だから」

玄「え――」

久「ちょうど去年の今頃だったかしら。あなたたち《アイテム》が結成されたときに、お役ご免で解散したの。私と同じクラスだった同級生の四人組――通称《スクール》」

玄「《スクール》……? 聞いたことないですけど」

久「暗部組織なんだから、聞いたことがあっちゃ困るのよ。むしろ、あなたたち《アイテム》の知名度のほうが、異常なの。どうにも派手にやってるようね。ま、あなたみたいな有名人がいるんじゃ仕方ないかもだけど」

玄「は、はあ……」

久「っていうか、目立ち過ぎよね。私みたいな元暗部じゃなくても、カンが良ければ、わかる人にはわかるわよ。なんだっけ、レベル5のあなたと、ランクSのお姫様、マルチスキルの巨人さんに、龍門渕財閥のご令嬢――」

玄「!?」

久「やり方も子供みたいよねー。力任せにターゲットを潰して、それでおしまい。組織の情報漏洩は一番避けなきゃいけないことなんだから、もっと頭を使って潰さなきゃ。ま、使うほどないのかもしれないけど」

玄「な……なんてことを言うんですか!? 生徒会長ともあろう人が!!」

久「だから、学生議会長だって。物覚えの悪い子ね。ま、けど、仕方ないのかしら。人間、一番弱いところに『くる』ものだし」

玄「~~~~~!!!?」

久「なーんてね、ごめんなさい。ま、実を言うと、今のイジワルは、ちょっとした憂さ晴らしなの。
 だって、今日のこれね、一年ぶりの緊急招集だったのよ? あんまりにも後輩が頼りないものだから。
 勘弁してほしいわよね、チーム申請が明日に迫ってるっていうこの大事な日に、後輩の尻拭いだなんて……」

玄「どういうことですか!?」

久「わからない? 私たちがこうして動いているのは、あなたたちがヘマをして、亦野さんが入院してしまったからなのよ」

玄「亦野さんが――入院……!?」

久「あらあら、そんなことも知らないの? 相互連絡は――って、そっか。ここ圏外だものね。圏外なら、圏外なりに通信手段は確保して乗り込むものよ。もちろん、私の電子学生手帳はネットに繋がってる」

玄「……っ!!」

久「ちょっとくらいなら大丈夫だと思った? 甘い甘い。情勢は時々刻々と変化していくの。たとえ一瞬でも通信を切らすなんて、暗部としては半人前以下だわ」

玄「うっ……」

久「本当に、大丈夫なのかしら? こんな子たちに学園都市の治安を預けて……。ま、私たちは来年いないからいいんだけど、憧は不安じゃない?」

憧「ちょっと……この流れであたしに振らないでよ。あたしまで悪党みたいになるじゃん」

久「今更何を言ってるの。私についてきた時点で、あなたは既にこっち側の人間よ」

憧「そうだけどさー……」

 ガヤガヤ

玄「ッ!?」

久「そんな警戒しなくて大丈夫よ、松実さん。どうやら私の仲間が帰ってきたみたい」

?「よぅー、久。相変わらず悪い顔しとんなー。一年の頃はあんなに可愛げがあったっちゅーのに」

?「どーでもいい……思い出すのダルい……」

?「ダルかって、お前はなん一つ変わらんな」

玄(こ、この人たち――!? そんな……この人たちが《スクール》なの……!!?)

久「で、どうだった。洋榎、シロ、それから哩」

洋榎「どーもこーも、歯ごたえなさ過ぎでオモロなかったで。久の言うた雀荘三つ四つ回って、『シバくぞコラー!!』言うたら、みんなすごすご帰りよったわー」

久「ま、洋榎ならそうよね」

白望「ダルいけど報告……問題なし」

久「はいはい、いつも仕事きっちりのシロさん。ありがとう」

哩「私んとこも、早々に片の付いた。拍子抜けもいいとこと」

久「昔と比べると楽になったわよね。ま、それだけ私たちが成長したってことかしら」

洋榎「ほんで、ようわからんけど、そっちのレベル5とケバいのはなんや? 裏社会科見学か?」

憧「ちょっと、ケバいってあたしのこと!?」ガタッ

洋榎「ああん?」ゴッ

憧「……あたしのこと、ですか?」

洋榎「ふん、やればできるやん。これで一つ大人になったな、新子憧」

憧「ちょ、なに、知ってたの――!?」

洋榎「知っとるも知っとる。なー、哩?」

哩「ああ。久の言っとうと。変な一年に懐かれて困っとうってな」

憧「久!?」

久「哩、言葉のままじゃなくて、少しは私の意図を汲んで伝えてよ」

哩「そこそこ強か一年の手駒の手に入ってラッキー、やと」

憧「ひーさー!?」

久「哩に意訳を頼んだ私がバカだったわ。シロ……は立ったまま寝てる、と」

白望「ZZZ……」

洋榎「あっ! ほな、レベル5が例の《アイテム》やな!! なるなる。そっかー、なんや、もーちょいちょいっと気張ってーなー? 自分らがしっかりせんと、うちら、いつまで経っても卒業できひんわー」

玄「……す、すいません……」

哩「そいより、久しぶりの全員集合やけん、一局打たんか?」

洋榎「おっ!? ええでー、自分ら、どんだけハンデがほしいん!?」

哩「言うとれ。要らんわ」

久「洋榎も哩も好きよねー。と、言いつつ私も混ざるけど……それから、憧っ!」

憧「な、なによ!」

久「入りなさい。シロはもうスリープモードで生きた化石。あなたが入らないと、面子が足りないの」

憧「ふん、望むところよっ!!」

洋榎「んー、あっちのレベル5は見学でええんか? ドラなし麻雀ってのもオモロい縛りでうちは好きやけどなー」

久「ああ、彼女は……いいのよ。放っておいて。ちょっと嫌味を言われたくらいで縮こまっちゃって。泣く子も黙る《ドラゴンロード》が聞いて呆れるわ」

玄「私は、その……」

久「ああ、お仕事のことなら心配しなくて大丈夫よ。私たちが全部やっておいてあげたから」

玄「それは――」

洋榎「なんや、しゃっきりせーや。打たへんなら打たへん! 打つなら打つ!! こっちはもう打つ気満々なんやからモタモタすんなや!!」

玄「ひっ!?」ビクッ

哩「こら、洋榎。言い過ぎと。それに久も。あんな、レベル5……あんたの話は姫子からよう聞いとう。優しか子やと聞いとっと。あんたにこの場は似合わん。早く仲間んとこへ帰りんしゃい」

玄「わ、私……」

久「…………へえ、逃げるの?」

哩(おい、久)コソッ

洋榎(黙っとれ、哩。あの顔はあれや。悪いこと考えてる顔や。心配要らへん)コソッ

哩(余計心配になったと!!)コソッ

久「ねえ、松実さん。私たちが、本当に、後輩の尻拭いのためだけに、今日こうやって四人集まったと思ってる? だとしたら、洞察力不足よ。同窓会を開くだけなら、一年生の憧は邪魔者。それを、こうやって卓に混ぜてるのは、なんのためだと思う?」

玄「まさか……一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》?」

久「そう。私たち《スクール》は、新子憧を五人目に引き入れて、白糸台の一軍《レギュラー》を目指す。これは、私たちが一年生の頃、四人で誓った約束なの。最後の夏は、裏も表も関係なく、学園都市の《頂点》に立とうってね」

玄「そう、だったんですか……」

久「あなたたち《アイテム》はどうするの? 何か目標はあるの? なんのために暗部組織なんて危ない真似をやってるの? 仲良しこよしで楽しくいられればそれで十分?
 そんなの――そんなお友達ごっこがしたいなら、学園都市の外でやればいいじゃない」

玄「……」

久「まったく、何が《アイテム》よ。笑わせてくれるわ。ま、所詮はランクやレベルだけが取り得の、見世物の集まりってことなのかしら」

玄「…………」

久「ま、仮にも私たち《スクール》の後釜なわけだし、あなたたちがトーナメントに出てきたら、そこそこ楽しめるかなーと思っていたのだけれど。残念。とんだ期待外れだわ」

玄「……………………」

久「ちょっと、なんとか言ったらどうなのよ。少しは反論してくれないとつまらないじゃない。それとも、ぐうの音も出ないってわけ? ねえ、どうなのよ……レベル5の《ドラ置き場》さん――」

玄「」プツンッ

憧・哩「ッ!?」ゾワッ

白望「……!!」パチッ

洋榎(ほーう……?)ビリビリ

玄「……今、なんて言いました……?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

久「(めちゃめちゃでっかいのが釣れたー!?)……《ドラ置き場》って言ったのよ。何か間違っているかしら?」

玄「間違ってはいませんよ。ただ、ちょっと勘違いしていませんか……?」

久「あら、どのあたりが?」

玄「私をその名で呼んでいいのは、学園都市に三人だけ――実際に私をそうしていた三人だけです。使う言葉はよく選んだほうが身のためですよ、竹井学生議会長」

久「ご忠告痛み入るわ」

玄「まあ……いいですけど。どっちにしろ、もう確定してしまいましたし」

久「へえ……?」

玄「皆さん――《スクール》でしたか。見たところ、非能力者《レベル0》と大能力者《レベル4》しかいないようですが」

久「それが何か?」

玄「あまり超能力者《レベル5》を甘く見ないことですね。私たちは全てを無に帰すことができる――私たちにとって、レベル4以下の雀士は、誰も彼もが無能力者みたいなもの。少し力を振るうだけで、みんな跡形もなく消し飛ばすことができるんです……」

久「さすが白糸台の《生ける伝説》筆頭は言うことが違うわねぇ」

玄「竹井さんがどういうおつもりで、今のような態度を取っているのかは、わかりません。けれど、どういう意図にせよ、あなたは言ってはいけないことを言い過ぎました。
 超能力者《レベル5》に――《アイテム》に喧嘩を売ったこと……《絶対》に後悔させてあげます」

久「面白いじゃない。一体どうやって後悔させてくれるのかしら? 一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》で私たちに勝つ、とか……?」

玄「少し違いますね。私は一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》で優勝するつもりです。あなた方の約束とやらと、私たちの誇り――どちらが本物か、はっきりさせようと言っているんです」

久「ッ!! いいわね……! あなた、思ってたよりずっと素敵だわっ!!」

玄「……それでは、私は仲間のところに戻ります。今日は、私たちの力不足でご迷惑をおかけして、すいませんでした」ペコッ

久「気にしないで。練習前のいいウォーミングアップになったから」

玄「練習……練習ですか。なるほど。では、お詫びにというかお礼にというか、一つだけ、ご進言してもよろしいですかね」

久「どうぞどうぞ」

玄「本気で優勝を目指すなら――私に勝つつもりなら、ドラなし麻雀の練習をしておいたほうがいいですよ。言っている意味、わかりますよね……?」

久「どうかしら……詳しく聞きたいわ」

玄「例えばですけど、手役を捨ててリーチすることが多い竹井さんには、影響が大きいのではないですか? あなたの得意な《悪待ち》は、私のドラ支配の前では、ただ徒に打点を下げるだけの悪手に成り下がります」

久「わお。言われてみればその通りだわっ!」

玄「そして、ご存知かと思いますが……私はレベル5の旧第一位です」ゴゴ

久「第二位よね」

玄「はい。つまり、私のドラ支配を正面から打ち破れる可能性のある雀士は、学園都市にたった一人――ひいては世界にたった一人しかいません」ゴゴゴゴゴ

久「そうね……そうよねぇ……!!」ゾクッ

玄「私の――超能力者の《絶対》は、誰にも侵すことができないのです。《スクール》の皆さん……どなたが私と戦うことになるのかはわかりませんが、よく心に刻んでおいてください。
 私がドラを切るか手牌を晒さない限り、皆さんは《絶対》にドラを目にすることができないのだと……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

久「ええ、ばっちり覚えておくわっ!!」

玄「では、私はこれで――」ザッ

 バタンッ

久「……っぷはー!! 死ぬかと思ったーっ!! なによ、あの子! 本当にあの『あったかぁーい』でお馴染みの松実さんの妹!? 完全に闇堕ちしてるじゃない!! 一体なにがどうなるとあんなになっちゃうわけ!?」

憧「あれが《ドラゴンロード》……マジ恐かったんだけど……」

白望「目が覚めた……」

洋榎「ええ感じの気迫やったなー。トーナメントで当たるんが楽しみやわー」

哩「……そいはそうと、さっきのは本当になんやったと、久」

洋榎「どうせあれやろ、なんかの謀略やろー?」

久「ま、そんなとこ。ヤスコ――っていうかスコヤ……理事長がね、今年の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》は、派手にやりたいんだって」

憧「どういうこと?」

久「ちょっと学園都市の事情に詳しければわかることよ。この中途半端な時期にやってきた転校生。そして、今年の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》における二つのルール改定。導かれる結論は一つ」

白望「ふーん……?」

久「例の転校生――二年生のほう。今さっき、あの《ドラゴンロード》が、はっきりと自分より上だと認めたレベル5の新第一位。理事長は、彼女を《レベル6》にしたいのよ」

洋榎「はあ? なんやそれ?」

久「洋榎だって噂くらいは聞いてるでしょ? あの理事長を相手に、半荘一回をきっちり打ち切って生き残ったっていう、人類史上最高強度の能力を持つ《怪物》――それが、あの転校生だって話。
 それほどの逸材……ただのレベル5に留めておくのはもったいないわ。学園都市のありったけ――ランクSも、レベル5も、非能力者も無能力者も能力者も、実力者も有象無象も――全てをぶつけて、彼女を昇華させるつもりなのよ。
 幻の絶対能力者――《レベル6》に」

哩「絶対……能力者やと?」

久「知らない? 学園都市の至上目的よ。私たちみんな、というかこの街の全てが、《レベル6》を生み出すためだけに存在しているといっても過言ではないわ」

憧「つまり……あたしたちも、あの《ドラゴンロード》も、みんなみんな、そのたった一人のレベル5の当て馬にされるってこと?」

久「端的に言えば、ね。だから、なかなか表に出てこない《アイテム》の背中を、私なりに押してあげたのよ。オールキャストでトーナメントをしたいらしい、理事長の思惑通りにね」

玄ちゃん大見栄きっとるけど
正直このSS内でも漫画の実力通りならスクールの誰にも勝てん気が

久「けど……ま、それはそれよ。ランクSやらレベル5やらがいくら出てこようと、関係ない。レベル6なんかもっとどうでもいい。私は普通に優勝したいの。そうでしょう、洋榎、哩、シロ」

白望「うん……」

洋榎「せやな。理事長は理事長、うちらはうちらや」

哩「優勝――そのために、私は姫子や他のみんなば……」

久「哩……」

洋榎「……わかるで、哩。うちもな……今日は、妹と、元チームメイトを泣かせてここに来たわ」

久「洋榎も……ごめんなさい」

洋榎「なんで久が謝んねん。うちが自分で選んだ道や。後悔はしとらへん」

哩「私も。辛かばってん、こいが私の貫きたか約束やけん」

久「ありがとう、みんな。ともに……最後まで戦いましょう」スッ

洋榎・哩・白望「……」スッ

憧「…………」

久「なによ、憧。遠慮しなくていいのよ。私たちは、もう四人だった《スクール》とは違う。あなたも含めて五人の――新しいチームなの。
 あなたがいなかったら、トーナメントに出るどころか、私たち四人がこうして再び集まることも、なかったかもしれない……。
 あなたには感謝しかないわ。ついてきてくれてありがとう。憧、あなたは、私たちの大切な仲間よ」

憧「久……っ! 本当……久は最悪で、意地悪で、最低の腐れ外道だよね……!!」グズッ

久「そうね……」

憧「でも――あたしはそんな久がっ!! 出会ったときからずっと……好きっ!!」スッ

久「私もあなたが好きよ、憧。ありがとう。そして、これからもよろしくね」

憧「よろしく、久。それに、皆さんも!」

洋榎「洋榎でええ。慣れへんのやったらタメ口でもええわ。気い遣われるんも面倒やし。仲良くやろうや。な、憧ちゃん」

哩「白水哩――好きなように呼びんしゃい、憧」

白望「シロ……」

憧「みんな……!!」

久「さあ、みんな覚悟はいいかしら!? 目指すは優勝! 立ちはだかる敵は殲滅あるのみ!! 《頂点》の座は私たちがいただくわっ!! 新生《スクール》――満を持しての殴り込みよッ!!!」

憧・洋榎・哩・白望「おおおおっ!!」

 ――道端

玄()ブツブツ

豊音「あー!! いたー!! もうっ、クロ、心配したんだよー!!」

透華「一人でふらふらと、何をやっていたんですの!?」

泉「電話も通じひんし、渋谷先輩の近くにはおらんし、どこほっつき歩いてたんですかー?」

玄「ああ……みんな、ごめんね。ちょっと、その、色々あって……」ニタッ

小蒔「ッ!? み、みなさん止まってくださいっ!! とても禍々しい魔を感じます――!! それ以上近寄ってはいけません!!」

泉「へ?」

玄「えへへ……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉(ひああああああああ!?)ガクガク

透華「く、玄……!? あなた、なにがあったんですの!?」ゾクッ

豊音「ク、クロがブラッククロになってるよー!? これってあのとき以来だよね……ほら、お姉さんのユウが過激派のスキルアウトに剥かれそうになったとき……」

小蒔「し、しかし……今回、宥さんは霞ちゃんと一緒で無事なはず。一体何が起こったのでしょう」

玄「えへへ……みんなぁ……聞いてほしいことがあるのです……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔・透華・豊音・泉(ひいっ!?)ビクッ

玄「あのね……一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》。あれ、私、出ようと思うの。いいよね……?」

豊音「お、おっけー! 私は全然おっけー!!」ガタガタ

玄「ふふうふふふふうふふふ……よかったぁ。これで、あの人たちをやっつけられるよ……」

透華「あ、あの人たち……とは誰のことですの?」

玄「《スクール》っていうの。三年生の竹井さんと愛宕さんと白水さんと小瀬川さんと……一年生の新子憧ちゃん……」

泉(強っ!! 上位ナンバーばっかのものごっつい実力者軍団やないか……!! それに、新子憧って確か同じクラスの……むっちゃ頭良くて、雀力もぼちぼちやったやつやんな――)

小蒔「そ……その方たちと、何かあったのですか?」

玄「うん、ちょっとね……さすがの私も我慢の限界が来ちゃったよ。だから、私、頑張る。不安とか言ってる場合じゃないよね。《アイテム》のみんなのためにも、いっぱい頑張るんだ。頑張って……あの人たちのことやっつけるんだぁ……」エヘヘヘ

小蒔「く……玄さん……?」ゾクッ

玄「やるったらやるんだからぁ……超能力者《レベル5》や《アイテム》をバカにされて黙ってるわけにはいかないもんね。あの人たちは……《絶対》に許さない。そうだよ……だって、もう、決めちゃったんだから――」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

小蒔「ッ!!」ゴクリッ

玄「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て」

小蒔「悪霊退散んんんんんんんん!!!!」ドゴォォォォ

玄「」バタンキュー

小蒔「とても……!! とても性質の悪い霊でしたっ!! 私たちと同世代の……恐らくは非常に強い力を持った方――ご冥福を祈ります」

透華「……で、ブラック玄の妄言はさておきましても、本格的にトーナメントに出る、ということでよろしいんですの?」

小蒔「私は、大丈夫です」

泉「うちは言いだしっぺやから、当然!」

豊音「私も、昨日考えてみたけど、よく考えたら、私って《アイテム》で一人だけ三年生だから、みんなとの思い出もっと作らなきゃーって思った。だから……出るよ。出て、勝って勝って……最後までみんなと一緒にいたい!」

透華「決まり、ですわね」

小蒔「あっ、でも、暗部のお仕事は――」

 ピピピピ

小蒔「はい、こちら、神代小蒔です……。あ、フジタさんですか? その、すいません……今回は亦野さんの件で本当にご迷惑を――えっ? 《アイテム》は解散? それは…………はい、わかりました。いえいえ。では、また」ピッ

透華「どうしましたの?」

小蒔「暗部のお仕事、しなくていいそうですっ!」

豊音「ちょータイミングいいよー!?」

泉「ようわかりませんけど、よかったやないですか! 別な誰かに危険な仕事をさせるんは申し訳ないけど……それも、うちらが頑張って優勝すれば、何か変えられるかもしれません!!
 一軍《レギュラー》は白糸台高校麻雀部の代表――学園都市の顔です。きっと発言力やって今より上がる。そうなったら、理事長に直接交渉やってできるはずです。学園都市のあり方について……これからについて……!!」

小蒔「そう……ですね。いつまでも、この街を今のような不安定なままにしておくのは、よくありません。私たちなりに、できることをやりましょう!!」

泉「小蒔さん……うち、死ぬ気で頑張りますわ! 必ず優勝しましょうっ!!」

小蒔「はいっ! 応援するだけの私は、もう卒業です。今から私は――あなたと一緒に戦います、泉さん! 最後まで、諦めずに、全力を尽くしましょう!!」

透華「そうですわね。泉も、それに小蒔も、課題は山積みですわ。わたくしたちが全力でサポートいたしますの!」

豊音「もちろん、私たちも雀力の底上げをしないとね。わー、やることいっぱい。ちょー楽しいよー!」

透華「そうと決まれば特訓、特訓ですわ! ほら、玄。いつまで寝てるんですの、そろそろ起きなさいですわ!!」

玄「はっ――!? ここはどこ? 私はくろ?」

小蒔「玄さん! そういうわけで、満場一致ですっ! 一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》――私たちも参戦しましょう!!」

玄「おおう……!? う、うん! そうだねっ!! そうしよう!!」

小蒔「それでは皆さん……お覚悟はよろしいですか? この五人で……学園都市の《頂点》を目指すんですっ!! 力を一つにして頑張りましょうっ!!」

玄・透華・豊音・泉「おおおおー!!」

 ――一週間後・理事長室

恒子「おおっ、やっと申請してきたかー。《アイテム》と《スクール》。改め、《逢天》と《久遠》だって」

健夜「随分と待たせてくれたね。何やってたのかな」

恒子「藤田先生の話だと、たぶん、サービス残業じゃないかって。『トーナメントに出るって決めた以上、後顧の憂いなく麻雀に集中したいんだろうよ』、って」

健夜「ああ……そういうこと。道理で、最近は比較的街が落ち着いてたわけだ」

恒子「これで、役者は揃ったの?」

健夜「まだまだ。《アイテム》と《スクール》が出てきたんだから、あの子たちだって、それを追ってくるはずだよ」

恒子「風紀委員会と愉快な仲間たちかー」

健夜「ふふっ、そういうこと」

恒子「あっ、すこやんがひどい顔してる……元からだけど!」

健夜「えー!?」

恒子「はい、そんなすこやんにはこれ! 四十代からの年齢肌化粧品――ドモホル○リンクル!!」

健夜「アラサーだよっ!! またこのオチだよっ!!」

恒子「ハイ、お後がよろしいようでー!!」

     [一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》まで、あと二ヶ月]

ご覧いただきありがとうございました。

今日はここまでです。次に現れるのは来週かと思われます。

 ――

だんだん情報が増えてきたので、以下、現在のチーム結成状況と、その他まとめです。

《チーム名》:リーダー、メンバー×4(名前順)

《煌星》:花田煌、大星淡、東横桃子、宮永咲、森垣友香

《劫初》:弘世菫、天江衣、荒川憩、エイスリン=ウィッシュアート、辻垣内智葉

《豊穣》:渋谷尭深、石戸霞、清水谷竜華、福路美穂子、松実宥

《永代》:宮永照、井上純、臼沢塞、染谷まこ、高鴨穏乃

《久遠》:竹井久、愛宕洋榎、新子憧、小瀬川白望、白水哩

《逢天》:二条泉、姉帯豊音、神代小蒔、松実玄、龍門渕透華

ランクS:天江衣、大星淡、神代小蒔、宮永咲、宮永照(名前順)

レベル5:渋谷尭深、高鴨穏乃、花田煌、松実玄(名前順)

ナンバー:宮永照、荒川憩、辻垣内智葉(順位順)

 ――

>>157さん

このSSの設定に限って言えば、

ナンバー:スクール>玄

なので、個人成績がいいのはスクールの三年生のほうです。

 ――

では、失礼します。

○ランク・レベル・ナンバー・クラスについて

筆力不足ですいません。取り急ぎ、第二世代までしかやっていないですが、ポケモンに喩えます。更なる混乱を招く恐れがありますので深くは突っ込まないでください。


○《ランク》:支配力・意識的確率干渉力の強さ

ランクは、ステータスの高さみたいなものです。例えば、照さんはミュウツー(Lv100)、咲さんはミュウ(Lv100)、大星さんはカイリュー(Lv100)といった感じです。ランクAだとリザードン(Lv50)くらいでしょうか。

高ランクの人たちは、特に能力(わざ)を使わなくても、物理で殴るだけで大抵の相手に勝てます。いわゆる『掴ませる』的なことや『綺麗な手を張る』的なことを、ある程度狙ってできます。

ちなみに、東横さんと森垣さんと戦ったときの大星さんは、能力を使っていないだけでなく、この高過ぎるステータスも、きっちり封印してます。

また、ランクFである花田さんは、キャタピー(Lv1)です。


○《レベル》:能力値・能力の強度

レベルは、わざの威力みたいなものです。

レベルは0~5に分けられていますが、そのうち、1~4については、わざの威力を対数表記にした何か(マグニチュードやpHのアレ)をイメージしています。わざの威力の桁を示す大枠です。

例えば、レベル1の能力だと、10の1乗オーダーなので、『たいあたり(わざの威力:35)』みたいな感じです。『きりさく(わざの威力:70)』もレベル1です。この場合、能力の強度が上なのは、『きりさく』のほうです。

これがレベル2になると、10の2乗オーダーになって、『だいばくはつ(わざの威力:250)』くらいになります。文字通り、レベルが一つ上がるだけで、桁違いに威力が強くなります。

レベル4になると、わざの威力が10の4乗で10000のオーダーになります。

『はかいこうせん』のわざの威力が、確か150だったと思うので、大星さんのダブリーは、一回につき、カイリュー(Lv100)が『はかいこうせん』を数百発くらいぶっ放すのと同じだけの破壊力があります。

レベル0の人には、わざがありません。

レベル5は、ちょっと特殊です。例えば、花田さんの《通行止め》の場合だと、無限に成功する『こらえる』に相当します。

花田さんはキャタピー(Lv1)ですが、無限に『こらえる』を成功させることができるので、カイリュー(Lv100)の大星さんがいくら『はかいこうせん』をぶっ放しても、そのHPが0になることはありません。

また、最初にモブ先輩が発狂してますが、モブ先輩は、喩えるなら『ロックオン』からの『でんじほう』をぶっ放すレアコイルです。そのわざの威力(能力の強度)は、カイリュー(Lv100)の大星さんに和了り牌を掴ませるほど高いです。

なのに、それをまともに喰らったはずのキャタピー(Lv1)が、生き残ったばかりか、追加効果である『まひ』状態にもならず、平然としていたわけです。レアコイルは逃げ出しました。

基本的に、能力同士が正面衝突したら、能力の強度が高いほうの効果が優先されます。支配力《ランク》で補正はできますが、大星さんがモブ先輩に掴まされたように、大勢は能力の強度の高低で決まります。

その他、SS内のオカルト現象については、原村さん以外の誰かしらが適宜説明してくれる予定です。


○《ナンバー》:校内順位

ナンバーは、原作の個人戦順位みたいなものです。

今のところ、ミュウツー(Lv100)である照さんが、カントー・ジョウト地方(学園都市)で最強のポケモンです。

この順位は対局(バトル)をしないと変動しないので、天江さん(ルギア(Lv100))や神代さん(ホウオウ(Lv100))といった、強いけど滅多に表に出てこないみたいな人たちは、あまりナンバーが高くないです。

上記のような一部の例外を除けば、単純に、ナンバーが若いほど実力者(このSS内において)、ということになります。上位ナンバーと呼ばれる人たちは、シロガネやまのポケモンくらい強いと思われます。


○《クラス》:チームの総合力

蛇足ですが、軍《クラス》は、チーム単位の成績なので、強いトレーナー(チーム)ほどクラスが高いです。二軍はジムバッジ8個持ってるトレーナーです。もちろん、ジムバッジ8個のトレーナーが7個のトレーナーにバトルで負けることも、稀にあります。

一軍《レギュラー》はポケモンマスターのことなので、そのメンバーである元《虎姫》の四人は、殿堂入りしたポケモンということになります。

 ――

>>164さん

ごごごごごめんなさい(土下座)

>>170

元ネタは遊び程度に入れています。クスリとしていただければ。

元ネタに引っ張られて少しだけバイオレンス要素入ってますが、基本的には麻雀するだけです。エフェクトで槍が降ってきたりシャープシュートされたりすることはありますが、松実母のような故人でない限り、人は死にません。

 ――

では、皆さんレスありがとうございます。書き溜めます。

これは是非応援したい

ちなみに、ポケモンで例えるとアラサーはどれくらいの強さですか?

つい今しがた、VIPのSSですばら先輩が「ラス親残り点数僅かの状態で、配牌見る前に天和」をやってのけた
飛ばないからチョンボにならない=天和確定ww
もしかしてここのすばらも可能!?

ご覧いただきありがとうございます。

>>174さん

アルセウス(CV:美輪明宏さん)くらい強いです。

>>176さん

難しいところなので、言及は避けます。とりあえず、今のところ、このSS内で花田さんがそのようなことをする予定はありません。

 ――日曜・街角

?「ふぅーやっと補習終わったわー。せっかくの日曜やのに、なーんで勉強なんかせなあかんねん、っちゅーんや!」

?「ま、でもこれで、心置きなく遊べるっちゅーもんやなっ」

?「……おっ、おったおった。時間通りやな。ほんならいつものご挨拶に……っと」コソコソ

?「ひゅー、お待たせやっ! のーどーかーちゃんっ!!」バサッ

和「きゃあああ!!?」

?「おっ、今日も今日とて穿いてな」

和「何するですかー!!」パァン

?「いいいいい!?」

和「はぁはぁ……!」

?「もー、ちょっとした冗談やん。相変わらず苛烈やな、和は」

和「そういうあなたは下劣です、園城寺先輩」

怜「かんにんしてやー」

和「まったく、こんな街中でスカート捲りだなんて。犯罪者になりたいんですか?」

怜「それはあかんな。和が猥褻物陳列罪で捕まってもうたら、うちも困る」

和「もう一発食らいたいんですか……?」ゴゴゴ

怜「うそうそ」

和「まったく……補習はちゃんと受けてきたんでしょうね?」

怜「そらもうばっちりみっちり。ほんで、今日はどこ遊びにいくー?」

和「服屋さんにでも行きましょうか」

怜「えー? 和の趣味ってフリフリやん。うちそんな店入りたないー」

和「嫌ならついてこなければいいじゃないですか!?」

 ピピピ

怜「和、電話やでー」

和「わかってます。……はい、和です。どうかしましたか? えっ……雀士が暴れている……!? 能力者? しかもレベル5の? いや、だから前々から言っていますが、そんなオカル――わかりました。私もすぐに向かいます」

怜「……和?」

和「というわけで、すいません。風紀委員の仕事が入ってしまいました」

怜「ほな、うちもついていくわ」

和「ダ、ダメですよ、一般人はっ!」

怜「言うても、問題起こしとるんは能力者なんやろ? しかもレベル5。せやったら……同じレベル5のうちがいたほうが心強いやん。この《一巡先を」

和「見えるとか見えないとか、そんなオカルトありえません! 危ないので一般の生徒は引っ込んでいてください。では!!」ダッ

怜「ちょっ、和ー!?」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――風紀委員第一七七支部――

和「……なるほど。信頼していた先輩が突然チームを抜けてしまって、どうしていいかわからなかったんですね」

?「……はい……」

和「しかし、物に当たったり、他の人に迷惑をかけたりするのは、よくないことです。それは、わかっていますよね?」

?「……はい……」

和「なら、大丈夫です。今日は部屋に帰って、ゆっくり休んでください」

?「あ、でも……部屋は……」

和「ああ……先輩と相部屋だったんでしたね。ごめんなさい。落ち着くまでは、こちらの建物で寝泊りして大丈夫です。ここには私たち風紀委員のメンバーもいます。私たちでよければ、いくらでもお話を聞きますよ」

?「なんからなんまで……申し訳なか。あんた……一年生やのに、しっかりしとうね。私は二年で……レベル5の第四位やのに、この有様と。情けなかよ」

和「学年やレベルなど、関係ありません。学園都市は高校生雀士の街。誰だって、心乱れることはありますし、時には間違いを犯します。そして、そんな道を踏み外しそうになった誰かの力になるために、私たち風紀委員はいるんです」

?「本当……しっかりしとうな、あんた」

和「私なんて、まだまだです。じゃあ……鶴田先輩、何かあったら呼んでください。私は、他の方のお話を聞いてきますので。失礼します」

姫子「あいがと……原村さん」

 ――――

和「そちらはどうでしたか、薄墨先輩」

初美「大体同じ感じですよー。安河内さんも江崎さんも友清さんも、白水さんがチームを抜けたのがショックだったみたいですねー。まあ、三人とも、今は比較的落ち着いているですー」

和「それはよかったです。一時はどうなることかと思いましたから。船久保先輩のほうは、どうですか?」

浩子「同じや。洋ちゃ――愛宕先輩が急にチームを辞める言うたんが、みんなショックやったんやて。特に、妹の絹ちゃ――絹恵さんがひどうてな。なんも聞かされてへんかったらしくて、まだ泣いとるわ。今は、チームメンバーの真瀬先輩が介抱しとる」

怜「愛宕さんと白水さん……地方出身者が伝統的に集まる強豪チーム《姫松》と《新道寺》の中心人物――去年の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》でチームを決勝に導いた主力の二人が、揃って失踪か」

浩子「共通点は、三年でチームリーダー、しかも《一桁ナンバー》の超実力者ってことくらいですかね。白糸台校舎でのクラスは?」

初美「今はバラけてるですよー」

和「二年生のときは? 一年生のときはどうでした?」

初美「あー……どうだったですかねー。二年のときは、白水さんが私と同じだったですけどー……一年のときは――ああっ! そう……そうでしたー――!!」

?「一年のときは、一緒やったよ。うち、同じクラスやったから覚えとる。あいつらいっつもつるんどったわ。ようファミレスでダベっとるんを見かけた……」

和「末原先輩……休んでいなくてよろしいんですか?」

恭子「お気遣いありがとな。まあ、うちは……こうなることもあるかもしらんて――ちょっとだけ覚悟しとったから、絹ちゃんほどダメージはあらへんねん。もちろん、ショックはショックやけど……」

浩子「末原先輩、洋ちゃんは……白水先輩と仲良かったんですか? うちが学園都市に来てからは、洋ちゃん、末原先輩たちと一緒やったから、よう知らんのです」

恭子「うちも、洋榎とチーム組んだんは二年になってからやし、一年の頃は、そこまで喋る仲やなかったから、内情までは知らんけどな。
 ただ、傍からでも、洋榎が楽しそうにしとるんはわかったで。放課後になると、いつも揃ってどっか行っとったわ。洋榎と白水さんと、もう二人。小瀬川さんと……うちの会長を入れた四人で」

怜「小瀬川さん……って、あの白い人かっ!? ダルいダルいゆーて公式戦ではたまにしか見かけへんけど、あの人もむっちゃ強い人やん!」

和「会長……とは、竹井学生議会長のことですか?」

恭子「せや。そこに、時々、福路さんが混じっとったな。ま、あれは会長の世話焼いてただけやと思うけど。とにかく、洋榎と白水さんと小瀬川さんと会長――あの四人は、一年の頃は同じクラスで、むっちゃ仲良かったで」

初美「そうでしたーそうですよー。愛宕洋榎、白水哩、小瀬川白望、福路美穂子、それにあの《最悪》こと竹井。確か一組でしたか。
 私らが一年のときのクラス対抗戦決勝で、二組――宮永照、弘世菫、辻垣内智葉、臼沢塞、あと霞――のとこと、大将戦まで優勝争いしてたっけですねー」

浩子「面子が世界大戦レベルですやん……ちなみに、薄墨先輩は?」

初美「私は三組で、ゆるーく楽しく打ってたですよー。巴は言わずもがな。あとほら、去年、浩子と《千里山》で一緒だった清水谷さんや江口さんも同じチームでしたよー」

浩子「それかて十分一軍《レギュラー》級のメンバーやないですか……」

恭子「懐かしいわ。ほんで、まあ、二年になってから、みんなクラスが離れて、洋榎はうちら、白水さんは鶴田さんたち、小瀬川さんは《塞王》辺りとようつるむようになって、会長は学生議会室に入り浸るようになった。
 二年になったときに何があったのかは、知らへんけど」

怜「ほな、その竹井さんに話を聞いてみるんはどーかな? 学生議会長さんなら、学生議会室におるかもしれへんで。うち、今日補習やってんけど、帰るとき、学生議会室の電気点いてんの見たんや」

初美「どれどれ。じゃあ早速掛けてみるですかー」

 プルルル プルルル プルルル

初美「むー。出やがらないですねー。あの《最悪》……」

恭子「……ひょっとすると、会長も、しばらく戻って来ーへんかもしれへんな」

和「どういうことです、末原先輩?」

恭子「会長な、この頃、授業もいかんと学生議会の仕事をめっちゃやってたんよ。今日やって、休日出勤しとったんやろ? もしかして、自分がいなくなっても大丈夫なように、先の仕事まで片付けてたんちゃうかな、思て」

浩子「待ってください。ほなら、末原先輩はこう言いたいんですか? その、一年の頃に仲良かったっちゅう洋ちゃんたち四人組が、みんな同時にいなくなった、と」

恭子「そういうことや。ほんで……やとしたら、たぶん、もう一人、いなくなるやつがおる」

和「誰ですか?」

恭子「一年の新子憧。会長に懐いて、最近よう学生議会室に出入りしとった子や。なんや、議会委員の見習いかなー思っとったけど……だとしたら、合点がいくわ」

怜「ごめん、うち、全然わからへん」

恭子「会長、洋榎、白水さん、小瀬川さん、それに新子憧。この五人で、新しいチーム組むつもりなんとちゃう? せやったら、どうして洋榎と白水さんが、今日になって同時にいなくなったのか説明できるやん」

和「なるほど……明日はチーム申請の開始日ですもんね」

恭子「せや。明日のチーム申請開始に合わせて、現在登録されている旧チームは全て、今日の24時をもって強制解散になる。洋榎たちは、洋榎たちなりに、今のチームを思って、今日まで何も言わへんかったのかもしれへん」

初美「けど……末原さんたち、それに鶴田さんたちも、一年間一緒にやってきた仲間ですよねー? よりにもよってそのチームの中心人物が、そんな風にばっさり愛着を切れるもんですかねー」

恭子「チーム《虎姫》かて、リーダーの弘世さんの独断で、今年は再結成しないことになったらしいやんか。
 特に、うちら三年は、このインターハイの代表枠を巡る一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》が、最後の部内公式大会や。
 この最後の夏に、何かを懸けているやつは少なくない。洋榎たち強いやつらなら……なおさら譲れない何かがあったんかもな。うちらに何も話してくれへんのは寂しいけど、それかて、何か事情があるのかもしれへん」

浩子「せやかて、こないな勝手な真似は……洋ちゃんらしくないです!」

恭子「まあ、そう言わんといてあげてや、船久保さん。
 学園都市は、あと一ヶ月で長い夏休みに入る。いなくなったゆーても、学校の授業をサボりっぱなしにするわけにはいかへんやろし、きっと、夏が終わったらひょっこり戻ってくるやろ。洋榎に話を聞くんは、それからでも遅くはない。
 まあ、洋榎を失ったうちらが……クラス選別戦で二軍《セカンドクラス》に残れたら、やけどな。クラスが落ちてもうたら、白糸台校舎には通えへん。これまでみたいには会えへんやろな……」

浩子「末原先輩……」

和「……とは言え、授業の無断欠席はゆゆしき問題なので、風紀委員としては、捜索は続けます。何かあれば、すぐに連絡しますね」

恭子「おおきにな。うちらも、何かできることがあれば協力するわ」

怜「………………なあ、ふと、思ったんやけど」

和「なんですか、園城寺先輩?」

怜「失踪したっちゅう五人は、新しいチーム組んで、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》に出てくるんやろ? ほなら、うちらでチーム組んで、トーナメントに出て、勝ちまくってれば、いつかは会えるんとちゃう?」

恭子「せやけど、うちらはチームの主力を失ってもうたんや。二軍《セカンドクラス》に残れるかどうかも危ういのに、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》で勝ち上がるなんて……」

怜「末原さん、うちは『うちらで』言うたんや。今ここにいる中で、最強のチームを作る。せやったら、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》で勝ち上がるどころか、優勝するのも夢やないと思いません?」

恭子「っ!?」

怜「それに、悔しいやんか。いくら一年生の頃に仲良かった言うても、末原さんたちかて、同じくらいの時間を一緒に過ごしてきたんやろ?
 やのに、方やトーナメントで勝つためにチームを抜けて、方や二軍《セカンドクラス》に残れるかも危うい……」

怜「けど……そこまで力の差がありますか? そら、愛宕さんや白水さんはチームの中心人物やったんやろうけど、彼女らだけで今まで勝ってきたんとちゃいますやろ? 他のメンバーかて、頑張ってきたはずやろ?」

怜「うちは……元々二軍《セカンドクラス》やなかったんです。もっともっと下におった。能力者でもなかった。ほんで、去年のことや。《レベルアッパー》っちゅうわけわからんもんが流行って、うちもそれに便乗した」

怜「そしたら、見事に意識不明の重態や。入院して、いろんな人に迷惑かけましたわ……せやけど、せやけどな!」

怜「そんな……《レベルアッパー》とかいう眉唾に手を出したくなるくらい、憧れがあってん! 二軍《セカンドクラス》や上位ナンバー、能力者っちゅうもんに、どんな目に遭ってもええからなってみたかったんや!」

怜「末原さんたちは……うちから見れば、雲の上の人。愛宕さんや白水さんと同じ、二軍《セカンドクラス》で活躍する、学園都市最高クラスの雀士や」

怜「それが……たった一人いなくなっただけで、二軍《セカンドクラス》に残るんも危ういなんて――そんな弱気なこと、言わんといてください……!!」

怜「去年のうちみたいな……《レベルアッパー》なんてもんに手を出すしかなかった、弱くて、力もなくて、何一つ思い通りにできひん……そんな下位クラスの有象無象の――憧れの人であってくださいよっ!!」

恭子「……園城寺さん……」

怜「それに、愛宕さんや白水さんにも、目に物見せたりましょうよ。自分らが去ったチームは、こんな強かったんやて。
 それこそ、愛宕さんや白水さんたちに勝って、がつーんと言ってやりましょ。なんで抜けたんやアホ!! 抜けへんかったらうちらと優勝できたのに、ってな!!」

 ガラッ

姫子「…………その話、悪くなかとです。園城寺先輩」

和「つ、鶴田先輩! 休んでいなくていいんですか!?」

姫子「あいがと、原村さん。ばってん、いつまでもメソメソしとっても、そいこそ哩先輩に笑われったい。哩先輩のことば思うなら、私も……覚悟ば決めんといかんやろ。
 そうやなかとですか。みなさん、今の話聞こえとっとですよね? 《新道寺》のみんなも、《姫松》の皆さんも……!!」

 ワラワラ ガヤガヤ

美子「姫子……」

仁美「一番辛かはあんたやろ……」

友清「園城寺せんぱいの話に乗っちゃったら、白水せんぱいの敵になっちゃうってこととですよー? 姫子せんぱいは、それでもよかとですかー……?」

姫子「よかよ。私は今まで……哩先輩に甘えてばっかやった。哩先輩は私の一つ上やけん、いつも私の行く先で待っとうてくれた。私はずっと……哩先輩の私のことば見つけて、近くに来てくれるんば待っとっただけと。
 そいけん……今度は私が、哩先輩んとこに行っちゃる。哩先輩に勝って、やっぱり姫子の一番って……言わせちゃる!!」

怜「……よう言うたな、レベル5の第四位――《約束の鍵》」

姫子「あなたのおかげと……レベル5の第五位――《一巡先を見る者》」

怜「ほな、《姫松》の皆さんはどや!? そこにおるんやろ!?」

 ワラワラ ガヤガヤ

絹恵「……お姉ちゃん……」

浩子「絹ちゃん!? 立って大丈夫なんか? 無理せんと寝とき!」

絹恵「……ええんよ、浩ちゃん。お姉ちゃんならきっと、こんなとき、なに泣いてんねん、しゃきっとせんか――って言うと思うわ」

浩子「絹ちゃん……」

絹恵「なあ、鶴田さん……」

姫子「……なんや?」

絹恵「自分は……強いな。うちは――うちは、お姉ちゃんと戦うて考えただけで、震えが止まらん。勝てる気もせん。お姉ちゃんは……うちの憧れで、目標で、夢で……とにかく全てや。
 やから……うちは、お姉ちゃんと戦っても……間違いなく負ける。私は……皆さんの力になれへん」

姫子「愛宕さん……」

絹恵「やから……お姉ちゃんたちを倒すんは、自分に任せるで、鶴田さん。《姫松》からは……せやな、漫ちゃん、出られるか?」

漫「う、うち……? やけど、絹ちゃんは――」

絹恵「うちはええねん。負ける思うてる人間がチームにおっても、足引っ張るだけやろ。それに、漫ちゃんは総合獲得点でお姉ちゃんに勝っとる。《姫松》で唯一の能力者――レベル4の《導火線》……白糸台の《生ける伝説》や。
 本気でお姉ちゃんたちに勝つつもりでチーム組むんなら、漫ちゃんのほうがええ。真瀬先輩も、末原先輩も、そう思いますやんな?」

恭子「確かに……漫ちゃんは、《姫松》の先鋒や。他のチームなら、エースポジション。中堅で要の洋榎を除けば、《姫松》のエースは漫ちゃんっちゅうことになる」

由子「博打になるけど……より多く点を稼ぎたいなら、漫のほうが適任なのよー」

絹恵「そういうことや、鶴田さん、園城寺先輩。《姫松》からは……漫ちゃんが参戦します。漫ちゃんなら、お姉ちゃんたちとの勝負――きっと力になります。本当に、強いんやから、漫ちゃんは……」

漫「う、うちは! 《姫松》から出るべきなんは……! 本当に強いんは、絹ちゃんやと思いますっ!!」

絹恵「す、漫ちゃん……?」

浩子「…………うちも、そう思いまっせ。上重さんは、確かに火力のある能力者やけど、ムラがある。そのムラをカバーしとるんは、絹ちゃんや!
 《姫松》は……エースの洋ちゃん、参謀の末原先輩、遊撃の真瀬先輩、それに裏エースの上重さん・絹ちゃんコンビ。そういうチーム構成やと分析しとりましたが、ちゃいますか、末原先輩!?」

恭子「それは……そうや。漫ちゃんが不安定な分、絹ちゃんはド安定。二人合わせての収支で必ずプラスになるようバランスを保っとる……」

絹恵「せ、せやけど、うちは補助で、アタッカーは漫ちゃんのほうですやん!!」

初美「……そうですかねー。少なくとも私は、打って厄介だと思ったのは、妹さんのほうでしたけどねー。ですよねー、和?」

和「はい。私と薄墨先輩と愛宕先輩は、過去一度だけお手合わせをしたことがありますが、とても苦労したのを覚えています。
 薄墨先輩はわけのわからないオカルトを信望して隙だらけだったのに対し、愛宕先輩は終始ブレがなく、強かった」

絹恵「う、うちは――」

漫「絹ちゃん。本当の意味で、先輩を倒すんは、やっぱり妹の絹ちゃんにしかできひんと、うちは思う。《姫松》全員の気持ち――先輩に届けるんは、絹ちゃんの役目やと思うんや。だから……頼むで……!!」

絹恵「漫……ちゃん」

姫子「なあ、愛宕さん」ギュ

絹恵「あっ……鶴田さん。手が――」

姫子「感じるやろ? 私も……震えとう。恐か気持ちは、愛宕さんと一緒と。愛宕さんは、お姉さんに敵わへん言うてたけど、私も正直、哩先輩には敵わんと思っとうよ。
 やって、私のレベル5の力は……哩先輩のおらんと何もできんけん。先輩のいなくなっとう今――私はレベル0同然と。ばってん……どんなに力ば失っても、自信ば失っても……先輩に一言言いたか気持ちは変わらん。
 愛宕さんも――そうやろ?」

絹恵「う……うちは……うちかて!! お姉ちゃんに会いたいわっ!! 会って、何してんねん、ホンマふざけんなこのドアホって……言いたいわっ!!」

姫子「その気持ちがあれば……十分と。私と一緒に、戦ってくれんか……愛宕さん」

絹恵「鶴田さん……」

怜「愛宕さん、安心しいや。そもそもな、チームには既にこのレベル5の園城寺怜がおんねん。ポイントゲッターは任せてーな。
 せやから、うちも、チームのバランスを考えるなら、愛宕さんみたいなタイプの人がおったほうがええと思う。どうやろ、船久保さん、末原さん」

浩子「同感ですよ、園城寺先輩」

恭子「せやな……レベル5で上位ナンバーの園城寺さんがおるんやったら、浮き沈みの激しい漫ちゃんは、かえってお荷物になるかもしれへんな」

怜「決まりや。一緒にお姉さんとこ行こか。行って、思うてること全部言うたらええよ、愛宕さん!」

絹恵「園城寺先輩……!」

怜「さーて。これで三人や! 言い出しっぺのうち、チーム《新道寺》代表の鶴田さん、チーム《姫松》代表の愛宕さん。ほんで、あと二人……誰か、失踪五人組をぶっ倒したいやつはおるか?」

美子「私らは……」

仁美「姫子に任せったい」

友清「頑張ってくださいとですっ、姫子せんぱい!」

姫子「みんな……」

恭子「洋榎のことは自分に任せたで、絹ちゃん」

由子「のよー」

漫「がつーんとやったってや、絹ちゃん!」

絹恵「……わかりました」

怜「ほな、船久保さん。自分、出るか? 愛宕の洋榎さんとは、浅い縁でもないんやろ?
 去年の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》のファイナリストの一人である船久保さんなら、実力は申し分ない。風紀委員を代表して、失踪した連中に説教したってよ」

浩子「園城寺先輩……アホなこと言わんといてください。それを言うなら、うちよりも適任がおりますわ。我らが風紀委員長……《一桁ナンバー》にして《最凶》の大能力者、《悪石の巫女》――薄墨初美先輩がな」

初美「まっ、仕方ないですねー。五人も失踪なんて大事件、風紀委員長として放っておくわけにもいかないですしー。何よりあの《最悪》の放蕩っぷりには、いい加減堪忍袋がブッチですよー。私でよければ、力になるですー」

姫子「風紀委員長……願ってもなか強力な味方と」

絹恵「よろしくお願いします」

怜「ほんで……あと一人やけど、自分はどないする、和?」

和「薄墨先輩が風紀委員長として協力するなら、私が出る意味はさほどないでしょう。先輩は頭の固いオカルト信者ですけど、麻雀の成績が優秀なのは知っているつもりです」

怜「麻雀の成績で言うなら……自分も抜群やろ。なあ、和。否――《のどっち》!!」

漫「ええっ!? あ、あの……電脳世界最強の《のどっち》!? そんな!? あれって、学園都市が用意したプログラムなんやろ!? ネト麻最強の座を譲らへん守護天使《ゴールキーパー》言うて!!」

和「ま、まあ……ネット麻雀には、確かにそこそこ自信がありますが。で、でも、私はリアルではさほど強くありませんし、チーム戦にも不慣れで……」

浩子「やからこそ、出るんやろ。薄墨先輩は来年おらへん。できることなら、薄墨先輩級の強さをもった雀士が、来年以降も風紀委員におってほしいとこや。うちはその器やない。せやけど……和、自分なら、きっと大丈夫。せっかくやし、ここで経験積んできたらええやん」

和「そんな……そんな理由で、この大事な戦いのチームメンバーを決めていいんですか? 私ははっきり言って、部外者です。もっと、いなくなった方々への想いが強い方のほうが……」

姫子「私はよかよ。風紀委員さんには、私たち全員がお世話になったと。自棄になっとったところば助けてもらった上に、先輩たちと正面から向き合う道まで示してくれた。後輩育成が恩返しになるんやったら、いくらでも協力すると」

絹「それに、《のどっち》がチームメンバーにおるんは心強い。もちろん、うちはリアルの原村さんの強さも知ってるつもりや。去年の《インターミドルチャンピオン》……味方になってくれるんやったら、こんな有難い話はない」

怜「やって。どないする、和?」

和「……わかりました。よくよく考えたら、園城寺先輩や薄墨先輩のお目付け役が必要ですもんね。ありもしないオカルト現象にかまけてお二人が暴走して……《新道寺》の皆さんや《姫松》の皆さんに迷惑がかかってからでは遅いです。
 風紀委員の一年生として、お二人のことは、私がしっかり見張らせていただきます」

怜「うちの一発率を見てもそんなこと言うんかいなー」

初美「私の四喜和だって見てるはずなんですけどねー」

和「偶然です。たまたまです」

怜「ま、それはさておき、やることは決まったな。うちら五人は、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》サイドからアタックをかける。
 船久保さんは、風紀委員の他のメンバーさんと、いなくなった人らの捜索。《新道寺》と《姫松》の皆さんは、適宜それに協力していただくっちゅうことで……ええんかな?」

和「っていうか、なんで無関係でしかも一般人の園城寺先輩が仕切ってるんですか」

怜「自ら首を突っ込んだんや。事件解決までは、皆さんと一心同体でいさせてや。それに、風紀委員さんには《レベルアッパー》事件のときの恩もある。その結果オーライで得たレベル5の力……今こそ皆さんのために使いたい。あかんか?」

和「いえ、私は構いませんが……」

 ピピピピ

初美「おっと失礼、電話ですー……っと!? これはこれは……噂をすれば、二年前のクラス対抗戦――我らが一年三組のリーダーからですよーっ!
 はいはーい、こちら薄墨ハッちゃんですー! いやー画面見てびっくりしたですよー! 久しぶりですねー!! 最近研究のほうは進んで――えっ? それは……本当ですかー……?」

和「?」

初美「…………わかったですー。今すぐ現場に行ってみるですねー。あ、病院のほうは……わかりましたですよー。そっちはそっちで後から伺うですー。では、連絡どーもー」ピッ

浩子「薄墨先輩、どうかしましたか?」

初美「暴行事件ですよー。皆さんのほうの失踪事件は、ひとまず、園城寺さんの案で動く感じでいいですねー。まったく……次から次へと、今日はどうなってるですー。というわけで、浩子はここで待機&指示。和は、私と出動ですよー」

和「わかりました。では、皆さん、ちょっとバタバタしてすいませんが、私たちは一旦出ます。何かあれば船久保先輩に言ってください。では」

浩子「気ぃつけてくださいよ、薄墨先輩、それに和も」

和「はい。では、薄墨先輩、行きましょう」

初美「はいですよー」

 ――――――

 ――――

 ――

ご覧いただきありがとうございました。

今日はここまでです。次に現れるのは週末かと思われます。

気になった方がいるかどうかはわかりませんが、このSSでは、《新道寺》の友清さんが一年生となっております(鶴田さんが呼び捨てにしていただけで二年生とは明言されていないはず……たぶん)。

特に深い意味はありません。方言&後輩キャラが書きたかっただけです。

では、失礼しました。

 ――現場――

初美「あー、あー。こちら現場到着ですー。血痕はあるですけどー、手がかりになりそうな物は残ってないですー。そっちは、何か新しい情報入ったですかー?」

浩子『病院のほうに連絡しました。誠子――亦野さんは、ひとまず命に別状はないそうです』

初美「それは何よりですー」

浩子『あと……なんや、弘世菫の部屋付近で、学生同士が大規模な暴動を起こしとるそうです。たぶんやけど、これ、チーム《虎姫》解散と無関係ではないと思いますわ。
 気になって宮永照と渋谷尭深の安否を確認してみたんですが、渋谷尭深のほうはいたって無事。……なんやけど、宮永照が、連絡が取れへんのです。目撃者の話やと、第21学区の山奥に行ったとか……』

初美「風紀委員総出で事に当たるです。そっちの指揮も任せたですよー、浩子」

浩子『了解です。……と、別件かもしれへんのですけど』

初美「なんですかー?」

浩子『なんや、あちこちの雀荘で、集団昏倒事件が起きとるそうです。最初、一件二件やったんですが、一般の生徒から知らせがあったんですわ。
 で、気になって何人か走らせたところ……似たような死屍累々の雀荘がいくつも見つかりまして。
 それも……普段からあまり素行のよくないやつらが集まっとるところばっかなんです。風紀委員会のブラックリストに載っとる生徒も、何人か混じってますわ』

初美「なんなんですかー、それ?」

浩子『わかりません。ほんで……さらに別件なんですけど、ブラックリストに載ってるところを虱潰しに当たっていったら、またとんでもない事実がわかりまして』

初美「なんですかー?」

浩子『あの学園都市最大派閥のスキルアウト――うちとタメの染谷さんっちゅーんがリーダーしてはったところなんですけど……それが、つい昨日、壊滅しよったらしいんです』

初美「はあー?」

浩子『詳しいことはわかっていませんが、何者かによってメンバーが片っ端から襲われたそうです。外傷はないんですが……みんな恐慌状態になっとって……その、集団昏倒事件の被害者と似た症状を起こしとるんですわ。
 なんや、化け物とでも麻雀を打ったような……とでも言えばいいんでしょうか』

初美「芋づるですよー! 何がどうなってやがるですかー、この街は!!」

浩子『化け物と言えば、昼間、第7学区のショッピングモールで、例の《魔王》らしき雀士が現れよったんですわ。ちょうど灼と遊んどったときやったんですけど、なんや、ランクS級のどえらい支配力の衝突があって、余波で何人か失神者が出てそらもう大騒ぎ――』

初美「過ぎたことは放っておくですー!」

浩子『――!? き、緊急連絡です!! 第19学区で大規模な停電!! これ……さては《荒城》の《月》――あの《修羅》……ッ!! そっか、今日は満月か……ホンマはた迷惑なやっちゃなあいつ!!』

初美「それも放っておくですー!!」

浩子『ね、猫の手も借りたい状況やわ……えっ? あ、いや……でも……』

初美「どうしたですかー、浩子」

浩子『《新道寺》と《姫松》の方々が、手伝えることがあれば、と』

初美「ダメですー。一般人は大人しくしててくださいですよー」

浩子『だ、そうです。こっちは大丈夫ですから、皆さんは休んで――ちょい、待って! あかん!! 絹ちゃん、鶴田さん!?』

初美「浩子!?」

浩子『しもた……うちとしたことが……』

初美「何があったんですかー!?」

浩子『パソの画面を見られてもうたみたいや……。集団昏倒事件の目撃証言の中に、いくつかあったんですわ。洋ちゃんや白水先輩らしき人物を見たって……バレへんようにしとったのに……』

初美「仕方ないですねー。優先順位は変更ですー。出ていったのは、愛宕さんと鶴田さんだけですかー?」

浩子『はい……すんません。行った場所はわかってます。薄墨先輩と和は、絹ちゃんたちの保護に向かってください』

初美「わかったですー。場所は?」

浩子『場所は――』

 ――とある地下雀荘

和「うわっ、なんですか。人があちこちに倒れて……」

初美「ここも集団昏倒現場ですかー。ま、浩子に連絡はしたですー。この人たちのことはそっちに任せるとして、私たちは鶴田さんと愛宕さんの保護をするですよー」

和「あっ、薄墨先輩、奥にもう一部屋あるみたいです……」

 ガチャ キイイイ

姫子・絹恵「あっ……」

和「先輩、お二人を発見しました」

初美「見ればわかるですー」

姫子・絹恵「原村さん……それに、薄墨先輩も……」

初美「さあ、二人とも、帰るですよー」

姫子「ごめんなさい……また勝手なことして、迷惑ば……」

絹恵「せやけど、どうしても会いたくて……いてもたっても……」

初美「気持ちはわかるですけどー……。って、それはなんですかー? 打ち掛けの雀卓……?」

姫子「ああ……これ、間違いなかとです。哩先輩の打ち筋と。先輩の……さっきまで、ここで麻雀ば打ってた……」

絹恵「こっちは、お姉ちゃんや。同卓しとったんや。今の今まで……ここに、お姉ちゃんが……」

初美「……二人が言うなら、きっとそうなんですねー。ちなみにですけどー、二人とも、牌や卓には触ってないですよねー?」

姫子・絹恵「はい」

初美「オッケーですー。じゃ、和。一応、この打ち掛けの雀卓、写真取っておくですよー」

和「はい」パシャリ

初美「さ、二人とも。今日は帰るですー。ひとまず、愛宕さんや白水さんが、麻雀を打てるくらいに元気だってことはわかったんですー。あとは、私たちと一緒にトーナメントに出て、そこで決着つけるですー」

絹恵「はい……重ね重ねすいませんでした……」

姫子「ひあっ!!?」ビビクンッ

和「つ、鶴田先輩……?」

姫子「せ、先輩と……! 哩先輩の近くにおると!!」

和「は?」

姫子「先輩ッ!!」ダッ

和「待っ――うわっ!?」

絹恵「お、お姉ちゃん……!!」ダッ

初美「ひゃわっ……!? もううううう、困った子たちですー!! 追うですよー、和!!」

和「ふ、船久保先輩には!? 連絡しなくていいですか!?」

初美「そんな悠長なことしてられないですー! あの二人をとっ捕まえてから事後報告すればいいですよー! 今はとにかく見失ったら負けですー!!」

和「わかりましたっ!!」

 ――別の雀荘

姫子「哩先輩……!!」バァァァン

絹恵「はぁ、はぁ――お姉ちゃんっ!!」

姫子「……誰も……おらん……」

絹恵「そんな……!?」

 ダッダッダッ

初美「ぷっはー、やっと追いついたですー。はいはーい、二人ともそこまでですよー。和、浩子に報告ですー」

和「わかりました」ピピピッ

姫子「哩先輩……絶対に、この近くに……!!」

絹恵「あっ、ここも、奥に部屋が――」

初美「ちょ、だから二人ともー!!」

 ダッダッダッ ガチャッ

姫子・絹恵「こい(れ)は……!?」

初美「……ったく、また一歩、遅かったようですねー」

絹恵「打ち掛けの雀卓……」

姫子「まだ……哩先輩の匂いの残っとう……」

初美「和、これも写真撮るですよー」

和「はい」パシャリ

初美「二人とも、いい加減にしないと私も実力行使に出るですよー? お願いですからー、いい子いい子にしててくださいですー」

姫子・絹恵「ごめんなさい……」

和「…………あれ?」

初美「どうしたですかー、和?」

和「この雀卓……妙です」

初美「何がですかー? よくある打ち掛けの雀卓じゃないですかー?」

和「それはそうなんですけど……えっと、あっ、わかりました!」

初美「和?」

和「薄墨先輩、これが、向こうの雀荘で撮った雀卓の写真です。よく見てください。明らかに、目の前の雀卓と、違うところがありますよね?」

初美「……? わからないですねー」

和「一目でわかる違いですよ。さっきの雀卓では、手牌が伏せられていませんでした。こっちでは……手牌が伏せられています」

初美「ああっ!?」

和「薄墨先輩……この違い、どう思います? 私は……結論は一つだと思います」

初美「聞かせるですー、和」

和「はい。先ほどの雀卓は、手牌が伏せられていなかった。それはつまり、鶴田先輩たちが駆け込んでくる前に、なんらかの手段でそれに気付いた面子が、対局を放棄して雀荘の外に逃げた証拠。
 そして、今この部屋……この、手牌が伏せられた雀卓。これ、手牌を伏せたということは、続きを打つつもりってことですよね? 全員が席を立っても、手牌さえ伏せておけば、また対局を再開することができます。
 もし、この場から逃げるだけなら、わざわざ手牌を伏せたりなどせずに、そのまま部屋を出て行けばよかったんです。実際、さっきはそうなっていました。しかし、ここは……そうじゃない」

初美「ということは……?」

和「ここで打っていた面子――全員、この場に残っているんじゃないでしょうか?
 雀荘から逃げて対局を放棄した先ほどと違って、この場に隠れたというのなら、対局は放棄ではなく一時休止扱い――雀士として、一時休止で席を立つのなら、手牌を伏せるのがマナー。
 たぶん、物音に気付いて、ひとまず対局を中断したんでしょう。そのとき、つい普段の感覚で、手牌を伏せてしまった。そういうことじゃないでしょうか?」

初美「な、なるほどですー!」

和「……あと、これはもしかするとですけど、私たち風紀委員の通信がジャックされているのかもしれませんね。
 だとすれば、さっきは逃げることができて、今回は逃げ遅れた説明になります。私たちがこの雀荘に来ることは、船久保先輩には言ってませんでしたから」

初美「急いでたですからねー」

和「しかし……この雀荘にも、この部屋にも、出入り口は一つだけ。一体どこに――あっ!?」

初美「どうしたですー、和?」

和「見てください、薄墨先輩。これ、おかしくないですか?」

初美「どれですかー……?」

和「床にヘアピンが落ちています。が、このピン、壁に半分埋もれていますよね? ありえなくないですか? というか……これ、鶴田先輩がつけているものと同じ種類の――」

姫子「!?」

和「……ってことは、この壁がただの壁じゃなくて……あ、この本棚。やけに分厚い本ばかりだと思ったら……これ、カバーだけで、中身は空ですね。ふむ。そして、本棚の下には、小さなキャスターが付いている……と。
 となると、この本棚の後ろに――ありました、切れ目。なるほど。この壁……本棚も含めて、隠し扉になっているんですね。なら、どこかに取っ掛かりが……位置的にはこのブックエンドですか……。
 ああ、やっぱり。ここだけ埃が不自然に擦れている。ってことは、このブックエンドを、こっちにズラせ――」

 ガチャッ ギイイイイイ

和「っ!?」

初美「本棚が――動いたですー!?」

 パチパチパチパチ

?「……驚いたわ。あなた、原村和さん……だっけ。ご親族に検察官か弁護士でもいるの? はたまた名探偵の家系とか?
 本当に、心から賞賛するわ。私たちが一年生のときから使っていたこの隠れ家……この隠し扉に気付いた人間は、今まで一人もいなかったわよ」

和「あなたは……竹井学生議会長!?」

久「そう、学生議会長。初対面で私の肩書きを正しく言えた一年生は、あなたで二人目。原村和さん……あなたとは、仲良くできそうね」

姫子「竹井……久……!? あ、あんた――哩先輩ばどこにッ!!?」ダッ

久「っと、乱暴はよくないわよ、レベル5」スッ

姫子「あっ――」

久「ごめんね、少しの間でいいから、盾になってちょうだい」グググッ

姫子「痛っ……!?」ズキッ

絹恵「鶴田さん!?」

和「学生議会長ともあろう人が! 一般の生徒に手を出すなど……!?」

久「あら、先に襲ってきたのは鶴田さんのほうよ? 今だって、手を離したら何をされるかわかったもんじゃない。これは言わば、正当防衛」

初美「…………おい、《最悪》。そんな屁理屈が通ると思ってるですかー……? あんま風紀委員長をナメんなですよー……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

久「あらあら……相変わらず私には容赦ゼロなのね、《最凶》」ビリビリ

初美「五秒以内にその子を離すですー……五、四、三――」

久「はいはい、降参」パッ

姫子「っわ!?」ヨロッ

初美「鶴田さんっ!!」ダッ

久「なーんちゃってッ!!」ヒュン

初美「くっ!?」パシッ

和(は、牌を投げるなんて……なんてマナー違反をっ!!)

久「鶴田さんに気を取られたわね? 脇ががら空きよ、風紀委員長さんッ!!」ドンッ

初美「こ、の――!?」フラッ

久「ハーイ、これで出入り口は私が押さえた。形勢逆転。応援の風紀委員さんたちが来ないうちにズラかるとするわ」

絹恵「ま、待ってください! お姉ちゃんはどこに――!?」

久「ああ、洋榎の妹さんね……。残念だけど、洋榎たちは、先にその隠し扉の奥にある地下通路から逃げたわよ。鶴田さんが突っ掛かってきてくれたおかげで、比較的楽に時間を稼げたわ、ありがとね」

姫子「竹井久……あんた!!」

久「手荒な真似をしてごめんなさい。お詫びに、と言ってはあれだけど、哩と洋榎から伝言を預かってるの。聞きたい?」

姫子「聞かせんしゃい!!」

久「『私たちに会いたければ、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》ば勝ち上がって来んしゃい』『決勝までのどっかで戦うことがあれば、全力で叩き潰したるから覚悟しとき』――だそうよ」

絹恵「それなら……元よりそのつもりです! 覚悟も決まっとるッ!!」

久「あら、そうだったの? それは……とても楽しみね。健闘を祈ってるわ」

姫子「この――哩先輩ば返さんかい!!」

久「そんなことを言われても。哩は、自分の意思で私たちのチームを選んだの。勝つために、ね。悔しかったら、勝ち上がってきなさい。お互い雀士同士、溢れる想いは麻雀で語り合いましょう。じゃ、私はこれで!」

初美「こらーっ!! 待ちやがれですよー、この《最悪》ッ!!」

久「待てと言われて誰が待つのよ、《最凶》……ッ! ではでは、皆さん、この続きはトーナメントでやりましょう!! あでゅーっ!!」

 ダッダッダッ

初美「くっ――そったれですよー!!」

和「薄墨先輩、今はそれより……」

初美「……わかってるですよー。最優先事項は鶴田さんと愛宕さんの保護ですー」

和「一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》……ますます負けられなくなりましたね」

初美「端から負けるつもりはないですー。和、これからトーナメントまで、風紀委員の仕事がないときは特訓あるのみですからねー。バシバシ打つですよー」

姫子「うううぅ、哩先輩……!!」ポロポロ

絹恵「鶴田さん……気をしっかり……」ギュッ

姫子「愛宕さん……ごめんな、あいがと。愛宕さんも辛かはずやのに……」

絹恵「辛いからこそ、や。鶴田さん……トーナメントまで、お互い、頑張ろな。頑張って……強くなって、必ずお姉ちゃんたちに会うんや――!!」

姫子「愛宕……さん……」ウルウル

絹恵「絹恵でええよ。なんや、愛宕さんやと、お姉ちゃんと被ってまうし」

姫子「そいたら……私のことも、姫子でよかと」

絹恵「姫子……これからトーナメントまで、よろしくな。まあ、言うても、うちは能力者やないし、《姫松》の中でも五番手で、ホンマ大して強いわけでもあらへんから、頼りにはならへんと思うけど……」

姫子「そいば言うたら、私なんて、哩先輩のおらんとなんの力も使えん。能力ば使わずに打ったこともほとんどなか。足ば引っ張ってしまうと思うばってん……私、死ぬ気で練習するけんな……!」

絹恵「せやね……今は、とにかく前に、とにかく上に、や! 進み続ければ、いつかはお姉ちゃんたちに会えるんやから。そやろ、姫子?」

姫子「ああ……一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》ば勝ち上がって、哩先輩たちに会って、そして――そこで絶対に先輩たちに勝とうな……絹恵!!」

絹恵「うんっ、勝ったろーなっ!! 勝って、がつーんと言ったんねん!!」

姫子「そいまで……きっと、辛かこと、苦しかこと、たくさんあっと思うばってん――」

絹恵・姫子「どんな(どがん)辛い(か)ことが(の)あっても、苦しい(か)ことが(の)あっても、二人で乗り越えるんや(と)!!」

絹恵「姫子……」ギュ

姫子「絹恵――」ギュ

絹恵・姫子「約束や(と)……ッ!!」

初美「……ひとまず、落ち着いた感じですかねー? 二人とも、立てそうだったら、立ってくださいですー。風紀委員第一七七支部へ戻るですよー」

絹恵・姫子「……はい、本当にご迷惑を(ば)おかけしました」ペコリッ

和「仕事ですから、お気になさらず。それに、これからは一緒のチームで戦うんです。お互い、遠慮はなしでいきましょう」

絹恵・姫子「原村さん……」

初美「あーあー、浩子ですかー? こっちは大丈夫ですー。今から帰るですよー。で、そっちはどうですー? ……ぼちぼち? ま、それならいいですかねー。はーい。ではではー」ピッ

和「あれ? 竹井学生議会長のことはいいんですか?」

初美「あの《最悪》は並みの風紀委員にどうこうできるやつじゃないんですー。ま、これだけ派手にやらかしたんですからー、しばらくは大人しくしてるはずですー。とりあえず今は放っておくですよー。今は――ですけどー……!!」ゴッ

和「薄墨先輩……?」

初美「あー……霞よりムカつくやつがいるなんて世の中広いですよー。竹井久――本当に、あいつだけは許さないですー……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絹恵・姫子(ひっ!?)ゾワッ

初美「あいつの言う通りにするのは癪ですけどー、諸々の決着はトーナメントでつけるですー。骨も残さず燃やしてやるですよー……あの《最悪》が……ッ!!」

和「先輩、そんな言葉遣いしたら、めっ、ですよ?」

初美「私を子供扱いするなですー!?」ガビーン

 ――――――

 ――――

 ――

 ――二週間後

怜「っちゅーわけで、やっとこチーム申請や。あれからてんやわんややったもんなー、風紀委員会」

和「はい。あちこちで集団昏倒事件が起きて……その対応でいっぱいいっぱいでしたよ」

初美「ま、おかげで、今までグレーだった連中もわんさかしょっぴけたですー。しばらくは風紀委員の出番もなくなるってもんですねー。心置きなくトーナメントに臨めるですよー」

姫子「絶対に勝ち上がって……哩先輩たちにも勝つとよ、絹恵!」

絹恵「せやな、姫子っ!!」

怜「ま、末原さんや江崎さんたちも、風紀委員の船久保さんや鷺森さん、狩宿さんや池田さんを助っ人に入れて、混成チームでクラス選別戦を乗り切るゆーてたからな。たぶん心配は要らへんやろ」

和「私たちは……二軍《セカンドクラス》に残るだけでは終われない、ですよね」

初美「当然ですー。一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》……あの竹井と愉快な仲間たちをぶちのめすまでは、負けるわけにはいかないですよー」

姫子「もし、ブロックの反対になったら、そんときは――」

絹恵「勝って勝って勝ちまくる。決勝まで行けば、必ずどっかで会えるんやから」

怜「おーおー。二人ともええ顔になったなー。それでこそ、うちの憧れた二軍《セカンドクラス》の雀士やで。そんなん中に混ざれるなんて、夢みたいやわ。最高に嬉しい。ホンマ……生きててよかったっ!」

和「園城寺先輩……」

初美「頼りにしてるですよー。チームリーダー、《一巡先を見る者》」

怜「任せときっ!! うちがみんなの未来を切り開いたるわ!! ほな……全員覚悟はばっちり決まっとるよな!? 負けられへん戦いの始まり始まりや――気張って行くでッ!!」

絹恵・姫子・和・初美「おおおおっ!!」

 ――理事長室

恒子「おっ、《アイテム》と《スクール》に遅れること一週間。ついにこの子たちも名乗りを上げてきたね。チーム《新約》……これは竹井さんたちを意識してつけたのかなー」ポン

健夜「どうだろうね。っていうか、さすが竹井さん……私の目的をよくわかってる。《アイテム》の松実玄さんと神代さん、それに園城寺さんと鶴田さん。これで、役者は揃った。絶対能力進化《レベル6シフト》計画に必要な役者がね」

恒子「樹形図の設計者《ツリーダイアグラム》の演算によれば、レベル5の第一位――《通行止め》の花田さんが、この一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》の《頂点》に立ったとき……」

健夜「彼女の能力は――《神の領域の能力》へ……《絶対能力》へと進化する」

恒子「わくわくするよーっ!」

健夜「ま、結果はわからないけど。まだ申請してきてない最後の一チームに、全部パーにされる可能性もある。そうでなくとも、一年生ばかりの《煌星》がトーナメントを勝ち上がれるかどうかは、微妙なところだから……」

恒子「にしても、《絶対能力》かぁー」

健夜「《神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの》――もし、花田さんがそうなったら、ぜひとも対局してみたいね」

恒子「勝ったら、神様に会えるかもよ?」

健夜「神様か。んー……麻雀強いかな……」

恒子「神様と麻雀する気だこの人!?」

健夜「えー? だって他に何するのー?」

恒子「色々あるじゃん。この世の真理を見せてもらう、とか! お願いを叶えてもらう、とか!!」

健夜「お願い……」

恒子「若かりしあの頃に戻してください、ってお願いしたらいいよ! すこやんってば四十目前だから!!」

健夜「アラサーだよっ!! もうこのオチ飽きたよっ!!?」

恒子「はいはい、お後がよろしいようでー」

     [一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》まで、あと一ヶ月半]

ご覧いただきありがとうございました。

今日はここまでです。次に現れるのは最速で明日、でなければ来週の平日のどこかです。

チーム結成編は、次の八チーム目でおしまいです。なるべく多くの人たちに活躍してほしいのですが、主にスポットが当たるのは、結成編に登場した八チーム四十人となります。

また、誠に申し訳ないことに、プロットを書いたのが、辻垣内さんにまだ侮る気持ちが残っていた頃なので、有珠山メンバー及び臨海メンバーはほとんど出てきません。出てきたとしても原作の設定が反映されない場合があります。ご了承ください。

次回は、元ネタの主人公に相当する人物が登場します。お楽しみいただければ幸いですが、その幻想をぶっ殺す可能性もあります。ご注意ください。

では、失礼しました。以下、現在のチーム結成状況です。

 ――

《チーム名》:リーダー、メンバー×4(名前順)

《煌星》:花田煌☆、大星淡★、東横桃子、宮永咲★、森垣友香

《劫初》:弘世菫、天江衣★、荒川憩、エイスリン=ウィッシュアート、辻垣内智葉

《豊穣》:渋谷尭深☆、石戸霞、清水谷竜華、福路美穂子、松実宥

《永代》:宮永照★、井上純、臼沢塞、染谷まこ、高鴨穏乃☆

《久遠》:竹井久、愛宕洋榎、新子憧、小瀬川白望、白水哩

《逢天》:二条泉、姉帯豊音、神代小蒔★、松実玄☆、龍門渕透華

《新約》:園城寺怜☆、愛宕絹恵、薄墨初美、鶴田姫子☆、原村和

(※ ☆=レベル5、★=ランクS)

 ――日曜・朝

 ピコピコ ピコピコ ロン

?(おっ、と……? ははぁ……そっちで来たか。一本取られたな。十連勝を目前に敗北とは。不幸だ――というほど有意水準をオーバーしているわけでもない。いたって妥当だ)

?(さて、キリがいいし、麻雀はこれくらいにして……朝飯にしようか)スタスタ ガチャッ

?(うっ、しまった。食材がないのをすっかり忘れていた……。このパンは、残念、賞味期限切れ)ポイッ

?(三度の飯より麻雀が好きというのも考えものだな。気を取り直して、布団でも干そう)スタスタ ガラッ

 ペラーン

?「えっと…………?」

?「」グデー

?(落ち着け! こういうときこそクールにいこう。さて、どういうことだ? なぜ私のベランダに人が干されている!? っていうか誰だ!?)

?「!!」ガバッ

?(あ、起きた)

?「!!」ニパアアア

?(すっごい笑顔になってるけどー!?)

?「私、ネリー=ヴィルサラーゼ。あなたは?」

?「こ――小走やえ……」

ネリー「やえ! 初めまして!!」

やえ「お、おぅ……」

ネリー「お金くれると嬉しいなっ!!」

やえ(不幸だー!!)

 ――――

やえ「なるほど。つまり、かくかくしかじかで、まるまるくまぐまなわけか」

ネリー「大胆に省いたねー」

やえ「ごちゃごちゃと枝葉末節の話をしても意味がないしな。大事なことは四つ。一つ、お前は不法入国してここに来た。二つ、とある組織に追われている。三つ、捕まったら国に帰らなければならない。四つ、お前はそれが嫌だ」

ネリー「そんなとこ」

やえ「で、お前はこれからどうするつもりなんだ? 追っ手をどうにかできたところで、そもそも不法入国してるんだから、ここに留まることは難しいぞ」

ネリー「それはほら、天下の学園都市だから、なんとかならない?」

やえ「学園都市をなんだと思ってる……」

ネリー「学園都市――科学《デジタル》と能力《オカルト》が共存する、高校生雀士のための街。世界最高峰の雀士養成所っ!」

やえ「ま、高校生の立場からすれば、そうだな。で、その天下の学園都市で、何をどうするつもりなんだよ」

ネリー「私、麻雀強いっ!! だから、お金なくても、大丈夫っ!!」

やえ「ハッ!」

ネリー「あー!? いま鼻で笑った!? すっごいバカにした感じで鼻で笑ったー!?」

やえ「いや、とんだニワカが転がり込んできたと思ってな。この学園都市で麻雀が強いなど……そんな発言をしていいのは、学園都市一万人の《頂点》――宮永照、ただ一人だけだ」

ネリー「テル=ミヤナガ……聞いたことあるんだよ。極東に、私と同じくらい強い雀士がいるって!」

やえ「おいおい、そういう品のないジョークはやめてくれよ」

ネリー「本当だって! そ、そりゃ直接打ったことはないけどさっ!!」

やえ「わかったわかった。そういうことにしといてやる」

ネリー「なんで信じてくれないのさー!?」

やえ「信じろってほうが無理がある。それに、私は『ネリー=ヴィルサラーゼ』という雀士を知らん。本当に宮永照と同じくらい強い雀士がいるのなら、たとえ国外の雀士でもアマチュアの雀士でも、私の耳に入ってくるはずだ」

ネリー「で、でも、私ってば秘中の秘だから! あんまり表立って麻雀するわけにはいかなくって!!」

やえ「……なら、能力は? それに支配力は? 多少なりとも学園都市の知識があるなら知っているはずだ。能力のレベルは0から5、支配力のランクはFからSまである。お前は一体どれくらいの力を持っているんだ?」

ネリー「能力――《魔術》のことね。残念だけど、私に固有魔術はない」

やえ「能力ナシ……レベル0か」

ネリー「あと……支配力――《魔力》だっけ。これも、残念ながら、全然。私には、一般人レベルの魔力しかない」

やえ「レベル0でランクFだと? 話にならないな。それでよく、宮永照と同じくらい強いなどと嘯けたものだ」

ネリー「で、でも……私には、これがあるからっ!!」ピコッ

やえ「は? どういうことだ? 耳……?」

ネリー「《神の耳》――絶対音感と完全記憶能力なんだよ! 私の脳には、古今東西、10万3千局の牌譜が音楽として記憶されているっ!!」

やえ「音楽……? それは、あれか? 0から9の数字に異なった音階をつけて、例えば円周率なんかをメロディに変換することがあるが、それと同じようなものか?」

ネリー「そうなんだよっ。34種の麻雀牌に、34種の音階! 鳴きやリーチはアクセントっ! 10万3千局の牌譜は、10万3千曲の楽譜! 私の耳は――牌の旋律《こえ》を聞き分ける!!」

やえ「牌の旋律《こえ》を聞き――!?」ゾワッ

ネリー「ん? どうかしたー?」

やえ「…………オーケー、すまない。もしそれが本当なら、ニワカは私のほうだったということになる。失礼の数々を許してほしい。ついては、ちょっと確認させてほしいんだが、お前――周囲からは一体なんと呼ばれている?」

ネリー「運命奏者《フェイタライザー》!!」

やえ「……とんでもないことになったぞ……」

 ドタドタドタ

?「ああ、こんなところにいましたカ!?」

?「逃げられませんよ。あなたの服には発信機がついていますから」

?「ネリーさん、大人しく戻ってきてください」

ネリー「しまった!? もう追いつかれた……!?」

やえ「……ほう、これは驚いたな。メガン=ダヴァン、ハオ=ホェイユー、チェー=ミョンファか」

ダヴァン「えっ……? あなたは? なぜ私たちのコト?」

やえ「名乗るほどの者じゃないさ。ただ、私は麻雀界にはそれなりに詳しくてな。海外の主な雀士は把握しているつもりだ」

ダヴァン「そうデスか……。このタビは、ネリーがご迷惑をおかけしまシタ。すぐに引き取りマス。さあ、ネリー」

ネリー「やー! 私はもっと自由に麻雀が打ちたいのっ!!」

ダヴァン「我儘は困りマス。あなたは自分がどれだけ神聖な存在なのかを理解していまセン。あなたは《神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの》の素質を秘めています。
 そんなあなたを、よりにもよって、科学者《サイエンティスト》などという無粋な無信教者が跋扈する学園都市に置いていくなど……あってはならないことデス」

ネリー「嫌ったら嫌なんだよ!!」

ダヴァン「仕方ありまセン……。あまり手荒な真似はしたくありませんでしたが――ハオ、ミョンファ」

ハオ・ミョンファ「任せてください」ザッ

やえ「な、なに!? ちょ、暴力反対っ!!」

ハオ・ミョンファ「問答無用です……!」

やえ「おい、こら、ちょっと待て」バッ

ハオ・ミョンファ「!?」

ダヴァン「……一体なんの真似デス。ご心配なく、あなたの部屋を汚すようなことはしまセン。二人ともプロです」

やえ「いや、そういうことではなくてだな」

ダヴァン「……なにカ?」

やえ「嫌がっているやつを無理矢理連れて行くのは、感心しない。いいじゃないか。こいつはお前たちの組織を抜けたがってる。引き止めるのは野暮ってもんだろう」

ダヴァン「うるさいデスよ、ド素人が」

やえ「ああ? ニワカが何か言ったか?」

ネリー「あ、あの……?」

やえ「よし、決めたぞ。お前がここにいたいというのなら、好きなだけここにいろ。金がほしいなら、いくらでもくれてやる」

ネリー「マジでええええ!?」

ダヴァン「勝手な真似をされては困りマス」

やえ「それを言うなら、ここは私の部屋だ。ズカズカ上がりこんで好き放題やっているのは、そちらのほうだろう」

ダヴァン「……ハオ、ミョンファ」

やえ「おっと……いいのか? こいつはともかく、私に手を出せば国際問題になるぞ。こんな敵地のど真ん中で騒ぎを起こすのは、得策ではないと思うがな」

ダヴァン「わかりませんネ。会ったばかりのネリーに、なぜあなたがそこまで肩入れするのですカ?」

やえ「そんなのはこっちの都合だ。そんなことより、お前は言ってはいけないことを言った。この私の目の前で……科学者《サイエンティスト》をバカにした罪は重い」

ダヴァン「さてハ……あなた、まさカ……!?」

やえ「そうさ。私は学生であり研究者でもある。もちろん、私が研究しているのは、お前たちが《魔術》だとか《魔力》だとかいう――《意識的確率干渉》についてだ」

ダヴァン「なるホド、科学者でしタカ。なら、私たちはどうあっても分かり合えないようデスね。残念デス」

やえ「そうだな。原理が解明されていないだけの自然現象に、『奇跡』や『魔法』などという大層な名をつけ、それを大衆の人気取りに利用するような連中とは、一生分かり合える気がしない」

ダヴァン「ならばどうしマスか? 今ここで戦争でもしまショウか?」

やえ「戦争か……それも悪くない」

ダバン「何をするつもりデス……?」

やえ「なに、ここは学園都市。戦争をするなら、やり方は一つだろうが……!!」バッ

ネリー「うわっ!? 全自動卓!? やえって本当にお金持ちなんだね!!」

やえ「研究者として、学園都市からはかなりの額をもらっているからな」

ダヴァン「私たちと麻雀で勝負をしようというのデスか?」

やえ「そうだ。お前ら三人のうち誰か一人でも私に勝てたら、こいつは好きにしていい。ただ、もし私がお前ら全員に勝ったら、そのときは、即刻この部屋から出ていってもらう」

ダヴァン「正気デスか……? 私たちが誰なのか、知らないわけではないのでショウ?」

やえ「もちろん知っているさ。言ったろ。海外の主な雀士は把握している、と」

ダヴァン「私たちは、それなりに名の通った《魔術師》です。そんな私たち三人を相手にして、本気で勝てると思っているのデスか?」

やえ「魔術師――能力者の相手など、学園都市では日常茶飯事だ。ここは科学《デジタル》と能力《オカルト》が共存する街。能力――魔術が使えるくらい、珍しくもなんともない。無論、無能力者が能力者に勝つことも、よくあることだ」

ダヴァン「……わかりまシタ」

やえ「勝負は東南戦一回でいいな。ルールはここの標準ルールに従ってもらう。何か質問はあるか?」

ダヴァン「ないデス。ハオもミョンファも席についてくだサイ。こんな茶番はさっさと終わらせマス」

やえ「大した自信だな」

ダヴァン「なんの力も持たナイ一般人が魔術師に勝つなど不可能デス!! 《Fortis931》――我が名が最強である理由をここに証明してみせマスよ……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

やえ「驕り高ぶった魔術師《オカルティスト》が……! よかろう、お前が卓上《セカイ》の全てを思い通りにできると思っているのなら……まずはその幻想をぶっ殺す――!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ネリー(わ、私のせいで……!? え、えらいこっちゃ!!)

 東一局・親:やえ

ネリー(や、やえ! 本当に勝つつもりなの!? 私ほどじゃないけど、メグもハオもミョンファもわりと強いよっ!?)

やえ(まあまあ、そう心配しなさんな。この私を誰だと思っている)

ネリー(知らないけど……。もしかして、やえも強い魔術が使えるの!? 学園都市でいうところの、レベル5的な!?)

やえ(いや、学園都市にレベル5は六人――否、七人しかいない。私はその中には入っていない。というか、レベル0だ)

ネリー(ええ!? じゃあ、強い魔力を持っているとか!?)

やえ(支配力、か。残念ながら、これっぽっちも持ってない。平々凡々なランクFだよ)

ネリー(私のこと笑えないじゃん! え、じゃあ……もしかして、私みたいな特別な才能を持っているってこと?)

やえ(特別な才能、ね。そんなものがあれば、研究者ではなく、プロを目指していただろうな)

ネリー(じゃあどうやって勝つつもりなの!? メグもハオもミョンファも大魔術師――学園都市でいうところのレベル4! それに、魔力だって人並み以上には持ってるんだよ!?)

やえ(魔術、魔力……ね。そんなものは、まやかしだよ。誤魔化しだ)

ネリー(で、でも)

やえ(これは私の持論だが、どんなに強い魔術を使おうと、どんなに強い魔力を持っていようと、麻雀に《絶対》はない。そんなことが可能なのは、《神の領域の存在》――幻の絶対能力者《レベル6》くらいだ)

ネリー(やえ……)

やえ(たとえ魔術を使えずとも、魔力がなくとも、やってできないということはないんだよ。それを、私が見せてやる――)

やえ「リーチ……」チャ

ネリー(あっ)

やえ「ロン。12000」パラララ

ハオ「ッ!?」

やえ「どうした《魔将》……一発と裏ドラ――これがリーチの強みだ。まさか知らなかったわけではあるまい?」

ネリー(いや、もちろん、そんなことはハオだって知ってるはず。けど、今の振り込みは、単なるハオの不注意じゃない。
 やえは中国麻将の思考で手作りをして、なおかつ迷彩をかけていた。ハオが場を中国麻将特有のそれに偏らせる魔力を持ち、中国麻将固有の役で和了りやすい魔術師なのをわかった上で、ハオを狙い撃ちしたんだ……)

やえ「さあ、一本場」コロコロ

 東一局一本場・親:やえ

やえ「ロンだ。9600は9900」パラララ

ミョンファ「ッ!?」

やえ「風神《ヴァントゥール》……風牌にまつわる多才能力者《マルチスキル》だったか。その能力の一つ――他家の手牌にある風牌の種類と数を見抜く《風読》。お前の目には、私の待ちがシャボに見えたか? 残念ながら、それはハズレだ」

ネリー(索子の混一と見せかけた七対子……ドラの一筒で地獄単騎。《風読》を逆手にとるために、対々や混一を捨てたんだ。ミョンファの特性をよくわかってる)

やえ「あとはお前だけだな……メガン=ダヴァン。二本場だ」ニヤッ

 東一局二本場・親:やえ

ダヴァン(この科学者……言うだけのことはありマス。私たちのことをよく研究しているようデスね)

ダヴァン(しかし、彼女自身からは、特別な力は何も感じない。いくら科学の力で魔術を分析し、対策を立てようと、魔術や魔力を持たない一般人が私たち魔術師に勝つなどありえまセン……!!)

ダヴァン(さあ、テンパイしまシタ……次で消し炭にしてやりマス!!)タンッ

やえ「おっと、そいつは通らないな。7700は8300」パラララ

ダヴァン「なぁっ!?」

やえ「《魔女狩りの王》――メガン=ダヴァン。《捨てた牌の両隣をツモらなくなる》レベル4相当の能力。牌は灰に――とかなんとか。さながらルーン魔術が如く、捨て牌で河に陣を敷き、手牌を灼熱の業火と成す……。
 応用が利いて面白そうな力だが、その分、手牌が読みやすいのが玉に瑕だな」

ダヴァン「そんナ……!? 初対局で私の能力の弱点を突くなど! ありえまセン!!」

やえ「初対局、か。そうだな。メガン=ダヴァン、それにハオ=ホェイユー、チェー=ミョンファ……確かに、私は実物のお前たちと打つのは初めてだよ」

ダヴァン「どういうことデス……?」

やえ「私のデスク――あそこにパソコンがあるだろ。あのパソコンは、私の研究室のパソコンに繋がっていて、そこにはとある麻雀ソフトが入っている」

ダヴァン「麻雀ソフト……?」

やえ「ああ、牌譜の読み込み、対局のシミュレーション、NPCとの対戦なんかができるソフトだよ」

ダヴァン「何かと思えばただのゲームデスか、くだらない」

やえ「くだらないとは随分だな。あれこそが私の研究の要……学習型の最新AIを組み込んだ能力解析専用麻雀ソフト――通称・幻想殺し《イマジンブレイカー》」

ダヴァン「な、なんデスかそのイマジンブレイカーとやらは!?」

やえ「簡単に言えば、好きな能力者と対戦できるゲームだよ。自分が能力者になることもできるし、同じ能力を持つ者同士でも対戦できる」

ダヴァン「はぁ……!?」

やえ「ちなみに、登録されている能力者は10万3千人――とまではいかないが、学園都市の在校生・卒業生合わせて一万人、海外の主な雀士一万人、国内のプロ数千人、その他合わせて約三万人にも上る。
 もちろんその中には、《魔女狩りの王》メガン=ダヴァン、《魔将》ハオ=ホェイユー、《風神》チェー=ミョンファ……お前たちも含まれている。さらに――」

ダヴァン「なん……デスか?」

やえ「先ほど、お前たちがうちに上がり込んでくる前、私はあのパソコンで模擬対局を楽しんでいた。対戦者をランダムに選んで、計十局。私のトップ率は九割だった。
 ちなみに、トップを逃した一局は対宮永照だったのだが、それは閑話休題。重要なのは、私がトップを取った九局だ。その中の一局――なんの因果か、対戦者はお前たち三人だったよ」

ダヴァン「そ、そんなのはゲームの話デス!! 本物の私たちが負けたわけではありまセン!!」

やえ「たかがゲーム、されどゲームだ。あの《幻想殺し》の中で、お前たちの使う魔術は、細かい《制約》や能力同士の衝突による支配領域《テリトリー》のブレまで、忠実に再現される。
 それを、学習型の最新AIがスパコンの演算力で使用するんだ。そして、私は、それに勝った」

ダヴァン「……何が言いたいのデス?」

やえ「お前たちの計算能力――頭脳は、果たして、学園都市の開発した最新AIと比べてどうかな? もしAIと同等かそれ以下というのなら、AI相手にトップ率九割を達成した私には、とてもじゃないが勝てんだろうよ」

ダヴァン「ぐっ……!?」

やえ「理解したか? これが科学《デジタル》と能力《オカルト》が共存する学園都市の科学力《テクノロジー》だ。私の《幻想殺し》の前で、能力や支配力、魔術や魔力などは、ただの記号の羅列――プログラムに過ぎない」

ダヴァン「この――無信教者……!!」

やえ「なんとでも呼ぶがいい。ただ、一つだけ言っておく。科学ナメんな、魔術師《ファンタジー》」

ダヴァン「ッ!?」

やえ「お前が軽んじた科学者《サイエンティスト》の力がいかほどのものか……余すところなく見せてやろうッ!」ゴッ

ダヴァン「あなたこそ、魔術師を攻略した気になるのは早いんじゃないデスか? まだまだ……勝負はこれからデス!!」ゴッ

 東一局三本場・親:やえ

やえ「おやおや、これは大した偶然だな。ツモ」パラララ

ダヴァン・ハオ・ミョンファ「」

やえ「天和字一色大三元四暗刻――16000オールの三本付け。ハオとミョンファのトビ終了だ」

ダヴァン「はああああああ!? ありえまセン!? そんなデジタルありえまセン!!」

やえ「バカを言うな、確率的にはゼロじゃない。それすなわち、デジタル的には『ありえる』ことだ」

ダヴァン「そんな……!?」

やえ「さ、約束通り帰ってもらおうか。なに、こいつのことは悪いようにはしない。私が責任をもって世話をする」

ダヴァン「くっ……!!」

やえ「どうした。なんならもう一局打ってやろうか?」

ダヴァン「そ、それには……及びまセン。私たちにも魔術師としてのプライドがありマス。対局に負けて実力行使に出るような醜態は晒せまセン。この場はあなたの言う通りにしまショウ」

ネリー「メグ……」

ダヴァン「ネリー……あなたと一日中卓を囲んでいた幼き日々、楽しかったデス。麻雀を自由に楽しみたい――その気持ちは私たちも一緒デス。
 いつか、私たちが組織のトップに立って、ネリーが自由に打てるよう……世界を変えてみせマス。そのときは、また昔のように、彼女も交えて五人で打ちまショウ」

ネリー「メグ……!!」

ダヴァン「それから……そちらの科学者――先程の失礼な発言、撤回しマス。あなたは確かに強い雀士――科学者の中でも、信頼に足る科学者。それは認めまショウ」

やえ「光栄だな」

ダヴァン「しかし……もしネリーの身に何かあったときは、そのときこそ正真正銘の戦争デス。あなたの命はないと思ってくだサイ」

やえ「ふん、私の命の一つや二つ、くれてやるさ。こいつが運命奏者《フェイタライザー》と聞いたときから、地獄の底まで落ちる覚悟はできている」

ダヴァン「ネリーの正体に気付いて……!? ……なるホド、本当に大した科学者デス。その言葉に偽りがないことを祈ってマスよ。では、我々はこれで――」

やえ「やえ、だ」

ダヴァン「え……?」

やえ「いや、名乗りがまだだったと思ってな。私は小走やえ。何かあればよろしく頼む」

ダヴァン「ヤエ……? ヤエ……ヤ――ヤエ=コバシリッ!? まさカ!! デ、デハ! あなたがあの《神の実在》を証明しタ――!?」

やえ「そんな戯けたものを証明した覚えはない。私は無神論者だぞ」

ダヴァン「そ、そうでシタね……わかりました。いいでショウ。改めて、ネリーのこと、よろしくお願いしマス。ドクター=コバシリ」スッ

やえ「おう。任せとけ」スッ

ダヴァン「デハ、ネリー。私たちはこれデ。必ずまた会いまショウ!!」

ハオ・ミョンファ「ネリー……また……!」

ネリー「みんな……!! またいつか一緒に打とうねっ!!」

 ――――――

 ――――

 ――

やえ「ふう……ひとまず、追っ手を振り切ることには成功したな」

ネリー「あーっ! 思い出したっ!! ドクター=コバシリ!! 」

やえ「思い出したってお前……完全記憶能力はどうした」

ネリー「どうでもいい情報は引き出すのに時間がかかるんだよ!」

やえ「失礼な……」

ネリー「そっかー。いやー、私、とんでもない人のところに来ちゃったなー。やえはあのドクター=コバシリだったのかぁ」

やえ「とんでもないやつを拾ったのはこっちだっての、運命奏者《フェイタライザー》」

ネリー「…………ねえ、やえ。メグたちもいなくなったし、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないかな?」

やえ「なんのことやら」

ネリー「とぼけないでよ。さっきの天和。あれ、何か『した』よね?」

やえ「ほう……まさかバレていたとはな」

ネリー「私の耳は誤魔化せない。あんなのは――運命的にありえない」

やえ「運命的、ときたか。確率的にはありえるはずのことを、お前はないと言い切るんだな、運命奏者《フェイタライザー》」

ネリー「私の聞いた運命では、あのあと、やえは負けるはずだった。メグたちがやえを侮っていた序盤――そこで何度か奇襲に成功しても、南入するくらいには、本気になったメグたちが巻き返してくる。
 もちろん、やえが勝てる運命も、なくはなかったよ。けど、それはとてもか細い道。普通に打ってたんじゃ間違いなく踏み外す。いずれにせよ、あの天和は絶対にありえない」

やえ「ま、別に隠すようなことでもないから、タネ明かしをしてやろう。ちょっと、私がさっきまで座ってたところに座ってみろ。で、山が出てきたらサイコロを回して、牌を取っていくといい。自分が親だというつもりでな」ピッピッピッ

ネリー「うん……」ピッ コロコロ カチャカチャ

やえ「どうだ? 配牌はどうなっている?」

ネリー「あ、和了ってる……!! しかもさっきと全く一緒の手牌!?」

やえ「つまり、そういうことだ」

ネリー「どういうことー!?」

やえ「その自動卓は、一見普通の家庭用自動卓に見えるが、実は研究用の非売品でな。能力解析のために特注したものなんだ」

ネリー「えっと……幻想殺し《イマジンブレイカー》?」

やえ「そう。その自動卓は、《幻想殺し》に記録されている牌譜を、ボタン一つで現実に再現することができる。山牌の並びから賽の目に至るまで全てな。
 先ほどの天和字一色大三元四暗刻は、学園都市に七人しかいないレベル5の第三位――《ハーベストタイム》の渋谷尭深が、とある実験対局のオーラスで和了ったものだ」

ネリー「こんなイカれた和了りを実験とは言えリアルでやった人がいるんだ……っていうか、もしかしなくても、それって――」

やえ「イカサマだな」

ネリー「科学の力ってすげー!!」

やえ「もちろん、最初からそんなことをしたら疑われる。だから、三局ほど、ノーマルモードで私なりに頑張った。その布石があってこそ、イカサマがイカサマだとバレずに済んだ」

ネリー「どっちにしてもイカサマは最低だよっ!?」

やえ「どうせ公式の対局じゃない。それに、私は雀士ではなく、あくまで科学者《サイエンティスト》として喧嘩を買った。持てる科学力《テクノロジー》をフル活用して何が悪い。いずれにせよ目的は果たしたんだ、一体なんの問題がある」

ネリー「私……助けられる人を間違えたかな?」

やえ「そう言うわりには、顔がニヤけているように見えるが?」

ネリー「そりゃ……だって、ぷっ……あはははっ!! ねえ、さっきのメグの顔見た!? あんな悔しそうなメグは久しぶりに見たんだよっ!!」

やえ「悔しいだろうさ。友を奪われ、対局には完敗し、自身が忌み嫌っている科学者に頭を下げなければならなかったんだからな……。それだけお前のことを思っていたということだ。友達思いのいいやつじゃないか」

ネリー「そうだね、メグは最高の友達。そして、やえは最低のペテン師なんだよ」

やえ「有難う。運命奏者《フェイタライザー》様にそう言ってもらえるとはな。この栄誉は末代まで語り継がねばなるまい」

ネリー「ねえ、さっきから、お前とかこいつとか運命奏者《フェイタライザー》とか……私はネリー=ヴィルサラーゼ。ちゃんと覚えて?」

やえ「もちろん覚えてはいるさ。単に名前を呼ぶのが気恥ずかしかっただけだ。……ネリー。これでいいか?」

ネリー「うんっ!!」

やえ「それはそうと、ネリー。腹は減ってないか? 実は、私は朝食がまだでな。家に食材がないから、どこかへ食べに出ようと思っていたのだ。ついてくるか?」

ネリー「やえの奢り?」

やえ「ああ、好きなだけ食え」

ネリー「うっひょおおおおおおおお!!」

 ――――――

 ――――

 ――

ご覧いただきありがとうございました。

今日はここまでです。次に現れるのは来週のどこかです。

今回で渋谷さんの序列が確定しましたので、以下、レベル5の一覧です(こうして見ると阿智賀編の人ばかりですね)。

レベル5の詳しい説明は、いずれ原村さん以外の誰かがしてくれます。

なお、第六位が不明なのは、元ネタの仕様です。

 ――

 序列:名前《通称》

 第一位:花田煌《通行止め》

 第二位:松実玄《ドラゴンロード》

 第三位:渋谷尭深《ハーベストタイム》

 第四位:鶴田姫子《約束の鍵》

 第五位:園城寺怜《一巡先を見る者》

 第六位:不明

 第七位:高鴨穏乃《原石》《深山幽谷の化身》

 ――ファミレス

ネリー「うまっ!! ハンバーグっ!!」ガツガツガツガツ

やえ「(電話中)……というわけなんです、三尋木先生。どうにかなりませんか?」

咏『わっかんねー。先生は小走ちゃんが何言ってるかわっかんねー』

やえ「ですから、故あって運命奏者《フェイタライザー》を名乗る少女を拾ったんで、仮でもいいから住民登録をできませんか? 私の研究素材ということにして。噂の二人みたいに転校生、もしくは留学生という形でもいいです」

咏『あのねぃ、小走ちゃん。学園都市があの運命奏者《フェイタライザー》を囲ったなんて公にしたら、向こうの世界と戦争になるよ。それくらいは私にもわかる』

やえ「なるほど……つまり、私が個人的に匿えばいいんですね? 先生たちは何も知らなかった。わからなかった。ネリーが勝手に組織を抜け出して、勝手に私のところに居ついた。
 それなら、ネリーが学園都市にいると発覚しても、学園都市側は、管理体制の甘さを非難されるだけで済みます。
 むしろ、向こう側の、なぜ一般人に匿われているだけのネリーを取り戻せなかったのか――という組織力のなさが主な問題になるはず。これなら、両者に非がある。戦争にはなりません」

咏『いやいや、先生別に、そこまで政治的なことはわっかんねーけど。とりあえず、小鍛治理事長の許可はどうやったって下りないよ。あの人には『知らんけど』で通してもらう』

やえ「大丈夫です。ニート一人を養うくらいできますから、私が適当に面倒を見ます」

咏『小走ちゃん、やけにその子と一緒にいたがるねぃ? 能力者をデータサンプルとかプログラムとか呼ぶ小走ちゃんらしくねーじゃん? もしかして惚れた? 知らんけど』

やえ「バカなことをおっしゃらないでください、三尋木先生。そもそもネリーは無能力者です。あと、私の恋人は《幻想殺し》だけですよ」

咏『それはそれでどうかと思うよ……小走ちゃん。ま、それはいいや。小走ちゃんがその子を匿う方針でいくってのもおっけー。ただ、一つだけ、先生から提案があるんだけど』

やえ「なんですか?」

咏『小走ちゃん、その子とチームを組んで、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》に出なよ』

やえ「は……? なんの冗談ですか?」

咏『冗談じゃねぃって。小走ちゃん、公式戦には滅多に出ないけど、ガチで打てば校内順位《ナンバー》は100位以内に入れるくらい、そこそこ強いっしょ。で、そこに運命奏者《フェイタライザー》ときた。
 これは、本気で目指してもいいんじゃない? 白糸台高校麻雀部の一軍《レギュラー》ってやつをねぃ』

やえ「そんなことをしたら、ネリーが学園都市にいると、世界中にバレますよ?」

咏『それは遅かれ早かれバレるんだって。公にするのが問題なのは、学園都市の体裁がヤバいってだけ。非公式なら居所を隠しておく必要はない。
 っていうか、小走ちゃん、その子を拾ったとか言ってたけど、子猫じゃねーんだから、そりゃねーっしょ。ペテンかイカサマでも使って、向こうの魔術師から半ば無理矢理奪ったんじゃねーの? 知らんけど』

やえ「…………」

咏『ってことは、向こう側は、その子がこっちにいることを知っているわけだ。で、小走ちゃんが匿ってるだけじゃ、よく事情を知らん人には、研究のために監禁したと思われるっしょ? それってマズくない?
 小走ちゃんが研究のためにその子を匿った、ではなく、その子が学園都市で麻雀を打ちたいから小走ちゃんのとこに押しかけた、って構図を明らかにしておいたほうがよくねー? 知らんけど』

やえ「本来なら隠しておきたい存在のはずのネリーを、敢えて公の場に出すことで、ネリーの意思を前面に押し出すってことですね? 巻き込まれたのは、むしろ私のほうだ、ということにしておく」

咏『そんな感じ。ま、あとは個人的なアドバイスだけどねぃ。小走ちゃん、もう三年っしょ? 研究もいいけど、実戦もしなきゃ。逃げてばっかじゃ、研究だって行き詰まるよ。そろそろ表舞台に戻ってきなって』

やえ「……私は別に、逃げてなど……」

咏『それは本当かねぃ? 自分の部屋のパソコンに向かって、一人でNPCと模擬対局ばっかしてる今が、本当に雀士として正しい姿だと思ってる?』

やえ「少なくとも、研究者としては、正しいと思ってます」

咏『でもさ、小走ちゃん。小走ちゃんが研究者なのは、今もこれからもずっとそうじゃん。けど、小走ちゃんが学生でいられるのは、今しかねーんだぜぃ?』

やえ「…………」

咏『わっかんねーかな? 《王者》が負けっぱなしでいいのかよ、って言ってんだ』

やえ「私は――」

咏『私らが世話焼かなくても、小走ちゃんなら、学園都市の生徒名簿弄って、ネリーちゃんの偽造学生手帳を作るくらいわけないっしょ? それでエントリーしなって。
 うっかり見落としてました、ってことで、チーム申請は通るように掛け合っておくからさ』

やえ「…………考えておきます」

咏『結論は早く出したほうがいいよ。明日からチーム申請が始まる。本気で一軍《レギュラー》目指してメンバー集めるなら、今すぐにでも動き出さなきゃ』

やえ「わかってますよ。では、失礼します」

咏『楽しみにしてるからねぃ~』

やえ「………………まったく……」ピッ

ネリー「どうだった? 先生、大丈夫だって?」

やえ「……ネリー、麻雀、打ちたいか?」

ネリー「打ちたいっ! とことん打ちたい!!」

やえ「近々、学園都市で最強のチームを決めるトーナメントがあるんだ。出たいか?」

ネリー「なにそれすっげー出たい!!?」

やえ「出るからには、優勝したいわけだが」

ネリー「何を当たり前のことを言ってるの? この私がいて優勝できなかったなんてことになったら、あちこちで暴動が起こるんだよ」

やえ「大会には、あの宮永照も出てくる。それに次ぐ化け物、魔物、魑魅魍魎……とにかくヤバイのがいっぱい出てくるんだ」

ネリー「やえ、私は向こうで《神に愛された子》と呼ばれる魔術師《オカルティスト》の《頂点》だよ。誰が相手だろうと、必ずやえを優勝へ導いてあげる」

やえ「それは頼もしい」

ネリー「麻雀っ! 麻雀!! わー、久しぶりにまったく知らない人と打てるのかー!? 知らない旋律、知らない曲調、今から楽しみだよー!!」

やえ「ただ、大会に出る前に、一つクリアしなければいけない条件がある」

ネリー「んっ?」

やえ「この大会はチーム戦だ。五人一組のチーム。つまり、私とネリーと、あと他に三人のメンバーが要る。ネリーはまあ……ジョーカーだとして、私は中の上くらいの強さしかない。
 大会にはオールエース・オールジョーカーなんてふざけたチームだって出てくる。ゆえに、あと三人、少なくとも私よりは強い人間を集めなければならないんだ。実質、今日中に」

ネリー「なんで?」

やえ「明日からチーム申請が始まる。どんなにいいメンバー候補を見つけても、そいつが別のチームメンバーとして申請されていたら、後から奪うことはできん。
 そして、強いやつの大半は既にチームを組んでいるか、どのチームに入るか悩む段階にある。メンバーが正式決定してない今しか、強者を奪うチャンスはないんだ」

ネリー「お金にものを言わせることはできないの?」

やえ「誰も彼もがお前と同じだと思うなよ……。えっとだな、基本的にここの学生は、最低限の生活は保障されている。金で動くやつは少ない。特に、本当に強いやつはな」

ネリー「ヤバくない?」

やえ「一応、私のクラスメイトで一人、たぶん誘えばオッケーするやつがいるから、残りは二人」

ネリー「そのクラスメイト、強いの?」

やえ「私と打てば、十中八九あいつが勝つ。能力者ではないから、私の《幻想殺し》が効かないんだ。ま、効いたところで勝てる気がしないがな」

ネリー「じゃあ、あと二人だねっ!!」

やえ「だな。と……それはそれとして……」チラッ

 ガヤガヤ ザワザワ

やえ「ぼちぼち出るか。お前のその格好――目立つな」

ネリー「あっ、いつの間にか私たちの周りに人だかりが!?」

やえ「行くぞ、ネリー」

ネリー「ちょ、あっ、まだハンバーグがああああ!!!」

 ――――

玄「あっ……行っちゃった」

透華「あの民族衣装のチビッ子、知り合いでしたの?」

玄「ううん。そっちじゃなくて、もう一人の白衣の人」

小蒔「小走博士ですよね」

玄「そうそう……って!? 小蒔ちゃん、知ってるの?」

小蒔「あ、いえ、その、憩さんがよく話していたので……」

豊音「あー、小走さんなら私も知ってるー! まだ学生なのにガチの研究者っていう才媛の人だよねー。同じクラスなんだけど、欠席が多いから、まともに喋ったことないんだよー。偏差値70で成績は学年トップだっていうから勉強教えてほしいのにー」

透華「で、その小走とかいう輩がどうかしましたの?」

玄「あ、いや、どうかしたってほどじゃないんだけど。でも、小走さん、研究室に籠もりっきりで見かけることが少ないから、挨拶したいなって。時間があれば、一緒に卓を囲みたかったし」

豊音「打ったことはあるのー?」

玄「一回だけ。マグレで勝てたんですけど、すっごい強かった。以来、ずっと再戦できないままで、気になっていたんですよね」

透華「個人戦の大会なり、選別戦なり、機会はいくらでもありそうですけれど」

玄「それが、小走さんは研究分野の特待生で、大会や選別戦に出なくても二軍《セカンドクラス》でいられるの。だから公式戦には滅多に出てこないんだよね。私が打った一局も、強度測定の合間の、挨拶代わりみたいなやつだったし」

小蒔「博士のご卒業までに、機会があるとよいですね」

 ダッダッダッ

泉「お待たせしましたああ……!! ドリンクバー人数分です!!」

玄「ありがとー……って、あ、ごめんね、泉ちゃん。私、ちょっとこのアイスティーは違うかなっていうか」

透華「泉、わたくしはこんなもの頼んだ覚えはありませんわよ!!」

豊音「あー、私のも注文と違うー!!」

泉「ええー!? そんなはずないですよっ! やって、豊音さん、カルピスってゆーたやないですかー!?」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――――

やえ「(電話中)……そういうことだ。どうす――即答か。ま、有難い限りだ。なにとぞよろしく頼むよ。ん? ああ、いいぞ。なら、今夜はうちに集合な。それじゃ」ピッ

ネリー「クラスメイトさん、なんだって?」

やえ「出るってさ。他にも誘いはあったろうに、二つ返事でオッケーしてくれた」

ネリー「いい友達だね。その人のためにも、メンバー集め、頑張らなきゃなんだよっ!」

やえ「そうだな」

ネリー「あっ!! 言ってるそばからあんなところに!!」

やえ「なんだ? 誰か気になるやつでもいたか?」

ネリー「屋台があるー!!」ダッダッダッ

やえ「食い物かよ……っていうか、さっきハンバーグ食べたばっかりじゃないか」

ネリー「お姉さん、この『限定品』ってやつ!! これ一つ頂戴っ!!」

?「お姉さん、私も同じやつだじぇ!! 数量限定シェフの気紛れタコス――幻の一品をついに見つけたじぇー!!」

「ご、ごめんなさい。これ……残り一つしかないのよ」

やえ(ん……あのちっこいの、どこかで見たことあるような……)

ネリー「私のほうが早かったんだよ!!」

?「何を言うかっ!? 私のほうが早かったじぇ!!」

やえ(あの妙な語尾……それにタコス――間違いない。映像で見た。四月の、新入生同士が打ち合う最初の公式個人戦――東風戦のみのエキジビジョンマッチ。そこでぶっちぎりトップを飾った化け物一年生……)

ネリー「そこまで言うなら、今ここで、私と麻雀で勝負する!?」

?「ほほう……お主、この私が誰だか知らないようだな!? 私は今年の一年で一番強い《ゴールデンルーキー》だじぇ!!」

やえ「……今年の一年で一番強いとは、大きく出たな。東南戦での成績は中の下と聞いているが」

?「むっ、そこな白衣のお姉さん。私のことを知っているのか?」

やえ「東場に強いレベル3強。《東風の神》――片岡優希だろ」

優希「お姉さん……誰だじぇ?」

やえ「小走やえ。一応、お前と同じ白糸台校舎に通う、二軍《セカンドクラス》の三年だ。ま、部内の大会にはほとんど出ないから、知らなくても無理はない。が、私のほうは、お前のことをよく知っている」

優希「白衣のお姉さんは、そっちの変な格好のチビッ子とは、知り合いなのか?」

やえ「こいつは私の同居人。迷惑をかけたな」

優希「あっ、そういえばそうだったじょ!! チビッ子、タコスを賭けて勝負だじぇ!!」

ネリー「望むところなんだよ! っていうか、あなただって私と同じくらいちっちゃいじゃん!!」

やえ「こらこら、こんな道端で喧嘩するな。……すいません、屋台のお姉さん。このシェフというのは、どこのどなたかご存知で?」

「第4学区にある、メキシカンレストラン《アミーゴ》のオーナーです」

優希「き、聞いたことあるじぇ……! 超がつくほどの高級レストラン!! 学生の生活費じゃ到底手が出せないという伝説のタコス屋!!」

やえ「なるほど、わかりました。おい、ネリー、片岡」

ネリー「なに?」

優希「なんだじぇ?」

やえ「今からそこへ食いに行くぞ。もちろん金は私が出す」

ネリー・優希「なんとおおおおおおおおお!?」

やえ「代わりに――といってはなんだが片岡、お前にちょっと相談がある。ま、タコスでも食べながら話をしようじゃないか」

優希「なんでも言ってくれだじぇ!!」

やえ(……さて、これであと一人だな)ニヤッ

 ――――――

 ――――

 ――

 ――夜・帰り・タクシー内

優希「私……もう死んでもいいじぇ……」キラキラ

ネリー「私も……」キラキラ

やえ「待て待て、今死なれたら困る。せめて一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》が終わるまでは生きていろ」

優希「大丈夫だじぇ、やえお姉さん。この恩は百倍にして返すじょ。この片岡優希、必ずや、やえお姉さんを優勝に導いてやるじぇ!!」

やえ「有難う。しかし、よかったのか? いくらタコスを奢ったとはいえ、お前ほどの有名人だ。他の連中から誘いの一つや二つはあったろうに」

優希「それが……じぇーんじぇんだったじぇ。最初の大会で優勝したときは……そりゃ引く手数多だったんだけど、次の、普通の東南戦の大会――そこで、隣のクラスの数絵に負けてからは、みんなそっちに行っちゃったんだじぇ」

やえ「数絵……《南風》の南浦数絵か。南場に強いレベル3強。確かに。言われてみれば、彼女のほうがお前より強いな」

優希「ばっさりだじぇ!?」

やえ「地力が違い過ぎるんだよ。南浦……ありゃ相当打ってる。今年の一年の中でも、経験値はかなり上のほうだろう。
 能力ナシでもアベレージが高くて、能力アリならさらにその上。能力そのものにもデメリットがなく、素で実力者だから隙らしい隙がない。南場になった途端に失速するお前より、チームに誘うなら断然、南浦数絵だろうな」

優希「しゅん……だじぇ」

やえ「ま、その分、お前には成長の余地がたくさん残ってるってことだ。安心しろ。一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》までの間に、私がみっちり鍛えてやる。それこそ、あの宮永照と打ち合えるようになるまでな」

優希「やえお姉さん……!!」

やえ「――ん……? あれは?」

ネリー「やえ、どうしたの?」

やえ「いや、暗くてよく見えなかったが……すいません、運転手さん。一旦止めてください」

 キキー

やえ「ちょっと、様子を見てくる」ガチャッ

ネリー「やえ!? どこ行くの!?」

優希「どうしたんだじぇ!?」

やえ「危ないから、お前たちは車の中でじっとしてろ。いいな?」ダッ

優希「行っちゃったじぇ……」

ネリー「……こっそり、ついてく?」

優希「だじぇ!」

 ――路地

 ボコッ ドカッ バキッ

やえ「おい!! そこで何をやっているんだ!!」

「うわ、ヤベ」「見つかった」「逃げろ……!!」

やえ「まったく……相変わらず物騒な街だな。君、大丈夫か?」

?「す、すいません……」ボロッ

やえ「ひどい傷だな……。あいつらは誰だ? 知り合いか?」

?「全然……見たこともないです。道を歩いていたら、囲まれて、連れ回されて……あとは見ての通り……」

やえ「何か、襲われる心当たりは?」

?「心当たりは……あります。チームが……解散したからです」

やえ「チームが……? なら、さっきのやつらはチームメンバー――否、知り合いではないんだったな」

?「でも、向こうは私を知ってます。というか、たぶん、学園都市中の雀士が私を知ってる……。私のいたチームは、学園都市で最も有名なチームですから」

やえ「えっ……おい、ちょっと、悪い。こっちを向いて、顔をよく見せてくれないか?」

?「今は……見てもわからないかもですよ。顔もいっぱい殴られましたから……まあ、それでもよければ……」

やえ「き、君は――!?」

?「はい。元チーム《虎姫》……亦……野…………誠、子……」ガクッ

やえ「亦野――!? って、おい!? 大丈夫か?」

誠子「」

ネリー・優希「やえ(お姉さん)ー!!」

やえ「ばっ――なんで出てきたんだ!? いや、そんなことより!! 早くタクシーをこっちに寄越してくれ。急いで病院にいかなくてはならん!! 怪我人がいるんだ!!」

ネリー・優希「え」

 ――病院

やえ「先生……亦野の具合はどうですか?」

?「見た目はひどいけど、幸い脳に異常はあらへん。あの子自身、結構身体を鍛えとるほうやから、早ければ一週間もしないで退院できると思うで~」

やえ「よかった……。夜遅くにありがとうございました、赤阪先生」

郁乃「それが仕事やからね~。ほな、また何かあったら。いや、ないほうがええんやけど~」

やえ「ありがとうございます」ペコッ

 ――

ネリー「……あの人、大丈夫?」

やえ「早ければ一週間で退院できるそうだ」

優希「亦野先輩……可哀想だじぇ。なんで先輩がこんな目に……」

やえ「事情はよくわからんが、どうやら、チーム《虎姫》が解散したらしい。学園都市に四人しかいない一軍《レギュラー》……どこでどんな逆恨みを買っていてもおかしくはない。無論、亦野に非はないが」

ネリー「犯人、許せないね」

やえ「そちらは……まあ、その通りだが、私たちが裁いていいものではない。知り合いの先生や風紀委員に、あのあとすぐ連絡を入れた。直に犯人も見つかるだろうし、処分は学園都市が下す。今はとにかく、亦野の無事を祈ろう」

?「こんばんはー。なんや、大変やったみたいですね、小走さん」

やえ「お前……今日はシフトに入っていたのか。久しぶりだな、荒川――」

憩「ご無沙汰してます。しかしまた、珍しいところでお会いしましたね。懐かしいですわー。あれから、幻想殺し《イマジンブレイカー》の調子はどうですか?」

やえ「残念ながら、ずっと足踏みが続いているよ。例の《仮説》の証明もまだだ」

憩「そうですか……ホンマ、すいません。ウチが宮永照に勝てへんかったばっかりに……」

やえ「そのことは……何度も言っただろう。荒川のおかげで、私の研究と《幻想殺し》は飛躍的に進歩した。あと一歩届かないのは、私の勉強不足のせいだ。お前のせいではない」

憩「自分に厳しいのは相変わらずですね、小走さん」

やえ「性分なもんでな」

 ピピーピピーピピー

憩「っと、ナースコールや。えっと……おお、亦野さんや! 目が覚めたみたいです、行きますか?」

やえ「邪魔じゃなければ」

 ――病室

誠子「小走先輩……それに皆さんも。このたびは、ありがとうございました。先輩たちがいなかったら、本当にどうなっていたことか……」

やえ「当然のことをしただけだ。それより亦野、身体は大丈夫なのか?」

誠子「包帯だらけですけど、なんとか。ま、そこいらの雀士とは鍛え方が違いますから」

やえ「ならよかったが……」

誠子「ところで、荒川さん……はいいとして、後ろのお二人はどなたですか?」

やえ「ああ、こいつはネリー……その、留学生だ。あと、こっちは片岡。知らないか? 入学式のすぐあとにあった個人戦で活躍した、東風戦限定の《ゴールデンルーキー》」

ネリー「初めまして」

優希「よろしくだじぇ」

誠子「ネリーさん……は初耳ですけど。片岡さんは、聞いたことがあります。弘世先輩が、少しは骨のあるやつが入ってきたって……」

やえ「弘世が……そうか」

誠子「そうなんです、弘世先輩が――弘世先輩…………うぅぅぅ!!」ポロポロ

憩「ま、亦野さん?」

やえ「大丈夫か? どこか痛むのか?」

誠子「す、すいません……ちょっと、身体面は大丈夫なんですが、その、精神面で、まだ気持ちの整理がついてなくて……」

やえ「……解散したっていう、チーム《虎姫》のことか」

誠子「はい。明日からのチーム申請開始にあたって、午前中にミーティングを開いたんですが、そこで弘世先輩が突然……《虎姫》の再結成はしないって……」

やえ「世辞ではなく、傍目にはとてもいいチームに見えたけどな。宮永と弘世のコンビは一年の頃からだったし、君や渋谷も、チームコンセプトに合ったいい人選だと思っていた。
 そうか、再結成はしないのか。残念だな。それは、五人目が見つからなかったからか?」

誠子「いえ、そういうことではないんです。例の転校生……一年生のほうなんですけど、実は、うちの五人目にどうかって、理事長から話があったくらいなんです。けど……今回のは、その一年生とは関係ありません……」

やえ「なら、どうして……」

誠子「ひ、弘世先輩がっ……!! 宮永先輩を――うっ!?」ズキッ

憩「亦野さん、無理したらあかんよ。いくら亦野さんかて、軽症やないんやから、安静にしとかんと」

誠子「ごめんなさい、荒川さん」

憩「それに……ウチ、事情は多少知っとるから。亦野さんの気持ちもわかる。けど、仕方なかったんや。菫さんには菫さんの考えがある。宮永照もそうやろ。あの人らは三年や。最後の夏くらい、好きなようにさせたらええやん……」

誠子「でも、私はチーム《虎姫》が好きだったんです……!!」

憩「亦野さん、その気持ちは、麻雀で伝えたらええやんか。菫さんかて、《虎姫》が嫌いやったわけやない。亦野さんが頑張れば、もう一度、みんなで集まることやってできるかもしれへんよ?」

誠子「私が……? いや、けど……私なんて、とても……」

憩「なら、菫さんをとやかく言う権利はあらへんよ、亦野さん。戦わない者に、戦う者を止めることはできひん。せやろ?」

誠子「それは……わ、私だって、できることなら戦いたい……!! 一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》に出て……弘世先輩に、この気持ちを伝えたいっ!!
 けど……!! 私なんか、わかってる……チームメンバーに恵まれただけで、私は他のみんなの足手まといだった。《虎姫》が解散した今、こんな私を――こんな弱い雀士を必要としてくれるチームなんて、どこにもない……」

やえ「…………そいつはどうかな、亦野誠子」

誠子「えっ……?」

やえ「今ここに、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》で優勝するつもりのチームがある。だが、残念なことにメンバーが四人しかいない。あと一人……強力なメンバーを探していたんだ」

誠子「あ、あの……?」

やえ「河から自在に牌を釣り上げる白糸台の《フィッシャー》――亦野誠子。これ以上の人材は、学園都市広しと言えど、見つかる気がしない」

誠子「小走先輩――?」

やえ「だが、しかし、幻聴だろうか。せっかくこの上ない逸材を見つけたというのに、そいつは、そいつ自身を『弱い雀士』だと言う」

誠子「あ……」

やえ「去年の夏に一軍《レギュラー》となって以降、白糸台高校麻雀部の顔として外の世界の大会に出場、部内の主な公式大会も連覇し続けたチーム《虎姫》。今は四人しかいない元一軍《レギュラー》……その一人だった亦野誠子は、本当に、弱い雀士なのだろうか――」

誠子「それ……は……」

やえ「なあ、亦野。お前がお前自身をどう評価するのかは、お前の自由だよ。しかしながら、いくら心身ともに辛い状況とは言え、『自分は弱い』と、はっきり口に出してしまうのは、あまり感心しないな。
 チーム《虎姫》の一員としてお前を選んだ宮永や弘世の期待、お前と共に戦った渋谷の信頼、或いは、一軍《レギュラー》になろうと必死に足掻く学園都市一万人の羨望――それらの幻想を、お前はまとめてぶっ殺すつもりか?」

誠子「……ッ!!」

やえ「違うだろ。そうじゃないだろ。お前が殺すべき幻想はただ一つ。『亦野誠子は弱い』などという、お前自身のくだらん思い込みだ」

誠子「わ、私は……」

やえ「とは言え、今すぐに、というのは大変だろう。一人で、というのも辛かろう。だから、私が少しだけ、お前を引っ張り上げてやる」

誠子「小走……先輩……?」

やえ「亦野誠子、お前の力が必要だ。私と一緒に、白糸台の一軍《レギュラー》を――学園都市の《頂点》を、目指してくれないか?」スッ

誠子「私を……小走先輩のチームに、ってことですか? い、いいんですか……?」

やえ「私はいい。お前たちはどうだ、ネリー、片岡」

ネリー「私は、やえの人選を信じるんだよっ!」

優希「あの《虎姫》の一員と同じチームなんて、願ってもないじぇ!!」

やえ「だそうだ。あともう一人は……どうせ断りはしない。そういうやつなんだ。というわけで、満場一致で大歓迎だが、どうする、亦野誠子?」

誠子「ふ、不束者ですが……! よろしくお願いしますっ!!」ガシッ

やえ「言っておくが、私は優勝するつもりだからな。最終的には、弘世はもちろん、あの宮永をも倒さねばならん。お前にそれができるか?」

誠子「あ、う……その――はいッ! 倒してみせます!!」

やえ「……よかろう。その幻想を殺すのは容易いが、今日のところは全力で見逃してやる。一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》の決勝までに、今の言葉、どうにか本物にしてみせろ」

誠子「が、頑張ります……っ!!」

やえ「よし、これでメンバーが揃ったな――」

憩「え、えーっと、小走さん……?」

やえ「ん、どうした、荒川?」

憩「その……小走さん、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》に出はるんですか? しかも、個人戦ならともかく、団体戦に? 頼まれたわけでもなく? どうして急に……」

やえ「ちょっと事情があってな。引くに引けなくなった」

憩(え、えらいこっちゃ……!!)

