モバP「杏なんて大嫌いだ」(126)

「仕事しろ」

「やだぁ、疲れたぁ」

「……」

俺はあまり大きくはないアイドル事務所で、プロデューサーをしている。
この仕事に就いたのは半年程前で、まだまだ新人だ。

俺は、夢を持つ人間が大嫌いだ。
アイドルなんかは言うまでもない。
こんな俺が、アイドルのプロデューサーなどをしてるのは、爺ちゃんのせいである。
それは半年程前、暑い夏の日だった。

******

ブーブー、ブーブー

「おい○○○、電話がなっているぞ。出なくていいのか?」

先輩が、箸を俺のポケットに向けて尋ねる。
俺は、ポケットから電話を出して液晶を覗いた。
そこには、爺ちゃんの名前が映されている。
爺ちゃんからとは珍しいな、電話をかけて来たのは初めてだ。
爺ちゃんと最後に喋ったのは、俺が大学に受かった時だったろうか。

「すみません、電話にでます」

先輩は弁当を、大きな口の中に流し込みながら言う。

「ひいよ、ひいよ。…おまへの肉、くっへもいい?」

俺は苦笑いで「どうぞ」と答えた。

「もしもし、爺ちゃん?久しぶり」

「おお、ワシの愛おしい愛おしい孫よ」

俺の記憶が正しければ、俺の爺さんは特に厳しい人ではなかった。
しかし、俺を気持ち悪いほど大事にしているわけでもなかった筈だ。

「何かいつもと違わない?」

「そうか?それよりも、大事な話があるんだ」

頼み事かよ。俺は、力の抜けた笑いを一つして、「なに?」と言う。

「アイドルのプロデューサーをしてみんか?」


その一言が、全ての始まりだった。
何でも元々いたプロデューサーが、過労で倒れて仕事を辞めてしまったらしい。

あ、なんか気持ち悪い

俺は即答した

「嫌だ、絶対に」

過労で倒れるような仕事を、孫に勧めるな。
そうでなくても、アイドルのプロデューサー?
そんなものは御免だ。
俺は強く断って、電話を切った。

しかし、爺ちゃんは諦めなかった。

「ただいまー」

「あら、おかえり。○○○」

家に帰ると、エプロンをした母さんが玄関まで出てきた。
俺は実家暮らしをしている。
別に親に甘えている訳ではない。家賃や光熱費は、俺が払っている。

>>4
しっ!今は黙ってなさい

俺には、父さんがいない。
俺が小さい頃にどこかへと消えたらしい。まだ小さかった頃なので良く覚えていない。

「何か臭くない?」

「え?」

母さんは、スンスンと匂いを嗅ぐ。

「確かに」

そう言って母さんは、首を少し傾げ臭いの原因を考える。
そして首を正常な角度に戻して、笑顔を浮かべた。

「フライパンの火を付けっぱなしだ」

「…ヤバくない?」

「うん、ヤバイ」

母さんは、パタパタと小さな足音を立てながら台所へと向かった。

母さんの小さな背中をみると、きっと俺の父親は大きかったのだろうなと思う。
じゃないと、俺みたいにのっぽな奴が産まれないだろう。

母さんは少し抜けている。
だから、母さんを一人暮らしさせるのは少し恐いのだ。
決して、マザコンではない。

靴箱を開けて、俺の大きな革靴と、母さんの小さな靴を納める。
ネクタイを緩めながら、スーツのままで台所に行く。
呆然と立っている、母さんに尋ねた。

「大丈夫?」

母さんは、フライパンを両手で持ち上げて、俺にフライパンの中身をみせた。
見事なまでに、まる焦げだ。

「…大、丈夫?」

と母さんは、困ったように笑っている。

どうやってこれを見ると、大丈夫な可能性があるように思うのだろうか。

「大丈夫じゃないな」

俺にそう言われ、フライパンをコンロの上に戻す。

「どうしよう?」

「出前でも頼むか」

俺は携帯で、近くで宅配をしてくれる店を探す。

「ごめんねぇ」

母さんは小さな体を、もっと小さくして謝る。

「いいよ、ただ危ないから気おつけてね」

二人で台所を片付けているうちに、出前が届いた。

「いただきまーす」

「いただきます」

母さんの希望により、届いた超巨大ピザを食べる。
母さんは変わったものが大好きだ。小豆コーラを買って来るような人間だ。
どうせすぐに食べれなくなって、俺に押し付けるのだからやめて欲しい。

「美味しいねー」

母さんは柔らかく笑う。

「うん」

「…思ったより大きいね」

やはり、俺が処理しなくてはいけないのだろう。

「あっ、そうだ」

「どしたの?」

「今日ね、お父さんから連絡があったの」

俺は思わずに、眉間にシワを寄せる。

「え?」

「どうしたの?恐い顔して」

「いや、…何だって?」

この部分は必要なの

「アイドルのプロデューサーをして見ないかって?」

俺は即答した。

「嫌だ」

「何でいいじゃない。可愛い女の子と居れるのよ」

「俺はアイドルが嫌いだ」

「ふーん、残念。お母さんをプロデュースして欲しかったのに」

「…は?」

母さんは、手で口を覆いながら笑う。

「お父さんに勧められて、アイドルをする事になったの。年齢詐称すれば、大丈夫だからやってみないかって。面白そうだからやる事にしたの」

確かに、母さんは驚く程若く見える。若い、というよりも幼いと言う方が正しいだろう。
まず、実年齢がバレる事はない。
老け顔の俺と一緒にいると、母が妹だと思われてしまう事がある程だ。

