伊織「バレンタインの延長戦」(118)

今更バレンタインかよと思われるかもしれませんがw

伊織SSです

2月14日

伊織「ふぅ。やっと仕事終わったわね」


いつもは竜宮小町で仕事をしている私だけど、今日は一人で収録なの。

今度やるっていう連続ドラマの撮影なんだけど、ここんとこ毎日で、正直疲れたわ。


伊織「あら?もうこんな時間なの?急がなきゃ」


気がつけばもう午後6時。もう、今日は特別な日だっていうのに。

あの番組ディレクターのせいで時間がかかってしまったじゃない。

ガチャ、バタン!

伊織「765プロまで急ぐわよ。途中で寄りたいところがあるんだけど」

新堂「承知しております。では、少々急ぎますゆえ、シートベルトを」

伊織「分かってるわよ」


新堂の車に乗って、大急ぎで765プロを目指す。予約していたアレを持って、ね。

新堂「少々お待ち下さい。例のものをお持ちいたします」

伊織「いいわよ。私がとりに行くわ」

新堂「しかし」

伊織「これくらい大丈夫よ。アンタは車に乗ってなさい」

新堂「……かしこまりました」


店に着いたようね。車から降りた私は自動ドアをくぐり、店内へと入る。いい匂いね。


店員「いらっしゃいませー」

伊織「水瀬です。予約していたチョコレートティラミスをお願いするわ」

店員「水瀬様ですね。少々お待ち下さい」


にひひっ。これでアイツも大喜び間違いなしね。

http://i.imgur.com/0nxLo7O.jpg
http://i.imgur.com/Cc7gMAz.jpg

水瀬伊織(15)

新堂「よろしいですかな?」

伊織「ええ。全速力でお願い。ただしケーキが崩れないようにしなさい」

新堂「かしこまりました」


イルミネーションの街道を、新堂の車は駆け抜けて行く。すぐに765プロが見えてきた。

時刻は……午後6時30分。流石に帰ってはいないでしょうけど、事務所にアイツは
いるかしら?


