咲「ノドカの牌?」(472)

 ――長野県某所

和「ゆ、優希、こここ、これ以上はやめましょう。暗いですし、埃っぽいですし、そろそろおやつの時間ですし……」ガタガタ

 原村和、現在十歳。

優希「何を言ってるんだじぇのどちゃん! 暗いからわくわくするんだじぇ!! おっ、階段見つけたじょっ!!」ダッ

 優希の家に遊びに来ていた和。優希の家は三世代が住む広くて古い家で、裏庭には大きな蔵。

和「優希……待ってくださいよ」オソルオソル

 二人は今、懐中電灯片手にその中を探検中であった。

優希「おおおお! これは!? 親父め、こんなお宝を隠し持っていたとは!! やっぱり来て正解だったじょ!!」

和「なんですか……?」

 蔵の二階に上がった二人が見つけたものは、一つの、古い麻雀卓。

優希「手積み卓だじぇ……これは相当古いものに違いないじょ」

和「優希は本当に好きですねぇ、麻雀」

優希「のどちゃんも麻雀やればいいのにー」

和「あんな運だけで勝負が決まるお遊びに興味は持てませんよ」

優希「のどちゃんは頭固いじぇ。ま、それはそれとしてだじょ。早速この麻雀卓を外に運び出すじぇ! のどちゃん、そっち持ってだじょ!!」

和「え。嫌ですよ……なんか汚れていますし」

優希「埃くらい拭えばいいじぇー」

和「いや、埃だけならそうですけど、これ、なんか角のほうに染みがあるじゃないですか。触りたくないです」

優希「えー? 染み……? どこ? どこだじぇ?」

和「だから、この角の……」

?「この血が……見えるの……?」

和「ええ? 血? 優希、やめてくださいよ、そういう性質の悪い冗談は」

優希「私は何も言ってないじぇ?」

和「え?」

?(私の声が……聞こえるの……?)

和「え? ええ?」

優希「の、のどちゃん?」

?(ああ……本当に聞こてるんだ!! よかったよ……! あ、えっと! あの、あなた、お名前は!?)

和「は――原村和……です」

?(原村さんって言うんだね!! 私……私は、宮永咲!)

和「み……や、さき……?」

?(どこ見てるの、こっちこっち!!)

和「そ――」

 振り返ると、そこにはどこかの高校の制服を着た、儚げな少女が。

咲(これからよろしくね、原村さんっ!)

和「そんなオカルトありえません!!」

 ――学校

和(で、宮永さんは平安時代の人で、当時は麻雀の指南役をしていて、色々あって未練が残って、意識だけが現世に留まり続けて、
 江戸時代に一回同じようにして別の人に取り憑いて麻雀を打ったものの、なんだかんだで今でも成仏できずにいる、と)

咲(そうそう! 物分りがいいね、原村さん! だから、今すぐ私に麻雀を打たせて!!)

和(嫌です)キッパリ

咲(なんで!? 麻雀嫌いなの!?)

和(興味が湧かないだけです。それに、残念ながら私は勉強に忙しいので、あまり遊んでいる暇はないんですよ)

咲(い、一回だけ! せめて一回だけ打てば、きっと原村さんも麻雀の楽しさがわかるよ! 一緒に麻雀楽しもうよっ!!)

和(宮永さん……その、私の前に回って捨てられた子犬みたいな潤んだ目でじっと見つめられると……気が散って授業に集中できないのですが)

咲(原村さんが麻雀するっていうまでこうしてるもん!)ウルウル

和(…………わかりました。一回だけですよ。週末、隣町の雀荘に行ってみましょう)

咲(やったあああああ!! ありがとう!! 原村さん!!)

 ――週末

和「ここが雀荘というところですか。初めて入りますね」

咲(こんな大きな町の真ん中に雀荘があるんだね! しかも原村さんみたいな小さな子が一人で入って大丈夫なところなんだ。
 すごいなぁ……江戸時代じゃありえなかったよ)

和「今の日本の麻雀人気はすごいですからね。トッププロは芸能人と同じような扱いですし。
 ほら、宮永さん、見えますか、あの電光掲示板」

咲(小鍛治健夜プロ……九冠達成……?)

和「小鍛治プロという方は、今の日本……ひいては世界で最も強い雀士の一人です。
 総理大臣の名前は知らなくても、小鍛治プロの名前なら小学生でも知っている。それくらい有名な人です」

咲(へえ……!! いいね、じゃあその小鍛治さんと打とうよ!!)

和「寝言は寝て言ってください。さあ、行きますよ。さっさと麻雀を打って家に帰りましょう。私にはやらなくてはいけない宿題が山ほどあるんです」

咲(はぁい……)

 ――雀荘・受付

?「ワハハー。これはこれは。また随分と小さなお客さんだなー。お嬢ちゃん、お一人かな?」

和「はい。小学生は、いくらですか?」

蒲原(25)「しっかりしてるなぁ。いいよ、うちはご新規さん無料なんだ。好きなだけ打ってくといい。ところで、お嬢ちゃん、雀力は何級くらいだー?」

和「わかりません。麻雀のルールは多少の予備知識がありますが、私自身は牌に触ったこともありませんし、もちろん人と打ったこともありません。
 けど、とにかく麻雀を一回打ちたいんです」

蒲原「んー? んんー?」

?「何かお困りごとっすか?」

蒲原「おー、モモ。今終わったとこか、お疲れ様ー」

モモ(23)「いえいえ、あのくらいの相手ならヨユーっすよ。それで、どうかしたっすか?」

蒲原「いや、牌を触ったことのない子がいきなり麻雀を打ちたいって言ってきてなー。あ、この子なんだけど」

モモ(こ、この子……なんて先が楽しみなおっぱい……!)

蒲原「ただ、うちだとあんまり素人さんに対応できないからなー。モモの旦那さんの麻雀教室なんかいいかなと思って」

モモ「先輩はかおりん先輩を鍛えた実績があるっすからね。どんな素人さんでも大歓迎っすよー」

和「あ、あの、べ、別に私は麻雀を学びに来たわけじゃなくてですね! とにかく一回打てればいいんです。本当に、誰でも」

蒲原「んー? そう言われてもなー、モモ、指導麻雀とかできるか?」

モモ「体質柄苦手っすね。むっきー先輩がいいと思うっすけど、今日はシフト入ってないっすし」

蒲原「佳織も今日はお休みだからなー」

和「あっ!? あそこ! あの子でいいですっ!!」

蒲原「え……? う……あ、あの子は……」

和「年齢も近そうですし、ちょうどいいと思います」

モモ「いや、でもあの子は……」

?「何か……?」

蒲原「て、照ちゃん……」

照(12)「私が……何か?」

モモ「いや、なんと言えばいいっすか、その……」

和「私と麻雀を打ってください。一回だけでいいんです!」

照「私でよければ、喜んで。せっかくだし、一回と言わず三回くらい打とうか」ニコッ

蒲原「おお、ありがとうなー、照ちゃん」

照「いえいえ。それで、あなた、お名前は?」

和「私は原村和。小学四年です。あなたは?」

照「宮永照。年はあなたの二つ上かな。よろしくね」

和(宮永……?)

照「じゃあ、せっかくですし、蒲原さんとモモさんもご一緒にいかがですか?」

蒲原「お、お手柔らかになー」ワハハ

モモ「よろしくっす」

 ――卓

和(んー……退屈ですね)タンッ

蒲原(手つきは危なっかしいけど、ルールはわかってるみたいだなぁ。
 普通に和了ったりしてるし、点数計算もできるし……まあ、麻雀はテレビでもやってるからなー。今時の子にとっては常識かー)タンッ

モモ(しかし、時々変なところで手が止まるのはなんなんっすかね。捨て牌と和了りの形だけ見るとまったくの素人ってわけじゃないと思うっすけど)タンッ

照(…………)

咲(そうそう! 次はその鳥の絵が描いてある牌を切ってね!)

和(鳥……これですよね?)

照(蒲原さんも……モモさんも……気付いていないのか)

咲(うん。それで、それを横向きにするの!)

和(横向き……『りーち』ですか)

照(原村和……ここまで半荘を二回やって……二回ともプラマイゼロ。しかも……ところどころでわざと点数を調整したり……差し込んだりしている)

咲(そうそう。よく知ってるね!)

和(りーちくらいは一般教養です)

照(信じられないけど、まず間違いなく狙ってやっている。ありえない。二回なら……まだ偶然かもしれない。でも……もしこの三回目も……同じことが起きたなら……)

和「えっと……りーち、です」チャ

照(――!)ゾッ

和(あれ……なんか、宮永照さんの顔色が悪い……?)

照(こ……このリーチは……最善の一打でも……最高の一打でもない!)

和(?)

照(私がどう動くかを見るためのリーチだ……! 私の実力を測っている……!!)

咲()ゴゴゴゴゴゴゴ

照(遥かな高みから!!)

?「おーい、蒲原、モモを受け取りに来たぞー? 蒲原ー? っと――」ヒョイ

和「あっ、ごめんなさい」タッタッタッ

かじゅ「いやいや、こちらこそ邪魔してすまないな(子供……? 珍しい。この雀荘では宮永さん以外の子供はあまり見かけないが……)」

 ザワザワ

「お、おい……宮永照が負けたぞ……!?」

「バ、バカ負けてないだろ! うちのルールでは、大ミンカンの責任払いはない!!」

「というか、無闇にカンすること自体、初心者のやることだろうが!」

かじゅ(ん、なんか奥が騒がしいな……?)

蒲原「お、おお、ゆみちん、お迎えか」

かじゅ(25)「おお、蒲原……とモモと、宮永さん? どうした、お前らが宮永さんと卓を囲んでいるなんて珍しいな。指導対局でもしてもらったのか?」

モモ「いや……そういうんじゃないっす……」

かじゅ「そうなのか……? えっと成績は……なんだ、宮永さんの三連続トップで、モモも蒲原もマイナスかぁ。
 ま、そりゃあ天下の宮永さんが相手なら仕方ないかもしれないがな。一緒に全国を狙った仲間としては複雑だな。
 で、この『原村和』っていうのは? ん……三連続……プラマイゼロ……?」

蒲原「その子、今帰ったところでなー。さっきまでそこの席にいたんだが……」

かじゅ「そ、そうなのか……?(オーラスの局面が残っているが……しかし……なんだこの捨て牌は……!? この手で……宮永さんから大ミンカン……? 嶺上開花だと!?
 まさか、これを故意にやってのけたのか……? そんなバカな!!)」

蒲原「おっと、さすがにゆみちんは気付くのが早いなぁ。そういうことなんでな。こっちもちょっと驚いてるところなんだー」

モモ「あの子、牌を触ったことがないって言ってたっすよね?」

蒲原「人と打ったことがないとも言ってたぞー?」

照「」ガタッ

蒲原「て、照ちゃん……?」

照(人と……打ったことがない……!?)

 ――帰り道

和(宮永さん……えっと、さっきの人も宮永さんだったので、咲さんって呼んでいいですか?)

咲(じゃあ、私は和ちゃんって呼ぶね!)

和(もうそれでいいです。えっと、で、宮永咲さんの麻雀は、なんだか強いのか弱いのかわかりませんね。プラスでもなければマイナスでもない)

咲(私が打つといつもああなっちゃうんだよね……)

和(どうですか、成仏できそうですか?)

咲(ごめん。なんか、一回打ったらますます打ちたくなっちゃった)

和(仕方のない人ですね)

咲(ねー原村さーん打ちたいよー打ちたいよー麻雀打ちたいよー)

和(耳元で甘い声を囁かないでください)

咲(ダメ……?)ジー

和(上目遣いもナシです)

咲(ぶー。原村さんのケチ)

和(……とりあえず、誰かと対局をするのはもう少し待ってください)

咲(えー)

和(私自身が、もう少し麻雀を知る必要があるようです。ただ宮永さんに言われて牌を切るだけでは、退屈で眠ってしまいそうです)

咲(ん……? ってことは……?)

和(私もやってみようかと思います、麻雀)

咲(和ちゃん!)キラキラ

和(あ、あくまで人並みに知識や戦術を身に付けたいというだけです!! べつに麻雀に興味が湧いたわけではありませんから!!)

 ――数日後

和「ここが麻雀教室ですか。一応、念には念を入れて隣の隣の町まで来ましたが」

美穂子(25)「ようこそ、福路麻雀教室へ。初めまして、私は福路美穂子よ。あなたは?」

和「原村和です。ちょっと、色々と諸事情がありまして、麻雀について少々……」

咲(和ちゃん! この人も強そうだよ! 打ちたいよ!)

和「プロなんですから強いに決まってるじゃないですか。咲さんはちょっと黙っててください」コソッ

美穂子「ん、どうしたのかな?」

和「あ、いえ、なんでもないんです。その、麻雀の基本を知りたくて……」

美穂子「麻雀の基本、ね。いいわ。とりあえず、どれくらいのことまで知ってる?」

和「役を知っていて、符点計算もできます」

美穂子「あら、そうなの? なら、たぶんすぐに打てるようになるわよ。じゃあ、こっちで他の子たちと一緒にやってみましょうね」

池田(9)「よろしくだしー」

みはるん(9)「よろしくですー」

 ――帰り

和「あ、あの、福路先生」

美穂子「なにかしら?」

和「宮な……いえ、なんでもないです」

美穂子「?」

和「では、今日はありがとうございました」

美穂子(どうしたのかしら……)

池田「せんせー」

美穂子「んー、どうしたのー? 華菜ちゃん?」

池田「世界でいちばん麻雀がつよい人って、だれー?」

美穂子「そうねぇ。今生きている人だったら……間違いなく小鍛治九冠ね」

池田「こかじプロ! 知ってる! あらふぉー!!」

美穂子「こーら、華菜ちゃん、めっ」

池田「あうー」

美穂子「けど、過去に生きた人も含めていいんだったら……」

池田「?」

美穂子「先生は、江戸時代の『宮永咲』が一番だと思うわ」

 ――帰り道

咲(あーあー。結局あの福路って人とは打てなかったー)

和(福路さんはプロの六段ですよ? この間、雀荘で小学校六年生相手に勝てなかった咲さんが敵う相手じゃありません)

咲(それとこれとは話は別だよ。っていうか、和ちゃん、たぶん勘違いしてると思うけど、あの子、めちゃめちゃ強いよ)

和(宮永……照さんですか?)

咲(そう。あれだけの才覚と技術を持った子供は……たぶん、数十年に一人いるかいないかくらいの逸材だと思う)

和(へえ……まあ、私には関係ないことですけど)

咲(関係……なくはないかもね)

和(えっ?)

照「――!! 見つけた!!」ドンッ

和「え? ええ? 宮永照さん!?」

照「原村さん……今、時間あるかな?」

和「え、いや、私……」

照「私と……打ってくれない? もう一度……半荘一回……今度は本気で」

和「えっ、ええええ?」

咲(いいよ、打とう。和ちゃん)

和(ちょ、ちょっと待ってください。今日はこれから宿題を……)

咲(和ちゃんは、感じないの? あの子の気迫)

照()ギギギギギギギギ

和(目……目が血走ってますけど……)

咲(大丈夫。たぶん、すぐ終わるよ)

和(さ、咲さんがそう言うなら……)

 ――雀荘

蒲原「おお、照ちゃん……と、原村和ちゃん!?」

照「奥、借ります」カツカツカツ

和「ど、どうもすいません……」ペコペコ

むっきー(あ、あれが噂の……?)

かおりん(宮永さん相手に三連続プラマイゼロをやったっていう……)

 ――奥

照「お待たせして申し訳ありません」

誠子(24)「いいっていいって。テルの頼みなら」

尭深(24)「……始めよう……」

和(こ、この二人……知ってる! 亦野三段と渋谷三段……プロ雀士だ……!!)

照「原村さん、もう一度言います。今度は本気で打ってください。私は、あなたの力を見極めたい」

和「そ、そんなことを言われても……」

咲(心配しないで、和ちゃん)

和(咲さん……何をするつもりですか!?)

咲(和ちゃんには、まだわからないかもしれないけれど。本気の相手には、本気で応えるのが礼儀なんだよ。たとえ、それがどんな結果になったとしても受け入れる。
 それが……私たち雀士のルールなんだ)

和(わ、わけがわかりません!!)