やえ「さて、そうと決まれば、亦野。今日はもう休め。そして一刻も早く身体を治せ。これから一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》まで、できる限りの準備をしなければならん」

誠子「はいっ!!」

やえ「では、私たちはこれで失礼する。また来るからな、亦野」

ネリー「バイバイ、せいこ! よろしくね!!」

優希「亦野先輩、お大事にだじょ!!」

 タッタッタッ

憩「……ほな、ウチもこれで失礼するわ。なんかあったらまた呼んで――と言いたいとこなんやけど、ウチ、このあと予定あんねん。知らん人が来ても、びっくりせんでねー」

誠子「何か、用事ですか? こんな夜中に?」

憩「夜中やないとあかんのやって」

誠子「何をするんです……?」

憩「なーに、ちょっとしたパーティや。パジャマパーティ。チームのみんなで夜通し麻雀打つんよ。ま、うまく行けば結成祝いになるんかなー」

誠子「チーム……? えっ、荒川さん、今年は団体戦に出るんですか? だって、団体戦にはあの最初の一回っきりで……以来、誰が誘っても、個人戦にしか興味がないって……」

憩「ちょっと、色々あってん。なんて言えばええんやろ……勝たせたい人がおんねん。ウチ、その人の喜ぶ顔が見たいねん」

誠子「意外です……。その、勝たせたい人って、一体誰なんですか?」

憩「ふふっ、ナーイショ。ほななー!」

誠子「あっ……」

 タッタッタッ

誠子(……弘世……先輩……)

誠子(見ていてください。私、強くなって、必ずあなたの前に立ってみせます。それが、この一年間……あなたにお世話になった私にできる、最高の恩返しだと思うから……!!)

誠子(先輩……先輩は今頃、どうしてますかね――)

 ――――――

 ――――

 ――

 ――第19学区・私有地・荒城

憩「お待たせしましたー」

菫「……遅かったな、荒川」

憩「すんません、菫さん。ちょっと急患がおって……ま、今はちょっと間が悪いんで詳しくは言えませんけど。おいおいちゃんと話しますわ」

菫「あまり聞きたくはないが……」

憩「菫さんは恐がりですなー」

菫「そうだな。お前のような恐いもの知らずには、一生なれそうにない」

憩「随分ですね、ウチかて、恐いものくらいありますよ」

菫「そうか? そうは見えないが――」

憩「ねえ、菫さん……」

菫「なんだ?」

憩「……月が、綺麗ですね」

菫「ああ。恐いくらいに……な」

 ――深夜・やえ自宅

?「遅っいー!! 遅いわー!! どんだけ人を待たすねん!! 久しぶりに連絡してきたと思ったらこれや!! さっきからコールしても通じひんし! このドアホッ!!」

やえ「すまん……ちょっとゴタゴタしていて忘れてた。さっきまで病院にいたんだ。だから、電子学生手帳も電源を切っていた」

?「病院……? なんかあったん? ま、それはええわ、あとで聞く。で、もしかして、そっちのちっこいの二人が、メンバーっちゅうことか?」

やえ「まあな。こっちは留学生のネリー=ヴィルサラーゼ、こっちは一年の片岡優希。で、ネリーと片岡、この短パンはな、江口セーラという三年で、《一桁ナンバー》の傑物だ」

セーラ「その紹介の仕方やめてやー。俺は《一桁ナンバー》の中でも一番下っ端。いつ二桁になるかわからへんのに」

やえ「吐かせ。セーラが二桁になる姿など、もはや想像できんわ」

セーラ「ま、《一桁ナンバー》であることが条件でスカートの着用義務を逃れとるからな。そら死に物狂いで勝ちまくるけど」

やえ「さて……夜は遅いが、せっかくだし、一局だけでも打っていくか? 私も、現時点でのチームの戦力を確認しておきたい」

セーラ「俺はええけど、そっちのチビッ子たちはオネムなんちゃうの?」

ネリー「眠くないよっ! 時差ボケでバリ冴えなんだよ!!」

優希「タコスの興奮未だ冷めやらぬだじぇ!!」

やえ「だってさ。どうする、セーラ?」

セーラ「ほな、挨拶代わりに一局……っちゅーか、マジで本気なんやな、やえ」

やえ「……何がだ?」

セーラ「てっきり、麻雀部ではもう打たへんのかと思ってた」

やえ「そうだな。白糸台高校麻雀部で名を上げることは、ずっとセーラに任せていた」

セーラ「なんで気が変わったん? しかも、個人戦やなくて団体戦やなんて」

やえ「そうだな……強いて言えば、私の幻想に決着をつけるときがきた――ってところだろうか。ずっと立ち止まっていたが、やはり、この道から逃れることはできんらしい」

セーラ「ようわからへんけど、やっと《王者》が帰ってくる――っちゅーことでええの?」

やえ「そんなところだ」

セーラ「おおお、そらええなっ! なんや、七人目のレベル5と五人目のランクSだけでもごっつー楽しみやったのに、そこに《王者》も混じってくるんかっ! 今年の夏は盛り上がるでーっ!!」

やえ「いや……もう一人、とんでもないのが参加するぞ」チラッ

ネリー「んー?」

セーラ「へえ……ええやろ! ほな、お手並み拝見やッ!!」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――三週間後

やえ「それじゃ、全員、覚悟はいいか? この書類を提出したら、少なくともインターハイが終わるまでは、チームを解散できん。本当にこのチームでよかったのか……今一度考えてくれ」

ネリー「考えるまでもないんだよ。やえの奏でる《運命》、私は気に入ってる!!」

優希「タコスのご恩は忘れないじぇ!!」

誠子「私も、きっと先輩のお力になってみせます!!」

セーラ「もちろん、俺もやー!!」

やえ「……有難う。最後に確認する。私たちが目指すのは、ただ一つ。学園都市の《頂点》――白糸台高校麻雀部の一軍《レギュラー》! 立ち塞がる者は全て蹴散らすッ!! たとえ、それが能力者や支配者であったとしても……!!」

やえ「全員、よく覚えておけ! 麻雀に《絶対》は《絶対》にないッ!! どんなに強い能力を持っていようと、どんなに強い支配力があろうと、やり方次第でどうとでもなる……!!」

やえ「首を洗って待ってろよ、能力者ども、支配者ども……!! お前たちが麻雀《セカイ》を思い通りにできると思っているのなら、よかろう――まずはその幻想をぶっ殺す!!」

やえ「お見せしよう、これが《王者》の逆襲だッ!! 行くぞ、お前たち……っ!!」

ネリー・優希・誠子・セーラ「おおおおっ!!」

 ――理事長室

恒子「おっ、やーっと亦野さんのとこが上がってきたよー」ポン

健夜「チーム《幻奏》……万全を期してって感じだね」

恒子「で、この留学生――ってことになってる子でしょ、すこやんの言ってた、例の問題児って。しかも、それがあの小走博士と一緒に出てくるなんてねー」

健夜「小走さん――《幻想殺し》が戦いに加わるのかぁ。そこに、例の問題児。三尋木先生や赤阪先生からぼんやり聞いてはいたけど、実際に書類が上がってくると、一層気が重いなぁ」

恒子「ねえ、すこやん。小走博士って、具体的には、何を研究してる人なの?」

健夜「麻雀の《不確定性》……《絶対》の《絶対》なる否定」

恒子「は?」

健夜「小走さんは、あの《通行止め》――レベル5の第一位である花田さんとは、対極にいる無能力者《レベル0》。彼女が提唱している《不確定性仮説》は、もし証明されれば、学園都市がひっくり返るくらいの危険な理論」

恒子「まったまた。すこやんったらそんな大袈裟な」

健夜「大袈裟じゃないよ。小走さんの《不確定性仮説》が証明されるってことは、《絶対》の否定――《レベル6》の不可能性が証明されるってことなんだから。学園都市の存在意義を無に帰すかもしれないんだよ、彼女の《幻想殺し》は」

恒子「……マジ?」

健夜「マジだよ。だから、まあ……花田さんの《通行止め》にとって、小走さんの《幻想殺し》は天敵になるのかな。どっちが勝つかはわからないけれど、どっちが勝っても、世界が変わる」

恒子「放っておいていいの、そんなこと?」

健夜「仕方ないでしょ。まさか運命奏者《フェイタライザー》が絡んでくるなんて、思ってもみなかったんだもん」

恒子「この、ネリー=ヴィルサラーゼって子だよね。なに、この子、どんだけすごいの?」

健夜「向こうでは《神に愛された子》って呼ばれてる。あらゆる魔術師の最上位に君臨する超魔術師。宮永照が科学世界の《頂点》なら、彼女は魔術世界の《頂点》。
 私たち学園都市の基準であるレベルやランクでは測定できないけれど、彼女が全力を出せば、まともに相手になるのは、宮永照だけだと思う」

恒子「パネェっす」

健夜「私でも若干てこずるかな」

恒子「よっ! さすが、すこやん。アラフォーは年季が違うね!!」

健夜「アラサーだよっ!? 最後までこの落ちだよっ!!?」

恒子「はい、お後がよろしいようで~」

     [一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》まで、あと一ヶ月半]

ご覧いただきありがとうございました。

チーム結成編は、これで終了です。

次回(週末くらいになるかと)からは、修行編が始まります。

以下、主要八チームの一覧です。

 ――

《チーム名》:リーダー、メンバー×4(名前順)

《煌星》:花田煌☆、大星淡★、東横桃子、宮永咲★、森垣友香

《劫初》:弘世菫、天江衣★、荒川憩、エイスリン=ウィッシュアート、辻垣内智葉

《豊穣》:渋谷尭深☆、石戸霞、清水谷竜華、福路美穂子、松実宥

《永代》:宮永照★、井上純、臼沢塞、染谷まこ、高鴨穏乃☆

《久遠》:竹井久、愛宕洋榎、新子憧、小瀬川白望、白水哩

《逢天》:二条泉、姉帯豊音、神代小蒔★、松実玄☆、龍門渕透華

《新約》:園城寺怜☆、愛宕絹恵、薄墨初美、鶴田姫子☆、原村和

《幻奏》:小走やえ、江口セーラ、片岡優希、ネリー=ヴィルサラーゼ、亦野誠子

(※ ☆=レベル5、★=ランクS)

5の連中のランクは公開できる?
できるなら教えて欲しいけど無理にとはいわない

多分強さは 能力 支配力 素の実力できまるとおもう

ご覧いただきありがとうございます。

>>262さん

ランクS以外の人のランク(支配力の強さ)については、大枠のイメージは持っていますが、一覧表にできるほどかっちりとは決めていません。

必要に応じて、何人かは言及(或いは相対評価)される予定です。

レベル5の六人については、花田さんがランクF。

玄さん、渋谷さん、鶴田さんは現在未設定(ただし、花田さんに比べれば、三人ともそれなりにおもちです)。

園城寺さんと高鴨さんは、設定しています。言及されるのをお待ちください。

 ――六月・クラス選別戦

淡「ツモ! 1000・2000!!」パラララ

「早い――!!」「くっ……」「届かなかった!」

淡「お疲れ様でしたっ!!」ゴッ

 ――――

淡(ふっふふーん。今日も快勝連勝ーっ! 二、三軍でもなきゃ負ける気がしないねー!!)

友香「お疲れでー、淡。デジタルで打って負けナシなんだから、ホント呆れた強さでー」

淡「それはお互い様でしょー? よっぽどダブリーぶちかまそうかと思ったけどね。総合獲得点数だとユーカに負けてるしっ!」

桃子「ま、本選まで全員能力温存っていうのは、リーダーの指示っすもんね。正直、超新星さんが律儀に守ってるのは意外っすけど」

淡「一応、練習でスバラをトばせたら能力使ってもいいことになってるんだけどね。これが無理なんだなー」

友香「さて。じゃあ、今日の試合は全部終わったんで、早速反省会でー」

淡「そうだねっ。私とユーカとモモコは完全デジタルでプラスだったけど……そうじゃない二人は何か言うことあるー?」

咲「わ、私はマイナスじゃないもんっ!」

友香「プラスでもないんでー」

桃子「嶺上さん、能力ナシって言ってるじゃないっすか」

咲「だ、だって……私が打つと、どうやってもああなっちゃうっていうか……」

淡「体質なのかなー? 点棒操作系だっけ。スバラがトばないのも、あんまり意思と関係ないっぽいし」

咲「あ、でも、嶺上は一回もしなかったからね!」

淡「でもカンはしてたー!」

咲「そ、それも……そうなっちゃうんだもん……」

淡「四の五の言わない! サッキーは今日も帰ってネト麻の刑だからねっ!」

咲「ネト麻……あれ全然見えないから嫌だよー……」ウルウル

友香「咲はネト麻だと花田先輩以下だもんね」

桃子「はい。で、すばら先輩のほうは、何か申し開きあるっすか?」

煌「…………ありません」ズーン

淡「今日はトップと六万点差だっけ。三万点差までは許すって言ってるのに、ダブルスコアとかー」

煌「面目ない……」

友香「ま、先鋒はエースポジションですから、相手が強いのは仕方ないんでー」

桃子「にしても、もうちょっと頑張ってほしいっす。今日は相手が四軍だったからよかったっすけど、三軍相当のチームと戦うときは、さすがに能力ナシで六万点をひっくり返すのはきついっすから」

煌「……すいません」

淡「ま、何万点差でも私たちみんなで取り返すけどさ。でも、ノルマはノルマ。決まりは決まり。スバラは、夜まで私とマンツーマンの刑だよっ!」

咲「えええっ、ずるいよ、淡ちゃん! 今日のお仕置き担当は私のはずだよっ!?」

淡「サッキーはネト麻の刑だからダメー!」

桃子「マンツーマンなら、超新星さんより私のほうが向いてるっす。私はすばら先輩の第一コーチっすからね!」

友香「咲を飛ばすなら、順番的に次は私でー!」

淡「むぅ……仕方ないな。じゃ、今日もみんなでお仕置きしよっか!」

煌「あ、あの……」

淡「なに? 言っておくけど、スバラに拒否権はないからねっ!」

煌「いや、毎日皆さんで稽古をつけてくれるのは嬉しいんですが、その……皆さんのほうは、何か特訓をしなくて大丈夫なんですか?」

桃子「まぁ、毎回試合ですばら先輩が大量ビハインドを作るっすから、こっちはかなり苦労してるっすけど」

友香「能力ナシで相手を出し抜く訓練には事欠かないんでー」

煌「しかし、本選では、きっと今までのようにはいきません。いかに皆さんでも、能力を使うことになります。というか、それを見据えてのデジタル縛りですから。
 だから、もっとこう……能力を使った訓練というのも、どこかでしないといけないのでは? 下位クラスの方々や私ばかりを相手にしていたら、本気の出し方を忘れてしまいませんか?」

桃子「それを言うなら……私とでー子さんの場合は」

友香「淡と咲の相手をしてる時点で、かなりしごかれてるんでー」

淡「でも、私とサッキーは、確かにいい練習相手がいないかも。いや、サッキーがいるだけラッキーなんだけど」

咲「支配領域《テリトリー》も近いし、全力で打つ相手としては、淡ちゃんがいれば十分。まあ、手の内が大体わかってるから、最近はマンネリしてる気もするよ」

淡「強過ぎるってのも考えものだよねー」

咲「胸を借りる相手って言われてぱっと思い付くのは、お姉ちゃんくらいだけど」

煌「あの方にお声を掛けるのは、ちょっと気後れしますね……」

淡「ま、スバラと打つのも楽しいよ。あんなに思い通りにならないことはないもん」

咲「私もです。狙って嶺上が和了れなかったのは、花田さんが初めて。お姉ちゃんでもそんなことは無理でしたから」

煌「まあ、私との対局は例外でしょう。それはそれとして、やはり、実戦の中でしかできない、ぎりぎりの勝負というのを経験しておかないといけないと思うんです。
 皆さんはまだ一年生。強いのは重々承知ですが、二軍《セカンドクラス》の上級生と比べると、経験不足は否めない……」

淡「私は天才だから、別に誰が相手でも負けはしないけどねー」

咲「でも、花田さんの言うこともわかります。私や淡ちゃんは、まだ、私たち以外のランクSと、まともに戦ったことがないですから。レベル4と戦うことも滅多にありませんし、その上のレベル5ともなれば、花田さん以外はよく知らない」

桃子「というか、レベル0で超強いって人も、上のほうにはゴロゴロいるっすからね。というか、ぶっちゃけそういう人のほうが多いくらいっす」

友香「《一桁ナンバー》なんか特にそうでー」

煌(むむむ……聞けば聞くほど底が知れませんね、白糸台高校麻雀部。淡さんが遅れを取るところは想像できませんが、しかし、人事は尽くさねばなりますまい。んー、一体どうすれば――)

淡「ま、特訓内容はあとから考えるとして! スバラ、さっさと寮に帰って打つよ。さ、行こっ!!」ギュッ

煌(ひゃわっ!? ううう……一つも考えがまとまらないですっ!!)アワワワ

 ――――

 ――翌日・白糸台校舎・二年教室棟

煌「――と、言うわけなんです」

憩「なるほどなー。そら、ランクSでレベル4の魔物ともなると、練習相手を探すんも一苦労やろなー」

煌「何かいいアイデアはありませんかね?」

憩「合同練習を申し込めばええんとちゃう? 相手チームがオーケーしてくれれば、選別戦のない週末にみっちり打つことができるで」

煌「合同練習!? なるほどっ!!」

憩「今やっとる選別戦っちゅーんは、つまるところクラスの入れ替え戦やから、基本的に違う軍《クラス》のチームとしか試合をせーへん。二軍《セカンドクラス》のウチらは下位クラスとしか当たらへんねん。練習相手としては、正直、不足やな。
 花田さんたちが本気で一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》を勝ち抜くつもりなんやったら、予選が始まっとらん今のうちにやっといたほうがええやろな。
 もちろん、手の内がバレるリスクはある。けど、得るもんも多いはずやで」

煌「ありがとうございますっ! あっ、ちなみになんですが、荒川さんのご予定はいかがですか? 昨年のことをお聞きした限りでは、荒川さんは主に個人で打たれているんですよね。どうか一つ、お力を貸していただけないでしょうか」

憩「ごめんなー、ウチ、今年は個人戦やなく団体戦に出るんよ」

煌「ええっ!?」

憩「去年やったら、一も二もなくオッケーしたんやけどな。今年はウチもチームで動いとる。練習相手に誰を選ぶかも、ウチの一存では決められへんのよー」

煌「そうだったんですか……知りませんでした。その、荒川さんの所属するチームというのは?」

憩「ナイショや。言うても、調べればすぐわかるやろし、予選が始まればどっちみちバレてまうけどなー」

煌「安易にチームの情報を漏らすことはしない、ですか。すばらな心掛けです」

憩「余計なこと言ってリーダーに怒られたら敵わへんからな」

煌「まあ、それならそれで結構です。強いて聞き出すことはしません。必要なら調べればよいことですし。ところで――」

憩「ん、なんや?」

煌「情報を伏せたということは、その……私たちのチームを、多少なりとも意識してくれている、と捉えていいのでしょうか。本選で対戦するかもしれない相手として、警戒してくれている……と」

憩「ははっ、花田さんはオモロいこと言うなー。ほな、お礼に教えたるわ、チームメンバー」

煌「えっ?」

憩「ウチ、弘世菫さん、辻垣内智葉さん、エイスリン=ウィッシュアートさん、天江衣ちゃん……の五人や」

煌「荒川……さん?」

憩「んー? なにー?」

煌「いや、どうして、メンバーを……」

憩「あー、いやいや。どうせ今日中には調べるんやろ? やったら手間省いたろー思て」

煌「…………それだけ、ですか?」

憩「あとは、まあ、せやな。花田さんのことは信用しとるけど、万が一っちゅーもんがある。
 もし、『チームメンバーに一年生が四人もおるようなチームを警戒しとる』――なんて噂が広まってしもたら、リーダーである菫さんの名に傷がついてまう、思てな」

煌「荒川さん……」

憩「花田さん、悪いけど、ウチら、どこにも負ける気ないで。花田さんとこも例外やない。もちろん、花田さんやランクSの一年生に興味はあるけど……それはウチの個人的な気持ちであって、リーダーである菫さんの方針とはちゃう」

憩「菫さんが意識しとる……警戒しとるんは、宮永照のおるチーム――そのたった一つだけや。決して他のチームを侮るわけやないけれど、そもそも、そういう宮永照以外に足元をすくわれるような人選を、菫さんはしとらへん」

憩「ウチは、そんな菫さんの期待に応えるつもりや。菫さんかて、ウチの力を信じてくれてはるから、声を掛けてくれた。やから、花田さんのさっきの発言は……ちょっと聞き逃せへんかった……」

煌「こちらこそ、不用意なこと言ってしまって申し訳ないです……」

憩「あっ、いやいや! そんな気にせんでっ!? その、なんちゅーか、ウチのほうこそ、ごめんな。
 なんやろ、うまく気持ちを伝えられへん。チームっちゅーんは久しぶりやから……どうにも、キャラやないことしてまうわ。ホンマ、かんにんなー」

煌「いいのです。荒川さんの弘世さんに対する敬愛の情は伝わりました。大切に思う人のことならば、熱くなるのが当然というものです。かく言う私も……一言だけでも、反駁せねばなるまいと思っているところです」

憩「そらええな。どれ、聞いたるわ。好きなように言うてみー」

煌「今はまだ、荒川さんたちのチームを脅かすほどではありません。しかし、私たちはまだまだ発展途上……これから本選まで、私たちチーム《煌星》は、もっともっと強くなります。
 本選で相見えるときには、必ずや、荒川さんたちの警戒すべきチームの一つとして、その眼前に立ってみせましょう。宮永照以外などとは言わせません。全力でその首を取りにいかせていただきます!」

憩「あははっ! ええな、最高やっ! 花田さんはやっぱオモロいなー。菫さんはどうか知らんけど、ウチはごっつ楽しみにしとるで、チーム《煌星》。ほな、合同練習の相手、見つかるとええな。頑張って強くなってやー!」

煌「ええ、荒川さんたちも、ゆめゆめご油断なさらぬよう」

憩「これこれ、誰に言うとんねん。油断なんかする可愛い面子ちゃうわ。今日やって、これからミーティングやで? クラス選別戦くらい余裕なはずやのに、一応、対戦相手の牌譜をみんなで見とくんやと。
 ホンマ、息抜くっちゅーことを知らんねん、菫さんは」

煌「この学園都市で生き抜くためには必要なことでしょう」

憩「うまいこと言うたね。ほなな、お先ー」

 タッタッタッ

煌(……荒川さん、いつになく真剣な顔つきでしたね。笑っていないところなど、今まで見たことがなかったのに。それほどまでに、今回の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》に懸けている、ということなんでしょう。
 しかし、それは私とて同じ。チーム《煌星》――リーダーの私が、麻雀ではお荷物である分、それ以外のところでしっかりしなくては……!!)

?「あ、あの……」

煌「ほえ? ああ、これはこれは……! どうされました?」

?「借りてた、数学のノート。ありがとう……」

煌「いえいえ、これしきのことでよければ。いくらでも」

?「……荒川さんと、なんの話してたの?」

煌「チームの今後について相談をしていたのです。一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》に向けて、実戦を想定した練習ができないものか、と。なるべくなら、同じ二軍《セカンドクラス》で、二、三年生の方々と」

?「ああ……そっか。花田さんのところ、一年生いっぱいだもんね。上の人とは接点ないか」

煌「ええ、私も転校してきたばかりで、三年生の知り合いはいませんし」

?「じゃあ……私のところはどう?」

煌「えっ?」

?「私のチームは……私以外みんな三年生だから、ちょうどいいと思う」

煌「それは……願ってもないっ! すばらですっ!! しかし、いいのですか?」

?「たぶん、みんないいって言うと思う。花田さんたちのチームは、前々から気になってたから、一度お手合わせしたかった」

煌「こちらこそ、まさかあなたのような方に胸を貸していただけるとは!」

?「わ、私はそんなっ」

煌「何をおっしゃいますか。元一軍《レギュラー》にして、レベル5の超有名人! 外の世界にいたときは……まさかこうして言葉を交わす機会があるとは思ってもみませんでした。よろしくお願いいたします、渋谷尭深さん!」

尭深「う、うん。こちらこそ、よろしくね、花田煌さん」

 ――――

 ――道端

煌(渋谷さんと話を詰めていたら遅くなってしまいましたっ!! 今は一局でも多く誰かと打って……淡さんの三歩後ろを歩いても恥ずかしくないくらいには、強くならねばならないのに……! ひ、ひとまず淡さんに連絡を――)タッタッタッ

?「へっ?」

煌「うわあっ!?」

 ドーン

煌「痛たたた――はっ!? も、申し訳ありません! 余所見をしていました……! 大丈夫ですか!?」

?「…………ダ、ダメや……死ぬ……」パタッ

煌「あわわわわ!? ど、どーしましょう……救急車をっ!!」アワワワ

?「コラ、何ふざけとんねん。別に大したことあらへんやろ。大袈裟な」

?「せやけど、うち、病弱って設定やし、身体弱いって設定やし」

?「はあ? そんなん赤阪先生の魔改造でとっくに克服した言うてたやん」

?「そう言えばそやったな……」

煌「あ、あの――」

?「あっ、ごめんなー。全然大丈夫やで。この通り、ぴんぴんやっ! って……あああ!?」

?「どないしたん? って……あああーっ!?」

煌「すばっ?」

?「自分……そのちょっと変わった髪型っ! あれやんな!? あの《通行止め》の!!」

煌「え、ええ。そうです。私は二年の花田煌です」

?「やっぱり! うち、三年の園城寺怜ゆーねん。自分とはいつかお知り合いになりたいと思っとったんや!!」

煌「園城寺……さん!? って!! あのレベル5――《一巡先を見る者》の園城寺怜さん、ですか!?」

怜「せやせや、その園城寺怜さんや。っちゅーか、花田さんかてレベル5やん。しかも第一位の。うちなんて第五位やでー」

煌「いえいえ、実際に打ったら私なんて園城寺さんの足元にも及びませんよ。あ、ところで、そちらのお連れの方は……」

?「俺か? 俺は江口セーラ。三年や」

煌「江口セーラさん……!! あの《一桁ナンバー》の!?」

セーラ「ま、一桁ゆーても一番下っ端やけどなー」

煌「まさか……! こんなところであなた方のような有名人と出会えるとは! 感激ですっ!!」

セーラ「いやいや、有名人と言えばそっちやろ。自分が転校してきたときの騒ぎったらなかったで? あの理事長をフルボッコにした、とんでもない《怪物》が学園都市に襲来してきたっちゅーてな」

煌「ええええっ!?」

怜「実際、転校してきてからもすごかったやんな。もう一人のべっぴん転校生を一晩でモノにした上に、《悪魔》と共謀して初日から赤土先生の授業をバックれ、放課後は一年教室棟へ殴り込み、また何人かを腰砕けにして、週末には《魔王》すらこましたったっちゅーて」

煌「そんな尾ヒレだらけの噂が広まっていたんですか!?」

怜「いやー、どんな《怪物》かと思っとったけど、こんな人当たりがよくて親しみやすい人やったんやな。話題独占のチーム《煌星》のリーダー。一年生が懐くんもわかるわー」

セーラ「あっ。なあなあ、怜、ちょっとええか?」

怜「なんやねん」

セーラ「さっき話しとったやん。誰かええのおらんかなーって」

怜「ああっ!? なるほど、それええなっ! うちらと、セーラらと、噂の《煌星》か! むっちゃええやん!!」

煌「あ、あの?」

怜「花田さん、自分をレベル5の第一位――チーム《煌星》のリーダーと見込んでお願いがあんねん!」

セーラ「俺のおるチームと、怜のおるチーム……よかったら、一緒に合同練習、せーへんか?」

煌「すばらっ!?」

 ――――

 ――――

淡「んもー!! スバラってば何やってたの!? スバラが来ないからオーダー変更して私たちでほぼ勝負決めちゃったじゃん! 二位と十万点差で大将戦なんかやっても、スバラの練習にならないでしょー!!」

煌「申し訳ありません……ちょっと人と話し込んでいたもので。大事な選別戦だというのに、本当にすいませんでした」

淡「……まあ、それはいいよ。その分の練習をしてもらえばいいだけだから。で、話し込んでたって、誰と何の話をしてたの?」

煌「それがですね、私たちと合同練習をしてくださるという方々を見つけたんです! なんと三チームもですっ! しかも、超能力者《レベル5》や《一桁ナンバー》、元一軍《レギュラー》がメンバーにいるような!!」

淡「え……それ本当!!?」

煌「はい。本当も本当です。今度の三連休で、全チーム一緒に合同合宿をする運びとなりました!」

淡「ひゃー、そっかー……」

煌「どうかしましたか?」

淡「いや、実は私たちもね、見つけたんだ、いい感じの練習相手」

咲「一人は、私と淡ちゃんのクラスの人で」

桃子「もう一人は、私とでー子さんのクラスの人っす」

友香「こっちも超能力者《レベル5》や《一桁ナンバー》や元一軍《レギュラー》がいるって話でー」

淡「バッティングしなければいいんだけど……あれ? というか、これってもしかするともしかする……?」

煌「あの、そのお友達というのは? 何というチームの方ですか?」

咲「片岡優希ちゃんって言う子です」

桃子「おっぱ――原村和さんって人っす」

淡「ユーキのほうのチーム名は、《幻奏》」

友香「原村さんとこは、チーム《新約》でー」

煌「おおっ、なんという偶然! 私がお知り合いになったのも、そのチームの方ですよ!」

淡「ひゅうっ、さっすがスバラ! こっちは四人でやっと二チームだったのに、スバラは一人で三チーム! まさにすばらだねっ!! あ、で、もう一つのチームは?」

煌「《豊穣》という、あの《ハーベストタイム》の渋谷尭深さんがリーダーを務めるチームです」

咲「…………そこ、知ってる……!」ゾワッ

煌「咲さん?」

咲「花田さんッ!」

煌「は、はいっ!?」

咲「そのチーム《豊穣》だけは! 何が何でも!! 全力でゴッ倒しましょうっ!!」ペターン

煌「…………は、はあ……わかりました?」

 ――――

 ――小走ラボ

やえ「ふん、合同合宿なんて大事なことを、リーダーの私になんの相談もなく事後報告とはな。まったく勝手なやつらだ」

優希「すいませんだじぇ」

セーラ「別にええやんか。どうせ聞いてもオーケーしたんやろ?」

やえ「ま、幸いどのチームも相手にとって不足はない。トーナメントでも間違いなく当たるだろう強敵。今のうちに力の差を測っておくのもよかろう。
 それに、こちらはさして知られて困る情報もないしな。セーラも亦野も片岡も公式戦の常連――牌譜は出回ってる。全力で打って構わんぞ」

誠子「はいっ!」

やえ「ただし、ネリー。お前はダメだ」

ネリー「ええーっ!?」

やえ「ただでさえ、お前は不法入国者なんだ。本選まで目立つのは控えたほうがいい」

ネリー「むぅー! せっかく知らない人と打てるのに、全力を出せないなんて……!!」

やえ「本選になったら好きなだけ暴れろ」

ネリー「なんだろう……自由を手に入れるために学園都市に来たのに、ここでも不自由を受け入れないといけないっていう、この矛盾……」

やえ「人生わりとそんなもんだ」

ネリー「まあ……リーダーのやえがそう言うなら仕方ないけど。じゃ、とりあえず、八割くらいでいい?」

やえ「莫迦者。二割引き程度ではハンデにならん。むしろ二割で打て」

ネリー「そんなぁー……」

誠子「あ、あの、小走先輩。尭深のチームと戦うのに、さすがに二割はないんじゃないでしょうか……?」

やえ「なら、聞くが、亦野。お前、宮永照の八割に勝つ自信は?」

誠子「まったくもってありません!」

やえ「宮永照の二割はどうだ?」

誠子「それなら、なんとか……! ぎりぎり戦いにはなります!!」

やえ「そういうことだ」

誠子「へ……?」

やえ「ネリー、お前、私に勝つなら何割でいける?」

ネリー「贔屓目に見ても、一割以下かな」

やえ「片岡は?」

ネリー「東南戦なら、二割でねじ伏せられる」

優希「言われたい放題だじょ」

やえ「亦野は?」

ネリー「んー、三割あれば完全完封間違いなしだねー」

誠子「えっ……?」

やえ「じゃあセーラはどうだ?」

ネリー「セーラはね、強いからね。確実に勝つとなると四、五割は要るんだよっ!」

セーラ「言ってくれるやんか」

やえ「お分かりいただけただろうか?」

誠子「えっ、ちょ、ちょっと待ってください。だって……あれ? じゃあ、今までの練習は……? いつも、私と優希と江口先輩とネリーさんで打ちますけど、今のとこ、トップ率一位は江口先輩ですよね?」

ネリー「私、学園都市に来てから二割以上の力を出したことないよ」

誠子「ええええー!?」

セーラ「ま、せやろなーとは思っとったわ」

ネリー「だって、それ以上はやえがダメって言うんだもん。けど、今回の合同合宿の相手はさ、かなり強いっていうから、八割くらいは出してもいいのかなーって期待したのに……」

やえ「限度ってもんがあるだろ。セーラは《一桁ナンバー》なんだぞ。そのセーラに、お前は四、五割で確実に勝てると言う。あとはただの算数だ。お前の四、五割に勝てるやつは、学園都市に十人もいない」

セーラ「切なくなるからその単純計算やめてやー」

ネリー「がっかりなんだよー!」

やえ「ま、そう言うな。荒川憩か辻垣内智葉、あとはランクSかレベル5なら、お前でもそこそこ楽しめるはずだ」

ネリー「そこそこって……本気で打てる日はいつになるのやら」

やえ「心配しなくても、本選で勝ち進めば、いつか宮永照と当たる。そのときは、好きなように打っていいぞ。きっと、あれはお前の期待に応えてくれる」

ネリー「その言葉……嘘だったら許さないからね、やえ」

やえ「お前こそ、実物を前にして腰を抜かすなよ。宮永照はこの学園都市の《頂点》。全てにおいて最高の雀士だ。お前が全力を出しても、勝てない可能性は十分にある」

ネリー「上等なんだよっ!」

誠子「……あの、前々から気になってはいたんですけど、ネリーさんって、何者なんですか?」

やえ「向こうの世界の宮永照だ」

誠子「ええっ!? 冗談ですよね!? だって……宮永先輩みたいな人が二人も三人もいるわけが……!!」

やえ「安心しろ、三人目はいない。こいつと宮永照みたいなやつは、こいつと宮永照の二人だけだ。ま、他に例外がいるとすれば、理事長くらいだがな」

誠子「驚きを隠せません。ちなみに、ネリーさん、十割で打つとどうなるんですか?」

ネリー「ふっふーん、やってみる……?」

やえ「おい、亦野。お前、十割の宮永照と打ったことはあるか?」

誠子「練習で一度だけ。しばらく牌が握れなくなりました」

やえ「悪いことは言わん、やめとけ」

誠子「ですよね……」

やえ「よし、合同合宿の件についてはこれくらいでいいな。では、今日の練習を始めよう。
 亦野とセーラは、NPC《のどっち》とNPC《とーか》と対戦。片岡は得意の東風戦だ。私とネリーとNPC《井上》で場を引っ掻き回すから、足掻いてみせろ。
 で、最後はいつも通り、私以外の四人で対局な。勝ったやつには夕飯を私が奢ってやる。ただし、ネリーは二割までだからな。
 以上。さあ、全員卓につけ!」

ネリー・優希・誠子・セーラ「おうっ!!」

 ――風紀委員第一七七支部

怜「とゆーわけやねん。いやー、まさか和もチーム《煌星》とコンタクトを取っとるとは思ってへんかったわ」

和「あそこは一年生が四人ですからね。むしろ、まったく接点のない園城寺先輩がコンタクトを取れたことに驚きです」

姫子「レベル5の第一位――《通行止め》。直接打ったことはなかったけん、楽しみと」

絹恵「うち的には、チーム《豊穣》かチーム《幻奏》との対戦が待ち遠しいわ。あっこには、お姉ちゃんと同じ、非能力者の上位ナンバーがおる。清水谷先輩や江口先輩とええ勝負ができれば、少しはお姉ちゃんに近づけたことになると思うねん」

初美「私は《豊穣》だけとは何があっても対戦したくないって思ってたですけどねー。霞がいるってだけでブルっちゃうですよー。ま、あんまり学校に来ないやえと久しぶりに会えるし、それくらい我慢するですけどー」

怜「ほな、なんか作戦会議とかしとこか? 一応、合宿は三日間で、最終日にガチの実戦をするんは決定事項なんやけどな。うちら、まだオーダーも不確定やし、これを機に固めておきたいねん」

初美「オーダーのことなら、今年の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》は、ルール改定で自由オーダーになったですからー、相手によって毎回変えるんでもいいと思うですよー」

怜「ほんでも、向き不向きがあるやん。先鋒はエース、次鋒はバランサー、中堅は要石、副将は変化球ないし直球、大将は切り札――これが一般的なチーム構成や。
 ほんで、例えばやけど、オカルト全否定の和は、明らかに先鋒や大将には向いてへん。逆に大能力者で経験豊富な薄墨さんは、どこでもいける気がする。愛宕さんはやっぱ次鋒か副将がええやろか。
 鶴田さんは……能力アリなら間違いなく大将なんやけどな。ナシやと若干きついかもしれへん。ま、そんな感じのことや」

和「意外と考えているんですね。見直しました」

怜「ふふっ、この手の勉強は無能力者やった頃にそこそこしとったんや!」

姫子「ちなみに、園城寺先輩自身は、どのポジションの一番向いとうて思っとうとですか?」

怜「うちは……やっぱ先鋒やろか。化け物魔物で荒れがちやけど、宮永照以外やったら、《一桁ナンバー》相手でも、けったいな能力者相手でも、そこそこええ勝負ができると思うねん」

初美「それを言うなら、一発がある私が先鋒で暴れて、園城寺さんは中堅できっちり稼いでもらう、っていうのもアリだと思うですよー」

絹恵「それやと……《姫松》に近い型になるんかな。ほなら、副将はうちやのうて、原村さんがええと思います。ほんで、うちか姫子……対応力の高いほうが大将。ま、順当に考えるんやったら、経験者の姫子が大将やろか」

姫子「能力のなか状態で大将か……末原先輩にアドバイスばもらいたかとこやね」

和「ちなみに、《新道寺》の型は?」

姫子「《新道寺》は単純と。点の取れる順番に大将から並ぶ。このチームやったら、先鋒から、私、原村さん、絹恵、園城寺先輩、薄墨先輩の順やろか」

初美「切り札揃いの大将戦でぶちかますとなると、発動条件的に私の能力は不向きかもですねー。《新道寺》のそれは、レベル5の鶴田さんと、その補能力者で且つ超実力者の白水さんありきの戦略だと思うですー」

姫子「まあ、私もそう思うとです」

和「ふむ。個人的には、先ほどの《姫松》型が結構しっくり来ましたね」

怜「ま、あとで船久保さんや末原さんの意見も聞きたいとこやんな。ほんで、あとうちが決めときたいんは、温存についてや」

絹恵「どういうことですか?」

怜「これは言うても手遅れなんやけど、うちや薄墨さんの能力を、相手が知らへん状態やったら、これほど有利なことってあらへんやろ? 特に、薄墨さんなんか、何の対策もされへんかったら、ほぼ確実に役満ぶちかませる。
 本選でギリギリの勝負になったとき、切り札の数は多いほうがええと思うねん」

和「私、その手の話は苦手です……」

姫子「切り札か……ばってん、絹恵も原村さんも、あと今の私も……能力者やなかと。で、先輩方の能力は知れ渡っとう。そげん隠し球は、今の私らには残ってなかと思います」

怜「となると……試合で勝つためには、とにかく底上げしかあらへんか。ま、失うものがないっちゅーんは、逆に練習から全力出せるからええよな。
 鶴田さんは能力ナシで打ち始めたんが最近やから、成長の余地がある。愛宕さんも経験を積んだ分だけ打ち方が柔軟になるはずや。和やって、まだまだイージーミスが多い。
 その辺りを、今度の合同合宿で、どうにかできたらええと思う」

初美「本当に頼りになるですねー、リーダー。でも、大変じゃないですかー? 参謀なら、それこそ浩子や末原さんに頼んでもいいと思うですよー」

怜「いやいや、あの二人もあの二人で、今はクラス選別戦で忙しいはずや。それに……うち、これが楽しくて仕方ないんよ。
 うちは、二軍《セカンドクラス》に上がってから団体戦するんは初めてやし、二軍《セカンドクラス》の雀士は、みんな素の実力が下位クラスとは段違いやから、戦術かて考えたい放題、戦法かて選びたい放題や。
 今みたいに、オーダー一つとっても、色んな可能性がある。最近は……一日中チームのことばっか考えとんねん。大変も大変なんか知らんけど、それだけ充実しとる。幸せなこっちゃで」

和「園城寺先輩……その勤勉さを、なぜちょっとでも学業に向けられないのですか?」

怜「えー!? 今の流れでそんなオチつけるんか、和!?」

和「合同合宿……その三日間だけは、決して補習にならないでくださいね、先輩?」

怜「ううう、普通の勉強も頑張りますー……」

 ――――

 ――霞邸

尭深「――という次第です。今回の合宿、主催は私たち《豊穣》ということになっているので、諸々決めていきたいと思います」

宥「合同合宿かぁ……みんなでわいわいあったまりたいなぁ」

竜華「ほな、温泉とかええんちゃう?」

美穂子「いいですね」

霞「なら、合宿所の手配は私に任せてちょうだい。温泉選びには自信があるの」

竜華「霞は火の国出身やもんなー」

美穂子「合宿の内容はどうしましょう?」

尭深「最終日に、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》の予選を想定したチーム戦をする、というのは確定しています」

宥「初日の夜は、親睦会みたいなことしたいね」

竜華「ほな、一発芸大会やっ! たぶんやけど、園城寺さんが何かやってくれるわ! 一発得意やし、リー棒立てられるしな、あの人」

美穂子「夕食会、というのもいいかと」

宥「じゃあ、みんなでお鍋にしよ? 炬燵を囲んでぽっかぽかに……!」

霞「宥ちゃん、季節を考えてね?」

尭深「では、初日は、到着後しばらくは自由行動にしましょうか。まずは、チームごとに場に馴染んでいただくということで。
 本格的に打つのは午後から。これは、時間制限つきの東風戦とかで、テンポよく回していきたいですね。で、夕食会ののち、親睦会と」

霞「二日目はどうするか決めてる?」

尭深「今考えているのは、いくつかのグループに分かれての対局、もしくは勉強会です。
 一日目の夜にリーダー会議をして、各チーム、メンバーごとの課題を明確にしてもらい、それを踏まえて翌日の練習計画を立てます。この辺りは、チーム《幻奏》の小走博士にお力を借りるつもりです。
 皆さん、今はメンバーの底上げをしたい時期でしょうから、なるべく個人個人の基礎力を上げる方向でプランを組みたいと思っています。最終日にチーム戦をしますが、それは言わばオマケですね」

宥「尭深ちゃん……すごくしっかりしてる……!」

尭深「いえ、弘世先輩に比べれば……私なんかまだまだ」

美穂子「そんなことはないですよ。尭深さんは、私たちのリーダーとして、きっちりその責任を果たしていると思います」

竜華「何かあれば相談してや? うちと美穂子はこういうまとめ役に慣れとるから」

尭深「ありがとうございます。福路先輩と清水谷先輩には、細かいことなのですが、牌譜の記録や当日の資料作り、それに参加チームとの連絡、設備面でのフォローなど、裏方の業務をお任せしたいと思っています」

美穂子「機械以外のことなら、なんでも任せて」

竜華「肌理細やかなサービスでもてなしたるわー」

尭深「石戸先輩は、合宿所の手配、それから学校への申請など、外部とのやり取り全般をお願いします」

霞「お安い御用よ」

宥「尭深ちゃん……わ、私は?」

尭深「宥さんは……そうですね、暖かい格好をして、のんびりしててください」

宥「えええ……!?」

尭深「冗談です。宥さんは、私の補佐をお願いします。何かと雑用を押し付けてしまうかもしれませんが、誰か一人は常に傍にいてほしいので」

宥「わかった……。じゃあ、尭深ちゃんが大変そうにしてたら、あったかいお茶を淹れてあげるね」

尭深「ありがとうございます」

霞「さて、事務的なことはこれで大丈夫かしら」

美穂子「私は問題ないと思います」

竜華「ほな、麻雀の話に移ろかー」

尭深「そうですね。えっと、基本的には、抑え目でいきましょう。石戸先輩は攻撃モードなし、福路先輩は右目なし、清水谷先輩は《無極点》なしです」

霞「あら、そうなの? ちょっと意外ね」

尭深「先輩方のことは、信用しています。ここで無理に限界に挑まなくても、皆さん、今まで培ってきた経験があるでしょう。できれば、今回は全力を出すことよりも、相手を知ることに集中してほしいです」

美穂子「まあ、私は無能力者ですから、試しも騙しもないですし、特に異論はありません」

竜華「うちも同じく。ちゅーか、うちのアレは、美穂子のと違うてひょいひょい開け閉めできる引き出しとちゃうからな。普通に打つわ、普通に」

宥「でも、霞ちゃんの能力は……レベル5さんやランクSさんがいるなら、試してみてもいい気はするけど」

霞「まあ、卓を囲めば、自分の力がどの程度通用するかは大体わかるわよ。レベル5やランクSと打ったことが一度もない、というわけでもないし」

尭深「では、そんな感じで」

宥「あれ? 私は?」

尭深「宥さんは、あまり駆け引きの手札を晒し過ぎないようにしてくれれば、いつも通りで大丈夫です。というか、宥さんの場合、妹さん――玄ちゃんと同じで《常時発動型》ですから、温存できるような能力じゃないですしね」

宥「そんなぁ……温存って言葉、あったかそうで好きなのに……」

竜華「ほな、宥はそれでええとして、尭深自身はどないするん?」

尭深「私も宥さんと同じで、普通に能力を使います。というか、隠す意味がほとんどないので」

美穂子「確かに……有名ですからね、尭深さんの《ハーベストタイム》。ま、たとえ能力の内容を知っていようと、尭深さんのオーラスでの収穫を止めることは、《絶対》にできないんですけど……」

霞「ドラが集まる、一定のルールに従ってオーラスの配牌を確定させる、発動条件を満たした局で規定の飜数を和了れる、見えた牌の情報は決して《上書き》されることがない――レベル5の能力も色々だけれど、レベル4との違いは、どれも一緒」

竜華「レベル5のレベル5たる由縁は、その《絶対》性。知ってようと知ってまいと、策を練ろうと手を尽くそうと……なるもんはなる。いかなる手段をもってしても、その《絶対》を崩すことはできひん」

美穂子「それが、学園都市に七人しかいない超能力者《レベル5》。まあ、第七位の《原石》さんだけは、ちょっと毛色が違うって話ですけど」

宥「尭深ちゃんは、その第三位だもんね。尭深ちゃんの《ハーベストタイム》が《絶対》じゃなくなったのは、一回きりなんだっけ」

尭深「そうです。強度測定の実験対局で玄ちゃんと同卓したとき、私が撒いた種の一つを、オーラスで試験的にドラにしてみたんです。すると、その牌だけは、どうやっても収穫できませんでした」

尭深「ま、普通に玄ちゃんと打つ場合には、私の収穫する牌が、まずドラにならないんですけどね。能力同士が相互作用を起こして、そういう支配領域《テリトリー》の住み分けが起きるみたいなんです」

尭深「ただまあ……実験結果は実験結果。私の《絶対》は、玄ちゃんの《絶対》に及ばなかった」

宥「玄ちゃんの能力は強度抜群だもんね……」

尭深「ええ。姫子ちゃんの《約束の鍵》も、玄ちゃんと打つときだけは、ドラで飜数を上げることができません」

宥「あっ、そう言えば、玄ちゃんはそれでいいとして、尭深ちゃんと鶴田さんは、どうやって序列を決めたの?」

尭深「実験的に私をラス親にして、天和の種を蒔き、その状態で、南四局の《約束の鍵》を持った姫子ちゃんと対局したんです。結果、私の天和が優先されました」

尭深「他に試してみたのは、例えば、私がラス親でないオーラス。且つ、姫子ちゃんが南四局の《約束の鍵》を持っている場合――」

尭深「この実験対局で、私は国士無双十三面待ちの種を撒きました。ですが、配牌を終えてからは、姫子ちゃんの能力による《絶対》のほうが優先されて、最終的に和了ったのは、姫子ちゃんになりましたね」

美穂子「ああ……なるほど。そうなるんですね」

尭深「はい。私の《ハーベストタイム》は、厳密に、実りを回収した時点で、能力による確率干渉を終えます。そこからは、レベル0となんら変わりありません」

尭深「一方で、姫子ちゃんの《約束の鍵》は、和了りまで継続的に確率干渉を起こします。ただ、あくまで《絶対》性を重視すると、《約束の鍵》を持っていても和了れない局がある――という事実によって、私のほうが序列が上……ということになったんです」

尭深「というか、私の能力は《ラス親になれない》という《制約》がついているので、あの天和は、実験限定の幻なんですよね。まあ……これも支配領域《テリトリー》の住み分けということになるんでしょうか」

尭深「実戦では、私がラス親になることがない以上、オーラスで姫子ちゃんの能力と私の能力が正面衝突することは、滅多にないんです」

竜華「園城寺さんとの序列は、どうやって決めたん?」

尭深「これも似たような実験をしました。園城寺先輩の《未来視》の《絶対》性を試したんです。例としてわかりやすいのは、玄ちゃんとの実験ですかね」

宥「どんなことをしたの?」

尭深「玄ちゃん含めた園城寺先輩以外の全員に、第一打からツモ切りを強制したんです。すると、玄ちゃんはいつかドラを切ることになりますよね?
 すると当然、玄ちゃんがドラをツモ切りする一巡前、その未来を園城寺先輩は見ることになるわけです」

尭深「で、その直後に、鳴いてツモ順をズラす――と。玄ちゃんのドラ支配は、《他家にドラがいかない》という効果もありますから、園城寺先輩の《絶対》のほうが優先されるなら、ズラされた以上、玄さんは次の巡目でドラをツモることができず、且つ、そのドラが他家に流れるはずなんです」

美穂子「しかし……そこで松実さんはドラをツモってきたわけですね」

尭深「そういうことです。似たようなことを、私と姫子ちゃんでも行った結果、園城寺先輩は今の序列に落ち着きました」

竜華「なるほどなぁ。感知系最強である園城寺さんに見えた牌の情報は、《絶対》に《上書き》されへんはずやのに、尭深たちレベル5トリオはそれを崩したっちゅーわけか」

尭深「まあ、これも通常の実戦では、たとえ見えていても園城寺先輩がズラせないとか、玄ちゃんはそもそもドラを切らないとか、姫子ちゃんはズラされても別の牌で規定の飜数を和了るとか――そういった住み分けが起きるそうです。
 なので、私たちレベル5同士の《絶対》が衝突することは、やっぱりほぼ皆無なんですね」

霞「ちなみに……尭深ちゃんは、あの謎の《原石》さんとは実験対局をしたの?」

尭深「いえ、私たちトリオでは、第四位の姫子ちゃんだけが打ちました。話に聞くところに拠ると、半荘の後半に原因不明の確率干渉が起きて、姫子ちゃんの《約束の鍵》が脅かされそうになったとか」

美穂子「あのコンボが揺らいだのですか……? ちょっとしたホラーですね」

尭深「実験は、その一局で打ち止めになったそうです。あまりに想定外の出来事で、下手をすれば、姫子ちゃんが能力を失う危険性もあるからと。場合によっては、私や玄ちゃんも、危ういかもらしいです」

尭深「《原石》さんの能力については、目下解析中とのことです。どうにも学園都市の科学力では解析できない力だそうですが、姫子ちゃんの能力を崩しかけたことも事実なので、暫定的にレベル5の最下位として扱っている……」

尭深「実際には、能力者かどうかも怪しいという話もあるくらいなんです。支配力の強さも一定しないらしいですし、本当によくわからない人です、あの《原石》さんは」

宥「それでも、たぶん玄ちゃんのドラ独占は止められないと思うなー」

美穂子「出ましたね、宥さんの妹大好きモード」

竜華「せやけど、わかっとるんか、宥。今回の合宿では、その妹ちゃんの『上』が来るんやで?」

霞「新しいレベル5の第一位――《通行止め》さん。一体どんな能力なのかしら。まったく話に聞かないのだけれど」

尭深「花田さんは同じクラスなので、デジタル論の授業でたまに打ちますし、一通りクラス選別戦の牌譜も見たのですが……どうにも不自然なところがないんです」

尭深「仲間内で打っているときにだけ、能力を使っているのかもしれません。しかし、それは当人たちの許可がないと牌譜が見れませんから、なんとも……。この合宿で、多少なりともヒントを掴めたら――とは思ってます」

竜華「おっ、悪い顔やね? そんなに序列が一つ落ちたんが気に入らへんの?」

尭深「いえ、全然、そういうわけでは。ただ、宥さんではないですが、あの玄ちゃんの《絶対》のドラ支配を超える《絶対》なんて……想像ができなくて……」

尭深「恐らくは、系統が違うとかそういった理由で、花田さんの支配領域《テリトリー》と玄ちゃんの支配領域《テリトリー》には重複部分がないのではないか、と考察しています」

尭深「つまり、強度測定ができないパターンですね。その場合、序列は能力の実用性で判断されるそうですから」

尭深「だから、真の意味で、玄ちゃんのドラ支配を超える《絶対》とは違う――と。
 これは、できればそうあってほしい、という願望ですね。たった一度だけですけど、撒いた種を収穫できなかったあの玄ちゃんとのオーラスは……衝撃でしたから」

霞「強度測定ができない、か。《原石》さんのような例もあるくらいだから、ありえなくはないわよね。ただ……それだと別の疑問が湧くんじゃない?」

尭深「そうなんです。強度測定ができないと仮定すると、今度は実用性の面で、玄ちゃんのドラ独占を超えるということになります。
 ほぼノーリスクで、しかも常時発動型のドラ独占を超える実用性――確実性の高い点数獲得能力――まったくもって、想像できません」

美穂子「まあ、それほど強力な能力なら、いずれわかるときが来るでしょう。《通行止め》という通り名からして、私は封殺系じゃないかと思っていますよ。
 封殺系の能力は、場をデジタルにすることが多い。一見すると能力か否か判断がつきません。けれど、対局を重ねれば、どこかで不自然な共通点が見えてくるはず。今回の合宿で、その尻尾くらいは掴まえられるでしょう」

竜華「こっちもこっちで腹黒い顔しとんなー。こら、第一位さんは大変やでー」

尭深「まあ、花田さんのことは、あくまで目的の一つということで。
 今回の合同合宿、私にとっての誠子ちゃんや姫子ちゃんみたいに、皆さんにも、知己の方がいるかと思います。もちろん、初めましての方も。せっかくですから、チームの垣根を越えて、親交を深めましょう」

霞「そうね。ほのぼのした合同練習も、いいものよね」

美穂子「そうは言っても、適度な緊張感を持って」

宥「あったかく」

竜華「ついでにオモロく盛り上げていこかー!」

尭深「では、本日のミーティングはこれでおしまいにします。合同合宿、頑張って成功させましょう。皆さん、お疲れ様でした」

宥・美穂子・竜華・霞「お疲れ様でした」

 ――――――

 ――――

 ――

ご覧いただきありがとうございました。

キリのいいところまでと思ったら放出し過ぎてしまったので、次に現れるのは、一週間後になるかと思われます。

では、失礼しました。

 ――週末・合宿所

淡「とゆーわけでっ!」

桃子「やってきたっす温泉っ!」

友香「露天風呂でー!」

咲「大きくて風情のある旅館……!」

煌「皆さん、はしゃぐのもよいですが、遊びが目的ではありませんからね」

尭深「まあまあ、お昼過ぎまでは自由時間ですから、どうぞおくつろぎください」

煌「これはこれは渋谷さん! このたびはお招きいただきありがとうございました。三日間よろしくお願いいたします。何かお手伝いできることがあれば、何なりとお申し付けください」

渋谷「こちらこそよろしくお願いします。ひとまず、このあと、お部屋に荷物を置いていただいたら、大広間に集合してください。そこからは、しばらくゆっくりしていて大丈夫ですよ。
 あ、リーダーの花田さんだけは、集合のあと、少し残ってください」

煌「かしこまりましたっ!」

淡「じゃ、早速お部屋にゴー!」

竜華「尭深ー準備できたでー。っと、自分らはチーム《煌星》やな? 一番乗りとは感心やね。案内したるから、うちについといでやー」

淡「おー!」

 ――――

 ――――

霞「へえ、今の元気な子が例の《超新星》――ランクSの転校生なのね。纏う空気がぴりぴりっとしていたわ」

美穂子「それに、実在したんですね、《魔王》――宮永さんの妹さん。ちょっとおっかなびっくりでしたけど、対局ではどう化けるのやら」

宥「そう言えば……これは風紀委員の灼ちゃんが言ってたんだけどね、あの二人が初めて対局したとき、ショッピングモールの中だったんだけど、雀荘の近くを通りかかって気分が悪くなった、って人がたくさんいたんだって」

尭深「皆さん、その手の話は合宿が始まってからにしましょう。見てください、二チーム目が到着しますよ」

霞「あらあら、噂をすれば風紀委員長さんじゃない。おはよう、ハッちゃん」

初美「ちわっすですよー。って、霞、なんの噂してたですかー?」

霞「なーんにも。巴ちゃんや春ちゃんは元気してる?」

初美「私がこの通りなんで、最近はがっつり仕事を任せてるですー」

霞「それは大変」

怜「うおー、来たで温泉っ! って、あれ……清水谷さんは?」

美穂子「《煌星》さんの案内をしてます」

怜「そんなっ!? あのふとももを楽しみにしとったのに!!」

和「園城寺先輩は誰にでもデレデレするんですね……」

怜「誰にでもちゃうわ! 清水谷さんは特別やっ!! インターミドル時代から憧れの人やっ!!」

和「ハイハイ」

姫子「あっ、尭深、おはよう。最近調子はどうとー?」

尭深「まあまあかな」

絹恵「三日間よろしくなー、渋谷さん」

霞「じゃ、みなさんは私についてきてください。あ、お子様をお連れの方は、ちゃんと手を引いてあげてくださいね」

初美「誰がお子様ですかー!?」

和「さ、行きましょう、委員長」スッ

初美「和ー! あとで覚えてろですよー!!」

怜「ええなー薄墨さん。和、うちの手も引いてやー」

和「園城寺先輩は大人なんですから、一人で歩いてください」

怜「ちぇー」

初美「私も大人ですー!! 最上級生ですー!!」

絹恵「さ、うちらも行こか。姫子」

姫子「うん、行こ行こ」

 ――――

 ――――

やえ「ったく、ネリーのせいでぎりぎりじゃないか」

ネリー「だって! 大切なものだったんだもんっ!」

やえ「忘れ物とか言って大騒ぎするからわざわざ戻ったのに……まさかおやつだったとはな」

ネリー「旅のおともだよー! 大切だよー!!」

優希「わかるじぇ、ネリちゃん。私も今朝、マイタコスを忘れたと気付いたときには死ぬかと思ったじぇ」

やえ「お前ら二人、罰として一週間おやつ(タコス)抜きな」

ネリー・優希「私たちを殺す気かー!?」

誠子「というか、そんな大事なものなら、普通忘れないですよね。私なんてほら、この通り!」ドン

セーラ「誠子が枕抱えて現れたときは、どこからツッコんでええかわからんかったわ」

誠子「で、でも……これがないと眠れなくてっ!」

やえ「遅刻しなければなんでもいい。さすが元《虎姫》だ。弘世の躾が行き届いている。打ち合わせのときの渋谷も、会って話すのは強度測定以来だったが、当時とは比べものにならないくらいしっかりしていた」

セーラ「おっ、見えて来たでー!」

ネリー・優希「湯けむり♪ 温泉っ♪ 露天風呂~♪」

やえ「頼むから、他のチームの人たちの前では静かにしてろよ……」

セーラ「大変やなー、小走ママは」

やえ「江口パパも見てないでなんとかしろ」

誠子「あっ、尭深だ……っ!」

 ――――

 ――――

尭深「誠子ちゃん……!」

誠子「尭深……!」

尭深「……やっぱり、持ってきたんだね、枕……ぷっ」

誠子「笑うなー!?」

やえ「遅くなってすまないな、私たちが最後か?」

美穂子「そうですよ」

やえ「面目ない……」

宥「まあまあ、時間ぴったりですから、なんの問題もありません」

セーラ「とりあえず、どっかに集まったらええの?」

美穂子「先にお部屋にご案内します。荷物を置いていただいたら、大広間に集合――という流れになっています」

優希「よろしくだじぇ、片目のお姉さん!」

やえ「なんでお前は初対面の三年を相手にそんな偉そうにできるんだ……。そしてネリー、なぜ片岡の後ろに隠れている。ちゃんとご挨拶しろ」

ネリー「……ハ、ハロー?」

やえ「すいません、《豊穣》の皆さん。莫迦者どもですが、どうかご容赦ください。三日間、よろしくお願いします」

尭深「いえいえ。こちらこそ、よろしくお願いします」

やえ「ほら、ネリー、行くぞ」

ネリー「う、うん……」タッタッタッ

 ――――

 ――――

宥「…………あの子が、小走さんの秘蔵っ子かぁ」

尭深「特に変わった力を持っているような感じはしなかったですけれど」

宥「でも、あの小走さんが目を掛けるくらいだもん。変わった力がないからこそ、余計に恐い。小走さん、去年は荒川さんをよく研究室に呼んでたし。あの子もきっと……」

尭深「まあ、実際に打てばわかることですよ。それはそうと、宥さん」

宥「なに?」

尭深「二人きり、ですね」

宥「そ、そう……だね」

尭深「…………////」

宥「…………////」

尭深「宥さん、顔、真っ赤ですよ」

宥「尭深ちゃんだって……!」

尭深「出迎えも終わりましたし、入りますか、中」

宥「そうだね、集まらなきゃだもんね……うわっ!?」ヨロッ

尭深「宥さんっ!!」ダキッ

宥「つ、躓いちゃった……危なかったぁ……」

尭深「もう、気をつけてください」

宥「…………////」

尭深「…………////」

宥「……重くない?」

尭深「……少しだけ、服の分」

宥「ご、ごめん……」

尭深「いいです……」

宥「…………////」

尭深「…………////」

宥「ね、ねえ……尭深ちゃん? も、もう、私、大丈夫だけど……?」

尭深「できれば……もう少しだけ、このままがいいです。あったかい、から……」

宥「そ、そうだね……! あったかい、よね、こうしてると……」

尭深「ずっと、こうしてたい、です……」

宥「ダメだよ……尭深ちゃん、集合しないと……」

尭深「あと、十秒だけ……」ギュ

宥「し、仕方ないなぁ……尭深ちゃんは。じゃあ、あと……ちょっとだけね……」ギュ

 ――――

 ――――

優希「おおっ! 中庭まであるじぇー!!」

誠子「すごい、吹き抜けになってる……」

セーラ「よくこんな高そうなとこ借りれたなー?」

美穂子「交渉したら快く値切ってくれた、と霞さんが」

セーラ「間違いなく怪しい呪術でどうにかしたやろそれ」

 ワイワイ ワイワイ

やえ「……おい、なんなんだ、さっきから。あんまり引っ付かれると動きにくいのだが。というか、人見知りなんてお前のキャラじゃないだろ、ネリー」

ネリー「ち、違うよ。これは……人見知りじゃない」

やえ「じゃあなんなんだよ」

ネリー「やえは……何も感じないの?」

やえ「あいにく、私はそういうオカルト的な勘は一切働かないもんでな。だが、セーラや亦野や片岡は……そうじゃない。なのに、あいつらは見る限り普通にはしゃいでいる。ネリー、お前、一体なにを感じ取っているんだ?」

ネリー「私にも……わかんない。ただ、さっきから聞こえるの。これ、これってしかも、二人……? ねえ、やえ、本気でヤバいよ。この合宿所に、とんでもないのが二人いるんだよ」

やえ「ふーん……?」

ネリー「しかも……片方なんか、これ、完全に世界を閉ざす音なんだよ……」

やえ「世界を……閉ざす――?」

優希「おおっ!! 向こうに咲ちゃんと淡ちゃん発見ッ!! やっほーい!! 昨日ぶりだじぇー!!」ブンブン

やえ(ん、あれは清水谷と……チーム《煌星》か)

ネリー「………………いた……!!」ゾワッ

やえ「ん?」

ネリー「な……なんなの、これ、本当にッ!!?」

やえ「お、おい、ネリー?」

ネリー「わ、私……嫌、こんなの――無理っ……!!!」ダッ

やえ「おいっ、ネリー!? 廊下は走るな!!」

 ――――

 ――――

煌「あっ、淡さん、廊下は走らないでください」

淡「だってー、この旅館広くって楽しいんだもん。あっ、中庭だー! 綺麗ーっ!! ねー降りていい? 降りていい?」

竜華「ほな、あとで旅館の人に聞いといてあげるわー」

淡「わーいっ!!」

咲「見て、淡ちゃん、向こうに優希ちゃんが――あ、あっちも気付いたっ!」

淡「おーい!!」ブンブン

煌(あれは――チーム《幻奏》ですか)

淡「……ん?」

煌「どうしました、淡さん」

淡「いや、あの子……なんでこっち睨んでるんだろう、って」

咲「ああ、あの外国の服着てる子」

煌「留学生の一年生でしたよね。何かの研究のために学園都市に来たとか……確か名前は――」

淡・咲「ネリー=ヴィルサラーゼ」

煌「そうですそうです。って、いつまで見てるんですか、失礼ですよ。あ、ほら、淡さんが睨むから逃げてしまったではないですか!」

淡「私のせいっ!?」

咲「うわー、淡ちゃん、花田さんに叱られてやんの!」ププ

淡「ちょ、うるさいよ、サッキー!!」ゴッ

煌「よくわかりませんが、あとで一緒に謝りに行きましょう」

淡「ええーっ!?」

 ――――

 ――大広間

尭深「何も質問がなければ、これで一時解散とします。各チームのリーダーの方だけは、このあと十五分ほど残ってください。
 それ以外の方は、午後の対局開始まで自由行動となりますので、どうぞ、存分に羽を伸ばしてください。
 では、全体集合は以上です」

優希「やっほーい!! じゃあ早速温泉――の前に、軽く一局やろーじぇ、咲ちゃん、淡ちゃん!!」

咲「うん。雀卓見たら、打ちたくなっちゃった」

淡「東風戦でいいよー、ユーキ!」

優希「おおっ!? さては我が力の前に勝利を諦めたか、淡ちゃん!!」

淡「そういうことは勝ってから言ってほしいよねー」ウネウネ

咲「あ、でも、面子が……」

優希「むっ……ならば、そこのフリフリピンク!!」

和「わ、私ですか!?」

優希「貴様のおっぱいを見込んでお誘いするじぇ!! 一緒に打つじょ、私は片岡優希」

和「は……原村和です」

優希「のどちゃんだな!! よーしっ! みんな対局室行こうじぇー!!」

 ダッダッダッ

怜「一年生は元気でええわなー」

セーラ「なに年寄りみたいなこと言うてんねん。ほな、俺らも打つか?」

怜「いや、うちはそれより……」

セーラ「なんや、まーだ片思い中なんか? 早う言うてもうたらええやん。お友達になりましょーて」

怜「アホ、そんな気軽に声掛けれるか!? 清水谷さんはな……ずっと憧れの人やってん……! ああっ、しかも今日は浴衣やんっ!! さっきから、もう、裾の隙間からふとももが……ああんっ、そんな大胆なっ!!」

セーラ「……ちょっと、今の怜はキモいわ」

怜「セーラ! 自分を男の中の男と見込んでお願いがある!! うちと清水谷さんの仲を、ええ感じに取り持ってやっ……!!」

セーラ「どないしよ……竜華に変な虫押し付けるん嫌やな……」

怜「後生やでー!!」

 ワーワー

やえ「亦野、ネリーは?」

誠子「ネリーさんなら、解散と同時に部屋に帰ってしまいましたけど?」

やえ「何をやってるんだあいつは……。すまん、私はリーダー会議に出るから、それまでは亦野がついててくれ。終わったらすぐに部屋に戻る」

誠子「了解です。何かあったんですか?」

やえ「知らん。魔術師《オカルティスト》特有のものなのかもしれない。チーム《煌星》に、ヤバいやつがいるそうだ。それも二人」

誠子「ま、まあ……確かにあの《超新星》と《魔王》は、すれ違っただけで気を失いそうになりましたけどね。あそこに混じれる優希は本当にすごい……」

やえ「まあ、そっちのヤバいなら……いいんだがな」

誠子「小走先輩?」

やえ「いや、なんでもない。そういうわけで、少しの間ネリーを頼む」

誠子「はい」

 タッタッタッ

霞「ハッちゃ~ん♪」

初美「げっ! なんですかー!? しっしっ! 寄るなですー!!」

霞「一緒に温泉に行きましょう? 最近どうにも肩凝りがひどくってね。色々試してるんだけど、やっぱりハッちゃんのスペシャルマッサージじゃないとダメみたい」

初美「嫌に決まってるですー!! 大体、霞の肩こりは四十肩ですー! 年齢なんだから諦めろですー!!」

霞「うふふっ……ハッちゃん、懐かしいわね。あの頃に戻ったと思って、久しぶりに鬼ごっこをしましょうかッ!!」ゴッ

初美「ぎゃー!! こんなところで本物の鬼を降ろすなですー!!」

 ダッダッダッ

竜華「そっか、まだ見つかんないんやね、洋榎たち」

絹恵「選別戦には出てはるようなんですけど、向こうが対局のときはこっちも対局ですから、駆けつけても間に合わなくて」

美穂子「竹井さん……ちゃんとご飯を食べているといいんですが……」

竜華「白水がしっかりしとるから、その辺は心配要らんと思うけどな」

姫子「哩先輩、家事全般得意ですけんね」

竜華「ま、今は選別戦やからあれやけど、予選が始まれば顔見ることもできるやろ。あれは記録映像が一般に公開されるからな」

絹恵「そうですね。まあ……他のブロックの試合に気を回していられるほど、こっちに余裕があればええんですけど」

姫子「あっちば意識し過ぎて、こっちの予選落ちしよったら洒落にならんとですけん」

竜華「まあ、うちも、見かけたらとっ掴まえるようにするわ」

美穂子「私も、見つけたら、どんな手段を使ってでも確保します」

絹恵「ありがとうございます、清水谷先輩、福路先輩」

竜華「ええよ、あいつらの顔見て安心したいんは、うちらも一緒やから」

美穂子「本当に困った人たちです。一年生のときは、まさかこんなことになるとは思ってもみなかった……」

姫子「あっ、そう言えば、末原先輩から聞いたとです。福路先輩は、哩先輩たちと、仲良かとやって」

美穂子「私は……竹井さんの追っかけをしてただけ。お弁当を差し入れたりとか、たまに一緒に遊んでもらったりとか」

絹恵「それでもええです。よかったら、話を聞かせてください。うちら、お姉ちゃんが一年生の頃のこと、もっとよう知りたいんです」

美穂子「な、何から話せばいいかしら……えっとですね、一年生の最初に、クラス対抗戦というのがあって……」

竜華「あったあった。ごっつーオモロかったよなー。うちと美穂子と霞と宥が同卓したんも、あれが最初やったっけ。あと、夏には覆面ブームなんてのもあったなー」

美穂子「印象深い出来事が多くて、一口では語りきれませんね。では、立ち話もなんですから、ちょっと温泉でゆっくり昔話でもしましょうか。気も休まりますし、身体も温まります」

竜華「霞の話やと、この温泉には美肌効果があるっちゅー話やで!」

絹恵「それはええですね! ええよな、姫子」

姫子「う、うん……温泉やな。よかよ」

美穂子「では、用意を済ませたら、大浴場の前に集合ということで」

 タッタッタッ

煌「皆さん、早くも打ち解けているみたいですね。すばらです」

尭深「三年生は皆さん上位ナンバーで、一年生の頃からよく大会で顔を合わせていたそうです。それに、園城寺先輩以外は皆さんずっと二軍《セカンドクラス》。校舎が一緒でしたから、全員が友達同士みたいなものなんだとか」

煌「ちなみに、今日の先輩方の中で一番ナンバーが若いのはどなたなんですか? 江口さんと薄墨さん、それに福路さんが《一桁ナンバー》なのは存じているんですが」

宥「個人で一番成績がいいのは、やっぱり美穂子ちゃんかな。誰と打っても安定して崩れないし、勝つときはものすごく稼ぐから。その点、薄墨さんや江口さんは、稼ぎなら美穂子ちゃん以上だけど、ちょっとムラっ気がある」

尭深「安定感でいったら、たぶん宥さんが一番ですよ。連対率の高さと、ラス率の低さが光ってます。福路先輩は、純粋な力押しでたまに競り負けることがありますけど、宥さんはその辺りを、うまくいなしてる」

宥「も、もう……尭深ちゃんは褒め上手なんだからっ。あ、これ、お茶ね。花田さんもどうぞ」

尭深「ありがとうございます」

煌「有難く頂戴します」

宥「尭深ちゃん……どう? おいしい?」

尭深「とてもおいしいです」

煌「こうして見ると、お二人はまるで夫婦のようですね。長年連れ添った、おしどり夫婦と言ったところでしょうか。背景に縁側が見えます」

宥「は、花田さん! そんなっ、ふ、夫婦だなんて……気が早いよっ」

尭深「ちなみに、花田さんからは、どっちが夫でどっちが婦に見えますか?」

煌「意外なのですが、渋谷さんが夫に見えます」

尭深「だそうです、宥さん……////」

宥「も、もうぅぅ、意地悪言うならお茶淹れてあげないよっ……////」

煌「すばらっ!」

やえ「お、なんだ。痴話喧嘩の最中だったか? それとも、夫婦漫才か?」

宥「小走さんまで……!?」

尭深「お疲れ様です、小走博士。この度はお力を貸していただきありがとうございました。こちら、資料と」

宥「粗茶ですが」

やえ「有難う」

怜「…………ああ……行ってもうた……清水谷さん……」ドヨーン

宥「お、園城寺さん……? よ、よくわかりませんが、元気出してください。お茶、飲みます?」

怜「すんまへん、いただきま――っ!?」ハッ

宥「えっ?」

怜「松実さん……!! いつも遠目に着込んどる姿しか見てへんかったけど……近くでみると自分もなかなかのふとももをお持ちでっ!? もしよければ一回だけでも膝枕を――!!」

尭深「園城寺先輩、申し訳ありません。宥さんの膝枕は、向こう百年先まで予約が埋まっているんです。残念ですが、来世でお申し込みください。というわけで、こちら、資料です」

怜「来世やと……!? ほなら、せや……自分、渋谷さんでもええで!?」

宥「園城寺さん……ごめんなさい。尭深ちゃんの膝枕も、今世は予約でいっぱいです……」

怜「うちの安息の地はどこやー!!」

やえ「私のふとももなら叩き売りしているが?」

怜「ほなちゃっちゃとリーダー会議始めましょかー」

やえ「おい」

煌「ははっ、すばらですっ!!」

 ――――

 ――午後

尭深「制限時間付き、親の連荘なしの東風戦です。半荘が終了したら、順位とローテ表に従って、所定の卓へ移動してください。
 この対局の結果を参考に、明日の練習計画を立てます。あくまで皆さんの打ち筋やタイプを見分けることが目的ですので、あまり勝ち負けに拘らず、自然体で打ってください」

 ――A卓

優希「とか言われても、卓を囲めば血湧きタコス踊るじぇ!」

咲「東風戦は優希ちゃんに有利過ぎるよー」

和「そんなオカルトありえません。今度こそ私が勝ちますからねっ、優希!」

美穂子「(さてさて……《ゴールデンルーキー》と《インターミドルチャンピオン》、それにあの宮永さんの妹さん、ですか。お手並み拝見といったところですね)よろしくお願いします」

 ――B卓

ネリー「(うぅぅ、さっきからあの音が気になってしょうがないけど……でも、この人の近くなら、少しは紛れるかな。この魔力《ボリューム》……二割でどうにかするのは厳しいよ、やえ……!)よろしくなんだよ」

淡「目指すは一位だよーっ!!」

竜華「言うやんなー、こちとら公式戦ベスト4常連チームの元メンバーやでー? なっ、絹恵!」

絹恵「で、できるだけ頑張ります!!」

 ――C卓

初美「霞……手加減はしないですよー。さっきの屈辱、万倍にして返してやるですー!!」ゴッ

霞「うふふ、やっぱり温泉を選んで正解だったわ。今なら全力以上で打てそうね」ツヤツヤ

セーラ「おっ、久しぶりに石戸の本気を見れるんかー? ええな。ほな、俺も最初から飛ばすでー!!」

友香「(さて……私と桃子は今回、能力全開でいいってことになってる。三年生の《一桁ナンバー》二人に上位ナンバー一人……力試しにはもってこいでー!!)よろっ」

 ――D卓

怜「おっ、なんや。大特価バーゲンセールの小走博士やないですかー」

やえ「園城寺……お前、さては『身体が丈夫になったら覚えとけ』という私の言葉を忘れているな? よかろう。まずはその顎をぶっ壊すッ!!」

宥「み、みんな、私の卓だけ炬燵でごめんね……よろしくお願いします」

桃子「(相手にとって不足なしっす。東風戦じゃステルスはたぶん機能しないっすけど、その状態でどこまで上位ナンバーに対抗できるか……やるだけやるっすよ!)よろしくっす」

 ――E卓

誠子「早々にお前と打てるとはな。お互い、あれからどれだけ力をつけたか……勝負だ、尭深っ!」

尭深「そ、そうだね、頑張る(しまった……自分で設定しておいてあれだけど、東風戦連荘なしって、あまりにも私殺しのルールだった……)」

姫子「(おっ、二年生卓と。それもレベル5の三人も。まあ、私と尭深は実質無能力状態やけど。ついに見れるんやろか? レベル5の――第一位の力ば……)よろしく」

煌「よろしくお願いしますね、皆さん」スバラッ

 ――――――

 ――――

 ――

<一日目対局結果>

1:片岡優希 2:福路美穂子 3:江口セーラ 4:松実宥 5:園城寺怜

6:清水谷竜華 7:亦野誠子 8:石戸霞 9:森垣友香 10:薄墨初美

11:大星淡 12:愛宕絹恵 13:ネリー 14:宮永咲 15:東横桃子

16:鶴田姫子 17:渋谷尭深 18:原村和 19:小走やえ 20:花田煌

 ――《煌星》部屋

煌「ずっとラスでした……」ズーン

淡「やっぱ普通に打って一番強いのはユーカかー。やるじゃん」

友香「《絶対安全圏》しか使ってない淡に言われても嬉しくないんでー」

桃子「《プラマイゼロ》オンリーの嶺上さんに負けるとか屈辱っす……!!」

咲「っていうか、さすが東風戦。優希ちゃん強かったなぁ」

 ――《新約》部屋

初美「だー!! 霞のせいで調子ガッタガタですー!!」

絹恵「あれでガタガタやったんですか……? 薄墨先輩だけでしたやん、今回役満和了ったの」

怜「まーたセーラに稼ぎ負けたわー」

姫子「にしても、原村さん。今日はどっか調子悪かか? あんたなら、上級生相手でんもっと打てるやろ」

和「うーん……リアルはやはり難しいです」

 ――《幻奏》部屋

やえ「私がブービー賞。ま、順当だな」

優希「我最強だじぇ!!」

セーラ「優希はまあ、せやろな。それと、誠子もよう頑張っとったな。俺ら上位ナンバーと打っても全然崩れへんやん。伊達やないわ、元一軍《レギュラー》」

誠子「まあ、今日はわりと運もよかったですから」

ネリー「あの音が気になってプラスにするのがやっとだった……」

 ――《豊穣》部屋

尭深「厳しい戦いでした……誠子ちゃんはあんなに頑張っていたのに」

宥「し、仕方ないよ、尭深ちゃん向きのルールじゃなかったし」

竜華「逆に宥は調子よかったなー」

美穂子「結局、花田さんの能力はわからず仕舞いでしたね」

霞「まったく普通の子だったわね。起きてる小蒔ちゃんと打たせてちょうどいいくらいの」

尭深「では、私は夕食の前に、ちょっと他チームのリーダーさんと話し合ってきます。行きましょう、宥さん」

宥「う、うんっ」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――二日目

やえ「講師を務める三年の小走やえだ。身分は白糸台高校の学生だが、学園都市に数多いる研究者の一人でもある。専門は能力解析とプログラミング。今日は君たちに、《能力論》の初歩を学んでもらおうと思う。
 二年生になれば、専門科目で履修することもできる。ただ、君たちは一年生で、まだ一学期。授業の大半はデジタル論の基礎だろう。慣れない用語も出てくるかもしれないが、何かあったらそのつど質問してくれ」

和「はい、小走先生っ!」

やえ「なんだ、原村和」

和「能力なんて、そんなオカルトありえません!!」

やえ「おい、片岡、そこのピンクを黙らせろ」

優希「了解だじぇー!!」ガバッ

和「むー!? むー!!」

やえ「ま、デジタル信者には悪いが、能力は実在する。原理は解明されていないが、《意識的確率干渉》――要するにオカルトは、それなりに身近な自然現象だ」

やえ「まずは……自分だけの現実《パーソナルリアリティ》の話から入ろうか。古代において『ジンクス』や『願掛け』と言われていたものの、大本になっている概念だな」

友香「能力を行使できる《空間》のことですよね。その内部で、ヒトは意識的に事象の確率に干渉することができる。強かれ弱かれ、広かれ狭かれ、この世界のあらゆる人間が生まれながらに持っている支配領域《テリトリー》」

やえ「君は……帰国子女の森垣友香か。向こうでは、中等教育から能力論を?」

友香「いえ、興味本位で。ちょっとかじっただけです」

やえ「そうか。ま、概ねその通り。自分だけの現実《パーソナルリアリティ》は、能力を生み出すための《空間》。その空間内において、ヒトは意識的な確率干渉の《波動》を発信することができる」

やえ「支配領域《テリトリー》は、もう少し限定的な意味を持つ言葉で、個人の持つ複数の意識――確率干渉の波動――が重ね合わさり、高密度の《波束》となる《特異点》のことだ」

やえ「この特異点……支配領域《テリトリー》において、ヒトの意識的確率干渉力のエネルギーは、一定の閾値を超える。つまり、《能力》として目に見える形となる――古典確率論を逸脱した現象を引き起こす――ということだ」

やえ「例えば、そこに片岡優希というやつがいるが」

優希「じぇ?」

やえ「こいつの場合、《目立ちたい》《速攻で勝負をつけたい》《集中力が持たない》《最初に和了りたい》……などといったいくつかの強い意識がある」

やえ「その意識の波動が重ね合わさり、パーソナルリアリティ空間内に、固有の干渉縞が形成される。その中で最も振れ幅が大きくなるのが、《東場》。もっと厳密に言えば、東場の《自牌》――自分の手に入る牌というわけだ」

やえ「そこが、こいつの支配領域《テリトリー》。パーソナルリアリティ空間内で、複数の意識が《波束》として集中する《特異点》」

やえ「学園都市にいる大部分の能力者が、このタイプ。支配領域《テリトリー》の範囲の違いによって、便宜的に系統を分けてはいるが、
 要は、『支配領域《テリトリー》にある牌の《存在波》に干渉し、それを自分の思い通りに《上書き》できる』能力者ってことだな」

桃子「それって、支配領域《テリトリー》の範囲がものすごく広い場合とかだと、なんでもできるってことにならないっすか?」

やえ「なんでもはできない。いわゆる《制約》や《発動条件》といったものだ。細かい理論は省くが、ざっくり言うと、パーソナルリアリティ空間内におけるヒトの《意識の波束》には、個人によって一定の《意識の偏り》――《固有値》が存在し、それによって――」

咲「小走先生、淡ちゃんが寝てます!」

淡「ぐー」

やえ「……ネリー、やれ」

ネリー「あいあいさー!! 喰らえ、せいこ直伝水掛け(イメージ)!」ピチャン

淡「ふわっ!?」

 ――――

 ――――

美穂子「花田さんは、門前での牌効率が非常にいいです。手作りに関してはその調子で頑張ってください。
 というわけで、今日は『鳴き』と『読み』です。麻雀は四人でするもの。人と河をしっかり把握して、より堅実な打ち方を磨きましょう」

煌「はいっ!」

竜華「亦野さんは逆やな。鳴きの絡む場はむっちゃ強い。ただ、その分、『門前』の研究が甘いねん。
 自分は鳴かへん手作りをする機会は少ないんやろうけど、他はちゃう。副露率五割以上の雀士なんて、デジタル・オカルト問わずなかなかおらん。大半は門前で手を進めるもんや。その理論を頭に入れとかんと、足元すくわれんで。
 まず読みからやけど、筋と字牌が安全なんは、相手が平和のときだけやな。ほんで、誰も彼もがいつも平和なんとちゃう。それをな、捨て牌から見抜けんと、実戦ではオリ切れん。ほな、一緒に河を見てみよかー」

誠子「はいっ!」

霞「鶴田さんの課題は『押し引き』ね。能力が能力だから、今までは押すときと引くときの線引きがはっきりしてた。けど、実際はもっと、押し引きの判断は複雑。
 自分が和了るか相手が和了るかの二元論ではなく、東南戦一局を通してどういう試合展開をしていくのか――大局的な視点を持って、現状のベストを決める。大将を目指すならなおさら、視野を広くしておかないとよね」

姫子「はいっ!」

セーラ「絹恵は『攻め』や。自分はあの洋榎の妹だけあってスジもカンもええ。ほな、そのセンスを攻撃にも活かすんや。自分はちょっとばかし守りに入りがちなとこがある。現状維持するだけじゃ勝てへん場面が必ず来るで。
 怜や初美に頼らんと、自分が稼ぎ頭になるつもりで打つんや。点の取り方っちゅーもんを、俺が教えたるわ」

絹恵「はいっ!」

 ――――

 ――――

初美「こっちはごちゃごちゃ言わず打つですよー」

怜「能力、支配力、なんでもアリアリルールやな」

宥「ただし、小走さん開発の麻雀ソフトで、ですけど」

尭深「キャラクターを自分に設定して打つんですね。機械の中なのに、ほぼリアルと同じ感覚で打てる」

初美「で、一局終わったら、同じ配牌とツモで最新のAIが打ってくれる……と」

怜「それと自分のを比較するわけやんな」

宥「勝負の分かれ目がどこにあったのかが、客観的にわかる。AIは常に最適効率で打つから、敗着にもすぐ気付ける」

尭深「小走博士様々です。では、打ちましょう」

 ――――

 ――午後

やえ「というわけで、午後はこいつを使う」パソコン

ネリー「出たーっ! 研究室から持ってきたハイテク機器!!」

やえ「私なりに、昨日の対局を見て、お前たちの能力を解析した。で、簡易プログラムを組んだ。お前たちには、今から二人組になって『自分自身』と打ってもらう。完全デジタルの状態で、自分の能力と支配力を打ち破れ」

淡「じゃ、じゃあ……私はずっとぐだぐだな配牌で打たないといけないわけ……?」

桃子「私は捨て牌を読めなくなるわけっすね……」

やえ「組は私が決めた。片岡・森垣組、大星・東横組な。それから宮永」

咲「はい」

やえ「お前の力――《プラマイゼロ》は、ちょっと解析が難航してプログラムが組めなかった。すまん」

咲「こ、こちらこそ、なんかごめんなさい……。じゃあ、私は何をすれば?」

やえ「お前は原村と組んで、デジタル打ちの訓練だ。原村、お前は宮永の後ろについて、デジタルのなんたるかを教えてやれ。で、二人でNPC《のどっち》×3に勝ってみせろ」

和「わかりました。では、咲さん、いいですか? まず、カンは一切しないでください。カンも頼りにしないでください」

咲「そんな……合宿に来てまで機械で打たないといけないの……?」ウルウル

やえ「で、最後にネリー」

ネリー「んっ?」

やえ「お姉様方がお呼びだ」

ネリー「え……?」

 ガヤガヤ

竜華「うちらも指導ばっかりやのうて、ガチの対局せなあかんからなー」ゴゴゴゴゴゴ

美穂子「小走さんからお話は伺ってます。ネリーさんはかなり強いとか」ゴゴゴゴゴゴ

セーラ「俺以上なんは間違いないで」ゴゴゴゴゴゴ

霞「あらあら、それは楽しみ」ゴゴゴゴゴゴ

ネリー「え、えーっと……」

やえ(……五割、出していいぞ)コソッ

ネリー(マジでー!?)

やえ(ああ、主催者への礼儀だ)

ネリー(大丈夫? 死人出ない? 慰謝料請求されない?)

やえ(全員ともそれなりに頑丈だよ。構わんから、ぶちかましてこい)

ネリー(…………わかったんだよ……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌「私たち、二年デジタル論組は?」

尭深「二人ずつの組に分かれて、私たち実戦組と模擬対局です」

宥「よろしくね」

小走「花田たちデジタル論組には、私と、ネリーとの対局に漏れた三年が補佐につく。デジタル論を復習しつつ、対オカルト戦略の手ほどきをしよう。最終的には、《一桁ナンバー》の初美や、《レベル5》の園城寺に勝つのが目標だ」

初美「やえが参謀につくですかー。これは厄介ですねー」

怜「ほな、早速始めましょかー!」

 ――――

 ――夕食後

尭深「皆さん、本日の最後は真剣勝負です。しかも、優勝者には豪華賞品が出ます」

優希「うおおおおだじぇ!!」

尭深「対戦カードは、白糸台での戦績、合宿中の対局などを参考に、こちらで決めさせていただきました」

尭深「一回戦は三名、準決勝は一名勝ち抜けです。また、同時並行で、各ブロック最下位同士の最下位決定戦もします。最下位の方は罰ゲームありなので、頑張ってください」

尭深「決勝戦は、別室からみんなでモニター観戦をします。解説は決勝にいけなかった三年生がしてくださいます」

尭深「ルールは一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》準拠の東南戦。というわけで、こちらが組み合わせ表になります」

 Aブロック:石戸霞、鶴田姫子、花田煌、宮永咲

 Bブロック:清水谷竜華、渋谷尭深、大星淡、片岡優希

 Cブロック:小走やえ、愛宕絹恵、東横桃子、原村和

 Dブロック:松実宥、亦野誠子、森垣友香、ネリー=ヴィルサラーゼ

 シード:福路美穂子(A)、江口セーラ(B)、薄墨初美(C)、園城寺怜(D)

 一回戦:ABCDブロック → 上位三名勝ち抜け

 準決勝:ABCDシード+ブロック勝者 → 上位一名勝ち抜け

 最下位決定戦:ABCDブロック最下位 → 下位一名罰ゲーム

 決勝:準決勝勝者 → 優勝者豪華賞品

尭深「では、対局開始です」

 ――――

 ――Aブロック

霞(さてさて。花田さんの能力はようとして知れないけれど、それはそれとして、豪華賞品というのが気になるわね)

姫子(今日一日で、能力ナシの打ち方に大分自信がついたと。力はついとう気のするけん、とにかく勝って、できるだけ多く打ちたか!)

咲(や、やっと普通の麻雀が打てる……! さっきまで暗闇だったのに、今は牌が光って見えるよ。ううー、嶺上和了りたい……っ!!)

煌(朝から晩まで麻雀漬け……すばらです。ご指導してくださった皆さんのためにも、初日のように簡単にやられるわけにはいきません。弱いなら弱いなりに、頑張らなくては!)

 ――Bブロック

竜華(厄介な能力者に囲まれてもうたなー。東場に強い一年生に、オーラスに一発がある尭深……それを配牌五、六向聴でどうにかせなあかんのか。これは骨が折れるで)

優希(ふふん、豪華賞品は私のものだじぇ!! 東風戦の神は東南戦になっても神だということを教えてやるじょ!!)

淡(さあ……初日はちょっとあれだったから、まともな直接対局はこれが初めてだよね。スバラ以外のレベル5――《ハーベストタイム》ってやつの力、見せてもらおうじゃん!)

尭深(……とりあえず、罰ゲームだけは避けなきゃ……)ズズズ

 ――Cブロック

やえ(東横は例外として、基本的にはデジタル卓か。普段から能力ありきの麻雀ばかりしているから新鮮だな。にしても、なぜかあっさり負けそうな予感がしてならない……)

絹恵(稼ぐ、か。確かに、うちが稼げたら、姫子が大分楽になるはずやんな。江口先輩に教えてもろたこと……うちなりに物にしてみせるわ!)

桃子(初日の私だと思ったら大間違いっすよ……! この面子なら南場にはステルスに入れる。変な言い回しっすけど、目に物見せてやるっす!!)

和(ふむ……やはり、まだリアルだと少し緊張しますね。さっき、咲さんとパソコンで打っていたときは、さほどでもなかったんですが――)

 ――Dブロック

宥(いつも通りに。いつも通りに)

誠子(ネリーさんがいるのかぁ、弱ったな。優勝できるとは、正直、思ってないけど、とにかく最下位は避けたい。罰ゲームなんて死んでも嫌だ。というか、《虎姫》の合宿ではこんな余興めいたことは一切やらなかったのに。尭深のやつめ……)

友香(初日の感覚だと、《一桁ナンバー》相手でも、歯が立たない――っていうほどでもない。けど、何か、決定的に分厚い壁があるような気もする。できれば勝ち抜いて、その力の差の理由を知りたいんでー!)

ネリー(まーた二割縛りって言われちゃったよー。五割でも、三人がかりで来られるとちょっとてこずるような人たち相手に、二割で優勝は無理かなー。かといって罰ゲームも嫌だし。ま、普通に頑張ろうっと)

 ――――

 ――モニター室

美穂子「で、シードは一回戦は観戦なわけですね」

セーラ「暇やー」

初美「高みの見物は好きですけどねー」

怜「それとも、今この面子でちょっくら模擬決勝でもやりますー?」

美穂子「いえ、できれば後輩の育成をしてくれって、尭深さんや小走さんから言われてるんですよね。というわけで……えっと、ここに喋ればよかったんでしたっけ、あーあー。聞こえますか、花田さん」

煌『すばらっ! その声は福路さん』

美穂子「今、モニター越しに花田さん視点で見てます。対局中、私が気になったことを逐一伝えますね」

煌『ちょっとズルをしている気がしますね』

美穂子「花田さんの場合、ちょっとズルをしたくらいでちょうどいいですから、大丈夫ですよ。だって、普通に打ったら罰ゲームになっちゃいますよ?」

煌『これは手厳しい』

美穂子「あ、花田さん。今、たぶん霞さんが張りました。何を根拠に私がこんなことを言ったのか、わかりますか?」

煌『ちょ、ちょっと待ってください、考えます……』

セーラ「ええなー、オモロそうや。ほな、オレも弟子の絹恵のサポートに回ろか。おーい、絹恵ー」

絹恵『あれ? 江口先輩、どないしました?』

セーラ「サポートや、サポート」

絹恵『ありがとうございます。けど、できるだけ自分で考えたいんで、アドバイスは少なめで大丈夫ですよ』

セーラ「そうなん?」

絹恵『時々、相談させてください。あ、これ……江口先輩ならどっち切ります?』

初美「みんな楽しそうですよー。じゃ、私も鶴田さんにつくですかー。そして、福路さん、一緒に霞を叩き落そうですー」

福路「私たちがサポートしたくらいで叩き落せたら苦労しないですよ。霞さんは断トツで堅いですからね」

初美「あーあー、鶴田さん、聞こえるですかー?」

姫子『ん? 薄墨先輩とですか? ……わ、ロンやと? もー、薄墨先輩、気ば散らさんでください!』

初美「ひどい言われ様ですー。でもいいですかー、今のは鶴田さんのミスですよー。なぜならかくかくしかじかだからですー」

姫子『うっ……正論とです。すいません、私、まだまだ甘かとですね。ミスのあったときは、そのつど教えてください。よろしくお願いします』

怜「なんやー、みんな後輩の指導かいなー。せやけどなぁ……うちはデジタル論も能力論もからっきしやし。せや!」

美穂子「あら、園城寺さん、どちらへ?」

怜「対局室行ってくるわ! ほんで、サポートしてくるっ!」ダッダッダッ

 ――――

 ――Cブロック

和「………………一体なんの真似ですか、園城寺先輩」

怜「んー? ただの膝枕やけどー?」

和「対局室に来るなり私の膝にダイブしてくるなんて、悪ふざけにしても度が過ぎますよ」

怜「悪ふざけちゃう! 真剣なサポートやっ!!」

和「はあ?」

怜「ええか? 和は、自室でやるネット麻雀はえらく強い。やのに、リアルの対局やとどーゆーわけかミスが多くなる。これな、うち、リラックスしてへんからやと思うねん!」

和「リラックス……?」

怜「せや。和、自分、部屋ではどうせぬいぐるみでも抱きながら、だらしない格好して打っとんのやろ?」

和「だらしない格好は(たぶん)してません! ぬいぐるみは……抱いてますけど。合宿にも持ってきました」

怜「やっぱりや! ほんなら、うちをそのぬいぐるみやと思って打ってみい。ここが和の部屋の、パソコンの前やと思って打ってみるんや。和ならできるはずやで」

和「そ、そんな非科学的な、根性論みたいなことで……」

怜「やけど、試してみる価値はあるやろ?」

和「ま、まあ……それは……///」

怜「ん……? 和、顔赤ない? 照れとん?」

和「て――誰が照れてますか!? 園城寺先輩の奇行がみっともなくて恥ずかしいだけです!! もうっ……本当に園城寺先輩は……無茶苦茶なんだから……」

怜「けど、その強引なとこが好き、やろ?」

和「張り倒しますよ?」ゴゴゴ

怜「素直やないなー」

和「ま……でも、なぜか、少しだけ、ほんのちょっとだけ、いけそうな気がします。行動はともかくとして、アドバイスは、それなりに的を射ていると思います」

怜「ほな、皆さん待ってはるし、早よ一打目切りやー」

和「皆さんをお待たせしているのは、主に園城寺先輩の乱入が原因です。ただ……すいません、ちょっと待ってください。少し、考えますから――」スゥ

やえ(ん……目つきが変わった、か?)

絹恵(電脳世界の守護天使《ゴールキーパー》、ネト麻最強の《のどっち》――リアルの練習では一度も降臨せーへんかったけど……ここに来て、化けるんか?)

桃子(こっちは既にステルスモードに入っているっす……! おっぱいさんが覚醒しようとしまいと、私には関係ないっすよ!!)

和「――お待たせしました。対局を再開しましょう……」ヒュン

 ――――――

 ――――

 ――

和「ロン。5200」パラララ

桃子「なあっ!?」

和「? どうかしましたか……?」ポー

桃子「い、いや……その、おっぱいさんには私の捨て牌が見えるっすか?」

和「見えるとか、見えないとか、そんなオカルトありえません」

絹恵(原村さん……どっちがオカルトやねん……)

やえ(化けた……いや、本来の姿を取り戻したのか? まさかAI以上の力だとはな。これが本物の《デジタルの神の化身》――《のどっち》。参考になった)

怜「……どやった、和?」

和「まあ……悪くない闘牌でしたね。初めて、リアルで合格点の打ち回しができました。リラックスが鍵だったとは」

怜「うちのおかげやんな?」

和「そうですね。園城寺先輩のアドバイスのおかげです」

怜「ほな、今後練習では、隙あらば膝枕して怜ちゃんパワーを溜めよかー!!」

和「はあ? 何を言ってるんですか? もうコツはわかったので、今度からはエトペンを抱くことにします」

怜「ええええー!?」

和「ま、まあ……その、ごく、ごくごく……たまになら…………い、いいですけど……」ゴニョゴニョ

怜「へ? なんや、よう聞こえへんけど?」

和「なんでもありませんっ!!」

怜「っちゅーか、顔赤いの、直らんね」

和「だ……誰のせいだと思ってるですか!? では! ありがとうございましたっ!! 次からはシードの園城寺先輩も打つんですよね!! さっさと向こうの卓に行ってくださいっ!!」

怜「はいはい。ほなな、決勝でー」

和「…………ええ、決勝で」

 ――――

 ――Bブロック

淡(さて……ついにオーラスが来たわけだけど……)

尭深「」ゴ

淡(わかっちゃいたけど一つも能力が効きやしない。《絶対安全圏》――私のレベル4の大能力が、まるで砂浜に書いた絵みたいに……あっさりと《無効化》されちゃったよ)

尭深「」ゴゴゴ

淡(スバラとの対局で何度も味わった感覚……これが本当の《絶対》。私の能力は、この《絶対》の前では無意味なんだ。同じ配牌干渉系……その最上位に君臨する――たかみー先輩の《ハーベストタイム》ッ!!)

尭深「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(って言っても、配牌干渉系は、私と同じで、ツモ牌までは干渉できない。いくら配牌で役満一、二向聴だって……和了れないときは和了れないはず。気をつけつつ早和了りすれば……)

竜華「」ゴッ

淡(って!? こっちの三年生からテンパイ気配? 嘘でしょ、まだ四巡――そっか! たかみー先輩がごっそり字牌を抱えた影響で、他の二人に対する私の《絶対安全圏》まで揺らいだんだ……!! すごい……すごいよレベル5っ!!)

尭深「ツモです」パラララ

淡「!!?」ガタッ

竜華(ちゃー……間に合わへんかったか)

優希(化け物だじぇ……!!)

淡(よ――四巡目……!? こんなの……経験ないっ!! 四巡目に和了られることすら稀なのに、その上――)

尭深「字一色大三元四暗刻……8000・16000です」ゴッ

淡(トリプル役満だなんて……ははっ! 楽しいっ!! すごい、なにこれ、面白いっ!!
 これが……これが元一軍《レギュラー》!! 攻撃特化をコンセプトにした、去年の白糸台高校麻雀部で最強のチーム――そこで要の中堅を任されていた人の麻雀っ!!
 スバラの絶対防御とは違うタイプ……高火力型のレベル5!! こんな人が、学園都市にはあと五人もいるんだっ!! わくわくするよっ!!)

竜華「やるやん、尭深。まくられたわ」

尭深「いえいえ、今回は巡り合わせがよかったんです。片岡さんが東一局で連荘してくれたおかげで、いっぱい種が撒けましたから」

優希「その分ぜーんぶ取られちゃったじょー」

淡「この私を三位に落とすなんてね。すごいよっ、たかみー先輩! 倒し甲斐があるっ!!」

尭深「あ、ありがとう……大星さん。なんだか、変な感じ。あなたとは、本当なら同じチームになるはずだったのにね」

淡「ああ……そういえば、スコヤがそんなようなこと言ってたかも」

尭深「幻のチーム《虎姫》……大星さんと、私と、誠子ちゃんと……宮永先輩と弘世先輩。その五人でインターハイに出る未来も、あったのかもしれない」

淡「うん。でも、私は今のチームが、結構気に入ってるんだ」

尭深「私も。《虎姫》と同じくらい、今のチームも好き」

淡「じゃ、準決勝もよろしくね、たかみー先輩。今度は負けないよっ!?」

尭深「ふふっ……実はね、大星さんと同卓すると、オーラス以外の局は配牌でいっぱい字牌が来るから……種が撒きやすいの。次も、例の《絶対安全圏》で、アシストお願いね?」

淡「あは! 言ってくれるじゃん。ますます好きになったよ、たかみー先輩っ!!」

尭深「ありがとう。私も、大星さんのこと、この合宿で大分好きになったよ。これからも、よろしくね」

淡「こちらこそっ!!」

 ――――

 ――準決勝Aブロック

霞「美穂子ちゃん、聞こえたわよ。さっき、ハッちゃんと協力して、私を落とそうとしてたでしょ。そんなに私と戦うのが嫌だった?」

美穂子「相変わらずの地獄耳ですね。誤解です。私は後輩の指導をしていただけ。霞さんを狙っていたのは、薄墨さん一人ですよ。そうでしたよね、鶴田さん?」

姫子「(ふ、福路先輩もわりとノリノリやったような……?)ま、まあ、そんな感じやったと思うとです」

咲(なんだろう、デジタルから解放されたせいなのかな。いつもより調子がいいよ。こんな日は嶺上を和了って和了って和了りまくりたいんだけどなぁ……花田さんの言いつけだから仕方ないか。《プラマイゼロ》コンプリートを目指そうっと)

 ――準決勝Bブロック

セーラ「俺がラス親かー。ほな、二位と8000点差で、渋谷と48000点差つけときゃ、直撃されん限り負けへんやろ」

淡「あっ!! 確かにー!!」

竜華「アホか。25000点持ちで48000点差つけるくらいなら、普通にトばしてまえばええやん」

尭深「あの、皆さん、私だって別に、オーラス以外何もしないわけじゃないですよ……?」

 ――準決勝Cブロック

初美「さてさて。私の四喜和の餌食になりたいやつは誰ですかねー?」

桃子「鳴けるもんなら鳴いてみろっす、薄墨先輩!」

和「」ポー

絹恵(は、原村さん……? さっき園城寺先輩に膝枕されてからずっとのぼせっぱなしや。大丈夫かいな?)

 ――準決勝Dブロック

怜「さっ、豪華賞品まであと二勝やー!」

ネリー「というか、豪華賞品ってなんなの? お金?」

宥「私も知らないの。尭深ちゃんが選んだみたいだから……もしかすると、高級茶葉とか、そういうのかも」

友香「おっ、それ本当ですか!? 紅茶? 日本茶? ますます優勝したくなってきたんでー!!」

 ――最下位決定戦

やえ「で……なぜ私らのチームから三人もここに落ちてきている! やる気あるのか、お前らっ!?」

誠子「私はネリーさんから執拗なイジメにあったんです……」

優希「私は普通に負けたじょ!」

煌「チーム関係ないですけど、なんかごめんなさい……」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――決勝

美穂子「まさか、私たちのチームから三人もここに上がってくるとは。皆さん、張り切っていますね」

宥「まあ、美穂子ちゃんはシードだから順当だとして……まさか、尭深ちゃんと決勝で会えるなんてっ! 頑張った甲斐があったよ……!」

尭深「初日でボコボコにされたままでは終われないと思ってましたから。宥さんこそ、今回の合宿はかなり調子がいいみたいですね。これは、優勝は宥さん……ですかね」

和「」ポー

 ――モニター室

やえ「ほれ見たことか!? 片や最下位決定戦に三人出場、片や決勝戦に三人出場だっ! 全くたるんでいるっ!!」

誠子「ごめんなさい……」

セーラ「堪忍してやー。大星が渋谷のアシストするわ、竜華は俺のことめっちゃマークしてくるわで、もう散々やったんやからー。これやからシードは嫌やねん」

ネリー「そんなに言うならやえが決勝行けばよかったのに。っていうか、やえ、今回の合宿はいいとこナシだよねー」

優希「ネリちゃん、やえお姉さんは今回、パソコン係という大事な役を負っているんだじょ。昨日の夜なんて、ぷろぐらみんぐ(?)をほぼ徹夜で頑張ってたんだじょ。ま、それを差し引いても、初日の19位はどうかと思ったじぇ」

咲「えっ、花田さん、やっぱり罰ゲームに!?」

桃子「一発芸……でしたっけ。何かできるっすか?」

友香「無理なら私たちが代わりましょうか?」

淡「みんな、心配要らないよっ!! ね、スバラ!!」

煌「ふふ……こんなこともあろうかと。後々お見せいたしますよ、私のもう一つの能力――空間移動《テレポート》を!」テテーン

初美「和……やってくれたですー。まさか北家の私を狙ってくるとは……」

絹恵「東と北をノータイムで切ったときはアホかー思いましたけどね」

姫子「原村さんはデジタル信者やけん。何回言うてもSOAの一点張りと」

怜「ふふっ、松実さん。うちに勝ったと思っとると痛い目見るで……! その決勝戦には、なんとこの園城寺怜がおる! 和の膝の上にっ!!」

竜華「みっなさーん! お菓子とジュース持ってきたでー。今日はもうこれで練習は終わりやから、くつろぎながら観戦しよかー」

霞「もちろん、くつろぎ過ぎちゃダメよ。人の対局を分析するのも、立派な勉強。じゃ、解説は私と竜華ちゃん、それに小走さんでいいかしら」

やえ「構わんよ。それでは、一、二年生諸君。各自、今日習ったことを復習しつつ、決勝卓の猛者たちが実際にどう打っているかを細かく見ていこう。できれば、自分と同じタイプの打ち手に注目するといいだろうな。
 さて、第一打が福路から放たれたわけだが……」ウンヌン

 ――――――

 ――――

 ――

 ――夜・温泉

怜「っしゃあー!! 待ちに待った温泉やっ!! ほな、今日こそ憧れの清水谷さんと――」ハッ

怜「ほ、豊穣の大地が広がっとるでぇー!!」キラキラ

      竜華「おっ、森垣さん、髪ストレートになると印象変わるなー!」キャイキャイ

  友香「あははっ、それよく言われますんでー」キャイキャイ

     美穂子「ん、あっ……ごめんなさい、霞さん。私、右側はよく見えなくて」フニュ

  霞「私ならこっちよー?」ワシャシャシャ

           淡「あわわわっ! かすみー先輩、泡! 泡で前が見えないーっ!!」アワアワ

   美穂子「ん、ではどちら様……?」
                     桃子「私っす」ユラッ
        美穂子「あら、東横さん」

怜「ひきかえ、こっちは荒地の大平原やな……」

     初美「誰が荒地ですかー、誰がー」

  ネリー「一部の方々にはこっちのほうが桃源郷だったりするんだよっ!」

       優希「無常なる人の世に貧富の差はつきものだじぇ。な、咲ちゃんっ!」

      咲「全部ゴッ平らにする……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

怜「ほほう。緩衝地帯なんてのもあんねんなー」

    やえ「いかにも、今日用いた麻雀ソフトは、全て私自身でプログラミングしたものだ」

     和「よろしければ、二、三お聞きしたいことがあります。まず、あのNPC《のどっち》の思考ルーチンなのですが――」

   姫子「で、哩先輩がー!」  煌「すばらっ!!」

    姫子「哩先輩でー!」    煌「すばらっ!!」
  
     姫子「哩先輩やけーん!!」 煌「すばらっ!!」

   姫子「………………花田さん、話半分で聞いとらん?」

       煌「す、すば……っ!?」

     誠子「え……あの二人、まだ付き合ってなかったんだ……」

    絹恵「せやろー!? そう思うやろー!? もーホンマ浩ちゃんはヘタレ過ぎんねん! 一生データ集めで終える気かあのアホーっ!!」

怜「むっ? なんや、あの物陰……怪しいな――」

       宥「だ、だめっ、尭深ちゃん、み、みんないる……からっ」

     尭深「大丈夫、誰も見ていませんよ……」

怜「一方その頃――男湯では」

    セーラ「おーっ、ここが男湯かー!? ごっつ広くて綺麗やんっ! よーしっ、男は俺一人しかおらんし、早速泳いでってゴラァァァァァ!!」

 カポーン

怜「ひゅうー! 温泉やのに寒いッ!? こんなオチでゴメンな!!」

セーラ「っちゅーか、怜は一体どこの誰に向かって話しとん?」

怜「ここではないどこかの誰かや」

 ――――――

 ――――

 ――

ご覧いただきありがとうございました。

今日は以上です。

最後の温泉シーンは特に気合を入れて書いたので、心の綺麗な方には映像が見えたかと思われます。

次に現れるのは、一週間後になります。

では、失礼しました。

 ――三日目早朝・《煌星》部屋

淡(スバラ! スバラっ! 起きて!!)コソッ

煌(うーん……?)ムニャムニャ

淡(おはよっ)

煌「うわっ!?」

淡(しーっ!! みんな起きちゃうでしょ!?)