新堂「到着でございます」

伊織「ありがとう。迎えはよこさなくていいわ。律子に送ってもらうから」

新堂「かしこまりました」


車から降りると、新堂の車は安全運転で帰って行った。

トテトテトテ、ガチャリ

伊織「戻ったわよ」

やよい「あ、伊織ちゃん!おかえりなさーい!」

小鳥「お疲れ様。一人大変だったでしょう?」

律子「ごめんなさい。あずささんの撮影でトラブっちゃって、迎えに行けなかったのよ」

あずさ「ごめんなさい~。今度、何か埋め合わせをさせてね」

伊織「いいわよそんなの。それより、アイツはいるの?」

亜美「兄ちゃんなら奥でみんなと話してるYO!」

伊織「ふ、ふーん」


まさかみんないるなんて。ちょっと渡しづらいわね。

春香「今日もお疲れ様です。プロデューサーさん!」

P「春香もお疲れ。今日は調子よかったしな」

響「ホント、最初のころの春香の音外しは凄まじかったさー」

春香「え、えへへ。で、でもほら、最近は努力の甲斐あって、少しずつ、ね?」

P「これからも努力だな」

春香「トホホ……あ、そうだ!プロデューサーさん」

P「ん?」

春香「今日って何の日か知ってますか?」

P「えーと今日は、2月14日……もしかして、チョコレートもらえたりするのか?」

春香「えっへへー。はい、ハッピーバレンタイン!受け取ってください!」

P「お、ホントにくれるのか?嬉しいな」

春香「いつもお世話になってますからねっ」

伊織「…………」


……まあ、春香がチョコレートを作るのくらいは予想できたもの。抜かりはないわ。

美希「ミキも作ってきたの!……ミキと一緒に、もらってほしいな」

P「……チョコだけもらうよ」

美希「一緒じゃないと、や」

律子「…………」ピキッ

美希「り、律子、さん。ジョーダンだからそんな怖い顔しないで欲しいの……」

律子「プロデューサー!いい加減美希を甘やかすのはやめてくださいっ」

P「俺かよ!?」

響「うがー!春香も美希もずるいぞ!自分が先に渡そうと思ったのに!」

P「お?響もチョコレート持って来てくれたのか?」

響「え?あ!い、いやべべべ別に!」

P「そ、そうか。違うのか」

響「あ!いや、そうじゃなくて……ああもう!完全にタイミングを逃しちゃったぞー!」

貴音「響。こういったものはたいみんぐではありません。素直になれば、いつでもその機会はやってくるものです」

貴音「ということで、あ、貴方様……」

P「ん?どうかしたか?」

貴音「は、初めてちょこれーとなるものを、その……つ、作ってみたのですが、ど、どうぞ!」

P「おお!まさか貴音から手作りチョコをもらえるなんて思わなかったな!ありがとう」

貴音「!!」パァアア

響「ああ、貴音まで!……うう、こ、これ!自分も作ったんだぞ!」

P「ありがとう。味わって食べなきゃな」

響「へへーん。貴音と一緒に作ったんだぞ。自分たち、完璧だからな!」

真美「おーい兄ちゃーん!」

亜美「亜美たちも作ったんだよー!」

P「あはは。二人ともありがとう」

真美「んっふっふー。アレをいれたから兄ちゃんノックアウト間違いなしだね!」

亜美「そうそう!きっと心も体もとろけちゃうYO!」

P「な、何をいれたんだお前たち……」

亜美真美「食べてからのお楽しみっしょー!」

P「怖いよ!変なもの入ってたら承知しないぞ!」

伊織「…………っ」


……まさか、亜美真美の二人も?作ったってことは、やっぱり、手作りなの……?

ガチャリ
真「ただいまー!」

雪歩「ただいま戻りましたぁ」

小鳥「二人ともおかえりなさい。寒かったでしょ?」

真「えへへ。確かに寒かったですけど、ふたりで帰りに肉まん買って食べてきたんです」

雪歩「美味しかったね、真ちゃん」

真「あのお店の肉まん美味しいんだよね!……あ、プロデューサー!」

P「おお、真、雪歩。お疲れ」

真「はい、これ!」

P「お?あっはは。今日はいっぱいチョコレートもらってるなぁ」

真「ちぇー、やっぱみんな先に渡してたか。まあ、なんてったってバレンタインですから!こっちのピンクの箱がボクので、白い箱が雪歩のですよ」

雪歩「自分で作ったりしたの初めてで……きっとおいしくないと思いますけど、受け取ってもらえますか?」

P「もちろんだよ。あとでじっくり食べる……ん? 春香たちはそっちで何やってるんだ?」

春香「ほら、千早ちゃん。せっかく作ったんだから」

千早「だ、だけど……」

やよい「千早さんのチョコ、とっても上手でしたよ!」

千早「高槻さん……ありがとう!」

やよい「えへへ。実は、春香さんと美希さんに作り方教えてもらって、千早さんと作ったんです」

やよい「とーっても楽しかったんですよー!」

美希「やよいと千早さんのチョコレート作りをプロデュースなの!我ながらカワイくできたって思うな」

P「美希監修ならハズレはないな」

春香「ほら、千早ちゃん!」

千早「きゃっ、お、押さないでよ春香。わかったから……」

千早「いつもありがとうございます。これ、どうぞ」

やよい「受け取ってください!」

P「ありがとな」

やよい「えへっ。あ、これ、かすみからです!」

P「かすみちゃんからも?あはは、こりゃ今度お礼言わないとな」

小鳥「プロデューサーさーん」

P「なんです?小鳥さん」

小鳥「バレンタインなんてガラじゃないかも知れないですけど……どうぞ」

P「おお、ありがとうございます。2個ですか?」

小鳥「こっちは律子さんのです」

律子「!?!?!?」

律子「ちょ、ちょっとおおお!!!チョコが見当たらないと思ったら!何してるんですか小鳥さん!」

小鳥「だってこうでもしないと絶対律子さん渡さないじゃないですか」

律子「もう!」

あずさ「あのー、私も作ってみました~。どうぞ」

P「あずささんも?わあ、嬉しいな。ありがとうございます!」

あずさ「小鳥さんのお家で3人でつくったんです~」

小鳥「家にあったレシピ本で作ったつまらないものですけど、レシピどおりですから美味しいはずですよね!」

P「構いませんよそんなの。律子もありがとな!」

律子「も、ってなんですか!……もう」


伊織「…………」

伊織「なによ……っ」


私以外……みんな手作りだって言うの?……律子も?亜美も?あずさも?

