女騎士「魔王、貴様を倒す!」 (88)

魔王「フハハハハ、よく来……えっ」

女騎士「ん?」

魔王「いや無理無理無理」

女騎士「えっ」

魔王「俺、魔王じゃん?」

女騎士「うん」

魔王「君、女騎士じゃん?」

女騎士「うん」

魔王「勇者じゃないじゃん」

女騎士「うん? ……まあ、確かに」

女騎士「し、しかし、そんなことは関係ないだろう! 私はこれまでの人生全てを鍛練と魔物の討伐に費やしてきたのだ。ただの人間と侮ってもらっては困る!」

魔王「いやいや、そういうことじゃなくて」

女騎士「ではどういうことなのだ……」

魔王「まあ、見て貰ったほうが早いな……どこでも良いから斬ってみ?」

女騎士「貴様……何を企んでいる! 私は騙されんぞ!」

魔王「うん、そういうのいいから」

女騎士「あっ、はい。ごめんなさい……」

魔王「ほら、首でもどこでも」

女騎士「では失礼して……せやああッ!!」

魔王「いってて……ほら、どうよ?」

女騎士「どうって、傷がついて……はっ!? 傷が……一瞬で治っている!?」

魔王「そういうことだ。残念ながら勇者でなければ俺を倒すことはできんのだ」

女騎士「……本当にか?」

魔王「本当本当。なんならもう一回やってみるか?」

女騎士「……いや、いい。結構痛そうだったし」

魔王「うむ、まあ確かに結構……というか超痛かった。お前が勇者じゃないのが不思議なレベルで」

魔王「いやー、変だと思った。この間勇者撃退したばかりなのに、どうしてまた来てるのかと」

女騎士「私はこれから一体どうすればいいのだ……」

魔王「素直に帰ればどうだ? 故郷はあるんだろう」

女騎士「この城へ向かう前、家族に『次に会うことがあれば、魔王討伐に成功したと思ってくれ』と伝えている……戻ってこなければ死んだと思ってくれ、とも」

魔王「それは帰りにくいな……」

女騎士「ああ……」

魔王「だが、ほら、家族なんだ。事情を話せばわかってくれるだろう」

女騎士「嫌だ」

魔王「何故だ?」

女騎士「恥ずかしい……」

魔王「……」

魔王「そもそも、どうして俺の討伐などに人生の全てを賭けてしまったんだ」

女騎士「子供のころ、父上が『お前には剣の才能がある。お前ならばきっと魔王をも討てよう』と褒めてくれたんだ……私の鍛練をしてくれたのも父上だ」

魔王「ああ……大人の無責任な発言というやつだな」

女騎士「どうして……どうしてこんなことに……っ!」

魔王「う、うむ……まあ気を落とすな。お前もまだ若いし、剣など捨てて普通の町娘として生きることもできるだろう」

女騎士「普通の町娘だと? 見ろ、傷だらけになったこの身体を! 色気はなく、愛想もなく、剣の才能以外に何もない私に、どう普通に生きろと言うのだ!」

魔王「あ、ああ。とりあえず、肌を隠してくれ。目のやり場に困る……」

女騎士「っ……すまない。醜いものを見せてしまった……」

女騎士「はあ……」

魔王「……俺はそんなことも無いと思うぞ。女騎士よ」

女騎士「傷の話か? 同情などいらんぞ。……ふん、敵に同情されるとはな。なかなか屈辱なものだ」

魔王「同情などではない。お前の負った傷は、これまでお前が生きてきた人生の軌跡だ。それを醜いと呼ぶのは、自分の人生が醜いものだと言っているようなものだろう」

女騎士「違う、私は真っ直ぐに生きてきた!」

魔王「そう思うのであれば、その傷が醜いものなどと言うな。それにな、女騎士……」

女騎士「な、なんだ……」

魔王「俺はお前に色気がないなどとは思えんぞ?」

女騎士「っ……」

女騎士「つまらん世辞など……っ!」

魔王「世辞などではない。お前であれば故郷に帰っても幸せに生きていられるだろう。良い男を見つけ、子供を産み、育て、老いていく……そんな生き方も悪くは無いと思わないか」

女騎士「しかし……やはり駄目だ。自分で言ったことも守れず、おめおめと家族の元へ戻るわけにはいかない」

魔王「強情な奴だ……。では、こうするのはどうだ? お前は俺を封印したことにして、俺は百年ほどじっとしている。それならば何とか面目は保たれるだろう」

女騎士「それはそうだろうが、それは家族を騙すということだろう。それに、私の都合でそなたを百年もの間しばりつけることになる」

魔王「お前にとって俺は敵だろう。どうしてお前が俺の心配をする」

女騎士「それはお互い様……いや、そなたにとって私は敵未満というわけだな。そこら辺のアリと同じような存在でしかない、か」

魔王「いや、そこまでは言わないが」

魔王「ふむ……では、良い案を考えたぞ。家族を騙すことなく、お前の面目を保つ方法だ」

女騎士「ほ、本当か! 是非教えてくれ!」

魔王「……いや、これにはお前の協力が必要不可欠だ。忘れてくれ。他の方法が何かあるはずだ」

女騎士「私の都合なのだ、協力して当たり前だろう! 頼む、教えてくれ」

魔王「落ち着け。俺がどうかしていたんだ、忘れてくれ。お前も選ぶ権利があるものな……うむ」

女騎士「意地が悪いぞ、魔王。手段を考え付いたのなら言ってくれてもいいだろう。確かに最終的に手段を選ぶのは私だが、そもそも内容を言って貰えなければ選択肢にもならん!」