煌(あ、淡さんが浴衣のまま私の腰に跨って……!? これは夢!? 夢ですか!?)

淡(現実だよ、よかったねっ! それじゃ、起きたら行くよ。みんなにバレないように、こっそりと)

煌(ど、どこへ……?)

淡(い・い・と・こ・ろ!)ニパー

 ――――

 ――温泉

淡「いやっほーっ!! 誰もいないよー、スバラっ!!」

煌「早朝に温泉ですか。考えましたね、淡さん」

淡「だってー、夜だと昨日みたいにみんな一緒でしょー? 二人っきりで満喫するなら、やっぱり早起きするしかないかなーって」

煌「まあ……しかし、同じことを考える人が、他にもいるかもしれませんね」

 ガラッ

尭深「あ」

宥「お、おはよう、ございます……」

 ガラッ

やえ「ったく、なんなんだ朝っぱらから……」

セーラ「ええからええから……あれ……?」

 ガラッ

怜「和ー、早う来ーや! 見晴らし最高やでっ」

和「はいはい、わかりましたから、浴場で走らないでください……って……」

淡「みんな考えること一緒だったー!!」

煌「いいではないですか。合宿も今日で最後、こうして温泉で語り合うのもすばらというものです」

 ――――

 ――――

淡「えーっ? じゃあ、たかみー先輩たち、合同練習はこれが二回目なの?」

尭深「うん」

怜「どこのチームとやったん? 半端なとこやないと思うけど」

宥「その、えっと、弘世さんのチーム……」

やえ「あー……あそこは確かに半端じゃないな。今回の優勝候補の一つと言っていい」

和「弘世先輩というと、元《虎姫》のリーダーの方ですよね。他の四人の方々は?」

煌「荒川憩さん、辻垣内智葉さん、エイスリン=ウィッシュアートさん、それに、天江衣さんだそうです」

セーラ「どいつもこいつも一筋縄やないな。極悪な打ち手ばっかやで」

怜「いやいや、セーラ。真に極悪なんは、こんなメンバーを集めた弘世さんやろ。なんや、噂には聞いとったけど……ホンマにとんでもないチーム作ったんやな。国一つ簡単に滅ぼせるで、この五人」

和「そんなに強いんですか? 確かに、荒川憩さんと辻垣内智葉さんは、去年のインターハイの個人戦で二位と三位になっていましたが」

淡「和って、頭いいくせにたまにおバカなこと言うよね。去年のインターハイの個人戦で二位と三位だったんだから、その二人は、白糸台で二番目と三番目に強いの」

煌「少なくとも去年まで、荒川さんと辻垣内さん相手に白星を飾れたのは、白糸台でたった一人……宮永照さんだけだった。それくらい、途方もなく強いお二人です」

宥「ちなみに、ウィッシュアートさんも《一桁ナンバー》だよ。白糸台最高の和了率を誇る、《最多》の大能力者」

やえ「天江衣にいたっては、白糸台に五人しかいないランクS。去年の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》の最多得点記録保持者でもある。
 宮永照はもちろん、原村、お前んとこの初美よりも得点力のある異形の魔物だ。公式戦には過去二度しか出ていないが、尋常ならざる打ち手なのは間違いない」

怜「全員とも負けとる姿が想像できひんな……」

煌「失礼ですが、合同練習での戦績はいかがだったんですか?」

尭深「私はまったく歯が立ちませんでした。先輩方は、弘世先輩やウィッシュアート先輩とは互角の勝負をしていたのですが……やはり天江さんと、荒川さんと、辻垣内先輩。この三人は別格です。強さの次元が違う」

宥「私は……特に天江さんと打ったときかな。生きた心地がしなかった。まるで海底に引きずり込まれたみたいに……冷たくて、いま思い出すだけでも……」ブルブル

尭深「宥さん、大丈夫です。今は、私が傍にいますから」

宥「尭深ちゃん……」

やえ「上位ナンバー揃いでレベル5を擁する《豊穣》にここまで言わせるとはな。聞けば聞くほど、決勝までは当たりたくないチームだ」

淡「まっ、でも、こっちには超能力者がいるからねっ!! どんなに強くたって、次元《レベル》が違うのはむしろこっち。やり方次第でどうにでもなる。ねっ、スバラ!」

煌「私はこれっぽっちもどうにかなる気がしません……」

淡「もースバラってば弱気過ぎるーっ! リーダーがそんなんでどうするのさー!」

和「そうですよ。それに、強い強いと言ったって、必ず勝てるわけではありません。ベストを尽くせば、結果は自ずと付いてきます」

やえ「私も、おいピンク何言ってんだ実物見てからモノ言えよ、という一点に目を瞑れば、概ね原村の意見に同意だな。決勝までは当たりたくないが、決勝で当たるときには全力で打ち倒すさ。宮永照共々な」

セーラ「ま、けど、今は弘世菫や宮永照はさておいて、や!」

怜「このあと朝ごはんを済ませたら……!」

淡「待ちに待ったチーム戦だよっ!!」

和「三日間……あっという間でしたね」

煌「何を終わったようなことを言っているのですか。これから長い戦いが始まるのですよ?」

尭深「一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》の予選を想定したチーム戦を二回。終わる頃には日が暮れているでしょう」

宥「負けないよ」

怜「負ける気がせーへんッ!」

やえ「勝たすと思うか?」

淡「勝つ気しかしないねっ!」

煌「二日間で得たものを存分に使わせていただきます」

セーラ「誰と当たるんやろなー」

和「トーナメント覇者として、上座でお待ちしていますよ」

尭深「では……そろそろ上がりますか。朝食の時間です」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――模擬チーム戦

尭深「それでは、最終日は模擬チーム戦です。持ち点は各チーム十万点スタート。各戦半荘一回の五半荘を一試合として、午前の部と午後の部の計二試合を行います。
 では、今から五分後に午前の部を開始します。各チーム、先鋒の方は、対局室に集合してください」

 ――先鋒戦

怜「おっ、なんや縁がありますなー、小走さん。まだ膝枕の在庫処分してはるんですか? ほな、一回くらいは買ったってもええですよー」

 西家:園城寺怜(新約・100000)

やえ「懲りんやつだな、園城寺。そんなに私の本気が見たいのか。よかろう……最後くらいは遊んでやるよ、レベル5」

 東家:小走やえ(幻奏・100000)

美穂子「よかったですね、花田さん。超能力者対策は小走さんがやってくれるそうですよ。私たちはのんびりとデジタル論の復習でもしましょうか」

 北家:福路美穂子(豊穣・100000)

煌「福路さんに勝てば……デジタル論は免許皆伝ということでよろしいんですかね」

 南家:花田煌(煌星・100000)

美穂子「そうですね。私に勝てるくらいならば、私から教えることは何もありません。もちろん、そんな簡単に虎の巻は渡しませんが」

煌「わかっております。せめて初伝は卒業できるよう、全力で挑ませていただきますっ!」

怜「ほな、みなさんお手柔らかによろしゅ~」

やえ「楽しい楽しいチーム戦の始まりだな……!!」

 ――対局中

怜「リーチ一発ツモドラ1……2000・4000。どや。これがレベル5の打ち筋やっ!!」

                   やえ「チー」

     怜(っ!)

              やえ「ズラされただけでもう手詰まりか?」

 怜「そんなこと……っ!」

                   やえ「少しは意地を見せろ、レベル5」

    美穂子「ロン、3900」

                美穂子「ツモ、2000オール」

  美穂子「ロン、12300」

                    煌(手も足も出ないっ!!)

    怜(こ、今度こそ……!!)

                  怜「リーチッ!!」

  やえ「だから……貴様のリーチは恐くないと何度言えばわかる。ロン、1500」

      怜(和了れる未来は見えとるのに……一つも和了れへんっ!?)

  怜「リーチ!!」

                           やえ「私もリーチだ」

     怜「ははっ、なにを血迷ってん小走さんっ!」

 やえ「園城寺、知らなかったか?」

                   美穂子「麻雀は四人でやる競技ですよ?」

          怜「は――?」 

  美穂子「ポン」

             怜(な、んやと……!? そんなっ!!?)

  やえ「どうした? 嫌な未来でも見たか? 顔色が悪いぞ」

 怜(こ、こんな!? 振り込む未来が見えとるのに、避けられへんやなんて……!!)

   やえ「ロン、18300だ」

                 怜(見えとった通りやん……)

  美穂子「ロン、8300」

              美穂子「さて、オーラスですね」

   怜(来たー!! ダマで三倍満ツモ!! これで三人横並――)

  美穂子「ツモ」

                 怜「え」

美穂子「4000オール。和了り止めにします」

 ――終局

やえ「ったく、口ほどにもないな。春季大会《スプリング》で活躍したからといって、何か勘違いしてないか? 能力だけでやっていけるほど二軍《セカンドクラス》は甘くない――お前だってそれはわかっていたはずだろう。
 《一巡先を見る者》なんて大層な肩書きに幻想を抱いて慢心するな。本気でそれを求めるなら、まずはデジタル論を初歩の初歩からやり直せ。基礎が甘いぞ、レベル5」

 二位:小走やえ・+7400(幻奏・107400)

怜「参りましたわ……修行して出直してきます……」

 三位:園城寺怜・-18300(新約・81700)

美穂子「花田さん、大分、河を見れるようになりましたね。不用意な振り込みは一度もありませんでした。まだまだ駆け引きに甘いところはありますが、経験を積めば、きっと今よりうまく打ち回せるようになるはずです」

 一位:福路美穂子・+34700(豊穣・134700)

煌「ご指導ありがとうございました。完敗です……」

 四位:花田煌・-23800(煌星・76200)

 ――《豊穣》控え室

美穂子「どうでしたか? 和了り止めをせず、もっと稼いできたほうがよかったですかね?」

尭深「いえ、いい判断だったと思います。あのまま続けていたら、小走博士や園城寺先輩が黙っていなかったでしょう」

竜華「二位に三万点近く差をつけてん、先鋒としては十分な仕事や」

宥「あとは私たちに任せて」

霞「目指すは二連勝。主催として負けるわけにはいかないわよね」

 ――《煌星》控え室

煌「申し訳ない……またがっつり離されてしまいました……」

桃子「相手は白糸台の上位ナンバー、これくらいは想定内っす」

咲「同じ六万点差でも、こないだは四軍の人たちで、今は二軍の人たちです。花田さん、合宿の成果が早速出てますよっ!」

友香「安心してください。花田先輩がやられた分は、必ず私たちが取り返しますんでー」

淡「そゆこと。勝負はまだ始まったばかり。スバラ、応援よろしくねっ!」

 ――《幻奏》控え室

優希「やえお姉さん、意外とやるじぇ!」

セーラ「ま、一年の最初の頃は俺以上やったし、もっと昔はそのもの《王者》とまで呼ばれとった。本気のやえならこんなもんやろ」

ネリー「能ある鷹は爪を隠すってやつなんだよ!」

誠子「ちなみに、小走先輩的に今のは何割くらいだったんですか?」

やえ「きっちり十割だよ。ま、私に関しては、マイナスで帰ってこなければ上々だと考えてくれ。別に弱いわけではないが、本当に強いやつが相手だと、なかなか思うようには勝てん。
 私はあくまで司令塔。点を稼ぐのはお前ら四人の役目だ。あとは頼むぞ、《豊穣》の独走を許すな」

 ――《新約》控え室

怜「ホンマごめんなさい……完全にしくじってもうた。やっぱ、先鋒は薄墨さんのほうがええかもしれへん。宮永照以外ならそこそこええ勝負ができる――なんて幻想も幻想やったわ。自分の経験不足を痛感したで……」

薄墨「ま、まあ、やえと福路さんが相手じゃ仕方ないですよー。だからそんな柄にもなく凹むのはやめてくださいですー。大丈夫、先鋒の件なら、いつでもお任せですからー!」

和「オーダーのことは、次の試合で再考してみましょう。しっかりしてください、リーダー。半荘一回なら、誰だって大きく失点することくらいあります。いつまでもくよくよしていないで、今は、この状況をどうやって打開するかを考えましょう」

絹恵「ほな……とりあえず、原点に戻すとこからやな! うち、いけそうやったら、ちょっと無茶してみますわ」

姫子「やられたらやり返すとっ!」

 ――次鋒戦

桃子(ラス親っすか。悪くないっすね。タコスさんが暴れる東場を最小失点で抑えて……後半から反撃っす!)

 北家:東横桃子(煌星・76200)

絹恵(清水谷先輩……仮想お姉ちゃんやと思って、全力で当たったる!!)

 西家:愛宕絹恵(新約・81700)

竜華(ま、さすがにこの点差でひっくり返されるとは思わへんけど……何があるかわからへんからな。三人ともノってくるときはノってくる。少し堅めできっちりバトンを繋いだろかー)

 南家:清水谷竜華(豊穣・134700)

優希「じゃっ、サイコロ回すじぇー!!」コロコロ

 東家:片岡優希(幻奏・107400)

 ――対局中

優希(いきなり親っパネいただきだじぇ!)

                       絹「ロンや。1300」

               優希(じょ?)

 優希「リーチだじぇっ!!」

                  竜華(恐い恐い……)スッ

      桃子「ロンっす。2000」

                        優希(じょ……?)

  竜華「(これで縮こまっててなー)リーチ」

                       優希(うっ、ここは一旦……)

             絹恵「ロン、7700」

   優希(じょー!?)

 優希「(東場で負けるわけにはいかないじぇ!!)リーチッ!!」

                           竜華(あかんかな?)

   絹(鳴けへん……!)

                優希「……ツモだじぇ。3000・6000ッ!!」

  竜華「ツモ、2000・4000」

               絹恵「ツモ……! 2600オールッ!!」

 桃子(《ステルスモード》……!! ここから稼がせてもらうっすよっ!)

        桃子「ロン、7700」

                   竜華(やりおるなー)

   桃子「ロン、5200は5500!」

                 絹(引き離せへんっ!!)

 桃子(このラス親で……!!)

竜華「(そうは問屋が卸さへん――っと)ツモや、1300・2600」

 ――終局

桃子(ラス親を速攻で流されるとは……さすが上位ナンバーっす。現状維持を強いられた感じがするっすね。稼げるときに稼いでおきたいのに、こちらの思う通りには打たせてくれない)

 二位:東横桃子・+4000(煌星・80200)

優希(東場があっという間だったじぇ。まあ、南場で大崩れしなかっただけ、合宿の成果が出たってこと……? それとも、場が平たくなるようにコントロールされていた? けど、私は普通以上に打ってたはずだじょ……)

 四位:片岡優希・-5900(幻奏・101500)

絹恵「ど、どうでしたか、清水谷先輩……今のうちがお姉ちゃんと打ったら、どうなると思います?」

 一位(上家取り):愛宕絹恵・+4000(新約・85700)

竜華「うーん……正直言えば、ボコボコにされると思うで。ただ、それは単純に、まだまだ穴が多いってだけや。光るとこもいっぱいあった。
 これから本選まで、決して時間があるわけやない。もし本気で洋榎を倒すつもりなんやったら、死ぬ気で前に進むしかないで。うちは応援しとるから、なんかあったらいつでも相談してやー」

 三位:清水谷竜華・-2100(豊穣・132600)

 ――《煌星》控え室

桃子「申し訳ない、あまり稼げなかったっす……!」

友香「プラスはプラス。積み重ねていくしかないんでー」

煌「それにしても、さすがチーム《豊穣》は崩れませんね」

淡「まあまあ。次で度肝を抜いてやろうよ。ね、サッキー。いい? 私の言った通りに打ってみて」

咲「う、うん……やるだけやってみる」

 ――《豊穣》控え室

竜華「ふうー、しんどかったわー」

美穂子「そうは見えませんでしたけどね」

宥「細かい勝負になるよう、要所要所で調整しながら打ってたみたいだけど……それは次鋒を意識したってことだよね。竜華ちゃんは本当に器用だなぁ」

霞「竜華ちゃんは攻守・硬軟のバランスがいいから、どのポジションでもこなせるのよね。惚れ惚れしちゃうわ」

尭深「見習いたいところです」

 ――《幻奏》控え室

やえ「マイナスで帰ってくるとはいい度胸だな。この成績では、とてもじゃないがよくやったとは言えん。せめて一万は稼いでこい」

優希「やえお姉さんはスパルタだじぇー」

セーラ「それだけ期待されとるってことや。次は頑張るんやな、《東風の神》」

誠子「さて、依然《豊穣》の背中は遠いですね」

ネリー「そろそろ突破口を開かないと、じわじわきつくなってくるよー」

 ――《新約》控え室

姫子「結果だけ見れば、まずまずと。ばってん」

初美「内容はまだまだですねー。気付いたですかー? 対局が終始、清水谷さんの思惑で動いていたですよー」

絹恵「点を取らせてもらったっちゅう感覚はあります」

怜「うー……試合巧者やなー、清水谷さんは! 麻雀よし、器量よし、ふとももよしの三拍子揃っとるとはさすがやで……!!」

和「次の中堅戦で引き離されるようだと、かなり厳しい戦いになってきますね――」

 ――中堅戦

咲(淡ちゃん……バカだけに無茶苦茶なこと思いつくなぁ。そういう風に能力を使ったことはないけど、私の支配力があれば……なんとかなる、かな?)

 南家:宮永咲(煌星・80200)

セーラ(ん……なんや、ものっそいヤな予感がするわ)

 西家:江口セーラ(幻奏・101500)

初美(さーて。園城寺さんがポカした以上、私が点を稼がなきゃですねー。二回の北家。有効に使わせていただくですよー)

 北家:薄墨初美(新約・85700)

宥(あ、あれ……? いきなり薄墨さんが北家だからかな。なんか、ちょっと寒いような――)

 東家:松実宥(豊穣・132600)

 ――対局中

初美「ツモですー。8000・16000」

                         セーラ(東一局から役満かいなー)

 宥(ど、どうしよう……!? 覚悟してたけど、やっぱり逆転されちゃったっ!)

   咲(わあああああああああああ!? いきなり想定外だよー!!)

     宥「あ、ロンです。8000」

                  咲「……はい(た、立て直さなきゃ……!!)」

 セーラ「ツモ、4000オールや」

                セーラ「(ほな、親やし、もう一発)リーチ」

   咲「ロンです……1000」

          初美(安っ!?)

                               宥「ロンです、6400」
  セーラ(相変わらず赤いなー)

                 咲「ロンです、1300」

 初美(また安手? まあ、いいんですけどー……点差わかってるですかねー?)

                   咲「カン」

    咲「ロンです、2400」

          セーラ(安い……けど、こいつの場合、素直に安心できひんな)

 咲「カン」

       宥(あれ、そう言えば、さっきから宮永さんの打点が……)

 咲「ツモです。1000オールは1100オール」

                                    咲「カン」
   咲「ロン、3400は4000」

               初美(ちょっとずつ増えてる……?)

  セーラ(これ……もしかしてもしかするん……?)

                         咲「カン」

   宥「(あ、カンドラ……)ツモです、2000・3900に三本つけてください」

  初美(え? 止まった……? 何がどうなってるですー?)

                     咲「ツモです、2000・4000」

    セーラ(親っ被りでリー棒も持ってかれたか。宮永の打点は……また上がっとるやと?)

 初美(和了率はお姉さん顔負けですけどー……打点の上がり方が随分緩やかですねー)

  宥(他の人の和了りが間に入っても打点が下がらない?)

                       セーラ(姉のとは別物なんか?)

   初美(ま、どっちにしろ次でオーラス)

        セーラ(宮永は連荘できひんし、さほど警戒せんでもええんかな)

 宥(いつもの宮永さんのプラマイゼロなら、次は満貫が――)

                               咲「カン」ゴッ

   宥(っ!?)ゾッ
                         セーラ(こ、これ……!?)

  初美(なんか……来る、ですかー……!?)

                    咲「ロン――ッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

宥・セーラ・初美「!!!?」

 ――終局

セーラ「…………マジか。えっ? マジか?」

 四位:江口セーラ・-14200(幻奏・87300)

初美「な、何が起こったですかー……?」

 三位:薄墨初美・-11700(新約・74000)

宥「……四暗刻……しかも単騎待ち……」

 二位:松実宥・-2900(豊穣・129700)

咲「あ、ありがとうございましたっ!」ペッコリン

 一位:宮永咲・+28800(煌星・109000)

 ――《新約》控え室

怜「嘘やー!! 嘘やと言ってくれ、薄墨さーんっ!!」

姫子「東一局の小四喜で逆転できたのに……」

絹恵「オーラス……四暗刻に振り込んで全部パーやと?」

和「いや、しかし、あんな序盤で字牌単騎の四暗刻なんて、誰も読めませんよ!」

初美「(……いや、読む読まないの次元じゃなかったですよー、あれは。驚いたですねー。合宿中も《プラマイゼロ》を崩さなかった《魔王》が、ここに来て大トップだなんて……一体何がどうなってるですかー?)め、面目ないですー」

 ――《豊穣》控え室

宥「び、びっくりした。役満で終わる対局は《ハーベストタイム》でいっぱい経験あるけど、役満で始まって役満で終わる対局は、初めて……かも」

竜華「それでもさして崩れへん宥はさすがやわー」

尭深「宥さん、本当にこの合宿は調子がいいですね」

美穂子「それにしても……宮永さん。安手ながらも、お姉さんを髣髴とさせる連続和了から、最後に四暗刻だなんて。これが《魔王》――ランクSの力ですか。もしこれが毎回となると、非常に恐ろしい一年生ですね」

霞「ふんふむ……(ハッちゃんの涙目が拝めたのは僥倖だったわ。ま、それはそれとして、なぜこれまで一度もプラマイゼロを崩さなかった宮永さんが、いきなりこんな荒稼ぎをできたのかしら。
 あの《プラマイゼロ》の力は、もはや呪いというか、体質のようなものだと思っていたのだけれど……)」

 ――《幻奏》控え室

やえ「……なるほどな、そういうことか。ふん、まったく見事な《プラマイゼロ》だ。ランクSという強力な底上げがあってこそ可能な力の応用。これがあいつの能力解析の糸口になればいいのだが……」

セーラ「いやいや、どこが《プラマイゼロ》やねん。宮永はプラス28800点の一人浮きやないか」

優希「驚いて計算もできなくなったか、やえお姉さん」

やえ「いや、計算は合っているんだよ。ただし、初期値の設定が普通とは違うんだ。いいか、さっきの対局を、25000点持ちの30000点返し、そして、宮永が1000点、他の三人が33000点スタートだと思って計算し直してみろ」

誠子「えっと……こう、なるわけですか」

 一位:松実宥・30100(+20)

 二位:宮永咲・29800(±0)

 三位:薄墨初美・21300(-9)

 四位:江口セーラ・18800(-11)

ネリー「ぴったりプラマイゼロッ!? そっか、じゃあ、ちょこちょこゆうのアシストっぽいことしてたのは……」

やえ「ウマはないけどオカはある。自分がトップになっては29800点でも+20。プラマイゼロにするには、誰か別の人間を一位として祭り上げる必要があった。それが、今回は必然か偶然か、松実宥だった。
 上位ナンバーが三人もいながら、全てあいつの手の平の上だったというわけだな。とんだ《魔王》様だよ。さすがはあの宮永照の妹……と言うべきか、それともさすがは宮永咲と言うべきか……」

 ――《煌星》控え室

淡「大・成・功~!!」

桃子「えっ? つまり、どういうことっすか?」

咲「私が1000点、他の人は33000点スタートって考えて、それを《プラマイゼロ》になるように打ってみたの」

友香「ちょ、ちょい待ったでー。それだと、東一局の薄墨先輩の役満でトんでるような……?」

咲「それはね、そうなんだ。やっぱり、今回みたいに強い人たちが相手だと、全部が全部思い通りになるわけじゃない。あればっかりは……私にもどうしようもなかった。
 本当、いきなりトばされたときは頭が真っ白になったけどね。これはトビなしルールなんだ、点棒マイナスだけど対局は続行なんだ――って必死に言い聞かせて、後半になんとか立て直した」

煌「いやはや、すばらです。咲さん、よかったですね。ついに勝てたんですよ。プラマイゼロではなく、プラスですよっ!」

咲「い、いや、でも、私はいつも通りプラマイゼロを目指してただけで……」

淡「それは、サッキーの頭の中で、でしょ? 実際の点数見てみなよ。誰がどう見たって、サッキーの一人勝ち。上位ナンバーの三年生相手に、ぶっちぎりトップだったんだよっ!」

咲「私の……一人勝ち? そんな……!?」

煌「最後の四暗刻、心が震えました」

咲「あ、あれ、今までは……できてもずっとツモ切りしてて――」

煌「それを、今日は和了ったわけですね。あくまで団体戦の区間一位ですが、これは紛れもなく、咲さんの、学園都市に来て記念すべき初トップ。おめでとうございます」

咲「あっ、ありがとうございます!!」

煌「咲さん、これが『勝つ』ということです。ご感想はいかがですか?」

咲「最高ですっ! 私、もっともっと麻雀で勝ちたいですっ!!」

煌「ええ、咲さんならできますとも。どんな強敵を前にしても、咲さんなら」

咲「ありがとうございますっ!!」

淡「さあ、これで一位との点差は二万ちょい。私たちで一気にブチ抜くよ、ユーカ!」

友香「任せろでーっ!!」

 ――副将戦

友香(まずは一発和了ってペースを掴むんでー!)

 南家:森垣友香(煌星・109000)

誠子(さて、点数状況的に厳しいが……。ま、私は私のやるべきことをやろう)

 東家:亦野誠子(幻奏・87300)

和(ふぅ……まだ少し緊張がありますね。今朝の温泉……ひょっとすると、園城寺先輩は私をリラックスさせようとしてくれたのでしょうか。いずれにせよ、私は私のベストを尽くします)

 北家:原村和(新約・74000)

霞(さて、と。美穂子ちゃんが稼いだリードを、これまでずっと保っている。ここで私が落ちるわけにはいかないわよね。得意分野……行かせてもらおうかしら)

 西家:石戸霞(豊穣・129700)

 ――対局中

友香「ツモッ! 4000オールでー!!」

            友香「(よし、この調子で……!)リーチッ!」

   誠子「……ポン」

              友香(え……?)

                       誠子「ポン」

            友香(これは……)

     誠子「ポン」

 友香(こんな、一瞬で……追いつかれるなんて……!!)

                    誠子「ロン、8000は8300」

  霞(亦野さん、今日は調子いいみたいね)

                         誠子「ポン」

      友香(こんな序盤から仕掛けてくるんでーっ!?)

                      霞(あらあら、お急ぎかしら?)

  誠子「ロン、5200は5500」

                和(――ふう……やっと、集中できましたかね)スゥ

 友香(呑まれるな。大丈夫、自分を信じて……戦うっ!!)

    友香「リーチでーっ!」

      霞(さて……また大きいのが来そう。どうしたものかしら)

                     和「ロン、3900」

  霞(……張ってたのね。全く気配を感じなかった。差し込み以外で振り込むのは久しぶりだわ)

     誠子(原村和……小走先輩が言ってた《羽化》ってやつか)

                   和(悪くありません)

 霞「ロン、7700は8000」

                    和「ツモ、2000・4000」

        友香(オーラス……最後まで、私は諦めないっ……!!)

   誠子「チー」

           霞(ふんふむ……そう、これがご所望かしら?)

 誠子「(助かる)ロン、1000」

友香(っ――!?)

 ――終局

友香(最後も持っていかれた!? 力はかなりついてるはずなのに、全然結果がついてこない。これが――元一軍《レギュラー》……!!)

 四位:森垣友香・-9400(煌星・99600)

誠子(振り込みナシ……か。門前に強い森垣友香と、テンパイ気配のない原村和を相手によくできたほうかな。小走先輩の求めるレベルではないだろうけど……ひとまず、手応えはあった)

 一位:亦野誠子・+10100(幻奏・97400)

和(まったく稼げませんでした……。石戸先輩から取られた8000が悔やまれます。後半は集中していたのですが、思うように点が取れたら苦労しませんよね。課題の残る一局です)

 二位:原村和・+900(新約・74900)

霞(まずまずかしらね。攻撃モードなしで、足の速い亦野さんを抑えるのは結構大変だったけれど、それなりに邪魔はできたはず。ちょっと恐かったのは……原村さんかしら。
 思わずやり返しちゃったけど、この子が最初から本領を発揮してきたら、少し厄介かもしれないわ……)

 三位:石戸霞・-1600(豊穣・128100)

 ――《煌星》控え室

友香「ごめん、淡。追いつくどころか離されたんでー……」

淡「落ち込まないでよ、ユーカ。これくらいがちょうどいいハンデだから!」

桃子「三万点差っすか。超新星さんなら確かにひっくり返せそうっすけど……トップを守るのが一発のあるハーベストさん。くれぐれも気をつけてくださいっす」

咲「っていうか、淡ちゃん、昨日のトーナメントでは渋谷さんの役満に二度もやられてたよね。完全に種まきのお手伝いさんだったよね」

淡「たかみー先輩の《ハーベストタイム》がなにさ! 相手が誰だろうと、この私が負けるわけないでしょ。ねっ、スバラ!」

煌「ええ……強敵揃いの大将戦、厳しい戦いになるとは思いますが、私はあなたの勝利を信じて待っていますよ、淡さん」

淡「ありがと。やる気100倍になったよ。じゃあ……行ってきます!!」ゴッ

 ――《新約》控え室

怜「あかん……いよいよ厳しくなってきよった……」

初美「一発逆転をしたいところですけどー、《豊穣》の大砦も一発を持ってるですー。逆転するには最低でも二発必要ってことですねー。
 鶴田さん、負けてもいいですからー、こういう場面でどれだけ打ち回せるか、自分の限界に挑んでみるですー。それで鶴田さんが強くなれるのなら、得点や順位は気にしないですよー」

姫子「……前までなら、これくらいの点差ばひっくり返すんは、決して無理なことやなかったとです。自分の力のなさの悔しかよ……」

絹恵「姫子……それでも、頑張るって、約束したやん。これくらいの逆境で弱気になっとったらあかんで!」

姫子「あいがと、絹恵。そいやね……前に進まんとねっ!」

和「鶴田先輩、すいません、私がもっとちゃんと打てていれば……」

姫子「よかよ、原村さん。こいは私の乗り越えんといかんハードルと。精一杯打ってくるけん、応援、よろしくな」

和「……頑張ってください、先輩……!」

 ――《幻奏》控え室

やえ「悪くなかったと言っておこう。無論、よくやったとは言わない。これくらいで満足してもらっては困る」

誠子「わかっていますよ。私はまだまだ……強くなる」

やえ「よく言った。さすがは亦野誠子だな。改めて、私はお前を手に入れられた幸運に感謝するよ」

誠子「もったいないお言葉です、小走先輩」

やえ「さて……片岡もセーラもやらかしたからな。あとはお前しかいないぞ、ネリー」

ネリー「おっ!? これはまた五割解禁!?」

やえ「莫迦言え。二割でどうにかしてこい」

ネリー「えええー!!?」

セーラ「とか言って、案外さくっと逆転してくるんちゃうか? 全然余裕そうな顔しとるわ」

優希「ネリちゃん、逆転したら私のタコスあげるじぇ!!」

ネリー「ありがと。ま、楽しんでくるよ。レベル5が二人と、ランクSが一人……こんな珍しい一曲はそうないからね」

やえ「お前が麻雀を心から楽しめたなら、それは私たちの勝利の一つの形だ。縛りをかけておいてなんだが、その中で存分に打ってこい。思うがまま、好きなように奏でてくるといい、運命奏者《フェイタライザー》」

ネリー「あはっ、やえはやっぱり最高なんだよっ!」

 ――《豊穣》控え室

尭深「さて……行ってきますか」

霞「任せたわよ、リーダー」

竜華「心配はしとらへんけどなー」

美穂子「最後まで油断せずに走り抜けてください」

尭深「はい、頑張ります」

宥「あっ、尭深ちゃん、これ……お茶」

尭深「ありがとうございます。宥さんの淹れてくれるお茶……飲むたびにおいしくなっていくので、驚いてます」

竜華「愛のなせる技やな」

美穂子「宥さん、麻雀の勉強をしてないときは、お茶の勉強してますから」

霞「まるで花嫁修業ね」

宥「も、もうっ……みんなして……! いじわるなんだからっ」

尭深「…………宥さん」

宥「な、なに、尭深ちゃん……?」

尭深「いや、ちょっと、いま一口だけ飲んでみたのですが……このお茶、少し変わった味が……」

宥「えっ!? そ、そんな、味には一番気を遣ったのに……! ごめん、ちょ、ちょっと一口だけいい? ダメだったらすぐ淹れ直すから……!!」

尭深「どうぞどうぞ」

宥「…………うーん、味も香りも温度もこれでぴったりなはずなんだけど……ごめん、好みじゃなかったかな?」

尭深「いえ、そんなことはありませんよ」ヒョイ

宥「ほえっ……? あっ、尭深ちゃん、いいの? それ、お口に合わなかったんじゃ……?」

尭深「ちょっと隠し味が足りなかっただけです。けど、それも今足したので、問題ありません。では、行ってきます」

宥「ふぇ? ………………ああっ、尭深ちゃん!!? そういうことなの!!? 待って、待って!! 淹れ直すっ!! 恥ずかしいから……っ!! ああ……待っ――もうっ////」

竜華「尭深のやつ、策士やなー」

美穂子「見事な手際でしたね」

霞「さ、宥ちゃん。一緒に見守りましょう。尭深ちゃんが、宥ちゃんのお茶を飲んで、勝つところを」

宥「う、うん……(もううう、尭深ちゃんってばー……////)」

 ――大将戦

姫子(できることば一つずつ……!)

 東家:鶴田姫子(新約・74900)

尭深(これで勝てなければ宥さんに合わせる顔がない)ズズズ

 南家:渋谷尭深(豊穣・128100)

淡(さて、軽ーく逆転して、スバラに誉めてもらおーっと!)ゴゴゴゴゴゴゴ

 北家:大星淡(煌星・99600)

ネリー(おっとっと……チューニング段階からこれか。どうしたものかなー)

 西家:ネリー=ヴィルサラーゼ(幻奏・97400)

 ――対局中

姫子「(よし、幸先よかっ!)ツモ、4000オールッ!!」

          淡「(取られた分は取り返すっ!)ロン、5200は5500」

 淡(よーし、このまま――)

               ネリー「ロン、1300」

                         淡(はあ……?)

    ネリー「ロン、12000」

                尭深(うっ……思ったより大きかった)

   淡(連荘なんかさせないよっ!)

                     ネリー「ロン、2000は2300」

 淡(なにそれ? 意味わかんないっ!?)

              姫子「(私が止めちゃる!)リーチと!」

  淡「(よし、好形っ!)リーチ」

                   ネリー「ロン、7700は8300」

    姫子(くっ……!?)

           淡(もー、わけのわからない打牌してー!!)

 ネリー「ロン、3900は4800」

               尭深(あとで……絶対に取り返します……)

   淡「(いい加減にしろってーのっ!)リーチッ!」

                             ネリー「チー」

  淡(は……?)

                 姫子「ツモ、2000・4000の四本付けと!」

   淡(まさか、こいつ……!)

                尭深「ロン、8000」

                           淡(なあっ!?)

    ネリー(しんど……)

                 淡(まさか、トップじゃなく私を削りに来てるっ!?)

 ネリー(ありゃりゃ。気付かれたかな?)

                   淡(なんだか知らないけど、気合でブチ抜く!)

    淡「ツモ、3000・6000ッ!!」

                            ネリー「ロン、1000!」

  淡「(小賢しいよっ!!)ロン、8000ッ!!」

                        ネリー(うええーっ!?)

 淡(オーラス――たかみー先輩より先に和了るっ!!)

                     ネリー(これは――!?)

     淡(間に合え……!!)

                       姫子(テンパイが遠か……!)

尭深「(ん、今何か聞こえたような……?)ツモです。8000・16000」

 ――終局

淡(親っ……被り!? そんな――ってか、点数が……っ!!)

 四位:大星淡・-10500(煌星・89100)

ネリー(これがレベル5の《絶対》……確かに、私の脳内にある10万3千局の牌譜には一致するものがないや。
 魔術世界では原則的に誕生し得ないはずの超能力者――それがこの合宿所に四人、学園都市全体では七人もいるのか。うーん……この街はどうかしてるとしか言い様がないんだよ)

 二位:ネリー=ヴィルサラーゼ・+4300(幻奏・101700)

姫子(ダメと……同じレベル5として、尭深の《ハーベストタイム》の止まらんはわかっとったことやけど、そいならそいでもっと稼がんといかんやったのに……)

 三位:鶴田姫子・-7600(新約・67300)

尭深「お疲れ様でした。これから、一時間半の自由時間に入ります。各チーム、休憩、オーダーの検討、対局の反省などを行って、時間になりましたらまた大広間に集合してください。では、ありがとうございました」ペコリ

 一位:渋谷尭深・+13800(豊穣・141900)

<試合結果>

 一位:豊穣・141900

 二位:幻奏・101700

 三位:煌星・89100

 四位:新約・67300

<区間賞>

 先鋒:福路美穂子(豊穣)・+34700

 次鋒:愛宕絹恵(新約)・+4000

 中堅:宮永咲(煌星)・+28800

 副将:亦野誠子(幻奏)・+10100

 大将:渋谷尭深(豊穣)・+13800

<役満和了者>

 薄墨初美(新約):小四喜

 宮永咲(煌星):四暗刻

 渋谷尭深(豊穣):大三元

ご覧頂きありがとうございます。

一旦区切りです。お昼を済ませたら、また現れます。

では、失礼します。

 ――《煌星》部屋

煌「えっ……淡さんが消えた?」

桃子「対局室にはいなかったっす」

友香「控え室にもでー」

咲「お、おトイレにも!」

煌「手分けして探しましょう……!!」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――旅館裏山・神社

煌「あっ……淡さん! こんなところに……」

淡「…………スバラ……ごめんなさい……」シュン

煌「みんな心配してますよ。さ、合宿所に戻りましょう」

淡「戻れないよ。四位なんて、こんなんじゃ……大将の私が勝たないといけなかったのに……っ!」

煌「しかし、今回は私の指示で能力を温存していたわけですから」

淡「全力を出してない人なら、たぶん、他にもいたよ。関係ない。結局……私が弱かったから、負けたんだよ。ごめんね、スバラ。私……ダメだった。スバラもがっかりしたよね……」

煌「そんなことはありません」

淡「でも、私は、私のことを信じてくれたスバラを裏切った。私のことを頼りにしてくれたみんなを裏切った。私は《煌星》のエース失格だよ。サッキーのほうがいいのかも。《プラマイゼロ》――使い方次第ではかなり点が取れるってわかったし……」

煌「淡さん……」

淡「スバラ……私のこと、嫌いになった? 麻雀が弱い私なんて、ただのうるさくて我儘でちょっとおバカな美少女でしかないもんね。スバラは強い私が――麻雀で勝てる私が好きなんでしょ……?」

煌「そ、それは――」

淡「やっぱり。あぁあ……スバラにだけは、負けるところ、見られたくなかったのになぁ……」

煌「淡……さん……」

淡「ごめんね。スバラ……」

煌(……淡さんでも、時として、負けることはある。私……私は――なんて重い責をこの子に押し付けていたのでしょう……! 六万点差もつけられて、『勝利を信じて待っている』なんて、どの口が言うんだという話ですよね。
 私は……今の私は淡さんの足手まといです。それではいけない……もっともっと強くならなくては! 実質は無能力者ですけど、能力がなくとも強い方々を、この合宿で何人も目の当たりにした。私も、少しでもあの方々のように……そして――!!)

煌「……淡さんっ!」

淡「な、なに……スバラ?」

煌「約束します。もう二度と、淡さんだけに無理はさせません。もちろん、桃子さんや友香さんや咲さんにも。皆さんが輝けるように、私はもっと強くなります。
 トーナメント本選までに……この花田煌、必ずや、皆さんの支えとなりましょう。だから、淡さん。そんな似合わない涙は拭いて……どうか笑っていてください。あなたは私の《煌星》なのですから……」

淡「スバラ……私は、スバラに――」

煌「……なんですか?」

淡「ううん、今は……いい。私も、もっと強くならなきゃね。そして、一緒に《頂点》を目指そう。夜空に煌めく五つ星――チーム《煌星》の光は、まだまだこんなもんじゃないっ!!」

煌「そうですね、その意気です。その超新星の如き明るさこそ、私が淡さんに惹かれる理由です。麻雀の強さは……さほど関係ありません」

淡「さほど、ってことは、やっぱり強いほうがいいんだ!?」

煌「まあ……欲を言えば、ですね。どんなに手を伸ばしても届くことのない高みにありながら、こんなちっぽけな私をも、優しく暖かな光で照らす――淡さんに出会ったとき、私は淡さんのことを、そんな星のような人だと思いました。
 淡さんは、私の未来を……世界を、光で満たしてくれました。あなたに出会えてよかったと、何度思ったことか」

淡「私も、スバラに会えてよかったって思ってるよ。この人と一緒なら、きっとどこまでも行ける……そう思った」

煌「一緒だなんて……そんな。私なんか、淡さんの背中すら見えてませんよ。果てしなく遠い。隣に並び立つなど……とてもとても――」

淡「今はまだ、ね。にしても――だあああああああ! 負けた負けたっ!! あー悔しいっ!! ホントやんなっちゃう!!
 大体なんなの、あのネリーとかいう留学生っ!! ずーーーーーっと私のこと邪魔してさっ! そのくせ、たかみー先輩と鶴田先輩のアシストして、連荘してたかみー先輩のスロット増やして……なんのつもりだってんだー!!」

煌「あちらのチームには、あちらのチームの事情があるのでしょう。私たちは私たち。考え方、やり方はチームによって違うものです」

淡「じゃ、早く部屋に帰って、反省会だねっ! オーダーも考え直さなきゃ。現状ではさっきのがベストかなって思ってたけど、別の形があるかもしれない。まったく、こんなところで泣いてる暇なんてないってのにさっ!
 ということで、スバラ! 一緒にみんなのところに戻ろうっ!!」

煌「ええ、初めからそのつもりですとも」

淡「…………戻ろう!?」

煌「はい、戻りますとも」

淡「むうーっ!!」

煌「えっ? どうしました?」

淡「どうしました、じゃないよっ! この流れで私がスバラを引っ張っていくのはおかしいでしょ!? スバラは二年生で、負けて泣いちゃった可愛い一年生を迎えに来たんでしょ!?
 なら、何をすればいいか――わからないとは言わせないよ……!!」

煌「……なるほど。承知いたしました。では、改めまして」

淡「どうぞっ!」

煌「淡さん、負けは負けですが、勝つよりも大きなものを得ることができたと思って、気持ちを切り替えて次に臨みましょう。さ、一緒にみんなのところに戻りますよ」スッ

淡「スバラはやればできる子だよねっ!!」ギュ

煌「これしきのこと、リーダーとして当然です」

淡「スバラ…………大好きっ!!」ガバッ

煌「わっ!? ちょ、あ、淡さんっ!?」アワワ

淡「よいではないかー、よいではないかー!!」ムギュー

 ダッダッダッ

咲「あー!! いたーっ!! って、ちょっと!? なに花田さんにベタベタしてるの淡ちゃん!! それ、試合で一番稼いだ人だけがやっていいって話だったでしょ!! 大将戦でボロ負けした淡ちゃんにそんな権利ないよー!!」ガバッ

桃子「淑女協定を破るのはよくないっすよ、超新星さん。そっちがその気なら……こっちも好き放題やらせてもらうっす!!」ガバッ

友香「あーあー、またこのパターンでー。まっ、楽しそうなんで私も混ざるけどー!!」ガバッ

煌「み、皆さん……そんな大勢でっ……ふわあっ!? だ、誰、ちょ、そこはっ!! くすぐったいですっ!! やめ、あわわわわわわ!?」ジタバタ

淡「さーて……文字通り全員団結したところで、気合入れるよっ!! 負けた私が言うのもあれだけど……いや、むしろ負けた私に言わせてほしいっ!!
 とにかく……次は絶対に勝つからねっ! 練習だから負けてもいいなんて、私は死んでも思わないっ!! 練習でできなかったことは本番でもできない。だから、練習で勝って、本番でも勝つ……ッ!!
 次こそは、あの実りに実った連中を叩き潰すよ!! そして、みんなで笑って帰ろうっ!! チーム《煌星》――すばらああああっ!!」

煌・咲・桃子・友香「すばらあああああー!!」

 ――《幻奏》部屋

やえ「四万点差か。しかも、こっちがネリー以外全力だったのに対し、あっちは渋谷以外が力を温存しての、四万点差だ。これは《豊穣》を称賛すべきなのか、それとも、我々を叱咤するべきなのか」

セーラ「ま、後者やろなー」

やえ「セーラ、次の試合で区間トップじゃなかったら、お前には二度とエースを名乗らせんからな。宮永には驚いたが……お前ら全員が本気を出せば、止められなくもなかったはずだ。
 ったく、上位ナンバーの三年が揃いも揃って情けない。ナメられっぱなしで終わるなよ、《一桁ナンバー》」

セーラ「なーに当たり前のことを」

やえ「次に、片岡」

優希「ハイだじょっ!」

やえ「ほれ。さっきの試合中に、金に物を言わせて取り寄せたぞ。超高級メキシカンレストラン《アミーゴ》のタコスだ」スッ

優希「や、やえお姉さん……!? 私は今、やえお姉さんを軽蔑しつつ尊敬するという――とても複雑な心理状態に陥っているじょ……!!」キラキラ

やえ「いいか、現段階のお前には、上位ナンバーの三年相手に苦手な南場を切り抜ける技量は求めない。それは本選までに鍛えてやる。
 そういうわけで、次の試合、南場は捨てていいぞ。だから……東場で全員をトばすつもりで打て。否、東場ではないな。東一局の起親で、全員を打ち滅ぼせ。誰にも賽を振らせるな」

優希「任せろだじぇっ!!」モグモグ

やえ「できなかったら、そのタコスの代金は全額お前持ちだからな」

優希「ぶー!!」

やえ「次に、亦野」

誠子「はいっ!」

やえ「その調子で、次はもっと上を目指せ」

誠子「は……はいっ!!」

やえ「で、ネリー」

ネリー「なにさ?」

やえ「お前、さっきの対局……なぜ渋谷のアシストをした? 親での連荘に加え、大星が渋谷に振り込むよう仕向けたりもしていたな。それはなぜだ?」

ネリー「なぜって言われても。私なりに最善を尽くした結果なんだよ」

やえ「ほう?」

ネリー「あの場……一番実現性の高かった《運命》は、《煌星》の大将が逆転するってものだった。そうなってくると、点差的に私たちは三位か四位になっちゃう。
 で、やえ、言ってたよね。一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》は、一回戦以外、二位であり続ければ決勝には行けるって。だから、あえて一位は目指さないで、強力な能力を持っている《豊穣》の大将に主旋律を任せた」

やえ「トーナメントを想定して打った……ということか」

ネリー「二割じゃあれが限界だよ。私一人じゃ《煌星》は止められなかった。ランクS……あの魔力は尋常じゃないね。
 レベル5の《絶対》の旋律もすごいと思ったけど、その力を利用して、その上で、私自身も全力で抑えにかかったのに……オーラス直前で直撃を喰らった。
 あれで能力を温存してるって話なんでしょ? 本気対本気で負けはしないと思うけど……相当てこずりそう。やえが言っていた通り、結構楽しめるね、ランクSとレベル5」

やえ「なるほどな。ま、大星が化け物なのは、今更言わずもがなだが。それはそれとして……どうだった、渋谷尭深の《ハーベストタイム》のほうは」

ネリー「あっ、バレてた?」

やえ「ごちゃごちゃ言ってれば誤魔化せると思ったか? 甘いな。お前、渋谷の《ハーベストタイム》を生で聞きたかっただけだろ。大星がラス親なのをいいことに、役満を和了らせる気満々でサポートしやがって」

ネリー「それもあるけど、魔術世界から来た身としては、超能力の《絶対》がどんなものかなーっていうのも気になってたんだよ。いくつか試してみたいこともあったし」

やえ「ご感想は?」

ネリー「一口に言えば、わかんない」

やえ「は?」

ネリー「わかんないものはわかんない。知らないものは知らない。私には、そんな風に聞こえた」

やえ「何一つ参考にならんな……」

ネリー「うっ、ごめんなんだよ」

やえ「いや、まあ、構わんさ。そもそも、わからないから研究しているわけだしな。
 いくら運命奏者《フェイタライザー》とは言え、向こうの世界から来たお前にあっさり解析されるような幻想では、あまりにも殺し甲斐がない。むしろやる気になったくらいだ。有難う」

ネリー「ど、どういたしまして?」

やえ「さて……レベル5談義はこれくらいにしておくか。本題に戻ろう」

ネリー「次の試合の話だよね。オーダーや作戦に、何か変更はある?」

やえ「オーダーは変更する。先鋒が片岡、大将が亦野だ。それぞれ特別な区間。経験を積んでこい。
 セーラは中堅以外を試してみるか。その穴には私が入る。というわけで、ネリーとセーラ、コイントスで勝ったほうが次鋒な。負けたほうが副将だ」

セーラ「おうよ、リーダー」

やえ「で、作戦のほうは、そのまま。変更なしだ。普通に全力で打って、普通に全力でトップを目指す。ネリーに頼らず《豊穣》と渡り合えるくらいでないと、トーナメントで優勝するのは不可能だ。
 なんたって、温存策を取りながらも私たちに四万点差をつける《豊穣》を……まるで赤子のように捻るチームが他にいるのだからな。そして、そのチームが唯一対等と認めるチームが、もう一つ。
 この二チームをどうにかしないことには、優勝はない。ここでモタついている暇はないぞ。次こそは《豊穣》の牙城を打ち崩す。さあ……ぶちかますぞッ!!」

ネリー・優希・誠子・セーラ「おおおっ!!」

 ――《新約》部屋

和「…………」

姫子「…………」

絹恵「…………」

初美「…………」

怜「なーんかお通夜みたいな雰囲気やなー。ま、そらそうかー。三人がマイナスで、プラスの二人も4000点と900点やもんなー。ボロ負けも当然の結果やろなー」

和「……ふざけているんですか、園城寺先輩」

怜「ふざけてへんよ。大真面目。うちなりに反省したんや。何があかんかってんやろーってな。ほんで、わかったねん。うちらに足りひんのは……笑いやっ!!」

和「は?」

怜「他のチームはな、みんなボケとツッコミがおるねんっ! 《豊穣》なら清水谷さんがボケやし、松実さんが天然ボケやし、福路さんと石戸さんはブラックジョークかますし、渋谷さんは堅物と見せかけてお茶目やし」

和「全員ボケ倒しじゃないですか。ツッコミはどこいったですか」

怜「お、ええ返しやね。ほんで、《煌星》は大星さんがボケやな。残りの花田さんや宮永さんや東横さんや森垣さんは、うん、ツッコミではないから、これもボケやな」

和「この合宿のメンバーはボケしかいないんですか?」

怜「そんなことあらへんよ。《幻奏》は、まあ、セーラや片岡さんやネリーさんはボケやとして、あと亦野さんがギリギリ真面目ボケで……小走さんがツッコミ――という名のこれもボケやな」

和「結局全員ボケじゃないですか!?」

怜「せやね。ボケてへんのはうちらくらいかも」

和「は……?」

怜「あー、なんかボケたいわー」

和「……なんなんですか? わけのわからないことを言い出したかと思ったら。ちゃんと反省する気がないのなら、どっか遊びにでも行っててください。私たちは真剣なんです」

怜「真剣――か。ホンマかいな」

和「……はあ?」

怜「なあ、和。これは個人戦やない、団体戦やで。自分、自分のことしか考えてへんかったんちゃうか?
 そら、和が存分に和らしく打ってくれれば、なんの文句もあれへんけど……今回は前半、昨日の怜ちゃん膝枕モードやないのは、和かてわかってたやろ?
 ほな、それならそれなりに、もっとチームのためにできることがあったんちゃう?」

和「そ、それは……」

怜「それから、鶴田さんと愛宕さんは、いなくなった白水さんと愛宕の洋榎さんのことばーっか考えて、他のことが全然見えとらへん」

姫子・絹恵「…………」

怜「あと、薄墨さん。薄墨さんが点取らんで誰が取んねん。ランクSやかなんやか知りませんけど、一年なんぞに打ち負かされるなんて、《一桁ナンバー》が聞いて呆れますわ」

初美「…………」

怜「ほんで、うちな。園城寺怜。今日誰よりもマイナスやった大戦犯や。エースで先鋒のうちがこんなんやったら、そら誰も続いてこーへんわ! 大崩れ、総崩れ、大雪崩やっ!
 ホンマ――ホンマにすんませんでした!! 白状すると、清水谷さんにええとこ見せることばっか考えて、全然周りが見えてませんでした……!! ごめんなさい!!」

和「先輩……」

怜「と――まあ、ドアホのうちを筆頭に、どーにもちぐはぐやで、この五人。ポジションの役割分担なんて、あってないようなもん。たすきリレーもバトンパスもまるでできてへん……」

和「…………」

怜「うちらに足りひんのは……力やない、チームワークや。まあ、結成の経緯からして多国籍軍なんは承知しとった。けど、その差がこんなに如実に出るとは、うちも思ってへんかったわ。
 個々はええもんを持っとるはずや。やのに、それが結果に繋がらへん。一つの流れにならへん。その辺りをな、どーにかせな……いつまで経っても勝てるようにならんやろな……」

和「それで、笑い……というわけですか?」

怜「せや。しょーもないか……? ごめんな、他に思いつかへんかってん。所詮、うちなんて、偶然強い能力を手に入れただけ。ちょっと鍍金が剥がれれば、欠陥品の無能力者やった頃と何も変わってへん――ってことなんかな。
 うちは……リーダー失格やわ。こんなとき、どうしたらええか、全然わからへん。どうやったらみんなの気持ちを一つにできるか、わからへん……」

和「………………なら、いっそ、喧嘩でもしますか?」

怜「は? え、和、何を言――」

和「園城寺怜さんの――ばかああああああ!!!」ブンッ

怜「エトペ――ぶうううう!!!」

和「ばか! のーなし! さいていっ!! 大体なんなんですかあの打ち方はっ!! 和了率にばっかり意識がいって、期待値の計算がまったくなってないです!!
 一発で絶対に和了れるのかなんだか知りませんけど、あんなド素人みたいな打ち方で勝てるわけないじゃないですかー!! デジタル論を一年生からやり直してくださいっ!! このへっぽこオカルト信者っ!!」

絹恵「…………ちょー待ってーな。それならうちにも言わせてや。原村さんこそ、ちょっとデジタル信仰が強過ぎるんちゃう? 大体、いつもいつも練習で薄墨先輩に東と北鳴かせて……うちがどんだけ苦労して凌いどるかわかっとん!?」

和「だってそんなオカルトありえないんですもん! あれがデジタル的に正しいんですもん!!」

絹恵「デジタル的に正しいことが常に正しいとは限らへんやろっ!?」

姫子「…………ばってん、原村さんの成績のほうがよかとは、事実と」

絹恵「はあ!? 姫子、自分、原村さんの味方するん!?」

姫子「やって、私と絹恵は実際、原村さんより成績が下と。原村さんのことば矯正したいなら、まず原村さんより強かならんといかんやろ?」

絹恵「下って……そらそうかもしれへんけど、姫子と一緒にせんでよ! うちは学園都市に来たときから、ずーっと非能力者として能力者相手に打ってきてん!
 能力が使えなくなって弱体化した姫子なんかとはちゃうわ!! うちは今のスタイルで一年間、《姫松》の副将として大会を勝ち抜いて来たんやっ!!」

姫子「絹恵なんて……! お姉さんの愛宕先輩におんぶに抱っこやろっ!? 自分がチームば引っ張っとっとみたいな言い方はおかしかよっ!!
 絹恵なんて愛宕先輩のオマケと! 愛宕先輩と末原先輩の橋渡しのためにおるような、地味ーな打ち手やろっ!!」

絹恵「ひ、姫子なんて……! 白水先輩がおらんかったら何もできひんくせにっ!! ようそんなデカい口叩けるなっ!?
 大体なんなんや、いつもメソメソウジウジ……気ぃ遣うねん! うちかて寂しいけど、表には出してへんつもりや! 姫子がそんなんやから、チームの雰囲気が暗くなるんとちゃう!?」

和「それは言い過ぎですよ、愛宕先輩。愛宕先輩は姉妹だから、最後には戻ってくるってわかってるから……そんな楽観的でいられるんです。鶴田先輩と白水先輩は他人同士なんですよ? その辺りも少しは考えて発言したらどうなんですか?」

姫子「待ち待ちぃ、口の聞き方に気ばつけんといかんのは和やろ。私と哩先輩の他人同士……?
 よう知りもせんと適当なことば言うんはやめんしゃい!! 私と哩先輩は血よりずーっと深かところで繋がっとう!! 私の超能力やって――」

和「はあ!? また能力の話ですか!? 能力能力――鶴田先輩はもうそればっかりっ!!
 超能力者だかなんだか知らないですけど、白水先輩が和了った局と同じ局で、その二倍の飜数で和了る? そんな超常現象が現実にあるわけないじゃないですか!!
 たまたまそういう結果になったのを、姫子さんのほうが勝手に拡大解釈したんじゃないんですか!? それを能力だなんだって言いふらして、白水先輩を煩わせていたんじゃないんですか!?
 だから白水先輩が愛想つかして、どっか行っちゃったんじゃないんですか!!?」

姫子「う……うあああああああああああああ!!!」

絹恵「の、和……今のは言い過ぎやろ……!!」

和「絹恵さんだってそう思うでしょう!?」

絹恵「い、いや、うちは何もそこまでは思ってへんよ……姫子の超能力は普通に本物やし……」

和「いいでしょう。千歩譲って、漫画か何かのフィクションの中に、そういう超能力とやらがあったと仮定します!
 それはそれで、言いたいことがないわけではありませんから。そもそも、能力の内容を聞いたときから疑問に思っていたんです。
 だって、姫子さんの超能力、白水先輩側に一つもメリットがないじゃないですか! 白水先輩は普通に打てばいいところを、わざわざ姫子さんのために無駄な縛りを掛けて、いくつかの和了りの可能性を自ら潰してしまっている。自分自身に何か見返りがあるわけでもないのに!
 そんな不合理な能力……私が白水先輩なら決して使いませんよっ! 普通に打ちます! 出ていったという話を聞いて、それから能力の話に移ったときは、ぶっちゃけそりゃそうだろって思いました!!」

姫子「ああああああああああああああああ!!!?」

絹恵「和、もうそれくらいにしたって!! 姫子が死んでまうわっ!!」

和「なんですか……!? 絹恵さんは結局、能力者の味方なんですか!? 同じデジタルだと思っていたのに、残念です。
ま、いいですけど! オカルト信者なんて……能力者なんて、いつか私が白糸台の《頂点》に立って絶滅させてやりますから――!!」

初美「…………おいコラ和。それは私にも喧嘩を売ったってことでいいですかー……?」

和「薄墨先輩……最初から、私と先輩は分かり合えない運命なんです。これは喧嘩ではありません。デジタルとオカルトの戦争です」

初美「上等ですー。和にはゆくゆく風紀委員会を任せようと思ってたですけどー、これは再考しないといけないようですねー!!」

和「委員長の座なら、力ずくで奪いますよ。風紀委員会は、委員会内で対抗戦をして、一番麻雀が強かった人が、次の委員長を指名するシステム。つまり、私が勝って、私が委員長になればいいだけの話なんですから。
 なんなら、今から一局打ちましょうか? 好きなだけ小四喜大四喜言ってればいいですよ! 北家の初美さんなんて、姫子さんと同じで、デジタル的には穴だらけですし。負ける気がしませんッ!!」

姫子「ああああああああああああああああああああああ!!!!」

絹恵「和ああああ!! ええかげんにせえよ、コラァ!!!」

初美「いい加減にするのはそっちですー!! うるさくて言い合いに集中できないですよー!! 絹恵、もう姫子はいいから放っておくですー!! 白水さんがいないと何もできないのはその通りなんですからー!!」

絹恵「初美さんまで……!? なんなんやねん、思うてても言うていいことと悪いことくらいあるやろ!?」

姫子「だ、黙って……聞いとれば……! 哩先輩のおらんと何もできん何もできんって……!! ああ、もう、その通りとですよっ!! だから一刻も早く哩先輩に会いとう言っとっとね!! 早く先輩ば見つけてくださいよっ、この無能力風紀委員長っ!!」

初美「ああ!? 誰が無能力ですかー!! 能力がないのはそっちじゃないですかー!!」

姫子「ふんっ!! 能力のあったら初美さんなんかには負けんとよ!! 私の能力はレベル5の第四位! 序列こそ真ん中ばってん、そん効果は間違いなく最強の能力と!!
 あんだけ厳しか発動条件やのに、そん効果がちょーっと風牌の寄りやすかなるだけの使い勝手の悪か大能力者なんかには……絶対に負けんっ!!」

初美「言ってくれるじゃないですかー!? 白水さんがいないと何もできない三軍以下の雑魚雀士がっ!!」

姫子「そうと!! 哩先輩のおらんと私は何もできん!! それの何が悪か!? 私の哩先輩にべったりで、誰かに迷惑かけとっと!?」

初美「現在進行形で私たちに迷惑がかかってるですよー!!」

姫子「うわあああああああああああ!!!」

初美「むきゃああああああああああ!!!」

和「なあああああああああああああ!!!」

絹恵「だああああああああああああ!!!」

怜「はああああああああああああい!!! そこまでやっ!!!」パチンッ

姫子・初美・和・絹恵「はぁ……はぁはぁ……」

怜「みんな、溜め過ぎや。言いたいことあり過ぎや。びっくりしたわ。ようそんなんで、さっき一回試合したな。そら勝てへんわけやで……」

和「絹恵さんみたいな、デジタル・オカルトどっち付かずの中途半端な打ち手がいるせいで、コンセプトが安定せず、勝てないんです」

姫子「和みたいな、空気も人の心も読めんネト麻中毒者が、チームの雰囲気ば悪くすっけん、勝てんとね」

絹恵「初美さんみたいな、見た目も中身も子供な人が大能力なんて持ってはるから、すぐ調子に乗って足並み乱して、勝てるもんも勝てなくなるんです」

初美「姫子みたいな、とにかく使えない子がいるから、勝てないんですー」

怜「せやなー。勝てへんよなー。まー……勝てへん、けど?」

和「……けど、絹恵さんみたいな人が一人くらいはいないと、私はオカルト信者とまともにチームを組める気がしませんから、いないよりはいるほうがいいのでしょう」

姫子「まあ、和の言っとうことも、一理くらいはあっ。それに、はっきり言ったほうがよかときも、ごく稀にあっと」

絹恵「逆に、初美さんが波に乗ってくれれば、みんながそれに引っ張り上げられて、きっと勝てると思うんやけどな」

初美「えーっと……姫子は、姫子のいいところは……あっ、そうですーっ! 姫子が怜の案に乗らなければ、そもそもチームができなかったですー! よかったですねー、姫子! ぎりぎり存在価値があったですよー!!」

姫子「うるさかですっ!! そんなんなら、何もなかほうがよかとですよっ!!」

和・絹恵「ぷっ……!」

姫子「な、なんや、二人して……」

初美「くっ……くくっ……!!」

姫子「初美さんまで!? 本当、ひどかですよ。ふっ……はははっ!! こんなん笑うしかなかっ! ははははっ!!」

和「あの……私って、そんな空気読めてませんか?」

絹恵「読めてへんどころやない。凍らせとるわ。ブチ壊しとるわ。ありえへんわ。まあ、傍から見る分にはオモロいねんけど……ふふっ!」

初美「どいつもこいつも私をバカにし過ぎですー。こんなナリですけどー、やるときはやるですよー、私は」

姫子「はいはい、せやねー、初美ちゃんはできる子とー」ナデナデ

初美「撫でるなですーっ!!」

和・絹恵「あっはっはっ!!」

初美「笑うなーですー!? くっ――もう、ははははっ!! 全員覚えてろですよー!! あはははっ!!」

怜「笑いって……偉大やな」

絹恵「そうですね、怜さん」

怜「目的もバラバラ、主義もバラバラの人間同士を……こんな簡単にくっつけてまう」

和「別に楽しくて笑ってるんじゃないですよ? でも、なんか、つられちゃって」

怜「それでええと思うよ。楽しいから笑うんちゃう。笑ってるうちに楽しくなってくるんや。やから、辛いことも、苦しいことも、とにかく嫌なことは全部……笑って吹き飛ばせばええんよ。
 少なくとも、うちが無能力者やった頃は……そうやっとった」

和「怜さん……なんか遠くを見ながら無駄にシリアス入るのやめてください……ぷぷっ!!」

怜「こらー、人が珍しく真面目な話しとんやでー!?」

姫子「怜さんに真面目なんて似合わなかとです。どっからどう見てもちゃらんぽらんと。てか、なんでこんな人がリーダーやっとうね」

怜「言い出しっぺやからや。それに……うちには絶対に叶えなきゃあかん夢があんねん」

初美「へえ? 初耳ですねー。なんですかー?」

怜「トーナメントで《豊穣》の清水谷さんに勝って……『きゃー怜ってば強いー好きー』ってなって……膝枕してもらうねんっ!!」

和「生きたまま火炙りにされてくるといいと思います」

怜「な、なんやっ!! ほな、自分はなんで勝ちたいねん、和っ!!」

和「わ……私は、ま、まあ、オカルト信者殲滅のためですかね。元々、自分のスキルアップのために参加しただけで、モチベーションはさほどなかったですけど……皆さんと話しているうちに、気が変わりました。
 もっともっと、学園都市にデジタルの合理性を広めていきたい……!」

怜「ほんなら、初美は?」

初美「そうですねー。ぶっちゃけ風紀委員長としての責任感以外には何もないですけどー……ま、強いて言うなら個人的に《最悪》の竹井久をシメたいですー。
 そのためには、トーナメントも上のほうまで勝ち上がらないとですよねー」

怜「姫子と絹恵は、最初から決まっとるよな?」

姫子「哩先輩に会う……そして、勝って、姫子の一番って言わせちゃる!」

絹恵「お姉ちゃんに会って……勝って、このドアホって言うたる!」

姫子「ばってん……なんやろね。このチームで、ちゃんと勝てたら楽しか気もする。哩先輩のおらんとこで、哩先輩の力に頼らんで、勝っと。
 こんな……哩先輩のおらんと何もできん私なんかに付き合ってくれるみんなに……何か、返せたらよかて思う」

絹恵「うちも、こうやって練習してるうちに、少しずつ、みんなのこと好きになったわ。もっと一緒におれば……もっと好きになる気がする。
 もし、トーナメントで優勝なんてしてもうたら、大好きになってまうかもしれへん。それこそ、《姫松》のみんなと同じくらいに」

怜「よう言うてくれたな……二人とも。ほな、改めて、全員の気持ち、確認しとこかっ!」

和「どうぞ、リーダー」

怜「勝ちたい、やんな?」

和「勝ちたいですね」

初美「勝たなきゃつまらないですー」

姫子「勝ちたか」

絹恵「勝たなあかんねん」

怜「このチームで、勝ちたい――せやな?」

和「正直、はい? って感じですけどね」

初美「ま、そうなるっちゃそうなるのかもですけどー」

姫子「まだはっきりとは言えんばってん、たぶん……」

絹恵「勝てば、きっと自信持って、せやって言える気ぃする」

怜「まっ、どうやら全会一致への道のりは長く険しいようやな。仲良くしようや、多国籍軍。ほんで、せっかくやから楽しく勝とうや。次の試合、景気づけに一発かまして、ちゃんとスタートしたろうや。
 うちらチーム《新約》――これがホンマの初陣や! しっかり勝って笑ったろ! 負けても……ま、笑ったろ! ええか、みんなっ!? 気張っていくでー! うーっ、っしゃあー!!」

和「しゃ、しゃー!?」

初美「しゃーですー」

姫子「しゃ……しゃあ?」

絹恵「……しょーもな」

怜「もー掛け声くらい揃えてやー!? っていうか絹恵、しょーもなってなんや、しょーもなって!!」

怜・和・絹恵・姫子・初美「…………ぷっ!! あははははっ!!」

 ――《豊穣》部屋

尭深「ただいま戻りました」

宥「おかえりなさい。か、かっこよかったよ……尭深ちゃんっ!」

尭深「いえ、ネリーさんが連荘してくれたおかげです。もっと《ハーベストタイム》に頼らない打ち方をしなくては」

宥「そ、そっか……尭深ちゃんは偉いね」

尭深「私自身の力は、まだまだ先輩方に及びませんから。弘世先輩や宮永先輩と渡り合おうと思えば……私が強くなるのが一番の近道。たまたま勝てたくらいで安心してはいられません」

宥「尭深ちゃん……そんなに無理しないで。合宿のこと、チームのこと、自分のこと、全部ちゃんとしようとするのは大変だよ。勝ったときくらい、少しは休んで」

尭深「でも、弘世先輩はどんなときでも……」

宥「弘世さんは弘世さん。尭深ちゃんは尭深ちゃん。弘世さんだって、見えないところで一息ついてたんだよ。私、授業中に居眠りしてる弘世さん、見たことあるもん」

尭深「あの弘世先輩が……居眠り?」

宥「そう。だから、尭深ちゃんも、ちょっとでいいから休んで」

尭深「じゃ、じゃあ……お言葉に甘えて……」ギュッ

宥「た、尭深ちゃん……? み、みみ、みんな見てるんだけど……!?」

尭深「これが一番安らぐんです」

宥「も、もう……仕方ないなぁ。特別にだよ? 今回の合宿は、尭深ちゃん頑張ってたから……特別ね……特別に、ご、ご褒美っ!」チュ

尭深「…………宥……さん……?」

宥「な、なな、なにかなぁ……っ?」

尭深「宥……さん、そんなことされたら……私、私っ!!」ガバッ

宥「ふぁあああああああ!?」

尭深「も、もう……宥さんが悪いんですから――」

竜華「あっかーん!!」ドカーン

尭深「ふきゅぅぅ!!?」

竜華「尭深ー! それはオフサイドや! フライングやっ! 早摘みハーベストやでー!!」

尭深「す、すいません……興奮してつい……」

霞「ネリーさんに勝たせてもらうような闘牌で、それは欲しがり過ぎじゃないかしら」

尭深「うぅ……やっぱり、あれはネリーさんに助けられていたんですか……」

美穂子「ま、対局の出来云々もそうですが、普通にアウトですよ。見てください、宥さんが衝撃のあまり失神しています」

宥「」プシュー

尭深「やり過ぎた……」

霞「ま、けしかけた私たちも反省しないとね」

竜華「まさかホンマにやるとは思ってへんかったわ、ほっぺにちゅー」

美穂子「宥さん、頑張ってましたね」

尭深「先輩方には敵いません」

霞「あら、弱気なのね、リーダー。尭深ちゃんが私たちに勝ってくれるくらいじゃないと、優勝はできないわよ?」

竜華「せやでー。さっきの試合かて、点差ほど力の差があったわけやないと思うしな。オーダーによっては、うちらもあんな楽には打てなくなるやろ」

美穂子「ま、負ける気はしませんが」

尭深「そうですね……宥さんのおかげで疲れも吹き飛びましたし、次は私も三万点くらい稼ぎたいです」

竜華「おっ、ええな。ほな、うちも今度は攻めたろーかなー」

霞「じゃあ、美穂子ちゃんと尭深ちゃんと竜華ちゃんで競争したら? で、勝った人は、帰りのバスで宥ちゃんの膝枕」

尭深「かつてないレベルでやる気が出てきました」

美穂子「本人が気絶してる横でなんてことを――と言いつつ、私もノリノリなんですけどね。勝負と名のつくものに妥協はしません」

竜華「霞は参加せんのー?」

霞「私は攻撃モードなしだもの。勝てる気がしないわ。けど、そうね……最下位の人は罰ゲームで私の肩揉み、なんてどうかしら?」

竜華・美穂子「負けられへんな(ませんね)……!!」ゾワッ

尭深「?」

宥「はっ! 私……!! ごめん、なにか、作戦の変更とかあった?」

尭深「おはようございます、宥さん。今しがた、宥さんをめぐって(石戸先輩を忌避して)三つ巴の争いが勃発したところです」

宥「よくわからないけど……それ、尭深ちゃんも参加するんだよね?」

尭深「もちろん」

宥「じゃあ……私は尭深ちゃんの応援をする。頑張ってっ!」

尭深「聞きましたか皆さん、宥さんの膝は私のものです」

宥「ふぇっ!? そういうこと? そういうアレなの!? もう、みんなひどいんだからっ!」

尭深「嫌なら無理強いはしないですけど?」

宥「まあ……いいよ。だって、尭深ちゃんが勝ってくれるんでしょ? なら……いいよ」

尭深「それは……なんとしても負けられないですね」

宥「本当だよ。負けたら許さないから。一週間お茶淹れてあげないから」

尭深「勝ちますよ、絶対に」

宥「うん……信じてるよ、尭深ちゃん」

尭深「では、宥さん争奪戦も大事ですが、二連勝も大事です。みなさん……油断せずに行きましょうっ!」

宥・竜華・霞・美穂子「おおー!」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――――

 タンッ タンッ タンッ タンッ タンッ

憩「すーみーれーさんっ!」ガラッ

菫「荒川か……。どうした。集合までまだ少しあるぞ」

憩「つれないなー、菫さんは。菫さんと二人きりになりたいから早く来たんやないですかー」

菫「……なにか、ネタでも仕入れてきたのか?」

憩「ははっ、バレましたか。えっとですね、今日、同じクラスの花田さんに聞いたんですけど、花田さんら、この間の三連休に合同合宿したそうなんです」

菫「お前のお気に入りの《煌星》か。他の合宿参加チームは?」

憩「亦野さんのおる《幻奏》と、風紀委員長のおる《新約》、それに《豊穣》です」

菫「そうか」

憩「……やっぱり、菫さん的には《豊穣》が気になります?」

菫「一度手合わせしたからな」

憩「渋谷さん? やないとしたら、松実宥さんが気になるんですか?」

菫「いや、私は――」

憩「あー、やっぱ松実さんが気になるんやー! なるほど~」

菫「……心を読むな、荒川」

憩「菫さんがわかりやす過ぎるんです。せやけど……へえ、菫さんは、ああいう守ってあげたくなる系の人がええんですかー?」

菫「あのな……。まあ、意識はしているよ。彼女は――強い。三年になって初めて同じクラスになったんだが、そこで完封されかけたことがあってな。守るだなんてとんでもない。松実さんは、芯の通った気丈な人だ」

憩「松実さん、なんや、最近は渋谷さんとええ感じらしいですよ。噂になっとります」

菫「互いに通じるところがあるんだろう。お似合いじゃないか」

憩「あんまり動揺せーへんのですね、つまらんなー」

菫「お前は私にどんなキャラを期待しているんだ……」

憩「……それ、並べてるのは、宮永照の牌譜ですか?」

菫「ああ。こうして眺めていると、改めてあいつの無茶苦茶さがわかる。山嶺も河も海底も……まるであいつの光が届かない場所はないかのようだ。卓上の全てがあいつの支配領域《テリトリー》――とでも言えばいいのか」

憩「…………そうですね」

菫「ん? 私……今なにか変なこと言ったか?」

憩「いえ、なんでもないです」

菫「さて……照の研究もこれくらいにしておくか。頭を切り替えなくては」

憩「来週からですもんね、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》のブロック予選」

菫「一度でも負ければ、本選決勝に辿り着くことはできない。どの試合も集中して臨まないとな」

憩「そうですけど、まさか予選で負けはせーへんでしょ。相手は格下のチームばっかですし」

菫「わからんぞ? 私にとって照がそうであるように、私やお前もまた、誰かにとって、刺し違えてでも首を取りたい相手かもしれない。照のチーム以外に興味はないが……だからこそ、全力で薙ぎ払う。
 それが、上に立つ者の矜持――下から這い上がろうとする者たちへの礼儀だ。下位軍《クラス》のチームが相手ならなおさら、元一軍《レギュラー》として、格の違いってやつを教えてやらんとな」

憩「おー、やっぱ菫さんの言葉には重みがありますねー」

菫「持ち上げるのはよせよ、荒川。発言に実力が伴っていないのは、私自身がよくわかっている。今言ったようなことは……照やお前や智葉――《三人》が口にしてこそ、相応の重みになるってものだ」

憩「ウチは……せやけど、二番ですから。《頂点》に比べたら紙風船みたいなもんです」

菫「そんなことはない。ナンバー2――十分に誇れる数字だ」

憩「……ま、二番は二番らしく、二番にしかできないことをしますわ」

菫「心強いよ」

憩「…………あの、菫さん。ウチ――」

 ガラッ

智葉「お疲れ……と、邪魔だったか?」

憩「いーえ、そんなことありまへーん」

智葉「そのわりには口調に棘を感じるな……。ウィッシュアートと天江は?」

菫「まだ来ていない。あ、そうだ、智葉。お前、学生議会長とは親しいか?」

智葉「まあ、私は議会委員だからな。久がどうかしたか?」

菫「あいつらと合同練習がしたいんだ。連絡取れるか?」

智葉「失踪組……チーム《久遠》か。連絡先は知っている。たぶんだが、誘えば乗ってくるだろう。あいつらも、風紀委員に目をつけられている手前、練習相手には困っているだろうしな」

菫「頼む」

智葉「同じ議会委員なら、ゆみにも声を掛けてみるか? 他のメンバーがどうかはわからんが、あいつとは打っておいて損はないと思う。タイプ的に、お前が参考にできる部分も多いだろう」

菫「あの《智将》か……それは、是非とも打ってみたい」

智葉「あとは副会長の恭子を引っ張ってくればチーム戦が出来るが……久のとこが来るなら、引き合わせないほうがいいか」

菫「そうだな。対局に集中できないのは困る。それに、今のところは、どこも個人個人の底上げをしたい時期だろう。無理に四チーム揃える必要性はないように思う」

智葉「承知した。とりあえず、その二チームと合同練習をする方向で、あいつらに連絡をしてみる」

菫「有難う」

 ガラッ

エイスリン「オハヨー!! ゴザマッ!!」

衣「待たせたなっ!!」

智葉「おう、来たか」

菫「時間通りだな。よし、じゃあミーティングを始めよう。各自、そこの資料を一部ずつ取って、席についてくれ」

憩「はーい」

菫「では、来週からブロック予選が始まるわけだが――」

 ――――

 ――――

淡「じゃ、今日からブロック予選が始まるわけだけど!」

煌「オーダーはこんな感じでよろしいですかね」

 《煌星》オーダー

 先鋒:花田煌

 次鋒:東横桃子

 中堅:宮永咲

 副将:森垣友香

 大将:大星淡

桃子「やっぱり今のところはこれが一番しっくり来るっすね。後半にかけて加速度的に火力を上げていく感じが、ノリがよくて好きっす」

咲「何もなければ、私はプラス5000点で帰ってくるね。もし何かがあって、トップと点差が開いているようなら、例の1000点持ち《プラマイゼロ》で稼いでくるよ。
 選別戦で何度か試したし、よほどのことがない限り、30000点は確実に詰められると思う」

友香「私は普通に打ってくるんでー」

淡「で、私でダメ押しっと」

煌「選別戦と違って、予選は負けが許されません。しかも、決勝以外は各戦半荘一回きりです。能力温存は、咲さんと淡さんだけにしましょう。桃子さんと友香さんは、自然に打っていただいて構いません」

友香「なら、仮エースは私ってことでー」

淡「任せたよっ、ユーカ!」

煌「私も、できる限り皆さんの足を引っ張らないよう努力します」

桃子「むしろ私たちの手を引っ張るくらいのつもりで打ってくださいっす」

咲「そうですよ。合宿以来、花田さんは、ほぼ原点で帰ってこれるくらいに強くなったじゃないですか。プラス収支まであとちょっとです」

友香「もっと自信を持って大丈夫ですんでー」

淡「一位で帰ってくるくらいになれば、もう先鋒としては言うことなしだよねっ!」

煌「皆さん……ありがとうございます。一般にエースポジションとされる先鋒――大役ですが、少しでもそれに見合う働きをしてみせます。このブロック予選、決勝までに、必ずやトップ帰還を果たしてみせましょう!」

淡「その意気だよっ、スバラ!」

煌「ありがとうございます。さて……オーダーの話は、これくらいにしましょうか。皆さん、お配りした資料を見てください。今日の対戦相手の主な牌譜です。分析した結果の要点をまとめました。
 読み終えたら、詳しい解説をしていきますね。では、三十分ほど時間を取りますので、各自、目を通してください」

淡・咲・桃子・友香「はーい!」

淡(スバラ……麻雀だけじゃなくて、リーダーとしてもしっかりしてきたなぁ。本選が始まるまでになんとかなればと思ってたけど、これならこの予選期間中に言っちゃえるかも。スバラ、驚くかな……? 今から楽しみだよっ!)

 ――――――

 ――――

 ――

 ――――

?「ふむ……準決勝もまったく危なげのない試合運び。やはり上がってきたか。チーム《煌星》」

?「私たちのブロックの大本命ですもんね」

?「まさにキラホシの如くですね! って、言ってみたはいいけど、キラホシの如くって、どういう意味なの?」

?「綺羅っていうのは綺麗な衣装のこと、つまり、そういう衣装を身に纏う高貴な人って意味なんだー。
 で、そういう人たちが、夜空の星のようにたくさん集まっている様子を指して、『綺羅星の如く』って言うんだぞー」

?「まあ、現代では『綺羅星』を一単語――キラキラ光る星の意味と誤解して、『美しく輝く星のように』くらいのニュアンスで使うことが多くなっていますけどね」

?「なるほどっ!」

?「このチームの場合……どっちの意味にとっても通用しますよね。全員が二軍《セカンドクラス》で、強能力者《レベル3》以上。まさに綺羅を纏うに相応しい人たちばかり。キラキラ眩しい打ち手ばかりです」

?「しかも、ただの二軍《セカンドクラス》ではありません。ランクSが二人に、レベル5が一人で、しかもその序列は第一位。残りのレベル3も、一人は、海外で《流星群》と称されていた打ち手」

?「もう一人のほうのレベル3だってすごいぞー? 通称《ステルスモモ》――あの子は我らがリーダー……ユミちんが太鼓判を押した雀士なんだからなー」

ゆみ「もとより、避けて通るつもりはない。真正面から押し切る。そのために、できる限りの準備はしたつもりだ。決勝は明日。蒲原、津山、妹尾……みんな、頼むぞ」

智美・佳織・睦月「おー!」

ゆみ「そして……キミには本当に感謝している。東横さんを逃したときは、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》の本選に出場するという夢を諦めそうになったが……そのことが転じて、今は、こうしてキミがここにいる。もはや、キミのいないチーム《鶴賀》は考えられん」

?「私もまさか、これほどまでにチームに馴染めるとは、正直、思っていませんでした。
 皆さんは、こんな意地っ張りで偏屈な私を、温かく迎え入れてくれた……感謝したいのはこちらのほうです。私の持てる力――その全てを、チーム《鶴賀》に捧げましょう」

ゆみ「ありがとう。キミを仲間にできたことを誇りに思う。キミは確かに、私たちの風になってくれた。暖かく、心地よく、そして力強く背中を押す風――私たちを天上まで運ぶ大風に」

?「ゆみさん……」

ゆみ「最後までともに戦おう、《南風》――南浦数絵」スッ

数絵「ええ、こんな私でよろしければ……!!」ギュ

 ――――――

 ――――

 ――

ご覧いただきありがとうございました。

今日は以上です。

来週は、平日と週末の二度に分けて更新するかもです。できなければ、週末に一気に更新します。

では、失礼しました。

 ――ブロック予選決勝戦当日・早朝・白糸台寮

煌(緊張してよく眠れませんでしたね。どうにも、気が昂ぶっていけません。淡さんは……)

淡「」スゥスゥ

煌(淡さん……綺麗な寝顔ですね。長い睫毛に、カーテンの隙間から差し込む朝日が反射して……一枚の絵画のようです)

淡「」ウーン

煌(あわわっ!? 寝返りを打ったことで、布団がズレて淡さんの柔肌が!! こ、これは……マズいです。とても正気ではいられません。かと言ってこんな精神状態じゃ眠ることもできませんし……っ!!)アワアワ

淡「」ムニャムニャ

煌(軽く走ってきましょうか。私の対局――先鋒戦はあと数時間後には始まります。心も身体も、万全のコンディションで臨みたい……)

淡「」ンースバラー

煌(そうと決まれば、淡さんがびっくりしないように書き置きを残してっと……一汗かいてきましょうか)

 ――――

 ――――

煌(早いもので、学園都市に来てから二ヶ月が経とうかと言うところ。超能力《レベル5》やら二軍《セカンドクラス》やら、最初は戸惑うことばかりでしたが……ここで打つ麻雀は本当に楽しいです)タッタッタッ

煌(麻雀の授業も能力開発も、勉強になることばかりですし、デジタルからオカルトまで様々な雀士がいる。外の世界とは一味も二味も違う。発見と驚きの連続で、飽きることがない)タッタッタッ

煌(そして何より、すばらな仲間がいる。淡さん、桃子さん、友香さん、咲さん。私はなんていい人たちに出会えたんでしょう。《煌星》の皆さんと過ごす毎日……こんな日々が、いつまでも続けばいいのに)タッタッタッ

煌(正直、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》で優勝するなど、淡さんたちみたいな人ばかりならまだしも、私みたいな凡人がいる時点で、夢のまた夢だと思っていました。けれど……)タッタッタッ

煌(あの合同合宿から、選別戦、予選を経て……私も少しずつ、力をつけてきました。強くなった――という実感があります。もちろん、淡さんたちには及ぶべくもありませんが)タッタッタッ

煌(それでも、もっと強くなりたいと思える! もっと淡さんたちの役に立ちたいと思える!! 練習や試合の一打一打……なんとなく打っていた以前とは違う。明確に、強くなりたいと思って、牌に触れる――)タッタッタッ

煌(なぜなら、今の私には目標があるから。もっと強くなって……淡さんの支えになるという目標が。まだ原点で帰ってくるのがやっとですが……今日の決勝では、狙ってみましょう、トップを!)

煌(淡さん、見ていてください。私はあなたのために、勝ってみせますっ!!)タッタッタッ

煌(――っと。そろそろ戻りましょうか。淡さんも起きる頃でしょうし)フゥ

 ガヤガヤ

「あー、朝までカラオケとか」「寮監様に地平の彼方までぶっ飛ばされる~」「こっそり戻れば大丈夫っしょ」「まーた長い夏休みが始まるのかぁ……あ?」「どうかした?」

煌(ん……?)

「……ねえ、あれレベル5じゃね?」「うわっ、ホントだ。第一位様じゃん」「ってか何してんの……?」「決勝前の走りこみとか?」「テンション垂直落下きたわ~」

煌(あれは、確か、昨日の準決勝の――)

「おいっ、なに見てんのよっ!!」

煌「え――!?(な、なにやらすばらくない予感がっ!)」

「なぁに、負けた私たちが遊んでるのが、そんなに面白いわけ?」「ダイエット中なのにご立腹しちゃうんですけど~?」「レベル5だかなんだか知らないけどさ」「私らのこと見下してんの?」「ってか、あんた、なんか勘違いしてるんじゃない?」

煌「え、あ、いや……」

「ホントありえないよねー」「大した実力もないくせに」「あんたなんてただのお荷物でしょ?」「二足歩行するハンディ~キャップ」「ちょっと他のメンバーが強いからってさ」

煌「私は……」

「違うっていうの?」「レベル5って肩書きだけでメンバーに恵まれてさ」「それで自分も強いとか思ってんじゃないの?」「ね~わ~」「あんたとか普通に私ら以下だよ」

煌「……そ、それはそうですが……」

「ってか、なにさっきからヘラヘラしてんのよ!」ドンッ

煌「うっ!?」グラッ

「あー、こいつのニヤケ面見てたらイラっとしてきたわー!」「すごくよくわかるそれ~」「なーんかバカにされてる気がするよね」「クソ弱いくせにさ」「ぶってんじゃねーっつの」

煌「も、申し訳――」

「うっさい、喋んな! キモいから、その口調!!」ダンッ

煌「い、痛……」ヨロ

「なによ、なんか文句あんなら麻雀で言いなさいよ」「あはは、それいいんじゃなーい?」「学園都市に七人しかいないレベル5の第一位(笑)」「負ける気が《通行止め》なんですけど~?」「ってか昨日普通に勝ってたわよね」

煌「あ、あの……」

「なんでこんな弱いやつに上から見られなきゃいけないの?」「レベル5っていうからどれだけのもんかと思ったら」「先鋒戦にド素人出してくんなよな~これマジな話」「チーム戦で勝ったからって調子乗ってんじゃないわよ!」「っつかホントなんなのあんた?」























「  捨  て  駒  の  く  せ  に  」

煌「え――あ、あの、今なんと……?」

「だから捨て駒だって!!」「それ以外にあんたの役目なんてあんの?」「先鋒でトばされずに帰ってくればいいだけの簡単なお仕事」「あとは残りのメンバーが取り返すっていうね」「ってか十万点でトぶ難易度って半端なくね~?」

煌(トばずに帰ってくればいい? 捨て……駒……? 私が――?)

「不満そうな顔してるの引くわ~」「なによ、違うっていうの?」「自惚れてんじゃないわよ」「あんたなんてただの人数合わせでしょ」「いいよね、どんなに負けたって他のメンバーが逆転してくれるんだから」


       ――ま、何万点差でも私たちみん 『捨て駒のくせに』


煌(あ、淡……さん……? そういう……ことなんですか……?)


     「あれ? ってか、なんかこいつ、泣きそうになってね?」


   ――私はハナダの能力が 『だから捨て駒だって!!』


煌(私の能力をほしいと言ってくれたのも、私を必要だと言ってくれたのも……)


  「もしかして、自分が何かの役に立ってるとか思ってた? 力になってるとか思ってた? はんっ、捨て駒の分際でのぼせてんじゃねーわよ」


  ――この人と一緒な 『先鋒でトばされずに帰ってくればいいだけの捨て駒』


煌(全部、捨て駒にするために――?)


             「あーあ、白けちゃったわ。帰ろ帰ろ」


   ――一緒に頂 『捨て駒の分際でのぼせてんじゃねーわよ』


 「んじゃ、今日の先鋒戦もトばないよう頑張ってね~。捨て駒のレベル5さん」


煌(……私……は………………)

 ――――――

 ――――

 ――

 ――――

憩「ロンや、2000」カチャカチャパラララ

(また安手で流された……)(能力がまるで通じねえっ!)(こんなやつに勝てるわけあるかーい!)

憩「おおきに~」

 ――《劫初》控え室

憩「戻りましたー!」

智葉「ご苦労」

エイスリン「オツカレ!」

衣「ZZZ……」

菫「また随分と安く早く回したな。文句のつけようのない収支だから別にいいが……先鋒を買って出たことといい、なにか理由でも?」

憩「いやー、ちょっと、お気に入りチームの偵察にでも行ってこよー思いまして」

菫「ああ、《煌星》のことか。記録映像では不十分なのか?」

憩「生やないと見えへんものもありますから」

菫「まあ、そういうことなら……」

智葉「どうせ偵察に行くんなら、宮永のところに行ってくればいいものを」

憩「もー、ガイトさんってば人遣い荒過ぎですわー。ま、偵察っちゅーんは言葉の綾です。単純に、いちファンとして応援しに行きたいんですわ。それに……なーんか嫌な予感がするんですよね」

エイスリン「ケイ?」

憩「ほら、あそこのブロック、前に合同練習したガイトさんのお友達さん――加治木さんのチーム《鶴賀》がおるんですよ。チームの総合力では《煌星》に二歩三歩及ばへんけど……何かが起こればひっくり返るくらいの可能性はあります」

智葉「何か、とは?」

憩「そこまではわかりません。せやけど、不測の事態っちゅーんは、いつどこで誰に降りかかるかわからへんものでしょ?」

菫「そうだな。私たちも他人事ではない」

憩「ちゅーわけで、すいません。ちょっと向こうの会場に行ってきますわ。何かあれば連絡ください。ほな、失礼します」

 タッタッタッ

智葉「……そうか、ゆみが《煌星》とな。荒川の予感というのも、頷ける」

菫「どういうことだ?」

智葉「《智将》――加治木ゆみ、あいつは本物だ。《煌星》は確かに強力な大駒ばかりのチームだが、王将は学園都市に来てまだ二ヶ月そこそこの二年生と心許ない。一方で、ゆみのリーダーとしての腕は、白糸台でも十指に入る。
 あいつは歩を金に変える術を知っている。手駒の優位性は、ゆみの戦略の前では大して意味をなさない。まともにぶつかれば、《煌星》の勝率は七割程度だろう。もちろん、万全の状態で、だ」

菫「なら、もし、《煌星》側に何かアクシデントがあれば……?」

智葉「その隙を逃すゆみではない。確実に仕留めにかかるだろう」

エイスリン「ユミ、シゴトニン!」

菫「……ま、どちらが上がってこようと、蹴散らすまでだがな」

衣「ZZZ……」

 ――――

 ――試合会場

 ガヤガヤ ザワザワ

憩(っと、ちょうど先鋒戦が終わったとこか。花田さんの対局は見れへんかったかー。結果はどーなっとんのやろ……)

 一位:――・133400(+33400)

 二位:鶴賀・116700(+16700)

 三位:――・98300(-1700)

 四位:煌星・51600(-48400)


憩(は? ちょ、花田さん……!? いくら予選決勝かて、最近の花田さんやったらもっと善戦できたやろ!
 ウチの見た限り、鶴賀の先鋒は花田さんとどっこいどっこい……運が悪かったんか……? いや、それにしてもこれは……)

 ――――

 ――《煌星》控え室

淡「スバラ!? どーしたの? 和了り方忘れちゃった!? いくらスバラだって、一回も和了らずに勝つことはできないよっ!!」

煌「…………すいません。皆さん、手強くて……」

友香(いや……確かに、トップのとこの能力者はそこそこだったけど!)

桃子(それ以外とは、そんなに力の差はなかったっす。最近のすばら先輩なら、こんなに凹むことはないはずのに……どうして?)

咲(花田さん……!?)

淡「ま、まあ……お腹でも痛かったのかなっ!? そうならそうって言ってくれれば、お薬くらい買ってきたのに……。けど、過ぎたことは仕方ない。切り替えていこっか! 頼むよ、モモコッ!!」

桃子「大丈夫っす。チーム《鶴賀》の次鋒は素人っすし、牌譜を見た限り、他の二チームもさほどではない。さくっと逆転してくるっすよっ!!」

煌「…………」

 ――《鶴賀》控え室

睦月「こ、こんなもんでよかったでしょうか……?」

ゆみ「十分だ。いつも以上に打てていたぞ。トップのチームは先鋒が手強いが、中堅戦くらいで蒲原が逆転してくれるはずだ。それに、一番恐い《煌星》が落ちてくれた」

智美「あっちの先鋒さん、なんだか目に見えて調子悪そうだったなー。よくわからんけどラッキーだー」

佳織「ちょっと心配です……」

数絵「妹尾先輩は、自分の心配をしてください」

佳織「そ、そうだよねっ! 私……頑張らなきゃ!」

ゆみ「そう力むな、妹尾。いつも通りでいい。多少のビハインドなら、数絵が取り返す。自然に、楽な気持ちで打ってこい」

佳織「は、はいっ!」

 ――観戦室

 ガヤガヤ

憩(ふう……どうやら、調子悪いんは花田さんだけっぽいな。次鋒の影薄い子は普通に打てとる。これなら、すぐに逆転でき――)ハッ

 ザワ ザワ

憩「これは……!?」ガタッ

 ドヨドヨ ザワザワ

憩(ちょいちょい、ホンマにヤバいんちゃうか……!?)

 ――対局室

桃子(下家の鶴賀がリーチっすか。わけのわからない捨て牌……大きいのを張ってるような気もするっす。けど、今の私には関係ない。ステルスモードは完全に機能している。私は――振り込まないっ!!)タンッ

佳織「ツ、ツモです。リーチツモ……対々……でしょうか?」パラララ

桃子(なあっ!? そ、それは――)ゾワッ

 ――――――

 ――――

 ――

 ――《煌星》控え室

桃子「も……申し訳ないっす。ステルスモードで振り込まないことが、まさかあんな形で逆手に取られるとは……」

 四位:煌星・38500(-13100)

淡「ど、どんまいっ!! ビギナーズラックってやつだよ。あんなにボコスカツモられたら私だって困っちゃうって! けど、モモコはすぐ立て直してたじゃん! 十分十分!!」

友香「これは……咲には1000点スタート《プラマイゼロ》をやってもらう感じでー?」

咲「任せてっ! 大丈夫、すぐに取り返してくるよっ!!」ゴッ

煌「…………」

 ――《鶴賀》控え室

智美「笑いが止まらないぞー」ワハハ

佳織「あ、あれで大丈夫でしたか……?」

 一位:鶴賀・159700(+43000)

ゆみ「この収支に不満などあるものか。よくやった、妹尾」

睦月「前後半通して、役満、三倍満、倍満、ハネ満をコンプリート……」

数絵「恐ろしい豪運ですね。さっきの妹尾先輩相手では、私も勝てる気がしません」

佳織「そ、そんな……ただ三つずつ揃えてただけだよー!」

ゆみ「その辺りは、これに勝って、本選が始まるまでに鍛えてやる。今はとにかく、結果を出せたことを誇っていいぞ。さて……蒲原、わかっているだろうな?」

智美「ああ……撃ち落されなければいいんだろう、《煌星》に」ワハハ

 ――観戦室

憩(最下位の《煌星》とトップの《鶴賀》が12万点差やと……? いくらなんでも開き過ぎやろ。
 あと半荘が六回あるから、決して逆転できひん差やないけど、鶴賀の副将・大将は二軍《セカンドクラス》の雀士や。この中堅戦でなんとかせな……いよいよ厳しくなってくるで……!!)

     咲『ロン、8000!』パラララ

憩(ま、まあ……あの《魔王》やったら、万が一ってこともあらへんやろ。けど……それでも、《智将》と呼ばれる加治木さんのことや。ガイトさんもその力を認めるほどの策士。何の対策もしとらんとは思えへんけど……)

     智美『ワハハ。ロン、1300だー』パラララ

憩(…………これは……?)

 ――――――

 ――――

 ――

 ――《煌星》控え室

咲「と、とりあえず二位にはなったけど……」

 二位:煌星・96300(+57800)

桃子「《鶴賀》の背中が遠いっすね」

友香「あの中堅の人、咲の打ち筋を見透かしたみたいにオリてたんでー……」

淡「だ、大丈夫だって!! あとはユーカと私だよっ!? これくらいスパーンと逆転しちゃうって!! ねっ、ユーカ!?」

桃子「もちろん信じてるっすけど……でー子さんの相手、《鶴賀》の副将は――」

友香「《南風》――南浦数絵。私と桃子と同じクラスの、南場に強いレベル3強」

淡「最初に、二人がオススメしてきた雀士だよね。私とサッキーはクラスが違うから、直接打ったことはないけど、そんなに強いの?」

桃子「この間の合同合宿の、タコスさん。あの人の南場バージョンっす」

友香「けど、地力は片岡さん以上。完全デジタルで打っても、私たち一年生の中では屈指の実力者。楽勝できる相手じゃないんでー」

淡「む、むう……!! と、とにかくお願いね、ユーカ!!」

友香「やるだけやってみるんでー!」

煌「…………」

 ――《鶴賀》控え室

智美「ワハハ、ユミちんの言った通りだったぞー」

 一位:鶴賀・156700(-3000)

佳織「ど、どういうこと?」

数絵「《煌星》の中堅、25000点持ちの30000点返しの対局で、結果を《プラマイゼロ》にする傾向があるみたいなんですが、それを応用して、自分の点棒を1000点スタートと仮定して打ってるときがあるようなんです」

睦月「29000点を必ず取れるってことですよね。恐ろしい……」

智美「けど、プラマイゼロにするには、その仮定の中で、自分が二位にならないといけないんだなー。トップだとオカがあるからプラマイゼロにならないんだー」

ゆみ「で、あいつはどうやら他家の点数を一律33000点スタートと仮定しているらしいというのが、選別戦の牌譜を分析した結果わかった。つまり、その仮定の中のトップ役になれれば、半荘一回で3000点以上削られることがないんだ」

数絵「半荘二回なら、最大でも6000点しか削られない」

ゆみ「そして、あの《プラマイゼロ》とやらの点数調整には、どうやらカンが絡んでいるらしくてな。《煌星》の中堅は、カンの直後に出和了りすることが多い。詳しくはわからないが、それで何らかの確率干渉を行っているんだろう」

智美「あとは簡単。私はカンされたあとにベタオリすればいいだけ。それだけで、あとは向こうが勝手に点数調整をして、他の二チームを撃ち落し、私の失点を最小限に抑えてくれる。いやー、楽な仕事だったー」ワハハ

ゆみ「それもこれも、津山と妹尾が《煌星》に12万点差をつけてくれたおかげだ。それだけの余裕があったから、たとえ6万点を確実に詰められることがわかっていても、落ち着いて対処できた。あとは……数絵、わかっているな?」

数絵「ええ。任せてください。《流星群》――森垣さんとは同じクラス。その実力の程も知っているつもりです。私が全力で当たれば……結果は拮抗するでしょう。このリードを死守して、ゆみさんに繋いでみせます」

ゆみ「頼んだぞ、数絵」

 ――観戦室

憩(うーん……中堅戦終了時点で六万点差か。これはひょっとすると……ひょっとするかもやな。ウチの見立てでは、《煌星》と《鶴賀》の副将の実力は、ヒラで打って五分五分)

憩(せやけど、《煌星》のほうは六万点差をどうにかせなあかん。その上、あんまり稼ぎ過ぎると、30000点ちょいしかない最下位のチームがトんでまう。
 出和了りよりは満遍なくツモで稼ぐタイプの《煌星》の副将が……この状況で《鶴賀》に追いつけるかっちゅうと……微妙やろな)

憩(この勝負……大将戦にもつれ込むで。《智将》と《超新星》。あの転校生の力は化け物級やろけど……加治木さんかて、それは重々承知。無策で挑むはずがあらへん。今までの予選のように簡単に点は取らせてもらえへんやろ)

憩(六万点か……花田さんが先鋒戦で取られた分がまんま響いとる感じやな。ホンマ、何があったんやろ。
 《煌星》はさっきから、流れもブツ切りな感じで、個人個人で打っとる感がある。リーダーとしての花田さんが、まったく仕事をしてへんってことや。加治木さんの指揮でチーム全体が一つになっとる《鶴賀》とは対照的やな)

憩(花田さん……ウチは、こんなバラバラのチーム《煌星》を応援しとるわけやないで。ウチが本選で戦いたいんは、《魔王》とか《超新星》とか、そんな綺羅の寄せ集めやない。チームとしての《煌星》や)

憩(たとえこの決勝を凌いで本選に来たとしても、今のままのチーム《煌星》なんやったら、悪いけど、叩き落させてもらうで。花田さん……あんまウチをがっかりさせんといてね……!)

 ――対局室

数絵「ロン、12000」パラララ

友香(くっ……南場に入った途端これでー。っていうか、このままだと最下位チームがトぶ。ツモは半ば封じられたようなもの。この状況で……南浦さんより稼ぐのは大仕事でー!!)

数絵「ツモ、2000オール」パラララ

友香(南浦さん……!? 前にクラスで打った感じとは違う、鬼気迫る闘牌……!!
 どちらかっていうと個人で淡々と勝ちを重ねるタイプの雀士だと思ってたけど、チームのエースって重責を負っている今の南浦さんは……それ以上! この《南風》……どうやってかき消せばいいんでー……!?)

 ――――

数絵(普段より……牌に力を感じる。風も少し変化したように思う)

友香「ロンでー、16300ッ!!」

数絵(《流星群》――森垣友香さん。私と同等かそれ以上の力を持つ雀士。だが……今はさほど脅威に感じない。もちろん、点差の優位性があるからだとは思うけれど……チームのみんなが、私の支えになっている)

数絵「ロン、1300」パラララ

友香「――っ!?」

数絵(ゆみさん……どうですか? 私はちゃんと、あなたの目に映っていますか?)

 ――――――

 ――――

 ――

 ――五月・白糸台校舎・一年教室棟

数絵「すいません、まだ……チームとか、そういうのはちょっと考えていなくて」

「そっか……わかった。気が変わったら教えてね」

数絵(ふう……チームの誘いは嬉しくもあるが、こうひっきりなしに来られては麻雀に集中できない。私はもっと、私自身の力を磨きたいのに……)

?「キミ、ちょっといいかな」

数絵「(上級生……またチームの話だろうか。正直、今はそっとしておいてほしい……)はい、なんでしょう?」

?「少し聞きたいことがあってな。今、大丈夫か?」

数絵「構いませんよ。あ、でも、チームの――」

?「キミのクラスに、他家に振り込まない能力者はいないか? 門前派のデジタルで、ネット麻雀も中々強い。心当たりは?」

数絵「えっ、ああ……そういう話でしたか。えっと、そう……確か――《ステルスモモ》。彼女なら、その条件に当て嵌まると思います」

?「そうか、ありがとうっ! その、《ステルスモモ》とやらがどこにいるかわかるか?」

数絵「どこかには……いると思います。一応、席はあの辺りですけど……彼女、普段からとても影が薄いので、いても見つけられないと思いますよ」

?「影が薄い……? なるほど。なら、手紙でやり取りでもしてみようか。助かった。私は三年の加治木ゆみだ。キミは?」

数絵「南浦……数絵です」

ゆみ「ああ、では、キミがあの《南風》か。噂は聞いているよ。入学早々大暴れした《ゴールデンルーキー》を、東南戦で完封してみせたらしいじゃないか」

数絵「ま、まあ……」

「あ、あの……すいません。南浦さんって子は、あなたでよかった……?」

ゆみ「っと、客が来たようだな。手間を取らせて悪かった。じゃ、またどこかで」ダッ

数絵「あ、あの――」

「あ、ごめんね、話し中に。えっと、私、南浦さんにお話があって……よかったら、私たちのチームにどうかなって」

数絵「あ、いや、すいません。私は……」

数絵(加治木……ゆみさん、か)

 ――数日後・白糸台校舎・一年教室棟

数絵(あれ……あそこにへたり込んでいるのは――)

数絵「……加治木先輩。どうしたんですか、こんなところで」

ゆみ「ああ……キミは、南浦さんか。いや、ちょっと、フラれたところでな。例の《ステルスモモ》。東横さんは、別のチームに入ることを決めたそうだ」

数絵「そうでしたか……残念ですね」

ゆみ「ああ。彼女なら、と思ったんだけどな。手応えはあったと思ったんだが……どうやら私以上に彼女の心を掴んだ打ち手がいたようだ」

数絵「加治木先輩……」

ゆみ「私たち三年は、次の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》が事実上の引退試合だからな。一年の頃からの相棒と、最後くらいは本選に出場してみたいと思っていたんだが……」

数絵「チーム……メンバーが揃わないってことですか?」

ゆみ「まあな。私と私の友人と、去年さらに二人、気の合うメンバーを引き入れて、あとは、東横さんのような、チームのエースになれる存在が一人いてくれたらな……と思っていたんだ」

数絵「チームのエース……」

ゆみ「もちろん、ただ強いだけの雀士なら、他にもいるだろう。しかし、私たちのチームには、東横さんしかいないと思ったんだ。彼女なら、私たち《鶴賀》のエースになってくれると思った。
 東横さんのほうも、満更ではないような反応だったんだが……ま、過ぎたことだ」

数絵「加治木……先輩」

ゆみ「ん、どうした?」

数絵「……私では、ダメですか?」

ゆみ「…………えっ?」

数絵「私では……加治木先輩のお力になれませんか?」

ゆみ「いや、しかし、キミは他にいくらでも誘いが――」

数絵「加治木先輩、質問に答えてください。私では、加治木先輩のチームのエースとして、役者不足ですか?」

ゆみ「…………いや、そんなことはない。キミの牌譜は見た。今年の一年生の中でも、キミはかなりの逸材だと思う。役者不足どころか役不足だよ。しかし……なぜ、急にそんなことを?」

数絵「自分でもわかりません。ただ、この数週間……多くの上級生が私をチームに誘おうとしてきました。そんな中、加治木先輩だけは、私の名を知っていながら……私ではなく、東横さんを選んだ」

ゆみ「それは……その、なんだ、悪いことをしたな」

数絵「いえ、別に、東横さんがどうこうというわけではないんです。私は、単純に、あなたに興味が湧きました。加治木先輩」

ゆみ「私に……?」

数絵「この人に、私の力を思い知らせてやらなければならない――そう思ったんです」

ゆみ「……ほう」

数絵「なんでしょう。子供っぽい意地なのかもしれません。とにかく、加治木先輩。どういう観点であれ、あなたの中では、私は東横さんより優先順位が低いんですよね。私はそれが……気に入らないんです」

ゆみ「ならば、どうする? 私と個人戦で勝負でもするか? たぶんだが、キミのほうが強いと思うぞ」

数絵「いえ……個人戦など、どうでもいい。チーム戦で勝負をしましょう」

ゆみ「キミのチームと、私のチームで勝負をするということか?」

数絵「違います。私が加治木先輩のチームに入るんです」

ゆみ「なに……?」

数絵「私が加治木先輩のチームに入って、エースを務めます。それで、そのチームと、加治木先輩が思い描いていた、東横さんがエースを務めるチーム。どちらのほうがよかったか、加治木先輩に決めてほしいんです」

ゆみ「変わったことを言うのだな、南浦さんは」

数絵「私だって、何を言っているのか、自分でもよくわかってません。けど、なんだか……悔しい。この私を前にしながら、東横さんの影を追っているあなたが、気に入らなくて――気になるんです」

ゆみ「……わかった。今すぐに返事はできないが、これからどこかで打とう。チームメンバーにも紹介する。それで、あいつらが納得するようなら、キミを私のチームに迎えよう」

数絵「ありがとうございます」

ゆみ「しかし、本当によかったのか? 私のチームは、私以外は三軍《サードクラス》以下で、まともな能力者もいない。正直、ブロック予選の決勝に上がれれば上出来なくらいのチームだが……」

数絵「それは……東横さんがエースの場合、ではないですか?」

ゆみ「……キミがエースなら、違うというのか?」

数絵「私の《南風》を過小評価しないでください。加治木先輩も、加治木先輩のご友人の方々も、全員まとめて《頂点》へ運んで差し上げますよ」

ゆみ「面白い。そこまで言うなら、見せてもらおう。キミの吹かす《南風》とやらを……!!」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――対局室

数絵(ゆみさん……約束は守りますよ。あなたを雲の上へと連れて行くのは、東横さんの《ステルス》ではない。私の《南風》ですっ!)

数絵「ツモッ! 2100・4100ッ!!」パラララ

数絵(さあ、あとは任せましたよ。ゆみさん……!!)

 一位:鶴賀・185500(+28800)

友香(強い……っ!! ごめん、淡……稼ぎ負けたんでー!!)

 二位:煌星・124000(+27700)

 ――――

 ――《鶴賀》控え室

数絵「ただいま戻りました」

智美「お疲れ。いやー、熱戦だったなー」

佳織「接戦でした!」

睦月「けど……勝ったのは数絵さんっ!」

数絵「ありがとうございます。先輩方のリードがあったおかげです」

ゆみ「いや、実力を見ても数絵のほうが一枚上だった。《鶴賀》のエースに相応しい、いい闘牌だったと思う」

数絵「……東横さんと比べても、ですか?」

ゆみ「ああ。お前が一番だよ、数絵」

数絵「ゆみ……さん……っ!」ウル

智美「おいおい、泣くのはまだ早いぞー?」

佳織「か、数絵さん……!」ウルウル

睦月「佳織さんまで……。やめてください、なんだか私も……」ウルウル

ゆみ「ったく……勝負が決まったわけでもないというのに」

数絵「すいません……重い、ですか?」

ゆみ「いや、心地よい重責だよ。卑怯者の私にはちょうどいい。これだけ色々なものを背負わされては、逃げることもできんからな。必ず勝って帰ってくる。待っていてくれるか、みんな」

数絵・智美・佳織・睦月「もちろんっ!!」

ゆみ「では……行ってくる……!!」

 ――《煌星》控え室

友香「淡……私……」ポロポロ

淡「な、なに泣いてんのー!? 私にはこんくらいの点差がちょうどいいハンデだって!!」

咲「友香ちゃんは頑張ってたよ! だから、泣かないでっ!」

桃子「そうっす。あの点数状況で南浦さんと互角だったっすから、でー子さんはよく戦ったっす!」

友香「で、でも……!」ウルウル

淡「ユーカ……あとは私に任せて。私なら絶対に逆転できる。みんなもそう思うでしょ?」

桃子「もちろんっす!」

咲「別に思ってはいないけど、してもらわないと困るかな!」

淡「スバラも、そう思うよね?」

煌「……えっ、ああ……そうですね……」

淡「スバラ、リーダーとして、なにか私に言うことは?」

煌「……いえ、特に。淡さんなら、逆転できると思いますよ。淡さんなら……」

淡「……じゃあ、行ってくるよっ!」

咲・桃子・友香「頑張って……!!」

煌「…………」

淡「……スバラ、行ってくるよ!?」

煌「あ、は……はい……行ってらっしゃい……」

淡「~~~っ!!」ダッ

 ――観戦室

憩(立ち上がりは静かやな……まだ前半、焦るほどでもないって感じやろか)

     淡『ツモ、2000・4000』

憩(けど、《超新星》の一年生……わかっとるか。自分の目の前にいるんは、知略と技術だけで二軍《セカンドクラス》まで上り詰めた切れ者やで。自分みたいな化け物を狩ることなんて……当たり前のようにやってのける)

     ゆみ『ロンだ。3900……』

憩(この点差やと、加治木さんのほうに分があるやろな。今のままやとジリ貧。どないするつもりや、《超新星》……?)

