伊織「そんなモノ、いらない」 (182)

書きため無し。

ゆっくり投下して行くから。

まったり見て下さい。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1367648804



「───ソロライブっ!?私の?」


驚いた私を見て、アイツは嬉しそうに微笑む。

その柔らかな笑顔に思わず顔が赤くなる。

そんな気持ちを悟られないように、
そっぽを向いて感謝の気持ちを言葉に変える。


「あ、アンタにしては、なかなか良い仕事とってきたじゃない」


私の言葉は、フィルターを通してから放出される。
このフィルターは、過剰なほどに、
『好意』という感情をすくい取ってしまう。

身体から離れた気持ちは七割減で宙に舞う。



ほら、案の定、苦笑いを返された。


────最初に出会ったのは一年前の丁度、今くらいの春先。


その日は日差しが強く、少し汗が滲むくらいの暑さだった。

事務所に着くと、小鳥に挨拶を交わし、
手早く冷房のリモコンのスイッチを入れた。



……………はずだった。


何のレスポンスもなく無口な冷房機を睨み付け、
リモコンの[入]を何度か押す。

反応が無いのでボタンを連打するけど、
暑さよりも虚しさが優ったから溜め息混じりに諦めた。

ソファに向かってリモコンを投げつけるとクッションの上で弾む。

亜美と真美ならきっとこう言ったんでしょうね。


───へんじがない、ただのしかばねのようだ。



リモコンの隣りに腰掛け、ふんぞり返ると
社長室から誰かが出て来たのが見え、慌てて身形を整える。

雑誌記者?それともテレビ局の人かしら?

見慣れない男が目の前に来たので媚びを売る。

───この『媚び』って言葉は自分を卑下してるみたいだから嫌い。

プライドの為に言わせてもらうけど。

『相手の歓心を買うために、色っぽくふるまう』って事よ?───。


「水瀬伊織、14歳。アイドル目指してます♪良かったら応援して下さいね」

「あぁ。応援するよ」


───そう言って人懐っこそうに笑ったアンタを覚えてる。


「はっはっはっ。彼は我が765プロに新しく入社したプロデューサーだよ」

「水瀬君のプロデュースをお願いしたから、何でも言うと良い」

社長の言葉に、思考は停止。


訝しんで目の前の男を観察する。

頼りなさそうな奴。
メガネも髪型も靴も時計もセンスが無い。

センス以前に、まず、安っぽい。
典型的な無能の最たるもんじゃない。

こんなのが私のプロデューサー?

水瀬家に生まれて、何不自由無く育って、
トップアイドルを目指す私のプロデューサー?


トップアイドルになってお兄さまを見返してやるんだから。

その一心でこの事務所に来た。
それなのに事務所は狭くて、クーラーも壊れてる。

それで更には見るからに無能そうなこんな奴がプロデューサー?

