菫「暇だから宥を監禁してみるか」(160)

 
九月二十一日

今日から日記をつけることにした。
理由は強いて言えば記憶の反芻とでも言えばいいか。
その日の出来事を書いて興奮を忘れないためだ。

明日の朝、彼女は東京へ来る。

 
九月二十三日

昨日は忙しくて日記をつけることができなかった。

計画は成功した。
廃病院の電気系統だけが心残りだが、最悪自家発電機も用意してある。
寒がりで良かった。エアコンを必要としない彼女には本当に助かった。

泣きじゃくる宥の顔は非常に嗜虐心がくすぐられる。
記念に写真を一枚撮っておいた。


宥「うう……」ムクリ

菫「気がついた?」

宥「ひぁっ!」

菫「驚かないでくれ。私だよ、弘世だ」

宥「弘世さん……? ここはどこですか?」

菫「詳しくは言えない。東京のとある地下だ」

宥「……?」

菫「今からここで私と暮らすんだ」

宥「え」

ジャラ

宥「なにこれ……、鎖……」

菫「すまない、君が理解してくれるまでは足枷をつけさせてもらう」

宥「え……え……?」

 
菫「夕食はそこに置いてある。トイレは部屋の隅に洋式が。暇になったらテレビでも見るといい。本は読むかい?」

宥「意味がわからないですっ。帰してください!!」

菫「本は……読まないのか」

宥「私の話を聞いて!!」

菫「へぇ、そんな声も出せるのだな」

宥「弘世さん、」グッ

菫「鎖の長さは丁度ここまでが限界だ」

ギギギギ

菫「さようなら。明日の朝にまたくるよ」

ガチャン

 「助けて! ここから出して!!」ドンドン

 「お願いしますっ、私、何かしましたか」ドンドン

 「お願い……、グス、玄ちゃん、誰か……」

菫「――っ」ゾクゾク

ガチャ

 
宥「たす――」

菫「笑って」

パシャ

菫「おやすみ」

ガチャン カチャリ


宥「……」

宥「……」

宥「……ふぇ」

宥「……」フラフラ


宥「玄ちゃん助けて……」ポロポロ

 
九月二十四日

朝から宥の様子を見に行った。
夕食に手がついておらず、話しかけても一言も口を聞いてくれなかった。
朝食と昼食を差し出しても反応なし。
ちょっとだけ想像と違って驚いた。私の顔を見るなり謝り倒してくると思っていたからだ。

意外に強気なのだと新たな彼女の一面が知れて満足した。
それにいくらなんでも餓死を選ぶはずはない。
なぜなら彼女の瞳にはいまだ希望の光が残されていたからだ。

もちろん解放するつもりはないが。


ガチャ

宥「!っ、……」

菫「夕飯……」

菫「なぜ食べない」

宥「……」

菫「好き嫌いが多いのか?」

宥「……」

菫「無視か……」

ダン

宥「!!!?」

菫「少しは返事をしてくれてもいいんじゃないか……?」

宥「……っ」ウル

 
菫「なぁ」クイ

宥「……」ウルウル

菫「綺麗だ」ボソ

宥「!!っ」ビクビク

菫「本当に泣き顔が似合うな。誰かに奪われる前で良かった」

宥「っ、」

菫「その目もいい」

菫「……何日持つかな」



菫「夕食は一緒にとろう。じゃあ行ってくるよ」


返事はなかった。

 
九月二十五日

少しずつだが食べてくれた。
学校と家で寝ているとき以外はできるだけ傍にいるつもりだが、それでも独りの時間は長い。

ほとんど会話もなく、宥の気持ちを掴むことができない。
「表情から読み取る心理学」なるものを買ったが役に立つことはないだろう。

 
九月二十六日

慣れてきたのか、会話をするようになった。
食も進んでいるようで残さず皿を返してくる。
宥には好き嫌いはないらしい。いいことだ。私は好き嫌いがある人間は嫌いだ。

宥の妹の玄から電話が来た。
私は「知らない」とだけ答えた。
電話口の私は少し必死さが足りなかったかもしれないが、玄はそれを気にするどころではなさそうだ。

真面目で面倒見のいい菫を演じるのは、ずいぶんとかったるい。
私の18年間はこうもくだらないものだと気付かせてくれたのは宥だ。
彼女には感謝しても尽くせない。


カチャカチャ

菫「……」モグモグ

宥「……」モグモグ

菫「どうかな?」

宥「……」モグモグ

菫「また――」

宥「おいしいです」

菫「そう」

菫「……」モグモグ

宥「なんで、私なんですか」

宥「弘世さんはお友達で、いい人だと思ってたのにっ、なんで、」

菫「君を好きになったから」

支援するぜ

 
一秒間、宥の身体が硬直した。

宥「……ふぁ」

宥「わぁぁ、」

宥「ぁああああぁぁぁあ……」ポロポロ

絶望を感じたのだろうと菫は思った。
四日間の監禁を耐えてきた。菫から何かしらの要求があるなら、交渉しだいでここから出れる。そんな一抹の可能性を否定されたのだ。
緊張の糸は切れ、見せまいとしていた涙がこぼれていく。