 ――――――

 ――――

 ――

 ――前半戦終了・《鶴賀》控え室

ゆみ「ひとまず現状維持か」

 一位:鶴賀・187600(+2100)

数絵「やはり、《煌星》の追い上げは相当ですね」

智美「けど、ユミちんの自責点はほぼゼロ。あっちも、他家から取るのはそろそろ限界のはずだー」

睦月「最下位のチーム……あと5000点でトびますからね。誰かが5200以上を当てれば、その時点で試合終了」

佳織「後半もこの調子で頑張ってくださいっ!」

ゆみ「ああ……そのつも――」

 バチンッ

佳織「わっ!?」

睦月「停電……?」

智美「ワハハ、なんか楽しくなってきたぞー?」

数絵「ひとまず、電子学生手帳でライトアップします」ピカー

ゆみ(なんだ……この寒気は……?)ゾクッ

 ――前半戦終了・《煌星》控え室

淡「むぅ……稼ぐには稼いだけど」

 二位:煌星・152100(+28100)

友香「《鶴賀》の大将、堅いんでー」

桃子(さすが加治木先輩っす。超新星さんを相手にしながら、あんな冷静な闘牌ができるなんて……)

咲「淡ちゃん、ちゃんと周り見えてる? ちょっと点数がヤバいチームがあるからね」

淡「あの諦めムードなとこか。まあ、ヘタに足掻かれるよりは、ベタオリマシーンのほうが助かるけど。さすがに5000点はキツいよね。役満ツモればいいだけの話なんだけどさ……ねえ、スバラ」

煌「……はい」

淡「あのね、私の能力温存、一回だけ解禁していいかな。《鶴賀》の大将を確実に仕留めるには、私も全力を出さないといけないみたい」

煌「……お好きにどうぞ……」

淡「お好きにって――ちょっと、スバラ!? いい加減にしないと私もプンスコだよっ!? さっきからスバラらしくないじゃん! すばらくないじゃん! どうしちゃったの!?」

煌「別に……私はいつも通りですよ」

淡「いつも通りなら、リーダーとしてちゃんと指示を出して。能力の温存を優先するのか、勝率を上げることを優先するのか。スバラが決めてくれれば、私は能力ナシでもアリでも、きっちり逆転してみせるから」

煌「逆転……逆転できるなら、どっちでもいいです。淡さんのやりやすいようにやってください。能力を使おうと使わまいと……淡さんなら逆転できるのでしょう?」

淡「そ、そうだけど……」

煌「なら、わざわざ私に指示を仰ぐ必要なんてないじゃないですか。どうせ……淡さんはどう打ったって勝つんですから」

淡「で、でも、私たちのリーダーはスバラなんだよ!? 私はスバラの判断で動きたいのっ! それともスバラは……私に勝手にやれって言うの!?」

煌「だから、ご自由にどうぞと申しているんです。淡さんにお任せします」

淡「…………本当に、私の勝手にしていいわけ?」

煌「はい」

淡「…………………………わかった」ゴッ

 バチンッ

桃子・友香「っ!!!?」ゾワッ

淡「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲「あ、淡ちゃん……? な、なにもそこまで」

淡「…………サッキー、同じランクSとして聞きたいんだけど、今の私に勝てるやつって、学園都市にどれくらいいると思う?」

咲「お姉ちゃんと……私くらいかな」

淡「ちょっと後半に聞き捨てならない自慢が入ってた気がするけど、まあ、いいや――」

咲「淡ちゃん……」

淡「じゃ、軽ーく遊んでくるねっ! スバラも調子悪いみたいだし、今日はもう、みんな帰って寝たらいいんじゃないかな? 大丈夫、果報なら私が枕元に置いておくから!!」

煌「さすが……淡さんは頼りになりますね」

淡「そうだね。私は強いから」

煌「ええ、そうでしょうとも……」

淡「……行ってくるね……」

煌「……行ってらっしゃい……」

 ――観戦室

『まもなく復旧いたします。そのままでお待ちください』

 バチンッ

憩(今の……衣ちゃんと同じやつかいな。やれやれやな。業を煮やしたのか、枷が外れたのか、翼を広げたのか……とにかく無茶苦茶やりよるわ。ま、宮永照を筆頭に、ランクSはヒトやないからな)

憩(周囲の環境に目に見えるほどの影響を及ぼす、異常な確率干渉力。原子をプラズマ化したり、気圧を変動させたり、瞬間的に磁場を乱したり……古典確率論ではありえへん物理現象を、意識的・無意識的に引き起こす。それがランクSの魔物――)

憩(衣ちゃんも小蒔ちゃんも大概やし、宮永照なんて別格で破格の規格外やけど……この《超新星》も相当や。となると、宮永咲のほうも、まだ本気やないってことやんな。ったく……死兆星が二人もおるなんて、つくづくオモロいチームやわ、チーム《煌星》)

憩(ほんでも……合同練習のときの加治木さんは、衣ちゃん相手にうまく立ち回っとった。コケ脅しだけで勝てる相手とちゃう。現段階じゃ結果は読めへん。ま、どっちが勝つにしろ、ええもん見れそうやな)

憩(にしても、チーム《煌星》は温存策を取っとると思っとったんやけど。花田さん、このピンチで何か方針を変えたんやろか。なんか、らしくないような気もするけど……ようわからん)

『大将戦後半……開始です!』

憩(さて、泣いても笑っても最後の半荘や。《鶴賀》か《煌星》か……少なくとも一チームはここで敗退する。悔いのないように打ってほしいもんやな)

 ――――――

 ――――

 ――

 ――対局室

ゆみ(停電があったときは、天江衣を思い出したが……ここまではやけに大人しいな、大星淡)

淡「」タンッ

ゆみ(大星淡……他家の配牌を五~六向聴にする魔物。《一向聴地獄》の能力を持つ天江衣と打っていたおかげで、多少は対抗できているが、多才能力者《マルチスキル》というからには、それだけではないのだろう)

淡「ツモ……1000・2000」パラララ

ゆみ(また安く仕上げてきたな。先ほどから、トびそうだった上家のアシストをしたり、早和了りで場を回したり……まるで呼吸か何かを整えているかのようだ。
 私との点差は……オーラスに来て32000点を切った。ツいてないことに大星はラス親。ハネ直か倍ツモで逆転されてしまう)

淡「」コロコロ

ゆみ(対局を引き伸ばすのは得策ではない。かと言って、配牌五~六向聴では早和了りも難しいが……さて、どうす――)

淡「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ゆみ「っ!!!?」ゾゾッ

淡「…………」

ゆみ(い、今のはなんだ!? オーラスに来て、気配が膨れ上がった? 何をするつもりだ……大星淡……!!?)

淡「……ダブリー……」ギャギャギャ

ゆみ(ツモ切りのダブリー……だと――!?)ゾクッ

 ――《鶴賀》控え室

数絵「ゆ、ゆみさん……!!」ガタッ

睦月「……《煌星》の大将、あわや天和でしたね……」

佳織「加治木さん……大丈夫かな」

智美「みんな取り乱し過ぎだぞー。ユミちんなら、どんなときも最善を尽くしてくれる。信じて待とうじゃないかー」ワハハ

 ――《煌星》控え室

桃子「ついに出たっすね……超新星さんのダブリー」

友香「公式戦では初めてでー」

咲「淡ちゃん、これで外したら一生許さないからねッ!!」

煌「……………」

 ――観戦室

憩(ダブリー赤一か。これで終わりならええんやけどな)

      淡『カン……』ゴッ

憩(…………なーる……オモロいやん……!!)ゾッ

 ――対局室

淡「カン……」ゴッ

ゆみ(暗槓!? この化け物め……ッ!! くっ、掴まされたか。最初のダブリーとこの暗槓が能力によるものなら、直後にツモったこれは明らかに危険牌……!!)

淡「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ゆみ(最後の最後でこんな切り札を出してくるとはな。何か打つ手は……打つ手は――)

淡「ツモ」パラララ

ゆみ(っ!!? すまない……蒲原、津山、妹尾……数絵……ッ!!)

淡「ダブリーツモ赤一……」

ゆみ(私は……ここまでのようだ――)パタッ

淡「裏四……8000オール」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――観戦室

憩(本選出場は……《煌星》か。結果だけ見れば順当なんやろな)

 ピピピ

憩「……あ、もしもし、菫さん? こっちですか? 《煌星》が勝ちましたよ。そっちは……え? 三チーム同時に0点で和了り止め? 衣ちゃん……まーた遊びよってからに」

憩「ま、菫さん、お仕置きのシャープシュート(物理)は優しめにやったってあげてください。衣ちゃんも悪気は……たぶんありまへんから。ウチも、これから戻りますわ」

憩「……えっ? 《煌星》ですか? 個人的には……まあ、やっぱオモロいチームやと思います。はいはい……。ああ、いやいや、それには及びませんよ。菫さんはホンマ心配症やなー。ええ……せやから、何度も言うてますやん」

憩「菫さんに降りかかる火の粉は――全部ウチが払います」

憩「《煌星》も例外やありません。今のとこ、ウチらが負ける要素はないですわ。ガイトさんも同じこと言わはると思いますよ。
 今日の試合……《超新星》のほうが加治木さん相手に能力解放してたっぽい感じやったんですが……ええ、あの程度なら問題なく。
 宮永咲のほうも、きっと同じくらいやと思います。どんな奥の手を隠しとるか知りまへんけど……全然、これっぽっちも負ける気がしませんわ」

憩「まあ……唯一、計算違いが起きるとしたら花田さん――レベル5の《通行止め》やけど。それやって、本選のどっかでは、能力を使うときが来るはずです。それさえはっきりすれば、今度こそ、自信と確信をもって言うたりますよ」

憩「宮永照以外は、敵やありまへん」

憩「菫さん……菫さんは、宮永照のことだけを考えていてください。それ以外の雀士は、レベル5やろうとランクSやろうと、この荒川憩が一掃してみせますわ。ウチは二番ですけど、二番やからこそできることをします。はい、ほな、またあとで……」ピッ

憩(菫さんは宮永照のことだけを考えていてください――か。我ながら虚しい台詞やな。ウチが何も言わんでも、菫さんは宮永照のことしか考えてへんっちゅーのに……)

憩(花田さん……ウチな、本当は花田さんのこと、ちょっとだけ嫉妬してんねんで? 花田さんは、第一位やもんな。一番やん。レベルもそうやし……他の子たちからも好かれて――)

憩(ウチは……どんなに強くたって、二番なんや。何をしたって、どんな手を使ったって、ウチは宮永照には勝てへん。ウチは、宮永照の代わりにはなれへんねん)

憩(せやけど、菫さんは、そんなウチを選んでくれた。宮永照には勝てへん。けど、宮永照以外には負けへん。ウチは二番……一番やないからこそ、ウチは今、菫さんに必要とされとる……!!)

憩(ええやん! ウチは宮永照にはなれへん! やからこそ、ウチは宮永照にはできひんことができる……!!
 ウチはナンバー2で《頂点》の宮永照やないから、ナンバー1で《頂点》の宮永照を倒したいっちゅー、菫さんのお手伝いができる!! 宮永照を討とうとする菫さんの傍におれる!!
 これは、宮永照にはどう足掻いてもできひんこと。二番のうちにしかできひんことなんや。やから、ええやんな……)

憩(菫さん、ウチ……頑張りますよっ! 頑張って、あなたを支えます。やから……時々でええから、《頂点》ばっかやのうて、隣におるウチのこと、見てくださいね……)

憩(なーんて、高望みやろか。あーあー、なんやろなー。こんなに一番になりたいと思ったことなんて、人生で一回もなかったのに。……いや、ちゃうか。本気でやっとんのに一番になれなかったことが、人生で一回もなかったんやわ)

憩(宮永照……ホンマにとんでもない雀士や。本当に……去年のあれは――)スッ

憩(あかんあかん。一人やと、無駄に感傷的になってまうわ。さっさとみんなんとこ戻ろ。ほんで、衣ちゃんとエイさんに癒されよ。むっふっふ、こんな日はやっぱ鉄板のお医者さんごっこがええやんな。むっふっふ……)

憩(ほな、チーム《煌星》――花田さん。本選で当たったらよろしくな。できることなら、本調子のときに打とうや。ごっつー楽しみにしとんでー)

 ――――――

 ――――

 ――

ご覧いただきありがとうございました。

今日は以上です。次は週末か来週になります。

また、最近、少々パソコンの調子が悪く、いつ壊れてるかもわかりません。
予告なく一週間以上間があいたときは、パソコントラブルだと思われますので、しばしお待ちください。

では、失礼しました。

 ――夜・白糸台寮

淡「ねえ……スバラ」

煌「なんでしょう、淡さん」

淡「今日の決勝、実際のところ、何があったの? みんなの前では言いにくいことだったんでしょ。今は私しかいないから。どうしてあんな感じだったのか聞かせてよ」

煌「ですから、何もないです。私はいつも通りです。変わったことなどありません」

淡「嘘だよ。スバラ、先鋒としてもリーダーとしても、全然やる気なかったじゃん。そんなの、いつも頑張り屋さんなスバラらしくないよ」

煌「私も人間です。頑張ってやろうとしても、うまくいかないことはあります」

淡「…………スバラ、ねえ、ちゃんとこっち見て話して」

煌「すいません、勉強中なもので」

淡「それ、デジタル論の本でしょ? そんなの私がいつでも教えてあげるから、何があったか話してってば!!」

煌「……なんでしょう」パタン

淡「だから、今日何があったのかって!」

煌「何もありません、と先程から申しているでしょう。勉強に戻ってもよろしいですか? 私は淡さんみたいな天才ではないので、こうして牛歩でも地道に強くならねばならないのです。今日のように何万点も離されては、さすがにチームに申し訳ないので」

淡「だーかーらー! そんなのはいくらでも取り返すって言ってるじゃん! 私は点差のことを責めてるんじゃなくて、スバラのことが心配で……!!」

煌「……私の心配のほうが優先ですか。点差なんかどうでもいい、と。淡さんは、本当に……お強くていいですね」

淡「はあ!? いや、別に点差がどうでもいいとまでは言ってないけど、とにかく今はスバラのことが――」

煌「ご心配には及びません。私は……腐ってもレベル5の第一位。どんなに調子が悪くたって、トぶことはありません。《絶対》にです」

淡「いや、そういう心配じゃなくて」

煌「淡さん……淡さんほどの雀士なら――トびさえしなければ逆転できるんですもんね。いくらでも取り返せるんですもんね……! いいですよね、淡さんは――麻雀がお強くてッ!!」

淡「えっ? ス……バラ……?」

 ――夜・白糸台寮

淡「ねえ……スバラ」

煌「なんでしょう、淡さん」

淡「今日の決勝、実際のところ、何があったの? みんなの前では言いにくいことだったんでしょ。今は私しかいないから。どうしてあんな感じだったのか聞かせてよ」

煌「ですから、何もないです。私はいつも通りです。変わったことなどありません」

淡「嘘だよ。スバラ、先鋒としてもリーダーとしても、全然やる気なかったじゃん。そんなの、いつも頑張り屋さんなスバラらしくないよ」

煌「私も人間です。頑張ってやろうとしても、うまくいかないことはあります」

淡「…………スバラ、ねえ、ちゃんとこっち見て話して」

煌「すいません、勉強中なもので」

淡「それ、デジタル論の本でしょ? そんなの私がいつでも教えてあげるから、何があったか話してってば!!」

煌「……なんでしょう」パタン

淡「だから、今日何があったのかって!」

煌「何もありません、と先程から申しているでしょう。勉強に戻ってもよろしいですか? 私は淡さんみたいな天才ではないので、こうして牛歩でも地道に強くならねばならないのです。今日のように何万点も離されては、さすがにチームに申し訳ないので」

淡「だーかーらー! そんなのはいくらでも取り返すって言ってるじゃん! 私は点差のことを責めてるんじゃなくて、スバラのことが心配で……!!」

煌「……私の心配のほうが優先ですか。点差なんかどうでもいい、と。淡さんは、本当に……お強くていいですね」

淡「はあ!? いや、別に点差がどうでもいいとまでは言ってないけど、とにかく今はスバラのことが――」

煌「ご心配には及びません。私は……腐ってもレベル5の第一位。どんなに調子が悪くたって、トぶことはありません。《絶対》にです」

淡「いや、そういう心配じゃなくて」

煌「淡さん……淡さんほどの雀士なら――トびさえしなければ逆転できるんですもんね。いくらでも取り返せるんですもんね……! いいですよね、淡さんは――麻雀がお強くてッ!!」

淡「えっ? ス……バラ……?」

煌「…………申し訳ありません、大きな声を出してしまって。そうですよね……こんな私が淡さんのお役に立つというのなら、それは喜んで受け入れるべきなのでしょう。私は何を……舞い上がっていたんでしょうか……」

淡「スバラ、ごめん……スバラが何を言いたいのか全然わからないよ……?」

煌「先鋒はエースポジション――チームで最も稼げる選手がしのぎを削り合う激戦区。どんな不測の事態が起こるかわからない。
 しかし、私なら、たとえ相手があの宮永照さんでも、絶対にトばずに帰ってこれる。そして、トびさえしなければ……淡さんたちがなんとかする。そうでしょう?」

淡「スバラ……?」

煌「淡さんたち四人が点を稼ぎ、私はとにかく激戦区先鋒をトばずに帰ってくる。それが、この《煌星》の勝ちパターン……なんですよね?
 だから、淡さんは、私みたいなトばない以外に何もできない凡人を……綺羅星の如く精鋭の集まるこのチームに入れた。違いますか?」

淡「なに……言って……」

煌「いいんです。それが戦略ならば、私は私の役目に殉じましょう」

淡「ス……バラ……?」

煌「捨て駒……任されました」

淡「っ――!!?」

 パァァァァァン

煌「あ、わい……さん……?」ヒリヒリ

淡「スバラの……スバラのバカァァァ!!」ポロポロ

煌「あ、淡さん……?」

淡「そんな……ひっく……なんでそんなこと……ひっく……言うの!?」ポロポロ

煌「そう……ですよね。初めから捨て駒のつもりでいたら、強くなれませんよね。お荷物のままですよね。せっかく……皆さんで私の実力を引き上げようとしてくれていたのに……黙っているべきでした。
 私が捨て駒だというのは、私以外の皆さんがわかっていればよかったこと。ごめんなさい、麻雀が弱い上に……捨て駒一つも、うまくこなせなくて……」

淡「ちっ……ちがっ、ひっく……!」ポロポロ

煌「……少し、夜風に当たってきます。私の処遇をどうするかは、みなさんで話し合って決めてください。すいません、せっかく本選への出場が決まったというのに、リーダーの私がこんな体たらくで……」ダッ

淡「あっ……スバラ、待っ――」

 バタンッ

 ――――――

 ――――

 ――

 ――路地

煌(淡さんを……泣かせてしまいました。私はなんてひどいことを……)

煌(なんで、あんなことを言ってしまったのでしょう。私の力を考えれば、捨て駒でも上等。むしろ、淡さんが私の力を必要としてくれたことを……私なんかが淡さんのお役に立てることを……手放しで喜ぶべきなのに……!!)

煌(捨て駒――聞けば聞くほどいい響きじゃありませんか! 他の誰にもできない。絶対にトばない私にしかできない大役なのです。なのに……どうして私は不満に思ってしまったのでしょう……)

煌(どうして、淡さんのように強くなりたいなどと……分不相応な考えを持ってしまったのでしょう――)

「ねえ……あれ見てよ」「うっわー、まーたレベル5様じゃん」「こんな夜中に一人歩きとか、カモ過ぎて吹くんだけど」「苛められ足りないんなら、そう言ってくれればいいのに」

煌「あ、えっ……?」

「よう、また会えたわね」

煌「あ……あなた方は――」

「つくづく縁があるみたいね。いいわよ、私たちも、口ばっかりのその他大勢って思われたくないし」

 ザワザワ

?(ん、何あれ……? ヤバそーな雰囲気。ってか、あれ……あの囲まれてる人って確か……)

 ザワザワ

煌「あ、あの……何を……」

「っさいわね。ちょっと面貸せって言ってんのよ、レベル5っ!!」ガッ

 ザワザワ

?(どっか行くのかな。んー、見捨てるわけにもいかないし……しゃーないっ!!)コソッ

 ――――

 ――地下・雀荘

 ザワザワ ガヤガヤ

?(うっわ、何十人いるのよこれ……信じられない)

「ロン、7700。これでまた私らの勝ちね」

煌「…………はい」

「ってゆーか弱過ぎでしょレベル5様ー。ねー、誰か次打ちたい人いるー?」

 ザワザワ ガヤガヤ

?(三対一で狙い撃ちして弱いも何もないでしょーが……。さて、どうしたもんかな。紛れ込んではみたものの、イマイチ状況もわかってないし、ここはとりあえず――)

?「ね、ねえ」コソッ

「ん? なに? あなたも掲示板見て来た系?」

?(掲示板……? ああ、あそこのパソコン係の人がそうかな。なるほど、そうやって人を集めたのね。
 ってことは、中心人物はごく少数……集まってるのも、どこにでもいる普通の人たちっぽい。ちょっと冷やかしに来た野次馬が大半ってことね。おーけい)

「っていうか、あなたも一年? 私もなのよー。ねね、どう? せっかくだから私たちも打ってみる? さっきからザコ過ぎてウケるわよ、レベル5」

?「あ、いやいや、あたしはいいよー。レベル5のダッサいとこ写メ撮りに来ただけだし。これ友達にも送ろーっと」

「へえ、あなたの携帯ここ電波届くんだー。無駄にハイスペックじゃん」

?「だってー、どこにいても電話とかメールとかしたいじゃーん。繋がってないと何かあったとき不安だしー」

「気持ちはわかるけどね。でも、それ、しまっておいたほうがいいかもだよ。あの人たちに見つかったら没収されるかも。地下の雀荘にしたのだって、誰かが風紀委員に連絡しないようにするためらしいの」

?「あっ、そうなんだー。ごめん、ありがとー。え、でも、それ言ったら、学園都市の雀荘ってどこも監視カメラ入ってるじゃん。それは大丈夫なの?」

「バッカねー、あなた。監視カメラが学園都市に何台あると思ってんのよ。いくら風紀委員だって、全部を見てるわけじゃない。あれは何かあったときのための確認用なの。
 だから、『何もなければ』……カメラなんてないも同然。そうじゃなかったらこんなヤバそうな現場来ないよー」

?「そうなんだ。へー、あなた、詳しいね、それどこ情報?」

「あ、いや、私じゃなくてさ、掲示板にね、そう書いてあったの。半信半疑だったけど、まあ、こうして夜に集まってるのに風紀委員が来ないところを見ると、マジってことでいいみたいね」

?「ふーん……そっか、掲示板かー、なるほどー。
(可哀想に……学園都市のカメラは風紀委員じゃなくて専門のスタッフが二十四時間態勢で全部チェックしてるのよね。今は緊急性が低いから誰も来ないってだけ。早ければ明日には、個人が特定された人から呼び出しかかるわよ……)」キュッ

「ねえ、あなたって何クラス? もしかして校舎近かったりするー? よかったらたまに遊ぼうよー。なんか、お洒落よね。頭も良さそうだし。
 ね、そのキャスケットどこで買ったのー? 可愛いじゃん。ってか、恥ずかしがってないで顔よく見せてよー」

?「ねえ、あなたさ、一年生なんだよね」

「ん、そうだけど?」

?「話した感じ、ノリが軽いってだけで、別に悪い人じゃなさそうだし、今帰れば、たぶん反省文で許してもらえると思うよ」

「え? なんのこと?」

?「だから……色々教えてくれたお礼に、ひとまず、この場にいる連中の中で、あなただけは見逃してあげるって言ってるの。大丈夫、本当にヤバくなるのはこれからだから。ほら、さっさと寮に帰った帰った」

「え? あ、あの……あなた、なんなの……?」

?「二度は言わないわよ。あと十秒で消えて。もし残っているようだったら……容赦はしないから」ギロッ

「ひ、ひっ――」ダッ

?(これで少しは懲りてくれるといいんだけどね。……っと、三、二、一、ゼロ。よし、消えたわね。じゃあ……動くとしますかっ!!)

?「そこまでよっ!! 全員動かないで!!」ザッ

「えっ?」「誰?」「どうした?」「なにあいつ」

 ザワザワ ザワザワ

?「あなたたち……レベル5だかなんだか知らないけど、よってたかって弱い者イジメなんてして、楽しいのかしら?」

「な、なんなの!? あんた誰よ!!」

?「ちなみにね……私は大好きよ、弱い者イジメ」

「は、はあ……?」

?「あなたたちみたいな、群れないと何もできない子羊を、一人ずつ……一人ずつ……弄んで打ち毀すのが、大好きなの」ニヤッ

「っ!!?」ゾッ

?「言っておくけど、私は風紀委員じゃないわ。正義の味方じゃない。だから、安心していいのよ。安心して……同じ悪党の私に――壊されなさい」

「な……なに!? いきなり現れて、意味わかんないこと言って!! 風紀委員でもないならすっこんでなさいよ!!」

?「そうはいかないわ。こんなに壊しやすそうな玩具がいっぱいいるんだもの。夜通し私と楽しみましょうよ。ねえ?」

「た……たかが一人で何ができるの!? みんな、そいつを取り押さえなさい!!」

?「あら……いいのかしら? 今ここで騒ぎを起こしたら、困るのはあなたたちのほうじゃない? 実力行使に出たら、それこそ言い逃れできないわ。
 それから……私の携帯電話ね、ここ、電波入るのよ。どういうことかわかる? 私に手を出したり、私の言うことに従わなかったりしたら、その瞬間に、私の仲間がここに乗り込んでくるわ」

「くっ……!! わけわかんない!? あなた何者!? どうしてあんたみたいなやつが……!? よりにもよって今来るのよ!!」

?「凶報はいつだって突然なの。運がなかったわね、あなたたち」

「あなた……一体……?」

?「悪待ち《バッドニュース》――そう言えば……わかる人にはわかるのかしら?」

 ザワザワ ザワザワ

「わ、私、知ってる……! 一年生の頃……先輩がちょっとした事件を起こして、そのすぐあとに誰かに襲われて、自主退学したって……!!」

?「ああ……そんなこともあったかしらね。覚えてないけれど」

「先輩、私が見たときはもう病院で……うわ言みたいに――悪待ち《バッドニュース》とか、三味線《トラッシュトーカー》とか、わけのわからないことを呟いて……」

?「さあさあ……子羊ちゃんたち、大体状況はわかってきたかしら? ほら、悪い知らせをいち早く聞きたいのは誰? なによ、ぼうっと突っ立って。早く卓について麻雀しましょう。
 あなたたちが、さっきまでそこのレベル5にしていたのと、同じことをするだけよ。何を躊躇しているの?」

「わ、私たちは――」

?「狩られる覚悟のない人間が捕食者気取ってんじゃないわよ。子羊なら子羊らしく夜は畜舎で眠ってなさい。夢の中なら凶報も届かないわ」

「あ……」

?「理解できないの? 戦わないなら消えなさい。今すぐに。ここから出ていきなさい。おわかり?」

「う、うわああああああああ!!!!」

 ダッダッダッ

?「……で、残ったのは――って全員ばっくれたか。根性ないなー。(ふう……これ、めっちゃ恥ずかしい。キャスケットがなかったら顔が真っ赤なのモロバレだったわ)」

煌「あ、あの……」

?「あっ、びっくりした? ごめん、もっと早く助けられればよかったんだけど、あたし、こういうの一人でやるのはまだ慣れてなくって……どこか、怪我とかしてない?」

煌「はい、身体のほうはなんとも」

?「ならよかった。ってか、よくわかんないけど、有名人が暗くなってから一人歩きしちゃダメじゃん。いつだったかの亦野さんの事件だって知ってるでしょーに。タクシー拾ったげるから、寮まではそれで帰って」

煌「何から何まですいません、助けていただきありがとうございました。その……悪待ち《バッドニュース》さん」

?「いやあああ!? その名前で呼ばないで!! くっそ恥ずかしいからっ!!」ジタバタ

煌「え、でも、悪待ち《バッドニュース》さんなんですよね?」

?「ち、ちがっ!! あ、あたしは、久じゃなくって!!」

煌「久……? それはよもや、チーム申請開始と同時に失踪してしまったという、白糸台校舎学生議会長――竹井久さんのことですか?」

?「ふきゅっ!?(ヤベ、変な声出たっ!?)」

煌「………………あなた、一年生ですね。もしかして、新子憧さんですか?」

憧「えええええええ!? なんで知っ――うああああっ!!?」

煌「本当に本人でしたか……。いや、竹井会長失踪事件は白糸台校舎では有名ですから」

憧「で、でも、久たちはともかく、あたしがいなくなったことを気にかけてる人なんていないでしょ!?」

煌「確かに、一年生の新子さんの名前が、二年生や三年生の口から出てくることは少ないでしょう。しかし、私の周囲にいる一年生は、みんな新子さんのことばかり話してましたよ。竹井会長にかどわかされた、とかなんとか」

憧「か、かどわかされてなんかない!! あたしはあたしの意思でついてったの!!」

煌「……失礼しました。しかし、いずれにせよ、周囲に心配をかけるようなことは、控えたほうがよろしいかと」

憧「そ、それは……だって、別に、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》が終わったら、普通に戻るもん」

煌「感心できませんね」

憧「なによ……あなたにお説教される筋合いはないわ」

煌「筋合いならあります。同じ白糸台高校麻雀部の仲間ですから」

憧「…………なーんかちょーし狂う。変な人。でも、ま、例のぶっ飛んだ転校生が懐くのも、わからなくはない、かも」

煌「……淡さんのことをご存知で?」

憧「あんな目立つやつ、ご存知じゃないほうがおかしいでしょ。あいつが転校してきた日の朝に、廊下で一回すれ違っただけだけどね。
 こいつは半端じゃないな、って一瞬でわかったわよ。あたし、その手の感覚はそこまで鋭くないのに」

煌「まあ……淡さんならさもありなんです。しかし、懐く、というのは少し違うかもしれませんね。淡さんは、私のレベル5としての能力を買ってくれた。必要な手駒としてチームに引き込んだ。それだけです」

憧「……レベル5の第一位――《通行止め》の花田煌さん……でよかったっけ?」

煌「……はい……」ウルウル

憧「ちょ、マジで大丈夫……? えっと、これ、使う?」スッ

煌「いえ、それには及びません……」ゴシゴシ

憧「…………なんか、あったの? 夜遊びするキャラには見えないし、門限過ぎてるのにあんなとこ歩いてたのも不自然。あたしでよかったら、話聞くけど」

煌「……いいのですか?」

憧「アフターサービスよ。どうせ助けるなら、助け倒してやるわ」

煌「しっかりした一年生ですね。淡さんとどこか似ています」

憧「えー? あの天然我儘お嬢様みたいな金髪と? 冗談でしょ?」

煌「中身は意外としっかりしてるんですよ。新子さんと一緒で」

憧「ん、今さりげなく、あたしの外見がしっかりして見えないって言ったよね?」

煌「すいません、新子さんは服装が派手なので、なんとなく、イメージで」

憧「今時みんなこれくらいのお洒落するわよ。あ、でも、都市伝説だけど、レベル5の第七位――《原石》ってのは年中裸ジャージで野山を駆け巡ってるって話だわ」

煌「なんとワイルドな……」

憧「話逸れた。で、なんなの? あの金髪と喧嘩でもした?」

煌「あ、いえ、ちょっと……チームの方針というか、そういうので、少し意見の食い違いがあっただけです……」

憧「どういうこと?」

煌「私は捨て駒ってことです」

憧「は? 捨て駒? なにそれ?」

煌「私は、点を取ることを期待されていなかったんです。詳しくは省きますが、淡さんは、捨て駒として私を先鋒に置き、ある程度の負け分は仕方ないとして、後ろの四人で稼いで勝つつもりだったようなんです」

憧「ああ……先鋒はエースポジションだもんね。そこに守備型の人を置くってことか。で、しり上がりに火力を上げていくチーム構成ってわけ」

煌「そういうことです。ですが、私はあろうことか、その役割を不服だと思ってしまった。点を守ることが仕事なのに、点を取ってチームの役に立ちたいと、願ってしまったんです」

憧「そ、それくらいは別にいいんじゃない? だって、点が減るよりは増えたほうがいいじゃん」

煌「もちろんです。しかし……淡さんは、恐らく、私にそこまで多くを望んでいません。私が先鋒戦をプラスで帰ってくることなど、想定してないと思います」

憧「よくわかんないけど……プラスで帰ってくることを想定してないメンバーをチームに入れるとか、ありえないでしょ」

煌「私の場合は、ちょっと特殊ですから」

憧「ああ、そっか。レベル5……詳細は知らないけど、とにかく強力なのは間違いないんだよね。なら、そういう使い方も戦略的にはアリ……? いや、でも、やっぱり変。負けが決まってる人間をチームに入れることは、ありえない」

煌「だとしたら、義理人情みたいなものかもしれないですね。私は淡さんのルームメイトですし、学園都市に来て初めての友人ですし、形だけですが、絡まれている淡さんを助けたりしましたから」

憧「へえ……なんか、あったの?」

煌「転校の手続きをした日のことです。淡さんが上級生に囲まれていたのを見かけたので、割って入りました。そのあと、近くの雀荘でその方々と打って……主に淡さんの力で、ゴタゴタは解決しました」

憧「恩人ってわけね。そっか……学園都市に来て初めての知り合いで、しかもそれが恩人なんだ……あたしと久に、似てるかも」

煌「そちらは何があったんですか?」

憧「いや、あたしがね、学園都市に来たばっかりの頃、派手な真っ赤なドレス着てさ、夜遊びしてたの。学園都市に来れたことがすごく嬉しかったから。で、ちょーっと調子乗ってたら……上級生にシメられそうになって。
 そこでね、久が、あたしのこと助けてくれたの。なんかホストみたいなの出て来た――と思ったら、いきなり無双し始めて。さっきの小芝居は、そのときの久の真似。見よう見まね」

煌「失踪前の竹井会長は、敏腕にして辣腕だったと聞き及んでおります。それほどの豪傑ならば、勇姿も想像できるというもの。しかし、私はただオロオロしていただけで……」

憧「いや、だから、そういうことじゃないんだって。見ず知らずの自分を、全然関係のない第三者が助けようとしてくれた――その気持ちだけで、十分なんだって。きっかけとしては、ね」

煌「そうなのでしょうか……」

憧「そうだよ。たぶん、あの金髪も、あなたが助けに来てくれたときは、嬉しかったと思う」

煌「それは……確かにそう言っていましたが」

憧「でしょー? でさ、それだけ大切な相手だったら、なおさら、捨て駒とか、そういうわけのわかんない扱いはしないと思うよ。あと、助けてもらったから、なんて感情的な理由でチームは組まないとも思う。
 その辺の線引きはシビアにしてるはずだよ。金髪があたしくらいしっかりしてるっていうんなら、なおのこと。だって、恩人にも麻雀にも、両方に真摯でいたいじゃん?
 だから……きっと、あの金髪には金髪なりの考えがあって、あなたをチームに入れたんだと思う。そうじゃなきゃおかしい」

煌「淡さんの考え……」

憧「少なくとも、あたしと久はそうだよ。仲良しこよしでいたいだけなら、フツーの友達付き合いをすればいいだけだもん。
 白糸台のチームっていうのは、単なるお遊びグループじゃない。この学園都市に五人しかいない一軍《レギュラー》――その一枠を勝ち取るための、かけがえのない五人なの。
 その中の一人として、金髪はあなたを選んだ。それには、きっと、ちゃんとした理由がある」

煌「私をチームに入れた理由は……しかし、私が学園都市に七人しかいないレベル5だったからなのでは?」

憧「学園都市に七人『も』いるレベル5じゃん。あなた以外の候補が六人もいたんだよ? 違うって。そんなんじゃない。チームメンバーっていうのは、もっと大事な根っこのところで繋がってるもんなの。
 あなた……ちゃんと金髪とそういうこと話した? 早合点してたり、誤解してたりしない? 金髪の口からはっきりと、『お前は捨て駒だー!』って言われたの?」

煌「それは、言われていませんが……」

憧「じゃあ、結論を出すのは早いわよ。ちなみに、あたしなんて、『そこそこ強い一年の手駒』だからね? ひどい言われ様でしょ?
 けど……それでも、久はあたしのことを『大切な仲間』って言ってくれた。あたしは、それを信じるわ。あなたはどう? レベル5の《通行止め》さん。あなたは、何を信じる……?」

煌「私は――」

 ピピピピ

憧「げっ、やば!? 風紀委員が来るっぽい。じゃ、そういうわけだから、あたし逃げるわっ! じゃねっ!!」ダッ

煌「あ……新子さん……!」

 ガチャッ バタンッ

煌(淡さん……淡さんは、私のことをどう思っているのでしょう……)

 バタンッ ダッダッダッ

淡「スバラああああああああ!!」

煌「淡さん!!? なぜっ!!?」

淡「うううううう!!! ぶったりしてごめんなさあああい!! お願いだから嫌いにならないでええ!! どっかに行ったりしないでええええええ!!」ボロボロ

煌「そ、そんなことで私は出ていったわけでは……」

淡「じゃ……じゃあ、なんで出てったのさ……」ウルウル

煌「それは、その……捨て駒としても役者不足な自分の力のなさに呆れてしまい、頭を冷やしてこようと」

淡「あのさ……さっきから捨て駒捨て駒って、スバラは一体なんの話をしてるわけ……?」

煌「えっ? いや、ですから、絶対にトばない私が、激戦区先鋒を最小限の被害で切り抜け、そこから淡さんたちで点を稼いで勝つという……そういう役割分担なのでしょう?」

淡「私、そんなこと言った? っていうか、いつどこで誰が、スバラは先鋒で確定なんて言った?」

煌「い、いや、しかし、私みたいなトばないだけの――能力だけが取り得の凡人には、捨て駒以外のなんにもなれないって……」

淡「……………………」ゴシゴシ

煌「淡さん?」

淡「うん。やっとわかった。そう言われたんだね。スバラってば一人になるとすーぐ変なフラグ立てるから。今朝一人で走ってたときでしょ。ホント……誰だか知らないけど、私のスバラになんてひどいことを……!!」

煌「淡さん……?」

淡「スバラ、私、今さっき、ぶったこと謝ったけど、あれナシ。私のほうが圧倒的に正しいもん。あれはスバラが悪い。ぶたれて当然っ!」

煌「そんな……!?」

淡「で、スバラってば、まだ寝ぼけてるみたいだから、もう一発いくね」スッ

煌(うっ!?)ビクッ

淡「ばちーん!」ガバッ

煌「……えっ? あ、淡さん? これはどういう……」

淡「あのね……スバラ」ギュー

煌「は、はい……」

淡「スバラはね、ものすごーい勘違いをものすごーくたくさんしてる。まず、私がスバラと一緒のチームになろうと思ったのは、スバラを捨て駒として利用するためじゃない。むしろ、切り札になると思ったからなんだよ」

煌「えっ……でも、私なんか」

淡「あとそれ、『私なんか』。もう一回言ったら、今度こそハグじゃなくマジのビンタだから」

煌「……ごめんなさい」

淡「ねえ……スバラ、具体的に何を言われたのかまでは知らないんだけどさ――まあ大体想像つくけど――それで、スバラは、最終的に捨て駒でいいって思ったわけだよね?」

煌「ま、まあ……私はトびませんから、そういう戦略もアリなのでは? この力の使い道としては、至極妥当な気がします……」

淡「わかってないね。スバラの超能力をそんな風に使うなんて……そんなのは二流のやることだよ。
 けど、まあ、スバラが捨て駒でいいっていうなら……別にそれでもいいよ。計画をちょっと軌道修正して、今まで通り一軍《レギュラー》を目指すだけ」

煌「私は……捨て駒で、満足ですよ。任せてください。淡さんが輝くなら、私はいくらでも、あなたの支えとなりましょう」

淡「それ、本当? 神様に誓って? 私の目を見て同じこと言える?」ジー

煌「私は……私……!」

淡「スバラ……大丈夫だよ。今は私しかいないから。言いたいことがあるなら全部言って……」ギュ

煌「私は……!! 淡さん……た……ひっぐ……たい……っ!!」ポロポロ

淡「落ち着いて……ちゃんと言って……ね?」

煌「淡さん……私は――あなたのようになりたいんですっ!!」

煌「私は弱いですっ!! 地区代表にもなれないようなチームの補欠以下で……! 能力以外に取り得なんてない凡人……!! 学園都市に来てから、ずっとずっと、場違いなところに来てしまったって……辛くて……!!」

煌「でも、理事長も淡さんも、私に目を掛けてくれたから、頑張ろうって……! 弱くても努力して強くなろうって!! けど、頑張っても頑張っても頑張っても頑張っても――どうにもならなくて……っ!!」

煌「私はこの学園都市に来てから、プラスの成績で終わったことがありません。皆さんで打つ練習も、合同合宿のときも選別戦も予選も……全てです。そのほとんどが断ラスの一人沈み。こんな結果にどうやったら自信なんて持てるでしょう……」

煌「なのに……淡さんは……皆さんは、こんな弱い私に、負けっぱなしの私に、期待してくださる。それが――」

淡「重荷だった……?」

煌「最初は……そうでした。才能も実力もある皆さんに囲まれて、私なんか私なんかって思って、ただただ、急き立てられるように、義務感だけで理論を詰め込み、無理矢理に牌を握っていました。正直、逃げ出したい気持ちでいっぱいでした」

煌「けど、合宿で淡さんが負けたとき――淡さんの涙を目にしたとき、本当の意味で、私も強くならねばなるまいって思ったんです。否――強くなりたいって思ったんですっ!! 強くなって、堂々と淡さんの御傍にいたいと思ったんですっ!!」

淡「スバラ……」

煌「私はまだまだ弱いです。それでも、きっと、もっと頑張れば、淡さんたちに近付けると!! 淡さんたちのように強くなれると……!! そう思って……前にも増して頑張って……!! やっと、プラスまであと一歩のところまで来たのに――」

淡「自分が捨て駒だって、どっかの誰かに言われたわけだ」

煌「はい……。お恥ずかしい話ですが、胸にすとんと落ちた気がしました。どうして淡さんのような才ある方が、私のような弱い雀士を見初めてくれたのか。これ以上ない説得力でした。けど、頭では理解しても、気持ちのほうは、全然納得してくれなくて……」

淡「ショックだったよね。勝ちたいって思ったのに、勝たなくていいなんて言われたら……」

煌「学園都市に来たばかりの頃なら、むしろ喜んでいたでしょう。捨て駒だろうとなんだろうと、淡さんのお役に立てるなら、本望です。
 私には、淡さんに必要とされる力がある。そんなすばらなことはない……ないはずなんですが、しかし……今は――」

淡「自分の力で、チームを引っ張っていきたいんだよね。みんなのサポート役とか裏方とか捨て駒とかじゃなくて……《煌星》のリーダーとして、立派に、胸を張って、私たちの輪の中にいたいって思ったんだよね」

煌「そうです。リーダーとして、年長として、きちんと責務を果たしたいと思いました。何より、私は負けっぱなしの今から……変わりたかった……!!」

淡「うん……」

煌「天才である淡さんの目には、私の麻雀はひどく拙く映るでしょう。夜空の星が、地に這う虫を見下ろすが如く、私などちっぽけな存在に見えるでしょう! けど……どんなに小さく弱い虫にだって、五分の魂があるんですっ!!」

淡「そうだね……」

煌「淡さん、正直に言ってください! 私は間違っているでしょうか!? 私が淡さんのように強くなりたいなどと願うのは、分不相応でしょうか!? こんな私が強くなりたいと願っては……いけないのでしょうか……!?」

淡「そんなこと、あるわけない。スバラなら……きっと強くなれる」

煌「ほ、本当ですか……?」

淡「この目が嘘をついているように見える?」

煌「……見えません」

淡「だよね。じゃあ、改めて、もう一回聞くね。スバラ、正直に答えて。
 スバラは、捨て駒で満足なの? 勝ちたくないの? 私なんか私なんかって――自分のことをそんな風にしか言えない今を……どうにかしたいと思わないの?」

煌「私は……私だって――変わりたいです!! もう負けるのは嫌なんですっ!! 誰にも負けないくらい強くなりたいんです……っ!! もっともっと強くなって、淡さんたちと並び立つような、光り輝く星の一つに――私もなりたいっ!!!」

淡「…………その言葉が聞きたかった!!」

煌「えっ……?」

淡「やっぱり、私は天才だね! 見る目があるっ!! スバラしかいないって思った私は――間違ってなかったんだ!!!」

煌「ど、どういうことですか……?」

淡「スバラ、スバラの名前は?」

煌「花田です」

淡「ファーストネームッ!!」

煌「き、煌です」

淡「誰につけてもらったの?」

煌「母……です……」

淡「どういう想いを込めてつけてもらった名前なのか。まあ、見ただけでわかるよね」

煌「はい……。煌け、と。夜空の星のように、光を放て、と」

淡「じゃあ、なおさら、私の輝きに負けちゃダメ! 淡き星より花は煌く!! 花田煌――あなたこそ、私たち《煌星》の光なんだよっ!!」

煌「淡さん……?」

淡「捨て駒で満足しないで! 負けっぱなしの今に甘んじないで! どこまでも上を目指して!
 っていうか、私と並び立つくらいで歩みを止めないでっ!! あなたにはその力があるっ!! 私以上の力が……!!!
 だから……もっと自分を信じてよ――キラメッ!!!!」

煌「えっ、今……私の名を……?」

淡「そう呼べば、誰が光なのか、よくわかるでしょ? 淡い光と、煌く光。どっちがより強いかなんて、比べるまでもない」

煌「あ、淡……さん……」

淡「《煌星》のオーダー、キラメには内緒にしてたけど、私たち一年生四人の共通意見っていうのが、一つだけある。私たちチーム《煌星》の大将は……キラメ、あなただよ」

煌「ええええええええっ!?」

淡「キラメは私たちのリーダーで切り札。私でもサッキーでもない。私たちの大将はキラメ。これはもう、みんながそうあってほしいと思ってること。今日の決勝でキラメがプラスだったら、言うつもりだったんだけどね」

淡「今までキラメを先鋒に置いてきたのは、単純に、強い相手とたくさん打ってほしかったから。先鋒なら必ず順番が回ってくるし、他チームのエースと、点数真っ平らの実力勝負をすることになる。本選の前に、いっぱい経験を積んでほしかったんだ」

煌「そう、ですか……そういうことでしたか……」

淡「あのね、キラメ。私がキラメの能力に惚れ込んだのは、《絶対にトばない》――それだけが理由じゃないよ。トばない能力は……その本当の価値は、絶対にトばないことじゃない」

煌「どういうことですか?」

淡「麻雀のトビっていうのはね、ベースボールで言うところの、コールドゲーム。いわゆる強制終了。力の差に一定の開きがあるとき、対局を途中で終わりにできる……弱者に優しいルールなんだ」

煌「弱者に優しい……ルール――」

淡「絶対にトばないってことは……その優しさを拒絶するってことなんだよ。どんなに覆しがたい力の差があっても、オーラスまで――最後の最後まで、戦わなきゃいけないってことなんだよ。
 キラメなら、きっと経験あるでしょ? 例えば……スコヤとの対局。絶望的な実力差があるのに、ゲームが終了するまで、対局を続けなければならなかったんだよね?」

煌「はい。私がゼロ点になってから、ずっと流局が続いて……理事長はラス親でしたが、数え切れないほどのテンパイ流局が続きました。最後には、理事長が根負けして、テンパイしているのにノーテン申告をされて、終了。あんなに辛く苦しい数時間はありませんでした……」

淡「普通の人は、そこまで辿り着けないんだよ。弱い人はトばされておしまい。あのスコヤと何時間も卓を囲むとか……そんな寿命が縮むような思いを、キラメ以外のみんなはしなくて済むんだ。
 けど……キラメの能力は、トビによる強制終了を許さない。《絶対》に」

煌「でも……たとえ強制終了にならずとも、負けてしまっては意味がないのでは?」

淡「違う。大切なのは、勝ち負けじゃないんだよ」

煌「え……?」

淡「どんなに力の差があっても、ひどい点数状況でも、最後の最後まで、勝利の可能性を捨てることができない――否、捨てないっ!!」

淡「私が本当にキラメに期待していることは、戦い抜く強さなんだよ。トばないことでも、確実に勝つことでもない」

淡「キラメなら、私たちのチームの大将として、誰が相手でも、どんな状況でも、最後の最後のオーラスまで、投げ出さないで戦ってくれる……!! 全力で闘ってくれるっ!!」

淡「そう信じているから、私たちは満場一致でキラメを大将に決めた。そして、ありとあらゆる技術と知恵を――キラメに叩き込むって決めた。私たちの全部を……キラメにあげるって決めた」

淡「キラメほど一生懸命な人を、私は知らない。キラメほど諦めの悪い力を持っている能力者を、私は知らない。そして……キラメほど、逆境の中で強くありたいと願っている雀士を、私は知らない」

淡「そんなキラメが最後の最後まで全力で打てば、きっと勝利は――結果はあとからついてくる。私は……私たちは、そう信じてる!!」

煌「淡さん……っ!」

淡「キラメ、任されてくれるかな!? チーム《煌星》のリーダーとして、切り札として、私たちの想いの全てを背負う大将に――キラメはなってくれるかなっ!?」

煌「は、はいっ!! もちろんです……!! 大将――任されましたっ!!」

淡「ありがとう、キラメ。私はやっぱり、あなたが大好きだよ」

煌「ちょ、あ、淡さん!?」

淡「もちろん、私だけじゃない。モモコもユーカもサッキーも、みんなキラメのことが好きっ! だから、ねえ、約束して、キラメ……」

煌「いいですよ、なんでも言ってください」

淡「私たちを導いて。夜空に煌く星のように――!!」

煌「…………ええ、わかりました。わかりましたとも! 私は《煌星》の花田煌――!! その名に相応しい雀士になってみせましょうッ!!」

淡「そうこなくっちゃーっ!!」

 バァン ドタドタドタ

桃子「すばら先輩っ!!」

友香「花田先輩、大丈夫でー!?」

咲「花田さん!!」

煌「み、皆さん……!!?」

淡「やっほー! みんな遅かったねっ!! 悪いけど、キラメの悩みはぜーんぶ私が解決しちゃったよっ!!」

桃子「くっ、いつもいつも超新星さんばっかり……!!」

友香「っていうかいつの間に名前呼びしてるんでー!?」

咲「煌さん、淡ちゃんに変なことされませんでしたかっ!?」

煌「あ、えっと……そんなことは。すいません、皆さん。ご迷惑をおかけしました」

桃子「そんなことはいいっすよ。みんなすばら先輩が好きでやってるっすから」

友香「花田先輩にはいつも助けられているんです。こんなときくらい、私たちに支えさせてくださいでー!」

煌「皆さん……ごめんなさい。ありがとうございます……!!」

淡「さて、なーんか全員集合しちゃったし、キラメの問題も解決したし、パーと打ち上げでもするっ!?」

咲「夜の学園都市……!! ちょっと危ない感じがまたそそるよっ!!」

?「コラコラ、お子様たち。夜遊びはいけないですよー」

煌「う……薄墨風紀委員長!? なぜっ!?」

初美「なぜ、じゃないですよー。大星さんがあなたを探すために和に連絡をよこしてきたから、私が出動したんですー。っていうか、最初からずっと外にいたですよー。空気読んで入りませんでしたけどー」

煌「そ、それは失礼いたしました!! 大変なご迷惑を……!! 本当に申し訳ありません!!」

初美「いいですいいですー。これも風紀委員の仕事ですよー。それに、チーム《新約》としても、ライバルチームの不調は看過できないですからねー」

煌「と、言いますと?」

初美「本選では、お互い全力でぶつかろうっていう、宣戦布告ですー」

煌「では、薄墨さんのチームも……!?」

初美「目出度く予選突破ですー。まだまだ完璧な仕上がりとは言えないですけどねー。合宿のときよりは、みんな強くなってるですよー」

煌「それは……こちらも同じですッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

初美「……そのようですねー。前とは雰囲気が違うですー」キュッ

淡「じゃっ、キラメ! 一緒に部屋に帰ろっか!!」

煌「ええ、そうですね。では、薄墨さん。本日は大変ご迷惑をおかけしました。この子たちは私が責任もって寮まで連れて帰ります。こんな夜分にも拘わらず出動いただいて、本当にありがとうございました」ペッコリン

初美「いいってことですー。じゃ、ちゃんと寄り道せずに直帰するですよー」

煌「承知いたしました。さ、皆さん。行きましょう」

淡・咲・桃子・友香「はーい!」

 タッタッタッ

初美(っと、それじゃあ私はこれにてお役ゴメンですかねー。さっさと一七七支部へ帰り――って、あれ……?)

初美(私……いつの間に巫女服の襟を正してたですかー? おっかしーですねー。さっきまでバリ全開だったはずなんですけどー……)ゾクッ

初美(えっと……これ、まさかまさかですかー? この私が気圧されたですかー?
 そんな……だって、私の《裏鬼門》と巫女服を閉ざすことができるのは、学園都市広しと言えども、《塞王》ただ一人のはず。ないない! そんなの!! いや……マジでないですよねー?)

初美(レベル5の第一位――《通行止め》。なーんかどーにも雲行きが怪しくなってきたですよー。何かを止める力――否、何かを閉ざす力ですかねー。その『何か』が、能力や巫女服程度で済めばいいんですけどー……)

初美(あの理事長をも寄せ付けない、人類史上最高強度の能力を持つ《怪物》――花田煌。一応、危険度を引き上げておくですかー。ま、いつどこで戦うことになるかは、まだわからないですけどねー)

初美(さてっ! それはそれとして祝勝会に戻るですかー! デザートのいちご大福が私を待っているですよー!!)ダッ

 ――――――

 ――――

 ――

ご覧いただきありがとうございました。

これにて修行編(side:煌星)は一区切りです。

修行編自体は、ここから煌星以外に視点が移り、もう少しだけ続きます。

次の更新は来週のどこかになります。

では、失礼しました。



そういやここの制服ってどうなってんの
はっちゃん見るに原作と同じ?

>>468さん

服装は、基本的に自由です。私服や巫女服で登校しても構いませんし、休日は言わずもがなです。

天江さん、龍門渕さんなどは私服。薄墨さんや石戸さんなどは気分によって巫女服。荒川さんはナース服で学校に通っています。

また、制服を希望する生徒は、学校側で異なるデザインの制服を多数取り揃えているので、気に入った制服を注文して着用することも可能です。

花田さんは新道寺デザイン、大星さんは白糸台デザイン、咲さんは清澄デザイン、東横さんは鶴賀デザイン、森垣さんは剣谷デザインの制服を着ています。各人、自分と同じデザインの制服を着ている人を見かけると、なんとなく親近感が湧くようです。

ただし、江口さんの発言から分かる通り、『スカート着用義務』だけはあります。袴はスカートではないし、高鴨さんのジャージもスカートではないですが、その辺りの可否は理事長(の秘書である福与さん)のさじ加減となっております。

要するに、全員、原作そのままの服装です。

原作と服装が異なるのは、小走さんくらいです。小走さんは、晩成デザインの制服の上から、トレードマークの白衣を着ています。

 ――風紀委員第一七七支部

初美「ただいまですよー」ガラッ

和「あっ、お帰りなさいっ! すいません、お任せしてしまって」

初美「いいですよー。祝勝会の日くらい、一年生の和は仕事のことを忘れるですー」

怜「ほんで、大丈夫やったんか、チーム《煌星》」

初美「んー……あんまり大丈夫じゃないですねー……」

和「えっ!? 何かあったんですか!?」

初美「あ、いや、そういう意味じゃないですー」

姫子「どういうこととですか?」

初美「星が揃ったですー」

絹恵「ほえ?」

初美「今までは四つしかなかった星が、五つになったですよー。それも、その五つ目は、それまでの四つを一つにしても足りないような――とんでもない超巨星ですー」

怜「…………花田さんのことやんな?」

初美「そうですー。困ったもんですよー。付け入る隙があるとしたら彼女くらいだと思ってたですけどねー」

和「そんなに強くなっていたんですか、あの《煌星》のリーダーの方……」

初美「いやいや。別に牌譜を見たとかそういうんじゃないですー。ただ、纏う空気が本物になっていたですよー。
 怜よりも姫子よりも上だっていう、あの理事長すら寄せ付けなかったレベル5の第一位――《通行止め》。いよいよ《怪物》の風格が出てきちゃったですねー」

絹恵「ホンマ、どないな超能力を使うんやろ、花田さん……」

姫子「ばってん、初美さんの言い方やと、能力どうこうやなくて心構えの変化ってことでよかとですよね。そいたら……私ら全員、負けとらんと!!」

和「そうですね。相手が誰であれ、勝つつもりです」

怜「せやな。それに、強くなったんはあの子らだけやない。うちらも合宿のときとはちゃう!」

初美「風紀委員と《姫松》と《新道寺》……総出で特訓したですからねー。絹恵も姫子も和も、最初のふわふわしてた頃とは見違えたですよー」

絹恵「おおきにです」

怜「変わってへんのは初美の残念なふとももくらいやな」

初美「怜の空っぽな頭もそのまんまですー」

怜「空っぽちゃうわ! いつだって清水谷さんのことでいっぱいいっぱいや!」

和「麻雀のことはどこいったですか……」

姫子「おっ、なんや、和。嫉妬しとうと?」

和「はあっ!?」

絹恵「気持ちわかるでー。あんだけ膝枕してデジタル論説いて尽くしとんのに、怜さんったら口を開けば清水谷先輩のことばっかやもんなー」

和「ち、違いますよっ! 私は別に、怜さんのことなんかっ!!」

怜「まーまーそう冷たいこと言わんでー、和っ!」ガバッ

和「ぎゃー!!」バチンッ

初美「まったく子供ですかー……って! あれっ!? 私が取っておいたいちご大福はどこですかー!?」

絹恵「姫子が食べてましたよ」

姫子「ちょ、絹恵も半分食べとっとやろっ!」

初美「おーまーえーたーちー!!」ゴッ

怜「ははっ、どっちが子供やねん」

和「怜さんっ! く、くすぐったいから息しないでください!! 息絶えてくださいっ!!」

怜「お、先輩にそんな生意気な口を聞くとは。これはもーっとお仕置きせなあかんなー」

初美「覚悟はいいですかー!? お仕置きですよー!!」

和・絹恵・姫子「ぎゃー!!」

 ワーワー ギャアキャア ワイワイ

和(怜さん……)コソッ

怜(ん、ごめん、足しびれてきたか?)コソッ

和(いや、それは別に。そうではなくてですね……)

怜(なんや?)

和(一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》……勝ちましょうね)

怜(……せやな)

和(私、もっと、皆さんと一緒に笑っていたいです)

怜(うちもや)

和(失踪された方々の問題が解決したあとも、ずっと――なんて言ったら、絹恵さんと姫子さんを困らせてしまうでしょうか)

怜(ま、確かに困らせることになるやろな。ええ意味で、やけど)

和(だといいですけど……)

怜(なんや、寂しいん? うちでよければ、ずっと一緒におるで。和の膝はうちの特等席やし)

和(な、なにを戯言……!! そんな――そんなの、と、当然のことです…………)ゴニョゴニョ

怜(へっ? なに? ちょっと声小さ過ぎて、聞き取れへんかったんやけど……)

和(だから……怜さんは、頭のネジが緩んだ欠陥品ですから。風紀委員として、卒業するまでは私が見張ってる――と、そう言ったんです。目を離すと、どこで何をしでかすかわかったもんじゃないですから!)

怜(ひどい言われ様やな……)

和(まあ……それはさておき、です)コホンッ

怜(和……?)

和(怜さん……トーナメント、必ず勝ちましょう。私たちみんなの未来のために)

怜(そらええな。ほな、うちは一足先に見て待っとるわ。みんなが笑ってるハッピーエンドってやつをな。遅れずについてくるんやで、和っ!)

和(はいっ!)

 ――――

 ――小走ラボ

やえ(続々と予選の牌譜が集まってくる……こんなとき、研究職をしていてよかったと思うな。敵チームの分析をするには最適な環境だ)

セーラ「おーい、やえー。いつまでもパソコンと睨めっこしとらんと、こっち来て遊ぼうやー」

優希「私のカービ○に勝てるやつ募集中だじぇ!」

ネリー「次こそはピカチ○ウを極めてやるー!」

誠子「わ、私のルイ○ジだって……!!」

やえ「待ってろ、今行く。私のPKサン○ーの餌食になりたいやつからかかってこい」

セーラ「ほな、やえが来るまでもう一回戦やな。アイテム全部ボム兵にしてやろかー!」

優希・ネリー・誠子「おー!!」

やえ(にしても……この妙な感じはなんだ? 今年のブロック予選は何かがおかしい。気のせいか? きちんと統計を取ってみれば、この違和感の正体もわかるだろうか……)

セーラ「やーえー!」

やえ「ああ、わかってる」シャットダウン

やえ(ま、ひとまずは対戦相手の牌譜を眺めるのが先か。宮永照と弘世菫に勝たないことには、優勝はないからな。せいぜい策を練らせてもらうさ。
 あとは、並行してメンバーの強化をしなければ。特に片岡のムラッ気をどうにかしたいが……待てよ、そう言えば二年前――)

セーラ「はっはー! 喰らえっ、必殺チャ○ジショットやーッ!!」

 ――――

 ――スクール隠れ家

憧「ただいまー」ガラッ

洋榎「おっ、憧ちゃんのおかえりやでー!」

哩「大変やったみたいやな、憧」

白望「お疲れ」

久「悪いわね、見回り任せちゃって。《通行止め》さんの件は、一人で大丈夫だった?」

憧「なんとかね。ハッタリだけでどうにかしたわ。麻雀勝負になってたらヤバかったかも。あたし、みんなみたいにボコスカ勝てるわけじゃないし」

洋榎「憧ちゃんはセンスあるんやけどなー。やることが細かいからなー」

哩「暗部向きのスタイルやなかね」

白望「そもそも暗部向きである必要ないから……」

久「トーナメントで勝ってくれれば、別に私たちみたいになる必要はないのよ?」

憧「……正直、トーナメントで勝つほうがしんどいけどねー」

久「この前の合同練習のこと? あれは……まあ、頑張っていたと思うわ。智葉と打ってトばないようになってただけでも、大進歩。ゆみのとこの南浦さんとも互角に渡り合っていたじゃない」

憧「久たち上級生には一つも勝てなかったけどね」

久「こないだまで中学生だった子に遅れを取るほどヤワな鍛え方はしてないわ。私たちは最上級生なのよ?」

憧「そうなんだけどさー。ってか、トーナメントに出てくるのって、基本上級生ばっかでしょ。あたし、足手まといにはなりたくない」

洋榎「ほな、武者修行でもしてきたらええんちゃう?」

憧「は?」

洋榎「うちが一年の頃に編み出した修行法や。道行く強そうなやつらに、片っ端から喧嘩売んねん。賭けるもんは己のプライドや」

哩「ああ……覆面ば被ってやっとうたね」

憧「覆面っ!?」

白望「都市伝説」

久「噂になってたわよね。関西弁を喋る謎の覆面雀士――通称《A》が、二軍《セカンドクラス》の上級生相手に大暴れしてるって」

洋榎「あの頃はうちも未熟やったからな。トップやなかったら覆面取ってドジョウすくいっちゅー条件で打って……ちょうど五十対局目で二位になってん。百連勝するまで帰ってこーへんつもりやったんやけどなー」

憧「一年生で二軍《セカンドクラス》の上級生相手に四十九連勝って……洋榎、化け物過ぎるでしょ」

洋榎「ま、学年なんてアテにならへんなー思ったわ。百人以上の上級生と打ったんやけど、普通に負けナシやったで」

憧「それたぶん洋榎だけだから。……ん? あれ、負けナシってどういうこと? 五十回目で負けたんでしょ?」

哩「そいが、ちょっと事情が違かね」

白望「模倣犯」

久「噂を聞いた当時の一年生がね、みんなこぞって洋榎を真似するようになったの。一週間くらいだったかしら……街が覆面雀士で溢れ返っていたわ」

憧「なにヤダその学園都市……」

洋榎「ほっとんどはパチモンやったけどな。腹立ったから半分以上はうちが自ら覆面剥いだったわ」

哩「ばってん、一人だけ……本物ば越える本物のおったと。オリジナルの洋榎より強か、最強の覆面雀士――通称《T》」

洋榎「うちの五十対局目の相手は、そいつやってん。学園都市に最強の覆面雀士は二人も要らん、どっちが本物かケリつけよー、言うてな。
 結果……うちはけちょんけちょんにされたわ」

憧「……マジ? ちょっと信じられないわ。いくら一年生の頃でも、洋榎をけちょんけちょんにできるやつとか存在するの? 三年生の上位ナンバーがふざけて真似してたとかじゃなくて?」

洋榎「したんやなー、それが。うちも信じたくなかってんけど、電子学生手帳の学年のとこだけ見せてもろたら、ホンマに一年やったで」

哩「まあ……今現在、同学年で洋榎より上のナンバーば持つ雀士は二人しかおらんけん、順当に考えれば、どっちかやろな」

白望「ちなみに、どっちも《T》」

憧「どっちも覆面なんて被りそうなキャラじゃないけど……。実際、どっちだったの?」

久「それがね、洋榎ったら、あの対局のことは結果以外教えてくれないのよ。覆面雀士《T》がどっちだったのか、私たちも未だに知らないの」

洋榎「アホ。こっちはプライド賭けて勝負してんねん。負けたうちが勝ったやつの正体をバラすわけにはいかへんやろ」

白望「それは確かに」

憧「洋榎、そういうところは無駄にちゃんとしてるよね」

洋榎「っちゅーわけで、どや、憧ちゃん。うちのお古でよければ覆面貸したるで? 新子憧やから《A》でちょうどええし」

憧「あっ、覆面は必須なんだ……。えっと、普通に対局を申し込むだけじゃダメ?」

洋榎「当ったり前やろっ! 覆面があるからみんな面白がって打ってくれんねん! 話題になんねん! ほんで、負けたら晒し者になんねん! その緊張感がええんやろがー!」

哩「洋榎、バレてドジョウすくいやったあと、三日くらい授業ば休みよったよな」

憧「ええっ!? 洋榎ですら三日休むほどの恥ずかしさなのっ!? うわっ……想像しただけで死にたくなった……」

哩「ばってん、授業に戻ってきてからの洋榎は、確かに強かなっとうたと」

憧「……そうなの?」

久「そうね。今の洋榎があるのは、あの覆面修行のおかげだったのかもしれないわ」

白望「ダルいから私はやらないけどね……」

憧「賭けに出なきゃ化けることもできない、か。……わかった。あたし、やるっ!!」

洋榎「おおっ、よう言ったな、憧ちゃん! うちが成し遂げられへんかった百連勝の夢――自分に託すわ!! 頼むで、二代目覆面《A》!!」

憧「頑張るっ!」

白望(あ……本当にやるんだ)

哩(あとで後悔せんやろか……)

久(面白くなってきたわ)ニヤッ

 ――――

 ――――

?「やりますっ! やりたいですっ!! やらせてくださいっ!! というか、皆さんも一緒にやりませんか!? ねっ、純さんっ!」

純「やなこった」

?「まこさんっ!!」

まこ「わしもゴメンじゃあ」

?「塞さんっ!!」

塞「無理。っていうか、宮永だったのね。最強の覆面雀士《T》の正体って」

照「う、うん……///」

?「照さんっ、覆面は照さんのをお借りしてもいいですか!?」

照「そうだね。高鴨さんがそれでいいなら、明日にでも持ってくる。ちょうど《T》だから、そのまま使えるよ」

穏乃「やったー!!」

 ――――

 ――アイテム隠れ家

泉「覆面……ですか? 豊音さん、それ本気で言ってます? 正気で言ってます?」

豊音「ちょーマジだよー! 二年前に覆面修行が流行ったっていう都市伝説があってー、私その頃学園都市にいなかったから、ちょー気になってたんだよーっ!!
 ねー、イズミも覆面デビューしなよー。私が《I》の覆面作るからー! イズミの《I》とアイテムの《I》だよー!!」

泉「むっちゃ恥ずかしいんですけど……」

透華「しかしですわ、泉。このままでは、あなたは足手まとい確定ですのよ?」

泉「うっ、それは透華さんの言う通りです……」

透華「泉には、もっと色々な相手と打ってほしいんですの。わたくしたちは全員、ちょっと普通ではない打ち手ですからね。わたくしたちと打ってばかりいても、スタンダードな力は養えませんわ」

泉「確かに……普通の麻雀やったらドラが来るわけやし、一色ガメられることもあらへんし、鳴けるわけやし、六つも違う能力使われることもないわけですもんね……。小蒔さんはどう思います?」

小蒔「大変いいアイデアだと思いますよっ! 私は覆面な泉さんを応援してますっ!!」ワクワク

泉「ほ、ほな……玄さんは?」

玄「ふぁいと~」

豊音「決まりだねーっ! ちょー楽しくなってきたよー!!」

泉「あの、皆さん……? 単純にうちで遊んでるだけとちゃいます、よね……?」

 ――――

 ――小走ラボ

優希「やえお姉さん、その話もっと詳しくだじょっ!!」

やえ「だから、私とセーラが一年のときに、覆面雀士《A》と《T》というのがいてだな」

セーラ「《A》のほうは洋榎で、《T》のほうは、最後まで誰かわからんままやったなー」

ネリー「面白そうっ!!」

やえ「ただし、ネリー。お前はダメだ」

ネリー「またー!?」ガーン

誠子「まあ、ネリーさんは何かと問題がありますからね。騒ぎになったら大変ですし」

優希「ここは《東風の神》たる我に任せろだじぇ!!」

やえ「ちなみに、能力・支配力封印で、完全デジタルで打ってもらうからな。今回のお前に東場はない。全局南場のつもりで打て」

優希「じょーん!?」

セーラ「優希は東場やったら俺とどっこいどっこいなんやから、せめて南場もぼちぼち打てるようにならへんとなー」

やえ「その代わりと言ってはなんだが、覆面は私が特注の品をプレゼントしてやる。なんならマントもつけてやるぞ。だから頑張れ」

優希「マ、マント……!? カッコいいじょ!!」

誠子「覆面のイニシャルは、片岡だから《K》ですかね」

優希「どうせならタコスの《T》がいいじぇー!」

セーラ「いや、《T》は由緒ある最強のイニシャルやからな、やめといたほうがええと思う。安易にパクったらどんな目に遭うかわからへん」

優希「むー。じゃあ《K》で我慢するじょ」

誠子「負けたら正体を明かした上でドジョウすくい、でしたっけ?」

セーラ「優希の場合、正体は喋り方でバレバレやん」

優希「が、我慢する……じょ!」

誠子「無理そうですね」

ネリー「ねーねー、どじょうすくい、ってのはなに?」

セーラ「古来より伝わるこの国の伝統芸能や。奥ゆかしい踊りやから、ちょっと人前でやるんは憚られるけどな」

優希「勝ち続ければいいだけの話だじょ!!」

やえ(完全デジタルで二軍《セカンドクラス》の上級生に勝てるくらいなら、片岡も一人前だ。一年のこいつには、とにかく実戦の経験を積ませたい。覆面修行はうってつけだ)

優希「じゃ、早速明日から修行開始だじぇー!!」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――風紀委員第一七七支部

和「覆面雀士?」

初美「そうですー。最近また流行り出したようなんですねー」

姫子「あっ……それ、もしかしてあれとですか? あの、初美さんたちの一年生の頃にあったていう」

怜「せやで。《A》っちゅーイニシャルの覆面雀士が、二軍《セカンドクラス》の上級生相手に大立ち回りしたのが話題になって、ちょっとしたブームになってん」

絹恵「その《A》っちゅーのが、お姉ちゃんやったんですよね。合宿で清水谷先輩から聞きましたわ。ホンマなにしてんねん……」

初美「ま、それそのものに問題はさほどないからいいんですけどねー。ただ……」

姫子「その《A》って覆面雀士が、絹恵のお姉さんやったんなら」

和「今年現れた《A》は、愛宕先輩と同じチームの新子さんである可能性が高い、と」

怜「っちゅーか、間違いないやろ。覆面のデザインも同じやったし」

初美「よく覚えてるですねー。さては怜……」

怜「せや。うちもブームに乗って覆面被った口や。すーぐ負けてもうたけどなー」

初美「ま、実は私もやってたんですけどねー。わりと最後のほうまで残ってたですよー」

和「ま、先輩方のどうでもいい昔話は置いておくとして」

怜・初美「こらっ!」

絹恵「もし、新子さんと接触できれば……お姉ちゃんたちの居所を聞き出せるかも!」

初美「ただですねー、覆面ブーム自体に実害はないですしー、《A》さん本人も特に問題を起こしてるわけじゃないですー。この状況で《A》さんをしょっぴくのは完全な職権乱用になっちゃうですよー」

和「それに、私たちも本選に向けて調整をしなければなりません。失踪した方々の行方にばかり気を取られていると、本選で愛宕先輩たちに勝つという、本来の目的が達成できなくなってしまいます」

姫子「ばってん……せめて元気にしとるのかくらい知りたかよ」

怜「なんとかならんか、委員長!」

初美「んー……」

?「話は聞かせてもろたで!」

?「水臭……こんなときくらい、もっと私たちを頼ってほし」

初美「浩子……! 灼もっ!?」

浩子「要は、その二代目覆面《A》こと新子憧に、失踪組の安否を確認してきたらええんですよね」

灼「それくらい簡単」

初美「いいんですかー? せっかくそっちも予選を勝ち上がったのに……」

浩子「構いまへんよ。本選で活躍するんは、委員長たちに任せます。元々そういう話やったし」

灼「失踪組が気になるのは私たちも同じ。何かあったときにはそっちを優先していいって、リーダーの末原さんからも言われてる」

絹恵「お、おおきに!」

姫子「あいがとな……!」

浩子「ほな、ちょいちょいっと一年と遊んでこよか、灼」

灼「うん。勝ったらドジョウすくいが見れるし」

初美「助かるですー、二人とも。任せたですよー!」

浩子・灼「お任せあれっ!」

 ――――

 ――――

憧「ロンッ! 4200!」

「うっ」「そこかー……」「やるじゃん」

憧(あっぶなー! 毎回毎回ギリだっつーの。洋榎はよく四十九連続でトップになったわね。勝利条件を二位以上にしてハードルを下げたってのになぁ。百連勝とか夢のまた夢……)

「じゃ、頑張って、覆面《A》さん」「あ、次は《K》のほう行ってみない?」「私は《T》と打ってみようかなー」

憧「ど、どもー……」

憧(ふう……二軍《セカンドクラス》三人はさすがにきつかったわ。でも、まだ本当に強い人とは戦ってない。
 本選でベスト16入りした経験があるとか、そのくらいのレベルの人たち相手に勝てるようじゃないと、久たちの役には立てない。弱音を吐いてる暇はないわっ!)

灼「やあ、覆面《A》さん。対局を申し込んでも?」

憧「あっ、は、はい!(あれ、この人……?)」

浩子「まーまー、そう緊張せんでもええやん。二代目《A》」

憧「えっと……(こっちも! 知ってる……風紀委員の二年生っ! 洋榎の元チームメンバーと予選を勝ち上がった人たちだ!)」

灼「浩子、四人目はどうする?」

浩子「心配要らへん。さっきそこでちょうどええの捕まえといたわ」

憧「えっ……?」

覆面《I》「ど、ども……」

憧(なんか覆面被ってるやつ来たー! いや、あたしもだけどさっ!!)

灼「じゃあ、《A》さんも《I》さんも、この四人でいいかな? 覆面の二人は、三位以下なら正体を明かした上でドジョウすくい、と」

浩子「それと……ちょっといくつかこっちの質問に答えてもらうで。ええんやんな、二人とも」ニヤッ

憧「(やっぱり! あたしの正体に気付いてる……!? これは負けられないっ!!)じょ、上等よっ!!」

 ――――

 ――――

    西家:浩子

北家:憧  卓  南家:灼

    東家:《I》

憧「(本選で当たるかもしれない二軍《セカンドクラス》の二年生……ちょうどいいじゃない。この人たち相手にトップを取るっ!)よろしくお願いします」

灼「(新子憧さん……失踪組の三年生が目をかけたっていう一年生。どれほどのものか)よろしく」

浩子「(さてさて、新子もそうやけど、こっちの《I》にも聞きたいことがぎょーさんあんねん。うちが個人的に調べとる『スキルアウト壊滅事件』の重要参考人やからな。せやろ……二条泉……!)ほな、よろしゅう」

泉「(この眼鏡の風紀委員……うちの正体に気付いとる!? 負けたら面倒なことになりそうやな。ま、勝てばええねん、勝てばっ!!)よろしくです」

 ――――

 東一局・親:泉

憧「(とりあえず……一つ和了るっ!)チーッ!」タンッ

浩子(ちょこまかと)

泉(張っとるんか?)タンッ

灼(低そ……)タンッ

憧「ロン、2000!!」パラララ

灼「はい(おっと)」

泉(うちの大事な起親がー!? なんてことすんねん、《A》のやつ~!!)

浩子(ふむふむ)

泉:25000 灼:23000 浩子:25000 憧:27000

 東二局・親:灼

泉(ま、まだ慌てるような時間ちゃうよな? 《A》がスピードで来るならそれでもええわ。うちはいつも通り……セオリーを貫くで)

泉「リーチ……!」チャ

憧「(まだまだ押せるよね……!?)それ、ポン!」タンッ

灼(覆面さん、どっちも序盤から攻めてくる)

浩子(そういうんは、嫌いやないで……)

泉「(ナイス、ポン小細工っ!)ツモッ! 12000!!」パラララ

憧(げー、裏乗ったー!?)

泉(う、裏乗った……!! 感激やっ!! ドラに助けられたなんて……!!)

浩子(っと、やるやん。二条泉は無能力者やから、これは単なる偶然。ま、それも含めてこいつの実力やけど)

灼(じゃ……浩子。そろそろ私たちも動こうか……!!)

泉:33000 灼:19000 浩子:23000 憧:25000

 東三局・親:浩子

浩子(覆面《I》――二条泉。去年のインターミドルで活躍した《高一最強》。染谷さんを追っかけて、学園都市最大派閥のスキルアウトに入ったっちゅー無能力者)

浩子(打ち筋は極めてオーソドックス。基本に忠実なデジタル打ちやけど、《インターミドルチャンピオン》にして《デジタルの神の化身》と言われる和ほど精密やない。そこが強いとこであり……弱いとこでもある)

浩子(《I》が二条やって気付いたときに、牌譜は一通り集めた。加えて、さっきの和了り。やっぱ生のデータは活きがよくてええな……おかげさまで微調整ができたわ)

泉「ポンッ!」

浩子(鳴いたな……さては、テンパイか。和了りが近付くと他が目に入らなくなるんは、悪いクセやで、二条泉ちゃん。自分、今誰が親かちゃんとわかっとるか……?)

泉(よし、これで――)タンッ

浩子「ロンや。12000」パラララ

泉(しま――親満っ!?)

浩子(さ、スキルアウト壊滅の謎……洗いざらい吐いてもらうで、二条泉っ!!)

泉(今の……うちの手牌が見透かされとった……!? この人は、せやけど、たぶん能力者やない。うちと同じレベル0。にも拘わらず、ここまで正確無比な狙い撃ちって……それホンマかいな。
 くっ……落ち着け、うち! これが二軍《セカンドクラス》! 気ぃ引き締めていくでっ!!)

憧(危なー! 狙われたのがあたしじゃなかったからよかったけど、逆の立場ならフツーに振り込んでたかも。どこまで見えてんだっつーの。
 いかにも参謀って感じの人でこんなに強いんだから……ネクタイの人はきっと同じかそれ以上。油断は禁物よ、あたしっ!!)

泉:21000 灼:19000 浩子:35000 憧:25000

 東三局一本場・親:浩子

憧(丁寧に打つのよ、丁寧に。相手はそこらの雀士じゃない。本選に出場してくるレベルの打ち手で、しかも二年生。あたしが入学してくるまで、一年間も学園都市で麻雀を打ってきた人たち……)

憧(外の世界で打つ一年間と、学年都市で打つ一年間は、密度が全然違う。外の世界で言うところの数年分の麻雀経験を、この人たちは去年一年間で積んでいる。学園都市に来て数ヶ月の……ペーペーのあたしなんかとは年季が違う)

憧(でも、ほんの一握りの一年生なら……上級生相手にも張り合える。あの《煌星》の金髪なんかがそう。久たちの仲間として一軍《レギュラー》を目指すなら、あたしもその一握りにならなきゃ!!)

灼「……リーチ」チャ

憧(っとっとっと、リーチ来ちゃったか。困った……こっちも悪くない手。できれば押していきたい。ひとまず一発は回避してっと――)タンッ

泉(二向聴か、さすがにオリたほうがええかな)タンッ

灼(もとより一発は期待してない)タンッ

浩子(おっ、一発やないんか。さては灼、新子を狙っとるな? ええで、ほな、灼はそっち、うちは二条やな)タンッ

憧(さて、問題はここよね。見た感じ、本命は筒子で、萬子はわりと通りそう。ひとまず、一番確率低そうなところから切っていこうかしら……)タンッ

灼「ロン。5200は5500……」パラララ

憧「ちょっ!?」

憧(な……なにその待ちっ!? 普通に筒子の多面張で待てばよかったじゃん!? スジ引っ掛けにしたって……残り二枚しかない辺張で待つとかありえないでしょ……!! ってか、これじゃまるで――!!)

     ――そいつは通らないわッ!!

憧(久……! どうしよう……あたし、この人に勝てるの……!?)

灼「」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

泉:21000 灼:24500 浩子:35000 憧:19500

 東四局・親:憧

憧(よ、弱気になっちゃダメ! 焦れば相手の思う壷だっての。冷静に……冷静に読めば……)

灼「リーチ……」

憧(また!? ちょ、どうしよう。面子崩せば完全安牌あるけど……)グルグル

浩子(おーおー、目に見えて動揺しとるやん。灼のやつ、一年生相手にえげつないことしよる。ほな、うちも少しイジワルしたろか……)タンッ

憧(うっ、それ、鳴きたいっ!! 鳴いたらテンパイに持っていける。親だし和了っておきたい……けど、浮いてくる不要牌が恐過ぎてっ!!
 さっきは余剰牌を狙われた……どこまで見えてるかわからないけど、もし久だったら、不用意な速攻くらい簡単に潰してくる……!! どーする、どーすんの、あたしっ!!)グルグル

灼「」ニヤッ

憧(~~~~~~無理っ!!)タンッ

灼「(オリたね……新子さん。残念、それはハズレ)……ツモ。2000・4000」パラララ

憧「ふきゃっ!?」

憧(うっそー!? 今度は普通に筒子の多面張!? 親っ被りとか痛過ぎるっ! ってか、鳴いてれば一発を防げたかもなのに……さっきの幻影に惑わされた!? 完全に遊ばれてんじゃん!!)

浩子(たまに見せる旧時代的スタイルと、《筒子の多面張で和了りやすくなる》レベル3の自牌干渉系能力――灼の持ち味が存分に発揮されとるな。これをどうにかするんはうちでもキツいで)

泉(覆面《A》まで翻弄されとる……!? う、うちは勝てるんか……?)

灼(これで折れるようなら、そこまで。委員長や和が本選で新子さんのチームと当たっても、やり方次第では勝てると思……。けど、もしそうじゃなかったら……)

憧(このピンチ感……! なんか、久と初めて会ったときを思い出すわ。あのときは久が助けて(?)くれたけどさ。今は……あたし一人でどうにかしなきゃいけない。ねえ、久。こんなとき、あたし、どうしたらいいの――!?)

 ――――――

 ――――

 ――

 ――四月・とある地下雀荘

「はーい、ロン。混一小三元ドラ三、16000。これで憧ちゃんのトビね。なーんだかな。さっきから歯ごたえなくてつまらなーい」

憧(す、好き放題言ってくれて……! 他家にアシストさせてるくせにっ!!)

「なによ、その反抗的な目。気に入らないわー。もう一回トばしてほしいの? 憧ちゃんはザコちゃんのくせに生意気ねー。みんなー、憧ちゃんが負け足りないみたいなんだけどー。次は誰が打つー?」

憧(あ、あたしだって、普通に打てばそこそこいい勝負できるもん……! たぶん!)

?「じゃあ……私、混ざってもいいかしら?」

憧(な、なんかホストみたいなやつ来たー!? しかも仮面って……どこのメルヘン野郎よっ!!)

「えっ……(なにこいつ? これだからネットで人を集めるのは嫌なのよね。変なやつが紛れ込むから)……ま、まあいいけど。じゃあ、あと一人ね。誰かー」

?(あなた……一年一組の新子憧さん、でしょ。出席番号一番の)コソッ

憧(えっ? どうしてあたしの名前――っていうか出席番号まで知ってるの……? あんた誰よ!)

?(正義の味方――と言いたいところだけれど、残念ながら、私は《最悪》の悪党なのよね。ま、ひとまずそこで大人しく見てなさい。悪いようにはしないわ。
 私、あなたみたいな、強い目をした子が好きなのよ。泣き顔が可愛くって、苛め甲斐があるから)ニヤッ

憧(は!? な――なに言ってんのこいつ……/////)カー

?(さーて……悪党は悪党らしく、何もかも打ち毀すとしましょうか)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――――

 ――――

?「ツモ……6000オールッ!!」ゴッ

(な、なにそれ……!?)ゾクッ

憧(あたしまでトばされたー!? 三人同時にトばすとか、何が『悪いようにはしないわ』よ!?)

「ちょ、あなた、勝手に何をやってるのよ!?」ガタッ

?「私はあなたたちと同じことをしただけよ。似た者同士仲良くやりましょう?」

「はあ? どこが同じよっ! こっちまで巻き添えにしといて何言ってんの!!」

?「そっちこそ何を言ってるの? そっくりそのまま同じでしょ? 私はただ、弱い者イジメをしただけよ?」

憧(弱いって……ひどっ!!)

「弱い者イジメって……今のターゲットはザコちゃんだけしょ!」

?「私から見れば、ここにいる全員がザコよ。片手で捻れるくらいの可愛い可愛い子羊ちゃんたちの集まり。私はそういう子たちを……じっくりねっとり泣かせるのが大好きなのよねー」

憧(さらりと《最悪》なこと言ってるー!?)

「あなた……何者……?」

?「悪待ち《バッドニュース》……そう言えば、わかる人にはわかるのかしら?」

「ッ!? そんな……嘘でしょ? あなたがあの悪待ち《バッドニュース》? 私が一年の頃……当時風紀委員ですら手を出せなかった過激派のスキルアウトを、たった四人で壊滅させたっていう……!!」

憧(か、壊滅って……!! どんな麻雀を打てばそんなことができるのよっ!?)

?「ああ……そんなこともあったかしらね。覚えてないけれど」

(くっ……なんでこんなタイミングで、よりにもよってこんな化け物が……!!)

?「さあさあ……子羊ちゃんたち、大体状況はわかってきたかしら? ほら、悪い知らせをいち早く聞きたいのは誰? なによ、ぼうっと突っ立って。早く卓に着いて麻雀しましょう。
 あなたたちが、さっきまでこの子にしていたのと、同じことをするだけよ。何を躊躇しているの?」

「わ、私たちは――」

?「狩られる覚悟のない人間が捕食者気取ってんじゃないわよ。子羊なら子羊らしく夜は畜舎で眠ってなさい。夢の中なら凶報も届かないわ」

「あ……」

?「理解できないの? 戦わないなら消えなさい。今すぐに。ここから出ていきなさい。おわかり?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「「「「う、うわああああああ!!!!」」」」

「あっ、ちょ……待ちなさいよ、あなたたち!!」

 ダッダッダッ

?「……で、残ったのは……あなただけ、か。ちょっと意外だわ。私を悪待ち《バッドニュース》と知って逃げないなんて……それなりに根性はあるようね」

「ふん、似た者同士って言ったのは、あなたでしょ。私は……狩られる覚悟もなく狩りに出るようなことはしないわ。ナメんじゃないわよ。こっちにもプライドくらいあるわッ!」

?「いいわね、その目。這い上がってきた人の目だわ。さては、あなた……昔は狩られる側だったのね?」

「よくわかったわね……。そうよ。私は一年の頃……先輩に絡まれて、雀士としてだけじゃない、一人の人間としても辱められたわ。けど、今の私はあの頃の私とは違うっ!! 私は強くなったッ!!」

?「いいわ! すっごくいいわよ、あなた! あなたみたいな子をいたぶって舐って泣かせるのが……最高なのよねっ!!」

憧(もうどっちがいいやつで悪いやつなのかわからなくなってきた!!)

?「じゃ、やりましょう。もっと私を楽しませてね、子羊ちゃん?」

「この……今に見てなさいっ!!」

 ――――

 ――――

憧(このメルヘンホスト……本当に強いっ!! 今ツモられたらトんじゃう……!!)

?「」ヒュッ

憧(え、牌が飛――)


   パシッ













                    タァァァァァァン



?「ツモッ!!」パラララ

憧(マナー悪っ!! ってか、その手牌……また!!)

「また多面張を捨ててそんな待ち!? 無茶苦茶よ、ありえないわっ!!」ガタッ

?「ありえてもありえなくてもこれが現実。さ、これで二人揃ってトビ終了ね。どうする? もう一回やる?」

「くっ、そんな……私は……こんなところでッ!!」

?「強がるのはそれくらいにしたら、子羊ちゃん……」スッ

「ちょ、え……? やめっ――むううううう!?」ジタバタ

?「――ぷはっ! ご馳走様~」パッ

「な、なにするのっ!?」ゴシゴシ

?「あら、狩った獲物をどうするかなんて、勝った私の自由でしょ? 餌のあなたは、大人しく私に食われていればいいのよ……」ニヤッ

「や、やめて……!!」ゾワッ

?「今まで……一人でよく頑張ってきたわね。新入生が自分と同じ目に遭わないように、敢えて新入生狩りをしていたんでしょう? そうやって、無知で無垢な子羊ちゃんたちに教えてあげていたのよね。この街の恐さを……」

「ち、違うっ! そんなんじゃない!! 私はただ、弱いくせに調子に乗ってるバカが嫌いなだけで――」

?「助けてあげられなくて……ごめんなさいね。許してとは言わないけれど、穴埋めくらいはさせてほしいの」

「やっ……!?」

?「辛かったでしょう。いいのよ、泣いても。あなたはよく頑張ったわ。強くなった。だから、今だけは、身も心も私に委ねなさい……」

「わ、わた……私……あっ――」

?「悲しい思い出は私が塗り潰してあげるわ。さあ……」

「や、私……その、恐いから……」ポロポロ

?「大丈夫、優しくす――」

憧「人前でなにおっぱじめとんじゃー!!!」ドガーン

?「ぶううううううっ!!?」

「はぁ……はぁ……も、もうダメ。私、帰る……二度と夜遊びしない……普通に頑張る……」ダッダッダッ

?「あ、ちょっと――!!」

憧「ったく、びっくりしたわ。なにナチュラルにピンクモード入ってんのよ! このド淫乱っ!!」

?「なによ、あなたもしてほしかったの?」

憧「バカ言ってんじゃないわよー!!!」スパーン

?「ほぶっ!!」カラーン

憧「あっ……ごめ、仮面が……」

?「……ま、いいわよ。もうあなたしかいないし」フゥ

憧「っていうか――あんた……白糸台校舎の学生議会長!? た、竹井久っ!!!」

久「正解。初対面で私の肩書きと名前を正しく言えるなんて、さすが新子さんね。新入生代表挨拶を聞いたときから、頭のいい子だと思っていたわ」

憧「それであたしのこと知ってたの!?」

久「そうよ。一年一組出席番号一番。私たちの入学式では、関西弁のバカが勢いだけの挨拶をしていたわ。それに比べて、あなたは理知的で凛々しかった。とても素敵だったわよ」

憧「あ、あんくらいフツーでしょ……////」

久「あらあら、照れちゃって。ま、それはそれとして、夜遊びは感心しないわね。なによ、その真っ赤なドレス。似合ってはいるけれど、少し派手過ぎない? まあ……でも、そのおかげで目についたから、結果オーライかしら」

憧「助けてくれて……ありがとうございました」

久「いいのよ、お礼なんて。最初に言ったでしょ。私は正義の味方じゃない。気紛れで最悪な悪党。私は私の目的のために動いただけ」

憧「まあ、だろうとは思ってたけど……」

久「じゃあ、帰りましょうか。寮まで送るわよ。ついてらっしゃい」

憧「………………」

久「ん、どうかしたの? それとも、その気になってきた?」

憧「違うわよっ、この色情魔っ!! そうじゃなくて、その……」

久「なに?」

憧「あたしって……弱い、のかな」

久「まあ、センスは感じるけれど、今のところは、そこらへんの一年生と大差ないように見えるわ」

憧「ひ、た、竹井せんぱいはさ――」

久「久でいいわよ」

憧「久は……強い、んだよね?」

久「まあ、これでもナンバーは十位代よ。公式大会にはあまり出ないのだけれど、そこそこ強いという自負はあるわ」

憧「じゅ……十位代っ!? 久より強い人が十人以上いるの!?」

久「ま、そうなるのかしらね。白糸台に九人しかいない《一桁ナンバー》、四人しかいない《ランクS》、あとは学園都市に六人しかいない《レベル5》――この辺りに勝つのは、私でもかなり骨が折れるわ」

憧「嘘でしょ……世界が違過ぎる……!!」

久(あらあら、ちょっと脅かし過ぎちゃったかしら。やる気を削ぐつもりはなかったのだけれど……)

憧「なんつーか……なんなの、これ、すっごい――燃えるっ!!」ゴッ

久「えっ?」

憧「ねえ、久っ!!」

久「は、はいっ!?」

憧「あたし、強くなりたいっ!! 学園都市に来れただけで満足してたんだけど……目が覚めた!! そうだよね、来て終わりじゃないんだよね。
 これは《頂点》への最初の一歩……! 本当に楽しいのはこれからじゃないっ!! そうでしょ、久!?」

久「え、ええ……」

憧「あたし……もっと麻雀が強くなりたいっ! 久みたいにっつーか、久以上に!! ねえ、久はどう思う!? あたし、強くなれると思う!?」

久「そ、素質はあるんじゃないかしら?」

憧「むー、なによーその上から目線。いいわ、いつか必ず勝ってやるからっ!! 久にも! 久より強いっていう連中にも!! あの宮永照にだって……!!! くーっ、わくわくするわー!!」

久「…………」

憧「なによ、あたし、変なこと言った?」

久「…………いつか、と言わず、明日にでもどう?」

憧「は?」

久「学生議会室。放課後、そこにいらっしゃい。白糸台校舎で二番目に高いところにある部屋よ。一軍《レギュラー》の部室のちょうど真下にあるの。ちょっとスキップし過ぎな気がするけど、あなたなら……楽しめるかもね」

憧「いいの……? 邪魔じゃない?」

久「もちろん、他の議会委員が邪魔だって言ったら、即、出ていってもらう。そうならないように、少しは頑張ってみなさい。もし、私以外の議会委員が了承してくれたら、あなたに学生議会室の合鍵をあげてもいいわ」

憧「あたしを試してるの……? ははっ、上等っ!!」

 ――――

 ――翌日・学生議会室

憧(な……何もできなかった……!?)ガタガタ

智葉「その手で鳴かないのか」

ゆみ「これを鳴いて和了れる相手だとは思ってない」

恭子「ゆみも大概魔物やんなー」

久「三人とも。検討はあとでやってちょうだい。で、どうかしら? 新しい玩具なんだけど、ご感想はいかが?」

智葉「雑用をやってくれるなら、別に」

ゆみ「悪くないと思う。私は好きだよ」

恭子「経験積めば化けるんとちゃう?」

久「だそうよ、よかったわね、憧。合格よ」

憧「ぜ……全然嬉しくないんだけど……」ズーン

 ――――――

 ――――

 ――

 ――スクール隠れ家

洋榎「ロンや、8000ッ!!」ゴッ

憧「ふきゅ……!?」

哩「ふう、まくられたか」

憧「ご、ごめん……哩」

哩「いや、憧のせいやなかとよ」

洋榎「せや、ただうちが強いだけやっ!」

白望「さっきは三位だったくせに……」

洋榎「こらっ、シロ! いらんこと言うなっ!!」

久「憧、今のは、突っ張るならこっちのほうがよかったかもね。そうすれば……ほら、ここがこうなって――」

憧「ちょ、ちょっとタイム! か……顔洗ってくる! 今度は負けないからねっ!!」タッタッタッ

 ――――

 ――――

憧(ふう……しっかりしろ、あたしっ!! 洋榎たちが強いのは当たり前じゃないっ!! これくらいでメゲちゃダメ!! 久に……どこまでもついて行くって決めたんだから――これくらいで……!!)ウルウル

憧(あたし……こんなんじゃみんなの役に立てないよ……! どうしたらいいの? あたしなりに頭使って打ってるのに、全然勝てないっ!! みんなは……あたしのことセンスあるって言ってくれるけれど、とても信じられない……)ポロポロ

久「憧……」

憧「ひ、久っ!? な、なに、どうかした!?」ゴシゴシ

久「どうかしたってほどでもないけれど、気になってね」

憧「…………あたしの泣き顔を見にきたわけ……?」

久「そうね。憧ったら、最近一人で泣くようになったから。久しぶりに、あなたの可愛い顔を見たくなって」

憧「バカ……最悪……!」ウルウル

久「憧……頑張ってるのは偉いと思うけど、一人で悩んでもいいことなんてないわよ」

憧「け、けど……」

久「いいから……たまには先輩らしいことをさせなさい」ギュ

憧「っ!? ひ、久っ!! その……あたし……」

久「ほら、遠慮しない」ナデナデ

憧「うっ……////」

久「思っていること……ちゃんと言ってくれないと、わからないわよ?」

憧「っ……! なっ……なんで……!! なんであたしは勝てないのっ!? 久にも、洋榎にも、哩にもシロにも!! 四人だけじゃない!! 智葉にもゆみにも恭子にも勝てなかった!!
 ねえ、久、正直に答えて。あたし、向いてないのかな……麻雀……」

久「そうね。向いてないかも」

憧「えー!!?」

久「そういう風に、負けたくらいでいちいち後ろ向きになっちゃう程度の覚悟しかないのなら……麻雀なんてやらないほうがいいと思うわ」

憧「久……そこは『そんなことないよ』って励ましてくれるとこじゃないわけ?」

久「あなた、これだけ一緒にいて、まだ私の性格を理解してないの? 悪いけど、私、弱い子に興味はないわ」

憧「なによ、それ……っ!! 久のバカ!! あたしが弱いっていうの!?」

久「違う。私は弱い子に興味はない。つまり、私が目をかけたあなたは……強いのよ」

憧「は……?」

久「けど、あなた自身が、自分は弱いというのなら、私の見立ては間違っていたのかもね」

憧「け、けど……あたしは実際、久たちに勝てないし……」

久「だから……わからない子ね。私たちが初めて会ったとき、あなた、麻雀で私に勝ててたかしら? あっという間にトばされてたでしょ。けど、それでも、私があなたを学生議会室に誘ったのは、なんでだったと思う?」

憧「き、気紛れ……?」

久「気紛れで智葉がいるような異次元空間に新入生はつれていかないわよ。私、そこまで外道じゃないわ」

憧「じゃ、じゃあ――」

久「言ったはずよ。私はあなたの目が好きなの。とても強い目。この子なら、きっと、挫けても壊れても……何度だって立ち上がって、私たちの後を追ってくる。そう思ったから、私はあなたを五人目にすると決めた」

憧「久……」

久「憧、いい? この白糸台にいる雀士はね……たった一人を除いて、みんな麻雀が弱いのよ。
 誰もが、そいつには勝てないの。負けっぱなしなの。どんなに頭を使っても、どんな能力を使っても、たとえ三人がかりでも……そいつには敵わない」

憧「……もしかして、宮永照のこと?」

久「そう。私たちはみんな、洋榎や智葉でさえ、宮永照には勝てない。宮永照より弱いのよ。だからこそ……トーナメントで勝つためには、どんな状況になっても諦めない――強い心を、持っていないといけないの。
 それが、宮永照が《頂点》に君臨するこの学園都市で、本当に強い雀士になるための、最初の一歩。その一歩を踏み出せない人間は、決して高みに行くことはできないわ」

憧「あたしは……その一歩を――」

久「既に踏み出している、と私は思っていたけれど、違ったかしら? 私の力を目にしても、私より上の雀士がいると知っても、あなたは強くなりたいと願った。本当に楽しいのはこれからだって、あのときのあなたは、目を輝かせていた……」

憧「あたし……」

久「勝てないとか向いてないとか、そんな言葉をいくら口にしたって、現状が変わるわけじゃない。本当に大切なことが何か、頭のいいあなたなら、わかっているはずよ。
 憧……本気で私たちについてくるというのなら、ちゃんと言ってごらんなさい。あなたが口にするべき言葉は、泣き言や世迷言じゃない。戯言みたいな絵空事。
 無理でもいい。無茶でもいい。思っていることを……願っていることを、ちゃんと叫んでみなさい」

憧「あたし……! あたしは――強くなりたいッ! 勝ちたいッ!! 勝って勝って勝って……学園都市の《頂点》に立ってやるッ!!!」

久「何度も負けることになるわよ? 何度も絶望することになるわよ? それでも……勝ちたい?」

憧「勝ちたいわよっ!! 当たり前でしょ!! 久にも洋榎にも哩にもシロにも……宮永照にだって!! どうせ最後には勝ってやるつもりなんだもん!! それまでなら……何回だって負けてやるわよっ!!」

久「……いいわね。やっぱり、あなたはその顔が一番だわ。泣き顔も可愛いけれど、その生意気な顔が、最高にそそる――」スッ

憧「ちょ、久っ!? なに発情してんのよ!! こんなとこで――むぐっ!?」

久「ジタバタしないで。間違って唇にしちゃったらどうするの……?」チュッ

憧「…………ほっぺなら許してるわけじゃないっつーの……////」

久「どうかしら? 強くなれるおまじない。効いた?」

憧「この……ド淫乱っ!! 腐れ外道!! 最悪ッ!!」

久「けど、そんな私が?」

憧「大好きよ! 何回も言わせんなっ、バカっ!!」

久「いい子ね。さ、元気が出たところでもう一局よ。泣いてる暇があったらどんどん打つ! とにかく前に進むのよ!!」

憧「言われなくても……突っ走ってやるわよっ!!」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――――

憧(あぁあ……まーた恥ずかしいこと思い出しちゃった。久のやつってばホント所構わず――もうっ!! いや、まあ、ここで無様に負けるほうがよっぽど恥ずいけどね……!!)フゥ

浩子(ん、なんや。やっとお目覚めかいな……)

灼(やっぱり、これくらいで諦めるような人じゃない、か。強い一年生……同じチームで戦ってみたかったかも)

憧(なーに取り乱してんのよ、あたし。これくらいの凹みは日常茶飯事じゃない。久たちが相手なら、今頃焼き鳥で蚊帳の外だわ。けど……幸い、頑張れば、和了れないってほどでもない)

憧(駆け引きで敵わなくとも、他のところで上回ればいい。まだ負けが決まったわけじゃないんだ。ここで弱気になって縮こまるとかもってのほか!!)

憧(久たち相手に散々ボコられてきたあたしの底力は、こんなものじゃない。今に逆転してやるわ……見てなさいよッ!!)ゴッ

泉:19000 灼:32500 浩子:33000 憧:15500

 南一局・親:泉

泉(覆面《A》……なんや、踏み止まったっぽいな。何か打開策でも見つけたんやろか? それとも、単に気合を入れ直しただけ?
 ようわからん……ようわからんけど、今のうちよりはマシやろか。いまいち方針が決まらへん……)タンッ

灼(新子さんのほうは落ち着いたみたいだけど、こっちの《I》さんは、まだふわふわしてる……)タンッ

浩子(二条泉……格下相手なら安定して打てるけど、格上相手にはちょっとガタついてまう。決して弱い打ち手やないはずなんやけど……どうにも精神的に脆いとこがあるらしいな)タンッ

憧(んー……手牌微妙だなー。覆面《I》がよさそうだけど、どーしたもんか)タンッ

泉(っと、張ってもうた。高めは狙えるっちゃ狙えるけど……ここは素直に先制しといたほうがええやろか? 後手に回るんも嫌やしな。ほな、親やしリーチしとこかー!)

泉「リーチ」チャ

灼(と、速い速い。連荘はさせたくないし……浩子)タンッ

浩子(わかっとるわ……)タンッ

灼「ポン……」タンッ

泉(ん……?)

浩子(この辺りやんな)タンッ

灼「(大正解)ロン、2000」パラララ

泉(うちの親リーが流されたー!? こんな潰され方……セコ過ぎるわっ!! なんやねん、二年生が二人掛かりで――)ハッ

泉(待て待て……なんかおかしいで。二年生が二人掛かりで、うちの親リーを潰した? いや、そういう連携は実戦でよく起こることやけど……にしても、なんやろ、この違和感……)

     ――ロン、ですわー!!

  ――あ、ツモった。ドラ四赤四。       ――純正九蓮宝燈……。

             ――追っかけるけどー?

泉(せや……! こないな細かいこと、小蒔さんたちはしてこーへんかったんやっ!!
 あの人ら、うちがリーチしようとしまいとお構いなしやもんな。連携も何もあったもんやない。それぞれ勝手に得意技かまして、ほんで、いつもいつもうちは打ち負けるっ!!)

泉(関係ないんや。あの人らにとっては……うちの存在なんてあってないようなもん。それくらい力の差がある。まあ、起きとるときの小蒔さんは例外やけど)

泉(……もしかして、うち、今、警戒されたんか? うちの親リーは、上級生が二人掛かりで潰してくるほどの、恐さがあるんか? それってつまり、潰さへんかったら、和了られてヤバい思ったわけやんな?)

泉(うちに負けるかもしれへんって、思ったわけやんな……?)

泉(ははっ……! なんやそれっ! こんな、なんの能力も持たへん一年相手に……随分と必死やんな、二軍《セカンドクラス》の上級生ともあろう二人が――!!)ゴッ

灼(む、こっちも……? 戦意喪失するどころか、火がついちゃったか。ふむ……面白……)

浩子(ほーん? なんや、打たれ弱いモヤシかと思うたら、こっちもこっちで生意気な一年やんな。こんなのが和以外に二人もおるんかい。薄墨先輩らがいなくなっても楽しめそうやで、学園都市……!!)

泉(ほな……さっさとまくるでー!!)ゴッ

泉:18000 灼:35500 浩子:31000 憧:15500

 南二局・親:灼

泉(言うても……うちになんの能力もないのは変わらへん。仕方ない。無能力者は無能力者らしく、創意工夫でどうにかせな。
 染谷さんかて、そうやった。いつも通りに打って勝てるんなら、それでよし。やけど、この人らには、いつも通りでは勝てへんやろ。せやったら……やり方を変えるまでや……!!)

 ――――――

 ――――

 ――

 ――アイテム隠れ家

豊音「ロンだよー。5200ー」パラララ

泉「うがああああああ!! また追っかけに振り込んだー!!」ジャラジャラ

玄「もー、だから、泉ちゃん。何度言ったらわかるの? 豊音さんを相手に先制リーチをして勝てる道理はないんだよ」

泉「せ、せやかて……この手でリーチを掛けへんのは、うちの麻雀とちゃう!! うちは今までこうやって勝ってきたんやっ!!」

透華「笑止! そんなプライドはドブに投げ捨てろですわー!!」

玄「ついでに言うと、リーチしたって裏が乗るわけじゃないんだからね?」

泉「や、やけど、せっかくテンパイできてん! リーチかけて少しでも高い手和了っとかんと、玄さんのドラ爆一発でまくられますやん!!」

玄「えへへ……ごめんね。ドラゴンさんたちに罪はないよ」

泉「ドラもないッ! リーチもダメッ! こんなんでどうやって勝てっちゅーんですかー!!」

小蒔「わ、私はそんな負けっぱなしの泉さんを応援してますっ!!」

透華「簡単ですわ。わたくしくらい強くなれば勝てますの!!」

玄「そうだね。学園都市でも屈指のデジタル――透華ちゃんくらい強いなら、私たちといい勝負ができるよ」

豊音「トーカは相手が強ければ強いほど精度とキレが上がっていくからねー」

泉「け、けど……透華さんかて、時々《支配力》使うてますやん。ランクS指定されてへんだけで、本気出せば小蒔さんと張り合えるくらいのトンデモパワー持ってますやん!」

透華「泉、そういう減らず口は、ネット麻雀で一度でもわたくしに勝ってから叩くんですわね」ゴッ

泉「うぐっ……!」

玄「泉ちゃん、弱いことを無能力のせいにしちゃダメだよ。私はレベル5の旧第一位で、花田さんが来る前は、誰よりも強度の高い能力を持っていたけど……それでも、一年生の頃は負けっぱなしだったよ。
 泉ちゃん、染谷さんのことは、知ってるよね?」

泉「もちろんですわ。あの人は……うちら無能力者みんなの希望や。無能力なだけやない、荒川憩みたいな特例の才能を持っとるんともちゃう。
 己の経験と努力と工夫だけで能力者と渡り合う……そんな染谷さんに、うちは憧れてん」

豊音「だったら、やることはわかってるよね、イズミ」

小蒔「そうですっ! 頑張りましょう!! 泉さんは素の私よりずっとお強いんですから、きっと大丈夫です!!」

泉「せやな……ほな、もう一局お願いしますっ!! 今度こそ、豊音さんの追っかけを振り切って、リーチ一発を和了ったりますわ!! ついでに裏も乗っけたりますわっ!!」

透華「あなたはなんの話を聞いていたんですのー!?」

泉「えっ!? せやから、能力くらい気合でどうにかせなあかんて……」

玄「泉ちゃん、それ言って一回でもドラが来たことあった? 豊音さんに打ち勝てたことあった?」

泉「つ、次はいけるかもしれへんですやん!!」

透華「……泉、いい加減にしないとお仕置きですわよ?」ヒュオオオオオ

泉「冷たっ! ちょ、透華さん、冗談です、冗談っ!!」

透華「なら、冗談も言えないほどに……心胆寒からしめてやらないといけないようですわね……!!」ゴッ

泉「ぎゃあああああああああ!?」

 ――――

泉(あ……回想間違えたわ。これやない。なんやっけ、このあと、夜になって……)

 ――――

 ――――

小蒔「」スゥスゥ

玄「さて……小蒔ちゃんも本格的に眠ったことだし」

豊音「秘密特訓の始まりだよー!!」

透華「まったく……泉は本当に困った子ですわね」

泉「せやけど……起きてる小蒔さんの前で、能力に屈する姿なんて見せられへんもん。カッコつけていたいんですもん」

玄「むしろカッコ悪かったと思うけど……」

豊音「ちょー負けてばっかだったよねー」

透華「ま、強くなってくれるのなら、なんでもいいですわ。で、泉、わたくしが渡した資料はちゃんと読んできたんでしょうね?」

泉「ハノーヴァーのやつですよね。読みましたよ。あっちでは《能力》のことを《魔術》って言うんですね。なんか新鮮でしたわ」

透華「そんな文化の違いはどうでもいいですわ。ちゃんと討魔《アンチオカルト》の部分は読んだんですの?」

泉「一通りは。なんや、向こうは、随分偏った打ち手ばっかりなんですね」

玄「どういうこと?」

透華「向こうでは、能力者……魔術師は、基本的に宗教団体に所属していますの。一方、能力を持たない一般の雀士は、普通の大学――学術の分野で麻雀を学びますわ。つまり……」

豊音「能力者対無能力者、っていう図式が学園都市よりも際立つってことだよねー」

玄「へえ、科学と能力が共存する学園都市とは違うんだね」

泉「そうなんです。学園都市では、能力持ちやけど基本はデジタル打ち――みたいな、科学《デジタル》と能力《オカルト》のハイブリット雀士が標準です。
 けど、向こうでは、魔術師はオカルト、一般人はデジタル……その対立構造がはっきりしとるんですわ」

豊音「だから、対オカルトの研究が進むんだねー。なるほどー。学園都市だと、能力にデジタル一本で対抗することは少ないもんね。みんな、能力を織り交ぜて戦うから」

透華「ただ、なんの能力もない泉には、海外流の、デジタルのみでオカルトを制圧するスタイルのほうが合っている――そう思って、資料を取り寄せたんですの」

泉「ま、ちょっと内容を全部理解するのには、時間かかりそうですけどね。この海外流のデジタルっちゅーんも、なかなかクセがあるんですわ。
 なんや、読んでると、ちょいちょい《流れ》とか《運命》とか、ようわからんこと言いよるんです」

透華「わからないところは無理にわかろうとしなくて結構ですわ。海外流のデジタルは、あくまで戦うヒントになれば、と思って紹介しただけですのよ。
 使えそうな部分だけ取り入れて、本選までに、少しでも自分の幅を広げるんですの」

泉「わかってます。っちゅーわけで、皆さん、今日のうちは一味違いますよ。まだ付け焼刃やけど、なんちゃって海外流デジタル……最初の餌食になりたい人からかかってきなはれっ!!」

玄「ま、言われなくてもそうするけど」ゴッ

豊音「でも、餌食になるのは、いつも通りイズミのほうだよー?」ゴッ

透華「新しいスパイスで一味違うというその力、舐るように味わって差し上げますわ!!」ゴッ

泉「ほな、場決めしましょかー!!」

 ――――――

 ――――

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泉(これやこれや……ほんでこのあと、まあ、普通に負かされてん。せやけど、少し、海外流デジタルのコツがわかった。いや、理屈を理解したわけやない。向こうの理論はホンマ何言うてるかわからんからな)

泉(ほんでも、その打ち筋そのものは、初めて見るはずやのに、なぜか馴染みがあった。
 ま、ちょっと考えたら理由はわかったわ。海外流デジタル――その理想系に一番近い雀士っちゅーんが、学園都市やと、他ならぬ染谷先輩なんやからな……)

泉(染谷先輩は、小さい頃からの訓練で、場そのもののイメージを捉えることに長けとる。場のイメージ……たぶん、ようわからんけど、向こうでいうところの《流れ》とか《運命》っちゅーんが、それに相当するんやと思う。
 それを読み取って場をコントロールする染谷先輩は、まさに海外流の討魔師《アンチオカルティスト》そのもの。やり方次第では、能力そのものを潰すことやってやってのける)

泉(あとは、簡単やん。うちは要するに、今まで通り、尊敬する人を目指して強くなればええ。海外流デジタルはそのためのガイドや。
 あんな打ち方、染谷先輩にしかできひんって思ってたけど、参考書があれば……うちでも猿真似くらいはできる……!!)

泉(ま、あとはうちの持つ類稀なる才能でどうにかするしかあらへんよな。原村みたいに完全デジタルで打つんは性に合わへん。古典確率論、オカルト対策、海外流デジタル――持てる限りの武器を全部使って戦うのがうち流や)

泉(勝つために手段は選らばへんでっ! さあ……反撃開始や!!)

泉「チー!」タンッ

灼(む……?)タンッ

泉「ポン!!」タンッ

泉(さ……これで、それなりに思い通りの場になったらええんやけど、果たしてどーやろか……!?)

灼(ちょっとよくわからない鳴き。混一狙い? けど、それだけじゃないような……)

浩子(妙やな。二条泉は和や新子に比べれば、そんなに鳴きが得意なタイプでもなかったはずなんやけど……)タンッ

泉「ロン、5200ッ!!」

浩子(む……その手で混一にしないんか? ちゅーか、飜数より速度を優先するなんて……イマイチこいつらしくない。けど、こういう不自然な和了りは覚えがあるわ。染谷さんがたまにこういうことやっとったな……)

灼(打ち方を変えてきた? 三位以下ならドジョウすくいなのに、落ち着いてるなぁ。この場面でその手なら、一発逆転でトップを狙ってもよかったと思……。あと二局でひっくり返せる自信がある、ってことか)

泉(よし、手応えアリッ! こんな見よう見まね……玄さんや透華さんや豊音さんには通じひんかもやけど、この人たちはあの人らとちゃう!
 百パー勝てるっちゅー保証はあらへんけど、百パー負けるっちゅーわけでもない。オーラスまで……やれるだけのことをやるで!!)ゴッ

泉:23200 灼:35500 浩子:25800 憧:15500

 南三局・親:浩子

灼(覆面さん、二人とも手強……ここで、突き放す……!!)

灼「リーチ……!!」

浩子(お、灼のやつ……今日はいつになく燃えとるやんか。なんや、そんなに新子のことが気に入ったんか?)タンッ

憧「…………」タンッ

泉「チー」タンッ

灼(む……ズラされた?)タンッ

浩子(二条泉、さっきからちょこちょこと……せやけど、まだ張れてへんやろ……)タンッ

憧「ロン、2600」パラララ

浩子(しまっ……狙われた? 直前で灼の現物に待ちを切り替えとるやん! っちゅーか、新子がダマやと? こんなん知らんで……!)

灼(私の一発をズラすために《I》さんに鳴かせつつ、浩子のベタオリに狙いを変更。私たちの打ち方に柔軟に対応している。これで一年生か……上手……)

憧(ふう……やってみるもんね。点数は低いけど、誰かに和了られるよりはマシ。大丈夫、あたしはラス親。今のはほんのジャブってことで。次に一発かまして終わらせる……っ!!)

泉:23200 灼:34500 浩子:23200 憧:19100

 南四局・親:憧

憧(さあ、泣いても笑ってもオーラスっ! 正体バレだけは避けないと、久たちに迷惑がかかるかもしれない。なんとしても勝つのよ……あたしっ!!)タンッ

泉(速攻でケリつけたるっ!!)タンッ

灼(トップは譲らない……そうすれば、《A》さんか《I》さん、どちらかを三位以下にすることができる)

浩子(うちが和了れば、新子も二条も尋問できる。勝負決めたるで……!!)タンッ

 ――七巡目

浩子(ほいっと……出来たで、勝負手っ!!)タンッ

憧(む、鳴ける……っ! けど、なんだろコレ――)

浩子(さあ、鳴くなら鳴きや……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憧(わ、罠っぽー!! ダメダメ! この人相手にいつも通りに打つと、間違いなく嵌められる。ここは一旦回避っ!!)タンッ

浩子(面子を崩した……やと? こっちの考えが見透かされとる? せやけど……それならそれで、ツモればええだけの話や!!)

憧(速く追いつかないとっ!! 久、洋榎、哩、シロ……誰でもいいから、あんたたちの無駄にいいツモ運――今だけあたしに分けてよっ!!)

 ――十一巡目

憧(っしゃー! 願いが通じたー!! ひどい悪形で、和了り牌も残り一枚っ!! しかも役ナシっ!!
 でも、これ以上は巡目的に回せない。こんなの、久じゃなくたってリーチするしかないじゃないっ!! ええい……ままよっ!!)

憧「リーチッ!!」ゴッ

泉(げっ……マズい感じやこれ!!)タンッ

灼(リーチとか……珍し)タンッ

浩子(ちっ、追いつかれてもうたか……! せやけど、退けへん!!)タンッ

憧「……っ! ツモッ!! 2600オール!!」

浩子(ちょ、一発とか……!?)

灼(やるなぁ)

泉(げーーーーーーーー!! 三位になってもーたー!!? うわああああああ、どーしたらええんやー!!)

憧(さて、と。二位にはなれたけど……ど、どーしよ……)チラッ

泉(なぜや……何がいけなかってん……!!)ウルウル

憧(まっ、たぶん、久ならこうするよね……!!)

憧「さて……続行よっ!!」ジャラジャラ

泉・灼・浩子「!?」

憧「なによ、そんなに驚かなくてもいいじゃん。こんくらいフツーでしょ。だって……麻雀は一位を目指すものなんだからっ!!」

泉「せ、せやなっ!! せやせや!! 続行大歓迎やー!!」

浩子「ははっ、ええ心掛けやんな。ま、すぐに後悔させたるでッ!!」

灼「まくらせないよ……!!」

憧「さあ……一本場ッ!!」ゴッ

泉:20600 灼:31900 浩子:20600 憧:26900

 南四局一本場・親:憧

憧(これで負けたら赤っ恥ー!! けど、二位で満足するような打ち方じゃ、きっとみんなのいるところには辿り着けない。みんな、口を揃えて言うもんね。麻雀は……一位にならなきゃつまんないって!)タンッ

泉(覆面《A》、感謝するで! ま、勝負は勝負、たとえ自分を地に落としてでも、うちは二位以上になったる……!!)タンッ

灼(薄氷の上のトップだけど、守り通すっ!!)タンッ

浩子「……リーチやっ!!」ゴッ

憧(ぎゃー!! これ振り込んだら死ぬやつだー!! うううう……でも、退かない、退けない、退きたくないっ!!)タンッ

泉(だ、大丈夫……うちは《高一最強》や……うちならできるはずやっ!!)タンッ

灼(よし、これで……私も張ったっ!!)タンッ

泉「ロ――ロンやっ!! 5200は5500ッ!!」ゴッ

灼(嘘っ!? ひ、浩子のを見逃しとか――!? あっ……そっか! リー棒出ないと届かないから!!
 けど、そんな危ない橋を渡るくらいなら、もっと早くにリーチ掛けて、勝負を決めにいってもよかったような……いや、きっちりまくったんだから、この場は泉さんのやり方が正しかったってこと。やってくれるなぁ)

泉(先制リーチ掛けて、素直に和了らせてくれるような面子ちゃうもんな。ギリギリやった……ギリギリやったけど、滑り込みセーフやっ!!)

憧(ま……負けた……!?)

浩子(ちゃー、ええように利用されてもーたわ。こりゃ敵わへん。大した一年生やで、二人とも。せやけど……なーんか勘違いしてへんか? これは団体戦やなく個人戦――まだ終わりとちゃうで)ニヤッ

憧「ふう。じゃ、じゃあ、お疲れ様でした!」ガタッ

泉「ほな、うちらの勝ちってことで!」ガタッ

浩子「待たんかいコラ……!!」ゴッ

灼「そうそう」ゴゴッ

憧・泉「えっ……?」

浩子「『えっ?』やない。何をすっとぼけとんねん。まだ席を立つんは早いで」

灼「ちゃんと、最後まで付き合ってもらう」

憧・泉「えーっと……」

浩子・灼「西入や(だよ)!!」

憧・泉(な、なんだ(や)ってー!!)

