内田「チアキ!おかしな人がいる!!」千秋「おかしな人?」(250)

通学路

内田「しあわせをーうたえばぁー♪ きっとパワーになるよぉー♪ そうでしょっ」

保坂「この辺りか」

内田「ん?」

保坂「よし……待ってみよう……」バッ

内田(服がはだけた!?)

保坂「持久戦になるか……」キリッ

内田(なんかおかしな人がいる!!)

保坂「何か用か?」

内田「う、うわぁぁ!! なんでもないです!!」ダダダッ

保坂「どうして逃げた? もしや、女児が恐れ慄くほどにおかしな奴でもいるのか?」

翌日

吉野「本当だったら怖いね」

内田「ホントだって! 昨日はこの辺におかしな人がいたの!」

千秋「でも、今日はいないみたいだな」

内田「うーん……」

冬馬「そりゃ、おかしな奴も毎日同じ場所にはいないんじゃねーの?」

千秋「すぐに通報されるしな」

吉野「そうだね」

内田「なら、もう安心なんだ。よかったぁ」

吉野「内田、でもこれからは一緒に帰ろうね?」

内田「うんっ」

千秋(しかし、内田から見たおかしな人ってどんな感じなんだろうか)

翌日

内田「でね、そのドラマがねー」

吉野「うんうん」

保坂「やはり、この辺りだろうか」

内田「あ」

吉野「どうかしたの?」

内田「あ、あの人……」

吉野「え?」

保坂「今日も持久戦だな……。ふっ、これも神が与えし試練か。いいだろう、受けて立つ」バッ

吉野「あ、脱いだ」

内田「わわわ……」

保坂「ん? 何か用か?」キリッ

吉野「えーと……」

内田「いこ!! 吉野!!」

吉野「そ、そうだね。いこっか」

南家

千秋「なんだと。今日出たのか?」

内田「うん!! もう怖かったよ!! ねぇ、吉野!?」

吉野「そうだね。とっても怖かったね」

千秋「そんな笑顔で言われても恐怖感が一向に伝わってこないな」

吉野「そう?」

内田「でも、あれは本当にほんとーにおかしな人だよ!! だって、いきなり脱ぐんだよ!?」

千秋「それはおかしな奴だな」

吉野「先生に言ったほうがいいかも」

千秋「そうだな。あと通学路も変えたほうがいいかもしれない。内田は大丈夫だろうが私と吉野は危ない」

内田「ちょっとぉ!? それどーいう意味ぃ!? 私だって危ないよ!!」

吉野「気をつけないといけないね」

千秋「そうだな」

内田「私だって危ないよ!! ねぇ!? 危ないでしょ!!?」

千秋「あと春香姉様にも相談してみようか」

春香「ただいまー」

千秋「お帰りなさい、春香姉様」

マキ「お邪魔しまーす」

アツコ「お邪魔します」

吉野「お邪魔してます」

春香「あら、いらっしゃい。マキ、アツコ。すぐにお茶淹れるから、待ってて」

アツコ「手伝うよ」

マキ「みんなで何の話してたの?」

内田「おかしな人の話をしてたの」

マキ「おかしな人?」

千秋「最近、小学校の近くでおかしな人がいるらしい」

マキ「えー、なにそれ。変質者? 気持ち悪い」

吉野「それでどうしようかって話をしてたんです」

マキ「とりあえず通報でいいんじゃないの?」

千秋「まぁ、そうするつもりだが」

春香「――そう。変な人がいるのね」

アツコ「怖いね」

内田「あれは変な人じゃなくて、おかしな人だよ」

吉野「そうだね。おかしな人だったもんね」

マキ「わかる、わかる。キモいと気持ち悪いが違うみたいな感じでしょ?」

内田「そーそー」

春香「だったら、カナに連絡しておかないと。今日は友達とカラオケに行くって言ってたし」

千秋「カナには藤岡がいるだろうから大丈夫かもしれませんが、伝えておいたほうがいいですね」

春香「電話してくるわ」

アツコ「どんな人だったの?」

内田「電柱の影に隠れてて、それから遠くを見てて、最後にはいきなり服を脱ぐの! ね? おかしいでしょ!?」

アツコ「え……」

マキ「それってさぁ」

アツコ「ま、まさか。それはないよ、マキ」

マキ「だ、だよね! 流石にないよね! もう、なにいってるの!! マキったらぁ!!」

アツコ「自分を責めるんだ……」

マキ「しかし、あれだよね。もしもってこともあるよね、アツコ」

アツコ「え? いや、もしももないよ」

マキ「でも、万が一ってこともあるでしょ」

アツコ「マキ、あの保坂先輩はそんなことする人じゃないよ?」

マキ「私は保坂先輩とは言ってないけど?」

アツコ「え……」

マキ「ってことはアツコもそう思ってるってことだよね!! 私だけじゃなく!!」

アツコ「えー?」

マキ「やっぱり、その変質者は保坂先輩だね」

アツコ「そんなぁー」

千秋「なんだ、知っている人なのか?」

マキ「残念なことにね。アツコはその人のことを擁護するぐらい好きみたいだけど」

アツコ「私……別に……」

吉野「それ、どんな人なんですか?」

マキ「一言で言うと気持ち悪い人だね」

内田「気持ち悪いんですか」

マキ「そう。キモいじゃなくて気持ち悪いの一言に尽きるね。全く、あんな人のどこが好きなの、アツコ?」

アツコ「私、好きとか言ってないよね?」

マキ「趣味悪すぎ」

アツコ「話をきいて……」

千秋「どう気持ち悪いんだ?」

マキ「そうだね……。もう見た目から気持ち悪いオーラが出てるよね?」

アツコ「え? 見た目はいいと思うけど……」

マキ「なに? そこまで惚れてるの?」

アツコ「ううん。そうじゃなくて客観的な……」

マキ「アツコの話は主観的過ぎて参考にならないから、聞かなくていいよ」

内田「はぁーい」

吉野「はーい」

アツコ「うぅ……なんで……」

マキ「あと、雰囲気が気持ち悪いのに更に料理が無駄に上手いのも気持ち悪い度を引き上げてるね」

千秋「なるほどな」

アツコ(きっとマキの中では、保坂先輩の良い所は全部気持ち悪く映ってるんだ……)

