葉留佳「真人くんが好意に気付いてくれない……」(106)

真人「はぁぁ……あいつら揃って用事とか言ってよ。今日の昼メシは一人ぼっちか……」

葉留佳「やぁやぁ! 昼休みに一人とは珍しいねぇ、真人くん」

真人「おっ、三枝。お前こそ二木と一緒じゃねーのか?」

葉留佳「今日は風紀委員でランチミーティングだからって、フられちゃったんですヨ」

真人「ふーん。その『ランチミート』ってのはうまいのか?」

葉留佳「ミートじゃなくてミーティング。打合せだよ」

真人「なんだ、食いもんじゃねぇのか」

葉留佳「あははっ。お昼、一緒していい?」

真人「おう。オレも一人だとつまんねーしな」

葉留佳「ありがとっ! じゃあ食堂にでも行こっか?」

真人「なぁ三枝」

葉留佳「ん、なに?」

真人「なんでオレの横に座るんだ? 向かい空いてるぜ」

葉留佳「えっ……ん、んん~」ジトッ

真人「なっ、なんだよ。恨めしそうな目で見るんじゃねぇ!」

葉留佳「え~? 女の子が、わざわざ男の子の横にいるんだよ?」

真人「??」

真人「…………あ! そういうことかよ」

葉留佳「もー、気付くの遅い! はるちん、これでも勇気を出したんですヨ?」

真人「まいったな、照れるじゃねぇか……」

葉留佳「……それで。その」

真人「おう。いきなりでビックリしたけどよ、オレは大歓迎だぜ」

葉留佳「!!」

葉留佳「ほっ、ホント!? じゃあ私と……」

真人「ああ! オレの筋肉をオカズにメシ食いてぇならそう言えよ、水くせぇぞ!」

葉留佳「えっ。ちが……」

真人「フン、フン! そ~れ筋肉筋肉ぅ! どうだ、うめぇか!?」

葉留佳「…………うん。おいしいです……」

――――
――


葉留佳「――というようなことがありまして」

佳奈多「……真人って、あの井ノ原真人よね。あなた本気なの?」

葉留佳「やはは……前に私を立ち直らせてくれた時に、ズキュンときちゃったんだよねぇ」

佳奈多「そ……そう。確かに、彼が悪い人間でないことは分かるけど」

葉留佳「だよね?」

佳奈多「でも、ねぇ……」

佳奈多「彼、かなりのバカだって聞いてるけど」

葉留佳「そこがいいんですヨ。裏表もないし、一直線だし。鈍いけど……」

佳奈多「……もしかして、私に相談したいことって」

葉留佳「うん。どうしたら真人くんに振り向いてもらえると思う?」

佳奈多「どうしたらって……恋愛経験ゼロの二人で相談しても、いい案が出るとは思えないわ」

葉留佳「そこをなんとか! 可愛い妹の頼みだと思って!」

佳奈多「……まあ、考えるだけ考えてはみるけど」

――
――――


真人「ぶははははは!」

ギュッ

葉留佳「なーに笑ってんのさ、真人くん」

真人「うおっ! 急に後ろから抱きついて、何だよ三枝ぁ」

葉留佳「にゃはは~、あまりにも楽しそうだったからさ。何読んでんの?」

真人「そうそう、これ最高だぜ。今週の新連載、ギャグが超おもしれえ!」

葉留佳「見せて見せて~」ピトッ

真人「ほれ、このページからの、この見開き! うははははは!!」


小毬「ふわぁ~、はるちゃん真人くんに抱きついてるよぉ~!?」

理樹「ほっぺたくっつけて同じ漫画読んでるし。仲いいよね、あの二人」



葉留佳「…………」

――――
――


葉留佳「言われた通りやったのに、全然効果ないんですケド!」

佳奈多「ごめん、失策だったわ。葉留佳にくっつかれて無反応の男がいるなんて」

葉留佳「あーあ……私、女としての魅力無いのかなぁ……」



??「ふふ……私の力が必要かな?」

佳奈多「誰!?」

唯湖「そう身構えるな、二木女史。私だ」

葉留佳「姉御ぉぉ!」

佳奈多「……何か用?」

唯湖「先程の一件は見させてもらった。だが、あれは良いアプローチとは言えないな」

佳奈多「くっ……なによ、ダメ出しに来たの?」

唯湖「いいや。だが我が友人、葉留佳くんの恋路だ。私も助力しようかと思ってな」

葉留佳「マジっすか! 姉御がいれば百人力ですぜ!」