泉:27100 灼:26400 浩子:19600 憧:26900

 ――――――

 ――――

 ――

 ――――

灼「お疲れ様。いい闘牌だったよ。次はプライベートで、お互い立場を気にせず打ちたいかも」

浩子「ここまでとは思ってへんかったわ。うちらに勝ったんやから、そこらへんの雀士に負けるんやないで、二代目《A》と一代目《I》」

憧「ありがと(危なかった! 本当に危なかった!!)」ハァハァ

泉「おおきに(死ぬかと思ったで……!!)」ハァハァ

灼「じゃ、頑張って。応援してる」

憧「あっ、あの……」

灼「ん?」

憧(えっと……久たちは、みんな、元気してる。本選が終わったら……あたしたちみんな、風紀委員や、《姫松》や《新道寺》の皆さんに謝りにいくつもり。だから、もうちょっとだけ、好きにさせて。お願いっ!)コソッ

灼(ありがとう、新子さん。伝えておく。あ、もし、風紀委員の力が必要になったら、いつでも言って。これ、私の連絡先。よかったら)

憧(あ、ありがとうございます、えっと、鷺森せんぱい)

灼(灼でい……)

 ――――

 ――――

浩子「ほななー」

泉(あ、あの、風紀委員の方、ですよね?)コソッ

浩子(船久保浩子や。なんか用か、二条泉ちゃん)

泉(や……やっぱうちのこと知って――)

浩子(ま、負けてもうた以上、正体をバラすようなことはせーへんよ。ほんで、何なん?)

泉(あ、いや、その……前までうちがおったスキルアウトのメンバーは、今どうしてるんやろって。みんな、無事なんやろか……風紀委員の先輩なら、なんか知りませんか……?)

浩子(んー、個人差はあったけど、今はみんなもう復帰しとる。それぞれなんとかやっとるみたいやわ。
 っちゅーか、みんな、逆に自分のこと心配しとるで。本選で、元気な顔見せて安心させたれ。それが自分の、リーダーとしての、最後の仕事や)

泉(お、おおきにです、船久保先輩っ!)

浩子(フナQ様と呼ぶがええ)

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 ――――

憧・泉「じゃ、またどこかで!!」

灼・浩子「またどこかで。次は私(うち)が勝つ!」

 タッタッタッ

泉「だああああああああああ!! しんどかったわー!!」

憧「マジお疲れ……お互い、大変だったよね」

泉「せやな。けど……本選ではあの二人以上の強敵と当たることもある。もっと強くならな!」

憧「同感。まだまだできることはある」

泉「にしても、自分、ここまで強い雀士とは思ってへんかったで。なあ、新子憧」

憧「はあっ!? 《I》、なんであたしのこと……!?」

泉「新入生代表挨拶しとったやつくらい、覚えとるわ。同じクラスならなおさらな」

憧「同じクラス……ちょっと待って、無能力者で関西弁でこの打ち筋で《I》……あんた、もしかして、二条泉?」

泉「正解や」

憧「……あんた、確か、あの《アイテム》って人たちと予選に出てたよね?」

泉「そっちこそ、あの《スクール》に混じって打っとるんやろ?」

憧・泉「…………」

憧「あ、そうだ。あんたんとこのレベル5――松実玄さん。色々ごめんなさいって伝えてほしいの。久も、その、いろいろ事情があってさ、口は悪いけど、中身はそこまでひどいやつじゃないのよ」

泉「ああ……あったな、そんなこと。けど、そっちの竹井先輩のおかげで、トーナメントに乗り気やなかった玄さんに喝が入ってん。うちとしては大助かりやったで」

憧「そ、よかった」

泉「ほな、うちも謝りたいことあんねん。亦野先輩のこと……あれ、うちがヘマこいたんや。それで、亦野先輩もそうやし、《スクール》の人らにも迷惑かけてもうて……ホンマ申し訳あらへん」

憧「ま、まあ、久たちはノリノリだったし、別に気にしてないと思うよ。亦野さんのことは気の毒だけど、襲ったやつらはきちんと処罰を受けたらしいし。とにかく、あんたのせいじゃないわよ」

泉「そう言うてもらえると、多少楽になるわ」

憧「ま、お互い、化け物に囲まれてるけど、足引っ張んないように頑張りましょう」

泉「せやな。もっともっと強くならな、小蒔さんらは超化け物やからな」

憧「本当、久たちみたいな超超化け物についていくには、生半可な強さじゃダメ」

泉「うちらが強くなった分だけ、勝率が上がるんや。小蒔さんらは超超超化け物でまず負けへんからなー」

憧「っていうか、あたしたちが勝てば、チームが勝てるのよね。なんたって、久たちは超超超超化け物だから、間違いなく勝つし」

憧・泉「…………」

泉「おい、自分、ちょっと言葉の使い方がおかしいんとちゃうか? 『化け物』に『超』は三つまでやろ。インフレになるからやめーや。《スクール》の人らがなんぼ強いゆーても、『超』二つくらいが妥当やんな」

憧「インフレを起こしたのはそっちのほうでしょ。《アイテム》の人たちは確かに化け物。なら、久たちは超化け物。それでちょうどよかったのに、なんか変な見栄を張り出してさ」

泉「もしかして、うちの耳が悪いんかな。まるで《アイテム》より《スクール》のほうが強いみたいな言い方やないか」

憧「そう言ったのよ。あんた、耳だけじゃなくて頭も悪いんじゃない?」

泉「笑かしてくれんなー! 自分、小蒔さんらと打ったこともないくせによう言うわ」

憧「それ、《アイテム》の人たちが強いんじゃなくて、あんたが弱いだけなんじゃないの?」

泉「アホか。弱っちくて力の差がわからへんのはそっちやろ」

憧「はあ!? ちょっと! 私がラス親続行したおかげで勝てたくせに、なに言ってるわけ!?」

泉「ラス親続行したんは自分の判断やん。そのあと普通に勝ったんはうちや。団体戦やったら西入がないから、結局、うちのが強いっちゅーことやろ?」

憧「最終的に勝ったのは私なんだけど……?」

泉「そんなんうちが差し込んだったからやん。勘違いしてもろたら困るで。鷺森先輩のリーチ掛かって、助けてー、って涙目オーラ出してくるから、同じ覆面雀士として、同情心から一位を譲っただけや」

憧「…………あんたとは、色々白黒はっきりさせないといけないようね、二条泉ッ!」

泉「…………ほな、一週間後、決着つけよかー。もちろん、それまで自分が覆面剥がされてへんかったらの話やけどな、新子憧ッ!」

憧・泉「むむむむむ……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

憧「あたしと打つまで負けるんじゃないわよ、泉!」

泉「そっちこそ、そこらへんのザコにやられたらあかんで、憧!」

憧・泉「じゃあ(ほな)、一週間後にっ!!」

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ご覧いただきありがとうございました。

今日はここまでを予定していたのですが、ここ数日は書き溜めが捗ったので、少し時間を空けて、今日で修行編をおしまいにしたいと思います。

次回からはやっとこトーナメントが始まりますが、区切りがいいので、気分的には、新しいスレを立てたい所存です。

が、立てたスレは最後まで使い切ったほうがいいのか、どうなのか、ちょっとご意見を伺いたいところです。

また、もし新しいスレを立てた場合、新しいほうに古いほうのURL、古いほうに新しいほうのURLを載せるのは当然として、古いほうのHTML化依頼というものを、どのくらいのタイミングで申請したほうがいいのかな、というのも、ちょっと判断に迷ったりしてます。

なんとなくいい感じにするつもりではいますが、何かアドバイスがあれば、ぜひご助言ください。

では、一旦失礼します。

おつー
このままこのスレで書いてもかまわない気がするけどどーなんだろう

ありがとうございます。再開します。

>>527さん

ありがとうございます。なるほどです。

いずれ1000に到達するというか、複数のスレを立てることになるのは間違いないので、スレの切り替えが中途半端な箇所になるくらいなら、いっそ話の切れ目で――というのが、私の思うところです。

ゆくゆくは『前スレ、前々スレはこちら』的なご案内をすることになるので、スレごとに話が完結していたほうが読み易いのかなと。『○○編はこちら、○○編はこちら』的な感じで。

ただ、読まれる方からすると、同じスレでずっと続いたほうが読み易いのですかね。小刻みに(といっても恐らく月単位になりますが)スレが切り替わると、やはり追いにくいですかね。

うーん。迷います。

 ――――

宥「最近やっと落ち着いてきたね、覆面ブーム」

尭深「一週間前くらいがピークでしたよね。もう、残ってる覆面さんは両手で数えるくらいしかいません」

竜華「懐かしいわー。二年前のときは、《A》と《T》が激突して終わったんやったな」

美穂子「愛宕さんのドジョウすくいは見ものでしたね。惜しむらくは、《T》さんのそれが見れなかったこと。《T》さんがどちらの《T》だったにせよ、さぞ面白かったでしょう」

霞「今年は誰が最後まで生き残るのかしら。目立つのは、《A》さんと《I》さんあたりだけれど」

宥「私は《A》さんを応援してるんだ。あの小気味よさは見習いたいなぁ」

竜華「うちの推しメンは《I》やな。あれこれ頑張っとる感じが好きや」

尭深「他には、《T》さんと《K》さんですかね」

美穂子「もしかすると、今日くらいに、頂上決戦をするかもしれませんね」

霞「ま、覆面の子たちは本選に出場する一年生って可能性が高いから、そろそろ修行も最終段階よね」

尭深「見に行きますか? 本選に出てくる一年生の中には、牌譜が少ない人も何人かいます。偵察という意味で」

美穂子「私は賛成です。ドジョウすくいが見たいという意味で」

竜華「うちは《I》の応援しに行きたいわっ!」

宥「わ、私は《A》さんの応援に……」

霞「私も、個人的に気になっていたのよね。《A》さんや《I》さんはもちろんだけど、《T》さんが特に」

尭深「では、決まりですね。えっと……あっ、《A》さんと《I》さんと《T》さんと《K》さんが直接対決するみたいですね。ネットで話題になってます。間もなく始まるとか。急ぎましょう」

 ――――

 ――――

憧「ついにこの日が来たわ。ちゃんとドジョウすくいの練習はしてきたんでしょうね、覆面《I》……いや、泉っ!!」

泉「しぶとく勝ち残っとったんやな。そんなにうちに剥かれたかったんか、覆面《A》……もとい、憧っ!!」

憧・泉「ぬぬぬぬぬぬぬ……!!」ゴッ

覆面《T》「まあまあ、《A》さんも《I》さんも! そんなに睨み合ってないで、せっかくの覆面対決、思いっきり楽しみましょうっ!」

泉「むっ、なんや、あ――《A》、このジャージ娘が、自分が見つけてきたツレか?」

憧「ちょっと前に同卓して、仲良くなったのよ。今日の対局に相応しいと思って誘ったの」

T「覆面《T》ですっ、よろしくお願いします!!」

泉「(ふん、あんまり強くなさそうやな!)こちらこそ、よろしくな」

憧(ふっふっふ、泉のやつ、油断してるわね。見た目のダサさに騙されちゃダメなのよ。名前までは聞いてないから百パーとは言えないけど、このジャージ、間違いない。噂に聞くレベル5の第七位――学園都市最高の《原石》!!
 まだ一回しか対局してないし、そのときはなんの力も使ってこなかったからフツーに勝っちゃったけど、今日は頂上決戦……きっと何かしてくるはず! 泉、高をくくっていられるのは今のうちなんだから)ニヤッ

泉「ほな、うちもツレを紹介するわ。このうちを最強の覆面《I》と知ってなお、今日の頂上決戦に名乗りを上げた勇気ある覆面雀士――《K》や!」

覆面《K》「よ、よろしくお願いします……だじょ!」

憧「(変な喋り方。マントも似合ってないし。ぶっちゃけ弱そ)よろしくね、《K》さん」

泉(ふっふっふ、憧のやつ、油断しとるな。溢れ出るパチモン感に騙されちゃダメなんや。名前までは聞いてへんから百パーとは言えへんけど、この特徴ある語尾、間違いない。四月に一世を風靡した《ゴールデンルーキー》こと《東風の神》!!
 まだ一回しか対局してへんし、そのときはなんの力も使ってこーへんかったから楽勝やったけど、今日は頂上決戦……きっと何かしてくるはずや! 憧、余裕ぶっこいてられんのも今のうちやで)ニヤッ

T「《K》さん、よろしくお願いしますっ!」

K「よ、よろしく……だじぇ!」

憧・泉「じゃ(ほな)、場決めね(や)!!」

 ――――

 ――――

    南家:憧

西家:泉  卓  東家:K

    北家:T

憧「(最初からガンガン行くわよっ! とりあえず泉には勝つ……!!)よろしくっ!」

泉「(全局攻撃姿勢で行くでっ! とりあえず憧には勝ったる……!!)よろしくな!」

T「よろしくお願いしますっ!!」

K「よろしく……だじぇ!!」

 ――――

 ――――

 ガヤガヤ

尭深「けっこうな数の人が集まっていますね」

竜華「プライベートな対局やのに映像を公開しとるっちゅーんが、覆面対決の面白さやからな。二年前の頂上決戦もぎょーさん観客がおったでー」

霞「今は夏休みで、予選で敗退した子たちは時間のゆとりがあるしね」

美穂子「席、空いているでしょうか」

宥「あっ、それなら大丈夫。お友達にメールして取っておいてもらったの。えっとね、確かあっちのほうって……」

灼「宥さーんっ!」

宥「あ、灼ちゃんっ!」

灼「お久しぶりですね。予選突破おめでとうございます」

宥「灼ちゃんたちこそ、おめでとう。お互い頑張ろうね」

灼「ま、出るからには、一回戦くらいは突破したいです」

宥「応援してるよっ」

竜華「よっす、鷺森さん。自分がおるっちゅーことは」

浩子「うちもおりまっせ、清水谷先輩」

竜華「おー! 浩子ー!! 元気しとるかー!?」

浩子「ぼちぼちですわ」

竜華「浩子、自分、《I》と打って負けとったやろー。なに油断しとんねん」

浩子「油断なんかしてませんよ。ガチでやって負けましたわ。データにも目を通して準備万端で臨んだんですけど、なかなかどーして、手強かったです」

竜華「ふーん。浩子にここまで言わせるんか……ますます気に入ったで、《I》!」

宥「同じ卓に灼ちゃんもいたんだよね? 《A》さんはどうだった?」

灼「いい感じに強いですよ。ま、宥さんなら負けないと思いますけど」

宥「ほえ~」

霞「で、そっちは《T》さんと打ったのよね。感想はいかが、巴ちゃん?」

巴「悪くなかったですよ。って……二位だった私が言うのもアレですけど。でも、あの子、本気は出してなかったと思います。
 打った感じ、少しスロースターター気味なところがあるようなので、半荘一回だと調子が上がりきらないのかもしれませんね」

霞「ふふっ……風紀委員の副委員長様にここまで言わせるとは。ますます本選で戦ってみたいわね、二代目《T》さん」

宥「えっ、霞ちゃん、二代目って……?」

霞「あら、気付いてなかったの? 覆面のデザインが二年前の《T》と同じじゃない」

巴「ああ、《H》ことハッちゃんが負けたあの人ですね」

尭深「あの、さっきからちょこちょこ出てくる二年前の《T》というのは……」

霞「私たちが一年生の頃の、最強の覆面雀士よ。ヒント、同学年で愛宕さんより強い《T》」

尭深「…………なるほど、つまり、私のよく知っている人ですね」

宥「えっ、なんでそう思うの? 愛宕さんより強い《T》さんは二人いるよね?」

尭深「愛宕先輩より強い二人の《T》。今のチームメンバーに、姓か名が同じく《T》である後輩を持つのは、私のよく知っている人のほうですから」

宥「あ、そっか。霞ちゃん曰く、二代目……なんだもんね」

尭深「ま、二代目云々を抜きに考えても、やっぱりあの人のほうでしょう。あの人の性格なら、やりかねない」

美穂子「とてもそんなイメージはないですけどね。さすがは元チームメンバー」

竜華「ちょ、ちょー待って! ほな、あの《T》は……もしかしてあれか、レベル5の第七位――!?」

霞「学園都市最高の《原石》……高鴨穏乃さん、で間違いないと思うわよ」

 ――――

 ――――

 東一局・親:K

穏乃「くっしゅん!」

穏乃(誰かが私の噂をしてるのかな? いい噂だといいなっ!)タンッ

K「……」タンッ

憧(むー、なかなか鳴くチャンスがないわね)タンッ

泉(静かやな。憧は上家をチラ見しとるから、たぶんまだ張ってへん。チー待ちや。せやけど、この《K》と《T》は……)

穏乃(さーて、幸先よくテンパイ! 照さんからは『その覆面で負けたら承知しない』って言われてるけど……これなら今日もなんとかなりそう。じゃ、早速行ってみよっか!)

穏乃「リー」

K「ロン、12000」パラララ

憧・泉「!?」

穏乃(いきなり親満喰らったー!! どどどど、どーしよー!?)グルグル

泉(危ない危ない……。これは、ようわからんけど能力なんかな。起親で高打点っちゅーんは《東風の神》の特徴やし。それなりに警戒しといてよかったわ)

憧(ちょー! 何やってるの、《原石》!! あんたには泉を撃ち落してもらわらないといけないんだから、しっかりしてよ!!)

穏乃(しまったしまった、焦り過ぎた。つい……わくわくしちゃって。《A》さんと《I》さんと《K》さん。みんな強そうで、登り甲斐がある山ばかり。一合目からいきなりダッシュはなかったかな。
 ゆっくり行こう。ペースを守って、地に足つけて、一歩ずつ……!)

K「……」

穏乃(まだ見たことのない景色を見に行くんだ。くー! 楽しいっ!!)ゴッ

K:37000 憧:25000 泉:25000 穏乃:13000

 ――――

竜華「よしっ、そこや!!」

宥「あっ、ダメ――!!」

     泉『ロンッ!! 5200やっ!!』

     憧『っ!!』

灼「調子乗り過ぎ……」

浩子「ま、これで原点に戻ったな、あの二人は」

巴「《I》さんの、さっきのリーチ自体が伏線だったのかもですね」

美穂子「たぶん、そこまでは考えていなかったでしょう。単純に、前局でリーチを掻い潜ってきた《A》さんを警戒して、今回はダマで待った。《A》さんから直撃を取れたのはたまたまです」

尭深「最初の《K》さんの親満から点数が動きませんね」

霞「あと少しすれば《T》さんも仕掛けてくるんじゃないかしら。巴ちゃん曰く、スロースターターとのことだから」

     泉『リーチやー!!』

浩子「懲りんやっちゃなー、あのドアホ」

     憧『チー!!』

灼「さて、今度はどっちに軍配が上がるか」

     泉『ツモッ!! 700オール!!』

竜華「しょっぱー!!」

宥「ほあ……助かったぁ」

     穏乃『ロン、7700は8000!』

     泉『』

竜華・浩子「アホー!!」

美穂子「ま、攻めの姿勢を崩さない、というのは大切なことです」

巴「取られたら取られた分だけ取り返せばいいんですもんね」

霞「そんなのがほいほいできるのは巴ちゃんくらいよ」

     穏乃『ロン、5800!』

     憧『』

宥・灼「あ…………」

霞「あらあら、ようやくギアが上がってきたのかしら。《原石》さん」

竜華「っちゅーか、《K》が堅いなー。最初に和了ったっきり、他家のテンパイ気配を感じたらベタオリ。このままトップを譲らへんつもりや」

尭深「ツモで削り落とせればいいんですけどね。しかし、他の三人が……」

美穂子「《A》さんと《I》さんは互いを意識するばかりで、《K》さんのことは目に入っていません。《T》さんは逆に視野が広いので、隙のない《K》さんを避けているようですね」

宥「《K》さんは安泰……ってことかな」

     憧・泉『テンパイ』

     穏乃・K『ノーテン』

霞「南入ね……」

 ――――

 ――――

 南一局流れ二本場・親:K

憧(うーん。イマイチ牌が馴染まないっていうか、ペースが掴めないっていうか。ノッてこないのよね。テンパイしたはいいけど、欲を言えばもっと点が欲しい)タンッ

泉「リーチッ!!」

憧(げっ!? 泉のやつ、引くって単語が辞書にないわけ? 無駄に高そうなのがまた厄介よね。どーしたもんか……)

K「……」タンッ

憧(えっ……? あ、これ、どーしよ。えっと、泉がいかにも高そうな手でリーチしてて、私の手はよくて満貫止まりくらいだから、この場合、期待値は……ああっ、もう、わかんなーいっ!!)

憧「ロ、ロン。1000は1600ッ!」パラララ

K「はい……だじょ」チャ

泉(なーっ!! うちの倍満があああ!!)

憧(も、もうちょっと高いほうがよかった……? あー、もう、やめやめ! 過ぎたことを考えるのはあとっ!)

穏乃(んー……?)

K:33200 憧:22600 泉:19600 穏乃:24600

 南二局・親:憧

泉(憧のやつ、うちのリーチが恐くてひよったんか? さっきの手、稼ぐつもりならリーチかけてもよかったはずや。
 手替わりを待っとったにしろ、結局1000点で和了ってまうなんて、勿体ないにもほどがある)タンッ

泉(ま、ああでもしなきゃ、うちを止められへんかったんやろな。その用心深さはさすがやで。けど……うちはさらにその上を行くっ!!)

泉「もっぺんリーチやー!!」チャ

泉(ツモでゴットーやけど、裏や一発がつけばその限りやない。この卓に玄さんや豊音さんはおらんねん。何度潰されようと、リーチで勝負する意味はあるはずや……!!)

憧(さっきからテンパイ速過ぎっ! 引くことを知らないから引きがいいって? そんなオカルトあってたまるもんですか! こいつは無能力者――古典確率論以上に警戒することはない……!!)タンッ

 ――――

 ――――

     泉『ツモ……500・1000や』

竜華「まったまた微妙やなー」

浩子「まあ、あいつは無能力者ですから」

尭深「オーラスが近付いてきましたね」

宥「トップの《K》さんが32700、ラスの《A》さんが21600。かなり接戦だね」

灼「大きいのが一発出れば、簡単にひっくり返る」

霞「どうかしらね。先ほどから、比較的小粒な和了りばかり。満貫以上の手が、最初の親満だけ」

     穏乃『ポン……』

巴「あ、《原石》さんが動いた」

     泉『それや、チーッ!』

美穂子「また細かい勝負になりそうですね」

     穏乃『ツモ。1000・2000』

竜華「ぎゃー! 《I》のラス親がああああ!!」

浩子「まだオーラスがあります。この点差なら、ハネツモで逆転できますわ。二位抜けなら満ツモでもええ」

宥「《A》さん、さっきから全然鳴けてない」

尭深「上家の《K》さんが、牌を絞っている感じがしますね」

灼「《K》さんは相手の牌譜をよく研究してる。それに、立ち回りが上手い」

巴「さっき、《I》さんのリーチで《A》さんに差し込んでいましたよね」

美穂子「…………」

霞「どうしたの、美穂子ちゃん」

美穂子「いえ、そう言えば、あの《K》さんは誰なのだろう、と思いまして」

竜華「へっ? あの子ちゃうの? ほら、合同合宿んときの」

宥「《幻奏》の片岡優希ちゃん。東場に強い《ゴールデンルーキー》の子だよね」

尭深「今回も起親で大きいのを和了ってましたし」

美穂子「……本当にそうでしょうか。私の見る限り、とても、片岡さんの打ち方とは思えません。あれは、むしろ――」

 ダッダッダッ

?「巴さーんっ!! 遅くなりましたー!!」

巴「あっ、華菜」

尭深「華菜ちゃん……」

浩子「池田ァー、自分どこほっつき歩いてたんやー」

灼「もう頂上決戦が終わっちゃう」

華菜「すまんし! あっちの会場でも覆面対決してて、気になって覗いてたらこんな時間に――って、《豊穣》の皆さんっ!!
 わああ、福路先輩っ!? 実物だし……!!」

美穂子「こんにちは、池田さん。いつも差し入れありがとう。たまには直接渡しにきてくれてもいいのよ?」

華菜「そ、そんな……畏れ多いですよっ! それに、あたしだけ抜け駆けみたいなことしたら、他の会員に怒られますし!!」

尭深「華菜ちゃんが会長を務める福路先輩ファンクラブ。確か、80人くらいいるんだっけ」

華菜「そうそう……ってたかみーん! 久しぶりだしー!!」

尭深「相変わらず元気そうで何より。今年は予選突破おめでとう。華菜ちゃんもそうだし、ファンクラブの皆さんも」

華菜「そっちこそ、福路先輩と一緒にトーナメントとか、超うらやましいしっ!」

美穂子「池田さん、今度、よかったらみんなでお茶会でもしましょう。私、クッキーを焼いてくるわ」

華菜「にゃ!? ありがとうございますっ! みはるんたちも大喜びですよーっ!!」

竜華「そーいや、池田さん。さっきチラッと言うてたけど、どっかで別の覆面対決もやっとるん?」

華菜「そうなんですっ! 面白いですよ、最強の覆面《K》を決める戦い! 打ってる面子全員が《K》なんです!!」

宥「あ、《K》さんってそんなにいたんだ……」

美穂子「池田さん……その、四人の《K》さんのうち、正体がわかっている子っている? よければ、こっそり教えてくれないかしら?」

華菜「えっ? ま、まあ、福路先輩の頼みなら、いくらでも。えーっと、あてずっぽうなんですけど、この前対局して、たぶん例の《ゴールデンルーキー》じゃないかなーってやつがいました。
 マントつけてて、必ず起親になるんです。能力は使ってないっぽかったんで、あのときはあたしがトップでしたが……」

尭深「……それは、ここで打っているあの《K》さんとは、別人なの?」

華菜「ここ――って、あー!! あいつ、偽物《K》だしっ!!」

巴「華菜、偽物ってどういうこと……?」

華菜「《ゴールデンルーキー》の真似をしてるやつがいるんですよ。喋り方も格好もそれっぽくして。
 あたしはどっちとも対局したことがあるので、見ればどっちかわかります。あれは偽物《K》のほうです」

灼「見分け方とかあるの?」

華菜「本物《K》は、たぶん、能力なのか体質なのか、必ず起親になる。偽物《K》は、そうじゃない」

浩子「今回、あの《K》は起親やけど?」

華菜「あと、覆面とマントの質感が全然違うし! 本物は、なんか、オーダーメイドな高級感があるんだけど、偽物は、ハンドメイドなパチモノ感があるというか……!」

宥「打ったときの印象は……どうだった?」

華菜「ああ、えっと、それはその――」

霞「何か、変わったことでも?」

華菜「あ、い、いえ! 本物《K》も偽物《K》も、あたしと打ったときは能力ナシの完全デジタルでした。ただ、その、恥ずかしながら……」

竜華「どうしたん?」

華菜「偽物《K》には……運悪く、負けてしまいまして」

美穂子「運悪く……ね。とても池田さん――尭深さんと同じ白糸台の《生ける伝説》にして、風紀委員内でも屈指のトップ率を誇る《砲号》――の口から出るような言葉とは思えないけれど」

華菜「ま、まあ……あたしにも、調子が出ないときくらいありますよ。それに、あの偽物《K》、視野が広いというか、目がいいというか、ちょっとだけ福路先輩みたいなところがあって。
 もちろん、本物の福路先輩とは雲泥の差ですけど! あたし的には、その、やりにくい相手でした……」

美穂子「私みたいな――か。そうね。確かに、あの《K》さんは、時々私みたいな打ち方をするときがある。それも……けど、当然と言えば当然なのかも」

華菜「?」

霞「もしかして……あの《K》は、あの子なの?」

宥「えっ、えっ? どういうこと?」

尭深「宥さん、よく思い出してください。あの合同合宿の二日目、福路先輩が指南役を担当していたのが、誰だったのか」

竜華「そうか……! あの子も《K》やったなっ!」

美穂子「もちろん、可能性の話です。覆面の下を見たわけではないので、確証はありません。それに、私自身、言っておいてなんですけど、まだ信じられなくて……」

霞「どういうこと?」

美穂子「一言で言えば、見違えました」

宥「打ち方が変わってる……ってこと?」

竜華「ちゃうな。たぶん、打ち方が進化した――って感じやろ」

美穂子「そうです。あの《K》さんは……私の知っている彼女とはまるで別人。彼女、あのときは、ラスを回避することすらままならなかったのに。それが、今はどうでしょう」

尭深「覆面雀士の頂上決戦――《原石》さんや、鷺森さんと船久保さん相手に勝つような雀士を相手に、東一局からトップを守り続けている」

美穂子「池田さんが勝てなかったことも、偶然ではないのなら、あの子、この一ヶ月ほどで二軍《セカンドクラス》相当の力を手にしたことになります。一ヶ月前は五軍以下の力しかなかった子が……」

霞「予選決勝の牌譜は見たけれど、そのときは、合宿と大差ない、お世辞にも上等とは言えない打ち方だったわ」

竜華「なら、化けたんは……この覆面ブームの間ってことか」

宥「それが本当なら、これから本選まで、彼女、ものすごい勢いで強くなるんじゃ……?」

尭深「ま、まあ……とりあえず、あれこれ詮索するのは対局を見届けてからにしますか……」

     憧・泉『……ノーテン』

     K・穏乃『テンパイ』

     穏乃『ラス親、続行します』

 ――――

 ――――

 南四局一本場・親:穏乃

穏乃(……おかしい)タンッ

穏乃(さっきから、全然山の頂上が見えてこない。それどころか、頂上がどこにあるのかもわからなくなってきた。
 最初は、確かに見えていたのに。踏み出して、踏み入れた瞬間から――感覚が狂わされっぱなしだ)タンッ

穏乃(私の調子が悪いのかな、とも思ったけど、他の二つの山はもう中腹くらいまで来れた。視界良好。
 なのに……この人。この人だけ、うまく登れない。こんなこと……初めてだ)タンッ

穏乃(さっきだって、逆転できると思ったのに……テンパイ止まり。和了りへの道を進んでいたはずなのに、途中で、何度も何度も、行く手を阻まれて、引き返して、かと思えば退路まで断たれて……最後には完全に迷子)タンッ

穏乃(険しいのとは違う。照さんみたいな、切り立った崖を登る感覚とは、違う難しさ。
 この人の場合は、まるで……そう、なんの変哲もない小山なのに、頂上へ至る道がどれも塞がれてて……いや、それも少し違うかな)タンッ

穏乃(道を塞ぐのは、どちらかというと塞さんの麻雀だ。この人の場合は、塞さんのよりもっとひどい。
 道を、道そのものを、断ち切ってしまう。地震で大地が割れるみたいに、底のない溝が――私を取り囲むんだ)タンッ

穏乃(塞さんの力は、頑張れば、回り道を探すこともできる。和了りへの道は一本じゃない。どこかに必ず別の道がある。
 でも、この人を相手にしていると、びっくりするくらいに、道が――生路がない)タンッ

穏乃(あちこち止められて……いつの間にか、あんなに開けていた山が、出口のない地下迷宮みたいになってる。
 登っていたはずなのに、下ってる。日の降り注ぐ頂上だと思って辿り着いた場所が、実際は、真っ暗な、深い深い奈落の底……)タンッ

穏乃(蟻地獄みたいだ。もがけばもがくほど、深みに嵌る。私の感覚がまったく役に立たない。そもそも、これは本当に山なのかな? いや、もっと言えば……これは本当に麻雀――?)タンッ

K「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

穏乃(うっ……まただ。私のすごいパワー(略称:すごパ)が機能しない。
 照さんに吹き飛ばされても、塞さんに塞がれても、純さんやまこさんに乱されても、すごパそのものを断ち切られることは絶対になかったのに。だとすると、この人……まさか――)

穏乃「ロン、2000は2300」パラララ

憧「ひゃわっ!?」

穏乃「ラス親、続行で……」

K:33200 憧:16800 泉:18100 穏乃:31900

穏乃(なんにせよ、可能な限り挑んでみたい。いざ戦うってなったときのために、少しでも、その本質を捉えておきたいから……)コロコロ

穏乃(さあ……行くぞ! 今度こそ、どうにかして頂上に辿り着――)

K「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

穏乃(っ……!? そんな、この人……!! こんなことが――!!?)ゾゾゾゾッ

穏乃(て、照さん……っ!!!)

 ――――

 ――――

     K『ロン……1000は1600、だじょ』

     泉『うげ――』

尭深「終わり、ですね」

美穂子「勝ったのは……《K》さんと《T》さんですか」

霞「竜華ちゃんと宥ちゃんのお気に入りさんは、残念ながら力及ばずって感じだったわね」

竜華「ま、面が割れたんはラッキーやったけどな。そっかー、二条泉いうんか。あの化け物揃いの《逢天》の一年生やんな。本選で当たるかどうかはわからへんけど、覚えとこー」

宥「新子憧ちゃん……竹井さんたち《久遠》の一年生。あっ、灼ちゃん、事情を聞いてこなくて大丈夫なの?」

灼「前に直接対局したときに、向こうからそれとなく教えてくれましたよ」

浩子「ま、うちらは負けたわけですから、そっとしとくんが雀士としては正しいと思います」

華菜「それで、結局、偽物《K》については何かわかったんですか?」

巴「霞さんたちは、何か心当たりがあるみたいだけど……」

霞「まあ、言われてみれば、十中八九、あの子なのよね」

竜華「せやけど、あの《K》は覆面対決を制したわけやからな。直接打ったわけでもないうちらが正体をあれこれ言うんは野暮ってもんや」

美穂子「本選で戦うときは、こちらも本気で勝ちにいかなければなりませんね」

宥「合宿のときのようにはいかない……か」

尭深「まあ、それは他のチームにも言えることです。もとより、全力を出さずに優勝できるなどとは思っていません」

灼「応援してるよ、《豊穣》。頑張って」

浩子「委員長が目を三角にしはるから、あくまで《新約》の次に、やけどな」

巴「ああ、ハッちゃんと霞さんは喧嘩するほど仲良しだからね」

華菜「もし本選で当たったら、お互い悔いのないように打つしっ!」

尭深「ありがとうございます。薄墨先輩たちにもよろしくお伝えください。では、私たちはこれで失礼します。また本選でお会いしましょう……」

 ――――

 ――――

K「…………」フゥ

穏乃「お疲れ様です。覆面《K》さん」

K「あっ、ああ、はい。お疲れ様でした……じょ!」

穏乃「いいですよ、無理しなくて。私、この覆面期間中に、本物の片岡さんと打ったことがあるんです。卓を囲んだときから、別人だってことには気付いていました」

K「バレていましたか……お恥ずかしい」

穏乃「いやー、それにしても、びっくりするくらい強い能力ですね! 私、こう見えてレベルは結構高いんですけど、こんなにやり込められたのは初めてですっ!」

K「いえいえ! たまたま最初にラッキーパンチが当たっただけで、最後までひやひやしっぱなしでしたよっ! やり込めたなんてとんでもない!!」

穏乃「そうですか? なんの能力かわからないですけど、こんなに手も足も出なかったことなんて今までなかったです。
 なんていうか、止められてるなーっていうか、閉ざされてるなーっていう感じで」

K「そ、そうなんですか? けど、今回の対局では、私、能力は一度も使っていませんよ?」

穏乃「………………えっ?」

K「あ、いや! その、手加減していたとかではなく、本当に、運が良かっただけです。
 あ……でも、そうですね。特に意識はしていませんでしたが、もしかすると、どこかで使っていたのかもしれません、能力」

穏乃「特に……意識はしていない……?」

K「す、すいません! 何分、常時発動型というか、体質というか、そんな感じの能力なものでして、その――」

穏乃「……………………」

K「ど、どうかされました?」

穏乃「いえ! なんでもないですっ! では、本選でお会いできるといいですねっ! 今度は覆面ナシで戦いましょう!! さようならーっ!!」ダダダダダダダダダダ

K「あっ――な、なんてダッシュ力……」

 ダッダッダッ

淡「キーラーメー!!」ダキッ

煌「淡さんっ!?」

淡「見てたよー!! やったじゃん! これでキラメが最強の覆面雀士だよっ!! あの《原石》にも勝っちゃうなんてすばらっ!!」

煌「えっ、《原石》って――ええええ!? では、先ほどの覆面《T》さんが……あのレベル5の第七位、学園都市最高の《原石》と名高い《深山幽谷の化身》――高鴨穏乃さんだったんですか!!?」

淡「そうだよ。っていうか、《原石》が裸ジャージだってのは有名な話じゃん」

煌「そ、そう言えば前にそんなことを聞いたような……! 奇抜な格好だとは思っていましたが……」

淡「まっ、でも、所詮は第七位ってことだよね! 第一位のキラメが負けるわけがない!!」

煌「そ、そうでしょうか……? 今回はたまたまですよ。たまたま、東一局で大きな和了りをものにできた。あとは防戦一方でした」

淡「今までは、そのたまたまの和了りすらできてなかったんだよ。キラメ……いっぱい勉強したもんね。
 私たちとの特訓だけじゃない。ミホコとかの牌譜を研究したり、そりゃもう雀卓にかじりつく勢いで」

煌「いえ、私はまだまだ……淡さんたちのいる場所には、辿り着けていませんよ……」

淡「……けど?」

煌「けど、以前よりも、ずっと近くまで来られたような気がします。私はまだまだ弱いですが……私はまだまだ強くなれる。今回の覆面修行で、かなり自信がつきました。
 淡さんのアドバイス通り、片岡さんを模したのも効果があったのかもしれません。虎の威を借る狐ではないですが、不思議と、東場では負ける気がしなかったものです。もちろん、ただの錯覚でしょうが」

淡「気持ちが前向きになった分だけ、今までよりもたくさんのものが見えるようになったんだよ。
 キラメは、学園都市に来て、いっぱい強い人と打ってきた。その経験が、キラメの背中を後押ししてるんだ」

煌「ありがとうございます。それで……いかがですかね。卒業試験は合格でしょうか?」

淡「合格も合格!! あの面子相手にトップを取れるなら、もう先鋒は卒業だよっ!! キラメも胸を張って言えるでしょ。本選からは、キラメが私たち《煌星》の――」

煌「大将、と。ええ、お任せください。淡さんたちのご尽力を無駄にする私ではありません。この花田煌、必ずや、皆さんを一軍《レギュラー》へと導く《超巨星》となりましょうッ!!」

淡「そうこなくっちゃ!! じゃ、キラメ。みんなのところに帰って報告しよっ! キラメが最強の覆面雀士になったってねー!!」

煌「そうですね。行きましょう、淡さん」スッ

淡「ふふっ……キラメ、わかってきたじゃん。私は嬉しいよ!」ギュ

煌「これしきのこと、先輩として当然です。淡さんは……私の大切な後輩ですからね」

淡「ありがとっ! キラメ、だーい好きーっ!!」ガバッ

煌「おやおや、淡さん。あまりくっつかれては歩きにくいです。いい子ですから、せめて腕だけにしてください」ナデナデ

淡「言うようになっちゃってー!! このこのー!!」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――同時刻

覆面《K》「優希……腕を上げたようね」

覆面《K》「貴様……やっぱり数絵だったかっ!?」

数絵「南場の私を相手に、能力を使わずここまでの打ち回しができるなんて……四月の頃とは大違い。いい師に巡り合ったのね」

優希「そうなんだじょ! やえお姉さんは頭もいいしお金も持ってるし麻雀も強いし、言うことなしだじぇ!!」

数絵「できれば、本選で、何の縛りもないあなたと、対戦してみたかった」

優希「ふっふっふ。いくら数絵でも、今の私には楽勝できないじぇ?」

数絵「そのようね。けど、いい師に巡り合って強くなったのは、私も同じ。そうですよね」

覆面《K》「なに、一つ二つアドバイスをしただけだ」

優希「おっ、この《K》は数絵の知り合いなのか?」

数絵「加治木ゆみさん、三年生よ」

ゆみ「よろしくな、《東風の神》。私はチーム《鶴賀》のリーダーをしていた者だ。既に予選で負けた身だから、こういう非公式の対局でしか打てないと思うが、また機会があればぜひ」

優希「喜んでだじょ!」

数絵「優希、私たち《鶴賀》は、あなたたち予選突破組より一足先に、未来に向けて動いているわ。この覆面修行も、その一環」

優希「じょ……ってことはまさか……!」

数絵「ええ。こちらの、もう一人の《K》も、《鶴賀》のメンバーの一人」

覆面《K》「ど、どうも……!」

数絵「妹尾先輩、もう覆面を脱いで結構ですよ」

佳織「ぷはっ! 初めまして、片岡さん。二年の妹尾佳織です。数絵さんからよく話は聞いてます。今日は私の練習に付き合っていただきありがとうございましたっ!」

優希「それを言うならこっちもありがとうだじぇ。お姉さんに役満ツモられたときは口から胃が飛び出るかと思ったけど、いい練習になったじょ!!」

数絵「優希……本選でも頑張って。今のあなたなら、きっと上級生相手にも渡り合える。私が保証する」

優希「任せろだじぇ! 数絵の分まで勝ってくるから、ばっちり見ててくれだじょ!!」

数絵「優希……。ねえ、その、もし、優希さえよければ……この大会が――」

優希「おっと、数絵。その先はまだ言っちゃダメだじょ」

数絵「……そうね。ごめんなさい。少し、気が急いてしまった」

優希「今は目の前のトーナメントに集中したいじぇ。それが終わったら、また一緒に遊ぼうじぇ! もちろん、麻雀もたくさん打つじょ!!」

数絵「ありがとう。一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》――南場で苦しくなったら、心の中で私を呼んで。
 あなたのいる対局室まで、観戦室から風を届けてみせる。私は……《南風》はいつでもあなたの味方よ」

優希「私――《東風》だって、ずーっと数絵の味方だじょ! というか、もういっそ合体しちゃえばいいのか、私たち!?」

数絵「それも悪くなさそうだけれど、やはり、私たちは二人でいるべきよ。あなたとは、今後もよきライバルとして、付き合っていきたいから」

優希「数絵はうまいこと言うじぇ~! じゃ、数絵! それにゆみお姉さん、佳織お姉さんもっ! 今日は楽しかったじょ! 本選では応援よろしくだじぇー!!」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――――

塞「あっ、おかえり、高鴨」

穏乃「ただいまです」

純「よう、どうだった。頂上決戦とやらは」

穏乃「なんとか二位に滑り込みました。覆面は脱がされずに済みましたよ。と、それはそれとして、まこさん」

まこ「なんじゃ?」

穏乃「前に言っていた、二条さん……でしたっけ。今日、対局してきました」

まこ「ほうか。元気じゃったか?」

穏乃「はい。たぶん、《アイテム》の人たちと仲良くやっているんじゃないかと思います。命令や強制で打っているのとは違う、二条さん自身の『勝ちたい』っていう気持ちが伝わってきました」

まこ「組織潰したやつらとよろしくやっとるんか。あいつめ……薄情なやつじゃ」

穏乃「そうでもないと思いますよ。時々、まこさんみたいな打ち方をしていましたから。きっと、二条さんなりに、まこさんを目標にして、強くなろうとしているんだと思います」

まこ「ほなら……足元すくわれんようにせんとのう。本選で会うんが楽しみじゃ」

塞「ところで、高鴨。あんた、二位だって言ってたけど、一位はどこの誰だったの? 例の《ゴールデンルーキー》? それとも、シロたち失踪組についてったっていう、鳴きの子?」

穏乃「いえ……その二人ではないです。初めて対局する人でした」

純「強かったか?」

穏乃「強い……いえ、どちらかというと、恐い、ですね。あんな能力者は見たことがないです。だって、あの人、私のすごパを完全に無力化してきましたから」

塞・まこ・純「!!?」

穏乃「というわけで、お菓子を食べている場合じゃないですよ、照さん」

照「……」モグモグ

穏乃「覆面《K》……ほぼ間違いなく、花田煌さんだと思われます。レベル5の第一位――《通行止め》。
 あの人は、明らかに他の雀士とは違います。事と次第によっては、私よりも異質な打ち手かもしれません」

照「……詳しく聞かせて」

穏乃「あの人は、たぶん、学園都市で唯一、私のすごパを無力化できる人です。他のレベル5も含めた、いわゆる能力者と言われる人たちとは、一線を画している。
 一切の能力、支配力、すごいパワーすら断絶する《絶対》の力。照さん……恐らく、あなたでも、あの人の《通行止め》――具体的にどんな能力なのかまではわかりませんでしたが――を破ることはできません」

照「それでも、負ける気はしないかな。能力を破れないくらい、松実さんや尭深で経験してる。支配力がどうこうっていう部分も、あなたで特訓した。そうだよね、高鴨さん」

穏乃「そうですね。けれど……それも、きっと、今のうちだけです」

照「……どういうこと?」

穏乃「花田さん、対局後に言っていました。『特に意識しないで能力を使っていた』――と。わかりますか?
 あの人は、無意識で、なんの指向性もない確率干渉の奔流だけで、私のすごパを無力化したんです」

塞「ちょ……なにそれ? 不気味過ぎるんだけど。だって、高鴨は、私が本気で塞いでも稀に和了ってくることがあるくらいなのに……」

まこ「それほどの力……意識して使うたら、どんなことになるんじゃろな」

純「っていうか、そもそもどんな力なのかもわかってねえのに、意識も無意識もあるのかよ。旧第一位の松実だって、ほぼ無意識で能力を使ってるじゃねえか」

穏乃「純さん、常時発動型だからといって、無意識なわけではないですよ。照さん曰く、松実さんは一年生の頃からその辺りの制御はきちんとやっているそうですし、場合によっては、自らの意思で能力を反転させることができます。
 けど、花田さんの場合は、たぶんそうではない。常時発動型というよりは、『体質』――と本人は言っていました」

塞「体質……か。確か、宮永の妹も似た感じなのよね? どう打っても必ず《プラマイゼロ》になっちゃうって」

穏乃「照さんの妹さんは、予選では、《プラマイゼロ》でないときがありました。同じ体質のような力だとしても、照さんの妹さんは、意識して力を制御することができている。
 他には、ほぼ毎回起親になる片岡さんも、そうですね。私が打ったときの片岡さんは、きちんと狙って起親になっていました」

照「花田さんは……そうじゃない、ってこと?」

穏乃「はい。たぶん、あの人は、まだ自分の能力を完全には把握できていない――制御できていないんだと思います。
 並みの能力者ならそれでもいい、ちょっとムラがあるくらいの話で済みます。けど、花田さんは並みの能力者ではない」

まこ「レベル5の第一位……それも、あの理事長すらねじ伏せるほどの、古今東西に類を見ない強度の超能力者なんじゃもんな」

穏乃「無意識で、それなんです。ただそこに存在するだけで、あの人は、他の全ての雀士を圧倒する。もし、あの人が、本気で、確固たる意思を持って、自由に能力を使いこなしてきたら――」

純「超能力者を超える能力者――都市伝説で聞いたことがあるぜ。《神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの》――幻の絶対能力者《レベル6》ってやつに、なっちまうのかもな」

穏乃「絶対能力者《レベル6》――それが何を意味するのか私にはわからないので、そこについては、なんとも言えないのですが……」

塞「なに? まだ何かヤバいことがあるの?」

穏乃「はい。私が何よりも恐いのが……そんな、既存の常識を越えるほどの潜在能力を持つ花田さんの能力が、もし……もしもですよ、暴走したらどうなると思いますか?」

まこ「暴走って……そんな大袈裟じゃろ」

穏乃「大袈裟でしょうか? 例えば、強い支配力を持つ照さんは、その気になれば、古典確率論ではまずありえない異常現象を平気で引き起こすことができます。花田さんがそうじゃないとは、言い切れない」

塞「何が起こるっていうのよ……? 天変地異とか?」

穏乃「わかりません。けれど、とても危険な気がするんです」

照「いずれにせよ、《照魔鏡》で確かめればいい。もし、高鴨さんが言うほどに危険な能力者なら、学園都市の《頂点》である私が、なんとかしてみせる」

穏乃「手遅れにならないことを祈りますよ。最悪、トーナメント決勝の大将戦までお二人が戦わない、って可能性もありますから。そこで何かがあったら、取り返しがつきません」

照「……高鴨さん、もしかして、何かあった?」

穏乃「あ……いえ……」

照「どんなことでもいい。何か引っかかってるなら、話して」

穏乃「えっと……あの、なんて言えば伝わるのか、わからないんですけど……」

照「うん」

穏乃「さっきから、私の周囲が……いや、街全体が、閉ざされていくような感じがするんです。花田さんと対局してから、ずっと。
 何か、得体の知れない黒い影みたいなものが、付き纏っているというか……。
 しかも、それがどんどん、学園都市の外……世界中に広がっていっているような気がして――」

塞「こ、恐いこと言わないでよっ! 能力《オカルト》と古典的な心霊現象《オカルト》は別物でしょっ!?」

純「どーだかな。海外じゃ、能力は《魔術》って言うらしいぜ? 根っこのところでは、《心霊》や《呪術》なんかとも繋がってるのかもしれねえ」

まこ「物騒な話になってきたのう……これじゃけえ能力者いうんは苦手なんじゃ。わけのわからんことを平然としよる」

照(花田煌さん……か。咲が懐いているみたいだから、悪い人じゃないのは間違いないんだけど。
 でも、急な転校……それに、今回のトーナメント、《アイテム》のことも、菫が天江さんを引っ張り出したことも、小走さんが誠子と大会に出てきたことも……それにあの二つのルール改定……ひょっとして、全部が全部――)

穏乃「照さん、何か言いたいこと、ありますか?」

照「まあ、色々思うことはあるけれど、言いたいことは一つかな」

穏乃「どうぞ」

照「誰が相手だろうと、私は学園都市の《頂点》として戦う。そして勝つ。それだけ」

穏乃「ふふっ……さすが照さんです。よーしっ、私も頑張るぞーっ!!」

塞「もちろん、宮永一人に負担は掛けないわよ。私たち四人で勝負をつけるくらいの気持ちで打つんだからっ!」

純「人数合わせみたいに思われるのは癪だしな」

まこ「無能力者代表として、能力者どもに一泡吹かせてやらんとのう」

照「ありがとう。みんなとチームになれて、本当によかった」

塞「なーに言ってんのよ。そういうことは、トーナメントで優勝してから言いなさいって!」

照「どの道優勝するんだから、勿体ぶらずに何度言ったっていいはず」

純「ハッ、違いねえ……!」

まこ「言いよる言いよる」

穏乃「照さんが素敵過ぎますっ!」

塞「もう、あんたってホントあんたなのね。再確認したわ」

照「さて……じゃあ、高鴨さんも戻ってきたし、練習をしようか。本選まであと少し。みんな、頑張ろうっ!」

穏乃・純・まこ・塞「おー!!」

     [一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》本選まで、あと一週間]

ご覧いただきありがとうございました。

さて、突然で今更ですが、これ最初のほうが少し抜け落ちてましたね。

>>24

淡「で……私、聞いたんだけど、今日から学園都市に来ることになってる転校生って二人いてさ、そのうちの一人は、超がつくほどの美少女で可愛くて性格も優良で麻雀もめちゃめちゃ強いスーパー一年生で、もう一人が――」

煌(ん? 今なんかものすごい主観が混じった説明じゃありませんでしたか?)

淡「もう一人が……あの理事長を相手に半荘一回を最後まで打ち切ったっていう、人類史上最高強度の能力者で――能力値は当然のレベル5。
 これまで六人しかいなかった学園都市のレベル5を七人に増やし、その上、序列もぶっちぎりの第一位に君臨するような……とんでもない《怪物》だって聞いたんだけど」

煌「《怪物》だなんてそんな。実物は、ただの臆病でひ弱な小市民に過ぎません」

「じゃ、じゃあ……本当にテメェが――!!?」ガタンッ

煌「いかにも。私が学園都市に七人しかいないレベル5の、第一位――花田煌です」コノデンシガクセイテチョウガメニハイラヌカー

「なああああ!!? か、《怪物》ああああ……ッ!!!」ガタガタッ

煌「そ、その反応はさすがに少々傷つきますね……」シュン

(こ、こいつ……マジでレベル5――!! しかも第一位だと……!!? バカなッ!! いや、しかし、アタシの能力がまるで通用しなかったのは事実!! 信じられねえが……けど、電子学生手帳のデータは弄れない! 間違いなく本物……ッ!!)

(じゃ、じゃあ……何か!? こいつはあの《ハーベストタイム》より! 《ドラゴンロード》より化け物だってのか……!? そ、そんなの……逆立ちしたって勝てる相手じゃねえだろ!!)

煌「さて、どうしますか? 対局を続けますか? しかし、何度やっても結果は同じですよ。三家立直で和了れる能力も、四家立直にさせない裏能力も、今の私にとっては意味を持ちません」

「そ、そんなバカなことが――」

煌「ありえるのです。今の私からは、たとえ小鍛治理事長でも直撃を取ることはできません。逆に、私は自由に和了りたい放題です」

「ふ……ふざけんなッ!! テメェから和了ることはできねえのに、テメェだけは好きなように和了れるだぁ!? そんな――あまりに一方的過ぎるじゃねえか……ッ!!」

煌「一方的……そうですね、あなた方は進むべき方向を間違えました。即刻回れ右をして、正しい道にお帰りください」

煌「ここから先は――《通行止め》ですッ!!」

改めて、ご覧いただきありがとうございました。

これにて、修行編は全ておしまいです。

スレお引っ越しの件は、皆さんのご意見を参考にしつつ、次回の更新のときまでに考えておきます。どうなっても何かしらのご案内はするので、引き続きこちらのスレをご覧下さい。

次回からは、ようやっと本選トーナメント編が始まります。

どのくらいお話が進んだかを大星さんで喩えると、チーム結成編が配牌を開いたところ、この修行編が、ダブリーをしたところに相当します。

今後とも、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

トーナメント開始にあたって、または、ここまでのお話で、何か気になった点があれば、答えたり答えられなかったりいたします。お気軽にご質問ください。

次回はまた来週末くらいかと思われます。

では、失礼します。

つまり透華は能力は無いけど支配力はSはにこそ届かないがAAAぐらいってことで合ってる?

淡ちゃんも咲きさんもレベル4のマルチの能力しか使って無いんだよね
全力全開なら支配力を使ったバトルが始まるという感じで合ってる?いずれ支配力についても掘り下げてほしい

>>566さん

龍門渕さんの能力・支配力については、のちのち言及される予定です。ひとまず、彼女の支配力《ランク》はご察しの通り『A強』です。A強とはなんぞや、というのも、のちのち言及される予定です。

大星さんと咲さんは、普段からそれなりに支配力を使っています。能力の強度《レベル》×支配力《ランク》補正=実際の威力、みたいな感じです。

この辺りについては、参考までに>>172でごちゃごちゃ言ったりしてます。物理で殴り合うだけなら、支配力が強いに越したことはありませんが、基本的に、能力を通してこそ威力を発揮してくるものです。

また、分かりにくいのですが、

>>15『溢れ出るバカげたプレッシャー』

>>78『謎の圧力』

>>130『この状態の小蒔ちゃん』

>>349『ロン――ッ!!』

>>358『チューニング段階からこれか』

>>426『な、なにもそこまで』

>>428『気配が膨れ上がった?』

等において、支配力は既に使われています。

『支配力を使ったバトル』というよりは、『支配力を織り交ぜたバトル』というニュアンスが近いかと思われます。それ自体は、上記のように何度か起こっています。特に>>426の大星さんは、咲さんが軽く引くレベルでガチです。

今のところ、ランクSについては、>>427で荒川さんが『古典確率論ではありえへん物理現象を、意識的・無意識的に引き起こす。それがランクSの魔物』と解説しています。

原作でいうと、6巻142ページに、天江さんがポーカーでファイブカードを和了ってるっぽい一コマがありますが、当SSでは、あれが天江さんの支配力の強さを端的に示している、と解釈しています。

・停電中に全身から光を放つ(天江さん)

・目からスパークを出す(咲さん他)

・右腕の周囲に竜巻を起こす(照さん)

・髪の毛の隙間から宇宙的超空間を展開する(大星さん)

・神様と一緒に雷を試合会場に呼び込む(アニメの神代さん)

原作・アニメにおけるこれらのエフェクト(?)が、現実に実際に発生している、と当SSでは解釈し、そんな異常現象を平然と引き起こすのがランクS、ということになっています。

この『異常な確率干渉力(>>427)』に耐性がない人は、『精神をやられて病院行き(>>73)』、『壊れてしまったようですわね(>>130)』、『近くを通りかかって気分が悪くなった(>>300)』等のように、わりと悲惨な状態になります。

取り急ぎ、補足説明でした。筆力不足で申し訳ないです。

ご覧いただきありがとうございます。

週末に予定が入りそうなので、前倒しで更新します。

次から、本選トーナメント編(Aブロック二回戦)の始まりです。

 ――前略。

 ――学園都市に来てから、早いものでもう三ヶ月が経とうとしています。

 ――こちらは相変わらずの麻雀漬けの毎日で、楽しい限りです。

 ――つい三日前、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》の一回戦を突破しました。私自身は課題の多い内容でしたが、ひとまず、ほっとしています。

 ――正直なところ、未だに信じられないことばかりです。

 ――自分がレベル5であること。白糸台高校麻雀部の一軍《レギュラー》を目指して戦っていること。一回戦を勝ち上がれたこと。

 ――そして、今日の二回戦。

 ――今日の対戦相手を三ヶ月前の私が聞いたら、いかに健康自慢の私でも、卒倒してしまうかもしれません。

 ――驚かないで聞いてください。今日の対戦相手は、なんとあの

 ――Aブロック二回戦当日・朝・白糸台寮

淡「キーラメっ! なーに書いてるのっ!?」ガバッ

煌「手紙です」

淡「このご時勢にレトロだねー。誰宛て?」

煌「母ですね」

淡「ああ、キラメの名前をつけたっていう、すばらくセンスのあるお母さん!」

煌「ネーミングセンスがすばらかどうかまではわかりませんが……ただ、麻雀はものすごく強いですよ」

淡「どれくらい?」

煌「身内贔屓かもしれませんが、淡さんと同じくらい」

淡「ふえっ!?」

煌「恐らくは、学園都市で言うところの、能力者なのだと思います。淡さんと同じで、光り輝くような麻雀を打つんですよ。勝てたことは一回もありません。今の私が打っても、まず勝負が成立するかどうか……」

淡「そんなに強いんだー」

煌「私に麻雀を教えてくれたのも、母です」

淡「じゃあ、私も感謝しないといけないね。キラメに麻雀を教えてくれて、どうもありがとうございましたってさ!」

煌「麻雀を打っていなければ、学園都市に来ることはありませんでしたし、淡さんとも出会えませんでしたからね」

淡「ね、その手紙、私も一言添えていい?」

煌「構いませんよ。淡さんのことは既に話してあります。きっと喜ぶでしょう」

淡「えーっと……『初めまして、大星淡と申します。いつもキラメさんにはお世話になっています。さて、早速ですが、キラメさんをください』っと」

煌「淡さんっ!?」

淡「あ、ごめん。単刀直入過ぎたかな? もっと時候の挨拶からやんわり入ったほうがいい?」

煌「そういう問題じゃありません!!」

淡「えー!? でもでもっ、ほら、きっとキラメのお母さんならわかってくれるよ。だってキラメにキラメって名前つけたんだよ?
 ゆくゆくは名字が大星になるってわかってたんだと思うんだよね! 大星煌なんてぴったりな名前、なかなかないもんっ!」

煌「そ、それを言うなら、花田淡もなかなか悪くありませんよ……?」

淡「いや、断然、大星煌っ!! だって、大きな星が煌めくだよ!? こんなにキラメにぴったりな名前はないよ! 並び替えたら大煌星だよっ!?」

煌「あっ……もしかして、チーム《煌星》って、淡さんと私の名前から取ったんですか?」

淡「今頃気付いたのー!?」

煌「てっきり『綺羅星の如く』からきているのだとばかり……」

淡「ダブルミーニングなの!」

煌「まあ、とりあえず、母へは、淡さんはお茶目な方なのだと伝えておきます」カキカキ

淡「むう……なんとでも伝えればいいよ。どうせ、いつかは直々に同じこと言うんだから、今は冗談ってことにしといてあげる」

煌「はて、何か言いましたか?」カキカキ

淡「なーんでも。書き終わった?」

煌「ええ」

淡「じゃっ、キラメ。行こっか!」

煌「そうですね。一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》……二回戦、ですね」

淡「……緊張する?」

煌「それは、まあ。ついにシードチームが出てくるわけですから」

淡「ブロック予選で好成績を残した四チームね。ま、遅かれ早かれ倒すことになる相手なんだから、一緒でしょ」

煌「そうはおっしゃいますけれど、やはり、ついこの間まで外の世界にいた私にとって、今日の対戦相手は特別なのです。
 まだ、心のどこかで、これは夢なんじゃないかと思ってるくらいで」

淡「にしては、なーんか口元が緩んで見えるけど?」

煌「ええ、だって、本当に夢のようなんですから。夢だったんですから。
 学園都市――白糸台高校麻雀部で、名立たる雀士に混じって麻雀を打つ。誰もが憧れる夢物語……どうせ夢なら、楽しみたいのです」

淡「あはっ! なら、思いっきり楽しんじゃってー!!」

煌「楽しみますとも。そして、できることなら、次へ駒を進めたいものです」

淡「何を当たり前のこと言ってるの、キラメ! 私たちは優勝するんだから! 二回戦くらい楽勝なのさーっ!!」

煌「さすがは淡さんです。では、行きましょうか」スッ

淡「うん、行こうっ!」ギュ

 ――――

 ――――

塞「宮永、そろそろ行かないと遅刻するよ」

照「待って。まだ、今日のおやつの選別を終えていない」

塞「あんたね……。そんなノリで、ちゃんと組み合わせ表見たの?
 今日、あの高鴨が恐いって言ってた、例の《煌星》と直接対決するのよ」

照「……菫のチームが、ね」

塞「あそこが負けるとは思えない。でも、番狂わせっていうか、何かあるかもしれない。強い強いって言ったって、あそこはレベル5が一人もいないわけだし」

照「臼沢さん……全然、わかってないね」

塞「む。ど、どういうこと?」

照「菫のチームに不慮の敗北はないんだよ。あの菫が、そういうメンバーを集めたんだから。
 たとえ花田さんの能力がどんなに強力でも、そこに咲や、《虎姫》の五人目になるはずだった大星さんがいたとしても。菫は……負けない」

塞「で、でも、万が一ってやつが――」

照「その万が一は……ここにいる。一万分の一。白糸台高校麻雀部一万人の《頂点》――つまり、私。菫たちが万が一負けるとしたら、それは、私たちと戦うときだけだよ」

塞「信頼してるのね、弘世のこと」

照「もちろん、二年間一緒に戦った仲間だから」

塞「ちゃー、敵わないなぁ」

照「そんなことは、ないよ。二年間一緒だった菫が敵になって、頭が真っ白になって、そんなとき、臼沢さんは、私の傍にいてくれた。すごく……嬉しかった」

塞「ちょ、宮永……////」

照「それに、染谷さんも、井上さんも、高鴨さんも。みんな、信頼してる。《虎姫》のみんなと同じくらい。
 そうじゃなきゃ、私はこのトーナメント、出てなかったかも。信頼できる人と戦えないのなら、菫に勝てるはずないもん」

塞「そ、っか。ありがと。なんか、改めて、気合入ってきた」

照「それはよかった。けど、あんまり力まなくて大丈夫。落ち着いて、いつも通りに打てば、勝てるよ。
 休憩中に食べるお菓子は何にしようかな、って、そんなことを考える余裕があるくらいで、ちょうどいい」

塞「でも、相手はどこも一回戦を突破してきた強敵よ? 特に……あの《最凶》がいるチーム《新約》は、一回戦で大暴れしてたし」

照「薄墨さん……確かに、あの人は強い。けど、臼沢さんなら、勝てるでしょ?」

塞「な、なによ、いきなりそんなプレッシャー掛けてっ!?」

照「妥当な評価だと思うけど」

塞「まあ……確かに、薄墨とは、何度か打ったことがあるけどさ……」

照「なら、大丈夫。臼沢さんは強いから。私は、心配してないよ」

塞「……なんだかなぁ、もう、勝つしかなくなっちゃったじゃない。宮永、あんた自身はどう思ってるか知らないけど、たぶん、弘世以上に向いてると思うよ、チームリーダー」

照「ありがとう。じゃあ、待たせてごめん。行こうか」

塞「そうね。行きましょうか」

 ――――

 ――――

怜「なんや、みんなお早い集合やなー! 昨日眠れんかったんか? ま、気持ちはわかるわー。なんたって、今日の相手はあの宮永照やからな!」

和「怜さん……どんなにはしゃいで見せても、目の下のクマは隠せませんよ」

怜「こ、これは……ちゃうねん! うち病弱(嘘)やからっ!」

和「まったく、チームリーダーがそんなことでどうするんですか。対局までにはきちんとコンディションを整えてくださいね。
 睡眠が足りないというのなら、その……枕くらい、貸しますから……」ゴニョゴニョ

怜「なに? 聞こえへんで?」

和「なんでもありませんっ!!」

初美「ま、緊張するのは仕方ないですよー。一昨日派手に勝っちゃった反動も恐いですしー。けど、いつも通り打つですよー、いつも通りにー」

姫子「とか言いつつ、初美さん、今日は巫女服ば着崩してなかとですね。日焼け跡の見えなか初美さんなんて、初美さんやなかとです」

絹恵「初美さん……また塞がれるのが恐いんですね?」

初美「そそそそ、そんなことないですー!!」

怜「《塞王》……やんな。初美が打つたびに完封されるっちゅー」

初美「和と絹恵と打ったときは完封されてないですー! 最後にはちゃんと小四喜和了ったですー!!」

和「よくわかりませんが、そもそも狙って小四喜を和了るなどというオカルト――」

姫子「まーまー、和。そんくらいにしんさい。初美さん、天敵ば前にしてナーバスになっとるけん」

初美「ナーバスになんかなってないですー! 私はいつも通りですー!!」

絹恵「天敵なのは否定せんのですね……」

初美「ま、まあ……意識くらいはしてるですよー。いくら私が《最凶》でも、あっちは封殺系の最上位に君臨するマジヤバい能力者ですからねー。みんなも、あのモノクルには十分気をつけるですよー」

絹恵「それに、あっこには、井上さんと染谷さんもおりますからね。あの二人はホンマに強いですよ。
 今でこそ、公式戦で目立った活躍はしてへんけど、うちらの学年で知らんやつはおらん。《双頭の番犬》――《拒魔の狛犬》っちゅうて」

姫子「高鴨も恐ろしかですよ。強度測定で打ったことのあっばってん、そんときは、私の《約束の鍵》の崩されかけて、たった一局で打ち止めになったとです。
 これ以上は……私に悪影響やけんて。未だにその能力の詳細はわかっとらん。ただ、強力な打ち手なんは間違いなか」

怜「封殺系最強の能力者と、超能力者殺しの山の主、それに魔除け属性の二年生……。
 学園都市の誇る討魔《アンチオカルト》四天王が、揃いも揃ってあの《大魔王》の下におるっちゅーんやから、随分とデコボコな魔王軍もあったもんやで」

和「皆さん……何を非科学的なことを言ってるですか。魔とか能力とか、そんなオカルトに惑わされてはいけません。咲さんのお姉さんは確かに強い――それは過去の成績が物語っています。
 しかし、それ以外の方々は、客観的なデータを見る限り、先輩方のほうがむしろ上位にいます。必要以上に警戒することはありません。私に言わせれば、十分手が届く範囲です」

初美「さすがデジタルの申し子は言うことが違うですねー」

怜「もちろん、うちかて負けるつもりはあらへんよ。っちゅーか、負けられへんやろ! この二回戦、突破すれば、いよいよ会えるわけやから……!!」

絹恵「そうですね……やっとここまで来たんやから!」

姫子「絶対に勝つと!!」

和・初美「当然です(よー)」

怜「ほな、みんな腹くくったな!? ここが正念場の二回戦や。気張っていくで……せーのっ!!」

怜・姫子・絹恵・和・初美「っしゃああああああー!!」

 ――――

 ――――

憧「……で、こんな朝っぱらから、なんであたしらは白糸台校舎に侵入してるわけ? しかも一年教室棟じゃんここ! っていうか、あたしのクラスの教室じゃんここ!!」

久「思い出の場所なのよ。全てはここから始まったわ」

哩「懐かしか。自己紹介とクラス対抗戦のメンバー編成ば兼ねた、入学式の日の放課後の、クラス内交流戦。学園都市に来て最初の対局。そこで……四人で打ったと」

洋榎「確か、うちが一位で終わったやつやんな」

白望「いや、あのときの一位は私」

哩「なに言っとう、私とね」

久「あなたたちの記憶って本当に都合がいいわね。あのときの一位は私よ?」

洋榎・白望・哩「うち(私)や(だ・と)!!」

憧「はいはい、三年生が子供みたいなことで喧嘩しない」

久「ま、それから色々あったけれど……あのときの約束が、私たちを、こうしてここに再び集めた」

洋榎「因果なもんやなー」

哩「腐れ縁と」

白望「ダルいようなダルくないようなダルいような……」

久「と、ゆーわけで、憧の机はどれかしら?」

憧「は? いきなりなに? なんで?」

久「いいからいいから」

憧「ま、まあ、これだけど……」

洋榎「おおーっ! これやこれやっ!! ごっつー見覚えあるわー!!」

哩「洋榎も憧も、一年一組出席番号一番やけんね」

白望「ちょっとガタガタすると板が外れる不良品なんだよね、この机」

憧「えっ……まさか、久たち……!?」

久「そのまさか。じゃ、憧、ちょっと失礼するわよっ」ガタガタ

憧「ああっ!?」

哩「おお……!!」

洋榎「ははっ、うちもまだまだ若かったなー」

白望「彫るの超ダルかった……」

久「放課後に机囲んで、みんなでガリガリやったわねぇ」

     『目指せ、インターハイ優勝 竹井久』

              『宇宙最強の雀士になったる!! 愛宕洋榎』



   『日々是決戦 白水哩』

                  『ダルくてもがんばる 小瀬川白望』

憧「久たちってば、一年生の頃からワルだったんだね! 学校の備品にこんなことして……まったく――羨ましいったらないわっ!!」

久「ふふっ。もちろん、憧ならそう言うと思って、ちゃんと用意してきたわ。さすがに彫ってる時間はないから、はい、油性ペン」キュポン

憧「さすが久っ! 学生議会長のくせに後輩に落書きを強いる――そういう最悪なところが最高っ!!」

     『目指せ、インターハイ優勝 竹井久』

              『宇宙最強の雀士になったる!! 愛宕洋榎』

 『一軍になる! マジで!! あと、みんなずっと一緒!!! 新子憧』

   『日々是決戦 白水哩』

                  『ダルくてもがんばる 小瀬川白望』

洋榎「おっ、あれこれ欲張りやな。これは哩に影響されたんちゃうか? 哩はなにかにつけて貪欲やからなー」

哩「そい言うたら、こんなに無駄に『!』ばつけるんは、いっつもぎゃあぎゃあうるさか洋榎の影響と」

久「ちゃっかり私たちの真ん中に書き込むあたりが、シロっぽいわよね」

白望「白々しい……五人目のために真ん中を空けようって言ったのは、久。
 憧は、私たちが何も言わなくてもそこにきちんと書き込んだ。二人は似た者同士で、お似合い」

憧「こんだけ一緒にいれば、そりゃ全員にちょっとずつ似てくるわよね……」

久「お気に召さない?」

憧「そんなわけないじゃん! ってか、まさかあたしの机の裏にこんな落書きがあったなんてなー。運命を感じるわよね、運命をっ!
 《スクール》はあたしが現れるのを待ってたと言っても過言じゃない――なんちゃって……!!」

洋榎「……いや、実際、的を射てるんちゃうかな」

憧「えっ?」

哩「私たち《スクール》は、二年間、憧ば待っとったとよ」

憧「ちょ、哩まで!」

白望「憧がいなかったら、私たちはこうして集まってなかったと思う」

憧「シロも!? な、なによ……やめてよ、大事な初戦の前に泣かせるなっつーの……っ!!」

久「いいじゃない。泣くのは得意でしょ、憧」

憧「全然よくないから……!! もう、みんなしてっ!!」

洋榎「それだけ感謝しとるんや。これ、有難く思うとこやで?」

哩「こがん我儘な私たちと一緒に戦ってくれる憧のためにも……こんトーナメント、必ず優勝すっと」

白望「ダルいけど、全力以上で打つ。大船に乗ったつもりでいて」

憧「みんな……!!」

久「憧……私たち全員、あなたと同じ気持ちよ。勝って、一軍《レギュラー》になって、ずっとみんなで一緒にわいわい遊んでいたい。それこそ、永遠に、いつまでも――」

憧「ありがとう……マジ嬉しい。ずっと――そうよっ、ずっと一緒だからねっ! 言うなれば、《久遠》の誓いってやつよッ!!」

久「ふふっ、いいわね、それ。さ、て……用は済んだし、ぼちぼち行こうかしら。みんな、準備はできてる?」

洋榎「誰に言うとんねん。うちは年中無休で臨戦態勢やで!」

哩「心も身体も万全と」

白望「いい感じにダルい……」

憧「もちろん、私も完璧よ!!」

久「オーケー。それじゃあ出撃するとしますか……! 一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》――みんな、思いっきり暴れるわよッ!!」

憧・洋榎・哩・白望「おおおおおおおっ!!」

 ――――

 ――――

やえ「さて、今日の二回戦からシードとぶつかるわけだが」

誠子「………………」

優希「誠子先輩っ! 元気出すじょ!! 確かに、元《虎姫》でシードになれなかったのは誠子先輩だけだけど……長い人生そんなこともあるじょ!!」

ネリー「っていうか、シードになれなかったのは、主にやえのせいだよねー」

セーラ「ブロック予選決勝の先鋒戦、初っ端で小三元ドラ四の倍満に振り込んだときは、控え室でアホかー叫んだで」

やえ「それを言うなら、片岡は配牌の向聴数を感知できる能力者に手の良し悪しを見抜かれてあしらわれていたし、亦野なんかポン材を感知できる能力者に封殺されかけていたではないか。
 あと、何よりセーラ……お前、あいつは《三家立直で必ず和了る》という私の忠告を、なぜ聞かなかった」

セーラ「やって一年の最初に打ったときは普通に俺が和了れてたんやもーん」

やえ「莫迦者。あれは場に《塞王》がいたからだ。それ以外の能力者であいつを封殺できるやつは、私の知る限り、学園都市に一人もいない」

ネリー「みんなダメダメだねー。私はあんなにも優秀な成績だったというのに!」

優希「ネリちゃん、あのダマオンリーの小さい人に何度も何度も振り込んでたじょ」

ネリー「だ、だって、あの人すっごいテンパイ気配ないから! でも三割にしたら余裕で勝てたもーん!!」

誠子「ま、まあ……予選の決勝もそうですし、本選の一回戦も厳しい戦いでした。その分だけ、私たちは経験を積めたわけですから、有難いことですよ……あはは……」

優希「誠子先輩、目が全然笑ってないじょ!?」

やえ「ええい、過ぎたことは気にするなっ!! いいか、今日は二回戦だ!! 気を引き締めないと負けるぞっ!! シード云々を度外視しても、チーム《久遠》は半端なチームではない。
 《劫初》や《永代》ほどではないだろうが、総合力はあの《豊穣》と互角かそれ以上。目をつけられたらラスに落とされる可能性もある。各自、背水の陣で臨んでくれ。でないと……死人が出るぞッ!!」

ネリー「ふっふっふ。みんながあんまり不甲斐ないと、私が十割出さないといけなくなるからねー?」

セーラ「ネリーの十割か。そろそろ見てみたい気もするんやけどな」

誠子「に、二回戦レベルで十割は……かなりマズいです。去年の宮永先輩だって、準決勝までは、他の雀士に配慮して、力をセーブしていましたから」

優希「死屍累々になるじょー」

やえ「未来ある雀士を廃人にするわけにはいかない。セーラ、亦野、片岡、私たちの勝利はお前たち三人の稼ぎに掛かっているからな。誰が相手でも必ずプラスで帰ってこい! いいなっ!?」

セーラ「ま、俺はええけど……優希と誠子はどや?」

優希「東風戦でいいなら楽勝だじぇ!!」

誠子「私は……正直、自信はないです。《久遠》の三年生は全員上位ナンバーですから。けど――」

ネリー「せーこ?」

誠子「尭深と、約束したんです。必ず決勝に行こうって。そうすれば、間違いなく勝ち上がってくるだろう宮永先輩と弘世先輩と……また《虎姫》の四人で集まれる。だから、こんなところで、負けるわけにはいきません」

やえ「さすが、去年の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》を制した雀士だな。亦野、頼んだぞ」

誠子「任せてください。シードを食うくらいのつもりで打ちますよ。元一軍《レギュラー》として、《虎姫》の名に恥じない戦いをお見せしましょうッ!」ゴッ

やえ「気合は十分のようだな。よかろう。では……行くぞ。あと三回トップに立てば優勝だ。ぬかるなよ、お前たちッ!!」

ネリー・優希・誠子・セーラ「おおおおおおっ!!」

 ――――

 ――――

尭深「宥さん……やっぱりここ(温室)でしたか」

宥「あ、ごめん。ちょっと、試合の前に、温まりたくてっていうか、落ち着きたくて……」

尭深「緊張、していますか?」

宥「もちろんだよ。試合の前に緊張しなかったことなんて、一回もない。尭深ちゃんは……わりといつも通りだね。まあ、元一軍《レギュラー》で、去年は優勝してるんだもんね……すごいなぁ」

尭深「いえ、こんなの、強がっているだけです。内心はドキドキ。わかりにくいですが、手だって震えています。本選はこれが初戦ということもありますし……それ以上に、相手が相手ですからね」

宥「そうだね。玄ちゃん……まさか、こんなに早く戦うことになるとは思ってなかったよ」

尭深「玄ちゃんだけではありません。神代さんも、龍門渕さんも、私たちの学年では突出した力を持つ雀士です。
 なのに、公式の団体戦に出た回数が、一番多くても龍門渕さんの二回。もったいないと常々思っていました」

宥「尭深ちゃんたち二年生は、強い人いっぱいなのに、団体戦で目立つ人が少ないよね。
 灼ちゃんたちは風紀委員の活動がメインで、決まったチームを組まないし、玄ちゃんたちも、出たとしても個人戦」

尭深「私と誠子ちゃんと、姫子ちゃん、漫ちゃんと愛宕さん、それに船久保さんくらいですかね。団体戦の常連なのは。一年生の最初だけは、そんなことなかったんですけど」

宥「懐かしいなぁ……。あの頃――《虎姫》に誘われる前の、本当に最初の頃。尭深ちゃん、玄ちゃんと一緒のクラスで、よく一緒に遊んでたよね」

尭深「宥さんと出会ったのも、玄ちゃんを通してでしたよね」

宥「あれから一年以上経つのか……」

尭深「当時四人でも多いと言われていたレベル5が、今はなんと七人も」

宥「あ、そうそう。すごかったよね、尭深ちゃんと、玄ちゃんと、鶴田さんの超能力者トリオ。《レベル5》って言葉が学園都市に広まったのは、三人が入ってきてからだもんね」

尭深「それを言うなら、神代さんと天江さんは、超人じみた和了りを連発して《ランクS》って言葉を広めましたし、
 荒川さんは、当時一年生ながらに上級生を薙ぎ倒して宮永先輩に迫り、《ナンバー》という言葉を広めました」

宥「神代小蒔さん、天江衣さん、荒川憩さん。尭深ちゃんたちの学年の《三強》さん。すごいよねぇ。
 《4K》の集いって言って対局に誘われて、玄ちゃん、毎回ボロボロ泣いて帰ってきたっけなぁ……一回なんかもう全身の……うん、本当にひどい有様だったよ……」

尭深「まさに《悪鬼羅刹》でしたね。思えば、公式戦にあの《三強》が出揃うのは、あれ以降だと、これが初めてですか」

宥「そのうちの一人は、今は玄ちゃんと一緒のチームにいる」

尭深「そのうちの二人は、今は弘世先輩と一緒のチームにいます」

宥「そして……尭深ちゃんが、私のチームにいるんだよね」

尭深「宥さん……」

宥「尭深ちゃんには、感謝してるんだ。それこそ、尭深ちゃんが入学してきたばっかりの頃の話……」

宥「それまでの白糸台は、軍《クラス》重視っていうのかな、チームで競う団体戦の結果が全てって感じだった。
 でもね、尭深ちゃんたちが入ってきてから、《レベル》や《ランク》や《ナンバー》……強さにも色々な形があるって、気付くことができたんだ」

宥「あの頃の私は、今ほど勝ててなかったの。美穂子ちゃんたちみたいに、何人かは、私の力を認めてくれるお友達もいたけど……成績はずっと伸び悩んで、二軍《セカンドクラス》でも下のほうだった。
 けど、尭深ちゃんや玄ちゃんのおかげで、自分の能力《レベル》を誇れるようになった。それからは、上級生が相手でも、ちゃんと立ち向かっていくことができた……」

宥「今の私があるのは、尭深ちゃんのおかげなんだよ。尭深ちゃんが、私の中に、自信の種を植えてくれたの。それが実を結んで、三年生に上がる頃には、あの弘世さんとも、打ち合えるようになった」

宥「だから、この実り――今の私の力を、尭深ちゃんのために使うことができて、私……とっても幸せなんだ」

尭深「そ、それを言うなら……私だって……!」

宥「尭深ちゃん……?」

尭深「こ、こんなにも……誰かのために勝ちたいと思うのは、宥さんと一緒のチームだからこそなんです。《虎姫》とは違うチームのあり方。宥さんの暖かさが、私の力になるんです」

尭深「もう、宮永先輩や弘世先輩に頼る気持ちが残っていた《虎姫》のときの私はいません。私は、もっと頼ってもらいたいんです。私に力をくれる宥さんの力に、私はなりたいんです」

尭深「先輩相手にこんなことを思うのは……いけないことでしょうか?」

宥「そんなことはないよ。尭深ちゃんは、十分、頼りになる、私たちのリーダー。尭深ちゃんなら、弘世さんよりもカッコよくて、宮永さんよりも強い雀士になれる。私は……信じてる」

尭深「……ありがとうございます。震え、止まりました」

宥「そう? それは……残念。震えてるなら、暖めてあげたかったのに」

尭深「宥さん、それはそれ、これはこれです。震えていようといまいと、初めから、私はそのつもりでここに来ました……」ギュ

宥「ふふっ……尭深ちゃんは、二人きりだと、本当に甘えたがりだよねぇ」ギュ

尭深「宥さん……トーナメント、優勝しましょうね……」

宥「うん、もちろん。それで……優勝したら、あのときここでした話の続き……聞かせてね」

尭深「はい、絶対に……」

 ――――

 ――――

泉「おはよーございまーすっ!! って、豊音さん、早いですね」

豊音「ちょーわくわくして飛び起きちゃったんだよー。だって、今日はついにチーム《豊穣》と対決だよー! サインもらいたい人いっぱいだよー!」

泉「豊音さんは相変わらずですねぇ。他の三人はまだですか?」

豊音「あっちにいるよー」

泉「あれは……? えっ、あのグラサンの人は誰ですか?」

豊音「イズミ、知らないのっ!? 超音波《ソナー》の百鬼藍子さんだよー! 《自分の和了り牌が卓上のどこにあるか見通す》感知系の大能力者《レベル4》だよー!!」

泉「和了り牌が見えるって……またどえらい雀士がいたもんですね。それで、そんな人が、なんでランクSの小蒔さんと、レベル5の玄さんと、デジタル最強(自称)の透華さんと話しとるんですか?」

豊音「昔、公式戦で一回だけ同卓したことがあるんだってー」

泉「ごっつう恐ろしい卓ですね……」

豊音「私が転校してくる前の話だから、直接見たわけではないんだけどねー。
 四人が一年生で、まだ入学したばかりの頃だったんだって。クラス対抗戦の決勝――副将戦かな。チームリーダー対決だったらしいよー」

泉「へえ……? ほな、小蒔さんたち、最初は敵同士やったんですか」

豊音「そういうことになるねー」

泉「せやけど、ほんなら、なんで今は一緒におるんですかね。敵同士の、よりにもよってリーダー同士が三人も集まるなんて……わからんもんですねー」

豊音「ま、色々あったらしいよー」

泉「クラス対抗戦……うちやったら、憧と、あのけったいな《一年最強の大能力者》とかいうのと組んどった可能性もあったっちゅーことか。
 あれ? でも、なんで今年はやんなかったんですか、クラス対抗戦」

豊音「ま、色々あったらしいよー……」

泉「はあ……?」

 ――――

 ――――

憩「おろ、衣ちゃん。珍しいなー、一番乗りやなんて」

衣「ようやく衣の舌を満足させるだけの贄が出てくるかと思うと、居ても立ってもいられなくてな……!!」

憩「予選の決勝も、なんやかんやで調整にしかならへんかったからなー」

衣「過ぎたことはいい。今日は……けいのお気に入りと打てるのだろう?」

憩「花田さん率いる《煌星》な。あとは、ほら、覚えとるか? 一年のときのクラス対抗戦。小蒔ちゃん相手に頑張っとった超音波《ソナー》の百鬼さんも出てくる。
 ついでに、衣ちゃんお気に入りの《砲号》――池田さんもな」

衣「頑健な玩具の見本市か。どれが最後まで壊れずに残るか……思う存分楽しめそうだ!!」ゴッ

憩「こらこらー。今からそんな恐ーい顔しとると、対局まで持たへんでー」ナデナデ

衣「ふあっ!? この、や、やめろー!!」ジタバタ

憩「ふふ、可愛えな、衣ちゃん。ミニサイズにして持ち歩きたいわー」ナデナデ

衣「言わせておけば、けいッ! 今ここで決着をつけてもいいのだぞ!? 誰が学年最強の打ち手か、いい加減はっきりさせようではないか!!」ゴッ

憩「ええな、それ。ほな、ちょっと小蒔ちゃんに連絡して、一年数ヶ月ぶりの《三強》対決しよかー。もう一人はもちろん四人目のK――玄ちゃんでええよなー?」

衣「無論、あのドラ置き場は必須だ。衣たちの勝負にドラがあると、一瞬でケリがついてしまうからな」

憩「衣ちゃんと小蒔ちゃんの火力が高過ぎるんよー。ウチは全然フツーの範囲内やのに」

衣「どの口が言う……この《悪魔》めっ!!」

憩「《修羅》の衣ちゃんに言われたらおしまいやわー」

菫「……なにをじゃれ合っている、二人とも」

憩「あっ、菫さん。おはよーございますっ!!」

衣「けいっ、待て! 話はまだ終わってないぞ!!」

菫「あまり聞きたくはないが……何の話だ?」

憩「いえいえ、ただの昔話ですよ。一年以上も前の……ウチらが《悪鬼羅刹》なんて呼ばれていた頃の話ですわ」

菫「ああ……あったな、そんなことも。チーム《刹那》だったか。《悪魔》と《鬼神》と《修羅》――学園都市を恐怖のどん底に叩き落とした《悪鬼羅刹》の《三強》。
 当時、照の連覇を阻む最大の障害はお前たちになるだろうと、旧《虎姫》の副リーダーだった私は戦々恐々としていたものだ。
 結局、チーム《刹那》はその名の通り、あっという間に解散してしまったわけだが」

憩「せやけど、その《刹那》のうちの二人が、巡り巡って、今は菫さんの味方におります」

菫「ああ、もちろん、頼りにしている。ただ……」

衣「《刹那》のもう二人が……彼方にいるわけだな」

憩「せやね。あの《双頭の番犬》が牙を剥くわけや。ウチらを護っとってくれた《拒魔の狛犬》が、今は屠るべき敵チームで魔除けをしとる」

菫「彼女たちは、それほどに強いのか?」

憩「そらもちろん。同学年でウチらについてこれた数少ない雀士ですから。
 タイプ的にはガイトさんに近いんかな。オカルトもデジタルも関係あらへん。自分の枠を超えられへん雀士は、簡単に取って食われますわ」

衣「すみれとえいすりんは特に危ない。あの二人は鼻が利くからな。能力に頼った打ち方をしていると、痛い目を見ることになるぞ」

菫「ふむ……心しておこう」

智葉「おはよう」

菫「おう、智葉か。おはよう」

智葉「ん? どうした、三人とも、朝っぱらから辛気臭い顔をして」

衣「何をー!?」

憩「ガイトさんにだけは辛気臭いとか言われたくないですわー」

智葉「ああ?」ゴッ

菫「やめんか、三人とも」

衣「ふん。ところで、さとは、えいすりんはどうした?」

智葉「さあ……大方、またどこかで絵でも描いてるんじゃないか?」

エイスリン「オハヨー! ゴザマッ!!」

智葉「噂をすれば……」

菫「よし、これで全員集合だな。……っと、ウィッシュアート、その絵はなんだ?」

エイスリン「サッキ、ミカケタ! クロカミ、ビジン!!」バッ

菫「へえ……なるほど。確かに、整った顔立ちをしている」

憩(なああ!? 菫さんは黒髪がええんですか……!? そ、染めようかな……)

衣「しかし、この者、どこかで見たことがあるような……」

智葉「………………」

エイスリン「サトハ、ドーシタ!? インキクサイカオシヤガッテ!!」

智葉「誰が陰気臭い顔だ!? 私だって、眼鏡を取って髪を下ろせば、そこそこ見栄えする顔に――」

憩「まったまたー、ガイトさん。見栄えする顔っちゅーんは、菫さんやエイさんやこの絵の美少女みたいなことを言うんですよー? オモロい冗談はやめてください。腹筋ねじ切れますわー」

智葉「おい、荒川。ちょっと屋上の対局室行こうか。久しぶりにキレちまったぞ……!!」ゴッ

衣「おおっ、なら衣もっ!!」ゴゴッ

エイスリン「ワタシモッ!!」ゴゴゴッ

菫「お前たち、ホントそればっかりだな……」

 ――――

 ――――

華菜「巴さーんっ! おはよーございまーす!!」タッタッタッ

巴「おはよう、華菜」

華菜「すいません、遅くなって。待ちました?」

巴「ううん、私も今来たところだから」

華菜「……いよいよ二回戦、ですね」

巴「正直、一回戦を勝ち上がれただけで、私はかなり満足しちゃってるんだけど……。
 でも、一回戦で涙を飲んだチームや、予選を突破できなかったチームのことを考えると、手を抜くわけにはいかない。
 ハッちゃんたち《新約》や船久保さんたち《姫松》も反対側で頑張ってるし、何より、今回、私たちは伝統ある《新道寺》のメンバーとして大会に参加してる。頑張らなきゃだよね。
 華菜のほうは、どうなの?」

華菜「あたしはやる気満々ですよ! なんたって、一年越しのリベンジがかかってますからっ!」

巴「ああ、天江さんのこと。去年、福路さんファンクラブの人たちと一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》に参加して、予選の決勝で大変な目に遭ったんだっけ」

華菜「巴さん、そのことは忘れてください。去年のあたしは本調子じゃなかった!!」

巴「へ、へえ?」

華菜「今年のあたしは去年に比べて断然好調ですからね。たとえ《悪鬼羅刹》が相手でも張り合ってみせますよっ!」

巴「すごい自信……分けてほしいくらい。まあ、もちろん、華菜の強さは知っているつもりだけれど。
 でも、そんなに去年と今年で差があるの? 華菜は去年から十分強かったよね?」

華菜「全然違います。だって今年は、巴さんが一緒ですから!」

巴「えっ? 私?」

華菜「巴さんが傍にいてくれれば、それだけで恐いものなしです。運気百倍です!」

巴「私、霧島出身だけど無能力者だから、そういう特別な力は持ってないけど……?」

華菜「ところがどっこい、あるんです! 私にだけ効く能力なんですっ!!」

巴「ふふっ……華菜って、時々、変なこと言うよね。面白い」

華菜「じゃあ、行きましょうか、巴さん。江崎先輩たち、もう会場に着いてるかもしれません」ギュ

巴「えっ、ちょ、華菜?」

華菜「ダッシュです、巴さんっ!」ダッ

巴「わっ!? 華菜、は、走るの速いよーっ!!」

 ――――

 ――――

?「……あら、遅かったですね、百鬼さん。珍しいこともあるものです。何かトラブルでも?」

藍子「いやー、そういうんじゃないです。すいません。ちょっと懐かしい顔に会っちゃったもんだから、つい話しこんでしまって」

?「懐かしい顔っちゅうんは?」

藍子「一年の最初にあったクラス対抗戦の、決勝戦の面子です。ほら、隣のBブロックにいるじゃないですか、チーム《逢天》って」

?「」ブツブツブツブツ

藍子「そう、そこそこ。で、三回戦で会おうって、もー盛り上がっちゃって!」

?「……藍子、オーダー提出」

藍子「うわっと!? もうそんな時間でしたか。すいませんすいません。では、最後に全員でチェックしましょう。
 利仙さん、絃さん、いちごさん、もこも。今日のオーダーはこれでばっちりですか?」

利仙「特に問題はないかと」

絃「確認した」

いちご「誰と当たるんかのう」

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「ありがとーございます! じゃ、これで――」

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「なーに、もこ? あっはっは! あのね、そんな当たり前のこと、言われなくたってみーんなわかってるよ。うん。少なくとも私はダイジョーブ。
 皆さんのほうも、大丈夫ですよね? 本日のコンディションはばっちりですよね?」

利仙「ええ、なんの問題もありません」

絃「確認するまでもない」

いちご「誰と当たるかにもよるがの」

藍子「だってさ。安心した、もこ?」

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「それはよかった。じゃ……ま、もこも言ってますが、改めて気合入れましょっか。
 今日の二回戦……ちょっとばかし手強そうな相手ばっかですけど――勝つのは私たちチーム《夜行》ですっ!! 頑張りましょーっ!! おーっ!!」

利仙・絃・いちご「おーっ!!」

もこ「」ブツブツブツブツ

 ――――――

 ――――

 ――

 ――《煌星》控え室

淡「っと、ゆーわけで、私が先鋒でエースだからね!!」

桃子「超新星さんなら誰が相手でも大丈夫そうっすよね」

咲「ま、たとえ淡ちゃんがヘタこいても、真のエースの私がなんとかするから、みんな安心してね!」

友香「まっ、自分でエースを名乗るくらいなんだから、期待してるんでー!」

淡「任せてっ! 高校100年生の実力を見せ付けてくるよ……!!」

煌「淡さん……」

淡「キラメも、応援よろしくっ! じゃ、行ってくるね!!」

煌「えっ? しかし、まだ少し時間が――」

淡「早く打ちたくって気が急くの! それじゃっ!!」ダッダッダッ

煌(あ……淡さん……?)

 ――理事長室

恒子「始まったね~、二回戦」

健夜「ここで十六チームが八チームになるんだね。順当に行けば、そのうち四チームはシードなんだろうけど」

恒子「残り四チームは、どこになると思う?」

健夜「理事長として特定のチームに肩入れするわけにはいかないけど、個人的にはチーム《煌星》に頑張ってほしいと思ってるよ。
 《レベル6シフト計画》のためにも、花田さんには勝ち抜いてもらわないとだからね」

恒子「《煌星》か。あそこもかなり大変なブロックに入っちゃったからなぁ。どうなることやら」

健夜「うん。そうだ……ね――」フラッ

恒子「おっと!?」ガシッ

健夜「あ、ごめん……寝不足かな……」

恒子「大丈夫? なんか、最近立ちくらみとか、ぼーっとすること多くない? 年だから? アラフォーだから?」

健夜「アラサーだよ……。そんなことより、モニター。見て、各試合、先鋒戦の選手が対局室に入ってきた」

恒子「ベスト8を決める戦い。最初の賽が振られるまで、あと五分だね」

健夜「うん……」

恒子「生き残るのは誰になるのか」

健夜「先は長いよ。お茶でも飲みながら……焦らず騒がず見守ろう」

 ――Aブロック二回戦・対局室

淡「うっわー広っ! 天井高っ!」テクテク

淡(一回戦の部屋とはかなり違うんだね。ま、そりゃそうか。シードチームも出てくるわけだし)

    ゾクッ

淡(あ――



           な


                    に



     こ







                         れ…………?)

  ドクッ

淡(ちょ!? あれ……? 私、今、ここに何分突っ立ってた……!?)

      ドクッ

       ――どうした《超新星》……座らんのか?

                  ドクッ

淡「えっ、あ、ああ……すいません……」

     ドクッ

   ――どこか、具合でも悪いの?

                        ドクッ

淡「い、いえ! 全然っ!!」

                  ドクッ

         ――始まるぞ。

      ドクッ

淡「は――はいっ!!」

 ――キラメが! みんなが見てる!!

淡(も……もしかして、私――)

 ――勝たなきゃ……!!

淡(緊張してる……の!?)

『Aブロック二回戦先鋒戦、まもなく開始します』

淡(あわわわわわわわわわわ――!!!?)

 ――先鋒戦前半

菫「よろしくお願いします」

 東家:弘世菫(劫初・100000)

巴「よろしくお願いいたします」

 南家:狩宿巴(新道寺・100000)

絃「よろしく」

 北家:霜崎絃(夜行・100000)

淡「よ……よろしくねっ!!」

 西家:大星淡(煌星・100000)

『先鋒戦前半――開始ですッ!!』

ご覧いただきありがとうございます。

次回、『大星さんあわわわの巻』は、来週のどこかで更新します。

以下、運命のラダーです。

 ――――

○ブロック:《シード》、《チーム》×3(名前順)

Aブロック:《劫初》、《煌星》、《新道寺》、《夜行》

Bブロック:《豊穣》、《逢天》、*、*

Cブロック:《久遠》、《幻奏》、*、*

Dブロック:《永代》、《新約》、*、*

 東一局・親:菫

菫(ふむ……配牌が見事にバラバラ。これが大星淡の一つ目の能力――《絶対安全圏》か。天江と違って配牌後は普通に手が伸びるのは救いだが、決して楽ではない)タンッ

菫(狩宿と霜崎は、二軍《セカンドクラス》の三年同士。お互い見知った仲だ。ある程度打ち筋も把握している。ただ、こいつはそうではないからな)タンッ

淡「ポンッ!」タンッ

菫(大星淡――《宮永照の後継者》として理事長が海外からスカウトしてきた、五人目のランクS。果たしてどれほどのものか。本気の照と戦う前のいい予行演習になるだろう……しかし)タンッ

淡「ポン!!」タンッ

菫(予選の牌譜より軽い印象だな。速度を追求しているのか、それとも単に浮き足立っているだけなのか。まだなんとも言えないが、あまりがっかりさせてくれるなよ……)タンッ

淡(《絶対安全圏》はちゃんと機能してる。ツモも悪くない。支配力だってばっちり行き渡ってる。何の憂いもない……はずなんだけど!)

淡(なんでだろう、さっきから手の震えが収まらない。頭に靄がかかったみたいで、考えもまとまらない。鳴かないほうがよかったかな?
 わからない。いつもならもっとキュピーンって期待値計算できるのに……!)

淡(と、とにかく、一つ和了って落ち着こう。大丈夫、私はランクSでレベル4でマルチスキルなんだから、たとえ二軍《セカンドクラス》の三年が三人束になってかかってきたって……負けることはない!!)

淡「ロン、5200」パラララ

絃「……はい」チャ

淡(よし! 普通に和了れるじゃん。このまま押せ押せで行くよ……!)

菫:100000 巴:100000 淡:105200 絃:94800

 東二局・親:巴

絃(噂の転校生の一人……大星淡。まだ本調子ではないと見える。配牌六向聴は確かに面倒だが、最速なら六回ツモればテンパイ。取り立てて騒ぐほどの枷ではない。それが証拠に、七対子、テンパイ――)

絃(と、ツモったか。七対子ツモのみ、800・1600。普通ならば、さっきリーチを掛けていれば――などとぼやきつつも、手堅く和了るところだろう。
 巡目的にも、大星なら張っている可能性がある。安くても流しておくのが無難……)

絃(そう、本来なら、この東二局はここで終了。これより先の未来は存在しない。半分以上の山牌が未消化のまま次のゲームに移る。
 それが既定で規定の路線。もしこれがネット麻雀なら、私だってそうしていただろう)

絃(だが、生憎と、私の麻雀はツモってからが本番。私の能力は、終わるはずだった対局を強引に引き伸ばし、あるはずのなかった未来を描き出す。ここは当然の――和了り拒否)タンッ

絃(さあ……《強制延長》の時間だ)ゴゴゴゴゴゴゴ

 ――《煌星》控え室

桃子「和了り拒否!? さっきテンパったときにリーチしなかったから、まさかと思ってたっすけど、やっぱりあの人……!」

友香「過去の牌譜にも多々ある、不自然なツモ和了り拒否。高め狙いとも少し違う。淡の能力下でも迷いなくやってきたってことは、もうそういう能力だってことでいいんでー」

咲「霜崎絃さん……不自然なツモ和了り拒否をするときは、決まって、フリテンを解消し次第、誰かから直撃を取る。
 過去のデータを見ても、ツモ和了りは全体の10パーセント以下。極端な出和了り特化の雀士」

煌「ツモれば終わっていたはずの対局を無理矢理に続行し、その後の局面を優位に進めていく、と。
 なるほど。《強制延長》とはそういうことでしたか――」

 ――《夜行》控え室

藍子「はーい、《強制延長》入りましたー! エクストラゲームならぬボーナスゲーム! こっからは絃さんのやりたい放題ですよーっ!!」

いちご「テンパイ効率が良くてツモ和了りまでが速い絃じゃからこそ、使える能力じゃな。並みの打ち手が絃と同じことをしようもんなら、フリテンを回避しとる間に対局が終わってしまうけえの」

利仙「ツモ和了りまでが速いなら、普通にツモを連発すれば勝てるんじゃないですか……と本人に聞いたこともあるんですけれど。
 霜崎さん曰く、同格以上の雀士が相手では、それだと押し負けてしまうんだとか」

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「そうね。《強制延長》は、伸び悩んでた絃さんが苦労の末に手に入れた能力。
 その進化の真価は、ただ出和了りを取れるだけじゃない! 絃さん……ぶちかましてくださいっ!!」

 ――対局室

絃「ロン、6400」パラララ

菫「む……(これは――やれやれ、《強制延長》か。やられたな)」チャ

淡(っ!! ツモ和了り拒否からの張り替え出和了り……これ、キラメが要注意って言ってたやつだ。ってことは、この人はそういう能力者。気をつけないとっ!!)

巴(《強制延長》の霜崎さん……出和了りが多いのは、恐い反面、親だと親っ被りの心配をしなくていいからちょっと助かる、かも?)

菫:93600 巴:100000 淡:105200 絃:101200

 東三局・親:淡

淡(親、か)コロコロ

淡(やっちゃう? やっちゃおっか……? キラメからは能力解禁の許可が出てる。最終判断は現場の私。
 どうしようかな。先行きは不透明。できることなら、今のうちにこのもやもや感を払拭しておきたい。ダブリー……これで突き放せるなら、言うことなし――だよね?)

淡(いいよね、キラメ? 私、間違ってない……よね?)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫(このプレッシャー……仕掛けてくるか、ランクSの魔物)

絃(予選の決勝で見せたダブリー。これで、能力だったのかどうかわかる)

巴(うわっ、北家のハッちゃんばりの圧力! 間違いない。能力を使ってくる……!!)

淡「行っくよー、ダブリーッ!!」

菫・絃・巴(来たッ!!)ゾクッ

 ――《劫初》控え室

     淡『行っくよー、ダブリーッ!!』

智葉「確定か」

憩「どう、衣ちゃん? あの子の支配力。自分や小蒔ちゃんと比べて」

衣「こまきの降ろす神の、強いほうから三、四番手と同格といったところか。衣で言えば、半月時のそれをゆうに凌ぐ力を感じる。無論、もっと上がある可能性も否めないが」

エイスリン「エライ、コッテス!」

智葉「支配階級《ランク》もそうだが、大星淡――あいつは予選でゆみを下してここに来た。それだけでも十分評価に値する」

憩「ま、そこそこ強いんはわかってたことです。せやけど、あの子、今日はちょっと緊張しとるみたいやから、たぶん今のとこは菫さんの敵やないと思いますよー」

衣「む、すみれが射の構えに入ったぞ……!!」

エイスリン「スミレ、メダ、メヲネラエッ!」

憩「目には目を、歯には歯を、能力には能力をやね」

智葉「予選では決勝の一度だけ。本選では、当然これが初シャープシュート(通常)となるわけだが――」

 ――対局室

菫(霜崎の《強制延長》が発動していたところからすると、大星淡の支配下にあっても能力自体が《無効化》されるということはないらしい。ま、照でもそんなことはできないのだから、当然と言えば当然か)

菫(となれば、あとは能力の相性と駆け引きの勝負だ。大星淡のダブリー……そしてカン裏。荒川曰く、カンするまでは押せるだろうとのこと。いつカンしてくるのかはわからないが、こちらも手が整った)

淡(しまった……角の位置確認してなかった!? あんなに深い位置にあったとか、うかつー!!)

菫(先制リーチ者に射掛けてみるのは、そう言えば初めてか。普段の《シャープシュート》と要領は違うが、やるだけやってみよう……《照準》……!!)

淡(我ながらおバカ過ぎるよっ! どうしよう……みんなもたついてくれたらいいんだけど、もし途中で能力の干渉を受けたら……!!)

菫「……!!」ギロッ

淡「っ!!」ゾワッ

淡(や――ばっ! せめてあと数巡待ってほしかったよ。ぼちぼちカンしようって矢先に矢尻を向けられるなんてね……なんて言ってる場合じゃないっ! どうにか、支配力で無理矢理、力を逸らせて――)ゴゴゴッ

菫(ふん、悪足掻きを。既に狙いは定めた。あとは矢を放つだけ。この状態から私の矢をかわしてみせたのは、初見だと照や松実宥さん、それに智葉や荒川もだったか。
 しかし、今のお前に彼女たちと同じことができるか……!?)

淡(マズいマズいマズい! 弘世菫が着々と待ちを寄せてる感じがするっ!! せめて、せめて角が来れば……私の能力で弘世菫の能力を《無効化》できるかもなのに!!)

菫(大星淡のダブリーは脅威だと思っていたが、こうして追いついてしまえば、どうということはないな。
 《照準》でいずれ出てくる牌が見える私にしてみれば、こんなにやりやすい相手は他にいない)

淡(くっ……逸らせない、か――!!)ツモッ

菫(リーチさえかけていなければ、カンのいいこいつのことだ、私の矢をかわすこともできただろう。
 しかし、どうやら私の能力は、こいつの能力と相性がいいらしい。第二打からツモ切りを繰り返すお前は……私にとって格好の的だッ!!)

淡(通って!!)タンッ

菫「(通すかッ!!)ロン、8000ッ!」ゴッ

淡(痛ああああっ!? の、脳天ブチ抜かれた気分だよっ。これが生の《シャープシュート》。予想以上に精神的ダメージがあるんだけど……!?)

淡(確か、《シャープシュート》そのものは能力じゃなくて、《いずれ相手の手から溢れる牌を見抜く》感知系の大能力と、《待ちを片寄せると有効牌が入る》自牌干渉系の大能力を複合して狙い撃ちをしてるんだっけ)

淡(過去の牌譜だと、相手がテンパイした直後に、手出しの余剰牌を射貫くパターンが多かった。
 けど、《いずれ相手の手から溢れる牌》って、別に手出しとは限らないんだ。困った……角が来る前に狙われたら、避ける手段がない――!!)

菫(ふむ。先制リーチをされても、案外なんとかなるものだな。今まで私は、私のほうが先にテンパイできたときにばかり射ていたが……こんな使い方もあるのか。いい実験になった。礼を言うぞ、大星淡)

淡(げえーっ! なんかすっごいナメられてる気がする!! こんなの、今回はたまたま角が遠かっただけなんだからね。調子に乗らないでよねっ!!)ゴッ

菫(逆鱗に触れてしまったか? いいだろう。そんなにダブリーがしたいなら、いくらでも仕掛けてくるがいい。その五体が蜂の巣になるまで……何度でも射貫いてやるさ……!!)

菫:102600 巴:100000 淡:96200 絃:101200

 東四局・親:絃

淡「ダブリーッ!!」ゴッ

菫(懲りんやつだ。しかし、こちらもテンパイしないことには始まらない。連発されたら打ち合い……火力勝負か。
 こいつの支配力と能力の効果を考えれば、私一人では分が悪いかもしれん。だが――)

菫(大星淡、まだ緊張が解けてないのか? 随分と周りが見えていないようだな。お前を狙っているのは、私だけではないというのに。
 《シャープシューター》と呼ばれるこの私と、ほぼ同程度の直撃率を誇る、白糸台屈指の出和了り特化能力者――《強制延長》の霜崎絃。今親をしているのは、他ならぬ彼女だぞ……!!)

絃「」ゴゴゴゴゴゴゴ

淡(えっ、こ、今度はこっち!?)

絃(ツモ平和のみ、700オール。あの配牌から、我ながら大した速度だと思う)

絃(しかし、こんな細かい和了りをいくら繰り返したところで、この場、この面子、一発大きいのを喰らったらその時点でアウト。それではダメなんだ)

絃(大星淡のダブリー、弘世菫のシャープシュート。待ち受ける脅威は無数にある。ここで手牌を倒し、対局を終わらせれば、それらのリスクを無に帰すことができる。だが……!!)

絃(リスクが大きいからこそ、それに立ち向かったときのリターンもまた大きなものになる。
 恐怖から目を背けていては、その奥にある宝物もまた見えない。そのことを教えてくれた藍子のためにも、ここは――和了り拒否ッ!!)ゴッ

淡(こ、これが、霜崎絃――!!)

絃(さあ……付き合ってもらうぞ、ランクSの魔物。本来ならなかったはずの未来。眠っていた無限の危険性と可能性。その両方と――私は向き合うッ!!)

淡(《強制延長》……!!?)ゾクッ

 ――去年・個人戦

絃(ふう……なんとかオーラスまでトップを守れた。このまま、最終局も私がツモって終わらせる。親の連荘などさせない……)

 ――――

藍子「ツモ、4000オールッ! うっしゃ、まくったー!!」

絃(やられた……。くっ、今年はここまでか。参ったな。こいつのような力のある一年は、きっと他にもいるだろう。
 私は……今のままで、いつまで二軍《セカンドクラス》に残れるだろうか……)

藍子「いやぁー、危なかったぁ。じゃ、ありがとうございましたっ!」

絃「ああ……ありがとうございまし――」ハッ

絃(な、なんだ、こいつの、この手順……? 序盤で和了っているのに、それを拒否して高めを引いただと!?
 ラス親なら、安手でも和了っておけば連荘できる。なぜ素直にツモらなかった? 和了り拒否などして、他家に和了られたらどうするつもりだったんだ……!!)

絃「あ……あの、あなた」

藍子「えっ? あっ、どーも、百鬼藍子です! 一年です。今日はありがとうございましたっ!!」

絃「ああ、いや、こちらこそ……じゃなくて! あなた、どうしてこんな打ち方を? 序盤でどうしてツモ和了りしなかった?」

藍子「おろっ、気付いちゃいましたか!? えっと……ネタバラシすると、ただ能力を使っただけです。超音波《ソナー》――私、自分の和了り牌が卓上のどこにあるか見えるんです。
 あのまま行けば、いずれ高めをツモれることはわかっていました。和了り拒否は、私の超音波《ソナー》的に色々とメリットが多いんで、わりとよくやるんですよねー」

絃「し、しかし、いくら和了り牌の位置がわかっていたとしても、ツモ順をズラされたりしたら、手詰まりを起こすのではないか?
 というか、高めを待っている間に他家に和了られたら、その時点で負けではないか……?」

藍子「んんー、もちろん、そういうこともよくあります。けど、今回はどーしても、高めで和了って、一撃で勝負を決めたかった。
 安手で連荘もできますけど、次の局で和了れるとは限らないですし」

絃「それはそうだが……」

藍子「霜崎……先輩でしたっけ。先輩がトップだったっていうのも、和了り拒否した理由の一つです。
 先輩、門前派のデジタルみたいですけど、和了率高いし和了巡目もめちゃめちゃ速いですもんね。先輩みたいな強い人がいるんですもん、こっちも無茶しなきゃ勝てませんよ」

絃「無茶をしたからって、勝率が上がるとは限らないだろう。無難に次のチャンスを待ったほうが、期待値が高かったのではないか? 私だって、別にいつも和了れるわけではないのだし……」

藍子「まー、正直なとこ、私そんなに計算速いほうじゃないんで、細かいことはわっかんないっす! でもでもっ!!」

絃「でも……なんだ?」

藍子「序盤で和了っちゃうのって、なーんかもったいなくありません!? 山が半分以上残っているんですよ?
 深くまで踏み込めば、もっと素敵なお宝に出会えたかもしれない。もちろん崖から落ちるって危険性もあります。でも、そうじゃない可能性を私は信じたいっ!
 っていうか、ま、これ、和了り牌の在り処がわかるからなんですけどね。私の超音波《ソナー》なら、宝物がどこにあるか、はっきり見えるんです。
 《宝の地図》が手元にあるのに諦めるなんて……そんなのつまんないじゃないですかっ!!」

絃「つまらない……?」

藍子「はいっ! 私、麻雀って、宝探しだと思ってるんです。和了り牌っていうお宝が眠る山を駆け回る、トレジャーハンティング。
 毎回毎回、色んな冒険が楽しめる。今回のオーラスもわっくわっくしましたっ!
 ツモって山を崩してしまったら、もう二度と同じ冒険はできません。だからこそ、私は一回の対局を、目一杯遊び尽くしたいんです!!」

絃「だが、負けてしまえばなんにもならないだろう……?」

藍子「ちっちっちっ、先輩、わかっていませんね。トレジャーハンティングは、スカも楽しむのが通ってもんなんです。
 宝物が手に入らないことなんてしょっちゅう。せっかく苦労して手に入れた宝箱が空っぽだった!? みたいなこともあったり。
 けど、それはそれで、笑えるじゃないですか!!」

絃「笑えるって……あなた、無茶苦茶だな……」

藍子「そーですかぁ? 自分ではわりと普通だと思ってるんですけどね~」

絃「……名前、なんて言ったっけ」

藍子「百鬼藍子ですっ! お好きなように呼んでくださいっ!」

絃「じゃあ、藍子」

藍子「はいはいっ、藍子でーす!」

絃「藍子……負けた私がこんなことを言うのは図々しいと思うのだが、一つだけ、私の我儘を聞いてくれないか?」

藍子「なんなりとっ!!」

絃「あなたとの勝負を、《強制延長》させてほしい。この一回きりで終わりにしてしまうのは、なんだかつまらない気がするんだ。
 あなたさえよければ、またいつか、どこかで再戦しよう。私は二年の霜崎絃。次に会うときは、必ず私が勝つ」

藍子「絃さんですねっ! りょーかいでっす。また何度でも打ちましょー!!」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――――

絃(あれから……私は変わった。和了率は下がり、平均和了巡目も遅くなってしまった。けれど、打点がそれを補って余りあるほどに高くなったんだ)

絃(安手のツモでひたすら和了り続けていた頃は、得点力のある上位ナンバーに押し負けてばかりだった。
 それが、ツモ和了りを拒否して対局を《強制延長》することで、それなりに張り合えるようになった)

絃(私は、決して、藍子の言う宝探しを楽しんでいるわけではない。そもそも、私は和了り牌がどこにあるかなど、わからないしな。今だって、和了り拒否をするのは、死ぬほど恐い)

絃(けれど、その恐怖を超えた先に勝利があることを、藍子は教えてくれた。あいつには……感謝している)

絃(自分でも……不思議だ。ただツモが速いだけの非能力者だった私の奥底に、まさかこんな宝物――能力が眠っていたなんてな。
 藍子は、それを見抜いていたのかいないのか、私に私の可能性の存在を示してくれた)

絃(《強制延長》――ツモ和了りを拒否すると、フリテンを解消し次第、高確率で他家から直撃を取ることができる大能力……!
 しかも、必ず元のツモより高い点数で――ッ!!)

絃(宝物とはよく言ったものだ。本当に、麻雀は深い。たまらない……やみつきになる!!)タンッ

淡(うっ、また角まであと少しのところで!?)

絃(張り替え完了ッ! 覚悟しろ、ランクS。ツモ和了りを拒否した瞬間から、この場の全てが私の支配領域《テリトリー》。
 勇んで踏み込んだ者だけが手に入れられる宝物――和了り牌を、私に寄越せッ!!)

淡(こんな――ことって……!!)タンッ

絃「ロンッ! 12000!!」ゴッ

淡(また……!? ツモ和了り拒否から、張り替えで出和了りって!
 私の能力下で序盤にツモれるその和了速度だけでも半端ないのに、そこから的確に高い手にして直撃かましてくるとか――白糸台の三年って、こんな厄介なのばっかなわけっ!?)

淡(どうしよう……弘世菫も霜崎絃も出和了り特化の能力者。追いつかれたら、狙われるのはツモ切りしかできない私)

淡(もちろん、いつもいつも追いつかれるわけじゃないと思うし、私のダブリーだって打点は低くないんだけど……さすがに一対二はしんどい。このままじゃ削り殺される。ダブリーは一旦封印っ!)

淡(つ、次は普通に和了ってやるんだから……!!)

菫:102600 巴:100000 淡:83200 絃:114200

 ――《煌星》控え室

友香「淡が二連続振り込み……!? 《絶対安全圏》とダブリーのコンボがまったく効いてないんでー!!」

咲「効いてない、わけじゃないはずだよ。能力の相性もあるけど、それ以上に、あの人たち、普通に地力が高いんだと思う。
 お姉ちゃんと同学年の二軍《セカンドクラス》。さすがは白糸台高校麻雀部で二年間鍛えてきた人たち。超新参ことぽっと出の淡ちゃんとは場数が違う」

桃子「け、けど、超新星さんなら、なんとかしてくれるっす! ダブリーがダメなら、普通に打って和了ればいい。なんたって高校100年生っすよ?」

煌「普通に打って、ですか。しかし、あまり素直に手を進めるのは、いささか安易かもしれません。そういう相手を討ち取ることこそ、あの《シャープシューター》――弘世菫さんの十八番なのですから……」

     菫『ロン、3900は4200』

     淡『は、はい……』

咲「はあー!? さっきからポンコツにもほどがあるよー!!」

友香「全然場が見えてないんでー。いつもなら、もっと冷静に立ち回れるのに」

桃子「そんな……あの超新星さんが翻弄されてるっす……」

     菫『ロン、7700』

     巴『はい……』

友香「でっ! また《シャープシュート》!!」

桃子「超新星さんどうしちゃったっすかー!?」

咲「同じランクSとして恥ずかしい……」

煌「今は信じて見守りましょう。私たち《煌星》のエースが……このまま終わるわけがありません」

 南一局一本場・親:菫

淡「ツ、ツモ!! 3100・6100ッ!!」ゴッ

淡(見たことかっ! 別にダブリーじゃなくたって和了れるんだもん!! すぐに逆転してやるっ!!)

菫(ふん、本調子でなくともこの力強さ。やはり侮れんな、大星淡。引き続き、細心の注意と最大の警戒を払わなくては)

絃(さすがに大崩れはしてくれない、か。学園都市に来て三ヶ月で一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》の二回戦まで上り詰めてきた、化け物一年生。恐い恐い……)

巴(うー、私だけ焼き鳥。さっき弘世さんに射られちゃったしな。まあ、逃げてばかりじゃ勝てないのはわかっていたこと。取られたら取り返す。次からは、私も攻めなきゃ……!)

