モバP「インターネットが壊れた!」(79)

P「ちょっ、誰か! 誰か助けて!」

蘭子「友の慟哭が聞こえる……」(どうかされましたか?)

P「らっ、蘭子! ちょっと来てくれ、インターネットが壊れた!」

蘭子「……遂に電脳海への扉が閉ざされたか」(インターネットに繋がらないってことですか?)

P「そうなんだよ。助けてくれ!」

蘭子「一刻も早く、電脳の海への回帰を」(早く使えるようにしないと大変なことに……)

P「うん……営業先の人にメール送れないし、調べ物もできないし。ちひろさんも今日に限って休みだし」

蘭子「ふむ、良かろう。我ここに、彼奴の復活を宣言せん!」(それなら私が直してみせます!)

P「おお、心強いな。頼むぞ蘭子!」

蘭子「…………」


蘭子(ぷ、プロデューサーにいいとこ見せたくて、思わず見栄張っちゃった……大丈夫かな……)

蘭子「転移陣の再構築を試みるわ」(まずネットワーク接続をいったんリセットしますね)

P「よし! よくわからんけどやってくれ!」


蘭子(確か、前に杏がコレをやって直してたはず……)

カチカチ...


P「直った? 直った?」

蘭子「その息吹は感じられん」(繋がりませんね……)

P「そっか。他に原因は?」

蘭子「もしや、物理の法則が乱れている?」(案外ケーブルが抜けてるとか?)

P「いや、ケーブルはちゃんとささってるぞ」

蘭子「…………」

蘭子「こうなれば、もはや一度死に至らしめるしか」(パソコン自体を再起動してみますか?)

P「よく分からないから任せる」

蘭子「懸命な判断ね」(じゃあ、やってみますね)


カチカチ

ウィーン...


P「再起動したな。で、どうだ?」

蘭子「……ダメですね……あっ」

P「え?」

蘭子「ぎっ、儀式は失敗したと見えるな!」(やっぱり繋がりませんね!)

P「おいおい、ほんと頼むぞ蘭子」

蘭子「我が叡智に不可能はない」(ま、任せてください)

P「蘭子が直せなかったら、今日の仕事が全部ストップするんだ。蘭子だけが頼りなんだよ」

蘭子「……対象の詳細を要求するわ」(ね、ネットワークの設定を確認してみます)

P「あー、やばいよやばいよー」

蘭子「うう……」

蘭子(確認してみるって言っても、よくわかんないよ……このDHCPやDNSって何だろう……)


P「あ……そうだ! 解決法をケータイで調べるのはどうだ?」

蘭子「ま、魔力を以て解決する!」(そ、その手がありましたね!)

P「俺のスマホを使ってくれ。ただ何で検索したらいいかも分からないから、一緒に見てくれないか?」

蘭子「フ……我が友の言葉とあれば仕方あるまい」(分かりました!)

P「検索ワードは、まず『インターネット』だよな」

蘭子「あとは『繋がらない』とか……」


ポチポチ...


蘭子(Wi-Fi繋がってない。プロデューサー、事務所の無線LANくらい設定しようよ……)

蘭子(私もみんなに言われるがままやっただけだから、人のこと言えないけど)

蘭子(……そ、そんなことより、スマホの壁紙が私の写真なの、どうしてだろう……)

蘭子(うぅ……なんだか、恥ずかしい……)

15分後――


蘭子「……むっ! 栄光の頂、今見えたり!」(解決法を書いたサイトを見つけました!)

P「マジか! どうすれば直るんだ?」

蘭子「これより魔法陣『コマンドプロンプト』にて『format c:』なる呪文を詠唱する!」

P「やったー! カッコイイー!」

蘭子「闇に飲まれよ!」(なんとかなりそうですね。お疲れ様でした!)

カタカタ... ッターン!


蘭子「フ……安寧の時が来た」(画面の表示はよくわからないけれど、直ったみたいです)

P「良かった良かった。一時はどうなることかと」

蘭子「……花でも摘んで休息を」(あの、安心したら急にお手洗いに行きたく……)

P「ああ、ありがとな。さーて、俺はメールを送らないと」

ガチャ


蘭子「ふぅ……」

P「おっ、おい、蘭子!」

蘭子「ククク……如何した、我が下僕よ」

P「笑ってる場合じゃねぇ! なんか重要なファイルとかが全部消えてるんだけど!?」

蘭子「!?」

蘭子(う、ウソ……あれだけごちゃごちゃしてたデスクトップが、綺麗さっぱり……)

P「しかもインターネットにも繋がってないし! なんだよこれ!」

蘭子「え……あ、あのっ……」

P「これ、シャレにならないって……ウチの事務所のデータ全部吹っ飛んだっぽいぞ」

蘭子「そ、そんな……わ、私は……」


prrrr... prrrr...


P「あ、俺の電話だ。明日仕事が入ってる営業先からだ」

蘭子「私……そんな、つもり……」

P「はい、こちら○○プロの…………え!? そちらのデータも全部消えたんですか!?」

蘭子「!?」

P「はい、はい……ええ、ウチもそんな状況で、明日の仕事どころでは……はい……」

蘭子「…………」

P「え、アクセスログからするとウチに原因が?」チラッ

蘭子「ひ……」

P「……わ、私です。私がパソコンの操作を誤ってしまって」

蘭子「えっ……?」

P「大変、大変申し訳ありません! 謝って済む問題ではないことは重々承知しております!」

蘭子「……プロデューサー」

P「それでも申し訳ありませんとしか! はい、はい! 急いで対応策を検討いたしますので!」

ピッ


蘭子「…………」

P「……聞いてたと思うけど。さっきの『呪文』で、営業先のデータも全部消えたらしい」

蘭子「……っ!!」

P「被害総額、ヤバいだろうな。何十億か、何百億か……ウチの事務所が賠償させられるんだろうけど」

蘭子「う……うぅ……!」

蘭子「あっ! で、でもプロデューサー、対応策って……」

P「そんなものある訳ないだろ? そうでも言わないと殺されんばかりの勢いだったんだよ」

蘭子「えっ……そ、それじゃあ、どうしたら……」

P「どうしようもない。事務所は倒産だ。百人以上のアイドルが全員失業だな……」

蘭子「…………う」

P「蘭子?」

蘭子「……ひっく……ぐすっ……わっ、私の、せいでっ……!」

P「泣いても解決しないぞ。それに元はと言えば、お前に任せた俺が悪いんだし」

蘭子「……っ!!」

P「俺も再就職先を探さないとな。ただ、もう若くないしやり直しがきくかどうか」

蘭子「…………」

P「ああ、蘭子は心配するな。ちゃんと俺が原因だって言っといたから、蘭子はいくらでもやり直せる」

蘭子「……違う。そうじゃない!」

P「違う?」

蘭子「私は……みんなが……プロデューサーがいないと、やだっ……!」

P「そう言ってくれるのは嬉しいけどな。こんなことやらかしちゃ、もうプロデューサーもできないよ」

蘭子「それでも……一緒がいい!」

P「え?」

蘭子「つっ、罪も罰も乗り越え、悠久の刻を共に過ごそう。我が友……」

P「蘭子……」

ガチャッ


ちひろ「はい、終了ー! 二人ともお疲れ様でした!」

P「あ、終わりですか?」

ちひろ「なんか蘭子ちゃんがとんでもないこと口走りそうだったので、強制終了です!」



蘭子「…………えっ」

P「はぁ~、疲れた。やっぱり純真な蘭子を騙すのは気が引けますよ」

ちひろ「それにしては随分、堂に入ってましたけどね。それにしてもこんなに上手くいくなんて」

P「演技の方、どうでした?」

ちひろ「Good! 本当に焦ってる感が出てて良かったです!」

P「PCについてよく分かってない頃は、不具合が出るとメチャ焦りましたからねー」

ちひろ「あれって、心臓に悪いんですよねー」

P「そうなんですよ。あの頃の気持ちを思い出してやってみました、ははは」

ちひろ「まず、蘭子ちゃんがお手洗いに行った隙に、デスクトップからファイルを消したのがNice!」

P「デスクトップで右クリックして、表示設定でアイコンを見えなくしただけです。ファイル自体は残ってますよ」

ちひろ「初見だと真っ青になりますよね。次に、営業先と見せかけた私からの電話!」

P「タイミングは完璧でした。ただネット繋がってない上に、format c:で他所様のデータが消えるとかありえませんけど」

ちひろ「しかもCドライブは今使ってるボリュームだから、エラーが出て、自端末すらフォーマットできませんよね」

P「ええ。ほら、コマンドプロンプトの表示も『ボリューム使用中』のエラーで止まってますし」

P「……そもそもの話、最初ネットに繋がらなかったのは、単純にルータの電源を落としてたからなんですけどね」

ちひろ「スマホを使った時、無線が拾えなかったことをもう少し不思議に思っていれば……」

P「その時点でルータが原因だって分かったと思いますよ。泉なら一瞬で看破したでしょうね」

ちひろ「……という具合に、気付くためのヒントは散りばめておいたんですけど」

P「残念ながら、蘭子はすべてスルーしてしまったと」

P「という訳で、ドッキリでし……」


蘭子「…………」ウルウル


P「……アレッ……が、ガチ泣き?」

蘭子「…………」

P「ら、蘭子さん?」

蘭子「……下僕が」ギロッ

P「ひぃ! こ、怖ぇぇ!」

ちひろ「あっ、私スタドリ販売のお仕事があるんで」ガチャッ

P「ちょ……置いてかないで!」

蘭子「わっ、我が下僕!」

P「はい!? な、なんでしょう……?」

蘭子「我魂魄百万回生まれ変わろうとも、恨み晴らすからな!」(絶対に許しません!)

P「す、すみませんでした! まさかそこまでショックだったとは……」

蘭子「闇の炎に抱かれて消えろ!」(もうプロデューサーなんて、顔も見たくありません!)

P「本当に悪かった! ごめんなさい、この通り!」

蘭子「…………」

P「なあ……許してくれ、蘭子」

蘭子「……だっこ」

P「は?」

蘭子「お姫様だっこ」

P「え……今ここで? 事務所なんだけど……」

蘭子「これは古よりの盟約、拒否など不可能」

P「もし断ったら?」

蘭子「地獄への片道切符をくれてやる」(あなたに辱められたって皆に言いふらします)

P「えげつなっ……完全に堕天モードだぞこれ」

蘭子「……ふふ」

P「蘭子、軽いな……こんな感じでいいか?」

蘭子「ええ。これより癒しの風が永久に吹こう……」(しょうがないので、今回は許してあげます)

P「で、これいつまで?」

蘭子「盟に従い、我と友の乖離を禁ずる!」(一日中ですよ?)

P「いやいや。俺の腕がもたないんだけど」

蘭子「フ……我が友、今こそ旅立ちの時よ」(まだまだ、頑張ってくださいね!)

P「……しょうがないヤツだな」

ちひろ「…………」

ちひろ「……そういうわけで、今回はコンピュータに弱そうな人へのドッキリ企画でした」

ちひろ「クールな顔が涙と共に歪むのは実にいいですね。Sな人間にはたまりません」

ちひろ「次は凛ちゃんや楓さんをターゲットにしてみましょうか。ワクワクしますね!」


おわり。

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