爽「こんにちは桧森さん」 誓子「……こんにちは」 (149)

ID:4u8qzBIT0の代行

 
誓子「今日も入部者ゼロ?」

爽「隣のクラスにも声かけたんだけど、てんで駄目だった」

誓子「大変だね」

爽「まったくもって」

誓子「私も獅子原さんと違うグループにそれとなく聞いてみたよ。ダメだったけど」

誓子「一年生の私達が先輩方を誘うってのも変だし……」

爽「……予選申し込みの締め切り明日までか。こりゃ詰みかな」

誓子「最悪名前貸してくれるだけでもいいんだけどね」

爽「それは後々めんどくさいことになるだろさ」

誓子「個人戦は? 結局どうするの?」

 
爽「理事長は個人戦で全国へ行ったとしても、金を出してくれないんだと」

誓子「獅子原さんの説得にも応じないとは……さすがだね」

爽「部として動いてるわけじゃないからあちらにも言い分があるのさ。現時点で同好会ですらない」

誓子「でも全国に行ければ、後援会ができて遠征費用も貰えそうだけど。それだけすごいことだし」

爽「怪しいもんだ。こんなテーブルゲームの大会なんてと思ってる奴が大半だしな」

爽「それに、学校の金で東京に遊びに行くってのが最高に面白いんだよ」

誓子「性格悪……」

爽「そんなこと、桧森さんならご存知でしょう?」

誓子「……何その口調」

爽「学年主任の真似」ハハハ

誓子「似てない」

ちかちゃんの錨みたいな睫毛みょんみょん

爽「さて……、なにする?」

誓子「二人麻雀はいやだな」

爽「オセロやる? 昨日の戦績12-1の続きを」

誓子「……」ムッ

爽「ごめんごめん、そんな顔するなよ。では、昨日発掘したこれは?」

誓子「将棋? できるの?」

爽「駒の動かし方なら付属の説明書で読んだ」

誓子(これなら……いけるかも)

誓子「いいよ」

爽「これってどうやって先攻後攻決めるの?」

誓子「『歩』を五個持って表裏(『歩』か『と』)を決めて振るの。多かったほうが先攻」

爽「詳しいんだね」

誓子「ま、まぁね」

 
爽「で、先攻後攻どちらが有利なの?」

誓子「先攻微有利とは言われてる。誤差の範囲らしいけど」

爽「へー、じゃあ先攻欲しいなー。……歩でいい?」

誓子「うん」

爽「よっと」ジャラ

誓子「全部歩……」

爽「はいどうぞ。たぶん私が先攻になるだろうけど」ニヤニヤ

誓子「わからないでしょそんなの」ジャラ

誓子「……全部『と』って……」

爽「勝ったかな?」

誓子「……」


誓子(私はこの人が苦手だ)

 
……回想、四月某日


 「えーでは、学年委員は桧森さんで」

誓子「ほ、本当に私が、ですか?」

 「クラスの半数以上が桧森さんに推薦を出したので、ここでどなたかの反対がなければ……」

シーン

誓子(押し付けじゃないこんなの……)

誓子「あ、あの! こういうのは獅子原さんのほうが適役かと……」チラ

爽「あーごめん、私責任持って何かするってのはホント無理なんだ」

誓子「そんなこと……」

爽「クラスの代表者は成績優秀者の桧森さんが適格だと思う。『顔』の人間が優秀だとクラス別での対応も変わってくるしな。先生達が贔屓にするんだ」

爽「それに、桧森さんは容姿端麗という言葉が似合いすぎる。そんな素晴らしい人には是非私からもお願いしたいな」

誓子「~~っ」

誓子(ず、ずるい!)

 
爽「もちろんできない事情があれば無理強いはしないけど、やってくれるのであれば私達もフォローに回れるよう協力するよ」

……パチパチパチ

誓子(こんな状態で断れと言う方が無謀だよ……)

誓子「……わかりました。引き受けます……」

パチパチパチ

爽「ありがとう桧森さん」ニコニコ

誓子「みなさん、よろしくお願いします」ペコリ


そのときは、少し口が達者な普通の子だと思ってた。

違和感を覚えたのはそれから二週間後だった。

>>10
気になったんだけど
振り駒って一人だけが五枚振って、
と金が多ければ相手が、歩が多ければ自分が先手を持つってルールだよね?

違う作法もあるのなら俺が知らないだけだけど

 
ワイワイ

爽「昨日やってた映画見た? あれさー」

アーミタミター オチガクソダヨネー


誓子(やっぱり私よりも獅子原さんのほうが適任だったと思う。いつもクラスの中心で、会話も上手だし、……面白いし)

誓子(あんなこと言って……いや確かに手伝ってもらってるけどさ。何か腑に落ちないんだよね)

 「桧森さん、次の授業生物室だよね。もう行かない?」

誓子「あ、ごめん、実は提出用のレポート終わってなくて。もうちょっとで終わるから待っててくれない?」

 「いいよ。珍しいね、桧森さんがレポート忘れるの」

誓子「昨日年下の子に勉強教えててね、それで完全に忘れてて。ってこれ言い訳になっちゃうね」アハハ

 「その子いくつなの?」

誓子「ん、一つ下。来年ここ受けに来るよ」

 「楽しみだねー。妹分みたいな感じかな?」

誓子「そんな感じ。結構付き合い長くて──」ッ!