ここに来て私の運は、尽きてしまったのかしら。

なんとなく悪寒に襲われ身震いする。


「では、親睦を深めてくれたまえ」


私を気にも掛けず、頼んだよ君ィと、言い残して社長室に戻って行くオッサンの背中を睨む。


置き去りにされた薄幸の美少女。

取り残された空間を気まずさだけが支配した。


「隣り、良いか?」


「はぁ?せめて向かい側に座りなさいよ。話しにくいじゃない」


「ははは。話してくれる気では居るのか。良かったよ」


その一言に神経が逆撫でられる。

見透かされた気がして、それを隠す様に反論する。


「はぁ?私はあんたをプロデューサーだなんて認めてないの。分かる?」


「これからの俺の頑張り次第って事だな。精進するよ」


馬鹿では無いみたいね。

少し安心した自分に腹が立ち、思わず声を荒げてしまう。


「当たり前じゃない!こっちは遊びでアイドル目指してるんじゃないの!」

「アンタにはこれから馬車馬の様に働いてもらうから覚悟しなさい?」

私の高圧的な態度にずり下がったメガネをかけ直し、
顔を引き締めると、頷きながら言った。


───この時のアンタの言葉が実現するなんて思わなかった。


「あぁ、必ずトップアイドルにしてみせる」



───次の日。

またしても私は、リモコンと格闘していた。

リモコンの調子が悪いだけでつかない訳じゃない。

そう小鳥が教えてくれたから半ばムキになって連打する。

連打の最中に《ピ》っと音が鳴ったけど連打を止めれ無かったのでまたスイッチが切れた。


これほど滑稽な悲劇は見たことが無い。


虚しくなって、宙を仰ぐ。

一息ついたところで頭の悪いリモコンをソファにぶん投げる。

ソファに腰掛け、うさちゃんを優しく撫で、心を落ち着かす作業に移る。

ようやく心が落ち着いて、暑さにも馴れてきた頃。
アイツが事務所にやってきた。


P「おはよう伊織」

伊織「アンタねぇ?おはようじゃないわよ!今何時?」

P「10…時、だけど………?」

伊織「どこの新人社員が10時に出社してくるのよ!」

P「あ、あぁ、スマン」

伊織「すまん、って……アンタ、やる気あんのっ?」

P「そう、怒らないでくれよ」

伊織「だいたい、私は8時から来てたのよっ!?」

P「待っててくれたのか?ありがとう」


伊織「べ、別にアンタを待ってた訳じゃ無いわよ!」

P「そうか。でも結果待たせてたのなら、すまん」

伊織「アンタがトップアイドルにしてやるって言ったから気合い入れて来たのに」

伊織「ホント……とんだ肩透かし……ね。もう良いわ」

伊織「ドサ回りでも何でもするから、とっとと仕事に行くわよ」

伊織「この業界、顔を覚えて貰って、なんぼ、でしょ?」

P「それはそうだけど、今日はオーディション受けて貰う」

伊織「そう。じゃあ行くわよ」

P「おう。じゃあ車出してくる」



伊織「ちょ、ちょっと、待って!」


伊織「………オーディション?」


P「うん。オーディション。丁度一枠空きが出たらしい」


伊織「……空きが出た?」


P「さっき、さくらテレビに行ったらオーデ枠が余って困ってるって言われてさ」

P「伊織の宣伝したら向こうさんが取りあえず連れてきてって」



伊織「………………はぁ………?」




伊織「まさかホントにオーディションを受けるなんて……」

P「ちゃんとレッスン受けて来たんだろ?」


伊織「それは………そう、だけど」

P「じゃあ、しっかりアピールして来い」

伊織「わ……分かった」



P「…………緊張してる?」


伊織「───っ!?………緊張なんかして無い」

P「そう?あ、その脇に抱えてる人形連れてって行って良いからな」

伊織「え……良いの?」

P「うん。その人形持ってる方が可愛く見えるし」

伊織「そ……そう。わ、わかった」

P「その人形は伊織の友達なのか?」


伊織「えぇ。うさちゃ………じゃなくて!」




「シ、シャルル・ドナ…テルロ……じゅ……18世よっ!」


ガチャ



P「伊織?どうだった?」




伊織「………ダメ………だった」



P「……そうか。まぁ、いきなりだったし、次、頑張ろう。……な?」


───この時の私はどんな顔をしてた?


車の中でずっとアンタが励ましてくれてたのを何となく覚えてる。

でも、努力が報われなかった私は、ただ俯くことしか出来なくて。

自分の不甲斐無さに嫌気が差して、車のシートにうなだれることだけで自分を支えていた。

どうやって帰ったのかも分からなかったけど、気付くと自分の部屋のベッドに腰掛けていた。

今までの努力は無駄だったのかしら?

ずんずんと気が重くなっていく。


ベッドに寝転がるといつもより身体が沈み込んでる気がした。


それは、きっと重くなった心の分────。


次の日、ひどい頭痛で目が覚めた。

新堂を呼び、薬を貰う。

起き上がるのも辛いから、電話を入れて休みにして貰おう。

アイツだって私の落ち込む様を見てたのだからこれくらい許してくれるはずよね。

そう思って、ベッドに寝転がる。

目を瞑ると瞼の裏に昨日の残念そうなアイツの情け無い顔が浮かぶ。


思わず噴き出し、慌てて手で口を塞ぐけど我慢すると余計に笑いを誘う。

いっそ感情に身を委ねてみる。

すごく心地良いひととき。


ひとしきり笑った後。


少しだけ泣いた。

目尻を拭いながら起き上がってみる。

頭痛なんて最初から無かったみたいに消えちゃってた。




P「じゃあ、今日から俺がレッスンの指示を出すって事で良いのか?」


伊織「えぇ。アンタに任せるわ。だから……必ずトップアイドルにしなさい」


P「ははは。最初にそう約束したじゃないか」

P「その約束だけは必ず守るよ」



P「じゃあ、まずはダンスレッスンからだな」


P「伊織の曲を用意したから取りあえず覚えてくれ」

伊織「はぁ?私の曲?」

P「今まで他のアイドル達と使い回して来たんだろ?」

P「ガイドメロディーしかないけど、出来ればメロディーも覚えてくれ」


P「そうだ……時間も限られてるから、30分で」


伊織「30分っ!?あ、アンタ何言ってんの?」


P「出来ない?」

伊織「───っ、やるわよ!やってやるわよ!」


───30分後。


プレイヤーから流れる4ビートに合わせて身体を動かす。

ダンスシューズが床に擦れる音が小気味良く響く。


P「伊織、そこ遅れてる」

伊織「分かってる」


P「足を意識し過ぎて手の振りが疎かになってるぞ」

伊織「ぐっ……分かってるわよ!」


いくら意識しても身体が命令に追いつかない。
うろ覚えの箇所もあって初レッスンは酷いものだった。
ダンスだけで精一杯だけど、ダンスは何とか形にはなったと自分では思う。