なによ…………そんなの……。

私だけ……こんなの……っ。

P「あ、そういえば伊織も、もしかしてチョコくれたりする?」

伊織「!」

やよい「わーっ、伊織ちゃんも作ってきたんですかー?」

美希「デコちゃんのデザイン、すっごく気になるの!」

伊織「う、うるさいわね!調子に乗り過ぎよ!誰があんたなんかにチョコなんか!」

P「えっ……そ、そか、ごめん」

伊織「……っ!」ダッ!

P「え?ちょ、待て伊織!」

やよい「伊織ちゃん!」

P「どうしたんだ伊織のやつ」

やよい「私、見てきます!」

P「けど……」

やよい「任せてくれませんか?プロデューサー」

美希「ミキも、やよいに任せた方がいいって思うな」

P「……わかった。じゃあ、頼むぞ、やよい」

やよい「はい!」

気がつけば、事務所の階段を駆け下りていた。なんでかしらね、涙が止まらなかった。

裏口の扉を乱暴に開けて、外に出る。まだ外は息が白くなるくらいに寒かった。

味だけは折り紙つきのはずなのに……。絶対喜んでくれるって確信があったのに。

渡せなかった。私が一番好きなお店で買ったチョコレートティラミスなのに……。



伊織「はぁ……はぁ……」

伊織「なによそれっ!……みんなしてずるいじゃない……!」

伊織「私だって……今日は楽しみだったんだから!」

ついに涙が零れた。火がついたように私は泣きだしてしまった。裏口の前だから人はいないけれど……誰かが降りてきたら見つかっちゃうわね。


伊織「……こんなもの……っ!」

やよい「伊織ちゃん!」

伊織「!!」

目の前にあった鉄製のくずかごに、ティラミスを箱ごと投げつけようとした時、後ろでやよいの声が聞こえた。その一瞬で、投げ入れるのを躊躇してしまった。


やよい「伊織ちゃん!」

伊織「……なによ」

やよい「それ……プロデューサーにあげるんじゃ……」

伊織「……食べたいならやよいにあげるわ。中身はぐちゃぐちゃだけど、まだ食べられると思うから」

やよい「どうして?どうして捨てようなんてするの?」

伊織「……こんな……こんなの!渡せるわけないじゃない!」

伊織「他のみんなは全部手作りで!あのあずさや亜美だって自分で作ったりしてるのに!」

伊織「こんな出来あいの……ケーキなんかで……」

やよい「伊織ちゃん……」

伊織「……フフ、私ったら何やってるのかしら……。こんなくだらないことで」

やよい「…………」

伊織「あーあ。もうバレンタイン終わっちゃうわね。帰ってシャワーでも浴びようかしら」

やよい「…………」

伊織「じゃあね。みんなには心配しないでって言っておいてね」

やよい「くだらなくなんかない!」

支援

伊織「……えっ?」

やよい「伊織ちゃんはプロデューサーにチョコを渡したかったんじゃないの?」

伊織「もういいのよ。別に渡したかったわけじゃないわ」

やよい「だったら……だったら!」




やよい「何で泣いてるの!?」

伊織「!!……っ」

やよい「哀しいから?悔しいから?どっちにしたって、何も無いのに泣いたりなんかしないよ?」

伊織「それは……」

やよい「……ちゃんと、渡そう?」

伊織「でも……っ!」

やよい「伊織ちゃん……一緒にチョコレート、作ろう?」

伊織「やよい……でももう、バレンタインは今日なのよ?」

やよい「いつなんて関係ないよ。チョコレートをわたすことが、一番重要だから」


やよい。もう、どうしてアンタはいつもそうなのよ……。

こんなときばっかり意地張って……ううん、違うわね。意地を張ってたのは私の方。

いつも素直になれないのは、私の方よね。

美希「ミキも手伝うの!」

伊織「えっ?」

美希「デコちゃんお料理とかしてなさそうだし、一から教えてあげるの!」

美希「ミキのライバルになっちゃうけどね。あはっ☆」

貴音「やよいの言うとおりですよ?大事なのはたいみんぐではありません。素直になることです」

春香「プロデューサーさんには内緒にしておくから。明日から特訓始めようよ!」

伊織「……あんたたち……」


あーもう。また涙が出てきちゃったじゃない……。

でも、なんかスッキリしたわ。そうね、たまには力を借りて見ようかしら。

■翌日
春香宅

春香「いらっしゃーい」

伊織「まったく、なんでわざわざ一番遠いアンタの家でやるのよ」

美希「春香の家にはお菓子を作るあれやこれやが一通りそろってるの」

やよい「春香さんの家のキッチンはいつもいい匂いがします!」

春香「えへへ。じゃあ早速始めようよ!」



美希「デコちゃんはどんなチョコレートを作るの?」

伊織「デコちゃんゆーな!」

やよい「昨日はケーキを渡そうとしてたんでしょ?だったら、ケーキを作った方がいいんじゃないかなーって」

伊織「そうね。チョコレートティラミスにしようかしら」