 「??、どうしたの?」

>>20
自分がやってたのはこういう方法だったので、ちゃんとしたのは違うかもです
補完よろしくお願いします><

 
誓子(今獅子原さんに見られていた……気がする)

爽「……」チラ

誓子「!!」

誓子「や、やっぱり生物室でレポート作るよ。もう行こ」

 「私は、待ってても大丈夫だけど」

誓子「ほらほら早く」グイ

誓子(さっきまでみんなと談笑してたのに、私を見た時だけ無表情になった)

誓子(…………なんか変、それまで笑ってたのが嘘だったみたい)

誓子(気持ち悪い)


………………


…………

 
現在


爽「敵陣侵入したら裏っかえるんだよね」

誓子「そう」パチ

爽「はい『と金』参上。……今何か考えてた?」パチ

誓子「五手先まで読もうとしてた」

爽「すごいなぁ。私は三手先が限界だよ」

誓子(初めてでそれは充分すごいけど)

誓子「……」

誓子「……あれ?」

爽「どした?」

誓子(これもしかして詰ませてるのかな)パチ

爽「……もしや詰み、かな? おーい桧森さん」

誓子「少し黙ってて」ウーム

爽「はいはい」

誓子「どうかな」パチ

爽「………………負けました」

誓子「よし、一勝!」グッ

爽「可愛いな」

誓子「へ?」

爽「普段はそういう表情出さないじゃん。真面目ちゃんオーラ出して殻被っちゃって」

誓子「獅子原さんにだけは言われたくないんですけど」

爽「同属だからなぁ。違う?」

誓子「断じて違う」

爽「へー、じゃあ『成香ちゃん』の前だとどんな風なのか知りたいな」

誓子「……! あんた!」ガタ

爽「怒るなって。なんもしてないから。するつもりもないし。そう決着したろ」

 
誓子「お願いだからあの子には何もしないで」

爽「だからしないって。しつこいな」

誓子「せっかく私が麻雀部に入部して部員集めまでしてるのに……」

爽「ほんと桧森さんは被害者意識強いなぁ」

誓子「脅したのはそっちでしょ」

爽「うーん、なんでこうなんだろ……。あーもう悪かったって。ごめん!」

誓子「……………」プイ

爽「とりあえず、もう一戦やろう。次は私が勝つけど」

誓子「は?」

爽「桧森さんがビビって逃げ出したいと申すなら、無理強いはしませんが」

誓子「絶対負けないから」

爽「ふふふ。先攻もらうぞー」ジャラ

 
……回想、一ヶ月前

時折、獅子原爽の存在を視界の外から感じながらも、何事もない日々を過ごしていた。

だけどある日の夕方、決定的な事件が起きた。


誓子(委員会議すごい長かった……。みんな帰っちゃったかな)

誓子(あ、帰りが五時以降になる時はクラス見に行って、誰か残ってないかチェックするんだっけ)

誓子(…………誰が考えたんだろこんな決まり)

誓子「さぼっちゃおうかな」


…………


誓子(結局来ちゃった。私って真面目すぎるかも)

スッ

誓子「!!っ」バッ

誓子(獅子原さん!?)

 
爽「……」カリカリカリ

誓子(ノート? すごい集中して書いてる)

誓子(気づかれてないしこのまま帰っちゃおう)

ガタン

爽「!っ、誰だ?」

誓子(うわー! なんやねんこの建て付けの悪いドア!)サササ

誓子(なんとか隣の教室に逃げ込めたけど……どうしよどうしよ~)

誓子(このタイミングで出たら見つかっちゃうよね、廊下の曲がり角まで20メートルぐらいだから……)

タン タン

誓子(やばいやばい近づいてきた!)

誓子(南無三!)ガタ


 「爽~」

 
爽「なんだ揺杏かー」

 「おーす。あんまり遅いから迎えに来たぞ~」

爽「つか、どうやって学校入ったんだよ」

 「裏のフェンス乗り越えてきた」

爽「見つかったらやばいやつだよそれ。名前覚えられたら来年うち受けらんないぞー?」

 「そこは、熱心なキリスト教徒です礼拝堂みせてくだち~とか適当なこと言えば許されるっしょ~」

爽「さすがは私の手先一号だ。でも絶対私の名前出すなよー? 目え付けられたくないからな」

 「手先じゃねぇしぃ」

爽「ちょっと待ってて。すぐ帰る用意するから」

 「ほいほい」


誓子「……っ」ドキドキ

誓子(飛び出して逃げなくて良かったー……)

 
爽「おっし帰宅帰宅ー」

 「うぇーい」



誓子「今の知り合いの子なのかな」

誓子(それにしても、あんなに集中してる獅子原さん見るの初めてだったな。何書いてたんだろ)

誓子「うわ、すごい机綺麗」

誓子(ん? ノート入ってる……。忘れていったのかな)

誓子(……いや、見ちゃ不味いよ)

誓子「…………」

 
誓子「……」

誓子「気になる」

誓子「だって表紙に何も書いてないし、使い込んでるし」

誓子「ちょっとぐらいならいいよね」

パラパラ


誓子「なにこれ」

誓子「なんでクラスの子の名前と、性格と、か、家族構成?」

 
誓子(〇〇△△子、笑いには敏感で会話の中心になりたがる。ゴールデンタイムのドラマは全て視聴している。
   両親と弟の四人家族で家庭内は特に問題はない。学力は「やればできる」タイプ。友人関係は──