P「うーん。……こんなもんかな。もう少し期待してたんだが………」


伊織「…………」

P「でも悪くは無い。どれだけ頑張れるかどうかが見たかっただけだし」


悪くは無い………か。
それって良くも無いってことじゃない。

言ってくれるわね。


──────
────
──


新堂「お嬢様、そろそろ、おやすみになられては?」

伊織「…………」


新堂の言葉を無視して踊り続ける。

明日までに完璧にして、絶対アイツの鼻を明かしてやるんだから。

アイツの驚く顔が目に浮かんでにやにやが止まらなかった。


────次の日。


伊織「レッスン行くわよ!」

P「おぉ、やる気が溢れてるな」

伊織「当たり前よ!早く踊りたいのよ!にひひっ♪」

P「そうか。でも、今日はボーカルレッスンなんだが…」

伊織「はぁ?何それ……先に言っときなさいよっ!」



P「えぇ……帰り際に言ったんだけどな……」


P「これ、タイトルと歌詞な」

伊織「DIAMOND……」


────やれば出来る、やるから出来る。

さあ、私は今────。


そうよ。やれば出来る。やるから出来る。
諦めなければ、絶対出来る。
ダンスだって昨日覚えたじゃない。

すごく今の私にぴったりな曲で心が振るえる。




伊織「アンタ……なかなか、良い曲持ってくるじゃない。誉めて上げるわ」


P「ははは。お褒めに預かり光栄です」


素直に喜ぶ事が子供みたいで恥ずかしかったからフィルター越しにありがとう。


P「歌詞を目で追うな」



P「キーばっかり意識しないでもっと繋がりも意識して」



P「小節の中の休符を無視するな。溜めるところは溜める」



はぁ……。

今夜も個人練習しなきゃダメね。


家に帰ると昨日と同じようにすぐ部屋に籠もる。

歌詞も覚えたしメロディーも頭に入った。

後は譜面通りに旋律をなぞる。


新堂「お嬢様………後でオレンジジュースと喉に効くお薬を持って参ります」


ダンスよりも難しい。
でも弱音なんか吐かない。

やれば出来る。やるから出来る────。


────次の朝。


伊織「さぁ、レッスン行くわよ!ダンスでもボーカルでも完璧にこなしてやるんだから!」


P「今日も気合い入ってるな!ビジュアルレッスン行くぞ!」




伊織「…………」


P「楽しそうに」


伊織「にひひっ」


P「悲しそうに」


伊織「うぅ」


P「伊織?まだ、照れが残ってる。感情表現を馬鹿にするな」

伊織「うっさい!分かってるわよ!早く!次っ!」


P「嬉しそうに!」

伊織「わぁい♪」ぱぁぁぁぁ

P「楽しそうに」

伊織「にひひっ♪」るんっ

P「悲しそうに」

伊織「うぅ………」しゅん


P「嬉しそうに」  伊織「わぁい♪」ぱぁ

P「楽しそうに」  伊織「にひひっ♪」るんっ

P「悲しそうに」  伊織「うぅ………」しゅん


P「嬉しそうに」 伊織「わぁい♪」ぱぁ

P「楽しそうに」 伊織「にひひっ♪」るんっ

P「悲しそうに」 伊織「うぅ………」しゅん

P「切なそうに!」


伊織「わぁい♪」ぱぁぁぁ



P「…………」

伊織「……………」




自主練習三日目。


伊織「にひひっ♪……うぅ………むっかー!わぁい♪」



新堂「お嬢様…………おいたわしや」


────次の日。


伊織「今日のレッスンは何っ!?」

P「今日は歌いながら踊ってもらう」

伊織「……………」




結局、夜の自主練習は一週間続いた。




伊織「今日のレッスンは何………?」


P「よし今日はこれまでの総括。どれだけ出来る様になったか見せて欲しい」




伊織「分かった」


───自分は自分。自身という自信。

やれば出来る、やるから出来る───。

その言葉を少しずつ形にしていく。

ダンスで踏み出す足よりも支える足を意識して躍動感が出せる様になった。

身をよじったままでも音程をずらさずに歌える様になった。


初オーディションが終わってからずっと考えてきた。


自分の何がいけなかったのか。
自分に何が足りなかったのか。
自分という石を磨き上げる。

ひとつの結果に向かって少しずつ過程を積み重ねていく。

ほんの少しの成長が素直に嬉しかった。

少しずつ新しい自分が出来上がる。
少しずつ自分が満たされていくのが分かる───。



伊織「────ふぅ……どうだった?」

P「よかったよ……凄く」

P「完璧だよ。流石、伊織だな!」


伊織「あぁ……そう。当然よ」


P「……どうした?誉めてるのに……」

伊織「別にアンタに誉められたって子供みたいに喜んだりしないわ」

P「ははは。そっか……」


────何よ。そんな寂しそうな顔しないでよ。


P「……でも伊織なら絶対出来ると思ってたよ。」

伊織「自分のためよ」


P「うん。でも、頑張ったんだなって思うよ」


────たった一言の言葉が心にじわっと染み込んでくる。


我慢出来そうに無いわ。


P「伊織?……泣いてるのか?」


────私はその言葉がずっと欲しかったのかも知れない。


伊織「少しで良いの……少しだけ……抱きしめて…………?」







P「─────もう大丈夫か?」


伊織「うん……。ありがとう……」

P「ははは。やけに萎らしくなったな」

伊織「うっさい」ゲシ


P「よし。今日はこれで終わり。帰ってゆっくり休め」


P「一週間、お疲れ様」


─────あ……また涙腺が…………。


P「明日、レコーディングするからな」


伊織「そう。─────はぁっ?」

P「レコーディングするからな」

伊織「………はぁ。もう、疲れた。家まで送って?」

P「仰せの通りに」


少し下げた頭を叩いてやろうかと思ったけど
今日の所は許してあげるわ───。


レコーディングは何テイクか取り溜めてOKが出た。

割とあっさりと終わって、なんだか肩すかし。

OKが出た時のブースの向こうのあいつの笑顔が何かムカついたのを覚えてる。

CDの発売日に向けてスケジュールが進行して行く。

まずは重点的にライブに出演する。
二日で7カ所のライブに絨毯爆撃を仕掛けた時は死線をさ迷ったわ。

少しずつ知名度が上がって来るとフェスと営業。
フェスに出た後、テレビ局に行って挨拶回り。


積極的に媚びを売る。

ごまをすったらアイツにそこまでしなくて良いって言われた。
とにかく顔を覚えてもらうことを優先する。

そうこうしてるうちに、ラジオ番組からもオファーが来る様になった。

ラジオ番組の合間にファンとの交流会。

DIAMONDと昔から練習してた数曲を歌い、ファンのみんなと握手。

みんな凄く感動してくれたのが嬉しかった。


とんとん拍子に来たところで
ついに全国放送のTVオーディションを受ける事になった。



奇しくも最初に落ちたTV番組のオーデ。

そして丁度、私の誕生日がオーデの日だった。




────さくらテレビ。


P「緊張してるか?」

伊織「緊張してないとは言わない」


自分で言った言葉で余計に緊張する。


P「伊織なら大丈夫。あの時とは違う」


伊織「うん。そうね」


P「よし、行ってこい!」



ガチャ



P「伊織?どうだった?」




伊織「……………にひひっ♪」



P「……受かったのか?そうか………良かった」ぽろ

伊織「な、何でアンタが泣くのよ!?」




P「嬉しいからに決まってるだろ………」ぽろぽろ




────先に泣かれたら私が泣けないじゃない。




…………ばかっ。


───この時の私はどんな顔をしてた?


