探偵「なにっ!? 連続ケツえぐり事件!?」(62)

<探偵事務所>

探偵「ヒマだ」

助手「ヒマですね」

探偵「眠い」

探偵「これもゆうべ、お前が俺の酒に付き合わなかったせいだ」

探偵「一人で延々と飲んじまった」

助手「……寝たらどうですか?」

探偵「寝たら金を稼げないだろ」

探偵「あ~あ、寝ながら仕事ができたらいいんだがなぁ」

探偵「お前、俺を眠らせて俺の声で推理とかしてくれよ」

助手「勝手なことばかりいわないで下さいよ……」

プルルルル…… ガチャッ

探偵「──はい、こちら探偵事務所」

探偵「ん、警部! お久しぶりじゃないですか、どうしました?」

探偵「なに? 動物殺害事件?」

探偵「……分かりました、すぐ向かいます」ガチャッ

探偵「なにが動物だよ……くっだらねえ事件で呼び出しやがって……」チッ

助手「よかったじゃないですか、ちょうどヒマしてたところですし」

探偵「ふん……」

<事件現場>

警部「おお、来てくれたか! わざわざすまんねえ」

探偵「こんにちは」

助手「しばらくぶりですね!」

探偵「……で、殺された動物ってのはどれです?」

警部「うむ、これだ」

【 被害者 狸(年齢不詳) 野生動物 】

探偵「狸ですか」

警部「うむ」

警部「──で、あそこに集めている三人が容疑者だ」

容疑者──

オタク「早く帰ってゲームやりたい……」

動物好き「狸ちゃん……可哀想だわ……」ウルッ

金髪「ケッ、さっさとしてくれよなぁ、刑事さんよォ!」



探偵「彼らが容疑者ですか」

警部「うむ、この中に犯人がいるのは間違いないのだ」

助手「!」ハッ

助手「ねえ、探偵さん、警部さん。狸の死体の近く……血で文字が書いてありますけど」

警部「どれどれ……。む、本当だ!」

探偵「でかしたぞ、助手!」

探偵&警部「こ、これはまさしく狸が死ぬまぎわに残した──」

探偵「ダイビングメッセージ!」
警部「ダイニングメッセージ!」

助手「どっちも違います」

探偵「犯人を特定する手がかりになるかもしれないな……読んでみるか。えぇと──」



『たはたたたんたにたたたんたたたはたたたたどたたうたたぶたたたつたたずたきたた』



探偵「たはたたたん……なんじゃこりゃ。意味が分からんな」

警部「うむ、これは手がかりにはならんな。しょせん狸の浅知恵だな」

助手「すごく分かりやすいと思いますけど……」

探偵「分かりやすいだと!?」

探偵「じゃあどう読むんだ、これ!」

助手「どうって……死んでるのは狸、メッセージには『た』がいっぱい書いてあります」

助手「すなわち!」

助手「散りばめられた『た』以外の文字を読めばいいんですよ」

探偵「『た』以外の文字……? どれどれ……」

探偵「は……ん……に……ん……は……」

探偵「ど、う、ぶ、つ、ず……き」

探偵「!」ハッ

探偵「分かりましたよ、警部」ニヤッ

探偵「被害者のドライビングメッセージに隠された、意味がね!」

警部「ほ、本当かね!? どう見ても意味不明なメッセージだが……」

探偵「この死んだ狸は、己が狸だということを利用して」

探偵「“たを抜いて読んでくれ”という意味を込め、メッセージを残したんです!」

警部「なるほど! 狸だけに“た抜き”というわけか!」

探偵「そしてこのファイティングメッセージを『た』を抜いて読むと──」

探偵「“犯人は動物好き”!」

警部「な、なんと!」

探偵「つまり……犯人は動物好き、お前だ!」ビシッ

動物好き「う、ぐぐ……!」

動物好き「さ、さすがは……名探偵……おみごとですわ!」ガクッ…

警部「しかし無類の動物愛護者であるあなたが、なぜ狸を殺したりしたのだ?」

動物好き「動物をいっぱい殺せば……」

動物好き「現行法より強力な、動物を保護する法律が制定される、と思ったの」

動物好き「だから私は……手始めに狸を殺したのよ……!」グスッ…

警部「なんという身勝手な理由で……!」

助手「よくそんな身勝手な理屈を口に出せますね……許せない……!」

動物好き「身勝手ですって!?」

動物好き「私は動物が好きなのよ! 心から愛しているのよ!」

動物好き「だから私はあえて心を鬼にして、狸を手にかけたのに!」

動物好き「それを身勝手だとはなにごとですか!」

動物好き「同情されこそすれ、非難される覚えなんかないわ!」プンプン

警部「ぐ……なんという正論……! まるで反論できん……!」

探偵「ふん」

探偵「なぁ~にが動物が好きだよ、このバカ女」

動物好き「!」

探偵「お前は動物が好きなんじゃない」

探偵「動物のために何かをしてやってるっていう、自分が好きなだけだ」

動物好き「そ、そんなことないわ! 私は──」

探偵「理由がなんであれ、動物を手にかけた以上」

探偵「お前は動物好きじゃなく──」

探偵「動物殺しだよ」

動物好き「あ、う、ぐ……」

動物好き「う、う、う、う、う……」

動物好き「うぐぅ~~~~~……!」

動物好き「うわぁ~~~~~ん!」

探偵「殺しておいて好きもクソもあるかよ……」

警部「ありがとう! おかげで事件を解決することができた!」

助手「いつもはだらけてますけど、いう時はいいますねえ。さすがですよ!」

探偵「ガキの頃、犬を飼ってた時期があったからな」

探偵「結構可愛がったし、ああいうヤツは許せねえんだよ」

警部「……ところで、探偵君」

探偵「なんです?」

警部「実は先ほど部下の刑事から連絡があって……もう一つ事件解決を頼みたいのだ」

探偵「えぇ~……」

助手「よかったじゃないですか。どうせ予定なんかないんでしょう?」

探偵「余計なことをいうな!」

探偵「……しょうがない、同行しますよ」

<事件現場2>

刑事「おや」

刑事「お待ちしておりました……親愛なる警部……」ペコリ…

警部「うむ、ご苦労」

刑事「おやおや?」

刑事「聡明なる探偵氏と、その有能な右腕である助手氏もご一緒だったのですか」

刑事「これはこれは心強い……」ニコッ

助手「うっ……! ど、どうも……よろしく……」

探偵「相変わらず、気持ち悪い奴だな」

【 被害者 紳士(57) 会社役員 】

警部「この遺体が被害者か」

刑事「ええ」

刑事「その名の如く、会社では人望厚いジェントルマンだったそうです……」

助手「首を切られてますね……失血死ですか」

刑事「はい、頸動脈をバッサリと切られています」

刑事「きっと血しぶきが花火のように咲き乱れたことでしょう」

刑事「おおっ……なんと無残な……」グスッ

刑事「こんな残酷な犯人、絶対に許すことはできません!」ゴォォ…

探偵「泣いたり怒ったり、忙しい奴だな」

助手「変わった人ですけど、悪い人じゃないんですよね、この人」

助手「ところで……容疑者はどこにいるんですか?」

刑事「おおっ、これは失敬……取り乱してしまいまして……」

刑事「容疑者は、別室に集めておりまして、全部で四人です」

刑事「全員、この紳士氏の家を今日訪問しています」

警部「うむ、ご苦労」

探偵「じゃあさっそく容疑者たちと会わせてもらおうか」

刑事「彼らが容疑者です」

刑事「一見、なんてことのない方々のようですが」

刑事「この中に殺人をやってのけた悪魔(デーモン)が潜んでいるのです!」



主婦「だからあたしは回覧板を届けに来ただけよ!」

将棋仲間「なんで将棋を指しに来ただけで、私が容疑者にされるんだ……」ブツブツ…

富豪「ワシは紳士さんの古くからの友人で、恨みなどあるはずがない」

ナイフ使い「ぐへへへ……俺のナイフ捌きは超一流さ」



警部「…………」

探偵「…………」

助手「…………」

警部「お前だな」ガシッ

探偵「どう見てもお前だ」ガシッ

助手「完全にあなたですね」ガシッ

ナイフ使い「え……え、え!?」

警部「殺人の容疑で逮捕する」ガチャッ

ナイフ使い「ま、待って下さい! 俺はやっちゃいませんよ!」

探偵「ほざくな」

探偵「被害者は鋭利な刃物で首を切られてる。お前以外にだれがいる」

ナイフ使い「そ、そんなぁ……」

助手「寝言は留置所の布団の中でいいましょうか」

ナイフ使い「ひぃぃ……!」

ナイフ使い「本当に俺はやってないんです!」

ナイフ使い「俺は……ナイフで料理をする料理人であって、人なんか切れませんよ!」

警部「だったらなぜ、被害者と会っていたのだ?」

ナイフ使い「もちろん、料理を振る舞うためですよ!」

ナイフ使い「俺、歌ったり、踊ったり、ナイフを回転させたりしながら」

ナイフ使い「調理するパフォーマンスをするんです」

ナイフ使い「今日もその依頼で来てたんですよ」

探偵「変わった商売もあるもんだな」

助手「かなり怪しいですが……ウソをついてるというわけでもなさそうです」

警部「よし……今ここでそのパフォーマンスをやってみろ」

警部「つまらなかったら逮捕するからな」

ナイフ使い「は、はい!」

ナイフ使い「ミュ~~~~~ジック、スタァ~~~~~ット!」ポチッ

ナイフ使い「HEY! HEY! ヘ~~~~~イ!」ギラッ

ナイフ使い「今日もオイラのナイフが、料理を生み出すZE!」シュルルルッ

ナイフ使い「切って、刻んで、刺して、貫いて、裏返して」スパッ スパッ

ナイフ使い「ナイフでクッキングゥ~~~~~!」シュルルルッ

ナイフ使い「……で、できました。どうぞ」コトッ



助手「す、酢豚ですか……けっこう美味しそうなのがなんか悔しいですけど」

探偵「意外と見ごたえあったな」パチパチ…

警部「うむ、私も今度ぜひ家でやってもらいたくなった」

刑事「う~ん、流れる川の如き美しいナイフ捌きでしたよ。ビューティフルです」

探偵「んじゃあ、食ってみるか」

探偵「いただきます」モグッ…

探偵「こ、これは!?」

探偵「うっ……美味い!」

探偵「甘酢あんと豚肉が互いに味を引き立て合い、絶妙な味に仕上がっている!」モグモグ

警部「私はパインを入れない派だが、このパインはあくまで脇役に徹している!」ガツガツ

助手「どんどん食べられますよ! こりゃクセになる味ですよ、ホント!」バクバク

刑事「まさかこんな味がこの世にあったとは……まさに奇跡ですね」ムシャムシャ

主婦「ホント美味しいわ! タッパーで持って帰ってもいいかしら!?」パクパク

将棋仲間「こんな美味しい酢豚を食べたのは、生まれて初めてだ!」モリモリ

富豪「ふむ……ぜひ、君をワシの家で雇いたい」モソモソ

ナイフ使い「あ、ありがとうございます!」

探偵「でもま、料理が美味かろうと、お前が一番怪しいってのは変わりないけどな」

ナイフ使い「そ、そんな……」

助手「とりあえず、もう一度被害者の遺体を調べてみましょう!」

助手「う~ん……さっきのようにダイイングメッセージがあればと思ったんですけど……」

探偵「ん? これは──」モゾッ

助手「どうかしましたか?」

探偵「ナイフだ……ナイフが被害者の服の中に隠されている!」

探偵「血はついてないから、これが凶器ってわけじゃなさそうだ」

探偵「つまり、これは被害者が死にぎわに残したスパークリングメッセージなんだろう」

警部「ということは、やはり……」

刑事「紳士氏を殺害した悪魔(サタン)は、あのナイフ使いだということになりますね」

探偵「…………」

警部「よし、今度こそ決まりだ! あのナイフ使いを逮捕しよう!」

ナイフ使い「ち、ちがう!」

ナイフ使い「俺じゃない……」

ナイフ使い「俺は殺してなんかいない!」

警部「いい加減にしろ、この人殺し!」ガシッ

刑事「暴れると、ますます罪がヘヴィになりますよ」ガシッ

ナイフ使い「俺じゃないんだ、信じてくれぇ~!」ジタバタ

助手「…………」

助手「可哀想ですけど……仕方ないですよね。この状況じゃあ……」

探偵(本当にあのナイフ使いが犯人なのか?)

探偵(被害者が隠していたナイフは、ナイフ使いを示すためのものなのか?)

探偵(いくらなんでも安易すぎる気がする……)

探偵(う~ん……)

探偵(さっきの事件では、狸が『た』を抜いて読むメッセージを残していた)

探偵(もし今回もそうだとしたら……)

探偵(ナイフ……)

探偵(ないふ……)

探偵(無いふ……)

探偵(ふが無い……)

探偵(『ふ』が無い!)

探偵(そうか、分かったぞ!)

探偵「警部、その逮捕、ちょっと待って下さい」

警部「え!?」

刑事「まさか……悪魔(デビル)は他にいるのですか!?」

探偵「そのとおり」

探偵「被害者が隠していたナイフ……あれは」

探偵「犯人がナイフ使いであることを示したわけではなく」

探偵「犯人は名前に『ふ』がない人物だと示すためだったんだ!」

助手「あっ……なるほど!」

警部「さっきの事件と同じか!」

刑事「ということは、つまり──」

探偵「犯人は、お前だっ!!!」ビシッ

探偵「将棋仲間!」

将棋仲間「!」ギクッ

将棋仲間「うぐぐ……よく分かりましたね、私が犯人だと……」

探偵「『主婦(しゅふ)』『将棋仲間(しょうぎなかま)』『富豪(ふごう)』」

探偵「そして、最有力容疑者だった『ナイフ使い(ないふつかい)』」

探偵「この中で『ふ』が無いのはお前だけだからな」

将棋仲間「なるほど……」

警部「なぜ……紳士さんを殺したのだ?」

将棋仲間「私は今日、紳士さんと将棋を指すためにここに来ました」

将棋仲間「対局中、私は飛車を取られそうになり“待った!”といったのですが」

将棋仲間「どうしても待ってくれなかったので……」

将棋仲間「このカミソリ刃付き将棋駒で、紳士さんの首を刺したんです……」ギラッ

将棋仲間「どうしても……許せなかったんです……!」ギリッ…

警部「うむ、これは情状酌量の余地がありそうだ」

刑事「いえ、皆無だと思われますが……凶器も自前ですし」

助手「動機がいくらなんでもひどすぎますよ……」

探偵「この勝負……」

探偵「怒りで我を忘れ、自分の殺意が収まるまで待てなかった、お前の負けだ!」

将棋仲間「ぐっ……ううっ……」ガクッ

刑事「とんでもない悪魔(ルシファー)でしたね、まったく」

助手「よかったぁ~、ボク、ああいうヤツは許せないんです!」

探偵「お前は将棋とか囲碁とか、ああいうゲームが好きだからな」

警部「……ところで、探偵君」

探偵「なんです、警部?」

警部「もう一件だけ……もう一件だけ、事件に付き合ってくれないかね?」

探偵「もう一件って、はしご酒じゃあるまいし……」

探偵「ま、いいですよ。なんだか調子出てきたところですしね」

探偵「今度はどんな事件ですか?」

警部「君も長年追っている……連続ケツえぐり事件がまた起こったのだ」

探偵「なにっ!? 連続ケツえぐり事件!?」

警部「現場は被害者宅、遺体はついさっき発見されたが、犯行時刻は昨夜……だそうだ」

警部「付き合ってくれるかね?」

探偵「もちろんです、警部!」

助手「す、すごい……! いつもやる気のない探偵さんが積極的に……!」

警部「なにせ君は……昔大切な相棒のケツをえぐられているからな……」

探偵「その話はやめて下さい、警部」

警部「おっと、すまぬ」

警部「──では私はこの二人と別の現場に向かう。後処理は任せたぞ」

刑事「了解(ラジャー)!」

<事件現場3>

警部「おお、女鑑識君。相変わらずキレイだねえ」ムフッ

女鑑識「恐れ入ります」

警部「ところで、被害者は……?」

女鑑識「あそこです」

警部「!」ギョッ

警部「うむむ、これはひどい……」

【 被害者 老人(78) 無職 】

警部「ケツを丸ごとえぐられておるな……」

女鑑識「ええ……この残虐な手口はこれまでと同様ですね」

助手「二ヶ月ぶりですよね、たしか……」

探偵「くそっ……」

女鑑識「実は老人宅の前には、監視カメラが設置されておりまして」

女鑑識「昨日、老人宅を訪ねた人物は六名確認できました」

女鑑識「そのうち五名は映像が鮮明だったので、すぐに身元が特定できました」

警部「その五名は?」

女鑑識「すでに向こうに集めております」

警部「うむ、ご苦労」

助手「鑑識なのにそこまでやってくれているとは……優秀な人ですねえ」

探偵「さっそくその五名とやらに、話を聞いてみるか」

警部「これが昨日、被害者である老人の家を訪ねたという五名か」



豆腐屋「あっしは豆腐を売りにきただけですぜ。ごひいきにしてもらってるんで」

主任「私は営業部主任。墓石のセールスでやってきたのだ」

野球選手「空き地で野球の練習をしていたら、この家にボールが飛び込んでしまって」

老婆「あたしゃ、老人さんの愛人ですじゃ。ふぇっふぇっふぇ!」

バイト「オイラ何でも屋でバイトしてまして、マッサージのために来てたんです」



警部「ふむう、五人ともとてもケツえぐりをするようには見えんが……」

警部「やはり監視カメラでは特定できなかったという六人目が犯人なのか……?」

助手「映像がもっと鮮明だったらよかったんですけど……」

探偵「…………」

探偵(考えろ……)

探偵(本当にこの中に犯人はいないのか……?)

探偵(連続ケツえぐり犯は、今回の老人や、かつて俺の相棒だった『青年』を含め)

探偵(すでに八人のケツと命を奪っている……)

探偵(ただ殺すだけなら、もっと楽な方法はいくらでもあるはず)

探偵(なぜ犯人は、わざわざケツをえぐるんだ……!?)

探偵(考えろ……!)

女鑑識「警部、なぜ犯人はケツをえぐるんでしょうか……?」

女鑑識「よく猟奇殺人犯がやるように、お尻をコレクションしてるんでしょうか?」

警部「私も君のお尻が欲しいよ」ナデナデ

女鑑識「やめて下さい!」バシッ

警部「ギャアッ!」

探偵「なにやってんだ、こんな時に……」

助手「どうしようもない人ですねぇ。女性のお尻をなでるなんて……」

探偵「…………」

探偵「!」ハッ

探偵(そうか!)

探偵(ずっとケツケツと連呼してたが、ケツは『尻』とも呼ぶじゃないか!)

探偵(『尻』をえぐり取る……)

探偵(『尻を取る』……つまりこれは──)

探偵(しりとり!)

探偵(そういえば、昨日老人宅を訪ねた五人の名前を並べ替えてみると──)

探偵(『老婆』『バイト』『豆腐屋』『野球選手』『主任』)

探偵(ろうば、ばいと、とうふや、やきゅうせんしゅ、しゅにん!)

探偵(しりとりになる!)

探偵(ま、まさか……)

探偵(コイツら五人全員が……犯人!?)



「ぐわあああああっ……!」



探偵「な、なんだ、今の悲鳴は!?」

ザワザワ……

探偵「なにがあった!?」タタタッ

警部「我々が目を離したスキに……主任さんが……ケツをえぐられた!」

探偵「なんですって!?」

主任「あ、ぐ……」ピクピク…

主任「…………」ガクッ

探偵「くそっ……死んじまったか……!」

警部「ということは、犯人はやはりあの四人のだれかなのか!?」

女鑑識「今ここには警部と私がいるのになんて大胆な……」

女鑑識「ねえあなた、だれか怪しい動きしてた人とか分かる?」

助手「てっきりあの中に犯人はいないと思っていたので……」フルフル

探偵(まさか、また犠牲者が出ちまうとは……)

探偵(ケツえぐりはしりとりで、五人全員が犯人だというのは間違いだったのか!?)

探偵(俺の推理は間違っていたのか!?)

豆腐屋「あっしたち、もう帰っていいですかい!?」

野球選手「夜はドームで試合があるんでね」

老婆「あたしもそろそろ夕飯の準備しなくちゃねえ、ふぇっふぇっふぇ!」

バイト「オイラもバイト先に戻らなくちゃ……」

警部「いやいや、こんな事態になった以上、なおさら帰せませんよ!」

助手「でも、これ以上引き止めて、また犠牲者が出てもマズイですよ……」

女鑑識「これは参ったわね……」

探偵「!」ピクッ

探偵(さっきからのコイツらの会話を聞いてたら……なんとなく……分かった気がする)

探偵「……警部」

警部「なんだね?」

探偵「ついさっきケツをえぐられてしまった主任を含め」

探偵「連続ケツえぐり事件、今までの被害者の名前をもう一度教えていただけませんか」

警部「今は事件のおさらいをしてる時では──」

探偵「お願いします!」

警部「わ、分かった」

警部「えぇと──」

警部「モヒカン、町民、青年、ビジネスマン、DQN、達人、インディアン、老人、主任」

警部「──の九名だ」

探偵「ありがとうございます」

探偵(これで動機は分かった……あとは犯人を指名するだけだ!)

ザワザワ……

探偵「全員、静かにしろっ!!!」

シ~ン……

探偵「待たせたな!」

探偵「やっと分かった」

探偵「老人と主任のケツをえぐった犯人──いや」

探偵「連続ケツえぐり犯の正体がな!」

警部「本当かね!?」

助手「よく分かりましたね……さすが探偵さんだ!」

女鑑識「ウソでしょう……!?」

豆腐屋「マジですかい!?」

野球選手「ならば早いところ犯人の名を挙げてもらおうか」

老婆「こりゃ面白いことになってきたねえ、ふぇっふぇっふぇ!」

バイト「いったいだれが犯人なんだよ!?」

探偵(今ので、確信に変わった……)

探偵「……いきなり犯人の名を明かすのも面白くない」

探偵「まずは、なんでこの事件が起こったか、から説明していくぞ」

探偵「最初に“連続ケツえぐり”……これにどういう意味があるか、だ」

探偵「ケツは『尻』とも呼び、被害者のケツはえぐり『取られ』ている……」

探偵「つまり、これは言葉遊びである『しりとり』を意味する」

探偵「普通に殺せばいいものを、わざわざしりとりを暗示させる殺し方をすることから」

探偵「犯人は相当なしりとり好きだと断定できる!」

探偵「続いて、犯人はなぜケツをえぐるのか?」

探偵「これまでにやられた犠牲者は全部で九名!」

探偵「モヒカン、町民、青年、ビジネスマン、DQN、達人、インディアン、老人、主任」

探偵「いずれも名前が『ん』で終わってる!」

探偵「知ってのとおり、しりとりでは最後に『ん』がついた言葉は負けになる」

探偵「いわば、しりとりを終わらせてしまう存在だ」

探偵「だからこの九人は、ケツをえぐられてしまったんだ……」

探偵「しりとりが大好きな犯人によってな……」

警部「犯人はこの中にいるのか!?」

助手「だれなんですか!?」

女鑑識「早く教えて!」

豆腐屋「あっしはしりとり好きじゃありませんよ!」

野球選手「いったいだれが犯人なんだ!?」

老婆「もったいぶるねえ、ふぇっふぇっふぇ!」

バイト「なんだかドキドキしてきた!」

探偵「分かった、今すぐ教えてやる」

探偵「連続ケツえぐり事件の犯人……」

探偵「つまり、この中で一番しりとりが好きな人物……それは」

探偵「この中で唯一、ずぅぅ……っと一人でしりとりをしている人間!」

探偵「犯人は──お前だ!」ビシッ

探偵「助手っ!!!」

助手「!?」ギクッ

助手「か……からかわないで下さいよ」

助手「よくいいますよ、ボクがしりとり好きだなんて……」

助手「適当なことをいわないで下さい!」



シ~ン……



女鑑識「ホントだわ……」

警部「一人でしりとり……してる……」

探偵「そう、お前はそんな風に、ずっと一人で日常的にしりとりをやっていた」

探偵「いつも一緒にいた俺も、気づいたのはついさっきだ」

探偵「……お前こそが監視カメラに映っていたという、六人目だったんだ」

探偵「お前……昨日の夜、俺の酒にも付き合わず、どこでなにやってたんだ?」

助手「……いいたくないです」

探偵「ならいい……」

探偵「だがお前が俺の助手となり、狸殺害事件の時のように俺を手伝い」

探偵「俺にヒントを与えて、こういう発想力を与えてくれたのは──」

探偵「お前は……本当は捕まりたかったからじゃないのか?」

助手「…………!」

助手「素晴らしい……さすがはボクが見込んだ探偵さんだ」

助手「大正解ですよ、なにもかも」

探偵「…………」

警部「君のような心優しい若者が、なぜケツえぐりなど……!」

助手「元々ボクは将棋とか囲碁とか、そういうゲームに目がありませんでした」

助手「ただし……ボクが本当に好きなのはしりとりだったんです」

助手「するとある日、ボクの中で悪魔がささやいたんです」

助手「全ての『しりとりを終わらせる存在』を消し去れ、と!」

助手「当然、ボクはその使命感に逆らいましたが、結局逆らい切れなかった」

助手「たぎる衝動に身をゆだね、次から次に罪なき人のケツをえぐっていった……!」

助手「探偵さんの相棒だった青年さんのケツまで……!」

助手「でも、警察がボクを捕まえられるとはとても思えなかった……」

助手「探偵さんなら、もしかしたら……と思ったんです」

探偵「……やっちまったことは、もう取り返しがつかねえ」

探偵「俺も今さら青年のケツをえぐったことについて、つべこべいわねえ」

探偵「だけど……最後に一言だけいわせてもらう」

探偵「しりとりは『ん』では終わらねえ! 『ん』で始まる言葉はいくらでもある!」

探偵「有名どころだと、『ンジャメナ』とかな」

助手「すみません……最後まで気をつかっていただいて……ありがとうございます」

助手「少し気が楽になりました……しりとりは終わらないんだ、と」グスッ…

警部「さ、行こうか……。ところで、取調べ室で食べたいものはあるかね?」

助手「トントロ丼……」



以上が、しりとりに魅せられた若者が引き起こした現代の悲劇、

『連続ケツえぐり事件』の顛末である──





<おわり>

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