昔の東方紅魔郷 2(122)

(森の奥 紅魔館)

レミリア「あー…暇だ。」

フランドール「じゃあ、人間狩りでも一緒に行く?」

レミリア「いや、なんていうか、そういうの飽きたんだよな…」

フランドール「え、マジで言ってんの?」

レミリア「大マジよ。」

フランドール「お姉さまらしくない…明日は矢が降るわね。」

レミリア「いや、ここいらで思想転換でもしたらさ、
     何か色々面白そうじゃない?
     なんかこんな暗い森の中でひっそり暮らしてたらさ、
     急にしんみりしてきたんだよね。」

フランドール「永遠に幼き紅い月っていう通り名が泣くよ。
       そんな腑抜けたこと言ってたらさ。」

レミリア「うーん…ぶっちゃけさ…なんか恐怖で人間支配しても面白くないんだよね。
     子供が見れば泣き喚くし、年寄りは失禁起こすし、
     なんだかね、怖がられるのって凄く寂しいことのように思えてきたんだよ。」

フランドール「本当に大丈夫?頭うった?それとも狂気?
       狂ったの?私みたいに。」

レミリア「アンタのは元からでしょうに。
     あ、そういえば発作的な殺害衝動とか収まったの?」

フランドール「全っ然なおらない。
       寧ろ酷くなる一方だよ。最近気がついたら使い魔殺してるし、
       このままいくと私、姉さまにも手を出すかもね。」

レミリア「そりゃあ、恐ろしいね。ま、私は死なないからいいけど。」

(ひょい、と、レミリアは机の上に置いてある球状の物体をフランに向かって投げる)

(それを空中でキャッチして、口に運ぶフラン。)

フランドール「(もぐもぐ…)そうだけどね。
       なんだか、自分が自分でなくなってしまう気がして怖いんだよね。
       頭の中にもうひとりの自分が居て、囁くんだよね。
       壊せ、ってさ。」

レミリア「……」

フランドール「なんか、じわじわ頭の中蝕まれてるみたいで嫌になっちゃうな…。
       でも、自分じゃどうにも出来ないからね。生まれつきそうだし…」

レミリア「…最悪アンタを地下の個室にいれようかと考えてんだよね、
     最近さ。」

フランドール「唐突だね。情緒もヘッタクレもないじゃない。その話。」

レミリア「実の妹に言うのも何だけどさ、あんた最近殺しすぎだからね。
     この前も食料でやって来た人間を跡形もないくらい消し飛ばしたし、
     正直ああいうことはもうして欲しくはないかな。」

フランドール「うん、分かってるよ。いつもイケナイことをするのは私だもん。
       お姉さまには迷惑かけてるもんね。」

レミリア「自覚あるんだ。一応は。」

フランドール「そりゃあそうだよ。だって、悪いとも思ってないしね。」

レミリア「厄介な娘だねえ…。もう少し可愛げがあれば、
     幽閉なんぞ考えないんだがね。」

フランドール「一応、人の3倍近くは長生きしてるしね。」

レミリア「ま、それで可愛げあったら可笑しいね。
     でも、一応姉妹なんだから、お姉さんの立場も考えて欲しいね。」

フランドール「うん!!私気をつけるよ!だってお姉さまの事大好きだから!!
       って言われたら、まあ、嬉しいんだよね実際は、クスクス…」

レミリア「(性格ワリィのなあ、この餓鬼は…)」

レミリア「ま、今のところはまだ幽閉はナシだね。
     アンタもそれなりに理性的だしね。ただ、これ以上殺戮を繰り返されると、
     臣下の数が軒並み減るんだよ。余り馬鹿やらないでね。」

フランドール「お任せ下さいませ。ご主人様。
       なんてね♥じゃ、また後でねー。」

(翼を広げ飛び去っていくフランドール。)

レミリア「ったく、本当に分かってんのかね。
     …しかし、」

(ふわりと、レミリアは玉座より降下すると、燭台の上に並んだモノに目をやる)

レミリア「アンタらには私たち夜の一族はどう映るんだい?
     惨めなモノか。それとも、ただの化物か。
     どちらにしろ、ロクなもんじゃないかねえ。」

(山積みになった人間の目玉が、整然と飴玉のように容器に収まっている。
 傍には血のワイン。肝臓など、生きている人間なら卒倒するであろうメニューが
 目白押しだ。それらを退屈な眼差しで眺める日々に、
 正直この吸血鬼は絶望していた。)

レミリア「ハハハ。貧しい民の命を奪って生きながらえ、
     怠惰極まる日々を過ごして、泥濘よろしくただ微睡む。
     なんと、これが夜を統べる一族の矜持とは哂わせる。
     滑稽だよ。不死者なんてのは…」

(誰に聴かせるワケでもなく、ただ静かにつぶやく夜の王。
 幼き月は何も楽しめない。ただ、喰らうだけの日々に飽くまでの絶望。
 なんと、つまらない。
 それが現在この吸血鬼の悩みであった…)

(同時刻… 森の外の村々 人間の住まう地)

村人A「また、被害がでた…。
    今度は隣の家の家族だ。」

村人B「食料を求めに、
   森に入ったのが運のつきだ。
   このまえやって来た二人の兵士に続いて
   攫われたんだ。もう、生存は絶望的だろうな…」

村人C「クソ!!あの化物ども!
   俺たちから、何もかも奪っていきやがる!!」

村人A「十年前から突然アイツらが現れて、
   手始めに近隣の村々の家畜が見せしめに殺されたと思ったら、
   今度は人がさらわれて、食料にされちまってる。
   このままじゃ、下手すりゃ村ごと全滅だ…。」

村人C「アイツら…女子供から順番に攫っていってやがる…。
   絶対に許さねえ…!この手で娘の仇討ちはしてやるからな!!」

村人B「そうは言ってもな。オマエこの前、Aが奴等の手下に襲われたとき
   真っ先に逃げたじゃねえか!!」

村人C「な、!?う、うるさい!!仕方がないだろう!!
   俺たちには化物と戦う術がないんだ!
   我武者羅に突っ込んだって殺されるだけじゃねえか!」

村人B「そういって仲間も見殺しか。オマエいつもそうだよな。
   仇討ちだなんだと言って何も行動しねえ!
   都合のいいことばっか言って煙に巻きやがって!!」

村人C「て、テメェに俺の何が分かるってんだ!
   へ、へへ!!そうだよな!わからねえよな!
   真っ先に奴等に屈して兄弟を売り渡した奴なんぞに
   娘を奪われた親の気持ちなんぞわからねえさ!
   だいたいオマエは親になったこともねえ腰砕けだったしな!!」

村人B「な、なんだと貴様ッ!!!」

村人A「やめろ!!」

村人B&C「!!」

村人A「今すべきことは仲間内で罵り合うことなのか!?
   口を開けば言い争いばかりでは何も物事は進展しないぞ!!」

村人B&C「ッ――――――。」

村人A「だが、お前たちの言うことも一理ある。
   我々は確かに奴等に対して無力だ。 
   どれだけ強い信念で奴等に立ち向かっても、
   力のない我等では簡単に殺され、奪われる。
   俺の妻もそうだった…。」

村人B&C「………」

村人A「だからこそだ。非力なものだからこそ、別の手段を
    講じるべきだ。俺にはその手段がある。」

村人B「し、手段って…?」

村人C「何か策があるのか!?」

村人A「奴等は夜の一族。悪魔の末裔だ。
   俺たち人間がどう逆立ちしたって敵う相手ではない。
   だからこそ、ならば、
   それを狩る者たちに任せればいい。」

村人B「狩る者たち…」

村人C「まさか、魔を狩る一族か…!?」

村人A「…もう、俺は手を打ってある。
    報酬も…用意してある。」


???「…遅くなったな。」

村人B&C「だ、誰だ!?」

???「随分寂れた村だ…家畜も人の気配も殆どないな。」

村人A「…来たか。待っていたよ。」

村人B&C「こ、コイツは…」

(村人たちの前に突如として現れたのは、黒いローブに全身を覆った人物だ。
 声色からして若い女性であることは分かる。しかし、
 漆黒のローブに口元以外を全身で包まれているその姿は、
 余りに異質だった。)