パラパラパラ


誓子「……全員分ある」ブル

誓子「あの人絶対おかしい」


タッタッタッタ

 「おーい爽どうしたんだよー」

誓子「!!!」ビク

爽「忘れもん!」

 「明日でいいじゃんかー」

爽「大切なもんなんだ! あ、いや、宿題だよ」

 「私も探すぞ~。どんなやつ?」

爽「いやいい。すぐ見つかるから廊下で待ってて」

ガラ


爽「……ない」

 「爽~」

爽「…………」

爽「揺杏がここに来る前廊下で誰かに会ったか?」

 「いや? 奇跡的に誰とも遭遇しなかったけど。なんで?」

爽「じゃあ、私を驚かせるためにそこの引き戸を鳴らした?」

 「???」

爽「わかった。了解。なるほど。そうか。…………ここから離れて3分も経ってない。廊下は誰とも遭遇なし」

爽「隣の教室にでも隠れていた……? なんでだ? 見つかってたのか? 知られていた?」

爽「私の、」


掃除用具入れ「…………」


爽「あそこか」

誓子「!!」

 
爽「……」ピタ

爽「揺杏、先に下駄箱まで行ってて。探しものは見つかった」

 「なんで一緒に行かないんだよ~」

爽「私が呼んだと思われるだろ? この学校じゃ品行方正で通ってるんだ。な、頼むよ」

 「ちぇー。もう迎えに来てやんないからね~」

爽「後でザンギ買ってやるからヘソ曲げるなって」

 「それならいいよ」



爽「行ったか」

掃除用具入れ「……」

爽「そこにいるのか?」


誓子「……」ドキドキドキドキ

 
爽「もし中を見てなくても『見てません』とか言わなくていいぞ。信じないから」

爽「今自分から出てきたら何もしない。そっちから見えてないだろうけど、私は今何も持ってない」

爽「少し話があるだけだ」

誓子「……」ドキドキ

爽「おい聞いてんのか? 出てこいっつってんだよ」

誓子(ひぃぃ)

爽「…………お前、××か?」

誓子(ち、違うけど)

爽「今日はソフトボール部があったはずだ。××はいつもこの時間まで残って練習してた」

誓子(ごめん、××さん)

爽「そういえば、妹いたよなあ。8歳で確か学童通ってる。迎えに行かなくていいのか?」

誓子(い、妹……?)

爽「あのあたりは日が沈むと不審者が沢山出るそうじゃないか」

誓子「……」

 
爽「通学ルート知ってるぞ私」

誓子(こいつ……)

爽「…………もういいや」


爽「開けるぞー」

誓子「……!」



 「おい君」

爽「ん?」

 「まだ残ってたのか。もう暗いから帰りなさい」

爽「すいません、探しものをしていて……」

 「見つかったかい?」

爽「この中に」

 
 「用具入れに?」

爽「はい」

 「開けないのか?」

爽「…………そうですね」ガ

誓子「……っ」ドキドキドキドキ

キイィ

爽「…………?」

掃除用具入れ「」カラッポ

 「どうした?」

爽「んーいや勘違いだったみたいです」

 「?……、そうか。探しものはもういいかい?」

爽「ええ。大丈夫です」

 
誓子(よかった……、掃除用具入れの扉きっちり閉めといて……あっちにいると思ってくれた)コソコソ

ヒュオオ

誓子(二人共早く行ってくれないかなぁ。ここ……)

誓子(三階の窓の外だから、その、すごい怖い……!)


爽「さようなら。見回りご苦労様です」

 「気をつけてな」


誓子(行ったかな?)コソ


 「ん? 窓の鍵が開いてるな……」カチャン


誓子(えええ~~!)

ビュオオ

誓子「……ふぇぇ」

 
一時間後

誓子(木から降りれた……助かった……)

誓子(木に掴まったのなんて何年ぶりだろ……)

誓子(そんなことよりも)

ピッピピピ

誓子(連絡網で番号知ってて良かった)

プルルルル プルルルル ガチャ

誓子「あ、あの! ××さんのお宅ですか? 夜分遅くにすいません、あ、私、同じクラスの桧森と申します」

誓子「妹さんは──、ああ良かった……。え、っと……さっき不審者が出たと聞いて……、そ、そうです」

誓子「私昔から変に勘が良くて……はい、無事なら全然、はい、大丈夫です、──いえいえ、ありがとうございます」

ピッ

誓子(なんで妹のこと知ってるのか聞かれなくて助かった……。それにしてもこれ)チラ

パラパラ

誓子「あった、『桧森誓子』」

 
桧森誓子、学年委員会所属、入学テスト得点最優秀者。控えめな性格だが友人は多く、知る限りでは陰口の対象になったことはない。
家族構成は不明。友人関係はグループBに所属。他クラスの人間との関わりも若干だがある模様。
「なるか」と呼ぶ人間と親しい。出身中学校を調べた結果、おそらく◯◯中学校の三年A組に在籍する本内成香であると思われる。
※桧森は表情口調にいくつか不審点があり、軽度のサイコパスの疑いがある。同属の可能性があるため、会話の際は十二分に気をつける。