内田「でも、その人はなんのために小学校の近くにいるんだろう?」

吉野「誰かを探してるのかな?」

千秋「妹でもいるんじゃないのか?」

マキ「そんな話は聞いたことないね」

アツコ「あ、あの。マキ。証拠も無しに保坂先輩をおかしな人に結びつけるのは駄目だと思うよ?」

内田「じゃあ、今度名前聞いてみよっか?」

吉野「危ないよ?」

千秋「まぁ、通学路を変えれば遭遇する可能性が下がるだろう」

内田「でもでも、その人がホサカって人かどうか気にならない?」

吉野「私は内田が攫われないか心配かな」

内田「私は大丈夫だよ。おかしな人の言うことなんてきかない自信があるもん」

千秋「自信があるって揺らぐ可能性もあるのか?」

マキ「とにかく! みんな、保坂先輩だったら全力で逃げること。いい?」

内田「はい!」

吉野「わかりました」

千秋「注意する」

マキ「よし」

アツコ「マ、マキ……。もうおかしな人じゃなくて保坂先輩になってるから……」オロオロ

マキ「アツコも注意しないと食われちゃうよ!!」

アツコ「えぇー……」

内田「でも、アツコさんの知り合いだって言えばなんとかなる気もしない?」

千秋「相手の目的もわからないのにおかしなことをするな」

内田「おかしな人はそのホサカって人でしょー?」

アツコ「あの……保坂先輩はいい人だよ……」

吉野「だからって、名前をきいちゃまずいよ? もしそのおかしな人が保坂さんだったらどうするの?」

内田「それもそっか」

アツコ「お願いだから……私の話を……」ウルウル

春香「おまたせ。話は進んだの?」

千秋「あ、ハルカ姉様。カナはなんて言ってましたか?」

春香「藤岡くんに送ってもらうって言ってたから、大丈夫だと思うわ」

千秋「それなら安心です」

マキ「ハルカぁ、おかしな人の正体がわかったの」

春香「え?」

アツコ「あぁ……」

マキ「実は保さ――」

アツコ「しょ、証拠もなしに決め付けちゃだめじゃないかなぁー!!!」

内田「わっ」ビクッ

吉野「……」

マキ「アツコ……」

アツコ「あ……えっと……」モジモジ

千秋「そうだな。私たちも反省しないと。まだ何も調べていないのに勝手な思い込みと人聞きから犯人を特定してはいけないよ」

春香「……?」



藤岡「それじゃあ、南。また明日」

夏奈「今日はごめんよ。女の子を全員家まで送らせちゃって」

藤岡「ううん。全然構わないよ」

夏奈「これ、つまらない物だけど受け取って」

藤岡「え?」

夏奈「んっ!」ギュッ

藤岡「み、みなみ……!?」

夏奈「それじゃ、おやすみ!!」

藤岡「う、うん。おやすみ、南……」

藤岡(アメもらちゃった……!! 手まで握ってくれたし!! 今日はきてよかった!!!)

夏奈(藤岡、飴が好きなのか。タケルが持ってきた大量の飴を藤岡に食ってもらおう)

春香「おかえり、カナ。何ともなかった?」

夏奈「大丈夫だよ。おかしな奴が出てきても藤岡に蹴ってもらうし」

千秋「それはいい考えだな。相手もイチコロだろう」

通学路

藤岡(南が言ってた不審者って、確か……)

保坂「ふっ……ふっ……」タッタッタッ

藤岡「ん?」

保坂「よし。あと10キロ走るか」

藤岡(すごい。完成された体ってああいうのを言うのかもしれない)

保坂「ふっ……ふっ……」タッタッタッタッ

藤岡(俺もあれぐらい鍛えないといけないな。油断しているとレギュラーから外されるかもしれないし)

保坂「今日も成果はなかった。だが、しかし!!! まだ明日がある!!!」

藤岡(すごい志しの高さだ!!)

保坂「俺はまだまだ甘いっ!!!」ダダダダッ

藤岡「……」

藤岡「俺も家まで走って帰ろう」

藤岡(不審者は確か遠い目をしていて、服を脱ぐらしいから走っていても見つけられるだろうし)

藤岡「よし、行くぞ」

翌日 通学路

冬馬「あれ、今日はそっちから帰るのか?」

吉野「うん。ほら、おかしな人がいるかもしれないし」

冬馬「ああ、なるほどな」

内田「でも、おかしな人はホサカって人かもしれないんでしょ?」

千秋「ああ。そうだな。ハルカ姉様もそれはないと言っていたが」

内田「ハルカちゃんの先輩が疑われててもいいの!?」

吉野「疑ってるのは私たちだけどね」

千秋「だからって危ない橋を渡る気はない。触らぬ神に祟りなしだ」

内田「違うよ。こけつにこじずだよ!!」

千秋「虎穴に入らずんば虎子を得ずな」

冬馬「虎の赤ちゃんはかわいいよな」

吉野「猫みたいだよね」

内田「虎もニャーって鳴くんだよね!」

千秋「なんの話だ」

内田「それじゃあ、バイバーイ」

千秋「気をつけろよー」

吉野「バイバイ」

冬馬「またなー」

内田「ふんふーん」

保坂「今日はここにしておこう」

内田「うわぁぁぁ!?!」

保坂「また、君か。何かようか?」バッ

内田「えっと……あの……ほ、ほさか……さんですか?」

保坂「名前を訊ねるならまずは己からだ」

内田「あ、えっと、内田ユ――」

保坂「そう!! 俺の名は保坂。愛の探求者とでも呼んでくれ!!」

内田「あ……はい……」

保坂「それにしても顔色が悪いな。皆まで言うな。疲れているのだろう。都合よく、俺が作った笑顔になれるチョコレートがある。食べるか?」

内田「ええと……はい……」

内田「……はむっ」

保坂「うまいか?」

内田「おいしい……!」

保坂「そうだろう。原材料は選びに選んだものがだからな」

内田「はぁ、おいしかったです」

保坂「こっちにはチョコケーキもある。いるか?」

内田「いただきますっ!」

保坂「ふっ。元気になったようだな」

内田「はむっ……あまーい! おいしい!」

保坂「当然だ。俺の愛すべき人のために作ったものだからな」

内田「え? そんなもの食べてよかったの?」

保坂「ああ。構わない。目の前の少女を笑顔に出来ないようでは、意味がないからな」

内田「ほぉー……」

保坂「しかし、手持ちの菓子がなくなったな。これではどう足掻いても笑顔にはできない。いいだろう、今日は出直そう」

内田「……」

保坂「今日は冷えるな……」

内田「あのー、ホサカさん?」

保坂「なんだ?」キリッ

内田「ここで一体、何を……?」

保坂「俺は探している」

内田「何か落としたの?」

保坂「ふっ。落としたか。あるいはそうなのかもしれないな」

内田「……」

保坂「愛という形のないものを、俺は落としてしまった。それを探している」

内田「あ、愛ですか?」

保坂「君も探すといい。ただし、下を向いていても見つけることはできないがな」

内田「そうなんですか!?」

保坂「ああ!! 愛とは遠くからやってくるものだ!!」バッ!!