村人A「彼女が、魔を狩る一族の末裔だ。名前は――――――」

???「名乗る名はない。奴等はどこにいる?」

村人B「こ、こんな娘っ子にアイツらが退治できるのか?」

村人C「まだ若いじゃないか…お前血迷ったのか?」

村人A「なんとでも言うがいい。彼女ならば、奴等を退治する。
   これは、俺の信念に基づいて言えることだ。」

???「時間が惜しい。奴等の居場所は?」

村人A「ああ、あの森の、霧深い森の彼方、その先に、
   奴らの居所である紅魔館がある。深紅に染まった、
   鮮血の居城さ。アイツらが住む場所だ。」

???「そうか。協力感謝する。
    では、報酬を先にいただいておく。」

村人A「―――――――ああ。」

村人A「これを、」

(村人Aは自身の懐から、宝石のついた指輪を差し出した。)

???「確かに、いただいた。」

村人A「妻の形見だ。大切に扱ってくれ。」

???「この指輪には強い魔力が宿っている。
    私の戦闘の糧として使わせてもらおう。」

村人A「そうか…。頼む。」

村人B「お、おい!!気は確かか!?
   そんな指輪で一個でどうやって…」

村人C「あれ?お、おい!!今ここに居た娘は!?」

村人B「え、あ、あれ!?ど、どこへ!?」

(先ほどまで目の前で佇んでいた漆黒のローブの姿ごと、
 空間から切り取られたかのように忽然と姿を消していた。)

村人A「彼女に時間の概念はない。」

村人B「な、何をワケのわからんことを…」

村人C「た、確かに俺の目の前にいたんだ。
   ど、どうして…?」

村人A「彼女こそ本物の魔を狩る一族の末裔だ。
   俺は、一度故郷で彼女に会っている。
   20年前にな…」

村人C「そ、そんな馬鹿な!なら、あんな若い声の筈はない!」

村人A「神が彼女に呪いをかけた。
   魔を狩る一族の末裔の宿命として。
   同じ魔の力を彼女に与えた。」

村人B「俺にはワケがわからん…
   一体、どういうことなんだ?」

村人A「彼女は年を取らない。神に呪われ、
   その宿業を生まれながらに背負った一人の人間。
   退魔の力を宿したヴァンパイアハンターだ。」

村人A「彼女の名は…」

(紅魔館 正門前)


子鬼「なあ、おい。俺たちってさ。
   何の為に生きてんだろうな。」

コウモリ「知るかよ。どうせ下っ端は下っ端らしく、
     ここでずっと見回りしてんだろ。
     仕事だよ仕事。日々のルーチンワークは必要だろうがよ。」

子鬼「ハぁ…こんなしょぼい仕事請け負う為に召喚されんのもなぁ…
   館の中の奴等はいいよなあ…美味い飯と暖かい暖炉があってさ。」

コウモリ「俺たちにもあるぞぉ…。
     生暖かい岩で囲まれた洞穴。
     冬場は寒く。夏場は暑い。
     おお、なんと恵まれた環境だ。
     飯はその辺に生えてるキノコでも喰ってりゃいい。」

子鬼「よせやい。悲しくなるだろうが…」

コウモリ「んじゃ、こんど小悪魔様に頼んでくれ。
     俺たちの労働環境を改善してくださいよ。ってさ。
     きっと笑顔で引き受けて了承してくれるぜ。」

子鬼「ハッハッハ。冗談上手いな。
   そのセリフには、「生皮引き剥がされて、丸焼きにされた後」
   のフレーズが抜けてるぜ。
   ついでに言うと、役立たずのコウモリと子鬼の無残な死体が並んだ後に
   考えてくれるさ。実行しないだろうけどな…」

コウモリ「だろうな…世知辛いなぁ。」

(正門前の手薄な警備をこの二匹が任されているのは珍しいことではない。
 普段は紅美鈴と呼ばれる異国の妖怪が引き受けているのだが、
 毎日毎晩彼女が出ているワケではなく、交代制で下級悪魔が行っているのだ。)

コウモリ「こんなクソ寒い中に誰か歩いてくるのかね。」

子鬼「知らん知らん。どうせ道に迷った野犬か、
   もしくは猫だろ。村の人間どもが近づくわけねえだろ。
   もう、散々同胞が攫われてんだからよ。俺が人間だったら、
   絶対に近づかねえよ。」

コウモリ「だよなあ……」

子鬼「そうだよ…」

コウモリ&子鬼「はあ…」

子鬼「俺さぁ…今度魔界に帰ったらさ、彼女に告白するんだ…」

コウモリ「うわッ。なんだよお前いきなり。
     ノロケ話かよ。さっきの会話の流れ関係ねーじゃん。」

子鬼「だってさぁ…こんなヒデー仕事毎日やってりゃ嫌にもなんべ?
   やる気でねえじゃん。ちょっとは自分の話しねえとさー。
   モチベ上がんねえじゃん?モチベ?」

コウモリ「うぜー。自慢話うぜえわ。
     マジ、別れろよカス。ったく、暇さえありゃあその話ばっかじゃん。」

子鬼「いいじゃん。いいじゃん。
   別にさー。お前だってすぐ彼女できるってさ。マジで。」

コウモリ「うわー、超うぜー。彼女持ちの余裕超ウゼエっすわ。
     どうせ下に見てんべ?俺のこと。
     いつか天罰下るぞ。テメェ。」

子鬼「なんだよーツレねえこと言うなよ。
   ガキの頃からの仲じゃねえかよー。
   話聞いてよーマジでさー。」

コウモリ「あー、あー、あー、聞こえねえっすー。
     マジ彼女の愉悦とか勘弁っすわー。
     キモイキモイ。もう帰れよお前マジでさー。」

子鬼「すねんなよー。
   昔っから、マジでお前そういうとこ素直すぎんだよー。
   もっとさーこう。あるじゃん?」

コウモリ「はー。もういやだ。
     チクショー。どっかに可愛い女居ねえかなー。
     もうこの際人間でもいいからさー。
     女の子欲しいっすわー。」

???「それは、難儀だな。
    一応私は女だが。」

子鬼&コウモリ「!?」

???「済まないが、もう遅い。
    気付くのが早くても手遅れだよ。」


(何者かの突然の襲撃と、頭を回転させる前に、
 子鬼とコウモリの脳天には深々と銀のナイフが突き刺さっている。
 一切の躊躇もなく、ただの一片の隙もなく、コウモリと子鬼は
 断罪の短刀をその身に受け入れた。)

子鬼「ご、お…ん、な」

コウモリ「し、んにゅう、しゃ…」

(ぼしゅうううううううう!!!)

(辞世の句を思いつく間もなく、コウモリと子鬼は故郷に帰ることなく
 塵に帰った。)

???「せめて、あの世でいい出会いがあるといいわね。」

(見張りを始末した彼女の目前には、
 毒々しいまでの華やかさに包まれた紅の館。
 紅魔館が佇んでいる。)

???「なんとも紅い。そのままの表現だけど。
    本当にどうして吸血鬼という輩は皆目立ちたがりの装飾を施すのかしらね。」

(独り言をつぶやきながら、待ち構える入り口へと歩み寄る)

???「…ハァ。」

(彼女は、ゆっくり辺りを見回すと、
 周りの照明、装飾を一通りチェックすると、
 その余りのホコリと汚れの多さに思わず嘆息した。)

???「本当に連中はこういうのが雰囲気を演出するのに役立つと思っているのかしら。
    それとも不老不死の肉体を手に入れたら怠惰になるとでも言うのかしら。
    掃除という概念が存在しないのね。全く嘆かわしい。加えて粗雑!」

(どうも、彼女のポリシーに反するのか、
 一通り持ち合わせの手持ちぼうきで掃除してから、
 内部へと入ることにした。本当に綺麗好きである。)

???「さて、これほど汚らしい庭を見せられれば、中は相応かしら。
    ま、私は退治するだけなんだけどもね。」

先代当主とかっているの?