宥「ここから出して……、玄ちゃんに合わせてっ……」

宥の口元から咀嚼をしていたパンがこぼれ落ちた。
汚いとは思わなかった。菫は拾い上げると口に放り込んだ。

菫「大丈夫。私がいるから」ニコリ

 
九月二十七日

いよいよ宥の失踪に対して警察や彼女の周り騒がしくなってきた。
彼女が東京へ向かう際、私と遊ぶ名目で玄から許可をとっていた。
妹から許可とは、彼女らしいといえばそうだが少々面倒だ。あれだけ黙っておけと言ったのに。

昨日の様子から、枷を一時的にはずすことを判断した。
風呂へ入るには邪魔だからだ。
五日ぶりの入浴に宥もずいぶんと安らいでいた。

そろそろ、私を求めるはずだ。
それだけ孤独は辛い。

       ___  ,.-‐- 、

      >  `       ` 、            なんか汚ねえ・・・・!
     ∠             ` 、          ずるいぞ菫さん・・・・・・!
    /               ヽ

.   ./        /`ヽ         ヽ         宥ねえかわいい・・・いっときながらが・・・
  /, '   /|/|/   |. iヽ       ヽ        とどのつまり・・・・・犯罪じゃねえか・・・・!
  ~./    /`- ._ u . | |_,| !ヽ      i
.    //| /== 。_!  !~,。 = 'ヽ. l^i  i        なんだよそれ・・・・?
      ||` _ _ /  =,_ _ . '  | Fi  |        そんなにかわいいって思うなら 普通に愛を伝えろよ・・・・・・・・!
       ||  / u    u  u |.Pi  |        どっちかはっきりしろ・・・・!
       i||/   _ 丶  u   .||~   |
.      | ヽ`   ____....--、 / |   |        好きだから監禁するって・・・・・・・
.      |  ヽ  ̄ ̄ ̄ ̄ /  |    |        なんか・・・・・
      |   ヽ  #'  /    |   __|_____
     //__....../| ヽ_ ./  u  |   |┬ii.--     ・・・なんか・・・・愛がないっていうか・・・

___....-- i.|~  / | /   u    |   | | ||      自分の欲しかない・・・・・!
-- ~ ~ i.|   / | / >...___....-^ |    |  | ||


菫「宥、風呂に入ろう」

宥「!」

菫「五日もほっぽっておいてすまなかった。気持ち悪かったろう」

宥「あ、いえ……」

菫「足を出して」

宥「さ、触らないで……」

菫「鎖を外すから。ほら、そうしないとここから出れないだろ?」

宥「あっ」

カチャン

菫「ね?」

鎖を外して、二歩後退する。
テーブルには食事に使ったナイフ。菫は丸腰をアピールする。
実験のつもりだった。どの程度、宥が墜ちているかを知るためには必要な行為。

宥は潤んだ目で、こちらの指示を待つばかりだった。菫は嗤った。

 
菫「目隠しをしてくれ」

宥「……」

シュルシュル

菫「転んだら危ない。私が抱えていこう」

宥「っ、」


宥「く、臭くないですか?」

菫「いや、」

その言葉は嘘で、正直に言えば臭いがした。
だけども宥の臭いだと思えば、興奮剤と言えなくもない。
それよりも、宥がこちらに対して羞恥心を持っていることに驚きであった。

