李衣菜「ロックとは——戦いだ!」 (12)

・アイドルマスター シンデレラガールズの二次創作です。
・ト書き形式ではなく、一般的な小説形式です。人によっては読みにくいかもしれません。
・約4000字、書き溜め済みです。数レスで終わりますので、さっと投下します。

前置きは以上です。お付き合いいただけると嬉しいです。

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 ロック分が足りない!
 と、私は声を大にして訴えたいわけですよ。
 だいたいプロデューサーは、私がロックなアイドルになりたいって言ったはずなのに、
 かわいい衣装ばっかり持ってくるし。
 お仕事も雑誌のモデルとか、ロックのロの字もないっていうか……
 まあ、こないだやった、新作ヘッドフォンのイメージキャラクターはよかったですけど。
 サンプルで一個もらっちゃいましたし。へへへ。

 ……って、そうじゃなくて。
 とにかく私は不満なんです。もっとロックな感じの、
 こう……カッコイイお仕事がしたいんですよ。
 みりあちゃんと一緒に行った現場も、お揃いの何かふりふりな衣装で撮影だったし。
 いや、別に嫌だったわけじゃないんだけど。あれはあれで、うん、楽しかったんだけど。

 でも違うんだって。私が目指してるのはそこじゃないっていうか、
 内なるロック魂が訴えてるっていうか?
 私の中で、反骨の火種が燻ってる……
 あ、これなかなかカッコイイ感じのフレーズだ。ちょっとメモっとこう。
 その火種を、がーっと燃やしたいんだけど、じゃあどうすればいいのか。
 家でごろごろしながら考えてみたものの、いい答えはそうそう出てこない。
 プロデューサーに相談するってのも、何か癪だし。
 私よりロックななつきちも同じ。
 よくわからないけど妙な意地によって、私は行き詰まってたわけです。

 で、まあ、もやっとしたままだと、色々上手くいかなくなったりするもので。
 その日のダンスレッスンで私は二回躓き、三回振り付けを間違え、
 トレーナーさんにこってり絞られた。これは私が悪いのでしょうがない。
 悩みというには正直ちょっとアホらしい自覚もあったから、相談するなんて選択肢はなし。
 一度頭を冷やすため、隅っこでスポーツドリンクを飲みながら、
 もう一人のレッスン対象を見てた。

 中野有香さん。初対面じゃないけど、あんまり話した記憶がない。
 確か一つ上だから、高校三年生ってことになるんだろうか。
 アイドルになったのはだいたい同時期だけど、目上の人なのに違いはないから、
 有香さんと呼ぶようにしてる。
 元々空手? をやってたみたいで、自己紹介では体力には自信があるって言ってた。
 実際、こうして動きを見てると、疲れた様子が全然ない。私より先に来てたはずなのに。

 トレーナーさんがぱん、と手を叩き、足下にあったレコーダーの再生ボタンを押した。
 今時珍しいカセットテープ式。
 少しだけきゅるきゅるテープを巻く音がしてから、ダンス用の課題曲が流れ始める。

 ——ちゃんと有香さんのダンスを目にするのは、初めてだった。
 ほとんど同期だし、体力はあるけどそこまで私と変わらないかな、
 と思いながら見てたんだけど……そんな甘い考えが、もう綺麗さっぱり打ち砕かれた。

 振り付けの内容は明らかに私より激しいのに、全く苦しそうじゃなくて。
 動きのひとつひとつが、すごく機敏っていうか……びしっとしてて、メリハリがあって。

 途中途中に混ざってるのは、確か空手の……演舞?
 有香さんの発案なのか、それともトレーナーさんが言い出したのか。
 動きの中に、踊るような手や足の振りが自然に入ってて、
 それがまたびっくりするほど似合ってる。

 そして——最後の方、強く吐かれた息と一緒に出した、正拳突き。
 ぱっと飛び散る汗と、邪魔になるだろうからまとめられたポニーテールの髪が浮かんで、
 有香さんの目の前の空気がずばんと押し飛ばされたみたいに見えた。
 たとえばボーカル偏重のなつきちや、機械みたいに正確なのあさんとは違う。
 なんていうか、何度も何度も繰り返して身につけた、そういう重み、みたいなのを感じた。

 曲が終わって、さすがに疲れたのか、ふぅー、と長い息を吐く有香さんに、私はダッシュで近寄った。
 これだ、と思った。
 そう、これこそ——ロック!

「有香さん、トレーナーさん! 今の、私にも教えてください!」

 何言い出してるんだろうこの子、みたいな視線には、気づかなかったことにして。
 私は、有香さんの中にロックを見たんだから。
 そうしたらもう、そこに向かって走るしかないじゃん!

 ……とまあ、息巻いたはいいものの。
 有香さん基準のレッスンは、想像を絶するハードさだった。
 まず基礎から違う。トレーニングだけでノルマが私の二倍以上なんですけど。
 振り付けも勿論全然違う。元々ダンスだけで、ボーカル付きを想定してないらしく、
 声を出しながら踊る必要がないからこれだけきつい動きになってるとか。
 そりゃ前提から別物なわけですよ。
 試しに受けたレッスンで、一日のうちに何回「ひぇー……」って言ったかわかんない。

 トレーナーさんが終了を宣言する頃には、
 私はちょっとすぐに立ち上がれないくらいボロボロだった。
 有香さんはまだまだ余裕そう。
 部屋中に響く声で「押忍! ありがとうございました!」ってどんだけ体力おばけなんですか。

 三日坊主なんてよく言うけれど、私は二日で根を上げかけた。
 幸い筋肉痛で一日動けないような事態にはならなかったものの、
 またあれやるのかー……と思うと、心がぽっきり折れそうになるのも仕方ないっていうか。

