鮮花「確信しました。式は男です」黒桐「は?」(341)

黒桐「……あのなあ、鮮花。今度こそこれが最後になる事を祈って言うけど……式は女の子だよ」

鮮花「……」

黒桐「その事は橙子さんが前にちゃんと保証してくれて……鮮花だってその時納得したんじゃなかったのか?」

鮮花「そう、ですけど……」

黒桐「だろ? ならなんでそんな―――また喧嘩がしたいのか、お前は?」


鮮花「でも、兄さん」

黒桐「でも、何だ?」



鮮花「式の奴、胸板があるんですよ」



黒桐「……」

鮮花「……」


黒桐「え!?」

鮮花「……」ニヤニヤ

黒桐「……」ガタガタ


鮮花「――詳しく、聞きたいですか?」

黒桐「――まあ、少しは。というか鮮花、おまえいつどこでそんなものを見たんだ?」

鮮花「どこって、お風呂ですけど」

黒桐「……風呂?」


黒桐(あれ……鮮花と式って、一緒にお風呂に入るほど仲良かったっけ?)


鮮花「――あれは先日の事です」

(数日前……伽藍の堂)



橙子「さて、支度も済んだし……そろそろ行こうか鮮花」

鮮花「はい、橙子さん」

式「……」


橙子「今回の依頼は少しばかり手間取るかも知れんな……やれるか、鮮花?」

鮮花「勿論です。それにしても―――」

橙子「ん?」

鮮花「何だか珍しいですね。橙子さんが自分から誰かに仕事を引き受けるなんて」

橙子「ああ、まあね……」チラッ


式「……」


鮮花「……?」

橙子「……」

式「で……オレは何でこんな朝っぱらから呼び出されたんだ?」

橙子「ああ、その事なんだが……頼みがある。式、君にも付いてきてもらいたい」

鮮花「ええっ!?」

式「……」


鮮花「ちょっ、ちょっと橙子さん! 何でよりにもよってこいつと―――」

式「何で。大抵の事は鮮花一人居れば何とかなるだろ」

橙子「そう言うな。鮮花は私やおまえほど、はっきり『視える』訳じゃないんだ」


式「……」ピクッ

鮮花「え……? という事は、橙子さん、もしかして今回は……」

橙子「ああ。前の礼園の時みたいに、式には鮮花の”目の代わり”をやってもらう」

式「……おまえが一緒に行くのなら、おまえが視てやれば良い。オレまで着いていく必要ないだろ」

橙子「そう言わず。これも人助けだと思って」

式「断る。面倒臭い」

橙子「私だって面倒臭いんだ」


鮮花「……」

鮮花(……なら、何でそんな仕事引き受けたんだろう)


橙子「あっ、そうだ。おい式」スタスタ

式「……」


橙子「おまえ、その巫条ビルで壊した義手の代金、まだ払ってないだろう?」ボソボソ

式「―――」

鮮花(……何話してるんだろう?)


式「……巫条霧絵からコクトーを取り還して来てやっただろう」ボソボソ

橙子「あれはおまえ、自分の拠り所を自分で取り戻すのは当たり前だろう……」ボソボソ

式「……」

式「……前に礼園で鮮花の妖精探しを手伝ってやったぞ」ボソボソ

橙子「それからおまえ、自分で自分の指を喰いちぎったじゃないか。――歯で付いた傷は、中々直しにくいんだぞ」ボソボソ

鮮花「―――」


橙子「しかし――あの義手は頑強さについてはかなり自信があったんだが。ひょっとしておまえ、噛む力はあの白純以上じゃないのか?」

式「―――だれが」

橙子「まあまあ、落ち着け」

鮮花「……」


式「その仕事に付き合って、一体オレに何の得があるって言うんだ……」ボソボソ

橙子「義手とそのメンテナンス代がチャラ。それから―――」

式「……?」


橙子「黒桐の給料、プラス五万でどうだ?」

式「!?」

鮮花「?」

橙子「……」ククク…


…………
………………
……………………


(更にその数日前……伽藍の堂



橙子「……」テキパキテキパキ

式「……」


橙子「……これで必要な物は全部か。―――式、戸締り頼めるか?」

式「鍵持ってないぞ、オレ」

橙子「そうか。じゃあ後で来る黒桐にそう伝えておいてくれ」

式「……どこか行くのか?」


橙子「ああ、ちょっと旅にね―――」


(ダダダ……)

橙子「むっ―――」ピクッ

式「……」


橙子(いかん、もう来たか……?)


橙子「それじゃあ式、後の事は任せた。幹也によろしくな」

式「ああ」


(ダダダ……!)


橙子(まずい、思ったより敵の足が疾い……! これは逃げ切れな……)



バアァァァン!!



黒桐「橙ォォォ子さぁぁぁん!!!」


式「!!」ビクッ

橙子「……っ」ブツブツ


『幹也ー。後ろ後ろ』


黒桐「えっ……?」

式「!?」


黒桐(後ろから……式の声……?)チラッ

橙子(今だ! この隙を突いて奴の逆手から――!)ダダダッ


黒桐「……って、逃がすかっ!!」バッ

橙子「ぬっ」


橙子(ちっ……そうか、そう言えばこいつは認識を逸らす類の魔術が効き難いだったんだな……)

式(今の……何? 腹話術……?)

黒桐「……」

橙子「……」

式「……」ゴクリ…



黒桐「――どこに行こうとしてたんです?」

橙子「いや……ちょっと伊豆辺りの温泉にでも浸かりに行こうかとね」

黒桐「……それは良いですね」

橙子「だろう? いや、最近は疲れが溜まってたからな……」ハハハ

黒桐「忙しかったですもんね、ここ一月ばかり……」ハハハ…


(ははははは……)



黒桐「でもその温泉に行く前に、ちゃんとお給料は払ってくださいよ」

橙子「……」ピクッ

黒桐「あと3日、あと3日と先延ばしにされてる内に――気が付けば、三週間経ってましたね」

橙子「時が流れるのは早いな……そうは思わんか?」

黒桐「ええ、ですから早くお金を下さい」

橙子「よしっ、じゃあここは景気良く後一週間行ってみないか?」

黒桐「あはは、橙子さん。冗談は止めてください」ニコニコ


橙子「―――」

式「―――」

黒桐「……」ニコニコ


式(口元は、笑ってるけど……目が……)

橙子(……全然笑ってない。―――これが怒れる瞳って奴か……)

橙子「―――なぁ、黒桐」フゥ…

黒桐「……」


橙子「貨幣制度、なんてモノを最初に考えたのは誰なんだろうな……」

式「……」


橙子「金は人を支配する……何てよく言うが、本来は我々人間がしっかりと金を―――」



黒桐「……そんな綺麗事を、いつまでもぉっ!!」


橙子「!!」ビクッ

式「!!」ビクッ



橙子「落ち着け、黒桐っ」

黒桐「あなたが悪いんですっ、あなたがっ……あなたが裏切るからぁっ!!」

橙子(む……これはいかん。今の黒桐には話が通じんかもしれん。こういう時は―――)


三週間も給料の支払いが遅れれば、当然である。


黒桐「給料払ってください……今日、ここでっ!」

橙子「おい、式。君からも何か言ってや……」


式「トウコ、給料はちゃんと払えよ。経営者の義務だぞ」


橙子「……」

橙子(まさかの……共犯者からのまさかの裏切りを受けた気分だ。おまえも良く給料日に黒桐にたかっていたのに……)



橙子「あー……黒桐。残念な事に、今ここに現金はない。私もオケラなんだ」

黒桐「ならどうやって伊豆にっ?」

橙子「(無視して)代わりといっては何だが……こんな物がある」スッ

黒桐「? 何ですか、この封筒……?」

橙子「―――耳を貸せ、黒桐」

黒桐「貸しますけど……後でちゃんと返して下さいよ」


橙子「おまえも冗談が分かる様になった。で、これは何かというとだな……」ヒソヒソ

黒桐「ええ……」


橙子「―――幼稚園から高校入学までの、式の記念アルバム」

黒桐「!?」


式「……?」


黒桐「どっ、どこでそんな物を……?」

橙子「秋隆氏……と言えば、後は分かるな? ――これを渡す代わりに、給料の支払いをあと一週間待って欲しいんだ……」

黒桐「―――」


橙子「勿論、今月分もちゃんと支給する。な、あと一週間だけ……」

黒桐「……もうっ。一週間だけですよ?」

式「……」


橙子「分かってるって。後の事は任せていいな?」

黒桐「はい。後は任せてください」

橙子「うん……それじゃあ」


(ぎいいい……ばたんっ……)