美希「うーん……でも、いきなりティラミスは難しいって思うな」

美希「材料はあるの?」

春香「そうだなぁ……ココアパウダーは余ってるけど……」

春香「ティラミスだったら、マスカルポーネがないとダメかな」

やよい「あのー、ますかるぽーねってなんですか?」

美希「クリームチーズのことなの。ティラミスには欠かせないって思うな」

伊織「わかったわ。じゃあ今すぐ新堂に――」

春香「まあ待って。みんなで買いに行こうよ」

伊織「えーなんでよ。わざわざそんなこと」

春香「こういうのは買い物から始めるのが一番なんだ。自分にあった材料を選ばなくちゃ」

美希「そうそう。それに、行った先で見つける材料も沢山あるの!」

やよい「みんなで買い物って楽しいですよねー!一人一個までのタイムセールでいーっぱい買えちゃいますー!」

美希「今回はそんな買い物はしないって思うな……」

春香「まあ、そう言うこと。一緒に行こう?」

伊織「わかったわ。そこまで言うなら仕方ないわね」

■近所のスーパー

やよい「わーっ!もやしが……もやしが一袋7円で売ってます!どうしましょう!?」

春香「あ、あはは……。やよいが買いたいなら買ってもいいけど、今日はお菓子を作ろう?」

やよい「はわっ!そうでしたー!……今日は諦めます」

伊織「新堂に頼んであとでやよいの家に送るわ」

やよい「ほ、ホント!?助かりますー!」キラキラ

美希「えーっと……あ、マスカルポーネ見つけたの」

伊織「こんな安っぽいのでいいの?」

春香「スーパーだからあんまり高級なのはないけど、これがあれば十分だよ」

春香「あとはチョコレートと生クリームと……」ブツブツ

伊織「へえ。スーパーって何でもあるのね」

■再び春香宅

美希「レッツクッキングなのー!」

やよい「おー!」

伊織「まずはどうするの?」

春香「チョコレートを包丁で刻むんだよ。こうやって」トントン

伊織「お、おっと……っ」カタン、カタン

美希「うああ、デコちゃん危なっかしいの……」

伊織「デコちゃんゆーな!……いっ!?」

春香「あちゃー、切っちゃったか……ばんそうこうとってくるから待っててね」

春香「あ、そうだ。美希とやよいでマスカルポーネとそこの材料を混ぜといてね」

美希「了解なの」

やよい「任せてくださーい!」

春香「これでよしっと」

伊織「案外固いのね。スパッと切れるもんだと思ってたわ」

美希「スパッと切れたのはデコちゃんの指なの」

伊織「アンタのせいよ!デコちゃんゆーな!」

春香「まあまあ、作業進めようよ」

春香「これを混ぜて、チョコレートをとろとろになるまで溶かすの」

ティラミスの作り方をわざわざ調べたのか

>>60
いえ、特にそう言うわけでもありませんw調理は割愛します

■しばらくして

美希「完成なのー!」

やよい「うっうー!とっても美味しそうです!お店で売ってそうかも!」

春香「初めてにしては上出来じゃないかな。私もティラミスってあんまり作ったことなくて」

伊織「じゃ、じゃあ、食べてみるわよ」

やよい「いっただっきまーす!」

美希「うん。美味しいの」

伊織「なんだかちょっと味薄いわね……」

春香「ちょっと生クリームが少ないかな……まあ、今からいろいろ改善していけばもんだいないんじゃないかな」

伊織「あんまり時間はかけられないわ。4日……いえ、3日で仕上げるわ!」

伊織「もっと材料を買ってくるわよ!」

春香「ええっ!?……お、お金の方が……」

伊織「私が全部出せばいいでしょ。ほら、行くわよ!」

こうして数日間、伊織の特訓は続いた。


美希「デコちゃん!焦げてるの!」

伊織「デコちゃんゆーな!えーっと……もう、どうすりゃいいのよ!」




やよい「はわっ!伊織ちゃん!それはそっちに入れちゃだめだよ!」

伊織「ええっ!?そうなの!?」




春香「あわわ!そんなにココアかけたら粉っぽくなっちゃうよ!」

伊織「これくらいの方が……うっ……苦い」

5日後  2月19日
■765プロ


美希「3日どころか結局5日くらいかかっちゃったの……」

春香「でも、とっても美味しいティラミスが出来たよ!」

やよい「伊織ちゃん……がんばって!」

伊織「わ、分かってるわよ。あとは……アイツに渡すだけよね……」

春香「確か、もう少ししたらプロデューサーさんが外回りから帰ってくるはずだよ」

美希「ミキたちはお仕事に出かけるけど、あとはデコちゃん次第なの」

伊織「そ、そうね……」

美希(デコちゃん緊張しすぎてツッコむの忘れてるの……)

やよい「それじゃ伊織ちゃん、いってきまーす!」ガルーン

春香「ファイト!」

美希「行ってきますなのー!」バタン

伊織「…………」



ここで頑張らなきゃ。何緊張してんのよ私ったら。

……でも、心臓が飛び出そうなくらいね。アイツがすぐさま帰ってきたらと思うと……!



