まどか「グンマー」(81)

ザッ…ザッ…

まどか「さやかちゃん、遅刻しそうだからって山道は危ないよー」

さやか「大丈夫大丈夫、近道だしすぐ着くって」

まどか「……!」

まどか「さ、さやかちゃん! あそこ!」

まどか「イノシシ!!」

さやか「なんだって!?」

まどか「ほら、100mぐらい先の茂みから走ってくる!」

さやか「うわっ! ほんとだ!」

さやか「と、とにかく高いところへ!」

ザザザザザッ

イノシシ「ブルルルッ!」

さやか「も、もう来た!」

まどか「あわわわ……」

さやか「お、落ち着かなきゃ……こんな時は……」

さやか「カバンを顔面に投げて!」

バシッ

イノシシ「ブルッ!?」

さやか「フェイント一個いれて……」

さやか「直角に避ける!」

ザッザザザザザザッ

さやか「はぁ……はぁ……」

さやか「よ、避けれた……」

まどか「さやかちゃん、早くこっちに!」

さやか「う、うん!」

――

――――

さやか「そのあと10分ぐらい木の上に避難してたから」

さやか「もう完全に遅刻ですよー」

マミ「そう……危なかったのね」

まどか「さやかちゃんのおかげで助かったよ、ありがとう」

さやか「冷静になれたのはまどかが素早く見つけてくれたからだよ」

まどか「えへへ」

さやか「ああーでも、武器持ってたら学校にも間に合ったのになー」

さやか「あたしもマミさんみたいにライフルとか持ち歩きたいよ」

マミ「これはマスケットよ」

マミ「まあ、どっちにしろ許可を取らないとね」

さやか「うーん…めんどくさいなー」

まどか「大型ナイフとかも許可がいるからねー」

マミ「刃物でいいなら隣町に行ってみたら?」

マミ「あそこで研修を受ければすぐにでも使えるわよ」

さやか「ないない。 隣町はないですよマミさん」

さやか「今時ツリーハウスですよ?」

さやか「たしか儀式とかやってるんですよ?」

まどか「うん……ちょっと抵抗あるよね」

さやか「県庁所在地が一番!」

さやか「……やっぱり勉強もしないとダメかー」

まどか「ほむらちゃんはもうピストル使えるらしいし」

まどか「わたしもがんばって役に立てるようになりたいな」

――

――――

マミ「ここがイノシシを見つけた獣道ね?」

まどか「はい。 でもマミさん……一人で大丈夫ですか?」

マミ「イノシシの一匹ぐらいならどうとでもなるわよ」

マミ「大人に報告なんかしたら、また"最近の若いもんは"って怒鳴られちゃう」

マミ「大丈夫、任せておいて」

さやか「マミさん頼もしー!」

マミ「うふふ、いつでも頼ってね」


マミ「……この足あとかしら」

まどか「あ、ほんとだ。 結構新しいですね」

マミ「それじゃあ、二人はここで待っててね」

マミ「もしイノシシが来たらこの発煙筒を使ってちょうだい」

マミ「威嚇にもなるし、私がすぐに駆けつけるわ」

さやか「はいっ!」


まどか(あれ? 葉っぱの下に別の足あとが……)

まどか(かすれてよく分からないけど……すごく大きい……)

