あかり「わぁいSAO! あかりSAO大好き!」(173)

結衣「京子、ただいま」

京子「……」

結衣「寝てるのか?」

京子「…起きてる」

結衣「お腹すいてない?。今日は街で食べ物を買ってきたんだ。食べるか?」

京子「…いらない」

結衣「…なんで?」

京子「別に…食べなくても死なないじゃん…このゲーム」

結衣「でも腹は減るだろ」

京子「……いらない」

結衣「京子……」

結衣(ソードアートオンライン。このゲームの中に1万人のプレイヤーが閉じ込められてから数ヶ月が経った)

結衣(ゲームをクリアしなければ現実世界には戻れず、ゲームの中で死ねば現実の体も死ぬ)

結衣(この状況下の中でゲームをクリアするために動いている人もいれば、死を怖がって街から一歩も出ない人もいる)

結衣(京子は後者だった)

京子「それにさ…食べ物なんか買って、宿代は大丈夫なの?」

結衣「そんなこと心配しないでいい」

京子「…結衣、最近外にいる時間多いよね」

結衣「この街から出ない人って結構多いから、街で自然発生するアイテムを拾うのも競争率が高いんだよ」

京子「…ひょっとして、街の外に出たりはしてないよね?」

結衣「してないよ」

京子「…そっか…」

結衣「……」

 ――――
京子「うわー!すっげぇ!これが本当にゲームの中なのか!」

結衣「ほとんど現実と変わらないよな」

京子「結衣さん? 結衣さんなんか反応薄くないですか!?」

結衣「お前のテンションが高すぎるんだよ」

京子「ひぇー!結衣さんクールっす!」

結衣「こいつ…。あのな、私はβテストで既に体験してるからそこまで感動がないだけだよ」

京子「あ、そうなんだっけ。てことは他のプレイヤーよりリードしてるんじゃん!」

結衣「ま、そういうことになるかな。行こう京子。街の見物なんて後でも出来る」

京子「あ、待ってよ結衣~」

結衣「そうだなぁ…まずはあれを狩ってレベル上げかな」

京子「あれって…イノシシ? 意外とファンタジー感のないモンスターだなあ」

結衣「最初から剣と盾を持ったリザードマンとかが出てきたら即死余裕だろ。最初はああいうのばっかりだよ」

京子「ふーん、そっか」

結衣「まあこいつはこのゲームトップクラスの雑魚だから、やってみろよ」

京子「よーし、いくぞ! てやぁ!」

スカッ スカッ

結衣「おいおい、腰が引けてるぞ京子」

京子「だ、だってぇ~…ぐはぁ!攻撃された! 痛っ……くない!」

結衣「痛覚ないからな、このゲーム」

あかり「えへへ、もう100層目に到達だよぉ」

あいつ「バカなっ!!?」

あかり「スキルのところに…?アッカリン…?」

結衣「おいおい…」

結衣(遠くから見ていた私は、京子のHPゲージが赤くなったのを見て急いで立ち上がり、手助けしようとしたが)

京子「ぬわーっ!」

結衣(助けが間に合わず、京子はイノシシの突進を喰らって死んだ)



結衣「京子」

京子「ゆ、結衣…」

結衣「おいおい、なんだよあの戦い方。小学生だってもうちょっとまともに剣を振れるって……京子?」

京子「…うっ、ううっ」

結衣(京子はビビって半泣きだった。いや、半泣きというか完全に泣いていた)

京子「結衣ぃ、私このゲームやめるぅ」

結衣「……」

結衣(笑ってやるべきか慰めてやるべきかわからなかった)

結衣「あっちがレストランで、こっちが雑貨店。あとあれは宿屋で…」

京子「へぇ。ねえ、店じゃない家はなんなの? 背景? 中には入れないの?」

結衣「いや、ちゃんと入れるし人も住んでるよ。住民からクエストを受けるんだよ」

京子「へー」

結衣(戦闘にすっかりビビってしまった京子を再び戦場に連れ出すわけにもいかないので、今度はマップの案内と観光をすることになった)