魔王「選ぶ、というのはそういう意味ではないんだが……仕方ない。言うから驚かずに……いや、怒らずに聞いてくれ」

女騎士「怒るなんてとんでもない。むしろありがたい限りだ!」

魔王「……女騎士よ、俺と結婚しないか?」

女騎士「……」

魔王「ん? どうした、女騎士。おーい」

女騎士「……」

魔王「反応がない……それもそうか。女騎士は人間で、俺は魔王だ。思考停止するほど嫌であっても仕方があるまい。しまったな、魔王一生の不覚かもしれん……」

女騎士「……はっ!? すまない、思考が完全に止まっていた!」

魔王「うむ、知っている。また別の方法を考えよう」

女騎士「い、いや、ど、どどどどうして私が魔王と結婚することが、現状を打開する手段なのだ!?」

魔王「ああ、まだその話なのか。頼むから忘れてくれ、俺も後悔している」

女騎士「後悔……そうだな。私などと結婚など……」

魔王「……魔王は人間に惚れ、その人間を娶ることの代償として世界の平和を約束する。そんなシナリオだ。どうだ、聞いただけでも鳥肌が立つだろう」

女騎士「……結局は同情だろう。家族に嘘をつくことに変わりは無い」

魔王「同情ではないし、嘘でもない!」

女騎士「っ!?」

魔王「女騎士、お前は俺を倒すということだけにこれまでの人生全てを捧げてきた」

女騎士「……ああ。物心がつき、父上に褒められたあの日から十数年……私の生きる目標は剣を極め、魔王を倒すことだけだった」

魔王「敵意であっても、ずっとお前は俺のことを想い続けてくれていたんだ。惚れぬわけにはいかんだろう」

女騎士「……!」

魔王「お前は勇者とは違う。天から魔王討伐の運命を背負わされたわけではない。そうでありながら、お前は純粋に俺のことを想っていたのだろう」

女騎士「魔王……」

魔王「と、まあ、ここまで全部言い訳だ。別にそんな大層な理由じゃない」

女騎士「魔王!」

魔王「俺はお前という存在が好きになった。性格も、見た目も、生き方も、俺好みだった。それだけだ……もう一度聞くぞ。俺と結婚しないか?」

―――――――

女騎士「ただいま戻りました」

騎士父「おお、娘よ! 待ち侘びていた……お前が家にいない間、私はずっと祈っていたよ……!」

女騎士「その祈りが届いたのでしょう。五体満足で帰ってくることができました」

騎士弟「ねーちゃ、おかえりなさい!」

女騎士「ああ、ただいま。私が留守の間、利口にしていたか?」

騎士弟「あたりまえだい! ぼくも早くおおきくなって、ねーちゃみたいな騎士になるんだ!」

女騎士「ふふ……ああ、きっとなれるだろうさ」

騎士父「疲れているだろう。そんなところに立っていないで、上がって休みなさい」

女騎士「その前に話があるのですが、母上は?」

騎士父「旅行だとさ。全く、このご時世にあいつらしいよ。いつ魔王の手先に襲われるかわからんだろうに……いや、お前が魔王を倒してくれたから、その心配もないのだな! ハッハッハッハ!」