笑ってた?それとも泣いてた?

どっちにしても子供みたいに無邪気だったと思う。

やっと自分のして来たことが認められた気がした。

それが嬉しくて。
そして、自分のことみたいに喜んでるアンタを見て、また嬉しくなった。

活動し出してから、たった2ヶ月そこらで全国のオーデに合格するとは思わなかった。


夢は叶う、夢だから叶う───。


アイツが喜んで泣いたその時。
『大切』なんだって思った。
アイツは私のために頑張ってくれる。
大切にしてくれる。

いつもフィルターに遮られる言葉。
いつか素直に言える日がくるのかしら?

中学生にもなってシャルルを連れ歩く私を可愛いと言ってくれたアンタ。


アンタは残りの三割の言葉の中に隠された気持ちを見つけてくれる?



───この日、私は本当の意味で『アイドル』になれた気がする。


最期のワンフレーズを歌いきり、振り付けを終えるとたくさんのスポットライトが一瞬で消える。

番組スタッフさんのOKの声と共に溜め息を吐いて、ステージを降りた。

スタッフさん達にありがとうございましたと頭を下げながらアイツの元に歩く。

───なんか、こっちを見てニヤニヤしてるのが癇に障る。


伊織「なにニヤついてんのよ、変態!」

P「……え?ニヤニヤしてた?おかしいな……」


伊織「アンタって飄々としてる割に感情が顔に出るタイプね」

P「ははは。昔っから隠し事が出来無いんだよ……」


「伊織、誕生日おめでとう」


P「これ、誕生日祝いとオーデ合格を兼ねたプレゼント」

伊織「あ……ありがと………私の誕生日知ってたのね……」


P「ははは。そりゃ、担当アイドルの誕生日くらい覚えてるよ」


伊織「そ……そうなんだ………あ、ありがと……」


P「なんならスリーサイズも知ってるんだが……」

伊織「───っ!この、変態っ!ド変態!El変態───っ!」ゲシッ

スマンもう、指が動かんずら。
今日はここで投下終了です。

スマホで10時間かけて書いたのに、この量とか、スマホへし折るレベル。

付き合ってくれた人ありがとう。
明日の夜に一斉投下する。

俺は今からあんかけかけてくるからみんなはさっさと寝て明日に備えるんだ。

乙くれた人ありがとう。

本当にオチとか無いから期待しないで下さい。
完結は明日になります、すいません。

みんな地の文だらけでも大丈夫なのか?

では、投下投下ー。


伊織「あら?………アンタ、なんでそんなに顔赤いの?」


P「─────っ!あ、あ、赤く無いし!ほら、帰るぞ!?」



伊織「アンタって……」



私と似てるのかもしれない。


でも、アンタの真っ赤な顔見てたら。
こっちまで顔が赤くなりそうで慌てて視線を外す。


心が引っ張られていく。


照れを隠す背中を追いかけながら自分の耳元でプレゼントを軽く振ってみた。


カタカタと音がしたプレゼント。

カタカタと音がしそうなほど
ぎこちなく歩く私達が少し滑稽でニヤニヤする。


駐車場に着くと、助手席のドアをゆっくり開ける。

どうも、車のドアを自分で開けるのはなかなか馴れなくて苦手。
少し重たいのも、その要因のひとつ。

私がもっと売れたら
もっと良い車に乗り換えるのかしら?


頑張る理由がひとつ増えたのが嬉しい。


ダイヤモンドみたいにピカピカと煌めく街並み。

流れる景色を見てる振り。


ガラスの反射を利用して運転手を見つめる。

少しはこっち向きなさいよ。ばか。

呟くように口ずさんでたのは自分の曲。

ステレオから流れて来てたのにも気付かないくらい
アイツを見つめてたのが恥ずかしい。

誤魔化す様に話しかけると、アンタは優しく返してくれる。

最初に出会った日とは正反対の心地良い空気が車の中に流れる。

たわいもない話を続けた。


この時間を終わらせたく無くて、はしゃいでる振りをして言葉を紡ぐ。

会話の途中で思い出した振りして、新堂にメールする。


[今日は送ってもらうから迎えに来なくて良いわ]


少しでも今日を、長く過ごしたかったから。

そんな想いを言葉に変えたかったけどフィルターが邪魔をする。


「疲れたから家まで送って」


今日くらいは、我が儘言っても………良いでしょ?