まどか「……熊?」

まどか「まさかね」

さやか「まどか! こっち見て!」

さやか「ツチノコだ!」

ツチノコ「キュー、キュー」

まどか「ほんとだ。 かわいー」

さやか「よーし! 捕まえて仁美の家に売りつけよう!」

まどか「え!? そ、そういうのってよくないんじゃ……」

さやか「族長に献上して、お礼をもらうだけ」

さやか「ほら、なにも悪く無いじゃん!」

さやか「持つべき友達は族長の娘ってことだね!」

まどか「さやかちゃん……悪い顔……」

ツチノコ「キュッ!?」

ガサササッ……

さやか「あ、逃げるな! まてー!」

まどか「さやかちゃん! 遠くに行っちゃダメだよ!」

さやか「ツチノコォー!」

まどか「……ま、待ってよ~!」

さやか「くそっ! どこ行った?」

まどか「さやかちゃん、もう戻ろうよ!」

まどか「結構奥深くに来ちゃったよ!」

さやか「でも!!」

さやか「仁美のペット死んじゃったじゃん!」

さやか「隣町の虎に食べられちゃったじゃん!」

さやか「だから代わりを……!」

まどか「さやかちゃん」

まどか「戻ろうよ」

まどか「マミさん、心配してるかもしれないよ」

さやか「……うん」

さやか「あ、あれ? そういやここどこ?」

さやか「帰り道どっち?」

まどか「ちょっと待ってて」

まどか「そこの木に登って見てくるね」

さやか「それならあたしが……」

まどか「大丈夫。 わたしにもそれぐらいはできるよ」

スルスル……

まどか「んしょ……っと」

さやか「まどかー、見えるー?」

まどか「うん――――」

まどか「!!!!」

ドサッ

さやか「ま、まどか!? 飛び降りたら危ないよ!」

まどか「あ……あ……」

さやか「大丈夫?」

まどか「ごめ……ごめんなさい……」

さやか「えっ?」

まどか「目が合っちゃった……」

さやか「何と??」

まどか「熊……」

マミ「鹿目さーん! 仕留めたわよー!」

マミ「今日は私の家でイノシシ鍋……あら?」

マミ「美樹さーん?」

マミ「二人共どこに行ったのかしら……」

マミ「あら? これは美樹さんに預けた発煙筒……」

マミ「もしかして別のイノシシが……?」

マミ「すぐに探さないと!」

ガサッ ガサッ

熊「グルル……」

さやか「あ……あわわ……」

まどか「に、逃げなきゃ!」

さやか「熊と山道で追いかけっこ? 無理だよ!」

さやか「高いところにはやく!」

まどか「こ、この辺の木はちょっと細すぎるよ! 折られちゃう!」

さやか「それでも多分一番マシだから!」

さやか「あ、あれ? 手が震えてうまく……」

まどか「さ、さやかちゃん! もう来てるよ!」

熊「グルルルル……」

さやか「く、熊に近づかれたときは……」

さやか「目を合わせたままゆっくり……」

熊「グォオオオオオ!!!」

さやか「ひぃっ!」

まどか「さやかちゃん!」

――パァンッ!

熊「グ……ル……」

ズシーンッ

ほむら「二人共、怪我はないかしら」

まどか「ほむらちゃん!」

ほむら「イノシシに襲われたと言うから探索していたのだけれど」

ほむら「まさか熊が出るなんて……」

さやか「さ、3mもある熊とか初めて見たよ……」

さやか「はは……腰ぬけた……」

ほむら「何言ってるの、2mも怪しいわよ」

さやか「えっ?」

ほむら「熊が威嚇のために上体を持ち上げた時は最大の攻撃チャンスなのよ」

ほむら「熊を相手にする時、一番必要なものは気力」

ほむら「実際より大きく見えるほど怖がってどうするの」

さやか「だ、だって丸腰だし……発煙筒落としちゃったし……」

まどか「ほ、ほむらちゃん。 熊にとどめを刺したほうが」

ほむら「頭を撃ち抜いたのよ?」

ほむら「即死に決まって――――」

熊「グァアアァアアァァア!!!!」

ほむら「え」

ガスッ!

ドシャァアアア…

まどか「ほむらちゃん!!」

まどか「ど、どうしよう……ほむらちゃんが……」

さやか「だ、大丈夫!」

さやか「今のは自分から後ろに跳んでた!」

さやか「肉もエグられてないし直撃じゃない! はず!」

熊「グァアアアアア!!!」

さやか「……て、人の心配してる場合じゃなかっ」

まどか「さやかちゃん!」

さやか(もうダメだ……!)

まどか(熊を相手にする時必要な物は――!)

まどか「た、たぁああっ!!」

ガシッ!