誓子「え……なるか?」

誓子「なんでなるかのこと知ってるの、なんで……」

誓子「…………この人おかしいよ。なに、サイコパスって。一緒にしないでよ……!」

──、

誓子「彼女はいつもクラスの中心にいる。心を掴むのが上手で、クラスのみんなが彼女の味方で、」

誓子「何? 何のために」

プルルルル 

誓子「!!っ」ビクッ

 
誓子「知らない番号……」

ピ

誓子「も、もしもし?」

 『よう』

誓子「……獅子原さん、なんで」

爽『「なんで私にかけてくるのなんでバレたの」か?』

誓子「……」ギリ

爽『そりゃあ××に聞いたんだよ。「誰か妹の安否について電話を掛けてくるかもしれないから、もし掛かってきたらそいつの名前教えてくれ」って』

誓子「!、……そう」

爽『読んだんだろ?』

誓子「なんのは、」

爽『どうだった? 明日クラスの朝礼でその変態ノートをぶちまける気にでもなったか?』

誓子「……変態だって自覚してるんだ」

 
爽『客観的に見ればそうだろう。だけど私にはそれは必要なものなんだ』

誓子「家族構成やら友人関係を知ることが?」

爽『今更言い訳してもしゃあなし。というわけで明日またお話しよう』

誓子「待って! なんで、なるかのこと知ってるの!?」

爽『書いてあるだろ。調べたんだよ』

誓子「調べたって、いつ、私一度もあなたになるかのこと喋ってない……!」

爽『それも含めて明日話すから』

誓子「明日の朝、みんなの前で公表するとしたら?」

爽『それはない。……成香ちゃんは猫が好きなんだっけ? じゃ』ピ

ツー ツー

誓子「…………なんとかしなくちゃ」

 
その次の日

オハヨー ウイー

誓子「獅子原さん、ちょっと」

爽「おはよう。すごい隈だけど、ちゃんと寝てる?」

誓子「昨日の件」グイ

爽「ここで? 馬鹿言うなよ。昼に食堂でいいだろう」

誓子「……」スッ


 「爽なんかやらかしたのー?」

 「桧森さんすごい顔してたよ。謝りなよー」

爽「ちょーっとあってね。どっちが悪いってわけじゃないから」

 
◇◆◇◆◇◆

食堂

爽「おまたせ」

誓子「……」

爽「それじゃあ……何から話そっか」

誓子「なるかに近づかないで」

爽「なぜ?」

誓子「何もしないで」

爽「君になんの権限があってそんな指図をする?」

誓子「お願いだから」

爽「なーんか勘違いされてるから説明させてもらうと……あれは趣味みたいなもんだよ」

誓子「人間観察だと言いたいの?」

 
爽「そんなところかな。人間観察ってのがイマイチどんな趣味か知らないけど」ハハ

誓子「笑い事じゃない」

爽「……疑問に思うんだけどさ、なんでそんなノートにびびってんの?」

誓子「だってこれおかしいじゃない。一人一人調べあげて、まるで弱みを握って……クラスを掌握しようとしてる」

爽「そういう発想って変じゃないか?」

誓子「ふつうは、そう思う。絶対に」

爽「いや違うな。桧森さんの普通は世間一般の普通じゃない。異常。私と一緒」

誓子「違う!」ダン

爽「じゃあそのポケットにしまい込んだ凶器はなに?」

誓子「!!」

爽「自分の敵は排除するって思考回路やばくない?」

誓子「違──これは、」

爽「何が違うんだよ桧森さん」

 
爽「話し合いに凶器持ってきちゃうのは不味いよなぁ。とにかくテーブルに出して」

誓子「……」

爽「早く」

誓子「っ……」カチャ

爽「ハサミか。筆記用具に入ってたカッターじゃないあたり、もし見つかっても偶然ポケットに入り込んで、発作的にハサミで殺しましたと計画的犯行とは考えづらい、かもな。カッターは少し分が悪いから」

誓子「殺すなんて、そんなこと考えてない……っ」

爽「あっそう。じゃあ話を戻そう。ノート、なぜあれをそんなまるで悪魔の道具のように悪く言う?」

誓子「それは……」

爽「具体的且つ客観的な視点からの説明を頼む」

誓子「だ、だっておかしいもん。友達だったらあんなノートは必要ないし、気持ち悪いし……」

爽「はァ……。それは説明じゃなくて感想だよ。感情論抜きにと言われ言葉が詰まるなら、──」

誓子「だったら! ノートをクラスのみんなの前に出されてもそんなふうにヘラヘラしていられるの!?」

 
爽「誰だって人には言えない秘密がひとつやふたつ、あるだろ? その一つだよ。君に人情があるなら秘密にして欲しいのだけれど」

誓子「あれは……隠したままでいていい物じゃない」

爽「これじゃあ埒明かないな。君の望みはなに? 何をして欲しいの?」

誓子「なるかを調べたり、会わないで欲しい」

爽「会ってない」

誓子「だって昨日、『なるかは猫が好き』だって」

爽「女の子の大半は猫が好きだろ。適当だよあんなん。ほら、もう調べないし会わない。何もしないからノートを返してくれ」

誓子「でも……」

爽「お前……もしかしてそれをタネに強請るつもりか?」

誓子「そんなことしない!」

爽「じゃあなんなんだよ。もうこれからそんなノート作んなって言いたいの?」

誓子「そう。普通に生活して欲しい。こんなことはやめて。ただの趣味ならできるでしょう?」

 
爽「それはなに? 学年委員としての余計なおせっかい?」

誓子「そう受け取ってもらっても構わないよ」

爽「…………今わかった。直感だろうそれ」

誓子「??」

爽「『普通』はさ、あのノートをみたらこう思う『獅子原さんは影で友達をこんなふうに思ってたんだ気持ち悪ーい』そしてノートをみんなの前に出されて私は社会的に死んで終わり」