「ごめん、ちょっとトイレ」

俺はトイレに入って、ジジイに電話をかけた。

「何だ?我が愛おしい愛お「おいっ、コラジジイ!!」

俺の怒声を浴びて、嬉しそうに言った。

「どうやら、話を聞いたようだな」

「母さんがアイドル何て、駄目にきまっているだろ!」

「マザコン野郎の愛おしい孫に選択肢をやろう。一、プロデューサーになる。二、大事なママをアイドルにする」


そうして、俺はプロデューサーになった。
俺は決してマザコンではない。

******

プロデューサーを始めて半年程立つが、全く慣れる事はない。
それは、プロデューサーと言う名目ではあるが、実際の仕事は、マネージャーから何から全てをしなくてはいけない事が、一つの理由だろう。
そしてもう一つの理由は

「プロデューサーおはようにぃ☆今日も頑張るよ!きらりんパワー注入すぅ?」

俺に近い身長のある、諸星きらりが恐ろしい質問をする。

「いや、いいです。それよりもスケジュールは確認したか?」

「バッチしだよお☆」

「ははっ、そうですか。…それでは」

きらりの前から逃げて、どうにか俺の机まで着いた。

「ふう」

「疲れているみたいですね。プロデューサー?」

「うおっ?!」

後ろをみると、佐久間まゆが微笑を浮かべていた。

「ははっ、すっ、少しね」

「へぇ、ところでプロデューサー。さっきはきらりさんと何を楽しそうに話してたんです?」

きらりは物理的なダメージを与ええてくるのに比べ、まゆは心理的なダメージを与えてくる。

「い、いやあ、他愛のないはなしさあ」

「他愛のない話も、ぜーんぶ知りたいんです」

「あー、営業に行かないと行けないのを思い出した!」

俺は事務所に来て早速、営業へと逃げた。
扉を開けて、外に出ようと一歩踏み出すと、誰かにぶつかった。

「すまないっ」

「痛いなぁ、これはもう家に帰らなきゃ駄目だね」

俺が事務所で、最も嫌いなアイドルが倒れていた。

俺はこの小さな体の可愛らしいアイドル、杏が大嫌いだ。

「すまない、少し慌てて」

俺が手を差し伸べると、何を思ったのか俺の手を掴まず、杏も手をこちらに差し出す。

「何だ?」

「飴ちょうだい」

子供のように無邪気な笑顔を浮かべて、飴をねだってきやがった。

こちらからぶつかったので、渋々と飴を差し出した。
ロイヤルキャンディーという銘柄の、その名の通り高級な飴だ。
双葉杏が言う事を聞かない時に与えなくてはいけないので、常に胸ポケットにしまってある。

「へへっ」

杏は嬉しそうに飴を受け取ると、口の中に放り込んだ。

「それじゃ、行ってらっしゃい」

「ちゃんと仕事しろよ」

「分かってる、分かってる」

絶対に分かっていないが、言ったところでどうせ無駄なので諦めて営業へと向かった。

俺がいつまで経っても慣れないもう一つの理由は、この事務所のアイドル達が個性的過ぎるからだろう。

かわいい

******

午後からは杏のLIVEがあるので、杏を迎えに事務所へ帰ってきた。

「営業から戻りました」

「お疲れ様です、プロデューサー」

事務員のちひろさんが笑顔で迎えてくれた。
しかし、この事務員も癖がある。

「疲れたでしょう。どうぞドリンクを、いつもより値下しますよ」

何かあると、ドリンクを買わせようとするのだ。

このドリンクというやつが、中々疲れをとってくれる。しかし、恐ろしく高いのだ。

「遠慮しときます」

「そうですか?じゃあ、私がいただきます」

ちひろさんは、ドリンクのキャップを開けると、ぐいっと一気に飲み干した。

「あーっ、生き返る!」

こちらをチラと見ながら微笑んでいる。

「おい杏、LIVEに行くぞ」

早く事務所から出ないと、誘惑に負けてしまいそうだ。

「えー、疲れたぁ」

「何をしたというんだ」

「呼吸、あと食事、そういえば心臓もいっぱい動かしたなぁ」

この杏という奴は、とにかく働くのを嫌がる。
アイドルを目指したのだって、印税で一生働かなくていいようにという、冗談のような理由である。

しえん

しかし、ポテンシャルはかなり高く事務所で一番売れている。
俺は杏のふざけた夢も、そのふざけた夢を叶えようとするふざけたパワーも、高い能力を活かそうとしない所も大嫌いだ。