内田「なんかよくわかんないけど、かっこいい!!」パチパチ

保坂「さぁ、早く帰路につくといい。夜道を歩くには君は可憐すぎる」

南家

千秋「え? お前、保坂と話したのか?」

内田「うん。これ、その保坂さんが作ったケーキ。食べてみて」

千秋「お前、よく口にできるな」

内田「美味しいよ?」

千秋「そういうことじゃなくてな」

冬馬「おーす、きたぞー」

内田「あ、トウマ。はい、これあげるっ」

冬馬「おぉー!? うまそーなケーキ!! いただきまーす!!」パクッ

千秋「あぁ……」

冬馬「うっめぇぇ!! なんだこれ!? 近くにこんな美味いケーキ売ってるとこなんてあったか?!」

内田「違うよ。これは例のおかしな人がくれたんだよ」

冬馬「なんだって? おかしな人って変って意味じゃなくてお菓子の人のほうだったのかよ!?」

内田「実はそうなの!」

千秋「そうだったのか?」

内田「あの人はお菓子な人だけど、おかしな人じゃなかったわけだよ」

冬馬「なら、オレも会いたいな。おやつ時に会いにいこーぜ」

内田「放課後とかは丁度いいかもね」

冬馬「よし、決まりだな」

千秋「おい。色々、おい」

冬馬「チアキも行くだろ?」

千秋「待て。その人物、本当にハルカ姉様の先輩にあたる保坂なのか?」

内田「だって、ほさかさんですかってきいたらそうですって」

千秋「この……バカ野郎!!」ゴンッ

内田「いたーい! もう、なにするの?」

千秋「お前から保坂って名前をだしちゃ意味がないだろうが」

内田「え? なんでー?」

千秋「いいか? 知っているかもしれない人だと思って話しかけるときは名前を訊ねちゃいけない。相手が内田の警戒心をとこうとしてそう言っただけかもしれないだろ?」

内田「なに? どういうこと?」

千秋「つまりだ。保坂じゃないのにそのお菓子な人は内田を安心させるために「自分は保坂」だと嘘を吐いた可能性があるってことだ」

冬馬「ああ、なるほどな。こっちが知人だって思えば、次からは話しかけられても変じゃなくなるもんな」

千秋「そういうことだ。まぁ、こっちの名前を告げていなければさほど問題じゃないが」

内田「え?」

千秋「え?ってなんだよ」

内田「あ、あの……」

千秋「お前……まさか……」

内田「名前……いっちゃった……」

千秋「この……アンポンタン!!!」ゴンッ

内田「いたーい!! でも、アンポンタンはなんか可愛い」

千秋「もうこれじゃあ、相手の思う壺じゃないか。どーすんだ」

冬馬「でもさ、なんかするなら今日の時点でされてるだろ」

内田「うん。別に保坂さんにはなにもされなかったよ?」

千秋「内田はバカ野郎だからアテにならない」

内田「やめてよ! アンポンタンのほうがいい!!」

冬馬「なら、どうする? お菓子は諦めるのか? すげーうまいぞ、これ」

千秋「その保坂(仮)が本当に安全な人物なのか調べてからだ」

冬馬「どうやって調べるんだよ?」

千秋「信頼できるやつについてきてもらう」

冬馬「うちのアニキは駄目だぞ? アキラはヘタレだし、ナツキは相手を見た瞬間ボッコボコにするからこっちが悪くなるし、ハルオは馬鹿だし」

内田「そーだ、マコトくんは?」

千秋「ますます駄目だ。あんな男らしくないやつ。せめてマコちゃんぐらいの男気があればいいが、マコちゃんを連れて行くのは可哀相だしな」

冬馬「なら、ハルカか?」

千秋「バカ野郎。ハルカ姉様に何かあったらどうするんだ? お前、責任とれるのか?」

冬馬「じゃあ、カナか?」

千秋「……カナか」

内田「カナちゃんは悩むんだ」

千秋「そーだ。カナには藤岡がいるじゃないか。藤岡に頼もう」

冬馬「おぉ! 藤岡ならいいな!!」

内田「藤岡くんかぁ……。うん、いいかも」

千秋「よし。カナが帰ってきたら言ってみよう」

夏奈「藤岡に?」モグモグ

千秋「ああ。お前から頼んでくれないか?」

夏奈「別に構わないが、藤岡は基本的に毎日部活だからな。いつになるかわからないぞ」

千秋「ああ、そうか。でも、放課後にランニングがてら小学校のほうまで来るぐらいなら」

夏奈「まて。息をきらせて小学校の前まで行き、お前たちと合流するとどう贔屓目に見ても、藤岡が危ない奴だろ」

千秋「むむ……。そうなってしまうのか?」

夏奈「少なくとも私は助けを求めるね」

千秋「うーん……。じゃあ、どうしたらいい?」

夏奈「はい、食べたいならあげる」

千秋「ありがとう。……ちがう。私は安全が確認できるまでは口にしない」

夏奈「お前たち、何か体に異変はあるか?」

内田「ないよー」

冬馬「寧ろ、チアキが食べないならもう一個食べたいぐらいだぞ」

夏奈「よし、安全性は確認された。めしあがれ」

千秋「バカ野郎。食品はどうでもいいんだよ。その保坂(仮)の安全性のほうが重要だろ」

夏奈「分かった、分かった。一応、言っておくよ。ちょっと待ってろ」

千秋「全く」モグモグ

内田「あ、もうケーキの安全性はどうでもいいだ」

冬馬「でも、確かにお菓子な人は本当におかしくないのかどうかまだ分からないよな」

内田「どーいうこと?」

千秋「内田だからケーキを渡しただけで済ませたのかもしれない」

内田「ん? 私は喜べば良いの? それとも傷ついたほうがいいの?」

冬馬「これが吉野だったら攫われたかもしれない」

千秋「同感だ」

内田「傷ついた!」

夏奈「もしもーし。藤岡か? 私だ。夏奈ちゃんだ。実は頼みたいことがあるんだけどさぁ」

夏奈「実は妹たちと一緒に通学路を歩いて欲しいんだ。お菓子な人が安全かどうか藤岡に確認してもらいたくて。私も付き合うから」

夏奈「いいのか? よーし。いつなら暇だ? え? 明日か。都合がいいな。わかった。なら、明日一緒に帰ろう」

千秋「カナ、藤岡は快諾してくれたのか?」

夏奈「おう。何度もよっしゃって言いながら許可してくれた。明日、調べるぞ」

春香「ただいまー」

夏奈「おかえりー」

千秋「おかえりなさい、ハルカ姉様」

春香「すぐに晩御飯にするからね」

夏奈「うん。――で、そいつは確実にこのポイントに現れるのか?」

千秋「出現ポイントは毎回違うらしいが」

夏奈「おいおい。大丈夫なんだろうなぁ。藤岡に無理を言って付き合ってもらうのに手ぶらじゃ帰れないぞ?」

千秋「分かっている」

春香「どうしたの? 地図なんて広げて」

夏奈「あー、なんでもない。ただ、今度はどこで遊ぼうかなって思って」

春香「町内地図で調べるなんて珍しいね」

夏奈「私は珍しい調べ方が好きなんだよ、ハルカ」

春香「まー、カナならそうかもね。さ、料理、料理」

夏奈「ふー、ハルカを心配させるわけにはいかないからな」

千秋(ごめんなさい、ハルカ姉様。でも、藤岡もいるので大丈夫です)

翌日 通学路

夏奈「ごめんよ、藤岡。今日もクラブあったんでしょ?」

藤岡「気にしないで。その分、自主練を増やすから」

夏奈「藤岡。お前、本当にいい奴だな。アメをやろう」

藤岡「ありがとう。嬉しいよ」

夏奈「そうか」

千秋「カナー」

夏奈「おー、来たか」

内田「藤岡くん、よろしくね?」

藤岡「うん。おかしな人がいたら俺が守るから」

冬馬「頼りにしてるぜ、藤岡」

藤岡「トウマとなら大丈夫だ」

冬馬(一応、オレも女だけど……)

マコト「美味しいものが食べられるってきいてきました!!!」

夏奈「遊びじゃないんだよ!!! ふざけんな!!! 帰れ!!!」

藤岡「それにしても冬馬だけどうして体操着なんだ?」

冬馬「え? ああー、洗濯してて」

藤岡「そうなのか」

マコト「なんだよ!! 別にいいだろぉ!?」

夏奈「遊び気分でこられちゃたまらん!!」

吉野「まぁまぁ、カナちゃん」

内田「よーし!! お菓子な人にお菓子をもらおー!!」

千秋「おー」

藤岡「え? どういうこと?」

千秋「いいか、藤岡。私たちのティータイムは藤岡の双肩に掛かっている」

藤岡「そうなんだ。がんばるよ」

マコト「かなぁー、オレもいいだろー?」

夏奈「真面目にやるなら、いいぞ?」

マコト「真面目にする!! オレに任せてくれ!! オレには父親譲りの腕っ節があるからぁ!!」

千秋「お前がいてもなんの足しにもならんだろうが」

内田「しあわせをーかがげてー♪ ドキドキたのしんじゃおー♪」

夏奈「けいけーんちーじょーしょーみててねー♪」

藤岡(夏奈、楽しそうだな。オレが守らないと)グッ

冬馬「藤岡、気合入ってるな」

千秋「当然だ。入っていてもらわないと困る」

内田「今日は何ケーキかなぁ?」

吉野「内田は食べることばっかりだね」

マコト「で、そのお菓子な人ってどこにいるんだ?」

千秋「うーん……。出てこないな」

冬馬「道でも間違ったか?」

夏奈「なんだとー? おいおい、藤岡に申し訳ないだろ?」

藤岡「いや、出ないほうがいいと思うけど」

内田「えー? もしかしてまだケーキ作れてないのかなぁ?」

吉野「警察に捕まったんじゃないかな?」

冬馬「このままじゃ家についちまうぞ……」

高校

春香「それじゃあ、またね」

アツコ「うん。バイバイ」

マキ「さー、部活だー、ぶかつぅー」

保坂「……その前に、試食してくれないか?」

マキ「うわぁ!? 何してるんですか!?」

アツコ「ほ、保坂先輩……。ハルカなら、もう……」

保坂「帰ったのだろう。分かっている。今、見ていたからな」

マキ「うわ、気持ち悪い」

アツコ「そ、それでなんでしょうか? あの遅刻すると速水先輩に怒られますから……」

保坂「速水はそこまで狭小なやつでないことは知っている。心配するな。それに罰ならオレが代わりに受けよう」

アツコ(もしかしたら、この人はいい人なのかもしれない)

保坂「ふぅー、今日も寒いな」バッ

アツコ(全然、脱ぐタイミングじゃないけど……)

マキ「駄目だ……今日も気持ち悪い……」

アツコ「保坂先輩……あの……」

保坂「ああ、これを食べてみてくれ。無論、部活後でもいい」

アツコ「これは?」

保坂「オレが作った6種類のトリュフとエクレールだ」

アツコ「え……」

マキ「保坂先輩が作ったんですか……?」

保坂「ああ。何か問題でもあるのか?」

マキ「い、いえ……。なんというか……」

アツコ「み、見栄えはお店にあるのと遜色ないですね」

保坂「ふっ。当然だ。店に置いてあるのは街を行きかう人々を笑顔にするために世に生み出されたもの」

保坂「そして、オレが生み出したのは愛する者を笑顔にするために作られたものだ」

保坂「目的や経緯は違えど、この者たちが背負うものは同じ。故に遜色がなくて正解なのだ。むしろ、あっては困る」

アツコ「そ、それで、どうして私たちが試食を?」

保坂「風に吹かれて舞い降りた少女は救えたものの、まだ一人だけ。本当にこれで愛する人が笑顔になるのか不安なんだ。だから、試食してみてくれ」

アツコ「えぇ……」

保坂「では、確かに渡したからな。日持ちはしないから、できるだけ早めに食べてくれ」

マキ「わ、わかりました……」

保坂「感想はシンプルでいい。笑顔になれたか、なれなかったか。それだけでいい」

マキ「苦笑いの場合はどうしたらいいでしょうか?」

保坂「苦笑いは笑顔なのか?」

アツコ「ひ、引きつった笑顔だと思います」

保坂「そうか。では、それも笑顔にカウントしようではないか。オレは器の大きな男だからな」

マキ「あぁ……えぇ……」

保坂「では、今日は部活に行くとしようか」

アツコ「……マキ、どうする?」

マキ「どうするって……。たべる?」

アツコ「……!」フルフル

マキ「はぁ……」

ヒトミ「マキ先輩、アツコ先輩。どうしたんすか?」

マキ「おー!! ヒトミ!! いいところにきたねー!!」

南家

夏奈「ただいまぁー」

千秋「ただいまもどりました」

春香「おかえり。遅かったね」

夏奈「うん。ちょっとね」

春香「そうなんだ」

千秋「まぁ、確かにお菓子な人がおかしくない保障はないからな。出会わなくてよかったに違いない」

夏奈「そう言い聞かせるしかないな……」

ピンポーン

夏奈「お? 誰だ?」

春香「あ、多分ヒトミ。今日、料理を教えて欲しいって」

夏奈「そうなのか」

ヒトミ「――お邪魔します、ハルカせーんぱい。これ、お土産です」

春香「え? そんないいのにー」

ヒトミ「貰い物なんで気にしないでください」

ヒトミ「二人も食べていいよ」

夏奈「わるいねー。いただきまーす」

千秋「まーす」

春香「な……こ、これは……!?」

夏奈「シュー生地がとてもふんわりとしている!!」

千秋「それでいてこのカスタードの甘さはなんだ……!! とても甘いくせに舌に残らない!!」

春香「ヒ、ヒトミ……これ、どこで売ってたの……?」

ヒトミ「さぁ? 非売品みたいっすね」

春香「誰かの手作りなの!?」

ヒトミ「らしいです。パティシエは謎に包まれてます」

春香「そうなんだぁ。こんなに美味しいってことはプロ?」

千秋「美味しいですね、ハルカ姉様!」

春香「うん、そうね。自然と笑っちゃうぐらい美味しい」

夏奈「もっとないの?」

ヒトミ「ごめん、何個か途中で食べちゃって」

翌日 高校

春香「ねえ、ねえ。きいて、きいて」

アツコ「どうしたの、ハルカ?」

マキ「……はっ?!」

保坂「……」

マキ(保坂先輩がいる……。今度はどんなチョコレートを……)

春香「昨日、とっても美味しいお菓子を食べたの」

アツコ「へぇ、そんなんだ。そんなに美味しかったの?」

春香「うん! もっと食べたいくらい!」

保坂「……!!」

保坂(あの南春香があそこまで笑顔になる菓子が存在するのか……!! なんてことだ!! では、このような駄菓子では無理だ!!!)

保坂(やはり、オレは自分に甘い……。カスタードクリームよりも!! トリュフよりも!!)

保坂「出直しだ」

速水「あれ、保坂。どうかしたの?」

保坂「……オレはまだまだ甘かったのだ。そう自惚れてしまっていた。少女を笑顔にしたぐらいで」

放課後

春香「それじゃあね」

マキ「うん」

アツコ「マキ、どうするの?」

マキ「え?」

アツコ「むこうに……保坂先輩が……」

マキ「げ?」

保坂「……」

アツコ「感想きいてくれた?」

マキ「今日、ヒトミにあってなくて……」

アツコ「えぇ~!?」

マキ「無視して部活にいこう」

保坂「呼んだか?」

マキ「わぁ?! 呼んでません!!」

保坂「昨日、渡した菓子の感想を聞きたい」

マキ「えーと……ですね……」

アツコ「と、とても笑顔にな、なれました」

保坂「嘘はいい!!!」バッ!!!

アツコ「きゃ!」

マキ「毎日気持ち悪い」

保坂「アツコ、オレのためを想ってそういってくれるのは確かに嬉しい」

アツコ「あ、あの……脱いだまま近づいてこないでください……」

保坂「確かに嬉しいが、そんなことでぬか喜びをしていては、本当に笑顔になって欲しい人が泣いてしまうかもしれないんだ!!!」ガシッ

マキ「なんで、私の頭をつかむんですか……!!」

アツコ「あぁ……」オロオロ

保坂「いいか。マキ。目先の笑顔を優先しては、後に悲哀が待っているだけなんだ、マキ!!」

マキ「はい!! その通りです!!」

保坂「ならば、正直に言え!!」

マキ「気持ち悪かったです!!」

保坂「そうか……。そうだろうな……。ああ、わかっていたことだ……ふふ……」

アツコ「マ、マキ……そんなこと……」

マキ「だって、正直にっていうから……」

アツコ「だけど、流石に保坂先輩もショックを……」

保坂「あーっはっはっはっはっは!! そうだ!! この程度で人を喜ばそうなどと愚の骨頂だったのだ!!!」

マキ「うわぁ……もうだめだ、この人……」

アツコ(でも、この人はすごく真面目で一途で、カッコいい)

保坂「所詮は子供だましだったわけだ」バッ

アツコ(脱がなければいいのに……)

保坂「オレはこれからまた修行をしなければならない」

マキ「そうなんですか?」

保坂「ああ。己を磨かなくてはな……」

アツコ「あの、部活は……」

保坂「さぁ!! 待っていてくれ!! 南春香ぁ!! 最高の菓子をお前にとどけてやるぞ!!」

マキ「……いこ、アツコ」

アツコ「う、うん」

別の日 通学路

内田「あーあ、あれからお菓子な人出てこなくなっちゃったよ」

吉野「いーことなんじゃないかな?」

内田「あの人の所為で舌が肥えちゃったんだもん!! 責任とってもらわないと!!」

吉野「責任転嫁だねぇ」

保坂「……」

内田「あー!! お菓子な人だ!!」

吉野「あ、本当だ」

保坂「今日はここにするか。果たしてオレは、ここで待っていれば南春香と奇跡的な出会いができるのだろうか……。そして、このチョコレートキャラメルレアケーキで笑顔に……」

内田「いこ、吉野っ!」

吉野「でも、チアキに相談したほうが……」

内田「いなくなちゃうかもしれないし!!」タタタタッ

吉野「内田、走ると危ないよ」

内田「お菓子なひ――」

吉野「内田!! 信号赤だよ!!」

内田「え――」

保坂「ふっ!!」グイッ

内田「きゃぁ!?」

保坂「ふぅ……。信号無視はいけないことだ」ギュッ

内田「ど、どうも……」

吉野「内田!! 大丈夫!?」

内田「う、うん」

保坂「もし、車が来ていたらどうなっていたことか……」

内田「ご、ごめんなさい」

保坂「何をそんなに急いでいた?」

内田「えっと、保坂さんを見つけたんで」

保坂「オレに何か用事でもあったのか? 信号を無視するほどに」

内田「は、はい」

吉野「あのー、保坂さん。今、内田を助けた所為で持っていた箱が落ちてぐちゃぐちゃに……」

保坂「む……?」

内田「あー!! もしかしてお菓子ですかー!?」

保坂「会心の出来だったのだが、これはもう残飯だな……。持って帰ろう」

内田「あぁ……」

吉野「あのー。そのお菓子、貰ってもいいですか?」

保坂「なに?」

吉野「私たちの所為でめちゃくちゃになっちゃいましたし」

内田「食べます!!」

保坂「……それはできない」

内田「どうして!?」

保坂「例え、相手が違えども、完璧なものしかオレは提供しないからだ」

吉野「でも、もったいないですし」

保坂「オレが食べる」

吉野「そういうことでは……」

保坂「オレに用事とは、まさかこの菓子か?」

内田「は、はい!! あのとき食べたやつが忘れられなくて!! ずっと探してました!!」

保坂「そうか。もし先ほどの不幸な事故がなければ、渡したのだが」

内田「ご、ごめんなさい……」

保坂「君の所為ではない。全てはオレの不注意だ。気にするな」

内田「でもぉ……」

保坂「オレの菓子を食べたいのなら、完璧な菓子を味あわせてやろう」

内田「ホントにぃ!?」

吉野「いいんですか?」

保坂「最高の菓子を3個用意するだけの話だ。それぐらいしなくては、オレの愛する人は笑顔にはならない」バッ

内田「きゃ!?」

吉野「どうして脱ぐんですか?」

保坂「さあ、今日はもう帰るといい。明日、同じ場所で君たちを待つ」

内田「あ、あの!!」

保坂「どうした?」

内田「お菓子なんですけど私と吉野とチアキとトウマとマコトくんの分もお願いします!!」

保坂「よかろう。最高の菓子は5個か。悪くない。丁度いい試練だ」

南家

千秋「なにぃ? 保坂(仮)とあったのかよ」

内田「明日、みんなの分のお菓子を作ってくれるって」

吉野「うん」

千秋「この……ひるあんどん!!」ゴンッ

内田「いたーい!! アンポンタンっていってよぉ!」

千秋「どうして私を呼ばないんだ」

内田「だって、もう別れたあとだったし」

千秋「吉野もいて、どうして保坂(仮)の言うことを信じたんだ」

吉野「でも、そこまで悪そうな人じゃなかったから」

千秋「そうなのか?」

吉野「うん。でも、おかしな人ではあったかな」

内田「お菓子な人だよ」

千秋「そうか。吉野がそこまでいうなら……。藤岡に来てもらう必要はないんだな?」

吉野「うーん。カナちゃんぐらいは居てもいいかもしれない。あまり警戒する必要はないと思うけど」

夏奈「――明日、会うのか!?」

千秋「ああ。内田が約束してしまったらしい」

夏奈「おい、内田ぁ!!」

内田「ひゃ! ごめんね!! カナちゃん!!」

夏奈「お前はできる子だって、私は信じてたよ」ナデナデ

内田「えへへ、ありがとー」

吉野「カナちゃんも付き合ってくれるの?」

夏奈「とーぜんでしょー。でも、今回は流石に急すぎて藤岡は呼べないな」

千秋「その心配はいらないって言ってたぞ」

夏奈「なに? どこ情報だ」

千秋「吉野嬢だ」

吉野「えへへ」

夏奈「吉野嬢報だったか。それなら安心だな」

内田「……あれ? なんか私、信頼されてないような気がする」

夏奈「よーし!! 明日はみんなでお菓子な人にあうぞー!!」

翌日 通学路

保坂(今日はタルト、ガトーショコラ、チョコケーキ、トリュフ、マカロン、レアケーキを用意した)

保坂(これで南春香に渡す前の前哨戦は乗り切ることができる。そして全て完璧な仕上がり……。彼女たちを笑顔にした後、南春香をも笑顔にする!!)

保坂「ふふふ……あっはっはっはっは!!!」バッ!!!

内田「ほさかさーん」テテテッ

保坂「む。来たか」

内田「きちゃいました!」

吉野「こんにちは」

冬馬「へぇ、これがお菓子な人か。背がでかいなー。ナツキよりでかいな」

千秋「お、お前が……保坂(仮)か」

夏奈「なんか、イメージと違うな」

千秋(この人は……!! 妖精ではないか!?)

マコト「美味しいものが食べられるって聞いてきました!!」

保坂「む……。いち、に、さん、し、ご、ろく……。6人だったか?」

内田「あ、えっと……。急遽、一人増えちゃって……」

修造「お米食べろ!」
夏奈「パンならあるけど」
保坂「炭水化物だけでは栄養が偏ってしま
う!俺の手作り弁当を!」
修造「俺に伝えてどうすんだよそんなこと
!」

夏奈「こら、マコト。お前の所為でお菓子な人が困っているだろう!!」

マコト「カナじゃないのか?!」

夏奈「違う!!」

千秋「もしかして数が足りないのか?」

保坂「いや、菓子は6個ある。問題はない」

吉野「でも、それだと保坂さんの愛する人に渡せないんじゃ……」

千秋「愛する人だと?」

冬馬「なんだよ、急に大人の話題に変えるなよ。びっくりするだろ」

内田「あ、そういえばそんなこと言ってたっけ……。ごめんなさい!!」

保坂「いや。気にするな。全員に渡すことが出来る。今日はそれで良しとしよう」

冬馬「いいのかよ?」

夏奈「なんなら、マコトの分は……」

マコト「ひどいぃ!?」

保坂「完璧で最高の菓子は再度作ればいい。しかし、この瞬間に笑顔になれないものがいていいのか? 無論、よくはない!! そんなことをしては愛する人も必ず悲しむ!!」

千秋「そ、そうなのか……」

保坂「オレの愛した女はとても優しく、女神のような心を持っている」バッ!!

夏奈「おぉ、なんで脱ぐんだ」

吉野「保坂さん……」

冬馬「そこまで真剣ならその人に渡すべきじゃないか?」

夏奈「私もそう思います」

保坂「それでは君たちとの約束を反故にしてしまう。それもまたオレの愛する彼女は涙を流す。オレは彼女の笑顔があればいいんだ」

トウマ「すげー……。なんか、男だ!!」

内田「でも……このままじゃ、悪すぎるし……」

夏奈「よし。お菓子な人!! うちにこい!!」

保坂「なに?」

夏奈「うちで菓子作っていってください!!」

保坂「しかし、見知らぬ男を家にあげるなど……」

千秋「ああ。是非ともうちのキッチンをつかってくれ。みんなで作ろう」

内田「あ、それいい!! いいよ、チアキ!! みんなで保坂さんの愛する人のお菓子つくろー!!」

保坂「お前たち……」

南家

夏奈「どーぞ、あがってください」

保坂「本当にいいのか?」

千秋「構わない」

夏奈「ああ。うちの家主はまだ帰ってこないし、きたとしてもきちんと説明するから」

保坂「ならば、邪魔をする」

マコ「きたよー!!」

千秋「マコちゃんもきたのか」

マコ「うん!!」

吉野「あれ? マコトくん、ランドセルどこにおいてきたの?」

マコ「それはカナにあず――いや、オレは中学生なもんで」

吉野「あ、そっかそっか」

マコ「ふぅー……」

夏奈「さー、こちらです。お菓子な人」

保坂「うむ。中々、立派なキッチンだな。これならなんでも作れる」

冬馬「で、何を作るんだ?」

保坂「そうだな……。何を作れば、彼女は笑顔になるのか……」

夏奈「このモンブランはいかがでしょうか? きっとお日様スマイル間違いなしです」

保坂「そうか。ならばモンブランを作ろうじゃないか」

千秋「チーズレモンカスタードシフォンパイも追加で」

保坂「ああ!! 笑顔になるのなら作ろう!!」

内田「わたしはー……わたしはー……えっと……えっとぉー……どれにしよっかなぁ?」

吉野「あの、保坂さんのために作るんじゃないの?」

冬馬「オレ、ティラミス!!」

保坂「承知した!!」

内田「デラックスパフェ!!」

保坂「よし!! 作ろう!!」

吉野「それじゃあ、チョコケーキで」

保坂「承った!!!」

マコ「オレ、なんでもいい!!」

保坂「ティラミスは土台が肝心だ。これを失敗しては何もかもが涙の海に沈んでしまうわけだ」

冬馬「へぇー」

千秋「こら、トウマ。きちんと話をきいとけよ。お菓子の妖精が生で教えてくれる機会なんてもう一生ないぞ」

冬馬「わ、わかったよ」

保坂「これで7割が完成してしまうわけだ。だが、ここで恐れていてはチョコレートまで手がいかずに終わってしまう。それだけは避けなければならない。失敗してもいい。成功するまでやることが秘訣わけだ」

内田「チアキ、真剣だね。もしかしてハルカちゃんに作ってあげるの?」

千秋「ああ、お菓子の妖精にきいたものは絶対に美味いからな。それはもう過去の事例が証明している」

マコ「そうなのか? なら、オレも頑張ってハルカさんのために美味しいお菓子つくろう!!」

保坂「次にチョコレートを湯煎するわけだが、ここで大事なのはただ一つ!! 相手のことを想い自分の気持ちも一緒に溶かしてやることにある!!!」

吉野「ふんふん」メモメモ

夏奈「具体的にはどうすれば?」

保坂「正解はない。各人の心に正解があるのだ!!」

千秋「なんて、深い言葉だ……。感動して涙が……」

保坂「涙はここではいらない!! 笑顔に満ちてこそ、最高の菓子がこの世に誕生する!!」

千秋「は、はい!! 私、泣きません!!」

保坂「――さて、出来上がったぞ。完璧であり最高にして至高の菓子たちが」

内田「わーい!! わーい!!」

吉野「おいしそうっ」

冬馬「もう食べてもいいか?」

保坂「それは君たちに食べられることで初めて喜びを得るのだ。当然だろう」

夏奈「いただきまーす」

マコ「はむ……。おぉぉー!! うまぁーい!!」

冬馬「すげー……すげーよぉ……なんだよこれぇ……!!」

内田「おいしい!! おいしいです!! ほさかさん!!」

千秋「うん……うん……。やはり、妖精の作ったものに失敗などなかった」

夏奈「これ、ちょーおいしいよー!! 店でも出すつもりですか?!」

吉野「保坂さんのお店なら毎日通ってもいいかも」

内田「うん!! うん!!」

保坂「店か。確かにいいかもしれないが。オレは所詮、一人の女すら笑顔にできない半端もの。店をもつまでの器ではない」

夏奈「そうかぁ……。残念だなぁ」

冬馬「でも、ここにいる全員は笑顔になってるぜ。自信もっていいとおもう!!」

保坂「この上ない励みになる言葉だ。感謝する」

マコ「あの!! また作ってください!!」

保坂「ああ。機会があればな」

内田「あの!! また明日も……同じ場所で……!!」

保坂「いいだろう。君が満足するまで、オレは菓子を作ろう!!」

吉野「いいんですか?」

保坂「愛する人とはあの場所で出会える気がするからな」

千秋「応援してます」

夏奈「もし見かけたらすぐに連絡するよ!!」

保坂「そうか!! すまないな。このような菓子を振舞っただけで、まさかここまで手厚く……」

マコ「そんな!! 感謝したいのはこっちですから!!」

保坂「そういってくれると助かる。……さて、自信もついたし、そろそろオレは帰ろう」

千秋「帰ってしまうのですね、妖精の国に」

保坂「ここに涙はいらない。笑顔でこの言葉を送ろう!! お邪魔した、と!!」バッ

千秋「行ってしまったか……」

内田「また明日会えるって、吉野!!」

吉野「うん、うん。よかったね」

冬馬「あれだけ真剣ならきっと恋も実るだろ」

マコ「オレ、あの人みたいになる!!」

冬馬「お前は無理だろうな……」

夏奈「しかし、お菓子な人も律儀だねー。洗い物も全部終わってるよ」

千秋「完璧超人だな。妖精だから当然だけど」

吉野「あれ? そういえば、保坂さん。愛する人にあげるぶんのやつ作ってったっけ?」

冬馬「あれだけのことをしてたんだぜ? そんな初歩的なミスはしてないだろ」

吉野「それもそっか」

内田「明日はどんなお菓子かなぁー」

千秋「お前も話を聞いたんだから、作る側にいけよ」ゴンッ

内田「いたーい」

夏奈「まぁ、お菓子な人のレシピがあるし、それなりに上手く作れるだろう」

通学路

保坂(今日はいい一日だった。とても有意義だったかもしれない)

保坂(この分ならあの日までに渡せるはずだ。オレの究極の菓子を!! 南春香に!!!)

保坂(待っていろぉ!! 南春香ぁ!!! ホワイトデーはお前を満面の笑みしてやろう!!!)

保坂「ふふふふ……」

マキ「わ、保坂先輩だよ」

アツコ「こんなところでなにしてるんだろう?」

春香「散歩かな?」

マキ「この辺、チアキちゃんの通学路でしょ? やっぱり、おかしな人って」

アツコ「もうやめなよ、マキ」

春香「そうだよ。そんなことする人には見えないよ?」

マキ「あまい。あまい。既に妹たちが毒牙に――」

春香「マキにはチョコレートなし」

マキ「あーん!! 冗談!! 冗談だからぁ!!」

アツコ「もう、マキったら……」

南家

春香「ただいまー。あれ、すっごく甘い匂いが……」

夏奈「おかえりー、ハルカぁー」

千秋「おかえりなさい、ハルカ姉様」

春香「何してたのか?」

千秋「実はお菓子作りをしていました」

春香「そうなの?」

夏奈「ああ、プロの人に教えてもらったんだー。今度、ハルカにもつくってあげるから」

春香「えー? カナが?」

夏奈「なんだよぉー!! レシピ通りにしたら問題ないってばぁー!!」

春香「チアキもそのレシピ教えてもらったの?」

千秋「はい。バレンタインデーにはハルカ姉様に……」

春香「ありがとう、うれしい」

千秋「いえ……。お礼なら妖精に」

夏奈「はるかぁー!! 私もがんばってつくるってぇー!!」

翌日 放課後

保坂「さて、今日もあの妖精たちにこの菓子を渡さなくてはならない」バッ!!

保坂「ふっ。毎日、気の抜けない菓子作りができる。いや、気など抜いたことはないが、今は提供する人数が多い分、さらなる高みへとオレは行く!!!」

保坂「さて……待つか……」



内田「――はやく、はやく!!」

千秋「そう急かすなバカ野郎」

吉野「保坂さんは逃げないよ」

内田「でも!」

冬馬「そーだな、お菓子が駄目になってもいけないし」

マコト「おー!! すっげーたのしみだな!!」

吉野「あれ、パトカーとまってるよ」

内田「ホントだ。事件かな?」

千秋「行ってしまったな。不審者でも連行されたんじゃないか?」

冬馬「あれ? お菓子な人いなくないか?」

南家

千秋「ただいまー」

夏奈「お菓子は!?」

千秋「それが、今日は居なかった」

夏奈「なに!? どーしてだ?!」

千秋「そんなの……そんなの……わたしが……ききたいよ……」ウルウル

夏奈「チアキ……」

千秋「かなぁぁぁ!!」ギュゥゥゥ

夏奈「そうか……いなかったのか……」ナデナデ

千秋「うぅ……きっと……きっと……! わたしたちに全部おしえ、て……遠く、に……いってしま、ったんだぁ……!!」

夏奈「そうか」ナデナデ

千秋「うぅ……まだ、ちゃんと、お礼も……いってないのにぃ……かなぁ……」ギュゥゥ

夏奈「まだ、お菓子な人はいるじゃないか。チアキ」

千秋「あぇ?」

夏奈「このレシピがあるんだ。いつでもお菓子な人は私たちの傍にいる!!」

千秋「ぐすっ……カナ……」

夏奈「だから、作ろう。お菓子の人が残していったレシピで、菓子を!!」

千秋「……うんっ」

夏奈「それが一番の感謝になるはずだ!! お菓子な人も草葉の陰でみまもっているはず、だ!!」

千秋「おお!! 作ろう!! 夏奈!! 妖精が私たちに託したものを!!」

夏奈「その意気だ!! 千秋!!」

千秋「うおぉぉ!!」

夏奈「もうすぐバレンタインだ!! 立派なものをつくって、みんなを笑顔にするんだー!!!」

千秋「やるぞぉ!! 私はやってやるんだぁ!!」

夏奈「よーし、その調子だ」

千秋「待っていてください、ハルカ姉様。ハルカ姉様を笑顔にしてみせます」

夏奈「あれ? 私は?」

千秋「妖精が教えてくれた、この至高のレシピで」

夏奈「ねー? 私の分はぁー!?」

千秋「ねぇよ」

翌週 高校

保坂「……」

速水「ほさかぁー、先週は見なかったけど、どこいってたのー?」

保坂「全ての業を払い落としに行っていた」

速水「滝修行でもしてたわけ?」

保坂「そして、完成したのが、この完全無欠のガトーショコラなわけだ」

速水「バレンタインはもう終わったけど?」

保坂「まだ、オレのバレンタインは終わっていない!!」

速水「え?」

保坂「きっと、南春香はオレに渡そうとしていたはず。しかし、そのときオレは無我の境地いたわけだ。だからこそ、オレはお返しにチョコを渡さねばならない」

速水「どうしてー?」

保坂「南春香が泣いているからだ!!」

速水「そうなのー?」

保坂「さて、行ってこよう。笑顔を取り戻しに」

速水「まぁ、がんばってぇー」

保坂「……さて、南春香は……」

マキ「ん?」

マキ(げ!? またいるよ……)

アツコ「へぇ、チアキちゃんとカナちゃんがお菓子を作ってくれたんだ」

春香「そうなの。もう、すっごくおいしかったのぉー。ふふっ」

保坂「な……!?」

保坂(そうか……オレは、何て勘違いをしていたんだ……!!)

保坂(腹を痛めて産んだ子どもから生まれた菓子に勝るものなど、ありはしない!!)

保坂(どうして……どうして、そのことに気がつかなかった……!!)

保坂(オレがどんなに高みに行けども、その境地に辿り着けることなど叶わない)

保坂(だが、これでいい。南春香の笑顔は、微笑みは、守られているのだから……!!)

保坂(オレの贋作など、南春香は必要としていない……そういうわけだな……)

保坂「オレは満足だ。さぁ、明日からまた南春香のために弁当を作ろう!!!」

保坂「あーっはっはっはっはっは!!!」

マキ「……きもちわるい」

放課後 通学路

内田「あれからみないねー」

冬馬「そうだなー」

吉野「何かあったのかなぁ?」

マコト「もしかして、菓子作りに飽きちゃったのかなぁ」

冬馬「それはないだろー。な、チアキ?」

千秋「なぁ、今からうちにこないか?」

内田「何かあるの?」

千秋「ハルカ姉様が妖精の菓子を完全再現してくれる」

冬馬「ホントかよ!! いくいく!!」

内田「絶対にいくぅー!!!」

吉野「お邪魔していいかな?」

千秋「無論だ。さぁ、いくぞー」

内田「おー!!」

マコト(マコちゃんにならないと……!!)

南家

春香「はぁーい、できたよー」

夏奈「まってましたぁー!!」

内田「わーい!! おいしそう!!」

千秋「当然だ、バカ野郎。妖精のレシピを見てハルカ姉様が作ったんだからな」

冬馬「はやく食おうぜ!!」

マコ「いただきますっ、ハルカさん!!」

春香「うん。召し上がれ」

吉野「おいしぃ」

夏奈「さいこーだぁ!! さいこーだよ、ハルカぁ」

千秋「とても幸せです、ハルカ姉様」

春香「うふふ、ありがと。このレシピくれた人に感謝しなきゃね」

千秋「はい、そうですね」

春香「いつか会えるといいなぁ、そのお菓子な人に……」


おしまい。

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