俺の名前は須賀京太郎 (69)


 16歳。属性は混沌救世主(カオスメサイア)。
 二つ名は漆黒に染まる暗黒剣士(ダークネス・ブラック・ソルジャー)。
 麻雀ランクはSSSより強いMだけど面倒なのでGだ。
 そしてこのSSは一応18禁だ。

「京ちゃん何を言っているの?」
「おいおい、地の文に突っ込みを入れるとはどういうことだよ?」

 まさか咲に突っ込まれてしまうとは。つーかお前いつからいたよ?

「ずっと一緒にいたし、ずっと口に出してたでしょ」
「ぐはっ、また口に出してしまっていたのか」

 自分の考えを時折無意識的に出してしまうのは俺の悪い癖だな、うん。

「京ちゃんは変な事を言っていないで早く麻雀ランクを上げた方がいいんじゃないの?」
「今はランクを上げるより雑用をして皆の力になれるのが嬉しいんだ(ニコッ」
「ポッ//(京ちゃん格好いいっ! 自分より私達の事を考えてくれるなんて最高だよお//)」
「ん? 急に顔が赤くなったけどもしかして熱でもあるのか?」
「そ、そんなことないよ!」
「そんなことあるだろ。ちょっと見せてみろよ」
「キャッ//」

 俺は咲のおでこと自分のおでこをくっつける。

「やっぱり熱があるみたいだな。すげえ熱いぞ」
「も、もー// 京ちゃんの鈍感! だから麻雀ランクがGなんだよ!」

 なぜか知らないけど急に咲が怒り出したぞ。
 やれやれ女心は分からないぜ。
 それに俺の麻雀ランクは本当はMなのにな。
 そもそも俺の家である須賀家は、代々SSSランク以下の人間がいないという知る人ぞ知る名家なんだ。
 もっともそれを知っているのは裏の人間やこの国の総理大臣クラスの人間だけなんだけどな。

「京ちゃん早く部活に行くよ!」
「おう。今いくぞ!」

 だから咲のような高校最強レベルみたいな低レベルの人間は俺の事なんか知るよしもない。
 まあ全国で優勝したおかげでランクSにはなったからいつか俺の事を知る可能性も微粒子レベルで存在するかもな。
 でも咲には裏の世界の事など知らずに表の世界で生きて欲しい。
 裏の世界に比べたら表の世界なんて麻雀ではなく、ドンジャラをやっているようなものだ。
 咲には、表の世界でこの世界の闇の部分など見ないで幸せに暮らして欲しい。
 そう思うのは俺のエゴなのだろか?

「京ちゃん!」
「はいはい」

 変な事を考えていたらまた咲に呼ばれちまったぜ!
 俺は咲に誘われるままに部活へと行くのであった。
 この時の俺にはこれが平穏の終わりだとは知る由もなかったのだった。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1367593247


「フハハーワタシノナマエハマクスドアラフォー! オマエラノマージャンチカラハワタシノモノダー」
「な、なんだこいつ!」

 部室に入った俺達を出迎えたのはマスクを被った怪しい人物だった。

「みんな! 何があったの!」

 咲の声に釣られるように周囲を見渡すと部員の皆が倒れていた。

「てめえ! 俺の女達に何をしやがった!」
「俺の女だなんて京太郎大胆だじぇ//」
「優希ちゃん屋上へ行こうか(ニコッ」

 くそ! なぜだか知らないけど仲間割れが始まってしまったぜ!
 とりあえず怖いから咲達は放っておいて他の人に事情を聞いてみよう。

「部長何があったんですか?」
「す、須賀くん……」
「部長、こういう時は素直に京太郎君でいいんですよ?」
「京太郎君(ポッ」

 実は部長とはロッカーの中で男女の関係になっていたのだ。
 皆には秘密だけどな!

「す、須賀くん……」
「和、こういう時は素直に京太郎君でいいんだぜ?」
「京太郎君(ポッ」

 実は和とは(ry
 皆には(ry

「事情を説明したいんだじぇ……」

 おっと俺の女達に構っていたら肝心な事を忘れていたぜ!
 ちなみに優希とはまだ男女の関係になっていない。
 近いうちにパイパンテンションをするつもりなんだけど、あの本の俺は鬼畜過ぎるから困っちまうぜ!
 本当の俺はジョナサン・ジョースターも泣きながら土下座をしてくるくらいの紳士なのにな(爆)
 やれやれだぜ(核爆)

「皆で麻雀をしていたらいきなりマスクを被ったアラフォーが襲い掛かってきたんだじぇ」
「ええ、優希の言う通りです。私達は麻雀で迎撃したんですけど……」
「優希の東場力も和のデジタル打ちもまこのキングクリムソンも私の悪待ちも通じずボロ負けだったのよ」

 なんだってえー! 皆が手も足も出ないなんて。
 そりゃあ俺と比べたらドンジャラでスネオを揃えて喜んでるようなレベルとはいえ世間から見れば充分に強いと言うのに!
 ランクだって優希はB、和と部長はAだっていうのに!

「あれそういえばワカメ先輩はいないけどどうしたんですか?」
「まこはマスクドアラフォーに吸収されしまったの><」
「そんな!」

 キンクリワカメと皆には馬鹿にされているけど、それでも俺だけは憐憫の感情で相手をしてやってハーレム要員の末席に入れてやろうと思ってたのに!

「よくもやってくれたな! 俺が相手をしてやるぜ!」

 俺の力を完全解放すると地上がヤバクなるが、俺のハーレム要員に手を出す奴は許さないぜ!


「待って京ちゃん! ここはこのSSのメインヒロインの私に任せて!」

 馬鹿ネタばれするなYO秘密だったんだZE

「フハハーリンシャンマシーンミヤナガサキショウブダー」

 くそお! 俺が突っ込みをしている間に咲とマスクドアラフォーの対局が始まっちまったぜ!

※ループここから

「私の番だね。ダブルリーチ! 早くツモってね(ニコッ」

 流石咲だ。この場でいきなりテンパイになっているなんて牌に愛されている子は伊達じゃないぜ!

「……モ」
「ん? 何かいったかな? ツモったのなら早く切ってくださいね(ニコッ」

 咲のあの笑い。獲物を狙う狩人の目やでえ。

「ツモ地和」
「えっ」

 手牌を倒すマスクドアラフォー。
 その手牌はあがっていた。

※ループここまで
 咲の持ち点が飛ぶまでループを繰り返す。
※ループ終了後↓に進む。

「嘘っ! 全国大会団体で他の有象無象を蹂躙しつくし、個人戦では優勝したこの私が負けるなんて><。」

「Sランクの咲が負けるなんて……」

 まさかこいつ裏の人間なのか?
 だとしたら俺が相手をするしかないのか……
 しかし俺が相手をするという事は今までの表の世界を捨て去るという事だ。
 俺は! 俺は! まだ皆と一緒にいたい!

「フハハーオマエモスイトッテヤロウカー」
「やめろ! 俺が相手だ!」

 俺は覚悟したぞ! 例え皆ともう二度と会えなくともお前だけはここで倒す!

「やめて京ちゃん! Gランクのゴミカスだったらマスクドアラフォーと相対しただけで死んじゃうよお」
「咲、お前と過ごした日々は楽しかったぜ!」
「京ちゃん!」
「優希、もっとお前にタコスを作ってやりたかったぜ!」
「京太郎!」
「部長、ロッカーの中はよかったですよ!」
「須賀君//」
「和、何でお前の同人はモブにレイープされてるのが多いんだよ! 俺をもっと出せよ!」
「知らんがな(´・ω・`)」

 皆との別れは済ませたぜ!

「勝負だマスク(ry」←長いのでここから省略していきます。
「ショウブダー」


 こうして対局が始まったのであった。
 俺の本気を見せてやるぜ!
 俺は気合を入れる。
 
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「す、すごい麻雀力なんだじぇ」
「大気が震えています。これはオカルトを信じない私も思わずお漏らし失禁してしまいました(ジョー」
「10000……100000! そんなまだ上がっていく! 私の麻雀スカウターじゃ図りきれない!(スカウターボカン」
「ふう、待たせたな。全力を出すのは何世紀ぶりくらいだから力に慣れていないんだ」
「ひ、ひい。思わずタコスを吐いてしまったんだじぇ(タコスゲロー」
「みんなすまねえな。俺の麻雀力は10の1億万光年乗だから普通にしているだけでこうなっちまうんだ」
「幼馴染で京ちゃんの事はなんでも知ってる私が知らなかったなんて、なんてことだ……なんてことだ……」

 みんなやはりショックを受けているみてえだな。
 これが持っている者と持たざる者の差か……
 天才ゆえの孤独か。悲しい事だぜ。

「ハヤクウトウヨ」
「はい」

 俺の親で対局だ!

「天地創世(ビギニングオブザコスモス)
 140符105飜。
 908溝6519穣5024序3594ガイ8349京9283兆6857億6135万1700点」
「エッ」

 勝負は一瞬で決まった。
 天の女神を愛人としている俺にとって天地創世は逃れられない宿命なのだ。

「ウワー」
「対局に負けたマスクドアラフォーの覆面が消滅していくわ!」
「部長見事な説明台詞乙です」
「ここどこー」

 覆面が消滅して現れたその姿は、なんと小鍛治健夜ことすこやんだった!
 誰も想像してなかった展開に俺の驚愕が有頂天!

「あっ、御主人様君がいる//」
「ちょ、おまっ! 御主人様って呼ぶのは二人切りの時だけだって言ってるだろ!」
「あっ! ごめんね京太郎君(メソリ」

 涙目で謝ってくるすこやんを見ているとむらむらしてしまうのはここだけの秘密な!

「京ちゃん(ニコッ」
「しまった! また口に出していたのか! やっちまったぜ!」

 麻雀が強くてもこういう所が俺はまだまだだな。
 もっと修行しないと駄目だな。

「今の実力に慢心せず、さらに高みを目指すなんて京太郎素敵過ぎるんだじぇ//」
「おっと! またまた口に出してしまったか。やれやれだぜ」
「それより須賀君(ニコッ」
「小鍛治プロとの関係を聞かせてもらえませんか(ニコッ」

 笑顔で問い詰めてくる部長と和。
 ベットの上だと従順になくせに、こういう時の女は怖いぜ!
 まあ釣った魚に餌をやるのも大事だし、ちょっと俺の昔話でもしてやるかな。
 こうして俺の過去話が始まるのであった。


(長いので飛ばしておkです)

 〜須賀京太郎〜

 この物語の主人公。
 縄文時代から続く財閥でその規模は日本及び世界有数である須賀コンツェルンの息子としてこの世に生をうける。
 京太郎の両親は京太郎が生まれた瞬間に不慮の事故によりこの世を去った。
 両親との別れという深い悲しみに包まれた京太郎は、その身体に聖痕(スティグマ)を刻まれてしまう。
 聖痕によりあまりに異質な『力』に目覚めてしまい、制御しきれずに暴走する事もたびたびあった。
 しかしある日、麻雀牌に触れるた時に麻雀力に覚醒。
 そのおかげで『力』を制御できるようになった。
 それからは普通の一般人として暮らす為に須賀コンツェルンを捨てて庶民として生活をしている。
 しかし京太郎の望みとは裏腹に、運命という名の螺旋が京太郎を放っておいてくれるはずがなく事件に巻き込まれる事だらけである。
 普通に暮らしているだけで異世界ハルケギニアに召還されたり、フレイムヘイズとして闘ったり、直死の魔眼に目覚めて吸血鬼達の事件に介入したり、BETAのいる世界に召還されたりと、異世界転生して神様に力を貰うチートオリ主人公並みに忙しい日々を送っている。
 息抜きにソードアート・オンラインというネットゲームをしてみれば思わぬデスゲームでゲームの中に囚われてしまった事もあった。
 もっともゲーム自体は一時間でクリアしたのだが。
 このように京太郎の経験した事件が多少話を変えて、この世に物語として生まれている。
 皆さんが知っている物語は本当は京太郎が経験した物語だったのだ!
 その際に知り合った女は全て京太郎のハーレム要員としてなっており、京太郎に危険が迫れば全てを捨ててでも駆けつけてくれる存在となっている。
 もっとも京太郎自身は普通に暮らしたいので、長野の高級マンションを建物ごと買って一人暮らしをしている。
 しかし咲と出会ってからは自らの運命を変える切欠となった麻雀に力を入れだした。
 学校を無遅刻無早退無欠席の完全皆勤賞を取りながらも、裏で赤木、天、鷲巣、哲也、傀、竜、ジュンイチロー、フランケンなどの世間一般では最強と呼ばれる者達と対局をして、その全てを一巡持たせずに飛ばしている。
 男は全て倒した京太郎は女とも打ってみたいと思い性別を隠し女子プロの世界にも介入していく。
 普通の男が女装をしてもすぐにばれるが、京太郎の美の女神も裸足で逃げ出す美貌の前では問題などあるはずもなかった。
 京太郎の容姿↓
 京太郎の本来の髪の色は透き通るような銀髪、目の色は鮮血の朱、肌は雪のように美しい白である。
 しかし普通に暮らしていた京太郎は目立たないようにする為に髪は染め、瞳にはカラーコンタクトを入れるなどをしている。
 それでもこの世の言葉では表現しきれない程の容姿を持っている京太郎は出会った女性の全てを魅了させてしまうほどである。
 女子プロとしてやっていたが、それでも京太郎に敵うものなどおらず、退屈していた時に現れたのが当時永世七段国内無敗世界ランク2位の小鍛治健夜だった。
 ちなみに京太郎はタイトルは一度手にしたらもう飽きて捨ててしまっている為に永世の称号を得る事はなかったが世界ランク1位で混沌救世主(カオスメサイア)の称号を貰っている。
 すこやんとの対局は京太郎の力を小指の爪程に解放する程の名対局で、すこやんを気に入った京太郎はその場すこやんを哀願奴隷としてしている。
 しかし世界で2番目に強いすこやんでさえ、自らと比べたらあまりに弱かった現実に絶望した京太郎は自分で打つ麻雀を捨てて、実力を隠してマネージャーとして清澄麻雀部に所属している。
 マネージャーとしても最強な京太郎のおかげで清澄は全国大会に優勝したと言っても過言ではない。


 ↑産業まとめ
 京太郎めちゃんこ強い。
 すこやんが世界2位だったのは京太郎が女装して世界1位になっていたから。
 すこやんは京太郎の哀願奴隷。

「俺の昔話はこんなところかな……ってみんな真っ赤な顔をしてどうしたんだ?」

 俺が昔話をしたというのに皆真っ赤な顔でぼっーとしてしまっているぞ。
 みんな熱でもあるのか?