「ほら、早く行くぞ」

俺は杏を背負って無理矢理、車に連れて行った。

「いやー、誘拐だー」

「黙れ」

******

杏は大きなステージなのに、殆ど動く事なくライブをしている。
杏のライブには三畳ほどの場所があれば、十分過ぎるだろう。
殆ど動いていない、しかし観客の方は異常な程盛り上がっている。
杏は大きな動きこそしないが、観客が望んでいるパフォーマンスを理解して動いている。
観客が盛り下がらないように、加減をしながら分かるように手を抜く。
中々出来る芸当ではない。

杏の小さな体は、青や赤、様々な色の照明に照らされて綺麗に輝いている。
小さな体を動かすと、それに合わせて会場が揺れる。

本当に綺麗だ。

そんな姿を見れば見る程、俺はこいつを嫌いになる。
俺は夢を持ち、輝いている奴が大嫌いだ。

これは嫉妬だ。
悪いのは俺だと理解している。
しかし、分かったからといってやめれるものでもない。

そんな簡単に思いを変えれるのならば、きっと、貧富の差をなくす事も簡単であろう。
理解をしても変われない。
理解していても、安い服を買って安いハンバーガーを食べて、貧富の差を広げる。

俺が悪いと知りながらも、俺は杏を嫌うのだ。

夢を持ち、才能があり、輝いて見える杏が眩しくて、嫉妬する。

******

「はぁ、疲れたぁ」

助手席に座る杏は、もう何度目か分からないほど、繰り返しそう言った。

「もうすぐで、お前の家に着くから」

「んー、今日も部屋まで負ぶっていってね」

「はい、はい」

「プロデューサーは車を持ってないの?」

もうちょい間隔開けたほうがいいかも

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双葉杏(17)

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諸星きらり(17)

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佐久間まゆ(16)

しえ

「持ってるけど、何で?」

「いつも、事務所の車しか使わないから」

「ああ、俺の車はタバコ臭いから。アイドルに臭いがついたら、いけないだろ。それに車で事務所に来るのは疲れる」


「吸うのをやめなよ」

「簡単にやめれないんだよ」

前の職場よりも、遥かにストレスが溜まるのに禁煙なんて出来るか。

杏の住むマンションに着いた。
俺はいつも停める位置へと車を停める。
本当は停めては駄目そうな位置だが、杏を背負う距離を少しでも減らしたい。
いくら軽いといっても、やはり疲れるのだ。


「杏、鍵出せ」

「ん」

杏から鍵を受け取って、扉を開ける。

杏を背負ったままで、自分の靴と杏の靴を脱がせる。

奥の、杏の寝る部屋へと歩く。
一番奥の部屋なので、いくつかの部屋を過ぎる。
どの部屋も暗くて静かだ、そして静けさを強めるような、冷んやりとした空気が広がっている。

一人暮らしをした事がないので、こういう空間に暮らす事がいまいちイメージ出来ない。

奥の部屋に辿り着くと、杏をベッドへと放り投げた。

「あう、…ありがとプロデューサー。じゃあね」

杏は顔をベッドに押し付けたまま、手をヒラヒラと振った。
杏はいつも疲れているが、いつも以上に疲れているように見える。
まぁ、気のせいか。

「じゃあな、明日もちゃんと来いよ。明日は朝からサイン会だからな」

******

翌朝、杏は事務所に来なかった。
俺は慌てて杏の家に向かった。

「おい!杏!!起きてるか!」

ドアをどんどんと叩く。
しばらく叫んでいると、ガチャリと鍵の空く音がした。
俺は急いで扉を引く、しかしチェーンの鍵はついたままで、ガチャンっと引っかかった。

扉の隙間から中を伺う。

「杏?」

すると、怯えるようにこちらを杏が見ていた。
俺の顔を確認すると力無く笑った。
一体何を笑っているのだこいつは。

「おい!朝からサイン会だって言ったろ」

つい声を荒げて怒ってしまう。
杏はチェーンも外して、外に出てきた。
怒る俺に対して、何か不満がありそうだったが不満を出さずに、「ごめん」と呟いた。

「もう、いいよ。急いでサイン会に向かうぞ」

仕事場に着くと、しょげていた杏は切り替えて、いつもの気怠い雰囲気でファン達に。

「ごめん、ごめん。寝坊した」

と謝った。少しヒヤリとしたが、ファン達にウケてどうにかなった。

サイン会が終わると、急いで杏を車に連れ込んだ。
少し気になることがあったのだ。

「杏、お前何か隠してないか?」

「何かって」

「何かだよ。お前、最近いつも以上に変だぞ」

「別に…気のせいじゃない」

杏はふざけるように笑った。でも、目には明らかに疲労の色がある。
何かを隠しているのだろう。
でもこれ以上聞いても、誤魔化されてしまうだけだろう。

「どうにもならなかったら、俺に言えよ」

「大丈夫だって」

******

俺が書類を書き終え、体を伸ばしていると、ちひろさんが俺の机にお茶を置いてくれた。
ゴツゴツしていて、歪な形をしている湯飲みだ。
俺は見る目が無いので、これが良いものか悪いものかは良く分からない。