P「ただいまー」

伊織「ひゃあ!?」

P「おおう!? どうした……伊織か?」

伊織「いきなり入ってくんじゃないわよこのバカ!」

P「い、いや……ごめん。何かマズかったか?」

伊織「べ、別に……」


そういえばアイツと顔を合わせるのは5日ぶりね。飛び出したっきり顔を見なかったから……。

P「何してたんだ?」

伊織「何もしてないわよ。くつろいでただけ」

P「そ、そうか……」

伊織「そうよ」



完全に渡せる空気じゃなくなっちゃったわね……。どうしようかしら……。

P「…………」カタカタ

伊織「…………」チラッ

P「…………」カタタタッターン

伊織「…………」チラッ

P「なあ伊織」

伊織「な、なによ」

P「他のみんなはいないのか?」

伊織「さっき仕事に行ったわよ」

P「そっか……」

伊織「…………」

P「なあ伊織」

伊織「今度は何よ」

P「さっきから俺の方ばっか見てないか?」

伊織「な!ななななにを! そんなわけないでしょ!」

P「そ、そか」

伊織「…………」

P「…………」カタカタ

伊織「…………」チラッ


あ、またデスクワーク始めてる……。会話、途切れちゃったわね……。

伊織「…………」

P「…………」カタカタ

伊織「……あ、あの……」ボソ

P「ああっ!!」ガタッ

伊織「!?」ビクゥ

P「書類を仕事先に忘れてきてる!」

伊織「もう!脅かすんじゃないわよ」

P「ああ、悪い……。ちょっと取りに行ってくるから、留守番頼むな」

伊織「え、ちょ、ちょっと」

P「すぐ戻ってくる!」ガチャ、バタン

伊織「…………」


何でこんな時にそんな用事思い出すのよ……。バカなんだから。

でも、内心ちょっとホッとするわね。先週はそんなに緊張しなかったのに、なんでいざ渡そうとなるとこうも言いづらいのかしら。

……戻ってくるまでヒマね。

■1時間後

伊織「……あーもう、遅いわね!」イライラ

ガチャリ

伊織「!」

真「たっだいまー!……あれ、伊織だけ?」

伊織「……ええ。他は誰もいないわ」

真「な、なんでそんな残念そうな顔するのさ」

伊織「別に。何でもないわよ」

真「むーっ。……まあ、いいけど」

伊織「アンタはもう仕事終わったの?」

真「うん。いやーやっぱりスポーツ番組のロケは楽しいのなんのって。……あ、でも、僕のイメージがその方向で固まるのはやっぱりまずいよなぁ……ブツブツ」

伊織「……はぁ」

■更に1時間後

伊織「もう、なんで来ないのよ!」

雪歩「い、伊織ちゃん?どうかしたの?」

伊織「どうしたもこうしたもないわよ!遅すぎるって言ってんの!」

雪歩「お、落ちついて伊織ちゃん!何があったの?」

伊織「なんで用事で出てったきり戻らないのよ。この伊織ちゃんを待たせるなんて何考えてんのよプロデューサーは!」

雪歩「ぷ、プロデューサーを待ってるの?」

伊織「そうよ。もう2時間もたってるのに!」

ガチャリ

伊織「!」

小鳥「ただいまー」

伊織「ぬああああああ!」

小鳥「!?」

雪歩「お、落ちつこうよ。ね?お茶淹れてくるから!」

小鳥「な、なんか私帰ってきちゃいけなかったのかしら?」

■更に更に1時間後

雪歩「そ、それじゃ、私はこれで」

小鳥「お疲れ様。そろそろ外が暗くなってきたから、気をつけてね」

雪歩「はいですぅ。……またね、伊織ちゃん」

伊織「…………」イライラ

雪歩「あ、あはは……」

バタン

伊織「あーもう我慢ならない!電話してやるわ!」ピポパ

『おかけになった番号は現在、電波の届かないところにあるか、電源が入っておりません』