菫「軽いな」

宥「……そう、ですか?」

菫「ああ、羨ましいよ」

宥「ありが……」

宥は、はっとして口をつぐんだ。
完全に許しきれてはいないことに、菫の中で不満は生まれなかった。

   //   , -─;┬:─‐- 、        )
. //   /  ヽ  i  r'    \     (  ………
 /   .,'     , -─- 、    ヽ     ) 菫さんっ……
     /    /      ヽ    .ヽ     (
      |{:    l           l     }|    ) ………
  E''ー-|{    {  ,ィノl人トヽ、 トi   }l-‐'''ヨ {  それでも……
. E..三l| {   l. (l'≧ ll ≦゙l) :| |   n;|三..ヨ ) 人間かっ…!?
.     |.! {  |! ト∈ゞ'∋イ | :!   4!!:   (
    | | '  || |:::::`ー'´::::| |:::|.   !:!:    `フ'⌒`ー-‐
     |. }   { W::::::::::::::::::::W:::::}   { |::
     ヽ|.   |/:::::::::::::::::::::::::\|.   |ノ::://
.      |   |::::::::::::::::::::::::::::::::::l   |//
      !  |::::::::::::::::::::::::::::::::::::!. //
      |   |:::::::::::::::::::::::::::::::::://!、      /
    /, r- ヽ::::: :::::::::::::::://  、、\  //
     !L{」_厂ゝ):  ::::::://:(.{⌒)_},},リ://
二二二二二二二二二二二二二二二二二二二

             ヽ     \    ヽ ̄

 
◇◆◇◆◇◆

菫「目隠しをとるぞ」

宥「ん……」

菫「服は全て、このカゴに」

宥「汚れ物は……?」

菫「私が分けておくから。脱がそうか?」

宥「出て行ってください」

菫「わかった」

小さな脱衣所の中は、二人入ればほとんど身動きできなかった。
今まで抱いて運ばれてきたクセして、身体が触れ合うのを避けようと菫の挙動に合わせて身をくねらせる宥に菫は苦笑した。
一瞬だけ振り返り、宥の視線が“それ”に行き届いていないことを確認して、脱衣所から退散した。

病院の風呂場には緊急用の押しボタンが壁に設置されている。
それを取り外し、注意書きも全て剥がしたつもりだったが、跡は残る。
廃病院だと知られたところで大した支障はないが、自分がいない時に彼女を不安がらせるのは嫌だった。

再び脱衣所の扉を開くと、雲りガラスの向こうで身体を流す宥の影が見えた。
お湯は出ている。
電気系統云々は計画においての最大の難所だったが、監禁部屋と同じ地下一階は配電盤が地上施設と分けられていたため、大掛かりな工作を必要としなかった。
電力問題の解決は宥にとっては不幸な事実だった。計画の頓挫にはそれらの要因があったからだ。
菫は浅い思考のまま、宥の下着を手に取る。

 
恥部が当てられていた部分に鼻を押し付けた。
アンモニア臭。
冗談じゃないぐらい興奮する。自身の性器には指一本触れていないのに快楽の波がおしよせた。
吸い込む度、副交感神経が爆発しそうなほどトリップを起こし、形状できない欲求を解消できず、身が悶えた。
股間に手をやると、ショーツの中は洪水を起こしていた。親指と人差し指の間で糸を引き、それを宥の下着にこすりつける。
ちょっとした征服感があった。愛液が宥の下着を汚す。それは菫に、宥を傷物にしたような気にさせた。

菫「新しい下着と服、ここに置いておく」

返事はなかったが、それでも菫は脱衣所から出た。

 
九月二十八日

玄が来た。
宥が見つかるまで奈良へは帰らないらしい。

邪魔だ。どうしよう。

クロチャー監禁フラグ

     , -‐- 、
    /    `丶、
  / _ア乍r、   `丶、     フォフォフォ・・・
  ( l´ [イ从]   ̄゛` ┐ )
  こ二二二ニニ==-|'´      どうやら玄さんには・・・
  r||=,=、=,= |f゙lミ|        特別講習・・・・・・
.  l||`=ァ′`= ′|リミ|
   l /__二ヽ ハミ|          レクチャーが必要だっ・・・・・・!

.   llヨヨヨヨヨヨラ /  ヾ|\_
  _l  ̄ ̄ ̄ /   │ != 三
三 =|l___/  /|  |
   l │ヽ   /   l  |
    |  |  ヽ/    |  |

しゅ

はやくっ・・・!

ダメだ!去るなんて!


宥「今日は遅いですね」

菫「ああすまない、カップ麺は食べた?」

宥「……」フルフル

菫「なぜ? 夕食は約束したが、お腹がすいたら食べろって言ったじゃないか」

宥「……」

菫「だんまりはやめてくれ」

宥「待ってたんです」


宥「……弘世さんを待ってたんです」

菫「ほう、理由は?」

宥「それは……」

菫「まぁいいさ。用意してくるから待っていてくれ」

宥「……はい」

よかった、>>1が戻ってきてくれて

 
ナース室には簡単な調理器具とガスコンロを用意してあった。
時計は九時を回る。
パスタにでもしよう。
鍋を用意し水を貯めている間、玄の対処のことだけで頭がいっぱいになる。
今日はネットカフェで泊まると聞いた。しかしその生活も長くは続けられないだろう。
一人暮らしの菫のアパートに転がり込んでくる可能性はありうる。そもそも菫がそれを断る理由はないからだ。
菫が事件の犯人でなければ、である。