「お疲れ様です」

「ありがとうございます」

ちひろさんはドリンクを買わせようとしなければ、良い人なんだが。
オッパイも大きいし。

「最近の杏ちゃん、何だかおかしくないですか?」

やはり他の人から見ても、最近の杏はおかしいようだ。

「ですよね、何かありそうなんですけど教えてくれないんです」

「プロデューサーにも話してくれないんですか」

ちひろさんは眉をしかめる。

「何だか俺と杏が仲良いみたいに聞こえますよ」

思わずに俺は苦笑する。

しえん

俺と杏ほど噛み合わない奴はいないだろう。

「違うんですか、杏ちゃんは嫌いですか?」

というよりも、アイドルが嫌いです。
なんて事を言える訳も無く、適当に答える。

「嫌いじゃないですよ、でも俺と杏って凸凹じゃないですか。外見も内面も」

自分で言うのもアレだが、俺は真面目な方だと思う。
杏とは正反対の性格だ。

「だから噛み合うんですよ」

ちひろさんは何故か満面の笑みで答えた。
一体何がそんなに嬉しいのだろうか。

*******

息を深く吸う。
肺に、汚れた空気が溜まるのが分かる。

「ふうーっ」

肺の中に溜まったものを、全て吐き出す。
俺の中から出てきた空気は、周りの空気と比べ明らかに異質な色をしている。
俺の作り出したものだと一目で区別がつく。
すると、汚れている空気が、不思議と愛おしいような気がした。

手を伸ばして掴んで見る。
空気は空気と混ざり合って、溶けてしまう。
握った掌を開けてみても、俺の空気は消えていた。

杏は何かを隠している。
きっと、大事な事だろう。
何故話さないのだ。俺はプロデューサーだぞ。
杏には話す義務があると思う。
何だか腹が立ってきた。
もしも、また仕事に支障が出たらどうするのだ。
俺に迷惑がかかるだけなら良いが、うちはまだ小さな事務所だ。
他のアイドル達にも迷惑がかかるかもしれない。

プロデューサーを辞めたくて仕方が無いのに、こんな事を考えるのはやはり、俺は真面目なのだろう。

真面目に生きるしかないからな。
夢なんて無いし、何も無い。
何にも無い、真面目に普通に、それ以外の生き方など分からない。

別に真面目に生きたく無い、それしか俺には出来ないだけだ。

息を深く吸う。
息を深く吐く。
白い空気が闇に浮かぶ。

「あーっ、ムカつく。プロデューサー辞めてぇ」

やはり、白は黒に溶けてしまった。

******

今日は憂鬱だ。
プロデューサーを始めてからは毎日が憂鬱だが、今日は一段と憂鬱な日だ。
今日は杏の大きなライブがある。

今日もまた、俺は杏を嫌いになるだろう。

「入るぞー」

杏の楽屋のドアをノックする。
杏の慌てた声が返って来る。

「ダメッ、ちょっと待って」

うわ、なんかクズが改心するフラグ立って萎えた

「いや、もうライブ始まるぞ。どうした?」

「えっと、いいから待ってて」

どんな時でもノンビリしている杏が慌てている。
これは何かある、もしかして最近の変な理由が分かるかも知れない。
そう思って俺はドアを開けた。

「ばっ、馬鹿!」

俺は言葉を失くした。
別にトラブった訳では無い。
そんなに良いものではなかった。

杏はステージ衣装を、覆い隠すように持っていた。
しかし、杏の小さな体では隠しきれていなかった。

衣装は、切り刻まれていた。

一体どういう事だ。あまりに予想のしない事態に言葉が出ない。
杏は、大きな瞳に涙を溜めている。

「ごめんなさい」

そう言って、溜めていた涙をこぼしはじめる。

「いや、謝るな。…説明してくれないか」

杏は泣きながら、俺に話す。

事の始まりは、二ヶ月程前らしい。
杏はその頃から、人気が出始めていた。
家に帰ると、白紙の手紙がポストに入っていた。
それが始まりだった。
そのうち白紙の手紙には、杏を傷付ける文字が入った。
手紙は電話に変わり、段々と色々な嫌がらせを受けるようになったらしい。