(ギギイイっ)

???「やっぱりホコリまみれね。
    手入れがなってないというか。何というかねえ…」

小悪魔「随分喋るじゃないの。」

???「!」

(エントランスホールへと入りこむと、
 大階段の中央の中空から翼を携え、妖艶な眼差しで迎え入れる悪魔が
 現れた。)

???「これはこれは、早速お出ましかしらね。」

小悪魔「村の方からすごく嫌な気配がすると思ってエントランスに出てみたら、
    随分早くにこんな小娘に侵入されてた。
    なんてヤなオチでしょうかね。本当に腹立たしいったらないね。
    何しに来たんですかねえ。この尊い紅魔館に。」

>>30
いやあ、ワカランです。
もう、設定とか魔境の域ですわ。
取り敢えず幻想郷くる前のレミリアたちって設定なんで。
ついでにいうと、先代当主はいません。
スカーレット姉妹が館の主です。っていうカンジで。

???「私が誰だか気配で分かるなら、薄々は感づいているんじゃあないのかしらね。」

小悪魔「ハハハ、村に放っていた使い魔たちからの情報じゃあ、
    もうちょい無愛想なイメージだったのに…。
    なんだ。随分威勢がいいんじゃないの。気に入ったわ。ホンの少し。」

???「それはどうも。最も、気に入られても今後友人関係にはなれないわ。
    なにせ、アナタはここで消えるんだから…」

(銀のナイフを突き出し???は、身構える。
 中空に佇む魔を凝視する。月夜に輝く銀髪が、
 微睡む闇を厳しく照らす。)

小悪魔「な、る、ほ、ど。
    つまり、こういうことね。
    つまり、つまり、シがない小娘風情が悪魔であるこの私と戦うと、
    そういうのですか。
    …っく、ひゃああああああはっはっはっはっはっは!!!!! 
    笑わせんなよ、ダボが!!
    小便くせえ餓鬼が調子に乗りやがって!!
    挽肉にしてやるよ!泣き喚く間もなくズタズタになあ!!」

???「そりゃあ、調子に乗るわよ。ちなみに、アナタはイメージ通りの性格ね。
    裏表が激しい典型的な雑魚悪魔ね。
    わかりやすくて助かるわ。」

小悪魔「(ブチッ!!!!!!!!!!)」

(端正な悪魔の顔が悪鬼羅刹のごとく歪む。)

小悪魔「―――――はは、
    殺す、殺してやる。
    先ず内蔵を抉り出して、苦しみもがく様を見物しながら目玉くりぬいてやる。
    その後で腸からクソひり出して顔面に擦りつけてやらあ!!!
    ぶっ殺す!!もう泣いても容赦しねえぞ!!
    この腐れアマが!!」

???「ハハ、こりゃあ酷い口の悪さね。
    先ず礼儀作法から学ばないとイケナイわ。
    そんな口調じゃ、お里と底が知れるわね。」

小悪魔「ころす!!!!!」

(小悪魔が叫ぶと魔法陣が彼女の知たから現れる。
 六芒星を描いたその陣形はくるくると小悪魔の正面の空間を占領し、
 展開していく。
 側面回転をすると、正面で陣を構え180度回転し、逆位置の六芒星となる。)

???「へえ、器用なこと出来るのね。」

小悪魔「轢殺、圧殺、斬殺、絞殺、刺殺、撲殺、
    好きなの選べや!!」

(魔法陣から、歪んだカタチの大ガマが取り出される。
 まるで、魂を狩る死神が持つような。
 巨大な鎌がぬらりと、小悪魔の手へと吸い込まれるように動き、
 魔法陣の前で円を描くように回転する!)

小悪魔「ま、今私が決めたが、テメェは斬殺だ!
    まずは四肢切り落としてダルマにしてやるからよ!!」

(巨大な鎌の周りに、小さな無数の鎌が回転し始める。
 気付けばエントランスホールの四方八方に同じ魔法陣が出現し、
 小さな、されど、鋭利かつ超高速で回転する鎌状の物体がいくつも
 出現し、???を取り囲む。)

???「へえ、これは危ないわね。
    おまけに逃げ場がない。交わしても追ってきそうね。
    この鎌。」

小悪魔「心配すんなよー。
    痛いのはほんの一瞬だ。
    その後地獄の苦痛を嫌というほど味あわせるから、
    意識朦朧、心神喪失、完璧なまでの生き人形にしてやるさ。」


???「お喋りの時間が長いのね。よっぽど自分の技を見せつけて嬉しいんだ。
    思ったより子供っぽいのね。面白いわ。」

小悪魔「―――――あ?」

???「生憎だけど、そんな仰々しいものを見せ付けられても、
    私には味わう機会がないの。だって、アナタは一瞬で倒されるからよ。
    お分かりかしら?」

(空中に乱立する魔法陣と鎌を見つめ、???は淡々と言い放つ。
 そして、今まで着けていた漆黒のローブをぐいと掴むと、)

小悪魔「上等だ!バカがああ!!!
    引き裂け!!このアホを八つ裂きにしろやあああ!!」

(小悪魔の怒号と共に殺到する乱刃の渦中にソレを放り投げた。)

(ザキュッ!!!バシュッ!! 無残にも漆黒のローブが月光の中で
 散り散りに引き裂かれる!!)

小悪魔「終わりだ!!馬鹿女が!!もう、逃げ場はねえよ!!」

(上下左右、四面楚歌の牢獄を魔法陣の鎌で造り出す虚像の冥獄
 小悪魔の使用する魔術 「断罪する地獄鎌の檻(アイアン・メイデン)」
 逃げ場のない虐殺の刃が犠牲者を閉じ込め切り刻む責め苦の一つ、
 その裁きの檻が少女を捉える!!)

小悪魔「殺った!!!!」

???「面白い技だけど、前口上が長すぎね。」

小悪魔「―――――え、」

(捉えたと思った刹那、ほんの一瞬の間に、
 いや、もはや何が起こったのかさえ分からない、
 気付けば小悪魔の視界全ての領域に銀のナイフがある、
 いや、正確には、もう目の前まで迫っているナイフが自分に向かって飛んできている。
 まるで、時間が停止したかのような錯覚。
 その刹那に、小悪魔は自身の肉体という肉体に刃が突き刺さる音を聞いた。)

(ザクザクザクザク!!!!!ドスドスッ!!
 グチャッ!!ガスッ!!ザキュッ!!!)

???「チェックメイト」

小悪魔「お、お、お、ご、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
    あがぎああああああああああああああああああああ!!!」

(全身余すところなくナイフが突き立てられ、まるで針坊主のようになった小悪魔が
 月の灯りに照らされたエントランスの中央へと、凄まじい悲鳴を上げ堕ちていった。」

???「月の光に照らされて落ちるなんて、イカロスとは逆ね。
    悪魔だから当然かしら。
    それにしても酷いザマ。まるで、「鉄の処女(アイアン・メイデン)」
    みたいだわ。」

小悪魔「が、お、ごお!!」

(エントランスに堕ちた小悪魔は、全身から血を吹き出しながらのたうちまわる。)

???「さすがね、まだ生きてるとか驚くわ。ま、指輪の魔力を使うまでも
    ないにしても、そこそこ凄いわね。その生命力は。」

小悪魔「き、き、きさまあ、なぜ、なぜええ、
    げぼ!!げええ!!ど、どうやって、えええ!
    が、はあ!!うぎいいい!!」

(醜悪な悲鳴を上げながら、全身を痙攣させながら喚きちらす小悪魔。
 さながら、潰されかけた昆虫を見るかのようだ。)

???「そうね、何故かと問われれば、
    私には、生まれつき退魔の力が備わっていてね。」

小悪魔「たい、ま―――――!?」

(すると、???はおもむろに、懐から懐中時計を取り出す。
 銀の装飾が施された懐中時計、よく見ると、時計の針は
 一切動いておらず静止している。)

???「私の一族はね、時を操ることが出来るの。」

小悪魔「な――――――」

???「私は魔を狩る一族。生まれは異国の国なのよ。
    極東の小さな島国から私は来た。
    貴方の知らない世界がある。
    忌み嫌われた退魔のモノたちが住まう地が。」

???「今生でアナタが最後に知る者たちの名。
     それがイザヨイの血統。
     私の名はサクヤ。
     十六夜 咲夜だ!!」

(咲夜が空中にナイフを放り投げると、
 切っ先が全て小悪魔へと向き直る。)

小悪魔「や、やめ――――――」

咲夜「心配しないで。やめないから。 
   そうして、叫び助けを求めた命を摘んできたアナタたちに、
   容赦することは何一つない。だから、死になさい。」

小悪魔「い、―――――――」

(凄まじい速さで16本のナイフが小悪魔を蜂の巣の如く蹂躙する!
 かと、思われたが、
 殺到したナイフがふわりと、空中で止まる、否、
 小悪魔の頭上に水の塊がグワンと現れ、揺蕩う水の流れにナイフが飲まれ、
 浮かび上がり始めたのだ!!)