「みんな御主人様の魅力にやられているんですよ//」
「魔貌の封印は解けていないはずだけどなあ」

 魔貌というのは、俺を見ただけで女性は魅了され妊娠してしまうという危険な代物だ。
 心の底から愛した女性以外を妊娠させたくない俺にとってはこれはおぞましいものなので普段は三百層にも及ぶ封印を施しているんだ。

「まあ、それはいいか。それよりすこやんこそ何があったんだ?」
「急に謎の人物に襲われて気がついたらこうなっていたんです」
「何それは本当かね!? それは……気の毒に……」
「あと、気を失う前に全国高校女子を私みたいに洗脳してやるって言ってました」
「何それは本当かね!? それは……気の毒に……」

 なんということだ。
 このままでは俺の女達が危ないって事じゃないか。

「大変なんですが私みたいなアラフォーにはどうしたらいいか分からないですう」
「俺にいい考えがあるぞ! 俺が全国へ転校して行ってみんなを守ればいいんだ!」
「流石御主人様私みたいなアラフォーには思いつきもしなかったですう」
「じゃあさっそく転校してくるわ! みんなによろしこしこ!」

 こうして俺は全国へ旅立って行くのであった。


 宮守編

 時はマスクドアラフォー襲撃の日から遡る。
 全国大会二回戦終了後。清澄控え室での事。

「ふう。清澄は勝ったし、俺の出番も1コマで適当な作画だったけど、久しぶりにあったしよかったよかった」

 須賀京太郎は本編に出ないところで一人喜んでいた。
 一人という所に悲しさを覚える人もいるかもしれない。
 しかしそれが咲という漫画にとっての京太郎なのだ。
 いくらSSで改変された所で現実は変わらないのだ。
 傍から見たら何の為にいるかも分からないような存在。作者の百合路線が失敗した時の保険の肉棒要因というレッテル貼りをされ無駄に叩かれてもいる。
 そんな京太郎であるが生きているのである。
 ミミズだってオケラだってアメンボだって京太郎だってみんなみんな生きているんだ。
 生きている京太郎は清澄勝利の事以外に考えている事があった。
 それは大天使姉帯豊音の事である。

「姉帯さんマジ天使。
 なんだよ。あの最初のアーカードみたいな時と最後の泣き顔のギャップ。
 可愛すぎて天使としか言えないだろ常識的に考えて。
 もうずっと見ていたい。それ以外のものを見たくない。
 あぁあああああ! かわいい! 姉帯さん! かわいい! あっああぁああ!
 もう俺の目は姉帯さんを見る為に存在していた……いやぁああああああ!!! にゃああああああああん!!
 よく考えたら……宮守は負けたって事は、もう帰ってしまう?
 にゃああああああああああん!! うぁあああああああ!!
 あの天使とお別れじゃないすか! やだーーーーーー!!
 俺は姉帯さんと添い遂げる! 生きて必ず姉帯さんと添い遂げるぞおおおおおおおおおおお!!」

 京太郎は発情した。必ず、かの大天使と添い遂げなければならぬと決意した。
 京太郎は、単純な男であった。のそのそ宮守控え室にはいって行った。

「姉帯さん! 俺と付き合ってください!」

 控え室に勝手に入り、宮守の人達から不審者を見る目でみつめられている中での京太郎の第一声である。
 失礼しますとか、こんにちはとかの挨拶なんてものは京太郎の脳内には存在していなかった。

「ええー。私なんかが貴方と付き合うとか……ありえないかなー……とかとか」
「そんな事ないです! 俺は姉帯さんじゃないと駄目なんです!」

 勿論この時点で色々なおんにゃのこに手を出している設定である。
 大人はウソつきではないのです。まちがいをするだけなのです……

「でもでもー」
「姉帯さんは俺の事嫌いなんですか!?」
「そもそも貴方の事を知らないかなー……って」

 突然の出来事に、勢いのままに押されている豊音。
 そして思考が停止している他の4人。

「俺は清澄高校の須賀京太郎って言います! これで知りましたよね!」
「あ、はい……」
「ならいいですよね!? 付き合ってくれますよね!?」
「えと……あの……その……」

 このままだと流されるままに京太郎が本懐を遂げるかと思われたが、それより先に他の4人が復帰を遂げた。


「ちょっとそこ何してるのよ!」
「シロ、ケーサツヨボウ!」
「突然過ぎて何も言えなかったけど勝手に控え室に入って何してるのよあんた!」
「ダルいけど通報する……」

 愛の告白をしている京太郎へと胡桃が注意の声を上げ、エイスリンがスケッチブックを頭に叩き付け、塞が足払いをし、白望が腕を捻り体を押さえつけた。
 仲の良い宮守だからこその連携であった。

「堪忍やー! 通報だけは堪忍やー! 姉帯さんが可愛い過ぎるから悪いんやー!」

 呆気なく捕らわれた京太郎には無様に土下座をしながら慈悲を乞う事しか出来なかった。
 その際にちゃっかりと拘束から逃れているのが京太郎の恐ろしい所である。

「なんで関西弁なのよ!」
「突っ込むところそこ!?」

 胡桃の突っ込みに塞がさらに突っ込みを入れる。
 問題はそこではないのだ。

「ま、まあ、そこまで土下座してるのなら通報は見逃してあげるけど、なんでこんな事したのよ?」
「姉帯さんの対局を見てたら可愛すぎて夢中になってしまったんです。
 それなのに試合に負けた姉帯さんは岩手に帰ってしまう。
 つまりもう見れないって事じゃないですか。それが俺には耐えられなくて……」

 この世の終わりかのように、絶望の表情をしながら語る京太郎。
 事実姉帯豊音という存在は京太郎の人生という暗闇に差し込んだ一筋の光であり、希望であった。
 その希望が失われようとしていた絶望はとても大きなものである。

「トヨネ、カワイイ!」
「そ、そんなことないよー」
「だから肝心なのはそこじゃないから!」

 称えるエイスリンに、照れる豊音に、突っ込みに精を出す塞。
 京太郎の絶望はあまり伝わっていないようだった。
 壊れる程愛しても三分の一も伝わらないという現実。

「要するに豊音の熱烈なファンって事?」
「そうですね!!」

 胡桃の質問に力強く答える京太郎。
 うわあ、うざいと思ってしまったのは胡桃だけではないはず。

「……ダルい」
「ツウホウ!」
「堪忍やー! 仕方なかったんやー!」
「煩い!」
「……被害に遭ったのは豊音だし、豊音に決めてもらいましょう」
「えっ!?」

 突然に話を振られて驚く豊音。
 当事者でありながら特に何も考えていなかったようだ。

「姉帯さん! 姉帯さんは俺の嫁ですよね?」
「あんたは黙ってなさい!」

 必死の形相で喚く京太郎は胡桃は黙らせる。
 顔面を踏みつけるという物理的な行為で。

「こっ、こんな合法ロリな子に踏まれるなんて屈辱だ!」

 口では屈辱と言いながらも顔が恍惚としている辺り、まったく説得力はなかった。


「誰が合法ロリよ!」

 言葉ともに胡桃の踏み付けが増していく。
 その踏み付けは最早顔面に留まらず体全体を潰すように踏み続けていた。

「あうぅ! い、痛い、く、悔しい……でも、感じちゃう」

 胡桃の踏みつけ。効果はばつぐんだ! 色んな意味で。

「コレ、シッテル、HENTAI!」
「見ちゃダメ……」

 エイスリンが変な所に反応を示すが、教育上よろしくないと判断した白望の手により目隠しをされた。
 エイスリンには純粋なままでいて欲しいよね。

「あんた達……」

 混沌とした光景に塞は何も言う事が出来なかった。

「豊音……もうさー、とっとと決めちゃってくれないかなー
 警備員の人とか呼ぶなり、叩き出すなり早くしよう?」

 疲れた様子で追い出す事を前提に話をする塞を責める事が出来る者はこの場にはいないだろう。

「えっと、じゃあ……お友達からでよろしくかなー」
「なんと!?」
「豊音!?」

 豊音以外の全ての者が驚愕の声をあげる。

「だって格好いいし、私の事可愛いって言ってくれたから」
「確かに見た目は悪くはないかもしれないけど、胡桃に踏まれて悶えてるのが本当にいいわけ?」
「姉帯しゃんとお゙ぉおォおん友達ににゃれるにゃんてうれしいぃよお゙ぉおォおん」
「おもしろいよねー」
「おもしろいの!? あれはおもしろいって言っていい光景なの!?」

 塞の決死の突込みにもどこ吹く風の豊音であった。

「豊音も踏む?」
「いいのー?」
「この辺を踏むといいわよ」
「トヨネ、ファイト!」
「姉帯さんに踏まれるなんて……」
「じゃあいくよー」

 流されるままに豊音は、えいっ!と軽く気合を入れると踏んだ。下半身の辺りを。

「んぐぎも゛ぢいぃ゛いぃ゛ぃいぃぃぃっよぉおお゙いぃぃぃっよぉおお゙いぃっひゃうよお゙ぉおォおん」
「あははー」
「ダルい……」
「わけがわからないよ……」


 それが京太郎と宮守の人達との出会いであった。
 その後も東京にいる間は付き合いを続け、長野に戻ってからも携帯で小まめに連絡を取る関係であった。
 勿論会えない事で京太郎は、深い悲しみに包まれていた。
 しかし会えない時間が愛育てるのさと言う事で耐えていたのである。
 そして育てきった愛を収穫する為、宮守の皆を魔の手から守る為に、マスクドアラフォー襲撃の翌日から京太郎は岩手の宮守女子へと転校していったのだ。
 急な事だったが須賀家の力を使えば転校は容易な事だった。
 女子高という問題もあったが京太郎は女みたいなものだから問題ないという事で無事に転校する事が出来たのだ。
 事実京太郎は女子高に混じってもまったく違和感がなかった。
 女子と一緒に着替え、トイレも女子トイレを普通に使っていても全ての者がそれを当然の事として受け止めていたのだ。
 それは豊音達も同じで、再開した京太郎を暖かく迎え入れてくれたのであった。

「それにしても岩手まで来ちゃったけど、平気なの?」
「大丈夫だ、問題ない」
「いや、その台詞は大丈夫じゃないでしょ……」
「塞さんってなんだかんだで心配してくれていい人ですよね」
「流石にあんたみたいな変態でもその辺で野たれ死ぬような事になったら目覚めが悪いからね」
「これが噂のツンデレってやつですか! ハハハワロス!」
「ツンデレ! ツンデレ!」

 すっかり仲良くなった京太郎とエイスリンは二人で塞を煽る。

「あんたら今すぐ身体の動きを塞いで雪山に捨ててこようか?」
「ごめんなさい」
「ゴメンナサイ」

 しかし凶悪な視線の前に即座に謝った。
 無力であった。

「京太郎君ごめんねー」
「いいんですよ。俺には姉帯さんと水だけあれば生きていけますから」
「京太郎君……」

 頬を赤く染め照れる豊音。
 その姿は地上に舞い降りた天使を連想させる程の美しさだ。

「ねえ、あそこって照れるところなの? おかしいって思う私がおかしいの?」
「どんまい……」

 京太郎がいると突っ込む事が多くなっている塞に、めんどくさがりの白望でさえも思わず慰めてしまっていた。
 これも京太郎が魅力がありすぎるのが悪いのだ。美しさは罪である。

「こら、そこ! 近づきすぎない! 不純異性交遊は認めてないから!」
「俺たちは不純じゃないです! 純情ですから!」
「うるさい! 私が不純って言ったら不純なの!」

 京太郎にとっては女性との付き合いは全て純愛である。
 同時に複数の女性と付き合おうが、正常な人間ならする事のない行為をしていようが純愛と言ったら純愛なのである。
 だから胡桃が何を言おうとそんなの関係ないのである。


「夫婦の仲を邪魔する姑がいても俺は姉帯さんを愛し続けますからね」
「京太郎君……」

 見詰め合う二人。
 再び頬を赤く染め照れる豊音。
 その姿は砂漠に雪が降るような幻想的な光景に匹敵するような美しさだ。

「夫婦とか私は認めませんからね!」
「姑は否定しないんだ……」

 塞の突っ込みは幸か不幸か胡桃には届かなかった。

「……ねえ、豊音のどこがそんなに気に入ったの?」
「全てです」
「京太郎君……」

 即断する京太郎に、三度頬を赤く染め照れる豊音。
 その姿は荒野に咲く一輪の花のように美しさだ。

「豊音もいちいち反応しないの!」
「まさか豊音がここまで男慣れしてないとはね」

 男慣れとかそういう問題ではないような気がしなくもないが、豊音は京太郎の口説きの前に陥落寸前であった。

「それは……外見がって事?」

 そんな二人を無視して意外と真面目に質問を続ける白望。
 親友として心配なのであった。

「最初は外見でした。でも話をしている内に中身もいい人だって気が付いて、さらに夢中になったんです」
「京太郎君……」

 京太郎の言葉に、瞳は蕩け、四度頬を赤く染め照れる豊音。
 その姿は八尺様が擬人化で萌え化されたかように美しかった。

「ジュンアイ!」
「踏まれて悦ぶのは純愛って言わないと思うんだけど……」
「おばーちゃん突っ込んでばかりいると皺が増えるよ?」
「おばーちゃんじゃないから! だいたいあんた達が突っ込ませるような事をするから悪いんでしょ!」
「つまり塞さんは大姑って事ですね。分かります」
「シロ、私がこいつ塞ぐから雪山に埋めて来てくれない?」
「ダルい……」

 このように再会は概ね問題はなかった。


「皆可愛かったなー。
 しかし女子高に転校だなんて最初は緊張したけど思ったより大した事はなかったな」

 その日の授業を終えた教室で、状況説明としての再開時の回想も終えた京太郎は一息ついた。
 京太郎が宮守女子の一員となって既に3日がたっていた。
 その間にすっかり馴染んでいるのは流石須賀京太郎といったところだ。

「さて愛しの天使達に会う為に部活に行くかな」

 勿論愛しの天使達である宮守の5人は3日の間に既に攻略済みである。

「えー。京太郎君部活行っちゃうの?」
「私達と遊びに行こうよ!」
「ははは。皆ごめんな! 俺の天使達が部室で待ってるんだ。また今度な!」

 クラスメイトの女子が京太郎を遊びへと誘うが肝心の京太郎はまったく相手にしていなかった。
 今の京太郎には天使達以外眼中にないのである。
 それ以外の女子など雌豚のようなものだ。

「もー京太郎君はいつも部活で遊んでくれないじゃない!」
「ごめんごめん。今度こそ本当に行くからさ」

 雌豚達の囀りを無視して(クラスメイトの誘いを断り)、京太郎は部活へと行くのであった。


「こんにちはー」
「あー京太郎君だー。こんにちはー」

 部室に入った京太郎を待ち受けてくれたのは、京太郎の愛しのスイートハニー姉帯豊音であった。
 有名人に弱い所もある意外とミーハーな豊音は、アイドル級、いやアイドルを凌駕する超時空銀河美少年である京太郎の熱烈アプローチにドキドキ胸きゅんぞっこんラブになってしまっていた。
 それに釣られるように残りの4人も京太郎に惹かれたのは自明の理と言えた。
 攻略完了である。勿論エロゲー的な意味で。

「姉帯さんだけですか?」
「うん。みんなクラスの用事があるから遅れるってー」

 その言葉通りに他の者の姿は見えない。
 豊音も一人では部活をする気もなく炬燵の中で寛いでいた。

「じゃあゆっくりと皆を待ちますか」
「うん」

 そう言いながら京太郎も炬燵へと入っていった。
 炬燵の空いている場所ではなく豊音の隣に入る辺りに京太郎と豊音の関係が表れていた。
 京太郎は隣に豊音の体温、そして豊かな胸の膨らみを感じながらも動揺する事なく炬燵に置かれた蜜柑へ手を伸ばす。
 しかしその手は蜜柑に届く前に豊音の手によって遮られた。