照「じゃあ、場決めをしようか……」

 ――三十分後

和「」タッタッタッ

蒲原「お、おおい!? そんなに走ると危ないぞ!!?」

 ザワザワ

「お、おい、どうなってんだこれ?」

「いや、たまたまだろ。たまたま!!」

「た、たまたまでこんなことになるか!?」

蒲原「け、結果はどうなったんだ?」

かおりん(24)「智美ちゃん……あのね。宮永さんと、亦野プロと渋谷プロが……」

むっきー(24)「東一局……原村さんの親の連荘で……三人同時にトばされました」

蒲原「そ――そんな……!!?」ゾワッ

和(咲さん……咲さん!!)

咲(何……和ちゃん)

和(なんであんなことしたんですか!?)

咲(あれが……麻雀なんだよ)

和(だって……あんなの……素人の私が見たってひど過ぎます。あんまりです!!)

咲(じゃあ、和ちゃんは、私に手を抜けって言うの? あんなに真剣に勝とうとしている人たちに対して、手加減をしろって言うの?)

和(そうじゃ……そうじゃありませんけど。でも、咲さんがプロにも勝てるくらい強いんだったら……ああいう結果にならないようにすることもできたのでは?)

咲(それこそ、相手を傷つけるだけだよ)

和(そう……ですか)

咲(いつか、和ちゃんが本気で麻雀で勝ちたいって思えるようになったとき、私の言ったことの意味、わかると思う)

和(麻雀、ですか。運だけで勝敗が決まるお遊びだと思っていましたが……)

咲(もちろん、運の要素は大きいよ)

和(けど、咲さんを見ていると……嫌でも感じます。運や確率だけでは説明がつかない現象が……実際にさっき起きていた)

咲(そうだね)

和(どうやら……私自身が、もっと麻雀を深く理解しなければ……咲さんたちの世界にはついていけないようですね)

咲(うん)

和(麻雀……本格的に取り組んでみますか)

 ――数日後・子供麻雀大会

 タンッ タンッ チャ リーチ ロン タンッ タンッ

和(うわ……すごいいっぱい卓が並んでます……)

咲(みんな真剣に打ってるね)

和(ちょっと恐いくらいですね)ウロウロ

咲(あ、和ちゃん、そこの子の手牌見てください)

和(これは、一色染めですか?)チラッ

咲(うん。きちんと考えて打たないと、手が遅くなっちゃうね。この場合、正解は二萬切りだよ)

和(へ、へえ……十五分くらいあれば私にもわかりそうですけど)

ギバード「」タンッ

和「あっ、そっちじゃなくて二萬……」ボソッ

ギバード「あ”?」

綾「え?」

ひな「ええ?」

よし子「えええ?」

和「あ――!」

望「君っ!!」ガシッ

 ――運営控え室

和「本当に……本当に申し訳ありませんでした」ペコッ

望「いくら自由観覧の小さな大会とは言え、みんな優勝を目指して頑張っているんだからね。今後は気をつけるように。じゃあ……まあ、もう今日は帰っていいよ」

和「はい。わかりました。すいませんでした」タッタッタッ

望(礼儀正しそうないい子なんだけどな……口が滑ったのか。それとも、こういう大会に不慣れだったとか……?)

?「お疲れー。どうした? なんかトラブル?」

望「おっ、赤土九段様じゃないか。そうなのよ。打牌に口出しした子がいてね。まだ十歳くらいの子供だったんだけど」

晴絵(33)「へー? どんな手牌?」

望「この染め手。ギバードが八萬を切ったところで、その子が後ろから二萬だよ、って」

晴絵「なかなか的確なアドバイスじゃないか」

望「それはそうなんだけどね。口に出すのはよくないでしょ。結局その対局は流して、もう一回最初から打ってもらうことにしたよ」

晴絵「ま、大方ギバードの応援でもしてて熱が入っちゃったのかな?
 後ろに張り付いて見てれば、一緒になって打ってるような気持ちになるしな。自分の考えと違ったら、つい心の声が漏れちゃうかもしれない」

望「いや、別にギバードの応援とかじゃなかったみたいよ。
 その場に居合わせた人の話だと、ふらふらーっと会場内に入ってきて、ギバードが悩んでいる途中にふっと立ち止まって、チラッと見て――」

晴絵「ちょっと待って……チラッと見て――?」

望「それがどうかしたの? これくらいの染め手なら、少し考えればわかるじゃない」

晴絵「おいおい、私と一緒にインターハイベストエイトに残った望ならそうだろうけど……その子は、十歳かそこらの子供なんだろう?
 しかも、ついうっかり口を滑らしすことの重大性もよくわかってないような……麻雀に不慣れな」

望「言われてみれば……」

?「あ、あの……」

晴絵「あっ……こ、こんにちは!!」

健夜(35)「なんか、トラブルがあったって聞きましたけど……」

望「あー、いや、小鍛治九冠にはあんまり関係ないトラブルですよ。それよりも、今日はこんな小さな大会にゲストとして来ていただいてありがとうございます」

健夜「赤土さんの頼みだから……」

晴絵「本当にありがとうございます」ペコッ

健夜「ん、これ清一? 二萬切りかぁ」

晴絵「これをチラッと見てアドバイスしたそうですよ、十歳くらいの女の子が」

健夜「へえ、十歳くらいの……女の子、か。
 偶然だね。私も、私の門下の三人が、この間プロでもなんでもない一人の女の子に東一局でトばされたって話を聞いたばかりなんだけど」

晴絵「それはまた……興味深い話ですね」

健夜「あの世代だと……うちの照が一番だと思ってたんだけどなぁ……世界は広いね。
 まあ、その子がそれほどの打ち手だと言うのなら、遅かれ早かれ私たちプロの前に現れる。赤土さんも、そう思うでしょ?」ドドドドドドドド

晴絵「ええ……そうですね」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――数日後・街中

和(この間は咲さんのせいでえらい目に遭いました)

咲(ええ!? 私のせい!?)

和(咲さんが余計なこと言うからです)

咲(うう……だって、この頃は和ちゃんが福路さんの教室で打ってばっかりで、私には打たせてくれないんだもん!)

和(なんとなく、咲さんに自由に打たせるのは危険な気がしてるんです。だって、咲さんはプロにも勝っちゃうんですから。
 でも、それって周囲から見れば私がプロを倒したってことになるわけで……それって色々と面倒じゃないですか)

咲(じゃあ、私はいつまで我慢してればいいの?)

和(私が咲さんと同じくらい強くなるまで……ですかね)

咲(それ千年かかるよ)

和(とにかく、しばらく大人しくしててください!)

咲(ええええー……)

望「おい、あの子だ」

晴絵「え? 何が?」

望「ほら、あの大会のときの」

晴絵「へえ! いいおもちしてるじゃないか!!」

望「そこ……?」

晴絵「よう、そこの可愛いお嬢さん!!」

和「えっ?」

咲(和ちゃん今『可愛いお嬢さん』に反応して振り返ったよね!?)

晴絵「そうそう、君だよ君」

望「や、やあ」

和「あ……この間の……それとあなたは――レジェンド・赤土晴絵九段!!?」

晴絵「おっ、私のことを知ってるのか、嬉しいなぁ。ところで、君、今時間あるか? 私ともう一人……君と打ちたいって言ってる人がいるんだよ」

和「え、えっと……その……」

咲(和ちゃん、行こう!!)

和(え!? で、でも、この人――赤土さんはトッププロ中のトッププロですよ!!? 万が一勝っちゃったらどうするつもりですか!? 絶対騒ぎになりますよ!)

咲(いや……これはね……予感なんだけど。たぶん私でも一筋縄じゃいかない相手かもしれないよ!!)

和(赤土さんが……?)

咲(いや……それはどうだろう。とにかく、この人についていけばわかる!!)

和(ど……どうなっても知りませんから!!)

 ――雀荘

晴絵「ごめんね、もう少し待ってて。あ、ジュース飲む?」

和「あ、い、いえ。お気遣いありがとうございます」

望「小さいのに謙虚でしっかりした子ねぇ」

晴絵「一部分だけかなり我儘だけどなぁ」

和「ど、どこ見てるですか!?」

咲(和ちゃん……高校生の姿の私よりも断然大きい……)ズーン

 カランコロン

晴絵「おっ、いらっしゃった。こっちですー」

和(あ、あの人は――!!)ゾゾッ

咲(この人……!!)

健夜「お待たせしてすいませ……ん?」

咲()ゾッ

健夜「………………」

晴絵「……小鍛治さん? どうかしました?」

健夜「ううん……なんでもない。えっと、この子が、例の?」

望「そうです」

和「あ、あの……初めまして。原村和です」

健夜「原村さん……なるほど、照から聞いていた名前と一緒ね」

和「え? 宮永照さんから……?」

健夜「そう。宮永照は、私――小鍛治健夜門下の一人なの。
 あなたがトばしたっていう亦野三段と渋谷三段もうちの門下生。まさか……本当にこんな小さな子だったなんて、驚いたわ」

和「あ、あれは……えっと、その……」

健夜「単なる偶然」

和「えっ?」

健夜「半荘一回で、強い弱いは測れない。まったくの素人にプロがボロ負けすることもある。麻雀という競技には、そういう側面もある」

晴絵「けど……そうじゃない側面もある」

健夜「それをね、確かめたいの。大丈夫、別に、取って食べようってわけじゃないから。気楽に、いつも通りに打って」

和「は……はあ……」

望「えっと……じゃあ、場決めしますか」

 ――卓

和(は……始まっちゃいました! どうしましょう……)

咲(和ちゃん、この東一局は様子を見よう。あっちがどういうつもりでこの対局に臨んでいるのか、それを確かめたい)

和(様子を見るって……だって、相手は世界最強の雀士なのに、そんな悠長な)

咲(いいから、和ちゃんは何も考えずに打って。今の和ちゃんがこの人たち相手に下手に何かをしようとすると、一瞬でひねり潰されるよ)

和(こ、恐いこと言わないでください!)

咲(事実だから。じゃあ、まず第一打は西から)

和(は、はい……)コトッ

 ――

和(とは言ったものの……)コトッ

晴絵()タンッ

健夜()タンッ

望()タンッ

和(私には……一体何がどうなってて、誰が優勢で、どういう状況なのか、さっぱりわからないです。けど……)コトッ

晴絵()タンッ

健夜()タンッ

望()タンッ

和(小鍛治九冠も……赤土九段も、この望さんって人も……みんな、打ち方が綺麗ですね……)ポー

晴絵()タンッ

健夜()タンッ

望()タンッ

和(ツモって……手牌に入れて……要らない牌を切る。全てが一つの流れになっていて、一つツモるごとに、一つ和了りに向かっているのがよくわかる。
 すごく……カッコいいです。テレビでたまに見るだけじゃわからなかったですけど、本物は……本当に強い人っていうのは……こんなにすごいんですね。
 それに比べて私は……)コトッ

晴絵()タンッ

健夜()タンッ

望()タンッ

和(咲さんの言う通りに牌を捨てているだけ。打ち方もツモり方も稚拙。
 なんでしょうね……この方々を前にして、悔しい、なんて思ってしまうこと自体が傲慢なんでしょうか。
 けど……これだけの凄さを見せ付けられたら……私だって、と思ってしまいます)コトッ

晴絵()タンッ

健夜()タンッ

望()タンッ

和(牌が……光って見えるみたいです。グランドマスター・小鍛治プロ……これが、世界の頂点に立つ人の麻雀ですか)

咲(和ちゃん、次は四索ね。あと、三枚ある南は今のうちに右端に寄せておいて。次で行くよ……)

和(私も……小鍛治プロみたいに……)

咲(和ちゃん……?)

和(あんな風に……打てたら……!!)

 タァァァンッ

晴絵(ん?)

健夜(…………)

望(打ち方――否、雀風まで変わった?)

和「あ……ああ……」ガタガタ

咲(の、和ちゃん……!?)

晴絵「お、おい。原村さん? どうした?」

和「うわあああああああああああああ!!!」ダッ

晴絵「は、原村さん!!」

 ――

晴絵「ちょっと、強引に連れてきたのがマズかったんですかね?」

望「いや、わからない。あの年頃の娘は難しいから。私には年の離れた妹がいるからわかる」

晴絵「で、どうでした、小鍛治さん、原村和は?」

健夜「打ち方はともかく、手の進め方は綺麗だったし、打牌に非の打ち所はなかったと思う。ただ、最後の南切り……」

晴絵「ああ、そうですね。これは不可解です。では……ちょっと失礼して」スッ

望「あ……これは……?」

健夜「原村さんがあのまま南を抱えていれば、私が最後の南を掴まされていた。そして……大ミンカン――嶺上開花」

晴絵「照と合計で四回半荘をしていて、その中で彼女は二度、嶺上開花を和了っています」

健夜「偶然じゃ……ないってことになるね」

晴絵「しかし、嶺上開花を狙っていたならなぜ南を崩したんでしょう」

健夜「私たちの和了り牌を読んだ、ってわけじゃないと思うけれど」

望(二人とも四索待ちか……大人気ないなぁ)

晴絵「ま、頭ハネで私がいただきますけどね」ゴゴゴゴ

健夜「あれ、ダブロン採用だと思ってたけど」ドドドド

晴絵「そういえば、事前に決めてませんでしたね」ゴゴゴゴ

健夜「ま、別に頭ハネでもいいよ。そんなにそんな安手が和了りたいなら、好きなだけどうぞ」ドドドド

望「ハイハイ、二人とも喧嘩しないで」

晴絵「それにしても、原村和か。プロになる気があるのかないのか」

健夜「それは……このあいだ私が言ったことが全て。彼女が本物なら、遅かれ早かれ、私たちの前に現れる」

晴絵(33)「できれば、私がアラサーでいるうちに現れてほしいなー」

健夜(35)「赤土さん、それどういう意味かな?」

 ――街中

和「はぁ……!! はあ……はあ!!」

咲(和ちゃん!? いきなり飛び出してどうしたの!!?)

和「どうしたのじゃ……ないですよ!!」

咲(ちょ、声出てる!!)

和「さっき……私の身体を乗っ取りましたね!!?」

咲(そんなことしてないよ!?)

和「じゃあなんで私があんな綺麗に打てるんですか!? もう信じられません!! ちょっと可愛いから油断したらこれですか!! やっぱり咲さんは悪霊だったんですね!!」

咲(ご、誤解だよ……落ち着いて、ね?)

和「はぁ……」

咲(溜息なんかついて、どうしたの?)

和(私も……本気で頑張ってみようと思います、麻雀)

咲(そ、そっか! いいことだね!!)

和(そして……いつか、小鍛治プロや赤土プロみたいになりたいです)

咲(うん! 私と一緒に麻雀楽しもうよ!!)

和(というわけで、やっぱり咲さんはしばらく引っ込んでいてください。私、もっともっと自分の麻雀が打ちたいんです)

咲(そ、そんなぁ……)ズーン

 ――清澄中学文化祭

優希「やっほーい、のどちゃん、なんか久しぶりだじぇ!!」

和「そんなことありませんよ、結構頻繁に遊んでいたじゃないですか、描写されてないだけで。というか、なぜ突然清澄中学の文化祭なんかに?」

優希「ここの文化祭にはタコスの屋台が出ると聞いてな!! これは行かねばなるまい!!」

和「さいですか……」

優希「おっ、早速タコス発見!! その隣には雀卓を広げてるとこもあるじぇ!!」

和「へえ、麻雀ですか。いいですね」

優希「えっ? のどちゃん、いつの間に麻雀に目覚めたんだじぇ?」

和「最近、色々ありまして」

優希「よし! そうと決まればタコス買って雀卓に突撃だじょ!!」

 ――

すばら(13)「おおお、お二人は麻雀に興味がおありで!? すばらっ!! では、この待ち問題にチャレンジするのです!!」

優希「第一問は簡単だじぇ」

和「二問目もさほど難しくはないですね」

すばら「結構結構。ただ、三問目は少々考えますよ? 制限時間は一分……当たれば豪華賞品プレゼント!! では、どうぞ!」

優希「む、これは清一だじぇ!」

和(あの口出ししてしまったときのことが思い出されますね。あれから私なりに勉強はしました。一分あれば、ぎりぎりなんとか……!!)