咲夜「これは!?」


?????「今生にはまだ、その悪魔が迎えるには、早計。」

小悪魔「ぱ、、ぱちゅりーさま…」

(小悪魔が震える声で絞り出した名。
 パチュリーと呼ばれる女性がそこには立っている。
 咲夜はそこに佇む麗人が即座に人間でないことを見抜いた。
 まるで寝巻き姿と見紛うが、あれは魔術による礼装、
 基本的に内包されている魔力を高めるものだ。
 無論、魔に属する者であるならば、パチュリーの格好から察するに、
 彼女が魔女であることは明白だった。加えて、鈍重そうな魔術書を持参して
 いる姿は余りにもそのまますぎて、ある種滑稽な程だ。)

パチュリー「退魔の一族か。
      確かに、時間操作とは恐れ入る。
      少なくともこの悪魔程度では話にならない。」

咲夜「あなたは、」

パチュリー「パチュリー・ノウレッジ。
      どこにでもいるシがない魔女。
      書斎で読書にふける時間が何よりも大事。
      以上。質問は?」

咲夜「結構。もう特にないわ。」

小悪魔「お。ぱちゅ、りーさま。どうか、じ、ひを…」

(全身ナイフだらけで見る影もない小悪魔が血まみれの体で
 パチュリーにすがり付く。)

パチュリー「はあ…あれほど戦闘向きではないと警告したのに。
      ところで、あなた。」

(小悪魔を一瞥すると、特に何の感情も示さず咲夜へと向き直るパチュリー)

咲夜「その悪魔は治療しないの?」

パチュリー「いま私が質問している。
      この子は放置しても問題はない。
      この程度の傷では死なないし、消えない。私が保証する。」

咲夜「それはそれで嫌ね。」

パチュリー「あなたは、ダンテの神曲をご存知?」

咲夜「ダンテの何です?」

パチュリー「雨に打たれて、この亡者どもは
      背を向けて腹をかばい、
      腹を向けて背をかばう、
      この惨めな冒涜者たちはくるくると、
       のたうちまわる。」

(パチュリーは、小悪魔を指差しながら、少し微笑みながら言った。)

咲夜「ええと、失礼。意味が分からないわ。」

パチュリー「ガーン Σ(゚д゚lll)」

パチュリー「無学…浅学…。あの聖典を知らないなんて…」

咲夜「な、なんか独りで勝手に落ち込んで、そして馬鹿にされたわ。
   なんかムカツクわね。」

細かいとこ言うとノーレッジな

パチュリー「いや、まあ、それはどうでもいいが。
      はて、貴方は一体誰なのか。」

咲夜「私の名を聞きたいの?―――――私は」

パチュリー「そっちではない。私が言っているのは配役の話。」

咲夜「あー?」

パチュリー「貴方は神曲でいう、ウェルギリウスか。ダンテか。
      どちらなのか。」

咲夜「え、えっと、意味がわかりませんけど。何故またその話に?」

>>51

ノーレッジか。
ノウレッジだと、英語みたいな発音になるからアカンですな。
ノーレッジさん。マジかわいい。
ってか指摘ありがとうです。

(咲夜は困惑する。
 飄々しているというより、会話が成立していない。
 いや、それ以前に敵同士だというのになんとも悠長なお喋りをしていることが
 少し滑稽なのだが、しかし、余りにこのパチュリーとかいう魔女が独特な空気を
 放っているので気圧されてしまっている。事実、先ほどの小悪魔とは比べ物にならない
 程の魔力を秘めていることはだいたい一目で分かるが、
 それゆえに相手の出方が特殊すぎてやりづらいのである。)

パチュリー「道案内というよりは女中向きか。
      少なくとも私はベアトリーチェ一択。
      しかしながら、あなたは、
      ふーむ、従者向きなのか。よくわからんね。」

小悪魔「ぱ、ぱちゅりーさま。む、むししないでえええ…」

咲夜「(な、なんなのよ。コイツらは。)」

パチュリー「そうか。或いはレミィにとってはウェルギリウスになるか。
      まあ、なんというかその方が面白いか。」

咲夜「はい?」

パチュリー「לכידת מקרה!」

(唐突にパチュリーが魔導書を使い呪文を口走ると、
 地面に伏している小悪魔を液状の物体が包みだした!!)

咲夜「な!?」

(あっという間に小悪魔はスライム状の物体に吸収され、
 魔導書の中へと流れ込むように吸い込まれていく!)

パチュリー「בין אם ריפוי」

(魔導書に向かって何かをつぶやきかけると、
 再びパチュリーは咲夜に向き直った。)

咲夜「今のが魔術…。流石に魔女というのは厄介ね。」

パチュリー「さて、では私はこれで。」

咲夜「え?」

パチュリー「何か?別に戦う意味がない。
      それと、館の主に会いたければこの先にいる。」

咲夜「え?ちょっと?ま、待ちなさい!?
   アナタ逃げるつもりなの?」

パチュリー「ん?ナニを言う。
      正直レミィは今退屈している。
      あなた程度の刺激があった方がいいだろう。
      と、今判断しただけ。
      というわけで、失礼。」

(ふわり。と、魔女が踵を返しつつ、
 何やら水晶玉の様なものを召喚したかと思うと、
 それに乗ってふわふわと飛び去っていく。)

咲夜「ま、まんまるい…。
   って、違う!!
   あなた、どこに行くつもりなの!?」

パチュリー「あなたは、レミィにとってのウェルギリウス。」

咲夜「は!?いや、だから、そのレミィっていうのは誰よ!?」

パチュリー「この館の主にしてツェペシュの幼き末裔。
      レミリア・スカーレット。貴方の宿敵。吸血鬼だ。」

咲夜「―――――――!!」

パチュリー「取り敢えず、ココを真っ直ぐ行って、
      右に曲がって、暫く道なりにいくと、
      玉座のある部屋にいける。
      あの子は少し世間知らずだから、
      せいぜい道案内をしてやって欲しい。
      それでは、さようなら。」

咲夜「あ、どうも、ご親切に。
   って、あなたは何もしないの!?」

パチュリー「しない。今は読書以外に興味がない。」

咲夜「あ…そう。一応貴方の手下とっちめたの私なのだけど…」

パチュリー「小悪魔は放置でいい。
      一応私の使い魔だから、死んでもまた蘇らせることが出来る。」

咲夜「ああ、そう。なんていうか。独特なのねアンタたちって。」

パチュリー「独特といえば、この先にいるヤツはもっと独特かもしれない。
      せいぜい死なないように気をつけて。」

咲夜「なんで、あなた一々助言してんのよ。敵同士でしょうが。」

パチュリー「昨日の敵は今日の友」

咲夜「意味わからん。」

(無表情、無言のままふよふよと、水晶玉に乗ってパチュリー・ノーレッジは、
  本っ当にゆるやかに退場していった。
  咲夜は呆気にとられて暫く動けなかったが、
  案内のとおり、紅魔館の玉座の間へと移動することにした。)

咲夜「はあ…、なんか案内のまま来たような気がするわね。」

(目の前には玉座の間に通じる扉が物々しく構えている。)

咲夜「なるほど。確かに仰々しいし、それでいて凄くおどろおどろしい。」

(扉の奥から漂ってくる強い魔力が、肌をビリビリと刺激するのが咲夜には
 伝わった。退魔の血が反応する。それほどのモノがこの先に居る。)

咲夜「でも、その前に」


紅美鈴「ジャッ!!!!!」


(バキィッ!!!)

咲夜「あなたが先かしらね。」

(脳天を砕かんと繰り出されたカカト落としを側転回避し、
 目の前に佇む長身の美女を見やる。)

(姿カタチは異国のそれだが、帽子についた☆彡印のマークが妙に気になる。
 スタイルは格闘技。恐らくは何らかの拳法に違いはない。
 地面にめり込んだ足を振り上げながら、女は不敵に嗤う。)

紅美鈴「呵呵。お見事です。これを躱しましたか。
    死角から、頭を踏み砕くつもりでしたが。流石です。」

咲夜「後ろから殺気を放ちすぎなのよ。
   サルでも気付くわね。」

紅美鈴「いやはや、あの小悪魔様をほんの一瞬で葬った相手ですからね。
    少しは警戒したつもりでしたが、それ以上に、
    この身で楽しむ悦楽を辛抱出来ませんでしたよ。」

咲夜「悦楽?」

紅美鈴「語るに、」

紅美鈴「及ばず!!」

(轟!!と、地面を蹴り飛ばすように瞬発し、
 咲夜に肉薄する紅美鈴!!
 上体を錐揉み状に回転させながら、頭突きを見舞うロケットの如く
 咲夜を射抜く!
 しかし、咲夜は既に手を読み、後方へと宙返りながらナイフを連投する!)

紅美鈴「(有趣! !)」

咲夜「(ツッこんでくるのはお見通し!アンタみたいなタイプは!)」

咲夜「(その体制から躱すのは無理ね!)」

(回転しながら弾丸の如く直進する紅美鈴に、
 空中から放たれたナイフの乱舞が炸裂する!!
 ように、見えたが、)

(パシッ!!パシっ!!)

咲夜「な!?」

(回転しながら、あろうことか紅美鈴はほんのわずかなその瞬間、
 自らに殺到してくる短刀を丁寧に一本一本、指の隙間に捕まえている。
 そして、回転の遠心力を利用しながら、ナイフを超高速で投げ返す!!)

咲夜「(まずい!!)」

(ガキ!!キイン!!)

(間一髪、両腕の服に仕込んでいたナイフを取り出し、
 向かってくるナイフを同時に撃ち落とし、
 地面に着地するその刹那)

(ドッ!!!!)

(何かが爆発するような音を聞いたかと思うと、
 まるで瞬間移動かと、見紛うほどに、
 紅美鈴は空中に少し浮いた状態で、
 構えながら咲夜の目の前に浮いている。)

咲夜「え、―――――――」

(目の錯覚、違う!、防御?否、無理!!)

(ドごおおおおおお!!!!)

(メキメキ、ボキボキッ!!!ミシミシ!!)

咲夜「(―――――――ぐ!!!!)」

(パアンっ!!)

(空気が弾ける音が聞こえ、咲夜の体が後方へと吹き飛ぶ!!
 凄まじい速さで、床上を転げ周りながら、倒れこむ!)

咲夜「が、はッ!!」

紅美鈴「不成熟的不成熟!!練武が足らん!!」

咲夜「(腕が、今ので、イったか…)」

紅美鈴「しかし、絶掌を受けておきながら生きているのは驚きましたよ。
    二の打ち要らずとまでは、いきませんが、一応殺人拳の一つでは
    ありますから。大した方ですね。あなたは。」

(砕けた咲夜の腕から血が滴っている。)

紅美鈴「ほお、」

咲夜「―――――――ッく…う、」

紅美鈴「いや、やはり先ほど見ましたが、やはり美しい御方ですね。
    東洋系の美人にしても端正ここに極まれりといったところです。」

(カツン、カツン、と、咲夜に近づく紅美鈴)

紅美鈴「どのみち、その怪我ではまともに動けないでしょう。
    おとなしくなさってください。
    貴方の手は読めていますよ。恐らくですが、
    その懐に持っている懐中時計で、時を操作するのでしょう。」

紅美鈴「先ほどの小悪魔様の戦いは物陰より拝見させていただきました。
    どうにも、小悪魔様とあなたは相性が悪かったようです。
    彼女は呪文を詠唱する時間をむざむざ貴方に与えていました。
    あなたはその隙にその持っている懐中時計に何らかの細工をして
    から、能力を発揮したんでしょう。
    つまり、単純に考えれば、貴方はその時計に触れなければ能力を
    発動できない。」

咲夜「……」

紅美鈴「だとしたら、私と貴方は相性がとても良い。
    貴方はその時計を触る為に、一瞬の隙を相手に作らせるよう攻撃する筈。
    先ほどの空中ナイフも性格に私の四肢を狙ってきていました。
    ですが、私は残念ながら、隙をとことんまで除去した超接近戦タイプの
    妖怪なのですよ。先ほど貴方に繰り出した技は八極の絶技、寸勁と呼ばれる技です。
    僅かな力でも、凄まじい威力を会得できる発勁の一つなのです。
    脚に込めればこれ震脚、凄まじい力を以て、万象を砕く、
    肉体一つあれば、音速を超えるなど造作もない。
    当然隙を与えるつもりもありませんでしたよ。」

咲夜「よく、喋るわね。あなたといい、さっきの人といい、
   落ち着きのなさが言動に溢れてるわね。」

紅美鈴「お気になさらず。
    どのみち、その体ではもう私には勝てませんよ。
    腕の骨はおろか、肋骨にまで発勁が届いたのは手応えで分かりました。
    もう、虫の息であることも知っています。」

咲夜「…」

紅美鈴「貴方ほどの御方なら、
    餌にする前に色々楽しめそうですね。
    どうです?
    ホンの少し東洋の快楽というのに触れてみるのも一興ですよ。
    死ぬ前のひととき私が丁寧に玩具にして差し上げますよ。
    生娘なら尚のこと、これでも私は色々人間の放蕩やら睦言には
    詳しい方です。本当に気持ちがいいですよ。
    ああ♥あなたの様に美しい方なら歓迎ですねえ♥」

咲夜「バカが、お喋りも程々にしろ。色ボケ妖怪め。
   何も見えていないのか。」

(きらり、と、宝石が光る。
 咲夜は折れていない方の腕を見せる。
 指輪の輝きが紅美鈴の眼のなかに映る。)

(シュッ!!シュッ!! 空を切る斬撃音が紅美鈴の五感が捉える!)

紅美鈴「―――――!!!!!!」

(その瞬間、紅美鈴は振り向きざまに体をねじる様に回転させ、
 四方八方より飛んでくる短刀を二本掴み取ると、)

紅美鈴「呵呵!!しぶといな!!」

(自身の周囲から、何度も現れる銀の短刀を演舞を繰りながら、
 叩き落とし始める!!)

(ガキ!!キイン!!ガキ!!)

紅美鈴「ちいいいい!!」

(上からと思えば、下から、右からと思えば左に、
 息つくまもなく大道芸のごとく動きを強いられる。)

紅美鈴「(しまった!)」

(一瞬の隙を付き、咲夜は既に美鈴の目の前から消え失せていた。)

紅美鈴「(ヤツは、どこへ―――――)」

(思考の間もなく、ナイフが現れては、美鈴へと殺到してくる。
 まるで、渦潮の中心へと波が向かうように、凶刃の嵐が
 なだれ込む!)

紅美鈴「く、そ!!油断!!いや、しかし!!」

(もはや、人間技とはかけ離れた妖怪拳法の達人の絶技、
 目にも止まらぬ速さで自身のあらゆる空間から出現する短刀を
 踊るがごとくに舞落とす。
 発勁を全身にいたらせ、気の流れそのものを読み、
 五感で体感することによって、刃を防ぐ。
 例え眼がなくとも、気配だけで着実に攻撃を防ぐ。
 「気を使う程度の能力」こそ、この妖怪の真骨頂だ。)

紅美鈴「まだだ!!
    まだ!!落としきる!!」

咲夜「本当に周りが見えていないのね。アンタ。」

紅美鈴「な!?」

咲夜「もう、遅いわよ。全部ね。」

紅美鈴「後ろかああ!!!」

(ぎゅるりと、 身を翻し、短刀が肩や腰に突き刺さりながらも、
 鬼神の如き形相で、咲夜を認知した方向を突進する。)

咲夜「――――――!!」

紅美鈴「もはや、なりふりなど…」

(凄まじい速さで咲夜に肉薄する紅美鈴、
 発勁を全身に使い、音速を超える速さで、
 床を叩き抜きながら、)

紅美鈴「かまうかあ!!」

(全身の筋を打突の一撃に委ね、跋扈する!!)

咲夜「(―――――――超加速!)」

紅美鈴「遅い!!死―――――――!!」

(咲夜の眼が、美鈴の眼線から僅かに深紅に輝いた、
 ように見えた。
 その時、一瞬自身の肉体に何か風が過ぎたような錯覚を
 覚えた。
 ああ、と、美鈴は呟いた。)

紅美鈴「これが、神風なのか―――――――実に、
    涼やかな、」


(ミシッ…)

紅美鈴「風だったな―――――――」

(ボロッ、ボトボトッ!!ゴロンッ)

(つぶやきと同時に紅美鈴の肉体はまるで角切りになった肉焼きにように、
 切断面を綺麗に残して、地面に山積みとなった。)
 

咲夜「さすがに―――――――、この速さには対応出来なかったわね。」

(懐中時計による、自身の時間の超高速化、神速の速さで短刀を振るい、
 単純ゆえに最速の無数の斬撃が相手を切り刻む。)

咲夜「(指輪の魔力を使わなかったら、ちょっと危なかったかもね…
    左腕も、もう使えないし、かなり苦戦したわね。)」

紅美鈴「いやはや!!驚いた!!」

咲夜「うおわああああああ!!」

(コロコロと、首だけになった紅美鈴が咲夜の前に転がってきた。)

紅美鈴「いやあ、流石は単身でお嬢様に挑まれるだけのことはありますね。
    感心しました。
    しかし、これは参ったなあ。再生するまでに相当時間がかかりそうですね。」

咲夜「あ、アンタ一体どういう体してんのよ?」

紅美鈴「おや、貴方は東洋の妖怪はご存知ないので、
    このぐらいでは死にませんよ。
    我々妖怪というのは、不老不死とまた少し違いますので。」

咲夜「意味が分からないわ。これが東洋の悪魔って皆こうなの?
   っていうか私も東洋出身よね。
   私の先祖はこんなのと戦ってたのかしら……?」

紅美鈴「あっはっはっは!!そんな悩まれては美人が台無しですよ!」

あああああああああああ、
もう、駄目だ。
今日はここまでにします。
続きはまた、時間あるときに、書きます。
例え黒歴史でも完結はさせるんで宜しくです。
読んでくれた方有難うです。もう、寝ますー。

続きを書きますぜ。
旦那。

咲夜「そういう問題じゃないでしょ…
   ったく、魔女といい悪魔いいといいアンタといい、
   ロクな化け物がいないわね。」

紅美鈴「いやー、しかし感服しましたよ。
    まさかその指輪に細工がしてあるとは・…
    その宝石に貴方の魔力を貯め込んでいたのですねえ。
    呵呵!!油断!まさに修行不足でした!」

咲夜「(首だけになっても五月蝿いなーコイツ…)」

紅美鈴「とはいえ惜しいですね。
    その魔力、私のために使ってしまったのは誤算と言えましょうに。
    今はもう貴方からは殆ど魔力を感じませんね。
    恐らく、その腕の痛みを現在治癒するために使われているのでしょうがねえ。」

咲夜「・…」

紅美鈴「貴方がこれから挑むのは永遠に幼き紅い月、
    幼きツェペシュの末裔レミリア様です。
    如何に貴方が非凡なヴァンパイアハンターといえども、
    生身で勝てるなどとは到底思うまいことでしょう。
    恐らく寸分持たず挽肉になるでしょう。」

紅美鈴「諦めなさい。
    人である貴方が真祖に敵う道理はない。
    神を呪い、人を呪い、その果てに怪物となった御嬢様を倒すことは
    不可能。かの者が仇なすのは人ではなく神。
    人くずれの貴方では冗談の一つにすら成りはしない。
    大人しく郷里の道をかえ…って、ど、どこへ行くのです!!」

咲夜「(スタスタ…)ん、なによ。漫才は終わりかしら?」

紅美鈴「い、いやいや!そうではなくて!その体でどうして挑むのですか!
    相手真祖ですよ!?私より遥かに強いんですよ!!
    理解できません!?自殺したいのですか、貴方は!?」

咲夜「死ぬ気なんてこれっぽっちもないわよ。」

(咲夜は美鈴の首もとに思いっきり近づいて鼻をつまみながら返答した。)

紅美鈴「ふんご!!な、なにをふるんれすか!?
    あひったたたた!!ちょ、引っ張らにゃいれえ!!」

咲夜「そのザマの方がお似合いね。
   いいから、黙って見ていればいいのよ。」

(ぱっつんと、鼻から指を放し、美鈴にデコピンを喰らわせる。)
(ペチンっ!!)

紅美鈴「ぬご!?な、馬鹿な。一体どうして・…」

咲夜「負けたくないのよ。」

紅美鈴「え?」

咲夜「こちとら生まれてこの方、魔を狩るなんてワケの分からない宿命背負ってんのよ。
   今まで生きてきた時間と、犠牲になった人たちとか、
   自分の信念とか色々降り積もってるのよ。
   だからね、死んでも敗北した気になることはないわ。
   だって、まだ足が動くじゃない?だったら戦えるわ。」

紅美鈴「―――――。」

紅美鈴「―――――人間とは不思議な生き物ですね。」

咲夜「いや、その格好のアンタが言うことじゃないわよ、それ。
   ん、じゃあまたね。何だかんだ強敵だったわよ。
   あなたは。」

紅美鈴「…はは。人に褒められたのは初めてですねえ。
    そうですね。これも縁ですかねえ。
    …お気をつけて。それと、さようなら。恐らく貴方は死ぬでしょう。
    再び会えぬのは残念ですが、それも運命。
    然らば。さらば。」

咲夜「ま、私は死なないけどね。
   貴方も、さようなら。生まれて初めて見たわ。
   ええと、中国拳法、だったかしら。
   それじゃあね。」

(くるりと踵を返し、半身が血まみれのまま、
 咲夜は玉座の門を開ける。そして、鈍い音とともに、
 扉の奥へと吸い込まれていった・…)

紅美鈴「興味深いね。命のある生き物ってのは。
    いや、私も昔はそうだったのかな。
    あんなお嬢さんに教えられるなんて私も未熟だな。」

(首だけになった紅美鈴は、目を閉じ、
 独り、床の冷たさを寝床に、ゆるやかに意識をまどろみへと
 溶かしていった…)

(紅魔館 玉座の間 中央)


レミリア「月は美しい。いつみてもそうだ。
     虚空に満月を描き、その姿は常に変わることがない。
     最初に不老不死を謳ったのは月だったかもしれない。
     夜の闇も、人の心の昏い部分も、輝きの影になるものたちも、
     彼は皆、月を見た。
     だが、月とて完全ではない。満ち足りては欠け、飽くほどに
     存在した素晴らしい時間も過ぎてみれば虚しい。
     今宵は月が欠けているな。
     なんと虚しい夜だろうね。私という存在と―――――」

咲夜「…」

レミリア「お前という矮小な存在がね…」

咲夜「詩人は趣味じゃないわね。虚しいところは共感出来るわね。
   貴方たちの様な仮初の不老不死を得た哀れな存在がそうなのでしょうね。」

(玉座の天窓に映る紅い月が二つの影を照らす。
 一つは、この世を呪い、神を呪い、人ならざるモノに堕ちたもの。
 一つは、この夜の宿命、神に呪われ、魔を狩る存在となったもの。
 相容れぬながらに、定められた運命に翻弄されるだけの二つのカゲが
 今宵邂逅するこの瞬間を待ちわびる。
 月の光が照らす、この出会いの宴を、虚構に満ちた時の世界を、
 彼女たちの為に。一幕の舞台を用意した。)

レミリア「哀れ、といえばそのカラダで挑むお前がそうだね。
     その折れた腕でどう戦うのか、少し興味がある。
     粗雑に舞いながら狂い果てて死ぬか。
     もしくは、絶望にのたうちながら泣き叫ぶか。
     選ばせてやってもいい。お前にとって墓前の最後の舞台だからね。」

咲夜「口の減らない奴ばかり。ああ、口だけは達者なバカほどよくしゃべる。
   意外とこの世界の常識なのかもしれないわ。」

レミリア「ほう…」

(レミリア・スカーレット。世を統べる紅い月の二つの羽根がぎゅるりと
 音をたて、二枚に見えた羽が血の液体を滴らせながら、唐突に
 四枚羽根へと姿を変貌させる。深紅に輝くそのフォルムはさながらに紅い蝶のようである。)

レミリア「解せないね。魔力もない、ほぼ生身。
     おまけに使えたとしてもお前の術は私には効かない。
     時を操ろうがどうしようが、私には「関係がない。」からね。
     翼をもがれたイカロスよりも今お前は不利だし、
     死ぬことが変わらない状況だ。それなのに、
     なぜ、そうまでして我々に抗う?」

咲夜「面白いことを言うわね。何故か?ですって? 
   そんなの簡単だわ。何故なら―――――
   私は魔を狩る一族。イザヨイの血統。
   あなたみたいな中途半端な存在を野放しになどしないわ。」

レミリア「魔を狩る、か。
     そんなに人間であることが誇らしいのか?
     お前たちの一族も一歩間違えれば私たちと同じだよ。
     神に呪われ、力を手に入れ、宿命を与えられたんだ。
     おや、おかしいね。私たちと大して変わらない。
     同じものじゃあないのかい?」

咲夜「人間をゴミの様に殺す貴方たちを、同じものだとは思えないわ。」

レミリア「家畜をゴミ同然に殺し、虫ケラを理由もなく殺し、
     その犠牲の上に命はあるのだと自己を正当化したうえで、
     自らの命惜しさに身内ですら差し渡す下劣さ、
     命は尊いと牧師に唱えさせておきながら、
     戦争に明け暮れる愚かさ。
     金を儲けるために、子供すら他人に売り渡す欲深さ。
     こんな反吐だらけの臓物のような種族が一体ゴミでなければ何なのか。」

咲夜「…」

(語るレミリアの声は、どこか怨恨に満ちた低さが篭っている。
 無価値、憎悪、人間という種族と、それを支える全ての者たちへの
 純粋な 怒り。)

レミリア「親は子を殺し、子は親を殺し、
     生きたければ好きなだけ他人を利用し、
     我がことのように騙した事実を誇り、
     恥じることもない。
     自らの欲求と信仰と、幸福のみを追求し、
     発展を繰り返し、しかしそれでいて何ら進歩のない俗物の群れ。
     お前たちのどこに自らを誇る価値がある?
     他者を受け入れる心がある?
     あの村人どもを見たろう。
     奴等は年寄りだけが生き残った。
     何故か分かるか?」

レミリア「村人どもは、正直だった。
     余りにも素直な人間たちだったよ。
     なにせ、我々に直ぐ様屈服したと思ったら、
     奴等は次に我らの機嫌を取るために、
     生贄を用意したんだよ。
     全員、全員、全員!!!
     若い奴か、ただのガキだ。女子供から順に差し出したんだよ。
     ハハ、生き汚いね。私たちは別に何も殺そうと思ったわけじゃないんだ。
     気付いたら腹を立てて、連中を八つ裂きにしていたんだよ。」

咲夜「―――――」

(レミリアの頬を何かが伝う、最早枯れ尽くしたもの。
 いや、今現在なおも彼女の中に渦巻く衝動、吸血衝動の原点。
 血液。血涙となってそれは現れた。)

レミリア「殺したくないさ。でも飲まなきゃ渇きは癒されない。
     死にたくないさ。そうじゃなきゃ殺さない。
     子供なんて死ぬのは見るのも嫌さ。
     長すぎるんだよ、生きる時間が、永久に続くこのカラダが。
     吸っても吸っても足りやしない。
     見ろ、こうして奴等のあぶく銭のような命が垂れ流しになっていくんだよ。
     惨めなものだ。人から一つ上の存在になったというのに。
     なんにも、なんにも!!なんにも変わりゃあしないんだよ!!!!
     この俗悪で惨めでくだらなくて退屈な人間の性は消え去ってくれやしない!!」

咲夜「(――――――子供?)」

(咲夜は目の前で錯乱する吸血鬼を見て、改めて実感した。
 そう、子供だ。まるで、彼女は現実を認めない子供のように泣きじゃくる。
 辛く受け入れがたい現実の全てを、人間を、世界を、神を、
 全てが憎いと泣き叫んでいる。まるで、ただ純粋に、
 こんな世界は嫌だ!!と、叫ぶ童のように。)

レミリア「だが、こんな惰性に満ちた現実も、
     こんな虚ろで退屈な夜も終焉だ!!
     お前という存在が、今私の前にいる!!
     愛しき敵が!!目の前に!!
     この怠惰に満ちた私の生を変えてくれるのか!?
     人間!?その折れた腕で!?
     浅ましいカラダで!?生身の肉体で!?
     真祖であるこの私に!打ち勝てるとでもいうのか!?」

咲夜「・…あなたの言うとおりね。」

レミリア「!?」

(ゴポリと、レミリアの眼玉から流れ落ちていた血が、止まる。
 紅蓮の如く塗りつぶされていた真っ赤な瞳が、
 どろりと、美しきガーネットの如く輝きをみせる。)

咲夜「確かに、人間なんてロクな生き物じゃあないわ。
   金の為に、利己の為に、自分の為に、誰かの命を弄ぶ最低の生き物だわ。
   でもね。そんな人間だったのよ。貴方も、私も。」

レミリア「―――――!!」

咲夜「だから、もう後戻りなんて出来ない。
   こんな現実だって変わらない。
   でも、だからってね、こんな下らない現実に流されるだけの生き方なんて、
   私は、とんでもなく、退屈なのよ!!」

レミリア「…退屈?」

咲夜「そう、だから私はね。全て自分の好きなように生きてるわ。
   こんなワケの分からない宿命だけどね。
   魔を狩る一族だろうと、なんだろうと、
   自分自身が生きたい自分を生きるのが一番なのよ!
   そんな、自分が化物になったぐらいで現実を諦めたりはしないわ!!
   貴方みたいにね!!」

レミリア「あきらめない…現実」

咲夜「そうよ!!だって、つまらないでしょう?
   運命が決まっているなんて。」

レミリア「あ、―――――」

咲夜「だから、こんな禍々しい運命だろうと、退屈な人生だろうと、
   私はワタシ!十六夜咲夜なのよ!!
   だから、貴方には負けない!!例え腕が無くなっても、
   口だけになっても貴方を殺す!!心だけは殺されない!!」

レミリア「――――――――。」


レミリア「――――――――う」


咲夜「?」

レミリア「うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
     かっこいいこと言うなー!!バカー!!うーーーーー!!」

咲夜「―――――――は?」

レミリア「ずるいよー!!ずるいよー!!
     わたしは何にもないのにー!!もう、ずるいのー!
     卑怯者!!すけこましー!!」

咲夜「な、なにこれ」

レミリア「偉そうに言うな、バカ!
     バカー!!うえええええん!!」

(いきなり泣き喚く紅い月。凄まじきはカリスマブレイクですか。
 そうですか。余りに異常な状況に十六夜咲夜は思考が追いつかない。)

レミリア「びええええ!!」

咲夜「あ、あのー…泣かないでー。ええっと、なんていうかー…。。
   こ、こういう時どうするの?あれ、何かワタシが悪者だっけ、コレ」

レミリア「うええ・…ひっく…ひっく。」

レミリア「ぐすん。ぐすッ。 うー…。
     決めた。私決めた。」

咲夜「?」


レミリア「もし、戦いで私が勝ったら、
     お前を永遠に私専属の従者にする!!!」

咲夜「―――――はい?」

レミリア「女中だ!!女中がいい!!
     決めた!!今私決めたもん!!」

咲夜「えーと、ちょっと意味がわからない…」

レミリア「カチューシャ付けて、紅茶を好きなときに入れてもらうわ!!
     私の決定には逆らえないわよ!!」

咲夜「え、これ本気で言ってるの?本気なの?
   じょ、冗談じゃないの?」

レミリア「咲夜とか、言ったね。私は今あなたの言ったとおり、
     自分らしく生きる方法が分かったよ。」

咲夜「え」

レミリア「そうなんだ。夜の一族とか何とか言って、恐怖で支配するのなんて
     退屈だわ!だったら、これからは沢山仲間や同胞たちを募らせて、
     楽しく生きることにするわよ!
     勿論、無益な人殺しは無しで!!」

咲夜「ええええええ!?」

咲夜「(ど、どんだけ思考転換速いの!?コイツ!?
    あ、あれ、っていうかこの話夢じゃないわよね!?)」

レミリア「咲夜。私に新しい世界を見せて欲しいの。」

咲夜「え?」

レミリア「ただ、運命に翻弄される生き方じゃなくて、
     これからは、自分で運命を決めて生きるの。
     だって、私が舞台の主役なら、その運命も始まりから終わりまで
     華やかであるべきでしょう。
     だからね。今決めたわ!!
     これからは運命に翻弄されるんじゃあない。
     運命を操っていくのよ!!」

咲夜「……」

咲夜「はー…。でも、その前に、打ち砕かなければならない運命があるわね。」

レミリア「ん?」

咲夜「私が貴方を倒すという運命よ。
   いっとくけど片腕だからって、舐めてかからないことね。」

レミリア「ふふっ。上等だよ。
     では、始めようか。今宵決められた月の宴を。
     踊りましょうか。咲夜。」

咲夜「ええ、開演よ。演目は―――――」

(月に照らされたカゲ二つが淀む、
 運命に決められた両者の出会いが、今まさに結実した。)


レミリア&咲夜「この命尽きるまで!!!!」


(永い永い、主人と従者のこれが始まりにして宿命の終わり。
 運命の始まり。
 懐中時計の時は今まさに、動き出したのだ。)

(数百年後・…・幻想郷・…・  紅魔館)


霊夢「んで、どっちが勝ったのよ。」

レミリア「私の圧勝!!」

咲夜「左様でございます。お嬢様。」

(日光の照らす紅魔館のバルコニー、そこに彼女等は居た。
 夜を照らす月の光はナリを潜め、明るく太陽の輝きが道端を照らす。
 午睡の時間である。)

咲夜「当然、腕が折れていましたので、あの状態では敵う筈もありません。
   ものの五分と持たず、自然にカラダが動かなくなりましてね。」

霊夢「さらっと言ってるけどその状況相当ヤバイわよ。」

レミリア「いやー流石にあの時はこの娘死ぬんじゃないかと焦ったわ。
     一応、グングニルも解放して本気モードだったから加減が
     しづらくって、しづらくって。」

咲夜「その時のお嬢様の姿は、まるで古典文学に出てくる邪神のようでしたわ。
   正直、余りの迫力に度肝を抜かれました。
   今生で二度とは体験出来ない、本当に貴重な出来事でしたわ。」

レミリア「いやー褒めなくてもいいわよ咲夜。あっはっはっは!!」

霊夢「(褒めてねーわよ。ソレ。)」

霊夢「ところで、他の奴等はどうしたの。」

咲夜「美鈴は、門前で門番の責務を果たしております。
   パチュリー様は図書館で読書に勤しんでおられます。」

霊夢「ふーん…いつもどおりすぎて退屈ね。なんか拍子抜けだわ。」

レミリア「いいじゃないの。この退屈さ。なかなかに得難いモノだわ。
     こうして日向ぼっこなんて気持ちが落ち着くじゃない?」

霊夢「あんたは年寄りか。」

レミリア「少なくともアンタよりはね。」

霊夢「だろうねえ…。はあ…何か異変の一つでも起こらないと、
   このまま堕落していきそうだわ。」

レミリア「ふふっ。なんだか微笑ましいね。」

霊夢「はい?」

レミリア「こうして、敵同士だった人間風情と団欒を楽しむなんて
     なかなかないわよ。いつ寝首をかかれるのかもしれないか分からないのに、
     アナタは変わってるなあ、ってね。」

霊夢「んなもん、今でも敵同士でしょ。今は休戦してるだけなのよ。」

レミリア「こんなダラダラ紅茶を飲んでいるのが休戦なの?」

霊夢「そうよ。お茶と甘いお菓子くらい振舞うのなんて常識でしょ。
   じゃなきゃこんな辺鄙なところまで来ないわよ。
   ここはおいしいお茶があるから来てるだけ。」

咲夜「相変わらず素直じゃないのね。お嬢様に会いに来たと言えばいいのに。」

霊夢「違うわよ。私は退屈な午後を過ごしてる辛気臭い吸血鬼のところへ
   お菓子やらお茶やらを貰いに来ただけよ。」

咲夜「わざわざ空を飛んで?遠いところを?」

霊夢「あー、うるさいわね。んなもんどっちでもいいでしょうに。
   いい?アンタたちはね。まだ、執行猶予中なのよ。
   私に懲らしめられたんだから、私の言うことは黙って聞くのよ。
   それで十分でしょ。はい、終わり。もう、昼寝でもするわ。」

レミリア「ほんっと、霊夢は可愛げないね。」

霊夢「あんたもでしょうよ。」

咲夜「ふふ、確かにこの会話そのものは微笑ましいかもね。」

霊夢「あー?」

咲夜「今が得難いその時、という意味ですよ。」

レミリア「…うん、そうかもねえ。」

霊夢「得難いって何がよ。こんなんいつでもどこでもある当たり前のことよ。
   私がフラフラここに来るのも当たり前だし。アンタたちと茶を飲んだり
   菓子を食うのも当たり前よ。
   なんにも特別なんてないわ。きっと人の日常なんてこんなものよ。
   妖怪でも一緒でしょう?アンタたちそんな高尚でもないんだから。」

咲夜&レミリア「…」

咲夜&レミリア「ぷっ」

咲夜&レミリア「あっはっはっはっは!!」

霊夢「な、なによ。いきなり笑い出して。」

咲夜「いえね。確かにそうかもしれないですね。
   今や当たり前のことですわ。そう、これこそが、日常というものですね。
   人間の。」

レミリア「ええ、そうね。ずっと欲しがってたものだけど、意外と近くで
     簡単に手に入る運命なんだね。
     気付くのが少し遅かったかもしれないねえ。」

霊夢「? なによ? なんか私だけ置いてけぼりな感がするんだけど?」

レミリア「いいってことよ。さて、霊夢、ものは相談なんだけどね。」

霊夢「んあ?」

咲夜「今度のお花見、紅魔館で行いませんか?」

レミリア「無礼講だよ。亡霊も、隙間女も、地底人も、
     皆誘おうじゃないか。ずっと前から咲夜と話して決めてたんだよ。」

霊夢「酒ねえ。でも急な話ね。
   なんでまた思いついたのさ?」

レミリア「なあに、ほんの少し永い余生だからね、
     楽しまなきゃあ損かもしれないと思ったんだよ。ね、咲夜。」

咲夜「ええ、きっと華やかな舞台になるでしょうね。」

レミリア「それじゃあ舞台の演目は、」

咲夜「もう、決まっておりますわ。」


(その後、紅魔館で大々的な花見が行われた。というより、
 花やら木はないので、
 館に集まった者たちによる大宴会である。
 分け隔てなく多くの妖怪たち、悪魔たち、人間たちが集まり、
 時を忘れて、皆が入り乱れ楽しめる夜となったことは、
 後々の語り草である。
 「その、酒が尽きるまで!!」という誰かが仕込んだ垂れ幕は、
 その後一週間以上紅魔館に掛けられたが、
 館の主の以降から暫く取り外さないよう、指示があったとか、
 なかったとか。
 今日もまた、紅魔館には暖かな日の光が注いでいる。
 舞台を照らすのではなく、そこに住まうものたちの、
 ただありふれた日常を輝き映す、光として…)

                         了

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