女騎士「父上、実はそのことについてお話があるのです」

騎士父「話だと? まあとりあえず上がりなさい。それから聞こうじゃないか」

女騎士「……入ってきてくれ」

騎士父「……?」

魔王「初めまして、父上殿」

騎士父「……娘よ、誰だ?」

女騎士「ああ……驚かないで聞いてください。こいつは……」

騎士父「やはり駄目だ! お前から直接聞きたくは無い。魔王討伐の旅をしている間に、この男が言い寄ってきたのだな!? お前もお前だ、こんな男にほいほいと……!」

女騎士「父上、それは違……う? 違う、のか?」

魔王「そこはしっかり否定……いや、ふむ、確かに」

騎士父「やはりそうだったか! ぬぅ、貴様ッ、名を名乗れッ!!」

魔王「それもそうだな。俺は……」

騎士父「いや、前言撤回だ!! 盗人などに名を名乗られては、生涯の恥だ!」

魔王「盗人とはな……」

魔王「とにかく父上殿、落ち着いてもらおう」

騎士父「父上だと!? 貴様に父と呼ばれる筋合いはない!」

魔王「……ふむ、取りつく島もないな」

女騎士「す、すまない……いつもはもう少し冷静なのだが……」

騎士父「とにかく、貴様は帰れ! 我が家に入っていいのは娘だけだ!」

魔王「承知した。今回のところは帰らせていただこう」

女騎士「本当にすまない……」

魔王「なに、予想の範疇だ。久しぶりの我が家だろう。ゆっくりと満喫するといい。ではな」

女騎士「う、うむ」

騎士父「二度と来るなよ! 次その顔を見せたら……斬る!」

女騎士「父上!」

――――――

女騎士「……はぁ」

騎士弟「ねーちゃ。とーちゃ、晩御飯いらないって」

女騎士「そうか。母上は……旅行へ行っているんだったか?しばらくは私が食事を作らねばな……」

騎士弟「やった、ねーちゃが作ってくれるの!? ……あ」

女騎士「どうした?」

騎士弟「ねーちゃ、やっぱりぼくがつくるよ」

女騎士「ん? 私が作る食事、お前も好きだったろう。それにお前が料理などできるのか?」

騎士弟「うん、時々とーちゃといっしょに練習してたんだ。苦いの以外も、作れるときあるよ?」

女騎士「はは……。しかし、別に私も料理の腕は落ちていないから安心していいぞ?」

騎士弟「ううん……だってねーちゃ、まおう倒して、疲れてるでしょ」

女騎士「弟……」

騎士弟「だからぼくがつくるんだ! ねーちゃはやすんでていいよ!」

女騎士「そうか……。では、姉ちゃんと一緒に作ろうか!」

騎士弟「ほんと!? じゃあ、まおうのお城へぼうけんに行ったときのお話をしながらね!」

――――――

魔王「うむ……あの父上殿を説得するには一体どうすれば良いものか……」

魔王「やはり1人で悩んでいても埒が明かんな。おーい、側近! 側近はいるか!」

側近「はっ、ここに」

魔王「おおう、その急にスパッと出てくるの、どうやっているんだ? 魔法か」

側近「東にある島国の暗殺者から習いました。あとは水の上を走ったり、分身などもできますよ」

魔王「ほう、今度教えてくれ。それで、相談なんだが」

側近「はい。何なりと」

魔王「婚約者の父上殿を何とか説得しようと思っているんだが、どうすればいいと思う」

側近「ご結婚なさるので?」

魔王「ああ、そういえばお前はあの時出かけていたんだったな」

側近「ええ、東の島国へ」

魔王「お前、城が攻められているときに限って新しい技を覚えに行っていたのか!?」

側近「いやあ、この間勇者倒しましたし、しばらくは来ないかなあと思って」

側近「それで、説得ですが」

魔王「うむ、どうすればいい」

側近「やはり贈り物がよろしいかと」

魔王「なるほど、贈り物か……しかし、何を贈れば良いものか」

側近「そうですね……魔王様ですし、やはり世界の半分とかでしょうか?」

魔王「む? 魔王であることと関係があるのか」

側近「ええ、やっぱり魔王といえばコレ!と週刊『魔族の生き方』に載っていました」

魔王「ふむ、そんなものがあるのだな。しかし、当地の魔族との兼ね合いもある。俺の一存では少々難しいな」

側近「確かにそうですね……」

魔王「では、金貨はどうだ? 人間は皆、金貨が好きだと聞いたことがある」

側近「贈り物としては悪くはないですが……ご結婚相手のご家族へ贈るにしては、少々生々しいというか、いやらしいですね」

魔王「そういうものか……難しいな」

側近「何か、相手のご家族に関して知っていることとかないんですか? 趣味とか仕事とか」

魔王「そういえば、鍛練をしてくれた、と女騎士……婚約者が言っていたな」

側近「鍛練とは? 武術か何かですか」

魔王「ああ、恐らく剣術だろう」

側近「それですよ!」

魔王「ふむ?」

側近「剣です! 剣を贈りましょう!」

魔王「剣か。うむ、悪くは無いな」

側近「ええ、きっと喜んでくれましょう」

魔王「よし、さっそく魔族の中で最も腕の良い鍛冶師を呼べ。一晩で最高の剣を作らせよう」

側近「はっ!」

――――――

騎士父「……おはよう」

女騎士「父上……おはようございます。もう少しで朝食ができます。座って待っていてください」

騎士父「ああ……息子は?」

女騎士「外で洗濯物を干しています。ふふ、少し見ない間に成長しました」

騎士父「そうか……」

女騎士「さあ、朝食ができました。弟を呼んできます」

騎士父「待て……。少し話がしたい。昨日のことだ」

女騎士「……はい」

騎士父「あの時は私も熱くなっていたが……昨日一晩考えて、頭が冷えた」

女騎士「父上……」

騎士父「使用人も金もなく、ただ広いだけのこの屋敷にお前を閉じ込めるのは、果たしてお前にとって幸せなのか、とな……」

女騎士「父上、例え使用人がいなくとも、ここは私の家です。幸せでないはずがありません」

騎士父「ああ、そう言ってくれるのは嬉しい。だがな……好きな男と一緒にいるほうが、お前はさらに幸せになれるのではないだろうか」

女騎士「……」

騎士父「私はあの男のことを何も知らん。だが、お前が選んだ男だ。悪い男なわけはないだろう」

女騎士「……そう、信じています」

騎士父「あの男も、剣しか知らぬお前を好いてくれているのだ。これは喜ばしいことではないかと思ってな」

騎士父「だが、諸手を上げて賛成するわけにもいかん。一度……あの男と話してみたい。その上で問題がないようであれば……好きにするといい。お前は魔王を倒したほどだ。後悔のない道を選べるだろう」