誓子「普通って……」

爽「少し黙ってろ、私も頭にきてんだ。で、いいか、君はこう思ってる『こいつを野放しにしておくと死人が出る。理屈ではなく直感がそう訴える』んだって」

誓子「……」

爽「本の読み過ぎか、もしくは『軽度のサイコパス』か。ネガティブで破滅的な思考の飛躍はその兆候なんだよ」

誓子「だから、私は、」

爽「『普通』はな、敵だと思ったらハサミ持ち込んで最悪相手を刺し殺して、殺害後の自分の処遇を考えるやつは稀にいても本気でやるやつなんてそうはいない」

爽「君は違う。明らかに殺意はあった。それが無意識にしろ、本内成香を守るためならなんだってやる女だと証明された」

誓子「……っ」ウル

 
爽「人を散々異常者扱いされたついでに言わせてもらうと君も『おんなじ』だよ」

誓子「わたしは違う」ポロ

爽「同じだ。だからこんなしつこく噛み付いて、正義面しててめぇの独善押し付けしようとしてる」

誓子「ちがうっっ!!!!」

爽「そのうち『成香ちゃん』に教えてやるよ、あんたの本当の姿ってやつを、


カチャンッ

爽(こいつ、フォークを!)

ドス

 
ガタン

爽「……危ねえなクソっ(鞄なかったら死んでたぞ……)」

キャー!!

爽「誰か助けてくれ!! こいつフォークで私を刺し殺そうとしてきた!!!」

誓子「……」スッ

爽「マジ? 二発目!?」

爽(こいつホンモノのキチガイじゃねーか──!!)

ガシ

 「抑えろ。暴れるな!」

 「先生呼んでー! 一年生の女の子が──」

爽「ふー。危なかったァ」

誓子「……っ」ハァーハァー


爽「これで退学だな。グッパイ桧森誓子」

 