?「八蓮宝燈だろ」ジャラジャラ

すばら「ああああ!!? なんですか!? いきなり牌をぐちゃぐちゃにして!!!」

優希「おまっ、お前誰だじぇ!?」

純(13)「お前だぁ? 年上には敬語使えよ、小学生」

和(な、なんなんですかこの背も態度も大きな人!? というか、この問題を一瞬で……?)

咲(ふむ)

純「花田さんよぉ、いつまでも一人しかいない弱小部を続けてなんになんだよ。悪いことは言わねえ、麻雀部なんてやめちまえ」

すばら「なんでそんなことをあなたに言われないといけないんですか!?」

純「オレたちはなぁ、新しい麻雀部を立ち上げたいんだよ。だから、今の麻雀部には廃部してもらわないと困るんだ。
 花田さん以外の部員は全員追い出したんだぜ? いい加減折れろって」

すばら「嫌です。あなた方になんと言われようと、私は先輩から受け継いだこの部を守ります!」

純「ま、実際のところは花田さんの意思なんて関係ないんだけどな」

すばら「えっ?」

純「二週間後の大会。花田さんが所属してる旧麻雀部と、オレたち新麻雀部が両方ともこの清澄中学の代表として出場できるようにした。
 そんでもって、そこで負けたほうが廃部になるって感じに、校長に手回しした」

すばら「そ、そんな……!?」

純「ま、せいぜい頑張れよ。つーか、まず部員がもう三人いないと大会に出れないから、そこから頑張らないとな」

すばら「ひ、卑怯ですよ!!」

純「じゃ、そんだけだ」

和「ちょ、ちょっと待ってください!!」

純「あん?」

和「なんだかよくわかりませんが、その大会で勝てば、花田さんはこのまま部活を続けられるんですよね?」

純「そうだが、それがお前に何か関係あるのか?」

和「関係あります! 私と優希はこの清澄中学に進学するかもしれないんです。
 そして、進学したら麻雀部に入るかもしれません。そうなったとき……私はあなたのいる新麻雀部より、花田さんの守っている麻雀部に入りたい!!」

すばら「は、原村さん……!?」

優希「なるほどな、のどちゃん。私ものどちゃんに賛成だじぇ!!」

純「何を意気込んでんだお前ら。つーか、もしかして、お前ら、花田さんと一緒に大会に出るつもりじゃねえだろうな?」

和「そのつもりですっ!!」

純「バカか。小学生が中学生の大会に出れるわけねえだろう」

和「そのあたりは、あなたが手回ししてください。まさか、逃げるんですか? 私たちに勝つ自身がないとでも?」

純「はん、面白え!! お前、名前は?」

和「原村和です!!」

純「オレは井上純……いいぜ。お前の度胸を買って、お前らの大会への参加はなんとかしてやるよ。
 ただし、もしお前らが負けた場合、花田さんはもちろん、中学生になったお前らも全員強制的にうちの部に雑用係として入ってもらうからな。覚悟しとけ」

和「いいでしょう。その代わり、私たちが勝ったら、あなたたちは花田さんの麻雀部に入ってください」

純「団体戦は八万点持ち、四人で半荘を四回やってその合計点を競う。
 お前とそっちのタコスチビのほかに、メンバーがもう一人必要だからな。そこんとこ忘れんなよ」

和「いいでしょう。四人目は必ず揃えます。そして、二週間後の大会で正々堂々勝ってみせます!」

純「それなりに楽しませてくれよ、小学生。じゃあな」

優希「首を落として待ってろだじぇ!!」

すばら「なんかすいません。うちの麻雀部のゴタゴタに巻き込んでしまって」

和「いいんです。それよりも、なんとかして勝つ方法を考えましょう。それに、四人目のことも考えなくてはいけませんし」

すばら「ああ、いえ。もういいんです。
 お二人が言い返してくれたときは嬉しかったですけど、やっぱり、これは私たちの問題なので、部外者のお二人を巻き込むわけにはいきません。
 私は……もう捨て駒でいいです。雑用係でもなんでもやります。
 原村さんと片岡さんにはなんの迷惑もかけないようにあの人たちにお願いしますから、今日のことはなかったことにして……」

優希「水臭いじぇ!! 花田先輩っ!! 私たちはもう部外者じゃない、当事者だじょ!!」

和「そうですよ!! 私たちは花田先輩の味方ですっ!!」

すばら「ううう……しかし、あの井上純……それに他の三人は、本当に強いんです。
 原村さんや片岡さんがいくら腕に覚えがあるからって勝てるような相手じゃありません。
 あの四人は……さる高名なプロから直々に指導してもらっていると聞いたことがあります。それで、インターミドルの頂点を目指すんだとか。
 まあ、確かに、本気でインターミドルを目指すなら、私の麻雀部とは空気が合いません。
 そんなところで衝突するくらいだったら、自分たちで一から新しい部活を立ち上げたほうがいい――そう考えるのが自然でしょう」

和「だからって、頑張ってる花田先輩にひどいことをしてもいい理由にはなりません!」

優希「そうだじぇ! 花田先輩は何も悪くないじょ!! あんなノッポの言いなりになっちゃダメだじぇ!!」

すばら「…………わかりました。けど、いざとなったら本当に私が捨て駒になるので、原村さんと片岡さんは自分のことだけを心配していてください。
 正直、あの『四天王』と対等な戦いの場に出れるというだけで、私はもう満足しています。これ以上多くは望みますまい。この花田の命運、あなた方に預けます」

優希「大船に乗ったつもりでいていいじょ!!」

和「優希、四人目のアテはありますか?」

優希「ない!!」

和「花田さん、追い出されてしまったという元麻雀部の人たちに協力を仰ぐことは?」

すばら「無理でしょうね」

和「となると、新たに一人見つけ出さなくてはいけません。ただ、運がいいことに今日は文化祭です。
 麻雀に興味がある人がここに寄ってくるはず……その中で、協力してくれる人を探せば……!!」

すばら「うーん、しかし、この中学に私たちや井上さんたち以外で麻雀を嗜む人がいるのかどうか……」

?「あのー、この豪華賞品っちゅうのは、何が当たるんじゃ?」

すばら「あなたは……同級生の染谷さん……? え、えっと、賞品はお菓子詰め合わせですが……」

まこ(13)「ほうか。お菓子は……要らんのう。なんじゃ、ギフト券とか海外旅行チケットとかを期待したんじゃが……」

すばら「中学生の文化祭で何を言ってるんですかあなたは」

まこ「ほいじゃ、ええわ。ところで、なんでその八蓮宝燈は牌がバラバラになっとるんじゃ?」

すばら・和・優希「!?」

まこ「ま、わしの知ったことじゃないがの」

和「(この人……バラけてる牌を見ただけで待ちを当てた? 理牌されてない状態のこれを一瞬で見抜けるなんて……きっとかなりの強者のはず!!)……そ、染谷、先輩」

まこ「ん、わりゃあ……小学生? どうしたんじゃ?」

和「その、私と花田先輩と、こっちの優希と、一緒に麻雀の大会に出てくれませんか!?」

まこ「事情はようわからんが、嫌じゃ」

和「ええええ!?」

まこ「わしゃあ競技麻雀は不慣れじゃけえ、部活とか大会とかは苦手なんじゃ。それに……賭けもせん麻雀なんて、所詮は子供の遊びじゃろ?」

すばら「そ、そんなことはありませんよ!!」

まこ「ほいたら、わしと一局打つか? 三人のうち誰か一人でもわしに勝てたら、その大会っちゅうのを考えてもええわ」

すばら「う……」

まこ「じゃ、わしゃあ行くとこあるけえ、これで失礼するわ」

咲(和ちゃん、聞こえる?)

和(なんですか、咲さん、こんなときに!)

咲(いやほら、さすがにいたいけな中学生相手に私が出張ったら可哀想だと思って黙ってたんだけど)

和(宮永照さんは一刀両断にしてたくせに……)

咲(あの子は特別だから。というか、そうじゃなくて、あの染谷さんって子)

和(染谷先輩がどうかしたんですか?)

咲(あの子……右手の指に麻雀ダコがあるのはいいんだけど、同じようなタコが左手の指にもあったんだよね。基本、麻雀は右手しか使わない。
 けど……右手と同じくらい左手で牌を扱う人も中にはいるんだよ。例えば……イカサマが得意な人とか)

和(え? じゃあ、染谷先輩が……普段からイカサマをしてるってことですか?)

咲(それに、あの子の目、あんまりいい目じゃなかった。これからどこに行くつもりなのかわからないけど、なんだかよくない予感がするよ)

和「あ、あの、すいません!! 私ちょっと用事を思い出したので今日はこれで失礼します!! これ、うちの連絡先です!! 何かあったら電話してください!!」

優希「おう、こっちは私と花田先輩に任せろだじぇ!!」

すばら「気をつけて帰ってくださいね」

 ――危なげな雀荘

和(そ、染谷先輩を追ってたらこんなところに。ここ、今まで私が入った雀荘とは明らかに雰囲気が違いますね。なんというか、世界の裏側みたいな)

咲(江戸時代の雀荘はこんなんばっかりだったよ)

和(賭博は犯罪です)

咲(その通り)

和(でも……ここまで来て後には引けません。行きましょう)

咲(大丈夫。イカサマされても私には見えてるし、普通に打てば絶対に負けない。それだけは間違いないから)

和(ありがとうございます。少しですが、震えが止まりました)

 ――

?「子供は500円だよ」

和「あ、えっと、見学なんですけど……」

藤田(30)「知り合いでもいるのか?」

和「あの、眼鏡をかけた中学生が」

まこ「おっ、なんじゃ、小学生。こんなところまで来よって。何度言われてもわしは大会には出んからな。っと、それロンじゃ。8300。これでわしの一人勝ちじゃのう」

和(あ……お金……)

咲(ま、子供がやるようなことじゃないよね)

和(染谷さん、イカサマしてた?)

咲(今はしてなかったと思う。けど、状況が悪くなってきたらもしかすると……)

すいません……頭が限界に達しました。眠ります。保守していただけたら明朝からまた続き書きます。

おはようございます。保守ありがとうございました。

藤田「ったく、また腕を上げたようだな、まこ」

まこ「まだまだマスターには敵わんわ」

藤田「そっか。けど……ここんとこのお前、大分勝ってるよな。勝ち過ぎなくらいに」

まこ「……何が言いたいんじゃ」

藤田「いやいや。あんまり強くなり過ぎると、お前と打てるやつが減ってくるぞって話でさ」

 キィィィガチャ

藤田「っと……今日はよく子供が来るなぁ。うちの客層じゃないんだけど……」

?「こんばんは。どこか、卓、空いてる?」

まこ「ここが今終わったとこじゃけえ、入りたかったらどうぞ」

一(13)「テンゴ? テンジュウ?」

まこ「わしを破滅させる気か。テンイチでええじゃろ」

一「おっけー。あ、ボク、国広一。これでも中一なんだ。よろしくね」

まこ「わしも中一じゃ。名前は染谷まこ」

一「そっちのフリフリ小学生は知り合い?」

まこ「いや、わしもさっき会ったばっかじゃ。名前も知らん」

和「は、原村和、です」

まこ「ほうか、よろしくな」

一「よろしくー」

まこ「ほいじゃ、始めようか。もう二人は……」

ハギヨシ「では、僭越ながら私が……」

歩「同じく……」

和(さ、咲さん……どうしましょう、対局が始まってしまいそうです)

咲(まあ、見守ろうか。染谷さんがイカサマを使うようだったら、止めないとね)

 ――半荘終了

まこ「……わしの勝ちじゃの(んー、別に弱くはないが、これくらいならわしの相手じゃないのう)」

一「あー、負けちゃったかぁ……悔しいっ!」

ハギヨシ「完敗でございます」

歩「参りました」

和(よかった。この局は普通に終わった)

咲(この染谷って子、宮永照ほどじゃないけど、けっこう強いみたいだね)

一「まずったなぁ、このまま負けて帰るとうちのご主人に叱られちゃう。染谷さん、よかったらボクとサシウマで勝負してくれないかな?」

まこ「(この誘いは乗らんほうが無難かのう……)いや、わしゃあそろそろ家に帰らんと……」

一「負けたほうが勝ったほうにプラス千点……どうかな?」ニコッ

和(ど、どういうことですか?)

咲(簡単に言えば、順位で競って負けたほうが勝ったほうに一万円払うんだよ)

和(い、一万円!!?)

まこ(危険じゃのう……しかし、さっき見た感じじゃと、手つきは覚束なかったし、ただのはったりとも考えられる。
 ほうじゃとしたらこんなボロ儲けのチャンスはないわ。一万円あればMDプレーヤーが買えるしのう……)

まこ「ええじゃろ。乗った」

和「え!? 染谷さん!?」

まこ「なんじゃ。関係ない小学生は黙って見とれ。それとも、今度はわれがこの卓に入るか?」

和「……遠慮しておきます」

まこ「部外者は引っ込んでればええんじゃ」

一「そうだよー。これは大人の世界だからねぇ?」

和(う、うう……)

一「じゃあ……始めようか」ニヤッ

 ――東四局

まこ(現状はトップじゃが……差はそれほど開いとらん。ここは無難に和了っておきたいのう……)スッ

咲(あっ、染谷さんが! ツモをすり替えた!!)

和(え? いつ? どうやって?)

咲(和ちゃんには見えないと思う。けど、今、確かにイカサマをしたね)

まこ「ツモじゃ。メンタンピン三色。3000・6000」

一「うわぁ。高め親っ被りか。これはきついねぇ」

まこ(これで一安心かの。あとは、オーラスまで振り込まんように気をつけていれば……)

一「いやぁ、強いね。同世代でこんなに打てる人は、うちのご主人様くらいだと思ってたよ」ジャラジャラ

まこ「お褒めに与り光栄じゃ」ジャラジャラ

一「特に捨て牌を読むのが上手いみたいだよね。絶妙なところでオリたりする。これはボクも見習わないと」ジャラジャラ

まこ「ははっ、偶然じゃろ、偶然」ジャラジャラ

一「あっ、今、笑ったでしょ!? ひどいなぁ、勝負ってのは終わるまで笑っちゃいけないんだよ?」ジャラジャラ

まこ「それはそうじゃの。肝に銘じておくわ」ジャラジャラ

一「聞く耳も持っている。うん、染谷さん、もっと強くなるよ。ボクが保障する」ジャラジャラ

まこ「ふうん……しかし、さっきから、その鎖……邪魔そうじゃの?」ジャラジャラ

一「あ……気付いちゃった?」ジャラジャラ

和(く、国広さんの笑顔……恐いです……!)

咲(きっと、ここから何かするつもりだよ)

和(えっ!? 止めなくていいの?)

咲(悪いけど、先にイカサマをしたのは染谷さんだ。これから国広さんが何をするにしても、文句は言えないよ)

和(そんな……負けたら一万円ですよ!?)

咲(仕方ないよ。それが勝負ってものだから)

一「これを外して麻雀するの……小学生以来なんだ。久しぶりだなぁ、上手くできるかなぁ」カチャ

まこ「言ってんさい」

一「染谷さんも、したければ好きにすればいいよ? まあ、できるもんならだけど……!」ビュッ

まこ(な……なんじゃ、鎖を外した途端に積み込みの速度が上がった……!!?)

一「ほらほら、どんどん積まないと大変なことになっちゃうよー!?」ガチャガチャ

まこ「くっ(わ、わしの積み込みを邪魔して……なおかつ自分の積み込みをしているじゃと……!? 信じられん……こんなん完全にプロの領域じゃろが……!!)」

一「うちは父が手品師でね……ボクも手先の器用さには自信があるんだ。染谷さんのは独学かな……?
 雀荘で見たやつを見よう見まねでやってる感じだったけど……そんなのはボクから見れば児戯に等しいね。
 だから……ちょっと高い授業料かもしれないけど、見せてあげるよ。玄人の技ってやつをさ……!!」

まこ(まずい……全部持っていかれる……!!?)

一「さあて……ボクの親番。ラッキーなことに山が全部残ってるね」ゴゴゴゴゴ

まこ(う、嘘じゃろ? そんな技……使える人間がこの世にまだおるんか!? 噂でしか聞いたことないわ!!)

咲(和ちゃん、イカサマは悪いことだけど、国広さんが今からやることは芸術の域だよ。よく目を凝らして見てるといい)

和(一体……何を……!?)

まこ(ツバメ返し!!?)

一「とっとっと、やっぱり鈍ってるなぁ、こんなスピードじゃ蚊が止まるね」

和(い、今何かしたんですか?)