そして、今日は衣装を切り刻まれた。

「相手は分かるか?」

「多分」

「誰だよ?」

「サイン会によく来るファンの人だと思う。一度だけかかってきた電話の声が一緒だったと思う」

「何か恨まれる事をしたのか?」

「わかんない」

そう言って杏はメソメソと俯いてしまう。
二ヶ月の間、嫌がらせを受けているのか。
最近になるまで、全然気づかなかった。

俺は唇を噛みしめる。

「何で黙っていた?」

声が震えてしまう。
杏は消えそうなほど小さな声で「心配をかけたくなかった」と言う。

「何でだよ?俺が信用できないか」

「違うよぅ、だってプロデューサー仕事がいっぱいで大変そうだったから」

俺は、杏は自分が思うように生きていると思っていた、けれどそうではないようだ。

支援

俺なんかが思っていたよりも、杏は優しい子なのかもしれない。

でも、やはり俺は杏が嫌いだ。

俺は杏の肩を掴んで怒鳴る。

「ふざけんな、ちゃんと言えよ!」

杏はそれでも「でも」だなんて泣きながら反論する。

「でもじゃねえよ!確かに俺は疲れてるよ、大嫌いなアイドルのプロデューサーなんかさせられてよ」

感情が昂ぶって、余計な事まで言ってしまう。

「特に、お前なんか大嫌いだよ!」

こんな事を言いたくはないのに、本音が全部こぼれてしまう。
俺は、夢を持つ人間が大嫌いだ。
アイドルなんて言うまでもない。

「けどさ」

俺の中に溜め込んでいたものまでぶつけてしまい、少し落ち着いて話しかける。
本当に余計な事を言ってしまった、と何だか笑えて来る。

「俺は男だぜ、可愛い女の子が泣いてるなんて放っとけないよ」

杏の涙を指で拭う。
杏の頬に触れると、思ったよりもずっと柔らかくて驚く。

「男は可愛い女の子に頼られると、それだけで嬉しくなる馬鹿なんだからよ、変な心配すんな。ほら、助けて、って可愛くお願いしてみろ」

杏はまだ少し泣きながらも、可愛く笑ってお願いした。

「助けて、プロデューサー」

「よっしゃ、任しとけ」

俺は夢を持つ人間が大嫌いだ。
アイドルなんて言うまでもない。
けど、俺は男だ。
可愛い女の子を傷付ける奴の方が大嫌いだ。

ライブの衣装はどうにかなった。
なったと言えるかどうか怪しいような気もするが、どうにかなった。

衣装の代わりに、いつも杏が着ているTシャツと短パンでライブをした。
働いたら負け、という名言の刻まれたTシャツだ。
思った以上にファン達に好評なようだった。
何だか、杏のキャラなら何をしても許される気がしてきた。

******

「本当に泊まるの?」

「じゃないと犯人を捕まえれないだろ」

支援

一度だけかかってきた電話の声が似ているとだけの理由では、ファンを捕まえる事など出来ない。
捕まえるなら、現行犯だろう。

杏の話によると、最近は毎日ドアのポストに手紙や写真などが入れられるらしい。

そこを狙って捕まえてやる。

その為には、杏の家に泊まるのが一番だろう。

「何を心配してんだ?俺はロリコンじゃないから安心しろ」

女子高生はけっこう好きだったりするが、杏は小学生みたいだから欲情する事はあるまい。

杏の事だから、あまり気にしないと思って言ったが、頬を膨らませて黙り込んでしまった。

「あれ、怒った?」

「とときんの胸とか凛の足を、やらしい目で見る時があるの知ってるよ」

こいつは意外と周りを見ているな。
しかし、これについては仕方が無いではないだろうか。
今までは、華の無い職場に居たのだ、あれをやらしい目で見るなというのは無理だろう。

「そりゃあ、俺だって男だしぃ」

「凛は杏より年下だよ。杏の事はやらしい目で見た事ないよね」

だからどうした。お前はやらしい目で見られたいのか。

「…いいからもう寝ろ。夜更かしは美容の敵だ」


丑の刻を過ぎた頃に、誰かが階段を登ってくる足音が聞こえた。
俺は足音を忍ばせながら、玄関の方に行った。

支援

足音は、この部屋へと近づいて来る。
そしてこの部屋の前で止まった。
恐らく犯人だろう。
一体どんな奴だろうか。
もしかしたら、いかれた奴かもしれない。凶器を持っているかも。
今になって恐怖が湧いてくる。
汗ばんだ掌をズボンで拭いた。

カチャッ カチャ

ドアノブを余り音を立てないように回してきた。
そして、鍵が掛かっているのが分かると、ドアの向こう側で舌打ちをしたのが聞こえた。
その音を聞くと、俺の中から恐怖は吹き飛んだ。

代わりに、抑えつけるのが難しい程の怒りが溢れる。
今すぐにドアを開けて、こいつをグチャグチャにしたくなる。
必死に抑えて、奴が何かを入れるのを待った。
数秒してポストから写真らしき物が入れられた。
それを手に取り、確認するとそれは、ライブ前に切り刻まれた衣装の写真だった。

俺は急いで鍵を開け、思いっきりドアを開けて外に飛び出した。

階段の方を見ると、大きな影が慌てて降りるのが見える。

走って階段を下りると、すぐに犯人に近づいた。
恐らく、動きが鈍い奴なのだろう。後ろから肩を掴んで、思いっきり引っ張った。
そいつは、コンクリートの床に鈍い音を立てて倒れる。

「ひいっ!」

そいつは、いかにもオタクっぽい見た目の男だった。
割と杏のファンにはそういった人が多いが、こいつはその中でも群を抜いてそれっぽい。

襟元を握り締めて、余り大きな声を出さないように声を絞って喋る。
気をつけないと大声で怒鳴りそうだ。

「何でこんな事をした、正直に言えよ」

こいつはこんな状況なのに、にやにやと気味の悪い笑みを浮かべている。

「へへっ、杏ちゃんは泣いた時が一番可愛いんだ。僕は杏ちゃんを可愛くしてあげただけさ」

「おい、確かに泣いている杏は可愛いかった。いつもふてぶてしくて、ダラダラとしている女の子っぽくない杏が、小さな体を震わせて泣いている姿は可愛かったさ。かなりそそるものがあったさ」

俺はどうやら頭に血が登ると、本音をベラベラと喋ってしまうみたいだ。

「だ、だろう?!」

「しかし!」

こいつは分かっていないな。

「泣いている杏が俺に頼って来た時の方がグッときたね。想像しろっ、杏が声を震わせながらお前の名を呼ぶ」

「ああっ、あああっ!!」

こいつは頭を抱えて、眉間に皺を寄せている。
己の浅はかさに気づいたようだ。

「そしてお前に、助けて、と言うんだ!」

「うひょおおお!!僕が間違ってました!!!」

「うっひょおおお!そうだろう!!だから、杏に頼られるような人間になれぇ!!」

闘え!プロデューサー!