黒桐「……」

式「……」


黒桐「……さて。これからコーヒー淹れるけど、式もどう?」

式「……」コクリ

黒桐「そう。じゃあ淹れてくるね」

式「……」


 ― 台所 ―


黒桐「……」ソワソワ

黒桐(どんな写真が入ってるんだろう……気になるなぁ……)ソワソワ


(ぺりっ……すとっ……)


黒桐「……ん?」



『はずれ』



黒桐「……」

黒桐「…………」

黒桐「……………………」

式「……」


『―――――馬っ鹿野郎…………!』


式「!?」


……………………
………………
…………


式「……」

橙子「な、ちょっと、ほんのちょっと視てくれるだけで良いんだ。それで、五万!」ボソボソ

式「……」


橙子「五万円、欲しいだろ?」

式「……」ウーン…

鮮花(あ、悩んでる……)

式「なんでオレが……わざわざ……あいつの……」ボソボソ

橙子「……」

鮮花「……」


式「……」


式「それって、人は殺せる?」

橙子「……いや。でもまあ、そうだな……退屈しのぎ位にはなるんじゃないか?」

式「……」ハァー…

橙子「―――決まりだな」

鮮花(えぇー……)

橙子「……そうだ。丁度良い、今ここで少し義手のメンテナンスでもしておこうか」


(回想、終わり)

黒桐「……」

鮮花「……」


黒桐「……そう。あの時そんなに怒ってたかな、僕」

鮮花「そう聞きました。―――兄さん、橙子さんからは一月に幾らくらい貰っているんですか?」

黒桐「えーと、基本給が18万で、確か手取りが……」


橙子『黒桐、渡したばかりで悪いんだが……それ、幾らか貸してくれないか?』


黒桐「手取りが……」


式『あー腹減った。幹也、今日給料日だろ? 何か食べに行こう』


黒桐「手取り……」

鮮花「……」

黒桐「……」

黒桐「……僕って毎月どうやって生きてるんだろう?」

鮮花「私に聞かれても……」



黒桐「―――で。結局三人は、どこに行ったのかな?」

鮮花「温泉街……」



(都心を離れた温泉街、その片隅


連レスしたいけどさるさん食らいそう…

橙子「ここだな」

式「……」

鮮花「なるほど……いかにも何か出そうって感じな家ですね」


橙子「何でも立て壊しの工事が始まる度に必ず事故が起こるらしい―――式、義手の調子はどうだ?」

式「―――重い。それに前のより動きも鈍い。何なんだこれ?」

橙子「ま、それは後で分かる。それより―――」


式「……何だこれ。うじゃうじゃ居るぞ」

橙子「空気が淀んでる……。簡単に言えば、ここは善くない物の溜まり場、って所か」

鮮花「私には何も視えませんけど……」

橙子「昼間だからね。―――さて」

鮮花「―――」

橙子「覚悟はいいか? 鮮花」

鮮花「はいっ!」

橙子「よし、それじゃあ―――」


(がちゃ)


橙子「入って、どうぞ」

式「……」

鮮花「……お邪魔しまーす」スタスタ


(………………シュッ)


式「―――――伏せろ、鮮花」

鮮花「え―――」サッ…


式「―――しっ」



(しゅぱっ―――)


鮮花「―――うっ……」ゾクッ…

式「―――」


鮮花(今何か……見えない何かが、頭の上を通っていった……)


橙子「入って早々にか……元気の良い事だなぁ、もう死んでるのに」

鮮花(二人には……何が視えてるんだろう……?)


鮮花「……」ブルッ


式「どうした? やっぱり手を貸そうか」

鮮花「……私一人で十分よ!」


式「……」チラッ

橙子「……その子一人で十分だよ、式」コクリ


鮮花「……」フゥ…

式「そう。……鮮花、左」

鮮花「―――ッ! 燃えろォっ!(AzoLto)」

(ばぁんっ!)


鮮花(また見えないけど……よしッ、手応えあり!)


式「へぇ……結構やるもんだな」


鮮花「……」ピクッ


橙子「当然だ。鮮花は私の優秀な弟子だぞ」


鮮花「……」ピクッピクッ


橙子「ようし……鮮花、やってしまえ」

鮮花「―――押忍!」←褒められるのに弱い


(………………シュッ)


式「―――鮮花、右だ。今度は正面」

鮮花「―――――っ!」

(ウリャ!ボディガ…アメェゼ!ソラソラソラァ!)


橙子「左、後ろにも気を配れ鮮花」


(トベオラァ!イケオラァ!オラァァァ!)



……
………


式「―――やっぱりあいつ一人で十分だったな」


(クラエッ!クライィ…ヤガレェッ!ヨラヨ!オラオラオラァ!オラオラオラァ!ドウシタ?アアン?)


橙子「……まあ、最後まで分からんがな。じゃあ、私はギャラ貰って帰るから……」クルッ…

式「は?」


(トウガノゴトクモエツキロォ!イクゼ!マッカニモエロォ!ホムラニィ…カエリヤガレェッ!)

橙子「あとヨロシク。適当に宿を取っておくから、ケリが着いたら来てくれ」スタスタ

式「……」


式(……勝手な奴)

鮮花「……」ハァハァ…


式「まぁ、大体片はつ、い―――」


(ダッ)


式「―――」

鮮花「―――へっ?」


(ドンッ)


鮮花「わっ……ちょ、式!? 急に何……」

(ブンッ……バチィッ!)


鮮花「―――え?」


(カランカラン……)



式「くっ……」

鮮花「なっ……!」


鮮花(式が……宙に浮いて……!? いや、何かに捕まって……)

式(くそっ、ナイフを落としたっ……!)


(ギリ……ギリ……)


鮮花(何これ……何か、植物の蔦のような……礼園で見た、アレに似てる……!?)


式「こいつ……なんて力で絞めて来やがるっ……」

(ミシ……ミシ……)


式「ぐぅ……」

鮮花「式っ!」


式(義手にもう一本仕込んで……ちっ、これにはまだ入れてないっ……!)

鮮花(蔦の部分だけに焼き尽くせば……いや、このままじゃ巻き込んで……しまうっ……)



式「……」


……
………

橙子『今度の義手には何か斬新なギミックでも仕込んでみるか……』

式『余計な事しなくても、頑丈ならそれで良いよ』

橙子『そう言わず。あっ、そうだ』(唐突)

式『(聞いちゃいねえ……)』

橙子『―――』

橙子『大砲とか……仕込んでみたら、面白そうだよな』


式『……』

式『……おまえは、アホか』


橙子『言葉は無粋、押し通す』

式『やめろこの莫迦!』

………
……



鮮花「……?」

鮮花(何これ……火薬の、匂……?)


式「…………」



(ガチン……)

ド  ゴ  ン



鮮花「―――」キィーン…


(グオォォォ……)


式「……」ドスン…

式「……あいつは、アホだ」


鮮花(た……大……砲!? そんな……あの、義手に!?)


―――これぞ、蒼崎脅威の科学力だった。


式「トウコの奴……なんてまねしやがんだよ……肩が…抜けちまったじゃねえか」


(ガキン)


鮮花(……それを難なく戻すアンタは何なのよ!)

式「……鮮花。あと、頼んだ……」ハァー

鮮花「っ、言われなくても―――!」


(ォォォォォ…)


鮮花「……これで終わりだぁぁーーーっ!!(AzoLto)」


(ボッ……グアァァン)


式「……」

鮮花「……」


鮮花「へへっ、燃えたろ?」


(プスプスプス……)



鮮花「ふふ……ははは、おーほっほっほっ!!」

(ガラ……)


鮮花「ほ……あれ?」

式「……やりすぎだ鮮花。今ので崩れるぞ、ここ」


鮮花「えっ……ええっ!?」


(ガラガラ……)


式「ほら、さっさと出るぞ」グイッ

鮮花「むぐっ……」


………………
…………………
……………………


黒桐「……」

鮮花「……」


黒桐(廃屋とは言え家一件壊すなんて……何て火力とパワーだよ、こいつは……)

鮮花「……あとで橙子さんに聞いた話によると、壊す手間が省けて結果オーライだったそうですけど」

黒桐(ああ……僕の妹が、どんどんあっちの世界に行ってしまう……)

鮮花「……」

黒桐「それで……話は最初に戻るんだけど、式の胸の事……」

鮮花「……」ムッ

黒桐「……?」


「よくやったね」と幹也に一言掛けてもらいたい鮮花だった。


鮮花「……その夜の事です」


………………
…………………
……………………


(夜、どこかの安宿

鮮花「……ああ疲れたー、もう……」

橙子「ああ……今日はもうすごく疲れたなぁ」

式(おまえ何もしてないだろ)


鮮花「早くお風呂入ってさっぱりしましょうよ」スルッ

橙子「ああ、入ろうか二人とも」スルッ

式「……」スルッ


(………………)


鮮花「……!?」

式「?」


鮮花「……、……、……っ」

式「――なんだよ鮮花? ヘンなモノでも憑いてるか?」

鮮花(こ、ここ、この女……!! ほ、本来なら胸があるべき位置に、男性の胸板が――!?)