家に着くまではひたすら話し掛けた。

一カ月半ほどだけど、大切な思い出達。

出会った頃から始まって、
たくさんの思い出を振り返る。

今日のオーデの話題になった時、車は目的地にたどり着いた。

もう少しゆっくり走ってくれれば良かったのに。

半分、残念に思いながら
もう半分は、また明日も話せる事が嬉しかった。


家の前で、よいしょと車から降りドアを強めに締めると
助手席の窓を開けてアンタが微笑んで言った。



「誕生日おめでとう」



取り残された私は呟く。



「おめでとうなんて……い、一回で充分よっ……」


夜風が赤く染まった頬を撫でる。

ゆっくりと庭を歩きながら考える。

今日ほど庭が広くて良かったと思った事は無い。

浮かれた熱を冷ますには丁度良い距離だったから。


それでも誰かに見つからない様に、こっそりと家に侵入する。

部屋にするりと忍び込むと、冷や汗を拭い、溜め息を吐いた。


なかなかのスリルに妙に興奮した自分を諌めながら、
シャルルとプレゼントを両手に抱えたままベッドに飛び込む。

胸の高鳴りを押さえながら丁寧に包み紙を捲っていくと
紙の箱の中から出てきたのは
ハートに形作られた、ピンク色の小さな木箱。

ジュエリーボックスかしら?

アンタにしてはなかなか良いセンスね。

独り言でもフィルターを掛けるのは忘れない。


ゆっくり木箱を開けるとピン、と金属音が聞こえた。


オルゴール?




金属の鍵盤が奏でるメロディー。




『DIAMOND』だった。


私がこの世界に産まれ落ちてから15年目。

世界は目まぐるしく変わって行った。

順調にトップアイドルに向かって歩いて行く。

たくさんの仕事に日々は追われて。
たくさんのファンに愛されて。

いつも隣りにアンタが居る。

いつまでもこんな日々が続いていく。

そんな風に思ってた。


───この時の私は、移りゆく世界の輝きを疑いもしなかった。



─────次の日。


伊織「あ……お、おはよう」

P「あぁ、おはよう。プレゼント開けた?」


伊織「えっ、あ、まだ開けて無いっ。つ、疲れてたから」


P「そっか…」


伊織「さ、さっさと仕事に行くわよっ!?」


P「おう。今日もやる気がみなぎってるな」


伊織「当たり前でしょ。早く車を取ってきなさいよ」

P「仰せのままに。あ、今日から新曲の練習だからな」

伊織「分かった」



伊織「………」




なんでいつも、事後報告なのかしら………。




驚くタイミングを逃したじゃない。




朧気ながらもトップアイドルという光が見えてきた。


もっと光輝け光。

このまま道標として輝き続けて。


あの日アンタが見つけてくれた石をもっと磨きあげる。


光を放つと信じて。


営業、地方オーデ、フェス。

レッスン、新曲レコ。


そのどれもがいつも新鮮で。

そのどれもがいつも楽しい。




二曲目の初チャートは20位だった。


────いつの間にか季節は過ぎてクリスマス。

世間一般ではもっとも恋人達が盛り上がる日。

そわそわと色めき立つ世界は、
きらきらと飾り付けられていく。

私はそれを車の助手席から、恨みがましく睨む。

どうせ一過性の熱に浮かされてるだけなのに。

クリスマスが終わったら次はカウントダウンに切り替えるんでしょ?

羨ましい気持ちを隠す様に卑屈な言い訳を重ねる。


大切な人が居る女の子なら、胸が弾むんでしょうね。
私だって、小さいけど弾まない訳じゃ無い。


でもアイドルは稼ぎ時。


『仕事』がクリスマスプレゼントなんて
なかなか皮肉がきいてるじゃない?


フロントガラスに映ったのはアイドルのそれとは一線を画す顔。

いっそ、これで売り出せ無いかしら?


巨大なクリスマスツリーのオブジェの前を通り過ぎた時。

モミの木の下で抱きしめ合う恋人達を見つけた。


きっと愛を誓ってるのね。



とりあえず、車を降りたら横で運転してる奴を
蹴りつけてやる、と心に誓った。



────三曲目の初チャートは17位だった。


正月休み。

そんなもん生放送のハシゴで潰れたわ。


やっと、ゆっくり出来たのは一月六日。

久しぶりに夕方からの仕事だったけど、
暇の潰し方を忘れてしまった私は、
昼前には事務所のソファで座ってた。


このソファに座るのは久しぶりかも知れない。

感慨にふけってるとアイツに話し掛けられた。


P「お菓子メーカーからタイアップのオファーが来たぞ」

伊織「あぁ、来月はバレンタインだものね」


P「伊織にオリジナルチョコを考えて欲しいそうだ」


伊織「そう」

P「そう」


伊織「あと、一カ月しか無いわね」


P「明日までに考えて欲しいそうだ」





もう、コイツの話には驚かない事にした。




でも、とりあえず蹴り上げた。


ソファに座り直して、イヤホンが刺さった
MP3プレイヤーを取り出す。


いきなりオリジナルチョコを
考えてくれって言われても。


練習中の新曲を一通り聴いたあと、
何気なくリピートを外すと
懐かしい曲が流れた。





    あ、閃いたかもしれない。


────二週間後。


テレビから私の歌が聞こえてきたから、ちらりと見る。

私が考えたオリジナルチョコレートのCM。


《───キラキラ輝く私の気持ち》


《アナタに届け『DIAMOND』────》


《水瀬伊織のダイヤモンドチョコレート》


最後にお菓子メーカーのロゴが数秒映ってCMが終わった。


P「良いCMだな」

伊織「そうでしょ?」


P「うん。ラメがキラキラしてて可愛い」


伊織「私的には本物のダイヤを入れたかったんだけど」


P「セレブの発想って怖いな」


このラメ入りチョコレートが
女子中高生に大当たり。

CMの洗脳効果か、『DIAMOND』のCDも
売り上げが伸びた。


バレンタインが終わる頃にはチャート上位に
私の楽曲が並ぶという異例の事態。

事務所のみんなが驚いて、喜んで、
お祝いしてくれた。


テレビ局に向かう車中。

なんとなしに、ラジオをつけると
『DIAMOND』が流れる。





《───はい、と言う訳で今週の第一位は!》



《水瀬伊織、『DIAMOND』でした───》

きりの良いところで今日の投下分終了します。
短くてごめん。

今日もありがとうございました。

いおりんの誕生日が終わるまでに終わるはずだったのにな……。

明日完結です。

あと、これの小鳥さん投下してます(宣伝)

【参加型】いおりん誕生祭
【参加型】いおりん誕生祭 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1367684346/)

構想5分の、書きため10分で何の捻りも無いけど。

あと15分だけど、まだ投下間に合うぞ!