熊「グゥ!?」

さやか「う、うまい! 後ろに飛び乗った!」

さやか「て、まどかあんた……」

さやか「熊相手に関節技仕掛ける気!?」

ギリギリ……

熊「グァアアアア!!」

まどか「きゃあ!」

さやか「危ない! 振り落とされる!」

まどか「はぁ……はぁ……!」

さやか「まどか、やっぱり無茶だよ!」

さやか「いくら熊の首を絞めても体毛と皮の上からじゃ落とせない!」

さやか「いいから早く逃げて!」

まどか「友達をおいて逃げるなんて……」

まどか「そんなこと……絶対できないよ!」

さやか「まどか……」

まどか(あれ? よく見たら……)

まどか(首のあたりに切り傷がたくさんある……?)

まどか「よ、よし……!」シュルッ

熊「グァアアアアアアア!!!!」

さやか「まどか! 逃げてぇー!」

まどか「――ここっ!」

ギュルンッ

熊「グァ!? ……カフッ……」

さやか「リ、リボンで首を!?」

さやか「き、効いてる! 絞まってる!」

熊「カフッ……ガ……ガァアアアアァアア!!」

まどか(上下に大きく揺さぶってくるなら……)

まどか(わたしの全体重をかけて――!)

ギューッ!

熊「……」

ズシーンッ……

まどか「はぁ……はぁ……」

さやか「や、やった……!」

さやか「ま、まどかすごい! すごいよ!」

まどか「まだ分かんないよ……」

さやか「え?」

まどか「さやかちゃん、大きい石を探そう!」

さやか「そ、そっか!」

まどか「ごめんね……」

さやか「仕方ないよ、この森にいるならいつかは駆除されてた」

まどか「……」

まどか「あ、そうだほむらちゃんは!?」

ほむら「う……うぅ……」

杏子「大丈夫だ。 頭を打ったみたいだけど血は出てない」

まどか「あ、あなたは……」

まどか「だれ?」

さやか「うわっ! 上半身裸!」

さやか「隣町の子だ!」

杏子「うるせえ! 今日は狩りなんだからしょうがないだろ!」

杏子「それよりそのハイイロ」

杏子「あんた一人で仕留めたのか?」

まどか「えっと……」

さやか「はいいろ?」

さやか「……ハイイログマ!」

さやか「グリズリーじゃんこれ!」

さやか「まどかスゲーッ!」

まどか「そんな、みんなのおかげだよ」

杏子「……ふーん」

さやか「って、あんたはその槍と盾だけで戦うつもりだったの?」

杏子「もちろん。 まあこれは杖と仮面だけどな」

まどか「杖……仮面……」

まどか「あなたシャーマンなの?」

杏子「見てわかんねえのか? 隣町は変わってんな」

さやか「こっちのセリフだよ……」

さやか「シャーマンねぇ……」

さやか「つーか魔術とかほんとにあるわけ?」

さやか「いまいち胡散臭いんだよねー」

杏子「はあ? 喧嘩売ってんのか?」

ほむら「仮面に描かれた特殊な模様と民族特有の薬品……」

ほむら「それらを組み合わせた高度な催眠術……というのが有力ね」

まどか「ほむらちゃん! 大丈夫なの?」

杏子「もう少し寝ておいたほうがいいぞ」

ほむら「まどか、ごめんなさい」

ほむら「私がもっとしっかりしていれば……」

まどか「ううん、ほむらちゃんが無事でよかったよ」

まどか「あなたも……えっと……」

杏子「杏子だ」

まどか「杏子ちゃんが傷をつけてくれてたおかげでなんとかなったよ」

まどか「ありがとう」

杏子「礼を言いたいのはこっちだよ」

杏子「ハイイロを仕留め損なって逃げられたのはあたしだし」

さやか「……はあ!?」

さやか「ちょっと待ってよ! 全部あんたのせいなんじゃん!」

杏子「……そうだよ」

まどか「わたしはいいよ、杏子ちゃん」

杏子「えっ?」

まどか「今日あったこと、誰にも言わないよ」

杏子「!!」

さやか「な、何言ってんのまどか! こいつのせいで……」