「蜜柑を食べる前にする事があるんじゃないかなー?」
「そういえばまだ挨拶をしてなかったですね」

 言葉での挨拶は先程部室に入った時にしている。
 つまり二人がしようとしているのは、言葉以上の挨拶。
 京太郎は隣にいる豊音を抱きしめると、顔を寄せその唇へと口付けた。

「んっ……ちゅっ」

 初めは軽く、ちゅっと口付ける。
 しかし京太郎はすぐにまた口付けると今度は舌先で豊音の唇を割って口内へと入っていった。

「んんっ……」
 
 豊音の甘い吐息が漏れる。
 既に感じている事は確定的に明らかだった。
 京太郎はそんな豊音を愛おしく思いながら、歯茎の裏から頬っぺたの内側まで口内の隅々まで舐め尽していく。

「あっ……」

 豊音にとって至福の時間であった口付けの時間も京太郎が唇を離す事により唐突に終わりを告げる。
 二人の離れた唇と唇の間に互いの唾液で作られた銀色の橋が架かっていた。

「挨拶って気持ちいいねー」

 これが京太郎と宮守女子達との日常的な挨拶である。
 傍から見たらイキすぎかもしれないが、心と体の距離が零となった京太郎達にとってはこの程度の事は挨拶に過ぎないのだ。

「でも、もっと気持ちいい事がしたいなー。ダメ……かな?」

 もじもじと指を絡ませながら、上目使いで申し訳なさそうに言う豊音を前に、断る理由などあるはずもなかった。

「脱がしてもいいですか?」
「……うん」

 了解を得た京太郎は、脱がすべく豊音の体に手を——


 かけようとした所でガタンと扉が開き、他の4人が部室に入ってきたのだった。

「トヨネ! ズルイ!」

 入ってきて最初の言葉がエイスリンのそれだった。
 失礼しますとか、こんにちはとかの挨拶なんてものはエイスリンの脳内には存在していないようだ。
 そしてそれはエイスリン以外の三人も同じらしく、言葉を出すことなく豊音を睨み付けていた。

「姉帯さん?」

 横にいる豊音見ると、なんとも気まずそうな顔をしていた。

「ちょっと豊音、抜け駆けはなしって言ったでしょ」
「……約束を破るのはよくない」
「どういうことです?」
「勝手に二人切りで始めないように協定を結んでおいたのよ」
「俺の意思は……」

 そんなものはないといわんばかりに京太郎の言葉は無視され、4人は抗議の視線を豊音に向ける。
 そんな中、豊音の取った行動。

「てへっ」

 それは笑って誤魔化す事だった。。
 その可愛さらしさは横で見ている京太郎には、効果はばつぐんでその笑みを向けてお願い事をされたのならば何でもしただろう。

「豊音は今日は見てるだけで御預けね」
「がーん」

 しかし同性である4人には通じるはずもなく、無慈悲な罰がくだされたのであった。


「次は私と……」
「え? なんだって?」

 塞が何かを言ったようだったが、丁度その瞬間だけ難聴になった京太郎には聞こえなかった。

「だから私と……」
「ワタシトシヨ!」

 また何かを言おうとした塞を無視して、エイスリンが挨拶をしてくる。
 勿論言葉での挨拶ではなく、唇と唇を重ねる挨拶の方だ。
 先程したばかりの豊音を含む4人が羨ましそうな瞳で見てくるが、エイスリンに後頭部をしっかり押さえつけられ唇を吸われ続けている京太郎にはどうする事も出来なかった。
 仮にどうにか出来たとしてもエイスリンの唇を味わうという極上の快感を放棄する事など出来たであろうか。
 いや、きっと出来ない。
 挨拶という域を越え互いの唾液を求め口と口、舌と舌をひたすらに絡めあう。
 京太郎もエイスリンに負けずに、両手でその綺麗な髪を撫で回し、自らの口内を這いずっているエイスリンの舌を堪能する。
 掌は最高級の絹糸のようにさらさらとした感触を与えられ、舌には熱く、柔らかく、ぬめぬめした感触を与えられる。
 京太郎にとっての至高の快楽がそこにあった。

「キモチイイ!」

 それはエイスリンにとっても同じだ。
 ニュージーランドにいては決して味わう事ができなかった快楽。
 それがここにあるのだ。
 失われたものを求めあうかの如く、ただ味わい尽くす。
 互いに小刻みに体が震えている。喉が上下する。互いの唾液を飲んでいるのだ。
 京太郎曰く、エイスリンの唾液は、楽園の空気を吸うがごとく、まさに妖精の霧。
 エイスリン曰く、京太郎の唾液は、力強く濃厚な天界から振り落ちたとしか思えない、まさに天使の雫。
 お互いの唾液こそが、互いを酔わす事ができる。この世のあらゆる美酒にも勝る至極の液体なのだ。

「はい! そこまで! もういいでしょ!」

 放っておけば終わるいつまでも終わる事がないと悟ったのか、塞が強引に引き離した事により京太郎とエイスリンにとっての夢のような時間は失われた。
 うーと唸りながらエイスリンが抗議の目を向けるが次は私の番だと視線で威圧してくる塞の前に無残に敗北した。


 エイスリンを負かした塞はその勢いのまま次は私の番だと宣言しようとする。

「次は私のっ……」
「え? なんだって?」

 塞が何かを言ったようだったが、丁度その瞬間だけ難聴になった京太郎には聞こえなかった。

「だから私と……」
「京太郎……私はトイレ行きたい」
「トイレなら仕方ないですね。行きましょうか」

 トイレなら塞を無視する事になっても仕方ないよね。
 京太郎が宮守に来てからダルがりの白望の面倒を見るようになっていた。
 トイレまでの移動の際にはおんぶをするをするだけではなく、おはようからおやすみまでの勢いである。
 それはつまりトイレまで運ぶのは勿論、おしっこの手伝いもするという事である。

「ほら、脱がしますよ」
「うん……」

 おんぶでトイレまで行き、個室に二人で入るとすぐに京太郎は白望のスカートを捲り、その中にある下着を脱がす。

「っ……」

 白望のその名の通り白く薄い陰毛に覆われた秘裂が、京太郎の視線へと晒される。
 微かに震える白望。
 その震えは外気に晒された寒さによる震えか、京太郎に見られた事による事か、それは白望自身にも分からない。
 
「じゃあ座ってください」

 そんな白望の胸中など知る由もない京太郎は、なんら動揺する事なくおしっこへの準備を進めていこうとする。
 今の京太郎は卑猥な気持ちなど微塵もなく、その心は白望に無事におしっこをさせる事だけで一杯なのだ。

「うん……」

 白望は京太郎の言葉に素直に従い、僅かに股を開いた状態で便座に腰掛ける。
 座させた後はおしっこの出が悪い白望のお手伝いである。
 そっと白望の股間に指を這わせる。
 親指の腹を使い尿道口を中心に周囲を撫で回し、尿道口から膣口までを圧迫するように擦らせる。

「ん……くすぐったい」

 白望はくすぐったそうに体をよじる。
 まだ性感帯が発達していない白望は気持ちいいという前にくすぐったいようだ。
 つい先日に5人まとめ処女を奪ったばかりで開発しきれていないのだ。

「もう少し強く刺激した方でいいみたいですね。もっと足開いてもらえます?」

 白望は、コクリと頷くとおずおずと足を開く。
 その勢いで、くぱぁと秘裂が開かれる。
 京太郎はその開かれた秘裂に顔を近づけると、くんかくんかと匂いを嗅ぎだした。
 目の前に開かれた割れ目があるなら匂いを嗅ぐ。
 京太郎にとってそれは、青信号になったから横断歩道を渡るという事くらい当然の事であった。

「ちょっ、ダメ……」

 犬のように匂いを嗅いでいる京太郎に白望も戸惑いを隠せない。
 流石に白望でも自らの洗ってもいない秘裂を鼻息が掛かる距離まで近づかれて嗅がれては、羞恥心というものがあるのだ。

「いい匂いですよ」
「……ばか」

 言葉こそ罵倒だったがその顔を見上げれば耳まで真っ赤にしていて、照れているのが丸分かりだった。
 京太郎に褒められて嬉しいという気持ちが、羞恥心を上回った瞬間であった。


 白望の匂いを堪能しきった京太郎は開かれた秘裂に舌を伸ばすと、そのまま尿道口まで突き入れた。

「ひゃっ……」

 突然の強い刺激に、白望はビクンと反応して、太股をひくひくさせて喘ぎ声を出してしまった。
 白望一生の不覚。

「出るっ……」

 そして白望の宣言。
 漸くトイレに来た目的である、おしっこが出るのだ。

「シロさんがおしっこする所しっかり見ていてあげますからね」

 白望は京太郎の言葉に無言でコクリと頷くと、ぶるると体を震わせた。
 体の震えと共に堪えきれなくなったように、ひくつく割れ目の穴から聖水が出る。
 弧を描いて聖水が膀胱から今解き放たれたのだ。
 じょぼぼという水音が狭い個室に響く。

「はあっ……」

 思わず甘い吐息が白望の唇から漏れる。
 排尿の快感にいつもの無表情がとろんとした気持ちよさそうな表情と化していた。
 排尿、排泄は快楽である。
 極寒生活を過ごすエスキモーは排泄を限界まで我慢し、する際には短時間で済ます。
 そうする事によって凍傷になる事を防いでいるのだ。
 そして極限に我慢して解き放つ排泄は通常の排泄より気持ちいい。
 それは娯楽の少ない単調な生活を過ごすエスキモーにとって、数少ない快楽の一つとなっている。
 それと同じ事をダルがりの白望は、自然と過ごす内に身につけているのだ。
 ゆえにこの排尿中に、白望がアヘ顔になってしまうのも自然な事であった。
 永遠にも思えるかのような、聖水の流れる音。
 しかし形あるものがいつかは壊れてしまうように、限りある聖水も流れが止まる時が来るのだ。
 白望は最後に一段と大きく震え、溜まった聖水を出し切る。
 長く続いた水音が止まった。

「自分で拭けますか?」
「……ダルい」
「はいはい。分かりましたよ」

 普段からダルそうにしている白望だったがおしっこをした後はさらにダルそうになっている。
 アヘ顔まで晒して快楽に浸りきっていたのだから仕方ないの事。
 だからこそ京太郎の出番である。

「ほら足を開いてください」

 京太郎はトイレットペーパーを手に取り小さく畳むと優しく白望の秘裂を拭き始める。

「あふっ……んっ……」

 いやらしい気持ちなど微塵もない、純粋に綺麗にする為だけの行為なのだが、拭かれる度に白望の唇から声が漏れる。
 排尿の快楽の後という事、そして京太郎のテクニックの相乗効果が快楽と化してしまっているのだ。

「シロさん気持ちよさそうですね?」
「そっ、そんな……こと……っ」
「ありますよね? 顔を見れば分かりますよ」
「ぅ……」

 京太郎には白望の事などまるっとずっぽしお見通しなのだ。
 しかし今はあくまでただの排尿の手伝い。
 手を出す事なく、拭き残しがないように丁寧に拭きあげる。

「ほら、これで終わりですよ」
「はかせて……」
「仕方ないですね」

 白望を立たせるとゆっくりと下着をはかせてあげた。


「遅い!」

 トイレを終え、部室に戻ってきた京太郎を待ち受けていたのは塞の不満が露になった声だった。

「そんなに待ち遠しかったんですか?」
「ダルい……」
「そんなわけ……って……」

 文句を言おうとした塞だが、ある事に気が付いてしまった為に、言葉が止まってしまう。

「ちょっと膨らんでるわよ」

 ある事とは胡桃の言う通り、京太郎の股間は大きく膨れ上がっているという事だ。
 豊音、エイスリンとのキス、そして白望の排尿姿を見て興奮している証拠でもある。

「いやあ、男の子ですからね」
「男の子なんだから仕方ないよー」
「テントガハッテル!」
「そんなにみっともない姿を晒すなんてよくないから私が……」
「え? なんだって?」

 塞が何かを言ったようだったが、丁度その瞬間だけ難聴になった京太郎には聞こえなかった。


「そんな姿晒してないで、とっととこっちへ来て横になって!」
「はい」

 そんな事をしている間に京太郎は、胡桃に従うがままに下半身を丸出しにした状態で横になっていた。
 京太郎のいきり立ったリー棒が公開される。

「なんでそんなに脱ぐのが早いのよぉ!」
「それが俺ですから」
「京太郎君だから当然だよー」
「トウゼン!」
「京太郎はダルくない」
「私がそのみっともないのをなんとかしてあげるからね」

 塞の疑問の声は、京太郎達の声の前にあっさりと掻き消えた。
 胡桃は塞の存在自体を無視して足を伸ばすと、その体同様に小さい足の指を京太郎のリー棒に絡ませていく。
 所謂足コキである。

「うわぁ」
「なっなによ! あたしの足がよくないっていうの!」

 よくないとかじゃなくてなんとももどかしい感覚が京太郎を襲ったのだ。
 胡桃は大雑把に足の指を動かして、掻くようにしている。
 それでは微妙にしか擦れず、たまに爪が掠めてちょっと痛かった。
 そもそもなんで足コキなのだろうという疑問が京太郎にあったのだが、素直に従っていた。

「指で掻くんじゃなくて、両足を使って挟みこむようにやってくれませんか?」

 胡桃は少し嫌そうな顔したが、それでも文句を言わずやってくれた。

「それいいです。それで上下に擦ってください」

 足でしっかりと挟みこまれたリー棒が上下に擦られていく。

「あひゃぁああんっ」

 予想外の快感に震え、我慢しきれなかった声と汁が京太郎の上の口と下の鈴口から溢れ出る。

「なに悶えてるのよ!?」
「胡桃さんの足が気持ちよすぎて!しかたないんです!」
「なっ……気持ちよすぎるって何よ!気持ちよすぎるって!」
「褒めてるんです。お願いします、続けてください」
「あーもーしかたないんだからー」

 どこか投げやりに言いながらも続けてくれる胡桃はやはりいい人だった。
 しゅっしゅっと上下の運動が続く。
 他の4人も固唾を呑んで見守る中、胡桃による京太郎のリー棒足コキ公開プレイは途切れない。
 凄く気持ちいいというわけではなく、微妙な気持ちよさ。
 それが長い間与えられ続け、京太郎はもう限界であった。

「いく! いきます! いっちゃう! いぐうううううう!」

 京太郎は射精した。


「ふう……胡桃さんありがとうございました!」

 下半身丸出しで斜め45度の見事な礼をしてる京太郎の姿は滑稽だった。

「いいのよ。先輩として当然の事をしただけよ」
「京太郎君お辞儀してる姿も格好いいよー」
「イケメン!」
「京太郎はダルくない」
「早くズボン履いて欲しいんだけど……」