京子「綺麗な街だよなぁ。現代にはありえない自然の溢れた町並みっていうか」

結衣「私らの住んでるとこも相当なレベルの田舎じゃないか。自然も溢れてるし」

京子「いや田舎とかそういうのじゃなくてさぁ」

結衣「ははは」

京子「あ、夕日だ。当然だけど時間の流れもあるんだね」

結衣「そろそろログアウトするか?あんまり長くゲームやってたら怒られるだろ」

京子「そうだね。じゃあ……あれ?」

結衣「?」

京子「ログアウトボタンってどこにあるの?」

結衣「メニューボタンの下のほうにあるだろ。ほら……あれ?」

京子「ね? ないでしょ?」

結衣「初日からログアウト出来ないバグか…先が思いやられるな」

京子「どうすんの?」

結衣「まあ待つしかないだろ。正規の手段以外ではログアウトできな……っ」


結衣(突然私の体が転送される。気がつくと始まりの街の広場にいた。他のプレイヤーも同じように飛ばされたみたいだ。京子も)

結衣(ざわめく広場。そして赤く染まった空から現れたローブの男。その男から恐ろしい事実が語られる)


結衣「デ、デスゲーム…?」

京子「ゆ、結衣ぃ……」

てゆうか、まんまだな

結衣「京子、この町を出よう」

京子「えっ!」

結衣「私はβテスターだから知ってるんだよ。この街を出た先にもっとうまい狩場がある。京子一人くらいなら連れて行ける」

結衣「デスゲームだかなんだかわからないけど、それが本当ならこの先起こるのはいろいろなものの奪い合いだ。狩場、武器、モンスター、あらゆる争奪戦を有利に進めていくために……」

結衣「……京子?」

京子「私……怖いよ……」

結衣「そんなこと言ってる場合じゃ…」

京子「争奪戦とかいっても町の中だったらダメージを受けないしモンスターも出ないんでしょ? だったら出ないほうが絶対いいよ」

結衣「いや、でも」

京子「もし死んじゃったらどうするの?」

結衣「……」

結衣(私は)

結衣(京子を置いていくことなんて出来なかった)

結衣(私は他のプレイヤーが右往左往している中、京子と一緒に宿屋へ行き、部屋を取った。二人部屋だ)

京子「……」

結衣「……」

結衣(その夜は一言も京子と話さなかった)


結衣(翌日から私はβテスターとしての知識を活かし、街の中で定期的に生産されるあらゆるアイテムを二人で集めることにした)

結衣(そしてそれを店で売ってお金に換えて、宿屋をとる。その繰り返しだ)

結衣(最初の2,3日は京子も暗い顔をしていたが、やがていつものように明るく振舞うようになった)

京子「はい、木から落ちてきた果実ゲット」

京子「いやぁ、慣れると楽なもんだねえ」

結衣「…」

京子「学校もいかないでいいし、勉強もしないでいいし…はは、なんだ、意外と悪くないじゃん」

結衣「…そうだな」

京子「…怒ってる?」

結衣「いや。ただ、いつまでこんなことを続けていればいいんだろう、って思って」

京子「確かにね…。勉強がないのはいいけど毎日つまんないし…飽きるし」

京子「でも、結衣がいてくれるなら1年くらいは平気かな」

結衣「…。私も京子がいてくれたらそのくらいは平気かもな」

京子「へへっ」

結衣(この生活も長くは続かなかった)

結衣(ゲーマーの男が人口のほとんどを占めるこの世界では、街中を散歩してアイテムを拾う金髪少女なんて存在は目立ちすぎた)