まこ(まったく見えんかった……!?)

一「あれれ……これは……こんなことがあるんだねー」

まこ「なんじゃ……ミスったんか。なら……早く切ればええじゃろ」

一「いやいや、違うって。というか、切る牌ないし」パタッ

まこ「――!?」

一「天和。16000オール」

まこ「っ!!?」

一「さて……南場はまだ始まったばかり。最後まで付き合ってもらうよ、染谷さん?」

 ――終局

一「これ、数えるまでもなく、どっちが勝ってるのかわかるよね?」

まこ「わしの……負けじゃあ……」ブルブル

一「そういうこと。というわけで、一万円寄越しな? もちろん点差分も上乗せでね」

まこ「くっ……これで……有り金全部じゃっ!!」ジャラジャラ

一「いやいや、そりゃないでしょ、染谷さん。足りないよ。タネも持たずに打ってたわけ? これはもっとお仕置きが必要かなぁ」

まこ「っ……!!」

和(そ、染谷さん……!)

まこ「そ、その、小学生……原村和じゃったか……」

和「は、はい……」

まこ「……二十円、貸してください」ポロポロ

和「わ……わかりました」

一「染谷さんさ、普通に打っても十分強いんだから、こんなところでくすぶってないで競技麻雀の世界に行きなって。
 そっちなら、たぶんインターミドルとか狙えるんじゃない? こっちの世界にこれ以上首を突っ込んだっていいこと一つも無いよ。
 ま、まだ負け足りないっていうならいくらでもここに来ればいいと思うけど。そのたびにボクが呼ばれるだけだから」

まこ「え……? 呼ばれる……?」

一「あ、ごめん。これ言っちゃいけないことだった」

まこ「ど、どういうことじゃ……マスター……?」

藤田「……恨みたいなら好きなだけ私を恨め、まこ」

まこ「……!!?」ダッダッダッ

 ――

一「行っちゃったね」

藤田「一、いくらなんでもやり過ぎだ。私はお灸を据えてやれといっただけで、泣かせろとは言ってない」

一「やだなぁ、あんなのボクが師匠《センセイ》と打って経験した絶望の十分の一にも満たないよ」

藤田「まあ……お前の場合はそうだが……」

一「ま、いいんじゃない。これで染谷さんがここに来ることはないと思うよ。ちょっと寂しいかもしれないけど、仕方ないよね。ボクたちみたいな中学生は、ここの客層じゃないし」

藤田「そうだな」

和「あ……あの……!」

藤田「ああ、君、まだいたのか。暗くならないうちに帰ったほうがいいぞ。そろそろ仕事帰りの大人で溢れる時間帯だ」

和「い、いえ、そうじゃなくて!!」

藤田「なんだい?」

和「私に……一局打たせてください!! 国広さんと、その、さ、サシウマ? で!!」

一「なに……君、さっきのボクと染谷さんの勝負を見てたんでしょ?」

和「み、見てました。だからこそ、です!」

一「お金、持ってるの?」

藤田「おい、一」

和「持ってます! 足りなかったらカードもあります!!」

一「上等。座りなよ」

藤田「いい加減にしろ。君も、もう帰りなさい」

和「大丈夫です。すぐに終わりますから」

一「へえ、よほど腕に自信があるのかな? 原村さん、だっけ……君、どれくらい強いの?」

和「え、えっと……『宮永咲』くらい……?」

一「あはっ! 言うにこと欠いて宮永咲!? 原村さん、ギャグセンスあるよ。最高だね!!」

和「ほ、本当にそれくらい強いんですからね!」

一「うん。わかったわかった。じゃあ……そんな宮永咲に敬意を表して最初っから鎖無しで打つよ。ま、別に悪さをするわけじゃないから安心して。
 ボクだって普通に打って弱いわけじゃない。小学生の君には負けないよ」

和(って言ってますけど、大丈夫なんですか、咲さん!?)

咲(子供相手だもん。本気を出すまでもないよ)ゴゴゴゴゴゴ

和(そうじゃなくて、私が心配なのは国広さんです! 前の宮永照さんのときみたいにするのはやめてください!!)

咲(和ちゃんは優しいなぁ。大丈夫、ちょーっと手品が使えなくなるくらいのトラウマを植えつけるだけだから。国広さんにとっても、いいことだと思うよ)

和(わ、わかりました)

一「じゃあ、場決めしようか」

藤田(江戸時代の嶺上使い……宮永咲、か。あんな化け物に出張ってこられたら、まともに卓を囲めるのは小鍛治九冠か一の師匠くらいなもんだろうよ……)

和「よ、よろしくお願いします!!」

一「よろしくー」

 ――十五分後

和「ありがとうございました!!」タッタッタッ

一「こ……これは……宮永咲……!!?」ガタガタ

藤田「し……信じられん……!!」ガタガタ

歩「これ……イカサマはしてないんですよね……?」ガタガタ

ハギヨシ「……国広さん、透華お嬢様が迎えにいらっしゃるそうです」

一「そ、そっか。よかった……。早く透華に会いたいよ……恐いよ……」ガタガタ

 バァァン

透華(13)「一!? どうしたんですの? ハギヨシが大変だと言っておりましたが!!」

一「うわあああああん透華ああああ!! 恐かったよおおおお!! 化け物がいたよおおおおお!!」

透華「何を言ってるんですの、化け物とならいつもうちで打っているじゃありませんか」

一「そ、そうなんだけど……これは師匠並みにヤバいっていうか……師匠よりヤバいっていうか……!!」

透華「藤田さん、どういうことですの? 今日の相手はわたくしたちと同学年の子供が相手だという話でしたが」

藤田「私にも何がなんだか。ちなみに……一が負けたのは、小学生だよ」

透華「小学生!? いやいや、ただの小学生が一をここまで追い込むなんて……まして師匠レベルの打ち手……!? ありえませんわ!!」

?「二人とも、何を騒いでいる……?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

藤田(出……出た……現世でも最高峰の化け物……!!)

衣(24)「一、どうした、何か恐いことでもあったのか?」

一「せ、師匠……!! その……宮永咲が……宮永咲が……!!」ガタガタ

衣「うむ……事情はよくわからないが、話は屋敷に帰って聞いてやる。純も話したいことがあるといっていたしな。帰ってみんなでミーティングだ」

藤田(天江衣五段……!! 三年前にいきなり表舞台に現れた若手最強の魔物……!! 赤土九段が止めた小鍛治プロの新初段連勝記録を塗り替えた……本物の化け物……!!
 しかし……その外見は……!!)

衣「む、なんだ、衣に負けてプロを引退した藤田じゃないか。どうした? 衣の顔に何かついているか?」

藤田(まるで小学生!! か、可愛い!!)ナデナデ

衣「ふ……ふああああ……!! バカ者……撫でるなぁ……!!」

藤田(あああ!! 衣、超可愛いよおおお!!)

 ――帰り道

和(染谷さん……まだ近くにいればいいですけど!!)

咲(あ、あれそうじゃない!?)

和「あっ――染谷さん!!」

まこ「なんじゃ……小学生か」

和「原村和です」

まこ「ほうじゃったの。で、どうしたんじゃ? ああ、借りた二十円か? 一緒にうちまで来てくれれば、その場で返せるんじゃが……」

和「そんなのはどうでもいいんです。えっと、まずは、これ! 取られちゃった一万円です!!」

まこ「これ……どうしたんじゃ?」

和「染谷さんが出ていったあと、国広さんと打って取り返してきました」

まこ「わしが出ていったあとって……まだ二十分も経っとらんじゃろうが」

和「はい。東一局で終わらせたので」

まこ「は……?」

和「染谷さん……イカサマはいけないことです。けど……染谷さんはイカサマをしなくても十分強いって、国広さんも言っていました。
 それでなんですけど……よかったら一緒に……」

まこ「大会、か?」

和「はい、そうです!!! あ、もちろんイカサマはなしで!!」

まこ「……ええじゃろ。原村さん、われにはでっかい借りが出来た。遊びの大会に出るくらいでチャラになるんじゃったら、安いもんじゃ」

和「ありがとうございます!!」

まこ(あの国広一相手に東一局で終わらせたっちゅうこいつの実力にも興味あるしの)

和「では、大会は二週間後なんで!! 詳しいことは、明日の放課後、清澄中学の麻雀部部室で話し合いましょう。
 花田先輩や優希には私から連絡しておきます。染谷さんも絶対来てくださいね!! では、また!!」

 ――龍門渕屋敷

純「で、一が負けた原村和ってのは、どんな胸してた?」

一「イカサマレベルのボリューム感だったよ」

純「間違いねえな。オレに啖呵切ったやつと同じだ」

透華「つまり、こちらから探さなくとも二週間後の大会で戦えるというわけですわね!」

ともきー「師匠と同レベルにヤバいって……その子……何者?」

純「詳しいことは打ってみなきゃわからんけどな、たぶん、ありゃなんか憑いてるぜ。
 なんつったか、今年プロになって……師匠が気になってるっつー石戸門下の……」

ともきー「神代小蒔初段」

純「そう、そうの神代。あんな感じの。同じ石戸門下には戒能六段ってのもイタコがなんだって噂があるが、ひょっとして原村和もそっち系の雀士なのかもな。
 だとしたら、年齢はあまり関係ねえ。小学生だからって油断は禁物だ」

 ――清澄中学麻雀部

まこ「弱っ!!!!」

優希「和ちゃんは初心者なんだから弱いのは当たり前だじぇ」

和「ま……またラスですか(どういうわけかさっきからトビにはなりませんが)」

花田「まあまあ、和の分は私たちでカバーしていきましょう」

咲(私も打ちたいよおおおお!!)

和(咲さんが混ざったらゲームバランスが崩壊するのでダメです)

まこ「じゃ、じゃあ……とりあえず今の対局の検討かのう。原村にはわしがつくけえ、花田さんは片岡の指導を頼むわ」

花田「任せてください!」

まこ「ええか、原村。ここはこっちのほうが受けが広いんじゃ。それに、和了率だけじゃなく期待値も考えたら……」

和(な……なるほど!! 面白い!!)

 ――二週間後・大会

まこ「さて、大会になったわけじゃが……」

すばら「あの四天王と当たるには、決勝まで行かないとダメですね」

優希「二回勝てば決勝!! 楽勝だじぇ!!」

和「というか、勝つ負ける云々の前に、このオーダーはなんなんですか?」

 先鋒:片岡優希
 次鋒:染谷まこ
 副将:花田煌
 大将:原村和

和「なんで私が大将なんですか!? 普通に染谷さんと花田さんのどちらかでいいじゃないですか」

まこ「われにはまだ未知の力が眠ってるとわしは見てる」

和「そ、そんな適当な!」

すばら「いえ、決して適当ではありませんよ。和はこの二週間で随分と上達しました。それに、もともとの計算力が高いので、最近では打牌も安定してきています。
 大将で難しい局面になったとき、私では火力が足りませんし、片岡さんもムラがある。染谷さんは……」

まこ「わしはどーしても原村の未知の力を見たい」

すばら「こういうわけなので」

和「最後はやっぱり適当じゃないですか!?」

純「おっ、やってんなぁ」

和「井上さん……と、国広さんまで!?」

一「やあ。驚いたよ。こんなところでまた会えるとはね」

まこ「今日はお互いヒラで打とうな」

一「もちろん」

まこ「ほいたらええわ。普通に打ったらわしのが強い」

一「ま、それはいいけど、決勝前に負けるとかやめてよね」

まこ「そっちもな」

純「じゃ、これで挨拶はおしまいだ。こっちももう一回戦が始まるんでな。また決勝で会おうぜ」

和「が、頑張ります」

すばら「では……一回戦。気を引き締めていきましょうか!」

優希「先鋒は任せろだじぇ!!」

 ――一回戦・先鋒・東場

優希「ローン!!」

優希「ツモ!!」

優希「またまたツモー!!」

 ――次鋒

まこ「お疲れっ!!」

 ――副将

すばら「すばらっ!!!」

 ――大将

和「…………ありがとうございました」ズーン

 ――ロビー

まこ「とりあえず無事一回戦突破じゃの」

優希「の、のどちゃん、そんな落ち込むことないじぇ。相手強かったんだから仕方ないじょ」

すばら「そうですよ。和はトップを死守したのです。すばらでしたよ」

和「一回の半荘で六万点近く失うなんて……」

咲(ま、今の和ちゃんなら妥当だよね)

和「うるさいですっ!」

優希「のどちゃん……?」

和「あ、い、いえ。なんでもありません! ちょ……ちょっとお手洗い行ってきます!!」ダッ

 ――廊下

和(咲さん……どうしましょう。この大会で勝たないと……花田さんが……)

咲(いつも通りに打てばそんなに負けることはないよ。たぶんだけど、次も他の三人が稼いでくれるから、和ちゃんはしっかり守ることだけ考えれば……)

和(私……お荷物なんですかね。最近、麻雀の楽しさが少しずつわかってきたのに……上達もしてるはずなのに……結局、私がみんなの足を引っ張っている)

咲(いやいや、和ちゃんはまだ麻雀を打つようになって数ヶ月なんだから、そんなもんだって)

和(で、でも……私は勝ちたいんです……!!
 咲さん……咲さんにも、初心者だった時期があったんですよね? 勝てない頃はあったんですよね……? そういうとき……どうしてました?)

咲(えっと………………)

和(ああああ!!! さてはなかったんですね!? 初心者の頃から勝ちまくってたんですね!!!? もうひどいですっ!!)

咲(ご、ごめん……)

 ――二回戦・大将戦直前

優希「あとは頼んだじぇ、のどちゃん」

まこ「気楽に打ったらええ」

すばら「どんな結果になっても責任は私が取ります」

和「行って……きます……!」

 ――対局室

河内智世美(東福寺中学・43600点)「よろしくです(ペースを乱されないように)」

田中舞(今宮女子中学・67600点)「よろしく(役満ブチ当ててやんよ)」

上柿恵(千曲東中学・45800点)「よろしくお願いします(あたしゃいつも通り大将ですよ♪)」

和(清澄中学・163000点)「よろしくお願いします(みんなのために……勝つ!!)」

 ――東一局

和(みんなが稼いでくれた点棒……大事にしなくては……!!)コトッ

田中「ロン、12000」

和「は……はい……」

和(ま……まだまだです……!!)

 ――東二局

田中「ツモ。4000オール」

和(今宮女子の眼鏡の方……ノっていますね……)

 ――東二局・一本場

和「(親を流したい。なら、ここは食いタンで勝負してみますか)……チー」コトッ

咲(わっ、和ちゃん……焦って自分の手牌しか見えてない! 落ち着いて、普通に打てば大丈夫だよ……!!)

田中(はっ、食いタンか? 清澄中学……ノーマークだったわりに前の三人がめちゃめちゃ強くて驚いたが……大将は手つきからしてとんだ素人だな。
 この勝負……私がもらった……!!)タンッ

和(今宮女子の方……顔がニヤついていますね。もう勝った気ですか……いけませんね。勝負というのは……勝つまで笑ってはいけないんですよ……!!)コトッ

田中(目にモノ見せてやんよ……!!)ゴッ

 ――六巡目

和(できました……これで、テンパイです!!)

咲(あっ……それは……!!)

田中「はは、ロンだ」パタッ

和「え……?(そんな……私……なんてことを……!!!)」

田中「大三元。48000は48300。まくった!」ニヤニヤ

 清澄:98700 今宮女子:139900 東福寺中学・39600点 千曲東中学・41800点

和(役満……? みんなが作ってくれた十万点のリードが……たった東二局一本場で……点差が四万点以上のビハインドに……わ……私……)ガタガタ

田中「さあ……!! まだまだ行くぜ、二本場ァ!!」

和(さ……咲さん……)ポロ

咲(なに……和ちゃん……)

和(ご……ごめんなさい……)ポロポロ

咲(うん……)

和(私……今の私じゃ……この人たちに勝てません……!!)ポロポロポロ

咲(そうだね……悔しいよね……自分の力で勝てないって)

和(はい……)ポロポロ

咲(それだけ和ちゃんが麻雀に真剣になってるってことだよ。
 けど、今回は少しだけ練習する時間が足りなかったね。次からまた勝てるように……二人で頑張ろ?)