 「このままじゃ退学だぞ? 何かあったんだろ? 黙ってたら君が悪いことにされてしまう」

誓子「……」

 「もう少ししたら君の親御さんが学校に着く。その前に少しでも先生にどんなことがあったか教えてくれないか?」

誓子「……」

 「桧森頼む」

コンコン

 「はい」

爽「あのー」ガチャ

誓子「っ、」

 「ごめんな、今は当人同士は会わせないようにって言われてるから、用があるなら後にしてくれないか?」

爽「さきほどの件、私にも非があります。そのことで少し桧森さんと話し合いたいんです」

 
 「しかしなぁ」

爽「あと二人っきりにしてもらえませんか? 大事な話なので。これで桧森さんの今後が決まるんです」

 「いいのか桧森」

誓子「……はい」

 「親御さんが来るまでな。……本当に立会はダメか?」

爽「お願いします。女同士で話したいんで」

 「わかった。物音がしたらすぐ入るからな」


バタン

爽「さっきぶりだね桧森さん」


爽「第二ラウンドだ」

 
誓子「私が退学して終わりで、それでもういいじゃない」

爽「ああ、ノートも君の鞄から回収したしな。これで形勢逆転だ」

誓子「……」

爽「本当に退学でいいのか?」

誓子「いい」

爽「……じゃあ本音を言わせてもらうと、私は君が怖い」

誓子「怖い?」

爽「さっき本気で殺そうとしてたろ」

誓子「してない」

爽「嘘つけ、一発目は頸動脈狙いで、外したら二発目まで繰り出しやがった。殺意無かったらあそこで我に返ってから顔覆って大泣きするよ。女の子なら」

爽「だからね、退学になったら私をいつか殺しに来るんじゃないかって思ったんだ」

誓子「しないから」

爽「信用ならんね」

誓子「もし私があなたに殺意があっても、退学になろうがなるまいが関係ないと思う」

爽「ある。クラスメイトという接点がなければ私の管理外になってしまうからだ」

誓子「……やっぱりあれはそういうノートなんだ……」

爽「自衛手段だよ。芽は予め潰すんだ」

誓子「……私はもういいよ。もうこの学校にいないほうがいいんだ」

爽「自罰的というかなんというか。敵をぶっ殺すけど自分も死にたがるのか。ふーん」

爽「……成香ちゃんに示しつかねーぞ。来年この学校に桧森さんと一緒に通うの楽しみにしてんだろ? こんなくだらないことで無駄にしてんじゃねー」

誓子「そんなの関係ないじゃない」

爽「ないさ。でも無駄に不幸な人間が増えなくていいんじゃないかな。私はそう思うけど」

 
誓子「意味分かんない。さっきはわざと挑発してきたのに」

爽「本気で退学させようとしたのは事実だ。でも、桧森さん泣かなかったから」

誓子「泣く?」

爽「今も。焦りも泣き喚きもせず、冷静すぎる。だから変わった。助けてやるよ」

誓子「あなたの助けはいらない」

爽「ボケが…………桧森さん、退学にはならないよ」

誓子「……」

爽「まず初めに私は怪我をしていない。次に桧森さんは超のつく優等生。最後にあの場で会話を聞いてた人間が他にいない」

爽「教諭に何言われたか知らないけど、退学はありえない。入試テスト最優秀者が、こんなことで退学? 悲観しすぎだっつうの」

爽「だがもし、私の助け断ると言うのなら……、事件の真相にあることないこと金魚のクソみてぇにくっつけ流して最悪の三年間を過ごさせてやる」

誓子「結局脅すんだね」

爽「成香ちゃんもそれを知って幻滅するだろうなー。今まで慕っていた誓子姉様が実は……って。あーかわいそ」

誓子「……」ガタ

爽「おいおい」

 
爽「待てよ。ここで冷静になれ。本物の殺人者だけにはなるな」

誓子「何がしたいのあなた」

爽「このままじゃ学校で孤立する桧森さんを、今までとほとんど変わらない生活に戻してやる」

誓子「そんなの無理だよ。もうみんな私に近寄ることなんてない」

爽「今までの蓄積全て無視したらな。だけど、桧森さんに対するクラスの評価知ってる?」

誓子「読んだよ」

爽「あれは武器だ。君は無自覚にマインドコントロールできるレベルの人格者だった。それに私の立ち回りが加われば、より信頼を得られる」

爽「今回の件で見方によっては人間らしい一面が出たってわけだ。桧森誓子も喜怒哀楽はある。それって親しみやすいってこと」

爽「そうすりゃ今まで通り、いやそれ以上にこの学校生活を謳歌できるよ」

誓子「……本当に?」

爽「ああ」ニコ

 
誓子「…………」

爽「これでも即答しないのか。本当に変わったやつ」クス

誓子「た……ただじゃないんでしょ」

爽「まーね」

誓子「代わりに何をして欲しいの」

爽「麻雀部に入れ」

誓子「麻雀部って、今無かったと思うけど……」

爽「ボードゲーム部を潰して部室をもらう。あそこは幽霊部員が六人いるだけで実質廃部状態なんだ。あとはどうしようもない不良のたまり場になってるな」

爽「……そいつらにはタバコが見つかり退学、という筋書きで退場して頂こう。これでいける。な?」

誓子「それで? あと三人いないと部には昇格しない」

爽「見つかるだろ。私と桧森さんの求心力があれば」

爽「以上。あとは私の口裏に合わせて行動してくれ。みんなの前で和解して自然に仲良しアピール、あとは私が説明する。それと桧森さんは泣き真似でもして欲しいな。加害者で無表情は心象が悪い」

誓子「……善処する」

爽「…………うん。『なぜ麻雀部?』って訊かないの?」

誓子「興味ないから」

爽「絶対あとで訊いてくるぞ。なんでだろうって気になってさ」

誓子「訊かない」

爽「何を隠そう私が麻雀をやりたいからだ」

誓子「自分から言い出したし……。しかもまんま。はぁ~……もうやだ」

爽「ふふふっ。そういうリアクション好きだよ。……そろそろ時間だな」

爽「じゃあまたな。桧森副部長」

ガチャ バタン

誓子「…………なるかは麻雀打てるかなあ」ギィ

 
………………

…………

現在


誓子(何が『私と桧森さんの求心力があれば』なんだか。一人も集まらないじゃない)

誓子「王手」

爽「…………参りました」

誓子「2-0……。ふふ」ガッツポ

爽「勝てねーつまんねー」

誓子「もうやめる? 私の圧勝で終わってしまうけど」

爽「いやあとラス1。これで勝ったら三勝分な。勝利数が多いほうがハーゲンダッツ奢られ権ゲットで。ではダイスロール」

誓子「……っ、べ、べつに構わないよ。負けるはずないから」

爽「また私先攻だ」ヘヘヘ

誓子「『それ』は強いね」

爽「……お、今すげーイラッとしたゾ……。絶対勝ってやるからな」

 




誓子(盤面の形勢は私がちょっと有利、かな)

爽「うーむ」

誓子(一局目よりも先が見えた打ち方をしている)

爽「桧森さんは強いね。昔やってたっぽい」パチ

誓子「ちょろっとね」

誓子(それでも知識の差がある。この局も私の勝ち。ハーゲンダッツは貰った)

