P「長介が引きこもりに?」(113)

やよい「はい……」

P「最近やよいの家にも行ってなかったとはいえ、そんなことになってるとは……」

やよい「ご飯も、要らないって……言うんです」

やよい「私、私心配で……」

P「……大丈夫だやよい。その、年頃って奴だよ」

やよい「そう、でしょうか……」

P「……何か心当たりがあるのか?」

やよい「心当たりというか、家のことは長介に任せてたので……私が、全部長介に任せてたせいで……」

P「い、いやいや。それは考え過ぎだって。やよいはちゃんと家の事も仕事も、両立できてるだろ?」

やよい「……」

P「もし大変そうなら、今日俺が家に……」

やよい「……嬉しいですけど、多分長介は出てきてくれない、です」

やよい「やっぱり私のこと、怒ってるんです。だから、私がなんとかしてあげないと……」

P「……そうか。わかった」

P「でも、何かあったら相談してくれるか?」

やよい「はい、ありがとうございます」

P「やっぱりほら、やよいは元気なときの方が魅力的だからな」

やよい「そ、そうですよね……はい! プロデューサーに話したら、元気が出てきました!」

P「そうか、よかったよかった。それじゃ、頑張ろうな」

--
P(やよいがそんな相談を持ちかけてきたのはだいたい1週間くらい前だ)

P(珍しく暗い顔で話しかけてきたから何かと思ったが……思ったより内容は深刻で)

P(それでも今に急を要するような自体ではなさそうで安心はしたわけだが)

P(あの長介が、引きこもり……? というか、不登校ってことだよな)

P(しかし、やよいの言う通り……長介がやよいを恨まないとも言い切れない)

P(責任を全て押し付けられて、姉は好き勝手してる。と思ってしまうのも無理はないだろうし)

P(どちらにしても、やよいの家の問題か。助けを求められたら、動けばいいだろう)

P(そう思ってからしばらくして、記憶の片隅によけられていたその話が引き出された)

P「……それ、本当なのか?」

やよい「だ、誰にも言わないでもらえますか? その……私……」

P(あの家の部屋の一つ、閉め切られたドアの向こうに長介は立てこもって)

P(トイレの時だけ出てくるが、そのときに話しかけようとすると逃げてしまうらしい)

P(それ以来、ほとんど顔を合わせることができなくなってしまったとか)

P(そして今日相談してきた。扉を叩いても反応がないからと、無理矢理に入ってみたら)

P(衰弱した長介が倒れていて……命に別状はないようだが……)

P(話し終えたやよいは震えていた。今にも泣き出しそうな状態で、必死に全てを語ってくれた)

P「誰にもというか、アイドルには言わないが……病院には連れて行ったのか?」

やよい「いえ……一応、まだ家に寝かせてるだけなんです……」

P「どうして……そんな状態なら、救急車を呼んでも」

やよい「もう、私何がなんだかわからなくて……怖かったんです」

P「……」

P(無理もないかもしれない。自分の弟が、気がついたら死にかけていて)

P(……それでも瞬時に救急車を呼ぶのではないかと俺なら思うのだが)

P(自責の念と言うのだろうか、やよいはきっと目の前の事に責任を感じて……)

やよい「後で、病院には連れて行くつもりです……」

やよい「長介が死んじゃったら……私……」

P「大丈夫だ。長介は、そんな弱い奴じゃない。きっと何か原因があるはずだ」

やよい「私です、私がいけないんです……」

P「やよい、そんな事無いって。……もしそうだとしても、いやもしそうならむしろ解決は楽だ」

P「俺も付き添うから、一度ちゃんと話し合おう。しっかり話ができれば、大丈夫」

やよい「プロデューサー……でも」

P「気にするな。それに俺はお前のプロデューサーだぞ? お前のコンディションに関わることだからな」

P「これもプロデュースの一環と思ってもらえればそれで」

やよい「……ありがとうございます」

P(そうして俺はやよいの家にやってきた)