遅くなってすいません。

今から投下します。


────そして、物語は現在に追いつく。


伊織「ソロライブ………どこのハコで出来るの?」

P「武堂館ホール。五月五日な」


伊織「………アンタ、バカじゃないの?」

P「あと、さくらテレビのカメラも入るから」


伊織「………訂正する。アンタ、生粋のバカね」

P「あと、四月の四週目にアルバム出すから」


伊織「そ」


P「16曲入りだから頑張って」


なんで、いつも大事なこと程さらっと言うのかしら?

あと二カ月でアルバムをリリースするとか狂気の沙汰じゃ無い。


いつも引っ張られていく。

でも、それが心地良いと思うのはアンタに毒されてる証拠ね。


まぁ、サプライズは大事だと思うけど。


アルバムリリースに向けて与えられた仕事をこなす。
アイドル活動が誰かに何かを与える事が出来るかもしれないのが嬉しい。

素敵な職業。

アイドルになって良かった。
心からそう思える幸せを噛み締めた。

いつかアンタにも何かを与えたい。



レコーディングは15日で終わった。




もちろん手抜きじゃ無い、完璧な仕上がりよ?

家に帰ってからの個人練習も二週間続けたんだから当然の結果ね。


P「おぅ、お疲れ様」

伊織「次の仕事はなんだったかしら?」

P「とりあえずラジオ局に向かう」

伊織「分かった」


P「ラジオ局の中にある喫茶店で雑誌記者の取材もあるから」

伊織「ふぅん。早く車持ってきて?」


一年経てば受け流す様な受け答えも、堂に入ったモノ。

慌てない。驚かない。
いちいち反応してたら疲れるだけ。

でもたまに、大袈裟に驚いた振りをしてあげる。


サプライズも大事よね。

する側も、される側も。



────アイツの誕生日って、いつなのかしら。


聞きたいけど、なんだか気恥ずかしくてはばかられる。

とりえず会話をシミュレーションしてみる事にした。


「アンタって誕生日いつなの?」


「何だ?何かくれるのか?」


「な、何でそうなるのよっ!」




「アンタに何かあげるくらいなら野良犬にでもあげた方がマシよ!」




上手く聞き出せそうも無い。


気を取り直して、誕生日を祝ってみる。

ひとり、ベッドで悶絶した。


バカみたい。


こんなこっ恥ずかしい事をしてるのは、ただ単に暇だったから。

半年振りに丸一日休みを貰ったものの、落ち着かない。


キッチンからこっそりオレンジジュースを拝借する。

別に、誰かに咎められる訳じゃ無いけど。

悪戯をする子供の様な心を忘れないのも大事なこと。
初心忘れるべからずって言うもの。

誰に言うでも無く、言い訳めいたことをひとりごちた。


オレンジジュース片手に家の中をうろついてると、
見慣れた背中がお父様の書斎に入って行った。

見慣れてはいるけれどこの家で見掛けたのは初めてだった。


……なんでアイツが、家に?


契約更新の時は、水瀬の会社に出向いてたし、
契約更新は、もう少し先だったはず。


書斎の前に行こうとすると書斎から丁度出て来た新堂に足止めされた。



「邪魔しないで」


努めて冷静に振る舞う。

新堂は無言のまま、ゆっくり首を横に振った。


「退きなさい」


「今、旦那様は大事なお客様とお話し中で御座います」


「大事な客って………私のプロデューサーでしょっ?」


新堂はただ黙っていた。

肯定と同じ意味でしか無い。


なんで………?
私の、プロデューサーなら私が同席しても良いはず。

むしろ、同席するべきじゃないの?

頭の中で疑問が渦を巻く。

言い表せ無い悪い予感に、まるで早鐘の様な動悸が襲う。


私の関知しない所で何かが動いてる。

私の中で、不安という蟲が蠢く。

絶望に似た何かが、私の心をそっと撫でた。


気持ち悪い。


呼吸すら困難で目の前が遠のいていく。

薄れゆく意識を抑え込む様に何とかその場に踏みとどまる。


全てを振り払う様に強くドアを開けると。


悪戯がバレた時の子供みたいにバツの悪そうな顔したアンタが居た。



「アンタ……こんな所で何してんの………?」



たった、それだけをなんとか絞り出した。


「何で黙ってるの……?」


情けない顔したアイツの胸ぐらを掴んで揺する。


「────伊織、止めなさい」


「お父様は黙ってて!これはコイツと私の問題よっ!」


初めて父を睨みつけた。
どこか冷めたもうひとりの自分が、
アイツの事ならこんなにムキになれるんだって感心した。


「アンタも何とか言ったらどうなのっ!?」


「すまん………」


「何、情けない顔してんのよっ!?」


張り詰めた空気を壊したくて、更に声を張り上げる。


「私に隠してまで、お父様に会いに来たのはどうしてっ!?」


「伊織!いい加減にしないか」


「……お……お父様………」


「お前のプロデュースを彼にお願いしたのは私だ……」


「え………?」


「ハリウッド研修を終えて帰って来た彼なら」

「お前をトップアイドルにするのも容易いと踏んでな」


「ハリウッド……?」


初めて会った時、私はアイツをどう見た?