和(はい……頑張ります……! 私……もっと麻雀で勝ちたいです!!)ポロポロ

咲(うん……そうだね)

和(でも……今の私では……)ポロポロ

咲(わかってる。大丈夫だよ。私にとって四万点なんてのは点差じゃない。さあ、涙を拭いて。前を見て。打ち間違いをしないように。私の一打一打をよく見ててね。
 今の和ちゃんなら、漠然とかもしれないけど、感じられると思うんだ。この卓上の宇宙に煌く牌たちの輝きが……)

和(……わかりました……必ず感じ取ってみせます……!)グッ

咲(じゃあ……行くよ。第一打――九萬……!!)ゴッ

 ガヤガヤ

「ねえ、見た……今の二回戦」

「清澄のチーム龍門渕ってとこ? ヤバいよねー」

「そっちじゃない。Aブロックの清澄のほう。大将戦、マジでパなかったんだって」

「見てた見てた。清澄の大将が他校をトバしてたやつでしょ」

「えー? でも、大将戦が始まったときから東福寺とか四万点くらいだったじゃん、トバせなくもなくなくない?」

「違う違う! トんだのは東福寺じゃない。今宮女子だって。大将戦の東二局で14万点近くまであったとこが……南場に行く前にトんだんだって!!」

「えっ……なにそのホラー?」

「こりゃ……決勝は荒れそうねぇ」

「ね、ところでさ、あそこにいる子供……なんか見たことある生き物じゃない?」

「え……? バ――あんたあれ!! 天江衣五段じゃない!!! 清澄のチーム龍門渕にプロのコーチがついてるって噂はあったけど……まさか天江五段だったの!!?」

 ガヤガヤ

衣(匂うね……この会場。美味そうな匂いがする)ゴゴゴゴゴゴ

咲()ピクッ

和(咲さん、どうしました?)

咲(いや……増えたな、と思って)

和(意味がわかりません)

まこ「いやぁ、やっぱりわしの目に狂いはなかったの! こりゃチーム龍門渕なんて楽勝じゃろ!」

優希「のどちゃんにこんな才能があったなんて驚きだじょ!!」

すばら「鬼気迫るとはあのことですね。すばらです」

和「次は……決勝ですね」

すばら「ええ。みなさんには本当に感謝してもしきれません。ありがとうございました」

まこ「おいおい花田さん、まだ礼を言うには早いんじゃないかのう?」

優希「そうだじぇ! その言葉は優勝したときまでとっておくといいじょ!!」

和「……そろそろ時間ですね。控え室に行きましょうか」

すばら「ええ、いよいよ決勝戦ですね……!」

 ――チーム龍門渕控え室

衣「負けたら全員衣と満月の夜に遊んでもらうぞー」

純「死んでも負けられねえ!」

一「けど、一、二回戦見てたけど、あっちもこの二週間で大分強くなったね」

ともきー「それに……あの清澄の大将……とても不可解」

衣「そうだな。あれを屠るのは衣でも骨が折れるかもしれん。だが、こちらの大将も、不可解さでは負けてはいまい」

透華「」ヒュオオオオオ

一「師匠も大将戦に出ればいいんじゃないですか? たぶん、見た目的には余裕ですよ」

ともきー「制服なら私が用意します」

純「話ならオレがつけてきてやるよ」

衣(24)「衣を子供扱いするなー!!」

 ――決勝・先鋒戦

純「よう、よろしくな、タコスチビ」

優希「ノッポが私の相手か。ふん、ほえ面かかせてやるじぇ」

純「ははっ、ほざいてろ」

 ――終局

純(チッ、終始オレのペースだったが最後の最後で息を吹き返したか。こいつ以外が雑魚で助かったぜ……)

優希(ううううう……東場で和了れなかったなんて初めてだじょ!!)

純「じゃ、また打とうな、チビ!」

優希「今度は負けないじぇ!!」

 ――次鋒戦

一「正々堂々勝負しようね」

まこ「どの口が言うんじゃ」

 ――終局

一(やっば……危なかった。っていうか、眼鏡外したら強くなるとか、そういう第二形態みたいなのあったんだ……これは大量リードしてくれた純くんに感謝しなきゃな)

まこ(届かんかったか……しかし、こういう麻雀もええもんじゃの。なんというか……後味がええ……気持ちがええわ)

一「やっぱり、染谷さんは競技麻雀が向いてるよ。インターミドル……団体戦でも個人戦でもいいから、出てみなよ」

まこ「奇遇じゃの。わしも、わりゃあ普通にヒラで打ったほうが絶対ええと言おうとしたところじゃ」

一「また、どこかで敵になるかもね」

まこ「味方って可能性もあるじゃろうが」

 ――副将戦

ともきー(花田煌……データを見た限りでは……特別なところは何もない……ただ、トビ率ゼロパーセントというのが気になる数値ではあるが……)

すばら(和に無理をさせるわけにはいかない……ここは……なんとしても逆転しなくては……!!)

 ――終局

ともきー(削られた……花田さん……他家をフォローするのが上手い。置きどころを間違えなければすごく使える手駒になる)

すばら(くっ……他校のトビ終了にまで気を回していたせいか……自分自身の手が疎かになってしまいました。和……すいません……あとは任せました……!!)

ともきー「花田さん、私たちが勝ったら、正式に、私たちの部の部員にならない? 一緒に全国に行こう……」

すばら「それはこちらの台詞です。あなた方全員……清澄中学麻雀部に歓迎しますよ。
 というか、もういいじゃないですか、新旧で潰し合うなんて子供みたいなことしないで……一緒にやれば……」

ともきー「まあ……それはほら、勝てば官軍」

すばら「負ければ賊軍。わかりました。いずれにせよ、今後もよろしくお願いします」

ともきー「こちらこそ」

 ――大将戦

和(この人が……チーム龍門渕の大将さんですか)

透華()ヒュオオオオオ

咲(宮永照ほどじゃないけれど、この子も相当な力を秘めてるね。潜在能力だけなら他の三人とは別格。
 和ちゃん……同世代にこれだけ強い人がたくさんいるなんて、羨ましいよ)

和(咲さんは、自分より強い人に出会えなかったんですか?)

咲(そうだね。私と対等に打てる人……何人かはいた気がするよ。
 けど、麻雀は対等に打てる人が自分以外に三人必要なんだ。これが将棋や囲碁だったら……誰かもう一人いればいい。辛いところだね、麻雀の)

和(面白いところでもあると思います。四人が卓を囲むから……何が起こるかわからない)

咲(和ちゃんも、わかってきたみたいだね、麻雀の楽しさが)

和(咲さんと……みんなのおかげです)

咲(じゃあ……これが今日最後の一局。最初から最後まで、よく見ててね。これから……私は和ちゃんに見せるための麻雀を打つから。
 牌の流れを感じて……場の奥の奥まで……目を凝らすんだよ)

和(やってみます)

咲(じゃあ、行こうか、第一打……一筒――!!)ゴッ

 ――会場某所

晴絵「……先客がいるとは聞いてなかったな」

照「天江五段……!」

衣「む? グランドマスターの秘蔵っ子と赤土九段……? どうしてここに?」

晴絵「目当ての子がいてね。天江さんこそどうして?」

衣「弟子の戦いを見守りに来たんです」

晴絵「ああ、龍門渕の……従姉妹さんだっけ」

衣「そうです。それで、そちらの目当てというのは……原村和ですか?」

晴絵「ご存知で?」

衣「弟子が世話になりまして。確かに、面白い打ち方をしますよ、あれは」

照「大将戦は……もう南場ですか。東場の牌譜はありませんか?」

衣「そこのパソコンで適当にプリントアウトするといい。あ、衣の分も一部よろしく」

晴絵「照、私の分も頼むよ」

照「承知しました」

和『……ツモ……嶺上開花……』

すこやん「私が負けたら引退するという言葉を撤回するつもりはないが」

すこやん「かわりに私が勝ったらその時には結婚相手を紹介してもらうぞ」

こうなるのか期待

和(これで……終わり……ですか)

咲(うん。龍門渕さんもそうだし……他の二人もよくついてきてくれた。この三人だったから……最後まで辿り着けたよ。
 感謝するんだよ、和ちゃん。この三人のおかげで……和ちゃんはまた一つ強くなれた)

和(そうですね。なんだか、身体が熱いというか、火照っているような感じです。不思議な感覚。これが、麻雀を打つということなんでしょうか)

咲(その感覚を忘れないようにね)

和「……ありがとうございました……」ペコッ

透華「…………」

 バァァン

優希「のどちゃああああん!!!!」

まこ「ようやったのおおお!!!」

すばら「和あああああ!!!!」

和(あ……なんか複雑な気分……)

咲(次は、和ちゃんの力で勝とうね。そうすれば、きっともっと麻雀が好きになるよ)

和(そうですね……そんな気がします)

和「この大会のあと、清澄高校麻雀部は、龍門渕さんたち四人、花田さん、染谷さんの六人で活動を再開しました。

 六人の活躍は目覚しく、翌年の夏、花田さんたちはインターミドルに初出場、ベストエイトという輝かしい成績を収めることになります。

 私はというと、あの大会の後、いつの間にやら会場にいた宮永照さんから一方的にライバル宣言を受け、天江五段や赤土九段からも、プロの世界に来るよう勧められました。

 しかし、照さんや、天江五段や赤土九段が評価しているのは、咲さんの力であって、私の力ではない。

 その年の冬。清澄中学の方々に鍛えてもらった私は、地区の代表として小学生の麻雀大会に出場しました。

 その大会には、あの照さんが、私と公の場で再戦するためだけに、参加していました。

 この大会で私と戦ったら、照さんはプロ試験を受けると言っていました。

 私たちは個人戦の予選で、ぶつかりました。

 結果は――私のトビ終了」

 ――大会

照「ふざけるなっ!!!」ガタッ

和「ふざけてなんかいません!! これが私の麻雀ですっ!!」

照「ち……違う!! 原村さんの麻雀は……もっと……!!」

和「もっと……なんですか」

照「いや、なんでもない。もう……何もわからない。
 私は……原村さんの麻雀の中に私の理想を垣間見た……そう思ってここまで来たけれど、どうやら勘違いだったようだ」

和「照さんの言っていることはわかります。けれど、照さんの見たものは本物の私ではない。私は……本当の私を照さんに見てほしい」

照「はは、あなたが? バカげている」

和「なんとでも言ってください。照さんは……私の目標です。倒すべき相手です」

照「そっか。けど、残念ながら私はもうあなたとは打たない。あなたが私を倒したいというのなら、プロになるしかないね。ま、なれれば、だけれど……」

和「プロ……」

照「さようなら。もう二度と会うことはないと思う」

 ――

和「照さんに見限られた……そのことは、想像以上に私の心を抉りました。
 だけど、プロにさえなれば……そう思いましたが、それも、そんなに簡単なはずがなかったんです」

 ――和(小学五年生)・春

純「プロになるにはどうしたらいいかって? そりゃ、プロ試験に合格すりゃいいんだよ」

和「どれくらい強ければプロになれるんですか? 純さんくらいなら?」

純「オレは無理だ。院生ともなれば、オレレベルなんてゴロゴロいる」

和「院生……プロ養成所ですか」

純「確かに、お前はいいセンスしてると思う。あ、その、普段のお前な。覚醒したほうじゃなくて。けど……今のお前では百パー無理だ」

和「そうですか……」

純「納得してない、って顔だな。いいぜ。ちょうど、うちの師匠が赤土九段門下と合同で合宿をするって話が来ててな、そこにお前も来いよ。
 プロもいるし、院生もいるぜ?」

和「わかりました……!」

 ――合宿

晴絵(34)「紹介しよう、うちの門下生たちだ」

宥(26)「松実宥、五段です」

灼(25)「鷺森灼……三段」

玄(15)「松実玄、院生一組一位です……よろしくね」

憧(13)「新子憧っ、院生一組六位ですっ!」

シズ(11)「高鴨穏乃、院生一組十三位です、得意なのは早打ちっ! 同い年だね、和っ!!」

和(11)「よろしくお願いしますっ!!」

 ――

和(つ……強い……!! これが院生!!?)

シズ「あー、また玄さんがトップかぁ」

玄「ナンバーワンの座は譲らないよっ!」フンス

憧「ま、院生でずっとナンバーワンでも自慢にならないけどねぇ~」

 ――

和「だけど……何よりも私の決心を揺さぶったのは、親友の優希の言葉でした」

 ――

優希「のどちゃん……プロになるって話を聞いたじぇ? 院生になるって……本気……?」

和「う、うん……どうしても、戦いたい人がいて……」

優希「のどちゃん、知ってるか? 院生はアマの大会――インターミドルには出られないんだじぇ?」

和「あ……」

優希「一緒に……清澄中学で頑張ろうって……花田さんたちとは入れ違いになっちゃうけど、私……のどちゃんと二人ならって……思ってたんだじぇ」

和「ご、ごめんなさい……」

優希「の、のどちゃん。のどちゃんなら、プロになるのは高校生になってからでも遅くないと思うんだじぇ! だから、中学生の間だけは……私と一緒に……!
 そう、この間、面白い後輩も見つけたんだじょ! マホムロコンビって言って、二人とも清澄中学に行くって言ってて……」

和「ごめんなさい……優希……!」ダッ

優希「あ……のど、ちゃん……」

 ――和・小学五年・夏

和「そして、優希とも気まずい関係になったまま、私は夏休みを迎えたのでした――」

 ――自宅

咲(打ちたい打ちたい打ちたい打ちたい打ちたい打ちたい打ちたい打ちたい打ちたい打ちたい打ちたい打ちたい打ちたい打ちたい)

和「黙っててください、咲さん。気が散って宿題が出来ません」

咲(だってえええ!! 和ちゃん最近全然牌に触ってないんだもん!! ちょっと前にやった院生との合宿で自信なくしたの!?
 大丈夫、和ちゃんならすぐに追いつけるよ!!)

和「何を根拠に……」

咲(っていうか、和ちゃんが打ちたくないのは和ちゃんの勝手だけどさ、だったら私に打たせてくれればいいじゃん!!)

和「嫌ですよ。雀荘に行ったりしたら、また色んな人に目をつけられるじゃないですか。もう、照さんみたいに誰かを失望させたくないんです、私は」

咲(じゃあ手加減するから!! ずっとプラマイゼロにするからああああ!!)

和「それはそれで大問題です。っていうか、最近になってようやくプラマイゼロの恐ろしさがわかってきましたよ。咲さん、本当にあなたは人間ですか?」

咲(人間じゃないよ! 幽霊でしょ、どう見ても!!)

和「ま、とにかくそういうわけで、直に他人と打つわけにはいきません」

咲(そんなああああああ……)

和(ん、ちょっと待って……直に……打たなければいい?)

咲(えっ!? そんな方法があるの!!?)

和「ちょっと!! 人の心を読まないでください!!」

咲(あ、ごめんごめん。それで、話の続き)

和「ああ、えっと。先日、父に新しいパソコンを買っていただきまして、それを使えば、咲さんが自由に打って、なおかつ私も困らない、そんなことができるんじゃないかと」

咲(なにそのウルトラシー!?)

和「ネット麻雀です」

咲(ねっと……まーじゃん?)

和「パソコンの中で、インターネットを通じて、世界中の顔の見えない誰かと対局ができるんです。
 ま、とりあえずやってみましょう。ネット麻雀のことは沢村さんや龍門渕さんから聞いているので、大体わかります」

咲(ふうん)

和「私と咲さん、二人で一つずつIDを作りましょう。私は『のどっち』でいいとして、咲さんは何にしますか?」

咲「本名でいいよ。サキ」

和「わかりました。s・a・k・iと」

咲「へえ……面白そう……!!! これで、あとはいつも通り打てばいいの!?」

和「そうです。お、早速対局の申し込みですね。やりますか」

咲「うんっ!!」

 ――六時間後

和「咲さん……!!」

咲(なにかな、和ちゃん……!!!)

和「激弱じゃないですか!!!? なんですかR1300って!!! 人間じゃありませんよ!!!」

咲(だ……だって、この箱、全然牌が見えないんだもん……!! っていうか、逆に和ちゃんは調子いいね。もうR1800を超えてる。ワンランク上のフロアーに入れてるし)

和「そうですね。なんだかこちらのほうが打ちやすいです。
 なんというか、牌に触らなくてもいいというか、相手の顔が見えないのがいいですね。純粋に数字と牌に集中することができます」

咲(人には向き不向きがあるってことか……)

和「ふふ、けど、なんか負けてる咲さんを見るのは新鮮で楽しいです」

咲(あああ!!! 和ちゃん!! 今私をバカにした!? 鼻で笑った!?)

和「なんのことですかね~」

咲(もううううう許せない!!! 私が麻雀で勝てないとかありえないんだから!!! もう、この箱なんて、こうしてやるっ!!!)ゴゴゴゴゴゴゴ

和「ちょっ!!? 何をしてるですか?」

咲(いつもは卓と牌を支配するのに使ってる力を、この箱にもかけている!!)

和「そんなオカルトありえません!!!」

咲(よしっ……これで、こいつは私の支配下になった!)

和「咲さんはコンピュータウイルスですか……」

咲(じゃあ……今度こそ負けないよ。和ちゃん、次の対局!!)

和「いや、今日は遅いので、続きは明日にします」

咲(そんなああああああ!!!!)

 ――

憧「ちょ……待ってよ。誰こいつ……『saki』……? つーかこれネット麻雀でしょ……なんかプログラムいじってるわけ……?
 本当に人間なのかな……日本人なら……日本語通じるよね……?」カタカタ

アコチャー『あなた誰? この私は院生よ?』

憧「レスは……なしか。はぁ……仕方ない。気を取り直してもう一局……と、次は『のどっち』か。『saki』と一緒で最近よく見かける名前ね……どれどれ、相手してやるわ……!!」

 ――

ダヴァン「ハロー。ナンデスカ、エッ? ネット麻雀? 『saki』……デスカ? エッ、ネリーとハオが勝てなかっタ? ハハッ、ゴジョーダンヲ」

 ――

ともきー「透華、知ってる、『saki』の話?」

透華「わたくし的は、『saki』よりもスタイルが被っている『のどっち』のほうが気になるのですが、まあ噂くらいは聞きましてよ。
 麻雀が大好きなコンピュータウイルスが開発されて、それにサーバーが乗っ取られたとか」

 ――

誠子「みなさん聞きました? ネット麻雀で最近噂になってるめちゃくちゃ強い雀士がいるって」タンッ

菫(26)「聞いたことはあるな。海外のプロでも何人か負けているらしい」タンッ

尭深「弘世先輩……ネットとかやるんですね」タンッ

菫「えっ!? い、いや、別に何かやましいことをしているわけではなくただ情報収集の」

照「ロンです」パララ

菫(っと、照のやつ……最近、前にも増してキレが上がってるな。これは私もうかうかしてられん)

 ――

憧「もうそれがヤバいのよ!! 『saki』ってやつ、普通にプロにも勝っちゃうの!! ぶっちゃけネットの中ではもう最強みたいなもんよ!!」

宥「あ、私もこの間打ったよ。びっくりした。いきなり嶺上開花を和了ってきて」

シズ「私はパソコンできないからなー。憧、今度やり方教えてよー」

灼「穏乃は、そんなことより麻雀をもっと勉強すべき」

玄「灼ちゃんは厳しいなぁ」

 ――和・自宅

和「咲さんは連対率九十九パーセントですか……最初の不調がなければ掛け値なしに百パーセントでしたね。まったく信じ難い」

咲(えへへ。だんだんこの箱にも慣れてきたよ。いつもの七割くらいの力は出せるようになったかな)

和「七割って……」

咲(それはそうと、和ちゃんもけっこう強くなってるよ。普段のときとは別人みたい。今の和ちゃんだったら……そうだね、院生って子たちと張り合うこともできると思う)

和「確かにネット麻雀のほうが打ち易いですし、結果が出ています。しかし、実際の卓で、人を前にして同じコンディションで打てるかというと、微妙なところです」

咲(でも、その壁を越えられたら……)

和「今よりは少しだけ……照さんに近付けますかね」

咲(うん)

和「頑張ります。咲さんはどうですか、最近楽しいですか?」

咲(うんっ!! 最高っ!!! 麻雀って楽しいよね!!)

 ――

晴絵(へえ、これが憧の言ってた『saki』か。尋常じゃない打ち手なのは見ればわかるけど……これは私でも勝てるかどうか)

晴絵(憧は……子供じゃないかって言ってたな。夏休み、か。まあ、こういう飛びぬけた力を持つ子供に心当たりがないわけではないのだが……)

晴絵(しかし、春に彼女と直に打ったときは、さほど力は感じなかった。もちろん普通の子より上手いし、鍛えれば或いはものになるかもしれん。けど、彼女は『saki』ではないだろう)

晴絵(『saki』の打ち筋は百戦錬磨のそれだ。熟練した打牌……長久の歳月を思わせる。十歳そこらの子供に打てるような麻雀ではない)

晴絵(だとしたら……『saki』は誰なのか。表舞台に出てこない打ち手に興味はないが、できることなら直に会って打ってみたいものだな)

晴絵(このこと……小鍛治さんのところの照は知っているのだろうか。去年の冬の大会は……私も見ていたが、ひどいものだった。人の門下生の心配をしている余裕はないのだが……気になるものは気になる。どれ……少し突いておくか)

晴絵「…………ああ、もしもし。照か? 私だ、赤土晴絵。いや、たぶんお前も耳にしていると思うが、ネットで今噂になっている――『saki』という打ち手について……」

 ――

照「サキ……? 赤土さん、今、サキって言いました……?」

晴絵『どうした? ああ、そうか。宮永の家系では特別な名前だもんな『咲』というのは』

照「その……ネットで強い打ち手がいるという話は亦野先輩から聞いていましたが、名前までは知りませんでした。教えていただいて、ありがとうございます」

晴絵『いやいや、いいってことよ。ま、じゃあそれだけだから、あとはお前の好きにしたらいいよ。小鍛治さんにもよろしく言っておいてくれ』

照「はい……では、失礼します」

健夜「電話、誰から?」

照「赤土さんです。先生によろしく、と」

健夜「赤土さんは本当に世話焼きだよね。有難いけれど」

恒子「すこやんー、てるー、ごはーん!」

健夜「今行くー! ほら、照も、あんまり硬い顔してないで、こーこちゃんのご飯を食べよ。それに、明日は親善大会に出るんでしょ? 今日はもうゆっくりしなさい」

照「はい。ありがとうございます」

照(咲…………)

 ――プロアマ親善対局

 ワイワイガヤガヤ

シズ「おおおお!! 強そうな人たちいっぱいっ!!」

憧「シズ、少し静かにしてて」

シズ「静かになんかしてられないよおおお!! あっ、神代初段発見っ!!」

憧「うわ、天江五段と話してる……近寄りたくないわねぇ」

宥「あ……小鍛治さん門下の人たちだ……」

玄「私たち赤土門下が一方的にライバル視してる小鍛治さん門下」

灼「あっちはこっちのこと友達か何かだと思ってるよね、絶対。って、ほら、宥さん、来たよ。旦那様が」

菫「やあ、どうも///」

宥「弘世七段……お久しぶりです///」

亦野(あ、弘世先輩、真っ先に松実五段のところに行った)

尭深(……想い人……)

菫「今日はお互い中堅雀士同士、ベストを尽くしましょう」

宥「そうですね、今、若い子たちにすごい勢いがあるから。そちらの宮永さんを筆頭に……」

シズ「あっ!! ダヴァンさん門下だっ!! 日本に来てたんだ……!」

憧「ちょ、ダヴァン九段が来てるってことは……辻垣内さんまで戻ってきてるじゃない!!
 修行で海外を回ってたんじゃなかったっけ……ってことは、もしかして辻垣内さん、今年のプロ試験を受けるつもりじゃ……!!」

玄「あ、辻垣内さんが宮永さんに話しかけてる……今年はあの二人がプロ試験に出てくるのか……これは大変そうだなぁ」

灼「玄、ガンバ」

 ――

智葉(14)「まだプロになっていなかったのか。驚いたぞ」

照「ちょっと、寄り道をしていまして。けれど、今年は間違いなく受けます」

ダヴァン「ヨリミチ、トハコノコノコトデスカー?」パソコン

照「ダヴァン九段……それは……?」

ダヴァン「ネットデ噂ノ『saki』デス。宮永サン、ゴセンゾサマ、同ジ名前」

照「…………」

ダヴァン「コノ『saki』モ……嶺上使イミタイデスヨ? ウチノ門下生、誰モ勝テナカッタ……ヨカッタラ、宮永サン、打ッテミナイ? マダ対局マデ時間アルデショ?」

照「辻垣内さんは対局したんですか?」

智葉「ああ、歯が立たなかったよ」

照「そう、ですか……」

ダヴァン「サア、ID決メテ、チョット対局シテミテクダサーイ」

照「いえ、しかし、今日は大会ですので……」

?「ええやんええやん~打ったらええや~ん~。ほいっと、IDは『teru』ってことで~」

照「あっ……あなた……!?」

赤阪(??)「やっほ~。今日は特別ゲストで来ちゃったんよ~。関西から来てるんはうちだけです~」

ダヴァン「アカサカ九段。オ久シブリデスネ」

赤阪「もう~ダヴァンさんいじわるやわ~、うちのことは赤阪『三元』言うてよ~、せっかくすこやんちゃんから取り返したタイトルやもん。短い間かもしれへんけど名乗らせて~」

照(赤阪三元……先生を八冠に戻した魔女……か)

智葉「そんなことより、ダヴァン先生、『saki』が『teru』に対局を申し込んできているのですが……」

照「え……?」

 ガヤガヤ

「どうした? 『saki』がどうしたって?」

「今から宮永照が対局するそうですよ」

「宮永……って、あの宮永家の生き残り……小鍛治門下の……」

 ガヤガヤ

照「す、すいません。ダヴァンさん、大急ぎでパソコンの使い方を教えてください」

ダヴァン「了解デス」

 ――

和「これ……まさか照さんじゃありませんよね?」

咲(試してみる?)

和「えっ? 試すって……どうやって?」

咲(山牌、手牌、捨て牌、席順――全てをあの二度目に打ったときと同じにするの)

和「は……何を言っ」

咲(さーて久しぶりに本気を出しちゃおうかなっ!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

和(そんなオカルト……!!)

 ――

照「まさか……!! まさか!!?」ガタッ

ダヴァン「ド、ドウシタデスカー? エッ、トイウカ、イツノ間ニ皆サン集マッテ……?」

 ゾロゾロ

衣「そのパソコンからとてつもない気配を感じた」

晴絵「パソコン越しに殺気を放つとか」

赤阪「なんや~不気味やわ~」

 ゾロゾロ

照「これは……いや……そんなことがありえるのか……!!?」

健夜「照、そのくらいでやめときなさい」

照「せ、先生……!」

健夜「今日は大事な大会でしょ? パソコンなんかで遊んでないで、きちんと今日の対局に集中しなさい」

照「す、すいません……」

健夜「とは言え、心残りがあっては集中もなにもないもんね。赤土さん」

晴絵「はいはい」

健夜「この『saki』って人から、『teru』との再戦の約束を取り付けてください」

晴絵「任せてください」カタカタ

健夜「これでよかった?」

照「は、はい! ありがとうございます」

健夜「そっちはどう、赤土さん」

晴絵「いや、約束を取り付けることには成功したんですけど……その日取りにちょっと問題があって……けど、二、三日ズラしただけでは意味がないというか」

照「どういうことですか?」

晴絵「『saki』の指定してきた日がね、プロ試験本戦の初日なんだよ」

照「ああ、それくらいなら、構いませんよ」

 ザワザワ

智葉「おい……宮永、場を考えろ。今日は院生が来てるんだぞ」コソッ

照「しかし、仕方のないものは仕方ありません」

智葉「お前なぁ……」

 ザワザワ

憧「何よそれ……! プロ試験本戦よりも……ネットの正体不明の雀士のほうが面白そうってこと……!!?」

シズ「憧、抑えて抑えて!!」

玄「まあ、本命が星を一つ落としてくれるんだから、チャンスだと思おうよ。確かに悔しいけどさ。この悔しさは本戦で晴らそう。ね、憧ちゃん」

憧「上等よっ!! あのガキ……絶対に叩き潰してやるからっ!!」

 ――『saki』vs『teru』当日・プロ試験会場

憧「ホントに来ないし……!」ギリギリ

シズ「憧……」

玄「不戦勝だね……有難くもらっておきなよ」

憧「く……悔しいっ!! 絶対……絶対にいつか泣かせてやる……!!」ポロポロ

 ――『saki』vs『teru』当日・小鍛治邸

照(『saki』……あなたは……何者だ?)

照(配譜は眺めた……以前、原村和に感じたものよりも……さらに濃く気配を感じる……私の理想……『saki』は……私の求める打ち手そのものだ……)

照(この呪われた一族の……始まりの魔物……『宮永咲』……いつか……卓を囲んでみたいと思っていた……)

照(そして……私は倒さなくてはいけないんだ……あの『宮永咲』を……!!)

照(『saki』……あなたは……本当に『宮永咲』なのか……!!? 私が倒すべき相手はあなたなのか……!? それを――この一局で見極めるッ!!)

 ――和・自宅

和「これ……間違いなく照さんですよね。他のお二方は……プロの方でしょうか。『K』さんと『sato』さん? 佐藤というプロ雀士なら何人か心当たりがありますけど」

咲(たぶん……他の二人も宮永照と同じくらい強いよ。箱の向こうからすごい気迫を感じる)

和「勝てますか?」

咲(あはっ、和ちゃん、誰にモノを言ってるの? 私が子供相手に負けるわけないよ)

和「前に照さんと打ったときはなんか切羽詰ってたじゃないですか」

咲(かもね。でも……不思議なんだ。この感じ……懐かしいよ。今なら、誰と打っても負ける気がしない)

和「あ……始まりますよ」

咲(うん。第一打は……二索――!!)ゴッ

 ――小鍛治邸

照(す……すごい……前に原村さんに負けたときよりも……高い壁を感じる……!!)

照(全ての力を注いでもなお……簡単に弾かれる。先生と同じ……トッププロ中のトッププロ……驚異的な支配力だ……)

照(ま……まずい……何を切っても……当たる気がするっ!! せめて、トビだけは……百点でも点数が残っていれば……チャンスはある……耐えるんだっ!!)