爽「……将棋ってさぁ、なんで相手の駒取ったら自分の駒にできるんだろうね」

誓子「……さあ」

 
爽「チェスは重ねたら消えるのに。さっきからそればっかり考えてた」

誓子「西洋と東洋の解釈の違いじゃない」パチ

爽「日本だって戦争で捕虜にしても戦場には送らないだろー。味方が背中切られちゃうからな」

誓子「……」

爽「だから私はこう思ったんだ。将棋は盤上の戦争ではなく、」

誓子「ちょっとストップ」

爽「なんだよ語らせてよ」

誓子「そうやって私の意識を散らして有利に盤面運ぼうって算段でしょ」

爽「違うけど……いいじゃん別に。大金の掛かった勝負じゃないんだし」

誓子「私には重要なの」

爽「負けず嫌いだな~」パチ

誓子「そうだよ獅子原さんには負けたくない」

 
爽「ふーん。でも私も喋りながら打ってるわけで、それに桧森さんはさっきから別のこと考えながら打ってたよね」

誓子「ちょっと前のことを思い出してただけ」

爽「私との思い出?」

誓子「……いや、」

爽「まぁいいや。続けさせて貰おう。将棋は盤上の戦争じゃなくてだね、政治的駆け引きだったんだ」

誓子「……」パチ

爽「駒取りは買収なり寝返り、政治家ってのはみんなお金好きだからね」

誓子「それは言い過ぎ。ちゃんと信念があって国に仕えてる人もいる」

爽「そういうやつはトップにいるか、使えないゴミか……」パチ

爽「つまりだね、この盤面上には二人の支配者とその有能な手下しかいないんだ」

誓子「有能な手下、今私に寝返ったけど」パチ

爽「ははホントだ」

誓子「……」

 
誓子「お金で旗の色変える部下なんて嫌だな……」

爽「でも現実そんなのばっかだ。特に政治じゃなくてもっと形のあやふやな組織……例えば友人関係」

誓子「そういうのは組織とは言わない」

爽「それは建前上『頭』が存在しないからだよ。事実友人同士は力関係が顕著に出ている。それはわかるだろー?」

誓子「まぁ……わかるけど」

爽「うちのクラスの生徒の32%が所属する仲良しグループAのトップは?」

誓子「…………獅子原さん」

爽「そう。ということはクラスの三分の一は私の力が及ぶわけだ」

誓子「学生の身分じゃ大したことできないけどね」

爽「人ぐらい殺せるよ」

誓子「……やったことあるの?」

爽「まさか。そこまでするような人間にはあったことないなぁ」

 
誓子「……」パチ

爽「自殺させる方法はいくらでもある。思春期の女の子を追い込むぐらい造作も無い」

誓子「でもやらないんでしょ」

爽「どうかな」

誓子「いつもそんな事考えてるんだ」

爽「……みんな駒にしか見えない。周りの奴らはみんなそうだ。報酬と犠牲、自分かそれ以外か、天秤にかけて能力に見合う収まりのいい連中とつるむ」

爽「女は特にな。一度はぶられたら最後だ。だから足の引っ張り合いなんて常で、それはそれで見てて面白いよ」

誓子「……なるほどね、私も駒ってわけだ」

爽「違うよ。桧森さんは敵将だね」パチ

誓子「あれ……」

誓子(いつのまにこんなに圧されてたんだろ)