奈良へ帰そうとなだめても、菫の話術ではどうも玄を納得させることはできなかった。
むしろ玄との会話の節々には菫を一番に疑っているのだと言いたげな、棘のある言葉が姿をのぞかせた。

どうにかしないと……、どうしたら……。

湯気が顎を撫でてようやく気付く。鍋の水はいつの間にか沸騰していた。馴れた手つきで塩を振り、麺を落としていった。


食後に借りてきた映画を宥と観賞した。
画面の向こうで恋愛に勤しむ男女の行方に、宥は涙を流していた。

    ) 
   (  
    l

    |     
    ) , ―- 、
    l イノリlヽ
    | 。l|゚ヮ゚ノl 。o〇 フフ・・・

    ,-「/|>く | /  ̄\   | バカが・・・
    ハキ|▼ |~|  /彡.|   | もう止まるかよ・・・!
   / | |,|┃ |/  |  |   |  一度堕ちたら
.   |_| .|┃ |   |  |.   | 止められなくなるのが
    |.  |=ロ=|   /  /.  | この「監禁」・・・
    |  |ミ||ニ|.  /\/|  |それが菫さんの魔力・・・!
    |_|. ||. \/  |/    \_________
     |.   |      |
     |   |    |

     |    ||    |
     |    |.|   |
     |__| |__|

    /::::::;;;;;;|. /::::::::ヽ
     ̄ ̄   └─-┘

 
九月二十九日

今日で一週間になる。
人間の適応とは恐ろしく、宥が私に懐く早さもまた、予想と違った。
悪いことではないが少し不気味だ。なぜだか宥が感情のないロボットに感じる。ボタン一つで私の言う事をきいてるような、そんな感覚。

過去にインターネットで正常度テストなるものを受けたのを思い出した。
判定は“F”。結果と共に表示された一文に、気狂いの域で精神科医に通えと書かれていた。
私は自覚している。
こんな風に日記をつけているのもそれを忘れないためだ。
異常が異常であり続けるためには、肯定し続けなければならない。

宥を拘束したいからしている。理由なんてものはそれでいい。私は狂っている。






玄を、

       -;─- 、,. -‐;z._
    _ -─:ゝ  ′     >      なんだなんだ……!
     ,>   ,、     `ヽ.      もう堕ちたか……!?
   ∠-ァ  / | i、     :ド
      /イ∠ニア! |ート、i   :|    宥ねえの泣き顔を「オカズ」に
      |'==、 ヽ!二ヽト、 |     一本抜くのがオレの楽しみ
.     | `ー-゚> 、 ̄・ラ j|r、|      最高の愉悦なのに…!

.      |u / _ 、  ̄  ||f||
.       |F`ニ''ー---‐¬ |!ノ|、      こんなことなら
.      |l二ニr三_ニ二] |ヽ|:::\      もっと痛めつけておけば
      ,ヘ、 ー    ̄´ノ,.イ::::::::::\      よかったか……?
    /i::::::下:::::‐-- '´//::::::::::::::::::\

.   /:::|:::::::|_\ _,,/ /::::::::::::::::::/:::ヽ.  堕ちる気力も
   ∧::::|::::::|Lニ○;¬ /:::::::::::::::::::/:::::::::::::i 体力もないくらいに……!

※白糸台の設定を二期制にしてます


宥「弘世さんは、ちゃんと学校行ってるんですか?」

菫「もちろん。選択科目は最低単位分だけとって、ほとんど午前に回している」

宥「計画的ですね。もしかして私を誘拐するために?」

菫「元々自習のほうが捗るから、前期の終わりには決めていた」

宥「そうですか……。なぜ、私なのでしょう」

菫「言ったろう? 好きになったから」

宥「人を好きになったらいつもこんなことするんですか」

菫「今まで人を好きになったことなんてない」

菫「初めて心の底から綺麗だと思った。君は私にとって完璧だ」

宥「あはは、こんなぐーたらコタツ女がですか……? 玄ちゃんのほうがずっと……あっ、」チラ

菫「それでも君を選んだ」

菫の言葉に、宥はまんざらでもないような表情を作った。

宥「一週間かぁ……」

>>58
AAうざい

>>60
すいません

>>58
時々咲スレでもいるけどそれ対して面白くないから
止めてくれない?