───頼りなさそうな奴。


  典型的な無能の最たるもんじゃない───。


節穴にも程がある。
見た目だけで相手を見下すなんて最低の行動。

どれだけ自分を恥じても足りない。


「彼は一年でお前をトップアイドルにすると約束してくれたよ」


淡々と並べられた言葉に打ちのめされる。


親の力を借りずにトップアイドルを目指していたつもりだった。

それなのに、知らない所で親の力に頼ってたなんて、
滑稽過ぎて笑えやしない。


自尊心がズタズタに傷つけられる。


同時にこれまでの事を思い出して全てに合点が行く。


一年前のオーディションも。

楽曲も。

新人プロデューサーがすぐに用意出来る訳が無い。

私は自分の力で踊ってるつもりだったけど踊らされてただけなのね。


今の今まで、呑気にはしゃいでた自分を殺したくなる。


もう心はボロボロ、それを表す様に掠れた声が出た。


「私をトップアイドルにしてどうするの?」


「なぁ、伊織………もう、充分満足しただろう?」

「いつまで我が儘を言うつもりだ?」


「……我が儘?」


「あぁ。もうそろそろお前も16歳だ」

「アイドルなんか辞めて結婚しなさい」

「もう、お前に相応しい男を何人かは目星を付けてある」



「私は………私は、アイドルを絶対に止めないわ!」


色んな感情と一緒に涙が一筋流れた。

隠す様に部屋を飛び出し、自分の部屋に駆け込む。

流れ出た感情を、そっと拭う。

色んな感情がごちゃまぜで頭が痛くなってきた。


シャルルを抱き締めベッドに倒れ込むと、
ふと一年前を思い出す。


初めてのオーディション。
結果は惨敗だったけど、あの日から私の世界は動き出した。

たくさんのレッスンをこなして。
たくさんの仕事をこなして。

輝く光に手が届く所まで来てた。
私は遊びでアイドルをして来たつもりは無い。

いつも、真剣に、真摯に向き合ってきた。

でも、いつもアイツに助けられて、誰かに助けられて。
結局、ひとりでは何も出来ない。

自分の無力さを痛感した。


一際強くシャルルを抱き締めた時、部屋のドアをノックされた。

部屋の外からアイツに呼び掛けられる。


「明日はフェスだから、今日はゆっくり休んで明日に備えてくれ」


優しい言葉すら掛けてもらえなかった事よりも。
優しい言葉を期待した自分に失望した。

約束の一年まであと、少し。

知らないうちに溢れ出た涙をぎゅっと拭う。



「明日は最高のパフォーマンスを見せてあげるわ!」


ドアから返事はしなかったけど。
ドアの向こうにアイツが立ってると思う事にした。

限られた時間しか無いなら、やることは決まってる。

たくさんの感情を心の底に隠す。

ファンの皆の声援が元気をくれる事を信じて眠った。


────何かが変わり始めるのは、いつもこの季節なのね。


次の日からは特に何も無かったように振る舞った。

私もアイツも、これからの事には触れない。

ふたりきりになると沈黙が続いた。

フン。少しは心を痛めれば良い。
人の気持ちも考えずに勝手に居なくなろうとしてるんだから。

したたかに生きてこそアイドル。
そう思うようにした。


────私は私。自身という自信。

やれば出来る。やるから出来る────。


辛くなる度、心の中で何度もリフレインする。

あっと言う間に過ぎる日々の中。




私のアルバムは初チャートで一位を取った。




そして遂に私の、ソロライブの日が来た。


設営スタッフが慌ただしくリハーサルの準備をする中。

私は不思議と落ち着いていた。

これが自信と言うやつなのかしら。

何の実感も無いまま椅子に座り、シャルルと一緒に本番を待つ。


時間が気になる訳じゃ無いけどちらりと時計を見た時。


四時間振りにアイツと目が合った。


P「緊張してるか?」


伊織「まさか。この伊織ちゃんにそんな事聞くなんてナンセンスね」


P「トップアイドルの貫禄だな」



伊織「まだ、トップアイドルじゃないわ」



P「………?」




「トップアイドルに成る為に今からステージに立つのよ」



「このライブが終わった時、私はトップアイドルになってるわ」





そう言って笑うと、笑い返してくれた。


「───五時になったので入場門、開けまーす」


本番の時間が近付いてくる。


このライブが終わったらトップアイドル。

そう思うと少し緊張してきた気がする。
シャルルの頭を多めに撫でた。



───────17:58。



「行ってくるわ」


それだけ言うとアイツは優しく笑う。


「あぁ、行ってこい」


ポンと背中を押してくれたのが嬉しかった。



私、アンタが好き。

ライブの本番の時間を待ってる時よりも。

アンタに触れられた時の方がドキドキするわ。



──────18:00。



暗闇に包まれたステージの真ん中に立つ。

飛びっきりの笑顔を作る。



たくさんのスポットライトが私に降り注いだ瞬間。


私は、光になった──────。



─────19:50。


会場全体に響くアンコールが私を呼ぶ。

タイムテーブルの進行に問題は無い。

あと一曲を歌いきれば私はトップアイドル。


汗を拭い、水を口に含む。


「ちょっと」


「どうした?アクシデントか?」


腕を引っ張ってアイツを屈ませ、耳元で囁く。


「───私がトップアイドルになったら」


「アンタに話したい事があるの───」


それだけ言ってステージに向かって歩く。
トップアイドルに向かって、最後の一歩。

ステージに立つとステージ裏は暗くて見えない。

アイツが今、どんな顔をしてるかは分からないけど。


どうせ、苦笑いをしてるんでしょ?