P「……見た感じ変わらないが」

『あの、すみませんが』

P「え? 自分ですか?」

『はい、その……失礼を承知でお伺いしたいのですが』

P「あ、はいなんでしょう」

『こちらのお宅……高槻さんの弟さんが、不登校というのは……』

P「あー……えっと、それはですね……」

『あぁいえいいんです! その、ただもし虐待とかだと……という話でして』

P「は、はぁ……でも、虐待ってことはないと思います」

『そうですか、それならひとまずと言ったところで……あぁ、すみません突然。それじゃ』

P「……ご近所さんかな。噂は知れ渡ってる、ってことなのか……」

P「やよい、いるかー?」

P「……返事がない」

P「おーい! って、さっきの様子だとあんまり騒がない方がいいか……」

P「……今日行くって言ってあるはずなんだけどなぁ、買い物でも行ってるのか」

ガチャッ

P「……開いた」


P「お邪魔します……とはいえ、不法侵入なんだが」

P「やよいー? いないのか?」

P「それならせめて、長介ー?」

……

P「声が……こっちか?」


P「……やよい?」

やよい「ごめんね、長介……お願い、出てきて……」

P「や、やよい?」

P(そこには扉に向かって座り込み、語りかけているやよいの姿が)

P「や、やよい……」

やよい「ごめんね、お姉ちゃんが悪かったんだよね……長介ぇ……」

P「やよい!」

やよい「うぅ、ひぐっ……」

P「おい、やよい!!」

やよい「ふえっ……ぷ、プロデューサー……」

P「大丈夫か、やよい?」

やよい「ぐすっ……ひっく……」

P「……ダメか、一旦落ち着こう、な?」


P(やよいが泣き止み落ち着くのを待つ事30分)

P(とは言ってもほとんど泣きつかれて寝てしまったわけだが)

P「……あの部屋に長介がいるわけか」

P(さて……)


P「……長介」

P「俺、覚えてるか? やよいのプロデューサー」

P「覚えてないかもな、1回か2回、もやしパーティーに参加しただけだし」

『……』

P「最近、どうだ? というかもう少ししたら休みだろう?」

P「まだ冬休みボケしてるんじゃないのか? まあ、気持ちはわからなくもないがな」

『……』

P「……なぁ、長介。何か言いたい事があるなら、直接言った方がいい。それはお前のためにもなるし」

P「もちろん……原因が何かにもよるけど、やよいだってあれだけ心配してくれてるんだ」

『……ぁ』

P「長介? どうした、長介?」

やよい「……プロデューサー」

P「や、やよい? 大丈夫なのか?」

やよい「すみません、あんなところ……それに……」

P「い、いやそれは全然構わないんだが……」

やよい「……出てこないですよね、やっぱり。話しかけても、何も言ってくれなくて……」

やよい「その度に、この前みたいに、倒れちゃってるんじゃないかって不安になるんです……」

P「話しかけても……いや、でもさっきは声を返してくれたぞ?」

やよい「え……?」

P「おい、長介!! な、今何か言ってくれたよな?」

『……』

P「長介……」

やよい「……せっかく来てもらったのに、すみません」

P「……いや、こちらこそ。でも、もう少し話してれば!」

かすみ「お姉ちゃん……」

やよい「かすみ……うん、ごめんね? 今ご飯作るから……」

かすみ「長介は……」

やよい「うん、ごめんね……お姉ちゃんが後でなんとかするから……」

かすみ「……」

P「……すまん、やよい」

やよい「え? あ、気にしないでください。やっぱり……」

P「……そんなに自分を責めない方がいいぞ。何も出来なかった俺が言えることじゃないかもしれないけどさ」

やよい「あ、はい……ありがとうございます」

P「それじゃ、今日は帰るな? また」

やよい「はい、その……プロデューサー」

P「うん?」

やよい「……ごめんなさい」

P「……」

---
P(3月に入ったというのにやよいの家は進展を見せない)

P(それでも長介は生きている。それだけやよいから聞き出せる)

P(だが、新たな問題が発生する。”噂”だ)

律子「あの、プロデューサー……」

P「……また電話だろう? 適当にあしらってくれ」

律子「……はい」

P(事務所の皆にも、不本意ながら知れ渡ってしまった。だがやよいはむしろ元気に振る舞ってみせた)

やよい「あ、大丈夫ですよ! 皆さん、ありがとうございます! でも、本当大丈夫なので!」

P(それが痛いほどまぶしい上に、俺の前では……涙を流すのだ。もちろんそれくらい、許して当然だ)

やよい「プロデューサー……私、もう……」

P「……」

P(辛いならもう、辞めても良いよと告げて上げたかった。でも、それがやよいにとってプラスになるのだろうか)