 しかし恋する少女達の目にはそんな姿でさえも、美しく見えていた。
 塞は除く。
 げに恐ろしきは京太郎の魅力。

「ふう……」

 賢者タイムになりながら、自らの出した精液を始末し出す京太郎。
 依然下半身は丸出しのままだ。

「後始末をするなんていい後輩ね」
「京太郎君拭いてる姿も格好いいよー」
「カッコウイイ!」
「京太郎はダルくない」
「拭く前にパンツでいいから履いてよ……」

 しかし恋する少女達の目にはそんな姿でさえも、美しく見えていた。
 塞は除く。
 げに恐ろしきは京太郎の魅力。

「えっ……私がおかしいの?」


 後始末を終えた京太郎。
 その顔はやり遂げた男の顔をしていた。
 当然下半身はちゃんと衣服を身に着けている。

「じゃあそろそろ私の……」
「え? なんだって?」

 塞が何かを言ったようだったが、丁度その瞬間だけ難聴になった京太郎には聞こえなかった。

「じゃあそろそろ一局打とうよー?」
「そうだね」
「京太郎を強くするわよ!」
「えっ……私は?」

 ここは麻雀部なのだから麻雀をしないといけないのである。
 だから麻雀を打つのは当然の事である。
 なぜかあたふたしている塞を余所に京太郎達は手際よく準備を始めていた。

「お手柔らかにお願いしますよ」
「スパルタシドウ!」
「ちょっ……えっ」

 慣れたもので準備は早々に終わり、対局が始まろうとしていた。
 胡桃を除く4人で卓に着き、除かれた胡桃が京太郎の後ろに憑き指導するという形だ。

「じゃあ行きますよ」
「バッチコイ!」

 賽を振り、今まさに対局が始まるという時。

「私も相手しなさいよ!!!」

 塞の絶叫が響いた。

「どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもないでしょ! なんで私だけナニもなしなのよ!?」
「ああ、卓に入りたかったんですね」
「……打ちたいならそう言って」
「じゃあ私が代わるねー」
「そうじゃないから! 麻雀じゃないから!」
「麻雀じゃないって、ここは麻雀部ですよ?」

 麻雀部は麻雀をする所というのが世間一般の常識である。
 その常識からすると塞の言ってる事は精神錯乱者のそれだ。

「違うから! それじゃないから!」
「……結局ナニがしたいの?」
「そうですよ。ちゃんとナニがしたいか言ってくださいよ。そうじゃなきゃ分かりませんよ」

 気持ちは想ってるだけでは伝わらないのである。
 言葉にしないと伝わらないのである。

「……私だってキスしたい! 抱きしめられたい! 唾液飲みたい! おしっこの付き添いもして欲しい! 足コキはまあいいや! おちんぽが欲しいのよ! おちんぽ! おちんぽ!」
「オチンポ! オチンポ!」

 一瞬の逡巡。
 しかし言い始めれば戸惑いなどを微塵も感じさせず、大きな声で気持ちを言葉にした。
 その姿まさに威風堂々。
 途中エイスリンによる変な相の手が入ったがそれは聞かなかった事とする。

「そんなにおちんぽ好きなのー?」
「好きよ! 大好きよ! もう寝ても覚めても夢の中でもおちんぽの事を考えてるわよ!」


 そんな宮守での日々ももう一週間になろうしていた。
 京太郎は部活を終えて、家に一人佇んでいた。

「そういえば咲にちゃんと連絡をしてなかったな」

 今更だけどしておこうかなと思い、電話をしようと思ったらその瞬間、携帯が鳴った。
 誰からかと思い、画面を見て絶句した。
 正に今電話をしようと思っいた相手、咲からだったのだ。
 あまりのタイミングのよさに、もしかして見張られていると思ってしまうがすぐに馬鹿な考えだと切り捨て電話に出た。

「もしもし、京ちゃん?」
「おう、俺の携帯なんだから俺に決まってるだろ」
「あっ、そっか!」
「咲は抜けてるなー」
「むー、京ちゃんだって抜けてるところあるくせにぃ」
「そうだっけー?」
「そうだよー」

 不安は杞憂で、咲はまったく普通だった。
 お互いの日常などを話し合い、会話は終始和やかに進んでいた。

「色んなとこに連れて行ったりもらったりして、面白いんだぜ」
「そうなんだー」
「それでこの前なんか姉帯さんの地元にだって行ったんだ。壊れた地蔵が一杯あった変な村だったけどな」
「それって……」
「どうせどっかのガキが悪戯したんだろうな。帰りに『ぽぽぽぽぽ』って変な声が聞こえてたし」
「……もしかして」

 しかしこの時咲の脳裏に電流走る。
 圧倒的閃きっ…………!!

「まあこの話はもういいだろ。明日も早いし、俺はもう寝るわ」
「京ちゃん!」
「それじゃーな」

 しかしその閃きは僅かに遅かった。
 電話はもう切られたのだ。

「……京ちゃん」

 言葉はもう届かない。
 しかし京太郎の言っている女はどう考えてもアレだ。

「京ちゃんが危ない!」

 思い立ったら即行動。
 目指すは京太郎の元へ。咲は動き出したのだ。

「今会いに行きます」


 豊音は、部屋で一人寛いでいた。

「今日も京太郎君とたくさんいちゃいちゃが出来たなー」

 豊音はいつものように京太郎との思い出に耽っていた。

「京太郎君はいつも優しいなー。それに格好いいし、付き合えて私はちょーうれしいよー」

 思い出されるのは初めての出会いの時。
 その時の豊音は二回戦敗北という事実の前に年甲斐もなく、泣き喚いていた。
 宮守の皆が慰めてくれてたものの、自らのせいで負けたという想いが強く立ち直る事は中々できなかった。
 京太郎と出会ったのはそんな時だった。

「私の頭をたくさん撫でてくれたなー」

 突然控え室に入ってきて悲しいという感情を抱かせる暇もない程に熱烈な求愛。
 普段から人と接する事も少ない人生を送ってきていて、友達も宮守の皆だけ。
 同年代の男と接する事なんてなかった、さらに求められるなんてなかったのだ。
 年頃の女の子らしく、異性に憧れているものの出会いもなかった豊音にとってまさに運命の出会いであった。

「私の事も受け入れてくれたし」

 土地の縛りなどがあり、付き合いなどが難しいであろう豊音の事情だって受け入れてくれた。
 京太郎はまだ高校生だが、卒業したら結婚だって考えている。

「私がプロになってー京太郎君は主夫っ!」

 豊音の実力だったらプロにだってなれるだろう。
 京太郎の気配りだったら主夫だって出来るだろう。


「はやく結婚したいなー。まだ二人とも学生だしちょっと早いかなー?でも私の地元に二人でいるしこれはもう
婚約してるみたいなものだよねっ!お地蔵様だって祝福してくれてるもん!それだったら結婚は当然っ!京太郎
君が18歳になったらすぐにでもしたいなー高校在学中でも結婚はきっと平気だよね結婚したらずっといれるから
なー遠距離になったらやっぱり寂しいよー今は携帯で連絡取れるけどやっぱり寂しいよー京太郎君の声を聞いて
るだけで何でも言うことを絶対尊守したくなるのが不思議!ずっとずっと一緒にいたいよー京太郎君も会えなく
なったら寂しいって言ってたしずっと二人でいれればいいのになー結婚して一緒にいて子供を作くればずっと一
緒だよねーやっぱり子供は二人がいいかなー多すぎても大変だし一人だと子供が寂しい想いをしちゃうかもしれ
ないし勿論私がちゃんとお母さんをするけど子供以上に京太郎君を見ていたいからなー一般的には一姫二太郎っ
ていうのがいいのかなーでもでも京太郎君がもっと欲しいって言うかもしれないし、あっ!それに女の子だった
ら京太郎君の魅力に参っちゃうかもしれないっ!それは嫌だなー実の娘でも京太郎君は盗られたくないよー娘な
らそんな事はしないかなーでも京太郎君はいい人だからやっぱり優しくしちゃうんだろうし娘が夢中になっちゃ
うのは当然だよねそれはちょー寂しいよーやっぱり二人の時間が減るから子供はやめようかなーでもでも京太郎
君は欲しがるかもしれないし!してる時にたまにママになっちゃえっって言ってくる時があるし子供が欲しいの
かなーそれだと家も買わないとダメだよねー私がプロになって稼げればそのくらい簡単だと思うけどちょー強い
人もいるしなー家はレンガ造りの家で大草原の小さな家みたいな所に建てたいなーでもでも強い人もいっぱいだ
ろうしちょーむずかしいよーこういうのは京太郎君には任せるしかないかなーそれに子供とかまだ早いよね!そ
の前にまずは結婚式かなー花嫁衣裳は純白で京太郎君の色に染めて欲しいって私の心の表れ!私は大きいから似
合うのがあるか不安だなー特別に作って貰えるのかなー?優しい京太郎君の事だから豊音には何だって似合うよ
何を着ていても美しいなって言ってくれるだろうけどやっぱり女の子は綺麗な格好でいたいからねっ!私は自分
では大きいし可愛くないと思うけど京太郎君が可愛いって言ってくれたんだから信じないとねっ!私の信じる京
太郎君が信じる私を信じるっ!綺麗な格好を見せたら京太郎君はえっちな男の子だから私はきっと穢されちゃう
んだ月野定規されちゃうんだ私はもう京太郎君に捧げてるから純潔はないけどそれでも無垢な純白の衣装を白濁
に染められちゃうんだ京太郎君は上手だからただただ喘いでいるしかできなくてそのまま私はだいしゅきほーる
どをしながら京太郎君の京太郎君自身を全てお腹に受け入れちゃうんだそれってちょーきもちいいよぉーなんだ
か思い出してたら京太郎君としたくなっちゃうよー恥ずかしいよぉー京太郎君に今すぐ会いたいなーそれでまた
色んな事を教えて欲しいなー私は世間知らずだから京太郎君が教えてくれて本当に感謝してるんだあー初めての
時も京太郎君はとっても優しくしてくれたなーちょっと痛かったけどすっごく気持ちよかったぁ!何度も何度も
愛してくれたしそれでも全裸に首輪の時は恥ずかしかったけど恥ずかしかった分だけ愛してくれたしおしっこは
最初は苦手だったけど京太郎君のだと思うと美味しく思えてきたし飲尿健康法ってあるくらいだから健康にもい
いはずだよねっ!ちょっと意地悪な時もあるけど他の人には私のいやらしい姿を見せようともしないしお前は俺
だけの物だよ豊音って言ってもらえたし私ってちょー愛されてるよー嬉しいなーこんな私なのに京太郎君にとっ
てもとっても愛してもらえるなんてちょーうれいしよーこんなに幸せならもう私



                  死 ん で も い い !」








「 じ ゃ あ 死 ね よ 」







「えっ」

 声が聞こえた瞬間咄嗟に身を屈めたことが幸いした。
 先程まで豊音の首があったところに鋸が一閃されたのだ。

「なに……これ……」

 脳の理解が追いつかない。
 自らに降りかかった事に対し理解ができない。
 しかし、暗さのせいか誰は分からないが、いつの間にか目の前にいる人間が殺意を持って佇んでいる事だけはその身をもって実感できた。

「誰?」
「……ねえ」
「な、なにかなー?」

 突然襲ってきた事に恐怖を感じながらも話が通じそうな事にどこか期待する。
 しかし期待とは裏切られるものだ。

「……死んでっ!」
「ひぃ!」

 問答無用の一閃。

(京太郎君!)

 心の中で愛しき男に助けを求める。
 しかし都合良く、危機に颯爽と現れてくれる。そんな正義の味方のような人間などいないのだ。
 もしいるとしたら、それはまるで奇跡のような存在。
 だがこの世に奇跡なんてそうそうあるわけがない。
 迫り来る刃。その軌跡が描かれれば首を切断する事は間違いなし。
 そんなものが豊音にはスローモーションのように見えていた。

(これが死ぬって事かー)

 現実時間では一秒にも満たない刹那。
 豊音には冷静にそんな事を考える余裕があった。

(もう一度京太郎君に会いたかったなー)

 最後に想うのは愛しき京太郎の事。
 豊音は死を覚悟した。


「こんな事もあろうかと!」

 しかし奇跡は起こった。
 豊音の首が切断される前に、いつの間にか現れていた京太郎が鋸を取り上げて、襲撃者を押さえつけていたのだ。
 こんな事もあろうかと京太郎は宮守の5人には盗撮盗聴は基本として、体内に仕込んである装置により脈拍心拍数血圧体温などを常時把握しているのだ。
 それで異常を察知して、奥歯に仕込んだ加速装置で瞬時に駆けつけたのだ。
 常人が行えば常軌を逸したストーカー行動である。※ただし京太郎は除く。
 相手を想いやる真の愛がそこにあった。

「京太郎君ちょー大好きだよー」
「俺も大好きですよ」
「いちゃついてるんじゃないわよ!」

 愛する二人を邪魔する声をあげる襲撃者。
 それは熊倉トシだった。

「どうして……」
「私はこの歳まで男と縁がなかったっていうのにあんた達は!」

 毎日のように部室で愛の行為に励む京太郎達を見て、半世紀以上も操を守り続けたトシは耐えられなくなったのだろう。
 その感情を利用され小鍛治健夜のように洗脳されてしまったようだ。
 とりあえずうるさいので京太郎は腹パンで黙らせた。

「こうなってしまったのも俺のせいです。責任は俺がとります」
「どうするのー?」
「俺のリー棒でトシさんの割れ目をぽんするんです」
「どういうことだってばよー?」
「俺が抱いて女にしてあげるってことです」

 京太郎に抱かれるという女の幸せの99%を占めるという事に嫉妬してるのならば、トシも同じように抱いてやればいいのである。
 しかし実年齢よりは若くは見えるもののBBAである。
 普通の男性であったのならば股間のリー棒も使いものにならないだろう。
 無理して実用レベルにまで持ち込んだとしても精々が100点棒といったところで、本当の意味のリー棒である1000点棒になる事は困難である。

「俺の為に半世紀以上操を守っていてくれたんですね。嬉しいですよ」

 しかしそこは、我らの京太郎。
 すぐさま全裸になると、股間のリー棒をふにゃふにゃ状態からすぐさまに5000点棒の臨戦態勢とする。

「きゃっ」

 そんなリー棒を初心なネンネのような悲鳴をあげるトシ。
 半世紀以上の歴史を誇るトシだが男のリー棒を見るのは生まれて初めてなのだ。

「見えますか? 先程までは空気を入れる前の空気嫁だったリー棒が今は熱く早鐘のように唸っているでしょう。
 真の半身である永遠の伴侶である貴方に会えたからです」
「そ、そんな事言われたら、私の中の雌が目覚めちゃうじゃないか」

 京太郎の言葉に失われた経血が始まる感覚がトシの中に確かにあった。
 京太郎という最高の雄を感じて雌の本能が目覚めたのだ。
 もう言葉は要らない。
 京太郎は、みずみずしさもなく、はりもない唇へと口付けた。

「んっ……」

 突然の行為にトシは、瞳を閉じて唇を一文字に結び、なすがままにされるしかなかった。
 トシには、唇と唇で触れる以上のキスをするという、その発想自体がないのだ。

「私の初めての接吻だよ」
「光栄です。でもそれだけじゃ済まないですからね?」
「……うん」

 言い回しがまさに戦後の人間であるが、要はファーストキスを奪ったということだ。
 唇さえも初めてという事実に京太郎のリー棒がいきり立つ。
 5000点棒だったのが10000点棒になったようなものだ。
 枯れ木のように細い腕、水を弾く事なく吸収性抜群の肌、しなびた乳房は垂れ下がっている。
 その全ては宮守の5人という最高級のフルコースを味わっていた京太郎からすれば、くさやのものだ。
 でもたまには珍味もいいよね。