菫:108400 巴:89200 淡:91300 絃:111100

 ――《新道寺》控え室

華菜「巴さんっ! 頑張れだしっ!!」

友清「狩宿せんぱい……大丈夫とですかねー?」

仁美「なあに、心配は要らん。巴はあの薄墨の仕切る風紀委員会の副委員長と。こんくらいすぐに取り返すけん、黙って見ときんしゃい」

美子「狩宿さん、ある意味でド安定やけんね。データば見せてもらってびっくりしたと。半荘一回の平均獲得点数のほぼゼロで、分散も極端に小さか」

華菜「ぶ……? つ、つまりどういうことですか……?」

仁美「勝たんし負けん。毎局ほぼ原点で戻ってくる。
 そいけん、個人成績は決してよかとは言えんばってん、たとえ相手があの石戸霞や薄墨初美でも、巴はほとんど失点せん。団体戦でこれほど心強か味方はおらん」

美子「友清の学園都市に来る前……私らの二年ん頃やね。同じ地方出身のよしみで、霧島の巫女さんらとは、よう合同練習ばしとったとよ。
 で、私や仁美はもちろん、哩でも、狩宿さんば削ることはできんやった」

仁美「哩だけやなかと。能力アリの姫子でん、どーにもならんやった」

友清「えーっ!? 姫子せんぱいが……!? ありえんとですー!?」

美子「なんなら、牌譜ば見せてもよかよ」

仁美「私らも最初は信じられんやった。あの防御に定評のある石戸でさえ、強か能力ば使えば、削らるっこともあっ。
 しかし、巴はどんな力ば受けてもビクともせん。たとえ一時的に点棒ば減らしても、どこかで必ず取り返すと」

華菜「そ、そう言えば……あたしも巴さんを凹ませられたことは一回もなかったし!? 巴さん、あんまり振り込んでこないし、ツモで削ったりできても、いつの間にか原点に戻ってて……!!」

美子「狩宿さんは、その打ち筋から、薄墨さんの《悪石の巫女》ばもじって、《落石の巫女》なんて呼ばれとう。
 それだけ確かな実力のある人やけん、大丈夫。きっとこの場もなんとかしてくれると」

仁美「そいより、私らは私らの心配ばせんとな。この試合に勝てっか否か。私ら四人の稼ぎにかかっとるけん!」

友清「頑張るとですよーっ!」

華菜「任せろだしっ!!」

 南二局・親:巴

巴(さっきから三人とも大暴れ。それでいて華があるんだから、羨ましい。この感じ……ハッちゃんと、霞さんと、姫様と同卓したときみたい。あのときと今と……どっちのほうが大変かな)タンッ

巴(純粋な点数獲得能力で言えば、私より、江崎さんや華菜のほうがずっと上。
 なのに私がこの先鋒《エース》のポジションを任されたのには、ちゃんと理由がある。簡単に言えば、場慣れしてるから。というか、魔慣れしてるから、か)

巴(ハッちゃんは四喜和だし、霞さんは絶一門、姫様にいたっては神様の大盤振る舞い。とてもとても、無能力者の私が混ざって勝てるような相手じゃない)

巴(この場もそう。元一軍《レギュラー》の弘世さんに、今回のブロック予選ではMVPだった霜崎さん、それに噂の転校生。
 私の力じゃ、逆立ちしたってトップは無理。でも、だからこそ、私にできることがある……)

巴(どんなに強い人でも、能力の相性だったり、調子の良し悪しによっては、大負けする可能性がある。
 けれど、私はそうじゃない。どんな不測の事態が起こっても、私なら、半荘一回の失点をマイナス五千点以内に抑えることができる)

巴(もっとも、得点も大抵プラス五千点以内に収まっちゃうから、ポイントは常にゼロ以下。勝つとなると大仕事なんだけどね。
 でも、負けないだけなら、なんとかなる。小さい頃から姫様たちの相手をしてきたんだもの。これくらいの凹みは慣れっこ)

巴(大丈夫。どんなに勝ち目がなくたって、前に向かって進み続ける限り、神様はきっとチャンスをくれる。私はそれを知っている。
 だって、私はずっと、神様と麻雀を打ってきたんだから――!)

巴「ツモです、3900オール」パラララ

淡(わ、私の一人沈み……!?)

菫(さっきの射貫きがまったく応えていないとは。あの《悪石の巫女》こと薄墨初美を傍で支える、風紀委員会の副委員長。あの石戸や、神代小蒔とも縁がある霧島の巫女。これはこれで手強い……)

絃(狩宿巴……大勝ちしているところは見たことがない。が、大負けしているところも見たことがない。
 《落石の巫女》とはよく言ったものだ。これを正面から砕こうとすれば、文字通り骨が折れる。くたびれるだけになっては最悪だ。となると狙いは――)

巴「一本場です」コロコロ

菫:104500 巴:100900 淡:87400 絃:107200

 ――《劫初》控え室

エイスリン「トモエ、ツエーナ!!」

智葉「あいつを削るのは私でも神経を使う。実際、二年前のクラス対抗戦では、半荘二回で五、六千点しかマイナスにできなかった。削っても削っても、あいつはその分を、どこかで必ず取り返す。
 麻雀が四人でやる競技である以上、誰か一人を徹底的にマークすることは稀だ。あいつはその意識の間隙に割り込むのが異常に上手い。ちょっと気を逸らすと、さっきのように一瞬で立て直してくる」

     絃『ロン、2000は2300』パラララ

     淡『っ!?』

憩「それに比べて、超新星さんはさっきからガタガタやなー。これは後半戦に期待かなー?」

衣「貴様は誰目線で話しているのだ、けい」

智葉「さて、霜崎にまた少し離されたか。あいつはテンパイまでが速いからな。菫も射貫きにくいんだろうが……果たして、このまま逃げ切りを許すのか否か」

憩「チャンスがあれば狙っていくと思いますよ。菫さん、クールそうに見えて、結構意地っ張りやから」

智葉「結構だと? バカ言え。死ぬほど意地っ張りだよ、あいつは。でなきゃ、本気で宮永照を敵に回そうなどとは思わんはずだ。意地っ張りで負けず嫌い。学園都市で一、二を争うほどにな」

衣「むっ、あの中華服、またツモ和了りを拒否したぞ。だが、これは……面白い。やっと直接対決か!」

エイスリン「スミレ、ソコダ、ヤッチマエ!!」

智葉「白糸台でも屈指の出和了り特化能力者――《シャープシューター》と《強制延長》。能力値《レベル》も実力もほぼ互角。さて、どう転ぶかな」

憩「菫さんは負けませんよ。《虎姫》解散から今日まで、ウチら四人を相手に毎日必死で打ってきたんです。練習の密度も、優勝に懸ける想いも、今の菫さんに敵う人はおらん……!」

 ――対局室

菫(霜崎……手出しで出来面子を崩してきた。恐らくは《強制延長》に入ったのだろう。
 が、おかげでこちらも《照準》を定めることができた。ここからは、駆け引きも引っ掛けもない。正真正銘――殺し合いだ……ッ!!)ギロッ

絃(これは……ターゲットは私だろうか。《強制延長》で対局を引き伸ばしたことで、かえって弘世菫に時間を与えてしまったか?
 まあ、いい。私とあなたが同卓すれば、遅かれ早かれ撃ち合いになる。そんなことはわかっていた。
 私は逃げも隠れもしない。殺し合い……上等ッ!!)ゴッ

巴(な、流れ矢に注意ー!!)

淡(…………)

菫・絃(さあ、勝負――ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――《煌星》控え室

     菫『ロン、8000ッ!!』ゴッ

     絃『っ……! はい』

桃子「つ、強いっすね。さすが元一軍《レギュラー》……《虎姫》のリーダー、SSS(シャープシューター菫)さんっす」

友香「まさに貫禄勝ちでー」

咲「お姉ちゃんのお友達さん、目力だけで人を殺せそうな感じだよ。鬼気迫ってるよ……恐いよ……」ウルウル

煌「……しかし、安心しました」

咲「ほえっ? な、何がですか……?」

煌「弘世菫さん。目を見ていれば、あの方の意識が今どこにあるか、初対局でも、なんとなくわかります」

桃子「そうっすね。もし同卓することになったら、できるだけ早く《ステルスモード》に入って、あの視線から逃れたいっす」

煌「ええ。私も、あの人に目をつけられたら、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまうでしょう。しかし、そうではない人が、あそこに一人、座っています。
 睨まれても臆さず、睨まれなければ憤慨するような、負けず嫌いの高校100年生。ようやくお目覚めのようですね……!!」

咲「ああっ! 寝ボケた麻雀してると思ったら、本当に寝てやがったんですねっ!!」

友香「淡っ!! 今、笑って……!!」

桃子「超新星さん……もうっ! 一人でおかしくなって一人で立ち直るとか、本当になんなんっすかあの人はっ!!」

煌「あれほど力のある方々が、自分を除け者にして一騎打ちを始めたんです。そんな様を見せられて、黙っている淡さんではないでしょう」

 南四局・親:絃

淡(ったく……笑っちゃうよね、ホント笑うしかない。まーたキラメにカッコ悪いとこ見せちゃった。
 この私が蚊帳の外……? ボコスカやられて、しまいにはトップ争いを観戦させられるなんて――ありえないでしょ!!)

淡(わかったよ、わかったわかった。この人たちは強い。能力もいい感じだし、実力もある。経験も豊富で、積み重ねた努力が段違い。勝てない。勝てるわけないよ。
 たとえ私が、ランクSで、レベル4で、マルチスキルだったとしても……この人たちには敵わない)

淡(ははっ、私、何を勘違いしてたんだろう。『ランクSでレベル4でマルチスキルなんだから、たとえ二軍《セカンドクラス》の三年が三人束になってかかってきたって負けることはない』だっけ?
 そうじゃない……そうじゃないでしょ、私)

淡(私が強いのは、能力や支配力があるからだっけ? 違う……私は私だから強いんだ。どうしてそんな当たり前のことを忘れてたんだろう。
 私の本当の強さは……機械や理屈で推し量れるようなものじゃないはずだよっ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

菫(っと、大星淡……ここに来て立ち直ったか。そして、息を吹き返した途端に、この風の吹き回し。どういうことだ?
 真意は読めんが、とにかく、さっきよりは格段に楽になった……!)

絃(配牌がいい……だと? 《絶対安全圏》とやらを使うのを止めた? なぜ? まあ、関係ないか。ラス親、稼ぐだけ稼いでやる)

巴(これは……配牌いいけど、早々に店仕舞いしたほうがよさそうかな。
 易しいことは、優しいこととは違うんだよね。この配牌、一見容易く和了れそうだけど、その緩んだ心の隙を見逃してくれるほど、ランクSの魔物っていうのは優しくない。
 姫様と同じ《牌に愛された子》――白糸台に五人しかいないランクS。支配者は、いつだって厳然としてそこに在る。油断は禁物……)

 ――――

 ――――

淡「ロン……8000ッ!」パラララ

菫「――っ!(なんて基本に忠実な手作り……速さと高さを両立した、お手本のような打牌。
 ダブリーを得意技としながら、デジタルでここまでの闘牌を見せるのか。大星淡、後半戦も心して掛からねばなるまい)」

 一位:弘世菫・+4500(劫初・104500)

絃(トップが凹んだのは有難い。ただ、欲を言えばもっと点がほしいところ。幸い私のチームはスコアラーに恵まれているが、それは他も同じだ。
 特に、チーム《劫初》は危険過ぎる。弘世菫――ある意味で一般人の最高峰である彼女を相手に、できるだけ食い下がっておかないと……後々取り返しがつかなくなる……)

 二位:霜崎絃・+1500(夜行・101500)

巴(ひとまず、前半戦はちょこっとプラス。後半戦も現状維持したいけど、オーラスの大星さんの様子を見るに、それも厳しそう。今日のオーダーでは、華菜や江崎さんも、苦戦は必至。
 私にできること……できるだけ離されない。できることならちょっとでも貯金を作る。通常モードの姫様を見習って、全力以上で頑張りましょう)

 三位:狩宿巴・+900(新道寺・100900)

淡(ふう……調子、少しは戻ってきたのかな? それでも、簡単には勝たせてくれないと思うけど。
 まったく、《煌星》のエースがなんて情けない。これは冗談じゃなく、本気でサッキーにエース取られちゃうよ……)

 四位:大星淡・-6900(煌星・93100)

桃子(超新星さん、超新星さん)ユラッ

淡(うわっ!? モモコ! びっくりした。なに、急に?)コソッ

桃子(超新星さん、控え室に戻って来づらいだろうからって、きらめ先輩が私を伝令に出したっす)コソッ

淡(それで後ろから耳打ち? 闇討ちかと思ったよ)

桃子(冗談を言えるくらいには元気みたいっすね。よかったす。で、きらめ先輩から伝言。『そのままでいい』そうっす)

淡(あははっ、ラスに終わった私にそのままでいいとか、相変わらずキラメは優しいなー)

桃子(もちろん、オーラスの感じのままでいい、って意味っすよ。また序盤みたいなヘタれた闘牌したら、今度は本当に闇討ちに来るっす)

淡(任せてよ。キラメに伝えて。本気の私を見せてやるって……!!)

桃子(あと、嶺上さんから追伸があるっす。『私のためのハンデ付けご苦労様』)

淡(うがぁー! ぐーの音も出ないよーっ!!)

『先鋒戦後半、間もなく開始です。対局者は席についてください』

桃子(ま、そーゆーわけで、後半は期待してるっす)

淡(……うん。ありがとう、モモコ。きっとプラスで繋げてみせる。みんなにもよろしくね)

桃子(お願いっすよー)ユラッ

淡(さて、と。じゃあー、やろっか! 蹂躙しよっか! 滅茶苦茶にしよっか!! 私は私らしく、さ!!)

淡(ふっふっふ……《シャープシューター》に、《強制延長》、あとは《落石の巫女》だっけ。
 前半戦の私とは思わないことだね! スーパー天才美少女雀士――《超新星》こと私の麻雀は、ここからが始まりだよッ!!)ゴッ

 ――――

 ――Dブロック

『先鋒戦前半終了――!! Dブロックの暫定トップは当然このチーム……宮永照率いるチーム《永代》ッ!!』

照「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 一位:宮永照・+36900(永代・136900)

初美(相変わらず化け物ですねー。これで半分の力も出してないんだから参っちゃうですー。
 東一局で私の役満を親っ被りしてなお大トップ……やんなっちゃうですよー)

 二位:薄墨初美・+5400(新約・105400)

漫(不発やった……。まだ息をしてられるんは、薄墨さんが四喜和を捨ててまで宮永照の連荘を止めてくれたからや。ホンマ助かったで。
 せやけど、次も薄墨さんが宮永照の上家に座るとは限らん。自力でどーにかせなっ!)

 三位:上重漫・-17900(姫松・82100)

成香(素敵に死んじゃいそうです……!!)ガタガタ

 四位:本内成香・-24400(有珠山・75600)

 ――Cブロック

白望(まあ、こんなもんかな。《幻奏》の一年生には少し驚いたけど。ズラしても和了るんだもんなぁ。久から聞いてたのと違う……)

 一位:小瀬川白望・+15100(久遠・115100)

初瀬(うぅ……さすがに強い。けどっ、小瀬川先輩のチームの新子さん……中学の頃の地区大会では私とどっこいどっこいだったあの人が、今はこの小瀬川先輩たちと肩を並べてる。私だって頑張るんだ。これ以上離されてたまるか!)

 四位:岡橋初瀬・-23900(晩成・76100)

未春(残念、先鋒は小瀬川先輩だったか。福路先輩ファンクラブの副会長として、できれば竹井先輩と打ちたかったな。
 竹井先輩――いや、竹井久。福路先輩を泣かせたあの女だけは決して許さないんだから……っ!!)

 二位:吉留未春・+8200(風越・108200)

優希(プ……プラスはプラスでもこれは――)

 三位:片岡優希・+600(幻奏・100600)

優希(いや! ポジティブに考えるじょ。私の苦戦を見かねたやえお姉さんは、きっと最高級タコスを用意してくれているはずだじぇ。そうと決まれば、控え室にダッシュ!!)

誠子「あ、優希」

優希「誠子先輩っ! そっちから来てくれるとは! さあ、私に新しいタコスを……!!」

誠子「いや、私は伝令――というか忠告しに来たんだ。小走先輩も江口先輩も優希の不甲斐なさにカンカン……控え室に戻っても、タコスはない。むしろ、タコ殴りにされるぞ」

優希「そんなタコは嫌だじょー!!」

 ――Bブロック

玄(とりあえず、目標数値は達成。チーム的には、この状況で私がムキになる必要は全然ないんだけど、《一桁ナンバー》の壁には興味がある。んー、あっちの出方次第かな……)

 二位:松実玄・+11500(逢天・111500)

美幸(これぞ先鋒戦って感じの化け物卓なのよもー。私もそんなに弱いほうではないんだけど、ドラ抜きで《一桁ナンバー》はキツいって。もー、どうしよっかなこれー)

 四位:椿野美幸・-19300(劔谷・80700)

ソフィア(プラス収支の二人が互いに底を見せてないってのが、また恐ろしいな。うちのオーダーを考えれば、ここで私が凹むと二回戦突破は大分厳しくなる。なんとか後半で巻き返す……!)

 三位:新井ソフィア・-8900(越谷・91100)

美穂子(レベル5の旧第一位――《ドラゴンロード》、松実玄さん。見る限り、まだ余裕がありそうですね。なかなかどうして、本気で捻りたくなってきました。
 尭深さんの許可は下りてます。決勝で上埜さんと戦うまでと思っていましたが、この松実さんが相手なら、ちょうどいいかもしれませんね。肩を慣らす、否、目を慣らすにはもってこいです)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 一位:福路美穂子・+16700(豊穣・116700)

 ――Aブロック

淡(起親か。いいね、東一局でひっくり返してやるっ!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:大星淡(煌星・93100)

絃(空気が変わったか。先程までのこいつとは思わないほうがいいな)
西家:霜崎絃(夜行・101500)

巴(すごい支配力……前半の比じゃない)

 北家:狩宿巴(新道寺・100900)

菫(いよいよ本気が見られるのだろうか。ま、私のやることに変わりはない。全力で迎え撃つまでだ……!!)

 南家:弘世菫(劫初・104500)

『先鋒戦後半……開始ですッ!!』

ご覧いただきありがとうございます。

次回は、一週間以内に更新します。

以下、運命のラダーです。

 ――――

○ブロック:《シード》、《チーム》×3(名前順)

Aブロック:《劫初》、《煌星》、《新道寺》、《夜行》

Bブロック:《豊穣》、《逢天》、《劔谷》、《越谷》

Cブロック:《久遠》、《風越》、《幻奏》、《晩成》

Dブロック:《永代》、《有珠山》、《新約》、《姫松》

巴の能力はぶっちゃけ咲さんの下位互換・・・ってことなのかしら

おつおつ

A卓あわあわの代わりにワハハ(捨て牌バラバラ&理牌しない)が居たらどんな展開になったのかね
やっぱりワハ巴そっちのけで一騎討ちが可能性高い?

>>651さん

このSS内での狩宿さんは、本人が言っているように無能力者なので、能力者である咲さんとは互換性がありません。あくまで、原点キープになるように打ち回すのが得意、というだけです。

例えばですが、能力の発生しないネト麻を打たせても、狩宿さんはまあまあ原点キープな戦績を残すことができます。逆に、能力者である咲さんは、ネト麻だと意図的にプラマイゼロを達成することが不可能になります。

また、極端な話ですが、能力者である弘世さんが『全局狩宿さん狙い』にしてきたら、狩宿さんはそれなりに凹まされます。他方、咲さんなら、たとえ弘世さんに狙われ続けても、どうにかこうにかプラマイゼロを達成すると思われます。

>>652さん

捨て牌バラバラ……?

その四人だと、弘世さんと霜崎さんの二人が『より多く奪う』状態になると思います。その過程で一騎打ちになることもあるとは思われます。

 東一局・親:淡

淡「」ゴゴゴゴゴゴゴ

絃(ダブリーこそしてこないものの、連荘する気満々といった感じだな。配牌も元通り五向聴。ようやく本調子になったか。
 しかし、もしも、本調子になれば勝てるなどと考えているのなら……その思い上がりは正さねばなるまい)

絃「チー」タンッ

淡(む……?)タンッ

菫(珍しいな。霜崎は副露率の低い打ち手だったはずだが)タンッ

巴(嫌な予感がする)タンッ

絃「ロンだ、3900」パラララ

巴「はい……」チャ

淡(ちょー!? いきなりそんなセオリー外!!)

菫(あまりにもったいない和了り。大星の親を蹴るために速さだけを追求したか)

巴(霜崎さんは元々門前でも速い人。その上で鳴きを入れてきたってことは、よっぽど大星さんの親を警戒していたってことだよね。ザンクくらいで済んでよかった、のかな)

絃(ランクSの魔物は場をある程度コントロールできるらしいと聞いたことがある。あのまま普通に手を進めていたら、どうなっていたことやら……)

淡:93100 菫:104500 絃:105400 巴:97000

 東二局・親:菫

淡(び、びっくりだよ。あんな序盤で何を感じ取ったのか知らないけど、用心深いにも程がある。大きいのを狙ったのがマズかったかな? 改めて思う。この人たちは……強い)タンッ

淡(けど、強い相手って、いいよね。なんたって、相手が強ければ強いほど、そんな人たちにも勝つ私の天才っぷりが際立つんだもん……!)タンッ

淡(キラメ、心配しないで見ててね。私、今、楽しんでるよっ。苦戦なんて久しぶりだけど、こっち的には大歓迎。だって、これを乗り越えたとき、私はまた一つ強くなっているはずだから!)タンッ

淡(最終目標は優勝――弘世菫、霜崎絃、狩宿巴……あなたたちには、私たちが《頂点》に立つための踏み台になってもらうよ。
 踏み台というには若干高いけど、私は天才だから、これくらいがちょうどいいっ!!)

淡「ロン。5200」パラララ

絃「(っと、なんの気配もなく……?)はい」

菫(和了ったか。特に不自然さはないが、それが逆に恐い)

巴(暴れるわけでもなく、ブレるわけでもない。感情や状況に流されずに、冷静に取り返した。力の最大値はともかく、支配力の扱いに関しては、姫様たち《神憑き》と比べてもなんら遜色ない。
 これを独学で身に着けたの? それとも、天賦の才? いずれにしても、ものすごい《超新星》さんだわ、この子。《宮永照の後継者》って言われるのもわかる気がする)

淡(さあ……じゃんじゃん行くよっ!)ゴッ

淡:98300 菫:104500 絃:100200 巴:97000

 ――《劫初》控え室

     淡『ツモ、300・500!』

智葉「想像以上に落ち着いてるな。毎年、一年でもそこそこ強いやつっていうのが必ず一人くらいはいるもんだが、こいつは間違いなくその一人だろう」

憩「ちなみに、去年はウチやんなー」

衣「衣だっ!!」

     淡『ロン、5200!』

     絃『……はい』

エイスリン「マクラレタッ!?」

憩「鳴きの速攻一本で行くのかと思ったら、普通にダマで待ったりするんやねー。
 能力で相手の手を遅らせて、スピードを重視しつつ、チャンスが来れば踏み込んでくる。これを攻略するのは大変やでー」

衣「親に戻ったか。すみれ……そろそろ止めなければ付け上がるぞ」

智葉「あいつもそれはわかっているはずだがな。しかし、あの一年、なかなか隙らしい隙を見せない」

エイスリン「イコロセ、スミレ!!」

      淡『ツモ、1000オール!!』

憩「おーぅ、ええ感じやねー!」

 ――対局室

 南一局一本場・親:淡

淡「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:大星淡(煌星・107600)

菫(刻むようになったか。鳴きを入れても打点が下がらない天江よりはマシだが、この配牌でその速さについていくのは至難の技だな)

 南家:弘世菫(劫初・103200)

菫(オカルトとデジタルのバランス感覚が照に近い。えてして強い能力者はオカルトに頼りがちだが、こいつは違う。完全デジタルでも、そこらの二軍《セカンドクラス》を凌ぐ技量を備えている。
 そんなやつが最高の支配力と複数の大能力を持っているというんだから、まさに《超新星》に相応しい。照の後継者というのも納得だ)

菫(だが、智葉たち《一桁ナンバー》には及ばなくとも、私も上位ナンバーの端くれ。この白糸台で、数多の化け物・魔物としのぎを削ってきた。
 何より、私はあの宮永照と、二年間ずっと打ってきたのだ……!)

菫(この程度の逆境で膝をついていては、照に挑む資格もない。大星淡、お前は確かに強い。
 それでも、現段階では、明確に照より下だ。あいつとの対局に比べれば、こんなもの児戯に等しい。まだ楽しむ心が残っているくらいだぞ)

淡「チー!」

菫「(テンパイしたか。だが、こちらも追い付いたッ!)リーチ!!」

淡(え……先制リーチ? 《シャープシュート》は封印ってこと!?)

菫(私は大能力者《レベル4》だが、完全デジタルで打っても、それなりの結果を出せると自負している。
 出和了りに固執せず、牌効率を最適化すれば、たとえお前の能力下でも、数局に一回は先制することもできよう。あまりナメないでもらおうか……!!)

淡(さ、先に和了ればいいだけだもんねー!!)タンッ

菫(させるか――!)

菫「ツモ、2100・4000!!」

淡(親っ被り……! 三年生が得意技を放棄とか、プライドないわけ!? もー参っちゃうなっ! 形振り構わない実力者ほど厄介なものはないってのに……!!)

菫(さあ、次は私の親番だッ!!)ゴッ

淡:103600 菫:111400 絃:91400 巴:93600

 南二局・親:菫

淡(ここで引き離されるわけにはいかない。スピード勝負なら私が圧倒的に有利なことは変わらないんだから、このまま和了りまくって片をつけるっ!)

菫「ポン」タンッ

淡(役牌……? 特急券? だから何っ!!)

菫「チー!」タンッ

淡(二副露……いや、でも、こっちだって一向聴。ここはダマで打点を保ちつつ手広く待――)

菫「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(~~~っ!! 今の感じ、能力で手を進めたっぽい。私の余剰牌が狙われてる……?
 っていうか門前じゃなくても有効なんだその能力。うーん……前半も一回やられてるし、オッケー。だったら念には念を入れて――こっち!)タンッ

?「ロン――」

淡(は!? 待って、ちょ、誰が……!?)

菫(ここでお前が来るのか……狩宿ッ!!)

巴「断ヤオドラ二、5200です」パラララ

淡(な、なにこの巫女さんっ!? 全然気配を感じなかったっ!? そりゃ、意識の大半は弘世菫に向いてたけど、河は三人分ちゃんと見てたつもり。もしかして、モモコに近い感応系の能力?)

淡(……いや、違う。この人からはなんの力も感じない。ってことは、これはこの人なりの何かなんだ。
 うまく言えないけど、技術っていうか、習慣っていうか、個性っていうか。ちょ、ちょっと対策の仕方がわからないんだけど……!?)

菫(一瞬で肝が冷えたな……大星一人に気を取られ過ぎていた。一歩間違えば、私が振り込んでいたかもしれん。
 注意の目を向けることをやめた瞬間に、突如として降り注ぐ災厄……これが《落石の巫女》の本領か)

巴(二人とも熱くなってくれたおかげで、やっと割って入れた。できれば弘世さんから取りたかったし、もっと高い手のほうがよかったけど……点棒は点棒。大事にしなきゃ……!)

絃(狩宿が持ち直したか。相変わらず現状維持が病的に上手い。ま、あの悪名高い薄墨初美が傍に置くほどの雀士だからな。一方、こちらはトップの背中が遠い。次はラス親、どうしたものか……)

淡:98400 菫:111400 絃:91400 巴:98800

 ――《夜行》控え室

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「あー、いやいや、そりゃあの面子じゃ苦戦もするってー。でも、大丈夫。絃さんなら、きっとなんとかしてくれるっ!」

利仙「ここは打ち負けるのも覚悟で、ツモった場合は素直に和了宣言してもよいと思うのですが……どうでしょう。
 《強制延長》の発動条件は、《ツモ和了りを拒否》して《フリテンを回避する》――ですが、今の足の速い場では使いどころが難しい。
 火力を捨てるのは惜しいですが、和了りは和了り。あまり能力に拘り過ぎても益が少ないかと」

いちご「絃もそりゃあ承知の上じゃろ。それでも……あいつはたぶん、《強制延長》すると思う。絃は、まだプラスにすることを諦めとらん」

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「えっ、なに?」

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「あっ、ホントだっ!? 絃さんがツモったー!! これで――」

利仙「いや……待ってください。いつもと様子が違います。普段の霜崎さんなら、こんなところで悩みません」

いちご「絃……何をする気じゃ!?」

もこ「」ブツブツブツブツ

 ――対局室

 南三局・親:絃

絃(さて、後半戦で初めて、他家に先んじてツモれた。《強制延長》に入るチャンスが来たはいいものの……これは――)

 絃手牌:一一一二三四五六②②②北北 ツモ:七 ドラ:七

絃(1300オールか。三位をまくることすらできないが、ここで和了宣言して、連荘を狙うか? 否、次も同じように和了れる保証はどこにもない)

絃(そもそも連荘を許してくれる面子ではないのだ。東二局から大星淡が連続和了をしていたが、それは大星淡だからできたこと。
 そして、その大星でさえ、ラス親は一本場で弘世菫に止められた……)

絃(待ちに待ったこのチャンス……これを物にできなければ、プラス収支は絶望的。後に続くみんなのためにも、ここは一発決めておきたい。
 なら、ツモ和了りを拒否して、いつものように《強制延長》するか?)

 絃手牌:一一一二三四五六②②②北北 ツモ:七 ドラ:七

絃(和了り拒否して二、三萬を落とせば、経験上、恐らく次巡で北が入ってくる。ドラの七萬は私から四枚見えているから、出てくるとすれば四萬。
 三暗刻ドラ一……弘世菫への直撃ならトップに立てる。しかし……)

淡「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

絃(萬子は対面に危うい気がする……振り込みはなくとも、ポンで手を進ませてしまう可能性がある。
 そうなると、フリテン回避を終えた直後にツモられる、なんてことになるかもしれない)

絃(たった一巡……されど大きな一巡だ。遠回りというほど遠回りではないが、この場においては、その僅かな差が明暗を分ける。
 どうする……手牌を倒すか? プラス収支を諦めるか……?)

  ――諦めるなんて……そんなのつまんないじゃないですかっ!!

絃(……そうだな、藍子。ここで手牌を倒してしまったら、確かに面白くもなんともないよな。それで勝てるならまだしも、勝ちを諦めてなおかつ面白くないなど、最悪だ)

絃(ならば、いっそ楽しんでみるか。あなたの言う――《宝探し》というやつをっ!!)

絃(諦めることはいつでもできる。終わらせることはいつでもできる。
 だからこそ、可能性が消えないうちは足掻いてやろうじゃないか。
 いいだろう。この場の誰も知らない未来――宝の山の奥深くへと踏み込んでやるっ!
 楽しい楽しい《強制延長》の始まりだ……ッ!!)ゴッ

 ――《劫初》控え室

智葉「悩んだ末に……ツモ和了り拒否の、ドラ切りか」

 絃手牌:一一一二三四五六②②②北北 捨て:七 ドラ:七

憩「普通に二、三萬を落とすと思うとりましたわ。《強制延長》さん……なんや、違う道が見えたんかな?
 うまいこと《超新星》さんの魔の手から逃れよった感じやわー」

 淡手牌:二二四四五五五六六234[5] ドラ七

エイ「イーカン、イーシャン!!」

衣「中華服の意図はわからないが、《超新星》の表情を見る限り、あれの想定を超える打牌をしたことは確かなようだな。
 それはただの悪足掻きか、それとも、裂魔の一太刀となるか……」

 ――《煌星》控え室

友香「フリテン回避で二萬を落としてくれてれば、淡が鳴いてテンパイできてたんでー。なんでよりにもよってドラ切りなんか――」

咲「ッ!?」ガタッ

桃子「うわっ!? どうしたっすか、嶺上さん。急に立ち上がって。びっくりするじゃないっすか……」

煌「咲さんも気付きましたか。もし、霜崎さんの能力が《ツモ和了りを拒否》して《フリテンを回避する》と《誰かから直撃を取る》《しかも元のツモ和了りより高い点数で》という性質を持っていたとすると、これは――」

咲「あの人……!!」

桃子「ちょ、えっ、きらめ先輩? 嶺上さん?」

友香「あの……私たちにもわかるように説明してほしいんでー」

煌「今の霜崎さんの手は、役ナシです。そして、霜崎さんの《強制延長》による出和了りは、基本的にリーチに頼りません。
 となれば、次巡に北を引いて三暗刻に変化する――というのが、最も自然なパターンでしょう。
 しかし、霜崎さんは自らその変化を捨てました」

 淡手牌:二二四四五五五六六234[5] ドラ:七

 絃手牌:一一一二三四五六②②②北北 捨て:七 ドラ:七

桃子「あっ……そうっすね! 次巡で北が来ても、三暗刻で出和了りしようとする限り、どうやったってフリテンっす! 出和了りはできない!!」

友香「ってことは、あそこからもっと別の役に変化するんでー? 混一とか?」

煌「萬子の混一を狙うなら、どう考えても二筒から切るはずでしょう」

友香「なら、やっぱり北が入って三暗刻で……何かまったく別の牌で単騎待ち――?」

煌「それもないでしょうね。現状から単騎待ちにするには、最終的に二萬か六萬を落とす必要があります。どちらも淡さんが鳴ける牌。
 どの道そんな危険牌を切ることになるのなら、北の対子落としから一通を狙ってもよかったはずです。いずれにせよ、わざわざドラから落とす理由がありません」

桃子「じゃ、じゃあ、あのチャイナさんは一体何をどうやって出和了りするつもりっすか……?」

煌「恐らくですが、霜崎さんは出和了り――ロンをするつもりがありません」

友香「それこそ意味がわからないんでー!? だって、あの人の能力は《ツモ和了りを拒否して》《誰かから直撃を取る》なんですよね?
 ロンしないでどうやって直撃を取るっていうんですか……!?」

咲「取れるよ。ロンをしないでも、直撃は取れるんだよ」

桃子「な、なんの謎々っすか……!?」

煌「簡単です。ツモればいいんですよ。それならフリテンも関係ありません」

友香「い、いやいや! 確かに《フリテン回避》はできますけど、ツモじゃ直撃にならないんでー!!」

咲「友香ちゃん、それは違うよ。ちょっと考えればわかること。私、練習で何度もやったことあるもん……」

友香「え……? あっ、ああ――!!」

桃子「う、嘘……っすよね……?」

煌「お分かりになったようですね。すばらです。
 そう……あのやり方なら、あの手牌でも、《フリテン回避》をして《誰かから直撃を取る》ことが可能なのです。
 その場合の役は、三暗刻でも混一でも一通でもありません」

咲「ドラの七萬切りは、言わばその布石みたいなもの。それでもって……《元のツモ和了りより高い点数で》って効果もあるなら、一回じゃ終わらないはずだよ……」

     淡『……』タンッ

友香「あ、淡――! ダメッ、そこは……!!」

     絃『……カンッ!』

友香・桃子・咲「っ!!」ゾッ

 ――対局室

絃「……カンッ!」

淡(い……一萬大明槓!? 萬子の多面張っぽいところに怪しいドラ切りが来たから、たとえ《強制延長》でも一・四・七萬はフリテンで和了れないはずって思ったけど、これって――ちょ、そっか、大明槓って……まさかッ!!)ゾッ

絃(今更気付いても遅い……! これで《ツモ和了り拒否》と《フリテン回避》はクリア――《発動条件》は満たしたっ!!)ゴッ

巴(この感じ……霜崎さんの《強制延長》が最終段階に入ってる……?
 でも、おかしい。あれって《フリテン回避》のために一旦出来面子を崩すことが多いんじゃなかったっけ? だけど、河を見る限り――あっ、そうか!?)

菫(ドラの七萬切り。この時点で《ツモ和了り拒否》をしていたのだろう。
 そこから一萬で大明槓……手牌によっては、待ちを張り替えずとも、カンした瞬間に《フリテン回避》ができる。つまり、霜崎の狙いは――)

淡・巴・菫(大明槓の責任払いッ!!!)

絃(そう……そして、ドラが涸れた以上、一回だけでは終わらない! まだまだ続くぞ――《強制延長》ッ!!)

絃「もいっこ……カンだッ!!」ゴッ

淡・巴・菫(連槓――!!?)ゾワッ

 ――《煌星》控え室

友香「大明槓の責任払い狙いで二連槓って!? そんな、咲じゃあるまいしっ!!」

桃子「どうして……? 責任払いで直撃が取れるなら、普通に嶺上で四萬ツモって終わりでいいじゃないっすか!? なんであそこで槓材の二筒を引くっすか!!」

 絃手牌:二三四五六北北②②②/一一(一)一 嶺上ツモ:② ドラ:七・?

煌「《元のツモ和了りの点数より高くなる》からですよ」

友香「でー……?」

咲「一萬を大明槓して四萬を引いてきても、嶺上開花のみで2400にしかならない。
 同じように、この二筒の暗槓で嶺上開花したとしても、嶺上開花のみでは2900。どっちも元の1300オールより低い点数」

煌「あの手牌で大明槓からの責任払いを狙うと、手役は嶺上開花のみになります。その状態でどうやって1300オールを超えるかと言えば、カンドラを乗せるしかありませんよね」

咲「大明槓はカンドラが後めくりだから、一萬の大明槓で嶺上開花しても、その時点では、ドラは表ドラの七萬だけ。
 元の点数を超えるためにカンドラを乗せるしかないのなら、必然的に、連槓が起こる」

煌「っと……見てください。一萬大明槓での後めくりのドラと、二筒暗槓での即めくりのドラ――後者のほうで、見事にドラが乗りましたよ。あとは、嶺上から和了り牌を引くだけです」

咲「生きてる役牌がないから、嶺上で和了れなければ完全に役ナシになって、その後はどうやっても出和了りができない。
 《強制延長》が発動して直撃が保証されている以上、和了るとしたら、河底を除けば、この嶺上のタイミングしかない。
 すごいよ……効果範囲の広い能力を、敢えて自分から手を縛ることで、限定的に使ってる。
 今更淡ちゃんがバカ力を使って妨害しようとしても、能力的に《ここしかない》のなら、それはもう《ここしかない》んだ……」

 絃手牌:二三四五六北北/②②②②/一一(一)一 嶺上ツモ:? ドラ:七・①・北

友香「さっきツモったときと変わらない一・四・七萬待ち……七萬を切った以上はフリテンで、淡の出した一萬でロンすることは不可能だったはずなのに。
 大明槓をすることで、張り替えることもなく、和了り拒否した直後に責任払いで直撃を取るなんて……」

桃子「一・七萬は場に四枚見えてて、四萬は超新星さんの手に二枚とチャイナさんの手に一枚……残り一枚っす。
 古典確率論的に言えば、ここで最後の一枚を嶺上から引く確率なんて、ほとんど0のはずっす」

咲「だけど……能力論的には、そうじゃない。合同合宿で小走さんが講義してくれたこと――牌の《存在波》と、能力による《上書き》」

友香「『全ての牌は、表に返すまで、その牌が何であるのかが決定しない。
 伏せられた牌が何であるのかは、一般に波動関数として表現される。その波動関数を、能力論では牌の《存在波》と呼ぶ』……」

桃子「『特別な力が作用しない限り、牌の存在波は、忠実に古典確率論に従う』っす。けど――」

咲「私たちは、その牌の存在波に干渉する『特別な力』を持っている」

友香「人間なら誰しもが持っている自分だけの現実《パーソナルリアリティ》。
 その空間内において、私たちは複数の確率干渉の波動を発信する。それらは重なり合って、空間内に固有の干渉縞を形成。
 重ね合わさった意識の波動は、空間内の《特異点》において、高密度の《波束》となる。確率干渉力のエネルギーが閾値を超える特異点――そこが、私たちの支配領域《テリトリー》」

桃子「超新星さんもチャイナさんも嶺上さんもでー子さんも、それぞれのパーソナルリアリティ空間内で、それぞれの支配領域《テリトリー》を展開、未決定の牌を、その内側に取り込むっす」

咲「その支配領域《テリトリー》に含まれる牌の存在波に、自らの意識の《波束》を干渉させる。
 すると、意識の《波束》によって、古典確率論に縛られていた波動関数が、一定の論理に従って、歪曲するんだよね」

友香「そうして、私たちの意識は、牌の存在波に干渉し、そこに非古典確率論的な偏りを生み出すことができる……と」

桃子「で、そんな偏った存在波を持つ牌を表に返すと、一体何が起こるか――」

咲「意識の《波束》によって存在波を歪められた牌が何になるのか――それは、もはや古典確率論には従わない。
 私が嶺上牌をツモれば、それは私の有効牌になるし、友香ちゃんのリーチ直後のツモ牌だって、友香ちゃんの和了り牌になる。淡ちゃんが捲るカン裏表示牌も同じ」

友香「牌の存在波に偏りを生み出し、牌を表に返すと同時に、その波動関数を特定のポイントに収縮させる。それが、牌の《上書き》でー」

桃子「嶺上さんたちは、牌の《上書き》をすることによって、限りなく0の確率を、限りなく1に近付けることができるっす」

咲「霜崎さんの《強制延長》は、《ツモ和了り拒否》して《フリテン回避》をするのが《発動条件》。
 それさえ満たせば、《元のツモより高い点数で》《誰かから直撃を取る》ことができる。
 そういう結果になるように、霜崎さんは、能力を使って牌を《上書き》することができる……」

煌「その通りです。皆さん、すばらですよ」

桃子「チャイナさんの能力の《発動条件》は、超新星さんが大明槓された瞬間に、既に達成されてるっす……」

友香「その上……咲が言ったように、霜崎先輩が誰かから直撃を取るとしたら、もう《ここしかない》」

煌「私たちには、行く末を見守ることしかできません――」

      絃『ツモ……嶺上開花ドラ二――11600ッ!!』

 ――《夜行》控え室

藍子「絃さあああああああんっ! 最高でぇーすっ! そんな深ぁーいところにあるお宝をゲットするなんて!! 本家の私でもやったことないのにー!!」

利仙「責任払いで直撃を取るとは考えましたね。弱点であるフリテン回避のための張り替えも、嶺上開花でツモ和了るなら必要ありません。和了り拒否をしたその巡目から、直撃を狙えます」

いちご「王牌は山の深奥――支配領域《テリトリー》の《未開地帯》。そこから和了りをもぎ取るとは……信じられんのう。
 いくら場の全てが支配領域《テリトリー》になるタイプの能力っちゅうても、そうそうできることじゃないじゃろ」

藍子「ただでさえ支配が行き届きにくい王牌の中でも、嶺上牌は特に《上書き》しにくい領域ですからねぇ。まさに高嶺の花って感じで。
 というか、あそこを恒常的に支配領域《テリトリー》にしている自牌干渉系能力者なんて、学園都市に存在するんですか?」

利仙「私の知る限りはただの一人もいません。もし仮に存在したとしたら、それはたぶん、人間ではない何かでしょう。《未開地帯》の《最高峰》――あそこは特別な領域ですから。
 たとえ、今回のように状況を限定して支配領域《テリトリー》に取り込めたとしても、実際に《上書き》するのは非常に困難。実戦ともなればなおさらです。いやはや……驚きました」

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「えっ? もこ、ヤバいって何――」

      淡『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

藍子・利仙・いちご「ッ!?」ゾッ

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「そっかぁ……! だとしたら、ここが正念場だね。でも、なんとかなる……さっきは不発だったわけだしっ!!」

      淡『ダブリーッ!!』ゴッ

藍子「な、なんとか……! なんとかなーれーっ!!」

 ――対局室

 南三局一本場・親:絃

淡「ダブリーッ!!」ゴッ

 西家:大星淡(煌星・86800)

菫(三度目の正直か。玉数制限があるのかないのか……いずれにせよ、止めるッ!)

 北家:弘世菫(劫初・111400)

絃(トップの背中が見えた。直撃は元より、親っ被りも回避しなければ)

 東家:霜崎絃(夜行・103000)

巴(何かを降ろすでも纏うでもなく、個人でこれだけの力を出せるなんて……。しかも、もう後半戦のオーラス間近なのに。底無しなの、この子……?)

 南家:狩宿巴(新道寺・98800)

淡(私は《煌星》のエースだよッ! どんなに凹まされたって、最後には必ず勝ってやるんだから……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――《新道寺》控え室

華菜「な、なんかヤバいし! 全然伝わってこないけど、去年の天江並みにヤバい感じなのは……友清を見ればわかるしっ!! ってか大丈夫だし!?」

美子「吐き気……おさまったと?」サスサス

友清「な、なんとか……。いや、私のことなんかより、すぐ近くにいる狩宿せんぱいのほうがヤバかとです……!!」

仁美「やけん、巴の心配は要らんて、何度言うたらわかっとね。確かにあの一年はとんでもなか。想像ば超える超大型台風。暴風波浪注意報と。ばってん――」

華菜「あっ……全員の注意が大星淡に向いているっ! だからこそ!!」

友清「狩宿せんぱい的には、イケイケとですか……!?」

美子「そうやね。あん卓は今、超大型台風の来て、ドシャ降りの大雨模様と」

仁美「さーて、ここで問題と。大雨のときは何に注意したらよか?
 洪水? 浸水? いやいや、そいは不正解。本当の災厄は、足下やなく、頭上から降ってきよる」

美子「水かさは目に見えて増してくるばってん、ついつい、どう見ても動きそうになかもんは、見逃しがちと」

友清「そ、そっか……土砂崩れとですねーっ!?」

華菜「岩雪崩だしっ!!」

美子「あん卓の天気、大雨時々……大岩と!」

仁美「正解は――《落石》注意ッ!!」

     巴『ロン、2000は2300』

華菜「巴さああああああんっ!! 大っ好きだしーーーーー!!」

 ――《劫初》控え室

     巴『ロン、2000は2300』

     菫『……はい』

エイスリン「スミレ、フーリコーンダー!!」

憩「あーあーあー。これは今日の試合が終わったら、またキツーいお仕置きせなあきまへんなー」

衣「すみれのうつけ者め。灰燼にしてくれる」

智葉「そう言ってやるな。トップを譲ったわけじゃない。恐らく、振り込む前提で、わざと大星だけに集中して、狩宿を意識の外に追いやったのだろう。消極的差し込みってやつだな」

憩「にしても、《超新星》さん、最後まで不発でしたね。
 ま、逆に、不発で不調でこれだけ菫さんたちに張り合えるんやから、ホンマ大したもんやけど。たぶん、去年の衣ちゃんより強いんちゃう、あの子」

衣「烏滸事をッ!!」

智葉「潜在能力は評価しよう。だが、結果は結果。次に期待だな」

エイスリン「ツギガ、アレバ、イイケドナ!!」

憩「いち《煌星》ファンとして、あれがあの子の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》最後の和了りにならんことを祈るばかりですわー」

     淡『ツモ、3000・6000』

『先鋒戦終了! 制したのは安定した強さを見せた《シャープシューター》――弘世菫! しかし、大差がつくには至りませんでした!!』

憩「はー、終わった終わった。なんやかんやで点数真っ平らやんかー。菫さんにはもっと頑張ってもらわんと、後に続くウチらがしんどいでー」

智葉「心にもないことを言うな、荒川。いや、しかし……《悪魔》に心を期待するほうが間違っているか」

憩「もーガイトさんは顔だけやなく口も悪いんやからー」

智葉「ぶち殺すぞお前」

憩「理不尽ですーぅ!!」

衣「だが、さとはは事実を言ったまで。貴様に心がないのは本当のことではないか、けい」

エイスリン「ケイノ、ココロハ、ユクエフメイニ、ナッタ!!」

憩「エイさんまで……!? みんなウチのことをなんやと思っとるんですかー!!」

智葉「《悪魔》だろ」

衣「《悪魔》」

エイスリン「《アクマ》ッ!!」

憩「こ、こんな可愛らしい子に向かってなんてことを……!!」

智葉「違うと思うなら、菫にも聞いてみればいい」

 ガラッ

菫「ただいま戻ったぞ…………と、どうした?」

 一位:弘世菫・+6100(劫初・106100)

憩「おおっ! おかえりなさい、菫さんっ! いきなりやけど聞いてくださいっ!
 さっきからみんなしてウチのこと心のない《悪魔》や言うんで」

菫「その通りじゃないか」

憩「食い気味で即答されたー!?」

智葉「ほらな」

衣「どんまい、けい!」

エイスリン「ウケイレロ!!」

菫「えーっと……」

憩「いやーもーこれショックですわー悲しいですわーこうなったら憂さ晴らしに対戦相手をギタギタにしたろー」

智葉「勢い余ってトばすなよ。三回戦に臨む前に、私も一度くらいは試し斬りをしておきたい」

エイスリン「サトハ、コソ、トバスナヨ! ワタシモ、タメシガキ、シタイ!!」

衣「えいすりんこそ、ちゃんと衣まで回すのだぞ! 衣も有象無象を粉微塵にしたいっ!」

菫「……お前たちの対戦相手には心から同情するぞ……」

 ――――

 ――――

淡(なんとか三位に滑り込んだけど……結局ダブリーは一回も成功しなかった。
 後半戦はぼちぼち調子も戻ってきてた気がするのになぁ。それでもなお、思うようにいかない。
 これが一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》……ただ単純に、敵が手強い、か)

 三位:大星淡・-2200(煌星・97800)

桃子「ちわーっす」ユラッ

淡「うわ!? まーたモモコ!! びっくりさせないでよーっ!?」

桃子「普通に声かけただけっすよ。こっちはちゃんと目立つようにサンバ踊りながら歩いてたっす。下を向いてなければ気付けてたっす、たぶん」

淡「面目ない……」シュン

桃子「でも、きらめ先輩は褒めてたっすよ。超新星さん、最後まで冷静に戦い抜いた。結果は結果でしかないって」

淡「ぅぅぅぅ……」ウルウル

桃子「本当に……仕方のない人っすね。ほら、いいっすよ。胸なら貸してあげるっす。ついでに気配も消しとくっす。
 近くには誰もいないっすから、一人で枕を濡らすつもりで泣いたらいいっすよ」

淡「モモコー!! 気を抜くと惚れちゃいそうだよー!!」ガバッ

桃子「いいってことっす。代わりに、超新星さんのパワー、ちょっとだけ分けてもらうっすから」ギュ

淡「いくらでも使ってー!!」ギュー

桃子「……次鋒戦、《劫初》と《夜行》――どっちも一番強い人が出てくるっす」

淡「……そうだね」

桃子「私の力でどこまでやれるか、不安しかないっすよ」

淡「モモコ……」

桃子「超新星さん……私が負けたら、同じように慰めてくれるっすか?」

淡「それは断固拒否っ!!」

桃子「えええーっ!?」

淡「私の胸は敗北者に貸すほど安くないんだよっ! 借りたいなら、勝って帰ってこなきゃダメっ!! わかった!?」

桃子「……まったく、私の胸を水浸しにしておきながら、横暴ここに極まれりっす」

淡「なんとでも言ってよねーん!」

桃子「ま、いいっすよ、超新星さんはそれで。私は私なりに頑張るっす。
 それで負けたら、きらめ先輩が励ましてくれる。勝ったら、超新星さんが褒めてくれる。安心して対局に臨めるってもんっす」

淡「お願いね、モモコ!」

桃子「任せてください。必ず取り返してくるっすよ……!!」ゴッ

 ――《夜行》控え室

絃「まったく稼げなかった……」

 二位:霜崎絃・+0(夜行・100000)

藍子「全然っ! 二位なら問題なっしんぐでぇーすっ!! あとは私たちにお任せください」

絃「ありがとう、藍子。あなたには……助けられてばっかりだ」

藍子「いえいえ、それほどでもー!!」

利仙「……さて、そろそろ時間ですか」

いちご「利仙……相手はあの《悪魔》じゃ。無理はせんでええけえの」

利仙「ふふっ、佐々野さん。私の心配なんて、いつからそんなに偉くなられたんですか?」

いちご「こ、の……言ってんさいっ!」

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「あははっ、確かに! いちごさんの心配をしたことはあっても、利仙さんの心配をしたことはないかもっ!!」

いちご「わ、わりゃあらまで!?」

絃「実際、利仙は安定してるから、落ち着いて見ていられる。いちごも別に弱くないけれど、あなたの麻雀は心臓に悪い」

いちご「うううぅ……ボロ負けしたらみんなのせいじゃけえのっ!」

利仙「そうなっても大丈夫なように、私がいるのです。佐々野さんの分まで稼いできますよ。お任せください」

藍子「任せましたっ!」

いちご「わら負けたら承知せんからなーっ!!」

絃「普通に負けないと思うけどな。利仙なら」

もこ「」ブツブツブツブツ

利仙「ありがとうございます、皆さん。では、行って参ります――」ゴッ

 ――《新道寺》控え室

華菜「巴さーんっ! 大活躍でしたねー!!」

巴「うん、いや、ラスなんだけどね……」

 四位:狩宿巴・-3900(新道寺・96100)

仁美「あの面子ば相手に、半荘二回でトップと一万点差しかついとらん。さすがの《落石の巫女》と」

巴「喜んでいいのやら悪いのやら。ま、私なりに仕事はしたつもりです。あとは……皆さんに託します」

友清「任せっとですよーっ! いよいよ私の本気ば見せるときが来たとですーっ!!」

美子「友清、本当に、決して油断ばしたらいかん。相手はあの《悪魔》ぞ」

友清「大丈夫とですよー。強か強か言うても、レベル5の姫子せんぱいほどじゃなかとですよね?」

仁美「確かに能力アリの姫子ないよか勝負のできるばってん……そいでん、よか勝負止まりと。
 一年の最初に二人の戦ったとき、あん《悪魔》は、姫子の役満ば親っ被ってもトップば取っとった。それくらい強か」

友清「えーっ?」

華菜「ま、別に好きなように打ってくればいいし! 負けてもあたしが取り返すし!」

友清「やけん、私は負けんとですー!!」

仁美「まあ……変に弱気になるよりはよかか。
 そいたら、友清。あんたの大好きな姫子も、きっと私らの牌譜ばあとから見るやろ。笑われんよう、しっかり打ってきんしゃい!」

友清「姫子せんぱい……!! そいですね。江崎せんぱい、ナイスアドバイスとですっ! 俄然やる気になってきたとですよー!!」

美子「ほんに……友清は姫子のことばっかやなぁ」

巴「頑張ってね、友清さん」

友清「はいっ! そいたら……行ってくっとですーっ!」ゴッ

 ――対局室

憩「よろしくなー」

 北家:荒川憩(劫初・106100)

桃子「よろしくっす」

 東家:東横桃子(煌星・97800)

友清「よろしくとですっ!」

 西家:友清(新道寺・96100)

利仙「よろしくお願いいたします」

 南家:藤原利仙(夜行・100000)

『次鋒戦前半……開始です!!』

ご覧いただきありがとうございます。

次回は、一週間以内に更新します。

また、このSSとはまったく別口で、今夜これから、越谷女子の八木原景子さんのスレを立てるつもりでいます。

立てたらここにもURLを張ります。或いは、『景子』『咲SS』で検索していただければ引っかかるかと。このお話と違って非常に短いので、興味のある方がいらっしゃれば。

では、失礼します。

>>681

こちらです。

【咲SS】景子「折れた刃は錆びつかない」【越谷女子】

【咲SS】景子「折れた刃は錆びつかない」【越谷女子】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1399119462/)

 東一局・親:桃子

桃子(学園都市のナンバー2……《白衣の悪魔》。当面の最大警戒人物はこのナースさんっすね。
 きらめ先輩の話では、手を高める以外では決して裏目らない脅威のテンパイ効率を誇るとのこと……)タンッ

憩「♪」タンッ

桃子(それを可能にしているのが、通称《悪魔の目》だったっすか。嘘かホントか、相手の手牌だけでなく山牌すらシースルーっていう超チート性能の千里眼。
 加えて、あの《新約》のおっぱいさんすら足元にも及ばないらしいスパコン級の演算能力……)

桃子(スペックが人間離れし過ぎてて、どれくらいすごいのか想像もできないっす。
 きらめ先輩曰く、合宿のときの博士さんのパソコン――あのAIが、山牌と手牌をフルオープンの状態で打ち回してくる感じに近い……とかなんとか)

桃子(ただ、気をつけなくちゃいけないのは、機械と違って純粋に効率の良さだけを求める打ち筋じゃないってことっす。それが、《デジタルの神の化身》――おっぱいさんとの最大の違い)

桃子(この人は、おっぱいさんのように、何千局スパンの勝率を考慮して打ってるわけじゃない。
 その場、その局、その面子――デジタルだけでなく、リアルもオカルトも計算に織り込んで、最適な解を弾き出す……)

桃子(否、最低な解をはじき出す……だったっすよね。このナースさんが《悪魔》と揶揄される由縁。過去の牌譜を見ても、時々、背筋が凍るような打ち回しを見せることがあった)

桃子(速いだけじゃない。強いだけじゃない。すごいだけじゃない。速くて強くてすごいのは、むしろ同じチームの天使さんのほうっす。
 この人は……そんな天使さん以上の力を持つ大天使のはずなのに、《悪魔》へと成り果てた堕天使。
 天使なんかじゃないんだってことを、あくまで悪魔なんだってことを肝に銘じておかないと、点棒どころか心まで削り取られるっす……!!)

憩「おっ、ツモや。1000・2000」カチャカチャパラララ

桃子(門前のスピード勝負で上を行かれたっ!? 覚悟してたっすけど、こんなに差があるもんっすか。この速度がこの人の平常運転だとすると、かなりキツいっす。どうしたもんっすかね……)

友清(安かっ!? んー……細かく刻まるっと能力の使いどころの難しかですね。ひとまず、もう少し様子ば見るとですよーっ!)

利仙(和了るときまで理牌しないクセ――相変わらずですね。荒川さんは、他家が理牌をしている間に、卓上の牌という牌を観測して、無数の和了りルートを演算していると言われています……)

憩「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

利仙(かつて、古典力学が席巻した古代。世界は運動方程式で十全に記述できると信じられていた頃――)

利仙(もし、全ての原子の位置と運動量を観測し知ることができれば、運動方程式を用いて、過去、未来のあらゆる現象を、純粋な計算のみによって導き出すことができるのではないか――という問題提起がなされました)

利仙(そのような『観測力』と、観測結果を元に世界の過現未を把握できるほどの『演算力』を持った、極めて『知性』的な存在。
 それを、当時の人々は、畏怖を込めて『悪魔』と呼んだわけですね)

利仙(荒川さんは、麻雀において、古典力学におけるその悪魔と、ほとんど同様のことができます。
 卓上の全ての牌の位置と種類を見抜く驚異の『観測力』。
 そこから考えられる無数の道筋を、他家が理牌するほんの数十秒のうちに解析してしまう脅威の『演算力』。
 さらには、心理学や医学を応用して、こちらの心の動きすらも正確に読み取ってくるという、恐怖の『人心把握力』)

利仙(荒川さんの有する《悪魔の目》とは、つまり、これらの人智を超えた知性の総称です。
 この《悪魔の目》を駆使して、荒川さんは、おおよそ人のすることではない所業を、次々にやってのける)

利仙(それが、学園都市のナンバー2――《白衣の悪魔》という雀士)

利仙(まあ……理論的に言えば、伏せられた牌は未決定のはずなのですけどね。真偽のほどはわかりませんが、荒川さんの《悪魔の目》には、山牌の並びが『見える』といいます。
 世界中のどこを探しても、過去の歴史を紐解いても、はたまた未来に思いを馳せても、荒川さんと同値の人間は、決して存在し得ないそうだとか。彼女が《特例》と称される由縁ですね)

利仙(とは言え、あまり意識し過ぎてもいけません。荒川さんは《特例》であっても、あくまで《悪魔》な無能力者。古典確率論に縛られている以上、無限に和了り続けることは、物理的に不可能です)

利仙(そして、無能力者であるがゆえに、荒川さんはこちらの確率干渉を根本から断ち切る術を持たない。たとえ彼女が何をしようと、私の能力は常に有効ということです。
 なら、私は私のベストを尽くしましょう。恐らく、それがこの《悪魔》にとって、最も効果的な対策のはずです……)

利仙「さて、私の親番ですね」コロコロ

桃子:95800 利仙:99000 友清:95100 憩:110100

 ――《劫初》控え室

     憩『ロン、1300』

     友清『はっ――はい……』

菫「相変わらず目がモニターと繋がっているのかっていうくらい、見透かしたように和了るやつだ。感知系能力者も真っ青だろう」

智葉「一巡先が見える園城寺、様々なリアルの情報から他家の手牌を見通す福路や清水谷竜華、相手の手の高さを感じ取る天江、和了り牌がどこにあるかわかる百鬼……等々。
 その手の感知系能力や洞察技術を全て足し合わせたのが、あの《悪魔の目》だからな。その上、知覚した情報は決して忘れないという完全記憶能力まで持っていやがる。
 実際、そこらのモニターより格段に高性能だと思うぞ」

エイスリン「ケイ、オソロシイ、コ!!」

衣「ま、それでも衣には及ばないがなっ!」

     憩『ツモ、400・700』

菫「というか、実際どうなんだ。荒川とお前と神代――《三強》の中の序列というのは。
 一年の初めの頃は、よく松実さんの妹を誘って、《4K》の集いというのをしていたんだろう?」

衣「言わずもがな、トップ率一位は衣だっ!」

智葉「総合ポイントだとどうなる?」

衣「む……それだと、まあ、けいのほうが上だな。衣は月が欠けているとマイナスになったりするが、けいは常にプラスをキープする」

エイスリン「ナラ、オニハ、サイジャク?」

衣「極大誤解っ! それは違うぞ、えいすりん。衣もけいも、《三強》で一番畏るべき存在はこまきだと確信している。衣たち三人の中で最も稀代で偉大な打ち手――それがこまきだっ!」

菫「しかし、トップ率一位がお前で、総合ポイントトップが荒川なら、神代はお前たちにやや及ばないということにならないか?」

衣「無論、記録の上ではな。だが、それは、衣とけいが少々賢しいだけなのだ」

智葉「賢しい、とは?」

衣「衣とけいは……よくも悪くも人間離れした人間に過ぎない。衣は能力と支配力が比類なく、けいはそれ以外の才能が人智を超えている――言ってしまえば、それだけの人間なのだ。
 衣とけいはヒトの身で麻雀を打つ。ゆえに、記録という、ヒトの世界の尺度においては、こまきを上回る結果を残す。
 が……本当の意味でヒトの領域から外れる者――《神の領域に踏み込む者》は、あの宮永照という《頂点》を除けば、この学園都市で唯一、こまきだけだろう。
 嘘だと思うなら、こまきがトップを取ったときの牌譜を見せてやる。驚々愕々必至だぞ」

菫「正直あまり見たくはないな……。その、要点だけ聞かせてくれ。神代がトップのときは、何がどう驚愕なんだ?」

衣「なに、言葉にすれば簡単なこと。こまき……あやつは、衣とけい――《三強》と言われる雀士を二人同時に、さながら風の前の塵の如く、鎧袖一触、骨も灰も残さず一瞬でトばすことができる!!」

エイスリン「マサニ、《キシン》!!」

智葉「一度打ってみたいものだな」

菫「聞けば聞くほど松実さんの妹が不憫でならない……」

     憩『ツモ、1300オール』

衣「と……そう言えば、こまきの話で一つ、思い出したことがある」

智葉「ほう、次はどんな怪談話を聞かせてくれるんだ?」

衣「いや、こまきから聞いたというだけで、こまきの話ではない。別の雀士の話だ。
 なんでも、こまきが中等二年の頃に、いんたーみどるを目指して特訓がしたいからと、霧島に足しげく通ってきた一人の雀士がいたそうな。
 巫女修行になるからと、こまきや分家の者どもも、快く受け入れたらしい」

エイスリン「フンフム……?」

衣「かの者は、当時、麻雀を始めてまだ半年かそこらだったそうだ。
 だが、元々素質があったのか、霧島に通うようになってから瞬く間に腕を上げ、たった一ヶ月ほどで、こまきや分家の者どもと渡り合うほどに成長したという」

菫「霧島というと、先ほどの狩宿もそうだし、薄墨、それに石戸もそうだな。たった一ヶ月であいつらに追いついたというのだから、並みの打ち手ではあるまい。そいつは能力者か何かだったのか?」

衣「こまきと同じ属性を持つ雀士――即ち《神憑き》。強大な神通力の持ち主だと、こまきは手放しで賞賛していた。無論、こまきの最高状態には及ぶべくもないが」

智葉「その《神憑き》は神代と同郷なんだよな? 名はなんという?」

衣「なんだったか……えっとだな、後のいんたーみどるで見事に地区代表の座についたかの者は、勢いそのままに全国でも好成績を収め、その打ち筋から《花散る里の天女》と称されたらしい。
 ついた異名が――《百花仙》」

エイスリン「ヒャッカセン……!?」

智葉「ちなみにだが、今、荒川の対面に藤原利仙という雀士がいる。聞き覚えは?」

衣「そいつだっ!?」

智葉「だろうな。神代と同郷で、霧島の巫女以外の《神憑き》……十中八九、あの《最愛》の大能力者――藤原利仙のことだと思った」

菫「一応聞いておくが、荒川と神代の相性はどうなんだ?」

衣「若干ではあるが、けいは衣より、こまきに打ち負けることのほうが多い。
 けいは基本的に振り込まないから、高打点の出和了りを好む衣より、ツモを連発するこまきのほうが、けいを削りやすいのだ」

智葉「なら、藤原との相性も、決して良くはないだろうな」

エイスリン「ヒャッカセン、ツモ、オオイヨ!」

衣「なに、こまきならともかく、猪口才なそこらの《神憑き》程度にけいが遅れを取るわけが――」

      利仙『ツモ……3000・6000の一本付けです』

菫「やはりこの次鋒戦最大の障害はあいつか。元《一桁ナンバー》……ナンバー10――藤原利仙ッ!!」

 ――《煌星》控え室

煌「これが私のツモの分布、こちらが予選と一回戦での藤原利仙さんのツモの分布です」

友香「わっかりやすくど真ん中に寄ってるんでー」

淡「さっきの和了りも四五六の三色だったしね」

咲「筒子も多いよ」

煌「《筒子及び四五六牌が集まる》常時発動型の自牌干渉系能力――だと思われます。基本的にどういう手作りをしても断ヤオがつくというのが、わかりやすい特徴ですね」

淡「似たようなタイプの能力者だと、《豊穣》のあったかいお姉さんがそうだったっけ」

咲「赤い牌が寄る人だよね。ツモが偏ってる分だけ幅のある打ち方をしてたっていうか、あんまり弱点らしい弱点はなかったかな。かなり手強かった印象があるよ」

友香「しかも、藤原先輩は元《一桁ナンバー》――現ナンバー10。個人成績を比べるなら、松実先輩よりも強いことになる。崩すのは大変そうでー」

 ――対局室

 南一局・親:桃子

桃子(天女さん……《筒子及び四五六牌》にツモが偏っている常時発動型の大能力者《レベル4》。来る牌がわかっているなら、その分テンパイ効率がいい。速いわけっすよね)

 東家:東横桃子(煌星・91000)

利仙「」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 南家:藤原利仙(夜行・109600)

桃子(さらには、基本的にどう打っても断ヤオがつく上に、四五六の三色と赤ドラがデフォときてるっす。
 リーチをかけずとも、ハネツモは余裕。決して裏目らないナースさんと互角の速度と、高打点のツモを見事に両立してるっす)

桃子(真ん中が寄りやすいだけなら、狙い撃ちも比較的楽だったっすけど、この人は筒子に染まることもある。
 《豊穣》のマフラーさんが、萬子染めと見せかけた五六七三色とかを和了ってくるみたいに、なかなか的を絞らせてくれない。その辺りの上手さは、さすが元《一桁ナンバー》って感じっすね)

桃子(けど、天女さんのツモが偏ってるなら、私に流れてくる牌も、それ以外の牌に偏るはずっす。
 そこを計算に組み込めば、ぎりぎり追いつけない速さじゃない。実際、この局はいい感じに手が伸びた……!)

 桃子手牌:12346789二三四八八 ドラ:八

桃子(最初は二三四のタンピン三色でいけるかなって思ったっすけど、序盤で筒子を見切って正解だったっすね。索子が端っこからどんどん入ってきたっす。一通ドラドラ、ヤミで満貫)

桃子(天女さんは真ん中を寄せる。それはつまり、中盤を過ぎれば、真ん中が手から溢れてくるってことっす。
 四索と六索が早々に切られてるから、五索はきっと不要牌。ステルス関係なく、撃ち落してやるっすよ……!!)

利仙(《煌星》の《ステルスモモ》――東横桃子さん、でしたか。事前の分析を元に、その場その場に合わせた能力対策を講じてくる。自身の能力に頼ることなくこれだけの闘牌ができるとは。
 先鋒の《超新星》さんと比較してもなんら遜色ない技量。一年生の頃の私なら、手玉に取られていたかもしれません。それほどに確かな強さを持つ雀士。無論、一年生にしては、ですが)

利仙「カン」パラララ

桃子(五索を……暗槓ッ!? 和了り牌を握り潰された……!! っていうか、四・六索を早々に落としてるのに五索は抱えてたって、もしかして――)

利仙(っと、やはり嶺上牌を《上書き》するには、相当な集中力が必要ですね。
 荒川さんがいつどこで何をしてくるかわかりません。できればここで和了ってしまいたかったですが……仕方ないですね。通常のツモ牌を《上書き》するとしましょう)タンッ

友清(むきゃー! こっちはまだ二向聴とですよー!!)タンッ

 西家:友清(新道寺・88700)

憩(この巡目でその手……さすが《花散る里の天女》――《百花仙》の藤原利仙さん。こういう普通に強い人が一番苦手やわー)タンッ

 北家:荒川憩(劫初・110700)

桃子(は、張り替えなきゃっす……!!)タンッ

利仙「っと……ツモですね」パラララ

桃子(間に合わ――ってか、その手牌!? マジで冗談きついっすよ!!)

利仙「三色同刻三暗刻断ヤオ赤三ツモ、4000・8000です」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 利仙手牌:四四五五④⑤⑤[⑤][⑤]⑥/5[5]55 ツモ:五 ドラ:八・東

桃子(倍満親っ被り……勘弁してくれっすっ!!)

友清(ツモられるのは厄介とですねー……)

憩(五索も五筒も四枚きっちり揃えとる。真ん中を抱えることで、他家の手の広がりを制限する。これも藤原さんの強みやんなー)

利仙(さて、可能なら、次のラス親で、もう一回くらい大きいのをツモっておきたいところ。しかし、楽はさせてくれないでしょうね……)

憩(しゃあー、全力で邪魔したるでーぇ!!)

桃子:83000 利仙:125600 友清:84700 憩:106700

 ――《夜行》控え室

藍子「もーれつーぅ!! 利仙さんサイコーですっ!!」

いちご「あの巡目で他家の捨て牌に頼らず三色同刻を和了れる雀士は、学園都市にもそうおらんじゃろうな。さすが利仙じゃあ」

絃「《煌星》の一年が一通を張ったときはひやりとしたがな」

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「まっ、そりゃそーね。あの荒川さんがこのまま終わるわけない。それは私らも利仙さんもわかってる。それが証拠に、今局はちょっと利仙さんでもヤバいかも……!」

 利仙手牌:三四[五]六六④④[⑤]⑥⑥566 ツモ:4 ドラ:3

絃「断ヤオ一盃口赤二テンパイ……だが」

 憩手牌:五六七3336888西西西 ドラ:3

いちご「高め三暗刻西ドラ三……向こうも向こうでえらいの張っちょるのう」

藍子「利仙さんが迷ってる。自然に打つと危ないってことは気付いてるんだ。となると、ここは雀頭の六萬を落として様子見かな」

 利仙手牌:三四[五]六④④[⑤]⑥⑥4566 捨て:六 ドラ:3

絃「対して、《悪魔》はどう動くか――」

      憩『チーッ!』

いちご「喰い替えじゃと? 三暗刻を確定させたかったんじゃろか。しかし、それにしては……」

 憩手牌:六333888西西西/(六)五七 捨て:6 ドラ:3

藍子「あっ……利仙さんの手が――!?」

 利仙手牌:三四[五]六④④[⑤]⑥⑥4566 ツモ:⑤ ドラ:3

いちご「これは……六萬が切れん!! さっきの鳴き……利仙の雀頭落としに狙いを定めたんか!?」

絃「いや……恐らく、それだけではないだろう。六萬を狙われても、三萬を切れば三・六索待ちでテンパイできる。
 だが、六索は河に二枚と利仙の手に二枚、ドラの三索は荒川の手に三枚と東横の手に一枚。言ってしまえば純カラも同然。三・六索待ちになる三萬切りでは、まず和了れない。その次点で利仙は詰みだ」

藍子「なら、ここはフリテン承知で、ツモ狙いの六索切り? というか、そういう風に利仙さんの手を限定するのが真の狙い……?
 あっ、利仙さんが六索を切った。振り込みは回避できたけど、見えてない三萬は残り一枚しか――ってぇー! 言ってるそばから下家が三萬ツモ切りっ!? これはひどいっ!!」

絃「ここまで見えていたというのか?」

いちご「本当に悪魔のようじゃの……!!」

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「えっ? どういうこと、もこ。まだ終わりじゃないって――」

 憩手牌:六333888西西西/(六)五七 ツモ:9 ドラ:3

      憩『♪』タンッ

いちご「六萬切りじゃと!?」

 憩手牌:3338889西西西/(六)五七 捨て:六 ドラ:3

絃「わざわざ三暗刻確定を崩してまで……何が狙いだ、荒川憩……」

藍子「うおおっ……ごちゃごちゃやってる間に《煌星》の一年生がテンパイした!?」

 桃子手牌:一二七八九11123①②③ ドラ:3

絃「っ――! そ、そういうことか!?」

いちご「ちょ、マズい、利仙がっ……!!」

 利仙手牌:三四[五]六④④⑤[⑤]⑥⑥456 ツモ:7 ドラ:3

 憩手牌:3338889西西西/(六)五七 ドラ:3

 桃子手牌:一二七八九11123①②③ ドラ:3

藍子「和了り目が消えた直後に、張り替えるには絶好の七索を引いた!? 荒川さんへの振り込み回避ができて、高め三色ハネ満となれば、当然切るのは……!!」

いちご「いかん、利仙……!! それが《悪魔》の――」

      桃子『ロ、ロンっす……12000』

      利仙『っ!?』

絃「計算通り、か。待ちを切り替えて利仙の手牌を縛り、最後には他家を利用して削らせる。
 利仙も違和感は覚えていたはずだが、三萬は直前に《新道寺》の一年が出している。避けろというほうが酷だろう。
 荒川憩……本当にどこまで見えているんだ、あいつの《悪魔の目》には」

藍子「『どこまでも』――荒川さん、前にそう言ってましたよ。『冗談やけど』って笑ってましたけどね。この局……利仙さんはベタオリのほうがよかったかもしれません」

いちご「ラス親でベタオリ? それこそありえんじゃろう」

藍子「そういう人間の心理も全て計算尽くで打ち回してくるんです、あの人は。
 ただ、荒川さんのことだから、たとえ利仙さんがベタオリで振り込みを回避しても、次巡くらいであっさりツモるような気もしますけど」

絃「どう進んでもバッドエンドか。まさに悪魔のシナリオだな」

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「そう……甘く見ていたわけじゃない。けど、利仙さんならっ! 基本的に振り込まない荒川さんが相手でも、ツモで削り落とすことができる……分の悪い勝負じゃない。そう思ってたんだけどね――ッ!!」

     憩『ロン、7700』

     利仙『……はい』

いちご「そんな、あの利仙が直撃……っ!? っちゅうか、まくられたっ!?」

絃「これで荒川がトップ奪還でラス親。当然、和了っても続行を選ぶだろう。元《一桁ナンバー》の利仙をも玩弄する《悪魔》を、一体誰がどうやって止めるというのだ……」

 ――対局室

 南四局・親:憩

友清(とかなんとか……言われとっとやなかとですかー? ところがどっこいっ! この卓にはまだ私がおるとですよーっ!! この《避雷針》の友清がっ!!)タンッ

 北家:友清(新道寺・84700)

友清(私の能力のうまく嵌れば……この点差でんブチ抜けっとですよー。
 ナンバー2の《悪魔》さんでも、能力によるツモの偏りまではどーしよーもなか。そいはこの《百花仙》さんの証明してくれたとです。そいない……私にもワンチャンあっ!!)タンッ

友清(さあ……やってやっとですよー! 姫子せんぱいに太鼓判ばもらった私の大能力――ついに公式戦初お披露目とですっ!!)

憩「ツモ、1000オール♪」カチャカチャパラララ

友清(つ、次こそは……っ!!)

桃子:95000 利仙:104900 友清:83700 憩:116400

 ――《新道寺》控え室

華菜「友清のやつ……大丈夫だし?」

仁美「身内贔屓で見てもダメやろね」

美子「荒川さん、友清の能力ば知ってか知らずか、この半荘はずっと安和了りばっかやけん」

巴「どうだろう……安く早く仕上げてるのは、門前でも速度のある藤原さんと東横さんを警戒しているんだと思うけど」

華菜「じゃ、じゃあ……場合によっては一発逆転もあるってことですかね?」

     憩『ツモ、700は800オール♪』

仁美「池田……こいは私らでどげんかせんといかんっぽかね」

華菜「が、頑張るしっ!!」

美子「友清……完全に空回っとう」

巴「んー、今回は友清さんにとって、ちょっと苦しい面子かも。相性的には弘世さん辺りならばっちりだったんだろうけど……。
 となると、荒川さんを止められそうなのは、本命が利仙さん、次点があの子ってことになるのかな。ハッちゃんが『ちょっと面倒』って言ってた……《煌星》の消える一年生――」

 ――《煌星》控え室

     憩『ツモ、1000は1200オール♪』

友香「《ステルスモモ》の独壇場はまだでー!?」

淡「相手はナンバー2とナンバー10……この半荘のうちに消えられればもうけもんかな」

咲「《新道寺》の一年生には効いてるっぽいんだけどね。さっきから荒川さんが桃子ちゃんがテンパイするより早く和了っちゃうんだもんなぁ」

煌「面白いように手が進むとは、荒川さんのためにあるような言葉ですね」

淡「まずはあの早和了りをどーにかしないと、ってことだよね」

咲「私ならカンで手を進めることができるけど……」

友香「いや、それでも桃子なら……! 淡の《絶対安全圏》を正面から突破できる桃子の最高速なら――《悪魔》にも対抗できるはずでーっ!!」

煌「そうですね。これは、やはり早く《ステルスモード》に入ってもらうしか……」

咲「えっ、でも、《ステルス》は感応系の能力だから、発動しても別に速度が上がるわけじゃないですよね?」

淡「まったまたー。サッキーは本当に嶺上牌しか見てないんだから。練習でモモコが何度ステルス無双してたことか!」

友香「桃子が淡の《絶対安全圏》を破るとき――それは必ず《ステルスモード》に入ってからなんでー!!」

咲「言われてみれば……!? いつも淡ちゃんザマアとしか思ってなかったよっ!!」

淡「ねえ、キラメ。私とサッキーが仲良くなれる日ってもう一生来ないんじゃないかな?」

煌「いえいえ、お二人は十分仲良しですよ。と、閑話休題。
 そうです……桃子さんは完全デジタルでも十分な速度を発揮しますが、《ステルスモード》に入ると、それがさらに加速します。最大の理由は、振り込みを度外視して手を進められるからですね。
 また、《新約》の原村さんと同じように、桃子さんも集中の度合いに段階があります。原村さんの場合は、《のどっち》モードが最高状態。そして、桃子さんの場合は、《ステルスモード》がそうなのです」

友香「いつも一人でいたから、誰からも意識されない《ステルスモード》のときが一番リラックスできる、とかなんとか」

淡「消える上に速くなるとか……それを喰らうこっちはたまったもんじゃないよねっ!!」

     憩『ロン、3900は4800』

     桃子『……はい』

咲「うっ……まだ消えられてない!? 桃子ちゃん……頑張ってっ!!」

煌「大丈夫、桃子さんは落ち着いていますよ。今も、振り込んだとは言え、高めは回避しました。一時ほど点数も凹んでいません。まだ逆転のチャンスは十分にあります」

     憩『ほな、四本場~♪』

 ――対局室

桃子(ちゃー……まだ見えてたっすか。しぶといっすね。他の二人には効いてるのに、このナースさんだけがしつこく私を見てる。視線を感じるっす……否――!)タンッ

 南家:東横桃子(煌星・88200)

憩「?」

 東家:荒川憩(劫初・127200)

桃子(ようやく私のことを意識から外してくれたっすね? これで……やっと本気を出せるっす。
 生まれてこの方、他人に無視される日常を過ごしてきたわけっすからね。
 こうやって、真剣勝負の場で、痛いほどの視線を浴びる――未だに慣れないっす。けど……それももはやなくなった……!!)タンッ

桃子(さあ、集中するっすよ……! 自分の手牌、他家の捨て牌、そこから考えられる他家の手牌、手の進み具合……見える情報を片っ端から集めるっす。
 《悪魔の目》なんか関係ない。私は私にできることをするっす)タンッ

桃子(門前の、振り込みを度外視した最速の手作り。きらめ先輩が欲しいと言ってくれた私の力。ここで使わずいつ使うっすか!)タンッ

桃子(ナースさん……ナースさんの目は確かにヤバいっす。さっき、私が天女さんから直撃を取れたとき……きっと、ナースさんがその目をフル活用して何かしてたっすよね。
 けど、あまりに性能が良過ぎるのも……それはそれで枷になるっす!)タンッ

桃子(ナースさんの《悪魔の目》はあらゆる可能性を見通す。振り込みも当然考慮に入れて、それを回避するように手を作ってるはずっす。
 それは……ほんの僅かっすけど、振り込みを度外視できる私が勝れるポイント――!)タンッ

桃子(まったく同じ順番で同じ牌をツモったとき、振り込みのあるナースさんの速度は、振り込みのない私には敵わない。
 理屈では、《ステルスモード》の私はナースさんより速いはずっす。あとはそれを……現実にするだけっ!!)タンッ

桃子(私は、ナンバーや実力では、ナースさんや天女さんに遠く及ばないっす。
 それでも、そんな私を……きらめ先輩は好きだと言ってくれた! 私のような打ち方が理想だと言ってくれた……!!)タンッ

桃子(見ててくださいっすよ、きらめ先輩。あなたが師に選んだ私の麻雀は――あなたに教え込んだこの《ステルスモモ》の麻雀は……たとえ学園都市のナンバー2が相手でも、通用する!!)タンッ

桃子(これが――その証明っす!!)ユラッ

桃子「ロンッ! 5200の四本場は6400っす……!!」パラララ

憩「(ひゅうっ! やるーぅ!!)……はいな~」チャ

桃子「これで、前半戦、終了っすねッ!」ユラッ

利仙(あの《悪魔》が振り込むとは……。差し込み以外では滅多に見られない光景です。なるほど、これが《ステルスモモ》ですか。後半戦は気をつけないといけませんね)

 二位:藤原利仙・+2900(夜行・102900)

友清(わ……私だけ焼き鳥とですかーっ!!?)

 四位:友清・-14400(新道寺・81700)

桃子(よし……マイナスとは言え、ぎりぎり喰らいつけてるっす。後半戦からはステルス全開……なんとかプラスで繋ぐっすよ!!)

 三位:東横桃子・-3200(煌星・94600)

憩(《ステルスモモ》……ええ感じに消えてくれるやん。このテンパイ気配のなさはガイトさんのそれとはちゃう。完全に能力《オカルト》やな。ロンされた瞬間、変な声が出るかと思ったわー)

 一位:荒川憩・+14700(劫初・120800)

憩(ま、それはそれとして。予想はしとったけど、生やとホンマに捨て牌も手牌も本人すら見えへんのな。
 後半戦はこれがずっと……ウチの《悪魔の目》は能力《オカルト》とちゃうから、単純に読み取れる情報が一人分減るんか。こんな相手は初めてやわー)

憩(それに、消えるだけやない。オーラスのたった一回とは言え、ウチや藤原さんを上回る速度を見せた。
 エイさんや霜崎さん、それにネットの《のどっち》……その辺りの人らと比較しても、十分タメ張るテンパイスピード。
 対応力もそこそこあるんは、藤原さんとの駆け引きを見てもわかる。能力使わず普通に打ってもわりと強いんちゃう? いや……ちゃうか。能力が発動したから、本領発揮で強くなったんやな……)

憩(オモロいやん。オモロい子ばっかや、チーム《煌星》。まさか、このウチが予期せぬ直撃を喰らうなんてな。ガイトさんや衣ちゃんと打つときかて、滅多にあれへんっちゅーのに……ホンマに――)

憩(ホンマに屈辱も屈辱やっ! ふん……菫さんの前でえらい恥かかせてくれたやんか。これは……ちぃーとばかし痛い目見せたらなあかんな――!!)ゴッ

 ――《劫初》控え室

智葉「……終わったな」

菫「何がだ? 対局か?」

衣「見ればわかるではないか」

エイスリン「サトハ、モーロク、シタカ!?」

智葉「やかましいぞ、ウィッシュアート。というか、お前、このチームに入ってから明らかに口が悪くなったよな。一体誰に影響されたんだか……」

菫「私ではないと信じたい」

衣「で、終わった、とは何のことなのだ?」

智葉「ああ、あの一年だよ。《煌星》のほう」

エイスリン「ケイ、フーリコーンダー!!」

智葉「練習でも、私と天江くらいか、あいつの不意を突けるのは。ウィッシュアートはツモが多いし、菫の出和了りは狙いがバレバレだからな」

菫「返す言葉もない」

衣「……ああ、なるほど。そういうことか。理解した」

エイスリン「ハ?」

智葉「だから、ナンバー3の私や《三強》の天江ならともかく、まだまだ無名の一年が荒川から直撃を取った……それが問題なのだ」

菫「いや、そうは言っても、東横も大星に負けず劣らずかなりの打ち手だぞ。能力的な相性もあるしな。
 荒川の振り込みは確かに珍しいが、仕方あるまい。あいつだって完璧な人間ではないのだから」

智葉「だから、それが問題だと言っている」

菫「よくわからないが……?」

智葉「わからないなら、わからないでいい」

菫「なんだそれは? まあ、確かに荒川は《悪魔》と揶揄されるほどの打ち手……余人には計り知れん心理があるのかもしれんが」

智葉「いや、ごくごく一般的な感覚だよ」

エイスリン「ナルホド! ヨク、ワカッタ!!」

菫「?」

智葉(鈍いやつだ。自分だって《虎姫》時代に似たような経験はいくらでもしたはずだろう。そう……誰だって自分をよく見せたいものさ。意識する者の前では特に、な)

衣「さとは……何をにやけている?」

エイスリン「キメーゾ!」

智葉「押し倒すぞ、この似非天使」

エイスリン「ジョートーダヨ! コノ、モブメガネ!!」

智葉「お前……! その忌々しいペンを耳ごと斬り落として金髪以外に特徴のないクソモブに落としてやろうか!? ああッ!?」

菫「ウィッシュアートの口汚さはたぶんお前の影響だぞ、智葉……」

衣「まさに因果応報っ!」

『次鋒戦後半、間もなく開始します』

 ――対局室

桃子(後半はやってやるっす!)

 北家:東横桃子(煌星・94600)

友清(後半はやってやっとですよー!)

 東家:友清(新道寺・81700)

利仙(後半もやるだけやってみますか)

 西家:藤原利仙(夜行・102900)

憩(さて、やったるかー……)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 南家:荒川憩(劫初・120800)

『次鋒戦後半――開始ですッ!!』

ご覧いただきありがとうございました。

次回は、一週間以内に更新します。

では、失礼します。

 東一局・親:友清

友清(ヤバかヤバかヤバかー! いくらなんでん焼き鳥はヤバかとですーっ!)

 東家:友清(新道寺・81700)

友清(かと言って、能力ナシの私でこの人たちについていくのはぶっちゃけ無茶。略してぶちゃとですっ! これは、素直に姫子せんぱいの言うことば聞いとればよかったとですかねー……?)

 ――――――

 ――――

 ――

 ――――

友清「姫子せーんぱいっ!」ガバッ

姫子「わっ!? 友清……なんね、私は勉強中と。邪魔ばすっないあっち行っとれ」

友清「つれないお言葉っ!? 白水せんぱいにフラれた姫子せんぱいば慰めるために足繁く通う私になんてこ」

 ゴン

友清「痛ああ!?」ナミダメ

姫子「私はフラれとらん! 哩先輩は……その、ちょっと、たまーに、恋人より友達ば大事にすっこともあっ! そういうタイプなだけと!!」

友清「えーっ? ばってん、哩先輩はこれが最後の大会とです。言うなれば、ここ一番というときに恋人より友達ば選ぶタイ」

 ゴン

友清「痛ああああ!?」ナミダメ

姫子「とーもーきーよー!? そいより先ば言うたら鉄槌食らわすけんな!?」

友清「既に二発も喰らっとっとですよー! もうっ、私のアホ毛は鉄槌やなく雷槌専用とですよっ!? 能力の使えなくなったらどげんすっとですかー!?」

姫子「能力ば使えなくなったら……大人しくデジタル論ば一から勉強しんしゃい」

友清「……ふむ、鉄槌より重かアドバイスとですね」

姫子「私は今まで能力……哩先輩にずっと頼りきりやった。そのツケの今、こうして回ってきとう。
 友清、悪かことは言わん。能力ば使わんでん戦えるように、日頃から準備ばしときんしゃい。いつかきっと役に立つけん」

友清「姫子せんぱいは……別に能力ナシでん強かと思います。それに、白水せんぱいに頼りきりやったわけでもなかとも思います。
 やって、姫子せんぱいは、完全デジタルで打っても江崎せんぱいや安河内せんぱいと互角の力のあっとですよ?」

姫子「練習では、やろ? 実戦では、能力のなか私はきっと先輩たちに勝てんよ。上辺だけの技術ではダメと。もっと、心の支えになるような力やないと、いざってときに使いものにならん。
 友清……友清は、自分の能力――《避雷針》に自信ばあっと?」

友清「もっちろんとですよーっ! 姫子せんぱいに認められた私の力……そいが私の誇りとですっ!!」

姫子「認めたって……そいな大袈裟な。ただ、強かったけん、『強かね』って言っただけと」

友清「そいで十分とです。懐かしか……インターミドルの地区大会の決勝、姫子せんぱいとは、大将戦で都合二度、戦ったとですよね」

姫子「二度目は友清の勝ちやったな」

友清「チームとしては二連敗とです。個人としても、勝ったというほど勝った気はしとらんとです。二度目は運のよかった」

姫子「謙遜せんでよかよ。友清の力はよう知っとう。安定感はお世辞にもあっとは言えんばってん、うまく嵌れば哩先輩でん苦戦するほどの能力と。
 《約束の鍵》ば持ってなかレベル0状態の私では、相手にならん」

友清「そんなことなかとですっ! 私なんて、姫子せんぱいにはまだまだ全然! これっぽっちも及ばんとですっ!!」

姫子「……なんやろ、友清は私に幻想ば持ち過ぎと。そりゃ、中一で能力の目覚めて、初めて負けた格上の能力者の私やけん、無理もなかと思うばってん……私の能力は哩先輩ありき。私の力やなか。むしろ尊敬すべきは哩先輩やろ」

友清「ちーがーうーとーでーすー!! 白水せんぱいは確かにすごか! 強かっ! それに、白水せんぱいの《リザベーション》ばせんかったら、姫子せんぱいは能力ば使えん!
 ばってん!! 白水せんぱいの《約束》ば形にできるのは……この世でたった一人! 姫子せんぱいだけとですっ!!」

姫子「ちょ……恥ずかしかっ! 照れるけん、もっと言って……///」

友清「なーに変なモード入っとっとですかーっ!? いや、やけん、とにかく!
 姫子せんぱいには姫子せんぱいにしかない良さのあっとですっ! 白水せんぱいは関係なか……姫子せんぱいだけの魅力があっ!!」

姫子「そ、そうやろか……? とてもそうは思えんけど……」

友清「例えばっ! 白水せんぱいに捨てられてもメゲずにデジタル論の勉強ばすっ」

 ゴン

友清「痛ああああああ!!?」ナミダメ

姫子「捨てられとらん! 一時的に離れて、ちょっと、いつ戻ってくるかわからんだけと!!」

友清「世間ではそいば捨てられた言うとですよ……」

姫子「まあ……捨てられたかどうかは置いとくとして、今回一緒に戦えなかはもう決定事項と。そいでん私は哩先輩に会いたか。やけん、友清の褒めてくれたように、私は必死にデジタル論の勉強ばすっ。
 わかったら、友清は江崎先輩たちと練習ばしてきんしゃい。お互い遊んどう暇はなかはずと」

友清「さすがは姫子せんぱい。私も見習わんとですねっ!」

姫子「デジタル論の練習も忘れんとしっかりな」

友清「えーっ!? やけん、私は能力ば使えなくなることなんてなかとですけん、よかとです。束縛の強過ぎて白水せんぱいに逃げられた姫子せ」

 ゴン

友清「痛ああああああああああ!?」ナミダメ

姫子「哩先輩は逃げたりせんっ!! 束縛すればするほど、むしろ喜ぶと!!」

友清「憧れの姫子せんぱいとは言え今の発言はちょっとドン引きとです……! ま、まあ!! とにかく私は姫子せんぱいの味方とですよーっ!!」

姫子「はいはい。あいがとなー」

友清「むぅー!! あの、姫子せんぱい、愛ってどげんしたら伝わっとですかー……?」

姫子「愛に言葉は要らん。身体ば使いんしゃい」

友清「………………むりゃー!!!」ガバッ

姫子「ちょ!? な、なんばすっとね友清ー!?」

友清「溢れる愛ば体現しとるとですー!!」ムギュー

姫子「……ごめん、友清。私は哩先輩一筋やけん。友清の気持ちには応えられなか……」

友清「なぜ告白してフラれた感じになっとっとですかー!? 違うとですけんねっ!? 愛は愛でん、こいは《新道寺》愛とです!!」

姫子「《新道寺》愛……?」

友清「姫子せんぱいには、私や江崎せんぱいや安河内せんぱいの分まで、頑張ってもらわんとですけん。
 姫子せんぱいは《新道寺》の代表――白水せんぱいに、私たちの気持ちば伝えてもらわんとですけん。こうして愛ばちゅーにゅーしとるです」ムギュー

姫子「……あいがと。嬉しかよ」

友清「姫子せんぱいは、一人やなかとですけんねっ! 白水せんぱいのいなくなっても、江崎せんぱいや安河内せんぱい、それにもちろん、私も傍におるとです。
 約束してください。こん溢れる《新道寺》愛ば……白水せんぱいに見せ付けるって!!」

姫子「いつでんどこでん使える《新道寺》キーやね。任せんしゃい、哩先輩の目の前で、《絶対》に形にしちゃる!」

友清「さっすが姫子せんぱいとです! 大好きとですーっ!!」ムギュー

姫子「ちょいちょい、そがん力いっぱい抱き締めんでも、十分《新道寺》愛は伝わっとうよ」

友清「ふふっ、喜んでください、姫子せんぱい。今ちゅーにゅーしとるのは、私からの個人的な愛とです!!」

姫子「ってことは、こいは《避雷針》キーと?」

友清「そーゆーこととです! 困ったときに使ってくださいっ!! この《避雷針》こと友清……姫子せんぱいのお呼びとあらば、いつでんどこでん稲妻になってかけつけっとですよー!!」

姫子「そいは頼もしか。有難く使わせてもらうけんね、《避雷針》様」

友清「どーぞどーぞとですーっ!!」

 ――――――

 ――――

 ――

 ――対局室

友清(おっとっと……ついつい姫子せんぱいとの数少ないいちゃいちゃタイムまで回想してしまったとです。で、何の話やっけ……?
 あ、能力のアリナシの話とでした! つまり、能力の使えなかときに、どげん戦うか――)

桃子「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友清(《煌星》の東横さんは、能力ナシでん《百花仙》さんにブチ当てとったとです。未だにテンパイすらできん私とは大違いとですね。
 発動までに時間のかかる能力やけん、それまで耐えるのにデジタルに強かなった――って理屈やと思うばってん、これは一石一丁に身に着く技術やなかとです。
 そいだけの努力ば……東横さんはしてきたに違いなかとです)

友清(もちろん、私もできることはしてきたつもりとです。ただ、頑張る方向の違っとっただけ。
 できないことば羨むより、できることば誇りたか。要するに、私は姫子せんぱいの忠告ば聞かんかったとですよね……!)

友清(私は私やけん。能力も含めて私やけん。そいば無視して付け焼刃のデジタル論ば勉強したところで……姫子せんぱいの言う『心の支えになるような力』は手に入らん)

友清(私の自信は……私の心の支えは、姫子せんぱいに認めてもらったこの力。こん能力ば使って、私は勝つとです。
 もし一度も能力の使えんまま対局の終わったら……そんときは、《発動条件》ば満たせんかった私の未熟ば悔いるだけとですよ)

友清(能力のなくても戦えるように頑張るんは……なんやろ、ちょっと違うとです。私はあくまで、能力ば前提に戦いたかとです。
 姫子せんぱいに『強かね』って言われた私のままで、強くなりたかとですっ!!)

友清(さてさてとです。前半戦の中盤から私は東横さんの見えとらん。これはつまり、私の能力の見せ時ってこととですよね。
 さあ……振れば降ったる雷様っ! 《避雷針》はここにあっとですよ……!! さっさと力ば寄越しんしゃいッ!!)ゴッ

桃子「ロンっす、8000っ!」ユラッ

利仙「……はい」チャ

友清(~~~~~っ!?)

友清:81700 憩:120800 利仙:94900 桃子:102600

 東二局・親:憩

桃子(《ステルス》は機能してる……手もいい感じに伸びてるっす。けど、なんっすかね。さっきから悪寒がしてならないっすけど――)

友清「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子(《新道寺》の一年生――アホ毛さん。きらめ先輩が言ってたっすね。この人は能力を隠してるんじゃないかって。
 《避雷針》っていうのも決して蔑称じゃなく、もっと恐ろしい何かを示す通り名なんじゃないかって……)

 ――――――

 ――――

 ――

 ――――

桃子「えっ? 《新道寺》で一番恐いのはこの一年生っすか?」

友香「牌譜を見る限り、安定した力を持ってるのは三年生の江崎先輩って人な気がしますけど」

咲「負ける気はしないけど、風紀委員で助っ人の池田さんって人もなかなか」

淡「他の三年生二人も実際に打ったらそれなりに厄介そう。でも、キラメ的には、この一年坊になにか引っかかることがあるんだね?」

煌「ええ。《新道寺》は基本的にデジタルな打ち手ばかりなのですが、どうにも……この友清さんという方だけは違うような気がするのです」

桃子「予選の牌譜では、不自然な打ち回しや牌の偏りはなかったっす」

友香「なら、能力を隠してるってことでー?」

淡「それは確かにちょっと警戒が必要だね!」

咲「しかも、一番恐い――んですもんね。何か、能力のアテというか、ヒントを掴んでいるんですか?」

煌「左様です。ちょっと見てほしいのは、友清さんの予選でのデータ。これ……少し、偏りがあると思いませんか?」

桃子「うー、私はこういうの苦手っす」

友香「数字だけ見てもでー」

淡「生で打てば大体わかるんだけどなー」

咲「…………放銃率が高いですね」

煌「すばらっ! その通りです、咲さん!」

咲「えへへ。一すばらゲット……///」

淡「あっ! そういえば、牌譜見てちょっとツッパることが多いかもって思ってたんだよねー! 親リー相手に一発目から平気でど真ん中切ったりするしー!!」

咲「ふん。今更気付いてましたアピールをしても遅いよ、淡ちゃん」

淡「ぐぬぬぬ……!!」

友香「何か裏は取れたんですか?」

煌「調べてみたところ、友清さんは、インターミドルの団体戦地区予選決勝で、二年連続で鶴田さんと大将対決をしていたそうです。
 恐らく、この高い放銃率も、その頃からの特徴なのだと思われます」

淡「どうしてそんなことがわかるのー?」

煌「友清さんの中学時代の通り名が、《避雷針》だからです」

桃子「《避雷針》って……つまり、この人のいる卓では、この人が直撃を喰らうことが多いから、他の人的には安心って意味っすね!?」

友香「けど、《避雷針》なんて通り名がつくほど放銃が多いのに、あのレベル5の鶴田先輩と大将対決をしていた。
 しかも、二年連続ってことは、中一の頃から大将だったってわけですね。ただのデジタルじゃないってことはもう間違いなさそうでー」

淡「そっか……放銃しても、それを上回る得点が期待できるんだね。そういう能力を持ってるってこと……!」

煌「えてして能力者は、その能力に応じたクセというものを、多かれ少なかれ持っているものです。
 ネット麻雀での数字がいい例ですね。友香さんはリーチ率が高く、桃子さんは副露率が低いです」

咲「能力は……打ち方の傾向とか意識の偏りの延長で、後天的に発現するものが多いですからね。
 私の《プラマイゼロ》もそうだし、優希ちゃんの《東風》なんかもそう。優希ちゃん、ネット麻雀でも東場のほうが調子いいですもん」

淡「で、キラメはどんな能力だと予想してるの、その《避雷針》」

煌「残念ながら、そこまでは。推測できるのは、二つ。淡さんが言ったように、高い放銃率をカバーするほどの得点力を有しているだろうということ。もう一つは――」

咲「放銃が能力の《制約》または《発動条件》になっていること、ですね?」

煌「すばらっ! さすがの洞察力ですね、咲さん」

咲「二すばらゲットだよ……////」

淡「くぅぅぅぅー!!」

煌「というわけで、この友清さんには十分注意してください。中学時代にあの鶴田さんと渡り合ったほどの雀士です。
 《避雷針》という通り名が、そのまま放銃率の高さだけを示しているはずがありません。
 仮にですが、倍返しのカウンターのような能力だとしたら、自分が直撃を取った分だけ反撃が来る――ということになるわけです。
 まあ、そんなに都合のいい能力が存在するかどうかはわかりませんが、いずれにせよ得点力の高い能力である可能性が高い。
 放銃が《制約》か《発動条件》かは不明ですが、後者の場合、友清さんから直撃を取った直後、友清さんが振り込んだ直後は、場に何か異変が起きていないかどうか、わかる範囲で探ってみてください。よろしいですね?」

桃子・友香・咲・淡「はーい!」

 ――――

 ――――

桃子(ここまで、アホ毛さんの放銃は一回。前半戦東一局にナースさんに振り込んだ1300。そのときはなんともなかったっすけど、だからといって早合点するわけにはいかないっす)

桃子(実際、アホ毛さんは前半戦から毎局全ツッパっす。これは《制約》というより《発動条件》っぽいっすね。なんというか、狙って振り込みにいってるような感じ……)

桃子(他家から直撃を取りやすいのが私の《ステルス》っすけど、この人の《避雷針》とは相性がいいのやら悪いのやら。
 さっき天女さんから和了ったとき、アホ毛さん、悔しそうな顔してたっす。自分が振り込みたかった――みたいな)

桃子(憶測の域を出ないっすけど、振り込むだけじゃなく、振り込む点数も関係しているのかもっすね。《避雷針》……避けると言いつつ敢えて雷を呼び込む針。
 雷って言うくらいっすからね。1300くらいの静電気じゃダメなのかもっす。もっと……空気の絶縁を破るくらいの、強力なやつじゃなきゃ――)

友清「」タンッ

桃子(……と、それ和了れるっす。どうする……? いや、でも、もうリーチかけてるっすもんね。後には退けない。くっ――天に祈るっす!!)

桃子「ロンっす、6400」ユラッ

友清(お――惜しいっ!! 裏の乗ってくれてれば……!!)

憩(おっとっとー? なんやろこのちまい子、前半から不思議に思っとったけど、振り込んだときの心拍数の変化がえらい急やんな。
 もろもろ合わせて考えると、高い手に振り込みたい――って思うてるっぽい。
 さては能力者か? そういえば、ガイトさんが放銃率の高さを気にしてはったな。菫さんも危険度中って言ってはった。一応、気ぃつけとくか……)

桃子(だ、大丈夫……だったっすかね? なんにせよ、次の局は要注意っす!)

利仙(《新道寺》の一年生が少し気になりますが、それよりも今は《ステルスモモ》ですね。荒川さんが動いてこないということは、彼女の目にも見えていないということでしょう。
 大した能力です。感応系の能力は、レベル5の使い手こそいないという話ですが、系統最強であるアレしかり……打ち破る手段がこれといってないのが強みです。
 まあ、別に打ち破らずとも、勝つ方法はいくらでもありますけどね……)

友清:75300 憩:120800 利仙:94900 桃子:109000

 ――《夜行》控え室

     利仙『ツモ、6000オールです』

いちご「ええぞー! 利仙ー!!」

絃「技術的に振り込まない荒川と、能力的に振り込まない東横。その二人を同時に削る最高の一撃だ」

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「確かに、《新道寺》の一年生は逆に予選で振り込みが多かったかも。何か能力的なものなのかもねー」

絃「それならなおのこと、ツモで稼ぐ利仙にはうってつけだな」

いちご「おっ、これは今局も行けるじゃろっ! 味方ながらに恐ろしいやつじゃ……あの《最愛》の大能力者は!!」

 利仙手牌:②②③③④④⑤⑥⑥⑦⑦⑧⑧ ドラ:北

藍子「だ・い・しゃ・り~んっ!! ここで利仙さんの超必殺が来ましたよー!!」

絃「高めなら門前清一タンピン二盃口……!!」

     利仙『リーチです……』

いちご「あいつ……赤五ツモって数えを和了る気か!? ダマでええじゃろうに無茶しよる……!!」

絃「いや、東横がいる以上、フリテン警戒で和了るならツモ一択。なら、数えを見るのは当然だ。
 それに、赤五筒は《百花仙》の能力的に最も引きやすい牌。《神憑き》の利仙なら、他家が鳴きで場を乱してきたところで、強引にツモを《上書き》することもできるはずだ」

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「そうね。利仙さんはいちごさんの分まで稼がなくちゃいけないから!!」

いちご「わりゃ、もこ! ちょっとこっち来んさいコラ!!」

藍子「ま、今のは私の冗談ですがっ!」

いちご「藍子!?」

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「え? いや、でも、東横さんがいるんだから、それはないんじゃ――」

     憩『ロンや、1000は1300』

     友清『はっ、へ、はい……?』

藍子「は?」

いちご「なんじゃあの和了りは……」

絃「東横がいるのに躊躇いなく出和了りしただと……? しかも、わざと点数を下げているな。どういう意図があるんだか」

藍子「《新道寺》の一年生――《避雷針》。能力者っぽい雰囲気はあるんですけど……ってか、問題はそっちじゃなく!」

絃「そうだな。東横は《捨て牌が見えなくなる》感応系能力者だと思っていたが、それにしては荒川が自由過ぎる。何か抜け道があるのだろうか……」

     憩『ロン、2000』

     桃子『は、はい……?』

藍子「うそーんっ!?」

絃「これは……どうなっている?」

いちご「荒川憩には効かない、とかじゃろか? 感応系の能力は効き目に個人差があるけえ」

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「えっ? なんだって?」

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「ま、まあ、そりゃ荒川さんは《悪魔》だけど――えっ?」

もこ「」ブツブツブツブツ

絃「なんだ、どうした?」

藍子「……荒川さんが、ヤバいそうです」

いちご「ヤバいのは重々承知じゃ。あれは正真正銘の《悪魔》じゃけえの」

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「も、もこ……?」

もこ「」ブツブツブツブツ

 ――《煌星》控え室

淡「はー!? モモコが振り込んだよっ!!」ガタッ

友香「荒川さんからはさっきのオーラスで直撃を取った。てっきり《ステルス》は効いてるもんだと思ってたけど……」

咲「……煌さん、さっきの出和了りと、今の直撃、どう思いますか?」

煌「推測はできますが、まだ確信が持てません。ただ、桃子さんが非常に危ういこと、それから……荒川さんが本気になったことは確かですね」

友香「今まで本気じゃなかったんでー!?」

淡「やけに安く刻んでるなーとは思ってたけど」

咲「まあ、それは速さ重視だったからじゃない? 桃子ちゃんもあの藤原さんって人もテンパイ速いから」

煌「先ほどはそれでトップを取っていました。今回も、ここまでは同じ方針のようでしたが、恐らく、次からは違います。
 本気になったというと少々語弊がありますか。スタンスを変えてきた、といった感じですね」

友香「《百花仙》さんに親っパネをツモられたからですか?」

煌「いえ、何が原因でスイッチが入ったのかは、さすがに私も人の心が読めるわけではないので……。
 ただ、荒川さんのクセといいますか。あの方は、考え事をするとき、こう……手の甲で片目を隠す仕草をするんです。
 先刻、桃子さんから和了った局、第一打を放つ前に、それをしていました。何か、思うところがあったのかと」

咲「でも、あの人ってものすごく計算が速いんですよね? それこそ和ちゃん以上に。
 そんな人が考え事って……一体これから何をするつもりなんでしょうか?」

煌「わかりません。しかし、あの表情を見る限り、結論は出ているようです……」

     憩『ロン……8000』

友香「満貫!? さっきまで平均3000点くらいの和了りしかしてなかったのに!!」

淡「火力を上げてきたってこと!?」

咲「ちょ、待って! それより今直撃を受けたのって」

     友清『は――はいとですーっ!!』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

友香・淡・咲「ッ――!!?」ビリビリビリビリ

煌「なるほど……放銃は《発動条件》でしたか。断定はできませんが、恐らく――《満貫以上の放銃》」

友香「うっわ……!? ちょ、なんでーそれ!! 配牌激ヤバッ!? 間違いなく能力でー!! 」

咲「《発動条件》が《発動条件》だけに、能力値《レベル》も高そう。淡ちゃん、どう? あれ……例のやつで封じられる?」

淡「微妙なとこかな。支配力でどこまで補正できるかにもよるけど、純粋な能力勝負なら、私の《絶対安全圏》はノーリスクだし、条件の厳しい向こうのほうが強度は上だと思う」

咲「本当に大した《絶対》だよね、淡ちゃんのそれ。レベル5でもないのに《絶対》とか言っちゃうの恥ずかしくない? いっそ《大体安全圏》に改名したら?」

淡「サッキー、今からモモコと代わって、あの人にサッキーの最大の弱点を突かれてくればいいよ。暗槓を槍槓されてくればいいよ」

咲「し、死んでも嫌……っ!!」ガタガタ

友香「は、配牌だけじゃなくツモまでそれって……!! じゃあ、これは藤原先輩と同じ常時発動型の自牌干渉系能力でー? だとしたら遠からず……」

煌「どうやら想像以上に危険な方だったようですね。振り込みという雷から他家を守る《避雷針》とは真逆の存在。
 卓上に雷槌を振り下ろす飛電の神。言わば今の友清さんは――」

 ――《新道寺》控え室

仁美「《飛雷神》――ここに降臨とッ!!」

     友清『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

華菜「《百花仙》の藤原先輩や《導火線》の漫と同じ――常時発動型の自牌干渉系能力者ッ!!」

巴「《満貫以上の放銃》をすることで《次局の配牌とツモを》」

美子「《全てヤオ九牌にする》大能力……ッ!!」

 友清配牌:一九⑨999東南西北白發中 ツモ:1 ドラ:⑧

仁美「一巡目で国士無双テンパイ……あいつの能力は相変わらず眩し過ぎて眩暈のすっと」

美子「インターミドルの地区予選、《飛雷神》モードの友清ば止められたのは、《約束の鍵》ば持っとった姫子だけやったらしいな」

華菜「親で発動したら天和国士も可能な超びっくり能力だしっ!」

巴「配牌もツモもヤオ九牌しか来ないから、捨て牌も最初の数巡くらいはあんまり不自然に見えない……というか国士気配はゼロ。予備知識なしで見抜くのは至難だよね」

仁美「仮に能力の発動ば察知されても、まさかこいほどの強度と効果やとは想像もできんやろ。それこそあの《悪魔の目》でんなか限り」

美子「強いて弱点ば挙げれば、友清のヤオ九牌ば抱える分、他家に中張牌の行きやすかことくらい。
 あと、見た目のインパクトほど、劇的に和了速度のあるわけやなかことか」

華菜「けど、友清は国士だけじゃないし。配牌によっては、序盤で鳴いて対々を狙ってくることもある。
 最高で字一色か清老頭、最低でも混老対々。和了りさえすれば満貫分は取り戻せるし!」

巴「まあ、今回は運良く早々に張れた。いくら荒川さんでも、ツモの偏りを引き起こす確率干渉そのものは止められない。これはかなり期待できそう」

美子「頑張っとよ……友清っ!!」

仁美「友清、姫子や哩にしっかり見せてやりんしゃい……!! 《新道寺》の未来のエースの力ば――!!」

 ――対局室

 南二局・親:憩

友清(何がなんでん和了る……っ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 友清手牌:一九⑨199東南西北白發中 ドラ:⑧

 北家:友清(新道寺・60000)

利仙(非常に高強度の能力が発動しているのを感じますね。まだ一巡目。捨て牌は九索。読み取れる情報はあまりに少ない。できるだけ現物以外を切らないようにしつつ、能力の正体を探ることに専念しましょう。
 大丈夫。問題はさほどありません。たとえ役満をツモられても、荒川さんとの点差は縮まるわけですし、この局は全力で店仕舞いしましょう)

 南家:藤原利仙(夜行・111900)

桃子(どういう能力なのかは現時点では見当もつかないっすけど、私の《ステルス》は効果を失ってない。先にテンパイできれば、流せるかもっすね。
 ただ、アホ毛さんのこれが今後もずっと続くなら、流局で手牌を見てみたい気持ちもあるっす……)

 西家:東横桃子(煌星・101000)

憩(これはこれは……配牌がヤオ九牌だらけ。ほんでもって、一索ツモからの、九索切り。すごいな。一巡目で国士をテンパったんか)

 東家:荒川憩(劫初・127100)

憩(なるほどな……そういう能力やったんか。能力値は間違いなくレベル4。藤原さんと同じ常時発動型の自牌干渉系能力。
 ほんで、強度そのものは、たぶんこの子のほうが上や。配牌とツモがヤオ九牌に偏る――なんて生温い。配牌とツモが『全て』ヤオ九牌になるってとこやろな)

憩(《避雷針》――否、《飛雷神》とでも呼ぼか。確かにオモロそうな能力やな。嵌れば強い。さすが一年生で伝統ある《新道寺》に誘われるだけのことはある。
 せやけど、ヤオ九牌だけツモろうがなんやろうが、和了れなければそれまでやで)

憩(発動条件を満たせば絶対に国士が和了れるんならまだしも、たかがヤオ九牌をランダムに引き寄せるだけの力――取り立てて騒ぐようなもんでもあらへん。
 率直な感想を言わせてもらえば、それがどないしたん? って感じや)

憩(ほな、ま、何はともあれ、この子の期待値を計算してみよかー。この子がランダムにヤオ九牌52枚を手に引き込んでいくと仮定する。
 とりあえず、ヤオ九牌52枚から、確定しとる配牌13枚と第一ツモ1枚を引いて、残り38枚について考えていけばええわけやんな)

憩(この38枚を、この子の残りツモ16枚、その他22枚に振り分ける。22239974430パターン。その上で、ツモ16枚の順列が16の階乗で20922789888000やから、掛け合わせて――ほい出た全465322312113382563840000パターン。あとは虱潰しやろ)

憩(現状でウチから見えとるヤオ九牌を考慮に入れて、この465322312113382563840000パターンを篩いにかける。
 出揃ったら、あとは巡目ごとの期待値を弾き出して――っと。あかんあかん! つい計算に熱中してもうた……!?)

憩(これ……小走さんに指摘されたウチの悪いクセやんな。力技で演算するんは機械と変わらへん。人間なら『目的に応じて合理的で効率的な計算をしろ』やっけ)

憩(ほな、小走さんなら、どう計算するかな。たぶん、あの人はホンマに状況を単純化するやろな……)

憩(この子は一巡目で国士をテンパイ。待ちは残り4枚の一筒。これが、残り38枚に含まれとる。つまり、次巡でツモる確率は4/38――約10パーセント)

憩(今度は10巡目までに和了る確率を考えてみよか。残り38枚あるヤオ九牌から、ランダムに9枚ツモったとき、その9枚の中に一筒が一枚も含まれへん――つまり一筒をツモらへん確率は、570024/1771560で約32パーセント。
 ゆえに、10巡目までのどこかでツモる確率は、ひっくり返って約68パーセントってことや。
 ははっ、七割! ピカ○ュウの『かみなり』の命中率とほぼ同じやん!! 大した大能力者《レベル4》や……《飛雷神》!!)

憩(恐るるに足りんな、雷神様。ウチはもっとどえらい神様を見たことがあるで。ヤオ九牌52枚支配よりもっとえぐい……《鬼神》こと小蒔ちゃんの一色牌36枚支配をな……!!)

憩(今思い出しても寒気がするわ。一回……ホンマに死ぬかと思ったときがあった。
 衣ちゃんとふざけて、小蒔ちゃんが大切にとっといたおやつのプリンを食べてもうたとき。小蒔ちゃん……大激怒やったな)

憩(あれは……鬼は鬼でも、神なんて高尚なもんやなかった。ただの欲望の権化。食い意地の悪い畜生や。《鬼神》モードならぬ《鬼畜》モード。
 その話を小走さんにしたら、『愉快だな』とか言ってニヒルに笑っとったけど――)

憩(アホか!! 全然愉快ちゃうわ!! こっちは三途の川を二往復くらいしたわ!! 玄ちゃんなんかもう全身の――いや、これ以上は玄ちゃんの尊厳に関わるから思い出すのやめとこ……)

憩(ま、とにかく《飛雷神》の能力は大方わかった。なんや、拍子抜けっちゅーか。いかにも能力使いたそうな感じやったから、せっかく高いの直撃したったのに、その結果が《ヤオ九牌を引き寄せる》だけ)

憩(いや、別にけなすつもりはあらへんけどな。侮るつもりもあらへん。確かな計算に基づいて、そこそこ正当な評価をしとるつもりや。
 ただ……気に入らへんことが一つだけある。これは《ステルスモモ》もそうなんやけどな……)

憩(一年が……頑張れば勝てるみたいな顔しよる。毎日練習に励めば、能力を駆使すれば、全力以上の闘牌ができれば、心の底から勝ちたいと願えば――勝てるみたいな顔しよる)

憩(確かにそれは正しいわ。強い人らはみんなそう。毎日練習に励み、能力を駆使し、全力以上の闘牌をし、心の底から勝ちたいと願って……実際に勝っとる。菫さんもガイトさんもエイさんも衣ちゃんもそうや)

憩(ただな……勘違いしてもろたら困る。それは、強くなるための初歩の初歩に過ぎひん。頑張れば勝てるんと違う。頑張らなければ勝てへんってだけや)

憩(そして、さらに大事なことやけど、この世界にはな、死ぬ気で頑張ったって、どう足掻いたって、勝てへん相手っちゅーんが……確かにおんねん)

憩(ほんで、なあ……《飛雷神》、《ステルスモモ》。自分らの前におるんは誰やと思っとん。ウチはこの学園都市のナンバー2やで……?)

憩(強い能力とか、必死の頑張りとか、諦めない気持ちとか――そういうあれこれを武器に立ち向かってくる一万人の雀士を、片っ端から蹴散らして、ウチは今、ここにおる)

憩(ウチに勝てるんは、この学園都市にただ一人――宮永照だけや。で、自分らは宮永照か? ちゃうよな?
 ほなら、ウチが今から教えたるわ。その身の程ってやつをな……!!)

憩(好きなだけ能力使ったらええ! 好きなだけ全力で打ったらええ! 好きなだけ勝ちたいと願えばええ!!
 せやけどな、一年生ッ! そんなもん、ナンバー2の重みと比べたら、紙風船みたいなもんやで……!!)

憩「ロン、11600ッ!!」カチャカチャパラララ

友清・桃子(っ――!?)

利仙「は、はい……」チャ

利仙(私としたことが……《新道寺》の一年生に気を取られ過ぎましたか。
 いや、しかし、東横さんの《ステルス》が発動しているこの場で、先ほどからの躊躇ない出和了りは、一体どういうことなのでしょう。
 無論、私は荒川さんの下家ですから、私への直撃でフリテンが起きることがないのはわかります。ですが、荒川さんは友清さん、それに東横さんからも直撃を取っていた……。
 私に見えていないのですから、当然、無能力者の荒川さんにも、東横さんの姿は見えていないはず。否――相手は《悪魔》ですからね。同じ人間とは思わないほうがいい。
 荒川さんの親番。取り返しがつかなくなる前に、速度特化に切り替えて流すとしますか……)

友清(なああああ!? 嘘と……なんそい!? 一筒ば止められとうやと!? ちょ、は、意味わからん――!? どげんすればそがんこと……っ!? ば、ばってん、まだ……最後までチャンスはあっ!!)