P(できるだけ仕事を最低限に抑えて上げている今、ほとんどの時間を長介に費やしているだろう今ですら大した進展もなさないのに)

P(そう思うと、自惚れかもしれないが、やよいが縋るものをただ奪ってしまうような気がして)

P(俺は話を聞いた当初からいろんなことを考えてみた)

P(学校でいじめがあるんじゃないのか。単なる反抗期か)

P(それともやはり、やよいへの不満なのか。それならこうしてみればいい、具体案を挙げてみる)

P(それをやよいに伝え、掛け合ってみると言われても次の日には暗い顔で)

P(直接俺が行く、とも強く言えない。そんなジレンマに悩まされる日々が続いていた)

P(だが、そんな悠長なことを言ってる余裕もなくなった)

やよい「おはよ……ござ……」

バタン

P「や、やよい!? おい、しっかりしろ!! やよい!!」

やよい「プロ……デューサー……」

P「……長介か?」

やよい「私が……私が……」

P「……」

P(看病か説得か、どちらにしてもやよいもかなり疲労している様子で……俺は決心した)

---
P「……」

P(やよいを事務所に寝かせ、音無さんに頼んでおいた)

P(そして俺は、やよいの家にいる。と、来たはいいが)

P「……鍵がないだろうが」

P(この前はやよいがいると思ったし、偶然鍵が開いていたおかげで、そんなことを考えずに済んだが)

P(今日ばかりは……と思いながら玄関に近づくと)

P「……開いてる」

P(今朝の慌てっぷりを見れば、さほど驚く事でもないが……いたたまれない)

P(無礼を承知で二回目の不法侵入。そして、目指すは例の部屋の前)

P「……よし」

コンコン

P「長介、俺だ。プロデューサー」

P(耳を研ぎ澄ませる。と、微かに物音がする。長介は、生きている)

15分ほど離れます

P「長介! おい、長介!!」

ガタッ…ガ゙タタッ

P(微かではあるが、やはり物音は扉の奥から)

P「……長介、返事してくれ」

『……ぁ』

P「どうした? 長介!!」

『姉……ちゃ……』

P「姉ちゃん……やよいか? やよいは今は、いないが……」

『ホン、ト……?』

P「あぁ、今やよいは事務所で……」

『……』

P「お、おい長介!?」

P(その後の返事は聞こえてこなかった。慌てて扉を叩こうとしたその時……なんと扉が開いた)

P(そこには、やはり衰弱した様子の長介が……)

長介「……」

P「長介……だよな?」

長介「……プロデューサーの、兄ちゃん」

P「あぁいい、喋るな。今何か食べ物を持ってきてやるから」

長介「……」

P(長介の返答も聞かずに俺はやよいの家の冷蔵庫を漁った。しかしほとんど何も入っていなかった)

P「ちょっと待っててくれよ! すぐ戻る!!」

P(キッチンから叫び、そのままの勢いでコンビニへ駆け込んだ)

P(適当にすぐ食べられるものを持って、やよいの家に戻った。幸い、長介の部屋は半開きのままで)

P「ほら、長介これだ」

長介「……」

P(食べ物を見ながら少し躊躇していたが、すぐにそれに手を付けてゆっくりと食べ始めた)

P(その様子にひとまず安堵しながらも、慎重に話を伺おうとした)

P「……一体、何が原因なんだ?」

長介「……」

P「いや、話したくないなら別にいいんだ。でも、俺をここに居れてくれたのには理由があるんだろう?」

P(もっと凄惨な部屋を想像していた。散らかりに散らかった部屋に、異臭。そんな想像とは全く正反対で)

P(なんの変哲もない、少年の部屋。言ってしまえば、長介の部屋そのものだった)

P(少し散らかっているが、特に変わった様子もない。だからこそ、余計違和感があった)

P(買ってきたおにぎりを俯きながら食べていた長介は、数秒の間をおいてその手をとめて、言葉を発した)

長介「……姉ちゃん」

P「やよい? やよいなのか?」

長介「……兄ちゃん」

P「どうした? やよいがどうかしたのか? ゆっくりでいい、だから……」

長介「……お水、ある?」

P「あ、あぁすまん! これだ」

長介「……ありがと」

P(水を飲んで、そのまま食事を再開してしまったため、話かけるタイミングを失ってしまった)

P(姉ちゃん、ということ。そして俺はいれてくれたということはやはり、やよいの言う通りなのかもしれない)

P(……そのために、何か突破口となる案は……そうだ!!)