佳奈多「来ヶ谷さんは恋愛経験が豊富なの?」

唯湖「いいや。片思いの1回きりだ」

葉留佳「理樹くんですね、分かります」

佳奈多「直枝理樹? じゃあ成就してないし、ダメじゃないの……」

唯湖「……まあ、どーんとおねーさんに任せておきなさい」

葉留佳「お~、さすがっす! 根拠はなくてもとにかく凄い自信だ!」

佳奈多「……大丈夫かしら」

唯湖「そもそも、真人少年は元祖リトルバスターズのメンバーだ」

葉留佳「そうですネ」

唯湖「つまり、幼い頃よりあの鈴君と四六時中一緒で、殴られ蹴られの毎日だったはず」

佳奈多「へぇ……あ、そういうこと」

葉留佳「……つまり、どういうことだってばよ?」

佳奈多「彼は、女性からの直接的な接触に慣れすぎているのよ」

唯湖「うむ。誘惑のために抱きついて効果があるわけもない。下策中の下策だ」

葉留佳「むむむ……」

唯湖「ここは、間接的に攻めるのが上策だろう」

葉留佳「間接的?」

唯湖「現状の葉留佳くんは、女性として見られているかも怪しい」

葉留佳「う……」

佳奈多「まずは、葉留佳を女性として意識させるところからね」

唯湖「そうだ。真人少年は純真だから、一度意識させれば勝ちの目も見えるだろう」

葉留佳「が、がんばります……」

唯湖「いや。頑張るのは、私と二木女史だ」

佳奈多「……わ、私?」

――
――――


唯湖「真人少年、少しいいかな」

真人「よう、らいらいだに」

唯湖「そろそろ苗字くらいは……まあいい。時にキミは、姓名判断などに興味はあるか?」

真人「あん? オレの命がなんだって?」

唯湖「生命じゃない。姓名だ」

唯湖「簡単に言えば、苗字と名前を使った占いだ。文字の画数や形を判断基準に使う」

真人「よくわかんねーけど、名前を使ったすげー占いってことか?」

唯湖「そう思ってもらって構わない」

真人「お前でも占いとか信じるんだな。意外だぜ」

唯湖「失礼だな。乙女は誰でも信じるものさ」

唯湖「実はな、バスターズのメンバーで姓名をシャッフルしてみたんだが」

真人「おお。なんか面白そうじゃねぇか」

唯湖「だろう? それで一番良い結果が出たのが、これだ」

真人「オレと……三枝?」

唯湖「うむ。キミと葉留佳くんの『井ノ原葉留佳』という名前は実に相性が良いらしい」

真人「ほー」

唯湖「どうだ、嬉しいだろう?」

真人「え? 何がだよ」

唯湖「あの美少女、三枝葉留佳と相性バッチリなんだ。私なら即プロポーズするレベルだぞ」

真人「あぁ……嬉しいっちゃ嬉しいけどよ」

唯湖「……意外とドライだな。もう少し食いつくと思ったが」

真人「そうだ! 理樹とオレだとどうなるんだ!?」

唯湖「おっと……その食いつき方はおねーさんも予想していなかったぞ」

――――


佳奈多「井ノ原真人!」

真人「今度は二木かよ。今日は筋肉が大人気だな!」

佳奈多「悪いけど、あなたの筋肉には微塵も興味はないわ」

真人「なに? 筋肉ミジンコが何だって?」

佳奈多「……はぁ。これが将来義弟になるかもと考えると、頭が痛いわ……」

佳奈多「単刀直入に聞くわ。あなた、好きな人とかいる?」

真人「……あん? なんで二木が……」

佳奈多「いいから早く答えなさい」ギロッ

真人「わ、分かったって。えーと、好きな奴、好きな奴……」

佳奈多「…………」

真人「……うん。やっぱり理樹だな」

佳奈多「えっ」

佳奈多「そ、そうじゃなくて、恋愛対象としてよ! 好きな女の子はいないの?」

真人「好きな女子?」

佳奈多「そうよ。例えば葉留佳とか来ヶ谷さんとか葉留佳とか神北さんとか棗さんとか葉留佳とか」

真人「……うーん? いねぇような気がするけど」

佳奈多「どうしてあやふやなのよ……」

真人「そんなの考えたこと無いからよ。でも理樹と筋肉が好きなのは間違いねぇ!」

佳奈多「それはどうでもいいわ……まぁ、とりあえずの回答はそれでいい。ありがとう」

タタッ...