桃子(ナースさん……気迫も打点もさっきまでとは桁違いっす。っていうか、さっきから出和了りしまくりっていうのは、なんなんっすか?
 視線は一切感じない。おっぱいさんとは違う。見えてない……私のことは見えてないはずっす。じゃあ、なぜ……? くっ、わからない……けど、どうにかこうにかやるしかないっす――!!)

憩「(へえ……? 健気にも立ち向かってくるつもりか。ほな、こっちも全力で叩き潰すまで。せいぜい心までペチャンコにならんように気張りや……!!)一本場ッ!!」

友清:60000 憩:138700 利仙:100300 桃子:101000

 ――《劫初》控え室

     利仙『ツモです……! 2100・4100ッ!!』

菫「荒川の親番がツモで流されただと……!?」ガタッ

智葉「今の荒川は速度より火力を重視している。その隙を突いて、自身のツモの偏りを、荒川とは逆の傾向――火力から速度へと切り替えた。
 ついさっき数え役満を狙ってリーチを掛けたやつとは思えんな。この辺りの柔軟さは、支配力の扱いに長けた《神憑き》でこそだろう」

エイスリン「《ヒャッカセン》、ダテジャナイヨ!」

衣「ふん……満貫の親っ被り程度、けいならすぐに取り返すだろう」

     憩『ロン、3900ッ!』

     利仙『……っ!』

菫「あいつ……やりたい放題だな」

智葉「そうでもないと思うぞ。親番を流されたことで、火力の上昇にブレーキが掛かった。なかなか自由には打たせてくれない。さすがは《最愛》の大能力者――《百花仙》の藤原利仙。
 しかし、逆に言えば、あの藤原でさえ、荒川が相手では対局を流すのが精一杯――ということになる。いわんや他の一年をや、だな。
 さて、もう十分に点は稼いだはずだが……ここで終わるようなやつじゃあるまい、あの《悪魔》は」

菫「そう言えば、《煌星》の一年生がヤバいという話だったな。幸か不幸か彼女はラス親。対局が終わったときに息をしていればいいが……」

衣「ふっふっふ……久方ぶりに見るぞ! 荒ぶるけいっ! かつて衣を大いに楽しませてくれた悪魔の所業はまだかッ!?」

エイスリン「ジゴクノ、ゴウカデ、オウサツダー!!」

      憩『……ロン』

菫「っ!?」ゾワッ

智葉「ほう……」

衣・エイスリン「来たー(キター)!!」

 ――対局室

憩「……ロン」

友清(えっ……?)

利仙(ここまでですか)パタッ

桃子(はっ――ちょ、そんな……!?)ゾッ

憩「聞こえへんかったか? その二筒でロン言うたんや。驚いとらんで、はよ姿見せーや」

桃子「だ……だからどうして見えるっすか!? え!? だって、私の《ステルス》は効いてるっすよね!!」ユラッ

憩「《ステルス》――この自分の姿と手牌と捨て牌が見えなくなる感応系の能力やんな。それなら確かに効いとんで。せやけど、効いとるからなんやねん。
 それでウチが出和了りを控えると思うた? 直撃は取られへんと思うた? いやいや。さっきからボコボコ出和了りしとるやん。東四局では自分から直撃とったったやん。何を今更びっくりしとん?」

桃子「いや……それは――でも、ど、どうして…………」

憩「ほな、種明かししよかー? まず、山牌が持ち上がるな? で、そんときにどの牌がどこにあるか見れるだけ見とくな?
 ほんで、サイコロ振るやん。自分のとこに配牌行くやん。あとは、また山牌に目凝らして、自分のとこに何の牌が入ったか見るやん」

桃子「や、山牌に目を凝らす!? 何を言ってるっすか!!?」

憩「やって、自分のことは見えへんねんから、山牌経由で自分の配牌とツモを見るしかないやん。ほんで、ま、それが何かわかれば、あとはちょーっと頭使えば、自分の手牌を確定できるやんな」

桃子「なに……言って――」

憩「山牌経由で見た自分の配牌とツモ――そこから、自分の過去の牌譜をベースに、この前後半で把握した自分の打ち筋、手作りのパターン、好みやクセ等々をトレースして、手の進みを先読みする。
 すると、ちょうどこのタイミングで二筒をロンできるやろなーってわかる。それだけのことやん」

桃子「意味がわからないっす……!? 山牌を見る!? 《ステルスモード》の私の手の進みを先読みする!? だ、だって……そんなの、多少の推測はできても――」

憩「ちょいちょい、言葉はちゃんと使いーや。『推測』やなくて『確定』。自分の手――左から順に三四五[⑤]⑥⑨⑨[5]67899やろ? あ、どの牌が逆様になっとるかまで言ったほうがええ?」

桃子「――っ!?」ゾワッ

 桃子手牌:三四五[⑤]⑥⑨⑨[5]67899

憩「ま、普通の目にはそこまではっきり見えへんらしいな、山牌。普通の頭ではそこまでぴったり計算できひんらしいな、手牌。
 せやけど――なあ、自分の前におるんが誰か……ちょっと言ってみい」

桃子「学園都市のナンバー2――《白衣の悪魔》……ッ!!」

憩「そーゆーこと。自分の能力……《ステルス》。確かに人間の目には映らへんみたいやな。
 けど、ウチの《悪魔の目》は誤魔化せへんよ。まだまだやね。次はもうちょっと楽しませてーな? ほな――」

桃子「あ、あの……!」

憩「あー、せやったせやった。手牌倒すん忘れとった。ほな、ご開帳ー」カチャカチャパラララ

桃子「そ、それ――っ!?」

憩「〆て16000。おおきに~」

桃子(倍満って!! ナースさんの今日最高打点じゃないっすかー!?)

憩「っちゅーわけで、これにて次鋒戦は終了や。皆さん、お疲れさまでしたー」

 一位:荒川憩・+48400(劫初・154500)

友清「お、お疲れ様とでした……(後半戦も焼き鳥とでした……うぅぅぅ……!!)」

 四位:友清・-38200(新道寺・57900)

利仙「お疲れ様です(本当に疲れましたね……稼ぐことはできませんでしたが、点棒を減らさなかっただけよしとしましょう)」

 二位:藤原利仙・+4700(夜行・104700)

桃子「お疲れ様っす……(私の《ステルス》を……上位レベルの能力で《無効化》するでも、特性を逆手に取るでもなく、一切の小細工なく、文字通りに見破ってくるなんて……!!)」

憩「♪」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

桃子(これが学園都市のナンバー2!? 本当に……本当に《悪魔》だったっす――!!)ゾッ

 三位:東横桃子・-14900(煌星・82900)

 ――――

 ――――

憩(ふー……ちょっと熱くなってもーた。どーにも菫さんが絡むと冷静さを失いがちや。反省反省……)

智葉「よう、荒川。快勝だったな」

憩「げっ、ガイトさん。なんや、ニヤニヤしはって、ごっつキモいですわ」

智葉「ウィッシュアートに悪影響を与えている主犯はやはりお前か」ムギュー

憩「真顔でひょっぺたつねふのやめてくりゃひゃい!?」

智葉「にしても、さっきの……最後は随分ムキになって打っていたな。そんなに《煌星》の一年にやられたのが悔しかったか?」

憩「ま、そんなとこですわ。一年生なんかにほいほい直撃取られとったら、ウチの沽券に関わるでしょ」

智葉「本当にそれだけか?」

憩「何が言いたいんですか?」

智葉「いや、まるで一年前のお前を見ているようだと思ってな。《煌星》の一年しかり、《新道寺》の一年しかり」

憩「……昔のことをチクチク掘り返すんはやめてください。ガイトさん、まだウチに負けたこと根に持ってはるんですか?」

智葉「人聞きの悪い。これでも心配しているんだ。お前は菫と違って、なまじ強い分折れやすい。あまり気を張り過ぎるな、楽にしてろ」ムギュー

憩「やから……真顔でほっぺたつねるのやめてくださいって……」

智葉「表情が硬いぞ、荒川。お前は笑っていろ。そのほうが断然見栄えがする」

憩「別にガイトさんに褒められても嬉しくないですわー」

智葉「可愛くないやつめ……」

憩「大体、それを言うたらガイトさんやって、そのモブっぽい眼鏡と髪型やめればええのに。そしたらちょっとは見栄えしますわ」

智葉「貴重な意見として受け取っておこう」

憩「ほな、お気をつけて~」

智葉「言っている意味がわからんな。誰に何を気をつけろと?」

憩「へ? ナンバー3のガイトさんに、点棒取り過ぎて衣ちゃんたちにどやされんよう気をつけてください、言うたんですけど――何か問題ありました?」

智葉「…………たまに、無性にお前を抱き締めたくなるときがある」

憩「マジホンマやめてください……今、全身の毛がよだちましたわ」ゾワワ

智葉「ふん、その調子で頑張れよ」

憩「何がですか……まあ、ええです。行ってらっしゃい」

智葉「ああ、行ってくる――」ゴッ

 ――――

 ――《新道寺》控え室

友清「うぁあぁあああぁぁぁああ……!!」ポロポロ

美子「おー、よしよし。友清はよう頑張ったとー」ナデナデ

仁美「あとは私らに任せんしゃい」

友清「ぅぅううぅぅうぅ……江崎せんぱい……安河内せんぱい……!!」ポロポロ

華菜「泣くほど恥ずかしい闘牌じゃなかったと思うし! 姫子もきっと同じこと言うし!」

巴「元気出して。次は勝てるように、また頑張ろう」

友清「はいぃぃ……あいがととですー……」グズッ

仁美「そいたら……美子。頼めるか?」

美子「うん。やれるだけやってみっとよ」

友清「安河内せんぱい……っ!!」

美子「仇はとったるけん。応援ばよろしくな、友清!」

友清「は――はいっ!!」

 ――――

 ――――

桃子(参ったっす……始まったときは一位と一万点差もなかったのに、終わってみれば二位と二万点差。一位とは七万点も離された。特に最後の倍満……あれは最低っす。完全に力の差を測り間違えた――)フゥ

咲「もーもーこーちゃーん?」ウロウロ

桃子「ちょっちょっちょっ!? 嶺上さん、なに一人で歩き回ってるっすか!? 迷子になったらどーするっすか!!」

咲「ご、ごめん。いてもたってもいられなくて」

桃子「……心配ご無用っすよ。私はある意味で負け慣れてるっすから。超新星さんと嶺上さんのカンドバッグ――もといサンドバッグにされてた日々を思えば、これくらいはへっちゃらっす」

咲「そこはもうちょっと悔しがってよ。ま、元はと言えば淡ちゃんがやらかしたのがいけないんだけどさ。でも、一位と七万点差は、ちょっとね」

桃子「嶺上さんは私を励ましに来たっすか? 傷口に塩を塗りに来たっすか……?」

咲「どっちも……かな?」

桃子「いい性格してるっす」

咲「せ、性格がいいなんて言われたの初めてかもっ///」

桃子「褒め言葉じゃないっすよ……」

咲「えー?」

桃子「まったく……嶺上さんのその余裕っぷりが羨ましいっす。もしかして負けたことないっすか?」

咲「負けたことくらいあるよ。《プラマイゼロ》でも三位になることはあるもん」

桃子「………………ん?」

咲「なに、桃子ちゃん?」

桃子「えっと……嶺上さん、つかぬことを伺うっす。ポイントがマイナスになったことは?」

咲「えっ? ないよ? なんでそんな当たり前のこと聞くの?」

桃子「が、学園都市に来てから一度も……?」

咲「というか、子供の頃に能力に目覚めてから、一度もないよ」

桃子「で、でも、宮永照――お姉さんなら嶺上さんの能力を破れるんじゃ……?」

咲「お姉ちゃんなら、確かにやろうと思えばできるかも。でも、そう言えば一回もやってこなかったな……。諦められてたのかも」

桃子「えっ、じゃあ、ガチで負けたことないっすか?」

咲「いや、だから、負けたことはあるよ。《プラマイゼロ》でも三位って負けでしょ?」

桃子「………………」

咲「どうかした、桃子ちゃん?」

桃子「あ、い、いや……まあ、いいっす。嶺上さんなら大丈夫っす。うん、嶺上さんなら」

咲「変な桃子ちゃん。ま、それじゃあ応援よろしくねっ! できるだけ取り返してくるよっ!!」

桃子「い、行ってらっしゃいっす……」

咲「うん、行ってくるねー!」ダッダッダッ

桃子「あー!? 対局室はそっちじゃないっすー!!」

 ――――

 ――《夜行》控え室

利仙「ただいま戻りました」

藍子「おかえりなさーいっ!」

絃「さすがに荒川は強かったか?」

利仙「そうですね。かつてのナンバー7として、もっと善戦する予定だったのですが……」

藍子「ガチの荒川さんと打ち合ってプラス収支になってるだけでもすっごいことですよ。私は無理ですっ!」

絃「私もだ」

利仙「ありがとうございます。実際……都市伝説にまでなっている例の仕草が出たときは、鳥肌が立ちましたよ。
 あの《悪魔の目》に捉われていたら、私とて無事では済まなかったでしょう。攻撃対象が私ではなかったのが幸いでした」

藍子「いやはや……利仙さんにここまで言わせるとは。さすがの荒川さんだわー」

絃「宮永照を筆頭に、上位《三人》は本当に人外な打ち手ばかりだな……」

いちご「……上位の《三人》。あのチームにおるそのうちのもう一人と、ちゃちゃのんは今から戦うわけじゃな……」ズーン

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「トばされなければなんでもいい、だそうです」

いちご「わりゃー!?」

利仙「ま、なんとかなるでしょう。一年生の最初の頃、佐々野さんは辻垣内さんと打ったことがありますが、そのときはトびませんでした」

いちご「あの頃から力の差が開いてなければええがの……」

絃「まあ、さすがに十万点持ちでトぶことはないだろうが、とにかく気をつけてくれ。敵は辻垣内だけじゃない。
 《煌星》からはあの宮永照の妹が出てくる。中堅戦も厳しい戦いになるはずだ」

いちご「わ、わかっちょる! いつもは考慮せんことまで考慮して、なんとか繋いでみせるけえ、応援よろしくの!!」

利仙「はい。任せてください」

いちご「ほいじゃ! 行ってくるわっ!!」ダッ

利仙「行ってらっしゃい――」

 ダッダッダッ バタンッ

絃「…………行ったか。ということは、いよいよ始まってしまうわけだな。問題のいちごの対局が」

藍子「ええ……始まりますね。大問題のいちごさんの対局が」

もこ「」ブツブツブツブツ

利仙「もっ、もう行きましたよね? 大丈夫ですよねっ?」ソワソワ

絃「ああ、大丈夫だ。廊下を見てきたが、姿はなかった」

利仙「よし……っ!!」イソイソガサゴソ

絃「……チーム編成のとき、私と藍子は、五人目に荒川を誘おうとしていたんだよな」

藍子「ダメ元でしたけどね。言うだけ言ってみようって。私は保健委員なんで、顔見知りですし」

絃「だが、利仙がそれに異を唱えた。『五人目は佐々野いちごにしよう』『佐々野いちごのほうがいいに決まっている』――と」

藍子「いちごさんも決して弱くはないですけど、実績は荒川さんのほうが遥かに上。チームの勝率を上げたいなら、間違いなく荒川さんのほうがいいはずです」

絃「だが、あの《花散る里の天女》、《百花仙》、《最愛》の大能力者、《神憑き》、元ナンバー7と数々の異名を持つ利仙が、『どうしても佐々野いちご』『佐々野いちご以外にありえない』とまで言う」

藍子「聞けば、利仙さんといちごさんがチームを組むのは、これが初めてじゃないってことでしたし。何か、私たちには考えの及ばない、海より深ぁーい理由があるのかと思いました」

絃「それが蓋を開けてみたら……」

利仙「きゃー!! いちごちゃんが対局室に姿を見せましたよー!! ちょっと緊張してるのがまた可愛いなーもーっ!!」ブンブン

絃・藍子「………………」

利仙「さあっ! 霜崎さんも百鬼さんも対木さんも!! この『いちごうちわ』を持って応援しましょうっ!!」ブンブン

絃「利仙、お前……またこんなもの作って……」

藍子「このプリントしてある写真……いちごさんの目線がこっちにない。さては練習のときに隠し撮りしましたね?」

利仙「細かいことは気にしないっ! そんなことより、ほらっ! いちごちゃんが場決めしますよー!! きゃー! きゃー!!」ブンブン

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「あ……もこ的にはアリなんだ。ってか、そう言えば、今までももこはわりとノリノリだったっけ」

もこ「/////」ブツブツブツブツ

絃「いちごは夢にも思わないだろうな。自分の対局中に、あの花散る里の天女百花仙最愛の大能力者神憑き元ナンバー7と数々の異名を持つ利仙が、
 手作りの『いちごはっぴ』を着て、『いちごはちまき』を締めて、『いちごうちわ』を振り回しているなんて……」

藍子「利仙さん、いちごさんには隠してますからね。ファンだってこと」

絃「それもただのファンじゃない。まだいちごがメジャーじゃなかったジュニア時代からの最古参だ。
 いちごに会いたいがために麻雀を覚え、半年そこらでインターミドルの舞台に出てくるくらいだから、相当だぞ」

藍子「霧島に通って神代さんたちに特訓してもらったんでしたっけ。いくら生まれつき《神憑き》の才能があったからって、とんでもない成長っぷりですよね」

絃「実際、利仙はあまりに強くなり過ぎて、記念すべき初対面となったインターミドルの個人戦で、いちご本人をボコボコに負かしたらしいからな。もう何がなんだか」

藍子「《最愛》は《斎愛》――愛し祝いて花咲かす斎き女って、これがその由来なんだって知ったときは、利仙さんに対する諸々の幻想が砕け散りましたよ」

利仙「ほらあー! 二人とも、何よそ見してるんですか!! いちごちゃんが起親ですよーっ! サイコロ回しますよっ! せーのっ、L・O・V・E・い・ち・ごー!!」ブンブン

絃・藍子「い、ち、ごー……」

利仙「声が小さぁーいっ!!」

絃・藍子「い、ち、ごー!!」

利仙「きゃー!! いちごちゃーん! 頑張ってーぇ!!」ブンブン

絃「またこれが半荘二回ずっと続くのか……」

藍子「ゆゆしき大問題ですよね。ま、なんだかんだで、楽しいからいいんですけど」

絃「確かに、ここでしか見られない貴重な光景ではある」

利仙「きゃー! いちごちゃーん!! 愛してるーぅ!! きゃーっ!!」ブンブン

もこ「/////」ブンブンブンブン

 ――――

 ――対局室

美子「よろしくとです」

 北家:安河内美子(新道寺・57900)

いちご「よろしゅう」

 東家:佐々野いちご(夜行・104700)

咲「よろしくお願いします」

 南家:宮永咲(煌星・82900)

智葉「よろしく……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 西家:辻垣内智葉(劫初・154500)

『中堅戦……開始です!!』

ご覧いただきありがとうございました。

次回、『佐々野さん生きての巻』、一週間以内に更新します。

では、失礼します。

 東一局・親:いちご

いちご(さて、起親じゃ。幸い配牌もまずまず。手堅く和了っておきたいとこじゃが……打点も下げたくない。ひとまず門前で進めるかの)タンッ

いちご(にしても、さっきの次鋒戦の速さは異常じゃったな。決して裏目らん《悪魔》と、筒子とド真ん中しか引かん《百花仙》の利仙、さらには門前特化の《ステルス》……とどめは《飛雷神》の一巡国士テンパイと来たもんじゃ)タンッ

いちご(ほとんどの局が山の半分くらいで決着がついとった。じゃが、普通はもっと深くまでもつれることもある。
 ちゃちゃのんは特殊な能力がないけえ、手はしっかりと暖めたい。焦らず、騒がず、動じず打つ……!)タンッ

美子「ツモです。1000・2000」パラララ

いちご(は――?)

智葉(一回戦と打ち方を変えてきたか)

咲(この人……)

いちご:102700 咲:81900 智葉:153500 美子:61900

 東二局・親:咲

美子(こん点差……できることない取り返したかばってん、私にナンバー3の辻垣内さんとあの宮永さんの妹ばどげんかできるとは思えん)タンッ

美子(現状、三回戦に駒ば進めるためには二位狙いが妥当。二位の《夜行》とは四万点差。私には無理でん、池田さんか仁美ない一発でひっくり返せる点差と)タンッ

美子(なら、私のすべきことは何か。これ以上離されない。凹まない。逆転のチャンスば残したままで池田さんと仁美に繋ぐ。
 そんために、こん中堅戦は徹頭徹尾流す。そいで、辻垣内さんや宮永さんのペースば乱せればなおよか……!)タンッ

美子「ロン、3900」パラララ

いちご「はい……」チャ

美子(私は私にできることばすっ……そいがチームのためと!)

いちご:98800 咲:81900 智葉:153500 美子:65800

 東三局・親:智葉

咲(二回戦に勝ち上がってくる人たち相手だと、さすがに思うようにいかないな。1000点スタートは大変だよ。合宿のときもそうだったけど、序盤でハコになることがある)タンッ

咲(そもそも団体戦に《プラマイゼロ》は存在しない。それを、25000点持ちの30000点返しだって自分を騙して、能力を使ってる。
 その上、1000点スタートなんて無茶な想定をしてるから、騙しどころか騙し騙しの応用。ちょっと崩されると立て直すのに時間がかかる……)タンッ

咲(先鋒でへっぽこエースの淡ちゃんが不発だったから、チーム的には、この中堅戦で真のエースの私がなんとかしないといけない。
 できるだけ稼いで、友香ちゃんや煌さんの負担を、少しでも軽くしておきたい)タンッ

咲(嶺上開花は自己判断でやっちゃっていいって話だったけど、淡ちゃんの残念ダブリーの例もある。あんまり能力を過信するのもな。
 特に、この眼鏡の――辻垣内さん。さっきの荒川さんと同じ、あのお姉ちゃんをそこそこてこずらせる人)タンッ

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲(この人がいつどこで何をしてくるかわからない。慎重に行くよ。私はバカの淡ちゃんと同じ轍は踏まない……!!)

咲「カン」パラララ

咲(よし、これであとは次巡でツモれば!)

美子(出た……《魔王》のカン。こいで場の支配を強めて、点数調整ばしとるとかなんとか)タンッ

いちご(嫌な感じじゃの――)タンッ

智葉「ポン」タンッ

咲(え――飛ばされ……!? いや、それだけじゃない――!!)

美子「あ……ツモ、500・1000です」パラララ

咲(トばされた……!? その和了り牌は私のだったのに!! いきなり1000点スタートの想定が崩されたよ。この人、やっぱり危険……ッ!!)ゾクッ

智葉「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

いちご:98300 咲:81400 智葉:152500 美子:67800

 ――《劫初》控え室

憩「おおーぅ、さすがガイトさん。いやらしいとこで鳴きますなー」

菫「智葉のポンがなければ照の妹が和了っていた。あいつもお前と同じで、よく見透かしたような打ち方をするな。
 頭が切れるのは認めるが、お前のような《特例》の才能を持っているわけではないはず。あの鋭さは一体どこから来るものなんだか……」

憩「あれ、菫さんは知らへんのですか? ガイトさん、元能力者やってん。その名残で、能力者が引き起こす場の変化に敏感なんやそうですよー」

菫「初耳だぞ……。というか、元ということは、今は違うんだよな? 能力者が能力を失った例というのも、私は聞いたことがないが」

憩「それは、まあ、聞いたことないのも無理ありません。ガイトさんのは厳密には能力とちゃいますから、ホンマのホンマにレアケースなんやと思います」

菫「能力じゃない? しかし、お前は先ほど能力者と……」

憩「言葉の綾ですわ。ガイトさんが能力者と呼ばれていた時期はありません。あくまで学園都市基準で言うならそうや、っちゅー話です」

菫「……どういうことだ?」

憩「菫さんは聞いたことありますか? 《魔術師》っちゅー単語」

菫「あるにはある。海外では《能力》のことを《魔術》と呼び、《能力者》のことを《魔術師》と呼ぶのだろう?
 実際、ウィッシュアートも母国では《魔法使い》という扱いだそうだし」

憩「ところがどっこい、学園都市の《能力》と海外の《魔術》は、まったく別物らしいんですわ。
 引き起こす現象が同じやから、便宜的に《オカルト》でひとくくりにしとるだけ。両者は根底にある理念からして違うそうなんです」

菫「具体的に、どこがどう違うんだ……?」

憩「あー、いや、詳しいことは、ウチも知らへんのです。小走さんが『学園都市にいる雀士が聞いたら間違いなく発狂する』『特にお前はヤバい』言うて、教えてくれへんかったんですよ」

菫「な、なんだそれは……?」

憩「えーっと、ふわっとは聞かせてくれましたよ。ほら、今朝、話したやないですか。ウチと衣ちゃんと小蒔ちゃんとチーム《刹那》で一緒やった二人――《拒魔の狛犬》、《双頭の番犬》」

菫「染谷まこと井上純か。タイプ的に智葉に近いと言っていたな」

憩「小走さんの話やと、あの二人は、知らず知らずのうちに《運命論》ベースの打ち方を体現しとる節があるそうなんです」

菫「ん? その、運命論というのは一体なんなんだ?」

憩「場には《流れ》があるっちゅー理論、って言うてました」

菫「流れ……? ただの思い込みと意識的確率干渉が混同されていた古代に横行した、あれのことか?
 今は流れがいいからツモれそうな気がするとか、流れが悪いから大人しくしていよう、といった」

憩「一時的な確率の偏りを、何かの力やと誤解してまうやつですね。古典確率論をぶっちぎる《能力》とは別物。
 せやけど、その流れと、ウチが――というか小走さんが言うた《流れ》、《運命》っちゅーんは、全然ちゃうそうなんです。
 ほんで、運命論っちゅーんは、そこを出発点に理論を組み立てとるとかなんとか……」

菫「わけがわからん!」

憩「誰かー!? 小走さんつれてきてー!!」

菫「ま、まあ、いい。《魔術》とやらの詳細は今は置いておこう。智葉が元魔術師――元能力者だという話だったな」

憩「えっと、なので、学園都市風に言うなら、ガイトさんは《パーソナルリアリティ》空間内における支配力や意識的確率干渉の《波束》の変化に敏感なんですわ。
 これ、雀士によってはまったく感じ取れへん人もいますでしょ。今回は《新道寺》の助っ人しとる《砲号》の池田さんなんかがそうです。衣ちゃんのゴゴゴもまったく感じ取れへんくらいやから、相当ですよ」

菫「私もそこまで鋭敏なほうではないから、漠然としかわからんがな。せいぜい、嫌な予感がする、とか、何かしているな、くらいだ。
 過去の牌譜や相手の打ち筋のクセから、総合的に能力の発動を察知しているに過ぎん」

憩「ガイトさんは元々高位の魔術師――高レベルの能力者やってん。系統は学園都市で言うところの感応系。他者の《パーソナルリアリティ》に干渉し、その意識の《波束》と共振するタイプの能力者。
 せやから、相手の支配領域《テリトリー》やら能力の発動やらに、異常に鋭い。
 さっきの《魔王》のカンも、普通ならデータと睨めっこしてなんか怪しいなー、くらいまでしかわからへんところを、ガイトさんには、たぶんもっと深いところまで見えとったはずです。
 でなければ、山牌が見えるわけでもないガイトさんに、あんな的確な鳴きはできひん」

菫「言われてみれば……あいつも大概オカルトな打ち手だったな。にしても、よく知ってるな。私は智葉とはそれなりに長い付き合いだが、魔術云々の話は聞いたことがなかったぞ」

憩「いや、たまたまです。ちょっと機会がありましてん。チーム結成したあの日――菫さんが帰ってもうたあと、ウチとエイさん、ガイトさんに誘われて、ちょっと打ったんですわ。
 そんとき、なんや観光で来たとか言うてはりましたけど、ガイトさんの魔術師時代のお友達も一緒やってん、あることないこといっぱい聞かされましたわ」

菫「ああ……確か、中学三年の頃までだったか。智葉のやつ、海外を放浪していた時期があったと言っていたな。国際色豊かなやつだと思っていたが、そうか、そのときのあいつは魔術師だったんだな」

憩「そういうことらしいですね。ほんで、魔術師っちゅーんは、《魔法名》っちゅーんを持ってるのが一般的やそうなんです。
 で、そのガイトさんの昔のお友達さんから聞いたガイトさんの《魔法名》が、あまりにぴったり過ぎて、エイさんと大爆笑したんですわ」

菫「ほう。何と言うのだ、その、智葉の《魔法名》というのは?」

憩「Fallere825――」

     智葉『ロン。12000』

     美子『は、はい』

憩「《背中刺す刃》」

菫「……なるほど。それは確かに智葉らしい」

憩「ガイトさんは、世界的、歴史的に見ても極めて稀な、科学と魔術のハイブリッド。交差するはずのない二つの世界の両方を知る二重存在です。
 魔術世界から科学世界に移るときに、魔術師としての力を失いこそしたものの、その経験は今も活きとる。
 ほんでもって、魔術世界におったときも、科学世界におる今も、その本質は変わってへん。あの人は、あの人自身が抜き身の刀……向こうの《背中刺す刃》は、こっちでも《懐刀》や」

菫「《懐刀》は《快刀》――その刃は乱麻を断ち、濫魔を絶つ……か」

憩「魔術師としてのガイトさんも、相当強かったらしいですよ。当時のガイトさんも、今と同じでほぼ無敗。同世代でガイトさんを超える雀士は、たった一人しかおらへんかったとか」

菫「むしろ一人でもいたことが驚きだな。まあ、お前は《特例》中の《特例》だから科学も魔術も関係ないとして……そうか、あちらの世界にもいるのか。
 あの智葉が敵わん相手――魔術世界の照とでも呼ぶべき存在が」

憩「《神に愛された子》……ガイトさんたちはそう言うてましたね。あらゆる魔術師の《頂点》に君臨する超魔術師。その名もずばり――運命奏者《フェイタライザー》」

菫「魔術世界の《頂点》、か。照と戦わせたらどちらが強いんだろうな」

憩「ウチも同じことをガイトさんに聞きましたわ。両方と対戦経験があるのは、世界広しと言えどもガイトさんだけでしょうし」

菫「なんと言っていた?」

憩「『わからん』……言うてました」

菫「…………それが本当なら、恐ろしいことだ。この世に照みたいなやつがもう一人いるなんてな。《頂点》へと至る道のりは……あまりに長く険しい」

憩「ま、科学と魔術――この二つの世界は滅多に交わることがないそうですから、直接対決なんて実現せーへんでしょうけど」

菫「だといいがな……」

     いちご『リーチじゃ……!』

 ――対局室

 南一局・親:いちご

いちご「リーチじゃ……!」

 東家:佐々野いちご(夜行・97300)

いちご(はぁ……本格的にヤバいの、視界がかすむ――)クラッ

美子(佐々野さん、具合悪か感じやけど、大丈夫とやろか……?)

 北家:安河内美子(新道寺・55800)

智葉(佐々野いちご……無能力者。麻雀歴は十年以上。それなりに精度の高いデジタル打ち。だが、白糸台の二軍《セカンドクラス》――その上位と張り合うには、致命的な弱点がある)

 西家:辻垣内智葉(劫初・164500)

咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 南家:宮永咲(煌星・81400)

いちご(っ――! また、吐き気が……うくっ、悪寒が止まらん。いや、我慢じゃ。今は対局中。泣き言は言っとれん……!!)タンッ

智葉(支配力、或いは、確率干渉力。これが異常に強いと、周囲の環境に目に見えるほどの影響を及ぼす。気圧の乱れ、電磁場の乱れ、等々。
 それに、強過ぎる確率干渉の波動は、時として人体そのものを直接蝕む。内臓や感覚器官にモロにダメージがいくわけだ。これが、いわゆる確率干渉の余波と呼ばれるものだが――)

いちご(牌が――重い……)タンッ

智葉(個人差はあるが、低ランク雀士の中には、この確率干渉の余波に対する耐性がまるでない者も多い。佐々野はそれだ。そんなやつが、この白糸台に五人しかいない、最高の支配力を誇るランクSと同卓している。
 喩えるなら、防護服もなく宇宙線に晒されるようなものだろう。まともなコンディションを保てるわけがない。下手をすれば、半荘一回が終わらないうちに病院送りにされるぞ)

咲「カン……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

いちご「――っ!?」ゾワッ

咲「ロン、8000」パラララ

いちご「はぁ……はぃ……」

いちご(オーダーを見たときから覚悟しとったが……辛過ぎる。高ランク雀士が相手でも意識を保てるよう、利仙に特訓してもらったんじゃが……こいつの支配力は《神憑き》の利仙すら遠く及ばん。桁が違うんじゃ)

咲「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

いちご(い、いや、耐えるんじゃ……! ちゃちゃのんは一人の雀士として卓に着いた。チームの一員として戦っちょる。今にも身体が指の先から溶けていきそうじゃが、負けるわけにはいかんのじゃ……っ!!)

智葉(精神力でどうにかできるレベルではないと思うが……まあ、その気概は評価しよう。さて、私もそろそろ動くとするか。ランクSの魔物――宮永妹。悪いが、お前にはこれ以上何もさせん)

美子(次は宮永さんの親番……生牌ば抱えつつ、さっさと和了るっ!)

いちご:89300 咲:90400 智葉:164500 美子:55800

 ――《煌星》控え室

     咲『カンッ!』

淡「えーっ! もったいない! さっさと嶺上で和了っちゃえばいいのにー!!」

桃子「カンしたあとの対応から、相手の力を推し量ってるんだと思うっす。嶺上さんは、超新星さんと私の能力が打ち破られるのを見てたわけっすから」

友香「咲は他家の出方を見るのがめちゃめちゃうまいんでー」

煌「咲さんの洞察力は、この《煌星》でも随一ですからね」

     いちご『チ』

     智葉『カン』

桃子「そこで大明槓!? 意味わからないっす!!」

友香「門前も三暗刻も捨てて……なんのつもりでー、あのナンバー3」

淡「でも、今ので、サッキーの支配領域《テリトリー》がまた揺らいだ。あのまま普通に進んでいれば、サッキーは《夜行》の人から直撃を取れてたのに!」

煌「……いや、それだけではありませんね。恐らく辻垣内さんは、鳴いてツモ順をズラすと同時に、点数調整をしたのでしょう。
 ここで和了られると、咲さんにとっては非常にやりにくい状況になるかもしれません」

淡「キラメ、それどういうこと……?」

煌「見ていればわかります」

     智葉『ツモ、1300・2600』パラララ

淡「え、ちょ――この点数……!? そっか、そういうこと!」

桃子「現段階での嶺上さんの個人収支がプラス4900点で順位が二位……ってことは!」

友香「《プラマイゼロ》でー!?」

煌「咲さんの能力は、能力それ自体が《制約》みたいなものです。このまま直撃とツモがなければ、通常の《プラマイゼロ》が達成できてしまう。
 残り局数も僅かですし、このまま蚊帳の外に追いやられても不思議ではありません。むしろ、咲さんの能力的にはそのほうが安定……自然に打てば現状維持に傾くでしょう」

淡「そっか……《プラマイゼロ》からズレてれば、それをどうにかしようっていう能力の効果が働くから、和了りにもっていきやすい。
 普段のサッキーは、そこに支配力のブーストをかけて、強引に1000点スタート《プラマイゼロ》を達成してた」

桃子「でも、現状で既に《プラマイゼロ》なら、能力的には現状維持の効果が強く働くっす。あのとんでもない場の支配も、他家で打ち合いをさせるような方向にしか使えない」

友香「現状維持は、言わばゼロのベクトルでー。そこにいくら支配力を相乗させたところで、ゼロはゼロのまま。むしろ相乗させればさせるだけ点を取りにくくなる。自分で自分の首を絞めることになる……」

煌「咲さんがここから点を取るためには、自身の能力の強制力を振り払い、辻垣内さんの妨害を掻い潜って、和了らなければいけません。
 どちらか一つを超えるだけでも大仕事だというのに、それを二つ同時にクリアしなければいけないというのは」

     智葉『ロン、7700』

     いちご『は、はい……』

淡「ま、まあでも、なんだかんだで二位浮上してるし、いいのかな……?」

桃子「トーナメントを勝ち上がるだけなら、いいと思うっすけど」

友香「でも、咲は私たち《煌星》のダブルエースの一人。《プラマイゼロ》そのものが弱点だって知れ渡ったら、この先チームが立ち行かなくなるかもでー」

煌「モニターで見る限り、咲さんも歯がゆく思っているようですよ。どうなっても見守りましょう。それが今の私たちにできることです」

 ――対局室

 南三局一本場・親:智葉

咲(わざと点数を下げて私の得点を《プラマイゼロ》にして、そのまま蚊帳の外に追いやる……? そんなの……そんなのってないよ……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 北家:宮永咲(煌星・87800)

いちご(うっ……また――)クラッ

 西家:佐々野いちご(夜行・80300)

美子(さ、佐々野さん!? しっかり……!!)

 南家:安河内美子(新道寺・54500)

智葉(ふむ……まだ消えないか。大したやつだな。ま、そのほうが楽しめていい。ここから何かしてくるというのなら、それはそれで見てみたいものだ。
 が、チームとして戦っている以上、あまり滅多なことはできん。手堅く断ち切っておくか――)

 東家:辻垣内智葉(劫初・177400)

智葉「カン」パラララ

いちご(ま……た大明槓!? しかも、今度はドラ4じゃと!? こんなんオリるしかなかろう……っ!!)

美子(辻垣内さん……普段はこんな危うか打ち方なんてしてこんのに。連荘は止めたかばってん、直撃は避けたか。ツモられる分には二位との点差は広がらんけん、ここは大人しくオリたほうがよかとやろか……?)

咲(またわけのわからないところで……この人――!? けど、連荘なんてさせないよ。《プラマイゼロ》の状態からでも、否、だからこそ、できることがある……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

智葉(ん……宮永妹がテンパイを崩した? 一体どういう――ああ、そうか。なるほど、そこそこ頭は回るようだな。積極的に現状維持をしようということか。
 佐々野と安河内はオリ気味だし、そちらの得意分野で攻めてこられると、レベル0の私にはなかなか辛いものがある。
 まあ、いい。せっかくだから試せるだけ試してやろう。こちらの懐は痛まんわけだしな……)

 ――《劫初》控え室

     咲『ノーテン』

     智葉『ノーテンだ』

     いちご・美子『……ノーテン』

菫「流れたな。これは智葉の思惑通り、なのか?」

憩「ちゃうと思いますよ。これは妹さんの思惑通りです」

菫「というと?」

衣「あのカン使い、途中でわざとテンパイを崩した。あれが真に《プラマイゼロ》にしかならないというのなら、ここから点を得ることも失うこともないということ。その特性をうまく利用したのだな」

菫「自身の点棒をそのままにできることというと……」

エイスリン「アガラナイ、フリコマナイ、ツモラセナイ、ツイデニ、モヒトツ」

憩「ノーテン罰符も無にできる、っちゅーことです。今の局、佐々野さんと安河内さんはベタオリやったから、テンパイするとしたら妹さんかガイトさんの二人だけ。
 せやけど、二人がテンパイしてもうたら、流局時にノーテン罰符で点棒の移動が起こることになります」

菫「つまり、照の妹は、わざとテンパイを崩すことで、全員がノーテンになるように場を支配したのだな?
 それなら、確かに点棒の移動は起こらない。照の妹は《プラマイゼロ》のまま。これ以上ない現状維持だ」

憩「全員の手を止めてまえば、ガイトさんが他の二人から和了ってまうっちゅー可能性も消せます。
 自身の《プラマイゼロ》を崩さず、他二人がベタオリの状態からガイトさんの親を蹴る。その両方を同時に達成できる冴えたやり方は、全員ノーテン流局しかありません」

菫「天江ばりの呆れた場の支配だな……。まあ、こちらの点棒は減らないわけだから、問題ないと言えば問題ないのか」

衣「さとはも色々と試していたようだが、今回はあれの支配を突破するには至らなかったようだな。衣と同じ最高階級の支配者《ランクS》……一度打ってみたいものだ」

エイスリン「マケテモ、ホネハ、ヒロッテヤル!」

衣「衣は負けないっ!」

菫「まあ、照の妹は勝たないし負けないのだから、お前の望むような勝負が成り立つかどうかは微妙なところだと思うぞ」

憩「衣ちゃんはすーぐ相手の心を折りにいくからなー」

衣「それは貴様も同じだろう、けいっ!」

憩「人聞きの悪い。ウチは心を折るんとちゃう、曲げて捻って弄ぶんや!」

菫「どちらも性悪だな……」

憩「いや、菫さん。それを言うたらガイトさんなんか極悪ですわ。見てください。あれはきっと何か殺るつもりですよー?」

エイスリン「サトハ、カオ、コエーゾ!!」

     智葉『リーチ……』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――対局室

 南四局流れ二本場・親:美子

智葉「リーチ……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 北家:辻垣内智葉(劫初・176400)

美子(ここでトップの辻垣内さんのリーチ!? どがんなっとん……ただのリーチやのに恐ろしか!)タンッ

 東家:安河内美子(新道寺・54500)

いちご(くっ……なんのつもりじゃ……!? じゃが、ちゃちゃのんも大きいの張ったけえ、ヤミで撃ち落しちゃるッ!!)

 南家:佐々野いちご(夜行・80300)

咲(こ、この人は……っ!!)ゾッ

 西家:宮永咲(煌星・87800)

智葉(宮永妹――お前の《プラマイゼロ》は確かに強力だ。強度もそうだが、支配領域《テリトリー》が通常では考えられないほどに広い。はっきり言って、何もかもが異常だ。得体が知れないにも程がある。
 しかし、強力な力ゆえに、制限も多いらしい。選別戦や予選での不自然な打ち回しを見たときから、もしやとは思っていたが、直に打って確信を得た。
 こいつは《プラマイゼロ》の力を意識的にオフにすることができない。信じ難いが、《プラマイゼロ》以外の結果になったことがないようにも見える。
 だとすれば、こいつを殺すのは実に容易い。この何の変哲もないリーチで、その四肢を斬り落とすことができるわけだ)

咲(トップで、しかも元々リーチ率はそこまで高くないはずなのに、このオーラスで仕掛けてきた。さっきの点数調整といい……この人、私の《プラマイゼロ》を完全に見切ってる……!?)

智葉(宮永妹の今の個人収支はプラス4900点。通常の《プラマイゼロ》は達成している。
 しかし、時と場合によって、こいつは1000点スタート《プラマイゼロ》などというわけのわからん真似をしてくるそうじゃないか。
 つまり、今現在、こいつの頭の中では、1000点+4900点で、持ち点が5900点ということになっているはず。ここから三倍満――24000点を和了れば、積み棒の分も入れて30500点。五捨六入で《プラマイゼロ》達成。
 だが、そこにリー棒が出ればどうなる……?)

咲(ここで三倍満を和了ると、リー棒もついてきちゃうから個人収支は31500点――《プラマイゼロ》にならない……!
 いつもなら……ちょっとくらい予想外のリー棒が出てきても、カンで符点調整して誤魔化せる。けど――!)

智葉(満貫までの点数なら、調整の手段はいくらかあったろう。しかし、お前が今狙っているのは満貫以上の大きな和了り。
 4000点、8000点刻みで打点が上がってしまう。計算を狂わすには、たった1000点分のリー棒で事足りる)

咲(リー棒が出た時点で、この局での1000点スタート《プラマイゼロ》の達成は封じられた。どうしよう……!?
 この人の狙い通り、このままプラス4900点をキープして通常《プラマイゼロ》で終わる……? いやいや、そんなの許せるわけないよっ!!)ゴッ

智葉(ん? 手足を失ってもなお噛み付いてくるのか。面白い。一体何を見せてくれる……?)

咲「カンッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

智葉(大明槓ツモ切り。プレッシャーは悪くない。宮永と同じ血が流れているというのも納得だ。で、ここからどうなる――?)タンッ

美子「ロ、ロンです! 7700は8300ッ!!」パラララ

智葉「……はい」

智葉(ほう……? ツモ順をズラし、他家の手にカンドラを乗せ、私を削りに来たか。
 しかも、ただ私を削りたいだけなら、佐々野のほうが大きい手を張っている風だった。なのに、こいつはわざわざ安手だった安河内をアシストした。これはつまり――)

咲(次は南四局三本場……積み棒が邪魔で点数調整がキツいけど、対局さえ続けば、1000点スタート《プラマイゼロ》にするチャンスがきっとどこかで出てくる。私は勝ちを諦めない……!!)

智葉(ラス親の安河内の連荘支援か。なるほど。確かに、それなら、いつかどこかで点数調整の機会が巡ってくるかもな。やり方次第では、チャンスを伺いつつ私を削ることもできよう。
 しかし、残念だが、宮永妹。その程度の《解答》では不合格だよ)

美子「……和了り止めするとです。前半戦は、こいで終わりと」

咲(は――?)

智葉(英断だな。中堅戦開始時に五万点近くあった二位との差が、今は二万五千点程度に縮まっている。
 後続の得点能力を考えれば、安河内がここで無理をする必要はない。宮永妹、これではっきりした。今のお前は姉に――宮永照には遠く及ばない)

 一位:辻垣内智葉・+13600(劫初・168100)

咲(そんな……なんで!? ラスなのに連荘しないの? どうして……!!)

 三位:宮永咲・+4900(煌星・87800)

美子(そげん泣きそうな目で見られても困っとよ。私には私の目的と優先順位のあっ。
 さて……ひとまず気持ちば切り替えっと。次で、せめて二位との点差ば一万点台にしたかね。そんために……私になんのできる……!!)

 二位:安河内美子・+5900(新道寺・63800)

いちご(や、焼き鳥一人沈みで三位転落……じゃと!? こ、こんなん、皆に申し訳ない。うぅ……ちゃちゃのんはどうしたらええんじゃ……)クラッ

 四位:佐々野いちご・-24400(夜行・80300)

智葉(さて、今のところは荒川の見立て通りか。ランクSとは言えまだまだ一年生。私や荒川の敵ではない。この程度なら、たとえこいつらが三回戦に上がってきたところで、それまでだろう。だが――)

咲(か、必ず……!! 次こそは必ず1000点スタート《プラマイゼロ》にしてみせる……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

智葉(本気で向かってくる相手を優しくいなしてやれるほど……私は器用じゃない。真剣には真剣で切り返す。
 これだけ脅してもまだ歯向かう気概があるか、宮永妹。よかろう……そのか細い首、この《懐刀》が斬り落としてくれる――)

 ――《夜行》控え室

利仙「い、いちごちゃああああああん!!!」ポロポロ

藍子「な、泣かないでください利仙さん! まだ終わったわけじゃありませんよっ! 後半戦があります……!!」

絃「いちごだって辛いはずだ。ここでお前が応援してやらないで、誰があいつを支えるというのだ」

利仙「もちろん、そんなことは私もわかってます……! わかってますけど、いちごちゃんの悲しみはファンみんなの悲しみですから! いちごちゃんが涙目になっているときは、私も一緒に泣くっ!!」ポロポロ

絃「こんなに想われて……いちごは幸せ者だな」

藍子「利仙さんの気持ちを直接届けられたらいいんですけどね」

利仙「それなら……ご心配には及びません。気持ちはちゃんと届きますよ。いちごちゃんを愛する気持ちは、必ずいちごちゃんに届く――! それはファンの誰もが知るところっ!!」

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「え? もこ、それどういうこと? ここからはいちごさんの独壇場って……」

利仙「ふふっ……さすが対木さん、わかっていますね。その通りです。いちごちゃんは……負けて凹んでからが本領っ!!」

絃「何……?」

利仙「いちごちゃんは、本人もそう言っていますが、まったくの無能力者。ですが! ファンの間では、いちごちゃんは実は能力者というのが通説なのですっ!」

藍子「いちごさんの能力……? 見たことも聞いたこともないですよ? それに電子学生手帳の記録でも――つまり実際の能力測定でも、確かにレベル0だったはずです」

利仙「学園都市の能力測定は、特殊な場合を除き、個人で発動できる能力のみを対象としています。
 しかし、レベル5の《約束の鍵》しかり……複数の人間が能力の発動に関与しているケースというのも、ごく稀にあります」

絃「いちごがそれだというのか?」

利仙「ええ、無論、実証はされていませんがね。しかし、ファンはちゃちな測定結果などなくとも、信じています。いちごちゃんの秘めたる力……それは、《みんなの応援が力になる》感応系能力だと!!」

絃・藍子「………………」

利仙「じ、実際いちごちゃんは応援すればするほど強くなるんですっ! そして、応援というのは、勝っているときより負けて凹んでいるときにその最高潮を迎えるもの――!
 即ち、今この時こそ、いちごちゃんの真の姿が見られるというわけですっ!!」ブンブン

もこ「」ブンブンブンブン

利仙「さあ……皆さん、気合を入れ直しますよ。私たちの応援が、そのままいちごちゃんの勝利へと繋がるんです! みんなで愛を叫びましょう! いきますよー、せーのっ! L・O・V・E・い・ち・ごー!!」ブンブン

絃・藍子「い・ち・ごー!!」ブンブン

もこ「」ブンブンブンブン

 ――対局室

智葉「よろしく」

 東家:辻垣内智葉(劫初・168100)

美子「よろしくと」

 南家:安河内美子(新道寺・63800)

いちご「……よろしゅう」

 北家:佐々野いちご(夜行・80300)

咲「よろしくお願いします……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 西家:宮永咲(煌星・87800)

『中堅戦後半、開始です!』

ご覧いただきありがとうございました。

次回はわりと短めなので、数日以内に更新できると思います。

では、失礼します。

 ――《煌星》控え室

友香「後半戦……始まったんでー」

桃子「起親は極道さんっすか。嶺上さん、かなり意識してるっすね……」

     咲『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡「ちょ、これ……サッキー、序盤からぶっ飛ばしてるなー」ビリビリ

     咲『ツモ……3000・6000ッ!!』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌「カンに頼らず和了りましたね。支配力だけで強引に振り切るつもりでしょうか。先行して優位に立ち、細かい調整は追々する、と。
 常にプラスをキープしていれば、最悪、《プラマイゼロ》が達成できなくても、チームとしては万々歳です」

淡「させてくれればいいけどねー……」

     智葉『ツモ、1300・2600』

友香「《懐刀》――辻垣内先輩……さっきから隙らしい隙がないんでー」

桃子「嶺上さんの能力も支配力も、まるで意に介してないっす。単純に戦い慣れているって感じっすね」

煌「辻垣内さんは三年生でナンバー3。二年以上も前から、あの方は咲さんのお姉さんを始めとした上位ナンバーの方々と数多くの対局を重ね、ほとんど無敗に近い戦績を残しています。
 戦いに慣れていないわけがない、隙があるほうがおかしい、というものでしょう」

淡「けど、ここまで差が出るもんかな。だって、サッキーは、あの人が二年以上も勝てなかった学園都市の《頂点》――宮永照の妹。素質も実力も、高校九十九年生くらいはあるんだよ?」

煌「力の差は……言うほどないように、私には思えるのですけどね。辻垣内さんにあって咲さんにないものが、明暗を分けている。そんな風に見えます」

桃子「……そう言えば、中堅戦が始まる前、嶺上さん言ってたっす。能力に目覚めてから今まで、1000点スタートみたいな例外も含めて、『プラマイゼロ以外になったことがない』って」

友香「超能力者ばりの《絶対》でー」

淡「でも、それってつまり、勝っても負けてもいないまま、ここまで来たってことだよね」

煌「勝利の味は覚えたはずです。あの合同合宿――三年生の上位ナンバーを相手に、咲さんは見事な勝利を収めました。あれ以来、咲さんは前にも増して麻雀にのめりこむようになりましたね」

淡「ただ……敗北の味をまだ知らない、かぁ」

煌「ええ。能力や支配力云々ではなく、それこそが、咲さんの最大の弱点なのかもしれません。そして、そこを的確に突いてくる百戦無敗の雀士と、咲さんは今、対戦しています。これが、もし……もしもです」

淡「なあに?」

煌「この対局に、咲さんが敗れるようなことがあれば……」

淡「あれば?」ゴクリッ

煌「…………どうなってしまうんでしょうね?」

淡「ずこー!! もー、キラメってば思わせぶりにテキトーなこと言うのやめてー!!」

煌「すいません。いや、まあ、ですが――」

淡「ほえ?」

煌「どうやら少々……その『もしも』が現実味を帯びてきたようです」

     智葉『ロン』ゴッ

淡・桃子・友香「っ!!?」ゾッ

 ――対局室

 東三局・親:咲

智葉「ロン」ゴッ

咲「え――」ゾワッ

智葉「槍槓赤二ドラ3……12000」パラララ

美子(ちゃ……槍槓――!?)

いちご(しかも槍槓以外役ナシ! どういう理屈でそんな打ち方ができるんじゃ……!?)

咲(そんな……! そんなっ!! そんなそんなそんな――!!?)カタカタ

智葉(他愛もない。これで終わりか、宮永妹。だとしたら、お前は姉だけではない。この私にすら、一生敵うことはできんぞ)

咲(そ……んな――)カタカタカタカタ

智葉:179300 美子:58200 咲:86500 いちご:76000

 ――《劫初》控え室

憩「あーあー。ガイトさんがついに殺ってもうたー」

エイスリン「ゼンカ、イッパイ!!」

衣「それを言うなら一犯だろうに。ま、実際いっぱいあるのかもしれないが」

菫「おい、照の妹は大丈夫か……? 心臓は動いているか?」

憩「とりあえず、ぎりぎり生命反応は見られますわ。せやけど」

エイスリン「ハイヲ、ツモッテ、ステル、ダケノ、シカバネ!!」

衣「乏しいなっ! 闕望したぞ!!」

菫「お前らには他人を気遣う心がないのか?」

憩「っちゅーかガイトさんも大人げないですわー。なんも、わざわざ相手の支えになっとるもんを断ち切らんでもええですやん」

菫「東横の《ステルス》を破ったやつが何を言う」

衣「これであのカン使いは木偶に成り果てたな」

     智葉『ロン、6400』

     美子『はい……』

エイスリン「オヤバン、キタゼッ!」

憩「これは始まってまうでー、ガイトさんの殺戮ショーが!!」

衣「カン使い以外はまるで凡夫! 話になるまい!!」

菫「おい、荒川、天江。お前ら、あまり白糸台の三年を」

     『――リーチッ!!』ゴッ

エイスリン「オ?」

憩「へえ」

衣「ほう……」

菫「と――言うまでもなかったようだな……」

 ――対局室

 南一局・親:智葉

いちご「――リーチッ!!」ゴッ

 北家:佐々野いちご(夜行・75000)

智葉(さっきまで確率干渉の余波で瀕死だったはずだが……? ここでこの気炎。顔色も良くなっている。ああ、そう言えば、二年前もそうだったか――)

 東家:辻垣内智葉(劫初・185700)

いちご(辻垣内が宮永咲を真っ二つにしたからじゃろか。身体が嘘のように軽いの。手も面白いように伸びていく。さっきまでの地獄がなんじゃったのかっちゅうくらい、ええ感じじゃ!!)

いちご(この感覚は知っちょる。公式戦で負けとるときに、どこからともなく力が湧いてくることが何度もあった。ほいで……決まって、どっかの誰かの声が聞こえてくるんじゃ)

        ――L・O・V・E・い・ち・ごー!!

いちご(ジュニアの頃から、凹むたんびに聞こえてきた。よう知っちょるやつの声に似とるが、いや、あいつがこがなん声を出しとるのは、かなり想像を絶するの……)

    ――きゃー! いちごちゃーん!! 愛してるーぅ!!

いちご(うん。あいつは死んでもこんなこと叫ばんじゃろ。きっと、性格の全く違う双子の妹とかがおって、そっちが叫んどるんじゃと思う。
 実際、三年前のインターミドルであいつにボコボコにされたときだけ、この声は聞こえてこんかったけえ。そういうことなんじゃ。そういうことにしとく……)

       ――いちごちゃーん! 頑張ってーぇ!!

いちご(なんにせよ、有難い限りじゃ。身体の中が不思議パワーで満たされていく感じがする。謎の声の主……われには随分と助けられちょる。
 直に会えんのが残念じゃけど、会えんからこそ、ちゃちゃのんは、われの声援に――麻雀で応えたいっ!!)

いちご「ツモッ!! 2000・4000じゃ!!」

智葉(これはなかなか……)

美子(えええ!? 辻垣内さんの親番の流された!? 信じられなか!!)

いちご(よしっ! どこまでやれるかわからんが、このまま二位復帰しちゃる!!)

  ――いちごちゃああああああああん!! 最高っ!! 大好きーぃ!!

いちご(おっ……やっぱり、どっか遠くで見てくれとるんか。どこの誰かはわからんが、いつも応援、ありがとのっ!!)

智葉:181700 美子:49800 咲:84500 いちご:84000

 ――《夜行》控え室

     いちご『ツモッ!! 2000・4000じゃ!!』

利仙「いちごちゃああああああああん!! 最高っ!! 大好きーぃ!!
 ほら、見ました見ましたー!? あの辻垣内さんにいちごちゃんが満貫の親っ被りをかましましたよーっ!!」ブンブン

絃「見ているさ……そして驚いている。これはいちご能力者説を信じたくもなるというものだ」

藍子「流れるようにテンパイして和了ってましたね!!」

もこ「」ブンブンブンブン

利仙「ふっふっふ、辻垣内さん。宮永さんの妹さんに気を取られましたねっ!?
 しかし、その卓――本当に警戒すべき雀士は他にいました! つまり、いちごちゃんのことですっ!! きゃー!! いちごちゃーん、カッコ可愛いーっ!!」ブンブン

絃「宮永照の妹は目に見えて消沈しているな。おかげで支配力も幾分和らいだか。やっと回ってきた好機――物にしてみせろ、いちごちゃん!」

藍子「い、絃さん……?」

絃「忘れてくれ」ゲフンゲフン

利仙「いちごちゃんファンが増えてくれて何よりです。その調子ですよ、霜崎さん。その溢れる愛が、何よりもいちごちゃんのパワーになるっ!!」

     いちご『リーチッ!!』

藍子「まあ、確かにいちごさんが息を吹き返したのは嬉しいです。けど、喜んでばかりはいられない」

利仙「ええ、あちらもあちらで立て直してきたようですね」

絃「宮永照の妹の支配力が弱まって、あいつも前半戦序盤のキレを取り戻したか」

     美子『ロンです、1500ッ!』

     いちご『っ!?』

利仙「いちごちゃーん!! 負けないでーぇ!!」ブンブン

もこ「」ブンブンブンブン

 ――《新道寺》控え室

華菜「いっけー、そこだし安河内先輩っ!!」

友清「ぶちかますとですーっ!!」

     美子『ツモ、2100オールッ!!』

華菜・友清「わああああああああ!!」

巴「盛り返してきましたね」

仁美「美子もこの学園都市で生き抜いてきた雀士の一人と。そげん簡単にはやられん。もちろん、佐々野もな」

     いちご『ロン、5200は5800じゃ!!』

     美子『くっ……』

華菜「まだまだっ! まだいけるし!!」

友清「頑張ってとですーっ! 安河内せんぱーい!!」

     いちご『リーチじゃ!!』

     美子『ツモ……1000・2000』

華菜・友清「ふぉおおおおおおおおおお!!!」

巴「いよいよオーラスですね」

仁美(美子、頑張りんしゃい……っ!!)

 ――対局室

 南四局・親:いちご

いちご(くっ……調子はこれでもかってくらいに上がってきたんじゃが、ちゃちゃのんだけじゃなく《新道寺》のもじゃったか。
 それに、辻垣内がずっと静かなのも気になるの。じゃが、ここで行かんでいつ行くんじゃ――!!)タンッ

 東家:佐々野いちご(夜行・83200)

いちご(前半で失ってしもうた点数、このラス親でできるだけ取り返す。ほうじゃないと絃や利仙に合わせる顔がない。大丈夫……今のちゃちゃのんなら、できるはずじゃ!!)タンッ

智葉「リーチ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 南家:辻垣内智葉(劫初・177600)

いちご(っ!? 動いてきたの、辻垣内。こんなに恐いリーチはない……じゃが! ちゃちゃのんにだって、ちゃちゃのんの意地がある――!!
 われが強いのは知っちょるが、この声が聞こえちょる限り、ちゃちゃのんは止まらんけえの!!)

    ――いちごちゃーん!! やっちゃってーぇ!!

いちご「(わかっちょるっ!!)ツモじゃ! 2600オールッ!!」ゴッ

智葉(切っ先を突きつけても怯まん……か。二年前のクラス対抗戦もそうだったな。
 この後半戦、よくわからんが、佐々野の『何か』が変わった。こういう土壇場で得体の知れない力を発揮するタイプが、正直、私は一番恐い)パタッ

智葉(さて、それはそれとして、どう出るか、佐々野いちご。私に言わせれば、ここでラス親を続行するのは、それこそ愚の骨頂。お世辞にも賢い判断とは言えんが――)

いちご「ラス親……続行じゃあッ!!」ゴッ

智葉(マズい、口元が緩むのを止められん。佐々野いちご。確率干渉の余波に弱いことを除けば、二軍《セカンドクラス》に相応しい実力を持ち、稀に信じられないような底力を見せてくる、それなりに手強い打ち手だ。
 しかし、どうにも、勝負どころで熱くなり過ぎる嫌いがある。
 それがお前の悪いクセだと、なぜ学習しない? 二年前のクラス対抗戦からまるで成長が見られないぞ。本当に、愚かしいにも程がある。だが、それがいい……)

いちご「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

智葉(私は向かってくる者に容赦はしない。敵は全て斬り殺す。なに、安心しろ。痛みはない。ちゃんと次の一局で終わらせてやるさ)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

智葉:175000 美子:55200 咲:77800 いちご:92000

 ――《夜行》控え室

     いちご『……リーチッ!!』

藍子「ここまでか……いちごさん」

絃「あの辻垣内を相手に、よく戦った」

利仙「ええ。これこそ、みんなの大好きな、いちごちゃんの麻雀です」

もこ「」ブンブンブンブン

     智葉『ロン、2600は2900……!』

     いちご『――っ!!』

『中堅戦終了ーッ!! 辻垣内智葉がその切れ味を見せ付ける一人浮き! チーム《劫初》が完全に独走態勢に入りましたー!!』

藍子「いやぁー、続行しなければ! って、言わぬが華ですかねっ!?」

利仙「いいんです。どんどん言ってやってください。いちごちゃんは、ちょっとマヌケでおバカさんです。けど、そこがまた、たまらなく可愛い」

絃「勝っても負けても受け入れるとは、本当に利仙はファンの鑑だな」

利仙「いえ、私だけが特別ではありません。いちごちゃんファンはみんなそうです。いちごちゃんは、勝っても負けても愛らしい。なぜなら、いちごちゃんは、勝つときも負けるときも、いつだって一生懸命だから」

もこ「」ブツブツブツブツ

利仙「いつも一生懸命だから、いちごちゃんは、勝ったら本気で泣いて喜ぶ。負けても、本気で泣いて悔しがる。それが、いちごちゃんの魅力で、いちごちゃんの強さです。
 私はこれからも、いちごちゃんを応援し続けますよ。いちごちゃんのひたむきさが、私に元気をくれる。だから、お返しに、私は応援でいちごちゃんの力になりたいっ!!」

もこ「」ブツブツブツブツ

絃(……なあ、藍子)コソッ

藍子(なんですか、絃さん?)

絃(《夜行》の五人目……もし、過去に戻って新しく誰かを選べるとしたら、誰にする?)

藍子(そんなの――もちろん決まってますっ!)

絃(だよな)

藍子(みんなのアイドル……いちごちゃんですっ!!)

もこ「」ブツブツブツブツ

利仙「おっと、そろそろいちごちゃんが帰ってきますね。応援グッズを隠さなくては……」イソイソガサゴソ

 ガチャ

いちご「うー……ただいまじゃあ……」ヨロヨロ

 四位:佐々野いちご・-16600(88100)

絃「お疲れ、いちご。最後は続行しないほうがよかったな」

いちご「うっ……!」

藍子「後半の感じで前半もいければよかったんですけどねっ!」

いちご「うぅっ……!!」

もこ「」ブツブツブツブツ

いちご「なに言っちょるかわからんけど、うううう……!!!」

利仙「……佐々野さん」

いちご「利仙……すまんの、利仙が作ってくれたリードを守れんかった……」

利仙「過ぎたことは気にしないでください。私も力不足でした。次はオリジナルプリントTシャツを拵え――三万点くらいはプラスにしなければいけませんね」

いちご「こ、の……! さすがに三万は言い過ぎじゃろっ!? 二万くらいで十分じゃ!!」

藍子「あ、二万くらいはほしいんですね」

絃「それだけ元気があるなら大丈夫だな、いちごは」

もこ「」ブツブツブツブツ

利仙「次は勝ちましょうね、佐々野さん」

いちご「もちろんじゃ!!」

藍子「さってーぇ、けど! まっ、なんだかんだで二位はキープぅ! このまま私たちで逃げ切るよ、もこッ!!」

もこ「」ブツブツブツブツ

絃「今日も頼むぞ、最終兵器」

利仙「対木さん、まだ麻雀を始めて半年も経たないのに、少なくとも佐々野さんよりは強いですからね」

いちご「ちゃちゃのんを物差しに使うなっ!?」

藍子「さあ、度肝を抜いてきてやって!! 任せたよ、もこーッ!!」

もこ「」ブツブツブツブツ

 ――《新道寺》控え室

美子「ただいまと」

 二位:安河内美子・-2700(55200)

友清「お疲れ様とですー!!」

仁美「マイナスとは言え個人収支は二位やけん、本当にようやってくれたな、美子」

美子「あいがと。逆転はできんやったばってん、あとは頼むと、仁美、それから――」

巴「出番ね、華菜」

華菜「任せろだしーっ!!」ゴッ

美子「池田さん、それに狩宿さんも。二人のおらんやったら、私ら《新道寺》はクラス選別戦にも出れんやった。重ね重ね、感謝と」ペコッ

華菜「そ、そんな……! あたしなんて大したことはしてないですっ! だ、だから、そんな、頭を上げてくださいし!!」

仁美「池田の言う通りと、美子。それは、こいつの勝って帰ってきたときんために、とっときんしゃい」

美子「ああ、そいもそうやね」

巴「だってさ。期待されてるね、華菜。私なんて原点で帰ってくれば御の字の扱いだったのに」

友清「そいはそい、こいはこいとですっ!」

仁美「政治ば例に挙げるまでもなく、何事にも役割分担ってもんのあっ。このチームの一番の稼ぎ頭は誰ぞ、池田、言ってみんしゃい!」

華菜「もちろん、あたしだしっ!!」

仁美「ハッ、言っとれ、二年坊! 私の一番であんたは二番とっ!!」

華菜「ふっふっふっ……じゃあ、今日もどっちが稼げるか勝負ですよ、江崎先輩っ!」

仁美「ええやろ、乗ったッ!!」

美子「精鋭揃いの風紀委員会でもトップ率三割ば誇る屈指のスコアラー……白糸台の《生ける伝説》――《砲号》と名高か池田さんのいてくれたおかげで、今までどげん助かったか」

友清「池田せんぱい、今日もがつーんとお願いするとですっ!!」

仁美「ま、後には私のおるけん。伸び伸び打ってきんしゃい!」

巴「応援してるよ、華菜」

華菜「にゃああああああああ、頑張るしーっ!!」ゴッ

 ――――

咲「……………………」フラフラ

 三位:宮永咲・-5100(煌星・77800)

友香「だ、大丈夫でー……咲?」

咲「ああ……友香ちゃん。うん。大丈夫。大丈夫だよ……うえへへ……」ドヨーン

友香(だ、大丈夫じゃないー!?)

咲「ごめんね、勝てなかったよ。私、ダメだな。誰が相手でも《プラマイゼロ》にできるところを煌さんに見初めてもらったのに……それもできないなんて……」

友香「咲……」

咲「友香ちゃん、このまま《煌星》が負けたら、私のせいかな……?」

友香「えっ? ああ、うん! それはそうでーっ!!」

咲「えー……そこそんな勢いよく肯定するとこ?」

友香「《煌星》が負けたら咲のせいだよ。あと、淡と桃子と私と煌先輩のせいっ!! だって団体戦でー? 負けたらみんなのせいに決まってるんでー!!」

咲「ふふっ。友香ちゃんの、そういうとこ、好きだな。淡ちゃんと違って嫌味がなくていいよね」

友香「そこは淡を引き合いに出さなくてもいいんじゃなーい? 素直に私が好きって言ってくれればいいんでー」

咲「うん。友香ちゃんのこと、嫌いじゃない」

友香「こーのー捻くれ者ーっ!!」ガバッ

咲「わわっ!?」

友香「そんな顔で帰ったら、煌先輩が心配するよ。あと、淡が反応に困ってオロオロする。で、そんな空気をなんとかしようと、桃子が変な踊りを踊り出す」

咲「……そうだね。淡ちゃんがオロオロするのは勝手だけど、煌さんと桃子ちゃんに迷惑はかけられないよね」

友香「わかったら、ちゃんと顔を洗ってから帰るんだよ、咲」ナデナデ

咲「ありがと――って、えへへ、なんか、こうして頭撫でられると、友香ちゃん、まるでお姉ちゃんみたい」

友香「でーっ? 私が宮永照みたいって? ないない!」

咲「あっ、いや、そっちのお姉ちゃんじゃなくて。もっと一般的な、お姉さんキャラ、みたいな」

友香「なるほど……じゃあ、咲がやられた分は、この友香お姉さまが取り返してくるんでー! 一位をまくるのはかなりキツいけど、二位ならたった一万点で手が届く。
 それで、三回戦に行って、今日やられた分は、そんときまとめてお返ししようっ!!」

咲「そう……だねっ!! そうしようっ!!」

友香「じゃ、行ってくる。応援よろでーっ!!」

咲「うんっ! 行ってらっしゃいでー!!」

 ――――

智葉「む、ウィッシュアートか。出迎えご苦労」

 一位:辻垣内智葉・+24400(178900)

エイスリン「サイゴハ、ヒヤヒヤ、シタゼ!!」

智葉「お前……語尾に『ぜ』とかつけるな。見た目を考えろ、見た目を」

エイスリン「ミタメヲ、カンガエル、ノハ、サトハノ、ホウダロ!!」

智葉「ああ?」

エイスリン「カガミ、ミテカラ、モノヲイエ!!」バッ

智葉「これは……今朝の絵か」

エイスリン「カガミヨ、カガミ! コノヨデ、イチバン、ウツクシイ、ノハ――」

智葉「ふん、眼鏡を外して髪を下ろした私だろ。聞くまでもない」

エイスリン「コンドハ、ソノ、ダサイ、フクモ、ヌグカ?」

智葉「バ――!? おまっ……何を考えてんだ!?」

エイスリン「オメカシ、スルカッテ、イミ、ダケド?」ニヤニヤ

智葉「…………お前、あとで帰ったら覚えてろよ」

エイスリン「ヨク、イミ、ワカンネーケド、イッテクル!!」

智葉「幸運を」

エイスリン「マカセトケッ!!」ゴッ

 タッタッタッ

智葉(ま、今日の面子なら、あいつに限って滅多なこともあるまい。さて、それはそうと)パイフダウンロード

 ピコン

智葉(やはり、妙だな。説明のつかない点が多過ぎる。宮永咲――あいつは違和感の塊だ。姉も相当だが、妹のほうはそれが顕著。これは深く斬り込んだほうがいいのか、関わらないほうがいいのか)

 ピリッ

智葉(む――? この気配……なるほど、私が斬ったのは本体ではなく鎖のほうだったらしい。さては宮永のやつ、ずっと放置していやがったのか。
 ったく、本当に愉快な姉妹だよ、お前ら。笑えるかどうかは微妙なところだがな)

 ビリッ

智葉(…………今度のはなんだ? 気のせいならばいいが、いや、それはないか。だとすると、この会場、まだ何かいるな……)

『まもなく副将戦が始まります。対局者は席についてください』

智葉(魔術世界から科学世界に移って三年……未だ闇の底が見えん。本当に、退屈しないな、この街は――)

 ――――

 ――対局室

華菜「(一回戦より面子は段違いに強い……それでもやるしかない。《新道寺》の皆さんのためにも、巴さんのためにも。まずはこの親で稼ぐんだッ!)
 よろしくだし!」

 東家:池田華菜(新道寺・55200)

友香「(この副将戦、間違いなく乱打戦になる。気持ちで負けたらそれまで。まずは二位をまくらなきゃだけど、一位を凹ますくらいの気合で臨もう。やってやるんでーっ!!)
 よろっ!」

 南家:森垣友香(煌星・77800)

もこ「」ブツブツブツブツ

 北家:対木もこ(夜行・88100)

エイスリン「ヨロシク♪」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 西家:エイスリン=ウィッシュアート(劫初・178900)

『副将戦、開始ですッ!!』

ご覧いただきありがとうございました。

次回は一週間以内に更新します。

では、失礼します。

 東一局・親:華菜

華菜(よーし、早速いい感じだし! ウィッシュアート先輩がいるこの場はスピード勝負でどうにかしなきゃって思ってたけど、さすが華菜ちゃん!
 スピードを重視してもこの打点。伊達に白糸台の《生ける伝説》――《爆心》の一角を担っていたわけじゃないんだしーっ!)タンッ

友香(うっ……親危なそー。こっちは二向聴。どーしよこれ。安牌はあるから、押しつつ追いつく方向で。ま、ツモられたらツモり返せばいいだけでー!!)タンッ

エイスリン「ツモ!」

華菜・友香(はあっ!?)

エイスリン「300・500♪」パラララ

華菜・友香(ゴミ手――!!)

華菜:54700 友香:77500 エイ:180000 もこ:87800

 ――《劫初》控え室

智葉「六巡目に断トツトップがゴミツモ。本人は楽しかろうが、他家にとってみればいい迷惑だな」

憩「エイさんも大概ド畜生ですわー」

衣「あやつは衣と同卓しても平気な顔で張ってくるからな」

菫「というか、ウィッシュアートがテンパイできない局なんてあるのか?」

憩「ウチなら何回かに一回は妨害できますよ。衣ちゃんの《一向聴地獄》をどーにかするんと要領はほぼ同じですから」

菫「ああ……同じ系統の能力だもんな」

智葉「学園都市一万人の中でも限られた使い手しかいない脅威の系統――全体効果系」

衣「ただ、衣の《一向聴地獄》と違って、えいすりんの能力は場の偏りが一見して分かりにくい。牌譜を見ただけだと、無能力者のそれとさほど変わらないように思える」

憩「せやけど、きちんと統計を取ってみると、明らかに古典確率論を逸脱しとる。それ即ち、意識的確率干渉――能力《オカルト》や」

     エイスリン『ツモ、2000・3900♪』

智葉「ウィッシュアートは13巡目までにテンパイすることが異常に多い。というか、普通に打っていれば、13巡目までにほぼ確実にテンパイできる」

菫「ただ、実際に打ってみると、あれは《13巡目までに必ずテンパイする》なんて生易しい能力ではないとわかる」

憩「言うなれば、《どんなに遅くとも13巡目までに必ずテンパイする》っちゅー感じでしょうか」

智葉「あいつの平均テンパイ速度は、13巡の半分でおよそ6~8巡。宮永と荒川に次いで、学園都市でも最速の部類に入る」

衣「しかし、テンパイが早いことは、えいすりんの能力の副次効果であって、本質ではない」

憩「エイさんはテンパイが速いだけやない。テンパイすると、そのあと4巡以内にあっさり和了ってまう。それも毎回や」

智葉「《13巡目までに必ずテンパイ》……さらに、《テンパイから4巡以内に必ず和了る》――つまるところ、あいつは《どんなに遅くとも海底までに必ず和了る》んだよな」

衣「そして、その《必ず和了る》を実現するために、えいすりんは、自分の手牌だけではなく、他家の手牌にまで干渉する」

菫「そこが、自牌干渉系との違いだな」

憩「他家が和了らなければ――っちゅー条件つきなら、海底までに必ず和了れる自牌干渉系能力者の十人や二十人、この広い学園都市にいくらでもおるやろ」

菫「だが、ウィッシュアートは違う。他家が和了らなければ《必ず和了る》のではない。他家に和了らせず、ただひたすら、《ずっと和了る》んだ」

     エイスリン『ロン、7700♪』

     華菜『はいだし……』

智葉「《他家を自分に追いつかせない》というのが近いのだろうか。あいつとの対局では、天江と違って、普通に進めてテンパイできるときがある。が、毎回、こちらがテンパイするや否や、一足先にあいつが和了る」

憩「衣ちゃんの《一向聴地獄》は、《普通に打つと他家のノーテン状態がずっと続く》。同様にして、エイさんの能力は、《普通に打つとエイさんの和了りがずっと続く》」

菫「一局一局の牌譜を見れば、さほど不自然なところはない。単にウィッシュアートが他家に先んじて普通の手を和了ったように見える」

智葉「だが、いくら一局ごとの牌譜に不自然な点がないといっても、放っておけば和了率100パーセントで対局を終わらせることもしばしばのあいつを、誰もデジタルだとは思わんだろう」

衣「その絵筆が描き出すのは『自分の願望』――裏を返せば、『他者の絶望』」

憩「ウチかて、さすがに和了率100パーセントは真似できひん。どう計算しても和了れる道が見つからんときっちゅーんが、毎ゲームどこかであるのが麻雀や」

菫「全体効果系が脅威の系統と恐れられる理由はまさにそこだな。天江もウィッシュアートも、通常では有り得ないレベルのワンサイドゲームをやってのける」

     エイスリン『1300ハ、1400オール♪』

智葉「さて……こうして話している間に、我らが《夢描く天使》の連続和了が四まで来たところだが」

菫「照と違って、あいつの連続和了に《制約》はないからな。さすがは《最多》の大能力者と称される打ち手。無限に和了り続けるんじゃないかと思うときさえある」

衣「相手が相手なら、衣とえいすりんは起親で十万点削ることも可能だぞっ!」

憩「ま、言うても本選――しかも一回戦を勝ち上がってきた面子や。ぼちぼち普通に打っとったらあかんことに気付き始めるやろな」

智葉「ウィッシュアートの支配する《一枚絵》の世界――その額縁から最初に抜け出すのは、果たして誰になるのか……」

 ――対局室

 東三局二本場・親:エイスリン

エイスリン「♪」タンッ

 東家:エイスリン=ウィッシュアート(劫初・199800)

友香(覚悟はしてたけど、本当に和了れない。普通に手は進んでいる気がするのに、和了るのは決まってウィッシュアート先輩)

 北家:森垣友香(煌星・72200)

友香(手牌や捨て牌に偏りがあるわけじゃないから、スピードを意識して打てば次こそ私が――と思っているうちに、何もできないまま四連続で和了られた。さすがの天使様でー)タンッ

友香(この異常な和了率は、手が速いとか有効牌を引きやすいとかいう自牌干渉系の能力とは一線を画す。煌先輩は、天江先輩の《一向聴地獄》と同じ、全体効果系の能力なんじゃないか……って言ってた)

友香(そのときは半信半疑だったけど、確かに、打ってみるとそれ以外に考えられない。この人は、こちらの手牌まで支配領域《テリトリー》にしている)タンッ

友香(ということは、普通に打っちゃダメなんだ。この人の描く《一枚絵》――その思惑通りに動いているうちは、どうやってもこの人の和了りを止められない)タンッ

友香(強い支配力を持つ淡や咲は、恒常的に、全体効果系の能力に近い場の支配をしてくる。掴ませたり、ここぞというときに和了ったり。そんなランクSの二人を相手にするとき……私はどう戦っていた? 思い出すんでー)タンッ

友香(さて、ここ辺りが分岐点かな。片や待ちも打点も高いタンピン系への道、片や牌効率の悪いリーのみへの道……素直に打つなら当然手広く構えたほうがいい。けど、その先に待ってるのは、たぶん袋小路)

友香(なら、狭くても可能性のある道を選ぼう。大丈夫。リーのみがなんでー。この巡目、まだまだ私の支配領域《テリトリー》。リーチさえできれば……なんとかなるッ!!)タンッ

エイスリン「?」

友香(合同合宿のとき、私は上位ナンバーの先輩たちに、結局一度も勝てなかった。それから、私はずっと、あの人たちを想定して打ってきた。それはなんのためか。決まってる。今ここで勝つためでー!!)タンッ

友香(淡や咲だって、いつもいつも勝てるわけじゃない。エースの二人が苦しいとき、それでもチームとして勝とうとするなら、私か桃子が点を稼ぐしかない。
 私と桃子が上位ナンバーと互角に戦えれば、《煌星》の力はぐんと底上げされる……!!)タンッ

友香(やってやるんでー……私は、もうあのときの私じゃないッ!!)

友香「リーチでーッ!!」クルッ

エイスリン「♪」タンッ

華菜(先制リーチ!? えっと……なんだっけ、こいつ、森垣友香。確か、リーチ率も、リーチしたときの和了率も打点も高いって話だった。ってことは、もしかしてここで――)タンッ

友香「っ……ツモッ!! 3200・6200でー!!」ゴッ

華菜(リーのみが一発ツモと裏でハネ満!? これが《煌星》の《流星群》……!! 一年生があの《最多》の大能力者――ウィッシュアート先輩の連続和了を止めたのか。これは、あたしもぼやぼやしてられないしっ!!)

友香(よし、手応えありっ! 全体効果系能力の支配下でも、《発動条件》さえ満たせば、私の能力値《レベル》でも一点突破はできる!
 やり方次第で先制テンパイ可能っていうのも、今ので確かめられた。いける……! 戦えるんでー、《一桁ナンバー》ッ!!)

エイスリン「♪」

華菜:40400 友香:84800 エイ:193600 もこ:81200

 ――《夜行》控え室

藍子「ひゅーぅ! やるねぇ、あの一年生。ウィッシュアート先輩に先んじてテンパイするだけでも至難の技なのに、僅かな支配の瑕から自分の支配領域《テリトリー》を展開、電光石火の一発ツモで親っ被りを食らわせるとかー!」

利仙「格上相手にどう戦えばいいかを心得ている感じがしますね。同じチームのランクSに鍛えられたのか、はたまた、ウィッシュアートさん以外の《一桁ナンバー》と対戦経験があるのか」

いちご「格上の能力者や実力者を相手にするときは、できるだけ自分の得意分野で勝負する。基本的な戦略じゃが、大抵の打ち手は、まず相手を自分の得意分野に引き込む段階で躓くもんじゃ」

絃「そのあたりに、あの森垣とかいう一年の上手さが光るな。利仙とやりあった東横もそう。能力を使っているときよりも、能力を使わずに打っているときにこそ、あいつらの強さが伺える」

藍子「さすがは《煌星》といったところですかね。今年の一年生で最も実力ある四人が集まっている、と言われるだけのことはあります」

いちご「大星、宮永、東横、森垣……それぞれがエース級の力を持っちょる。そこに、あの《南風》の南浦か《デジタル神》の原村、或いは《原石》なんかが加われば、今年の一年で最高のチームが出来上がるかもしれんの」

利仙「最高――そうですね。確かに、今名前の挙がった方々は、今年の一年生の中で最高級の実力の持つ雀士でしょう。ただ、最強となると、また別ですが」

絃「麻雀を覚えて僅か半年……インターミドルに出たときの利仙にも並ぶ成長速度で、もこはここまで来たわけだ」

利仙「いえ、私の上達は、尋常ならざるモチベーションと、霧島の方々の指導があってこそです」

いちご「尋常ならざるモチベーション……?」

利仙「私の話は置いておくとして。ただ、対木さんは私とは違います。
 麻雀のルールを覚えたあとは、そのまま誰とも対局することなく、模擬対局を含む白糸台の特殊入試を見事にパスしてみせたそうですよ。でしたよね、百鬼さん?」

藍子「はいっ!」

絃「それはすごい……」

いちご「まさに才能の塊っちゅうわけか」

利仙「大能力者《レベル4》としての対木さんは、ランクSの大星さんや宮永さんにも匹敵する化け物です。
 去年の一年《三強》は間違いなく《悪鬼羅刹》ですが、今年の一年三強は、或いは、大星さんと宮永さんと対木さんかもしれませんね」

藍子「実際、もこと初対局したときは衝撃だったですよ。私の超音波《ソナー》で見えてた牌を《上書き》する能力値《レベル》の高さもそうですし、その能力の内容も、しばらく信じられないくらいでした」

いちご「聞いたら誰もがほしがる能力じゃもんな。たまにでええからちゃちゃのんに貸してくれんかの」

利仙「あれは対木さんが持っているから強いんですよ。佐々野さんの手には余ります」

絃「だな。もこの勝負勘の良さというか、感性の鋭さというか。そういう才覚があってこそ、あの力はより威力を発揮してくる。いちごでは宝の持ち腐れだ」

いちご「わりゃあらなんて嫌いじゃ!!」

絃「冗談だ。さて……ここまでは、どうにも我慢の局だったようだな。しかし、やっと回ってきた親番。そろそろ切り込んでいくんじゃないか?」

いちご「ほうじゃの。また《煌星》の一年が仕掛けてきそうじゃし、ウィッシュアートもダマで大きいのを張っちょる。あいつの好きそうな展開じゃあ」

利仙「今年の四月に《ゴールデンルーキー》と呼ばれ一躍時の人となった《東風》の片岡さん。それに、予選で森垣さん相手に互角以上の闘牌を見せた《南風》の南浦さん。
 しかし、今年の一年生で最強の《風》は……やはり対木さんでしょう」

いちご「おっ……! もこのやつ、笑っちょるぞ! これはいよいよじゃなっ!!」

絃「もこの麻雀は攻撃特化の究極形。学園都市最強の盾があの《塞王》だとしたら、学園都市最強の矛は間違いなくあいつだ。
 動き出したもこを止められる雀士が、この学園都市に果たして何人いるか……。あの《風》は、もこの身に降りかかる、あらゆる厄禍を吹き飛ばす――!」

     友香『リーチでーッ!!』

藍子「リーチ来たーっ!! なかなかいい感じに場が盛り上がってきましたよーっ! これこそまさに、もこの注文通りの展開……そりゃ笑顔にもなるってねっ!
 さあ、今日も今日とてエンジン全開ッ! フルスロットル……!! いつもみたいに華麗にブッ込んじゃってちょーだいよっ、我らが自慢の特攻隊長――《神風》のもこーッ!!」

 ――対局室

 東四局・親:もこ

友香「リーチでーッ!!」

 西家:森垣友香(煌星・83800)

友香(二位浮上くらいで矛を収めたりはしない。私は攻める……!!)

もこ「」タンッ

 東家:対木もこ(夜行・81200)

友香(え――そんな強いとこを……!? まだ張ってもいないような感じだったのに……)

華菜「チーだしっ!」タンッ

 南家:池田華菜(新道寺・40400)

友香(こっちもオリてない……っていうか、ズラされた! くっ、けど、それならそれで――)タンッ

エイスリン「?」

 北家:エイスリン・ウィッシュアート(劫初・193600)

友香(私の一発がそっちに行くなら、それも好都合。ウィッシュアート先輩がテンパイを崩すなら、この場、私の優位は変わらない。リーチを掛けている以上、和了るチャンスは何度でも舞い込んでくるはずっ……!!)

エイスリン「♪」タンッ

友香(よし、足止め成功っ!! あとは次巡あたりでツモれれば――)
 
もこ「」タンッ

友香(ま……たそんな際どいところっ!? ちょ、もしかして……! これが煌先輩が気をつけろって言ってた、対木さんの能力――!?)

もこ「」ブツブツブツブツブツブツブツブツ

華菜(森垣のリーチに躊躇なくド真ん中。しかも的確に有効牌を引いたっぽい。対木もこ……そうだった、こいつもこいつで相当ヤバいんだったしっ!)タンッ

友香(こ、これ……南浦さんと打ったとき以上の風圧を感じるんでー!! 私の支配領域《テリトリー》が、対木さんの纏う《風》に一掃されてる!? 能力値の次元《レベル》が違うんだ……!!
 マズいんでー……これが対木もこさんっ! 淡や咲さえ超えるかもしれないっていう、同学年最強の大能力者《レベル4》――《神風》ッ!!)タンッ

もこ「っ――!! ロン、3900……/////」

友香(ちょ、超ヤバい笑顔でー!? っていうか、ブツブツ以外の声初めて聞いたーっ!!)

もこ「///////」ブツブツブツブツ

華菜:40400 友香:79900 エイ:193600 もこ:86100

 ――《煌星》控え室

淡「ちょっとユーカ!? 何ヌルヌル打ってんのー!? ズラされても和了れるように特訓したじゃーん!!」

桃子「今のは……たぶん噂のヤバ子さんが何かしたっすよ。あの人は、私ら一年生で『最強の能力者は?』ってアンケートを取ったら、間違いなく名前が挙がる一人っす。
 その能力の強度は、さっきの《飛雷神》さんもそうっすし、超新星さんや嶺上さんをも上回ると目される……同学年最強の大能力者《レベル4》っすからね」

咲「淡ちゃんのは《大体安全圏》だし、私の《プラマイゼロ》はトップを取れない。
 最高の能力者ならレベル5の《原石》さんなのかもしれないけど、あの人よくわからないから、結局、最強の能力者は対木さん、ってことになるのかな」

煌「予選のデータにも、その特異性はありありと現れていましたね。内容は半分くらいしか掴めていませんでしたが……今の友香さんの能力との衝突で、やっとその全容が見えてきました」

淡「《神風》の対木もこ……その打ち筋の特徴は、《新道寺》の《飛雷神》、それに《ステルスモード》のモモコと同じ」

桃子「全局全ツッパ。親リーが来ようとなんだろうと、無関係に切り込んでいくっす」

咲「《飛雷神》さんは能力の《発動条件》ゆえに、桃子ちゃんは能力の効果ゆえに、そういう打ち方をするんだよね」

煌「そこでいくと、対木さんは恐らく、そのどちらにも当て嵌まるのだと思われます。《神風》……あれは、弘世さんの《シャープシュート》と同じ、二つの能力の複合で成立している力――」

淡「で……なんなの、対木もこの能力って。まあ、一つはデータから簡単に推測できるけど」

咲「放銃率ゼロ。少なくとも、公式戦では一度も振り込みをしたことがない。
 どころか、相手の和了り牌を捨てたことが、同巡フリテンなんかの場合も含めて、本当にただの一度もない。そこが、桃子ちゃんの《ステルス》と違うところだよね」

桃子「そうっすね。私のは《和了り牌を捨てても相手に気付かれない》感応系の能力。対して、ヤバ子さんのあれは、たぶん自牌干渉系の能力っす」

煌「《相手の和了り牌を掴まされない》自牌干渉系の能力者。或いは《相手の和了り牌が見える》感知系の能力者の可能性もありますが、牌譜を見る限り、対木さんは前者でしょうね」

淡「私もそう思う。感知系特有の……あのレベル5の《未来視》の人みたいな、不自然な回し打ちがない。あの《神風》は、回しも様子見もしない。ひたすら和了りに向かって不要牌を切っていく」

咲「まさに特攻だよ……」

桃子「それで、きらめ先輩。ヤバ子さんの二つ目の能力ってなんなんっすか?」

煌「恐らくですが……《危険牌を切れば切るほど》《有効牌が入り和了率が上昇する》自牌干渉系の能力ではないかと」

淡「なっ、なにそのイカれたコンボ!? 《和了り牌を掴まされない》→全ツッパ→《危険牌を切るほど和了りやすい》って……! 私の《絶対安全圏》→《ダブリー》→《カン裏モロ》くらい非人道的じゃん!!」

桃子「自覚はあるっすね、超新星さん」

咲「まあ、淡ちゃんのわりかし穴だらけなコンボと違って、対木さんのは本当にかなり厄介かも。
 手数が多い人、出和了りが多い人、リーチ率の高い人、打ち合いが得意な人……要するに、攻撃型の雀士をほぼまとめて食い物にできるってことだもんね。いわば、攻撃特化の究極形」

煌「先ほどの嬉々とした闘牌からして、対木さんは特に、相手がリーチを掛けてきたときに、その本領を発揮するようですね。
 過去の牌譜でも、先制リーチに対して危険牌を切り込み、そのまま追いつき追い越せで和了りをものにしていました。リーチが能力の《発動条件》である友香さんにとっては、非常にやりにくい相手と言えるでしょう」

淡「そっか……それでさっき和了れなかったのか。ユーカの能力値はレベル3強……レベル4の《神風》に強いところを切ってこられたら、ユーカの支配領域《テリトリー》がそっちに侵食されて、能力が《無効化》されちゃう……!!」

咲「かといって、ウィッシュアートさんの全体効果系能力が支配しているあの場で、リーチは友香ちゃん最大の武器。捨てるわけにはいかないよ」

桃子「そこっすよね……あの天使さんの能力も、恐ろしく厄介っすから」

     エイスリン『ツモ、400・700ハ500・800♪』

 ――対局室

 南一局・親:華菜

華菜(このドン詰まり感……去年天江と戦ったときを思い出すな)タンッ

 東家:池田華菜(新道寺・39900)

華菜(しかも、前回は天江一人が大暴れだったのに対し、今回は三人とも強敵。これが一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》本選の二回戦。予選決勝より厳しいのは当然か)タンッ

華菜(で、私はこの局面をどう打破しようか。普通に打つとウィッシュアート先輩に和了られる。どうにか先制してリーチができたとしても、森垣みたいにほいほい和了れない上に、全ツッパで調子を上げてくる対木に狙われる)タンッ

華菜(どーにも参っちゃうし。けど……巴さんが見てる前で、恥ずかしい闘牌はできない。大丈夫……あたしはこの一年間、天江を倒すために練習してきた。全体効果系がなんだし。まして一年二人なんかに負けるかし)タンッ

華菜(《夢描く天使》――ウィッシュアート先輩! あなたにあたしの本気を描き切ることが出来ますかっ!? いざ尋常に……勝負だしッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――《新道寺》控え室

巴「《ずっと和了り続ける》全体効果系のレベル4、リーチ条件で《和了率と打点が上昇する》レベル3強、《振り込まない》上にツッパることで《有効牌を引き寄せる》レベル4……かぁ」

仁美「ひどか八方塞がりと」

美子「レベル0には厳しか面子やね」

友清「ぶっちゃけ無茶! 略してぶちゃとです!! 池田せんぱいは大丈夫とですかー!?」

巴「うーん。大丈夫じゃないかもね。ただでさえ、レベル0で全体効果系能力者の場の支配を抜け出すのは、とても大変なことだから」

美子「まあ、《劫初》は断トツやけん、別に放っておいてもよか。無理にウィッシュアートさんにぶつからんでん、二位の《夜行》ばぶち抜ければ、そいでよかと。ばってん――」

仁美「あん《神風》からは直撃の取れん。しかも、ツモで削ろうにも、リーチ掛けっと逆に食われよる。リーチに強か強能力者の《流星群》でんダメやったけん、レベル0の池田にあいば打ち破るのは不可能と」

友清「そいなー……」

巴「華菜は強いけど、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》の本選はこれが初めて。しかも、今は二回戦。苦戦するのは当然だよ。それはわかってた」

友清「うぬー! どげんかならんとですか!?」

巴「さあ……。でも、きっと、大丈夫。ちょっと苦しいけれど、見る限り、今の華菜は、ちゃんといつもの華菜だから。全然辛そうに見えないでしょ? どころか、すっごく楽しそう」

     華菜『』ピコピコ

友清「おお!? 確かにとですーっ! 耳のぴこぴこしとっとですー!!」

仁美「どげん状況でん、諦めたらそいで終わり。前に進まんと見えるもんも見えん。あいつはそいばよう知っとう」

美子「姫子と同じ白糸台の《生ける伝説》――元《爆心》メンバー。しかも、あの天江さんと打って二度も立ち直ったくらいやけん。このままやられっぱなしで終わるような子やなかと」

友清「ふあっ……!! とか言っとうたら、池田せんぱいの手がっ!?」

巴「ツモのみ1100点。けど、華菜の《砲号》ならっ!」

美子「和了り拒否……! ウィッシュアートさんのおる場でよう頑張っとね!」

仁美「序盤で焦って鳴いとったら、こうはいかんやったかもな」

友清「わっ! フリテンとですけど一盃口、ツモれば2000!! ばってん、もう一声!!」

美子「平和がついてフリテン解消! しかも高めで三色と!! ばってん、もう一声!!」

     華菜『……ッ!!』

巴「ドラ……! その感じで、もう一声っ!!」

仁美「おお、やりおるやりおる――ッ!!」

     華菜『ツモっ!! 6000オールだしー!!』

巴「プラスに戻したっ! うん! やっぱり華菜はこうでなくっちゃ!!」

     華菜『そろそろまぜろよっ!!』バンッ

仁美「あいつ……ようほざきよる」

美子「なんとやらほどよく吼える――ばってん、池田さんの《砲号》は、必ずしもそん限りやなか」

友清「なら、こっから池田せんぱいの逆襲の始まっとですかっ!?」

巴「んー、それはどうかなぁ。華菜、今、かなり調子乗ってるから。それが華菜の強いところであり」

仁美「間抜けなところと」

     華菜『リーチだしッ!!』

美子「おわわっ、さっきは掛けんやったのに……こいは大丈夫なんやろか?」

友清「大丈夫とですっ! ……たぶん!!」

巴「ここで踏ん張れれば、華菜も上位ナンバーの仲間入りができると思うんだけど」

     友香『リーチでー!』

仁美「難しか局面やね。私ない、点差のあっけん、ダマで通す」

美子「私も様子ば見ゆ」

友清「私は振り込み上等リーチとです!」

巴「十人十色。それで勝てる人もいるし、負ける人もいる」

     もこ『リーチ――/////』ブツブツブツブツ

仁美「ばってん、勝っても負けても、私は、この場面でリーチば掛けたあいつの前向きさが好きと」

巴「……あげないよ?」

仁美「奪えるとは思っとらん」

     もこ『ロン――12300……/////』

     華菜『にゃあああああ!?』

巴「あららら。せっかく持ち直したと思ったら」

仁美「こいは……大将戦は大仕事になりそうと」

美子「そんわりには、仁美、楽しそうやね?」

巴「後輩にいいところを見せたい、とか?」

友清「江崎せんぱいのそーゆーとこ、あざとかとですっ!」

仁美「よ、よかとやろ別に!? カッコつけくらいさせてほしか。どうせトップばまくるなら、ラスからブチ抜くほうが夢のあっ!!」

美子「仁美、そうやって大きか手ばっか狙って、去年はよう哩に怒られとったとやろ」

仁美「そいは……やって、姫子んために無理する哩のカッコよかったけん……!」

美子「自分の器ば考えんしゃい、器ば」

仁美「……おい、美子、そい以上言いよったら、こっちも黙っとらんとよ? なんやっけなー、去年の冬やったっけなー、あんた姫子に」

美子「ななななななんのこととや!? 知らんー!! そいなこと知らんとー!!」

友清「ふふっ、せんぱいたち……楽しそうとですね」

巴「二年間以上一緒に戦ってきたんだもん。色んな思い出があるよ」

友清「私も早く三年生になりたかとですー」

巴「こらこら、それは急ぎ過ぎ。これから楽しいことがたくさんあるんだから。一つ一つ、大事に味わっていかないと」

友清「確かに。そうとですね……っ!」

仁美「友清ー! よう聞けよー、美子は去年の冬――」

美子「仁美ーっ! あんたそい言うたら絶交やけんなー!!」

 ――対局室

 南二局・親:友香

友香(ラス親……ここでなんとかしないと、引き離される一方でー)タンッ

 東家:森垣友香(煌星・72400)

友香(けど、どうすればいい? ウィッシュアート先輩のいるこの場では、手の作り方は限られてくる。それでもリーチができればって思ったけど、私の《流星群》は対木さんの《神風》には敵わない……)

友香(いやいやっ! 弱気になっちゃダメでー。まだできることはあるはず……それが証拠に、この局はテンパイできた!!)

友香(私が能力を磨いたのはなんのためでー? 私が技術を高めたのはなんのためでー!? 今ここで――勝つためだろうが……ッ!!)ゴッ

友香「リーチでー!!」クルッ

友香(負けられない……負けるわけにはいかないッ!!)

もこ「リーチ――/////」ブツブツブツブツ

 西家:対木もこ(夜行・92600)

友香(お、追いかけられた――!? しかも切ってきたのは超危険牌! これはまた《神風》が来る……!!)

華菜「チー、ダブル一発消しだしっ!」タンッ

 北家:池田華菜(新道寺・44600)

友香(こっちもでー!? くっ……当たり前のことだけど、私だけじゃない! 対木さんも池田先輩も勝ちに来てる。私だって、気持ちでは負けてないつもり……でも、でも――)タンッ

エイスリン「ロン、3900♪」パラララ

友香(そんな……! これも、あなたの手の平の上だったって言うんですか!? こんなの、私、どうすれば…………!!)

エイスリン「♪」

華菜:44600 友香:67500 エイ:195300 もこ:92600

 ――《劫初》控え室

     エイスリン『ツモ、1000オール♪』

菫「なんというか、毎回毎回、お前ら四人の対局を見ていると胃がキリキリするな……」

憩「えー? なんでですかー?」

菫「いつ誰がどんな形で対戦相手の心を折ってしまうのか、不安で仕方ないからだ」

智葉「失敬な、私は丁重に斬り捨てているだけだぞ」

菫「照の妹を殺しかけておいて何を言う」

衣「心配するな、すみれ! 玩具は一度壊れたほうがより頑健になるっ!!」

憩「池田さんのことやんな。あの人、ちょっと抜けとるとこは変わらへんけど、ふとした拍子に噛み付いてくるから恐いわー」

衣「好きなだけ牙を剥いてくればいい。何度でもその身に恐怖をくれてやるっ!」

菫「麻雀はそういうゲームじゃないぞ……?」

憩「まー、でも、菫さんの不安は杞憂やと思いますよ。中には相手が強いほど燃えるって人もおりますから」

     エイスリン『リーチ!』

智葉「それに、今ここで私たちが相手にしているのは、いずれも厳しい戦いを経て、ここまで勝ち上がってきたチームの一員だ」

衣「まさに極上の生贄。だが、踊り食いをするには少々活きが良過ぎる輩も、中にはいるようだな」

憩「食うつもりでおったら逆に食い物にされた、なんてこともあったりなかったりや。特に、あの子は、手数の多いエイさんとは相性がよさそうやんな。あの《神風》の子……」

     もこ『リーチ――/////』

智葉「《煌星》の東横とは違う意味で、まったく被弾しない戦闘機。砲弾飛び交う戦場を、ただ真っ直ぐに突っ込んでくる。それは決死でも必死でもない。むしろ決殺で必殺の特攻――《神風》」

衣「えいすりんもさぞや楽しかろう。あれの力は言わば無色透明の奔流。いかにえいすりんと言えども、色のない《風》を描いたことはあるまい」

     もこ『ロン、6700……////』

     エイスリン『ハイッ♪』

菫「個人収支で並ばれたか。ウィッシュアートの支配下にありながら、大した一年生だ」

憩「今年の一年生で三強を決めるなら、あの子がその一人、っちゅー噂もあるくらいですよ。
 超新星さん、妹さん、それに《原石》さん――その辺りと比較しても十分タメ張る、一年最強の大能力者《レベル4》やとかなんとか」

菫「末恐ろしい……」

智葉「聞けば、麻雀を初めてまだ一年にも満たないという。あいつが学園都市で経験を積んだら、どれほどの雀士に化けるか。その行く末を間近で見られないのが残念だな」

憩「ま、ウチの目が黒いうちは好きなようにはさせまへんけどねー」

衣「奇幻な手合いが増えるのは衣も嬉しいぞっ!」

菫「さて……ウィッシュアートの親が蹴られて、その対木のラス親か。また今のように一騎打ちに持ち込まれると、いかにウィッシュアートとは言え、捌くのは難しそうだ」

憩「菫さん、何も敵は《神風》さん一人とちゃいますよ。今あっこで戦っとるんは、学園都市一万人の中から選ばれた十六チーム八十人の中の四人。何がきっかけでどんなことが起こるか……それは最後までわかりません」

菫「《悪魔の目》を持つお前でも『わからない』か。他の誰が言うより説得力があるな、荒川」

憩「あはっ、それほどでもー」

 ――《煌星》控え室

桃子「ヤバ子さんのオーラス……! でー子さん、頑張ってっすっ!!」

咲「ただでさえ厄介なウィッシュアートさんに、相性の悪い対木さん。友香ちゃん、焦ってなければいいんだけど……」

淡「ユーカなら大丈夫……!! きっと、この場もあっと驚くようなアイデアで、なんとかしてくれるはずっ!!」

煌「淡さん、落ち着いてください。落ち着いて、座ってください。淡さんが慌てても状況が良くなるわけではありませんし、なによりモニターが見えません」

淡「で、でも、キラメ! ユーカがピンチなんだよっ!?」

煌「そうですね。しかし、それがなんです」

淡「大問題じゃん!!」

煌「なら、お聞きしますが、対局室の友香さん……今、どんな顔をしていますか? 私には、たとえ淡さんの背中でモニターが見えなくとも、大体想像がつきますよ」

淡「ユーカ……そんな、笑ってる……!?」

煌「そうでしょうとも。ですから、心配は要りませんよ。そもそも、友香さんにとって、ウィッシュアートさんや対木さんは、敵ではありません」

淡「ど、どういうこと?」

煌「淡さんがおっしゃったことですよ? 覚えていませんか?」

淡「私? え、いつそんなこと……?」

煌「友香さんをチームに誘ったときです。もっとも、私は友香さんから聞いただけなので、実際には聞いていませんが」

淡「えっと……」

煌「友香さんの何よりの天敵は、淡さん、あなただと」

淡「あっ!?」

煌「そして、淡さんはこうも言ったそうですね。天敵を味方にしてしまえば、むしろ無敵だと」

桃子「え、もしかして、うまいこと言ったつもりっすか?」

咲「淡ちゃん、おバカなんだから無理しなくていいよ……」

淡「うるさーいっ! そ、そうだよ……!! キラメの言う通りっ!! というか、私の言う通り!!」

煌「ええ。そういうわけなので、友香さんなら大丈夫です。どんな強敵も難敵も、友香さんの天敵にはなりえない。友香さん自身も、それはわかっているはずです」

淡「そうだよねっ!! いやー、いいこと言うな! 過去の私っ!!」

煌「では、淡さん。いつまでもモニターに張り付いていないで、こっちに来て一緒に応援しましょう。
 友香さんの力になりたいのは、私たちみんなそうです。友香さんの勇姿を、私たちにもよく見せてください」

淡「うんっ! わかった!!」バッ

煌「……あの、淡さん? こっちに来てとは言いましたが、私の膝の上に乗られると、やはりモニターが見えないのですが……?」

淡「頑張れー、ユーカー!!」

 ――対局室

 南四局・親:もこ

友香(なーんか、淡がまたバカなことやってる気がするのはなんででー? さては、負けてる私を見て騒いで、煌先輩に迷惑を掛けてるな……? まったく困ったやつでー)タンッ

 西家:森垣友香(煌星・66500)

友香(けど……それだけ、心配かけてるのか。そりゃまあ、この点数状況で、この相手、私が私の試合を見てても、きっと気が気じゃない。いてもたってもいられない。実際、淡がピンチだったときは、私も熱くなっちゃってたし)タンッ

友香(でもさ、淡。あんまり心配されても、私的には嬉しくないんだからね? だって、私のことを、強いから欲しいって言ってくれたのは、淡だよ?
 なら、信じて見ててほしいんでー。私を《煌星》に誘ったこと……きっと後悔させはしないから……!!)タンッ

友香(こんな状況になっても、まだどこか、心に余裕がある。それはきっと、普段から淡や咲の相手をしてたからでー。
 共同戦線を張ってくれるはずの桃子だって、ちょっと協力してくれたと思ったら、すぐに消えて絨毯爆撃始めるし……)タンッ

友香(卓についたら、戦いが始まったら、誰だって一人でー。自分の技術と能力を信じて頑張るしかない。
 けど、もし、今みたいに、それも難しいような相手に囲まれてしまったら?)タンッ

友香(そんなとき、支えになるのがチームのみんな。大丈夫……私はまだまだ戦える。淡と咲と桃子との対局だって、今と同じくらい苦しい状況だった。それでも、諦めない限り……道は開く――!!)タンッ

友香「ツモッ! 2000・4000!!」パラララ

エイスリン「?」

友香「これにて前半戦は終了でーっ、おつッ!!」

 三位:森垣友香・-3300(煌星・74500)

エイスリン「モイッコ、オツ♪」

 一位:エイスリン=ウィッシュアート・+9700(劫初・188600)

もこ「」ブツブツブツブツ

 二位:対木もこ・+7200(夜行・95300)

華菜「お疲れ様でしたし!」

 四位:池田華菜・-13600(新道寺・41600)

友香(なーんか、能力封印とか、先鋒戦前半オーラスの淡みたいなことしちゃったんでー。
 けど、和了れたから良し。二位と点差は開いたけど、まだ後半がある。やり方次第では和了れるんだから……チャンスはきっと来るっ!!)

友香(さあ……残り半荘一回! 必ず勝って煌先輩に繋げるんでーッ!!)ゴッ

 ――Dブロック二回戦・《永代》控え室

塞「ただいまー。ちゃー、削られたわー」

照「問題ない」

まこ「原村和……あいつはちと厄介そうじゃの」

純「自覚してるのか無自覚なのか、オレら以上にオカルトキラーなところがあるよな」

穏乃「原村さんもそうですが、鷺森さんもいい感じでしたねっ!」

塞「このまま順当に行けば、薄墨が踏みとどまったのと園城寺が稼いだ分で、チーム《新約》が上がってくるかな?」

照「どうだろう。《姫松》の末原さんは諦めの悪い人だし、《有珠山》の獅子原さんもかなり強い能力者。高鴨さんの変な力が誰にどう効くかによるんじゃないかな」

穏乃「変な力じゃありません! すごいパワー、略してすごパですっ!!」

まこ「ま、さすがに逆転されることはないじゃろうが、気ぃつけての」

純「オレは心配してねえぜ。お前がいつも通り楽しめりゃ、普通に勝ってこれんだろ」

穏乃「お任せあれっ!!」ゴッ

塞「ちなみに、他のブロックはどうなってる?」

まこ「えっとじゃな……隣のCブロックは、中堅戦で愛宕洋榎と江口セーラが大暴れして、そこからあまり変わっとらん。大将はあの竹井久と亦野誠子じゃけえ、これは《久遠》と《幻奏》で決まりそうかの」

純「Bのほうも状況は似てるな。《豊穣》と《逢天》が抜けてて、しかも大将が小蒔と石戸霞っつー悪夢の同門対決。他の二チームがどんな切り札を用意してようと、あの化け物巫女をどうにかできるとは思えねえ」

塞「Aブロックのほうはどう?」

照「とりあえず、菫のチームは上がってくる」

塞「へえ、どれそれ――って、うわぁ、副将戦前半終わって十九万近くとか。二位とは九万点差以上。ぶっちぎってるわねぇー……」

穏乃「先鋒戦終了時の照さんより浮いてますよね」

まこ「二位争いじゃと、今のところ、個人戦の強者・際物が集まっとる百鬼の《夜行》が、着実にバトンを繋いどる感じじゃの」

純「《煌星》も悪くねえが、中堅戦で噂の妹ちゃんが辻垣内に斬殺されたのが痛いな。先鋒戦の超新星も不発だったし、ダブルエースが稼げなかったのが響いてる感じだ」

照「辻垣内さん……私の咲になんてことを……!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

塞「じゃあ、上がってくるのは《劫初》と《夜行》? 《煌星》の大将――例のレベル5は……けど、能力の強度はとんでもないって話だけど、他の二年レベル5トリオと違って、稼げる選手じゃないのよね?」

穏乃「それはそうだと思います。でも、あの人は……その、何をしてくるかわからない、という恐さがあります……」

純「それに、大将戦には我らが《修羅》こと天江衣が出てくる。何をしでかすかわからねえっつー意味では、あいつ以上の雀士をオレは知らねえな」

まこ「アレは何もかもが規格外じゃからの……」

照「まあ、決勝まで当たることはないし、今はこの二回戦に集中しよう」

塞「そうね。じゃあ、あとは頼むわ、高鴨」

穏乃「はいっ! じゃ、行ってきまーすっ!!」

 ガチャ ダダダダダダダダダ

塞「さて、と。ま、高鴨なら大丈夫か。点差も点差だし。……っていうか、そっか、あっちの副将戦、エイスリンが出てるんだ」

照「ああ、仲良いんだっけ」

塞「うん、去年の冬に豊音と一緒にうちのクラスに転校してきて、シロと胡桃と五人でよく打ったわ。で、前半戦の結果はどうだったの?」

まこ「記録はこんな感じじゃ」ペラッ

塞「へえ……ふーん。なんだろ、今日はあんまり調子よくないのかな」

純「何言ってんだ? 明らかに一人だけ浮いてたぞ」

塞「いや、でも、なんだかんだ他の三人に出し抜かれてるし」

まこ「そりゃあ他の連中も一筋縄じゃいかんじゃろ。《煌星》と《夜行》の一年は、今年の一年の中でも上のほうじゃし、あの《砲号》も侮れん」

純「懐かしいな。去年のクラス対抗戦と、一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》の予選……衣が楽しそうにボコボコにしてたっけ、あのニャーとか言うやつ」

塞「まあ……他がそれなりに強いのは、そりゃそうなんだけどね。でも、《一桁ナンバー》のエイスリンがてこずるほどとは思えないのよ。それに、和了率だって五割そこそこしかないし」

まこ「二回に一回和了れりゃ十分じゃろうが」

塞「あのね……エイスリンの手数は宮永以上なんだからね? 和了率100パーセントの完全試合だってやってのける《最多》の大能力者なんだから。二回に一回なんて少な過ぎ」

純「ま、後半戦が今に始まる。調子が悪いのか他が手強いのか、その目で確かめればいいだろ」

照「あの……みんな、高鴨さんの応援は……?」

 ――――

 ――Aブロック二回戦・対局室

『対局者は席についてください――』

友香「よろっ!」

 北家:森垣友香(煌星・74500)

エイスリン「コッチモ、ヨロッ♪」

 南家:エイスリン=ウィッシュアート(劫初・188600)

華菜「今度は負けないしっ!」

 西家:池田華菜(新道寺・41600)

もこ「」ブツブツブツブツ

 東家:対木もこ(夜行・95300)

『副将戦後半……開始ですッ!』

ご覧いただきありがとうございました。

書いても書いても終わりが見えませんが、おかげ様で前進はしております。SS内の季節は越えないよう頑張ります。

次回は一週間以内に更新します。

では、失礼します。

 ――《夜行》控え室

藍子「もこーっ! 後半戦もぶちかませー!!」

利仙「佐々野さんの負け分も大分取り戻せましたね」

いちご「わりゃー!?」

絃「ウィッシュアートの手数の多さをうまく利用しているな。もこの特攻は基本後攻めになるから、ああやってほぼ毎局先制テンパイしてくるやつがいると――」

     エイスリン『ツモ、2000・4000♪』

いちご「いると――なんじゃ?」

絃「なかなか大変だな」

利仙「あの速度と和了率でこの打点。連発されると手がつけられません」

いちご「弱点とかないんか? あの天使様は」

藍子「でもっ! もこは振り込みませんし、ばんばんツッパっていけばいいんです! それだけで、あの天使様の思惑を外すことになるっ!」

利仙「……そう、なればいいのですけれど」

藍子「えっ……?」

利仙「お気を悪くされないで聞いていただきたいのですが、私は、本気で卓を囲めば、この《夜行》メンバーの全員を薙ぎ払えると自負しています」

藍子「いやいや、自負どころか他負しますよっ! 利仙さんは私たち《夜行》のエースです! もこもいっつも言ってますよ。利仙さんの強さは反則級だって」

利仙「なるほど……では、対木さんがウィッシュアートさんを出し抜くのは、かなり厳しいということになるでしょう」

藍子「ほえ?」

いちご「藍子、忘れとるっちゅうことはないじゃろ? 元《一桁ナンバー》――かつてのナンバー7。個人戦ベスト8常連じゃった利仙が、いつ、どうして、《一桁ナンバー》から追われてしまったのか」

藍子「あ――」

利仙「去年の冬……学園都市に二人の転校生がやってきました。ちょうど、此度の《煌星》の二人のように、その活躍と台頭には目を見張るものがありましたね」

いちご「冬季大会《ウィンター》、春季大会《スプリング》と、そいつは個人戦で快進撃を続けた。
 冬はベスト16、春はベスト8。利仙とそいつのナンバーが入れ替わったのは、春季大会《スプリング》のときじゃったな」

利仙「時として和了率100パーセントの完全試合を達成する、脅威の全体効果系能力者。《最多》と称される《夢描く天使》――それが、現在のナンバー7。エイスリン=ウィッシュアートさんです」

藍子「おおぅ……」ゾクッ

いちご「この白糸台に君臨する四つのトップグループ。一軍《レギュラー》は元より、学園都市に七人しかいない超能力者《レベル5》、白糸台に五人しかいない支配者《ランクS》。
 そんな連中と並び称されるのが、九人しかいない《一桁ナンバー》じゃ。そして、《一桁ナンバー》と二桁以下のちょうど境界線上におるのが、我らが《百花仙》――ナンバー10、藤原利仙」

利仙「つまり、私のことを手強いと感じている程度では、《一桁ナンバー》の壁を超えるのは到底不可能、ということになりますね。
 もちろん、能力の相性にも左右されますが、ただいつも通りに打っているだけでは、まず敵わないでしょう」

絃「《一桁ナンバー》か。私には、超えられなかった壁だな」

藍子「い、絃さん……」

いちご「当然ながら、ちゃちゃのんもまるで話にならん。さっきの辻垣内以外じゃと、去年の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》で《姫松》の愛宕洋榎と対戦しての。洒落にならんレベルで削られたわ」

利仙「《一桁ナンバー》……その誰もが、一騎当千の雀士。能力の優位性だけで突破できるほど、その壁は低くも脆くもありません。
 元一軍《レギュラー》の四人、超能力者《レベル5》の七人、支配者《ランクS》の五人と同様に、彼女ら九人もまた、学園都市が誇る格別の別格なのです。
 かつてそこにいた私も、今のところは、私以外の二桁以下に上を行かれるとは微塵も思っていません。無論、対木さんも例外ではないです」

     もこ『リーチ――/////』

藍子「もこ……っ!!」

絃「先制リーチ……後攻めではウィッシュアートに追いつけないという判断か?」

いちご「じゃが、それがあの天使様の描いた《一枚絵》の通りじゃったとしたら、マズいかもしれんの」

利仙「《相手の和了り牌を掴まされない》……対木さんの大能力は確かに強力で、実際、試合でも練習でも、彼女の《神風》が破られたことは一度としてありません。しかし――」

藍子「ちょ、そんな! もこが……もこが――ッ!?」

 ――《劫初》控え室

智葉「対木もこの《神風》……あらゆる厄禍を吹き飛ばすという話だが、決して《絶対》ではない。どんなに強かろうと、それが大能力者《レベル4》の超えられない壁だ」

     エイスリン『ロン、2400♪』

     もこ『――っ???』

菫「ふむ……対木の振り込みは、公式戦だとこれが初か。ウィッシュアート……何もわざわざ同じ七対子でやり返さんでもいいだろうに」

憩「いや、これたぶん、さっきの牌譜を反転模写したんとちゃいますかね。上家と下家もちょうど逆やし。そこんとこどーなん、衣ちゃん。同じ全体効果系能力者として」

衣「細かくはわからないが、恐らくはけいの言う通りだろう。先ほどの前半戦南三局一本場での直撃……あれで、何かしら《神風》の尾を捕らえ、それを参考に、えいすりんはこの結末を描いた。
 喩えるなら、智恵板遊びのようなものか。形の決まっている断片を、好きなように並べ、己の思惑に近い全体像に仕上げる。全体効果系の能力は、とにもかくにも、断片の把握と、それらを俯瞰的に扱う構成力が大事なのだ」

智葉「対戦相手のカラーを把握し、描きたい《一枚絵》を明確にイメージする。前半戦を経験した分だけ、あいつの描く絵に幅が生まれたのだろう。対木の強力な能力すら、あいつは自分の世界に取り込んでみせた」

菫「出し抜くには相当な無理をしないといけないことになるな」

     エイスリン『ロン、8000♪』

     友香『はい……』

憩「惜しいなぁ、あの子。かなりイイ線行っとったけど、それは額縁の内側やねー」

智葉「前半戦ならば、オーラスの満貫のように、或いはあの一年が和了っていたかもしれないな」

     もこ『リーチッ//////』

菫「対木もこ……表情はさっきまでと変わらないように見えるが、打牌に若干の焦りがあるな」

     エイスリン『ツモ、900オール♪』

衣「ふむ。あまりえいすりんに和了られると、衣の楽しみが減ってしまうというのに。一体いつまで黙っているつもりだ……あの《砲号》め」

憩「衣ちゃん、なんやかんやで池田さんのこと大好きやねー」

衣「べ、別に好きとかではないっ!」

智葉「だが、気になってはいると」

衣「まあ……多少はな。因縁の相手と言えなくもない。去年、衣が公式戦という表舞台に立ったのは二大会だけ。その両方とも、衣はあやつと対戦したのだ」

菫「チーム《刹那》でのクラス対抗戦。それにチーム《龍門渕》での一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》だな」

衣「左様。あのときは、まさかすみれとこうして同じチームになるとは思っていなかったが……それはさておき。
 《刹那》としては《爆心》の、《龍門渕》としては《風越》のあやつを、衣は完膚なきまでに粉砕してやった。
 だが、あやつはいまだ五体満足で、あそこで《新道寺》の副将として笑っている。まったく理解の外にいる生き物だ」

憩「理解の外――二度も対戦した衣ちゃんがそう言うんやったら、エイさんも、ひょっとすると池田さんを量りかねてるんちゃうかな?」

菫「おい、あまり不吉なことを言うな。お前ら一体どっちの味方だ」

智葉「私はいい経験になると思うがな。ウィッシュアートは学園都市に来てから半年そこそこと日が浅い。色々なタイプの雀士と打ったほうが、あいつのこれからに繋がるだろう」

菫「ま、まあ、それはそうだが……」

憩「と、なんや、誰のどんな祈りが通じたんか。いつの間にやらゴミ手がどえらい化け方しとるで」

衣「えいすりん……気をつけろ。そやつの《砲号》は起死回生の号砲。その振動は超えられるはずのない壁の向こう側へ届く。
 そこに見えるものが全てと思って聞き流してはいけない……! その窮鼠は獅子にすら噛み付くぞ――ッ!!」

     華菜『ロン、16900だしッ!!』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

     エイスリン『ッ!?』

智葉「先ほどから一撃が重いな。さすがは元《爆心》メンバー。《ドラゴンロード》、《ハーベストタイム》、《約束の鍵》、《導火線》と、全員が全員とも高火力型のレベル4以上で構成されたあのチームにおいて、
 ただ一人、レベル0ながらに、しかも天江の支配下にありながら、同等の火力を見せつけた《砲号》――池田華菜。侮るなかれだな」

菫「白糸台の《生ける伝説》――全てを無に帰す《グラウンドゼロ》。公式戦で《一試合一人一役満》という白糸台史上初の快挙を成し遂げた五人のうち、唯一、能力に拠らない役満を和了った雀士か……」

憩「ま、そんな大爆発軍団に勝ったウチら《悪鬼羅刹》こそ、本当の伝説ですけどねー。な、衣ちゃん?」

衣「無論だっ!」

菫「しかし、今の一撃で、ウィッシュアートの《一枚絵》は描き直しを余儀なくされたか」

智葉「なに、あいつ、それすら楽しんでいるようだぞ。子供のようにはしゃいでいるのが、モニター越しにもよくわかる」

憩「エイさんはホンマ天使やわー」

菫「そうだな。荒川や天江の連荘より、あいつのそれのほうが、幾分マシだ」

憩「菫さんっ!? それはどーゆー意味ですか!!」ガタッ

智葉「諦めろ、荒川。お前は天使にはなれん」

憩「もーっ、ガイトさんには聞いてませんー!!」

     エイスリン『ロン、2000♪』

     友香『でっ……はい』

憩「ど、どこがちゃうんやろ……エイさんの連荘かて悪魔的なはずやのに……!!」

衣「けい、邪魔だ。画面が見えない」

     エイスリン『ツモ、700・1300♪』

 ――《夜行》控え室

藍子「天使様さっきから和了り過ぎーぃ!!」

利仙「留まるところを知りませんね、ナンバー7」

絃「さすが《最多》の大能力者……白糸台最高の和了率を誇る雀士だな」

いちご「あっ、とか言っちょるそばからまた!!」

     エイスリン『ツモ、1300・2600♪』

利仙「親を蹴られてから疾風怒濤の三連続和了。あっという間に二度目の親番が回ってきました」

絃「《劫初》のチーム点数がまた20万の大台に乗ったな」

いちご「もこは……もこは大丈夫なんかの。さっきの振り込みが尾を引いとらんとええが……」

藍子「あのブツブツ具合からして、結構気にはしているみたいです」

いちご「やっぱりか!」

利仙「能力が破られるのは、精神的にかなりダメージがありますよね。私も、かつて神代さんに筒子を丸々奪われたときは、どうしようかと思いました」

絃「しかも、もこの能力が破られるのは、これが正真正銘初めてなのだろう?」

藍子「はい。でも、大丈夫です。うちのもこは強い子ですからっ!」

いちご「じゃが……わりゃあ今気にしとるって」

藍子「気にしてるも気にしてる。私もあんなもこは見たことがないです。あいつは今――かつてないくらい燃えているっ!!」

利仙「あらあら」

藍子「あれから一回も和了れてないのは、たぶん、ウィッシュアートさんを狙っているからだと思います。
 もこのやつ……取り返すまでは他家も点数も無視するつもりですね。よっぽど悔しかったんでしょう」

絃「しかし、あのウィッシュアートが隙を見せるだろうか……」

     エイスリン『リーチ♪』

いちご「お、親っパネ!? 裏が乗ったら親倍も見える……またえらいの張りよったな……!!」

利仙「ダメ押しのつもりなのでしょうか、それとも――」

絃「ウィッシュアートが……もこの要求に応えたとでも?」

藍子「どっちにしろ、もこ的にはここが勝負所みたいです。けど、これは……!?」

いちご「なんじゃ!?」

藍子「いや、あのもこが、捨て牌に迷ってる……!? 今までずっと問答無用で切り込んでたのに……!! ウィッシュアート先輩の裏をかこうとしてるんだ!! すごい、すごいよっ、もこ!!」

     もこ『リーチ……///////』

絃「よし……通ったッ!!」

いちご「親リーの一発目に……! さっきの振り込みは頭にあるはずなのに、よくあんな強いところを切れるの……!! それでこそ、もこじゃ!!」

利仙「あらゆる危機を好機に変える。実に対木さんらしい一打です」

藍子「大能力者《レベル4》同士の純粋な能力勝負。これで打ち負けたら、経験の少ないもこには打つ手がなくなる。
 ウィッシュアート先輩の親番を止めるという意味でも、もこの今後のためにも、どうか……! 《神様》が本当にいるなら、今はもこに勝たせてやってくださいっ!!」

いちご「それなら心配要らんじゃろ!! あいつは《神風》――天運を味方につけちょるッ!!」

絃「そういう意味では《天使》たるウィッシュアートも神とやらに近しい存在だがな……! ええい、だからどうした!! もこ、そこだっ、撃ち落とせ!!」

利仙「対木さんなら……きっと――」

藍子「いっけーっ、もこーーーーーーー!!!」

     もこ『ロン……8000ッ/////////』

     エイスリン『♪♪』

藍子「きゃー!! やっぱあんたは最高だよーっ、もこーーーーー!!!」

 ――対局室

 南三局・親:華菜

友香(いやいやいやいや……参った。大参りでー。前半戦にも増してウィッシュアート先輩は暴れたい放題。かと思えば、他の二人も負けじとやり返して……)タンッ

 南家:森垣友香(煌星・59000)

友香(気付けば私だけ焼き鳥のまま南三局。和了回数にして、ウィッシュアート先輩7、池田先輩1、対木さん1、私0。色々な意味で、このままでは終われない)タンッ

友香(合同合宿の最終日もそうだった。石戸先輩と亦野先輩と原村さん相手に、自力でまともに和了れたのは一回だけ。そういえば、この面子も三年生一人、二年生一人、一年生一人が相手か……)タンッ

友香(あれから強くなったと思ってたのに、とんだ思い上がりだったんでー。自信失くすよホント……まあ、やる気はむしろ出てきたけどねっ!!)