>>62
すいません

 
菫「土曜だからずっと一緒にいてあげられる」

宥「それは、ありがたい……のかな。ここから出してもらえるのが一番だけど……」

菫「それは無理だ」

宥「……」

宥「私、弘世さんがこんなことしなくても、弘世さんに告白されていれば、弘世さんを好きになっていました」

菫「なんで?」

宥「なんでって……、か、かっこいいし、普通にしていれば優しいし、」

菫「?」

宥「東京まで遊びに来たのも、ただのメル友じゃありえないですよね。私、会いたかったんです。あなたに」

菫「???」

菫「――――……トイレ行ってくる」

催してなどいなかった。ただ、意味不明な不安から逃げたかった。
菫にとって理解できなかったのは、彼女が自分に惚れていたという事実ではなく、それを口にした行動だった。
機嫌取りのためであれば逆効果だ。より束縛を強めることぐらい宥にもわかるはずだろうと菫は思う。
宥は“ここ”に慣れた。そうと考えるしかあるまい。

ただそれが予想とずいぶん剥離していて、気違いの菫には到底納得のいくものではなかった。

 
ガチャリ

宥「おかえりなさい」

菫「え、そんなに長かったかな」

宥「あ、いえ、……なんでだろう」

菫「寂しかったとか?」

宥「そんなこと……っ」

菫と宥の視線が外れた。

宥「そうですよ……、寂しかったです。こんなところに放り込んだあなたがいなくて、不安で、」

宥「……私を一人にしないで……」

菫「うん」ナデナデ

宥「あぅ」

菫は顔を近づける。涙目の宥は緊張の面持ちで顎をあげた。
舌を入れ、キスをする。
スカートをたくしあげると、宥の股間に右手を滑り込ませた。
短く茂った陰毛を掻き分け、恥部の谷間を人指しでなぞる。
宥は軽く身震いすると、拒否の意思表示なのか、震える両手で菫の手をおしやろうとした。
唇を離し、二人は見つめあう。唾液が橋を作り、ゆったりと二次関数曲線を描きながら、宥の豊満な胸元へ垂らしていった。

 
宥「ベ、ベッドで……」

菫は無言で抱えあげると、割れ物を扱うように音も立てずベッドへ寝かせた。
体重がかからないように膝を立てて馬乗りになる。宥は顔を逸らし胸元を抑えるようにして菫のアクションを待った。

菫「手、楽にして」

両腕を投げ出させ、季節はずれのセーターをめくっていく。
若葉色のブラが姿を現した。
セーターを完全に脱がすと、背に手をまわしてホックをはずし、なすがままの宥に脱いでくれと耳元で囁く。
紅潮していく宥の頬に舌を這わした。驚いた顔でこちらを見返したが、笑いかけるとますます顔を赤らめた。
胸がはだけると菫は顔近づけて桃色の乳首を齧った。

宥「痛い」

肩を押し返される。

菫「悪かった」

宥をここに連れてきて、初めての謝罪だった。意識して口にしないようにしていたわけではなく、元から他人の嫌悪に共感できる性質ではなかったからだ。
頭で考えれば解るが、直感的ではない。聖書にガソリンをかけて平気で火をつけるようなその性格は、今まで知られたことはなかった。
だから「悪かった」の一言も、心からの言葉とはほど遠い。

菫「綺麗だ」

宥は目をつぶっていた。獲物が全てを諦める捕食者への服従のポーズ。初日の宥の面影はなかった。

クロチャーは?

ヘソに指をつきたててみる。が、反応はない。
少しだけ押し込む。

宥「怖い……」フルフル

そうだよね、と言って手を引くとスカートのジッパーをおろしていく。
ロングスカートをベッド脇に投げ捨て、オムツ替えのように膝を持ち上げて、するするとショーツを脱がした。

菫「指、入れるよ」

間髪なかった。
宥が拒否すればそこまでだったから。強引にでも事を進めれば、受けざるをえない。
宥が呼吸したと同時に人差し指と中指を第一間接まで入れた。

宥「やっ」

身体をよじらせて逃げようとする宥の肩を空いた手でつかみ、そして後頭部にまわす。
強引にキスをして安心感を与える。
宥の涙が頬に伝わり、そのまま菫の口元へ流れ込んできた。

膣へ挿入した二本の指は探検を続ける。
少しの動作で跳ね上がる宥を肌で感じるのは愉快だった。
粘性を持った液体は、思っていたよりも音をたてた。
宥の顔は完全にとろけていて、緩んだ口から唾液が流れていく。

宥「あの、」

菫「ん?」

宥「トイレに行きたい……です」

飲むんじゃないだろうな

 
だからなんだと、菫は続けた。

宥「トイレ、あっ、」

親指で器用に陰核を弾き、身体を起こそうとした宥の自由を奪う。

宥「おねが、行か、って」

びくついてろくに呂律のまわらない宥に追い撃ちをかけるように、二本の指を先ほどよりも激しく出し入れする。
指へ脈打った震動が伝わってくる。もうそろそろ、というところで、

――ジョロロ

溜まっていたのだろう。少々健康とは言い難い、濃い目のはちみつ色をした小水が溢れ出た。

宥「やだ、こんなの、ヒグッ、嫌っ……」

指を引き抜くと、尿道を押さえていたわけでもないのにさらに勢いを増した。
漏らさせたのはわざとだ。行為を中断させられるのは気持ちを冷まさせてしまう。
そういや自分がいたせいで、半日近くトイレへ行ってなかったなと菫は冷静に頭を動かす。
排泄をしたいなら事が始まる前に言えばいいのに。宥は被害者なんだから。他人は本当によくわからない。聞こえないほどの声量でそうつぶやくと、むせび泣く宥を置いて部屋を出た。

三分後、隣室に用意していた替えの服や下着、タオルにシーツ、そして布団まで持ってきた。

震えながら泣き声をあげる宥にタオルで目隠しをした。
自分の服が汚れることも気にせず、宥を抱えて浴室へと向かった。

余韻は無かった。隣室に転がる玄の処理はどうしようかとそれだけが思考を支配していた。

クロチャーァァァ!

クロチャー死亡

 
九月三十日

昨日の出来事だが、日記を書いた後だったのでここへ記すことができなかった。
宥の抵抗は弱いが、流れにゆだねようとすることもない。だが、それはそれでいい。思い通りになることなんて何一つない。
足枷は外した。今の宥には必要ない。

他人の恥部をいじったのは初めてだった。強引に為すのも含めてなかなかに愉悦だ。
中途半端に才を持った私には、そうは味わえないだろう。
世間一般の清い交際では絶対に体験することはできないはずだ。

彼女は私のものだ。
誰の視界にも入ってほしくない。
私が死んだら、彼女にも死んでほしい。

クロチャーはSSだとそんな役回り

たちあがれクロチャー


リクライニングシートに宥を膝に乗せて菫は座っていた。
15センチの身長差はなくなり、宥の肩から顔を覗かせ二人してテレビを眺める怠惰な午後を過ごしていた。
強制したわけではない。座るかという問いに宥が応じた結果がこれだった。

宥「私達、普通の日常を送っていればいい恋人同士になれたと思います」

菫「そうかな」

宥「だってあんなことをされたのに、私はあなたのことが嫌いにならなかったんですから」

菫「好きってこと?」

宥「たぶん、そうです」

菫「そっか」

 
形式通りに頭を撫でる。
喜ぶはずだから。

宥「……」スリスリ

猫みたいだな、と菫は思った。

宥「あれ?」

宥は菫のタイツにひっかかった何かを拾い上げた。
丁度それは菫の死角で、さっと隠した宥のせいで何かはわからなかった。

気に留めることはないだろうと菫はテレビに視線を戻す。

それが崩壊の引き金になるなんてわからなかったし、
宥が誰のかを判別できるだなんて普通は思わない。






うかつだった。
宥が慌てて隠したそれは、玄を処理した際に付着した髪の毛だった。

処理・・・


菫は死の間際に走馬灯を見た。
麻雀部に入部したころの二年と半年前の記憶。
入部した理由は流行り物だったから。確かそれだけ。
別段興味あったわけではないが、入部したからには真面目に取り組んでいった。

菫の隣には宮永照がいた。卓に入れば魔人の如き強さを誇り、たとえ先輩連中だろうが容赦なく潰していった。
麻雀には非合理が存在する。確率論などあってはないようなものだと、そいつを見て思った。
こうして徐々に麻雀にのめりこんでいき、悪魔の角はなりを潜めた。

そして一ヶ月前のインターハイ、白糸台が三連覇を決めたその夜。菫は祝賀会を抜け、公園の隅で一匹の猫を殺した。
首をしめあげ、骨の折れる音が聞こえたとき菫の心拍数は平常時と変わりはなかった。
ようやく喧騒から逃れてきたのに、足にまとわりつくそいつが邪魔に感じて殺したのだ。
菫にしてみればなんてことはない行動だったが、きっかけとしては十分だった。隠れ続けていた菫の本性は青春の終わりと共に再び姿を現す。