男「ねえ、お嬢ちゃん」

京子「…ッ」ビクッ

京子「だ、誰?」

男「そんなに警戒しないでくれよぉ。俺はただお友達になりに来たんだからさぁ」

京子「ひっ…」

男「逃げなくてもいいだろぉ? 待ってくれよ~」

京子「ううっ…結衣っ…助けてっ…」

男「結衣っていうのはお友達の名前かい? ぐへへ、紹介して欲しいなぁ」

タッタッタ

結衣「お前ッ! 京子に何してるんだ!」

男「…ああん? なんだてめぇは」

結衣「その子の友達だ」

男「あー…。チッ、彼氏持ちだったのかよ。白けたぜ」

京子「え?」

男「あーあ、つまんねぇ。じゃあな」ザッザッザ

結衣「京子、大丈夫か?」

京子「だ、大丈夫だけど…いやさっきの男、彼氏って」

結衣「ああ、うん…いや、私の着てる服、男キャラが初期装備で着てる服だからね。髪もそんなに長いわけじゃないし」

京子「え?そうなの?」

結衣「女だってバレたらさっきみたいに絡まれると思って男装してるんだよ。他人に話すときは声も低くしてる」

京子「そ、そっか…さっきもやけにドスの効いた声出してたもんね」

結衣「歩ける?」

京子「う、うん…」ヨロヨロ

結衣(京子も私を真似て男の着るような服を装備してみたりしたが、京子の男装は普通にバレバレで効果がなかった)

結衣(やがて京子は外へ出ることを怖がるようになった)

結衣(ナンパも過激になった。集団で囲むように話しかけてくる男たちも、私が助けに入ってもしつこく諦めない者も出てきた)

結衣(京子はまったく外へ出なくなり、金を稼ぐのは私の仕事になった)


 ――――
京子「最近、なんかやけにお金稼いで来るよね」

結衣「そうかな」

京子「二人でやってた頃より結衣一人の方がたくさん稼げるなんてさ、おかしいよ」

結衣「……」

京子「やっぱり外へ出てるんじゃ」

結衣「で、出てないってば」

 夜中

京子「…おやすみ」

結衣「ああ、おやすみ京子」

結衣(街の外でモンスターを倒すようになってから何日経ったか…)

結衣(モンスター数匹を倒せば街中で一日中走り回るのと同じ値段を稼げる。死の可能性に怯えて引きこもりをするなんて馬鹿馬鹿しい)

結衣(アリアハンの周辺でスライムを殺しまくるのが趣味だった私にとって、最初の街に篭って時間を潰すのはまさに天職だった)

結衣「……しかし、さすがにもう隠せないよなぁ」

結衣(京子に心配をかけないように黙っていたけど、そろそろ教えてやるべきかもしれない。そして京子も一緒に…)

 翌日

結衣「なあ京子、わかってると思うけど」

京子「……」

結衣「私、お前に黙って外へ出てたんだ」

京子「…知ってる」

結衣「それで…レベルも上がった。もう10レベルだ」

京子「……」

結衣「で…私がこのレベルなら、あのイノシシ相手に負ける可能性なんて万に一つもない。京子のことも余裕で守れる」

京子「…」

結衣「外へ出よう。一緒に。今度は怖い思いなんてさせないよ」

京子「…でも…」

結衣「京子ももう限界だろ? こんな部屋の中にずっといるのは」

京子「……」

京子「わかった。私も外に出るよ」

おもしろい

結衣(久しぶりに京子と一緒に陽光の下を歩いた。といっても、この太陽も世界も全て作り物の偽者だけど)

結衣(街の外へ手を繋いで出た。イノシシなんてもう錆びたナイフでも一撃で殺せる。この世界ではレベルが全てだからだ)

結衣「怖いか? 京子」

京子「うん……まだ、少し」

結衣「まあ、大丈夫だよ。そのうち慣れる。パーティ経験値も入ってるはずだから、お前が戦わなくてもレベルがあがるしな」

京子「え?そうなの?」

結衣「うん。あのイノシシから100発体当たりもらっても死なないようになるよ」

結衣(まあ私も100発は耐えられないけど)

京子「そっかぁ…」

結衣「そろそろ帰るか…」

京子「そだね」

男A「へっへっへ…」

結衣「……!」

男B「おやおやぁやっとお部屋から出てきたんだね、金髪のお姫さまァン」

男C「噂に聞いてたとおり可愛いなぁ。ぐひひ」

男D「君いくつ?中学生?乳首ダブルクリックしちゃうぞ」

結衣「なっ…」

A「可愛い女の子が街にいるって聞いてやってきたのに、一度ナンパしちゃったらもーう引きこもっちまうんだから勘弁して欲しいぜ。ま、やっと会えたけどさ」

B「これは素晴らしい偶然だなぁ」

結衣「…しまった」

結衣(イノシシに殺される可能性なんて微塵もなかったけど、レベルの高いプレイヤーに襲われる可能性を忘れてた……!)