女騎士「そ、それなのですが、父上……」

騎士弟「ねーちゃ! とーちゃ!」

女騎士「……どうした、そんなに慌てて。食事ができたぞ」

騎士弟「きのうのひとがきたよ!」

女騎士「本当か!? ……父上」

騎士父「そうだな……少し待っていてもらえ。身だしなみを整える」

女騎士「はい」

――――――

魔王「そうか、すまなかったな。食事時であるということを失念していた」

女騎士「気にしないでくれ。父上もじきに来るはずだ」

騎士弟「ねーちゃ、このひとだれなの?」

女騎士「ああ、お前にも説明していないのだったな。この人は……その……」

魔王「婚約者だ」

女騎士「お、おい!」

騎士弟「こんやくしゃ?」

魔王「うむ。結婚の約束をした者同士だな」

騎士弟「ねーちゃ、結婚するの!? わぁ……」

女騎士「ま、まだ決まったわけじゃない! 全く……。それで、その包みは何だ?」

魔王「うむ、父上殿に贈り物をしようと思ってな。剣が入っている」

女騎士「そうか、剣か……。うん、良いと思うぞ。現在父上が使っている剣は少々古すぎるからな。替えたいとも言っていた」

魔王「ほう、ならばこの選択は正解だったわけだな」

騎士父「待たせた。息子、お前は中へ入ってなさい」

騎士弟「はーい」

魔王「おはようございます」

騎士父「う、うむ……」

魔王「……」

騎士父「……」

女騎士「あー……」

魔王「……父上殿」

騎士父「っ……なんだ?」

魔王「大したものではありませんが、お贈りしたいものが。これを」

騎士父「なに? ……重いが、開けても良いか?」

魔王「どうぞ」

騎士父「……厳重に包んでいるのだな?」

魔王「失礼、中身に傷でもついてはいけないと思いまして」

騎士父「ふむ……だがわかったぞ。この重さ、長さ……これは剣だな?」

魔王「御察しの通りです」

騎士父「そうか……! うむ、剣か……!」

魔王(おい、女騎士、これは喜んでいるのか?)ボソボソ

女騎士(ああ、こんなに嬉しそうな父上は中々見られないぞ!)

騎士父「これが最後の包装か……!」

魔王「……手に馴染むと良いのですが」

騎士父「いや、わかる。わかるぞ。見なくてもわかる。この剣は良いものだ……!」

騎士父「さあ、見えたぞ……これが、これが私の剣になるのか……!」

女騎士(す、すまない……。余程嬉しいのか、包装の開き方が汚い……)ボソボソ

魔王(いや、あそこまで喜んでくれると、俺も贈った甲斐があるというものだ。お、ついに剣を抜くぞ)