「ほら感じているんでしょう?」
「あひゃん、トシ感じちゃうにょのおぉ! 孫くらいの男の子にぃ体をお触りされて、おまんこぬれひゃうのおぉお」

 トシの体は例えるならば一度も侵入を許される事なく、誰も攻める事のないと思われていた砦。
 そのような砦は多くは朽ち果て、そのままうち捨てられただろう。
 しかし攻める者が現れたのだ。
 その名は須賀京太郎。
 京太郎の手に掛かれば朽ちかけた砦の攻略など、赤子の手を捻って三回転半ひねりするくらいに容易な事だ。
 京太郎がその手をトシの体に這わせる。
 その度に、乾燥わかめが水分を吸収して普通のわかめになるようにトシの体は感じているのだ。
 
「こんなに感じて恥ずかしくないんですか?」
「はじゅかしいよぉ、でもおまんきょきもちいいにょおおおお、おまんこぉ、おまんこから愛液溢れちゃうにょー。愛液でしゅぎてミイラになっひゃう!」

 トシのあわびは乾燥あわびだ。
 独特の弾力性と柔らかさと滑らかさを持っている。
 しかしそのあわびが枯れ果てた泉が湧き上がるように湧き上がってきた愛液により瑞々しいあわびへと進化を遂げる。
 未知なる快感に狂ったトシにはもはやBボタンによる進化キャンセルなど効かない。

「あはは、まるでお漏らしみたいに愛液が出てますね。むしろおしっこも出てるんじゃないですか? おしっこ垂れ流しなんて、そろそろ介護がいりますね」
「とまりゃないのぉ、らめ、らめなのにいぃ、ほへええええ〜〜〜〜〜ッ!? 介護ッ! 介護お願いしますううううぅーッ!」

 京太郎の腕に爪を立てすすり泣くトシ。
 その姿はかつて宮守女子で麻雀を教えていた姿はどこにもなく、ただの要介護老女と化していた。
 要介護レベルで言うと5間違いなし。
 要介護レベル5とは生活全般において介護が必要とされ、介護が無しでは生きていけなくなるレベル。介護する人は常に様子を伺わなければならない。
 だから京太郎は自慢のリー棒で介護をするのだ。

「じゃあそろそろ、介護代わりに女にしてあげますよ」
「おちんぽぉ! おちんぽぉで突いて! 突いてぇ! 熊倉トシの半世紀以上に渡って守り通したおまんこ処女膜を打ち抜いてえぇえ!」

 蜘蛛の巣が張っているかのような未開の地。
 そこへ京太郎のリー棒は踏み入ったのだ。

「うわあ、トシさんのあったかいなりぃ」
「あひゃぁはぁん! 貫かれちゃったぁ! 中古確定! みょお処女膜から声がだしぇないのぉ! わひゃしの声から精子がでひゃうにょのお!」

 トシの喘ぎ声は先程までと違い、完全に娼婦の声になっている。
 鋼の心を持つ京太郎ではなかったら、聞いた瞬間に近くの心療内科に行ったら急性ストレスによる適応障害って診断されたであろう。

「くぅ! やっぱり年代ものは締め付けが違いますね!」
「豊音達とは違って締め付けるなんてぇ! いいよお! まだまだ若いものには負けない! 豊音達より締め付けて気持ちいい私の中をいっぱい突いてぇ!」

 誰もそうは言っていない。
 しかしその場に突っ込む者は幸か不幸かいなかった。
 京太郎も誤魔化すかのように、腰をひたすらに振っていた。
 その腰振りは体をぶち抜く須賀京太郎スペシャル。

「いいんですか!? いいって言ってくださいよ!」
「いいっ! いいのぉ! ふぁ、ふああぁ〜ん! よしゅぎてぇ、子宮が降りてるにょぉ! このまま降下したら地球の核に到達しちゃうのぉお!」 

 トシの年甲斐もなく締め付けてくる膣穴の前に京太郎はもう限界だった。
 色んな意味で。

「出す! 出しますよ! トシさんのビンテージものの子宮におちんぽ汁注ぎ込むますよ!」
「保健体育で習った! 子宮に精子注がれると妊娠! 妊娠っ! 妊娠確実ぅ!」
「むぅ!射精(だ)す!」
「この歳になって子持ち! ぐひひひっ、いぐ、いぐぅうううううううううううううううううぅぅぅ!! 」

 京太郎は射精した。
 その結果トシに憑いてた悪し気オーラ力は消え去った。

「わけがわからないよー」

 豊音の声が宮守が救われた事を告げた。
 その頃咲は夜中に外出しようとした所を父に捕まり怒られていた。


くぅ〜疲れましたw これにて宮守編完結です!
実は、真面目に書いたSSがほとんど反応なかったのでいっそ最低SSを書いてみようと思ったのが始まりでした
本当は最低話のネタなかったのですが←
思いつきを無駄にするわけには行かないので流行りのエロで挑んでみた所存ですw
以下、姉帯さん達のみんなへのメッセジをどぞ

豊音「みんな、見てくれてありがとー
ちょっと八尺様なところも見えちゃったけど・・・気にしないでねー」

塞「いやーありがと!
私のかわいそうさは二十分に伝わったかな?」

胡桃「見てくれたのは嬉しいけどちょっと恥ずかしいわね・・・」

エイスリン「オチンポ! オチンポ!」

白望「・・・ありがと」ダルッ

では、

豊音、塞、胡桃、エイスリン、白望、俺「皆さんありがとうございました!」



豊音、塞、胡桃、エイスリン、白望「って、なんで俺くんが!?
改めまして、ありがとうございました!」

本当の本当に終わり


 白糸台編


 雲一つない澄んだ青空から照らされされる秋の日差し。少し冷たくなった風が体を通っていく。
 木々に覆われた並木道の通学路を、須賀京太郎は軽快な足取りで歩いてた。
 全国麻雀女子を狙う悪の魔の手から守る為に、白糸台高校に入学したのは、つい先週の事。
 女子麻雀部の雑用係として入部する事もできて、とりあえずは一安心と言った所だ。
 ただ一つ問題があったとしたら、チーム虎姫は遠征中という事でまだ会えていない事だった。
 敵の狙いは大会で活躍をした者を中心としているので、白糸台で狙われるのは虎姫とみてほぼ間違いないだろう。
 まさか遠征先で何かあるのではないかと、不安な気持ちも否めなかったのだ。
 もっとも不安は杞憂に終わり、無事に本日から部活に出てくるようようだが。
 並木道を抜けると、同じ制服を着た者の姿も増え始め、校門も見えてくる。
 その視界に何やら揉めている人影を見つけ、京太郎は歩みをそちらへ向けた。

(あれは……)

 京太郎の視界に入ったのは、長い金髪を振り乱し怒りを露にしている、どこか日本人離れした風貌をしている少女。
 それは京太郎の狙いでもある虎姫の一員、大星淡だった。

(何やってるんだ?)

 淡の相手にしている方に目を向けると、別の学校の制服に身を包み、金色に染めた長髪にピアスの目立つ、いかにもといった風貌の男二人が淡に詰め寄っていた。

「いい加減にしろって言ってるのっ! 遅刻しちゃうでしょうがっ!」
「そんなん気にすんなって!」
「いいから来いって行ってるんだよ!」

 近づくにつれて揉めている内容が明らかになってくる。
 どうやらわざわざ他校の校門まで出向いて、淡をナンパしようとしていたのだ。 それも腕を掴み、今にも連れ去りそうな強引な態度で。

(なにやってんだか……)

 呆れ半分、怒り半分といった調子で京太郎は男達の元へと背後から歩み寄る。
 依然変わらず男達に罵声を浴びせ続けている淡が、京太郎の存在に気がついたその瞬間。
 京太郎は無言で男達の襟首を掴むと強引に引っ張り、膝の裏に全力で蹴りをいれた。

「うお!」
「なんだっ!?」

 突然の衝撃にバランスを崩した男達は仰向けに倒れこむ。
 京太郎はそんな男達の一人の顔を踏みつけ、もう一人の顔に握り締めた拳を顔面の寸前まで振り下ろす。

「や、やめっ、うわあぁ!」
「てめえら! 俺の……妹になにしてやがる!」

 出来るだけ威嚇になるように、目を吊り上げ、声を低くして迫力が出るように言う。
 そして最後にニヤリと笑う。
 本人にとっては甚だ不本意な事なのだが、京太郎はニヤリとした笑顔が目が笑っていなくて怖いと一部で有名なのだ。
 
「ひいっ!」

 男達の顔に怯えが浮かぶのを確認し、身を離す。すると男達は慌てて立ち上がり逃げ出して行った。

「覚えてやがれ!」

 その際にお約束の台詞を忘れていなかった。

「うわー、本当にああいう台詞言う奴いるんだ」

 思わずある種の感動を覚えてしまう。
 ああいう台詞を言う様な奴等だから校門前でナンパなんてするのか、校門前でナンパするような奴等だからこそああいう台詞が言えるのだろうか、思わず哲学的に考えてしまう。

「ちょっと」
「ん?」

 我に返り振り返ると、そこにいるのは当然さっきまで絡まれていた淡。流れ的にお礼でも言われるのかと思っていると。

「別にあんな奴等、あんたに助けてもらわなくても平気だったんだからね!」

 なぜか文句を言われた。一瞬理解が出来ない。しかしすぐに先程の淡の言葉が脳に浸透し、理解をする。

「は?」

 だが理解を出来た所で、出てきたのは呆けた言葉だけだった。
 お礼を期待した行動ではなかったが、文句を言われると何と言っていいか分からなかったのだ。


(なんだかなー)

 多少の腹立たしい気持ちを抱きながら淡を見てみると、絡まれている時と同じで、眉を吊り上げ、唇を固く結んで、まだ怒りも収まらないといった面持ちでこちらを睨みつけている。
 しかしよく見てみると態度こそ強気であったが、体の震えは隠しきれていなかった。

(ああ、そっか)

 淡くらいの少女だったら強引に男に連れ去られそうになる事が怖くないわけがない。
 だけど怖いというのを素直に認める事が出来ず、持て余した感情をこちらにぶつけているのだ。
 そういう子なんだと理解したら、先程までの腹立たしい気持ちなどどこかへ行き、可愛い子を見守る気持ちへと行ってしまっていた。

「悪い悪い。その調子だったら俺なんかいなくても何とかなっただろうし、余計なお世話だったよな」
「そ、そうよ! 余計なお世話なの! だいたいさっきの妹って何よ?」
「あー、あれか。最初は俺の女って言おうと思ったんだけど、淡を見てたらなんとなく妹って言葉が出てきたんだよ」

 同じ金髪という事は当然として、どことなく京太郎と淡は似ていた。
 知らない人が見れば京太郎の言葉通りに妹と思う者もいるはずだろう。

「確かにそうかもしれないけどー」

 そう思う者の一人に淡も含まれているようだ。微妙に同意した返事をする。

「って、淡って!」
「すまん、馴れ馴れしかったな。大星さん?」
「いや呼び方は淡でいいんだけど、なんで私の名前知ってるの?」
「俺、最近転校して来て女子麻雀部に雑用係として入ったんだよ。それに淡は全国で活躍してたし有名人だろ?」
「それでかぁ」

 この世界において麻雀で活躍している者は有名人だ。全国区でテレビにも出るし、雑誌の取材だって来る。
 その中でも淡はあの白糸台で大将を勤め、活躍をしているのだ。少しでも高校麻雀を知っている者だったら知っていて当然だろう。

「最初は有名になるっていいなーって思ってんだけど、さっきみたいのが来るから、ほんっと最悪!」

 なるほどなと京太郎は思った。
 確かに淡は可愛い。
 しかしわざわざ校門前まで来るものかと考えていたが、有名人という特異性が彼等をそこまでの情熱を抱かせたのであろう。納得である。
 京太郎が自分の考えに浸っていると、学校の方からチャイムが鳴り響いてきた。

「うおっ、もうこんな時間か。じゃあ俺は行くわ。また変なのが来たら俺に言ってくれ! 余計な世話を焼いてやるよ!」
「言わないわよ! 余計なお世話はいらないから!」

 淡に手を振ると京太郎はさっさと、校門を通り学校へと入っていく。

「って、あんた! 名前くらい言いなさいよ! あー、もー」 

 遠ざかる京太郎の背中を見送りながら、淡は自分が相手の名前も聞いていない事に気がつき声をあげる。
 しかし既に校舎に入ろうとしている京太郎に聞こえるはずもなく、言葉は虚しく空へと消えていった。

「ま、いっか」

 自分の事を一方的に知られているというのは、アイドルのような存在とは違い有名ではあるものの唯の雀士である淡には、先程のような男達も沸いてくるし、あまりいい気はしないものだ。
 しかし名前も言わず慌しく去った男、京太郎に知られていたという事は何故か悪い気はしなかった。
 それに女子麻雀部に雑用係として入ったと言っていたので、どうせ部活になればまた会えるだろう。
 聞きたい事はその時に聞けばいい。小さい事は気にしないのだ。
 どこか夢心地に浸り立ち尽くす淡。そんな淡は当然の如く学校に遅刻した。


「彼が新しく入った雑用係の須賀京太郎君です」
「どうも須賀京太郎です」

 副部長の紹介の言葉と共に、虎姫の面々から感嘆と驚きの声があがる。
 長野にいた頃に面識があった照と今朝会った淡からは、ようやく会えたという感嘆の声。
 照は御主人様に久しぶりに会った犬のように嬉しげな微笑を浮かべ、京太郎を見つめる瞳は歓喜からくる涙で潤んでいる。
 淡はチェシェ猫のように意味深な微笑を浮かべ、京太郎を見つめる瞳は悪戯っぽい光を宿している。
 それ以外の3人は、何で男の雑用係なんて入れてるのという驚きの声だ。

「部長。疑問に思うかもしれませんが、彼は優秀で、もはや我が部には欠かせない存在となっています」

 部員を多く抱えている白糸台女子麻雀部は、雑用の全てを実力の劣る者が部活の時間を削って行っていたが、所詮それはアマチュアの仕事。
 京太郎のように雑用のプロが行う仕事と比べると男女の差を考慮しても、遥かに劣ると言わざるを得ないものだった。
 そんな活動的で素晴らしい仕事をする京太郎が、部内ですでに一目置かれているのは当然と言えた。

「まあ副部長がそう言うなら構わないが」

 どこか納得できない様子の菫だったが、副部長の断言する言葉と、周りの部員の京太郎が必要という視線での訴えの前には何も言えなかった。
 そんな不満を隠した菫の様子など副部長からすれば分かりきったことだが、こちらも何も言わない。
 疑問と不満を抱いていたのは副部長も同じだったが、京太郎の仕事振りを見てすぐに考えを変えたという自分の前例から虎姫の面々も同じようになるというのが容易に想像で出来ているからだ。

「じゃあそういう事ですので、お願いしますよ」
「分かった」

 顔合わせと自己紹介という形式的な事を終えると、淡はすぐさま京太郎に駆け寄る。
 そして言葉を出そうとした所で、淡と同じく駆け寄った照により押され弾き飛ばされた。
 ちなみにこれは、照が強引だからこうなったというわけではない。
 照も淡と同じくすぐさま駆け寄ろうとしたのだが、始動が遅く、動き出したら止まる事も出来ず、先に京太郎の前という到達地点にいた淡にぶつかる事しか出来なかったからである。
 ぶつかった結果うまくブレーキが掛かり、京太郎の前に止まれたのはあくまで唯の偶然である。

「ちょっと照ぅ!」
「京ちゃん!」
「照さん。お久しぶりです」

 文句を言おうとした淡の言葉は照の前にあっさりとかき消された。

「京ちゃん何でここにいるの? 元気してた? 格好よくなった? 髪切った? お菓子持ってる?」
「転校して来たからです。元気です。そんな変わってないと思いますよ。髪はこの前切りましたけど切る前の髪見てないでしょう。お茶請けに東京ばななならありますよ」

 感動の再会を果たしている二人。 
 しかし淡からすれば当然不満である。此れ見よがしに地団駄なんて踏んでたりする。
 部員達はそんな様子の淡と話し合ってる二人を何度も見比べている。
 淡からすれば今すぐに二人の間に入ってやりたかった。

(確かに感動の再開なのは分かるけどっ!、でも私とも再会なんだけどっ!、ベタなお約束的な展開をやったんだからお約束的な再会でしょ!)