P「長介、今何月かわかるか?」

長介「……」

P「3月だ。そして3月は……」

長介「……」

P「お前の姉ちゃんの、誕生日だ」

長介「……姉ちゃん」

P「そうだ。その日に、何かプレゼントをしないか? 何をプレゼントするかは、俺が持ってきてもいい」

長介「……」

P「長介」

長介「……うん」

P「本当か!? よし、それじゃそうしよう」

長介「……兄ちゃん」

P「うん?」

長介「……おにぎり、まだある?」

P「あ、そうだ! 持ってくる、待っててくれるか?」

長介「うん……ありがと」

P(そう言って家を後にすると、またもコンビニに駆け込み店員に変な顔をされつつ大量に食料を買い込んだ)

P(あの様子ではきっと、まだ部屋から出る事は難しいだろう)

P(家にも何もなかったようだし、俺に心を開いてくれているなら少しでも力になれば)

P(そう思って先より軽い足取りで、四度目の不法侵入)

P(長介は、ひとかけのおにぎりを持ったまま寝てしまっていた)

P「……でも、よかった」

長介「……」

P「これ、置いて行く。また来るからな」

長介「……ん、姉ちゃ……」

P「……」

P(おにぎりやら飲み物が入ったコンビニの袋を置いて、長介の部屋を後にした)

P(事務所に戻るとちょうどやよいが目を覚ました)

P「やよい、もう大丈夫なのか?」

やよい「プロデューサー……? 私……」


やよい「……すみません」

P「いや、いいんだ。むしろやよいの方だよ、俺も気がつかなくて……悪かった」

やよい「そ、そんな! 私は、いいんです……長介が」

P「長介……」

やよい「長介があんなに苦しんでるのに……これくらい、なんてことないですから」

P(やよいはやっぱり、長介に対して強い負い目を感じているようだ)

P(……俺がやよいの家に行ったことは言うべきだろうか)

P(不法侵入やら冷蔵庫のことはまあ……あとで謝るけれど)

P(俺にだけ扉を開いた……なんてことだとしたら、やよいはどう思うだろうか……)

P(長介からは何も聞いていないし、もしかしたら俺の思い違いかもしれないが)

P(今のやよいはデリケートだ。リスクを背負ってまで話すことはない、か……となれば)

P「……ゆっくり話していけば、大丈夫さ」

P「それに、何か一つきっかけがあれば、案外元に戻ったりするもんだよ」

やよい「きっかけ……」

P「そう、きっかけ」

P(やよいの誕生日まで、ちょうどあと1週間。それまでに長介ともう少し話が出来れば……)

やよい「……わかりました、あのプロデューサー」

P「なんだ?」

やよい「……皆さんにすっごく迷惑かけちゃってて、本当にすみません」

P「あぁいや、気にする事無い。その分頑張ってくれればそれで」

やよい「いえ、それで……長介のために、少しお休みをいただけませんか……?」

P「休み、か?」

やよい「はい……すごく、勝手なんですけど……」

P「それは別に、構わないが……」

やよい「絶対! 絶対戻ってきます! それで、長介と一緒に謝りにきますから……」

やよい「戻ってきて、ちゃんと長介からも認めてもらって、今までよりもっともっと頑張りますから!!」

P「やよい……」

やよい「……それじゃ、すみません!」

P「……」

P(タダでさえあの状態で事務所に来たというのに、毎日を長介に充てて大丈夫なのだろうか)

P(……自らの後ろめたさに押しつぶされるか、最悪長介が逆上して……って何を考えてるんだ俺は)

P(だからこそ、あの家を支えてあげるって決めたんじゃないか。両親がいない間、俺が支えると)

P「……よし」

---

P(そして5度目の訪問。今日は無断で侵入する気はないんだが)

P「……相変わらず返事がない」

P(慣れというものは怖い。玄関の扉に手をかけ、鍵がかかってないことを確認するとそのまま入ろうと)

P(と、そのとき)

かすみ「……誰?」

P「お、っと……かすみ、ちゃん?」

かすみ「……お姉ちゃん」

P「あ……」

P(どうやらやよいを呼びに行ったようだが……あの様子を見ると、長介の一件で疲れているようだ)