まどか「ダメかな?」

さやか「ダメに決まってんじゃん!」

ほむら「……私は賛成よ」

さやか「なんで!?」

ほむら「今日の事件が知れ渡ったら隣町との関係は一気に悪化するわ」

ほむら「無駄な抗争は避けたいもの」

さやか「だからって……」

杏子「そ、そうしてもらえると……」

杏子「あたしは……すごく助かる……」

ほむら「そうでしょうね」

ほむら「獲物を逃して隣町に被害を出したとなれば」

ほむら「あなた達の法だと……焼印かそれとも……」

ほむら「火あぶりかしら?」

杏子「うぅ……」

ほむら「まどかに感謝しなさい」

杏子「ああ、命の恩人だよ」

ほむら「ええ、本当に」

まどか「そんなぁ、大げさだよ」

さやか「あ、あたしは納得いかない!」

さやか「こんなことがまたあったらどうするのさ!」

杏子「絶対起こらないようにするよ」

さやか「信用出来ない!」

まどか「さやかちゃん」

さやか「なに!」

まどか「ツチノコ」

さやか「う……」

さやか「それを言われると……困るけど……」

杏子「ん? ツチノコが欲しいのか?」

杏子「卵で良ければ今持ってるぞ?」

まどか「へぇー、これがツチノコの卵なんだ。 初めて見たよ」

杏子「まあめんどくさいところに産み付けるからな」

杏子「さやか……だっけ。 やるよ」

さやか「……」

さやか「……分かった」

さやか「まどかに免じて、許してあげる」

杏子「そっか」

まどか「えと……仁美ちゃんには」

さやか「お金とか冗談だって。 タダであげるよ」

熊だったもの「」

杏子「じゃあこれは持って帰るよ」

まどか「またね、杏子ちゃん」

さやか「来なくてもいいよ、来てもいいけど」

ほむら「ツチノコだけで貸し借りなしとは思わないことね」

杏子「分かってるよ」

杏子「借りは今度、ちゃんと服を着て返しにいくよ」

まどか「そういえば半裸だったね」

ほむら「他人が出してる分は一瞬で慣れるわね」

杏子「と、とにかく!」

杏子「またな!」

さやか「あー疲れた」

まどか「ほんとだねー」

さやか「でもさ、これで本当によかったの?」

ほむら「杏子を逮捕、通報して謝礼金をもらう手もあったけど」

まどか「やっぱり……良くないと思うな」

ほむら「そうね、拳銃だけじゃ逮捕もできず返り討ちに合う可能性のほうが高いわ」

さやか「……まじ?」

ほむら「グリズリー相手に一人で来たのよ?」

さやか「うーん……」

まどか「大丈夫、杏子ちゃんはいい人だよ」

さやか「なんで?」

まどか「えと……な、なんとなくだけど」

ほむら「杏子は……私たちの記憶を一日消すぐらいならできると思うわ」

さやか「え?」

ほむら「それを交渉の道具にも使わなかったということは」

ほむら「とりあえず、信用しても良いんじゃないかしら」

さやか「……そうかな」

……ピシッ パリン

キィキィ!

まどか「わっ!?」

さやか「あ! 生まれた!」

……ペタン

ほむら「まどか?」

まどか「あ、あはは……今頃震えてきちゃった」

さやか「……しょうがない、肩貸してあげる」

まどか「さやかちゃん大丈夫?」

さやか「大丈夫! さっきまで腰抜かしてたけどね!」

ほむら「私も大丈夫よ」

ほむら「さっきまで脳震盪を起こしてたけれど」

まどか「……なんかみんなボロボロだね」

アハハハハハ…

ズルズル…

杏子「ハイイロとって帰ったぞー」

住人「ンーバンバンバ!」

杏子「ん?」

杏子「ンーババンーバ?(どうした? 戦闘用言語なんか使って)」

住人「ウッホハハッフー!」

杏子(侵入者を捕まえた?)


マミ「うぅ……イノシシ……あげたのに……」

おわり

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