 そんな不満な事を考えながらも淡は間に入ったりはしない。
 それは邪魔しちゃ悪いという遠慮の気持ち、そんなわけがなく首根っこを菫に掴まれて物理的に行けないというのが理由だ。

「どうやらあの二人知り合いのようだな」
「そうだねー」
「あんな照は初めて見るな」
「そうだねー」
「お前も知り合いだったのか?」
「そうだねー」
「どこで会ったんだ?」
「そうだねー」
「ちゃんと答えないかっ!」
「うわらばっ!」

 会話になってるようでなっていない菫と淡の問答だったが、それは業を煮やした菫の水平チョップにより終わりを告げた。
 その際に淡のような美少女から出てはいけない声が出てしまったのは些細な事だ。

「今朝登校中にナンパ男に絡まれていたら助けてもらいましてー」
「ほう。見た目は彼の方もナンパ男のようだがいい所があるんだな」
「その時は名前を聞けなかったんだけど、麻雀部に雑用で入ったとは聞いたんで会ったら聞こうと思ってたんですよー」
「そうか。まあ名前の方は副部長が先に言ってしまったがな」
 
 淡が敬語になっているのは先輩を敬う気持ちに突如目覚めたからであり、決して水平チョップに怯えているからではない。
 そんな菫と淡を余所に、久しぶりの再会で会話が盛り上がっている照と京太郎。
 話しながらも淡に気がついた京太郎は目配せをして軽く手をあげるが、それだけでまた照との会話に戻ってしまった。

「なにこれぇ」

 こうして淡の再会は無残な結果に終わった。


「ねえ、京太郎。ちょっといいかな?」

 その日の部活動を終え、後片付けをしている京太郎への淡からの誘いの言葉である。
 京太郎は部活中にも何度か視線を感じていたが、照にちょっかいを掛けられる事が多かったのと、そもそもレギュラーの淡と雑用の京太郎では絡む機会が少なかった為に、最初の自己紹介の後に少しを話をしただけで、強制的に部活動へと参加させられてまともに話をしていなかった。
 だから部活が終わった後に、ちゃんと話をしようという事からの誘いなのだろう。
 だが京太郎の頭の中では警報ががんがんと鳴っていた。
 従うがままについて行ったら、ろくなことにならないのは容易に想像できる。
 だが、従わなかったらさらにろくでもないことになるだろう。

「とりあえずゴミ捨ててきてからでいいか?」

 その日のゴミをまとめた袋をふわりと持ち上げ、お仕事忙しいアピールである。
 現状の先延ばしとも言える。

「じゃあ一緒に行くよ」
「お、おう」

 現状の先延ばしに失敗した京太郎は、なんとなく重い足取りで淡と共に部室を後にした。

「今朝はありがとね……」
「えっ……」

 部活を終え下校中の生徒が行き交う廊下を進みながら、ポツリと淡が呟いた。
 誰に聞かせるわけでもないかのように呟かれた言葉は、一瞬自分に向けてのものだと思えずに戸惑いを覚えたが、すぐに自分へものだと考えが及ぶ。

「なんだよ。急にどうした?」
「ちゃんとお礼言ってないと思ってさ。部室で他の人達がいる前では言いにくかったし」
「あー、部活中に視線を感じてたのはそれでか。別に余計なお世話だったんだし、気にしなくていいぞ」
「これから雑用としてこき使うのに一応でも借りがあると使いにくいじゃん?」
「えっ、そういうことかよ! 確かに雑用だけど!」

 笑いを堪えて俯く淡。
 その姿はからかわれているにも関わらず、京太郎に可愛いなと思わせてしまうものだった。
 それを誤魔化すように京太郎は返す。

「……でも淡はああいうの慣れてそうだと思ったんだけどな」
「慣れてそうってどういう意味よ? 金髪だからそういう女だと思ったってわけ?」
「いや、淡って見た目は可愛いじゃん。だからああいうのよくされてるから対応にも慣れてそうだなと思ってさ。つーか金髪なら俺もそうだから特にどうとも思わないって」
「…………小中と女子校だったからなかったし、全国に行ってからナンパされるような事もあったんだけど、あそこまで強引なのは初めてだったのよっ」

 可愛いという言葉に若干の照れを覚えたせいか、見た目は可愛いという、本来なら気に掛かる言葉を流しながら事情を説明する淡。
 その姿を見れば、無造作に可愛いと言い放った京太郎自身が照れてしまった事だろう。

「へー。まあ今度から何かあったら俺に言えよ。助けるからさ」

 惜しむらくは、肝心の京太郎が丁度ゴミ捨て場にゴミを投げ入れている所で、まったく見ていなかったという事だ。


「何かあったら24時間便利にこき使っていいって事だね」
「はいはい。おはようからおやすみまで、暮らしを見つめますよー」
「私はおはようからおやすみまで、暮らしに夢をひろげてもらった方がいいなー」
「淡ってノリがいいんだな」
「まぁねー。てか、こき使われるのはいいんだ?」
「昔から色々あって、もうそういうのは慣れてるからな……」

 どこか遠い目をしながら物語る京太郎に、淡は言葉が出なかった。
 唯我独尊を地でいく淡であったが、過去を思い出し死んだ魚のような目をしている京太郎に追い討ちをかけない情けは存在していた。

「ま、まあこれからこき使ってあげるから、私の言う事には絶対尊守で従うのよっ!」
「畏まりました。淡お嬢様」
「ほへっ?」

 言い返されるのを予想して淡が言うと、予想外な事に即座に謙った言葉で返された為に、頭が空白になり言葉にならない言葉が漏れた。
 そんな淡の事など知ったことじゃない京太郎は、さらに追い討ちをかける。

「このような場まで淡お嬢様をお連れしてしまった事を、不肖須賀京太郎ここに深く謝罪したします」
「えっ、ちょっ……」

 その場に跪き、恭しく淡を見上げたのだ。
 その表情はおふざけなど一切なく、真剣そのものだった。

「どうしたのですか淡お嬢様? ご足労をさせてしまったので御御足がお疲れになられたのでしょうか?」
「いや、その……」

 当然の展開には淡は動揺した。これでもかというくらい動揺した。
 二人の体制的にスカートの中が覗かれるんじゃないかという考えも湧かないくらいに動揺した。

「やはりお疲れなのですね。淡お嬢様失礼します」
「なっ、ななっ、なにっ?」

 京太郎は素早く立ち上がると、淡に対し右手で肩を抱き寄き、左手を膝裏に入れると掬い上げるように持ち上げた。
 お姫様抱っこというやつである。

「えっ、ちょっ、なにこれぇ!」
「淡お嬢様、お怒りは御尤もです。私のような下賎の者が高貴なる淡お嬢様に触るなど恐れ多き事だと承知しております。しかし我が身可愛さに人類の宝とも言える淡お嬢様の御御足をお疲れさせるなど、私には出来ません。さあここは空気が悪いので早く部室へと戻りましょう。私がお運びします」
「ごめん! ごめんってば! ごめんなさい! もう調子に乗りません!」

 赤面しながら、涙目で謝罪をする淡。
 淡は小中と女子校で高校から共学だったが、部活漬けの日々をおくっていたのたと偶に学校をさぼっていた為に、絶対的に男と関わった機会が少ない。
 持ち前の強気な性格な為に、そうは見えないが男慣れなどしていないのである。
 そんな淡がここまでされたらもう全面降伏をするしかなかった。

「よろしい」

 降伏宣言を聞くと、京太郎はあっさりと淡を解放した。
 そもそもゴミ捨て場でこんな事をしていたら、人の目につくかもしれない。
 それは京太郎としても望む所ではない。
 つまりとっとと解放したかったのである。
 双方の解放されたい、したいという意見が謝罪という条件の元に条件付降伏が調印されたのであった。
 誤算があるとすれば、時既に遅くこの光景を見られていたという事だろう。
 その結果しばらくの間、淡が京太郎を哀願奴隷化したとの噂が流れて問題が発生したが、それはまた別のお話。
 結局京太郎の予想通りろくな事にならなかったのである。


「なあ、京ちゃん」

 虎姫が遠征から戻ってきてから月日は流れた。
 それは虎姫が京太郎と出会ってから月日が流れたという事も意味する。
 その間に京太郎哀願奴隷化問題というものがあったが、それも無事に解決した現在、京太郎は虎姫の面々ともすっかり馴染む事が出来ていた。
 しかし問題というのは、いつなんどき訪れるか分からない。
 部活中の菫の些細な呼びかけから起こる事だってあるのだ。

「菫! 京ちゃんを京ちゃんを呼んでいいのは私だけだっ!」
「そうか、分かった。ところで京ちゃん」
「分かってないだろっ!」
「分かったけど無視しただけだ」
「そういう問題じゃないだろっ!」
「じゃあどういう問題なんだ?」
「私と京ちゃんだけの問題だっ!」
「そうか、二人の問題に口を出すのはよくない事だな」
「ようやく菫も分かってくれたか……」
「なら、私が京ちゃんと呼ぶのも私と京ちゃんの二人の問題だから照が口を出すのはよくない事だな」
「いや、その理屈はおかしい」

 宮永照は天然である。
 外見は美少女。麻雀の実力は全国一位。取材の時も愛想がよく、撮影のときにはポーズを取ったりするほどだ。
 もはや全国の麻雀女子の憧れと言っても過言はなく、完璧な少女である。
 しかしそれは偽りである。
 実際の照は外見も実力も変わらないが、中身の方が天然なのだ。
 抜けた所がある子で、対局相手に人間じゃないと呼ばれるような姿はなく、方向オンチでよく道に迷うわ、読書をしながら道を歩いてて電信柱に頭をぶつける、お菓子大好きだわと所謂一つのアホの子なのである。
 照に憧れて麻雀部に入ったものの、理想の照の姿と現実の照の姿の違いに心を折られた者もいるとかいないとか。
 そういうわけで扱いは難しく、操縦できるのは学年的にも性格的にも菫しかいないというのが、部活内で一致している意見である。
 菫が部長になったのは実力よりもそこを評価されたのではないか、というのも部活内で一致している意見であった。
 尤も菫が完全に照を操縦できてるかと言ったらそういうわけでもない。
 照は言うならば猫である。
 気まぐれな猫を完璧に操縦できる者などいないだろう。
 つまりそんな照をお世話していた菫は苦労していたのだ。
 だからそんな猫を自由に扱えるまたたびのような京太郎を利用するのは当然の事と言えた。
 まあ今回のこれは、今まで苦労をさせられた分の意趣返しだが。

「まあまあ、俺は誰に何て呼ばれようとも気にしませんから」
「じゃあ豚野郎でもいいの?」
「それは呼ばれてる俺もきついものがあるけど、言ってる淡もきついんじゃないか?」
「だよねー。どこの女王様って感じ」

 外見的にはぴったしじゃねと思ったけど、口には出さない京太郎であった。
 世の中には、思っていても言ってはいけない事が多数あるのだ。大人の世界は汚いのだ。

「京ちゃんは私以外の人に京ちゃんって呼ばれてもいいのっ?」

 うわあ、めんどくせえ女だな、と菫が顔で物語ってるのはいつもの事だ。
 お前はどこの恋人気取りの女だよ、と淡が顔で物語ってるのもいつもの事だ。

「もう咲に呼ばれているんですけど」
「私に妹はいない!」
「咲って聞いてその台詞を言ってる時点でもう駄目なんじゃないのか」
「照の脳内ってどうなってるのかねー」
「何を言っているんだ淡? この前一緒に見たじゃないか」
「なにそれこわい」
「えっ」
「えっ」

 脳内とか言い出した淡も、脳内を見たと言った照も、横で聞いていた菫と京太郎も一同はてなマークが浮かんでいた。
 脳内を見ると言うと頭をかち割って見たとかいうやつなのだろうか。
 グロい考えが一瞬脳裏をよぎる京太郎。
 しかしその考えは照によりすぐに否定される。

「ほら、一緒にパソコンで見たでしょ?」
「……もしかして脳内メーカー?」
「それっ!」
「あー」
「あれか」
「それですか」

 一同納得である。
 ちなみに照は機会音痴なので脳内メーカーを見る為にパソコンを操作したのは当然の如く淡だった。
 そもそも照は、ネットをする事自体がない。そのせいかネットに載っている事は全部本当だと思うところがあった。
 その為脳内と聞いて即座に脳内メーカーの事を連想したのだ。
 これをアホの子と思うか、可愛いと思うかは人によると言った所だ。


「どんな結果だったんですか?」
「私は愛がいっぱいだったっ!」
「そうか、よかったな。飴ちゃん舐めるか?」
「舐める」

 京太郎の方を見ながら、何故か勝ち誇って言う照。
 その姿が勘に触ったので菫は平和的物理手段を持って黙らせた。

「淡は?」
「細かい事を気にする男はもてないよ」
「京ちゃんはそんな事ないよっ!」
「はいはい、照は黙って飴を舐めていような」

 淡の態度は、どうみても言いたくないありませんといったものだった。
 よくない結果だったというのが見え見えである。

「そのくらいいいじゃないか」
「いやですー」

 大星淡は天上天下唯我独尊である。
 先輩だろうが何だろうがタメ語で、敬う気持ちなど微塵も持っていない。
 実力がある者には友好的に接するが、それ以外の者には眼中になかったりする。
 一緒に入部した同級生の事も、マラソン大会で一緒に走ろうねと言い合っていたにも関わらず放置して走って行くくらいに忘れ去っているような有様だ。
 京太郎に関しては、雑用という事で元々実力はどうでもいいと思っていたのと、最初の出会いやらがあり仲間認定されている。
 そんなわけで淡は、部長である菫に聞かれようが言いたくない事は絶対に言わない。
 大星淡は媚びぬ引かぬ省みぬのだ。

「淡お嬢様はきっと体調が悪いんでしょうね。よろしかったら私が……」
「言います! 言いますから!」

 しかし先日のトラウマが蘇らされた淡はいとも容易く引いた。
 何事も例外はあるのだ。

「お嬢様……?」
「この飴美味しいな」

 京太郎のお嬢様という発言に、唖然とする菫。
 本来なら大きく反応をしそうな照は飴の美味しさに夢中になっていたのが幸いだった。

「……嘘がいっぱい」
「淡っぽいな」

 それっぽい結果に皆納得した。

「ちょっと京太郎! 淡っぽいってどういうこと!?」
「淡らしいって事かな」
「そういう事じゃなくて!」
「じゃあどういう事なんだ?」
「私が嘘つきだって言うの?」
「じゃあ嘘ついたことないのか?」
「そんなこと……多分……きっと……おそらく……絶対ない!」
「途中まで散々迷っておきながら、よく最後だけそうも断言できるな」
「凄いでしょ」