P(そうしてしばらく玄関で待つと、現れたやよいはそれほど変わった様子もなくぺこりと一礼して)

やよい「あ、プロデューサー……こんにちは」

P「ごめんな、急に来て。長介、どうだ?」

やよい「……」

P「……そうか」

P「俺も一言挨拶してもいいか?」

やよい「あ……えっと、すごくありがたいんですけど……」

P「あ、そうだよな。やよいにも反応しないんだし……」

やよい「すみません……」

P「いやいいんだ。ちょっと寄ってみただけだからさ」


P(……手に持ったおにぎりの袋をチラと見る。やよいに渡そうかとも思ったが、きっと無理だと断られるだろう)

P(あれだけのおにぎりで、長介は生き延びているだろうか。気にはなっていた、しかしやよいが……)

P(ん? どうしてやよいがその話に……まるでやよいのせいで長介と会えないかのような……)

P(しかし、誕生日の前の日には少なくともコンタクトを取りたい)

P(となると、手段は一つ。悪趣味ながらもやよいが家から離れるのを待つことにした)

P(プロデュースの合間の僅かな時間。とはいえやよいの分が空いたからトントンなのだが)

P(そうしてようやくやよいが買い物に出かけたのは、誕生日の前の日だった)

P「刑事じゃないんだから、どうして張り込みなんてしなきゃいけないんだ……」

P(そう言えばそうだ。やよいにお願いすれば扉の前にくらい行けるだろうに)

P(しかし、思い返してみれば納得する。長介はやよいとはきっと、会いたくないのだろう)

P(その関係を無理に改善しようとしても悪化する可能性の方が高い)

P(だからこそこうして、それぞれと1:1でコンタクトを取っている訳なのだが)

P「長介……俺だ、プロデューサーだ」

長介「……兄ちゃん?」

P「今やよいはいない、よかったら開けてくれないか?」

長介「うん」

P(それはこの前会ったときとは比べ物にならないほど改善していて、扉越しでも容易に分かるほど)

P(そうして直接対面しても、顔色も全く違って見えた。が、一つだけ変わらないことがあった)

P「元気そうで何よりだ」

長介「……うん」

P「……浮かない顔だな」

長介「……」

P「いや、無理はしなくていいんだ。それより明日の……」

長介「プロデューサーの、兄ちゃん」

P「どうした?」

長介「……聞いて欲しいことがあるんだ」

P「……あぁ」

長介「その……やよい姉ちゃんのことなんだけどさ」

P「……」




長介「……姉ちゃん、変なんだ」

P「……変?」

P(泣きそうな顔で長介は喋り始めた)