式(……こいつら無駄に胸あるな……)


……………………
…………………
………………


黒桐「……」ガタガタガタガタ

鮮花「――兄さん、震えてますよ。寒いんですか?」


黒桐「は、はは……そうみたい。熱いコーヒーでも淹れてこよう……」

鮮花「兄さん。コーヒーなら目の前にあるじゃないですか」

黒桐「――そうだった。どれ、一口……」ズズ…

鮮花「……」


黒桐「AッCHIッ」

鮮花(……相当動揺しているみたいね)

黒桐「……」フーフー…

鮮花「……私が式が男だという理由、分かってもらえました?」

黒桐「いや……でも……む、胸板があるだけで男なんて証拠にはならないと思う……」

鮮花「だって―――真っ縦だったんですよ? ……あいつの胸」

黒桐(―――)

鮮花「……」

黒桐「……」

鮮花「……」ズズ…

黒桐「そっ、そうだ!」

鮮花「?」


黒桐「下、下だよ。下を見れば性別なんて一目瞭然だ。鮮花、式の下は見なかっ――」

鮮花「……ばかっ!」

(バコッ)


黒桐「あいてっ」

鮮花「兄さん! いくら家族でも女の子の前でデリカシーが足りなさ過ぎますっ!」

黒桐「……ごめん」

鮮花「……」ハァ…


黒桐「でも……どうだったんだ、実際?」

鮮花「―――あの時は動揺しすぎて、確認するという発想がありませんでした」

黒桐「そう……」


………………
…………………
……………………


 ― 温泉 ―


この間隔だとあと何時間くらい掛かるんだろう…

鮮花「じゃあお背中洗いますねー」

橙子「ああ」

式「……」


(チャポン……)


鮮花「……」

橙子「……」


(ごしごし……)


式「……」チラッチラッ

式(……何か、納得がいかない……)


………………
……………
…………


書き溜めあるけどさるさん食らいそうで怖い

(ガララ……)


橙子「はぁー……」

鮮花「ワイン、ワイン!」

式(……ワイン?)


………………
…………………
……………………


黒桐「―――おい、鮮花。未成年で飲酒はまずいだろ」

鮮花「……」


黒桐「これじゃ、何のために叔父さんがおまえをあのお嬢様学園に入れてくれたか分からな――」

鮮花「――でも兄さんも未成年でお酒、飲んでましたよね」


黒桐「……うっ」

鮮花「……」

黒桐「……僕は高校出てるから良いんだよ。もう働いてるし」

鮮花「じゃあ、式は?」

黒桐「ぐっ……」

鮮花「あいつ、確かまだ学生でしたよね? 日本酒が好きとか言ってましたけど……」

黒桐「分かった……この話は止めよう。はい、止め!」

鮮花(都合が悪くなるといつも棚に上げるんだから……)


黒桐「……」スッ

鮮花「どこか、行くんですか?」

黒桐「ああ、ちょっと橙子さんの所……戸締り頼めるか?」

鮮花「それは構いませんけど……兄さん、今日は休みじゃないんですか」

黒桐「うん……橙子さん、居てくれると良いんだけど」

鮮花「……」


食らわないで一発で完結できたら良いのにな

黒桐「今の話を聞いて思い出した……今日、僕の給料日なんだ」

鮮花「そう、ですか……」

黒桐「今度こそ払ってもらわないと―――あ、鮮花」

鮮花「?」


黒桐「正直……僕は今でも、鮮花には魔術とか危ない方面の話にはあんまり関わって欲しくない、と思ってるけど」

鮮花「……」


黒桐「―――今回の話は、素直にすごかったと思うよ。鮮花」


(バタン……)


鮮花(……)

 ― 伽藍の堂 ―


橙子「さて、今日こそ鬼の居ぬ間に外出と行くか」


(ダダダッ!)


橙子「ぬっ……」

橙子(まずい……これは以前よりも更に疾―――)


(バンッ)


黒桐「――橙子さんっ……!」

橙子「知らんっ! 無い物は無いぞっ!!」


黒桐「今日はその話じゃありませんよ! っていうかまた何か買ったんですか、あなた!?」

橙子「――で。何の話だ、黒桐」カチッ…シュボッ…


黒桐(その話じゃないと言った瞬間に、この横柄な態度……)

橙子「悪いが私が今からまた旅行に行く予定でね……あまり悠長に話をしている余裕はないんだ」ハーッ

あい


黒桐「今日給料日でしょう!? どこまでいい加減で身勝手なんですか、この会社っ!」


橙子「そう怒るな。私だってオケラなんだから」

黒桐「だからどうやってあなたは旅行に!?」

橙子「(無視して)何度も言わせるな。何の話だ、黒桐」


黒桐「……式の話です」

橙子「ほぅ……あいつがどうかしたのか」ニヤリ


黒桐「……」

橙子「えらく真剣な顔じゃないか。どれ、話してみろ黒桐」

黒桐「……先日、橙子さん達は温泉旅行に行ったそうですね」

橙子「ああ、行ったよ。仕事のついでだがね」

黒桐「……」

橙子「何だ、君も着いて来たかったのか?」

黒桐「そりゃまあ――というか橙子さん、何かお土産とか無いんですか?」

橙子「残念な事に何も無い。疲れて忘れてた」

黒桐「そう、ですか」


橙子「で……温泉がどうしたんだ?」

黒桐「……その」

橙子「ん?」

黒桐(……言い、難いな。でも、聞くしかない……)


黒桐「……式の、体の事なんですが。一緒に温泉に入ったって事は、橙子さんも式の体を見たんですね」

橙子「ああ……まあ、多少はね」

黒桐「……」

橙子「……」ハァ…

橙子「―――聞きたい、って言うのは……その事か?」

黒桐「……」コクリ


橙子「……黒桐。両儀と大極図についての説明は、以前もしたな」

黒桐「え? ああ、はい……」

橙子「黒と白の螺旋……男の中にある女性的部分、女の中にある男性的な部分……」

黒桐「……」


橙子「起源……についての話も前にしたっけ?」

黒桐「……ええ」

橙子「そう。なら話は早い。起源が目覚めたは精神だけでなく、肉体までもその方向性に引っ張られる―――
   『食べる』という起源を目覚めさせた君の先輩が、飢えた野獣と化したようにね」

黒桐「……」



『―――ボクを、助けてくれ、黒桐』

ない

黒桐「……」

橙子「……」カチッ…シュボッ


(ふぅー……)



橙子「……式にも今、似た事が起きているのかもしれん……」

黒桐「……えっ?」



橙子「……」フゥー…

黒桐「そんな……でも、でも式は―――」


橙子「そうだ。式は起源覚醒なんかしちゃいない。―――否、あえて目覚めさせる必要さえなかった、とも言えるな」

黒桐「―――」

橙子「だが彼女の体は常人に比べその起源―――虚無に近い……生まれつきね。だから二年間の昏睡で式はあんな『目』になった」

黒桐「……」

橙子「それに加え……あいつは自分の起源が何であるかを感づいている。あの荒耶が、それを気付かせた」


橙子「自分の起源を自覚した者はその方向性に引っ張られるんだ……起源が覚醒してようがしてなかろうが関係なく、ね」

黒桐(……)


橙子「―――黒桐、耳を貸せ」

黒桐「はい……」

橙子「そう怯えるな。ちゃんとあとで返すから。つまり……」ゴニョゴニョ

黒桐「―――」


………………
…………………
……………………

ガチャ


式「……」


橙子「……という訳だ。分かったか?」

黒桐「……はぁ。実は、あんまり……」

橙子「……覚えが悪いなぁ。まあ幾分かは私の推測も混じってるが――おや、式」


黒桐「!」ビクッ…


式(……幹也?)


やべぇよやべぇよ…ついに書き溜め尽きたよ…

黒桐(……)

式(……どうしたんだろう?)