 淡は誇らしげに胸を誇った。
 しかし膨らみが足りなかった。

「褒めてないから」
「褒めてよ!」
「なんで?」
「褒めて欲しいから!」
「よし。じゃあ部活を頑張って来たら褒めてやろう」
「やったね! ちょっと雑魚部員倒してくる!」

 こうして淡は対局へと向かって行った。

「京ちゃん、私は?」
「照さんも頑張って来たら褒めますよ」
「やった! ちょっと有象無象の部員を倒してくるっ!」

 照も対局へ向かって行った。


「あの二人を部活にああも真面目に取り組ませるとは、流石だな京ちゃん」
「そんな、俺は何もしてないですよ」

 大した奴だと言わんばかりに、褒めてくる菫。
 本当に何もしていないだけに、褒められても京太郎は困るしかなかった。

「いやいや、あの二人は実力はあるんだが、気まぐれな所があってな。気が向かないと対局をしないで読書をしたり、だらだらしたり、遊んだりする事があって困ってたんだ」
「それは部活としていいんですか……」
「うちは良くも悪くも実力主義だからな。結果さえ残してれば大抵の事は文句を言われないな」
「なるほど」
「ただ他の部員から良く思われない事は間違いないから、あの二人にはもう少し真面目に取り組んで欲しいとは常々思っていたんだ」
「そうですよね」
「それなのに、京ちゃんがちょっと言うだけで真面目に取り組んでるんだぞ。感謝してるんだ。本当に感謝してるんだ」
「そ、そうですか……」

 両手でがっしりと肩を掴んで、気持ちを態度に出しながら、大事な事なので二回言って感謝してくる菫に、京太郎は若干引いていた。

「それじゃあ私も対局してくるから、京ちゃんも頑張ってくれ」
「分かりました」

 すっかり京ちゃん呼びが定着している事に、また今日みたいに揉めてくるんだろうなと思いながら京太郎も雑用へと向かう事にした。
 もう慣れているので根本的解決を図ろうとは微塵も考えていないのである。

(さて、どうするか)

 京太郎は、ぱっと見渡したが特に急ぎでしなければいけない事もなさそうだった。
 これも京太郎が有能だからである。
 しばし逡巡した京太郎は、結局お茶を入れる事にした。
 お茶には様々な効果がある。
 飲料の本来の目的である水分補給以外にも、食中毒防止、虫歯予防、ガン予防、血糖値低下、老化防止、美容と健康にも良いと、あげればきりがない程に効果があるのだ。
 だからこそ特級厨師である京太郎は全身全霊を込めてお茶を入れておくのだ。
 そうする事により、白糸台部員のお茶を飲んだ部員全てがその恩恵により人生が幸福へと導かれるのだ。

「京太郎君。お茶くれる?」

 そう京太郎に頼むのは、隠れ巨乳の渋谷尭深だ。
 尭深はお茶が好きだ。
 常にお茶を手元に持っているくらい好きだ。
 一時カフェイン中毒を心配され、病院で精密検査を受けたくらいに好きだ。
 ちなみに結果は問題なしでした。

「勿論ですよ。しばらくお待ちください」

 京太郎は職人の手つきでお茶を入れる。
 お茶の入れ方というのは案外難しい。
 ただ垂れ流して入れるだけなら誰でも出来る。
 だが本当に美味しいお茶の入れ方となると、中々に難しいのだ。
 無論京太郎は、その点は完璧だが。

「はい。どうぞ」
「ありがと」

 その京太郎の入れたお茶を飲んだ尭深の目が、きらりと光った。
 そしてその光はやがて広がり全てを飲み込んでいった。
 海は枯れ、地は裂け、あらゆる生命体が絶滅したかにみえた。
 しかしある日力が膨張しはじめて、そしてついに爆発した。これが世に言うビッグバンである。
 宇宙はこうして生まれた。
 そして数十億年の歳月が経ち、現在の我々がここにいるのだ。

すいません弟にのっとられました
次回更新があるかエタるかは未定です


 白糸台編

 前回のあらすじ。
 ビッグバンが起きて世界が再構築された。


「なんで淡は休み時間になると俺の所に来るわけ?」

 退屈な授業を終えた後にある昼休みの時間。
 そんな時間になると淡はいつも京太郎の所へ来ていた。

「ぼっちの京太郎を救済してあげようという、私の思いやりが分からないのかなぁ。もっと感謝していい所だよ?」

 何故か憐れな者を見下している態度で言ってくる淡。
 友達がいないというのは事実だからいいとして、その態度はどうかと思う。

「確かに俺は変な時期に転校して来たから友達がいない事は認めるが、淡の言う思いやりについてはさっぱり分からんぞ」
「バカなの? アホなの?」
「へーへー。どうせ馬鹿ですよ。馬鹿でぼっちな俺は放っておいて、友達の多い淡さんはリア充してていいんですよ?」
「ほら、私は博愛主義者だから、恵まれない子供に愛の手を差し出さないといけないから」
「なぜ素直にお前も友達がいないと認めない」

 普段の態度や部活の時に同級生とまったく絡む事がないから、淡に友達がいないという事は京太郎にとって周知の事実であった。
 淡の強がりは見え見えである。

「いるしっ! 友達100人いるしっ!」
「どこの歌だ、どこの」
「あの歌ってさー。100人でおにぎり食べたいなって言ってるけど、友達が100人だから全部で101人なわけでしょ? そうなると1人消えて

ない? その1人ってどこに行ったんだろうね?」
「無駄にホラーな解釈をするんじゃない。それよりお昼食べようぜ」

 話を変えようとしているのは明らかなので、京太郎は気にせず流す事にした。

「そうしよっか」
「おう」

 淡も気にせずお昼となった。強い子である。


(友達か……)

 黙々と食べながら思う。
 京太郎は友達が少ない。
 金髪で見た目は今時の若者の京太郎を敬遠する者も少なくはないし、時期外れの転校で既にクラス内でのグループが形成されている為に

友達が作りにくいのだ。
 本来ならぼっち飯まっしぐらだったが、毎日淡が来てくれるので寂しいお昼をおくらないで済んでいる。

(そう考えると真面目に淡には感謝するべきなのかもな)

「なに見てるの? 見学料取るよ?」

 思わず見つめていてしまったようだ。
 酷い言い様だが、実際に淡は見学料を取ってもいいくらいに可愛いいので多少は仕方ない。

「淡」
「ん?」
「一緒にお昼食べてくれてありがとうな」
「はっ? えっ? どどどどどどういたしまして!?」

 淡は赤面し、どもり、どうみても分かるくらいに動揺していた。
 意外と素直に褒められる事に弱い少女だった。

「はははっ」
「いや、ちょっと、急になに?」
「淡の言う思いやりに気がついたから感謝したくなったんだ」
「そ、そう……」

 自分で言った事なのに、他人に言われたら照れるのが淡だった。

「友達と言えばさー」
「どした?」
「照とはなんであんなに仲いいの?」
「地元が一緒で昔からの幼馴染だからかな」
「幼馴染ねー。照って普段は無愛想なのに、京太郎には懐いてるよねー」
「色々あったからな」
「ふーん」

 咲との確執などがあり、一言では表せない程に色々とあったのだ。
 そういう過去があり、照は京太郎へと全幅の信頼を置くようになったのだ。

「京太郎って菫先輩にも気に入られてるみたいだし、女の子限定で友達作るのうまいよね」
「人をたらしみたいに言うな」
「でも実際そうでしょ?」
「結果的にそうなってるのは認めるけど、狙ってはいないからな」
「ふーん」
「聞かれた事に答えてるだけなのに、なんでそんなに不満そうなんだよ?」
「べっつにー」

 淡は怒ってるような、泣きそうな、構って欲しいんだか、よく分からない顔をしていた。

「尭深先輩とも仲良さそうだし、年上好きなの?」
「なんでもいいぞー」
「ふむふむ」

 そうだと思ったら妙な思案顔をしたりしていた。
 女の子の顔はころころ変わるというが、それにしても京太郎にはよく分からなかった。

「女の子ならなんでもありって事だね」
「なんでそうなる!?」
「けだもの?」
「違う!」

 さらに言っている事も分からなかった。
 いつもの淡と言えばそれまでだが、今日はいつにも分からなかった。

「じゃあどういうこと?」
「好みのタイプが特に決まっていないってだけで、そんなけだものじゃねーよ」
「なるほどなるほど」
「あー、でもあえて言うなら一緒にいて楽しい人とかは好きだぞ」
「ほほうっ」

 何故か満足気に頷く淡は、さっきまで人をけだもの呼ばわりしていたという、失礼な事実など記憶から抹消されているようだ。
 都合の悪い事は忘れる。その精神こそ大星淡だ。
 鶏は三歩歩くと忘れるというが、淡は一歩も歩かずに忘れてみせるのだ。

 
「淡だって部活で照さん達とか絡んでないし、年上好きじゃね?」
「そういうんじゃないなぁ」
「じゃあなんだよ?」
「部員の中で私とまともに打てるのがあの人達くらいだからねー」
「強いってのも大変なんだな」
「まあねー。練習で弱い人と打つ時もほんとつまんなーい。弱い人なんて練習してても無駄なのにね」

 淡が部活で友達がいないのは、一年で大将を勤めるという別格な実力で浮いているという事もさることながら、この性格が問題なのだろう。
 自分の実力に驕っているのではなく、純粋に強く、純粋さゆえの冷酷さを持っている性格がだ。

「あっ、京太郎は私専用パシリだから別だよ?」
「へーへー。そーですね」

 淡以外にも使われているという都合の悪い事は、記憶から抹消されているようだ。
 まさに淡。

「こんな可愛い子のパシリなんて光栄でしょー」
「……淡お嬢様にお仕えするパシリで光栄でございますね」
「もうっ! それ駄目っ! それ禁止っ!」

 しかし都合の悪い事でも忘れない記憶はあるのだ。
 それが淡お嬢様ネタである。

「はいはい。まあ、それ人前では言うなよ」
「お嬢様扱いされた事なんて言うわけないでしょ!」
「それじゃねーよ!」
「じゃあなんのこと?」
「弱い人は練習しても無駄って言ってたやつだよ」

 そんな事を公に言ったら、今でもよくない淡の対人関係がさらに悪化する事間違いなしだ。
 それゆえの注意である。

「ふーん。まあいいけどー」

 しかし当の淡は分かったような、分かっていないような顔をしていた。

「分かったか?」
「分からなくもなくもない!」

 そして素直じゃなかった。

「それ分かってないだろ」
「分からなくもなくもなくもなくもない!」
「狙って分からなくしてるだろ」
「分からなくもなくもなくもなくもなくもなくもっ……舌噛んだぁ……」

 そしてアホの子だった。

「何をやっているんだ何を」
「なんか負けられないと思った」
「アホなのか?」
「うるさいっ!」

 なんだかんだでアホの子で愛嬌もあるし、もうちょっと素直になって、もうちょっと思いやりの気持ちを持てれば、友達も出来るのにな、と思う京太郎であった。



「そろそろだ」
「そろそろだね」

 時は部活中。
 照と淡は準備万端で待っていた。
 それは対局相手——などではなく、おやつである。

「まだー」
「まちくたびれたー」
「お前ら……いや、もういいや」

 麻雀の事など忘れ、待ちくたびれたーとやっている二人に菫は言葉もなかった。

「お待たせしました!」

 そんな欠食児童のような二人におやつを持ってきたのは、勿論京太郎である。
 そもそも京太郎が来る前は、部活中におやつを食べるという事などなかった。ただし女子会時は除く。
 それがこんなおやつの時間が出来たのは、京太郎が清澄にいた頃に習得したタコス作りがきっかけだった。
 話のネタとして言っている内に実際に作ってみてよとなり、なんだかんだで毎日作るようになり、タコスだけでは飽きたという淡の要望のもとにお菓子まで作るようになり、そしておやつ時間ができあがったのであった。
 ちなみに今日はプリンだった。

「うまうまー」
「このために生きてるー」
「ちっ」

 本当に美味しそうに食べる照と淡は作った京太郎から見ると嬉しくなる光景であり、菫からすると思わず舌打ちがもれる光景だった。
 もっとも菫も食べているのであるが。

「淡はおっさん臭い事言うのな」
「こんな乙女をつかまえておっさんとはなによ」
「本当の乙女は自分で乙女なんて言わないんだぞ」
「じゃあ本当のおっさんも自分でおっさんって言わないの?」
「それは本当のおっさんに聞いてくれ……」
「本当のおっさんってなに?」

 淡と京太郎の問答のもとに生まれた照の疑問に答える者は誰もいなかった。
 食べ終わったら食休みである。
 食べたものを消化して栄養とする為に体内は忙しく働く為ので、体を動かさない方がいいので食後の休憩は大事である。

「そろそろ部活を再開しないか?」
「……眠い」
「えーもうちょっとーだらだらしたいー」

 だから照と淡は体の事を思いやり休憩をしているのである。
 決してめんどくさいからではない。

「いいから片付けて打つぞ」
「寝ていい?」
「永遠に眠らせようか?」
「……起きます」
「よし、対局に行ってこい」

 しかし目が怖い菫を見た照は、突如眠気も覚めた為に対局へと向かう事にしたのであった、

「京ちゃんっ! またねっ!」
「はい。また会いましょう」
「なんでお別れみたいになっているんだ。同じ部内にいるだろうが……」

 菫の呟きは、手をおおげさにまで振って去って行く照の前にかき消されていた。


「淡もそろそろ——」
「ぶーぶー」

 菫の催促の声は、豚のように呻いている淡の前にかき消された。

「豚のような鳴き声しか出せないようにしてやろうか?」
「そうはいかない! ふせげ京太郎! 雑用バリアー!」

 淡は京太郎を身代わりにした。
 菫は無言で身代わりと一緒に水平チョップをした。

「痛いっ!」
「あたっ! なんで俺まで……」
「なんとなくだ」

 身代わりごと巻き込む菫を見て、抵抗は無駄だと悟った淡は大人しく照の後を追って対局へ向かった。

「おぼえてろ!」

 捨て台詞は忘れていなかったが。

「はぁ……」
「疲れてますね」
「まあな……」

 菫は見るからに疲れていた。
 それは肉体的疲労ではなく、精神的疲労な事は明らかだった。
 ついでに原因も明らかだった。

「京ちゃんがもっとあいつらに厳しくしてくれればいいんだがなあ」
「……すいません」

 京太郎自身甘い性格なのは自覚があった。
 しかし今更厳しくするのも難しい。

「まあ、それが京ちゃんのいいところでもあるからな」
「そう言われるとありがたいです」
「でもちょっと淡に甘すぎないか?」
「そうですか?」

 清澄にいた頃の優希みたいなものだと思っていたので、京太郎としてはまったく普通にしてたつもりだった。
 躾けられているとも言う。

「照は……まあ、あれでも先輩だから、あまりよくないがいいとしてだ」
「は、はあ」

 苦々しげな口調に、京太郎は何とも言えなかった。
 確かに照さんって先輩っぽくないよなーと思っていただけに何とも言えなかった。

「淡は同級生なんだからもっと厳しくしてもいいんだぞ? というかしてくれ」
「はい?」
「淡には困っていてな」
「は、はい」

 さらに苦々しげな口調になり頼み込んでくる菫に、京太郎はさらに何も言えなかった。

「知っての通りあの性格だろ? 今は私の言う事ならそれなりに聞いてくれるし、照という淡以上の打ち手もいるから何とか押さえつけれていられるが、私達が卒業する来年以降が不安でな」
「渋谷先輩と亦野先輩がいるじゃないですか」
「尭深はお茶ばっかり飲んでていまいち頼りにならないし、亦野は悪くないんだが淡を制御できるかと言うと物足りないんだ」
「は、はあ」

 部長って色々考えて大変なんだなあ。
 竹井部長もああ見えて大変だったのかなあ。
 突然の展開に思わず京太郎は、思考が余所へと逸れた。
 現実逃避である。


「それに淡が三年になったら、新しく入る下級生次第だが、まともに打てる奴なんていなくなるんだぞ? そうなったらもうあいつの天下だ。あいつの天下になんてなったら白糸台が終わるぞ」
「確かに」

『汚物は退部だー!』と言いながら、部員を虐殺(麻雀で)して退部へと追い込んでいる淡が容易に想像できてしまう。

「だからそうならないように、淡を躾けて欲しくてな」
「俺に出来ますかね?」
「京ちゃんしか出来ないんだ。頼む」
「は、はい。善処します」
「まあ、無理にやる必要はない。ゆっくりでいいからな」
「わ、分かりました」

 強引にではあるが、納得させられた京太郎。
 その頭の中は『やべーどうしよう』という考えで一杯だ。
 確かに淡とは気楽に話せる関係ではあるが、あの淡が素直に自分の言う事を聞く姿など想像が難しい。
 頑張って想像した姿は、全裸に首輪で『御主人様(はぁと』と言う面影がない姿なのだ。
 それは流石にまずい。倫理的にまずい。

「ふう。これで一安心だ」
「菫さんって色々考えているんですね」
「部長だしな」
「なんかもう部長って言うよりお母さんみたいですね」
「老けてると言う事か? それは見た目か? 性格か? どっちだ? 両方か!?」
「あ、あの……」

 何気ない一言だったが、どうやら地雷だったらしい。
 豹変している菫に京太郎はどうする事もできない。

「私だって自分が老けてきてるなという実感はあるんだ。色々と——いや取り繕うのは止めよう。照と淡の事で苦労しているからな。でもな、私だって好きでこんな苦労しているわけじゃないんだ。そもそも入部した時点で照と関わってしまったばかりにあいつのお守役を押し付けられたのが全ての始まりなんだ。いや、別に照の事が嫌いって言ってるわけじゃないぞ? なんだかんだで悪い奴じゃないからな。ただちょっと天然でマイペース過ぎるんだ。あと対局中怖い。妙に怖い。慣れてる私でもたまに怖い。そりゃあ対局相手に人間じゃない呼ばわりされるよなあ。それに淡。対局中に目がちょっと怖くなるのはいいとしても性格がなあ。さっき言った通りだからなあ。それにもう少し他の部員とも話して欲しい。私達は五人でチームだから必然的に私達との交流が多くなるし、一年で唯一人のレギュラーだから一年の中で浮いてしまうのは仕方ないとしてもそれにしても話さな過ぎだろ。見てて不安になるんだよ。だから京ちゃんと仲良くしてるのは嬉しかった。淡もやれば出来るんだなと素直に感心もしたよ。まあ結局京ちゃん限定だったんだけどな。もうさあ、なんで私はこんな事まで心配してるんだろうな。自分でも部長とか以前に考え過ぎだとは思ってる。でもこれが性格なんだから仕方ないんだよ。でも私だって本当は楽になりたいと思ってるんだ。今は麻雀と照と淡で精一杯だけど私だって女の子らしく恋とかだってしてみたいんだ。それがどうしてこうなった。いや別に現状に不満があるわけじゃないんだ。今は今で満足している。ただもうちょっとこうなんかあっていだろって思ってるんだ」
「は、はあ」

 普段苦労している人の愚痴は凄かった。とても凄かった。
 とりあえず聞くしかないと思わせる程に凄かった。

「だからやっぱり——あっ……すまない。ちょっと我を忘れていたようだ」
「……いえ、気にしないでください」

 我に返り、醜態を晒した事に頬を染め、俯いている菫。
 その姿に可愛いと思ってしまったのは秘密だ。

「ま、まあ、そういうわけだからよろしく頼んだぞ」
「わ、分かりました」

 強引に話をまとめる菫に逆らう事など京太郎には出来なかった。
 目が怖かったのである。

(確かに淡の性格だと色々問題ありそうだし、注意する機会があったらするか)

 天井を見上げながら、『あー』とか『うー』とか唸りながら先程の事を忘れようとしている菫を横に、京太郎は決意を胸にするのであった。



「いいよもうっ! 京太郎なんか大っ嫌いだばーか!!」

 京太郎が決意をしてから時は流れたある日の事。
 牌の音が鳴り響く部室の中で、異質である淡の声が高く響いた。

「ふんっ!」

 何事かと振り返る人の視線の中、音源である当の淡は足音を響かせ部室から立ち去っていった。
 残ったのは罵声を浴びせられ立ち尽くす京太郎だけであった。

「どうした?」
「私は淡を見てくる」

 そんな京太郎に話しかけるのは、苦労性の菫だ。
 普段のほほんとしている照も一大事かと思ったのか淡を追いかけて行った。

「淡がよくない事を言ったので注意をしてたら、怒らせてしまいまして」
「淡は何を言ったんだ?」
「弱い人は麻雀をやってても意味がないって」
「他の部員がいるというのにそれは酷いな」
「実は以前に同じ事で注意した事があったので、今回はちょっと強く言ってしまったんです」

 先日の忠告は徒労に終わったのである。

「いや、他の部員がいるのにそういうことを言うのは怒ってもいいところだ。私だったら怒ってたぞ。
 どうせ京ちゃんの事だから注意って言っても大して事は言ってないんだろ?」
「まあ、そうですね」
「どうせ普段は淡が押したらすぐに京ちゃんが引く所を引かなかったとか、その程度だろ? 甘やかし過ぎだ」

 まさしく菫の言う通りであった。
 怒ったわけではなく、軽く注意をしただけだった。
 ただいつもだったらそれで終わりにした所を、きちんと言い聞かせようとしただけである。

「まったく、淡も子供じゃないんだから」

 菫は、『はぁ』と溜息を吐き、眉間に皺を寄せていて、白糸台全ての苦労を背負い込んでいるかのようだった。
 その姿は、少しでもその苦労を軽減してあげたいと京太郎に思わせるのには充分すぎる程だ。
 京太郎も苦労を背負い込みに行く性質の人間であった。

「まあ、怒らせちゃったのは事実ですし、後で謝っておきますよ」
「それは止めておいてくれないか」
「なんでです?」

 予想外の言葉に、はてなマークが京太郎に浮かぶ。
 それとは反対に菫には、ニヤリとした笑みが浮かんでいた。
 悪い考えを浮かべている証拠である。

「あれは怒ってると言うより、京ちゃんが思い通りに動かなかった事にすねてるだけだろう?
 そんなんでいちいち謝ってたら碌な事にならん。むしろ向こうから謝らせるべきだ」
「じゃあ俺はどうすればいいんです?」
「無視してやれ」
「無視ですか」
「無視だ。照には私からうまく言っておくから存分にやるんだ」

 これが菫の言っていた躾けと言うやつなのだろう。
 普段苦労された分の憂さ晴らしの気持ちは入っていないはずだ。多分。

「俺にできますかね」
「出来る出来ないじゃない。やるんだ」

 ブラック企業の社長みたいな発言をしてくる菫を前に、京太郎に残された返事は、『はい』か『YES』しかなかった。



「ふん!」

 淡が怒った翌日。
 京太郎が部活で淡に会って言われた最初の言葉がこれである。
 自分でふんとか言って、これみよがしに怒っていた。
 京太郎は、『怒ってる姿も可愛いな』なんて考えながらも、とりあえず菫に言われた通りに無視して他の人に挨拶をしにいった。

「淡はご立腹か」
「みたいですね」

 菫の言う通り淡は激おこぷんぷん丸だった。
 荒ぶった淡のせいで空気が悪くなり、震えた尭深がお茶を零していたが、京太郎は見なかった事にした。
 事情を知っている菫と照はすっとぼけた顔をしているので、気にせず部活をする事にしたのだ。

「……ふ、ふーん!」

 部活の最中時折視線を感じて見てみると淡が見つめてきている。
 しかし視線が合うと、露骨に目を逸らし、相変わらず口で『ふん』と言っていた。
 つーんと顔を背けていたが、全身からは『構って』というオーラを放たれている。
 普段なら構ってあげた所。だが無視する。
 そんな事を何度か繰り返しているうちにおやつの時間になった。

「……い、今すぐお菓子くれて謝ったら許してあげてもいーけど! ふふん、私は博愛主義だからね!」

 淡を除いておやつを配り、さあ食べようとしていたらそんな事を言われた。
 見ると胸を張っているが、それもどこか弱々しく、ただでさえ小さい膨らみがより一層小さく見えるくらいに弱っている様子に、罪悪感を覚えた京太郎は視線を淡から逸らし、そのまま菫を見る。
 菫は無言で首を横に振っている。
 菫お母さんは厳しかった。
 結局淡抜きでおやつは食べようとしたが——

「なんでぇ……ひっく…なんで無視するのぉ……? ぐすっ……どうしてぇ……? やだよぉ……」

 それが引き金になったのかついに淡が泣き出した。
 淡が泣き出した事により、自分の事のように照があたふたするが、二次災害を防ぐために動いた菫による目の前で指を円の動きをする攻撃によって、目を回し気を失わせる事に成功した。
 その間僅か数秒。早業である。

(まだ無視するんですか?)
(まだ謝っていないぞ)

 アイコンタクトで菫と会話したがまだ駄目だった。
 今にも泣き出しそうな淡を見ているのは精神的に非常に厳しい。

「ゔあ゙ぁ゙ぁあぁあぁんーーー!!」

 アイコンタクトにも気がつかない程に余裕のない淡は、ついには耐えられず泣き出してしまった。

(菫さんこれやばいやばい)
(落ち着け、もう一押しだ)
(無理無理無理これ以上押せない。もう断崖絶壁まで来てるこれ以上押したら終わっちゃう)
(まだだ! まだ終わらんよ!)

 いつも笑顔な淡の泣き顔を見るのはとてもつらいものがあった。
 なによりも泣かしているのが自分という事実が、京太郎にはとてもつらかった。

「ゔわ゙ぁぁーん!! き、きょうたろぉにぃ……きらわれちゃったぁぁぁっ!! ゔあ゙ぁ゙ぁあぁあぁぁん!!」

 号泣した淡。
 心が痛くなって、もう無理だった。


(ここだ! ここが断崖絶壁だ!)
(そもそも断崖絶壁まで追い込んじゃ駄目なんですって! ここからどうしろと!?)

「きょうたろぉに、……っ……きらわれちゃったらぁわたしぃ……っ!
 も、もうっ……い、いきてけないぃぃ……うわぁああああああああんっ……! うわぁああああぁんっ!」

 京太郎はこれはだめかもわからんねと思った。
 しかしこのままではまずいと考え、縋るような瞳で菫に助けを求める。
 困った時には菫だ。

(少女漫画ならそこで君に涙は似合わないって言うといいらしいぞ)
(言えない!)
(少女漫画ならそこで抱きしめるといいらしいぞ)
(抱けない!)
(少女漫画ならそこでキスするといいらしいぞ)
(できない!)
(少女漫画ならそこで——)
(もういいよ! 黙ってろ! このおかっぱ少女趣味!)
(……!!)

 結論菫は使えない。

「ひっ……ひっく……いやだよぉ……きらわないでよぉ……わたしがわるかったからぁ……おねがいだからきらわないでよぉ……!
 ぐっ……ぐすっ……ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 泣き喚き謝罪を続ける淡を前に、結局京太郎の取った行動は菫の言う通り抱きしめる事だった。
 一応謝ったという事だし、それ以前にもう限界だった。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい——あっ……」

 ぎゅっと力を込めて抱きしめると、淡は『ごめんなさい』の連呼をようやく止めてくれた。
 菫の言った通りなのが少し悔しいが何とかなったのだ。

「無視してごめんな。嫌ってなんかないよ」
「ぐすっ……ぐすん……きらってないの?」
「嫌ってません」
「ひっ……ひっく……もう……むししない?」
「しません」
「ううっ……ぅぅぅ……おやつ……くれる?」
「望むならいくらでも」
「めそめそっ……もう……お嬢様って言わない?」
「言いません」
「ほんとだねっ!?」
「ほんとーです」

 いつの間にか淡は泣き止んでいた。
 しかも笑顔だった
 その笑顔は目が腫れていて、いつもみたいに爽やかな笑顔ではないけれど、それでも可愛いと思えた。
 その可愛さはお嬢様ネタをもう言わないでもいいと思わせる程だった。

「最初から謝れば許してくれたの?」
「そうだな」
「なんで教えてくれなかったの?」
「聞かれなかったからな」
「じゃあなんで私は聞かなかったの?」
「それは知らん」
「だよねっ」

 このアホさ。ようやくいつもの淡らしくなってきた。

「えっとさ……京太郎に言いたい事があるんだ」
「ん?」
「あの、その、えと……」

 つっかえつっかえながらも、ゆっくりと、それでも確かに気持ちを言葉にのせて淡は喋る。

「あの、あのね……京太郎の事……大嫌いっていっちゃったけど……あれ嘘だからね?
 その……ほんとは嫌いじゃないよ。ほんとはね……ほんとは……京太郎なんか大好きだばーか!!」



 誰もいなくなった放課後。

「よくやってくれた」
「淡を泣かせたくないからもうしませんからね?」

 部室に今回の事を話し合う菫と京太郎がいた。

「分かってる。私も悪いとは思ってるんだ」
「ならいいんですけど」
「それにあんな小っ恥ずかしいのはもう二度と見たくない」
「俺も人前であんなのはもう無理ですね」

 部活中、他の部員が見ている中でのあの出来事である。
 やってる最中ならともかく、事が済んだ後は恥ずかしいに決まっている。

「ところでアイコンタクトの件だが」
「すいません。失礼な事を言ってしまって」

 おかっぱ少女趣味呼ばわりが失礼にあたるかと言えば微妙なところだが、多分失礼なのだろう。

「いや、気にしなくていい。むしろもっと言って欲しかった」
「えっ……」

 思わずおまえは何を言っているんだ状態になってしまった京太郎を攻める事のできる者などいないだろう。
 それ程に菫の発言は意外だった。

「罵られて不覚にも少女漫画のヒロインの気持ちが分かった気がしてな……」
「えっ……」
「いやいや、何を言っているんだ私は……罵られて嬉しいなんてMじゃないか」
「えっ……」
「じゃ、じゃあ話は終わりだ! またな京ちゃん」
「えっ……」

 一人で言いたい事だけ言って自己完結した菫は颯爽と去っていった。

「えっ……」

 どうみてもMです本当にありがとうございました。

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