騎士父「ハッハッハ! これが私の剣にぎゃああああああああああアアアッ!!!」

女騎士「ち、父上!? 大丈夫ですか!」

魔王「なんだと! なぜ!?」

騎士父「手ぇぇぇぇぇ!!! 手がああああああッ!」

女騎士「柄で手が焼けている!? 父上! とにかく剣から手を離してください!」

魔王「馬鹿な……」

女騎士「父上、水です。かけますよ」

騎士父「ああ……ぐぅっ!! くっ、火傷のようだ……」

女騎士「動きますか?」

騎士父「うむ……しばらくは不便だろうが、なんとかなるだろう……。しかし、貴様」

魔王「……」

騎士父「毒を塗ったな? 卑劣な奴だ……話し合いが通じんとみれば、命を狙うか」

女騎士「父上!」

騎士父「私は部屋に戻るぞ。……やはり、無駄だったようだな」

魔王「……くそっ!」

女騎士「魔王……」

魔王「すまない……父上殿を怪我させてしまった」

女騎士「そなたが毒など塗らないことはわかっている。だが、何が起こったのか私にはわからん。一体……?」

魔王「あの剣は魔族に作らせたのだ……迂闊だった。おそらく、魔族製の武器は人間が扱えないのだ……。そのことを知っていれば、こんなことには……!」

女騎士「そうだったのか……」

騎士弟「ねーちゃ! 話、おわったのー?」

女騎士「弟……」

騎士弟「あ、剣だ! わぁ、すごいや。ほんものでしょ?」

魔王「っ!?」

女騎士「ま、待て、弟! その剣には!!」

魔王「待て女騎士! それに触れればお前も……!」

騎士弟「わっ……おもくて持ちあがらないや……。ってねーちゃ?」

女騎士「これに触っては駄目だ! ……って、なんだと?」

魔王「馬鹿な……拒絶反応が起こらないのか?」

女騎士「あ、ああ……。私には普通の……良い剣に思えるが」

魔王「何故だ……どうして父上殿だけが?」

女騎士「と、とにかく、この剣は一旦返す。わざわざ贈って貰ったものをすまない」

魔王「いや、良いんだ。これは俺が処分しておく」

騎士弟「えー、こわしちゃうの? もったいないなあ」

女騎士「お前が剣を持つのは、もう少し大きくなってからだ」

騎士弟「えー、でもねーちゃは、ぼくぐらいの年で剣をならってたんだよね?」

女騎士「……じゃあ、まずは木剣からだな。とにかく魔お……そなたは今日のところは帰ってくれ」

魔王「ああ……またな」

騎士弟「またねー! にーちゃー!」

――――――

騎士弟「ねーちゃ。とーちゃは今日も晩御飯いらないってー」

女騎士「だろうな……悪いが、食事の後に氷水を届けてくれるか?」

騎士弟「うん、わかった!」

女騎士(あんなことがあった後では、魔王のことなど話せるわけがないな……)

騎士弟「どうしたの? ねーちゃ。かなしいお顔してるよ」

女騎士「ん? ああ、すまない。ちょっと考え事をな」

騎士弟「そっか。けっこんって、うれしいことなんだよね? だったら、ねーちゃはわらわないと!」

女騎士「弟……ふふ、そうだな。さあ、食事にしよう。今日は弟の好きなものを作ってやっているからな?」

騎士弟「わぁ、やったー!」

―――――――

側近「お、戻ってきましたね魔王様。どうでした?」

魔王「剣を贈るという発想までは良かった。だが、贈るものが悪かった……」

側近「贈るものが悪い? どうしてです。あれは魔族が扱える中でも最高の……あ」

魔王「気づいたか」

側近「すみません、今理解しました」

魔王「俺が気付いたときも手遅れだっだ。ああなるものなのだな……初めてみたよ。個人差があるようだが」

側近「どうなったんです?」

魔王「手が焼け爛れていた」

側近「あちゃー……それは厳しいですね」

魔王「ああ。また剣術ができるようになるかどうか……」

側近「いえ、そちらではなく、結婚についてですよ」

魔王「そっちもなかなか絶望的になってきたな」

側近「それでしたら、いっそ婚約者さんを強引にでも奪い取ってしまえばどうです。何も律儀に家族からの了承を得る必要なんてないでしょう」

魔王「いや、駄目だ。それでは当初の目的が果たせなくなる」

側近「当初の目的? 目的ってなんです」

魔王「うむ、あいつが俺を倒さずに自分の家へ帰るための理……由……を……」

側近「魔王様?」

魔王「……側近よ、今から俺が言うことを全魔族へ伝えろ」

側近「はっ、わかりました!」

――――――

女騎士「父上、もう一週間になりますが……手の具合はどうです」

騎士父「ああ、問題ない。こうして一人で朝食も摂れる。剣もあと一週間もすれば握れるだろう」

女騎士「……そうですか」

騎士弟「今日もにーちゃ、こないねー」

女騎士「弟!」

騎士父「ふん! 毒を塗った相手の家に、のこのこと来るわけがないだろう」

女騎士「ですから父上、あれは誤解です」

騎士父「誤解だと! この火傷が何よりもの証拠ではないか!」

女騎士「……」

女騎士(こんな状態で、『あの人が実は魔王だ』などと言えば……間違いなく良い方向へは向かわないだろうな)

騎士弟「ねーちゃ……」

――――――

側近「今日もお出かけはなさらないので?」

魔王「ああ……」

側近「どうしてです」

魔王「行く理由がないからな」

側近「婚約者さん、待っているのでは?」

魔王「それもない」

側近「それこそどうしてです」

魔王「あいつは俺を必要としていない。目的を達成しているんだ……。あいつはあの場所にいる。婚約だって、俺が一方的に押しつけたようなものだ」

側近「はあ……よくわかりませんけど……。ですが、お好きなのでしょう? それでしたら、その相手のために何だってするべきでは……」

魔王「……・いい加減に黙れ。消すぞ」

側近「……」

魔王「……すまない」

側近「いえ」

――――――

女騎士(今日も来ない……か)

女騎士(結婚などと大層なことを言う割に、あの程度で挫けてしまったのか?)

女騎士(そもそも……結婚など、本当にする気があったのか?)

女騎士(もしかしたら、出まかせを言って弄んだだけということも……)

女騎士(……それはないな。短い付き合いだが、そんなことで悦に入るような奴ではないことはわかる)

女騎士(……しかし、当たらずも遠からずかもしれないな)

女騎士「ふっ……」

女騎士(同情など要らんと言ったのに……)