「でも師匠」

変態に師匠も呼ばれると、まるで俺が変態の師匠になった気分だ。

「何だ?」

弟子は涙をボロボロと溢れさせながら口を開いた。

「俺はっ、杏ちゃんにひどい事をしました。こんなクズな俺には杏ちゃんに頼ってもらう事なんて」

俺は右足を引く。そしてリラックスした上半身を捻りながら、後ろ足の右足から、体重を全て前に移動させる。
そして弟子に拳が触れた瞬間に力を込めて、思いっきり振り抜く。
鈍い音を立てながら弟子は吹き飛んだ。

「確かに、お前のした事は最低だ。お前は屑だ。お前のやった事は一生変わりはしない」

うずくまる弟子に近づいて、手を差し伸べた。

「でも、人は変われるんだ。変わろうぜ」

「しっ、師匠!」

俺と弟子が熱い抱擁を交わしていると、警察の方が来られて大変だった。
深夜に騒ぐのは駄目だな。

******

杏の受けた嫌がらせの問題は解決して、杏は調子を取り戻した。
そして、今までよりも一気に人気を伸ばしていった。
ジジイからも褒められて、給料も上がった。
アイドル達にも、少しずつではあるが慣れてきた。

でも、上手くいくほどに、俺の中にポッカリと空いた部分があるのが感じられた。
そこは本当に空っぽだ。
何にもない。
ただ虚しさだけが感じられる。

人は大人になるにつれて、大事な物を失っていくのに気付くと聞く事がある。
しかし、俺はそうではない。
元からないのだ。
初めから持っていないのだ、大事な物を。
だからそれを持っている奴が、羨ましかった。
俺はそんな奴らに嫉妬して、馬鹿だの無謀だのと笑っていた。
そうやって、自分を誤魔化していた。

けれど、それも出来なくなってきた。夢に向かって、努力し少しずつ夢に近付く少女達を、笑う事が出来なくなってきたのだ。

そうして必死に隠して来た、俺の中の隙間に目を背ける事が出来なくなった。

ある日、限界が来た。

ふと、ふざけた考えが頭によぎったのだ。
いつも降りる駅の、二つ程前の駅を過ぎた時に、ふざけた考えがよぎったのだ。

このまま、どこか遠くまで行ってみようか。

ふざけた考えだ、馬鹿らしい。
けど、今は何故かそれに妙に惹かれてしまう。

いつも降りる駅、そこに着いた時に俺は席を立たなかった。
電車はドアを閉める事を、機会音を鳴らして知らせる。
まるで俺に、本当にいいのかよ?と何度も尋ねているように聞こえた。
心臓の鼓動が高鳴る。
本当にこんな幼稚な事をするのか。

電車の扉は、空気の抜けるような音を立てながら閉まった。

ゴトンゴトンと電車が動き出すと、体が一気に軽くなった。
こうなったら、行けるとこまで行ってみよう。

電車を幾つか乗り換えたところで、ポケットの中の携帯が震える回数が一気に跳ね上がった。
時間を確認すると、事務所に着く筈の時間を一時間も過ぎている。

昼を過ぎた時に、外の景色を見ると海があった。
お腹も空いて来たので、次の駅で降りる事にした。
この頃には、携帯の方もだいぶ大人しくなった。

電車を降りると、冷たくて、強い風に身震いする。
辺りを見回すと、すぐ近くに飯屋があった。
取り敢えずそこに入って昼食を取る事にした。

飯を食べ終わって、次はどうしようか困る。
遠くまで来てみたが、当たり前だが何も変わらない。
ポッカリと空いた穴が、埋まるような事はない。

俺はなにを馬鹿な事をしているのだろうか。

ふらふらと彷徨うように歩く。
海の目の前まで行ってみた。
冬に来るとこではないな。
海には楽しくて騒がしい、そんなイメージを持っていた。
だけども、目の前に広がる海は孤独で淋しい感じだ。
まあ、夏の海と冬の海の違いなんだろうが。

携帯が震える。
誰かの声が聞きたくなって、誰からかも確かめずに出た。

「もしもし?」

「プロデューサー、どこにいるの?」

子供のように、高い声だった。

「杏かぁ」

「なに、どういう事?」

「いや、で何か用か?」

「用かじゃないでしょ!何してるの!どこに居るの!?」

杏は電話越しで怒鳴るが、まるで子供に怒られているようで少しも怖くない。

「いやぁ、なにしてるんだろ?」

ははっ、と声に出して笑う。
駅に降りた時に見た看板を、どうにか思い出す。

「△△△駅ってとこに居るよ。海が見える」

「どうしたの?壊れた?」

「ははっ、ひどい事を言うな」

そう言えば、前に俺もひどい事を言ったなぁ。

「なあ、前にお前の事を大嫌いだって言ったろ」

「…覚えてるよ」

「あれな、俺はお前が羨ましかっただけだから気にすんなよ」

「…別にきにしてなかったし」

少し、杏の声のトーンが上がった気がする。

「じゃあな、寝るわ」

「えっ!?」

何かを言おうとする電話の電源を落として、眠りについた。
起きた時には、何かが変わるだろうか。

*****

目を覚ますと隣に杏がいた。
幻覚かな。幻覚だろう。
杏は仕事があるのだ、ここにいるはずがないじゃないか。
でも、待てよ。
その理屈だと俺もここにはいないはずだ。
俺は杏に気づかれないように、そっと手を伸ばす。
手の甲が、杏のほっぺたにぶつかる。
手を裏返して、手のひらで頬を触って見る。
柔くて、気持ち良いな。
どうやら本物のようだ。

「何してんの?」

「プロデューサーにその質問を返すよ」

「ははっ、何でかな」

杏は俺を呆れたように笑って、海の方を見た。

「ねえ、私の何が羨ましかったの?」

「…簡単に言うと夢を持って、才能を持ってるところかな」

杏は「私の夢ね」と苦い笑みを浮かべた。

「夢ないの?」

「ないなぁ、昔から無いんだよ。何かやりたい事とか」

「ふーん」

「流れで生きてきて、これからも何となく選んだ物を着て生きていくんだろうけど、嫌なんだよ。俺じゃなきゃ駄目なものが欲しいんだ」

「ここまで来たら見つかった?」

杏は茶化すように言った。

「見つからない」

「じゃあ、杏があげるよ」

「何を?」

「プロデューサーじゃなきゃ駄目なもの」

「何だ?」

「杏のプロデューサー。杏はプロデューサーじゃなきゃ嫌だよ」

杏は目を細めて、優しく微笑む。
こんな笑い方もできたんだな。

「あと、夢も上げよう。杏をトップアイドルにする事。どうかな?」

「それは、簡単に叶えれそうな夢だな」

杏が眩しくて、杏から目を逸らす。

俺は杏を知れば知るほど、話せば話すほどに、杏の良いとこを見つけてしまう。
嫉妬して、嫌う事が出来なくなった俺には、とても直視できやしない。

「まあ、悪くないや」

本当は嬉しいのに、ついそんな風に言ってしまう。
興奮すると本音が言えるのにな。

「ありがとうな杏」

「いいよ、プロデューサーの事好きだから」

いつもと変わらぬトーンで言うから、意味が掴めずに「プロデューサーとして?」と驚きながらも、平然を装って尋ねる。

「ううん、異性として」

杏は悪戯をした子供のようにな笑顔を俺に見せた。

俺は恥ずかしくて「あっそ」だなんてそっけない事を言ってしまう。

杏は鋭いから、俺の気持ちがばれてしまうと怖くなった。
でも杏は、悲しそうに笑った。

何でこういうとこは鈍いんだよ。
そして、俺もちゃんと言えよ。

ポッカリと空いたところを、モヤッとしたものが埋めてしまった。
少しモヤモヤするけども、とても心地が良い。

******

「ちょっと待てよ、杏。心の準備が」

「うるさいなぁ」

躊躇う俺を、後ろに杏は勢いよく事務所のドアを開ける。

「杏、プロデューサーを自分探しの旅から連れ戻しました」

きゃあああ、やめて。
そういう風に言われると恥ずかしくて死にそう。
穴があったら入りたい。
これだけ個性的なアイドル達が居るんだ、一人ぐらい穴掘りの上手い奴がいないかな。

「戻りました、すいません。ご迷惑をかけました」

「見つかりました?自分」

ちひろさんの素敵なスマイルで、心をズタボロにされる。しかし、俺が悪いので反抗できない。

「自分探しって何ですか?」

千枝ちゃんが純粋な瞳で俺に聞く。
やめてくれよ。

支援

******

「プロデューサー」

俺は、杏の家に杏を送っているところです。

「プロデューサー」

杏ちゃんの髪から、少し甘い匂いが漂ってきます。
とてもいい匂いです。

「プロデューサー!」

「あっ、ああ何だよ」

「杏の家を過ぎてる」

「うっ、知ってるわ!」

杏は俺に怒鳴られてしょげてしまった。
しょげた顔も愛おしい。
一体俺は何をしているのだ。

初めて恋して、素直に慣れない男の子じゃないんだぞ!
ちゃんとやるんだ。
思い出せ、どうやって初めての彼女を作った?
あれ。うん。そうだ。
俺は彼女を作った事が無かった。
それなら、初めての告白はどうやった?
…うん、うん、うん。
告った事無かったな。
というか初恋ではないだろうか。
二十一歳にして初恋かよ。
いくらなんでもおかしいだろ。枯れてんのかよ俺。
しかし、どうしよう。
一体どうすればいいのだ。恥ずかしくて冷たく当たってしまう。

働いたら負けという割には働くよねこの子

「プロデューサーはさ、杏の事を嫌いなのぉ?」

いつの間にか杏は泣いていた。
何をやっとるんだ俺は!
落ち着け、冷静に、優しい言葉を掛けてやるんだ。

「何で答えなくちゃいけないんだ」

俺の馬鹿野郎!!