友香(私が強くなればなるほど、《煌星》も強くなる。そして……私はまだまだ弱いまま。それってつまり、これからもっと強くなれるってこと!!)

友香(明日一つ強くなるために、今日一つ頑張る。この状況、この絶望を、いつかの希望に変えてやる……!! そのためにも、私は最後まで諦めないッ!!)

友香「ツモでー……2000・3900!!」ゴッ

エイスリン「♪」

友香(さあ、ラス親ッ! 諦めなければチャンスは掴めるはずでー! ここまで頑張ってくれたみんなのため、最後に控えている煌先輩のため……できることはきっとある――!!)

もこ:89700 エイ:193700 華菜:49700 友香:66900

 ――《煌星》控え室

淡「ファイトぉー! ユーカー!!」

桃子「でー子さん、頑張ってっすーっ!!」

咲「友香ちゃん……っ! 負けないで!!」

煌「……ここまで、ですかね」

     エイスリン『ツモ、1000・2000♪』

『副将戦終了ーッ! エイスリン=ウィッシュアート、ここで本日最高の和了率七割を達成!! 他家も奮闘しましたが力及ばず。トップの《劫初》がさらにリードを広げる展開となりました!!』

煌「さて、と。私は友香さんを迎えに行って参ります。そのまま対局室に向かうので、試合が終わるまで、ここには帰ってきません。皆さん、何か、ありますか?」

咲「煌さん、頑張ってください!」

煌「はい」

桃子「応援はお任せくださいっす!!」

煌「よろしくお願いいたします」

淡「キラメ……!」

煌「はい、なんでしょう」

淡「私はキラメが勝って帰ってくるのを信じてるよっ! 待ってるからね……キラメッ!!」

煌「有難うございます。やる気が100倍になりましたよ。では、行って参ります……」

 ――――

 ――――

華菜「うにゃー……」

 三位:池田華菜・-6500(新道寺・48700)

仁美「なーにシケた面しとんね、《砲号》」

華菜「え、江崎先輩っ!? いつの間にだし!!」

仁美「全体的にはまだまだやったばってん、よかとこもいっぱいあったと。
 巴も控え室できゃーきゃーはしゃいどった。胸ば張って帰りんしゃい」

華菜「で、でも、また二位との差が開きましたし……。ホントお役に立てなくて……」

仁美「やけん、気にすんな言っとうと!」ワシャッ

華菜「ちょ!? ちょ、江崎先輩っ!?」ニャニャニャ

仁美「池田のおらんやったら、私らはクラス選別戦も戦えんやった。こん一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》やって……予選ば突破できただけでん大健闘。
 哩のいなくなったときはどうなることかと思ったばってん、最後の最後によか夢ば見せてもらった。全部、あんたと巴のおかげと」ワシャワシャ

華菜「江崎先輩……」

仁美「そいけん、たった一回の負けなんて気にせんでよか。あとのことは私に任せんしゃい。よかと?」

華菜「は……はいだしっ!!」

仁美「じゃ、行ってくるけん。応援よろしくと!」

華菜「え、江崎先輩……っ!!」

仁美「ん……? なんや?」

華菜「そ、その……か、勝ってほしいしっ! 勝ってくれたら……あたし、次こそちゃんと勝ってみせるしっ!!」

仁美「ははっ、なん当たり前のことば言っとう」

華菜「にゃ……?」

仁美「こいでん私は、旧《新道寺》では哩の次に強かデジタルやった。去年のトーナメントのときは、あんたと同じ《生ける伝説》の渋谷ば抑えたこともあっ。
 ランクSの魔物か、百鬼夜行の際物か、はたまたレベル5の《怪物》か知らんばってん、二年なんかに遅れは取らんと。やけん……信じて待っとれ、池田!」

華菜「わ――わかりましたしっ!!」

仁美「そいたら……行ってくるッ!!」ゴッ

 ――――

 ――――

藍子「よーすっ、もこー! いや~、なかなか大変そうだったね~!!」

もこ「」ブツブツブツブツ

 二位:対木もこ・+600(夜行・88700)

藍子「あははっ、そうだね。そーしてよ。あのチームとは決勝まであと二回も戦うことになるんだからさっ!!」

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「えーっ? 私? 私はなー、まっ、いつもどーり楽しんで打つだけ。なんたって、今回のトレジャーハントは、いつもの山とは一味違うっ!!」

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「そゆこと。今回のお宝は、山じゃなくて海にあるのよ。深ーい深ーい海の底。くーっ、一度打ってみたかったのよねーっ、天江さんとは!!」

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「えっ? ああ、大丈夫。それなら心配ないよっ。いちごさんにブツブツ辞典貸してきたから。そろそろ私以外にも、もこと喋れる人いないと困るもんねー」

もこ「」ブツブツブツブツ

藍子「うん、決勝までは長いから。その頃には、みんな、もこと普通にお喋りできるようになってるかもねっ!!」

もこ「//////」ブツブツブツブツ

藍子「あっはっはっ! 相変わらずシャイだねー、もこは。じゃ、まーっ、わいわい気楽に待っててよ。応援ヨロシクーぅ!!」ゴッ

もこ「」ブツブツブツブツ

 ――――

 ――《劫初》控え室

エイスリン「ッテ、ダレモ、ムカエニ、コーヘンノカーイ!!」ババーン

 一位:エイスリン=ウィッシュアート・+18800(劫初・197700)

菫「おい、誰だ。またウィッシュアートに変な言葉を教えたのは」

智葉「この方言は荒川だろう」

憩「濡れ衣ですわっ!!」

衣「言い訳とは見苦しいぞ、けい」

エイスリン「コロタン、イェ~イ♪」

憩「あっ、さては衣ちゃんやな! ウチに罪を被せてなんのつもりや!!」

衣「くっ、バレたか……!」

菫「というか、ウィッシュアート、お前、天江のことをそんな風に呼んでたんだな」

エイスリン「オウヨ、マジカル☆スミレ!」

菫「…………誰だ、ウィッシュアートに変な言葉を教えたやつは。正直に言えば、シャープシュート(物理)は勘弁してやるぞッ!!」ギロッ

憩「こ、衣ちゃんとちゃいますか……?」

衣「な、なな、なんのことだ……?」

智葉「おい、ウィッシュアート、私の名前を呼んでみろ」

エイスリン「? ダレダコノ、モブメガネ」

智葉「よーし屋上行くぞー」

憩「ちょーちょーちょー! 大将戦、これから大将戦ですよー!!」

衣「ま、屋上で遊びたいなら遊んでいればいい。衣も高いところは好きだっ! さっさと有象無象を打ち滅ぼして追いつくぞ!」

エイスリン「バカナ、コロモハ、タカイ、トコロガ、スキ!」

衣「衣はバカじゃないっ!」

憩「菫さーん! 収拾つけてー!!」

菫「コホン。では、天江。最後は頼んだ」

衣「頼まれたーっ!」

憩「行ってらっしゃ~い」

智葉「好きなように打ってこい」

エイスリン「キョウハ、ナンテン、トルノヤラ!」

衣「貴様ら四人分より多く稼いできてやるぞっ!! では、行ってくるッ!!」ゴッ

 ガチャ タッタッタッ

憩「いやー、今のが冗談に聞こえへんのやから、さすが衣ちゃんやわー」

菫「とは言え、何があるかわからないのが麻雀。結果が出るまでは安心できん。
 が、それはそれとして……誰なんだ、私の《忌み名》をウィッシュアートに教えたやつは……!!」

エイスリン「♪」チラッ

智葉「………………」

憩「えっ、まさか!?」

菫「智葉、ちょっと、試合終わったら屋上に行こうか……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――――

 ――――

友香「き、煌先輩……」

 四位:森垣友香・-12900(煌星・64900)

煌「友香さん、お疲れ様です。最後までよく頑張りましたね。すばらでしたよ」

友香「うっ……うぅぅぅうぅぅ……!!」ポロポロ

煌「大丈夫です。友香さんの頑張りは、決して無駄にしません」ギュ

友香「煌せんぱあああああい……!!」ポロポロ

煌「あとは私に任せてください。この《煌星》の大将に――」

友香「うぅ、き、煌先輩……」

煌「不謹慎かもしれませんが、私、今、少しだけ嬉しいのです。やっと……やっと皆さんのお役に立てるときが来たかと思うと……」

友香「そんな……! 煌先輩は、いつも私たちをリードしてくれてました! 対戦相手の分析も、対策も、練習も。煌先輩がいなかったら、私たちは星になれなかったんでー!!」

煌「いえいえ、皆さんの力があってこそですよ。私はそれを後押ししたに過ぎません」

友香「あ、あの、煌先輩……っ」

煌「友香さん、そんなに辛そうな顔をしないでください。大丈夫ですから」

友香「でも、私が――」

煌「反省会は、試合が終わってから。次にどうやって戦うかも、そのとき一緒に検討しましょう。
 心配は無用です。対局を見ていて気になったことは、既に電子学生手帳にメモしてあります。ほら、この通り」コノデンシガクセイテチョウガメニハイラヌカー

友香「煌先輩……っ!!」

煌「わかっていただけましたか? ここで敗退する気など、私にはさらさらありません。友香さんはいかがです?」

友香「わ……私もっ! 次は勝ってみせるんでーっ!!」

煌「頼もしい。その意気です。では、よろしければ私は行きますね。応援、よろしくお願いいたします」

友香「煌先輩……勝ってきてくださいでー!!」

煌「ええ、私は負けませんよ。ここから優勝までの一本道……もし、そこに私たち以外の誰かが割り込もうとしてきても、そんなことは、この私が《絶対》に許しません」ゴ

友香「煌……先輩っ!!」

煌「相手が誰かなど関係ない。私たちの行く手を阻まんとする雀士は、一切合切、この学園都市に七人しかいないレベル5の第一位……《煌星》大将・花田煌が――」ゴゴゴゴゴ

友香「っ!?」ゾワッ

煌「《通行止め》しますッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――――

 ――――

衣(ふっふふーん、今日は何万点取れるっかなーっと♪)タッタッタッ

衣(今年も去年の二回戦と同じことをしてみようか。ふふふ……塵芥どもの生気を失った顔が目に浮かぶようだ。きっと想像もしていまい。自分たち全員が同時に




                            え




         な







                    こ





                                 ?

衣「~~~~~~~っ!!!?」

衣(な、なんだ、今のは!? 意識が急に飛びかけたぞ……? 何者かのプレッシャー?
 否、これほどの妖気――プリンで大憤怒したときのこまきをも超えていたぞ……!! そんな人間がこの世に存在するのか!?)

衣(この会場……何か、とんでもないのがいる――ッ!!?)ゾワッ

 ――――

 ――対局室

藍子「(さあ、ついに始まる……! ここまで点棒を守ってくれたみんなのために、気合入れていくぞーっ!!)よろしくでーすっ!!」

 南家:百鬼藍子(夜行・88700)

仁美「(二位までちょうど四万点。親で役満ば和了れば一発逆転やけど、天江衣のおるこん場……点数関係なく、まずは和了ることば優先すっと)よろしく」

 北家:江崎仁美(新道寺・48700)

衣「(さっきの……少なくとも、大将戦の面子にはいないように感じる。となると、衣と同じランクSという《煌星》の二人のどちらかか……?
 だが、やつらの対局はモニターで見ていた。こまきの全力を超えるほどとは思えなかったが――)……よろしく」

 西家:天江衣(劫初・197700)

煌「よろしくお願いします」

 東家:花田煌(煌星・64900)

『大将戦前半……開始ですっ!!』

ご覧いただきありがとうございます。

次回は一週間以内に更新します。ここまで前後半で分けてましたが、長い場合は数日かけて刻むかもしれません。

では、失礼しました。

 東一局・親:煌

衣(ひとまず……先ほどのことは置いておくか。あれほどの力を持つ者ならば、遅かれ早かれその正体を現すはず。
 今は、目の前の玩具どもにどんな悪夢を見せてやるかを考えなくては。まずは……挨拶代わりに一発――)

衣「ロン」ゴッ

煌「すばっ!?」

衣「……12000」パラララ

煌「はい……」チャ

仁美(綺麗な手ば張っとう……まだ山の半分も行っとらんのに、リーチとドラに頼らずそん打点。こっちはやっと二向聴やったのに)

藍子(相変わらず速いのに高ぁーい! これで肩慣らしどころか準備体操でもないってんだから、化け物が過ぎるよね~)

衣(ふん、他愛ない。これでは予選の決勝と大差ないぞ。雑魚なら雑魚なりにもっと衣を楽しませろ!!)

煌:52900 藍子:88700 衣:209700 仁美:48700

 東二局・親:藍子

藍子(さてさて。まずは一回目の親。大事にしたいところだけども……今回は不幸なことに天江さんの上家に座っちゃったからなー。
 私が親のときは、天江さんが海底。出和了りに気をつけつつ海底を阻止しなきゃいけない)タンッ

藍子(ま、ズラすにしても先に和了ってどーにかするにしても、テンパイしないことには始まらない。
 っていうか、私の超音波《ソナー》だって、効果は《自分の和了り牌が見える》だから、テンパイしないと使えないわけだしねー)タンッ

藍子(天江さんのことは一年の最初のクラス対抗戦のときから知ってる。あの龍門渕さんの親族で、あの超能力者の松実さんを脅威とも思わず、あの荒川さんや神代さんと遊び感覚でやりあえる、化け物中の化け物)タンッ

藍子(表に出回ってる牌譜は、クラス対抗戦と去年の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》のものだけだけど、それで十分凄さが伝わってくる。
 《三強》で最も好戦的で攻撃的な打ち筋……《修羅》の異名も納得ってもんだよね)タンッ

藍子(今回も、ほっとくと天井知らずで点棒を積み上げそう。学園都市で最も悪名高い全体効果系の大能力――《一向聴地獄》。他家の向聴数と打点がわかる感知系の大能力――《掌握》。
 トドメに、海底が必ず有効牌になる自牌干渉系の大能力――《満月》……)タンッ

藍子(どうしてこう、才能ってのは偏って発現するもんかねぇ。《煌星》の大星さんや宮永さんもそうだけどさ、ランクSでレベル4のマルチスキルなんて、本当に、《牌に愛された子》としか思えないわ)タンッ

藍子(ま、ないものを羨んでも仕方ないけどねー。私は私なりに楽しむよ。
 なーに、こっちは感知系能力一つで個人戦を生き抜いてきた。その経験が、私の武器。これが有象無象のありったけ……喰らえるものなら喰らってみろ……!!)タンッ

藍子(さーて、テンパイしたよっ!! これもあなたの思惑通りなのかな、天江さん。細かいことまではわからないけど、張ってしまえばこっちのもの!
 さあ、私のお宝――和了り牌はどこにある? 探知開始……超音波《ソナー》ッ!!)ゴッ

藍子(ふむふむ……? これはまたいい感じに抱えられてるなぁ。出してくれれば有難いけど、たぶん面子に使われてるんだろうなー。
 となると、私の手に入りそうなのはアレか。これはこれは……また随分と深くに眠っていること……)

藍子(オーケーオーケー。落ち着いていこう。もっと手堅い待ちが来たら、そっちに変えてもいいしね。ひとまずはこれで様子を見るよっ!)タンッ

 ――十六巡目

仁美(百鬼……中盤からずっとツモ切りの続いとう。張っとうと見てよかか。しかも、海底親っ被りコースかもしれんのに、全然鳴けるところば切ってこん。何か勝算のあっとやろか……?)タンッ

藍子(何度かズラせるタイミングはあったけど、結局ここまで来ちゃった。天江さんは門前のまま。海底狙いってことだと思うけど……いいのかな?
 このままだと私、次巡、あなたが海底牌をツモる直前に、ラスヅモで和了っちゃうけど……?)タンッ

衣「……カン」パラララ

藍子(げっ……それマっジ――ッ!?)ゾワッ

仁美(海底直前に大明槓……? 上家から鳴いたけん、海底コースに変わりはなかばってん、門前のままならリーチ一発ば狙えたやろうに。なぜわざわざ点数ば下げるような真似を――)

藍子(私のお宝を横取りする気なの!? いや……そっかっ! 深いところでの和了りをチラつかせることで、私に余計な動きをさせないようにしてたんだっ!!
 ギリギリまで鳴きの入らない場を維持して、最後の最後にやってくれる……。けど、これでリーチも一発もない。ドラも大半が見えてるし、大明槓しといて対々三暗刻ってこともまずありえない。
 晒された牌と超音波《ソナー》で見えた情報から推測すれば、断ヤオや染め手でもないはずだから、海底赤一とか、それくらいかな? よかった……比較的被害は少なそう――)

衣「」クルッ

藍子(ってーぇ!? ちょ――後めくりのドラが……!!)ゾワッ

仁美(カ……カンドラモロやと――!?)ゾクッ

衣「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

仁美(ズラせるとは思わんが……一応、それらしいところば出しとくか)タンッ

藍子(うーん、これはなかなかのなかなかなのかなー!!)タンッ

衣「ツモ、海底ドラ四赤一……3000・6000ッ!!」

仁美(海底以外に役のなか手……そん手で大明槓ばしたんか。私ない一生ありえなか打ち方と)

藍子(ってゆーか、私の超音波《ソナー》で見えてた牌が《上書き》されてるんだけどーっ!! こっちだって一応大能力《レベル4》相当の強度があんのよ……!?
 滅多なことがない限り、見えた牌が違ってるなんてことはない。それを易々と塗り替えてくれちゃってまぁー。
 もしかして、こうやって力の差を見せ付けるのも狙いだったり? うーん、天江さんの力を軽く見過ぎてたかな。この人、明らかに一年生の頃より強くなってる……!!)

衣「さあ……衣の親番だな」ゴッ

煌:49900 藍子:82700 衣:221700 仁美:45700

 東三局・親:衣

衣「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

仁美(二位との差は詰まったには詰まったばってん……この魔物ばなんとかせんと、にっちもさっちもいかん)タンッ

衣「ポンッ!」タンッ

仁美(一巡目から鳴いてきた? いや、私はツモの増えるけん歓迎やけど……)タンッ

煌「」タンッ

衣「ポン……!!」ゴッ

藍子(ちょっ、ツモらせてー!!?)

仁美(なんのつもりと……)タンッ

煌「」タンッ

藍子(ふあっ! やっとツモれたーっ!!)タンッ

衣「それもポンだッ!!」タンッ

仁美(さ、三副露!!)

藍子(激しく恐いんだけどー……!?)

衣「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

仁美(くっ……これは、いかるか……?)タンッ

衣「ロン――!!」パラララ

仁美(っ!? こ、こいが……ランクSの魔物――ッ!!)

衣「ダブ東白対々赤一……18000」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

藍子(配牌のあと一度もツモらずにインパチって……!! さっき海底を和了ってた人間のすることかぁーそれ!?)

仁美(緩急の揺さぶりの激し過ぎる……!! 対応もなんもなか。頭ば使って考えようにも、こうも心ば引っ掻き回されっと、そいもままならん!!)

衣「一本場ッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌:49900 藍子:82700 衣:239700 仁美:27700

 ――《劫初》控え室

憩「卓上に血の雨が降っとんでー」

智葉「これでも、本人的には軽く流している程度なのだろうな」

菫「去年、理事長が『照の打点は低い』と評していたのを、私は『何をバカな』と思った。が、天江衣という存在を知って、嫌でも納得されられたよ。高火力雀士とはすべからくこうあるべきなのだ、とな」

エイスリン「ヒャクテンボウノ、ソンザイイギ!!」

憩「積み棒で使いますやん」

     仁美『ロン……3900は4200!』

     藍子『うぇっ!?』

菫「粘るな……《新道寺》。天江の親を蹴るとは」

智葉「後には退けんからな。藁に縋ってでも和了るしかないんだろう。だが――」

憩「関係ないんや。衣ちゃんには」

エイスリン「テンボウガ、ゴミノヨウダ!!」

     衣『ツモ、2000・4000ッ!』

 ――《新道寺》控え室

友清「そいな……!! 江崎せんぱいがやっとの思いで和了った点棒が、親っ被り一発でパーとですかー!?」

美子「よう見ときんしゃい……あいがランクSの魔物と」

華菜「天江のやつ、間違いない。去年より強くなってるし」

巴「荒川さんや姫様、或いは大星さんや宮永さん……《三強》としてもランクSとしても、天江さんは誰よりも《魔物》って感じがするよね」

     衣『ロン、12000ッ!!』

     藍子『はい……』

 ――《夜行》控え室

     藍子『ツモっ! 1300オール……!!』

絃「江崎も藍子も、天江の支配下ではザンクを一つ和了るのがやっとか」

利仙「実際、どうなのでしょう。《一向聴地獄》を掻い潜って、どうにかテンパイ。そこから単騎待ちの張り替えを繰り返してのツモ和了り。
 一見して、百鬼さんが天江さんの支配を打ち破ることに成功したように思えます。ですが――」

もこ「」ブツブツブツブツ

いちご「えー……っと、『それすらも、大いなる流れの、一部』……? ど、どういうことじゃ?」

     衣『ツモ、2100・4100ッ!!』

絃「……江崎のときと同じだな。やっとの思いで和了っても、あっという間にその分を毟られる」

利仙「狙ってやっているのでしょう。とても同じ人間とは思えません……」

もこ「」ブツブツブツブツ

いちご「えっと……ああ、そうじゃなっ! われの言う通りじゃ、もこ!!」

絃「なんと言っているんだ?」

いちご「『それでも、藍子ちゃんは、大丈夫』……じゃと!」

利仙「対木さんが言うなら……心配は要らないのでしょうね」

絃「だな」

いちご「うおーっ! 藍子ーっ!! 魔物がなんじゃー!! われの底力を見せちゃれーっ!!」

もこ「」ブツブツブツブツ

 ――対局室

 南三局・親:衣

藍子(うおいおいおい……っ!! 洒落にならないよーっ!? 一人浮きで七万点近く稼ぐとか、アンビリーバボーなことしてくれるねー、この人っ!!)タンッ

 北家:百鬼藍子(夜行・64300)

衣「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:天江衣(劫初・266700)

藍子(三位・四位との点差はほぼそのままで、二位キープはできてるから、チームとしては現状維持で問題ないんだけどさ。やられっぱなしってのは気に入らないのよーぅ!)タンッ

藍子(いいよ……天江さん。点棒はくれてやるッ!! その代わり、あなたの高そーなプライドだけは――全力でボッコボコにしてやっからさーっ!!)タンッ

藍子(うしっ――!! 張ったァ!!)

 藍子手牌:四五六七八九②③④⑤⑥⑥⑧ ツモ:⑥ ドラ:五

藍子(天江さん……どっちが先にお宝をゲットできるか――勝負ッ!!)ゴッ

 ――《夜行》控え室

利仙「いよいよ超音波《ソナー》の本領発揮ですか」

 藍子手牌:四五六七八九②③④⑤⑥⑥⑧ ツモ:⑥ ドラ:五

絃「藍子のあの手……二・五筒切りで七・八筒待ちになるから、まず七・八筒の在り処がわかる」

いちご「八筒切りじゃと一・二・四・五・七筒の五面張……こっちも合わせると、筒子の在り処がほぼ全てわかるの」

もこ「」ブツブツブツブツ

いちご「……っと、そうじゃな。それだけ見えちょれば、自ずと三・六・九筒の在り処も見えてくるっちゅーもんじゃ」

利仙「超音波《ソナー》の網に、筒子が引っかかったということですね。と、六筒を切りましたか。テンパイに取らないとは」

 藍子手牌:四五六七八九②③④⑤⑥⑥⑧ 捨て:⑥ ドラ:五

絃「藍子にしか見えない道があるのだろう」

     藍子『チーッ!』

 藍子手牌:四五六七八九②③④⑤/(⑦)⑥⑧ 捨て:⑥ ドラ:五

いちご「鳴いたっ!? じゃが、これじゃと役ナシの形式テンパイ。何をするつもりじゃ、あいつ……!!」

もこ「」ブツブツブツブツ

いちご「『騒ぐな、今にわかる』……? もこ、そりゃどういう――」

利仙「……なるほど、これは面白い」

 藍子手牌:四五六七八九②③④⑤/(⑦)⑥⑧ ツモ:⑤ ドラ:五

絃「この五筒をツモりたいがためのズラしだったか……!! これで、藍子に見える牌の種類が倍増するッ!!」

いちご「え……っと、ほうか!! 役ナシじゃが形は和了っちょる!! ここから何を切ってもフリテン――つまり、切った牌が和了り牌になる!! っちゅーことは……」

利仙「百鬼さんの今の手牌……そこに含まれている全ての牌の在り処が、たちどころにわかるということですね」

絃「加えて、六・九萬切りで三萬も和了り牌になる。そこにさっきの分も合わせると」

いちご「三~九萬、一~五・七・八筒――今の藍子には、十四種類の牌が卓上のどこにあるか見えちょるのか!!」

利仙「百鬼さんから普通に見える範囲も含めると、萬子と筒子の位置はほぼ全て把握したといっていいでしょう」

絃「あとはひたすらに計算だな。藍子曰く、似たようなことを荒川がやっているらしい。山牌と他家の手牌を見透かし、一定の手順を踏むことで、場を自分の思い通りに動かしているのだとか」

いちご「あの《三強》の荒川の真似事ができるなら、同じ《三強》の天江相手にも、どうにかなるかもしれんの!!」

利仙「もっとも、さすがに荒川さんほど一瞬で計算できるわけではないようですが……」

絃「なに、心配は要らないさ。フリテン上等の和了り拒否をすることで、より大きな和了りへのルートを探知するのは、藍子の十八番。
 今に計算を終え、手に入れるだろう。あいつの言う――《宝の地図》とやらをな!」

     藍子『っ!』タンッ

いちご「長考の末に五筒切り……! 意味はよくわからんが、見えちょるんじゃろ!! しゃー、かましたれーっ!! 藍子ー!!」

     衣『ポンッ』

     煌『!』

利仙・絃・いちご「っ!?」ゾワッ

もこ「」ブツブツブツブツ

いちご「そ、それくらいはちゃちゃのんもわかっちょる! これで天江が海底コース……!!」

絃「いや、しかし、天江が鳴いたのはドラの五萬――藍子にはこのポンが予測できていたはずだ」

利仙「ええ、それが証拠に、あの手からノータイムで九萬を残しました」

 藍子手牌:五六七八九九②③④⑤/(⑦)⑥⑧ 捨て:四 ドラ:五

いちご「わ、わけがわからん!!」

絃「大丈夫……藍子を信じろ……!!」

     藍子『ポンッ!!』

     衣『――!?』

いちご「おおっ!! 天江から海底を奪いよったッ!!」

 藍子手牌:五六七八②③④/九九(九)/(⑦)⑥⑧ 捨て:⑤ ドラ:五

     衣『ポンッ!!』

いちご「ってー!? 間髪入れず奪い返されよったぞ……!?」

利仙「落ち着いてください、佐々野さん。天江さんが鳴いたのは既に超音波《ソナー》で探知済みの五筒です」

絃「これも計算通りというわけだなっ!」

もこ「」ブツブツブツブツ

いちご「も、もう何がなんじゃかわからんが……とにかく頑張れーっ!!」

 ――対局室

衣(こいつ……ッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

藍子(まだまだぁー! このルートも《宝の地図》に載ってるよっ!!)

 藍子手牌:五六七八②③④/九九(九)/(⑦)⑥⑧ ツモ:④ ドラ:五

藍子(ランクS……天江さん。その支配力は大したもんだよ。けど、お宝の独り占めはよくないと思うんだ――)タンッ

 藍子手牌:六七八②③④④/九九(九)/(⑦)⑥⑧ 捨て:五 ドラ:五

衣(ここでドラ切り……? この感じ、けいと打ったときのそれに近い。何か、衣とは違うやり方で、場を自分のものにしようとしている――)タンッ

藍子「ポンッ!!」

衣(な、んだと……!?)

 藍子手牌:七八②③/④④(④)/九九(九)/(⑦)⑥⑧ 捨て:六 ドラ:五

藍子(近付いてきたよ、海の底――! 真っ暗な深海に眠るお宝……私の和了り牌ッ!)

 藍子手牌:七八②③/④④(④)/九九(九)/(⑦)⑥⑧ ツモ:八 ドラ:五

衣(くっ、ズラせない――!? このままでは……!!)

 藍子手牌:八八②③/④④(④)/九九(九)/(⑦)⑥⑧ 捨て:七 ドラ:五

藍子(っしゃあああー!! お宝げーーーーっとォ!!)

藍子「ツモッ! 海底のみ、300・500!!」ゴッ

 藍子手牌:八八②③/④④(④)/九九(九)/(⑦)⑥⑧ ツモ:① ドラ:五

衣(こ、衣の親が流された!? その上で海底も奪っていくとは――こいつ……生猪口才ッ!!)

 衣手牌:①東東東白白白/(⑤)[⑤][⑤]/五[五](五) ドラ:五

藍子(ははっ……ゴミ手って! 安っいお宝もあったもんだよねー。けど……ま、いいんだ。
 他人から見たらゴミみたいなものでも、私にとっては金銀宝石以上の価値がある――!!)

藍子(どーですかねー? 絃さん、利仙さん、いちごさん、もこ……みんなの目に、今の私はどう映ってる……?
 不甲斐ない大将かな? ゴミを手にして笑う愚か者かな? はたまた勇敢なる冒険者かな?)

藍子(ま、どう映ってようと、私のやることは変わらないんだけどねー。不甲斐ないって言われるなら、もっと点を取れるように頑張る。
 愚かだと言われるなら、もっと賢く立ち回る。勇敢だって褒めてくれるなら……もっともっと攻めていく――!!)

藍子(みんなが見ててくれるなら……私はどこまでも強くなれるよーっ!! だから、最後まで応援よっろしくぅー!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌:44200 藍子:65400 衣:266200 仁美:24200

 ――《劫初》控え室

菫「百鬼が海底を奪ったか」

智葉「何の確率干渉もなしに、場の支配において天江を上回るとはな。あんな真似は荒川くらいしかできんと思っていた」

憩「百鬼さんの能力は、やり方次第でウチ並みの探知性能を発揮しますから」

エイスリン「コロタン、クヤシソウ、マジウケル!」

菫「他家にとっては笑えないオーラスになりそうだがな……」

     衣『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

智葉「やっとエンジンが掛かってきたか」

憩「夜が深まってきましたからねー」

エイスリン「ツキガ、ツキヲ、ヨブ!」

憩「おっ、うまいこと言わはりますねっ! ほな、這いよる夜は、牌よく寄るっちゅーことでー」

智葉「…………?」

菫「どうした、智葉? つまり、荒川は『這い』と『牌』、『夜』と『寄る』を掛けたのだぞ? 何が面白いのかはわからんが」

憩「ぐっはーぁ!?」

智葉「菫……悪いが、お前にジョークの解説をされるほど、私はユーモアに欠如していない。そうではなく、対局だ。どうにも場の様子がおかしい」

エイスリン「ンムー?」

菫「普通に《一向聴地獄》が場を支配しているように見えるが……」

智葉「ならいいけどな。荒川、下らんことで凹んでないで答えろ。百鬼の能力についてだ」

憩「うぅ……百鬼さんの超音波《ソナー》がどうかしたんですか?」

智葉「その超音波《ソナー》だが、効果は《自分の和了り牌が卓上のどこにあるかわかる》だと聞いている。
 加えて、先ほどのを見る限り、フリテンや役ナシといった形式的な和了り牌でも、その効果が適用されるようだな。が、他に副次効果はないのか?」

憩「副次効果ですか? 例えば?」

智葉「例えば……他人の《パーソナルリアリティ》と共振して、そいつの《意識の偏り》と同位相の怪音波を叩き込む――要するに《能力反射》みたいなことはできるのか?」

憩「えぇー? なに言うてはるんですか、ガイトさん。百鬼さんの超音波《ソナー》は感知系ですよ?
 あくまで牌の《存在波》と共振しやすいだけで、他人の《パーソナルリアリティ》と共振なんてできるわけがあらへんっちゅーか、できたところで全体効果系は反射できひんでしょ。
 やって、そんなことができたら、百鬼さんは感知系やのに《上書き》ができるってことになってまいますやん」

智葉「だよな。ま、言ってみただけだ」

菫「智葉……?」

智葉「とりあえず、全員、河や他家の手牌ではなく、天江の手を見てみろ」

憩「えっ?」

エイスリン「イーシャンテン……?」

菫「さっきのプレッシャーからして本気になっているはずだが……それにしては、確かに手の進みが遅いな」

智葉「五巡目くらいからずっと足踏みが続いている。何か強大な力によって、テンパイを阻まれている感じだ」

憩「まんま《一向聴地獄》やないですか」

智葉「天江の表情からも、動揺が見てとれる。恐らくは、能力の一部が機能不全を起こしているのだろう。あいつの場の支配が崩れている」

菫「あの天江の支配が……? 何が原因でそんなことになっているのだ?」

智葉「少なくとも、百鬼ではないようだな」

エイスリン「ナラ、《シンドージ》?」

菫「いや、江崎は非能力者だったはず」

憩「ほな、答えは一つしかないですやん……花田さんや」

智葉「レベル5の第一位か」

エイスリン「《ツーコードメ》……」

菫「仮にそうだとして、一体、彼女は何をしているというんだ……?」

 南四局・親:仁美

衣(おかしい……もう海底が近いというのに、手が凍りついたかのように一向聴のまま。まるで衣自身と戦っているかのようだ)タンッ

 北家:天江衣(劫初・266200)

衣(この異常事態……考えられる原因は唯一、このレベル5だ。しかし、こいつはこの半荘で一度も変わった動きはしてこなかった。なぜこのオーラスで……?)

煌「」タンッ

 南家:花田煌(煌星・44200)

衣(わからない……何かをしているのは間違いないと思うのだが、こやつ自身にはなんの変化もない。
 この局も、先刻までと同様、一向聴のまま身動きができずにいる。その様はまるでそこらの無能力者と大差ない)タンッ

衣(粛々と、何を考えている? このままでは、誰もテンパイできずにこの半荘が終わってしまうぞ……?)タンッ

衣(まあ、何もしてこないのではなく、できないだけということもあるか。
 ならば、何を恐れる必要がある。衣が衣自身の能力を打ち破れないほど無力だとでも……? 甘く見てもらっては困る――ッ!!」

衣「ポンッ!!」

藍子「っ!」ゾクッ

 西家:百鬼藍子(夜行・65400)

衣(これで衣が海底……!! 海底が必ず有効牌になる衣なら、最後の最後でこの地獄を抜けられる。なんの意図があったか知らないが、衣が貴様如きの手の平に収まると思うなよッ!!)

藍子(天江さん、やけに静かだなと思ってたけど、今回は海底狙いだったってこと……? んー、色々試してはみたんだけどなぁ。どーにもテンパイが遠いわー)

仁美(親っ被りは避けたかばってん、こがん重たか場でどげんしたらよかとね……)

 東家:江崎仁美(新道寺・24200)

衣(さあ、いざ海に映る月を撈わんッ!!)ツモッ

藍子(南無三――!!)

仁美(くっ……止められんか!?)

衣「…………っ!?」ゾワッ

藍子(えっ……? 和了りじゃないの?)

仁美(助かった、とや?)

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衣「(こいつ――ッ!?)……ノーテンだ」パタッ

藍子「ノ、ノーテンです!(えっ? ええ?)」パタッ

仁美「ノーテン(なんのどがんなっとう……?)」パタッ

煌「ノーテン。前半戦は、これで終了ですね」パタッ

 二位:花田煌・-20700(煌星・44200)

藍子(レベル5の第一位……ひょっとして、今、何かしてたのかな?)

 三位:百鬼藍子・-23300(夜行・65400)

仁美(わからんが、ひとまず二位との点差の広がらずに一安心と。さて……この休憩中に、次の半荘ばどう戦うか考えんとな!)

 四位:江崎仁美・-24500(新道寺・24200)

衣(こんなに正体の読めない敵は初めてだ。何をされたのかもまったく見当がつかない。わかるのは、衣の支配が崩され、能力が《無効化》されたという結果だけ)

衣(だが、この感じ……覚えがないこともない。これは、確かに超能力とやらの特性だ――)

衣(あのドラ置き場と同じ。あやつも、ただただドラを独占し、他家がドラを目にすることを不可能にする――その結果だけを残す。
 確率干渉なんて生易しいものではない。やつら超能力者は、卓上《セカイ》の規律《ルール》を司る)

衣(あらゆる能力者の最上位――生路を断つ《通行止め》か。どういう能力かは目下不明だが、警戒し過ぎても仕方あるまい。
 こいつが何かをしてくるとしたら、それは《絶対》なのだ。わかっていたからといって、どうにかなるものでもない)

衣(後半戦も衣のやることは同じ。目に入るものを片っ端から粉砕するだけだッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 一位:天江衣・+68500(劫初・266200)

 ――――

 ――《煌星》控え室

     衣『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡「……ねえ、サッキー的にどうよ。あのちっちゃいの」

咲「……正直に言っていい? 小さい頃のお姉ちゃんよりひどいよ」

桃子「そんなにっすか……」

友香「自分があの場にいたらと思うとぞっとするんでー」

咲「まあ、煌さんは比較的その手の感覚鈍いから、プレッシャーに呑まれるみたいなことはないと思うけど」

淡「支配力もそうだけど、能力も面倒そうだよね、あの《一向聴地獄》とかいうやつ。私のは配牌イジるだけだけど、あっちは海底までずーっとだもん」

桃子「っていうか、きらめ先輩、前半戦は一度もテンパイできてなかったっす」

友香「煌先輩はランクFだからなぁ。能力以外の部分ではやられたい放題。自力でなんとかするしかない。けど……見てた限り物理的に無理っぽいんでー」

淡「《通行止め》自体はちゃんと機能してるんだけどねー」

咲「ここから一体どうやって二位になるつもりなのかな……」

桃子「守りに徹してるだけじゃ、詰められる点数には限界があるっす」

友香「どこかで和了らないといけない。一発でまくるとしたら、最低でも12000の直撃が必要」

淡「二万点差、かぁ……」

咲「私がちゃんとプラマイゼロしてれば……」ズーン

桃子「私がステルスを過信しなければ……」ズーン

友香「私がリーチで打ち負けなければ……」ズーン

淡「私がちゃんとダブリー決めてれば……って!! やめやめっ!! 反省会はあと!! 今は、とにかくキラメの応援っ!!」

友香「それもそうでー! 煌先輩、ここで敗退する気はないって言ってたしっ!!」

桃子「おっ、さてはきらめ先輩、何か勝算があるっすかね?」

咲「いや、桃子ちゃん。あの煌さんがそんな細かい計算で動くはずないよ。意外と大体の感覚で動くから、あの人」

淡「確かに。でもっ、キラメがすばらなのは、それでハズさないってとこだよねー!」

桃子「能力分析のときなんか、ちょいちょいついていけなくなるときがあるっす」

友香「そうそう。咲の分析はいかにも理詰めって感じがするんだけど、煌先輩のは、途中途中で直感の飛躍があるっていうか」

咲「今回も、なんだかんだで、なんとなーく、いい感じになんとかしてくれると思う。どうやるのかはさっぱりだけど」

淡「みんなでキラメを信じよう。きっと大丈夫……! だって、キラメは私たちの大将だからっ!!」

桃子「そうっすね!」

友香「そうでーっ!」

咲「うんっ!」

淡「っしゃー!! キラメーっ!! 頑張ってー!!」

 ――――

 ――対局室

仁美「……よろしくと」

 東家:江崎仁美(新道寺・24200)

藍子「最後もよろしくーぅ!」

 南家:百鬼藍子(夜行・65400)

煌「よろしくお願いします」

 北家:花田煌(煌星・44200)

衣「よろしく……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 西家:天江衣(劫初・266200)

『大将戦後半――開始です……ッ!!』

 東一局・親:仁美

仁美(ふぅ……始まったと。私の現役雀士としての、白糸台での最後の半荘――になるかもしれん半荘が。
 ここで負けたら、もう何かば懸けて麻雀することものうなっとやろか……)タンッ

仁美(私は、美子と同じで、就職は地元でするつもりやけん。引退して卒業ばしたら、学園都市に来る機会も少なくなっとやろな。
 普通に働いて、年ば取って……麻雀も、たまにしか打たなくなるんやろか)

仁美(白糸台高校麻雀部――学園都市……ここは雀士のための街やけん。コンビニ感覚で雀荘のあって、大人も学生も年中無休で麻雀のことばっか考えとる。
 大会も小さかのから大きかのまで毎週のようにあって、牌に触れん日は一度もなかった)

仁美(ばってん、外の世界はそんなことなか。雀荘よりカラオケやゲーセンのほうのたくさんあっ。個人で自動卓ば持っとう人もほとんどおらん。せいぜい、トッププロの対局がテレビで中継されるくらいと)

仁美(本当に……ここでの生活は楽しかった。色んな打ち方の雀士のおって、色んな能力のあって、弱かも強かも、デジタルもオカルトも、みんな卓ば囲めば対等。
 分かり合うのに言葉なんて要らんやった。半荘一回も打てば、そいだけでもう友達みたいなもんやった)

仁美(外の世界に出たら、そんなこともできなくなるんやろな。麻雀は数ある娯楽の一つ、数ある人気競技の一つ、或いは暇つぶしの一つと。
 卒業しても第一線で麻雀ば打ち続けられるんは、白糸台出身者でんほんの一握り。大半の卒業生は、麻雀とはなんの関係もなか人生ば歩んどる)

仁美(私も、きっと十年後か、二十年後か。それくらいには、麻雀のことなんかすっかり忘れて、ニュース見て政治の動向ば気にしとるのかもしれん。
 まあ、それはそれで悪かことやなか。未来の私には未来の私の幸せのあっ……)

仁美(そいけん、そいやからこそ、今この瞬間は、こん対局ば全力で楽しみたか。全力で勝ちば目指したか。
 力の差のあっとは最初からわかっとうばってん、応援してくれるみんなのためにも、手ば抜かずに打ってくれる相手のためにも、私は最後まで諦めん――諦められん……っ!!)

仁美(ああ……そりゃ諦められんやろ!!)

    ――江崎さん、受かっとったんやね、白糸台。 

 ――私、安河内。覚えとう? 地区予選の決勝で私……ああ、そいならよかった。

         ――中学の頃の借りはここで返すと。またよろしく。

  ――なあ、仁美。《新道寺》ってチームのあっとやけど……。

仁美(学園都市に来てから二年と四ヶ月。私はこの大将戦で唯一の三年と)

   ――仁美、今年はダメ元で白水さんと鶴田さんば誘ってみんか? 哩姫のおったら、一軍《レギュラー》も夢やなかと思うんよ。

       ――白水哩と。よろしくな、江崎、安河内。

    ――鶴田姫子、レベル5とです。よろしくお願いします!!

仁美(印象深か出来事ば挙げたらきりのなか……)

     ――稼ぎ負けた……っ!! 不甲斐なかエースですまん……。

         ――申し訳なかとです……取り返せませんでした……っ!!

   ――大丈夫と、哩、姫子。私と仁美でどうにかすっけん! な、仁美!?

                ――お願いします、仁美先輩……っ!!

  ――仁美ーっ!! すごかっ! 区間トップとねーっ!!

            ――あいがとな……仁美。

       ――よし、あとは私がこの副将戦で片ばつけたる……っ!!

仁美(数え切れんほどの対局ばしてきた。数え切れんほどの出会いのあった)

    ――私の副将に……? そいない、大将は姫子やとして、先鋒はどげんすっと? お前も美子も向いとうとは言い難かやろ?

         ――友清と申しますっ!! よろしくとです、せんぱいっ!!

仁美(ああ……別れもあったと――)

     ――今年の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》なんやけど……私は《新道寺》としては出れん。

   ――ま、待ってください……! そんなん嫌とっ!! 私ば置いていかんで……!!

       ――姫子せんぱい、落ち着いてくださいとです!!

  ――ちょ! さっきからなん黙っとう!! 仁美からもなんか言うてよっ!!

                  ――……さよならと。

仁美(……ばってん、それも新しい出会いのきっかけになったと)

   ――元気を出してください、江崎さん。私たちでよければ、力になりますから。

      ――白糸台の《生ける伝説》とは華菜ちゃんのことだしっ!!

仁美(本当に……! 色んなことのあったなっ!!)

               ――江崎せんぱい……っ!

      ――江崎さん、幸運を。

             ――行ってらっしゃいだし!!

  ――悔いのなかようにな……仁美っ!

仁美(今ここで諦めたら、その全部が無駄になってしまうけんッ!!)

     ――なあ、仁美……必ず、本選に行こう。

          ――行って、哩と姫子に見せたらんとなっ!

  ――私たち《新道寺》の力ば……ッ!!

仁美(ああ、わかっとうよ、美子。よーく見とれよ……っ! こいが二年四ヶ月の重み! あんたと一緒に《新道寺》の看板ば背負い続けた――私たちの力とッ!!)

仁美「ツモ……! 3900オールッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衣「っ!?(なんだ、これは……ただの意地のようなもので和了りをもぎ取っただと!?
 これだけの点差を突きつけられながら、一体何がこいつの支えになっているというのだ……)」

藍子(まっじっすかー!? これ、もしかして都市伝説に聞く《三年生ブースト》ってやつ?
 いやいやっ、伝説はあくまで伝説っ! そーじゃなくて、正真正銘、これはこの人だけの力……この人が積み上げた力なんだっ!!)

仁美「(いかる……まだ戦えるっ!! ここから二位にインパチかませば二位浮上とッ!!)……一本場ッ!!」ゴッ

仁美:35900 藍子:61500 衣:262300 煌:40300

 東一局一本場・親:仁美

藍子(いやいや、大変だよー、これは。天江さんは満遍なく削ってくるし、《一向聴地獄》が終始続くなら、攻め三・守り七くらいでいけるかなーと思ってたけど、今みたいなのがもう一回来たら、さすがに危なそー……)

藍子(《新道寺》の三年生。夏の一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》はこれが三回目なんだっけ。しかも、去年の準決勝では区間トップ……《新道寺》のベスト4入りの立役者だった)

藍子(私らの学年にはレベル5の鶴田さんがいたから、《新道寺》って言えば哩姫のイメージが強い。
 けど、《新道寺》は、隣のブロックの《劔谷》や《越谷》とかと同じで、同地方出身者が集まる伝統の強豪チーム。
 そこに一年生のときからメンバー入りして、鶴田さんたちがいなくなった今年も、リーダーとしてチームをここまで引っ張ってきた……)

藍子(チームを組むのもリーダーをするのもこれが二度目の私とは、経験も、トーナメントに懸ける想いも、比べものにならないんだろうなぁ……)

藍子(でもね、今のチームが好きだって気持ちとか、このチームで勝ちたいんだぞって気持ちなら、私だって負けないつもりだよ。
 私個人には来年があるけど、今の五人で大会に出られるのはこれが最後だからさ。あとがないのは……こっちも同じっ!!)

藍子(譲れないプライドとか、負けられない理由とか、死んでも一軍《レギュラー》になりたいとか……そーゆー堅っ苦しいのは、ぶっちゃけ、私はあんまないけど)

藍子(けど……それでも、だからといって、私の勝ちたいって気持ちが、偽物になるわけじゃない! ホントに本気で、私は勝ちたいよ。
 勝って、このお祭りをもっとみんなと楽しんでいたい……!! 頑張るワケなんてそれで十分でしょ――!!)

     ――藍子……私のことを覚えているか? 一つ上の霜崎絃だ。

藍子(あーっ、楽しいなぁー!! なんでこんなに楽しいんだろ!! チーム《夜行》なんて、冗談みたいな名前のチーム……! 結成したのだって、つい三ヶ月前だっていうのに――!!)

            ――私とチームを組んでくれないか?

  ――私は、白糸台での最後の夏を、あなたと共に過ごしたい。

藍子(絃さんがいきなり教室に押しかけてきたときは、びっくりしたなぁー!!)

          ――ほう、あの《神風》を? かなり変わった雀士だと聞いてるが……いや、無論、私は構わないよ。

    ――ブツブツブツブツブツブツブツブツ

藍子(もこを口説く――っていうか会話を成立させるのにも結構苦労したっけ。でも、おかげで、ぐっと仲良くなれた)

      ――四人目なんだが、私の友人に一人、とても頼りになるやつがいてな。

            ――《最愛》の大能力者……と言えばわかるか?

  ――わかりました。そういうことでしたら、喜んで。

藍子(利仙さん……絃さんが言っていた通り、麻雀も強いし、綺麗だし、大人っぽいし、パーフェクト過ぎて最初は気後れしたんだよね。でも――)

     ――ちなみに、五人目は決まっているのですか?

         ――《悪魔》も悪くありませんが、ここは一つ、佐々野いちごさんを誘ってはいかがでしょうか。

  ――ちゃちゃのんをわれのチームに……? そうか利仙が……いや、嬉しいんじゃが、本当にちゃちゃのんでええんか?

藍子(いちごさん……利仙さんがファンになるのも納得。今ではすっかり私もいちごさんファンの一人ですよっ!)

   ――藍子、その、チーム名のことなんだが……。

             ――《夜行》、なんてどうだ?

藍子(三ヶ月――あっという間だったなぁ。まるで夜行列車みたい。走り始めたときは、終着駅なんてずっと遠くにあると思ってた。
 なのに、あんまり乗り心地がいいもんだから、気付けば夢の中にいて、ふっと現実に返ると……旅の終わりがもうすぐそこに迫ってる)

藍子(けど……この列車さ、五人乗りの夜行の旅――もうちょっとだけ続けていたいんだ。もう少しだけ夢見心地でいさせてほしんだ。
 もちろん線路はどこまでも続いてるわけじゃないんだけど、それでも、ここで終点はやっぱ寂しいからっ……!!)

藍子(よーしっ、張った張った!! 役ナシだけどテンパイしたっ!! けどこれ、リーチ掛けたら出てこないんだろうなぁ。
 例によって私のツモる位置に和了り牌はないし、それに、たとえ一発ツモできたとしても安過ぎる。それじゃ前半戦の二の舞)

藍子(んー、どうしたもんか。あっ、でも、これ……? おお、そっかっ!! これならいけるかも!! ってか、むしろ積極的にいきたいっ!!
 そーだよそーだよ。このお宝をゲットできたら最高だろうなって思ってたんだっ!!)

藍子(絃さん、もこ、利仙さん、いちごさん……このお宝は、きっと私一人じゃ手に入れられなかった。
 ありがとう……! みんながくれた宝物――中身は山分けにしましょーねーっ!!)

 ――《夜行》控え室

絃「藍子がテンパイしたか。前半戦の天江を見てしまうと、素直には喜べないが……」

 藍子手牌:333456⑤⑤⑥⑥⑦⑧⑨ ドラ:二

利仙「リーチ一発ツモでも1000・2000の一本付け。次の百鬼さんの親番で、天江さんが満貫以上のツモ和了りをしてくると、それだけでパーになってしまいます」

いちご「ほいでも、和了らんよりはマシじゃろ。天江がツモる分には三位、四位との差もそこまで詰まらんわけじゃし」

もこ「」ブツブツブツブツ

いちご「『だから、いちごちゃんは、ダメなのだ』……? ってどういう意味じゃあわれー!!」

     藍子『チーッ!』

利仙「ここで喰い替え……ズラし目的の鳴きですかね。ということは、また百鬼さんにしか見えないルートがあるのでしょうか」

絃「鳴いてはリーチもできない。しかも、喰い替えだからテンパイを崩すことになる。
 さらに、有効牌を引いて断ヤオが成立したところで、場合によってはフリテンになる可能性もある」

いちご「何をするつもりじゃ……藍子。って、はあっ!? あいつ五筒を捨てよったぞ!?」

 藍子手牌:3334⑤⑥⑥⑦⑧⑨/(4)56 捨て:⑤ ドラ:二

利仙「まあまあ、佐々野さん。あたふたしても可愛いだけですよ。ここは百鬼さんを信じましょう」

いちご「ほ、ほうじゃな……。ん? 利仙、今何か変なこと言わんかったか?」

利仙「……なんのことでしょう」コホン

絃「おい、見ろっ――! なるほど、そういうことだったのか、藍子……!!」

 藍子手牌:3334⑤⑥⑥⑦⑧⑨/(4)56 ツモ:[⑤] ドラ:二

いちご「赤五筒!! ほうか……さっきのテンパイは五・六筒待ちじゃったけえ、あそこでズラせば赤をツモれるっちゅうのが見えたわけじゃな!!」

利仙「しかし、役ナシであることに変わりはありません。今のところ、百鬼さんに把握できているのは五・六筒の在り処だけ。
 彼女の打ち筋から考えられる変化として、三索・五筒・六筒の三暗刻でしょうか」

絃「必然的に赤二がつくから、断ヤオに頼らず満貫。しかも、今の手牌で三暗刻だと待ちが単騎になるから、新しい牌を引くたびに超音波《ソナー》で在り処を探知できる。藍子の得意技の一つだな」

いちご「じゃが、確か、天江は《相手の向聴数と打点がわかる》んじゃったよな……? 三暗刻で満貫となると、あの無茶苦茶な支配力で和了りを妨害されそうじゃが……」

もこ「」ブツブツブツブツ

いちご「『いちごちゃんのくせにわかった風なことを。この可愛いだけの雑魚めが』……? コラもこーっ!!!」

     藍子『♪』タンッ

絃「三索を切った!? 狙いは三暗刻じゃないのか……!!」

利仙「面白いですね。モニターで見ている味方の私たちでさえ、予測できない打牌。いかに天江さんといえども、この状況は想定外のはずです」

いちご「ほうじゃの……藍子がシャボから暗刻手にシフトしていったことは、過去にも何度かあったけえ、牌譜をよう研究しとれば対応もできたじゃろ。
 じゃが……今の藍子はちゃちゃのんたちでもわからん打ち方をしちょる!」

 藍子手牌:334⑤[⑤]⑥⑥⑦⑧⑨/(4)56 ツモ:⑥ ドラ:二

絃「さて、一周して六筒を引いたか。三索切りなら二・五索待ちになるが、どちらもほぼ場に見えている。超音波《ソナー》の旨味は少ないな」

利仙「実際に切ったのは四索……三索・五筒のシャボですか」

 藍子手牌:33⑤[⑤]⑥⑥⑥⑦⑧⑨/(4)56 捨て:4 ドラ:二

いちご「三索は全部見えちょるけえ、超音波《ソナー》で新たに増える情報もない。そもそもフリテン役ナシじゃし……まったくわけがわからん……じゃがっ!!」

もこ「」ブツブツブツブツ

いちご「ほうじゃの、もこ。こっから藍子が何かをやってくれるっちゅうのは、ちゃちゃのんにもわかる。一緒に藍子を見守っちゃろう。なっ、もこ!!」ダキッ

もこ「/////」ブツブツブツブツ

いちご「おっ? なんじゃ、照れちょるんかー? われ口は悪いが意外と初心いとこあるのー!!」ナデナデ

 ――対局室

衣(《夜行》の百鬼……先ほどから不可解な動きをしている。安手のシャボ……ズラして三暗刻を狙うかと思いきや、ごちゃごちゃと手を崩して、フリテンの役ナシテンパイだと……?)

 衣手牌:一一二二三三四[五]六七八九⑨ ドラ二

 藍子手牌:33⑤[⑤]⑥⑥⑥⑦⑧⑨/(4)56 ドラ:二

衣(まあいい……三暗刻で和了らないのなら、断ヤオ以外に変化が望めない以上、なおさらその九筒が不要になるはず。
 それに、別に貴様から和了らんでも、先ほどの鳴きで海底は衣のものになった。衣の力なら、現状の倍以上の点数で和了ることも不可能ではない。ここから貴様に何ができる――ッ!!)

藍子(とかなんとか思われてんのかなー? けどさ、天江さん、私の超音波《ソナー》をナメてもらっちゃー困るなぁ。
 天江さんの全体効果系能力は、強力な上に効果範囲もめちゃんこ広い……けどぉっ!!
 私の能力――超音波《ソナー》は、その支配領域《テリトリー》の広さだけなら、あなたの上を行くんだよー? なんたって……私の探知圏は《卓上の全て》だからねっ!!)

藍子「それだぁーっ!!」ゴッ

衣(な……に? バカな、こいつはフリテン役ナシッ!! 衣が振り込む道理はないはずでは――!?)

藍子「カンッ!!」パラララ

衣「……なっ!?」ゾワッ

 藍子手牌:33⑤[⑤]⑦⑧⑨/⑥⑥⑥(⑥)/(4)56 嶺上ツモ:? ドラ:二

藍子(天江さんの力は私の上を行く。それは、前半戦で見えてた牌を《上書き》された時点で理解したよ。
 けど、もし、あなたの支配領域《テリトリー》の外に、私の和了り牌があったら……?
 いくら天江さんの支配力が桁違いでも、力の及ばないとこまではどうしようもないよねっ!!)ツモッ

衣(こいつ……っ! 海底を奪っただけでは飽き足らず……そんな高いところまで!?)

藍子(いっやー、これは感無量だねっ!! まさか大将戦の半荘二回で、場の最深部のお宝と最頂部のお宝――二つも手に入れられるなんてっ!!)

藍子「ツモッ! 5200は5500、責任払いでよろしくーぅ!!」パラララ

 藍子手牌:33⑤[⑤]⑦⑧⑨/⑥⑥⑥(⑥)/(4)56 嶺上ツモ:[⑤] ドラ:二
 
衣(嶺上……開花だと――!?)

藍子(天江さん、もしかして私の能力を逆手に取ったつもりだったかな? でも、残念でした!
 さすがのあなたも、この試合中に私が強くなるなんて――先鋒戦の絃さんの嶺上に触発されて強くなるなんて――予想できなかったみたいだねっ!!)

衣(花天月地とは味な真似を……!! 深い海底の暗闇も、遥か嶺上の頂も、その能力が行き届かぬところはないということか。
 超音波《ソナー》なるその力、こまきに翻弄されていた去年とは比ぶべくもない――!!)

衣(この後半戦……前半戦の焼き直しになるかと思ったが、《新道寺》のも《夜行》のも大いに楽しませてくれる)

衣(良きかな良きかな……興が乗ったぞ!! 貴様らの奮迅に敬意を表し――その身も心も、跡形もなく粉塵にしてくれるッ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

仁美:35900 藍子:67000 衣:256800 煌:40300

 ――《劫初》控え室

     衣『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

憩「ええ感じにゴゴゴしとんなー。これは停電に気をつけな」

菫「結局、前半戦オーラスのノーテン流局はなんだったのか」

智葉「《原石》とやらがそうであるらしいと聞くし、東横の例もある。《通行止め》の能力も、後半にかけて効いてくるものなのかもしれん」

エイスリン「カンオーケイ?」

憩「せやけど、それやったら、前半のオーラスで効いたんは、そのまま後半に持ち越されるんとちゃいますか?
 ステルスさんの場合、見失ったら最後、どんなに集中しても見えへんかったですよ」

菫「二度も直撃を取っておいてよくもまあ……」

     衣『ロン、12000』

     仁美『――っ!』

智葉「……普通に和了れているな」

エイスリン「シュラガ、シュラバッテル」

     衣『ツモ、4000オール』

憩「衣ちゃんの辞書に容赦っちゅー言葉はないんやろな。勝者とか強者とかはあるんやろけど」

菫「……今のは何が面白いんだ? 荒川、すまんが解説を頼む」

憩「菫さんは『ボケ殺し』っちゅー単語を辞書で引いてください」

     衣『ロン、12300』

     煌『すばっ!?』

智葉「今度は《通行止め》からも普通に和了った? 何がどうなっている……」

エイスリン「イチマンテント、ニセンテン、バッカリ、アーガーッーテールー♪」

菫「なあ、荒川。本当に気になって仕方がない。『容赦がなくて勝者と強者がある』……何が面白いのか教えてくれ」

憩「誰かー!! 菫さんのシャープシュート(心理)止めてー!!」

 ――《新道寺》控え室

美子「仁美……っ!!」

友清「あの《魔物》さんは危険過ぎっとですっ!! 池田せんぱいはあんなのと二度も戦ったとですか!?」

華菜「自慢じゃないが、二度ともフルボッコだったし!!」

巴「本当に自慢じゃないね……」

美子「天江衣……恐ろしか。この親でなんもかんも終わらせる気やろか?」

華菜「だ、だいじょーぶですよ、安河内先輩! 江崎先輩なら……きっと――」

     仁美『ロ、ロン! 1000は1600と……!』

     煌『はい』

友清「親ば蹴ったとですー!」

華菜「ほら見たことかしーっ!!」

美子「ばってん、あんな安か手! なかなか二位との点差の詰まらん……っ!!」

巴「…………」

華菜「巴さん? どうかしましたし?」

巴「あ、いや、なんでもない。そんなことより、天江さんの手がまたとんでもないことになってるよ」

友清「ば、倍満とですっ!!」

美子「あいば和了られたら、チーム《劫初》の点数が!?」

     衣『ロン……16000ッ!!』

     藍子『マっ――ジで……?』

華菜「三十万点突破だし……!!」

友清「そ、そう言えば、あの《魔物》さん……予選決勝では三チームば同時に0点にしてたとですよね……?」

美子「そいならそいでよか。チーム《劫初》以外の0点で並びよったら、上家取りで私たちの勝ちと」

華菜「い、意外と現金なんですね、安河内先輩!!」

美子「勝てばよかと! 勝てばっ!!」

友清「江崎せんぱいのラス親……ここで、二位に直撃ばかませばっ!!」

巴「直撃の前に、張れればいいけど。見るからに重そうな手……ツモも良くない」

華菜「でも、焦って鳴くのはやめたほうがいいです。あたしはそれで振り込みましたから」

友清「江崎せんぱいは……門前で進めるつもりみたいとですね」

美子「仁美なら、きっと……っ!!」

華菜「うにゅあああああっ、テンパイが遠いしーっ!!」

巴「マズい……海の底が見えてきた」

友清「ばってん、あん《魔物》さんは海底コースやなかとですっ!」

巴「うん、まあ、今のところはね」

     衣『カン』パラララ

友清・美子・華菜「!!?」ゾワッ

巴「暗槓……これで、海底をツモるのは、一つズレて東家の江崎さん。やっぱり、今のところは、だけど」

     衣『……カンだッ!!』パラララ

華菜「に、二巡連続で暗槓……? こんな天江知らないしっ!!」

美子「こいで、海底ばツモるんは《煌星》の花田さんと」

友清「ちょ、ちょー待ってくださいとです。あの《魔物》さんの手……まだ暗刻の一つ残っとっとですよ……?」

巴「友清さん、よく覚えておいて。息を吸って吐くように、当たり前に《奇跡》を起こす存在――それが、白糸台に五人しかいない支配者《ランクS》なの」

     衣『もいっこ――カン!!』パラララ

美子「し、信じられなか……!!」ゾゾゾ

友清「さ――三色同刻三暗刻三槓子ドラ四……!? そいな……」ガタガタ

巴「これで終わりじゃない。三巡連続の暗槓によって、天江さんは門前のまま海底牌を自分のツモる位置に引き寄せた。なら、当然……」

     衣『リーチ……ッ!!』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

華菜「あ、和了られたら数え役満だしー!!」

美子「なんでそげん大きかのば仁美の親んときにしよる!! どうせ数えば和了るなら《夜行》にブチ当てたらよかと!!」

友清「や、安河内せんぱい、なんていうかアグレッシブとですね……!!」

巴(え……? そんな、嘘――)ゾクッ

     仁美『そ、それ、チーッ!!』

     衣『ッ!!?』

華菜「ズレたしー!!?」

友清「し、しかもこいで江崎せんぱいのテンパイとですっ!!」

美子「よ、ようわからんが! 仁美ーっ、やったれー!!」

     仁美『ロ――ロンッ!! 5800!!』

     衣『なあ……っ!?』

美子・友清・華菜「きゃああああああああああああ!!!!」

巴(やっぱりそうだ……さっきの差し込みと、今のアシスト。彼女だけが天江さんの支配から逃れている。
 どういう理屈でそんなことができているのかはわからないけど……このまま黙っているわけがない、よね……?)

 ――対局室

 南一局一本場・親:仁美

仁美「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 東家:江崎仁美(新道寺・28300)

衣(海底をズラした上に直撃まで取ってきただと……? 衣が本気を出しているのに、後半戦でのこいつの個人収支は、今のところプラス。
 この二回戦で負けることはまずありえないが、もし、これほどの力を次の試合でも発揮されたらと思うと……面倒だな)タンッ

 西家:天江衣(劫初・302300)

衣(四位で――背水の陣で対局に臨んでいるというのも、こやつの力を引き上げているのだろう。
 レベル0とは言え、すみれやさとはと同じ三年だと思えば、この底力も頷ける)

衣(よかろう。ならば、背水すら天国だったと思えるような、地獄の淵の崖っぷちに立たせてやる!
 希望という希望を断ち切り、歯向かう気も起きないくらい……徹底的に沈めてくれるッ!!)

衣「ロン――8300ッ!」ゴッ

仁美「くっ……!!」

仁美:20000 藍子:47000 衣:310600 煌:22400

 ――《夜行》控え室

絃「《新道寺》が危ういな。二つの意味で」

いちご「どういうことじゃ?」

利仙「何かの弾みで逆転してきそうですし、その逆で、ふとしたことから奈落の底へ落ちていきそうでもある……ということです」

     衣『ツモ、2000・4000』

絃「これは……満貫程度で藍子の親が流れたことを喜ぶべきなのか」

もこ「」ブツブツブツブツ

いちご「『何故安めなのか』じゃと? まあ、確かに、あの手なら倍満までありえたが……ほういうこともあるじゃろ」

利仙「たまには打点が一万点以下のときがあってもいいでしょう。でないと、こちらの心臓がもちません」

絃「ひょっとすると、ただ力を溜めただけなのかもな。次が天江の最後の親番……ここが正念場だ」

いちご「げっ、配牌からあんなに……!? 豪運って言葉が霞むくらいの爆運じゃの。しかもそれが毎局じゃ。なにもかもが異常じゃて!!」

絃「おいおい……あんなのは序盤で張るような手じゃないだろうに……」

利仙「と、ツモりましたか」

もこ「」ブツブツブツブツ

いちご「ああ、確かにまた安めじゃが、それでも4000オール。大きいことに変わりはないの」

     衣『……』タンッ

利仙「和了り拒否、ですか。しかし、一体なぜ……?」

絃「あくまで高めを狙うつもりだろうか」

いちご「これは――いや、あいつ……張り替えよった! さては出和了りを狙っちょるんか!?」

もこ「」ブツブツブツブツ

いちご「は? 『命脈が尽き果てる』――? それは」

     衣『ロン――18000』

絃・利仙・いちご「……っ!!」ゾワッ

もこ「」ブツブツブツブツ

 ――対局室

衣「ロン――18000」

仁美(こ……こんなことがっ!!)

藍子(嘘っしょ、これ――!?)

衣「塵芥ども、点数を見よ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

仁美:0 藍子:43000 衣:336600 煌:20400

仁美・藍子「……ッ!!?」ゾクッ

衣「理解したか? 貴様らの行く先に希望など存在しない。それでもまだ抗うというのか!」

藍子(0点って……!? いや、そういうことができるし、そーゆーことをやってくる人だってのは、重々承知だったけどさ!!
 これは……《新道寺》の三年生には悪いけど、最後の最後でひどいトラウマになっちゃうんじゃないかな……?)

仁美「…………」

衣(ふん、あの《砲号》以外でここまで衣をてこずらせる非能力者がいたとはな。さすがにこれだけ痛めつければ立ち直れまい。まあ……凡人にしてはよく戦ったと褒め)

仁美「くっ……くく――はーっはっはっはっはっ!!」

衣(しょ――笑破!?)ビクッ

仁美「いやいや、こいつは傑作と! 白糸台で二年以上も打ってきて……それなりに経験ば積んだつもりやったばってん、こんなことば現実にできる雀士のおったとは!! 思わず飲み物ば吹き出すとこやったと……っ!!」

衣「な……なぜ笑っていられる!? 貴様にはこの絶望的な状況がわからないのか!!」ガタッ

仁美「絶望? なん言うとう。まだ試合は終わってなか。ここで絶望する雀士が白糸台のどこにおっとね」

衣「だ、だが、貴様の持ち点はゼロ!! 生きていても死と隣り合わせッ!! ここから逆転することなど不可能だろう!!」

仁美「は? 二連続で地和ば和了ればよかだけやろ?」

衣「そ……っ! そんなバカなことがありえるわけない!!」

仁美「狙って海底ば和了る魔物のよう言う……。
 あんな、天江衣。あんたのいくら強かろうと、場ば支配しようと、私になんの力もなかろうと、最低の点数状況やろうと……そんなんはな、絶望するに全然足りんけん。
 本当の絶望ていうんは、例えば、どっかの大バカもんのチーム脱退宣言とか、そういうことば言うと。
 そいに比べたら、こんなん、自力でどがんかなる可能性の僅かやけどあっけん、どこに絶望する理由のあっとね」

衣「貴様……!!」

仁美「大体、私は知っとうよ。去年、あんたの池田にしたこと。あんときも0点にしたんやったか。ばってん……池田ば0点にしたのと、私ば0点にしたのやと、どうにも思惑の違うみたいやね」

衣「何が違うというのだ……! どちらも同じ0点だろう!?」

仁美「いーや、違う。こいなこと言うたら自惚れとうみたいやけど、どうやら私は、あんたん中で随分と評価されとうらしい。
 そいけん、親満ツモらんと、わざわざ張り替えて点数ば上げて……私ば狙ったとやろ?」

衣「……っ!!」

仁美「池田のときは、わざと点数ば下げよったんやっけ。この違いは大きか。
 つまり、天江衣。あんたは私ば脅威やと思ったんやろ。私のなんしよるかわからんのが、あんたは不安やった。やけん、私の手足ばもぎに来た……」

衣「そ、それは――」

仁美「読みの浅かね、ランクSの魔物。私はまだまだ勝てると思っとうよ。《新道寺》のリーダーばナメよったらいけん。
 どがんことされても、負けの決まらん限り、私は希望ば捨てん。わかったら、さっさとサイコロ振って勝負の続きばすっとね」チュー

衣「そ――そんなに敗北者の烙印を押されたいというのなら、いいだろうっ!! 衣が直々に引導をくれてやる!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

仁美「そいは楽しみと! やれるもんならやってみんしゃい……っ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

仁美:0 藍子:43000 衣:336600 煌:20400

 南三局一本場・親:衣

仁美(と……強がってはみたものの、こいは本当に首の飛びよるか? 一つもテンパイできる気配のなか。
 ばってん、私のテンパイせんでも、天江に他のチームば撃ち落してもらえばよかだけとね。去年の美子みたいな小狡か戦法やけど、今はどがん手ば使ってでん勝ち抜いたる……!!)タンッ

 西家:江崎仁美(新道寺・0)

藍子(うっわ……さっさとツモって二回戦抜けたいとか思ったけど、甘かったぁー!
 っていうか、天江さんの支配力が前半戦の最初より上がってきてるの気のせい……? 潮の満ち引きみたいなもんなのかな)タンッ

 北家:百鬼藍子(夜行・43000)

衣(いよいよ夜が深まってきた。満月のときほどではないが、今ならこまき以外には押し負ける気がしない。点差も十分過ぎるほどつけた。だが、なぜだ……月に翳りを感じる――)タンッ

 東家:天江衣(劫初・336600)

煌「」ゴ

 南家:花田煌(煌星・20400)

衣(これは……また貴様なのか、《通行止め》。先刻、東三局二本場で、《新道寺》に差し込んで衣の親を止め、南一局では衣の数え役満を阻止した。
 まるで、そこから先の道が初めから存在しなかったかのように……至極あっさりと)タンッ

煌「」ゴゴ

衣(この局も、前半戦のオーラスと同じ。衣までもが《一向聴地獄》の憂き目に遭っている。だが、しかし……)タンッ

煌「」ゴゴゴゴ

衣(貴様とて、この状況では足踏みするしかあるまい。仮に張れたとしても千点そこらの安手。しかも役がつかないはず。
 ツモればその瞬間に廃滅。出和了りを狙ってリーチをかけてしまえば、《新道寺》がノーテンである以上、和了れなければその瞬間に貴様の負けが決まる。
 かといって、衣か《夜行》から出和了りができれば逆転できる、というわけでもない。勝機皆無の決死行など、それこそまさに正気皆無。
 貴様が衣の道を閉ざしたように、衣も貴様の道を閉ざした。この袋小路で何ができる――《通行止め》……!!)

煌「リーチです」

 煌手牌:一二三四222⑤⑥⑦西西西 ドラ:五

衣(は――?)ゾワッ

仁美・藍子(え……?)

 ――《劫初》控え室

菫「開いた口が塞がらないとはこのことだ。なんだあのリーチは」

エイスリン「キデモ、フレタカ!?」

智葉「ツモったら負け、江崎から和了り牌が出ても負け、たとえ百鬼か天江から和了れても、裏が乗ったところで高々満貫。
 荒川、お前の《悪魔の目》にはどう映る、あの《通行止め》のリーチは」

憩「これは……ちょっと皆目わかりませんわ」

 ――《夜行》控え室

いちご「わ……わけがわからん! 今日一番でわけがわからん!!」

利仙「私たちを勝利に近付けるだけの無謀に見えます……見えますが」

絃「藍子のような例もある。《通行止め》が園城寺を超える感知系のレベル5だとしたら、あいつにしか見えてない道があるのかもしれん」

もこ「」ブツブツブツブツ

 ――《新道寺》控え室

友清「はぁーっ!? なんなんとですかあの人ー!!」

美子「《煌星》の花田さん、そん手でこん状況でリーチやと? 本当になんのつもりと……」

華菜「と、巴さん? どうしたんですか、さっきから難しい顔して」

巴「……いや、どうにも花田さんの能力がわからないなと思って。前半戦オーラスのノーテン流局も、さっきの差し込みも、江崎さんのアシストも、そして今回のリーチも……とても一つの能力の効果とは思えない。
 系統がバラバラっていうか、全ての系統が包括されてるっていうか。ってことは、もしかしてレベル5の多才能力者《マルチスキル》……? いやいや、さすがにそれはないか――」

 ――《煌星》控え室

淡「今頃、私たちとキラメ以外は総ポカーンだろうねっ!!」

桃子「いや、私もポカーンっすけど? あれは何が起きてるっすか?」

友香「私もでー」

淡「…………あれ?」

咲「淡ちゃん……さては煌さんに何か入知恵したでしょ。で、それを私たちに言ってない」

淡「ま、まあ! 説明するより見たほうが早いよっ!!」

     煌『ロンです。リーチのみ、1600は1900』

     藍子『は、はい……?』

淡「ほーらねーっ!!」スバラッ

 ――対局室

煌「ロンです。リーチのみ、1600は1900」

藍子「は、はい……?(そ――その手でリーチとかーっ!?)」ゾワッ

 煌手牌:一二三四222⑤⑥⑦西西西 ロン:一 ドラ:五・九

藍子(それ、ツモったらアウト。《一向聴地獄》から抜け出せてない《新道寺》から和了り牌が出てもアウト。
 今は私から和了れたからよかったけど、別に逆転されたわけでもない。イチかバチかで勝負するにはあまりに心許ない手……!!)

仁美(く、首の皮一枚残ったとっ!! ばってん、《煌星》の花田煌……その和了りはなんや?
 百鬼か天江から確実に和了れる自信のあった……としか考えられんが、一体どげん能力ば使えばそがんこと――)

衣(せ、生路を切り開いただと……!!? どうなっている!! こいつの《通行止め》は道を閉ざす能力ではないのか!? 衣は封殺するつもりで場を支配していたというのに、なぜそれが崩された……!?)

煌「さて……オーラスですね」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

仁美:0 藍子:41100 衣:336600 煌:22300

 ――《煌星》控え室

淡「これは、キラメが強くなってから判明したことなんだけどねっ。ほら、予選の頃まではさ、練習のとき、キラメと私たちで打って最初にトびそうになるのって、いっつもキラメだったでしょ?」

桃子「そうっすね。私とでー子さんと超新星さんときらめ先輩で初めて打った半荘みたいに、きらめ先輩が一人で沈むことが多かったっす」

友香「けど、最近だと私や桃子、稀に淡や咲が沈むこともあるんでー」

咲「……ああ、そっか。その可能性は見落としてたなぁ」

淡「でね、私、キラメに聞いたんだ。キラメ自身じゃなくて、キラメ以外の人がトびそうなときって、キラメはどういうつもりで打ってるのって。そしたら……」

桃子「なんて言ってたっすか?」

淡「『誰もトばさせないつもりで打ってますよ』――って!」

友香「そ、そうだったんでー……全然気付かなかった!!」

淡「要するに、キラメの《絶対にトばない》は、同卓してる他家にも有効ってこと!」

咲「なるほどね。そうすると、あとは私の《プラマイゼロ》と同じ。団体戦で100000点持ちだけど、半荘一回を25000点持ちだと思って、能力を使えばいい」

桃子「じゃあ、前半戦のオーラスで全員ノーテンになったのは」

咲「あのときの点数状況……25000点持ちなら、一番少ない人で《新道寺》の江崎さんが残り500点だった。
 そこに、天江さんの《一向聴地獄》が作用して、天江さん以外がノーテンの状態に陥る。すると――」

友香「もし天江先輩がテンパイしたら、流局のときにノーテン罰符で《新道寺》の江崎先輩がトぶ!!」

淡「しかも、あのちっちゃいのは、さっきから満貫以上の和了りしかしてない。で、あのときは二位のキラメでも25000点持ちなら残り4300点だった。
 そんなギリギリの状況であのちっちゃいのが和了ったら、ツモでもロンでも間違いなく誰かがトぶ。それで《通行止め》を喰らったってわけ!」

桃子「一人テンパイでも誰かがトぶ、和了っても誰かがトぶ……高い火力と強力な全体効果系能力が、そっくりそのまま海底さんに跳ね返ったって感じっすか!」

咲「《一向聴地獄》は煌さんの《通行止め》と相性がいいのかも。あの支配の中では、基本的に天江さんしかテンパイできない。
 だから、煌さんの《通行止め》の抜け道である、トびそうな人以外での点棒のやり取りっていうのが、起きにくい」

淡「で、今の南三局一本場も同じっ! 25000点持ちだと、あのちっちゃいの以外の持ち点は軒並みすっからかん。しかも、今回は100000点持ちでもトびそうな人がいた」

咲「ノーテン流局にならなかったのは幸いだよね。天江さん、まるで煌さんを試すみたいに、役ナシの安手をプレゼントしてくれた」

友香「普通なら、あの状況で役ナシの安手を張れたところで、活路がないことに変わりはない。けど……煌先輩はレベル5の第一位だからっ!!」

桃子「きらめ先輩がリーチを掛けたとき、海底さんの能力と支配力によって、羊さんと超音波さんはノーテン状態だったっす。
 羊さんから和了ったり、見逃しフリテンで流局になったり、ましてやツモったりしたら、その瞬間に羊さんがトぶ。
 つまり、羊さんから和了り牌が出てくる道も、流局になる道も、きらめ先輩がツモる道も……全部《通行止め》っす!」

淡「超音波《ソナー》の人は《一向聴地獄》で足止めを喰らってた。ちっちゃいのは打点の高さが災いして、やっぱりツモもロンもできない」

咲「あの状況……天江さんの《一向聴地獄》と、煌さんの《通行止め》で、ほぼ全ての道が塞がっていたんだね」

友香「《通行止め》だらけの中で、唯一残ってた通れる道が、煌先輩が《夜行》の百鬼先輩か《劫初》の天江先輩から出和了りする道だけだった……!!」

淡「そーゆーことっ! で、このオーラスも、既にあちこち《通行止め》になってる。
 《新道寺》と《夜行》はあのちっちゃいのの能力でテンパイできない。あのちっちゃいのは、高火力とキラメの能力が原因でツモもロンもできない!!」

桃子「つまり、このオーラスで和了りをものにできる可能性があるのは……きらめ先輩ただ一人ってことっすねっ!!」

咲「それはどうかな。《一向聴地獄》は煌さんにも有効。前半戦のオーラスみたいにノーテン流局になったらそれまでだよ」

友香「確かに……煌先輩の能力は、道を閉ざすことはできても、切り開くことはできない。前に進むとなったら、煌先輩自身の力でなんとかするしかないんでー……!」

淡「大丈夫。今のキラメなら、それができるっ! この状況でも、きっとなんとかしてくれるっ!! なんたってキラメは――」

「「「「私たちの大将だからっ!!」」」」

 ――対局室

 南四局・親:煌

煌(さてさて。色々やってはみたものの、なんの支配力もない私がこの《一向聴地獄》から独力で脱出するのは、どうやらほぼ不可能なようです)

 東家:花田煌(煌星・22300)

煌(先ほどは天江さんの気紛れでテンパイさせていただけましたが……さすがに懲りたようですね。
 困ったことに、この局は序盤からずっと一向聴。鳴いてテンパイしようにも、九萬の暗刻が重荷となって食いタンもできません)タンッ

 煌手牌:2234689④⑤⑥九九九 ドラ:⑧

煌(このまま行くと、前半戦のようにノーテン流局で試合が終わってしまうかもしれませんね。ただ、思っていたほど焦りはない。
 なぜなら、前半戦のオーラスと今……点数状況はほぼ同じでも、大きく異なっていることが、一つだけあるからです)タンッ

衣「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 北家:天江衣(劫初・336600)

煌(天江さんの支配力は、夜が深まれば深まるほど高まるのだとか。なら、今は最高潮も最高潮のはず。
 私に一本取られた直後のオーラス……今のこの方が、ノーテン流局に甘んじるとは、とても思えません)

煌(淡さんや咲さんと同等かそれ以上の力。こんな恐ろしいもの……利用しない手はありませんよね――)

煌「ポン」タンッ

 煌手牌:3468④⑤⑥九九九/2(2)2 捨て:9 ドラ:⑧

藍子(ん? 鳴かれた?)

 西家:百鬼藍子(夜行・41100)

仁美(ばってん、手の進んだようには見えんが……)

 南家:江崎仁美(新道寺・0)

煌(変わらず一向聴のまま。ですが、天江衣さん。これで海底はあなたのものですよ? 南一局では潰させていただきましたが、あなたほどの方が負けっぱなしで終わるのですか?
 違うでしょう。少なくとも、同じランクSの淡さんや咲さんなら、この場面、全力で借りを返しに来るはずです)

衣(こいつ……前局の意趣返しか!! 衣に海底を差し向け、衣の力を試しているだと……!!? なんと傲慢な――!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌(ええ、そうでしょうとも。私にはできなくとも、あなたの力なら、ここからノーテン流局以外の道へ進むことができる。
 私の能力下で、行き止まりばかりのこの状況で、最も狭く険しい道に踏み入っていくことができる。大変すばらです)

衣(前半戦のオーラスの衣と同じだと思うなよ……!! なんの能力かはわからないが、貴様がいくら道を閉ざそうと、月の光が衣を導く――!!)ゴッ

藍子(はあー!? この感じ、まさか天江さんが張った!?)

仁美(嘘とやろ……? 前半戦のオーラスはレベル5の何かしとったと。こん状況も同じなら、いくらランクSの天江でん、《絶対》の壁は越えられんはず……!!)

衣(レベル5の第一位。あのドラ置き場より上というその序列……そんな肩書きに臆する衣だと思ったか!? 貴様の《絶対》がなんだろうと関係ないっ! 衣は前に進む――ッ!!)ゴッ

煌(なんとすばらな闘気でしょう。しかし、天江さん。残念ながら、あなたに進めるのはそこまで……)

衣「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

煌(そこから先は《通行止め》ですッ!!)

 ――《煌星》控え室

     衣『』ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲「うわぁ……あの人、あそこからテンパイに持っていけるんだ。私は自分の《プラマイゼロ》を振り切るのだってままならなかったのに……」ビリビリ

淡「それをやらせるキラメも、それをやっちゃうあのちっこいのも、ホントとんでもないよねー……!」ビリビリ

桃子「けど、きらめ先輩の能力的に言えば、これこそ狙い通りっすよね!」

友香「いくらテンパイしたところで、どんな支配力を持っていたところで、煌先輩の《通行止め》の前では全てが無力でーっ!!」

咲「天江さんが海底を和了れないのは《絶対》の確定事項。煌さんの能力下では、淡ちゃんのダブリーも私の嶺上も無理だったんだもん」

淡「まあ、ノーテン流局っていう、キラメの能力的に一番落ち着きやすかった可能性をブチ破ったってだけでも、半端ないんだけどね」

桃子「ここから……あとはなんの道が残ってるっすか?」

友香「《新道寺》の江崎先輩と《夜行》の百鬼先輩は、《一向聴地獄》があるからノーテンのまま和了れない。
 《劫初》の天江先輩はテンパイだけど、ツモでもロンでも誰かがトぶから《通行止め》で和了れない。ノーテン罰符で江崎先輩がトぶ以上、流局にもならない」

咲「厳密には全員テンパイ流局って道もあるけどね。けど、その確率は、有難いことに天江さんの《一向聴地獄》が劇的に下げてくれてる。
 上位レベルの能力者である煌さん一人ならまだしも、他の二人までテンパイできるとなると、全体効果系の大能力が《完全無効化》されるってことになっちゃう。
 能力論には、能力はその効果をできるだけ保とうとするっていう原則があるみたいだから、そちらに傾くことは、ほぼないと言っていい。となると、実質残っているのは――」

淡「キラメがあのちっこいのから直撃を取る道っ!!」

桃子「け、けど、きらめ先輩の手は役ナシで張ってすらいないっす。鳴いたからリーチもできないっすし、どうやって直撃を……?」

友香「待ってっ! このパターン……この二回戦で何度かあったんでー!」

咲「うん。煌さんは見抜いてるんだ。天江さんの支配領域《テリトリー》――それが及ばない淵底の向こう……そこが天江さんの弱点だって!!」

淡「キラメにとってはお馴染みの場所だけどねー。なんたって、あそこは私とサッキーの支配領域《テリトリー》だからっ!!」

桃子「支配領域《テリトリー》の《未開地帯》――王牌っすね!!」

友香「幸い槓材がある……これは――!!」

咲「いいなぁ……煌さんっ! 私ももっとカンしたかったよっ!!」

淡「好きなだけカンして嶺上すればいいよ、サッキー! 私も好きなだけカンして裏乗っけるから! この二回戦を突破したあとでねッ!!」

桃子「海の底が見えてくるっす……!!」

友香「煌先輩は一向聴のまま――だけどっ!!」

咲「このまま終わるはずがないっ!!」

淡「ぶちかませーっ、キラメー!!!」

 ――対局室

衣(《通行止め》……あの鳴きからまったく動きを見せない。手も変わらず役ナシの一向聴のまま。次がこやつの最後のツモだが、ここから一体何をしてくる……?)

衣(まあ、いい。何もできないというのなら、貴様の器はその程度だったということ! 衣は衣の打ち方を貫く……ッ!!)

衣「リーチッ!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

藍子(出た……十七巡目リーチッ!!)

仁美(こいば和了られたら……私らの負けと――!!)

衣(さあ、《通行止め》とやら! 衣の全力、止められるものなら止








             め












                          て









衣(~~~~~~~~~っ!!?)クラッ

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衣(い、今の……っ!! こいつ……そうか、こいつだったのかッ!? バカな……! し、信じられないっ!! これは月に翳りどころではない!! なんだ、この――全てを閉ざす闇は……!?)ゾクッ

煌「」ゴ

衣(道が――光が……世界の一切が閉じている!? 衣の力をもってしても月の影すら捉えられない……!! 空そのものが塞がれているのか!? こんなの――あのドラ置き場と戦ったときでも感じたことがないぞ……!!?)

煌「」ゴゴゴ

衣(なんたること……天も地も暗黒に圧し潰され――見渡す限り絶望しかない……!! こんなことが人間にできるのか――!?
 否、そうか……こまきや宮永照だけではなかったのだな……!! こやつもまた《神の領域に踏み込む者》!! これがレベル5の第一位――)

煌「」ゴゴゴゴゴ

衣(《通行止め》……花田煌かッ!!!)ゾゾゾ

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衣(だ、だが、しかし……どんなに強大な能力であろうと、ルールはルール!
 役ナシ一向聴の貴様に衣が討たれるわけが――待て、おかしい! 衣のリーチ宣言牌はどこへ行った……あの九萬は――)ハッ

煌「……これは失礼をば。聞こえていませんでしたか? リーチした瞬間、私はカンと言いました」

衣「なぁ……!?」ガタッ

 煌手牌:3468④⑤⑥/(九)九九九/2(2)2 嶺上ツモ:? ドラ:⑧・?

衣(大明槓……さては責任払いか!? 衣の支配が王牌にまで及ばないのを見抜かれている……!?
 否ッ! こいつは一向聴で、槓材も尽きたはず。ここから責任払いを喰らうことはない!! たかだかテンパイするのが関の山……っ!!)

煌(っと、ここが弱点だとわかっていても、いざカンをするとなると、なかなか勇気が要りましたね。
 ですが、天江さんがテンパイした時点で、これは予想通りの展開。嶺上、テンパイです――)

 煌手牌:3468④⑤⑥/(九)九九九/2(2)2 嶺上ツモ:[5] ドラ:⑧・?

衣(小賢しい……!! それでも役ナシであることに変わりはないではないかっ!! リーチもできないその状況から、どうやって和了るというのだ。まして逆転など――)

煌「さて、大明槓のカンドラは後めくりでしたね」クルッ

藍子(うっっそぉーん!!?)

仁美(カ――カンドラが!!)

衣(あ、ありえない……ッ!!)ゾッ

 煌手牌:34[5]6④⑤⑥/(九)九九九/2(2)2 捨て:8 ドラ:⑧・九

煌(カンドラ……天江さんの支配領域《テリトリー》が及ばぬ王牌とは言え、これは随分とツいていましたね。
 ここまできたら、あとは一本道。それ以外の道は《通行止め》させていただきますッ!)

仁美(テンパイできず……!! ここまでやったか――)タンッ

藍子(天江さんが海底を和了るなら私らの勝ちだけど……さーてどうなるかなーっ!?)タンッ

衣(な、何も見えないっ!! どこへも進めない――!! 虚ろな暗闇に呑まれ全てが圧し潰される……!! 未だかつてこんな経験をしたことがあろうか!?
 下家に大明槓されたゆえに、海底は依然衣の手中にある。なのに、月に触れることも、月を目にすることさえ、叶わないなど……)ツモッ

煌「」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

衣(ここに来てこの気運!? そうか、そうだったな……!! 役はまだ一つ残されていた!
 全く不覚……これがレベル5の第一位!! その超能力の前では、衣すらちっぽけな雑魚に成り下がるというのか――)タンッ

煌「ロンです。河底撈魚ドラ四赤一、18000」パラララ

藍子(河底ぇー!? てか、ちょ、これ――!!?)

仁美(おー……これは最後に面白かもんの見れたと……)

衣(衣に海底を差し向けたのは、リー棒のためでもあったのだな。完全に踊らされた。まさに見事の一言ッ!!)

煌「和了り止めにします。これで、試合終了ですね」

『たっ……大将戦決着ううううううッ!!』

藍子「あっ……ありがとうございましたぁああああぁああー!!」ウルウル

 三位(総合三位):百鬼藍子・-47600(夜行・41100)

衣「実に心躍る大将戦であった……!!」ザッ

 一位(総合一位):天江衣・+119900(劫初・317600)

仁美「そうやね。私も楽しめたと……あいがとな――」パタッ

 四位(総合四位):江崎仁美・-48700(新道寺・0)

『Aブロック二回戦……勝ち抜けたのは圧倒的な力を見せ付けたチーム《劫初》……!!
 そして、僅か200点差で二位争いを制した――チーム《煌星》いいいいいい!!!!』

煌「ありがとうございましたっ!!」スバラッ

 二位(総合二位):花田煌・-23600(41300)

 ――――――

 ――――

 ――

【Aブロック二回戦結果】

<総合結果>

 一位:劫初・317600

 二位:煌星・41300

 三位:夜行・41100

 四位:新道寺・0

<区間賞>

 先鋒:弘世菫(劫初)・+6100

 次鋒:荒川憩(劫初)・+48400

 中堅:辻垣内智葉(劫初)・+24400

 副将:エイスリン=ウィッシュアート(劫初)・+18800

 大将:天江衣(劫初)・+119900

<役満和了者>

 なし

<半荘獲得点数上位五名>

 一位:天江衣(劫初・大将戦前半)・+68500

 二位:天江衣(劫初・大将戦後半)・+51400

 三位:荒川憩(劫初・次鋒戦後半)・+33700

 四位:荒川憩(劫初・次鋒戦前半)・+14700

 五位:辻垣内智葉(劫初・中堅戦前半)・+13600

<MVP>

 天江衣(劫初)

 ――《劫初》控え室

『Aブロック二回戦……勝ち抜けたのは圧倒的な力を見せ付けたチーム《劫初》……!!
 そして、僅か200点差で二位争いを制した――チーム《煌星》いいいいいい!!!!』

智葉「メンバー全員がマイナス収支でこの二回戦を勝ち上がるとはな。ここまでの点差をつけたのにも拘わらず、さほど勝ったという気がしないのはなぜだ」

エイスリン「タイショウモ、タイショウ、シタノニナ!」

憩「完勝とはいかへんかったのが、ホンマに残念ですわ~。ね、菫さん?」ニコッ

菫「…………わかっている」

 バンッ

衣「ただいま戻ったッ!」

憩「やー、衣ちゃん。見てたでー? 最後の最後でやられたなー?」

衣「やられたもやられた。あれは正真正銘の《怪物》だぞ。プリン事件のこまきより恐ろしいものがこの世にあるとは思わなんだ……」

憩「へえ……《鬼畜》モードの小蒔ちゃんを超えるんか? ちょっと信じられへんわ。
 モニターで見とる分には、衣ちゃんの能力が《無効化》されとっただけな感じやった。それなら玄ちゃんとさして変わらへんやん」

衣「けいも打ってみればわかる。レベル5の第一位と言われているが、あやつは決して、くろと同格の存在などではない。
 能力値《レベル》など、所詮はヒトの決めた尺度――あやつは既にそれを超越しかかっている」

憩「それはつまり……《鬼畜》モードの小蒔ちゃん、それに宮永照と同じ、《神の領域に踏み込む者》――っちゅーことでええの?」

衣「…………同じで済めばよいがな」

智葉「……天江、どういう意味だ、それは」

衣「花田煌……あれは世界を閉ざす者だ。神の領域に踏み込むだけでは終わらないかもしれない。
 本人の思惑はどうあれ……あやつはいずれ、神そのものに取って代わるに違いない」

菫「おい……それはなんだ、あれか? 悪い冗談か何かか? 本気にしてしまうからやめてくれ」

衣「冗談などではない。あの《通行止め》、野放しにしておくにはいささか危険過ぎる。
 世界を閉ざし、闇で覆い、あらゆる希望……そこへ至る無限の道程を一切に断絶する。正体は未だもってわからないが、あれが天上へ上り詰めたとき、この世は絶望に支配されるだろう」

エイスリン「キョーフノ、ダイマオウ!!」

衣「恐怖……そうだな。確かに、あやつは、とてつもなく恐ろしい……」

憩「へ? こ、衣ちゃん?」

衣「この感情は、まさしく恐れなのだろう。こまきに対して感じた畏れとは、質が違う。
 けいの《悪魔の目》ならわかるだろう? 先刻から全身の震えが止まらないのだ。虚ろな闇に喰われ、原形を留めぬほどに、心が……潰されていくようで――」

憩「ちょ、ちょいちょい!? どうしたん、根っからの戦闘狂! 我らが《修羅》こと、衣ちゃんともあろう雀士が!!」アワワ

衣「……いや、なんでもない。ちょっと疲れただけだ」フゥ

憩「もーっ、弱気な衣ちゃんとか愛らし過ぎてメロメロしてまうからやめてやー!」ギュー

衣「ふあっ!? この、ひっつくなー!」

憩「けちー」

衣「さてっ! 《通行止め》のことはさて置くとして、Bブロックの結果はいかに!?」

菫「予想通りの二チームだよ。《豊穣》と《逢天》だ」

衣「ほうっ!! なんと血湧き肉踊るっ!!」

憩「あの頃は毎日のように卓を囲んどったけど、ホンマの敵として当たるんは、これが初めてやもんな……! 小蒔ちゃん、それに玄ちゃん!!」

衣「そこにとーかまでいるのだろう!? こんなに嬉しいことはないっ!!」

智葉「菫、お前は誰が気になる? 一年の頃に散々肩揉みをさせられた石戸か? それとも三年になって初めて土をつけられた松実か?」

菫「元チームメンバーの渋谷が気になるに決まっているだろう」

智葉「お前はどうだ、ウィッシュアート」

エイスリン「トヨネ、オトモダチ! アト、ミホコノ、ヤローッ!!」

智葉「姉帯と……そうか、福路か。確かに、あいつはお前の一つ上だからな」

エイスリン「アノ、ハラグロ、コンドコソ、ルビーサファイア、ブラックホワイト、サセテヤルッ!!」

菫「ちなみに、智葉はいるのか。誰か気になる雀士は」

智葉「私か? 私は……そうだな、実家のちょっとした因縁で、清水谷組の孫娘が気になるぞ」

菫「智葉……! やはりお前はその筋の――!?」

智葉「バカかお前。冗談に決まっているだろう」

菫「一つも笑えない冗談だな」

智葉「……無論、気になるというのは嘘ではない。この国に戻ってきて、最初に私の本気を引き出したのが、あいつだったからな」

菫「それは麻雀の話か? 果し合いの話か?」

智葉「黙れ、マジカル☆スミレ」

菫「智葉アアアアアアアア!!!」シャープシュート

智葉「ふん」セナカサスヤイバ

憩「ちょ……!? オモロいことやってへんで、反省会しましょうよ!!」

衣「弓対刀ッ!!」

エイスリン「イイゾ、モットヤレ!!」

菫「すまんな、荒川。反省会の前に……私は私の過去と決着をつけねばならないようだッ!」

智葉「過去は消せないさ。受け入れろ。なに、お前が思っているほど、似合っていなかったわけではない」

菫「そういう問題では……ないのだあああああああ!!」

憩「ちょ、ちょー!? 菫さーんー!!?」

 ワーワー キャーキャー シャープシュート

 ――――――

 ――――

 ――

 ――《煌星》控え室

煌「というわけで、まずは二回戦突破……すばらっ!!」

淡・咲・桃子・友香「すばらー!!」キュピーン

煌「はい、では早速ですが、いつものように軽い反省会をいたしましょう」

淡・咲・桃子・友香「はーい……」ズーン

煌「まず、先鋒戦。淡さん」

淡「ひゃ、ひゃいっ!」

煌「とにもかくにもまずは平常心。心の乱れは能力や支配力にも影響を与えます。次からは、何かおかしいと思ったら、遠慮なく相談してください」

淡「うぅ……ごめんなさい……」シュン

煌「後半戦は非常に頼もしかったですよ。けど、淡さんならもっとできるはずです。というわけで、今回は57すばら!!」

淡「D評価じゃーん!!」

煌「続いて、次鋒戦。桃子さん」

桃子「は、はいっす!」

煌「持てる力は十分に発揮していたと思います。今回は相手が非常に手強かった。しかし、このような厳しい戦いが、これからも続いていきます。この経験を次回に活かしましょう」

桃子「頑張るっす……!」

煌「荒川さんから直撃を取ったときは、桃子さんに指導を仰いで、心からよかったと思いましたよ。今回は大奮発の80すばらです!!」

桃子「夢の80台っすー!!」

煌「お次は、中堅戦。咲さん」

咲「はい……」ショボーン

煌「いかがでしたか、初めて《プラマイゼロ》を崩された感想は?」

咲「最低の気分です……お姉ちゃんにもやられたことないのに……」

煌「そうですか。私は最高だと思いましたけどね」

咲「え……?」

煌「勝利の美酒に酔い、敗北の苦渋を知ったとき、人は初めて戦士になるのです。
 これから咲さんがいかなる進化を遂げるのか……今からわくわくしてたまりません。というわけで、今回は、次に期待の35すばら!!」

咲「いやああああああああああああ!!」

煌「そして、副将戦。友香さん」

友香「はいでー……」

煌「なぜ落ち込んでいるのです、友香さん。私は、今回のMSP――最もすばらだったプレイヤーは、友香さんだと思っていますよ」

友香「でー……?」

煌「友香さんは、終始攻めの姿勢を崩しませんでした。それも、ただの無謀ではなく、常に最善を考えて動いていた。
 結果がついてこなかったのは、たまたまでしかありません。次に同じ面子で打ったとしたら、私は友香さんがトップになると思いますよ」

友香「そ、そんなこと――」

煌「どんなに強い人でも負けることがあるのが麻雀です。打倒《一桁ナンバー》……次はできるといいですね。その調子で一緒に頑張りましょう。
 というわけで、今回のMSPは、92すばらの友香さんですっ!!」

友香「うわああああああ!!」ポロポロ

煌「さて……最後に、大将戦。私です。みなさん、いかがでしたか?」

淡「最高だよっ!!」

咲「100すばらですよっ!!」

桃子「120すばらっす!!」

友香「10000すばらでー!!」

煌「な、なんと予想外の高評価! 自己採点では5すばらくらいだったというのに……」

淡「キラメ、自分に厳し過ぎるよ……!」

咲「そうですっ! あんなにすばらだった煌さんが5すばらなら、ポンコツへっぽこエースの淡ちゃんなんて100すばらくないです!」

淡「サッキー! 自分が赤点だったからって私に八つ当たりしないー!!」

煌「まあまあ、お二人とも。じゃれあうのはそれくらいにしてください」

桃子「ま……恒例のすばら反省会は、これでおしまいっすね」

煌「ええ、普通の反省会は、このあと寮に帰ってからにしましょう。そして、明日の中日は、三回戦の相手の対策会をします」

友香「三回戦……今日の《劫初》……それに、あの《豊穣》が相手でー」

煌「加えて、荒川さん、天江さんと合わせて《4K》と名高い――ランクSの神代さんとレベル5の松実玄さんがいるチーム《逢天》とも戦うわけです」

淡「っていうかなんでトーナメントのこっち側にランクSが四人もいるかなー!?」

咲「《三強》さんも全員こっちだしね」

桃子「いや、まあ、Bブロックの二チームもそうっすけど、今日の《劫初》に勝たないと、どの道優勝はないっす」

友香「片や五人全員が区間賞の常勝軍団。片やこっちは五人全員マイナス収支」

咲「完封負けもいいとこだよ……」

煌「おやおや、咲さん。それは違いますよ。私たち《煌星》は、他ならぬ、あの方々の完全試合を阻止したチームなのです。
 負けは負けでも、完封はされていません。今回三位の《夜行》の方々でも不可能だったことを、私たちはやってのけました」

咲「どういうことですか?」

煌「もちろん、我らがエース――淡さんの活躍のことですっ!!」

淡「ふっふっふ、さすがキラメ。見るべきとこを見てるね……!! そう、やはり私こそが、この《煌星》のエースなのさーっ!!」ババーン

咲「……煌さん? あんまり滅多なこと言うと、淡ちゃん、つけ上がってまたヘマしますよ?」

淡「サッキー!?」

煌「私はただ客観的な事実を指摘したまでです。思い返してください、淡さんが本調子を取り戻した先鋒戦後半――その半荘でトップを取ったのが誰だったのか」

桃子「それは……確かに超新星さんでしたっすね。普通の半荘だったら西入するレベルの微トップでしたけど」

友香「後半戦と合わせるとマイナスでー」

煌「では、お聞きしますが、あの先鋒戦後半以外の計九半荘。トップを取っていたのは、どこのどなただったでしょうか?」

咲「えっと……淡ちゃんを飛ばして順番に挙げていくと――先鋒戦前半が《劫初》の弘世さんで」

桃子「次鋒戦と中堅戦が、同じく《劫初》のナースさん、ナースさん、極道さん、極道さん」

友香「副将戦と大将戦が、やっぱり《劫初》のウィッシュアート先輩、ウィッシュアート先輩、天江先輩、天江先輩……って、これ!!」

煌「ようやくお気付きになられたようですね。ご察しの通り、この二回戦全十半荘のうち、実に九半荘で《劫初》メンバーがトップを飾っているのです。それは全員が区間賞になりますとも」

淡「で、その《劫初》メンバーが唯一トップを取れなかった半荘でトップを取ったのが、私というわけなのさー!!」キラーン

咲・桃子・友香「……………………」

淡「えっ、なにその冷たい視線……?」

桃子「総合収支は三位じゃないっすか」

淡「うっ!」

友香「前半戦で私たちがどれだけ心配したのか、教えてあげてもいいんでー?」

淡「ううっ!!」

咲「っていうか、こんなことを言うのはお姉ちゃんのお友達さんに悪いんだけど、諸々の数字的に言えば、弘世さんってチーム《劫初》の五番手なんだよね」

淡「ううううううっ!!!」

桃子「っていうか、私的には《煌星》でただ一人区間二位になったきらめ先輩のほうが、スーパーエースだと思うっす!!」

友香「私たちを勝利に導いたあのオーラスは、震えが止まらなかったんでー!!」

咲「煌さんになら、私、喜んでエースの肩書きを譲りますっ!!」

煌「だそうです、淡さん」

淡「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ……みんなだってボロカスやられてたくせに!!
 モモコはステルス破られるし、サッキーは槍槓で涙目だし、ユーカはまあ頑張ってたけど副将戦唯一の前後半連続マイナス収支だし!!」

桃子「ふん……わかってるっすよ、そんなことは!!」

咲「このままやられっぱなしは許せないよねっ!!」

友香「モチのロンでー!! だからこそ、次の三回戦――!!」

淡「相手が誰だろうと勝つッ!! 結論はそういうことでいいんでしょ、キラメ!!?」

煌「皆さんのその心意気、文句なしの100すばらですっ!!」

淡「っしゃあー! ってことで、二回戦! 無事突破したけど、まあてこずりにもてこずった!!
 そんでもって、三回戦も超ヤバいのばっか出てくる……!! だけど、それがどーしたあーっ!!」

咲「私たちの目標はっ!!」

桃子「このトーナメントで優勝してっ!!」

友香「一軍《レギュラー》になることっ!!」

淡「みんなわかってんじゃん――!! それじゃあせーので言おっか!? せーのっ!!」

淡・咲・桃子・友香「次は《絶対》に私が勝つッ!!!!」

煌「すばらっ!!」

 ワーワー キャーキャー スバラッ

 ――――――

 ――――

 ――

 ――理事長室

恒子「いやぁ、終わりましたなー、二回戦」

健夜「シードはどこも順当に一位通過」

恒子「ま、他も予想通りって感じかな?」

健夜「《煌星》にはやきもきさせられたけどね」

恒子「一年生メインだと、どうしても危なっかしい試合運びになっちゃうよねー。ま、次からに期待ってことで」

健夜「決勝まで辿り着けるといいけど……三回戦はどうなるかなぁ」

恒子「三回戦は、中日を挟んで、明後日と明々後日に行われますっ! まずはA・Bブロックから!!」

健夜「いきなり誰に向かって話してるの……?」

恒子「二年《三強》対決か! 或いは、《レベル5》決戦か! はたまた《ランクS》激突かー!? ん、これはね、実況の練習だよ~」

健夜「なるほど」

恒子「まっ、明日は試合がないし、すこやん疲れてるみたいだし、たまには温泉でもいっとく? こないだ美肌効果のある秘湯を見つけたんだ」

健夜「いいね! 温泉のあのだらだらできる感じ、好きだよっ!!」

恒子「初めての温泉は、三十年前、七歳の時でした」

健夜「アラサーだよっ!? いい加減ネタ尽きてきたのがなんとなくわかるよっ!!」

恒子「はい、ではではお後がよろしいようで~」

健夜「よろしくないよー!!」

     [一軍決定戦《ファーストクラス・トーナメント》決勝まで、あと七日]

ご覧いただきありがとうございました。

これにて、本選トーナメント編(Aブロック二回戦)はおしまいです。

次から、スレ移りまして、本選トーナメント編(A・Bブロック三回戦)が始まります。

どのくらいお話が進んだかを大星さんで喩えると、余裕の絶対安全圏内です。

新スレッドは以下の通りです。

スレタイ:【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!!」

URL:【咲SS】淡「ここが白糸台高校麻雀部かー!!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1401382574/)

次回は、新スレッドのほうに書き込みます。一週間以内に更新できるかと。

本スレッドの残りは雑談やらで埋めていただいて結構です。

以下、新スレに記載予定のまとめ情報などをちょっと書き込んだりします。

<ベスト8チーム一覧>

《チーム名》:リーダー、メンバー×4(名前順)

○A・Bブロック

《劫初》:弘世菫、天江衣★、荒川憩、エイスリン=ウィッシュアート、辻垣内智葉

《煌星》:花田煌☆、大星淡★、東横桃子、宮永咲★、森垣友香

《豊穣》:渋谷尭深☆、石戸霞、清水谷竜華、福路美穂子、松実宥

《逢天》:二条泉、姉帯豊音、神代小蒔★、松実玄☆、龍門渕透華

○C・Dブロック

《久遠》:竹井久、愛宕洋榎、新子憧、小瀬川白望、白水哩

《幻奏》:小走やえ、江口セーラ、片岡優希、ネリー=ヴィルサラーゼ、亦野誠子

《永代》:宮永照★、井上純、臼沢塞、染谷まこ、高鴨穏乃☆

《新約》:園城寺怜☆、愛宕絹恵、薄墨初美、鶴田姫子☆、原村和

(※ ☆=レベル5、★=ランクS)

一応、調べてみた
≪一桁ナンバー≫
No.1 宮永 照 『頂点』
No.2 荒川 憩 『白衣の悪魔』
No.3 辻垣内 智葉 『背中刺す刃(懐刀)』
No.4
No,5
No.6
No,7 エイスリン=ウィッシュアート 『夢描く天使』
No.8
No.9 江口セーラ
ナンバー不明
薄墨 初美、福路 美穂子、白水 哩、愛宕 洋榎
の9名
No.10 藤原利仙 『花散る里の巫女(最愛)』『百花仙』『元ナンバー7』
+1
かな?

↑訂正
≪一桁ナンバー≫
No.1 宮永 照 『頂点』
No.2 荒川 憩 『白衣の悪魔』
No.3 辻垣内 智葉 『背中刺す刃(懐刀)』
No.4
No,5
No.6 福路 美穂子
No,7 エイスリン=ウィッシュアート 『夢描く天使』
No.8
No.9 江口セーラ
ナンバー不明
薄墨 初美、白水 哩、愛宕 洋榎
の9名
No.10 藤原利仙 『花散る里の巫女(最愛)』『百花仙』『元ナンバー7』
+1
序に
≪最悪≫上埜 久 ≪最凶≫薄墨 初美
≪最多≫エイスリン=ウィッシュアート ≪最愛≫藤原 利仙

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年11月01日 (土) 19:07:51   ID: z7giXKlF

一気に読みたかったけど、もったいないから時間をかけて読んだ!
荒川さんの能力設定とか他でも見た気がするけど同じ作者かな?
ともあれ次も期待

2 :  SS好きの774さん   2015年09月06日 (日) 03:59:08   ID: Jh5rJLZp

ここでのちゃちゃのんもやっぱり可愛かった♪
それと同時にちゃちゃのん関連の勝負事の話は、才能ない人の精一杯の努力を見てる感じでいつもちょっと切ない気持ちに・・

原作でもちゃちゃのんにこんな感じのあったかい能力あったら嬉しいな~と思いました。

3 :  SS好きの774さん   2018年07月16日 (月) 13:13:47   ID: aKfERrNH

咲とかいう置物

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