A「そっちが噂の彼氏くん?」

C「中学生カップルかぁ。初々しいねぇ」

B「街の中では彼女を守るナイト様を演じてたらしいけど、外でもそれが出来るかなぁ?」

結衣「……でやぁッ!」

ガキンッ

A「遅っせぇな。レベルいくつだよ」ガンッ

結衣「きゃ…っ!」

B「不意打ちとは卑怯な彼氏さんだなぁ」

A「俺たちもさすがに他人殺して犯罪者マークつけられたくはないからさ…さっさと帰ってくれない?」

結衣「うぐっ…」

京子「結衣っ…!」

C「結衣?」

D「その彼氏くん、さっきキャッ(裏声)て悲鳴あげてたし…もしかして女なんじゃね?」

A「お? そうなのか?」

やめてくださいお願いします

あかり「あかり、武器ほしいなぁ~」

男E「はい♪あかりちゃん」

あかり「あかり、おなか空いたよ~」

男F「あかりちゃん 果物とってきたよ」

あかり「あかり、強くなりたいなぁ」

男GHI「お供します!」

あかり「あかり、お金ないよぉ」

男E~Y「何でもあげるから困ったら言ってね!あかりちゃん!!」

あかり「わ~い!ありがとう♪あかり、みんなだ~い好きっ」

結衣「…」

A「おーそうかそうか。中性的な顔してるから間違ったわ。というか、男装してるのか」

B「男のフリして友達を守る女の子かぁ。興奮するぅ~」

京子「やめてっ! 結衣には手を出さないで!」

C「はは、まるでエロ漫画みたいな展開になってきたなぁ?」

D「お友達は助けるからお前は脱げ』って? ハハハ、ウケル」

結衣「お前らッ…!!」

A「はは、そういうこったなぁ。で、どっちにその交渉を持ちかける? 俺は金髪の方が好きだな」

B「俺はそのナイトちゃんがいいなぁ」

C「俺はやっぱりそ」ザクッ

D「そってなんだよ、最後まで言えって……あ? お前なにそれ」

C「あ、あ、あ…」ブシューッ

A「だ、誰だ? 誰がCを刺したんだ?」

C「うあっ…」ゴトリ

パリーン!

結衣「な…」

結衣(信じられないことが起こった)

結衣(私達二人を目の前にして下衆な会話を交わしていた男の一人の胸が突然裂け、首が落ち、そして……消えた)

松本りせキター♪───O(≧∇≦)O────♪

結衣(それからは一瞬だった)

結衣(他の3人も次々に胴体を両断され、心臓を貫かれ、縦に真っ二つにされ、消えた)

結衣(消えた。そう、つまり…HPをゼロにされて、死んだ)

「結衣ちゃんと京子ちゃん……だよね?」

結衣(そして見えないベールを解いて、血みどろの赤い剣を片手に私の目の前に現れたのは)

京子「あ……あかり?」

罰金バッキンガムか?!

あかりが人殺しだなんて…


ちなつはシリカちゃんみたいに腹黒媚売りキャラ?

あかり「やっぱり京子ちゃんだ!」ダキッ

京子「うわっ!」ドサッ

あかり「あ、ごめんっ」

京子「いてて…いきなり抱きつくなよ…」

あかり「えへへ……嬉しくて、つい」

結衣「あかり…」

あかり「結衣ちゃんも久しぶり!」

結衣「あ、ああ…」

京子「あかりもこのゲームをやってたのか!?」

あかり「うん! 手に入れるのに苦労したよぉ」

京子「どうして始めたんだ?」

あかり「ちなつちゃんに誘われて…」

結衣(……)

結衣(私の目の前にいるのは…本当にあかりなのか?)


京子「え?ちなつちゃん?へぇ、ちなつちゃんってこういうゲームやるんだ」

結衣(『HPをゼロにされて、死んだ』)

あかり「といっても、結衣ちゃんと一緒に始めるために買ったらしいんだけど」

結衣(あんなクズ同然の連中とはいえ……あかりが、人を殺すか?)