橙子「どうした、式? 何か用か?」

式「ああ……幹也、今日給料日だろ? ……どこか、飯でも食いにいかないか」


幹也「ああ、うん……それが……」チラッ


橙子「式、この国にはこういう諺がある。―――『無い袖は、触れない』」


式「マジ、かよ―――」

黒桐「……」


式「おい、トウコ。おまえ、オレとの約束はどうした?」

橙子「ふむ……実はあの義手を作るのに結構費用がかかってな、報酬が殆ど吹っ飛んだ」


黒桐(約束? ……式、橙子さんと何か約束してたのかな)

こ、これでも20kb書き溜めたんだから許してください、オナシャス!

式「―――状況を考えないおまえが、あんな物を作るから……!」

橙子「そう怒るな。何だかんだ言って面白かったろ、アレ」


式「どこが―――あれのせいであのあとオレは湯に浸かってもずっと痛いだけだったんだぞ」

橙子「そう……」←鉄面皮


黒桐「……ごめんね、式」

式「……」ハァ…


式「……別に、幹也が悪い訳じゃない。悪いのは全部、この女だ」


橙子「……?」キョロキョロ

式「おまえだ、おまえ」

式(いっぺん埋めようかな、この女……)

黒桐「……」

橙子「ふむ……そんなに一緒に食事がしたいなら―――君が黒桐に料理を振舞ってやれば良いじゃないか、式」


黒桐「……!?」

式「……」


橙子「そうすれば君は黒桐と一緒に食事が出来るし、黒桐は食費が浮くし―――」

式「おまえは今すぐ幹也に給料を払わなくていい訳だな」


橙子「さて」(すっとぼけ)

黒桐「……」

式「……」ハァ…

黒桐「いや、でも……」


式「……分かったよ。幹也、今日はオレん家来い」

黒桐「……!」

橙子「……」ニヤニヤ


橙子「いや、これで一件落着だ。黒桐、今日はもうあがって良いぞ。ほれ、式の家でゆっくりご馳走になってきなさい」

黒桐「はぁ……」


式「―――トウコ。明日はちゃんと幹也の給料払えよ」

橙子「細かい事は気にするな。さっさと行け」

黒桐(細かい事かなぁ……)

式「……」

黒桐「―――式」


式「……何だ、幹也」

黒桐「……今晩は、ご馳走になるね」

式「……ああ」


黒桐「それじゃあ……橙子さん、今日のところはこれで失礼します」

橙子「はい、さようなら。また明日ね」



(がちゃ……ばたん……)



橙子「……」

橙子「……」カチッ…シュボッ…


(ふーっ……)

橙子「……」

橙子「冗談の、つもりだったんだが……ふむ。すっかり本気にされてしまったな」


橙子(真面目な話と冗談の区別くらい普段のあいつならすぐ付くだろうに……一体何があったんだあいつ)

橙子「あんまりに真剣な顔だったんでついからかいたくなってしまった……」


蒼崎橙子―――間違いなく悪女である。



(コンコン……)


橙子「どうぞ、入れ」



「……失礼、します……」



橙子「おお……どうした。今日は何も言い付けてはいない筈だが―――鮮花」


鮮花「……」


……
………



 ― 式のマンション ―


(……カチャ)


式「……」スタスタ

黒桐「……」


式「? どうした、おまえも入るんだろ」

黒桐「あ……うん、いや……」


式(―――さっきからどうしたんだろう、幹也。何を話しても、どこか上の空っていうか……)

黒桐(……)


黒桐「ねえ、式」

式「ん、何だ?」

黒桐「……ここまで来て、今更……なんだけどさ」

黒桐「―――これから材料だけ持っていって、僕の部屋で作って貰う……事、出来るかな?」


式「―――――」


式「―――何だそれ。結局どこだろうが二人で食う事に変わりはないんだから、単なる二度手間じゃないのか。――おまえん家、遠いし」

黒桐「はは、ごめん……」

式「……なんで急にそんな事を?」

黒桐「う……ん、何と、なく……」



式「……」

式「まあ、別に良いけどさ……」

黒桐「……え?」



……
………

再び伽藍の堂


橙子「で、改めて聞くが……どうした。何のようだ、鮮花」

鮮花「……」


鮮花「―――実は」

橙子「待て。おまえが話す前に、一つだけ聞いておきたい事がある」


鮮花(……じゃあ今何で聞かれたんだろう……?)



橙子「さっき休日だって言うのに黒桐が出社してきてな……おかしな事を私に聞くんだ」

鮮花「……」ゴク



橙子「たかが一月給料を払わなかった位で『どこまでいい加減で身勝手なんだ、この会社』って……案外狭量だよな、あいつ」


鮮花「……」←冷めた目付き


橙子「分かった、分かったから拗ねるな鮮花。今度こそ真剣に聞くから……」

鮮花(……橙子師のこの『とことん人をおちょくって楽しんでやろう』って性格、何とかしてもらいたいなぁ……)


橙子「全く……あいつはちゃんと、内の制度を理解してから入ってもらったなんだがね」

鮮花「……」


橙子「それがたかが一ヶ月や二ヶ月の給料未払い位で怒られてちゃやっとれんよ」ハァ…

鮮花(……それは兄さんじゃなくても怒る気がするなぁ)



橙子「で、本題に戻るが―――鮮花。あいつに一体何を吹き込んだ?」

鮮花「……」ドキ


橙子「正直に答えろ。おまえの用件は、そのあとでちゃんと聞いてやるから」

鮮花「……奇遇ですね。私の用件って、きっと橙子さんが聞きたい事と同じですよ」


橙子「……」

鮮花「実は……」

 ― 幹也のアパート ―


(……ガチャ)


黒桐「入って、どうぞ」

式「…………」スタスタ


黒桐「いいよ、上がって」

式「ん……」


黒桐「……」

式「……」ンー…


式(今日のこいつ、やっぱり何かヘンだ。……部屋に入る時だって、いつもなら何も言わないのに)


黒桐「……」


『……そもそもだ。何故式が、『男』と『女』の人格に分かれていたかというとな―――』

眠くなる前に書ききらないと…

 ― 伽藍の堂 ―


橙子「……なるほどな」

鮮花「……」


橙子「……子供染みた咄嗟のいたずらにしては良く出来てるよ。黒桐と私の性格をよく読んでいたな、鮮花」

鮮花「……最初は、普段と同じ様なごく普通の愚痴のつもりだったんです」



橙子「『黒桐は式が女である事を望んでいる』、そして『式が女である事は私が直々に保証した』」

鮮花「……」



橙子「ならば……『何らかの方法で式が男であると私の口から聞かせれば、兄は動揺するだろう』……そういう事か?」

鮮花「……」コクリ


橙子「……」ハァー…

鮮花「幹也が…………式が、女である事を願っているのは、知っていましたから」

橙子「いつもの減らず口のように、軽く受け流してくれる事を望んでいた……軽い冗談のつもりだったんだな」


橙子「ところが……予想と違ったのは、黒桐の奴が本当にその冗談に信憑性を感じてしまった事、か」

鮮花「……はい」


橙子「……全く」

鮮花「すみません」

橙子「謝るなら私じゃなくて黒桐にだろう。……といっても、あいつもあいつだがね」

鮮花「……」

橙子「式が女である事くらい、近くで一目見れば分かるだろう。素直というか、馬鹿正直というか。馬鹿というか、阿呆というか」

鮮花「……幹也は純粋なんですよ、どこまでも。……それが橙子さんの口から如何にも尤もらしい事を聞けば……」

橙子「金出せ金出せ言うがな、むしろこっちが出してもらいたい気分だ。こっちだっておぜぜは欲しいんだぞ」グチグチ

鮮花「……橙子さん、聞いてます?」

橙子「うん」

橙子「しかし鮮花―――もし今回の呪いが成功し、本当に黒桐が傷心したら、おまえどうする気だ?」

鮮花「―――え?」


橙子「心の傷に付け込んで、本当に幹也を自分の物にする気か? ええ?」

鮮花「……」



鮮花『兄さん……本当に、私で良いんですか? 私達は実の―――』

黒桐『……もう僕は選んだんだ、この道を。―――なら、行くしかないじゃないか』

鮮花『幹也―――』


鮮花「―――ッシャラァァ―――」

橙子「……」ジーッ…


鮮花「そ、そんな負け犬みたいな真似はごめんです!」

橙子(こいつ今一瞬それでも良いかも、って思ったな……)

橙子「しかし、鮮花―――おまえは一つ、重大な勘違いをしている」

鮮花「えっ……」ドキッ

橙子「……」

鮮花「な……何ですか橙子さん、重要な勘違いって」


橙子「……」スッ

鮮花「……」シュボッ

橙子「……」スゥ…


(ふぅー……)


鮮花「……」



橙子「―――何故、あいつが”女しかいけない”などと、思い込んだ?」

鮮花「――――――!!!」

いつになったら式と幹也のイチャイチャになるんだよ…

橙子「……我々はとんでもない思い違いをしていたかもしれない。鮮花、おまえだけでなく私もね」

鮮花「ど、どういうことです橙子さんっ!?」


橙子「……以前にあいつが、起源を覚醒させた先輩に捕まった事は知っているはずだろう?」

鮮花「……!」ハッ!