─────Shine Shine Shine I am Diamond。



流れるリズムに身を任せる。

流れるメロディーに心を委ねる。

一秒一秒、光を増して。

一秒一秒、輝く光。

アンタと出会ってから一年。

本当に楽しかったわ。


───心と身体がトップアイドルになっていく。


歌い終わったら、誉めてくれる?

私が欲しがった言葉を掛けてくれる?

アンタがくれた、たくさんのモノ。

その全てがかけがえのないモノ。

私は今、トップアイドルになる。

この先に光が待つと信じて。



Shine Shine Shine I am Diamond──────。







─────11:48。


誰も居なくなったホールの外にアイツを連れ出す。


「お、おい!ファンに見つかったらどうするんだよ」


「皆、もうとっくに帰ってるわよ」


「それはそうかも知れないけど……」


「それで、どうするの?私はトップアイドルになったけど?」


「話しって、これからの事だったのか?」


「そうよ。私のプロデューサーを辞めたらどうするの?」


「また、ハリウッドにでも行こうかな?」

「トップアイドルをプロデュースしたって箔も付いたし」


「アンタ、私が足掛かりだったって言いたいの?」


「ははは。まさか」



「…………伊織、今までお疲れ様。誕生日おめでとう」


小指にはまる程度の小さな指輪を手渡された。

街頭に照らされて頼りない輝く透明の石。


どれだけの恋人達がこの石を永遠の愛の誓いとしたのだろうか。


だけど、アンタが手の平に乗せてくれた指輪は私の左手の薬指には入らない。


生まれて来てからたくさんのモノを与えられて来た。

アンタと出会ってからはアンタが、
たくさんのものを与えてくれた。


だからこそ、これは貰えない。


これは、私とアンタの関係を終わりにするモノだから。





「そんなモノ、いらない」



たくさんの言葉とたくさんの感情が私の口から飛び出したがっている。


「そうだよな……ごめん」


涙と共に出た、次の言葉はたった一言だった。



「好き」


「一緒に居たから好きになった気がするだけだよ」


「…………何よ、それ」

「私から逃げる癖に………」

「アンタに私の、想いを踏みにじる資格なんか無いわっ!」


たくさんの想いとたくさんの言葉が透過していく。

自分勝手で独り善がりで我が儘で自己中心的で心任せで気任せで放逸で破れかぶれな、たった一言。


「アンタの全部が欲しいの」


気づいた時には涙の滴が足下にぽたぽたと落ちていた。
それでも、言葉を紡げずには入れなかった。

一年前の今日とは違う、ここで離れてしまうと全てが終わってしまうから。


「私の事、嫌いなの?」


「嫌いじゃないよ」



「じゃあ、ずっと私と一緒に居なさい」



「せっかくトップアイドルになったのに辞めるのか?」







「アイドルは…………………辞めないわ」





────ふふっ。アンタ、すごく間抜けな顔してるわよ?


「私は我が儘なの。欲しいものは全部手に入れてやるわ」


「夢は叶う。私は叶えた。だからこれからも夢を追い掛けるの」


「アンタと一緒なら出来る。だから私の願いを叶えなさい」



「私のプロデューサーなんだから当然でしょ?」


「ははは……流石トップアイドルだな」


「約束しなさい」


「約束?」




「しっ……幸せにするって」



最後の最後でフィルターが掛かった言葉は互いの唇で塞がれた。



─────23:59。



私が生まれた日が終わっていく。



立夏。

端午の節句。

子供の日。

私の誕生日。

その日、私はトップアイドルになって。

少しだけ、大人になった気がする。


だけど、これからもわがまま言ってアンタを困らせてやるんだから。


これは私だけの特権。

覚悟しときなさい。



にひひっ。



星空の下、ふたりで歩く。


「アンタの誕生日って何月何日?」


「………言わない」


「はあ?なんで誕生日を言うだけなのに勿体ぶってるの?」



「………ご、五月……五日」



「ふぅん…………………………え、私と、一緒なの?」


─────光に向かって寄り添い歩く。


     永遠を誓った約束の石。


      ふたりの未来の象徴。


      DIAMONDが輝き光る。




Shine Shine Shine I am Diamond──────。








           おしまい──────。




くぎゅ~w祝いました。これにて誕生祭終了です。


前夜祭、誕生祭、後夜祭。

3日間伊織の事だけを考えれて幸せでした。


最後は足早になった気もしますが。

では、皆さん長丁場に付き合って頂きありがとうございました。

もう、地の文なんか書かん。

ネタが思いつくまではロムる。では。ノシ

乙くれた人ありがとう。

後日談あるけど投下しません。
色々補完してあるのですが、俺だけの思い出にします。

あと、Pには過労で死んで貰うつもりでしたが誕生祭でする事じゃないなと。

差し替えのせいで完結が遅くなった事をここでお詫びすると共に、ここまで付き合ってくれてありがとうございました。

おまw

だが断る!キリッ

脳内で妄想するのも楽しみのひとつって事で。

>>159で、しょうもないミス有りました。
正解はこちら↓







─────23:48。


誰も居なくなったホールの外にアイツを連れ出す。

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