女騎士「馬鹿……っ」

――――――

側近「今日もおでかけは?」

魔王「……」

側近「……そうですか。では、私が魔王様の分まで出かけてきます」

魔王「余計なことはするなよ」

側近「それも考えましたけど、あくまで魔王様の問題は魔王様の問題です。本当にただの散歩ですよ」

魔王「そうか……」

側近「人の問題に首を突っ込むほど、私も子供じゃありませんからね。では、失礼します。何日かしたら帰ってきますのでー」

魔王「そんな期間出るのか!?」

――――――

騎士父「おはよう」

女騎士「おはようございます。父上」

騎士父「今日も息子は洗濯物を干しているのか?」

女騎士「ええ、そろそろ終わると思いますが」

騎士父「そうか……。あいつにも、そろそろ剣を教えるのもいいかもしれんな」

女騎士「手は大丈夫なのですか?」

騎士父「うむ、前と謙遜無い動きができるだろう。と言っても、もう歳だからな……」

女騎士「そんなことは……。朝食ができたので、弟を呼んできます」

騎士父「ああ」

女騎士「おーい、朝食ができたぞー。弟ー?」

女騎士「いない……? 洗濯物は……干してある」

女騎士「となると……部屋に戻ったのか。あいつめ、干し終わったら食堂に来いと言っておいたのに」

女騎士「仕方ない。呼びにいってやろう」

―――――――

女騎士「父上!」

騎士父「どうした? そんなに慌てて」

女騎士「弟が……弟がいない!」

騎士父「何だと!? 部屋にもいないのか!」

女騎士「部屋どころか……屋敷中どこを探しても!」

騎士父「私は外を探してくる!」

女騎士「父上、私も!」

騎士父「お前はここに残っていろ! 弟が帰ってくる可能性もあるし、誘拐の類であれば何か連絡が来るはずだ!」

女騎士「誘拐……!?」

騎士父「可能性の話だ! とにかく、お前は残っているんだ。いいな!」

女騎士「……はい」

――――――

騎士父「……」

女騎士「父上! 弟は見つかりましたか!?」

騎士父「駄目だ……連絡も、ないのか?」

女騎士「ええ……」

騎士父「日が昇れば、再び探しにいく。また家を頼む」

女騎士「わかりました……」

女騎士(教えてくれ、魔王……私は、どうすれば……)

―――――――

騎士父「……くっ!」

女騎士「父上……」

騎士父「これで4日目だぞ! なぜ見つからん!!」

女騎士「……」

騎士父「まさか……あの男が……!?」

女騎士「父上!」

騎士父「いや、違いない! 腹いせに息子を攫ったのだ! まことに卑劣な……!」

女騎士「……父上、私が確かめてきます」

騎士父「何? お前が場所さえ教えれば私がいくぞ! 私の剣で斬ってくれる!」

女騎士「いいえ、私だけが行きます。……行かせてください。どうかお願いします」

騎士父「くっ……好きにしろ!」

女騎士(最低だな……『弟がいるかどうかなんて関係ない』などと考えている自分がいる)