伊織「…………」

伊織「……どこまで行ってるのよアイツ」ピッ

小鳥「どうかしたの?」

伊織「つながらないのよ。電波の届かないとこまで行くならそう言えばいいのに」

小鳥「プロデューサーさん、そんな遠いところまで行ってたかしら?」

伊織「どういうことよ?」

小鳥「今日行った仕事先は隣町だから、車ならものの30分で往復できるはずだけど……」

伊織「えっ?30分?」

伊織「アイツもう3時間以上も出てったきりよ?」

小鳥「そんなはずはないと思うんだけどな……」

伊織「…………」


まさか……アイツの身に何か……?

……まさか、そんなわけないわよね……。きっと、渋滞か何かに巻き込まれて……。


小鳥「電話にも出ないのはおかしいわね……ダメだ、私のもつながらない」

伊織「……大丈夫よ。そんなわけ……そんなわけ、ないんだから」

■更に更に更に1時間後

伊織「何でよ……何してんのよ……もう4時間じゃない」

小鳥「きっと大丈夫よ。すぐに帰ってくるわ」

伊織「『すぐ戻ってくる』って言ってもう4時間以上も帰ってこないのよ!?」

小鳥「…………」

伊織「プロデューサーに何かあったら……」


外はもう真っ暗。周りのビルにも灯りがつき始めている。

゙チャリ

伊織「きた……?」

春香「ただいまー」

やよい「ただいまですー」

美希「ただいまなのー!」

伊織「…………」

小鳥「みんなおかえりなさい……お茶入れるわね」

春香「ありがとうございます。あ、伊織!」

伊織「…………」

美希「ちゃんと渡せた?」

伊織「…………」クビフリ

春香「え?まだ渡してないの?」

やよい「そういえば、プロデューサーはどこでしょう?」

伊織「戻ってこないのよ……」

春香「え?」

伊織「どれだけ待っても……戻ってこないの……」

美希「そ、そんなはずないの」

伊織「確かに一度帰ってきたわ。でも……渡す間もなく仕事先に忘れ物を取りに行って……」

伊織「電話もつながらないの……」

やよい「ええっ?そんなはず……」

春香「き、きっと何かの間違いだよ」

美希「そ、そうそう。もうすぐ帰ってくるの!」

伊織「…………」

■そしてその2時間後

小鳥「もう夜の9時になっちゃったわね……どうしたんだろう」

春香「どうしよう……電車に間に合わないよ」

春香「でももしほんとにプロデューサーさんが帰ってこなかったらと思うと帰れないし……」

美希「縁起でもないこと言わないで欲しいの!」

春香「あ……ご、ごめん」

やよい「うぅ……プロデューサー……」

伊織「…………」

早く帰ってきなさいよ……。帰ってこないと許さないんだから……。

また、扉が開いた。


伊織「お願い……!」

響「はいさーい!」

貴音「遅くなってしまいました。ですが今宵の月はまこと、綺麗ですね」

伊織「やっぱり、違うのね……」

響「ん?どうしたんだみんな。元気ないぞー?」

春香「ぷ、プロデューサーさんが……」

美希「やめるの!きっと大丈夫なの!」

春香「でも……っ!」

小鳥「…………プロデューサーさんがまだ戻っていなくて」

伊織「…………」

響「プロデューサーがどうかしたのか?」

貴音「はて?何かあったのですか?」

響「あーそういえば、ちょっと苦しそうだったかもしれないさー」

伊織「!どういうことよ!何か知ってるの!?」

響「えっ?ど、どうしたんだ?」

美希「苦しそうだって、どういうことなの!?」

春香「もしかして、ほんとに事故に……?」

うそ……嘘よ……。そんな、アイツが事故にあったなんて!