橙子「その時に、だ……」



白純『気持ち良いか……? 気持ち良いだろ……?』ハァ…ハァ…

黒桐『むぐ……』


白純『……キミの事が好きだったんだよ……』サワサワ…

黒桐『フゥ……ンッ……』


白純『ん……』チュッ…

黒桐『う、うもうっ……』

橙子「……こんな事が、なかったとは限らんだろうが」

鮮花「……っ!」ゾッ…


橙子「場合によっては、おまえのした事は黒桐を傷心させる、どころかその真逆―――」

鮮花「ふ、二人の急接近の手助けをしただけ……の可能性もあるんですかっ……!?」


「もう堪忍して」……そう言わんばかりに鮮花の口から悲痛な叫びが漏れる。
しかし、橙子は。
この愛すべき弟子相手に容赦をかける気など、まるでなかった。


橙子「……ドンマイ、鮮花!」


(ぽんぽん)


鮮花「」


橙子「……一見冷静なように見えて、その実割と後先考えてない所は黒桐にそっくりだ。やっぱり血を分けた兄妹だよ、おまえら」クスクス

 ― 幹也の部屋 ―



式「さて……じゃあ、台所借りるぞ」

黒桐「うん、よろしくお願いします」



(ごちゃごちゃ……)


式「……」

式「……おい、幹也」


黒桐「な、なにかな?」


式「なんだよ……このレトルトの山は……」

黒桐「いやー……ははは」


式(笑った位で誤魔化されるか。―――カップ麺、パスタ、コンビニ弁当……レトルトのゴミだらけじゃないか)

式「おまえさ……よくこんなモノしか食わないで、生きていこうと思えるよな」

黒桐(……と言っても。レトルトは安い、早い、簡単の三拍子揃ってるし……自炊できない人間には必需品だと思う)


式「味だってイマイチだし……何より、こんなモノばっかり食ってたら早死にするぞ」


黒桐「―――式」


式「―――なんだよ」



黒桐「―――レトルトでもね、ボンカレーはどう作っても美味しいんだよ」

式「……そのボンカレーさえ家に置いてない奴が、何を言っても説得力ないぞ」



………
……………
………………

(とんとんとん……)



黒桐「……」


式「―――」



黒桐「……」ハァ…

黒桐(……台所に女の子が立つ姿って、やっぱり何か良いな……)


式「ふーっ…」


黒桐「―――」

黒桐(―――こうやって見てると。どこかの旅館の女将さんに見えるな、式)


(とんとんとん……)


黒桐(なで肩に着物が良く似合ってる上、包丁捌きも綺麗だし。本当、普段の男みたいな口調が嘘―――)

『確認しました。式は男です』



黒桐「―――――っ……」



式「……? どうした?」


黒桐「……いや、何でもない……よ……」


式「ふーん……?」


黒桐(軽口、だよな……鮮花の奴、普段からあんな事良く言ってるじゃないか)



『……式にも今、似た事が起きているのかもしれん……』


黒桐(―――――)

黒桐(―――――)

黒桐(軽口だと思う―――思う、けど)


橙子『……』


黒桐(あの人は……あんな真剣な顔で、嘘を付くような人じゃない気がする……)


…………


橙子「ぶえくしゅっ……」

鮮花「だ、大丈夫ですか橙子さん?」


橙子「ぬっ……誰かが私の噂でもしているかな……」


嘘を付く人だった。


…………
……………
………………

眠いからって誤字か……>>153「確認」を「確信」にしといて下さい

(数十分後……)



黒桐「―――う、わぁー……」

式「……」


黒桐(……果たして。果たして式は、本当に僕と同じ台所を使ったんだろうか? これは―――なんて、美味しそうな)


式「……どうした? 食べないのか」


黒桐「ああ、いただきます……」

式「……ああ」



黒桐「……」ジーッ…

式「ん……?」

黒桐「……」

式「……なんだよ?」

黒桐「ん……いや……」


黒桐「式ってさ、ほんっ…とに優しいんだな、って」フフ…

式「―――――」カァ…


式「……は、早く、喰うん だ 」


黒桐「うん。じゃあ、改めて……いただきます」

式「……」ドキドキ



……
………
…………

黒桐「あーっ……」

式「……」


黒桐「ご馳走様でした」

式「ん、お粗末様……」



黒桐(本当に……美味しかった。最高級の料亭でだって、こんな美味しいモノ、食べれるかどうか……)

式「……」カチャカチャ


黒桐「あ、良いよ式は座ってて。流石に食器位は僕が―――」

式「幹也の方こそ座ってろ。―――おまえ、今の状態だとちゃんと皿洗えないだろ」



黒桐「―――」

式(あ……)

黒桐「う……ん。まあ、確かに一人で洗うとなると辛いかもね」

式「……オレ一人でやるほうがよっぽど早いよ。いいから、座ってろ」



黒桐「うん……」

式「……」カチャカチャ



黒桐「……」


式「……」



(ジャーッ……)



黒桐(気にしなくても、良いのに)


式「……」


黒桐(気にする様な事じゃ、ないのに)ハァ…

(ジャーッ……)



式「……うちさ」


黒桐「―――えっ?」



それは。
式には本当に珍しい事だった。



式「―――――」


黒桐「どうしたの?」


式「……」


黒桐「……?」

このタイミングでさるさんは止めてくれよ…(絶望)

式「……」


式「コクトー。膳って分かるよな」


黒桐「……あの、宴会の時に使う台の事?」


式「そう、それ」


(ジャーッ……)


式「この家にあるような食卓やテーブルじゃなくて、膳で食事を取るんだ。両儀の家だとさ」


黒桐「へーっ……」


黒桐(それは知らなかった。……でもまあ、門構えからして江戸時代っぽいし、両儀の家ならそれも普通なのかもしれないな)

センセンシャル、一時間以上レス無い時はさるさんか寝落ちだと思って下さい…

式「……」


式「……こんな風にさ。誰かと卓を囲んで食べるって経験、オレにはあんまり無いけど」


黒桐「……うん」


式「シキはさ……こういうの、別段好きって訳でもないけど……嫌いじゃ、ないんだ」


黒桐「うん」


(ジャーッ……)



それは短い言葉だったけど、何となく式の言いたい事が分かる気がした。

黒桐「―――じゃあ、これからは式も誰かと卓を囲む経験が増えるのかな?」


式「……」


式「……あのな。オレは別段好きな訳でもないって言ってるだろ。聞いてなかったのか」


黒桐「でも嫌いでもないんだろ? なら、良いじゃないか」


式「……勝手にしろ」ハァー


その言い方は、ぶっきらぼうではあったけど。式は、決して不快そうではなかった。



黒桐「―――」

黒桐(うん……やっぱりこうやって話をしても、式は女の子にしか見えない。……これは、間違いないと思う)


(ジャーッ……キュッ……)

式「……ふぅ」


黒桐(しかし……すると、橙子さんのあのアドバイスは……)


『良いかい、黒桐。実際に起源を自覚したからといって、目に見えて分かる訳じゃないんだ。実際に触れてみなくてはね』


黒桐(……ああ。先輩も……同じ事を言っていたな……)


式「……」スタスタ

黒桐(と、なると実際に触れて確めるしかない訳だけど……)


黒桐『式。ちょっと頼みたい事があるんだけど、良いかな?』

式『なんだ』

黒桐『うん。その……君の胸を、触ってみた『 ヂャ ッ ッ 』


 バ オ ッ 

DEAD END…

黒桐「……」ゾーッ…


黒桐(駄目だ……正面から胸に触らせてくれなんて言えば……良くて半殺し、悪ければ17分割にされそう…)


式「……」


(ポスッ……)


式「……」ゴロゴロー…


黒桐(仕方ない。少し待ってみる、か)