 ――大阪某所

?「これは無茶ですわ~。先生でも勝てへんでしょ、こないな化けモン」

赤阪「ええからええから~。憩ちゃんもたまにはボロ負けしときや~」

憩「ひどいですわー、うちなんていつも先生にボコられとるやないですかー」

 ――東京某所

智葉「ダヴァン先生……感謝しますよ。照にはああいったけれど……これは確かに、プロ試験なんかより大事な一局です」

ダヴァン「今年ノプロ試験ハキット歴史ニ残リマスヨ。合格者筆頭三名……ソノ三人ガ三人トモ、本戦初日ヲスッポカシテ、ネットデ遊ンデイタナンテネ」

智葉「そうですね……これで試験に落ちたら、私、もう麻雀を辞めてもいいですよ」

ダヴァン「オー、ソレハ困リマス」

 ――終局・小鍛治邸

照「……彼女だ……」ポツリ

照(いや……違う。原村和じゃない。しかし、一打一打……打ち出される捨て牌の向こうに……どうしても原村の姿がチラつくのはなぜだ……わからない……けど……わかったことも……ある……)

照「あ……な……た……は……」カタカタ

 ――終局・和自宅

和「ダイレクトメッセージ……? えっと……『あなたは宮永咲ですね?』……ちょっと……これどういうことですか!? 咲さんの正体がバレてる? あの、咲さん……?」

咲(………………)

和「ど、どうしました?」

咲(いや……ごめん。なんでもないよ)

和「どうして……照さんは咲さんのことわかったんでしょう。というか、この『teru』はやっぱり照さんなんですよね? どうですか、照さん、あれから強くなってましたか?」

咲(ああ、うん。そうだね。宮永照は強くなってたよ……けど、それ以上に……)

和「咲さん……?」

咲(……私が……強くなったみたい……)

和「えええ!? それ以上強くなってどうするつもりですか!? 神様でも倒すつもりですか!?」

咲(それいいね。倒しちゃおうか、神様)

和「何を世迷言を……」

咲(和ちゃん)

和「なんですか?」

咲(私、しばらくネット麻雀はいいや。夏休みも終わるんだし、和ちゃんも、これからどうするか考えなきゃだしね)

和「私……ですか」

咲(うん。和ちゃんも、この夏で大分強くなったし……また色々な可能性が広がったと思うんだ)

和「そうですね。まずは……優希と一緒に清澄中学の麻雀部に行こうと思います。それで……インターミドルベストエイトのお祝いをします」

咲(この夏……あの子たちも頑張ってたんだね)

和(夏……夏が終わりますね)

 ――――

優希「嫌だじょっ!!!」

和「ゆ、優希……ごめんなさいっ!!!」

優希「やだやだやだ!! 私はのどちゃんとインターミドルに出るんだじょ!!! もう決めたんだじょ!!!」ポロポロ

和「本当に……ごめんなさい……」

すばら「優希、和が決めたことです。寂しくなりますが、笑って送り出しましょう」

優希「だって……だってのどちゃんは……!!」ポロポロ

まこ「引き止めてどうするんじゃ。和は麻雀を続けるんじゃろ? ほいで、われも麻雀を続ける。これからいくらでも遊ぶ機会はあるじゃろうて」

優希「でも……でも!!!」

純「あああああもう、ごちゃごちゃうるせえんだよ!!」

優希「うるさいのはお前だ、ノッポ!!」

純「おい、原村。お前、院生になるんだよな。だったら、この部室にはもう来るな。
 お前の進む道はこっちじゃねえんだろ? こんなチビは放っといてとっとと行きやがれ」

和「あ……あの……今日は、実はもう一つお願いがあってきたんです。
 図々しいのは承知なんですけど、その、院生試験を受けるために配譜を三枚用意しなければいけなくて……だから、皆さんと打ちたいなと」

純「牌譜ぅ?」

優希「ふん!! 私は打たないじょ!! 院生になっちゃうのどちゃんなんかとはもう二度と麻雀を打たない!!」

すばら「優希、我儘を言ってはいけません」

まこ「ま、ようは三局打てばええんじゃろ? いくらでも付き合うわ」

純「けっ、こっちだって次の大会に向けての練習で忙しいんだよ。出て行くやつのために半荘を三回もやってられっか。
 おい、透華、智紀、一、お前らもぼさっとしてないで、ある卓全部原村のとこに集めるぞ」

透華「了解しましたわ。ハギヨシ、歩!!」

ハギヨシ「はっ!」

歩「はいっ!」

和「な、何をするつもりですか?」

純「何って、三卓打ちだよ」

和「三卓打ち……!?」

純「ここに三つ麻雀卓がある。一つはオレと一と智紀、一つはチビと染谷と花田さん、もう一つは透華とハギヨシと歩だ。お前は、その三つの卓の全てに入ってひたすら打て」

和「そ、そんな無茶苦茶なっ!!?」

純「これから院生になろうってやつが、なんのハンデもなしにオレらアマと打つつもりかよ。プロをナメんな」

和「けど、三卓同時なんてやったことないですし……」

純「ぐだぐだ抜かすな!! さあ、始めんぞ!! 各卓、一斉にサイコロ回せっ!!」

和「う……わ!! 配牌三つ分って……そんなちょっと待ってください……」

純「おい、タラタラすんな、こっちはもう理牌終わってんぞ」

和「ちょ……ちょっと……待ってくださいっ!!」

純「待たねえ!!」

和「一打目! 一打目だけでいいんです。あとは全部ノータイムで打ちますから……!!」スゥ

花田(和……三つ分の配牌を見て、深呼吸……空気が変わりましたね。すさまじい集中力です……)

まこ(ほう……しばらく顔を見せずに何をやっとったと思うたら、随分と逞しくなったみたいじゃの)

優希(わ……私は認めないじょ。そうだじぇ! ここで私がのどちゃんに勝てば、のどちゃんだって院生になるのを諦めるかもしれないっ!!)

和「…………失礼しました。では……行かせていただきます」ヒュン

透華がのどっちだと気づいて追っかけて透華もプロになりそうやな

 ――三卓麻雀中

純「おい、花田さんよ、手を緩めんなよ。厳しく行け。考えさせろ」

すばら「手を抜いているつもりはありませんよ……(和……本当に強くなった)!」

ともきー(これは……どこかで見たことのある打ち筋……まさか……原村さんが『のどっち』……?)

透華(智紀も気付いたみたいですわね。そうですわ……原村から確かに『のどっち』を感じますの……。
 『saki』の話題に埋もれていましたが……この夏彗星のように現れたデジタルの権化。
 もし仮に原村が『のどっち』なら……下手なプロよりよっぽど強い……いくらわたくしでも楽勝はできませんの……!!)

一「以前雀荘で打ったときとは別人だな……けど、この打ち方のほうが、ボクは好きだね……!!」

まこ(第一打で少し悩んだあとは、ホントにノータイムで切ってくる……驚いたのう。元々計算力はあるやつじゃと思っとったが……何が和をここまで変えたんじゃ?)

優希(のどちゃん……強い……東場でも私と同じくらいだったじぇ……このまま南場になったら……)

純「チビ、集中切らすな。これが、お前とこいつがまともに打てる最後の一局になるかもしれねえんだぞ!」

優希「わ、わかってるじぇ!!!」

和「」ヒュン

 ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン   ヒュン        ヒュン

 ――終局

和(つ……疲れました……)フゥ

純「原村の成績は……ふん、一位、二位、二位か。ま、さすがのオレと透華だよな。負けるわけがねえと思ってたぜ」

和「純さんと透華さんには……結局最後まで勝てませんでしたね」

純「当たり前だろ。じゃ、牌譜はパソコンで適当にプリントアウトしろや。それが終わったらさっさと帰れ。あばよ、もう二度と来るな」

和「ありがとうございました」ペコッ

すばら「こちらこそ。和と出会えてよかったですよ。院生になっても頑張ってください」

まこ「まあ、こっちはこっちでインターミドルやインターハイを満喫するけえ、心配は要らん。ひょっとすると、あと何年かしたらプロになるやつも出てくるかもな」

透華「ふん、先に行っているといいですわ。プロ試験は三十歳まで受けられますし」

一「うちの師匠だってプロになったのは二十歳過ぎてからだしね」

ともきー「……応援してる……」

ハギヨシ・歩「ご武運を」

和「みなさん……ありがとうございます」

優希「のどちゃん……」

和「優希……」

優希「プ……プロになれなかったら……その、い、いつでも部室に戻ってきてくれていいんだじぇ?」

和「いえ、それはありえません」

優希「そっか……」シュン

和「プロにならずに戻ってくることはありえません。けれど、プロになってからなら、必ず報告しに戻ってきます。それまで……部室で待っていてくれますか?」

優希「う、うんっ!!」

和「ありがとう、優希。私、頑張ります」

優希「おうっ!!! 院生もプロも……まとめて蹴散らせだじぇ!!」

和「はい。任せてくださいっ!!」

ここまで綺麗な和と優希久しぶりに見た気がする

 ――自宅

和「……明日、院生試験、受けます。頑張ります……と」

咲(誰?)

和「シズです。ほら、赤土さん門下の」

咲(ああ、そっか。あの子たち、去年はプロになれなかったんだね)

和「去年は……院生から一人の合格者も出なかったと憧さんが言っていました。
 小鍛治門下の照さん、ダヴァン九段門下の辻垣内さん、それに赤阪三元門下の荒川さん……みなさん、師匠の下で修行を積んだ方ばかりだそうです。
 院生すらヌルい、とのことで……」

咲(へえ、宮永照以外の子は知らないなぁ。けど、なぜかもう打ってる気がするのはなんでなんだろう)

和「プロ試験……ですか。今はまだ、そんな先のことまでは考えられませんね。とにかく、明日、院生試験に受からないことには……」

咲(頑張ってね)

和「はい。私なりに精一杯」

 ――院生試験当日・日本麻雀院

和(さ、さすがに緊張しますね)ブルッ

咲(いざとなったら私が試験官を殲滅してあげるよ!!)

和(やめてください)

 ――個室

?「あらあら。また可愛らしい子が受けに来たわねぇ」

和「あ……えっと、よろしくお願いします(こ、この人……プロ麻雀界最年長雀士って噂が流れてる石戸九段だ……!! でも全然そんな風には見えないっ!!)」

霞(??)「じゃあ、まずは配譜を見せてもらおうかしら」

和「は、はい……」スッ

霞「ふんふむ……」

霞(デジタル打ちか……ところどころセンスが光るけれど……少し読みが浅い。
 けど、ここまで徹底してデジタルの子は珍しいわね。ブレが皆無と言っていい。相手に左右されないというのは、強みでもあり弱みでもある)

霞(ただ、デジタルにしては打牌が雑なのよねぇ。精神的に未熟な面があるのかも。せめて中学生くらいになれば落ち着いて打てるようになるかしら)

霞(見た限り素質は十分そうね。配譜を見ただけで、少しだけだけど、この子の本質というか恐ろしい部分が感じられる。うちの初美と打たせてみたいわ……)

和(ど、どう思われているんだろう……?)

霞(それと……気のせいかしら。とてつもない『魔』が背後に潜んでいるような……)チラッ

咲()ビクッ

霞(杞憂ならいいけれどね。本当にこれほどの『魔』がいるとしたら、私でも手に負えない。
 そういえば……いつだったか健夜ちゃんと晴絵ちゃんが照ちゃんのことでなんだか騒いでいたけれど、それと関係があるのかしら)

霞「では、少し私と打ってみましょう。二人麻雀で少し変則的なのだけれど、構わないかしら?」

和「は、はい。大丈夫です……!」

 ――院生室

シズ「和、受かったかな……?」ソワソワ

憧「どうかしらねぇ、石戸九段はけっこう辛口って噂もあるし」ソワソワ

玄「今は祈って待とう……」ソワソワ

 ――個室

霞(特殊な力を持っているわけじゃない。やはり純粋なデジタル打ち。今まではあまりいなかったタイプかもしれないわ。
 なんだかんだで、みんなそれぞれにクセがあるからね。けれど、この子にはそれがない。まるで機械みたいな)タンッ

和()ヒュン

霞(ここまではかなり落ち着いて打てている。配譜のあれがなんだったのかってくらいに。じゃあ……少し揺さぶってみましょうか)

霞「あの、配譜なんだけれどね」

和「は、はいっ!」

霞「ちょっとミスが多いように思ったのだけれど、あなた自身はどう思っているかしら?」

和「そうですね。確かに、見直したときはかなりまずいと思いました。この配譜で試験に受かるかな、と」

霞「別に、他の出来のいい配譜でもよかったのよ?」

和「あ、いえ。周囲に、私と打ってくれる人たちが部活の先輩しかいなくて。
 けど……先輩たちはインターミドルが終わったあとで忙しいから……私の我儘で何度も付き合わせるのは申し訳ないなって」

霞「インターミドルねぇ。けっこう強い学校なのかしら? 見たところ、この井上さんや龍門渕さんという子はかなりいい筋しているようだけれど」

和「私もそう思います。えっと……私がお世話になったところは、今年のインターミドルでベストエイトに入った麻雀部です」

霞「え? ベストエイト?」

和「はい。清澄っていうんですけど」

霞「清澄って……(あの天江五段の弟子が活躍したってところ……?)」

和「まあ、仕方ないです。先輩たちに迷惑をかけるわけにはいかないですし。三卓打ちでも打ってくれた先輩たちには、感謝してもしきれません」

霞「え? 三卓打ち?」

和「ああ、はい。私も初めてで驚いたんですけど。三つ同時にこうひゅんひゅんひゅんって……目が回るかと思いました」

霞(言われてみれば日付が全部一緒ね。
 へえ……インターミドルのベストエイトレギュラー……しかも天江五段門下を相手に……初めての三面打ち……それでこの打牌……いやいや、久しぶりにこんなに驚いたわ)

和「石戸九段……?」

霞「ああ、いえ。なるほどね。大体わかりました。明日からでも、こちらに通ってください。一緒にプロを目指しましょう。というわけで、よろしくね、原村さん」

和「えっ? それってつまり……?」

霞「合格よ」

和「ほ、本当ですか?」

霞「うん。そういうわけで、試験はこれでおしまい。手続きのことなんかはあとで郵送で資料を送ります。で、最後に一つだけ、個人的に聞きたいことがあるのだけど」

和「なんですか?」

霞「ちょっと……私の知り合いに巫女がいるんだけど、お祓いとかしてみない?」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲(ダメ!!! 絶対ダメ!!!! これはヤバい!!!!)

和「あ……えっと、すいません。ご遠慮させていただきます。ありがとうございます」

霞「そう。ま、必要になったらいつでも言ってね」ニコッ

咲(和ちゃん!! もう二度とこの人に近付いちゃダメだよ!! この人の門下生もたぶん危険だからね!! よく覚えておいて!!)

霞「じゃあ……待っている子たちもいるみたいだし、外に出ようかしら」

和「は、はい」

 ――廊下

霞「盗み聞きとはお行儀が悪いですよ。晴絵ちゃんのところはやんちゃが多くて大変だわ」

和「シ、シズ!? それに憧さんに玄さんも!!」

シズ「の、和、どうだった!?」

霞「あなたの口から言ってあげなさい」

和「合格しました」

シズ「やっほうううううう!!!」

憧「おめでとう、和!!」

玄「よかったねっ!!」

和「はい。早く皆さんと一緒に打てるように、頑張ります」

霞「そうね。原村さんは二組からスタートだから、高鴨さんたちと打つのは早くても数ヶ月先になるかしらね」

憧「月一で順位が入れ替わるんだよ! で、二組のトップフォーに入れば、翌月からは一組っ!!」

和「なるほど」

シズ「そんなことより今日はお祝いしようっ!!」

憧「いいねっ!! みんなでハルエの家に押しかけようっ!!」

玄「賛成っ!!!」

霞「こら、あんまり先生に迷惑かけちゃいけませんよ」

シズ・憧・玄「はーい」

和(小学生ですか……いや、こんなに喜んでもらえて嬉しいですけど)

霞「じゃ、和ちゃん。今日はお疲れ様。気をつけて帰ってね」

和「はい」

 ――廊下

?「先生、聞いてますか、先生」

?「ああ、聞いてるよ。で、なんの話だっけ?」

塞(26)「聞いてないじゃないですか。次の『五花』戦のことですよ。大丈夫ですか、相手はあの赤土九段ですよ?」

トシ(70)「ああ……あの子のことならよく知っているから心配は要らないよ。それにしても……」

 キャイキャイ

塞「あれは……院生……? 噂をすればなんとやら、赤土門下の子ですね」

トシ「あの、ヒラヒラした服を着た胸の大きな子は?」

塞「見たことないですね。たぶん新しい院生でしょう」

トシ「ふうん……そうかい。あ、塞、あんまり長くあの子を見つめないほうがいいかもしれないよ……っと」モノクルヒョイ

塞「えっ、先生?」

 パリィィィィィィン

塞「ええええええ!!!?」

トシ「ふう……間一髪だったね」

塞「モ、モノクルが……? 粉々に……!!?」

トシ「宮永照で波が終わったかと思ったんだけどねぇ。まだまだ麻雀界も荒れそうじゃないか。ふふ……楽しみだよ。また長生きしたくなった」

塞「先生……」

トシ「どうせ新しい波を迎えるならタイトルホルダーのほうが格好がつくってもんだ。次の挑戦者はレジェンド――赤土九段ってことだったね。
 こりゃ負けられない戦いになりそうだよ……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 ――お祝い・赤土邸

シズ「えっ? 和、麻雀のタイトル知らないの!?」

和「仕方ないじゃないですか。元々麻雀のことはよく知らなかったんですから。
 ただ、小鍛治プロが九冠だったということは、少なくとも九個のタイトルがあるということですよね」

憧「全部で十個あるのよ。役満になぞらえたタイトルなの。覚えるのは簡単。一から九までの数字で、四だけダブってるって覚えるの」

玄「全部、役満になぞらえたタイトルなんだよ」

和「へえ……」

宥「これ、タイトルとタイトルホルダーの一覧表だよ」

 一緑:小鍛治健夜
 無双:小鍛治健夜
 三元:赤阪郁乃
 四喜:小鍛治健夜
 四暗:小鍛治健夜
 五花:熊倉トシ
 六頭:小鍛治健夜
 七星:小鍛治健夜
 八連:小鍛治健夜
 九蓮:小鍛治健夜

和「小鍛治プロは鬼ですか」

灼「間違いなく、鬼」

シズ「でっ!! 今度、もしかするとこの一覧表が変わるかもしれないんだっ!」

憧「我らがハルエ先生が、なんと五花戦の挑戦者になったのでえええす!!!」

和「そうなんですかっ!!? おめでとうございますっ!!」

晴絵「ま、おめでとうはタイトルを獲ってから言ってくれ」

和「あれ、けど、麻雀なのにタイトル戦の挑戦者は一人なんですか?」

憧「和、あんた本当に何も知らないのね……」

シズ「卓を囲むのは四人だよ。挑戦者リーグでトップ成績に入った三人と、タイトルホルダーが卓を囲むんだ」

玄「で、勝負自体は挑戦者とタイトルホルダーのサシウマで決まるの。半荘二十回の合計得点を競う。
 ちなみに、他の二人が点数でタイトルホルダーに勝った場合、次回の挑戦者トーナメントを免除されることになる。だから、タイトルホルダー以外の三人は、みんなタイトルホルダーを倒そうとするってわけ」

和「実質三対一じゃないですか」

晴絵「そういうこと。だから、そんな中で八冠を保っている小鍛治さんは……本当にすごいんだよ」

④ これは面白い

宥「けど、熊倉五花のタイトルへの執着もすごいですよね。結局、小鍛治さんの獲れなかったタイトルは、熊倉プロの持っている五花だけですから」

晴絵「そうだな。小鍛治さんが獲れなかったタイトル……私はその挑戦者になれた。これは死ぬ気で獲りにいかないとな。いい加減私もタイトルが欲しい」

灼「小鍛治さんより年下でタイトルホルダーになった雀士はいませんからね」

晴絵「今に私がその一人になってやるさ……また一つ……私が新しい伝説を作ってやる。そうやってここまで上り詰めたんだ。
 みんな……タイトル戦中はあまり面倒を見てやれなくて申し訳ないが……応援よろしくなっ!!」

灼「うん……何があっても私が支えてるから、安心して戦ってきて、ハルちゃん」

晴絵「ありがとう、灼」

和「ところで、タイトル戦の名前なんですけど」

シズ「どうした?」

和「六頭っていうのは、清老頭……ロートウをひっかけた洒落ですよね?」

憧「老頭牌は六種類だしね」

和「七星は大七星――字一色のことで」

玄「そうそう」

和「となると、今話題になっている五花は……四槓子ってことですか」

宥「五花開花からの連想だね。四槓って、字面が縁起悪いみたいだから」

和「でも、やっぱり四槓子は四槓子で、五花っていうと、どうしても五花開花を連想してしまいますよね。カンが絡むというだけで、役の中身はまったく別物です」

灼「和って細かいこと気にするんだね」

晴絵「五花はタイトルの中でも歴史的に古いほうなんだよ。だから色々紆余曲折があったんだ。けど、タイトルの元になった逸話として一番よく引き合いに出されるのは――江戸時代の『宮永咲』の伝説だろうな」

和「宮永……咲……」

五花開花→五筒開花

晴絵「宮永咲は嶺上使いとして知られている。二連、三連槓は当たり前。そんな宮永咲が最も多用した役満が、四槓子だ。
 で、宮永咲は恐るべきことにどの四槓子でも、必ず五筒開花で和了ったらしい。ま、伝説だから、実話なのか作り話なのかわからないけどな」

咲(ほぼ実話ですっ!! 実際は十回に八回くらいの頻度だったけどね!)

和(そんなオカルトありえません)

晴絵「だから、五花ってタイトルだけはちょっと特別でな。ただ役満の名前を冠しただけじゃない。宮永咲っていう、過去の雀士の中で最も強いと言われる人に因んだタイトルなんだよ」

和「なるほど……面白いお話でした。それで……もう一つ気になっている点があるんですけど」

晴絵「なんだ?」

和「どうしてタイトルの中に『天和』だけがないんですか?」

憧「それはほら、あれよー」ニヤニヤ

シズ「そう。天和は幻の役だから! 同じように幻のタイトルなんだ!!」

玄「現代麻雀の歴史上、このタイトルを獲れた人は一人もいないんだよ。唯一、あと一歩まで迫ったのが、小鍛治プロ」

和「どういうことですか?」

たしか県大会決勝の一番最後で和了ってたよね?

>>381
数えな

晴絵「簡単に言えば、十冠。それが幻のタイトル『天和』だ」

和「え? ええ?」

宥「和ちゃん、ほら、タイトルは全部数字が並んでるでしょ?」

灼「一から九まで言って、次の数字は?」

和「十……? え? ええ?」

憧「はいっ! お後がよろしいようでー!!」

シズ「天和ばんざーい!!」

玄「てんほー!!」

和(わ、わけがわかりません!!)

咲(和ちゃん、頭固いなぁ……)

>>382
四槓子じゃなくて五筒開花のことね

追いついた 面白い

続きはよー④

 ――小鍛治邸

誠子「そういえば、あいつは院生馴染めたかな」

尭深「さあ……」

菫「若獅子戦で照と戦うって意気込んでたけどな」

照「そうなんですか……」

 ガチャ タッタッタッ ガラガラッ

?「ただいまー! 帰ったよー!!」

健夜「扉は静かに開けてね、淡」

淡(10)「はーい!!」

誠子「どうだ、淡。調子はいいか?」

淡「あはっ、最近足踏みが続いている亦野先輩よりはいいよ!!」

誠子「グーで殴ってやろうか」

尭深「……子供相手……」

菫「淡、若獅子戦に出るなら一組の十六位以上に入らないとダメなんだぞ?」

淡「ん、たぶん大丈夫だよ、今月一組に上がって、来月はたぶん二位くらいになってるからっ!!」

>>385
それなら和了してるな
県決勝では他にも両索槍槓とか一筒摸月とか古役が結構あった
オーラスも一色四順だったし

菫「とんでもない出世スピードだな」

誠子「そういえば、お前のすぐあとに入ったっていう、あれはどうした、あの、ほら」

尭深「……原村和……」

照()ピクッ

淡「さあ……二組にいたときにちょっと打ったけど、私はすぐ一組に上がったから知らない。まだ揉まれてるんじゃない?」

恒子「胸を!!?」バァン

健夜「えええ!!? こーこちゃん、なんでいきなり入ってきてるの!!!? そして胸じゃないからね!!?」

恒子「いやいや、淡ちゃんが帰ってきたみたいだから、そろそろみんなで夕食にしないかーって?」

淡「やったー!」

>>390
やっぱそうやったかサンクス
ローカル役や古役結構多かったよね

 ワイワイガヤガヤ

健夜「あ、そうだ、照」

照「なんでしょう」

健夜「新初段シリーズの相手は決まった? というか、どっち?」

照「赤阪三元です。熊倉五花は、タイトル戦に集中したいそうで」

健夜「ああ……赤土さんが挑戦者だもんね。にしても熊倉さんがこの手のイベントを断るのは珍しいなぁ。よほど赤土さんを警戒してるんだね」

照「先生、赤阪三元というのは……どんな打ち手ですか?」

健夜「ああ、あの魔女ね。うーん、なんて言えばいいんだろう。とりあえず、新初段シリーズっていう、新人の門出を祝う華々しい対局に……たぶん私の次に向いてない雀士だと思う」

照「……借り、私が返してきましょうか?」

健夜「はは、三元取り返されちゃったこと? 大丈夫、あれくらいすぐに取り返すし、それに――」

照「それに……?」

健夜「今の発言は、ちょっとタイトルホルダーを甘く見過ぎ。
 私や熊倉さんならいいけど、特に、赤阪さんの前では絶対にそういう態度見せちゃダメだよ? 照だって、まだ壊されたくないでしょ?」

照「……肝に銘じておきます」

④④④

 ――院生室

和「新初段シリーズ?」

シズ「そう。プロ試験を合格した三人と、タイトルホルダーが対局するっていう、名物行事」

和「じゃあ、それに照さんが出るということですか?」

憧「照……さん?」

和「えっ?」

玄「ああ、ごめんね、和ちゃん。憧ちゃん、去年対局をすっぽかされてから、宮永さんの名前聞くとこの通りなの」

憧「ふん、あんなやつ、ギッタギタにされればいいんだ」

和「(何回かギッタギタにされたところを見たことがあるのでなんともコメントし難い……)で、その新初段シリーズっていうのはいつ行われるんですか?」

シズ「一週間後」

和「もうすぐじゃないですかっ!!」

ほほほほ

ほしゅ!!!

                                  /\___/ヽ
    (.`ヽ(`> 、                      /''''''   ''''''::::::\
     `'<`ゝr'フ\                  +  |(●),   、(●)、.:| +
  ⊂コ二Lフ^´  ノ, /⌒)                   |  ,,,ノ(、_, )ヽ、,, .::::|
  ⊂l二L7_ / -ゝ-')´                 + |   `-=ニ=- ' .:::::::| +
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      |   /o |_   _,/   \ |     完全に
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         r_'.ニニ'' \
.        とニニ''_.   ヽ       荒らしの後は
       /  ,. -、 \   \      スレも残さない
      /   / | o\)`ァ、  \:‐┐    ………!
    /  _.ノ   |     | ヽ.   \!
.  /   /   │    |  ヽ.   \

 ――新初段シリーズ・当日

「はーい、では皆さん並んでください! そうですね、中央は赤阪三元、その隣に宮永さんで、荒川さんと辻垣内さんは二人の左右に……そう、そんな感じですっ!」

赤阪「いや~なんや対局が始まる前から疲れてまうね~」ニコニコ

照「いえ、これくらいは、全然」エイギョウスマイル

赤阪「そうなん? うちが新初段やったときは緊張して大変やったわ~。写真撮影もインタビューもしんどくてな~」

照「そうですね……けど、程よく気持ちがほぐれるので、むしろ有難いです」

赤阪「ふ~ん~?」

憩「ちゅうか先生、先生が新初段やった頃って写真機あったんですか? 百歩譲ってあったとして、それカラーですか?」

赤阪「憩ちゃ~ん? そういうジョークは石戸さんに言うてや~? ほな、あんたは今日トビ決定やから~」

憩「えー? 新初段シリーズでトビとかカッコ悪いやないですかー? 辻垣内さん、辻垣内さんも一緒にトバされましょー」

智葉「勘弁してくれ。ただでさえハンデをもらってるんだ。簡単にトばされては対局が盛り上がらないだろ」

照「そうですよ、荒川さん。色んな人が見てくれているんです。少しでも善戦しなくては、せっかく私たちのために打ってくれる赤阪三元に申し訳ない」

憩「おっ、なんや二人ともやる気に満ち溢れてはりますなー。先生、これはオモロいですよ。どうやら、うちら全員、今日は先生に勝つ気みたいですわー」

赤阪「ははは~憩ちゃんはオモロいこと言うな~」

照・憩・智葉「はははは」

赤阪(さ~て~、こいつら全員どうやって血祭りに上げたろかな~……)

4

 ――院生室

和「し、新初段シリーズは……!?」

シズ「おっ、和。やっと対局終わったんだね」

和「本当に大急ぎでしたよ……勝てたからよかったですが。と……よかった、まだ東一局、始まったばかりですね」

憧「始まったばかりねぇ、本当にそうかなぁ?」

和「え……? うわ、な、なんですかこれ……東一局……十二本場……?」

赤阪『ツモや~。ツモのみ~。500オールに十二本つけてや~』

和「じょ、冗談ですよね……?」

玄「冗談じゃないよ。赤阪三元、起家で、さっきからツモのみしか和了らないの」

和「あの、私、本当に麻雀について知らないことばかりなのですが、もしかして、トッププロって皆さん妖怪か何かなんですか? そういうのが常識なんですか?」

トシ「そんなことはないよ、たまたまあの魔女が非常識なだけさ」ガラッ

憧「く、熊倉五花……!!?」

トシ「まったく、心配になって来てみたら、やっぱりだよ。あの魔女……誰か今年の新初段に気に入らない子でもいたのかねぇ(たぶん全員なんだろうけど)」

晴絵「おーい、どうだ、新初段シリーズは盛り上がってるかー?」ガラッ

玄「あ……」

トシ「お、これはこれは……」

晴絵「熊倉五花……いらしてたんですね」

トシ「五花戦、挑戦者になったんだってね、おめでとう」

晴絵「そんな、まるで他人事みたいに。胸を貸りるつもりで戦わせていただきます」

トシ「懐かしいねぇ……そういえば、あんたの新初段は私だったか。あれから……もう何年が経ったんだか。
 あんたと同期の小鍛治プロは今や生きる伝説に。あんたもこうしてタイトル戦の常連になった。月日が流れるのは早いもんだよ」

晴絵「早かった、でしょうか。私は……とても長く感じましたけれど」

トシ「ん……?」

晴絵「やっと掴んだ挑戦権です。本当に、全身全霊でぶつかりますよ。熊倉さんもお気づきだと思いますが、今、新しい波が来ています。
 あの赤阪三元の心を乱すほどの大きな波……私はそれを、タイトルホルダーとして迎えたい」

トシ「奇遇だねぇ、私も同じことを考えていたよ」

晴絵「熊倉さん……私たちがプロになる前から五花といえばあなたのことでした。けれど……それももう今期までです。今が世代交代の時期なんですよ。
 申し訳ありませんが、五花の座はどいていただく」

トシ「生意気な口を利くようになったじゃないか。一度は小鍛治に壊されたポンコツが。まだ頭のどこかに後遺症があるんじゃないかい?」

晴絵「私はいたって健康ですよ。あなたのように、七十になってもタイトルホルダーでいたいですから」

トシ「私は九十くらいまでタイトルホルダーでいるつもりなんだけどねぇ」

晴絵「ご冗談を。なんなら、いい介護師を紹介しましょうか?」

トシ「それなら間に合ってるよ……」

 ドタドタ ガラッ

塞「あ、先生っ!! もうっ!! 勝手にうろうろしないでください。次の予定が詰まっているんですからね!!」

トシ「じゃ、次は対局室か……楽しみに待っているからねぇ、赤土九段」

 ガラ バタン

晴絵「…………だあああああああ!!! 死ぬかと思った!!!! いや、むしろ二回くらい死んだ!!」

玄「先生……大丈夫ですか?」

晴絵「まったく……どうしてこう麻雀界のトッププロってのは妖怪じみたのばっかりなんだ。上に行けばいくほど……自分が凡人だってことを思い知らされる。
 なあ、みんなはどうだ?」

憧「そうね、私も、もっとものすごい能力とか魔力とかほしいわよ。でも、持ってないものは仕方ない」

玄「うん。けど……それでも私たちは、この道を歩むと決めたんです」

シズ「相手がものすごく強くても、関係ないっ!」

晴絵「ハハ、ありがとな。来年の新初段シリーズ、今年の赤阪三元と荒川憩みたいに……お前らと私で新初段シリーズをやりたいよな。
 そのためには……まず私がタイトルを獲らないとだ……!!」

憧「私たちも……いい加減プロにならないとね」

玄「いつまでも院生の上位にいても仕方ない」

シズ「うおおおおお、なんだか燃えてきたっ!!!」

晴絵「……あれ、ところで和は?」

和「あ、あの……熊倉五花……!!」

トシ「ん、あんたは……なんだい?」

和「熊倉五花は……五花というタイトルの由来には詳しいですか?」

トシ「まあ、私が延々守り続けてるタイトルだからね。それなりに愛着はあるつもりだよ」

和「じゃあ、宮永咲……って一体どんな人なのか、わかりますか?」

トシ「あんたが言いたいのは……江戸時代の宮永咲かい? それとも――」

和「えっ……?」

塞「先生、もう時間が……」

トシ「っと、ごめんよ。あんたとはどこかでゆっくり話をしたいもんだ。そうだねぇ……あんたが五花戦の挑戦者にでもなったら……二人きりになれる時間も増えるだろうけど。ま、せいぜい頑張るんだよ」

和「ありがとうございます。お時間とらせてすいません、ではっ!」タッタッタッ

トシ「……というか、宮永咲のことなら宮永照に聞けばいいんだよ。あの子は……宮永家の唯一の生き残りなんだから……」

そろそろ脳が限界なので、今日はこれで失礼させていただきます。

書き溜めゼロでSSなんて書くもんじゃないですね。続きは週末あたりに書きたいです。

今日はお付き合いいただきありがとうございました。

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