だって、すぐに帰るって言ったんだもの!


響「事故?何言ってるか分からないぞ?」

貴音「確かに苦しそうですが……少々食べすぎたのかもしれませんね」

やよい「へっ?……食べすぎ……ですか?」

ガチャリ

P「ただいまー……」

やよい「あ!」

伊織「ああっ!」

春香「プロデューサさんが……!」

美希「帰ってきたの!」

小鳥「はぁ~よかった。どうなるかと思いましたよ……心配させないでください」

P「みんなまだいたのか……春香、早く帰らないと終電終わるぞ?」

春香「えへへっ。分かってますよ」

伊織「バカああああああああああああっっっ!!!」

P「え?」

伊織「このバカ!今の今までどこで何やってたのよ!」

伊織「何が『すぐ帰ってくる』よ!どんだけ待ったと思ってんの!?」

伊織「真が帰っても、雪歩が帰っても帰ってこないんだから!」

伊織「一体どんだけ心配したか分かってんの!?」

P「あ、ああ。すまん。車が途中でエンスト起こしてさ。どうやら故障したらしくて、ちょっと修理というか応急処置をしてもらってたんだ」

P「連絡しようって思ったんだけど、ケータイの充電が切れててね……」

P「で、修理が終わったら帰りに偶然二人と合流して、ラーメン食ってきたんだけど……ちょっと食い過ぎた」

響「だから替え玉はやめた方がいいって言ったんだぞ」

貴音「しかし、まこと、よい食べっぷりを見せて頂きました」

伊織「もう……ホントに……心配したんだから」

春香「さーて、じゃあ、みんな帰るよー」

美希「ハニーとデコちゃんを残すのはシャクだけど、今日だけは仕方ないの」

やよい「響さん、一緒に帰りましょー!」

響「うん、いいぞ!……でも、なんで伊織は置いてくんだ?」

春香「いいからいいから。早く、小鳥さんも帰りますよ」

小鳥「ピヨッ?わ、私も?」

バタン

P「え?なんだなんだ?」

伊織「ねえ」

P「お?なんだ伊織」

伊織「……今更だけど、チョコ欲しかったりするの?」

P「え?チョコ?……もしかして、バレンタインの……」

伊織「……別にアンタの為なんかじゃないんだから……。こ、これは、たまたま美味しく出来たから持ってきただけよ」

伊織「……食べるの?」

P「……もらっていいのか?」

伊織「あーもう!バカ!食べるのって聞いてんだから分かりなさいよ!」

伊織「……それとも、やっぱり」

P「いや、もちろんもらうさ。どこにあるんだ?」

伊織「そう……」


食べてくれるんだ。

私は給湯室の冷蔵庫を開けて、一つの箱を取り出した。春香に包み方を教えてもらって、なんとか包んだ一品ね。

伊織「あの時は……その。悪かったわ」

P「俺の方こそ、ごめんな」

伊織「何であんたが謝るのよ」

P「俺が軽々しく、チョコくれるのかって聞いたりしたから……」

伊織「それは違うわ。あの時は……渡したくなかっただけ」

P「え?じゃ、何で今日は……」

伊織「いちいちそんなの気にするんじゃないわよ。はい、これ」

P「……おお。ティラミスか。自分で作ったのか?」

伊織「ふんっ。私だけ手作りじゃないわけないでしょ?」

P「いま食べてもいいか?」

伊織「さっき食べすぎたんじゃなかったの?」

P「甘いものは別バラだからな」

伊織「……そう」

ホント、いっつも無理するんだから。あとでモドしたりなんかしたら承知しないんだからね。

でも、なんだろう。素直にうれしいわね、こういうの。


伊織「だったら、じっくり味わって食べなさいよね。このスーパーアイドル伊織ちゃんが丹精込めてつくったんだから。にひひっ」


ハッピー・バレンタインの延長戦。まあ悪くないんじゃない?



Fin

はい。ここまでで終了となります。ホントはもうちょっと早く投下する予定だったんですけどねw

ここまで読んで頂いた方、支援して下さった方、そして一度でもここを開いてくださった方に感謝です。

ありがとうございましたー!

おつん

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