長介「最初は……一番下の弟。予防接種だって、月に何度も通わせてた」

長介「病院でも聞かれてたらしいんだ、何回も受けて大丈夫なの?って」

長介「それでも姉ちゃんは、仕事が忙しくて中々来れなくて。病気になったら、申し訳ないから」

長介「そう言って風邪だったりするとすぐ病院に連れて行ってくれたんだ」

P「……うん」

長介「でも、流石に変だった。具合が悪そうだった浩三に、どんどん違う薬を飲ませてる姉ちゃんを見て」

長介「『それ、浩三には強すぎるんじゃないか?』そんな風に聞いたら、怒られて」

P「怒られる?」

やよい『そんなこと行って浩三の風邪が悪化したらどうするの!』

長介「……何も言えなかった。でも、どんどん浩三は具合が悪そうだったんだ。だから医者に見せた」

長介「やっぱり、薬の上げ過ぎだって、言われて……でも姉ちゃん、悪気はないんだ」

長介「仕事が忙しいから。風邪を引かせたくないから、って」

P「……」

長介「でもこのままじゃまずいって思ったから、姉ちゃんに言った。そしたら今度は……」

P「……まさか」

長介「浩司と、浩太郎……同じ感じだったよ。咳がでたり鼻水がでただけで、すぐ」

P「……」

長介「すぐに辞めさせたんだ。でも、そしたら浩司の方に……」

長介「怪我をしたとか、そんなことですぐに泣き出したりして。この頃から、だんだん姉ちゃんが怖かった」

長介「アイドルやってるせいなのかなって思ったけど……」

P「……なるほど」

長介「浩司は相当嫌がってた。しょっちゅう姉ちゃんと喧嘩してた」

やよい『どうして言う事を聞いてくれないの!?』

長介「このままじゃ、二人ともまずいって思って……また姉ちゃんに話そうとしたんだけど」

P「その流れでいくと、次は……」

長介「……でも、仕方なかった。だから最初は振りをしてたんだ」

やよい『どうしたのこの怪我!? 大丈夫、痛くない?』

やよい『……お姉ちゃんのせいだよね。ごめんね』

やよい『こんな風になって……大丈夫、お姉ちゃんに任せて』

やよい『長介は何もしなくていいから。お姉ちゃんが』

やよい『長介は何もしなくていいっていったでしょ!?』

やよい『どうして勝手なことするの……? お姉ちゃんは、長介のためを思って……』

長介「……だんだん酷くなってた。学校にも行けなくなって、気がついたら部屋で引きこもることになってた」

P「そんな……」

長介「それでも姉ちゃんがいないときに冷蔵庫から食べ物を持ってきて、最初の頃は学校さぼれてラッキー!とか」

長介「でも……冷蔵庫から食べ物を持って行ったのがバレると、また始まるんだ」

やよい『お腹空いてたの……? ごめんね、お姉ちゃんが全然頑張ってないから……ごめんね、ごめんね……』

長介「……酷いときは、万引きしてこようか、みたいなのもあったと思う」

P「……」

長介「どんどん姉ちゃんの方に……洗脳っていうか、流されちゃってて」

長介「このままじゃ本当に、姉ちゃんなしじゃ生きて行けなくなる……だから辞めてもらおうと思った」

長介「でもさ……それじゃ今度は……」

P「……かすみちゃんか」

長介「一回、言ったんだ……もう、放っておいてくれって。そしたらやっぱり、かすみが狙われて……」

長介「かすみも泣いて嫌がってた。やよい姉ちゃんも泣いて説得してた。もう耐えられなくて……」

P「……お前が、代わりになってやろうって思ったのか」

長介「……それしかなかった。でも、外に出たら本当に洗脳されそうだったから」

長介「でも、部屋の中に食料もないし、本当に死んじゃうんじゃないかって思った」

長介「それでもさ、姉ちゃんが入れば大丈夫って思っちゃってたんだ……だから」

P「……」


P(思考が追いつかない。それでも、事の重大さは直感で理解した)

P(問題があったのは長介じゃなく……やよいだった)

P(代理ミュンヒハウゼン症候群)

P(注目を集めたいがために、献身的に介抱する。そんな印象を植え付けるために故意的に傷つける)

P(自らの子を薬付けにし、病院に通いつめ我が子は重い病気だ。そう思い込むことなど)

P(本来ならば自傷行為から承認欲求を満たす、ミュンヒハウゼン症候群というものなのだが)

P(対象が我の子、他人に移った場合を代理ミュンヒハウゼン症候群と呼ぶらしい)

P(いわば精神病。重く慢性的になった場合をこう呼ぶらしいのだが、やよいに当てはまるかどうかはわからない)

P(それでも……聞いた話とは合致する点が多い。やよいは、兄弟を使って自ら”頑張っている”と自己暗示をかけていたのだ)

P(長介は、やよいという”母親”的存在に”引きこもり”を演じさせられていた)

P(それが慢性化し、演技ではなく本当になってしまった。それを、やよいは心配して……)

P(なんとも不思議な状況なのだが、自体は思ったより深刻だ)

P(精神病ということもあり、この病気に治療法という治療法はないのだ)

P(ストレスや、過去の傷、様々な物が原因とされているが……)

P「……長介」

長介「……何?」

P「今お前は……大丈夫か?」

長介「……多分」

P「やよいにとらわれてないか?」

長介「……」

P「この病気は……やよい自身の問題だが、その対象が無ければ無害らしい……だから」




やよい「ただいまー」

P「!!」

長介「あ……」

P「と、とりあえず俺は外に……」

やよい「長介、食べ物買って……」

長介「……姉ちゃ……」

やよい「……プロデューサー?」

P「あ、いや、これは……」

やよい「……長介」

P「……」

長介「い、嫌だ!! こ、こないで!!」

P「お、おい長介!」

やよい「……プロデューサーは、どうして」

P「あ、その、やよい……」

やよい「……長介はどうして」

長介「……」

やよい「……また勝手なことするんだ」

長介「ち、違うんだって姉ちゃん!! こ、これは!!」




やよい「……かすみー?」

眠い

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