 思えば私に、長続きした趣味はほとんどなかった。
 音楽を聴くのは勿論大好きだけど、ジャンルも元はかなりバラバラで、
 ロックと名のつくものを聴き始めたのは割と最近。
 カッコイイ気分に浸れれば、正直それで満足だった。
 ヘッドフォンを着けて、プレイヤーの再生ボタンを押す。
 一人で、いつでもできる、簡単なこと。

 でも、それだけでよしとしなくなったのはいつからだろう?
 私もそうなりたい。
 ギターやベースを弾いて、聴いてもよくわからない英語の歌詞で歌って叫んで、
 びっしょり汗掻いて髪や服を翻して、
 イェーイ! って腕を高々と振り上げるみたいな。
 そういう姿に、憧れだけじゃない、確かな夢を持ったのは、
 きっとプロデューサーに声を掛けられて、本当になれるかも、って思えたから。

 自分の思い描く“ロックなアイドル”に——。

 初めてギターを買った時、なつきちに弾き方を相談したことがある。
 あれ以来押入れに仕舞いっぱなしで、
 仕方ねえなあって言いつつも丁寧に教えてくれたなつきちには大変申し訳ないんだけど。
 後ろから弦に触れる指を押さえてもらいながら、なつきちはこんなことを言ってた。

「ロックってのはさ、生まれた時から何かと戦ってる、そういう音楽なんだ。
 いろんなものに逆らって、アタシたちはこうなんだって叫ぶのさ。
 そういう奴らほど、一度決めたことは最後までやり通す。
 自分を曲げねえことも、ロックだろ?」

 最後の方はどこかで聞いたようなフレーズだったけど、
 何となくその言葉が印象深くて、ずっと覚えてる。
 いろんなものに逆らって、戦うこと。
 つまり——自分との戦いも、ロックなんだ。

 そうとわかれば、私は曲がるわけにいかなかった。
 ロックなアイドルが、こんなところで折れたら笑いものですよ。
 カッコよくなりたいなら、これくらい気合で乗り越えなきゃ!

 もらった振り付け表を、仕事の細かい合間や寝る前にも見るようにした。
 頭の中で反復して、動ける時には動いて、身体に馴染ませる。
 課題曲は暇さえあればリピートし続けた。
 通しの動きと照らし合わせて、音と動作のポイントを耳に刻み込んだ。

 日に日に、動きがよくなっていくのがわかった。
 トレーナーさんの驚いた顔も、推進力になった。

 そうして一週間後。
 有香さんとの合わせの日。
 お互いジャージ姿で横並びになり、トレーナーさんの合図を待つ。
 行きますよ、の声と同時に、あのテープが巻かれる音。

 私の身体は、初めから全部知ってたかのように動き出した。
 頭は不思議なほど透き通ってて。何も考えなくてよかった。
 こんな感覚、今まで経験したこともなかった。

 ステップ、ステップ、ターン。
 身を回す動きの中で、蹴り上げた足が弧を描く。
 有香さんのことさえも、私には見えなかった。
 ひたすら自分の内側に沈み込むような、そういう感じがあった。
 止まって、動き、動き、止まって——メリハリが必要な場面でも、
 私の手足はブレずにいてくれた。
 片膝を付き、跳ねるように立ち、ステップ、ストップ、
 息を吸って、右手を握り、足をしっかり地面につけ、腰を捻り、前へ、押し出す!

 ぴりっとした肩の痛みも、今は気にならない。
 一週間分の重みと共に、拳が空気を裂くのが、それこそ手に取るようにわかった。
 勿論、有香さんには及ばないけど——気持ちいい。

 ラスト、ターンしてポーズ。呼吸を忘れた一瞬が、その時ばかりは途方もなく長く感じた。
 曲が終わり、テープが巻き戻る。
 荒い息で、私は余韻を味わった。

 できた——できた!

 隣の有香さんを見る。きらきら光る汗もそのままに、お疲れ様です、って声を掛けてくれた。
 途端に全身の力が抜け、背中から後ろに倒れ込む。
 固い床は冷たくて、それが心地良かった。

「……李衣菜さん、すごかったですよ。
 正直、絶対途中で無理だって言うと思ってたんですけど」
「し、失礼な……、はぁ、はぁ……」
「李衣菜ちゃん、立てます? 手、貸しますよ」
「ありがとう、ございます、有香さん」

 さすがというか、やっぱり余裕のある有香さんの手を取って、
 ゆっくり立ち上がる。あ、足まだぷるぷるしてる……。

「さっきの、私、ロックな感じでしたかね……?」
「ロックかどうかはわからないですけど、ちゃんとカッコよかったですよ!
 私も気合入りました!」
「そっか……有香さん、ちょっと両手、挙げてくれます?」
「こうですか?」
「はい、たっち! いぇーい!」

 ぱぁん! と両手同士がぶつかって、乾いた音を響かせる。
 ロックなアイドル、リーナ——目標達成だ。
 届かなくても、近づけた。カッコよくなれた。
 何より、めげそうな自分に勝てた。
 なら、今はそれで充分だと思おう。

「ところで李衣菜さん、次のお仕事の振り付けはもう覚えました?」
「…………あっ」

 ロックとは——振り向かないことさ! ごめん嘘です。
 何とかロック分は補充できたけど、心が折れそうです……。

以上になります。
最近だりーながちょろかわいいとかにわかわいいとかばかり言われているので、
真面目なだりーなも有りなんじゃないの、というのを提案したくて書きました。嘘です。
確かににわかですけど、頑張る時は頑張れる子じゃないかと思ってます。
あと押忍にゃんあんまり喋らせられなくてごめんね。

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