京子「ああ、なるほど…。それなら誘ってくれればよかったのに」

あかり「結衣ちゃんには秘密で強くなっておきたかったんだって」

結衣「なあ、あかり…」

あかり「何?結衣ちゃん!」

結衣(私の知る、天真爛漫なあかりの微笑み。それは紛れもなく本物だった)

結衣「…その、いいのか? あいつら、やっつけて、あかりも犯罪者になっちゃったんだろ?」

結衣(お前は、人を殺したんだぞ?)

あかり「大丈夫だよぉ。マークは大人しくしてたらすぐに解除されるから」

結衣「大丈夫って…」

あかり「あかり、何度もやったことあるから、知ってるもん」

京子「え…?」

あかり「?」

結衣「何度も、って…なんで?」

あかり「あっ、いい人はやっつけたりしないよ? 今日の人たちみたいな他人に乱暴する人は、他の人のためにこのゲームから退場してもらうの」

結衣(…退場?)

京子「退場って…あかり、このゲームで死んだ人は現実でも死んじゃうんだよ?」

あかり「……あはっ」

結衣「…」ゾクッ

あかり「京子ちゃん、そんな言葉に騙されてるの?」

京子「え…」

あかり「これ、ただのゲームだよね? ただのゲームの中で死んじゃったからって、現実でも殺しちゃうなんて…普通の人の考えることじゃないと思わない?」

京子「……」

結衣「……」

あかり「黙りこくらないでよぉ、二人とも」

結衣「あ、ああ…。そうだな」

あかり「もう、あかりがこれ言うと、みんな二人みたいに青い顔して押し黙っちゃうだもん。困ったもんだよぉ」

結衣(そうだ、確かにそういう考えもある。あるけど……本当に死んでしまっている可能性もあるのに)

結衣(どうしちゃったんだ、あかり…)

京子「ていうか、あかり今一人なの?」

あかり「ギルドになら入ってるよ?」

京子「や、そうじゃなくて…ちなつちゃんは?」

あかり「ちなつちゃんは先に帰っちゃった」

京子「え?」

あかり「ゲームオーバーして、現実世界に戻っちゃったってことだよ。さっきの人たちみたいに」

京子「……」

あかり「ちなつちゃん、あかりのせいでモンスターにやられちゃった…。きっと今頃怒ってるだろうなぁ。あかりちゃんのせいでやられちゃったじゃない!って」

あかり「結衣ちゃんと京子ちゃんが現実世界にいるから先に帰れるのは羨ましいと思ってたけど、二人もこっちにいたんじゃ、きっとちなつちゃんも寂しがってるよね」

あかり「よーし、二人を元の世界に返すために、あかり頑張るよ!」

結衣「…」

結衣(そうか、それが理由……)

結衣(ちなつちゃんがこの世界で死んでしまったから……『死んでも現実世界に戻されるだけ』と思い込んでる……ってことか…)

 それから私達はあかりの入っていたギルド、血盟騎士団に入れてもらった。
 半年近くスタートダッシュが遅れていたのに、あかりと一緒に狩りをしているだけで驚くほど早く最前線に立つことが出来た。あかりの無理な狩りのおかげだ。

京子「あかりの奴……危なっかしいな…」

結衣「あかりは死を怖がってない。ただの『ゲームオーバー』だと思ってるから」

ヒースクリフ「それが最大の強みであり、最大の弱点だな」

結衣「団長」

ヒースクリフ「彼女は驚くほど才能に溢れている。団長の私が言うが、彼女がこの世界で最強だ。私よりも、な」

結衣「…」

ヒースクリフ「だが最強イコール無敵ではない。核ミサイルを持っていたって文鎮で殴られれば死ぬ」

結衣「…」

結衣(なんだその例え)

 そして2年後

75層ボス「ぐあああああああああああ!」ジュウウウウウウ

結衣「はぁ…はぁ…倒した…」

あかり「残ったのは……結衣ちゃんと団長さんだけ、か…」

結衣「京子をこの先の戦いには着いてこれないから置いてきたして正解だった…」

ヒースクリフ「……」

あかり「……ねえ団長さん」

ヒースクリフ「なんだね?」

ヒュンッ

ズガッ!

『システム的不死』

結衣「え……?」

ヒースクリフ「……むっ」

あかり「やっぱり。ズルしてたんですね、団長さん」

結衣「な、団長!? それ、どういうことですか」

あかり「団長さんがこのゲームを仕組んだ真犯人だったってことだよ、結衣ちゃん」

ヒースクリフ「…どうしてわかった…?」

あかり「最初は……あかりに優しくしてくれて、いい人だなって思ってましたよ。でも、団長…いえ、茅場さん。あなたは余裕がありすぎましたよね」

あかり「初見の敵も攻撃パターンをまるで知ってるみたいに動いて…そのくせ、知らない振りしてわざと攻撃に引っかかったり」

あかり「知らないプレイヤーからデュエルを挑まれても表情ひとつ変えず、どんなスキルを持ったキャラクターだろうと余裕で打ち勝つ…」

あかり「他の人がみんな死に怯えながらゲームに挑んでるのに、あなただけ凄く浮いてましたよ」

ヒースクリフ「ほう…。君はこのゲームの死がこけおどしだと信じているんじゃなかったのか?」

あかり「信じてますよ。信じなければやってられなかった」

ヒースクリフ「そうか。まあ、しょうがない。バレてしまった以上、君達二人をここから返すわけにはいかない」

ヒースクリフ「私の不死プロテクトを解除した。今ここで私を倒せばゲームクリアだ」

あかり「先にひとつ聞いていいですか」

ヒースクリフ「なんだね?」

あかり「このゲームで死んだ人は……本当に現実でも死んでいるんですか?」

ヒースクリフ「ああ。一人残らず死んでいるよ」

あかり「…そうですか」

ヒースクリフ「ではゆくぞ」

京子「…あれ? ここは…?」

結衣「京子!」

京子「結衣? どうして?」

結衣「団長が茅場だったんだ」

京子「は?」

結衣「で、あかりが団長を倒した」

京子「え、ちょっと、話しについていけないんだけど…」

結衣「私も正直ついていけない」

京子「で、ここどこ?」

結衣「わからない……」


ヒースクリフ「…私が君達を特別に招待したんだよ」

結衣「団長…いや、茅場」

あかり「……」

ヒースクリフ「見たまえ。あれが空中城アインクラッドとそれが滅びる姿だ」

京子「空中城……あ、そっか。私達がいたとこって超でかい城って設定だったっけ」

ヒースクリフ「完敗だよ、勇者あかり。君は」

あかり「あなたの話しなんて聞きたくないです」

ヒースクリフ「……」

結衣「あかり…」

あかり「さっさとここから現実に返して。早く返してよ。ちなつちゃん…ちなつちゃんを返して!」

ヒースクリフ「それは出来ない。死んだものは生き返らない。ゲームでも現実でも同じことだよ」

あかり「死んだ? 事故死みたいな言い方をしないで。あなたが殺したんだッ!」

ヒースクリフ「この世界に自ら来たのは君達だろう?」

あかり「死ぬとわかってたらこんなゲームやらなかった!」

ヒースクリフ「遊び気分で私のゲームをプレイしようなどと考えないで欲しいね」

ヒースクリフ「ここは私の世界だ。私が作った本物の世界なんだよ。本物ならばそこにある命も本物であるべきだ」

あかり「…ッ」

結衣「狂ってる…」

ヒースクリフ「狂ってる? そうか、ふふふ…そうかもしれないな」

あかり「もうあなたの御託はうんざりです。早く私達を現実世界に帰してください」

ヒースクリフ「言われなくてももう時間切れだよ」

ヒースクリフ「……万が一の可能性にかけるのなら、そのお友達が使っていたナーヴギアを調べるといい。何もない可能性もあるが、何か見つかるかもしれないな」

ヒースクリフ「さらばだ」シュウウウ

  ちなつちゃんの葬式には参加できなかった。
  当たり前だ。ゲームの中で流れた時間は現実と同じ。
  彼女が死んだのは2年も前で……当然、死体も2年前に地面の中に埋められたのだ。