「へへっ、そっか、ごめんね。でも杏の事を嫌いでも、杏は好きだからね」

俺は帰りの車で泣きじゃくった。
俺がこんなツンデレボーイだとは思わなかった。

. '' ´ "`"/
| /'"`"'i'
ヽ¶_゚∀゚ノ  チャオ☆

家に帰ると、母さんが寝巻き姿で迎えてくれた。

「おかえりぃ」

「ただいま」

「自分は見つかったのかな?」

母さんはにやにやとしながら言う。
クソジジイか、あいつが教えたのか。

「んー、見つかった見つかった」

「良かったねえ」

俺は母さんと自分の靴を納める。
それを見て母さんは「ごめんね、納めるの忘れてた」と謝った。

「ねぇ、父さんってさツンデレだった?」

母さんは、蒸発した父さんの話をするのを嫌がらない。
というかむしろ、喜んで話す。

「えへー、そうだねぇ、ツンツンでした。何で分かったの」

「何となく」

どうやら俺は、父親譲りのツンデレらしい。



「ふあぁ」

目を覚まして時計を見る。
朝の六時だ。前まではいつも、ギリギリの8時まで寝ていた。
けど、最近はいつも六時に起きている。目を覚まして、プロデューサーの事を考えると胸がフワフワとしてあったかくなる。
そうすると、眠気など消えてしまい朝起きれるようになった。
でも今日は、何だか胸が痛い。
理由は分かっている。

プロデューサーに嫌われているからだ。
前にも嫌いだと言われたけど、優しくしてくれるから嘘だと思った。照れ隠しなんだと思い込んでいた。
でも、違ったみたいだ。
杏の気持ちを伝えると、プロデューサーは冷たい態度を取るようになった。
やっぱり迷惑だったのか。
言うんじゃなかった。
とときんや凛のような子に言われるなら別だろうが、こんなちんちくりんに言われても迷惑だろう。
事務所に行くのが辛いなぁ。

でも、プロデューサーに会いたいや。

「おはようございまぁす」

事務所に来るのは何て疲れるんだろうか。
杏の体力では来たら、もう帰る力しか残らないや。

「帰りたい」

「じゃあ、帰れ」

プロデューサーの冷たい言葉が飛んでくる。
来て早々に心を折られそうだが、どうにか泣かずに踏ん張る。

「にょわー。プロデューサー杏ちゃんをイジメちゃメー☆」

あっ、プロデューサーが逝った。

「きらり、落ち着いて!」


お詫びに杏に昼食をプロデューサーが奢るということで落ち着いた。
杏の事できらりがあんなに怒るとは思わなかった。

「ごめんねプロデューサー、杏のせいで」

パスタを食べながらプロデューサーに謝った。

「本当にな、お前が先に余計な事を言ったのに」

「…ごめんね」

杏が謝ると、プロデューサーは余計に苛々している。

「プロデューサー、ごめんね」

余計に怒らせると分かっても謝らずにはいられない。
だって嫌われたくない。

「ごめんなさい、だから嫌わないでよぉ」

耐え切れずに泣いてしまった。
いけない、迷惑をかけるともっと嫌われる。
けどそう思えば思うほど、涙は止まらなくなる。
どうしよう、プロデューサーにもっと嫌われる。

その時、ブチんっ、と何かが切れるような音がした気がした。

寝れない



ブチんっ、と俺の中で切れる音がした。
多分キレタ音だろう。俺が俺に対して。
こんなに可愛い女の子を泣かして、俺は馬鹿じゃないか、死んだ方がいいんじゃないか?

俺は立ち上がって杏の方に近付いた。杏の頭に手を伸ばす。
杏はビクンと身体を震わせて身構える。
杏の頭をクシャクシャに撫でる。
杏は目を丸くしてこちらを見る。
ああ、可愛すぎる、愛おしすぎる。
俺は思わずに杏を思いっきり抱き締めた。

「ふぇっ!?え、プロデューサー?」

「ああ、可愛い!可愛いよ杏!!お前は何で可愛すぎるんだよ、俺を殺す気か!?萌え殺す気なのかい!計画殺人か!?」

呆然としている杏と、周りの客達を放置して俺は暴走する。

「あああ!いい匂いがするぅ、なにこれこの不思議な匂いヤバ過ぎ!小さい手も口も可愛いよ大きな瞳も超ラブリーです!!!俺に嫌われたと思って傷付かせてごめんね!そして、そんな杏にときめいてゴメンよお!!!」

色々と吐き出すと落ち着いてきた。
ああ、ヤバイ。逃げよう。

明日仕事が休みであることを神に感謝したところだ

さるったか?

保守

中二チックでなおかつロリコンとは

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