対象は松実宥。小柄な肉体に秘めた強靭な精神を持つ彼女を屈服させることができれば、どんな境地を知ることができるのか。
つまるところ宥への一目惚れなど菫の勘違いで、一連の行動原理は日常では知りえない「人を飼うこと」への知識欲と菫に内蔵されたサディズムだった。

「今わかった。私は君のことが好きではなかった」

頚動脈から溢れ出る血を抑えることもせず、安らかな顔でそう言った。

一分後、弘世菫は循環性ショックにより絶命する。

超展開

 
10月1日 1日目

さっき見つけたこの日記に記録をつけていきます。
そうでもしないと冷静でいられないから。

弘世さんを殺しました
でも弘世さんは玄ちゃんを殺しました

私は悪くない誰か助けて

照「という小説を書いた」

菫「死ね」


昨日となんら変わらない一日。
菫の膝上にちょこんと座り、はたから見ればカップルのように仲良く映画を観賞する。

一つ違うのは宥がほとんど菫と言葉を交わしていないこと。
昨日の髪の毛が気になって、これがなんなのか問いただそうかと悩み続けていた。

真実を知ってしまうのが怖い。
豹変した菫に何をされるかもわからない。
喉まで出かかった言葉もそんな不安のせいでブレーキがかかっていた。

宥「弘世さん、」

菫「……」

宥「聞いてください。……弘世さん?」

菫「すぅ……」

宥は自分の目を疑った。あれだけ用意周到で、全くスキを見せなかった弘世菫が眠っていたのだ。
心臓が高鳴る。
衣ずれの音が立たないようゆっくりと体重移動。
足が床につくと改めて菫の方へ向いた。

昨日の一件が無ければ自分はどうしていただろう。
いや、自問するのも愚かしい。
逃げ出そうだなんて発想は生まれなかったはずだ。宥はこの生活に満足していた。

しかしそれは、たった一本の見覚えのある頭髪で全てが覆ってしまった。

照がくるか

 
菫の腰をまさぐる。
あった。ジャラジャラと束ねられた鍵の輪。
震える手を押さえながら、ベルトからそれを奪い取る。眠りから醒めないことだけを祈り、建て付けが悪い床を避け、5メートル先の扉へと一歩ずつ近づいていく。
特殊な鍵穴。円の中央に突起が見えた。
何度か目にして覚えている。ここの扉は6の数字が彫られたチューブラーキーだ。
10錠しかないのに、手汗で滑ってなかなか見つからない。両手の震えが止まらず、額から流れた汗が目に入った。
早く、早く早く!
6のチューブラー――
見つけたその瞬間、背筋が冷たく感じた。
寝息を立てる菫を横目に見やる。呼吸を整え、鍵穴に差し込んだ。金属を弾く小気味良い音を立てて開錠した。