―――――――

女騎士「ふっ……この城も久しぶりだな。あの時はここまでくるのに1週間もかかったというのに、今回はたった2日か……」

側近「お待ちしておりました」

女騎士「っ!?」

側近「剣を下ろしてください。魔王様から聞いております。こちらへ」

女騎士「どういうことだ……?」

側近「どうぞ」

女騎士「あ、ああ……」

――――――

魔王「来たか……」

女騎士「魔王……一体ここは? 客室のようだが」

魔王「ああ。見ろ」

女騎士「……弟っ!? 魔王、これはどういうことだ! 弟は無事なのか!? どうしてここに弟がいるのだ!?」

魔王「お前の弟は眠っているだけだ。命に別状はない。こうなった経緯に関しては今から話す。一昨日のことだ……」

――――――

側近「魔王様! 魔王様!!」

魔王「なんだ、戻ってきたのか。思っていたよりも早く帰ってきたんだな」

側近「そんなことよりも見てください、これ!」

魔王「む……こいつは、あの家の息子じゃないか! 生きて……いるよな?」

側近「やっぱりそうでしたかー。なんか魔王様っぽい匂いが染みついていたんで、気になって連れてきたんですよ。普通なら無視していたんですけどね」

魔王「しかし……衰弱が酷いな」

側近「ええ、可哀そうに……荒野のド真ん中で倒れていました。この間、魔王様が『人間に危害及ぼさず』の号令を出していなければ魔族に喰われていましたよ」

魔王「とにかく、後は俺が運んでおく。お前は治療できる者を呼べ!」

側近「はっ!」

――――――

女騎士「そんなことが……」

魔王「今思えば、発見した時点ですぐに知らせるべきだった……すまない」

女騎士「いや、いいんだ。それよりも弟が無事で良かった……」

魔王「一度は目を覚ましたのだが、話すのには適さない状態だったので何も聞いていない。一体何があった?」

女騎士「私が聞きたいところだ……弟、どうして……」

魔王「そうか……しかしよくもまあ、こんなに小さな身体で……ん?」

騎士弟「……にー……ちゃ……あれ、ねーちゃも……?」

女騎士「弟!」

魔王「目を覚ましたのか!」

女騎士「弟! ああ、本当に良かった! 弟! ……ぐすっ」

騎士弟「ねーちゃ……かなしんじゃ、だめだよ……」

女騎士「馬鹿! これは嬉しいから……」

騎士弟「かなしんじゃだめ……だって……けっこん……って、うれしい……ものでしょ?」

女騎士「弟……?」

魔王「……」

騎士弟「ねーちゃが……いな、くなると……とーちゃが……さびしいから」

騎士弟「とー、ちゃが……さびしくない……ように、ぼくが……ねーちゃの、かわりにな……るんだ」

騎士弟「だから……ぼく、も……まおうを……たおす……んだ」

騎士弟「だか、ら……ねーちゃも……にーちゃ、も……あんしん……して」

騎士弟「かな、しま……ないで……わら……って……ん……ぅ」

魔王「……再び眠ったようだな」

女騎士「おとう……と……」

魔王「どうやら、家出の原因は俺達のようだ」

女騎士「知らなかった……弟が私を気にかけていることは気付いていた……しかし、そんなことまで考えているなんて……」

魔王「全く……姉に劣らず立派な騎士様だ。子供でありながら何日も……。人間にしてはパワフルだな」

女騎士「……魔王」

魔王「なんだ」

女騎士「どうして、あれから姿を見せなかったんだ」

魔王「……弟を起こしてもまずい。場所を移そう」

――――――

女騎士「あのときと……同じ場所だな、魔王。だが……私の心はあのときとはまるで違う」

魔王「……」

女騎士「あんなことがあって、姿を見せづらいのはわかっている! だが、魔王……」

魔王「何が不満だ」

女騎士「なにを……!?」

魔王「何が不満だ。お前はあの家で普通に生活ができているし、魔族も人間に対して悪さをしなくなった」

女騎士「魔王!」

魔王「あんな一方的な言葉を……約束を、守る必要などないだろう。それとも何だ、プライドか? そんな安っぽいものは捨てた方が良い」

女騎士「――――!」

女騎士「……っ……う……」

魔王「女騎士……?」

女騎士「あんまり……いじめるなよ……魔王ぉ……」

魔王「……」

女騎士「わたしは……私は不安なんだ……! あの約束が……あの言葉が、嘘なのではと……同情なのではと……」

魔王「女騎士……」

女騎士「たのむ……私をこれ以上……いじめないでくれ……」

魔王「俺は……」

魔王「……俺は、父上殿に剣を贈ったあの日、1つの恐怖に気が付いた。」

女騎士「……恐怖?」

魔王「……お前の気持ちだ。あの時交わした約束は、こちらの一方的なものに過ぎない。……それが、不安で仕方なかった」

女騎士「それは……」

魔王「ああ、お前と全く同じ悩みだよ。あの時のお前は、約束は受けてくれた。しかし、俺の好意について受けたわけではない。その曖昧さに気が付いてしまった。それが……怖い」