真人「何なんだ? さっきから三枝がやたら話に出てくるぜ」

真人「……三枝。三枝か……なんなんだろうな、アイツ」

――――
――


ガチャッ

真人「…………」

理樹「おかえり真人。って、なんだか元気無いね」

真人「いや、なんでもねぇ……いや……いや、でも……」

理樹「?」

真人「……なぁ理樹。ちょっと聞きたいことがあんだけどよ」

真人「前に話したことあったよな? 理樹、好きな女子っているか?」

理樹「うえぇ!? な……なんで?」

真人「なんか今日、色んな奴と話してたらやたら三枝の話が出てきてよ」

理樹「……三枝さん?」

真人「おう。で、そういえば三枝ってどんな奴だっけって考えて」

理樹「うん……」

真人「アイツ、オレ達とワイワイやってるイメージしかねぇよな」

理樹「あはは、そうかも。でも、特に真人とだよね」

真人「そうなんだよ。毎日オレに絡んでくる奴なんて三枝くらいだぜ」

理樹「真人は嫌なの?」

真人「……嫌じゃねぇけど。鈴は昔からそっけないからな」

理樹「じゃあいいんじゃない?」

真人「いいんだけどよ……」

真人「あぁぁぁ、なんなんだよこれ! 考え始めたら止まらねぇ!」

理樹「そんなことだろうと思った。真人は昔から思い込むと一直線だからね」

真人「三枝って何なんだよ……」

理樹「真人にとってどんな存在なのか。つまり、真人が三枝さんをどう思ってるかだよね」

真人「……どう思ってるんだ?」

理樹「それを僕に聞いてどうするのさ」

真人「オレ、バカだから分からねぇんだよ……」

理樹「それを自分で考えないと先に進めないよ」

真人「おぉ!? ふ、深いじゃねぇか、理樹……」

理樹「リトルバスターズのメンバーとは色々あったからね……じゃあ、こういうのはどうかな」

翌日――


真人「よう、三枝」

葉留佳「お……はよう」

真人「なんだ? 今日は勢いがねーな」

葉留佳「別に……」

真人「気分でも悪いのか?」

葉留佳「……真人くんにはカンケーない」

真人「あん?」

葉留佳「真人くんは、理樹くんとイチャイチャしてればいいじゃん……」

真人「理樹って……もしかして昨日のアレ、三枝のハリガネか?」

葉留佳「……差し金?」

真人「それだ、差し金だ!」

葉留佳「そーだよ。発案は姉御だけど。真人くんが鈍いから、私のことどう思ってるのかなって」

真人「鈍い!? バカとは散々言われるけど鈍くはねぇぞ!」

葉留佳「超鈍いよ! 寝ても覚めても理樹くん理樹くん、私なんて眼中に無いんでしょ!?」

ギュッ


葉留佳「こうして腕組んでも、なんとも思わないんだよね……」

真人「おっ……」

葉留佳「私に魅力が無いから……って、アレ?」

真人「…………」

葉留佳「ま、真人さーん。何で固まってるんでしょうか……?」

真人「き、昨日、理樹に相談したんだけどよ……なんか、三枝っていいヤツだよな」

葉留佳「え……そ、そう?」

真人「オレってすげーバカだけど、三枝はそういうの気にしないで絡んでくれるしよ」

葉留佳「やはは……それは、はるちんもバカだからですヨ」

真人「……だからオレにとって一番身近な女子っつったら、三枝なんだ」

葉留佳「ほわっ!?」

真人「でもオレは『女が好き』ってよく分かってねぇからよ。まだ微妙で、これからって感じだぜ」

葉留佳「うん……その雰囲気はなんとなく伝わってくるよ」

真人「つーことでだ。今度の日曜に、買い物にでも行かねーか?」

葉留佳「……ほほう。それはデートのお誘いですかな?」

真人「そんなんじゃねぇ! ちょっと服とか買いに行くだけだろうが!」

葉留佳「それを世間では、デートと言ったり言わなかったり……」

葉留佳「デートか……」

真人「…………」

葉留佳「…………」

真人「お、おい。急に黙んなよ、怒ってんのか?」

葉留佳「……ううん。嬉しいよ」

真人「あん? 嬉しい?」

葉留佳「もー、やっぱり鈍い。やっと1人の女性として見てもらえたなって。なはは……」

葉留佳「ただ、昨日の今日でコレかぁ……理樹くんに何か仕込まれたね、真人くん」

真人「なんでバレてんだ!?」

葉留佳「ふふん、はるちんにはお見通しなのだ~。真人くんは分かりやすいからねぇ」

真人「なんだよ……確かに『まずはデートでもしてみれば?』って言われたんだけどよ」

葉留佳「なるほど、さすが理樹くん。真人くんのコントロールが上手いなぁ」

真人「別に嫌ならいいんだぜ。オレも服のセンスには自信ねーし」

葉留佳「ちょっ……オレ『も』って何!? 私のセンスは悪くないよ!?」

真人「やっぱ服は重要だぜ。筋肉への力の入り方も違うしな!」

葉留佳「それなら、普段から筋肉筋肉言ってる方がマズいけどね……」

真人「なにぃ!? じゃあこのオレの筋肉祭りを見て――」



唯湖「覚えておけ少年。あれがバカップルだ」

理樹「はは……でも、二人が楽しそうで良かった。ね、二木さん」

佳奈多「義弟はアレで確定なのね……はぁ……」



おわり。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom