とある道中の夢 (21)


とあるの二次創作です

設定は十九巻が終わるころの、上条当麻です。

本編の穴埋めと思ってください。

開始します

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ロシアへ行くためにヒッチハイクなどを繰り返すこと数十回。

ロシアの国境まで、あと少しのところまで来ていた。

「国境まで、あと二時間くらいだから寝てていいよ。毛布は後ろにあるから、勝手に使って。」

「あ、すいません。」

おそらく最後のヒッチハイク。乗せてくれたのは日本語のうまいロシア人の男性だった。

彼は家族といっしょに、別の国に避難したそうだ。

今は家に忘れ物を取りに行くらしい。その片道で乗せてもらった。

(あぁ、眠い・・・・。)(´Д⊂ヽ

車の振動が、疲れた体に心地よく響く。

寝るのに時間はかからなかった。

目が覚めると、そこには見たことのない天井だった。

カエル顔の人が入ってきた。医者だそうだ。

彼は言った。

「君は記憶がないんだ。」

最初、何を言ってるのかわからなかった。

ただ、医者は聞かせてくれた。何故、こうなったのか。

それは一人の少年が必死になって、一人の女の子を助けた話。


魔術師という言葉が出てきても、わからなかった。

その少女が誰だか、わからなかった。

その少年が誰だか、わからなかった。

「あの、記憶は戻るんですか?」

「・・・・・君の記憶は戻らない。忘れている、ではなく、完全に無くなっているんだ。」

医者は歯を食いしばって、悔しそうに言った。

もう、思い出せない。

「えー・・・・・・、俺は、どうすれば?」

「・・・・バンクには、君の記録は残っているから日常生活は大丈夫だ。ただ・・・、」

記憶がないことが、何よりも大きなハンディキャップになる。

「・・・・・・そうですか。」

「・・実は君に、面会者が来ている。」


「え・・・・」

「いや、正確には一緒に来た、かな? 帰っていいと言っても聞かないんだ。」

「・・・・・・・・」

今、記憶がなくなってる自分には、その人が誰なのかわからない。

それなのに会っていいのか?

自問自答を繰り返した。

「まぁ、今の君と会ったら彼女もショックだろうからね。会うときは君の状況を一通り話しておくよ。」

分からなかった。その人と出会っていいのか。

「どうする?」

だけど、会ってみたい。そう思った。

「・・・お願いします。」

さまざまな感情が混ざった、返事だった。

医者が出ていったあと、さっきの話を何度も反芻した。

それでも、何もわからなかった。

そもそも、面会者がどんな人なのかすら分からない。

右手を見た。

酷使され、ボロボロになった右手。

それは、どう見ても、ふつうの右手だった。

一人の少女を救ったなどと言われても、信じられなかった。

分からない、どんなふうにすればいいのか。

自分が、どんな人間だったのか。

しかし、時間は待ってくれなかった。

ノックがした。

返事をした。

少しの間があって、病室のドアが開いた。

ドアの前には一人の女の子が立っていた。

白い修道着に包まれた、銀髪で碧眼の少女だった。

明らかに日本人離れしたその恰好に、思わず、言ってしまった。



「あなた、病室を間違えてませんか?」

少女の表情が固まった。

視線が下を向いた。

今、自分が言ったことに恥ずかしがっているのではと、少し不安になる。

「あのう?」

彼女が顔を上げた。

しかし、その顔についていた笑顔は、

痛々しかった。

「あの、大丈夫ですか? なんか君、すごく辛そうだ。」

少し心配になってきた。いくら『知らない人』だからといっても、何かあったのかもしれない。

彼女は息を吐きながら、体をふるわせ、

「ううん、大丈夫だよ? 大丈夫に、決まってるんだよ。」

だした声は震えていた。

まずい。もしかして知り合いだったか?

「・・・・・・。あの、ひょっとして。俺たちって、知り合いなのか?」

聞かずにいられなかった。彼女の顔は、必死になって何かを抑えているようだった。

彼女はうつむくと、

「うん・・・・。」

と、小さく答えた。

「とうま、覚えてない? 私達、学生寮のベランダで出会ったんだよ?」

分からない。

「————俺、学生寮なんかに住んでたの?」

少女は続けた。

「・・・・・とうま、覚えてない? とうまの右手で私の『歩く教会』が壊れちゃったんだよ?」

何のことか、分からない。

「————あるくきょうかいって、なに? 歩く教会・・・散歩クラブ?」

少女は続けた。

「・・・・・・・・とうま、覚えてない? とうまは私のために魔術師と戦ってくれたんだよ?」

誰なのか、分からない。

「————とうまって、誰の名前?」

少女は、続けた。

「とうま、覚えてない?」

少女は、少し間をおいて、尋ねた。







「インデックスは、とうまの事が大好きだったんだよ?」









少年には、それが誰なのか分からなかった。








だから

「ごめん・・・・・。」

と、謝ることしかできなかった。

自分のことが、『とうま』だとは分かった。





しかし、

「インデックスって、何? 『人の名前じゃないだろうから』、俺、犬か猫でも飼ってるの?」

彼女の顔が凍った。

怒りではないと、すぐにわかった。

一瞬、崩れかけた表情。

彼女はそれを、すぐに笑顔になおした。

ボロボロの笑顔。

それを見て、





彼女には、泣いてほしくないと、思った。




それからは、知ってのとおりだ。

俺は、嘘をついた。

さっき聞いた話から、頭をフル回転させて、嘘をついた。

絶対にバレてはいけない。

彼女のために。

絶対に。


「おーい、着いたぞ。」

運転席からの声で目が覚めた。

目的地に着いた。

「一応ここまで来たけど、ロシアにいくんだろ? こっからどうする?」

「あー、何とかします。」

「・・・そうかい。ワケありなんだな。」

「えぇ、まぁ・・・・。」

そういうと、男はこっちに防寒具をくれた。

「そんなんじゃ死んじまう。これを下に着なさい。あとこれも。」

「え、いいんですか?」

「せっかくここまで連れてきて、死なれたらたまらんからな。」

学生服、ズボンの下に防寒着を着て、マフラーと手袋も着けた。

「温かいですね。」

「もちろん、国産品だからな。むしろその服がすげぇだろ。さすがメイドインジャパンだな。」

「あはは・・。」



男の人とはそこで別れた。彼にも守らなければならないものがある。

手を振り見送ると、向きを変えた。

眼前に広がるのは、白銀の世界。

宿敵が待つ、戦場。

『上条当麻』は最初の記憶を、思い出す。

わがままで、食いしん坊で、暴れん坊。

だけど、何よりやさしく、人のことを思う奴が、

誰にも助けを求められずに、苦しんでいる。

迷いは、ない。

覚悟は、ある。

「・・・・まってろよ。」

ただ、一言。

彼は、一歩、踏み出した。





上空には、とある飛行機。



近くには、とある貨物列車。



大切なものを守る戦いが始まった



以上です。

大変短かくすいません

またいつか来ます

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