女騎士「……か」

魔王「……なに?」

女騎士「馬鹿! 馬鹿野郎! 少し考えればわかることを、うじうじと抱えこんで! 大馬鹿!!」

魔王「……」

女騎士「こうやって話をしていれば、すぐに解決していたのだ! それなのに他の者へ心配をさせて、互いの心を潰しあって!!」

魔王「ああ……確かに馬鹿だな……俺は……」

女騎士「本当に馬鹿だ……二人とも……魔王も……私も……」

魔王「女騎士……」

女騎士「……魔王。あの日、この場所で交わした結婚の約束は破棄だ。一方的で申し訳ないが、な」

魔王「……そうか」

女騎士「私は、何か理由あって結婚するつもりなどない。私は互いに想い合っているからこそ結婚をするのだ」

魔王「ああ」

女騎士「だからな……その、好きだとか、愛しているだとか、そういう言葉を全部ひっくるめたつもりで答えて欲しい。魔王よ、私と」

魔王「俺と結婚しないか?」

女騎士「――――! ば、馬鹿! 今のは私が言う雰囲気だっただろう! しかもどうして『結婚してくれ』じゃなくて疑問形なのだ!!? 馬鹿!」

魔王「あの時と同じ言葉で聞いて、あの時とは違う答え方が聞きたいんだ。好きだとか、愛しているだとか、そういう言葉を全部ひっくるめたつもりでの答え方を、な」

女騎士「先程の約束の破棄を根に持っているのか!? 子供か貴様!!」

魔王「さあ、答えろ。もたもたしていると……」

女騎士「は、わああああ! 答える側の覚悟じゃなかったのだ! ちょっと待っ……」

魔王「もう一度聞くぞ。俺と結婚しないか?」

女騎士「………………う、うん。する……」






魔王「はは……あの日と全く同じ答え方じゃないか。      ……本当に、馬鹿だな」

――――――

女騎士「ただいま戻りました」

騎士弟「とーちゃ、ただいま!」

騎士父「……! ああ、息子よ! よくぞ帰ってきた!!」

騎士弟「にーちゃのお陰だよ!」

魔王「……」

騎士父「やはり貴様が裏で糸を引いていたのか……!」

女騎士「い、いや、父上、実はだな……」

騎士弟「ねーちゃ。ぼくが話すよ」

女騎士「弟……」

騎士父「う、うむ……?」

騎士弟「とーちゃ、聞いて。ぼくが―――――」

――――――

騎士父「そうだったのか……」

騎士弟「とーちゃ、ほんとうにごめんなさい!」

騎士父「……今日はもう良い。お前は部屋に戻って休みなさい」

騎士弟「で、でも……」

騎士父「騎士にとっては、休むことも鍛練のうちだぞ?」

騎士弟「とーちゃ……。うん!」

騎士父「息子の家出の件、大体の経緯は理解した。息子が世話になったことは感謝しよう。しかしな」

魔王「……」

騎士父「私はお前のことを何も知らん。一体お前は何と言う名で、何者なのだ?」

女騎士「父上、それは……」

魔王「女騎士、待て。最早隠す意味も、隠す道理もあるまい」

女騎士「……」

騎士父「話してくれるか」

魔王「はい。俺は……魔王だ」

騎士父「そうか」

女騎士「……? あまり、驚かないのですね」

騎士父「剣を受け取ったときにな、何となく察しはついていた。あれは魔族が扱う武器だったのだろう」

魔王「ええ、その通りです」

女騎士「で、ですが、父上は毒だと……!」

騎士父「手が焼けた瞬間、一瞬はそう思った。しかし、あの瞬間のこの男の表情を見て、そうでないことは心の底では理解したよ」

魔王「……」

女騎士「でしたら、なぜあんなことを言って……」

騎士父「息子の、言うとおりだった」

女騎士「え……?」

騎士父「妻はふらりと家を出ては、何日も帰ってこないだろう? もうそれには慣れた……だが、お前が魔王討伐へと旅立ったあの日から、私はどこかに虚無感を抱えていた」

女騎士「……」

騎士父「そして帰ってきたお前の顔を見た瞬間、その虚無感は消えた。今思えばそれは寂しさだったんだろう……。息子ですら気づいていたというのに、滑稽なものだ」

魔王「父上殿……」

騎士父「だが、息子の言葉で目が覚めた。子が親の元を離れるのは世の常だ。むしろそれは喜ばしいことではないか」

女騎士「父上……。し、しかし、相手は魔王ですよ? 私が言うのも変ですが……」

騎士父「なに、初めから言っているだろう。お前の選んだ男が悪い男のはずはないと」

女騎士「……!」

騎士父「魔王よ。お転婆な娘だが、よろしく頼むぞ。私が誇る宝だ」

魔王「……はい、お任せください!」

騎士父「うむ、良い返事だ。流石は娘が選んだ男。さあ、明日は宴だ!」



一旦おわり。以下蛇足

騎士母「ふー、ただいまー! いやー、ごめんなさいね。世界の果てを見にいこうと思ったら何故かここに戻って来ちゃった。あなた、元気だった? あら魔王、ちゃんと仕事してる? まあ、女騎士ちゃんも、ちょっと見ない間に綺麗になったわねぇ。恋でもしたの?」

騎士父「おお、お前。帰ってきたのか。実は先程祝い事が決まってな……」
魔王「母さん、一体どこで何をしていたんです。城の皆が心配して……」
女騎士「母上! 長い間家を空けるなら、手紙くらい……」

騎士父・魔王・女騎士「!?」

騎士母「あら?」

――――――

騎士父「知らなかった……妻が先代魔王だなんて……」

魔王「知らなかった……母さんが人間と再婚しているなんて……」

女騎士「知らなかった……魔王と兄妹だったなんて……」

魔王「い、いや、今はそれが一番重要だ! 本当なのか!?」

騎士母「うーん? 本当よ~。あなたは前のお父さんが生きていた頃の子で、女騎士ちゃんはこの人との子ね。いわゆる種違いの兄妹ってやつ?」

魔王「なんということだ……」

女騎士「そういうことは、早く言って欲しかった……」

騎士父「私の家庭、複雑過ぎてわけがわからん……」

魔王「えっと、結婚すると父上殿が義父上殿になって……でも、結婚してない今でも義父上には違いなくて……」

騎士父「お、お前はそういう話をするんじゃない!」

騎士父「はっ、妻が魔族ということは、娘や息子も魔族の血を……?」

騎士母「ばりばり受け継いでるわねー」

騎士父「やはり……!」

騎士母「それで、結婚するんですって? 良いんじゃない? 私は応援するわよ~」

騎士父「待てい! 先程の話を勘定に入れた上で、どうしてそうなる!」

騎士母「何か問題があるのかしら?」

騎士父「あるだろう! 兄妹で結婚など……その……遺伝子的に!」

騎士母「そうは言っても……魔族は有る程度近しい者同士で交配しないと、天然のキメラみたいなのが生まれちゃうし……」

女騎士「こ、交配……」

騎士父「な、ならん! やはり反対だ! 魔王、貴様に娘はやらん!」

魔王「しかし、義父上……」

騎士父「義父と呼ぶな!」

魔王「問題がないことに関しては母の言うとおりです。どうしても駄目ですか?」

騎士父「駄目だ!」

騎士母「強情ねぇ……」

魔王「うむ。しかし、これを説得してこそ男というものだ。義父上、今夜は丸々付き合っていただこう」

女騎士「魔王……」

騎士父「おい、お前もそこでポッとなるな! それに私はまだ義父ではない! 仮にそうであっても私は認めん! 私は許さんからなああぁぁ!!」


おわり

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