爽「ここまでコントロールに苦労する人間は初めてだよ。損得無視の狂戦士、行動原理は人間愛なんて攻略不可能だ」

 
誓子「狂戦士だなんて……私は普通に生きているつもりだから」パチ

爽「そこまで愛されて、成香ちゃんは幸せだなー」

誓子「……ねぇ」イラッ

爽「それ、そのスイッチオンが普通じゃないんだっての。どんなコンプレックス抱えてるんだか」

誓子「なるかは……その……私がいないと……いや、エゴなのは知ってる」

爽「なんだか根深いみたいだね」パチ

誓子「…………うん」

爽「桧森さん、小学生んときイジメられてたでしょ」

誓子「……」パチ

爽「図星か。桧森さんは、周りのみんなの気持ちがわからなかったんじゃないの?」

誓子「……」

爽「これから話すことは全て憶測だから、気に触ったらその、……悪い」

誓子「うん」

 
爽「桧森さんは昔から勉強できて、頭がいいから教師や親の顔色を見て、上手く立ちまわることができた」

爽「でも同年代の、子供特有の突飛な行動がわからない。すぐ泣くしすぐ笑う。複雑怪奇なモンスターだった」

爽「だから必死に相手が喜ぶ行動を取ろうとする。だけどそれも空回って、そのうち孤立しちゃってさ」

爽「世間は『子供は単純』なんて言うけど、ストレートに感情をぶちまけるガキのほうがよっぽどめんどくせぇよな」

誓子「……」パチ

爽「……で、一人で公園のブランコこいで『私って変なのかなぁ』と夕日眺めながらぼーっとしてたら、近所の年下の女の子が近づいてきた」

爽「そいつは隣のブランコに乗って一緒に夕日眺めてんの。そこでその子と二言三言喋って、それだけなんだけど、帰り際に」

爽「『また明日もここいる?』って」

誓子「……最初はプールだった。スイミングスクールの。でも、そうだね。そんな感じかな。あの子だけは私の近くにいてくれた」

爽「似てるなぁ、やっぱり」

誓子「なにそれ、もしかして実体験?」

爽「さあ?」

誓子「ああ、あの子か」フフ

爽「……認めろよ。似たもの同士だって」

 
誓子「……私はね、変だと思われるのがすごい嫌だった。小学生の頃の自分は押し殺してるの」

爽「共感の欠如は現代医学で認められている立派な病気だ。異常者って言葉で簡単にくくられる存在じゃない」

誓子「でも、普通でいたいじゃない」

爽「普通か……。そこだけ違うな。私と桧森さんは」

爽「共感の欠如から情動的共感を得られず、幼少期に苦労した。自衛手段として仮面を被り他者の真似を始め、溶け込もうとする」

爽「そこで私は、あまりうまくいかなったんだ。自分を殺すことができず、やはり異端児として扱われてしまう。だから支配者側に回ろうとした」

誓子「それがあれってわけ……」

爽「見つかったのが桧森さんで良かった」

誓子「あんな大事になったのに」

爽「他の人間に見つかったら自主退学してるよ」

誓子「まさか」

爽「ズタボロの三年間を過ごすぐらいなら……ってね。あれが公になったら誰も信用してくれなくなる」

 
爽「…………本当は、あの件が無かったら桧森さんを退学、つまり排除するつもりだった」

誓子「はぁ!?」

爽「私達は特有のシンパシーを持ってる。だから嫌だったんだよ。私の素性を察知されるのがね」

誓子「そ、そんなことで他人の人生終わらせるの!?」

爽「王手」パチ

誓子「やっぱりあなたとは違うよ……」

爽「桧森さんは自駒にできない敵将だった。そしたら首をとってゲーム終わらせるほうが手っ取り早い」

誓子「人生はゲームじゃないよ」

爽「いや、ゲームだ」

誓子「……っ、」

爽「詰ませたかな?」

誓子「まだ……いける」

爽「マジで?」

誓子「逆王手」

爽「…………ああ!?」

 
爽「……バカな……私のハーゲンダッツが……」

誓子「はい。逆にこれは詰ませてるんじゃない?」

爽「……! ちょっと待ってまだ詰んでないから」

誓子「いやいや詰んでるって。ここも、ほら」

爽「詰んでない! あと五分待って!」

誓子「持ち時間制だったらそんなことできないよ~」

爽「私は初心者なんだぞ。……あーくっそ」

誓子「認める? ねぇねぇ負け認める?」

 
爽「いやまだこいつを動かせば……、それもだめか……」

誓子「ハーゲンダッツ一年分だっけ? 楽しみだな~」

爽「そこまで言ってないから。つうかまだ負けてないから」

誓子「あのねぇ……」


キーンコーンカーンコーン

爽「今日の活動終了」ジャラジャラ

誓子「はああああああああ!!!???」

爽「帰宅だー」ワハハ

誓子「な、何したかわかってるの!?」

爽「部活動はね桧森くん、決められた時間に活動し、」

誓子「そんな御託聞いてるんじゃないって!」

爽「まぁまぁ、明日また一戦やろう」

誓子「ううー……ばかぁ……」

 




爽「結局コンビニ来ちゃったな」

誓子「アイス食べる気まんまんだったから」

爽「何買ったの?」

誓子「スーパーカップチーズケーキ味」

爽「ハーゲンじゃないのかい」ハハハ

誓子「高いし……獅子原さんは?」

爽「しろくまアイス。これ高いんだね。百円かと思ったら240円もとられた」

誓子(爽じゃないんだ……)パク

爽「うまし」パク

誓子「うん」

爽「なんか私達友達みたいじゃない?」

誓子「……いや、」

爽「帰りにアイス食ってこうやってだべるの、タメとしたことなかったんだ」

誓子「へー、あんなにクラスに友達多いのに」

爽「あいつらは友達じゃないよ。遊び道具」

誓子「うわーこのクズっぷり」

爽「だってつまんねぇもん。……桧森さんはなんか違う」

誓子「調子いいこと言っちゃって」

爽「本音だよ」

 
誓子「駒にできなきゃ首を取るとかなんとか言ってたくせに」

爽「わかったんだよ。だったら友達になればいいって」

誓子「……なーんか嘘っぽいというか」ジー

爽「どっちかっていうと素面なんだけどさ。じゃ、今から下の名で呼び合おう」

誓子「……」パク

爽「どう?」

誓子「……いいけど」

爽「あ、え、いいの? 拒否されるかと思った」

誓子「そうじゃないと不自然でしょ? 二人っきりの部活で苗字でさん付けは」

爽「すぐそういう言い訳するー。よくない癖だゾ」

誓子「はいはい。……」

爽「……」パクパク

誓子「下の名で呼ばないの?」

爽「今タイミング伺ってたんだ。だって変じゃんか。名前呼んではい終わりって」

 
誓子「めんどくさいなぁ……。爽」

爽「ん、なに?」

誓子「呼んだだけ」パク

爽「……ちかこー」

誓子「……」ムシ

爽「今返事したらハーゲンダッツ一年分奢ったのになぁ。あーおしいことしたなぁちかちゃんは」

誓子「小学生か。あとちかちゃん禁止」

爽「なんでよ。誓子ってきたらアダ名はちかちゃんだろ」

誓子「だめ。有無を言わさずダメ」

爽「じゃあいいよ。誓子」

誓子「なに?」

 
爽「今度の日曜さ、部室にお互いの子分連れてこない? それで麻雀すんの」

誓子「なるかを? でも……」

爽「なんもしないってー」

誓子「そうじゃなくて、なるかは人見知りするから。あと、名前なに?」

爽「ああ、揺杏? 揺れるにあんずの杏」

誓子「揺杏ちゃんはいいの?」

爽「誰にでも馴れ馴れしいから大丈夫だよ」

誓子「……なるかに聞いてみる。でもなるかの情報探るの禁止。質問は私を通して」

爽「なんかそれアイドルみたいだ。ま、誓子から信用を得られまでの辛抱だな」

誓子「いいようにされちゃってる気がするけど……いっか」

爽「今日の格言『思い通りにならないやつほどいい友達になる』。どう?」

誓子「語呂が悪いし陳腐」

 
爽「そっかぁ。私もたいして上手いとは思わないけどバッサリ切るね~」

誓子「……」フッ

爽「今笑った?」

誓子「咳」

爽「あそ」

誓子「……もうこんな時間かぁ。そろそろ私帰るよ」

爽「へい」ジャラ

誓子「っと、これ部室の?」

爽「鍵作ってもらった。好きに使っていいぞ」

誓子「……」ジャラ

 
爽「どした?」

誓子「こういうのもいいかなーって」

爽「うわっ、デレやがった!」

誓子「だ──、なんでそうなるの!」

爽「ははは、じゃあな誓子!」

誓子「……」

誓子「じゃあね爽」



誓子「帰ったら私に勝つために将棋の勉強するんだろうなぁ」

誓子「確かに、負けず嫌いなのは似てる……かも」


おしまい

グッパイはグッバイのミスなんだけどグッパイでも爽っぽいのでもうどっちでもいいです

読んでくれてありがとうございます。早く有珠山の回想回欲しい

すいません完全脳内有珠山です
原作は爽はちょい天然でちかちゃんは天使ですので

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom