「絵里、真姫、と……影」 (63)

【ラブライブ! SSです】

・とある人からスレタイセンス80点を頂きました(二番煎じじゃないことを祈ります……)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1391689903


風に吹かれ靡く、美しい金髪に目を奪われる

激しい練習を終えたばかりということもあり、目の前にいる彼女の首筋を伝う汗にドキリと胸が反応した

何? この気持ち……


絵里「……どうかした? 真姫」

真姫「ヒャッ!?」


変な声出しちゃった……恥ずかしい

あぁ、もうっ……!


絵里「真姫?」

真姫「な、何でもないわよ!!」

絵里「ふーん……もしかして見惚れちゃってた?」

真姫「ッ!? ば、馬鹿じゃないの! そんなわけないじゃない!!」

絵里「それは残念、ふふっ」

真姫「か、からかわないで!!」


顔が一気に熱くなっていくのを感じ、私は逃げる様に荷物を纏めその場を立ち去った

何とか熱を冷まそうと顔に両手を当てながら階段を降りていく

すると、同じく帰路につく途中の凛と花陽に遭遇してしまった


花陽「あ、真姫ちゃん」

凛「まだ帰ってなかったんだ?」

真姫「え、えっと……」


屋上でのエリーとのやり取りを思い出し、再び熱が戻ってくる

うぅ……顔、赤くなってないわよね?

こんなの悟られたら花陽はともかく、凛は絶対に私をからかって……


凛「あれれー? 真姫ちゃん、顔赤いよー? どうしたの? どうしたのー?」

真姫「あぅっ……」


最悪……

隠そうとすればするほど意識してしまい、更なる墓穴を掘ってしまう

私の悪い癖だ……今までの人生で何度も痛い目を見てきた

ここは黙ってやり過ごすに限る


真姫「……っ」

凛「?」

花陽「れ、練習終わったばっかりだからだよね? 真姫ちゃん、すごく頑張ってたし」

凛「そっかー」


ナイスフォローよ、花陽

今度、お弁当のご飯を分けてあげるわ


真姫「そういうこと……じゃあね」

凛「えー! もう帰っちゃうのー?」

真姫「え? 貴女たちも帰るところでしょ?」

花陽「凛ちゃんと甘いものでも食べて帰ろうって話してたんだ。真姫ちゃんも一緒にどうかな?」

真姫「甘いもの、ねぇ……」

凛「よーし、じゃあ暗くならない内に行こ! 行こー!」

真姫「ちょ、ちょっと! 私はまだ行くとは」


凛の勢いに抗えず、気が付くとベンチに座りクレープをかじっていた


真姫「はむっ……あ、美味しい」

凛「でしょでしょー? ここはねー、昔っからよくかよちんと二人で来てるんだー」

真姫「へぇ……、はむっ……」

花陽「練習後のここのクレープは格別だよね。もう一つくらい……うぅっ、だめだめっ」

凛「かよちんいつも言ってるにゃー。それで、真姫ちゃんは絵里ちゃんのことが好きなの?」

真姫「ッ!? げほっ…げほッ…!!」

花陽「だ、大丈夫!? 真姫ちゃん!」


あまりに唐突な凛の発言

私が、エリーの事を好き……?

口に含んでいたクレープが喉の変な所に入り、噎せ返ってしまった


花陽「お水飲む……?」

真姫「ん、ごくっごくっ……ぷは……はぁ…… っ……凛っ!」

凛「ひっ! な、何……?」

真姫「何じゃないわよ! いきなり変な事言い出して」

凛「で、でも真姫ちゃん最近いつも絵里ちゃんの方ばっかり見てるから……」

真姫「え……?」

花陽「皆、気付いてるよ……? だから、そうなのかなって」

真姫「なっ……!? そ、そんなわけないでしょ! 私は別にエリーの事なんて何とも」


脳裏にエリーの姿が浮かぶ……同時に胸の鼓動が速まっていくのを感じた

またこの、胸の奥がモヤモヤとした……変な気持ちに……


凛「まーた赤くなってるにゃ」

花陽「り、凛ちゃん! 真姫ちゃんは真剣に悩んでるんだから、からかったりしたら駄目だよ」

凛「ごめんなさーい、それでどうなの?」

真姫「だから私は別に……」


今まで一度も考えた事などなかった

好きってあれよね? 恋ってことで……

私が恋してる? しかもその対象がエリー?

恥ずかしすぎる単語にますます赤面して深みに嵌まってしまう


真姫「~~ッ!!」

凛「あやしいにゃー」

花陽「真姫ちゃんは絵里ちゃんのこと、どう思ってるの?」


花陽まで凛に感化されて……

私の味方はいなくなっていた


真姫「どうって……別に普通よ。ただエリーが何処で何してるのか少し気になったり、考えると胸の辺りがキューッって締め付けられるくらいで」

凛「……」

花陽「……」

真姫「な、何……?」

凛「真姫ちゃん、それって……」

花陽「……恋、だよ?」

真姫「へ……?」


女の子というのは、どうしてこんなにも“恋”の話題が好きなのだろう

二人は目をキラキラと輝かせ、あれこれと質問を投げ掛けてきた

『いつから好きだったの?』とか『絵里ちゃんのどこに惹かれたの?』とか、他にも数え切れない程いっぱい……

知らないわよ、そんなこと

最初から言ってるように私はエリーのことなんて……

また、胸が苦しくなっていた


帰宅し、早々と夕食を済ませた私はその足で自室へと向かいベッドに横たわった


真姫「はぁ……何だか今日は疲れた……」


先程の花陽と凛との会話を思い出す


真姫「……私、エリーが好きなの……?」


最近、エリーのことばかり考えてしまうのは本当だ

エリーが他の子と仲良くしているのを見て、ムッとすることも度々あった

自分でも心の何処かでは気付いていたのかもしれない……ただ、認めようとしなかっただけ


真姫「やっぱり……私……」


無意識に携帯をいじっていると、画面には電話帳が表示されていた

その一番上には……

『絢瀬絵里』


真姫「絢瀬……、絵里……」


何となくその名前を呟いてみる

そして慎重にメールアドレスを選択し、メール画面へと移行させた

って、何してるの……私


そういえばエリーとメールしたことなんて殆ど無かったかも……それなのにいきなり送ったりなんかしたら変に思われるわ、絶対

そもそも何て送るつもりだったのよ…… 別にこれといって話す内容なんかないじゃない

一人で恥ずかしくなり、画面を閉じようとしたその時


真姫「え? ちょ、ちょっと待って! 待ってよ!」


『送信しました』


やってしまった……

本文には何も打ち込んではいない、そう……空メールを送ってしまったのだ


真姫「最悪……どうしよう……」


ぼーっとしてる時間なんてないわ

早く弁明のメールを入れないと……エリーが見る前に

慌てて操作するが、なかなか上手く文字が打てない


真姫「あぁ、もう……!」


ピリリリリッ……


真姫「きゃっ!?」


着信? こんな時に誰から……

『絢瀬絵里』

出ないと駄目、よね……?

私は投げ出した携帯電話を手に取り、恐る恐る通話ボタンを押した


真姫「……もしもし」

絵里『もしもし、真姫?』

真姫「……何?」

絵里『えっと、さっきのメールって』

真姫「あぁ……あれね、ただの間違いだから気にしないで」

絵里『そう』

真姫「……じゃあ切るわね」

絵里『待って』

真姫「……何?」

絵里『せっかくだから何か話でもしない?』

真姫「え?」

絵里『嫌かしら?』

真姫「……別に嫌じゃないけど」


それから一時間くらい、エリーと電話越しに話をした

学校のこと、μ'sのこと、お互いのこと……

緊張して頭の中が真っ白になり、会話の内容など殆ど覚えていない

私、変なこと言ってないわよね? 必死で記憶を廻らせてみる……多分、大丈夫だ

そういえば、エリーはチョコレートが好きって言ってたっけ

来月はバレンタインデーだけど、私がチョコあげたらエリーは喜んでくれるかな?

今、会話したのだってもしかしたらエリーも私のこと……

一度意識してしまってからはもう目を反らせない程に、私の中のエリーの存在はどんどん大きなものになっていくのを感じた

想いを寄せてる相手と二人で話せた、その事実だけで私は舞い上がってしまい……枕をぎゅっと抱き締めながら、妄想は朝まで広がり続ける


真姫「エリー…………好き…………」


外が明るい……もう夜が明けたんだ

結局、一睡も出来なかった


真姫「……ねむ」


怠い身体を何とか動かし、学校へ行く支度を整える

いつもより早めに家を出たおかげで、教室に着いてから少し机に顔を伏せる時間がとれた


真姫「ふぁ……、ん……」


このまま眠っちゃいそう……

もうエリー……学校にいるのかな……

放課後にはエリーに会えるのね……

早く、会いたい……エリーの顔が見たい……

エリー……エリー…………



「……ゃん……ちゃん……、真姫ちゃんっ!」

真姫「ひゅぇッ!?」

凛「もうすぐ先生来ちゃうよ?」

花陽「珍しいね、真姫ちゃんが……疲れてるのかな?」

真姫「私……寝ちゃってたの……?」

凛「うん、気持ちよさそーに! 涎垂らしながら」

真姫「え? えっ!?」


慌てて制服の袖で口を拭う

が、あれ……?


凛「わーい! 引っ掛かったにゃー!」

真姫「凛ーっ! 騙したわねー!!」

凛「学校で居眠りなんかしてるのが悪いんだよー!」

真姫「ま、待ちなさーいっ!!」

花陽「ふ、二人とも……もう先生来てるから……」


はぁ……余計な体力を使ってしまった

放課後まで持つかしら……

その後の授業も強烈な睡魔に襲われながらも何とか耐え続ける

正直、教師の話など全く頭の中に入ってこなかった

あぁ、昨日から私の脳内に住み着いている彼女との妄想に浸りたい……ダメダメッ

そんなことしたら、心地好くて……気持ちよくて……きっと夢の世界に行ってしまう

私は奥歯と唇を噛み締め、邪念を振り払うことに努めた


昼休みが終わり午後の授業もこなし、待ちに待った放課後がやってきた


真姫「凛、花陽! 練習に向かうわよ!」

凛「あ、うん」

花陽「真姫ちゃん、何だか気合い入ってるね?」

凛「さっきまであんなに死にそうな顔で授業受けてたのに」

花陽「……あ、そっか」

凛「あーなるほど、それで」


花陽と凛はニヤニヤと笑みを浮かべ、私の顔を覗き込んできた


真姫「べ、別にエリーがどうとか関係ないんだからっ!!」

凛「あれれー? 凛たち、絵里ちゃんの名前なんか出してないけど?」

真姫「え? あっ……」

花陽「理由はどうあれやる気があるのは良い事だよね」

真姫「ち、ちが……これは、その…… と、とにかく行くわよ!!」


悔しさと恥ずかしさで歪んだ顔を見られないよう先陣を切り、教室を飛び出した

部室に着き、少し緊張しながらドアノブを握りゆっくりと扉を開ける

……誰もいなかった


花陽「残念だったね……真姫ちゃん」

真姫「な、何が!?」

凛「あ、絵里ちゃん!」

真姫「えっ!?」

凛「と思ったら海未ちゃんだったにゃ」

真姫「はぁ……何だ、海未ちゃん」

海未「……私で悪かったですね」

真姫「い、いや別にそういうつもりで言ったわけじゃ……」


鋭い眼光でこちらを睨んでくる海未ちゃんを何とか宥める

何で私がこんなことを……全部、凛のせいなのに……


凛「あっ! 絵里ちゃん!」

真姫「はいはい、もう騙されな」

絵里「皆、早いわね」

真姫「っ!?」


振り返ると、そこにはエリーの姿があった

顔を見た瞬間、全身の血が逆流したかの如く心臓が熱く激しく高鳴り……まるで胸に爆弾でも埋め込まれているような感覚に陥る

やだ、何これ……止まってよ

皆に……エリーに聴こえちゃうじゃない

あまりの羞恥に堪えきれなくなった私は顔を伏せ、背を向けてしまった


絵里「……真姫?」

海未「どうしたのですか? 絵里の顔を見るなり……失礼ですよ」

真姫「……っ」

凛「あー!!」

海未「いきなり大声をあげないで下さい! 驚いてしまいます」

凛「凛ね、海未ちゃんに教えて貰いたいことあったんだー」

海未「教えて貰いたいこと?」

凛「うん! 昨日やったダンスの振り付けなんだけど」

花陽「は、花陽も自信無いから教えてほしいなぁ」

海未「ふむ……わかりました。では皆が揃うまでみっちりと教えて差し上げましょう」

凛「わーい! 嬉しいにゃー」

花陽「じゃあ早く着替えないとね!」

凛「ほらほら海未ちゃんも急いでー!」

海未「い、急ぎます! 急ぎますからそんなに引っ張らないでください!」

真姫「え……? ちょ」


ちょっと待って、こんな状態の私を置いて行かないでよ……と、言えるわけもなく

凛と花陽は半ば強引に、海未ちゃんの手を牽き部室から飛び出していった

あの二人、余計な気を使って……後でとっちめてやるんだから

部室には私とエリーだけが残された

二人きり……エリーと、二人きり……


絵里「ふふっ、凛があんなに練習に精を出すなんて珍しいわね」

真姫「……」

絵里「貴女もそう思わない? 真姫」

真姫「……ぁぅ」

絵里「……?」


まともにエリーの顔が見ることができない

意識しすぎよ、私の馬鹿っ!!

何でそんなに可愛いのよ、エリーの馬鹿っ!!

一緒の空間にいるだけで勘違いしちゃうじゃない……エリーも私のことを好きなのは私の妄想の中だけなのに


絵里「真姫? もしかして体調でも悪いの?」

真姫「……わ、私も海未ちゃんのとこ行ってくる!」


限界だった

私の胸の中に爆弾があるのなら、エリーはその発火装置だ

近付きすぎると胸が張り裂けそうになって、おかしくなっちゃいそうで、燃えるように身体中熱くなって頭の中がいっぱいに……あぁもう意味わかんない!!

本当はもっと言葉を交わしたいのに……ずっと顔を見てたいのに

何でよ……、何でなのよ……誰か何とかしなさいよ


距離が近いと戸惑う感情……どうしていいかわからなくなる。かと言って、姿が見えないととても不安で……寂しくて仕方がない

私がもっと器用な人間だったら……もっと素直になれたなら何か変わるのかな

それとも“恋する乙女”というのは皆、こんな気持ちを抱えているのだろうか

もう自分でも何がしたいのかわからない、話し掛けられても素っ気ない態度をとってしまう……エリーからただただ逃げ回るだけ……本当はとっても嬉しい筈なのに

不器用すぎる自分が嫌で、嫌で……涙が溢れてくる

想いが葛藤し、眠れない日が続いた

前半終わりです(書き溜め尽きました)

後半は、今週中か遅くても来週の半ばくらいまでには完結できる予定です

読んでくださった方、ありがとうございました

SSAから帰れないのでちょっとだけ更新


希「……避けられてる?」

絵里「そうなのよ……最近、私といる時だけ真姫の様子がおかしくて……」

希「いや、それって」


慌てて口を噤んだ

親友が大事な話があるというから何事かと思えば……そんなこと

そんなこと言うたら失礼か

というか気付いてなかったんや……相変わらずエリチはこういう色恋沙汰には鈍感みたい


希「ふふっ」

絵里「ちょっと……こっちは真剣に相談してるんだけど」

希「あぁ、ごめんごめん」

絵里「……やっぱり私、真姫に何かしちゃったのかな……?」


今にも泣き出しそうな顔でウチに助けを求めてくる

それが可愛くて可愛くて……ついまた顔がにやけてくるのを歯を噛み締め堪えた


絵里「ねぇ、私どうしたらいいの……?」

希「んー……」


『実は、真姫ちゃんはエリチのことが好きなんよ』

とはさすがにウチの口からは言えんし……

勿論、仲間として真姫ちゃんの恋路は応援したい……でもそれは結局のところ、目の前にいるエリチの気持ち次第というわけで


絵里「……結構、堪えてるのよね」

希「え?」

絵里「そ、その……誰にも言わないでよ?」

希「うん……」

絵里「…………正直、辛いのよ……好きな相手に避けられるのって」

希「へ? す、好きって……真姫ちゃんのこと……」

絵里「……うん」


エリチは少女の様な顔で小さく頷く

てことは、両想い……?

一気に肩の荷が下りた様に感じた

エリチと真姫ちゃんか……似た者同士、お似合いの二人やね。ならウチは、そんな不器用な二人をもうしばらく見守ってようかな

今度は気にする間もなく、自然と笑みが溢れてしまった


絵里「の、希!!」

希「うちから言えることは一つ……真姫ちゃんの影を見よ」

絵里「真姫の、影……?」

希「まぁ影って言っても悪い意味やなくて……簡単に言えば人間の本心やね」

希「昔から影は人の心を写す鏡って言われててな……真姫ちゃんって何ていうかあんまり素直になれんとこあるやん?」

絵里「そうね、変に気を張っちゃうというか……」

希「そんな子こそほど、自分の気持ちに気付いて欲しい……口では言えないけどわかってもらいたいって思っとるもんよ?」

希「影ってな、よーく見るとその人の喜怒哀楽の感情が現れたりする」

絵里「本当かしら? それってかなりオカルト……ううん、この場合だとロマンチストと言った方が正しい気がするわ」

希「ロマンチストか……うふっ、確かにそうかもしれんね」

絵里「希がこんなこと言うなんて珍しい……貴女の影を見れば何かわかるのかしら?」

希「それはどうやろな? ウチってミステリアスやし」

絵里「ふふっ、尻尾を掴ませてくれる気はないみたいね」

希「まぁ話を戻すけど、隠し事っていうのは大きく分けて二種類あって……一つは誰にも知られたくないもの、もう一つは誰かに気付いて欲しいもの」

絵里「真姫の場合は後者ってことでいいのよね?」

希「そこを見誤ると大変なことになるけどエリチなら心配いらんかな」

絵里「……ありがとう、希」

希「ウチは皆の幸せを願うとるから」


ウチに出来るんはこれくらいや

二人ならきっと大丈夫……だって

“カード”がそう告げとるんやもん


昼休み、私は一年生の教室に来ていた

目的は勿論、真姫の様子を見る為

希はああ言っていたけど、そもそもこれは本当に私が踏み込んでいい領域なのだろうか

真姫にだって誰にも触れられたくない事の一つや二つ持っているでしょう……しかも最近の様子からすれば、特に私には絶対に知られたくない様にもとれる

希は何故か楽観的だったけど……

何か知ってる風を装っていたが……あそこで私が突っ込んで聞いてみても絶対に教えてくれなかったに違いない


絵里「影……か」

花陽「絵里ちゃん?」

絵里「花陽、ちょうどよかったわ」

凛「あれ? 何で絵里ちゃんがこんなとこにいるのー?」

絵里「……真姫、いるかしら?」

花陽「真姫ちゃんに用事!?」

凛「真姫ちゃんならあっちだよー!」


二人の口元が微かに弛んだのを私は見逃さなかった

凛と花陽も何か知っているの……? 何も知らないのは私だけ……?

そんな深刻な問題では無さそうだから、敢えて問い質したりはしないけど

凛が指した方向に目を向ける


真姫「すぅ……すぅ……」


絵里「……あれって眠ってるの?」

花陽「そう、みたい……」

凛「ここ最近、ずっとあんな感じなんだよねー」

花陽「家であんまり眠れてないらしくて」


眠れない程、何をそんなに悩んでるっていうのよ……

何かあるなら相談してくれてもいいのに……私って頼りにされてないのかな……

途端に悔しさと悲しさが涌き出てきた

苦しんでいる一年生ひとり、力になってあげられないで何が先輩だ、生徒会長だ

こういう肩書きを持ち出すのはハッキリ言って好きではない……ただ、自分自身に対して言い訳が欲しかっただけ

誰に見られるはずもない、自分の中だけに在る絢瀬絵里としての体裁を保つ為に……

本当は好きな子に辛い思いをさせたくない

その想いだけで理由としては充分すぎる筈なのに


凛「えっと……凛たちはそろそろ」

絵里「何処か行くの?」

花陽「き、昨日習ったステップの確認しようかなって……ね?」

凛「そーそー! じゃあ絵里ちゃん、ごゆっくりー」

花陽「凛ちゃん、待ってぇー」

絵里「……」


思えばあの子たちの様子も普段と少し違う気がする、変に練習熱心だし……

真姫の問題と何か関係があるのかしら?

それとも私、一年生全員に嫌われてる……? 全く有り得ない話ではないところが悲しい

まだ怖がられてるのかな……

考えれば考えるほど不安に陥る

もしそれが真実だとしたなら、私が真姫に近付くことは完全に逆効果だ


でも……このままじゃ嫌だ

私に何か悪い所があるならちゃんと話してほしい……好きな子に理由もわからず蔑ろにされるなんて悲しすぎる

私は躊躇いながらも、机に肘をつき眠っている真姫の元へと足を運んだ


真姫「すぅ……すぅ……」

絵里「……可愛い寝顔」


長い睫毛、白くて綺麗な肌……、口に侵入しそうになっていた赤い髪の毛にそっと触れてみる


真姫「すぅ……すぅ……んっ……」

絵里「っ!」


危ない危ない……起こしてしまうところだった

って、私は真姫と話をしに来たんでしょ……だったら起きてもらった方が

でも、もう少しくらいこのまま眺めていてもバチは当たらないわよ……ね?


真姫「すぅ……すぅ……」


本当に綺麗な顔……

『触れてみたい』

そう脳内が欲望の信号を察知した頃には、 もう無意識的に真姫の顔には私の手が伸びていた

軽く頬に触れてみる


真姫「んっ……ぁ……すぅすぅ……」

絵里「ふふっ」


この程度では目を覚まさないと味をしめた私は更に鼻の頭をなぞり

……唇に指を置いた、柔らかい……

逆の手の指で自分の唇を押さえてみる、真姫の唇……私の唇……

欲しい……もしも真姫とそういう関係になれたのならいずれ……

わ、私は何を考えて……!!

動揺したのか真姫の唇に触れていた指に力が入ってしまった


真姫「んっ……、ふぇ……?」

絵里「あ……」


眠たげな半開きの眼は私を見詰めている……そんな私もどうしていいかわからず身体が硬直、指はまだ唇にあった

真姫の目が少しずつ見開いていく

そして、ようやく状況が理解出来たようだ

なんて悠長な事を言っている私もやっと金縛りから開放され、真姫の顔から指を退いた


真姫「な……、え……えっ……!?」

絵里「ま、真姫……おはよう……」

真姫「エ、エリー……? ッ……貴女……」

絵里「ご、ごめんなさい……そんなつもりはなかったの」

真姫「そんな、つもり……って……」

絵里「あ、あの……えっと、私……」

真姫「バ、バカ……馬鹿馬鹿っ!! 早くどっか行ってよ!! もうっ!!」


瞳に涙を溜め込み、顔を真っ赤にしながら怒りを露にした真姫は私の顔なんか見たくないと言わんばかりに机に伏してしまった

やってしまった……怒らせるつもりなんか全く無かったのに

はは……ここまで私、嫌われてたんだ

私は泣きそうになるのを何とか我慢して、この場を立ち去った


絵里「……本当にごめんなさい、真姫」

真姫「……っ」


放課後、私は生徒会室で年度末の予算案についての書類と向き合っていた


絵里「……」

希「……エリチ」

絵里「……何?」

希「真姫ちゃんと何かあった?」

絵里「……っ」


希は何でもお見通しだ

いや、こんな私の様子を見れば誰でも簡単に気付くのかもしれない


絵里「……別に、何もないわよ」


希に色々アドバイスを貰っておいて、あんな失態を犯してしまった

そんな自分の不甲斐なさを素直に打ち明けられない私がここにはいる


希「……いつものエリチやったらそんくらいの仕事、とっくに終わっとる筈やん?」

絵里「……」

希「練習に……いや、誰かに会いたくない理由でもあるんかなって」

絵里「……っ」

希「……エリチが触れて欲しくないんやったらウチはもうこれ以上は」

絵里「……私、何でこんなに馬鹿なんだろう」


一言……弱音を洩らせば、胸の中に溜め込んでいた思いが言葉となって止めどなく溢れ出してきた


絵里「自分を嫌ってる相手にちょっかいかけて、ますます嫌われて……ふふ、おかしいでしょ? 真姫の気持ちもわからずに……」

絵里「もうイヤ……何でこんなに上手くいかないのよ……! そりゃ私だって最初から好きになってもらおうなんて大それたこと思ってない……!!」

絵里「でも、好きになってほしくて……私のこと見てほしくて、色々頑張ってきたつもり……それなのに何で……っ、何で嫌われなくちゃいけないのよぉ……!!」

絵里「わからない……わからないわよっ!! 真姫が何を考えてるのかなんて……私には……、こんなに辛い思いするなら……最初から好きにならなきゃよかった……、ひぐっ……」

希「エリチ……」

絵里「ねぇ、何か知ってるんでしょ……? なら教えてよ……一体何を隠してるの? みんな……みんな、隠し事ばっかりして……どうして私だけ蚊帳の外に追いやられなきゃいけないの……?」

絵里「ねぇ、希……ねぇってば!!」

希「っ!」

絵里「えっ……?」


一瞬、何が起こったのかわからなかった

気が付くと私の顔は柔らかい……温かい感触に包まれていた


希「大丈夫、大丈夫やから……!!」

絵里「……希」

希「ウチを信じて……お願い」

絵里「……話しては、くれないの?」

希「……ウチやって、エリチのこんな辛そうな顔なんか見たくない! でも……これはウチの口から言うことやないと思うんよ」

絵里「……そう」

希「ごめん……」

絵里「ううん、ありがとう……」

絵里「……私、希のこと好きになってたら幸せになれたのかな?」


希は私の問いに答えることはなく、ただ強く抱きしめ続けてくれた


夢じゃない……?

まだ唇にエリーの指の感触が残っている

どうしてこんなことを……エリーは何を考えて……

わかる筈などなかった……自分の本当の気持ちに気付いたのもつい最近だというのに

ましてや他人の胸の内など理解することなんか到底不可能な様に感じた

自分の都合の良い方に考えるのは簡単だ

エリーも私のことが好き

だから私に触れて……


真姫「はぁ……」


『……本当にごめんなさい』


エリーの声、震えてた……傷付けちゃったわよね、絶対……

謝らきゃいけないのは私の方なのに……

もう、嫌われちゃったよね……


にこ「ていうかそれって絵里ちゃんも真姫ちゃんのこと好きってことでしょ?」

真姫「は? そ、そんなわけ……」


放課後、私は三年生の教室に来ていた

自分から恋の相談なんか言い出せないのなんかわかってた……だから、聞かれるのを待っていたんだと思う

ニコちゃんならきっと私の様子を察してくれるって期待して……

甘えてるのね……私


にこ「だって好きじゃなきゃそんなことしないし~」

真姫「……え? ちょ、ちょっと待って……私、エリーの名前なんか出してないわよね!?」

にこ「……今更? 真姫ちゃんがそんな顔して悩むなんか絵里ちゃんのこと以外に考えられないから~! もうみんな気付いてるよ?」

真姫「あぅ……」


何よ、みんなして……私ってそんなにわかりやすいの?

わざわざ対象の名前をぼかして相談してた私がすごくマヌケみたいじゃない……


にこ「……それで? 絵里ちゃんのことなの? そうじゃないの?」

真姫「…………エリーのこと」

にこ「よしよし、素直な真姫ちゃんは大好きニコ~」

真姫「むぅ……私が好きなのはエリーだから……ごめんなさい」

にこ「そ、そこ真面目に返さないでよ! ニコが一人でフラれたみたいになってるじゃない!」

真姫「ふふふっ」

にこ「あ、やっと笑った」

真姫「え?」

にこ「最近、見る度に難しい顔してるからちょっと心配だったんだ……ちゃんと寝てる? 目の下のクマ凄いことになってるよ?」

真姫「ニコちゃん……」

にこ「キュートなニコと違って、真姫ちゃんは素が無愛想なんだからいつも笑ってないと~! ほらスマイルスマイル~」

真姫「よ、余計なお世話よ!!」


『でも……ありがと、ニコちゃん』


そう心の中で呟いた

しかし、感謝の想いとは裏腹にもどかしさが募っていくのを感じていた

ニコちゃんとはこんなに普通に話せるのにどうしてエリーには変な態度しかとることが出来ないのか……

つくづく自分の不器用さが嫌になる


真姫「ねぇ……さっきの話、本当?」

にこ「さっきの話って?」

真姫「そ、その……エリーが私のこと……す、好きっていうの……」

にこ「ホントホント~! この愛の伝道師ニコが言うんだから間違いないニコ~」

真姫「……信用ならないわね」


ニコちゃんの軽すぎる口調に少しだけイラッとした、が

『エリーは私のことが好き』

それは今まで私の空想の中にしか存在していなかった言葉だ

自分ひとりが勝手に妄想するのと、他人がそう言うのとでは言葉の重みが全く違う

信じていいのかな……ちょっとだけ気持ちが楽になった気がした


真姫「私、エリーに謝らなきゃ……」


想いを伝えることはまだ無理かもしれないけど、好きな人を傷付けてしまった事実を放ってはおけない

多分、上手く話せないと思う……だけど一言、たった一言……“ごめんなさい”って言おう


真姫「ニコちゃん……ありがと」

にこ「真姫ちゃんは本当はとっても素直ないい子なんだから、自分の気持ちをそのまま伝えればいいのに~」


それが出来たらこんなに苦労してないわよ

まったく、ニコちゃんったら……


真姫「長々と付き合わせちゃったわね、そろそろ練習に向かいましょう」

にこ「あ、でも絵里ちゃん今日は生徒会の仕事があるって言ってたからまだ来てないかも」

真姫「そ、そうなの? でもその内」

にこ「あーやっぱりまだ生徒会室にいるみたい」

真姫「え? 何でわかるのよ、そんなこと」

にこ「ほら、この窓から見え……えっ? 」


ニコちゃん指差した先に視線を向けると確かに生徒会室があった

その中に見える金髪の生徒はエリーに間違いないだろう

あれ? でも様子がおかしい……一体何をして……


真姫「え……?」


自分の目を疑い、何度も何度もその目を凝らしてみる

しかし、目に映る光景に変化などあるわけもない

見たくなかった……信じたくなかった……

どんなに激しく後悔しても現実は変わることはない


にこ「ま、真姫ちゃ……」

真姫「……そういうこと……だったのね」


私の視線の先には、抱き合っているエリーと希がいた


真姫「……ふふふ」

にこ「真姫……ちゃん……?」


何を期待してたのよ、私は

最初からわかってたことじゃない……エリーが私に振り向いてくれるなんてあるわけないって

なのに一人で舞い上がって、調子に乗って……その結果がこれ?