あかり「……うっ…うっ…ちなつちゃん…」

それからちなつちゃんの家に行って、お姉さんと少し話をした。

ともこ「赤座さん…あなたのお姉さんのことだけれど…あなたが眠っている間、だいぶ辛そうだったわ」

あかり「ええ…目覚めたときに散々泣かれたので知ってます」

ともこ「2年……なのね。あの子が死んじゃってから…」

あかり「…」

ともこ「ちなつの部屋はそのままにしてあるの。見ていく?」

あかり「……あの、ちなつちゃんが使っていたナーヴギアって…」

ともこ「あの機械のこと? うーん、わからないわね…。政府が回収するとかいって、私も…あんなもの、持ち帰りたくなかったもの」

あかり「そうですか。ありがとうございました。また、顔を出します」

ともこ「ええ。あなたが来てくれたら天国であの子も喜ぶと思うわ」

さるじゃなくてオチを封じられたから首が回らなくなった

あかり「それじゃあわたしはこれで…」

ともこ「…あかりちゃん」

あかり「はい?」

ともこ「ちなつが死んだことは、あなたが気を病むことじゃないわ」

あかり「……」

ともこ「結衣ちゃんや京子ちゃんから聞いたわ。ゲームの中で、ちなつはあなたを庇って死んだって…うちに来るのが遅いのも、その後ろめたさからだろうって」

あかり「…そう、なんですよ…。わたしさえいなければ…きっと今頃ちなつちゃんがここにいて……あかりなんか…ちなつちゃんの代わりに死んじゃえば良かった…」

ともこ「あかりちゃん。あの子のことを思うなら、そんな言葉は言わないで」

あかり「…」

ともこ「せっかくあなたが帰ってこれたのに、そのあなたがいつまでもそんな暗い気持ちでいたら、ちなつだって浮かばれないわ」

ともこ「きっとちなつはあなたのことが大切だからあなたを守ったのよ」

ともこ「だからちなつのことを思うなら、あなた自身のことを大切にして。それがきっとちなつがあなたに望んでいることよ」

あかり「…あかりに、望んでいること…」

ともこ「ええ。ちなつはあなたの明るくて優しいところが好きだっていつも言っていたもの。私の一番のだってね」

あかり「ちなつちゃんが……」

ともこ「私からはこれだけしか言えないわ。でも、覚えておいてね、あかりちゃん」

あかり「……はい、ともこさん」

ともこ「…また来てね?」

あかり「はい!」

あかり(ちなつちゃん、見てるかな?)

あかり(あかり、馬鹿だったね。せっかくちなつちゃんから助けてもらったのに、助かった後にもウジウジして…)

あかり(ごめんねちなつちゃん)

あかり(でも、ともこさんの言うとおりだ。ちなつちゃんが助けてくれたんだから、あかりはその恩に報いるために頑張らないと!)

あかり(あかり、幸せになるよ。ちなつちゃんの分までいっぱい)

あかり(あ、でもあんまり幸せになりすぎたらちなつちゃん怒るかな)

あかり(うん、もしそうだったら数十年後、そっちにいったときにたくさん怒られるよ)

あかり(だからあかり、頑張るよ! 空から見ててね、ちなつちゃん!)

 終わり

長くなりましたがこのSSはこれで終わりです。
ここまで支援、保守をしてくれた方々本当にありがとうごさいま した!
パート化に至らずこのスレで完結できたのは皆さんのおかげです (正直ぎりぎりでした(汗)
今読み返すと、中盤での伏線引きやエロシーンにおける表現等、 これまでの自分の作品の中では一番の出来だったと感じています。
皆さんがこのSSを読み何を思い、何を考え、どのような感情に浸 れたのか、それは人それぞれだと思います。 少しでもこのSSを読んで
「自分もがんばろう!」という気持ちに なってくれた方がいれば嬉しいです。
長編となりましたが、ここまでお付き合い頂き本当に本当にあり がとうございました。
またいつかスレを立てることがあれば、その時はまたよろしくお 願いします! ではこれにて。

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