式「……」ゴロゴロー


黒桐(……本当。こういう時の式って、小動物みたいで可愛いな……)



…………
……………
………………

(数時間後……)



式「……」ファーァ…

黒桐「式。そろそろ電気消すよ」


式「ん……」

黒桐「……」


(パチッ……スタスタ……ポスッ……)


黒桐「……」

式「……」


黒桐「式、お休み」

式「ん……お休み……」


……
………


式「……」スースー

黒桐「……」


黒桐「―――式。もう、寝た?」

式「……」スースー


黒桐「……」



式「………………」



黒桐「……」ハァーッ…

黒桐「……どう見たって、男には見えないよな」

『式の奴、胸板があるんですよ』


黒桐「見えないのに、な……」


黒桐「……」

黒桐(式は女の子だって。僕は、ずっとそう信じてきたじゃないか)

黒桐(……だっていうのに。鮮花と橙子さんを聞いてから……不安な気持ちが拭えない)


式「……」スースー


黒桐(―――けど、それがどうしたって言うんだ。だって、僕はまだ自分の目で何一つ確かめていないんだから)


式「……」スースー…


黒桐(……今しかない。鮮花と橙子さんが言った事が本当かどうか……確かみてみる、じゃなくて確かめるには)


黒桐「真偽を明らかにするためには、「式の胸」に触らざるを得ない」

黒桐「やるしかないってんなら、やってやるさ……!」

式「……」スースー


黒桐「―――式」

式「……」スースー


それでも。この一言だけは、彼女に言っておかないといけない気がした。


黒桐「……ごめん」

加熱した欲望は、遂に危険な領域へ突入する。



……
………


(同じ頃……伽藍の堂


鮮花「兄さん……ごめん……」

橙子「……」

鮮花「……ごめんね、兄さん。子供の頃から素直じゃなくて……」ウゥ…


橙子「……」

橙子(もう、これだ―――さっき少しは慰めてやれば良かった)


鮮花「私がいらぬ発破をかけたせいで……今頃幹也達は……」ウゥ…


橙子「……」ハァー…

橙子「そんなにあいつらが気になるなら、電話でも掛けて様子を確認してやれば良いだろう」

鮮花「こんな深夜に電話なんて出来る訳ありませんよっ!」(逆ギレ)


橙子「ならもっと話は早い。直接黒桐達の所に乗り込んでやるか?」

鮮花「……そんな。こんな遅くに男の人の所に行くなんて……私、こう見えて純情なのに……」

橙子(純情な奴は、そもそもこんな悪戯を思いつかないと思うんだがなあ……)

鮮花「うぅ……幹也……」

橙子「―――いい加減にしろ、鮮花っ」


(ぺちっ)


鮮花「っ……」

橙子「……」


鮮花「……と、橙子さん……?」

橙子「今のおまえは、自分の行いで兄を苦しめたという罪悪感が苦しいのだろう?―――なら、速やかに謝りに行け。それで納まる」


鮮花「……でも。幹也が、私に会ってくれるかどうか……」

橙子「あいつの懐の広さを舐めるな。……あの両儀式なんかに四年も付き合って、それでもまだ惚れてる様な阿呆だぞ。おまえの兄は」


鮮花「―――――」

橙子「ま、金に関しては小うるさい奴だがね……」


それは、単に橙子さんがお金にルーズなだけじゃないでしょうか? ―――鮮花はそう思った。

橙子「黒桐は、おまえにとっても大切な人なのだろう」

鮮花「……!」


橙子「月並みな言葉だが……諦めるな、鮮花。魔術師とは、目的を果たすまで決して諦めないモノだ」

鮮花「とう……こ、さん」


橙子「おまえは私の優秀な弟子だ。―――おまえなら、あの両儀式とだってきっと渡り合える。私が保証してやる」

鮮花「橙子さん……ありがとうございます……私、私やりますっ!」


橙子「……」フッ…

鮮花「……にしても橙子さんは……さっき鮮花(ワタシ)の側にばかり立ってくれますね」

橙子「んっ? ああ、まあね」

鮮花「式とだって、決して仲が悪い訳じゃないでしょうに……」


―――単に不利な側に着いた方が話が拗れて面白いから。……とは、口が裂けても言えない橙子さんだった。

橙子「……魔術師なんてものはね、基本は反骨精神の塊なのさ。”それ”で凝り固まってると思ってもいい」

鮮花「……私。式から兄を取り返すため、弟子入りしたのが橙子さんで良かったと……本当にそう思います」


橙子「あっ、そっか……」

鮮花(……あれ? さっきまで熱血ぶりはどうしたんだろう)



橙子「―――よし、鮮花。ガレージにあるハーレーに乗れ」

鮮花「え? でも式の家ならここから歩いて数分―――」

橙子「事情はあとで説明する。とにかく乗れ」

鮮花「はい……?」




……
………

 ― 幹也のアパート ―



黒桐(さ……て)

式「……」スースー


黒桐(さっきゴロゴロしまくってたから……式、うつ伏せで眠っちゃったんだな……)


式「……」スースー

黒桐(こんな無防備な姿で居られると……自分が、今からとんでもない事をしでかす悪人の様に思えてくる)


黒桐「……」ハァー

黒桐(とりあえず……体を回して、仰向けになってもらおう。……起こさないように、注意して)



式「……」スースー

黒桐「……」


(ガシッ……)

式「……」ピクッ…

黒桐(肩を掴んで……ゆっくり、と……)


(クルリ……)


式「……」

黒桐「―――うん、これで良し」


式「…………」

黒桐(……? 寝息が、聞こえない? もしかして)



黒桐「式、起きてる?」

式「……」

式「……」スースー


黒桐「なんだ……寝返りうつ時にちょっと息が溜まっただけか」ホッ…

式「……」スースー


黒桐「……」スッ…

式「……」スースー


(さら……さら……)


式「……」ピクッ

黒桐「……」


(さら……さら……)


式「……」

黒桐「……」

黒桐(……絹みたいな髪、って表現が良くあるけど。本当に、ずっと触っていたくなる髪ってあるんだな)


(さら……さら……)


しゅ、終着点が見えない…

式「……」

黒桐「……」

黒桐(……今なら、まだ引き返せる。このまま気が済むまで式の髪を撫でて―――そのあと、眠ればいい)



式「……」

黒桐(―――でも)


『真偽を明らかにするためには、「式の胸」に触らざるを得ない』


黒桐「……もう、決めたもんな。……そう、決めた」

式「……」


黒桐(絶対に、式の胸に触ってみせるって―――つまらない、意地だけど)


いつの間にか目的がすりかわっているコクトーであった

黒桐「……」


(さっ……)


式「……っ」


黒桐(名残惜しい……けど、しょうがない。今はもっと他に、やるべき事があるから)



式「……」

黒桐「……」ハァー…


黒桐「―――よしっ……」



(がしっ……)



式「っ」

黒桐「……」

と、勇ましい事を思いはしたが。やはりいきなり胸に触るような真似を彼はしなかった。



式「っ」

黒桐「……」

黒桐(……こうやって。背中に手を回して……そこから腕、そこから肩と……少しずつ動かしていこう)


(すすす……)


式「……っ」

黒桐「……」


ふと……「この姿勢はあの海沿いの倉庫で式を抱きかかえた時の物に似ている」と。彼はそう思った。


黒桐「……」

式「……」


すると今のこれは。「あの時の再現」なのだろうか、とも彼は微かに思った。

(すすす……)


黒桐「……」

式「……っ」ピク


黒桐(よし、肩口まで来た。後少し……)


黒桐「……」

黒桐(そう言えば……ここまで必死で全然気が付かなかった。……というより忘れてた、というか)


黒桐「……式。起きて、ないよね……?」

式「……」

式「……」スースー


黒桐「良かった、寝てる……」ホッ…

式「……」スースー


黒桐「……式って思ったより寝付き良いほうなんだな」

(すすす……)


黒桐「―――」


手が肩口から、少しずつ体の中心部へ流れる。


式「―――」


鎖骨の上……を通り。更にそのまま下へ、下へと流れていく。


(すすす……)


黒桐「……」

式「……」


そして……

黒桐「―――――」

式「……」


黒桐「―――――」

式「……」


そして……


黒桐「―――――」

式「……、……?」


(さわ……さわ……)


黒桐「……」

式「っ……」ピク…

黒桐(…………)

式「……」フゥ…



黒桐(かた、い)



(さわ……さわ……)


式「……」ハー…

黒桐(―――――)


黒桐(こ、こも)


(さわ……さわ……)


式「……」フー…

黒桐(―――――)


黒桐(ここ、も)

―――何という悲劇だろう。
式は、平均に比べ胸に”少しばかり”脂肪が少なかった。そして、”少しばかり”胸に筋肉が多かった。
……結果。今、彼の手は彼女の胸を”かたい”モノとしか受け取れなかった。


(さわ……さわ……)


式「……」

黒桐「……」



黒桐(……女の子の胸って、もう少し……柔らかい物だと思っていた)



これは、そう。
AとAAの、境界。

(さわ……さわ……)


黒桐「……」


彼の手が、彼女の胸をさする。何故か、それは”かたい”感触しか伝えてこなかった。
今日は調子が悪いのだろうか。


黒桐「……」


……ふと。手を動かしながら―――ふと幹也は彼女の顔が見たい、と思った。


黒桐「……」チラ…



式「―――――」



黒桐「……」

黒桐(―――何て、穏やかな表情。式は―――)

まるで、高名な仏工が仕上げた仏像のような―――涅槃の表情が、そこにあった。

これ話どこに向かってるんだろう…(すっとぼけ)


―――思えば。
あの雪の日に初めて出会った『彼女』も。表情こそ違うモノの、同じく穏やかな顔をしていたのだろうか―――。


(さわ……さわ……)


黒桐「……」

式「……」


(さわ……さわ……)


黒桐「……」

式「……」


(さわ……)


黒桐「……」

式「……、……?」

黒桐「……」

式「……」


黒桐(―――ああ)


三年前、彼女が目の前で自動車にはねられた時に比べれば―――そうは思っても。



黒桐(泣けないってことは……哭くことより、悲しいな……)


他人にとっては、どれだけ小さな理由でも。やっぱり、悲しい物は悲しい。


黒桐「……」


(すっ……)


黒桐(……?)


式「泣いてるのか、コクトー」

黒桐「―――あれ。式、起きてたの?」

式「……」

式「―――今、起きた所。どうした、何かあったのか?」


黒桐「……いや、なにも―――」

式「―――」


黒桐「……」


黒桐「……うん。前の夏くらいにさ、僕が見たとんぼと蝶の夢の話したの、覚えてる?」

式「……」


黒桐「今度もあれと似たような感じなんだけど……何て、言えばいいかな」

式「……」

黒桐「つまり……今度は僕が蝶の視点で。それで、とんぼと触れ合おうとしたら……翅が当たって、地面に叩きつけられたみたいな」


式「……」


黒桐「それはきっと、蝶の自業自得なんだろうけど……蝶はショックだったんだ」


式「……」


黒桐「……」

式「……幹也。つまり……おまえが何を言いたいのか、オレにはさっぱり分からないんだけど」


黒桐「だろう。僕も何が言いたいのか、良く分からないもの」

式「―――何だそれ」


黒桐「……」

式「おまえが何を言いたいのかなんてさっぱりだけど。それってつまり、翅が無ければお互いぶつからずに済んだって事か?」

黒桐「―――翅の付いてないとんぼや蝶なんて居ないよ」」

式「だからさ。そのとんぼや蝶っていうのは比喩なんだろ? その、翅っていうのも」


黒桐「……」

式「……」


式「翅があったから……蝶はとんぼに触れなかった。じゃあ翅が無ければ大丈夫って事だよな」

黒桐「……そう、なのかな」


式「その話の蝶はおまえとして……じゃあとんぼに当たるのは誰だ?」

黒桐「……」


黒桐(柄にもない事を言うもんじゃないな……僕もこんがらがってきた)

式「蝶は、とんぼに触れようとして叩き落された……自業自得だけどな」

黒桐「うん」


式「翅が無ければ、蝶はとんぼに触れ合う事が出来た―――」

黒桐「ああ、そうなるだろうね」




式「―――ねえ。これってどういう例え話かな、幹也」

黒桐「……」


式「誰がとんぼで―――何が翅、なのかな」

黒桐「―――」


ここからどうやって収拾付けるんだろう…

式「……」ゴロン


黒桐「……」


式「…………」

黒桐「…………」



式「ねえ、また触るの?」

黒桐「え……?」


式「……」

式(こいつ……気付かれてないって本当に思ってたんだ。あの頃から、何も変わってないな)


黒桐「あ、えーと、その……」

式「答えて」

黒桐「なんの事かわからないけど、その、気が向いたら触るよ」


式「……」

式(……ある意味、あの頃よりもっと莫迦になってないか? こいつ)


式「ヘンタイ」

黒桐「……な、なんでっ?」



式「……」

黒桐「……」


黒桐「はぁ……」ゴロン


……
………


式「……」スースー


黒桐「……」

黒桐「…………」

黒桐「……………………」


黒桐(―――よし、気が向いてきた)


黒桐「……」クルリ


式「……」スースー

黒桐「……」

黒桐(ああ―――確かに僕はさっき式の胸に触れた。それは事実、間違いない。……というかバレてるとは、思わなかった)

式「……」スースー

黒桐(―――――)

黒桐「でも……僕はまだ”それだけ”なんだ。ただ服の上から手で少し胸の部分に触れた、ただそれだけ」


『(僕はまだ自分の目で何一つ確かめていないんだから)』


式「……」スースー


黒桐「そうだよ。僕はまだ……実際に、”自分の目”で式の胸を確かめた訳じゃないんだ」

式「……」


黒桐(僕は―――触れるだけ、じゃなくて。実際に、自分の目で見て、確認しなくちゃいけないんだ)

またおかしな使命感にかられるコクトーだった

黒桐「君が好きだから。君を好きでいたいから。君に、女の子であってほしいから」

式「……」



黒桐「――― 一応訊いておくけど。式、起きてる?」

式「……」


式「……」スースー

黒桐「よし、今回はちゃんと寝てるな……」



黒桐「……」スッ


(さら……さら……)


式「……」ピクッ

黒桐「……」


ここまでは前回と同じ。が、今回はここからが違う。

(ぐいっ……)


式「……!?」


黒桐「式。ちょっとこっち来てもらっていい?」


言うより早く引き寄せていた。
彼女が起きていれば、”何するんだ、突然”とでも言ったろうか。


(がしっ……)


黒桐「……」

式「……」


(さらさら……)


黒桐(さっき名残惜しんだ分……今度はたくさん触らせてもらおう)サワサワ

(さらさらさら……)


式「……」


黒桐「……」サワサワ…

式「……」


黒桐「……」


(はふっ……)


式(―――!?)



……
………


橙子『そう言えば式。おまえが昏睡状態で入院していた頃、黒桐は毎週一回必ずおまえの見舞いに行ってたんだがな』

式『ああ……それで?』

橙子『そう言えば式。おまえが昏睡状態で入院していた頃、黒桐は毎週一回必ずおまえの見舞いに行ってたんだがな』

式『ああ……それで?』


橙子『それで、だ。―――あいつが以前おまえに関する面白い話をしてくれた事があるんだが』

式『なんだ?』


橙子『ふむ、それがな』

式『……』



橙子『何でも、毎回見舞いに行く度に寝ているおまえの髪の匂いを嗅ぐ事を目論むんだが』

式『……』


橙子『おまえのとこの超執事―――秋隆氏、だっけ?に阻止されて、成功した試しがなかったんだとさ』

式『…………』

式『……………………』


式『………………は?』

式『おい、トウコ。オレは面白くも無い冗談を聞くシュミなんか無いぞ』

橙子『冗談、かな?』



式『―――おい、嘘だろ? じゃあ、本当なのかトウコ』

橙子『さあ?』


式『…………』


嘘とも本当とも取れそうな事をネタに、橙子さんが自分をからかっているのだと気付くのに式は少し時間が掛かった。
結局式は、それは橙子さんが自分をからかう為に考えた性質の悪い冗談だと決め付けていたのだが……


………
……




式(まさか―――まさかね……)

黒桐(良い髪の毛だな……いつまででも触れていたい……)サワサワ

式「……」


(さらさらさら……)



黒桐「……」サワサワ

式「……」


黒桐「……」サワサワ

式「……」


黒桐「……」サワサワ

式「……」


式(―――あれ? 触るだけで……何もしないの?)

黒桐「ああ―――満足した」

式「―――――」



式(何だ……何もされないか)ホッ…


起きていれば、彼女もこの瞬間だけは一息を着いただろう。




(しゅる―――)


式「―――――」

黒桐「―――――」


式(……今の。間違いない、こいつ……)

黒桐「……」



式(人が気を取られてる内に……帯を解こうと―――!?)

黒桐「……」

式(―――――)


(しゅる―――しゅる―――)


黒桐「……」

式「―――――」


(しゅる―――しゅる―――しゅる―――)


黒桐「……」

式「―――――」


(しゅ――――)


黒桐「……………」

式「―――――?」


黒桐(……素人に、帯の解き方なんて分かる訳ないよね。うん、断念)

黒桐「まあ、仕方ないよね。こういう日もある」

式「……」


式(また、中断? ―――どうなってる)



自ら望んだ事でも無くても、途中で断念されると欲求不満は溜まる――― 一種の焦らしプレイだった。



黒桐(さて。帯が解けないとすると……やっぱり、アレかな……)

式(次は、何をするつもり……)



眠すぎ…何でこんな展開になってるんだ…?(疑問)

黒桐「……」スッ…


式「……?」


手で、胸元の着物を握って……



(ガシッ……)



黒桐「―――式」

式「―――?」


黒桐「―――ちょっと、ごめん」


式「―――――!?」


―――左右に開くと……

(ぐいっ……)


式「―――――」


上半身が、露出する。



黒桐「―――――」

黒桐(乱暴なやり方だ……こんなの、本当は嫌だけど)


―――前開きの着物だからこそできる、強引な手法だった。



式「―――――」

黒桐「―――――」



黒桐(―――そう、か。式の胸って、本当に真っ縦だったんだ……)

式「―――――」

黒桐「―――失礼しました」


式「―――――」


(すっ……)



式「―――――」

黒桐(―――式の胸を見れば直に何かが変わるって。……僕はそう思ってた)


式「―――」

黒桐(やけにかたく感じたのだって―――きっと、着物や下着の材質に問題があるんだって、そう思ってた)


式「…………」

黒桐(実際に自分の目で確認すれば―――鮮花や橙子さんの言っていた様な不安は全部消えるんだって、思い込んでた)


黒桐「……」ハァ…

黒桐(僕はただ、信じていたかっただけなのか……式が、紛う事無き女の子だって……)

黒桐「―――――」


涙の一滴も流れはしなかったけれど―――



式「泣いてるのか、コクトー」

黒桐「あれ……式、起きてたの?」



彼はこの時―――微かに、ないていたのかもしれない。



式「―――今起きた所だよ」

黒桐「そう……」

序盤は割りと綺麗に纏まりそうだったのに何故長引くとgdgdしちゃうのか


式「……」ファーァ…

幹也「……」


式「―――なあ、幹也。おまえ、オレが寝てる内に何かヘンな事、したよな」

黒桐「……」


式「……」

黒桐「うん、まあ少しは……」


式「……えらく素直に話すな」

黒桐「そんな事、黙ってたってすぐにバレるでしょう……」

 ― 幹也のアパート前 ―



(ブオンブオン……)


橙子「……」

鮮花「……」フゥ…


橙子「な、鮮花。やっぱりハーレーで来て正解だったろう」ニヤリ

鮮花「……迂闊でした。橙子さんは、幹也が式の家に居ない事が初めから分かってたんですね? 何故、ですか」


橙子「そりゃあ鮮花、おまえ―――」

鮮花「……?」


橙子「……」フゥー…

橙子「ま、それが人情って奴にしておこう」


鮮花「……良く分かりませんけど」

橙子「おまえだって私と黒桐の行動パターンを読んで見事に罠にはめてくれたじゃないか。あれの似たようなものだと思えば良い」

丸一日以上起きてると頭動かなくなる…



鮮花「……そんなモノ、ですかね」

橙子「そんなモノだよ。さて、それより黒桐の方が先決だぞ」


鮮花「―――幹也の部屋、まだ明かりが付いてる……?」

橙子「ふむ、横槍を突っ込むなら今の内だな。ほれ、急ぐぞ」






(カンカンカンカン)


鮮花「―――――」ハッハッハッハッ…


鮮花(―――幹也。私、あなたに……謝らないと――――)

鮮花(会って、謝って……その後に、色々話したい事があるんです……)

(カンカンカンカン……)



鮮花「―――――」


鮮花(幹也の部屋は―――あそこね!)



鮮花「……!」タッタッタッ


鮮花(あとちょっと……まだ電気がついてる内に、チャイムを鳴らしてしまえば……!)



鮮花「―――よしっ、ギリギリセー―」



(フッ……)←電灯の消える音



鮮花「―――――」

鮮花「―――――」


鮮花(…………え? 嘘、でしょう……?


橙子「……鮮花」

鮮花「橙……子、さん……」


橙子「……鮮花。―――帰ろう、鮮花」

鮮花「そんな―――だって、すぐそこに幹也の家が……」


橙子「ああ……だが我々は一歩遅かったんだよ。黒桐を奪うにしても、横槍を入れるにしても、ね」

鮮花「…………」


橙子「―――今日の所は、黒桐は式に取られたという事だ」

鮮花「目の前で……何も、出来ないで―――」

橙子「今から横槍を入れたってどうにもならん。それは……おまえの嫌いな、みっともない負け犬の行動でしかなくなってしまうぞ」

鮮花「……」


橙子「さあ、帰るぞ鮮花。―――おまえだって、その部屋の前に居る事に無駄に不快な思いをしたくはあるまい」

鮮花「―――――っ……!!」

橙子「―――鮮花っ!!」

鮮花「く……ぅっ……!」



鮮花「―――――このままでは終わらんぞぉッ!!」ダッ

展開全部放り投げてとにかく

 ― 次の日・伽藍の堂 ―



黒桐「ふわぁ……」


橙子「おやおや、職場で大あくびとは……良いご身分じゃないか、ええ? 黒桐」

黒桐「あっ、橙子さん……」


橙子「ふわあぁ……昨日は色々あって、疲れた」

黒桐「……ええ、休日だったのに全然休んだ気がしません……」


橙子「ああ、そうだ。鮮花がおまえに謝りたい事があるって言ってたぞ」

黒桐「……謝りたい事、ですか」

橙子「ああ、あの鮮花がしおれておまえに謝りたい、謝りたいといっていた」

黒桐(鮮花……そこまでして謝られるような事、何かあったかな)


橙子「途中であんまりにも腹が立ったんで一度頬をはたいてやったんだがね。全く、普段元気がある分逆になると倍迷惑というか」

黒桐「はたいたって……あいつ、何かそこまで橙子さんを怒らせるような事をしたんですか?」

橙子「当たり前だ。よっぽどの事が無い限り、私はあんな事せんよ」

幹也「それは、一体……」

橙子「歌」

黒桐「?」

橙子「あいつ、何とか戦士セーラームーンとかいう漫画の主題歌を歌ってたんだ。それが引き金でな」


黒桐「……」

黒桐「橙子さん、セーラームーンお嫌いなんですか?」


橙子「当たり前だ。あの主役の声が何となく気に食わん」

黒桐(そんな理由で怒られたのか鮮花……)

橙子「ま……とにかく今度会ったら一度はちゃんと話を聞いてやれよ」

黒桐「はぁ……」


橙子「あっ、そうだ。君に一つ、伝えておかねばならん事があるんだ」

黒桐「……? えぇ、何ですか……」


橙子「昨日な、鮮花が式が男かもしれないとか色々言っていただろう?」

黒桐「―――――ああ、はい」


橙子「君はその話をやけに注意深く気にしていたようだが……何、単なる軽口だ。あまり深く考えるな」

黒桐「ええ、大丈夫です。気にしていません」


橙子「そうか。いや、それなら良いんだ。それなら今度君と会う時に鮮花も蘇るだろう」

黒桐(……もしかして、鮮花が僕に謝りたい事ってその事なんじゃ……勝手に言って良いのかな?)

黒桐「あっ……」

橙子「どうした、黒桐? 50音発音による健康法か?」

黒桐「違いますよ。……橙子さん、お忘れかもしれませんが……今日は凄く重要な日なんです」

橙子「? 何だっけ?」


黒桐「―――給料日、ですよ」


橙子「……黒桐。金は人を支配すると言うが」

黒桐「その話はもう結構ですっ……」



橙子さんは幸せに給料を着服して終了……


投槍完

さ、さるさん食らってスレ落ちなかったの初めて…
途中からgdgdだったけど保守ありがとうございました、読んでくれてありがとうございました

やっぱり最後まで書き溜める事が大切だと思った(小並感)

20時間以上起きてると文字が書けなくなるんだよなぁ…
らっきょのクロスSS書きたい言ってる割には全然進まないし…エロは書ける様になりたいです

あと未来福音公開決定言いながら全然情報入ってこないのは何でさ

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