自分でも笑えてくる……本当に馬鹿みたい

そもそも私は別に本気でエリーのこと好きだったわけじゃ……好きだったわけじゃ……

なのに、何でよ……何でこんなに涙が溢れてくるの……?


真姫「うぅっ……ひぐっ…えりぃ……っ!」

にこ「真姫ちゃん……これは、絶対何かの間違いだから……!!」

真姫「もう……いいの……いいのよ、ニコちゃん……っ」

にこ「よくないっ!!」


ニコちゃんはいつになく真剣な表情で窓の向こう側を睨み付けると、静かに私の方へと顔を戻した

無理して笑顔を作っている……涙で視界がぼやけている私が一目で見抜ける程に不自然すぎる笑顔だった

やめて……私の為にそんな辛そうに笑わないでよ

……私はそれが示す意味を理解していた


にこ「ごめん……少しだけここで待ってて」

真姫「……何処、行くの?」

にこ「……すぐ戻るから」

真姫「……やめて、もうこれ以上私を惨めにしないで……!!」

にこ「でもっ……!!」

真姫「もういいって言ってるでしょ!! そもそもニコちゃんには関係ないじゃない……!!」

にこ「なら何でニコに話してくれたのよ!? どうにかして欲しかったからじゃないの!?」

真姫「……っ」

にこ「絵里ちゃんの事が好きで好きで仕方ないから今こうして顔をグシャグシャにして泣いてるんでしょ!?」

真姫「……うるさいっ! うるさいうるさいうるさい!!」

にこ「そうやって自分の聞いてほしいことだけ話して、聞きたくないことは遮断するんだ? 自分勝手過ぎるよね、真姫ちゃんは」

真姫「……っ!!」

にこ「自分の気持ちも録に整理出来ないくせして嫌なことがあったら無理矢理それに蓋して目を背けるの? ハッキリ言ってカッコ悪すぎ」

真姫「うぅっ……ひぐっ……!!」

にこ「もっと素直に自分の気持ちを吐き出しなさいよ!! 誰も笑ったりなんかしない……ニコが全部受け止めてあげるから!!」

にこ「こんな形で終わっていいわけがない!! 自分でもわかってるんでしょ!? 真姫ちゃんはどうしたいの!? ニコに聞かせてよ!!」

真姫「私は……、私は……!! エリーが好き……!!」

にこ「うん……!」

真姫「でも、頭の中がぐちゃぐちゃでどうしていいかわからないの……! だから、助けて……ニコちゃん」

にこ「任せなさい」

真姫「ありがと……っ」


安堵したのか全身の力が抜けるのを感じ、私の意識はそこで途絶えた


真姫が倒れた

そう言ってニコが生徒会室に飛び込んできた時は心臓が止まるかとさえ思った

が、詳しく話を聞くと睡眠不足からの疲労の蓄積が原因らしい……


絵里『良かった……なら、すぐ元気になるのね』

にこ『良かった……? 誰のせいで真姫ちゃんがあんなことになったと思ってるのよ!!』

絵里『え……?』

希『ニコっち!!』

にこ『真姫ちゃんはニコに助けてって言ってきたの……だからニコはニコの思った通りにする、あんな真姫ちゃんもう見てられないから……』

絵里『ど、どういうこと……?』

にこ『まだわかんないの!? どこまで鈍感なのよ!! 真姫ちゃんはね……真姫ちゃんは絵里ちゃんのことが好きなのよ!!』


最初にそれを聞かされた時は信じられなかった

頭の内側から金槌で叩き付けられた様な衝撃にかられる

真姫が私のことを……?


希『……黙っててごめん。ウチがもっと早く言っておけば』

にこ『希ちゃんは真姫ちゃんの気持ちも汲んでくれてたんでしょ? 誰にもわからなかったよ……こんなことになるなんて』

絵里『本当……なの?』

にこ『真実よ……だから窓越しから絵里ちゃんと希ちゃんが抱き合ってるのを見て、真姫ちゃんすごくショック受けてた……』

希『あ、あれはウチが勝手にやったことで……!!』

にこ『……二人はそういう関係だったの? 絵里ちゃんの心の中に真姫ちゃんはいないの?』

絵里『私は……』


保健室のベッドでぐっすりと眠っている真姫

この様子じゃしばらく起きそうにないかな……相当、疲れていたのね

目を覚ましたら全部話そう……私の胸の内にある想いを全部


真姫「すぅ……すぅ……」

絵里「真姫……」


下校時刻もとっくに過ぎ、外はもう真っ暗になっていた

生徒会長としての立場を利用し、無理を言って保健室をこんな時間まで使わせてもらっている

理事長に懇願して真姫のご両親に帰りが遅くなることも連絡してもらった

なんて自分勝手な私……。呆れて笑みが溢れてくる

今の私には目の前にいる真姫のことしか考えれない……迷惑をかけてしまった人達には後で必ず謝ろう


真姫「……ん……、んんっ……」

絵里「……真姫」

真姫「エリー……?」


真姫は私の顔を見るなり、布団の中へ潜り込んだ

無理もない……真姫は私と希がそういう関係だと思い込んでしまっている

もし私が真姫の立場なら同じ行動をとるだろう


真姫「…………私、何で」

絵里「ニコと話している途中に倒れてしまったそうよ」

真姫「……そう、ニコちゃんは……?」

絵里「先に帰ってもらったわ」

真姫「……どうして、エリーはいるの?」

絵里「真姫が心配だったから……勿論、他の皆もすごく心配してた……でも、私が無理を言って二人きりにしてもらったの」

真姫「…………何、それ……? 意味わかんない……っ」

絵里「……真姫に伝えたいことがあって」

真姫「……っ」

絵里「私は……真姫が好き」


私は、ズルい……もう真姫の気持ちを知ってしまっているのにこんな改まっての告白など


絵里「……ニコから聞いたの。真姫が私のせいで辛い想いをしてるって……最初から私が素直に自分の気持ちを伝えていればこんな想いさせずに済んだのに」

真姫「嘘……? 嘘よ……だってエリーは希と……っ!!」

絵里「……あれは希に慰めてもらっていただけ。誤解させちゃったみたいだけど……このことも含め、全部私の弱さが原因なの……本当にごめんなさい」

真姫「本当に……? 本当に私のこと……、夢じゃないの……?」


真姫は布団から顔を出し、私の目を潤んだ瞳でじっと見詰める

私は両手を伸ばし、真姫の頬に触れた


真姫「ひゃッ……!! 冷た……」

絵里「ふふっ」

真姫「…………私も、ごめんなさい」

絵里「え?」

真姫「……今までいっぱいエリーのこと傷付けちゃった……嫌な想いさせちゃった!! 今日だって……っ」

絵里「それはお互い様……謝るのはもうおしまいにしましょう? それよりも聞かせて」

真姫「何、を……?」

絵里「真姫が私のことをどう想っているのか」

真姫「で、でもそれはニコちゃんから」

絵里「私は真姫の口から聞きたいの」

真姫「うっ……あぅっ……! エ、エリーこそ……!!」

絵里「私? 私はさっき言ったじゃない? でも……いいわ」

絵里「好き……真姫、好きよ」


『好き』、口にすると何て心地好い言葉なのか

発する度に目の前にいる相手を愛しく感じることができる……自分の気持ちを再確認できる

陳腐な表現と笑う人もいるかもしれない……でも私はこれ以上を知らない

知る必要などないとさえ思えてくる


絵里「私は真姫のことが大好きよ……真姫は?」

真姫「……わ、私も……エリーが、好き……」


『好き』、言葉にすればほんの一秒……なのに私たちはどれだけの遠回りをしてきたのだろう

真姫の口から放たれた『好き』は私の胸に溶けていった

胸の奥がキュンとなり、幸せな高鳴りを感じる……あぁ、もう私はこれなしでは生きていけそうにないかもしれない


絵里「……もう一回、言って」

真姫「え、えぇ……!?」


二つも年下の少女に対して私は何を言ってるのだろう

でも、今だけは甘えてみたい……耳が、心が、身体中が真姫の言葉を欲している


絵里「まきぃ……、好き……」

真姫「あぅ……し、仕方ないわねぇ……」

真姫「……す、好きよ……エリーのこと、大好き……!! 他のことなんか全然考えられないくらい大好きっ……!!」

絵里「私も真姫のことしか考えられない!! 真姫さえいれば何もいらない……それくらい好き、大好き……!!」


それから私たちは思い思いにお互いの愛の言葉をぶつけ合った

こんな幸せな時間が終わらなければいいのに……と強く思ったがそれはまた次の機会に残しておくことにしよう

時間も時間なのでそろそろ帰らなくては


絵里「帰りましょうか」

真姫「……うん」

絵里「もう身体は大丈夫なの?」

真姫「うん……、あ」

絵里「……?」

真姫「……エリー、もう少しこっち来て」


真姫は私の袖を引き、頭を優しく抱き自分の懐へと包み込んだ

これって……


真姫「……希にだけやってもらったなんて、そんなのズルい……許さないんだから」

絵里「真姫……」


真姫の匂い……、温かい……柔らかい……幸せな感覚に包まれている

よかった……顔が見られなくて

きっと私……すごくだらしない表情してる


絵里「ねぇ、真姫……」

真姫「何? エリー」

絵里「好きよ」

真姫「私も大好き」


━━fin━━

ちょこちょこ感覚空けちゃったんですけど、出来ればもう一度最初から一気読みしてほしいですー

読んでくださった方々、ありがとうございました(参考までにアドバイスとか批判とかしてくれたら嬉しいです)