宥は自由になった。
扉を閉めて菫を閉じ込めようという発想も生まれず一目散に走り出す。

必死だった。だから、床に転がるソレは目に入らなかった。足がひっかかり派手に顔から転んで、我に返る。
やわらかい。
ゆっくり首を回すと――

シートに巻かれ、青黒く変色した玄が横たわっていた。

 
菫「――……っ」

菫「寝てたのか……」

菫「……」

菫「……宥?」



菫「……チッ」

 「宥ーー」

 「どこだー?」

 「おーい」

宥「……」



菫「宥」

宥「来ないで」

菫「え? あーその……」

菫「そいつ、臭くないか?」

宥「うるさいっっ!!!!」


宥「なんで、なんでなんでどうして! どうして玄ちゃんを!!」

菫「邪魔だったんだ」

宥「邪魔……?」

 
菫「うん、……あっ」

菫「『ごめん』」

宥「……っ」

菫「……あれ?」


宥「殺してやる」

菫「はっ――」


ナース室で見つけた包丁が菫の首筋を切った。

一瞬、間を置いて噴水のように血が溢れ出した。


菫「あっ」



菫「……血」ズル

宥「来ないでぇっ!!」ブンブン

やっちまった

 
ブシュ

菫「そうか。すまない」

宥「今更謝ったって……!」

菫「違う」

ブシュ

菫「わかったんだ。切られてもなんとも思わなかった」

宥「は!?」

菫「だから、」


ブシュ


菫「今わかった。私は君のことが好きではなかった」

宥「……」

宥「え?」


ドサリ

飼うなら誰でもよかった

 
宥「意味わからないよ……」

宥「ねぇ、どういうこと……?」

宥「私はなんでここに連れて来られたの?」

宥「なんで玄ちゃんは死んでるの?」

宥「答えてよっ!!」

菫「……」

宥「答えろっ!!」

菫「……」

宥「答え――て、よ、…………ぁああああぁああ゛あ゛あ゛、」

宥「うあ゛あ゛あ゛ぁぁあああああああ!!!!」

宥ねえが壊れた

 
10月2日 2日目

ここを出るには、病練の入り口にある鉄格子を開けなきゃいけないみたい
ディスプレイがあって、三桁の数字を打ち込めって表示されてた
入力は一日三回まで

最悪、11ヶ月出れない計算になる
ご飯はそんなにない。

探し回ったけど、ヒントはなかった。弘世さんは携帯も持ってなかった。

それはそうだよね。だって日記を読み返したら私の死が願われているんだもの

今日は111、222、333を入力。駄目だった
辛くなったら死にます

10月3日

ご飯の残りを計算したらあと一週間もてばいいほう
冷蔵庫にスペースができたから玄ちゃんを入れといた
この日記を見つけた人がいたら冷蔵庫のほうへ探してください

444、555、666


10月4日

こんなことになったのは私のせいかもしれない
私がいつもぐーたらだからかみさまがおこったんだとおもう
でも玄ちゃんまでしんじゃうのはよくわからない

777、888、999






それから一ヵ月後――

す(4)
み(3)
れ(0)

ヤメロー

 
赤土「入るよー」

穏乃「あ、こんにちは」

赤土「よう。……今日はシズが?」

穏乃「あ、はい。一昨日あたりから私が『玄さん』みたいです。憧と灼さんには帰ってもらいました」

赤土「宥は寝てるのか」

穏乃「さっきまでお話してて……、三時のおやつにリンゴ剥いてる間、寝ちゃったんです」

赤土「かわいいな、こいつ」ナデナデ

宥「……ん」

赤土「ちょっとだけ戻ったな」

穏乃「……はい」

赤土「宥のやつさ、見つかったとき35キロしかなかったんだって」

赤土「ほとんど目が見えなかったみたいで」

赤土「…………ふざけんなよ」

穏乃「……っ」

ああぁ

 
宥「ん」

穏乃「あ」

宥「おはよう玄ちゃん、と赤土さん?」

赤土「あ、ああ、ほらリンゴ」

宥「あぅ、玄ちゃんが剥いてくれてたのに私、寝ちゃってたんだね」

穏乃「いや、気にしてないですよ?」

宥「玄ちゃん、また敬語になってるよ? 最近おかしい」

穏乃「――そう、だった」

赤土「宥、」

宥「はい?」

赤土「玄はもう――」

穏乃「赤土さん!」

宥「!?っ」ビクッ

宥「く、玄ちゃんどうしたの?」

穏乃「なんでもないよ」ヨシヨシ





赤土「シズ、車乗ってきなよ」

穏乃「はい、ありがとうございます」

赤土「……」

赤土「…………ねぇ、」

穏乃「なんですか?」

赤土「明日、宥にもう一度話そうと思う」

穏乃「反対です」

赤土「即答かよ……。だったらシズがこの先面倒見れるのか?」

穏乃「宥さんが望めば」

赤土「……そうか」

ペチン

穏乃「っ、」

赤土「ガキが、わかったような口聞くな」

赤土「アンタの人生はどうなる。まだ16歳のアンタが! 見知って一年も経たない人間のために人生を棒に振るってのか!!」

穏乃「だって、宥さんが……、宥さんが可哀想じゃないですか……!」

赤土「いつか気付く。玄はもういないんだって。それを知るのは早ければ早いほどいい。それだけやり直しが効く」

穏乃「……っあ、」

赤土「……優しいだけじゃ人は救えないんだよ」

穏乃「玄さん……、もう、」ポロポロ

赤土「シズは優しすぎるんだ」

穏乃「ごめん、なさい」

赤土「……今日はシズんところでヨモギ餅買ってくよ。ほら、玄が好きだったやつ」

穏乃「ぅっ……ふぁっ……」ポロポロ

赤土「前を向きな。玄も元気なシズが好きなはずだから」

穏乃「……はいっ」ゴシゴシ

 
宥「夕日綺麗……」

宥「そっかもう秋なんだね」


宥「携帯電話どこ行ったんだろ」


宥「……」

宥「弘世さんにメール返さなきゃ」



宥「また、会いたいなぁ」



終わり

SSSめ

最近、直球の宥菫が多かったので変化球でいった

http://i.imgur.com/tkvNdSJ.jpg

>>145
乙です

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