今から後日談?を貼っていきます

前に違うとこで書いたものなので読んでくれたことある人いるかもしれませんが


━━

真姫「……ねぇ、まだ?」

絵里「んー……もう少し……」


生徒会長も楽ではない。今日も日が暮れるまで書類の整理等の雑務に追われている

対面には退屈そうに頬ずえをついている真姫。ふと目が合えば、不機嫌そうな表情でこちらをジロリと睨んできた


絵里「別にいいのよ? 待っててくれなくても」

真姫「……ッ」


あ、やってしまった……

真姫の表情がますます険しくなっていくのが見ずしても手にとれる

後でちゃんと機嫌とってあげないと

今日は副会長である希が風邪で欠席している為、その分の仕事も私が負担していた


真姫と恋人関係になってもう一ヶ月が経とうとしている

この生徒会室では当然ながら希と一緒にいることが多いのだが、真姫は絶対に他人がいる時にはこうして長々と居座ったりしない

だから今日みたいに希が休みの日だとか、先に帰った時なんかは期を見計らったかの様に私の元にやってくる

以前、二人きりだからと私が仕事中にも関わらず隣に来てちょっかいをかけてくる真姫を本気で叱ったことがあった

それ以来、今みたいに少し離れた位置で私の仕事が終わるのを文句は言わない事もないのだが……大人しく待っててくれている


絵里「お待たせ」

真姫「終わった?」

絵里「えぇ、帰りましょうか」

真姫「そうね」


ふふっ、本当に嬉しそうな顔。この笑顔を見ると疲れなんか一瞬で吹き飛んでしまう

もう機嫌をとる必要はなさそうかな、なんて思ったが……長い時間、良い子で待っててくれた恋人へのご褒美として頭に手を乗せ軽く撫でてあげた

ご褒美なんて大層な言い方をしてしまったが、本当はただ私がそうしたかっただけなのかもしれない

そう、これは仕事を頑張った私自身へのご褒美……そういうことにしておこう


真姫「エリー」

絵里「はいはい」


真姫は私の腕を抱き、私達は寄り添ったまま誰もいない校舎を後にした


真姫「ねぇ、エリー」

絵里「何?」

真姫「好き」

絵里「私も真姫のこと大好きよ」


真姫は私と付き合って変わった

初めて会った時には想像も出来ない程に、自分の想いを素直に伝えられるようになっていた

まぁそれは私にも言えるのかもしれないけど

前に希が言っていた言葉を思い出す……

私と真姫は似ている……か、今ならわかる気がする


真姫「こうしてエリーの手を握って歳をとっていくのが私の幸せ……ずっと傍にいてよね?」

絵里「……えぇ、勿論よ」


自分で言うのも何だが真姫はかなり私に依存しているのだろう

人目も憚らず手を繋ぎ、身体を寄せ吸い込まれそうな瞳で私をじっと見つめていた


私たちが向かった先は真姫の家

両親が仕事で帰りが遅いこともあり、一緒に帰る日は真姫の家で二人きりの夕食を堪能している


真姫「はぁ…やっとエリーにくっ付ける……」

絵里「さっきまでもずっとしがみつかれてた気がするんだけど? おかげで肩が痛いわ」

真姫「むぅー……じゃあもうそっち行ってあげないんだから……。いいの? それでも」

絵里「それは、ちょっと寂しいわね」

真姫「本当? なら仕方ないわねー、それっ!」


胸に飛び込んでくる真姫を優しく抱き締める

その勢いから互いの鼻先が触れ、私も真姫も今までにない近すぎる距離を意識してしまった


真姫「あっ…、あぅぅ……」

絵里「……っ」


顔を真っ赤に染める真姫

そんな恋人の慌て戸惑う様子を見て、私は何とかして冷静を取り戻す

手を繋いだり身体を寄せ合う事には慣れてきたみたいだけど、まだこっちの方はかなりの恥じらいがあるようだ


冷静を取り戻したのも束の間、胸の奥で理性の崩れ落ちる音が微かに聴こえた

私だって人間だ

勿論、人並みに欲情を持ち合わせている……大好きな人と触れたい、抱き合いたい……キスしてみたい

目を伏せる真姫の頭をそっと手で抱き、ゆっくりと顔を近付ける

しかし、


真姫「ダ、ダメッ……!!」

絵里「真姫……?」

真姫「そ、そういうのはまだ……その……」

絵里「ごめんなさい、怖がらせるつもりはなかったの……許して」

真姫「わ、私こそ……ごめん……でも、エリーのことが嫌いなわけじゃないのよ! 本当なんだから……っ」

絵里「それはわかってるから。こういうのはお互いの気持ちが一番大事だもの……真姫が望んでくれるまで私はいくらでも待てるわ」

真姫「エ、エリー……ぐすっ……」


涙を溢す真姫の顔に触れ、再び胸の中に包み込んだ


そんな幸せな毎日を過ごしていく中、私には一つ気掛かりな事があった

聞いた話なのだが

真姫が私と一緒にいる時間が増える一方……それ以外の、私以外の人間との関わりを言い方は悪いが蔑ろにしているらしい

凛も花陽もとても寂しがっていると……勿論、私の事を大切に想ってくれているのは素直に嬉しい

だが、もし私がいなくなったら真姫はどうなってしまうのか……

最近、そんな事ばかり考えてしまっていた


真姫「エリー? どうしたの?」

絵里「……ううん、何でもない。そろそろ時間も遅いし失礼するわ」

真姫「うん、また電話する」

絵里「じゃあね」


現実問題、真姫とこうして一緒にいられる時間は残り少ない

もうすぐ私は卒業する

そして、卒業後すぐに日本を発ってしまうのだから


外国語の勉強の為に留学……新しい環境に少しでも早く慣れるよう、卒業したらすぐに現地に向かう事

まだ……真姫には進学するとしか伝えていない

真姫は泣くだろう、泣いて泣いて泣き喚いて……その先は、見当も付かない

私もきっと泣いてしまう……行くのを躊躇ってしまうだろう

でも、互いに前に進む為にこの問題を避けては通れない……このままじゃ駄目になってしまう、二人とも


ある放課後、私は真姫を音楽室に呼び出した

この場所なら多少防音も備わっており、二人分の泣き声くらい何とかしてくれるだろう


真姫「何? 話って」

絵里「……」

真姫「エリー……?」

絵里「……私ね、来月日本を離れるの。ごめんなさい、今まで黙っていて」

真姫「え……?」


真姫「留学……? 嘘……、よね……?」

絵里「……本当よ、だからもう……真姫とも会えなくなるの」

真姫「う、嘘よ……! 嫌……いや……っ!! 何で!? どうして!? だって言ってたじゃない!! ずっと……ずっと私の傍にいてくれるって……!!」

絵里「ごめんなさい……っ!」


普段からは想像も出来ない真姫の喚き声が部屋中に響き渡る

その声は部屋中の壁に反響し、四方から私の心に突き刺さった


真姫「嘘つき…… 嘘つき……ッ!! 嫌よ……、行かないで……っ……ずっと、私といてよ……っ」

絵里「私、甘えてたの……っ、私にだけ優しい太陽みたいな笑顔を見せてくれる貴女に……、真姫と過ごす心地よくて穏やかな毎日に……っ! それを壊すのが……怖くて、ずっと……言えずにいた……」

絵里「長引かせれば長引かせた分だけ真姫が辛く、悲しむってわかってたのに……卑怯なのよ……私……っ!」

真姫「エリぃ…っ……えりぃ……、ひぐっ……!」

絵里「私だって…私だって、離れたくない……っ! 真姫とずっと一緒にいたいのよぉ……っ!!」


こんなにまで感情を露にした事など今までにあっただろうか、瞳からは大粒の涙が次々と溢れ出してくる

私達は暫くの間、大声で泣き続けた

部屋の外に声が漏れてしまう心配などする余裕もない程に、泣き喚いた……泣き叫んだ


真姫「ひぐっ……私ね……ずっと不安だったの……エリーが私のこと……本当に好きなのかな……って」

絵里「えっ……?」

真姫「だって、エリーってば、ずっと……大人ぶった態度ばっかりで……なかなか本心見せてくれないから……っ……だからこうして、エリーの言葉聴けて……ちょっと安心してる……」

真姫「甘えていたのは私の方……エリーが優しいから、優しすぎるから……我儘ばっかり言って、いつも困らせちゃう……今だってそう……」

真姫「エリーにはエリーの人生があるのに……そんなことずっと前からわかってた……なのに、ずっと現状に甘んじて、見ないふりしてきたの……」

真姫「私……、強くならなきゃね……エリーをもっともっと夢中にさせられるくらいいい女に」

絵里「真姫……っ」

真姫「ねぇ……エリー……」


真姫の腕によって私の身体が引き寄せられる


絵里「真姫……?」

真姫「……大好き。いってらっしゃい」


そして、唇と唇が合わさった

初めてのキス……それは涙の味がした


『私も……大好き』


━━fin━━

ありがとうございますー!!

3月15日に海未ちゃんのバースデーSS書くのでまたよろしくお願いします

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